SHARP Compet CS-12A (1969年)
拡大
ついに僕の電卓コレクションは1960年代の「博物館級」の領域に突入した。これまで紹介してきたのはすべて1970年以降に発売されたLSI電卓ばかりである。昔の電卓は科学技術遺産だ。骨董品と同じで、古くて状態のよいものほど価値がある。
参考:IC、LSI、VLSIの違い
IC: 集積回路のこと。素子の集積度が1000個程度までのもの。
LSI: 集積回路のうち、素子の集積度が1000個〜10万個程度のもの。
VLSI: 集積回路のうち、素子の集積度が10万〜1000万個程度のもの。
今回紹介するのはMOS ICを使った12桁の四則演算電卓 Compet CS-12Aだ。
1967年発売の16桁電卓Compet CS-16Aの廉価版として1969年3月にCS-12D、同年6月CS-12Aの順で発売された。("A"より"D"のほうが先だったことは興味深い。)CS-16Aは23万円、CS-12Dは14万3千円、CS-12Aは12万9千円だった。
CS-12Aが発売された1969年6月といえば僕はまだ6歳で、大栗先生もそうなのだが、小学校に入学して2ヶ月しかたっていない。よもやその翌月、テレビで人類史に残るこの映像を見て驚嘆することになるとは夢にも思っていなかった。映像にはお若い頃のNHKアナウンサー鈴木健二さんや、映画「日本沈没(1973年版)」でご本人役を演じた地球物理学者の竹内均先生が出演されている。(このリアルで感動的な映像の続きはここをクリックすると見れる。竹内均先生や日本沈没(1973年版)についてはこの記事の後半で紹介している。)
話の軌道がそれてしまいそうので元に戻そう。
その年の大卒初任給は3万2千円。安くなったとはいえ四則演算しかできないこの電卓は月収の4倍もする「高級品」だったのである。(参考記事:「電卓を作りたいという妄想」)
1912年に創業した早川電機工業が社名変更してシャープ株式会社になったのは1970年のことなので、これらの電卓は早川電機工業時代の製品である。3機種の詳細は次のページでご覧いただける。
Compet CS-16A (1967年12月発売、23万円、消費電力22ワット)
http://www.oldcalculatormuseum.com/comp16.html
Compet CS-12D (1969年3月発売、14万3千円、消費電力15ワット)
http://www.devidts.com/be-calc/desk_16861.html
Compet CS-12A (1969年6月発売、12万9千円、消費電力15ワット)
http://www.funkygoods.com/calc/cs_12a/cs_12a.htm
順にCS-16A、CS-12D、CS-12A:CS-12DとCS-12Aは価格以外に違いがわからない。(クリックで拡大)
参考:シャープの初期の電卓
http://www.dentaku-museum.com/calc/calc/1-sharp/1-sharpd/sharpd.html
この電卓を入手できたのは半年ほど前だった。相場とくらべてだいぶ安く買うことができた。「完動品なのにどうして手放すのですか?」と所有者に尋ねたところ「自分はカメラマンで、古いインテリアの撮影用小物として使ったのでもういらなくなった。」ということだった。古い電卓には全く興味がないという。
ま、こういう品物に萌えるのは理数系の中でもごくわずかだと思うし、普通の人の99パーセント以上にとっては単なるゴミでしかない。
あとすぐ記事にしなかったのは発売年があいまいだったからだ。ネット上にはCS-16Aと同じ「1967年説」とCS-12Dと同じ「1969年説」がある。不正確な記事は書きたくなかった。先週ある資料を入手し、発売年月がやっとわかったので記事にすることができたのだ。
CS-12Aは、以前紹介した「CASIO fx-2 (1972)」というLSIを使った関数電卓よりもさらに大きい。後ろにパソコンが写ってるのでどれほどの大きさかわかると思う。
クリックで拡大
数字の表示部には初期の蛍光表示管が使われている。これ以前の電卓ではアメリカ製のニキシー管を輸入して使っていたが、ニキシー管はとても高価なのでコストを下げるために日本で蛍光管を開発したのだ。書体がとてもユニークである。
クリックで拡大
電源スイッチを入れてみた。
ん?なんだこれ?
スイッチをオフして、もう一度オン!
壊れちゃったのかな?
