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いちばん好きな本なのに、これまで紹介していなかったことに気がついた。
今日紹介するファインマン先生の自伝や講演会の本はたいてい僕の手元にはない。友達にあげたり貸したりしているからだ。貸した本やCDは催促しない限り、たいてい戻ってこない。
いつもブログを読んでくださっている友達に先日プレゼントしたのがきっかけで自分のぶんも注文しておいた。その友達は司法関係の人で理数系は弱いのだが、最初の3冊ならばきっと読んでいただけると思う。
今度の日曜日(5月11日)はファインマン先生の誕生日。もし生きていらっしゃれば96歳におなりになっているはず。
リチャード・P・ファインマン: 1918年5月11日 - 1988年2月15日、アメリカ合衆国出身の物理学者。
経路積分や、素粒子の反応を図示化したファインマン・ダイアグラムの発案でも知られる。1965年、量子電磁力学の発展に大きく寄与したことにより、ジュリアン・S・シュウィンガー、朝永振一郎とともにノーベル物理学賞を共同受賞した。
カリフォルニア工科大学時代の講義内容をもとにした、物理学の教科書『ファインマン物理学』は世界中で高い評価を受けた。この教科書の英語版は2013年12月に「全巻無料公開」された。また、『ご冗談でしょう、ファインマンさん』などユーモラスな逸話集も好評を博している。生涯を通して彼は抜群の人気を誇っていた。
(ウィキペディアの紹介記事)
ファインマン先生の関連本はたくさん出版されているが、今回は先生みずからお書きになった自伝本と先生ご自身がなさった講演の内容をまとめた本だけにこだわって紹介しよう。
まず読んでいただきたいのがこの本。定番中の定番だ。
「ご冗談でしょう、ファインマンさん〈上〉」
「ご冗談でしょう、ファインマンさん〈下〉」
「"Surely You're Joking, Mr. Feynman!": Adventures of a Curious Character」(Kindle版)
内容紹介:
R.P.ファインマンは1965年にJ.S.シュウィンガー、朝永振一郎とともにノーベル物理学賞を授賞した天才的な物理学者である。こう書くと「理数系が苦手」な人は逃げ出したくなるかもしれないが、そんな人にこそ本書を手にとっていただきたい。
本書は20世紀を代表する天才物理学者の自伝ではない。R.P.ファインマンという人生を楽しむ天才から我々への贈りものである。
「ファインマンと聞いたとたんに思い出してもらいたいのは、ノーベル賞をもらったことでもなければ、理論物理学者であったことでもなく、ボンゴドラムでもマンハッタン計画でもない。僕が好奇心でいっぱいの人間であったということ、それだけだ」といつも言っていた(下巻訳者あとがきより)。
「なぜだろう?」といつも好奇心いっぱいの子どものように世界を見て、いったん好奇心をひかれたらそれに夢中になり納得のいくまで追求する。彼は一切の虚飾と権威を嫌い、相手がそれをかさに着ているとみるや容赦しなかった。それは、そのような態度が、楽しいはずの真実の探求を邪魔する厄介なものだったからである。
上巻では、彼の少年時代、物理学者としての修行時代、また駆け出しの物理学者として携わったマンハッタン計画から終戦を迎えるころまでのエピソードが収録されている。どの時代においても彼はその状況を最大限楽しみ、そして、決して流儀を変えなかった。
自分が理系か文系かなんて関係ない。もし少しでも本書に「好奇心」を持ったなら、ぜひ一読をおすすめする。
本書の上巻では若く初々しかったファインマンの姿に触れることができるが、下巻では、成長したファインマンが1人の「物理学者として」物理のみならず社会や芸術とかかわってゆくさまに触れることができる。
どんなに権威者になっても(彼はそう呼ばれるのを何よりも嫌ったが)、彼は決して物理学者としての誠実さを変えることはなかった。サバティカルでブラジルの国立研究所に滞在した彼は「教科書を丸暗記するだけ」の物理の大学教育に業を煮やし、ブラジルの「お偉方」の大学教授たちの前で「この国では科学教育が行われていない」と言い放った。またあるときは、学校教科書の選定委員としてすべての教科書に目を通し、教科書の内容が科学的誠実さを欠いているのを真剣に怒り、他の委員たちと闘った。
