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未知の粒子の証拠を'最後の望み'の実験で確認

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素粒子物理学の基礎である「標準理論」で説明できない現象を捉えたと、米フェルミ国立加速器研究所が7日、発表した。素粒子ミューオンの磁気的な性質が、理論で想定される値から大きくずれていたという。理論が想定していない力が働いていたり、未知の素粒子が影響したりしている可能性がある。事実ならノーベル賞級の成果である。

朝日新聞の記事の見出しに「素粒子物理学の根幹崩れた?」と書かれているため、量子力学が成り立たないのだと勘違いされている方が一部いるようだが、そうではない。この世界を構成する基本的な17種類の素粒子の挙動を説明する標準模型(標準モデル、標準理論)が完全ではなく、その謎を解明するために素粒子物理学に新たな課題が生まれたというのが今回の発表の意味である。今後さらに実験の精度を上げて、成果を確実なものにしていく予定だ。

理論物理学者の大栗先生がこのツイートで「バランスの取れたよい解説だと思う」と評価していた英文記事を和訳してみた。

元記事:

‘Last Hope’ Experiment Finds Evidence for Unknown Particles (Quanta Magazine)
https://www.quantamagazine.org/muon-g-2-experiment-at-fermilab-finds-hint-of-new-particles-20210407


未知の粒子の証拠を'最後の望み' の実験で確認
2021年4月7日
Natalie Wolchover (Twitter: @nattyover)

長らく待ち望まれていたフェルミラボのMuon g-2(ミューオンg-2)チームによる本日の発表は、自然界と理論の間の深い矛盾を解消するように思われます。 しかし、同時に発表された別の計算によると、全体像は曖昧になってしまいます。

素粒子は、生成と消滅を繰り返す「仮想」粒子のエネルギーでパチパチ音を絶えずたてています。 フェルミラボが行なったMuon g-2実験によって、素粒子物理学の標準模型では何が起こっているのかを完全に説明できないという強力な証拠が発見されました。

素粒子の振る舞いの明らかな異常値(アノマリー)が物理学の大きな突破口として期待を高めてから20年後、新たな測定によって確実なものとなりました。シカゴ近くのフェルミ国立加速器研究所(フェルミラボ)の物理学者たちは本日、ミューオン(ミュー粒子、電子に似た素粒子)が、磁化されたリングの周りを泡立ちながら予想以上に「ぐらついている」と発表しました。

広く期待されていた今回の測定は、世界中で話題となった数十年前の結果を裏付けています。 ミューオンのぐらつき、つまり磁気モーメントの両方の測定値は、132人の理論物理学者の国際コンソーシアムによって昨年計算された理論的予測を大幅に上回っています。フェルミラボの研究者たちは、物理学者たちが「発見した」と認めるために必要な厳しい5シグマレベルに至る途中で、その誤差が「4.2シグマ」として測定されたレベルにまで到達したと推定しています。

額面通りに考えると、この不一致は、自然界に存在する未知の粒子がミューオンに余分な力を与えていることを強く示唆しています。この発見はついに50年前に打ち立てられた素粒子物理学の標準模型(標準モデル)の崩壊を告げることになるでしょう—この模型は素粒子と相互作用を矛盾なく説明できる方程式のセットです。

「今日は、私たちだけでなく、国際物理学コミュニティ全体が待ち望んでいた特別な日です」と、フェルミラボのMuon g-2実験のリーダーの1人であり、イタリア国立核物理学研究所の物理学者、Graziano Venanzoniは記者に語りました。

しかし、多くの素粒子物理学者が祝福し、この矛盾を説明できる新しいアイデアを提案するために競争している可能性が高いとしても、ネイチャー誌に本日発表された論文は、鈍い光の中で新しいミューオン測定をドラマチックに投げかけています。

フェルミラボチームが新しい測定値を発表したのと同じように登場したこの論文は、測定されたミューオンのぐらつきがまさに標準模型が予測しているものであることを示唆しています。

この論文では、BMW(Budapest-Marseille-Wuppertal)として知られる理論家のチームが、ミューオンの磁気モーメントの標準模型予測に使用される最も不確実な項の最先端のスーパーコンピュータによる計算結果を提示しています。BMWは、この項を、理論イニシアチブとして知られるグループのコンソーシアムが昨年採用した値よりもかなり大きいと計算しています。 BMWの項が大きいほど、ミューオンの磁気モーメントの全体的な予測値が大きくなり、予測が測定値と一致するようになります。

今回の計算結果が正しければ、物理学者は20年かけて幽霊を追いかけていたことになるかもしれません。しかし、理論イニシアチブによる予測は、何十年にもわたって研ぎ澄まされてきた別の計算アプローチを採用しており、それが正しい可能性もあります。 その場合、フェルミラボの新しい測定は、数年で素粒子物理学において最もエキサイティングな結果をもたらします。

「これは非常にセンシティブで興味深い状況です」と、BMWチームのメンバーで、ペンシルバニア州立大学の理論素粒子物理学者のZoltan Fodorは述べます。

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幅50フィートのMuong-2リング内の電磁石は、絶対零度よりわずか数度上まで冷却する必要があります。

BMWの計算結果自体に速報性はありません。最初の論文は昨年、プレプリントとして登場しました。イリノイ大学の素粒子理論家で理論イニシアチブを共同組織したAida El-Khadraは、BMWの計算結果は真剣に受け止めるべきであるが、まだ検証が必要なため、理論イニシアチブの全体的な予測には考慮されていないと説明しました。 他のグループが独自にBMWの計算結果を検証する場合、理論イニシアチブはその結果を次の評価に統合します。

理論イニシアチブに参加し、フェルミラボのMuon g-2チームのメンバーのドレスデン工科大学の理論家であるDominik Stöckingerは、BMWの結果が「不明確な状況」を生み出すと述べました。 物理学者たちはは、既知17種類の標準模型粒子への影響について合意するまで、エキゾチックな新しい粒子がミューオンと反応しているかどうかを判断できません。

とはいえ、楽観的な理由はたくさんあります。研究者たちは、BMWが正しいとしても、2つの計算結果の間の不可解なギャップ自体が新しい物理学を示している可能性があることを強調しています。しかし今のところ、理論と実験の間の過去20年間の対立は、さらに予想外の何か、つまり理論と理論の戦いに取って代わられたようです。

ミューオンの磁気モーメント

物理学者がフェルミラボの新しい測定を熱心に待ち望んでいた理由は、ミューオンの磁気モーメント(本質的に固有な磁気の強さ)が宇宙に関する膨大な量の情報をエンコードしているからです。

1世紀前、物理学者たちは素粒子の磁気モーメントがより大きな物体の場合と同じ数式に従うと想定していました。しかしながら、彼らは電子が磁場の中で予想の2倍回転することを発見しました。それらの「磁気回転比」または「g因子」(磁気モーメントを他の属性に関連付ける数)は、1ではなく2であるように見えました。これは、電子が「スピン1/2」であるという事実によって後に説明されることになる驚異的な発見です。つまり、電子は1回転ではなく2回転すると同じ状態に戻るのです。

何年もの間、電子とミューオンのどちらについても、g因子は厳密に2であると考えられていましたが、1947年に、Polykarp KuschとHenry Foleyは電子のg因子を2.00232と測定しました。理論物理学者のJulian Schwingerは、すぐさまこのわずかな違いを説明しました。彼は、小さな補正量が、電子が空間を移動するときに光子を瞬間的に放出および再吸収する傾向があるためだということを示しました。

他の多くのつかの間の量子ゆらぎも同様に起こります。電子またはミューオンは、標準模型が許容する他の無数の可能性の中で、2つの光子、または一時的に電子と陽電子になる光子を放出して再吸収する可能性があります。これらの一時的な兆候は、「取り巻き」のように電子またはミューオンとともに移動し、それらすべてがその磁気特性に寄与します。「あなたが裸のミューオンだと思った粒子は、実際にはミューオンに加えて、自発的に現れる他のものの雲です」と、フェルミラボのミューオンg-2実験の別のリーダーのChris Pollyは述べました。「それらは磁気モーメントを変えるのです。」



量子ゆらぎが少ないほど、電子またはミューオンのg因子への寄与は少なくなります。「小数点以下の桁数に入ると、突然クォークが初めて現れ始める場所がわかります」とPoly氏は述べます。さらに、WボソンやZボソンと呼ばれる粒子などがあります。ミューオンは電子の207倍重いため、周囲に重い粒子を想起させる可能性は約2072(または43,000)倍高くなります。したがって、これらの粒子は、電子よりもはるかにミューオンのg因子を変化させます。「したがって、宇宙の失われた質量を説明できる粒子(暗黒物質)を探している場合、または超対称性と呼ばれる理論の粒子を探している場合は、まさにミューオンが独特の役割を果たしているのです」とPoly氏は述べます。

何十年もの間、理論家は標準模型からの既知の粒子のますますありそうもない反復からもたらされるミューオンのg因子への寄与を計算しようと努力してきましたが、実験家はますます高い精度でg因子を測定してきました。測定値が予想を上回った場合、これはミューオンの取り巻きに見知らぬ人がいるという裏切りになります。つまり、標準模型を超える粒子がつかの間に出現したことになるのです。

ミューオンの磁気モーメントの測定は、1950年代にコロンビア大学で始まり、10年後にヨーロッパの素粒子物理学研究所であるCERNで取り上げられました。そこで研究者たちは、今日でもフェルミラボで使用されている測定技術を開拓しました。

高速のミューオンが磁化されたリングに発射されます。ミューオンが強力な磁場を通ってリングの周りを回転すると、粒子のスピン軸(小さな矢印として描けます)が徐々に回転します。数百万秒後、通常はリングの周りを数百回回して高速化した後、ミューオンが崩壊し、周囲の検出器の1つに飛んでいく電子を生成します。それぞれの時間にリングから放出される電子のエネルギーはさまざま異なっており、ミューオンのスピンがどれだけ速く回転しているかを明らかにしてくれます。



1990年代に、ロングアイランドのブルックヘブン国立研究所のチームは、幅50フィートのリングを構築して、ミューオンを飛び回らせ、データの収集を開始しました。2001年に、研究者たちは最初の結果を発表し、ミューオンのg因子について2.0023318404を報告しましたが、最後の2桁にはある程度の不確実性があります。一方、当時の最も包括的な標準モデルの予測では、2.0023318319という大幅に低い値が得られていました。

