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感想:NHK宇宙白熱教室:第2回:物理学者の秘密のお仕事 〜物事を大ざっぱに捉える!〜

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先日「番組告知:NHK宇宙白熱教室(ローレンス・クラウス教授)」という記事で告知した4回シリーズ番組の2回目が昨夜放送された。(番組はFC2動画のこのページで見れるようだ。また番組の音声を文字にしたものはこのページで読める。)

今回の講座も「宇宙が始まる前には何があったのか?: ローレンス・クラウス」(紹介記事)には含まれていない内容だ。

「主な内容」、「解説」、「良かった点、素晴らしいと思ったこと」、「改善したほうがよいと思ったこと」、「その他、気がついたこと」というくくりで感想をまとめておこう。


主な内容

このような流れで講義は進んだ。

- 物理学者がどのように物事をとらえているか、その道具を授けたい。
- この世界はとても複雑。単純化して考える。
- 本と紙切れはどちらが先に落ちるか?
- 本のほうが重いから先に落ちるのというのは間違い。
- ガリレオ:「些細なことを気にしなければ、物は同じ速度で落ちる。」
- 紙切れを丸めて落とすと本と同じ時間で落ちる。
- ニュートンの万有引力の法則はガリレオの発見がなかったら導かれなかっただろう。
- 質問1:牧場の生産性を上げるには?エンジニア、心理学者、物理学者の考え
- 物理学者:「牛をだいたい丸だとしましょう。」
- 牛を丸(球)だとして、サイズのスケールが大きいと皮膚が内部圧力に負けて裂けてしまうことを示す。
- 大雑把にとらえれば多くの情報が得られる。
- 宇宙について何を無視し、何を判断すればよいか。答えはやってみなければわからない。
- 太陽を単純な丸ととらえる。太陽のエネルギーによる圧力は重力とつりあっている。
- 猛烈なエネルギーの正体は?石炭の燃焼と考えると1万年で燃え尽きてしまうことがわかる。
- 1920年頃、エディントンは太陽に未知のエネルギーがあると主張。
- ベーテは核融合によって太陽は100億年燃えることを発見。太陽を丸と仮定したことから導かれた。
- 核融合はニュートリノも作り出す。デイビスによるニュートリノの検出。40年後にノーベル賞をとったのも太陽を丸と仮定したおかげ。
- ニュートリノは予測の3分の1しか検出されなかった。
- 単純化によって太陽と地球の間でニュートリノの性質が変化したことが見つかり、素粒子物理学に大きな影響を与えた。
- 「数」を物理学者流にとらえる。10の累乗であらわすと便利。
- 指数法則:掛け算を足し算にして計算することが可能になる。
- すべての数は「k × 10のn乗」という形で書ける。つまり「仮数x10の指数」
- 問題:232x556の概数を3秒で計算せよ。指数が重要。
- フェルミ問題。「物理学者はどんな問題にも答えられなければならない。」
- 問題1:100万まで数えるのに、どのくらいの時間がかかる?
- 問題2:アメリカ全土で1日にどれくらいトイレの水が流されているか?
- 10の指数で考えれば、物事を直観的にとらえ、別の角度から認識できるようになる。
- 問題3:シカゴにはピアノの調律師は何人いるか?
- 問題4:カエサル臨終の一息に含まれていた原子を私たちは一呼吸ごとに何個吸い込んでいるか?
- 次元解析:物理の単位(次元)だけをたよりに「公式」や「未知の量」を推定すること。
- 物理学で表わす量は長さL、時間T、質量Mだけの組み合わせで書き表せる。
- 距離(L)=速さ(L/T)×時間(T)
- 質量Mの錘がつるされたバネの振動周期は?
- バネの振動周期はsqrt(M/k)に比例する。
- 次元が3つあるのは嫌なので1つになってくれればよい。
- 長さと時間を関係付ける普遍的なものがあればよい。それは光速cだ。
- 時間と質量を関係付ける普遍的なものがあればよい。それはプランク定数だ。
- 未知の素粒子の質量が陽子の質量と同じなら、その寿命は陽子の寿命に等しい。
- 陽子の質量は時間に変換することができ、それは10のマイナス24乗秒 (「その他、気がついたこと、生じた疑問」を参照)
- 1974年に陽子の3倍の質量をもつ素粒子が見つかったが寿命は予想の1000倍もあった。
- それは新しい物理法則の存在を意味しノーベル賞につながった。
- それにより強い力の重要な特徴が明らかになった。
- 次元解析は物理を勉強する基礎だけでなく宇宙の秘密を解き明かす手助けになる。


解説

物事を大ざっぱにとらえることで新しい視点から見ることができるようになることを理解するのが今回の講座の目標だ。クラウス博士は「物理学者の考え方」として紹介していたが、この考え方は私生活やビジネスにも応用することができる。

冒頭で「単純化の効用」としてガリレオの実験が講義への導入として紹介された。

次に大ざっぱなスケールで2倍のサイズの「スーパー牛」を考えると、内部圧力によって皮膚が裂けてしまうことが計算で示されたのは面白かった。番組では紹介されなかったが象や恐竜などの皮膚は硬いから内部圧力が強くても裂けないということ、なぜダチョウのタマゴの殻が分厚いかということがわかる。

講義の前半はフェルミ問題を何題か解くことによって大ざっぱな数値で計算練習する。この番組では「フェルミ問題」と訳されていたが、一般的には「フェルミ推定」という言葉で知られている。

フェルミ推定とは特定できない数や調査することが難しい数などを論理的に推論し概算することだ。ネットで検索すると就活系のページが数多くヒットすることからわかるように、概算はビジネスで重要なスキルのひとつである。問題を解くだけでなく、自分で問題を作って解いてみるのも面白いと思う。

フェルミ推定: ウィキペディアの記事

5分で理解するフェルミ推定 マンホールの蓋はいくつある?
http://wakarukoto.com/?p=743

後半は「次元解析」についての話。物理学で扱われる量の単位はすべて「長さ(L)」、「時間(T)」、「質量(M)」の組合せであらわせることを紹介していた。よくわからなかった方は、このページをお読みになるとよいだろう。

次元解析
http://la.b-ed.smz.u-tokai.ac.jp/center/kiso/physics/vectorintro/unit/DIM-ANAL/DIM-ANAL.htm

しかし、これには注意が必要だ。本当にすべての単位をあらわせるのだろうか?たとえばエネルギーはどうだろうか?そして電圧や電流はこれらの単位だけであらわせるのだろうか?番組をご覧になった方の中にはそんなふうに思った人がいたかもしれない。

これはぜひ「赤シャツの少年」に質問してもらいたかった。

エネルギーEは運動エネルギーを E=(1/2)mv^2 とあらわせることから[L],[M], [T]だけで表せることがわかる。アインシュタインの静止エネルギーにしても E=mc^2だから大丈夫。ジュール(J)であらわされる「熱量」もエネルギーの一種だから大丈夫なわけだ。けれども温度は?電圧や電流は?と考えるとよくわからなくなってしまう。音の大きさはデシベルであらわされるけれど、これも3つの単位であらわせるのだろうか?また数学の図形問題で使われる「角度」は3つの単位だけであらわせるのだろうか?

有名な科学者の説明だからといって鵜呑みにしてはいけない。ファインマン先生がおっしゃっていたように自分で疑問を見つけ出すのが大事だし、そのほうがずっと楽しい。

本当のことを言うと物理量をすべてこの3つの単位で表せるというのは正しくない。物理学で「基本単位」と呼んでいるのは7つあるのだ。クラウス博士はこれを知らなかったわけではなく、受講者にとってわかりやすいように「単純化」したのだと思う。



正確な説明は次のページをお読みいただきたい。

国際単位系(SI)
http://www-lab.ee.uec.ac.jp/text/misc/si_units.html

SI単位系について
http://homepage3.nifty.com/such/shumi/shumi3/si.html

単位と次元
http://www.ele.kochi-tech.ac.jp/tacibana/analog-Web/units-dims.html


このようなSI基本単位系を使って電磁気学で使われる物理量の単位は組み立てられている。長さ、質量、時間だけでなくアンペアの単位も使われていることがおわかりいただけるだろう。表の中の数字は各単位の右上につける累乗の数を意味している。

クリックで拡大


この表は次のページから拝借させていただいた。

電磁気学の単位系が難しい理由
http://fnorio.com/0096Electromagnetic_unit_system1/Electromagnetic_unit_system1.html

また流体力学伝熱工学では「無次元数(dimensionless number)」という「単位をもたない量」が使われている。具体的にはレイノルズ数、ビオ数、エッカート数、フーリエ数、グラスホフ数、ヌッセルト数、ペクレ数、プラントル数、レイノルズ数、スタントン数などだ。説明はウィキペディアの「無次元数」をお読みいただきたい。


良かった点、素晴らしいと思ったこと

- 大ざっぱにとらえること、次元解析を使った考え方をすることによってノーベル賞に結びつくような大発見がなされたというのは、ものすごく説得力があり、素晴らしいと思った。


改善したほうがよいと思ったこと

- 次元解析の例をもう少し詳しく、他の例も取り上げる形で説明したほうがよかったと思う。理由は上の「解説」で述べたとおりだ。


一般視聴者には分かりにくかったこと

- 次元解析の説明のところで振り子の振動周期の説明でルート(平方根)を使った式が例示されたが、理解できなかった人は多かったと思う。これは仕方がないことだ。

- 大ざっぱにとらえたり、次元解析を使った考え方をすることでノーベル賞級の発見に結びついたことが紹介されたが、どうしてそうなったかということが論理的な筋道を追った形で理解できなかった。けれどもそれは仕方がない。なぜならそれを理解するためには、ノーベル賞受賞の理由となった物理学の業績、研究テーマを理解しなければならないからだ。

- 次元解析の説明の最後で単位の数を減らす方法が解説されていた。プランク定数がでてきたが、このあたりは量子力学を学ばないと理解できないことだ。


その他、気がついたこと、生じた疑問

- 大ざっぱにとらえることが大切なのは十分理解しているが、第3回、第4回の話にどうつながるのかが僕には想像できていない。というのもこの20年間の宇宙論の発展は「精密な観測」を行うことで実現された成果であるからだ。「大ざっぱ」と「精密」は正反対である。次回の放送で今回の話がどうつながるのか確認してみたい。


- 陽子の寿命が間違っていた。この件についてはT_NAKAさんからご指摘いただいたのだが、いただいたコメントと僕の返信をそのままここに書いておく。そしてその後 hirotaさんからもコメントをいただいたので本文に記載させていただきました。

T_NAKAさんのコメント:
タイトル:陽子崩壊
陽子崩壊を観測するためにカミオカンデを作ったわけですが、今のところ観測されていないので陽子の寿命は 10^33年 以上ということだと思っています。しかし、この講義だと陽子の寿命が 10^(-24)sec のように表現されたと感じました。私の勘違いなのかも知れませんので、2ケ国語放送だったので原語で聴かれた方はどの様に理解されたのでしょうか?

T_NAKAさんへの僕の返信:
日本語と英語の両方で聞きなおしてみました。翻訳は正確で日本語は英語と同じ内容を伝えています。
博士のしゃべった内容(台詞)はこのアドレスですべて読めます。
http://o.x0.com/m/48836
クラウス博士は陽子の寿命のことを勘違いしていますね。陽子の寿命はT_NAKAさんがおっしゃるようにとても長く10^33年以上で、けして10^(-24)秒ではありません。
問題の箇所は番組の最後の「次元解析」の話の締めの部分です。プランク定数の紹介の直後です。
「新粒子が陽子と同じ程度の質量ならば(陽子と同じく)寿命は10^(-24)秒と予想される。」という発言。
この新粒子はJ/Ψ中間子であることがすぐ次に続きます。
ウィキペディアの「粒子崩壊」という記事の「素粒子の寿命」の表を見ると、J/Ψ中間子の質量と寿命は3096.9 MeV、10^-20秒となっています。
また陽子の質量は938.272046(21) MeVと書かれています。
陽子と他の素粒子を勘違いしたのかなと、他の素粒子の寿命を調べたところ10^(-24)秒に近いのはWボソンやZ粒子しかなくて、寿命はどちらも10^-25乗秒です。
でもこの二つの粒子は「弱い力」に関係する粒子で、ここで博士が言及した「強い力」とは関係なさそうです。結局、どうすれば正しい説明になるのかはわかりませんが、ともかくこのあたりは間違ったことを言っているようですね。

hirotaさんからいただいたコメント:
タイトル:質量-時間
質量を時間に変換するというのは寿命じゃないです。
「普遍定数に光速があるから時間と空間が同等,エネルギーと質量が同等」と同じ意味で、プランク定数でエネルギーが時間に換算できるという意味です。
プランク定数:h=6.6*10^(-34) m^2kg/s, 陽子質量:m=1.7*10^(-27) kg, 光速:c=3*10^8 m/s
より h/(mc^2)=4*10^(-24) s

hirotaさんへの僕の返信:
なるほど、理解できましたプランク定数でエネルギーが時間に換算できるという意味にすぎず、その時間とは「寿命」ではなかったわけですね。教えていただきありがとうございます。番組では次のように表現されていましたから、クラウス教授はそれを寿命だと勘違いしていることになります。
「陽子の質量は時間に変換すると「10のマイナス24乗秒」だ。だからもし陽子と同じ程度の質量を持つ新粒子が発見されそれが不安定で寿命を持つなら私はそれを大体10のマイナス24乗秒だと予測するだろう。それは実際正しい予測だった。だが1974年に陽子の3倍の質量を持つ新しい素粒子が見つかりその寿命が「10のマイナス21乗秒」だと分かった。」

T_NAKAさんからいただいたコメント:
「だからもし陽子と同じ程度の質量を持つ新粒子が発見されそれが不安定で寿命を持つなら私はそれを大体10のマイナス24乗秒だと予測するだろう」というセリフを読むと、「それが不安定で寿命を持つなら」という条件で、不確定性原理から「大体10のマイナス24乗秒」ということなんじゃないかと理解しました。陽子のように安定した粒子の寿命を算定するのに不確定性原理を使うのは不適切ですが、同程度の質量の「不安定な粒子」にはこの計算で概算できるということなんでしょう。

hirotaさんからいただいたコメント:
一応、不確定性関係 ΔEΔt 〜 h による仮想粒子の寿命ではありますね。


番組関連書籍:

宇宙が始まる前には何があったのか?:ローレンス・クラウス」(紹介記事
A Universe from Nothing: Lawrence M. Krauss」(Kindle版

 

クラウス教授の著書をAmazonで検索する: 単行本(日本語) 単行本(英語) Kindle版(英語)


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参考書籍:

インフレーション宇宙論―ビッグバンの前に何が起こったのか:佐藤勝彦
宇宙,無からの創生―138億年の仮説はほんとうか(Newton別冊)

 


関連記事:

番組告知:NHK宇宙白熱教室(ローレンス・クラウス教授)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/fdcf3a5173e9f55fc37c9b8d85f4128b

宇宙が始まる前には何があったのか?: ローレンス・クラウス
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b6f36e8eedba5ee63a4f919d30a2cb20

感想:NHK宇宙白熱教室:第1回:宇宙のスケールを体感する! 〜空間・時間・物質〜
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/88f1e3ca688959fc0ace6e0999085521

番組告知:MIT白熱教室(物理学編)、これが物理学だ!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/66d25e29fc2c514f453a6b110150b811

番組告知:バークレー白熱教室〜大統領を目指す君のためのサイエンス
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/36bb14b19b9ca57d17fe60655a704615

ファインマンさんの流儀:ローレンス M.クラウス著、吉田三知世訳
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9ec9faa4bd78881bd1986bf7773cc390

超ひも理論を疑う:ローレンス M.クラウス
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d5aefd0f455c43b62365954cd2ae601c

ストッキングを使った極小曲面、最小面積曲面の実験

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「とねさんはついに一線を越えてしまったようだ。」という声が聞こえてきそうだが、そうではない。僕が興味をもったのはストッキングではなく極小曲面、最小面積曲面のほうだ。

話の発端は6年前にさかのぼる。「"5" で現れる不思議な形 (フェルマー点の話)」という記事でシャボン液の表面張力によってつくられる不思議な形のことを紹介した。この記事では2次元のシャボン液の膜による現象を扱ったわけだが、見える形としては膜を横から見た1次元の「線」の話である。

ネットで調べると立体的に作った針金の枠をシャボン液に浸して作る面白そうな実験がいくつか見つかった。なるほど、シャボン液の膜は表面張力によって3次元の空間の中でも面積が最小になるように張るのか。これは面白そうだ。僕もやってみたい。次のページを見れば、僕の気持がわかるだろう。

みんなの実験室14:**三角四角のしゃぼん玉?**
http://www2.tokai.or.jp/seed/seed/minnna14.htm

特に次の例には興味をひかれた。左がシャボン膜の面積が「最小」になっているケースで、右は面積が「極小」になっているケースだという。最小と極小の違いとは何だろうか?



2次元の場合だと6年前に僕の記事で図示した次のケースに対応する。この3次元版が上の左側の状況に対応するのだ。



でも同じことをやったのでは能がない。そして思いついたのがストッキングだ。シャボン液のときと同じ結果が得られるだろうか?それともまた違った結果になるのだろうか?

とはいえ自分で買う勇気はない。そこで「知り合い以上、友達未満」のマキちゃん(25歳の女子)に事情を説明してお願いした。そして2週間くらいたってから受け取ったのがセブンイレブンで買ったというベージュ色のストッキング。(記事トップの写真)

事情を説明するのはとても大切だ。さもなければ変態と勘違いされて「知り合い未満」に格下げになる。


念願のストッキングが手に入ったのでさっそく実験開始。

まずやってみたのがこれ。針金でできたハンガーを四角になるように折り曲げてにストッキングをかぶせてみた。



蝿たたきのようにストッキングは平面に張る。あらゆる方向に均等な張力が働いた結果、面積は最小になっていることもわかりやすい。

次に試してみたいのが乗馬で使う鞍のようなこの形。数学的には曲率(正しく言えば「ガウス曲率」)がマイナスになるケース。



曲率についてだが1次元、つまり曲線のときはわかりやすい。たとえば放物線を例にとって言えば、下に凸の放物線は曲率がプラス、上に凸の放物線は曲率がマイナス。そして曲率がゼロのときは「直線」になる。曲率の正負は放物線の方程式の係数 a の正負に一致するように決めておこう。



ところが2次元、つまり曲面の曲率はもう少し複雑だ。上の馬の鞍のような形は縦方向は上に凸で、横方向は下に凸。このとき曲率(ガウス曲率)はマイナスになる。ガウス曲率は縦方向の曲率と横方向の曲率の積(掛け算)で計算するのでマイナスxプラス=マイナスというのがその理由だ。

ガウス曲率 = 縦方向の曲率 x 横方向の曲率

そして針金をそのように曲げて作ってみたのが馬の鞍の形。針金を縦方向と横方向逆に曲げて作る。方向を変えてとりあえず3枚。







理由は後で述べるが、この曲面は最小面積になっているのだ。面の周囲が曲がった針金の枠に固定された条件で、面の内側のすべての点で張力が縦方向、横方向均等につりあっている状態である。

曲面の場合、曲率にはいくつかの種類がある。上で述べたガウス曲率の次に説明するのが「平均曲率」というものだ。平均曲率は縦方向の曲率と横方向の曲率の平均(縦曲率と横曲率を足して2で割る)で計算する。この乗馬の鞍の場合はプラスとマイナスがちょうど差し引きされてゼロになる。

平均曲率 = (縦方向の曲率 + 横方向の曲率)÷2

つまり、このような2つの曲面についてガウス曲率と平均曲率が計算できる。



赤線を縦方向、黒線を横方向とみなすことにすれば次のようになる。

左の曲面のガウス曲率=マイナスxマイナス=プラス
左の曲面の平均曲率 =(マイナス+マイナス)÷2=マイナス

右の曲面のガウス曲率=マイナスxプラス=マイナス
右の曲面の平均曲率 =(マイナス+プラス)÷2=ゼロ


そして次の「3次元ユークリッド空間内の極小曲面」というページを見ると冒頭には次のように書かれている。『平均曲率が曲面上のいたるところで0となる曲面を極小曲面と呼びます。 ワイヤーフレームに張る石けん膜は表面張力により面積が極小になります。 この面積極小という性質を変分法によって定式化すると、「面積が極小ならば平均曲率が0となる」ことが示されます。 』

3次元ユークリッド空間内の極小曲面
http://www.comp.tmu.ac.jp/tsakai/lectures/soron2010.html

僕が面白いと思うのは外との境界になる枠の形が決まれば、枠の中の曲面の形が1通りに決まるということだ。外枠を変形させれば曲面の形もそれに応じて変化する。

実をいうとこれは一般的にすべての次元について成り立っているのだ。たとえば次の写真は「光弾性を使った力の教材化」というページから借用した透明なスーパーボールなのだが、ボールの境界面(球の表面)に力を加えて内部の歪みを視覚化している。境界面に加える力の位置や方向、大きさに応じて、立体的な内部の圧力はその方向も含めてあらゆる場所で1通りに決まる。



外側の境界条件を決めれば内部すべての状況が決まってしまう。たとえ次元の数が違っていても数学的には同じことなのだ。ひもの境界は両方の端点であり、面の境界は外周であり、立体の境界はその表面全体である。4次元以上でも同じこと。そこにはあらゆる次元で成り立つ1つの定理が存在しているのだ。


ともかく乗馬の鞍形にストッキングを張ると面積は「極小」になっているわけだな。それじゃ「最小」と「極小」はどうやって区別すればよいのだろう?

疑問はそのままにしておいて、次の形で試してみることにした。CDやDVDを50枚まとめて買うと、このような物体を手に入れることができる。



これにストッキングをかぶせれば、面積が最小か極小になると思われるから、円錐のような形があらわれるだろうか?なぜなら柱のてっぺんと下の円周を結ぶ最短距離は直線になり、それは円錐の側面の直線(これを母線と呼んでいる)になりそうだから。



ところがやってみると次のようになった。容易に想像できた形なのだが、実際にやってみると美しい曲面があらわれたので、しばらく鑑賞してしまった。そしてこの形はシャボン膜では容易に作れない。



真横から見ると、斜面には何かの数式であらわせそうな曲線があらわれている。



はたしてこれは面積最小になっているのだろうか?それとも極小?理由はさらに後に持ち越すが、これで面積最小になっているのだ。

でも、もしかしたらストッキングをもっと強く張って、つまり下のほうを強く絞ったら形は円錐に近づくのだろうか?そして最大限強く張ったらほとんど円錐になるのだろうか?

やってみたのだが、形はほとんど変わらなかった。相変わらず「富士山型」の美しい曲面のままだった。この富士山型も平均曲率はゼロなので「極小曲面」になっている。



これは数学的に何か名前のついている曲面なのだろうか?


