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とね日記賞の発表!(2014年): 物理学賞、数学賞、他

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毎年12月10日、スウェーデンのストックホルムでアルフレッド・ノーベルの命日に行われるノーベル賞の授賞式の日程にあわせて、「とね日記賞」を発表している。今年で5回目だ。

ノーベル賞を僕がもらう見込みはないので、みずから賞を作って「あげる側」になってしまえ!という思いつきである。

「とね日記賞」はその年に僕が読んだ物理学書、数学書の中から自分のためになった本、この分野を勉強している学生や社会人にお勧めする本を物理学、数学など各分野に分けてそれぞれ1~2冊発表する。あとテレビドラマ賞や贈り物にふさわしい本としてクリスマス賞というのも設けている。

たとえ名著と言われる本であっても僕がその価値を理解できなければ受賞できない。昨年以前に読んだ本は自動的に選考対象から外されるし、どんなに良書であっても僕が読んでいなければ対象外。今のところ洋書も対象外。何より僕の学習進度や理解度や好みに影響される。

メダルも賞金も授賞式も晩餐会も舞踏会もないから、ありがたくも何ともなく、主観に満ちたアンフェアな賞だが、それでよいのだ。

- とね日記物理学賞
 物理学の教科書、専門書から選考。

- とね日記数学賞
 数学の教科書、専門書から選考。

- とね日記天文学賞
 天文学、天体物理学の教科書、専門書から選考。

- とね日記教養書賞
 一般向け書籍から分野別に選考。

- とね日記文学賞
 ジャンルを問わない小説、文学書から選考。

- とね日記テレビドラマ賞
 テレビドラマの中からいちばんよかったものを選考。

- とね日記クリスマス賞
 クリスマスプレゼントにふさわしい本を選考。


この1年で読んだ本は25冊で、次のような本を読んだ。通算239冊~263冊目。(参考:「200冊の理数系書籍を読んで得られたこと」)

- 「エレガントな宇宙」をはじめとするブライアン・グリーン博士の科学教養書5冊
- 中原幹夫先生の「理論物理学とトポロジー」のI巻とII巻
- 代数学I 群と環:桂利行
- 素粒子論はなぜわかりにくいのか:吉田伸夫
- 演習 群・環・体入門:新妻弘
- 時間とは何か、空間とは何か: S.マジッド、A.コンヌ、R.ペンローズ他
- ファインマン博士の人物伝2冊
- 数学の教科書が言ったこと、言わなかったこと:南みや子
- 代数系入門: 松坂和夫
- 宇宙が始まる前には何があったのか?: ローレンス・クラウス
- ワインバーグの宇宙論(上)(下)
- 宇宙創世はじめの3分間 (ちくま学芸文庫):S. ワインバーグ
- 数学とは何か(原書第2版):R.クーラント、H.ロビンズ、I.スチュアート
- 無限をつかむ: イアン・スチュアートの数学物語
- 数学とは何か―アティヤ 科学・数学論集
- 素数夜曲―女王陛下のLISP:吉田武
- 分子運動30講(物理学30講シリーズ):戸田盛和
- 物性物理30講(物理学30講シリーズ):戸田盛和


それでは発表しよう。2014年の「とね日記賞」は次のとおりだ。(書籍名と画像は本の購入ページにリンクさせておいた。)


* 物理学賞

理論物理学のための幾何学とトポロジー I:中原幹夫
理論物理学のための幾何学とトポロジー II:中原幹夫

 

授賞理由: 最先端の理論物理学と現代数学が密接に結びついていることをいちばん実感できる本だ。特に抽象的な現代幾何学の視点で解説しているのが特徴。現代数学にはとてつもない広がりがあり、その世界に入り込むと、どう進んでよいか途方に暮れてしまうことが多い。理論物理学の本筋をたどりながら、その数理的な本質を理解するために必要な現代数学の迷宮のガイドマップといえよう。ただし今の僕には難しすぎて「高嶺の花」であった。いずれまた挑戦したい。

厳密にいえば数学書に分類されるが、物理学を主軸に置いた内容なので物理学賞を授賞させていただいた。

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

理論物理学のための幾何学とトポロジー I:中原幹夫
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ef0b2fcb7c87aabfcd68bbe2a567840e

理論物理学のための幾何学とトポロジー II:中原幹夫
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9fd93716929786316ee234a66ec4d32b


* 数学賞

素数夜曲―女王陛下のLISP:吉田武



授賞理由: 今年は僕にとって整数論入門の年になった。初等整数論へのとてもユニークな入門書である。著者は中学、高校生あたりの読者を期待しているが、読んでみたところ明らかに理数系の大学生向きだと思った。だから僕としてはこれを「専門書」として扱いたい。870ページという分厚さから尻込みしてしまう方が多いのだろうが、すぐ熱中できるように工夫されているので読み始めるとその分厚さは気にならなくなる。本書の前半は数学としての理論編、後半はSchemeという関数型のプログラミング言語を学びながら理論編で学んだことをパソコン上で実験をして検証を行う。本書を読めば整数論がなぜ数学の女王と言われるのか、なぜたくさんの大数学者をとりこにしたのか理解できるようになるだろう。

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

素数夜曲―女王陛下のLISP:吉田武:(前半の紹介)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3740cd7fde863f2aebd195e326488ff6

素数夜曲―女王陛下のLISP:吉田武:(後半の紹介)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0b151c73a689f71d6debf12567170663


* 天文学賞

ワインバーグの宇宙論(上): ビッグバン宇宙の進化
ワインバーグの宇宙論(下): ゆらぎの形成と進化

 

授賞理由: 超一流の素粒子物理学者による最新の宇宙物理学の教科書である。著者のワインバーグ博士がご自身の理解を確認するためにお書きになった本だけあって、学部レベルの学生では全く歯が立たないほど難解な本だ。博士の物理的な経験と超絶技巧が駆使された数式導出を理解するのは諦めたとしても本書を読む価値はじゅうぶんにある。現在ではスーパーコンピュータで数値計算するのが主流な天文学の世界で、あえて数式だけ使った解析的手法で宇宙の始まりやその進化の過程を解明しようとする姿勢に感動すること間違いなし。前提知識は「場の量子論」。本書の著者がお書きになった「ワインバーグの場の量子論」の教科書で学んでおくとよい。また「宇宙創世はじめの3分間 (ちくま学芸文庫):S. ワインバーグ」という科学教養書も前もって読んでおくべきだろう。

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

ワインバーグの宇宙論(上)ビッグバン宇宙の進化
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bd3d49fe1e13bcdd97116b33e8c736bb

ワインバーグの宇宙論(下): ゆらぎの形成と進化
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/13c2b81456935c281b4c57a014cd9d60


* 教養書賞(物理学部門)

素粒子論はなぜわかりにくいのか:吉田伸夫



授賞理由: 数式を敬遠する一般の科学ファンが理解できるレベルの本は、せいぜい量子力学まで、そして素粒子物理学については「粒子としての振る舞い」から書かれた教養書までである。けれども素粒子の本質的な姿は量子力学が示すように粒子性と波動性の両方を兼ね備えたものだ。波動としての素粒子の姿は「場の量子論」という分野で説明される事柄なのだが一般の読者にはとてもわかりにくい。本書は素粒子物理学の教養書のこのような片手落ちの状況を少しでも改善すべく著者が工夫をこらしてお書きになった本なのだ。科学教養書の中では難しいほうの部類だが、ぜひ多くの方に読んでほしい。

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

素粒子論はなぜわかりにくいのか:吉田伸夫
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bcbaebb9f2a77b1bd63e3928f6bd6e9f

そして今年の教養書賞(物理学部門)はもうひとつ授賞させていただこう。

ご冗談でしょう、ファインマンさん〈上〉
ご冗談でしょう、ファインマンさん〈下〉
困ります、ファインマンさん

  

授賞理由: アインシュタインが20世紀でいちばん天才の物理学者だとすると、ファインマンは20世紀で(そして今も)いちばん人気のある物理学者だ。昨年12月には彼の講義をまとめた有名な教科書がありがたいことに全巻まるごと無料でネット公開された。(参考:「ファインマン物理学(英語版)が全巻ネット公開されました。」)科学ファンの枠を超えて全世界の人からファインマン先生が、なぜこれほどまで愛されて続けているかを知るのにうってつけの本だ。とにかく楽しい本である。

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

ファインマン先生の自伝本と講演本
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9bf47cf51085c74caf34a11068a17285


* 教養書賞(数学部門)

無限をつかむ: イアン・スチュアートの数学物語



授賞理由: 大学以降の数学はほとんどの人にとって無縁だ。高校までの数学は一般の人にもイメージできる世界だが、その先の数学はどのような世界なのか、高度に発展した数学が、現実社会にどのように役立っているのか。数学の歴史をたどりながらどのような分野の数学が生まれたのか解説している良書だ。同じテーマの本はいくつもあるが、わかりやすさ、現代的なセンスのよさ、各分野がバランスよくカバーされていることなどを総合して、本書がいちばん優れていると思った。

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

無限をつかむ: イアン・スチュアートの数学物語
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2307174ab3fd537695b1287f059f2304


* 教養書賞(天文学部門)

宇宙が始まる前には何があったのか?:ローレンス・クラウス」(Kindle版



授賞賞理由: 今年は素粒子物理学や超弦理論などよりも宇宙の起源への挑戦のほうが目立った年になった。宇宙の起源については3月に「原始重力波を観測できたかも?」というニュースで世界中が沸き立ち、日本では6月から7月にかけてNHKでローレンス・クラウス教授による「宇宙白熱教室(4回シリーズ)」が放送されたことによる。また12月3日には小惑星探査機「はやぶさ2」の打ち上げが成功し、太陽系や生命の起源を探す新たな一歩を踏み出すことができた。

本書は「宇宙白熱教室」の関連本としてローレンス・クラウス教授がお書きになったもので、この20年の間に劇的に進化した宇宙の起源の研究成果を知ることができる。本来難しい内容であるにもかかわらず、宇宙マイクロ波背景輻射の観測の歴史や写真、豊富な図版とグラフによって一般の人でもじゅうぶん理解できるレベルに抑えているのが、僕が本書を推す理由だ。今年のとね日記賞の中で、僕がいちばん読んでほしい本である。

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

宇宙が始まる前には何があったのか?: ローレンス・クラウス
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b6f36e8eedba5ee63a4f919d30a2cb20


* 文学賞

妻は、くノ一:風野真知雄」(Kindle版



授賞理由: ブログ記事として紹介していないが、今年は「小暮写眞館:宮部みゆき」など理数系以外の小説も5冊ほど読んでいる。そしていちばんハマってしまったのが「妻は、くノ一:風野真知雄」の13冊だった。もともとNHKで放送されたドラマを気に入って読み始めたのだが、今年は「BS時代劇『妻は、くノ一 ~最終章~』 全5回」も放送されて大満足である。本もテレビドラマもそれぞれ別の面白さがあった。

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

妻は、くノ一:風野真知雄
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/05e001f6b22838ea2dd9a29f10f607a8


* テレビドラマ賞

火10ドラマ「素敵な選TAXI」(フジテレビ系列)



授賞理由: 忙しいと言いながらも僕は結構たくさんのドラマを見ている。今年は「花子とアン」、「妻は、くノ一 ~最終章~」、「おそろし~三島屋変調百物語」、「花咲舞が黙ってない」、「戦力外捜査官」、「ごめんね青春!」などが候補に上がったが、いちばん気に入った「素敵な選TAXI」に授賞させていただくことにした。

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

火10ドラマ「素敵な選TAXI」(フジテレビ系列)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6cbd1fcdb1830e7394cb66fcadff671b


* クリスマス賞

クリスマス・キャロル (新潮文庫)
アンのゆりかご―村岡花子の生涯 (新潮文庫)」(Kindle版

 

授賞理由: NHK「花子とアン」の主人公の村岡花子先生は1952年にディケンズの「クリスマス・キャロル (新潮文庫)」も翻訳している。クリスマスにはこの本を贈ってみてはどうだろうか。村岡先生のお人柄や人生を紹介している「アンのゆりかご―村岡花子の生涯 (新潮文庫)」(Kindle版)と一緒に贈るのもよいかもしれない。

年末には「花子とアン」やスピンオフスペシャルの「朝市の嫁さん」が再放送されるそうだ。




最後になりましたが、今日ノーベル物理学賞を受賞される赤崎勇先生、天野浩先生、中村修二先生に心からお祝いを申し上げます。

2014年ノーベル物理学賞は赤崎勇先生、天野浩先生、中村修二先生に決定!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2172a44a53c933389fcb8dc1acbfd97e


関連記事:

とね日記賞の発表!(2010年): 物理学賞、数学賞、他
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ddc344204dec2ebd35c47a8699eb1389

とね日記賞の発表!(2011年): 物理学賞、数学賞、他
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/27bc2b5eafa9334dae11d92e90c69b0d

とね日記賞の発表!(2012年): 物理学賞、数学賞、他
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b4ce3d8c7d90d5b95bf6ab826cc7d93f

とね日記賞の発表!(2013年): 物理学賞、数学賞、他
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/35a258d08776ca6964cc70764cc1f5a8


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電気通信物語―通信ネットワークを変えてきたもの:城水元次郎

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電気通信物語―通信ネットワークを変えてきたもの:城水元次郎

内容紹介:
通信技術の変遷を、技術史、事業史というよりも、社会動向と関連した社会史的な流れとして捉え、2世紀にわたる電気通信の流れを物語仕立てで構成し、自ら研究開発に従事した著者ならではの多くのエピソードを交えながら紹介。2004年刊行、326ページ。

著者について:
城水元次郎(しろみず・もとじろう)
昭和27年東京大学工学部電気工学科卒業。電気通信省電気通信研究所入所。昭和61年日本電信電話株式会社常務取締役研究開発本部長。平成元年富士通専務取締役。平成4年富士通インターナショナルエンジニアリング取締役社長。平成11年同社常任顧問退任。平成12年富士通株式会社顧問退任。日本学術会議第13、14期会員。電子情報通信学会名誉員。2010年没。


理数系書籍のレビュー記事は本書で264冊目。

本書は11月はじめに開催された「神保町ブックフェスティバル」のオーム社のワゴンセールで買ったものだ。その日はこの本が10冊ほど並べられていた。

読んで大正解。これほど胸がときめいた本は久しぶりだった。ペリーが浦賀に来航したとき電信機を持参していたなんてまったく知らなかったし。電信機だけでなく4分の1スケールの蒸気機関車の模型も黒船には積まれていたそうだ。1854年に横浜で行われた電信の実演の様子は本書にこのように書かれている。

電信の実演のために応接所と地元役宅間に約1マイルの電線が張られ、ペリーが帯同した2名の民間技師により操作が行われた。ペリーは遠征記にその状況を告ぎのように記している。「両端にいる技術者の間に通信が開始されたとき、日本人は烈しい好奇心を抱いて運用法を注意し、一瞬にして消息が英語、オランダ語、日本語で建物から建物へと通じるのを見て大いに驚いた。毎日毎日役人や多数の人が集まって技手に電信機を動かしてくれるようにと熱心に懇願し、通信が往復するのを絶えず興味を抱いて注意していた。」

ペリー提督が献上したエンボッシング・モールス電信機(有線の電信機)


詳細はこのページに書かれている。

NTT東日本:黒船とともに“電信”は日本へとやってきた
http://www.ntt-east.co.jp/business/magazine/network_history/05/


この逸話から本書刊行の2004年までの200年にわたる日本と世界の電気通信の歴史が本書ではこと細かに語られる。それは科学史や技術発展史が書かれているだけでなく、電気通信の変遷がどのように通信事業や国家に影響を与えたかについても書かれている。この記事の最後に詳細目次を載せておいたが、ひとつひとつがプロジェクトXであり歴史秘話ヒストリアなのだ。本書を使ってこのような番組を作ったら、おそらく3年ぶんの放送になることだろう。

理論では正しくても、それを実践する過程でさまざまな問題に直面していたのだ。現代の視点で見ると問題が起きていたことが想像できないだけに、あらためてその重要さに気づかされる。そして昔の技術者たちががどのように問題解決したかを知ると「なるほど~」とうならされるのだ。

本書は話題が盛りだくさんで全部紹介することはできないから、僕が「へぇ~、すごいな~」と感動した話をいくつかピックアップしておこう。


1)モールス電信機と江戸幕府

ペリー提督が行った有線のモールス電信機のせっかくのデモンストレーションは、幕府の役人の関心はひいたものの、時の将軍徳川家定は服喪中だったため将軍の目には触れることはなかったそうだ。ペリーのデモンストレーションは日本初ではなかった。来航の4年前の1849年に松代藩の佐久間象山が60メートルの電線をとおして電信の実験をしている。その後も幕府や各藩で電信の実験が行われたかが、幕府はその導入には動かなかった。信書の通信手段として幕府が開設した飛脚制度には、民間の町飛脚も加わりそれなりに充実しており、諸侯による分割統治の封建制度下では、電信の速さの期待よりも扱者の介在による内容の漏洩が危惧されたからだ。

しかし、電信機や蒸気機関車など当時の先進技術はアメリカや西洋の技術力を幕府に見せつけることになり、開国の後押しをしたことは間違いない。

あと「鉄道を安全に運行するためには電信が不可欠である。」という説明にも僕ははっとさせられた。事故がおきたり犯罪者が途中駅から乗り込んだりした場合、その情報を各駅や警察に即座に伝える必要があるからだ。今ではすぐ連絡するのが当たり前になっているだけに、たとえモールス式とはいえ電信の重要性にあらためて気づかせられたのだ。

また1871年にはじまったアメリカの南北戦争で北軍が勝利できたのも全米に張り巡らせた電信網を使って各地の戦況を中央の司令部で把握していたからである。(参照:「南北戦争の信号司令部」)

(有線)電信の歴史
http://www.kogures.com/hitoshi/history/tushin-morse/index.html

電信の歴史
http://www.geocities.jp/hiroyuki0620785/intercomp/molstelegraph.htm


2)世界初の海底ケーブルとその発展

世界初の海底ケーブル電信は英仏海峡を挟んでドーバーからカレー間で1850年に行われた。また大西洋海底ケーブルが敷かれて初の電信が行われたのは1857年のことでビクトリア女王とアメリカ大統領ブキャナンの間で祝電が交わされた。当時の技術では海底ケーブルを敷くのはとても大変なことで簡単に切れてしまい何度も失敗を重ねた末のことだった。しかしこの成功はつかの間にすぎず、敷設したケーブルの特性が悪く不安定だったため、信号を強めるために加えた高電圧により絶縁が破壊され2ヵ月後には完全に不通になってしまった。

その後、何度も海底ケーブル敷設が試みられたが1860年までは成功よりも失敗したほうが多かった。このためイギリス政府とAtlantic Telegraph社の合同委員会が作られ問題を根本から検討することとなり、当時の著名な電気関係の技術者、学者によりケーブルの機械的強度、伝送特性などについて理論的解析が加えられ、10カ月におよぶ検討により500ページの報告書にまとめられた。これは当時の科学知識に関する貴重な記録である。

何度も失敗を繰り返したのち、1865年にはイギリス-インド間の電信が開通し、19世紀末までにイギリスは世界中に海底ケーブルを張り巡らせることができた。ビクトリア女王治世下の大英帝国の時代にである。幕末から明治維新にかけて日本ではようやく電信を陸上で試し始めた時期に海底ケーブルなどというとてつもない大事業に挑戦していたとは。そのギャップに驚かされるわけである。

しかし、なぜイギリスがこれほど厖大な出費をしてまで海底ケーブルを全世界に敷設したのだろうか?それは植民地政策と密接にかかわっている。世界中の植民地の状況を短時間のうちに知り、必要な手立てをとることが非常に重要なことだったからだ。モールス信号による海底ケーブルの誕生はニュースとビジネスの情報伝達に革命をもたらし、通信社が発足し各地の出来事を数分後には伝えてくるようになり、商人は電報により品物を売買し遠くの港から船で荷を運ばせた。もちろん軍事的にも優位に立つことができる。

ゴムの被膜の海底ケーブルは長期間海中に放置すると絶縁が切れてしまう欠点があった。そこで利用されたのがガタパーチャという暖めると可塑性を持ち、常温では凝固する樹脂である。このガタパーチャの産地マレー半島をイギリスが領有していたことがこの国を海底電信で優位に立たせる一因となった。

1900年イギリスの代表紙 Daily Express が発刊され「地球上のいかに遠い所で起こる出来事でもDaily Expressは直ちにその詳細を手に入れることができる。」と豪語したが、情報大国の自負を示す言葉である。


3)無線電信機と日本海軍

電磁波の存在は1864年にマクスウェルの「電磁波の理論」により発表され、1888年にヘルツの実験によって実証された。そしてマルコーニによって無線電信機が実用化されたのが1895年のことである。

イギリスが世界中に海底ケーブルを張りめぐらせたことは、世界各国でケーブルの揚陸権を独占することにつながり、電信の世界進出を目指す国々にとって大きな制約になった。これがこれらの国々が無線電信を推し進める結果となった。

日本で無線電信の研究が始まったのはマルコーニの無線電信実験の翌年1896年(明治31年)のことである。3年のうちに80海里(約150Km)の到達距離を持つ船舶用無線電信機の開発を目標としていた。その結果開発されたのが三六式無線電信機で、日露の開戦前に艦船や陸上施設に配備された。この無線機は600Wの電力でマストに張った30mのアンテナにより、条件がよければ370Kmまで届いたという。

日本海海戦(1905年)でロシアのバルチック艦隊を撃破して日露戦争に勝利をおさめることができたのも、遠距離通信可能な無線電信機が軍艦に配備されていたことによるのだ。

固定電話しかなかった小学、中学生時代、無線機やトランシーバーはあこがれのアイテムだった。大人になった今でもワイヤレスマイクやモールス無線機を電子工作で作ってみたいと思うほどである。(今の子供たちはそういうことを思わないのだろうけれど。)本書のこの節を読んでいるうちに無性に「電鍵」が欲しくなった。ヤフオクで入札してみたのだけれども結局負けてしまい購入には至らなかったわけであるが。興味のある方はここをクリックして検索してみるとよいだろう。



無線の歴史
http://www.kogures.com/hitoshi/history/tushin-musen/index.html

4)電話交換手と交換台

固定電話サービスの誕生と発展の物語は特に面白かった。NHKの「花子とアン」にも東京に住む花子と話をするために甲府の実家に電話機が設置されたシーンがあった。私たちはとかく電話機のほうに目がいきがちだ。しかし、電話線がつながった先ではどのような装置があり、どのようなことが行われていたのだろうか。そのように想像すると楽しくなる。加入電話のシステム全体も明治から昭和に至るまで飛躍的な進化を遂げている。携帯電話が普及した今ではほとんど意識されることがなくなった固定電話サービスのしくみも技術革新の積み重ねの末に完成したものだ。

まず僕が興味をもったのは電話交換手や交換台だ。明治期の電話にはダイヤルがついていず、受話器から「東京の○○番につないでください。」と交換手に依頼する。すると交換台の前にいる交換手は電話線を通話先につなぐわけだ。電話サービスは一度にたくさんの人が利用するものだから、加入者数が増えるにしたがって交換手の仕事は忙しくなる。もちろん24時間交代勤務だ。加入者数は明治36年末には14000になり、大正2年末には東京の8つの電話局には2000人の交換手がいたが、毎年300人は超繁忙の業務から辞めていったそうである。

大正10年には東京の電話は12局、加入者数7700に、交換手は5000人に達した。交換手不足に悩む電話局は希望する小学生を夏休みに集めて訓練し、卒業するとただちに見習い生に採用し、養成機関3カ月を経て実務に就かせたという。まだ肩上げの取れない者、ジャックに届かせるためにぼっくり下駄を履かせた少女の姿が見受けられ、交換手の5分の1は14歳未満、年間退職者は3000名で平均勤続年数は1.1年だったそうだ。東京の電話局は4局を残して新しい共電式に変更が進んでいたが、サービスの主役の交換手の雇用は深刻な労働問題になっていた。

1人の交換手の前にある交換台にはおよそ100個のジャックがあったそうだ。加入者数の増加は交換台の増加を意味し、横一列に交換台がずらりと並ぶことになる。つなぎ先のジャックが遠くにあるときはどうつなげばよいのだろう?当時の技術者はこれをどのように解決したのだろうか?これは自然に湧いてくる疑問だ。本書を読む愉しみは、このような疑問を自分で考えながらその解決方法を読んで「ああ、なるほど!」と納得していくことにある。それにしても通話料の課金はどのように処理していたのだろう?興味は尽きない。

その後、ダイヤル式の電話機が開発され交換台は次のように自動交換機に置き換えられ、交換手の仕事はなくなっていった。

1926年(大正15・昭和元年)日本初の自動交換方式
日本では、1923年の関東大震災の復旧をきっかけに自動電話交換機が採用された。その後、逐次自動化されていくが、当初は市内電話に限られており、市外電話にまで採用されるようになったのは戦後かなりたってからである。
1965年 東京と全国道府県庁所在地相互間のダイヤル市外通話開始
1979年 全国の電話自動化が100%完了

余談:僕の母は昔から少し天然が入っていて、たまにとんでもない発言をする。つい先日も母の携帯電話をスマホに変更しようかという話をしていたところ、「そういえば、今は電話交換手の人の仕事はどうなってるのかしらねぇ?募集してるのかしら?」などと言っていた。僕はドコモの電話局で働いている大勢の交換手の人たちの様子を想像して笑ってしまった。母は昭和8年生まれである。

国産1号電話機:明治11年(1878年):ベルが電話を発明した2年後


電話交換手と交換台


固定電話の歴史
http://www.kogures.com/hitoshi/history/tushin-denwa/index.html

動態展示用として復元に成功!「磁石式手動交換機」
(昭和54年(1979年)に電話の全国完全自動化にいたるまで、農村・山村などの小局用標準交換機としてひろく使用されました。)
http://www.hct.ecl.ntt.co.jp/about/ob_07.html

