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数学の教科書が言ったこと、言わなかったこと:南みや子

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数学の教科書が言ったこと、言わなかったこと:南みや子

内容紹介:
著者は高校生の頃、「数学の教科書には、それまでに習ってきた数学の内容がすべて書かれている」と信じ、「わからないのは自分が悪いからだ」と思いながら徹底的に読み込んでいました。しかしやがて、実は教科書では数学のすべてが語られているわけではないと気づくことになります。それがなぜかということを考えるにつれ、数学を理解できなかったのは必ずしも自分のせいだけではないと思うようになります。実際に問題も解きながら、数学についてじっくり考える、大人の学びなおしにも最適な一冊です。
わかる人にはわからない、数学のわからなさがわかる!“自分は数学に向いていない”と思いながらもとことん数学と向き合い、数学の教師となった著者が、数学を学ぶ上で全幅の信頼を寄せて頼りにしていた数学の教科書が、“語ってくれなかったこと”について語ります。

著者について
南みや子
1948年神奈川県生まれ。上智大学大学院修士課程修了。専攻は位相幾何学。学業終了後は定時制高校の教員として、様々な立場の生徒たちと関わってきた。現在、小田原高校勤務。著書に『「なぜ? どうして?」をとことん考える高校数学』(ベレ出版)『やさしいトポロジー』『ポアンカレの贈り物』(講談社ブルーバックス:共著)がある。


理数系書籍のレビュー記事は本書で252冊目。

今回紹介する本は自信をもってお勧めできる1冊だ。地元の中型書店に5冊ほど平積みされていたのを見つけて「あ、これはいい!」と思って即購入。とてもユニークな本で先月発売されたばかりだ。

いわゆる「高校数学がまるごとわかる」のような「やりなおし系の数学本」ではない。強いていうならば「やりなおし系数学のための副読本」というところだろう。本書をお書きになった南先生ご自身はもともと数学が苦手だったというのも驚きだった。南先生は大学で数学を学ばれた(専攻は位相幾何学)後、主に定時制高校で数学を教えていたそうだ。1948年生まれなので今年65歳。常勤講師を定年されたばかりである。

ご自身の学生時代にご苦労されたこと、そして長年の定時制高校での数学教育から得られた事例や反省点、中学、高校の数学の教科書に対するお考えがたくさん込められている本なのだ。僕が想像するに、文部科学省や教育委員会とのしがらみから解放され、自由に意見を言える立場になられたからこそ、忌憚なく「本音」を語った本書が生まれたのだと思う。

南先生はご自身が使っていた昔の教科書と、授業に使っている今の教科書について、自分や生徒がどのような点で苦労したか、教科書が不親切だった理由を分析し次のような3つのモノクル(片めがね)として分類している。


なぜ数学の教科書は語らないのか、語れないのか。それを見極める3つの片めがね。(3つのモノクル)

モノクル1: 数学の教科書が、数学のある部分の内容を説明できないのは、数学という学問の本質にかかわる理由で、これができないからである。

モノクル2: 数学の教科書は、現場の数学の先生の説明に任せるか、生徒本人に時間を与え、考えさせる目的があって、自身の伝えたい内容をあえて細かく説明しない。

モノクル3: 数学の教科書は、数学の教科書らしい気取りから、数学の内容を詳しく説明しない。つまり教科書が「スカしている」「不親切だ」「サービス精神に欠ける」ってことです。


僕のブログを訪れる方の多くは理数系好きな方々で、そのことを意識してふだん記事を書いている。記事の多くは理数系の大学生と社会人を想定しているが、高校生にも物理学や数学を好きになってほしいという気持ちから、易しめの記事もときどき書いている。しかし、それはどちらかというと物理や数学が得意な高校生向けだ。記事はなるべく多くの人に読んでもらいたいから、極力数式は使わないようにしている。

ときどき、数学が苦手な人(文系という言葉はしっくりこないので、僕としては非理数系という言葉を使いたい)に物理学や数学の話をすることもある。数式を使うととたんに拒否反応がでてしまうのは、みなさんが想像するとおりなので「おはなし物理学」や「おはなし数学」のような感じにするのがいちばんよい。

でも、中には数学を一から勉強しなおして、あらためて物理の世界を(僕のように)楽しみたいと思っている人がいるのも事実だ。そういう人の手助けになるのが本書のような本なのである。


中学に入って文字式がでてきたとたん、数学がわからなくなってしまった人。方程式や関数あたりでドロップアウトしてしまった人、高校の微積分や行列あたりで挫折してしまった人。数学に落ちこぼれてしまった理由は人それぞれだと思う。そして自分には才能がないとあきらめてしまったかもしれない。

