「12歳の少年が書いた 量子力学の教科書: 近藤龍一」
内容紹介:
10歳の頃には物理学の他にも天文学、歴史、哲学、医学、論理学、経済学、法学などあらゆる学問分野の本を読み漁り(最盛期には年間3000冊)、最終的に量子力学が自分の目指す専門分野であると考えるに至った著者がこの書籍を執筆したのは12歳のときでした。独学で、本だけを頼りに量子力学に挑戦する上で「入門書は易し過ぎ、専門書は難し過ぎ」ということを感じ、その間を埋める、入門書と専門書の架け橋になるような本があればいい…という想いを実現したのが本書です。数式を追いながら読めば理解が深まるのはもちろんですが、入門者の方がそこを飛ばして読んだとしても、「量子力学」に一歩迫ることのできる一冊です。
2017年7月刊行、319ページ。
本書の詳細:
『12歳の少年が書いた量子力学の教科書』-アインシュタインたちの「喧嘩」で量子力学を学ぶ-7月3日発売
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000016423.html
著者について:
近藤龍一(こんどうりゅういち)
2001年生まれ。
幼いころから本好きであり、あらゆる学問分野に興味を示し、貪欲に知識を吸収してきた。科学については、本人も知らぬうちにある程度の知識と興味があったが、9歳のとき、本格的に理論物理学の独学を開始する。この頃、量子力学の存在を知り、その世界観に感銘を受ける。そして、10歳の頃から数式レベルの理解を目指して、物理数学の独学を始め、11歳のとき自分なりの本を書いてみたいと思うようになる。
12歳のとき本書の執筆を開始し、完成させる。
その後は場の量子論の研究を始める。
現在、都内の中高一貫校に通う高校1年生。
理数系書籍のレビュー記事は本書で(たった)335冊目。
本書はなかみつさんのツイートで知った。
「えっ!12歳で量子力学??ウソでしょ!」
と僕の第一印象はみなさんと同じだった。2009年に発売された「シルヴィアの量子力学」という文章だけの本、ドイツの女子高生が書いた本のようなものだろうと考えていた。
地元の書店に行ってみるとこの本が平積みされていた。中型書店だから専門書はほとんど置いていない。同じベレ出版の「一般相対性理論を一歩一歩数式で理解する: 石井俊全」が平積みされ、その隣に置かれていた。書店も販売に力を入れているのだ。
ハンマーで頭を殴られた気がした。
「僕はいったい何をしていたんだろう。。。」
10年かかってやっと場の量子論を学んでいる段階だし、それができるのも大学まで理系科目を学んできたおかげである。
これが将棋ならわかる。大人を負かす小学生はたくさんいるし、その中には藤井四段のような突出した才能を開花させる子供もいる。
でも、物理はさすがに無理だろう。
中学や高校で学ぶ内容はいつ終わらせたの?自分だけで身に着けてしまったの?でも、小学生で数学検定1級とる子もいるしなぁ。。。
ようするに、目の前の現実を受け入れたくないのだ。
書店でパラパラと見たところ広江克彦さんの「趣味で量子力学」と同じようなレベルの本のような気がした。しかし、家に帰ってじっくり見てみると、本書のレベルはもう少し易しい「高校数学でわかるシュレディンガー方程式:竹内淳」とほぼ同じレベルだとわかって少し安心した。
いや、安心などできるはずがない。やっぱり12歳には無理だ!
