「場の量子論:坂井典佑」
内容
場の量子論を簡明、かつ平易に解説した教科書。場の量子論の中で最も重要と思われる事項に絞って簡潔に記述。ファインマン図形の方法を身に付けられるように、簡単なスカラー場の理論を中心的な例にとって解説する。
場の量子論とは、粒子の生成と消滅を記述する道具であり、現代の自然科学の柱となっている量子論と相対論を融合するときに、避けて通れない論理体系である。そして、素粒子物理学、原子核物理学はもちろん、物性物理学など、現代の物理学の多くの分野で用いられている。
本書は、場の量子論への入門となることを目指し、膨大な場の量子論の内容の中から最も重要と思われる事項に絞って、簡潔に記述することを試みたものである。 2002年に刊行。
出版社による本の紹介ページ
http://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2212-0.htm
理数系書籍のレビュー記事は本書で221冊目。
「場の量子論に再チャレンジ」の記事でわかるように本書を読み始めたのは5月末のこと。たかだか240ページの教科書なのだが、みっちり精読したので1ヶ月以上かかってしまった。場の量子論の入門書としてはいちばん定評がある本なので、きちんと理解しておきたかったのだ。
場の量子論は1600ページにおよぶ「ワインバーグ博士の教科書」に象徴されるように、数多くの物理学者が何十年にも渡り知恵を絞って構築した壮大な理論体系なので初めて学ぶ人にとってはとてもハードルが高い。
さらにその前段階としての量子力学の美しい理論体系には見られなかった斬新で奇抜な考え方や技巧的な計算が多く、修練を積まなければ理論を使いこなせるようにはならない。だからいきなり専門的な教科書で学び始めると、理論の迷宮に迷い込み「木を見て森を見ず。」の状態、何のためにその数式が出てくるのかが分からない状態になってしまいがちだ。
またページ数の多い教科書だと読むのにも時間がかかる。読み進めるうちに前の章の内容を忘れてしまったりする。「物忘れ」も全体像がつかめなくなる原因のひとつだ。
だからまず本書のように薄い教科書で全体像をつかんでおくことは、極めて有効なのだ。本の章立てはだいたい場の量子論の発展過程に沿っている。章ごとに全く違う理論や考え方、物理的な要請事項が登場するが、それらがどのようなつながりを持っているかということに注意を払って読むことが大切だ。
量子力学では素粒子の「粒子性と波動性の両立」というとても大切な考え方を学んだが、場の量子論でもそれは引き継がれる。解説されている波動場が具体的にどのような素粒子が生成消滅する場であるのかをきちんと抑えながら読むことで、すっきり理解できるようになる。
僕の全体的な理解度は90パーセントくらい。第8章まではほぼすべて理解できたが、最終章の後半は説明が足りていない印象があるのでもやもや感が残った。「ワインバーグ博士の教科書」でちんぷんかんぷんだった「BRS対称性」もすっきり理解できたのが特にうれしかった。また実際の物理量としては観測されないゴースト場や反ゴースト場、中西-ロートラップ場などの「補助場」がなぜ必要になるのか理解できたのもよかった。
本書は場の量子論の基本的なことがらを網羅し、240ページに詰め込んでいるので、数式を使った導出や展開は不十分だ。式と式の間は実際に自分で手を動かして計算してみる必要があるのだが、初めて学ぶ人には無理なので他の演習書やもっと詳しい教科書を読む必要がある。文章で説明している内容が数式ではどのように表われているかという観点で理解し、読み進めるとよい。
ファインマン図形を使った解説の箇所も具体例が少ないので説明不足だと感じた。これについても他書で詳しく学ぶ必要がある。
また本書は「場の理論」の教科書であって「素粒子物理学」の教科書の意味合いは薄い。具体的に素粒子の名前を挙げて説明が始まるのは最終章の後半、電弱統一理論のあたりだ。それまでは、ディラック粒子やフェルミオン、ボゾン、ゲージ粒子など素粒子のもつ性質で分類した呼称を使って解説されている。それぞれの場がどの粒子に対応しているのかをきちんと抑えておけばスムーズに読み進むことができるはず。
初めて読む場の量子論の教科書として本書を選ぶか「場の量子論:F. マンドル, G. ショー」を選ぶかは迷いどころ。後者は素粒子物理の内容もバランスよく挿入されているのが本書と違うところだ。そのぶん分量も2倍に膨らんでいる。
章立てと要約は次のとおり。(要約は本書からの引用である。)
