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2021年 ノーベル物理学賞は真鍋博士、ハッセルマン博士、パリージ博士に決定!

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スウェーデンの王立科学アカデミーは5日、2021年のノーベル物理学賞を、複雑な物理系の理解への画期的な貢献に対してプリンストン大学の真鍋淑郎、マックスプランク気象研究所のクラウス・ハッセルマン、サピエンツァ大学のジョルジョ・パリージら欧米の3人に授与すると発表した。


授賞式は新型コロナウイルスの流行を考慮し、オンラインで(とね日記賞の発表と同じ)12月10日に開かれる。賞金は1千万スウェーデンクローナ(約1億2千万円)の半分はパリージ氏に、残り半分が真鍋氏とハッセルマン氏に贈られる。

The Nobel Prize in Physics 2021
https://www.nobelprize.org/prizes/physics/2021/summary/

Announcement of the Nobel Prize in Physics 2021



今年は複雑系物理学という以外な分野への授賞となった。

発表では次のようなスライドが映された。

真鍋博士:放射熱、二酸化炭素による温暖化のメカニズム


気象現象はカオス、複雑系である


ハッセルマン博士:高速でカオス的なブラウン運動、揺らぎが気象に影響を与える


気象の多様性、指紋モデル


パリージ博士:液体を急冷するとガラスになる


ガラスのエネルギーにはフラストレーションが見られる


スピングラスのフラストレーション



発表のタイミングで公開されたプレスリリースを和訳したものを載せておこう。

プレスリリース(英語):
https://www.nobelprize.org/uploads/2021/10/press-physicsprize2021.pdf

日本語訳:

2021年ノーベル物理学賞

“地球の気候の物理モデリング、変動の定量化、地球温暖化の確実な予測に対して”

真鍋淑郎、プリンストン大学、アメリカ

クラウス・ハッセルマン、マックスプランク気象研究所、ハンブルク、ドイツ

“複雑な物理システム(物理系)の理解への画期的な貢献に対して”

ジョルジョ・パリージ、サピエンツァ大学 ローマ、イタリア


気候やその他の複雑な現象の物理学

3人の受賞者が、混沌とした、明らかにランダムな現象の研究に対して、今年のノーベル物理学賞を共有しています。真鍋淑郎とクラウス・ハッセルマンは、地球の気候と人類が地球の気候にどのように影響するかについての知識の基礎を築きました。ジョルジョ・パリージは、無秩序な物質とランダム過程の理論への革命的な貢献に対しての表彰です。

複雑系は、ランダム性と無秩序性を特徴とし、理解するのが困難です。今年の賞は、それらを説明し、それらの長期的な行動を予測するための新しい方法を表彰します。

人類にとって極めて重要な複雑系の1つは、地球の気候です。真鍋淑郎は、大気中の二酸化炭素濃度の上昇が地球の表面温度の上昇にどのようにつながるかを示しました。 1960年代に、彼は地球の気候の物理モデルの開発を主導し、放射バランスと気団の垂直輸送との間の相互作用を調査した最初の人物でした。彼の研究は、現在の気候モデルの開発の基礎を築きました。

約10年後、クラウス・ハッセルマンは、天候と気候を結び付けるモデルを作成しました。これにより、天候が変化し混沌としているにもかかわらず、気候モデルが信頼できる理由についての疑問に答えました。彼はまた、彼の気候に刻印される特定の信号、指紋を識別するための方法という自然現象と人間の活動の両方の領域で手法を開発しました。彼の方法は、大気中の温度上昇が人間による二酸化炭素の放出によるものであることを証明するために使用されてきました。

1980年頃、ジョルジョ・パリージは不規則で複雑な素材に隠されたパターンを発見しました。彼の発見は、複雑系の理論への最も重要な貢献の1つです。それらは、物理学だけでなく、数学、生物学、神経科学、機械学習などの他の非常に異なる分野でも、多くの異なる、明らかに完全にランダムな材料や現象を理解し、説明することを可能にします。

「今年認識された発見は、気候に関する私たちの知識が、観測の厳密な分析に基づいた確かな科学的基盤に基づいていることを示しています。今年の受賞者はすべて、複雑な物理系の特性と進化についてより深い洞察を得ることに貢献してくれました」とノーベル物理委員会の委員長であるトールス・ハンス・ハンソンは述べています。


イラスト

以下のイラストは非営利目的である限り無料で使用できます。著作権はスウェーデン王立科学アカデミー、Johan Jamestadに帰属します。

イラスト:真鍋の気候モデル(pdf
イラスト:二酸化炭素温度(pdf
イラスト:指紋(pdf
イラスト:不規則系(pdf
イラスト:フラストレーション(pdf
イラスト:スピングラス(pdf


真鍋博士、ハッセルマン博士、パリージ博士、物理学賞受賞おめでとうございます。


関連ページ:

「(真鍋と同僚が)Fortranを使って開発した気候モデルは初期の成功したモデルの1つとされている」
【科学を変えた10のコンピューターコード | Natureダイジェスト2021年4月号】
https://www.natureasia.com/ja-jp/ndigest/v18/n4/科学を変えた10のコンピューターコード/107007#.YVwgmNszshg.twitter

ノーベル賞決定の真鍋さん「原動力は好奇心」「気候変動が大変なことだと多くの人が気づいた」…単独インタビュー
https://news.yahoo.co.jp/articles/40bd69aeceea6148ee0355933167620fcdab1b01

ノーベル賞・真鍋さん方程式 デザインしたホテル、岡山に
https://mainichi.jp/articles/20211005/k00/00m/040/356000c


 

 

理性の限界―不可能性・不確定性・不完全性:高橋 昌一郎

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理性の限界―不可能性・不確定性・不完全性:高橋 昌一郎」(Kindle版

内容紹介:
私たち人間は、何を、どこまで、どのようにして知ることができるのか?いつか将来、あらゆる問題を理性的に解決できる日が来るのか?あるいは、人間の理性には、永遠に超えられない限界があるのか? 従来、哲学で扱われてきたこれらの難問に、多様な視点から切り込んだ議論(ディベート)は、アロウの不可能性定理からハイゼンベルクの不確定性原理、さらにゲーデルの不完全性定理へと展開し、人類の到達した「選択」「科学」「知識」の限界論の核心を明らかにする。そして、覗きこんだ自然界の中心に見えてきたのは、確固たる実在や確実性ではなく…。

2008年6月19日刊行、280ページ


著者:
高橋 昌一郎: ウィキペディアの記事
Twitter: @ShoichiroT
note: https://note.com/logician/
1959年生まれ。ミシガン大学大学院哲学研究科修士課程修了。現在は、國學院大學文学部教授。専門は、論理学・哲学。

高橋先生の著書: 書籍版 Kindle版


理数系書籍のレビュー記事は本書で465冊目。

本書は20世紀になって発見、証明された『人間の理性には超えられない限界があるという、アロウの不可能性定理ハイゼンベルクの不確定性原理ゲーデルの不完全性定理という「選択(経済学、社会学、その他)」、「科学(物理学)」、「知識(数学、論理学)」の領域に与えた3つの衝撃』について、一般の方にも読みやすい軽妙でユーモラスな討論形式で紹介した本だ。だいぶ前にKindle版を購入していたが、早く読んでおきたいと思いつつ数年がたってしまっていた。(Amazonの購入履歴を確認したところ、本書を購入したのは2014年9月である。)


僕は来年10月に還暦を迎えるが、人生とは自らの限界をひとつずつ知っていく旅なのだと思うようになった。どれほど好奇心があっても、体力の衰えは気力と熱意を失わせ、読書や学びのスピードが落ちていくことを日々自覚するようになってきた。仕事を終えて本を読もうとしても睡魔に負けてしまうことが多くなっている。(関連ツイート

自分の限界を初めて自覚したのは幼稚園児の頃である。自分よりも走るのが速い子がいることに気がつき、それは小学生になり徒競走をするようになって決定的なものとなった。どんなに頑張っても自分は速く走れないことを知った。

中学生、高校生の頃には天文、特に天体観測と天文計算をするのが好きになり、天文学者になることを夢見ていた少年の心はまさに「限界知らず」だった。人間の寿命という生物学的な限界を別とすれば、未来の人類はいずれ万能の知性を得ることができるのだと信じていた。

理論的な意味での限界というものがあるのを初めて知ったのは「天体望遠鏡の分解能」について理解したときだった。望遠鏡のレンズや反射鏡の口径を大きくすれば、より細かな映像が得られるようになるはずだが、天体から来る光がもつ波長が有限の値であるため、(2つの天体を区別することができるための)分解能には限界がでてくるのである。現実的には口径を大きくして分解能を高めていっても、ある時点から大気の揺らぎによる分解能の限界のほうが先に現れて限界がでてくる。また、ハッブル宇宙望遠鏡のように大気圏外に望遠鏡を設置しても反射鏡の口径が有限である以上、分解能の限界を取り除くことはできない。

次のページでは、ハッブル宇宙望遠鏡の口径サイズを仮に5cm、10cm、20cm、40cmにしたときに見えるであろう木星の映像の違いを確認することができる。実際のハッブル宇宙望遠鏡の口径は2.4mで、実際に撮影された映像はこのページで見ることができる。

参考:解像力の違いによる映像(木星)
http://www5f.biglobe.ne.jp/~kztanaka/rpsim.html


「ゲーデルの不完全性定理」と「ハイゼンベルクの不確定性原理」の概要を知ったのは、応用数学を専攻し、東京理科大を卒業してソフトウェア開発を手がけるベンチャー企業に就職が決まった頃、「ゲーデル、エッシャー、バッハ―あるいは不思議の環: ダグラス・R. ホフスタッター」を読んだときだった。この1987年当時、パソコンはまだネットワークに接続されていなかったものの、UnixやC言語などが日本に紹介され、コンピュータ科学や認知科学の未来に無限の可能性を夢見ていたのが社会人1年生の頃の僕である。就職した会社はPC版の日英、英日機械翻訳ソフトを日本で初めて商用化していた。機械翻訳ソフトの構文解析のためのライブラリは社会人になって最初に僕が取り組んだ課題だった。

コンピュータが社会に与えた影響は、当時想像していた以上のものだ。PCがインターネットに接続され、携帯電話やスマートフォンが一般人に普及するようになると。。。これは皆さんすでにご存知のことだろうからあえて書く必要はあるまい。

しかし、「ゲーデル、エッシャー、バッハ―あるいは不思議の環: ダグラス・R. ホフスタッター」を読んだ1980年代、僕は「ゲーデルの不完全性定理」と「ハイゼンベルクの不確定性原理」を誤解していた。それはコンピュータ科学の未来へ賭ける僕の夢が勝ってしまっていたからであり、量子力学を理解していなかったからだった。ハイゼンベルクの不確定性原理の限界を僕は中学生、高校生のときに理解していた「望遠鏡の分解能の限界」と同じようなものだと誤解していた。望遠鏡は反射鏡の口径を大きくすればするほど理論的な分解能は無限に向上していくが、ハイゼンベルクの不確定性原理の限界はそのようなものではない。


「ハイゼンベルクの不確定性原理」を正しく理解できるようになったのは、2006年以降物理学に興味をもち、量子力学の教科書を読んだ後であり、「ハイゼンベルクの顕微鏡(不確定性原理は超えられるか)」や「量子と情報 ―量子の実在と不確定性原理―: 小澤正直」を読んだおかげだ。科学、そして特に物理学の測定に限界があることが理論的に導き出されることに衝撃を受け、それが量子力学の本質のひとつであることにまったく新しい世界観が開けた気がした。

「ゲーデルの不完全性定理」を正しく理解できるようになったのは「数学ガール/ゲーデルの不完全性定理:結城浩」を読んだときである。大学時代に応用数学を専攻していただけに、数学は完璧な理論的構築物だという思いを強くもっており、「実は完璧ではないのですよ。」と告げられたときのショックは大きかった。そしてこの定理はアラン・チューリングによる停止性問題の決定不能性定理、チューリング・テストとともに、将来のコンピュータ、AIの理論に対して大きな影響をもっている。

「アロウの不可能性定理」を僕が知ったのは10年ほど前のことで、ウィキペディアの記事を読んだことによる。小学生の頃から正しいと信じていた「多数決」の方法が、「実は間違っていることもある」とか「完全な方法ではない」と知らされる衝撃はかなり大きい。この定理は全国の小学生にも知らせるべきだと思う。最近のことで思い当たるのは自民党の総裁選で採られた2段階の投票形式であり、近々行われる小選挙区制による衆議院選挙だ。この定理によると、民意は正しく国政に反映されていくのだろうという確固たる根拠が得られていないということになる。

実際の政治では、投票結果が民意を反映するかどうかよりも、公約を守らない党や政治家、利権にまみれた腐敗政治、三権分立や憲法を無視した政治が行われるなど、アロウの不可能性定理を論じるための土台が崩れていると僕は感じているが、嘘つき政治家や派閥闘争に明け暮れる政党を見破り、「Yes」か「No」を示す有権者の投票行動もアロウの不可能性定理がカバーする範疇の選択行動なのかなと思うこともできる。選挙前になると美辞麗句を繰り返すのが政治家だ。来たる衆院選では正しい選択をしたいし、それ以前に「選択をする」=「投票をする」人数を増やすことが大切だと思う。


本書はこの3つの分野の限界定理を一般の人でも楽しく読めるように、架空の人物たちによる討論会形式で書いた本だ。登場するのは司会者・会社員・数理経済学者・哲学史家・運動選手・生理学者・科学社会学者・実験物理学者・カント主義者・論理実証主義者・論理学者・シェイクスピア学者・大学生A・国際政治学者・フランス社会主義者・フランス国粋主義者・心理学者・A候補・B候補・C候補・D候補・E候補・情報科学者・急進的フェミニスト・映像評論家・ロマン主義者・法律学者・科学主義者・科学史家・方法論的虚無主義者・相補主義者・ロシア資本主義者・大学生B・大学生C・大学生D・大学生E(登場順)である。それぞれ個性的で自分が詳しい分野に沿って考えを主張したり、感情をあらわにするから面白く読むことができる。

話が本筋から外れそうになったり、専門的になりすぎたりすると司会者はその都度「その話はまた別の機会に伺うことにして、科学に話を戻してください。」や「哲学の認識論のお話はまた別の機会に伺うことにして、ここではハイゼンベルクの不確定性原理の説明をお願いします。」という本書(そして本シリーズの)決め台詞を使って、話題が本筋からそれないようにしている。僕自身は本書の登場人物の中では科学主義者や科学史家に該当するのだと思うが、本の紹介をするために記事を書き始めながら、これまでの自分のことばかり書いてしまうようなタイプだから、もし僕がこの討論に参加したら司会者から真っ先に「その話は今度伺うことにして。」と話をさえぎられてしまっていたことだろう。

章立ては次の通りである。

序章 理性の限界とは何か
第1章 選択の限界
第2章 科学の限界
第3章 知識の限界

本書の中の「ハイゼンベルクの不確定性原理」、「量子力学」についての説明に関しては、いわゆる「これまでのタイプの量子力学」つまり二重スリット実験やEPRパラドックス、シュレーディンガーの猫など、従来の科学教養書に見られるのと同じ解説がされている。しかしその後、量子力学は情報理論による理論的裏付けがとられ、もはや奇妙な解釈をしなくてよい学問になっている。新しい量子力学の解釈については、先日「入門 現代の量子力学 量子情報・量子測定を中心として:堀田 昌寛」や「現代量子力学入門:井田 大輔」という本の紹介記事に書いている。今後、科学教養書における記述は新しい解釈をもとに影響を受けて変わっていくのだろう。


20代の頃、僕はアイデアが泉のように湧き出て、自分のことをアイデアマンだと思っていた。しかし今になって思うとそれは幻想のようなものだった。若者とは元来そういうものであるし、若者の無限の可能性を秘めている。それが若者の特権であり、自分の可能性を信じて、どんどん前に進んでほしい。

しかし若者には本書を読んで、この世界には技術的な限界や生物としての限界だけでなく3つのタイプの理論的な限界があることを知ってほしいと思う。世の中、そう単純なものではないし限界はあるということを日々の生活で感じていたとしても、この3つの理論が示す根源的で深いタイプの限界があることを知っておくのは、現代人として必須な教養のひとつだと思う。

また、コンピュータ科学、特にビッグデータ、機械学習、人工知能に興味を持っている人にも読んでほしい。機械学習はもはやアルゴリズムを工夫するというより、極めて高速になったコンピュータの計算能力に任せた手法を採っている。本書で解説されているゲーデルの不完全性定理やチューリングの理論は、もはや考えなくてすむようになったのだろうか?いちど立ち止まって考えてみるのが大切だと思う。


高橋先生は、その後2冊をお書きになっている。先生の「限界シリーズ3部作」は、ここからお買い求めいただけるようにしていおいた。

理性の限界―不可能性・不確定性・不完全性:高橋 昌一郎」(Kindle版
知性の限界―不可測性・不確実性・不可知性:高橋 昌一郎」(Kindle版
感性の限界―不合理性・不自由性・不条理性:高橋 昌一郎」(Kindle版

  


また似たような名前の本として「知の限界」という本がある。この2冊の専門書は有名で、今年の3月に復刻改装版が出ていることに気がついた。専門書なので慌ててポチってしまわないよう気をつけていただきたい。

知の限界[復刻改装版] :グレゴリー・J・チャイティン
数学の限界[復刻改装版] :グレゴリー・J・チャイティン

 


関連記事:

ゲーデル、エッシャー、バッハ―あるいは不思議の環: ダグラス・R. ホフスタッター
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6220ca683bd90204f671b44633e56890

数学ガール/ゲーデルの不完全性定理:結城浩
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f9b0b9264e35a680ce974fcbf17c62c0

ハイゼンベルクの顕微鏡(不確定性原理は超えられるか)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5597b85d83e795a22e97ca4d4ab97123

量子と情報 ―量子の実在と不確定性原理―: 小澤正直
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/85535b676ced7641d936c60d265105bc

フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔:高橋昌一郎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7dcd6fcf20e698dd23b0d72f82051035


 

 


理性の限界―不可能性・不確定性・不完全性:高橋 昌一郎」(Kindle版


序章 理性の限界とは何か

- 選択の限界
- 究極の限界値
- 科学の限界
- 知識の限界
- ディスカッションのルール

第1章 選択の限界

1. 投票のパラドックス
- コンドルセのパラドックス
- ボルダのパラドックス
- アメリカ合衆国大統領選挙の矛盾

2. アロウの不可能性定理
- コンドルセ勝者
- 複数記名方式と順位評点方式
- パウロスの全員当選モデル
- 完全民主主義の不可能性

3. 囚人のジレンマ
- タッカーの講演
- ウォーターゲート事件
- 繰り返し囚人のジレンマ
- コンピュータ・コンテスト

4. 合理的選択の限界と可能性
- ミニマックス理論
- ナッシュ均衡
- チキンゲーム
- 社会的チキンゲーム
- 集団的合理性と個人的合理性

第2章 科学の限界

1. 科学とは何か
- 科学と理性主義
- 天動説と地動説
- ラプラスの悪魔
- ハレー彗星の予測

2. ハイゼンベルクの不確定性原理
- 光速度不変の原理
- 相対性理論
- ミクロの世界の不確定性
- 実在的解釈と相補的解釈

3. EPRパラドックス
- 実在の意味
- 二重スリット実験
- 神はサイコロを振るか
- シュレーディンガーの猫

4. 科学的認識の限界と可能性
- 進化論的科学論
- パラダイム論
- 方法論的虚無主義
- 何でもかまわない

第3章 知識の限界

1. ぬきうちテストのパラドックス
- 集中講義の疑問
- エイプリル・フール
- オコンナーの語用論的パラドックス
- スクリブンの卵
- クワインの分析

2. ゲーデルの不完全性定理
- ナイトとネイブのパズル
- 命題論理
- ナイト・クラブとネイブ・クラブのパズル
- ペアノの自然数論
- 述語論理と完全性
- 自然数論と不完全性
- 不完全性のイメージ
- 真理と証明

3. 認知論理システム
- ゲーデル数化
- 認知論理
- ぬきうちテストのパラドックスの解決
- 認知論理と人間理性

4. 論理的思考の限界と可能性
- 神の非存在論
- テューリング・マシン
- テューリング・マシンの限界
- アルゴリズム的情報理論
- 究極の真理性Ω
- 合理的な愚か者

おわりに
参考文献

現代解析力学入門:井田 大輔

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現代解析力学入門:井田 大輔

内容紹介:
最も素直な方法で解析力学を展開。難しい概念も,一歩引いた視点から,すっきりとした言葉で,論理的にクリアに説明。Caratheodory-Jacobi-Lieの定理など,他書では見つからない話題も豊富。

2020年1月15日刊行、244ページ

著者:
井田大輔(いだ だいすけ)
ホームページ: https://www.gakushuin.ac.jp/univ/sci/phys/ida/index.html
1972年鳥取県に生まれる。2001年京都大学大学院理学研究科博士課程修了。現在、学習院大学理学部教授。博士(理学)。


理数系書籍のレビュー記事は本書で466冊目。

現代量子力学入門:井田 大輔」を読んだついでに解析力学の復習をしておこうと思って読んだのがこの姉妹書だ。ところが、復習どころか思わぬ形で苦労する結果となった。

薄い本であることと本のタイトルから、解析力学を初めて学ぶ人向けの入門書だと勘違いしていることを読み始めてすぐわかった。これまで入門書は何冊か読んでいたが、その学習範囲をはるかに超えている。以下は本書の章立てだが、学部生が学ぶ一般的な教科書では本書の1章から10章あたりまで。第11章から最終章までは、ほぼ初めて学ぶことばかりだった。読むのに時間がかかってしまったのは、そのためである。

1.ニュートン形式
2.配位空間
3.ラグランジアン
4.共変性
5.対称性
6.ラグランジュ乗数
7.ハミルトニアン
8.正準変換
9.ポアソン括弧
10.ハミルトン& ヤコビ
11.可積分系
12.コワレフスカヤのこま
13.特異系
14.古典場
15.量子力学

本書は一般的な入門書で学んだ人が2冊目以降に学ぶための本である。そして本書の解説には「一般的な入門書と山本義隆先生の解析力学の教科書をつなぐため」の本だと書かれている。山本先生の本はすでに持っているが、歯が立たないほど高度な内容だということが一見してわかっていた。解析力学ってそんなに難しいものなの?と中身を吟味しないまま放置していた。

僕は学生時代は数学専攻だったので、物理学科の学生が解析力学をどこまで学んでいるかは知らない。本書の後半の内容は、おそらく大学院以降で学ぶ事がらなのだろう。そして、解析力学をさらに深く学んでいこうとする読者、ステップアップしようとする読者が足掛かりにするのに最適な教科書だと思った。

著者の井田先生は、本書の特徴を次のように紹介している。

「本書では、なるべく微積分と線形代数の知識のみを用いて、解析力学のなるべく本質的な部分を解説しようと試みます。できるだけ煩雑な数式の使用はさけて、通読すれば解析力学の中心的なアイデアが習得できるようなものを目指しました。どうしても高度な知識が必要となる部分はでてきます。それも結局は簡単なことの積み重ねです。なじみにある微積分と線形代数の世界に引き戻して、丁寧に説明することにしました。」

この解説だけ読むと、敷居が低いように思えてしまう。しかし、ポアンカレ・カルタンの不変量、ポアソン構造、シンプレクティック構造、カラテオドリ・ヤコビ・リーの定理、ハミルトン・ヤコビ方程式の分離可能性、シュタッケル行列、リューヴィユ・アーノルドの定理、コワレフスカヤのこま、2次拘束、ディラック構造など、高度な内容が解説されているので、買う前に注意していただきたい。書店で中身を確認してから購入することをお勧めする。


著者は、続編として量子力学の入門書をお書きになっている。こちらも一般的な古いタイプの教科書とは異なるので、紹介記事をお読みになってから購入することをお勧めする。

現代解析力学入門:井田 大輔
現代量子力学入門:井田 大輔」(紹介記事
 


初めて解析力学に入門する方には、こちらの教科書をお勧めする。現在、初版第8刷が最新版だ。誤植が訂正されている新しい本をお買い求めになるとよい。

よくわかる解析力学:前野昌弘」(紹介記事



本書を読み、さらに本格的に学びたい方には山本先生の教科書がよいと思う。

解析力学 I:山本義隆
解析力学 II:山本義隆
 


そして、次にお勧めするのがこれら2冊だ。山本先生の教科書とともに、本書巻末の「文献」に取り上げられている教科書である。

微分形式による解析力学:木村利栄、菅野礼司
解析力学と微分形式:深谷賢治
 


解析力学は古い学問で、多くの良い著作がある。以下の2冊が最高峰だと本書の「まえがき」で紹介されている。ランダウ=リフシッツは薄い本にもかかわらず取り扱っている問題が豊富だ。そのため読者が自分で補わなければならないことが多い。アーノルドの教科書は通読するのに高度な幾何学の知識が必要で、大学の数学のコースでも使われるような教科書だ。日本語版は原書初版の翻訳、原書は第2版を買うことができる。

力学 (増訂第3版) ランダウ=リフシッツ理論物理学教程」(英語版英語Kindle版
古典力学の数学的方法:V.I.アーノルド」(原書第2版原書第2版Kindle版
 


関連記事:

現代量子力学入門:井田 大輔
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/acbdefa011b68a9ed05ee25eed07b876

要点講義 ベクトル解析と微分形式: 井田大輔著
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/252bb08f52e5ee44f1252ffe43cee927

よくわかる解析力学:前野昌弘
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bd9d328483de3bc3f9a3ad14ec6fe078

無料で読めるラグランジュの『解析力学』の原書、英訳本
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/221a82d4684ba88e2c0fde79d73860e9


 

 


現代解析力学入門:井田 大輔


まえがき

1.ニュートン形式
 1.1 ニュートン形式
 
2.配位空間
 2.1 配位空間
 2.2 座標系
 
3.ラグランジアン
 3.1 作用とラグランジアン
 3.2 最小作用の原理
 3.3 応用例:斜方投射
 3.4 応用例:滑車
 3.5 応用例:斜面上の物体
 3.6 応用例:調和振動子
 3.7 応用例:振り子
 
4.共変性
 4.1 ラグランジュ形式の共変性
 
5.対称性
 5.1 循環座標による保存則
 5.2 ラグランジアンの対称性
 5.3 エネルギー
 
6.ラグランジュ乗数
 6.1 条件付き変分
 6.2 応用例:斜面上の物体
 6.3 応用例:振り子
 
7.ハミルトニアン
 7.1 ルジャンドル変換
 7.2 ハミルトン形式
 7.3 ハミルトニアン作用
 7.4 相空間
 7.5 リューヴィユの定理
 7.6 ポアンカレ・カルタンの不変量
 
8.正準変換
 8.1 正準変換
 8.2 ポアソン括弧とラグランジュ括弧
 8.3 母関数
 8.4 正準変換の構成
 8.5 時間依存する正準変換
 8.6 無限小正準変換
 8.7 ハミルトニアンの対称性
 
9.ポアソン括弧
 9.1 ポアソン括弧
 9.2 ポアソン構造(前編)
 9.3 ポアソン構造(後編)
 9.4 シンプレクティック構造
 9.5 ダルブーの定理
 9.6 カラテオドリ・ヤコビ・リーの定理
 
10.ハミルトン& ヤコビ
 10.1 ハミルトン・ヤコビの方法
 10.2 応用例:調和振動子
 
11.可積分系
 11.1 完全可積分
 11.2 ハミルトン・ヤコビ方程式の分離可能性
 11.3 分離可能性の判定条件
 11.4 シュタッケル行列
 11.5 応用例:球面振り子
 11.6 応用例:2 点からのクーロン力
 11.7 リューヴィユ・アーノルドの定理
 
12.コワレフスカヤのこま
 12.1 剛 体
 12.2 剛体の回転エネルギー
 12.3 剛体の角運動量
 12.4 剛体の位置エネルギー
 12.5 こまの運動方程式
 12.6 オイラーのこま
 12.7 ラグランジュのこま
 12.8 コワレフスカヤのこま
 
13.特異系
 13.1 1次拘束
 13.2 拘束条件付きのハミルトニアン
 13.3 2次拘束
 13.4 ファースト・クラス
 13.5 ゲージの自由度
 13.6 拘束面上の物理量
 13.7 ディラック構造
 13.8 応用例:斜面上の物体
 13.9 応用例:相対論的自由粒子
 
14.古典場
 14.1 古典場
 14.2 フィールド・ラグランジアン
 14.3 フィールド・ハミルトニアン
 14.4 マクスウェル理論
 14.5 マクスウェル場のハミルトニアン
 
15.量子力学
 15.1 量子力学のルール
 15.2 量子化
 
索 引

量子力学10講:谷村 省吾

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量子力学10講:谷村 省吾

内容紹介:
肝心な筋道だけをコンパクトにまとめた、待望の教科書。古典力学との対応にこだわることなく、量子力学をそれ自身で完結したものとして捉え、確率振幅からエンタングルメントや調和振動子まで、明快に記述。線形代数がわかれば、量子力学もわかる!
なお、谷村先生が本書刊行後に執筆された補足「量子力学10講 補足ノート」は随時更新されていて、「書誌情報のページ」からダウンロードできる。

2021年11月4日刊行、200ページ

著者:
谷村 省吾(たにむら しょうご)
HP: http://www.phys.cs.is.nagoya-u.ac.jp/~tanimura/
Twitter: @tani6s
名古屋市に生まれる(1967年)。名古屋大学工学部卒業(1990年)、名古屋大学大学院理学研究科博士課程修了、博士(理学)。日本学術振興会特別研究員(東京大学)、京都大学助手・講師、大阪市立大学助教授、京都大学准教授を経て、現在は名古屋大学大学院情報学研究科教授。
専 門:理論物理、主に量子論、力学系理論、応用微分幾何
著 書:
『幾何学から物理学へ――物理を圏論・微分幾何の言葉で語ろう』(サイエンス社、2019年)
『理工系のためのトポロジー・圏論・微分幾何――双対性の視点から』(サイエンス社、2006年)
『ゼロから学ぶ数学・物理の方程式』(講談社、2005年)ほか


理数系書籍のレビュー記事は本書で467冊目。

今年は「量子力学の新しい教科書元年」と呼ぶにふさわしい年になった。堀田先生の「入門 現代の量子力学」が刊行されたと思ったら、ほぼ同じ時期に井田先生の「現代量子力学入門」が刊行されていることに気がついた。このブログではそれぞれ紹介記事をすでに書いている。

さて、次は量子力学以外の本を読もうかと思った矢先に刊行されたのが今回紹介する「量子力学10講:谷村 省吾」だ。堀田先生や井田先生の教科書とどのように違うのか。1冊だけ取りこぼしておくわけにはいかない。SNSで調べた限り評価はすこぶる良い。必読書であるのは明らかだった。

本書は著者の谷村先生が学部で教えている量子力学の授業のための講義ノートをもとに執筆された。しかしこの授業は8回の講義であるため内容が体系的に伝わらず、もどかしく思っていたそうだ。そこで「最初から最後まで読めば量子力学の一番肝心の筋道はきっとわかるだろうと言える一冊の本」にするため以下の10回の講義としてまとめたものである。

第1講 量子力学の考え方
第2講 状態を表すベクトル
第3講 物理量を表す演算子
第4講 行列表示とユニタリ変換と対角化
第5講 位置と運動量
第6講 可換物理量と結合確率
第7講 非可換物理量の量子効果
第8講 複合系とエンタングルメント
第9講 運動方程式
第10講 調和振動子

内容は、有限次元のヒルベルト空間上の演算子を物理量とする量子力学をメインにしている。無限次元ヒルベルト空間こそ量子力学の本格的な舞台であり、それに比べると、有限次元の量子力学というのはだいぶスケールの小さい話になるのだが、量子力学の骨組みを理解したい初学者には、無限次元空間の手ごわいところ(非有界演算子の出現や、自己共役演算子とエルミート演算子の相違など)を見せつけるよりは手を動かして計算できる有限次元の例を見せたほうがよい。それでも無限次元空間上の正準交換関係は扱っている。また古典力学(解析力学)のシステムを量子化したり、古典力学の欠陥が見つかって量子力学が作られていった歴史をたどったりするアプローチはとらず、ストレートに量子力学の話をしている。

現代的な視点から量子力学を学ぶために必要な数学の基礎は、まぎれもなく(複素)線形代数である。堀田先生や井田先生の教科書もこの点は同じで、線形代数の解説から始まっている。しかし、本書はこれら2冊よりもずっと初学者向けに書かれていることが読み始めてすぐわかる。また、線形代数と現実の物理学の対象とのつながりが早い段階で簡潔に示されている。これは(数学よりも)物理に関心があって読み始める初学者がモチベーションを維持するために有効だと思った。

また、線形代数の計算を2次元、3次元の行列・ベクトルのに具体的な数をあてはめて行なっているので、量子力学を構成する原理との関連付けが身近かなものに感じられ、抽象的な線形代数の計算に慣れていない読者に明確なイメージを持つのに大いに役立っている。きちんと理解できれば、本書に書かれている「線形代数を学んで量子力学を学ばないのはもったいない」という意味がよくわかることだろう。

それが顕著に感じられるのが第7講「非可換物理量の量子効果」と第8講「複合系とエンタングルメント」で、本書で感じる高揚感がピークに達する。ここでは以下のような量子力学特有の現象を線形代数の計算をすることによって確認することができるのだ。

- 非可換な物理量について同時に確定する物理量は存在しない
- 波束の収縮
- 干渉効果
- 物理量の和と値の和の不一致
- ロバートソンの不確定性関係、ケナードの不確定性関係、コヒーレント状態
- エンタングルメント

このような高揚感が得られるようになるには、事前に線形代数をじゅうぶんに理解しておくのは必要だ。自信がない方には「線型代数[改訂版]: 長谷川浩司」を読むことをお勧めする。この教科書は物理学科で学ぶ学生にとって最良な教科書だと思うし、本書を学ぶのに十分すぎる内容をカバーしている。

理解しやすい本というのは読んでいて楽しいものだ。本書は堀田先生や井田先生の教科書とは違い、読み始めたらやめられなくなった。食べだしたら止まらない「かっぱえびせん」のようである。(このたとえ話が通じるのは何歳以上の人だろうか?参考動画

本書は堀田先生の教科書よりずっと易しいし、カバーする内容はより量子力学の本質に限定している。初学者向けの本としては本書が最良の選択だと思う。本書で学んだ後、堀田先生の教科書をお読みになるとよい。

これまでの古いタイプの教科書とは異なり、これら現代的な量子力学の教科書3冊について共通しているのは、次の点である。

- 複素線形代数の解説から始めている。
- 精密な量子測定理論の重要性を強調している。
- シュレーディンガー方程式、ハイゼンベルクの方程式は本の後半または最後のほうで解説している。