彼の信条でもある「好奇心」は年齢を重ねてもとどまる所を知らず、カジノではプロの博打うちに弟子入りしたり、ボンゴドラムでバレエの国際コンクールの伴奏をしたり、また、幻覚に強い興味を持った彼は、旺盛な好奇心からアイソレーションタンク(J.C.リリーが発明した感覚遮断装置)にまで入ってしまう。彼は他人のことなど気にとめず、素直な心で物事を見つめ、興味をひかれたらそれに夢中になる。彼は何より人生を楽しみ、人生を愛していた。
そんな彼の書いた本書に触れていると、いろんなことを話したくってうずうずしている彼が、目を輝かせて楽しそうに自分に向かって話しかけてくれているような気分になる。そんな気分にさせるのは、大貫昌子による素晴らしい訳のおかげでもあろう。訳者はファインマンと親交があり、彼に相談しながら翻訳作業を行っているため、原文の持ち味が十分に表れている。
そして次はこの本。さしあたりここまでの3冊が「ファインマン先生入門シリーズ」というところだろう。
「困ります、ファインマンさん」
「What Do You Care What Other People Think?: Further Adventures of a Curious Character」(Kindle版)
内容紹介:
『ご冗談でしょう、ファインマンさん』につづく、ノーベル賞物理学者の痛快エッセイ集。好奇心たっぷりのファインマンさんがひきおこす騒動の数々に加え、人格形成に少なからぬ影響を与えた父親と早逝した妻について、来日して伊勢や能登半島に小旅行したときのエピソード、そして、チャレンジャー号事故調査委員会のメンバーとしていかに原因を究明したか、その顛末が語られる。
スペースシャトル、チャレンジャー号爆発事故(1986年1月、ウィキペディアで詳細を読む)
事故調査報告の公聴会でのファインマン先生(左)とアームストロング宇宙飛行士(右)
事故調査委員会のメンバーの中で最も著名な人物の一人に、理論物理学者のリチャード・ファインマンがいた。彼はテレビ放送された聴聞会の席上、氷のように冷たい温度下でOリングが如何に弾力性を失い密閉性を損なわれるかということを、コップの氷水に試料を浸すことで見事に実証してみせた。彼はNASAの「安全文化」の欠点に対して極めて批判的だったため、シャトルの信頼性に対する彼の個人的な見解を報告書に載せなければ報告書に名前を使わせないと脅し、これは「付録F」として巻末に収録された。ファインマンはその中で、NASAの首脳部から提出された安全性評価ははなはだしく非現実的であり、現場の技術者による評価とは時に1000倍もかけ離れていると論じた。付録Fの末尾をファインマンは次の文で結んでいる。「技術が成功するためには、体面よりも現実が優先されなければならない、何故なら自然は騙しおおせないからだ。」
報告書の巻末「付録F」はネット上に公開されている。
Appendix F - Personal observations on the reliability of the Shuttle
by R. P. Feynman
http://science.ksc.nasa.gov/shuttle/missions/51-l/docs/rogers-commission/Appendix-F.txt
さらに興味がでてきたら、こちらもよいだろう。
「聞かせてよ、ファインマンさん」(紹介記事)
「The Pleasure of Finding Things Out」(Kindle版)
内容紹介:
もしもファインマンさんの講演会があったなら、今だって会場には溢れんばかりの人がおしかけるだろう。学問のいかめしさとは全く無縁、不思議を突き止めていく科学のワクワク、ドキドキを、抱腹絶倒の語り口で伝えてくれるから。そんなファインマンさんの、講演・インタビューをまとめた一冊。話題は生い立ちから、素粒子や宇宙の話まで。
1.ものごとをつきとめることの喜び(1981年,BBCインタビュー)
2.未来の計算機(1985年,仁科記念講演/東京)
3.現代社会での科学的文化の役割とそのありかた(1964年,ガリレオシンポジウム/イタリア)
4.底のほうにはまだ十二分の余地がある(1959年,米物理学会/パサデナ)
5.科学の価値とは何か(1988年,『困ります,ファインマンさん』)
6.スペースシャトル「チャレンジャー号」事故少数派調査報告(1986年)
7.科学とは何か(1966年,米国科学教師教会講演会)
