日本語版(1977年刊行)拡大
「プリンシピア―自然哲学の数学的原理(Kindle版):アイザック・ニュートン」
この貴重な本が先月ようやくKindle化された。電子書籍化のよいところは売り切れの心配がなくなることだ。専門書の電子書籍化は今後加速していくのだろうか?
掲載画像はアイザック・ニュートン著「プリンキピア(自然哲学の数学的原理)」の日本語版である。1977年(昭和52年)に講談社から刊行された。当時の定価は6800円。その後増刷されることはなく、長い間絶版の状態が続いていた。古書の取引相場も2万円〜3万円と買うのをためらうような価格だ。翻訳された中野猿人先生は海洋学の権威、東海大学教授、気象大学校長を勤められた。
力学の3法則や万有引力の法則、惑星の運動についてのケプラーの法則などをはじめて数学的に証明した近代物理学の原点とされる名著だ。人類にとっての科学遺産、現代の科学者にとっても有益な「知の宝庫」というべき書物である。
初めての日本語訳は昭和5年に登場し、これも含めて2種類の翻訳書が刊行されたのだが、5年前「日本語版「プリンキピア」が背負った不幸」という記事で紹介したように縦書き本として出版されたので1977年の講談社版が横書きの本として刊行されるまでまともに読める本は手に入らなかった。その貴重な講談社版が絶版になっていたのである。
先月8月22日にこの講談社版がようやく復刊されたのだ。物価上昇を考慮すれば7340円という価格は良心的だ。Kindle版だけでなく書籍版も「プリンシピア―自然哲学の数学的原理:アイザック・ニュートン」として発売されたようだが、ひと月もたたないうちに売り切れてしまい、おまけに中古本もなくなってしまった。
とはいえ900ページもある本だからKindle版さえ手に入れば十分だ。気になるのはちゃんと読めるレイアウトになっているかどうかだ。Kindle版はページをイメージとしてスキャンして作ったファイルなので、表示サイズ、文字や図版の劣化やゆがみが気になるところ。サンプルイメージは公開されていないので、購入しなければそういうことはわからない。
購入を躊躇している方もいらっしゃると思うので、実際に表示させてみた結果を見ていただくことにした。
以下、写真はすべてクリックで拡大する。
左がKindle Paperwhite、右がKindle Fire HD
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第IV章:抵抗媒質内における物体の円運動
文字だけのページは行間がもっと詰まっているが、十分読むことができる品質だ。
全ページにわたってゆがみや傾きは見当たらない。
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もともとはラテン語で書かれ、初版は1687年、第2版は1713年、第3版は1726年に出版された。日本史で言えば綱吉(5代将軍)から吉宗(8代将軍)の時代に相当する。
プリンキピア初版本の解説ページ(金沢工業大学所蔵)
http://www.kanazawa-it.ac.jp/dawn/168701.html
ラテン語版の初版(クリックで拡大)
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ラテン語版の第3版(クリックで拡大)
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古典力学は微積分を使って解くのが今では当たり前だし、何といってもニュートンは微積分の発明者なのだ。それにもかかわらずプリンキピアにはほとんど数式は使われていない。証明はすべて幾何学を使って行われているのだ。仮に彼が微積分など数式を使って出版しても、当時ニュートンや一部の学者しか微積分は理解できなかった。できるだけ多くの人に読めるように知識人の教養科目である幾何学を使ったわけだ。
プリンキピアでは力学3法則や万有引力、ケプラーの惑星運動3法則だけでなく、空気抵抗のある場合の運動、流体力学、月による潮汐の計算、音速の計算などさまざまな自然現象を幾何学だけで答を導いているのだ。
第3版からわずか3年後の1729年にはAndrew Motteによって英訳されたおかげでプリンキピアは英語圏全体に広まり、学者でなくても「最高の知性」に触れることができるようになった。500ページほどの大著である。理解できたかどうかは別として、当時の貴族たちの間でも競って読まれたベストセラーになった。このAndrew Motteによる英語版プリンキピア(ペーパーバック)は2000円程度、ハードカバー版は6000円程度、Kindle版は1000円程度で購入することができる。
