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Kindle書籍が【50%OFF】角川書店ビッグセール

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Kindle書籍が【50%OFF】という「角川書店ビッグセール」が開催されている。

セール期間:2014年3月27日(木)まで

リンク:人気度順に表示レビュー評価の高い順に表示




文庫本だったら「Kindle Paperwhite」がお勧め。スマートフォンのKindleアプリで読むのもいいだろう。


以前紹介した「妻は、くノ一:風野真知雄」などのほか「天地明察:冲方丁」や松本清張森村誠一横溝正史西村京太郎赤川次郎星新一伊坂幸太郎、そしてシェイクスピアの新訳も50%オフの対象に含まれている。これらの本が1冊200円台なのだからとりあえずまとめて買っておきたいものだ。


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とね日記は「manavee」を応援します。

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今夜の「たけしのTVタックル3時間SP」では貧困・格差社会の問題が前半のテーマ。この中で親の経済格差が子供の教育格差につながり、貧困が世代から世代へ受け継がれていくという悲しい現実がとりあげられていた。教育の機会均等という原則は有名無実化している。

「とね日記」も「理科復活プロジェクト」というカテゴリーを設け、日本の理数系人口を少しでも増やせればと思いながら僕は記事を書いているが、これらの記事は受験勉強とはかけ離れている。またブログの物理学、数学系の記事についても理数系の大学生や一般社会人向けのものがほとんどだ。

とはいえ僕自身も貧困の連鎖や学ぶ機会の不平等に日頃心を痛めているのは事実。今夜の「たけしのTVタックル3時間SP」で紹介された「manavee」というサイトの活動内容に大いに共感させられた。現役の東大生が立ち上げた「無料で受験勉強ができるサイト」である。その後、全国の大学生や社会人が講師や運営に参加し活動を拡大させている。

manavee(だれでも無料で受験勉強ができる場所)
http://manavee.com/

理数系だけでなく受験に必要なすべての教科の講義が動画で聴講でき、コメントをつけたり、テストを受けたりすることができるようだ。今日現在7024本の動画が登録されている。いくつか動画を見てみたところ高校時代にはほとんど身についていなかった「化学I、II」を僕はこのサイトで学んでみたくなった。

「お金がかかるのは変」 無料の受験動画サイト「manavee」作った東大生 プログラミング未経験から5万人が使うサイトに(ITmediaニュース)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1311/22/news049.html


「とね日記」としても「manavee」を応援させていただきます。より多くの方にこのサイトのことを知っていただきたいと思い、記事として紹介させていただきました。

教育の機会均等も大切だが、僕としては若い人には「スマホなんかに振り回されずに、もっともっと勉強してほしい。」というのが本音である。


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やしろ食堂(杉並区方南町)

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次に紹介しようと思っている代数学の本はまだ半分しか読めていないので、地元のお店の紹介記事を書くことにした。

ふだん夕食は自宅で食べることにしているので、外出することはめったにない。ところが3月20日から2〜3週間、同居している母が入院してしまったので家事の役割分担が大きく変わり、このところときどき外食している。今夜は父が飲みに行っているので地元の定食屋さんで夕食をとった。

実をいうと「やしろ食堂」に来たのは12年ぶり。一人暮らしをしていた1990年代によくお邪魔していた店なのだ。和食中心の定食屋さん。定食メニューと単品メニューから選んで食べることができる。

当時からご夫妻で店を切り盛りされていて、ご主人のほうは当時ときどき行っていた飲み屋さんでもお目にかかっていた。店に僕が突然訪れたものだから一瞬「あれっ?」という顔をされた。僕にしても昔にタイムスリップしたような感覚にとらわれた。僕よりも年上のご夫妻は、今も元気そうなのでうれしかった。カウンターの中ではご主人のほか、息子さんも調理をしていた。

この店は1998年放送の「きらきらひかる」という深津絵里さん主演のドラマのロケでも使われたことがある。こういう定食屋さんは落ち着いて栄養バランスのよい食事ができるので貴重だ。

今夜僕がいただいたのは800円の「トロ勝定食」と「塩サバ」。ご飯を大盛りにしてもらって合計1100円。カツは肉ではなくトロなので健康志向だ。むかし僕が好んで注文していた「スタミナ定食」はメニューからなくなっていた。

クリックで拡大


近いうちにまた外食することもありそうだから、また行ってみようと思う。

お店の詳細や他の写真は関連ページでご覧いただきたい。


関連ページ:

やしろ食堂(杉並区方南町):食べログ
http://tabelog.com/tokyo/A1319/A131903/13081141/

やしろ食堂(杉並区方南町):ぐるなび東京版
http://r.gnavi.co.jp/rz89js5p0000/

方南町「やしろ食堂」@種類もボリュームも満点、何を食べるか迷ってしまう。
http://blogs.yahoo.co.jp/katuhaji/34449801.html

方南町 やしろ食堂 フライ盛り合わせ定食 モツ煮込み
http://www.bclassgourmet.com/archives/8611


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時間とは何か、空間とは何か: S.マジッド、A.コンヌ、R.ペンローズ他

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時間とは何か、空間とは何か:S.マジッド、A.コンヌ、R.ペンローズ他

内容紹介
宇宙は何次元なのか。ビッグバン以前には何があったのか。結局のところ、時間と空間について何が明らかになり、まだわかっていないのは何なのか。これまでの論点をわかりやすく整理しつつ、『皇帝の新しい心』のペンローズ、フィールズ賞受賞者コンヌをはじめ、数学者、物理学者、宇宙論研究者、哲学者が独自の視点で、自らの仮説も含めてこの宇宙の姿を描いてみせる。


理数系書籍のレビュー記事は本書で249冊目。

本書は数学者、数理物理学者による量子時空、量子重力理論へのアプローチを知ることができる科学教養書。2013年6月に刊行された。

大栗先生の超弦理論入門:大栗博司」の表紙にも薄く描かれている量子時空の概念図を見てわかるように、プランクスケール(プランク長=10のマイナス35乗メートル、プランク時間=10のマイナス44乗秒)という極微、極短の世界では量子ゆらぎによって時空間は「泡立っている」と予想されている。また時間や空間は離散的で私たちが実感しているように連続したものではないという説も信憑性を持ったものとして主張されている。時間や空間は無限に分割して小さくできるというものではないらしい。

プランクスケールでの時空のイメージ


このような極微の世界で量子力学と重力理論(一般相対性理論)の両方を成り立たせようとすると理論が破綻することはNHKの「神の数式」で示されたとおりだ。無限小の世界に重力理論を当てはめると無限大のエネルギー(=質量)が生じてしまい、時空の曲率も無限大になってしまう。

この問題を解決するために量子重力理論のひとつとして超弦理論が提案されている。この理論で時空は10次元であることが必要とされるが、超弦理論では量子力学と重力理論の両方を成り立たせることができる。しかし、これで時空の問題が解決したわけではない。超弦理論で導入される弦は量子的な振動をするものであり、その実体は10次元の「連続した時空」の中にあることを前提として研究が始まった。そして「大栗先生の超弦理論入門:大栗博司」の最後のほうに書かれていることだが、その結果「空間は幻想」であることが超弦理論から導かれるのだ。つまり私たちが「空間」と呼んでいるものでさえ弦の振動によって生まれてくるのだという。

だとすると時間や空間というのは何なのだろうか?
プランクスケールより小さい世界で時間や空間はどうなってしまうのだろうか?
残念ながらそれはまだほとんどわかっていない。
そもそもプランクスケールより小さい世界があるのかどうかさえわかっていない。

もしプランクスケールより小さい世界があるのならば、そこではおそらく量子力学が新たな形で再定式化され、その枠組みの中で全く新しい物理法則が解明されていくのだろう。それは私たちの直観や実感ではまるでイメージできない世界のはずだ。量子時空は無限小の点の概念を持たない幾何学の世界として考えられている。(ただし量子力学や相対性理論において時間は連続変数tとして扱われていることには注意すべきだ。これについてはQuantum Universeさんの「時間とエネルギーの不確定性関係と、相対性理論」という記事をお読みいただきたい。)

量子時空にあると予想される量子重力の存在性は先月紹介した「原始重力波の観測」によって初めて示された。その具体的な有様の探究は始まったばかりである。

現代数学が必要とされる理由がここにある。数学は物理的にイメージできない世界をも体系化し、構造を明らかにしてくれることがある。最先端の代数学と幾何学と解析学が明らかにしてくれる世界。私たちにとってこの3つの数学はどう進んでよいかわからない真っ暗な世界を照らし出してくれる3本のスポットライトである。

コンヌ博士の「非可換幾何学」もそのような量子時空に対する数学的なアプローチのひとつである。「アラン・コンヌ博士の非可換幾何学とは?」という記事で専門書の内容の概略を紹介したが、いまいちよくわからない。科学教養書レベルの解説本はないものかと探したところ、今日紹介する「時間とは何か、空間とは何か:S.マジッド、A.コンヌ、R.ペンローズ他」が見つかった。地元の中型書店では見かけていなかったのでメジャーな本ではないのだと思う。本の帯にはこう書かれている。

いったいどこまでわかっているのか?
ロジャー・ペンローズ、アラン・コンヌらが時間と空間の招待についての論点を整理し、宇宙の姿を描く。

本書は2006年9月にケンブリッジ大学のエマニュエル・カレッジで開かれた公開討論会で、「時間とは何か?空間とは何か?」という問いを一流の数学者、物理学者、哲学者、神学者からなるユニークなパネリストに問いかけ、この催しから得られた本だ。英語版は2008年に出版された。

科学教養書とはいえ、レベルは高めである。次のような文章を読んで意味がわかる人ならば読み通すことができるだろう。

- 一般相対性理論の時空の曲がりは「計量テンソル」によって表される。
- アインシュタインの重力場の方程式は時空のあらゆる点で成り立つ微分方程式である。
- 量子力学において物理量はヒルベルト空間上の自己共役作用素であらわされる。

本書を読んだからといって、量子時空の正体が明らかになるわけではない。各章はそれぞれの学者が空想を最大限働かせながら予想している仮説に過ぎないからだ。しかし、読むことで少なくとも彼らが進んでいる方向性をイメージできるようになるだろう。


以下に各章を担当した科学者と大まかな内容を紹介しておこう。

第1章:暗黒宇宙
アンドリュー・テイラー
エジンバラ大学の天体物理学の教授。宇宙論の分野において多大な貢献がある。特に暗黒物質(ダークマター)の分布の画像を作成し、暗黒エネルギー(ダークエネルギー)の性質を研究するとともに、宇宙の初期条件について考察した。妻と息子とともにエジンバラに在住。

宇宙の膨張、ビッグバンモデル、インフレーション宇宙論、量子重力、宇宙マイクロ波背景輻射、ダークマター、ダークエネルギー、マルチバースなど、通常の科学教養書で見かけるような解説がされている。

第2章:量子力学的な時間と空間、その物理的実在
シャーン・マジッド
ロンドン大学クイーン・メアリーの数学教授。ケンブリッジ大学とハーヴァード大学で理論物理学と数学を修得し、1980年代と1990年代に量子対称性の理論の創始に一役買った。この分野における入門書を2冊と多数の研究論文を著した。

古典物理、一般相対論、量子力学の手身近かな発展史、量子時空の問題解決のための新しいアプローチの紹介:q変形量子群、q変形の組みひも幾何学(非可換代数)、双接合積量子群、共形場の理論、自己双対構造、モノイド関手、ハイティング代数など。

第3章:因果律、量子論、そして宇宙論
ロジャー・ペンローズ
オックスフォード大学のラウズ・ボール数学名誉教授。1988年にスティーヴン・ホーキングとともにウルフ賞を受賞。1970年代にツイスター理論を創始し、他にもタイル貼りの理論から天体物理学と量子論まで多数の業績がある。

擬リーマン多様体や計量テンソルの説明、光円錐、アインシュタインの重力方程式、プランクスケールにおける量子泡の時空構造、量子重力、スピンネットワーク理論、エントロピー、ホーキング放射、時空のコンフォーマルバウンダリー(共形不変性)、共形巡回宇宙論(Conformal Cyclic Cosmology)。

第4章:時空の美しい理解のために:重力と物質の統一
アラン・コンヌ
コレージュ・ド・フランスで解析学と幾何学の講座を持ち、パリのフランス高等科学研究所、アメリカのヴァンダービルト大学の教授である。1982年にフィールズ賞、2002年にクラフォード賞を受賞。非可換幾何学のパイオニアである。この分野において、純粋数学および物理学でのさまざまな応用を研究し、この分野における代表的な入門書や多数の研究論文を著した。

最小作用の原理、ラグランジアン、無限小変数における非可換性、時空の非可換性、スペクトル幾何学、幾何学に対する量子修正、有限体Fの必要性、重力場での観測量とスペクトル作用、標準模型からスペクトル模型への変数変換、くりこみ群方程式、量子重力。

コンヌ博士の理論は素粒子の標準模型と重力を統一するから、統一スケール(プランクスケール)においてニュートン定数の値も予想する。そしてスペクトル作用は有効作用として用いることができる。MxFについての非可換幾何学へ応用するスペクトル作用関数からわかる理論は基本理論ではないが、統一スケールで意味を持つところで留まる実質的な理論と考えられる。(この非可換幾何学によって素粒子の標準理論が導かれることはこの論文で示されている。)

量子重力についてその伝搬関数はタキオン極を持ち、そのユニタリー性は破れ、コンヌ博士は「Noncommutative Geometry, Quantum Fields and Motives (2007)」(PDF)の中で数論の枠組みの中での対称性の破れの役割--リーマン-ゼータ関数のゼロ点についての特別な理解--と標準模型の電弱セクターでの対称性の破れとの間の類似性を展開した。この電弱対称性の破れのメカニズムの後に幾何学が現れるという可能性がある。ヒルベルト空間でのシンプレクティック・ユニタリー群のもとで、スペクトル作用の不変性は、任意の幾何学のコンパクト等長変換群に至るこのプロセスの中で破られる。

したがって、もし数論的な類推から考えてみることができると、あるエネルギー(プランクエネルギー)状態の上では、時空の考えは消失し、そして大域な系の状態は本質的に古典的な幾何学的な意味を持たない作用素環論的データに含まれるIII型(III型作用素環を生成する意味での)の混合状態であることがわかる。数論的系において、温度がエネルギー準位の役割を果たし、鍵となる概念はKMS状態である。したがって、この考えに従うなら、時空の初期に起きた特異点を調べることを断念し、それに代わって、対称性の破れの現象を通して、新しい幾何学を生み出すことに向かうべきである。特にくりこみ可能なユニタリーな場の量子論を見つけることによって固定された背景時空多様体上で重力場の量子化を試みるという考えは現実的でないものとなると述べている。

第5章:時間とは何か
ジョン・ポーキングホーン
英国国教会の神学者として名を知られているとともに、1960年代と1970年代にはケンブリッジ大学の主要な素粒子論物理学者でもあった。ケンブリッジ大学クイーンズカレッジの学長も務めている。2002年にテンプルトン賞を受賞。物理学と神学に関する多数の書物と研究論文を著した。

パネリストは神学者であるとともに物理学者であるというユニークな経歴を持つ先生だ。神学の立場から「時間とは何か?」ということについて6ページほどお書きになっているが、僕にとってはほとんど興味の持てる内容ではなかった。


翻訳の元になった英語版はこちら。Kindle版だと格安で販売されている。

On Space and Time: Cambridge University Press」(Kindle版



余談:コンヌ博士が担当された章に次の写真があった。

NHKの「素数の魔力に囚われた人々 〜リーマン予想・天才たちの150年の闘い〜」では、コンヌ博士の後ろに複雑な数式が映されていて、何の数式か気になっていたのだが謎が解けた。これは素粒子の標準理論の数式(ラグランジアン)である。NHKの「神の数式」でCERNの庭にある石に書かれていた数式のことだ。素粒子毎に書き下すとこのように長い式になるわけである。




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時間とは何か、空間とは何か:S.マジッド、A.コンヌ、R.ペンローズ他


はじめに(シャーン・マジッド)

第1章:暗黒宇宙(アンドリュー・テイラー)
- 宇宙論における空間と時間
- 膨張する宇宙
- ビッグバンモデルの土台
- 宇宙の初期条件
- 標準的な宇宙のモデル
- 宇宙論のスタンダードモデルの証拠
- 宇宙の暗黒面
- ダークエネルギーの性質に関する理論的なアイデア
- おわりに

第2章:量子力学的な時間と空間、その物理的実在(シャーン・マジッド)
- イントロダクション
- 科学の核心にある欠陥
- 量子時空
- 観測可能量と状態の双対性
- 自己双対構造とプラトンの洞穴
- 相対的現実主義

第3章:因果律、量子論、そして宇宙論(ロジャー・ペンローズ)
- 時空構造
- 量子重力?
- 熱力学からの動機
- 時空のコンフォーマルなバウンダリー
- 共形巡回宇宙論(CCC)
- より大胆なCCC様相の推測

第4章:時空の美しい理解のために:重力と物質の統一(アラン・コンヌ)
- はじめに
- 量子的な考え方と無限小変数
- なぜ時空は非可換に拡張されるべきなのか
- 長さの単位についての歴史
- スペクトル幾何学
- 有限体Fの必要性
- 重力場での観測量とスペクトル作用
- 予想
- 量子重力について

第5章:時間とは何か(ジョン・ポーキングホーン)

参考文献
訳者あとがき
索引
著者紹介

ファインマン先生の自伝本と講演本

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いちばん好きな本なのに、これまで紹介していなかったことに気がついた。

今日紹介するファインマン先生の自伝や講演会の本はたいてい僕の手元にはない。友達にあげたり貸したりしているからだ。貸した本やCDは催促しない限り、たいてい戻ってこない。

いつもブログを読んでくださっている友達に先日プレゼントしたのがきっかけで自分のぶんも注文しておいた。その友達は司法関係の人で理数系は弱いのだが、最初の3冊ならばきっと読んでいただけると思う。


今度の日曜日(5月11日)はファインマン先生の誕生日。もし生きていらっしゃれば96歳におなりになっているはず。

リチャード・P・ファインマン: 1918年5月11日 - 1988年2月15日、アメリカ合衆国出身の物理学者。
経路積分や、素粒子の反応を図示化したファインマン・ダイアグラムの発案でも知られる。1965年、量子電磁力学の発展に大きく寄与したことにより、ジュリアン・S・シュウィンガー、朝永振一郎とともにノーベル物理学賞を共同受賞した。
カリフォルニア工科大学時代の講義内容をもとにした、物理学の教科書『ファインマン物理学』は世界中で高い評価を受けた。この教科書の英語版は2013年12月に「全巻無料公開」された。また、『ご冗談でしょう、ファインマンさん』などユーモラスな逸話集も好評を博している。生涯を通して彼は抜群の人気を誇っていた。
ウィキペディアの紹介記事

ファインマン先生の関連本はたくさん出版されているが、今回は先生みずからお書きになった自伝本と先生ご自身がなさった講演の内容をまとめた本だけにこだわって紹介しよう。


まず読んでいただきたいのがこの本。定番中の定番だ。

ご冗談でしょう、ファインマンさん〈上〉
ご冗談でしょう、ファインマンさん〈下〉
"Surely You're Joking, Mr. Feynman!": Adventures of a Curious Character」(Kindle版

  

内容紹介:
R.P.ファインマンは1965年にJ.S.シュウィンガー、朝永振一郎とともにノーベル物理学賞を授賞した天才的な物理学者である。こう書くと「理数系が苦手」な人は逃げ出したくなるかもしれないが、そんな人にこそ本書を手にとっていただきたい。

本書は20世紀を代表する天才物理学者の自伝ではない。R.P.ファインマンという人生を楽しむ天才から我々への贈りものである。
「ファインマンと聞いたとたんに思い出してもらいたいのは、ノーベル賞をもらったことでもなければ、理論物理学者であったことでもなく、ボンゴドラムでもマンハッタン計画でもない。僕が好奇心でいっぱいの人間であったということ、それだけだ」といつも言っていた(下巻訳者あとがきより)。

「なぜだろう?」といつも好奇心いっぱいの子どものように世界を見て、いったん好奇心をひかれたらそれに夢中になり納得のいくまで追求する。彼は一切の虚飾と権威を嫌い、相手がそれをかさに着ているとみるや容赦しなかった。それは、そのような態度が、楽しいはずの真実の探求を邪魔する厄介なものだったからである。

上巻では、彼の少年時代、物理学者としての修行時代、また駆け出しの物理学者として携わったマンハッタン計画から終戦を迎えるころまでのエピソードが収録されている。どの時代においても彼はその状況を最大限楽しみ、そして、決して流儀を変えなかった。
自分が理系か文系かなんて関係ない。もし少しでも本書に「好奇心」を持ったなら、ぜひ一読をおすすめする。

本書の上巻では若く初々しかったファインマンの姿に触れることができるが、下巻では、成長したファインマンが1人の「物理学者として」物理のみならず社会や芸術とかかわってゆくさまに触れることができる。