そして次に気になったのがこのような鼓(つづみ)の形。さきほどの「3次元ユークリッド空間内の極小曲面」というページによるとこれも平均曲率はゼロだから極小曲面のひとつで「懸垂面」という名前がつけられている。



この形をストッキングで作るためには上と下で同じ半径の円盤を用意しなければならない。


しばらく考えた末、先日買った「ちびくろちゃん 2号炊き」のフタがちょうどよい具合に使えることに気がついた。



そして出来上がったのがこの曲面。円柱にはならなかった。ストッキングを強く張ってもこの曲面はくずれずに安定している。極小曲面の完成だ。




そして僕が次に見つけたのがこのPDF文書。

曲面の変分問題(極小曲面論入門)
http://www.jst.go.jp/crest/math/ja/suugakujuku/archive/text/3_Koiso_text.pdf

数式がたくさん書いてあり、とても難しいのだが12ページ目にこのような図を発見。



そうか、「極小曲面」には安定なものと不安定なものがあるわけか。そしてPDF文書内のこの図のすぐ上に「物理的に実現される極小曲面は安定なものだけであると言ってよい。したがって、極小曲面のうちで安定なものとそうでない(不安定な) ものとを区別することは自然である。」という説明がある。

つまり数学的には極小曲面はいくつもあるが、そのうち物理現象として実現するのはただ1つで最小面積曲面になっているというわけか。そうすると、これまでストッキングを使って作った曲面は、ぜんぶ物理的に安定したものだから面積が最小になっているということになる。集合の包含関係で示せば次のようになる。

(数学的な)極小面積曲面 ⊃ (物理的な)最小面積曲面


「懸垂」というのがキーワードだ。ひもや鎖をだらんと垂らしてできる曲線のことを「懸垂線」と呼んでいる。



懸垂線を関数として求め、そのグラフを描いてみたい。これは「変分法」というのを使って解く問題で、次のページのようにして求めることができる。

懸垂線(変分法を使って解く)
http://analytical-mechanics.matrix.jp/catenary.html

その結果、次のように懸垂線の数式とグラフを得ることができた。



上の変分法のページには懸垂面の図が描かれていることにお気づきだったろうか? そう、懸垂線を中心軸のまわりに回転させると懸垂面ができあがるのだ。厳密なことを言えば懸垂面についても変分法を使って極小曲面を導かなければいけないわけだが、難度が高すぎるので今回は省略させていただく。

ところで「富士山型」の最小面積曲面なのだが、この上に同じ富士山を逆さまにしてつなげるとこのような形になる。



実はこれも懸垂面なのだ。中心が極端に絞られているとはいえ、物理的には安定している。富士山型の最小面積曲面はこの形の下半分だったというわけ。


ひもや鎖を垂らしてできる懸垂線は、自分自身の重さでそのような形に垂れるわけだが、懸垂面のほうは面の表面張力によってそのような形の面が形成される。両者の力学的メカニズムは全く違うのに同じタイプの数式であらわされる曲線が出てくるというのはとても興味深い。


ほかにもいくつかの形で試してみた。以下はすべて最小面積曲面である。数学的な曲面の美を堪能していただきたい。


















この最後の例なのだが、みなさんはお気づきだろうか? 傘の布地は骨と骨の間が少しへこんでいる。これはデザインのためにそういう形にしているのではない。これも最小面積曲面になっているからなのだ。




極小曲面で「面積が極小ならば平均曲率が0となる」ということの証明は、昨年T_NAKAさんがブログ記事をお書きになっているので(理数系大学生の方は)お読みになっていただきたい。

いろいろな曲面(2)_ b )極小曲面
http://teenaka.at.webry.info/201308/article_21.html


曲線や曲面の数学は曲線論・曲面論と呼ばれていて、微分幾何学の分野のひとつだ。微分幾何学を創始したのはアイザック・ニュートンで、曲面論は1800年代から大数学者ガウスをはじめ、多くの数学者によって研究された。

ガウスの弟子のひとりであるレオンハルト・リーマンは後に曲面論を多次元(N次元)に一般化させ、1867年に「リーマン幾何学」を発表した。そしておよそ50年後、リーマンの曲がった多次元空間の幾何学を4次元の曲がった時空に使うことでアインシュタインは一般相対性理論を発表することができたのだ。

幾何学の基礎をなす仮説について:ベルンハルト・リーマン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/22be602fe4cee385a9939c0869c511eb

時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ffc643a688ce45dec7460d107fe1392e

一般相対性理論に挑戦しよう!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ea7ad9292ce01ad4abbbc8c98f3303d0


曲線や曲面の数学的性質について学びたい方は、次の名著をお勧めしたい。(ただし高校生には難しすぎるので無理。)第5章が極小曲面の解説にあてられている。

曲線と曲面の微分幾何(増補版): 小林昭七著」(紹介記事



中学生や高校生にとって夏休みはもうすぐだ。自由研究にストッキングを使ったこの実験をしてみようかと思った人もいるかもしれない。

でもそれはやめたほうがよい。なぜなら「極小曲面」や「最小面積曲面」という日常的に使わない数学用語は友達や兄弟には覚えにくい言葉なので、あなたの知らないうちに抜け落ちてしまい「〜クンはストッキングの研究をしているようだ。」とか「〜クンはストッキングをたくさん集めているらしい。」という感じで噂が広まっていくことだろうから。

いちど貼られた変態のレッテルをはがすのは容易なことではない。

そのようなリスクを覚悟の上で実験をしてみたいという人は、こちらからどうぞ。

きれいに魅せるオールスルーサポートパンティストッキング(パンスト)3足セット



今回の話のオチはこの写真。ストッキングをかぶせた多数のマネキン。これらも最小面積曲面になっていて、このページから拝借させていただいた。




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感想:NHK宇宙白熱教室:第3回:宇宙膨張 驚異の発見 〜ダークマターへの道のり〜

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先日「番組告知:NHK宇宙白熱教室(ローレンス・クラウス教授)」という記事で告知した4回シリーズ番組の3回目が昨夜放送された。(番組の音声を文字にしたものはこのページで読める。)

今回の講座も「宇宙が始まる前には何があったのか?:ローレンス・クラウス」(Kindle版)(紹介記事)には含まれていない内容だ。

内容は予想外。最初の3分の2はまるで高校物理の授業だった。受講者は必ずしも高校時代に物理学を学んだとは限らないのだからアルファベットの変数を使った数式がたくさんでてきたので理解できなかった人が多かったことだろう。

「主な内容」、「解説」、「良かった点、素晴らしいと思ったこと」、「改善したほうがよいと思ったこと」、「その他、気がついたこと」というくくりで感想をまとめておこう。


主な内容

このような流れで講義は進んだ。

- 宇宙の過去に何があったか、その未来が悲惨であることを知ってもらいたい。
- 私たちの宇宙観は宇宙が膨張していることが1929年に発見され大きく変わった。
- それまで宇宙は変化せず、静かな存在だと信じられていた。
- 膨張するということはつまり宇宙には始まりがあることを意味している。
- そして宇宙はどのようにして終わるのかという疑問もでてきた。
- ハッブル、たくさんの銀河が私たちの銀河系より外にあることを発見。
- 星雲は実は銀河系の外の別の銀河であることもわかった。
- それらの銀河は私たちから遠ざかっている。
- アンドロメダ銀河は重力の作用で銀河系に近づいてきている。
- 距離と遠ざかる速度は比例、つまりハッブルの法則が発表された。
- 比例定数をハッブル定数と呼んでいる。
- 自分たちの銀河系が中心に見えるが、それにまどわされるな。実はそうではない。
- 宇宙が2次元だとしてハッブルの法則を説明。
- どの銀河を中心に考えても膨張のしかたは同じに見える。
- どのようにハッブルの法則を発見したのか?
- それには銀河の速度と距離を測定が必要。
- 速度は光のドップラー効果で光のスペクトルの変化で測定した。赤方偏移。
- 距離は星の明るさと距離の関係から計算した。明るさは距離の2乗に反比例して減少する。
- 標準光源を探すのは難しい。ハッブルの時代には見つかっていなかった。
- ハッブルの作った距離と速度のグラフは誤差が大きい。それでも比例関係をあてはめたことが偉大。
- 現在は標準光源として使える超新星爆発がある。普通の星の100億倍の明るさ。数ヶ月間光る。
- 超新星爆発が何度もおこることによって炭素や窒素など通常の物質の原子ができる。
- ビッグバンで作られたのは水素とヘリウムだけ。
- だから君たちは真の意味で宇宙とつながっている。
- Ia型超新星は理想的な標準光源、銀河と同じくらい明るく輝く
- 現在のハッブルの図。直線上にきれいにならび、ハッブル定数は誤差数パーセント。
- 宇宙の膨張は宇宙の始まりがあることを意味している。
- 宇宙の特徴をあらわすものは、ハッブル定数。100Km/s/Mpc。正確には70Km/s/Mpc
- ハッブル定数から計算できることはたくさんある。
- 1Mpcは100万光年。その距離だと速度は100Km/s。
- 次元解析を使って宇宙の年齢は100億年と計算。実際は137億年。
- 宇宙の膨張は永遠に続くのか、それとも収縮に転じるかは謎だった。
- それを解明するためには宇宙全体のエネルギーの理解が大切
- エネルギーとは?とらえにくいもので、人類がそれを発見するには長い時間が必要だった。
- 19世紀にヤングが定義を与えた。エネルギーの変化は物体に与えた仕事に等しい。
- 仕事とは加えた力と物体が移動した距離の積。
- F=maと組み合わせると、運動エネルギーが導かれる。
- 地上における位置エネルギーを説明。高さに比例。重力に逆らって上に物体を移動させるときの仕事量。
- 宇宙における位置エネルギーは万有引力の法則を使って導く。
- 位置エネルギーの基準(ゼロ)は無限に遠い場所にとり、近づくにつれて減るとする。
- つまり物体の位置エネルギーは常にマイナス。
- エネルギーは運動エネルギーと位置エネルギーの和。エネルギーは保存される。
- エネルギー保存はネーターの定理。物理法則が時間がたっても変わらないならば保存する量がある。
- エネルギーの和がゼロより大きいと、投げ上げた物体は永遠に遠ざかる。脱出速度。
- ハッブルのイラストで、遠ざかっている銀河ひとつで計算する。エネルギーの総量がどうなっているかで未来がわかる。
- 1つがわかれば他の銀河も同じ
- 他の銀河すべての質量Mがわかれば、それが計算できる。
- 宇宙の重さをはかる方法は?
- ティコ・ブラーエによる超新星の発見により島を与えられた。島で惑星の観測を20年間した。
- ケプラーが20年間分析し、公転速度の2乗は距離に反比例する。ケプラーの法則。
- ケプラーの法則なしに万有引力の法則は発見されなかった。重力の発見。
- 加速度は速度の変化と方向の変化。
- 重力定数の値はキャベンディッシュにより測定。とても弱い力。ニュートンから100年後。
- 論文のタイトルは「地球の重さを量る」。
- 同じ万有引力の法則の式を使って、太陽の重さを計算
- 万有引力の法則の式を使って銀河の重さを計算したら、実際の観測と大きく違っていた。なぜ?
- 不思議なことにすべての恒星の公転速度が同じだった。ダークマターの発見につながった。


解説

今回の講義はダークマターがテーマなので、僕はてっきりCOBEやWMAPによる宇宙マイクロ波背景放射の話あたりから始まるのかと思っていた。そして始まったのは宇宙が膨張するという話、ハッブルの法則の説明である。ここまではよかった。ハッブルの法則は高校の「地学基礎」で学ぶ内容だ。

NHK高校講座 地学基礎 「宇宙のはじまり」
http://www.nhk.or.jp/kokokoza/tv/chigakukiso/archive/chapter001.html

ハッブルの法則を使ってハッブル定数の値が計算され、その値から宇宙の年齢まで計算できてしまうというのに驚いた方もいると思う。第2回の講義で解説した「物事を大まかにとらえる」とか「10のべき乗の計算」、「次元解析を使った計算」はここで活かされる。

星までの距離を精確に計算するため、宇宙には「標準光源」として使える超新星があることを不思議に思った方もいるだろう。これは1979年に発表されたことでウィキペディアの「Ia型超新星」という項目に詳しく書かれている。「この種類の超新星は、白色矮星の質量が均一であるため、ピークの明るさが一定している。」というのが手身近かな説明だ。「明るさが一定している=どのIa型超新星でも明るさは同じ=本来の明るさ」ということなのだ。

しかしここからが予想外の展開だった。宇宙の膨張を理解するために重要なのは宇宙のエネルギーだという話につながったからだ。そしてエネルギーとは何かという流れから高校物理の力学の範囲の説明が始まる。

- 「仕事」の定義:物体に加えた仕事=物体に与えた力x移動距離
- 仕事とエネルギーの関係、F=maを追加して運動エネルギーを導く
- 地上での位置エネルギー、宇宙での位置エネルギー
- エネルギー保存則

「宇宙での位置エネルギー」以外はすべて高校の「物理基礎」の2学期で学ぶ内容だ。無限遠での位置エネルギーをゼロと置いて計算する「宇宙での位置エネルギー」は高校では学ばない内容である。

以下は「NHK高校講座 物理基礎」へのリンク:

仕事を測る 〜仕事の原理と仕事率〜
http://www.nhk.or.jp/kokokoza/tv/butsurikiso/archive/chapter016.html

位置によって決まるエネルギー 〜位置エネルギー〜
http://www.nhk.or.jp/kokokoza/tv/butsurikiso/archive/chapter017.html

動いている物体のもつエネルギー 〜運動エネルギー〜
http://www.nhk.or.jp/kokokoza/tv/butsurikiso/archive/chapter018.html

なくならないエネルギー 〜力学的エネルギーの保存〜
http://www.nhk.or.jp/kokokoza/tv/butsurikiso/archive/chapter019.html


その後、話題は宇宙のエネルギーへと進む。地球から物体を宇宙に投げ上げたとき、脱出速度を超えた初速度を与えると無限遠点での位置エネルギーはプラスになる。宇宙のすべての質量が求められれば鵜宇宙の全エネルギーがプラスかマイナスかがわかり、遠ざかっている銀河が永遠に遠ざかるのか、それともある時点で戻り始めるのかを計算することができる。この考え方によって宇宙の未来が決まってくる。これはダークエネルギー(暗黒エネルギー)の発見につながっていく話だ。

ここで解説されるのがニュートンによる「万有引力の法則」とケプラーによる「ケプラーの法則」である。年代的にはケプラーのほうがニュートンよりも前で、ケプラーの法則が発見されたおかげでニュートンは万有引力の法則を導くことができたことが強調されていた。

「ケプラーの法則」と「万有引力の法則」は高校の「物理」で学ぶ内容だ。天文学なので「地学」だと僕は勘違いしていた。現在の課程で高校物理は「物理基礎」と「物理」に分かれていて、旧課程ではそれぞれ「物理I」と「物理II」に対応している。だから「ケプラーの法則」と「万有引力の法則」の数式を高校で学んだ人はかなり限られていることに気が付いた。それは今も昔も同じことである。

高校物理(ケプラーの法則)
http://www.wakariyasui.sakura.ne.jp/b2/53/5341kepura-.html

高校物理(万有引力の法則)
http://www.wakariyasui.sakura.ne.jp/b2/53/5342bannyuu.html

そしてこの講座では「ケプラーの法則」そのものは使われず、ケプラーが発見した「惑星の速度の2乗は太陽からの距離の逆数に比例する。」という数式だった。これは「ケプラーの第2法則(面積速度一定の法則)」から導かれる数式だ。

ケプラーの法則は「ケプラー3部作」と呼ばれている本を通じて発表された。これら3冊の本はラテン語で書かれており、近年日本語に翻訳されている。次の記事でこの3冊を紹介しているのでお読みいただきたい。

宇宙の神秘 新装版:ヨハネス・ケプラー
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f6a05c374c0716ad409f1ee2c0cef0f1

また「万有引力の法則」はニュートンが「プリンキピア(自然哲学の数学的諸原理)」という本で発表した。この書物もラテン語で書かれている。近代科学はこの本によって始まったと言ってよい。この本やその日本語版については次の記事で紹介しているので、こちらもお読みいただきたい。

日本語版「プリンキピア」が背負った不幸
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bff5ce90fca6b8b13d263d0ce6fc134e

あと「万有引力の法則」については、次の3つの記事が参考になるだろう。

「理科復活プロジェクト」始動!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c08cbe47b0a5ce8c64549d913800cb0a

僕が物理と数学にハマリだしたきっかけ - 重心と質点の話
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f78dd46bca9c95beb847bf60b9168fa3

江戸で物理学を説く: ニュートン力学 (其之壱)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/95e1281e89e793c094a38569b07431d2


結局なぜここで「万有引力の法則」や「ケプラーの法則」の話をしたのかが重要なのだ。この法則を使って地球だけでなく太陽や銀河系の質量を求めることができるからだ。そして銀河系の場合、銀河の真ん中を中心としてたくさんの恒星が公転運動をしているわけだが、「ケプラーの法則」を使って公転周期も求めることができる。そして実際にいくつかの恒星を観測して速度を見ると、計算したのとは全く違う結果がでてきたのだ。これはとても大きな発見であり、ダークマター(暗黒物質)の発見へとつながっていくのである。

確かに「ダークマターへの道のり」には違いなかった。受講生には(古典物理学だとはいえ)数式を使って解明していく理論物理学、宇宙物理学の雰囲気が少しは伝わったと僕は思う。


良かった点、素晴らしいと思ったこと

- ハッブルの法則が発見される1929年より前、宇宙は銀河系までしか認知されていなかったというのは、一般市民にはあまり知られていないことで、このことを紹介したのはよかったと思う。

- 宇宙が膨張していることの発見、すなわちハッブルの法則のもつ大きな意義がとてもわかりやすく説明されていた。それは宇宙に始まりがあるということの発見、宇宙の未来はどうなるかという新たな謎が誕生したことである。

- 私たちの体を作っている原子のほとんどが超新星爆発によって作られたこと、私たちは真の意味で宇宙とつながっているという事実は新鮮な驚きだった。

- 仕事やエネルギーなど、日常生活にかかわる物理学が宇宙全体というとてつもないスケールの謎を解明する物理学に直接役立っていることが紹介されていたこと。物理学で学ぶ事柄に無駄なものはひとつもないのだ。

- 「物理法則が時間がたっても変わらないならば保存する量がある。」という深淵でとても重要な「ネーターの定理」が紹介されていたこと。

- 高校物理の範囲だけでも、宇宙の謎に挑戦できることが具体的に紹介されていたこと。

- キャベンディッシュの実験が紹介されていたこと。

キャベンディッシュの実験によって万有引力の法則の中の「重力定数」が測定され、地球や太陽、銀河系の質量が計算できるようになったことが説明されていた。キャベンディッシュの実験が行われたのはニュートンの死から70年後のことだ。すなわちニュートンは地球や太陽の質量は計算できていなかったわけである。

キャベンディッシュの地球の重さ測定実験(1798年)
http://fnorio.com/0006Chavendish/Chavendish.htm


その他、気がついたこと、生じた疑問


- 第1回、第2回の講義を聴講していた赤シャツの少年がいなかった。

第1回の放送を見ると講義が始まったのは夜8時40分くらいで、今回の講義が始まったときも壁の時計は8時40分を指していた。だから第1回と今回は別々の日に行われているわけで、赤シャツの少年だけでなく受講生もだいぶ入れ替わっていたのだと思う。今回の講義で位置エネルギーの説明のために頭の上にアタッシュケースを落下させられそうになった(若くて美人の)女性も第1回、第2回の講義でその席にはいなかった。あとツイッターで何人かの人がつぶやいていたように、3回の講義を通じて年配の受講者が多い。このような市民向け物理講座に参加する受講生の年齢構成は日本の朝日カルチャーセンターの物理系講座と同じような感じだ。ただし、女性が占める割合は宇宙白熱教室のほうが2倍くらい多いと思った。赤シャツ少年はなぜ来なくなったのだろう?少し気になった。(余計なお世話か。)


- アルファベットを使った数式は受講者にとっては難しすぎたかもしれない。

これは一般市民向けの講座だ。アルファベットを使った数式で説明される内容を理解できなかった受講者もたくさんいたと思う。ハッブルの法則までは理解できても、エネルギーや仕事の話から始まる高校物理さながらの講義は一般市民には講義のペースが速すぎたと思う。NHKのテレビ番組では画面の右下に数式がきれいに表示されていたが、受講者が見ていたのは殴り書きされたホワイトボードの板書である。

一般市民にとって万有引力の法則とは木からリンゴが落ちることであり、ケプラーの法則とは惑星の運動の法則というくらいの「知識」なのだと僕は思うのだ。


- 宇宙の年齢はもっと簡単に計算できる。次元解析の説明は必要だったか?

ハッブル定数に対して「次元解析」の手法を使うことで宇宙の年齢を約100億年だと計算していたが、次元解析を使わなくても「距離=速度×時間」という公式だけで宇宙の年齢は計算できる。次元解析は確かに物理学ではとても重要で、よく使われるものだが、あえてこの講座で持ち出さなくてもすむ内容だ。第2回の講義で次元解析を説明しなければ、そのための時間をもっと他のことの説明に使えるのにと僕は思った。


- NHKオンデマンドで公開されないのはなぜ?

宇宙白熱教室だけでなく「白熱教室シリーズ」はNHKオンデマンドには掲載されていない。なぜだろうか?アメリカのテレビ局との契約によって非公開扱いなのだろうか?


番組関連書籍:

宇宙が始まる前には何があったのか?:ローレンス・クラウス」(Kindle版)(紹介記事
A Universe from Nothing: Lawrence M. Krauss」(Kindle版

 

クラウス教授の著書をAmazonで検索する: 単行本(日本語) 単行本(英語) Kindle版(英語)


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参考書籍:

インフレーション宇宙論―ビッグバンの前に何が起こったのか:佐藤勝彦
宇宙,無からの創生―138億年の仮説はほんとうか(Newton別冊)

 


関連記事:

番組告知:NHK宇宙白熱教室(ローレンス・クラウス教授)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/fdcf3a5173e9f55fc37c9b8d85f4128b

宇宙が始まる前には何があったのか?: ローレンス・クラウス
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b6f36e8eedba5ee63a4f919d30a2cb20

感想:NHK宇宙白熱教室:第1回:宇宙のスケールを体感する! 〜空間・時間・物質〜
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/88f1e3ca688959fc0ace6e0999085521

感想:NHK宇宙白熱教室:第2回:物理学者の秘密のお仕事 〜物事を大ざっぱに捉える!〜
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cd01a502be3d5f87057790cc558c9d9a

番組告知:MIT白熱教室(物理学編)、これが物理学だ!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/66d25e29fc2c514f453a6b110150b811

番組告知:バークレー白熱教室〜大統領を目指す君のためのサイエンス
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/36bb14b19b9ca57d17fe60655a704615

ファインマンさんの流儀:ローレンス M.クラウス著、吉田三知世訳
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9ec9faa4bd78881bd1986bf7773cc390

超ひも理論を疑う:ローレンス M.クラウス
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d5aefd0f455c43b62365954cd2ae601c

NHK高校講座の紹介

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NHK高校講座

NHK高校講座がすごいことになっている。ほとんどの科目にAKB48級のアイドルが生徒役で出演しているし、スタジオのデザインはカラフルで、科目によってはまるで幼児番組のようだ。

宇宙白熱教室の感想記事を書いていてそのことに気付いてびっくりした。昔のお堅い感じの番組を知っている僕としてはジェネレーションギャップを強く感じた日曜日になった。僕は化学と生物、そして世界史と日本史は苦手だから、これで学んでみることにした。

この番組をあえて僕が紹介する必要はないのだが、この状況を見たらつい記事を書いてしまった。。。

NHK高校講座
http://www.nhk.or.jp/kokokoza/

1年分の授業をパソコンやスマートフォンから無料で見れるし、講義の内容もPDFでダウンロードできる。理科離れの進行を食い止められるのだったら、こういう趣向もありだと納得した。講義は教科書に沿っていて教え方もしっかりしているのだから。とてもよい教材だと思う。


理数系科目から順に写真で紹介しておこう。写真をクリックするとその科目のページが開く。

物理基礎 - 黒川智花さん?


化学基礎 - なんと3人!


生物基礎


地学基礎 - 吉川ひなのさん?


数学I


科学と人間生活 - 佐野量子さん?


社会と情報 - .rbが好きってRubyistだ!!


国語表現 - 言葉使いはアイドルからではなくプロの女優さんから教えてもらうのがいちばんだ。そのうえ中江さんは脚本家でもある。やわらかな雰囲気で好感がもてる。


地理


世界史 - 西内まりやさん?


日本史 - なんとAKB48のメンバーが3人。そして番組進行役は桃太郎侍高橋秀樹さんという超超豪華キャスティングである。






新科目:ロンリのちから - 番組はドラマ仕立てだ。



今後、NHK Eテレのこの番組や語学講座はどうなっていくのだろうか?アイドル化は行き着くところまで行っているわけだから。180度転換してジャニーズ系の男子中心になることはないだろう。10年後、20年後の番組のスタイルは想像もつかない。


ところでNHK高校講座はいつ頃からアイドル路線になったのだろう?

調べたところ、すでに3年前のアナログテレビ時代には始まっていたようだ。ただし、この頃はまだスタジオの雰囲気が落ち着いている。

寺田ちひろ「高校講座 世界史」- 2011年


香坂夏希「高校講座 地理」- 2011年



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ブログ紹介: にわとりおかんの極上日和

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このブログを開く
今日はこのところ時々訪れて「癒し」をいただいている科学ブログを紹介させていただこう。

「にわとりおかんの極上日和」というブログ。

9歳の息子さん(名前は「そーさん」という)をもつお母さんが書いている「子育て絵日記」ブログである。FC2ブログランキングの中で「自然科学ランキング」にエントリーされているのを見つけたのが数ヶ月前のこと。

「ああ、このイラストの感じとてもいいな〜。」

一瞬で気に入った。何度かイラストに挑戦して挫けた経験がある僕にとって絵日記ブログは羨望の的。

お母さんと息子さんはニワトリとヒヨコとして登場する。どの顔も表情豊かで愛らしい。最初プロの漫画家さんが書いているのかと思ったけれど、よく読むとそうではないようだ。

科学ブログといってもこういうスタイルもあるわけか。なるほどー。
でも、この絵のレベルは並大抵じゃないよ。本にしたら絶対人気でると思う。

にわとりおかんさんの漫画を読んでいると、むかし流行っていた「ピングー(Pingu)」のことを思い出した。ああいうあったかい感じがよく似ている。


息子さんとの生活の中で科学を一緒に楽しんでいるのがよくわかる。子供のための科学教室やイベントにもちょくちょく参加し、ご自身もサイエンスインストラクターをなさっているとか。

「こういうお母さんがもっともっと増えればいいのになぁ。」

記事を読むたびにそう思う。自然や科学に対する興味って、こうやって子供のうちから体験するうちに種が植え付けられるのだ。何より自然体でそれができているのが素晴らしい。

子供の成長を写真やビデオに残す親はたくさんいるけど、このように絵日記ブログという形で記録できる人は稀だ。記事のひとつひとつがご家族にとってかけがえのない「宝物」になることだろう。


ついこの間、「NHK宇宙白熱教室」のことをコメント欄からお知らせしてみた。そしたら、さっそく記事にしていただいているのを見てびっくり。



続きは「こちら」からどうぞ!


あと最近の記事で僕のお気に入りは次の3つ。

デラウェアの季節
http://niwatoriokan.blog97.fc2.com/blog-entry-2529.html

青春
http://niwatoriokan.blog97.fc2.com/blog-entry-2519.html

らくやきマーカー
http://niwatoriokan.blog97.fc2.com/blog-entry-2515.html


ブログの更新は精力的に「毎日更新」!ブログを書いている人はわかると思うが、これはすごいことなのだ。よくもまあネタ切れしないものだと感心してしまう。

ブログのタイトルやプロフィール欄だけでは科学ブログだとすぐにはわからないから、このブログをご存知ない方も多いことだろう。だから応援してほしいという気持ちで文章を書き始めたのだが、書いているうちに全く気が変わってきた。今は次のように言いたい。

このブログすごく面白いから、見なきゃぜったい損するよ!