ラテン語版と英語版は、はるか昔に著作権と版権がきれているので、オンラインで無料公開されている。
ラテン語版(初版、画像クリックでオンライン版が開く。)
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ラテン語版(初版)は次のサイトでも公開されている。
http://www.gutenberg.org/etext/28233
Andrew Motteによる英語版プリンキピア(第3版、画像クリックでオンライン版が開く。)
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ケンブリッジ大学はニュートンの「プリンキピア」や手書き原稿は「Newton Papers」というサイトで公開している。
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さて、日本語のKindle版はこちらである。購入される方はこちらからどうぞ。参考にしていただくために目次とニュートンが書いた序文を掲載しておく。
「プリンシピア―自然哲学の数学的原理(Kindle版):アイザック・ニュートン」
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ニュートン略伝
原著者の序文
定義
公理、あるいは運動の法則
第I編:物体の運動
第I章:以下の諸命題の証明に補助として用いられる諸量の最初と最後の比の方法
第II章:求心力の決定
第III章:離心円錐曲線上の物体の運動
第IV章:与えられた焦点から楕円軌道、放物線軌道および双曲線軌道を見出すこと
第V章:いずれの焦点も与えられないときに、どのようにして軌道を見いだしたらよいか
第VI章:与えられた軌道において、運動をどのようにして見いだしたらよいか
第VII章:物体の直線的上昇および下降
第VIII章:任意の種類の求心力に働かれつつ回転する物体の軌道の決定
第IX章:動く軌道上における物体の運動;および長軸端の運動
第X章:与えられた面での上での物体の運動;および物体の振動
第XI章:求心力をもって互いに作用し合う物体の運動
第XII章:球形物体の引力
第XIII章:球形でない物体の引力
第XIV章:ある極めて大きな物体の各部分へと向かう求心力の作用を受けるときの極めて微小な物体の運動
第II編:抵抗を及ぼす媒質内での物体の運動
第I章:速度に比例して抵抗を受ける物体の運動
第II章:速度の自乗に比例して抵抗を受ける物体の運動
第III章:一部分は速度の比で、また一部分はその自乗の比で抵抗を受ける物体の運動
第IV章:抵抗媒質内における物体の円運動
第V章:抵抗媒質内における圧縮;流体静力学
第VI章:振子の運動および抵抗
第VII章:流体の運動、および投射体に働く抵抗
第VIII章:流体中を伝わる運動
第IX章:流体の円運動
第III編:世界体系
哲学における推理の規則
現象
命題 - 月の交点の運動
一般注
訳者注
解説
第1版への著者の序文
古代の人びとは(バップスがいうように)自然の事物の研究において力学(機械学)を最も重要視した。また近代の人びとは、実体的形相と超自然性とを排して、自然現象を数学の諸法則に従わせようと努めてきた。それで私はこの論述において、哲学に関係のある範囲内で数学を発展させてきたのである。古代の人びとは力学を二つの方面において考察した。すなわち、証明によって厳密に進める合理的方面と実用的方面である。すべての手工芸は実用的力学に属し、そこから機械学という名前が出てきた。ところが、職人たちは完全な正確さをもって仕事をするわけではないから、力学は幾何学と区別されるようになり、完全に正確なものは幾何学的といわれ、それほど正確でないものは機械的といわれるようになった。けれども、落度は技術にあるのではなくて、技術者にあるのだ。正確に仕事をやれない人は不完全な技術者であるし、完全な正確さをもって仕事をできる人ならば、その人は完璧な技術者といわれるべきである。なぜならば、幾何学の土台をなしている直線や円を描くことは機械学(力学)の領分に属するからである。
幾何学はわれわれにこれらの線の引きかたを教えるものではなくて、それらの線がすでに引かれていることを要求するものである。すなわち、学習者は幾何学に入る前に、まずそれらの線を正確に描くことを習得する必要があり、そうした上で、幾何学はこれらの運用によって問題がどのように解かれるかを示すものである。直線や円を描くことは問題ではあるが、幾何学的問題ではない。これらの問題を解くことは機械学から要求されることで、幾何学ではそれらが解かれたときに、それらの用法が示されるのである。そして、外部からもたらされたそれら少数の原理から、これほど多くのことがらをうみ出しうるということは、幾何学の誇りである。
