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物性物理30講(物理学30講シリーズ):戸田盛和

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物性物理30講(物理学30講シリーズ):戸田盛和

内容紹介
本書では、電子2個を含む体系として具体的には水素原子2個から水素分子が形成されるわけを説明し、パウリの原理を用いて元素の周期律を考察する。量子統計を踏まえて振動あるいは粒子の場を量子化する、いわゆる多体問題の基礎についても述べ、その一つの例として相互作用をもった1次元フェルミ粒子系の励起をボース系として扱う朝永振一郎先生の論文のあらましについて記し、スピンが積極的な役割を演じる体系の例として、近藤効果と超伝導現象の理論の要約を加えた。フォトンやフォノン、フェルミ粒子系、スピンが積極的な役割を演じる体系の例などについても解説。2000年刊行、229ページ。

著者略歴
戸田盛和: ウィキペディアの記事
日本の物理学者。1917年生-2010年没。東京教育大学名誉教授。専門は統計力学、凝縮系物理学、数理物理学。特に戸田が導入した格子模型は完全可積分系の典型として有名で、「戸田格子」の名を得ている。著書多数。(戸田先生の著書を検索する。)


理数系書籍のレビュー記事は本書で263冊目。

素粒子物理学や超弦理論を目指して勉強をしている物理学ファンは、とかく物性物理学を省きがちなものだ。相対性理論や量子力学を学んでから次に取り組むのはたいてい場の量子論(素粒子物理学)なのだと思う。

でも、ふだん自分の身の回りにあるのは固体や液体そして気体であり、金属や半導体、水や空気である。いちばん身近にある物体の中で動く電子や光子の物理法則を無視して進むのはどうも気持ち悪い。なぜ金属には電流が流れるのに、ゴムには流れないのか?金属線を電気が流れるとき、なぜジュール熱が発生するのか?電気抵抗はどのようにして生じるのか?電子機器に使われている半導体はどのようなしくみなのか?熱はどのように物質を伝わるのか?

100年前ならともかく、今では当たり前すぎてそれが不思議であるということに考えが及ばないこれらの物理現象をきちんと理解しておきたい。僕にとって物性物理学を学ぶ動機とはそのようなものである。

本書を手にとったとき、この分野を学ぶのは初めてかなと思っていたが、よく考えてみると古典物性物理は「ファインマン物理学(4)電磁波と物性」の第9章から第16章で、量子物性物理については「ファインマン物理学(5)量子力学」の第13章から第15章で少しだけ学んでいたことを思い出した。でもこれは7年も前だし、物理学を学びはじめて間もない頃で、かつ解析力学を学んでいない段階だったので、じゅうぶん理解はできていなかった。

とはいえいくつかの量子力学の教科書で量子統計やボース-アインシュタイン凝縮、超伝導などは学んでいたし、磁束量子については「目で見る美しい量子力学:外村彰」で学んでいた。

物性物理が扱う範囲はとても広いので本書のようなたかだか230ページの本ではとてもカバーすることができない。このことについて著者は次のように書いている。

「ここで扱うのは物性物理のほんの一部であって、化学結合の量子力学による説明、分子間力、量子統計、金属の自由電子模型による電気抵抗の扱いなど主要なテーマとなった。近藤効果や超伝導現象などについては、原理的な考え方を述べるにとどまった。」


物性物理を学ぶためには熱力学、統計力学、電磁気学、解析力学(一般力学)、量子力学はおさえておきたい。本書を読むためにはこの5つで十分だ。最先端の物性物理には経路積分や量子電磁力学(QED)、素粒子の標準理論(場の量子論)、そして最近は「トポロジカルな弦理論」も必要になるのだろうけど、本書をはじめ物性物理の入門書レベルではそこまでの知識は必要ない。

僕にとって大きな収穫だったのは高校化学で習った分子間力(ファン・デル・ワールス力)のしくみを学べたことだ。昨年2月、大栗博司先生の「強い力と弱い力(朝日カルチャーセンター)」で、僕は次のような質問をさせていただいている。

質問:自然界には4つの力があると説明されていましたが、熱力学で「ファン・デル・ワールス力」というのがでてきました。これはどういう力ですか?