どんなに権威者になっても(彼はそう呼ばれるのを何よりも嫌ったが)、彼は決して物理学者としての誠実さを変えることはなかった。サバティカルでブラジルの国立研究所に滞在した彼は「教科書を丸暗記するだけ」の物理の大学教育に業を煮やし、ブラジルの「お偉方」の大学教授たちの前で「この国では科学教育が行われていない」と言い放った。またあるときは、学校教科書の選定委員としてすべての教科書に目を通し、教科書の内容が科学的誠実さを欠いているのを真剣に怒り、他の委員たちと闘った。

彼の信条でもある「好奇心」は年齢を重ねてもとどまる所を知らず、カジノではプロの博打うちに弟子入りしたり、ボンゴドラムでバレエの国際コンクールの伴奏をしたり、また、幻覚に強い興味を持った彼は、旺盛な好奇心からアイソレーションタンク(J.C.リリーが発明した感覚遮断装置)にまで入ってしまう。彼は他人のことなど気にとめず、素直な心で物事を見つめ、興味をひかれたらそれに夢中になる。彼は何より人生を楽しみ、人生を愛していた。

そんな彼の書いた本書に触れていると、いろんなことを話したくってうずうずしている彼が、目を輝かせて楽しそうに自分に向かって話しかけてくれているような気分になる。そんな気分にさせるのは、大貫昌子による素晴らしい訳のおかげでもあろう。訳者はファインマンと親交があり、彼に相談しながら翻訳作業を行っているため、原文の持ち味が十分に表れている。


そして次はこの本。さしあたりここまでの3冊が「ファインマン先生入門シリーズ」というところだろう。

困ります、ファインマンさん
What Do You Care What Other People Think?: Further Adventures of a Curious Character」(Kindle版

 

内容紹介:
『ご冗談でしょう、ファインマンさん』につづく、ノーベル賞物理学者の痛快エッセイ集。好奇心たっぷりのファインマンさんがひきおこす騒動の数々に加え、人格形成に少なからぬ影響を与えた父親と早逝した妻について、来日して伊勢や能登半島に小旅行したときのエピソード、そして、チャレンジャー号事故調査委員会のメンバーとしていかに原因を究明したか、その顛末が語られる。

スペースシャトル、チャレンジャー号爆発事故(1986年1月、ウィキペディアで詳細を読む


事故調査報告の公聴会でのファインマン先生(左)とアームストロング宇宙飛行士(右)


事故調査委員会のメンバーの中で最も著名な人物の一人に、理論物理学者のリチャード・ファインマンがいた。彼はテレビ放送された聴聞会の席上、氷のように冷たい温度下でOリングが如何に弾力性を失い密閉性を損なわれるかということを、コップの氷水に試料を浸すことで見事に実証してみせた。彼はNASAの「安全文化」の欠点に対して極めて批判的だったため、シャトルの信頼性に対する彼の個人的な見解を報告書に載せなければ報告書に名前を使わせないと脅し、これは「付録F」として巻末に収録された。ファインマンはその中で、NASAの首脳部から提出された安全性評価ははなはだしく非現実的であり、現場の技術者による評価とは時に1000倍もかけ離れていると論じた。付録Fの末尾をファインマンは次の文で結んでいる。「技術が成功するためには、体面よりも現実が優先されなければならない、何故なら自然は騙しおおせないからだ。」

報告書の巻末「付録F」はネット上に公開されている。

Appendix F - Personal observations on the reliability of the Shuttle
by R. P. Feynman
http://science.ksc.nasa.gov/shuttle/missions/51-l/docs/rogers-commission/Appendix-F.txt


さらに興味がでてきたら、こちらもよいだろう。

聞かせてよ、ファインマンさん」(紹介記事
The Pleasure of Finding Things Out」(Kindle版

 

内容紹介:
もしもファインマンさんの講演会があったなら、今だって会場には溢れんばかりの人がおしかけるだろう。学問のいかめしさとは全く無縁、不思議を突き止めていく科学のワクワク、ドキドキを、抱腹絶倒の語り口で伝えてくれるから。そんなファインマンさんの、講演・インタビューをまとめた一冊。話題は生い立ちから、素粒子や宇宙の話まで。

1.ものごとをつきとめることの喜び(1981年,BBCインタビュー)
2.未来の計算機(1985年,仁科記念講演/東京)
3.現代社会での科学的文化の役割とそのありかた(1964年,ガリレオシンポジウム/イタリア)
4.底のほうにはまだ十二分の余地がある(1959年,米物理学会/パサデナ)
5.科学の価値とは何か(1988年,『困ります,ファインマンさん』)
6.スペースシャトル「チャレンジャー号」事故少数派調査報告(1986年)
7.科学とは何か(1966年,米国科学教師教会講演会)
8.世界一,頭のいい男(1979年,オムニ誌)
9.リチャード・ファインマン,宇宙を築く(米国科学振興会インタビュー)
10.科学と宗教の関係(カリフォルニア工科大,「工学と科学」誌)

The Pleasure of Finding Things Out



ここからは中級者向け。

科学は不確かだ!
The Meaning of it All」(Kindle版

 

内容紹介:
『科学は不確かだ』―― 科学肯定派にも否定派にも刺激的なタイトルだ。しかも、超一流の物理学者がそう言うのだから。

ファインマンは理論物理学者で、朝永振一郎らとともに、量子力学のくりこみ理論の提唱でノーベル賞を受賞した。原爆開発を行ったマンハッタン計画では計算部門の主任を20代で務めた。物理学教育でも著名だ。

科学者は観察や実験によって不確かな知識をテストして、入念に疑って慎重に知識を獲得する。だから、不確かなことは科学者への挑戦であって、思い悩むべきことではない。逆に、根拠がないのに確実だと思い込むことほど危険なことはない。本書で、ファインマンは超常現象や道徳、政治的・宗教的信念という、科学とは遠い分野の話題にも触れるが、ここでも彼の態度は変わらない。タイトルには、こういう意味がこめられている。

この講演は、1963年にワシントン州立大学で三夜に渡って行われたもので、それぞれ「科学の不確かさ」「価値の不確かさ」「この非科学的時代」というタイトルがつけられている。すぐれた科学者が科学や社会現象について、どう考えていたのかが、わかりやすいことばで語られる。また、自由がなぜ大事なのかという彼の主張や軍事技術に対するアンビバレントな態度も興味深い。

科学について考えてみたいという方、あるいは科学を現在学んでいるという学生や研究者などにおすすめの本。


次は「ファインマン物理学シリーズ」への入門用とでも呼べるべき本だ。

物理法則はいかにして発見されたか」(レビュー記事
The Character of Physical Law」(Kindle版

 


内容紹介:
物理法則とはどのような性格のもので、それはどのようなものの見方から発見に至ったのか。語りの名手ファインマンさんが、その心躍る展開を若者に熱っぽく語った。また、ノーベル賞受賞となった自身のアイデアと新理論完成までの曲折を、ユーモアを交え分かりやすく解説、物理の魅力あふれる世界に万人を誘う、楽しい入門書となった。

第1部:物理法則とは何か(コーネル大学における講演)
第2部:量子電磁力学に対する時空全局的観点の発展(ノーベル賞受賞講演)

The Character of Physical Law




最後はファインマンの経路積分や量子電磁力学の考え方を一般向けに解説した本。

光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学」(レビュー記事
QED: The Strange Theory of Light and Matter」(Kindle版

 

内容紹介:
「ねえ、リチャード、あなたは何を研究しているの?」友達の奥さんがそう尋ねてきた。はてさて、どうする、ファインマンさん。物理が全然わからない人に、自分の研究を理解してもらえるか。それも、超難解で鳴る量子電磁力学を。光と電子が綾なす不思議な世界へ誘う好著。物理学者リチャード・ファインマン、面目躍如の語りが冴える。
この本は4日間にわたる一般向け講演の記録に基づいて書かれたものです。1日目は「部分反射」の話からはじまります。ガラスの表面に光が当たるとき、光の一部が表面を通過し一部が反射する現象です。かのニュートンは光の粒子説を唱えましたが、波動説が競合していました。そしてマクスウェルの理論によって波動説が最終的に勝利したかに見えました。ところが20世紀に入って量子論が誕生し、ある意味で粒子説が復活しました。光は光子という「粒」の集まりだと言うのです。すると部分反射について、既にニュートンが悩まされていた問題に再び悩まされることになります。個々の「粒」は、ガラスの中に入ってゆくのかそれとも反射するのかを、どうやって「決心」するのか。。。本書では「粒」をめぐる様々な現象が「演算を持つ矢印」によって魔法のように見事に説明されていきます。複素数を知っているほうが分かりやすいとは思いますが、知らなくても十分理解できます。知的冒険の旅へ、装備なしの手ぶらで出発できます。

Richard Feynman Lecture on Quantum Electrodynamics: QED




ファインマン先生は3度来日されている。次の写真はノーベル賞受賞前、1954年の来日で京都を訪れたときの写真で湯川秀樹先生と写っている。このとき泊まった旅館の大浴場で泳いで遊んでいて、湯川秀樹先生に『おい!若いの、少し静かにしろ』と叱られたそうだ。(クリックで拡大



余談:写真はこのページから拝借したのだが、裏焼きであることにお気づきだろうか?後ろに写っている日本語の文字が裏返しだし、湯川先生や小田稔先生の胸ポケットの位置が左右逆になっている。


3度目の来日は1985年の8月。「困ります、ファインマンさん」の中の「シャベルを持っていきましょうか」というエッセイに、ご夫妻が三重県にある古い和風旅館に2泊したことが書かれている。(滞在は8月12日〜14日)東京のホテルから案内人もつけずにご夫妻だけお忍びで抜け出してしまった話である。詳しいいきさつやこの旅館が「辰巳屋旅館」であることが三重大学の妹尾先生が寄稿された文章に書かれている。散策中に雨に降られたご夫妻が通りがかりの車に乗せてもらったのが「若宮八幡宮」である。(この文章の中では来日が1985年か1986年かはっきりしないと書かれているが、学習院大学で行われた仁科記念講演会は1985年8月9日であるし、1986年はスペースシャトルの事故原因究明で忙殺されていたので、ファインマン先生が来日したのは1985年である。したがって「困ります、ファインマンさん」の記載で「1986年に来日」とあるのは誤りだ。)

ノーベル賞物理学者ファインマン夫妻の泊まった宿を訪ねて(三重大学工学部教授 妹尾允史): Google Chrome、Safariでは文字化けします。IEまたはFirefoxで開いてください。
http://www.lib.mie-u.ac.jp/about_library/50thnews/50thNL10.html#03

ファインマン物理学」は1967年に日本語版が出版されていたものの、「ご冗談でしょう、ファインマンさん」の日本語版が出版されたのは1986年の6月、7月なので、来日された1985年にはファインマン先生のことを一般の日本人は知っていなかったと思われる。

妹尾先生のページに掲載されている貴重な写真。2泊した後、宿を出発する際に撮られたものだそうだ。




Googleストリートビューを使ってこの旅館の玄関を同じ角度で表示させてみた。赤電話はなくなっているが、建物や玄関前の石畳は29年経った今でもほとんど当時のままだ。奥様の後ろや玄関脇のカーテンも全く変わっていないように見える。先生がカメラに向かってポーズをとっていた位置に赤いしるしをつけておいた。

写真をクリックするとストリートビューが開く。



カメラに向けられた先生の視線の先にはどのような風景が広がっていたのだろう?
宿を出た先生と奥様が散策された田舎の景色とはどんな感じだったのだろう?

Googleストリートビューをぐるぐる回してご夫妻が楽しまれた日本の田舎の風景をご覧いただきたい。(ストリートビューでこの場所を開いてみる


その後、ファインマン先生は京都国際会館で開かれた「中間子論50周年記念国際会議(8月15日から17日)」に出席されている。このページに次のような記載があるのを見つけた。

「この会議には、あのお茶目な、リチャード・ファイマンも出席した。このファイマンさん、明日から会議だというのに、前日になっても、京都に到着しない。そして誰もどこにいるのか知らず、雲隠れにあったのか、と、みんな大騒ぎしたが、そんな中、お茶目なファイマンは、ひょっこりと京都に現れた。東京から京都に来るのに、1人で普通列車に乗りこみ、伊勢方面をお忍びで回ってきたという。ほっと胸をなでおろしたことが印象に残っている。」


京都滞在の後、ご夫妻は能登半島へ向かわれた。御神火太鼓がお目当てだったようだ。宿泊先は「湖月館」。滞在時にファインマン先生がお描きになった女将の似顔絵は次のページで見ることができる。

春夏秋冬 能登半島 (石川県)
http://www5a.biglobe.ne.jp/~mt2000/sub16.html

1985年8月21日



ゴールデンウィークでこれらの旅館に宿泊しているお客さんもいると思う。宿泊客はここがファインマン先生ゆかりの宿であることをはたしてご存知だろうか?


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The Feynman Lectures on Physics, boxed set: The New Millennium Edition



ファインマン物理学 I 力学」(1986)
ファインマン物理学 II 光・熱・波動」(1986)
ファインマン物理学 III 電磁気学」(1986)
ファインマン物理学 IV 電磁波と物性〔増補版〕」(2002)
ファインマン物理学 V 量子力学」(1986)



ファインマンさんは超天才: C.サイクス

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ファインマンさんは超天才:C.サイクス

内容紹介
誰も解けなかった問題をわずか二時間で解いてしまう。三つの難問を同時にこなしてしまう。ファインマンさんの頭脳は冴えわたり、とどまるところを知らない。並みの天才ではなく、まさに超天才。学者としても人間としても型破りで愉快な「魔術師」ファインマンの素顔が、仲間の科学者、家族や友人によって語られる。もちろん本人へのインタビューもふんだんに盛り込まれている。インタビューと写真で傑出した科学者の個性が浮き彫りにされる。2012年4月刊行。


理数系書籍のレビュー記事は本書で250冊目。

明日、5月11日のファインマン先生の誕生日を意識して読んでみた1冊。2012年4月に刊行された。この本が出版されていたのは知っていたが、タイトルが安っぽくて気に入らなかったから注文するには至っていなかった。原題は「No Ordinary Genius」。直訳すれば「並の天才にあらず」ということになる。でもこれでは本のタイトルとしてはふさわしくない。自分なら次のようなタイトルにすると思う。

「天才を超えていたファインマンさん」
「破格の天才、ファインマンさん」
「型破りな天才、ファインマンさん」


インターネットやSNSが発達したおかげで目だってしまうのかもしれないけれども、日ごろ新聞やニュースで報じられる出来事はため息が出るものがほとんどだ。元気がよいのはせいぜいスポーツニュースくらいに思えてしまう。

国家レベルから個人レベルまで、過去の失敗に学ぶこともなく、科学や技術が進歩して便利になっても相変わらず人間は間違いばかり繰り返している。日本や世界はこの先どうなってしまうのだろうと思わずにはいられない。

そのような暗澹たる思いにとらわれてしまったときは、ぜひファインマン先生の著書を読んでほしい。目からうろこが落ちるようなエピソードをドキドキ、ワクワクながら読んでいるうちにもやもやが晴れてスッキリした気分になれるはずだ。


ファインマン先生ほど物理学を、そして人生を楽しみ、そのワクワク感を周りの人に広めた人を僕は他に知らない。そして先生の型破りな天才ぶりは先日の「ファインマン先生の自伝本と講演本」という記事で紹介した最初の3冊でじゅうぶん伝わってくる。自分もファインマン先生のように楽しく生きられたらどんなに素晴らしいだろうかと感化される。

ファインマン先生の科学に対する姿勢や考え方を知ると、日頃僕らがテレビで見聞きしている「サイエンス」や学校で学んでいる理科や科学がどれだけ表面的で知恵の浅いものなのかということがわかってしまうのだ。

身の回りの謎を解明していくのはこんなにワクワクすることなのか!そして自分で解明できなくても学ぶということはこんなに楽しいことなのか!ファインマン先生の愉快な語りは、僕たちにそのことを気がつかせてくれる。

前回紹介した3冊でじゅうぶんそのことが伝わるのならば、本書を読む意味はどこにあるのだろうか?章立てを見ると、これまでの本と内容がかぶっている。


著者はクリストファー・サイクスというドキュメンタリー映画のプロデューサーである。1954年イギリス生まれ。オックスフォード大学で英文学を学び、卒業後はBBCテレビ科学部門で資料調査員、監督、プロデューサーを務め、1983年に独立して現在に至っている。

本書を読む意味をひとことで言えば、ファインマン先生の素晴らしい生き方を再確認するための本だということである。著者が先生ご自身とご家族をはじめ、先生に直接感化された同僚や友人たちにインタビューをしてまとめたのが本書だ。そしてファインマン先生自身の発言と活躍を紹介するとともに、それを目の当たりにした人たちによる貴重な証言をまとめたものである。だからこれまでの本と内容がかぶっていたとしても、それは周囲の視点から見た話であり、これまで知らなかった事実、新しい発見がある。特にスペースシャトル爆発事故原因究明の話の中で元空軍大将クティナの明かしたことはファインマン先生も後になって知った事実だ。

先生の妹さんも物理学者だったこと、息子さんがコンピュータ学者であることも僕は本書で知った。先生とかかわりをもった物理学者も一流の人たちがほとんど。専門の立場から見ても問題に対するファインマン先生の発想や解決手法は驚異的なものだった。そして同僚からだけでなく、先生はかかわったさまざまな職業の人たちから慕われていたことがよくわかるのだ。

次のような人たちがファインマン先生の思い出を語っている。

カール・ファインマン(コンピュータ学者、リチャードの息子)
ジョーン・ファインマン(物理学者、リチャードの妹)
ミシェル・ファインマン(写真家、リチャードの娘)
ハンス・A・ベーテ(物理学者)
フォースティン・ブレイ(音楽家)
リチャード・デービス(物理学者)
フリーマン・ダイソン(物理学者)
エドワード・フレドキン(物理学者)
デービッド・L・グッドスティーン(物理学者)
アルバート・R・ヒッブス(物理学者)
W・ダニエル・ヒリス(コンピュータ学者)
ドナルド・J・クティナ(元空軍大将)
キャスリーン・マックアルパイン-マイヤーズ(教師、画家のモデル)
マービン・ミンスキー(コンピュータ学者)
リチャード・シャーマン(物理学者)
トム・ヴァン・サント(画家)
ジョン・アーチボルド・ホイーラー(物理学者)
ジラヤー・ゾーシアン(画家)


あと本書がお勧めなのは写真がたくさん載っているところだ。幼少期から晩年までのファインマン先生はもちろん、ご両親、兄弟や奥様の写真、著名な物理学者の先生方の若いころの写真など。これほどの数の写真が見れるのは本書以外にはないと思う。

どの章も読み応えがあり、期待が裏切られることはなかった。特に感動したのは先生がお亡くなりになるまでのことを書いた最終章。以前「ファインマン計算機科学:ファインマン, A.ヘイ, R.アレン」という記事の最後で、亡くなる間際の昏睡状態の中、先生らしさを貫かれていたことを紹介したが、それだけではなかったことが本書で明かされていた。まさに死んでいくその最中に先生はもうひとつやってのけていたのだ。

ネタバレになるのでここでは明かさないが、それはあまりにも先生らしい行為で僕はふたたび胸をうたれた。先生は生き方をワクワクさせる秘訣だけでなく、死ぬとはどういうことかを看取っていた人たちに伝えていたのだ。

本書のタイトル「No Ordinary Genius」は、先生が物理学者としてだけでなく、生きることや死ぬことについても天才だったことを意味しているのだと僕は思った。

それがどういうことかはぜひ本書をお読みになり、知っていただきたい。


ファインマンさんは超天才:C.サイクス
No Ordinary Genius: The Illustrated Richard Feynman:C.Sykes

 


Richard Feynman - No Ordinary Genius



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ファインマンさんは超天才:C.サイクス


まえがき

1:ものごとをつきとめる楽しみ
2:爆弾と愛と
3:ノーベル賞をしとめる方法
4:トップレス・バーほか 楽しく生きる方法
5:想像してごらん!
6:物理をする
7:途方もないアイデア 細かい字と巨大なコンピュータ
8:チャレンジャー
9:タンヌ・トゥーバを求めて
10:死ぬこと

写真出典
訳者あとがき
解説 ファインマンとドラムを打つ ラルフ・レイトン

聞かせてよ、ファインマンさん: R.P.ファインマン

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聞かせてよ、ファインマンさん

内容紹介:
もしもファインマンさんの講演会があったなら、今だって会場には溢れんばかりの人がおしかけるだろう。学問のいかめしさとは全く無縁、不思議を突き止めていく科学のワクワク、ドキドキを、抱腹絶倒の語り口で伝えてくれるから。そんなファインマンさんの、講演・インタビューをまとめた一冊。話題は生い立ちから、素粒子や宇宙の話まで。