にわとりおかんの極上日和
http://niwatoriokan.blog97.fc2.com/


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翌日に追記:

さっそくこの記事を紹介していただいたようです。



続きは「こちら」からどうぞ!


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感想:NHK宇宙白熱教室:第4回:そしてダークエネルギーの発見 〜私たちのみじめな最後〜

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番組ホームページ

先日「番組告知:NHK宇宙白熱教室(ローレンス・クラウス教授)」という記事で告知した4回シリーズ番組の4回目が昨夜放送された。(番組の音声を文字にしたものはこのページで読める。)

今回の講座の内容は数式を使った説明以外は「宇宙が始まる前には何があったのか?:ローレンス・クラウス」(Kindle版)(紹介記事)に沿うものだった。

高校で物理や数学が苦手だった方にとっては難しい数式があいかわらずたくさんでてきたが、そのような人にとっても話の筋が理解できる見せ方をしていたのがよかった。この番組について次のようにツイートされた方がいるのが目にとまった。まさにそのとおりだと思う。

「宇宙白熱教室見終わった。力学的エネルギーとか万有引力の法則とかケプラーの法則とか高校物理でやる話がこんなにもスケールの大きい話だとは・・・公転周期が同じだからケプラーの法則は成り立たなくなるとか面白すぎるし、話してた人の最後のまとめ方うますぎて涙でそうになりました。」

いつものように「主な内容」、「解説」、「良かった点、素晴らしいと思ったこと」、「改善したほうがよいと思ったこと」、「その他、気がついたこと」というくくりで感想をまとめておこう。


主な内容

このような流れで講義は進んだ。

- 単純な論理の積み重ねによって大発見がなされた。ガリレオ、ニュートンの発見の積み重ねである。
- グラフの解説。銀河系の外側を回る天体の公転速度はケプラーの法則に反して一定だった。それは何を意味するのか?
- 銀河系の外側には分子雲や球状星団、大マゼラン雲、小マゼラン雲が回っている。
- 重力の法則がスケールによって異なるから?その可能性は否定された。
- 質量が距離に比例して増えれば公転速度は一定になる。
- 銀河系の外側に目で見える通常の物質の10倍の物質が存在することになってしまう。
- 女性天文学者ヴェラ・ルービン(1928〜)による発見。
- 彼女は他の天体(高温のガスなど)の公転速度が一定だということを発見。
- 測定したすべての銀河で公転速度は一定だった。
- 未知の物質の存在が明らかになった。ダークマター(暗黒物質)の発見。
- なぜ未知の素粒子であるかわかったのか?
- 銀河団の質量の測定が鍵だった。
- 1936年のアインシュタインの論文(マンドルによる依頼)。
- 1919年にエディントンの観測により光が重力で曲がることが観測された。
- これは重力レンズ効果を意味する。一般相対性理論が根拠。
- アインシュタインはこの論文の重要性は理解していなかった。
- 銀河団による重力レンズ効果の観測による実証。ハッブル望遠鏡による。
- 重力レンズ効果によって青い光は銀河団の50億年先の1つの天体が複数に見える。
- これによって銀河団の質量分布を計算することができる。
- 質量分布の尖っているところは銀河の質量。
- そのまわりに10倍の質量がまとわりついていることがわかった。
- 銀河と銀河の間には全体で銀河の質量- の40倍もの質量が分布していることが計算された。
- 宇宙の質量のほとんどは目に見えないということがあらためて実証された。
- ダークマターの重力に引き寄せられて目に見える通常の物質(銀河)が存在している。
- これで通常の物質とダークマターをあわせた質量を測ることができた。
- ダークマターは未知の素粒子だとわかるのは、次元解析でわかる陽子と中性子の量より10倍たくさんあるから。
- ダークマターは宇宙だけでなく、私たちの周囲にもある。
- 宇宙の未来を探るため、宇宙のエネルギーを調べたことを思い出してほしい。
- 重力レンズなどによる宇宙全体の質量Mの測定をした結果、宇宙の端の銀河Aを引き止めるのに必要な量の30%しかなかった。(質量Mには通常物質とダークマターが含まれる。)
- これは運動エネルギーが位置エネルギーの3倍大きいことを意味する。つまり宇宙全体のエネルギーはプラスになる。
- これは宇宙は永遠に膨張することを意味する。でもこれは間違いであることがわかるようになる。
- そのために一般相対性理論を導き出そう。計算が始まる。(後述の解説を参照)
- アインシュタインの方程式は宇宙の膨張と密度の関係を教えてくれる。
- Κ(カッパ)は宇宙の曲率をあらわす。
- Κがマイナスなら開いた宇宙、宇宙のエネルギーはプラス。宇宙の膨張は続く。
- Κがプラスなら閉じた宇宙、宇宙のエネルギーはマイナス。宇宙は収縮に転じる。
- Κがゼロなら平坦な宇宙、宇宙のエネルギーはゼロ。宇宙は最も遅く膨張する。
- それなら宇宙のエネルギーの符号を調べるかわりに宇宙の曲率を測ればよいのではないか!
- 宇宙の曲率を直接測ることは、ここ10年ほどでできるようになった。
- 宇宙マイクロ波背景放射を観測すればよい。
- 宇宙誕生から38万年前の宇宙から発せられる電磁波。
- 宇宙が10万歳のとき宇宙の温度は3000度あった。宇宙はプラズマ状態で光を通さない不透明。
- 光(電磁波)で見える限界が38万歳。そこが見える宇宙と見えない宇宙の境目(最終散乱面)である。
- いまその場所は絶対温度で3度。宇宙マイクロ波背景放射は2人の学者によって偶然発見されノーベル賞につながった。
- アナログテレビの放送終了後のノイズ画面の1%は宇宙マイクロ波背景放射によるもの。
- 1997年のBOOMERANG実験により宇宙マイクロ波背景放射が観測された。
- 観測結果の色の濃い部分と薄い部分が温度の高低をあらわし、その差は1万分の1程度。
- 温度の高低のムラは宇宙誕生時の物質の密度のムラに対応している。
- この物質のムラが後に銀河などを形成する核となる。
- このムラの大きさの見え方が宇宙の曲率によって変わる。
- これによって宇宙の曲率は1%の誤差でゼロだということがわかった。
- 運動エネルギーの和が位置エネルギーの和とつりあっている。
- これは宇宙は無から始まったということを示唆する最初の証拠。
- 宇宙を作るためには何のエネルギーも必要なかったということかもしれない。
- 通常の物質とダークマターの総量は宇宙の曲率をゼロにするのに必要な量の30%しかない。
- だとすると残り70%の正体は?
- それは銀河の無い場所、つまり空っぽの空間に潜んでいる。
- 1998年、2つのグループが宇宙の物質がどのくらいあるか知るために宇宙の膨張速度の微妙な減速度合いを測定していた。
- 予測では宇宙の物質により加速は減速するはずだったが、これに反して加速していることがわかった。(グラフで説明)
- 一般相対性理論は重力が斥力になることも導く。エネルギーに満ちた空間では斥力が働く。
- これが宇宙の加速膨張の原因である。
- 宇宙の曲率をゼロにするために空間に満ちているべき宇宙のエネルギーの量は残りの70%であり、これはダークエネルギーであることがわかった。
- これで宇宙の究極のミステリーにたどりついた。
- 通常の物質は4%、ダークマターは23%、ダークエネルギーは73%。
- ダークエネルギーの正体はまったく分かっていない。
- ダークエネルギーは宇宙が誕生した瞬間の空間と時間の性質と密接に結びついている。
- ダークエネルギーにより加速膨張する宇宙の未来とは?
- ジョージ・オーウェルが最初に宇宙の未来に気がつく。
- ダークエネルギーの密度が一定なら宇宙は指数関数的に加速膨張する。
- 物体が180億光年以上離れると、光より速く離れていく。
- 空間は光より速く遠ざかることが可能。これは相対性理論に矛盾しない。
- ダークエネルギーは重力の量子論と関係があるが、重力の量子論はまだわかっていない。
- かつて観測可能だった宇宙は現在より広かった。時間が経つほど観測できるものは減っていく。
- 2兆年後には宇宙のほとんどは見えなくなってしまう。
- 2兆年後の科学者は、たったひとつの巨大な銀河しか観測することができない。
- 銀河の膨張すら気がつくことができなくなってしまう。
- 私たちは特別な時代に生きている。もしかすると2兆年後にはまた別のものが見えるようになるかもしれない。
- さらに未来の宇宙では、銀河の星はすべて燃え尽きてしまい、何も観測できなくなる。
- 自分の存在が取るに足らないと知れば、人生を自分で切り開こうとなる。
- 私たちは宇宙の歴史の特別な時代に生きているということを謙虚に受け止めて研究すべきだ。
- 4回の講座で「道具」を身につけて宇宙のミステリーにたどりつくことができた。
- その道具は宇宙のミステリーだけでなく、自分自身の問題に向き合うためのものでもある。


解説

前回の講座でケプラーの法則を学んだ。この法則によると銀河系を公転する恒星や星団は銀河系の中心からの距離が大きいほど公転速度が小さくなるはずである。ところがそうなってはいなかった。公転速度は一定だったのである。



太陽系は銀河の外側に近いところを公転しているが、太陽系の外側の天体の公転速度も一定であることが観測された。万有引力の法則が成り立っているならば、これは私たちの目には見えない物質の質量がこの図のように分布していることを意味している。しかもその質量は目に見える物質(天体)の10倍にも及ぶ。



ところで1916年にアインシュタインが発表した一般相対性理論によると物質の質量は空間をゆがめることが導かれている。1936年にアインシュタインはマンドルの依頼に応じて「光線は空間のゆがみによって曲がる」という論文を発表した。アインシュタインはこの論文の重要性に気がついていなかった。これは後に重力レンズ効果として観測されることになる。



ハッブル宇宙望遠鏡によって撮影された50億光年彼方の銀河団の写真。赤い丸で囲ってある青色の光はこの銀河団からさらに50億光年はなれた「ひとつの天体」が重力レンズ効果によって複数の天体として観測されていることを示している。



この写真から青色の天体からの光線を曲げるために必要な物質の質量分布が計算された。それがこの3Dグラフである。尖っているところは銀河の質量によるものだ。重要なのは銀河と銀河の間にも巨大な質量が分布しているということ。この質量は銀河の周囲で10倍もの質量を持ち、銀河団全体では40倍もの質量として計算された。この質量をもたらす物質は目に見えず、ダークマター(暗黒物質)と名づけられた。



これで私たちは通常の物質とダークマターの質量を合わせた形で宇宙の全質量を計算できるようになった。つまり宇宙の全エネルギーも計算できる。次に一般相対性理論の数式を求める計算を次のように行う。











ここでΚはギリシア文字の「カッパ」で宇宙空間の曲率をあらわす値だ。Κの値に応じて宇宙の全エネルギーと宇宙の未来が3通りの可能性としてあることが導かれることがわかる。



つまり宇宙空間の曲率がわかれば、宇宙の未来がわかることになる。そしてこれは宇宙マイクロ波背景放射を観測することでわかったのだ。

宇宙マイクロ波背景放射とは宇宙が誕生してから38万年後の宇宙の様子を映し出す電磁波で、およそ137億光年の彼方、宇宙空間の全方向から届いている。宇宙マイクロ波背景放射は1964年にアメリカ合衆国のベル電話研究所(現ベル研究所)のアーノ・ペンジアスとロバート・W・ウィルソンによってアンテナの雑音を減らす研究中に偶然に発見された。ペンジアスとウィルソンはこの発見によって1978年にノーベル物理学賞を受賞した。



1997年に南極大陸で気球を上げて行われたBOOMERANG実験により、宇宙マイクロ波背景放射の温度のゆらぎを初めて観測した。



この温度のゆらぎは宇宙誕生時の物質の密度のムラに対応している。この物質のムラが後に銀河などを形成する核となる。そしてこのムラの大きさの見え方が宇宙の曲率によって変わる。これによって宇宙空間の曲率は1%の誤差でゼロだということがわかった。

つまり全宇宙のエネルギーはゼロであり、運動エネルギーの和が位置エネルギーの和とつりあっていることがわかる。これは宇宙は「無」から始まったということを示唆する最初の証拠だ。

宇宙は膨張しつづけることがわかったが、3通りの可能性がある。



1998年、2つのグループが宇宙の物質がどのくらいあるか知るために宇宙の膨張速度の微妙な減速度合いを測定した。その結果は驚くべきものだった。理論的には宇宙の物質の万有引力によって膨張速度は減速するはずなのだが、膨張は加速していたのだ。講義では言及されなかったが加速膨張が始まったのは今から70億年前のことである。



通常の物質とダークマターの総量は宇宙の曲率をゼロにするのに必要な量の30%しかない。だとすると残り70%の正体は何だろうか?そしてこれは銀河の無い場所、つまり空っぽの空間に潜んでいるのだ。

一般相対性理論は重力が斥力になることも導く。エネルギーに満ちた空間では斥力が働く。これが宇宙の加速膨張の原因である。

宇宙の曲率をゼロにするために空間に満ちているべき宇宙のエネルギーの量は残りの70%であり、これはダークエネルギー(暗黒エネルギー)であることがわかった。

通常の物質は4%、ダークマターは23%、ダークエネルギーは73%。ダークマターとダークエネルギーの正体はわかっていない。



ダークエネルギーにより加速膨張する宇宙の未来とはどのようなものだろうか?ジョージ・オーウェルが最初に宇宙の未来を予測した。ダークエネルギーの密度が一定なら宇宙は指数関数的に加速膨張する。



物体が180億光年以上離れると、光より速く離れていく。空間は光より速く遠ざかることが可能。これは相対性理論に矛盾しない。ダークエネルギーは重力の量子論と関係があるが、重力の量子論はまだわかっていない。

かつて観測可能だった宇宙は現在より広かった。時間が経つほど観測できるものは減っていく。2兆年後には宇宙のほとんどは見えなくなってしまう。2兆年後の科学者は、たったひとつの巨大な銀河しか観測することができない。さらに未来の宇宙では、銀河の星はすべて燃え尽きてしまい、何も観測できなくなる。


良かった点、素晴らしいと思ったこと

- 複数の受講者が積極的に質問し、質問内容がよかった。

- 数式がわからない受講者でも理解できるように講義が組み立てられていた。

- 高校の物理や地学(天文)のレベルでも、論理の積み重ねによってこれだけ深いことが理解できることが示されていたこと。

- 第3回までの講義の内容が効果的に活かされ、第4回の講義の説明に結びつけられていたこと。


改善したほうがよいと思ったこと

- 受講者、視聴者を小ばかにするような発言は慎んだほうがよいと思った。同じことでももう少し他の言い方があると思うのだ。


その他、気がついたこと、生じた疑問

- 講義の時間的な制約からインフレーション宇宙論、アインシュタインの宇宙定数、どのようにして「無」から物質が生まれるか、原始重力波、マルチバース(多宇宙)、人間原理とランドスケープ問題などが説明されなかった。

これらについては「宇宙が始まる前には何があったのか?:ローレンス・クラウス」(Kindle版)(紹介記事)をお読みいただきたい。

特にインフレーション宇宙論は重要である。宇宙マイクロ波背景放射の強度は揺らいでいるとはいえ、強いところと弱いところの差は1万分の1程度と極めて小さい。これは宇宙の驚異的な均質性を示していて、宇宙はプランクスケールという極めて小さい領域から誕生したことを意味している。そのミクロの領域から爆発的な勢いで膨張したというのが宇宙誕生時のインフレーションである。

- フリードマン方程式とニュートン力学の方程式との対応付け

宇宙論を専門的に学んだ方の中には、なぜフリードマン方程式を使わずに宇宙膨張を説明できたのかと思った人がいるかもしれない。フリードマン方程式は宇宙論では定番なのだが、この講義には難し過ぎる。だからこの講義で扱われたのは古典的なニュートン力学の方程式である。フリードマン方程式とニュートン力学の方程式の対応付けについては「第4講 宇宙の幾何学」というPDF文書の6ページ目で解説さているのでお読みいただきたい。この文書のことはT_NAKAさんから教えていただきました。T_NAKAさん、ありがとうございます。

- 銀河系の本当の姿、スパイラル構造のできるしくみ

今回の講座では取り上げられなかったことで、ぜひ紹介したいことがある。第1回の講義の感想記事で僕は「なぜ銀河系は渦を巻いているのか?」という疑問を持ったことを書いたが、ブログをお読みいただいている「はやぶさ」さんから紹介いただいたNHKの「コズミック フロント」の「スパイラル・ミステリー 5つの渦がひもとく宇宙の謎」の再放送を見て疑問が解消した。

宇宙白熱教室の番組冒頭で映されていた銀河系はこのような形である。



しかしこれは想像図であって、近年の観測によって次のような形であることが明らかになった。



そして太陽系は次のオレンジ色の曲線に沿って公転している。



つまり太陽系やその他の恒星は銀河系の螺旋形の「腕」と一緒に動いているのではなく、腕を通過するように運動しているのだ。腕の中では天体の速度が遅くなって「渋滞」のようなことになり、腕の外にいるときは速い速度で公転している。私たちが見る銀河系の螺旋形の腕の構造は「スパイラル構造」と呼ばれていて、銀河系を回る天体の「渋滞」によってそのような形に見えているのだという。公転しているすべての天体は順番に渋滞に入って、しばらくすると渋滞から出ていくように運動している。

また、太陽系がスパイラル構造を通過するのは1億数千年おきだったことが計算されていて、これは地球の氷河期の時期に一致している。周期的におきた地球の氷河期は銀河系の渦巻きによるものだというわけだ。水色で示したのがスパイラル構造を通過していた位置である。銀河系のスパイラル構造は地球の気候にも影響を与えたという論文が発表されている。これは地質学と天文学の成果を合わせることで導かれた仮説だ。

詳細を知りたい方は「NHKオンデマンド(スパイラル・ミステリー 5つの渦がひもとく宇宙の謎)」でご覧ください。「はやぶさ」さん、この番組のことを教えていただき、ありがとうございました。


番組関連書籍:

宇宙が始まる前には何があったのか?:ローレンス・クラウス」(Kindle版)(紹介記事
A Universe from Nothing: Lawrence M. Krauss」(Kindle版

 

クラウス教授の著書をAmazonで検索する: 単行本(日本語) 単行本(英語) Kindle版(英語)


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参考書籍:

インフレーション宇宙論―ビッグバンの前に何が起こったのか:佐藤勝彦
宇宙,無からの創生―138億年の仮説はほんとうか(Newton別冊)

 


関連記事:

番組告知:NHK宇宙白熱教室(ローレンス・クラウス教授)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/fdcf3a5173e9f55fc37c9b8d85f4128b

宇宙が始まる前には何があったのか?: ローレンス・クラウス
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b6f36e8eedba5ee63a4f919d30a2cb20

感想:NHK宇宙白熱教室:第1回:宇宙のスケールを体感する! 〜空間・時間・物質〜
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/88f1e3ca688959fc0ace6e0999085521

感想:NHK宇宙白熱教室:第2回:物理学者の秘密のお仕事 〜物事を大ざっぱに捉える!〜
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cd01a502be3d5f87057790cc558c9d9a

感想:NHK宇宙白熱教室:第3回:宇宙膨張 驚異の発見 〜ダークマターへの道のり〜
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e79bfbeaacfd441d3634a11ce49858d8

番組告知:MIT白熱教室(物理学編)、これが物理学だ!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/66d25e29fc2c514f453a6b110150b811

番組告知:バークレー白熱教室〜大統領を目指す君のためのサイエンス
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/36bb14b19b9ca57d17fe60655a704615

ファインマンさんの流儀:ローレンス M.クラウス著、吉田三知世訳
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9ec9faa4bd78881bd1986bf7773cc390

超ひも理論を疑う:ローレンス M.クラウス
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d5aefd0f455c43b62365954cd2ae601c

江戸諸国百物語 東日本編、西日本編-諸国怪談奇談集成

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内容紹介
百物語、民間伝承、民話などから怪談や奇談、妖怪による怪異を諸国ごとに分け集成した怪談集。江戸時代は人間の不安や自然への畏怖から出現した妖怪たちが形となって姿を現した頃でもある。怪談や奇談、妖怪による怪異を諸国ごとに分けて集成。古典文学、その国での民間伝承、民話も掲載する。


季節がら今回は納涼系、江戸時代ノスタルジア本のご紹介。

理数系ブログでは異例のこの本は今年まだ寒かった頃に地元の書店のバーゲンセールで見かけて買ったものだ。ひと目で気に入り、ワクワクしながらレジに向かった。

諸国百物語」や「百鬼夜行」をはじめとする江戸時代初期の怪談集から日本全国、地域別に物の怪たちを紹介した本だ。

妖怪や化け物、幽霊などの境界があいまいだった江戸時代。江戸の市中でさえ夜になれば真っ暗闇。外ではろうそくで灯された提灯、家の中は火の灯った行燈(あんどん)が室内をぼんやり照らしているだけなので停電のときと同じような明るさだ。現代とは全く違って「夜」は何が潜んでいるかわからない不気味な空間だった。


長崎の出島から西洋の科学が伝わり始めたのは江戸時代が始まって150年も経ってからである。しかしそれは科学というより技術が中心であり、たとえ西洋科学が伝わったとしても庶民に広まることはなかった。

武士や庶民にとっての学問はあいかわらず読み書きと算盤、そして論語や儒教などにとどまり、自然のしくみを解明するという科学の精神は日本ではほとんど育たなかった。そもそも科学の知識が妖怪や幽霊の存在感を払いのけてくれるのだという認識すら当時の日本人にはなかったのだと思う。

つまり妖怪や化け物は架空の存在ではなかったのだ。地震や雷、水害などの災害は神の意思によると信じられ、神仏を信じるのと同じレベルで化け物たちは存在していた。

このようなわけだから多くの怪談、奇談が日本中で生まれ、民間伝承として語り継がれていった。同じ化け物が形を変えて全国に伝わる例もある。本書は東日本編、西日本編それぞれ150ページほどの分量でまとめられていて、当時描かれた妖怪の絵画がつけられている。「わいら」、「ひょうすべ」、「ぬらりひょん」、「ゴキャナ」などユニークな名前にも好奇心をくすぐられる。

そして掲載されている古地図がとても興味深い。江戸の古地図は何度も見たことがあるが日本各地のを見たのは初めてだった。正確な測量がされていない時代だから、ずいぶんいいかげんなものだが「村」のレベルまで細かく記載されている。自分の出身地の昔の地理を確認してみるとよいだろう。


水木しげる先生の妖怪漫画のようにフィクションとして書かれたものではない。蒸し暑くて寝苦しい夏の夜、江戸時代の人々の心に棲んでいた「本物の恐怖」を味わってみてはいかがだろうか?

