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Kindle版で復刊: 日本語版プリンキピア(自然哲学の数学的原理):アイザック・ニュートン

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日本語版(1977年刊行)拡大

プリンシピア―自然哲学の数学的原理(Kindle版):アイザック・ニュートン


この貴重な本が先月ようやくKindle化された。電子書籍化のよいところは売り切れの心配がなくなることだ。専門書の電子書籍化は今後加速していくのだろうか?

掲載画像はアイザック・ニュートン著「プリンキピア(自然哲学の数学的原理)」の日本語版である。1977年(昭和52年)に講談社から刊行された。当時の定価は6800円。その後増刷されることはなく、長い間絶版の状態が続いていた。古書の取引相場も2万円〜3万円と買うのをためらうような価格だ。翻訳された中野猿人先生は海洋学の権威、東海大学教授、気象大学校長を勤められた。


力学の3法則や万有引力の法則、惑星の運動についてのケプラーの法則などをはじめて数学的に証明した近代物理学の原点とされる名著だ。人類にとっての科学遺産、現代の科学者にとっても有益な「知の宝庫」というべき書物である。

初めての日本語訳は昭和5年に登場し、これも含めて2種類の翻訳書が刊行されたのだが、5年前「日本語版「プリンキピア」が背負った不幸」という記事で紹介したように縦書き本として出版されたので1977年の講談社版が横書きの本として刊行されるまでまともに読める本は手に入らなかった。その貴重な講談社版が絶版になっていたのである。

先月8月22日にこの講談社版がようやく復刊されたのだ。物価上昇を考慮すれば7340円という価格は良心的だ。Kindle版だけでなく書籍版も「プリンシピア―自然哲学の数学的原理:アイザック・ニュートン」として発売されたようだが、ひと月もたたないうちに売り切れてしまい、おまけに中古本もなくなってしまった。

とはいえ900ページもある本だからKindle版さえ手に入れば十分だ。気になるのはちゃんと読めるレイアウトになっているかどうかだ。Kindle版はページをイメージとしてスキャンして作ったファイルなので、表示サイズ、文字や図版の劣化やゆがみが気になるところ。サンプルイメージは公開されていないので、購入しなければそういうことはわからない。

購入を躊躇している方もいらっしゃると思うので、実際に表示させてみた結果を見ていただくことにした。

以下、写真はすべてクリックで拡大する。

左がKindle Paperwhite、右がKindle Fire HD


第IV章:抵抗媒質内における物体の円運動
文字だけのページは行間がもっと詰まっているが、十分読むことができる品質だ。
全ページにわたってゆがみや傾きは見当たらない。


拡大写真(Kindle Paperwhite)


拡大写真(Kindle Fire HD)


スマートフォンで表示(かろうじて読める。)



もともとはラテン語で書かれ、初版は1687年、第2版は1713年、第3版は1726年に出版された。日本史で言えば綱吉(5代将軍)から吉宗(8代将軍)の時代に相当する。

プリンキピア初版本の解説ページ(金沢工業大学所蔵)
http://www.kanazawa-it.ac.jp/dawn/168701.html

ラテン語版の初版(クリックで拡大)


ラテン語版の初版(クリックで拡大)


ラテン語版の第3版(クリックで拡大)



古典力学は微積分を使って解くのが今では当たり前だし、何といってもニュートンは微積分の発明者なのだ。それにもかかわらずプリンキピアにはほとんど数式は使われていない。証明はすべて幾何学を使って行われているのだ。仮に彼が微積分など数式を使って出版しても、当時ニュートンや一部の学者しか微積分は理解できなかった。できるだけ多くの人に読めるように知識人の教養科目である幾何学を使ったわけだ。

プリンキピアでは力学3法則や万有引力、ケプラーの惑星運動3法則だけでなく、空気抵抗のある場合の運動、流体力学、月による潮汐の計算、音速の計算などさまざまな自然現象を幾何学だけで答を導いているのだ。

第3版からわずか3年後の1729年にはAndrew Motteによって英訳されたおかげでプリンキピアは英語圏全体に広まり、学者でなくても「最高の知性」に触れることができるようになった。500ページほどの大著である。理解できたかどうかは別として、当時の貴族たちの間でも競って読まれたベストセラーになった。このAndrew Motteによる英語版プリンキピア(ペーパーバック)は2000円程度、ハードカバー版は6000円程度、Kindle版は1000円程度で購入することができる。


ラテン語版と英語版は、はるか昔に著作権と版権がきれているので、オンラインで無料公開されている。

ラテン語版(初版、画像クリックでオンライン版が開く。)


ラテン語版(初版)は次のサイトでも公開されている。
http://www.gutenberg.org/etext/28233

Andrew Motteによる英語版プリンキピア(第3版、画像クリックでオンライン版が開く。)


ケンブリッジ大学はニュートンの「プリンキピア」や手書き原稿は「Newton Papers」というサイトで公開している。




さて、日本語のKindle版はこちらである。購入される方はこちらからどうぞ。参考にしていただくために目次とニュートンが書いた序文を掲載しておく。

プリンシピア―自然哲学の数学的原理(Kindle版):アイザック・ニュートン



ニュートン略伝
原著者の序文

定義
公理、あるいは運動の法則

第I編:物体の運動

第I章:以下の諸命題の証明に補助として用いられる諸量の最初と最後の比の方法
第II章:求心力の決定
第III章:離心円錐曲線上の物体の運動
第IV章:与えられた焦点から楕円軌道、放物線軌道および双曲線軌道を見出すこと
第V章:いずれの焦点も与えられないときに、どのようにして軌道を見いだしたらよいか
第VI章:与えられた軌道において、運動をどのようにして見いだしたらよいか
第VII章:物体の直線的上昇および下降
第VIII章:任意の種類の求心力に働かれつつ回転する物体の軌道の決定
第IX章:動く軌道上における物体の運動;および長軸端の運動
第X章:与えられた面での上での物体の運動;および物体の振動
第XI章:求心力をもって互いに作用し合う物体の運動
第XII章:球形物体の引力
第XIII章:球形でない物体の引力
第XIV章:ある極めて大きな物体の各部分へと向かう求心力の作用を受けるときの極めて微小な物体の運動

第II編:抵抗を及ぼす媒質内での物体の運動

第I章:速度に比例して抵抗を受ける物体の運動
第II章:速度の自乗に比例して抵抗を受ける物体の運動
第III章:一部分は速度の比で、また一部分はその自乗の比で抵抗を受ける物体の運動
第IV章:抵抗媒質内における物体の円運動
第V章:抵抗媒質内における圧縮;流体静力学
第VI章:振子の運動および抵抗
第VII章:流体の運動、および投射体に働く抵抗
第VIII章:流体中を伝わる運動
第IX章:流体の円運動

第III編:世界体系

哲学における推理の規則
現象
命題 - 月の交点の運動
一般注

訳者注
解説


第1版への著者の序文

古代の人びとは(バップスがいうように)自然の事物の研究において力学(機械学)を最も重要視した。また近代の人びとは、実体的形相と超自然性とを排して、自然現象を数学の諸法則に従わせようと努めてきた。それで私はこの論述において、哲学に関係のある範囲内で数学を発展させてきたのである。古代の人びとは力学を二つの方面において考察した。すなわち、証明によって厳密に進める合理的方面と実用的方面である。すべての手工芸は実用的力学に属し、そこから機械学という名前が出てきた。ところが、職人たちは完全な正確さをもって仕事をするわけではないから、力学は幾何学と区別されるようになり、完全に正確なものは幾何学的といわれ、それほど正確でないものは機械的といわれるようになった。けれども、落度は技術にあるのではなくて、技術者にあるのだ。正確に仕事をやれない人は不完全な技術者であるし、完全な正確さをもって仕事をできる人ならば、その人は完璧な技術者といわれるべきである。なぜならば、幾何学の土台をなしている直線や円を描くことは機械学(力学)の領分に属するからである。

幾何学はわれわれにこれらの線の引きかたを教えるものではなくて、それらの線がすでに引かれていることを要求するものである。すなわち、学習者は幾何学に入る前に、まずそれらの線を正確に描くことを習得する必要があり、そうした上で、幾何学はこれらの運用によって問題がどのように解かれるかを示すものである。直線や円を描くことは問題ではあるが、幾何学的問題ではない。これらの問題を解くことは機械学から要求されることで、幾何学ではそれらが解かれたときに、それらの用法が示されるのである。そして、外部からもたらされたそれら少数の原理から、これほど多くのことがらをうみ出しうるということは、幾何学の誇りである。

それゆえ、幾何学は機械的実地技術に基礎をおくものであり、精確な測定技術を提供し証明する一般力学に一部分にほかならないのである。けれども、手工業的技術はおもに物体を動かす場合に使われるから、幾何学は通常それら物体の大きさに関するものであり、力学はそれら物体の運動に関するものだということになったのである。この意味において、合理的な力学は、たとえどのような力にせよ、それから生ずる運動の学問であり、またどのような運動にせよ、およそ精確に提示され証明される運動を生ずるに必要な力の学問だということになる。力学のこの部分は、手工技術に関連する五つの力の範囲内では、古代の人びとによって開発されたが、かれらは重力(それは手先の力ではない)を、それらの力によって重いものを動くかす場合のほかは考えなかった。

しかし、私は技芸よりもむしろ哲学を考え、また手先の力ではなくて自然の力について書き、また重さ、軽さ、弾力、流体の抵抗、その他同類の力、すなわち引っぱる力でも押す力でもよいが、そういうすべての力に関係することがらをおもに考えるのである。それゆえ私はこの著作を哲学の数学的原理として提出する。というのは、哲学のむずかしさはすべて次の点にあると思われるからである。すなわち、いろいろな運動の現象から自然界のいろいろな力を研究し、つぎにそれらの力から他の諸現象を論証することである。

第I編および第II編における一般的な諸命題はこの目的のために述べられたものである。第III編ではそれの実例が、世界体系の解明ということにおいて与えられている。すなわち、前2編で数学的に証明された諸命題により、第III編ではいろいろな天体現象から、物体が太陽から各惑星へと向かわされる重力というものが導きだされている。つぎにそれらの力から、同じく数学的な他の諸命題により、惑星、彗星、月および海の運動が導きだされている。

私は他の自然現象も力学の諸原理から同種類の推論によって導きだされるのではないかという希望をもっている。というのは、私は多くの理由から、それらの現象もすべて、ある種の力に依存するものではないのか、その力によって物体の各微小部分は、まだ知られていない原因により、あるいはたがいに相手方へと押しやられて規則正しい形に凝集したり、あるいは反発して遠ざかったりするのではないかと想像させられるからである。これらの力がまだ知られていないために、哲学者たちはこれまで自然の研究を企てたが、失敗に終わったのである。しかし私は、ここに述べられた諸原理が、手具学のこの方法あるいはより正しい他の方法に対してなんらかの光明を与えるであろうことを望むものである。

この著作の公刊にあたっては、最も明敏かつ博識なエドマンド・ハレー氏が、印刷の校正や図表の作製で私を助けられたばかりでなく、もともと本書が公刊されるに至ったのは、同士の懇請によるものである。すなわち、同氏は私から天体の軌道の形についての私の証明を聞かれたときに、それを王立協会に送るようにしきりに求められ、後にこの協会のかたがたの懇篤な励ましと要請とによって、私は公刊しようという気になったのである。ところが、私はすでに月の運動の不等について考察し始めていたし、また重力、その他の力の法則とその量とに関する他のいくつかのことがらや、与えられた法則に従って引かれる物体が描く図形とか、数個の物体のそれら相互間における運動とか、抵抗媒質内における諸物体の運動とか、媒質の力、密度、および運動とか、彗星の運動などといったようないくつかのことがらに立ち入っていたので、これらのことがらについての研究をすまし、全体をまとめて公表しうるまでその出版を延期したのであった。

月の運動に関することがらは(不完全であるが)命題66の系に全部ひとまとめにされている。それは、そこに含まれているいくつかのことがらを、主題が必要とするより以上に冗長な仕方で提出したり、別々に証明したりして、他の命題の系列を中断することを避けるためである。また後になって思い出されたいくつかのことがらは、命題の番号や引用文を変えるよりも、あまり適当と思われない場所へでもそれを挿入するというゆきかたをとった。ここに述べられたことがらすべて寛容をもって読まれるよう、またこの困難な主題における私の労苦が、それらの欠陥を責めるというものではなく、むしろそれらを救うという見かたで検討されることを心から願うものである。

1686年5月8日 ケンブリッジ、トリニティー・カレッジにて
アイザック・ニュートン


第2版への著者の序文

この『プリンキピア』第2版では多数の校訂といくつかの追加とがなされた。第I編、第II章では、物体を与えられた軌道に沿って回転させる力を見いだすことが具体的に示され、かつ拡張がなされた。第II編、第VI章では流体の抵抗の理論がさらにくわしく調べられ、新しい実験によって確かめられた。第III編では月の理論と分点の歳差運動とがその原理からさらに完全に導きだされた。また彗星の理論は、より高い精度で計算されたより多くの彗星軌道の実例によって確かめられた。

1713年3月28日 ロンドンにて
アイザック・ニュートン


第3版への著者の序文

この第3版はこれらのことがらにきわめて熟達されたヘンリー・ペンバートン医学博士のお世話でできたものであるが、この版では第II編の媒質の抵抗についてのいくつかのことがらが前よりもいくぶん包括的に取り扱われ、空気中を落下する重い物体の抵抗に関する新しい実験がつけ加えられた。第III編では、月が重力によってその軌道上に保たれることを証明する議論がさらに完全に述べられた。また木星の両直径の相互の比に関するパウンド氏の新しい観測がつけ加えられた。

また1680年に現れた彗星についてのいくつかの観測もつけ加えられている。これはカーク氏により11月ドイツでなされたもので、最近私の手に入ったものである。これらの助けにより、彗星の運動がきわめて放物線に近い軌道を示すことが知られた。この彗星の軌道は。ハレー博士の計算により前よりもいくぶん精密に決定されたが、その結果それは一つの楕円ということになった。そしてこの楕円軌道上を彗星は九つの天宮を通る進路をとって進むことが、ちょうど惑星が天文が言うで与えられた楕円軌道上を運行するのと同じ程度の精度をもって示された。1723年に現れた彗星の軌道もつけ加えられている。これはオックスフォードの天文学教授ブラッドレー氏の計算になるものである。

1726年1月12日 ロンドンにて
アイザック・ニュートン


プリンキピアは現代人にとっても難解な書物であることには変わらない。幸いなことにニュートン研究で著名な物理学者の和田純夫先生が手軽に(?)読める入門書を出されている。

プリンキピアを読む: 和田純夫著 (ブルーバックス)



プリンキピアから代表的な命題をピックアップし、用語やニュートンの証明手順を現代の私たちにもわかるように解説した本だ。微積分などのレベルの数式も使っていないから(意欲的な)中学生なら読めると思った。力学の問題を幾何学で証明するとはこういうことなのかと納得できた。


なお、プリンキピアに書かれた内容を現代の数式を使って解説した格好の本がある。ニュートンの業績をきっちりと学んでみたい方は1998年に出版されたこの「チャンドラセカールの「プリンキピア」講義」で勉強されるとよいだろう。




ところで以前このブログで紹介した「ニュートンの質点定理の証明(証明1証明2)」、つまり大きさのある球体の場合でも距離の2乗に逆比例した万有引力の法則が成り立っていることは、プリンキピアでは命題71定理31の「1ページ目」と「2ページ目」に渡って証明されている。ニュートンはこの証明の後、大きさのある2つの球体の場合の証明や球以外の場合の引力についても幾何学だけを使って求めているのだ。


専門書についていえば日本語書籍の電子書籍化は英語書籍にくらべてはるかに遅れている。絶版本の復刊は、書籍版よりも電子書籍のほうが出版社にとってはるかに金銭的負担が少ない。今回のKindle化による復刊をきっかけに、絶版となっている専門書の名著や新刊書が、ますます電子化されていくことを願っている。


関連ページ:

日本語版「プリンキピア」が背負った不幸
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bff5ce90fca6b8b13d263d0ce6fc134e

ニュートンの「プリンキピア」や手書き原稿をウェブで公開--ケンブリッジ大
http://japan.cnet.com/news/society/35011815/

Cambridge Didital Library: Newton Papers
http://cudl.lib.cam.ac.uk/collections/newton

ニュートンはすごい!
http://d.hatena.ne.jp/rikunora/20090201/p1


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無限をつかむ: イアン・スチュアートの数学物語

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無限をつかむ: イアン・スチュアートの数学物語

内容紹介
いわゆる数学史の本ではない!!
本書の主題は、数学者たちが「無限」という暴れ馬を、どのようにして馴致してきたか、というものである。
この主題に沿って、数学の歴史を虚数とかトポロジーとか対称性とか、数学的アイデアごとに切り口を決めて、考え方の発展の歴史を章ごとにたどるという趣向の本である。数学の歴史を読む視点・切り口を示してみせる、というのが狙いと言っていいだろう。著者のように、博覧強記で、かつ遊び心のある人にしか書けない読み物である。2013年8月刊行、375ページ。

著者略歴
I.スチュアート
1945年9月14日生まれ。ウォーリック大学数学部教授。英国の第一線の数学者であり、ポピュラーサイエンス書の著者としても世界的に有名。2001年に王立協会のフェローとなる。著書に、『数学の魔法の宝箱』『数学の秘密の本棚』(共にソフトバンク クリエイティブ)、『もっとも美しい対称性』(日経BP社)などがある。 ウィキペディアの記事

翻訳者略歴
沼田寛:公立はこだて未来大学講師、京都大学理学部卒、出版社勤務、フリーのサイエンスライターを経て、2000年より現職、著書に「科学はどこまで謎を解いたか?」(共著:宝島社)、「ヒジョーシキな科学」(ジャストシステム)、「図解「複雑系」がわかる本」(中経出版)、「バクテリアと生物革命」(人類文化社)など。


理数系書籍のレビュー記事は本書で259冊目。

数学とは何か(原書第2版):R.クーラント、H.ロビンズ、I.スチュアート」の姉妹書ということで本書を読んでみた。両方とも数学全体を見渡すというテーマで書かれたものだが、本書は後発ということもあってクーラントの本を読んでいたとしてもじゅうぶん読む意味のある内容になっている。クーラントの本のほうが数式導出を含んでいるためレベルが高く、本書は読書習慣のある高校生から一般人ならば読むことができるレベルの好書だ。

章立ては次のとおり。(詳細の目次はこの記事の最後に載せておいた。)

まえがき

第1章:数の誕生―トークン・線刻・書字板
第2章:形のロジック―初期の幾何学
第3章:算術と記数法の歴史―十進記数法による筆算という大発明
第4章:未知数への目印―Xを追って代数学へ
第5章:不滅の三角形―三角法と対数の発明
第6章:解析幾何学の誕生―座標が幾何学と代数学をつないだ
第7章:数論のはじまり―整数の中に隠れたパターンを探れ!
第8章:微積分法―物理世界が従う文法の発見
第9章:微分方程式と自然法則―数理物理学の形成
第10章:虚の数―負の数は平方根をもつか?
第11章:解析学の土台―連続・極限・関数の明確な定義
第12章:不可能な三角形―ユークリッド幾何学を超えて
第13章:対称性の数理―解けない方程式の形は?
第14章:抽象代数学の発展―数の世界から代数構造へ
第15章:ゴムシートの幾何学―「かたち」の定性的理解へ
第16章:4次元の空間―幾何学と現実世界
第17章:論理のかたち―数学の基礎を求めて
第18章:どのくらい確かなの?―偶然性の合理的な扱い方
第19章:高速計算の時代―計算機の発展と計算数学
第20章:カオスと複雑系―不規則な現象にもパターンがある


大学でひととおり数学を学んだ僕でもドキドキ、ワクワクできる本、熱中できる本だった。年甲斐もない言い方だが、読みながら興奮してしまった。数式は若干含まれているものの高校で学ぶ基本的なものがちらほら書かれているだけだ。始めから終わりまで筋道が明確で読みやすい文章と図で占められている。

「高校生以上なら読める」と書いたが、高校生といってもピンからキリまでいる。375ページあるので読書の習慣がちゃんと身についている高校生ならば読めるということになるだろう。

数学とは何か(原書第2版):R.クーラント、H.ロビンズ、I.スチュアート」は主に大学の数学科の1、2年までで学ぶ分野が中心だが、後述する詳細目次を見ればわかるように本書は現代数学(抽象数学)も含めて大学数学のほとんどをカバーしている。各章はそれぞれの分野について数学史の流れに沿って説明が進んでいる。

専門に勉強していない人にとっても数学の威力を実感でき、もし自分が学ぶとしたらこんなに利用価値があるのかという期待に胸を膨らませることができる。それは単なる数学史にとどまらず現代の科学や技術にその分野がどう活かされているか、その分野で研究されている数学と現実世界との結びつきが明確に示されているからだと思う。

記述内容のレベルとしては易しすぎるというこもなく、ぎりぎりテレビの科学教養番組で紹介できるくらいだと思う。NHKスペシャルあたりで各章を1時間の番組にまとめて放送したら、すばらしい数学番組のシリーズになると思った。20章あるので1年のうち半分くらいのNHKスペシャルが数学番組になってしまうことになるが。

特に高校生にとっては、大学以降の数学と高校数学の違いがとてもよく理解できると思う。とはいえ大学の専攻を数学科にしようかどうかという判断のよりどころとするのはまずいと思った。それは本書があまりにもわかりやすく書かれているため、大学の数学の教科書の難易度を本書の説明だけからは想像することができないからだ。入学し、落ちこぼれてしまってからでは遅い。大学の専攻を決める際には、大型書店で実際の教科書を立ち読みすることをお勧めしたい。

たくさんの数学者のエピソードが紹介されているのも本書の魅力だ。僕が知らない数学者(特に女性数学者)も紹介されていたので、とても有益だった。

あと本書が優れているところとして、各分野の解説にとどまらず、その意義、歴史的な流れが明確な論理構成で示されていることだ。なぜ、そのような数学のアイデアが重要なのか、なぜ、その分野を切り開くのが困難だったかがよく理解できるのだ。原書自体が新しいので、サーストンの幾何化予想、リッチフロー、ペレルマンによるポアンカレ予想の証明まで解説されているのには恐れ入った。(参考記事:「トポロジカル宇宙(完全版):根上生也著」)

たくさんの高度な数学の概念、考え方を1冊で知ることができる。一般向け数学書数冊ぶんの価値がある本だ。自信を持ってお勧めしたい。


翻訳の元になった英語原書はこちら。

Taming the Infinite: The Story of Mathematics from the First Numbers to Chaos Theory


同じ本は来年4月にも刊行予定なのだが、よく見てみるとページ数が100ページほど少ない。上記の原書とどう違うのかが僕にはよくわからないのだが、とりあえずリンクとして載せておく。

Taming the Infinite: 」2015年4月発売(予約受付中)


関連記事:

高校生にお勧めする30冊の物理学、数学書籍
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f79ac08392742c60193081800ea718e7

大学で学ぶ数学とは(概要編)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/07137c47d16d95ddde8f5c4cb6f37d55

大学で学ぶ数学とは(実用数学編)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/975ad3faa2f6fd558b48c76513466945

世界を変えた17の方程式:イアン・スチュアート
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/58748ffcb6e52721fe47f7806fa14ee8

数学とは何か(原書第2版):R.クーラント、H.ロビンズ、I.スチュアート
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e2b02a51b73a9716b077da16a102aaff



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無限をつかむ: イアン・スチュアートの数学物語


まえがき

第1章:数の誕生―トークン・線刻・書字板
- 数と数学のはじまり
- 数の表記
- 線刻
- 最初の数字
- 小さい数値を表す記号システム
- 古代エジプト人
- 数と人類

第2章:形のロジック―初期の幾何学
- 幾何学のはじまり
- ピタゴラス
- 無理数に手綱をつけて使いこなす
- ユークリッド
- 黄金比
- アルキメデス
- ギリシャ幾何学にとっての難問

第3章:算術と記数法の歴史―十進記数法による筆算という大発明
- ローマ数字から電卓の数表記まで
- 古代ギリシャの数字表記
- ヒンドゥー・アラビア数字の起源
- インドの数学者たち
- インド記数法の伝搬
- 暗黒時代?
- 負の数
- 算術は生き続ける

第4章:未知数への目印―Xを追って代数学へ
- 代数への糸口
- 方程式
- アル-ジャブル
- 3次方程式
- 代数学的記号表記
- 数の代数から式の代数へ

第5章:不滅の三角形―三角法と対数の発明
- 三角法
- 三角法のはじまり
- 天文学
- プトレマイオス
- 近世初期までの三角法の発展
- 対数
- ネイピアの対数
- 常用対数
- 自然対数の底 e
- 三角関数表や対数表がなかったら?

第6章:解析幾何学の誕生―座標が幾何学と代数学をつないだ
- フェルマー
- デカルト
- デカルト座標
- 関数のグラフ
- 座標幾何学の現在

第7章:数論のはじまり―整数の中に隠れたパターンを探れ!
- 数論(整数論)
- 素数
- ユークリッド
- ディオファントス
- フェルマー
- ガウス

第8章:微積分法―物理世界が従う文法の発見
- 世界の体系をつかさどる法則
- 微積分法
- 微積分の必要性
- 神と科学知識
- コペルニクス
- ケプラー
- ガリレオ
- 微積分法への数学的伏線
- ライプニッツの創案
- ニュートンの達成
- 取り残された英国
- 微分方程式

第9章:微分方程式と自然法則―数理物理学の形成
- 微分方程式
- 常微分方程式と偏微分方程式
- 波動方程式
- 音楽、光、音そして電磁波
- 熱と温度の方程式
- 流体力学
- 常微分方程式の発展と解析力学
- 数理化された物理学の成功

第10章:虚の数―負の数は平方根をもつか?
- 数の名称と意味
- 3次方程式の解法をめぐる謎
- 虚数
- 複素解析
- コーシーの積分定理

第11章:解析学の土台―連続・極限・関数の明確な定義
- フーリエ級数という難題
- 連続関数の定義
- 極限過程を適切に操作する
- ベキ級数
- 基礎を固めることの重要さ

第12章:不可能な三角形―ユークリッド幾何学を超えて
- 球面幾何学と射影幾何学
- 幾何学と美術
- デザルグの定理
- ユークリッドの公理系
- ルジャンドル
- サッケーリ
- ランベルト
- ガウスのディレンマ
- 非ユークリッド幾何学
- 宇宙の幾何学

第13章:対称性の数理―解けない方程式の形は?
- 群論の新しさ
- 代数方程式の解き方
- 解の公式を求めて
- アーベル
- ガロア
- ジョルダン
- 対称性の発見

第14章:抽象代数学の発展―数の世界から代数構造へ
- 洗練された概念の登場
- リーとクライン
- リー群
- キリング
- 単純リー群
- 抽象群
- 数論
- 環、体、多元環
- 有限単純群
- フェルマーの最終定理
- 抽象化された数学

第15章:ゴムシートの幾何学―「かたち」の定性的理解へ
- トポロジー
- 多面体とケーニヒスベルクの橋
- 面の幾何学的性質
- リーマン球面
- 面の向き付け可能性
- 3次元空間のトポロジー
- ペレルマン
- トポロジーと現実世界

第16章:4次元の空間―幾何学と現実世界
- 四つ目の次元
- 3次元数か4次元数か
- 高次元の空間
- 微分幾何学
- 行列代数
- 「現実の」空間
- 多次元空間の開花
- 一般化座標

第17章:論理のかたち―数学の基礎を求めて
- デデキント切断
- 自然数の公理系
- 集合とクラス
- カントルの集合論
- 集合の大きさ
- 矛盾
- ヒルベルトの企て
- ゲーデル
- 私たちはどこへきたのか?