また、現代的な教科書3冊には、古いタイプの教科書では解説されている以下の項目がないという点も共通している。

- 散乱の計算、摂動論
- 井戸型ポテンシャルやトンネル効果の計算
- バンド理論
- 多粒子系、量子統計力学

つまり、素粒子物理、半導体技術、物性物理系の理論に通じる基礎がこれら3冊には書かれていない。これらの内容は既存の教科書で学ぶか、現代的な視点から応用編として新しい教科書が書かれるのを待てばよいのかもしれないと思った。


以下、本書の各講の冒頭に書かれている文章を書き写しておく。参考にしていただきたい。

第1講 量子力学の考え方

量子力学は原子や電子などミクロの世界のものたちの性質や運動を数学的に書き表し、ミクロの世界の現象を予測するための理論である。本講では量子力学で扱われるミクロ世界と古典力学で扱われるマクロ世界の違いを観察し、量子力学の中核に位置する確率振幅の概念を導入する。また、量子力学に欠かせない数学的言語である複素数の定義と性質を確認する。

第2講 状態を表すベクトル

前講で確率振幅という概念を導入したが、確率振幅の絶対値の2乗を計算すれば確率が求められるという規則を示しただけであり、確率振幅そのものの値を決めることはできなかった。系の状態を表すベクトルからなるヒルベルト空間という概念を導入すると、状態ベクトルの内積で確率振幅を求めることができるようになる。本講では状態・物理量・値という力学の基本概念を整理し、ヒルベルト空間を定義し、その例を挙げ、状態ベクトルの物理的解釈を説明する。

第3講 物理量を表す演算子

量子力学では、物理量をヒルベルト空間上の演算子で表す。とくに自己共役演算子は、固有値が実数であり、異なる固有値に属する固有ベクトルが直交し、一次独立な固有ベクトル全部を集めたものが基底(完全系)になるという著しい性質を持つ。その性質のおかげで、自己共役演算子の固有値を物理量の測定値と解釈し、自己共役演算子の固有ベクトルを物理量の値が確定している状態と解釈し、固有ベクトルと一般の状態ベクトルとの内積は固有値が測定値として作られる確率を与える確率振幅だとする解釈が無理なくできて、量子力学と現実世界との首尾一貫した対応が可能になる。

第4講 行列表示とユニタリ変換と対角化

本講では、抽象的なベクトルや演算子を具体的な数値データ列である数ベクトルや行列で表示する方法を解説する。抽象的な形のまま分析した方が見通しがよい問題もあるし、具体的な形があると計算が進む問題もあるので、抽象と具象を使うのだが、CONS(正規直交系)はただ一通りではなく、たくさんあり、選んだCONSによってベクトルや演算子の具体的表示は異なる、CONSの選び換えに伴う具体表示の変換規則がユニタリ変換である。

第5講 位置と運動量

古典力学においては、粒子がどこにあってどんな速度で動いているかということは基本的な「知るべきこと」であり、粒子の位置と運動量は重要な物理量である。量子力学においても粒子の位置と運動量は重要な物理量であるが、それらは演算子で表される。1周の長さが2aであるような円周上を動く粒子を考えて、a → ∞とする極限操作によって直線上の粒子の量子力学を構成すると、運動量波動関数の確率解釈が自然に導かれるし、フーリエ級数とフーリエ積分の関係も見通せるので、そういうアプローチで説明する。

第6講 可換物理量と結合確率

物理量は単独でも意味があるが、物理量が2つ以上あると、それらの和や積などの代数演算ができるようになり、2つの物理量の値の相関関係も現れて、システムはよりリッチな性質を帯びる。本講では相関関係を記述するための基本的な道具として結合確率の概念を導入し、量子力学では可換な物理量の値に関する結合確率は状態ベクトルと同時固有ベクトルとの内積で求められることを示す。

第7講 非可換物理量の量子効果

物理量演算子 A^、B^ の積が順序に依存して A^B^≠B^A^ となるなら A^ と B^ は非可換であるという。物理量の積の非可換性は量子力学の根本的な特長であり、古典力学と量子力学の相違点はすべて非可換性に起因すると言ってよい。本講では、不確定性関係・波束の収縮・干渉効果・物理量の値の同時非実在性など量だけに注目している限り古典力学と量子力学の目立った違いはなく、2つ以上の非可換物理量に注目したときに初めて量子力学ならではの性質や現象が顕在化する。本書全体を通して本講が最大の山場である。

第8講 複合系とエンタングルメント

複合系とは、その名のとおり、複数の系を合わせた系である。多数の粒子からなる系は必然的に複合系であることから、複合系はきわめてありふれている。量子力学では複合系を記述するためにヒルベルト空間のテンソル積という数学的概念を用いる。テンソル積状態を重ね合わせた状態においては、2つの系が古典力学では説明できない相関を持つことがあり、それを量子もつれ状態あるいはエンタングル状態(entangled state)と呼ぶ。また、量子もつれ状態に独特の性質をエンタングルメント(entanglement)という。エンタングルメントは量子コンピュータにおいて基本的なリソースとみなされており、近年、量子情報科学の興隆に伴って注目されている。

第9講 運動方程式

時間の経過に伴って系の状態や物理量の値は変化する。これらの変化を数学的に記述し予測することは古典力学でも量子力学でも基本的な課題である。とくに量子力学には、状態の変化を扱うシュレーディンガー方程式と、物理量の変化を扱うハイゼンベルク方程式がある。物理的な状況を表す適切な方程式を立てること、方程式を解くこと、解の物理的意味を考えることができるようになってほしい。

第10講 調和振動子

調和振動子(harmonic oscillator)は、変位に比例する復元力を受けて動く質点であり、古くから研究されていて、いまなお応用が広がっている力学系である。調和振動子の最も重要な応用は時計であろう。調和振動子は、振れ幅が大きいときも小さいときも往復に要する時間が等しいという性質(振り子の等時性)があり、ゆえに振り子の往復回数を数えれば時間を測ることができる。ガリレオは(小振幅の)重力振り子の等時性に気づいたが、クォーツ時計も原子時計も最新の光格子時計も、振動の回数を数えて時間を刻むという点は共通している。空気の振動は音、電流の振動は交流電流、電磁場の振動は電磁波(光)、固体中の原子の振動は熱であり、振動は我々が目にし、耳にし、体で感じる普遍的な物理現象だと言える。また、電磁波の熱的性質や電磁波と原子の相互作用は古典力学では説明できないという事実の発見が、量子論の発端でもあった。さらに調和振動子の量子力学は、場の量子論や量子光学などの発展分野にもつながっている。そういったことを意識して、本講では古典力学との対応も踏まえつつ、やや多めの紙数を費やして調和振動子について解説する。本講の最初の2節では古典力学の調和振動子を扱うが、それについて熟知している読者は最初の2節は飛ばして10-3節から読んでもらえばよい。また、10-6節では振動系の特性パラメータであるインピーダンスという概念について解説する。


関連記事:

理工系のための トポロジー・圏論・微分幾何:谷村省吾
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3f58e5c285fe4c45a9a551593a72940a

幾何学から物理学へ: 谷村省吾
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7e5a3ea4d9f7c96514ffab0b8efcd973

入門 現代の量子力学 量子情報・量子測定を中心として:堀田 昌寛
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2db67370781114a62d354fd6ec27e1d7

現代量子力学入門:井田 大輔
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/acbdefa011b68a9ed05ee25eed07b876

線型代数[改訂版]: 長谷川浩司
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2ef742e3bfe4561bea2b6994bc16909c

線形代数学入門のための教科書談義
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9d2ac30c9f5f620ad703304d710ed90b


 

 


量子力学10講:谷村 省吾


まえがき

第1講 量子力学の考え方
 1-1 ミクロの世界の構成要素
 1-2 ボールと水面波と電子
 1-3 確率振幅
 1-4 複素数の絶対値2乗

第2講 状態を表すベクトル
 2-1 古典力学と量子力学の共通点
 2-2 古典力学と量子力学の相違点
 2-3 ヒルベルト空間
 2-4 コーシー・シュワルツの不等式
 2-5 確 率
 2-6 量子力学における確率解釈
 2-7 ヒルベルト空間の例
 2-8 基 底
 2-9 展開公式の幾何学的意味

第3講 物理量を表す演算子
 3-1 演算子
 3-2 エルミート共役
 3-3 自己共役演算子
 3-4 演算子の固有値
 3-5 自己共役演算子の固有値・固有ベクトル
 3-6 固有値が縮退している場合
 3-7 固有値と測定値の関係
 3-8 射影演算子とスペクトル分解

第4講 行列表示とユニタリ変換と対角化
 4-1 抽象ベクトルの数ベクトル表示
 4-2 抽象演算子の行列表示
 4-3 ユニタリ変換
 4-4 対角化
 4-5 トレース

第5講 位置と運動量
 5-1 無限次元ヒルベルト空間の必要性
 5-2 円周上の粒子
 5-3 直線上の粒子

第6講 可換物理量と結合確率
 6-1 結合確率
 6-2 可換な物理量の結合確率
 6-3 縮退がある場合

第7講 非可換物理量の量子効果
 7-1 同時確定状態の非存在
 7-2 波束の収縮
 7-3 干渉効果
 7-4 干渉項としての非対角項
 7-5 物理量の和と値の和の不一致
 7-6 ロバートソンの不確定性関係
 7-7 ケナードの不確定性関係

第8講 複合系とエンタングルメント
 8-1 複合系
 8-2 ヒルベルト空間のテンソル積
 8-3 テンソル積空間における内積と確率解釈
 8-4 演算子のテンソル積
 8-5 テンソル積の成分表示
 8-6 エンタングル状態

第9講 運動方程式
 9-1 時間変化を扱う必要性
 9-2 シュレーディンガー方程式
 9-3 エネルギー固有状態は定常状態
 9-4 2状態系の時間発展
 9-5 ハイゼンベルク方程式

第10講 調和振動子
 10-1 バネとおもり
 10-2 古典力学の調和振動子の解
 10-3 量子力学の調和振動子
 10-4 調和振動子のエネルギー固有値
 10-5 調和振動子の波動関数
 10-6 インピーダンス

付録A 数学記号の書き方
付録B 複素数の性質

 参考文献
 演習問題の略解
 索 引

Ivre du Japon: Jean-Paul Nishi

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Ivre du Japon: Jean-Paul Nishi」(Amazon.com)(Amazon.fr

内容紹介:
Une française tombée amoureuse du japon 1996, Japon... Une Française atterrit à l'aéroport de Narita... Karen a 26 ans. Elle est née en France et y a grandi. Directrice technique pour une chaîne de télévision, elle choisit une destination plutôt insolite pour passer ses cinq semaines de congés payés : le Japon ! Elle était loin de s'imaginer que ce pays, qu'elle avait choisi un peu au hasard, allait changer le cours de sa vie. Un aéroport propre, un système qui fonctionne et respecte les horaires fixés, la foule de Shibuya, les différents looks extravagants, les annonces de la ligne Yamanote, les téléphones portables et l'i-mode, le kabuki, les kimonos, les toilettes... Découvrez ce qui fait le charme du Japon, mais pas seulement... car Karen reste Française et critique à l'égard de son pays d'adoption... ! Suivez Karen dans sa rencontre avec le pays du Soleil levant, son mariage avec un Japonais, ou encore l'éducation de ses deux enfants dans une société aux antipodes de celle française !
(日本語訳は、記事の下の方の日本語版コミックの紹介のところで読めます。)

2021年5月7日刊行、176ページ

著者、登場人物:
じゃんぽ〜る西: @JP_NISHI
西村カリン: @karyn_nishi

じゃんぽ〜る西のコミック: 日本語版 フランス語版(Amazon.comAmazon.fr


下北沢で出会った女性2人に対して行なっているフランス語の授業は、来月で4年になる。コロナ禍にみまわれ、昨年4月から完全にオンライン授業になった。そして2カ月前に2人は遠方に引っ越してしまったため、今後もオンライン授業が続くことが確定した。(参考記事:「フランス語を教え始めた」)

教材はNHKラジオの「まいにちフランス語」を使っている。基礎編はとっくに終わり応用編のほうを教えてきたが、きりのよいところまで終わったので、教材を今回紹介するフランス語コミックに切り替えた。幸い日本語版のほうが先に刊行されているから教えるのにも、学ぶにも都合がよい。

主人公のフランス人女性(カレンさん、本名はカリンさん)のことを知ったのはツイッターである。日本人の漫画家と結婚され、フランス紙のジャーナリストとして活躍されている。このコミックは1996年に日本に関心を抱いて来日し、現在に至るまでのことをユーモラスに描いた作品だ。語学教材として使うのにはうってつけ。ドンピシャだと思った。授業ではもちろんフランス語版を使う。タイトルの「Ivre du Japon」は「日本に酔って」とか「日本に心酔して」という意味だ。

もともと技術畑で働いていたカレンさんは、初来日した1996年の日本で興味を持ったのが、NTTドコモのiモード携帯だ。26歳のときである。当時の日本はガラケー全盛期、そしてルーズソックスの女子高生やガングロ娘たちが渋谷の街を闊歩していた。彼女は出張で来日するたびに、iモードや後にガラパゴス携帯と呼ばれることになる当時最新のガラケー情報をフランスに紹介する仕事を始めるようになった。

iモードサービスはその後、フランスでも始まったことが以下の記事を読むとわかる。フランス語では定冠詞付きで「L'i-mode(リモッド)」、定冠詞無しだと「i-mode(イモッド)」と発音する。

フランスでiモードサービス開始(2002年11月)
https://www.itmedia.co.jp/mobile/0211/05/n_francei.html

2年で85万契約、仏iモードの現状(2004年12月)
https://www.itmedia.co.jp/mobile/articles/0412/01/news038.html


授業では僕が音読しながら日本語で直訳し、語彙の解説をする。そして次に1文ずつ音読して発音練習をする。時間が許せば生徒に音読してもらって発音を確認する。1回2時間の授業で進めるのは、せいぜい5ページくらい。全部で176ページあるから当分はこのコミックで学ぶことになる。教え方は、今後工夫して変えていくことにしよう。

進み方がゆっくりなため、細かい点に気がつく。カセットテープが描かれているところではテープがちゃんと巻き戻しされているように描かれているとか、フランスでカレンさんのお父さんが車を運転しているコマではちゃんと左ハンドルになっているとか。フランスでは有名なラジオ・パーソナリティのベルナール・ルノア(画像検索)が登場するコマでは、ネットで写真を確認したり、YouTubeで彼の動画を見たりする。(動画検索


本書の詳しい解説はこちらでお読みいただきたい。

Le nouveau J.P. Nishi est arrivé : Ivre du Japon
https://www.lasteve.fr/?p=44605


フランス語学習者には、ぜひお勧めしたいコミックである。ただし、現在は入手しにくい。僕はフランス語書籍販売で有名な「欧明社」のオンラインショップで購入したが、すでに取り扱いされていないようだ。Amazon.co.jpにも在庫がない。


かろうじて在庫があるのは「紀伊國屋書店ウェブストア」だ。Amazon.comやAmazon.frだと送料はかかるものの在庫はたくさんある。

Ivre du Japon: Jean-Paul Nishi」(Amazon.com)(Amazon.fr


01 Le pays de Ryûichi Sakamoto
02 Ma destinée, l'aéroport de Narita
03 L'i-mode
04 Mon amoureux
05 M. Natsuno
06 Peine de cœur
07 Je veux continuer d'apprendre
08 « Les Japonais »
09 « Histoire du manga »
10 Amène-toi, Paris !
11 Un visiteur importun
12 Nishi rentre au pays
Bonus: Le Japonais que j'aime
13 Mariage international
14 Ce qui a changé après le mariage
15 Professeure Gisèle
16 Histore de toilettes
17 Le movement des Gilets jaunes
18 Retour temporaire en France
19 Retour temporaire en France 2
20 Mon travail dans une agence de presse
21 Une étrangère à Tokyo


フランス語を学んでいない方のために、日本語版も紹介しておこう。もちろんこちらはAmazon.co.jpで購入できる。

私はカレン、日本に恋したフランス人: じゃんぽ~る西」(Kindle版


内容紹介:
1996年、日本。1人のフランス人が成田空港に降り立った。フランス生まれフランス育ちのフランス人女性・カレン(26)。パリのテレビ局で技術部長として日々奮闘する彼女が5週間の長期休暇の先として選んだのは、それまで全く縁もゆかりもなかった国――日本だった!軽い気持ちで訪れた日本で、彼女の人生は大きく変わる。清潔な空港、定刻通りに動くシステム、雑多な渋谷の街並み、ガングロギャル、山手線のアナウンス、ガラケーとiモード、歌舞伎、着物、ウォシュレット……。彼女を魅了した様々な「日本」は、意外にもあなたの傍にある。主人公カレンの日本との出会いから、日本人との結婚、母国と全く違う日本での育児に奮闘するまでの23年間を描く、ちょっぴりノスタルジックな異文化エッセイ漫画!

01 リュウイチ・サカモトの国
02 運命の成田空港
03 iモード
04 恋人
05 夏野さん
06 失恋
07 学び続けたい
08 「日本人」
09 「漫画の歴史」
10 かかってこいパリ!
11 迷惑な来訪者
12 西の帰国
描き下ろし:私の愛する日本人男性
13 国際結婚
14 結婚したら変わること
15 ジゼル先生
16 トイレの事情
17 ジレ・ジョーヌ運動
18 一時帰国
19 一時帰国 その2
20 通信社の仕事
21 TOKYO異邦人





関連動画:

このコミックを紹介した動画を4つ見つけた。3つはフランス語、1つは日本語である。

MANGA Ivre du Japon - Mangado La voie du manga(YouTubeで再生


Chronique manga Ivre du Japon - Karen, une française tombée amoureuse du Japon - JP Nishi(YouTubeで再生


IVRE DU JAPON, l'aventure de Karen par le mangaka J.P. Nishi, son mari(YouTubeで再生


フランス語学習者におすすめの漫画(YouTubeで再生



 

 

ORのはなし―意思決定のテクニック:大村平

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ORのはなし―意思決定のテクニック:大村平

内容紹介:
オペレーションズ・リサーチは、意思決定を助けるために最善の答を見出す科学的な手法です。けれども、ORは純粋科学ではありません。社会現象を対象とするだけあって、ORは実用科学です。したがって、モデル作りの精密さや数学的な厳密さにこだわってORを活用する範囲を局限しないことが肝要です。大局観を失わず、しかし大胆に、斬新な発想のもとでのびのびと、むずかしい数式を使わないことを誇りに、平明で鮮烈な説得力をもって第三者をうならせることがORの醍醐味です。

2015年5月1日刊行、252ページ

著者:
大村 平(おおむら ひとし)
工学博士。1930年秋田県に生まれる。1953年東京工業大学機械工学科卒業。防衛庁空幕技術部長、航空実験団司令、西部航空方面隊司令官、航空幕僚長を歴任。1987年退官。その後、防衛庁技術研究本部技術顧問、お茶の水女子大学非常勤講師、日本電気株式会社顧問、(社)日本航空宇宙工業会顧問などを歴任。

大村先生の著書: Amazonで検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で468冊目。

本書は神保町の明倫館書店のワゴンセールで見つけた。その日は物理の本を読もうと思っていたのだが、この本を見とたん30年以上も前の学生時代の風景が蘇ってきた。それは大掃除の最中に昔買った週刊誌や学生時代の写真がでてきて、手を止めて昔の思い出に浸ってしまうようなものだ。すぐ横道にそれてしまうのが僕の読書スタイルだ。

学生時代に応用数学科に在籍していた僕は、土曜日の午前中に東京理科大(神楽坂校舎)の6号館の大教室で、線形計画法の授業をとっていた。クラスの全員が履修していたから教養課程の必修科目だったと思う。この緑色の本は、当時の思い出を脳内から引っ張り出してくれた。

この授業は「数理計画法」という名前の科目で、線形計画法(シンプレックス法)の基礎を学んだ。線形計画法はオペレーションズ・リサーチ(OR: Operations Research)のいちばん基礎的な方法論である。担当教官は林健児教授だった。今回の記事を書くにあたり、このPDFファイルで先生は平成24年(2012年)に87歳で逝去されたことを知ったのだが、僕が教えていただいた1980年代前半、先生は60歳前後でとても陽気でエネルギッシュ、熱意を込めてお話されていた姿が印象に残っている。授業で配布された教材は先生みずから電動タイプライターで入力してお作りになり、クーリエフォントでタイプされたプリントとして毎回配布していただいた。線形計画法では「表」が必須であるし、字下げした行列の添え字を書かなければならないから、切り貼りをしながらお手間をかけて作成されたプリントだった。電動タイプライターで入力できるのは英数字と記号だけだから、プリント教材は英語で書かれている。現代の学生にはそのようなプリント教材のイメージがわかりにくだろう。それはファインマン物理学の「オリジナル・コース・ハンズアウト」のようなものだと思えばよいと思う。

昨今は機械学習やビッグデータ、データサイエンスがもてはやされ、そのための基礎として統計学を学ぶのが推奨されているが、これらの計算はコンピュータの計算速度や記憶容量が大幅に向上したから可能になったのである。僕が学生だった頃は大型計算機といえども主メモリー16メガバイトくらいだったから、コンピュータで社会や企業活動で必要とされるるような生産管理、在庫管理、輸送管理、工程管理などの最適化問題を解決する主要な手法はオペレーションズ・リサーチ(線形計画法、非線形計画法、PERT、シミュレーションなど)の応用数学を使って行われるのが主流だった。

このうち大学の授業で教えられていたのは線形計画法で、手で計算できる範囲の問題に限られていた。そして実務で行われている問題はもっと複雑で手で計算できないから、Fortranなどのプログラミング言語で開発され、パッケージ販売されていたソフトウェアを利用していた時代のことである。

今回紹介する「ORのはなし―意思決定のテクニック:大村平」は、線形計画法にとどまらずオペレーションズ・リサーチの代表的な手法をカバーし、具体的で身近かな例をあげて計算手順を理解できる。かなりのお得感がある。ユーモアにあふれた読み物スタイルで楽しみながら学べるのが大村平先生の「~のはなし(Amazonで本を検索)」シリーズの特長で、本書も読み流すだけでオペレーションズ・リサーチの勘所を知ることができる。

章立ては以下のとおりだ。(詳細目次はこの記事のいちばん下を参照)

1. ORのすべて、見せます
2. 線形計画法(その1)
3. 線形計画法(その2)
4. 動的計画法
5. 待ち行列と在庫管理
6. PERT
7. シミュレーションとモデル
8. ゲームの理論
9. 意思決定への道
付録(1)シンプレックス法
付録(2)116ページの確率計算


機械学習やデータサイエンスがもてはやされている昨今だから、大学教育にも影響がでているのだろう。きっと統計学や機械学習の授業が増えて、オペレーションズ・リサーチのような分野は流行らなくなっているのだろう。そう思って現在の数学科、応用数学科で何が教えられているのか調べてみることにした。次のページを開くと、東京理科大の数学科、応用数学科の授業内容を知ることができる。

東京理科大学理学部第一部応用数学科:
https://www.tus.ac.jp/academics/faculty/sciencedivision1/applied_mathmatics/

東京理科大学理学部第一部数学科(カリキュラム):
https://math-1.ma.kagu.tus.ac.jp/curriculum/

応用数学科ではオペレーションズ・リサーチや人工知能/機械学習は3年次に選択科目として教えられている。その反面、数学科ではプログラミングの授業はあるもののオペレーションズ・リサーチや機械学習などの応用数学の手法は教えられていないようだ。

他の大学ではどうなのか、少し調べてみたところオペレーションズ・リサーチのような内容は「数理計画法」として、次のような大学、学部、学科で教えられていることがわかった。

東工大では工学院の情報通信系
広島大学では工学部
香川大学工学部電子・情報工学科
岡山県立大学では情報工学部
九州大学では電気情報工学科
東邦大学では情報系学科
筑波技術大学では産業技術学部産業情報学科

応用数学科という学科を設けている大学は少ないし、数理計画法を数学科で教えるのもちょっと違う気がする。理科大では応用数学科で教えられているが、世間一般では工学系、情報系の授業で教えられているようだ。

さらにネット検索してみると、次のページを見つけることができた。

東京理科大学理学部応用数学科のOR教育(PDF)
http://www.orsj.or.jp/archive2/or64-1/or64_1_17.pdf

冒頭には次のように書かれている。理科大では応用数学科のほか工学部情報系、経営工学系でも数理計画法が教えられていることがわかった。

「OR の教育ならびに OR 学会員の規模では、東京理科大学はかなり活発に活動している大学の一つである。実際、OR の教育研究に携わる教員が所属している学部・学科として工学部情報工学科(旧経営工学科)、理工学部情報科学科・経営工学科、経営学部経営学科・ビジネスエコノミクス学科、そして理学部応用数学科があり、複数の学部学科にまたがって OR 研究者が分布している。」

このPDF資料によると応用数学科は(僕が生まれる1年前の)1961年に創設され、当初は「統計学(OR を含む)」、「数値計算・計算機」、「応用解析」の三つの柱を掲げていたようである。その創設に貢献したのが増山元三郎教授と津村善郎教授であり、僕は増山先生の統計学の授業を受けていた。(参考記事:「購入報告:少数例のまとめ方(1964年):増山元三郎」)

また、「数値計算分野がご専門の林健児教授は数理計画法の授業を担当されていて、筆者は林先生の下で連続最適化の研究を行い理学博士の学位を取得した。」ということも1ページ目の右欄に書かれている。

このPDF資料の筆者は誰?と思ってみると矢部博教授である。僕は教養課程で矢部先生から微積分・微分方程式を教えていただいていた。当時、先生はまだ助手をされていた頃で、授業は3号館の2階にあった学食の隣の教室で行なわれていた。(現在、学食は8号館にあるようだ。)矢部先生の授業では明るい緑色でざらざらした表紙の演習書が使われていたことを覚えている。

卒業時の担当教官だった江川嘉美教授にお会いするため、2018年に僕は母校を訪問したことがある。そのとき1号館のエレベーターで、矢部先生にたまたまお会いすることができた。先生にとって僕は何千人もいる教え子のひとりなので覚えていらっしゃらないのは無理もないことだが、僕にとっては十数人足らずの恩師のうちのおひとりだからはっきり覚えている。エレベータ―でご挨拶し、お名刺をいただいていた。

矢部先生のプロフィールはこのページでお読みいただける。ご研究されているのは「社会システム工学・安全システム (数理計画法、最適化)」という分野で、研究課題は「非線形最適化のための数値解法」、そして2018年には「日本オペレーションズ・リサーチ学会業績賞」を受賞されているなど、ORの研究一筋に業績を積んでいらっしゃっているのを知ることができた。そして現在は東京理科大学データサイエンスセンター長をされている。学生時代の「微積分、微分方程式の先生」という僕の印象は、学びの「ま」、学問の「が」にも達していなかった頃の誤解だったことに気がついた。

矢部先生は2006年に、次の本をお書きになっている。Amazonでの評価は上々だ。

工学基礎 最適化とその応用:矢部博


第1章 序章(最適化問題とは、最適化問題の例)
第2章 凸集合と凸関数(勾配ベクトルとヘッセ行列、凸集合 ほか)
第3章 線形計画法(標準形、用語の定義 ほか)
第4章 非線形計画法1(無制約最小化問題)(最適性条件、反復法とは ほか)
第5章 非線形計画法2(制約付き最小化問題)(最適性条件、非線形計画法の双対定理 ほか)


矢部先生がお書きになったPDF資料の2ページ目を読むと、僕のまわりにいらっしゃった先生方の数名が日本オペレーションズ・リサーチ学会に所属し、またORと関連する統計モデリングに関わるご研究をされていたことがわかる。このように恵まれた環境に僕は身を置いていたのだと、30年以上経った今になって気がつき、今回の記事のような文章を書くことになった。それも明倫館書店で日科技連の「ORのはなし―意思決定のテクニック:大村平」を見つけて読んたのがきっかけである。ワゴンセールには本書のほか、もう1冊「計算を中心とした線形計画法(ORライブラリー 5) :小野勝章」があったので、一緒に購入しておいた。これも日科技連の本だ。いずれ読むことにしよう。




本の紹介記事になるはずが、自分の身の上話に終始してしまった。著者の大村先生は今年6月に91歳でお亡くなりになっている。(ウィキペディアの記事

大村先生は最晩年まで精力的に執筆活動をされていたようだ。「~のはなし」シリーズで、次に読んでみたいのは2017年にお書きになった次の本である。

人工知能(AI)のはなし【改訂版】:大村平



そして大村先生の最後の著作となったのが以下の2冊で、先生にとってはブルーバックス本へのデビューとなった。統計解析は2019年2月、微積分のほうは2020年8月に刊行された本である。

今日から使える統計解析 普及版:大村平」(Kindle版
今日から使える微積分 普及版:大村平」(Kindle版
 


高校生や大学受験生の方には「ORのはなし―意思決定のテクニック:大村平」を読んでいただき、オペレーションズ・リサーチについて知ってほしい。そして興味がでてきた方には、理科大の応用数学科を受験の候補に入れていただきたい。この学科では流行りの機械学習だけでなく、従来からあるORや統計学などバランスよく学ぶことができるからだ。目先の必要性にとらわれず、幅広い知識と学習経験を積んでおくことが、長いスパンで研究者、企業人として生きていくのに有効だと僕は考えているからだ。


関連ホームページ:

公益社団法人 日本オペレーションズ・リサーチ学会
http://www.orsj.or.jp/

OR(オペレーションズリサーチ)を取り巻くトピックス
http://www.kogures.com/hitoshi/history/or/index.html

東京理科大学理学部応用数学科のOR教育(PDF)
http://www.orsj.or.jp/archive2/or64-1/or64_1_17.pdf

矢部博教授
https://www.tus.ac.jp/academics/teacher/p/index.php?6a5

東京理科大学データサイエンスセンター
https://www.tus.ac.jp/research/datascience_center/

4月20日放送「東京理科大学データサイエンスセンター長・矢部博先生」
http://www.radionikkei.jp/aino/post_6.html

公開講座「東京理科大学 坊っちゃん講座」(無料)
https://www.tus.ac.jp/event/entry/pr/bocchan2021/


関連書籍:

線形計画法: Amazonで検索
オペレーションズ・リサーチ: Amazonで検索
数理計画法: Amazonで検索
最適化数学: Amazonで検索
日科技連(ORライブラリー): Amazonで検索


関連記事:

改訂版 関数のはなし〈上〉:大村平
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d36a9ff4f6196b3fead1b9b6ca4dcf1c

改訂版 関数のはなし〈下〉:大村平
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e668159189be4b635f4d38c3bf252938

改訂版 微積分のはなし〈上〉:大村平
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/61b91ea9f2a66c66a33c507aa2c2d0c0

改訂版 微積分のはなし〈下〉:大村平
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a42023dc1423f9bdf406723d76f81766

FORTRAN入門、COBOL入門
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d4eefc13ed6f252102b8a9ee6ebdcea9


 

 


ORのはなし―意思決定のテクニック:大村平


はじめに

1. ORのすべて、見せます
- 費用対効果を較べる
- 混ぜ合わせのテクニック
- 作戦のモデルを作る
- シミュレーションで優劣を較べる
- オペレーションズ・リサーチの正体は
- オペレーションズ・リサーチを弁護する

2. 線形計画法(その1)
- 混ぜ合わせと割り当てのテクニック -
- 混合問題の口なおし
- 割り当てのテクニック
- 変数がふえたら
- LPの秘術、シンプレックス法

3. 線形計画法(その2)
- 線形とはいうものの -
- 輸送問題をスタート
- 輸送問題を解く
- クラス分け問題
- 巡回セールスマン問題
- 非線形計画法と整数計画法

4. 動的計画法
- 将来への最善を積み重ねて -
- 過去はさておき、将来へ
- 最短のルートを求める
- 確率的な現象でも
- 相手がいても

5. 待ち行列と在庫管理
- 待ち行列に参加して
- 待ち行列のモデルを作る
- 待ち行列の式をころがす
- 待ち行列の性質あれこれ
- 窓口が2つ以上なら
- 在庫管理への誘い
- なん回に分けて発注するか
- 最適な仕入れ個数は

6. PERT
- 最善の日程計画を追求する -
- パートをはじめる
- アロー・ダイヤグラムを描く
- クリティカルパスを見つける
- クリティカルパスを改善する
- PERTを計算する
- PERTを進める

7. シミュレーションとモデル
- シミュレーションさまざま
- お見合いを、もういちど
- 確率を作り出す
- モンテカルロ・シミュレーション
- モデルが決め手

8. ゲームの理論
- ゼロ和2人ゲーム
- サドル点を見つける
- ミニマックス戦略
- 不要な手は捨てる
- 手を混ぜて戦う
- 囚人のジレンマ
- 3人以上のゲーム

9. 意思決定への道
- 確実性のもとで
- リスクのもとで
- 不確実性のもとで
- 特殊事情のもとで
- 効用は金額に比例しない
- 一発勝負では効用を最大に
- 意思決定に奉仕するOR

付録(1)シンプレックス法
付録(2)116ページの確率計算

とね日記賞の発表!(2021): 物理学賞、数学賞、他

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毎年12月10日、スウェーデンのストックホルムでアルフレッド・ノーベルの命日に行われるノーベル賞の授賞式の日程にあわせて、「とね日記賞」を発表している。今年で12回目。

ところが、新型コロナウィルスの世界的な流行により、昨年から授賞式はオンラインで行われるようになった。極めて異常な事態である。この記事トップの画像も例年とは違う画像を掲載している。

けれども、コロナが流行しようがしまいが、ノーベル賞を僕がもらう見込みはどうもないことに変わりはない。どうせもらえないのなら自分で賞を作って「あげる側」になってしまえ!という思いつきで始めたのが「とね日記賞」である。

「とね日記賞」はその年に読んだ物理学書、数学書の中から自分のためになった本、この分野を勉強している学生や社会人にお勧めする本を物理学、数学など各分野に分けてそれぞれ1~2冊発表する。あとテレビドラマ賞や贈り物にふさわしい本としてクリスマス賞も設けている。


名著であっても僕がその価値を理解できなければ受賞できない。昨年以前に読んだ本は自動的に選考対象から外されるし、どんなに良書であっても読んでいなければ対象外。何より僕の学習進度や理解度や好みに影響される。

