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多次元空間へのお誘い(17):問題を解決するためのアイデア

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4次元空間にあるひも

前回の記事では私たちの3次元空間の物理法則が保たれる形で4次元以上のユークリッド空間は存在できないことを説明させていただきました。

それではどのような多次元空間ならば許されるのでしょうか?今回の記事ではそのためのアイデアを3つご紹介いたします。でも僕が思いついたアイデアではないことを最初におことわりしておきます。

1つめのアイデア

1つめのアイデアは「弦理論」です。

私たちが日ごろ目にしているひもや布は「物質」ですが、原子が3次元的な配置で結合したものを私たちは物質や物体と呼んでいます。



そして物質を構成する個々の原子は何種類かある「素粒子」から構成されています。もし物体が3次元の外の空間に伸びているとしたら、それは原子どうしの結合がその方向にも伸びていることになります。けれども、それは3次元空間の物理法則を壊してしまうので無理だと説明させていただきました。

ですので4次元方向に伸びているものは私たちが知っている「物質」ではありません。とりあえず「物質もどき」であるとしておきましょう。


そこで思いついたのは、私たちが素粒子として見ているものは3次元以外の方向に伸びている「ひもの切り口」だとみなすアイデアです。この写真は3次元空間では「点」として観測される素粒子が4次元ユークリッド空間のU軸方向に伸びているひもの切り口であることを示しています。



すなわち「弦理論」の誕生ということです。

このひも(弦)は何でできているかはわかりませんが、弦の伸びている方向が素粒子や原子の結合ではないことはわかっています。弦は「物質もどき」でできていて、物質もどきを構成するのは「原子もどき」、「素粒子もどき」です。

またトポロジー理論で使われるような「数学ひも」のように伸縮自在であるほうが好都合です。また素粒子の質量は3次元空間内だけで考えているので、この数学ひもに質量があるのかどうかは明らかではありません。

物理学の「弦理論」では弦は「エネルギーのひも」であり、弦の張力や質量が有限の値として想定されていますが、素粒子レベルで弦の存在を仮定することで、少なくとも4次元ユークリッド空間との間での「綱引き」やエネルギーのやりとりは考えなくてすむようにできます。


2つめのアイデア

2つめのアイデアは空間のコンパクト化です。コンパクト化とは空間の軸をとてつもなく小さく丸めてしまうことです。

3次元空間の外とエネルギーのやり取りができてしまうもうひとつの理由は、4次元ユークリッド空間にある別の空間との間に「共有空間」が存在していることでした。ですのでこの共有空間を限りなく小さくしてエネルギーのやり取りをできなくできればよいわけです。

そこで4次元ユークリッド空間のU軸を「丸めてしまう」ことで共有空間を小さくしてみます。1915年に発表されたアインシュタインの一般相対性理論によって空間が曲がることは証明されていますから、U軸を曲げるのは不自然なことではありません。

この写真のストローの丸い切り口は3次元空間に配置した「丸められたU軸」をあらわしています。赤と青の物体ではなく空間だと思ってください。もしくは丸められたU軸に沿って配置された「布もどき」だと思っていただいても差し支えありません。



この丸められたU軸に沿って配置している「布もどき」を私たちの3次元空間(X-Y-Z空間)から見ると「ひも」に見えることになります。




このアイデアは僕が思いついたものではありません。テオドール・カルツァ(1885年-1954年)というドイツの数学者、物理学者が着想した「カルツァ=クライン理論」で提唱された5次元時空(4次元空間+1次元の時間)と同じモデルです。



この理論では4番目の空間軸がとてつもなく小さく丸められて存在していると仮定して、当時知られていた電磁気学と重力の理論を統一しようとしました。しかしながらこの試みはうまくいきませんでした。

このように丸められた空間を思いついたカルツァは、4次元ユークリッド空間では3次元空間の物理法則が成り立たないことを知っていたに違いありません。


3つめのアイデア

3つめのアイデアは「空間の多次元化」です。

カルツァの4次元空間では電磁気学と重力の理論を統一することができませんでしたので、空間をさらに多次元化して解決しようと試みるわけです。この連載記事の範囲ではそれが何次元なのかは導くことができませんが、現在さかんに研究されている「超弦理論」では10次元の時空(空間9次元、時間1次元)、M理論では11次元の時空(空間10次元、時間1次元)を想定しています。

たとえば超弦理論で9次元の空間を考えたとき、私たちの3次元空間はその中に存在しているわけですが、残りの6次元の空間はとてつもなく小さく丸められていると考えるのです。そうしないと3次元空間との間に共有空間ができてしまい、3次元空間の物理法則が成り立たなくなるからです。

このあたりのことを厳密に述べるためには「多様体」と呼ばれる数学理論を使って話を進めなければならないのですが、滑らかに曲がっている空間どうしの関係であれば直観的に考えても大丈夫なのです。

丸められた6次元空間の例としてしばしば引き合いに出されるのが「カラビ-ヤウ空間」です。私たちの住んでいる空間と時間の各点にこのように丸められた6次元空間が隠れていると考えられているのです。



第9回の記事では、多次元空間に存在する多次元物体は私たちの3次元空間では違う次元の物体として観測されることを説明させていただきました。

この記事で使ったのと同じ計算方法で超弦理論の9次元空間で成り立つ状況を計算すると、このような表ができあがります。



つまり9次元空間にある1次元から6次元までの物体(もどき)は、私たちの3次元空間では0次元の点(素粒子)として見えることをこの表は示しています。

超弦理論やM理論では1次元の弦だけでなく、Dブレーンやp-ブレーンと呼ばれる多次元の空間や「物体もどき」を想定して理論を展開しています。多次元の空間や物体がなぜ登場するのか不思議に思った方もいらっしゃると思いますが、それは多次元空間にある多次元物体は私たちから素粒子として観測されれば不都合が生じないからなのです。

Dブレーン(D3ブレーン)をあらわした模式図



荒削りな説明で細かいところまで詰めていませんが、このような流れで考えれば3次元空間の物理法則を保ちながら、超弦理論などで小さく丸められた多次元空間や多次元物体を考えるのが自然であることがおわかりになると思います。


超弦理論、カラビ-ヤウ空間、Dブレーンなどについては、それぞれ次の記事をお読みください。

大栗先生の超弦理論入門:大栗博司
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/75dfba6307d01a5d522d174ea3e13863

超ひも理論をパパに習ってみた: 橋本幸士
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/05d22e7299a4b30b24efb05cf01176a2

カラビ-ヤウ空間を見てみよう!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b3ab2b9875e9a2b81b055153c078439b

見えざる宇宙のかたち:シン=トゥン・ヤウ、スティーヴ・ネイディス
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/943c5a3cf09a78c3b4e8e933ce379879

Dブレーン―超弦理論の高次元物体が描く世界像:橋本幸士
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e18ed1e00f1c877cf3e7926a564f01ae


連載記事の本編はこれで終わりです。次回の記事は「まとめ」として、これまでの流れを振り返ってみることにいたします。


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