電話のつながるしくみ(NTT西日本)
http://www.ntt-west.co.jp/kids/shikumi_phone/


5)電話線の問題

これは僕にとって思いもつかないことだった。電話の加入者が増えるにつれて電話局に集まる電話線も増えるはずである。アメリカにおいて加入者宅の電話機を交換台に結ぶ電話線は1880年代の半ばには往復2線形式を採るようになり、硬銅の裸線を電住に添架した架空線が用いられていた。電話が普及すると街の中には多数の電線を乗せた電柱が並び、日光を遮り街の景観を損なった。市民の反対が繰り返され、1884年ニューヨーク州議会は人口50万以上の都市では電話線を地下に埋設することを法制化し、シカゴ、ワシントンでも同様な動きがあった。電話会社にとっても電話局に多数の電話線が集中し、次第にその収容が厄介になった。また電話線保全の面では、冬ともなれば電線には氷雪が付着し倒壊、切断など、北部の都市では毎冬数日のサービス中断は常であったという。

まるで冗談のような話だ。しかし電話加入者数が増えれば電線が密集するのは当然のことであり、いったん張り巡らした電線を地下に移設することは並大抵のことではなかっただろう。僕は思わず家の周りの電柱や電線を見上げてしまった。邪魔ではあるが、案外うまく整理されて張られている。電柱の上にも僕の知らないいろいろな技術が使われているのだろうと思った。

ただし日本での状況はニューヨークとは異なっている。電話線を地下に敷設するか電柱の上に張るかは地域によって異なる。例えば我が家のある東京都中野区の電話線は電柱の上だ。ではなぜ電話線は19世紀末のニューヨークのように蜘蛛の巣状態になっていないのだろうか?その解決策も本書で紹介されている。

1887年のニューヨーク


19世紀のニューヨーク、街中に張り巡らされた電話線がすごい
http://www.gizmodo.jp/2014/03/19_7.html


6)長距離電話の話

電話線の次は長距離通話の話である。「マイラインやマイラインプラス」のサービスが開始された2000年の頃は県外にかける通話料金が高かったことを思い出した。今では全国一律3分8円くらいでかけられるし、LINEを使えば海外通話だって無料でできる。通話料金の値下げは1989年に始まり、東京-大坂間の例では1985年には3分400円だったのが1993年には3分170円まで下がっていた。(それでも今と比べると高すぎる。)

でもここで触れておきたいのは料金の話ではなく長距離通話技術の話である。本書で「1880年代のアメリカの電話会社の次の課題は通話距離の延伸である。」という文を読んだとき僕はハッとした。そうか、電話線を延ばすだけでは長距離通話はできないのだ。電話線の中で電流は減衰するし、エジソンが発明した電灯の普及により電力線からの電磁誘導による妨害を電話線が受けるようになっていたからだ。電磁誘導による妨害の問題は電話回線を構成する2本の導線をある間隔ごとに交叉させて位置を替え、電磁誘導の影響を相殺する工夫がされた。ケーブル内の心線も対ごとに撚って隣接心線からの影響を避けた平衡対撚ケーブルにして問題解決した。

電流の減衰の問題は電流を増幅することによって解決できる。そう、この時代にはまだ三極真空管は発明されていなかったのだ。エジソンが白熱電球の実験に成功したのが1879年、三極真空管は1907年にド・フォレーによって発明された。しかし実際に使える長寿命の三極真空管が作れるようになったのは1913年頃のことである。この真空管を電話の中継局に使うことでようやく長距離通話ができるようになったのだ。その後、三極真空管はウィリアム ・ショックレー、ウォルター・ブラッテンによって1956年に発明されるトランジスタに置き換えられていくわけである。

三極真空管アンプ


真空管とトランジスタのイメージ
http://our-house.jp/tube%20and%20tr/


7)自動交換機の進歩

親に聞いたところ我が家に電話回線が引かれたのは僕が2歳のとき、1964年のことである。物心がついたときにはすでに家には黒電話があり、大学生になるまでずっとこの電話機が使われていた。大学2年のとき自分の部屋に専用の固定電話を引いてマイクロカセットテープに録音するプッシュホンを設置して友達と長電話を楽しんだ。この電話番号は今でも使っている。

我が家の電話機の変遷はせいぜいこの程度だが、この期間に電話局の自動交換機はのほうはものすごい進化を遂げていたのを本書を読んで知った。この部分はとても興味深く読むことができた。大まかな流れは次のとおりである。

1900年頃~:ストロージャ式スイッチ(交換機)
中心軸の可動接点と円筒形に配置された固定接点群が基本通話路となる。

Strowger Switch
http://people.seas.harvard.edu/~jones/cscie129/nu_lectures/lecture11/switching/strowger/strowger.html



1920年頃~:ステップ・バイ・ステップ交換機
回線の接続を機械で自動化した。



1960年頃~:クロスバ交換機
縦棒と横棒を組み合わせた接点で、交換機を小型化。



1970年頃~:電子交換機
接続をコンピューター制御で行い、より高速に、より確実に、より大量に処理できるようになった。 ただし通話の音声信号はアナログ。

1980年頃~:デジタル交換機
制御信号も、音声信号もデジタルに。きれいな音で会話できるようになった。

言うまでもなく電話のシステムは大勢の人が同時に使うサービスである。ストロージャ式からクロスバ交換機までのように機械式の交換機のしくみなど僕にはとても想像がつかない。エレクトロニクス技術の発展の前にものすごい機械技術の発展があったことに感動した。キャッチホンサービスや三者通話ができるようになったのはどの交換機からだったのだろう?とか、通話時間の記録や課金処理はどのようにして組み込んだのだろうか?など想像は膨らむ一方である。

次の動画には脱帽した。黒電話を使うために交換機を自作した人がいるのだ。そしてこの動画にはなんと続きがある。こういうことができる人になりたいと僕は思った。



自動で電話をつなぐ(NTT西日本)
http://www.ntt-west.co.jp/kids/shikumi_phone/rec02.html

自動交換機の進歩
http://www.hct.ecl.ntt.co.jp/exhibitions/panel/tech_a.html


8)テレビ技術、テレビ事業の発展

2004年に刊行された本なので解説されているのはアナログテレビの技術発展史である。電気通信の歴史の本なのでテレビ受像機ではなく放送技術、中継技術、テレビ事業発展の話が中心だ。海外や国内、国際間のテレビ伝送路網の形成などにが時代の流れに従って解説されている。

テレビの歴史年表
http://cozalweb.com/ctv/shiryo/rekishi.html


9)インターネット前史

ARPANETが誕生するまでの話、ARPANET誕生からインターネットの発展史がとても詳しく解説されいる。僕は社会人になってからずっとIT企業に身を置いているので、インターネットの発展史はひととおり知っていたが、ARPANETの誕生前のことやARPANETの開発過程についての知識はあまり持っていなかった。NTTのISDNの話も開発側の視点から書かれていて知らないことがほとんどだ。回線速度が64Kbpsや128Kbpsの時代である。自分のネット環境、PC環境を思い起こしながらなつかしく読み進むことができた。国際間のインターネット回線の方式の変遷史も詳しく紹介されている。

インターネットの歴史(概要)
http://www.kogures.com/hitoshi/history/internet/index.html


10)インターネットサービスの競争、携帯電話サービスの競争

インターネット回線業者、プロバイダサービスの競争史、CompuServeやNiftyServeなどのパソコン通信の話である。1990年代はダイヤルアップ回線でインターネットに接続していた時代。今はもう無い会社やサービスの名前を目にすると「ああ、そういう会社があったなぁ。」と思うと同時に、この業界の競争と変化が激しかったことを実感することになる。

また携帯電話機やサービスについても同様で、自動車電話システムやショルダー型の携帯電話がシステムとしてどのように構成されていたか、その後携帯電話はどのような変化をとげていったかが解説されている。NTTドコモのiモードのサービスは1999年2月に開始された。当初は小さい画面で文字だけの表示だったというのはもはやノスタルジーであるのだが、本書の立場から言えばその時代を象徴する通信とインターネットを融合させる技術革新だったわけである。

パソコン通信の歴史
http://www.kogures.com/hitoshi/history/pc-tushin/index.html

携帯電話の歴史
http://www.kogures.com/hitoshi/history/keitai-denwa/index.html


著者の城水元次郎氏は昭和27年に東京大学工学部電気工学科を卒業されて以来、日本の通信技術の発展、特にクロスバ交換機の研究開発に貢献され、富士通専務、NTT常務にまでなられた方である。単行本としてお書きになったのは本書1冊だけだ。ご自身の通信技術者人生で知りえた知識とご経験が凝縮された渾身の1冊なのである。

城水元次郎氏


残念なことに4年前に81歳で他界され、日本工学アカデミーのサイトには次のような文章で紹介されている。

「城水さんは1952年東京大学工学部電気工学科を卒業され、電気通信省電気通信研究所に入られました。当時通信の最大のプロジェクトであったクロスバ交換方式の研究開発を担当されました。特にC400クロスバ交換方式は世界に冠たる優れた方式で、わが国の電話交換網の大幅な経済化を達成しただけでなく世界各国に輸出されました。次に電子交換方式の開発に当たられました。継電器を全く使わない加入者回路を世界で初めて開発して、わが国のデジタル電子交換方式を完成されました。その後武蔵野研究所長、横須賀研究所長を歴任した後、研究開発本部長になられてデジタル網の開発の指導に当たられました。電電公社が民営化されると常務取締役に就任されました。1988年NTT(株)を退職し富士通(株)に入られました。翌年には専務取締役になられ、主に海外事業に大きな努力を払われました。さらに1992年には富士通インターナショナルエンジニアリング社の社長に就任されました。日本工学アカデミーでは理事として貢献されました。」


このような本を読むと、自分はほとんど何も知らずに生きてきたということに気が付かされる。僕は今年、iPhone6に機種変更してiPadデビューもした。本書が刊行されて10年のうちに携帯電話は端末だけでなくサービス全体を含めてさらなる進化を遂げている。ここに至るまでにどのように技術革新のための努力が払われてきたのか多くの人に知ってもらいたい。本書は理数系の人だけでなく広く一般の方々にも読んでもらいたいのだ。


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電気通信物語―通信ネットワークを変えてきたもの:城水元次郎



第1部:世界をつないだ電信網

- ペリー来航と電信機―夜明け前の日本電気通信
- モールスの電信機―データ通信から始まった電気通信
- 電信、電報の普及―電信の国営化とウェスタン・ユニオンの創立
- 海底ケーブルの出現―電信のハイウェイとなった海
- 世界を結ぶ電信線―七つの海を制した英国電信網
- 黎明の日本無線通信―国を救った無線電信機

第2部:家庭に浸透した電話サービス

- 電話機の誕生―グラハム・ベルとトーマス・エジソン
- 交換サービスの提供―交換扱者の物語
- 線路・伝送技術の進展―より遠くへ大陸横断
- 交換機の自動化―電磁機構による交換機の開発
- ベル・システムの進展―大経営者セオドア・N・ヴェイル
- 伝送路網の全国展開―伝送路の多重利用
- 国際通信の進展―無線電話と海底同軸ケーブルの誕生
- テレビ伝送路網の構築―同軸ケーブルとマイクロ波無線の競合
- 全国電話網の構築―全国自動即時化への道
- クロスバ交換機の誕生―通信機メーカーの興亡

第3部:高度化、多様化する電話網

- 電話サービスの高度化―電子交換機の誕生
- 交換機とコンピュータ―通信と情報処理技術の融合
- 衛星通信―新しい通信手段の実現
- ディジタル化の流れI―交換と伝送技術の統合
- ディジタル化の流れII―ディジタル交換機の競争とアクセス網の成立
- 光通信の誕生―レーザの発明とシリコンファイバの低損失化
- 光通信の普及―シリコンファイバによる通信の大動脈
- 通信の自由化―ベル・システムの解体と通信事業の再編
- 携帯電話の世界―本領を発揮した移動通信

第4部:新しい通信、インターネット

- 記録通信からデータ通信へ―パケット網・ISDNの誕生
- インターネットの台頭―ARPANETの誕生
- インターネットの形成―ネットワークをつないだもの
- インターネットの普及―新しい通信の誕生
- インターネットと電話―通信体系の変貌
- IT時代の本質―産業のソフト化と産業形態の変革

あとがき
索引

電子書籍化:ご冗談でしょう、ファインマンさん〈上〉〈下〉(岩波現代文庫)

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岩波書店もついにAmazon Kindle版についても電子書籍化に踏み切った。その第1弾にはお気に入りのこの本が含まれている。取り急ぎお伝えしておこう。岩波書店には「ファインマン物理学、全5巻」も含め、たくさんの理数系書籍があるからどんどん進めていただくことを期待している。

ご冗談でしょう、ファインマンさん〈上〉」(Kindle版
ご冗談でしょう、ファインマンさん〈下〉」(Kindle版

"Surely You're Joking, Mr. Feynman!": Adventures of a Curious Character」(Kindle版

  

内容紹介:
R.P.ファインマンは1965年にJ.S.シュウィンガー、朝永振一郎とともにノーベル物理学賞を授賞した天才的な物理学者である。こう書くと「理数系が苦手」な人は逃げ出したくなるかもしれないが、そんな人にこそ本書を手にとっていただきたい。

本書は20世紀を代表する天才物理学者の自伝ではない。R.P.ファインマンという人生を楽しむ天才から我々への贈りものである。
「ファインマンと聞いたとたんに思い出してもらいたいのは、ノーベル賞をもらったことでもなければ、理論物理学者であったことでもなく、ボンゴドラムでもマンハッタン計画でもない。僕が好奇心でいっぱいの人間であったということ、それだけだ」といつも言っていた(下巻訳者あとがきより)。

「なぜだろう?」といつも好奇心いっぱいの子どものように世界を見て、いったん好奇心をひかれたらそれに夢中になり納得のいくまで追求する。彼は一切の虚飾と権威を嫌い、相手がそれをかさに着ているとみるや容赦しなかった。それは、そのような態度が、楽しいはずの真実の探求を邪魔する厄介なものだったからである。

上巻では、彼の少年時代、物理学者としての修行時代、また駆け出しの物理学者として携わったマンハッタン計画から終戦を迎えるころまでのエピソードが収録されている。どの時代においても彼はその状況を最大限楽しみ、そして、決して流儀を変えなかった。
自分が理系か文系かなんて関係ない。もし少しでも本書に「好奇心」を持ったなら、ぜひ一読をおすすめする。

本書の上巻では若く初々しかったファインマンの姿に触れることができるが、下巻では、成長したファインマンが1人の「物理学者として」物理のみならず社会や芸術とかかわってゆくさまに触れることができる。

どんなに権威者になっても(彼はそう呼ばれるのを何よりも嫌ったが)、彼は決して物理学者としての誠実さを変えることはなかった。サバティカルでブラジルの国立研究所に滞在した彼は「教科書を丸暗記するだけ」の物理の大学教育に業を煮やし、ブラジルの「お偉方」の大学教授たちの前で「この国では科学教育が行われていない」と言い放った。またあるときは、学校教科書の選定委員としてすべての教科書に目を通し、教科書の内容が科学的誠実さを欠いているのを真剣に怒り、他の委員たちと闘った。

彼の信条でもある「好奇心」は年齢を重ねてもとどまる所を知らず、カジノではプロの博打うちに弟子入りしたり、ボンゴドラムでバレエの国際コンクールの伴奏をしたり、また、幻覚に強い興味を持った彼は、旺盛な好奇心からアイソレーションタンク(J.C.リリーが発明した感覚遮断装置)にまで入ってしまう。彼は他人のことなど気にとめず、素直な心で物事を見つめ、興味をひかれたらそれに夢中になる。彼は何より人生を楽しみ、人生を愛していた。

そんな彼の書いた本書に触れていると、いろんなことを話したくってうずうずしている彼が、目を輝かせて楽しそうに自分に向かって話しかけてくれているような気分になる。そんな気分にさせるのは、大貫昌子による素晴らしい訳のおかげでもあろう。訳者はファインマンと親交があり、彼に相談しながら翻訳作業を行っているため、原文の持ち味が十分に表れている。


上巻の目次

まえがき
はじめに
僕の略歴

1 ふるさとファー・ロッカウェイからMITまで
- 考えるだけでラジオを直す少年
- いんげん豆
- ドア泥棒は誰だ?
- ラテン語?イタリア語?
- 逃げの名人
- メタプラスト社化学研究主任

2 プリンストン時代
- 「ファインマンさん、ご冗談でしょう!」
- 僕、僕、僕にやらせてくれ!
- ネコの地図?
- モンスター・マインド
- ペンキを混ぜる
- 毛色の違った道具
- 読心術師
- アマチュア・サイエンティスト

3 ファインマンと原爆と軍隊
- 消えてしまう信管
- 猟犬になりすます
- 下から見たロスアラモス
- 二人の金庫破り
- 国家は君を必要とせず!

4 コーネルからキャルテクへ ブラジルの香りをこめて
- お偉いプロフェッサー
- エニ・クウェスチョンズ?
- 1ドルよこせ
- ただ聞くだけ?

下巻の目次

4 コーネルからキャルテクへ ブラジルの香りをこめて(続)
- ラッキー・ナンバー
- オー、アメリカヌ、オウトラ、ヴェズ
- 言葉の神様
- 親分、かしこまりました!
- 断わらざるを得ない招聘

5 ある物理学者の世界
- 「ディラック方程式を解いていただきたいのですが」
- 誤差は7パーセント
- 13回目のサイン
- 唐人の寝言
- それでも芸術か?
- 電気は火ですか?
- 本の表紙で中身を読む
- ノーベルのもう1つの間違い
- 物理学者の教養講座
- パリではがれた化けの皮
- 変えられた精神状態
- カーゴ・カルト・サイエンス

訳者あとがき
文庫版あとがき
解説 とらわれない発想


ファインマン先生関連のKindle版書籍を: 検索してみる

その他、Kindle版の岩波書店の本を: 検索してみる


関連記事:

ファインマン先生の自伝本と講演本
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9bf47cf51085c74caf34a11068a17285

ファインマンさんは超天才: C.サイクス
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a24a4abb37c19dfd9118c8ea63de649d

ファインマンさんの流儀:ローレンス M.クラウス著、吉田三知世訳
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9ec9faa4bd78881bd1986bf7773cc390

ファインマン物理学: 英語版とフランス語版
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1dbcd1e1b02616ef1363ced99a912072

ファインマン物理学(英語版)が全巻ネット公開されました。
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e94dd49d7d8cc395e29d37927e30173d

The Feynman Lectures on Physics: The New Millennium Edition
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cb58141ade509fb63952d49ef57c70c7

ファインマンの経路積分に入門しよう!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0f47de5854daf4eb38339a73791544a8

量子力学と経路積分:R.P.ファインマン、A.R.ヒッブス
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2b9d934a542cf04be54cbede8b16ecde

ファインマン計算機科学:ファインマン, A.ヘイ, R.アレン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4f7f453019fd463ed2bfdeaa7b288d79


The Feynman Lectures on Physics, boxed set: The New Millennium Edition



ファインマン物理学 I 力学」(1986)
ファインマン物理学 II 光・熱・波動」(1986)
ファインマン物理学 III 電磁気学」(1986)
ファインマン物理学 IV 電磁波と物性〔増補版〕」(2002)
ファインマン物理学 V 量子力学」(1986)


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現代数学への招待:多様体とは何か:志賀浩二

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現代数学への招待:多様体とは何か:志賀浩二

内容紹介:
「多様体」は今や現代数学必須の概念。「位相」「微分」などの基礎概念を丁寧に解説・図説しながら、多様体のもつ深い意味を探ってゆく。
多様体とは何か?数学が抽象化した今日において、それを定義することはむしろ簡単なことである。しかし、現代数学のほとんどすべてが多様体という“場”のうえで展開している、という事実のもつ意味を、定義が教えてくれることはない。多様体の意味に迫ること、それが現代数学を理解する近道なのだ。本書は「位相」や「微分」といった基礎概念を詳しく説明しながら、初学者に寄り添った丁寧な語り口で一歩ずつ、多様体の本質へと近づいていく。図版を多用しつつイメージ豊かに語った、定評ある入門書。 2013年刊行、301ページ。

著者について:
志賀浩二
1930年、新潟県生まれ。東京大学大学院数物系数学科修士課程修了。東京工業大学名誉教授。理学博士。一般向けの数学啓蒙書を多数執筆しており、第1回日本数学会出版賞を受賞。


理数系書籍のレビュー記事は本書で265冊目。

多様体は今や現代数学で必須の概念であるだけでなく相対性理論、量子力学、素粒子物理学、超弦理論などの理論物理学を学ぶ上でも必須である。

大学の数学科では学部後半から大学院で学ぶ多様体の考え方を高校卒業程度の一般読者にもわかるように言葉や図版を尽くして順を追って解説する画期的な入門書である。多様体は入門レベルの教科書「多様体の基礎: 松本幸夫著」で学んでいたが、本書を読んでみてまさに名著と呼ばれている理由がよくわかった。本書は1979年に岩波書店から刊行されていた本が昨年ちくま学芸文庫から復刊したものである。

画像クリックで拡大する。(参照:「大学で学ぶ数学とは(概要編)」)



本書を読む前提として「高校卒業程度」と書いたが、より具体的に言えば高校の数IIIまでの内容と大学の初年度で学ぶ線形代数が必要になる。線形代数が未習の方は本書と同じちくま学芸文庫から出ている「ラング線形代数学(上) 」、「ラング線形代数学(下) 」で学んでおくとよい。これも名著である。またそこまで時間のとれない方は志賀先生の「線形代数30講」をお読みになるとよいだろう。

多様体と聞いても初学者には何のことなのかさっぱりわからないと思う。言葉だけで説明しようと僕は何度も考えてみたが、数式抜きに多様体を説明することに成功していない。ひとことで言えば「多様体とは滑らかで曲がった多次元空間」、「いくつも穴があいていることもある」というわけなのだけどその後が続かない。

本書を読んではっきりとわかったのは志賀先生による本書での説明がいちばんわかりやすく、それ以上のことは数式抜きに説明不可能であることが納得できたのだ。本書で位相空間から位相多様体、そして多様体へと順を追ってイメージ豊かに進む解説をたどるうちに読者は確実に多様体を自分のものとして捉えることができるようになる。「物理数学の直観的方法〈普及版〉 (ブルーバックス):長沼伸一郎」のように直観的な理解を大切にした本なのだ。


本書の流れは「位相空間」→「位相多様体」→「多様体」である。「位相空間」は集合論を使って定義される抽象空間であり本書では「近さの場」であると説明されている。位相空間には距離や座標の概念さえ存在せず、初学者には極めてとらえどころのないものと映るだろう。つまり位相空間は空間というもののルーツを極限までさかのぼって定義される「原始空間」である。座標や次元もないから「形」というものすら存在しない。

そのような抽象的な空間の中にも私たちの直観に合致する最低限の常識的な概念、すなわち「点を含む領域」や「近さ」というものを導入する。その結果導かれる「ハウスドルフ空間(分離公理)」や「ウリゾーンの定理」の段階を経て、この抽象空間は徐々に現実味を帯びてきて私たちが実感できるユークリッド空間の中に置いた「モニター」を通じて観測可能で滑らかな空間、多様体が現れ始めるのだ。抽象空間から計量可能な現実空間が段階を経て生まれてくること、その現実空間に関数や微分、積分など解析学の概念がどのように生じてくるかを目の当りにすることができる本である。これは高校までの数学とはまったく違う現代数学の世界だ。

一般向けの入門書であるから本書で多様体のすべてを学べるわけではない。後述する目次からお分かりになるように学べるのは多様体の「接空間と接束」、「余接空間と余接束」、「射影空間」、「微分構造」、「はめこみとうめこみ」、「ベクトル束」、「ベクトル場」あたりまでだ。「葉層構造」についての解説もあったのには少し驚いた。「ファイバー」や「ファイバー束」については少しだけ触れられている。

入門書とはいっても教科書を超える記述も含められている。1940年以降に発見された多様体をめぐるいくつかの興味深い発見も盛り込まれているのが本書の魅力を際立たせている。4次元以上の高次元空間、高次元多様体のとりうる形というのは私たちの直観を裏切る形で存在していることがわかっており、それぞれの次元で特有の個性を持っている。その奇妙奇天烈な世界の解明は始まったばかりなのだ。

奇妙奇天烈な世界の例として本書では7次元球面における「エキゾチックな球面」や「ホイットニーによる埋め込み定理」、「アダムスの定理」など高度な話題も解説している。ふつう教科書は証明可能なことだけ載せるので、このように超難解な事柄が入門レベルの教科書で詳しく解説されることはまずないのだ。


実をいうと本書は次に紹介しようと思っている「カラビ-ヤウ多様体」について解説している科学教養書の準備として読んだのだ。一般読者レベルでも多様体のことを知っていればその本が理解しやすいとアマゾンのレビューに書いてあったからだ。その本を読むのも楽しみだが、差し当たり今回の「現代数学への招待:多様体とは何か:志賀浩二」にも大満足である。本書を終えてもっと本格的に学んでみたい方、位相空間や位相幾何学(トポロジー)にも興味がでてきた方は、以下の関連記事で紹介した本をお読みになるとよいだろう。

なお、本書前半の位相空間について教科書レベルより易しい本をご希望の方には志賀先生の「数学30講シリーズ」のうちの「位相への30講」を、後半の多様体については「ベクトル解析30講」をお勧めしたい。


関連記事:

多様体の基礎: 松本幸夫
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a372a9ed92d55474cdbbb707922dc353

はじめよう位相空間:大田春外
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/98d355dcb790031607d752984929fe3d

解いてみよう位相空間:大田春外
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/008e49c402513499938c41f8e7083d7a

位相への30講:志賀浩二著
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c474251f13ab5f1cb6468c18f809fd07

幾何学の基礎をなす仮説について:ベルンハルト・リーマン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/22be602fe4cee385a9939c0869c511eb

