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聞かせてよ、ファインマンさん: R.P.ファインマン

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聞かせてよ、ファインマンさん

内容紹介:
もしもファインマンさんの講演会があったなら、今だって会場には溢れんばかりの人がおしかけるだろう。学問のいかめしさとは全く無縁、不思議を突き止めていく科学のワクワク、ドキドキを、抱腹絶倒の語り口で伝えてくれるから。そんなファインマンさんの、講演・インタビューをまとめた一冊。話題は生い立ちから、素粒子や宇宙の話まで。

1.ものごとをつきとめることの喜び(1981年,BBCインタビュー)
2.未来の計算機(1985年,仁科記念講演/東京)
3.現代社会での科学的文化の役割とそのありかた(1964年,ガリレオシンポジウム/イタリア)
4.底のほうにはまだ十二分の余地がある(1959年,米物理学会/パサデナ)
5.科学の価値とは何か(1988年,『困ります,ファインマンさん』)
6.スペースシャトル「チャレンジャー号」事故少数派調査報告(1986年)
7.科学とは何か(1966年,米国科学教師教会講演会)
8.世界一,頭のいい男(1979年,オムニ誌)
9.リチャード・ファインマン,宇宙を築く(米国科学振興会インタビュー)
10.科学と宗教の関係(カリフォルニア工科大,「工学と科学」誌)


理数系書籍のレビュー記事は本書で251冊目。

本書は2001年3月に「ファインマンさん、ベストエッセイ」というタイトルで刊行された本が2009年に文庫化され「聞かせてよ、ファインマンさん」というタイトルで刊行されたものだ。


1.ものごとをつきとめることの喜び(1981年,BBCインタビュー)

BBC2のテレビ番組「ホライゾン」で「Pleasure of Finding Things Out」という題で放映されたファインマン先生へのインタビューである。この番組はYouTubeで見ることができる。

The Pleasure of Finding Things Out


この章は次のような流れで話が進んでいく。

花の美しさ
人文系を避ける
窓からのぞく恐竜ティラノサウルス
実用的人間のための代数
肩章と法王
爆弾への招待
成功と苦悩
人の期待どおり優秀である必要はない
ノーベル章はもらう価値があったか?
ゲームの規則
原子をぶち割る
「他人にまかせろ」
歴史に退屈する
この父にしてこの子あり
「科学ではない科学…」
疑いと不確かさ

もうこの頃にはファインマンはその生涯の大部分を終えていただけに、若者には到達できないような観点から自らの経験や業績を思い起こすことができたようだ。その結果は彼の念頭を去らないさまざまな話題−たとえば単に何かの名を知っているのと、それについて何かを本当に知っているのとは、なぜ同じことでないのか、広島では人間として同胞であるはずの何万もの人々が死に、あるいは死に瀕しているというのに、その恐ろしい武器を創造した当のマンハッタン計画の科学者たちが、原爆成功を祝ってどんなに酒を飲み浮かれたか、そしてなぜファインマンはノーベル賞などもらわなくてもかまわなかったのか、などなど、くつろいだ話ながら率直そのもの、あけっぴろげで、大変個人的な論考である。


2.未来の計算機(1985年,仁科記念講演/東京)

1985年8月9日に学習院大学で行われた仁科記念講演の内容だ。この章の翻訳だけ江沢洋先生が担当されている。

並列計算機
エネルギー損失を減らす
小型化する
質疑応答

広島と長崎への原爆投下から40年。マンハッタン計画で働いたファインマンが日本で講演する。テーマは計算機の将来。鋭い知性をもつすべての人々の関心ごとを語り、ついには計算機をどこまで小さくできるかに話は及び、ファインマンは計算機科学のノストラダムスかと思わせる。この章は荷が重いという読者もあろうか。しかし、これはファインマンの科学への寄与の重要部分なのだから、時間をかけて読んでほしい。細かな話は飛ばすにしてもである。講演はファインマンが好み、あたため続けたいくつかのアイデアを披露して終わる。それらは、今にして思えば今日のナノテクノロジー革命の先触れであった。