メダルも賞金も授賞式もスピーチも晩餐会も舞踏会もないから、ありがたくも何ともなく、主観だらけのアンフェアな賞だ。

今年は次の賞を発表する。

- 物理学賞
 物理学の教科書、専門書から選考。

- 数学賞
 数学の教科書、専門書から選考。

- 教養書賞
 一般向け書籍から分野別に選考。

- ブルーバックス賞
 講談社ブルーバックスの書籍から分野別に選考。

- 新人賞
 書籍出版デビューを果たした方が書いた本から選考。

- 文学賞
 ジャンルを問わない小説、文学書から選考。

- アカデミー賞
 今年観た映画の中からよかったものを選考。

- テレビドラマ賞
 テレビドラマの中からよかったものを選考。

- クリスマス賞
 クリスマスプレゼントにふさわしい本を選考。


この1年で読んだのは20冊で、次のような本である。通算449冊~468冊目。昨年の11月から本業の仕事が忙しくなったため、以前のように年間30~50冊の本を読むことはできなくなった。(参考:「400冊の理数系書籍を読んで得られたこと」)

449/天秤の魔術師 アルキメデスの数学:林栄治、斎藤憲
450/理論疫学者・西浦博の挑戦-新型コロナからいのちを守れ!
451/物理学者のすごい思考法: 橋本幸士
452/ゲーデル、エッシャー、バッハ―あるいは不思議の環: ダグラス・R. ホフスタッター
453/東大の入試問題で学ぶ高校物理:吉田弘幸
454/探究する精神 職業としての基礎科学:大栗博司
455/三体問題 天才たちを悩ませた400年の未解決問題:浅田秀樹
456/場の量子論: 不変性と自由場を中心にして(量子力学選書):坂本眞人
457/数学に魅せられて、科学を見失う:ザビーネ・ホッセンフェルダー
458/世界は2乗でできている 自然にひそむ平方数の不思議:小島寛之
459/フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔:高橋昌一郎
460/アインシュタイン方程式を読んだら「宇宙」が見えた:深川峻太郎
461/オイラー入門: W.ダンハム
462/オイラー探検:黒川信重
463/入門 現代の量子力学 量子情報・量子測定を中心として:堀田 昌寛
464/現代量子力学入門:井田 大輔
465/理性の限界―不可能性・不確定性・不完全性:高橋 昌一郎
466/現代解析力学入門:井田 大輔
467/量子力学10講:谷村 省吾
468/ORのはなし―意思決定のテクニック:大村平


今年の科学出版界を象徴するキーワードは「新しい量子力学の教科書」である。今年、従来の教科書とはまったく違う新しいタイプの教科書が3冊も出版された。量子コンピュータ、量子テレポーテーションに代表される量子技術を将来研究、応用の場で活躍したいと思う若者、学生たちが学ぶのにふさわしい量子ネイティブ指向の教科書が登場したのだ。

それでは2021年の「とね日記賞」を発表しよう。(書籍名と画像は本の購入ページにリンクさせておいた。)


* 物理学賞

入門 現代の量子力学 量子情報・量子測定を中心として:堀田 昌寛


授賞理由: 今年の物理学賞はこの本をおいてありえない。量子ネイティブを目指すための新しい教科書で、昨年以来待ち望まれていた。著者の堀田先生は、以前から継続的にツイートで量子力学、量子現象に対する古い考え、誤った考えをご指摘なさっていた。しかし、それがひとつの形にまとめるとどのようになるのかは堀田先生以外ご存知ない。ようやく教科書として刊行された。そして、時期を同じくして「現代量子力学入門:井田 大輔」や初学者が読むのに最適な「量子力学10講:谷村 省吾」が刊行され、これら3冊の共通点が確認できたことで新しい量子ネイティブ指向の教科書のガイドラインが示されたのだと思う。

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

入門 現代の量子力学 量子情報・量子測定を中心として:堀田 昌寛
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2db67370781114a62d354fd6ec27e1d7

量子力学10講:谷村 省吾
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/041d873912ef0ae30f12fcb5aa73916c

現代量子力学入門:井田 大輔
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/acbdefa011b68a9ed05ee25eed07b876


* 数学賞

今年の数学賞は次の2冊に授賞することにした。1冊に絞ることができなかったのである。

天秤の魔術師 アルキメデスの数学:林栄治、斎藤憲


授賞理由: 近代科学はニュートンやライプニッツが創始したと言われるが、アイザック・ニュートンは同じ科学者であるロバート・フックへ当てた手紙の中で、「私がかなたを見渡せたのだとしたら、それはひとえに巨人の肩の上に乗っていたからです。(If I have seen further it is by standing on the shoulders of Giants.)」と書いている。天才といえども、自分ひとりだけで研究をし成果を上げることはできないのである。ニュートンやライプニッツが研究の土台とした巨人のひとりが古代ギリシアの天才数学者アルキメデス(紀元前287年? - 紀元前212年)だ。数学だけでなく科学・技術全般に業績があるアルキメデスの成果のうち、面積や体積を求めるための「求積法」を解説した『方法』という著作の内容を実例をあげて紹介したのが本書である。ガリレイ、ニュートン、ライプニッツらは、ラテン語に翻訳されたアルキメデスのこの著作を読んでいた。この『方法』に書かれていた求積法を参考にしてニュートンやライプニッツは微積分法を考案し、これが1687年に刊行されたニュートンの『プリンキピア(自然哲学の数学的方法)』、近代科学の誕生に結び付いたと言ってよい。アルキメデスの天才ぶり、天秤を使ったアイデアの独創性を堪能できるのが本書である。そしてニュートンが肩に乗っていた巨人アルキメデスでさえも、彼より古い時代に生きたユークリッド以前の古代エジプトや古代ギリシャの幾何学研究者、そして天秤を発明した紀元前5000年より昔の古代エジプトの人々など、さらにいにしえの巨人たちの肩の上に乗っていたのだということに思い至った。

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

天秤の魔術師 アルキメデスの数学:林栄治、斎藤憲
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/54693051fc92adcb0f20c52ce9d9841a

そして数学賞の2冊目はこちらである。

オイラー入門(シュプリンガー版)」(丸善版


授賞理由: アルキメデスの著作が膨大で、その研究が全生涯をかけたライフワークになるのと同様、18世紀の大数学者オイラーの業績も一生かけたとしても研究し尽せることはない。オイラーについて高校生が学ぶのは、せいぜい「オイラーの公式」くらいで、これは量子力学に欠かせない公式だ。物理学徒であれば解析力学で使われる「オイラー=ラグランジュ方程式」もご存知だと思う。このほかに彼はどのような研究で名を残したのだろうか。オイラー初心者がまず手がかりとして読むのに好都合なのが本書である。アクロバチックな数式導出に驚き、その影響が現代数学のあらゆる領域に及んでいった経緯を知ることができる。この本を読み、そこは「オイラー沼」であり、うかつに一歩を踏み出してはいけない世界だということがよくわかった。底無しともいえる禁断の世界を覗いてみたい方は、ぜひお読みになっていただきたい。

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

オイラー入門: W.ダンハム
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b6a5d54f254fa7af0c2361d93995cea4


* 教養書賞(物理学部門)

次の2冊に授賞する。どちらも現在最前線で活躍されている著名な理論物理学者の生い立ち、関心ごと、理念や生きざまを知ることができる貴重な本だ。

探究する精神 職業としての基礎科学:大栗博司」(Kindle版


授賞理由: 「大栗先生の超弦理論入門」を始めとする数々の科学教養書をお書きになり、超弦理論研究の第一人者のおひとりでいらっしゃる大栗先生の「自伝」とも言うべき本である。理論物理学の解説書ではなく、科学者になるまでの先生の生い立ち、好奇心や探究心、学ぶことの大切さ、基礎科学の意義を語っている本だ。回顧録を書くには先生は若すぎる。しかし、コロナが全世界的に猛威をふるい、いつ命を落とすかわからない世の中、日本にとっても東日本大震災以来の危機である。いつもお忙しい先生が幻冬舎の担当編集者、小木田さんの提案を受け入れ、本書を執筆されたのはそのような背景があったのだろうし、回顧だけでなく東日本大震災後に先生が自問された基礎科学の意義を伝えることの必要性を再びお感じになったからである。今年ががそのタイミングだったのだ。

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

探究する精神 職業としての基礎科学:大栗博司
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6a8ed519784843aad20780a2811f5d2d

そして授賞する2冊目はこちらの本だ。

物理学者のすごい思考法: 橋本幸士」(Kindle版


授賞理由: 理論物理学者の私的な考えを書いた本という点で、本書は上記の大栗先生の本と同じだ。お二人の先生が示し合わせていたわけではないのに、ほぼ同じ時期じこの2冊が刊行されたのは偶然であり、面白いと思った。何かの波動がお二人に働きかけていたのだろうかと科学的でないことをつい書いてしまう。本書は気軽に読める新書版のエッセイ集。コロナ禍で鬱々と過ごしている理系人に清涼感を与えてくれる楽しい本だ。著者は素粒子論、超弦理論研究の第一人者のおひとりの橋本幸士先生だ。書き溜めていたエッセイを本書で一気に放出された。日常にはこんなにたくさん物理があふれているのだなぁと驚くとともに、抱腹絶倒な書きっぷりは読者の期待を裏切らない。7月24日には朝日カルチャーセンターの中之島教室でお二人による「物理学者のすごい思考法」を「探究する」ためのオンライン講座と対談が行われたそうである。(参考リンク

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

物理学者のすごい思考法: 橋本幸士
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/991713ed3c54b8911a6d1be62de7bd7f


* 教養書賞(数学部門)

理性の限界―不可能性・不確定性・不完全性:高橋 昌一郎」(Kindle版


授賞理由: 人類が意思決定のよりどころとしている「理性」には限界があるのか?もちろん生物的、能力的な限界があることは誰でも知っている。しかし、その限界には数学的に証明されているものがあるのだ。20世紀になって発見、証明された3つの限界をとてもわかりやすく紹介しているのが本書である。アローの不可能性定理、ハイゼンベルクの不完全性定理、ゲーデルの不完全性定理をまったくご存知ない方は、まずこの本をお読みになるとよいだろう。これら3つの限界は数学的に証明されたものなので、教養書賞(数学部門)として授賞させていただいた。

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

理性の限界―不可能性・不確定性・不完全性:高橋 昌一郎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a205007811d2516b994182423bd7d024


* 教養書賞(コンピュータサイエンス部門)

ゲーデル、エッシャー、バッハ―あるいは不思議の環: ダグラス・R. ホフスタッター


授賞理由: 2016年に深層学習が脚光を浴びるようになってから、AIや機械学習の人気が爆発的に高まっている。コンピュータは果たして万能なのだろうか?もちろん人間が解決できない数々の問題をコンピュータは解決してくれる。しかし、もともとコンピュータはどのように位置づけられ、科学者たちは将来どのように発展すると考えられていたのだろうか?1979年に刊行された本書はこのテーマに沿って、未来のコンピュータが解き明かすであろう知の世界を予言した古典的名著である。コンピュータ技術を基礎付けている数理論理学、アルゴリズム理論には限界があることがゲーデルやチューリングによって示されている。機械学習といえども、その限界に縛られるのだろうか?一般の方が読むには少々難しくて分厚い教養書ではあるが、コンピュータやソフトウェアに関わるエンジニアの方にはぜひ読んでいただきたい本である。数理論理学の世界をエッシャーの絵画、バッハの音楽とのアナロジーを交えて、知的興奮を書きたてながら繰り広げている。コンピュータ技術の原点に立ち返って思考と想像をめぐらせながら読んでほしい。

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

ゲーデル、エッシャー、バッハ―あるいは不思議の環: ダグラス・R. ホフスタッター
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6220ca683bd90204f671b44633e56890


* ブルーバックス賞

三体問題 天才たちを悩ませた400年の未解決問題:浅田秀樹」(Kindle版
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授賞理由: この1年で読んだブルーバックス本の中で、ダントツに面白かったのが本書だ。古典力学の中にもみられるカオス現象に初めて気がついたのが、数学者のポアンカレである。(参考記事:「ポアンカレによるカオスの発見と先見性」)ポアンカレは重力を及ぼしながら運動する3つの天体の軌道を計算する過程で、カオス現象があることに気がついた。数学ではこのモデルを「三体問題」と呼んでいる。古典的な問題でありながら三体問題は未解決なことが多く、現代でも研究が続けられている。その研究の最前線を紹介しているのが本書なのだ。三体問題はもともとニュートン力学をベースに研究され、その後、一般相対性理論をベースにしたものへと発展した。そして2015年に重力波が観測され、ブラックホールの存在が確認されて以降、一般相対性理論をベースにした三体問題の研究は今後の天文学に新たな学問領域を開拓しつつあるのだ。

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

三体問題 天才たちを悩ませた400年の未解決問題:浅田秀樹
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e3018c965e45035d13bcf3d40d7b5783


* 新人賞

アインシュタイン方程式を読んだら「宇宙」が見えた:深川峻太郎」(Kindle版


授賞理由: 新人賞もブルーバックス本に授賞することにさせていただいた。この本以外にはないと思う。著者は科学本のライター、編集者を生業としている「ど文系」の方である。その彼が果敢にもアインシュタインの一般相対性理論に挑戦を挑んだのだ。本書は彼がそのように無謀な計画を抱くようになったきっかけから始まり、専門家から教えをいただきながら、学習を一歩ずつ進め、アインシュタイン方程式を理解するという目標にたどり着くまでの過程をつづった意欲的な専門書である。そしてこの本には大栗博司先生、村山斉先生という理論物理学の第一人者のお二人から推薦文をいただいている。素人ながらご自身の本をようやく完成、出版されたという偉業には賞賛という言葉しか思いつかない。今後の著作を期待して、新人賞を授賞することにした。

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

アインシュタイン方程式を読んだら「宇宙」が見えた:深川峻太郎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4a200a8594234b351980a81062eec683


* 文学賞

アンネの日記 増補新訂版:アンネ・フランク」(Kindle版


授賞理由: 人種差別、ジェンダー差別、国籍差別、分断の問題は、特にこの1年クローズアップされている。(参考ツイート)アンネの日記もユダヤ人差別の犠牲者となった少女、アンネ・フランクが書いた日記として刊行されてからずっと読み継がれている本だ。いつか読んでおきたいとずっと思っていたが、ようやく読むことができた。感性に豊かで文才にあふれる少女の日記。ナチスドイツの迫害におびえならがも、最後まで希望を失わない姿に心が揺さぶられる。また、想像していたのとはまったく違う内容も多く書かれていて、不謹慎かもしれないが楽しめる本でもあった。あらましを知っているのと実際に読むのとでは大違いである。まだ読んでいない方は、ぜひ手に取っていただきい。差別される側にいるアンネが、この問題をどのようにとらえていたか。それを知ることをきっかけに、差別の問題を自分なりに考えることの意義はあると思う。また、優れた文才に恵まれていたアンネがもし生き延びていたら、その後の人生で数々の名作を遺していたことだろう。それらの作品に授賞するという意味も込めている。

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

アンネの日記 増補新訂版:アンネ・フランク
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ccfe571843376db1976902d4a9d4f491


* アカデミー賞

映画『パンケーキを毒見する』を映画館で観たが、その後の衆院選では与党勝利に終わってしまった。だからこの映画にアカデミー賞を授賞することができない。そこでブログ記事には書いていないが、今年アマプラで観た映画の中から選んで授賞することにした。

今年は映画『日本沈没(1973)(Amazon Prime VideoYouTube予告編)』に授賞させていただく。今後も自公政権が続くから日本は沈没するかもしれないという皮肉を授賞理由に含めているわけではない。



小松左京原作の同名小説は1974年にテレビドラマ化(全26話:Amazon Prime Video)、2006年にも映画化(YouTube)されている。そして今年はTBSで『日本沈没 -希望のひと-』として放送中で、12月12日(日)に2時間枠で最終話を迎える。

この中で授賞に値するのは、昭和の小林桂樹、丹波哲郎をはじめとする昭和の名優がたくさん出演している1973年版だ。そしてこの作品には地球物理学者の竹内均博士(紹介動画)が本人役で出演している。昭和の名優と竹内均博士が出演していること、原作に忠実であること、迫真の演技、緊迫感に満ちていることから授賞させていただくことにした。現在放送されているTBSドラマは、原作からだいぶ改変されてしまっているが、それなりに楽しんでいる。

原作小説をお読みになるのであれば、光文社文庫版をお勧めしたい。原作小説はもともと1973年に同社のカッパ・ノベルスから刊行されていたこと、そしてKindle版は当時の単行本の表紙の色とデザインを踏襲しているからだ。上巻は水色で黒い日本列島の影が沈んでいくデザイン、下巻はピンク色で黒い富士山の影が沈んでいくデザインだ。1973年刊行のカッパ・ノベルス版も中古本で購入可能である。(検索する

日本沈没(上) (光文社文庫):Kindle版
日本沈没(下) (光文社文庫):Kindle版
 


* テレビドラマ賞

この1年、NHKの大河ドラマのほか民放のドラマでは『知ってるワイフ』、『俺の家の話』、『にちいろカルテ』、『ナイト・ドクター』、『リコカツ』、『イチケイのカラス』、『ドラゴン桜』、『プロミス・シンデレラ』、『#家族募集します』、『彼女はキレイだった』、『ハコヅメ~たたかう!交番女子~』、『恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜』、『最愛』、『婚姻届に判を捺しただけですが』、『ドクターX7~外科医・大門未知子~』、『日本沈没-希望のひと-』を楽しんだ。



この中でもイチ押しなのは。。。と考えたが今年は1つに絞れない。テレビドラマ賞は3つになってしまった。せめて序列をつけて発表することにしよう。

『恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜』


授賞理由: 視覚障碍者の女の子とヤンキー君の間ではぐくまれるの恋愛コメディー。とにかく楽しいし、ほろっとさせられるシーンが毎回見られるのがこのドラマの魅力。人種差別、国籍差別、ジェンダー差別だけにとどまらず、障碍者差別も現代社会が抱えている問題だ。このドラマを通じて視覚障碍者が見ている世界、感じ方、考え方が自然にわかるようにストーリーが組み立てられている。また、このドラマが素晴らしいのは、視覚障碍者が楽しめるように音声ガイドが副音声から聴けるほか、TVerやサブスクの配信にも音声ガイド付き動画がアップされていることだ。また途中の放送回で、登場人物のひとりがゲイであることが発覚する。ジェンダー差別もこのドラマがカバーすることになった。第1話~第3話のダイジェスト第4話~第6話のダイジェストをご覧いただくとどのようなドラマかお分かりいただけるだろう。

恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜:公式ページ
https://www.ntv.co.jp/yangaru/

YouTube動画: 検索する


『#家族募集します』


授賞理由: #家族募集します というSNSタグをきっかけに、1階がお好み焼き屋の2階に作られたシェアハウスで共同生活を始めるシングルマザー、シングルファザーの3家族が繰り広げる物語。生活信条や考え方が違う家族の心がひとつになっていく姿に心を打たれる。ひとり親世帯が増えつつある現代社会。実際にこのように理想的な共同生活ができるのか疑問は残るが、あくまでドラマである。出演している俳優、子役がとにかく魅力的だ。何度も繰り返して見たい作品である。なお、番組でお好み焼き屋の「にじや」としてロケに使われた建物は谷中にある古民家「谷中ビアホール」である。第1話~第3話のダイジェストをご覧いただきたい。

#家族募集します:公式ページ
https://www.tbs.co.jp/kazokuboshuu_tbs/

YouTube動画: 検索する


『江戸モアゼル』


授賞理由: 「粋じゃないねぇ」江戸時代からタイムスリップした吉原に生きる花魁、仙夏。野暮なこと筋が通らないことを嫌い、客だろうがお大尽だろうがキッチリと言い負かす。タイムスリップ物の恋愛コメディーは僕の大好物だ。そして第6話には松浦壮先生の「時間とはなんだろう」というブルーバックス本がちらっと映っている。ドラマの中でこの本を読んでいるIT会社の社長は、花魁の仙夏(せんか)が江戸時代からタイムスリップしたことをどうしても受け入れられず、「時間とはなんだろう」を読んでいるという設定だ。(参考ツイート

江戸モアゼル:公式ページ
https://www.ntv.co.jp/yangaru/

YouTube動画: 検索する


* クリスマス賞

今年のクリスマス賞は、次の本に授賞させていただこう。10月に刊行されたばかりの人気の児童書である。原作は『ハリーポッター・シリーズ』の原作者のJ.K.ローリング、日本語訳は同シリーズを翻訳された松岡佑子さんだ。友人やお子さん、自分へのクリスマスプレゼントにどうぞ。日本語版と英語版のAmazonの読者レビューをお読みになれば、素晴らしい作品だということがおわかりになるだろう。なお、過去のクリスマス賞で一押しの本は2015年に授賞した「アリスとキャロルのパズルランド 不思議の国の謎解きブック」である。

クリスマス・ピッグ: J.K.ローリング」(Kindle版
The Christmas Pig: J.K.Rowling」(Kindle版
 

このほかAmazon.co.jpからはドイツ語版スペイン語版韓国語版を、Amazon.frからはフランス語版を購入することができる。

内容: ジャックとぬいぐるみは、一緒に魔法の旅をはじめます。失われたものを取りもどし、一番の親友を見つけるために。J.K.ローリングが『ハリー・ポッター』のあとに初めて書いた児童書です。
ジャックは、小さい頃にもらったブタのぬいぐるみが大好きです。良いことがあっても悪いことがあっても、ぬいぐるみはいつもジャックのそばにいました。ところが、ある年のクリスマスイブ、恐ろしいことが起こります――ぬいぐるみがいなくなったのです。それでも、クリスマスイブは、起こるはずのない奇跡が起こり、叶うはずのない願いが叶い、あらゆるものに命が宿る日です――もちろん、ぬいぐるみにも。ジャックがクリスマスにもらった新しいブタのぬいぐるみ(消えた宝物のかわりにやってきた、口うるさい子ブタです)は、大胆な計画をくわだてました。ジャックと新しいぬいぐるみは、一緒に魔法の旅をはじめます。失われたものを取りもどし、ジャックの一番の親友を見つけるために。

【総集編】J. K .ローリング『クリスマス・ピッグ』インタビュー: YouTubeで再生 関連動画


(字幕付)『クリスマス・ピッグ』J .K .ローリングの朗読(再生時間12分): YouTubeで再生
オフィシャル・オーディオブック(再生時間5時間21分、無料、字幕): YouTubeで再生
上記オーディオブックは音声は英語だが、字幕は英語、日本語のほか各国語に切り替えて表示させることができる。


* ノーベル物理学賞2021

最後になりますが、真鍋先生をはじめとする本日受賞される先生方、ノーベル賞受賞おめでとうございます!ちなみに真鍋先生は12月6日午後、米国ワシントンで受賞をすませている。(ニュース記事

記念講演はこの動画で見ることができる。

2021 Nobel Prize lectures in physics: YouTubeで再生


2021年 ノーベル物理学賞は真鍋博士、ハッセルマン博士、パリージ博士に決定!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a98679530eb64ee5875d72eb3a84c8bf


関連記事:

過去の「とね日記賞」一覧: 開く


 

 

クリスマス・ピッグ: J.K.ローリング

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クリスマス・ピッグ: J.K.ローリング」(Kindle版

内容紹介:
ジャックとぬいぐるみは、一緒に魔法の旅をはじめます。失われたものを取りもどし、一番の親友を見つけるために。J.K.ローリングが『ハリー・ポッター』のあとに初めて書いた児童書です。
ジャックは、小さい頃にもらったブタのぬいぐるみが大好きです。良いことがあっても悪いことがあっても、ぬいぐるみはいつもジャックのそばにいました。ところが、ある年のクリスマスイブ、恐ろしいことが起こります――ぬいぐるみがいなくなったのです。それでも、クリスマスイブは、起こるはずのない奇跡が起こり、叶うはずのない願いが叶い、あらゆるものに命が宿る日です――もちろん、ぬいぐるみにも。ジャックがクリスマスにもらった新しいブタのぬいぐるみ(消えた宝物のかわりにやってきた、口うるさい子ブタです)は、大胆な計画をくわだてました。ジャックと新しいぬいぐるみは、一緒に魔法の旅をはじめます。失われたものを取りもどし、ジャックの一番の親友を見つけるために。

2021年10月12日刊行、368ページ

著者:
著者のJ.K.ローリングは、記録的ベストセラーであり多数の賞を獲得した『ハリーポッター・シリーズ』の著者。世界中で愛読された本シリーズは、これまで累計5億部以上を売り上げ、80カ国語に翻訳された。8部作の映画は大ヒットを記録。チャリティーのために出版された副読本が3冊ある。『クィディッチ今昔』と『幻の動物とその生息地』の売り上げは〈コミック・リリーフ〉、〈ルーモス〉に寄付され、『吟遊詩人ビードルの物語』の売り上げは〈ルーモス〉に寄付された。著者は『幻の動物とその生息地』に着想を得て、『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』の脚本を執筆。この作品を皮切りとして、5部作の映画シリーズの公開が始まった。J.K.ローリングはまた、『ハリー・ポッターと呪いの子 第一部・第二部』の舞台も手掛けている。この作品は、2016年夏にロンドンのウェストエンドで初演され、2018年春にはブロードウェーでも上演された。2012年、J.K.ローリングはウェブサイト〈ポッターモア〉を開設。このサイトでは様々なコンテンツや記事、J.K.ローリングによる書下ろし作品を楽しむことができる。J.K.ローリングは一般書『カジュアル・ベイカンシー 突然の空席』を執筆したほか、ロバート・ガルブレイスのペンネームで犯罪小説を発表している。これまで、大英帝国勲章、レジオンドヌール勲章、ハンス・クリスチャン・アンデルセン文学賞など、いくつもの賞を受賞してきた。



先日発表した「とね日記賞2021」でクリスマス賞として授賞させていただいた児童書である。クリスマス賞というのはクリスマスプレゼントにふさわしい本に贈る賞のことだ。読んでもいないのに紹介するのはよくないと思いKindle版を読んでみた。

1年に1冊くらいのペースで児童書を読むことにしている。子供の頃に読んだ本を読み返すこともあれば、原作が洋書の場合は英語版で読み直すこともある。そうすればふだんは目にすることがない言葉や表現を知ることができるし、オーディオブックを使えばリスニングの学習としても使うことができるからだ。

今回紹介するのは「クリスマス・ピッグ: J.K.ローリング」(Kindle版)だ。10月に発売されたばかりの人気本である。

原作は『ハリーポッター・シリーズ』の原作者のJ.K.ローリング、日本語訳は同シリーズを翻訳された松岡佑子さんだ。友人やお子さん、自分へのクリスマスプレゼントにどうぞ。日本語版と英語版のAmazonの読者レビューをお読みになれば、素晴らしい作品だということがおわかりになるだろう。

物理学書、数学書であればネタバレを気にせず紹介できるのだが、児童書や(そして映画)をネタバレさせずに紹介するのは難しい。本書は児童書とはいえ368ページもある大作で読み応えはじゅうぶんある。小学校高学年以上でないと読み通すことはできないと思った。

主人公はジャックという少年。小さいころからお気に入りのブタのぬいぐるみと一緒で、一時も離れることなく過ごしていた。彼はかけがえのないその友人を「DP」と呼んでいる。幼いころ「The pig(ザ・ピッグ)」を上手に発音できず「Dur pig(ダー・ピッグ)」と発音していたためDPになったというわけだ。長年一緒に過ごしていたため、DPは色あせ、耳はちぎれている。何度も洗濯をしたのでボロボロになっている。それでもジャックはDPのことが大好きなのだ。

表紙にかわいらしいブタと手をつないでいるジャックの姿があるが、このブタはDPではない。どこも破れていないし色も鮮やかである。このブタは「クリスマス・ピッグ」。クリスマスプレゼントとしてもらったぬいぐるみだ。物語の後半でCP(Christmas pig)と呼ばれることになる。ジャックはCPと一緒に、いなくなったDPを探す冒険にでかけるところなのだ。それがこの表紙の意味である。

DPがいるのになぜジャックはCPをもらうことになるのか?そしてなぜDPはいなくなってしまったのか?冒険に行くのにジャックはなぜパジャマを着ているのか?それらは本書の最初のほう、冒険に出るシーンまでで明かされる。

大部分が冒険物語である。彼らが向かった先はどこなのか?そしてそこではどのようなモノと出会い、何がおこるのか?また、そこには「敵」がいるのだろうか?失われた友をどのようにして探すのだろうか?このような想いを抱きつつ読み進むことになる。

児童書だからもちろんハッピーエンドだ。しかし、この本は「ああ、よかった!」で終わるように単純ではない。何かを得れば、何かを失うことになる。それは現実の人生でもよくあることだ。Amazonの読者レビューに「感動して自然と涙が出てきました。」とか「最後は感動しましたが、とにかく深く考えさせられる内容でした。」と書かれているが、その感動は単なるハッピーエンドということではない。

クリスマスイブには奇跡がおこる。しかし、その奇跡で得られたものはクリスマスイブ以降には持ち越すことができないのだ。それでも奇跡を体験する前と後では確実に何かが変わっている。これがこの物語に深みを与えているのだと僕は思った。

これ以上書くとネタバレになってしまうから、やめておくことにしよう。大人でもじゅうぶん楽しめる作品である。


お買い求めになる方は、こちらからどうぞ。

クリスマス・ピッグ: J.K.ローリング」(Kindle版
The Christmas Pig: J.K.Rowling」(Kindle版
 

このほかAmazon.co.jpからはドイツ語版スペイン語版韓国語版を、Amazon.frからはフランス語版を購入することができる。

【総集編】J. K .ローリング『クリスマス・ピッグ』インタビュー: YouTubeで再生 関連動画


(字幕付)『クリスマス・ピッグ』J .K .ローリングの朗読(再生時間12分): YouTubeで再生


関連記事:

「ハリー・ポッター」シリーズの英語版、そしてフランス語版と日本語版
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/8687d7f7cac29127ff2abe670bee7bdd

「ハリー・ポッター」シリーズ、その後の作品(英語、フランス語、日本語)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b1aa259dd740cad063f673d336402a8b

アリスとキャロルのパズルランド 不思議の国の謎解きブック
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/69d049330b9e82752d583a32d737a3a1

モモ: ミヒャエル・エンデ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3760861392f8a08a2d6224227092cfe4

「エルマーのぼうけん」シリーズ: ルース・S・ガネット
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d7e850de5b1469a8a99e88d00e177699

宮沢賢治童話集(岩波書店、1963年)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c194c863cb8b8c84dd76ab3298679a54

だれも知らない小さな国: 佐藤さとる、村上勉
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9297ca496ec1f4069614e2452b28a8ef

トムは真夜中の庭で : フィリパ・ピアス
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a8f1223f0242059f6d3a9abe61c26e85


 

 


クリスマス・ピッグ: J.K.ローリング」(Kindle版


その1 ダー・ピッグ
その2 置き忘れ
その3「捨ててよいモノ」
その4「失って困った」
その5「嘆かれないモノの荒野」
その6「愛しいモノの町」
その7「最愛のモノの島」
その8「失」の巣
その9 わが家に

早すぎた男 南部陽一郎物語 時代は彼に追いついたか:中嶋 彰

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早すぎた男 南部陽一郎物語 時代は彼に追いついたか:中嶋 彰

内容紹介:
生誕100年に紡ぐ、「理論物理学の巨人」の初めての本格的伝記!
――南部理論の前では、2012年に発見され「質量の起源」として喝采を浴びたヒッグス粒子も、巨象にひれ伏す小さなアリでしかない。――(本書より)
日本が生んだこの途方もなく大きな才能は、常人には理解しがたく、そのため、彼の生涯最高傑作「自発的対称性の破れ」にノーベル物理学賞が授けられたのは発表後50年近くがたってからだった。いつしか彼は、人々から「魔法使い」とも「予言者」とも呼ばれるようになった。
これまで語られなかった天才の実像を浮き彫りにし、「南部マジック」と呼ばれる数々の新理論はどのように生まれたのか、そこに彼の「人間」はどう関わったのか、彼はなぜ米国に移ったのか、などを解き明かす。

2021年10月21日刊行、320ページ

著者:
中嶋 彰(@akinaka0629
サイエンス作家。東京大学工学部卒。日本経済新聞社入社、科学技術部次長、科学技術担当編集委員、ナノテクノロジー専門誌「日経先端技術」の編集長などを歴任。著書に『「青色」に挑んだ男たち』(日本経済新聞出版社)、『現代素粒子物語』(講談社ブルーバックス)、共著書に『現代免疫物語』『新・現代免疫物語』『現代免疫物語beyond』(いずれも講談社ブルーバックス)。座右の銘は「難解な科学をやさしく解きほぐす」。1954年兵庫県宍粟(しそう)市生まれ。


理数系書籍のレビュー記事は本書で468冊目。

今年最後の紹介記事は南部陽一郎先生(ウィキペディア)の伝記本だ。もちろん売り上げ好調の人気本である。

南部先生の業績は知っているものの、生い立ちや私生活、どのような人生を歩まれてきたかはあまり知らない方が多いことだろう。これほど著名な先生なのにである。そして2008年に先生がノーベル物理学賞を受賞されたとき、だれもが「遅すぎる!」と思ったことだろう。でも、なぜそれほど遅れた受賞になってしまったのか?それは本書を読めばわかる。

超弦理論研究の第一人者のおひとり、大栗博司先生は今年みずからの自伝を「探究する精神 職業としての基礎科学」としてお書きになった。大栗先生は小学生の頃に数学がもつ力を知り、講談社ブルーバックスシリーズで「相対性理論」や「マックスウェルの悪魔」などを知り、理解できないながらも物理学の世界に魅了される。その後、最先端の研究者になるまで寄り道することなく、順調に業績を積まれてきた。この本の第2部 武者修行の時代に、大栗先生は南部先生のもとで過ごされた日々のことをお書きになっている。

大栗先生のことは南部先生の伝記に「弟子の弟子」かつ「弟子」として「早すぎた男 南部陽一郎物語 時代は彼に追いついたか:中嶋 彰」に紹介されている。大栗先生をシカゴ大学にお招きになったのが南部陽一郎先生であり、南部先生は渥美清の「男はつらいよ」シリーズがとてもお好きだったそうだ。先生はDVDボックスも揃えていたそうである。大栗先生は南部先生のお宅で「寅さん」をご覧になったそうだ。(第何作だったのだろうか?)