それゆえ、幾何学は機械的実地技術に基礎をおくものであり、精確な測定技術を提供し証明する一般力学に一部分にほかならないのである。けれども、手工業的技術はおもに物体を動かす場合に使われるから、幾何学は通常それら物体の大きさに関するものであり、力学はそれら物体の運動に関するものだということになったのである。この意味において、合理的な力学は、たとえどのような力にせよ、それから生ずる運動の学問であり、またどのような運動にせよ、およそ精確に提示され証明される運動を生ずるに必要な力の学問だということになる。力学のこの部分は、手工技術に関連する五つの力の範囲内では、古代の人びとによって開発されたが、かれらは重力(それは手先の力ではない)を、それらの力によって重いものを動くかす場合のほかは考えなかった。
しかし、私は技芸よりもむしろ哲学を考え、また手先の力ではなくて自然の力について書き、また重さ、軽さ、弾力、流体の抵抗、その他同類の力、すなわち引っぱる力でも押す力でもよいが、そういうすべての力に関係することがらをおもに考えるのである。それゆえ私はこの著作を哲学の数学的原理として提出する。というのは、哲学のむずかしさはすべて次の点にあると思われるからである。すなわち、いろいろな運動の現象から自然界のいろいろな力を研究し、つぎにそれらの力から他の諸現象を論証することである。
第I編および第II編における一般的な諸命題はこの目的のために述べられたものである。第III編ではそれの実例が、世界体系の解明ということにおいて与えられている。すなわち、前2編で数学的に証明された諸命題により、第III編ではいろいろな天体現象から、物体が太陽から各惑星へと向かわされる重力というものが導きだされている。つぎにそれらの力から、同じく数学的な他の諸命題により、惑星、彗星、月および海の運動が導きだされている。
私は他の自然現象も力学の諸原理から同種類の推論によって導きだされるのではないかという希望をもっている。というのは、私は多くの理由から、それらの現象もすべて、ある種の力に依存するものではないのか、その力によって物体の各微小部分は、まだ知られていない原因により、あるいはたがいに相手方へと押しやられて規則正しい形に凝集したり、あるいは反発して遠ざかったりするのではないかと想像させられるからである。これらの力がまだ知られていないために、哲学者たちはこれまで自然の研究を企てたが、失敗に終わったのである。しかし私は、ここに述べられた諸原理が、手具学のこの方法あるいはより正しい他の方法に対してなんらかの光明を与えるであろうことを望むものである。
この著作の公刊にあたっては、最も明敏かつ博識なエドマンド・ハレー氏が、印刷の校正や図表の作製で私を助けられたばかりでなく、もともと本書が公刊されるに至ったのは、同士の懇請によるものである。すなわち、同氏は私から天体の軌道の形についての私の証明を聞かれたときに、それを王立協会に送るようにしきりに求められ、後にこの協会のかたがたの懇篤な励ましと要請とによって、私は公刊しようという気になったのである。ところが、私はすでに月の運動の不等について考察し始めていたし、また重力、その他の力の法則とその量とに関する他のいくつかのことがらや、与えられた法則に従って引かれる物体が描く図形とか、数個の物体のそれら相互間における運動とか、抵抗媒質内における諸物体の運動とか、媒質の力、密度、および運動とか、彗星の運動などといったようないくつかのことがらに立ち入っていたので、これらのことがらについての研究をすまし、全体をまとめて公表しうるまでその出版を延期したのであった。
月の運動に関することがらは(不完全であるが)命題66の系に全部ひとまとめにされている。それは、そこに含まれているいくつかのことがらを、主題が必要とするより以上に冗長な仕方で提出したり、別々に証明したりして、他の命題の系列を中断することを避けるためである。また後になって思い出されたいくつかのことがらは、命題の番号や引用文を変えるよりも、あまり適当と思われない場所へでもそれを挿入するというゆきかたをとった。ここに述べられたことがらすべて寛容をもって読まれるよう、またこの困難な主題における私の労苦が、それらの欠陥を責めるというものではなく、むしろそれらを救うという見かたで検討されることを心から願うものである。