第18章:どのくらい確かなの?―偶然性の合理的な扱い方
- 確率と統計
- 偶然性のゲーム
- 組合せ計算法
- 確率の理論
- 確率をきちんと定義する
- 統計データの解析

第19章:高速計算の時代―計算機の発展と計算数学
- まるで夢のよう?
- 計算機の勃興
- 計算機が求める数学
- アルゴリズムと計算量の理論
- 数値解析から証明支援まで

第20章:カオスと複雑系―不規則な現象にもパターンがある
- カオス
- 唯一究極の解?
- 非線形力学
- 集合論のモンスター
- いたるところにカオス!
- 複雑系
- セル・オートマトン
- 地質学と生物学
- 数学はどのように創られてきたか

さらに詳しく知るために
訳者あとがき
索引

数学とは何か―アティヤ 科学・数学論集

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数学とは何か―アティヤ 科学・数学論集

内容紹介
20世紀を代表する数学者マイケル・アティヤのエッセイ・講演録を独自に編訳した世界初の試み。数学と物理的実在/科学者の責任/20世紀後半の数学などを題材に,深く・やさしく読者に語りかける。数学者としての高い視点に立って語られる数学論、科学論である。アティヤによる日本の読者に向けた書き下ろし序文付き。2010年刊行、185ページ。

著者略歴
アティヤ,マイケル・F.
1929年英国生まれの数学者。ケンブリッジ大学で博士号を取得したのち、同大学をはじめオックスフォード大学、プリンストン高等研究所など多くの機関で数学研究を行い、幾何学・トポロジーを中心とする様々な分野の発展に貢献した。1966年にフィールズ賞受賞。1970年代からは理論物理学と密接に関わりながら数学の新しい展開を示した。1983年に英国王室よりナイトの爵位を授与され、1990~95年には英国王立協会の会長を務めた。
ウィキペディア:人物紹介

翻訳者略歴
志賀浩二
1930年新潟市に生まれる。1955年東京大学大学院数物系数学科修士課程修了。現在、東京工業大学名誉教授、理学博士。「数学30講シリーズ」をはじめ、一般向け、中級者向けの数学書を多数お書きになっている。

アマゾンで志賀先生の著書を新しい順に: 検索する


理数系書籍のレビュー記事は本書で260冊目。

数学とは何か(原書第2版):R.クーラント、H.ロビンズ、I.スチュアート」とタイトルは同じだが、本書はまったく別の方向性で書かれた本だ。クーラント博士の本は数学の歴史をたどりながら各分野を学ぶ教科書である。それに対し本書はアティヤ博士による科学や数学についての講演会や論文、ご自身のたどってきた研究の道のりを紹介した本だ。

僕が本書に興味をもったのは博士がシンガー博士とともに1963年に発表、1968年に証明した「アティヤ=シンガーの指数定理」のことを知ったのがきっかけだ。スピンc多様体 の上の複素ベクトル束の間の楕円型微分作用素について、解析的指数と呼ばれる量と位相的指数と呼ばれる量とが等しいという定理である。この定理はその後の数学の発展に影響を与えただけでなく、素粒子物理学(場の量子論、ゲージ理論)や超弦理論との結びつきが明らかになり、物理学者と数学者の交流や共同研究を促進する役割を果たす大きなきっかけになったのだと僕は理解している。そのことは「ゲージ理論とトポロジーの年表」という記事からおわかりになるだろう。

ちなみに「アティヤ=シンガーの指数定理」の証明は「超弦理論:ミチオ・カク」の437ページに載っている。(「超弦理論とM理論:ミチオ・カク」には載っていない。)

というわけで僕がいちばん読みたかった本書の第3部、博士の研究テーマや博士が交流した数学者や物理学者の話は、すべて大学院もしくは研究者レベルなので「大学で学ぶ数学とは」の内容をはるかに超えるものだ。

章立ては次のとおり。(詳細目次は記事のいちばん最後に書いておいた。)

第1部:数学と科学
知性・物・数学(2008年:エジンバラ王立協会会長講演)
数学--科学の女王と召使い(1993年:アメリカ哲学会 数学・物理シンポジウム講演)
科学の良心(1997年:シュレディンガーレクチュア、インペリアルカレッジ)

第2部:数学と社会
数学とコンピュータ革命(1984年)
数学の進歩の確認(1985年:ヨーロッパ科学財団会議での講演)
研究はどのように行なわれるか(1974年)

第3部:数学と数学者
マイケル・アティヤ教授へのインタビュー(1984年:聞き手はロベルト・ミニオ)
個人的な歴史(2003年)


第1部は科学に向けての論説で、科学と数学の関わり合いがテーマである。第2部では、さまざまな分野で急速に展開している数学について、どのように学んでいくべきか、数学者がどのように数学を育てていくべきかが示されている。第3部では20世紀の数学がさまざまな分野で展開してきた姿と、今後の発展の中で意味するものがテーマになっている。

僕が知りたいと思っていたのは特に第3部だ。アティヤ博士の研究に影響を与えた数学理論や数学者のこと、博士の定理が影響した物理や数学の内容について、少なくとも学者たちや関連する定理の名前とその関連性を知るだけでも十分である。(今の段階ではそれらの定理を理解できるはずがないわけであるし。)

アティヤ博士がもっとも尊敬する数学者はヘルマン・ワイル博士だそうだ。晩年のワイル博士の講演を聴きに行ったときに興奮したときのことが紹介されている。「ゲージ理論とトポロジーの年表」に名を連ねる先生方や研究テーマのこと、超弦理論、M理論では主導的役割を果たしているエドワード・ウィッテン博士がまだハーバード大学の学生だったころの印象も紹介されている。あとめぼしいところではペンローズ博士サーストン博士コンヌ博士の研究テーマの意味合いと意義が紹介されているのが印象に残った。

そして第3部の「個人的な歴史」では、次のような理論がどのような経緯で研究されたのかが紹介されている。

- K理論
- 指数定理
- K理論の指数定理との相互作用
- 不動点定理
- 熱方程式の方法
- エータ不変量
- 双曲型方程式
- ヤン-ミルズ方程式
- リーマン面上のバンドル
- 同変コホモロジー
- 位相的場の量子論


そしてもともと僕が予想していなかったのが第1部の中の「科学の良心」という比較的長い講演を文章にまとめたものだ。つまり科学がもたらす功と罪のことである。科学や技術は軍需産業に利用されるものが多いから科学者は特に気をつけて仕事をするべきだと忠告している。政府に対して、産業に対して、国民に対して科学者はどのように働きかけるかということについてお考えを述べている。

この講演が行なわれたのは1997年だが、その後の世界の戦争や紛争、日本の自衛権や再軍備が行われそうな状況を思うと「教訓は何も活かされていないじゃないか。」と複雑な気持になった。経済や国防上の「国益」の名のもとに軍備の増強が肯定され、軍需産業を維持するためには常にマーケットが必要なこと、そのためには紛争地帯に武器を輸出することが必要になるという一連の流れをアティヤ博士は詳しく解説している。

第2部で目を引いたのはコンピュータの発展と数学についてだ。みなさんご存知のように「四色問題」はコンピュータの支援によって証明されて「四色定理」になったわけだが、数学の定理の証明に対してコンピュータを使うことにアティヤ博士は疑問を投げかけている。数学者は今後コンピュータとどのように利用していけばよいのかということに本書でお考えを述べている。数学の証明とはだいぶ違うが、ちょうど僕は将棋や詰将棋のアプリで遊んだり、また「将棋電王戦」に興味がでてきているのでコンピュータと数学の関わりについての文章は深く考えさせられた。


本書を翻訳をされたのは志賀浩二先生だ。「訳者序」の中には特に僕の心を惹きつけた文章があったので紹介しておこう。

「まず20世紀における数学をかんたんにふり返っておきましょう。20世紀数学における最初の大きな衝撃は、カントルによる無限認識を通しての、数学におけるさまざまな概念のはたらきと、そこから自然に湧き上がってきた抽象化の波でした。その中から抽象代数と呼ばれるものや、位相という広がりや、関数空間のようなものが登場してきました。さらにそこで起きたもっとも劇的な出来事は、量子力学が無限概念に支えられた抽象空間(ヒルベルト空間)の上で、その理論構成を展開していくようになったことです。

20世紀前半に生まれた新しい数学分野への研究は急速に進みましたが、それとともに概念のもつ深みもしだいに明らかとなり、そこに数学の方法が入りこむことが非常に難しい局面も現れてきました。それは次元に関してもっとも顕著に現れます。たとえば微分トポロジーでは、5次元以上は比較的扱いやすい局面をもちますが、3次元、4次元にはなお解明されていないことが多く残されています。代数幾何では複素3次元以上は近づき難いものになっています。個々の次元の球面のホモトピー群にも規則性は現れません。数学は、それぞれの次元のもつ特性を明らかにしようと試みますが、各次元のもつ個性はそれを頑なに阻んでいるように見えます。

20世紀も後半を迎える頃になると、さまざまな抽象数学の枠組みもはっきりしてきて、相互の関係に複雑さも増してきましたが、そこにはまた新しい局面も生まれてきました。それは有限次元の中で得られた量の中には、次元を大きくしていくとある安定性を示すものがあるということです。また位相的な量と解析的な量との結びつきが、数学の深層ともいえるところにはたらきかけている状況も、しだいに明らかになってきました。1960年代のアティヤ=シンガーの指数定理が、その方向へ向けて最初に光を投げかけることになりました。これを契機として、現在の理論物理学におけるもっとも深淵なテーマである場の量子論へ向かって数学が動き始め、その動きは1990年代に急速に深まり、ここでは無限は単なる概念ではなく、数学と物理の出会う深層へ向けての総合的なはたらきを支える場となってきたようです。

アティヤは、つねにこの動きの中心にあって指導的な役割を果たしてきました。この理論は、私にはあまりにも深淵で、理解することなどできないのですが、それでも数学は、これから出会ったこともないような未知の世界の奥へ向かって、一体、どのような道を選んで進んでいくのだろうかと見守っていきたいと思います。」


関連記事:

数学とは何か(原書第2版):R.クーラント、H.ロビンズ、I.スチュアート
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e2b02a51b73a9716b077da16a102aaff

無限をつかむ: イアン・スチュアートの数学物語
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2307174ab3fd537695b1287f059f2304

量子力学の数学的構造 I:新井朝雄、江沢洋
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/196b59dc50fca361ba523036e7eeb908

量子力学の数学的構造 II:新井朝雄、江沢洋
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a4ef01e94a8c0384cec353ebe4d542e4

理論物理学のための幾何学とトポロジー I:中原幹夫
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ef0b2fcb7c87aabfcd68bbe2a567840e

理論物理学のための幾何学とトポロジー II:中原幹夫
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9fd93716929786316ee234a66ec4d32b

ゲージ理論とトポロジーの年表
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1050f5ac88c40f83f566ba52c142c565

時間とは何か、空間とは何か: S.マジッド、A.コンヌ、R.ペンローズ他
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d80d021f4fba492bf0e3f47615289422


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数学とは何か―アティヤ 科学・数学論集



第1部:数学と科学

知性・物・数学(2008年:エジンバラ王立協会会長講演)
- はじめに
- 物理的実在とは何か
- 知識は生まれつきのものなのか、経験から得られるものなのか
- 数学とは何か?
- 数学と物理学の関係はどのようなものか
- 人間的な範囲
- 現代物理学

数学--科学の女王と召使い(1993年:アメリカ哲学会 数学・物理シンポジウム講演)
- 数学における二分法
- ふつうの言葉
- 数学
- 数学と物理学

科学の良心(1997年:シュレディンガーレクチュア、インペリアルカレッジ)

第2部:数学と社会

数学とコンピュータ革命(1984年)
- 歴史的展望
- 数学と理論コンピュータサイエンス
- 数学研究の一助としてのコンピュータ
- 人間の知能と人工知能
- 知性の危機
- 経済からもたらされる危機
- 教育上の危機
- 結論

数学の進歩の確認(1985年:ヨーロッパ科学財団会議での講演)
- はじめに
- 数学の特別な様相
- 問題の役割
- 革新
- 審美的な成分
- 統合と分裂
- 応用数学
- 社会との関係
- 不一致
- 結論

研究はどのように行なわれるか(1974年)

第3部:数学と数学者

20世紀における数学(2000年:フィールズ研究所(トロント)での講演に基づく)
- 局所から大域へ
- 次元の増加
- 可換から非可換へ
- 線形から非線形へ
- 幾何 対 代数
- 共通のテクニック
- 物理学からの影響
- 歴史的な概要

マイケル・アティヤ教授へのインタビュー(1984年:聞き手はロベルト・ミニオ)

個人的な歴史(2003年)
- はじめに
- K理論
- 指数定理
- K理論の指数定理との相互作用
- 不動点定理
- 熱方程式の方法
- エータ不変量
- 双曲型方程式
- ヤン-ミルズ方程式
- リーマン面上のバンドル
- 同変コホモロジー
- 位相的場の量子論

人名索引
事項索引

発売情報: 歴史を変えた100の大発見 数学 新たな数と理論の発見史

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歴史を変えた100の大発見 数学 新たな数と理論の発見史

内容紹介
数学の歴史を、豊富な図とイラストでビジュアルに見せた新しい図鑑。数学者たちの風変わりなエピソードとともに、数学の歴史を100のトピックスを通じて追うことで、数やその理論が人類にもたらした恩恵や、まだまだ謎に満ち溢れた数学という学問の深遠さを感じられる。まるで博物館をめぐるようにその進歩を知ることができる一冊。2014年6月28日刊行、150ページ。

著者略歴
トム・ジャクソン
英国で活躍するサイエンスライター。ブリストル大学で動物学を学び動物園で働いた後、ジンバブエやベトナムで自然保護活動を行う。20年にわたって、メキシコオオサンショウウオからゾロアスター教にいたる幅広いテーマで一般向けの啓蒙書を執筆。科学、自然誌関係だけで40冊以上の本をまとめている。現在もブリストル在住。

翻訳者略歴
冨永星
フリーランス翻訳家。京都大学数理科学系卒業後、国立国会図書館司書、自由の森学園教員などを経て、一般向け科学啓蒙書と児童書の翻訳に従事。


地元の書店で見つけた数学図鑑の決定版!この本ならば小学生(高学年)から大人まで数学の深い世界を楽しみながら人類に数学がどれほど役立っているのか楽しみながら理解することができると思う。これまでになかった新しい感覚の図鑑である。

大学で学ぶ数学とは」という記事を書いて以来、数学全体を見渡せるような本を読んで紹介してきた。高校生には「無限をつかむ: イアン・スチュアートの数学物語」がお勧めだが、分厚い本なので途中で放り投げてしまう人がいるかもしれない。でも図鑑なら日頃読書しない人でも大丈夫だと思う。

「数学なんて使わなくても実生活では困らない。」というのもひとつの事実だ。それを僕は否定しない。

けれども「数学って何のために学ぶの?」とか「数学を学ぶと何の役に立つの?」という疑問を持った人を見かけたら、ぜひこの本を見せてほしい。ほんの数ページ眺めるだけで、役に立つとか立たないとかを超えて、数学の魅力がその人の心に焼きつくことだろう。

小学生のための学習図鑑のように安っぽくなく、当時の歴史資料からたくさんのカラー写真をていねいに選び、落ち着いた色彩感覚でイラストが描かれているので値段以上の高級感がある。だから小学生から高校生のみなさんにとっては高価な本なので、図書館を利用するかご両親にお願いしてみてほしい。大人になるまで何度読んでも買ってよかったなぁと思える本なのだ。


次の図は最初のほうに載っている数学の分野を分類したもの。大学以上で学ぶ数学は、分野の名前を聞いても内容はわかりにくいし、それぞれ分野の関係を理解するのは難しいから、このような図は初心者にはとても参考になると思う。

クリックで拡大



本で紹介している100のトピックは、以下に書いた目次をみてほしい。大学で数学を専攻した僕にとっても「えっ、こんな高度なことまで紹介しているの?」と驚かされるような事柄が含まれている。

僕が驚いたのはたとえば「非線形方程式」とか「三体問題」、「摂動理論」、「ベッセル関数」、「群論」、「超越数」、「単純リー群」、「全有限単純群の分類」など。実際に読んでみたけれど、それぞれ上手に説明してあると思った。

中学生、高校生の中には、ふだん学校で学んでいる数学の内容が、この本にはほんの少ししか書かれていないことに気がつく人がいるかもしれない。それはなぜかというと、数学全体がカバーする範囲がとても広く、深いからなのだ。中学と高校で学ぶ数学は、この本で紹介している数学のうちほんの一部に過ぎない。とはいえ学校で教えられている数学は、いちばん基礎になる部分。この本で紹介している数学のどれを学ぶためにも重要な基礎になるのだ。


歴史を変えた100の大発見 数学 新たな数と理論の発見史



はじめに

有史以前から中世まで
001: 数える
002: 位取り記数法
003: 計算に使う道具、アバカス
004: ピタゴラスの定理
005: リンド・パピルス
006: ゼロ
007: 音楽の数学
008: 黄金比
009: プラトンの立体
010: 論理
011: 幾何学
012: 魔方陣
013: 素数
014: パイ
015: 地球を測る
016: 10のべき、10の力
017: 今日に通じる暦
018: ディオファントスの方程式
019: インド・アラビア記数法
020: アルゴリズム
021: 暗号学
022: 代数
023: フィボナッチ数列

ルネサンスと啓蒙の時代
024: 遠近法の幾何学
025: 非線形方程式
026: 振り子の法則
027: x と y
028: 楕円
029: 対数
030: 「ネイピアの骨」
031: 計算尺
032: 複素数
033: デカルト座標
034: 落体の法則
035: 計算機
036: パスカルの三角形
037: 偶然と確率
038: 帰納法
039: 微分積分学
040: 重力の数学
041: 2進数

新しい数、新しい理論
042: e(ネイピア数)
043: グラフ理論
044: 三体問題
045: オイラーの等式
046: ベイズの定理
047: マスケリンと個人誤差
048: マルサスの学説
049: 代数の基本定理
050: 摂動理論
051: 中心極限定理
052: フーリエ解析
053: 機械式のコンピュータ
054: ベッセル関数
055: 群論
056: 非ユークリッド幾何学
057: 平均人
058: ポアソン分布
059: 四元数
060: 超越数
061: 海王星の発見
062: ウェーバー-フェヒナーの法則
063: ブール代数
064: マクスウェル-ボルツマン
065: 無理数の定義
066: 無限
067: 集合論
068: ペアノの公理
069: 単純リー群
070: 統計的手法

現代数学
071: トポロジー
072: 新しい幾何学
073: ヒルベルトの23の問題
074: 質量エネルギー
075: マルコフ連鎖
076: 集団遺伝学
077: 数学の基礎
078: 一般相対性理論
079: 量子力学の数学
080: ゲーデルの不完全性定理
081: チューリング・マシン
082: フィールズ賞
083: ツーゼと電気式コンピュータ
084: ゲームの理論
085: 情報理論
086: 測地線
087: カオス理論
088: ひも理論
089: カタストロフ理論
090: 四色定理
091: 公開鍵暗号法
092: フラクタル
093: 4次元以上
094: 全有限単純群の分類
095: 自己組織化臨界現象
096: フェルマーの最終定理
097: コンピュータによる証明
098: ミレニアム問題
099: ポアンカレ予想
100: メルセンヌ素数捜し

101: 数学用語集
数学の謎
まだ答えが見つかっていない問題
偉大なる数学者たち
訳者あとがき
索引
数学の歴史年表
図の出典


本の扉には次のような紹介文が書いてある。

路線図を確認して地下鉄を乗り継ぎ、ICカードで改札を出る。ポケットからスマートフォンを取り出し、GPSをたよりに目的地へ向かって歩き出す…。そんな私たちの日常の中には、グラフ理論、微分積分学、情報理論、フーリエ変換、暗号理論など、さまざまな数学が潜んでいます。

いっぽうで数学者は、「無限には大小があるのか?」「四次元における立方体は、どんな形をしているのか?」「『1+1=2』は本当に正しいのか?」といった、わたしたちの直感をはるかに超える問いと向き合い、論理に基づいて厳密に論を進めてきました。

本書では、そんな数学の歴史を100のトピックスに濃縮しました。数学者たちの風変わりなエピソードとともに、数学が人類にもたらした恩恵や、驚くべき大発見を、豊富なイラストで紹介します。

ようこそ、深遠で楽しい数学の世界へ!


翻訳の元になった英語版はこちらだ。3000円を切っているので、英語が読める方はこちらのほうがよいかもしれない。

Mathematics: An Illustrated History of Numbers: Tom Jackson




関連記事:

無限をつかむ: イアン・スチュアートの数学物語
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2307174ab3fd537695b1287f059f2304

大学で学ぶ数学とは(概要編)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/07137c47d16d95ddde8f5c4cb6f37d55

大学で学ぶ数学とは(実用数学編)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/975ad3faa2f6fd558b48c76513466945


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素数の話、解の公式の話(朝日カルチャーセンター)

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9月27日(土)は1年ぶりに大栗博司先生による数学講座を聴講してきた。

素数の話、解の公式の話(朝日カルチャーセンター)
http://www.asahiculture.com/LES/detail.asp?CNO=257160&userflg=0


先生にお会いするのは昨年9月の「ブルーバックス創刊50周年、特別記念講演会」以来である。久しぶりに科学ブログ仲間とも再会できることもあって、この日がくるのを楽しみにしていた。先生の今回の帰国(来日?)の目的のひとつには著書「大栗先生の超弦理論入門」が講談社科学出版賞を受賞されたこともあり、「講談社三賞授賞式」に出席することにあった。

朝日カルチャーセンター新宿教室で開催された大栗先生の講座は重力の話から、強い力と弱い力、そして超弦理論までひととおり完了している。続きはどうなることだろうとずっと思っていた。

ところが今回は物理学ではなく数学だった。昨年11月から半年間「幻冬舎plus」に連載されていた「数学の言葉で世界を見たら」という連載記事から特に人気の高かった「素数の不思議」と「難しさを測る、美しさを測る」の2つをまとめて「素数の話、解の公式の話」として昼食をはさんで合計4時間の講義にまとめたものだった。

素数の不思議 前編
http://www.gentosha.jp/articles/-/1554

素数の不思議 後編
http://www.gentosha.jp/articles/-/1662

難しさを測る、美しさを測る 前編
http://www.gentosha.jp/articles/-/2310

難しさを測る、美しさを測る 後編
http://www.gentosha.jp/articles/-/2311


僕の大学時代の専攻は応用数学だ。群論はカリキュラムに含まれていたし、この数年何冊かの教科書で学んでいた。しかし整数論やガロア理論は「数学科」では選択可能だったが「応用数学科」では学ぶことができなかった。ガロア理論は2年前に「数学ガール/ガロア理論:結城浩」を読んだのが初めてで、整数論については最近「素数夜曲―女王陛下のLISP:吉田武」を読み始めたばかりである。「整数論は数学の女王」と言われるものの、なぜ女王と呼ばれるにふさわしいのか数学を専攻していたにもかかわらず実感として理解できていないなさけない状態なのだ。今回の講座でほんの少しでもそれが実感できればよいのだけれどというのが正直な気持だった。


今年の夏も猛暑やゲリラ豪雨で相変わらず荒れた季節を過ごしてきたわけだが、幸いこの日はすがすがしい秋の晴天に恵まれた。いつものように開講30分前に新宿教室に到着。いつもだと机の上には先生が用意したスライドの印刷物が乗せられているのだが、今回は何もない。そのかわりに黒板2つとホワイトボード2つが教壇の横に置かれていた。板書しながら講義が進むのだとわかった。いつもの科学ブログ仲間数名に加えて、今回は僕の大学時代の同級生のI君も席についた。

先生が到着される頃までには120人入る71番教室は満席になる。「せっかくのお休みの日に、わざわざ数学の授業を聞きにいらっしゃるみなさんは立派です。」と笑いをとられてから講義が始まった。

板書を写した僕のB5版のノートは午前と午後の4時間で24ページになった。流れは次のようなものだった。

午前(10時から12時まで):素数の話
- 幻冬舎plusで数学の記事を書くことになったいきさつ
- 自然数は素数と合成数に分かれる
- 素数をみつける方法、エラトステネスのふるい
- 素因数分解は一意(ユークリッド)
- 素数は無限個ある
- 素数の分布、密度分布をあらわす関数を求める
- 10の指数の話:日本のGDP(10^14円)、トヨタの売上(10^13円)、文教予算(10^12円)、東大の予算(10^11円)
- コイン投げによる確率の話
- ネイピア数、自然対数、常用対数の話
- 素数の判定、素数テスト
- 剰余類の話
- フェルマーの小定理
- パスカルの三角形
- フェルマーの小定理の帰納法による証明
- 新しいテスト方法では小定理が拡張され、合成数でも使えるテストになった
- RSA暗号、公開鍵のしくみ
- オイラー関数
- 量子コンピュータ、量子暗号理論
- 素数スマッシュ: http://panasonic.net/apps/jp/primesmash/

午後(13時から15時まで):解の公式の話(ガロア理論)
- 1次方程式、2次方程式の解、因数分解
- リーマンのゼータ関数
- オイラーによるゼータ関数の素数を使った表現
- 古代ギリシアにおける2次方程式の解が求められた
- イスラム世界からヨーロッパに数学が入った
- 3次方程式の解、16世紀にデル・フェッロが解いた
- カルダーノの公式、アルスマグナ
- 4次方程式、フェラーリ
- ガウスの定理:どんな次数でも複素数で解があることを証明した。最終的に6つの方法で証明
- 「解けるとは?」:解を加減乗除とべき根で書けること
- 18世紀、ラグランジュは「なぜ解けるのか?」を研究
- アーベル、ガロア=ビクトル・ユゴーのレ・ミゼラブルと同時代
- アーベル(1802-1828):5次方程式は解けない
- 2次方程式の解の対称性、対称でないものを対称にするために2乗する
- 3次方程式の解の対称性
- 3つの解の入れ替え、群、アミダクジ(置換群)の話
- 正三角形の回転、左右反転
- 共通する性質=群という性質、群の定義
- 3次方程式における解と係数の関係
- 4次方程式の場合も大丈夫
- 5次方程式の場合は無理
- 正20面体の話、20面体群、単純群の話
- モンスター群に至る散在群の話、Atlas of Finite Group
- 散在群の全体は1000ページに渡るいろいろな数学者による証明の合作。全体を通して証明を確認した人はいない。
- 5次方程式はべき根に制限しなければ楕円関数、超幾何関数を使って解ける
- クライン:「20面体群と5次方程式」という著書
- 代数->関数->幾何
- マシュー群は物理と関連があることがわかった
- プラトニックな世界

というわけで、講義はテンポよく進んだので4時間はあっという間だった。ノートをこれだけ集中して書いたのは大学生以来かもしれない。板書写しがいちばん忙しかったのは3次方程式の解と係数のあたり。ゼータ(ζ)の文字を書くのに慣れていないので手こずった。僕が書くζはどれも形がまちまちだ。すらすらと「美しいζ」を書いている大栗先生はやはり慣れていらっしゃると本筋とまったく関係ないところで僕は感心していた。

驚かされたのは「散在群の全体は1000ページに渡るいろいろな数学者による証明の合作。全体を通して証明を確認した人はいない。」という話。すべての散在群が見つかったというのがすごいことだし、恐ろしく深遠な世界が存在していることに感動した。やはり数学は発明ではなく発見だと僕は思うのだ。

コンウェイがまとめあげた「アトラス」の話についてだが、全ての有限単純群の数え上げを証明したのはゴーレンシュタインが率いる研究チームで、半世紀にわたり数百本の論文を発表し、全部合わせると数万ページになるという。

同級生のI君も「これだけ分かりやすい講義は素晴らしい。」と感激していた。今回の講座のポイントは「解と係数の関係」を導くことが「解けること」と直接関連していることを理解することにある。

先生がおっしゃっていたように群とは数学の世界のプラトニックな研究対象である。つまり群とは哲学者プラトンの仮想世界の存在なのだ。その話を聞いていたとき僕は「仮想恋愛のプラトニック・ラブも語源はプラトンなのだけど、プラトニック・ラブからプラトンを連想している人はきっと少ないに違いない。」などと余計なことを考えていた。余計な妄想をしているうちに、大切なところを聞き逃してしまうのが学生時代からの悪い癖である。


今回、僕は2つの質問をさせていただいた。

質問1) ガロア理論の本を読んで挫折する人はたくさんいるが、今回の話はガロア理論をどこまで理解したことになるのでしょうか?