8.世界一,頭のいい男(1979年,オムニ誌)
9.リチャード・ファインマン,宇宙を築く(米国科学振興会インタビュー)
10.科学と宗教の関係(カリフォルニア工科大,「工学と科学」誌)
The Pleasure of Finding Things Out
ここからは中級者向け。
「科学は不確かだ!」
「The Meaning of it All」(Kindle版)
内容紹介:
『科学は不確かだ』―― 科学肯定派にも否定派にも刺激的なタイトルだ。しかも、超一流の物理学者がそう言うのだから。
ファインマンは理論物理学者で、朝永振一郎らとともに、量子力学のくりこみ理論の提唱でノーベル賞を受賞した。原爆開発を行ったマンハッタン計画では計算部門の主任を20代で務めた。物理学教育でも著名だ。
科学者は観察や実験によって不確かな知識をテストして、入念に疑って慎重に知識を獲得する。だから、不確かなことは科学者への挑戦であって、思い悩むべきことではない。逆に、根拠がないのに確実だと思い込むことほど危険なことはない。本書で、ファインマンは超常現象や道徳、政治的・宗教的信念という、科学とは遠い分野の話題にも触れるが、ここでも彼の態度は変わらない。タイトルには、こういう意味がこめられている。
この講演は、1963年にワシントン州立大学で三夜に渡って行われたもので、それぞれ「科学の不確かさ」「価値の不確かさ」「この非科学的時代」というタイトルがつけられている。すぐれた科学者が科学や社会現象について、どう考えていたのかが、わかりやすいことばで語られる。また、自由がなぜ大事なのかという彼の主張や軍事技術に対するアンビバレントな態度も興味深い。
科学について考えてみたいという方、あるいは科学を現在学んでいるという学生や研究者などにおすすめの本。
次は「ファインマン物理学シリーズ」への入門用とでも呼べるべき本だ。
「物理法則はいかにして発見されたか」(レビュー記事)
「The Character of Physical Law」(Kindle版)
内容紹介:
物理法則とはどのような性格のもので、それはどのようなものの見方から発見に至ったのか。語りの名手ファインマンさんが、その心躍る展開を若者に熱っぽく語った。また、ノーベル賞受賞となった自身のアイデアと新理論完成までの曲折を、ユーモアを交え分かりやすく解説、物理の魅力あふれる世界に万人を誘う、楽しい入門書となった。
第1部:物理法則とは何か(コーネル大学における講演)
第2部:量子電磁力学に対する時空全局的観点の発展(ノーベル賞受賞講演)
The Character of Physical Law
最後はファインマンの経路積分や量子電磁力学の考え方を一般向けに解説した本。
「光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学」(レビュー記事)
「QED: The Strange Theory of Light and Matter」(Kindle版)
内容紹介:
「ねえ、リチャード、あなたは何を研究しているの?」友達の奥さんがそう尋ねてきた。はてさて、どうする、ファインマンさん。物理が全然わからない人に、自分の研究を理解してもらえるか。それも、超難解で鳴る量子電磁力学を。光と電子が綾なす不思議な世界へ誘う好著。物理学者リチャード・ファインマン、面目躍如の語りが冴える。
この本は4日間にわたる一般向け講演の記録に基づいて書かれたものです。1日目は「部分反射」の話からはじまります。ガラスの表面に光が当たるとき、光の一部が表面を通過し一部が反射する現象です。かのニュートンは光の粒子説を唱えましたが、波動説が競合していました。そしてマクスウェルの理論によって波動説が最終的に勝利したかに見えました。ところが20世紀に入って量子論が誕生し、ある意味で粒子説が復活しました。光は光子という「粒」の集まりだと言うのです。すると部分反射について、既にニュートンが悩まされていた問題に再び悩まされることになります。個々の「粒」は、ガラスの中に入ってゆくのかそれとも反射するのかを、どうやって「決心」するのか。。。本書では「粒」をめぐる様々な現象が「演算を持つ矢印」によって魔法のように見事に説明されていきます。複素数を知っているほうが分かりやすいとは思いますが、知らなくても十分理解できます。知的冒険の旅へ、装備なしの手ぶらで出発できます。