1686年5月8日 ケンブリッジ、トリニティー・カレッジにて
アイザック・ニュートン
第2版への著者の序文
この『プリンキピア』第2版では多数の校訂といくつかの追加とがなされた。第I編、第II章では、物体を与えられた軌道に沿って回転させる力を見いだすことが具体的に示され、かつ拡張がなされた。第II編、第VI章では流体の抵抗の理論がさらにくわしく調べられ、新しい実験によって確かめられた。第III編では月の理論と分点の歳差運動とがその原理からさらに完全に導きだされた。また彗星の理論は、より高い精度で計算されたより多くの彗星軌道の実例によって確かめられた。
1713年3月28日 ロンドンにて
アイザック・ニュートン
第3版への著者の序文
この第3版はこれらのことがらにきわめて熟達されたヘンリー・ペンバートン医学博士のお世話でできたものであるが、この版では第II編の媒質の抵抗についてのいくつかのことがらが前よりもいくぶん包括的に取り扱われ、空気中を落下する重い物体の抵抗に関する新しい実験がつけ加えられた。第III編では、月が重力によってその軌道上に保たれることを証明する議論がさらに完全に述べられた。また木星の両直径の相互の比に関するパウンド氏の新しい観測がつけ加えられた。
また1680年に現れた彗星についてのいくつかの観測もつけ加えられている。これはカーク氏により11月ドイツでなされたもので、最近私の手に入ったものである。これらの助けにより、彗星の運動がきわめて放物線に近い軌道を示すことが知られた。この彗星の軌道は。ハレー博士の計算により前よりもいくぶん精密に決定されたが、その結果それは一つの楕円ということになった。そしてこの楕円軌道上を彗星は九つの天宮を通る進路をとって進むことが、ちょうど惑星が天文が言うで与えられた楕円軌道上を運行するのと同じ程度の精度をもって示された。1723年に現れた彗星の軌道もつけ加えられている。これはオックスフォードの天文学教授ブラッドレー氏の計算になるものである。
1726年1月12日 ロンドンにて
アイザック・ニュートン
プリンキピアは現代人にとっても難解な書物であることには変わらない。幸いなことにニュートン研究で著名な物理学者の和田純夫先生が手軽に(?)読める入門書を出されている。
プリンキピアを読む: 和田純夫著 (ブルーバックス)
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プリンキピアから代表的な命題をピックアップし、用語やニュートンの証明手順を現代の私たちにもわかるように解説した本だ。微積分などのレベルの数式も使っていないから(意欲的な)中学生なら読めると思った。力学の問題を幾何学で証明するとはこういうことなのかと納得できた。
なお、プリンキピアに書かれた内容を現代の数式を使って解説した格好の本がある。ニュートンの業績をきっちりと学んでみたい方は1998年に出版されたこの「チャンドラセカールの「プリンキピア」講義」で勉強されるとよいだろう。
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ところで以前このブログで紹介した「ニュートンの質点定理の証明(証明1や証明2)」、つまり大きさのある球体の場合でも距離の2乗に逆比例した万有引力の法則が成り立っていることは、プリンキピアでは命題71定理31の「1ページ目」と「2ページ目」に渡って証明されている。ニュートンはこの証明の後、大きさのある2つの球体の場合の証明や球以外の場合の引力についても幾何学だけを使って求めているのだ。
専門書についていえば日本語書籍の電子書籍化は英語書籍にくらべてはるかに遅れている。絶版本の復刊は、書籍版よりも電子書籍のほうが出版社にとってはるかに金銭的負担が少ない。今回のKindle化による復刊をきっかけに、絶版となっている専門書の名著や新刊書が、ますます電子化されていくことを願っている。
関連ページ:
日本語版「プリンキピア」が背負った不幸
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bff5ce90fca6b8b13d263d0ce6fc134e
ニュートンの「プリンキピア」や手書き原稿をウェブで公開--ケンブリッジ大
http://japan.cnet.com/news/society/35011815/
Cambridge Didital Library: Newton Papers
http://cudl.lib.cam.ac.uk/collections/newton
ニュートンはすごい!