しかし、原因はもっと他にあったことが本書を読めばわかるはずだ。理数系が得意な人にとっては思いもしない勘違いや疑問にとらわれていたのかもしれない。さらっと簡単に説明されていること、初歩的な疑問の中には、実は本当は数学の本質を突いているため教科書では説明を省略している場合も意外とあるのだ。本書を読めば自分が何につまづいていたのかを発見する一助になると思う。


幸い僕は小学校から大学2年まで数学で苦労したことはない。(大学3年で落ちこぼれてしまったが。)いざ、自分が中学、高校時代に数学の勉強をどのようにしていたか、どのような疑問を持ち解決していたかということも忘れてしまっている。本書を読み「ああ、自分もそういう疑問を持ったことあったっけ!」という記憶がはるか過去からよみがえってきたのが妙に心地よかった。


本書全体を通じ、僕は次の箇所にはっとさせられた。少々長いが引用しておこう。

教科書は読めばわかる?

数学という教科からの独立宣言とも言える「高校に入ったとたんに数学が分からなくなったよ」というせりふを口にする生徒は減っているのではないかと思います。

数学という教科に対する言うに言われぬ愛着をあえて断ち切るような言葉を口にする以前に、数学という教科と決別してしまっている、むしろ、その入り口付近で、数学という教科に阻まれてしまっている生徒が多いのではないかというのが、私の予測です。

「数学」のほうが、その昔の教科書よりも、さらにずっと冷酷に、彼らを阻んでいる気が私にはします。無口に拒んでいるのではなく、多弁に拒んでいるのです。

ひょっとすると、この教科書はこれで教える教師たちの創意工夫をも拒んでいるのではないかという気がします。その分厚さともあいまって、教師達は、教科書のパシリ(使い走り)にならざるを得なくなるのではないかという印象です。そういう意味で「教科書に使われる」ばかりの立場にならないように、ひそかに努力を重ねている先生も、きっといるに違いありません。

この頃の中学校の数学の教科書は「読めば分かる」ように、何もかもくわしく書かれているのです。そうして教科書自身がそのことにいやに自信を持っているようにも見受けられます。

数学の教科書は、前々から持っていった「そのうち分かる」「分かる人には分かる」という自負(?)の念のほかに「読めばわかる」という新たな鎧(よろい)を身に着けて生徒たちに向き合っているような気がします。

しかし、本当に、この教科書は「読めば分かる」のでしょうか?

「どうも、そうではなさそうだ。」

私の目の前に集まってくる生徒たちを見ていて、つくづくとそう思うことがあります。

確かに、彼らの中には「国語も苦手」な人びとも混じっているとは思いますが、それだけの事情からではありません。

この頃の中学校の教科書は、数学という学問、あるいは数学という教科にある程度習熟した人びとの間だけに培われている、ある種の「合意」に基づいて書かれているように思うのです。

そうしてもちろん、13歳の生徒たちのほとんどすべては、こんな大人同士の「合意」についてはあずかり知らぬところなのです。


本書は数学が苦手な中学生や高校生、定時制高校に通っている方はもちろん、学校や塾の数学教師、家庭教師をしている大学生、もういちど数学をやりなおそうと思っている方々にぜひ読んでもらいたい。僕自身にとっても、日頃ブログ記事を書くにあたってどういうことに気をつければよいか、とてもたくさんのことを学ぶことができた。

章立ては次のとおり。最終章では面白い条件付き確率の問題が紹介されている。三角関数、指数・対数関数、ベクトル、行列については解説されていない。

第0章:3つのめがね、貸します
第1章:プラスマイナスの計算をめぐる問題
第2章:文字と文字式をめぐる問題
第3章:方程式をめぐる問題
第4章:座標とグラフをめぐる問題
第5章:複素数をめぐる問題
第6章:微分と積分をめぐる問題
終章:こう使う3つのモノクル


また南先生は昨年の5月に『「なぜ? どうして?」をとことん考える高校数学』という本もお書きになっている。実物を見ていないので断言できないが、これもおそらく本書と同じ趣旨で書かれている本だと思う。章立ては次のとおりだ。

第1章:文字や文字式の問題について(初めての中間テスト「場合分け」ってなに? ほか)
第2章:図形やグラフの問題について(図形の問題には特別のセンスが必要?天の助け ほか)
第3章:微分や積分の問題について(「微分積分がわからないと高校で数学を学んだことにはならない」「極限値」はアリさんの目で ほか)
第4章:その他のいろいろな問題について(「命題」とはどんな文章か「大きいことはいいことだ」は命題? ほか)