1.ものごとをつきとめることの喜び(1981年,BBCインタビュー)
2.未来の計算機(1985年,仁科記念講演/東京)
3.現代社会での科学的文化の役割とそのありかた(1964年,ガリレオシンポジウム/イタリア)
4.底のほうにはまだ十二分の余地がある(1959年,米物理学会/パサデナ)
5.科学の価値とは何か(1988年,『困ります,ファインマンさん』)
6.スペースシャトル「チャレンジャー号」事故少数派調査報告(1986年)
7.科学とは何か(1966年,米国科学教師教会講演会)
8.世界一,頭のいい男(1979年,オムニ誌)
9.リチャード・ファインマン,宇宙を築く(米国科学振興会インタビュー)
10.科学と宗教の関係(カリフォルニア工科大,「工学と科学」誌)


理数系書籍のレビュー記事は本書で251冊目。

本書は2001年3月に「ファインマンさん、ベストエッセイ」というタイトルで刊行された本が2009年に文庫化され「聞かせてよ、ファインマンさん」というタイトルで刊行されたものだ。


1.ものごとをつきとめることの喜び(1981年,BBCインタビュー)

BBC2のテレビ番組「ホライゾン」で「Pleasure of Finding Things Out」という題で放映されたファインマン先生へのインタビューである。この番組はYouTubeで見ることができる。

The Pleasure of Finding Things Out


この章は次のような流れで話が進んでいく。

花の美しさ
人文系を避ける
窓からのぞく恐竜ティラノサウルス
実用的人間のための代数
肩章と法王
爆弾への招待
成功と苦悩
人の期待どおり優秀である必要はない
ノーベル章はもらう価値があったか?
ゲームの規則
原子をぶち割る
「他人にまかせろ」
歴史に退屈する
この父にしてこの子あり
「科学ではない科学…」
疑いと不確かさ

もうこの頃にはファインマンはその生涯の大部分を終えていただけに、若者には到達できないような観点から自らの経験や業績を思い起こすことができたようだ。その結果は彼の念頭を去らないさまざまな話題−たとえば単に何かの名を知っているのと、それについて何かを本当に知っているのとは、なぜ同じことでないのか、広島では人間として同胞であるはずの何万もの人々が死に、あるいは死に瀕しているというのに、その恐ろしい武器を創造した当のマンハッタン計画の科学者たちが、原爆成功を祝ってどんなに酒を飲み浮かれたか、そしてなぜファインマンはノーベル賞などもらわなくてもかまわなかったのか、などなど、くつろいだ話ながら率直そのもの、あけっぴろげで、大変個人的な論考である。


2.未来の計算機(1985年,仁科記念講演/東京)

1985年8月9日に学習院大学で行われた仁科記念講演の内容だ。この章の翻訳だけ江沢洋先生が担当されている。

並列計算機
エネルギー損失を減らす
小型化する
質疑応答

広島と長崎への原爆投下から40年。マンハッタン計画で働いたファインマンが日本で講演する。テーマは計算機の将来。鋭い知性をもつすべての人々の関心ごとを語り、ついには計算機をどこまで小さくできるかに話は及び、ファインマンは計算機科学のノストラダムスかと思わせる。この章は荷が重いという読者もあろうか。しかし、これはファインマンの科学への寄与の重要部分なのだから、時間をかけて読んでほしい。細かな話は飛ばすにしてもである。講演はファインマンが好み、あたため続けたいくつかのアイデアを披露して終わる。それらは、今にして思えば今日のナノテクノロジー革命の先触れであった。


3.現代社会での科学的文化の役割とそのありかた(1964年,ガリレオシンポジウム/イタリア)

イタリアで催されたガリレオ・シンポジウムで、科学者たちを前にして行った講演。ガリレオの偉大な仕事とその苦悩にしばしば言及しながら、ファインマンは科学が宗教、社会、哲学に及ぼす影響を語り、さらに人間にとって科学は無条件に信じるのではなく疑いを持つ姿勢を貫くことが未来の文明を決定するのだと、聴衆に警告を発している。


4.底のほうにはまだ十二分の余地がある(1959年,米物理学会/パサデナ)

カリフォルニア工科大学の「Engineering and Science」という雑誌に掲載された文章を和訳したもの。コンピュータの小型化やナノテクノロジーについてのアイデアを述べている。

物理学の新分野への招待
どうすれば小さく書けるか?
微小規模の情報
もっと強力な電子顕微鏡を!
すばらしい生物学的システム
コンピュータの小型化
蒸発による小型化
潤滑の問題
原子を並べかえる
微小な世界の原子
ハイスクール対抗戦

1959年11月29日、カリフォルニア工科大学で催されたアメリカ物理学会の席上、「ナノテクノロジーの父」ファインマンは、その有名な講話の中で、時代の何十年も先を行く超小型化の未来を語った。それも『大英百科事典』をまるごと針の先に書き込むにはどうすればよいかにはじまり、生物も無生物も含めて物質を超微小のサイズまで縮めることから、果てはこの文章の終わりの句点より小さい機械の潤滑問題に至るまで、こと細かに説明してのけている。そして例の有名な懸賞で若い科学者たちに、各辺が64分の1インチ以下で、実際に使える電気モーターを作ってみるよう挑戦をうながすのだ。


5.科学の価値とは何か(1988年,『困ります,ファインマンさん』)

ファインマン先生がラルフ・レイトンに口述して出版した「困ります、ファインマン先生」に掲載されている文章。

疑いをもつ自由こそ科学の最高の価値だ
大いなる冒険
驚くべきアイデア
教育には善も悪もある
科学者としての僕らの責任

ハワイで仏教の寺を見学したファインマンは、謙譲ということについてある教訓を得た。「人はみな極楽の門を開く鍵を与えられているが、その同じ鍵は地獄の門も開く。」人間の経験とのあいだにある関係と意味を深く考えたファインマンのこの話は、もっとも感動的な彼の講話のひとつである。彼はまた科学者仲間にも、文明の将来に対するその責任を説く。

6.スペースシャトル「チャレンジャー号」事故少数派調査報告(1986年)

緒言
固体燃料ロケット(SRB)
液体燃料エンジン(SSME)
航空電子工学技術
結論

1986年1月28日、発射直後のスペースシャトル「チャレンジャー号」が爆発し、宇宙飛行士6人、小学校教師1人が悲運の死を遂げた。米国全体はショックと悲しみ打ちひしがれ、NASAは長年にわたる宇宙計画の成功(少なくとも死者は出していない)による自己満足から、突然揺り起こされることになった。この爆発事故の原因を究明し、二度と再びこのような惨事が発生せぬよう、事故防止策を大統領に勧告すべく、ウィリアム・P・ロジャース国務長官を委員長に、政治家、宇宙飛行士、軍人、そして科学者1人からなる調査委員会がつくられた。その1人の科学者がリチャード・ファインマンであったことがチャレンジャー号の事故原因を解明するか、永遠の迷宮入りに終わるかの決めてになったと言えるかもしれない。他の委員たちに比べてはるかに肝のすわったファインマンは、ジェット機で全国を飛び回り、プロパガンダが安全性と細心の注意とに先行しはじめていたシャトル計画を憂慮する地上の技術者たちと忌憚なく話し合った。彼の報告はNASAの面子にかかわるのを恐れた委員会に、あやうくにぎりつぶされるところだったが、ファインマンはあくまでもこれを委員会報告に入れんものと闘って後に退かず、結局彼の報告は「付録」に格下げされながらも公表される運びとなったのである。委員会が記者団の質問に答えるため公開の記者会見を行ったとき、ファインマンはシャトルのガスケット(Oリング)の一部とコップ一杯の氷水を使って、かの有名な卓上実験をやってのけた。この実験こそ、肝心のガスケットが低温によって損なわれた事実を明らかにしたものである。あの朝、NASAの幹部たちは、シャトル計画の期日厳守を上層部に印象付けようとするあまり、打ち上げには気温が低すぎて危険だという技術者たちの警告に耳をかさなかったのだった。これはその歴史的報告書である。

スペースシャトル、チャレンジャー号爆発事故(1986年1月、ウィキペディアで詳細を読む


事故調査報告の公聴会でのファインマン先生(左)とアームストロング宇宙飛行士(右)


ファインマン先生がお書きになった報告書の巻末の「付録F」はネット上に公開されている。

Appendix F - Personal observations on the reliability of the Shuttle
by R. P. Feynman
http://science.ksc.nasa.gov/shuttle/missions/51-l/docs/rogers-commission/Appendix-F.txt


7.科学とは何か(1966年,米国科学教師教会講演会)

科学とは何か?そんなものは常識じゃないか!いや待てよ、ほんとうにそうだろうか?1966年4月、名教師リチャード・ファインマンは米国科学教師協会の会議で行った講演のなかで、いかにして科学者らしい考え方を生徒たちに教え、好奇心と心の広さ、そして何よりも懐疑をもって世界を見る姿勢を育てるかについて、仲間の教師たちに教訓を授けている。この講演はまたファインマンの世界観に多大な影響を及ぼした彼の父、制服を売るセールスマンだった父に捧げられた賛辞でもある。


8.世界一,頭のいい男(1979年,オムニ誌)

この章は『オムニ』誌が1979年に掲載した、あのすばらしいファインマンのインタビューである。これは彼がもっともよく知っており、こよなく愛していたもの、つまり物理学と、もっとも好きでなかったもの、すなわち哲学(哲学者たちは自分を併記で笑い飛ばせるようにならなくちゃだめだ)を語るファインマンの独断場だ。ここには彼がノーベル賞を受けた量子電磁力学(QED)の研究から宇宙論へ、そしてクォーク、はては幾多の方程式を台無しにする例の厄介な「無限大」の問題についての論考も展開されている。


9.リチャード・ファインマン,宇宙を築く(米国科学振興会インタビュー)

米国科学振興会の賛助を得て行われた未発表のこのインタビューのなかでファインマンは、講義室に居並ぶノーベル賞受賞者の面々を前に冷や汗をかいた最初の講義、原爆開発計画への誘いを受けたときの彼の反応、「カーゴカルト」サイエンス、そしてノーベル賞受賞を知らせる記者の夜明け前の電話、「朝になってから知らせてくれればいいのに」という彼の答えなどなど、ひたすら科学に生きる自らの生涯を振り返っている。


10.科学と宗教の関係(カリフォルニア工科大,「工学と科学」誌)

この章でファインマンは架空のパネル・ディスカッションの形を借りて、科学者と精神主義者の立場から見たさまざまな問題に対する意見を述べ、科学と宗教の一致点と矛盾を論じる。これは一種の思考実験であるが、現在のこのまったく異質な二つの真理追及法のあいだで熱心にたたかわれている論争を20年も前に彼はちゃんと予想していたようだ。そのなかで彼は精神主義者が神への信仰にもとづいた道徳観を持つのと同じような形で、無神論者も科学の教えにもとづいた道徳観を持つかどうかを考察している。実用主義者のファインマンにしては、いつになく哲学的なトピックといえよう。


聞かせてよ、ファインマンさん
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数学の教科書が言ったこと、言わなかったこと:南みや子

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数学の教科書が言ったこと、言わなかったこと:南みや子

内容紹介:
著者は高校生の頃、「数学の教科書には、それまでに習ってきた数学の内容がすべて書かれている」と信じ、「わからないのは自分が悪いからだ」と思いながら徹底的に読み込んでいました。しかしやがて、実は教科書では数学のすべてが語られているわけではないと気づくことになります。それがなぜかということを考えるにつれ、数学を理解できなかったのは必ずしも自分のせいだけではないと思うようになります。実際に問題も解きながら、数学についてじっくり考える、大人の学びなおしにも最適な一冊です。
わかる人にはわからない、数学のわからなさがわかる!“自分は数学に向いていない”と思いながらもとことん数学と向き合い、数学の教師となった著者が、数学を学ぶ上で全幅の信頼を寄せて頼りにしていた数学の教科書が、“語ってくれなかったこと”について語ります。

著者について
南みや子
1948年神奈川県生まれ。上智大学大学院修士課程修了。専攻は位相幾何学。学業終了後は定時制高校の教員として、様々な立場の生徒たちと関わってきた。現在、小田原高校勤務。著書に『「なぜ? どうして?」をとことん考える高校数学』(ベレ出版)『やさしいトポロジー』『ポアンカレの贈り物』(講談社ブルーバックス:共著)がある。


理数系書籍のレビュー記事は本書で252冊目。

今回紹介する本は自信をもってお勧めできる1冊だ。地元の中型書店に5冊ほど平積みされていたのを見つけて「あ、これはいい!」と思って即購入。とてもユニークな本で先月発売されたばかりだ。

いわゆる「高校数学がまるごとわかる」のような「やりなおし系の数学本」ではない。強いていうならば「やりなおし系数学のための副読本」というところだろう。本書をお書きになった南先生ご自身はもともと数学が苦手だったというのも驚きだった。南先生は大学で数学を学ばれた(専攻は位相幾何学)後、主に定時制高校で数学を教えていたそうだ。1948年生まれなので今年65歳。常勤講師を定年されたばかりである。

ご自身の学生時代にご苦労されたこと、そして長年の定時制高校での数学教育から得られた事例や反省点、中学、高校の数学の教科書に対するお考えがたくさん込められている本なのだ。僕が想像するに、文部科学省や教育委員会とのしがらみから解放され、自由に意見を言える立場になられたからこそ、忌憚なく「本音」を語った本書が生まれたのだと思う。

南先生はご自身が使っていた昔の教科書と、授業に使っている今の教科書について、自分や生徒がどのような点で苦労したか、教科書が不親切だった理由を分析し次のような3つのモノクル(片めがね)として分類している。


なぜ数学の教科書は語らないのか、語れないのか。それを見極める3つの片めがね。(3つのモノクル)

モノクル1: 数学の教科書が、数学のある部分の内容を説明できないのは、数学という学問の本質にかかわる理由で、これができないからである。

モノクル2: 数学の教科書は、現場の数学の先生の説明に任せるか、生徒本人に時間を与え、考えさせる目的があって、自身の伝えたい内容をあえて細かく説明しない。

モノクル3: 数学の教科書は、数学の教科書らしい気取りから、数学の内容を詳しく説明しない。つまり教科書が「スカしている」「不親切だ」「サービス精神に欠ける」ってことです。


僕のブログを訪れる方の多くは理数系好きな方々で、そのことを意識してふだん記事を書いている。記事の多くは理数系の大学生と社会人を想定しているが、高校生にも物理学や数学を好きになってほしいという気持ちから、易しめの記事もときどき書いている。しかし、それはどちらかというと物理や数学が得意な高校生向けだ。記事はなるべく多くの人に読んでもらいたいから、極力数式は使わないようにしている。

ときどき、数学が苦手な人(文系という言葉はしっくりこないので、僕としては非理数系という言葉を使いたい)に物理学や数学の話をすることもある。数式を使うととたんに拒否反応がでてしまうのは、みなさんが想像するとおりなので「おはなし物理学」や「おはなし数学」のような感じにするのがいちばんよい。

でも、中には数学を一から勉強しなおして、あらためて物理の世界を(僕のように)楽しみたいと思っている人がいるのも事実だ。そういう人の手助けになるのが本書のような本なのである。


中学に入って文字式がでてきたとたん、数学がわからなくなってしまった人。方程式や関数あたりでドロップアウトしてしまった人、高校の微積分や行列あたりで挫折してしまった人。数学に落ちこぼれてしまった理由は人それぞれだと思う。そして自分には才能がないとあきらめてしまったかもしれない。

しかし、原因はもっと他にあったことが本書を読めばわかるはずだ。理数系が得意な人にとっては思いもしない勘違いや疑問にとらわれていたのかもしれない。さらっと簡単に説明されていること、初歩的な疑問の中には、実は本当は数学の本質を突いているため教科書では説明を省略している場合も意外とあるのだ。本書を読めば自分が何につまづいていたのかを発見する一助になると思う。


幸い僕は小学校から大学2年まで数学で苦労したことはない。(大学3年で落ちこぼれてしまったが。)いざ、自分が中学、高校時代に数学の勉強をどのようにしていたか、どのような疑問を持ち解決していたかということも忘れてしまっている。本書を読み「ああ、自分もそういう疑問を持ったことあったっけ!」という記憶がはるか過去からよみがえってきたのが妙に心地よかった。


本書全体を通じ、僕は次の箇所にはっとさせられた。少々長いが引用しておこう。

教科書は読めばわかる?

数学という教科からの独立宣言とも言える「高校に入ったとたんに数学が分からなくなったよ」というせりふを口にする生徒は減っているのではないかと思います。

数学という教科に対する言うに言われぬ愛着をあえて断ち切るような言葉を口にする以前に、数学という教科と決別してしまっている、むしろ、その入り口付近で、数学という教科に阻まれてしまっている生徒が多いのではないかというのが、私の予測です。

「数学」のほうが、その昔の教科書よりも、さらにずっと冷酷に、彼らを阻んでいる気が私にはします。無口に拒んでいるのではなく、多弁に拒んでいるのです。

ひょっとすると、この教科書はこれで教える教師たちの創意工夫をも拒んでいるのではないかという気がします。その分厚さともあいまって、教師達は、教科書のパシリ(使い走り)にならざるを得なくなるのではないかという印象です。そういう意味で「教科書に使われる」ばかりの立場にならないように、ひそかに努力を重ねている先生も、きっといるに違いありません。

この頃の中学校の数学の教科書は「読めば分かる」ように、何もかもくわしく書かれているのです。そうして教科書自身がそのことにいやに自信を持っているようにも見受けられます。

数学の教科書は、前々から持っていった「そのうち分かる」「分かる人には分かる」という自負(?)の念のほかに「読めばわかる」という新たな鎧(よろい)を身に着けて生徒たちに向き合っているような気がします。

しかし、本当に、この教科書は「読めば分かる」のでしょうか?

「どうも、そうではなさそうだ。」

私の目の前に集まってくる生徒たちを見ていて、つくづくとそう思うことがあります。

確かに、彼らの中には「国語も苦手」な人びとも混じっているとは思いますが、それだけの事情からではありません。

この頃の中学校の教科書は、数学という学問、あるいは数学という教科にある程度習熟した人びとの間だけに培われている、ある種の「合意」に基づいて書かれているように思うのです。

そうしてもちろん、13歳の生徒たちのほとんどすべては、こんな大人同士の「合意」についてはあずかり知らぬところなのです。


本書は数学が苦手な中学生や高校生、定時制高校に通っている方はもちろん、学校や塾の数学教師、家庭教師をしている大学生、もういちど数学をやりなおそうと思っている方々にぜひ読んでもらいたい。僕自身にとっても、日頃ブログ記事を書くにあたってどういうことに気をつければよいか、とてもたくさんのことを学ぶことができた。

章立ては次のとおり。最終章では面白い条件付き確率の問題が紹介されている。三角関数、指数・対数関数、ベクトル、行列については解説されていない。

第0章:3つのめがね、貸します
第1章:プラスマイナスの計算をめぐる問題
第2章:文字と文字式をめぐる問題
第3章:方程式をめぐる問題
第4章:座標とグラフをめぐる問題
第5章:複素数をめぐる問題
第6章:微分と積分をめぐる問題
終章:こう使う3つのモノクル


また南先生は昨年の5月に『「なぜ? どうして?」をとことん考える高校数学』という本もお書きになっている。実物を見ていないので断言できないが、これもおそらく本書と同じ趣旨で書かれている本だと思う。章立ては次のとおりだ。

第1章:文字や文字式の問題について(初めての中間テスト「場合分け」ってなに? ほか)
第2章:図形やグラフの問題について(図形の問題には特別のセンスが必要?天の助け ほか)
第3章:微分や積分の問題について(「微分積分がわからないと高校で数学を学んだことにはならない」「極限値」はアリさんの目で ほか)
第4章:その他のいろいろな問題について(「命題」とはどんな文章か「大きいことはいいことだ」は命題? ほか)


最後に今回紹介した本書の「はじめに」を引用しておこう。

読者の皆さんは「数学の先生」というものにどんなイメージを持っていらっしゃるでしょうか?
数学のことなら何でも分かる人?
難しい数学の問題がすらすら解ける人?
しかし、世の中の数学の先生の全部が全部、上に書いたイメージにあてはまるとは限りません。
「あてはまらない」ほうの一人であるこの私にも「数学の先生」がつとまった理由。
それは私が「数学が分からない」とうったえる生徒たちに対して「どうしてそんなところが分からないの?」と思ったことは、ただの一度もない数学教師だったからだと思います。
生徒が「分からない」とうったえる場所は、この私にも一度は「分からない」と悩んだ覚えのある場所だったのです。
じゃ、どうして、生徒だった私自身は、中学高校のどこかの時点で数学をあきらめなかったのでしょうか。
その理由も、今の私にはよく分かります。
世の中の人びとを、大きく「文系」と「理系」に分けるなら、私は間違いなく「文系」の人間。
ただし、私は文系だから、理科数学は分からないだろう、とか、分からなくてもいいなどとは一度も思ったことはありません。そういう意味では「理系」に対して、はなはだ強い好奇心を抱く「文系」の生徒でした。
文系の人びとの大きな特色は、文章によって表わされた内容を理解し、理解したものを自分のよりどころとしながら、さらに考えを先に進める、というところです。
私は文系だけど、大丈夫、きっと数学は(数学も)分かるようになる、と思っていました。
なぜなら私には「数学の教科書」という力強い味方がいるではありませんか。
これさえあれば、きっと私にも数学の内容が分かるにちがいない、とばかり、元気いっぱい、数学の勉強を始めたのです。
で、どうなりましたかって?
確かに、中学高校レベルの数学の内容は、私にも分かるようになりましたが、それとおなじだけ、長年お世話になった数学の教科書に、注文を付けたい気持ちが積み重なってきたのです。「数学が分かりたい」一心で数学の教科書を読む生徒の身に立つと、その気持ちに必ずしもこたえてはくれない教科書の姿勢を発見してしまったのです。
そんなこんなの洗いざらいを、今から私は書くつもりです。
これは「文系」の人たちの文章との向き合い方のもう一つの特徴である「批評しながら読む」ということのひとつの表れかもしれません。
「批評」と言っても難しいことではなく、「自分はどう思うか」ということを、一番大切にしながら読む、ということです。私が向かい合ったのは、中学高校の数学の教科書なのですから、ここは「自分に分かるかどうか」と言い換えてもいいところかもしれません。
私くらい「数学に向いていない」生徒であっても、数学はある程度分かるようになりますよ、そう、中学高校の数学の先生になれるくらいには、という実話実録として読んでくださるのが一番よろしいかと存じます。


関連記事:

高校生にお勧めする30冊の物理学、数学書籍
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f79ac08392742c60193081800ea718e7

複素世界は実世界とつながっている
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種あかし: 複素世界は実世界とつながっている
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ea178a283a302bc851e447a0ab951ccc

虚数は私たちの世界観を変えてしまった。
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ed35400df27a2bc7e597531c08d99869

因数分解って何の役に立つの?
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e54dfcd47b72ae247a22206c05bfaa8e

「理科復活プロジェクト」始動!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c08cbe47b0a5ce8c64549d913800cb0a


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数学の教科書が言ったこと、言わなかったこと:南みや子



はじめに

第0章:3つのめがね、貸します

第1章:プラスマイナスの計算をめぐる問題
- マイナスの数と、マイナスの数を掛けるとどうして結果がプラスになるの?
- プラスマイナスの数の混じった計算は、「数直線上での移動」という考え方をすると分かりやすいの?
- マイナスの数ってほんとうにあるの?
- 符号は誰のもの?