これは高校の日本史では学ばない真実の歴史、江戸時代の文化史のひとつである。


表紙を含めて、いくつかページを紹介しておこう。(クリックで拡大する。)










購入される方はこちらからどうぞ。バーゲンセール中なので1冊1000円以下で買える。

江戸諸国百物語 東日本編-諸国怪談奇談集成」(中古本
江戸諸国百物語 西日本編-諸国怪談奇談集成」(中古本

 

目次(東日本編)

奥羽(陸奥国・陸奥(青森県・岩手県)
陸奥国・陸中(岩手県・秋田県) ほか)
坂東(上野国(群馬県)
下野国(栃木県) ほか)
東国(甲斐国(山梨県)
伊豆国(静岡県) ほか)
北国(越後国(新潟県)
佐渡国(新潟県) ほか)
上方(伊勢国(三重県)
志摩国(三重県)
伊賀国(三重県)
近江国(滋賀県))

目次(西日本編)

上方―畿内(山城国(京都府)
大和国(奈良県)
河内国(大阪府)
和泉国(大阪府)
摂津国(大阪府・兵庫県))
上方(紀伊国(和歌山県)
淡路国(兵庫県) ほか)
四国(阿波国(徳島県)
讃岐国(香川県)
伊予国(愛媛県)
土佐国(高知県))
中国(丹波国(京都府・兵庫県)
丹後国(京都府) ほか)
西国(筑前国(福岡県)
筑後国(福岡県) ほか)
琉球国(沖縄県)

以下は一龍斎貞水が語る百物語










関連記事

読書の秋は京極夏彦で!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b7c1960c62548c163cb2cb65786620cd

江戸城の天守閣のこと
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江戸で物理学を説く: ニュートン力学 (其之壱)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/95e1281e89e793c094a38569b07431d2

番組告知:BS歴史館:関孝和 世界水準の“和算”を創り出した男
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武士の家計簿:磯田道史
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日曜劇場「JIN-仁-」完結編の最終回
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妻は、くノ一:風野真知雄
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番組告知: BS時代劇『妻は、くノ一 〜最終章〜』 全5回
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6abe59a6c832bb838f4c17c4b1b1c5d5


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宇宙論(上)ビッグバン宇宙の進化:S. ワインバーグ

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内容紹介
最新の結果に基づいた宇宙論の教科書。内容の深さ、エレガントさで、他の追随を許さない。 ワインバーグ(ノーベル物理学賞受賞)による、最新の観測結果に基づく宇宙論の教科書。
上巻は、ゆらぎのない、一様宇宙を扱う。下巻では、ゆらぎのある非一様宇宙を扱う。

著者略歴
スティーブン・ワインバーグ
1933年、ニューヨーク生まれ。コーネル大学卒業、コロンビア大学でPh.D.を取得。ハーバード大学教授を経て、現在テキサス大学物理学科教授で、天文学科教授も併任。専門は素粒子物理学と宇宙論。1979年に、S.グラショウ、A.サラムとともに電弱理論への貢献でノーベル物理学賞を受賞

翻訳者略歴
小松英一郎
1974年、兵庫県宝塚市生まれ。2001年、東北大学大学院理学研究科博士課程修了。テキサス大学教授を経て、現在、マックスプランク宇宙物理学研究所所長、東京大学高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構上級科学研究員。理学博士。専門は宇宙論


理数系書籍のレビュー記事は本書で255冊目。

ワインバーグ博士の有名な「場の量子論の教科書」に挑んだのが2年前。時間はあっという間に過ぎてしまう。

2008年に出版されたスティーブン・ワインバーグ博士の「Cosmology: Steven Weinberg」の邦訳版が昨年発売され、ようやく上巻を読むことができた。

翻訳をされたのはテキサス大学物理学科教授の小松英一郎先生。つまり翻訳者はワインバーグ博士の同僚で一流の天文学者、物理学者だ。

現代天文学最前線!宇宙創成とその未来に迫る(小松英一郎先生へのインタビュー)
http://ip-science.thomsonreuters.jp/interview/komatsu/


本書は数式がたくさんでてくる専門書。物理学や天文学を専攻する大学院生レベルの人が読む本だ。素粒子物理学者のワインバーグ博士が数々の最新の天文学の論文を読んで書いた教科書である。以下は出版社による紹介ページ。

ワインバーグの宇宙論(上): ビッグバン宇宙の進化
http://www.nippyo.co.jp/book/6106.html
ワインバーグの宇宙論(下): ゆらぎの形成と進化
http://www.nippyo.co.jp/book/6107.html


宇宙論についての博士の前著「Gravitation and Cosmology: Steven Weinberg」は1972年に刊行されたから内容はいささか古い。「宇宙が始まる前には何があったのか?: ローレンス・クラウス」で紹介したように、この20年間に宇宙論はめざましく発展した。本書はそれを踏まえた形で旧著以降の宇宙論を中心に解説した教科書である。

上巻の章立てはこのとおり。

第1章:宇宙の膨張(宇宙誕生から約4.6億年以降から現在)
第2章:宇宙マイクロ波背景放射 (宇宙誕生から約42万年頃まで)
第3章:初期宇宙(輻射優勢時代から始まり宇宙誕生から約6800年頃まで)
第4章:インフレーション
付録A:いくつかの有用な数値
付録B:一般相対性理論の復讐
付録C:放射と電子間のエネルギー輸送
付録D:エルゴード定理
付録E:ガウス分布
付録F:ニュートン力学的宇宙論


章の順にしたがって宇宙誕生の瞬間に近づいていく。現代の天文学は通常、複数の研究者が共同で多くの天体を観測し、結果をコンピュータを使って統計処理したりシミュレーション計算したりすることで推論を行っていくものだが、本書はワインバーグ博士お一人が数式を駆使して進める「解析学的な宇宙論」である。僕の関心はコンピュータも使わずに、もっぱら解析的な手法だけでどれだけ天文学の研究が行えるものだろうかということにあった。博士はまるで巨大な風車に旧来の武器だけで果敢に挑む年老いた騎士のようである。

博士はこの点について次のように説明している。「私は本書を通じて、数値計算によって他所で得られた結果をたんに掲載したりせず、可能な限り、宇宙論的な現象の解析的な計算を与えようと試みた。過去の文献において、観測と理論を比較するのに使われている計算はどうしてもいくつかの細かい点を考慮する必要があり、それは解析的な取り扱いを不可能にするか、計算の主たる物理的な特徴をうやむやにしてしまう。私は、そのような場合には躊躇なく、計算の精度をある程度犠牲にして見通しの良さを選んだ。」

僕も「老騎士の後に続け!」と言わんばかりに勇み足で読み始めたのだが、この本が極めて難解なことにすぐ気が付いた。数式の導出が省略されているので、ほぼすべての数式を丸呑みしなければ先に進めない。数式に含まれる変数も天文学特有のものが多く、物理学の数式や変数にばかり馴染んでいる者は苦労させられる。

このまま進めば3割くらいしか理解できないかもしれない。読み進んで意味があるのだろうか?早めにあきらめて、他の本を読んだほうがよいかもしれない。そう思いながらもあきらめきれずに読み進んだ。

ところがしばらくするうちに本書の読み方がわかってきた。わからない数式は読み飛ばしてもよいのだ。幸いこの本は文章による解説が多く、天文学の本なので説明している事柄はいつも「具体的な何か」である。量子力学や場の量子論の教科書のように直観的にとらえられない対象を扱っているからではないからだ。

だから数式の部分を除けば7割がた理解できる本だったのである。物理学や数学の教科書よりも天文学の教科書は敷居が低いのだ。

とはいえ後悔したこともある。博士が1970年代にお書きになった一般向けの科学教養書「宇宙創世はじめの3分間 (ちくま学芸文庫)」を先に読んでおくべきだった。宇宙誕生の初期に繰り広げられる物質の生成プロセスは、前もって概要を知っていれば本書でいきなり詳しい解説を読んで混乱することもなかっただろう。

特に難しかったのは初期宇宙における元素合成(第3章)だ。陽子や中性子、電子、ニュートリノそしてそれらの反粒子などの反応プロセスに僕が慣れていなかったからだ。バリオンやレプトンの生成プロセスも難しい。さらに第3章の最後のほうで「アクシオン」が登場したのには驚いた。アクシオンは未発見の仮想粒子のはずである。そしてその超対称性粒子の「アクシーノ」は、冷たい暗黒物質(ダークマター)を作る粒子の候補とされているそうだ。


あともうひとつ興味をそそられたのは「宇宙背景放射のゆらぎ」の解析である。「昨夜の発表の感想: 宇宙誕生時の「重力波」観測 米チームが世界初 」という記事で紹介したように今年の3月、宇宙誕生時の量子的ゆらぎが観測されたという発表がされた。しかしその後、この観測結果には原始重力波の可能性以外にも2つの可能性があり、まだ確実なことは言えないので時間をかけて検証する必要があることがわかった。

原始重力波観測の成果に「待った」の声
http://www.astroarts.co.jp/news/2014/06/26gravity_wave/index-j.shtml

原始重力波の観測に「待った」〜真偽のゆくえは10月に持ち越し
http://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/20140623post-500.html

検証されるポイント

1)「銀河の塵の効果」が不確か
2)「r比」が予想より大きい
3)「限られた領域」から「全天」へ

原始重力波の「Bモード偏光」の原因は3つある

1)原始重力波による偏光
2)重力レンズ効果による偏光
3)銀河の塵による偏光

本書でも宇宙マイクロ波背景放射のゆらぎをもたらす可能性のある原因について詳しい解説や計算が行われている。


下巻はさらに難しくなるのかもしれないが、上巻だけでおしまいというわけにはいかない。時間はかかるが引き続き読み進めることにした。


お買い求めはこちらからどうぞ。

ワインバーグの宇宙論(上): ビッグバン宇宙の進化
ワインバーグの宇宙論(下): ゆらぎの形成と進化

 

翻訳の元となった英語版はこちらである。2008年刊行。

Cosmology: Steven Weinberg



英語版がでてから5年経っているとはいえ内容は最新だ。ぜひ一度書店でお手にとってみてほしい。


そしてワインバーグ博士が1970年代にお書きになった本も載せておこう。

1972年に刊行された宇宙論の教科書はこちら。

Gravitation and Cosmology: Steven Weinberg




一般読者向けに1977年に刊行された本の日本語版と英語原書はこちら。英語版は1977年初版だが、以下のリンクで買えるのは1993年に刊行されたUpdated版である。もちろん日本語版もUpdted版の翻訳だ。

宇宙創世はじめの3分間 (ちくま学芸文庫)
The First Three Minutes: A Modern View Of The Origin Of The Universe」(Kindle版

 


関連記事:

発売情報:ワインバーグの宇宙論(上)(下)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3aab4560e20f675285c35002fc96dfab

宇宙が始まる前には何があったのか?: ローレンス・クラウス
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b6f36e8eedba5ee63a4f919d30a2cb20


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ワインバーグの宇宙論(上): ビッグバン宇宙の進化



第1章 宇宙の膨張
1.1 時空の幾何学
1.2 宇宙論的赤方偏移
1.3 小さな赤方偏移における距離:ハッブル定数
1.4 光度距離と角径距離
1.5 宇宙膨張の動力学
1.6 大きな赤方偏移における距離:加速膨張
1.7 宇宙膨張か光の疲労か?
1.8 年齢
1.9 質量
1.10 銀河間ガスによる吸収
1.11 計数
1.12 クインテッセンス
1.13 地平線

第2章 宇宙マイクロ波背景放射
2.1 マイクロ波背景放射の予測と発見
2.2 平衡期
2.3 再結合と最終散乱
2.4 双極的異方性
2.5 スニヤエフ-ゼルドヴィッチ効果
2.6 宇宙マイクロ波背景放射の第1のゆらぎ:概観

第3章 初期宇宙
3.1 熱史
3.2 宇宙の元素合成
3.3 バリオン数生成とレプトン数生成
3.4 冷たい暗黒物質

第4章 インフレーション
4.1 3つの問題
4.2 スローロールインフレーション
4.3 カオス的インフレーション,永久インフレーション

付録A いくつかの有用な数値
付録B 一般相対性理論の復習
付録C 放射と電子間のエネルギー輸送
付録D エルゴード定理
付録E ガウス分布
付録F ニュートン力学的宇宙論
用語集
例題集

発売情報: Kindle版のメシアの「量子力学(英語版)」

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内容紹介:
"Strongly recommended" by the American Journal of Physics, this volume serves as a text for advanced undergraduates and graduate students of physics as well as a reference for professionals. Clear in its presentation and scrupulous in its attention to detail, the treatment originally appeared in a two-volume French edition. This convenient single-volume translation begins with formalism and its interpretation, starting with the origins of quantum theory and examinations of matter waves and the Schrödinger equation, one-dimensional quantized systems, the uncertainty relations, and the mathematical framework and physical content of formalism.
The second half opens with an exploration of symmetries and invariance, including a consideration of angular momentum, identical particles and the Pauli exclusion principle, invariance and conservation laws, and time reversal. Methods of approximation include those involving stationary perturbations, the equation of motion, variational method, and collision theory. The final chapters review the elements of relativistic quantum mechanics, and each of the two volumes concludes with useful appendixes.


「メシアの量子力学」は物理学の中で重要な位置を占める量子力学の教科書のうち一、二を争う名著である。原書はフランス語で1959年にDunod社から初版が刊行された。2003年に出版されたフランス語版は現在はAmazon.comとAmazon.frから中古書籍だけ購入可能だ。(検索してみる

1152ページもある英語版の新品本はしばらく売り切れ状態が続いていた。今年の2月にペーパーバック版とKindle版が発売された。分厚い本なのでKindle端末やスマートフォンのKindleアプリに入れて持ち運べるのはとても便利。しかもKindle版はペーパーバック版の半額の2千円以下で買える。

「この本はファイルサイズが大きいため、ダウンロードに時間がかかる場合があります。Kindle端末では、この本を3G接続でダウンロードすることができませんので、Wi-Fiネットワークをご利用ください。」と表示されているが、この本は固定レイアウトではない。Kindle端末、アプリ用のファイル形式なので文字の拡大/縮小をはじめKindleの機能が活用できる。


メシア「量子力学」の英語版はこちら。(ペーパーバック版とKindle版)

Quantum Mechanics: Albert Messiah」(Kindle版



残念なことにメシア先生は2013年4月17日に91歳でお亡くなりになりました。ご冥福をお祈りいたします。(ニュース記事

CERNで撮影された写真


2010年撮影



参考ページ:

復刊ドットコム:メシア量子力学 1・2・3 (全3巻)
http://www.fukkan.com/fk/VoteDetail?no=8889

メシア先生の動画が見れるページ(2009年1月の映像):
フランスのレジスタンス運動ド・ゴール将軍についての思い出を話している。物理学の話をしているわけではない。(先生のお話をテキストに書き起こしたものはこのPDFファイルで読める。)
http://www.xresistance.info/article-30049282.html

第2次世界大戦中の1940年にヒトラーの隠れ家の前で撮影された写真。中央向かって右、襟巻きをしているのがメシア先生。(当時20歳。終戦時には中尉にまで昇格した。)




メシア先生の写真(2007年4月、写真右側がメシア先生):
http://www.xresistance.info/article-26077653.html

Albert Messiah (born 23 September 1921, Nice) is a French physicist.

He spent the Second World War in the French Resistance: he embarked June 22, 1940 in Saint-Jean-de-Luz to England and participated in the Battle of Dakar with Charles de Gaulle in September 1940. He joined the Free French Forces in Chad, and the 2nd Armored Division in September 1944, and participated in the assault of Hitler's Eagle's nest at Berchtesgaden in 1945.

After the war, he went to Princeton to attend the seminar of Niels Bohr on quantum mechanics. He returned to France and introduced the first general courses of quantum mechanics in France, at the University of Orsay. His textbook on quantum mechanics (Dunod 1959) has trained generations of French physicists.

He was the director of the Physics Division at the CEA and professor at the Pierre and Marie Curie University.


日本語版の中古書籍は相場価格が下がっている。

量子力学 1:A.メシア
量子力学 2:A.メシア
量子力学 3:A.メシア

  

メシア「量子力学1」:日本語版の目次情報
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1d53b5d3fd6577c3f5f79b7de1b51c4e

メシア「量子力学2」:日本語版の目次情報
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/501b46a443c3de4026dda3c7c08556cb

メシア「量子力学3」:日本語版の目次情報
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/221eb901f6ae0bf5753a94ac9f12444c


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メシア「量子力学」英語版の目次:

Contents

Part 1. The formalism and its Interpretation
Chapter 1. The origins of the quantum theory
1. The end of the classical period
2. Light quanta or photons
3. Quantization of material systems
4. Correspondence principle and the old quantum theory
Chapter 2. Matter Waves and the Schr?・dinger Equation
1. Matter waves
2. The Schr?・dinger Equation
3. The time-independent Schr?・dinger equation
Chapter 3. One-Dimensional Quantized Systems
1. Square potentials
2. General properties of the one-dimensional Schr?・dinger equation
Chapter 4. Statistical Interpretation of the wave-corpuscle duality and the uncertainty relations
1. Statistical interpretation of the wave functions of wave mechanics
2. Heisenberg's uncertainty relations
3. Uncertainty relations and the measurement process
4. Description of phenomena in quantum theory. Complementarity and causality
Chapter 5. Development of the formalism of wave mechanics and its interpretation
1. Hermitean operators and physical quantities
2. Study of the discrete spectrum
3. Statistics of measurement in the general case
4. Determination of the wave function
5. Commutator algebra and its applications
Chapter 6. Classical Approximation and the WKB Method
1. The classical limit of wave mechanics
2. The WKB method
Chapter 7. General Formalism of the quantum theory: (A) Mathematical framework
1. Vectors and operators
2. Hermitean operators, projectors, and observables
3. Representation theory
Chapter 8. General Formalism: (B) Description of physical phenomena
1. Dynamical states and physical quantities
2. The equations of motion
3. Various representations of the theory
4. Quantum statistics

Part 2. Simple Systems
Chapter 9. Solution of the Schr?・dinger Equation by Separation of variables. Central potential
1. Particle in a central potential. General treatment
2. Central square-well potential. Free particle
3. Two-body problems. Separation of the center-of-mass motion
Chapter 10. Scattering problems. Central potential and phase-shift method
1. Cross sections and scattering amplitudes
2. Scattering by a central potential. Phase shifts
3. Potential of finite range
4. Scattering resonances
5. Various formulae and properties
Chapter 11. The Coulomb interaction
1. The hydrogen atom
2. Coulomb scattering
Chapter 12. The harmonic oscillator
1. Eigenstates and eigenvectors of the Hamiltonian
2. Applications and various properties
3. Isotropic harmonic oscillators in several dimensions
Appendix A. Distributions, sigma-"function" and Fourier transformation
Appendix B. Special functions and associated formulae
Contents of Volume II

Part 3. Symmetries and Invariance
Chapter 13. Angular momentum in quantum mechanics
1. Eigenvalues and eigenfunctions of angular momentum
2. Orbital angular momentum and the spherical harmonics
3. Angular momentum and rotations
4. Spin
5. Addition of angular momenta
6. Irreducible tensor operators
Chapter 14. Systems of identical particles. Pauli exclusion principle
1. Symmetrization postulate
2. Applications
Chapter 15. Invariance and conservation theorems. Time reversal
1. Mathematical complements. Antilinear operators
2. Transformations and groups of transformations
3. Invariance of the equations of motion and conservation laws
4. Time reversal and the principle of microreversibility
Part 4. Methods of Approximation
Chapter 16. Stationary Perturbations
1. Perturbation of a non-degenerate level
2. Perturbation of a degenerate level
3. Explicit forms for the perturbation expansion in all orders
Chapter 17. Approximate solutions of the time-dependent Schr?・dinger equation
1. Time dependent perturbation theory
2. Sudden or adiabatic change of the hamiltonian
Chapter 18. The variational method and associated problems
1. Variational method for bound states
2. The Hartree and Fock-Dirac atoms
3. The structure of molecules
Chapter 19. Collision theory
1. Free wave Green's function and the Born approximation
2. Generalization to distorted waves
3. Complex collisions and the Born approximation
4. Variational calculations of transition amplitudes
5. General properties of the transition matrix
Part 5. Elements of Relativistic quantum mechanics
Chapter 20. The Dirac equation
1. General Introduction
2. The Dirac and Klein-Gordon equations
3. Invariance properties of the Dirac equation
4. Interpretation of the operators and simple solutions
5. Non-relativistic limit of the Dirac equation
6. Negative energy solutions and positron theory
Chapter 21. Field quantization. Radiation theory
1. Quantization of a real scalar field
2. Coupling with an atomic system
3. Classical theory of electromagnetic radiation
4. Quantum theory of radiation
Appendix C. Vector addition coefficients and rotation matrices
Appendix D. Elements of group theory

General Index

劇団J.A.M! 〜Jのための葬送曲(レクイエム)〜 のご案内

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劇団のHP

今日の記事は知り合いが所属している劇団の公演のご案内。

大学生の頃は他大学の文科系サークルに所属していたこともあり、月に1度は映画や演劇、美術展などに行っていた。

このブログを書き始めてから7年あまり、自由時間は理数系の勉強やブログ書きを優先しているので、そういう催しに行くことはほとんどない生活を送っている。

美術はともかく、映画や演劇はもともと好きなほうだった。学生時代に語学の勉強を通じてフランスの文化に触れる機会が多かったためだろう。ブログ記事にはしていないが昨年以降、誘ってもらった演劇を2度見に行っていた。

今日もたまたまお誘いいただいたので行ってみることにした。東京近郊にお住まいの方は劇団ホームページをチェックしてみてほしい。


劇団J.A.M!Act.5
「JOURNEY of the BUCCANEER -Jのための葬送曲-」
(ジャーニー オブ バッカニーア −Jのためのレクイエム−)
作:楽静 原案・演出:藤間健

-日時-
2014年8月29日(金)〜31日(日)4回公演
29日(Fri.)19:00〜
30日(Sut.)14:00〜 / 19:00〜
31日(Sun.)15:00〜
※開場時間は各公演30分前となります。 
※上記時間は開演時間です。
※昼公演は各日開演時間が異なりますのでご注意ください。

-劇場-
新宿シアターモリエール
〒160-0022
新宿区新宿3−33−10
モリエールビル2階

-アクセス-
JR私鉄各線、新宿駅南口・東中央口より徒歩5分
地下鉄丸ノ内・都営新宿線、新宿三丁目駅A1出口より徒歩3分

-チケット-
前売券…2500円
当日券…3000円
学生割…2000円*1
JFM割...2000円*1
リピーター割...1000円*2
*1併用不可
*2JFMカードと今回公演半券提示

演劇の内容紹介やチケットの購入は劇団のホームページからどうぞ。

劇団J.A.M! ホームページ
http://jam-theater.info/index.html

画像クリックで劇団メンバーのページが開く。



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山川の日本史と世界史の教科書

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山川の日本史Bと世界史Bの教科書(新課程版)

歴史を調べたければウィキペディアで十分だし、そのほうが今日紹介する教科書や本よりもずっと詳しいことまで知ることができる。ウィキペディアが素晴らしいのはいろいろな言語で日本史や世界史を学べることだ。それではなぜ今になって、僕はこれらの本を買ったのだろうか?

それはこういうことなのだ。

- 実際に高校で教えられている現代史を確認したかったから。

昨今の中国や韓国の反日政策、慰安婦問題、南京大虐殺に対する認識、日本での憲法解釈の変化、ガザやウクライナ情勢など国際関係は僕が高校で歴史を学んだ頃とかなり違っている。またネット上で見る限り、世代間で外交や国防に対する意見や考え方、感じ方は大きく隔たっているようだ。それでは今現在、高校ではどのように日本や世界の歴史が教えられているのだろうか?僕が学んだ歴史の教科書と違っているのだろうか?高校で教えられている現代史を確認してみたかった。書かれていることだけでなく「何が書かれていないか」という視点で読むことも重要だ。

それが幸なのか不幸なのか僕にはわからないが、日本で教えられる教科書はすべて文部科学省の検定を受けている。日本史、世界史に限らず教科書は国の都合、社会状況の都合で内容が少しずつ変化していくものだ。(戦前と戦後で教科書は大きく様変わりしたことは忘れてはならない。参考:「墨塗り教科書」)そのような意味も含めて好むと好まざるにかかわらず、歴史の教科書は僕たちが手にすることができる「正史」なのである。その中でも標準とされている山川出版社の教科書を選んだ。2014年現在の正史のスナップショットとして入手しておきたかったからだ。

- 歴史の研究によって変化した事柄を確認したかったから。

鎌倉幕府が開いたのは1192年と僕は習ったが、現在は1180年から1192年まで5つのくらいの説があるそうだ。1192年は頼朝が征夷大将軍になった年であると今は教えられている。歴史の研究が進むことで歴史の教科書も変わっている。どのあたりがどう変わったのかいつでも調べられようにしておきたかった。

いつの間にかこんなに変わった教科書まとめ [歴史編]
http://matome.naver.jp/odai/2135227064711729901

あなたの知る「源頼朝」や「足利尊氏」の顔は間違い【教科書の肖像画は別人】
http://matome.naver.jp/odai/2136440158336329601

- 高校卒業後に追記された歴史を読んでおきたかったから。

僕が高校を卒業したのは1981年。それ以降の歴史がどのように書かれているか知りたかった。

- 科学史、数学史を学ぶ上での背景をおさえるための史料として持っておきたかったから。

科学史上の発見、著作物がどのような国で、どのような政治的、文化的、技術的な背景でなされたかを調べられるようにしておきたかった。

- NHKの歴史番組の補助史料として参照したかったから。

今年の大河ドラマは「軍師官兵衛」だが、NHKではこのほか「歴史秘話ヒストリア」や「タイムスクープハンター」などとても興味深い番組を放送している。ちょっと調べてみたいとき、歴史の教科書は便利だ。

- 教科書を買うにはよいタイミングであるから。

現在、高校の教科書は新課程版への切り替え時期である。教科書や関連書籍を買うのにはよいタイミングなのだ。

- 安いから。

教科書と図録はそれぞれ805円、860円である。史料としてのコストパフォーマンスはきわめてよい。

- 書店で立ち読みがしにくくなったから。

ちょっと調べたいときは書店での立ち読みですませていたのだが、老眼が進んだために読みにくくなってしまった。こそこそ立ち読みするより部屋でじっくり読むほうが気持的にも楽だ。

- きっかけはNHK高校講座だった。

本当のきっかけは「NHK高校講座の紹介」という記事で書いたように日本史と世界史の番組を少しずつ見るようになったからだ。


今日紹介する本は(最後の2冊を除いて)すべて山川出版社のものである。

山川出版社
http://www.yamakawa.co.jp/


日本史と世界史の教科書は近現代史を中心とする「A」と、通史を学ぶ「B」の2科目体制がある。高校時代僕が使っていたのは三省堂の日本史Bと山川出版の世界史Bだった。日本史はたまたま教えていただいた先生が「社会主義的」な考え方をお持ちの方だった。そして教科書は「教科書裁判」で有名な「家永三郎」先生がお書きになった本を使っていた。しかし家永先生の教科書とはいえ国の検定をパスしたほうの版なので問題視された「検定不合格教科書版」とは違う。

僕が高校を卒業したのは鈴木善幸氏が第70代総理大臣の頃で、第一次教科書問題(1982年)の前年である。(参考:「歴史教科書問題」)日中戦争や日韓併合を日本の「侵略」と表記するか、「侵攻」、「進出」と表記するかの議論がされていた。

大方の教科書では「侵略」が使われ、一部の教科書で「侵攻」、「進出」が使われていたと思う。どちらかといえば日中戦争や第二次世界大戦を反省するトーンで書かれた教科書が多かった。戦争に対する認識は今ではいろいろな考え方に分かれているので、今回の記事で自分の考えを述べたり議論する気は全くないが、当時の教科書はそうだったという事実だけ述べておくことにしよう。


新課程版の教科書は2013年に発売された。アマゾンでは新品が売り切れで中古の本も高いので書店か山川出版のHPから購入したほうがよい。(オールカラー版)僕の高校時代の教科書はすべて白黒印刷だった。出版社の解説ページからカラーでサンプルページを見ることができる。

詳説日本史B(新課程版)」(山川出版による解説と購入ページ
詳説世界史B(新課程版)」(山川出版による解説と購入ページ




日本史図録は2013年、世界史図録は2014年に発売された。(オールカラー版)

山川 詳説日本史図録 改訂版
山川 詳説世界史図録 改訂版




細かい文字で600ページ近くあり、教科書とは比較にならない情報量だ。どちらも改訂版として2008年に出版された。日本史は10年ぶり、世界史は15年ぶりの全面改訂である。(オールカラー版)ただし現行課程版(旧課程版)の教科書に準拠なのでご注意を。

山川 詳説日本史研究 改訂版
山川 詳説世界史研究 改訂版




このほか用語集や問題集、書き込み用教科書などいろいろ出ているので、以下のリンクから検索してみるとよい。

アマゾンで山川の日本史関連書籍を: 検索してみる
アマゾンで山川の世界史関連書籍を: 検索してみる


なお、山川日本史については次のように過激な批判本が昨年以降出版されているのを見つけた。これは面白そう。賛否両論あると思うが、いろいろな視点から物事を見るのは大切なことだ。この本は高校参考書、大学受験用参考書のコーナーには並べられていないだろう。

常識から疑え! 山川日本史 近現代史編 上 「アカ」でさえない「バカ」なカリスマ教科書
常識から疑え! 山川日本史 近現代史編 下 「研究者もどき」がつくる「教科書もどき」

 

内容紹介(上巻)
あのカリスマ教科書の内容を徹底解剖!
世界の教科書を比較して分かった!
山川教科書の常識は世界の非常識!
日本の歴史教育どこがおかしいのか?
それは、アメリカ型の歴史教育にせよ、欧州型の歴史教育にせよ、
「疑わしきは自国に有利に」
「本当にやった悪いことはなおさら自己正当化せよ」です。
そもそも歴史学の役割は、自国を正当化することにあるのです!