Richard Feynman Lecture on Quantum Electrodynamics: QED
ファインマン先生は3度来日されている。次の写真はノーベル賞受賞前、1954年の来日で京都を訪れたときの写真で湯川秀樹先生と写っている。このとき泊まった旅館の大浴場で泳いで遊んでいて、湯川秀樹先生に『おい!若いの、少し静かにしろ』と叱られたそうだ。(クリックで拡大)
余談:写真はこのページから拝借したのだが、裏焼きであることにお気づきだろうか?後ろに写っている日本語の文字が裏返しだし、湯川先生や小田稔先生の胸ポケットの位置が左右逆になっている。
3度目の来日は1985年の8月。「困ります、ファインマンさん」の中の「シャベルを持っていきましょうか」というエッセイに、ご夫妻が三重県にある古い和風旅館に2泊したことが書かれている。(滞在は8月12日〜14日)東京のホテルから案内人もつけずにご夫妻だけお忍びで抜け出してしまった話である。詳しいいきさつやこの旅館が「辰巳屋旅館」であることが三重大学の妹尾先生が寄稿された文章に書かれている。散策中に雨に降られたご夫妻が通りがかりの車に乗せてもらったのが「若宮八幡宮」である。(この文章の中では来日が1985年か1986年かはっきりしないと書かれているが、学習院大学で行われた仁科記念講演会は1985年8月9日であるし、1986年はスペースシャトルの事故原因究明で忙殺されていたので、ファインマン先生が来日したのは1985年である。したがって「困ります、ファインマンさん」の記載で「1986年に来日」とあるのは誤りだ。)
ノーベル賞物理学者ファインマン夫妻の泊まった宿を訪ねて(三重大学工学部教授 妹尾允史): Google Chrome、Safariでは文字化けします。IEまたはFirefoxで開いてください。
http://www.lib.mie-u.ac.jp/about_library/50thnews/50thNL10.html#03
「ファインマン物理学」は1967年に日本語版が出版されていたものの、「ご冗談でしょう、ファインマンさん」の日本語版が出版されたのは1986年の6月、7月なので、来日された1985年にはファインマン先生のことを一般の日本人は知っていなかったと思われる。
妹尾先生のページに掲載されている貴重な写真。2泊した後、宿を出発する際に撮られたものだそうだ。
Googleストリートビューを使ってこの旅館の玄関を同じ角度で表示させてみた。赤電話はなくなっているが、建物や玄関前の石畳は29年経った今でもほとんど当時のままだ。奥様の後ろや玄関脇のカーテンも全く変わっていないように見える。先生がカメラに向かってポーズをとっていた位置に赤いしるしをつけておいた。
写真をクリックするとストリートビューが開く。
カメラに向けられた先生の視線の先にはどのような風景が広がっていたのだろう?
宿を出た先生と奥様が散策された田舎の景色とはどんな感じだったのだろう?
Googleストリートビューをぐるぐる回してご夫妻が楽しまれた日本の田舎の風景をご覧いただきたい。(ストリートビューでこの場所を開いてみる)
その後、ファインマン先生は京都国際会館で開かれた「中間子論50周年記念国際会議(8月15日から17日)」に出席されている。このページに次のような記載があるのを見つけた。
「この会議には、あのお茶目な、リチャード・ファイマンも出席した。このファイマンさん、明日から会議だというのに、前日になっても、京都に到着しない。そして誰もどこにいるのか知らず、雲隠れにあったのか、と、みんな大騒ぎしたが、そんな中、お茶目なファイマンは、ひょっこりと京都に現れた。東京から京都に来るのに、1人で普通列車に乗りこみ、伊勢方面をお忍びで回ってきたという。ほっと胸をなでおろしたことが印象に残っている。」
京都滞在の後、ご夫妻は能登半島へ向かわれた。御神火太鼓がお目当てだったようだ。宿泊先は「湖月館」。滞在時にファインマン先生がお描きになった女将の似顔絵は次のページで見ることができる。
春夏秋冬 能登半島 (石川県)
http://www5a.biglobe.ne.jp/~mt2000/sub16.html
1985年8月21日
ゴールデンウィークでこれらの旅館に宿泊しているお客さんもいると思う。宿泊客はここがファインマン先生ゆかりの宿であることをはたしてご存知だろうか?