ノーベル物理学賞を受賞するくらいだから、南部先生はさぞ順風満帆な研究者人生を歩んでこられたのだろうと僕は思っていたが、まったく違っていた。大学入試の段階で大きな勘違いをされていたこと、プリンストン高等研究所ではまったく成果を出せずに悶々とした日々を過ごしていたこと、せっかく素晴らしいアイデアを思いついたのに脇が甘く、他の研究者にアイデアをさらわれてしまったこと。。。みずから招いたこととはいえ「もったいないなぁ」と思うところしきりだった。

大まかなことは、本書の紹介の後半部に書かれている。

〔成功と失敗が交錯する南部陽一郎の生涯〕
・素粒子物理を志していたのに、物性物理の講座しかない東大にうっかり入学してしまったことが、のちの「マジック」の種になった。
・留学したプリンストン高等研究所では成果が出せず絶望状態に陥り、日本では教授職にあったのに、「ポスドク」扱いでシカゴ大学に移った。
・シカゴ大学で出会った物性物理の新理論が気に入らず、いらだち、しかしやがて恋に落ちたことで生まれたのが「自発的対称性の破れ」の理論だった。
・発表前に新理論の内容を明かしてしまい、ほかの研究者に先に論文に書かれるという痛恨のミスを犯した。
・90歳になっても、宇宙を記述する理論として流体力学に関心を寄せ、その研究に情熱を傾けていた。

「自発的対称性の破れ」「量子色力学」「ひも理論」などの新理論のなりたちを理解しながら、
生涯、現役の科学者を貫いた生き方に心打たれる、「科学」を忘れつつある日本人必読の書!


本書の章立ては次の通り。詳細目次はこの記事のいちばん下に載せておいた。

第1章 福井の神童
第2章 東大理学部305号室の住人
第3章 天国か地獄か、米プリンストン
第4章 自発的対称性の破れ
第5章 南部理論が生んだヒッグス粒子と電弱統一理論
第6章 クォークめぐるゲルマンとの対決
第7章 ひも理論VS量子色力学
第8章 「予言者」南部とノーベル賞
第9章 福井新聞記者が見た南部の素顔
第10章 生涯、現役の科学者

南部先生の3つの大きな業績は「自発的対称性の破れ」「量子色力学」「ひも理論」である。特に重要なのは「自発的対称性の破れ」であり、対称性が自発的に破れることにより「南部粒子(南部・ゴールドストーン粒子)」が生成される。このメカニズムと粒子が素粒子に質量を与えるしくみの最終的な決定打となった。自発的対称性の破れや南部粒子は、素粒子物理学の強い相互作用、弱い相互作用、ヒッグス機構の理解につながっただけでなく、物性物理にの理解にもつながった極めて重要な発見である。

またクォークに色荷(カラーチャージ)を導入したのも南部先生で、これとゲルマンの八道説によりクォークの「量子色力学」が現在のように理解されるようになった。

そして「ひも理論(弦理論)」は、その後「超弦理論」へと発展することになる。


南部先生が逝去されてすでに6年が経っている。晩年は地元の豊中市に戻られて通院生活をしながら研究を続けられていた。最後の最後まで好奇心を失わず、研究にまい進されていた先生のお姿に物理屋魂の底力を感じずにはいられなかった。

以下の2つの記事で、大栗先生による追悼文を読むことができる。

南部陽一郎先生を悼む(大栗先生による追悼文)
https://webronza.asahi.com/science/articles/2015071700003.html

南部先生が成し遂げたこと(日経サイエンス、大栗先生による追悼記事)
https://www.nikkei-science.com/201510_056.html


本書は物理学ファンにとっての必読書だと思う。ぜひお読みいただきたい。


関連書籍:

南部先生ご自身による解説書である。ブルーバックス本としては難しめの部類に入る。英語版は日本語の初版に対応している。

クォーク 第2版:南部 陽一郎」(Kindle版)(初版)(紹介記事
Quarks: Frontiers In Elementary Particle Physics: Yoichiro Nambu (Hardcover)」(Paperback) (Kindle Ed)
 


ブルーバックス本を読み終えたら、次に読むべき本はこの2冊である。

素粒子の宴 新装版 :南部陽一郎 、H・D・ポリツァー
南部陽一郎 素粒子論の発展:南部 陽一郎、江沢 洋
 


南部先生の論文集。江口先生、西島先生が「Broken Symmetry」の論文集を1995年に刊行されたことで、自発的対称性の破れのアイデアが南部先生によるものであることを世に知らしめ、南部先生の窮地を救うことになった。

Broken Symmetry: Selected Papers of Y. Nambu: Y.Nambu, T.Eguchi, K.Nishijima (Hardcover)」(Paperback)
Nambu: A Foreteller of Modern Physics: T. Eguchi, Han. M. Y. (Hardcover)」(Paperback)
 


「自発的対称性の破れ」を南部先生が着想したのは、超伝導のBCS理論(Bardeen Cooper Schrieffer理論)で対称性が破れていることに気がついたのがきっかけだった。BCS理論を学ぶのにいちばん適しているのがSchrieffer先生自身がお書きになったこの教科書だ。幸い樺沢先生(@adx50150)が日本語に訳してくださっている。詳細はこのページをお読みいただきたい。

超伝導の理論:J.R. シュリーファー
Theory Of Superconductivity: J. R. Schrieffer (Hardcover)」(Paperback) (Kindle Ed)
 


関連記事:

クォーク 第2版: 南部陽一郎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/966d315e9ed9b5391c93c1dd80f6028b


 

 


早すぎた男 南部陽一郎物語 時代は彼に追いついたか:中嶋 彰



プロローグ

第1章 福井の神童
- 老舗仏壇店を飛び出した父
- 陽一郎を育んだ父の書斎
- 軍国主義の色に染まる福井
- 神童もドイツ語には苦労した
- ガロアとアーベル
- 人生で最も楽しかった時期
- 湯川秀樹の中間子論
- 強い力は中間子のキャッチボールで生まれる
- 幻のパイ中間子発見
- 湯川の兄弟を目指さず東大へ
- 天才でない者は去れ
- 仁科・朝永セミナーに活路
- 卒業そして技術将校へ
- 海軍秘密文書を入手せよ
- 智恵子と出会い恋愛結婚
- 受け身だった南部中尉
- 新居は新妻の実家

第2章 東大理学部305号室の住人
- 実験室を住かに
- 南部の畏友、久保亮五
- イジングモデルで腕試し
- 関心はイジングモデルからラムシフトに
- 中村誠太郎らと翻訳アルバイト
- 木庭との出会い、朝永ゼミに“参加”
- 朝永のくりこみ理論
- 自力でラムシフトを計算
- 朝永グループと名勝負
- 武谷三男がやってきた
- 東大から大阪市立大学に
- 「こんな若造で大丈夫か」
- 南部の怠け癖が発覚
- 武者修行に現れた小柴昌俊
- 伏見の激励でイジング論文執筆
- ベーテ・サルピータ方程式に見る南部のぶっきらぼう
- 奇妙なV粒子現る
- 素粒子物理学の精鋭が勢ぞろい

第3章 天国か地獄か、米プリンストン
- 西海岸からプリンストンへ大陸横断
- スターぞろいの研究所
- アインシュタインを追いかけた南部
- 翻訳本を持ち2度目の訪問
- アインシュタインと南部の会話
- 畏怖すべきオッペンハイマー
- プリンストンに集った日本の英才たち
- 南部の近未来に起きる苦難
- 「核力の飽和性」にプラズマ理論適用
- 何ひとつうまくいかず、南部は絶望
- 中野・西島・ゲルマン則が誕生
- 智恵子、潤一と西海岸で合流
- 超伝導BCS理論のバーディーンと出会う
- シカゴ大学のゴールドバーガーと親友に
- ゲージ理論との出会い
- 居心地悪かった競争社会
- シカゴ大学へと“転校”

第4章 自発的対称性の破れ
- パラダイム塗り替えた新理論
- シカゴ大学に赴任
- フェルミが主催した「クエーカーの会議」
- 南部が敬意を表したフェルミ死す
- ゴールドバーガーへの恩返し
- 人生最大の危機転じて准教授に
- 南部をくつろがせたディナー・パーティー
- 小柴がシカゴ大学にやってきた
- 小柴が果たした恩返し
- 竜巻研究の天才、藤田哲也
- 超伝導のBCS理論との出会い
- BCS理論にいらだち最後に恋に落ちた南部
- 自発的対称性の破れとは?
- 鉛筆を使ったもう一つの説明
- 対称性が破れると南部粒子が発生する
- 陽子の質量の謎を解いた南部理論
- カイラル対称性の破れとは
- ビッグバン直後の宇宙で起きた相変化
- 陽子の中では何が起きている?
- 2年かけてBCS理論を解析
- 自信持てずグズグズと
- BCS型の現象を系統的に調査
- シカゴ大学教授に就任、東大からオファー
- ヨナ・ラシニオとランダウとの出会い
- ゴールドストーンから届いた衝撃の予稿論文
- 「とんびに油揚げをさらわれた」
- 悔しさかみ殺し書いたノーベル賞論文
- 南部は江口と西島に救われた
- 南部論文選集を出版
- 江口と西島の究極の利他行為
- 京大の坂東が南部論文に感動
- 西島でさえ理解に苦しんだ南部理論
- 南部ゴールドストーン粒子の正体は?
- ソルベー会議出席と11年ぶりの里帰り

第5章 南部理論が生んだヒッグス粒子と電弱統一理論
- 質量ゼロの粒子に魔法をかけた南部理論
- ヒッグス粒子に邪魔をされる粒子たち
- 電弱統一理論に挑んだグラショー
- 弱い力を伝える3つの粒子を想定
- 3グループが競合したヒッグス粒子
- 南部粒子がゲージ粒子に食べられた
- ヒッグスらの論文は南部が査読した
- ワインバーグたちが電弱統一理論を完成
- あまりに難しかったくりこみ計算
- 「めでたしめでたし」ではおさまらない
- 「ギンツブルク・ランダウ論文」を読んでいなかった南部
- 南部は嗅覚が敏感過ぎた?
- プリンストンで内山龍雄を襲った衝撃
- 内山を高く評価した南部

第6章 クォークめぐるゲルマンとの対決
- 南部がクォークモデルにいらだったわけ
- ゲルマン研究室に留学した原
- もう一人のスター、ファインマン
- ゲルマンにもためらい
- 分数に違和感もクォークモデルは周到なでき
- 日本からは坂田モデル
- 八道説でゲルマン有利に
- 素粒子の四元モデル
- 原はシカゴ大の南部研究室へ
- ハン・南部の整数電荷モデルが登場
- パウリの排他律に抵触したクォークモデル
- 同一クォークが3つ同居する不都合な真実
- クォークモデルに「色」を導入
- 南部マジック全開
- 小柴とファックスライン開通
- 吉村が遺した「南部を理解する方法」
- 南部に他大学からスカウト
- 天体観測が趣味だった
- 未踏の3色クォークの力学にメス
- 赤、緑、青は混じり合って白色に
- 湯川の中間子論を描き直した色力学
- ひも理論も提唱
- 塩水湖の旅がもたらした波乱
- ひも理論も南部論文集に収録
- 南部研に菅原が加入
- 躍進の10年
- 米市民権を取得

第7章 ひも理論VS量子色力学
- 「クォークの閉じ込め」解いた南部理論
- 巨大加速器でクォークに現実味
- クォークが見せた漸近的自由性
- わが子の対決を楽しんだ南部
- 「クォークの閉じ込め」はひも理論で説明できる
- 大学院生のポリツァーが謎を解明
- 漸近的自由性の背景に色荷の偏極
- ひも理論は超弦理論に進化
- 「陽ちゃん、お茶」
- 智恵子はイリノイ州立短大の講師に
- 始まった受賞ラッシュ
- 「私たちは恋愛結婚です」
- 「お父さんはお休みで忙しい」
- 父と子の距離感
- 小柴の文化勲章祝いに送ったファックス
- 物理学科のチェアマンに
- 益川と小林が「クォークは最低6種類」
- 「11月革命」でチャームクォーク出現
- 菅原と南部が手をさしのべた
- 素粒子界のヨハネ

第8章 「予言者」南部とノーベル賞
- 先見性と難解さが予言者の条件
- アハラノフ・ボーム効果に挑む
- 南部と江口の幻の共同論文?
- 菅本の見た南部陽一郎
- 江口の愛弟子の大栗が南部研に
- 悲しみのできごと
- 70歳で定年、シカゴ大の名誉教授に
- 阪大の招へい教授に
- 1980年代にも続いた賞賛
- 南部を助けた仲間たち
- 南部に暖かい風が吹いてきた
- ヒッグス粒子狙う加速器稼働が追い風に
- 益川、小林と共同受賞
- 「南部の受賞は遅すぎた」
- ノーベル賞授賞式は欠席
- 益川らの受賞の影に菅原の尽力

第9章 福井新聞記者が見た南部の素顔
- 取材に応じた南部の地元愛
- 南部が教えてくれた「授賞式欠席」
- 南部が語らなかったもの
- 南部に「自発的対称性の破れとは」と問うてみた

第10章 生涯、現役の科学者
- 90歳を超えて語った流体力学と宇宙
- 新婚時に暮らした豊中市に戻った南部夫妻
- 南部を遇した門下生
- 数式で考える人
- 腎臓弱り人工透析に
- 抱き続けた流体力学への好奇心
- 狙いはボーデの法則の証明
- 「超対称性粒子は存在しない」
- 豊中市の名誉市民に
- 湯川黒板の披露式に出席
- 「私の一目ぼれでございました」
- 大阪市大が南部研究所を設立

年表 南部陽一郎の生涯
エピローグ
さくいん

究極理論への道: 力・時空・物質の起源を求めて:米谷 民明

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究極理論への道: 力・時空・物質の起源を求めて:米谷 民明

内容紹介:
一般相対性理論と量子論を統合する量子重力理論を目指し、宇宙の根源の解明に迫る〈超弦理論〉。一次元の広がりをもつ「弦」の描像は、現代物理学・素粒子論からいかに生まれたのか? 閉じた弦と重力の関係を明らかにした著者が理論の誕生、困難、復活と発展の歴史を、自らの経験やエピソードを交えて描き出す。

■推薦のことば――橋本幸士
感動を覚えた。弦理論(超ひも理論)が重力を自動的に記述することを世界で初めて発見した米谷さんの功績により、その理論は宇宙の全てを支配する統一理論の候補となり世界中の研究者を魅了している。なぜ米谷さんにその大発見が可能だったのか。本書は米谷さんの思考体系を微細に入って辿らせてくれ、その深い思考が大発見につながる様子を追体験させてくれる。量子重力理論の研究を目指すすべての人にバイブルとして薦めたい。

2021年10月18日刊行、302ページ

著者:
米谷 民明(よねや たみあき): ウィキペディア
1947年生まれ。北海道大学理学部卒。東京大学大学院総合文化研究科(広域科学専攻)教授を経て、放送大学教授。東京大学名誉教授。素粒子論研究、とくに弦理論の分野の一線で世界的に活躍する。

米谷先生の著書: Amazonで検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で469冊目。

本書が刊行されたことを知ったとき、かなり驚いた。著者の米谷先生が世界で初めて重力が超弦理論の閉弦に対応していることは「大栗先生の超弦理論入門:大栗博司」で読んで知っていたからだ。米谷先生が大学院生のときだと書かれていた。ただ、大栗先生の本のようにページ数を抑えた科学教養書だとその詳細、米谷先生がどのような経緯を経てそれを発見したかがわからない。

入門者向けにだいぶ詳しく書かれた「エレガントな宇宙:ブライアン・グリーン」にも、超弦理論が重力を含む理論であることが195ページに書かれているが、本文ではシェルクとシュワルツによる発見だと書かれていて、543ページに脚注として「米谷民明も、またコルクト・ブラダッキとマーチン・ハルパーンも、別々に同様な示唆を行っている。」と書かれている。そして発見の詳細については書かれていない。ウィキペディアにの米谷民明の項目には「1970年代にジョエル・シェルク、ジョン・シュワルツとは独立にひも理論がアインシュタインの一般相対性理論から導かれる重力子と一致する性質の粒子の存在を含むことを示した。」と書かれている。

だから、弦理論の創成期から現在に至るまで、第一線で研究されている米谷先生のような方が数式を控えめにし、日本語だけで解説する本はとてもありがたいのである。ご自身の研究や発見だけでなく、1970年代以降の超弦理論の発展史をカバーしている本なのだ。「初級講座弦理論 基礎編発展編:B.ツヴィーバッハ」や「ストリング理論:J.ポルチンスキー」には発展史のようなことは書かれていない。だから本書は貴重でありがたいのである。ちなみに本書では超弦理論のことを超ひも理論、または弦理論と表現している。

文章で解説したとはいえ、「エレガントな宇宙:ブライアン・グリーン」を読むような中級レベルの一般読者、そして物理学科で学ぶ学部生が読むことができるようなレベルなのだろうか?それが気がかりだった。

1 門出:素粒子論の道
2 弦理論への道
3 統一量子重力理論への道
4 その後の発展,未来への道

第1章「素粒子論の道」では特殊相対性理論以降、20世紀の現代物理学の概要が解説される。量子力学、ディラックの相対論的量子力学、ゲージ原理、質量生成機構など。このあたりは専門書で既習だったため、難なく読むことができた。おそらく一般の方でもついていけるレベルだと思う。

第2章は「弦理論への道」である。いわゆる弦理論前史から始まる。重力の繰り込みが不可能であること、ゲージ理論の対称性を拡張した超対称性重力理論でも一般相対論と素粒子のゲージ理論の矛盾が解決しなかったことが解説される。そして弦理論誕生への道筋を開いたのがハイゼンベルクのS行列理論だ。ヴェネツィアノ公式の発見、南部、サスキンド、ニールセンによる弦の発見、超対称化によるR弦とNS弦と進み、超弦理論が誕生する。この章では弦理論の時空の次元数(専門的には臨界次元という)が26、超弦理論の時空の次元数が10となることが計算式で示されている。ここまでが1974年頃までの発展史だ。この章もなんとか理解できる範囲だった。

第3章の「統一量子重力理論への道」は、米谷先生が北大の大学院に入学した頃の話から始まる。この章では1970年代前半の進展を振り返り、どのような可能性、予想ができるかをまず論じている。そして米谷先生が1973年から弦から重力が導けることについて研究を始めたことが述べられ、どのように進めたか、その後の反響、シャークとシュワルツによる同様研究についての解説が160ページから179ページにわたって解説されている。そしてこの章の終わりまでは解決されていない問題の解説にあてられている。かなり難しい内容なのと、実際の数式で理解しないと何とも言えないため、未消化だったが筋書は追うことができた。この章を読み、本書は一般の人には理解できるはずがない本だと気がついた。いくら丁寧に文章で解説しているとはいえ、専門的な概念の理解なしには歯が立たないのは当然のことである。

第4章「その後の発展,未来への道」ではその後の発展史が解説される。主なものはD-ブレーン、Dp-ブレーン、T双対変換とS双対変換、5タイプの超弦理論、M理論、ブラックホールのエントロピー、AdS/CFTなどである。この章はとても難しく、おおまかに筋書を追えたにすぎなかった。


このように時系列に沿って読むことで、超弦理論を構成する概念や実体がどのような順序で発見されてきたかがわかるようになる。教科書は現代の視点から理解しやすいように、時系列から切り離して解説するからどのように研究が進んだかは見えにくい。

あと個人的には「ヴィジュアル複素解析:T.ニーダム」で詳しく解説されていた複素平面上の「メビウス変換」が超弦理論でも役割を果たしていることを知ったのが意外だった。このような変換が現実の物理に使われることはないと思っていたからだ。

また本書は、超弦理論を無批判に信奉し、研究成果を紹介するだけでなく、検証可能性(反証可能性)やランドスケープ問題など、超弦理論に対する批判についても詳しく解説している。このてんはとても好感がもてた。本文の要所要所に宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」をはじめ、和洋さまざまな作品、小説家、科学者、哲学者の言葉が引用され、本書を味わい深いものにしている。そして全体を通して米谷先生の暖かいお人柄と、研究に対する情熱が伝わってくるのだ。

本書を読み、僕は「エレガントな宇宙:ブライアン・グリーン」を読み直してみたくなった。2回目なので今度は英語版で読んでみたい。

橋本幸士先生が推薦のことばに「本書は米谷さんの思考体系を微細に入って辿らせてくれ、その深い思考が大発見につながる様子を追体験させてくれる。量子重力理論の研究を目指すすべての人にバイブルとして薦めたい。」とお書きになっているように、将来研究者になる方にとっての本なのかもしれない。しかし、全体の流れは僕のような物理学に興味を持つアマチュアでも理解でき感動を与えてくれる。「エレガントな宇宙」を読み終えた一般の方、「初級講座弦理論」で学ぼうとしている方は、ぜひお読みになってほしい。


関連記事:

大栗先生の超弦理論入門:大栗博司
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/75dfba6307d01a5d522d174ea3e13863

超ひも理論をパパに習ってみた: 橋本幸士
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/05d22e7299a4b30b24efb05cf01176a2

エレガントな宇宙:ブライアン・グリーン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/404c24b68f57609900bc3d7a030333d5

初級講座弦理論 基礎編:B.ツヴィーバッハ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6da996449afaf50f8cf0f4f84881da0e

初級講座弦理論 発展編:B.ツヴィーバッハ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ff65ac32a5a9b397d8833a7ca155cb68

販売状況:日本語の超弦理論・M理論の教科書
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/61e4dd2232d54cf4a5f3da1aeb83975a


 

 


究極理論への道: 力・時空・物質の起源を求めて:米谷 民明


はじめに

1 門出:素粒子論の道
 1. 1 ニュートンの言葉:「未知なる真理の大海」
 1. 2 特殊相対性理論の時間空間とエネルギー運動量
 1. 3 静止エネルギーが何故あるのか
 1. 4 量子論:光の量子仮説=波でもあり粒子でもある
 1. 5 電子も粒子であり波でもある
 1. 6 物理量を無限に大きい碁盤を使って表す
 1. 7 ハイゼンベルクとアインシュタイン
 1. 8 量子論のまとめ
 1. 9 素粒子論とゲージ場:額縁に絵をどう描くか
 1. 10 重力と素粒子論:ミクロとマクロの究極的な結びつき
 1. 11 ディラック方程式:クォークや電子はどう記述するのか
 1. 12 電荷の保存:時空間反転:反粒子
 1. 13 ボース粒子とフェルミ粒子
 1. 14 ゲージ原理とはどんなものか:ワイルのアイデア
 1. 15 量子力学によるゲージ原理の復活
 1. 16 質量生成機構:ヒッグス機構vs.カラーの閉じ込め
 1. 17 一般相対性理論で電磁ポテンシャルに相当するのは何か

2 弦理論への道
 2. 1 紫外破綻の困難と繰り込み理論
 2. 2 一般相対性理論と繰り込み不可能性
 2. 3 量子的紫外問題と対称性
 2. 4 「大理石と木」:アインシュタインの挫折
 2. 5 超重力理論:超対称性は紫外発散の解消に十分ではない
 2. 6 改めて対称性とは何か
 2. 7 広がった素粒子像の困難さと先駆者たち
 2. 8 1953 年理論物理学国際会議:湯川,パイス,坂田,ファインマン
 2. 9 弦理論の祖父:ディラックの予感
 2. 10 ハイゼンベルクとS行列理論の発展
 2. 11 レッジェ極理論
 2. 12 弦理論の源流:チャンネル双対性とハドロンデモクラシー
 2. 13 ヴェネツィアノ公式の発見
 2. 14 弦へ:南部,サスキンド,ニールセン
 2. 15 弦の世界膜を支配する対称性原理は何か
 2. 16 共形対称性:弦の世界を見るための顕微鏡
 2. 17 共形対称性から何が帰結するか
 2. 18 世界膜の超対称化:R弦とNS弦
 2. 19 残る問題:タキオンと臨界次元
 2. 20 補足:臨界次元の起源は何か
 2. 21 予感:双対弦理論にはさらに深い何かが隠れている

3 統一量子重力理論への道
 3. 1 双対弦理論との出会い
 3. 2 私の研究の出発点
 3. 3 30 年後の初対面,そして2人の数学者の期せずした〈共鳴〉
 3. 4 新たな問題意識:弦理論と場の理論の関係,問題(H)
 3. 5 予感I,問題(A):ゲージ理論の拡張としての開いた弦
 3. 6 予感II:問題(B)と1つの挫折
 3. 7 予感III:弦から重力だってー!
 3. 8 恐れ:1つの二律背反,新たな双対性なのか
 3. 9 続くいくつかの仕事,そして反響(国内)
 3. 10 海の向こうから
 3. 11 シャークシュワルツ
 3. 12 時空超対称性とタキオン問題の解決
 3. 13 間暇:非摂動的QCDとカラー電気力線の弦
 3. 14 問題(H)と電磁双対性
 3. 15 閉じ込め証明の悪夢,そしてCERNへ
 3. 16 復活へ:共形異常,カイラル異常と弦理論

4 その後の発展,未来への道
 4. 1 共形対称性の深化:究極的ブートストラップ
 4. 2 弦の場の理論の進展と背景独立性
 4. 3 共形対称性の時空的意味についての考察
 4. 4 D-ブレーンとは何か
 4. 5 T 双対変換とS双対変換
 4. 6 93 年サンタバーバラワークショップとブラックホール
 4. 7 S 双対性とM理論
 4. 8 ブラックホールのエントロピーとD-ブレーン
 4. 9 新しい行列模型と問題(H),そして時空不確定性
 4. 10 AdS/CFT I :98年サンタバーバラ
 4. 11 AdS/CFT II :応用とさらなる発展と意義
 4. 12 弦理論の〈風景〉:新たなコペルニクス的転回
 4. 13 非摂動的弦理論の問題と未来への夢

おわりに
参考文献
索 引

映画『21世紀の資本(2019)』

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コロナ禍の影響で、貧困と経済格差の問題がますます深刻になっている。2014年12月にこの問題を扱った「21世紀の資本:トマ・ピケティ」(Kindle版)の日本語版が刊行され、728ページもあるこの分厚い経済学所がベストセラーになった。読みたいと思いつつ7年が経とうとしているが、2019年に映画化されていることを知り、まず映画で入門することにした。本も近いうちに読んでみたい。

経済学書を読むのは本当に久しぶりで、1980年にベストセラーになったM&Rフリードマンという経済学者が書いた「選択の自由―自立社会への挑戦」(新装版)(英語版)(英語Kindle版)を予備校生の頃に読んで以来だ。

この本は経済における自由の重要性をわかりやすく訴え、小さな政府、規制緩和といった政策の実現をとおして現代世界を変えた「革命の書」だ。アメリカ、ヨーロッパだけでなく日本もこの自由主義経済の理念を採用した。この本の主張はふたつ。ひとつは徹底した市場原理至上主義(新自由主義)、もうひとつは政府による通貨管理の重要性(マネタリズム)であり、イギリスのサッチャリズム、アメリカのレーガノミクスの種本とも言われている。

その結果40年後の現在はどうなっただろうか?それが「21世紀の資本」で解説されている貧困と経済格差なのである。市場原理至上主義は労働組合、労働者階級の力を弱め、低賃金・長時間労働をもたらしたからだ。また金融の規制緩和は大企業と資本家階級をますます富ませることになった。

「21世紀の資本」は過去300年にわたり、30か国の経済の状況を丹念に調べ上げ、富の集中と分配がどのように変遷したかを具体的なデータで示し、過去に極めて深刻な貧富の差があったこと、そしていったんは中産階級が増えて改善されたこと、現在はその問題が急速に進みつつあることを示し、その進行を止めるために私たちがどのような選択をすべきかということを提唱している。経済学書で、これほど長い期間にわたる調査・分析をし、学問的に実証した本はこれまでなかった。本書の説得力はデータによる裏付けがされていることにある。


映画を観てから本を読むほうがよさそうだ。分厚い本は無理という方は、映画だけでもご覧いただきたい。以下は公式ホームページからの引用である。

『ウォール街』『プライドと偏見』『レ・ミゼラブル』『ザ・シンプソンズ』『エリジウム』…。
700ページを超える原作本とは異なり、映画版『21世紀の資本』は名作映画や小説などをふんだんに使い、過去300年に渡る世界各国の歴史を”資本”の観点から切り取ってみせる。世の中が成熟すると資本主義は平等になる、というクズネッツの定説をひっくり返した原作者トマ・ピケティは、「現代は第一次世界大戦前の不平等な時代に戻ってしまっている」と警鐘を鳴らす。

日本でも大きな社会問題となっている「格差社会」の真相を分かりやすく描いた、唯一無二の”学べる”映画。ピケティ自身が映画の監修・出演をこなし、世界中の著名な政治・経済学者とともに本で実証した資本主義社会の諸問題を映像で解説。世の中に『渦巻く格差社会への不満や政治不信。誰も正しく教えてくれなかった本当の答えがこの映画にはある。ピケティとの共同作業で、ニュージーランドを代表を代表するヒット監督ジャスティン・ペンバートンが描く、目からうろこの驚きに満ちた103分。昭和の高度経済成長や平成のリーマン・ショックは何だったのか?21世紀を生きる日本人必見の経済ムービーが登場。

映画公式ホームページ:
https://21shihonn.com/

予告編(YouTube動画): YouTubeで再生


21世紀の資本: Prime Videoで再生 DVDを購入


映画のセリフのひとつひとつが心に突き刺ささった。つまり、貧困や経済格差は日本だけの問題ではないことがわかるのだ。

本のほうはフランス語版(2013年8月)、英語版(2014年4月)、日本語版(2014年12月)の順に刊行されたことに注意していただきたい。第二次安倍政権が発足したのは2012年、アベノミクス、モリカケ桜は2013年以後のこと、非常識な額の発注・中抜きが行われたり、公文書改ざんが行われ始めたのも第二次安倍政権からである。この期間に貧困、経済格差はますます進行していった。非正規労働は小泉政権から拡大し、安倍政権からその度合いをますます強めていった。つまり、日本そして世界の貧困、経済格差は本や映画で示されているよりもさらに進行しているのだ。

本や映画では富の集中により社会的権力が強まると主張している。日本では政権が司法、行政、メディア、企業を支配し独裁政治が行われるようになってしまったが、それは世界的に同じなのだ。アメリカでは幸い、ドナルド・トランプを民主的な選挙で引きずり下ろすことができたが、社会全体の富の集中の勢いは止めることができていない。

「成長なくして分配なし」は「経済成長したら賃金を上げる」ということだが、本当にそうなるのだろうか?本や映画にでてくる「トリクルダウン」というのがこれのことだ。富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が浸透する、という考え方。 富裕層や大企業を優遇する政策をとって経済活動を活性化させれば、富が低所得者層に向かって流れ落ち、国民全体の利益になるということ。アベノミクスでは「シャンパンタワー」に例えて説明されていた。

昨年のノーベル経済学賞は「最低賃金の引上げが雇用創出につながる」ことを実証した経済学者に対して授賞されたことを思い出した。

ノーベル経済学賞を受賞したカードによる最低賃金の研究をどこよりもわかりやすく解説!
https://diamond.jp/articles/-/284535

しかし、「21世紀の資本」では富の集中、増大は雇用とは無関係だと解説している。雇用が創出され貧困者の生活が改善したとしても、それは富や財産を独占している一部の金持ち、大企業の不労所得(金利による利益、証券や土地の売買による利益)のほうがはるかに大きいからだ。

富の集中と格差拡大は、貧困層の不満を増大させ支配階級への攻撃よりもむしろヘイトや差別などの社会問題を引き起こす。そのように思いをめぐらせると、

- 公的年金や生活保護支給の問題など社会保障が抱える問題
- ヤングケアラーの増加、子供の貧困化
- 少子高齢化、生涯未婚率の増加
- 自殺率の増加、失業者の増加、低賃金の非正規労働の拡大
- 裁量労働制導入による残業代支払いの廃止(実質的なサービス残業)
- 多重下請けによる中抜き問題
- 政権による司法、行政、企業、メディアの支配、
- 特定企業への優遇措置、政権による公職選挙法違反
- 公文書、経済の基幹統計データの改ざん、隠蔽、消去による嘘の経済成長の公表
- さまざまな教育問題(共通テストの問題の品質劣化や学習指導要領の悪化(特に英語、数学、理科)、共通テストへの特定民間事業者への参入)
- 国公立大学の入学金、授業料の値上げ、教育費の上昇と貧困の連鎖
- 大学への助成金削減、研究者の有期雇用問題、科学の軽視
- 社会保障削減、高齢者医療費の値上げ、保健所や職員の削減、重労働低賃金による看護師、介護士の不足
- 消費税増税、法人税の減税
- 外国人技能実習生への暴力や劣悪な待遇、入管職員による外国人への暴力
- あらゆる差別と分断の問題(女性蔑視、LGBT、障碍者、国籍、人種、肌の色、宗教、経済力、高齢者、学力や知能、家柄や出自、容貌)

など、報道されているありとあらゆる問題の根っこが同じだということがよくわかる。私たちはたまたま日本に住んでいるから国内のことばかり目につくが、世界のどこでも似たり寄ったりなのだ。

政権交代するだけで、これらの問題は解決するのだろうか?また政権交代のほかに私たちができることはあるのだろうか?格差を是正して社会を持続可能なものに変えていくためには、今後どのような選択をすべきなのだろうか?「21世紀の資本」は、そのための案を私たちに提示し、この問題に正面から取り組む必要性を説いているのだ。現代の若者には無関心、変化を嫌う現状を容認する人が多いと聞く。しかし、現状維持は不可能であることが「21世紀の資本」が教えてくれることである。

ネタバレになるから詳しく書かないが、格差の拡大による貧困者の不満を支配階級がどのように利用したか、その結果、社会がどのように変化したか、戦争が貧困問題、経済格差に何をもたらしたかなどについても、歴史をひも解きながら「21世紀の資本」で解説されている。その意味では日本も例外ではなかった。


関連動画:

ピケティ氏は日本語版の本が刊行された2015年に来日している。そのときに行われた記者会見の動画が公開されている。(日本語通訳または日本語字幕あり)これらの動画はとてもためになる。ぜひご覧いただきたい。(特に2つめの動画)日本記者クラブでの会見と東京大学での講義は同じ日に行われている。

日本語字幕あり
若者に有利な税制に 「21世紀の資本」のピケティ氏: YouTubeで再生


日本語通訳あり
トマ・ピケティ 仏経済学者 『21世紀の資本』 2015.1.31: YouTubeで再生


日本語字幕あり
Thomas Piketty: New thoughts on capital in the twenty-first century: YouTubeで再生


2014年度「トマ・ピケティ教授東大講義「21世紀の資本」(日本語字幕あり)」(開く


「21世紀の資本」の関連動画: YouTubeで検索


関連書籍:

本は日本語、英語、フランス語版のどれもが日本のアマゾンサイトから紙の本とKindle版が購入できる。Kindleで読めるフランス語書籍は少ないから貴重だ。また英語版とフランス語版はAudibleから聴くことができる。

21世紀の資本:トマ・ピケティ」(Kindle版
Capital in the Twenty-First Century: Thomas Piketty」(Kindle版)(Audible
Le Capital au XXIe siècle: Thomas Piketty」(Kindle版)(Audible

  