高校の歴史の教科書、というと、圧倒的に多くの日本人が思い浮かべるのは、山川出版社の教科書のはずです。現在の教科書シェアでいうと、山川出版社の『詳説日本史B』は、実に六割もの占有率です。日本史を学ぶ高校生の3人に2人が、山川日本史を使っているわけです。
また、最近では、山川の日本史・世界史教科書を一般向けに編集しなおした「もういちど読む」シリーズがベストセラーになりました。
高校時代に山川の教科書に慣れ親しんだ人が多いからこそなのでしょうが、「とりあえず山川教科書なら間違いない」というイメージがうかがえます。
一方で、昨今の日中関係・日韓関係の悪化とともに、日本人の歴史認識が問題となることが増えています。
そんなときに必ず出てくるのが、日本の悪口ばかり書いてある歴史教科書がそもそもいけない、という主張です。これは本当なのでしょうか。そうだとすると、歴史教科書の事実上の標準である山川日本史には、日本の悪口ばかりが書かれているのでしょうか。
そうではありません。たしかに、日本史学会はマルクス主義者が作ったようなものですし、山川日本史にも左翼思想の残滓は散見されます。しかし、この教科書が日本の悪口を正面切って書くような過激な教科書ではないことは本書を読めばわかります。
では、山川日本史は、「自虐史観」にさほど毒されていないまっとうな教科書なのでしょうか。残念ながら、それも違います。この問いに関してはよりいっそう強く「違います」と言わなくてはいけません。
ただ、そのダメさは保守派の人たちがいうような思想的に偏向している、といったレベルのダメさではない。事態はもっとひどいのです。
某権威筋が小社の新刊『常識から疑え!山川日本史』(倉山満著)について「訴える」と関係筋に語っているらしい。
この本は、タイトルで提示しているように、高校日本史教科書の六割を占めて"常識"とも言うべき位置にある山川出版社の『詳説 日本史B』を批判的に解読し、教科書業界の裏側にまで入り込んで分析したものである。
どのように訴えるというのだろう?
内容は過激な中にも真実を多く含んだ最良の日本史の解説本だと自負している。
小社はどんな圧力にも屈しない。
堂々と裁判でも何でも受けて立つつもりである。
どうかこの成り行きにご注目ください!

「弾圧されるということは、正しいことを伝えているという証です」(倉山満談)

歴史とは民族の結束のために必要な政治の道具であり、支配の道具であり、そして外交の武器である。山川日本史に代表される日本の教科書がダメなのは歴史観以前の記述力の問題、そしておかしな日本史学会のあり方と日本史学者の能力の問題だ。

内容紹介(下巻)
歴史の教養なくして、世界のなかで自国がどんな立場に置かれているかを知ることはできません。ということは、世界のなかでどうやって自国がサバイバルしていくかを考えることもできません。歴史教育が機能していないということは、そういうことになるのです。
そもそも、日本はなぜ中国大陸に進出して行ったのか?/当時の中国は国際法違反の常習犯、まともな国家にあらず/日本に「軍部」は実在しなかった/日本の政権中枢でもコミンテルンが暗躍→こんな基本のことさえ 絶対に書けない山川日本史!その明快な理由がズバリ分かります!!
その他にも本書で明らかになる歴史の真実の数々。

◎ ロンドン海軍軍縮条約は、実は日本の外交上の大きな成果
◎ 絶対に「満洲」という正しい表記はしない、というのが教科書のルール。政治的配慮から不正確な表記をするのも、ある意味ではいかにも教科書的
◎ 満洲事変という日本の運命を決めた大事件に関して、はたして日本の教科書は、日本人が反省するための素材を提供できているのか。まずはその点が問われなければならないはず
◎ ソ連はもう前世紀になくなった国だというのに、未だに批判的なことを書けない
◎ 当時の日本が侵略戦争を行ったなど、褒めすぎ。本当に侵略だったら、もう少しまともな計画があるはず。同じ時代のヒトラーやスターリンがどれだけ開戦前に緻密な陰謀を巡らせているかを知れば、比較にすらならないとわかる

山川教科書の罪は嘘を書いていることではない。重大な本当のことを書いていないことなのだ
歴史教科書問題の根源を見事に暴ききった倉山先生の戦中、戦後史の決定版!
教科書づくりを支配している実にお粗末な法則
一、教科書の編纂者は、とにかく文句をつけられるのがイヤ。
二、二十年前の通説を書く。
三、イデオロギーなど、どうでもいい。
四、書いている本人も何を言っているのか、わかっていない。
五、下手をすれば書いていることを信じていない。
六、でも、プライドが高い権威主義的記述をする。
七、そして、何を言っているのかさっぱりわからない。

著者について
倉山満(くらやま・みつる)
1973年、香川県生まれ。憲政史研究者。
1996年、中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程を修了。
在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤研究員を務め、同大学で日本国憲法を教え、現在に至る。
2012年、希望日本研究所所長を務める
著書に、『誰が殺した?日本国憲法!』(講談社)、『財務省の近現代史』(光文社)、
『嘘だらけの日米近現代史』『嘘だらけの日中近現代史』『嘘だらけの日韓近現代史』(扶桑社)、
『間違いだらけの憲法改正論議』(イーストプレス)などがある。


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関連ページ:

日本の歴史: ウィキペディア

NHK高校講座(日本史)
http://www.nhk.or.jp/kokokoza/tv/nihonshi/

日本史(歴史研究所)
http://www.uraken.net/rekishi/rekijap.html

世界の歴史: ウィキペディア

NHK高校講座(世界史)
http://www.nhk.or.jp/kokokoza/tv/sekaishi/

世界史講義録
http://www.geocities.jp/timeway/

世界史ノート
http://www3.kct.ne.jp/~atonoyota/

DELL XPS 13 Ultrabookでモバイルバッテリーを使う方法(XPS 11とXPS 12も同様)

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今日の記事は該当機種をお持ちの方のためのお役立ち情報。

注意:今日紹介する方法でパソコンの内蔵バッテリーが充電できるようになるわけではありません。モバイルバッテリーから給電することでパソコンが使えるようになるだけです。またDELL社はモバイルバッテリーの使用を想定していません。万が一パソコンに不具合が生じてもサポート対象外になる可能性がありますので、ご自身の責任で行ってください。


外出時のブログの更新はDELL XPS 13 Ultrabookを使っているのだが、記事が長いとバッテリー切れで書き終えられないことがたまにある。

内蔵バッテリーが交換できないPCなので、モバイルバッテリーを購入したところDCプラグが何種類も付属していたにもかかわらず使えるのがひとつもない。ああ、やってしまった!と思った。

DCプラグはいろいろな規格のがあるので、適合するやつを買えば済むのだろうと検索してみたのだが、全く見つからない。結局わかったのはDELL XPS 13 UltrabookのACアダプターのプラグは外径4.5mm、内径3.0mm、センターピン付きという規格外であること。



参考:DCプラグの規格
http://etoysbox.jp/Memo/7.8_DC_plug_spec/dc_plug_specification.html

がーん!このままでは買ったバッテリーがスマートフォン充電のための災害時専用になってしまう。。。


そこで思いついたのは同じACアダプタをもうひとつ買って、自分で工作して接続ケーブルを作るという方法。でも調べてみたら純正のアダプタは5千円から1万円もする。純正ACアダプタの型番は「DA45NM131」というものだ。調べたところXPS 11、12、13はすべてこのACアダプターが共通して使われている。(つまりDCプラグのサイズも同じだ。)

探したところ、いちばん良心的な価格のがこれだった。(スペアが必要な方はこちらからお買い求めになるとよい。)

純正新品 Dell XPS 13 12 ACアダプター 19.5V 2.31A DA45NM131
http://item.rakuten.co.jp/pc-center/da45nm131/

さんざん検索したのだが、スマートな解決策が見つからずに3カ月くらい過ぎた。


ケーブル自作用のACアダプタを購入したものの、あきらめきれずにときどき「外径4.5mm、内径3.0mm」をキーワードに検索していたところ、ある日これが見つかった。

VicTsing 電源充電器ケーブルアダプタDell Vostro 5460 V5460 HP Pavilion M4/Pavilion 15-e029TX DELL XPS12/13 UltrabookノートPC用」 7.4mm x 5.0mm to 4.5mm x 3.0mm


しめた!と思った。しかしこれだけでは足りない。モバイルバッテリーに付属している給電ケーブルは通常5.5mm x 2.1mmだからだ。次のようなDC変換コネクタが必要になる。

7.4/5.0mm←5.5/2.1mm DCプラグ変換コネクタ


このDC変換コネクタを使って、次のような順番で接続すればすべて解決。



しかしこのDC変換プラグはモバイルバッテリーに付属していることがあるので、買わなくてすむ場合もある。たとえばサンワのモバイルバッテリーに付属している変換プラグでは「J」に対応している。



この「J」のタイプのDC変換コネクタが付属し、DELL XPSのパソコンに給電するために必要な19Vの出力ができるモバイルバッテリーを買えばよいわけである。おススメなのは次の4つだ。

サンワサプライ USB充電ポート付きノートパソコン用モバイルバッテリー BTL-RDC6」(薄型、シルバー)

製品詳細:
http://www.sanwa.co.jp/product/syohin.asp?code=BTL-RDC6

日本トラストテクノロジー MobilePowerシリーズ 24000mAh MP-24000
日本トラストテクノロジー Mobile Power Bank 31200 MPB-31200
日本トラストテクノロジー Mobile Power Bank 52800 MPB-52800

製品詳細:
http://www.jtt.ne.jp/products/original/mobilepower/
http://www.jtt.ne.jp/products/original/mobilepowerbank/


重要な注意事項がある。DELLのXPS Ultrabook薄型ノートパソコンは、供給される電源の検知を厳しく行っているため、モバイルバッテリーを使うと次のような警告メッセージが表示される。これは内蔵バッテリーに異常な電流が流れ込むのを保護するためだ。入力を19Vにしても20Vにしてもこの警告メッセージは表示される。



つまりモバイルバッテリーを使ってパソコンの内蔵バッテリーの充電は全く行われない。モバイルバッテリーはパソコンを動作させるだけのために使うことになる。

冒頭でも注意書きとして書かせていただいたが、モバイルバッテリーの使用をDELL社は想定していない。サポート対象外の使用法である可能性があるので、ご自身の責任で行なっていただきたい。(不具合が生じても僕のほうでは責任を持てないということだ。)


なお、XPS 11、12、13は自分で内蔵バッテリーを交換できないタイプのパソコンだ。内蔵バッテリーの交換はDELLで有償サービスとして行うことになる。バッテリー代の5千円や郵送料を含めて1万円以内ですむようである。


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常識から疑え! 山川日本史 近現代史編 上 「アカ」でさえない「バカ」なカリスマ教科書

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常識から疑え! 山川日本史 近現代史編 上 「アカ」でさえない「バカ」なカリスマ教科書

内容紹介
山川日本史のダメさを具体例をあげて批判。内容詳細と目次はこの記事の末尾を参照。

著者について
倉山満(くらやま・みつる)
1973年、香川県生まれ。憲政史研究者。
1996年、中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程を修了。
在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤研究員を務め、同大学で日本国憲法を教え、現在に至る。
2012年、希望日本研究所所長を務める
著書に、『誰が殺した?日本国憲法!』(講談社)、『財務省の近現代史』(光文社)、
『嘘だらけの日米近現代史』『嘘だらけの日中近現代史』『嘘だらけの日韓近現代史』(扶桑社)、
『間違いだらけの憲法改正論議』(イーストプレス)などがある。


理数系ブログのはずなのに歴史ブログ化するのではないかと心配されている方もいると思うが、実は僕も心配している。本書はタイトルだけの紹介にしようと思っていたが、読まずにはいられなかった。

こうなってしまったのは「NHK宇宙白熱教室」がもともとの原因だ。この番組の感想記事を書いているうちに、高校の地学や物理の内容が気になってきて「NHK高校講座の紹介」という記事を書くことになり、日本史と世界史の講座を見始めてしまい、山川の歴史の教科書を買ってしまったことを先日「山川の日本史と世界史の教科書」という記事で紹介した。そして芋づる式に見つかったのがこの山川日本史の批判本なのだ。脱線するにもほどがある。

8月に入ったので今月は広島や長崎、終戦関連のドキュメンタリー番組を見ることになるし、嫌が上でも集団的自衛権や日本のあり方を考える機会が増えるのだ。もし自分が学んできた歴史が間違っていたら判断を誤ることになるかもしれないからこの本を無視するわけにはいかない。

『山川日本史の本質は「アカ」ではなく「バカ」である』などという主張は過激極まりない。教科書検定がどうこうというレベルではなく、教科書全体が問題なのだという。だとしたら山川出版の教科書だけじゃなく、他の会社の教科書でも同じことだろう。僕が学んだ30年前の教科書から改悪されてしまったからでもなさそうだ。さらに言えば、テレビで放送されてきた日本史だって同じことになるのではないか?これは気になる。

だから読者の方にはお許しいただきたい。本書を含めて4冊ほど脱線させていただくことにする。科学ブログとしての人気が下がってしまうのは覚悟の上だ。

すぐ読めてしまう分量だったが、僕が受けた驚きは相当なものだった。本書で明かされる歴史は僕の知っている歴史とはずいぶん違うパラレルワールドのようだったからだ。「私があなたの母さんであることに変わりはないのだけど、あなたを生んだ本当の母親はこの人なのですよ。」と顔は似ているが性格がまったく違う女性を紹介されたようなものである。パラレルワールドのほうが筋がとおっていて真実に思えてきた。

それほど山川の日本史に書かれている歴史は「ダメ」なのだという。嘘が書かれているわけではなく「真実が語られていず」、「わかりにくく」、「意味不明」なのだと著者は具体的に例をあげながら主張している。山川日本史への痛烈な批判。それにとどまらず日本史学会をもバカ呼ばわりしているのだ。

それではどうダメなのだろうか?教科書が不親切でわかりにくいことは「数学の教科書が言ったこと、言わなかったこと:南みや子」という記事で取り上げたことがある。本書はその歴史教科書版だ。教科書をわかりにくくさせている理由として「権威主義的な記述」という共通点もあるが、歴史教科書固有の理由が加わることでわかりにくさは数学の教科書の比ではなくなっている。

著者は倉山満という憲政史家で、国士舘大学で教鞭をとられている。ホームページはこちら。

倉山満先生のホームページ:
http://www.kurayama.jp/

倉山先生の著書を検索:
単行本 Kindle版


高校時代を思い出してみると確かに僕は歴史の教科書を難しいと思っていた。年号と史実が箇条書きのように繰り返されているだけで、ひとつひとつの出来事の間の脈絡がつかめずに苦労していた。「しかし」とか「このようにして」とか「したがって」のような接続詞がほとんど省略されているから論理関係がつかみにくいのだ。歴史が暗記科目になるのは仕方がない、理解できないのは自分のアタマのせいだと当時の僕は思っていた。

先日30年ぶりに日本史の教科書を買って読んだところ、わかりにくさという点では高校時代と同じだった。昔より知恵や知識がつき、読解力や作文力も高校生の頃よりずっとマシになっているのにである。これを高校生が読んでも理解できないだろうなというのが現在の山川日本史を読んだ感想だ。

でも本書を読むと山川日本史を理解不能にしている「省略」は接続詞の省略どころではないことがわかって愕然とした。歴史の流れを理解するためには欠かせないほど重要な出来事や人物のことがぼろぼろに抜け落ちているのである。たとえて言えばジグソーパズルでかなりたくさんのピースが欠けているようなものである。これでは全体の絵図の印象が変わるのはもちろん、何が描かれているのかもわからなくなってしまう。山川教科書(そしてその他の教科書も)そんな状態なのだという。

それではなぜこのような教科書が出来上がってしまったのだろうか?倉山先生は7つの理由をあげて、それぞれいくつかの具体例を示している。

1) 教科書の編纂者はとにかく文句をつけられるのがイヤ。
2) 20年前の通説を書く。
3) イデオロギーなどどうでもいい。
4) 書いている本人も何を言っているのかわかっていない。
5) 下手をすれば書いていることを信じていない。
6) でも、プライドが高い権威主義的記述をする。
7) そして、何を言っているのかさっぱりわからない

ここでは3つ紹介しよう。

たとえば鎌倉幕府の成立年。僕が高校生のときには1192年という年号を覚えさせられたが、今は1192年は源頼朝が征夷大将軍になった年と教えられる。現在の教科書で鎌倉幕府の成立年を調べるとあいまいな記述で誤魔化されていて、実際に何年に成立したのかわからないのだ。ウィキペディアの「鎌倉幕府」という項目を調べると成立年については5つの学説があり決着がついていない。それならそう書けばよいものを、ぼやかしているからなのだ。それは批判されるのを回避するための自己保身であり、学説を唱えている学者の面子を保つためである。もし自分が教科書を書く立場になったらと想像してみるとよい。特に執筆を他の学者と分担した場合、互いに迷惑をかけると問題になるから、たとえ実際におきた史実でも、誰かひとりが反対すれば書かないでおくというのがいちばん安心であることが容易にわかるだろう。そのようにして、重要なことはどんどん抜け落ちたり、ぼやかされてたりしていくのである。

2つめはペリーの浦賀来航がきっかけとなり開国せざるを得なくなったという例。教科書に書かれているのは何隻もの黒船にびびった江戸幕府がアメリカの軍事力に圧倒されて開国したという流れであるが、実際のところはそうではない。当時のアメリカは建国間もない時期であり、国際的にはほとんど影響力のない小国だった。今でいえばインドやパキスタンのようなものだと本書には書かれている。その当時の大国とはイギリスとロシアであり、江戸幕府はそのことをちゃんと理解していた。そしてこのどちらかの国に攻め滅ぼされるのを警戒していたのだ。イギリスとロシアのどちらについても、もう一方の国から攻められてしまう。そこで幕府は仕方なくアメリカにつくことを選択したというわけなのだ。教科書はまったくそのことに触れていない。これは日本史の教科書を書いている学者に世界史的な視点、知識が欠如しているためだと本書では説明されている。

3つめは明治時代の板垣退助に代表される自由民権運動の話。教科書だけ読むと天皇が事実上の実権を握っていた明治時代に発生した民主主義の萌芽として印象付けられるのだが、その実態は私たちがイメージしているのとは全く違っていたことが本書で述べられている。当時の自由民権運動支持者というのはほとんど「ごろつき」の連中ばかりで、とんでもなく過激な主張をして議会を混乱させていたそうなのだ。日清戦争を経て、日露戦争に至っては、あろうことにロシア大陸の西の彼方にあるサンクトペテルブルグまで攻め滅ぼせ!などという当時の常識からみてもトンデモナイ主張を繰り返す連中だったという。「自由民権運動の実態はごろつきだった。」などと本当のことを書けないから教科書はわかりにくくなってしまったのだ。本書を読めば日本がどのようにして日清、日露、第一次世界大戦をするに至ったかということがよく理解できるようになる。


本書の章立ては次のとおり。この上巻では近代史と現代史のうち第一次世界大戦までのことが流れに沿って解説されている。

はじめに---山川教科書がダメな理由
序章:イデオロギー以前の教科書問題
第1章:明治維新をわからなくさせている二つのタブー
第2章:日本近代史上最大のタブーは大日本帝国憲法
第3章:外交の成功がなぜか語られない日清・日露戦争
第4章:外国の悪口は書かないからわかりにくき第一次世界大戦とワシントン体制
終章:「アカ」でさえない「バカ」が日本の歴史教育をダメにした

著者によると「歴史学の役割は自国を正当化することである。」なのだそうだ。なんだか田母神さんみたいだなと思った。大ざっぱにいえば田母神さん流の歴史教科書とは「新しい歴史教科書」のようなものだし、その対極にあるのは世間で「自虐史観に満ちた」と呼ばれている家永先生タイプの歴史教科書ということになる。もちろんその歴史観を支持する人たちは「自虐的」とは言わずに「日本は侵略のための悪い戦争をしたのだから反省して、この不幸な戦争を二度とおこさないようにしよう。」というわけである。

現在この議論が繰り返されているのは日中戦争や太平洋戦争についてのことだが、この上巻の範囲に含まれるのは日清、日露、第一次世界大戦だ。これらの戦争が侵略戦争だったのか、やむなく戦争をするに至ったのかということは教科書を読むだけでははっきりわからない。山川教科書は自虐史的でも、自尊史的のどちらもないのだ。これら3つの戦争時代の自虐的、自尊的な事柄は省かれてしまっているからわかりにくくなっているのだ。本書では詳しく解説している。

田母神さんが近代史について話したり書いたりしたことがあるかどうか僕は知らないが、本書が繰り広げる批判は、近代史以降の歴史認識に対する甘さや誤解、無知についてのものであり、仮に3つのグループに分けて自虐史派、自尊史派、山川日本史派(中道派?)と呼んだとき、どのグループの歴史認識に対してもあてはまる批判である。NHKの戦争ドキュメンタリー番組は中道よりも自虐史派寄りということだろう。

注意:僕は「自虐史派」という言葉を使っているが、言葉が短くて便利だから使っているだけで、自虐的だからよくないと言っているわけではい。僕自身はどちらかというと「自虐史派=反省すべきことがあったら反省して未来に活かしたい派」である。そうなったのはおそらくNHKの戦争ドキュメンタリー番組の影響であり、確固たる信念があるわけではない。だからそのことについて議論しても、まっとうな議論にはならない。(そのようなわけでコメント欄から議論をふっかけていただくと「暖簾に腕押し」のようなことになるだけなのでやめましょう。)

本書を読んで倉山先生が解説している近代史の認識が本当なのだろうなと僕は概ね思うようになった。でも先生のお考えに全面的に賛成というわけではない。反対なのは先生の目指す歴史教科書についての一部についてだ。

先生が主張されているのは「自分の国に誇りが持てるようにするための教科書にすべきだ。」ということである。歴史学の役割は自国を正当化することであり、それが世界の標準だというわけだ。そういうことなら僕もそれでいいと思う。しかし、2つほど注文をつけたい。

1)日本史の教科書は事実のみを記載すべきだ。先生は「神話」から始めるべきだと主張されているが、神様が天と地上を行き来するのはフィクションであり、事実ではない。天皇が神の末裔だというのも書くべきではないと思う。フィクションだということを断ったうえで紹介するのなら構わないと思うが、それは国語の教科書の「昔のSF」というジャンルに入れるべきだろう。

2)自国のためになることという意味では、失敗した歴史も含める必要があると思う。自虐史としてではなく、国を建設的な方向に「失敗学」による教訓として活かすという意味においてだ。成功例や英雄の活躍のことばかり書いてある教科書は胡散臭い。この点、倉山先生は「たとえ歴史上の失敗をしていたとしても捻じ曲げたり、否定したりして自国に有利な記述をすべき。」と主張されている。


ざっと紹介させいただいた。下巻は昭和に入ってからの日本史だ。教科書に書かれていないことはますます増えていることだろう。もうひとつのパラレルワールドはどのような世界なのだろうか?読む前から楽しい。


常識から疑え! 山川日本史 近現代史編 上 「アカ」でさえない「バカ」なカリスマ教科書
常識から疑え! 山川日本史 近現代史編 下 「研究者もどき」がつくる「教科書もどき」

 


なお社会人の勉強しなおし用として2009年以降山川出版から刊行された「もういちど読む」シリーズの日本史と近代史の教科書は倉山先生の師匠の鳥海靖先生がお書きになったもので、教科書にくらべて真実の歴史に近い記述になっているそうだ。アマゾンのレビューでは「教科書がカラーなのにこちらは白黒だ。」とか「記述量が教科書にくらべて少ない。」など不評だったので「山川の日本史と世界史の教科書」の記事では紹介しなかった。

お読みになりたい方はこちらからどうぞ。倉山先生によると山川出版も教科書の記述の不十分さを認識していて、これが山川出版として刊行できるぎりぎりの線なのだそうだ。ただし、よほど注意して読まないと教科書との違いは一般読者には区別がつかないと思う。

もういちど読む山川日本史
もういちど読む山川日本近代史
もういちど読む山川世界史

「もういちど読む」シリーズのKindle版を: 検索する


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常識から疑え! 山川日本史 近現代史編 上 「アカ」でさえない「バカ」なカリスマ教科書



内容紹介(上巻)
あのカリスマ教科書の内容を徹底解剖!
世界の教科書を比較して分かった!
山川教科書の常識は世界の非常識!
日本の歴史教育どこがおかしいのか?
それは、アメリカ型の歴史教育にせよ、欧州型の歴史教育にせよ、
「疑わしきは自国に有利に」
「本当にやった悪いことはなおさら自己正当化せよ」です。
そもそも歴史学の役割は、自国を正当化することにあるのです!