自尊心の崩壊を防ごうと、あれこれ理由を探している僕は実に往生際が悪い。
「あ、そうか!著者はいま高校生だ!きっと12歳のときに書き始めて、最近になってようやく校了したのか!きっと話題性をねらって12歳の~、というタイトルにしたんだな。」
この意地悪な見方もハズレてしまった。本書の「おわりに」には「12歳のときに書き終えてから、なかなか出版社が決まらず、ようやく今になって出版できた。」と書かれている。
降参である。本書は確かに12歳の少年が書いたものなのだ。それも手書きでである。無名の少年が書いた原稿を本にしてくれる出版社などほとんどないに決まっているから時間がかかってしまったのだろう。
量子力学の教科書はすでに何種類か読んでいるからすらすら読める。一気に読んでみた。
とても12歳の子供が書いた文章とは思えない。しっかりしているし、語彙も豊富だ。タイトルに「12歳の~」と書かれていなかったら、大人が書いた文章だと勘違いするだろう。
それでいて「背伸びしている」とか「知ったかぶりをしている」、「教えてあげるという上から目線」と感じる箇所はまったくない。自分が学んだことを正直かつごく自然に、淡々と同じ調子で書き連ねているのだ。文章レベル、段落レベル、章レベルにまったくムラがない。これがいちばん驚かされたところ。物理の内容以前に大人の文章が書ける子供なのだ。
他の物理学書からの引用以外の記述についても、コピペしたような痕跡はまったく見当たらない。コピペすると送り仮名や句読点のつけ方、漢字と平仮名表記のばらつきなどがでてきてすぐわかるからだ。
専門用語は必ず意味を説明してから使っているし、自分でちゃんと理解した上で書き進めているから段落間の論理的整合性がとれていて「抜け」や「飛躍」がない。読者への配慮が尽くされているのだ。
章立てはこのとおり。第5章以降、通常の量子力学の教科書には書かれない「相対論的量子力学」、「量子コンピュータ」、「量子テレポーテーション」まで含めている。
第0章:量子力学とは何か ~最も基本的な事柄~
第1章:万物の根源 ~量子力学の誕生~
第2章:前期量子論 ~古典力学の破綻~
第3章:数学的定式化
第4章:内在的矛盾と解釈問題 ~量子力学は正しいか~
第5章:量子力学の先へ ~範囲拡大~
第6章:近未来的応用への道 ~量子力学の利用~
補遺A: 量子力学で用いる記号について
補遺B: 更に量子力学の世界を探求したい読者のために
補遺C: 参考文献(章別)
そして素晴らしいのが補遺BとCだ。
補遺Bでは本書には書ききれなかった発展的な内容を紹介し、それぞれ解説を与えている。つまり「パウリの排他律」、「経路積分法」、「多粒子系:摂動論」、「スピノール」、「クライン=仁科の公式」、「第2量子化:場の量子論」など。
補遺Cには各章で参考にした本のタイトル一覧が掲載されている。それもとてもたくさん。量子力学だけでも僕よりはるかに多くの本を読んでいることがわかって唖然とした。
著者によれば本書は数式のない入門書と大学の教科書の間に位置する「中間書」である。数式を交えた解説を行うが易しめに書いた本という意味だ。数式はていねいに導出している箇所もあるが、多くは導出を省略する形で紹介するにとどめている。文章のところだけ読んでも理解できるようになっているのがよいところ。
300ページを超える分厚い本だ。ベレ出版の本は紙が厚いのでそのぶんボリュームが増している。また行間をたっぷりとっているので、ページ数が多くなった。
多い年には年間3000冊の本を読んだそうなのだが、博識であることが本書のいたるところでわかる。ギリシャ哲学も相当詳しいようだ。(「でも小学生なんだよなぁ。」と思うわけなのだが。年間3000冊って1日平均8冊以上だし、平日は学校に行ってるわけでしょ。そんなこと可能なの?と紹介記事を書きながらぶつぶつ言ってしまう。)
大学初年度の数学を理解している人が量子力学に入門するには最適な本だと思う。この本が出るまでは「高校数学でわかるシュレディンガー方程式:竹内淳」がベストだと判断していたが、こちらはシュレディンガー方程式とその周辺だけしか書かれていないので、カバーする範囲がずっと広い本書のほうがよいと思うのだ。