内容:
資本収益率が産出と所得の成長率を上回るとき、資本主義は自動的に、恣意的で持続不可能な格差を生み出す。本書の唯一の目的は、過去からいくつか将来に対する慎ましい鍵を引き出すことだ。

著者について:
トマ・ピケティ(Thomas Piketty): ウィキペディアの紹介記事
ホームページ: http://piketty.pse.ens.fr/en/
1971年、フランス・クリシー生まれ。格差研究における世界の第一人者。数学モデル偏重の経済学に背を向けて、租税データに基づく世界的な所得分布と資産分布のデータベース構築に尽力し、所得と資産がトップ1%にますます集中している状況を明確に指摘。それをまとめた2014年の大著「21世紀の資本」が世界的ベストセラーとなった。現在、パリ経済学院教授。社会科学高等研究院(EHESS)経済学教授。EHESSおよびロンドン経済学校(LSE)で博士号を取得後、マサチューセッツ工科大学(MIT)で教鞭を執る。2000年からEHESS教授、2007年からパリ経済学校教授。多数の論文を the Quarterly Journal of Economics, the Journal of Political Economy, the American Economic Review, the Review of Economic Studies で発表。著書も多数。経済発展と所得分配の相互作用について、主要な歴史的、理論的研究を成し遂げた。特に、国民所得に占めるトップ層のシェアの長期的動向についての近年の研究を先導している。



「21世紀の資本」関連の書籍: 書籍版を検索 Kindle版を検索


 

 

祝:トータル閲覧数2000万ページ達成

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2005年2月に始めたこのブログのトータル閲覧数が2000万ページ(PV: Page View)に達した。



ページ閲覧数累計のほうも2016年10月17日(たまたま僕の誕生日)に1000万PVをクリアしている。(PVはPage Viewの略)この日から5年と114日経っている。

700万人をクリアしたのが2021年8月13日。今日まで161日が経過しているので、この期間は1日あたり平均1449人の方にアクセスしていただいたことになる。

「アクセス」の欄の閲覧 3,322PV、訪問者 1,229IPは昨日1日のぶんである。また日別、週別のランキング193位と171位はgooブログ全体(昨日の段階で3,089,352ブログ)の中での順位である。308万ブログあるといっても、更新されていないブログがたくさんあることに注意したい。

これまでのアクセス数とページ閲覧数の日平均は次のように推移していた。

累計0~40万アクセスの期間(2005年~2010年):日平均191アクセス、ページ閲覧数504page
累計40万~50万アクセスの期間(2010年~2011年):日平均800アクセス、ページ閲覧数2013page
累計50万~100万アクセスの期間(2011年~2012年):日平均973アクセス、ページ閲覧数3107page
累計100万~200万アクセスの期間(2012年~2014年):日平均1525アクセス、ページ閲覧数4266page
累計200万~300万アクセスの期間(2014年~2016年):日平均1502アクセス、ページ閲覧数5012page
累計300万~335万アクセスの期間(2016年~2016年):日平均1774アクセス、ページ閲覧数4825page
累計335万~400万アクセスの期間(2016年~2017年):日平均1781アクセス、ページ閲覧数5341page
累計400万~500万アクセスの期間(2017年~2018年):日平均2504アクセス、ページ閲覧数7032page
累計500万~600万アクセスの期間(2018年~2020年):日平均2276アクセス、ページ閲覧数5596page
累計600万~700万アクセスの期間(2020年~2021年):日平均1797アクセス、ページ閲覧数4079page
累計700万~723万アクセスの期間(2021年~昨日):日平均1449アクセス、ページ閲覧数3267page



訪問者数やページ閲覧数が減ったのは、次のような外的要因の相乗効果によるものと考えている。

- Google検索のアルゴリズム変更により、ブログの表示順位が上位に入りにくくなった。
- 科学系、教育系YouTuberに多くの読者が流れた。
- 生活環境の変化により、週末しか趣味の活動に時間を割けなくなった。
- 国の理科・数学教育方針の悪化、大学への研究費支援の削減により、物理学や数学に興味をもつ人が減ってしまった。


ブログの知名度を押し上げた「事件」は過去2回あったことが「TopHatenarの分析のページ」でわかる。「200冊の理数系書籍を読んで得られたこと」、「NHKスペシャル「神の数式」の感想」を多くの方に読んでいただいたことで知名度が上がった。(昨年TopHatenarのサイトは閉鎖された。この画像は数年前のものである。)

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今のペースを維持できれば次の目標の800万人に達するのは529日後、つまり2023年7月22日前後、ページ閲覧数が3000万ページに達するのは3061日後の2030年6月27日前後になると思われる。

日本人がノーベル物理学賞をとったり、重力波検出のような大成果があっても世の中の人の関心はせいぜい1~2週間ほどしか続かないことがこの10年の動きを見て感じたことだ。(それは一般の事件のニュースでも同じこと。)

アクセス数を伸ばすのを第一に考えのではなく、自分が楽しめて読者の方にも参考になる記事を書くというのがブログの目的だ。だから今のペースを維持するというのが自然である。その結果、運よくアクセス数がアップするというのならば嬉しいことだ。


ペットの話題や料理の話題、芸能人ネタなど、より一般的な事柄を記事にすれば、アクセス数は格段にアップする。反対に物理学や数学の記事で、数式を使った専門的な記事であればあるほど、理解できる読者は少なくなりアクセス数は減る。

物理ブログ、科学ブログとしての価値はアクセス数やランキングでは測れないものだと僕は思っている。これからも記事に対する一般の方の関心事と内容の専門性のバランス感覚を大切にしていきたい。


これからも当ブログをよろしくお願いいたします。


参考リンク:

こよみの計算 > 日にち・曜日(CASIO高精度計算サイト)
http://keisan.casio.jp/has10/Menu.cgi?path=01200000%2e%82%b1%82%e6%82%dd%82%cc%8cv%8eZ%2f02000000%2e%93%fa%82%c9%82%bf%81E%97j%93%fa



 

 

場の量子論(II)-ファインマン・グラフとくりこみを中心にして(量子力学選書):坂本眞人

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場の量子論(II)-ファインマン・グラフとくりこみを中心にして(量子力学選書):坂本眞人」(Kindle版)(詳細

内容紹介:
好評既刊「場の量子論―不変性と自由場を中心にして―」の続刊として、本書ではファインマン・グラフを駆使しつつ、場の量子論において相互作用をどのように取り扱うかをできる限りわかり易く説明し、くりこみなどの理論的枠組みを理解してもらうよう努めた。論理の飛躍をなくして、議論の流れを一歩一歩着実に追えるよう、他書では省かれているようなことがらにも紙面を割き、特に、すべての式を読者が確実に導けるよう導出過程を省略することなく丁寧に解説した。さらに重要な式に対してはその物理的な意味を詳しく述べた。
特徴として、初学者に少しでも門戸を広げられるよう、詳しい式の導出や説明を極力省かない方針とした。特に、得られた式の物理的意味の理解に時間が費やせるように試みた。
また、本文中には、読者のつまずきやすい箇所でのコメントに加え、式導出や証明、役に立つ公式や考え方のアドバイスなどの注釈を設けた。さらに、“check”と題した問題も設けられており、意欲のある読者は是非チャレンジしてもらいたい。その解答は、裳華房ウェブページ上で公開している。

2020年9月25日刊行、592ページ。

著者について:
坂本眞人(さかもと まこと)
HP: http://www2.kobe-u.ac.jp/~dragon/
1985年3月九州大学大学院理学研究科博士後期課程修了。及び理学博士の学位取得。4月日本学術振興会特別研究員。所属機関:九州大学理学部。1986年4月日本学術振興会奨励研究員。所属機関:九州大学理学部(1986年4月~1987年3月)。京都大学基礎物理学研究所(1987年4月~1987年3月)。1988年4月京都大学基礎物理学研究所研究員。5月神戸大学理学部物理学科助手。ニールスボーア研究所文部省在外研究員(1992年3月~1993年4月)。2007年4月神戸大学大学院理学研究科物理学専攻助教授。


理数系書籍のレビュー記事は本書で470冊目。

昨年4月に書いた1冊目の「場の量子論: 不変性と自由場を中心にして(量子力学選書):坂本眞人」の紹介記事の最後のほうで「1冊他の本を読んでから、2分冊目を読もうと思っている。」と書いていた。しかし、他の本への寄り道は1冊ではなく14冊になった。僕の読書予定はまったくあてにならない。

先日(といっても昨年末だが)「早すぎた男 南部陽一郎物語 時代は彼に追いついたか:中嶋 彰」を読んだことで、素粒子物理学への興味が再燃し、重い腰をあげて場の量子論2冊目の読書を再開することができた。600ページ近くあるので、読破するのは相当の気合いと継続力が求められる。

第2冊の章立ては次の通り。

1.場の量子論への招待 -自然法則を記述する基本言語-
2.散乱行列と漸近場
3.スペクトル表示
4.散乱行列の一般的性質とLSZ簡約公式
5.散乱断面積
6.ガウス積分とフレネル積分
7.経路積分 -量子力学-
8.経路積分 -場の量子論-
9.摂動論におけるウィックの定理
10.摂動計算とファインマン・グラフ
11.ファインマン則
12.生成汎関数と連結グリーン関数
13.有効作用と有効ポテンシャル
14.対称性の自発的破れ
15.対称性の自発的破れから見た標準模型
16.くりこみ
17.裸の量とくりこまれた量
18.くりこみ条件
19.1 ループのくりこみ
20.2 ループのくりこみ
21.正則化
22.くりこみ可能性

各章の概要を本書から引用しておこう。

1.場の量子論への招待 -自然法則を記述する基本言語-

場の量子論は、相対論的不変性と量子力学が成り立っている世界(それは我々が住んでいる宇宙だ!)を記述する理論体系である。このことは、場の量子論が素粒子の世界を記述するだけでなく、自然法則を記述する基本言語であることを強く示唆する。読者に、この推測が正しいかどうかを判断してもらうことが、本書の目的の1つである。この章では、本書全体の流れをつかんでもらうために、場の量子論とはどのような理論体系なのかを概観する。

2.散乱行列と漸近場

これから第5章までは、散乱問題にまつわる話題について考察する。散乱問題は、相互作用をもつ場の量子論のとっかかりとしては申し分のない題材だ。なぜなら、散乱前の始状態と散乱後の終状態には漸近場としての自由粒子が用意できるので、これまで学んできた自由場の知識を活用できるからだ。本章では、相互作用場と漸近場の関係を明らかにし、相互作用場は1粒子の生成・消滅だけでなく、多粒子の生成・消滅を引き起こす演算子であることを明らかにする。

3.スペクトル表示

前章では、相互作用場と漸近場の関係について議論した。この章では、相互作用をもつ場の量子論に対する一般的要請を述べて、2点グリーン関数に対するスペクトル表示を議論する。スペクトル表示は、グリーン関数の一般的性質を調べるための強力な道具の1つである。ここでは、スペクトル表示を用いて、2点グリーン関数から1粒子状態の寄与を取り出して、前章での漸近場との対応を明らかにする。

4.散乱行列の一般的性質とLSZ簡約公式

この章では、散乱行列の一般的性質を議論し、系のもつ対称性が散乱においてどのように保たれるのかを議論する。また、散乱行列とグリーン関数との関係を与えるLSZ簡約公式を導く、この公式から、散乱の情報はT積で与えられるグリーン関数にすべて含まれていることがわかる。最後に、散乱問題における、数学的諸問題、第2章で用いた漸近条件に対する数学的基礎付けについても議論する。

5.散乱断面積

前章で導いたLSZ簡約公式は、散乱行列とグリーン関数を結びつけるものだった。この章では、実験で直接測定される物理量として、素粒子散乱過程における断面積と不安定粒子の崩壊率の定義を与え、それらと散乱行列の関係を明らかにする。

6.ガウス積分とフレネル積分

次章で議論する経路積分表示は、文字通り積分によって記述されている。そこでは、ガウス積分、より正確にはフレネル積分が基本的な積分として重要な役割を担う。ここでは、ガウス積分とフレネル積分の公式、およびそれらの拡張についてまとめて議論しておく。

7.経路積分 -量子力学-

量子力学の定式化には、微分方程式を用いたシュレディンガー方程式とブラ・ケットを用いた演算子形式がよく用いられる。本章で、第3の量子化法 - 経路積分 - を紹介する。経路積分は、その名の通り、積分を使って取りうるすべての経路の和として定式化される。そこでは、非可換な量を用いた演算子形式と違って、可換な c数(あるいは反可換なグラスマン数)のみが使われる。そのため、有限自由度の量子力学系を取り扱う。次章では、それを無限自由度の場の量子論へ拡張する。

8.経路積分 -場の量子論-

場の量子論は、無限自由度の量子力学系と見なすことができる。この対応を用いて、前章で求めた量子力学系での経路積分表示を用いて場の量子論へ拡張する。得られた経路積分表示を用いて、ファインマン伝播関数の性質について詳しく考察する。また、運動方程式および保存則が、n点グリーン関数の中でどのような形で実現されているかを、経路積分の観点から明らかにする。最後に、有限温度の場の理論とユークリッド経路積分の間の密接な関係について紹介する。

9.摂動論におけるウィックの定理

この章では、前章で求めた経路積分表示を使ってグリーン関数に対する摂動論を展開し、摂動計算を行う際の基礎となるウィックの定理について説明する。

摂動論では、自由粒子の周りで展開を行う。つまり、摂動論が意味をみつためには、(自由)粒子による記述がよい近似で成り立っていることが前提となる。後の章でファインマン・グラフやファインマン則を学ぶが、それらは粒子描像を使って摂動計算を理解するためのものである。粒子描像が成り立たない系や非摂動論的効果が重要な系では、ここで行う摂動論は使えない。そのときは、摂動論を超えた手法が必要となる。

10.摂動計算とファインマン・グラフ

摂動計算に現れる摂動項は、ファインマン・グラフ(ファインマン・ダイアグラム、ファインマン図)とよばれる図形によって表すことができる。本章の目的は、具体的計算を通じてファインマン・グラフの修得を目指し、ファインマン・グラフの有用性を実感してもらうことである。

11.ファインマン則

これまでグリーン関数の摂動計算を通じて、ファインマン・グラフを導入した。ファインマン・グラフは、素粒子物理学を理解する上で欠かせない道具である。本章では、ファインマン・グラフと式との対応関係を、ファインマン則の形で定式化する。また、より実用的な運動量空間でのファインマン・グラフとファインマン則についても紹介する。

12.生成汎関数と連結グリーン関数

第10章で求めたグリーン関数は、すべての外線が連結しているグラフだけでなく、一般的に非連結なグラフも含んでいる。本章ではまず初めに、外場を導入してn点グリーン関数を生成する生成汎関数を導入する。次に、その生成汎関数から、連結グラフのみを含む連結グリーン関数とその生成汎関数が得られることを示す。

13.有効作用と有効ポテンシャル

前章では、連結グリーン関数に対する生成汎関数 W[J] を定義した。この章では、W[J] から、より重要な頂点関数に対する生成汎関数 Γ[φ] を導入する。 Γ[φ] は有効作用、あるいは量子作用積分とよばれ、出発点の(古典)作用積分 S[φ] に量子論的補正が加わったものである。

有効作用が重要な理由は、これまで出会ってきたグリーン関数の中でより基本的な構成要素であることに加え、第16章以降で議論するくりこみの中心的役割を果たすからである。また、理論の真空状態を決めるための有効ポテンシャルは有効作用から得られる。

14.対称性の自発的破れ

本章と次章で、これまでとは少し趣を変えて、対称性の自発的破れについて議論する。対称性の自発的破れは、作用積分あるいはハミルトニアンのもつ対称性を真空状態が破るときに起こる。身近な代表例は磁石だ。磁石を記述するハミルトニアンは回転対称性をもつが、磁石には特定の方向を向いたN極とS極が現れ回転対称性を破っている。本章では、対称性の自発的破れに対する理論的側面を明らかにし、連続的対称性の自発的破れに伴って、質量をもたない粒子があらわれること(南部-ゴールドストンの定理)を証明する。次章では、素粒子標準模型における対称性の自発的破れの役割を解説する。

15.対称性の自発的破れから見た標準模型

素粒子標準模型には、クォーク・レプトンおよびゲージ場の質量項が含まれていない。それなのになぜ、電子などのレプトンやクォークは質量をもっているのだろうか?また、電磁気力と弱い力はどちらもゲージ理論によって記述されているにもかかわらず、なぜ性質が大きく異なるのか?これらの疑問に対する答は、対称性の自発的破れにある。標準模型では、ヒッグス場が非自明な真空期待値をもつことによって、標準模型のもつ SU(2)xU(1)_Y ゲージ対称性が U(1)_em ゲージ対称性へと自発的に破れる。そのとき、クォーク・レプトンおよび W^± ボソンと Z^0 ボソンと呼ばれるゲージ場が質量を獲得する。つまり、我々の宇宙に存在する粒子は、対称性の自発的破れを通じて質量を獲得しているのである。また、質量をもたない光子は電磁気力の源、質量をもった W^± ボソンと Z^0 ボソンは弱い力の源となり、電磁気力と弱い力は異なる性質をもつことになる。本章では、対称性の自発的破れの観点から、素粒子標準模型を解説する。

16.くりこみ

ファインマン・グラフのループ運動量積分から発散が現れる。この発散は、4元運動量の大きさが無限大になる紫外領域から生じるので紫外発散とよばれる。この発散を、理論に含まれる質量、結合定数、場の規格化定数に取り込むことによって、物理量から発散を取り除くことができる。この操作をくりこみとよぶ。具体的な計算に進む前に、本章では、ファインマン・グラフを使って発散がどのような形で現れるかを概観して、くりこみに対するイメージをもってもらうことにする。

17.裸の量とくりこまれた量

前章で、ファインマン・グラフの発散は本質的に外線の数が E=2 と E=4 のグラフから現れることを見た。本章以降で、これらの発散を取り除くための処方箋、すなわち、くりこみについて順を追って説明する。本章では、発散を取り除くための摂動論的枠組みを説明した後に、裸の量とくりこまれた量の間の関係を明らかにする。特に、裸のグリーン関数/頂点関数とくりこまれたグリーン関数/頂点関数の関係を求め、連結グリーン関数の生成汎関数 W[J] と有効作用 Γ[φ] はくりこまれた量のみで与えられることを示す。また、物理量が有限な値をもつためには、頂点関数が有限にくりこめればよいことを説明する。

18.くりこみ条件

前章では、発散を取り除くために相殺項を導入した。これらの相殺項のパラメータは、頂点関数に現れる発散と相殺するように選ばれる。しかし、その決め方は一意的ではない。なぜなら、任意の有限量を相殺項のパラメータに加えても、発散の除去には影響がないからである。この相殺項の不定性をなくすために、くりこみ条件が課せられる。本章では、よく使われるくりおみ条件を紹介して、その物理的意味を議論する。

19.1 ループのくりこみ

この章では、くりこまれた摂動論を用いて、2点頂点関数と4点頂点関数に対する1ループ量子補正を計算する。くりこみ条件を課すことによって、1ループレベルでの相殺項を求め、2頂点関数と4頂点関数から発散が取り除かれることを具体的に確かめる。1ループのくりこみが具体的に計算できるようになれば、くりこみに対する理解が格段に進むはずだ。

20.2 ループのくりこみ

前章では、1ループのくりこみを行い、相殺項によって2点と4点頂点関数から紫外発散が取り除かれることを見た。本章では、2ループのくりこみを行う。2ループでは1ループにはなかった部分グラフの発散が現れる。しかし、1ループのくりこみが正しく実行されていれば、部分グラフの発散は1ループの相殺項によって自動的に取り除かれることがわかる。そして、、2ループのくりこまれた2点と4点頂点関数が紫外発散を含まない有限な関数となることを確かめる。そのとき、ファインマン・グラフがいかに有用なツールであるかを実感するだろう。

21.正則化

前章までの解析で、2点頂点関数と4頂点関数を2ループまで計算して、ループ運動量積分から現れる紫外発散を相殺項によって取り除けることがわかった。本章では、そこで行われた発散の取り扱いを数学的に正当化するため、発散積分を有限積分におきかえる正則化について議論する。また、ループ運動量積分を実行するための公式を導出して、1ループの2点と4点頂点関数における運動量積分を具体的に実行する。代表的なものとして、運動量切断正則化、パウリ-ヴィラス正則化および次元正則化を紹介する。

22.くりこみ可能性

これまでγφ^4理論のくりこみについて詳しく調べてきた。そこでは、ファインマン・グラフの紫外発散を相殺項によって取り除くことができた。本章ではγφ^4理論に対するくりこみの解析を、より一般の理論に対して行う。紫外発散を取り除くためにどのような相殺項が必要かを解析することによって、どのような相互作用をもつ理論がくりこみ可能、あるいはくりこみ不可能となるかをあきらかにする。また、くりこみ可能性の観点から、素粒子物理学における標準模型を眺めてみる。


1冊目と今回読んだ2冊目は、間違いなく現在日本語で読める場の量子論の教科書の中では最良のものだと思う。ファインマン・グラフとくりこみ理論について、これまで読んだどの教科書よりも計算方法が具体的で多くのページが割かれていた。とはいえ、僕の理解度は7割程度にとどまった。この2冊だけでなく裳華房の「量子力学選書」にはお勧めの本ばかり揃っている。


お買い求めになる方は、こちらからどうぞ。

場の量子論: 不変性と自由場を中心にして(量子力学選書):坂本眞人」(Kindle版)(詳細)(紹介記事
場の量子論(II)-ファインマン・グラフとくりこみを中心にして(量子力学選書):坂本眞人」(Kindle版)(詳細
 

1冊目が437ページであるのに対し、2冊目は592ページある。急がずじっくり取り組んでほしい。

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関連記事:

相対論的量子力学 (量子力学選書): 川村嘉春
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/df0329251637a27bc5545d435a598ab3

場の量子論: 不変性と自由場を中心にして(量子力学選書):坂本眞人
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f68fdd9b2a4e8ba2dfa88d4afcb3b716

場の量子論〈第1巻〉量子電磁力学:F.マンドル、G.ショー
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/08726ab931904f76d9c26ff56d219e53

場の量子論〈第2巻〉素粒子の相互作用:F.マンドル、G.ショー
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/95d908cd752af642964cbff7ea7f0301


関連記事2:

数式は苦手だけれども、本書の内容について少しでも理解したいと思われる方がいらっしゃったら、次のような科学教養書をお勧めする。上から易しい順に並べておいた。

「宇宙のすべてを支配する数式」をパパに習ってみた: 橋本幸士
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f63919605c4e5556fb0d12171ce458e8

強い力と弱い力:大栗博司
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/06c3fdc3ed4e0908c75e3d7f20dd7177

クォーク 第2版: 南部陽一郎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/966d315e9ed9b5391c93c1dd80f6028b

素粒子論はなぜわかりにくいのか:吉田伸夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bcbaebb9f2a77b1bd63e3928f6bd6e9f

「標準模型」の宇宙:ブルース・シューム
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/25297abb5d996b0c1e90b623a475d1aa


 

 

The Elegant Universe: Brian Greene(エレガントな宇宙: ブライアン・グリーン)

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The Elegant Universe: Brian Greene」(Kindle版)(Audible版

内容紹介:
この世界の物理法則はどのように決まったのか?宇宙はなぜ存在するのか?究極の問いに対する究極の答えを求めて、物理学者の探究はついに超ひも理論へとたどり着いた!

11次元のひもが宇宙をつくる!

この本は、物理学が味わった挫折からはじまる。

物理学の歴史のなかでも華々しい成果として語られることが多い、相対性理論と量子力学。現代物理学の柱とも言えるこの二つの理論が、実は両立しないということをご存じだろうか。この両方が完全に正しいということはあり得ないのである。これは、物理学が宇宙の本当の姿を映し出す根本の理論を手にしていないという証拠だった。

数多くの天才たちがこの対立を解消しようと試みたが、挫折した。そのため、物理学は半世紀もの間、この難問を抱えたまま前進しなければならなかったのである。

しかし、今や私たちには、超ひも理論がある。本書の主題である超ひも理論は、この物理学最大の難問を解決する。そればかりではない。宇宙の本当の姿を映し出し、万物を説明し尽くす根本の理論、究極の理論であると考えられている。

宇宙の本当の姿とは?第一線の研究者である筆者が、巧みな表現で描く超ひも理論の最新成果から、驚くべき宇宙の姿が明らかになる!

2010年10月11日刊行、448ページ。(ペーパーバック版)、初版は1999年。


著者について:
ブライアン・グリーン:
Twitter: @bgreene
ニューヨーク市生まれで、幼少の頃より数学の才能に秀でていた。12歳の頃には、高校レベルの数学をマスターし、コロンビア大学の数学教授の個人指導を受けていた(計算に強かったという)。

名門スタイヴェサント高校(英語版)を経て、1980年にハーバード大学に進み学士号を取得後、ローズ奨学生としてオックスフォード大学に留学、1987年に博士号を取得した。

コーネル大学教授を経て、1996年よりコロンビア大学物理学部教授を勤めている。同校では、Institute for Strings Cosmology and Astroparticle Physics(ISCAP)の共同ディレクターとして超弦理論の宇宙論への応用に関する研究プロジェクトを率いている。

学外での活動も精力的で、海外(25ヶ国)で講演したり、一般人向けの教育テレビ番組シリーズの進行役などを務めるなどマスメディアに頻繁に登場し、最先端の物理学を一般大衆にも分かり易く紹介する啓蒙活動を行っている。近著”The Elegant Universe(エレガントな宇宙)”は、この類の書籍としては珍しくベストセラーとなり、邦訳版も出版されている。2000年のアメリカ合衆国の映画『オーロラの彼方へ』では、物理学面の考証を担当している。


理数系書籍のレビュー記事は本書で471冊目。

先日「究極理論への道: 力・時空・物質の起源を求めて:米谷 民明」を読み、無性に超弦理論を復習したくなった。この本の後半が難しかったからだ。

初めて学ぶ人には「大栗先生の超弦理論入門:大栗博司」が良いのだが、すでに何度も読んでいる。

では、「エレガントな宇宙―超ひも理論がすべてを解明する:ブライアン・グリーン」にしてみようか?読んだのは9年前だから、だいぶ忘れてしまっている。この本は日本語で初めてとても詳しく超弦理論を紹介した本で2001年12月に刊行された。(注意: 超弦理論の入門書は1989年に1冊、1990年に上下巻として講談社ブルーバックスから刊行されている。)いちばん詳しいから復習にはちょうどよい。しかし、残念なことに絶版になってしまっている。大型書店にも並んでいないから、この素晴らしい本を知らない人は多いのではないだろうか。英語の勉強がてらに原書を読み、ついでに日本語版を紹介するのにはよいタイミングだと思った。

原書をKindleで読んでもよいのだが、一昨年以来仕事が忙しくなって読書の時間がとれない。そして一日中パソコンとにらめっこして仕事をしているから目が疲れていて、読みだすとすぐ疲れてしまう。

そこで思いついたのがAudible版だ。朗読であれば目を使わなくてすむ。そして英語のリスニングの力をつけるにもよい。移動中や外食中に聴くことができる。毎日夕食は外で食べているし、その後スーパーで買い物をして帰るから、1日あたり1時間以上聴くことができる。試したところすこぶるよかった。スマホのバッテリーもそれほど減らない。一度ダウンロードすればよいので、聴くたびにデータ通信量がかかるわけではない。PCでも聴くことができ「Audibleのサイト」からログインして聴けばよい。

Audibleは視覚障碍者の読書の機会を大幅に広げてくれるだけでなく、目が見える人にとっても利用価値が大きいことを実感した。

今回はこのようなわけで、本よりもAudibleの宣伝記事になった。本の内容を知りたい方は、この記事のいちばん下に載せておいた「日本語版詳細目次」を読んで想像していただきたい。


お買い求めになる方は、こちらからどうぞ。日本語版、英語版、フランス語版へリンクさせておく。日本語版は絶版なので、下記リンクのほかヤフオクやメルカリでも検索してみるとよい。(検索してみる: ヤフオク メルカリ

エレガントな宇宙―超ひも理論がすべてを解明する:ブライアン・グリーン」(紹介記事
The Elegant Universe: Brian Greene」(Kindle版)(Audible版
L'Univers élégant: Brian Greene」(Amazon.fr

  


関連動画:

2003年に超弦理論を紹介するテレビ番組が放送された。本の内容とはだいぶ違うが、超弦理論以前の物理学と超弦理論のあらましを美しいCGで紹介している。この番組のホストが、今回紹介した本の著者のブライアン・グリーン博士だ。そしてこの番組の醍醐味は、現代物理学の大御所の先生方が何人も出演されていることだ。

日本語音声、英語音声の動画を載せておく。英語音声のほうはリスニングの練習用にお使いいただきたい。

美しき大宇宙 統一理論への道(吹き替え版) 1-1: 再生リスト


The Elegant Universe 1/3 - Einstein's Dreams(英語音声+英語字幕、中国語字幕): 再生リスト



次の動画では、ブライアン・グリーン博士が、この本をベースにした超弦理論を解説している。(英語音声)

Brian Greene lecture "The elegant universe", 2000-09-22: YouTubeで再生



関連記事:

エレガントな宇宙:ブライアン・グリーン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/404c24b68f57609900bc3d7a030333d5

大栗先生の超弦理論入門:大栗博司
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/75dfba6307d01a5d522d174ea3e13863

超ひも理論をパパに習ってみた: 橋本幸士
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/05d22e7299a4b30b24efb05cf01176a2

究極理論への道: 力・時空・物質の起源を求めて:米谷 民明
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5e9c6159bb4d23f2f87e73cefa6c04bb

販売状況:日本語の超弦理論・M理論の教科書
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/61e4dd2232d54cf4a5f3da1aeb83975a


 

 


The Elegant Universe: Brian Greene」(Kindle版)(Audible版


Preface

Part I. Edge of Knowledge

ch. 1. Tied up with string

Part II. Dilemma of space, time, and the quanta

ch. 2. Space, time, and the eye of the beholder
ch. 3. Of warps and ripples
ch. 4. Microscopic weirdness
ch. 5. Need for a new theory: general relativity vs. quantum mechanics

Part III. Cosmic symphony

ch. 6. Nothing but music: the essentials of superstring theory
ch. 7. "Super" in superstrings
ch. 8. More dimensions than meet the eye
ch. 9. Smoking gun: experimental signatures

Part IV. String theory and the fabric of spacetime

ch. 10. Quantum geometry
ch. 11. Tearing the fabric of space
ch. 12. Beyond strings: in search of m-theory
ch. 13. Black holes: a string/m-theory perspective
ch. 14. Reflections on cosmoology

Part V. Unification in the twenty-first century

ch. 15. Prospects.

