「相対論的量子力学 (量子力学選書): 川村嘉春」
内容紹介:
「相対論的量子力学」とは特殊相対性理論と量子力学が融合された理論で、1928年に提案されたディラック方程式を基礎方程式とする。したがって、特殊相対性理論と量子力学を学んだ方が本書の主な対象であるが、これらに関する基本的な概念と知識を付録に記載したので、大学の下級生でも意欲のある学生ならば、自主学習や自主ゼミを通して読みこなせる構成になっている。
第 I 部では、相対論的量子力学の構造と特徴について学ぶ。具体的には、ディラック方程式を導出し、そのローレンツ変換性、解の性質、非相対論的極限、水素原子のエネルギー準位、負エネルギー解の解釈について考察する。
第 II 部では、相対論的量子力学の検証について学ぶ。具体的には、電子・陽電子などの荷電粒子と光子の絡んださまざまな過程(クーロンポテンシャルによる散乱、コンプトン散乱、電子・電子散乱、電子・陽電子散乱)に関する散乱断面積を導出し、高次の量子補正について考察する。
2012年11月刊行、353ページ。
著者について:
川村嘉春(かわむらよしはる):経歴のページ: http://soar-rd.shinshu-u.ac.jp/profile/ja.jNDFOUkh.html
1961年滋賀県生まれ。1985年名古屋大学理学部物理学科卒業。1990年金沢大学大学院自然科学研究科物質科学専攻修了、学術博士、信州大学理学部物理学科助手。1999年信州大学理学部物理科学科助教授。2006年同教授。専攻は素粒子物理学。
量子力学選書: Amazonで検索
理数系書籍のレビュー記事は本書で313冊目。
2012年秋から刊行されている「量子力学選書(全8巻)」の第1巻である。このシリーズはよさそうだと思いつつも、手をつけるのがだいぶ遅くなってしまった。
特殊相対論と量子力学の要件を同時に満たすのが相対論的量子力学である。シリーズ第3巻の「場の量子論: 不変性と自由場を中心にして (量子力学選書):坂本眞人」の初めのほうにも相対論的量子力学が解説されているので重複しているわけだが、この第1巻の特徴は「相対論的量子力学にこだわって、できるところまでとことんやってみる。」ということなのだ。学ぶ意義はじゅうぶんあった。
これまで読んできた同じ分野の教科書よりも難易度はかなり高い。それはリー群やその表現論を理解しているのが前提とされているからだ。
カバーしている範囲は「サクライ上級量子力学」にほぼ一致している。しかしより理論的、数理的であるから本書のほうがより上級者向けである。
章立てはこのようなものだ。(詳細目次は記事のいちばん下を参照していただきたい。)
第 I 部 相対論的量子力学の構造
1.ディラック方程式の導出
2.ディラック方程式のローレンツ共変性
3.γ行列に関する基本定理,カイラル表示
4.ディラック方程式の解
5.ディラック方程式の非相対論的極限
6.水素原子
7.空孔理論
第 II 部 相対論的量子力学の検証
8.伝搬理論 -非相対論的電子-
9.伝搬理論 -相対論的電子-
10.因果律,相対論的共変性
11.クーロン散乱
12.コンプトン散乱
13.電子・電子散乱と電子・陽電子散乱
14.高次補正 -その1-
15.高次補正 -その2-
付録
A.国際単位系
B.特殊相対性理論
C.量子力学
D.ポアンカレ群
E.スピノル解析
F.さまざまな時空におけるスピノル
G.正則化
H.表記法,公式集
第I部「相対論的量子力学の構造」ではまずクライン‐ゴルドン方程式、ディラック方程式、パウリ方程式を導く。そしてディラック方程式のローレンツ共変性やγ行列のもつ性質を確認したり、ディラックスピノルやカイラル表示を求めたりする。またディラック方程式の解や非相対論的極限も導出する。ここまでは相対論的量子力学の一般的な教科書とほぼ同じだ。