http://d.hatena.ne.jp/rikunora/20090201/p1
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この貴重な本が先月ようやくKindle化された。電子書籍化のよいところは売り切れの心配がなくなることだ。専門書の電子書籍化は今後加速していくのだろうか?
掲載画像はアイザック・ニュートン著「プリンキピア(自然哲学の数学的原理)」の日本語版である。1977年(昭和52年)に講談社から刊行された。当時の定価は6800円。その後増刷されることはなく、長い間絶版の状態が続いていた。古書の取引相場も2万円〜3万円と買うのをためらうような価格だ。翻訳された中野猿人先生は海洋学の権威、東海大学教授、気象大学校長を勤められた。
力学の3法則や万有引力の法則、惑星の運動についてのケプラーの法則などをはじめて数学的に証明した近代物理学の原点とされる名著だ。人類にとっての科学遺産、現代の科学者にとっても有益な「知の宝庫」というべき書物である。
初めての日本語訳は昭和5年に登場し、これも含めて2種類の翻訳書が刊行されたのだが、5年前「日本語版「プリンキピア」が背負った不幸」という記事で紹介したように縦書き本として出版されたので1977年の講談社版が横書きの本として刊行されるまでまともに読める本は手に入らなかった。その貴重な講談社版が絶版になっていたのである。
先月8月22日にこの講談社版がようやく復刊されたのだ。物価上昇を考慮すれば7340円という価格は良心的だ。Kindle版だけでなく書籍版も「プリンシピア―自然哲学の数学的原理:アイザック・ニュートン」として発売されたようだが、ひと月もたたないうちに売り切れてしまい、おまけに中古本もなくなってしまった。
とはいえ900ページもある本だからKindle版さえ手に入れば十分だ。気になるのはちゃんと読めるレイアウトになっているかどうかだ。Kindle版はページをイメージとしてスキャンして作ったファイルなので、表示サイズ、文字や図版の劣化やゆがみが気になるところ。サンプルイメージは公開されていないので、購入しなければそういうことはわからない。
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プリンキピアでは力学3法則や万有引力、ケプラーの惑星運動3法則だけでなく、空気抵抗のある場合の運動、流体力学、月による潮汐の計算、音速の計算などさまざまな自然現象を幾何学だけで答を導いているのだ。
第3版からわずか3年後の1729年にはAndrew Motteによって英訳されたおかげでプリンキピアは英語圏全体に広まり、学者でなくても「最高の知性」に触れることができるようになった。500ページほどの大著である。理解できたかどうかは別として、当時の貴族たちの間でも競って読まれたベストセラーになった。このAndrew Motteによる英語版プリンキピア(ペーパーバック)は2000円程度、ハードカバー版は6000円程度、Kindle版は1000円程度で購入することができる。
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原著者の序文
定義
公理、あるいは運動の法則
第I編:物体の運動
第I章:以下の諸命題の証明に補助として用いられる諸量の最初と最後の比の方法
第II章:求心力の決定
第III章:離心円錐曲線上の物体の運動
第IV章:与えられた焦点から楕円軌道、放物線軌道および双曲線軌道を見出すこと
第V章:いずれの焦点も与えられないときに、どのようにして軌道を見いだしたらよいか
第VI章:与えられた軌道において、運動をどのようにして見いだしたらよいか
第VII章:物体の直線的上昇および下降
第VIII章:任意の種類の求心力に働かれつつ回転する物体の軌道の決定
第IX章:動く軌道上における物体の運動;および長軸端の運動
