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なっとくする群・環・体:野崎昭弘

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なっとくする群・環・体:野崎昭弘」(Kindle版

内容紹介:
読めばなっとく、現代代数学のエッセンス! 群・環・体ってどんなもの? わかったようでわからない代数学の基礎を、現代的応用も交えて明快な論理で解きほぐす。名著者・野崎先生が語る、新感覚の入門書!
難解だからこそ、わかりたい!
あざやかな語り口で解きほぐす、現代数学の勘どころ。
2011年2月2日刊行、202ページ。

著者について:
野崎昭弘(のざき あきひろ): ウィキペディアの記事
1936年、横浜市生まれ。東京大学理学部数学科卒業、同大学院数物系研究科修了。電電公社(現NTT)電気通信研究所、東京大学教養学部、同理学部、山梨大学工学部、国際基督教大学教養学部、大妻女子大学社会情報学部を経て、現在、サイバー大学IT総合学部教授。専門はアルゴリズム理論、多値論理学。

野崎先生の著書: Amazonで検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で400冊目。

前回は「テンソル解析:田代嘉宏」を紹介したが、テンソルが理工系の新入生にとって新しい概念であるのと同様、「群・環・体」も高校数学までにはお目にかからない新しい数学概念なのだろう。テンソルと同じくこれら3つも「代数系」に含まれる概念だ。大ざっぱな言い方をすればテンソルが行列やベクトルの拡張であるのに対し、群・環・体は二項演算を一般化した概念である。そして単なる演算にとどまらず、幾何的な変換、運動、物事の対称性、代数方程式の解の存在性など、幅広い応用に結びつく数学や物理の法則や理論に欠かせないものとなっている。学ぶ価値は計り知れない。

僕には既習の分野だが、先日知人から「環って何?」という質問を受けたのがきっかけで、手軽に読めてわかりやすい本はないものかと探して見つけたのが本書である。

わざわざ本を読まなくても「群・環・体」の違いさえわかればよいという方は、このページと挿入されている表をご覧いただければ十分であろう。10分もあれば読むことができる。

群・環・体 - 大人になってからの再学習
http://zellij.hatenablog.com/entry/20121211/p1


さて、本書の章立ては次のとおり。

第1章 集合・関数と初等整数論――すべての基礎は整数にあり
第2章 群の理論――似ているものをひっくるめる理論
第3章 環の理論――整数と多項式はおんなじだ、という理論
第4章 体の理論――代数方程式論と符号理論の土台
付録 代数方程式論とは

第2章以降が群・環・体のそれぞれに1章ずつ割り当てられていて、全体で200ページほどの本だから、詳しく解説できないのは仕方がないこと。群までは言葉を尽くして解説を行っているが、環と体はどちらかというと定義と証明が中心である。

もちろん専門の代数系の教科書よりはずっと易しいから「最初に読む本」としてはいいのかなと思った。野崎先生ご自身、この本はお料理学校で言えば「包丁を研ぐ」段階の本だと表現されている。

このシリーズの「なっとくする」という点については、「どうなのかな?」という気がした。このレベルの本を好むのは物理専攻、工学専攻の学生が多く、現実世界の何に対応し、どのような応用につながるのかという視点に欠けているからだ。本書は易しいながらも数学の世界だけで閉じている。そして取り上げている例は要素を具体的に例示しない、通常の代数系の教科書と同じスタイルであり、「教科書の要点をかいつまんだ簡略版」という感じだ。

得られる達成感としては第2章の「フロベニウスの定理」、第3章の「整域と多項式が、ユークリッド整域の理論でまとめて扱えること」、第3章と第4章で扱う「商環の理論」が複素数体の導入や有限体を作り出すのにドンピシャリと役に立つことなどである。

本書を読んで概要を理解してから、通常の教科書を読み、そして復習用として本書を再読するのが効果的であると思った。演習や問題もないので身につかない。短い時間でざっと理解するための本である。

本書を読み終えたら「群・環・体入門:新妻弘、木村哲三」と「演習 群・環・体入門:新妻弘」で、具体的にみっちり学ぶことをお勧めしたい。

やはり「学問に王道はない」というのが「なっとくする群・環・体:野崎昭弘」(Kindle版)を読んでの感想だ。


このシリーズはKindle化されている本が多い。以下から検索していただきたい。

なっとくするシリーズ(Kindle版): Amazonで検索


関連記事:

群・環・体入門:新妻弘、木村哲三
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7f58114fe89f69d8e9a306fe819a6398

演習 群・環・体入門:新妻弘
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/32bc51d4f5a1de1a095ec9c69bc371f7

群論入門(新数学シリーズ 7):稲葉栄次
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f971ae2de623dd448868ad6ecca20051

代数系入門: 松坂和夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/055c0887eb88f94bceb53b859524c952

数学ガール/ガロア理論:結城浩
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a5450818389e0220779e363617332a76

ガロア理論の頂を踏む: 石井俊全
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/be7d2e4dbc9a86966cad1356025d4525

大学で学ぶ数学とは(概要編)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/07137c47d16d95ddde8f5c4cb6f37d55


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なっとくする群・環・体:野崎昭弘」(Kindle版


まえがき

第1章 集合・関数と初等整数論――すべての基礎は整数にあり
1.1 集合
1.2 関数
1.3 初等整数論

第2章 群の理論――似ているものをひっくるめる理論
2.1 合同と変換
2.2 変換と同値関係
2.3 置換群と同値関係
2.4 一般の群
2.5 部分群と正規部分群

第3章 環の理論――整数と多項式はおんなじだ、という理論
3.1 多項式と加減乗除
3.2 環とは何か
3.3 特殊な環
3.4 イデアルと商環
3.5 環の拡大と準同型

第4章 体の理論――代数方程式論と符号理論の土台
4.1 体の基礎
4.2 新しい体の構成
4.3 有限体

付録 代数方程式論とは

あとがき
参考文献
索引

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