しめ縄(出雲大社)
17回に渡って書かせていただいた連載記事は今回で最終回。これまでの記事の流れを振り返ってみまししょう。
第1回では布団干しとイヤフォンケーブルの例をとりあげ、物と物がひっかかることと絡まりあうことの違いに着目し、連載記事の流れをおおまかに紹介しました。
第2回では布団干しの状況を多次元空間に一般化し、4次元ユークリッド空間から6次元ユークリッド空間では布団と竿がどのような次元で存在するかを紹介しました。
第3回では多次元空間で干されている布団の次元数だけ1つ減らすことで、どのような次元の物体が絡まりあう関係になるのか仮説をたてました。それは4次元空間では面と面が、5次元空間では立体と立体が、6次元空間では4次元物体と4次元物体が絡まりあうというものでした。そして4次元空間から6次元空間をどのように表せばよいかを紹介しました。
第4回では「絡まるとはどういうことか」を掘り下げて解説します。物体が絡まるためには物体が置かれた空間の中で2方向に曲がることが必要なことを説明しました。
第5回では「ひもが絡まりあうのは3次元空間特有の現象」であることを説明し、4次元空間ではひもは絡んでいないこと、そして一般的には「ある次元の空間で絡んでいる物体をほどくためには、そのひとつ上の次元の空間の座標軸の方向に移動すればよい。」ことを述べました。ところが4次元以上の空間では物体が曲がる方向の個数が3であっても、絡み目や結び目ができてしまうケースがあることをウィキペディアの記事で知り、多次元空間のもつ不思議を垣間見ることになりました。
第6回では5次元以上の空間はともかく、4次元空間では面と面が絡まりあうことを「4次元空間を利用した金庫破り」の例が成り立っていることを根拠として説明しました。
第7回では4次元空間の中で直交する2つの3次元空間を想定し、4次元空間の中で面が曲がる状況を視覚化させる形で紹介しました。そして4次元空間にあるひもや布、立体が3次元空間からどのように見えるかを示しました。
第8回ではいろいろな次元の物体どうしの交わりの次元について考察します。3次元空間までの常識にとらわれて結果を導いてしまった結果、誤った結論がでてしまいました。
第9回では読者の方からのご指摘によって物体どうしの交わりの次元を正しく求めることができました。その結果、物体を含む空間次元が異なると物体どうしの交わりの次元が変化することがわかりました。たとえば3次元空間で面と面の交わりは線ですが、4次元空間では面と面の交わりは点、5次元空間で立体と立体の交わりは線になります。
第10回では「球と球面」を多次元に一般化し、次元の違いにかかわらず共通して見られる性質を解説しました。そして得られた結果をもとに4次元空間に置かれた面が3次元空間からは線として観測されることを導きました。
第11回では3次元空間に話題をしぼり、ひもがなぜ絡みやすいのかを説明しました。
第12回では身の回りにあるひも状の物体を例にあげ、絡まっている様子を観察しました。そして絡まらないためにはどのようにすればよいか、根拠を示しながら方法を紹介しました。
第13回では鍋の中で茹でている蕎麦がなぜ絡まらないのかを説明しました。
第14回では細胞分裂をする際、とてつもなく長いDNAの二重らせんがなぜ絡まらないで分裂できるのかを説明しました。
第15回では4次元空間で絡まりあう面と面の状況を再現しようと試行錯誤を始めたところ、思わぬ困難にぶつかってしまったことを述べました。
第16回ではその困難が生じた原因を解説します。その結果、3次元空間の物理法則を満たす形で4次元ユークリッド空間は存在できないことが示されます。
第17回では「3次元空間の物理法則を満たす形で存在できる多次元空間」のためのアイデアとして、弦理論、超弦理論のようなコンパクト化された空間、そしてその中に存在する多次元の物体を紹介します。
結局のところ4次元ユークリッド空間で絡まりあう面を再現することはできなかったわけですが、第15回の記事のコメント欄でhirotaから教えていただいたように「4次元目の軸を時間軸にと3次元空間内で離れていた2本のひもが動いて絡まり、また離れて行くアニメーション」を考えれば、それが目標としていた状況をあらわしているのだと思います。これは4次元空間にある曲面を3次元空間からCTスキャンのように時間軸に沿って観察していくことに相当します。
時間を4次元目の軸に取るのは物理学では普通のことですが、数学(トポロジー)で時間軸をとるのは稀なことです。