「相対論的量子力学でとことんやってみる。」が始まるのはその次からだ。水素原子のエネルギー準位や微細構造、ラムシフトなど「現代の量子力学:J.J.サクライ」のような中級レベルの量子力学の教科書で解説されていることを相対論的に書き換えて解説を与えているのだ。より現実の姿に近づいていくわけである。
相対論的水素原子のエネルギー準位(Dirac方程式の解): CASIO高精度計算サイト
第II部「相対論的量子力学の検証」では同様の試みがさらに続く。伝搬理論、そしてクーロン散乱やコンプトン散乱、電子・電子散乱、電子陽電子散乱の計算と解説が行われる。この段階まででファインマン則を用いた計算やくりこみの手法を詳しく学ぶことができる。
全353ページのうち本編が終わるのが234ページで残りの120ページほどはすべて付録にあてられている。この付録がとてもよいのだ。特にためになった(そして難しかった)のが付録DからGである。リー群や表現論の理解を前提としているが、ポアンカレ群やその表現を求めたり、さらにそれを超対称性理論に拡張したり、ミンコフスキー時空でのスピノルをD次元に一般化するなど、相対論的量子力学でそこまでやるかと思えるほど理論を先へ先へと進めているのだ。このようにマニアックな教科書を見たのは初めてだ。
D.ポアンカレ群
D.1 ポアンカレ変換
D.2 本義ローレンツ群の表現 -場の分類-
D.3 ポアンカレ群の表現 -状態の分類-
D.4 ポアンカレ群の拡張
D.4.1 共形群
D.4.2 超ポアンカレ群
E.スピノル解析
E.1 回転群とスピノル
E.2 本義ローレンツ群とスピノル
E.3 相対論的波動方程式
F.さまざまな時空におけるスピノル
F.1 D 次元ミンコフスキー時空におけるスピノル
F.2 曲がった時空におけるスピノル
G.正則化
G.1 パウリ‐ビラース正則化法
G.2 真空偏極
G.3 電子の自己エネルギー
G.4 頂点の補正
付録Dの難易度を実感していただくために、超ポアンカレ群の解説の最初のページだけお見せしておこう。なお本書の「はじめに」と第1章の「ディラック方程式の導出」のサンプルページ、「正誤表」はサポートページから公開されている。
このように本書の良さを最大限享受するためにはリー群や表現論の理解が必要だ。5年前に「群と表現:吉川圭二」を紹介したので、近いうちに次の教科書に挑戦してみようと思う。本書の付録の部分との相性は特によさそうである。でもこの本の前に同じ著者の「古典型単純リー群」と「例外型単純リー群」を読んでおいたほうがよいかもしれない。
「群と表現:横田一郎」
関連記事:
ディラック 量子力学 原書第4版
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/717e864f937963ea7c8328f80ee34894
相対論的量子力学:森田正人、森田玲子
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1002e77ccbe4253f35e97138164f1640
相対論的量子力学:西島和彦
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7faabe0bcdf04c05bccf0aa129a1fba1
サクライ上級量子力学〈第1巻〉輻射と粒子:J.J.サクライ
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f54547be0138322c412050725ce489c2
サクライ上級量子力学〈第2巻〉共変な摂動論:J.J.サクライ
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ef07c6e9d17863ca8e6c48959925783e
群と表現:吉川圭二
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/35c16a71ff26b71d6ffc8c2c4730439f
連続群論入門 (新数学シリーズ18):山内恭彦、杉浦光夫