先生の回答) それは今回の講義で何を省略したかという質問ですね?と笑いをとられたあと、次のように説明された。ガロア理論は群論の研究を進めて、正規部分群などをはじめ群の構造を理解し、ガロア群というものを理解することです。その部分は今回の講座には含まれず、今回の講座では「5次方程式は解けない」ということを理解するための最短ルートを解説しました。

質問2) 「群」は英語で「group」です。日常用語でもある「group」を使うと英語圏の初心者は群論を学ぶときに混乱しないでしょうか?

先生の回答) 混乱はしないと思います。英語では日本語にくらべて専門用語でも日常用語と同じものを使う場合が多いです。たとえば「強い力」や「弱い力」がそうですよね。


大栗先生、今回も素晴らしい講義をありがとうございました。


講座の後はいつものように銀座ライオン(西新宿店)でオフ会。今回は5人参加。途中から大学時代の同級生I君の奥さんも合流して6人になった。彼女も大学時代の同級生(数学専攻)で、卒業してから数年して付き合い始めて結婚した夫婦である。


関連書籍:

今回のテーマに沿った推薦図書や講座で先生が言及されていた本を紹介しておこう。

整数論入門としては、これがいちばん楽しそうだ。超お勧め。

素数夜曲―女王陛下のLISP:吉田武


今の時点でガロア理論を学ぶのには、この本がいちばんだと思う。昨年刊行された。

ガロア理論の頂を踏む:石井俊全



有限単純群については「有限群村の冒険 - あなたは数学の妖精を見たことがありますか?」という本を7年前に紹介したが、先生が講座で言及されていたのは原田先生のこの本だ。しかし絶版なので現在は9800円以上でしか買うことができない。

モンスター―群のひろがり: 原田耕一郎


現在入手しやすいのは次の本である。

シンメトリーとモンスター 数学の美を求めて:マーク ロナン」(英語原書版



有限単純群の分類について先生は「Atlas of Finite Groups」を紹介されていたが、リング製本版とペーパーバック版が刊行されている。しかしどちらも高価なので買うのにはとても勇気がいる。ウィキペディアの「モンスター群」や「有限単純群の分類」、「有限単純群のリスト」を読み、さらに2日以上考えてから購入ボタンをクリックすることをお勧めしたい。

Atlas of Finite Groups(リング製本版)
Atlas of Finite Groups(ペーパーバック版)


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関連記事:

重力のふしぎ(朝日カルチャーセンター)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/243ec8bcf130122f0b25d7838a33b6a8

重力をめぐる冒険(朝日カルチャーセンター)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0471486930f344c4daa7aaa5ba2fdcc4

ヒッグス粒子とは何か(朝日カルチャーセンター)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f4a1756c8de4273487ffac8184c8b0c7

強い力と弱い力(朝日カルチャーセンター)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/59084db3bdfb94a2705989a51fcc37ab

超弦理論(朝日カルチャーセンター)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ee9d62fa4bcd23fe49301d6b015ea52f

時空とは何か(朝日カルチャーセンター)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/fc17a69807d62016bae8da7ea3af7e6c

重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る:大栗博司
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f63cdcd45ec542fa62d535b4cc715d69

強い力と弱い力:大栗博司
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/06c3fdc3ed4e0908c75e3d7f20dd7177

大栗先生の超弦理論入門:大栗博司
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/75dfba6307d01a5d522d174ea3e13863

素粒子論のランドスケープ:大栗博司
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5201583450c82ac59cb4d71efe52b3d9

一般講演会 「物質の科学と素粒子物理の深い関係」

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9月28日(日)は東京大学の物性研究所主催、カブリIPMUと柏市の共催の一般講演会「物質の科学と素粒子物理の深い関係」を聴講してきた。2日続けて市民向けの数学講座と物理学講座を受講するという、とても贅沢な週末を僕は過ごしていたのだ。


物性研究所の押川正毅先生が『1次元物質と弦の理論』、大栗博司先生が『宇宙は超伝導か』というタイトルで講演をされた。

会場は今年の7月にオープンしたばかりの柏の葉カンファレンスセンターの400名収容のホールで、午後1時30分開場。午後2時30分から4時まで。詳細は次のページを見てほしい。

一般講演会「物質の科学と素粒子物理の深い関係」
http://www.issp.u-tokyo.ac.jp/public/issplecture/


会場となった柏の葉カンファレンスセンターはつくばエキスプレスの「柏の葉キャンパス駅」のすぐ近く。会場が新しいだけでなく、駅や駅前すべてが「できたてほやほや」だったので面食らった。

開場1時間半前に着いたので、駅周辺を見物して回ったのだが東京生まれの僕のほうが田舎者に思えるほどだ。あたり一帯が近未来都市さながらだったのでピクニック気分を味わいながら楽しい時間を過ごすことができた。

駅前(西口)の写真(クリックで拡大)


カンファレンスセンターは写真正面の「Mitsui Garden Hotel」の建物の中にある。駅前には大きなショッピングモールがあり、3階まで面積をゆったりととった店舗やスーパーマーケット、レストラン街、映画館、大型書店など、生活に必要なものはたいていそろっていた。(そのかわりに立ち食い蕎麦屋やカラオケスナックのように大衆的な店はなかった。)

大型書店では理数系書籍をチェック。物理学、数学の本棚は僕の地元の中型書店と同じく3メートルほどの本棚しかなかったが、売られている本のほとんどが大学の教科書レベルの専門書だったのが意外だった。(地元の書店には専門書はまったくない。)また、電子工学、電気設備系の本が物理学、数学の本より3倍くらい揃えられていた。僕にとってはうれしい品揃えだけれど、一般の人にとってはどうなのだろう?

駅前を行き交う人や混雑しているショッピングモールは40歳以下の人がほとんどで高齢者はほとんど見かけなかった。ここに住むと中年オヤジの僕は高齢者になってしまうのだろうと感じた。

駅の周囲の雰囲気ここをクリックして航空写真を見ていただかったのだが、写真はまだ駅前が開発される直前のものである。

カンファレンスセンターは新品そのもの。トイレや喫煙室にもチリひとつ落ちていない。会場に入って前から3列目に着席。時間がくるまでスクリーンに映される物性研究所カブリ数物連携宇宙研究機構の紹介ビデオを見ていた。これら2つの組織が入っている東京大学柏キャンパスは来月一般公開するそうである。

柏キャンパス一般公開2014 (10月24,25日)
http://www.ipmu.jp/ja/node/1965


講演会が始まるころには会場はほぼ満席になっていた。科学ブログ仲間2人が来ているのが確認できた。シニア層が多い朝日カルチャーセンターの物理学講座とは異なり、この講演会には高校生、大学生、そして女性も若い人から年配の方までたくさんいる。見かけで人を判断するのはいけないのだけれど、会場にいる若い人は優秀な人が多いと思った。

物性研究所の瀧川仁所長による挨拶に続いて、講演が始まった。


1次元物質と弦の理論(押川正毅先生)

私達は、左右/前後/上下の3つの方向を持つ3次元の空間に住んでいます。しかし、たとえば非常に細い電線を作ると、その中の電子の動きは実質的に1次元の線上に制限されます。このような「1次元の物質」は、最近の科学技術の発展により重要なトピックになっています。朝永振一郎博士は1950年に、1次元空間中(線上)の電子が弦の振動の量子力学に従うことを示しました。その後、素粒子の究極理論として提案された超弦理論にも刺激されて研究が進展し、弦の振動の量子力学は1次元の物質を理解するのに欠かせない理論となっています。1次元の物質と弦の理論のこのような関わりを、自分の研究も交えてお話します。

赤いTシャツ姿の押川先生が登壇して講演が始まった。「押川先生は会社の同僚にそっくりな人がいるけど、遺伝子が違っても似ている人はいるものだなぁ。」などといつものように余計なことを思いながら僕は講演のメモを取った。B5のノート4ページに書き取った僕のメモ書きから流れを書くと次のようになる。

- 空間は3次元、時間は1次元
- 1次元空間は直線上のみ
- 原子核や電子、分子以上のサイズは物性物理の領域、原子核内部のクォークや弦などは素粒子物理の領域
- 物質を理解するための原子核と電子が従うルール(物理法則)はだいたいわかっている
- しかしそれを解析的に解くことも、コンピュータで解くことも難しい
- 将棋の例:ルールは簡単だが、ルールを理解しても名人に勝てるわけではないのと同じ
- 水分子1つ1つの運動を解かなくてもわかることがある。例:津波予報
- 表面波:水分子の集団的運動≠分子の個別の運動
- 音波:疎密波
- 1次元物質中の音波は弦に伝わる波と数学的には同じ
- 音波は物質の性質の「氷山の一角」
- 朝永振一郎博士の理論(1950):1次元の物質では「音波」によって(低温での)性質があらわせる
- 朝永博士の論文:3次元は難しいから仮に1次元で考える
- 近年1次元の物質がいろいろあることがわかってきた。例:カーボンナノチューブ
- 朝永-ラッティンジャー流体:弦の振動であらわせる理論
- 1次元では相互作用があっても朝永-ラッティンジャー流体=弦の振動になる
- 弦の張力を調整->電子間の引力
- 相互作用のある1次元電子系(不純物がある場合)
- 張力が大(電子は反発):弦が不純物にピン止めされる->電流は流れない
- 張力が小:弦が不純物に影響されにくくなる
- 不純物無し->完全伝導
- 温度を下げると電気が流れなくなる
- 弦が3本になると解くのがずっと難しくなる
- 3本の弦の間で電子が飛び移ることで電子の交換が発生
- 2本の場合(1本の弦+不純物):粒子の交換はおこらない。ボース粒子でもフェルミ粒子でも同じ
- 1984年の超弦理論の第1次革命
- 物性の弦とは異なり超弦理論は空間を飛びまわれるので少し違う
- 3本の細線の接合について、電子のフェルミ統計は「磁場」であらわされる
- 電子の引力:クーパー対

感想: 物性物理はまったく学んだことがなかったので僕にとってはすべてが目新しかったです。この分野も場の量子論という素粒子物理の研究手法と同じ理論が使われ始めたことについて、おぼろげながら自分なりのイメージを持つことができるようになったのがよかったと思います。余力があれば近いうちに「キッテル 固体物理学入門」あたりから物性物理も学び始めてみたくなりました。

次のページも押川先生の研究テーマを知る上で役に立つと思うので紹介いたします。

対称性の破れた凝縮形におけるトポロジカル量子現象
http://www.topological-qp.jp/member/sp_profile/profile_d03_oshikawa.html

押川先生は次のような社会的な活動にも積極的に協力されていることを帰宅後に僕は知りました。

シンポジウム 民・公・学で挑む、オール柏の除染計画‐安心へのロードマップ(平成24年2月18日)
http://www.city.kashiwa.lg.jp/soshiki/080800/p010793.html


宇宙は超伝導か(大栗博司先生)

素粒子物理学者の南部陽一郎博士が2008年にノーベル賞を受賞されたときの理由である 「対称性の自発的破れ」は、「宇宙が超伝導である」という意味だと説明されます。しかし、これは宇宙空間に永久電流が流れるというような意味ではありません。この言葉の意味する素粒子物理学と物性物理学の間の深い関係について解説しながら、その最近の展開としての量子相転移現象やトポロジカルな相の発見、また、私自身の物性物理学者との共同研究についても語りたい。

僕がとったノートは3ページ。次のような流れで講演が進んだ。

- ヒッグス粒子の発見 125GeV(水素原子の133倍のエネルギー):弱い力についての話
- 物質の質量の99パーセントは強い力で説明できるのでヒッグス粒子とは関係ない
- 弱い力の強さは電磁気力の10万分の1
- 光子には質量がない
- 弱い力を伝える粒子(W粒子、Z粒子)には質量がある
- 超伝導のマイスナー効果=光子が質量をもつ
- マイスナー効果(バーディーン、クーパー、シュリーファー)
- 南部博士:回転対称性の自発的破れ(ひとりずつが少しずつ首を振るのはエネルギーが少ない)
- この波が電磁波の波と混ざることで質量が生まれる
- これが「宇宙は超伝導」の意味です
- 場の量子論はますます重要
- 今年3月17日:BICEP2、マイクロ波輻射のBモード偏光の観測結果を示した
- Bモード偏光:CERNのLHCの100京倍のエネルギーの現象を観測していることになる
- Plank衛星の最新データでは初期宇宙でなく銀河系内の現象で説明できる可能性が大きくなった
- LiteBIRD科学衛星(Kavli IPMU)に期待
- 場の量子論->トポロジカルな絶縁体
- 電子のエネルギー準位のトポロジー、Bi2Se3のスペクトル
- 磁場がなくても量子ホール効果がおきる(ケーン、ザン、モレカンプ)
- 宇宙のダークマターの模型のひとつが物性物理学のトポロジカルな絶縁体と似た振る舞いをすることがわかった
- ダークマターはトポロジカルな絶縁体
- 岩波「科学」:アクシオンとトポロジカルな絶縁体(アクシオンは場の量子論の分野)
- 2つの分野で物性の新しい現象を発見しよう

感想: 最初の3分の2はとてもよく理解できました。場の量子論、トポロジカルな絶縁体、電子のエネルギー準位のトポロジーあたりから難しいと感じました。それはおそらく物性物理についての僕の勉強不足であることと、先生のこれまでの著書では触れられていなかった内容だったからだと思います。講演でお話されたキーワードをたよりにネットで調べてみたいと思います。


最先端の研究テーマを一般向けの講演にまとめるのは大変だったと思います。押川先生、大栗先生、ありがとうございました。


翌日は仕事ということもあり科学ブログ仲間とのオフ会もなくそのまま帰宅した。今回は物性物理と素粒子物理の境界領域がテーマだったが、物性物理のナノテクノロジーと量子化学の境界領域にも興味深いテーマがありそうだなと帰りの電車で僕はあれこれと想像をめぐらせていた。(参考記事:「分子軌道法: 物理学と化学の境界」)


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素数夜曲―女王陛下のLISP:吉田武:(前半の紹介)

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素数夜曲―女王陛下のLISP:吉田武

内容紹介
数学学習の“全方位独学法”を提供。ガウスが、数学の女王と讃えた整数論を主題とし、その頂に登る為の様々な手法を紹介する。「発見法的」に始め、「証明」へと進む。結果は「数値実験」により再確認され、「グラフ」により視覚化される。人物小史など内容は多岐に渡る。ラムダ計算の概要から、函数型言語の基礎までを紹介し、LISPの方言であるSchemeにより整数論を表現する。本文で語られた初等整数論の基礎が、附録ではプログラムとして与えられ、具体的な数値として議論される。函数型言語の入門書としても最適。 2012年刊行、871ページ。

著者略歴
吉田武:ウィキペディアの紹介記事 著書一覧
日本の著作家。1956年大阪府生まれ。京都大学工学博士(数理工学専攻)。著書『虚数の情緒・中学生からの全方位独学法』で、平成12年度日刊工業新聞社第16回技術・科学図書文化賞最優秀賞を受賞した。


理数系書籍のレビュー記事は本書で261冊目。

2012年に発売になり、話題になったこの本をやっと読み始めることができた。素数をめぐる整数論(数論)を高校生でもわかるように具体例をふんだんに盛り込んで解説した本だ。870ページの大著で、このように数学の本らしからぬ独特の存在感がある。




前半は初等整数論へ入門するための数学書、そして「附録」として続く膨大な後半はSchemeというLISPの方言を使って前半のおさらいをするプログラミング言語の習得と「遊び」の部分から構成されている。今日の記事は前半部だけの紹介を書くことにした。

「数学は科学の女王であり、整数論は数学の女王である。」とか「数学のセンスがあるかどうかは整数論の素質があるかどうかで決まる。」、「整数論ほど数学の世界が深遠であることを示している分野はない。」などの言葉をときどき耳にする。でも、これらを実感として納得している人はどれほどいるだろうか?

整数や素数は小学生でも理解できるし、数の不思議といきなり言われても何がすごいのかよくわからない。大数学者ガウスは小学生のとき1から100までの和を求めるのに素晴らしいアイデアを思いついたという逸話も有名だが、この計算方法は普通の小学生でも理解することができる。中学や高校でエラトステネスの篩で素数を求めたり、背理法を使って素数が無限にあることを証明したときにすごい感動が押し寄せてきたという記憶はない。

実数や複素数のことを理解していれば十分だと思っているけど、数というのはそれほど深いものなのだろうか?


また「リーマン予想」や「フェルマーの最終定理」は素数や整数論の問題であり、前者はまだ解かれていず、後者は1995年にその証明が最終的に確認されたことからもわかるように、どちらも超難問だ。それが女王の名に値するのかどうかは素人にはまったく想像できない。

「数学の女王というのがいるのなら、ほんの少しでもいいから見てみたい。」

もしあなたがそのような欲求をお持ちなら、ぜひ本書をお読みになってほしい。読み進むうちになぜ数学者たちが整数論の魅力に取りつかれ、女王の誘惑に打ち勝てなかったかがわかってくることだろう。

理数系の大学で整数論をカリキュラムに持っているのはおそらく数学科だけである。他の学部、学科は実用的な数学(線形代数、微積分、複素関数論)などが基本なので、整数論まで学ぶ時間的余裕がないのだ。

物理学が現代代数学、現代幾何学、現代解析学と深いつながりがあることは以前述べたが、整数論はそれら3つの現代数学の分野とも深いところでつながっている。数理物理学を極めるつもりなら、整数論を無視することはできない。


このタイミングで僕が本書を読んだのは先日受講した「素数の話、解の公式の話(朝日カルチャーセンター)」のテーマに沿った本だからである。


ひとくちに整数論といってもカバーしている範囲はとても広い。本書はそのうち「初等整数論」と呼ばれているもののうち入門者レベルで理解できる内容にとどめられている。この記事の最後に「より深く整数論を学ぶための書籍」という項目を設けて、本格的に学ぶための本を一覧にしたが、それぞれアマゾンで詳細目次と本書との違いを確認してみてほしい。

本書の詳細目次は後述するが、章や項のタイトルが遊び心いっぱいなため、具体的に何が学べるのかわかりにくい。そこで章ごとにキーワードを列挙しておくことにした。僕が特におもしろいと感じたのは「第5夜:マエストロの技」と「第7夜:切れ目の無い数へ」だった。

第0夜:梟は黄昏に飛翔する
学校で行われている数学教育の問題点を指摘した上で、本書の方針を紹介し、学ぶために必要な3つのことについて述べている。

学ぶために必要なこと
- 入りやすく
- 「現実」につながって...
- 自分で解いて感動できる

第1夜:素数のメロディ
自然数、加法と乗法、約数、素数、合成数、偶数、奇数、エラトステネスの篩、背理法、メルセンヌ数、双子素数、フェルマー数、最大公約数、最小公倍数、素因数分解の一意性

第2夜:ピタゴラスの調べ
ピタゴラスの定理、ピタゴラス数、三角数、平方数、正多面体、約数の総和、完全数、過剰数、不足数、親和数、約数の個数、単項式、多項式、交換法則、結合法則、分配法則、恒等式、フェルマーの最終定理(フェルマー-ワイルズの定理)

第3夜:自然数のリズム
次元、二項展開、二項係数、パスカルの三角形、廻文数、カタラン数、フラクタル図形、シェルビンスキーのガスケット、フィボナッチ数列、漸化式、巡廻数、コラッツの問題

第4夜:整数のパーティ
数の構造、整数、和の結合法則、加法における単位元、乗法における単位元、逆元、群、加群、環、体、位取り記数法、指数法則、和の計算、ベルヌーイ数、ディオファントス方程式、反射律、対称律、推移律、合同式、合同、モジュロ(法)、零因子、剰余類、完全剰余系、不合同、既約剰余類、既約剰余系、類別、オイラーの函数

第5夜:マエストロの技
整数論は数学の女王、一次合同式、連立一次合同式、孫子剰余定理(中国式剰余定理)、順列、下降階乗冪、組合せ、二項係数、上昇階乗冪、再帰的定義、冪和係数、フェルマーの小定理、位数、原始根、オイラーの定理、原始根と指数、平方剰余、平方非剰余、ルジャンドル記号、オイラーの規準、平方剰余の法則、平方剰余の相互法則、第一補充法則、第二補充法則、ヤコビ記号、ガウスの予備定理

第6夜:小数のメリーゴーランド
有理数、分数、小数、通分、逆数、有限小数、循環小数、約分、鳩の巣論法、一次の巡廻数、二次の巡廻数、高次の巡廻数、稠密(ちゅうみつ)、集合、集合の要素、元、有限集合、無限集合、部分集合、空集合、和集合(合併)、積集合(共通部分)、濃度、可算、可附番、アレフ・ゼロ、可算濃度

第7夜:切れ目の無い数へ
ピタゴラスの定理、無理数、平方根、循環しない無限小数、整数に潜む無理数の姿、数直線、連続、デデキントの切断、整数の切断、有理数の切断、実数、ユークリッドの互除法、連分数、有限連分数、無限連分数、近似分数、黄金数、黄金分割、星型五角形、二次の無理数、黄金数とフィボナッチ数列の関係、代数の幾何学、調和数、ゼータ函数、カントルの対角線論法、連続の濃度、非可算集合、代数方程式、代数的数、代数的無理数、代数的整数、有理整数、超越数、方程式の高さ、超越数の例、ネイピア数、無理数の証明

第8夜:異次元への飛翔
代数方程式、根、解、未知数、次数、一次方程式、二次方程式、根と係数の関係、根の判別式、虚数単位、複素数、実部、居部、共役複素数、複素数の絶対値、複素数のトレース、法による虚数、順序構造、複素平面(ガウス平面)、代数学の基本定理、原始n乗根、円分方程式、一次函数(線型函数)、数ベクトル、スカラー、平行四辺形の法則、デカルト座標、単位ベクトル、基底ベクトル、右手系と左手系、位置ベクトル、変換性、ユークリッド空間、スカラー積、ベクトル積、内積、外積、ゼロ・ベクトル、三角函数、サイン、コサイン、タンジェント、ラジアン、指数函数、ネイピア数、オイラーの公式、対数函数、底、真数、自然対数(函数)、常用対数(函数)、底の変換規則、離散対数、四元数、実部、虚部、非可換性、共役四元数、四元数の絶対値、純虚四元数、オイラーの公式の四元数版、二次合同式、原始根と虚数、n次合同式の解、原始根の判定方法、原始根の存在証明

第9夜:素数はめぐる
代数的整数論、複素整数(ガウス整数)、代数的整数、単数、同伴数、ガウス整数のノルム、ガウス素数、アイゼンシュタイン整数、アイゼンシュタイン素数、無限降下法、シーザー暗号、公開鍵暗号