けれども「曲面結び目理論:鎌田聖一」の目次を見ると第3章の「モーション・ピクチャー」で時間軸を4次元目の軸として採用していることがわかります。それだけだと4次元空間の結び目理論は3次元の理論の外挿に過ぎなくなってしまいますから、モーション・ピクチャー以外の方法や考え方がこの本で紹介されているのだと思います。
第1章:曲面結び目
第2章:1次元の結び目
第3章:モーション・ピクチャー
第4章:ダイアグラム
第5章:ハンドル手術とリボン曲面結び目
第6章:スピン構成法
第7章:結び目コンコーダンス
第8章:カンドルの基礎
第9章:カンドルホモロジーと不変量
第10章:2次元ブレイド
内容:
曲面結び目の本格的な研究の歴史は1920年代のE.Artinに遡るが、多くの研究者によって活発な研究が行われはじめたのは1960年代である。本書は曲面結び目に関する基礎的事項から、1990年代以降にはじまった2次元ブレイドを用いた研究、カンドルのホモロジー理論を用いた結び目と曲面結び目の不変量など、最近の話題までを扱っている。曲面結び目に関する専門書として、日本語で初めての書き下ろしである。はじめて結び目や曲面結び目を勉強する学生や他分野研究者にもイメージが掴めるように、図と説明を多く入れ、容易に読み進められる。2012年刊行、247ページ。
本書は3年前に刊行されたばかりで、2次元の結び目理論を日本語で解説する初めての本だという。1次元の結び目理論から始まっているので、結び目理論の入門書としてもよさそうです。このように解説のための図版も豊富です。
現実の物理空間を考えるのならば多次元ユークリッド空間を考えることは、あまり意味がないのかもしれません。けれどもコンパクトに丸められた多次元空間には「穴」が開いているので、その空間に存在する物体は穴に巻き付いているわけです。いわばそれは「結び目」といって良いでしょう。そのような意味で、超弦理論を目指すのであっても多次元の結び目理論は有用だと思われます。
いずれこの本を読み、記事として意味のある考察や結論が得られたときは、連載記事を「シーズン2」として書いてみたいと思っています。
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17回に渡って書かせていただいた連載記事は今回で最終回。これまでの記事の流れを振り返ってみまししょう。
第1回では布団干しとイヤフォンケーブルの例をとりあげ、物と物がひっかかることと絡まりあうことの違いに着目し、連載記事の流れをおおまかに紹介しました。
第2回では布団干しの状況を多次元空間に一般化し、4次元ユークリッド空間から6次元ユークリッド空間では布団と竿がどのような次元で存在するかを紹介しました。
第3回では多次元空間で干されている布団の次元数だけ1つ減らすことで、どのような次元の物体が絡まりあう関係になるのか仮説をたてました。それは4次元空間では面と面が、5次元空間では立体と立体が、6次元空間では4次元物体と4次元物体が絡まりあうというものでした。そして4次元空間から6次元空間をどのように表せばよいかを紹介しました。
第4回では「絡まるとはどういうことか」を掘り下げて解説します。物体が絡まるためには物体が置かれた空間の中で2方向に曲がることが必要なことを説明しました。
第5回では「ひもが絡まりあうのは3次元空間特有の現象」であることを説明し、4次元空間ではひもは絡んでいないこと、そして一般的には「ある次元の空間で絡んでいる物体をほどくためには、そのひとつ上の次元の空間の座標軸の方向に移動すればよい。」ことを述べました。ところが4次元以上の空間では物体が曲がる方向の個数が3であっても、絡み目や結び目ができてしまうケースがあることをウィキペディアの記事で知り、多次元空間のもつ不思議を垣間見ることになりました。
第6回では5次元以上の空間はともかく、4次元空間では面と面が絡まりあうことを「4次元空間を利用した金庫破り」の例が成り立っていることを根拠として説明しました。
第7回では4次元空間の中で直交する2つの3次元空間を想定し、4次元空間の中で面が曲がる状況を視覚化させる形で紹介しました。そして4次元空間にあるひもや布、立体が3次元空間からどのように見えるかを示しました。
第8回ではいろいろな次元の物体どうしの交わりの次元について考察します。3次元空間までの常識にとらわれて結果を導いてしまった結果、誤った結論がでてしまいました。