第2章:文字と文字式をめぐる問題
- 文字「a」はいつから「りんごの個数」「みかんの値段」を表わすものでなくなるの?
- どうして長方形の面積は a×b でいいの?

第3章:方程式をめぐる問題
- 「方程式」が解けても「方程式の問題」が解けるとは限らない?
- どうして全部が「鶴」だなんて考えられるの?
- 「移行」するとどうして文字や数字の符号が変わるの?

第4章:座標とグラフをめぐる問題
- どうして「番地」を付けるのが目的だと言ってくれないの?
- 点と点との間にはまだ無限に点があるんじゃないの?

第5章:複素数をめぐる問題
- どうして教科書は簡単に「数直線」を見捨てるの?
- 「数」を「直線」とみなすとは、どういうことなの?

第6章:微分と積分をめぐる問題
- 微分積分って、案外、やさしい分野じゃない?
- なーんだ、積分の考え方だって簡単じゃないの!(?)
- 積分は面積に関係があるってどういうこと?
- 私は、微分積分の「パラダイス」で微分積分していただけなの?

終章:こう使う3つのモノクル

番組告知: BS時代劇『妻は、くノ一 〜最終章〜』 全5回

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番組HP

妻・織江と束の間の再会を果たした彦馬。
だが、愛する妻は忍びを抜けるという掟破りをし、追っ手から命を狙われる日々を送っていた…。
お互い想い合っているのに、なかなか一緒になれない彦馬と織江。
くノ一の愛の行方を描く、“恋”と“事件”の痛快時代劇の完結編。


NHK BSの時代劇『妻は、くノ一』の完結編が今週金曜から放送される。

原作の「妻は、くノ一:風野真知雄」は全10巻で今年の1月に紹介していた。僕は「蛇之巻(全3巻)」も含めてすべて読み終えている。気にいったのはもちろんである。

妻は、くノ一:風野真知雄
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/05e001f6b22838ea2dd9a29f10f607a8

文庫本の購入はこの画像をクリック(Kindle版


昨年放送されたドラマ(全8回)では原作の途中で終わっていた。実はその後が面白いのだ。とても好きなドラマなので、続編が作られたのはすごくうれしい。前作を見ていなくても楽しめるので、ぜひご覧ください。


BS時代劇『妻は、くノ一 〜最終章〜』全5回

【放送予定】
2014年5月23日(金)放送開始予定
NHK BSプレミアム・毎週金曜 午後8時〜8時43分 《連続5回》
再放送:2014年5月25日(日)【BSプレミアム】午後6時45分放送予定

【出演】
市川染五郎、瀧本美織、和田聰宏、マイコ、宅間孝行、中島ひろ子、堀部圭亮、
松尾れい子、瀬川亮、梶原善、若村麻由美、田中泯 ほか

番組ホームページ:
http://www.nhk.or.jp/jidaigeki/kunoichi2/


原作の後半には「蛇文(じゃもん)」という気味悪い忍者が登場するのだが、どの俳優を起用するのか僕は気になっている。発表されたキャストを見ても掲載されていない。もしかすると番組では省略されてしまう配役なのかも。。。


番組に合わせる形で、次の本も出版された。

『妻は、くノ一』謎解き散歩:風野真知雄」(Kindle版


内容
切ない恋物語と忍たちの軽快な立ち回りが魅力の『妻は、くノ一』。この書き下ろし時代小説の大ベストセラーシリーズを、著者自らが責任編集となって完全解剖!ドラマで主人公・雙星彦馬役を演じる市川染五郎さんの特別インタビューや、彦馬が暮らす妻恋町周辺をめぐる「妻恋町散歩」など、読めば「妻は、くノ一」シリーズが百倍面白くなる!さらに本書書き下ろし短編や、本シリーズをはじめるきっかけとなった幻の短編を特別収録。盛りだくさんの内容で贈るシリーズ公式読本。

著者略歴
風野真知雄
1951年、福島県生まれ。立教大学法学部卒。93年に「黒牛と妖怪」で第17回歴史文学賞を受賞

「妻は、くノ一」オフィシャルページ(角川書店):
http://www.kadokawa.co.jp/sp/201009-01/


「妻は、くノ一」シリーズ(とね書店)


「妻は、くノ一」シリーズの8巻セット(中古だと2000円くらいで10巻セットが買える。)
http://astore.amazon.co.jp/tonejiten-22/detail/B0049H9JTI

Kindle版も格安で発売されている。(「妻は、くノ一」シリーズKindle版


ところで先日ウォーキングをしている途中、地元の古書店でこの番組にでてくる随筆集『甲子夜話(かっしやわ)』の全巻セット(単行本)が1万8千円で売られているのを見かけた。アマゾンでも購入できるようだ。コアなファンの方はご覧になってみるとよいだろう。

松浦静山(平戸藩第9代藩主):ウィキペディアの記事
甲子夜話:ウィキペディアの記事
アマゾンで甲子夜話を:検索する



素読のための「甲子夜話」
http://rousseaujj2.blog.fc2.com/


関連ページ:

前作NHK「妻は、くノ一」ドラマのホームページ:
http://www.nhk.or.jp/jidaigeki/kunoichi/



NHKオンデマンド:「妻は、くノ一(全8回)


あらすじ

妻は、くノ一(全10巻)
平戸藩の御船手方(おふなてかた)書物天文係の雙星彦馬(ふたぼし ひこま)は三度の飯より星が好きで、先祖伝来の田畑を売ってまで望遠鏡を手に入れた、藩内きっての変わり者だった。そんな彦馬の下に、上司の紹介で美しい妻・織江(おりえ)が嫁いでくる。彼女を一生涯大切にしようと心に誓う彦馬だったが、幸せな生活は織江の失踪によってわずか1か月で終わってしまう。織江は平戸藩の密貿易疑惑を探る幕府の密偵だったのではないかとの情報が寄せられながらも、もう一度織江に会いたいと強く願う彦馬は隠居し、商家の養子となり江戸店を取り仕切っている親友を頼って江戸で暮らし始める。
星好きで変わり者とされていた彦馬だったが、鎖国を解き国を開きたいとの開明的な思想を持つ元平戸藩主の松浦静山(まつら せいざん)にその知識の広さを見込まれ、彦馬もまた静山の考えに同調していく。自身が経験したことや人から聞いた不思議な出来事や怪奇事件について『甲子夜話』という書物を執筆中の静山は、彦馬に謎解きを求めるようになり、広く深い知識を有する彦馬は、織江探しと並行して巷間に起こる謎を解いていく。
一方、織江もまた彦馬のことを忘れられずにいた。彦馬が江戸へ出てきたことを知った織江は、時に手助けをしながら密かに彦馬の暮らしを見守る。やがて平戸藩下屋敷への潜入に成功し、静山の密貿易と野心の証拠を掴んだ織江だったが、提出すれば彦馬の人生をも奪いかねず、妻の立場とくノ一の立場の間で葛藤する。母の後押しもあり、彦馬と生きる道を選び抜け忍となった織江の下へ、次々と刺客が送り込まれる。

妻は、くノ一 蛇之巻(全3巻)
刺客との死闘を終え、渡米した雙星彦馬と妻の織江は、ヒコ・ツインスターとオリエ・ツインスターと名乗り、数々の苦難を乗り越えて3人の息子にも恵まれ、ロサンゼルス郊外で評判の馬車屋を営みながら、幸せに暮らしていた。夫妻が友人の結婚式に出席するため外出し、三男のサミーが留守宅を守っていたある日、オリエを訪ねてきた男がいたという。庭にアメリカにいるはずのないマムシを見つけた瞬間、サミーから聞いた訪ねてきた男の人相と、かつて彦馬と出会う前に潜入していた長州で戦った「いちばん嫌な敵・蛇文」とを結びつけるのはたやすかった。
蛇文がエイブラハム・リンカーン暗殺計画に関わっていることを知らされた彦馬と織江は、知り合いの保安官とピンカートン探偵社の仲間らと計画阻止のために動き出す。


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大学で学ぶ数学とは(概要編)

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物理学系や工学系であれば教科書や科目のタイトルを見るだけで内容が想像できるが、大学で学ぶ数学の内容は高校生や理数系の大学1年生、そして専門外の人にとってわかりにくいものだ。

シリーズ物の記事として大学の数学ではどういうことを学ぶかを紹介してみよう。今日の記事では目次レベルで全体像を示すことにした。次回以降の記事ではそれぞれの分野を高校生でもイメージできるように日常的な言葉を使って詳しく紹介する予定だ。数学科に進学しようと思っている高校生や物理学系、工学部系の大学生に役に立ててもらえると思う。

全体的におよそ学ぶ順番というのはあるのだが、学年が進むにつれて各分野はネットワークのように関連してくるため、本当のことをいうと1次元的な順序だてや樹形図のように分類することはできないのだ。あらかじめそのことはご承知おきいただきたい。

また、数学科の授業のタイトルは、分野の名前そのものがつけられているわけではないのでご注意いただきたい。たとえば3、4年次の微分方程式論の講座は「解析学2」とか「解析学特論」とかいう講座名だったり、複素関数論や関数解析の授業に「応用解析特論」いう講座名がつけられたりする。講座名のつけかたは学校によってまちまちだ。履修選択をするときは講座名だけで判断せず、内容や教科書、担当教官の専門分野まで確認したほうがよい。

同じタイトルの教科書であっても、入門者用と中級者用ではレベルやカバーしている範囲が違うので注意したほうがよい。

もし、不足している分野、科目があったらアドバイスいただきますようお願いします。


大学の数学は主に「代数学系」、「解析学系」、「幾何学系」、「情報処理系」、「その他」に大別される。1、2年次は比較的きれいに分類できるが、3、4年次になるとそれらが渾然一体に絡み合っているものがあるため、一概にどの分類に含まれるかを決めることができない。


数学科1、2年次に学ぶこと

1、2年次には高校数学の延長として「計算方法を学ぶ」スタイルの分野と、厳密な証明を与えて数学理論を構築する「大学の数学っぽい」分野からカリキュラムが構成されている。ほとんどが必須教科で、一部選択教科となる。

1)代数学系

線形代数(多次元行列や複素数の行列、ベクトルの計算、行列式、連立一次方程式、トレース、固有値と対角化) :計算方法を学ぶ
代数学(群論の入門):理論を学ぶ

2)解析学系

微分積分学(複素関数論、複素積分、常微分方程式、ラプラス変換も含む):理論と計算方法を学ぶ
解析学(実関数の微積分、広義積分、ルベーグ積分、多変数の微積分、特殊関数など):理論を学ぶ

注意1:「複素関数論」は「関数論」と呼ばれることもある。
注意2:言うまでもないことだが「解析学」は物理学科で学ぶ「解析力学」とは全く違う分野だ。

3)幾何学系

位相・位相空間(集合論をベースにして位相空間を定義し、そこに成り立つ定理を学ぶ):理論を学ぶ
グラフ理論:理論を学ぶ
ベクトル解析(微分形式を使った線形代数。力学や電磁気学などで利用される物理数学):理論と計算方法を学ぶ

注意1:ここでいう「位相・位相空間」と3、4年次で学ぶ「位相幾何学」とは全く違うので注意。位相幾何学は位相空間論をベースにした幾何学のこと。また「位相解析」は「関数解析」のことなので「位相・位相空間」とも違う分野だ。
注意2:数学の「位相空間」と物理学の「位相空間」は全く違う概念なので注意。

4)情報処理系

コンピュータ入門(計算機の理論や実習、線形計画法や微分方程式の数値解法)

5)その他

統計学(基礎的な内容、各種の検定や推定):計算方法を学ぶ
論理と集合(論理学の基礎、集合論):理論を学ぶ

*物理数学について

これらの数学分野のうち、物理学科や工学部系の教科に対してのツールとして使われる分野が「物理数学」と呼ばれているものだ。これには線形代数、微積分、微分方程式、複素関数論、特殊関数、ベクトル解析、テンソルなどが含まれる。群論は通常物理数学には必要ないが、素粒子の標準理論を学ぶ際にはリー群論や群の表現論が必要になるので1、2年次には群論だけでも学んでおいたほうがよい。

物理数学を学ぶための本を探したい方は右のリンクからどうぞ。(Amazonで検索してみる


数学科3、4年次以降に学ぶこと

3、4年次以降は選択教科となる。厳密な証明を与え、理論としての数学を構築、展開する。この段階になると各分野の内容は渾然一体に絡み合っているものがあるため、一概にどの分類に含まれるかを決めることができないのだが、およその目安として分類してみた。

後日追記:この記事をお読みになったhamanoboさんが現代数学の各分野の関係を示した図をコメント欄を通じて公開してくださいました。元のPDFはこちらです。より多くの方に見ていただけるよう、ここに紹介させていただきます。hamanoboさん、ありがとうございました。

画像クリックで拡大


1)代数学系

代数学(群論、加群、環論、体論、ガロア理論、数論、可換体論、リー群論、群の表現論、テンソル代数、作用素代数、圏論など)
代数幾何学

注意1:「加群」というのは「加法群」のことではなく、ベクトル空間の一般化、テンソル代数のことである。
注意2:「代数幾何学」は高校で学ぶ「代数・幾何」ではない。

2)解析学系

微分方程式論(常微分方程式、偏微分方程式の理論、非線形微分方程式)
関数解析(位相空間論をベースに解析学を理論的に一般化、発展させる、無限次元の関数空間、バナッハ空間、ヒルベルト空間、ソボレフ空間、作用素環論、フーリエ解析、関数方程式、積分変換、積分方程式)
超準解析、無限小解析

注意:「関数解析」は「位相解析」と呼ばれることもある。位相解析のほうが古い呼び方。

3)幾何学系

微分幾何学(曲面論、微分形式、多次元微分幾何学、リーマン幾何学、射影幾何学、接続理論、モース理論)
位相幾何学(多次元のトポロジー、ホモロジー、ホモトピー、コホモロジー)
微分位相幾何学(1950年代にミルナーによって創始された。大学院以上の研究分野)
多様体(実多様体、複素多様体、複素幾何)

4)情報処理系

プログラミング、コンピュータ概論、情報理論

5)その他

確率論、確率過程論(ルベーグ積分、測度論をベースに確率論、確率過程論を構築する)
統計解析(1、2年次に対してより発展的な内容、因子分析、多変量解析など)
数学基礎論:メタ数学(数学自体を数学を使って研究する分野)、ゲーデルの不完全性定理

*物理数学について

3、4年次以降に学ぶ数学の分野を昔は抽象数学、純粋数学とか現代数学と呼んでいたが、一般相対性理論や量子力学以降の現代物理学と密接なかかわりを持つことが明らかになり、もはや抽象数学や純粋数学とは呼べなくなっている。物理学科の学生にとってこれらの現代数学は「物理数学パート2」ということになるだろう。

一般相対性理論や量子力学、場の量子論、ゲージ理論を理解する目的のためだけならば、物理学の教科書だけでよいのだが、数理物理的に、つまり物理法則の背後にある数学的な裏付けや数理構造を知るためには、このような現代数学を学ぶ必要がでてくるのだ。そして超弦理論に至っては微分幾何学や位相数学(トポロジー)、複素多様体の知識は欠かすことができない。

僕は数学科卒なので物理学科および工学部の学生や先生方が、どこまで数学を学んでいるのかは知らない。人それぞれというところが本当のところだろう。不足している分野を独学している人も多いと思う。

ここで「3、4年次以降」と書いたのことに注意してほしい。3、4年次と大学院で学ぶ分野には明確な線引きができないため、僕があげたものの中には一部大学院で研究する分野も含まれている。

また数学科の学生は3、4年次でこららの分野の中から一部を選択して履修するわけなので、すべてを学んでいるわけではないことをおことわりしておく。


関連記事:

よくわかる物理数学の基本と仕組み
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f4860b933fb8596cfc1c6f197ec02892

物理数学の直観的方法〈普及版〉 (ブルーバックス):長沼伸一郎
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ab9396e295687179ac3a71553b8165a1

理論物理学のための幾何学とトポロジー I:中原幹夫
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ef0b2fcb7c87aabfcd68bbe2a567840e

理論物理学のための幾何学とトポロジー II:中原幹夫
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9fd93716929786316ee234a66ec4d32b

ゲージ理論とトポロジーの年表
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1050f5ac88c40f83f566ba52c142c565

超弦理論に至る100冊の物理学、数学書籍
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d37fe65a84df23cca2af7ecebb83cfc6


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バイクのオイル交換、クルマの廃車

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バイクのエンジンオイル交換

前回のオイル交換から1年以上たっていたので、近所のバイク屋さんでエンジンオイルの交換をしてもらってきた。今日現在で累積走行距離は36313.5Kmだ。前回は34840.1Kmだったので1年3カ月で1473Km走ったことになる。

バイク: 総合メンテナンス(Honda FTR223):昨年3月
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/79b4066376c5ebc0f912367b3cd490dc

今回入れてもらったのはこのオイル。1リットルで2000円かかった。(工賃含む)

WAKOS PRO-S プロステージS (10W-40)
http://www.wako-chemical.co.jp/products/recommendation/PRO-S.html




クルマの廃車とカーシェアリング

16年乗ったクルマを先月廃車した。毎年150Kmくらいしか乗らない状態が数年続いていたので、まったくの無駄遣いである。自宅に駐車場はあるものの、毎年の維持費は25万円くらいかかっていた。

累積距離の推移:

2005年:68,000Km
2007年:74,000Km
2009年:76,625Km
2011年:77,803Km
2013年:78,201Km
2014年:78,350Km(4月19日に廃車)

いろいろな思い出が詰まっているクルマだ。愛着もあるので手放すのは悲しいが仕方がない。

お別れしたときの写真



近所にステーションができたので、今後はカーシェアリングを利用することにした。会費は月額1030円で、24時間好きなときに使えるし、レンタカーよりもずっと安い。とても便利だ。予約はパソコンやスマートフォンから行う。空き状況もリアルタイムで確認できるし3分前から予約可能だ。都内に住んでいるなら、カーシェアリングはとてもリーズナブルだと思う。

ひと月観察したところ、僕が利用できる時間帯にはGW中も含めてほとんど利用されていないことがわかった。最寄り駅近くには7台設置してあるステーションもあるので、乗りたいときに乗れないということはまずないと思う。

タイムズ カー プラス
http://plus.timescar.jp/



近所のステーション



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代数系入門: 松坂和夫

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代数系入門:松坂和夫

内容紹介
整数を素材にとり、そこに代数的手法の一つのモデルを見ることからはじめて、抽象的な代数系の一般論を解説する。高校数学程度の素養で十分理解できるように、例・問題を適切に配列するなど、教育的配慮がなされている。1976年刊行、378ページ。

著者略歴
松坂和夫
1950年(昭和25年)、東京大学理学部数学科を卒業。1950年東京大学教養学部助手、1953年武蔵大学助教授、1951年津田塾大学助教授、1970年一橋大学法学部教授、1948年一橋大学経済学部教授併任。1990年東洋英和女学院大学教授就任、一橋大学名誉教授の称号を受ける。数学の入門書を数多く執筆している。


