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DNA (上)―二重らせんの発見からヒトゲノム計画まで: ジェームズ・D. ワトソン

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DNA (上)―二重らせんの発見からヒトゲノム計画まで: ジェームズ・D. ワトソン

内容紹介:
1953年にDNAの2重らせん構造を発見した研究者の1人、James D.Watsonが、サイエンスライターのAndrew Berryと共著した、DNAにまつわる研究をまとめた本。Watsonの一人称でつづられ、Francis Crikと2重らせん構造を発見した当日のことを書いた序章では、当日2人の研究者がどれだけ興奮していたかが、読者に生々しく伝わる。続いて、遺伝現象が分子レベルで解明されるまでの過程、バイオテクノロジーの過去から現在までの技術紹介とその問題点、ヒトゲノム計画の詳細、遺伝病の原因を探る研究について、そして行動遺伝学の話題、の5つを柱として話は進む。すでに出版されているWatsonが記したDNA研究に関する本よりも、Watson個人の見解や主張が非常に率直に書かれており、Watosnという人物をより理解できる一冊だ。
2005年刊行、336ページ。

著者について:
ジェームズ・D.ワトソン
1928年生まれ。1962年、フランシス・クリック、モーリス・ウィルキンスとともに、「核酸の分子構造および生体における情報伝達に対するその意義の発見」に対して、ノーベル生理学・医学賞を受賞した。ニューヨークのコールドスプリングハーバー研究所名誉所長。

アンドリュー・ベリー
ショウジョバエの遺伝学で博士号を持ち、ハーバード大学比較動物学博物館の助手をつとめる。ライターでもあり、また編者として生物学者亜路フレッド・ラッセル・ウォレスの選集にも携わった。

翻訳者について:
青木薫
1956年、山形県生まれ。翻訳家、理学博士。京都大学理学部卒業、同大学院修了。数学の普及への貢献により2007年度日本数学会出版賞を受賞。


理数系書籍のレビュー記事は本書で278冊目。

二重螺旋 完全版: ジェームズ・D. ワトソン」の後に必然的に読むことになるのが本書だ。1957年のDNA二重らせん構造の発見以降、今日に至るまでに遺伝学、分子生物学、バイオテクノロジーなどの生命科学はどのような発展を遂げたのか?2003年4月にヒトゲノムの解読が完了するまでにどのような歴史があったのか?本書はワトソン博士ご本人による貴重な記録である。講談社ブルーバックス・シリーズの中で本書が推薦書トップ10に入るのは間違いない。

上巻の章立ては次のとおりだ。

序章:生命の神秘
第1章:遺伝学の始まり--メンデルからヒトラーまで
第2章:二重らせん--これが生命だ
第3章:暗号の解読--DNAから生命へ
第4章:神を演じる--カスタマイズされるDNA分子
第5章:DNAと金と薬--バイオテクノロジーの誕生
第6章:シリアル箱の中の嵐--遺伝子組み換え農業
第7章:ヒトゲノム--生命のシナリオ


科学好きとはいえ、もともと生物学には関心が薄かった僕は「遺伝子組み換え作物」や「ヒトゲノム」という言葉を聞くと「安全性が検証されているのか?」とか「神の領域を人間が侵してよいのか?」と思ってしまうし、利益最優先の企業論理のもとで開発された食品に害はないのかという心配がどうしても先に立ってしまう。

また、ヒトゲノムの解読は生命科学が実現した素晴らしい成果であるが、過去の暗い歴史--優生学や選民思想--が新しい形で復活して、人間の尊厳の軽視など倫理的な問題が拡大していくのではなかろうか。ついそのようなことを考えてしまう。

バイオテクノロジーが巨大な富を過去にもたらし、今後はさらにビジネスチャンスが拡大していくことは確かなことである。ビジネスとしての営みと科学としての営みのはざまで企業、病院、大学、政界それぞれの立場を代表する関係者は正しい選択をしていくことができるのだろうか?

「科学は諸刃の剣」であることがもっとも典型的にあらわれるのがこの分野なのだと思う。

何も理解せずに心配ばかりしているのも一般市民の立場としては好ましくない。肯定的立場を取るにしても、否定的な立場を取るにしても、この分野で企業や研究機関がたどってきた成功と失敗の歴史を知っておくべきだと思った。

バイオテクノロジー以前に、人類は古代から農作物の品種改良を行なってきた。ワトソン博士はこの例を引き合いにし、バイオテクノロジーが突如人類の安全を脅かすようになった技術ではないことを強調し、前近代的な思い込みにとらわれた誤解を解こうとする。このあたりに科学者としての驕りを僕は少し感じたが、研究の推進という意味ではおおむね正しいのだろうと納得させられた。