最後に今回紹介した本書の「はじめに」を引用しておこう。

読者の皆さんは「数学の先生」というものにどんなイメージを持っていらっしゃるでしょうか?
数学のことなら何でも分かる人?
難しい数学の問題がすらすら解ける人?
しかし、世の中の数学の先生の全部が全部、上に書いたイメージにあてはまるとは限りません。
「あてはまらない」ほうの一人であるこの私にも「数学の先生」がつとまった理由。
それは私が「数学が分からない」とうったえる生徒たちに対して「どうしてそんなところが分からないの?」と思ったことは、ただの一度もない数学教師だったからだと思います。
生徒が「分からない」とうったえる場所は、この私にも一度は「分からない」と悩んだ覚えのある場所だったのです。
じゃ、どうして、生徒だった私自身は、中学高校のどこかの時点で数学をあきらめなかったのでしょうか。
その理由も、今の私にはよく分かります。
世の中の人びとを、大きく「文系」と「理系」に分けるなら、私は間違いなく「文系」の人間。
ただし、私は文系だから、理科数学は分からないだろう、とか、分からなくてもいいなどとは一度も思ったことはありません。そういう意味では「理系」に対して、はなはだ強い好奇心を抱く「文系」の生徒でした。
文系の人びとの大きな特色は、文章によって表わされた内容を理解し、理解したものを自分のよりどころとしながら、さらに考えを先に進める、というところです。
私は文系だけど、大丈夫、きっと数学は(数学も)分かるようになる、と思っていました。
なぜなら私には「数学の教科書」という力強い味方がいるではありませんか。
これさえあれば、きっと私にも数学の内容が分かるにちがいない、とばかり、元気いっぱい、数学の勉強を始めたのです。
で、どうなりましたかって?
確かに、中学高校レベルの数学の内容は、私にも分かるようになりましたが、それとおなじだけ、長年お世話になった数学の教科書に、注文を付けたい気持ちが積み重なってきたのです。「数学が分かりたい」一心で数学の教科書を読む生徒の身に立つと、その気持ちに必ずしもこたえてはくれない教科書の姿勢を発見してしまったのです。
そんなこんなの洗いざらいを、今から私は書くつもりです。
これは「文系」の人たちの文章との向き合い方のもう一つの特徴である「批評しながら読む」ということのひとつの表れかもしれません。
「批評」と言っても難しいことではなく、「自分はどう思うか」ということを、一番大切にしながら読む、ということです。私が向かい合ったのは、中学高校の数学の教科書なのですから、ここは「自分に分かるかどうか」と言い換えてもいいところかもしれません。
私くらい「数学に向いていない」生徒であっても、数学はある程度分かるようになりますよ、そう、中学高校の数学の先生になれるくらいには、という実話実録として読んでくださるのが一番よろしいかと存じます。


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数学の教科書が言ったこと、言わなかったこと:南みや子



はじめに

第0章:3つのめがね、貸します

第1章:プラスマイナスの計算をめぐる問題
- マイナスの数と、マイナスの数を掛けるとどうして結果がプラスになるの?
- プラスマイナスの数の混じった計算は、「数直線上での移動」という考え方をすると分かりやすいの?
- マイナスの数ってほんとうにあるの?
- 符号は誰のもの?

第2章:文字と文字式をめぐる問題
- 文字「a」はいつから「りんごの個数」「みかんの値段」を表わすものでなくなるの?
- どうして長方形の面積は a×b でいいの?

第3章:方程式をめぐる問題
- 「方程式」が解けても「方程式の問題」が解けるとは限らない?
- どうして全部が「鶴」だなんて考えられるの?
- 「移行」するとどうして文字や数字の符号が変わるの?

第4章:座標とグラフをめぐる問題
- どうして「番地」を付けるのが目的だと言ってくれないの?
- 点と点との間にはまだ無限に点があるんじゃないの?

第5章:複素数をめぐる問題
- どうして教科書は簡単に「数直線」を見捨てるの?
- 「数」を「直線」とみなすとは、どういうことなの?

第6章:微分と積分をめぐる問題
- 微分積分って、案外、やさしい分野じゃない?
- なーんだ、積分の考え方だって簡単じゃないの!(?)
- 積分は面積に関係があるってどういうこと?
- 私は、微分積分の「パラダイス」で微分積分していただけなの?

終章:こう使う3つのモノクル

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