理数系書籍のレビュー記事は本書で253冊目。

本書は群、環、加群、体からガロア理論まで学べる昔からある現代代数学の標準的な入門書である。

ゲージ理論とトポロジーの年表」や「アラン・コンヌ博士の非可換幾何学とは?」という記事を書いてみて代数学の大切さをつくづく思い知らされた。トポロジーにしろ解析学にしろ代数学の理解は欠かせない。

代数学I 群と環:桂利行」を読み終え、「代数学II 環上の加群:桂利行」を半分くらい読み進めていたのだが、このシリーズはどうも独学には向かない気がしてきて途中で読むのをやめ、松坂先生の本に切り替えていたのだ。結果的にはそうして正解だった。


本書は数学科の大学3年生が学ぶ標準的な代数学の入門書である。ところが「はしがき」の中で松坂先生は「初学者向きのものであって、読むための予備知識は特に必要ではない。読者はせいぜい高校2年級程度の数学の素養をもっておられれば十分である。」とお書きになっている。

それは違うだろうと思った。僕は高校生の頃、こんなに難しい本は読めなかった。「高校生でも理解できる」という表現は要注意なのだ。理数系の本、特に数学書の中でこの言葉が使われるとき、よくあるのは次の3つのケースである。

ケース1) 著者ご自身が高校生だったころの自分を想像している場合

たいていこのケースが多い。将来数学者になるような高校生は、昔であれ今であれ普通の高校生とはレベルがまったく違う。そのような秀才や天才には数学ができない学生が、どれくらいの理解で物ごとをとらえているか想像できないものだ。読者に開成高校や灘高校のトップクラスの学生のレベルを期待されても困ってしまうわけである。

ケース2) 予備知識は必要としないという意味で言っている場合

本書のテーマである群論は、たしかに高校では学ばない。集合論や位相もそうなのだが、それらは数学理論全体を土台から構築する抽象数学、現代数学であり、高校生に教えられるように生易しい分野ではないからである。予備知識を必要としないからといって、それが一般の高校生にも理解できるというわけではない。

ケース3) 本当に高校生でも理解できる場合

竹内淳先生の「高校数学でわかる〜」というブルーバックスのシリーズがこれに該当する。たしかにこのシリーズの場合は看板に偽りはない。しかしこのシリーズで使われる数学は数IIIレベルなので、正確なところを言えば「高校を卒業した後なら理解できる。」なのである。

松坂先生の本はケース1)とケース2)の混在型である。数学科を卒業している僕にとっても本書を読み通すためには忍耐が必要で、かなりしんどかった。章立ては次のとおりだ。

第1章:整数
第2章:群
第3章:環と多項式
第4章:ベクトル空間、加群
第5章:体論
第6章:実数、複素数
付録:自然数

群や環はこれまで読んできた本で学んでいたので、僕にとってためになったのは第4章から第5章にかけての加群と体論だった。加群というのはベクトル空間を一般化した代数概念で、学ぶのは初めてだった。また体論のほうも「群・環・体入門:新妻弘、木村哲三」の本で学ぶ範囲の先の話、つまりガロア理論を学ぶというのが本書の目的である。これを厳密な証明を与えた形で学んだのも初めてのことだった。

第6章は実数や複素数の存在性を数学的に構成するというもの。代数学の手法をとりながら解析学の領域に踏み込んだ証明を興味深く理解することができた。付録ではペアノの公理による自然数の構成、さらに自然数の加法と乗法、自然数の大小、整数の構成まで証明するなどサービス精神に満ちている。

全部消化できたわけではないが、おおかた理解して満足できたというところ。代数学で学ぶべきことはこの先にもたくさんあり、本書はほんの入門書にすぎないことを思い知らされた。時間はいくらあっても足りないのだ。

代数系の本はこの他にも何冊か買ってあるので、これからも順に読んでいくことにしよう。

アマゾンで販売されている松坂先生の著書:検索する


著者の松坂先生は2012年1月に急逝されたことを僕は今回この本を紹介するにあたって知った。入浴された直後に気分が悪くなり、わずか20分で息を引き取られたことがこのページに書かれている。心よりご冥福をお祈りさせていただきます。


関連記事:

群論への30講:志賀浩二著
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4d07e42584724f4b72433be8f2738653

群論入門(新数学シリーズ 7):稲葉栄次
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f971ae2de623dd448868ad6ecca20051

数学ガール/ガロア理論:結城浩
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a5450818389e0220779e363617332a76

群・環・体入門:新妻弘、木村哲三
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7f58114fe89f69d8e9a306fe819a6398

演習 群・環・体入門:新妻弘
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/32bc51d4f5a1de1a095ec9c69bc371f7

代数学I 群と環:桂利行
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/8e0b374391546190139afb464407b14c


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代数系入門:松坂和夫



はしがき

第1章:整数
- 集合
- 数学的帰納法と除法の定理
- 最大公約数
- 最小公倍数
- 素数、素因数分解
- 同値関係、合同式
- 1次の合同式
- 2つの整数論的関数
- Eulerの定理とFermatの定理

第2章:群
- 写像
- 群とその例
- 部分群と生成系
- 剰余類分解
- 正規部分群と商群
- 準同型写像
- 自己同型写像、共役類
- 巡回群
- 置換群
- 置換表現、群の集合への作用
- 直積
- Sylowの定理

第3章:環と多項式
- 環とその例
- 整域、体
- イデアルと商環
- Zの商環
- 準同型写像
- 商の体
- 多項式環
- 体上の多項式、単項イデアル整域
- 素元分解とその一意性
- Z[i]の素元
- 多項式の根、代数的閉体
- ZまたはQの上の多項式
- 多変数の多項式

第4章:ベクトル空間、加群
- ベクトル空間
- 基底と次元
- 線型写像
- 線型写像の空間、双対空間
- 線型写像と行列
- 加群
- 自由加群とその階数
- 単項イデアル整域上の加群
- 加群の構造定理
- 一意性の証明
- Jordanの標準形

第5章:体論
- 体の拡大
- 多項式の根
- 単純拡大
- 有限拡大と代数拡大
- 分解体
- 重根と導多項式
- 自己同型群と固定体
- 正規拡大
- Galois理論の基本定理
- 有限分離拡大の単純性
- 有限体
- 1のべき根(累乗根)
- 可解群
- 交代群の単純性
- 3次方程式の解法
- べき根による方程式の可解性
- 定規とコンパスによる作図

第6章:実数、複素数
- 順序環
- Archimedes的順序体、完備性
- 完備性の他の条件
- 実数体の構成
- 実数体の性質
- 複素数
- 基本定理の証明

付録:自然数
- Peanoの公理と帰納的定義
- 自然数の加法、乗法
- 自然数の大小
- 整数の構成

補遺
問題解答
索引

頭の体操: 多湖輝

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カッパ・ブックス版と光文社知恵の森文庫版

内容紹介
あなたの脳ミソは、固定観念でこり固まっていませんか?
創造的な人間になるには、その枠を破っていく独創力が必要なのだ―。
直観力をつける体操から頭のウルトラCまで、思わずニヤリのパズル満載!
知恵をつけるために、話のタネに、ストレス解消のために、脳ミソを鍛えよう!
目からウロコが落ちる、永遠の超ベストセラー

著者略歴
多湖輝(ウィキペディアの記事
日本の心理学者。東京未来大学名誉学長。千葉大学名誉教授。多湖輝研究所所長、東京都・「心の東京革命」推進協議会会長、特定非営利活動法人「0歳からの教育」推進協議会理事長、東京アマチュア・マジシアンズクラブ会長など。
1966年に発表したクイズ本「頭の体操」シリーズはベストセラーとなり、以来約40年間に23巻までの続編が出版されている。また「頭の体操」という言葉そのものも、クイズやパズルの代名詞として日本では広く定着している。





いわゆる一般向け「脳トレ本」の元祖である。第1集が光文社の「カッパ・ブックス」から発売されてヒットしたのが1966年のことだ。その後2001年の第23集で完結した。僕の世代には忘れられないシリーズである。多湖輝先生は「頭の体操」という言葉の生みの親である。

頭の体操:ウィキペディアの記事

カッパ・ブックス版(第1集〜第16集)



僕がこの本に出会ったのは1970年代初めで僕は小学校低学年だった。当時は毎年夏に母方の親戚の子供たちが全員千葉県市川市にある伯母の家に集まり、2泊3日を一緒に過ごすのが年中行事になっていた。伯母の家は総武線の市川と本八幡の間にあり、すぐ近くに踏切があった。(総武線が高架化されるのは相互乗り入れしている都営新宿線の篠崎 - 本八幡間が開業する1989年以降。)

僕の母は3人姉妹の末っ子で、母や2人の姉はそれぞれ3人ずつ子供を生んでいた。だから伯母の家では総勢9人の子供たちがてんやわんやの3日間を過ごすことになる。

昼間は谷津遊園のプールで水遊びし、夜は江戸川の花火大会。家に戻った後は広い畳の部屋に蚊帳を吊ってもらって、子供たちはおおはしゃぎしながら夏の夜を満喫した。

参考ページ1: 谷津遊園情報局
http://yatsuyuuen.okoshi-yasu.com/

参考ページ2: 谷津遊園と謎の駅
http://hkuma.com/rail/yatsu01.html

参考ページ3: 谷津遊園めもりぃず
http://hkuma.net/yatsu/


その市川の家で僕より6歳年上の従兄が読んでいたのが「頭の体操」だった。彼は第1集から第4集を持っていて、僕はわからないながらも「これはおもしろそう。」と読んで聞かせてもらっていたのだ。その後、高学年になり自分でも第6集くらいまで買った。僕にとってこのシリーズは子供時代の楽しかった夏の思い出の一部なのだ。

中学生、高校生と僕は成長し、いつの間にか書店から「カッパ・ブックス」もなくなり、「頭の体操」は僕の視界から消えていった。


昨日から東京は暑くなり、ふと夏の思い出がよみがえってきた。そういえばあのシリーズはどうなったのかなと何十年かぶりに検索したところ、文庫版としてよみがえっていることがわかったので今日紹介することにしたのだ。

カッパ・ブックス版はすべて中古でしか買うことができない。文庫版は第1集が1999年に発売され、その後は第9集まで刊行されて現在に至っている。あとBEST版も2冊でている。

おまけにKindle版やNintendo DS版もでていて、Kindle版は第1集がでたばかり、DS版は第4集まで手に入れることができるようだ。

僕としては昔の表紙がなつかしいのでカッパ・ブックス版を揃えたいところ。読んでいない第7集以降の内容も気になっている。


カッパ・ブックス版(第1集〜第23集:1966年〜2001年): Amazonで検索

光文社知恵の森文庫版(第1集〜第9集:2014年6月現在): Amazonで検索

Kindle版(第1集:2014年6月現在): Amazonで検索

Nintendo DSソフト(第1集〜第4集): Amazonで検索

「多湖輝の頭の体操(Nintendo DS)」オフィシャルウェブサイト
http://www.atamania.jp/atamanotaisou/index.html


頭の体操BEST、BEST2(単行本): Amazonで検索

頭の体操BEST、BEST2(Kindle版): Amazonで検索



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祝: 累計200万アクセス達成!

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2005年2月に始めたこのブログの累計訪問者数が昨日200万人(IP)に達した。



100万人をクリアしたのが2012年8月17日。今日まで656日が経過しているので、この期間は1日あたり平均1525人の方にアクセスしていただいたことになる。100万人達成のときに予想していた「200万人達成は1028日後の2015年6月11日前後」を1年ほど前倒しすることができた。ページ閲覧数累計のほうも昨日570万PVをクリアしている。

「アクセス」の欄の閲覧 5002PV、訪問者 1620IPは昨日1日のぶんである。また週別、日別のランキングとはgooブログ全体(昨日の段階で2,025,737ブログ)の中でのランキングである。202万ブログあるといっても、更新されていないブログがたくさんあることに注意したい。

これまでのアクセス数の日平均は次のように推移していた。

累計0アクセス〜40万アクセスの期間(2005年〜2010年):日平均191アクセス
累計40万アクセス〜50万アクセスの期間(2010年〜2011年):日平均800アクセス
累計50万アクセス〜100万アクセスの期間(2011年〜2012年):日平均973アクセス
累計100万アクセス〜200万アクセスの期間(2012年〜2014年):日平均1525アクセス

浅草の「花やしき」の来園者数は年間50万人だというから日平均は1369人、「上野動物園」の来園者数は年間380万人だそうで日平均は1万人くらい。だからこのブログの1日のアクセス数1525人とは、「花やしきより少し多く、上野動物園には遠く及ばない。」というところなのだ。

これまでの累計をグラフにすると次のようになる。青はアクセス数(人数)、赤はページ閲覧数である。




今のペースを維持できれば次の目標の300万人に達するのは656日後、つまり2016年3月21日前後になると思われる。この1年について言えばアクセス数は毎日1500前後に落ち着いているので、よほど世の中の人が理数系好きにならない限り現在のペースが続くと予想している。

欲がないと思われるかもしれないが、そういうことではない。アクセス数を伸ばすのが目的ではなく、自分が楽しめて読者の方にも参考になる記事を書くというのが僕のブログの目的だ。だから今のペースを維持するというのが自然である。その結果、運よくアクセス数がアップするというのならば嬉しいことだ。


平均アクセス数は主に過去記事によって支えられている。たとえば昨日の記事別アクセス数ランキングは次のとおりだ。昔書いた記事も読まれていることがわかる。僕としてはトップページへのアクセスがいちばん多いのが嬉しい。なぜなら「とね日記」というキーワードで検索し、ブログを開いていただいているわけだから。



100万アクセスを達成した頃とくらべて、全体的にページ閲覧数が増えていることや、読んでいただいている記事が変化していることがわかる。

ペットの話題や料理の話題、芸能人ネタなど、より一般的な事柄を記事にすれば、アクセス数は格段にアップする。反対に物理学や数学の記事で、数式を使った専門的な記事であればあるほど、理解できる読者は少なくなりアクセス数は減る。物理ブログ、科学ブログとしての価値はアクセス数やランキングでは測れないものだと僕は思っている。これからも記事に対する人気度と内容の専門性のバランス感覚を大切にしていきたい。


これからも当ブログをよろしくお願いいたします。


参考リンク:

こよみの計算 > 日にち・曜日(CASIO高精度計算サイト)
http://keisan.casio.jp/has10/Menu.cgi?path=01200000%2e%82%b1%82%e6%82%dd%82%cc%8cv%8eZ%2f02000000%2e%93%fa%82%c9%82%bf%81E%97j%93%fa


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発売情報: フランス語版「ファインマン物理学」の新版

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「ファインマン物理学」と「ファインマン流物理がわかるコツ(Feynman's Tips on Physics)」


「ファインマン物理学」をフランス語で読む人はほとんどいないだろうから、今日の記事はどちらかというと自分のための覚え書き。

フランス語版は「Dunod社」というフランスの出版社から刊行されていて、2000年頃に出版された版のことを「ファインマン物理学: 英語版とフランス語版」で紹介したことがある。

ところがこのフランス語版は版型が小さく文字がびっしりなのでとても読みにくい。今回新版として改訂したのはサイズを大きくして読みやすくするためだった。分冊の構成は日本語版と同じく5巻セット。第5巻の「量子力学」は内容も改訂されているようだ。新版は昨年8月から順次刊行されていて気になっていたのだが、一昨日ようやく全巻発売となった。そしてフランス語版「ファインマン流物理がわかるコツFeynman's Tips on Physics)」も同時発売された。

旧版と新版の版型は次のとおり。

旧フランス語版: 21.6 x 14 cm
新フランス語版: 24.8 x 17.6 cm

英語版(The New Millennium Edition)と日本語版(軽装版)の版型は次のとおりなので、新フランス語版は日本語版とほぼ同じサイズになった。

英語版(The New Millennium Edition): 30.2 x 22.9 cm
日本語版(軽装版): 25.6 x 18.2 cm


今回発売されたフランス語版はこちらである。日本語版と同じく5分冊で、各分冊は力学1、力学2、電磁気学1、電磁気学2、量子力学というタイトルだ。

表紙も旧版よりずっとおしゃれになった。これは奇妙な偶然なのだが、今日の朝日新聞の「トキの10次放鳥始まる」という記事に載っていたトキの羽の模様の色の組み合わせがこの6冊と全く同じである。(その写真を見る)上を飛んでいるトキがさしずめ「力学鳥」で、下を飛んでいるトキが「電磁気・量子力学鳥」というところだろうか。

Le cours de physique de Feynman - Mécanique 1」(日本語版の「力学」)
Le cours de physique de Feynman - Mécanique 2」(日本語版の「光、熱、波動」)
Le cours de physique de Feynman - Électromagnétisme 1」(日本語版の「電磁気学」)
Le cours de physique de Feynman - Électromagnétisme 2」(日本語版の「電磁波と物性」)
Le cours de physique de Feynman - Mécanique quantique - 2ed」(日本語版の「量子力学」)
Révisez la physique avec Feynman - Méthodes, astuces et exercices」(「ファインマン流物理がわかるコツ」)

  

  

各分冊の「はじめに」や「目次」、「本文の出だし」はPDFとして読むことができる。この中には英語版の「Preface to the New Millennium Edition」をフランス語訳した文章が掲載されている。

PDF1PDF2PDF3PDF4PDF5PDF6


気になる値段であるが、Amazon.frからの購入になるから送料がかかる。ファインマン物理学5巻だけ買う場合と「ファインマン流物理がわかるコツ(Feynman's Tips on Physics)」を含めて6冊買う場合で試算してみよう。幸い付加価値税(TVA)はかからない。

5冊だけ買う場合:


合計194.90ユーロ (現在のレートで日本円に換算


6冊買う場合:


合計214.32ユーロ(現在のレートで日本円に換算


外国語版の「ファインマン物理学」について

ファインマン物理学はこのほかドイツ語と中国語にも翻訳され、英語版と同じ3分冊構成で発売されている。ドイツ語版は「Definitive Edition (2005)」の翻訳が2009年3月に、中国語版は「The New Millennium Edition (2011)」が赤い表紙の「新千年版」として昨年4月に発売された。日本語版は完全に遅れをとってしまっている。(日本語版は2002年に第4巻が増補版として再出版されたが、基本的には1967年に翻訳されて以降改訂されていない。)

ドイツ語版: Amazon.deで検索してみる
中国語版: Amazon.cnで検索してみる


あと、今回ロシア語版とイタリア語版、ギリシア語版があることを見つけてしまった。なんだかすごい。内容はよくわからないのだがロシア語版は10分冊で構成されているようだ。出版された年代も昨年から今年にかけてと新しい。

ロシア語版: Amazon.comで検索してみる
イタリア語版: Amazon.itで検索してみる
ギリシア語版: 本の紹介ページを見てみる

ギリシア語版の表紙(2009年に出版)




フランス語で読めるその他のファインマン先生の本について

このほか、フランス語に翻訳されているファインマン先生の本は次のとおりだ。日本語版、英語版とともに一覧にしておく。

Vous voulez rire, monsieur Feynman !
ご冗談でしょう、ファインマンさん〈上〉」、「ご冗談でしょう、ファインマンさん〈下〉
"Surely You're Joking, Mr. Feynman!": Adventures of a Curious Character」(Kindle版

Vous y comprenez quelque chose, Monsieur Feynman ?
科学は不確かだ!
The Meaning of it All」(Kindle版

La Nature de la physique
物理法則はいかにして発見されたか」(レビュー記事
The Character of Physical Law」(Kindle版

Lumière et matière - Une étrange histoire
光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学」(レビュー記事
QED: The Strange Theory of Light and Matter」(Kindle版

Leçons sur la gravitation
ファインマン講義重力の理論
Feynman Lectures On Gravitation

Leçons sur l'informatique
ファインマン計算機科学」(レビュー記事
Feynman Lectures On Computation


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関連記事:

ファインマン物理学: 英語版とフランス語版
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1dbcd1e1b02616ef1363ced99a912072

ファインマン物理学(英語版)が全巻ネット公開されました。
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e94dd49d7d8cc395e29d37927e30173d

The Feynman Lectures on Physics: The New Millennium Edition
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cb58141ade509fb63952d49ef57c70c7

ファインマン先生の自伝本と講演本
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9bf47cf51085c74caf34a11068a17285

聞かせてよ、ファインマンさん: R.P.ファインマン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2827c20dbc070aaf205d8375d8ec3cee

ファインマンさんは超天才: C.サイクス
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a24a4abb37c19dfd9118c8ea63de649d

ファインマンさんの流儀:ローレンス M.クラウス著、吉田三知世訳
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9ec9faa4bd78881bd1986bf7773cc390

ファインマンの経路積分に入門しよう!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0f47de5854daf4eb38339a73791544a8

量子力学と経路積分:R.P.ファインマン、A.R.ヒッブス
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2b9d934a542cf04be54cbede8b16ecde

ファインマン計算機科学:ファインマン, A.ヘイ, R.アレン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4f7f453019fd463ed2bfdeaa7b288d79