エキゾチックな球面: 野口廣
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b3f1abb0ae2b139d53580261b22b9c87

トポロジーの世界: 野口廣
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bae2cc71e524efff59ce2e11aa41e2c1

トポロジー―基礎と方法: 野口廣
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/800644c256bbf68263b1d87928a43e11

増補新版 4次元のトポロジー:松本幸夫
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/286e47e23e3dc4d1c6596d19c78720e5


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現代数学への招待:多様体とは何か:志賀浩二



はしがき

第1章:自由な世界へ
- 実数から高次元の世界へ
- 球面を中心として
- 座標について

第2章:近さの場(位相空間)
- 距離の概念
- 近さの概念
- 位相空間から実数へ向けて
- 位相多様体

第3章:微分について
- 微分の意味
- 変数の多い場合
- 写像と微分

第4章:滑らかな場(多様体)
- 微分性を保つ写像
- 多様体の定義
- 多様体の例
- 多様体の実現

第5章:動き行く場
- 微分すること
- 接空間から接束へ
- 接束からベクトル束へ

あとがき
文庫版あとがき

新年おめでとうございます。

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2015 元旦
読者のみなさまへ

新年おめでとうございます。昨年は当ブログをお読みいただきありがとうございました。数えてみたところ昨年は96本の記事を投稿していました。2013年は100本の記事を投稿していましたから、年間100本ペースということになりますね。

昨年は主に天文学と数学の本を読んで紹介していました。物理学書が少なかったと思っています。読みたい本の半分くらいしか読めていなかったなぁというのが正直なところ。はやく超弦理論の教科書を読みたいと思いつつ、あっという間に年が終わってしまいました。

今年もどのような本を選んでいくかは成り行きにまかせるつもりですが、計画倒れになるのを承知しつつ今後の予定を分野別に書いておくことにします。

* 物理学

- 物性物理学

すでに買い置きしてある入門書レベルの教科書を1冊読んで、その後はアシュクロフト&マーミンの「固体物理学の基礎」の4冊を読んでみたいです。あと久保亮五先生の「ゴム弾性」は統計力学的視点から先生が20代後半にお書きになった本だが、これも読む予定です。余裕があったらさらに「ゴム」の物理学を追求してみたいのです。どれも僕にとっては目新しいことばかりなので楽しめそうです。

- 超対称性理論

年明け早々に朝日カルチャーセンターで村山斉先生の講座を聴講するので、素粒子の超対称性理論についての科学教養書を読んでみようと思っています。講座まであと10日しかないので間に合いませんが今年前半のうちには紹介したいと思っています。

あと、年末までに余裕があればワインバーグ場の量子論の日本語版第5巻と第6巻で超対称性理論を学んでみたいと思います。

- 場の量子論、素粒子物理学

九後先生のゲージ場の量子論の教科書はあいかわらず積読状態なので、できれば読んでみたいです。この教科書以外でもよさそうな教科書がでてきたらそちらを読むことになるかもしれません。あと「クォークとレプトン」や「大学院素粒子物理学1、2」も今年読んでみたい本です。

- 量子化学

「分子軌道法」の教科書を読んで、物理学と化学の境界の世界を探求してみたいと思います。

- 一般相対性理論

僕にとって一般相対性理論は2008年頃に基本的なことは理解したというレベルで終わっているのですが、現在でも研究が続いている分野であることと、重力波の検出実験などホットなテーマになりつつあるので、いくつか教科書を読めればと思っています。

- 超弦理論、M理論

ミチ・カク先生やポルチンスキー先生の教科書を読み始められればいいと思うのですが、今年実現できるかどうかはまだわからないというところ。

- 解析力学、一般力学

ゴールドスタインの「新版 古典力学(上)(下)」、朝倉物理学体系の「解析力学 I、II」あたりが未読状態。特にゴールドスタインは読んでおきたいです。

- 山本義隆先生の本

先生がお書きになった名著「磁力と重力の発見(全3巻)」や「世界の見方の転換(全3巻)」はまだ読んでいません。ぜひ今年はどちらかでも読みたいですね。


* 数学

- 群論、代数学系

ガロア理論の入門書を2冊ほどと、モンスター群に至る経緯を解説している科学教養書を読みたいと思っています。また名著ファン・デル・ヴェルデンの「現代代数学(全3巻)」など代数学の教科書も読みたいです。

- トポロジー、多様体など幾何学系

トポロジーや多様体についての教科書がいくつか未読のまま放置してあるので、順に読んでいきたいと思います。複素多様体までたどりつければよいのですが、それは欲張りすぎです。科学教養書についてはカラビ-ヤウ多様体についての本を今読んでいるので、これが最初の紹介記事になる予定です。

- 統計学

買い置きしてある本が数冊あるので今年こそ読み始めたいと思います。苦手意識を取り除きたいです。

- 解析学系

優先度は低いですが特殊関数や偏微分方程式の教科書を2冊ほど読めればと思うのです。


* 電子工学

- Verilog HDL、FPGA、電卓回路、電卓技術教科書、アナログ電子回路の本を読めればよいなと思っています。


* 天文学

人類の科学資産「ラプラスの天体力学(全5巻)」は相変わらず手付かず。「日食計算の基礎」や「軌道決定の原理」、「天体の位置計算」も未読なのでなんとかしたいところ。

また、荒木俊馬先生の力作「天体力学」には天王星の軌道のぶれ(摂動)から海王星の位置を計算する方法が載っているので理解したいのです。僕はこのようにクラシックな天文学が好きなわけです。でも、これらの本を読む余裕はさすがにでてこないでしょう。


新年早々、大風呂敷を広げて読むのに5年くらいかかりそうな計画を立てているわけですが、今年も面白い本が出版されることでしょうし、計画の4分の1でも達成できれば僕は満足することでしょう。これは計画というよりもむしろ読みたい本の「候補」なのだとお考えください。


数学の歩みbot(@Auf_Jugendtraum)さんは、大晦日の夜に次のようなツイートをされています。数学に限らず自然科学でも同じことで、まさにツイートされているとおりだと思います。楽しむことを心がけて今年も読書を続けていくつもりです。

- 「自分は一ヶ月に一冊読んでいる」などという先輩や仲間に惑わされないように.本質的なところを感じとれない人の方が,すぐ数値的な評価をしたがる.数学者になる,ということは,より深い価値がわかる人をめざす,ということでもあると思います.

- 本格的な書物を読むときは,数値的目標は設けず寄り道したり出発点に戻ったり,自分と道とが一体になるくらい遊びまくるのがよいのです.目標はあなたの中に数学を育てる事ですから,「読む」のは「考える材料と刺激を得るため」と考えて大切に,特に初めはゆっくり,あなたの中によい芽を育てましょう

- 数学の分野は一つである(すなわち,数学の分野はみな繋がっている).専門家になるな.


今年もよろしくお願いいたします。みなさま楽しい正月をお過ごしください。


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見えざる宇宙のかたち:シン=トゥン・ヤウ、スティーヴ・ネイディス

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見えざる宇宙のかたち―ひも理論に秘められた次元の幾何学:シン=トゥン・ヤウ、スティーヴ・ネイディス

内容紹介:
家禽業者になりかけた中国の少年ヤウは、一か八かで数学に賭けた。強くひかれた幾何学への道は、“宇宙の形”へとつながっていた…。いまや宇宙論には欠かせない「カラビ=ヤウ多様体」の生みの親であるフィールズ賞受賞者シン=トゥン・ヤウが、自らの数奇な半生と「見えざる」次元の幾何学への熱い想いを、多数の図版と平易な解説とともに語り尽くす。2012年刊行、412ページ。

著者について:
シン=トゥン・ヤウ: ウィキペディアの記事
1987年よりハーヴァード大学教授の数学者。現在は学科長。フィールズ賞、アメリカ国家科学賞、クラフォード賞、ヴェブレン賞、ウルフ賞を受賞。アメリカ科学アカデミー会員

スティーヴ・ネイディス: ハーバード大学のHPの中の本書紹介ページ
サイエンスライター。雑誌『アストロノミー』寄稿編集者。ハンプシャー・カレッジ卒。20冊以上の本を執筆および寄稿。マサチューセッツ工科大学客員研究員、憂慮する科学者同盟研究員、世界資源研究所顧問、ウッズ・ホール海洋研究所顧問、公共教育放送WGBH/NOVA顧問

翻訳者について:
水谷淳
翻訳家。科学教養書を数多く翻訳されている。Amazonで水谷淳さん翻訳の本を検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で266冊目。

またまた良い本とめぐり合った。最先端の科学、特に数学は教科書で学ばないかぎり理解できないものだと思っていたから、本書と出会えてとてもうれしい。本書を紹介してくださったガロアさんには感謝、感謝である。

本書は数式無しの科学教養書とはいえ「中級者向け」である。「大栗先生の超弦理論入門:大栗博司」や「エレガントな宇宙:ブライアン・グリーン」をお読みになった後で本書をお読みになるとよい。アマゾンにもまだレビューが投稿されていないので、紹介しておく価値はじゅうぶんある。

本書の原題は「The Shape of Inner Space: String Theory and the Geometry of the Universe's Hidden Dimensions」で原義どおりの意味だと「内部空間の形:ひも理論に秘められた次元の幾何学」になる。この内部空間こそが6次元の余剰空間として時空の各点に巻き上げられて隠れている「カラビ=ヤウ空間」であり、数学から見るとそれは複素3次元の「カラビ=ヤウ多様体」なのである。(複素1次元は実数2次元に対応するので物理的空間としての次元数は2倍の6次元になる。)

カラビ=ヤウ空間(巻き上げられた6次元空間を2次元に投影してあらわしたもの)



超弦理論の基礎となる弦はこのカラビ=ヤウ空間に存在し、その振動パターンによって4次元(空間3次元+時間1次元)の世界の私たちには標準理論で説明されている素粒子や4つの力として観測されるのだ。カラビ=ヤウ空間が超弦理論で主要な役割を果たすことがわかったのは1984年の第1次超弦理論革命のときである。カラビ=ヤウ多様体の持つ数学的性質は一般相対性理論(アインシュタインの重力場の方程式)と素粒子の標準理論(ゲージ理論の方程式)を満たしていることが確認され、超弦理論が脚光を浴びることにつながった。超弦理論やカラビ=ヤウ多様体による理論は標準理論の先に予測されている「超対称性理論」も含んでいる。

大栗博司先生は「超弦理論」という呼び方を推奨されているが本書では「ひも理論」という呼び方をしている。以下、今回のブログ記事では本書の訳語に従って「ひも理論」という言葉で進めさせていただく。


一昨年NHKで放送された「神の数式 完全版」では第4回の放送でカラビ=ヤウ空間が紹介された。けれどもその数学的な構造はとてもこの手の番組では手に負えるものではないので、詳しいことは視聴者にはわからない。ひも理論でいちばん重要な部分なのに肝心なところがすっぽり抜けた感じがしていた方も多いことだろう。この数学的な内容は大栗先生やブライアン・グリーン先生の著書でも少ししか書かれていない。本書は欠落している数学的な部分を埋めることで読者の好奇心を満たしてくれるのだ。


多様体の理論とは微分幾何学やトポロジー(位相幾何学)などの現代幾何学を含んだもので、大ざっぱに言えば1次元から多次元までの滑らかな形と(距離や曲率、角度、トポロジー的な性質を測るための各種の標数、穴の数など)数学的な量を研究する分野だ。その形はもちろん円や球のように単純なものからドーナツ(数学用語ではトーラス)のように曲がったもの、一般に複数個穴のあいたものも含まれる。また次元も実数次元のものと複素数次元を持つものがある。多次元に存在するそれらの形はそれぞれの次元特有で摩訶不思議な個性を持つため、解き方も数学のさまざまな分野の定理を駆使する必要がある。

複素次元をもつ多様体のうち、平行移動操作のもとで多様体の複素構造を変えない特別な種類のホロノミー(曲面上のループに沿って接ベクトルを動かしたときに、その接ベクトルがどの程度変化するかを測る尺度)をもつものを「ケーラー多様体」と呼び、そのうちリッチ曲率がゼロ、すなわち「平坦」なのものを「カラビ=ヤウ多様体」と呼ぶ。この多様体の形は無数にあるので、ひも理論で予言されている宇宙の可能性が無数である(多宇宙の仮説)とされるのもその数が根拠となっている。(参考:「隠れていた宇宙(上):ブライアン・グリーン」の中の「ランドスケープ多宇宙」を参照。)

ヤウ博士はもともと物理学とは関係なく純粋に数学として「カラビ予想」の証明やカラビ=ヤウ多様体の研究を続けていらっしゃり、その功績によってフィールズ賞を受賞されたのが1982年のこと、つまりひも理論との結びつきが確認される2年前のことなのだ。

このような意味では本書を読むために多様体について知っておく必要があるし、アマゾンの「現代数学への招待:多様体とは何か:志賀浩二」という本のレビュー記事にもそのように書いてあったので、先日この本を紹介したばかりだ。実際のところ僕の意見としては「志賀先生の本や読んでおいたほうが本書の説明が理解しやすくなるのは事実だが、必ずしも必要はない。」というところ。多様体の「接ベクトル」、「接空間」、「接束(接バンドル)」、「計量」などの概念を知っておけば理解がより深まるという程度だと思う。トポロジーの部分は本書でわかりやすく説明してあるので大丈夫。読者の前提知識が増すにつれて、本書の解説はより深く読み取れるように書かれている。つまり逆説的な言い方になるが、知識が無くて途方にくれるということはない。

全体のページ数は412ページだが、本文に割り当てられているのは355ページだ。そして巻末には18ページに渡る用語解説が含められている。この用語解説はとてもわかりやすいので、本文を読む前に目を通しておくとよいだろう。


以下、本書で印象に残ったこと、良いと思ったことを箇条書きで紹介しておく。

- 多次元の多様体の世界は視覚的に想像できない世界だ。そのように行ったことのない場所を言葉で説明しても、通常はイメージするのがなかなか大変なもの。本書では次元を減らして図示することによって、とてもわかりやすい説明がされている。

- 物理学者からの視点、数学者からの視点の両方から同じ問題をとらえるときの違いがとても興味深い。数学が物理学に先行した例、物理学が数学に先行した例を紹介し、相互に影響しながらひも理論が進歩してきた様子がよくわかる。ひも理論や素粒子物理学のさまざまな概念が数学のどの概念と対応しているのかがはっきり示されている。(例:物理のゲージ理論は多様体のバンドル理論に対応している。)

- Dブレーンとカラビ-ヤウ空間の関係が理解できた。「神の数式 完全版」ではDブレーンを使った計算によって「ブラックホールのエントロピー(熱)の問題」が解決したことがこの図で紹介されていた。Dブレーンは折りたたまれてカラビ-ヤウ空間の中を蛇のように動き回り、熱が発生するのだという。



しかしDブレーンは多次元の物体である。6次元のカラビ=ヤウ空間の中でこのようなDブレーンの配置はどのように実現されるのかよくわからなかった。この問題は「初級講座弦理論 発展編:B.ツヴィーバッハ」の第22章でも計算方法が紹介されていたが視覚的なイメージと結びつけて理解できていなかった。本書の説明でそのあたりのことやブラックホールの情報量はその表面積に比例するということも幾何学的に理解できた。

- 他の科学教養書との重複がないこと。一般向けの科学教養書には本論にたどりつく前に相対性理論や量子力学などの説明が長々と続くものが多い。すでに他の本でその内容を知っている読者にとっては無駄な記述である。本書にはそのような箇所がほとんどないのでほとんどのページが本来説明したいカラビ-ヤウ空間とひも理論にあてられている。

- 大栗先生のお考えが紹介されているのがよかった。本書200ページ目あたりから数ページに渡ってヤウ博士が大栗先生から聞いた話が紹介されている。大栗先生の著書をお読みになった方にはうれしい箇所だ。また大栗先生は本書の訳語について訳者の水谷さんにアドバイスをされている。

- 読者が疲れないように章立てに工夫がされている。これだけ分厚く、細かい文字が2段組のレイアウトで印刷されている本なので、抽象的なトポロジーの話や多次元空間の話が続くと慣れていない読者はとても疲れてしまう。現実世界にはやく戻って安心したいと思うものだ。本書では「現実世界=4次元の私たちの世界=素粒子物理学の世界」とみなし、抽象と現実の世界をいったり来たりすることで、ひも理論やカラビ=ヤウ空間の世界と素粒子の世界とのつながりが効率的に説明されている。

- ひも理論やカラビ=ヤウ多様体の問題を物理学者や数学者がどのような方法で解いていったかが具体的に解説されている。代数的な解法だけでなく、非線形偏微分方程式のような解析的なものもあれば、トポロジーの定理を使う解法、ニュートン法のような近似解法、コンピュータを使う方法など数学のあらゆる分野のテクニックが使われていることを知ることができる。

- ひも理論は私たちの宇宙のほかに10の500乗種類の別の宇宙が存在すると予言している。これを「ランドスケープ多宇宙」と呼ぶ。本書では「10の500乗種類」の計算の根拠が示されていた。

- ひも理論の双対性、カラビ-ヤウ空間の双対性について詳しい解説がされている。どちらも双対性があるおかげで方程式の解を求める作業を大幅に減らすことができる。物理学にとっても数学にとっても双対性は重要な性質であることが、多くの例を使って紹介されていた。

- カラビ-ヤウ空間はコニフォールド転移という方法で変形することで、ひも理論にある問題を解く必要がでてくる。コニフォールドというのは円錐形の尖った突起である。多様体ではこのようにおかしな物体を貼り付けたり、取ったりして研究を進めるそうだ。「初級講座弦理論 基礎編:B.ツヴィーバッハ」でもオービフォールドと呼ばれる円錐形の空間での計算が紹介されていて、僕は「なぜ、こんな不自然な空間を持ち出さなければならないのだろう?計算練習のためだろうか?」と不思議に思っていたのだが、その理由が本書を読んで理解できた。

- ひも理論は物理学を統一する理論であるが、カラビ-ヤウ多様体はひも理論に恩恵を与えただけでなく、相異なる数学のそれぞれの分野を統一するという役割を果たしたそうだ。仮に将来ひも理論が正しくないことが証明されてしまったとしても、カラビ-ヤウ多様体の存在意義はじゅうぶん過ぎるほど残るのだ。数学の理論は一度証明されれば永遠に否定されることのない「真理」であることがよく理解できた。

- ハイゼンベルクの不確定性原理により10のマイナス30乗cm程度のプランクスケールの世界では、時空は「泡だってしまい」、幾何学が成り立たなくなると予想されている。これは幾何学の終焉を意味するのだろうか?その後の幾何学は「量子幾何学」になるのかもしれないと予想されているが、それがどのようなものかは全くわかっていない。このあたりについての物理学者やヤウ博士のお考えはとても興味深かった。

- 本書の記述が公平であること。ひも理論に対して否定的な立場をとる物理学者や元物理学者も数多くいる。ひも理論やカラビ-ヤウ多様体はまだまだ解明されていなことばかりだ。著者はポジティブなことだけでなく、ネガティブなこと、今後解決が予想されていることなど、お感じになっていることを誠実に語り、ひも理論と現代幾何学の現在の状況を正確に読者に伝える努力を払っている。


数式が苦手な方も、そして専門的に複素多様体、複素幾何学を学ぼうとしている学生にとっても刺激の多い本、ためになる本である。ぜひ読んでいただきたい。


翻訳の元になった英語版は2010年に刊行されたこの本だ。Kindle版は1200円ほどで買えるのでお勧めだ。英語版には本書に登場する物理学者や数学者の写真が掲載されている。これらの写真は日本語版には掲載されていない。

The Shape of Inner Space: String Theory and the Geometry of the Universe's Hidden Dimensions: Shing-Tung Yau, Steve Nadis」(Kindle版




最後に本書を翻訳した水谷淳さんによる本書の紹介を書いておこう(「訳者あとがき」)

本書は、カラビ=ヤウ多様体という、ひも理論において中心的な役割を果たしている数学的概念を、その生みの親であり、その呼び名にも自らの名が冠されている大物数学者本人が解説した本である。とくに、数学と物理学という本来別々の分野が、カラビ=ヤウ多様体をめぐってどのような影響を及ぼしあいながら進歩しているかが、事細かに述べられている。執筆においては、何冊もの本を書いている気鋭のサイエンスライターが共著者として手助けしており、難解な諸概念をできるだけ平易に説明している。登場する数学的概念の多くは多次元に関係しており、また完全に理解するには高度な数学や抽象的思考に頼らなければならないが、本書は、低次元における身近な例や比喩などを用い、できる限り具体的なイメージを伝えようとしている。専門的に勉強したいのではなく、あくまでもこの分野の全体像を直感的に知りたいという読者には、十分だろう。そして何よりも、主著者がどのような半生を贈り、何を考えながら研究を進めてきたかが詳しく語られており、とても興味深い。

重力の理論である一般相対論と、原子や素粒子の世界を記述する量子力学はいずれも、本来ニュートン力学では用いられない、より高度な数学によって記述されている。それらの数学はそもそも、物理学とは関係なしに純粋数学として考え出されたが、のちに物理学者が、自然現象を記述する上できわめて有用であることに気づき、物理学に応用するようになった。

それと同じことが再び起ころうとしている。現在、一般相対論と量子力学を統一してさらに広範囲な現象を説明できる万物理論の候補として、ひも理論の研究が盛んにおこなわれているが、そこでは相対論や量子力学に用いられているものよりさらに高度な数学が必要である。その一つが、カラビ=ヤウ多様体を含む、微分幾何学や多様体の理論といった高等な幾何学だ。

一方で、ひも理論研究者が独自に考え出した概念が、逆に数学にとって重要な役割を果たし、数学の研究を前進させている。数学者である主著者も、もともと物理学とは無関係に研究をおこなっていたが、ひも理論の進展に促されながらさらなる研究を進めている。

最終的にひも理論が究極の万物理論として正しいかどうかは、現段階ではわからない。しかし、ひも理論の研究を進めていくことで、自然現象の理解が進むとともに、数学もまた新たな発展を見せるだろう。最先端の数学はわたしたち一般人の直感が遠く及ばないところへ進んでいくかもしれないが、本書のように専門家がときにかみ砕いて解説してくれれば、これからも何とか置き去りにされずについていけるだろう。

主著者のシン=トゥン・ヤウは1945年に中国広東省で生まれ、現在はハーヴァード大学数学科教授を務めている。本文で詳しく語られているとおり、かなりの苦労人で努力家だ。香港中文大学を卒業したのちに、カリフォルニア大学バークレー校で博士号を取得し、その後はアメリカで研究を進めている。数々の賞を受賞しており、中でも1982年には、数学界のノーベル賞とも呼ばれるフィールズメダルを受賞した。

共著者のスティーヴ・ネイディスは、フリーのサイエンスライター。天文雑誌『アストロノミー・マガジン』の寄稿編集員を務めている。執筆活動は天文学に限らず科学技術全般にわたっており、科学雑誌『ネイチャー』、『サイエンス』、『サイエンティフィック・アメリカン』などでも記事を書いている。一般向けの科学本も多数執筆している。

最後になったが、一部訳語についてアドバイスをいただいたカリフォルニア工科大学の大栗博司教授と、編集作業を丁寧に進めてくださった岩波書店の辻村希望氏に深く感謝申し上げる。(とね註:辻村氏の「辻」のしんにょうの点は1つ)

2012年2月
訳者


関連記事:

カラビ-ヤウ空間を見てみよう!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b3ab2b9875e9a2b81b055153c078439b

大栗先生の超弦理論入門:大栗博司
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/75dfba6307d01a5d522d174ea3e13863

エレガントな宇宙:ブライアン・グリーン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/404c24b68f57609900bc3d7a030333d5

現代数学への招待:多様体とは何か:志賀浩二
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7aade4e043ef0b93de491bf674c734f3


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見えざる宇宙のかたち―ひも理論に秘められた次元の幾何学:シン=トゥン・ヤウ、スティーヴ・ネイディス



"空間/時間"(詩)
はしがき

序:来たるべきものの形
1:余白の中の宇宙
2:自然の秩序には幾何が潜んでいる
3:新たなる"金槌"
4:真であるには、できすぎている
5:カラビ予想の証明
6:ひも理論のDNA
7:鏡を通してみれば
8:時空のよじれ
9:現実世界に立ち戻る
10:カラビ=ヤウを超えて
11:ほころびる宇宙
12:余剰次元を探す
13:真理、美、そして数学
14:幾何学の終焉?