具体的な計算例やユニークな挿絵がふんだんに盛り込まれているのも本書の特長だ。見開きで2箇所ほどお見せしよう。画像はクリックで拡大する。






本書のタイトルの「素数夜曲」は、李香蘭(山口淑子)が歌った名曲「蘇州夜曲」のもじりである。残念なことに山口淑子さんは先月94歳でお亡くなりになったばかりである。(ウィキペディアの記事

おまけ:「蘇州夜曲(上戸彩バージョン)


関連ページ:

本書については何人かの人が感想記事を書いている。特に印象に残ったものを紹介しておこう。

(define 独学 再帰) - 書評 - 素数夜曲:女王陛下のLisp(404 Blog Not Found)
http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/51810854.html

吉田武「素数夜曲: 女王陛下のLISP」は、整数論とScheme入門として最高\(^O^)/
http://iiyu.asablo.jp/blog/2012/06/20/6486231

書評:素数夜曲(にょきにょきブログ)
http://aoking.hatenablog.jp/entry/20120918/1347975609

素数夜曲 女王陛下のLISP(ぱたヘネ)
http://d.hatena.ne.jp/natsutan/20120901/1346503936

素数夜曲―女王陛下のLISP 感想
http://book.akahoshitakuya.com/b/4486019245

好きい夢 昭和な気まぐれ飛行機
http://scmblog.blog.shinobi.jp/%E7%B4%A0%E6%95%B0%E5%A4%9C%E6%9B%B2/


関連記事:

虚数の情緒 - 中学生からの全方位独学法
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/27155c8d7b5242d7e69e00335411acc1

名著復刊:オイラーの贈物:吉田武
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9275a096b6bf54594d2a96dfa12f56e1


より深く整数論を学ぶための書籍:

カバーしている範囲、難易度もまちまちである。アマゾンで詳細目次やレビューを確認してほしい。

初等整数論講義 第2版:高木貞治
http://astore.amazon.co.jp/tonejiten-22/detail/4320010019

初学者のための整数論 (ちくま学芸文庫):アンドレ・ヴェイユ
http://astore.amazon.co.jp/tonejiten-22/detail/448009315X

整数論 (基礎数学) :森田康夫
http://astore.amazon.co.jp/tonejiten-22/detail/4130629042

整数論1: 初等整数論からp進数へ:雪江明彦
http://astore.amazon.co.jp/tonejiten-22/detail/4535787360

整数論2: 代数的整数論の基礎:雪江明彦
http://astore.amazon.co.jp/tonejiten-22/detail/4535787379

整数論3: 解析的整数論への誘い:雪江明彦
http://astore.amazon.co.jp/tonejiten-22/detail/4535787387

代数的整数論:J. ノイキルヒ
http://astore.amazon.co.jp/tonejiten-22/detail/4621062875

数論〈1〉Fermatの夢と類体論
http://astore.amazon.co.jp/tonejiten-22/detail/4000055275

数論〈2〉岩沢理論と保型形式
http://astore.amazon.co.jp/tonejiten-22/detail/4000055283

フェルマー予想:斎藤毅
http://astore.amazon.co.jp/tonejiten-22/detail/4000059580

数論入門 I (シュプリンガー数学クラシックス)
http://astore.amazon.co.jp/tonejiten-22/detail/4621062263
http://astore.amazon.co.jp/tonejiten-22/detail/4431708480

数論入門 II (シュプリンガー数学クラシックス)
http://astore.amazon.co.jp/tonejiten-22/detail/4621062476
http://astore.amazon.co.jp/tonejiten-22/detail/443170924X

ガウスの数論 わたしのガウス (ちくま学芸文庫)
http://astore.amazon.co.jp/tonejiten-22/detail/4480093664

ガウス 整数論 (数学史叢書)
http://astore.amazon.co.jp/tonejiten-22/detail/4254114575


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素数夜曲―女王陛下のLISP:吉田武



目次(後半の詳細目次は後半のレビュー記事に記載)

増補改訂版・序

第0夜:梟は黄昏に飛翔する

第1夜:素数のメロディ
- プロローグ
- ささやかな手品
- 砂漠のオアシス
- 成功は失敗の子孫である
- ユークリッドの探索
- 本日の配布資料・壱
 整数論の基本定理
 人物紹介(エラトステネス、ユークリッド)

第2夜:ピタゴラスの調べ
- 教祖誕生
- 完全な友情
- 少年ガウスのアイデア
- 算術の算法
- 愛しき三角形
- 魂を揺さぶる予想
- 重力が作るピタゴラス三角形
- 本日の配布資料・弐
 人物紹介(フェルマー)
 可視化教具の開発

第3夜:自然数のリズム
- 数のピラミッド
- フラクタルな話
- 不思議の国のうさぎ達
- 愛の花占い
- 数 142857 の神秘
- ジャックとコラッツの木
- 本日の配布資料・参
 人物紹介(メルセンヌ、パスカル、フィボナッチ)

第4夜:整数のパーティ
- 数の構造
- ゼロの機能
- 和のこころ
- ディオファントスの秘術
- ゆるやかに等しく
- 無限を有限に束ねる
- 有限の世界の相互関係
- 奇数を分類する
- 本日の配布史料:四
 人物紹介(オイラー)

第5夜:マエストロの技
- 不思議な算術
- カードを並べる
- カードを配る
- 冪の三角形
- パスカルからフェルマーへ
- オイラーの妙技
- 原始根と指数
- 整数論の宝石箱
- 平方剰余の法則
- 本日の配布資料・伍
 人物紹介(ガウス)
 オイラーの函数の総和
 ガウスの予備定理
 第一・第二補充法則の証明
 相互法則の証明

第6夜:小数のメリーゴーランド
- 理のある数とは?
- 法の支配
- 巡廻数の不思議
- 埋めども尽きせぬ
- 無限を扱うための道具
- 驚愕の結果
- 本日の配布資料・陸
 循環小数の節の長さ

第7夜:切れ目の無い数へ
- 無理が飛び出す道理を探る
- 整数に潜む無理数の姿
- デデキントの魔法のハサミ
- 分数の数珠繋ぎ
- 黄金数
- パターンを探せ
- 無理数のオブリガート
- 超越数がいっぱい
- 本日の配布資料・漆
 無理数の証明

第8夜:異次元への飛翔
- 数の工場:方程式を解く
- 法による虚数
- 虚数、値千金
- 丸い三角形
- 多次元の数
- オイラーの贈物
- 複素数から四元数へ
- 本日の配布資料・捌
 二次合同式
 原始根と虚数
 n次合同式の解
 原始根の判定方法

第9夜:素数はめぐる
- ガウスの絨毯
- アイゼンシュタインの蜂の巣
- 本日の配布資料・玖
 無限降下法
- エピローグ:公開された暗号
-- 哀しみのスパイ
-- ようこそ独学研究所へ
-- 屋内射場に轟音は似合わない
-- 巨大素数と公開鍵暗号

付録A:プログラミング言語の発見

付録B:プログラミング言語の骨格

付録C:プログラミング言語の拡張

付録D:女王陛下のLISP

付録E:数表(素数・原始根)

後書(Postscript)
索引

2014年ノーベル物理学賞は赤崎勇先生、天野浩先生、中村修二先生に決定!

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左から赤崎勇先生、天野浩先生、中村修二先生

物理学賞の発表の日は毎年ワクワクさせられる。今年の物理学賞の受賞理由は、一般の人にとってもわかりやすい。赤崎先生、天野先生、中村先生、おめでとうございます!

「20世紀は白熱電球によって照らされた。21世紀はLEDによって照らされるだろう。」

スウェーデン王立科学アカデミーによるこの言葉には胸が熱くなった。青色LEDの技術は白色LEDの開発にも必要な技術である。

---------------------------

スウェーデン王立科学アカデミーは7日、2014年のノーベル物理学賞を赤崎勇・名城大学教授(85)、天野浩・名古屋大学教授(54)、中村修二・米カリフォルニア大学教授(60)に授与すると発表した。授賞理由は「明るくエネルギー消費の少ない白色光源を可能にした高効率な青色LEDの発明」。LEDは照明やディスプレーなどに広く使われている。生活を一変させたことが高く評価された。

Nobelprize.org
http://www.nobelprize.org/





白色光源を可能にする赤、青、緑のLED(Light Emitting Diode=発光ダイオード)は、次のような順番で発明された。

1)1962年、赤色のLEDがニック・ホロニアックにより発明。(僕が生まれた年だ!)

2)窒化ガリウムを用いた高輝度の青色LED開発に関して、基礎技術の大部分(単結晶窒化ガリウム (GaN) やp型結晶、n型結晶の作製技術やpn接合のGaN LED)は赤崎勇、天野浩らにより実現。
1993年11月、中村修二が職務上で高輝度かつ長寿命の青色LEDの量産技術を発明。

3)青色LEDの登場によって純緑色LEDが実現できるようになった。


青色発光ダイオード開発物語(サイエンス チャンネル動画)
http://sc-smn.jst.go.jp/D040506/


LED 発光ダイオードの基礎知識
http://www.optdevice.jp/knowledge/

LEDの発光原理
http://www.kc-lightech.com/knowledge/genri

白熱灯や蛍光灯とは違うLEDのしくみ。
http://www2.panasonic.biz/es/lighting/led/led/principle/

知っておきたいLED照明の基礎
http://ednjapan.com/edn/articles/1207/02/news064.html


先生方のご経歴と著書へのリンクを載せておこう。

赤崎勇先生: ウィキペディアの記事 著書: アマゾンで検索
2014年、ノーベル物理学賞受賞。
名城大学教授(終身)、名古屋大学特別教授・名誉教授。工学博士。1929年鹿児島県生まれ。京都大学理学部卒業。神戸工業(株)、名古屋大学、松下電器産業(株)東京研究所を経て、1981年名古屋大学教授(工学部電子工学科)、1992年名城大学教授(理工学部)。1998年結晶成長学国際機構Laudise賞、2000年度朝日賞、2004年文化功労者、2009年京都賞、2011年IEEE Edison Medal受賞、2011年文化勲章受章。IEEE(米国電気電子学会)ライフフェロー、NAE(米国工学アカデミー)外国人会友

中村修二先生: ウィキペディアの記事 著書: アマゾンで検索
2014年、ノーベル物理学賞受賞。
1954年、愛媛県生まれ。徳島大学工学部電子工学科卒。79年、日亜化学工業株式会社に入社。開発課で、半導体の研究開発を開始。93年、20世紀中には不可能といわれた高輝度青色発光LEDの世界初の実用製品化に成功。その業績に対して、本田賞、朝日賞、仁科賞、ベンジャミン・フランクリン・メダルなど、国内外で数々の科学賞を受賞している。2000年2月より、カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授。工学博士

天野浩先生: ウィキペディアの記事 著書: アマゾンで検索
2014年、ノーベル物理学賞受賞。
日本の電子工学者。工学博士(名古屋大学)。専門は半導体工学。名古屋大学大学院工学研究科教授。


関連記事:

速報:2013年ノーベル物理学賞はヒッグス博士とアングレール博士に決定!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e4c4d6d15d52e86a94caccd6da8edb5e


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視覚障害者が読める理数系書籍や学習環境について(リンク集)

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数式点字(Nemeth点字)の例


大学の数学科入学を目指して勉強している視覚障害者の高校3年生と今月に入ってからツイッターで知り合い、メッセージのやりとりをしている。

その数学少年はiPhoneからツイートしていて、アップルの読み上げ機能の「VoiceOver」を使い、漢字の読みを確かめながら入力しているそうだ。(このページによるとiOS7以降では、VoiceOverを使った数式入力(Nemeth点字)に対応しているのだという。)


高校までの教科書はすべて点字で学べるようになっていることは知っていたが、理数系の学生にとって大学以上の教科書、科学教養書はどのくらい点字やオーディオブックで読めるようになっているのだろうか?

点訳のボランティア・サークルは全国にたくさんあるが、数式点字や図形点字(点図)を入力できる人はごく限られている。気になったので調べてみることにした。

またパソコンやインターネットが発達している今日、点字のシステム化はどれほど進んでいるのだろうか?このあたりも調べてみた。


歴史上の大数学者の中にも視覚障害者は何人もいる。レオンハルト・オイラーは晩年失明していたし、位相群論、連続群論を発表したロシアの大数学者レフ・ポントリャーギンは14歳で失明している。現代数学、抽象数学の世界を切り開くためには視覚を持っていることによる先入観はむしろ研究の邪魔になることがあるかもしれないと僕は思った。

参考ページ:「意思のあるところに方法がある(Where there's a will, there's a way)その2」 田中仁さん(1982年卒業) 東京大学数理科学研究科 拠点形成特任研究員
http://www.obihiro-sb.hokkaido-c.ed.jp/sotugyo/sotugyono41.html

The World of Blind Mathematicians (PDFファイル)
http://www.ams.org/notices/200210/comm-morin.pdf


とりあえずこれまでの調査結果を記事にしたが、今後も新しい情報が得られ次第、更新する予定なので、役立ちそうな情報を見つけたらコメント欄やブログのメッセージ投稿欄からお寄せいただきますようお願いします。


1) 点字で入手可能な自然科学書籍

点訳リスト【自然科学】(つつじ点訳友の会)
物理学系の「なっとくする~シリーズ」がお勧め。
http://www.tutuji.org/shizen.html

点訳リスト【数学】(つつじ点訳友の会)
結城浩さんの「数学ガール」シリーズ、志賀浩二先生の「数学が育っていく物語」シリーズ、吉田武さんの「オイラーの贈物」、大学の数学教科書がお勧め。
http://www.tutuji.org/sugaku.html

科学へジャンプ・点字図書ライブラリー(サクセスネット)
志賀浩二先生の「数学30講シリーズ」や各種数学教養書がお勧め。点字データとして無料ダウンロード。点字データにはhEBK、BSE(BASE)、BES、標準(NABCC)形式などのファイル形式がある。このサイトでダウンロードできるのはBASE版とBES版。
http://www.sciaccess.net/BBLib/

数学と理科の本 点字版 理科のはなし(日本ライトハウス)
大栗博司先生の「重力とは何か」など、科学教養書が多数。
http://www.eonet.ne.jp/~tecti/tecti/ichiran/rika.html

数学と理科の本 点字版 総合&算数・数学のはなし(日本ライトハウス)
アイザック・アシモフの「科学発見シリーズ」がお勧め。
http://www.eonet.ne.jp/~tecti/tecti/ichiran/sansuu.html

点訳完成 図書リスト(情報・理数系点訳ネットワーク)
コンピュータやプログラミング、数学書が充実。将来、自然科学の論文を書くのであればLaTeXやMathMLは学んでおいたほうがよい。また高木貞治の「解析概論 第3版」は必読。
http://www.ntut-braille-net.org/finished.php

点字データ検索・ダウンロード(サピエだけでなく国会図書館を含めて検索できる。会員登録すれば点字データをダウンロードできる。)
志賀浩二先生の「数学が生まれる物語」シリーズ、桜井進先生の「面白くて眠れなくなる数学」、結城浩さんの「数学ガール」シリーズ、統計学の教科書が見つかった。瀬山士郎、藤原正彦、飯高茂、森毅、中村亨、矢野健太郎などの著者名で検索するとよい。またブルーバックスも充実しているのでタイトルに「ブルーバックス」と入力して検索するとよい。高校までの参考書、問題集も充実している。
サピエのサイトへのリンクは「ゲストページ」が入口で、ここに「お知らせ」など重要なことが書かれている。また書籍は「点字データ検索」のリンクをクリックして検索ページを開いていただきたい。
https://library.sapie.or.jp/cgi-bin/CN1MN1?S00101=J01SCH01

ちなみに点字ビューアというWindows版無料ソフトで、志賀浩二先生の「解析入門30講」の点字ファイル(BSE形式)を開き、表示させてみるとこうなる。画像はクリックで拡大する。視覚障害者はこのようなイメージで数学を学んでいるのだ。(この文章を投稿した日に「点字点字ビューア」の作者の方からコメントをいただきました。数学記号の表示には対応していないということでした。対応していない箇所が点字として残って表示されているのだと僕は理解しました。)

晴眼者が読める表示


点字だけの表示


参考:
LaTeX: ウィキペディアの記事
MathML: ウィキペディアの記事
MathJax: ウィキペディアの記事
ePub: ウィキペディアの記事


2) オーディオブック

「重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る:大栗博司」(紹介記事
http://www.febe.jp/product/144944

「宇宙は何でできているのか:村山斉」
http://www.febe.jp/product/106039

「NHKスペシャル 100年の難問はなぜ解けたのか―天才数学者の光と影:春日真人」
http://www.febe.jp/product/77596

「99.9%は仮説 思いこみで判断しないための考え方:竹内薫」
http://www.febe.jp/product/20339


3) ネット上で無料で学べる点字入門サイト(晴眼者用)

点字の1文字は6つの点で表される。ASCII文字の8ビットよりも少ない6ビットだ。これで五十音と句読点や各種括弧や記号だけでなく、英数字、数式が表現できるのはどういうことなのか?世界各国の言語で6点による点字が使われていることは僕にとって脅威的である。どのような体系になっているのか、日本語だけでなく外国語について調べてみるのも面白いだろう。

とほほの点字入門
http://www.tohoho-web.com/tenji.htm

点字入門
http://web.econ.keio.ac.jp/staff/nakanoy/article/braille/BR/chap2/2-7/2-7.html

青眼者のための点字入門
http://tenji.dohow.jp/

今日からできるパソコン点訳
http://www7a.biglobe.ne.jp/~EDEL-plus/kyou/index.html

エーデルをはじめよう!(点字・点図編集ソフト):ソフトのダウンロードサイトはここ
http://www.ntut-braille-net.org/EDEL-Web/index.html

「みずほ流」点訳入門教室
http://www7.plala.or.jp/mizuhotennyaku/kyohshitsu/

岩倉点字くすのきの会 点字って何だろう(動画)
http://www.youtube.com/watch?v=bIMxXyRbRl0

音点字 点字の配列
http://www.youtube.com/watch?v=qWLi2pnrGf4


4) 数式点字(ネメス点字)についての情報(晴眼者用)

ネメス点字(Nemeth Braille)とは
http://en.wikipedia.org/wiki/Nemeth_Braille

Nemeth Tutorial(お勧め)
http://tech.aph.org/nemeth/

Nemeth Braille Code for Mathematics and Science 1972 Revision
http://www.gh-mathspeak.com/examples/NemethBook/

Math Education and Nemeth Code
http://www.tsbvi.edu/nemeth-code

Nemeth Braille(PDFによる詳細例)
http://www.brailleauthority.org/mathscience/nemeth1972.pdf

Handbook for Spoken Mathematics
http://s22318.tsbvi.edu/mathproject/appB.asp?MV=exact&Pg=1&s=10

The Nemeth Braille Code for Mathematics and Scientific Notation(動画)
http://www.youtube.com/playlist?list=PL1CE33A64B05C4461


5) 点字入門セット(晴眼者用)

小学生から学べる!点字入門セット: アマゾンで確認

新装版 点字・点訳基本入門: アマゾンで確認

N632小型点字器6行×32マス: アマゾンで確認

点字用紙(100枚入): アマゾンで確認


6) 点字処理システム、ソフトウェア(晴眼者用)

点字自動翻訳システム(双方向):Web版なのでインストール不要
http://muzik.gr.jp/tenji/default.asp

点字に自動翻訳するサーバー(点字ファイル(BSE形式)が出力できる。英語点字にも対応。):Web版なのでインストール不要
http://ebraille.med.kobe-u.ac.jp/

点字メーカー:Web版なのでインストール不要
http://jsdo.it/nullkal/9Gjs

点訳ソフト一覧
http://j7p.net/soft/braille.html

Vector(障害者用プログラム-主に視覚障害者用)
http://www.vector.co.jp/vpack/filearea/dos/personal/handicap/

点字ビューア
http://hp.vector.co.jp/authors/VA049672/viewer.html

情報・理数点訳ネットワーク、無料ダウンロード
http://www.ntut-braille-net.org/free_download.php

点字・点図編集ソフト「エーデル」
http://www7a.biglobe.ne.jp/~EDEL-plus/

点訳ソフト
http://www7a.biglobe.ne.jp/~EDEL-plus/kyou/index.html

Infty Project(数理科学情報処理システム研究プロジェクト)
http://www.inftyproject.org/jp/software.html

点字編集システム6
http://www.ttools.co.jp/product/eyes/BES/

T-Editor Version 4
http://t-editor.sakura.ne.jp/

ブレイルスター for Windows
http://www.nbs.co.jp/bsw.htm

点字入門サイトと点字アプリ
http://matome.naver.jp/odai/2137915145489475801

数式の音声出力(MathML、LaTeX、Nemethコード)
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/it/NCAM/math.html


7) 点訳ネットワーク、技術支援(視覚障害者、晴眼者用)

情報・理数点訳ネットワーク
http://www.ntut-braille-net.org/index.php

Infinity Project(数理科学情報処理システム研究プロジェクト)
http://www.inftyproject.org/jp/index.html

サクセスネット (sAccessNet)
http://www.sciaccess.net/jp/


8) 視覚障害者、点字図書館、福祉施設で使われている製品

ブレイルセンスU2日本語版(視覚障害者のために開発された携帯情報端末。)
http://www.extra.co.jp/sense/bsu2.html

ブレイルセンスオンハンドU2ミニ日本語版(その小型版)
http://www.extra.co.jp/sense/bso_u2mini.html

ブレイルセンスU2の説明動画
http://www.youtube.com/watch?v=d7MBm8TIJDE

(有)エクストラ:自動点訳ソフトウェアEXTRA for Windowsの開発・販売元
http://www.extra.co.jp/

点字プリンタ(日本テレソフト)
http://www.nippontelesoft.com/menu/pri.html

点字プリンタ(Amedia)
http://www.amedia.co.jp/product/embossers.html

点字プリンタ、点字製本機(株式会社 ジェイ・ティー・アール)
http://www.jtr-tenji.co.jp/products/

点字タイプライター
http://yougu.nittento.or.jp/category134_80.html

音声点字タイプライター BraiTalker
http://rabbit-tokyo.co.jp/braitalker

点字ディスプレイ(日本テレソフト)
http://www.nippontelesoft.com/menu/disp.html

点字ディスプレイ(Amedia)
http://www.amedia.co.jp/product/bdisplay.html

点字関連製品
http://www.iccb.jp/salon/goods/braille/


ヤフオクでブレイルセンスを: 探してみる

ヤフオクで点字タイプライターを: 探してみる

ヤフオクで点字プリンターを: 探してみる

ヤフオクで点字関連製品を: 探してみる


9) 視覚障害者と数式入りの文章をやり取りする方法

調査して後日追記する予定。(ご存知の方は教えていただきたい。)

個人的には次のようなやり方が実現すればスマートだと思っている。

- 晴眼者が読めるLaTeXファイル、MathMLファイル、MathJaxファイル、ePubファイルと視覚障害者が読める点字データ(BSE、BES、標準(NABCC)形式)の相互変換
- オンラインLaTeX数式エディタ(例えばcodecogs)のようなサイトからの点字データ(BSE、BES)の出力
- LaTeX、MathML、MathJax、ePubファイルの音声読み上げ、音声ファイルの生成

晴眼者から視覚障害者への一方向の数式入り文章の伝達については、次の記事が参考になるかもしれない。これらのブログ記事中の数式を音声読み上げソフトやiPhoneのVoiceOverが、ちゃんと読んでくれるようになるかどうかが要になると思う。以下は試行錯誤のためのリンク。

はてなブログの LaTeX 数式表示がデフォルトで MathJax 化された
http://auewe.hatenablog.com/entry/2014/05/10/050403

ブログで数式を表示させる方法:Online LaTeX Equation Editorを利用
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1c47cdc6446b40dbe1f02284ec86da59

ブログで数式を表示させる方法: @WIKIを利用
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ec73b1097a19f12527d1f23cba0432e5

MathPlayer: MathMLの数式を読み上げしてくれる。これは使えるかもしれない。ただし出力される音声は英語だ。
http://www.dessci.com/en/products/mathplayer/

MathJax-docs: List of math enabled screen readers
https://github.com/mathjax/MathJax-docs/wiki/List-of-math-enabled-screen-readers

MathML in DAISY Resources
http://www.daisy.org/daisypedia/mathml-in-daisy-resources

MathJax/MathMLを使った数式表示
http://rlated.net/mathjaxmathmlを使った数式表示/

Webに数式を書こう MathJax MathML 数式
http://moshaspot.hatenadiary.jp/entry/2014/04/19/075900

英語版ファインマン物理学(MathJax):このようなサイトを視覚障害者が点字で読んだり音声で聞いたりできるようになれればよいわけだ。
http://www.feynmanlectures.caltech.edu/


ということでiPhoneのVoiceOver機能を試してみた。視覚障害者のために画面を音声で読み上げてくれる機能です。

ホームページやブログの日本語はほぼ間違えることなく自然な感じで読んでくれる。英語の文章はいかにも日本人っぽい発音で読んでくれる。ジャパニーズイングリッシュだ。(笑)

オンラインで無料公開されている英語版ファインマン物理学のページを読ませると、数式の箇所も読んでくれる。ただしギリシャ文字やいくつかの数学記号は無視するので実用にはならない。添え字も読まない。積分記号は読んでくれた。ラプラシアンのことは「ベクトル記号」と発音していた。

iPhoneのVoiceOver機能で遊ぶと面白い。ただしロックスクリーンになってしまうとパスワード入れてロック解除するのが大変なのでご注意!事前に説明をネットで読んでからやらないと、いつもの設定に戻すのも苦労する。でも一度は体験してみるとよい。とてもよくできていることがわかる。

そもそも日本語では複雑な数式を正確に読み上げる規則って完成してるのだろうか?英語だと数式読み上げソフトというのがあるから読み上げ規則が出来上がっているのかもしれない。つまり日本語で数学の教科書を朗読して視覚障害者に正確に伝えることができるかどうかということだ。

VoiceOver機能の使い方
http://www.kaigian.co.jp/taka/vo/


その後、調査を続けたところ2014年10月の時点では、以下のソフトの組合せがいちばんよさそうだ。志賀浩二先生の「数学30講シリーズ」の点字ファイルもこのシステムで作られている。ただ肝心の点訳ソフトがリリース中断しているのは残念だ。

数式文書を作成ソフト(視覚障害者だけでなく晴眼者が使う目的のソフト)
Infty Editor - 6,264円(30日間無料)
http://www.sciaccess.net/jp/InftyEditor/index.html

点訳ソフト
Infty Braille-上記Infty Editorのplug-inソフト(無料、ただし上記のInfty Editorが必要)
現在、大幅な見直し作業中するために、リリースを中断しています。 しばらく、お待ち下さい。(2008.6.29)
http://www.sciaccess.net/download/InftyBraille.html

音声読み上げ付き数学文書用エディタ
Chatty Infty2, 3 (ChattyInfty2は41,040円、ChattyInfty3は86,400円)
http://www.sciaccess.net/jp/ChattyInfty/index.html


参考:
LaTeX: ウィキペディアの記事
MathML: ウィキペディアの記事
MathJax: ウィキペディアの記事
ePub: ウィキペディアの記事


あと製本された点字本の複製や電子化のために、点字OCRソフトやスマートフォンアプリが開発されればいいのにとも思っている。手書き文字に比べて点字の点々の影を読み取ってコード化するのはたやすいことだと思うのだ。そう思って検索したら、次のページが見つかった。

墨字/点字OCR・拡大読書ソフト
http://store.shopping.yahoo.co.jp/kilalinet/cbcfbbfaa1.html
http://www.kilali.net/shop/amazon/menu103.htm

ラビット商品サイト(OCRソフト)
http://kabu-rabbit.sakura.ne.jp/shop1308/category/item/itemgenre/2software/softcategory/ocrsoft/


関連ページ:

日本点字図書館
http://www.nittento.or.jp/

サピエ(視覚障害者情報総合ネットワーク)
https://www.sapie.or.jp/

青空文庫
http://www.aozora.gr.jp/

点字、点訳関連リンク集:
http://www17.plala.or.jp/otenchan/link/linkshuu.htm


おことわり: 本来は「視覚障がい者」もしくは「視聴覚障碍者」と表記すべきなのだが、ネットでは「視覚障害者」の表記で検索する人のほうが多いので、この記事のタイトルと本文の表記は「視覚障害者」とさせていただきました。


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英語版「ランダウ=リフシッツの理論物理学教程」がオンラインで無料公開された。

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レフ・ランダウ(左)とエフゲニー・リフシッツ(右)

英語版のファインマン物理学に続き、今回はなんと「ランダウ=リフシッツの理論物理学教程」の英語版が無料でオンライン公開された。なんと素晴らしい!