番組告知:NHK宇宙白熱教室(ローレンス・クラウス教授)

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番組ホームページ

今月に入ってからとても忙しく、テレビ番組のチェックがすっかり甘くなっていた。そろそろ次の記事を投稿しようと書き始めていたところ、ブログをお読みいただいている「はやぶさ」さんから「既にご存知だと思いますが」と、この番組のことをご連絡いただいた。

「いや、ご存知じゃなかったです。うっかり見逃すところでした!」

ということで急きょ告知記事を投稿させていただくことにした。はやぶささん、ありがとうございました。

このところNHKは質の高い科学教養番組をたくさん放送してくれるようになり、科学ファン、物理学ファンにとってはとてもありがたい。

今回の番組も「必見!」のうちのひとつで興奮に満ちた講義となるだろう。前もってクラウス教授の著書を読んでおきたい。翻訳されたのはこれまで数々の科学教養書を翻訳された青木薫さんだ。


NHK宇宙白熱教室
今、宇宙論に大革命が起きている!
現代宇宙論の最先端へ招待しよう!
http://www.nhk.or.jp/hakunetsu/cosmology/index.html

《放送予定》: NHKの講義一覧ページ
NHK Eテレ 金曜 午後 11:00〜11:54(2か国語放送)
6/20 第1回 入門編1:「宇宙のスケールを体感する! 〜空間・時間・物質〜」(詳細
6/27 第2回 入門編2:「物理学者の秘密のお仕事 〜物事を大ざっぱに捉える!〜」(詳細
7/4 第3回 「ここまで分かった!宇宙の始まり」(仮)
7/11 第4回 「宇宙・私たちの惨めな最後」(仮)

《番組内容》: NHKの番組概要ページ
「宇宙白熱教室」は、ローレンス・クラウス教授が、宇宙に興味のある一般市民を対象に行った集中講義(全4回)を取り上げる。
宇宙研究はここ20年ほどの間に、過去1000年間の進歩よりも大きな発展をとげている。講義ではそうした最先端の宇宙論を紹介していくが、専門的な知識を持たない人でもその内容をきちんと“実感”しながら理解できるよう、前半の2回は「入門編」として、宇宙論の基礎をとりあげる。そして後半の2回は、宇宙の始まりから終わりまでの壮大な物語を、ダークマターやダークエネルギー、宇宙の加速膨張など、最新の研究結果をまじえながら紹介していく。

ローレンス・クラウス教授
アリゾナ州立大学にて、宇宙から生命、人類までの起源を探る「起源プロジェクト」を創設し率いる、新進気鋭の宇宙物理学者。
1995年に「宇宙の真空のエネルギーは非常に小さいがゼロではない」という奇想天外な仮説を提出。当初無視されたその説は、その後の「宇宙の平坦性の発見」、「ダークマターの発見」、「ダークエネルギーの発見」など、科学史上のエポックメイキングとなる数々の発見で裏付けられ、世界でも最も注目される物理学者の一人となった。多くのメディアにも登場し、神学者や哲学者とも論争を続け、科学の啓蒙家としても名高い。
近著「宇宙が始まる前には何があったのか?」(文藝春秋)は日米でベストセラー。他に「物理学者はマルがお好き」(ハヤカワ文庫)、「コスモス・オデッセイ 酸素原子が語る宇宙の物語」(紀伊國屋書店)など。


YouTubeにアップされているクラウス教授の動画
(Krauss '09: "A Universe From Nothing" - YouTubeを開いて見る




番組関連書籍:

宇宙が始まる前には何があったのか?:ローレンス・クラウス
A Universe from Nothing: Lawrence M. Krauss」(Kindle版

 

クラウス教授の著書をAmazonで検索する: 単行本(日本語) 単行本(英語) Kindle版(英語)


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参考書籍:

インフレーション宇宙論―ビッグバンの前に何が起こったのか:佐藤勝彦
宇宙,無からの創生―138億年の仮説はほんとうか(Newton別冊)

 


関連記事:

番組告知:MIT白熱教室(物理学編)、これが物理学だ!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/66d25e29fc2c514f453a6b110150b811

番組告知:バークレー白熱教室〜大統領を目指す君のためのサイエンス
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/36bb14b19b9ca57d17fe60655a704615

ファインマンさんの流儀:ローレンス M.クラウス著、吉田三知世訳
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9ec9faa4bd78881bd1986bf7773cc390

超ひも理論を疑う:ローレンス M.クラウス
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d5aefd0f455c43b62365954cd2ae601c

大学で学ぶ数学とは(実用数学編)

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概要編」に続き本編を始めることにしよう。今日は「実用数学編」というサブタイトルで大学1、2年次に学ぶ基礎的な数学の内容を解説する。

高校生にも読んでいただきたいので、イメージを重視して各分野の導入部分やあらましをかいつまんで説明する。だから記述の正確さや厳密性は大幅に犠牲になることをあらかじめご承知いただきたい。


今日紹介する分野は大学1、2年次に学ぶ内容で高校数学がそのままま延長されるようなものなので、入学したての新入生でも途方にくれることはない。およそ理数系の学部、学科の共通科目、すなわち「実用数学」である。物理学科の学生にとっては「物理学を学ぶために必要にな数学」、すなわち「物理数学」となるわけだ。

「実用数学」と書くと高校生の中には「数学なんて使わなくても実生活では困らない。」と言う人もいるかもしれない。確かに私生活では算数だけでじゅうぶんだし、大人になって社会に出たとしても数学を使わずにできる仕事はいくらでもある。

けれどもこの世界がカネとモノと人で動いていることは明らかな事実だ。だからカネとモノと人の量の変化を分析し、将来の予測や判断に活かして仕事を効率的に進めたいと思うならば数学は不可欠で、強力なツールとなる。

将来、技術系や工学系、化学系、金融系、製薬業界、保険業界の仕事に就くのならもちろん数学は必要だし、売上分析のための統計解析はどの分野の企業でも必要とされる数学だ。

要は生き方のスタイルの違いなのだと思う。自分の感性や感覚だけをたよりに生きるか、それともそれに数学的な分析を加えて生きるか。どちらを自分が選択をするかということなのだ。

今日紹介する範囲の「実用数学」はこうした意味で「つぶしの効く」知識であり、身につけることができれば応用範囲は広い。学んでおいて損はない。

けれどもひとつことわっておくが、このような実用数学を学ぶだけのために数学科を選択するというのはやめておいたほうがよい。3年次以降は全く違う数学、いわゆる抽象数学とか純粋数学という世界に入ってしまうからだ。数学科に入学する学生のおよそ7割はこの段階で落伍してしまう。寝ても覚めても数学のことしか頭にないタイプの学生でないと授業や教科書についていくことはできない。このことについては次回以降の記事で詳しく述べようと思う。

さて、ひとつずつ解説を始めるとしよう。


1)代数学系

線形代数(多次元行列や複素数の行列、ベクトルの計算、行列式、連立一次方程式、トレース、固有値と対角化) :計算方法を学ぶ

いわゆる高校で学ぶ「ベクトルと行列」の延長だ。新課程になってから「行列」は教えられなくなってしまったので、今後大学の線型代数の授業はどうなるのかなと僕は心配しているのだが、文部科学省はいったいどういう経緯でこのような措置をとってしまったのだろうかと思うばかりだ。大学生になってから学生に自習せよ、独学しておけ、ということでは酷だと思う。

ともあれ旧課程で学ぶ「ベクトルと行列」は2次元の平面であらわせる範囲であり、行列は2行2列だ。鶴亀算のような連立1次方程式はベクトルと行列を使った方程式であらわし、答を導くことができる。

大学の線型代数のレベルになると、これが多次元化される。行列は主に3行3列、4行4列で計算練習をすることになり、一般的な議論は「n行n列」や「m行n列」で行われる。3次元まではなんとかグラフとして視覚化できるが4次元以上になると無理だ。グラフや図ではあらわせない大学数学の世界を学生は初めて経験することになる。特に行列の要素が複素数の場合も扱われるようになり、こうなると2次元の行列とベクトルであってもグラフであらわすことはできない。

2次元の行列では ad-bc であらわされた「行列式」も、3次元や4次元の行列に拡張され、計算方法を学ぶ。そうやって多変数の連立1次方程式を解くことができるようになるわけだ。いちばん大切なことは高校で学んだように工夫しながら解法を見つけるというのではなく、大学の線型代数では「決められた手順で解くことを学ぶ」ということなのだ。連立方程式を解くということは行列の「固有値」や「固有ベクトル」を求めるということに対応している。そのほか行列の対角要素の和を意味するトレースと呼ばれる量の意味も学ぶ。そして線型代数の学習のおしまいのほうでは与えられた行列を操作して「ジョルダンの標準形」という形の行列に変形していくことにある。

行列の計算をたくさんさせられたりしていると、線型代数を使うと連立方程式が解けるようになるというのはわかるが、それが必要になるのはよくあることなのか?線型代数はそんなに大事なものなのかという気がしてくるものだ。結局は鶴亀算の延長でしょ?と思ってしまう。

ところが線型代数の応用範囲は理論にしても実用にしても極めて広いのだ。4つだけ例をあげてみよう。

例1)2Dや3Dゲームの座標変換

いちばん身近かな例だとこれである。スーパーマリオであれ、シューティング型のゲームであれ、およそ画面の中を何かが動き回るタイプのゲームでは物体の移動や回転の操作をさせなければならない。三角関数を使った回転行列による座標変換が必要になる。物体の移動や回転を行うプログラム・モジュールの設計は行列を使って行われる。

例2)線形計画法、オペレーションズ・リサーチ

複数の原材料を効率的に組み合わせて複数の製品を作るような場合、原材料をそれぞれどれくらい仕入れればよいかは、原材料の仕入れ値や製品の販売価格、売上見込みによって異なってくる。無駄なく最適な仕入を行って売上を最大にするためにはどうすればよいのか?このようなタイプの問題を解く手法が線形計画法とかオペレーションズ・リサーチと呼ばれている分野だ。線型代数がこの分野では大活躍する。(参考:「線形計画法」、「システムの最適化」)

例3)微分方程式の数値解法

微分方程式をコンピュータを使って数値的に解くためには「ルンゲ・クッタ法」をはじめ、いくつかの手法が考案されているが、それらの理論は行列を使って表現されている。アルゴリズムを理解するためには線型代数の知識が必要だ。ビルの耐震性を計算するためにはビルを網目のような構造に近似して、いわゆる「有限要素法」を使って数値計算するのだが、これにも線型代数を使ったアルゴリズムの設計手法が用いられている。

例4)量子力学の数学的定式化

量子力学はシュレーディンガーの方程式やハイゼンベルクの運動方程式と呼ばれる方程式を基礎としているが、どちらにしても複素関数を要素とする行列の理解が必要になる。量子力学の波動関数は無限次元の複素関数をベクトルとする「ヒルベルト空間」によって定式化され、理論を展開する上で必要になるのは複素数を使った線型代数だ。


線型代数の雰囲気を知りたい方は、次のようなページをご覧になるとよいだろう。

サルでもよくわかる線形代数学(タイトルがいささか読者に失礼だが、わかりやすく書かれていると思う。)
http://kagennotuki.sakura.ne.jp/la/

線形代数学入門(横田壽)
http://next1.msi.sk.shibaura-it.ac.jp/MULTIMEDIA/linearalg02/linearalg02.html

線形代数インデックス
http://homepage3.nifty.com/rikei-index01/senkeidaisu-index.html


2)解析学系

微分積分学(複素関数論、複素積分、常微分方程式、ラプラス変換も含む):理論と計算方法を学ぶ

注意1:「複素関数論」は「関数論」と呼ばれることもある。

実数変数の微積分

まず実数変数の微積分についてだが、高校で学ぶのよりも高度な問題の計算練習をすることになる。これはさほど難しくない。2重積分や3重積分を使って曲面の面積や曲面で囲まれた物体の体積なども計算できるようになる。

常微分方程式

次に学ぶのは常微分方程式。常微分方程式というのは変数が1つの微分方程式のことだ。微分方程式は高校でも学ぶが、大学では微分方程式をいくつかのパターンに分類して、解法のパターンを学ぶ。

微分方程式というのは求めたい関数だけでなく微分した関数も含まれている方程式のことで、これを説くと関数が求められる。つまりある曲線の部分部分の変化のありさまがわかっているとき、全体としてどのような曲線ができあがるかというイメージだ。

偏微分方程式

1変数の関数ならばひもの振動パターンの曲線を計算するようなケースに対応し(常微分方程式)、2変数ならば太鼓の膜のような2次元の曲面の振動パターンを計算するケースに対応する(偏微分方程式)。ようするに物事の部分部分の状態がわかっているとき、全体的にはどうなるかということを計算するのが「微分方程式を解く」ということなのだ。

ラプラス変換とは微分方程式を解くために使われる方法のひとつだ。元の方程式を決められた表に従って置き換えてから代数計算をすると、不思議なほど簡単に答にたどりつける。

微分方程式の応用範囲はきわめて広い。

例1)弦や膜の振動パターンの解を求める。

上であげたのがこの例だ。

例2)空気抵抗がある場合の運動方程式を解く。

高校の物理で学ぶ落体の法則は2次関数であらわされるが、現実の世界では空気抵抗による効果も考慮しなければならない。また振り子の運動の計算も空気抵抗を考慮することで、減衰振動になる。このように空気抵抗を考慮した運動を微分方程式に含めることで、より現実に即した運動の様子を計算することができるようになる。

例3)3次元の流体力学、弾性論

3変数の偏微分方程式は大気の流れや、海水の流れ、地球の地殻やマントル中の振動の伝わり方を計算するのに使われる。気象予報や津波の予測、地震波の伝わり方を数値計算できるのは3次元すなわち3変数の偏微分方程式を解くことによって可能になる。

例4)電気回路の計算

抵抗、コンデンサ、コイルで構成された電気回路の電流や電圧の時間に従った変化を計算するためには、微分方程式が使われる。


微分方程式やラプラス変換について雰囲気を知りたい方は、次のページを参照されるとよい。特に前野先生による微分方程式の視覚化は初心者にはわかりやすい。超おススメだ。

微分方程式を図解する (前野[いろもの物理学者]昌弘)
http://irobutsu.a.la9.jp/mybook/ykwkrMC/sim/DE.html

応用数学入門(横田壽):常微分方程式、ラプラス変換、フーリエ級数、偏微分方程式など
http://next1.msi.sk.shibaura-it.ac.jp/MULTIMEDIA/diffpub/diffpub.html

なお、フーリエ展開やフーリエ変換も物理学や工学の分野で応用範囲が広い実用数学なのだが、この記事は数学科のカリキュラムにしたがって書いているので、次回以降「解析学」を解説する中で説明することにしたい。フーリエ変換やラプラス変換を高校生が学ぶには、「高校数学でわかるフーリエ変換:竹内淳」がお勧めである。


複素関数、複素積分

複素関数、複素積分も実用数学の範疇だ。高校までで学ぶのは変域(x)と値域(y)がともに実数の場合で、y=f(x)で関数をあらわし、∫f(x)dx で積分をあらわしているわけだが、大学になると変域と値域の変数が両方とも複素数になる。

つまり

c+di=f(a+bi)

というわけ。wとzを複素数としてw=c+di、z=a+biと置けば

w=f(z)

となるわけだ。形は実数関数のときと同じだが、wとzが複素数になるだけである。

複素関数をグラフとして視覚化するためには工夫が必要だ。実数関数ならばX−Y平面上の曲線として簡単にあらわすことができる。けれども複素数はガウス平面(複素数平面)上の1点としてあらわされ、それが変数(変域)になって動き回ると曲線になり、もっと動き回るとガウス平面上の特定の領域になる。それが関数によって変換され、別の複素数の領域(値域)になるのだから、点は点に、曲線は曲線に、領域は領域に移されることになる。だから複素関数は通常、ガウス平面上の領域からガウス平面上の別の領域への変換を意味しているわけだ。

これをイメージするには次のページがわかりやすい。

複素関数(その2):いくつかの種類の複素関数を図示する
https://sites.google.com/site/cinderellajapan/indraspearls/fu-su-guan-shu2

このページの上位ページは「インドラの真珠」というページだ。複素関数がもつ魅力的な世界を堪能することができる。カラー図版がたくさん掲載された本「インドラの真珠: クラインの夢みた世界」としても昨年出版されて反響を呼んでいる。

インドラの真珠
https://sites.google.com/site/cinderellajapan/indraspearls

さて、複素関数があればその微分や積分も考えることができる。微分や積分の公式は実数関数のときとほぼ同じだ。ただし、その意味合いには注意が必要である。

微分とはある点における変化率のことで、変化させる方向は通常xの小さいほうから大きいほうなので1とおりに決まっている。けれども複素数のある点での微分を考える場合、変化させる方向はガウス平面上で360度どの方向でもよいわけだ。

また、定積分を考える場合、実数関数だと下限aから上限bまで積分するとその変域の範囲で曲線の下側の面積を求めることができる。それは無限に細い長方形を足し合わせて面積を合計することになるからだ。

ところが複素関数で定積分をするとはどういうことになるのだろうか?複素数には大小関係はないからaやbを下限、上限と呼ぶことはできない。複素関数の定積分の場合、aとbは始点と終点ということになるのだ。でも始点から終点まで変域を移動させるのはそのまま直線的に結ぶ方法もあれば、ぐにゃぐにゃと回り道をしながら結ぶ方法もある。いったいどうすればよいのだろうか?

幸い始点から終点まで、どのような経路をたどっても定積分の値に違いはでてこない。だから最終的には心配無用ということになっている。

それでも疑問が残る。複素関数を定積分するとはどういうことを意味しているのだろうか?面積や体積を計算しているわけではない。複素関数の定積分の視覚的な説明は「物理数学の直観的方法〈普及版〉 (ブルーバックス):長沼伸一郎」の中で、とてもわかりやすく図示されているので、ぜひお読みになってほしい。

複素積分には実数関数の積分にはない、とても不思議な性質がある。実数関数では上限aと下限bが一致しているとき、その定積分はゼロになる。これについては一般的に複素数関数の定積分でも同じなのだが、例外があるのだ。定積分の始点から終点の経路を閉曲線にとって一周させることを考える。そのときその円の中に複素関数の「極」と呼ばれる特異点(その点で複素関数の値が無限大かマイナス無限大になるケース)の周囲では、一周させてもとにもどってきても定積分の値はゼロにはならないのだ。この不思議な数学的事実は「留数定理」というものだが、現実の世界でも陽電子(反粒子)の計算に使われている。(参照:「相対論的な伝播関数(PDF)」の3ページから4ページ)

この不思議な例も含め、複素関数やその積分についてイメージしたい方は、次のようなページをご覧になるとよい。

複素関数論入門(ときわ台学)
http://www.f-denshi.com/000TokiwaJPN/12cmplx/000cmplx.html

複素関数論入門(横田 壽)
http://next1.msi.sk.shibaura-it.ac.jp/MULTIMEDIA/complex/complex.html

複素解析インデックス
http://homepage3.nifty.com/rikei-index01/hukusokansuron-index.html

複素関数論は美しいだけでなく、これを使うことによる恩恵は多大で、ここには書ききれないくらいだ。オイラーの公式も複素関数のひとつで、微分や積分を簡単に行うことができる。この性質を利用して微分方程式がシンプルに解くことができるようになる。また、物理学で「波動」や「振動」の性質をもつ現象はほとんどすべてオイラーの公式で書き表すことができる。そして量子力学を学ぶようになると複素関数は主役として大活躍することになるのだ。


3)幾何学系

ベクトル解析(微分形式を使った線形代数。力学や電磁気学などで利用される物理数学):理論と計算方法を学ぶ

これはどちらかというと物理学寄りの数学である。物理学科や工学部ではこれをみっちり勉強することになるが、数学科では線型代数を学んだあと、解析学の中で少しだけ学ぶことになる。力学や電磁気学をベクトルや行列、微分を含めた手法で直観的に学ぶことができるようになる。

ひとことで言えば「3次元空間の中で変化する物理的な量を(その方向も含めて)どのようにまとめてあらわして計算を進めるか。」というのがベクトル解析だ。熱や電場、磁場など空間を満たすエネルギーは流体のように扱われ、ベクトル解析の手法を使って表現されて計算が行われる。「流れ」はベクトルであらわされ、「流れの変化」はベクトルの微分を使って表現される。言葉で細かく説明するとかえってわかりにくくなるので、百聞は一見にしかずということで、次のページで具体的に見ればイメージはつかめるだろう。

ベクトル解析(ときわ台学)
http://www.f-denshi.com/000TokiwaJPN/20vectr/000vectr.html

ベクトル解析がいちばん威力を発揮するのは電磁気学だ。div(発散)、rot(回転)、grad(勾配)の考え方と計算方法を理解するのが重要だ。電磁気学のあらましとdiv, rot, gradについては、次の2つのページを見ればイメージしやすいだろう。

EMANの電磁気学
http://homepage2.nifty.com/eman/electromag/contents.html

div,rot,gradの意味(前野先生による解説)
http://homepage3.nifty.com/iromono/PhysTips/divrotgrad.html