同じような「中間書」、「準教科書」として広江克彦さんの「趣味で量子力学」や「趣味で量子力学2」との比較だと、広江さんの本のほうが数式の導出に手抜きがないこと、広江さんご自身の感想や主張が色濃くでているので「読み物として面白い」という違いがある。このあたりは人生経験の違い、個性の違いということだろう。あと広江さんの本のほうが少し難易度が高い。
本書の原稿は専門家のチェックを受けたうえで出版されている。主要な部分は和田純夫先生、原稿の全てはZ会の小山拓輝氏が目を通され数式・計算チェック、誤植訂正、アドバイスをされたそうだ。
12歳の少年がこれだけ書いたのならば十分である。文句のつけようがない。
とはいっても、大人が書いた本だと仮定して読むといくつか気になる点がでてくるのだ。本書を通読したなかみつさんは次のような2つのことをツイッターで指摘されている。せっかくここまで完成させたのだから、もっと良いものにしてあげたいという親切心からのアドバイスである。
- 「ニュートン力学は量子力学の近似にすぎない」という記述が気になります。「ニュートン力学は量子力学の近似」というのは正しい命題なのはOKです。その後ろに「に過ぎない」という価値判断がついてしまうと、ニュートン力学の価値を(量子力学に比べて)低いように感じてしまう読者がいるのではないかという点が心配になったんです。
- 「第2量子化」ではなく「場の量子化」という用語を使ったほうがよい。
この2点については、なかみつさんは直接ベレ出版に連絡されるということなので、僕としてはここに紹介するにとどめておこう。
あと、僕が気になったことが1点ある。それは本書では2か所で書かれていた。ノイマンについての記述だ。
「波動関数の収縮という現象は、数式では記述されない。」
こう書いているのなら、彼の「射影仮説」も言及しておいたほうがよいと思ったのだ。射影仮説とは、平たく言えば、観測に伴って波動関数の収縮が起こるとする仮説である。
素晴らしいと思ったことのうち1つを紹介しよう。本書100ページに書かれている記述だ。
ド・ブロイの発想は、次の2式から定式化できる。その2式とは
E=hν ----- (7.1)
と
E=mc^2 ---- (7.2)
である。(7.1)はもう見飽きたかもしれないが、それだけ大事な式なのである。(7.2)も一度出しているが、アインシュタインの特殊相対論の帰結式である。この式に h が入っていないのは、これがマクロの世界でのものだからだが、c はミクロでもマクロでも重要な意味を持つので、この式はたまたまマクロとミクロの両方で共通なのである。
太字にしたところは、これまで読んだ本では見たことがない。自分で気が付いたのだなと思う。ひとつひとつ理解しながら進んでいるのがよくわかる。
今回の本は量子力学なのだが、古典力学や電磁気学、熱力学、統計力学などはもう学んだのだろうか?とっくの昔に学び終えているのだと思うが、それじゃいつ頃??「10歳の頃から数式レベルの理解を目指して、物理数学の独学を始め」とあるからその頃なのかな?物理数学以降の数学はどこまで学んでいるのだろう?
前例がないだけに、疑問はいくつも湧いてくるのである。本を読み終えたいまでも、この現実をなかなか受け入れられない自分がいる。
だから「量子力学はもう学び終えているよ。」という方にとっても読む価値がある。ぜひ書店でご覧になってみてほしい。
本書の詳細: 著者や本書のサンプルページ、手書き原稿の写真が掲載されている。
『12歳の少年が書いた量子力学の教科書』-アインシュタインたちの「喧嘩」で量子力学を学ぶ-7月3日発売
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000016423.html
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「12歳の少年が書いた 量子力学の教科書: 近藤龍一」
第0章:量子力学とは何か ~最も基本的な事柄~
第1章:万物の根源 ~量子力学の誕生~
- 創成期
- 空洞放射
- プランク定数