エピローグ:新しい日、新しいドーナツ

あとがき:神聖なる場所へ
"長い夜の一瞬のきらめき"(詩)
訳者あとがき


用語解説
索引

ゴドーを待ちながら:サミュエル ベケット

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ゴドーを待ちながら:サミュエル ベケット

内容紹介:
田舎道。一本の木。夕暮れ。エストラゴンとヴラジーミルという二人組のホームレスが、救済者・ゴドーを待ちながら、ひまつぶしに興じている──。不条理演劇の代名詞にして最高傑作、待望のペーパーバック化!
『ゴドー』に接して、人はむしょうにおしゃべりになりたがっている自分を見出す。無数の解釈が生まれ、すれちがい、ゆらめき、消尽されてゆく、その過程がまさにこの作品を観たり読んだりする経験の実体にちがいないのだ。「ゴドーを待つ」という、あるようなないような枠組(大いなる物語)は、過去と未来のあいだに宙吊りにされたこの現在あるいは現代の瞬間を生き生きとさせるための仕掛けにすぎないのかもしれない。

著者と訳者について:
サミュエル・ベケット Samuel Beckett 1906-89
アイルランド出身の劇作家・小説家。1927年、ダブリンのトリニティ・カレッジを主席で卒業。28年にパリ高等師範学校に英語講師として赴任し、ジェイムズ・ジョイスと知り合う。うつ病治療のためロンドンの精神病院に通うが、37年の終わりにパリに移住し、マルセル・デュシャンと出会う。ナチス占領下には、英国特殊作戦執行部の一員としてレジスタンス運動に参加。『モロイ』『マロウンは死ぬ』『名づけえぬもの』の小説三部作を手がけるかたわら、52年には『ゴドーを待ちながら』を刊行(53年に初演)。ヌーヴォー・ロマンの先駆者、アンチ・テアトルの旗手として活躍し、69年にノーベル文学賞を受賞。ポストモダンな孤独とブラックユーモアを追究しつづけ、70年代にはポール・オースターとも交流。晩年まで、ミニマル・ミュージックさながらの書法で、ラジオ・テレビドラマなど数多く執筆している。

訳者:安堂 信也(あんどう しんや 1927-2000)
1951年早稲田大学仏文科卒。早稲田大学名誉教授。

訳者:高橋 康也(たかはし やすなり 1932-2002)
1953年東京大学英文科卒。東京大学名誉教授。


この2年ほどの間に演劇をしている何人かの若者と知り合いになり、年に2~3度劇場に足を運んでいる。大学生の頃はときどき友達から誘われて観に行っていたので、演劇はなんとなくノスタルジーだ。僕にとって演劇らしい演劇というのは特に不条理劇。代表的なのはイヨネスコの「授業(La Leçon)」とベケットの「ゴドーを待ちながら(En Attendant Godot)」である。どちらも昔から有名な劇団、俳優が演じ続けている。ツイッターで検索してみると、今でも根強い人気があることがおわかりになるだろう。

今回久しぶりに読んだこの本を初めて読んだのは大学生のときだ。脚本がそのまま本になっている。出演者は5人いるが、エストラゴンとヴラジーミルという2人組のホームレスがゴドーという「救済者」を待ちながらひまつぶしに興じているだけ、というわけのわからない劇なのだが、僕にとっては本のほうもノスタルジー。1990年に出版された本は絶版になり、しばらく中古でしか買えない状態が続いていた。2013年に上品な褐色の表紙でようやく復刊した。

あらゆる解釈を拒絶し、あらゆる解釈を受け入れてしまう脚本だと僕は思う。本の帯には「不条理演劇の最高傑作」とある。

ゴドーを待ちながら:サミュエル ベケット



下北沢では昨年8月に俳優の柄本佑さん&時生さんがこの劇を演じたようだ。とても観たいと思ったが、知ったのが秋も深まってのことだったので時すでに遅し。

劇団東京乾電池 ETx2 第4回公演: ゴドーを待ちながら
http://www.tokyo-kandenchi.com/kako/kouen/kako_2014godot.html


この演劇の原作はフランス語と英語の二ヶ国語で書かれた。パリで初演されたのは1953年1月5日である。当時の批評家は9割の無視ないし敵視をし、残りの1割は熱狂的な賞賛をしたという。パリでは100回を越える公演を記録した。

それにひきかえ、アメリカでの初演はさんざんだったという。よりによって観光地マイアミで「パリ輸入の爆笑コメディ」というふれこみで初日を迎えた。幕間のあとまで残っていた客はテネシー・ウィリアムズとウィリアム・サローヤンのほか、出演俳優の家族数人だっという。早々にして公演中止となったのは言うまでもない。

このように観る人を選ぶ演劇は、どの程度まで観客を突き放すかの一点において、演出の具合をみるのが愉しみでもあり、見られる方は怖さがあると思う。観客を引き離しつつ、どのようにして観客を2時間引き止めるかが難しい。観るほうにも、観られるほうにも緊張感が走る。


関連ブログ記事:

ゴドーを待ちながら(松岡正剛の千夜千冊)
http://1000ya.isis.ne.jp/1067.html

サミュエル・ベケット『ゴドーを待ちながら』(白水社)
http://ameblo.jp/classical-literature/entry-11541640031.html

サミュエル・ベケット『ゴドーを待ちながら』(白水社)
http://blog.livedoor.jp/shoji_arisawa/archives/51402640.html


「ゴドーを待ちながら」はYouTubeにフランス語版と英語版の動画がアップされている。脚本のテキストも両言語ともにネット上に見つけたの紹介しておこう。演劇人の方は演技の参考に、語学人の方は語学教材として活用してほしい。


フランス語版:第1幕: テキスト


フランス語版:第2幕: テキスト



英語版:第1幕、第2幕連続再生: 第1幕テキスト第2幕テキスト
スマートホンの方はこちらから再生: https://www.youtube.com/watch?list=PL4C04714C4474A987&v=X7_g52JrshE



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宇宙はどこまで美しいのか(朝日カルチャーセンター)

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3連休の初日の土曜日は朝日カルチャーセンター新宿教室で宇宙物理学の講座を受講してきた。

宇宙はどこまで美しいのか(朝日カルチャーセンター)
東京大学高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構機構長 村山斉先生
http://www.asahiculture.com/LES/detail.asp?CNO=275221&userflg=0

以前、村山先生の講演を聴講したのはいつだったかと検索してみたら一昨年の9月、「時空とは何か(朝日カルチャーセンター)」だった。

朝日カルチャーセンター新宿教室としては超人気講座である。予約開始時にはビル7階の一般教室を予定していたのだが、結局200人が受講できる地下1階の住友ホールで開催となった。会場は満席である。村山先生が登壇され、講義が始まった。

あプロジェクターで映されるスライドを印刷した配布資料は38枚。1ページ4枚で両面印刷なのでスライドは全部で300枚!午後1時から5時半まで間に5分間の休憩を3回はさんでの長時間講義。全体の流れは次のようなものだ。

- 宇宙は美しい
- 美しさとは?
- 宇宙空間の美しさ
- 物理法則の美しさ
- 統一理論
- 保存則は対称性のおかげ
- 法則は美しい しかし現実は多様
- 宇宙の自発的対称性の破れ
- 自然さ
- インフレーションと究極の美しさ
- 美しさ vs 多元宇宙


- 宇宙は美しい

講座のつかみとして美しい宇宙の写真が何枚もスクリーンに大写しされる。銀河、地球、木星、土星、太陽の表面、猫目星雲、ベテルギウス、かに星雲、わし星雲、馬頭星雲、イータカリーナ星雲(神秘の山)、M78星雲、上から見た銀河系、アンドロメダ大星雲、回転花火銀河、ソンブレロ星雲、M87星雲、子持ち銀河、マウス銀河、触覚銀河など。

この後どんどん遠くの天体の写真が映される。47億光年先のチェシャ猫の顔の形に見える銀河、銀河団、重力レンズ効果で引き伸ばされた銀河、暗黒物質の説明、133億光年先の銀河、136億光年先の宇宙(真っ黒で何も見えない)、138億光年先の電磁波で見える宇宙の果て(宇宙マイクロ波背景放射)

ここまでの映像で僕にとって目新しかったのは640光年先にあるベテルギウスの表面の写真。なんと模様が写りこんでいるのだ。これは「死期」が近づいているベテルギウスが「どくんどくん」と脈打っていることを示しているそうなのだ。このようにすごい解像度で恒星を調べられるようになっているなんて知らなかった。

あと印象に残っているのはCG動画で紹介されたアンドロメダ銀河と私たちの銀河系の映像。最終的にこの2つは合体して楕円銀河になる様子が一目瞭然だ。映像は2つの銀河から離れた位置からとらえたものと、地球上から見たときの映像が紹介される。夜空に浮かぶアンドロメダ銀河が近づいてくる姿が圧巻そのもの。実際に見てみたいけど、それは無理な話だ。

そしてこのセクションの最後で宇宙の始まりのインフレーションから138億年後(現在)までの流れが紹介される。


- 美しさとは?

美しさということについて、歴史上の学者たちの考えが紹介される。ファインマン、アリストテレス、ヘルマン・ワイル、アインシュタイン、ホーキング、ゲルマンなど。

物理学者にとっての美しさとは「対称性」である。つまり

- 対称性が高いこと: 対称性は数えられる。
- 少ない原理、定数で多くを説明: 「経済的」な理論が美しい
- 見てて安定感、自然さ: ちょっと主観的だが、この点も満たせればよい

見の周りの建築物の対称性の数を数えてみよう。(ベルサイユ宮殿、中国の橋、東京タワー、パリの凱旋門の周囲の道路、東京スカイツリー)

対称性の数には連続のものと離散のものがある。たとえば円は回転についての(無限個の)対称性が1つ、裏返しをする対称性が1つで合計2個の対称性があり、球には3個の対称性がある。


- 宇宙空間の美しさ

宇宙空間を光速の10兆倍の速度で飛行して見える景色の動画が移される。これはすごい。宇宙はどこまでいっても同じ景色が広がっていることがわかる。宇宙はほぼ等方的で一様なのだ。しかし91億光年の範囲を映し出すとフィラメント構造が浮かび上がったり、138億光年先には10万分の1というごくわずかの揺らぎが観測される。

宇宙原理が解説される

- 宇宙はほぼ一様(どの場所も同じ)
- 宇宙はほぼ等方(どの方角も同じ)
- 上下、左右、前後に「並進対称性」
- 3種類の「回転対称性」
- 全部で6種類の対称性と2個

最も美しい空間とは

- 次元がDの空間が持てる対称性の種類は最大でDx(D+1)/2
- 私たちの3次元空間では3x(3+1)/2=6
- 一様・等方な宇宙はもっとも美しい!
- でも実は3種類の最大対称空間がある。(曲率を考えると)

数学的に考えると

- 対称性にはどんなものがあるのか
- 数学者は「群論」を使って研究し、すべて分類されている
- 連続対称性:エリー・カルタン
- 離散対称性:たくさんの数学者(2012)

宇宙マイクロ波背景放射の観測によって宇宙はほぼ平坦であること、加速膨張していることが確認された。


- 物理法則の美しさ

- 物理法則は左右対称(弱い力を除く)
- 物理法則は鏡映対称(弱い力を除く)
- 物理法則は回転対称
- 物理法則は並進対称


- 統一理論

トマス・ゴールド:「複雑な自然現象にはどれにも簡潔で、エレガントで、説得力があり、かつ間違った説明があるものだ。」という言葉を例にとりあげ、科学史上の間違いの歴史をアリストテレス、プトレマイオス、コペルニクスの理論が紹介された。

ファインマン:「あなたの理論がどんなに美しいか、あなたがどんなに頭がよいかは関係ない。実験と合わないのなら、あなたの理論は間違いだ。」という文脈からケプラー、ニュートン、アインシュタインの理論、素粒子の標準理論に至る歴史が紹介された。

物理学の発展は物理法則の統一の歴史でもある。その発展の過程で対称性の数も増えていった。




- 保存則は対称性のおかげ

ネーターの定理が紹介される。対称性は保存則と結びついている。

並進対称性 ⇔ 運動量保存則
回転対称性 ⇔ 角運動量保存則
時間の並進対称性 ⇔ エネルギー保存則

ただし宇宙は時間について原点(ビッグバン)があるので実際にはエネルギーは保存しない。

電荷の保存についての説明で量子力学、U(1)という内部空間のことが説明される。内部空間を回す対称性が電荷や粒子の保存則を導く。

内部空間:たとえばクォークには3つの色があり、その3つの色空間をクウォークは回転できる。電子とニュートリノの空間各点の内部空間は2次元空間。


- 法則は美しい しかし現実は多様

自発的対称性の破れの例として、U型磁石にくっつく多数の釘、ハンガーにつるされたシャツの列、ヒラメ、氷が紹介される。またサルから人間に進化していく系統図のそれぞれの分岐点が自発的対称性の破れであることが解説される。

キラリティ(掌性)も右と左のどちらかを自然が選ぶかは自発的対称性の破れである。Dグルコースがブドウ糖、Lグルコースは無味、消化不能であることが紹介される。

回転対称性が破れる例としてNHKスペシャル「神の数式」の番組冒頭、子供たちが鉛筆を立てようと挑戦している映像が紹介される。

超流動、超電導も自発的対称性の例で、ワインボトルの底の形をした図を使って説明が行われる。それぞれについて不思議な動画が紹介された。


- 宇宙の自発的対称性の破れ

まず重力と電磁気力が長距離力なのに、なぜ弱い力が短距離までしか働かないかという疑問が提示される。NHKのクローズアップ現代でヒッグス粒子がなぜ気が付きにくいのかと質問され、国谷キャスターに解説したときのことが紹介された。

LHC、ヒッグス粒子発見までの歴史が詳細に紹介される。説明は標準理論の素粒子から、超対称性粒子の話に進む。この2つの図は初めて見た。美しすぎる!映画「Particle Fever」はiTunesで英語版が見れるそうだ。日本語字幕は現在交渉中!

この後、ヒッグス粒子はスピンがなく「のっぺらぼう」であるという説明。まるで千と千尋の神隠しにでてくる「顔なし」に例えられていた。今回見つかったヒッグス粒子がこれだけなのか、兄弟・親戚がいるのかということもわかっていない。

そのことを含め、より高いエネルギーで超対称性粒子や暗黒物質の性質を測るための実験設備(リニアコライダー)のことが紹介される。

統一理論では電磁気、弱い力、強い力のグラフは高エネルギーの1点で交わらないので統一できないが、超対称性を前提とする大統一理論では1点で交わらせることができる。(超対称性を前提としない大統一理論では1点で交わらない。)


- 自然さ

まず世界には不思議な景色が見られるという例がいくつか紹介される。巨大なアーチ型の岩や不安定な状態で立っている岩などだ。それらはいずれ崩れたり倒れたりする運命がある。自発的対称性の破れだ。

ヒッグス粒子の質量も巨大なプラスの質量とマイナスの質量の相殺によって計算される。高橋真理子さんの表現によればこれは「100兆円の国家予算の中で1円の帳尻を合わせるよりも難しい。」ということだ。

このように自然さは実に微妙なバランスの上に成り立っている。


- インフレーションと究極の美しさ

インフレーション宇宙論は次のことを示している。

- 宇宙は最初はものすごく小さかった
- 宇宙のどの部分も皆コミュニケーションをとっていた
- しかし、その小さい宇宙はきっとしわくちゃで、とても小さい
- 全宇宙が原子よりもずっと小さい!
- どうやって平ら、滑らかで大きくなったのか?

インフレーションは「究極のタダ飯」にたとえることができる。加速膨張をもたらす暗黒エネルギーのこと。

- エネルギーが体積とともに増える
- 宇宙の膨張が加速
- もっと体積が増える
- さらにエネルギーが増える

インフレーションの問題

- インフレーションで平ら、均一、等方に広がる
- 対称的な宇宙
- でもどうやってむら、そして銀河、星ができたか?
- 対称性を破らないといけない!
- 小さい宇宙ではミクロの素粒子の法則、量子力学を使う

量子ゆらぎ

- ミクロ世界の不確定性関係
- エネルギー保存則を破ってもよい
- 見つかる前に返しなさい
- たくさん借りるほど早く返さないといいけない
- 粒子と反粒子のペアを作る
- すぐ対消滅して返す
- つまりインフレーション期のゆらぎが宇宙規模に引き伸ばされる
- それは100mの海に1mmのさざなみのゆらぎの程度である

宇宙の果ての3つの調査方法

- 加速器で宇宙を「作る」
- 地下にもぐる
- 重力波を探す

インフレーション中の宇宙

- 4次元時空全体として最大対称
- Dx(D+1)/2 = 4x5/2 = 10種類の対称性
- 数としては4次元の球面と同じ

この後、ホーキングの宇宙論、超弦理論が紹介される。


- 美しさ vs 多元宇宙

ふたたび70億年前から加速している宇宙膨張が紹介される。素粒子5%、暗黒物質27%、暗黒エネルギー68%という比率が紹介されるとともに加速膨張によってそれらがどのように変化するかが解説される。

- 素粒子(物質)は宇宙体積の増大によって薄まる
- 暗黒物質も宇宙体積の増加によって薄まる
- 暗黒エネルギーは宇宙体積の増加によって薄まらない。しかし8倍の体積増加によって7倍~9倍の増加が考えられ、まだよくわかっていない。


暗黒エネルギーの候補として宇宙の真空エネルギーを理論的に見積もると暗黒エネルギーとして欲しい量とは比較にならないほど大きいのでほとんどありえない。これでは宇宙は誕生後まもなく引き裂かれ始めて、星、銀河、生命が生まれない。ここで「宇宙が引き裂かれる」の意味は「離散速度が光速を超えると完全に断絶する」ということだ。(理論物理学最悪の予言)

そのあと人間原理の説明がされた。

でもジレンマが残っている

- 超対称性のいちばん簡単なバージョンだとヒッグス粒子の質量は115GeV程度
- 多元宇宙(マルチバース)のいちばん簡単なバージョンだとヒッグス粒子の質量は140GeV程度
- でも見つかったヒッグス粒子の質量は125GeV
- いったいどっちなの?

SuMIRe計画の紹介と観測の説明

- 暗黒エネルギーが一定でなければ、真空のエネルギーではない
- それならばきっと対称性の勝ち
- どうやって証明する?
- 暗黒エネルギーの性質を精密に測る
- 同時に超対称性をLHC/ILCで探し続ける


このように観て楽しく、説明を聞いて素人でも理解できる講義があっという間に終わった。村山先生、わかりやすい講義をありがとうございました。


講演会の後は村山先生の著書の販売会とサイン会があった。どちらも盛況で長い列である。著書は4種類並べられていたが、僕が気になったのは最新刊。昨年12月に出たばかりの本だ。

宇宙を創る実験 (集英社新書)


その他の著書はこちらから検索していただきたい。

村山先生の紙の著書を: Amazonで検索
村山先生のKindle版書籍を: Amazonで検索


- オフ会

すべて終わって、いつものようにオフ会をするために近くの居酒屋へ向かった。もともと科学ブログ仲間の交流として生まれたグループだったが、今ではどちらかというと「朝日カルチャーセンター仲間」である。今回は7名参加でうち2名は新メンバーの女性2人だ。これまでは「オジサン飲み会」で盛り上がっていたのだが、盛り上がりがさらに加速したことはいうまでもない。「呑みのエネルギー」は増加する一方だった。


関連記事:

時空とは何か(朝日カルチャーセンター)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/fc17a69807d62016bae8da7ea3af7e6c

宇宙になぜ我々が存在するのか:村山斉
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/23059f2845a3ac3b84087a525eb00659


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スーパーシンメトリー ― 超対称性の世界:ゴードン・ケイン

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スーパーシンメトリー―超対称性の世界:ゴードン・ケイン

内容紹介:
もし自然界が超対称であれば…素粒子と宇宙の究極の姿を求める大冒険。宇宙空間をみたす暗黒物質は超対称性のパートナーか、重力を含む「力の大統一理論」へ、空間と時間の隠された次元とは?かすかに見えてきた「究極の理論」とはなにか…現代理論物理学最前線の魅力的な理論への道案内。2001年刊行、266ページ。

著者について:
ゴードン・ケイン: ウィキペディアの記事
1937年生まれ。ミシガン大学教授。早くから超対称性の研究で知られる第一線の理論素粒子学者。著書にThe Particle Gardenがあり、素粒子論の標準模型について解説している。
HP: http://particle-theory.physics.lsa.umich.edu/kane/

翻訳者について:
藤井昭彦
1927年生まれ。東京大学理学部物理学科卒量。ロチェスター大学大学院卒業、Ph.D. 上智大学名誉教授。主要研究分野は中間エネルギー核物理学の理論、弱い相互作用の理論。一般科学書の翻訳にガードナー「新版 自然界における左と右」(共訳)、グラショウ「クォークはチャーミング」、パイス他「反物質はいかにして発見されたか」などがある。


理数系書籍のレビュー記事は本書で267冊目。

朝日カルチャーセンターで先週受講した村山斉先生の「宇宙はどこまで美しいのか」という講座の準備として読むつもりだった本なのだが、先週は風邪でダウンしていたこともあって、昨夜ようやく読み終えることができた。

対称性をテーマにした科学教養書をいくつか購入していたのだが、僕が特に興味をもったのは「超対称性」である。いろいろ探してみたのだが、現時点で本書が日本語で読める唯一の科学教養書であることがわかった。しかし発行されたのが2001年とかなり古い。ヒッグス粒子が発見される前である。

アマゾンには章タイトルレベルの目次と3件の読者レビューがあったが、よい本なのかどうか判断がつかなかった。しかし超対称性がテーマの本はこれしかないのだから他に選択肢がない。とりあえず読んでみようということにしたわけだ。


翻訳について

読み始めてすぐ気が付いたのは、日本語がきわめて読みにくいということ。いわゆる「翻訳調」なのだ。より正確にいえば英語の原文の単語をひとつづつ日本語に置き換えることで原文の意味をそのまま伝えようとする「逐語訳」なのである。その結果、自然な日本語としての語彙選択や文章表現がなされず、読んでもなかなか頭に入ってこない。英語固有の言語文化を日本語に移した結果「何これ?この文脈で日本語ではそのような言い方はしない。」と思える文章がときどきでてきて思考が中断してしまうのだ。

意訳したりリライトすることで翻訳された文章は読みやすくなるものだ。しかし、その過程で原文の意味が損なわれたり、誤訳になったりするというリスクも生じる。そのリスクを避けるために著者は逐語訳をするという選択をしたのだろうと僕は思った。2001年5月に翻訳の元になった英語版が発売されてわずか5ヵ月後にこの日本語版が刊行されたことを考えると、自然な日本語にするためのリライトはもともと予定していなかったのだと思う。

「学生に翻訳させて、それをまとめたのでは?」と思った方もいるだろう。しかし、そうではない。古めかしい言い回しが本書のあちこちに見られることから現在88歳になられている藤井先生ご自身が翻訳したものであることがわかる。本書を翻訳した頃、先生は74歳である。

逐語訳としては完成度が高い。じっくり読んでみると熟慮した上で訳語が選択されていることがよくわかる。しかしその結果、読みにくい本に仕上がっているのだ。


英語版について

では英語版を読めばよいのでは?というとそういうわけでもない。翻訳の元になった2001年の本とヒッグス粒子発見後に改訂された2013年の本を、それぞれ米国アマゾンのサイトで読者レビューを2001年版2013年版のページで確認する限り、どちらの版の評価もかんばしくないことがわかる。

日本語版を読んでも、原典に問題があることは想像がつく。全体的に説明が回りくどく、難易度にムラがあり対象読者がはっきりしていない。一例をあげれば素粒子の相互作用の説明をファインマン図形を使って説明している箇所。入門者向けの本であるのにファインマン図形自体の説明が極めて乏しい。ファインマン図形ではトポロジーさえ同じであれば、形が違っていても同じ現象をあらわすとか、結合定数やファインマン図形の足し上げなどまずおさえておかなければならないことが説明されていない。付録ではヒッグス機構が解説されているが、本書の説明では読者はきっと理解できないだろうと思った。

だから本書を読むためには、ニュートン力学から相対性理論、量子力学、素粒子物理(標準理論やヒッグス機構、自発的対称性の破れ)までひととおり他の科学教養書で学んでおく必要があるのだ。

著者も翻訳者も素粒子物理がご専門の科学者なので、読者に意味が伝わりにくい本に仕上がっているのは残念だ。英語原典に問題があり、翻訳も読みにくいという2つのハードルがあるにもかかわらず読む価値があるとすれば、それは本書でしか知りえない超対称性理論の詳細が書かれているからである。

これらの点を踏まえてお読みになるかどうか、ご自身で決めていただきたい。


超対称性粒子について

超対称性や超対称性粒子のことをご存知ない方のために、若干の説明をしておこう。

現在の素粒子物理学の実験で存在が確認されたのは2012年7月に発見されたヒッグス粒子までである。これらの素粒子や素粒子どうしに働く力を説明するための物理法則が「標準理論」と呼ばれているものだ。標準理論の数式はU(1)、SU(2)、SU(3)という数学の「群」であらわすことのできる対称性をそなえている。しかしこの理論には重力の理論は含まれていない。

標準理論の素粒子(クリックで拡大)



標準理論だけでは解決できないことから、自然はもっと大きな対称性の性質を持っているにちがいないという発想から超対称性理論が考案された。超対称性から導かれる(存在が予言される)素粒子は標準理論のおよそ2倍になり、理論の数式はSU(5)という数学の「群」であらわすことのできる超対称性をそなえている。これを大統一理論と呼ぶこともある。しかし予言されている超対称粒子(本書では超パートナー粒子という表現がとられている。)はまだひとつも発見されていない。

超対称性粒子(クリックで拡大)


これは超対称性粒子をその性質に従って対称的に配置した図だが、このように配置するとその存在が確かなもののような気がしてくる。ヒッグス粒子が標準理論や超対称性理論で、きわめて重要な位置にあることがおわかりになると思う。セルの色がオレンジとパープル、文字の上に「~」がついているのが超対称性粒子だ。



この図の引用元は次のページである。

Particle Fever (2014)
http://blogs.usyd.edu.au/theoryandpractice/2014/12/particle_fever_2014_1.html


超対称性理論: ウィキペディアの記事
超対称性粒子: ウィキペディアの記事
大統一理論: ウィキペディアの記事


本書の内容について

本書の章立ては次のとおり。第3章まではほとんど標準理論までの説明なので本書の難解な説明を読むより、大栗博司先生がお書きになった「強い力と弱い力」をお読みになるほうがよい。標準理論までご存知の方は第4章から読み始めても全く問題はない。

第1章:私たちはどこから来たのか?私たちは何ものであるか?私たちはどこへ行くのか?
第2章:粒子物理学の標準模型
第3章:物理学がやさしい科学である理由 -- 有効理論
第4章:超対称性と超対称粒子
第5章:超対称性を実験的に調べる
第6章:宇宙は何からできているか
第7章:ヒッグス物理学
第8章:超対称性のほかの効用と挑戦
第9章:超対称性、弦理論、根元理論
第10章:宇宙の起源とその自然法則を理解できるだろうか
付録A:標準模型のヒッグス機構
付録B:ヒッグス機構の超対称性による説明
付録C:チャージーノとニュートラリーノ
付録D:余剰次元 -- 大きな余剰次元