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/71f347a51bbd16f3c72bb9116d23f597
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「相対論的量子力学 (量子力学選書):川村嘉春」
正誤表(pdfファイル)
はじめに (pdfファイル)
第 I 部 相対論的量子力学の構造
1.ディラック方程式の導出 (pdfファイル)
1.1 相対論と量子論
1.1.1 相対論
1.1.2 量子論
1.1.3 物理的な要請
1.2 クライン‐ゴルドン方程式
1.3 ディラック方程式
1.4 パウリ方程式の導出
2.ディラック方程式のローレンツ共変性
2.1 ローレンツ共変性
2.1.1 γ行列とディラック方程式
2.1.2 ローレンツ共変性に関する条件式
2.1.3 ディラックスピノルのローレンツ変換性
2.2 ローレンツ変換の具体例
2.2.1 x 軸方向のローレンツブースト
2.2.2 z 軸の周りの空間回転
2.2.3 4元確率の流れのローレンツ変換性
2.3 空間反転
3.γ行列に関する基本定理,カイラル表示
3.1 γ行列に関する基本定理
3.1.1 γ行列から構成される行列とその性質
3.1.2 γ行列に関する基本定理とその証明
3.2 双一次形式のローレンツ共変量
3.3 カイラル表示
4.ディラック方程式の解
4.1 ディラック方程式の再導出
4.1.1 ローレンツブーストとディラック方程式
4.1.2 自由粒子解の性質
4.1.3 スピン状態
4.2 エネルギーとスピンに関する射影演算子
4.3 自由粒子解と波束の物理的意味
4.3.1 正エネルギー解から成る波束
4.3.2 正エネルギー解と負エネルギー解から成る波束
4.4 クラインのパラドックス
5.ディラック方程式の非相対論的極限
5.1 自由粒子に関する谷‐フォルディ‐ボートホイゼン変換
5.2 電磁場の存在下での谷‐フォルディ‐ボートホイゼン変換
5.2.1 ベキ級数展開
5.2.2 第1近似
5.2.3 第2近似と第3近似
5.2.4 物理的な意味
6.水素原子
6.1 水素原子のエネルギー準位
6.1.1 水素様原子に関するディラック方程式
6.1.2 動径に関する微分方程式
6.1.3 エネルギー準位
6.2 実験値との比較
6.2.1 微細構造
6.2.2 超微細構造
6.2.3 ラムシフト
7.空孔理論
7.1 ディラックの解釈
7.2 荷電共役変換
7.3 空間反転と時間反転
7.4 CP変換
第 II 部 相対論的量子力学の検証
8.伝搬理論 -非相対論的電子-
8.1 伝搬関数
8.1.1 ホイヘンスの原理と伝搬関数
8.1.2 伝搬関数の解
8.2 摂動論
8.2.1 摂動展開
8.2.2 S行列要素
8.2.3 S行列のユニタリー性
9.伝搬理論 -相対論的電子-
9.1 電子・陽電子が絡む過程
9.2 電子の伝搬関数
9.2.1 自由な電子に関する伝搬関数
9.2.2 ファインマンの伝搬関数
9.3 摂動論
10.因果律,相対論的共変性
10.1 クライン‐ゴルドン粒子の伝搬
10.1.1 クライン‐ゴルドン粒子の伝搬関数
10.1.2 因果律と負エネルギー解
10.2 非相対論的摂動論と伝搬関数
10.2.1 非相対論的摂動論とフェルミの黄金律
10.2.2 中間状態と仮想粒子
10.2.3 ディラック粒子および光子の伝搬関数
10.3 多時間理論
11.クーロン散乱
11.1 ラザフォードの散乱公式
11.2 クーロンポテンシャルによる電子の散乱
11.2.1 クーロン散乱のS行列要素
11.2.2 散乱断面積
11.2.3 モットの断面積
11.3 クーロンポテンシャルによる陽電子の散乱
11.4 γ行列に関するさまざまな公式と定理
12.コンプトン散乱
12.1 コンプトン散乱