第1章:場の量子論と場の古典論
場の量子論の準備として、場の古典論をまとめる。まず、(特殊)相対性理論の記法のまとめを行う。相対論的な記述と量子論とを合わせた場合に便利な体系として、光速度とプランク定数を基本にとる「自然体系」を導入する。さらに、場の古典論に最小作用の原理を適用する。これにともない、さまざまの不変性とその帰結としての保存則を導く。また、相対論的に不変な相互作用の例を挙げる。
第2章:正準量子化
量子力学では、座標と運動量の交換子がプランク定数に比例するという処方で量子化が行われる。この正準量子化の手続きを、無限個の自由度がある場の理論に対して適用する。量子力学ではシュレーディンガー描像が最も普通に使われるが、場の理論では、生成消滅演算子を用いたハイゼンベルク描像の方が便利である。自由スカラー場を量子化して、ファインマン伝播関数を始めとする不変デルタ関数を導入し、ディラック場の量子化も行う。一般にどのような粒子状態が可能であるかを、ポアンカレ群の表現として考察する。
第3章:相互作用場の一般的性質
相互作用があるため、演算子の時間発展を解いて生成消滅演算子で表すようなことができない場合にも、一般的に成り立つ少数の要請を公理として仮定し、そこから導かれる帰結を調べる。2点関数がスペクトル表示できることを示す。漸近場を導入し、すべての散乱行列要素は場の演算子のT積の真空期待値から得られることを示す(LSZの簡約公式)。
第4章:経路積分量子化
場の量子論の最も正統的で厳密な方法は、第2章で導入した正準量子化である。しかし、経路積分を用いた量子化は、場の量子論では対称性を明確にするなどの点で大変有用である。後の第7章で述べるゲージ理論のような複雑な場合に、特に強力な道具となる。まず量子力学で経路積分を定式化し、それを場の理論の量子化に適用する。
第5章:摂動論のファインマン則
場の量子論のように自由度の多い系では、厳密解を得ることは一般的に難しい。その場合でも、相互作用の効果が小さいとして、ベキ級数展開で量子効果を求めることができる。この摂動論の基礎となる技術が、ファインマン図形の方法である。本章では、経路積分表示を用いて摂動論のファインマン則を導き、散乱断面積などの物理量を計算する方法を与える。さらに、量子効果をまとめあげる有効作用という概念を導入し、その計算方法を与える。
第6章:くり込み
φ^4型相互作用するスカラー場の場合を例にとって、ループを計算し、発散をくり込む必要があることを示す。質量のくり込み、波動関数のくり込みと結合定数のくり込みだけで、すべての発散はくり込むことができる。くり込まれたパラメータでの摂動論を行い、次元正則化の方法を導入する。結合定数の質量次元が正またはゼロの場合には、対称性で許されるすべての項を加えておけば、一般に理論はくり込み可能となる。くり込み群を導き、その帰結を簡単にみる。
第7章:ゲージ場の経路積分量子化
局所ゲージ対称性が成り立つためには、ゲージ場がなければならない。共変微分を導入し、ゲージ不変なラグランジアン密度の構成法を与える。局所ゲージ対称性がある場合、正準変数に拘束条件が生じる。このような場合の量子化を行い、経路積分表示を与える。経路積分に現れる関数行列式を、ファデーエフ-ポポフ・ゴースト場の経路積分を導入してラグランジアンの形に表す。その結果を用いて、共変的ゲージでのファインマン則を導く。
第8章:BRS対称性と演算子形式
量子化のためにゲージ固定されたゲージ場の量子論では、局所ゲージ対称性の代りにBRS対称性が成り立つことを示す。これをゲージ対称性に代る原理として採用すると、演算子形式での議論のために大変有用である。ゲージ固定を行う一般的な方法を与える。演算子形式での正準量子化も行う。
第9章:自発的対称性の破れとヒッグス機構
連続パラメータをもつ大局的な対称性が自発的に破れると、南部-ゴールドストン粒子というゼロ質量粒子が生じる。しかし、自発的に破れた対称性にゲージ場が結合すると、ゲージ粒子がこのゼロ質量粒子を吸収し、全体として重いベクトル粒子となる。このヒッグス機構の具体的な応用例として、電弱統一理論を取り上げる。本書では十分扱えなかった問題について最後に触れる。
付録:
A.1 ローレンツ変換
A.2 ディラック場
A.3 拘束条件のある場合の量子化
関連ページ:
ネット上で学んでみたい方は、これらのページをお読みください。
場の理論(東海大学、安江研究室)
http://phys.cool.coocan.jp/physjpn/field.htm