第X章:与えられた面での上での物体の運動;および物体の振動
第XI章:求心力をもって互いに作用し合う物体の運動
第XII章:球形物体の引力
第XIII章:球形でない物体の引力
第XIV章:ある極めて大きな物体の各部分へと向かう求心力の作用を受けるときの極めて微小な物体の運動
第II編:抵抗を及ぼす媒質内での物体の運動
第I章:速度に比例して抵抗を受ける物体の運動
第II章:速度の自乗に比例して抵抗を受ける物体の運動
第III章:一部分は速度の比で、また一部分はその自乗の比で抵抗を受ける物体の運動
第IV章:抵抗媒質内における物体の円運動
第V章:抵抗媒質内における圧縮;流体静力学
第VI章:振子の運動および抵抗
第VII章:流体の運動、および投射体に働く抵抗
第VIII章:流体中を伝わる運動
第IX章:流体の円運動
第III編:世界体系
哲学における推理の規則
現象
命題 - 月の交点の運動
一般注
訳者注
解説
第1版への著者の序文
古代の人びとは(バップスがいうように)自然の事物の研究において力学(機械学)を最も重要視した。また近代の人びとは、実体的形相と超自然性とを排して、自然現象を数学の諸法則に従わせようと努めてきた。それで私はこの論述において、哲学に関係のある範囲内で数学を発展させてきたのである。古代の人びとは力学を二つの方面において考察した。すなわち、証明によって厳密に進める合理的方面と実用的方面である。すべての手工芸は実用的力学に属し、そこから機械学という名前が出てきた。ところが、職人たちは完全な正確さをもって仕事をするわけではないから、力学は幾何学と区別されるようになり、完全に正確なものは幾何学的といわれ、それほど正確でないものは機械的といわれるようになった。けれども、落度は技術にあるのではなくて、技術者にあるのだ。正確に仕事をやれない人は不完全な技術者であるし、完全な正確さをもって仕事をできる人ならば、その人は完璧な技術者といわれるべきである。なぜならば、幾何学の土台をなしている直線や円を描くことは機械学(力学)の領分に属するからである。
幾何学はわれわれにこれらの線の引きかたを教えるものではなくて、それらの線がすでに引かれていることを要求するものである。すなわち、学習者は幾何学に入る前に、まずそれらの線を正確に描くことを習得する必要があり、そうした上で、幾何学はこれらの運用によって問題がどのように解かれるかを示すものである。直線や円を描くことは問題ではあるが、幾何学的問題ではない。これらの問題を解くことは機械学から要求されることで、幾何学ではそれらが解かれたときに、それらの用法が示されるのである。そして、外部からもたらされたそれら少数の原理から、これほど多くのことがらをうみ出しうるということは、幾何学の誇りである。
それゆえ、幾何学は機械的実地技術に基礎をおくものであり、精確な測定技術を提供し証明する一般力学に一部分にほかならないのである。けれども、手工業的技術はおもに物体を動かす場合に使われるから、幾何学は通常それら物体の大きさに関するものであり、力学はそれら物体の運動に関するものだということになったのである。この意味において、合理的な力学は、たとえどのような力にせよ、それから生ずる運動の学問であり、またどのような運動にせよ、およそ精確に提示され証明される運動を生ずるに必要な力の学問だということになる。力学のこの部分は、手工技術に関連する五つの力の範囲内では、古代の人びとによって開発されたが、かれらは重力(それは手先の力ではない)を、それらの力によって重いものを動くかす場合のほかは考えなかった。
しかし、私は技芸よりもむしろ哲学を考え、また手先の力ではなくて自然の力について書き、また重さ、軽さ、弾力、流体の抵抗、その他同類の力、すなわち引っぱる力でも押す力でもよいが、そういうすべての力に関係することがらをおもに考えるのである。それゆえ私はこの著作を哲学の数学的原理として提出する。というのは、哲学のむずかしさはすべて次の点にあると思われるからである。すなわち、いろいろな運動の現象から自然界のいろいろな力を研究し、つぎにそれらの力から他の諸現象を論証することである。