第9回では読者の方からのご指摘によって物体どうしの交わりの次元を正しく求めることができました。その結果、物体を含む空間次元が異なると物体どうしの交わりの次元が変化することがわかりました。たとえば3次元空間で面と面の交わりは線ですが、4次元空間では面と面の交わりは点、5次元空間で立体と立体の交わりは線になります。
第10回では「球と球面」を多次元に一般化し、次元の違いにかかわらず共通して見られる性質を解説しました。そして得られた結果をもとに4次元空間に置かれた面が3次元空間からは線として観測されることを導きました。
第11回では3次元空間に話題をしぼり、ひもがなぜ絡みやすいのかを説明しました。
第12回では身の回りにあるひも状の物体を例にあげ、絡まっている様子を観察しました。そして絡まらないためにはどのようにすればよいか、根拠を示しながら方法を紹介しました。
第13回では鍋の中で茹でている蕎麦がなぜ絡まらないのかを説明しました。
第14回では細胞分裂をする際、とてつもなく長いDNAの二重らせんがなぜ絡まらないで分裂できるのかを説明しました。
第15回では4次元空間で絡まりあう面と面の状況を再現しようと試行錯誤を始めたところ、思わぬ困難にぶつかってしまったことを述べました。
第16回ではその困難が生じた原因を解説します。その結果、3次元空間の物理法則を満たす形で4次元ユークリッド空間は存在できないことが示されます。
第17回では「3次元空間の物理法則を満たす形で存在できる多次元空間」のためのアイデアとして、弦理論、超弦理論のようなコンパクト化された空間、そしてその中に存在する多次元の物体を紹介します。
結局のところ4次元ユークリッド空間で絡まりあう面を再現することはできなかったわけですが、第15回の記事のコメント欄でhirotaから教えていただいたように「4次元目の軸を時間軸にと3次元空間内で離れていた2本のひもが動いて絡まり、また離れて行くアニメーション」を考えれば、それが目標としていた状況をあらわしているのだと思います。これは4次元空間にある曲面を3次元空間からCTスキャンのように時間軸に沿って観察していくことに相当します。
時間を4次元目の軸に取るのは物理学では普通のことですが、数学(トポロジー)で時間軸をとるのは稀なことです。
けれども「曲面結び目理論:鎌田聖一」の目次を見ると第3章の「モーション・ピクチャー」で時間軸を4次元目の軸として採用していることがわかります。それだけだと4次元空間の結び目理論は3次元の理論の外挿に過ぎなくなってしまいますから、モーション・ピクチャー以外の方法や考え方がこの本で紹介されているのだと思います。
第1章:曲面結び目
第2章:1次元の結び目
第3章:モーション・ピクチャー
第4章:ダイアグラム
第5章:ハンドル手術とリボン曲面結び目
第6章:スピン構成法
第7章:結び目コンコーダンス
第8章:カンドルの基礎
第9章:カンドルホモロジーと不変量
第10章:2次元ブレイド
内容:
曲面結び目の本格的な研究の歴史は1920年代のE.Artinに遡るが、多くの研究者によって活発な研究が行われはじめたのは1960年代である。本書は曲面結び目に関する基礎的事項から、1990年代以降にはじまった2次元ブレイドを用いた研究、カンドルのホモロジー理論を用いた結び目と曲面結び目の不変量など、最近の話題までを扱っている。曲面結び目に関する専門書として、日本語で初めての書き下ろしである。はじめて結び目や曲面結び目を勉強する学生や他分野研究者にもイメージが掴めるように、図と説明を多く入れ、容易に読み進められる。2012年刊行、247ページ。
本書は3年前に刊行されたばかりで、2次元の結び目理論を日本語で解説する初めての本だという。1次元の結び目理論から始まっているので、結び目理論の入門書としてもよさそうです。このように解説のための図版も豊富です。
現実の物理空間を考えるのならば多次元ユークリッド空間を考えることは、あまり意味がないのかもしれません。けれどもコンパクトに丸められた多次元空間には「穴」が開いているので、その空間に存在する物体は穴に巻き付いているわけです。いわばそれは「結び目」といって良いでしょう。そのような意味で、超弦理論を目指すのであっても多次元の結び目理論は有用だと思われます。
いずれこの本を読み、記事として意味のある考察や結論が得られたときは、連載記事を「シーズン2」として書いてみたいと思っています。
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