オンラインで読めるほか、PDF、ePub、Kindle、DjVuなどのファイル、そして視覚障害者のためのDaisyという音声読み上げファイルとしてダウンロードできるようになっている。

注意:MecanicsのKindle版ファイルをiPhoneのKindleアプリで試した方からいただいた情報によると数式が崩れて表示されるそうだ。PDF版は問題なく表示されているが、他のファイル形式についても注意が必要なようである。


公開されているのは1960年代に出版された全9巻のうち最初の8巻。今後第9巻が追加されるかもしれないのでここ(Landauで検索)ここ(Lifshitzで検索)をクリックして検索できるようにしておこう。

Mechanics (Course of Theoretical Physics Vol.1)
https://archive.org/details/Mechanics_541

The Classical Theory of Fields (Course of Theoretical Physics Vol.2)
https://archive.org/details/TheClassicalTheoryOfFields

Quantum Mechanics - Non-Relativistic Theory (Course of Theoretical Physics Vol.3)
https://archive.org/details/QuantumMechanics_104

Relativistic Quantum Theory part 1 (Course of Theoretical Physics Vol.4)
https://archive.org/details/RelativisticQuantumTheoryPart1

Statistical Physics (Course of Theoretical Physics Vol.5)
https://archive.org/details/ost-physics-landaulifshitz-statisticalphysics

Fluid Mechanics (Course of Theoretical Physics Vol.6)
https://archive.org/details/FluidMechanics

Theory of Elasticity (Course of Theoretical Physics Vol.7)
https://archive.org/details/TheoryOfElasticity

Electrodynamics of Continuous Media (Course of Theoretical Physics Vol.8)
https://archive.org/details/ElectrodynamicsOfContinuousMedia


iPhoneのSafariで各ページを開いて「PDF」のリンクをクリックしたら自然にiBooksに取り込まれた。全冊問題なく読める。iPadが欲しくなってしまうなぁ。。。




オンライン公開されているのは1960年代に出版された本だ。1980年以降に出版された最新の英語版のペーパーバック版は「とね書店」に売り場を設けておいた。

英語版「ランダウ=リフシッツの理論物理学教程」コーナー: ペーパーバック版
http://astore.amazon.co.jp/tonejiten-22?node=58&page=1



Kindle版: Volume 1だけペーパーバック版とは異なりShorter Course of Theoretical Physics(小教程)であること、タイトルも異なることにご注意ください。
Mechanics and Electrodynamics (Shorter Course of Theoretical Physics Vol.1) - Kindle版
The Classical Theory of Fields (Course of Theoretical Physics Vol.2) - Kindle版
Quantum Mechanics - Non-Relativistic Theory (Course of Theoretical Physics Vol.3) - Kindle版
Quantum Electrodynamics (Course of Theoretical Physics Vol.4) - Kindle版
Statistical Physics (Course of Theoretical Physics Vol.5) - Kindle版
Fluid Mechanics (Course of Theoretical Physics Vol.6) - Kindle版
Theory of Elasticity (Course of Theoretical Physics Vol.7) - Kindle版
Electrodynamics of Continuous Media (Course of Theoretical Physics Vol.8) - Kindle版
Statistical Physics: Theory of the Condensed State (Course of Theoretical Physics Vol.9) - Kindle版
Physical Kinetics (Course of Theoretical Physics Vol.10) - Kindle版


日本語版は相変わらず絶版状態が続いているが、中古本の購入のために売り場を設けておこう。日本語版が電子書籍化されるのを願うばかりである。

日本語版「ランダウ=リフシッツの理論物理学教程」コーナー
http://astore.amazon.co.jp/tonejiten-22?_encoding=UTF8&node=57




関連記事、関連ページ:

ランダウ=リフシッツの理論物理学教程を学ぶ人のために
http://www1.cnc.jp/r_b_kyoutei/

理論物理学教程の道
http://www25.brinkster.com/landau/

復刊リクエスト:ランダウ=リフシッツの理論物理学教程
http://www.fukkan.com/fk/VoteDetail?no=5758

ファインマン物理学(英語版)が全巻ネット公開されました。
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e94dd49d7d8cc395e29d37927e30173d


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骨伝導電話機 (子機、Sanyo TEL-SKU2)を購入

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拡大写真

高齢で耳が遠くなり、電話ができなくなっていたた母の問題がやっと解決した。相手の声もよく聞こえているそうである。

もともと長電話は楽しみのひとつだったので、知り合いや親戚と電話でおしゃべりできないとこの数ヶ月母はこぼしていた。骨伝導電話は店で試せればよいのだけれど、置いているのを見たことがない。半信半疑で購入したわけだ。

買ったのはSanyoのTEL-SKU2という10年以上前の製品で、現在は生産中止。たまたま家で使っていた親機が適合機種だったから3台目の子機としてこの骨伝導子機を選んだ。

子機があっても親機がなければ(文字どおり)話にならない。Sanyo製の骨伝導電話機は生産終了しているから市場に出回っているものだけしか残っていないし、まだ製造されているのはPanasonic製だ。適合する親機を探すのは少し面倒な状況になっている。

無駄な買い物をしないために、今使っている親機(ファクシミリも含む)が適合しているかどうかも確認したほうがよいし、適合していない場合は親機をヤフオクなどで手に入れる必要がある。


同じ問題、悩みを抱えている方のために、以下の情報を載せておこう。骨伝導電話はSanyoとPanasonicの2社が主要メーカーである。アマゾンで購入できるものについては画像をクリックすると購入ページが開くようにしておいた。


コードレス骨伝導電話機(Sanyo製品)

TEL-SKU2 (骨伝導子機のみ):製品情報ページ、下の画像クリックで購入画面へ



TEL-KU2(親機と骨伝導子機):製品情報ページ



TEL-KU3(親機と普通の子機+骨伝導子機):製品情報ページ



適合するコードレス留守番電話機

TEL-HF8、HF80、E7、EW7、F5、FW5、E5、EW5、F4、FW4、E3、F3、KU2、KU3、E6、EW6、D7、B7、D5、DW5、C5、CW5、B5、BW5、HBW7、HBT7、G4、GW4

Sanyo製の留守番電話機: アマゾンで検索

適合するファクシミリ

SFX-HPW41、HPW40、P37、P370、P36、P360、P16、P160、P15、P150、PW15、PS15、P35、P35W、P11、P110、P34CL、P33CL、LP60、LP60AS、P50CL、C2WCL、P3CL、HP33WCL、P27、P270、PW60、PS60、PW16、K11、K12

Sanyo製のファクシミリ: アマゾンで検索

コードレス骨伝導電話機(Panasonic製品)

Panasonic製の適合機種は骨伝導子機が発売されたときの情報だ。その後発売された留守番電話機、ファクシミリの中にも適合機種があるかもしれないので、販売店またはメーカーにお問い合わせすることをお勧めする。

KX-FKN551-W (骨伝導子機のみ):製品情報ページ、下の画像クリックで購入画面へ



KX-PW603DB-W(ファクシミリと骨伝導子機):製品情報ページ



適合する留守番電話機

VE-GP35DL-W (親機と普通の子機):製品情報ページ、下の画像クリックで購入画面へ



VE-GP03DL/VE-GP03DW/VE-GP03UD/VE-GP05DL/VE-GP05DW/VE-GP05DB/VE-GP02DL/VE-GP02DW
※双方向子機間通話対応。
(VE-GP03DL/GP03UD/GP05DL/GP05DB/GP02DL)
※子機増設をしても簡単取り次ぎ等はできません。

Panasonic製の電話機: アマゾンで検索

適合するファクシミリ

KX-PW505DL/KX-PW505DW/KX-PW603DL/KX-PW603DW/KX-PW603UD/KX-PW603DB/KX-PW513DL/KX-PW513DW/KX-PW503DL/KX-PW503DW/KX-PW503UD

※KX-PW603DBに付属の子機と同等機能です。
※双方向子機間通話対応。(KX-PW505DL/KX-PW603DL/KX-PW603UD/KX-PW603DB/KX-PW513DL/KX-PW503DL/KX-PW503UDは子機増設時)
※KX-PW505DL/KX-PW505DW/KX-PW603DL/KX-PW603DW/KX-PW603UD/KX-PW603DB/KX-PW513DL/KX-PW513DWは子機を増設した場合、簡単取り次ぎはできません。

Panasonic製のファクシミリ: アマゾンで検索


ヤフオクで骨伝導電話機を: 検索してみる

アマゾンで骨伝導電話機を: 検索してみる


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数式を効率的に点字入力する方法の調査(1)

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左:6点方式の点字を発明したルイ・ブライユ(1809-1852、フランス人)
右:数学点字を発明したアブラハム・ネメス(1918-2013、アメリカ人の数学者)

視覚障害者が読める理数系書籍や学習環境について(リンク集)」という記事で紹介したページを調査し、数式を点字で効率的に入力するための方法を模索し始めたのだが、おおまかに今後の方針を決めたので紹介することにした。

僕は小説など一般向けの本の点訳に興味があるわけでなく、あくまで「理科復活プロジェクト」のひとつとして「数式の表現」にこだわっているのだ。理数系マインドは少しも揺らいではいない。何か面白そうだからやっているわけである。

これから投稿していく一連の記事をお読みいただいて、理数系本の点訳や数式をサポートしている点訳エディタの開発をやってみようという人がでてきて、理数系書籍の点字本が増えることを期待し、その結果、同志として理数系の視覚障害者の人口を増やしていこうというもくろみ試みなのだ。

次の項目に分けて述べていく。

1) 点字の発明者、数学点字の発明者
2) 点訳の方法の昔と今
3) 数学点字の入力方法の現状
4) これまでの調査結果
5) 今後の方針

1) 点字の発明者、数学点字の発明者

点字を世界で初めて発明したのはシャルル・バルビエ(1767-1841)というフランスの軍人だ。ただ彼が発明したのは12点を使った点字だったので複雑過ぎて普及することはなかった。

現在、世界中に普及している6点方式の点字を発明したのはルイ・ブライユ(1809-1852)で、彼もフランス人である。点字はフランス生まれということになる。6点点字が完成したのは1825年のこと。ルイ・ブライユについての詳細はウィキペディアの記事をお読みいただきたい。

日本の点字の発明者は幕末に浜松藩で生まれた石川倉治(1859~1944)という小学校教師で、1890年(明治23年)11月1日に東京盲唖(もうあ)学校で石川倉治が考案した点字配列が採用されることに決まった。石川は「点字器」、「点字ライター」も開発し、日本点字の父といわれている。そして11月1日は日本の点字記念日に定められた。(ウィキペディアの記事

漢字を表記するための漢点字は大阪府立盲学校教諭だった川上泰一が1969年に考案したが8点で表記するものだったので広く普及するには至っていない。(参照:漢点字日本漢点字協会)また6点漢字の素案は1972年、元筑波大学付属盲学校(現在の筑波大学附属視覚特別支援学校)教諭、長谷川貞夫によって素案が公開されたが普及するには至っていない。(参照:六点漢字の創案

つまり標準的に普及している日本語の点字は「かな、句読点を含む各種記号、英数字」を使い、読みやすくするために文節や単語の間に空白を挿入する「分かち書きの規則」に従って表記されている。

数学で使われる複雑な数式を6点方式の点字で表現する方法を発明したのがアブラハム・ネメス(1918-2013)という全盲のアメリカ人数学者である。残念ながらネメス博士は昨年10月2日に94歳で逝去されたばかりなのだ。以下の追悼ページでは3ページに渡って晩年の博士の写真を見ることができる。温厚なお人柄がよくわかる写真ばかりだ。少々太りすぎだと思うが94歳は大往生である。

Dr. Abraham Nemeth, inventor of the Braille math code, dies at 94
(The New York Institute of Special Education, since 1831)
http://www.nyise.org/photoblog/nemeth.html



次のページは2009年、博士が90歳のときに行われたインタビューの記事。博士ご自身やネメス点字が考案されたいきさつや改善の過程を知ることができる。近いうちにこのページを翻訳して記事として紹介したいと思っている。

The History of the Nemeth Code: An Interview with Dr. Abraham Nemeth (2009)
https://nfb.org/images/nfb/publications/fr/fr28/fr280110.htm



ネメス点字を知るには次の2つが特にお勧め。複雑な数式を点字で表記することがいかに困難なことかがおわかりいただけるだろう。

ネメス点字(Nemeth Braille)とは
http://en.wikipedia.org/wiki/Nemeth_Braille

Nemeth Braille(PDFによる詳細例)
http://www.brailleauthority.org/mathscience/nemeth1972.pdf

ネメス点字でアラビア数字は次のようになる。一般的に使われている点字に対して1段下がっているのだ。視覚障害者にとっては問題ないが、6点方式で入力する点訳者にはまぎらわしい。

ネメス点字


通常の点字



2) 点訳の方法の昔と今

実をいうと僕は大学生だった1980年代半ばから卒業するまでの少しの期間、大学外の一般の点訳ボランティア・サークルに所属していたことがある。月1度の定例会に出席した程度で、気合いを入れて点訳をしていたわけではない。初級点字講習をマスターした程度だ。

その当時はまだパソコン点訳が始まる前で、点訳者は点字板や6つのキーで入力する点字タイプライターを使っていた。点字プリンターもほとんどなく、点訳システムはパナソニックが開発したブレイルマスターという800万円もする装置があるだけだった。ブレイルマスターについては以下のページで知ることができる。

「視覚障害者とパソコン」 その歴史をたどる
http://www.edu.pref.kagoshima.jp/ss/Kagoshima-B/historyl.html

当時の状況は、点字板による点訳はさしずめ15世紀半ばグーテンベルクの活版印刷機が発明される前の「写本」による時代のようで、点字タイプライターは機械式の英文タイプライターによる入力作業のようなものである。点字本は一般向けの本と違い、指の腹で触って読むから点がつぶれたりすることによる劣化が激しい。コピーをとるように複製もできないから視覚障害者が読むことのできる本は現在とは比較にならないほど少なかった。

点字板や点字タイプライタで入力中に間違えると、用紙をはずして間違えて打った点をつぶさなければならない。また間違えたことを後になって気がつくとほとんど修正不可能になるので、そのページはやりなおしになる。常に緊張していなければならない根気のいる作業だった。

だから1987年にMS-DOS上で動く日本初の点訳ソフト「コータクン」がリリースされたのは画期的な出来事だった。このソフトによって入力や編集時の修正、点字ファイルを使った印刷や複製、パソコン通信やフロッピーによる点字本の受け渡しが可能になったからだ。「コータクン」はその後Windowsに移植され、現在はWindows7までサポートされている。

Windows用点訳「コータクン」完成(つつじ点訳友の会)
http://www.tutuji.org/ktn_win.html

ただし「コータクン」は6点入力方式なので、かな入力やローマ字入力ができない。慣れてくると6点入力のほうが早いらしいのだが、入門者にはハードルが高いのも事実。パソコン点訳が始まる前に使われていた点字タイプライターの操作は次の動画で見ることができる。



その後90年代には、無料と有料のものも含めてかな入力やローマ字入力ができる点訳ソフトが開発、提供されるようになった。

しかし、今回調査したところその多くが32ビットのWindows95やXPまでしか対応していず、64ビットのWindows環境で使えるものはかなり減っていることがわかった。64ビットで動作するソフトもそれぞれ特色があり、長所短所がある。そしてそのどれについても数学点字(ネメス点字)はサポートされていないのが現状だ。6点入力でネメス点字を入力することはできるが、晴眼者が読める「墨字モード表示」にするとサポートされていない箇所は文字化けしたりその前後も含めて判読不能になってしまう。

数学の教科書も含めて高校までの教科書や参考書の点訳はパソコン点訳が始まる前から行われていた。数多くの点訳者の地道な手作業によって培われてきた長い歴史とノウハウの蓄積があるわけである。実際に使われている数学点字とネメス点字の違いについてもわかる範囲で調べてみたい。

3) 数学点字の入力方法の現状

パソコン点訳が実現したからといっても、効率的に点訳できるようになったのは文芸書や小説など数式を含まない文章で書かれた本だけである。

また、数式を含まない一般向けの本には図や表などが含まれていることもある。簿記や会計の教科書などがよい例だ。これについては「エーデル」に代表されるような図表点訳ソフトによって行なえるようになった。

したがって数学点字についてはほとんど効率的な方法が確立できていないのだ。点訳者が数学の記号の点字表示を覚えるか、その都度調べるかした上で、点訳ソフト上の6点表示を確認しながら慎重に入力しているというのが、現在広く行われている作業方法である。

高校までの範囲の数学ならばなんとか読めても、大学で使われる数学教科書の記号になると難易度はぐっと上がる。数式に使われている「∂(偏微分)」や「∇(ラプラシアン)」、ギリシア文字の読み方や使われ方を知らない点訳者にとって入力に非常に時間がかかっているのが現在の状況だ。


4) これまでの調査結果

視覚障害者が読める理数系書籍や学習環境について(リンク集)」の記事を書いてから今日までに次のようなことを行なった。

ネメス点字について利用するホームページやPDF資料の選定と絞り込み

次の3つのホームページとPDF資料を参考にすることにした。

ネメス点字(Nemeth Braille)とは
http://en.wikipedia.org/wiki/Nemeth_Braille

Nemeth Braille(PDFによる詳細例)
http://www.brailleauthority.org/mathscience/nemeth1972.pdf

Nemeth Braille Code for Mathematics and Science 1972 Revision
http://www.gh-mathspeak.com/examples/NemethBook/

今後の調査に使用する点訳ソフトやWebサービスの選定と絞り込み

- Tエディタ2:無料の点訳ソフト

点字ファイル(BSE形式)を直接開いて編集、保存できことや使うことのできる機能、操作性のよさなどから判断した結果、このソフトを使わせていただくことにした。

Tエディタ2のホームページ
http://www6.ocn.ne.jp/~t-editor/

Tエディタ2の編集画面


- 点字ビューア:無料の点字表示ソフト

シンプルなソフトだが、数式点字を含む点字ファイルを開いても文字化けがあまりしないことと、6点表示に切り替えるとサポートしていない点字の箇所が赤く表示されるので、問題の原因箇所を見つけやすくなると思ったので使わせていただくことにした。

点字ビューアのホームページ
http://hp.vector.co.jp/authors/VA049672/viewer.html

- Infty Editor + BrailleInfty Package

Infty Editorは有料の数式入力、作成ソフト、LaTeXもサポートしている。数式入力を必要としている理数系の晴眼者にとっても便利なソフトだ。

BrailleInfty Package無料の数学文書用の点字変換、点字編集ソフトで、Infty EditorのPlug-Inとして提供されている。2008年6月からリリースが中断し、ダウンロードできない状態が続いていたのだが、Twitterでいつもやり取りをさせていただいている @HorizonEternity さんのご尽力により10月22に公開していただきました。@HorizonEternityさん、そして公開元のサクセスネット様、ありがとうございました。

Infty Editor、BrailleInfty Packageを公開しているサクセスネットのホームページ
http://www.sciaccess.net/jp/index.html

- Webサービス

漢字かな混じりのテキストらの点訳、点字ファイル(BSE形式)への出力のために次の2つのWebサービスを利用する。これらのサービスを使えばホームページから文章をコピーしてあっという間に点訳し、生成された点字ファイルを点字エディタで開いて編集できるようになるわけだ。

もちろんこれらのWebサービスは数式点字を扱えない。どうやれば扱えるようにできるのかを考えるのが知恵の見せ所である。

点字自動翻訳システム(双方向):Web版なのでインストール不要
http://muzik.gr.jp/tenji/default.asp

点字に自動翻訳するサーバー(点字ファイル(BSE形式)が出力できる。英語点字にも対応。):Web版なのでインストール不要
http://ebraille.med.kobe-u.ac.jp/

- エーデル

表や図、グラフはこのソフトで行う。ただしこれは作業の効率化がいちばん難しいので、僕の調査対象の中での優先度は低い。すくなくとも自分で操作して、どのように表や図、グラフを点訳すればよいかを知るために試してみることにしたい。

エーデルをはじめよう!(点字・点図編集ソフト):ソフトのダウンロードサイトはここ
http://www.ntut-braille-net.org/EDEL-Web/index.html

エーデルの編集画面



調査に使う数学書籍の点字ファイルの入手、参照用に使う資料や書籍の購入

- 点字ファイル:数学30講シリーズ

数式の点字表現の調査は自分でゼロから始めるよりも、すでに出来上がっている実例を参考にするほうが手っ取り早い。好都合なことに志賀浩二先生の「数学30講シリーズ」の最初の5巻は点訳済みで、次のページからBASE (BSE)ファイルを無料でダウンロードすることができた。なお好都合なことに、これらのファイルは上記 InftyBraille で作成されたものなのだ。

科学へジャンプ・点字図書ライブラリー
http://www.sciaccess.net/BBLib/

数学30講シリーズ」では各巻それぞれ数学の代表的な分野を解説しているので、各分野の数式のパターンが網羅されている。調査をもれなく効率的に行うことができるのがよい点だ。

- 数学30講シリーズの書籍

点字データを見ても元の数式がわからないと分析はできない。点訳したときに使った原本は必須だ。このシリーズはすでに何冊か持っていたので、点訳済みの5冊に対して足りない巻を中古で購入して揃えておいた。(群論の巻は点訳されていないが、もともと持っていたので写真に含めた。)



- 点字数学記号解説(暫定改訂版)と点字表記辞典第6版

日本点字委員会(日点委)は、日本における点字表記法の唯一の決定機関として1966年に発足した団体だ。高校までの数学の教科書はこの委員会が定めた「点字数学記号解説」の表記法に従っている。また点訳で使用される日本語の分かち書きは例外があったりして初心者には難しいものだ。分かち書きの標準として利用できるのが点字表記辞典だ。この2冊は参照資料として欠かせない。点字表記辞典はすぐ必要になるものではないけれども、3000円以上の購入でクレジットカード払いができるようになっていたので2冊まとめて購入しておいた。

ちなみに点訳ソフトに備えられている「辞書」とは分かち書きを自動的に行うために検索される辞書のことである。



点字数学記号解説(暫定改訂版)
http://www.braille.jp/data/suugakukigou.html

点字表記辞典第6版:この版は2014年6月30日に刊行されたばかりだ。
http://yougu.nittento.or.jp/product1438_132.html

点訳ソフトのインストール、基本操作の習得

- Tエディタ2のインストールと基本操作の習得

Tエディタの基本操作は以下の入門用ページをすべて試しながら学んでおいた。

T・エディタ入門 | BASING ROOM
http://basingroom.com/node/1201

この入門ページを公開している「BASING ROOM」はネット上で活動している点訳グループで、サイトに登録した点訳者が協力し、本ごとに設けられたフォーラムに参加して点訳を進めている。

ホームページや運用のシステムもセンスがよく、内容も充実しているので、まさに僕がイメージしていた現代版パソコン点訳そのものだ。「BASING ROOM 製作の点字図書リスト」を見てわかるように活発に活動している。点訳しているのはライトノベルや文芸書が中心なので、数学とは関係ない一般書籍の点訳に興味を持たれた方は参加してみるとよいだろう。

- 数式のverbose semanticsから点字ファイルの生成の実験

Nemeth Braille Code for Mathematics and Science 1972 Revision」のページで「14. Modifiers」のページを表示させてからBraille:で「Unicode Braille」を選択してから「Apply」をクリックするとページの中ほどに次の表記が表示される。

クリックで拡大


背景が薄緑色表示されている箇所の「sigma-summation Underscript n equals 1 Overscript infinity EndScripts StartFraction 1 Over 2 Superscript n Baseline EndFraction equals 1」のことをこのサイトではverbose semanticsと呼んでいるわけだが、この文字列はこの数式を構成する各部分の順番に沿う形で数式を表現しているのだ。このverbose semanticsは数式の音声読み上げのためにも使うことができる。

この数式例についてverbose semanticsの文字列から点字ファイルを生成する手順を手作業を含む半自動的な方法で行うことができた。この手順については次回の記事で説明する予定だ。

- Infty Editor + BrailleInfty Packageのダウンロード

ひとつ上の「数式のverbose semanticsから点字ファイルの生成の実験」をしている最中にBrailleInfty Packageが公開されたという連絡をいただいたので、ダウンロードだけさせていただいた。