第I編および第II編における一般的な諸命題はこの目的のために述べられたものである。第III編ではそれの実例が、世界体系の解明ということにおいて与えられている。すなわち、前2編で数学的に証明された諸命題により、第III編ではいろいろな天体現象から、物体が太陽から各惑星へと向かわされる重力というものが導きだされている。つぎにそれらの力から、同じく数学的な他の諸命題により、惑星、彗星、月および海の運動が導きだされている。
私は他の自然現象も力学の諸原理から同種類の推論によって導きだされるのではないかという希望をもっている。というのは、私は多くの理由から、それらの現象もすべて、ある種の力に依存するものではないのか、その力によって物体の各微小部分は、まだ知られていない原因により、あるいはたがいに相手方へと押しやられて規則正しい形に凝集したり、あるいは反発して遠ざかったりするのではないかと想像させられるからである。これらの力がまだ知られていないために、哲学者たちはこれまで自然の研究を企てたが、失敗に終わったのである。しかし私は、ここに述べられた諸原理が、手具学のこの方法あるいはより正しい他の方法に対してなんらかの光明を与えるであろうことを望むものである。
この著作の公刊にあたっては、最も明敏かつ博識なエドマンド・ハレー氏が、印刷の校正や図表の作製で私を助けられたばかりでなく、もともと本書が公刊されるに至ったのは、同士の懇請によるものである。すなわち、同氏は私から天体の軌道の形についての私の証明を聞かれたときに、それを王立協会に送るようにしきりに求められ、後にこの協会のかたがたの懇篤な励ましと要請とによって、私は公刊しようという気になったのである。ところが、私はすでに月の運動の不等について考察し始めていたし、また重力、その他の力の法則とその量とに関する他のいくつかのことがらや、与えられた法則に従って引かれる物体が描く図形とか、数個の物体のそれら相互間における運動とか、抵抗媒質内における諸物体の運動とか、媒質の力、密度、および運動とか、彗星の運動などといったようないくつかのことがらに立ち入っていたので、これらのことがらについての研究をすまし、全体をまとめて公表しうるまでその出版を延期したのであった。
月の運動に関することがらは(不完全であるが)命題66の系に全部ひとまとめにされている。それは、そこに含まれているいくつかのことがらを、主題が必要とするより以上に冗長な仕方で提出したり、別々に証明したりして、他の命題の系列を中断することを避けるためである。また後になって思い出されたいくつかのことがらは、命題の番号や引用文を変えるよりも、あまり適当と思われない場所へでもそれを挿入するというゆきかたをとった。ここに述べられたことがらすべて寛容をもって読まれるよう、またこの困難な主題における私の労苦が、それらの欠陥を責めるというものではなく、むしろそれらを救うという見かたで検討されることを心から願うものである。
1686年5月8日 ケンブリッジ、トリニティー・カレッジにて
アイザック・ニュートン
第2版への著者の序文
この『プリンキピア』第2版では多数の校訂といくつかの追加とがなされた。第I編、第II章では、物体を与えられた軌道に沿って回転させる力を見いだすことが具体的に示され、かつ拡張がなされた。第II編、第VI章では流体の抵抗の理論がさらにくわしく調べられ、新しい実験によって確かめられた。第III編では月の理論と分点の歳差運動とがその原理からさらに完全に導きだされた。また彗星の理論は、より高い精度で計算されたより多くの彗星軌道の実例によって確かめられた。
1713年3月28日 ロンドンにて
アイザック・ニュートン
第3版への著者の序文