5)その他

統計学(基礎的な内容、各種の検定や推定):計算方法を学ぶ

1年次、2年次で学ぶのは統計解析のうち各種の「検定」がメインになる。具体的な例で実際に計算をするケースがほとんどだ。大学や学部によってはそれぞれの検定に使われる確率分布関数を数式で求めるような高度な授業が行われる場合もある。

統計学を学べるページは次の記事にまとめておいたので、ご覧にいただければイメージがつかめるはずだ。

無料で学べる統計学入門サイトのリンク集
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bbc07d148199e963ac8a7ec60de2e7e1


このシリーズ記事はあと4〜5回くらい続きます。次回は「数学の再誕生編」(仮題)として「集合・位相、解析学入門(フーリエ級数、フーリエ変換を含む)」あたりのことをテーマにする予定です。


関連記事:

大学で学ぶ数学とは(概要編)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/07137c47d16d95ddde8f5c4cb6f37d55

理系インデックス
http://homepage3.nifty.com/rikei-index01/index.html


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宇宙が始まる前には何があったのか?: ローレンス・クラウス

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宇宙が始まる前には何があったのか?:ローレンス・クラウス

内容紹介
ビッグバンの前には何があったのか?その最大の謎を、現代の量子物理学は解きあかしつつある。物質と反物質のわずかな非対称から生じたゆらぎ、それが今日の私たちの宇宙を形作った。それは無から有が生まれることであり、無からエネルギーが生じるという物理学の直感と常識に反したことだった。全米でベストセラー、アリゾナ州立大学の宇宙物理学者による衝撃の書。

著者略歴
ローレンス・クラウス
宇宙物理学者。アリゾナ州立大学にて「起源プロジェクト」を創設し率いる。1995年、「真空のエネルギーは、非常に小さいがゼロではない」という大胆な説をマイケル・ターナーとともに提唱。当時は異端視されたが後に見事、実証される。2012年には全米科学審議会から「公益賞」を授与された。

翻訳者略歴
青木薫
1956年、山形県生まれ。京都大学理学部卒、同大学院修了。理学博士。翻訳家。2007年の日本数学会出版賞を受賞している


理数系書籍のレビュー記事は本書で254冊目。

2014年6月20日から放送されるNHK Eテレ『宇宙白熱教室』(毎週金曜23時〜 全4回)のテキストとも言うべき一冊。

「種の起源」に匹敵! 宇宙論のパラダイムシフト

無からなぜ有が生まれたのか? 最先端の量子物理学は宇宙誕生の謎を解明しつつある。
宇宙は平坦だった、加速膨張する宇宙、2兆年後はすべての天体が姿を消す……。
「種の起源」にも匹敵すると賞賛された全米ベストセラーとなった本書は、コンパクトなサイズなのに、脳みそを鷲づかみにされるような濃密さに満ち満ちています。
科学翻訳の第一人者・青木薫氏による奥深く精密な文章と大胆な解説もお見逃しなく。


今夜からの放送開始に間に合わせるため、急きょ本書を読んでみた。

中学時代の教頭先生が天文ファンだったことがきっかけで、僕は中学1年の頃から毎月「月刊天文ガイド」を買うような少年だった。自作の屈折望遠鏡で観測した月面のスケッチを教頭先生に見せるために、週に一度は職員室へ行っていた。今よりだいぶのどかで平和な1970年代後半のことだ。

中学2年だった1976年7月と9月にはNASAが打ち上げたバイキング1号2号が相次いで火星表面に着陸し、鮮明なカラー写真を地球に送ってきていた。今から40年近く前のことだが、惑星科学はそこまで進歩していたのだ。

人類が初めて目にした火星表面のカラー写真
(写真クリックでこの翌日に撮られた写真を表示?)



宇宙の広がりを意識しだしたのもその頃だ。今では売られていない「全天恒星図」をたよりに星雲や星団に見入ったりして、宇宙はいったいどこまで広がっているのだろう?宇宙の果てというのはあるのだろうか?などと想像していた。

当時はまだハッブル宇宙望遠鏡(1990年に打ち上げ)やすばる望遠鏡(1999年観測開始)もなく、今よりずっと不鮮明な天体写真集しか手に入らない。だとしても天体観望会の双眼鏡で見るより、はるかに鮮明に大写しされたはるか彼方の銀河や星団の写真に心をときめかせていたものだ。

宇宙がビッグバンから始まったのは知っていた。ブルーバックスの相対性理論についての本を読んでいたので、宇宙空間は曲率によって「開いている」か「閉じている」か「平坦」かのどれかひとつであるということも知っていた。ただ、観測可能な宇宙の果てが何億光年離れているのかについては、知っていたのかどうか覚えていない。130億光年というのは当時から知られていた距離なのだろうか?

僕の「天文熱」は大学に入学するころまで続き、その後ほかのことに関心が移ってしまったので自然に消えていった。だから僕の天文学や宇宙の知識は1970年代から80年代初めで止まったままなのだ。持っている天文学の本も「とねの本棚(天文学)」をご覧いただければわかるように、当時のものが半分を占めている。

高校1年のときに6000円で購入した「現代天文学 第2版(1978年):A.ウンゼルト著、小平桂一訳」を見てみると、宇宙の年齢(観測可能な宇宙の果てまでの距離)は130億年で誤差は±5億年と書いてあった。この本で僕が宇宙論について得ていた知識を書き出すと次のようになる。

- ハッブルの法則により宇宙が膨張していることは知られていた。
- 宇宙の年齢(宇宙の端までの距離)=130億年で誤差は±5億年
- 世界最大の望遠鏡(パロマー山の5m望遠鏡)で光学的に確認できる宇宙は20億光年まで。
- 宇宙背景輻射は1965年以降、ノイズとして観測され、その温度は絶対温度で2.7度だとわかっていた。
- 曲率が正、負、ゼロの宇宙の3つの可能性があることが予想されていた。
- 宇宙がビッグバンで始まり、宇宙の晴れ上がりがあったことは予想されていた。
- ビッグバンの詳細は全くわかっていなかった。特異点で始まるという矛盾をかかえていた。

当時のビッグバンのイメージ(宇宙は点から始まる。)


曲率が正、負、ゼロの宇宙の2次元的なイメージ



今の高校生はどんなふうに宇宙のことを学んでいるのだろうか?

NHK高校講座 地学基礎」のページで動画を確認したところ、僕が学んでいたころの内容とほとんど違いがないことがわかった。

たとえば70億年前に始まった加速的膨張の図示や解説はされていない。


インフレーションらしきものは先っぽに図示されているがその解説はなく、単にビッグバンとしてだけ紹介されているだけだ。宇宙の誕生も約140億年前と大ざっぱだ。


ただし「地学基礎」はすべての高校生が学んでいるわけではない。「科学と人間生活」,「物理基礎」,「化学基礎」,「生物基礎」,「地学基礎」のうち「科学と人間生活」を含む2科目,又は,「物理基礎」,「化学基礎」,「生物基礎」,「地学基礎」のうちから3科目を選択するように決められているからだ。「地学基礎」を選択している高校生は少数派だと思われる。


その後、1981年に科学雑誌Newtonが創刊され、天文関連の記事を僕はときどき見かけていた。そして1995年あたりから次のようなことが取り上げられるようになってきたのだ。

- 宇宙背景放射の精密な観測(COBE、WMAP、Plank 2013)
- インフレーション宇宙論
- 宇宙は「無」から始まった
- ダークマター(暗黒物質)、ダークエネルギー(暗黒エネルギー)とその比率
- 130億光年彼方の宇宙の写真
- 宇宙の年齢は137億2千万年
- 70億年前から始まった宇宙の加速的膨張
- 重力波の観測装置の建設、重力レンズ効果の精密な観測
- 人間原理、ランドスケープ問題
- マルチバース(多宇宙)

言葉とイメージを断片的に知っていたという程度で、それらにどういう意味があるのか僕にはよくわかっていなかった。中学生のころより「もう少し詳しく宇宙のことが解明されてきたのだろう」とういう程度の認識のまま現在に至っていたのだ。むしろ、探査機を実際に向かわせる惑星探査の進歩のほうがめざましいと思っていた。

でもそれが大間違いなのはもちろんで、「重力とは何か:大栗博司」の第4章「ブラックホールと宇宙のはじまり - アインシュタイン理論の限界」を読んだとき気がつかされた。この章には本書「宇宙が始まる前には何があったのか?:ローレンス・クラウス」で解説されていることのあらましが紹介されていたからだ。

つまり、わずか20年の間に宇宙論は劇的に進歩していたことになる。上記のキーワードであらわされる事柄が、いつ頃どのように解明されていったか筋道をたてて理解するためには本書を読むのがいちばんなのだ。これまでにもクラウス教授の本や青木薫さんの翻訳書は僕は何冊か読んでいる。その中でも宇宙論の入門書として特にお勧めしたい本なのだ。

章立ては次のとおり。

目次

まえがき 宇宙は無から生じた
はじめに 何もないところから、何かが生まれなくてはならない
第1章 いかに始まったのか?
第2章 いかに終わるのか?
第3章 時間の始まりからやってきた光
第4章 ディラックの方程式
第5章 99パーセントの宇宙は見えない
第6章 光速を超えて膨張する
第7章 2兆年後には銀河系以外は見えなくなる
第8章 その偶然は人間が存在するから?
第9章 量子のゆらぎ
第10章 物質と反物質の非対称
第11章 無限の未来には
あとがき リチャード・ドーキンス
訳者解説 青木薫

個々の事柄の論理関係を理解するのが大切だが、この20年で明らかになったことをかいつまんで説明すると次のようになる。


- 生まれて間もない高温の宇宙で発せられた光の残照、それが宇宙マイクロ波背景放射である。宇宙誕生の瞬間を見ることは不可能だ。しかし誕生から30万年後の姿は見ることができる。宇宙背景放射の精密な観測(COBE、WMAP、Plank 2013)が行われ、宇宙誕生時のプランクスケール(超ミクロなスケール)での量子力学的な不確定性原理による揺らぎが全方向について確認された。これは宇宙誕生時にインフレーション(劇的な膨張)がマクロな世界でも見れるほど揺らぎを拡大させたことを意味している。



COBE(1989年に打ち上げ):ウィキペディアの記事
WMAP(2001年に打ち上げ):ウィキペディアの記事
Plank 2013(2009年に打ち上げ):ウィキペディアの記事


- 宇宙誕生時のビッグバンとインフレーション、宇宙の晴れ上がりから現在までは次のような図で説明される。




- 130億光年離れた宇宙を撮影できるようになった。これは2006年12月に公開された写真。赤外線宇宙望遠鏡「スピッツァー」の観測画像を解析し、宇宙誕生後10億年以内の光だけを残すことに成功した。宇宙誕生後10億年以内の光だけを残した映像が左側の写真。




- 宇宙は「無」から誕生した。「無」から物質が生成するしくみは量子力学の「粒子の対生成・対消滅」、量子電磁力学の「仮想粒子」の理論が根拠とされる。その直後にインフレーションがおきた。また、宇宙背景放射は揺らいでいるものの、その揺らぎの量は小さく全体的には均一である。その均一性はその小さな「無」の領域が真空エネルギーで満たされていて相転移をすることで、指数的な膨張がおきたことを示している。宇宙背景放射のわずかな揺らぎとは「無」から生まれた物質と反物質のわずかな非対称から生じたのだ。

粒子の対生成・対消滅


仮想粒子


この「無」には2つの選択肢が候補として考えられている。1つはプランクスケール程度のサイズのあらかじめ存在している空間の中で何かが生じる場合。もうひとつは空間が存在しないところから空間が生じる場合である。これらの「無」は宗教や神学者が説くところの「無」とは全く異なるものだ。後者の「無」については本書では「まだよくわかっていない。」という立場をとっているが、現代の数学者や数理物理学者が考えている仮説は次の記事でお読みいただける。

時間とは何か、空間とは何か: S.マジッド、A.コンヌ、R.ペンローズ他
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d80d021f4fba492bf0e3f47615289422


- 通常の物質とダークマター(暗黒物質)、ダークエネルギー(暗黒エネルギー)の比率はこのように予想されている。ただし本書では通常の物質は1パーセントだと紹介されている。




- ダークマター(暗黒物質)の存在やその量は重力レンズ効果の測定による銀河団の質量分布の解析や銀河の回転速度の精密な測定によって予想されている。ダークマターが何でできているかはまだ解明されていない。もっと詳しく言えば、ダークマターの存在を示唆する根拠は銀河の回転速度、弾丸銀河団のような銀河団による背景物体の重力レンズ効果、そして銀河および銀河団を取り巻く熱い気体の温度分布などの観測結果である。



ダークマターの概念図



- ダークエネルギー(暗黒エネルギー)は70億年前から始まった宇宙の加速的膨張によって予想されるようになった。それが何なのかはまだ解明されていない。加速的膨張はダークエネルギーの斥力的な重力による。70億年前から始まった宇宙の加速的膨張は標準光度の超新星爆発を使った距離測定(ハッブル定数の測定)によって明らかになった。1998年のこと。




- 宇宙の曲率がゼロ、すなわち宇宙空間が大域的には平坦(曲率がゼロ)であることは1997年に南極大陸で行われたBOOMERanG実験による宇宙背景放射の「まだら」のサイズの測定によって明らかになった。宇宙空間の曲率が正だと「まだら」は大きくなり、曲率が負だと「まだら」は小さくなる。詳細は本書の説明をお読みいただきたい。






- 人間原理、ランドスケープ問題、マルチバース(多宇宙)の予想。この宇宙の物理法則が少しでも違うと物質をはじめ私たちは生まれてこなかった。これは偶然なのだろうか?それとももともといろいろな物理法則で成り立つ宇宙があり、たまたま私たちは現在の宇宙に生まれたのだろうか?超弦理論やインフレーション宇宙論は、そのような多宇宙が無数に存在することを示している。なぜそう予想されるのかは本書で詳しく解説される。

マルチバース(多宇宙)の一例



超弦理論(本書では超ひも理論と表記)について言えば、クラウス博士はかなり懐疑的だ。それは「超ひも理論を疑う:ローレンス M.クラウス」という本をお書きになっていることからもわかる。

しかし、博士は超弦理論を積極的に宣伝している物理学者ブライアン・グリーン博士とも親しく、理論に対して批判的、攻撃的な態度をとっているわけではない。やんわりと慎重な姿勢を求めているという感じだ。クラウス博士とグリーン博士の対談はYouTubeにたくさん掲載されている。お二人はとても仲がよい。

クラウス博士とグリーン博士の対談動画: YouTubeで検索する


本書ではこのほか、2兆年先の宇宙についても予想している。宇宙はどのように終わりを迎えるのだろうか?宇宙論はそのように途方もない未来を予測することができるのだろうか?


最後になるが、宇宙やその中で働く物理法則に「創造主」はいるのだろうか?

クラウス博士は明確にそれを否定している。もし創造主がいるとしたら、その創造主はどのように生まれたのだろうか?これは2000年以上前から投げかけられてきた矛盾であり、哲学者や神学者は神の永遠性を根拠にその正当性を主張してきた。本書でクラウス博士は神学者との対話により彼らが「無」についてどのように考えているか、彼ら考え方が矛盾に満ちたものであることを解き明かしている。安易に「神の数式」などと唱えてはならないのだ。また巻末には「著者との一問一答」が設けられ、一般的な読者が思いつくような質問に対してクラウス博士が回答を与えている。


本書を読むにあたって必要な相対性理論、量子力学などについては、必要最小限の事柄にとどめてクラウス博士は説明している。もし理解できないようならば大栗博司先生による入門書をはじめ、ブルーバックスなどで関連本をお読みになるとよいだろう。


今回の記事で紹介したのはこの本だ。英語版だとKindleでも読むことができる。

宇宙が始まる前には何があったのか?:ローレンス・クラウス
A Universe from Nothing: Lawrence M. Krauss」(Kindle版

 

クラウス教授の著書をAmazonで検索する: 単行本(日本語) 単行本(英語) Kindle版(英語)


参考書籍:

インフレーション宇宙論―ビッグバンの前に何が起こったのか:佐藤勝彦
宇宙,無からの創生―138億年の仮説はほんとうか(Newton別冊)

 


参考書籍2

物理学の発展と宇宙観の変遷、そして斥力としての重力について、より詳しく知りたい方は次の記事で紹介している本をお読みになるとよい。この本も青木薫さんの訳書である。

宇宙を織りなすもの(上):ブライアン・グリーン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9a33e8f5ee79057972cf86c7b20c5218

宇宙を織りなすもの(下):ブライアン・グリーン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e7d60b8a36b423ef5d42df59458804b7


人間原理、ランドスケープ問題、マルチバース(多宇宙)について、より詳しく知りたい方は次の記事で紹介している本をお読みになるとよい。

隠れていた宇宙(上):ブライアン・グリーン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4a1abbca21c0188f43d7d72af39287f2

隠れていた宇宙(下):ブライアン・グリーン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6e8b34dc9e4a3d21e82de47960f2a07d


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宇宙が始まる前には何があったのか?:ローレンス・クラウス



まえがき 宇宙は無から生じた
はじめに 何もないところから、何かが生まれなくてはならない

第1章 いかに始まったのか?
始まりの一秒。百億度のプラズマ状態。陽子と中性子が結びついては、さらなる衝突のためにふたたびバラバラになる。ビッグバンモデルでさかのぼる原初の宇宙の状態とは。

第2章 いかに終わるのか?
「開いた宇宙」「閉じた宇宙」「平坦な宇宙」のいずれかで、終末のシナリオは3つある。この予想の鍵を握るのが、目に見えない大量の暗黒物質(ダークマター)だ。その正体を捉えることはできるのか。

第3章 時間の始まりからやってきた光
生まれて間もない高温の宇宙で発せられた光の残照、それが宇宙マイクロ波背景放射である。宇宙誕生の瞬間を見ることは不可能だ。しかし誕生から30万年後の姿は見ることができる。

第4章 ディラックの方程式
ミクロなスケールの世界を記述する量子力学。そこでは何もないところから仮想粒子が生成消滅する。特殊相対性理論と量子力学を結び合わせたディラックは、宇宙の始まりにも関係する重大な発見をする。

第5章 99パーセントの宇宙は見えない
エネルギーを含んだ空っぽの空間の中に、「暗黒物質(ダークマター)」の海があり、わずか1%の目に見える物質がその海の中に浮かんでいる。それが現在の物理学が到達した宇宙像なのである。

第6章 光速を超えて膨張する
われわれに観測可能な宇宙も、膨張の速度が加速し、やがて光速を超える。アインシュタインが課した制限速度も、空間そのものにはあてはまらない。

第7章 2兆年後には銀河系以外は見えなくなる
宇宙がこのまま膨張し続けると、2兆年後にはすべての天体が遠ざかり姿を消す。ビッグバンの手がかりも消えるだろう。われわれは宇宙を観測できる貴重な時代を生きている。

第8章 その偶然は人間が存在するから?
インフレーションモデルやひも理論によると、宇宙はひとつではなく無数に存在するという。とするとわれわれの宇宙は、人間が存在するのに適した宇宙に過ぎないのではないか。

第9章 量子のゆらぎ
現在の量子力学は、何もない場所に量子のゆらぎが生じ、あらゆる構造を生むことを説明する。つまり何もない場所が何らかのエネルギーを持つことができるということだ。

第10章 物質と反物質の非対称
量子力学と相対性理論によれば、物質に対応する反物質は必ず存在し、それらは打ち消しあう。しかしビッグバンの最初の状態では、わずかな非対称があった。それがわれわれを生んだのだ。

第11章 無限の未来には
何もない場所から、何かが常に生まれている。しかし、おそらく遠い未来には、無がふたたび宇宙を支配することになりそうだ。

あとがき リチャード・ドーキンス
訳者解説 青木薫

感想:NHK宇宙白熱教室:第1回:宇宙のスケールを体感する! 〜空間・時間・物質〜

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番組ホームページ

先日「番組告知:NHK宇宙白熱教室(ローレンス・クラウス教授)」という記事で告知した4回シリーズ番組の1回目が昨夜放送された。(番組はFC2動画のこのページで見れるようだ。)

知識としては知っていたけど、やっぱりすごかった。陽子の中の世界から観測可能な宇宙の果てまでズームアップ、ズームダウンしてみるのは誰にとても楽しい体験だ。放送は金曜の深夜。一週間の勉強や仕事を終えて非日常の世界に思いをはせるのには良いタイミング。

本講座の関連本「宇宙が始まる前には何があったのか?: ローレンス・クラウス」の紹介記事は昨日投稿したばかりだが、昨夜の講義の内容はこの本には書かれていない。

「主な内容」、「印象に残った画像」、「良かった点、素晴らしいと思ったこと」、「改善したほうがよいと思ったこと」、「その他、気がついたこと」というくくりで感想をまとめておこう。


主な内容

全体の流れを箇条書きしてみた。

- 宇宙論におけるフィールドは空間、時間、物質
- 10の累乗のスケールで世界(空間)を見る。10のマイナス28乗メートルから10の28乗メートルまで段階的に表示。番組に使われた「Powers of Ten(10の累乗)」という短編映画(再生時間9分)はYouTubeで見ることができる。この映画は製作された1977年までの科学で解明された範囲なので紹介されているスケールは10のマイナス15乗メートルから10の24乗メートルまでだ。