大栗先生のお答えは「ファン・デル・ワールス力の本質は「電磁気力(クーロン力)」です。物理学にはいろいろな力がでてきますが、それらはみな基本的な4つの力で説明されるのです。」というものだった。

本書の第4講では電子のクーロン力を起源に距離の6乗に逆比例するファン・デル・ワールス力の導出が示されている。その本質は量子力学的なもので電子どうしの相互作用によって説明される。摂動論では第2摂動項としてあらわれる。

第6項から第8項では密度行列や理想気体の方程式について量子力学的から導出される式のプランク定数をゼロにすることで古典物理的な式に一致することを示している。また本書全体について、古典物理による物性の理解の限界、量子力学によって示される物性がどのようなものかを区別して理解することができた。

あとフォノン(音響量子)やマグノン(電子のスピン構造の量子化)などの準粒子を扱うのも僕にとっては初めてのことだった。特に伝導電子による格子振動によるフォノンのエネルギーのやり取り、フォノンの生成、消滅は固体の比熱や熱伝導の理解に欠かせない。(参考:「熱の解析的理論:ジョゼフ・フーリエ著、ガストン・ダルブー編纂」)


本書の章立ては次のとおり。薄い本のわりにはなかなか骨のある内容だが、僕にとっては目新しいことばかりだったのでワクワクしながら読み通すことができた。

1. 水素分子
2. オルト水素とパラ水素
3. 元素の周期律
4. 分子性物質
5. 密度行列
6. 密度行列の古典近似
7. ウィグナー分布関数
8. 量子統計
9. 理想気体
10. ボース-アインシュタイン凝縮
11. 自由電子気体
12. トーマス-フェルミの近似
13. 自由電子の磁性とホール効果
14. フォトン(光子)
15. フォノン(音響量子)
16. スピン波
17. 調和振動子
18. 生成消滅演算子
19. ボース多体系
20. フェルミ多体系
21. フェルミ振子とボース振子
22. 1次元フェルミ気体の励起
23. 電子と格子振動
24. 低温の電気抵抗
25. 近藤効果
26. 超伝導
27. 超伝導体の対応原理
28. 超伝導の現象論
29. ギンツブルク-ランダウ方程式
30. 超伝導トンネル効果



「物理学30講シリーズ」とよく対比されるのが志賀浩二先生の「数学30講シリーズ」だ。こちらはどれも大学入学したての学生に最適な入門書ばかりである。(もしくは授業や教科書についていけなかった大学生用。)


「とね書店」にも「物理学30講シリーズ」と「数学30講シリーズ」の売り場を設けておいたのでご活用いただきたい。

戸田盛和「物理学30講シリーズ」コーナー
http://astore.amazon.co.jp/tonejiten-22?_encoding=UTF8&node=60

志賀浩二「数学30講シリーズ」コーナー
http://astore.amazon.co.jp/tonejiten-22?_encoding=UTF8&node=59


関連記事:

分子運動30講(物理学30講シリーズ):戸田盛和
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ff9b87e0e12dea6df9d426929986b293


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物性物理30講(物理学30講シリーズ):戸田盛和



1. 水素分子
- 水素分子
- 水素分子の結合エネルギー
- クーロン相互作用
- 交換相互作用
- スピンとパウリの原理
- Tea Time: 物理学と化学の統一

2. オルト水素とパラ水素
- 2原子分子
- 水素分子
- 角運動量
- Tea Time: 気体水素と固体水素

3. 元素の周期律
- 周期表
- パウリの原理
- Tea Time: 顕微鏡

4. 分子性物質
- 分子間力(ファン・デル・ワールス力)
- 第2摂動項
- 対応状態の原理
- Tea Time: カシミア効果

5. 密度行列
- 統計集団と期待値
- ブロッホ方程式
- 密度行列の変換性
- Tea Time: 友あり遠方より来たる

6. 密度行列の古典近似
- カークウッドの方法
- 古典近似(h→0)
- 伏見の方法
- Tea Time: コモ湖

7. ウィグナー分布関数
- ウィグナー表示
- ウィグナー分布関数
- 古典的位相空間
- Tea Time: E.ウィグナー

8. 量子統計
- 粒子の同等性(フェルミ統計、ボース統計)
- 熱力学的関係式
- 理想気体(ボルツマン気体、フェルミ気体、ボース気体)
- 状態和、大きな状態和
- エントロピー
- 遷移確率と平衡
- Tea Time: パラ統計