第2章:前期量子論 ~古典力学の破綻~
- 光の二重性
- コンプトン散乱
- 正しい原子モデル
- 謎の波
第3章:数学的定式化
- 行列力学
- 波動力学
- 不確定性原理
- 相補性原理
- スピン
- ディラックの記号
第4章:内在的矛盾と解釈問題 ~量子力学は正しいか~
- 「物理的実在の量子力学的記述は完全と考えうるのか?」
- シュレーディンガーの猫
- 異端の量子力学
第5章:量子力学の先へ ~範囲拡大~
- 相対論的量子力学
- 量子と重力の螺旋
第6章:近未来的応用への道 ~量子力学の利用~
- 量子コンピュータ
- 量子テレポーテーション
おわりに
補遺A: 量子力学で用いる記号について
補遺B: 更に量子力学の世界を探求したい読者のために
補遺C: 参考文献(章別)
索引
内容紹介:
10歳の頃には物理学の他にも天文学、歴史、哲学、医学、論理学、経済学、法学などあらゆる学問分野の本を読み漁り(最盛期には年間3000冊)、最終的に量子力学が自分の目指す専門分野であると考えるに至った著者がこの書籍を執筆したのは12歳のときでした。独学で、本だけを頼りに量子力学に挑戦する上で「入門書は易し過ぎ、専門書は難し過ぎ」ということを感じ、その間を埋める、入門書と専門書の架け橋になるような本があればいい…という想いを実現したのが本書です。数式を追いながら読めば理解が深まるのはもちろんですが、入門者の方がそこを飛ばして読んだとしても、「量子力学」に一歩迫ることのできる一冊です。
2017年7月刊行、319ページ。
本書の詳細:
『12歳の少年が書いた量子力学の教科書』-アインシュタインたちの「喧嘩」で量子力学を学ぶ-7月3日発売
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000016423.html
著者について:
近藤龍一(こんどうりゅういち)
2001年生まれ。
幼いころから本好きであり、あらゆる学問分野に興味を示し、貪欲に知識を吸収してきた。科学については、本人も知らぬうちにある程度の知識と興味があったが、9歳のとき、本格的に理論物理学の独学を開始する。この頃、量子力学の存在を知り、その世界観に感銘を受ける。そして、10歳の頃から数式レベルの理解を目指して、物理数学の独学を始め、11歳のとき自分なりの本を書いてみたいと思うようになる。
12歳のとき本書の執筆を開始し、完成させる。
その後は場の量子論の研究を始める。
現在、都内の中高一貫校に通う高校1年生。
理数系書籍のレビュー記事は本書で(たった)335冊目。
本書はなかみつさんのツイートで知った。
「えっ!12歳で量子力学??ウソでしょ!」
と僕の第一印象はみなさんと同じだった。2009年に発売された「シルヴィアの量子力学」という文章だけの本、ドイツの女子高生が書いた本のようなものだろうと考えていた。
地元の書店に行ってみるとこの本が平積みされていた。中型書店だから専門書はほとんど置いていない。同じベレ出版の「一般相対性理論を一歩一歩数式で理解する: 石井俊全」が平積みされ、その隣に置かれていた。書店も販売に力を入れているのだ。
ハンマーで頭を殴られた気がした。
「僕はいったい何をしていたんだろう。。。」
10年かかってやっと場の量子論を学んでいる段階だし、それができるのも大学まで理系科目を学んできたおかげである。
これが将棋ならわかる。大人を負かす小学生はたくさんいるし、その中には藤井四段のような突出した才能を開花させる子供もいる。
でも、物理はさすがに無理だろう。
中学や高校で学ぶ内容はいつ終わらせたの?自分だけで身に着けてしまったの?でも、小学生で数学検定1級とる子もいるしなぁ。。。
ようするに、目の前の現実を受け入れたくないのだ。
書店でパラパラと見たところ広江克彦さんの「趣味で量子力学」と同じようなレベルの本のような気がした。しかし、家に帰ってじっくり見てみると、本書のレベルはもう少し易しい「高校数学でわかるシュレディンガー方程式:竹内淳」とほぼ同じレベルだとわかって少し安心した。
いや、安心などできるはずがない。やっぱり12歳には無理だ!
