「タイム・マシン(創元SF文庫):H.G.ウェルズ」(Kindle版)
内容紹介:
タイム・トラヴェラーが冬の晩、暖炉を前に語りだしたことは、巧妙な嘘か、それともいまだ覚めやらぬ夢か。「私は80万年後の未来世界から帰ってきた……」彼がその世界から持ちかえったのは奇妙な花だった……
時空を超えることの出来る機械「タイムマシン」を発明したタイム・トラヴェラーは、80万年後の未来世界に飛ぶ。そこで見た人類の変わり果てた姿に、彼は衝撃を受ける。80万年後の世界、それは知力、体力が退化した地上種族・エロイと、エロイを捕食し光を恐れる地下種族・モーロック、この2種族による原始的な階級社会であった。SF小説の金字塔「タイムマシン(1895)」を含む、ウェルズの傑作短編集。
著者について:
H.G.ウェルズ(1866-1946):ウィキペディアの記事
イギリスの著作家。小説家としてはジュール・ヴェルヌとともに「SFの父」と呼ばれる。社会活動家や歴史家としても多くの業績を遺した。
すごく有名でも読んだことがない小説は案外多いものだ。H.G.ウェルズの「タイムマシン」も僕にとってはそのうちのひとつだった。この本に限らずH.Gウェルズやジュール・ヴェルヌは1冊も読んでいない。
「タイムマシン」は言わずとも知れているSFの古典中の古典だ。出版されたのはなんと1895年。日本は日清戦争を終えたばかりの明治時代である。特殊相対性理論でアインシュタインが時空の概念を発表したのが1905年だから、その10年も前なのだ。
ウェルズはこの小説の導入部分で主人公のタイム・トラヴェラーに空間と時間の概念について語らせている。空間が3次元あるのだから時間も次元を持っているのではないかと。ただし時間のほうは1次元。そして空間は縦横高さの各次元を移動できるのに、時間のほうはなぜ次元の座標軸を行き来できないのだろうか?そしてこの主人公が発明したのがそれを可能にするタイムマシンなのだ。未来へも過去へも行くことができる。
アインシュタインより14年も前に4次元時空の考えを示したのは画期的だ。ウェルズはきちんとした科学教育を受けていた。それはウィキペディアの以下の記述でもわかる。
「奨学金でサウス・ケンジントンの科学師範学校(Normal School of Science、現インペリアル・カレッジ)に入学。トマス・ヘンリー・ハクスリーの下で生物学を学び、進化論には生涯を通じて影響を受けることになる。学生誌『サイエンス・スクールズ・ジャーナル』に寄稿し、1888年4-6月号に掲載された『時の探検家たち』は、のちの『タイム・マシン』の原型となる。1891年には、四次元の世界について述べた論文『単一性の再発見』が『フォート・ナイトリ・レヴュー』に掲載された。」
ただしウェルズは時間軸が空間の3次元に直交するという4次元ユークリッド時空を考えていたのでアインシュタインの4次元時空とは少し違っている。
そしてこのタイムマシンが旅立つのはとてつもない未来、80万年後の世界である。よくあるタイムトラベル物のドラマや小説は過去に戻るものが多い。未来に行くとしてもせいぜい数百年止まりなのが普通だ。100年後は科学や技術が発展しているだろうから、さぞかし便利ですごい世界になっているのだろうと予想できるわけだが、80万年後なんて想像もつかない。地球上に人類がいるかどうかも定かではない。
100年とか1000年くらいだと人間の身体は今の私たちとほとんど変わらない。生物としての進化はもっと長いスケールであらわれる。ウェルズが80万年後をタイムマシンの行き先に設定したのは、生物学的に変質した人類を登場させるためだったと思うのだ。ウィキペディアにも彼が生物学を学び、進化論に影響を受けたことが書かれている。
ただ、この小説に登場する未来の人類の変容ぶりを考えると80万年という設定は短すぎるように思える。1000万年から1億年くらいかかるのではないだろうかというのが僕の感覚だ。しかし放射性炭素による年代測定法が発見されたのが1947年なので、この小説が書かれた当時の年代測定はとても不正確だったはずだ。80万年という設定は「当たらずとも遠からず。」というところだろうか。