以下、本書で僕が感じたこと、印象に残ったことを列挙しておこう。

- 超対称性理論は「解が先にあって、問題点を探していく」ものであることが他の理論と違っている。他の理論では何か実験的な難点や理論的な矛盾を解決するために理論を構築していくのが通例である。

- 超対称性理論は弦理論や超弦理論を成り立たせるための前提になっていることが本書には書かれている。また本書には超対称性理論を前提としない弦理論、超弦理論もあり得るし、弦理論や超弦理論が間違いだと将来判明したとしても、超対称性理論の存在を否定するものではないということも書かれている。

- 超対称性理論によって、ヒッグス物理(ヒッグス機構)の解明されていない部分、トップクォークの質量の問題、階層問題、4つの力の統一などが解決できると予想されている。

- 階層性問題とは現在の素粒子物理の実験が対象としているスケールと究極理論が示しているプランクスケールとの間に、とてつもない大きさの違いがあるという問題である。

- LSP (Lightest Supersymmetric Particle:最も軽い超対称性粒子)は暗黒物質の存在を予言している。

- 私たちの4次元空間の自然(世界)が超対称性を含んだものであるならば、超対称性は自発的に破れたか、あるいは隠れた、あるいは部分的なものでなければならない。

- 弦理論や超弦理論が必要とする超対称性理論は完全なもの、つまり自発的破れていない理論である。

- 超パートナー粒子を含んだ素粒子の相互作用の例が、ファインマン図形を使って解説されているのが興味深い。

- 超対称性理論はプランクスケールより小さい世界の窓としての役割を持つと考えられている。

- 超対称性理論は4つの力の統一を含んだ理論であるが、なぜ力の統一がされなければならないかは説明しない。

- 弦理論や超弦理論は根元理論ではない。なぜならば弦理論や超弦理論は時空や量子力学を前提とした理論であるから。時空や量子力学は根元理論から導き出されるものであるべきというのが本書の主張。

- 超対称性理論の超パートナー粒子がどのような実験で発見されるかを予測している箇所が興味深い。

- 超対称性理論でしか起こりえない3つの現象が例示してある。1つ目は速い陽子の崩壊、2つ目はミューオン、タウ・レプトン、クォークのある種の崩壊や転換、3つ目は大きすぎるCP非保存の効果である。

- まだよく理解されてはいないものの、弦理論、超弦理論、M理論と超対称性理論の関係が解説されていること。


次の本が本書の翻訳の元になった英語版である。2001年7月刊行。

Supersymmetry: Unveiling The Ultimate Laws Of Nature: Gordon Kane」(Kindle版


そしてヒッグス粒子発見の後、改訂版として刊行されたのがこちらの英語版である。2013年5月刊行。

Supersymmetry and Beyond: From the Higgs Boson to the New Physics: Gordon Kane」(Kindle版


どちらもKindle版は安いので、英語でも大丈夫な方はKindle版をお求めになるとよいだろう。


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スーパーシンメトリー―超対称性の世界:ゴードン・ケイン



まえがき(エドワード・ウィッテン)
はじめに

第1章:私たちはどこから来たのか?私たちは何ものであるか?私たちはどこへ行くのか?
- 自然を理解するためには粒子と力と法則について知る必要がある
- 進行中の研究
- 方程式?
- 予言、後言、検証
- 超パートナーはどこに
- 科学の境界線は動いた

第2章:粒子物理学の標準模型
- 力
- 粒子 -- 私たちは実際に物質の基本的な構成要素を知っているか
- 粒子と場
- 粒子はほかにもある
- 新しい着想と標準模型の注目すべき予言
- 標準模型の実験的基礎
- 標準模型の諸過程を図示するファインマン図形
- スピン、フェルミオンとボソン
- 標準模型を超えて

第3章:物理学がやさしい科学である理由 -- 有効理論
- 距離の尺度で有効理論を組織する
- 超対称性も有効理論の1つ
- プランク尺度の物理
- 有効理論は繰り込みに取って代わる
- 人間尺度

第4章:超対称性と超対称粒子
- 超対称性とは何か
- 超対称性が解くかもしれない神秘
- 超パートナー
- 時空対称性としての超対称性、超空間
- 隠れた、あるいは破れた「超対称性」

第5章:超対称性を実験的に調べる
- 検出器と衝突器
- 超パートナーを認識する
- ス粒子の性格・背景・サイン信号
- フェルミ研探訪
- 将来の衝突器
- 必要な実験を遂行できるか

第6章:宇宙は何からできているか
- 宇宙にはどんな粒子が存在するか
- 最も軽い超パートナーは宇宙の冷たい暗黒物質か

第7章:ヒッグス物理学
- ヒッグス・ボソンを見いだす
- 最近の証拠
- LEP、フェルミ研、LHC
- フェルミ研のヒッグス・ボソン研究

第8章:超対称性のほかの効用と挑戦
- 物質と反物質の非対称
- 陽子は崩壊するか?
- まれな崩壊
- CP非保存
- インフレーション
- 見通しと懸念

第9章:超対称性、弦理論、根元理論
- 弦理論とM理論
- 壊れた(あるいは隠れた、あるいは部分的な)超対称性
- データの役割
- 有効理論と根元理論

第10章:宇宙の起源とその自然法則を理解できるだろうか
- 弦理論と根元理論を検証する
- 現実的な制限?
- 人間原理と超対称性
- 科学の終焉?

付録A:標準模型のヒッグス機構
付録B:ヒッグス機構の超対称性による説明
付録C:チャージーノとニュートラリーノ
付録D:余剰次元 -- 大きな余剰次元

参考文献
訳者あとがき
超対称標準模型の粒子と記号
用語集
索引

発売情報:カシオ電子辞書 XD-K7200(2015年フランス語モデル)

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今年もカシオ電子辞書 XD-K7200(2015年フランス語モデル)が発表された。(2月13日に発売される予定。)ここ数年、毎年2月に新しいモデルがリリースされている。

フランス語学習者はもちろん、LHCから発表されるニュース・リリースをフランス語で読んだり、将来この研究所に勤務するようなことになるのだったらコンパクトな電子辞書は持っていたほうがよい。(記事内容を無理やり物理学に関連付けてしまった。)さらに、老眼が始まった方にもお勧めだ。


これまで6年間のモデルの詳細は次のリンクで確認できる。

2015年モデル
http://casio.jp/exword/products/XD-K7200/

2014年モデル
http://casio.jp/exword/products/XD-U7200/

2013年モデル
http://casio.jp/exword/products/XD-N7200/

2012年モデル
http://casio.jp/exword/products/XD-D7200/

2011年モデル
http://casio.jp/exword/products/XD-B7200/

2010年モデル(「ロワイヤル仏和中辞典 第2版」、カラー液晶画面が搭載された最初のモデル)
http://casio.jp/exword/products/XD-A7200/

最新モデルを買うに越したことはないが、旧モデルでも安いのが見つかればそれはそれでよいと思う。フランス語にかかわる人にとってポイントになる大まかな変更点は次のようなものだ。

2010年->2011年
- フランス語コンテンツ1つ追加(文法中心ゼロから始めるフランス語、ネイティブ発音)
- オックスフォード現代英英辞典が第7版から第8版になった
- ツインカラー液晶搭載
- 新画像検索機能
- 本体メモリー容量が50MBから100MBになった
- ボディカラーがブラック+シルバーからホワイトに変更

2011年->2012年
- フランス語コンテンツ1つ追加(プチ・ロワイヤル仏和辞典 第3版、ネイティブ発音)
- スクロールパッドや縦書きのブックスタイル表示機能を搭載
- ダブルカードスロットになった(追加コンテンツ用)
- ボディカラーがホワイトからシルバー+ブラック+ホワイト(外側)に変更

2012年->2013年
- プチ・ロワイヤル仏和辞典が第4版になった
- プチ・ロワイヤル和仏辞典が第3版になった
- 1981年の発売以来定評のある角川類語新辞典が収録された他、国語系コンテンツの見直しが行われた
- ジーニアス和英辞典 第3版が収録された
- タッチパネル式の操作ができるようになった。
- アイコンタイプのメニューデザインが採用された
- 0.9mm薄くなり、約310g->約290gに軽量化

2013年->2014年(フランス語系コンテンツの変更なし)
- 0.1mm薄くなり、約290g->約280gに軽量化

2014年->2015年(フランス語系コンテンツの変更なし)
- カラー液晶(サブパネル)が無くなった。そのぶんキーが大きくなり入力しやすくなった。
- 約280g->約265gに軽量化
- しゃべって身につく 英会話スキット・トレーニング[電子増補版]が追加された。
- TOEICテスト新公式問題集 Vol. 3, 4が追加された。
- デジタル単語帳通信機能が追加された。
- 電池寿命が延びた:単3形アルカリ乾電池LR6(AM3)の場合:約130時間から約180時間になった。※(英和辞典の訳画面で連続表示時)


どのモデルも紙辞書だと分厚い「ロワイヤル仏和中辞典 第2版」が使えるのはありがたい。また巨大な紙辞書の王様として今だに君臨している「小学館ロベール仏和大辞典」に至っては絶対に持ち運べないし、新品は3万円もするから電子辞書のほうが絶対にお買い得だ。ただし、この辞典はiPhone/iPad用のアプリが物書堂から2013年に発売された。(参考記事

2012年モデルまでに搭載されていたプチ・ロワイヤル仏和、プチ・ロワイヤル和仏はともに最新の紙辞書の版に2013年のモデルで追いついている。

これら2つの辞書は物書堂から販売されている「プチ・ロワイヤル仏和辞典(第4版)・和仏辞典(第3版)」を購入すればiPhone/iPadで使うこともできる。


「LE PETIT ROBERT仏仏辞典」については搭載されているのがこの6年間ずっと2008年版の辞書だ。フランスのアマゾンサイトAmazon.frでは昨年5月から2015年版が発売されている。(2015年製本版

また、アプリ版も何種類かでている。(日本から買えるのはこのうちの一部。)

Le Robert (Tablette et smartphone)
http://www.lerobert.com/espace-numerique/tablette-et-smartphone.html

版が古い辞書はいずれ「フランス語辞典追加コンテンツ」として購入できるようになるのだと考えれば許容範囲だとも言える。PETIT ROBERT仏仏辞典は2009年版が追加コンテンツとして発売されている。


完全に満足できる品揃え、買い時というのはいつまでたってもおとずれないのかもしれない。けれども今年こそ購入に踏み切ろうという方は、以下の画像をクリックしてお求めいただきたい。

カシオ電子辞書 第二外国語モデル XD-K7000シリーズ(2015年モデル)



カシオ電子辞書 XD-U7200(2014年フランス語モデル)



カシオ電子辞書 XD-N7200(2013年フランス語モデル)



カシオ電子辞書 XD-D7200(2012年フランス語モデル)
お安いほうのをどうぞ。

 

カシオ電子辞書 XD-B7200(2011年フランス語モデル)



カシオ電子辞書 XD-A7200(2010年フランス語モデル)




関連記事:

ロワイヤル仏和中辞典(辞書談義)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/aed33d08239da123dcc66c5ec08f0bc7

無料のオンライン仏和・和仏辞典を発見!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b3cae83cd882dd93d5efb788c1ac1498

ファインマン物理学: 英語版とフランス語版
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1dbcd1e1b02616ef1363ced99a912072


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基礎の固体物理学: 斯波弘行

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基礎の固体物理学: 斯波弘行

内容紹介:
量子力学・統計力学の初歩を前提に固体物理学の基礎事項を丁寧に解説した、学部学生~院生向きテキスト・参考書である。最近の研究成果の中から本書のレベルにふさわしい教材として、例えばグラファイトシートやカーボンナノチューブを取り上げている点や、絶縁体・半導体を「金属化」という観点を強調して解説している点など、オーソドックスな構成の中にも新鮮な内容が盛り込まれている。また、分かりやすさという点で、特に数式を抑えることはせず、むしろ式が意味する物理的内容を十分理解できることに意を尽くしている。固体一般の性質を一通り説明したのち、半導体、磁性、超伝導までの内容を、最新の知見をふまえ、またレベルを逸脱することなく、丁寧に解説している。2007年刊行、261ページ。

著者について:
斯波弘行(しばひろゆき)
1968年東京大学大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。大阪大学理学部助手。1973年東京大学物性研究所助教授。1984年同研究所教授。1989年東京工業大学理学部教授。2001年神戸大学理学部教授。東京工業大学および東京大学名誉教授。


理数系書籍のレビュー記事は本書で268冊目。

自分の周りを見渡すと机や椅子などの家具、キッチン用品、家電製品、パソコン、スマートフォンなどありとあらゆる物に囲まれて生活していることに気がつく。これまで物理学をずいぶん勉強していたつもりだが、僕はいったい何を知っているのだろう?物が原子でできていることは知っているけれども、考えてみるといちばん身近にあるのにほとんど理解していないことを思い知らされる。

- 金属って何だ?
- 絶縁体と導体の違いはなぜ生じるのだろう?
- 磁化する金属もあればしない金属もある。そもそも磁化って何?
- 透明な物質と不透明な物質の違いはなぜ生じるのだろう?
- 同じ光を当てても金属のように光沢があるものと光沢のない物質とでは何がどのように違うのだろう?
- 物の温まりやすさはどのようにして決まるのだろう?
- ゴムっていったい何なの?
- 電線に電流が流れるとどのようなからくりで熱が発生するのだろう?

等々、素朴な疑問は尽きることがない。

このような思いがこの数年いつも頭のどこかにあった。物性物理はいつかちゃんと勉強してみたい。相対性理論や量子力学、素粒子物理、超弦理論は確かに面白いけれど、それよりまず身の回りの当たり前のことがなぜそうなっているのかを知っておきたい。

とはいってもこの分野は広い。どちらかといえば物理学の中でも工学寄りだ。大学で物性物理を専攻する人はおそらく将来ナノテクノロジーや新素材の開発など先端技術の研究者を目指しているのだろう。学ぶ対象はとても広くそして深い。どこからとりかかればよいのか昨年秋頃から調べていた。

定番の教科書としてはキッテルの「固体物理学入門」やアシュクロフト&マーミンの「固体物理の基礎」などがある。前者は内容が新しいものの英語版、日本語版ともに評判があまりよくない。後者はとても詳しく親切な教科書だそうだが4冊もあっていきなり取り組むには少々気が重い。

ということでまず「神田古本まつり」で手に入れた戸田盛和先生の「物性物理30講」(紹介記事)を読んでみた。でもこの本はどちらかというと物性物理を学ぶための準備のような気がしていた。入門というより入り口にたどり着いたという感じ。つまり本書と戸田先生の本で重複する内容は少ししかないので両方読んでも無駄にはならない。

そこで手ごろな厚さでちゃんと入門できる本として選んだのが本書だったのだ。実をいうと本書は数年前に科学ブログをお書きになっていた方からコメント欄を通じてご紹介いただいた本なのである。

読み始めたのは1月20日頃のこと。正味240ページほどなのだがじっくり時間をかけて読んだ。やっと固体物理学に入門できたと感じた。本書は手ごろな分量なのにひととおりの基礎が網羅されている。グラファイトシートやカーボンナノチューブなど新素材の物性的な説明もある。章立ては次のとおりだ。

第1章:原子の中の電子
第2章:原子が集まってつくる固体
第3章:格子振動
第4章:自由電子モデル
第5章:結晶中の電子の状態
第6章:エネルギー・バンドから見た金属、絶縁体の区別
第7章:金属の伝導電子--その役割と実験的証拠
第8章:伝導電子の輸送現象--電流と熱流
第9章:半導体、絶縁体とキャリヤーの制御
第10章:固体の光学的性質
第11章:固体の磁性
第12章:超伝導

本書を読むための前提知識は古典力学(解析力学を含む)、電磁気学、熱力学、統計力学、量子力学だ。これらの復習に充てられるページ数は本書にはない。

最初から数式が遠慮なく使われていて、ハイペースで解説が進む。章を重ねるごとに効率よく新しい事柄が身につくように構成されている。理解に役立つ図版やグラフはふんだんに掲載されていることにも大いに助けられた。

僕にとって目新しかったのはさまざまな結晶格子の解説と、その違いによって生じる電子の状態だ。格子模型を見たのは大学受験のとき地学で鉱物を学んだとき以来だ。でも今回は電子状態を計算するのだから、当時とは学びの深さがまったく違う。

これまで意識することがなかった原子価の大きい原子やp軌道、d軌道、f軌道などの電子軌道にも慣れていないので「岩波 理化学辞典 第5版」や「世界で一番美しい元素図鑑」をiPadのアプリで確認しながら読み進んだ。この2つのアプリはとても役に立った。

岩波理化学辞典第5版(iPhone/iPad)
https://itunes.apple.com/jp/app/id319042883?mt=8

世界で一番美しい元素図鑑(iPhone/iPad)
https://itunes.apple.com/jp/app/yuan-su-tu-jian-zuo-theodore/id364147847?mt=8


金属、絶縁体の区別、電流の流れるしくみもよく理解できた。半導体のしくみは電子工学系の本で学んでいたが、数式導出を学んだのは初めてのことだ。

いちばん手こずったのは第11章の「固体の磁性」。この章だけは残念ながら半分も理解できなかった。他の本で学びなおせば理解できるかどうかも自信がない。

それでも最終章の「超伝導」は理解できたので元気を取り戻した。あと本書の付録はとても大切だ。読み落としてはならない。


物性物理は本書がほとんど1冊目なので他の教科書との比較ができない。そのかわりに巻末の「参考書」のところで著者が紹介していた同じ分野の教科書を書いておくことにした。

標準的レベルの教科書

キッテルの「固体物理学入門」: 標準的な教科書。版を重ねるたびに最新のトピックスを取り入れている。教科書としては第3版あたりが一番良いと思う。

アシュクロフト&マーミンの「固体物理の基礎」: キッテルの教科書と対照的。説明が詳しく、教科書としての評価は時間とともに高まっている。理論に興味のある人に向いている。

フック・ホールの「固体物理学入門〈〉〈〉」: イギリスの教科書で、基礎的な事柄を丁寧に説明している良書である。

ザイマンの「固体物性論の基礎」: 固体電子のバンド理論などが詳しい。理論を中心にした教科書

H. イバッハの「固体物理学―新世紀物質科学への基礎」: コラムを使って、標準的な事柄に加えて、最近の発展を入れている。

花村栄一の「固体物理学」: スタンダードな教科書。光学的性質の説明に特色がある。

家泰弘の「物性物理」: 電気伝導などの固体電子の性質を中心とした標準的な教科書だが、新しい問題も積極的に取り上げている。

岡崎誠の「固体物理学―工学のために」: 説明がわかりやすい。

上村洸、中尾憲司の「電子物性論―物性物理・物質科学のための」: 半導体、低次元物質について詳しい。

ややレベルの高い教科書

ウェルター A.ハリソンの「固体の電子構造と物性―化学結合の物理 (上巻) (下巻)」: 電子状態を物質に即して学びたい人に向いている本。極めて優れた教科書である。

キッテルの「固体の量子論」: 大学4年生から大学院レベルの理論中心の実践的な本である。


関連ページ:

ネットで学んでみたい方はこちらでどうぞ。

目で見て操作する「分子の世界」-そのミクロ構造と物性-
http://rikanet2.jst.go.jp/contents/cp0200a/start.html

物性物理学(筑波大学物理学系 小野田雅重先生のページ):取り上げられている項目は本書にかなり近いのでお勧め。
http://www.px.tsukuba.ac.jp/~onoda/cmp/cmp.html


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基礎の固体物理学: 斯波弘行



第1章:原子の中の電子
- 水素原子の電子状態
- 電子を2つ以上もつ原子の電子状態と周期表の成り立ち
- p軌道、d軌道、f軌道

第2章:原子が集まってつくる固体
- 原子から固体をつくる力
- 結晶としての固体
- 固体の構造を決める実験的方法

第3章:格子振動
- 格子振動の簡単な例
- 固体の格子振動の一般的な特徴と例
- 格子振動の固体の性質への影響
- 格子振動による原子の位置の揺らぎと結晶の安定性

第4章:自由電子モデル
- 自由粒子の量子力学
- 自由電子系の基底状態とフェルミ面
- 状態密度
- 有限温度の性質
- 電子の比熱とスピン磁化率

第5章:結晶中の電子の状態
- ブロッホの定理
- ブリルアン・ゾーン
- ブロッホ関数とエネルギー・バンド
- ほとんど自由な電子
- 原子の波動関数による展開--強く束縛された電子の近似

第6章:エネルギー・バンドから見た金属、絶縁体の区別
- 金属と絶縁体の区別
- 金属のエネルギー・バンドの例
- 絶縁体のエネルギー・バンドの例
- 2次元グラファイトのエネルギー・バンド
- カーボン・ナノチューブの電子状態

第7章:金属の伝導電子--その役割と実験的証拠
- フェルミ面
- 伝導電子による比熱、スピン磁化率
- 金属の凝集エネルギー
- 電子の運動への電場、磁場の影響
- ド・ハース-ファン・アルフェン効果

第8章:伝導電子の輸送現象--電流と熱流
- 外場による電子の加速と散乱の簡単なモデル
- 磁場の影響--磁気抵抗効果とホール効果
- ボルツマン方程式
- 電気伝導度
- 熱電効果と熱伝導度

第9章:半導体、絶縁体とキャリヤーの制御
- 半導体(絶縁体)のキャリヤー
- モット絶縁体
- 半導体、絶縁体の金属化

第10章:固体の光学的性質
- 固体中の電磁波の伝播
- ローレンツ-ドルーデ・モデルの交流電場に対する応答
- 金属光沢の起源
- 分極率の一般的な表式と固体の電子状態
- 半導体における光吸収

第11章:固体の磁性
- 電子のスピンと磁気モーメントと軌道磁気モーメント
- 不完全殻とフントの規則
- 結晶場中の磁性イオンの電子状態
- 絶縁体におけるスピン間の相互作用
- 金属の強磁性

第12章:超伝導
- 現象から見た超伝導
- 超伝導になる物質とその特徴
- 超伝導はどうしておこるのか--超伝導のミクロな理論

付録
- 格子振動の量子論
- 固体電子のブロッホ関数とエネルギー・バンドの一般的な性質
- 固体中の電子の動力学

参考書
演習問題の略解
索引

大学への数学(研文書院)

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大学への数学(研文書院)

内容紹介:
A基礎理論篇は深い理解のための解説、B演習問題篇は高度の問題解決力を育てる演習になっています。また、入試に向けて総合的実力を磨くために、最後に総合問題の章を設けています。

著者について:
藤田宏: 東京大学理学部名誉教授: ウィキペディアの記事
長岡亮介: 明治大学客員教授: ウィキペディアの記事
長岡恭史: 東進ハイスクール講師、東進衛星予備校講師、数学科(紹介動画
木部陽一: 開成高等学校教諭
柴山 達治: 開成高等学校教諭


2013年8月の研文書院廃業のニュースは衝撃的だった。

えっ、あの黒大数の本を出している会社でしょ?少子化はそこまで進んでいたのか。。。

そして次に衝撃が昨年の代々木ゼミナール廃校のニュース。全国28校舎のうち本部校(新宿)など7拠点に集約し、その他の校舎については平成27年度から募集を停止するのだという。

ああ、日本は大丈夫なのか??