Notes
Glossary of Scientific Terms
References and Suggestions for Further Reading


日本語版詳細目次

はじめに

第1部:私たちはどこまで知っているのか

第1章:なぜひも理論は重要なのか
- 現代物理学をつくった3つの衝突
- 物質の根源について私たちが知っていること
- 世界には4種類の力がある
- ひも理論の基本概念
- ひも理論はすべてを説明し尽くす?
- ひも理論の現状

第2部:相対性理論 vs 量子力学

第2章:空間、時間と特殊相対性理論
- 特殊相対性理論は直感のウソをあばく
- 特殊相対性理論の根拠その1--相対性原理
- 特殊相対性理論の根拠その2--光の速さ
- するとどういうことが起こるのか
- 時間への影響その1--同時性
- 時間への影響その2--時間の遅れ
- 速く動けば長生きできる?
- それにしても、どちらが動いているのか
- 運動している物体は短くなる
- 静止した物体は時間のなかを光速で進む

第3章:一般相対性理論によるゆがみと重力
- ニュートンの重力観とは?
- ニュートンの重力理論と特殊相対性理論は両立できない
- アインシュタインが考えついたこと
- 加速によって空間と時間はゆがむ
- 一般相対性理論の基本
- 警告をいくつか
- これでニュートン理論の矛盾は解決するのか
- 時間のゆがみ再考
- 一般相対性理論を実験で立証するには
- 一般相対性理論の予言--ブラックホールとビッグバン
- 一般相対性理論は本当に正しいか

第4章:量子力学は誰にも理解できない?
- 本当に量子力学を理解している人はいない
- 量子力学が生まれたきっかけ
- エネルギーには最小単位がある
- エネルギーがかたまりをなすとはどういうことか
- 光は波なのか、それとも粒子なのか
- 物質の粒子は波でもある
- 波とは何の波か
- もう一つの解釈--ファインマンの視点
- さらに奇怪なふるまい--不確定性原理

第5章:一般相対性理論 vs 量子力学
- ミクロの世界では粒子が発生と消滅をくり返す
- 重力以外の力の量子場理論
- 力を伝えているのはメッセンジャー粒子
- 重力の量子場理論だけ見つかっていない
- 一般相対性理論 vs 量子力学

第3部:ひも理論はすべてを説明し尽くすか

第6章:超ひも理論の本質
- ひも理論小史
- ひもは古代ギリシアのアトムか
- 粒子の性質はひもの振動のしかたで決まる
- ひもはとてもきつく張られている
- きつく張られたひもがもたらす3つの効果
- ひも理論は重力と量子力学の衝突を解決する
- 衝突の解決--大雑把な答え
- ひもは本当にひもなのか

第7章:超ひもの「超」の意味
- 物理法則の対称性とはどういうことか
- スピンとは何か
- 超対称性とは何か
- 超対称性の根拠--ひも理論以前
- ひも理論における超対称性
- 多ければいい、というわけではない

第8章:目に見えない次元がたくさんある
- この宇宙は本当に3次元か
- ホースの表面について考える
- ホース状宇宙の住人たち
- 次元がたくさんあれば力の理論が統一される
- その後のカルーザ-クライン理論
- ひも理論はさらに多くの次元を必要とする
- いくつかの素朴な疑問
- 新たな次元にはどのような物理的意味があるか
- 巻き上げられた次元はどんな姿をしているのか

第9章:ひも理論の証拠は実験でつかめるか
- ひも理論をめぐる批判の嵐
- ひも理論を実験で確証するには
- すべてのカラビ-ヤウ図形を検証する?
- スーパーパートナー粒子を探せ
- 分数の電荷を帯びた粒子が見つかれば
- 一発逆転でひも理論を確証する?
- 評価

第4部:超ひも理論と時空

第10章:宇宙をあらわす新しい幾何学
- 重力理論とリーマン幾何学の核心
- 宇宙が縮むとしたら何が起きるか
- ひもが空間に巻きつく
- 空間に巻きついたひもの物理学
- 見分けのつかない2つの宇宙
- 2つの答えをめぐる論争
- 3つの疑問
- 宇宙はおそろしく小さい?
- 宇宙はプランク長さより小さくはならない
- この結論はどれくらい一般的なのか
- 同じ物理を生み出すもの--鏡映対称性
- 鏡映対称性の物理学と数学

第11章:空間を裂く--ワームホールの可能性
- ワームホールをひも理論で考える
- 鏡映の視点から空間の引き裂きをながめる
- 証明に向けて少しずつ進む
- 戦略、現れる
- 最高の物理学者ウィッテンとの競争
- 半ダースのビールと週末の仕事
- 決定的瞬間をむかえる
- ウィッテンのアプローチ
- イエス、ワームホールは存在する

第12章:ひもを超えて--M理論を探す
- 第2次超ひも理論革命の要約
- 近似的方法とはどのようなものか
- 摂動論がいつもうまくいくとは限らない
- ひも理論への摂動的アプローチ
- 近似が近似になっているのか
- ひも理論の正確な方程式
- 双対性、現れる
- 対称性の威力
- ひも理論の双対性
- ここまでのまとめ
- 超重力理論にも双対性の兆候があった
- M理論のかすかな光
- M理論と相互関連の網
- 全体像を見わたす
- ひも以外の可能性--ブレンの民主主義
- これで、答えの出ていないひも理論の疑問が解決するのか

第13章:ブラックホールをひも/M理論で考える
- ブラックホールと素粒子は同じもの?
- ひも理論は前進を可能にするか?
- 確信をもって空間の織物を引き裂く
- Eメールの洪水
- ブラックホールと素粒子をふたたび考える
- 「溶ける」ブラックホール
- ブラックホール・エントロピー
- ブラックとはどのくらいブラックか
- ひも理論の登場
- ブラックホールをめぐる謎

第14章:宇宙論をひも/M理論で考える
- 標準宇宙モデルとはどのようなものか
- ビッグバンの証拠はあるのか
- プランク時間からビッグバンの100分の1秒後まで
- 標準宇宙モデルで説明できない謎--地平線問題
- インフレーション宇宙モデルの登場
- 超ひも理論が宇宙論にできること
- はじめにプランク・サイズのかたまりがあった
- なぜ3次元だけが拡がったのか
- ビッグバン直後、カラビ-ヤウ図形は激変した?
- はじまりの前?
- M理論があらゆる力を融合させる?
- 宇宙の存在理由--多宇宙、人間原理、そして究極理論

第5部:統一にむけて

第15章:ひも/M理論の未来
- ひも理論の根本原理は何か
- 空間、時間とは本当は何か、そして、なくてもすむのか
- ひも理論は量子力学の再定式化につながるか
- ひも理論は実験で検証できるか
- 説明に限界はあるのか
- 人間の梯子

訳者あとがき
推薦図書
原注
用語解説
索引

The MacNeil/Lehrer NewsHour- June 9, 1986 (Richard Feynman interview)

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1986年1月28日、打ち上げから73秒後爆発し、乗組員7人全員が死亡したスペースシャトル チャレンジャー号の爆発事故に対し、事故原因の究明を行うため当時のレーガン大統領は、ロジャースを委員長とする事故調査委員会(通称ロジャース委員会)を1986年2月3日に立ち上げた。そして物理学者のファインマン先生も委員のひとりとして、事故原因の調査と報告書の作成に協力した。ところが、委員会初日から報告書提出の最終日まで、ファインマン先生はいくつもの抵抗や妨害を受けることになった。その詳細は「What Do You Care What Other People Think? (困ります、ファインマンさん)」という先生の自伝に書かれている。

ファインマン先生が書いた報告書は、本編には入れてもらえず、最終的にVolume II(第2分冊)の中に「付録F」として掲載された。そして「付録F」と報告書全体はネット上に公開されている。

Appendix F - Personal observations on the reliability of the Shuttle
by R. P. Feynman

付録F:(英語原文)(英語PDF)(Google翻訳による日本語訳

報告書総合Index:(英語原文)(Google翻訳による日本語訳

なお「付録F」の正確な日本語訳は「聞かせてよ、ファインマンさん: R.P.ファインマン」に掲載されている。


報告書は最終的に1988年6月6日(木)、レーガン大統領に提出され、翌週の6月9日(月)にメディアにも公開された。つまり、ようやく先生はこの件について自由に発言できるようになったのである。6月9日の夜、先生は当時の人気ニュース番組「マクニール・レーラー・ニュースアワー」に出演してインタビューを受けている。インターネットがない時代だから、報告書が公開されたといっても読む人は限られ、専門用語が多い新聞の解説記事を読んでも理解できない読者が多かった。番組で直接語ることで、先生はNASAが抱える組織的な問題を、アメリカ国民に訴えたのだ。(そして、後に自伝「困ります、ファインマンさん」を書いて将来にわたってそれを伝え続けるというNASAによる妨害が不可能な手段をとることになる。)

このニュース番組の枠は1時間であるが、先生がインタビューを受けている部分だけYouTubeに公開されている。幸い番組の内容をすべて文字に起こしたものが公開されているので、これをもとに先生のインタビューの部分だけ日本語に訳してみた。日本語訳の後に英語原文を載せておく。日本語訳を読みながら動画を見てほしい。先生がNASAという超巨大組織に対して委縮することなく、表情はにこやかだが、かなり辛辣な皮肉を使いながら巨大組織が抱える問題を暴露していたことがおわかりになるはずだ。

さらに、チャレンジャー号が事故を起こした当日のこの番組の動画(1時間)と文字におこしたページも見つけたので、それらもこの記事の最後に載せておく。

先生がインタビューを受けるシーンを頭出しした動画はこちらである。

The MacNeil/Lehrer NewsHour- June 9, 1986 (Richard Feynman interview):YouTubeで再生


番組の全スクリプト: (英語)(Google翻訳による日本語訳


The MacNeil/Lehrer NewsHour- February 9, 2003(日本語訳)

レーラー:ニュースメーカーのインタビューのためにお越しいただいたのは、大統領委員会の主要メンバーです。彼は、ノーベル賞を受賞したカリフォルニア工科大学の物理学者のリチャード・ファインマンです。ようこそ。これは起こる必要のない事故でしたか?

リチャード・ファインマン、ロジャース委員会:そうでした。 何かがおかしかったため警告が何度も出ていて、遅かれ早かれおきるかもしれないという事故でした。 そして、警告は無視されていました。

レーラー:無能さから、システムの欠陥から、判断の悪さからでしょうか?無視されたのはどのような理由からですか?

ファインマン博士:私はそれでいくらか困難を感じました。道路を走っている子供のようなもので、親がとても怒っていて、とても危険だと言っているのではないかと思います。そして子供は戻ってきて「でも何も起こらなかった」と言います。そして、彼は再び道路を何度も走り回り、親はそれが危険だと言い続けましたが、何も起こりません。何も起こらなかったという子供の見方が、何も起こらないということの手がかりとしてしまうのであれば、それはいずれ事故になるでしょう。ブレーキが数回鳴るのが聞こえました。それは - 漏れたガスがリングなどを通過していたからですが、「この新しいフライトはデータベース内にあります」というステートメントを何度も見ました。これは、以前は何も起こらなかったことを意味しています。これらはほぼ同じことです。以前にやったので、前回は大丈夫だったので、危険ではありませんということになります。そして、それは一種の幼稚な態度です - ここで(NASAや関連企業の)エ​​ンジニアが母親のことで、子供たちがNASAの幹部たちだということです。そのように私は考えます。そして私はあなたが何をおっしゃるかわかりませんが、遅かれ早かれ、子供はひかれてしまいうことになります。これは事故なのですか?いいえ、事故ではありません。

レーラー:それでも先生の任務、そしてあなたの委員長であるロジャース委員長が私たちが何をすべきだと言っているのを聞いたばかりです。つまり、私たちは誰かのせいにするためにここにいるのではありません。 なぜそれはだめなのでしょうか? なぜでしょうか?なぜ誰かが非難されないのでしょうか?

ファインマン博士:非難をどこに、そしてどのように向けるか、そしてそれが何か良い結果を生むかどうかはわかりません。 問題は、どのように子供(NASAの幹部たち)を教育するかということです。 問題は、あなたが子供を少し愚かであると非難すると言うことができるということなのです。 しかし、それは非常に困難です。 私は彼らがなぜこのような態度をとっているのか、そしてなぜ彼らが注意を払っていなかったのかを理解しようとしました。 いろいろな考えを試しましたが、最終的な原因はよくわかりません。

レーラー:先生のお考えとは何ですか?

ファインマン博士:ええと、2つの考え方がありますが、まずそのうちの1つを紹介します。人々 - 多くの人々は、無能がそのレベルに達するなど、(シャトルの)管理にはある種の考えがあると彼らは私に言います。しかし、私は別の考えを持っていましたが、それが正しいかどうかはわかりません。そして、それはまず、何ができるかについてあらゆる種類の誇張がなされたということです。つまり(1年間に)60回の打ち上げができるというのです。それにはそれほど費用がかからず、シャトルはすぐ再利用できるからだというのです。たしかに実際に問題は生じません。しかし、いちばん下層のエンジニアはおそらく悲鳴を上げることになります - これは私の想像ですが - 彼らは叫んでいました。「とんでもない!だめです!そんな方法はあり得ません。そんな方法はあり得ません。私たちは10回しか打ち上げられませんよ。1年間に多くの乗組員を訓練するのに十分な設備がありません」など。そして、米国議会と話している(NASAの)トップの人々はこのような話を聞きたくありません。したがって、彼らはこのような情報を組織の上層部に伝えるのをのを思いとどめます。ええ、それは彼らがアポロ計画でとても成功した直後でした。そしてその場合、彼らは自分たちができるよりも少しだけ難しいプロジェクトをやっていたので、彼らはそれを行うことができました。そして、彼らは1つの問題を解決するでしょう - 今 、これは私の想像ですが。私が想像しかできないのはそこにいなかったからです。誰かが「私たちはできる」と言ったのでしょう - 私たちはどのように宇宙服を作るつもりですか? そしてついに彼らはそれに対する解決策を得ました。彼らは興奮し、他の人に話します - 他の問題に取り組んでいる仲間は彼の問題の解決策を手に入れます。そして、興奮とモチベーションがあるので、相互コミュニケーションをとるようになります。けれども、-

レーラー:それは必ずしも悪いことではありませんよね?

ファインマン博士:ええ、悪いことではまったくありません。それがプロジェクトを動かすのですから。そしてそれがアポロ計画でうまく機能した理由です。しかし、彼らがこの他のプロジェクトにあてはめたとき、それはエンジニアリングの観点からいわば不可能なのです - それは非現実的なのです。彼らは何が起こるか聞きたくないのです。それ(ネガティブな情報)はただ(組織の上層に)上がっていくだけで、官僚機構の各レベルの人たちは何をすべきかを理解しています。(その情報を)他の人に知らせず保管するのです。彼らはそれを聞く必要はありません。彼らはそれを聞きたくないのです。彼らはそれを聞きたくありません。なぜなら、ちょうどその日の朝、それは不可能だと言われたとき、私たちが1年間に60回の打ち上げをすると言いに行き、それは無理だという話を聞くのは不愉快だからです。それが私の考えです。ご存知のように、私は物理学の教授で、マネジメントやや人間関係の教授ではないので、正しくない可能性が非常に高いです。けれども、あなたは私に私の考えをお尋ねになりました。

レーラー:公聴会の1つで、実際、それは最初の公聴会だったと思います。あなたはコップ一杯の水を取り、コップ一杯の水にゴム製の密閉用のパーツ(Oリングのミニチュア)を落とし、寒い天気は必ずしも良いとは限らないことをデモンストレーションしました。ゴムで密閉するためのパーツです。あなたは証明できましたか?コップの中であなたの理論は正しいことが証明されましたか?それが本当に密閉が悪くなった原因だと思いますか?温度が低過ぎたからですか?

ファインマン博士:それは - 可能性の1つ - 確かに可能性の1つでした。そのパーツの温度が下がると、そのデバイスでの使用環境(シャトル内)の温度が非常に悪い影響を与えることは間違いありません。自動車などで使用されているOリングは、一定のスペース、つまり必要なスペースが固定されていることで、トラブルをかなりの程度まで抑えることができています。したがって、Oリング回復力は重要ではなく、温度も重要ではありません。温度に敏感ではないのです。したがって、シール(密閉)に使用するOリングはは温度に敏感ではないと誰もが考えていました。しかし、この(シャトルでの)密閉のための使用方法では、(打ち上げ時に)物が爆発する圧力で動くと、リング間の隙間などが振動し、リングはそれに従って変形しなければなりません。そして、それが寒いときであれば、それはその振動に(リングの)変形がついていくことができません。ですから、それは間違いなく問題の原因の可能性があります。しかし、このことをよく調べてみると、シールの設計に関連する他の多くの問題が見つかり、穴を開けることができる種類のパテがあり、他の種類の問題があるかどうかについての問題がありました。

レーラー:理解しました。だからそれは物事の組み合わせかもしれませんね。

ファインマン博士:それが何であるかを正確に判断することができなかったので、それが温度だけであるとは言えませんが、それは確かに可能性のひとつでした。

レーラー:委員会が行った仕事について、一般的にどのように感じますか?

ファインマン博士:私たちはかなり良い仕事をしたと思います。 いくつかの点で、私たちが想像していたよりも容易であることがわかりました。何が起こったのかを知るのは容易でした。

レーラー:私は興味があったのは、なぜロジャース委員長は今日ホワイトハウスで、思っていたよりも難しいことがわかったと言ったのですか? 彼は何について話していたのですか?

ファインマン博士:まあ、私たちは異なる期待を持っていたのかもしれません。 不思議なことに、この委員会の冒頭で、ロジャース氏が「もちろん、事故が起こった原因がわからないかもしれない」と言ったのを覚えています。 そして、その結果 - 私には容易だったということです。

レーラー:なるほど。 あなたに何が起こったのかは理解しました。

ファインマン博士:何が起こったのかはわかっています。 さて、難しかったのは、おそらく彼がこれに言及していると思いますが、NASA内のこれらの弱点とその態度を見つけたことです - 安全性などに関するこの種の非論理的で、(代償は)とても高くつきましたが、国中でそのような評価を受けていた(NASAのような巨大な)組織から感情的ともいえる形でめぐって来て、背後には誰もが尊敬するオズの魔法使いのようなものは何もないと言わなければならないのが大変でした。

レーラー:ニューヨークタイムズのこと -

ファインマン博士:まあ、ほとんど何もありません。

レーラー:ほとんど、大丈夫です。 ニューヨークタイムズ紙は今朝、(あなたが)アペンディクス(報告書の付録)などをめぐってロジャース委員長と衝突したことを報道しました。また、(当番組の記者の)エリザベス・ブラケットは、それについて報告しています。 これはどういうことですか?

ファインマン博士:まあ、それはひどく誇張されています。どういうわけかニュースになりました。私はそのニュースを制御することも、それ(衝突)を経験したこともありません。ある時、私は委員会の他のメンバー向けの文書を書いていました。私は多くのことを調査しました、そして私はちょうど私が見つけたものを伝えるメモを彼らに送っていました。そして、それは出版のために書かれていませんでした。それから議論がありました。それを見た様々な委員会のメンバーは、かなり良かったと言ったので、私たちはそれを報告書に載せるべきだと言いました。しかし、そうではありませんでした - それは個人的なスタイルで書かれていました。報告書の他の部分に対して適切ではありませんでした。ですから、詳細な付録を用意する予定だったので、付録に入れようと言われたので、とても嬉しかったのです。しかし、(報告書では)繰り返しの多い表現を削減することで、修正して短くしようとする習慣があり、報告書にはそれに該当する箇所がいくつかあったため、これを修正し始めました。それを見て、文章が改善されたと思いました。それで、私はそれを入れるように頼みました - それは付録の部分にあり、私たちはスペースについてそれほど心配していなかったので、何も変更せずに付録に残しましょう。そして彼らは「わかりました、しかしこの文章を見てください。あまりよく書かれていません。」と言いました。そして、私は同意しました。文章を変えるのは提案に過ぎません。そして、私はもとのアイデアを損ねないように修正しました。私は半分の語数で同じ考えを伝えるようにしました - または段落の前半ではるかに穏やかな言い方で伝えるようにし、(他の部分で)同じことを繰り返す必要はありませんでした。そのように文章を改善しました。それらは単なる誤植上の問題です。また、文法が悪いことがわかった場合は、別の修正を加えました。誰もそれについては知りません。それについて悪臭(悪い評判)はありません。

レーラー:それで、そこに悪臭はありませんか? 悪臭はまったくありませんか?

ファインマン博士:はい、まったく問題はありませんよ。

レーラー:あなたに関する限り、報告書は委員会からの全会一致で提出されたものです。そしてあなたは -

ファインマン博士:はい。

レーラー:あなたは(議論や衝突から)逃げませんでしたし、ロジャース委員長もそうでした。。

ファインマン博士:そのとおりです。

レーラー:わかりました。 ファインマン博士、逃げないでくださいね。またよろしくお願いします。 ありがとうございました。

ファインマン博士:ありがとうございました。


The MacNeil/Lehrer NewsHour- February 9, 2003(英語原文)

LEHRER: With us now for a newsmaker interview is a key member of the presidential commission. He is Richard Feynman, the Nobel Prize winning physicist from the California Institute of Technology. Welcome, sir. Was this an accident that did not have to happen?

RICHARD FEYNMAN, Rogers Commission: Yes it was. It was an accident that had many, many warnings that there was something wrong and that it might sooner or later go off. And the warnings were disregarded.

LEHRER: Disregarded out of incompetence, out of a faulty system, out of bad judgment, out of -- for what reason?

Dr. FEYNMAN: I had some difficulty with that. I kind of imagine that something like a child that runs in the road and the parent is very upset and says it's very dangerous. And the child comes back and says, "But nothing happened." And he runs out in the road again, several times, and the parent keeps saying it's dangerous, and nothing happens. If the child's view that nothing happened is a clue that there was nothing going to happen, then that's going to be an accident. You could hear brakes squealing a couple of times. That's leakage in the -- gas is going through the rings and so forth, but again and again I saw in looking through the statements "this new flight is within our data base," which just means nothing happened before, it's about the same as we did before, so it can't be unsafe, because it was okay last time. And that is a kind of childish attitude that -- the mother corresponding to the engineers here, the management corresponding to the children. That's the way I look at it, and I don't know what you would say. Sooner or later the child gets run over. Is it an accident? No, it's not an accident.

LEHRER: And yet your commission, and we just heard Chairman Rogers, your chairman, say we should -- we're not here to blame anybody. Why not? Why not -- why is somebody not blamed?

Dr. FEYNMAN: I don't know how to assign blame and whether it does any good. The question is, how do we educate the child? The question is, you can say you blame the child for being a little foolish. But it's very difficult. I tried to figure out why they have this attitude and why they weren't paying attention. I've tried various theories, and I really don't know the ultimate cause.

LEHRER: What's your theory?

Dr. FEYNMAN: Well, one of the -- there's two theories. People -- a lot of people say to me that there's some kind of an idea in management that the incompetence reaches its level, or whatever. But I had another idea, but I don't know whether it's right. And that is that in the beginning, all kinds of exaggerations were made about what this thing can do. It can fly 60 flights, it would only cost so much. It will be recoverable. There will be no real problems. The engineers at the bottom must probably scream -- this is my imagination -- they're screaming up, "No, no, it can't be this way. It can't be this way. We can only go ten flights. We haven't got enough equipment to train that many crews a year," so forth and so on. And the people at the top who are talking to Congress don't want to hear this. So they discourage information from moving up. You see, it was just after they were so successful with Apollo. And in that case, they were doing a project just a little bit harder than they could do -- just a little bit harder, so they could do it. And they would solve one problem -- now, this is my imagination. I'm imagining; I wasn't there. Somebody would say we can -- how are we going to make a space suit? Finally they got a solution to that. They get excited and tell the others -- fellows who are working on some other problem gets a solution to his problem. And there's a lot of intercommunication, because there's excitement and motivation. But when the --

LEHRER: Which is not always necessarily a bad thing, right?

Dr. FEYNMAN: No, not at all. It's what makes it go. And that's why it worked okay with the Apollo. But then when they had this other project, which is so to speak impossible from an engineering point of view -- it's unrealistic. They don't want to hear what happens. It just goes up, and each level in a bureaucracy kind of understands what it's supposed to do. Keep it from the other guys. They don't have to hear it. They don't want to hear it. They don't want to hear it, because it would be uncomfortable to be going and saying we're going to do 60 flights a year when just that morning they were told that it's impossible. That's my theory. Now I, as you know, am a professor of physics, and not of management and human relations, and so it's very likely not right. But you asked me for my theory.

LEHRER: At one of the hearings, in fact I think it was the first public hearing, you took a glass of water and dropped a piece of a rubber seal into a glass of water and made the demonstration that cold weather is not necessarily a good thing for a rubber seal. Have you proven -- has your theory in the glass been proven correct? Do you think that's really what caused the seal to go bad -- it was too cold?

Dr. FEYNMAN: That's one of the -- one of the possibilities -- certainly was one of the possibilities. It's definite that when the temperature is reduced on the seals, the way they were being used in that device -- in the shuttle -- temperature has a very bad effect. What caused a certain amount of trouble is that O-ring seals as used in automobiles and so on are in a position where the space is constant -- the space that they have to -- isn't moved. And therefore, resilience is not vital, and the temperature is not -- it's not sensitive to temperature. So everybody thought seals are not sensitive to temperature. But the way this seal was being used, the spacing between the rings and so on would vibrate as the thing blew up with the pressure and would move, and the ring has to follow that. And when it's cold, it can't follow that. So that's definitely a possible contributor. But as we looked into this thing, we found so many other problems associated with the seal design that there was a kind putty that could have holes blown into it, there was problems about whether -- there were other kinds of difficulties.

LEHRER: I got you. So it could be a combination of things.

Dr. FEYNMAN: So that we couldn't decide exactly what it was, and I won't be able to say that it was solely the temperature, but that certainly was a possibility.

LEHRER: How do you feel about the job your commission did, generally?

Dr. FEYNMAN: I think we did a pretty good job. It turned out to be easier in some respects than we could have imagined. It was easy to find out what happened.

LEHRER: I was curious, why did Chairman Rogers say at the White House today that it turned out to be more difficult than he had thought it was going to be? What was he talking about?

Dr. FEYNMAN: Well, maybe we had different expectations. It's strange, because at the very beginning of this commission meeting, I remember Mr. Rogers saying, "Well, of course, we may never find out what made the accident occur." And that turnedout -- that's what I meant was easy.

LEHRER: I see. You know what happened.

Dr. FEYNMAN: We know what happened. Now, what was difficult, and I think maybe he's referring to this, was the discovery of these weaknesses inside of NASA and their attitudes -- this kind of illogic about safety and so forth, which was so expensive, from an organization which had such a reputation in the country that it was hard for us to find it out in a sort of emotional way as to have to come around and say that the Wizard of Oz which everybody respects has nothing behind it.

LEHRER: The New York Times --

Dr. FEYNMAN: Well, almost nothing.

LEHRER: Almost, okay. The New York Times reported this morning that you had some -- you had a clash with Chairman Rogers over an appendix and other -- and also Elizabeth Brackett in her report referred to that passage. What's that all about?

Dr. FEYNMAN: Well, that's terribly exaggerated. It got into the news somehow. I have no control of the news and no experience with it. At one point, I had written a document which was meant for the other commissioners. I had investigated a number of things, and I was just sending them a note telling what I'd found. And it wasn't written for publication. Then there was a discussion. The various commission members who looked at it said it was pretty good, and we ought to just put it in the report. But it wasn't -- it was written in a personal style. It wasn't proper for the rest of the report. So, since we were going to have appendices, which have a lot of detail, they said let's put it in an appendix, and I'm very happy with that. But because we had this habit of modifying and trying to keep things short by cutting things down that were repetitious, and there were some things in there that were also in the report, we started to modify this. And I looked at it, and I thought it was nice the way I wrote it, you know? So I asked that it be put in -- since it was in the appendix and we weren't so worried about space, let's leave it in the appendix without any modification at all. And they said, "Okay, but look at this sentence isn't written very well." And I agreed, definitely. It was only a suggestion that I change the sentence. And I changed it not because I lost any ideas. I had said the same idea in a half -- or a much more quiet way earlier on in the paragraph, and there was no need to repeat it. It improved the sentence. It's just typographical. I also made another change where I found a sentence had bad grammar. Nobody knows about that one. There's no stink about that one.

LEHRER: So there's no stink here? There's no stink here at all?

Dr. FEYNMAN: No, sir. There's no problem.

LEHRER: So as far as you're concerned, this was a unanimous report from the commission, and you --

Dr. FEYNMAN: Yes sir.

LEHRER: You didn't go away with any scars, and neither did Chairman Rogers.

Dr. FEYNMAN: No.

LEHRER: All right. Dr. Feynman, don't go away. We'll be back. Thank you.

Dr. FEYNMAN: Thank you.


事故当日の番組

The MacNeil/Lehrer News Hour- January 28, 1986 (Space Shuttle Challenger Disaster): YouTubeで再生


番組の全スクリプト: (英語)(Google翻訳による日本語訳


関連記事:

What Do You Care What Other People Think? (困ります、ファインマンさん)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9aa3c698e25754b1e9fdc0a664545606

聞かせてよ、ファインマンさん: R.P.ファインマン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2827c20dbc070aaf205d8375d8ec3cee


 

 

What Do You Care What Other People Think? (困ります、ファインマンさん)

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What Do You Care What Other People Think? (2018)」(Kindle版

内容紹介:
The book was prepared as Feynman struggled with liposarcoma, a rare form of cancer from which he died. The book is the last of his autobiographical works.
The first section presents a series of humorous stories from different periods of his life, while the second chronicles his involvement on the Rogers Commission investigating the Space Shuttle Challenger disaster. In one chapter, he describes an impromptu experiment in which he showed how the O-rings in the shuttle's rocket boosters could have failed due to cold temperatures on the morning of the launch. Later, this failure was determined to be the primary cause of the shuttle's destruction. This section of the book was dramatized in a television movie by BBC/Science Channel titled The Challenger Disaster. (YouTube Video)
The book is much more loosely organized than the earlier Surely You're Joking, Mr. Feynman! It contains short stories, letters, photographs, and a few of the sketches that Feynman created in later life when he had learned to draw from an artist friend, Jirayr Zorthian.
Of note is the story of his first wife, Arline, who had been diagnosed with tuberculosis before their marriage. The title of the book is taken from a question she often put to him when he seemed preoccupied with the opinions of his colleagues about his work, thereby echoing his own earlier words to her. She died while Feynman was working on the Manhattan Project.
The book concludes with a section titled "The Value of Science", an address Feynman gave at the 1955 autumn meeting of the National Academy of Sciences.

2018年2月6日刊行、286ページ。初版は1988年10月刊行。(ファインマン先生が亡くなって8カ月後)

著者について:
Richard P. Feynman (1918-1988): Wikipedia ウィキペディア
Winner of the Nobel Prize in physics, thrived on outrageous adventures. In this lively work that can shatter the stereotype of the stuffy scientist (Detroit Free Press), Feynman recounts his experiences trading ideas on atomic physics with Einstein and cracking the uncrackable safes guarding the most deeply held nuclear secrets and much more of an eyebrow-raising nature. In his stories, Feynman's life shines through in all its eccentric glory a combustible mixture of high intelligence, unlimited curiosity, and raging chutzpah.


理数系書籍のレビュー記事は本書で472冊目。(物理学者による自伝だから理系本としておく。)


英語版をAudibleで

2018年に「ご冗談でしょう、ファインマンさん」と「困ります、ファインマンさん」の原書はセンスのよい装丁で刊行されたので2冊揃えて購入した。せっかく買ったのだから読まなければもったいない。「ご冗談でしょう、~」のほうだけ購入直後に読んで紹介記事を書いていたのだが、「困ります、~」のほうは、それ以来手をつけていなかった。

今年もそろそろファインマン先生の誕生日(5月11日)が近づいている。後で説明するが、この2冊目の自伝はとても意義深い本だから命日までには読んで紹介しておきたい。

とはいえ、本業の仕事がますます忙しくなってきたのと、毎日のデスクワークで目が疲れて平日はなかなか読書をすることができない。たまたまこれら2冊がAudibleの会員定額聴き放題の対象になっていたので、2冊目はAudibleの朗読で耳から読書をすることにした。結局「困ります、~」を聴いてから「ご冗談でしょう、~」のほうも聴いてみた。


本書の構成

困ります、ファインマンさん (岩波現代文庫):
『ご冗談でしょう、ファインマンさん』につづく、ノーベル賞物理学者の痛快エッセイ集。好奇心たっぷりのファインマンさんがひきおこす騒動の数々に加え、人格形成に少なからぬ影響を与えた父親と早逝した妻について、そして、チャレンジャー号事故調査委員会のメンバーとしていかに原因を究明したか、その顛末が語られる。

以下に日本語版の目次を載せておく。(英語版の目次はこの記事のいちばん下に載せておいた。)日本語版の第1部と第2部が英語版のPart Iに対応、日本語版の第3部が英語版のPart IIに対応している。また、英語版には書かれている話が日本語版では割愛されていたり、タイトルが英語版と日本語版で食い違っている話がある。たとえば日本語版では伊勢志摩や金沢を夫妻が旅行したときの逸話を書いた「I Just Shook His Hand, Can you Believe It?」という話は、日本語版では「シャベルを持っていきましょうか」というタイトルになっている。

まえがき

第1部
ひとがどう思おうとかまわない!
ものをつきとめることの喜び

第2部
「ワン・ツー・スリー、ワン・ツー・スリー」
生れてはじめての教授職
トップ・シークレット
出世の秘訣
歩いたかさぶた
ハーマンとは誰だ?
「ファインマン・セクシスト・ピッグ!」
「困りましたね、ファインマン先生」
パップ氏の永久機関
「シャベルを持っていきましょうか」

第3部
ファイマン氏、ワシントンにいく―チャレンジャー号爆発事故調査のいきさつ
科学の価値とは何か


本書のハイライト

収録されているどの話も興味深いが、ファインマン先生ご夫妻が1985年の夏に来日されたときのエピソード、1986年1月に起きたスペースシャトル チャレンジャー号爆発事故の事故調査委員会のメンバーとして活躍されたエピソード、そして先生が中学生のときに出会った数学書についてのことが書かれているエピソードがお勧めだ。特にチャレンジャー号爆発事故を知らない世代の方には、このエピソードだけでも読んでほしい。この事故調査委員会の調査段階から最終報告の段階まで、先生は何度も抵抗や妨害にあったのだ。それに対して先生はどのよう対抗したのか。このエピソードが重要なのは、先生が抵抗勢力に対して、独自のやり方でどのように闘ったかが、ご自身の言葉で書かれているからだ。

事故原因がシャトルのOリングにあったことを知るのはもちろん重要だが、NASAの一部の職員、開発に携わった企業のエンジニアは事前にそれを知っていた。エンジニアは事前に警告を発していたが、その警告は無視された。それはスペースシャトル計画に対するコストカット、スケジュール強行、安全管理の軽視、そしてNASA全体の物言えぬ雰囲気、コミュニケーション不全、過去の成功による過信が禍いとなったからだった。ファインマン先生はOリングのことだけでなく、スペースシャトル計画やNASAが抱えるこれらの問題に対しても厳しく警告を発し、合衆国政府やNASAに対しては事故調査報告書の「付録F」、そして一般国民に対しては読みやすい形で本書「困ります、ファインマンさん」として、書き残してくれたのである。

このときまでに先生は数度にわたるガンの手術を経ており、ご自身の著作としては最後のものになった。先生がお亡くなりになったのは1988年2月15日。本書英語版が刊行されたのは1988年10月なので、先生は本が書店に並ぶのを見ることがなかった。(日本語版のほうは英語版よりはやく1988年7月に刊行されていた。)最後の力を振り絞って先生が遺してくれた教訓が本書に書かれている。

その後、チャレンジャー号の事故から17年経ってからスペースシャトルは2003年2月にコロンビア号が空中分解事故をおこした。直接的な原因は発射時に発泡断熱材が剥がれ、高速でシャトルの左翼に衝突して破損を与えたためであるが、それにも関わらず地球帰還を強行して空中分解を引き起こした原因はチャレンジャー号のときと同じだった。つまりスペースシャトル計画に対するコストカット、スケジュール強行、安全管理の軽視、そしてNASA全体の物言えぬ雰囲気、コミュニケーション不全、過去の成功による過信である。さらにNASA幹部や関連企業の社員の世代交代も要因になっていただろう。

チャレンジャー号とコロンビア号の事故について、ウィキペディアでは次のようにまとめられている。

「1986年1月28日、スペースシャトルチャレンジャー号が発射から73秒後に右側のSRBのOリングの故障が原因で空中分解し、搭乗していた7名の飛行士全員が犠牲になった。機体の最重要機器の一つであるOリングが、異常寒波が原因の低温により損傷した。現場の技術者は再三にわたり12℃以下の気温でのOリングの安全性は保証できないと警告したが、NASAの幹部はこれを無視した。」(事故概要、原因と対策

「2003年2月1日、スペースシャトルコロンビア号が発射の際に外部燃料タンクの発泡断熱材が空力によって剥落し、手提げ鞄ほどの大きさの破片が左主翼前縁を直撃して、大気圏再突入の際に生じる高温から機体を守る耐熱システムを損傷させたことにより、大気圏再突入時に空中分解した。地上管制室の技術者たちは損傷の広がりをより明確に把握できるよう、国防総省に対して三回にわたって高解像度の写真を撮影するよう要求し、NASAの熱保護システムの技術主任はコロンビアに搭乗している飛行士たちに耐熱タイルのダメージを調査させるべく船外活動の許可を求めた。NASAの幹部は国防総省の支援の動きに介入してこれを停止させ、船外活動の要求も拒否した。その結果、飛行士が自ら修理に赴くことや、発射準備作業中だったアトランティスで救援に向かうことの実現性は、ついにNASA幹部によって考慮されることはなかった。」(事故概要、原因と対策

なぜチャレンジャー号の際に得た教訓を生かすことができなかったのか?ファインマン先生がせっかく遺してくれた教訓は何だったのだろうか?それは先日NHKで放送されたばかりの『世界大惨事大全「スペースシャトル コロンビア号 空中分解事故」』という番組でも解明されることはなかった。そしてこの番組は「その後、NASAは組織内部のガバナンスを含め29項目にわたる対策を講じたので、シャトルの安全性は飛躍的に改善した」と締めくくっていた。しかし、本当にそれで安心してよいのだろうか?