またこの小説での未来は「決定論」に従っている。未来は一通りに決まっていて変えることができない。ラプラスの確率論はあったけれども量子力学の不確定性原理が発表されるのは30年以上先のことなので、未来の不確定性はこの時代には知られていなかった。人間が振って出るサイコロの目はあらかじめ神様が決めていたもので、それ以外の目はでることがない。神様自身は過去から未来まですべてを計画済みで、ご自身でサイコロを振って世界の未来を決めるということはない。
ネタバレになってしまうから、どのような話なのか立ち入らないことにする。短編だからすぐ読めてしまうので、まだ読んでいない方はぜひこの機会にどうぞ。
僕はKindle端末で読みたかったので創元SF文庫版を選んだが、岩波文庫、角川文庫からもそれぞれ別の翻訳者による日本語版がでている。売れ筋としては岩波、角川、創元SFの順のようだ。
「タイム・マシン 他九篇 (岩波文庫):H.G.ウェルズ」
「タイムマシン (角川文庫):H.G.ウェルズ」
「タイム・マシン(創元SF文庫):H.G.ウェルズ」(Kindle版)
英語版は次のリンクで検索していただきたい。Kindle版は無料だ。
英語版の「The Time Machine: H.G.Wells」: Amazonで検索する
余談:80万年後の未来はもちろん20年後の世界であっても予測するのは難しい。次の2枚の絵はTwitterから拾ったものだ。僕が子供時代だった1970年頃の雑誌に掲載されていたようだ。今の私たちの生活と比べてかなりズレているのが可笑しい。第一、この人たちが着ている原色の全身タイツ服を今の私たちは着ていないし、将来は着るようになるとも僕には思えない。この服はトイレで難儀しそうだし。それよりも高齢者の姿が見えないのが気になる。隔離されてしまったのだろうか。
2011年の東京
20年後のコンピューターライフ(1969)
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内容紹介:
タイム・トラヴェラーが冬の晩、暖炉を前に語りだしたことは、巧妙な嘘か、それともいまだ覚めやらぬ夢か。「私は80万年後の未来世界から帰ってきた……」彼がその世界から持ちかえったのは奇妙な花だった……
時空を超えることの出来る機械「タイムマシン」を発明したタイム・トラヴェラーは、80万年後の未来世界に飛ぶ。そこで見た人類の変わり果てた姿に、彼は衝撃を受ける。80万年後の世界、それは知力、体力が退化した地上種族・エロイと、エロイを捕食し光を恐れる地下種族・モーロック、この2種族による原始的な階級社会であった。SF小説の金字塔「タイムマシン(1895)」を含む、ウェルズの傑作短編集。
著者について:
H.G.ウェルズ(1866-1946):ウィキペディアの記事
イギリスの著作家。小説家としてはジュール・ヴェルヌとともに「SFの父」と呼ばれる。社会活動家や歴史家としても多くの業績を遺した。
すごく有名でも読んだことがない小説は案外多いものだ。H.G.ウェルズの「タイムマシン」も僕にとってはそのうちのひとつだった。この本に限らずH.Gウェルズやジュール・ヴェルヌは1冊も読んでいない。
「タイムマシン」は言わずとも知れているSFの古典中の古典だ。出版されたのはなんと1895年。日本は日清戦争を終えたばかりの明治時代である。特殊相対性理論でアインシュタインが時空の概念を発表したのが1905年だから、その10年も前なのだ。
ウェルズはこの小説の導入部分で主人公のタイム・トラヴェラーに空間と時間の概念について語らせている。空間が3次元あるのだから時間も次元を持っているのではないかと。ただし時間のほうは1次元。そして空間は縦横高さの各次元を移動できるのに、時間のほうはなぜ次元の座標軸を行き来できないのだろうか?そしてこの主人公が発明したのがそれを可能にするタイムマシンなのだ。未来へも過去へも行くことができる。