12.1.1 コンプトン散乱のS行列要素
12.1.2 コンプトン散乱の微分断面積
12.1.3 クライン‐仁科の公式
12.1.4 コンプトン散乱の全断面積
12.2 電子・陽電子の対消滅
13.電子・電子散乱と電子・陽電子散乱
13.1 電子・電子散乱
13.1.1 光子の伝搬関数
13.1.2 電子・電子散乱のS行列要素
13.1.3 偏極していない電子に関する散乱断面積
13.1.4 メラー散乱の公式
13.2 電子・陽電子散乱
13.3 電磁場に関する補足
13.3.1 電磁場の扱い
13.3.2 ゲージ条件
13.3.3 マックスウェル方程式の対称性
14.高次補正 -その1-
14.1 ファインマン則
14.1.1 散乱過程に関するルール
14.1.2 散乱断面積の公式とファインマン則
14.2 電子・陽電子散乱における高次補正
14.3 真空偏極
14.3.1 真空偏極の正則化
14.3.2 真空偏極に関するくりこみ
14.4 電子の自己エネルギー
14.5 頂点の補正
15.高次補正 -その2-
15.1 制動放射
15.1.1 制動放射と赤外破綻
15.1.2 赤外発散の相殺
15.2 ラムシフト
15.2.1 クーロン相互作用の修正による補正
15.2.2 ベクトルポテンシャルの寄与による補正
15.2.3 ラムシフトの理論値
15.3 今後の展望
付録
A.国際単位系
B.特殊相対性理論
B.1 ニュートン力学
B.2 ミンコフスキー時空
B.3 特殊相対論的力学
B.4 電磁気学
C.量子力学
C.1 量子力学の枠組み
C.2 シュレーディンガー方程式の解
C.2.1 水素様原子
C.2.2 調和振動子
C.3 パウリ方程式
D.ポアンカレ群
D.1 ポアンカレ変換
D.2 本義ローレンツ群の表現 -場の分類-
D.3 ポアンカレ群の表現 -状態の分類-
D.4 ポアンカレ群の拡張
D.4.1 共形群
D.4.2 超ポアンカレ群
E.スピノル解析
E.1 回転群とスピノル
E.2 本義ローレンツ群とスピノル
E.3 相対論的波動方程式
F.さまざまな時空におけるスピノル
F.1 D 次元ミンコフスキー時空におけるスピノル
F.2 曲がった時空におけるスピノル
G.正則化
G.1 パウリ‐ビラース正則化法
G.2 真空偏極
G.3 電子の自己エネルギー
G.4 頂点の補正
H.表記法,公式集
参考文献
索引
内容紹介:
「相対論的量子力学」とは特殊相対性理論と量子力学が融合された理論で、1928年に提案されたディラック方程式を基礎方程式とする。したがって、特殊相対性理論と量子力学を学んだ方が本書の主な対象であるが、これらに関する基本的な概念と知識を付録に記載したので、大学の下級生でも意欲のある学生ならば、自主学習や自主ゼミを通して読みこなせる構成になっている。
第 I 部では、相対論的量子力学の構造と特徴について学ぶ。具体的には、ディラック方程式を導出し、そのローレンツ変換性、解の性質、非相対論的極限、水素原子のエネルギー準位、負エネルギー解の解釈について考察する。
第 II 部では、相対論的量子力学の検証について学ぶ。具体的には、電子・陽電子などの荷電粒子と光子の絡んださまざまな過程(クーロンポテンシャルによる散乱、コンプトン散乱、電子・電子散乱、電子・陽電子散乱)に関する散乱断面積を導出し、高次の量子補正について考察する。
2012年11月刊行、353ページ。
著者について:
川村嘉春(かわむらよしはる):経歴のページ: http://soar-rd.shinshu-u.ac.jp/profile/ja.jNDFOUkh.html
1961年滋賀県生まれ。1985年名古屋大学理学部物理学科卒業。1990年金沢大学大学院自然科学研究科物質科学専攻修了、学術博士、信州大学理学部物理学科助手。1999年信州大学理学部物理科学科助教授。2006年同教授。専攻は素粒子物理学。
量子力学選書: Amazonで検索
理数系書籍のレビュー記事は本書で313冊目。