安全管理の軽視、危険に対する確率の過小評価は、NASAのように大きな組織だけでなく、国家レベルから、軍隊、零細企業まであらゆる規模の組織で起こる可能性がある。NASAが抱えていたのと同じ問題は、ロシアという超大国で、そして先日事故を起こした知床半島の観光船運営会社の事例でもおきている。

「間違っていると思ったら、うやむやにせず、とことん追求する」という姿勢は、現代社会でも非常に重要なことだ。交通機関や医療機関など人命にかかわるときは特にそうである。周囲から「困ります!」と言われても、言い続けなければいけない。みずからどのように闘ったかを書くことで、先生は本書でそれを伝えたかったのだと僕は思う。事故調査報告書には書かれていない「抵抗勢力との闘い方」は、本書にしか書かれていないのである。

本書でお勧めな3つめのエピソードはこの本の「The Making of a Scientist (日本版では「ものをつきつめることの喜び」)」というエピソードには実用的算数、実用的代数、実用的三角法、実用的微積分といファインマン先生が中学生のときに出会ったシリーズ本についての記述がある。これらがどのような本だったのか気になる人もいることだろう。そのような方のために、このブログ記事で補足しておく。

これらお勧めの3つのエピソードに関連することがらを紹介していこう。


ファインマン先生の来日

ファインマン先生は3度来日されている。次の写真はノーベル賞受賞前、1953年の来日で京都を訪れたときの写真で湯川秀樹先生と写っている。このとき泊まった旅館の大浴場で泳いで遊んでいて、湯川秀樹先生に『おい!若いの、少し静かにしろ』と叱られたそうだ。(クリックで拡大



余談:写真はこのページから拝借したのだが、裏焼きであることにお気づきだろうか?後ろに写っている日本語の文字が裏返しだし、湯川先生やワイシャツ姿の小林稔先生の胸ポケットの位置が左右逆になっている。写真の下には1954と書かれているが1953が正しい。


3度目の来日は1985年の8月。本書の「I Just Shook His Hand, Can you Believe it? (日本語版では「シャベルを持っていきましょうか」)」というエッセイに、ご夫妻が三重県伊勢奥津にある古い和風旅館に2泊したことが書かれている。(滞在は8月12日~14日)京都のホテルから案内人もつけずにご夫妻だけお忍びで抜け出してしまった話である。

注意: 英語版では博士が招待を受けたのは京都大学と書かれているが、日本語版では東京大学だと誤訳されている。さらに京都ではなく東京のホテルに滞在していたという誤訳がある。学会は湯川博士からの招へいなので、ファインマン先生が滞在したのは京都で、1985年の夏である。(英語版には1986年と書かれているが、ファインマン先生の勘違いである。)また、先生は仁科記念財団の招へいで来日したのだが、東京では学習院大学で講演し、京都では京都国際会館で会議に参加している。よって英語版の記述が正しいのか日本語版の記述が正しいのかは決めることができない。

ともかく詳しいいきさつやこの和風旅館が「辰巳屋旅館」であることが三重大学の妹尾先生が寄稿された文章に書かれている。散策中に雨に降られたご夫妻が通りがかりの車に乗せてもらったのが「若宮八幡宮」である。(この文章の中では来日が1985年か1986年かはっきりしないと書かれているが、学習院大学で行われた仁科記念講演会は1985年8月9日であることから、ファインマン先生が来日したのは1985年だとわかる。)

ノーベル賞物理学者ファインマン夫妻の泊まった宿を訪ねて(三重大学工学部教授 妹尾允史): Google Chrome、Safariでは文字化けします。IEまたはFirefoxで開いてください。
http://www.lib.mie-u.ac.jp/about_library/50thnews/50thNL10.html#03

注意:辰巳屋旅館の看板は2013年1月には掛けられていたが、2021年11月には取り外されていることがGoogleストリートビューで確認できた。現在は旅館としての営業は行われていない。

今では京都から伊勢奥津までは1994年に開業した伊勢志摩ライナーを使うと乗り換え1回で行ける。当時は妹尾先生のページに書かれているように国鉄を乗り継いで松阪経由で昼頃に伊勢奥津に到着するとなると、京都-草津-柘植-亀山-松阪-伊勢奥津というルートをたどったと思われる。(国鉄はファインマン先生来日の2年後の1987年に分割民営化されJRとなる。)

先生の講義をもとにして編纂された教科書「ファインマン物理学」は1967年に日本語版が出版されていたものの、一般の人が読める「ご冗談でしょう、ファインマンさん」の日本語版が出版されたのは1986年の6月、7月なので、来日された1985年にはファインマン先生のことを一般の日本人は知っていなかったと思われる。駅での乗り換えのとき先生から乗り場を聞かれた乗客や駅員は、なぜ外国人観光客がこのような田舎にいるのか不思議に思ったことだろう。

妹尾先生のページに掲載されている貴重な写真。2泊した後、宿を出発する際に撮られたものだそうだ。




Googleストリートビューを使ってこの旅館の玄関を同じ角度で表示させてみた。赤電話はなくなっているが、建物や玄関前の石畳は37年経った今でもほとんど当時のままだ。奥様の後ろや玄関脇のカーテンも全く変わっていないように見える。先生がカメラに向かってポーズをとっていた位置に赤いしるしをつけておいた。

PCから写真をクリックするとストリートビューが開く。



カメラに向けられた先生の視線の先にはどのような風景が広がっていたのだろう?
宿を出た先生と奥様が散策された田舎の景色とはどんな感じだったのだろう?

PCからGoogleストリートビューをぐるぐる回してご夫妻が楽しまれた日本の田舎の風景をご覧いただきたい。(ストリートビューでこの場所を開いてみる


その後、ファインマン先生は京都国際会館で開かれた「中間子論50周年記念国際会議(8月15日から17日)」に出席されている。このページに次のような記載があるのを見つけた。

「この会議には、あのお茶目な、リチャード・ファイマンも出席した。このファイマンさん、明日から会議だというのに、前日になっても、京都に到着しない。そして誰もどこにいるのか知らず、雲隠れにあったのか、と、みんな大騒ぎしたが、そんな中、お茶目なファイマンは、ひょっこりと京都に現れた。東京から京都に来るのに、1人で普通列車に乗りこみ、伊勢方面をお忍びで回ってきたという。ほっと胸をなでおろしたことが印象に残っている。」


京都滞在の後、ご夫妻は能登半島へ向かわれた。輪島で行われる御陣乗太鼓がお目当てだったようだ。宿泊先は「湖月館」。滞在時にファインマン先生がお描きになった女将の似顔絵は次のページで見ることができる。

春夏秋冬 能登半島 (石川県)
http://www5a.biglobe.ne.jp/~mt2000/sub16.html

1985年8月21日


以上を整理すると、1985年8月のファインマン先生夫妻の旅程は次のようになる。日航ジャンボ機墜落事故はファインマン先生ご夫妻が辰巳屋旅館に到着した8月12日におきていた。この事故を先生は日本を経つまでには見聞きしていたと思われる。しかし、「困ります、~」には書かれていない。

8月9日:仁科記念財団の招きで来日、講演(東京、学習院大学創立百周年記念会館)
8月10日:東京から京都に移動、京都でホテルに1泊か2泊。8月12日の早朝、滞在しているホテルをこっそり抜け出した
8月12日~14日:観光(伊勢奥津、辰巳屋旅館)
8月15日~17日:中間子論50周年記念国際会議(京都国際会館)
8月21日:観光(能登半島、湖月館)1週間ほど滞在


スペースシャトル計画とファインマン先生

事故調査委員会のメンバーの中で最も著名な人物の一人に、理論物理学者のリチャード・ファインマンがいた。彼はテレビ放送された聴聞会の席上、氷のように冷たい温度下でOリングが如何に弾力性を失い密閉性を損なわれるかということを、コップの氷水に試料を浸すことで見事に実証してみせた。彼はNASAの「安全文化」の欠点に対して極めて批判的だったため、シャトルの信頼性に対する彼の個人的な見解を報告書に載せなければ報告書に名前を使わせないと脅し、これは「付録F」として巻末に収録された。ファインマンはその中で、NASAの首脳部から提出された安全性評価ははなはだしく非現実的であり、現場の技術者による評価とは時に1000倍もかけ離れていると論じた。付録Fの末尾をファインマンは次の文で結んでいる。「技術が成功するためには、体面よりも現実が優先されなければならない、何故なら自然は騙しおおせないからだ。」

ファインマン先生が書いた報告書の巻末「付録F」と報告書全体はネット上に公開されている。

Appendix F - Personal observations on the reliability of the Shuttle
by R. P. Feynman

付録F:(英語原文)(英語PDF)(Google翻訳による日本語訳

報告書総合Index:(英語原文)(Google翻訳による日本語訳

ちなみに「付録F」は本書英語版には含まれているが、日本語訳は「困ります、ファインマンさん」ではなく「聞かせてよ、ファインマンさん」のほうに含まれている。

事故調査報告書はレーガン大統領に提出されてから4日後の1986年6月9日、メディアに公開された。その夜にファインマン先生は生放送のニュース番組のインタビューを受け、NASAの体質を厳しく批判している。(参考記事「The MacNeil/Lehrer NewsHour- June 9, 1986 (Richard Feynman interview)」に動画と日本語訳を載せておいた。)


スペースシャトル事故に関連する動画

動画1:チャレンジャー号爆発事故当日、ニュースでの生中継(1986年)
Archival: Space Shuttle Challenger Disaster | NBC Nightly News: YouTubeで再生 翌日のNHKニュースを再生


動画2:チャレンジャー号爆発事故事故調査委員会の公聴会で発言するファイマン先生。事故原因がOリングであることを証明した決定的瞬間を見ることができる。
challenger disaster: YouTubeで再生 ファインマン先生の登場箇所から再生 他の動画


動画3:事故調査委員会で奮闘するファインマン先生のことがドラマ化された。
The Challenger Disaster (BBC 2013): Wikipedia YouTubeで再生


動画4:ファインマン先生の死後、原因がより詳しく解明された。打ち上げからなぜ73秒も飛行できたかという謎も解明され、この動画で解説されている。動画には本書の中でファインマン先生の質問に「シャトルを打ち上げたらダメだと思っていた」と答えているエンジニアのロジャー・ボジョリー氏が登場している。(日本語音声)
宇宙 緊迫の瞬間 スペースシャトル・チャレンジャー爆発事故: YouTubeで再生 元になった英語の番組を再生


動画5:コロンビア号の事故を報じる当時のNHKニュース(2003年)
2003年 コロンビア号 墜落事故(NHKニュース): YouTubeで再生


動画6:コロンビア号の事故の原因を解説した動画(日本語音声)
スペースシャトルコロンビア号: YouTubeで再生 スペースシャトル計画の歴史からコロンビア号の事故、原因まで解説される。



スペースシャトルに搭載されていたコンピュータのハードウェア

スペースシャトルは1981年から2011年まで、計135回打ち上げられた。しかし、シャトルに搭載されていたコンピュータで使われていたのは1970年代の技術で開発された旧式のものだった。これは宇宙空間や打ち上げ、着陸という過酷な環境で誤動作しないよう、極めて高い安定性が求められるからだった。

初期のシャトルに搭載されていたIBM製AP-101コンピュータは、もともと1台あたり約424KBの磁気コアメモリを持ち、CPUは16ビットで毎秒40万回の計算を行うことができた。1990年、AP-101はAP-101Sという上位機種に置きかえられた。メモリーの記憶容量はこれまでの2.5倍の約1MBに、演算速度は3倍の毎秒120万回に向上し、さらに記憶装置は磁気コアメモリからバックアップ電池つきの半導体メモリに改良された。(参考ページ

ちなみに1985年に発売された任天堂の初代ファミコンで使われた8ビットCPUの演算速度は毎秒180万回程度であるから、16ビットではあったもののファミコンよりもはるかに遅い(演算速度に比例する)クロック数のCPUがスペースシャトルのコンピュータに使われていた。また1978年に発表されたスペースインベーダ(インベーダーゲーム)に使われていたのはインテル社の8ビットCPU 8080で、これの演算速度は毎秒200万回程度である。


スペースシャトルのコンピュータで動作していたソフトウェア、プログラミング言語

スペースシャトルのソフトウェアは、今では考えられない「年越し問題」と呼ばれる不具合を抱えていた。これは千年に一度の「2000年問題」ではなく「毎年末の年越し問題」のことである。

つまり長い間、シャトルは12月31日と1月1日をまたがっては飛行できなかったのだ。1970年代に開発されたシャトル用のソフトウェアは年越しができるようには設計されておらず、もし飛行中にそれを強行するとコンピューターをリセットしなければならなくなり、予測できないようなエラーが発生する可能性が生じるからである。NASAの技術者がこの問題を解決したのは2007年のことで、これによってようやくシャトルは年を越えて飛行できるようになった。

スペースシャトルには4台の主制御コンピュータAP-101(1990年からAP-101S)が搭載されていた。このコンピュータ用に「HAL/S」というプログラミング言語が開発された。HALは開発者の名前Halcompに由来していると同時に、映画「2001年宇宙の旅」のHAL9000に、Sはシャトルの頭文字に由来するとも言われている。ネット上では水城徹さんという方が「HAL/S」の言語仕様をPDFファイルで公開している。(PDFをダウンロード

しかし水城さんは、この言語仕様の最後を次のように締めくくっている。スペースシャトルで使われていたプログラミング言語は駄作だったという。

「この言語は開発中に時代遅れとなり、つぎはぎだらけとなったのだが、採用しないわけにはいかなくなったという、巨大プロジェクトにありがちな駄作なのだ。正直なところを言おう。シャトルがこの言語を使いながらコンピュータシステムで致命的な不具合を出さなかったというのは、ひとつの奇跡だ。」

そして、この言語を使ってスペースシャトル用に開発されたシステムも大きなバグを抱えていたという。以下は「スペースシャトル用プログラミング言語HAL/S」というブログ記事からの引用である。最後の「バグの実際の修正はチャレンジャー事故後に一括して行われた。」という記述を読んで背筋が凍った。

問題は最初の電源投入時にあった。4台のコンピュータは全く別々のタイミングで起動する。1981年4月、最初のシャトル打ち上げの予定時刻20分前、コンピュータに火を入れるはずが全然起動しなかった。4台のコンピュータが順番に互いにバスを閉じ合って、同期に失敗するデッドロックに陥ったのである。症状は即座にデッドロックだと診断された。打ち上げは2日延ばされ、ソフトウェアはそのままに打ち上げられた。

後の解析によると、電源投入は67分の1の確率でデッドロックにより失敗する事が判明した。初期化コードの肥大化によって起動に要する時間が延びて、初期の設計に無いデッドロックタイミングが生じたと診断された。調査すると、デッドロックは三ヶ月前にも一度開発中に起きていた。その後もバグは発覚し続けたが、ソフトウェアの修正により新しいリスクを抱え込むより、テスト済みであるプログラムをそのまま使い続ける方針が維持された。バグは発見され次第、それを避ける詳細な手順書が作成された。STS-7 ミッション(1983年6月18日に行われたスペースシャトルチャレンジャー号による2度目の任務)の時には、それは既に200ページにも渡っていた。バグの実際の修正はチャレンジャー事故後に一括して行われた。


ファインマン先生が中学生のときに出会った数学書

この本の「The Making of a Scientist (日本版では「ものをつきつめることの喜び」)」というエピソードには実用的算数、実用的代数、実用的三角法、実用的微積分といファインマン先生が中学生のときに出会ったシリーズ本についての記述がある。これは「Mathematics for Self-Study Series by J. E. Thompson」というシリーズ物の教科書で、以下のリンクからそれぞれ無料で閲覧したり、PDFファイルをダウンロードすることができるようにしておいた。

実用的算数
Arithmetic for the Practical Man: 閲覧 PDFファイル

実用的代数
Algebra for the Practical Man: 閲覧 PDFファイル

実用的三角法
Trigonometry for the Practical Man: PDFファイル PDFファイル

実用的微積分
Calculus for the Practical Man: 閲覧 PDFファイル PDFファイル

実用的数学
Mathematics for the Practical Man: 閲覧 PDFファイル

「ご冗談でしょう、ファインマンさん(紹介記事)」にはファインマン先生が高校時代、物理のベーダー先生から「君は授業中やかましいから、後ろの席でこの本を自分で勉強しなさい。」と渡されたWoodsの『Advanced Calculus (1934)』(高等微積分)は、こちらである。

高等微積分
Advanced Calculus (1934): PDFファイル PDFファイル


英語版と日本語版

「What Do You Care What Other People Think? (2018)」のKindle版は、まだ発売されておらず最新のKindle版は2011年版である。

Surely You're Joking, Mr. Feynman! (2018)」(Kindle版
What Do You Care What Other People Think? (2018)」(Kindle版
 


日本語版は2001年に文庫化された。

ご冗談でしょう、ファインマンさん〈上〉 (岩波現代文庫)」(Kindle版
ご冗談でしょう、ファインマンさん〈下〉 (岩波現代文庫)」(Kindle版
困ります、ファインマンさん (岩波現代文庫)
  


1986年、1988年に刊行された単行本にこだわる方は、こちらからどうぞ。

ご冗談でしょう、ファインマンさん―ノーベル賞物理学者の自伝〈1〉
ご冗談でしょう、ファインマンさん―ノーベル賞物理学者の自伝〈2〉
困ります、ファインマンさん
  

本書やチャレンジャー号、コロンビア号の事故がどれくらい知られているか、ツイッターでアンケートをとってみた。結果はこの連投ツイートで確認していただきたい。


関連記事:

Surely You're Joking, Mr. Feynman!(ご冗談でしょう、ファインマンさん)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/51c0567c10e45d01a19fb63bc2efee21

ファインマン先生の自伝本と講演本
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9bf47cf51085c74caf34a11068a17285

#Feynman100: ファインマン先生、生誕100周年セレモニー&シンポジウム
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/11dd9238ebcbc37915920a2dab553c82

物理法則はいかにして発見されたか:R.P.ファインマン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ab31086d3d97f72d800893033189592d

ファインマン物理学(英語版)が全巻ネット公開されました。
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e94dd49d7d8cc395e29d37927e30173d

『ファインマン物理学』の名講義のオーディオが公開されている
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/12206b7ef997402678f4f55ce863a4fc

発売情報: フランス語版「ファインマン物理学」の新版
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/daf630deb00e6c315897d6f47ba3dd5a

開平と開立(第5回): ファインマン先生に立方根計算の雪辱を果たそう
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/89a0b907577f03ef6132cf9664bdcddb

光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学: R.P.ファインマン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4b34cd4e7d077d037022e62734d1ee76

QED: The Strange Theory of Light and Matter: Richard P. Feynman
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1860569fe58727fce5256356863001f9

ファインマンの経路積分に入門しよう!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0f47de5854daf4eb38339a73791544a8

万有引力の法則(逆2乗則)の逆問題を解説する本と動画(ファインマンによる解法)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2cd381bca4546d23968b31cfad4a9be9


 

 


What Do You Care What Other People Think? (2018)」(Kindle版


まえがき

Part I: A Curious Character
The Making of a Scientest
"What Do You Care What Other People Think?"
It's As Simple As One, Two, Three...
Getting Ahead
Hotel City
Who The Hell Is Herman?
Feynman Sexist Pig!
I Just Shook His Hand, Can You Believe It?
Letters
Photos and Drawings

Part II: Mr. Feynman Goes To Washington: Investing The Space Shuttle Challenger Disaster
Preliminaries
Commiting Suicide
The Cold Facts
Check Six!
Gumshoes
Fantastic Figures
An Inflamed Appendix
The Tenth Recommendation
Meet the Press
Afterthoughts
Appendix F: Personal Observations on the Reliability of the Shuttle

EPILOGUE
Preface
The Value of Science

Index

統計力学の形成:稲葉 肇

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統計力学の形成:稲葉 肇

内容紹介:
.アナロジーから基礎づけへ ——。時間的に可逆であるミクロな多数の要素と、不可逆なマクロとを関係づける、統計力学。マクスウェルやボルツマンによる気体運動論との差異を踏まえつつ、その歴史と意義を丹念に追跡。アンサンブル概念はいかに誕生・発展し、フォン・ノイマンによる量子統計に到ったか?

2021年9月24日刊行、378ページ。

著者について:
稲葉 肇(いなば はじめ)
ホームページ: https://hinaba.org/
愛知県に生まれる(1985年)。京都大学文学部卒業(2007年)、京都大学大学院文学研究科博士後期課程研究指導認定退学(2012年)、京都大学博士(文学)取得(2015年)、明治大学政治経済学部専任講師(2018年、現在に至る)。
訳 書:
ヘリガ・カーオ『20世紀物理学史――理論・実験・社会』(共訳、名古屋大学出版会、2015年)


理数系書籍のレビュー記事は本書で473冊目。

僕が統計力学を集中して学んでいたのは2008年から2009年にかけてのことで10年以上も経っている。そろそろ記憶をリフレッシュする時期ではないかと思っていたところに本書が刊行されたことを知った。ただし、これは統計力学史、物理学史の本だから統計力学そのものを学べるわけではない。とはいえ、この分野がどのように誕生し、発展していったかはとても興味深いし、おそらくこの本以外では知ることができない。

マックスウェル分布からボルツマン原理など、気体分子運動論から統計力学の入口あたりまででよければ「高校数学でわかるボルツマンの原理:竹内淳」でざっくり知ることができる。しかし、これだけでは物足りないし、その先が知りたいのだ。そしてボルツマンが、そしてギブス、アインシュタイン、プランク、 フォン・ノイマン、トルマンなどがどのような貢献をしたのか、古典統計力学から量子統計力学に至る過程、当初は気体だけ、平衡系だけが範疇だった理論がどのようにして扱う領域を拡大していったかを知りたかった。ゴムの弾性も統計力学を使って説明することができ、久保亮五先生の「ゴム弾性(初版復刻版)」(Kindle版)(紹介記事)として学ぶことができる。そして近年では統計力学の人工知能(AI)への応用がさかんに研究されているという。

このような発展史は教科書からでは読み取ることはできない。どの分野でもそうなのだが、教科書は科学者たちが積み重ね、培ってきた理論を時系列とは関係なく、理論的整合性と学びやすさを重視する形でまとめているからだ。ページ数にも制限があるため、科学史的な記述はほとんど省略されている。

このような勇み足で読み始めたのだが、第5章あたりまではかなり難しく、やっと第6章、第7章あたりから読んでよかったと思えるようになった。読み進めるうちにわかりやすくなるとはいえ、統計力学の標準的な教科書で学んだことがない人には無理があるだろう。「分配関数って何?」という方は、まず教科書や「ゼロから学ぶ統計力学:加藤 岳生」(Kindle版)のような副読本、広江克彦さんによるサイト「EMANの統計力学」などで学んでほしい。

章立ては次のとおりである。

序 章
第1章 気体運動論の困難からアンサンブルへ
第2章 「力学的アナロジー」とアンサンブル
第3章 ギブス『統計力学の基礎的諸原理』
第4章 『諸原理』への応答
第5章 古典統計力学の諸相
第6章 状態和と分配関数
第7章 量子統計の時代におけるアンサンブル
終 章

まず、著者による本書の紹介文を読むのがいちばんだ。

著者による本書の紹介ページ
https://allreviews.jp/review/5779

ミクロの世界とマクロの世界を結びつけるのが統計力学である。気体分子運動論という「力学」に端を発した理論は、分子の集合体をアンサンブルと見なす「確率」、「統計」をベースのものにしたアンサンブルの理論に変遷していき、ミクロとマクロが結び付けられるようになる。しかし、その結び付け方や、そこに前提される条件、概念の理解にはいくつかの選択肢があり、科学者それぞれの「学説」として発表される。現代では明らかにされていることであっても、当時は試行錯誤で、考察が不十分だったり、他の学者から批判されながら、少しずつ洗練され、後の時代の科学者に引き継がれていった。

このようなわけで、第5章あたりまで僕は読み解くのに相当苦労した。初期の統計力学の本としてはボルツマンの『気体論の講義(1896-1898)』(日本語版)やギブスが亡くなる前年に著した『統計力学の基礎的諸原理(1902)』(本書では『諸原理』として略記)を中心に学説を数式を引用しながら紹介している。数式は原著からの引用であるが、教科書のように導出過程が示されているわけではないから「イメージ」として理解するのがよさそうだ。正しく理解するためには原著を読む必要がある。

1905年の奇跡の年に、アインシュタインはブラウン運動についての論文を発表し、原子の存在を理論的に証明した。この論文は「アインシュタイン選集(1)」や「アインシュタイン論文選: 「奇跡の年」の5論文 (ちくま学芸文庫) 」で読むことができる。しかし、本書で紹介されているのは、この論文が発表される前に書かれた「統計的三部作」と呼ばれる論文だ。

アインシュタインの統計的三部作
- 熱平衡と熱力学第二法則の運動論(1902)
- 熱力学の基礎に関する一理論(1903)
- 熱の一般分子論について(1904)

そして第6章「状態和と分配関数」では、プランクによる黒体輻射の法則、デバイとプランクの状態和、ダーウィンとファウラーの分配関数などが解説され「状態和」、「分配関数」という統計力学では重要な概念が誕生したことが紹介される。そして古典統計力学を量子統計力学へと進化させるきっかけとなったのがプランクによる『熱輻射論講義』で、第4版まで改訂された。日本語版は「熱輻射論講義 (岩波文庫 青 949-1) 」として読むことができる。

第7章「量子統計の時代におけるアンサンブル」は、量子力学の発見により、古典統計力学はどのように変わったかが解説される。量子統計の理論化に大きな役割を果たしたのがフォン・ノイマンによる理論であり名著「量子力学の数学的基礎(1932)」としてまとめられた。日本語版は「量子力学の数学的基礎: J.v.ノイマン」として読むことができる。

この章ではまた統計力学を物理化学にまで適用範囲を広げた「トルマンの統計力学(1938)」が解説されている。トルマンの統計力学はギブスの統計力学を継承していて、古典統計力学で培われた原理、本質は量子統計力学でも生きていることを確認することができる。

そして「終章」が僕にはとてもありがたかった、第1章から第7章を手短かに総括してくれているからだ。あまりにも詳細な解説を読み続けると「詳細を忘れながら進む」ことになり、学説どうしの違いや発展の仕方が漠然としたものになる。キーポイントだけおさらいしてくれることで、落ちこぼれた読者は救われ、本書の価値をようやく理解できるようになるのだ。「終章」を最初に読み、第1章から第7章を読んでからもう一度「終章」をお読みになるとよいだろう。

全部読み終わると、整理された形で書かれている標準的な統計力学の教科書を読み直してみたくなる。そのような気持ちが生まれれば、本書を読んだ価値があったのだと言えよう。


関連ページ:

統計力学の発展に貢献した物理学者はドイツ人やドイツ語を母国語としていることが多い。けれども本書で取り上げられた名著や論文のいくつかは、英語で読むことができる。代表的なものを紹介しておこう。科学史上の名著ばかりである。

1859年9月21日にマックスウェルが発表した気体の動力学的理論の論文では、個々の粒子の速度分布はマクスウェル分布に従う事が示された。(解説

On the Dynamical Theory of Gases (1859): 閲覧 PDFファイル PDFファイル

ボルツマンの「気体論の講義」の英語版はこちら。

Lectures on Gas Theory (1896-1898): 閲覧 PDFファイル

ウィラード・ギブスが亡くなる前年に著した1902年の著書『統計力学の基礎的諸原理』はこちら。本書ではいちばん多くページが割かれている。

Elementary Principles in Statistical Mechanics (1902): 閲覧 PDFファイル

プランクによる著作は4つ読むことができる。『熱輻射論講義(The theory of heat radiation)』は第2版のみ閲覧可能で、第4版を無料で閲覧できるページを見つけることはできなかった。

On the Law of Distribution of Energy in the Normal Spectrum (1901): PDFファイル

Treatise on Thermodynamics (1903): 閲覧 PDFファイル

The theory of heat radiation 2e (1914): 閲覧 PDFファイル

Eight Lectures on Theoretical Physics (1915): 閲覧 PDFファイル

そして「トルマンの統計力学」はここから読むことができる。

The Principles Of Statistical Mechanics Tolman Oxford At The Clarendon Press 1938: 閲覧 PDFファイル


関連記事:

統計力学〈1〉(田崎 晴明著)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/617948cd72bf22f297e999a40f63743b

統計力学〈2〉(田崎 晴明著)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bb7189e7f9437ef342757a9199863e8a

統計力学: 長岡洋介著
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高校数学でわかるボルツマンの原理:竹内淳
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/649fcef45c24e55bbd08613caea97065

力学の誕生―オイラーと「力」概念の革新―: 有賀暢迪
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/39015937594a6282316377ae34a6a240

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古典力学の形成: 山本義隆―続きの話
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マッハ力学―力学の批判的発展史:伏見譲訳
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熱学思想の史的展開〈1〉:山本義隆
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d1b18caf10c0e9a10baff20434eb9ffc

熱学思想の史的展開〈2〉:山本義隆
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f852e9510c040c23ae18c4da6df2dcbf

熱学思想の史的展開〈3〉:山本義隆
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c4f5c84e9854ddd2e60a1300044c9efc


 

 


統計力学の形成:稲葉 肇


序 章
 0-1 統計力学の歴史とギブス
 0-2 統計力学の歴史の問題系
    0-2-1 科学史および物理学史一般に関して
    0-2-2 統計力学の学説史に関して
    0-2-3 ギブスの『諸原理』に関して
 0-3 本書の概要

第1章 気体運動論の困難からアンサンブルへ
 1-1 マクスウェルの気体運動論
    1-1-1 「気体の動力学的理論の例示」前史
    1-1-2 「例示」の速度分布則と粘性係数
    1-1-3 粘性係数と逆5乗則
         ——「気体の動力学的理論について」
 1-2 アンサンブル概念の萌芽
    1-2-1 ボルツマンの気体運動論概説
    1-2-2 多原子分子気体の運動論的考察
    1-2-3 多原子分子気体のアンサンブル的考察
 1-3 マクスウェルの「統計的方法」とアンサンブル
    1-3-1 マクスウェルの「統計的方法」
    1-3-2 マクスウェルのアンサンブル理論
    1-3-3 ボルツマンによる検討

第2章 「力学的アナロジー」とアンサンブル
 2-1 循環座標
    2-1-1 循環座標の導入
    2-1-2 J・J・トムソンの循環座標
         ——「速度座標」
    2-1-3 J・J・トムソンによる熱力学の力学への還元
 2-2 ヘルムホルツの「単循環系」
    2-2-1 力学還元主義の仮説化
    2-2-2 「単循環系」の理論
    2-2-3 「力学的アナロジー」とは何か
 2-3 ボルツマンの「総体」の理論
    2-3-1 若きボルツマンの周期系の力学
    2-3-2 「総体」
         —— ボルツマンのアンサンブル概念
    2-3-3 「総体」の洗練とその後
    2-3-4 ボルツマンの「像」の理論

第3章 ギブス『統計力学の基礎的諸原理』
 3-1 ギブスの経歴と初期の熱力学研究
    3-1-1 ギブスの経歴
    3-1-2 ギブスの熱力学研究
         ——「不均質な物質の平衡について」
 3-2 『諸原理』への道
    3-2-1 気体運動論および統計力学に関するギブスの発言
    3-2-2 イェール大学での講義
 3-3 『諸原理』のアンサンブル理論と「熱力学的アナロジー」
    3-3-1 『諸原理』における統計力学の特徴づけ
    3-3-2 ギブスのアンサンブル概念
    3-3-3 基礎づけに関する見解
    3-3-4 「熱力学的アナロジー」:関係式のあいだの対応関係
    3-3-5 「熱力学的アナロジー」:操作のあいだの対応関係

第4章 『諸原理』への応答
 4-1 英国からの反応
    4-1-1 バーバリーからの書簡
    4-1-2 バムステッドの擁護
 4-2 ドイツ語圏からの反応
    4-2-1 ボルツマンの評価
    4-2-2 プランクの批判
    4-2-3 ツェルメロの批判
    4-2-4 エーレンフェスト夫妻の批判
 4-3 オランダ人たちによる擁護と拡充
    4-3-1 ローレンツによる一般性の強調と統計的基礎
    4-3-2 オルンシュタインによる具体的な問題への適用
    4-3-3 デバイの金属電子論

第5章 古典統計力学の諸相
 5-1 『諸原理』以外のアンサンブル理論
    5-1-1 ボルツマンの『気体論講義』
    5-1-2 アインシュタインの統計的三部作
 5-2 統計力学の基礎的概念の洗練
     —— パウル・ヘルツとオルンシュタイン
    5-2-1 ヘルツの「時間アンサンブル」
    5-2-2 オルンシュタインの「時間アンサンブル」と「等価な系」
    5-2-3 ミクロとマクロ
 5-3 エーレンフェスト夫妻の「概念的基礎」
    5-3-1 エルゴード性と H 定理の理解
    5-3-2 ギブスの統計力学の位置づけ

第6章 状態和と分配関数
 6-1 状態和前史
    6-1-1 プランクによる黒体輻射の法則の導出
         ——『熱輻射論講義』初版
    6-1-2 ポワンカレの Φ 関数とプランクの状態積分
    6-1-3 熱力学的特性関数の重要性
 6-2 デバイとプランクの状態和
    6-2-1 デバイの状態和
    6-2-2 プランクの量子理想気体研究
    6-2-3 プランク『熱輻射論講義』第2版と第4版
 6-3 ダーウィンとファウラーの分配関数
    6-3-1 分配関数の導入過程
    6-3-2 統計力学と熱力学の関係
    6-3-3 分配関数と状態和

第7章 量子統計の時代におけるアンサンブル
 7-1 フォン・ノイマンの量子統計力学
     —— 測定とアンサンブル
    7-1-1 『数学的基礎』に到るまで
    7-1-2 『数学的基礎』におけるアンサンブル
 7-2 フォン・ノイマンのエルゴード定理
    7-2-1 量子エルゴード定理におけるミクロとマクロ
    7-2-2 平均エルゴード定理
 7-3 トルマンの統計力学
    7-3-1 物理化学から統計力学へ
    7-3-2 ギブスの統計力学の継承
    7-3-3 統計力学の任務とアプリオリ等確率の仮説
    7-3-4 エルゴード仮説批判

終 章

 参考文献
 あとがき
 索 引

原子核物理学 改訂版:エンリコ・フェルミ

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原子核物理学 改訂版:エンリコ・フェルミ

内容紹介:
1938年にノーベル物理学賞を受賞、マンハッタン計画に参画、世界初の原子炉の運転に成功し、「核時代の建設者」、「原子爆弾の建設者」と呼ばれる物理学者のエンリコ・フェルミ博士が1949年1月から6月にかけてシカゴ大学で行なった原子核の物理についての講義を書籍化したものである。

原書初版:1949年、第2版:1950年1月、改訂第2版:1950年9月、再訂第2版:1951年7月
初版:1954年12月10日刊行、改訂版:1959年8月5日、383ページ