3.現代社会での科学的文化の役割とそのありかた(1964年,ガリレオシンポジウム/イタリア)

イタリアで催されたガリレオ・シンポジウムで、科学者たちを前にして行った講演。ガリレオの偉大な仕事とその苦悩にしばしば言及しながら、ファインマンは科学が宗教、社会、哲学に及ぼす影響を語り、さらに人間にとって科学は無条件に信じるのではなく疑いを持つ姿勢を貫くことが未来の文明を決定するのだと、聴衆に警告を発している。


4.底のほうにはまだ十二分の余地がある(1959年,米物理学会/パサデナ)

カリフォルニア工科大学の「Engineering and Science」という雑誌に掲載された文章を和訳したもの。コンピュータの小型化やナノテクノロジーについてのアイデアを述べている。

物理学の新分野への招待
どうすれば小さく書けるか?
微小規模の情報
もっと強力な電子顕微鏡を!
すばらしい生物学的システム
コンピュータの小型化
蒸発による小型化
潤滑の問題
原子を並べかえる
微小な世界の原子
ハイスクール対抗戦

1959年11月29日、カリフォルニア工科大学で催されたアメリカ物理学会の席上、「ナノテクノロジーの父」ファインマンは、その有名な講話の中で、時代の何十年も先を行く超小型化の未来を語った。それも『大英百科事典』をまるごと針の先に書き込むにはどうすればよいかにはじまり、生物も無生物も含めて物質を超微小のサイズまで縮めることから、果てはこの文章の終わりの句点より小さい機械の潤滑問題に至るまで、こと細かに説明してのけている。そして例の有名な懸賞で若い科学者たちに、各辺が64分の1インチ以下で、実際に使える電気モーターを作ってみるよう挑戦をうながすのだ。


5.科学の価値とは何か(1988年,『困ります,ファインマンさん』)

ファインマン先生がラルフ・レイトンに口述して出版した「困ります、ファインマン先生」に掲載されている文章。

疑いをもつ自由こそ科学の最高の価値だ
大いなる冒険
驚くべきアイデア
教育には善も悪もある
科学者としての僕らの責任

ハワイで仏教の寺を見学したファインマンは、謙譲ということについてある教訓を得た。「人はみな極楽の門を開く鍵を与えられているが、その同じ鍵は地獄の門も開く。」人間の経験とのあいだにある関係と意味を深く考えたファインマンのこの話は、もっとも感動的な彼の講話のひとつである。彼はまた科学者仲間にも、文明の将来に対するその責任を説く。

6.スペースシャトル「チャレンジャー号」事故少数派調査報告(1986年)

緒言
固体燃料ロケット(SRB)
液体燃料エンジン(SSME)
航空電子工学技術
結論

1986年1月28日、発射直後のスペースシャトル「チャレンジャー号」が爆発し、宇宙飛行士6人、小学校教師1人が悲運の死を遂げた。米国全体はショックと悲しみ打ちひしがれ、NASAは長年にわたる宇宙計画の成功(少なくとも死者は出していない)による自己満足から、突然揺り起こされることになった。この爆発事故の原因を究明し、二度と再びこのような惨事が発生せぬよう、事故防止策を大統領に勧告すべく、ウィリアム・P・ロジャース国務長官を委員長に、政治家、宇宙飛行士、軍人、そして科学者1人からなる調査委員会がつくられた。その1人の科学者がリチャード・ファインマンであったことがチャレンジャー号の事故原因を解明するか、永遠の迷宮入りに終わるかの決めてになったと言えるかもしれない。他の委員たちに比べてはるかに肝のすわったファインマンは、ジェット機で全国を飛び回り、プロパガンダが安全性と細心の注意とに先行しはじめていたシャトル計画を憂慮する地上の技術者たちと忌憚なく話し合った。彼の報告はNASAの面子にかかわるのを恐れた委員会に、あやうくにぎりつぶされるところだったが、ファインマンはあくまでもこれを委員会報告に入れんものと闘って後に退かず、結局彼の報告は「付録」に格下げされながらも公表される運びとなったのである。委員会が記者団の質問に答えるため公開の記者会見を行ったとき、ファインマンはシャトルのガスケット(Oリング)の一部とコップ一杯の氷水を使って、かの有名な卓上実験をやってのけた。この実験こそ、肝心のガスケットが低温によって損なわれた事実を明らかにしたものである。あの朝、NASAの幹部たちは、シャトル計画の期日厳守を上層部に印象付けようとするあまり、打ち上げには気温が低すぎて危険だという技術者たちの警告に耳をかさなかったのだった。これはその歴史的報告書である。