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関連記事:
ファインマンさんは超天才: C.サイクス
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a24a4abb37c19dfd9118c8ea63de649d
ファインマンさんの流儀:ローレンス M.クラウス著、吉田三知世訳
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9ec9faa4bd78881bd1986bf7773cc390
ファインマン物理学: 英語版とフランス語版
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1dbcd1e1b02616ef1363ced99a912072
ファインマン物理学(英語版)が全巻ネット公開されました。
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e94dd49d7d8cc395e29d37927e30173d
The Feynman Lectures on Physics: The New Millennium Edition
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cb58141ade509fb63952d49ef57c70c7
ファインマンの経路積分に入門しよう!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0f47de5854daf4eb38339a73791544a8
量子力学と経路積分:R.P.ファインマン、A.R.ヒッブス
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2b9d934a542cf04be54cbede8b16ecde
ファインマン計算機科学:ファインマン, A.ヘイ, R.アレン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4f7f453019fd463ed2bfdeaa7b288d79
「The Feynman Lectures on Physics, boxed set: The New Millennium Edition」
「ファインマン物理学 I 力学」(1986)
「ファインマン物理学 II 光・熱・波動」(1986)
「ファインマン物理学 III 電磁気学」(1986)
「ファインマン物理学 IV 電磁波と物性〔増補版〕」(2002)
「ファインマン物理学 V 量子力学」(1986)
いちばん好きな本なのに、これまで紹介していなかったことに気がついた。
今日紹介するファインマン先生の自伝や講演会の本はたいてい僕の手元にはない。友達にあげたり貸したりしているからだ。貸した本やCDは催促しない限り、たいてい戻ってこない。
いつもブログを読んでくださっている友達に先日プレゼントしたのがきっかけで自分のぶんも注文しておいた。その友達は司法関係の人で理数系は弱いのだが、最初の3冊ならばきっと読んでいただけると思う。
今度の日曜日(5月11日)はファインマン先生の誕生日。もし生きていらっしゃれば96歳におなりになっているはず。
リチャード・P・ファインマン: 1918年5月11日 - 1988年2月15日、アメリカ合衆国出身の物理学者。
経路積分や、素粒子の反応を図示化したファインマン・ダイアグラムの発案でも知られる。1965年、量子電磁力学の発展に大きく寄与したことにより、ジュリアン・S・シュウィンガー、朝永振一郎とともにノーベル物理学賞を共同受賞した。
カリフォルニア工科大学時代の講義内容をもとにした、物理学の教科書『ファインマン物理学』は世界中で高い評価を受けた。この教科書の英語版は2013年12月に「全巻無料公開」された。また、『ご冗談でしょう、ファインマンさん』などユーモラスな逸話集も好評を博している。生涯を通して彼は抜群の人気を誇っていた。
(ウィキペディアの紹介記事)
ファインマン先生の関連本はたくさん出版されているが、今回は先生みずからお書きになった自伝本と先生ご自身がなさった講演の内容をまとめた本だけにこだわって紹介しよう。
まず読んでいただきたいのがこの本。定番中の定番だ。
「ご冗談でしょう、ファインマンさん〈上〉」
「ご冗談でしょう、ファインマンさん〈下〉」
「"Surely You're Joking, Mr. Feynman!": Adventures of a Curious Character」(Kindle版)
内容紹介:
R.P.ファインマンは1965年にJ.S.シュウィンガー、朝永振一郎とともにノーベル物理学賞を授賞した天才的な物理学者である。こう書くと「理数系が苦手」な人は逃げ出したくなるかもしれないが、そんな人にこそ本書を手にとっていただきたい。
本書は20世紀を代表する天才物理学者の自伝ではない。R.P.ファインマンという人生を楽しむ天才から我々への贈りものである。