量子場の理論入門(前野先生によるPDF形式のテキスト)
http://www.phys.u-ryukyu.ac.jp/~maeno/field.pdf
場の量子化と粒子の相互作用(名古屋大学、松原先生のHPの一部)
http://tmcosmos.org/cosmology/cosmology-web/node55.html
一般向け書籍レベルの本で学んでみたい方はこちらがお勧め。
光の場、電子の海―量子場理論への道:吉田 伸夫
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ea4bc17a6b2c98c1073039d868223f02
関連記事:
場の量子論〈第1巻〉量子電磁力学:F.マンドル、G.ショー
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/08726ab931904f76d9c26ff56d219e53
場の量子論〈第2巻〉素粒子の相互作用:F.マンドル、G.ショー
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/95d908cd752af642964cbff7ea7f0301
大著に挑む (ワインバーグの「場の量子論」)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/95ac4b64aa4eaf70608088006813cbf5
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「場の量子論:坂井典佑」
1 場の量子論と場の古典論
1.1 場の理論・場の量子論とは
1.2 (特殊)相対性理論の記法
1.3 自然単位系
1.4 最小作用の原理と作用汎関数
1.5 対称性と保存則
1.6 さまざまな相互作用ラグランジアン密度
演習問題
2 正準量子化
2.1 有限自由度の正準量子化とハイゼンベルク描像
2.2 正準交換関係
2.3 生成消滅演算子
2.4 正規積
2.5 4次元交換関係と伝播関数
2.6 ディラック場の量子化
2.7 粒子状態とポアンカレ群の表現
演習問題
3 相互作用場の一般的性質
3.1 スペクトル表示
3.2 漸近場と漸近条件
3.3 LSZ簡約公式
演習問題
4 経路積分量子化
4.1 量子力学での経路積分
4.2 場の量子論での経路積分
4.3 生成汎関数
4.4 グラスマン数
演習問題
5 摂動論のファインマン則
5.1 自由場の場合のグリーン関数の生成汎関数
5.2 相互作用場のグリーン関数の生成汎関数
5.3 生成汎関数を場の汎関数微分で表示する
5.4 ディラック場の経路積分
5.5 連結グリーン関数のファインマン則
5.6 遷移確率と散乱断面積
5.7 有効作用と1粒子規約グラフ
演習問題
6 くり込み
6.1 1 粒子既約図形の例
6.2 次元正則化
6.3 くり込み
6.4 くり込まれた結合定数での摂動論
6.5 くり込み可能性
6.6 くり込み条件
6.7 くり込み群
演習問題
7 ゲージ場の経路積分量子化
7.1 スペクトル表示
7.2 ゲージ不変なラグランジアン密度と拘束条件
7.3 量子力学で拘束条件がある場合の経路積分量子化
7.4 ゲージ場のゲージ固定と経路積分量子化
7.5 ファデーエフ‐ポポフ行列式
7.6 ファデーエフ‐ポポフ・ゴースト
7.7 共変的ゲージでのファインマン則
演習問題
8 BRS対称性と演算子形式
8.1 BRS対称性
8.2 共変ゲージ固定でのゲージ場の正準量子化
8.3 物理的状態を指定する補助条件
演習問題
9 自発的対称性の破れとヒッグス機構
9.1 対称性の自発的な破れ
9.2 ヒッグス機構
9.3 SU(2)×U(1)ゲージ理論
9.4 中性カレントと荷電カレント
9.5 物理的状態を指定する補助条件
演習問題
付録
A.1 ローレンツ変換
A.1.1 3次元空間回転
A.1.2 ローレンツ・ブースト
A.1.3 空間反転,時間反転
A.2 ディラック場
A.2.1 ディラック行列と方程式
A.2.2 静止系での解
A.2.3 ディラック波動関数の共変性
A.2.4 平面波解
A.2.5 射影演算子
A.2.6 γ^5と擬スカラー,擬ベクトル
A.2.7 ディラック波動関数の荷電共役変換
A.3 拘束条件のある場合の量子化
A.3.1 第1類拘束条件と第2類拘束条件
A.3.2 第1類拘束条件とゲージ固定