それはすぐに世界で最も有名な小数点以下8桁の不一致になりました。

「何百もの新聞がそれを取り上げました」と当時実験に参加し、大学院生だったPoly氏は述べました。

ブルックヘブンの測定値は、3シグマ偏差として知られる、想定される許容誤差のほぼ3倍で予測を上回りました。3シグマのギャップは重要であり、ランダムノイズや小さな誤差の不幸な蓄積によって引き起こされる可能性はほとんどありません。暗黒物質の粒子や余分な力を運ぶボソンのような何かが理論計算から欠落していることを強く示唆していました。

しかし、起こりそうもない一連のイベントが発生することがあるため、物理学者たちは、発見を明確に主張するために、予測と測定の間に5シグマの偏差が必要だと考えています。

ハドロンとのトラブル

ブルックヘブンが有名な測定してから1年後、理論家たちは予測の誤りを発見しました。ミューオンが関与できる数万の量子ゆらぎの1つのグループを表す式には、やっかいなマイナス記号が含まれていました。 理論と実験の違いを計算して修正すしたところ2シグマに減少しました。 わくわくすることは何もありません。

しかし、ブルックヘブンチームは10倍以上のデータを蓄積し、ミューオンのg因子の測定値は同じままでしたが、測定値の周りの誤差は縮小しました。理論との不一致は、2006年の実験の最終報告までに、3シグマに戻りました。そして、測定値は上がり続けたのです。また理論家たちは標準模型によるg因子の予測値を磨き続けたのですが、測定値に向かって理論値が上向きに近づくことはありませんでした

ブルックヘブンで観られた異常値(アノマリー)は、他の新しい粒子の発見が失敗したという意味で、物理学者たちの心理に大きな負担を与えました。2010年代を通じて、自然界のの構成要素のパターンを完成させる可能性のある数十の新しい粒子を生み出すことを期待し、ヨーロッパの200億ドルを投資して建設した大型ハドロン衝突型加速器(LHC)は、陽子どうしを衝突させました。しかし、衝突型加速器は、標準模型の最後の欠落部分であるヒッグス粒子だけを発見するにとどまりました。その間、暗黒物質の探索の多くの実験では何も見つかりませんでした。 新しい物理学への期待は、(測定値のぐらつきが)ますます顕著になっているミューオンに移りました。「それが新しい物理学の最後の大きな希望であるかどうかはわかりませんが、大きな希望であることは確かです」とラトガーズ大学の素粒子物理学者でのMatthew Buckleyは私に述べました。

もともとのMuon g-2実験施設は、1990年代にロングアイランドのブルックヘブン国立研究所で建設されました。物理学者たちは、今回の実験を最初から構築するのではなく、これら一連のバージとトラックを使用して、大西洋岸を下ってメキシコ湾を越え、ミシシッピ川、イリノイ川、デスプレーンズ川を上って、この700トンの電磁リングをイリノイ州のフェルミ国立加速器研究所まで移動させました。2013年7月の到着を祝い何千人もの人々が集まりました。





発見のしきい値を超えるには、ミューオンの磁気回転比をもう一度、より正確に測定する必要があることを誰もが知っていました。そのため、追跡実験の計画が進行中でした。2013年、ブルックヘブンで使用された巨大な磁石がロングアイランド沖のはしけに積み込まれ、大西洋岸を下ってミシシッピ川とイリノイ川を上ってフェルミラボに送られました。フェルミラボでは、強力なミューオンビームによってデータが以前よりもはるかに速く蓄積されました。これと他の改善をすることで、フェルミラボチームはミューオンのg因子をブルックヘブンよりも4倍正確に測定できるようになります。

2016年、El-Khadraらは理論イニシアチブの組織化を開始し、不一致を解消し、フェルミラボのデータが公開される前にg因子の標準モデル予測地のコンセンサスに到達しようとしました。「このように絶妙な実験では測定に与えるインパクトを最大化するために、基本的にそのやり方を理論的に裏付ける必要があります。」と彼女は述べ、当時の状況を説明しました。 理論家は、ミューオンのg因子に寄与するさまざまな量子ビットとピースの計算を比較して組み合わせ、昨年の夏、2.0023318362の包括的な予測値に到達しました。 これは、ブルックヘブンの最終測定値である2.0023318416を3.7シグマ下回りました。

しかし、理論イニシアチブのレポートは最終結果ではありませんでした。

標準模型がミューオンの磁気モーメントについて何を予測するかについての不確実性は、クォークでできた粒子である「ハドロン」の周囲に存在することによります。クォークは強い力(標準模型の3つの力の1つ)を感じます。これは、クォークが接着剤の中を泳いでいるかのように非常に強く、その接着剤は他の粒子と際限なくくっついています。つまり強い力(つまり最終的にはハドロンの振る舞い)を表す方程式は正確に解くことができません。

そのため、ミューオンの真ん中にハドロンが出現する頻度を測定するのは困難です。支配的なシナリオは次のとおりです。ミューオンは、移動するときに瞬間的に光子を放出し、ハドロンと反ハドロンに変化します。ハドロンと反ハドロンのペアはすぐに消滅して光子に戻り、ミューオンはそれを再吸収します。ハドロン真空偏極と呼ばれるこのプロセスは、小数点以下第7位から始まるミューオンの磁気回転比にわずかな補正をもたらします。この補正の計算には、発生する可能性のあるハドロンと反ハドロンのペアごとに複雑な数学的合計を解くことが含まれています。


イリノイ大学の素粒子物理学者のAida El-Khadraは、昨年、ミューオンの磁気モーメントの最も受け入れられた理論的推定値を発表した理論イニシアチブの主催者の1人でした。

このハドロン真空偏極項に関する不確実性は、g因子に関する全体的な不確実性の主な原因です。この項を少し増やすと、理論値と実験値の違いを完全になくすことができます。物理学者たちにはそれを計算する2つの方法があります。

最初の方法では、研究者たちはハドロンの振る舞いを計算しようとさえしません。代わりに、他の粒子衝突実験からのデータをハドロン真空偏極項の期待値に変換するだけです。「このデータ駆動型アプローチは数十年にわたって洗練され最適化されており、アプローチに異なる詳細を使用しているいくつかの競合グループがお互いのやり方を確認しています」とStöckinger氏は述べています。 理論イニシアチブは、このデータ駆動型アプローチを使用しました。

しかし近年では、純粋に計算を使った手法が着実に改善しています。 このアプローチでは、研究者たちはスーパーコンピュータを使用して、空間のあらゆる場所ではありませんが、格子上の離散点での強い力の方程式を解くことで、本来は無限に詳細な問題を有限の問題に変えて解きます。ハドロンの振る舞いを予測するためにクォークの泥沼を粗視化するこの方法は、「天気予報や気象学に似ています」とFodor氏は説明しました。格子点を非常に接近させることで計算を超精密に行うことができますが、これはコンピュータの性能を限界まで押し上げます。

ブダペスト、マルセイユ、ヴッパータールにちなんで名付けられた14人のBMWチームは、ほとんどのメンバーが最初に拠点を置いていたヨーロッパの3つの都市でこのアプローチを使用しました。彼らは4つの主要な革新を行いました。まず、ランダムノイズを減らしました。彼らはまた、格子のスケールを非常に正確に決定する方法を考案しました。同時に、以前の取り組みと比較して格子のサイズを2倍以上にしたため、エッジ効果を気にすることなく、格子の中心付近でのハドロンの挙動を調べることができました。最後に、クォークの種類間の質量の違いなど、しばしば無視される複雑な詳細のファミリーを計算に含めました。「これら4つすべての[変更]には多くの計算能力が必要でした」とFodor氏は述べています。

その後、研究者たちは、ユーリッヒ、ミュンヘン、シュトゥットガルト、オルセー、ローマ、ヴッパータール、ブダペストでスーパーコンピュータを使い、新たに改善された計算に取り掛かりました。数億コア時間のクランチの後、スーパーコンピュータはハドロン真空偏極項の値を吐き出しました。それらの合計値は、ミューオンのg因子に対する他のすべての量子寄与と組み合わせると、2.00233183908になりました。これはブルックヘブンの実験と「かなりよく一致している」とFodor氏は言います。 「非常に驚いたので、100万回クロスチェックしました。」 そして2020年2月、彼らはarxiv.orgプレプリントサーバーに自分たちの仕事を投稿しました。


ドイツのユーリッヒ研究センターにあるJUWELSスーパーコンピュータは、ヨーロッパで最も強力です。 これは、ミューオンの異常な磁気モーメントを計算するために使用された7つのスーパーコンピュータの1つでした。

理論イニシアチブは、いくつかの理由から、BMWの値を公式の予測値に含めないことを決定しました。データ駆動型アプローチの誤差バーはわずかに小さく、3つの異なる研究グループが独立して同じことを計算しました。 これとは対照的に、BMWの格子計算は昨年の夏の時点で未発表でした。また、結果は以前の精度の低い格子計算とよく一致していましたが、別のグループによって個別に行われた計算では同じ精度で再現されていません。

理論イニシアチブの決定は、ミューオンの磁気モーメントの公式の理論値がブルックヘブンの実験的測定値と3.7シグマの違いがあることを意味しました。 これは、2012年のヒッグス粒子以来、素粒子物理学で最も期待されていることが明らかになるための準備を整えました。

最初の結果が明らかに

1か月前、フェルミラボのMuon g-2チームは、最初の結果を発表すると発表しました。素粒子物理学者たちは恍惚としました。チューリッヒ大学の物理学者のLaura Baudisは、20年間の結果を予想した後、「4月7日までの日数を数えている」と述べました。「ブルックヘブンの結果がフェルミラボでの新しい実験によって確認されれば、これは大きな成果になるでしょう」と彼女は述べました。

そうでない場合、つまり異常値が消えた場合、素粒子物理学コミュニティの一部は「素粒子物理学の終焉」にほかならないと恐れていたとStöckinger氏は述べています。フェルミラボのg-2実験は、「標準模型を超える物理の存在を実際に証明する実験の最後の希望」であると彼は述べました。そうならない場合、多くの研究者は「標準模型を超える物理を研究する代わりに、今はあきらめて何か他のことをしなければならない」と感じるかもしれません。「正直言って、それは私自身に降りかかることかもしれない」と彼は付け加えました。