若者の数が減った上に経済格差も進んでいるから、大学受験に挑戦できない若者も増えている。受験者数が減ったから大学には入りやすくなり、合格率でみると僕の頃なんかよりずっと増えているわけだ。つまりいわゆる浪人生は激減しているわけで、代々木ゼミナール校舎の閉鎖はその影響をもろに受けた結果だ。

その結果、入学試験問題は昔よりずっと易しくなっているそうだ。僕は共通一次世代なのだが、センター試験になってからも年を追うごとに易しくなっているのだという。

僕より前の「団塊世代」が受験生の頃は全国で一斉に受験する制度はまだなく、国立大学は一期校と二期校に日取りを分けてそれぞれの大学で入試を行っていた。戦後の第一次ベビーブームに生まれた世代で多くの若者が受験したため、試験問題は共通一次が行われていた頃よりもずっと難しかった。

この研文書院の「大学への数学シリーズ」はこのような受験戦争時代に難関大学に挑戦する学生のために生まれた参考書である。優秀な学生向けの「赤チャートシリーズ(数研出版)」の参考書を凌駕する「黒のバイブル」だ。

だから研文書院廃業のニュースを聞き、大学受験業界の全盛期を象徴するこの本を手元に残しておきたいと思った。以来、中古で安いのを見つけるたびに買っていた。


今月はまさに大学受験の真っ最中。僕がふだん勉強に利用しているカフェでも受験生が勉強に集中しているのをよく見かける。今の時代でも優秀な学生は数研出版の「赤チャートシリーズ(数研出版)」や月刊誌の「大学への数学(東京出版)」で勉強しているのだろうなと思う。書店には並んでいないから、黒大数とか黒本と呼ばれたこの参考書のことを知らない若者も多いに違いない。

ともあれあと少しの辛抱である。受験生のみなさんは頑張って乗り切っていただきたい。応援しています。


さて、この参考書なのだが3種類購入してからそれぞれ5問ずつ最終章の総合問題(難問)を自分で解いてみた。やはり難しかった。正解できたのは15問中11問。解けなかった4問は解答を見て理解しておいたが、自分じゃ解けないのも無理はないということも納得させられてしまった。。。たとえ高校1年で学ぶ数Iの問題でも侮れないのだ。

パラパラとページを眺めてみると、良い問題がとても多いという印象だ。大学のときは数学専攻だったし、この数年は大学の数学も学び直しているだけに受験生の頃とは全く違う視点で問題を見ることができる。


本のはじめの「読者のみなさんへ」には著者から学生へ向けたメッセージがある。このように崇高な目的で書かれた参考書なのだ。以下に引用しておこう。

標題の“大学への数学”には2通りの気持ちがこめられています。一つは大学進学を目指す、みなさんがこのシリーズの本を用いて勉強に励まれたならば、数学に関するかぎり

(1)どのような大学の入試問題にもたじろがない、また、世界のどのエリート大学の新入生に対してもヒケをとらない実力が身につくという期待です。

もう一つは、この本を伴侶として数学と取り組むことによって得られる正統な知識と粘り強い思考力が、進路の理系文系の別によらず、みなさんの

(2)大学における進歩とその後の専門分野での活躍の基盤となるようにという願いです。

学力の低下・平板化が懸念され、発展学習を尊重する声が高まってきた最近の日本ですが、平均的な高校生を想定して作成された普通の教科書に従うだけの学習では、素質に恵まれ高い志しをもつ生徒達の能力を引き出すのに十分ではありません。また、受験勉強にしても、競争緩和に甘えたり、‘超親切な’参考書に依存する暗記型の勉強では、学理に基づいて出題され、解答に鋭い発想が求められる、高レベルの大学の入試には通用しませんし、たまたま、合格した場合も「大学での数学」とのギャップに悩み高校時代の努力が活きません。

一方、科学技術が爆発的に進歩し、あらゆる分野での情報化が深化する「知の世紀」、すなわち、21世紀においては、本格的な数学の学習によって培われた思考力と英知が、ますます必要とされます。

以上のような認識に基づき、「将来におけるみなさんの発展と日本の繁栄に役立つこと」を念願として、著者の私どもは、それぞれの研究、指導、教育の経験を活かして本書を編みました。

“東大への解析I、解析II”として誕生した大学への数学シリーズは、すでに50年におよぶ歴史を持っています。その間、大学への数学にこめた、“正統的な勉学による実力の育成を”という私どもの主張は、幸いに、生徒の個性に応じての指導に真剣な先生方の評価を頂き、気力と志しに富んだ高校生・受験生の支持を一貫して受け続けました。今日、学会をはじめとする社会の各方面で指導的な役割を果たしている多くの方々が“大学への数学”を用いて数学の勉強に励まされた経験を語っておられます。みなさんも先輩達に続いて下さい。


中古本を購入される方はこちらからどうぞ。

大学への数学I&A
大学への数学II&B
大学への数学III&C

  


東大と東工大に特化した本もある。昔の感覚が鈍っていないか試してみたい方はどうぞ。

大学への数学スペシャル東大・東工大―ハイレベル指向-最重要問題103題



研文書院の「大学への数学」をすべて: Amazonで検索する ヤフオクで検索する



東大理系、京大理系を含めて全国の国立大、私立大の入学試験問題と解答は、2005年までさかのぼって次のサイトから閲覧できる。

大学入試解答速報(河合塾)
http://kaisoku.kawai-juku.ac.jp/nyushi/


もっと昔の問題にチャレンジしたい方には「赤本」をお勧めしたい。

東大の理系数学25カ年[第7版]
京大の理系数学25カ年[第7版]

 


難問マニアのあなたには、次のような本も紹介しておこう。

ここに気づけば! 東大・難関大「数学」入試問題があなたにも解ける




東大数学で1点でも多く取る方法 理系編




チャート式シリーズ 数学難問集100




ブルーバックスからもこういう本がでている。「難問」ではなく「良問」である。

入試数学伝説の良問100―良い問題で良い解法を学ぶ (ブルーバックス)」(Kindle版





そして最後に、理数系の受験生には次のことを伝えておきたい。

新課程で学んだ受験生のみなさんへ

数学科に限らず、およそ理数系、工学系に進むのであれば大学の教養課程で「線形代数」を学ぶことになる。これは必須教科だ。(参考記事:「大学で学ぶ数学とは(概要編)」)

ところが現在の高校新課程の数学では「行列とベクトル」は教えられないことになった。これは線形代数を学ぶ上で大きな障害になる。大学の教科書では高校で学んでいることを前提としているからだ。

だから「行列とベクトル」を学んでいない人は、合格通知をもらったら入学するまでに、ぜひ次の本を読んでおいてほしい。大学で線形代数を学ぶのがだいぶ楽になるだろう。

高校数学でわかる線形代数―行列の基礎から固有値まで (ブルーバックス)」(Kindle版




関連記事:

高校生にお勧めする30冊の物理学、数学書籍
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f79ac08392742c60193081800ea718e7

大学で学ぶ数学とは(概要編)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/07137c47d16d95ddde8f5c4cb6f37d55

大学で学ぶ数学とは(実用数学編)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/975ad3faa2f6fd558b48c76513466945


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大学への数学I&A
大学への数学II&B
大学への数学III&C

  

大学への数学I&A

A:基礎理論篇、B:演習問題篇

第0章:数学で用いる言葉
第1章:数と式1(概念と計算)
第2章:2次関数
第3章:三角比
第4章:個数の処理
第5章:確率
第6章:数と式2(証明と論理)
第7章:数列
第8章:平面幾何

C:総合問題

問の答
練習問題の答
索引
著者紹介

大学への数学II&B

A:基礎理論篇、B:演習問題篇

第1章:式と証明
第2章:複素数と方程式
第3章:図形と方程式
第4章:三角関数
第5章:指数関数・対数関数
第6章:微分・積分
第7章:数列
第8章:ベクトル
第9章:数値計算とコンピュータ

第10章:総合問題

練習問題の答
索引
著者紹介

大学への数学III&C

A:基礎理論篇、B:演習問題篇

第1章:さまざまな関数
第2章:行列とその表す変換
第3章:いろいろな曲線
第4章:極限
第5章:微分法の基礎
第6章:微分法の応用
第7章:積分法の基礎
第8章:積分法の応用
第9章:確率変数(正規分布を含む)

第10章:総合問題

練習問題の答
索引
著者紹介

復刻版 チャート式 代数学、幾何学(数研出版)

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復刻版 チャート式 代数学、幾何学(数研出版)拡大写真

内容紹介:
昭和16年11月に発行された「改訂新版 チャート式 代数学」(第二百十七版、七百十二頁)、昭和17年3月に発行された「改訂新版 チャート式 幾何学」(第二百十二版、六百九十九頁) の復刻版。復刻版ページ数は順に717ページ、707ページ。文章の主体となる仮名を、片仮名から平仮名に改め、歴史的仮名遣いは新仮名遣いに改め、一部の表現を現代流に改めている。学習の便宜を図るため、各ページの下方に補足事項を加筆。また、原著に示された各問題の出題校が、現在のどの大学にあたるかを可能な範囲で調べて、その情報も掲載。

昭和初頭の名著、今ここに蘇る。解法に用いる定理や系を知悉していても、初対面の問題に出会ったとき、どんな定理を使うべきか、どうして証明して行くべきか四苦八苦しなければならぬとき、こうした場合はこのようにせよという指導教訓が示されている。

著者について:
星野華水
星野半五郎。数研出版の創始者。自らが設立した学校(数学研究社高等予備校。当時の文部省認可財団法人)で教鞭をとる傍ら、独創的な学習法であるチャート式システムを考案した。そして、星野華水の号を以ってそれらを書き表し、数多くのチャート式学習書をこの世に送り出した。


大学入試シーズンということで「大学への数学(研文書院)」を書いたが、今の高校生や大学受験生にとって馴染みがあるのは数研出版の「チャート式」の参考書だろう。これを紹介しないのは片手落ちというものだ。


* 現代のチャート式

数研出版の高校生用のチャート式参考書は難易度によって難しいほうから赤、青、黄、白の色がつけられている。レベルのおよその目安は次のとおり。




難関大学にも対応できるのは「赤チャート」である。

赤チャート(高校数学、新課程用)

チャート式数学I+A
チャート式数学2+B
チャート式数学3

  

赤チャート: すべて検索
青チャート: すべて検索
黄チャート: すべて検索
白チャート: すべて検索


* 復刻されたチャート式

長年の間、大学受験生を支えてきたチャート式シリーズはその起源をたどると昭和4年初版の「チャート式 代数学」と「チャート式 幾何学」にさかのぼることができる。これら2冊はその後も改訂され続ける。

チャート式の歴史(数研出版のページ)
http://www.chart.co.jp/corp/00epitome/02histry/histry_chart.html

改訂された戦前のチャート式参考書が昨年復刻版として刊行された。復刻の元になったのは昭和16年刊行の「改訂新版 チャート式 代数学」第217刷と昭和17年刊行の「改訂新版 チャート式 幾何学」第212刷である。ともに「刷」の数が200を超えていることからわかるように、当時の受験生から絶大なる支持を得ていた。

チャート式 復刻版の詳細(数研出版のページ)
http://www.chart.co.jp/top/fukkoku/

チャート式 代数学(復刻版)
チャート式 幾何学(復刻版)

 

復刻版といっても当時のものと全く同じというわけではない。オリジナル版の時代のひらがなとカタカナの使い方は現在と逆なので、そのままだと読みにくい。この復刻版では現代人でも読みやすいように現代かな使いに統一してある。また漢字の旧字体もすべて新字体に変えている。

中身を見ると代数学のほうは現代の赤チャートとほとんど同じような難易度であることがわかる。けれども幾何学のほうはまるまる1冊があてられ、現代の参考書よりも分量がはるかに多くて難しい。

「復刻版の詳細」から目次やサンプルページを見ることができるのだが、代数学は現在の高校1年から高校3年の範囲で指数・対数関数も含まれている。三角関数や微積分は代数学、幾何学のどちらの本にも含まれていない。

当時の受験生は今より学ぶ範囲が少なくて楽だということではない。チャート式として出版されていたのが代数学と幾何学の範囲だったというわけで、学校ではもっと広い範囲を国が定めた教科書を使っていたからだ。

では、オリジナル版が発行された昭和17年当時の学生はどのような範囲の数学を学んでいたのだろうか?


* 戦前の学校制度

ウィキペディアの「日本の学校制度の変遷」というページから次の図を引用してみる。明治から戦前までの学校制度はこのようなものだった。(画像はクリックで拡大する)



つまり、現在と大ざっぱに対応づけると次のようになる。

小学校(6年間)=旧制小学校(1年生~6年生)
中学校(3年間)=旧制中学の1年生~3年生
高校(3年間) =旧制中学の4年生~5年生
大学教養課程(2年間)=旧制高校の1年生~2年生または大学予科の1年生~2年生
大学専門課程(2年間)=旧制の帝国大学の1年生~2年生(帝国大学は3年制)

夏目漱石や昭和初期の小説にでてくる中学生や高校生が大人びているのはこのためだ。それぞれ今でいう高校生や大学1、2年生である。そして当時の高校生はエリートの卵、大学生は超エリートなのである。ごく一部の若者だけ高校、大学に進学することができた時代である。

戦前の旧制高校生がかっこ良すぎる件 同世代の1%しか進学できず、まさに「エリートの卵」
http://blog.livedoor.jp/gurigurimawasu/archives/22253482.html

華麗なる旧制高校巡礼
http://www.geocities.jp/qsay55/


* 戦前の数学教育

そして旧制中学、旧制高校の学生が各学年で学んでいた数学の内容は次のPDF資料で知ることができる。それぞれとても興味深い資料だ。

旧制中学について:「近代数学」 と学校数学 - 数学の普及の歴史から
http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kyodo/kokyuroku/contents/pdf/1064-7.pdf

旧制中学数学教育制度史研究
http://www.educ.kumamoto-u.ac.jp/~shinya/Personal%20Data%20Yamamoto/Yamamoto%27s%20paper/%E5%B1%B1%E6%9C%AC1999%E3%80%80%E4%B8%AD%E5%88%B6%E5%BA%A6.pdf

旧制高校について:「近代数学」 と学校数学 (その 2 )旧制高等学校の数学
http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kyodo/kokyuroku/contents/pdf/1130-16.pdf

これらの資料を読むと年齢を基準にすれば戦前と現在ではどの年齢でもほぼ同じ内容を学んでいることがわかる。旧制中学(現在の高校1、2年)では指数・対数関数だけでなく三角関数も学ぶ。旧制高校(現在の大学教養課程)では微積分や微分方程式も学ぶ。また旧制高校では球面三角法も教えられていた。現在と違うことに気がついたのは次の2つだ。

1) 旧制中学では微積分は教科書に含まれていなかった。微積分が教科書に入ったのは昭和17年の教授要目改正によるものだ。この背景には次のような主張があり、教師への注意事項として付け加えられた。

もしも微分積分を無反省に中等教育に導入するときは、この方面に於て中等教育が極端な形式主義に走る危険が十分にある。 中等教育に採り入れらるべきは所謂微分積分の名の下に呼ばれる技術ではなくて、極限の観念を主流とする考察と処理の方法である。
何れの方法によるも根抵にある考へ方を徹底させるやう特に注意すべきである。 これが為には早く公式化して、その適用練習を課するやうであってはならない。 個々の問題を解くに当っては、なるべくその根抵から出発して解決し、その間に自然演算の公式が出来上るやうに扱ふべきである。 内容がしっかり把握出来ない中に形式化し、それによって多くの問題が解けるやうになったとしても、それで根抵をなす考へ方が了解出来るものと即断してはならない。

2) 旧制高校では行列式は教えられたものの、線形代数は詳しく教えられていなかった。教授に対するアドバイスとして「ベクトル、群、行列等二就キテハ適宜ノ箇所二於テソノ概念ヲ簡単二与フルモ可ナリ」と書かれている。


* オリジナルのチャート式で学んでいた学生と当時の日本

昭和16年、17年に発行されたチャート式で学んでいたのは当時15~16歳の学生である。つまり彼らは大正14年、昭和元年生まれなので現在89~90歳である。(今年は昭和90年だ。)

彼らが受験したのは旧制高校でその2年後に大半の学生が帝国大学の1年生になる。大学へ入学したのは昭和18年と昭和19年。

太平洋戦争が昭和16年から昭和20年までであることを思い出してほしい。そして大学生を戦地へ送るために「学徒出陣壮行会」を国立競技場で行なったのが昭和18年10月であることもだ。

彼らの大学入学年 = 学徒出陣壮行会の年

出征先でどのような運命が待っていたかは昨年「地獄の日本兵―ニューギニア戦線の真相:飯田進」という記事で紹介した。

この参考書で学んだ学生を含め、合格の栄冠を手にした10万人とも言われる優秀な大学生が、このような亡くなり方をしたのかと思うと胸にこみあげてくるものがある。


* 合格の喜び

復刻版のチャート式の「復刻版発刊に際し」には、オリジナル版で学んで合格を勝ち取った戦前の学生たちが数研出版に送った感謝のメッセージが紹介されている。現在、入試に向けて日夜がんばっている受験生へのエールとして、ここに紹介しておこう。(原文は旧漢字で書かれている。)受験生のみなさん、ベストを尽くし最後の最後まで頑張ってください!健闘を祈っています!

- 一高理甲合格! 二年前よりチャート式代数、幾何を使ひ、チャート式英文解釈を読み、冬季総括に入つたりして得たチャート式の実力は素晴らしかつた。

- 今回幸にも三高文科甲類にパスすることが出来ました。チャート式幾何学は実に天下一品です。元来幾何の嫌ひであつた小生も、あれを使つたおかげで幾何が好きになりました。

- 先生お喜び下さい。小生今般第八高等学校理科乙類に合格致しました。チャート式代数と幾何、それにテレ講座、冬季総括講座にて頑張りました。

- 拝啓、チャート先生。私は無事に大高理丙に入学できました。これは全くチャートシステムを知つたおかげ。心よりチャート兄貴よ、ダンケ。」


* チャート式の難問集

難問ばかり集めたチャート式もあるので紹介しておこう。これは現代の問題集。

チャート式シリーズ 数学難問集100




最後に、理数系の受験生には次のことを伝えておきたい。

新課程で学んだ受験生のみなさんへ

数学科に限らず、およそ理数系、工学系に進むのであれば大学の教養課程で「線形代数」を学ぶことになる。これは必須教科であると同時に数学以外の理数系科目にも使われる大事な内容だ。(参考記事:「大学で学ぶ数学とは(概要編)」)

ところが現在の高校新課程の数学では数学Cに含まれていた「行列」は教えられないことになった。これは線形代数を学ぶ上で大きな障害になる。大学の教科書では高校で学んでいることを前提としているからだ。

だから「行列」を学んでいない人は、合格通知をもらったら入学するまでに、ぜひ次の本を読んでおいてほしい。大学で線形代数を学ぶのがだいぶ楽になるだろう。

高校数学でわかる線形代数―行列の基礎から固有値まで (ブルーバックス)」(Kindle版




もしチャート式にこだわるのであれば、この参考書の「行列」の範囲で学ぶとよいだろう。

チャート式 数学C




参考ページ:

数学の変化~高校数学はこんなに変わる~
http://sankousho.info/exp/exp-math.php

高校数学学習支援【数学C】
http://naop.jp/sien/sien_c.html

高校数学の基本問題(ページ下のほうの「(参考)旧教育課程」を参照)
http://www.geisya.or.jp/~mwm48961/koukou/index_m.htm

Wikibooksの「高等学校数学」の中の「数学C_行列」を参照


関連記事:

大学への数学(研文書院)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6124158481ed8d9d4655478643be0db8

高校生にお勧めする30冊の物理学、数学書籍
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f79ac08392742c60193081800ea718e7

大学で学ぶ数学とは(概要編)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/07137c47d16d95ddde8f5c4cb6f37d55

大学で学ぶ数学とは(実用数学編)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/975ad3faa2f6fd558b48c76513466945


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チャート式 代数学(復刻版)
チャート式 幾何学(復刻版)

 

チャート式 代数学(復刻版)

前編:系統指導部

第一章:整式
第二章:分数式
第三章:無理数および無理式
第四章:式の値
第五章:方程式
第六章:方程式応用問題
第七章:比及び比例
第八章:証明問題
第九章:不等式
第十章:極大及び極小
第十一章:グラフ
第十二章:数列
第十三章:対数

中編:整理統括部

後編
第一章:採点者講評
第二章:答案作製用問題
第三章:答案と講評
第四章:採点者の示せし優良答案

チャート式 幾何学(復刻版)

前編:系統的研究

第一章:直線形
第二章:円
第三章:面積
第四章:比例
第五章:軌跡
第六章:作図題
第七章:計算問題

中編:総括的研究

第一章:形状決定問題
第二章:位置決定問題
第三章:制限附与問題
第四章:相変化問題
第五章:場合と吟味脱落危惧問題
第六章:一定問題の基礎
第七章:融総合問題

後編

第一章:特殊定理
第二章:答案作製に際し
第三章:採点者講評
第四章:答案作製用問題
第五章:答案と講評

トムは真夜中の庭で : フィリパ・ピアス

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トムは真夜中の庭で : フィリパ・ピアス

内容紹介:
弟のピーターがはしかにかかり、おじとおばの住むアパートに預けられた少年トム。その邸宅には庭すら無く、はしかのために外出すらできない彼は退屈し切っていた。そんなある日の夜、ホールの大時計が奇妙にも「13時」を告げたのをきっかけに、彼は存在しないはずの不思議な庭園を発見する。そこはヴィクトリア朝時代のメルバン家という一家の庭園であった。それから毎日、彼は真夜中になると庭園へと抜け出し、そこで出会った少女、ハティと遊ぶようになる。しかしながら、庭園の中では時間の「流れる速さ」や「順序」が訪れるごとに違っていた。彼はだんだんと、ハティの「時」と自分の「時」が同じでないことに気づいていく。「時間」という抽象的な問題と取り組みながら、理屈っぽさを全く感じさせない。歴史と幻想が織りなすファンタジーで、カーネギー賞受賞の傑作。日本語として出版されたのは1967年。そして1975年刊の本が新版として2000年に刊行、358ページ。(参考:ウィキペディアの「トムは真夜中の庭で」)

著者について:
フィリパ・ピアス(1920-2006): ウィキペディアの記事
イギリスの児童文学作家。ケンブリッジ州のグレート・シェルフォドという田舎町に生まれた。代々その地で大きな製粉工場を経営する家庭だった。ケンブリッジ大学を卒業、のちに英国放送協会(BBC)で学校放送を担当した。『ハヤ号セイ川をいく』で作家としてデビュー。『トムは真夜中の庭で(1958)』でカーネギー賞を受賞した。他に『まぼろしの小さい犬』や短編集『幽霊を見た10の話』、『真夜中のパーティ』などがある。

翻訳者について:
高杉一郎(1908-2008): ウィキペディアの記事
東京文理科大学英文科卒業。和光大学名誉教授。著書に『極光のかげに』、『征きて還りし兵の記憶』、訳書にクロポトキン、スメドレー、グレイヴズなど。編者に「エロシェンコ全集」全3巻。


知り合いから紹介していただいた児童文学の本だ。さもなければ僕がこの本を手に取ることはなかっただろう。本も人も一期一会である。

児童文学など小学生のとき以来、まったく読んでいない。小学生の頃に読んだので覚えているのは「エルマーの冒険」や「ドリトル先生アフリカ行き」、「長くつ下のピッピ」、「だれもしらない小さな国」などのシリーズ物くらいだ。「不思議の国のアリス」と「鏡の国のアリス」は中学生のときに読んだ。あ、そうそう。大人になってからミヒャエル・エンデの「はてしない物語」と「モモ」も読んでいる。

サン=テグジュペリの「星の王子さま」は大学時代に読んでいたけれども、僕にとっては児童文学というよりフランス語を学ぶときの副教材だった。

ミヒャエル・エンデの小説もそうだが、大人も楽しめる児童文学はそれほど多くない。この「トムは真夜中の庭で」もそのうちのひとつだ。岩波書店の書籍紹介ページによると初版が1967年に出ていたようだが、僕はこの本のことをこれまでまったく知らなかった。

トムは真夜中の庭で(岩波書店)
http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/11/0/1108240.html


紹介してもらって本当によかったと思う。途中からぐいぐい引き込まれて止まらなくなり、350ページをいっきに読み終えた。対象年齢は小学6年以上ということだそうだが、大人向けの文章だと思った。ふつう漢字で書くところをひらがなにしてあるというのが子供向けなのだろう。そもそも何をもって児童文学というのだろう?読み始めてわかったのは次の4つのことだ。(もちろんこれにあてはまらない本もあるだろうけど。)

- 子供が主人公であること。
- 子供の視点に立って世界を見ていること。
- 社会や世界や物事について、平均的な子供の知識や理解力を考慮して書かれていること。
- 漢字の使用を控えてひらがなで書いてあること。

表紙の絵や紹介文だけ読むと、夜中に家を抜け出す孤独な少年が少女の幽霊と遊ぶというちょっと不気味なストーリーのように思えてしまう。幻想とオカルトに包まれた少年の初恋がテーマの小説なのかなと僕は勘違いしていた。

読み始めてしばらくは予想どおりに話が進む。100年前のビクトリア朝時代に建てられた古い邸宅を改築したアパートには大時計があり、夜中に13時の鐘を鳴らすという異常なストーリー設定は読者の期待どおりに主人公のトムを不思議な庭園へと誘い出してくれる。その庭園で少年はハティという名前の少女と出会う。

ところがそこから予想と異なる状況が繰り広げられて、好奇心がむくむくと湧いてくるのだ。庭園で出会うのはハティだけでなく彼女の従兄たち3人、そして何人かの大人の姿を目にすることになる。ただしトムのことが見え、話ができるのはハティともうひとりの大人だけという設定だ。

また毎晩トムはその庭園に行ってハティと遊ぶのだが、行くたびにそこは夜だったり昼間だったり、季節も夏の日もあれば雪景色だったりする。そのうちトムは庭園が現在の世界ではないことに気が付く。ハティはビクトリア朝時代の少女だったのだ。ハティのほうもトムが自分とは違う世界の子供だと気がつきトムのことを幽霊だと思うようになる。

これ以上書くとこれからお読みになる方の楽しみを奪ってしまうのでやめておこう。

邸宅や庭園という空間が2つの時代で共有される。だとすると時間とはいったいどのようなものだろうか?

時間は過去から未来へ同じペースで進むという常識が壊れている現実にトムは気付き、自分にとっての時間やパティにとっての時間について懸命に考えを巡らせる。これはタイムトラベルなのだろうか?それとも2つの時代の同じ場所がつながったものなのだろうか?会うたびにパティが成長しているのはなぜだろう?

このように理数系人としての興味も大いに掻き立てられる。難しい専門用語が使われていないから小学生にも理解できる時間と空間の不思議な世界だ。

「パティといつまでも会い続けたい。」とトムは願うようになる。はたしてトムの願いは聞き届けられるのだろうか?もしそうならば、それはどのようにして?