A.3.3 第2類拘束条件とディラック括弧
A.3.4 拘束条件がある場合の経路積分量子化
問・演習問題解答
索引
内容
場の量子論を簡明、かつ平易に解説した教科書。場の量子論の中で最も重要と思われる事項に絞って簡潔に記述。ファインマン図形の方法を身に付けられるように、簡単なスカラー場の理論を中心的な例にとって解説する。
場の量子論とは、粒子の生成と消滅を記述する道具であり、現代の自然科学の柱となっている量子論と相対論を融合するときに、避けて通れない論理体系である。そして、素粒子物理学、原子核物理学はもちろん、物性物理学など、現代の物理学の多くの分野で用いられている。
本書は、場の量子論への入門となることを目指し、膨大な場の量子論の内容の中から最も重要と思われる事項に絞って、簡潔に記述することを試みたものである。 2002年に刊行。
出版社による本の紹介ページ
http://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2212-0.htm
理数系書籍のレビュー記事は本書で221冊目。
「場の量子論に再チャレンジ」の記事でわかるように本書を読み始めたのは5月末のこと。たかだか240ページの教科書なのだが、みっちり精読したので1ヶ月以上かかってしまった。場の量子論の入門書としてはいちばん定評がある本なので、きちんと理解しておきたかったのだ。
場の量子論は1600ページにおよぶ「ワインバーグ博士の教科書」に象徴されるように、数多くの物理学者が何十年にも渡り知恵を絞って構築した壮大な理論体系なので初めて学ぶ人にとってはとてもハードルが高い。
さらにその前段階としての量子力学の美しい理論体系には見られなかった斬新で奇抜な考え方や技巧的な計算が多く、修練を積まなければ理論を使いこなせるようにはならない。だからいきなり専門的な教科書で学び始めると、理論の迷宮に迷い込み「木を見て森を見ず。」の状態、何のためにその数式が出てくるのかが分からない状態になってしまいがちだ。
またページ数の多い教科書だと読むのにも時間がかかる。読み進めるうちに前の章の内容を忘れてしまったりする。「物忘れ」も全体像がつかめなくなる原因のひとつだ。
だからまず本書のように薄い教科書で全体像をつかんでおくことは、極めて有効なのだ。本の章立てはだいたい場の量子論の発展過程に沿っている。章ごとに全く違う理論や考え方、物理的な要請事項が登場するが、それらがどのようなつながりを持っているかということに注意を払って読むことが大切だ。
量子力学では素粒子の「粒子性と波動性の両立」というとても大切な考え方を学んだが、場の量子論でもそれは引き継がれる。解説されている波動場が具体的にどのような素粒子が生成消滅する場であるのかをきちんと抑えながら読むことで、すっきり理解できるようになる。
僕の全体的な理解度は90パーセントくらい。第8章まではほぼすべて理解できたが、最終章の後半は説明が足りていない印象があるのでもやもや感が残った。「ワインバーグ博士の教科書」でちんぷんかんぷんだった「BRS対称性」もすっきり理解できたのが特にうれしかった。また実際の物理量としては観測されないゴースト場や反ゴースト場、中西-ロートラップ場などの「補助場」がなぜ必要になるのか理解できたのもよかった。
本書は場の量子論の基本的なことがらを網羅し、240ページに詰め込んでいるので、数式を使った導出や展開は不十分だ。式と式の間は実際に自分で手を動かして計算してみる必要があるのだが、初めて学ぶ人には無理なので他の演習書やもっと詳しい教科書を読む必要がある。文章で説明している内容が数式ではどのように表われているかという観点で理解し、読み進めるとよい。
ファインマン図形を使った解説の箇所も具体例が少ないので説明不足だと感じた。これについても他書で詳しく学ぶ必要がある。
また本書は「場の理論」の教科書であって「素粒子物理学」の教科書の意味合いは薄い。具体的に素粒子の名前を挙げて説明が始まるのは最終章の後半、電弱統一理論のあたりだ。それまでは、ディラック粒子やフェルミオン、ボゾン、ゲージ粒子など素粒子のもつ性質で分類した呼称を使って解説されている。それぞれの場がどの粒子に対応しているのかをきちんと抑えておけばスムーズに読み進むことができるはず。
初めて読む場の量子論の教科書として本書を選ぶか「場の量子論:F. マンドル, G. ショー」を選ぶかは迷いどころ。後者は素粒子物理の内容もバランスよく挿入されているのが本書と違うところだ。そのぶん分量も2倍に膨らんでいる。