- タイムマシンの話、過去にタイムトラベルしても地球はそこにはない。
- 木星表面に見える彗星の衝突痕、木星による恩恵、彗星を捕獲してくれた、恐竜は絶滅したが人間は生き残った、
- カッシーニから撮影された土星による皆既日食の写真、小さい地球
- 恒星の世界、惑星系、生命の存在する惑星がある可能性
- 銀河系の渦巻き構造
- 銀河系とアンドロメダ銀河の衝突。50億年後。衝突する動画はすごかった。
- 銀河系の形を知る方法、マイクロ波による。COBE衛星(1989年打ち上げ)
- 銀河系の中心部の写真(1990)に感動、中心部の星の重力による運動によりブラックホールの発見、ブラックホールの存在を示す恒星の運動のシミュレーション動画が面白い
- 1000万光年、局部銀河群(Local Group of galaxies)、銀河団(clusters of galaxies)、超銀河団(Supercluster)。超銀河団より大きなものは構成されない。
- ハッブル望遠鏡による深宇宙、100億光年の距離の銀河団
- 銀河団の分布は大規模なフィラメント構造(網目構造)CGがすごい
- 宇宙の晴れ上がりを示す球形、その外は光や電波がない、物質も中性でないプラズマ状態なので見えない、観測できる宇宙の限界
- 次は小さいスケール
- 細胞、細胞の表面、DNAの二重らせん、分子、原子、
- 原子核、机が硬い理由
- 陽子、中性子(100兆分の1)
- クォーク、色と名づけただけ
- 量子力学、相対性理論、波動性と粒子性
- 陽子の中のもやもや、仮想フィールド、質量の起源、原子核を安定に保つ
- LHCによって陽子の中を探る、陽子の1000分の1のスケールまで調べられる
- ヒッグス粒子の発見、ミステリー、ヒッグス場の誕生、これがなければ何も生まれない
- なぜ私たちはスケールの中心にいるのかは謎
- 重力は人間スケールから宇宙スケールまで
- 電磁気力はそれより小さいスケールで働く
- 弱い力と強い力はもっと小さいスケールで働く
- 40年前に見つかっていたのは2つだけ(重力と電磁気力)
- 3つの力は量子力学によって理解できた(電磁気力、弱い力、強い力)
- 4つの力の強さの比較(重力、電磁気力、弱い力、強い力)
- ファインマンによる説明、ビルから地上に飛び降りても地面にめり込まないのは電磁気力が重力よりもはるかに強いため
- 電磁気力は10の40乗倍も重力より強い
- 強い力と弱い力は、到達距離が小さいから日常には観測されない
- 力を伝える素粒子により力が伝わること、そのレンジのこと
- 次は物質について、レプトン(電子とニュートリノ)とクォーク(陽子と中性子)
- 時間の尺度で見た宇宙の進化、原子誕生は本当に後のほう
- 大統一時代の終了?
- 人間活動は科学の壮大さにくらべればつまらない


印象に残った画像


- 土星による皆既日食の写真

かなり驚かされたのが探査機カッシーニが土星の向こう側に回りこんで撮影した土星本体による皆既日食の写真。2006年に撮影された。そこにはたまたま地球が写っていた。土星から見た地球のなんと小さいこと!日頃ニュースを見ながら憤ったり、残念に思ったりしていることはすべて(もちろんそれぞれ大切なことなのだけど)こんなにちっぽけな場所でおきているのだなぁ、と今週一週間のことを振り返りながら見ていた。



上の写真をクリックして拡大すると、地球はここに見える。




- 銀河系の中心にあるブラックホール

ブラックホールの重力は非常に強いため、光さえもそこから出ることはできない。したがってブラックホールを見ることはできないが、周囲の天体が万有引力の影響を受けることで運動の方向を変えるために、その存在は間接的に知ることができる。番組で紹介されたのは以下の図の動画である。ニュートンの力学法則が正確に成り立っていること、多体問題の複雑さ(多数の天体が万有引力によって複雑な運動をすること)、人間が生きているわずか数十年の間に恒星の運動を観測できるということなどに感動させられた。



この画像は次のページから拝借させていただいた。他にも画像があるのでぜひご覧いただきたい。

Zeroing in on Black Holes
http://cosmicmatters.keckobservatory.org/2007/dec/07dec_1.htm


- ハッブル宇宙望遠鏡による「深宇宙」の写真(2004年)

137億年前のビッグバンから数億年後の“宇宙の夜明け”に誕生した7つの銀河の姿が映し出された。


写真はこのページでどうぞ。

http://www.astroarts.co.jp/news/2012/09/27hxdf/index-j.shtml

http://www.aritearu.com/Life/Sky/Hubble/120Billion.htm


- 宇宙の大規模構造

100億光年のスケールになって表れる宇宙の大規模構造。無数の銀河団がこのようなフィラメント構造を形作っている。これを初めて見たとき僕は驚愕した。宇宙スケールから見ればほんの一瞬に過ぎない人生で、こういうスケールのでかいものが見れたのだ。




- 宇宙の果て

「宇宙の果てを見てみたい。」という誰でも一度は抱く願いがかなえられた。WMAPによる宇宙マイクロ波背景放射の画像を球形に加工した画像のことである。「いちばん遠い場所」とは「いちばん昔」ということなので、この画像は宇宙誕生から30万年たった頃の様子を映し出していることになる。これより昔(外側)になると宇宙には原子さえ存在せず、プラズマ状態になっているので光や電波で観測することができない。つまり、ここが観測可能な宇宙の果てなのだ。しかも、その場所を外側から見ているように画像を表示してくれている。




- 陽子の中の仮想フィールド

陽子の中にはクォークが3つ入っている。しかし、それだけではない。番組で紹介されたこの「仮想フィールド」の動画は、クォークのレベルの物理法則 - 量子色力学によって予想されている波動の動きである。陽子の中にこのように「もよもよ」とうごめいている何かがあり、それをコンピュータ・シミュレーションによる動画で見たのは初めてのことだった。この仮想フィールドは「エネルギー」であり、陽子が質量をもって安定しているのもそのおかげなのである。私たちの体の質量、身の回りの物、地球や星の質量のほとんどはこの「もよもよ」動いている仮想フィールドがあるおかげなのだ。

動画GIFファイルなのでスマートフォンでは静止画として表示されます。動きを見たいときはパソコンで表示させてください。


この動画ファイルは次のページから拝借させていただいた。ほかにも動画があるのでぜひご覧いただきたい。

Visualizations of Quantum Chromodynamics(量子色力学の視覚化)
http://www.physics.adelaide.edu.au/theory/staff/leinweber/VisualQCD/Nobel/


- 「時間」で見た宇宙の進化

知識としては知っていたが、こうして見ると銀河や太陽が形成されたのは、本当に最近のことなのだなと思ってしまう。地球の歴史を1年にたとえると、人類が誕生したのが大晦日の午前11時半頃だという話を思い出した。




良かった点、素晴らしいと思ったこと


- 対数目盛という言葉を使わず、10の○乗という言い方をしたこと

難しい言葉は使わないに越したことはない。10の○乗という言い方をしたことで、数学が苦手な人にもスケールの違いがよくわかるように配慮されていた。


- 1光年というスケールに驚き

太陽からいちばん近い恒星までの距離は4.3光年であるが、スケールダウンしていく写真の中で1光年の物差しを見たとき、光って早いなと感動したのは僕だけだろうか?


改善したほうがよいと思ったこと


- 物質と時間にあてた講義時間が短かった

大半の時間が空間のスケールアップとダウンに費やされ、物質と時間のことにあてられた時間が短かった。けれども空間の話で見ていたのはすべて物質なのだから、大半の時間は物質の説明にもなっていたわけだ。


一般視聴者には分かりにくかったこと


- 素粒子、量子力学、相対性理論の話

素粒子物理学や超弦理論(超ひも理論)の世界を紹介するために昨年放送されたNHK「神の数式」を見ていなかった人にはわかりにくかったと思う。特にレプトンとクォーク、4つの力、原子のように電気的に中性なものを物質と呼ぶことなど。また量子力学によって説明される素粒子の波動性と粒子性の話もそうだ。このあたりは詳しく説明すると番組10回分くらいになりそうなので仕方がない。「難しい」とツイートされていた方がそう思ったのはこのあたりのことだと僕は想像している。

LHCでのヒッグス粒子の発見やヒッグス粒子による質量の獲得についても触れらてていた。しかし説明はとても短かったので、理解できない方が多かったのは仕方のないことだ。

難しいこのあたりのことを補足するために4つの力(重力、電磁気力、弱い力、強い力)について詳しく知りたい方は、次の2冊をお読みになったり、「E=mc^2 〜アインシュタインと世界一美しい方程式〜(ドラマ仕立て)」や「美しき大宇宙」、「超ひも理論の世界」などの動画をご覧になるとよい。

重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る:大栗博司
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f63cdcd45ec542fa62d535b4cc715d69

強い力と弱い力:大栗博司
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/06c3fdc3ed4e0908c75e3d7f20dd7177

E=mc^2 〜アインシュタインと世界一美しい方程式〜(ドラマ仕立て)
電磁気学、質量保存則(m)、エネルギー保存則(E)、光の速度(c)、特殊相対性理論、放射線、核分裂まで



続き:   

美しき大宇宙:ニュートン力学、相対性理論、電磁気学、量子力学、素粒子物理学、超ひも理論、M理論



第1回:超ひも理論以前の物理学。一般相対論や量子力学、統一理論など。
第2回:超ひも理論誕生から「第1次超ひも理論革命」までの解説。
第3回:90年代半ば以後、「第2次超ひも理論革命」 以降の超ひも理論。M理論やブレーン・ユニバース、パラレル・ワールドなど。

続きはこちら。
第1回:     
第2回:     
第3回:     

超ひも理論の世界(4つの力とその統一、超対称性):「美しき大宇宙」を改訂して再編集したダイジェスト版




その他、気がついたこと、生じた疑問


- アメリカはインチ、マイルなのにメートル法で説明していた。

アメリカの日常生活で使われる長さや重さの単位は、インチやマイル、ポンドなのだが、科学を勉強するときはメートル、キログラムだ。一般の人も2つの単位を知っていて、メートル法でもちゃんと長さを実感できていることに気がつかされた。日本はメートルとキログラムに統一されていてよかったと思う。


- 少年の質問はあらかじめ決めていたように思える。

最前列にいた赤いシャツの少年が2回質問していた。的を得た質問と堂々とした態度にちょっとびっくり。あらかじめ彼が質問することや質問内容は決められていたのだと思う。


- 陽子の誕生はわかったけど電子の誕生はいつ?

陽子が生まれた時期は示されていたが、電子については示されていなかった。調べたところ次のような記述をネットで見つけた。

ビッグバン宇宙論によると宇宙誕生から (10の−33乗)秒後には宇宙は急激な膨張(インフレーション)を終了し密度が薄まるとともに温度のわずかに下がり素粒子であるクォーク 、反クォーク 、 電子、 反電子等が誕生したと考えられていますが、放射(エネルギー)と物質は消滅と生成を繰り返していて、電子が安定して存在できるようになるのは(10の-6乗)秒後であると考えられています。


- なぜ銀河系は渦を巻いているのか?

番組を見ている最中、このような疑問を僕は思いついた。渦巻は排水溝の周りの水流や、竜巻や台風にも見られるが、銀河系に渦巻ができる理由はそれらとは違っているはずだ。なぜ渦巻きができるのだろう?ウィキペディアで調べたところ、次のように説明されていた。

1964年、C. C. リンとフランク・シューがこの問題を解決する理論を初めて提案した。彼らは渦状腕はディスクに生じた螺旋状の密度波が目に見えているものだと指摘した。彼らはディスク内の星の軌道がわずかに楕円軌道を描いており、その楕円軌道の向きが星同士互いに相関を持っていて、銀河中心からの距離に応じて滑らかに少しずつ変化していると仮定した。星の軌道がこのような条件に従っていると、ディスク内に星の密度の高い部分が螺旋状にできることを彼らは示した。 従って、ディスク内の星は現在我々が観測した位置にいつまでもとどまっているわけではなく、軌道運動によって腕の部分を定期的に通り抜けていることになる。

これはよく、所々に渋滞が発生している高速道路に喩えられる。渋滞が発生している箇所が銀河の渦状腕に相当する。渋滞の中にいる自動車はそこにとどまっているのではなく低速ながらも走っており、いずれ渋滞部分を抜け出す。これと同様に、渦状腕を構成している星は常に同じではなく常に入れ替わっているが、腕自体は星の密度が高い部分として同じ位置に存在し続けているのである。


- 宇宙のスケールアップとダウンを楽しんでみよう

今回の放送を見て思い出したのが「Mitaka」というWindows用の無料ソフトだ。地球レベルの世界から宇宙の大規模構造まで段階的にサイズを変えながら宇宙旅行を楽しむことができる。自分の位置を移動させ視点を変えることも自由にできるので星座の形も変わってくる。書籍とホームページを紹介しよう。書籍にはDVDがついているが、ソフトはその後更新されているのでホームページからダウンロードしたほうがよい。

Mitakaホームページ
http://4d2u.nao.ac.jp/html/program/mitaka/




4次元デジタル宇宙紀行Mitaka―地球から宇宙の果てへ




番組関連書籍:

宇宙が始まる前には何があったのか?:ローレンス・クラウス」(紹介記事
A Universe from Nothing: Lawrence M. Krauss」(Kindle版

 

クラウス教授の著書をAmazonで検索する: 単行本(日本語) 単行本(英語) Kindle版(英語)


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参考書籍:

インフレーション宇宙論―ビッグバンの前に何が起こったのか:佐藤勝彦
宇宙,無からの創生―138億年の仮説はほんとうか(Newton別冊)

 


関連記事:

番組告知:NHK宇宙白熱教室(ローレンス・クラウス教授)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/fdcf3a5173e9f55fc37c9b8d85f4128b

宇宙が始まる前には何があったのか?: ローレンス・クラウス
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b6f36e8eedba5ee63a4f919d30a2cb20

番組告知:MIT白熱教室(物理学編)、これが物理学だ!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/66d25e29fc2c514f453a6b110150b811

番組告知:バークレー白熱教室〜大統領を目指す君のためのサイエンス
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/36bb14b19b9ca57d17fe60655a704615

ファインマンさんの流儀:ローレンス M.クラウス著、吉田三知世訳
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9ec9faa4bd78881bd1986bf7773cc390

超ひも理論を疑う:ローレンス M.クラウス
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d5aefd0f455c43b62365954cd2ae601c

世界初のポータブル関数電卓 HP-35 のAndroidアプリ

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HP-35科学電卓(1972)のアプリ

今日はHP-35をはじめ、いろいろな意味で「世界初」、「日本初」の関数電卓、プログラム電卓を紹介しよう。


HP-35は1972年にヒューレット・パッカード社から発売された世界初のポータブル関数電卓だ。当時の価格は395ドル、1ドル360円の時代だったから日本円で14万2千円。

関数の精度は実に11桁もあり、この電卓が発売されたことで科学者やエンジニアは計算尺や三角関数表&対数関数表を使わなくてすむようになり、計算が何倍も楽になった。

参考記事:

計算尺ノスタルジア (コンサイス計算尺、ヘンミ計算尺)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b91ae7814c1830a9aaf7da77aadf88a8

アポロに搭載された計算尺(Pickett N600-ES)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3898318d7f4b3e84900d9ae2cb80d816

五桁ノ 對數表 及 三角函數表:えふ.げい.がうす著
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/8d90de27b13365139c25bbffd9c4f04b


このHP-35電卓のアプリがGoogle Playで発売されていることに最近気がついた。昨年2月に発売されたようだ。146円だったので即ダウンロード。アプリのスキンには本物の写真が使われている。

HP-35 Emulator Calculator: Google Playアプリを見てみる




実機は今でもアメリカのeBayから買うことができる。300ドルくらいから出品されているが、状態の良いものがほしい場合は1000ドル以上のものを選んだほうがよいだろう。(まれに500ドルくらいでも状態の良いのが出品されている。)ただし、アメリカのeBayサイトは米国在住者でないと買うことができない。

eBayでHP-35を: 検索してみる

HP-35の詳細についてはウィキペディアやThe Museum of HP Calculatorsというサイトをご覧いただきたい。

ウィキペディア: HP-35についての記事
The Museum of HP Calculators: HP-35のページ

実機(クリックで拡大)


ウェブ上で動くHP-35のエミュレータもある。
画像をクリックするとHP-35電卓が起動する。
HP-35


豆知識: ところで三角関数や指数・対数が計算できる電卓を関数電卓と呼んでいるが、アメリカでは科学電卓と呼ばれている。「関数」は英語で「function」なのだが、このほかにも「機能」という意味がある。「Functional Calculator」という英語だと「ちゃんと機能する電卓」という意味にとられるからだ。だから関数電卓のことを英語で表現するときは「Scientific Calculator」という言葉を使ったほうがよい。


2007年にはHP-35の発売から35年を記念してHP35sという「科学電卓」がヒューレット・パッカード社から発売されている。こちらは現代のスペックの高級電卓で、プログラミングも可能だ。

VIVA!帰ってきたHP電卓--米国HP社「HP35S」
http://japan.cnet.com/digital/pc/20353764/

HP35s ハイエンド関数電卓 日本語クイックガイド付: 見てみる
HP35s ハイエンド関数電卓 日本語マニュアル付属: 見てみる


ところで、この当時の日本製の電卓はというと「CASIO fx-2、1972年」が発売されていた。ご覧のとおり卓上型で小型化されていなかった。関数の精度は8桁。HP-35には3桁も負けている。価格は9万8千円におさえられていた。



神様の計算機 (CASIO fx-2、1972年)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/51d92a0f17a3abd1112691590d86c83a


HP-35と同じくポータブル型の関数電卓ということになると日本で初めて発売されたのは2年後、「CASIO fx-10 (1974)」である。価格は24,800円。10関数内蔵で単三電池4本で動作する。精度は6桁しかない。価格と性能を抑えてたくさんの人に使ってもらいたいという方針があったのだろう。この電卓の詳細は以下の記事をお読みいただきたい。

70年代の関数電卓:CASIO fx-10 (1974)、fx-15 (1975)、fx-19 (1976)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e27a518854a8b71b3eb83b6d38ab598c


関数電卓としてはHP-35が世界初ということではない。すでに卓上型の関数電卓がHP-9100A (1968)として発売されていた。そしてこれは「プログラム電卓」でもあった。

つまり「世界初」、「日本初」といってもいろいろあるのだ。関数電卓、プログラム電卓について年代順に紹介しよう。

世界初の卓上プログラム電卓 CASIO AL-1000 (1967): 価格328,000円。12.3Kg。(詳細
世界初の卓上プログラム関数電卓 HP-9100A (1968):価格5000ドル。(詳細
世界初のポータブル関数電卓 HP-35 (1972):価格395ドル。(詳細
日本初の卓上関数電卓 CASIO fx-1 (1972):価格32万5千円(詳細
日本初のポータブル関数電卓 CASIO fx-10 (1974):価格24,800円。(詳細
日本初のポータブル・プログラム関数電卓 CASIO PRO-101 (1976), CASIO fx-201P (1976), fx-202P (1976), CASIO PRO fx-1 (1976)
世界初の手帳型プログラム関数電卓 CASIO fx-501P (1979), fx-502P (1979):(紹介記事

日本初のポータブル・プログラム関数電卓のところに4機種書いたのは、どれも同じ年に発売されたからだ。順番はこのページの次の写真を参考にした。



CASIO PRO-101 (1976):4万9800円。256ステップ。(詳細1詳細2
CASIO fx-201P (1976):2万9000円。127ステップ。電源を切るとプログラムも消えた。(詳細1詳細2
fx-202P (1976):3万9千円。fx-201Pにプログラム保護回路を内蔵したもの。(詳細
CASIO PRO fx-1 (1976):127ステップ。CASIO PRO-101に磁気カードリーダがついてプログラムの保存、読み込みができるようになった。(詳細動画


HP-35をはじめ、これらの関数電卓やプログラム電卓は60年代から70年代に登場して、それぞれ電卓カテゴリーの中でのマイルストーンとなった往年の名機たちである。

CASIO AL-1000 (1967)


HP-9100A (1968)


CASIO fx-1 (1972)


CASIO fx-10 (1974)


CASIO PRO fx-1 (1976), CASIO fx-201P (1976), fx-202P (1976) - クリックで拡大



以下はYouTubeに投稿されている動画だ。この時代の電卓が実際に動作しているところはなかなか見れないので貴重な映像である。

Casio AL-1000 Nixie Tube Calculator


Casio AL-1000 (1967) First start up after cleaning


Hewlett-Packard 9100 - Computer Calculator For Math And Science (1968)


HP 9100 Display Trick


CASIO FX-1 Scientific Calculator - Nixie Tube Display!


Test de la Casio Pro FX-1



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