著者について:
エンリコ・フェルミ(Enrico Fermi、1901年9月29日 - 1954年11月28日):ウィキペディア
イタリア、ローマ出身の物理学者。統計力学、量子力学および原子核物理学の分野で顕著な業績を残しており、中性子による元素の人工転換の実験で新規の放射性同位元素を数多く作った。1938年にノーベル物理学賞を受賞している。また、マンハッタン計画に参画し、世界初の原子炉の運転に成功し、「核時代の建設者」「原子爆弾の建設者」とも呼ばれた。
フェルミに由来する用語は数多く、熱力学・統計力学のフェルミ分布、フェルミ準位、量子力学におけるフェルミ粒子、原子核物理学のフェルミウムの元素名の他、フェルミ推定の方法論やフェルミのパラドックスという問題にその名を残している。実験物理と理論物理の双方において世界最高レベルの業績を残した、史上稀に見る物理学者であった。


理数系書籍のレビュー記事は本書で474冊目。

本書は神保町の「明倫館書店」のワゴンセールで700円で売られているのを見つけて即買いしたものだ。素粒子物理学や場の量子論に分類される専門書は、これまでにいくつか読んできたが、原子核物理学、高エネルギー物理学に分類される実験系の理論書はまだ読んだことがない。本書は言わずもがな科学史上の名著であるだけでなく、人類史上でも後世に継承し続けるに値する歴史的な重みがある本だということがタイトルと著者名から容易に想像できる。700円という価格が申し訳ないと思った。

ウィキペディアの説明にあるとおりフェルミ博士は1938年にノーベル物理学賞を受賞している。また、マンハッタン計画に参画し、世界初の原子炉の運転に成功し、「核時代の建設者」、「原子爆弾の建設者」とも呼ばれた。(マンハッタン計画を主導したオッペンハイマー博士が「原子爆弾の父」である。)

本書は1949年1月から6月にかけてフェルミ博士がシカゴ大学で行なった講義を書籍化したものだ。原書の初版は1949年のうちに刊行され、最終の再訂第2版は1951年7月に刊行されている。原書の再訂第2版をもとにした日本語版の初版は1954年12月10日に刊行、改訂版は1959年8月5日に刊行された。フェルミ博士は日本語版の刊行を心よく承諾していたのだが、日本語版の初版が刊行されるわずか12日前の1954年11月28日に亡くなっている。

原子核物理学は当時はまだ軍事機密性が高い学問だったはずだ。広島と長崎に原爆が落とされた1945年8月以降、ソビエト連邦は原爆研究、開発を急ぎいわゆる「東西冷戦」の時代が始まった。またこの学問領域は原子力発電所を開発するうえでも欠かせない。そのように微妙な時期に行われたのが本書のもとになった講義なのである。講義が行われたのは1949年1月から6月、ソビエト連邦が初めて原爆実験に成功したのは1949年8月のことだった。(参照:「セミパラチンスク核実験場」)

日本でも第二次世界大戦中に理化学研究所(仁科芳雄博士が率いたチーム:参考ページ)や京都帝国大学(荒勝文策博士が率いたチーム:参考ページ)で原爆開発のための研究が進められていた。しかし予算と物資の圧倒的な不足によりそれらは研究の段階にとどまっていて、終戦後すぐ占領軍によって研究成果や実験設備は焼却、破壊され、完全に失われた。フェルミ博士による原子核物理学の講義が行われたのはそのような時代だった。

さて、僕が手にした本は最終ページに書かれているように、1972年5月15日に発行された第11刷である。多くの読者に読まれたことがわかる。「Fermi Nuclear Physics」ではなく「Fermi Nuclear Physice」という誤植があることに気がついた。1972年の頃の1800円は、現在の8800円くらいである。

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1972年5月15日って、最近聞いたことがある日付だと思ったが、それが沖縄が本土に復帰した当日だということにもすぐ気がついた。そういえば先月15日、NHKで本土復帰50周年の特集番組が放送されていた。(参考ページ:「〜沖縄本土復帰50周年特集〜」)

そして1970年頃というのは、日本で原子力発電所が営業運転を始めたばかりの時期でもある。東京電力のこのページを見ると、日本で最初の原子力発電所は福島第一原発で、1号機が営業運転を開始したのは1971年3月だったことがわかる。そして1号機と2号機の原子炉を設計、開発したのは米国GE(General Electronics)社だった。東芝や日立製作所などの日本企業は原子炉以外の部分を担当していた。

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つまり1950年代から1970年代にかけて、原発に従事する科学者やエンジニアは、本書や当時発売されていた類書を使って原子核物理学の基礎を学んでいたことが想像できる。僕が手にした本には、最後のページまで多くの書き込みがあり以前の所有者が丹念に勉強していた様子がうかがえる。

核兵器開発に転用できる軍事機密性が高い内容を、本書はどこまで説明しているのだろうか?フェルミ博士は計算尺を使って世界で初めて原子炉を設計し、開発を主導した物理学者である。(参考ページ:「Fermi’s Golden (Slide) Rule」- Google翻訳による日本語訳)とはいえ、仮想敵国のソ連を利するような内容は書くことができない。期待半分、半信半疑で僕は読み進めた。特に第8章「核反応」の中の「核分裂」、第9章「中性子物理学」の中の「連鎖反応の理論」という目次の項目を見てドキリとした。

結論から言えば、本書では原爆や原発の開発でいちばん重要な「ウランの濃縮方法」を解説していないため、本書を読んだからといって原爆や原発を開発できるようになるわけではない。

章立ては次の通りだ。詳細目次は以下を参照していただきたい。
詳細目次:    

第1章:核の性質
第2章:輻射と物質の相互作用
第3章:アルファ粒子の放出
第4章:ベータ崩壊
第5章:ガンマ輻射
第6章:核力
第7章:中間子
第8章:核反応
第9章:中性子物理学
第10章:宇宙線
解説

英語原書を編纂した3人による「序文」と翻訳をされた小林稔博士による「はじめに」は「 」のリンクで読めるようにしておいた。

第10章の次の「解説」は日本語版の改訂版として1959年に追加された章で、英語原書には含まれていないものである。

1932年の中性子の発見とともに、原子核が量子力学の対象として取り扱われるようになって以後、1949年にフェルミがこの教科書のもとになる講義を行なった頃までの原子核物理学は、原子核が示す基本的な性質を一般的にとりあげると同時に、それぞれの現象については個々に論じるという段階にあった。その後の実験の進歩によって、系統的な整理が行われ、原子核が示す種々の現象が、原子核という多粒子系の構造についてのいくつかの基本的な性質に結び付けられて論じられるようになった。

原子核の基底状態とその付近の低い励起状態についていえば、その基本的性質は核子が強い相互作用を持っているにもかかわらず独立に運動する面と、一方集団的に運動する面を持っているということである。前者を記述するのは殻模型(軌道模型)で後者は集団模型として記述される。

現在では核力(強い相互作用)の原因はクォークどうしを結び付けるグルーオンによるもの、いわゆる量子色力学で説明されるが、クォークの理論が登場するのは1960年代初頭で、またW粒子など弱い相互作用の理論が誕生するのもだいぶ先のことである。標準模型を構成する素粒子が発見された年表を見れば、1949年がどのような時期だったかがよくわかることだろう。当時は仮説の段階だった素粒子のニュートリノのことを本書では「中性微子」として解説している。

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このようなわけで、本書に書かれたのは原子核の探求が始まったばかりの時期、原子核の周囲でおこる現象がいろいろ解明され始めた時期なのだ。したがって、本書では時には古典物理の手法、半古典的な手法、量子力学による手法が、物理現象を解説する物理モデルの都合に合わせて用いられている。さまざまな原子についての原子核反応が解説されていて、ウランが特別扱いされているわけではない。

量子力学の手法として目につくのは、散乱理論、量子井戸を使ったトンネル効果の計算、摂動論など量子力学の教科書でおなじみの計算だ。本書の各所で「シッフのXXページを参照」という記述が見られる。もちろんこれは有名な「シッフの量子力学」という教科書なのだが、本書が参照しているのは当時としては最新の教科書ではあるが1949年に発行された英語原書の初版だから、現在では手に入れることができない。(その後、原書の初版のPDFはここからダウンロードできることがわかった。)

けれども本書の元の所有者は「シッフ第3版のYYページを参照」とその都度鉛筆書きをしてくれていてありがたい。1968年に刊行された原書第3版であればInternet Archiveの「Quantum Mechanics Third Edition: Leonard I. Schiff」から閲覧、PDFのダウンロードができるからだ。1970年に上巻、1972年に下巻として吉岡書店から発売された「シッフ 新版 量子力学」は、原書第3版を日本語訳したものである。本書の元の所有者が書き込んだページ番号から、その方は日本語版ではなく原書第3版を参照していることがわかった。

章末や巻末の「文献」には、本書を書くにあたって参考にした書籍や論文が一覧になっているのだが、どれも1930年代、1940年代のものなので、入手するのはほぼ不可能なのだ。古い名著を読んでいるのだから仕方のないことである。(丹念に探せば見つかるかもしれない。)また本書のように古い本だと、単位はCGS系であることも理解のハードルを上げる原因となっている。

本書で解説している計算は手で行える範囲だというのも、容易にコンピュータを使えることができないこの時代の物理学書では当然のことだ。けれども1か所だけコンピュータを使った数値計算が行われたことを示す記述があった。

なんとそれは1946年に発表された真空管式のコンピュータ「ENIAC」を使ったものだった。それは第8章の「核反応」の中の「核分裂」を解説したページにある。(ページ1ページ2)ほぼ球形の原子核は分裂するときに引き伸ばされて楕円体に変形する。長軸、短軸、離心率を使った楕円体の計算が行われていることに「時代の古さ」と「理論の粗さ」を僕は感じた。球形から楕円体に変形した後は瓢箪(ひょうたん)型にならないのかな?と思ったからである。

ちなみにENIACは内部構造に十進法を採用している。1桁の十進数を格納するのに、10ビットのリングカウンタを使用しており、1桁の記憶に36本の真空管を必要とする。そのうち10本は双三極管で、フリップフロップでリングカウンタを構成している。演算は、リングカウンタが入力パルスをカウントする形で行われ(リングカウンタのビット列は二進数を表しているのではなく、"1"の個数がその桁の値である)、あふれるとキャリーパルスを発生する。これは機械式計算機で数を表す歯車を電子的にエミュレートしたものである。全部で20の10桁のアキュムレータがあり、10の補数表現で負の値を表し、毎秒5,000回の加減算、毎秒385回の乗算が可能である。また5台のアキュムレータは「除算器/平方根計算器」の制御下にあり、毎秒40回の除算または毎秒3回の平方根計算が可能である。複数のアキュムレータを接続して同時並行的に動作させることができるので、最高性能はさらに高い。





本書の例では1947年にウラン236のクーロンポテンシャルの計算がコンピュータによる数値計算で行われた結果が紹介されている。原子核の近辺ではクーロンポテンシャルが双曲線になっていないことがわかる。

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計算が難しいため本書全体の理解度は50%にとどまったが、何が説明されているのかは理解できたので有益な読書経験となった。原書の改訂版はネット上で無料公開されているので、中身をご覧になっていただきたい。

核分裂の理論が軍事機密だった時代から原子力発電の技術開発が進んだ時代、そしてチェルノブイリ原発や福島第一原発の事故と廃炉、さらにロシアによるウクライナ侵攻とチェルノブイリ原発の占拠。。。歴史はつながっている。そしてその原点にあるのが本書なのだと思った。


ネットで公開されている原書はここから読むことができる。

Nuclear Physics (Revised Edition): A Course Given by Enrico Fermi at the University of Chicago
Internet Archive: Cover_TOC Chap01 Chap02 Chap03 Chap04 Chap05 Chap06 Chap07 Chap08 Chap09 Chap10 Appendix
1つにまとめたPDF: ダウンロード

製本版で原書を読みたい方は、こちらからお買い求めいただきたい。ただし、これは上記の無料公開版を製本しただけのものである。つまり昔の機械式タイプライターで印字されたものだ。(「試し読み!」をクリックしてみればわかる。)

Nuclear Physics: A Course Given by Enrico Fermi at the University of Chicago



今後も引き続きこの分野の物理を学んでみたいと思うが、次回はもっと新しい教科書を読んでみたい。

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関連ページ:

日米同盟と原発 隠された核の戦後史(第1章 幻の原爆製造 1940~45)
https://www.chunichi.co.jp/article/188287?rct=nichibei_feature_shinsai10

もう一つの「戦争裏面史」原爆開発競争 京都帝大「F研究」秘話 被爆地で新型爆弾の正体突き止めた皮肉
https://www.sankei.com/article/20150723-CWDSN5CZHFJJXE7ORSUBGW5P5M/

日本でも原爆開発の事実があった。柳楽優弥、有村架純、三浦春馬が「太陽の子」に込めた思い。
https://news.yahoo.co.jp/articles/1c0c2760bd40681f95ce151537efd00c707a2c1e

柳楽優弥×有村架純×三浦春馬『映画 太陽の子』予告映像: Prime Video YouTubeムービー



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フェルミ熱力学:エンリコ・フェルミ
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原子・原子核・原子力―わたしが講義で伝えたかったこと:山本義隆
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福島の原発事故をめぐって― いくつか学び考えたこと:山本義隆
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原子爆弾 1938~1950年: ジム・バゴット
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核兵器: 多田将
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/fe84c7cd15d1b8ff7ed14de1fa356504


 

 


原子核物理学 改訂版:エンリコ・フェルミ


詳細目次:    



第1章:核の性質
- 同位元素、図表
- 比質量欠損と結合エネルギー
- 液滴模型
- スピンと磁気能率
- 電気四極能率
- 放射能とその地質学的にみた面
- 追補

第2章:輻射と物質の相互作用
- 荷電粒子のエネルギー損失
- クーロン場による散乱
- 電磁輻射の物質通過
- 追補

第3章:アルファ粒子の放出
- 矩形障壁の貫通
- 任意の形の障壁
- α崩壊への半古典的な応用
- α崩壊に対する仮の準位の理論
- α線スペクトル

第4章:ベータ崩壊
- 序論
- β過程の例
- エネルギー図
- β崩壊の理論
- 崩壊の割合
- エネルギー及び運動量スペクトルの形
- 実験的検証
- 選択則
- F τ 表
- K捕獲についての注意
- 中性微子仮説についての注意
- 中性微子および反中性微子

第5章:ガンマ輻射
- 自発的放射
- 選択則
- 内部変換
- 異性体状態

第6章:核力
- 序説
- 重陽子
- 中性子陽子散乱
- 陽子-陽子力
- 中性子-中性子力

第7章:中間子
- 実験から知られる性質
- 中間子理論
- 文献

第8章:核反応
- 記号
- 核反応断面積の一般的特徴
- 逆過程
- 複合核
- 不安定核の例
- 共鳴理論の定量的説明: Breit-Wignerの公式
- 観測された共鳴現象
- 核の統計的気体模型
- 核分裂
- 原子核の軌道模型
- 遅い中性子の陽子による捕獲
- 光と核との反応
- 非常な高エネルギーの現象

第9章:中性子物理学
- 中性子源
- 中性子の緩速
- 拡散理論
- 中性子の散乱
- 連鎖反応の理論

第10章:宇宙線
- 一次宇宙線
- 二次宇宙線
- 硬成分及び軟成分への分析
- 地球磁場内の荷電粒子の運動
- 追補
- 文献

解説

文献
物理定数表
索引

アインシュタイン回顧録:アルベルト・アインシュタイン

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アインシュタイン回顧録:アルベルト・アインシュタイン

内容紹介:
相対論など数々の独創的な理論を生み出した天才が、生い立ちと思考の源泉、研究態度を語った唯一の自伝。貴重写真多数収録。新訳オリジナル。
===
「想定外に当たっていたね」。アインシュタインの理論を、現代の物理学者はおおむねそう評価する。実験機器と実験法の進歩につれ、ただの予想かと見えた理論が次々に実証されてきたからだ。独創の極致ともいえる理論を彼は、いったいどうやって生み出したのか? 幼少期から執筆時までの約70年間を振り返り、何をどう考えてきたのかを語り尽くす、アインシュタイン唯一の自伝。生い立ちと哲学、19世紀物理学とその批判、量子論とブラウン運動、特殊相対論、一般相対論、量子力学に疑義を呈した真意、統一場理論への思いが浮き彫りになる。貴重な写真を多数収録。達意の新訳による文庫オリジナル。

2022年3月14日刊行、173ページ。

著者について:
アルベルト・アインシュタイン(Albert Einstein): ウィキペディア
1879-1955年。ドイツのウルムに生まれ、スイスのチューリヒ工科大学(現ETH)を卒業。1914-33年はドイツのベルリンに住み、1932-44年はアメリカのプリンストン高等研究所教授。スイス特許局時代の1905年に三大論文(光量子仮説、ブラウン運動、特殊相対論)を発表し、光量子仮説の論文により1921年度のノーベル物理学賞を受賞。

著者について:
渡辺 正(わたなべ・ただし)
1948年鳥取県生まれ。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、工学博士。同大学教授を経て名誉教授。著書に『高校で教わりたかった化学』『「地球温暖化」狂騒曲」』、訳書に『教養の化学』『フォン・ノイマンの生涯』『元素創造』ほか多数。


理数系書籍のレビュー記事は本書で475冊目。

奇しくもアインシュタイン博士の生誕143年の誕生日にこの本は発売された。地元の書店で見つけて購入。ほとんど数式が書かれていないので物理や数学が苦手な方でも読むことができる。アインシュタイン博士ご本人が書いた本というのは少ないのだ。貴重な一冊といえよう。

内容紹介には「自伝」だと書かれているが、タイトルのとおりこれは「回顧録」と呼ぶほうが正しい。さらに正確さを求めるのであれば「物理学研究者としての経験をつづった回顧録」なのである。自伝っぽいところは幼少期の自然科学への目覚めから、10代半ばまでの数学、特に幾何学と微分積分学への目覚めあたりまでで、その後は博士が研究者になる以前から前期量子論へ至るまでの物理学史の解説をした本という方が正確だ。

つまり、章立てを見てわかるようにニュートン力学、マクスウェルの電磁気学、古典統計力学、前期量子論というアインシュタイン博士を取り巻く理論物理学の発展を解説しながら、それぞれに見られる思想や概念の変遷を抽出し、より深い考察を与えながら進んでいくというスタイルである。次にご自身のブラウン運動の研究、特殊および一般相対論の着想がどのようなものだったか、1921年のノーベル賞受賞につながる光量子仮説、さらに量子論についての考え(肯定的な面、否定的な面)へと話は進む。最後に統一場理論という博士が完成できなかった理論の考察と予想が解説されている。

以下が本書の章立てである。

アインシュタイン回顧録
1 助走の時代
2 ニュートン力学、マクスウェルの電磁気学
3 量子論の芽生え期
4 ブラウン運動とミクロの世界
5 相対論(相対性理論)の着想
6 相対論の一般化
7 量子論への思い
8 統一場理論の遠望
アインシュタイン略年譜
やや長い訳者あとがき

博士がこの回顧録を書き始めたのは1946年、67歳のときである。前年にプリンストン高等研究所の教授職を退任し、広島・長崎に落とされた原爆の惨状に心を痛めていた時期のことである。ご自身の死を予感されたわけではないのだろうが、そろそろ研究者としての人生を振り返ってみたいと思われたのかもしれない。

博士の生涯を詳しく知りたいのであれば、本書ではなく伝記として書かれた「神は老獪にして…-アインシュタインの人と学問」(紹介記事)を読むのがいちばんよい。しかし、博士ご本人の言葉を直接受け取ることができる本書の価値は、他の人が書いた伝記には代えがたいものがある。

本書のもうひとつの魅力は翻訳者による「やや長い訳者あとがき」だ。アインシュタイン博士による回想録の部分は本書102ページまでで、略年譜をはさんで115~173ページ目はすべて訳者あとがきが占めている。ここには本書の原書や翻訳にあたって注意した点、回想録の解説、アインシュタイン博士と翻訳者との間のつながりなど興味深い話が語られている。そして何よりありがたかったのは、これまで見たことがなかったアインシュタイン博士の写真が盛り込まれていることである。

回顧録の部分はページ数が少ないうえ、簡潔過ぎる箇所があるため物足りなさを感じた。しかしアインシュタイン博士がそれ以上書かなかったのだからそれは仕方がない。「やや長い訳者あとがき」を付けたおかげで「売れる本」、「買う価値がある本」に仕上がったのだと僕は思った。

ニュートン力学から電磁気学、前期量子論に至るアインシュタイン博士による解説は、簡潔なうえ、他書には見られない独創性がある。ぜひお読みになってほしい。


合わせて読みたい本:

本書を入口とするならば、次のような本を合わせて読んでみたい。「奇跡の年」の論文はすべて気になるし、プランクのエネルギー量子の発見に至る原論文は古典物理から量子物理への転換を果たすうえで、自然科学史の中で特に貴重な論文だ。いくつかの段階を経て「ε = hν」にたどり着いたことはこの連投ツイートで紹介したことがある。

アインシュタイン論文選: 「奇跡の年」の5論文:アルベルト・アインシュタイン
熱輻射論講義:マックス・プランク
 

相対性理論についてもご本人による解説がいちばん確かである。

相対性理論:アルベルト・アインシュタイン」(Kindle版
相対論の意味:アルベルト・アインシュタイン」(Kindle版
 

大正時代に日本にいらしたアインシュタイン博士。それがどのようなものだったかを知るには、この本がいちばんよいだろう。

アインシュタイン・ショック〈1〉大正日本を揺がせた四十三日間:金子務
アインシュタイン・ショック〈2〉日本の文化と思想への衝撃:金子務
 

「博士の日本滞在はこの本がいちばんよいだろう」と上で紹介したが、その滞在を博士ご本人がどのように感じていらっしゃったかは、次の本で知ることができる。また、ロシアによるウクライナ侵攻を考える上で、博士がお書きになった「ひとはなぜ戦争をするのか」も読んでおきたい1冊だ。

アインシュタインの旅行日記:アルベルト・アインシュタイン」(Kindle版
ひとはなぜ戦争をするのか:アルベルト・アインシュタイン、ジグムント・フロイト」(Kindle版
 


関連記事:

神は老獪にして…: アブラハム・パイス
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d9258ed7a2d52173116ccd6e61ba0881

アインシュタインここに生きる: アブラハム・パイス
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4e64de68cf38281792de9a34fc249ad5

だれが原子をみたか(岩波現代文庫):江沢洋
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0f1e91e296d8d83ff2759c2de190be57

アインシュタインの反乱と量子コンピュータ: 佐藤文隆
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9fa38724ad6881636cdff2903ee14a5b

アインシュタイン選集 1 ―特殊相対性理論・量子論・ブラウン運動―
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/26d6fc929bf7b9f0fc1e2a210882f559

アインシュタイン選集 2 ―一般相対性理論および統一場理論―
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d3d0869ab3911e84845b5b121bd1aa3e


 

 


アインシュタイン回顧録:アルベルト・アインシュタイン


アインシュタイン回顧録
1 助走の時代
2 ニュートン力学、マクスウェルの電磁気学
3 量子論の芽生え期
4 ブラウン運動とミクロの世界
5 相対論(相対性理論)の着想
6 相対論の一般化
7 量子論への思い
8 統一場理論の遠望
アインシュタイン略年譜
やや長い訳者あとがき

「三体」シリーズ:劉 慈欣

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著者について:
劉 慈欣: ウィキペディア
1968年、山西省陽泉生まれ。発電所でエンジニアとして働くかたわら、SF短篇を執筆。『三体』が、2006年から中国のSF雑誌《科幻世界》に連載され、2008年に単行本として刊行されると、人気が爆発。中国全土のみならず世界的にも評価され、2015年、翻訳書として、またアジア人作家として初めてSF最大の賞であるヒューゴー賞を受賞。今もっとも注目すべき作家のひとりである。


世界中でベストセラーのこの小説を、ようやく読み終えることができた。とはいっても本ではなくAudibleの朗読で聴き終えた。老眼が進んでいるから、このような長編小説を読破するのはかなりつらい。それに朗読ならば移動中に聴けるから時間を有効活用することができる。そして日本語のAudible版は、なんと定額聴き放題の対象。とてもお得なのだ。

日本語Audible版: 一括検索

実に壮大で、飽きがこない展開で物語が絶え間なく進む。すでに紹介サイトや動画がたくさんあるので、あらすじを僕が紹介してもあまり意味がない。

本書は「三体問題」という天体力学、数学上の問題を取り込んだSF小説だ。天体は数が3つ以上になると互いの引力によって運動する軌道がものすごく複雑になる。3つの太陽からなる恒星系だと、その周囲を周る惑星に生命は誕生できないと思われる。しかし、もし生命が誕生できたとしたら。。。。どのような進化をするのだろう。この小説では進化と滅亡を繰り返す3体系の生命、文明が存在していることが明かされる。



三体問題をご存知ない方は「三体問題 天才たちを悩ませた400年の未解決問題:浅田秀樹」という本の紹介記事をお読みになるとよい。


三体世界の異星人たちは私たち人類とどのようなかかわりをもつことになるのだろうか?味方なのだろうか?それとも敵なのだろうか?物語はは私たちが思い描くような単純なものではない。この小説が大ヒットしたのは、凡人にはとても想像することができないストーリー、そして現代物理学の知見を取り入れながら、未来の世界がどのようなものであるかが描かれ、およそ400年にわたるこれからの歴史が語られていくのだ。

中国国内ではすでにドラマ化、アニメ化がされている。そして現在Netflixではドラマを制作中であるという。このように長い小説をどのようにまとめるのだろう?また、想像を絶する多次元の光景をどのように映像化することができるのだろうか?楽しみにして待つことにしよう。

SF「三体」連続ドラマの予告編(日本語字幕付き)


【三体】世界が沸騰!?中国発の圧倒的未来感に触れるべし【3分書評授業】


話題のSF小説『三体』を解説


あらすじは、以下のページをお読みになることをお勧めする。

『三体』の難しさ、魅力を徹底解説!それでも読んだら面白い!【ネタバレ注意】https://honcierge.jp/articles/shelf_story/8718

『三体』あらすじと感想【圧倒的なスケールで描くファーストコンタクト中華SF】
https://reajoy.net/book-report/novel/sf/32854/


日本語版はこちらからお買い求めいただきたい。

三体:劉 慈欣」(Kindle版


三体 II 黒暗森林 上:劉 慈欣」(Kindle版
三体 II 黒暗森林 下:劉 慈欣」(Kindle版
 

三体 III 死神永生 上:劉 慈欣」(Kindle版
三体 III 死神永生 下:劉 慈欣」(Kindle版
 

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三体:
物理学者の父を文化大革命で惨殺され、人類に絶望した中国人エリート女性科学者・葉文潔(イエ・ウェンジエ)。失意の日々を過ごす彼女は、ある日、巨大パラボラアンテナを備える謎めいた軍事基地にスカウトされる。そこでは、人類の運命を左右するかもしれないプロジェクトが、極秘裏に進行していた。
数十年後。ナノテク素材の研究者・汪淼(ワン・ミャオ)は、ある会議に招集され、世界的な科学者が次々に自殺している事実を告げられる。その陰に見え隠れする学術団体〈科学フロンティア〉への潜入を引き受けた彼を、科学的にありえない怪現象〈ゴースト・カウントダウン〉が襲う。そして汪淼が入り込む、三つの太陽を持つ異星を舞台にしたVRゲーム『三体』の驚くべき真実とは。

三体 II 黒暗森林 上:
人類に絶望した天体物理学者・葉文潔(イエ・ウェンジエ)が宇宙に向けて発信したメッセージは、三つの太陽を持つ異星文明・三体世界に届いた。新天地を求める三体文明は、千隻を超える侵略艦隊を組織し、地球へと送り出す。太陽系到達は四百数十年後。人類よりはるかに進んだ技術力を持つ三体艦隊との対決という未曾有の危機に直面した人類は、国連惑星防衛理事会(PDC)を設立し、防衛計画の柱となる宇宙軍を創設する。だが、人類のあらゆる活動は三体文明から送り込まれた極微スーパーコンピュータ・智子(ソフォン)に監視されていた! このままでは三体艦隊との“終末決戦"に敗北することは必定。絶望的な状況を打開するため、前代未聞の「面壁計画(ウォールフェイサー・プロジェクト)」が発動。人類の命運は、四人の面壁者に託される。そして、葉文潔から“宇宙社会学の公理"を託された羅輯(ルオ・ジー)の決断とは? 中国で三部作合計2100万部を突破。日本でも第一部だけで13万部を売り上げた超話題作〈三体〉の第二部、ついに刊行!

三体 II 黒暗森林 下:
三体世界の巨大艦隊は、刻一刻と太陽系に迫りつつあった。地球文明をはるかに超える技術力を持つ侵略者に対抗する最後の希望は、四人の面壁者(ウォールフェイサー)。人類を救うための秘策は、智子(ソフォン)にも覗き見ることができない、彼らの頭の中だけにある。面壁者の中でただひとり無名の男、羅輯(ルオ・ジー)が考え出した起死回生の“呪文"とは? 二百年後、人工冬眠から蘇生した羅輯は、かつて自分の警護を担当していた史強(シー・チアン)と再会し、激変した未来社会に驚嘆する。二千隻余から成る太陽系艦隊に、いよいよ出撃の時が近づいていた。一方、かつて宇宙軍創設に関わった章北海(ジャン・ベイハイ)も、同じく人工冬眠から目醒め、ある決意を胸に、最新鋭の宇宙戦艦に乗り組むが……。アジアで初のヒューゴー賞長篇部門に輝いた現代中国最大のヒット作『三体』待望の第二部、衝撃の終幕!

三体 III 死神永生 上:
圧倒的な技術力を持つ異星文明・三体世界の太陽系侵略に対抗すべく立案された地球文明の切り札「面壁計画」。その背後で、極秘の仰天プランが進んでいた。侵略艦隊の懐に、人類のスパイをひとり送る――奇想天外なこの「階梯計画」を実現に導いたのは、若き航空宇宙エンジニアの程心(チェン・シン)。計画の鍵を握るのは、学生時代、彼女の友人だった孤独な男・雲天明(ユン・ティエンミン)。この二人の関係が人類文明の――いや、宇宙全体の――運命を動かすとは、まだ誰も知らなかった……。
一方、三体文明が太陽系に送り込んだ極微スーパーコンピュータ・智子(ソフォン)は、たえず人類の監視を続けていた。面壁者・羅輯(ルオ・ジー)の秘策により三体文明の地球侵略が抑止されたあとも、智子は女性型ロボットに姿を変え、二つの世界の橋渡し的な存在となっていたが……。

三体 III 死神永生 下
帰還命令にそむいて逃亡した地球連邦艦隊の宇宙戦艦〈藍色空間〉は、それを追う新造艦の〈万有引力〉とともに太陽系から離脱。茫漠たる宇宙空間で、高次元空間の名残りとおぼしき“四次元のかけら"に遭遇する。〈万有引力〉に乗り組む宇宙論研究者の関一帆は、その体験から、この宇宙の“巨大で暗い秘密"を看破する……。
一方、程心(チェン・シン)は、雲天明(ユン・ティエンミン)にプレゼントされた星から巨額の資産を得ることに。補佐役に志願した艾AA(アイ・エイエイ)のすすめで設立した新会社は、数年のうちに宇宙建設業界の巨大企業に成長。人工冬眠から目覚めた程心は、羅輯(ルオ・ジー)にかわる二代目の執剣者(ソードホルダー)に選出される。それは、地球文明と三体文明、二つの世界の命運をその手に握る立場だった……。


英語版はこちらからお買い求めいただきたい。Amazon.comでは3冊とも定額聴き放題として販売されている(リンク)のだが、日本語のAudible版は、なぜか3冊目の「Death's End」しか販売されていない。1冊目の「The Three-Body Problem」はYouTubeのリンク(Part 1Part 2)から聴くことができる。

The Three-Body Problem: Cixin Liu」(Kindle版
The Dark Forest Cixin Liu」(Kindle版
Death's End: Cixin Liu」(Kindle版)(Audible版
  


フランス語版は、こちらからお買い求めいただきたい。すべてAudible版を購入することができる。

Le problème à trois corps: Cixin Liu」(Audible)(Sample Audio
La Forêt sombre: Cixin Liu」(Audible)(Sample Audio
La mort immortelle: Cixin Liu」(Audible)(Sample Audio
  


中国語版は、3冊セットがお買い得だ。朗読はYouTubeから聴くことができる。

三体(1-3)(套装共3册):劉 慈欣


音声:YouTube
三体:地球往事: Playlist
三体II:黑暗森林: Playlist
三体III:死神永生: Playlist

この動画は中国で制作されたTVドラマシリーズで英語字幕、日本語字幕がないが、かなり長い時間さまざまな映像を見ることができる。

【三体解说】76分钟看完《三体》全集。宇宙很大,生活更大。【名侦探拳头】



続編:

ところで三体シリーズには続編がある。著者の了解を得たうえで別の作家が書いた小説だ。2次創作といってよい。日本語のAudible版は8月26日以降に聴けるようになるそうだ。以下、日本語版、英語版、フランス語版、中国語版のリンクを載せておく。

三体X 観想之宙: 宝樹」(Kindle版)(Audible版
The Redemption of Time: Baoshu」(Kindle版)(Audible版
La rédemption du temps: Baoshu
  

三体Ⅹ·观想之宙:宝树




内容:
異星種属・三体文明の太陽系侵略に対抗する「階梯計画」。それは、敵艦隊の懐に、人類のスパイをひとり送るという奇策だった。航空宇宙エンジニアの程心(チェン・シン)はその船の推進方法を考案。船に搭載されたのは彼女の元同級生・雲天明(ユン・ティエンミン)の脳だった……。太陽系が潰滅したのち、青色惑星(プラネット・ブルー)で程心の親友・艾(アイ)AAと二人ぼっちになった天明は、秘めた過去を語り出す。三体艦隊に囚われていた間に何があったのか? 『三体III 死神永生』の背後に隠された驚愕の真相が明かされる第一部「時の内側の過去」。和服姿の智子が意外なかたちで再登場する第二部「茶の湯会談」。太陽系を滅ぼした〝歌い手〟文明の壮大な死闘を描く第三部「天萼」。そして――。 《三体》の熱狂的ファンだった著者・宝樹は、第三部『死神永生』を読み終えた直後、喪失感に耐えかねて、三体宇宙の空白を埋める物語を勝手に執筆。それをネットに投稿したところ絶大な反響を呼び、《三体》著者・劉慈欣の公認を得て、《三体》の版元から刊行されることに……。ファンなら誰もが知りたかった裏側がすべて描かれる、衝撃の公式外伝(スピンオフ)。


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三体問題 天才たちを悩ませた400年の未解決問題:浅田秀樹
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