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一般講演会 「物質の科学と素粒子物理の深い関係」

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9月28日(日)は東京大学の物性研究所主催、カブリIPMUと柏市の共催の一般講演会「物質の科学と素粒子物理の深い関係」を聴講してきた。2日続けて市民向けの数学講座と物理学講座を受講するという、とても贅沢な週末を僕は過ごしていたのだ。


物性研究所の押川正毅先生が『1次元物質と弦の理論』、大栗博司先生が『宇宙は超伝導か』というタイトルで講演をされた。

会場は今年の7月にオープンしたばかりの柏の葉カンファレンスセンターの400名収容のホールで、午後1時30分開場。午後2時30分から4時まで。詳細は次のページを見てほしい。

一般講演会「物質の科学と素粒子物理の深い関係」
http://www.issp.u-tokyo.ac.jp/public/issplecture/


会場となった柏の葉カンファレンスセンターはつくばエキスプレスの「柏の葉キャンパス駅」のすぐ近く。会場が新しいだけでなく、駅や駅前すべてが「できたてほやほや」だったので面食らった。

開場1時間半前に着いたので、駅周辺を見物して回ったのだが東京生まれの僕のほうが田舎者に思えるほどだ。あたり一帯が近未来都市さながらだったのでピクニック気分を味わいながら楽しい時間を過ごすことができた。

駅前(西口)の写真(クリックで拡大)


カンファレンスセンターは写真正面の「Mitsui Garden Hotel」の建物の中にある。駅前には大きなショッピングモールがあり、3階まで面積をゆったりととった店舗やスーパーマーケット、レストラン街、映画館、大型書店など、生活に必要なものはたいていそろっていた。(そのかわりに立ち食い蕎麦屋やカラオケスナックのように大衆的な店はなかった。)

大型書店では理数系書籍をチェック。物理学、数学の本棚は僕の地元の中型書店と同じく3メートルほどの本棚しかなかったが、売られている本のほとんどが大学の教科書レベルの専門書だったのが意外だった。(地元の書店には専門書はまったくない。)また、電子工学、電気設備系の本が物理学、数学の本より3倍くらい揃えられていた。僕にとってはうれしい品揃えだけれど、一般の人にとってはどうなのだろう?

駅前を行き交う人や混雑しているショッピングモールは40歳以下の人がほとんどで高齢者はほとんど見かけなかった。ここに住むと中年オヤジの僕は高齢者になってしまうのだろうと感じた。

駅の周囲の雰囲気ここをクリックして航空写真を見ていただかったのだが、写真はまだ駅前が開発される直前のものである。

カンファレンスセンターは新品そのもの。トイレや喫煙室にもチリひとつ落ちていない。会場に入って前から3列目に着席。時間がくるまでスクリーンに映される物性研究所カブリ数物連携宇宙研究機構の紹介ビデオを見ていた。これら2つの組織が入っている東京大学柏キャンパスは来月一般公開するそうである。

柏キャンパス一般公開2014 (10月24,25日)
http://www.ipmu.jp/ja/node/1965


講演会が始まるころには会場はほぼ満席になっていた。科学ブログ仲間2人が来ているのが確認できた。シニア層が多い朝日カルチャーセンターの物理学講座とは異なり、この講演会には高校生、大学生、そして女性も若い人から年配の方までたくさんいる。見かけで人を判断するのはいけないのだけれど、会場にいる若い人は優秀な人が多いと思った。

物性研究所の瀧川仁所長による挨拶に続いて、講演が始まった。


1次元物質と弦の理論(押川正毅先生)

私達は、左右/前後/上下の3つの方向を持つ3次元の空間に住んでいます。しかし、たとえば非常に細い電線を作ると、その中の電子の動きは実質的に1次元の線上に制限されます。このような「1次元の物質」は、最近の科学技術の発展により重要なトピックになっています。朝永振一郎博士は1950年に、1次元空間中(線上)の電子が弦の振動の量子力学に従うことを示しました。その後、素粒子の究極理論として提案された超弦理論にも刺激されて研究が進展し、弦の振動の量子力学は1次元の物質を理解するのに欠かせない理論となっています。1次元の物質と弦の理論のこのような関わりを、自分の研究も交えてお話します。

赤いTシャツ姿の押川先生が登壇して講演が始まった。「押川先生は会社の同僚にそっくりな人がいるけど、遺伝子が違っても似ている人はいるものだなぁ。」などといつものように余計なことを思いながら僕は講演のメモを取った。B5のノート4ページに書き取った僕のメモ書きから流れを書くと次のようになる。