「ファインマンと聞いたとたんに思い出してもらいたいのは、ノーベル賞をもらったことでもなければ、理論物理学者であったことでもなく、ボンゴドラムでもマンハッタン計画でもない。僕が好奇心でいっぱいの人間であったということ、それだけだ」といつも言っていた(下巻訳者あとがきより)。
「なぜだろう?」といつも好奇心いっぱいの子どものように世界を見て、いったん好奇心をひかれたらそれに夢中になり納得のいくまで追求する。彼は一切の虚飾と権威を嫌い、相手がそれをかさに着ているとみるや容赦しなかった。それは、そのような態度が、楽しいはずの真実の探求を邪魔する厄介なものだったからである。
上巻では、彼の少年時代、物理学者としての修行時代、また駆け出しの物理学者として携わったマンハッタン計画から終戦を迎えるころまでのエピソードが収録されている。どの時代においても彼はその状況を最大限楽しみ、そして、決して流儀を変えなかった。
自分が理系か文系かなんて関係ない。もし少しでも本書に「好奇心」を持ったなら、ぜひ一読をおすすめする。
本書の上巻では若く初々しかったファインマンの姿に触れることができるが、下巻では、成長したファインマンが1人の「物理学者として」物理のみならず社会や芸術とかかわってゆくさまに触れることができる。
どんなに権威者になっても(彼はそう呼ばれるのを何よりも嫌ったが)、彼は決して物理学者としての誠実さを変えることはなかった。サバティカルでブラジルの国立研究所に滞在した彼は「教科書を丸暗記するだけ」の物理の大学教育に業を煮やし、ブラジルの「お偉方」の大学教授たちの前で「この国では科学教育が行われていない」と言い放った。またあるときは、学校教科書の選定委員としてすべての教科書に目を通し、教科書の内容が科学的誠実さを欠いているのを真剣に怒り、他の委員たちと闘った。
彼の信条でもある「好奇心」は年齢を重ねてもとどまる所を知らず、カジノではプロの博打うちに弟子入りしたり、ボンゴドラムでバレエの国際コンクールの伴奏をしたり、また、幻覚に強い興味を持った彼は、旺盛な好奇心からアイソレーションタンク(J.C.リリーが発明した感覚遮断装置)にまで入ってしまう。彼は他人のことなど気にとめず、素直な心で物事を見つめ、興味をひかれたらそれに夢中になる。彼は何より人生を楽しみ、人生を愛していた。
そんな彼の書いた本書に触れていると、いろんなことを話したくってうずうずしている彼が、目を輝かせて楽しそうに自分に向かって話しかけてくれているような気分になる。そんな気分にさせるのは、大貫昌子による素晴らしい訳のおかげでもあろう。訳者はファインマンと親交があり、彼に相談しながら翻訳作業を行っているため、原文の持ち味が十分に表れている。
そして次はこの本。さしあたりここまでの3冊が「ファインマン先生入門シリーズ」というところだろう。
「困ります、ファインマンさん」
「What Do You Care What Other People Think?: Further Adventures of a Curious Character」(Kindle版)
内容紹介:
『ご冗談でしょう、ファインマンさん』につづく、ノーベル賞物理学者の痛快エッセイ集。好奇心たっぷりのファインマンさんがひきおこす騒動の数々に加え、人格形成に少なからぬ影響を与えた父親と早逝した妻について、来日して伊勢や能登半島に小旅行したときのエピソード、そして、チャレンジャー号事故調査委員会のメンバーとしていかに原因を究明したか、その顛末が語られる。
スペースシャトル、チャレンジャー号爆発事故(1986年1月、ウィキペディアで詳細を読む)
事故調査報告の公聴会でのファインマン先生(左)とアームストロング宇宙飛行士(右)
事故調査委員会のメンバーの中で最も著名な人物の一人に、理論物理学者のリチャード・ファインマンがいた。彼はテレビ放送された聴聞会の席上、氷のように冷たい温度下でOリングが如何に弾力性を失い密閉性を損なわれるかということを、コップの氷水に試料を浸すことで見事に実証してみせた。彼はNASAの「安全文化」の欠点に対して極めて批判的だったため、シャトルの信頼性に対する彼の個人的な見解を報告書に載せなければ報告書に名前を使わせないと脅し、これは「付録F」として巻末に収録された。ファインマンはその中で、NASAの首脳部から提出された安全性評価ははなはだしく非現実的であり、現場の技術者による評価とは時に1000倍もかけ離れていると論じた。付録Fの末尾をファインマンは次の文で結んでいる。「技術が成功するためには、体面よりも現実が優先されなければならない、何故なら自然は騙しおおせないからだ。」
報告書の巻末「付録F」はネット上に公開されている。
Appendix F - Personal observations on the reliability of the Shuttle
by R. P. Feynman
http://science.ksc.nasa.gov/shuttle/missions/51-l/docs/rogers-commission/Appendix-F.txt