フェルミラボの200人のチームは、わずか6週間前にZoomのセレモニーで結果を明らかにしました。チームの科学者のTammy Waltonは、実験の夜勤を行った後、ショーをキャッチするために急いで家に帰りました。これは現在4回目のことです。(新しい分析は、最初の実験からのデータをカバーしています。これは、実験で最終的に発生するデータの6%を占めています。)理論イニシアチブの予測値とブルックヘブンの測定値とともにプロットされた最も重要な数値が画面に表示されたとき、Walton氏は それが理論イニシアチブの予測値よりも高い値に着地し、ブルックヘブンの測定値の上を叩き出したのを見て興奮しました。 「人々は夢中になって興奮するでしょう」と彼女は述べました。

新しい物理学のための様々なアイデアを提案する論文は、今後数日でArxivに殺到すると予想されます。それどころか、今後どうなるかはまったくわかりません。 かつては理論と実験の間の明らかに「違反」であったものが、はるかに霧のかかった計算の衝突によって曇っていました。

スーパーコンピュータの計算が間違っていることが判明する可能性はあります — つまりBMWが誤差の原因を見落としていたからです。「計算を詳しく調べる必要があります」とEl-Khadra氏は述べ、確固たる結論を出すには時期尚早であると強調しました。「必要な精度を得るためにメソッドを改善しています。そして我々は誤差の原因がメソッドに影響しどのように精度を壊していたかを理解する必要があります。」

それは新しい物理学のファンにとって朗報となることでしょう。

興味深いことに、データ駆動型の方法が内部で未確認の問題を伴うアプローチであるとしても、理論家は、説明されていない新しい物理学以外の問題が何であるかを理解するのに苦労しています。「新しい物理学の必要性は他の場所にのみシフトするでしょう」と、理論イニシアチブの主要メンバーで、ベルン大学のMartin Hoferichterは述べました。

過去1年間、データ駆動型の方法で起こりうる問題を調査してきた研究者は、データ自体が間違っている可能性は低いと述べています。これは、35のハドロンプロセスの数十年にわたる超精密測定に由来します。 しかし、この可能性を研究しているある論文の共著者であるCERNや他の機関のAndreas Crivellinは、「データまたはその解釈方法が誤解を招く可能性があります」と述べています。

ミューオンの近くのハドロン真空偏極に影響を与えることなく、破壊的な干渉が発生して、特定の電子-陽電子衝突で発生するハドロンプロセスの可能性を減らす可能性があると彼は説明しました。その場合、一方から他方へのデータ駆動型の外挿は完全には機能しません。 ただし、その場合、同じハドロンプロセスに敏感な別の標準模型の計算が破棄され、理論とデータの間に異なる緊張が生まれます。そして、この緊張自体が新しい物理学を示唆することになるでしょう。

El-Khadra氏が述べたように、新しい物理学を「他の場所では観察されなかったほどとらえどころのない」ままにして、この他の緊張を解決するのは難しいのですが、たとえば、ベクトル型レプトンと呼ばれる架空の粒子の効果を導入することによって可能になります。

したがって、ミューオンの周りを渦巻く謎は、結局のところ、標準模型を超え、宇宙のより完全な説明への道へ導くことになるかもしれません。 しかし、結局のところ、今回のニュースは、フェルミラボからの結果と、ネイチャー誌でのBMW計算の公開の両方において、素粒子物理学の終わりではないと言っても過言ではありません。


関連動画:

4月7日にライブ配信で発表されたときの動画は、ここでご覧いただける。

Scientific Seminar: First results from the Muon g-2 experiment at Fermilab: YouTubeで再生


g-2の値の標準模型(SM: Standard Model)での予測値と実験による測定値の平均(Exp: Experiment average)が4.2シグマレベルで違っていることがわかるのは、この動画再生開始から56分12秒あたりである。




関連ニュース記事:

素粒子物理学の根幹崩れた? 磁気の測定値に未知のずれ(朝日新聞)
https://news.yahoo.co.jp/articles/d342900db6c968c934a546d6e4701203cdd8bd51

A Tiny Particle’s Wobble Could Upend the Known Laws of Physics (The New York Times)
https://www.nytimes.com/2021/04/07/science/particle-physics-muon-fermilab-brookhaven.html

Is the standard model broken? Physicists cheer major muon result (Nature)
https://www.nature.com/articles/d41586-021-00898-z

Is the Standard Model of Physics Now Broken? (Scientific American)
https://www.scientificamerican.com/article/is-the-standard-model-of-physics-now-broken/

Le muon, particule révolutionnaire qui agite le monde de la physique (Huffington Post France)
https://www.huffingtonpost.fr/entry/le-muon-particule-de-revolution-qui-agite-le-monde-de-la-physique_fr_606ef135c5b6865cd29998ac


関連記事:

素粒子物理学、標準模型について知るには、以下の本をお勧めする。やさしい順に紹介しておこう。

「宇宙のすべてを支配する数式」をパパに習ってみた: 橋本幸士
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f63919605c4e5556fb0d12171ce458e8

強い力と弱い力:大栗博司
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/06c3fdc3ed4e0908c75e3d7f20dd7177

クォーク 第2版: 南部陽一郎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/966d315e9ed9b5391c93c1dd80f6028b

素粒子論はなぜわかりにくいのか:吉田伸夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bcbaebb9f2a77b1bd63e3928f6bd6e9f

「標準模型」の宇宙:ブルース・シューム
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/25297abb5d996b0c1e90b623a475d1aa

素粒子標準模型入門: W.N.コッティンガム、D.A.グリーンウッド
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/522960c6eb852df961348fee76463852

クォークとレプトン―現代素粒子物理学入門:F.ハルツェン、A.D.マーチン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c07894c098d380378be7932a02e87fad


1967年に、弱い相互作用と電磁相互作用を統一する電弱統一理論(ワインバーグ=サラム理論)を発表し、素粒子の標準模型を完成させた理論物理学者のワインバーグ博士はご存命である。今回の発表をご覧になってどのような感想をお持ちになっただろうか。

標準模型への回想: スティーブン・ワインバーグ博士
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a8b05b0c03cd7c76f50e4133ec358b3b


 

 

場の量子論: 不変性と自由場を中心にして(量子力学選書):坂本眞人

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場の量子論: 不変性と自由場を中心にして(量子力学選書):坂本眞人」(Kindle版)(詳細

内容紹介:
本書は、自習用、もしくは自主ゼミなどのテキストとして使いこなせることを念頭に執筆された。内容は、“古典場の量子化”と“相互作用のない場(自由場)の量子化”に絞って、これらを“不変性”という視点から解説した。なお、“相互作用のある場の量子化”については、続刊『場の量子論(II) -ファインマン・グラフとくりこみを中心にして-』(2020年9月刊行、ISBN 978-4-7853-2512-1)にて解説する。
特徴として、初学者に少しでも門戸を広げられるよう、詳しい式の導出や説明を極力省かない方針とした。特に、得られた式の物理的意味の理解に時間が費やせるように試みた。
また、本文中には、読者のつまずきやすい箇所でのコメントに加え、式導出や証明、役に立つ公式や考え方のアドバイスなどの注釈を設けた。さらに、“check”と題した問題も設けられており、意欲のある読者は是非チャレンジしてもらいたい。その解答は、裳華房ウェブページ上で公開している。

2014年11月5日刊行、437ページ。

著者について:
坂本眞人(さかもと まこと)
HP: http://www2.kobe-u.ac.jp/~dragon/
1985年3月九州大学大学院理学研究科博士後期課程修了。及び理学博士の学位取得。4月日本学術振興会特別研究員。所属機関:九州大学理学部。1986年4月日本学術振興会奨励研究員。所属機関:九州大学理学部(1986年4月~1987年3月)。京都大学基礎物理学研究所(1987年4月~1987年3月)。1988年4月京都大学基礎物理学研究所研究員。5月神戸大学理学部物理学科助手。ニールスボーア研究所文部省在外研究員(1992年3月~1993年4月)。2007年4月神戸大学大学院理学研究科物理学専攻助教授。


理数系書籍のレビュー記事は本書で456冊目。

本書は発売された2014年に購入したのだが、積読のままになっていた。昨年9月に続巻が刊行され、さすがに読み始めたほうがいいなぁと思って手をつけたわけである。それほど長い間放置していた感覚はないのだが、刊行されてから7年も経っている。うかうかしていると、あっという間に時が経ってしまうのだ。振り返ってみると同シリーズの「相対論的量子力学 (量子力学選書): 川村嘉春」を読んだのは2016年の夏で、5年も経過している。

場の量子論は独学派の物理学徒にとって難攻不落なものだ。網羅的に学べるよい日本語の教科書はなく、理論物理学者の大栗博司先生でさえかつては「何度も勉強した」と「探究する精神 職業としての基礎科学:大栗博司」の中でお書きになっている。学ぶべきことがたくさんあるため、何冊もの本を紐解く必要があるのだ。

そのような状況の中で、本書は書店で立ち読みしたときから期待が持てていた。独学用に最適で、ページ数に余裕を持たせているから、まるで講義を受けているような感覚で読み進められる。さらに「check」として挿入されている演習問題の解答は、本書には掲載されず、サポートページからダウンロードできるようにされている。この解答集だけで263ページもあり、至れり尽くせりである。

本書は学部生を想定して書かれていることもうれしい。著者によると「量子力学と特殊相対性理論の基礎を学んだ(理工系の学部3、4年生レベルの)人が読みこなせる」ことを念頭においたという。わかりやすさを優先したため、ボリュームが多くなり、内容を二分冊に分け、非可換ゲージ場の量子化と摂動論の定式化が続刊で解説することになった。

場の量子論は数学として定式化されていないと言われているが、本書で解説している「不変性と自由場を中心にして」は、ゲージ原理、量子場のゲージ不変性から粒子の存在と性質を導いているわけだから、数学的にもエレガントで美しい。本書の大部分は1粒子(1粒子状態)と粒子ペアの生成・消滅を取り扱っている。理論が数学的にすっきりしているのはそのためだ。

あと本書は、言葉による雄弁な説明が多い。極論になるが数式を全部読み飛ばして文章の部分だけ読んでも筋書きは理解できてしまうほどなのだ。そして、物理的な解釈をとても重要視している。特に第11章の「真空エネルギー」の説明(このツイートを参照)にそのことがあらわれている。

