同相な変形(トポロジー)
物理的な問題
前回の記事では4次元ユークリッド空間の中で布と布を変形して絡まり合う状況を再現できないものかと試行錯誤を始めたところ、思わぬ困難にぶつかってしまいました。それは3次元空間内に残されたひもを自由に曲げることができないという問題です。この問題の本質は何なのでしょうか?
布の角を内側に押して曲げると、どうしてもしわがよってしまいます。布が自由に曲がるためには押している指が抵抗を受けずに、次のように変形できなくてはなりません。布は3次元空間の外の方向にも広がっていても、私たちの3次元空間の中に残っている部分とつながっているからです。
このように自由に変形できるものは数学の世界にしかありません。記事トップに掲載したようにトポロジーという数学理論ではコーヒーカップを連続的に変形してドーナツ(トーラスという呼び方をします)にすることを考え、この2つの物体の関係を「同相」と呼んでいます。
現実の世界で粘土を使って作ったコーヒーカップを変形しようとすると指に抵抗を受けるわけですが、数学の世界では指が受ける抵抗は無視しますし、粘土はどんなに引き伸ばしても切れることはないとして考えます。このように伸縮自在な物体は現実の世界には存在しません。
ですから100円ショップで買った布を使っている限り、自在に変形して自分が思うままの状況を再現できないのです。
この問題の本質は何であるか、空間の次元をひとつ下げて考えてみましょう。次の写真は3次元空間(X-Y-Z空間)に置いたひもをあらわしています。
この状況だと2次元空間(X-Y空間)に住む生物にとってひもは「点」です。この生物がひもの端点を左に押すと次のようになりますよね?
つまり3次元空間の生物と2次元空間の生物の間でひもを引っ張り合う「綱引き」のようなことができてしまうわけです。もし上方向の軸がZ軸でなく4次元空間のU軸の方向であっても、綱引きができてしまうことに変わりはありませんよね?
この綱引きは4次元空間(X-Y-Z-U空間)の中の2つの3次元空間(X-Y-Z空間とX-Y-U空間)の間でもできることがおわかりだと思います。綱引きができるということは、2つの空間の間で共有する平面を通じてエネルギーのやり取りができることを意味しています。なぜなら高校物理で学ぶように「仕事=力×移動距離」だからです。
もし綱引きに使うひもがトポロジー理論で使う「指に感じる抵抗をゼロ(張力がゼロ)にしたまま無限に伸びることができるひも」であるならば、2つの空間の間でエネルギーのやり取りはおきないですむのですが、現実世界にある物質でできたひもを使う限り、そのようなことは不可能です。
私たちが住んでいる現実世界は3次元空間です。物理法則(この場合は力学法則)は3次元空間で成り立っているわけですが、4次元ユークリッド空間の存在を認めてしまうと、3次元空間の中の「エネルギー保存則」が満たされなくなってしまうわけですね。
「4次元以上のユークリッド空間を認めると私たちの3次元空間の物理法則を破たんさせてしまう。」、「私たちの3次元空間の物理法則をそのまま4次元ユークリッド空間にあてはめて考えることはできない。」、「4次元以上のユークリッド空間を考えて意味があるのは数学の世界だけ。」ということになります。
「連載記事のオチはそんなわかりきったことなのか!」と読者のみなさんのブーイングが聞こえてきそうです。
実をいうと連載記事を書き始める前から僕はこのことに気が付いていました。けれども最初に種明かしをしてしまうと数学の空間としての多次元空間の話に水をさしてしまうので、この回の記事まで黙っていることにしました。
でもご安心ください。3次元空間の物理法則を壊さない形で4次元以上の空間を考えることができるのです。
次回の記事では「問題を解決するためのアイデア」というタイトルで、3つのアイデアをご紹介いたします。
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布の角を内側に押して曲げると、どうしてもしわがよってしまいます。布が自由に曲がるためには押している指が抵抗を受けずに、次のように変形できなくてはなりません。布は3次元空間の外の方向にも広がっていても、私たちの3次元空間の中に残っている部分とつながっているからです。
このように自由に変形できるものは数学の世界にしかありません。記事トップに掲載したようにトポロジーという数学理論ではコーヒーカップを連続的に変形してドーナツ(トーラスという呼び方をします)にすることを考え、この2つの物体の関係を「同相」と呼んでいます。
現実の世界で粘土を使って作ったコーヒーカップを変形しようとすると指に抵抗を受けるわけですが、数学の世界では指が受ける抵抗は無視しますし、粘土はどんなに引き伸ばしても切れることはないとして考えます。このように伸縮自在な物体は現実の世界には存在しません。
ですから100円ショップで買った布を使っている限り、自在に変形して自分が思うままの状況を再現できないのです。
この問題の本質は何であるか、空間の次元をひとつ下げて考えてみましょう。次の写真は3次元空間(X-Y-Z空間)に置いたひもをあらわしています。
この状況だと2次元空間(X-Y空間)に住む生物にとってひもは「点」です。この生物がひもの端点を左に押すと次のようになりますよね?
つまり3次元空間の生物と2次元空間の生物の間でひもを引っ張り合う「綱引き」のようなことができてしまうわけです。もし上方向の軸がZ軸でなく4次元空間のU軸の方向であっても、綱引きができてしまうことに変わりはありませんよね?
この綱引きは4次元空間(X-Y-Z-U空間)の中の2つの3次元空間(X-Y-Z空間とX-Y-U空間)の間でもできることがおわかりだと思います。綱引きができるということは、2つの空間の間で共有する平面を通じてエネルギーのやり取りができることを意味しています。なぜなら高校物理で学ぶように「仕事=力×移動距離」だからです。
もし綱引きに使うひもがトポロジー理論で使う「指に感じる抵抗をゼロ(張力がゼロ)にしたまま無限に伸びることができるひも」であるならば、2つの空間の間でエネルギーのやり取りはおきないですむのですが、現実世界にある物質でできたひもを使う限り、そのようなことは不可能です。
私たちが住んでいる現実世界は3次元空間です。物理法則(この場合は力学法則)は3次元空間で成り立っているわけですが、4次元ユークリッド空間の存在を認めてしまうと、3次元空間の中の「エネルギー保存則」が満たされなくなってしまうわけですね。
「4次元以上のユークリッド空間を認めると私たちの3次元空間の物理法則を破たんさせてしまう。」、「私たちの3次元空間の物理法則をそのまま4次元ユークリッド空間にあてはめて考えることはできない。」、「4次元以上のユークリッド空間を考えて意味があるのは数学の世界だけ。」ということになります。
「連載記事のオチはそんなわかりきったことなのか!」と読者のみなさんのブーイングが聞こえてきそうです。
実をいうと連載記事を書き始める前から僕はこのことに気が付いていました。けれども最初に種明かしをしてしまうと数学の空間としての多次元空間の話に水をさしてしまうので、この回の記事まで黙っていることにしました。
でもご安心ください。3次元空間の物理法則を壊さない形で4次元以上の空間を考えることができるのです。
次回の記事では「問題を解決するためのアイデア」というタイトルで、3つのアイデアをご紹介いたします。
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