さらに興味がでてきたら、こちらもよいだろう。
「聞かせてよ、ファインマンさん」(紹介記事)
「The Pleasure of Finding Things Out」(Kindle版)
内容紹介:
もしもファインマンさんの講演会があったなら、今だって会場には溢れんばかりの人がおしかけるだろう。学問のいかめしさとは全く無縁、不思議を突き止めていく科学のワクワク、ドキドキを、抱腹絶倒の語り口で伝えてくれるから。そんなファインマンさんの、講演・インタビューをまとめた一冊。話題は生い立ちから、素粒子や宇宙の話まで。
1.ものごとをつきとめることの喜び(1981年,BBCインタビュー)
2.未来の計算機(1985年,仁科記念講演/東京)
3.現代社会での科学的文化の役割とそのありかた(1964年,ガリレオシンポジウム/イタリア)
4.底のほうにはまだ十二分の余地がある(1959年,米物理学会/パサデナ)
5.科学の価値とは何か(1988年,『困ります,ファインマンさん』)
6.スペースシャトル「チャレンジャー号」事故少数派調査報告(1986年)
7.科学とは何か(1966年,米国科学教師教会講演会)
8.世界一,頭のいい男(1979年,オムニ誌)
9.リチャード・ファインマン,宇宙を築く(米国科学振興会インタビュー)
10.科学と宗教の関係(カリフォルニア工科大,「工学と科学」誌)
The Pleasure of Finding Things Out
ここからは中級者向け。
「科学は不確かだ!」
「The Meaning of it All」(Kindle版)
内容紹介:
『科学は不確かだ』―― 科学肯定派にも否定派にも刺激的なタイトルだ。しかも、超一流の物理学者がそう言うのだから。
ファインマンは理論物理学者で、朝永振一郎らとともに、量子力学のくりこみ理論の提唱でノーベル賞を受賞した。原爆開発を行ったマンハッタン計画では計算部門の主任を20代で務めた。物理学教育でも著名だ。
科学者は観察や実験によって不確かな知識をテストして、入念に疑って慎重に知識を獲得する。だから、不確かなことは科学者への挑戦であって、思い悩むべきことではない。逆に、根拠がないのに確実だと思い込むことほど危険なことはない。本書で、ファインマンは超常現象や道徳、政治的・宗教的信念という、科学とは遠い分野の話題にも触れるが、ここでも彼の態度は変わらない。タイトルには、こういう意味がこめられている。
この講演は、1963年にワシントン州立大学で三夜に渡って行われたもので、それぞれ「科学の不確かさ」「価値の不確かさ」「この非科学的時代」というタイトルがつけられている。すぐれた科学者が科学や社会現象について、どう考えていたのかが、わかりやすいことばで語られる。また、自由がなぜ大事なのかという彼の主張や軍事技術に対するアンビバレントな態度も興味深い。
科学について考えてみたいという方、あるいは科学を現在学んでいるという学生や研究者などにおすすめの本。
次は「ファインマン物理学シリーズ」への入門用とでも呼べるべき本だ。
「物理法則はいかにして発見されたか」(レビュー記事)
「The Character of Physical Law」(Kindle版)
内容紹介:
物理法則とはどのような性格のもので、それはどのようなものの見方から発見に至ったのか。語りの名手ファインマンさんが、その心躍る展開を若者に熱っぽく語った。また、ノーベル賞受賞となった自身のアイデアと新理論完成までの曲折を、ユーモアを交え分かりやすく解説、物理の魅力あふれる世界に万人を誘う、楽しい入門書となった。
第1部:物理法則とは何か(コーネル大学における講演)
第2部:量子電磁力学に対する時空全局的観点の発展(ノーベル賞受賞講演)
The Character of Physical Law
最後はファインマンの経路積分や量子電磁力学の考え方を一般向けに解説した本。
「光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学」(レビュー記事)
「QED: The Strange Theory of Light and Matter」(Kindle版)
内容紹介:
「ねえ、リチャード、あなたは何を研究しているの?」友達の奥さんがそう尋ねてきた。はてさて、どうする、ファインマンさん。物理が全然わからない人に、自分の研究を理解してもらえるか。それも、超難解で鳴る量子電磁力学を。光と電子が綾なす不思議な世界へ誘う好著。物理学者リチャード・ファインマン、面目躍如の語りが冴える。
この本は4日間にわたる一般向け講演の記録に基づいて書かれたものです。1日目は「部分反射」の話からはじまります。ガラスの表面に光が当たるとき、光の一部が表面を通過し一部が反射する現象です。かのニュートンは光の粒子説を唱えましたが、波動説が競合していました。そしてマクスウェルの理論によって波動説が最終的に勝利したかに見えました。ところが20世紀に入って量子論が誕生し、ある意味で粒子説が復活しました。光は光子という「粒」の集まりだと言うのです。すると部分反射について、既にニュートンが悩まされていた問題に再び悩まされることになります。個々の「粒」は、ガラスの中に入ってゆくのかそれとも反射するのかを、どうやって「決心」するのか。。。本書では「粒」をめぐる様々な現象が「演算を持つ矢印」によって魔法のように見事に説明されていきます。複素数を知っているほうが分かりやすいとは思いますが、知らなくても十分理解できます。知的冒険の旅へ、装備なしの手ぶらで出発できます。