詳細目次はサポートページでご覧いただける。章立ては次のとおりだ。章を追うごとに、標準模型に含まれる17種類の基本粒子が数式から次々と紡ぎだされ、質量を獲得する過程が実感できるようになる。ゲージ原理恐るべしというところだ。

1.場の量子論への招待
2.クライン‐ゴルドン方程式
3.マクスウェル方程式
4.ディラック方程式
5.ディラック方程式の相対論的構造
6.ディラック方程式と離散的不変性
7.ゲージ原理と3つの力
8.場と粒子
9.ラグランジアン形式
10.有限自由度の量子化と保存量
11.スカラー場の量子化
12.ディラック場の量子化
13.マクスウェル場の量子化
14.ポアンカレ代数と1粒子状態の分類

各章の概要を本書から引用しておこう。

1.場の量子論への招待

自然の心理を解き明かしていく上で、不変性の理解は不可欠である。相対論的場の量子論は、相対性理論と量子力学が融合したものだが、不変性の観点からは、時空並進不変性とローレンツ不変性を持つ理論体系と見なすことができる。本章では、これから場の量子論を学ぶ準備として、その背景や理解の助けとなる事柄についてまとめておく。

2.クライン‐ゴルドン方程式

クライン-ゴルドン方程式は最も基本的な相対論的方程式であり、すべての相対論的自由粒子はこの方程式に従う。本章では、波動関数の確立解釈に基づく量子力学の観点から、クライン-ゴルドン方程式を考察し、問題点とその解決の糸口について議論する。

3.マクスウェル方程式

電場E、地場Bで書かれたマクスウェル方程式は4組の方程式で書かれているが、ベクトル場A^μを用いると、たった1つの相対論的方程式に置きかわる。このときマクスウェル方程式の持つ最も重要な性質はゲージ不変性である。ゲージ不変性は光子が質量を持つことを禁止し、マクスウェル方程式の形を本質的に決める役割を持つ。

4.ディラック方程式

本章では、ディラックのアイデアに従って、ディラック方程式を導出する。ディラック方程式の成功は、電子のスピンを説明し、スピンと磁場の相互作用項(パウリ項)を理論的に導いたことである。これらの性質をディラック方程式から導き、さらに、質量は全く同じだが電荷は逆符号の反粒子の存在や、ディラック粒子の従うフェルミ-ディラック統計について、相対論的量子力学の観点から考察する。


5.ディラック方程式の相対論的構造

本章では、ディラック方程式のローレンツ変換性について詳しく議論する。ディラック方程式の波動関数はスピノル場ともよばれ、スカラー、ベクトル、テンソル以外にスピノルの変換性を持つ量が新たに加わることになる。スピノルは、2回転(720°回転)しないと元に戻らないという特異な性質を持つ。また、スピノルから双1次形式を作ることによって、スカラー、ベクトル、テンソル量を構成できる。

6.ディラック方程式と離散的不変性

ディラック方程式は、ローレンツ変換のような連続的不変性だけでなく、空間反転、時間反転、荷電共役などの離散的不変性を持つ。これらの離散的不変性とカイラルスピノルについて詳しく議論する。カイラルスピノルはスピン右巻き、あるいは左巻き状態からなり、それらを足し合わせたものがディラックスピノルである。素粒子の世界を記述する標準模型は、このカイラルスピノルで構成された理論である。

7.ゲージ原理と3つの力

素粒子の従う自然法則はゲージ原理によって支配されている。実際、重力を除いた3つの力(強い力、弱い力、電磁気力)は、それぞれ非常に異なる性質を持つにも関わらず、げ、ゲージ原理によって統一的に理解することができる。本章では、マクスウェル理論を拡張した非可換ゲージ理論を紹介し、SU(3)×SU(2)×U(1)ゲージ理論として記述あれる標準模型を概観する。


8.場と粒子

相対論と量子論の融合は、必然的に粒子の生成と消滅を引き起こす。そのため、粒子数が保存するという理論体系は必然的に破綻する。したがって、波動関数の確率解釈に基づいた量子力学を、粒子の生成・消滅を取り込んだ理論体系へ拡張する必要がある。それが場の量子論である。本章で「場」の概念を説明し、場と粒子の橋渡しを行うことにする。

9.ラグランジアン形式

不変性の原理は、自然法則を理解する上で最も基本的な概念の1つである。そして、素粒子物理の目的の1つは「自然法則の持つ不変性を完全に把握すること」である。第1章の初めで述べた「不変性の原理が自然法則のあるべき姿を決める」の意味が、本章で明らかになる。

10.有限自由度の量子化と保存量

本章では、場の量子化の準備として、有限自由度の量子化についてまとめた。特に、調和振動子模型での生成消滅演算子は、場の量子論における粒子の生成消滅の理解に不可欠である。また、不変性と保存量の間の密接な関係について、連続的不変性は保存量を導くこと、保存量は不変性に伴う無限小変換の生成子であることを明らかにする。

11.スカラー場の量子化

本章ではスカラー場の量子化を行う。クライン-ゴルドン方程式を満たす場の演算子から粒子の生成消滅演算子が得られることを示し、それらを使って粒子描像を明らかにする。このとき場の量子論の整合性から、スカラー粒子はボース-アインシュタイン統計において従わなければならないことがわかる。複素スカラー場の理論では、1粒子状態において質量は同じだが電荷がお互い逆符号の粒子と反粒子が現れる。また、摂動論を行うときに重要なファインマン伝播関数についても紹介する。

12.ディラック場の量子化

ディラック場の量子化でスカラー場と異なる点は、ディラック場は4成分スピノルの変換性を持つことと、反交換関係を用いて量子化されなければならないことである。ディラック場の1粒子状態には、スピン1/2を持つ粒子と荷電共役変換で結びつく反粒子が存在する。また、ディラック場が持つ可換性から、ディラック粒子はフェルミ-ディラック統計に従うことがわかる。

13.マクスウェル場の量子化

マクスウェル場の量子化は、スカラー場やディラック場と違ってゲージ不変性のため、通常の量子化の手続きではうまくいかない。そのため、作用積分にゲージ固定項をつけ加え、さらに物理的状態に対する補助条件を課す必要がある。本章では、ゲージ場の量子化の問題点と解決のためのアイデアについて議論し、マクスウェル場の1粒子状態、すなわち光子は2つの物理的自由度を持ち、スピンの大きさは1でヘリシティの固有状態で分類されることを明らかにする。

14.ポアンカレ代数と1粒子状態の分類

相対論的場の量子論は、時空並進とローレンツ変換の下での不変性、すなわちポアンカレ不変性を持つ。これらの変換の生成子はポアンカレ代数と呼ばれる交換関係に従う。本章では、ポアンカレ代数を用いて1粒子状態の分類を行う。ポアンカレ不変性に基づいて自然法則が成り立っているならば、自然界に存在するすべての素粒子はこの分類に従うことになる。


ところで、シュレディンガー方程式が電子だけでなく光子についても成り立つと誤解している人がときどきいるが(僕もかつでそうだった)、シュレディンガー方程式に対応する光子の波動方程式をあえて挙げよというのであれば、それはマクスウェル方程式である。本書の第13章「マクスウェル場の量子化」では、質量がゼロの粒子(すなわち光子や重力子)の理論が議論され、光子についての場の量子論を詳しく知ることができる。これは僕にとって大きな収穫だった。

そして、もし場の量子論が本書の範囲で完結しているのだとしたら、とても美しい理論であるし、学ぶのも容易である。しかし、自然はそうなっていない。標準模型を完成させるには続刊で解説されるいくつもの理論が必要になる。

また、いくつもの未解決な謎があることから、標準模型にしても完全というわけでないことがわかっている。つい先日の4月7日に「素粒子ミューオンの磁気的な性質が、標準模型で想定される値から大きくずれていたという実験結果が発表されたばかりだ。(参考記事:「未知の粒子の証拠を'最後の望み' の実験で確認」)


まだ1冊目を読んだばかりだが、この2分冊はおそらく日本語で読める場の量子論の教科書では、いちばん良いのではないかという気がしている。1冊他の本を読んでから、2分冊目を読もうと思っている。

場の量子論: 不変性と自由場を中心にして(量子力学選書):坂本眞人」(Kindle版)(詳細
場の量子論(II)-ファインマン・グラフとくりこみを中心にして(量子力学選書):坂本眞人」(Kindle版)(詳細
 

1冊目が437ページであるのに対し、2冊目は592ページある。急がずじっくり取り組みたいものだ。

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関連記事:

相対論的量子力学 (量子力学選書): 川村嘉春
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/df0329251637a27bc5545d435a598ab3

場の量子論〈第1巻〉量子電磁力学:F.マンドル、G.ショー
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/08726ab931904f76d9c26ff56d219e53

場の量子論〈第2巻〉素粒子の相互作用:F.マンドル、G.ショー
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/95d908cd752af642964cbff7ea7f0301


 

 

数学に魅せられて、科学を見失う:ザビーネ・ホッセンフェルダー

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数学に魅せられて、科学を見失う:ザビーネ・ホッセンフェルダー」(Kindle版

内容紹介:
◆物理学の基盤的領域では30年以上も、既存の理論を超えようとして失敗し続けてきたと著者は言う。実験で検証されないまま理論が乱立する時代が、すでに長きに渡っている。それら理論の正当性のよりどころとされてきたのは、(数学的な)「美しさ」あるいは「自然さ」だが、なぜ多くの物理学者がこうした基準を信奉するのだろう? 革新的な理論の美が、前世紀に成功をもたらした美の延長上にあると考える根拠は、どこにあるのか? そして、超対称性、余剰次元の物理、暗黒物質の粒子、多宇宙……等々も、その信念がはらむ錯覚の産物だとしたら?
◆本書では、この「美的基準」の意義をめぐって研究当事者たちが率直な対話を交わす。研究者たちの語りを通じて浮かび上がるのは、究極のフロンティアへ進撃を続けるイメージとは違って、空振り続きの実験結果に戸惑い、理論の足場の不確かさと苦闘する物理学の姿である。「誰もバラ色の人生なんて約束しませんでしたよ。これはリスクのある仕事なのです」(ニマ・アルカニ=ハメド)、「気がかりになりはじめましたよ、確かに。たやすいことだろうなんて思ったことは一度もありませんが」(フランク・ウィルチェック)
◆著者が提示する処方箋は、問われてこなかった前提を見つめ直すこと、あくまで観測事実に導かれること、それに、狭く閉じた産業の体になりつつあるこの分野の風通しをよくすることだ。しかし、争点はその手前にある。物理学はほんとうに、「数学の美しさのなかで道を見失って」いるのだろうか? 本書が探針を投じる。