2012年秋から刊行されている「量子力学選書(全8巻)」の第1巻である。このシリーズはよさそうだと思いつつも、手をつけるのがだいぶ遅くなってしまった。
特殊相対論と量子力学の要件を同時に満たすのが相対論的量子力学である。シリーズ第3巻の「場の量子論: 不変性と自由場を中心にして (量子力学選書):坂本眞人」の初めのほうにも相対論的量子力学が解説されているので重複しているわけだが、この第1巻の特徴は「相対論的量子力学にこだわって、できるところまでとことんやってみる。」ということなのだ。学ぶ意義はじゅうぶんあった。
これまで読んできた同じ分野の教科書よりも難易度はかなり高い。それはリー群やその表現論を理解しているのが前提とされているからだ。
カバーしている範囲は「サクライ上級量子力学」にほぼ一致している。しかしより理論的、数理的であるから本書のほうがより上級者向けである。
章立てはこのようなものだ。(詳細目次は記事のいちばん下を参照していただきたい。)
第 I 部 相対論的量子力学の構造
1.ディラック方程式の導出
2.ディラック方程式のローレンツ共変性
3.γ行列に関する基本定理,カイラル表示
4.ディラック方程式の解
5.ディラック方程式の非相対論的極限
6.水素原子
7.空孔理論
第 II 部 相対論的量子力学の検証
8.伝搬理論 -非相対論的電子-
9.伝搬理論 -相対論的電子-
10.因果律,相対論的共変性
11.クーロン散乱
12.コンプトン散乱
13.電子・電子散乱と電子・陽電子散乱
14.高次補正 -その1-
15.高次補正 -その2-
付録
A.国際単位系
B.特殊相対性理論
C.量子力学
D.ポアンカレ群
E.スピノル解析
F.さまざまな時空におけるスピノル
G.正則化
H.表記法,公式集
第I部「相対論的量子力学の構造」ではまずクライン‐ゴルドン方程式、ディラック方程式、パウリ方程式を導く。そしてディラック方程式のローレンツ共変性やγ行列のもつ性質を確認したり、ディラックスピノルやカイラル表示を求めたりする。またディラック方程式の解や非相対論的極限も導出する。ここまでは相対論的量子力学の一般的な教科書とほぼ同じだ。
「相対論的量子力学でとことんやってみる。」が始まるのはその次からだ。水素原子のエネルギー準位や微細構造、ラムシフトなど「現代の量子力学:J.J.サクライ」のような中級レベルの量子力学の教科書で解説されていることを相対論的に書き換えて解説を与えているのだ。より現実の姿に近づいていくわけである。
相対論的水素原子のエネルギー準位(Dirac方程式の解): CASIO高精度計算サイト
第II部「相対論的量子力学の検証」では同様の試みがさらに続く。伝搬理論、そしてクーロン散乱やコンプトン散乱、電子・電子散乱、電子陽電子散乱の計算と解説が行われる。この段階まででファインマン則を用いた計算やくりこみの手法を詳しく学ぶことができる。
全353ページのうち本編が終わるのが234ページで残りの120ページほどはすべて付録にあてられている。この付録がとてもよいのだ。特にためになった(そして難しかった)のが付録DからGである。リー群や表現論の理解を前提としているが、ポアンカレ群やその表現を求めたり、さらにそれを超対称性理論に拡張したり、ミンコフスキー時空でのスピノルをD次元に一般化するなど、相対論的量子力学でそこまでやるかと思えるほど理論を先へ先へと進めているのだ。このようにマニアックな教科書を見たのは初めてだ。
D.ポアンカレ群
D.1 ポアンカレ変換
D.2 本義ローレンツ群の表現 -場の分類-
D.3 ポアンカレ群の表現 -状態の分類-
D.4 ポアンカレ群の拡張
D.4.1 共形群
D.4.2 超ポアンカレ群
E.スピノル解析
E.1 回転群とスピノル
E.2 本義ローレンツ群とスピノル
E.3 相対論的波動方程式
F.さまざまな時空におけるスピノル
F.1 D 次元ミンコフスキー時空におけるスピノル
F.2 曲がった時空におけるスピノル