5) 今後の方針

- Infty Editor + BrailleInfty Packageの調査

ソフトの使い方を習得した後、「数学30講シリーズ」のファイルで調査するとともに、LaTeXで記述した数式から点字ファイルを生成するまでのプロセスを試してみる。

数式は文章中に埋め込まれているシンプルなものと、文章の段落から独立して表記されているもの、表や図の中に記述されているものに大別される。このうち文章から独立して表記されているものと、文章中に埋め込まれている数式の点字表現を調査する。

- 数式のverbose semanticsから点字ファイルの生成の実験を継続

もっと多くの例でこのプロセスがうまくいくかどうかを試す。またプロセスをより効率的にできないか調査する。

- エーデルのインストールと使い方の習得

表や図版の点訳の概要を学ぶとともに、数式の点訳に役立つような使い方ができるかどうかを調査する。



おことわり: 本来は「視覚障がい者」もしくは「視聴覚障碍者」と表記すべきなのだが、ネットでは「視覚障害者」の表記で検索する人のほうが多いので、この記事のタイトルと本文の表記は「視覚障害者」とさせていただきました。


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数式を効率的に点字入力する方法の調査(2)

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ネメス点字による数式例

数式を効率的に点字入力する方法の調査(1)」という記事の最後のほうで予告したように、Webサービスを使って数式を点字に変換し、点字ファイルを作る方法を紹介しよう。

さしあたり今回は掲載画像のように「2のn乗分の1についてnが1から無限大まで総和をとる」数式を点字に変換することを目標にする。変換手順を説明するのが目的なので比較的シンプルな数式を選んだ。


1) 元データの準備

Nemeth Braille Code for Mathematics and Science 1972 Revision」のページで「14. Modifiers」のページを表示させてからBraille:で「Unicode Braille」を選択してから「Apply」をクリックするとページの中ほどに次の表記が表示される。

クリックで拡大


背景が薄緑色表示されている箇所の「sigma-summation Underscript n equals 1 Overscript infinity EndScripts StartFraction 1 Over 2 Superscript n Baseline EndFraction equals 1」のことをこのサイトではverbose semanticsと呼んでいるわけだが、この文字列はこの数式を構成する各部分の点字表記の順番に沿う形で数式の構造を表現しているのだ。このverbose semanticsは数式の音声読み上げのためにも使うことができる。

また同じページで「Braille: Dot Patterns」を選んで「Apply」をクリックすると「Braille Dot Patterns: dots 5 dots 4 6 dots 6 dots 2 3 4 dots 1 4 6 dots 1 3 4 5 dots 4 6 dots 1 3 6 dots 3 4 5 6 dots 2dots 1 2 6 dots 6 dots 1 2 3 4 5 6 dots 1 2 4 5 6 dots 1 4 5 6 dots 2 dots 3 4 dots 2 3 dots 4 5 dots 1 3 4 5 dots 5 dots 3 4 5 6 dots 4 6 dots 1 3 6 dots 3 4 5 6 dots 2」のような点字表記が得られる。

クリックで拡大


「sigma-summation Underscript n equals 1 Overscript infinity EndScripts StartFraction 1 Over 2 Superscript n Baseline EndFraction equals 1」というverbose semantics表記の各部分はそのままの順番で点字パターンに対応している。そこで次のようなExcel表を作る。(Sheet1)



重要: 今回使用するExcel表では、セルの属性はすべて文字列(テキスト)に指定することを忘れないようにしてほしい。

ここで注意してほしいのは「1」や「2」などのアラビア数字である。ネメス点字でのアラビア数字の「1」と「2」はそれぞれ「dot 2」と「dot 2 3」なのだが、日本で一般的に使われている数字表記は一段上げた「dot 1」と「dot 1 2」なのと、後で編集に使うT・エディタがネメス点字の表示をサポートしていないので、日本標準の点字表示にしてあることだ。

また数字には数符(dot 3 4 5 6)が前についているのと、ついていないのがあることにも注意。今回の方法では数字の前には必ず数符をつけておくことにする。

また点字変換の入力ファイルとして work.txt というテキスト・ファイルを作り「sigma-summation Underscript n equals 1 Overscript infinity EndScripts StartFraction 1 Over 2 Superscript n Baseline EndFraction equals 1」という文字列を入力しておく。


2) 変換テーブル1(replace1.lst)の作成と実行

ExcelでSheet2にSheet1の内容をコピーし、verbose semanticsのキーワードの長さ順にソートした表を作る。A列に「=len()」関数を入力し、その引数にB列の値を参照させ、A列をキーにして降順に並び替えると次のようになる。



次にSheet3を作成する。Sheet3は次の3つの部分から構成される。

1つめの部分は次のようなものだ。verbose semanticsに含まれているアラビア数字と小数点をいったん漢数字に変換して退避させておくための変換テーブルだ。



2つ目の部分はSheet2からコピーして作る。その際「1」や「2」などのアラビア数字の行や重複している行は削除する。



3つめの部分は次のようなものだ。前半では漢数字に退避させておいた数字や小数点を点字表記にする。その際、数字の前には数符号(dot3456)をつけておく。後半では数符の前に数字があるときはその数符を削除する。そうしないと3.1415926のような数字が入力されたときに、それぞれの数字の前に数符がついてしまうからだ。



このSheet3をreplace1.lstというテキスト・ファイルとして保存しておく。

変換には「Speeeeed」という文字列検索/置換をするフリーウェアを使う。このソフトはreplace.lstという置換リストをもとにして検索/置換を一括で行うことができる。

replace1.lstをreplace.lstにコピーして「リスト編集」というボタンをクリックし、検索/置換リストの内容を確認する。



work.txtには「sigma-summation Underscript n equals 1 Overscript infinity EndScripts StartFraction 1 Over 2 Superscript n Baseline EndFraction equals 1」を入力してあるので、このファイルに対して検索/置換を実行するとwork.txtの内容は次のうに変換される。



変換前


変換後


この「dots 5 dots 4 6 dots 6 dots 2 3 4 dots 1 4 6 dots 1 3 4 5 dots 4 6 dots 1 3 6 dots3456dots1 dots 1 2 6 dots 6 dots 1 2 3 4 5 6 dots 1 2 4 5 6 dots 1 4 5 6 dots3456dots1 dots 3 4 dots3456dots12 dots 4 5 dots 1 3 4 5 dots 5 dots 3 4 5 6 dots 4 6 dots 1 3 6 dots3456dots1」というwork.txtの内容が次に行う変換の入力として使われる。


3) 変換テーブル2(replace2.lst)の作成と実行

次のような変換テーブルをSheet4に作成し、replace2.lstとして保存する。画面では表示されていないが1行目は半角スペースを削除するためのもので、左のセルには半角スペースが入力されているが、右のセルには何も入力されていない。

また2行目のdotsの右側のセルには半角スペースが入力されている。



この変換リストreplace2.lstをreplace.lstにコピーして、work.txtを変換すると次のようになる。



なぜ、このような検索/置換を行うかというと「点字自動翻訳システム」というWebサービスの「点字をかなに自動変換する」を使って点字表記をかな表記に変換する機能を使うためだ。

このWebサービスでは「入力方法」のページに示されているようにテンキーの配列で点字を数字として入力する。そのためにdots 1234のような表記を7418のようにテンキーの配列に置き換える必要があるのだ。



また数字以外は入力として受け付けられないのでdotsのような英単語は半角スペースに置き換えておく。

work.txtの内容はこの変換によって「5 82 2 418 782 7185 82 712 1852 7 742 2 741852 74852 7852 1852 7 18 1852 74 85 7185 5 1852 82 712 1852 7」になっている。これが与えられた数式のテンキー入力方式による点字表現で、Webサービスによって「ひらがな表現」に変換される。


4) Webサービスを使って「ひらがな表現」に変換する

点字をかなに自動変換する」というページにwork.txtの内容をコピー&ペーストして「変換する」ボタンをクリックする。

変換前



変換後



変換後の「濁音拗半濁音半濁音のくつぴゃ数字あき半濁音めせす数字あや数字いぢゅ濁音数字ぴゃ数字あ」という文字列が次の変換への入力となるのでコピー&ペーストしてwork.txtに上書きしておく。


5) 変換テーブル3(replace3.lst)の作成と実行

次に「eBraille」というWebサービスを使って点字ファイルを生成することを試みる。「eBraille (Version 2.00」の「ステップ2」以降を利用して点字に変換したい。

この段階では入力は「ひらがなと数字」だけの表記にしておかなければならないので、次のような変換テーブル3をSheet5として作成し、replace3.lstとして保存しておく。



replace3.lstをreplace.lstにコピーし、検索/置換を行うとwork.txtはこのように変換される。



つまり、半濁音や拗濁音、数符などの点字での特殊文字は1文字だけ単独で入力できないので、ぱ」、「ぎゃ」、「0」などのひらがなや数字を入力に使うことで無理やり点字表記に含ませてしまうわけだ。これらの特殊記号の点字表記は「基礎コーナー 拗音・拗濁音・拗半濁音」というページを参考にしていただきたい。


この段階で得られた「がぴゃぱのくつぴゃ0あきぱめせす0あや0いぢゅが0ぴゃ0あ」という文字列は次の手順の入力として使われる。


6) Webサービスを使って「点字表現」に変換し、点字ファイルを出力する

eBrailleのステップ2の画面」を開き、work.txtから「がぴゃぱのくつぴゃ0あきぱめせす0あや0いぢゅが0ぴゃ0あ」の文字列をコピー&ペーストして点字への変換を行う。

変換前


変換後


そして「点字エディタ用ファイルをダウンロードする」というボタンをクリックすれば点字ファイル(BSE形式)をダウンロードすることができる。


7) T・エディタ2を使って不要な文字を削除し、整形する

ひとつ前の手順でダウンロードした点字ファイルをT・エディタ2を使って開くと次のようになる。

墨字表示


点字表示


このうち不要な文字を削除する。以下の赤い四角で囲った文字が不要な文字である。特殊記号の次にくる1文字や数符の次の「0_」が不要文字に該当する。



不要な文字を削除した後、キーワードとキーワードの間に空白を挿入して整形すると数式の点字表記が完成するのでファイルに保存しておく。



ネメス点字表記やverbose semantics表記と比較すると、正しく点字変換ができていることがおわかりになるだろう。






8) まとめ

手順をまとめると次のようになる。

1. 数式をverbose semantics表記で記述する。

2. replace1.lst、replace2.lstで検索/置換を行う。今回は説明のために2つのファイルに分けたが、replace1.lstとreplace2.lstは連結して1回の検索/置換操作で行なえる。

3. Webサービスを使って「漢字かな混じり表現」に変換する。

4. replace3.lstをつかって「ひらがなと数字の表現」に変換する。

5. Webサービスを使って点字表現に変換し、点字ファイルを得る。

6. T・エディタ2を使って点字ファイルを修正する。

今回紹介した数式は一例に過ぎない。「Nemeth Braille Code for Mathematics and Science 1972 Revision」のページに記載されているverbose semantics表記をどんどん追加していくことによって、数多くのパターンの数式を半自動で点字に変換できるようになっていく。

入力としてまずverbose semanticsで数式を記述する必要があるのだが、TeXなどの数式表現からverbose semanticsに変換するソフトを作ればTeXから数式点字への変換が行えるわけである。そのためにはTeXのパーサーが必要になる。

ネメス点字の数式表記は日本で標準的に使われている表記とは若干異なっている。日本の点字表記の規則に合わせるのであれば「点字数学記号解説(暫定改訂版)」に従って変換テーブルを書き換えればよい。

変換テーブルは一度作ってしまえば再利用できる。この方法によって効率化がされたのかどうかは記事をお読みになった方の判断におまかせしたい。


今回紹介したファイルは変換テーブルや生成された点字ファイルなどすべて以下のリンクからダウンロードできるようにしておいたので、自分で試してみたい方はこのファイルをご利用いただきたい。

テスト用のファイル一式: ダウンロードする


次回の記事では「Infty Editor + BrailleInfty Package」を使って数式の点字ファイルを作る方法を紹介してみたい。

Infty Editor、BrailleInfty Packageを公開しているサクセスネットのホームページ
http://www.sciaccess.net/jp/index.html


おことわり: 本来は「視覚障がい者」もしくは「視聴覚障碍者」と表記すべきなのだが、ネットでは「視覚障害者」の表記で検索する人のほうが多いので、この記事では「視覚障害者」とさせていただきました。


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素数夜曲―女王陛下のLISP:吉田武:(後半の紹介)

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素数夜曲―女王陛下のLISP:吉田武

内容紹介
数学学習の“全方位独学法”を提供。ガウスが、数学の女王と讃えた整数論を主題とし、その頂に登る為の様々な手法を紹介する。「発見法的」に始め、「証明」へと進む。結果は「数値実験」により再確認され、「グラフ」により視覚化される。人物小史など内容は多岐に渡る。ラムダ計算の概要から、函数型言語の基礎までを紹介し、LISPの方言であるSchemeにより整数論を表現する。本文で語られた初等整数論の基礎が、附録ではプログラムとして与えられ、具体的な数値として議論される。函数型言語の入門書としても最適。 2012年刊行、871ページ。

著者略歴
吉田武:ウィキペディアの紹介記事 著書一覧
日本の著作家。1956年大阪府生まれ。京都大学工学博士(数理工学専攻)。著書『虚数の情緒・中学生からの全方位独学法』で、平成12年度日刊工業新聞社第16回技術・科学図書文化賞最優秀賞を受賞した。


理数系書籍のレビュー記事は本書で261冊目。

本書の後半は前半で語られた初等整数論の基礎が、附録ではプログラムとして与えられ、具体的な数値として議論される。函数型言語の入門書としても最適だ。

昔プログラマーをしていたことがあるが、これまで学んできたのはすべて手続型の言語ばかり。関数型の言語は僕にとって初めての世界だ。紹介される例をいくつか拾いながら、自分で試しながら読み進んだ。分量も多く、精読に徹したので後半だけでひと月近くかかった。

関数型言語と数学の相性がよいことは知っていたが、これほどまでマッチするとは思っていなかった。整数論に限らず数学は定義を元に論理を積み重ねて構築するものであり、この手順自体が関数型言語の定義と積み重ねに見事に対応しているのだ。

特に本書で強調されているのは「再帰構造をもった定義」であり、整数論のさまざまな定理の証明の中で使われている。この再帰の構造がプログラムにそのまま反映されているので、読者は言語を学ぶと同時に本書前半で学んだ整数論の証明過程を復習することができるのだ。

本書で使われているのはLISPの流れをくむSchemeという言語だ。著者は日本語をサポートしているSchemeとしてGaucheというプログラム言語をテキスト・エディタのEmacsとともに使ってプログラムを書いて紹介している。

Gauche - A Scheme Implementation (最新版のGaucheはこのサイトからダウンロード)
http://practical-scheme.net/gauche/index-j.html

GNU Emacs(最新版のEmacsはこのサイトからダウンロード)
http://www.gnu.org/software/emacs/


実際にプログラムを実行することによって、手では計算できないほど広い探索範囲で本書前半の理論を検証したり、膨大な数の解集合を得ることができるようになる。その結果にはときに驚かされ、解の分布の規則性や不規則性の中に人智の及ばなない何かの法則が隠されていることを見て取れるようになるのだ。単純な論理から生み出される複雑さを堪能するのが醍醐味のひとつである。

また以下のブログでは、本書のプログラムの実行例をYouTube動画として見ることができるが、整数論が生み出す美しい絵柄を鑑賞することも本書のもうひとつの楽しみである。

好きい夢 昭和な気まぐれ飛行機
http://scmblog.blog.shinobi.jp/%E7%B4%A0%E6%95%B0%E5%A4%9C%E6%9B%B2/


なぜ本書でSchemeを採用したかということについて、著者は次のように述べている。

プログラミング言語の選択は極めて悩ましい。著作が長く読まれ、役立つように、息の長い言語を選ぶことは当然として、その"教育的能力"が問題である。言語そのものを鍛え、言語を成長させていく過程が、そのまま数学的内容への理解へと繋がる、そんな言語を選ばねばならない。完璧なるMathematicaでは教育的効果に乏しいのである。

この意味でSchemeは最良の選択であったと信ずる。僅か50頁に充たない言語仕様書(R5RS)がそのことを示唆している。基本構成はしっかりとしているが、希望する処理は自分の手で組み上げる必要がある。そこに"教育"が存在する。誰の手を借りるでもない"自己鍛錬"の場として、Schemeは最高に環境を提供する。その結果、本書を読了された時、読者は整数論専用言語 Queen Scheme を自らの手で作り上げたことになる。


本書は好みが分かれるというのも事実だ。「虚数の情緒:吉田武」においてそれは顕著だったが、著者が若者に対して説いている「薀蓄(うんちく)」の部分が好きになれない人が世の中にはいるようである。正直言えば僕も「虚数の情緒:吉田武」の冒頭の薀蓄は長すぎると思っていた。

本書について言えば、僕はそれほど気にならなかった。というより著者が本書で述べている若者向けのお説教は、僕の気持ちにジャストミートした。おそらくそれは薀蓄を述べる大人を昨今ほとんど見かけなくなったからだろう。たしかに著者は正しいことを言っている。

年寄りの言うことを素直に聞かないのが若者の特権であり、それをそのまま実践してきた過去の自分を今さらながら後悔する年齢に僕が達してきているからなのだと思う。素直に読めてしまったのは、きっとそういうことなのだろう。


だから僕はちょうど中間の世代の人間として、僕のブログの若い読者の方に向けて、自分で何度もうなづいた部分を抜粋して紹介したいと思う。たとえ今はうっとうしいと感じたとしても、20年後、30年後には以下の文章に共感し、同じことを次の世代の若者に伝えていただけるのだと僕は期待している。

「車輪の発明」を例に上げ、すでに発見済みの事柄を自らのアイデアによって再発明するプロセスの重要性を筆者は次のように説いている。


再発明に徹せよ、概念の交差点に立て。
不合理や非効率を恐れず、自分の考えを推し進めろ。

社会人になれば、非効率は直ちに自身への低評価へと繋がる。学生にとっても、入試合格を目的とする立場からすれば、無意味な廻り道に過ぎない。しかし、それらはすべて錯覚である。冷笑家は、如何にも現実を見ている、知っているという態度を取ろうとするが、それは「合理的に新発見ができる」「学習は効率的にできる」と信じる”非現実的な妄想”に基づいている。

創造は不合理の果てに成されるものである。対象の深い理解には途方もない廻り道が必要である。あらゆる概念が試され、車輪もネジも傘も靴も再発見された後に、漸くそこに辿り着けるのである。それは人類の歴史が明確に示している。もし、低評価や不合格を恐れるのであれば、「再発見の速度」を上げればいい。自分の発想を捨てる必要など何処にもないのである。

何についても独自性を持つことは極めて難しく、辛いことである。しかし、「自分の方法」を見出した者は、それを貫き通すことで、漸く「自分自身を再発見する」。「その方法こそが自分なのだ」と悟るのである。遂には「その方法を捨てることは、自分を捨てることだ」という境地に達する。そして再び、「それを見出した理由」に想いを馳せて、なるほど「再発見を恐れず、基礎を重んじたからだ」という結論に至るのである。暮らしぶりは平凡の極みに徹しながらも、発想だけは独創性を保つ必要がある。「自分の人生を多数決に委ねるべきではない」---研究者・技術者の生涯はこの一点に尽きるのである。

「机に齧り附いているだけではダメだ」と識者達は指摘する。確かに「だけでは」ダメである。しかし、机に齧り附いた経験の無い者に未来は拓けない。旅することも各種ボランティアも大切である。しかし、地道な学習を軽視して大成は望めない。学ぶとは、明日の為に今日を鍛えることである。多くの仲間が内に外に動き廻っている。社会に関わって大人達の評価を得ている。こうしたことに焦らず、騒がず、動きたい気持ちを抑えて未来に備えることである。

青年に"静かな十年を贈る"のが教育者の務めである。十一年目には必ずや社会の礎となり、地域の軸となって大活躍する雄偉の人物となる。その為忍んで学ぶことに徹するべきである。勿論、人により得手不得手がある。動くことが得意な者は動けばいい。しかし、それだけが評価され、全てがその方向へ向くことは、将来の蓄えを放棄するに等しい。それでは社会が自滅する。

混乱期であればあるほど、青年達に静かな学習環境を与えることが必要なのである。強靭な日本、強く優しい日本は、強靭な青年の手によってしか作りえない。目先を乗り切る知識はあっても、二の矢、三の矢が出ない。アイデアが涸渇した若年寄ばかりになっては、助けられる人も助けられない。故郷を復旧させるのは大人の仕事であるが、復興させるのは、そうした大人の背中を見ながら、学ぶことに徹した青年達である。「こんな状況で数学なんて……」ではなく、こんな状況だからこそ数学や物理学を基礎から学んだ人達が、一人でも多く必要なのである。

註: この文章が書かれたのは平成24年3月11日、すなわち東日本大震災からちょうど1年後のことである。「安倍さん」にも読んでほしいと僕は思った。


関連ページ:

本書については何人かの人が感想記事を書いている。特に印象に残ったものを紹介しておこう。

(define 独学 再帰) - 書評 - 素数夜曲:女王陛下のLisp(404 Blog Not Found)
http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/51810854.html

吉田武「素数夜曲: 女王陛下のLISP」は、整数論とScheme入門として最高\(^O^)/
http://iiyu.asablo.jp/blog/2012/06/20/6486231

書評:素数夜曲(にょきにょきブログ)
http://aoking.hatenablog.jp/entry/20120918/1347975609

素数夜曲 女王陛下のLISP(ぱたヘネ)
http://d.hatena.ne.jp/natsutan/20120901/1346503936

素数夜曲―女王陛下のLISP 感想
http://book.akahoshitakuya.com/b/4486019245

好きい夢 昭和な気まぐれ飛行機
http://scmblog.blog.shinobi.jp/%E7%B4%A0%E6%95%B0%E5%A4%9C%E6%9B%B2/


関連記事:

素数夜曲―女王陛下のLISP:吉田武:(前半の紹介)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3740cd7fde863f2aebd195e326488ff6

虚数の情緒 - 中学生からの全方位独学法
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/27155c8d7b5242d7e69e00335411acc1

名著復刊:オイラーの贈物:吉田武
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9275a096b6bf54594d2a96dfa12f56e1


Gauche、Emacsを学ぶための書籍:

プログラミングGauche:Kahuaプロジェクト
入門 GNU Emacs 第3版

 


Gauche、Emacsを学ぶためのサイト:

連載:Gaucheでプログラミング!
http://thinkit.co.jp/article/74/1

Gaucheプログラミング(立読み版)
http://karetta.jp/book-cover/gauche-hacks

Gaucheでメタプログラミング
http://www.atmarkit.co.jp/fcoding/index/gauche.html

Emacs入門 (全9回)
http://dotinstall.com/lessons/basic_emacs

Emacs を使って,文章を書く
http://www.wakayama-u.ac.jp/~takehiko/webprg/toc.html#3


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素数夜曲―女王陛下のLISP:吉田武



目次(前半の詳細目次は前半の紹介記事を参照)

増補改訂版・序

第0夜:梟は黄昏に飛翔する
第1夜:素数のメロディ
第2夜:ピタゴラスの調べ
第3夜:自然数のリズム
第4夜:整数のパーティ
第5夜:マエストロの技
第6夜:小数のメリーゴーランド
第7夜:切れ目の無い数へ
第8夜:異次元への飛翔
第9夜:素数はめぐる

付録A:プログラミング言語の発見

- 無から始める
-- 無から括弧へ
-- 括弧から自然数へ

- 裏で支える集合論
-- 集合の定義
-- 要素から対へ
-- 対から順序対へ

- 集合を操る
-- 合併
-- 共通部分

- 命題と論理式
-- 命題
-- 命題論理
-- 論理式の意味
-- 万能結合子

- 自然数の構造

- 再帰による定義
-- 自然数の定義
-- 自己言及の定式化
-- 括弧と自然数

- 函数とラムダ記法
-- 函数の定義と記法
-- ラムダ記法
-- ラムダの来歴

- リストから始まる

- LISP is not LISt Processor
-- S-表記
-- リストの定義
-- 用語の多様性

付録B:プログラミング言語の骨格

- 評価値を得る
-- REPL
-- 四則計算
-- 一般評価規則

- 名前と手続
-- 函数の定義
-- アルファ変換

- ラムダ算法
-- ラムダ項を知る
-- 略記の方法
-- イータ変換
-- ラムダ項の定義
-- コンビネータ
-- 簡略の戦略

- 特殊形式
-- define
-- lambda
-- let
-- 引数の書法
-- 引数の無い函数
-- 抽象化の問題
-- quote
-- 内部と外部
-- set!
-- if
-- 特殊形式の意味

- 型の確認と構文の拡張
-- 非数値データの型
-- 数値データの型
-- 構文の拡張

- 継続
-- 継続渡し形式
-- 継続の生成
-- 継続の機能

付録C:プログラミング言語の拡張

- 函数を作る
-- 数のリスト
-- 選択肢のあるiota
-- 再帰による加算・乗算

- ループ不変表明
-- 末尾再帰
-- 逐次平方による冪乗計算
-- 階乗の計算

- リストを調べる
-- 恒等函数
-- 要素の抽出
-- 二重再帰
-- リストの平坦化

- 高階手続
-- apply
-- mapによる手続の分配
-- mapによる手続の入れ子
-- 要素の並べ方
-- リストによる数値計算
-- 総和と積
-- 文字と数字

- 函数型言語の基礎
-- チャーチの数字
-- 後任函数
-- 加算函数
-- 乗算函数
-- 冪乗函数
-- 条件分岐
-- 前任関数
-- Yコンビネータ
-- Yの導出への再帰

付録D:女王陛下のLISP

- 組込函数による数値計算

- フィボナッチ数列に学ぶ
-- 再帰の動き
-- 一般項の計算
-- 行列計算の為の手続
-- 行列の逐次平方
-- ベクタとリスト

- 四則計算の仕組
-- 互除法
-- 倍数と約数
-- 循環小数を計算する
-- 循環小数を表記する

- 素数を求める
-- チューリングマシン
-- 終了条件
-- 更新と書込み
-- 探索範囲の設定
-- エラトステネスの篩と素数分布
-- データの入出力とグラフ
-- 素数と巡廻数