この第3版はこれらのことがらにきわめて熟達されたヘンリー・ペンバートン医学博士のお世話でできたものであるが、この版では第II編の媒質の抵抗についてのいくつかのことがらが前よりもいくぶん包括的に取り扱われ、空気中を落下する重い物体の抵抗に関する新しい実験がつけ加えられた。第III編では、月が重力によってその軌道上に保たれることを証明する議論がさらに完全に述べられた。また木星の両直径の相互の比に関するパウンド氏の新しい観測がつけ加えられた。
また1680年に現れた彗星についてのいくつかの観測もつけ加えられている。これはカーク氏により11月ドイツでなされたもので、最近私の手に入ったものである。これらの助けにより、彗星の運動がきわめて放物線に近い軌道を示すことが知られた。この彗星の軌道は。ハレー博士の計算により前よりもいくぶん精密に決定されたが、その結果それは一つの楕円ということになった。そしてこの楕円軌道上を彗星は九つの天宮を通る進路をとって進むことが、ちょうど惑星が天文が言うで与えられた楕円軌道上を運行するのと同じ程度の精度をもって示された。1723年に現れた彗星の軌道もつけ加えられている。これはオックスフォードの天文学教授ブラッドレー氏の計算になるものである。
1726年1月12日 ロンドンにて
アイザック・ニュートン
プリンキピアは現代人にとっても難解な書物であることには変わらない。幸いなことにニュートン研究で著名な物理学者の和田純夫先生が手軽に(?)読める入門書を出されている。
プリンキピアを読む: 和田純夫著 (ブルーバックス)
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プリンキピアから代表的な命題をピックアップし、用語やニュートンの証明手順を現代の私たちにもわかるように解説した本だ。微積分などのレベルの数式も使っていないから(意欲的な)中学生なら読めると思った。力学の問題を幾何学で証明するとはこういうことなのかと納得できた。
なお、プリンキピアに書かれた内容を現代の数式を使って解説した格好の本がある。ニュートンの業績をきっちりと学んでみたい方は1998年に出版されたこの「チャンドラセカールの「プリンキピア」講義」で勉強されるとよいだろう。
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ところで以前このブログで紹介した「ニュートンの質点定理の証明(証明1や証明2)」、つまり大きさのある球体の場合でも距離の2乗に逆比例した万有引力の法則が成り立っていることは、プリンキピアでは命題71定理31の「1ページ目」と「2ページ目」に渡って証明されている。ニュートンはこの証明の後、大きさのある2つの球体の場合の証明や球以外の場合の引力についても幾何学だけを使って求めているのだ。
専門書についていえば日本語書籍の電子書籍化は英語書籍にくらべてはるかに遅れている。絶版本の復刊は、書籍版よりも電子書籍のほうが出版社にとってはるかに金銭的負担が少ない。今回のKindle化による復刊をきっかけに、絶版となっている専門書の名著や新刊書が、ますます電子化されていくことを願っている。
関連ページ:
日本語版「プリンキピア」が背負った不幸
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bff5ce90fca6b8b13d263d0ce6fc134e
ニュートンの「プリンキピア」や手書き原稿をウェブで公開--ケンブリッジ大
http://japan.cnet.com/news/society/35011815/
Cambridge Didital Library: Newton Papers
http://cudl.lib.cam.ac.uk/collections/newton
ニュートンはすごい!
http://d.hatena.ne.jp/rikunora/20090201/p1
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