2021年4月10日刊行、352ページ。

著者について:
ザビーネ・ホッセンフェルダー(Sabine Hossenfelder)
フランクフルト高等研究所(FIAS,ドイツ)研究フェロー。重イオン研究所(GSI,ドイツ)でポストドク、アリゾナ大学、カリフォルニア大学サンタバーバラ校(いずれもアメリカ)、ペリメーター理論物理学研究所(カナダ)にて研究フェロー、北欧理論物理学研究所(NORDITA,スウェーデン)助教授などを経て、2018年より現職。ブログ"BackReaction"が人気を集め、The New York Times, Scientific American, New Scientist, The Guardianをはじめとする雑誌にも寄稿している。本書が初の単著。

翻訳者について:
吉田三知世(よしだ・みちよ)
英日・日英翻訳者。京都大学理学部卒業後、技術系企業での勤務を経て翻訳家に。訳書に、フランク・ウィルチェック『物質のすべては光』(2009)、グレアム・ファーメロ『量子の海、ディラックの深淵』(2010)(以上、早川書房)、レオン・レーダーマン他『詩人のための量子力学』(2014)(白揚社)、ランドール・マンロー『ホワット・イフ? Q1』『ホワット・イフ?Q2』(2019)(いずれも早川書房)ほか多数。訳書のジョージ・ダイソン『チューリングの大聖堂』(2013、ハヤカワNF文庫版2017)が第49回日本翻訳出版文化賞受賞。


理数系書籍のレビュー記事は本書で457冊目。

中身をよく確認せず、タイトルに魅せられてKindle版を衝動買いした。Amazonに記載さされている「内容紹介:」は読んでいたが、要約するとそこに書かれているとおりの本である。

僕がとりわけ惹かれたのは、タイトルの「数学に魅せられて」の部分。現代数学の魅力にも触れられているのかと勘違いした。原題の「Lost in Math」には「魅せられて」の意味は込められていない。

読んでワクワクするような本だと思って読み始めたが、第1章を読んだ時点で期待は裏切られた。現代物理学、特に素粒子物理学と宇宙物理学が直面しているさまざまな問題、科学者たちが抱えている妄想を紹介し、著者が疑問と批判の矛先を向けて、皮肉たっぷりに説明している本だとわかったからだ。そのスタイルは最初から最後まで一貫している。

そのため、本書には「否定文」がとても多い。科学の可能性を信じる物理学ファンが読むには、否定的な文章を読み続けるのはかなりつらいものがある。科学教養書としての出来もぱっとしない。専門用語をわかりやすく解説しようという気持ちが著者にはないため、科学教養書をひととおり読んだ読者、物理学を学んだことがある読者にしか理解できない本になっている。

物事に対して、その将来の可能性を信じ、楽観的にとらえて進む人と、その逆の人がいる。著者は明らかに後者の人なのだ。現代物理学が予言する、多宇宙論、標準模型、超弦理論、超対称性理論、標準宇宙論模型、暗黒物質、暗黒エネルギー、LHCを始めとする巨大実験施設、そしてそれらの分野で研究を続ける科学者たち。。。それらひとつひとつに懐疑の目を向け、批判的な考えを繰り返して読者に「これでいいのか?よいはずがない。」と本書で問いかけている。

それぞれの分野の第一人者として知られる科学者に著者は直接インタビューをし、解説するというスタイルである。質問も意地悪なものが多く、おそらく二度とインタビューさせてもらえないほど、嫌われたのではないかと僕は思った。その中にはスティーブン・ワインバーグ博士、ブライアン・グリーン博士、ジョセフ・ポルチンスキー博士などの大御所も含まれている。そしてインタビューが終わった後、本書に批判や反論を書いてしまうのである。

半分ほど進んだところで、読むのをもうやめようと思った。ブログの紹介記事に否定的なことばかり書きたくないし、そのような記事はブログの読者も望んでいないと思ったからだ。

それでも読み続けて、読み終えてからこの記事を書いている自分がいる。何が僕の気持ちを変えさせたのだろうか?

それは、著者の主張が「本当のこと」であるからだ。科学的な真理や真実は、人間の気持ちや美的感覚とは本来独立しているはずだ。好きか嫌いかという基準で評価すべきものではない。また、教科書や科学教養書は達成した偉業、成功例を解説、紹介することが目的だから、わかっていないこと、否定的なことに割かれるページはほとんどない。公平であろうとする姿勢を保つためには、肯定的なことだけでなく、否定的なことにも聞く耳を持つべきだと思ったのだ。

特に先日読んだ「場の量子論: 不変性と自由場を中心にして(量子力学選書):坂本眞人」もそうである。この本は場の量子論という数学的には定式化されていない分野のうち、対称性という数学的に美しい部分だけに焦点を当てて解説している。2分冊めの数学的に美しくない部分にフォーカスした本を読む前に、今回の本を読んでおくべきだろう。本書には標準模型では、どのようなことが謎として残っているかを、これでもかと思えるほど紹介している。対称性を物理法則に求めるのは、果たして正しいことなのだろうか?

また、先日紹介した「未知の粒子の証拠を'最後の望み' の実験で確認」という記事に書いた実験も、標準模型を逸脱する法則、粒子があるのだろうという予測をしている。今のところ超対称性粒子は見つかっていないし、新しい物理学、物理法則への扉が開かれたことになるのだろうか?

本書を読みながら、いま科学者たちが抱えている研究のジレンマ、科学が直面している危機的状況を知ることには意味があると思う。標準模型まではよかった。しかし、その先は。。。。

本書に書かれているのは現代物理学が抱えている諸問題、理論物理学者として著者が抱えているジレンマである。

章立ては次の通りだ。「はじめに」だけ無料で公開されている。

はじめに
第1章 物理学の隠れたルール
第2章 素晴らしき世界
第3章 ユニオンの状況
第4章 基盤に入った亀裂
第5章 理想的な理論
第6章 理解不可能な理解可能性──量子力学は、いったいなぜ理解できるのか
第7章 すべてを支配するひとつのもの
第8章 宇宙、最後のフロンティア
第9章 宇宙、そこにあるすべてのもの、そしてそれ以外のもの
第10章 知は力なり
補遺A 標準模型の粒子
補遺B  「自然さ」が抱える困難
補遺C この状況を救うためにあなたができること


日本語版は、それなりの価格だが、原書のKindle版はとても安い。日英仏版のAmazonサイトのリンクを載せておこう。

数学に魅せられて、科学を見失う:ザビーネ・ホッセンフェルダー」(Kindle版
Lost in Math: How Beauty Leads Physics Astray: Sabine Hossenfelder」(ペーパーバック)(Kindle版
Lost in Maths: Comment la beauté égare la physique: Sabine Hossenfelder

  


関連動画:

動画を見ると、著者がどのような主張をしているかがおわかりになると思う。

Particle Physics Discoveries that Disappeared(日本語字幕はYouTubeで再生するときだけ表示される)

YouTubeで再生

Sabine Hossenfelder on the Crisis in Particle Physics and Against the Next Big Collider - Episode #8

YouTubeで再生

著者のYouTubeチャンネル: 開く


 

 


数学に魅せられて、科学を見失う:ザビーネ・ホッセンフェルダー」(Kindle版


はじめに

第1章 物理学の隠れたルール
この章で私は、自分はもはや物理学が理解できていないことに気づく。
善良なる科学者が抱える難問
失敗
数学でできている
物理学への羨望
見えない友人たち

第2章 素晴らしき世界
この章で私は、かつての科学者たちについての本を読み、誰もが恰好のよいアイデアを好むが、その恰好のよいアイデアがときにはひどく失敗するのだと知る。
私たちが元いたところ
どうやってここに来たのか
私たちは何でできているか
美に欺かれるところ
なぜ理論家を信頼するのか?

第3章 ユニオンの状況
この章では、10年間の教育で私が学んだことを30ページほどにまとめ、また、素粒子物理学の最盛期について他の物理学者にざっくばらんに話してもらう。
物理学が描く世界
万物は流転する
物理学者の商売道具
標準模型
標準宇宙論模型
ここからは難しくなる

第4章 基盤に入った亀裂
私はニマ・アルカニ—ハメドに会う。
ポストに就ければ、おいしい仕事
起こっている面倒事
名無しの数たち
バラ色の人生など誰も約束しなかった
二光子余剰狂想曲の始まり

第5章 理想的な理論
この章で私は、科学の終焉の可能性を探ろうとするが、理論物理学者たちの想像力は果てしないことを見いだす。スティーヴン・ワインバーグに話をしてもらう。
私を驚かせて──でも、ほどほどに
馬の育種
無限の可能性
宇宙ポーカー
不協和音の解放

第6章 理解不可能な理解可能性──量子力学は、いったいなぜ理解できるのか
ここで私は、数学と魔術の違いについて考える。
なにもかも素晴らしくうまくいっているが、満足している人はひとりもいない
勝ち目のないゲーム
量子力学は魔術なんです

第7章 すべてを支配するひとつのもの
私は、もしも自然法則が美しくなかったら、人はそれに興味をもてるのかどうかを突き止めようとする。フランク・ウィルチェックとギャレット・リージの話を聞く。
収束する何本もの線
何かについての理論
数の多い者が勝つ
超対称性に代わる別の理論の可能性
大陸から離れて

第8章 宇宙、最後のフロンティア
この章で私は、ひとりの弦理論研究者を理解しようと試み、ほぼ成功しそうになる。
ただのしがない物理学者
御し難いファイヤーウォール
数学 vs 希望──ひとつのケーススタディ
弦理論と、それに不満な人々
創発する美

第9章 宇宙、そこにあるすべてのもの、そしてそれ以外のもの
ここで私は、私たちが発明したさまざまな粒子を誰も見ていないのはなぜかを説明するたくさんの方法に感服する。
ソーセージのような法則
ダークなものを掘る
期待しながらただ座って過ごす
弱い場と第五の力
諸科学の岩盤
ギャップの哲学

第10章 知は力なり
ここで私は、誰もが私の言うことに耳を傾けたなら、世界はもっとよくなるだろうとの思いで本書を結ぶ。
われはロボット
数学の上に積み重なった数学
私を信用しないでください、私は科学者ですから。
このテント、臭いですよ
Lost in Math
探究は続く