これが読者を惹きつけて離さない本書の魅力のひとつなのだ。


本書の原作が書かれたのは1958年、日本語の初版が出されたのが1967年だ。翻訳をした高杉先生は1908年生まれなので現代では使われていない言いまわしや仮名づかいがちらほらと見受けられる。それはそれで1950年代の雰囲気をかもしだしているので、僕としては魅力のひとつになった。

ウィキペディアの記事に高杉先生がシベリア抑留を経験と書かれていたことには驚かされた。30代の頃である。よく生きて帰ってこられたものだ。100歳で大往生を遂げられたのは、帰国後も先生が生涯に渡って健康そのものだったことをうかがわせる。

また当時のイギリスの風景や美しい庭園が詳しく描写されている。それは原作者フィリッパ・ピアス自身が子供時代を過ごした環境がそのまま小説に使われているからなのだ。

児童文学というレッテルにこだわらず、ぜひお読みになっていただきたい。


原作はこちら。Kindle版もでている。

Tom's Midnight Garden: Philippa Pearce」- 1992 October (Kindle版




4月には新装版が発売されるようだ。本書の人気ぶりがよくわかる。

Tom's Midnight Garden: Philippa Pearce」- 2015 April




関連ページ:

『トムは真夜中の庭で』/アン・フィリッパ・ピアス
http://hayamonogurai.net/archives/1494

トムは真夜中の庭で - 児童文学書評
http://www.hico.jp/sakuhinn/4ta/tomu06.htm


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トムは真夜中の庭で : フィリパ・ピアス



1) 家を遠くはなれて
2) 大時計が13時をうつ
3) 月の光のなかで
4) 日の光のなかで
5) 露のなかの足あと
6) ドアを通りぬける
7) ピーターへの報告
8) いとこたち
9) ハティ
10) いろいろな遊びといろいろな話
11) 川は海へそそぐ
12) ガチョウたち
13) 今はこの世にいないバーソロミューさん
14) 辞典をしらべる
15) 塀の上からの眺め
16) 木のなかの家
17) ハティをさがしもとめる
18) 窓に横木が二本わたしてある寝室
19) つぎの土曜日
20) 天使のことば
21) いつも「時」のことばかり
22) 約束を忘れる
23) スケートの旅
24) トムとピーターがひょっこり顔を合わせる
25) 最後のチャンス
26) あやまりにいく
27) トム・ロングにきかせた話

訳者のことば
「真夜中の庭で」のこと--フィリパ・ピアス

東大教授が語る、東大新入生のための数学ブックガイド

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東大教授が語る、東大新入生のための数学ブックガイド

内容紹介:
最高学府の数学の扉が、いま開かれる。新入生必読113選。!
東大教授の先生方による、東大新入学生のための数理科学ブックガイド。
東大で実際に教鞭をとる先生方ならではの視点で、日本および世界をこれから背負って立つ東大等の新入学生向けに、数理科学の書籍を紹介。
「新入生がすぐ読める本」「専門課程に進んでから読んで欲しい本」「英語等の外国語で書かれた本」「自然科学,社会科学,人文科学等,すべてのジャンルより選んだ本」の4冊を、約30人の教授がそれぞれ選んだ。新入生への手書きメッセージも掲載。 2014年刊行、240ページ。

監修者、著者について:
監修者: 落合卓四郎
著者: 合原一幸、新井仁之、石井志保子、稲葉 寿、織田孝幸、片岡清臣、河東泰之、儀我美一、楠岡成雄、国友直人、河野俊丈、斎藤 毅、坂村 健、志甫 淳、高橋明彦、竹村彰通、辻 雄、寺杣友秀、時弘哲治、中村 周、西成活裕、萩谷昌己、平地健吾、二木昭人、俣野 博、宮岡洋一、山本昌宏、吉川 洋、吉田朋広


理数系書籍のレビュー記事は本書で269冊目。

タイトルに2つも「東大」が入っているので、東大卒ではない僕は嫌味っぽい名前の本だなと僻んで(ひがんで)しまう。「東大教授が語る、理数系大学生のための数学ブックガイド」でもよいではないかと。

でも内容がしっかりしていれば問題はないので「いい本見つけたな~。」と、ひととおり全部読んでみた。

これはこのブログの読者の方にもぜひ読んでいただきたい本だ。東大生だけに独占させてしまうのではもったいない。


次のような基準で先生方が本を選び、それぞれ見開き2ページを使って紹介文をお書きになっている。シリーズ物もあるから冊数としては113冊を超えている。また紹介文の中で他の本も引用、紹介しているから全部あわせると冊数はさらに増す。

タイプA: 東大の全学生に紹介したい数学・応用数理の本。次のA-1、A-2のいずれか。

A-1: 数学の特定の分野・テーマを解説する教科書、参考書。
A-2: 教科書、参考書の枠を超えて数学の考え方、思想、歴史的な流れ等を解説する本、複数の分野・テーマにまたがった横断的な本

タイプB: 入学直後は表紙を眺めるだけかもしれないが、専門課程に進んでから読んでほしい数学、応用数理の専門的な本。

タイプC: 英語等の外国語で書かれた数学・応用数理の本。

タイプD: 数学・応用数理に限らず、東大生として読んでおくべき本。(自然科学、社会科学、人文科学等、すべてのジャンルより)


紹介されている本のタイトル一覧をここに書きたいところだが、売り上げの足を引っ張ることになるのでやめておく。ぜひご自分で読んでいただきたい。

東大駒場キャンパスの書籍部には本書と本書で紹介されている本の一部が平積みされている。いくつかの本は表紙でおわかりになるだろう。写真は「このページ」から引用させていただいた。

クリックで拡大



どうしても人は見たいものだけが見えてしまうので、数学に限らず読書は偏りがちだ。このブログでは物理学を学んでいくために必要な数学書という観点で本を選んでいるつもりだが、本書を読んでみて微積分や微分方程式などの解析学系の本を自分がほとんど読んでいないことに気がついた。あと統計学系やカオス、複雑系あたりの本も読んでいない。

代数学系、幾何学系にしても自分の知らない名著、良書がまだまだたくさんあるのだなと気がつかされた。数理ファイナンス系、情報科学系の本は今のところ手を出すつもりはないが、今後もし興味がでてきたらこういう本を読めばよいのだなということがわかる。

紹介されている本はこれまで僕が紹介してきた数学書よりもレベルが高いものがほとんど。すでに読んで紹介記事を書いていたものが6冊、読んではいないけれども購入済みのものが2冊あった。読みたくなってしまった本は46冊もあった。

それぞれ先生方はご自身の専門分野やその分野に通じる基礎的な分野から本を選んでることが多い。その本の良い点、足りない点、思い出話を織り込みながら語られている先生もいる。

紹介文を読めばアマゾンでの紹介やレビュー記事よりもはるかに詳しいことがわかるし、およその難易度もわかる。紹介文を読んでもちんぷんかんぷんであれば、その本はおそらく買っても無駄であろう。中には電子書籍で購入できるものもあるから、注文するときは電子書籍もチェックするとよいだろう。


この本があれば30人の東大教授の先生方を見方につけたようなものである。本書を参考にして数学の勉強の幅をぜひ広げていただきたい。


関連記事:

超弦理論に至る100冊の物理学、数学書籍
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d37fe65a84df23cca2af7ecebb83cfc6

高校生にお勧めする30冊の物理学、数学書籍
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f79ac08392742c60193081800ea718e7

大学で学ぶ数学とは(概要編)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/07137c47d16d95ddde8f5c4cb6f37d55

大学で学ぶ数学とは(実用数学編)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/975ad3faa2f6fd558b48c76513466945

とね日記の記事一覧(数学)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/8ad179e1108ba7f40177923ee07068c7


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東大教授が語る、東大新入生のための数学ブックガイド



序 落合卓四郎
合原一幸
新井仁之
石井志保子
稲葉 寿
織田孝幸
片岡清臣
河東泰之
儀我美一
楠岡成雄
国友直人
河野俊丈
斎藤 毅
坂村 健
志甫 淳
高橋明彦
竹村彰通
辻 雄
寺杣友秀
時弘哲治
中村 周
西成活裕
萩谷昌己
平地健吾
二木昭人
俣野 博
宮岡洋一
山本昌宏
吉川 洋
吉田朋広

祝: とね日記はおかげさまで10周年!

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ちょうど10年前の今日このブログを書き始めました。

当時は自宅サーバーを使ったホームページを公開していて、そのリンクのひとつとして「日記」を設けていたのです。とね日記はもともと普通の日記ブログでした。

今のように物理学・数学が中心の理数系ブログになり始めたのはブログを始めてから1年ほど経ってからです。プロフィール欄には「原子のレベルではテレポーテーションの実験が成功していることに衝撃を受けたのがきっかけで、大学卒業後20年ぶりに趣味で物理学と数学の勉強をはじめました。 」と書いていますが、量子テレポーテーション実験成功のニュースは2003年頃には知っていて、ずっとそのニュースのことが気になっていました。2006年3月にタイムマシンについての本を買ったのがきっかけで理数系ブログ化していったわけです。

この10年の歩みをまとめてみました。今日までどのようなことをしてきたかポイントを絞って振り返ってみることにします。


2005年

初日の記事には「今日から日記をはじめました。三日坊主にならなければと思っているところ。」と書いています。よもや10年も続けることになるとは思ってもいませんでした。(ブログ記事

この頃は250ギガバイトの外付けハードディスクが2万円ほどしていました。今では2テラバイトのハードディスクが1万円以下で買えますね。(ブログ記事

本体価格26万円で買えるハイスペックのデスクトップPCはシングルコアCPU Pentium 4 660 3.6GHz ハイパースレッディング、Memory 2GB, HDD 160GB+250GBという性能でした。(ブログ記事


2006年

この頃はデジカメを持ち歩いて都内各所を散歩しながら風景を撮影していました。今はもう取り壊されてしまった古い建物が被写体です。JR中野駅の近くにあった「中野光座」もそのうちのひとつです。(ブログ記事

2003年にVICTORが世界初の民生用ハイビジョンビデオカメラGR-HD1を発売しました。2003年当時の価格は36万円です。このカメラを衝動買いしていたので、2006年になってから都内のあちこちを撮影してまわっていました。撮影した動画は自宅サーバーのホームページからダウンロードできるようにしていました。またQuickTimeだけですが、ストリーミング配信もしていました。YouTubeがまだなかった時期です。

このビデオカメラのレンズの前にプリズムをつけて、3D映像を撮影しはじめました。撮影した映像はPSPで再生して立体視動画として見ていました。動画のファイルはホームページからダウンロードできるようにしていました。(ブログ記事

この年の始めに表参道ヒルズがオープンしたので3Dで撮影しました。(ブログ記事

トリノオリンピックで荒川静香さんがイナバウアーで私たちを魅了してくれたのはこの年の2月のことです。(ブログ記事

井の頭公演で大道芸人のMr. Daiさんの撮影とかもしていました。(ブログ記事

彼は今も活躍しています。
Mr. Daiさんのホームページ(スケジュールは彼のツイッター(@mr_dai3)で確認してください。)
http://www.geocities.jp/taltaldai/

この年に1テラバイトの外付ハードディスクは8万円もしていました。(ブログ記事) 現在ではこの値段で12テラバイトのハードディスクが買えます。(たとえばこのハードディスク

この年の3月に書いたタイムマシンについての本の記事が理数系ブログになったきっかけです。(ブログ記事

秋葉原にあった交通博物館はこの年に閉館しました。3Dで動画撮影や写真撮影をしにいきました。(ブログ記事

超弦理論のことはカク・ミチオ先生の「パラレルワールド」という本で知りました。(ブログ記事

ポール・ディラックが書いた一般相対性理論の入門書(文庫本)に挑戦して撃沈しました。(ブログ記事)もちろん今では理解できます。

そして物理学を学ぶための数学力の不足を痛感し、物理数学を勉強し始めました。(ブログ記事

朝日カルチャーセンターで竹内薫先生が教えていた講座を受講しました。「ファインマンの重力理論」というテキストに沿った内容で、当時の僕には難しすぎました。これは重力の繰り込みはできないことを示している教科書です。一緒に受講していた仲間のうちお二人とは今でも交流があります。(ブログ記事

ファインマン物理学を読み始めました。興味をもっていた量子力学(第5巻)から読み始めていたのですね。(ブログ記事

そしてファインマン物理学は力学(第1巻)に戻って読み始めました。(ブログ記事


2007年

アマゾンのアソシエイトとして「とね書店」を開始しました。(ブログ記事

ファインマン物理学第4巻を読み終え全5巻すべて読了しました。(ブログ記事

国民年金が入力ミスのために大量に「宙に浮いた年金」になっていることが発覚したのはこの頃のことです。昨今は話題にもなりませんが、これは解決したのでしょうかね?(ブログ記事

広江克彦さんがお書きになった「趣味で物理学」を読んで力学や電磁気学を復習しました。(ブログ記事

ファインマン物理学以外の教科書としてこの年の7月から10月にかけて朝永振一郎先生の名著「量子力学(1)(2)第2版」、「角運動量とスピン「量子力学補巻」」を読みました。(ブログ記事

解析力学は「解析力学(久保謙一著、裳華房)」で入門しました。(ブログ記事

日本の高校生の理科離れを食い止めたいという思いから「理科復活プロジェクト」というカテゴリーで記事を書き始めました。(ブログ記事

この頃はiPhoneが発売される前でした。iPhoneが日本で普及するための条件を考えていました。(ブログ記事

「時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎」を読んで、一般相対性理論を理解するというひとつの目的を果たしました。(ブログ記事

特殊相対性理論や一般相対性理論、そして統一場理論(力学と電磁気学の統一)を理解するには、アインシュタインご自身の論文を読むのがよかろうということで「アインシュタイン選集」を読み始めました。(ブログ記事


2008年

熱力学を理解するために最初に読んだのは「はじめて学ぶ物理 [熱力学]: 野田学著」でした。(ブログ記事

統計力学は「統計力学を学ぶ人のために: 芦田正巳著」で入門しました。「熱力学を学ぶ人のために: 芦田正巳著」も読みました。(ブログ記事

特殊相対性理論を学び終え、アインシュタインご自身が書いた一般相対性理論と統一場理論の論文を読み始めました。(ブログ記事

この年の6月に秋葉原通り魔事件が起きました。実をいうと事件がおきる2時間前、僕はこの交差点を通っていました。(ブログ記事

「趣味で相対論(EMANの物理学)」を読んで特殊相対性理論と一般相対性理論の復習をしました。(ブログ記事

「テレポーテーションは実現している。(リンク集)」という記事を書き、量子テレポーテーションのしくみを解説しているページや、量子テレポーテーションの実験の歴史を紹介しました。この記事は現在でも新しい発見や実験が発表されるたびに更新しています。(ブログ記事

アインシュタインの論文を読み終え、一般相対性理論と統一場理論を彼がどのような発想のもとに研究したかを確認しました。統一場理論はうまくいかなかったわけですが。(ブログ記事

この頃までに1テラバイトのハードディスクの値段は1万8千円ほどまで下がっていました。現在は同じ金額で4テラバイトのハードディスクが買えます。(ブログ記事

「これならわかる理系の電磁気学(高橋真聡著)」というやさしい教科書で電磁気学を復習しました。(ブログ記事

この年の10月に南部先生、小林先生、益川先生がノーベル物理学賞受賞者に選出され、日本中が沸き立ちました。(ブログ記事


2009年

2008年の暮れから2009年の正月にかけて東京の日比谷公園で「年越し派遣村」が設けられました。僕はボランティアとしてお手伝いし、毎晩その様子をブログから発信していました。マスコミには伝えることのできないことをレポートしたので多くの方に記事を読んでいただきました。年越し派遣村によって派遣切りの問題だけでなく、生活保護のあり方など貧困者救済にまつわるさまざまな問題点が明らかになっていきました。(ブログ記事

ニュートンの万有引力の法則を示す公式が球対称な天体という理想的な状況でのみあてはまることを「半分に割った地球」の重力場の形をコンピュータ・シミュレーションを使って確認しました。(ブログ記事

本格的な教科書「電磁気学の基礎 I、II :大田浩一著」で、電磁気学をより深く学びました。(ブログ記事

相対論的量子力学(電磁気学+特殊相対性理論)によって陽電子などの反物質が予言されることを記事に書きました。(ブログ記事

相対論的量子力学(電磁気学+特殊相対性理論)の教科書として最初に挑戦したのは名著「ディラック 量子力学 原書第4版」でした。(ブログ記事

アインシュタインの一般相対性理論を数式で学ぼうとするとき、どのような手順を踏んで理論が構築されていくのかを手短かにまとめて紹介しました。広江克彦さんの著書「趣味で物理学」と「趣味で相対論」の要約ともいえます。(ブログ記事

中級者向けの量子力学の教科書「現代の量子力学〈上〉〈下〉J.J.サクライ」を読みました。(ブログ記事

中級者向けの熱力学の教科書「熱力学―現代的な視点から(田崎 晴明著)」を読みました。(ブログ記事

中級者向けの統計力学の教科書「統計力学〈1〉〈2〉(田崎 晴明著)」を読みました。(ブログ記事

アイザック・ニュートン著「プリンキピア(自然哲学の数学的原理)」の日本語版の出版の歴史を紹介しました。(ブログ記事

流体力学への入門として「流体力学(物理テキストシリーズ):今井功著」を読みました。(ブログ記事


2010年

「ブクログ」という無料サービスを使って理数系の蔵書を「とねの本棚」としてネット上で管理を始めました。(ブログ記事

現代数学のやり直しとして「位相入門 -距離空間と位相空間-: 鈴木晋一著」を読みました。(ブログ記事

多様体への入門として「多様体の基礎: 松本幸夫著」を読みました。この時期にはトポロジー、群論、ルベーグ積分の教科書も読んでいます。(ブログ記事

物理学の数学的定式化を意識して「数理物理学方法序説(日本評論社):保江邦夫」のシリーズのうち8冊を読みました。(ブログ記事

関数解析を黒田成俊先生の教科書で学びました。(ブログ記事

量子力学の数学的定式化を学ぶために「ヒルベルト空間と量子力学:新井朝雄」を読みました。(ブログ記事

この時期には小出先生、江沢先生、猪木&川合先生の3種類の量子力学の教科書を読み比べました。(ブログ記事

この頃に年金の不正受給問題が発覚し社会を騒がせました。その結果、戸籍の管理が厳しくチェックされるようになりました。(ブログ記事

場の量子論への入門として中級者向けの科学教養書「光の場、電子の海―量子場理論への道:吉田 伸夫」を読みました。(ブログ記事

相対論的量子力学の教科書2種類を読み比べしました。(ブログ記事

Twitter(ツイッター)をはじめました。(ブログ記事

「とね日記賞」の記事を始めました。(ブログ記事

ファインマンの経路積分を学ぶための科学教養書、教科書をリストアップしました。(ブログ記事

量子電磁力学(電磁気学+特殊相対性理論+量子力学+繰り込み理論)への入門として「光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学: R.P.ファインマン」という科学教養書を読みました。(ブログ記事

ファインマンの経路積分への入門として「量子力学と経路積分:R.P.ファインマン、A.R.ヒッブス」という教科書を読みました。(ブログ記事


2011年

HP-12C, HP-15C, HP-16Cという1980年代の関数電卓がiPhone用アプリとしてリリースされました。これがきっかけで僕は古い関数電卓やそれらのエミュレータアプリを集め始めることになりました。また電卓のしくみにも興味がでてきて、電子工学も学ぶことにしました。(ブログ記事

「エキゾチックな球面」をはじめとする野口廣先生がお書きになったトポロジーの本を3冊読みました。(ブログ記事

結城浩さんがお書きになった「数学ガール」シリーズ5冊を読み始めました。(ブログ記事

3月11日に東日本大震災、福島第一原発の事故がおきてしまいました。(ブログ記事

量子力学の数学的定式化をより深く理解するために「量子力学の数学的構造 I、II:新井朝雄、江沢洋」を読みました。この教科書でアハラノフ-ボーム効果や磁束量子の数式による導出を理解しました。(ブログ記事

量子力学の数式的による定式化を理解した後は、実験結果としてそれらを確認したいと思い「目で見る美しい量子力学:外村彰」を読みました。(ブログ記事

リー群論への入門として「連続群論入門 (新数学シリーズ18):山内恭彦、杉浦光夫」を読みました。(ブログ記事

群の表現論への入門として「群と表現:吉川圭二」を読みました。(ブログ記事

確率論、確率過程論を「確率論:伊藤清」という教科書で詳しく学びました。(ブログ記事

確率論、確率過程論の延長として金融工学のブラック・ショールズ微分方程式に関連する本を数冊読みました。(ブログ記事


2012年

朝日カルチャーセンター新宿教室で大栗博司先生の「重力のふしぎ」という講座を受講しました。それ以来、都内で行われる大栗先生の講座、講演会にはほとんどすべて参加することになります。(ブログ記事

相対論的量子力学をより深く学ぶために「サクライ上級量子力学〈第1巻〉〈第2巻〉輻射と粒子:J.J.サクライ」を読みました。(ブログ記事

大栗博司先生の「重力とは何か(幻冬舎新書)」が発売されました。(ブログ記事

「数学ガール/ガロア理論:結城浩」を読み、ガロア理論を初めて理解しました。(ブログ記事

場の量子論への入門として最初に読んだのは「場の量子論〈第1巻〉〈第2巻〉量子電磁力学:F.マンドル、G.ショー」という教科書でした。場の量子論とは量子電磁力学が発展したもので、光子や電子などの電弱統一理論とクォーク間に働く強い核力の理論、ヒッグス場の理論を含んでいます。(ブログ記事

この年の7月4日にヒッグス粒子発見の報告をCERNが発表し、世界中でトップニュースとして扱われました。(ブログ記事

場の量子論を詳しく学ぼうとしてワインバーグ先生による名著「場の量子論」の日本語版を読みましたが、第4巻で挫折してしまいました。(ブログ記事

電子工学への入門として最初に読んだのが「史上最強図解これならわかる!電子回路:菊地正典」でした。(ブログ記事

ブログを始めて以来の累計アクセス数が100万IPを突破しました。(ブログ記事

量子テレポーテーションのしくみを理解するという目標が達成できました。「量子光学と量子情報科学:古澤明」という教科書や関連するブルーバックス3冊を読んだおかげです。(ブログ記事

熱力学のエントロピー増大則、物理現象の可逆性と不可逆性、時間の矢、情報エントロピーの間の関係を深く理解したいと思い「ファインマン計算機科学:ファインマン, A.ヘイ, R.アレン」や情報理論の本、時間論についての本を読みました。(ブログ記事

理数系書籍のレビュー記事が200冊に達したので「200冊の理数系書籍を読んで得られたこと」という記事を書きました。この記事はとても多くの方にお読みいただき、はてなブックマークにも1000人近くの方にブックマークを登録していただいています。ちなみにいま読んでいる本は270冊目です。(ブログ記事

時間論についての名著「時:渡辺慧」を読み、時間の矢の問題についての考察を深めました。(ブログ記事

「高校生にお勧めする30冊の物理学、数学書籍」という記事を書きました。(ブログ記事

「超弦理論に至る100冊の物理学、数学書籍」という記事を書きました。(ブログ記事


2013年

NHKで「MIT白熱教室(物理学編)、これが物理学だ!」のシリーズが放送されました。(ブログ記事

大栗博司先生の「強い力と弱い力(幻冬舎新書)」が発売されました。(ブログ記事

「熱学思想の史的展開〈1〉~〈3〉:山本義隆」で熱力学、伝熱学の発展史を学びました。(ブログ記事

人類にとっての科学資産「熱の解析的理論:ジョゼフ・フーリエ著、ガストン・ダルブー編纂」という名著を読み、熱伝導についての理解を深めました。(ブログ記事

伝熱学への入門用として最初に読んだのは「伝熱工学(東京大学機械工学):庄司正弘」でした。伝熱学の教科書はこれ以外にも2冊読みました。(ブログ記事

人類にとっての科学資産「ラプラスの天体力学論(日本語版)」の全5巻発売されました。(ブログ記事

場の量子論についての知識を整理するために「場の量子論:坂井典佑」を読みました。(ブログ記事

大栗博司先生の「超弦理論入門(講談社ブルーバックス)が発売されました。(ブログ記事

「安田寿明先生の「マイ・コンピュータ」3部作(ブルーバックス)」を読み、1970年代のコンピュータ事情を紹介しました。(ブログ記事

「マイクロコンピュータの誕生―わが青春の4004:嶋正利」を読み、世界初のCPUがどのように誕生したかを紹介しました。記事を読んでいらっしゃった著者の嶋先生からお礼のメールをいただいたときは、本当にうれしかったです。(ブログ記事

「電卓技術教科書〈基礎編〉〈研究編〉:ラジオ技術社」という超希少本のことを紹介しました。(ブログ記事

NHKスペシャル「神の数式」の短縮版(2回シリーズ)が放送され、多くの視聴者が素粒子物理学、超弦理論の世界を知ることになりました。(ブログ記事

ヒッグス粒子の発見によりヒッグス博士とアングレール博士にノーベル物理学賞が授与されることが発表されました。(ブログ記事

弦理論、超弦理論への入門するために最初に読んだのは「初級講座弦理論 基礎編、発展編:B.ツヴィーバッハ」という教科書です。(ブログ記事

「新天文学:ヨハネス・ケプラー」が発売され、人類にとっての科学資産「ケプラー3部作」の日本語版がすべて揃いました。(ブログ記事

ファインマン物理学(英語版)が全巻ネット公開されました。これはすごいことです。(ブログ記事

NHK-BS1で「神の数式 完全版」(4回シリーズ)が放送され、2回シリーズの短縮版ではよくわからなかった部分が明らかになりました。(ブログ記事


2014年

「電子書籍(Kindle)で読める日本語の理数系書籍の検索ページ」を設けました。(ブログ記事

「ゲージ理論とトポロジーの年表」という記事で、素粒子物理学と現代幾何学の発展史を紹介しました。(ブログ記事

ハイゼンベルクの不確定性原理の影響がマクロな世界にあらわれることを紹介するために「鉛筆はどれくらいの時間立っていられるか?」という記事を書きました。(ブログ記事

ファインマン先生の人気シリーズ本や先生の業績について紹介しました。(ブログ記事

大学で学ぶ数学の内容を紹介するために記事を2つ書きました。(ブログ記事

標準的な教科書「代数系入門: 松坂和夫」を読み、ガロア理論を復習しました。(ブログ記事

ブログを始めて以来の累計アクセス数が200万IPを突破しました。(ブログ記事

「NHK宇宙白熱教室」が4回シリーズで放送されました。(ブログ記事

解析力学の変分原理や曲面の微分幾何学の世界について一般の人にも興味をもってもらえたらと思い「ストッキングを使った極小曲面、最小面積曲面の実験」という記事を書きました。(ブログ記事

宇宙物理学への入門として「ワインバーグの宇宙論(上)(下)ビッグバン宇宙の進化」やワインバーグ博士がお書きになった科学教養書を読みました。(ブログ記事

アイザック・ニュートン著「プリンキピア(自然哲学の数学的原理)」が電子書籍として復刊しました。(ブログ記事

この年のノーベル物理学賞は赤崎勇先生、天野浩先生、中村修二先生に授与されることが決まりました。(ブログ記事

初等整数論に入門するための最初の本として「素数夜曲―女王陛下のLISP:吉田武」を読みました。(ブログ記事

物性物理学へ入門するための準備として「物性物理30講(物理学30講シリーズ):戸田盛和」を読みました。(ブログ記事


2015年

カラビ-ヤウ空間のことを詳しく知りたいと思い「見えざる宇宙のかたち」という科学教養書を読みました。(ブログ記事

大学受験生の応援として昔の数学の参考書を紹介する記事を2つ書きました。(ブログ記事

物性物理学への入門として「基礎の固体物理学: 斯波弘行」という教科書を読みました。(ブログ記事

今後読もうと思っている本は新年のご挨拶の記事に書きました。(ブログ記事


このように書き出してみると、ずいぶんいろいろ学んできなぁとしみじみ思います。この「学びの旅」はまだまだ続きます。この旅はこれから僕に何を見せてくれることになるのでしょうか?