自尊心の崩壊を防ごうと、あれこれ理由を探している僕は実に往生際が悪い。
「あ、そうか!著者はいま高校生だ!きっと12歳のときに書き始めて、最近になってようやく校了したのか!きっと話題性をねらって12歳の~、というタイトルにしたんだな。」
この意地悪な見方もハズレてしまった。本書の「おわりに」には「12歳のときに書き終えてから、なかなか出版社が決まらず、ようやく今になって出版できた。」と書かれている。
降参である。本書は確かに12歳の少年が書いたものなのだ。それも手書きでである。無名の少年が書いた原稿を本にしてくれる出版社などほとんどないに決まっているから時間がかかってしまったのだろう。
量子力学の教科書はすでに何種類か読んでいるからすらすら読める。一気に読んでみた。
とても12歳の子供が書いた文章とは思えない。しっかりしているし、語彙も豊富だ。タイトルに「12歳の~」と書かれていなかったら、大人が書いた文章だと勘違いするだろう。
それでいて「背伸びしている」とか「知ったかぶりをしている」、「教えてあげるという上から目線」と感じる箇所はまったくない。自分が学んだことを正直かつごく自然に、淡々と同じ調子で書き連ねているのだ。文章レベル、段落レベル、章レベルにまったくムラがない。これがいちばん驚かされたところ。物理の内容以前に大人の文章が書ける子供なのだ。
他の物理学書からの引用以外の記述についても、コピペしたような痕跡はまったく見当たらない。コピペすると送り仮名や句読点のつけ方、漢字と平仮名表記のばらつきなどがでてきてすぐわかるからだ。
専門用語は必ず意味を説明してから使っているし、自分でちゃんと理解した上で書き進めているから段落間の論理的整合性がとれていて「抜け」や「飛躍」がない。読者への配慮が尽くされているのだ。
章立てはこのとおり。第5章以降、通常の量子力学の教科書には書かれない「相対論的量子力学」、「量子コンピュータ」、「量子テレポーテーション」まで含めている。
第0章:量子力学とは何か ~最も基本的な事柄~
第1章:万物の根源 ~量子力学の誕生~
第2章:前期量子論 ~古典力学の破綻~
第3章:数学的定式化
第4章:内在的矛盾と解釈問題 ~量子力学は正しいか~
第5章:量子力学の先へ ~範囲拡大~
第6章:近未来的応用への道 ~量子力学の利用~
補遺A: 量子力学で用いる記号について
補遺B: 更に量子力学の世界を探求したい読者のために
補遺C: 参考文献(章別)
そして素晴らしいのが補遺BとCだ。
補遺Bでは本書には書ききれなかった発展的な内容を紹介し、それぞれ解説を与えている。つまり「パウリの排他律」、「経路積分法」、「多粒子系:摂動論」、「スピノール」、「クライン=仁科の公式」、「第2量子化:場の量子論」など。
補遺Cには各章で参考にした本のタイトル一覧が掲載されている。それもとてもたくさん。量子力学だけでも僕よりはるかに多くの本を読んでいることがわかって唖然とした。
著者によれば本書は数式のない入門書と大学の教科書の間に位置する「中間書」である。数式を交えた解説を行うが易しめに書いた本という意味だ。数式はていねいに導出している箇所もあるが、多くは導出を省略する形で紹介するにとどめている。文章のところだけ読んでも理解できるようになっているのがよいところ。
300ページを超える分厚い本だ。ベレ出版の本は紙が厚いのでそのぶんボリュームが増している。また行間をたっぷりとっているので、ページ数が多くなった。
多い年には年間3000冊の本を読んだそうなのだが、博識であることが本書のいたるところでわかる。ギリシャ哲学も相当詳しいようだ。(「でも小学生なんだよなぁ。」と思うわけなのだが。年間3000冊って1日平均8冊以上だし、平日は学校に行ってるわけでしょ。そんなこと可能なの?と紹介記事を書きながらぶつぶつ言ってしまう。)
大学初年度の数学を理解している人が量子力学に入門するには最適な本だと思う。この本が出るまでは「高校数学でわかるシュレディンガー方程式:竹内淳」がベストだと判断していたが、こちらはシュレディンガー方程式とその周辺だけしか書かれていないので、カバーする範囲がずっと広い本書のほうがよいと思うのだ。
同じような「中間書」、「準教科書」として広江克彦さんの「趣味で量子力学」や「趣味で量子力学2」との比較だと、広江さんの本のほうが数式の導出に手抜きがないこと、広江さんご自身の感想や主張が色濃くでているので「読み物として面白い」という違いがある。このあたりは人生経験の違い、個性の違いということだろう。あと広江さんの本のほうが少し難易度が高い。