9. 理想気体
- 準位密度
- 状態方程式(フェルミ気体、ボース気体)
- ベルヌーイの式
- Tea Time: 数理科学のモデル(1)

10. ボース-アインシュタイン凝縮
- ボース気体
- ボース凝縮
- 転移現象
- 現実のボース凝縮
- Tea Time: ボースとアインシュタイン

11. 自由電子気体
- 金属自由電子
- フェルミ準位、フェルミ面
- 自由電子の比熱
- Tea Time: 数理科学のモデル(2)

12. トーマス-フェルミの近似
- トーマス-フェルミの統計的方法
- 原子の場合
- 荷電粒子に対する阻止機能
- Tea Time: F.ブロッホ

13. 自由電子の磁性とホール効果
- スピンの常磁性(パウリ)
- 軌道運動の反磁性(ランダウ)
- ド・ハース-ファン・アルフェン効果
- ホール効果
- Tea Time: オイラーの公式

14. フォトン(光子)
- 熱輻射
- 光子の放出と吸収
- ボース-アインシュタイン統計
- Tea Time: 波の圧力

15. フォノン(音響量子)
- 固体比熱
- 1次元光子
- 光子振動の量子化
- Tea Time: 表面張力波の圧力

16. スピン波
- スピンの交換相互作用
- スピン波
- マグノン
- Tea Time: ねじり波の模型

17. 調和振動子
- 古典的な調和振動
- 調和振動子の量子力学
- 振動の波動関数
- 振動の行列要素
- エルミート演算子
- Tea Time: 非線形振動子の量子力学

18. 生成消滅演算子
- 生成消滅演算子
- 昇降演算子
- Tea Time: シュレーディンガーと格子振動

19. ボース多体系
- 多粒子系
- 配位空間
- 粒子数表示
- 演算子波動関数
- Tea Time: 粒子数の増減

20. フェルミ多体系
- 配位空間
- 粒子数表示
- 演算子波動関数
- Tea Time: 湯川先生の著書

21. フェルミ振子とボース振子
- 等間隔準位(フェルミ系、ボース系)
- 大きな状態和
- 状態和
- Tea Time: エネルギーの分配

22. 1次元フェルミ気体の励起
- 密度場の交換関係
- フェルミ気体の励起
- ハミルトニアン
- 相互作用がある場合
- Tea Time: 自然数の分割数

23. 電子と格子振動
- 電気抵抗
- 格子振動による散乱
- 散乱角
- Tea Time: ゾンマーフェルト-ベーテ

24. 低温の電気抵抗
- 散乱の緩和時間
- 低温の電気抵抗
- デバイ温度
- Tea Time: 金属電子論

25. 近藤効果
- スピン h/2
- 電気抵抗の極小
- スピンの交換相互作用
- 第2ボルン近似
- 異常電気抵抗
- Tea Time: フェルミ面上の拡散

26. 超伝導
- 超伝導研究の歴史
- 超伝導現象
- 電子間の引力
- クーパー対
- 2次摂動
- 電子対の集まり
- Tea Time: 連成振子

27. 超伝導体の対応原理
- エネルギーギャップ
- 転移温度
- 対応状態の原理
- Tea Time: 高温超伝導

28. 超伝導の現象論
- 完全な反磁性
- ロンドン方程式
- 熱力学的性質
- 超伝導体の状態方程式
- Tea Time: 超伝導理論

29. ギンツブルク-ランダウ方程式
- 電子対の集団
- 秩序パラメータ
- ギンツブルク-ランダウ方程式
- Tea Time: 磁束量子

30. 超伝導トンネル効果
- 磁束の量子化
- トンネル効果
- ジョセフソン接合
- 量子干渉計
- Tea Time: 微小量の接頭語

索引

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