謝辞

補遺A 標準模型の粒子
補遺B  「自然さ」が抱える困難
補遺C この状況を救うためにあなたができること

原注
索引

世界は2乗でできている 自然にひそむ平方数の不思議:小島寛之

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世界は2乗でできている 自然にひそむ平方数の不思議:小島寛之」(Kindle版

内容紹介:
2乗を通して見る、深遠な数学と物理の世界。同じ数を2回掛けると現われる「平方数」には、数の「遊び心」や物理現象の秘密がかくれている。ピタゴラス、ガウス、フェルマー、リーマンら偉大な数学者の業績に見える平方数から、ガリレイ、ボーア、アインシュタインら偉大な物理学者が見いだした自然法則まで、平方数に秘められた不思議で深遠な世界をわかりやすく紹介する。

2013年8月20日刊行、248ページ。

著者について:
小島寛之(こじま ひろゆき): ウィキペディアの記事
1958年、東京生まれ。東京大学理学部数学科卒。同大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士。現在、帝京大学経済学部経済学科教授。数学エッセイストとしても活躍。
小島先生の著書: Amazonで検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で458冊目。

数学、特に統計学や経済数学を中心に多くの入門書、副読本をお書きになってきた小島先生による本だ。2013年に講談社ブルーバックスから刊行されて以来、気にはなっていたものの、自分にはやさし過ぎると早合点していたため、読むのが遅くなってしまった。

高校で物理を学んだ人であれば、自然法則に「2乗(平方数)」がよく現れることに気がついていることだろう。万有引力(重力)やクーロン力(静電気力、磁力)は距離の2乗に反比例して減衰するし、光源から発する光の強さ、音源から発する音の強さも距離の2乗に反比例して減衰する。それらはまったく違うものなのに、なぜ同じように減衰していくのか。からくりを理解していないうちは、それを神秘的、不思議に思ったりするものだ。

とどのつまり、それは空間の次元数が縦横高さの3次元だからである。これらの例で共通しているのは、それがエネルギーの拡散であるということだ。エネルギー源から空間的に四方八方に広がるエネルギーは、距離の2乗に反比例して弱まっていく。エネルギー源を頂点とする円錐を考えたとき、距離(=円錐の高さ)が長くなるに従い、円錐の底面積は距離の2乗に比例して大きくなるからだ。したがって、円錐の底面の単位面積が受けるエネルギーは距離の2乗に反比例することになる。

世界には2乗があふれているといっても、しくみを理解できれば何ということはない。本書をタイトルだけで判断して「易しい本」、「当たり前のことが書かれている本」だと僕は早とちりしていた。そうであるにもかかわらず、読もうと思ったのは第8章に「ボーアと水素原子内の平方数」が書かれていることに気がついたからである。

水素原子でバルマー系列、ライマン系列、パッシェン系列として知られる発光スペクトルのパターンに平方数(数式上では平方数の逆数)が現れるのはなぜなのか、僕はど忘れしていた。

水素原子模型と波動方程式: PDF資料Web閲覧

それ以外にも面白いと感じたことが本書にはたくさん見つかった。本書で取り上げられているのは「数学に現れる2乗」と「物理法則に現れる2乗」に分かれているが、僕が神秘的に感じたのは数学、特に「数論に現れる2乗」だった。要するに自分よく理解できていない世界、学習不足の領域に見られる「2乗」に心惹かれたのだと思う。

何を面白く感じるか、神秘的に感じるかは、その人の知識や理解、学習進度に大きく左右されるものだ。全人類が理解に達していないとき、私たちはそれを神秘と呼んでいる。


本書では9つの例を取り上げて解説している。ひとつずつ解説や感想を簡潔に書いておこう。

第1章:ピタゴラスの定理

ピタゴラスの定理の2乗が現れるのは当たり前だが、この定理を侮ってはならない。この定理は、数学の発展に大きく分けて3つの貢献をしている。第一は数論への貢献であり、第二は無理数論への貢献、そして第三には幾何学的な計量理論への貢献である。本書ではこの章のほか、この3つの貢献を別の章で詳しく解説している。ピタゴラスの定理の大切さを教えてくれる。

第2章:フィボナッチと合同数

理系ファンなら誰でも知っているフィボナッチ数。この数列にまつわる話と2乗(平方数)が結び付けられことは知らなかった。興味深く読むことができた。

第3章:ガリレイと落体運動

この章の内容は知っていたので、特に面白いとは感じなかった。要するに運動エネルギーが速度の2乗に比例するということ、高校の力学の範囲が理解できれいればわかる話である。

第4章:フェルマーと4平方数定理

興味深く読むことができた。それはフェルマーの小定理、大定理は知っていたが、フェルマーの2平方数定理、4平方数定理を僕が知らなかったからだと思う。

第5章:ガウスと虚数

興味深く読むことができた。フェルマーの2平方数定理をガウスが虚数を使って再証明したあたり、ガウス整数の話がよい。

第6章:オイラーとリーマン

この章がいちばん興味深く読むことができた。「平方数の逆数をすべて足すといくつになるか」という「バーゼル問題」は、1644年に ピエトロ・メンゴリによって提起され、1735年にレオンハルト・オイラーによって解かれた有名な問題である。バーゼル問題はその後、ゼータ関数(ζ関数)の発見、素数の研究を飛躍的に発展させることにつながった。平方数の逆数和がなぜ素数と密接に関係しているのか?その数式を導出できたとしてもても、あなたはその理由や意味を述べることができるだろうか。(解説



そして、ミクロの物質の世界では「カシミール効果」という物理現象を場の量子論で解析するときに ζ(-3) = 1/120 が本質的な役割を果たしている。

この2つの例は神秘的としか言いようがない。



ζ(-3) = 1/120 : WolframAlphaで計算してみる 解説

第7章:ピアソンとカイ2乗分布

興味深く読めた。それは標準偏差や正規分布に2乗が現れるからくりは理解していたが、その先のピアソンやカイ2乗分布の話は知らなかったからである。あと、ガウスの誤差理論、最小二乗法に2乗がでてくるからくりも「なるほど!」という感じで読むことができた。

第8章:ボーアと水素原子内の平方数

本書を読むきっかけとなった章である。スペクトルの系列の数式に平方数の逆数がでてくるのは、要するに電子の運動エネルギー(速度の2乗)が本質的な役割を果たしているからだと理解した。

第9章:アインシュタインとE=mc^2

この章の内容は知っていた。特殊相対性理論は4次元の幾何学であり、本質的には4次元のピタゴラスの定理のようなものである。E=mc^2という式の導き方を知っていれば、この式に2乗がでてくることは容易に理解できる。


多くの方に読んでいいただきたい本だ。しかし、数式を引用して説明している。微積分の知識は不要だが、高校の数学II+B程度まで理解していることが読者の前提条件だ。


 

 


世界は2乗でできている 自然にひそむ平方数の不思議:小島寛之」(Kindle版


はじめに

第1章:ピタゴラスの定理
- 平方数の楽しみ
- 2乗についての大事な公式
- 平方といえばピタゴラス
- ピタゴラス数
- 無理数の発見
- 無理数の難しさ
- 空間の計測
[平方数を好きになる問題]1

第2章:フィボナッチと合同数
- フィボナッチ数
- フィボナッチ数と平方数
- 数学試合
- 合同数の問題
- ペル方程式
- 双曲線上に解が並ぶ
- 無理数との関係
- ペル方程式の解法
- ペル方程式のその後の展開
[平方数を好きになる問題]2

第3章:ガリレイと落体運動
- ガリレイの実験
- 慣性の法則
- 運動エネルギーは速度の2乗
- ケプラーの法則
- ニュートンの万有引力
- 月が地球に落ちてこない理由
- 円運動の加速度を求める
[平方数を好きになる問題]3

第4章:フェルマーと4平方数定理
- 数論の祖フェルマー
- フェルマーの小定理
- フェルマーの大定理
- 2平方数定理
- 4平方数定理
- 母関数による別証明
- 4平方数定理の母関数による証明
- 10進法と2進法
- p進数とは何か
- 7で割り切れるほど近くなる
- 7進数の中での2の平方根
- 4平方数定理とp進数
[平方数を好きになる問題]4

第5章:ガウスと虚数
- 天才ガウス
- 合同式
- 平方剰余の研究
- 2平方数定理と虚数
- ガウス整数
- 2平方数定理ふたたび
- 類体論という壮大な世界
[平方数を好きになる問題]5

第6章:オイラーとリーマン
- 平方数の逆数をすべて足すといくつになるか?
- 18世紀最大の数学者オイラー
- 無限の和
- 関数を無限次の多項式で表す
- 三角関数を無限次の多項式で表す
- 解と係数の関係を復習しよう
- 円周率の平方がなぜ現れるのか
- 平方数の逆数和が素数と関係する!
- オイラー積はなぜ成り立つのか
- リーマンのゼータ関数
- 短命の数学者リーマン
- 史上最大の難問リーマン予想
- ミクロの物質の物理学にゼータが現れた!
[平方数を好きになる問題]6

第7章:ピアソンとカイ2乗分布
- 今や、データ解析は必須
- 散らばりを代表する標準偏差
- 標準偏差は2乗平均
- 正規分布の発見
- 一般の正規分布
- この世界には正規分布がいっぱい
- ガウスの誤差理論
- 統計学者ピアソン
- カイ2乗分布の発見
- ピアソンの適合度検定
- ピアソン vs フィッシャー
[平方数を好きになる問題]7

第8章:ボーアと水素原子内の平方数
- プリズムと虹
- 水素のスペクトルはなぜか飛び飛び
- 平方数が出現
- 現代物理学の父ニールス・ボーア
- 原子の中の宇宙法則
- 量子跳躍と量子条件
- 電子の軌道が飛び飛びなのはなぜか
- 幸運な偶然
- ミクロの世界は複素数の姿をしている
- 幸運な一致の理由
[平方数を好きになる問題]8

第9章:アインシュタインとE=mc^2
- 天才アインシュタインの特殊相対性理論
- 川の流れの速度を知る方法
- 動く世界の速度を求める
- 音波を利用すれば船の速度がわかる
- 地球の絶対速度を求める試み
- 空間は収縮する
- いよいよ、アインシュタインの登場
- 歪む時間
- 異なる座標系の観測者
- 歪む時間・空間の中での不変量
- E=mc^2の発見
[平方数を好きになる問題]9

フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔:高橋昌一郎

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フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔:高橋昌一郎」(Kindle版

内容紹介:
21世紀の現代の善と悪の原点こそ、フォン・ノイマンである。彼の破天荒な生涯と哲学を知れば、今の便利な生活やAIの源流がよくわかる!
「科学的に可能だとわかっていることは、やり遂げなければならない。それがどんなに恐ろしいことにしてもだ」
彼は、理想に邁進するためには、いかなる犠牲もやむを得ないと「人間性」を切り捨てた。

2021年2月17日刊行、272ページ。

著者について:
高橋 昌一郎: ウィキペディアの記事
Twitter: @ShoichiroT
note: https://note.com/logician
1959年生まれ。ミシガン大学大学院哲学研究科修了。現在は、國學院大學教授。専門は、論理学・科学哲学。主要著書に『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『ゲーデルの哲学』『自己分析論』『反オカルト論』『愛の論理学』『東大生の論理』『小林秀雄の哲学』『哲学ディベート』『ノイマン・ゲーデル・チューリング』『科学哲学のすすめ』などがある。

高橋先生の著書: 書籍版 Kindle版


理数系書籍のレビュー記事は本書で459冊目。

今売れている人気本である。表紙に書かれている「人類史上最恐の頭脳」や「人間のフリをした悪魔」という宣伝文句につられて、Kindle版をポチってしまった。ノイマンはそれほど悪辣な科学者だっけ?と書店で見るたびに気になっていた。

20世紀の数学者フォン・ノイマン(ウィキペディア)の業績が、とても多岐にわたっていること、超天才であることは知っていたが、どのような人生を送ったのかについては知らなかったので、読んでみることにした。これまで僕が読んでいたのは「量子力学の数学的基礎: J.v.ノイマン」(紹介記事)だけだった。ちなみにこの歴史的な名著は先月に新装版が刊行されている。ノイマン自身による著作を読み進めるのがいちばんよいことは言うまでもない。幸い、ちくま学芸文庫から彼の代表的な著作(専門書)を読むことができる。(ノイマンの著作検索

本書が売れているのは、数式が苦手な一般読者でもたやすく読むことができるからだ。そして、彼が遺した論文や著作に挑戦しようとしている理系読者にとっても「ノイマン入門」として最適な一冊に仕上がっている。各章の概要は次のとおり。

はじめに 人間のフリをした悪魔
ノイマンの生涯を概説している。

第1章 数学の天才
オーストリア・ハンガリー帝国のブダペストに生まれたノイマンの少年時代について書かれている。

第2章 ヒルベルト学派の旗手
ワイマール共和国のベルリン大学時代とスイスへの転校。ゲッチンゲン大学の研究員、ベルリン大学講師。ゲーム理論。マリエットとの結婚。

第3章 プリンストン高等研究所
プリンストン大学の講師となりアメリカへ脱出。

第4章 私生活
プリンストンでの私生活。妻マリエットと不仲となり、離婚。アメリカ市民権取得。船のカジノで知り合ったハンガリーのユダヤ人クララと再婚。量子力学。

第5章 第二次大戦と原子爆弾
米軍の爆弾研究の第一人者となり、第二次世界大戦では原爆開発のマンハッタン計画に参加。原爆を完成し、ノイマンは京都への原爆投下を主張。

第6章 コンピュータの父
第二次世界大戦戦後。コンピューター開発、ゲーム理論。

第7章 フォン・ノイマン委員会
ソ連との冷戦下で水爆開発。核兵器委員会委員長。53歳で死去。

類まれな超人的な天才ぶりがよくわかる伝記本だ。表紙に書かれている「人類史上最恐の頭脳」や「人間のフリをした悪魔」という言葉だけで判断するとNHKの「フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿」や「ダークサイドミステリー」で取り上げられそうな科学者だが、読み終えてみると人道上、彼が非難されるような人物だという印象は持たなかった。マンハッタン計画に参加した科学者は、多かれ少なかれ不幸な時代に戦争協力を余儀なくされた「消したい過去」を持っている。

本書を読んでいちばん想像力を掻き立てられたのは「もし、ノイマンが生まれていなかったとしたら?」と考えてみたときのことだった。おそらくアメリカの原爆やコンピュータの開発は遅れていただろう。第二次世界大戦の勝敗は逆になっていた可能性が高い。そして戦後の世界はまったく現在とは違ったものになっていたはずだ。私たちが今使っているパソコンやスマートフォンの開発もどうなっていたかわからない。たった一人の人間の存在が、世界の行く末をこれほどまで左右できる可能性を秘めていることに僕は身震いした。

理系かどうかに関わらず、私たちが知っておくべき20世紀の偉人だ。ぜひお読みいただきたい。


関連記事:

量子力学の数学的基礎: J.v.ノイマン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/09b65f36119894f5b852bbf38421af45


 

 


フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔:高橋昌一郎」(Kindle版


はじめに 人間のフリをした悪魔

第1章 数学の天才
―ママ、何を計算しているの?
 獅子は爪跡でわかる!

第2章 ヒルベルト学派の旗手
―フォン・ノイマンに恐怖を抱くようになりました!
 君も僕もワインが好きだ。さて、結婚しようか!

第3章 プリンストン高等研究所
―ジョニーはアメリカに恋していた!
 朝食前にバスローブを着たまま、五ページの論文で証明したのです!

第4章 私生活
―ゲーデルを救出すること以上に、重大な貢献はありません!
 そのうち将軍になるかもしれない!

第5章 第二次大戦と原子爆弾
―どうして自分には、彼にできたことが見通せなかったのか!
 我々が今生きている世界に責任を持つ必要はない!
 我々が今作っているのは怪物で、それは歴史を変える力を持っている!

第6章 コンピュータの父
―ようやく私の次に計算の早い機械ができた!
 もし彼を失うことになれば、我々にとって大きな悲劇です!
 彼は少し顔を出しただけで、経済学を根本的に変えてしまったのです!

第7章 フォン・ノイマン委員会
―明日爆撃すると言うなら、なぜ今日ではないのかと私は言いたい!
 彼は、人間よりも進化した生物ではないか?
 
おわりに
参考文献

発売情報: Le Petit Robert 仏仏辞典 2022年版

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今日はフランス語上級者に向けた記事。2022年版のLe Petit Robert 仏仏辞典が先月発売された。収録語数は30万語。

この辞書は毎年改訂され、この時期に発売されるフランス人にとっての「広辞苑」だ。(日本のアマゾンサイトではデスクサイズのものだけ注文できる。)

Dictionnaire Le Robert(オフィシャルサイト)
http://www.lerobert.com/


デスクトップ(標準サイズ):
Le Petit Robert de la Langue Française 2022
7.0 x 17.2 x 24.9 cm
2880ページ



固有名詞事典は2019年版が最新。新しいのが発売されたら差し替えよう。

固有名詞事典(標準サイズ):
Le Petit Robert Des Noms Propres Relié - 2019
7.7 x 16.5 x 24 cm
2665ページ



Le Petit Robert仏仏辞典には固有名詞辞典をはじめ、いくつかの種類がある。これらは欧明社からお買い求めなるとよいだろう。

欧明社(フランス語書籍専門)
http://www.omeisha.com/


アプリ版:

iPad/iPhone版については2020年版のLe Petit Robert仏仏辞典がアプリとして発売された。iPad版は図版有り。: iPad/iPhone版

見出し語30万語。古いバージョンをインストールしている人は無料で最新版にアップデートすることができる。

また「Dictionnaire Historique de la langue française」もお勧めだ。「Trio Le Robert」として格安で販売されている。


注目!
iPhone/iPad向けに「Dictionnaire Le Robert Mobile」という辞書も発売されている。


関連記事:

発売情報:カシオ電子辞書 XD-SX7200(2020年フランス語モデル))
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b7b3b9dd347e110690b7fc66bee5c4f2

小学館ロベール仏和大辞典(iPhone / iPad アプリ)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/02af8bb1e929b8f415f7efc32a92bd56

フランス語の辞書はどれがいい?
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/04d001a3857a63e9ec104903ccae1a83

ロワイヤル仏和中辞典(辞書談義)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/aed33d08239da123dcc66c5ec08f0bc7

無料のオンライン仏和・和仏辞典を発見!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b3cae83cd882dd93d5efb788c1ac1498

ファインマン物理学: 英語版とフランス語版
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1dbcd1e1b02616ef1363ced99a912072

発売情報: フランス語版「ファインマン物理学」の新版
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/daf630deb00e6c315897d6f47ba3dd5a

 

 

アインシュタイン方程式を読んだら「宇宙」が見えた:深川峻太郎

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アインシュタイン方程式を読んだら「宇宙」が見えた:深川峻太郎」(Kindle版

内容紹介:
オレだって数式が読めるかっこいい男になりたい! 微積分も知らずに、男(50代・文系)は数式世界の最高峰「アインシュタイン方程式」をめざし旅立った。「捜さないでください」と書き置きを遺して。
予定調和なしの決死行を見守りながら相対性理論の「真髄」を体感できる、(おそらく)世界初の数式ドキュメンタリーここに誕生! 理論物理学のトップランナー、大栗博司氏、村山斉氏も熱く推薦!