高校の歴史の教科書、というと、圧倒的に多くの日本人が思い浮かべるのは、山川出版社の教科書のはずです。現在の教科書シェアでいうと、山川出版社の『詳説日本史B』は、実に六割もの占有率です。日本史を学ぶ高校生の3人に2人が、山川日本史を使っているわけです。
また、最近では、山川の日本史・世界史教科書を一般向けに編集しなおした「もういちど読む」シリーズがベストセラーになりました。
高校時代に山川の教科書に慣れ親しんだ人が多いからこそなのでしょうが、「とりあえず山川教科書なら間違いない」というイメージがうかがえます。
一方で、昨今の日中関係・日韓関係の悪化とともに、日本人の歴史認識が問題となることが増えています。
そんなときに必ず出てくるのが、日本の悪口ばかり書いてある歴史教科書がそもそもいけない、という主張です。これは本当なのでしょうか。そうだとすると、歴史教科書の事実上の標準である山川日本史には、日本の悪口ばかりが書かれているのでしょうか。
そうではありません。たしかに、日本史学会はマルクス主義者が作ったようなものですし、山川日本史にも左翼思想の残滓は散見されます。しかし、この教科書が日本の悪口を正面切って書くような過激な教科書ではないことは本書を読めばわかります。
では、山川日本史は、「自虐史観」にさほど毒されていないまっとうな教科書なのでしょうか。残念ながら、それも違います。この問いに関してはよりいっそう強く「違います」と言わなくてはいけません。
ただ、そのダメさは保守派の人たちがいうような思想的に偏向している、といったレベルのダメさではない。事態はもっとひどいのです。
某権威筋が小社の新刊『常識から疑え!山川日本史』(倉山満著)について「訴える」と関係筋に語っているらしい。
この本は、タイトルで提示しているように、高校日本史教科書の六割を占めて"常識"とも言うべき位置にある山川出版社の『詳説 日本史B』を批判的に解読し、教科書業界の裏側にまで入り込んで分析したものである。
どのように訴えるというのだろう?
内容は過激な中にも真実を多く含んだ最良の日本史の解説本だと自負している。
小社はどんな圧力にも屈しない。
堂々と裁判でも何でも受けて立つつもりである。
どうかこの成り行きにご注目ください!

「弾圧されるということは、正しいことを伝えているという証です」(倉山満談)

歴史とは民族の結束のために必要な政治の道具であり、支配の道具であり、そして外交の武器である。山川日本史に代表される日本の教科書がダメなのは歴史観以前の記述力の問題、そしておかしな日本史学会のあり方と日本史学者の能力の問題だ。

目次

はじめに---山川教科書がダメな理由

序章:イデオロギー以前の教科書問題
- 山川日本史がダメな理由
- 大学受験で日本史を選択してはいけない理由
- 将軍の名前も答えられないタコツボ化
- 歴史学の役割は自国を正当化することである

第1章:明治維新をわからなくさせている二つのタブー
- アメリカコンプレックスが生んだ「ペリー来航」の幻想
- ペリーの航路さえ知らずに歴史を語る人々
- 幕末政治は三枚の図で理解できる
- 薩長同盟は「同盟」か?
- 国民国家を解体したい人たち
- 明治維新を可能にした「文化的な天皇」

第2章:日本近代史上最大のタブーは大日本帝国憲法
- 「衆議院が弱かった」という大嘘
- 大日本帝国憲法を理解できない憲法学者
- 「暴走」が起きるのは憲法のせいではない

第3章:外交の成功がなぜか語られない日清・日露戦争
- 「アカでさえないバカ」による意味不明の記述
- 「三国干渉」の真相
- ヒーローなき日露戦争史は意味不明
- ハーグ密使事件どころではない1907年の重要性

第4章:外国の悪口は書かないからわかりにくき第一次世界大戦とワシントン体制
- 「外国の悪口は書かない」という不文律の弊害
- 世界を引っ掻き回した狂人、ウッドロー・ウィルソン
- 教科書が助長する「英米一体」の幻想

終章:「アカ」でさえない「バカ」が日本の歴史教育をダメにした
- 歴史教育なくして「グローバル人材」は育たない
- 教科書検定を廃止せよ
- 世界を知っていた先人たち
- 山川日本史の本質は「アカ」ではなく「バカ」である

発売情報: Exercises for the Feynman Lectures on Physics

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Exercises for the Feynman Lectures on Physics

内容
Combined into one volume for the first time, the clarified and modernized Exercises for the Feynman Lectures on Physics provides a comprehensive, hands-on introduction to all the most important topics in physics—from the conservation of energy through the theory of gravitation and the laws of thermodynamics. A perfect complement to the Feynman Lectures on Physics, these exercises give students a chance to apply what they have learned and reinforce the concepts taught by the inimitable Richard Feynman.

著者について
The late Richard P. Feynman was Richard Chace Tolman Professor of Theoretical Physics at the California Institute of Technology. He was awarded the 1965 Nobel Prize for his work on the development of quantum field theory. He was also one of the most famous and beloved figures of the twentieth century, both in physics and as a public intellectual.
Exercises for The Feynman Lectures on Physics is edited by Michael A. Gottlieb and Rudlf Pfeiffer, publishers of the online edition of FLP at the Feynman Lectures Websites.


ファインマン物理学の演習問題集(英語版)は教科書とは別の本として1964年に出版された。しかしこの本は絶版状態で長い間入手できなかったのだが、新版としてようやく発売された。

日本語版のファインマン物理学の教科書(全5巻)」の各巻末には、物理現象や物理法則の深い意味や解釈を問いかける演習問題が挿入されている。これは別冊として発売された演習問題集を各巻末に分けて翻訳し、挿入したものだ。しかし残念ながら教科書に解答集はつけられていない。本書は待ちに待った「50年ぶりの演習問題&解答集」ということで、1964年に出版された英語版に対するエラー修正もなされている。


1961年から1963年にかけて行われたファインマン先生の講義は教科書を使わずに行われた。その代わりに講義を受講した学生や先生によって講義資料が急ピッチで作成された。この貴重な資料は現在ネット公開されていて、講義の要約、実験の手順、実験の説明、宿題、試験やクイズから構成されている。宿題や試験の解答は含まれていない。今回発売された演習問題集のルーツはこれらの資料ということになる。

The Feynman Lectures on Physics - Original Course Handouts
http://www.feynmanlectures.info/FLP_Original_Course_Notes/


この演習問題集もおそらく日本語に翻訳されることになるのだろうが、それまで待てない方、英語でも全く問題ありません!という方がお買い求めになるのは「今でしょ!」ということなのだ。

Exercises for the Feynman Lectures on Physics




教科書のほうはオンライン版が無料公開されているほか、ハードカバー版とペーパーバック版が販売されている。

オンライン版:

The Feynman Lectures on Physics (カリフォルニア工科大学のサイト)
http://www.feynmanlectures.caltech.edu/

The Feynman Lectures on Physics (「Read」というメニューから読めます。)
http://www.feynmanlectures.info/

ハードカバー版:

The Feynman Lectures on Physics, boxed set: The New Millennium Edition



ペーパーバック版:

Feynman Lectures on Physics: Mainly Mechanics, Radiation, and Heat v. 1
Feynman Lectures on Physics: Mainly Electromagnetism and Matter v. 2
Feynman Lectures on Physics: Quantum Mechanics v. 3

  


各巻の内容

Volume I: Mainly mechanics, radiation, and heat

物理学という学問の位置付けを解説した後、エネルギーの話からはじめて剛体まで力学全般を扱う。その中で微積分とベクトルの説明があり、特殊相対論も紹介される。続いて光学、熱力学、統計力学と進むが、途中で各分野を横断する概念として振動、波動、線形系などが説明される。また二重スリット実験を題材に量子力学を紹介している。I-5とI-6はファインマンの不在中にサンズが代わって行った講義でファインマンの講義の流れを邪魔しないように補足的なトピックが選ばれている。

Volume II: Mainly electromagnetism and matter

静電気学から電磁波の輻射まで標準的な電磁気学のトピックがほぼ完全に含まれ、更に特殊相対論、物理光学、ローレンツの電子論による物性論が扱われる。途中でファインマンの口調を多く残した形で最小作用の原理の特別講義の章が入る。そのほかに連続体力学として弾性体と流体力学を取り上げ、最後に一般相対論が簡単に紹介される。この巻ではベクトル解析とテンソルが導入される。また、境界値問題など高度な数学が必要なトピックでは計算過程を省略して結果だけが紹介される。

Volume III: Quantum mechanics

この巻はシュレディンガー方程式を解かなくても議論ができる量子力学的に単純な系の議論を中心にした量子力学入門である。Volume I の二重スリット実験の章(I-37, I-38)を再収録し、更に議論を進めて状態ベクトルと確率振幅が導入される。それ以後は一貫してブラ-ケット記法が使われる。これに続きスピン、二状態系(英語版)、結晶格子内の電子の伝播、角運動量を扱い、最後は水素原子のシュレディンガー方程式とその解の紹介である。更にそのあとに番外編として「古典的状況のもとでのシュレディンガー方程式」の章が置かれている。


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関連記事:

ファインマン物理学: 英語版とフランス語版
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1dbcd1e1b02616ef1363ced99a912072

ファインマン物理学(英語版)が全巻ネット公開されました。
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e94dd49d7d8cc395e29d37927e30173d

The Feynman Lectures on Physics: The New Millennium Edition
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cb58141ade509fb63952d49ef57c70c7

発売情報: フランス語版「ファインマン物理学」の新版
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/daf630deb00e6c315897d6f47ba3dd5a

ファインマン先生の自伝本と講演本
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9bf47cf51085c74caf34a11068a17285

聞かせてよ、ファインマンさん: R.P.ファインマン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2827c20dbc070aaf205d8375d8ec3cee

ファインマンさんは超天才: C.サイクス
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a24a4abb37c19dfd9118c8ea63de649d

ファインマンさんの流儀:ローレンス M.クラウス著、吉田三知世訳
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9ec9faa4bd78881bd1986bf7773cc390

ファインマンの経路積分に入門しよう!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0f47de5854daf4eb38339a73791544a8

量子力学と経路積分:R.P.ファインマン、A.R.ヒッブス
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2b9d934a542cf04be54cbede8b16ecde

ファインマン計算機科学:ファインマン, A.ヘイ, R.アレン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4f7f453019fd463ed2bfdeaa7b288d79

常識から疑え! 山川日本史 近現代史編 下 「研究者もどき」がつくる「教科書もどき」

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常識から疑え! 山川日本史 近現代史編 下 「研究者もどき」がつくる「教科書もどき」

内容紹介
山川日本史のダメさを具体例をあげて批判。内容詳細と目次はこの記事の末尾を参照。

著者について
倉山満(くらやま・みつる)
1973年、香川県生まれ。憲政史研究者。
1996年、中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程を修了。
在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤研究員を務め、同大学で日本国憲法を教え、現在に至る。
2012年、希望日本研究所所長を務める
著書に、『誰が殺した?日本国憲法!』(講談社)、『財務省の近現代史』(光文社)、
『嘘だらけの日米近現代史』『嘘だらけの日中近現代史』『嘘だらけの日韓近現代史』(扶桑社)、
『間違いだらけの憲法改正論議』(イーストプレス)などがある。


下巻は第一次世界大戦以降から第二次世界大戦終戦、朝鮮戦争までをカバーしている。日清戦争から第一次世界大戦までは上巻の範囲だが、「戦争」というくくりで今回の記事に含めることにした。

倉山先生は「歴史教科書は事実を捻じ曲げてでも、自国に有利になるように書くのが世界標準で、日本史の教科書もそうすべきだ。」と主張しているくらいだから、もちろん左寄りでも中道派の人物ではない。それでは右寄りなのか?軍国主義的な人なのか?それとも反中国、反韓国の感情に支配されている人なのか?また政治的には集団的自衛権を認めるように憲法解釈を変更した安部政権支持派なのだろうか?

人は相手のことをそのように「タイプ」に分けて理解したがるものだ。本書を読み始めたとき僕もそのような気持をもっていた。

自分の常識や感覚に反する本は読まないのが普通だと思う。本書は内容紹介や表紙だけ見ても自分の歴史観と全く違うことが書いてあることが明らかだった。つまり僕は違う視点から考えてみるのもよさそうだということで読んでみたわけだ。8月なので日本がたどってきた戦争の時代を再考してみたいし、こういう本は普段は手に取ることもないからよい機会なのだ。

下巻は次の章から構成されている。

はじめに--麻生太郎氏が明らかにした断末魔の歴史教育
第1章:「無法地帯・中国」は昭和史の基本
第2章:満洲事変の反省を妨げているのはダメな教科書である
第3章:「日中戦争」は存在しない
第4章:なぜ、日米は大東亜戦争で戦わなければならなかったのか
終章:誰が第二次世界大戦の勝者だったのか


上巻、下巻を読み終えてまずわかったのは、倉山先生は上で述べたタイプのどれでもないということなのだ。安倍政権を支持されていることが軽く書かれていたが、ご自身の政治的な主張をしているわけではない。本書はあくまで山川日本史教科書の不備を洗い出し、抜け落ちてしまっている日本史上の出来事を解説することで、倉山先生がお考えになっているという意味での「正しい歴史観」を紹介しているのだ。倉山先生は軍国主義者でもない。一般的に名将としてとらえられている山本五十六のことも「負けるはずのない戦いに負けた愚将」として紹介している。

教科書から欠落している出来事については、ほとんどすべて僕は納得した。「なるほど、そういうことって起きがちだよな。」と思ったわけである。しかし、出来事に対しての受け止め方と解釈という点では、納得できたこともあれば違和感や反対意見を持った点もたくさんあった。全部書くわけにはいかないので、気になったことだけをピックアップしてみよう。


1)日本に「軍部」は実在しなかったという主張について

え?というのが大方の人のリアクションだろう。「軍部」が権力を持ち、政府や議会の反対を押し切って中国大陸での戦闘を開始したというのが一般的な歴史認識だ。ところが倉山先生は「軍部」というものはなかったとお書きになっている。それは「軍部」という名前の組織があったわけはないということもあるが、満洲事変以前から日本の陸軍と海軍は予算を取り合っていたため仲が悪く、対立していたから一枚岩で行動していなかったからというのがその理由なのだそうだ。陸軍内部にしてもいくつもの派閥があって対立していて統一した行動がとれていなかったのだという。また中国大陸に展開している現場の軍隊と、東京におかれた軍令部の意識もかけ離れていて、軍令部は政権のほうにばかり目が向いていて、現場でおきている問題が報告されても、ほとんど理解せず適切な命令を下すことがなかったそうだ。「関東軍を苦しめたのは東京の政府だった。」と本書には書かれている。これはいかにもありそうだと僕は納得させられた。

しかし、これで「軍部」が実在しなかったということにはならないと僕は思う。たとえ内部の統制がとれていなかったとしても、国民や外国から見れば日本の陸軍と海軍を合わせたものが「軍部」であることに変わりはない。また倉山先生は「軍部」が存在しな以上、陸軍と海軍が統一した意思として中国大陸への進出(侵略)の考えを持っていなかったことになるから「軍部」が自らの意思で戦闘を開始したわけではないとお書きになっている。僕はこれも違うと思う。軍内部から見ればそういうことになるだろうが、国民や外国から見れば結果がすべてであり、日本軍による戦闘だということに変わりはないと思うのだ。

また戦前の軍国主義教育のことも忘れてはならない。次のページでは戦前に使われていた国定教科書の内容を読むことができるが、軍国主義教育によって国民は一枚岩になり戦争への協力を義務づけられた。このような教科書を強制したのは陸軍と海軍の全体意思しか考えられないと僕は思うのだ。本書には『「鬼畜米英」と「対米開戦」を主導したのは世論と民意である。』と書かれているが、世論と民意は軍国主義教育と政府に統制された新聞報道によって意図的に作られた国民感情であることを付け加えなければならない。

国民学校期「国語教科書」総目録(総目次)
(このページの下のほうに小学校各学年の国語の教科書へのリンクがある。)
http://www.geocities.jp/sybrma/103kokumingakkou.kokugo.html


倉山先生はまた日本の政党政治のほうが強かったから軍部の圧力に負けたということはあり得ないとお書きになっている。それは予算の権限を持っているのは大蔵省で、陸軍や海軍はその決定に従わなければならなかったからだと説明している。そして一部の青年将校によっておこされた5・15事件や2・26事件によって首相や大臣が暗殺されたのだ。倉山先生はこれを「軍としてのの意思ではない。」としているが、僕はこれも違うと思う。暗殺されるかもしれないという恐怖は戦争遂行への強烈な圧力になったことは間違いない。


2)「日中戦争」は存在しないという主張について

満洲事変以前の中国は無法地帯、内戦状態で、国家の体をなしていなかったという本書の説明は正しいと思う。だからこの時期は「日中」の国家間関係というものは成り立たなかった。中国に「政府」というひとつの窓口は存在せず、また国境線も定かでなくどこまでを中国と呼んでよいか誰にもわからない状況だったという。
このようなわけで「日中戦争」という呼び方をすると歴史を正しく理解することができなくなる。正しくは戦闘が拡大してく経過に従って「北支事変」、「支那事変」、「大東亜戦争」と呼ぶのだという。「事変」という呼び方は国家間の戦争でない戦闘のときに使うそうだ。

このあたりの説明は概ね納得するが、この当時中国がまともな国家でなかったとしても、戦闘が繰り広げられた地域は中国大陸で戦争は日本人と中国大陸の人たちの間で行われたのだから「日中戦争」という呼び方をしてもいいんじゃないかと僕は思う。でも戦闘の拡大を明確にするのならば「北支事変」、「支那事変」、「大東亜戦争」と呼ぶほうが理解しやすい。(支那という言葉は現在では差別用語なので教科書では使えないとは思うが。)本書ではさらに「中国は国ではなかったのだから、日中戦争は戦争ではなかった。」と説明している。国際法上は戦争ではないわけだが、「事変」と呼んでいる戦闘行為と戦争を区別することにどのような意味があるのか僕としては甚だ疑問だ。


3)満洲事変について

通常、教科書では「満州」と表記するが本書での表記は「満洲」なので、僕の記事でもこれに従うことにする。

中国大陸で陸軍が戦闘を開始することになった直接のきっかけが満州事変だ。これは後に満洲国となる地域に日本人(一般市民としての朝鮮人)が居留していて、邦人保護のために関東軍が駐留していた。本書の説明によると、この地域の日本人に対して中国人は反感を抱いていいたために日本人はたびたび暴力をうけたり殺害されていたそうだ。関東軍はこれに対して危機感をつのらせ、東京の軍令部に「反撃命令」を打診するが軍令部は政権に取り入ることばかり考えていて現場からの悲痛な要求にいっこうに耳を貸してくれなかったという。満洲の軍閥による日本人の殺害は激しさを増し、我慢しきれなくなった関東軍が軍令部からの指令を待たずに「暴発して」戦闘を開始したのが満洲事変の発端だったと本書では説明されている。戦況はまたたく間に拡大し全面戦争へと突入していくことになった。

「邦人保護のために始める戦闘」は最近よく耳にする。ガザやウクライナの惨状を見て明らかなように戦場というのは混乱を極めていて、どちらが先に攻撃したかという理屈や弁明はお互い自分に有利なことを主張するだけでほとんど意味がないと僕は思う。戦争というのはこうやって始まるのだなということが本書の説明でよく理解できた。山川日本史ではここまでの実情を読み取ることはできない。危ない地域には民間人であれ軍隊であれ近づかないほうがよいのは明らかだ。現在中国には日本企業の社員を始めとして多くの日本人が住んでいるが、自衛隊が駐留していないから軍事衝突をまぬがれているのだと僕は思った。そのかわりに反日デモなどで事務所や店舗が襲撃されたり、現地に住む日本人が暴力を受けることになってしまっているわけであるが。。。

本書では満州事変がどのようにして始まったかということについて、詳しく説明しているが、かといってそれを現在の状況に結びつけて「自衛隊を増強したほうがよい。」、「自衛のための対策をしっかり講じるべきだ。」などという主張をしているわけではない。あくまで教科書の不備を補うにとどめた記述がされている。

それではなぜ、当時日本人(この時点ではほとんどが朝鮮人)がその地域に居留していたのだろうか?それは日清戦争から日露戦争に至る過程でそうなったというのが大まかな説明だ。それではなぜ日本は日清戦争や日露戦争をしたのだろうか?本書の上巻に書かれていることの概略を書くと次のようになる。

日清戦争:1894年(明治27年):朝鮮国内の甲午農民戦争をきっかけに6月(5月)朝鮮に出兵した日清両国が8月1日(7月1日)宣戦布告にいたった。本書の上巻ではロシアの脅威を強調しており、日本としては朝鮮と国交樹立を望んでいたが、朝鮮は国内の紛争によりそれができない状態。北緯39度線を超えてロシア(そして中国)の支配が及ぶと日本への脅威は増すので、朝鮮出兵やむなしという状況だと説明されている。そして日清が朝鮮で交戦するに至った。日本が勝利した結果、遼東半島、台湾、澎湖諸島が日本に譲られた。満洲は遼東半島を含めその北側に広がる広大な地域である。

日露戦争:1904年(明治37年):大日本帝国とロシア帝国との間で朝鮮半島とロシア主権下の満洲南部と、日本海を主戦場として発生した戦争である。日本が勝利したことにより、南満洲鉄道を獲得するなど満洲における権益を得ることとなった。

この後、第一次世界大戦後にドイツが山東省に持っていた権益を日本が引き続き、一般の日本人(この時点ではほとんどが朝鮮人)満洲に居留し始めることになった。

そして数多くの日本人が満洲に居留するようになったのは日本政府の国策として行われた「満蒙開拓移民」によるものだ。1931年の満州事変以降に日本からの満州国への移民が本格化1936年、広田内閣は「満州開拓移民推進計画」を決議し、1936年から1956年の間に500万人の日本人の移住を計画、推進したためである。

このような流れで無法地帯の中国に日本人が住むようになり、日中の戦闘のきっかけとなってしまったわけだ。戦争は邦人保護の名のもとに始まった経緯がよく理解できる。

1933年〜1945年当時の日本のが支配していた地域(赤)と満洲国の位置



4)マレー半島、シンガポール、香港、ビルマ(ミャンマー)、インドネシア、フィリピンでの戦闘行為について

太平洋戦争当時、マレー半島とシンガポール、香港、ビルマ(ミャンマー)はイギリス領、インドネシアはオランダ領、フィリピンはアメリカ領だった。本書ではこれらの地域を日本が「侵略」したわけでなく、これらの地域を舞台に米・英・蘭と戦争をしたのだという説明がされている。これには納得できなかった。実際に行われていたのはこれらの地域の住民の殺害が行われていたからだ。つまり不慣れな地域での道案内を住民に命じることがあり、道案内が終わると敵に自分の隊の場所を密告されないように道案内をしてくれた住民を殺害することが通常行われていたからだ。これは数年前にNHKで放送されていたドキュメンタリー番組で元兵士が証言していた。占領していた国に対してではなく、その地域の住民の反日感情をもたらす形での駐留は「侵略」と呼ぶのが自然だ。


5)広島と長崎に落とされた原子爆弾、東京をはじめとする大空襲について

山川日本史をはじめ、他社の日本史の教科書にはもちろん原爆や大空襲についての記述がある。そして倉山先生の著書ではこれら民間人を無差別に殺傷する攻撃は、国際法違反であることが明確に示されている。日本史の教科書には国際法違反であることは書かれていなので書くべきだ。この点において僕は倉山先生のお考えに賛成だ。


6)ポツダム宣言について

山川日本史をはじめ、日本の歴史教科書では「ポツダム宣言を受諾したことにより日本は無条件降伏した。」という説明がされている。実はこれは正しくない。ポツダム宣言全文を読むかぎり、無条件降伏したのは日本の軍隊だけのことであり、日本政府や国民に認められるべき条件などが規定されている。それらの条件とは「軍需産業以外の平和産業の維持」、「将来の国際貿易への参加を許可」、「日本政府に対し民主主義の強化の妨げになる障壁を除去すること」、「言論、宗教の自由や基本的人権を尊重すべきこと」などである。そして重要なのは、これが日本に対してだけでなく連合国に対する拘束となっていることが明確に宣言されていることだ。教科書だけの記述では、日本が連合国のどんな要求も無条件にのまなければならないような印象をもってしまう。この点については僕は倉山先生のお考えを支持したい。