- 空間は3次元、時間は1次元
- 1次元空間は直線上のみ
- 原子核や電子、分子以上のサイズは物性物理の領域、原子核内部のクォークや弦などは素粒子物理の領域
- 物質を理解するための原子核と電子が従うルール(物理法則)はだいたいわかっている
- しかしそれを解析的に解くことも、コンピュータで解くことも難しい
- 将棋の例:ルールは簡単だが、ルールを理解しても名人に勝てるわけではないのと同じ
- 水分子1つ1つの運動を解かなくてもわかることがある。例:津波予報
- 表面波:水分子の集団的運動≠分子の個別の運動
- 音波:疎密波
- 1次元物質中の音波は弦に伝わる波と数学的には同じ
- 音波は物質の性質の「氷山の一角」
- 朝永振一郎博士の理論(1950):1次元の物質では「音波」によって(低温での)性質があらわせる
- 朝永博士の論文:3次元は難しいから仮に1次元で考える
- 近年1次元の物質がいろいろあることがわかってきた。例:カーボンナノチューブ
- 朝永-ラッティンジャー流体:弦の振動であらわせる理論
- 1次元では相互作用があっても朝永-ラッティンジャー流体=弦の振動になる
- 弦の張力を調整->電子間の引力
- 相互作用のある1次元電子系(不純物がある場合)
- 張力が大(電子は反発):弦が不純物にピン止めされる->電流は流れない
- 張力が小:弦が不純物に影響されにくくなる
- 不純物無し->完全伝導
- 温度を下げると電気が流れなくなる
- 弦が3本になると解くのがずっと難しくなる
- 3本の弦の間で電子が飛び移ることで電子の交換が発生
- 2本の場合(1本の弦+不純物):粒子の交換はおこらない。ボース粒子でもフェルミ粒子でも同じ
- 1984年の超弦理論の第1次革命
- 物性の弦とは異なり超弦理論は空間を飛びまわれるので少し違う
- 3本の細線の接合について、電子のフェルミ統計は「磁場」であらわされる
- 電子の引力:クーパー対

感想: 物性物理はまったく学んだことがなかったので僕にとってはすべてが目新しかったです。この分野も場の量子論という素粒子物理の研究手法と同じ理論が使われ始めたことについて、おぼろげながら自分なりのイメージを持つことができるようになったのがよかったと思います。余力があれば近いうちに「キッテル 固体物理学入門」あたりから物性物理も学び始めてみたくなりました。

次のページも押川先生の研究テーマを知る上で役に立つと思うので紹介いたします。

対称性の破れた凝縮形におけるトポロジカル量子現象
http://www.topological-qp.jp/member/sp_profile/profile_d03_oshikawa.html

押川先生は次のような社会的な活動にも積極的に協力されていることを帰宅後に僕は知りました。

シンポジウム 民・公・学で挑む、オール柏の除染計画‐安心へのロードマップ(平成24年2月18日)
http://www.city.kashiwa.lg.jp/soshiki/080800/p010793.html


宇宙は超伝導か(大栗博司先生)

素粒子物理学者の南部陽一郎博士が2008年にノーベル賞を受賞されたときの理由である 「対称性の自発的破れ」は、「宇宙が超伝導である」という意味だと説明されます。しかし、これは宇宙空間に永久電流が流れるというような意味ではありません。この言葉の意味する素粒子物理学と物性物理学の間の深い関係について解説しながら、その最近の展開としての量子相転移現象やトポロジカルな相の発見、また、私自身の物性物理学者との共同研究についても語りたい。

僕がとったノートは3ページ。次のような流れで講演が進んだ。

- ヒッグス粒子の発見 125GeV(水素原子の133倍のエネルギー):弱い力についての話
- 物質の質量の99パーセントは強い力で説明できるのでヒッグス粒子とは関係ない
- 弱い力の強さは電磁気力の10万分の1
- 光子には質量がない
- 弱い力を伝える粒子(W粒子、Z粒子)には質量がある
- 超伝導のマイスナー効果=光子が質量をもつ
- マイスナー効果(バーディーン、クーパー、シュリーファー)
- 南部博士:回転対称性の自発的破れ(ひとりずつが少しずつ首を振るのはエネルギーが少ない)
- この波が電磁波の波と混ざることで質量が生まれる
- これが「宇宙は超伝導」の意味です
- 場の量子論はますます重要
- 今年3月17日:BICEP2、マイクロ波輻射のBモード偏光の観測結果を示した
- Bモード偏光:CERNのLHCの100京倍のエネルギーの現象を観測していることになる
- Plank衛星の最新データでは初期宇宙でなく銀河系内の現象で説明できる可能性が大きくなった
- LiteBIRD科学衛星(Kavli IPMU)に期待
- 場の量子論->トポロジカルな絶縁体
- 電子のエネルギー準位のトポロジー、Bi2Se3のスペクトル
- 磁場がなくても量子ホール効果がおきる(ケーン、ザン、モレカンプ)
- 宇宙のダークマターの模型のひとつが物性物理学のトポロジカルな絶縁体と似た振る舞いをすることがわかった
- ダークマターはトポロジカルな絶縁体
- 岩波「科学」:アクシオンとトポロジカルな絶縁体(アクシオンは場の量子論の分野)
- 2つの分野で物性の新しい現象を発見しよう

感想: 最初の3分の2はとてもよく理解できました。場の量子論、トポロジカルな絶縁体、電子のエネルギー準位のトポロジーあたりから難しいと感じました。それはおそらく物性物理についての僕の勉強不足であることと、先生のこれまでの著書では触れられていなかった内容だったからだと思います。講演でお話されたキーワードをたよりにネットで調べてみたいと思います。


最先端の研究テーマを一般向けの講演にまとめるのは大変だったと思います。押川先生、大栗先生、ありがとうございました。


翌日は仕事ということもあり科学ブログ仲間とのオフ会もなくそのまま帰宅した。今回は物性物理と素粒子物理の境界領域がテーマだったが、物性物理のナノテクノロジーと量子化学の境界領域にも興味深いテーマがありそうだなと帰りの電車で僕はあれこれと想像をめぐらせていた。(参考記事:「分子軌道法: 物理学と化学の境界」)


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