もう一度電源を入れなおしてみる。
当時、電卓とはこういうものだった。電源投入時の「乱数表示」に驚いてサポート・センターに電話してはいけない。
ひと通り四則演算を試してから、中を開けてみた。以下の写真はすべてクリックで拡大する。
全体:左が電卓の回路、右がキーボードの裏側
左側:当時は工場でたくさんの女性たちが部品を半田付けして作っていた。回路の意味も教えられずに作る単調作業だ。
MOS ICを拡大。NECのμPD1 E9506と印刷されている。
μPD1の中はこのページによると三角形で表されるインバータ回路が5つ入っている。
μPD1はNECの記念すべき第1号のMOS ICである。
その他にもNEC μPD145、日立HD706M、HD708M、HD709M、HD713MなどのMOS ICが使われているそうだ。
キーボードの裏側
以上のことを踏まえて、この電卓を動かしてみよう。
最初に電源のオフとオンを何度か繰り返し、その後数字を順番に押して12桁あることを確認、次に円周率の近似値として355÷113を計算し、最後に1から10までの総和と積(10の階乗)を求めている。
ところで今日のタイミングでこの電卓を紹介したのにはもうひとつ理由がある。これについては後日、別記事で明かすことにしよう。
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電卓についての記事一覧
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ついに僕の電卓コレクションは1960年代の「博物館級」の領域に突入した。これまで紹介してきたのはすべて1970年以降に発売されたLSI電卓ばかりである。昔の電卓は科学技術遺産だ。骨董品と同じで、古くて状態のよいものほど価値がある。
参考:IC、LSI、VLSIの違い
IC: 集積回路のこと。素子の集積度が1000個程度までのもの。
LSI: 集積回路のうち、素子の集積度が1000個〜10万個程度のもの。
VLSI: 集積回路のうち、素子の集積度が10万〜1000万個程度のもの。
今回紹介するのはMOS ICを使った12桁の四則演算電卓 Compet CS-12Aだ。
1967年発売の16桁電卓Compet CS-16Aの廉価版として1969年3月にCS-12D、同年6月CS-12Aの順で発売された。("A"より"D"のほうが先だったことは興味深い。)CS-16Aは23万円、CS-12Dは14万3千円、CS-12Aは12万9千円だった。
CS-12Aが発売された1969年6月といえば僕はまだ6歳で、大栗先生もそうなのだが、小学校に入学して2ヶ月しかたっていない。よもやその翌月、テレビで人類史に残るこの映像を見て驚嘆することになるとは夢にも思っていなかった。映像にはお若い頃のNHKアナウンサー鈴木健二さんや、映画「日本沈没(1973年版)」でご本人役を演じた地球物理学者の竹内均先生が出演されている。(このリアルで感動的な映像の続きはここをクリックすると見れる。竹内均先生や日本沈没(1973年版)についてはこの記事の後半で紹介している。)
話の軌道がそれてしまいそうので元に戻そう。
その年の大卒初任給は3万2千円。安くなったとはいえ四則演算しかできないこの電卓は月収の4倍もする「高級品」だったのである。(参考記事:「電卓を作りたいという妄想」)
1912年に創業した早川電機工業が社名変更してシャープ株式会社になったのは1970年のことなので、これらの電卓は早川電機工業時代の製品である。3機種の詳細は次のページでご覧いただける。
Compet CS-16A (1967年12月発売、23万円、消費電力22ワット)
http://www.oldcalculatormuseum.com/comp16.html
Compet CS-12D (1969年3月発売、14万3千円、消費電力15ワット)
http://www.devidts.com/be-calc/desk_16861.html
Compet CS-12A (1969年6月発売、12万9千円、消費電力15ワット)
http://www.funkygoods.com/calc/cs_12a/cs_12a.htm
順にCS-16A、CS-12D、CS-12A:CS-12DとCS-12Aは価格以外に違いがわからない。(クリックで拡大)
参考:シャープの初期の電卓
http://www.dentaku-museum.com/calc/calc/1-sharp/1-sharpd/sharpd.html
この電卓を入手できたのは半年ほど前だった。相場とくらべてだいぶ安く買うことができた。「完動品なのにどうして手放すのですか?」と所有者に尋ねたところ「自分はカメラマンで、古いインテリアの撮影用小物として使ったのでもういらなくなった。」ということだった。古い電卓には全く興味がないという。
ま、こういう品物に萌えるのは理数系の中でもごくわずかだと思うし、普通の人の99パーセント以上にとっては単なるゴミでしかない。
あとすぐ記事にしなかったのは発売年があいまいだったからだ。ネット上にはCS-16Aと同じ「1967年説」とCS-12Dと同じ「1969年説」がある。不正確な記事は書きたくなかった。先週ある資料を入手し、発売年月がやっとわかったので記事にすることができたのだ。
CS-12Aは、以前紹介した「CASIO fx-2 (1972)」というLSIを使った関数電卓よりもさらに大きい。後ろにパソコンが写ってるのでどれほどの大きさかわかると思う。
クリックで拡大
数字の表示部には初期の蛍光表示管が使われている。これ以前の電卓ではアメリカ製のニキシー管を輸入して使っていたが、ニキシー管はとても高価なのでコストを下げるために日本で蛍光管を開発したのだ。書体がとてもユニークである。
クリックで拡大
電源スイッチを入れてみた。
ん?なんだこれ?
スイッチをオフして、もう一度オン!
壊れちゃったのかな?
もう一度電源を入れなおしてみる。
当時、電卓とはこういうものだった。電源投入時の「乱数表示」に驚いてサポート・センターに電話してはいけない。
ひと通り四則演算を試してから、中を開けてみた。以下の写真はすべてクリックで拡大する。
全体:左が電卓の回路、右がキーボードの裏側
左側:当時は工場でたくさんの女性たちが部品を半田付けして作っていた。回路の意味も教えられずに作る単調作業だ。
MOS ICを拡大。NECのμPD1 E9506と印刷されている。
μPD1の中はこのページによると三角形で表されるインバータ回路が5つ入っている。
μPD1はNECの記念すべき第1号のMOS ICである。
その他にもNEC μPD145、日立HD706M、HD708M、HD709M、HD713MなどのMOS ICが使われているそうだ。
キーボードの裏側
以上のことを踏まえて、この電卓を動かしてみよう。
最初に電源のオフとオンを何度か繰り返し、その後数字を順番に押して12桁あることを確認、次に円周率の近似値として355÷113を計算し、最後に1から10までの総和と積(10の階乗)を求めている。
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