問題なのはむしろ、医療や製薬、農業技術に関わる企業の倫理のほうだ。研究して得た成果をどこまで公開するか、どのような範囲で特許を取得するか、特許に付随する技術の使用料をどれくらいに設定するか、などなど。こちらの話のほうが泥臭くて、企業や政治家の欲に左右されやすく、バイオテクノロジー産業や研究の将来のあり方に影響を与えるのだと思う。

上巻の山場はなんといっても最終章。ヒトゲノム計画の始まりからヒトゲノム解読までの道のりを解説した箇所である。31億塩基対もあるヒトゲノムの作業は国家を超えた分担と協力によって行なわれた。そのために巨大な資本が投じられてきたわけだが、今後得られる利益と可能性は計りしれない。ビッグビジネスが繰り広げられる中で、私たちの価値観にそれはどのような影響を与えることになるのだろうか。

先日のNHKクローズアップ現代では「DNA編集の現状」が取り上げられていた。これは「DNA組み換え」より進んだ技術で、ピンポイントでDNAの変更を可能にするものだ。中国ではこの技術を人間に対して行なう研究がすでに始められしまっているという。倫理的な意味ではどこまで許されるのだろうか?

人類はこの問いから永遠に逃れることはできないだろう。この問いに向き合うための前提知識が本書から得られるのである。

理数系、非理数系の枠を超えて読んでいただきたい本だ。


DNA (上)―二重らせんの発見からヒトゲノム計画まで: ジェームズ・D. ワトソン
DNA (下)―ゲノム解読から遺伝病、人類の進化まで: ジェームズ・D. ワトソン

 

「DNA: The Secret of Life: James D. Watson」- 2003年刊行
ハードカバー ペーパーバック Kindle版




関連記事:

DNA (下)―ゲノム解読から遺伝病、人類の進化まで: ジェームズ・D. ワトソン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f010fe8bb444188c8229eb25876d543f

二重螺旋 完全版: ジェームズ・D. ワトソン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cdba27cd80ae2ec99652d25e7fccdf26


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DNA (上)―二重らせんの発見からヒトゲノム計画まで: ジェームズ・D. ワトソン



序章:生命の神秘

第1章:遺伝学の始まり--メンデルからヒトラーまで
- 遺伝の謎
- 遺伝子の発見
- ショウジョウバエと遺伝子地図
- 優生学の誕生
- カリカク家
- 断種法と科学的人種差別
- 遺伝学史上最大の汚点

第2章:二重らせん--これが生命だ
- DNAの構造をつきとめる
- クリックとの出会い
- 二重らせんの発見
- 興奮とやっかみのはざまで
- DNA複製の証明

第3章:暗号の解読--DNAから生命へ
- セントラル・ドグマ
- 塩基配列からアミノ酸へ
- 分子レベルで生命をとらえる
- 遺伝子のスイッチ
- 遺伝子のスイッチ
- RNAワールド

第4章:神を演じる--カスタマイズされるDNA分子
- 組み換え革命前夜
- DNAの大量生産に成功する
- パンドラの箱会議
- 市民を巻き添えにした規制論争
- DNAの配列を読む
- イントロンとエクソン

第5章:DNAと金と薬--バイオテクノロジーの誕生
- 医薬品開発競争の幕開け
- DNAと特許論争
- バイオテクノロジー・ビジネスの開拓者たち
- がん治療への可能性
- 反対運動ふたたび

第6章:シリアル箱の中の嵐--遺伝子組み換え農業
- アグロバクテリウムをめぐる争い
- ハイブリッドコーンと種子産業
- Bt作物の登場
- 植物をデザインする
- 組み換え作物への抵抗
- フランケンフード
- 正しい議論とは何か
- 不自然である
- 食物にアレルギーの原因物質(アレルゲン)や毒物が含まれてしまう
- 無差別的で、目的以外の種に害を及ぼす
- 「スーパー雑草」んの登場により環境の崩壊を引き起こす

第7章:ヒトゲノム--生命のシナリオ
- ヒトゲノム計画始まる
- DNA解読技術のブレーク・スルー
- ビジネスになったゲノム解読
- 加速するゲノム開発競争
- 生命科学の新たなるスタート


さくいん

下巻の主な内容

第8章:ゲノムを読む--今起こりつつある進化
第9章:アフリカに発す--DNAと人類の歴史
第10章:遺伝子の指紋--法廷とDNA
第11章:病原遺伝子を探して--ヒトの病気の遺伝学
第12章:病気に挑む--遺伝病の治療と予防
第13章:私たちは何者なのか--遺伝と環境
終章:遺伝子と未来

謝辞
訳者あとがき

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