参考ページ:ポツダム宣言の全文が教科書に掲載されていない理由が悲しすぎる
http://matome.naver.jp/odai/2136232117008395701


このほかにも非常にたくさんの事があげられている。とてもここでは紹介しきれないのでこれくらいにしておこう。

このように本書は教科書に書くことができないタブーを取り上げているだけでなく、教科書執筆者や日本史学会、そして下巻の冒頭では麻生財務大臣をバカ者呼ばわりしている。高校で歴史を教えている先生方や教科書検定をしている文部科学省も苦々しい思いをしていると思う。こんなに敵ばかり増やしてこの先生は大丈夫なのだろうか?大人なのだからもう少し穏やかな言い方をしたほうがいいのにと僕は思うわけである。

とはいえ倉山先生もバカではないから、訴えられるのを覚悟で過激な発言をしているわけだ。読者としては今後の成り行きを見守ることにしよう。

なお、教科書に書かれていない出来事を倉山先生はどのように得ていたかということについて最後に述べておきたい。それは特殊な文書を発見したわけでなく、ごく普通に得られる資料をもとにしているだけなのだそうだ。そして先生が強調しているのはそれぞれの時代に直接作成された「一次史料」が大切であるということだ。その出来事を直接経験していない人物が後になって書いた史料にはその人の先入観や事実の歪曲が含まれてしまうからである。倉山先生の最近の活動はホームページをご覧になるとよい。(ブログを読むと先生どうも「バカ!」や「アホ!」を連発するタイプで、僕としてははかなり引いてしまうが。)

倉山満先生のホームページ:
http://www.kurayama.jp/

倉山先生の著書を検索:
単行本 Kindle版


理数系の本のレビュー記事をお待ちの方には申し訳ないが、あと2冊倉山先生がお書きになった本を読んで紹介させていただくことにする。


常識から疑え! 山川日本史 近現代史編 上 「アカ」でさえない「バカ」なカリスマ教科書
常識から疑え! 山川日本史 近現代史編 下 「研究者もどき」がつくる「教科書もどき」

 


なお社会人の勉強しなおし用として2009年以降山川出版から刊行された「もういちど読む」シリーズの日本史と近代史の教科書は倉山先生の師匠の鳥海靖先生がお書きになったもので、教科書にくらべて真実の歴史に近い記述になっているそうだ。アマゾンのレビューでは「教科書がカラーなのにこちらは白黒だ。」とか「記述量が教科書にくらべて少ない。」など不評だったので「山川の日本史と世界史の教科書」の記事では紹介しなかった。

お読みになりたい方はこちらからどうぞ。倉山先生によると山川出版も教科書の記述の不十分さを認識していて、これが山川出版として刊行できるぎりぎりの線なのだそうだ。ただし、よほど注意して読まないと教科書との違いは一般読者には区別がつかないと思う。

もういちど読む山川日本史
もういちど読む山川日本近代史
もういちど読む山川世界史

「もういちど読む」シリーズのKindle版を: 検索する


関連記事:

常識から疑え! 山川日本史 近現代史編 上 「アカ」でさえない「バカ」なカリスマ教科書
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/40a0cb741b590199b3ab52dd253b37e7


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常識から疑え! 山川日本史 近現代史編 下 「研究者もどき」がつくる「教科書もどき」



内容紹介(下巻)
歴史の教養なくして、世界のなかで自国がどんな立場に置かれているかを知ることはできません。ということは、世界のなかでどうやって自国がサバイバルしていくかを考えることもできません。歴史教育が機能していないということは、そういうことになるのです。
そもそも、日本はなぜ中国大陸に進出して行ったのか?/当時の中国は国際法違反の常習犯、まともな国家にあらず/日本に「軍部」は実在しなかった/日本の政権中枢でもコミンテルンが暗躍→こんな基本のことさえ 絶対に書けない山川日本史!その明快な理由がズバリ分かります!!
その他にも本書で明らかになる歴史の真実の数々。

◎ ロンドン海軍軍縮条約は、実は日本の外交上の大きな成果
◎ 絶対に「満洲」という正しい表記はしない、というのが教科書のルール。政治的配慮から不正確な表記をするのも、ある意味ではいかにも教科書的
◎ 満洲事変という日本の運命を決めた大事件に関して、はたして日本の教科書は、日本人が反省するための素材を提供できているのか。まずはその点が問われなければならないはず
◎ ソ連はもう前世紀になくなった国だというのに、未だに批判的なことを書けない
◎ 当時の日本が侵略戦争を行ったなど、褒めすぎ。本当に侵略だったら、もう少しまともな計画があるはず。同じ時代のヒトラーやスターリンがどれだけ開戦前に緻密な陰謀を巡らせているかを知れば、比較にすらならないとわかる

山川教科書の罪は嘘を書いていることではない。重大な本当のことを書いていないことなのだ
歴史教科書問題の根源を見事に暴ききった倉山先生の戦中、戦後史の決定版!
教科書づくりを支配している実にお粗末な法則
一、教科書の編纂者は、とにかく文句をつけられるのがイヤ。
二、二十年前の通説を書く。
三、イデオロギーなど、どうでもいい。
四、書いている本人も何を言っているのか、わかっていない。
五、下手をすれば書いていることを信じていない。
六、でも、プライドが高い権威主義的記述をする。
七、そして、何を言っているのかさっぱりわからない。

目次

はじめに--麻生太郎氏が明らかにした断末魔の歴史教育

第1章:「無法地帯・中国」は昭和史の基本
- 国家の体をなしていない中華民国
- 中国侵略の共同謀議は「不可能犯罪」である
- 教科書に書けない南京事件
- 誰も答えられない「What is China?」という問い

第2章:満洲事変の反省を妨げているのはダメな教科書である
- こんなに強かった日本の政党政治
- 関東軍を苦しめたのは東京の政府だった
- 実は日本の権益を認めていた「リットン報告書」

第3章:「日中戦争」は存在しない
- 日本をドイツやイタリアと一緒にする「自虐史観」
- 軍より強かった大蔵省
- ソ連はなくなっても、ソ連の悪口を書けない教科書
- 戦いたくない参謀本部
- 「日中戦争」と言ってしまったら支那事変は理解できない
- 大日本帝国を滅ぼした近衛文麿

第4章:なぜ、日米は大東亜戦争で戦わなければならなかったのか
- 地球の裏側の紛争に口を出すアメリカ
- なかったことにされるゾルゲ事件
- 負けるはずのない戦いに負けた愚将・山本五十六
- 「大東亜共栄圏」という作文
- 山川日本史は国際法と憲法を理解していない

終章:誰が第二次世界大戦の勝者だったのか
- ポツダム宣言受諾は「無条件降伏」ではない
- 日本もアメリカも「敗戦国」である
- 追い詰められるアメリカとサンフランシスコ平和条約の意味
- 「基礎」を大事にすれば歴史がわかる

宇宙創世はじめの3分間 (ちくま学芸文庫):S. ワインバーグ

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宇宙創世はじめの3分間 (ちくま学芸文庫):S. ワインバーグ

内容
本書は、宇宙輻射背景や軽い元素の存在量についての最近の観測結果と素粒子物理学の知識を駆使して、開闢してまもない宇宙を本格的に分析し解明した、初めての一般書である。ここには、宇宙が爆発的に開闢してから100分の一秒で、輻射のなかに電子と陽電子とわずかな陽子、中性子がとけていた1000億度の熱い宇宙スープが、膨張につれて急速に冷えてゆき、ついに10億度で、今日われわれが見ている物質が形をとりはじめたところまでの約三分間が、感動的に描かれている。さらにワインバーグは、素粒子についての最新の考え方にもとづいて、より以前のより熱い宇宙を理論の目をもって探っている。宇宙の極大温度とか、宇宙の相転移といった考えは、人間の知的推理活動の限界を示すひとつとして、読む人の興奮をさそわずにはおかないだろう。
有史以来、強烈なイメージを伴って人類が語り続けてきた宇宙誕生の物語。物理学の知識や天体観測の技術が飛躍的に向上した現在、われわれが「見る」ことのできる天地創造はどのようなストーリーだろうか?読者はワインバーグの易しく明快な語り口をガイドに、開闢間もない宇宙の姿を目の当たりにするだろう。文庫化にあたり、原著が出版されてからCOBE衛星による最近の観測までを概観した原著者自らによる追補を新たに収録、「ビッグバン宇宙論」を一躍有名にした古典的名著の決定版。2008年9月刊行、327ページ。


著者略歴
スティーブン・ワインバーグ
1933年、ニューヨーク生まれ。コーネル大学を卒業し、コロンビア大学でPh.D.を取得。現在テキサス大学教授。専門は素粒子物理学。1979年にS.グラショウ、A.サラムとともに電弱理論への貢献でノーベル物理学賞を受賞

翻訳者略歴
小尾信彌
1925年、東京生まれ。東京帝国大学理学部天文学科卒業。東京大学名誉教授。理学博士。専門は天体物理学


理数系書籍のレビュー記事は本書で256冊目。

ビッグバン宇宙論を一躍有名にし、現代も読み続けられている古典的名著である。英語版は1977年初版、1988年改訂第1版、1993年改訂第2版が刊行され、それぞれに対応する日本語版は1977年、1995年、2008年に刊行された。翻訳は天体物理学者の小尾信彌先生。数多くの啓蒙書を翻訳または著述し天文ファンの間で広く親しまれている研究者だ。現在89歳。

この本は中学生のときすでに僕は書店で見て知っていた。「最初の3分間」というタイトルはインパクトがある。宇宙の始まりの最初の3分間なのだ。そんなことがいったいどうしてわかるのだろう?

僕はそういう高尚な疑問を持ったわけではない。その当時の僕にとって「3分間」という言葉で思い浮かぶのはカップ麺ができあがるまでの時間だった。

「著者は本が売れるように、カップ麺の「3分間」という言葉をわざとキャッチコピーとして使ったに違いない。」

これが僕の第一印象だった。そういう安易なタイトルをつけるのは好ましくないと思い切り勘違いしていたので購入には結びつかなかった。

当時の僕は素粒子物理学のことなど全く知らなかったし、外国人のノーベル物理学賞はアインシュタインしか知らなかったから無理もない。ワインバーグという名前で想像できたのはハンバーグだけだった。この本のことよりもむしろ当時の僕は「ニュートンはなぜノーベル賞を受賞していないのだろう?」という疑問ほうが気になっていた。当時の「とんちんかんぶり」を思うと恥ずかしくて仕方がない。(と言いつつ書いてしまったが。)


そして30年ぶりに本書と出会い、今度こそはと真面目に読んだわけなのだ。

文庫本として出版された一般向け科学教養書とはいえ、本書は文字がぎっしり詰まっているだけでなく内容も高度だ。2〜3回読まないと頭に入っていかないと思った。もし中学生や高校生の頃に読んだとしても、きっと途中で投げ出していただろう。読み解くためには科学教養書レベルであっても素粒子物理学の歴史とあらましを知っていることが前提となる。一般相対論や量子力学は知らなくても読めると思う。

初版が出版された1977年当時、本書は一般の科学愛好者に広く読まれただけでなく天文学や物理学の専門家にも大きな影響を与えた。特に素粒子物理学者の関心を宇宙論に向けさせたという点で科学史の上でも大きな役割を果たしている。宇宙始まりの謎は素粒子物理学そのものと言ってよいからだ。そして巨大素粒子加速器が必要な理由を明確にし、建設予算承認のための大きな推進力となった。

宇宙が始まる前には何があったのか?: ローレンス・クラウス」は主にこの20年の成果を知るのにうってつけで「科学教養書初心者」でも読みやすい。それに対して本書では1977年頃までに解明された宇宙誕生後100分の1秒から34分後までを6つのフレームに分け、宇宙を構成する素粒子(原子はまだ構成されていない)がどのような割合で、どのような状態であったかがとても詳しく解説されている。

僕は読む順番が逆になってしまったが、専門書の「ワインバーグの宇宙論(上巻)」にチャレンジするのであれば本書を先に読んでおいたほうがよいとあらためて思った。

巻末に添えられている14ページほどの「数学ノート」は特に有益だ。「NHK宇宙白熱教室」で紹介されたドップラー効果や宇宙膨張の計算も含めて、次のようなことを高校、大学初年度レベルの数式で計算して見せてくれている。

- ドップラー効果
- 臨界密度
- 膨張の時間スケール
- 黒体輻射
- ジーンズ質量
- ニュートリノの温度と密度


翻訳のもとになったのはこちらの英語版だ。改訂第2版(1993年)である。

The First Three Minutes (2nd Updated Edition, 1993: S.Weinb)erg」(Kindle版




関連記事:

発売情報:ワインバーグの宇宙論(上)(下)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3aab4560e20f675285c35002fc96dfab

宇宙が始まる前には何があったのか?: ローレンス・クラウス
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b6f36e8eedba5ee63a4f919d30a2cb20


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宇宙創世はじめの3分間 (ちくま学芸文庫):S. ワインバーグ



訳者まえがき(1995年、小尾信彌)
序(1976年、S.ワインバーグ)
ペーパーバック第2版の序(1993年、S.ワインバーグ)

序章:巨人と雌牛
宇宙の膨張
宇宙マイクロ波輻射背景
熱い宇宙の処方
最初の3分間
歴史的なよりみち
最初の100分の1秒間
エピローグ:これからの展望

原著者追補1:1976年以降の宇宙論
原著者追補2:1977年以降の宇宙論
解題『宇宙創成はじめの3分間』(佐藤文隆)

補遺
- 表1:いくつかの素粒子の性質
- 表2:いくつかの輻射の性質
- 用語解説
- 数学ノート
- もっと勉強したい人のために

文庫版あとがき
索引

HP社の科学電卓、Windows用の無料エミュレータ(HP 35s、HP-15C)

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HP 35sとHP 15C拡大
あのハイエンド科学電卓「HP 35s」をあなたのデスクトップに!

この記事を見つけて胸が熱くなったのなら、間違いなくあなたはHP電卓ファンの方だろう。Excelがあれば十分なはずなのに、科学電卓には今でも中高年を中心に根強いファンがいる。

HP-15CのWindowsエミュレータがあるのを僕は前から知っていて「HP 35sもエミュレータがでればいいのに。」と淡い期待を持ち続けていた。でもHP 35sは、グラフィック電卓を除けばHP社の科学電卓の中で最上位機種、現役モデルだ。無料でエミュレータがリリースされるはずはない。

ところがあったのだ!

HP社のホームページから2012年の暮れに「純正」のものがリリースされていた。しかも無料!マニュアルも日本語のものがPDFでダウンロードできる。「こんなことしたら実機が売れなくなってしまうのでは?」と僕は心配するわけだ。

HP 35sだけでなく、HP-15CやHP 10s、HP 300sのエミュレータも公開されている。このページはいつ閉鎖されてもおかしくないから、今のうちに入手しておくべきだ。(10sや300sはプログラミングのできないエントリーモデルなので僕としては萌えない。)


HP Calculator Emulator program
http://www.hp.com/sbso/product/calculators-emulators/scientific-calculator-emulator.html


HP 35s (2007)とHP-15C (1981, 2011)の実機(クリックで拡大)



HP 35sについて

HP 35sのWindows用エミュレータのデフォルト・スキンはトップの掲載画像のより文字が見やすい。



HP 35sは世界初のハンドヘルド型関数電卓「HP-35 (1972)」の発売から35周年を記念して2007年に発売された科学電卓である。マクロによるプログラミングが可能でおよそ2万ステップのプログラムを入力、実行することができる。

VIVA!帰ってきたHP電卓--米国HP社「HP35S」
http://japan.cnet.com/digital/pc/20353764/

概要
HPの究極のRPNプログラム関数電卓はプロフェッショナルな性能を提供します。技術者、測量者、大学生、科学者、および医療専門家に最適です。 科学プロジェクトの成功には、精度、機能、信頼性が必要です。 HP 35sプログラム関数電卓は、それらに加えて、30KBのユーザーメモリ、RPNと代数記法が選択できる入力モード、便利な2行ディスプレイ、高速のHP Solveアプリケーションなどの機能を備えています。

機能
RPNまたは代数記法の入力モード、キー入力によるプログラミング、HP Solveおよび100個の内蔵関数、コントラストを調整できる大型の2行ディスプレイ、1変数および2変数統計、線形回帰など、30KBのメモリと800個以上の独立した記憶レジスタ、分数モードと分数/小数変換、42の内蔵物理定数、完全な単位変換ライブラリ、逆関数、立方根、対数、指数、階乗など


日本語マニュアルは株式会社ジュライによって翻訳されたものが368ページのPDFファイルとして無料公開されている。プログラミングの仕方もこのマニュアルで学べる。

hp 35s 日本語マニュアル完成しました
http://www.july.co.jp/?p=131

エミュレータ版には実機にはない重要な機能がある。パソコン上で動作するのだから当たり前のことなのだが、作成したプログラムを何本でも保存、読み込みすることができる。

それでも実機が欲しくなってしまった方はこちらからお買い求めいただきたい。

hp 35s ハイエンド関数電卓 (日本語クイックガイド付)
hp 35s ハイエンド関数電卓日本語ガイド/マニュアル付
hp 35s 関数電卓 日本語マニュアル付属 HP35S-J




HP-15Cについて

HP-15Cは1982年に135ドルで発売された高級科学電卓である。マクロによる500ステップのプログラミングが可能だ。そして2011年に復刻版が限定数発売された。

この電卓のiPhone版は3年前に「関数電卓ノスタルジア (HP-12C, HP-15C, HP-16C)」という記事で紹介した。現在ではiPhone版、Android版ともに何種類もアプリが発売されている。

Windows版のHP-15Cエミュレータ


純正のエミュレータ以外にも次のようなサイトでHP-15Cは利用可能だ。サンプル・プログラムも公開されている。

HP-15C: A Simulator for Windows, Linux and Mac OS X
http://hp-15c.homepage.t-online.de/content_web.htm

HP-15C Simulator (Web)
http://hp15c.com/web/hp15c.html


マニュアルは英語のPDFファイルが無料公開されている。プログラミングの方法も学ぶことができる。

HP-15C Owner's Handbook
http://www.hp.com/ctg/Manual/c03030589.pdf

HP-15c Advanced Functions Handbook
http://www.hp.com/ctg/Manual/c03308725.pdf

実機はオリジナル版も復刻版も売り切れてしまったので、どうしても欲しい方はヤフオクなどから買うしかない。

ヤフオクでHP-15Cを: 検索する


関連記事:

関数電卓ノスタルジア (HP-12C, HP-15C, HP-16C)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/03e84c4fe4608f263779c5f442bf29f9

世界初のポータブル関数電卓 HP-35 のAndroidアプリ
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/13e4fc1e351e97d616fe237ba0663372

プログラム電卓ノスタルジア (TI-59, HP-67): Android携帯アプリ
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0ad3750a80319805913264169939ea93

プログラム電卓ノスタルジア (TI-59, CASIO fx-602P): iPhoneアプリ
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e462acad2de19fdd92d574078ccff000

プログラム関数電卓ノスタルジア (CASIO fx-502P、fx-602P、fx-5800P)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/8c31d67db36639471e9bc3209f88b3de

算数チャチャチャ(NHKみんなのうた)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5f45451ee92873728f3046ed36cdce71


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ワインバーグの宇宙論(下): ゆらぎの形成と進化

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ワインバーグの宇宙論(下): ゆらぎの形成と進化

内容紹介
最新の結果に基づいた宇宙論の教科書。内容の深さ、エレガントさで、他の追随を許さない。 ワインバーグ(ノーベル物理学賞受賞)による、最新の観測結果に基づく宇宙論の教科書。
上巻は、ゆらぎのない、一様宇宙を扱う。下巻では、ゆらぎのある非一様宇宙を扱う。

著者略歴
スティーブン・ワインバーグ: ウィキペディアの紹介記事
1933年、ニューヨーク生まれ。コーネル大学卒業、コロンビア大学でPh.D.を取得。ハーバード大学教授を経て、現在テキサス大学物理学科教授で、天文学科教授も併任。専門は素粒子物理学と宇宙論。1979年に、S.グラショウ、A.サラムとともに電弱理論への貢献でノーベル物理学賞を受賞

翻訳者略歴
小松英一郎
1974年、兵庫県宝塚市生まれ。2001年、東北大学大学院理学研究科博士課程修了。テキサス大学教授を経て、現在、マックスプランク宇宙物理学研究所所長、東京大学高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構上級科学研究員。理学博士。専門は宇宙論


理数系書籍のレビュー記事は本書で257冊目。

上巻を読み始めたのは「宇宙が始まる前には何があったのか?: ローレンス・クラウス」の記事を投稿した6月20日くらいなので、下巻を読み終えるまで2カ月と少しかかったことになる。

途中、日本史の教科書や「宇宙創世はじめの3分間 (ちくま学芸文庫):S. ワインバーグ」を読んでいたので実質は1カ月半くらいかかったのだと思う。読書以外にも「NHK宇宙白熱教室」の感想記事を書いたり、8月ということで第2次世界大戦関連のドキュメンタリー番組をたくさん見ていたし、本業の仕事のほうが超多忙だったので科学系の勉強にあてる時間はいつものペースの半分に落ちていた。忙しいながらも仕事や勉強をしたりテレビを見たりできるのも日本に平和が続いているからだと思うわけである。理屈がどうあろうとも二度と戦争はしてはいけない。戦争に結びつく可能性のある選択は絶対にしてはいけないと思った。


下巻では、ゆらぎのある非一様宇宙を扱う。章立てはこのとおり。

第5章:小さなゆらぎの一般論
第6章:宇宙論的ゆらぎの進化
第7章:マイクロ波で観た空の異方性
第8章:構造の成長
第9章:重力レンズ
第10章:宇宙論的ゆらぎの起源としてのインフレーション

上巻のレビュー記事で僕はワインバーグ博士のことを「コンピュータの計算能力に古典的な解析学の手法で立ち向かう老ドン・キホーテ」のようだと表現したが、下巻ではさらに数式の難易度が増す。下巻の主なテーマは宇宙論的なゆらぎであり、場の量子論で使われる数学的手法が駆使されている。すなわち場の量子論は下巻を理解するための大前提となる。もちろん一般相対性理論を理解していることも前提だ。

COBEWMAPによる観測よって明らかになった宇宙マイクロ波背景放射の揺らぎが数式で計算できるのだ。すごいではないか。宇宙誕生の瞬間に生じたゆらぎが宇宙が膨張するにしたがってどのように進化(成長)して現在観測されているサイズのゆらぎになるかということも含めて、博士はすべて本書で計算を示している。たとえ数式が難しくて理解不能であっても、その導出過程を「鑑賞」するだけでも読む価値があると僕には思えた。

宇宙の歴史はその膨張過程においていくつかのフェーズに分けて考えることが必要で、それぞれの段階での温度や宇宙を構成している素粒子について摂動法に基づいた微分方程式をたてるのが第一段階だ。この微分方程式の厳密解は求められないので近似的な解法が必要になる。

博士が用いているのは流体力学(確率の流れ)を導入した近似的な解法である。これに対し通常行われているコンピュータによる解法は統計力学をベースにした連立ボルツマン方程式を数値的に解くものだ。途中の段階でWMAPによる観測によって得られた宇宙論的パラメータをあてはめて、具体的な解を導くのだが、博士が求めた流体力学による解とコンピュータが計算する統計力学的な解、そして観測から直接得られる値は見事に一致する。宇宙論的パラメータのような大域的な量から局所的なゆらぎやその時間の経過による大きさの変化が求められるというのが興味深い。




第5章:小さなゆらぎの一般論

この章では解析に必要な基礎を得るため、小さなゆらぎの進化を記述する一般相対論的方程式を導いた後、ゆらぎに関する一般的な性質を学ぶ。

第6章:宇宙論的ゆらぎの進化

この章では解説の中で導く式を用いて放射優勢期から物質優勢期を経て脱結合の時刻という現在近くまでのゆらぎの進化を調べる。まずスカラー型摂動を記述する方程式を書き下す。これらの方程式は冷たい暗黒物質とバリオンのプラズマに関しては単純な流体力学の方程式となるが、光子とニュートリノに関して高精度の計算をするには位相空間における分布関数の進化を記述する連立ボルツマン方程式を解く必要がある。これらの方程式は複雑すぎて解析的には解けないので、CMBfastやCAMBといったコンピュータによる計算が必要となる。しかし、そのようなコンピュータ・プログラムによる計算結果は、物理過程を理解する目的には有用ではない。したがって、この章では解析的に扱える流体近似を用いた計算を中心に行う。とはいえ、いくつかの数値積分は必要となる。流体近似は単純であるが、コンピュータによる正確な計算結果をほどよく再現できるという意味で現実的な近似となっている。ゆらぎにはスカラー型のものとテンソル型のものがある。本章ではテンソル型の摂動の計算もスカラー型の摂動と同じくらいページ数を割いて解説している。スカラー型摂動とテンソル型摂動は独立である。

第7章:マイクロ波で観た空の異方性

この章では観測される温度ゆらぎを記述する一般公式を導く。第6章で与えた宇宙論的摂動の進化の解析と組み合わせ、スカラー型摂動とテンソル型摂動のそれぞれについて多重極展開係数の計算を簡単化する近似法を紹介する。またマイクロ波背景放射の偏向も計算する。