本書の原稿は専門家のチェックを受けたうえで出版されている。主要な部分は和田純夫先生、原稿の全てはZ会の小山拓輝氏が目を通され数式・計算チェック、誤植訂正、アドバイスをされたそうだ。
12歳の少年がこれだけ書いたのならば十分である。文句のつけようがない。
とはいっても、大人が書いた本だと仮定して読むといくつか気になる点がでてくるのだ。本書を通読したなかみつさんは次のような2つのことをツイッターで指摘されている。せっかくここまで完成させたのだから、もっと良いものにしてあげたいという親切心からのアドバイスである。
- 「ニュートン力学は量子力学の近似にすぎない」という記述が気になります。「ニュートン力学は量子力学の近似」というのは正しい命題なのはOKです。その後ろに「に過ぎない」という価値判断がついてしまうと、ニュートン力学の価値を(量子力学に比べて)低いように感じてしまう読者がいるのではないかという点が心配になったんです。
- 「第2量子化」ではなく「場の量子化」という用語を使ったほうがよい。
この2点については、なかみつさんは直接ベレ出版に連絡されるということなので、僕としてはここに紹介するにとどめておこう。
あと、僕が気になったことが1点ある。それは本書では2か所で書かれていた。ノイマンについての記述だ。
「波動関数の収縮という現象は、数式では記述されない。」
こう書いているのなら、彼の「射影仮説」も言及しておいたほうがよいと思ったのだ。射影仮説とは、平たく言えば、観測に伴って波動関数の収縮が起こるとする仮説である。
素晴らしいと思ったことのうち1つを紹介しよう。本書100ページに書かれている記述だ。
ド・ブロイの発想は、次の2式から定式化できる。その2式とは
E=hν ----- (7.1)
と
E=mc^2 ---- (7.2)
である。(7.1)はもう見飽きたかもしれないが、それだけ大事な式なのである。(7.2)も一度出しているが、アインシュタインの特殊相対論の帰結式である。この式に h が入っていないのは、これがマクロの世界でのものだからだが、c はミクロでもマクロでも重要な意味を持つので、この式はたまたまマクロとミクロの両方で共通なのである。
太字にしたところは、これまで読んだ本では見たことがない。自分で気が付いたのだなと思う。ひとつひとつ理解しながら進んでいるのがよくわかる。
今回の本は量子力学なのだが、古典力学や電磁気学、熱力学、統計力学などはもう学んだのだろうか?とっくの昔に学び終えているのだと思うが、それじゃいつ頃??「10歳の頃から数式レベルの理解を目指して、物理数学の独学を始め」とあるからその頃なのかな?物理数学以降の数学はどこまで学んでいるのだろう?
前例がないだけに、疑問はいくつも湧いてくるのである。本を読み終えたいまでも、この現実をなかなか受け入れられない自分がいる。
だから「量子力学はもう学び終えているよ。」という方にとっても読む価値がある。ぜひ書店でご覧になってみてほしい。
本書の詳細: 著者や本書のサンプルページ、手書き原稿の写真が掲載されている。
『12歳の少年が書いた量子力学の教科書』-アインシュタインたちの「喧嘩」で量子力学を学ぶ-7月3日発売
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000016423.html
ブログ執筆のはげみになりますので、1つずつ応援クリックをお願いします。
「12歳の少年が書いた 量子力学の教科書: 近藤龍一」
第0章:量子力学とは何か ~最も基本的な事柄~
第1章:万物の根源 ~量子力学の誕生~
- 創成期
- 空洞放射
- プランク定数
第2章:前期量子論 ~古典力学の破綻~
- 光の二重性
- コンプトン散乱
- 正しい原子モデル
- 謎の波
第3章:数学的定式化
- 行列力学
- 波動力学
- 不確定性原理
- 相補性原理
- スピン
- ディラックの記号
第4章:内在的矛盾と解釈問題 ~量子力学は正しいか~
- 「物理的実在の量子力学的記述は完全と考えうるのか?」
- シュレーディンガーの猫
- 異端の量子力学
第5章:量子力学の先へ ~範囲拡大~
- 相対論的量子力学
- 量子と重力の螺旋
第6章:近未来的応用への道 ~量子力学の利用~
- 量子コンピュータ
- 量子テレポーテーション
おわりに
補遺A: 量子力学で用いる記号について
補遺B: 更に量子力学の世界を探求したい読者のために
補遺C: 参考文献(章別)
索引