これからも当ブログをよろしくお願いいたします。


余談: ときどき訪れて癒しと笑いをいただいている「にわとりおかんの極上日和」というブログを見たところ、僕がこの記事を投稿する(おそらく)数時間前に「10年ひとくくり」というテーマで記事が投稿されているのに気がついて驚きました。こういう偶然ってあるのですねぇ。。。その記事は「ここ」をクリックすると開きます。


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虚数や複素数に大小がないのはなぜ?

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今回は虚数や複素数のことを学んだ高校生向けの記事。

科学史上はじめて虚数が物理学の方程式に(本質的な意味において)使われたのは1925年のハイゼンベルクの行列力学や1926年のシュレーディンガー方程式で、この2つはともに原子や電子など非常に小さい粒子の量子的状態のありさまを記述したものだった。(その後、この2つの方程式は同等であることが数学的に証明された。)

ハイゼンベルクの行列力学の方程式


シュレーディンガー方程式


原子や電子にくらべれば私たちの世界はとてつもなく大きい。しかし私たち自身も含めてこの世界のあらゆるモノは原子や電子などの物質でできているわけだから、この方程式はいわばこの世界に物質が存在している在りかたを基礎づけているとても大切な式なのだ。

けれどもこの方程式が発表されたとき、物理学会は大騒ぎになった。なぜなら方程式の中に虚数 i が定数として使われていたからだ。そして方程式を解いても虚数 i はそのまま残ってしまうのだ。

アイザック・ニュートンによる力学3法則以来、数百年の歴史の中で発見されてきた物理学の方程式はすべて実数だけで記述されていた。なぜなら物理学で扱うことがらはすべて「大きさをもつ量」、「大小関係を比較できる量」であらわされるからだ。

位置や速度、加速度、時間、質量、温度、運動量、エネルギー、電流、電圧、抵抗値などあらゆる物理量は「大きさ」をもっている。たとえ電磁波(電場と磁場)のように目に見えなくても大きさをもつ量であらわせることが、この世界における存在の証なのだ。

しかし虚数 i が意味するのは非存在性。虚数には大きさという性質がないからである。これが現実世界をあらわす物理学の方程式にあらわれたとき、式をどのように解釈したらよいのかわからくなってしまったのだ。

高校では物理ではなく数学の授業で虚数や複素数を学ぶ。2乗して-1になる数が存在するとして、それをとりあえず i として表し虚数と呼ぶことにしようという導入のしかただ。その導入は「とりあえず」だったことを思い出してほしい。

1637年にデカルトが初めて「虚数」という言葉を使ったそうだ。ただし、虚数の考え方自体はそれ以前の1500年代にジェロラモ・カルダーノによって発見されており、レオンハルト・オイラーやカール・フリードリヒ・ガウスを経て、人々に受け入れられるようになったという。虚数の導入は代数学や解析学(微積分)にとってきわめて自然で、数学の発展に欠くことができないものになった。しかし受け入れられたと言ってもそれはあくまで数学上のことだけである。


高校数学では虚数や複素数に大小関係はないと教えられる。しかしそう言われても腑に落ちない。i < 2i のような気がするし、そのように大小関係を定義してもよいのではないのだろうか?

実をいうと「大小関係ではなく順序関係を定義しようとすればできるのだが、それは私たちが使っている四則演算の法則とつじつまが合うようには定義できない。」というのが本当のところなのだ。

「大小関係」というのは「順序関係」のうちのひとつだ。「順序関係」は無数にあり、ある特定の規則にしたがうと順序がひととおりに決まるように定義する。規則が違えば順序関係も違ってくる。大小関係のほうが四則演算の法則を満たすという条件が加わるので順序関係よりも制限が強くなっている。つまり 順序関係 ⊃ 大小関係 ということだ。

日常生活で「大小」と「順序」をこのように区別して意識することはないだろうけれども、これが数学における「一般化」の一例である。

それでは私たちが馴染んでいる四則演算を満たすような大小関係、つまり私たちがふだん大小関係と呼んでいる性質が虚数や複素数にはなぜ無いのだろう?それをこれから証明する。

まず虚数のケースから始めよう。


虚数に大小関係がないことの証明

私たちが大小関係をくらべるとき使うのは「不等式」だ。大きさで比べられる何かの量があったとき、それはプラスの値かゼロ、マイナスの値の3つのうちどれかだ。虚数 i はゼロではないからプラスかマイナスのどちらかであるかは明らかだろう。つまり、次のどちらかの不等式が成り立つ。

i > 0 または i < 0 のどちらかが成り立つ。

まずi > 0が成り立つと仮定してみよう。

ここで私たちは2つの数、αとβがありそれらがともにプラスだとすると次の不等式が同時に成り立つことを知っている。これは慣れ親しんでいる四則演算の法則とも矛盾しない。

α+β > 0 と αβ > 0 は同時に成り立つ。

αとβの値は任意にとってよいので、ここでα=β= i (>0)としてみよう。するとひとつ上の式は次のようになる。

i + i > 0 と i ^2 (i の2乗) > 0 は同時に成り立つ。

i の2乗は定義により-1であるから、上の式は次のようになる。

2i > 0 と -1 > 0 は同時に成り立つ。

つまり

i > 0 と -1 > 0 は同時に成り立つ。

赤色で示した部分は矛盾である。したがってi > 0と仮定したのがこの矛盾をひきおこしたので、i > 0ではないことがわかった。

それでは次にi < 0が成り立つと仮定してみよう。

そして2つのマイナスの数、αとβを考えたとき次の不等式が成り立つことを私たちは知っている。

α+β < 0 と αβ > 0 は同時に成り立つ。

αとβの値は任意にとってよいので、例えばここでα=β= i (<0)としてみよう。するとひとつ上の式は次のようになる。

i + i < 0 と i ^2 (i の2乗) > 0 は同時に成り立つ。

i の2乗は定義により-1であるから、上の式は次のようになる。

2i < 0 と -1 > 0 は同時に成り立つ。

つまり

i < 0 と -1 > 0 は同時に成り立つ。

赤色で示した部分は矛盾である。したがってi < 0と仮定したのがこの矛盾をひきおこしたので、i < 0ではないことがわかった。

したがって i > 0 と i < 0 はどちらも成り立たないことになり虚数 i は大小を比べられない数であることが証明された。

このように私たちが日常使っている四則演算を満たす大小関係を虚数はもっていないわけだが、「順序関係」を定義することはできる。そのいちばん単純な例は次のようなものだ。

i < 2i < 3i < 4i < ....

くどいようだがこれは「順序関係」であって「大小関係」ではない。そしてこれらの虚数と実数の間に大小関係はない。


複素数に大小関係がないことについて

aとbが実数のときa+biという数を複素数と呼ぶことも高校数学で学ぶ。複素数に大小関係がないことの証明は結局のところ上記の虚数の場合に帰着することができる。複素数は実部と虚部の和としてあらわされ、虚部に大小関係の性質がないからだ。

しかし複素数にも「順序関係」を定義することはできる。たとえば次のようなものだ。2つの複素数α、βを次のように置く。a, b, c, dは実数とする。

α=a+bi, β=c+di

複素数αとβの間に順序関係があり、それを次のように定義してみるとしよう。

もしa≧cのとき、つまり実部に大小関係があるときは順序関係をそのままa+bi≧c+diで定義し、

そしてもしa=cならば、つまり実部が同じ場合、もしb≧dのときa+bi ≧c+di であると定義するのだ。

このように定義すると複素数αとβは、必ずα≦β、α≧βのどちらかが成り立つ順序関係となる。

例をあげればこの順序関係は次のようなものだ。

1 < 1+i < 1+2i < 2 < 2+i < 2+3i < ...

さらに私たちが日常扱う実数で成り立つ次の2つの関係が、上で定義した順序関係でも成り立っていることを確認することができる。(α、β、γは複素数とする。)

α≧β および α≦β ならば α=β (反対称律)
α≧β および β≧γ ならば α≧γ (推移律)

もうほとんど大小関係が成り立っているように見えてしまうが、そうではない。私たちの四則計算に整合する大小関係になっていないことは、さきほどの虚数のケースで証明したようにα=β=i とした場合に矛盾した結果がでてきた例で確認したばかりである。


虚数が物質の存在の基礎方程式にあらわれることを受け入れた結果、原子や電子のようなミクロの世界の物理法則を解き明かすことになる量子力学が誕生し、それまで説明がつかなかった電磁気現象や物質の性質などが説明できるようになった。

それと同時に物理学者は直観的には受け入れがたい数々の奇妙な状況を現実として受け入れなければならなくなったのだ。次の記事でくわしく紹介しているので、ぜひお読みいただきたい。

虚数は私たちの世界観を変えてしまった。
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ed35400df27a2bc7e597531c08d99869


今日の話は次回の記事に続く。


注意: この記事の冒頭で「科学史上はじめて虚数が物理学の方程式に(本質的な意味において)使われたのは1926年のこと~」と書いたが、なぜ「本質的な意味で」と括弧書きしたかというと、本質的ではない虚数の使い方をすることが物理学の方程式であるからだ。たとえば電子回路の「RLC回路」などの計算で方程式をたて、虚数を含んでいる「オイラーの公式」を使って解く場合がある。これはそうしたほうが簡単に解くことができるからで、電子回路の状態の中に虚数で示される何かがあるわけではない。あくまで数学の世界の中の便法として虚数が使われているだけなのだ。


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複素数 a+bi のプラス記号は「足す」という意味?

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今回も虚数や複素数のことを学んだ高校生向けの記事。

私たちは小学校で足し算を学ぶ。プラスの数を足すと答は増えていく。

1+1=2、 2+1=3、 3+1=4 ...

この性質は分数や小数、そして中学校で学ぶ√2や√3などの無理数、そして一般に実数でも変わらない。(無理数どうしの足し算は1つの数としてあらわせないが、無限小数を使えば近似値として1つの数になる。)

こうして「+」という記号は「プラスの量にプラスの量を足すということで量が増える。」という日常の実感に合った数学的操作であることを私たちは理解する。

ところが複素数はどうだろう? 前回の「虚数や複素数に大小がないのはなぜ?」という記事で虚数には大小という概念がないと証明したばかりだ。

「a と b 実数としたとき、そもそも a と bi を足してもよいのだろうか?」

それでは大きさのある実数と大きさの概念のない虚数を足すことになってしまう。もしそうしてもよいというのならそれはどういう意味なのだろうか?

先生に聞くと「それは足し算とは考えずに複素数はそのように表すのだよ。定義なのだよ。これで1つの数とみなすのだ。」とおっしゃるだろう。

みなさんはそれで納得されるのだろうか? 定義と言われれば証明する必要がない。どうもはぐらかされてしまったような気がしないだろうか? どう見ても2つの数の和に見えてしまう。百歩譲ってこれが1つの数だと言うのなら、なぜわざわざプラス記号を間に入れるのだろう?

そして2つの複素数の足し算は次のように行う。a、b、c、dを実数としたとき複素数 a+bi と c+diの足し算は

a+bi + c+di = (a+c) + (b+d)i

のように計算する。左辺の2つの複素数の足し算の「+」は、右辺で実数どうしの足し算の「+」にするという計算に変化している。

足し算の記号「+」を赤と青に色分けしておいた。青の計算は実数どうしの足し算だからOKである。しかし赤の計算は複素数どうしの足し算だ。この2つの足し算は明らかに違う種類のものである。同じ記号「+」であらわしてよいのだろうか?問題は依然解決していない。


この疑問を解決するヒントになるのがハミルトンによる複素数の定義だ。ウィキペディアの「複素数」という項目には次のように書かれている。

1835年にハミルトンによって、負の数の平方根を用いない複素数の定義が与えられた。
実数の順序対 (a, b) および (c, d) に対して和と積を

(a, b) + (c, d) = (a + c, b + d)
(a, b) × (c, d) = (ac - bd, ad + bc)

により定めるとき、(a, b) を複素数という。実数 a は (a, 0) の形で表され、虚数単位 i は (0, 1) に当たる。

和だけに注目すれば、足し算記号「+」の色分けによる区別は次のようになる。そしてこれは「定義」として与えられている。

(a, b) + (c, d) = (a + c, b + d)

そうか、a+bi は (a, b) のようにあらわせばよいわけだな。これはまるでベクトルのようではないか!そして足し算、つまり和については2つの成分どうしを足すということまで複素数とベクトルは同じになっている。

実際、次の図を見ていただくとわかるように複素数の足し算とベクトルの足し算は、幾何的にまったく同じなので、2つの複素数、2つのベクトルの足し算をするためには、実数成分どうし、虚数成分どうしをそれぞれ足すということが共通しているのがわかる。

 

ベクトルの和もハミルトン流の複素数の和と同じ公式で計算できる。

(a, b) + (c, d) = (a + c, b + d)

足し算記号「+」があるときは、右辺でそれぞれX成分、Y成分の足し算「+」として計算するのがベクトルの足し算のやり方だ。

これは「定義」ではあるけれども、上の図を見ると2つのベクトルそれぞれについてX軸、Y軸に垂線を下ろして原点を始点とする座標軸方向のベクトルを考えれば、X軸とY軸の数直線上の足し算になっていることによって説明がつく。

複素数の足し算も先ほどは「定義」だと言ったが、ベクトルの足し算の図と対応関係がまったく同じなので、2つの複素数、2つのベクトルの足し算をするために、実数成分どうし、虚数成分どうしをそれぞれ足すというのもベクトルの足し算のときと同じになる。

このようにベクトルの足し算で使う「+」と複素数の足し算で使う「+」は、同じ意味をもつ演算記号なのである。

a + bi

については、これをハミルトン流の表示

= (a, b)

であらわし、さらにこれを2つの複素数の和に分解する。そうすれば、この赤の「+」がベクトルの足し算のように2成分をもつ数の足し算を意味するものであることが理解できるようになるだろう。

= (a, 0) + (0, b)

ベクトルや複素数の足し算は2成分の数をそれぞれ足す演算なので「+」を使い、実数どうしの足し算は1成分の数を足す演算なので「+」を使うわけだ。「+」を使って足すときは「量が増える」が、「+」を使う足し算では「量」という概念がない。

さらに行列どうしの足し算はどうだろう? a~hを実数とし2行2列の行列どうしの足し算は次のように対応する成分どうしを足すことによって計算する。これは「定義」である。




けれども行列には4つの成分が含まれているから、これまでに紹介した実数どうし、複素数どうし、ベクトルどうしの足し算のどれとも意味が違う。だから足し算の記号も新しい色で書かなくてはならない。行列の足し算には緑色「+」を使うことにしよう。




ベクトルは数を2成分に拡張したものであり、行列は4成分に拡張したものだ。このように足し算する対象を拡張するたびに足し算の意味が変わり、そのたびに新しい色で「+」記号を書くのではきりがない。

また複素数は2行2列の行列によって表現することもできる。この場合複素数 a+bi の足し算記号も緑色の「+」であらわすべきなのだろう。行列表現を使って複素数をあらわした場合でも足し算は4つの成分どうしの足し算になる。(参照:「複素数の行列表現」)



このように複素数はハミルトン流と行列流で表現することができるわけだが、どちらにしても小学校で習う足し算とは種類が違う。だからこのブログ記事ではこれまでに紹介した3つの種類(実数、複素数やベクトル、行列)の足し算をまとめて「加法」と呼ぶことにしよう。そして加法の計算をするときは黒の足し算記号「+」を使うことにする。


ところで、中学の数学で「加法の法則」というのを学んでいたことを思い出してほしい。加法の法則は2つしかない。

[交換法則]  a+b = b+a
[結合法則] (a+b)+c = a+(b+c)

この2つの法則を教科書で見たとき、僕は「なんて大げさだ。この2つが成り立つのは当たり前じゃん。」と思ったことを今でも覚えている。

けれども、この法則が示しているのはこの2つの式が実数だけでなく、複素数、ベクトル、行列でも成り立っているということなのだ。つまりこの法則の中で使われている「+」記号は「+」、「+」、「+」のどれでもよい。万能な加法の記号、黒の「+」なのである。


そろそろこの記事の結論を書くときがきた。冒頭の問題を振り返ってみる。

「複素数 a+bi のプラス記号は「足す」という意味なのだろうか?」

プラスの記号が赤の足し算記号「+」であることを説明した。けれどもこれまでの説明で、実数のとき量が増えるという意味の足し算「+」、複素数やベクトルの足し算「+」、行列の足し算「+」などすべて含んだ万能な足し算のことを、このブログ記事では「加法」と呼び、黒の「+」記号であらわすことにした。

この意味で複素数 a+bi のプラス記号は広い意味での「加法」の演算を意味しているというのが結論である。別の言い方をすれば、僕たちが小学校で習った足し算の記号「+」は、高校数学で複素数、ベクトル、行列を学ぶ中で、より万能な加法の演算記号「+」に変容していたわけなのだ。


このように数学では計算する対象や演算そのものを拡張していくことで、より一般的、抽象的な世界で成り立っている普遍的な法則や定理を貪欲に獲得していく。一般化を重ねるたびに数学はそのパワーと万能性を高めていくのだ。

加法の法則は単純すぎて取るに足らないものに思えるかもしれないが、加法だけでなく乗法も含めてベクトルや行列の法則を考えると、実数や複素数には見られない、より複雑な世界が現れ始めることは次のページでおわかりになるだろう。しかし、その複雑な広い世界はより単純な世界をその内に矛盾なく取り込んでいることを忘れてはならない。(参考記事:「複素世界は実世界とつながっている」)

ベクトルの内積(スカラー積)と外積(ベクトル積)の成分表示
http://fnorio.com/0126scalar_&_vector_product/scalar_&_vector_product.html

行列の基本的な性質
http://homepage3.nifty.com/rikei-index01/senkei/teigi1senkei.html


ベクトルと行列は大学の教養課程の「線形代数」という教科で、3次元以上の多次元に拡張される。またその成分は実数だけでなく複素数のものも扱う。そのようなベクトルと行列にはどのような法則が成り立つのだろうか?

また物理学科の3年次以降で学ぶ量子力学の世界は、無限次元の複素数ベクトルで張られる「ヒルベルト空間」という線形代数で記述することができる。ヒルベルト空間は量子力学にとっての舞台であり、それは数学で記述された仮想空間である。

みなさんが高校で学んでいる数学は、活躍の場が限りなく広がっていることがおわかりだろう。


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イギリス人のご家族と東京観光

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3月1日にイギリス人の友達が娘さんと友人を連れて16年ぶりに来日しので今日まで彼らと一緒に東京観光をして過ごしていた。とても忙しい一週間だったが、ふだん東京観光などしないから僕自身も楽んだ。ちなみに娘さんは13歳だ。

写真もたくさん撮ったので30枚ほど選んで紹介しておこう。顔写真の公開の許可はとってあるのでご心配なく。というより本国の親戚や友達に見せたいそうで、写真の公開とブログ記事は彼らのほうが僕に依頼してきたという具合。取り急ぎ投稿しておこう。この記事はバイリンガルで書くことにする。

写真はすべてクリックで拡大するようにしておいた。

On March 1st, my friend came to Tokyo with her daughter and her friend. It has been 16 years since she left Japan. This is why I enjoyed Tokyo sightseeing with them. I could enjoy with them walking around Tokyo because I was born in Tokyo.

I pick up 30 photos for the blog. I already ask their permission to show their faces. You can see big size photo by clicking each photo.


3月3日(火)- March 3rd (Tue)

赤坂見附でカラオケボックス(4時間)- Karaoke Box (4 hours) near Akasaka Mitsuke station




3月6日(金)- March 6th (Fri)

赤坂のHootersで夕食 - Dinner at Hooters in Akasaka







下北沢のガールズ・カフェ・バーで歌いまくる - Enjoying Karaoke in the Girl's Cafe Bar in Shimokitazawa




3月7日(土)- March 7th (Sat)

中野ブロードウェイやまんだらけで買い物 - Shopping in Nakano Broadway and Mandarake















中野ブロードウェイのメイドカフェで一休み - Short break at a Maid Cafe in Nakano Broadway



新宿西口までバスで移動 - Moved to Sinjuku Station West area by bus



歌舞伎町で焼き鳥ディナー - Yakitori Dinner in the restaurant in Kabukicho in Shinjuku






3月8日(日)- March 8th (Sun)

原宿竹下通り - Harajuku Takeshita Dori street





ソフトバンクショップ(原宿店) - SoftBank shop Harajuku





明治神宮 - Meiji Jingu Shrine







銀座線で浅草寺へ移動 - Moved to Asakusa Sensoji Temple











浅草寺近くで天ぷらディナー - Tempura Dinner near Sensoji temple (Asakusa)






彼らのカメラで撮られた写真 - Other photos in their camera

上の写真の場所以外に、彼らは神田、秋葉原、東京スカイツリー、渋谷、乃木神社などを見学している。

Other than the places in the photos above, they visited Kanda, Akihabara, Tokyo Sky Tree, Shibuya and Nogi Jinja shrine.






乃木神社にて - At Nogi Jinja Shirine




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それは突然やってきた

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先週イギリス人の友達の観光に付き合っている間に、我が家ではとんでもないことがおきていた。

同居している父がまったく歩けなくなっていたのだ。それも突然に。。。

僕がそのことを知ったのは火曜日に会社から帰宅して夕食をとろうとしていたときだ。父がこないので母に聞くと、父は急に腰が痛み出して昼間病院に行ったのだという。ぎっくり腰なのかと聞くと、思い当たるふしはないらしい。

2月下旬から仕事がとても忙しくなっているから、16年ぶりに来日した友達との東京観光も平日の夜2回と週末しかできていなかった。だから僕は毎晩遅い時間に帰宅していて、家族の異変に気付けなかったのだ。


痛みが激しく自力で歩くのが困難な状態なのだという。これは大変なことになったと、すぐさま父のいる部屋へ様子を見に行った。

地元の病院までは1Kmくらいある。タクシーを拾える場所までは家から300メートルくらい。いったどうやって病院まで往復したのだろう?

夜になっても父はまだ動揺していて、昼間のことを説明してもらったのだがよくわからなかった。ともかく行きも帰りも大変な思いをしていたことだけは、しどろもどろに話す父の様子でわかった。


もともと父は中学、高校時代に野球の選手をしていた体育会系。ここ数年は家で飼っている中型犬の散歩をさせるだけでなく、引き取り手のいない犬を世話する団体に行き、週3回ほど犬に散歩をさせるボランティアをしていた。運動不足解消や老化防止にも役立っているのだと僕は思っていた。

それが突然である。

幸い僕が勤めている会社は在宅勤務制度があるので月水金は家で仕事をしている。裁量労働制ということもあり勤務時間もある程度自由がきく。だから父が通院するときはクルマで送ることができる。

翌朝は父と母を乗せて地元の病院へ行き、紹介状を受け取ってから4Km離れた新宿の総合病院に入院することにした。

これで少しは父も安心できるだろうと日中は家で仕事をしていたのだが、夕方になると父は帰ってきたのだ。ベッドがいっぱいで入院できなかったのだという。家へはタクシーの運転手さんに手伝ってもらって入ったのだそうだ。とりあえずその日はMRIの撮影をしただけだという。


いま住んでいるのは2002年に新築した家だ。父は昭和10年生まれで80歳、母は2歳年上である。いずれ在宅介護をする日がくるのが見えていたので、バリアフリーの設計で建てていた。昨年は3月に母が1ヶ月入院し、そろそろ親の介護のことを真面目に考えなければと思っていた。母のほうが父よりもずっと体力の衰えが進んでいたので、要介護になるのは母のほうが先になるのだろうと僕は思っていた。

ところがである。いつ何がおこるかわからない。

病名はMRIの結果でこれから判断するのだそうだが、父の予想では「坐骨神経痛」だという。高齢者の坐骨神経痛の原因はほとんどの場合「老化」なのだそうだ。脚が麻痺するのは病状が重いケースで、ときに手術も必要になるという。

豪快で鷹揚な(そしてときに気を荒げることもある)父の強気な性格はまったく失せてしまった。赤ちゃんのようにハイハイして移動する父を見るのはすごく痛々しい。

介護サービスはあるけれど、まだその段階ではない。昔のように定期的に往診してくれる医者がいないのは心細いものだ。


昨夜午前3時頃、トイレに行ったところ、なぜか電灯(LED)はつけっぱなし、ドアも開けっ放しだったので僕は不思議に思った。でもドアノブや電灯のスイッチの位置が高すぎて父は手が届かなかったからそうしてるのだと気がついた。

これからは夜間、トイレの電灯はつけておき、ドアも閉めないようにしておかなければならない。うっかり閉まってしまうときに備えて、ノブにひもをつけて垂らしておくことにした。トップの掲載写真はそういうことである。


父の病気が治るのかどうか、これからどういう経過をたどるのか見当がつかないが、気を引き締めてサポートしていこうと思う。

明日の朝も、新宿の病院へ通院である。

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翌日に追記:

父は手術を受けるために3月20日に入院することになった。それまではベッドが空かないそうだ。入院の日までは通院しないで自宅で安静にして過ごす予定。
正式な病名は「腰部脊柱管狭窄症」だそうだ。

昨年は母が3月20日から1ヶ月間入院していたのだが、奇しくも入院日が一致することになった。


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