Richard Feynman Lecture on Quantum Electrodynamics: QED
ファインマン先生は3度来日されている。次の写真はノーベル賞受賞前、1954年の来日で京都を訪れたときの写真で湯川秀樹先生と写っている。このとき泊まった旅館の大浴場で泳いで遊んでいて、湯川秀樹先生に『おい!若いの、少し静かにしろ』と叱られたそうだ。(クリックで拡大)
余談:写真はこのページから拝借したのだが、裏焼きであることにお気づきだろうか?後ろに写っている日本語の文字が裏返しだし、湯川先生や小田稔先生の胸ポケットの位置が左右逆になっている。
3度目の来日は1985年の8月。「困ります、ファインマンさん」の中の「シャベルを持っていきましょうか」というエッセイに、ご夫妻が三重県にある古い和風旅館に2泊したことが書かれている。(滞在は8月12日〜14日)東京のホテルから案内人もつけずにご夫妻だけお忍びで抜け出してしまった話である。詳しいいきさつやこの旅館が「辰巳屋旅館」であることが三重大学の妹尾先生が寄稿された文章に書かれている。散策中に雨に降られたご夫妻が通りがかりの車に乗せてもらったのが「若宮八幡宮」である。(この文章の中では来日が1985年か1986年かはっきりしないと書かれているが、学習院大学で行われた仁科記念講演会は1985年8月9日であるし、1986年はスペースシャトルの事故原因究明で忙殺されていたので、ファインマン先生が来日したのは1985年である。したがって「困ります、ファインマンさん」の記載で「1986年に来日」とあるのは誤りだ。)
ノーベル賞物理学者ファインマン夫妻の泊まった宿を訪ねて(三重大学工学部教授 妹尾允史): Google Chrome、Safariでは文字化けします。IEまたはFirefoxで開いてください。
http://www.lib.mie-u.ac.jp/about_library/50thnews/50thNL10.html#03
「ファインマン物理学」は1967年に日本語版が出版されていたものの、「ご冗談でしょう、ファインマンさん」の日本語版が出版されたのは1986年の6月、7月なので、来日された1985年にはファインマン先生のことを一般の日本人は知っていなかったと思われる。
妹尾先生のページに掲載されている貴重な写真。2泊した後、宿を出発する際に撮られたものだそうだ。
Googleストリートビューを使ってこの旅館の玄関を同じ角度で表示させてみた。赤電話はなくなっているが、建物や玄関前の石畳は29年経った今でもほとんど当時のままだ。奥様の後ろや玄関脇のカーテンも全く変わっていないように見える。先生がカメラに向かってポーズをとっていた位置に赤いしるしをつけておいた。
写真をクリックするとストリートビューが開く。
カメラに向けられた先生の視線の先にはどのような風景が広がっていたのだろう?
宿を出た先生と奥様が散策された田舎の景色とはどんな感じだったのだろう?
Googleストリートビューをぐるぐる回してご夫妻が楽しまれた日本の田舎の風景をご覧いただきたい。(ストリートビューでこの場所を開いてみる)
その後、ファインマン先生は京都国際会館で開かれた「中間子論50周年記念国際会議(8月15日から17日)」に出席されている。このページに次のような記載があるのを見つけた。
「この会議には、あのお茶目な、リチャード・ファイマンも出席した。このファイマンさん、明日から会議だというのに、前日になっても、京都に到着しない。そして誰もどこにいるのか知らず、雲隠れにあったのか、と、みんな大騒ぎしたが、そんな中、お茶目なファイマンは、ひょっこりと京都に現れた。東京から京都に来るのに、1人で普通列車に乗りこみ、伊勢方面をお忍びで回ってきたという。ほっと胸をなでおろしたことが印象に残っている。」
京都滞在の後、ご夫妻は能登半島へ向かわれた。御神火太鼓がお目当てだったようだ。宿泊先は「湖月館」。滞在時にファインマン先生がお描きになった女将の似顔絵は次のページで見ることができる。
春夏秋冬 能登半島 (石川県)
http://www5a.biglobe.ne.jp/~mt2000/sub16.html
1985年8月21日
ゴールデンウィークでこれらの旅館に宿泊しているお客さんもいると思う。宿泊客はここがファインマン先生ゆかりの宿であることをはたしてご存知だろうか?
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「ファインマン物理学 II 光・熱・波動」(1986)
「ファインマン物理学 III 電磁気学」(1986)
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