G.正則化
G.1 パウリ‐ビラース正則化法
G.2 真空偏極
G.3 電子の自己エネルギー
G.4 頂点の補正
付録Dの難易度を実感していただくために、超ポアンカレ群の解説の最初のページだけお見せしておこう。なお本書の「はじめに」と第1章の「ディラック方程式の導出」のサンプルページ、「正誤表」はサポートページから公開されている。
このように本書の良さを最大限享受するためにはリー群や表現論の理解が必要だ。5年前に「群と表現:吉川圭二」を紹介したので、近いうちに次の教科書に挑戦してみようと思う。本書の付録の部分との相性は特によさそうである。でもこの本の前に同じ著者の「古典型単純リー群」と「例外型単純リー群」を読んでおいたほうがよいかもしれない。
「群と表現:横田一郎」
関連記事:
ディラック 量子力学 原書第4版
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http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f54547be0138322c412050725ce489c2
サクライ上級量子力学〈第2巻〉共変な摂動論:J.J.サクライ
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ef07c6e9d17863ca8e6c48959925783e
群と表現:吉川圭二
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/35c16a71ff26b71d6ffc8c2c4730439f
連続群論入門 (新数学シリーズ18):山内恭彦、杉浦光夫
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/71f347a51bbd16f3c72bb9116d23f597
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第 I 部 相対論的量子力学の構造
1.ディラック方程式の導出 (pdfファイル)
1.1 相対論と量子論
1.1.1 相対論
1.1.2 量子論
1.1.3 物理的な要請
1.2 クライン‐ゴルドン方程式
1.3 ディラック方程式
1.4 パウリ方程式の導出
2.ディラック方程式のローレンツ共変性
2.1 ローレンツ共変性
2.1.1 γ行列とディラック方程式
2.1.2 ローレンツ共変性に関する条件式
2.1.3 ディラックスピノルのローレンツ変換性
2.2 ローレンツ変換の具体例
2.2.1 x 軸方向のローレンツブースト
2.2.2 z 軸の周りの空間回転
2.2.3 4元確率の流れのローレンツ変換性
2.3 空間反転
3.γ行列に関する基本定理,カイラル表示
3.1 γ行列に関する基本定理
3.1.1 γ行列から構成される行列とその性質
3.1.2 γ行列に関する基本定理とその証明
3.2 双一次形式のローレンツ共変量
3.3 カイラル表示
4.ディラック方程式の解
4.1 ディラック方程式の再導出
4.1.1 ローレンツブーストとディラック方程式
4.1.2 自由粒子解の性質
4.1.3 スピン状態
4.2 エネルギーとスピンに関する射影演算子
4.3 自由粒子解と波束の物理的意味
4.3.1 正エネルギー解から成る波束
4.3.2 正エネルギー解と負エネルギー解から成る波束
4.4 クラインのパラドックス
5.ディラック方程式の非相対論的極限
5.1 自由粒子に関する谷‐フォルディ‐ボートホイゼン変換
5.2 電磁場の存在下での谷‐フォルディ‐ボートホイゼン変換
5.2.1 ベキ級数展開
5.2.2 第1近似
5.2.3 第2近似と第3近似
5.2.4 物理的な意味
6.水素原子
6.1 水素原子のエネルギー準位
6.1.1 水素様原子に関するディラック方程式
6.1.2 動径に関する微分方程式