- コラッツの問題

- パスカルの三角形と剰余
-- 係数の相互関係
-- パスカルの三角形に色を塗る
-- 描画ソフトへの対応
-- 係数の分布を調べる
-- パスカルカラーの世界
-- 墨絵の世界
-- カタラン数と径路
-- 冪の三角形を作る

- 連分数・円周率・ベルヌーイ数
-- 連分数による無理数の定義
-- ベルヌーイ数とゼータ函数

- ベクトルの変換性
-- 二つの積と行列式
-- 和の規約と縮約計算
-- ベクトルの展開
-- 座標系の廻転とベクトルの廻転
-- 三次元の廻転

- 行列で蝶を愛でる
-- 廻転行列と正多角形
-- 不可能を描く
-- 三次元への飛翔

- 四元数による廻転の記述
-- 四元数の性質
-- 虚空間の廻転角
-- 行列による四元数
-- 四元数による補間

- 黄金の花を愛でる

- 無理数の視覚化

- 疑似乱数を作る
-- 線型合同法
-- 規則性の切除
-- 実行と検証

- モンテカルロ法
-- 面積を求める
-- 三次元への拡張
-- ピタゴラス数を求める
-- ガウス素数の抽出

- 非決定性計算による解法

- 乱択アルゴリズム
-- フェルマー・テスト
-- カーマイケル数

- 有限集合に対する諸計算

- 無限ストリーム

- カードから格子点へ
-- 格子点を求める
-- 格子点の全数探査

- オイラーの函数
-- 式のコード化
-- 自然数の相互関係

- 合同計算と素数
-- 合同式と根の個数
-- 原始根を求める
-- 指数を求める
-- 無限降下法と平方和

- 拡張された互除法
-- 互除法における値の変化
-- 一般解を導く

- 平方剰余

- RSA暗号
-- 文字と数字の相互変換
-- 暗号生成と暗号解読

- 最終講義

付録E:数表(素数・原始根)

後書(Postscript)

索引

地獄の日本兵―ニューギニア戦線の真相:飯田進

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地獄の日本兵―ニューギニア戦線の真相:飯田進」(Kindle版

内容紹介
敵と撃ち合って死ぬ兵士より、飢え死にした兵士の方が遥かに多かった----。昭和17年11月、日本軍が駐留するニューギニア島に連合軍の侵攻が開始される。西へ退却する兵士たちを待っていたのは、魔境と呼ばれる熱帯雨林だった。幾度となく発症するマラリア、友軍の死体が折り重なる山道、クモまで口にする飢餓、先住民の恨みと襲撃、そしてさらなる転進命令......。「見捨てられた戦線」の真実をいま描き出す。2008年刊行、189ページ。

著者略歴
飯田進
1923(大正12)年京都府生まれ。昭和18年1月、海軍民政府職員としてニューギニア島へ上陸。終戦後、BC級戦犯として重労働20年の刑を受ける。昭和25年スガモ・プリズンに送還。社会福祉法人「新生会」と同「青い鳥」の理事長を長年務めた。(現在は会長)著書に『魂鎮への道』など。
飯田進さんの著書: Amazonで検索する


著者の飯田進さんに明日お会いするので本書を読ませていただいた。お会いするのはおそらく40年ぶりのことである。

僕が物心つかない赤ん坊の頃から小学4年生になるまで、母と僕は飯田さんにはとてもお世話になった。明日はその当時飯田さんにお世話になった人たち総勢20人近くが思い出を共有し、飯田さんへの感謝を伝えるために横浜の中華街に集うことになっている。戦争の話をうかがうためではない。

母は81歳なので横浜まで出かけるのは大変だろうからしっかりサポートするつもりだ。僕がお世話になっていた頃、現在92歳になられている飯田さんは40代半ばで、母は30代半ばだったわけである。

最近の飯田さんのお元気な姿や、その当時社会福祉法人「青い鳥」の理事長として取り組まれていた「青い鳥マッチ運動」のことは次の「理事長の部屋」というページの下のほうでご覧いただける。



「青い鳥マッチ」のことは僕もよく覚えているのだが、やなせたかし、馬場のぼる、山下清など蒼々たる方に描いていただいたので現在では貴重品である。(ヤフオクにも出品されていないほど貴重なのだ。)



青い鳥マッチ運動
http://www.aoitori-y.jp/wordpress/

当時の僕にとって飯田さんは優しいおじさんであると同時に強い男のオーラを放つ迫力のある大人だった。戦争があったことすら知らない幼年期のことだから壮絶な体験をした人だとは子供の僕には知るよしもない。引っ込み思案だった僕は飯田さんから声をかけられるとビクッとしていたものだ。リーダーシップという言葉は知らなかったが、周りの大人たちの様子からみてそれを僕が初めて感じた大人だった。ともかく他のおじさんたちとは存在感がまるで違っていたのだ。そんな飯田さんに頭をなでてもらったことも記憶に残っている。

戦後17年たってから生まれた僕も当時の飯田さんの年齢を超え、会社員生活の終盤を向かえつつあるが、これまで飯田さんが経験されてきたことがらを全部含めて考えると、今もなお僕がヒヨコ同然であることに変わりはない。

せっかくお会いするのだから著書を読んでおかなければと「素数夜曲―女王陛下のLISP:吉田武:(後半の紹介)」の記事を投稿してからすぐ読み始めた。


太平洋戦争の実態が「戦闘」ではなかったことは、2007年以降に大きく取り上げられ明らかになってきた。戦死したほとんどの兵士が戦うことなく、餓死や病死で命を落としたという事実だ。そしてそれは東京の市ヶ谷で指揮をとっていた大本営の机上の分析だけに頼った判断と無謀極まりない軍令によるものだった。20歳前後の膨大な数の兵士が、100万人を超える若者たちが無駄死にしたのである。

なぜそうなったのか?それはどのような状況だったのか?

本書にはじかに目撃し、体験した者だけが知りうる証言が詳細に書かれている。


2007年以降のNHKの番組を見ていたので、その事実を僕はすでに知っていたが、あらためて詳細を文章で読むと何度も胸にこみ上げてくるものがあった。1時間の情報番組で伝えられる内容はせいぜい新書の本で10ページそこそこなのだ。戦争体験記はもちろん分量だけで計るべき性質のものではないわけだが、本のほうが飯田さんの生の声が直接伝わってくるので、僕としてもテレビ番組よりも何倍も戦争の本質が伝わってきた。脚色されてしまう映画やドラマ、ドキュメンタリー番組よりも体験者による手記のほうが事実が正確に伝わるのは明らかだ。

仕事や勉強(そして遊び)のことで手一杯だから70年も前におきた戦争のことを日々省みる人は今ではほとんどいない。ふたたび戦争なんておきるわけがない、もし戦争が起こりそうになってもしっかり「防衛」するように備えておけばいいのだと考えている人も多いことだろう。

果たして本当にそうだろうか?

集団的自衛権は法整備をする段階に進んでいる。過去のほとんどの戦争が自衛のために始まったという事実を考えるとき、ふたたび日本が巻き込まれることは自然の成り行きだと思うのだ。

ネット上ではこの問題について活発に自分と反対意見を持つ者に対して「非難合戦」が繰り広げられている。しかしどちらの意見を自分が持つのだとしても、そして先の戦争が「侵略戦争」だったのか「巻き込まれてしまった戦争」だったのかという議論をする前に、戦争というものの実態がどうであったのか、どのような思いを彼らが抱き、そのような戦争に行くことになったのかをまず知っておくべきなのだ。

昔と今とでは国際情勢が違うし、技術力も向上している。けれども日本人が持っているメンタリティや判断力は明治以来、まったく変わっていないと僕は思うのだ。ふたたび無謀な命令を強いられる状況がおこるであろうことは、しばしば感じている。

- 東日本大震災の直後、政府や東電ははどのような判断をし、どのような発表をしただろうか?状況把握や判断は的確になされていただろうか?

- 日本の政府、行政、企業などあらゆる組織は迅速かつ効率的、現実的な情報収集、分析、決定をし、実行に移してきただろうか?実行にあたっては精神論を強調しすぎていなかっただろうか?

- 将来、戦争が始まりそうな段階で、その是非を考えるために必要な情報が国民に与えられるだろうか?


また、「防衛力=兵器や軍備の増強」という先入観にとらわれていないだろうか?とも僕は考える。

日本のインフラは合理化を追求しながら発展してきたから極めて脆弱だ。東日本大震災の後の混乱を思い起こせばわかりやすい。敵国が日本を攻撃するのであれば、インターネットを使ったサイバーテロだけで十分な気がする。主要なサーバーはことごとくダウンし、物流や交通、通信は麻痺して食糧がなくなり、餓死者や疫病が続出することだろう。コンピュータ制御されている電気やガス、水道の供給もストップする。また稼動停止している各地の原発にミサイルがぶちこまれるだけで周囲200Kmは住めなくなってしまうのだ。

もし今度、戦争がおきるのだとすれば、太平洋戦争や中東で繰り広げられている空爆や地上戦のようなイメージとはまったく違う「見えない敵との戦争」になるのだと僕は思うのだ。飯田さんのようにジャングルに行かされることはないかわりに国内で同じようなことが起きてしまうのではないかと思っている。

今の社会でひとつ希望があるとすればインターネット、とりわけTwitterやFacebookを使って即座に自分の意見が発信できることだ。その結果、(お互いをバカ呼ばわりしながら)集団的自衛権賛成派と反対派が収束することのない言い争いをしている。相手が総理だろうが大臣だろうがインターネット上の「口撃」は容赦ない。もちろん自分の意見を持ちながらも沈黙を守っている人も大勢いる。

どのような事柄であれ賛成する人と反対する人がいる。そのような世の中はひとつの極端な考えに流されることがないから、ある意味健全なのだと思う。この点は昔と明らかに違っている。また、自分の関心事以外には無関心な人が大半というのも、もうひとつの現実だ。


だから本書は特に若い世代に読んでほしい。幸い電子書籍化されているので、たとえ紙の本が絶版になったとしても、入手困難になることはない。

本書が出版された後に飯田さんがテレビ出演され、内容について語っていらっしゃる映像をYouTubeでご覧いただくことができる。

「ニュースの深層・地獄の日本兵」ゲスト・飯田進(再生時間: 38分)



また2007年の夏から放送されている「NHK 証言記録 兵士たちの戦争」は無料で公開されている。こちらもぜひご覧になってほしい。動画のチャプター再生はPCのみ対応と書かれているけれども、試してみたところiPhoneでは全編一括再生をすることができ、Androidスマートフォンではまったく再生できないようだ。

NHK 証言記録 兵士たちの戦争



このシリーズ番組のうち、飯田さんは「西部ニューギニア 見捨てられた戦場 ~千葉県・佐倉歩兵第221連隊~」の放送の中ほどと終わりのほうに出演されている。

西部ニューギニア 見捨てられた戦場 ~千葉県・佐倉歩兵第221連隊~




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地獄の日本兵―ニューギニア戦線の真相:飯田進」(Kindle版
飯田進さんの著書: Amazonで検索する



第1章 大調査隊をニューギニアへ
第2章 餓死の序幕
第3章 命を吸いとる山を越えて
第4章 底なしの大湿地帯を行く
第5章 幻と消えた「あ号作戦」
第6章 ビアク島の玉砕戦
第7章 私の犯した「戦争犯罪」
第8章 敗戦と収監、そして日本へ


はじめに

映画「硫黄島からの手紙」を、私は封切り後間もなく劇場へ観に行きました。

親友たちは、硫黄島からさほど遠くないサイパン島で玉砕しています。だから私は特別に深い感慨をもって映画を観ました。恥ずかしいくらい涙が出ました。

この映画に限らず、片道燃料だけで敵艦隊に突っ込んだ特攻隊や戦艦大和の最後を思うたびに、今でも涙を抑えることができません。

兵士は死を覚悟して戦場におもむきます。それはある意味で、致し方ありません。戦争とはそういうものです。その極限にあるのが、特攻隊です。若い操縦士が己の命とひきかえに敵艦に体当たりするのですから、悲壮というほかありません。だからみんな涙するのです。小泉元首相も、特攻隊基地のあった鹿児島県南九州市知覧町の知覧特攻平和会館で、遺品を前にして涙をこぼしたといいます。

しかし、と私は思うのです。多くの人が忘れてしまったこと、知らないことがある、と。太平洋戦争中の戦死者数で最も多い死者は、敵と撃ち合って死んだ兵士ではなく、日本から遠く離れた戦地で置き去りにされ、飢え死にするしかなかった兵士たちなのです。

その無念がどれほどのものであったか、想像できるでしょうか。それは、映画やテレビドラマで映像化されている悲壮感とはおよそ無縁です。これほど無残でおぞましい死はありません。しかも、そのような兵士の最期は、ある局部的な戦場の出来事ではありません。二百数十万人に達する死者の最大多数は、飢えと疲労に、マラリアなどの伝染病を併発して行き倒れた兵士なのです。

平成十八年八月、私は長いこと胸にあった思いを、小論にまとめて朝日新聞の「私の視点」欄に寄稿しました。靖国神社のA級戦犯の合祀と総理大臣の靖国神社参拝の是非をめぐって、国内外で議論が沸騰していた時期です。また、昭和天皇のA級戦犯靖国合祀に関する発言を記したメモが発見されたという報道でも、注目が集まっていました。

その文章には、次のようなことを書きました。
「戦死した兵士の遺族たちは、最愛の肉親が野たれ死にしたとは思いたくない。それは人間としての人情なのである。誰も非難できない。小泉元首相も素朴な情念のおもむくままに正しいと思って靖国参拝を行ってきたに違いない。その心情は多くの国民、とりわけ遺族たちの心の琴線に触れるものがある。だがそこからは、あれだけの兵士を無意味な死に追いやった戦争発起と戦争指導上の責任の所在は浮かび上がってこない。『英霊』という語感の中に見事に雲散霧消してしまっている」

この寄稿は意外なほど多くの反響を呼びました。手紙や来訪者が数多くあり、講演も頼まれました。そこで太平洋戦争の最大の死亡理由は餓死だったと話をしたところ、異口同音に驚きの声が挙がりました。
「初めて聞きました。本当ですか?」
「ガダルカナルでは沢山の餓死者がでたそうですね」

感想は様々でしたが、百万人を超える兵士が飢えて死んだとは、ほとんどの日本人は知らないはずです。ただ、等しく国家のために勇戦敢闘し、尊い命を捧げた殉国の英霊として祀(まつ)られているからです。

確かに名誉の戦死をした兵士は沢山います。私のかたわらで撃たれて死んだ兵士も、何人もいます。サイパン島で玉砕した友人たちもそうです。出征前、彼らと一緒に撮った写真は、いつも私の書斎に掲げてあります。

しかし、最大多数の兵士は、飢えと疲労と病で死んだ、というのが厳然たる事実です。そうした状況は太平洋戦域のいたるところで、戦いが始まって間もないころから戦後にいたるまで、繰り返し発生しました。

その典型的な戦場だったのがニューギニアでした。

ニューギニア島は日本から南に約五千キロ、オーストラリアのすぐ北にある大きな島です。東西は二千四百キロにわたり、面積は日本のおよそ二倍の広さがあります。全体は熱帯雨林に覆われ、現在は東側がパプアニューギニア、西側がインドネシアの一部になっています。

戦争中私は、その島にいました。昭和十八年、十九歳だった私は志願して海軍の民政府調査局員に採用され、ニューギニアに上陸しました。戦況が厳しくなってからは、陸軍作戦部隊に情報要員として配属され、戦闘にも参加しています。

昼間でも太陽の光が届かない原生林のなかで、幾度もあわやという危機に直面しながら、私はかろうじて終戦を迎えることができました。しかし、進駐してきたオランダ軍にBC級戦犯容疑者として逮捕され、重労働二十年の刑を受けました。

いま私は、八十代の半ばを過ぎています。もう余命いくばくもないどころではありません。それだけに、ニューギニア島での戦場の実態をきちんと残しておきたいという思いが募るばかりです。

きわめて荷の重い仕事です。ですが、野垂れ死にした兵士たちはそれぞれ未来に夢を抱いていた若者でした。彼らの無念の思いを、私は代弁しなければなりません。それを伝え得る、私は多分最後の一人だからです。(はじめにより抜粋)

火10ドラマ「素敵な選TAXI」(フジテレビ系列)

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いまイチオシなのが竹野内豊さん主演の「素敵な選TAXI」だ。毎週火曜日にフジテレビ系列で放送されている。タイムトラベルをテーマにしたコミカルなドラマである。彼が三枚目役を演じるのは「世紀末の詩(1998年、日本テレビ)」以来ではないだろうか。ぶつぶつ独り言をつぶやく野亜亘(のあわたる)を彷彿とさせる演技がいくつもあった。世紀末の詩ファンとしては木村佳乃さんか山崎努さんがお客として乗車すればよいのにと思う。今夜放送の第5話では世紀末の詩の第2話「パンドラの箱」で医者の役を演じた袴田吉彦さんが出演するようだ。(ただし選TAXIに乗車はしない。)

東京ではフジテレビで放送されているが、オフィシャルHPは関西テレビにある。

「素敵な選TAXI」(フジテレビ)
http://www.fujitv.co.jp/b_hp/sentaxi/

「素敵な選TAXI」(関西テレビ、オフィシャルHP)
http://www.ktv.jp/sentaxi/index.html


人生は選択の連続だ。やり直したいと思ったことは誰にでもあることだろう。10年前に戻って過去の自分にアドバイスできたら。。。そしてこのドラマのように数時間くらい戻ってやり直せるだけでも、その後の人生は大きく変わるかもしれない。

竹野内豊さんが演じるタクシードライバーの名前が枝分(えだわかれ)というのもなんだか間抜けで可笑しい。ドラマを見始めて以来、街で黄色のタクシーを見るたびに選TAXIが思い浮かぶようになってしまった。

初乗り運賃は3000円でちょっと高め。戻る時刻が昔になるほど料金は高くなる。過去に戻るときはドラえもんのように時空トンネルをくぐるわけでもなく、ものすごい音がするわけでもない。外の景色はいつものまま、普通に走っているだけ。つまりタイムトラベルの臨場感がまるでないのだ。

それを気にしてか運転手の枝分はダッシュボードに宇宙の効果音を出すおもちゃを紙のクラフトテープで取り付けて、お客にタイムトラベルを実感できるようにサービスしたり、「さぁ、しっかりつかまっていてください!」と声をかけてみたりする。

過去に戻ってやり直しても、うまくいかないことも多い。お客は何度もやり直しをしてベストな選択を試みるのだ。

過去の放送分は選TAXIに乗らなくても「フジテレビオンデマンド」から見れるので、ぜひご覧いただきたい。またYouTubeにもたくさん動画がアップされているようだ。

【公式】新火10ドラマ「素敵な選TAXI」PR



YouTubeで「素敵な選TAXI」の動画を: 検索してみる


オフィスではいつもデリバリーのランチをいただいている。どちらを選んだからといって人生が変わるわけではないが、いつもAにしようかBにしようか迷っている。食べる楽しみより、選ぶ楽しみというところか。ちなみに今日は左のAを選んだ。

ここをクリックで拡大



お勧め本:

ニュートン別冊  未来はすべて決まっているのか」(詳細


関連記事:

どうして未来は決まっていないのだろうか?
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4b11211eac3e03b18782b5ce88fbe050

時:渡辺慧
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d149cf16bb9dd319f572e4228fdfe241

鉛筆はどれくらいの時間立っていられるか?
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/448a4abf90b7f8991e4a3600f2f6535e

お勧めドラマ: 世紀末の詩(1998年、日本テレビ)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/45b117475aadbd8f43c55d1d5953584d


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夜のウォーキング、その後4(累積3000Km)

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昨年の4月7日から今日まで歩いた累積距離

昨年3月8日に始めた夜のウォーキング。ナイキのランニングアプリで歩いた距離を記録始めたのは300Km歩いた1か月後からだった。昨夜、累積メーターが3000Kmを超えたので記事として記録しておこう。

今年の4月からは次のような距離を歩いている。合計1374Km。7月と8月の距離が少ないのは天候不順や猛暑で歩けなかったり、突然のゲリラ豪雨でウォーキングを中断した日が多かったせいだ。

4月:320Km
5月:190Km
6月:169Km
7月:132Km
8月:150Km
9月:139Km
10月:161Km
11月(14日間):113Km

どうやら減量の効果はないようだ。体重はウォーキングを始めた頃とほとんど同じ。食事には気を付けているが「ご飯のおかわりをしない。」ということだけ守って、普通に食べているのがいけないのかもしれない。我が家は他の家庭よりも食事の量が多いようだ。

健康維持には良いと思うので毎回2時間かけて夕食後に10Km歩いている。減量効果はないが、次のような改善があったのでよしとしておこう。

- 血行が良くなり、肩こりや首こりがなくなった。
- 首回りの肉がとれて、スッキリしてきた。
- お尻まわり、太もも、ふくらはぎの筋肉が増えた。
- 階段の上り下り、長距離を歩いても疲れなくなった。

時速5Kmくらいで歩いているので3000Km歩くのに600時間を使ったことになる。これだけの時間を読書や趣味の活動に使っていたら、本の紹介記事をもっと書けただろうにと思う。今年は本を何冊読めただろうか。あっという間に師走の雰囲気が漂いはじめている。

でも10月下旬に芸術家(木版画家)の従兄が57歳で急逝したのも、もともとは健康管理に気を付けていなかったのが原因だし、同年代の友達の何人かも身体の不調をFacebookに投稿している。不摂生や運動不足、仕事のストレスなどで長年貯めてきたものは50代あたりから急にでてくるのだと実感しはじめている今日この頃。

趣味を楽しんでいられるのも、そしてもちろん仕事をしていられるのも健康な身体があってこそだ。引き続きウォーキングは欠かさないことにしよう。


ところでこの間の日曜日、僕は81歳の母と一緒に横浜の中華街まで行ったのだが、新宿駅の雑踏を歩いていて気がついたことがある。母が歩く速度はとてもゆっくりで、同じ距離を歩くのに僕の5倍くらいの時間がかかる。この速度で歩くと繁華街の雑踏はとても怖く感じるのだ。前からたくさんの群衆が迫ってきて、避けようにも避けられない。

相対速度の違いということだけではないように思う。立ち止まって群衆を見ているだけだったら恐怖感は全く感じない。ゆっくり歩き出したとたんに群衆が迫ってくる感じがして怖いのだ。

それが続くと日頃温厚な僕でさえ、目の前の「邪魔者」にはイラッとするようになった。ましてそいつが歩きスマホをしていたりすると、注意したくなる気分になってくるのだ。

他人に対して厳しい風潮になっているから、のろのろ歩くお年寄りにイラっときたりする人が増えている。お年寄りの側からみると、雑踏を歩いている人数ぶんだけ掛け算した恐怖を感じたり、(短気なお年寄りは)イラッときているわけだ。

ああ、お年寄りたちは繁華街を歩くたびにこんなことを感じているのだな。母と歩くことでそれがよくわかった。

お年寄りのことをすぐ「老害」と呼んだり、他人をすぐ批判したりする人たちも、いずれ年をとれば「老害」と呼ばれる(その頃はもっと酷い呼び方になっているかもしれないが)ようになる。今の時点で「老害」をすぐ口にする人は将来「老害呼ばわりされる側」に立つことになる可能性が高いと僕は思う。自己責任論ばかり振りかざさないで、他人に対してもう少し寛容な世の中になればいいのになぁ、と思うわけである。


関連記事:

1日人間ドック(2010年)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/78d08050074f97baefb45084b0e936e2

ウォーキングと夜桜(2013年3月)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/055b88c503e142d7b9559e5965de5550

夜のウォーキング、三軒茶屋へ
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cfd8a6fb66f8d236da95531fd108d8cf

夜のウォーキングのその後
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/65eb0d670f88ee2225670772ad03793e

夜のウォーキング、その後2
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a64b260d065375c77a79c2839dc414be

夜のウォーキング、その後3
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7da6bbf0006e187662cf2cf1822b82fe

1日人間ドックとウォーキング
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/630184969180751eecfdfcfeb6ff54c0


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分子運動30講(物理学30講シリーズ):戸田盛和

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分子運動30講(物理学30講シリーズ):戸田盛和

内容紹介
分子運動の非平衡状態の熱力学の基本的事柄であるオンサーガーの相反定理、ゆらぎの相関関数と輸送係数との関係、いわゆる線形応答の理論、あるいは揺動散逸の定理などについて述べた。1996年刊行、210ページ。

著者略歴
戸田盛和: ウィキペディアの記事
日本の物理学者。1917年生-2010年没。東京教育大学名誉教授。専門は統計力学、凝縮系物理学、数理物理学。特に戸田が導入した格子模型は完全可積分系の典型として有名で、「戸田格子」の名を得ている。著書多数。(戸田先生の著書を検索する。)


理数系書籍のレビュー記事は本書で262冊目。

今年の読書は数学書に偏っていたので駆け込みで物理学書を読んでみることにした。この「分子運動30講(物理学30講シリーズ):戸田盛和」は、今月初めに神保町の古本まつりで買ったもので、戸田盛和先生の「物理学30講シリーズ」のうちの1冊だ。

このシリーズは「大学で物理学を新たに学ぶ学生にその全体像を体系的に理解してもらうために著者自身が語りかけるような文体で解説する全10巻。」という触れ込みなのだが、ざっと立ち読みしたところ入門書として使える本とそうでない本に分かれている印象を持った。この分子運動30講は明らか後者である。ひととおり他の入門書で統計力学を学んでから読むのがよいと思う。物理学30講シリーズで統計力学はむしろ「熱現象30講」のほうに盛り込まれている。

ひととおり基礎物理学を学んでいる僕としては、このシリーズをすべて読む必要はない。未習の分野だけ選んで買ってみたのがこの「分子運動30講(物理学30講シリーズ):戸田盛和」と「物性物理30講(物理学30講シリーズ):戸田盛和」だった。

基礎物理学の精神は還元主義だ。それはあらゆる物理現象をこの世界を構成している究極の微粒子(素粒子)で成り立つ物理法則によって説明しようとする立場である。ファインマン物理学の第1巻「力学」に図1-1として掲載されている水分子の図が、このことを端的に象徴している。



高校で学んだニュートン力学の法則から化学で学んだ理想気体の状態方程式(PV=nRT)や定積比熱や定圧比熱を導き出すのを目の当たりにし、温度さえも古典力学から導き出されることに驚くのが大学の物理学で最初に経験する高揚感だと僕は思っている。