章立てと要約は次のとおり。(要約は本書からの引用である。)
第1章:場の量子論と場の古典論
場の量子論の準備として、場の古典論をまとめる。まず、(特殊)相対性理論の記法のまとめを行う。相対論的な記述と量子論とを合わせた場合に便利な体系として、光速度とプランク定数を基本にとる「自然体系」を導入する。さらに、場の古典論に最小作用の原理を適用する。これにともない、さまざまの不変性とその帰結としての保存則を導く。また、相対論的に不変な相互作用の例を挙げる。
第2章:正準量子化
量子力学では、座標と運動量の交換子がプランク定数に比例するという処方で量子化が行われる。この正準量子化の手続きを、無限個の自由度がある場の理論に対して適用する。量子力学ではシュレーディンガー描像が最も普通に使われるが、場の理論では、生成消滅演算子を用いたハイゼンベルク描像の方が便利である。自由スカラー場を量子化して、ファインマン伝播関数を始めとする不変デルタ関数を導入し、ディラック場の量子化も行う。一般にどのような粒子状態が可能であるかを、ポアンカレ群の表現として考察する。
第3章:相互作用場の一般的性質
相互作用があるため、演算子の時間発展を解いて生成消滅演算子で表すようなことができない場合にも、一般的に成り立つ少数の要請を公理として仮定し、そこから導かれる帰結を調べる。2点関数がスペクトル表示できることを示す。漸近場を導入し、すべての散乱行列要素は場の演算子のT積の真空期待値から得られることを示す(LSZの簡約公式)。
第4章:経路積分量子化
場の量子論の最も正統的で厳密な方法は、第2章で導入した正準量子化である。しかし、経路積分を用いた量子化は、場の量子論では対称性を明確にするなどの点で大変有用である。後の第7章で述べるゲージ理論のような複雑な場合に、特に強力な道具となる。まず量子力学で経路積分を定式化し、それを場の理論の量子化に適用する。
第5章:摂動論のファインマン則
場の量子論のように自由度の多い系では、厳密解を得ることは一般的に難しい。その場合でも、相互作用の効果が小さいとして、ベキ級数展開で量子効果を求めることができる。この摂動論の基礎となる技術が、ファインマン図形の方法である。本章では、経路積分表示を用いて摂動論のファインマン則を導き、散乱断面積などの物理量を計算する方法を与える。さらに、量子効果をまとめあげる有効作用という概念を導入し、その計算方法を与える。
第6章:くり込み
φ^4型相互作用するスカラー場の場合を例にとって、ループを計算し、発散をくり込む必要があることを示す。質量のくり込み、波動関数のくり込みと結合定数のくり込みだけで、すべての発散はくり込むことができる。くり込まれたパラメータでの摂動論を行い、次元正則化の方法を導入する。結合定数の質量次元が正またはゼロの場合には、対称性で許されるすべての項を加えておけば、一般に理論はくり込み可能となる。くり込み群を導き、その帰結を簡単にみる。
第7章:ゲージ場の経路積分量子化
局所ゲージ対称性が成り立つためには、ゲージ場がなければならない。共変微分を導入し、ゲージ不変なラグランジアン密度の構成法を与える。局所ゲージ対称性がある場合、正準変数に拘束条件が生じる。このような場合の量子化を行い、経路積分表示を与える。経路積分に現れる関数行列式を、ファデーエフ-ポポフ・ゴースト場の経路積分を導入してラグランジアンの形に表す。その結果を用いて、共変的ゲージでのファインマン則を導く。
第8章:BRS対称性と演算子形式
量子化のためにゲージ固定されたゲージ場の量子論では、局所ゲージ対称性の代りにBRS対称性が成り立つことを示す。これをゲージ対称性に代る原理として採用すると、演算子形式での議論のために大変有用である。ゲージ固定を行う一般的な方法を与える。演算子形式での正準量子化も行う。
第9章:自発的対称性の破れとヒッグス機構
連続パラメータをもつ大局的な対称性が自発的に破れると、南部-ゴールドストン粒子というゼロ質量粒子が生じる。しかし、自発的に破れた対称性にゲージ場が結合すると、ゲージ粒子がこのゼロ質量粒子を吸収し、全体として重いベクトル粒子となる。このヒッグス機構の具体的な応用例として、電弱統一理論を取り上げる。本書では十分扱えなかった問題について最後に触れる。
付録:
A.1 ローレンツ変換
A.2 ディラック場
A.3 拘束条件のある場合の量子化
関連ページ:
ネット上で学んでみたい方は、これらのページをお読みください。
場の理論(東海大学、安江研究室)