6.1.3 エネルギー準位
6.2 実験値との比較
6.2.1 微細構造
6.2.2 超微細構造
6.2.3 ラムシフト
7.空孔理論
7.1 ディラックの解釈
7.2 荷電共役変換
7.3 空間反転と時間反転
7.4 CP変換
第 II 部 相対論的量子力学の検証
8.伝搬理論 -非相対論的電子-
8.1 伝搬関数
8.1.1 ホイヘンスの原理と伝搬関数
8.1.2 伝搬関数の解
8.2 摂動論
8.2.1 摂動展開
8.2.2 S行列要素
8.2.3 S行列のユニタリー性
9.伝搬理論 -相対論的電子-
9.1 電子・陽電子が絡む過程
9.2 電子の伝搬関数
9.2.1 自由な電子に関する伝搬関数
9.2.2 ファインマンの伝搬関数
9.3 摂動論
10.因果律,相対論的共変性
10.1 クライン‐ゴルドン粒子の伝搬
10.1.1 クライン‐ゴルドン粒子の伝搬関数
10.1.2 因果律と負エネルギー解
10.2 非相対論的摂動論と伝搬関数
10.2.1 非相対論的摂動論とフェルミの黄金律
10.2.2 中間状態と仮想粒子
10.2.3 ディラック粒子および光子の伝搬関数
10.3 多時間理論
11.クーロン散乱
11.1 ラザフォードの散乱公式
11.2 クーロンポテンシャルによる電子の散乱
11.2.1 クーロン散乱のS行列要素
11.2.2 散乱断面積
11.2.3 モットの断面積
11.3 クーロンポテンシャルによる陽電子の散乱
11.4 γ行列に関するさまざまな公式と定理
12.コンプトン散乱
12.1 コンプトン散乱
12.1.1 コンプトン散乱のS行列要素
12.1.2 コンプトン散乱の微分断面積
12.1.3 クライン‐仁科の公式
12.1.4 コンプトン散乱の全断面積
12.2 電子・陽電子の対消滅
13.電子・電子散乱と電子・陽電子散乱
13.1 電子・電子散乱
13.1.1 光子の伝搬関数
13.1.2 電子・電子散乱のS行列要素
13.1.3 偏極していない電子に関する散乱断面積
13.1.4 メラー散乱の公式
13.2 電子・陽電子散乱
13.3 電磁場に関する補足
13.3.1 電磁場の扱い
13.3.2 ゲージ条件
13.3.3 マックスウェル方程式の対称性
14.高次補正 -その1-
14.1 ファインマン則
14.1.1 散乱過程に関するルール
14.1.2 散乱断面積の公式とファインマン則
14.2 電子・陽電子散乱における高次補正
14.3 真空偏極
14.3.1 真空偏極の正則化
14.3.2 真空偏極に関するくりこみ
14.4 電子の自己エネルギー
14.5 頂点の補正
15.高次補正 -その2-
15.1 制動放射
15.1.1 制動放射と赤外破綻
15.1.2 赤外発散の相殺
15.2 ラムシフト
15.2.1 クーロン相互作用の修正による補正
15.2.2 ベクトルポテンシャルの寄与による補正
15.2.3 ラムシフトの理論値
15.3 今後の展望
付録
A.国際単位系
B.特殊相対性理論
B.1 ニュートン力学
B.2 ミンコフスキー時空
B.3 特殊相対論的力学
B.4 電磁気学
C.量子力学
C.1 量子力学の枠組み
C.2 シュレーディンガー方程式の解
C.2.1 水素様原子
C.2.2 調和振動子
C.3 パウリ方程式
D.ポアンカレ群
D.1 ポアンカレ変換
D.2 本義ローレンツ群の表現 -場の分類-
D.3 ポアンカレ群の表現 -状態の分類-
D.4 ポアンカレ群の拡張
D.4.1 共形群
D.4.2 超ポアンカレ群
E.スピノル解析
E.1 回転群とスピノル
E.2 本義ローレンツ群とスピノル
E.3 相対論的波動方程式
F.さまざまな時空におけるスピノル
F.1 D 次元ミンコフスキー時空におけるスピノル
F.2 曲がった時空におけるスピノル
G.正則化
G.1 パウリ‐ビラース正則化法
G.2 真空偏極
G.3 電子の自己エネルギー
G.4 頂点の補正
H.表記法,公式集
参考文献
索引