スペースシャトル、チャレンジャー号爆発事故(1986年1月、ウィキペディアで詳細を読む


事故調査報告の公聴会でのファインマン先生(左)とアームストロング宇宙飛行士(右)


ファインマン先生がお書きになった報告書の巻末の「付録F」はネット上に公開されている。

Appendix F - Personal observations on the reliability of the Shuttle
by R. P. Feynman
http://science.ksc.nasa.gov/shuttle/missions/51-l/docs/rogers-commission/Appendix-F.txt


7.科学とは何か(1966年,米国科学教師教会講演会)

科学とは何か?そんなものは常識じゃないか!いや待てよ、ほんとうにそうだろうか?1966年4月、名教師リチャード・ファインマンは米国科学教師協会の会議で行った講演のなかで、いかにして科学者らしい考え方を生徒たちに教え、好奇心と心の広さ、そして何よりも懐疑をもって世界を見る姿勢を育てるかについて、仲間の教師たちに教訓を授けている。この講演はまたファインマンの世界観に多大な影響を及ぼした彼の父、制服を売るセールスマンだった父に捧げられた賛辞でもある。


8.世界一,頭のいい男(1979年,オムニ誌)

この章は『オムニ』誌が1979年に掲載した、あのすばらしいファインマンのインタビューである。これは彼がもっともよく知っており、こよなく愛していたもの、つまり物理学と、もっとも好きでなかったもの、すなわち哲学(哲学者たちは自分を併記で笑い飛ばせるようにならなくちゃだめだ)を語るファインマンの独断場だ。ここには彼がノーベル賞を受けた量子電磁力学(QED)の研究から宇宙論へ、そしてクォーク、はては幾多の方程式を台無しにする例の厄介な「無限大」の問題についての論考も展開されている。


9.リチャード・ファインマン,宇宙を築く(米国科学振興会インタビュー)

米国科学振興会の賛助を得て行われた未発表のこのインタビューのなかでファインマンは、講義室に居並ぶノーベル賞受賞者の面々を前に冷や汗をかいた最初の講義、原爆開発計画への誘いを受けたときの彼の反応、「カーゴカルト」サイエンス、そしてノーベル賞受賞を知らせる記者の夜明け前の電話、「朝になってから知らせてくれればいいのに」という彼の答えなどなど、ひたすら科学に生きる自らの生涯を振り返っている。


10.科学と宗教の関係(カリフォルニア工科大,「工学と科学」誌)

この章でファインマンは架空のパネル・ディスカッションの形を借りて、科学者と精神主義者の立場から見たさまざまな問題に対する意見を述べ、科学と宗教の一致点と矛盾を論じる。これは一種の思考実験であるが、現在のこのまったく異質な二つの真理追及法のあいだで熱心にたたかわれている論争を20年も前に彼はちゃんと予想していたようだ。そのなかで彼は精神主義者が神への信仰にもとづいた道徳観を持つのと同じような形で、無神論者も科学の教えにもとづいた道徳観を持つかどうかを考察している。実用主義者のファインマンにしては、いつになく哲学的なトピックといえよう。


聞かせてよ、ファインマンさん
The Pleasure of Finding Things Out」(Kindle版

 


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