本書の第1講から第8項がまさにそうのような高揚感の再現なのである。だから最初の8講がいちばん面白かった。これらの章では気体によるエネルギーの輸送や気体の粘性、熱伝導、熱拡散などが古典物理学的な取り扱いによって導出されている。流体力学や伝熱学で学んだように、このような物理量は実験でしか得られないのだと僕は思っていた。つまり次のような本をこれまで読み、基礎物理学だけでは導出できない物理量が使われていても仕方がないのだと僕はあきらめていた。

流体力学(物理テキストシリーズ):今井功著
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a9eaf9ce3242c3f3df0dfc623e176d2b

伝熱工学(東京大学機械工学):庄司正弘
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cdbbfe5c89a57b812d43448297966fcc

伝熱工学 (JSMEテキストシリーズ):日本機械学会
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bfd58adf704e39cb64ca95224c7262b5

ところが古典物理学の理論だけで、これら工学書で実験値として紹介されていた気体の物理量がかなりの精度で導出されるということが、僕には新鮮な驚きだった。これを系統立てて解説する本書の第1講から第8講は次のような章立てだ。

1. 気体の分子運動
2. 気体の輸送現象
3. 初等的理論への反省
4. ボルツマン方程式
5. H定理
6. 気体の粘性
7. マクスウェル分子
8. 拡散と熱拡散


そして第9講から「電子」の理論が始まる。つまり金属の中を流れる自由電子が熱伝導に与える影響が解説される。これは物性物理入門のための手始めということになるのだろう。特に種類の違う2つの導体を接続したときに生じるトムソン熱、ペルティエ効果(冷却効果)やゼーベック効果(熱電対)という現象は僕にとって目新しいものだった。

9. 電気伝導と熱伝導
10. 熱電効果
11. 相反定理
12. 振動電場に対する応答
13. クラマース-クローニッヒの関係式

第14講と第15講では液体の理論が解説される。液体に照射されるX線が分子によってどのように散乱されるか、表面張力はどのように生じるかなどが導出される。

14. 動径分布関数
15. 表面張力

第16講から第18講は単発的なテーマで、戸田先生がなぜこれらの講を設けたのか僕にはよく理解できなかった。第16講は気体によるレイリー散乱の解説だ。

16. 光の散乱
17. 流体力学の方程式
18. 強電解質溶液

第19講以降は僕にとっては既習の分野だった。ブラウン運動やランダムウォークの理論は確率論、確率過程論の教科書で、また拡散方程式についても他の物理学書で学んでいたのですらすら読めた。ただ、本書の記述だけだと入門者にとってはわかりにくいだろうというのが正直な感想だ。第19講以降は急ぎ足のような印象を受けた。

19. ガウスの正規分布
20. 1次元格子の振動
21. 重い原子の運動
22. ブラウン運動
23. 拡散方程式
24. 拡散率と易動度
25. 経路積分
26. ランジュバン方程式
27. ガウス過程
28. 揺動散逸定理
29. 線形応答
30. ウィナー-ヒンチンの定理
31. 索引


アマゾンでの本書の評価は低い。それはレビューを投稿した方が体系的に書かれた入門書的な教科書を期待していたからだと僕は思う。また210ページにこれだけたくさんのテーマを盛り込んだので、論理的なつながりが犠牲になっている部分も散見される。本書はひととおり基礎物理学を学んだ人が、知識の整理として復習するための本と割り切ってお読みになるのがよいだろう。

「物理学30講シリーズ」とよく対比されるのが志賀浩二先生の「数学30講シリーズ」だ。こちらはどれも大学入学したての学生に最適な入門書ばかりである。(もしくは授業や教科書についていけなかった大学生用。)


「とね書店」にも「物理学30講シリーズ」と「数学30講シリーズ」の売り場を設けておいたのでご活用いただきたい。

戸田盛和「物理学30講シリーズ」コーナー
http://astore.amazon.co.jp/tonejiten-22?_encoding=UTF8&node=60

志賀浩二「数学30講シリーズ」コーナー
http://astore.amazon.co.jp/tonejiten-22?_encoding=UTF8&node=59


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分子運動30講(物理学30講シリーズ):戸田盛和



1. 気体の分子運動
- 気体の圧力
- 分子の速度分布
- 平均自由行路
- Tea Time: 平均値と分布

2. 気体の輸送現象
- 輸送現象
- 気体の粘性
- 気体の熱伝導
- 気体の熱拡散
- 分子の速さ、大きさと数
- Tea Time: 気体の粘性

3. 初等的理論への反省
- 次元
- 気体の輸送現象
- ボルツマン方程式
- 分布関数の緩和
- 粘性率
- Tea Time: 平均寿命

4. ボルツマン方程式
- ボルツマン方程式
- 分子衝突
- Tea Time: 感激屋のボルツマン

5. H定理
- H定理
- 平衡状態のH関数とエントロピー
- ボルツマンの原理
- Tea Time: J.C.マクスウェル

6. 気体の粘性
- ボルツマン方程式
- 衝突項
- まとめ
- Tea Time: マクスウェル分子

7. マクスウェル分子
- 分子衝突の相対運動
- マクスウェル分子
- 一般の分子の場合
- 粘性率
- 熱伝導率
- 剛体分子の場合
- Tea Time: マクスウェルのデモン

8. 拡散と熱拡散
- 濃度勾配と温度勾配
- 拡散率
- 熱拡散
- 拡散率と熱拡散率の値
- Tea Time: ウランの分離

9. 電気伝導と熱伝導
- 初等的理論
- Tea Time: 電流の電子の平均速度

10. 熱電効果
- 電場と温度勾配
- トムソン熱
- ペルティエ効果(冷却効果)
- ゼーベック効果(熱電対)
- Tea Time: 1乗と2乗

11. 相反定理
- ゆらぎ
- 電気伝導と熱伝導
- Tea Time: 相反定理の例

12. 振動電場に対する応答
- 電気伝導
- 電気双極の配向
- 誘電率の分散
- Tea Time: 鐘を指でゆらす

13. クラマース-クローニッヒの関係式
- 電気伝導度の分散
- クラマース-クローニッヒの関係式
- 因果律との関係
- Tea Time: 実部と虚部

14. 動径分布関数
- 分子の分布
- X線回折
- 動径分布関数
- Tea Time: 最隣接分子数

15. 表面張力
- 実験式
- 熱力学的関係式
- 分子の分布関数
- 近似式
- Tea Time: 水に浮く1円玉

16. 光の散乱
- レイリー散乱
- 臨界点付近のゆらぎ
- Tea Time: 空の青・日の出・日の入り

17. 流体力学の方程式
- 流体
- 連続方程式
- 運動方程式
- 粘性率
- Tea Time: 水という不思議な物質

18. 強電解質溶液
- イオン雰囲気
- 熱力学ポテンシャル
- 浸透圧
- 電子ガスの状態方程式
- Tea Time: 砂糖と塩

19. ガウスの正規分布
- 線形格子
- 誤差の和の確率分布
- 特性関係
- Tea Time: 試験の成績分布

20. 1次元格子の振動
- 剛体球の気体
- 指数格子
- Tea Time: 金平糖

21. 重い原子の運動
- 格子振動
- 1個の重い原子のある1次元格子
- Tea Time: 防波堤のパラドックス

22. ブラウン運動
- ブラウン運動
- 1次元のランダムウォーク
- 分布確率
- 3次元の場合
- 平均到達距離
- Tea Time: ジャン・ペランと分子

23. 拡散方程式
- ランダムウォークの確率密度
- 拡散方程式
- 3次元の場合
- Tea Time: 分子を数える

24. 拡散率と易動度
- 外力がはたらく場合の拡散
- アインシュタインの関係式
- 流れのある拡散
- Tea Time: 浸透圧

25. 経路積分
- スモルコフスイキー方程式
- 経路積分
- 拡散方程式
- 拡張
- Tea Time: 波の干渉

26. ランジュバン方程式
- 慣性を無視できる粒子の運動
- ランジュバン方程式
- Tea Time: ランジュバン

27. ガウス過程
- 確率分布
- マクスウェル分布への近接
- 位置の分布
- Tea Time: キツネが化かす

28. 揺動散逸定理
- 電場のゆらぎ
- 電流
- 揺動散逸定理
- Tea Time: 心のゆらぎと創造

29. 線形応答
- リゥヴィル方程式
- 自然運動
- 応答関数
- 振動する外力
- Tea Time: ランダム

30. ウィナー-ヒンチンの定理
- パワースペクトル
- 相関関数
- ナイキストの定理
- Tea Time: 白いスペクトル

31. 索引

物性物理30講(物理学30講シリーズ):戸田盛和

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物性物理30講(物理学30講シリーズ):戸田盛和

内容紹介
本書では、電子2個を含む体系として具体的には水素原子2個から水素分子が形成されるわけを説明し、パウリの原理を用いて元素の周期律を考察する。量子統計を踏まえて振動あるいは粒子の場を量子化する、いわゆる多体問題の基礎についても述べ、その一つの例として相互作用をもった1次元フェルミ粒子系の励起をボース系として扱う朝永振一郎先生の論文のあらましについて記し、スピンが積極的な役割を演じる体系の例として、近藤効果と超伝導現象の理論の要約を加えた。フォトンやフォノン、フェルミ粒子系、スピンが積極的な役割を演じる体系の例などについても解説。2000年刊行、229ページ。

著者略歴
戸田盛和: ウィキペディアの記事
日本の物理学者。1917年生-2010年没。東京教育大学名誉教授。専門は統計力学、凝縮系物理学、数理物理学。特に戸田が導入した格子模型は完全可積分系の典型として有名で、「戸田格子」の名を得ている。著書多数。(戸田先生の著書を検索する。)


理数系書籍のレビュー記事は本書で263冊目。

素粒子物理学や超弦理論を目指して勉強をしている物理学ファンは、とかく物性物理学を省きがちなものだ。相対性理論や量子力学を学んでから次に取り組むのはたいてい場の量子論(素粒子物理学)なのだと思う。

でも、ふだん自分の身の回りにあるのは固体や液体そして気体であり、金属や半導体、水や空気である。いちばん身近にある物体の中で動く電子や光子の物理法則を無視して進むのはどうも気持ち悪い。なぜ金属には電流が流れるのに、ゴムには流れないのか?金属線を電気が流れるとき、なぜジュール熱が発生するのか?電気抵抗はどのようにして生じるのか?電子機器に使われている半導体はどのようなしくみなのか?熱はどのように物質を伝わるのか?

100年前ならともかく、今では当たり前すぎてそれが不思議であるということに考えが及ばないこれらの物理現象をきちんと理解しておきたい。僕にとって物性物理学を学ぶ動機とはそのようなものである。

本書を手にとったとき、この分野を学ぶのは初めてかなと思っていたが、よく考えてみると古典物性物理は「ファインマン物理学(4)電磁波と物性」の第9章から第16章で、量子物性物理については「ファインマン物理学(5)量子力学」の第13章から第15章で少しだけ学んでいたことを思い出した。でもこれは7年も前だし、物理学を学びはじめて間もない頃で、かつ解析力学を学んでいない段階だったので、じゅうぶん理解はできていなかった。

とはいえいくつかの量子力学の教科書で量子統計やボース-アインシュタイン凝縮、超伝導などは学んでいたし、磁束量子については「目で見る美しい量子力学:外村彰」で学んでいた。

物性物理が扱う範囲はとても広いので本書のようなたかだか230ページの本ではとてもカバーすることができない。このことについて著者は次のように書いている。

「ここで扱うのは物性物理のほんの一部であって、化学結合の量子力学による説明、分子間力、量子統計、金属の自由電子模型による電気抵抗の扱いなど主要なテーマとなった。近藤効果や超伝導現象などについては、原理的な考え方を述べるにとどまった。」


物性物理を学ぶためには熱力学、統計力学、電磁気学、解析力学(一般力学)、量子力学はおさえておきたい。本書を読むためにはこの5つで十分だ。最先端の物性物理には経路積分や量子電磁力学(QED)、素粒子の標準理論(場の量子論)、そして最近は「トポロジカルな弦理論」も必要になるのだろうけど、本書をはじめ物性物理の入門書レベルではそこまでの知識は必要ない。

僕にとって大きな収穫だったのは高校化学で習った分子間力(ファン・デル・ワールス力)のしくみを学べたことだ。昨年2月、大栗博司先生の「強い力と弱い力(朝日カルチャーセンター)」で、僕は次のような質問をさせていただいている。

質問:自然界には4つの力があると説明されていましたが、熱力学で「ファン・デル・ワールス力」というのがでてきました。これはどういう力ですか?

大栗先生のお答えは「ファン・デル・ワールス力の本質は「電磁気力(クーロン力)」です。物理学にはいろいろな力がでてきますが、それらはみな基本的な4つの力で説明されるのです。」というものだった。

本書の第4講では電子のクーロン力を起源に距離の6乗に逆比例するファン・デル・ワールス力の導出が示されている。その本質は量子力学的なもので電子どうしの相互作用によって説明される。摂動論では第2摂動項としてあらわれる。

第6項から第8項では密度行列や理想気体の方程式について量子力学的から導出される式のプランク定数をゼロにすることで古典物理的な式に一致することを示している。また本書全体について、古典物理による物性の理解の限界、量子力学によって示される物性がどのようなものかを区別して理解することができた。

あとフォノン(音響量子)やマグノン(電子のスピン構造の量子化)などの準粒子を扱うのも僕にとっては初めてのことだった。特に伝導電子による格子振動によるフォノンのエネルギーのやり取り、フォノンの生成、消滅は固体の比熱や熱伝導の理解に欠かせない。(参考:「熱の解析的理論:ジョゼフ・フーリエ著、ガストン・ダルブー編纂」)


本書の章立ては次のとおり。薄い本のわりにはなかなか骨のある内容だが、僕にとっては目新しいことばかりだったのでワクワクしながら読み通すことができた。

1. 水素分子
2. オルト水素とパラ水素
3. 元素の周期律
4. 分子性物質
5. 密度行列
6. 密度行列の古典近似
7. ウィグナー分布関数
8. 量子統計
9. 理想気体
10. ボース-アインシュタイン凝縮
11. 自由電子気体
12. トーマス-フェルミの近似
13. 自由電子の磁性とホール効果
14. フォトン(光子)
15. フォノン(音響量子)
16. スピン波
17. 調和振動子
18. 生成消滅演算子
19. ボース多体系
20. フェルミ多体系
21. フェルミ振子とボース振子
22. 1次元フェルミ気体の励起
23. 電子と格子振動
24. 低温の電気抵抗
25. 近藤効果
26. 超伝導
27. 超伝導体の対応原理
28. 超伝導の現象論
29. ギンツブルク-ランダウ方程式
30. 超伝導トンネル効果



「物理学30講シリーズ」とよく対比されるのが志賀浩二先生の「数学30講シリーズ」だ。こちらはどれも大学入学したての学生に最適な入門書ばかりである。(もしくは授業や教科書についていけなかった大学生用。)


「とね書店」にも「物理学30講シリーズ」と「数学30講シリーズ」の売り場を設けておいたのでご活用いただきたい。

戸田盛和「物理学30講シリーズ」コーナー
http://astore.amazon.co.jp/tonejiten-22?_encoding=UTF8&node=60

志賀浩二「数学30講シリーズ」コーナー
http://astore.amazon.co.jp/tonejiten-22?_encoding=UTF8&node=59


関連記事:

分子運動30講(物理学30講シリーズ):戸田盛和
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ff9b87e0e12dea6df9d426929986b293


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物性物理30講(物理学30講シリーズ):戸田盛和



1. 水素分子
- 水素分子
- 水素分子の結合エネルギー
- クーロン相互作用
- 交換相互作用
- スピンとパウリの原理
- Tea Time: 物理学と化学の統一

2. オルト水素とパラ水素
- 2原子分子
- 水素分子
- 角運動量
- Tea Time: 気体水素と固体水素

3. 元素の周期律
- 周期表
- パウリの原理
- Tea Time: 顕微鏡

4. 分子性物質
- 分子間力(ファン・デル・ワールス力)
- 第2摂動項
- 対応状態の原理
- Tea Time: カシミア効果

5. 密度行列
- 統計集団と期待値
- ブロッホ方程式
- 密度行列の変換性
- Tea Time: 友あり遠方より来たる

6. 密度行列の古典近似
- カークウッドの方法
- 古典近似(h→0)
- 伏見の方法
- Tea Time: コモ湖

7. ウィグナー分布関数
- ウィグナー表示
- ウィグナー分布関数
- 古典的位相空間
- Tea Time: E.ウィグナー

8. 量子統計
- 粒子の同等性(フェルミ統計、ボース統計)
- 熱力学的関係式
- 理想気体(ボルツマン気体、フェルミ気体、ボース気体)
- 状態和、大きな状態和
- エントロピー
- 遷移確率と平衡
- Tea Time: パラ統計

9. 理想気体
- 準位密度
- 状態方程式(フェルミ気体、ボース気体)
- ベルヌーイの式
- Tea Time: 数理科学のモデル(1)

10. ボース-アインシュタイン凝縮
- ボース気体
- ボース凝縮
- 転移現象
- 現実のボース凝縮
- Tea Time: ボースとアインシュタイン

11. 自由電子気体
- 金属自由電子
- フェルミ準位、フェルミ面
- 自由電子の比熱
- Tea Time: 数理科学のモデル(2)

12. トーマス-フェルミの近似
- トーマス-フェルミの統計的方法
- 原子の場合
- 荷電粒子に対する阻止機能
- Tea Time: F.ブロッホ

13. 自由電子の磁性とホール効果
- スピンの常磁性(パウリ)
- 軌道運動の反磁性(ランダウ)
- ド・ハース-ファン・アルフェン効果
- ホール効果
- Tea Time: オイラーの公式

14. フォトン(光子)
- 熱輻射
- 光子の放出と吸収
- ボース-アインシュタイン統計
- Tea Time: 波の圧力

15. フォノン(音響量子)
- 固体比熱
- 1次元光子
- 光子振動の量子化
- Tea Time: 表面張力波の圧力

16. スピン波
- スピンの交換相互作用
- スピン波
- マグノン
- Tea Time: ねじり波の模型

17. 調和振動子
- 古典的な調和振動
- 調和振動子の量子力学
- 振動の波動関数
- 振動の行列要素
- エルミート演算子
- Tea Time: 非線形振動子の量子力学

18. 生成消滅演算子
- 生成消滅演算子
- 昇降演算子
- Tea Time: シュレーディンガーと格子振動

19. ボース多体系
- 多粒子系
- 配位空間
- 粒子数表示
- 演算子波動関数
- Tea Time: 粒子数の増減

20. フェルミ多体系
- 配位空間
- 粒子数表示
- 演算子波動関数
- Tea Time: 湯川先生の著書

21. フェルミ振子とボース振子
- 等間隔準位(フェルミ系、ボース系)
- 大きな状態和
- 状態和
- Tea Time: エネルギーの分配

22. 1次元フェルミ気体の励起
- 密度場の交換関係
- フェルミ気体の励起
- ハミルトニアン
- 相互作用がある場合
- Tea Time: 自然数の分割数

23. 電子と格子振動
- 電気抵抗
- 格子振動による散乱
- 散乱角
- Tea Time: ゾンマーフェルト-ベーテ

24. 低温の電気抵抗
- 散乱の緩和時間
- 低温の電気抵抗
- デバイ温度
- Tea Time: 金属電子論

25. 近藤効果
- スピン h/2
- 電気抵抗の極小
- スピンの交換相互作用
- 第2ボルン近似
- 異常電気抵抗
- Tea Time: フェルミ面上の拡散

26. 超伝導
- 超伝導研究の歴史
- 超伝導現象
- 電子間の引力
- クーパー対
- 2次摂動
- 電子対の集まり
- Tea Time: 連成振子

27. 超伝導体の対応原理
- エネルギーギャップ
- 転移温度
- 対応状態の原理
- Tea Time: 高温超伝導

28. 超伝導の現象論
- 完全な反磁性
- ロンドン方程式
- 熱力学的性質
- 超伝導体の状態方程式
- Tea Time: 超伝導理論

29. ギンツブルク-ランダウ方程式
- 電子対の集団
- 秩序パラメータ
- ギンツブルク-ランダウ方程式
- Tea Time: 磁束量子

30. 超伝導トンネル効果
- 磁束の量子化
- トンネル効果
- ジョセフソン接合
- 量子干渉計
- Tea Time: 微小量の接頭語

索引

タイム・マシン(創元SF文庫):H.G.ウェルズ

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タイム・マシン(創元SF文庫):H.G.ウェルズ」(Kindle版

内容紹介:
タイム・トラヴェラーが冬の晩、暖炉を前に語りだしたことは、巧妙な嘘か、それともいまだ覚めやらぬ夢か。「私は80万年後の未来世界から帰ってきた……」彼がその世界から持ちかえったのは奇妙な花だった……
時空を超えることの出来る機械「タイムマシン」を発明したタイム・トラヴェラーは、80万年後の未来世界に飛ぶ。そこで見た人類の変わり果てた姿に、彼は衝撃を受ける。80万年後の世界、それは知力、体力が退化した地上種族・エロイと、エロイを捕食し光を恐れる地下種族・モーロック、この2種族による原始的な階級社会であった。SF小説の金字塔「タイムマシン(1895)」を含む、ウェルズの傑作短編集。

著者について:
H.G.ウェルズ(1866-1946):ウィキペディアの記事
イギリスの著作家。小説家としてはジュール・ヴェルヌとともに「SFの父」と呼ばれる。社会活動家や歴史家としても多くの業績を遺した。


すごく有名でも読んだことがない小説は案外多いものだ。H.G.ウェルズの「タイムマシン」も僕にとってはそのうちのひとつだった。この本に限らずH.Gウェルズやジュール・ヴェルヌは1冊も読んでいない。

「タイムマシン」は言わずとも知れているSFの古典中の古典だ。出版されたのはなんと1895年。日本は日清戦争を終えたばかりの明治時代である。特殊相対性理論でアインシュタインが時空の概念を発表したのが1905年だから、その10年も前なのだ。

ウェルズはこの小説の導入部分で主人公のタイム・トラヴェラーに空間と時間の概念について語らせている。空間が3次元あるのだから時間も次元を持っているのではないかと。ただし時間のほうは1次元。そして空間は縦横高さの各次元を移動できるのに、時間のほうはなぜ次元の座標軸を行き来できないのだろうか?そしてこの主人公が発明したのがそれを可能にするタイムマシンなのだ。未来へも過去へも行くことができる。

アインシュタインより14年も前に4次元時空の考えを示したのは画期的だ。ウェルズはきちんとした科学教育を受けていた。それはウィキペディアの以下の記述でもわかる。

「奨学金でサウス・ケンジントンの科学師範学校(Normal School of Science、現インペリアル・カレッジ)に入学。トマス・ヘンリー・ハクスリーの下で生物学を学び、進化論には生涯を通じて影響を受けることになる。学生誌『サイエンス・スクールズ・ジャーナル』に寄稿し、1888年4-6月号に掲載された『時の探検家たち』は、のちの『タイム・マシン』の原型となる。1891年には、四次元の世界について述べた論文『単一性の再発見』が『フォート・ナイトリ・レヴュー』に掲載された。」

ただしウェルズは時間軸が空間の3次元に直交するという4次元ユークリッド時空を考えていたのでアインシュタインの4次元時空とは少し違っている。

そしてこのタイムマシンが旅立つのはとてつもない未来、80万年後の世界である。よくあるタイムトラベル物のドラマや小説は過去に戻るものが多い。未来に行くとしてもせいぜい数百年止まりなのが普通だ。100年後は科学や技術が発展しているだろうから、さぞかし便利ですごい世界になっているのだろうと予想できるわけだが、80万年後なんて想像もつかない。地球上に人類がいるかどうかも定かではない。

100年とか1000年くらいだと人間の身体は今の私たちとほとんど変わらない。生物としての進化はもっと長いスケールであらわれる。ウェルズが80万年後をタイムマシンの行き先に設定したのは、生物学的に変質した人類を登場させるためだったと思うのだ。ウィキペディアにも彼が生物学を学び、進化論に影響を受けたことが書かれている。

ただ、この小説に登場する未来の人類の変容ぶりを考えると80万年という設定は短すぎるように思える。1000万年から1億年くらいかかるのではないだろうかというのが僕の感覚だ。しかし放射性炭素による年代測定法が発見されたのが1947年なので、この小説が書かれた当時の年代測定はとても不正確だったはずだ。80万年という設定は「当たらずとも遠からず。」というところだろうか。

またこの小説での未来は「決定論」に従っている。未来は一通りに決まっていて変えることができない。ラプラスの確率論はあったけれども量子力学の不確定性原理が発表されるのは30年以上先のことなので、未来の不確定性はこの時代には知られていなかった。人間が振って出るサイコロの目はあらかじめ神様が決めていたもので、それ以外の目はでることがない。神様自身は過去から未来まですべてを計画済みで、ご自身でサイコロを振って世界の未来を決めるということはない。

ネタバレになってしまうから、どのような話なのか立ち入らないことにする。短編だからすぐ読めてしまうので、まだ読んでいない方はぜひこの機会にどうぞ。


僕はKindle端末で読みたかったので創元SF文庫版を選んだが、岩波文庫、角川文庫からもそれぞれ別の翻訳者による日本語版がでている。売れ筋としては岩波、角川、創元SFの順のようだ。

タイム・マシン 他九篇 (岩波文庫):H.G.ウェルズ


タイムマシン (角川文庫):H.G.ウェルズ


タイム・マシン(創元SF文庫):H.G.ウェルズ」(Kindle版



英語版は次のリンクで検索していただきたい。Kindle版は無料だ。

英語版の「The Time Machine: H.G.Wells」: Amazonで検索する


余談:80万年後の未来はもちろん20年後の世界であっても予測するのは難しい。次の2枚の絵はTwitterから拾ったものだ。僕が子供時代だった1970年頃の雑誌に掲載されていたようだ。今の私たちの生活と比べてかなりズレているのが可笑しい。第一、この人たちが着ている原色の全身タイツ服を今の私たちは着ていないし、将来は着るようになるとも僕には思えない。この服はトイレで難儀しそうだし。それよりも高齢者の姿が見えないのが気になる。隔離されてしまったのだろうか。

2011年の東京


20年後のコンピューターライフ(1969)



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