NASAのマイクロ波観測衛星WMAPで得られた宇宙マイクロ背景輻射の全天分布



第8章:構造の成長

この章で第6章で計算した時刻以降、すなわち脱結合の時刻以降のゆらぎの進化を計算する。まずはじめに線形解析を使って摂動が小さい頃の進化を追う。その後、星や銀河や銀河団の存在を見れば明らかなように、時間経過に従い物質密度の摂動は線形近似が使えなくなるほど大きくなる。この章では冷たい暗黒物質とバリオン物質の膨張、そして収縮、その後ガス雲からなる原子銀河への凝縮、星の誕生までの過程が示される。

第9章:重力レンズ

重力レンズ効果には「強い重力レンズ効果」と「弱い重力レンズ効果」がある。前者は暗い天体の探査や銀河団の構造の研究、そしてハッブル定数の測定に用いられてきた。後者は密度ゆらぎの相関関数を測定するのに強力な手段となる可能性がある。そして最後に「宇宙ひも」による重力ポテンシャルの計算方法が示されるが、宇宙ひもの検出がきわめて難しいことを紹介している。

第10章:宇宙論的ゆらぎの起源としてのインフレーション

この章ではインフレーション理論が第6章から第9章の議論に与える影響を学ぶ。第4章で学んだインフレーション宇宙理論の最も面白いところは、インフレーション理論が、宇宙マイクロ波背景放射や宇宙の大規模構造で観測される宇宙論的ゆらぎの起源として、量子力学を用いた自然な説明を与えるところにある。将来的には、インフレーションで生成された重力波も観測される可能性がある。(参考記事:「宇宙誕生時の「重力波」観測 米チームが世界初 」)


第6章の「宇宙論的ゆらぎの進化」が特に重要だ。宇宙が膨張するにしたがってゆらぎも大きく成長し拡大していく。しかし斑(まだら)模様を風船の表面に描いた場合、風船の膨張に比例してまだら模様のサイズは大きくなるが、宇宙の膨張とゆらぎの成長は比例しているわけではない。第6章では宇宙の歴史を物質優勢期になるまでのゆらぎと、放射優勢期になるまでのゆらぎをそれぞれ考察し、双方の期間で得られた解をなめらかにつなぐ方法を学ぶのだ。ゆらぎの成長曲線を求めるわけである。この計算は僕にとって「雲形定規」を使って区間ごと曲線をなめらかにつないでいくようなイメージに思えた。

式の変形過程は難解で詳しいところまではとても理解することができない。物理的に無視してよい項はどんどんそぎ落とし、アクロバティックな項の置き換えが何度も行われていく。当初は理論的に美しい数式は、あれよあれよという間に複雑なものへと変形されていく。ごりごりと解に向かって突き進む職人技を見せ付けられる感じだ。その式や項の物理的な意味を実感として手に取るように理解しているからこそできる数式変形なのだと僕は思った。

ワインバーグ博士が本書の英語版を書かれたのは2008年、75歳のときである。(現在81歳)老いてもなお最先端の宇宙論に果敢に挑み続ける博士の頭脳と気力が衰えていないことには驚嘆させられるばかりである。NHKの「神の数式」にも出演して熱く語っておられたので、
世界最高クラスのノーベル物理学賞の実力というのはこんなにすごいものかと本書を持つ手につい力が入ってしまった。

数式の変形を追うことはできなくても、場の量子論を学んだ人ならば何を計算しているのかという流れにはついていける本だと思う。僕のようなレベルでも読後の充実感は大いにあった。

今年の夏は僕にとって宇宙論に対する意識変革の季節となった。以前は「宇宙論は大ざっぱで、詳しい計算結果で示されないからあまり興味が持てない。」と思っていたのだがNHKの「宇宙白熱教室」がきっかけで現代宇宙論の意義が強烈に心に焼きついたのだ。


本書にチャレンジしてみたいという方は、こちらからお買い求めいただきたい。

ワインバーグの宇宙論(上): ビッグバン宇宙の進化
ワインバーグの宇宙論(下): ゆらぎの形成と進化

 

翻訳の元となった英語版はこちらである。2008年刊行。

Cosmology: Steven Weinberg



英語版がでてから5年経っているとはいえ内容は最新だ。ぜひ一度書店でお手にとってみてほしい。


そしてワインバーグ博士が1970年代にお書きになった本も載せておこう。

1972年に刊行された宇宙論の教科書はこちら。

Gravitation and Cosmology: Steven Weinberg




一般読者向けに1977年に刊行された本の日本語版と英語原書はこちら。英語版は1977年初版だが、以下のリンクで買えるのは1993年に刊行されたUpdated版である。もちろん日本語版もUpdted版の翻訳だ。Update版では1989年に打ち上げられてCOBE衛星による宇宙マイクロ波背景放射の観測についても補足されているそうだ。

宇宙創世はじめの3分間 (ちくま学芸文庫)」(レビュー記事
The First Three Minutes: A Modern View Of The Origin Of The Universe」(Kindle版

 


関連記事:

宇宙論(上)ビッグバン宇宙の進化:S. ワインバーグ
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bd3d49fe1e13bcdd97116b33e8c736bb

発売情報:ワインバーグの宇宙論(上)(下)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3aab4560e20f675285c35002fc96dfab

宇宙が始まる前には何があったのか?: ローレンス・クラウス
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b6f36e8eedba5ee63a4f919d30a2cb20

宇宙創世はじめの3分間 (ちくま学芸文庫):S. ワインバーグ
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cd00222f81ac344af10061b48e4d289d

大著に挑む (ワインバーグの「場の量子論」)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/95ac4b64aa4eaf70608088006813cbf5


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ワインバーグの宇宙論(下): ゆらぎの形成と進化



第5章 小さなゆらぎの一般論
5.1 場の方程式
5.2 フーリエ分解と確率的初期条件
5.3 ゲージを選ぶ
5.4 地平線の外側での保存

第6章 宇宙論的ゆらぎの進化
6.1 スカラー型摂動──運動学的理論
6.2 スカラー型摂動──流体力学的極限
6.3 スカラー型摂動──長波長領域
6.4 スカラー型摂動──短波長領域
6.5 スカラー型摂動──内挿と輸送関数
6.6 テンソル型摂動

第7章 マイクロ波で観た空の異方性
7.1 温度ゆらぎの一般公式
7.2 温度の多重極展開の係数:スカラーモード
7.3 温度の多重極展開の係数:テンソルモード
7.4 偏光

第8章 構造の成長
8.1 再結合後の線形摂動論
8.2 非線形成長
8.3 バリオン物質の重力崩壊

第9章 重力レンズ
9.1 質点のレンズ方程式
9.2 増光:強いレンズとマイクロレンズ
9.3 広がったレンズ
9.4 時間の遅れ
9.5 弱い重力レンズ
9.6 宇宙ひも

第10章 宇宙論的ゆらぎの起源としてのインフレーション
10.1 インフレーション中のスカラー場のゆらぎ
10.2 インフレーション中のテンソル場のゆらぎ
10.3 インフレーション中のゆらぎ:スローロール近似
10.4 多重場インフレーション

付録B 一般相対性理論の復習
付録C 放射と電子間のエネルギー輸送
付録D エルゴード定理
付録E ガウス分布
付録F ニュートン力学的宇宙論
用語集
例題集

Queeness フレディ・マーキュリー生誕祭 @ 渋谷duo MUSIC EXCHANGE

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フレディ・マーキュリーがもし生きていれば昨夜で68歳。昨夜はQueenessのフレディ生誕祭ライブに行ってきた。

Queenessは数百あるというQueenのトリビュート・バンドの中ではいちばん有名なバンドだ。ボーカルをつとめるフレディ・エトウは実をいうと僕が勤務している会社の元同僚で1990年代初めに日本法人の立ち上げ時期を一緒に過ごした大切な友達でもある。

Queeness公式HP
http://queeness.jp/



フレディーマーキュリー生誕祭!QUEENESS今年最大のライブ!
日時: 2014年9月5日 (金) Open 18:30 Start 19:30
会場: 渋谷duo MUSIC EXCHANGE


Facebookから今回のライブのことをエトウさんからお知らせいただき、コメントを書かせていただいた。ところがこのとき予想していない人から「いいね!」をいただいたのだ。「いいね!」をしてくださったのは山村隆一さんというベース奏者。2006年2月「稲葉社子さんのJazzライブ」に行ったときに知り合った方だ。

不思議なことがあるものだ。音楽関係ということでつながったのだろうと思って山村さんに「お久しぶりです!」とメッセージを送ってみたら「Queenessのお手伝いをしているのです。」というご返事。あらためてメンバーの写真を見てみたらエトウさんの左に山村さんがいらっしゃるではないか!

音楽関係でつながったというのは本当なのだが縁は異なもの味なもの。なんと山村さんはエトウさんの高校の後輩なのだという。世間は狭いものだとあらためて驚かされたのだ。

山村さんの愛器はピエモンという1833年に製作されたベースで今年で181歳になる。今回のライブでも彼のベースは活躍していた。1833年というのはフランス七月革命の3年後だ。そう思うといかに貴重な楽器であるかがわかる。




前回エトウさんのライブを聴いたのは2008年5月のこと。「フレディ・エトウさんのライブ@横浜」という記事で紹介している。でもこのときは個人ライブでQueenessとしてのライブではなかった。

この2008年のライブに一緒に行った友達は大のQueenファン。誘うならこの人以外に考えられない。今回の生誕祭ライブも誘った。

今回の会場は渋谷のduo MUSIC EXCHANGEというとても大きなライブハウス。

渋谷duo MUSIC EXCHANGE
http://www.duomusicexchange.com/

ありがたいことに会場にはパイプ椅子が並べれられていたので足も疲れなくてすんだ。昔一緒に仕事した元同僚の友達が何人かきていたのでプチ同窓会のようなことにもなった。


夕方7時40分に始まりおよそ30曲ノンストップでライブは盛り上がる。エトウさんは6月に息子さんが生まれたばかりで絶好調だ。終わったのは午後10時過ぎだった。誘った友達は全曲知っていたそうだが、僕が知っている曲は半分くらいだった。友達は「ロジャーの声はかなり似ていてビックリ!」と言っていた。大いに楽しんだようですっかりQueenessファンになったようだ。

ライブはフラッシュを焚かない限り写真や動画の撮影は自由。どしどしネットに公開してかまわないということなので、昨夜の雰囲気をこうしてみなさんにお見せできるわけである。














YouTubeでQueenessの動画を: 検索する


Queenessはバラエティ番組でも紹介されたことがある。

本家が認めたニセクイーン(QUEENESS)




物販コーナーで買ったタオル。




余談:

この夜、ライブが終わって渋谷駅に向かう途中にあるvisionというライブハウスにトム・ヨークがお忍びで来日し、DJをしていたそうだ。友達はライブハウスの前に人だかりができているのに気付いて彼が中にいたことがわかった。

レディオヘッドのトム・ヨークが極秘来日 都内でDJ
http://matome.naver.jp/odai/2140993838934263601


おまけ: 友達からもらったお土産。東京ドームシティの「TENQ宇宙ミュージアム」で買ったマシュマロだそうで、表面には惑星が印刷されている。




関連記事:

フレディ・エトウさんのライブ@横浜(2008年5月19日)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a5f915509c85b3d6e0ce8c68bec0a704

稲葉社子さんのJazzライブに行ってきました。(2006年2月4日)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/aec6b6638f5d06d7fafecded5a2d979d



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数学とは何か(原書第2版):R.クーラント、H.ロビンズ、I.スチュアート

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数学とは何か(原書第2版):R.クーラント、H.ロビンズ、I.スチュアート

内容紹介
クーラントが全精力を注ぎ込んでまとめあげた数学入門。基本概念を深く理解し数学的に考える事の意欲がかきたてられる偉大な古典。50年ぶりに改訂された原書第2版である。整数論や位相幾何、作図問題や微分積分など数学の基本概念を深く理解し、数学的に考えることの意欲がかきたてられる名著。改訂された原書第2版では、フェルマーの最終定理や4色問題の解決など最近の発展が補われた。日本語版では、図を見やすくするために立体視図を入れるなどさらに改善した。599ページ。

著者略歴
R.クーラント
リヒャルト・クーラント(Richard Courant, 1888年1月8日 - 1972年1月27日、現ポーランド領ルブリニツ生まれ、アメリカ合衆国ニューヨーク没)はドイツとアメリカの数学者。ウィキペディアの記事

H.ロビンズ
Herbert Ellis Robbins, 1915年1月27日 - 2001年2月12日, 20世紀を代表するアメリカの数学者、統計学者。ウィキペディアの記事

監訳者略歴
森口繁一
1916年9月11日 - 2002年10月2日、1938年東大工学部航空学科卒業、同講師、助教授、教授、1977年定年、名誉教授。1977〜82年電気通信大学教授。1982〜87年東京電機大学教授。1954年工学博士。紹介ページ


理数系書籍のレビュー記事は本書で258冊目。

クーラントといえば「数理物理学の方法」や「楕円関数論」などの専門書が有名だが、本書は数学初心者向けに書かれた入門書である。

クーラントが全精力を注ぎ込んでまとめあげた本で英語版の初版が刊行されたのは1941年だ。長年読み継がれてきた古典的名著である。内容がさすがに古くなってきたので、近年イアン・スチュアート教授が初版以降なされた「新しい発見」を書き加えて原書第2版が1996年に「What Is Mathematics?: An Elementary Approach to Ideas and Methods」(Kindle版)として刊行した。

初版の日本語版は「数学とは何か―考え方と方法への初等的接近」として1966年に刊行され、この原書第2版の日本語版が刊行されたのが2001年である。スチュアート教授が原書第2版をお書きになったのは、この古典的名著を歴史に埋もれさせてはならないというお気持ちからだった。

残念ながら日本語版の1966年版も第2版の2001年版も絶版なので中古本しか手に入らない。(復刊ドットコムでリクエストする。

本書は科学ブログ仲間から紹介いただいた。それはおそらく僕が「大学で学ぶ数学とは」という連作記事を書き始めたからだと思う。

章立ては次のとおり。(詳細目次はこの記事のいちばん最後に掲載)古代から現代に至るまで、数学史に沿いながら発展の歴史を論理立てを重視しながら解説する。もともとの英語の文章が格調高いこともあって、日本語訳も1文が長めであるため「文学的」でさえある。今ではこのように重厚長大なスタイルで書かれた本はずいぶん減っていると思った。初学者向けの本であるとはいえ、このような文章で600ページもあるので、読み通すのはかなりしんどいと思う。

章立ては次のとおり。

第1章:自然数
第1章への補足:整数論
第2章:数学における数系
第2章への補足:集合の代数
第3章:作図法、数体の代数
第1部:作図不可能の証明と代数
第2部:作図を行うための種々の方法
第4章:射影幾何学、公理論、非Euclid幾何学
第5章:位相幾何学
第6章:函数と極限
第6章への補足:極限と連続性の例題の追加
第7章:最大と最小
第8章:微分積分学
第8章への補足:
第9章:最近の発展

「数の基礎」から始まり、初等代数へと進む。そして代数や数体と作図法の間の関係を明示する。代数と幾何がはじめの3分の1のメインテーマだ。次の3分の1はユークリッド幾何学以外の幾何学がテーマ。射影幾何学や非ユークリッド幾何学、位相幾何学(トポロジー)などである。そして最後の3分の1は関数や極限、微積分、変分法など解析学を中心に話が進む。


僕は大学時代に数学を専攻していたので、ほとんどの章の内容を知っていたが、大学数学では初等幾何学の科目はなかったので、ギリシャ時代から発展した幾何学のより高度な応用の章、作図と数の体系の関係についての章は興味深く読めた。

また第7章の「最大と最小」や第9章の「最近の発展」には、先日記事として書いた「ストッキングを使った極小曲面、最小面積曲面の実験」で紹介した「石鹸膜と最小曲面」がより詳しく解説されているのでとても興味深く読めた。特に最小曲面を線画のCGで描いたものがステレオグラムで立体視させているのが印象的だ。

文章による解説が多く、高校と大学の数学の橋渡しとしてちょうどよい。大学の数学の雰囲気を実感として理解できる内容だ。本書のように厳密な論証が自分の性に合うかどうかが数学科を志望したらよいかどうかの分かれ道になるだろう。かといって大学の数学の教科書がこの本のように親切でわかりやすいと誤解しないように注意すべきだとも思った。


なぜ数学を学ぶのか?どうして実数や関数の連続性の証明などのように、当たり前のように思えることに対して、うんざりするほど厳密で証明が必要になるのか?大学で数学を専攻するとまずぶつかるのがこのような疑問だ。これに対して教科書は何も答えてはくれない。

その問いに対して僕が考えている2つの答は次のようなものである。

- 数学が高度に進化して「抽象数学」といわれる域に達したときその世界は人間の直観ではとらえにくいものになる。そのような未知の世界で歩みを進めていくためには厳密な論理の積み重ねが唯一のよりどころになる。

- 直観的に一見当たり前のように思える事柄の中に、実はとんでもない矛盾や反例が潜んでいることがあるので厳密な論証が必要になる。


高校生にとってはユークリッド幾何学と非ユークリッド幾何学の違いが面白いと感じるだろう。「平行線の公準」を採用するかしないかにいよって、生み出される幾何学は全く違う様相を呈してくる。同じようなことは集合論でも生じる。集合論における前提をどのようにとるかによって、生みだされる世界は異なったものになる。というより、そもそも集合論はその前提が証明不能であること自体に高校生はまず驚かされることだろう。(連続体仮説

「数学とは堅固な土台の上に構築された壮大な建築物なのか?それともあやふやな土台の上に築かれた砂上の楼閣なのか?」


また本書を読むうちに、次のようなことも考えるようになるだろう。

「数学の定理の証明とは(もともと存在しているものを)発見することなのか?それとも新たに創り出される発明なのか?」

これはギリシャ以来、現在に至るまで考え続けられている問いかけだ。これは初等数学から高度な抽象数学まで、それぞれ学んでいく過程で折に触れて頭を持ち上げてくる数学が持つ深遠な問いのひとつである。

さらに抽象数学とかつて呼ばれていた分野は現在、相対性理論や素粒子物理学(ゲージ理論)、超弦理論などの先端物理学の数理的な裏づけとして欠くことができなくなっていることを知っておくべきだ。そのことは以下の5つの記事で紹介している。

幾何学の基礎をなす仮説について:ベルンハルト・リーマン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/22be602fe4cee385a9939c0869c511eb

理論物理学のための幾何学とトポロジー I:中原幹夫
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ef0b2fcb7c87aabfcd68bbe2a567840e

理論物理学のための幾何学とトポロジー II:中原幹夫
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9fd93716929786316ee234a66ec4d32b

ゲージ理論とトポロジーの年表
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1050f5ac88c40f83f566ba52c142c565

時間とは何か、空間とは何か: S.マジッド、A.コンヌ、R.ペンローズ他
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d80d021f4fba492bf0e3f47615289422


もちろん抽象数学は本書がカバーしている範囲ではないが、数学の研究を進める先にはこのような世界が広がっているということで紹介させていただいた。

本書はギリシャ数学以来の「公理を重視した数学」を紹介するとともに、直観を推進力として数学が発展してきた歴史も紹介している。初等数学において直観に基づく推論はとても大切だ。


また本書では大学で学ぶ数学のうち、次の分野が含まれていないことにも注意すべきである。本書の第9章「最近の発展」で紹介しているのは最先端の数学であり、そこに至るまでには学ぶべき分野がたくさんあるのだ。

- 線形代数、ベクトル解析
- 複素関数論、複素解析
- 位相空間、群論、関数解析、統計学、測度論、確率論
- 位相幾何学(ホモロジー、ホモトピー、コホモロジー)
- 代数学(群論、加群、環論、体論、ガロア理論、数論、可換体論、リー群論、群の表現論、テンソル代数、作用素代数、圏論など)
- 微分幾何学(多次元微分幾何、微分形式、多次元微分幾何学、リーマン幾何学、射影幾何学、接続理論、モース理論)、多様体、複素幾何、代数幾何学

線型代数やベクトル解析は完成しつくされている「道具としての基礎数学」なので本書の趣旨には合わないから割愛されたのかもしれない。また、割愛されたその他の分野は高度過ぎて初学者向きでないためだと思われる。これらのうち大学に入る前から学んでおくのだったら線形代数や複素関数論あたりを予習しておくとよいだろう。


さて、次に読んで紹介する本はすでに以下の2冊決めてある。(数学書が続くので物理学ファンの読者には申し訳ないが。)

まず読むのは今日紹介した「数学とは何か(原書第2版):R.クーラント、H.ロビンズ、I.スチュアート」の続編、姉妹本とでもいうべき本だ。古代数学から現代数学まで、分野ごとの発展の歴史と現代社会、現代技術への応用例を紹介した本。数式を使わない形式で書かれているので一般の方でも十分読み解くことができる。

無限をつかむ: イアン・スチュアートの数学物語



そしてその次に読むのがこちらの本。素粒子物理学(ゲージ理論)や超弦理論で重要な「アティヤ=シンガーの指数定理」を証明したアティヤ教授による「数学とは何か?」である。今日紹介した本と同じタイトルであるが、初等数学の先の抽象数学では数学の世界はどのように展開しているのだろうか。最先端の数学が描き出している世界を知るにはうってつけの本である。数式は使われていないので一般の方でも読むことができる。

数学とは何か―アティヤ 科学・数学論集



関連記事:

高校生にお勧めする30冊の物理学、数学書籍
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f79ac08392742c60193081800ea718e7

大学で学ぶ数学とは(概要編)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/07137c47d16d95ddde8f5c4cb6f37d55

大学で学ぶ数学とは(実用数学編)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/975ad3faa2f6fd558b48c76513466945

世界を変えた17の方程式:イアン・スチュアート
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/58748ffcb6e52721fe47f7806fa14ee8

ストッキングを使った極小曲面、最小面積曲面の実験
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3f12c54ce6f853263433c39c8ed7a2b0



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数学とは何か(原書第2版):R.クーラント、H.ロビンズ、I.スチュアート



第2版まえがき(1995年、Ernest D. Courant)
第2版序文(1995年、Ian Stewart)
初版への序文(1941年、R. Courant)
第2、第3および第4刷への序文(1943, 1945, 19471年、R. Courant)

本書の使い方

数学とは何か

第1章:自然数
- 序論
- 整数の計算
- 数の無限性、数学的帰納法

第1章への補足:整数論
- 序論
- 素数
- 合同式
- Pythagoras数とFermatの最終定理
- Euclidの算法

第2章:数学における数系
- 序論
- 有理数
- 通約不可能な線分、無理数、および極限の概念
- 解析幾何学に関する注意
- 無限の数学的解析
- 複素数
- 代数的数と超越数

第2章への補足:集合の代数

第3章:作図法、数体の代数
- 序論
第1部:作図不可能の証明と代数
- 基本的な作図
- 作図可能な数と数体
- 三つのギリシャの問題の回の不能性
第2部:作図を行うための種々の方法
- 幾何学的諸変換、反転
- 他の器具を使用する作図、コンパスだけを使用するMascheroniの作図
- 反転およびその応用の続き

第4章:射影幾何学、公理論、非Euclid幾何学
- 序論
- 基本概念
- 複比
- 平行性と無限遠
- 応用
- 解析的表現
- 直線定規だけでの作図問題
- 円錐曲線と2次曲面
- 公理論と非Euclid幾何学
- 付録:4次元以上の幾何学

第5章:位相幾何学
- 序論
- 多面体に対するEulerの公式
- 図形の位相的諸性質
- 位相幾何学の定理のいくつかの別例
- 面の位相的分類
- 付録

第6章:函数と極限
- 序論
- 変数と函数
- 極限
- 連続的に近づくときの極限
- 連続性の厳密な定義
- 連続函数に関する二つの基本的な定理
- Bolzanoの定理の二三の応用例

第6章への補足:極限と連続性の例題の追加
- 極限の例
- 連続性の例

第7章:最大と最小
- 序論
- 初等幾何学における諸問題
- 極値問題の基礎をなす一般原理
- 停留点および微分法
- Schwarzの3角形の問題
- Steinerの問題
- 極値と不等式
- 極値の存在、Dirichletの原理
- 等周問題
- 境界条件のある極値問題、Steinerの問題と等周問題との関係
- 変分法
- 最小問題の実験的解放、石鹸膜の実験

第8章:微分積分学
- 序論
- 積分
- 導函数
- 微分の技術
- Leibnizの記号と「無限小」
- 微分積分学の基本定理
- 指数函数および対数
- 微分方程式

第8章への補足:
- 原理的なこと
- 大きさの位数
- 無限級数および無限乗積

第9章:最近の発展
- 素数を求める公式
- Goldbach予想と双子素数
- Fermatの最終定理
- 連続体仮説
- 集合論の記号
- 4色問題
- Hausdorff次元とフラクタル
- 結び糸
- 力学の一問題
- Steinerの問題
- 石鹸膜の最小曲面
- 超準解析

付録:補足、問題、および演習問題
- 算術と代数
- 解析幾何学
- 作図問題
- 射影幾何学および非Euclid幾何学
- 位相幾何学
- 函数、極限、および連続
- 最大および最小
- 微分積分学
- 積分の技術

もっと学びたい人のための参考書
参考書の追加
原書第2版の発刊に寄せて
監訳者あとがき
索引
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