アインシュタインより14年も前に4次元時空の考えを示したのは画期的だ。ウェルズはきちんとした科学教育を受けていた。それはウィキペディアの以下の記述でもわかる。
「奨学金でサウス・ケンジントンの科学師範学校(Normal School of Science、現インペリアル・カレッジ)に入学。トマス・ヘンリー・ハクスリーの下で生物学を学び、進化論には生涯を通じて影響を受けることになる。学生誌『サイエンス・スクールズ・ジャーナル』に寄稿し、1888年4-6月号に掲載された『時の探検家たち』は、のちの『タイム・マシン』の原型となる。1891年には、四次元の世界について述べた論文『単一性の再発見』が『フォート・ナイトリ・レヴュー』に掲載された。」
ただしウェルズは時間軸が空間の3次元に直交するという4次元ユークリッド時空を考えていたのでアインシュタインの4次元時空とは少し違っている。
そしてこのタイムマシンが旅立つのはとてつもない未来、80万年後の世界である。よくあるタイムトラベル物のドラマや小説は過去に戻るものが多い。未来に行くとしてもせいぜい数百年止まりなのが普通だ。100年後は科学や技術が発展しているだろうから、さぞかし便利ですごい世界になっているのだろうと予想できるわけだが、80万年後なんて想像もつかない。地球上に人類がいるかどうかも定かではない。
100年とか1000年くらいだと人間の身体は今の私たちとほとんど変わらない。生物としての進化はもっと長いスケールであらわれる。ウェルズが80万年後をタイムマシンの行き先に設定したのは、生物学的に変質した人類を登場させるためだったと思うのだ。ウィキペディアにも彼が生物学を学び、進化論に影響を受けたことが書かれている。
ただ、この小説に登場する未来の人類の変容ぶりを考えると80万年という設定は短すぎるように思える。1000万年から1億年くらいかかるのではないだろうかというのが僕の感覚だ。しかし放射性炭素による年代測定法が発見されたのが1947年なので、この小説が書かれた当時の年代測定はとても不正確だったはずだ。80万年という設定は「当たらずとも遠からず。」というところだろうか。
またこの小説での未来は「決定論」に従っている。未来は一通りに決まっていて変えることができない。ラプラスの確率論はあったけれども量子力学の不確定性原理が発表されるのは30年以上先のことなので、未来の不確定性はこの時代には知られていなかった。人間が振って出るサイコロの目はあらかじめ神様が決めていたもので、それ以外の目はでることがない。神様自身は過去から未来まですべてを計画済みで、ご自身でサイコロを振って世界の未来を決めるということはない。
ネタバレになってしまうから、どのような話なのか立ち入らないことにする。短編だからすぐ読めてしまうので、まだ読んでいない方はぜひこの機会にどうぞ。
僕はKindle端末で読みたかったので創元SF文庫版を選んだが、岩波文庫、角川文庫からもそれぞれ別の翻訳者による日本語版がでている。売れ筋としては岩波、角川、創元SFの順のようだ。
「タイム・マシン 他九篇 (岩波文庫):H.G.ウェルズ」
「タイムマシン (角川文庫):H.G.ウェルズ」
「タイム・マシン(創元SF文庫):H.G.ウェルズ」(Kindle版)
英語版は次のリンクで検索していただきたい。Kindle版は無料だ。
英語版の「The Time Machine: H.G.Wells」: Amazonで検索する
余談:80万年後の未来はもちろん20年後の世界であっても予測するのは難しい。次の2枚の絵はTwitterから拾ったものだ。僕が子供時代だった1970年頃の雑誌に掲載されていたようだ。今の私たちの生活と比べてかなりズレているのが可笑しい。第一、この人たちが着ている原色の全身タイツ服を今の私たちは着ていないし、将来は着るようになるとも僕には思えない。この服はトイレで難儀しそうだし。それよりも高齢者の姿が見えないのが気になる。隔離されてしまったのだろうか。
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