http://phys.cool.coocan.jp/physjpn/field.htm
量子場の理論入門(前野先生によるPDF形式のテキスト)
http://www.phys.u-ryukyu.ac.jp/~maeno/field.pdf
場の量子化と粒子の相互作用(名古屋大学、松原先生のHPの一部)
http://tmcosmos.org/cosmology/cosmology-web/node55.html
一般向け書籍レベルの本で学んでみたい方はこちらがお勧め。
光の場、電子の海―量子場理論への道:吉田 伸夫
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ea4bc17a6b2c98c1073039d868223f02
関連記事:
場の量子論〈第1巻〉量子電磁力学:F.マンドル、G.ショー
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/08726ab931904f76d9c26ff56d219e53
場の量子論〈第2巻〉素粒子の相互作用:F.マンドル、G.ショー
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/95d908cd752af642964cbff7ea7f0301
大著に挑む (ワインバーグの「場の量子論」)
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「場の量子論:坂井典佑」
1 場の量子論と場の古典論
1.1 場の理論・場の量子論とは
1.2 (特殊)相対性理論の記法
1.3 自然単位系
1.4 最小作用の原理と作用汎関数
1.5 対称性と保存則
1.6 さまざまな相互作用ラグランジアン密度
演習問題
2 正準量子化
2.1 有限自由度の正準量子化とハイゼンベルク描像
2.2 正準交換関係
2.3 生成消滅演算子
2.4 正規積
2.5 4次元交換関係と伝播関数
2.6 ディラック場の量子化
2.7 粒子状態とポアンカレ群の表現
演習問題
3 相互作用場の一般的性質
3.1 スペクトル表示
3.2 漸近場と漸近条件
3.3 LSZ簡約公式
演習問題
4 経路積分量子化
4.1 量子力学での経路積分
4.2 場の量子論での経路積分
4.3 生成汎関数
4.4 グラスマン数
演習問題
5 摂動論のファインマン則
5.1 自由場の場合のグリーン関数の生成汎関数
5.2 相互作用場のグリーン関数の生成汎関数
5.3 生成汎関数を場の汎関数微分で表示する
5.4 ディラック場の経路積分
5.5 連結グリーン関数のファインマン則
5.6 遷移確率と散乱断面積
5.7 有効作用と1粒子規約グラフ
演習問題
6 くり込み
6.1 1 粒子既約図形の例
6.2 次元正則化
6.3 くり込み
6.4 くり込まれた結合定数での摂動論
6.5 くり込み可能性
6.6 くり込み条件
6.7 くり込み群
演習問題
7 ゲージ場の経路積分量子化
7.1 スペクトル表示
7.2 ゲージ不変なラグランジアン密度と拘束条件
7.3 量子力学で拘束条件がある場合の経路積分量子化
7.4 ゲージ場のゲージ固定と経路積分量子化
7.5 ファデーエフ‐ポポフ行列式
7.6 ファデーエフ‐ポポフ・ゴースト
7.7 共変的ゲージでのファインマン則
演習問題
8 BRS対称性と演算子形式
8.1 BRS対称性
8.2 共変ゲージ固定でのゲージ場の正準量子化
8.3 物理的状態を指定する補助条件
演習問題
9 自発的対称性の破れとヒッグス機構
9.1 対称性の自発的な破れ
9.2 ヒッグス機構
9.3 SU(2)×U(1)ゲージ理論
9.4 中性カレントと荷電カレント
9.5 物理的状態を指定する補助条件
演習問題
付録
A.1 ローレンツ変換
A.1.1 3次元空間回転
A.1.2 ローレンツ・ブースト
A.1.3 空間反転,時間反転
A.2 ディラック場
A.2.1 ディラック行列と方程式
A.2.2 静止系での解
A.2.3 ディラック波動関数の共変性
A.2.4 平面波解
A.2.5 射影演算子
A.2.6 γ^5と擬スカラー,擬ベクトル
A.2.7 ディラック波動関数の荷電共役変換
A.3 拘束条件のある場合の量子化
A.3.1 第1類拘束条件と第2類拘束条件
A.3.2 第1類拘束条件とゲージ固定
A.3.3 第2類拘束条件とディラック括弧
A.3.4 拘束条件がある場合の経路積分量子化
問・演習問題解答
索引