2021年5月21日刊行、272ページ。

著者について:
深川峻太郎(ふかがわ・しゅんたろう)
ライター、編集業。1964年北海道生まれ。2歳から東京で育つ。早稲田大学第一文学部文芸専修卒業。2002年に『キャプテン翼勝利学』(集英社文庫)でデビュー。以降、『月刊サッカーズ』(フロムワン)、『わしズム』(幻冬舎、小学館)、『SAPIO』(小学館)などで時事コラムを連載。本名(岡田仁志)では著書に『闇の中の翼たち ブラインドサッカー日本代表の苦闘』(幻冬舎)があるほか、フリーの編集スタッフとして手がけた書籍は200点を超える。編集協力した『宇宙は何でできているのか』(村山 斉著/幻冬舎新書)は新書大賞2011、『大栗先生の超弦理論入門』(大栗博司著/講談社ブルーバックス)は第30回講談社科学出版賞を受賞。


理数系書籍のレビュー記事は本書で460冊目。

書店でこの本を見かけたとき「あれ、相対性理論の入門書がまた出たのか!」と思ったのが第一印象だった。講談社ブルーバックスだけでもこのシリーズが1963年に創刊して以来、いちばん多く取り上げられたテーマで、それはAmazonで検索するとすぐわかる。

「相対性理論」というキーワードで: ブルーバックス本を検索
「時空」というキーワードで: ブルーバックス本を検索

名著、良書が乱立する中で、新しい本を出すのは相当の覚悟がいるのではないか?どのように棲み分けをするのか?とつい思ってしまう。僕はこの理論をすでに理解しているからあえて読む必要はないのだが、どうしても気になってしまう。誘惑に負けて手を出してしまった。

読み始めてすぐ本書が「買い」だとわかった。数式がわからない「ド文系の」著者が、物理学を専門としている「しょーた君」に教えてもらいながら、数年かけて相対性理論を一歩一歩学んでいった過程を記録したものだ。これはさながらドキュメンタリーであり、著者は「冒険」と表現している。本書は企画してから刊行するまで6年かかっている。

特殊相対性理論であれば、科学雑誌のNewtonでも数式導出を含めて説明できるが、一般相対性理論のアインシュタイン方程式までとなると無理である。そしてブルーバックスのような小型本では、とうてい無理だと僕は思っていた。それが本書で覆された。

アインシュタインとは質量によって時空が歪むことをあらわす次のような式である。この式を導出したことで重力波やブラックホールが予言され、実際に見つかったことはあまりにも有名だ。

アインシュタイン方程式(左辺は時空の曲がり具合、右辺は物質の分布)


本書は科学ブログ仲間のT_NAKAさんもお読みになり、たまたま今朝「『アインシュタイン方程式を読んだら「宇宙」が見えた』を読んでみた。」(T_NAKAの阿房ブログ)という素晴らしい紹介記事を投稿されている。

著者の深川さんは「ド文系」といっても、フリーの編集スタッフとして手がけた書籍はこれまでに200点を超える。つまり数式無しであれば、科学教養書を執筆できる実力を持った方である。深川さんが編集協力した『宇宙は何でできているのか』(村山 斉著/幻冬舎新書)や『大栗先生の超弦理論入門』が含まれている。著名なこのお二人の先生から、本書には次のお言葉をいただいている。(すごいことだ!本の帯に両先生のお名前と推薦文を載せてもらえるなど、著者は幸せ過ぎる!)

★大栗博司(カブリ数物連携宇宙研究機構機構長)
物理学の最高峰「一般相対性理論」に徒手空拳で挑んだ冒険譚を読み、私の学生時代の勉強を思い出した。数式の吹雪の中で遭難しそうになりながらも登り続けるところにリアリティがある。

★村山 斉(カブリ数物連携宇宙研究機構初代機構長)
バカボンのパパから岡本太郎、峰不二子までが出てくる物理学の本はまずない。数学嫌いによる、宇宙の言葉=数式への果敢な挑戦。山登りのような達成感を、読者も実感だ!

僕がアインシュタイン方程式を理解できたのは2007年に「時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎」という幾何学的視点から書かれたユニークな教科書で学んだときだ。この本は、たまたま今月新装版が復刊している。僕が独学で理解できたのは、数学は好きで大学の専攻も数学だったからだ。

アインシュタイン方程式を学ぶ過程は、登山にたとえられる。そしてその勾配は富士登山のように頂上に近づくにつれて傾斜が急になる。(難易度が上がる。)アインシュタイン方程式にたどり着くまでの大まかな流れを広江克彦さんの「趣味で相対論」を例にとって解説したのが「一般相対性理論に挑戦しよう!」という2009年に書いたブログ記事だった。本書の流れもこの記事とだいたい同じである。

本書の章立ては、次の通りだ。

プロローグ 宇宙が「数学の言葉」で書かれているのなら
(準備の部)
第1章 ガリレオの相対性原理
第2章 時間の延びとローレンツ変換
第3章 距離と時間と不変間隔
第4章 4元ベクトルとE=mc^2
(登山の部)
第5章 一般座標変換と共変微分
第6章 リーマン曲率テンソルとメトリック
第7章 測地線方程式とエネルギー・運動量テンソル
第8章 アインシュタイン方程式
エピローグ 方程式を「読む」「解く」ということ

これが深川さんの「冒険」の順番であり、本書の構成は次の杉山先生の相対性理論の教科書にならっている。本書ではまた、須藤先生の教科書も参考にされている。(この他、巻末の参考文献が素晴らしい。)

相対性理論 (講談社基礎物理学シリーズ):杉山直」(Kindle版
一般相対論入門 改訂版:須藤靖」(Kindle版
 


本書を読めば著者が数年かけて学んできた驚きや感動をを追体験できる。空間が、そして時空が歪むのがどういうことなのかを数式で理解することでよりリアルに実感することができる。T_NAKAさんがお書きになっているように、本書はアインシュタイン方程式を数式で解説している「もっともページ数が少なく、安価な本」なのだ。

しかし、本書を読めばド文系の初学者がアインシュタイン方程式を理解できるというわけではない。あくまでも追体験して概要をつかむことができるレベルまでという限界があるのを承知していただきたい。(それでも感動できるはず。)

初学者は初めて見る専門用語をとかく誤解しがちだ。物理法則の共変性と共変ベクトルでは「共変」の意味が違うし、共変ベクトル・反変ベクトルがあり、共変微分があるのなら反変微分もあるのだろうなどと思ったりもする。本書を読めば、少なくともそのような誤解で無駄な時間を使うことを避けることができる。

テンソルやリーマン幾何学も、数学書で学ぶと挫折しがちだが、本書で概念をつかんでおいてから、他の教科書で詳しく学ぶとよい。また本書で「メトリック」と書かれているのは他の本では「計量」と書かれていることが多い。

アインシュタイン方程式を学ぶとき、初学者が上で紹介した杉山先生や須藤先生の本のような「教科書」で独学するのは無理だと僕は思っている。

というわけで、本書を読み終えて独学で学んでみたいと思うなら「ブラックホールと時空の方程式:15歳からの一般相対論:小林晋平」や「趣味で相対論:広江克彦」(無料で学ぶのであれば「EMANの相対性理論」)のような副読本のほうがよいと思う。そして分厚い本でも大丈夫という方には「一般相対性理論を一歩一歩数式で理解する: 石井俊全」をお勧めする。

ぜひ、チャレンジしていただきたい。


以下は著者による、本書の紹介文である。

【この無謀な願望が、すべてのはじまりだった】
嗚呼、わかりたい。ちょっとでいいから、数式で宇宙がどう書かれているのかをわかってみたい──そう思うのが人情だろう。だって、彼らは自分と同じ人間なのだ。しかも間違いなく、ものすごく面白いことを研究している。ならば、交流したいじゃないか。カタコトでいいから、同じ言葉でお喋りしてみたいじゃないか。それはもう、外国旅行から帰国するやいなや「やっぱり英語できるようになりたい!」と駅前留学しちゃうような気分である。(プロローグより)

【著者の苦闘を見物するうちに相対性理論の真髄が見えてくる】
・数式だからわかる、時間と空間に代わる「不変なもの」 ・こうすれば「時間の延び」が計算できる
・E=mc2はどのように導けるのか ・アインシュタインはグニャグニャな空間といかに戦ったか
・時間と空間が「混じる」とはどういうことか ・「行列のお化け」テンソルとは何者か
・ブラックホールの解はいかに導けるか ・ここだけの話、数式は飛ばして文章と絵だけでも楽しめます


関連ページ:

本書の『プロローグ 宇宙が「数学の言葉」で書かれているのなら』『(準備の部)第1章 ガリレオの相対性原理』までは、次のページで読むことができる。

アインシュタイン方程式を読む ド文系が挑む「一般相対性理論」への道
第1回 数式を知らずして、宇宙がわかるものか! 
第2回 読み方すらわからない 
第3回 これが行列の化け物「テンソル」だ! 
第4回 「出発前の準備」が特殊相対性理論 
第5回 あんがい簡単だった「ガリレイ変換」の式 
第6回 微分は「わかったつもり」になって進もう


関連記事:

一般相対性理論に挑戦しよう!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ea7ad9292ce01ad4abbbc8c98f3303d0

趣味で相対論(EMANの物理学):感想
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5fe7d774a955f3bb9d8270f6113e453f

ブラックホールと時空の方程式:15歳からの一般相対論:小林晋平
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f4401f2ce79451070b7b9c089f304315

発売情報:一般相対性理論を一歩一歩数式で理解する: 石井俊全
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1699a1c22477c269c68c02091d0ca049

発売情報: 重力(上)(下) アインシュタインの一般相対性理論入門: ジェームズ・B・ハートル
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c195a49914a852b1c73049bb7b9743e0

時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ffc643a688ce45dec7460d107fe1392e


 

 


アインシュタイン方程式を読んだら「宇宙」が見えた:深川峻太郎」(Kindle版


プロローグ 宇宙が「数学の言葉」で書かれているのなら
- 「タテガキのサイエンス」の役割
- われわれも「数学の言葉」で書かれている
- これは「冒険」である

(準備の部)

第1章 ガリレオの相対性原理
- あちこちに顔を出す「μν」の謎
- 最初の衝撃
- R^μνには巨大な中身があった!
- 「登山前の準備」が特殊相対性理論という現実
- ガリレオの「相対性原理」とは?
- 「ガリレイ変換」の式はあんがい簡単だった
- 異なる慣性系の「F=ma」が同じになるか
- とうとう登場しやがった微分記号
- 「d」がついたら「瞬間的な変化量」のこと
- 力の本質は加速度だった!

第2章 時間の延びとローレンツ変換
- ニュートン力学と電磁波の矛盾
- 16歳のアインシュタインの思考実験
- 物理学は妥協を許さない
- 暴かれたニュートン力学の限界
- ミンコフスキー時空図で時空を深く理解する
- 「同時」は慣性系によって異なる!
- 謎の係数「κ」を求めるのだ
- ローレンツ係数「γ」も求めるぞ
- ああ美しきローレンツ変換

第3章 距離と時間と不変間隔
- 「光速度一定」なら時間は延びて距離は縮む
- 時間や距離に代わる「不変な何か」とは
- 線形代数入門
- 相対性理論に欠かせない概念「不変間隔」
- 偏微分との出会いに目を回す
- 「Σ」で数式をおかたづけ♪
- どこに行くんだこの計算は!?
- そして教科書は真っ黒になった

第4章 4元ベクトルとE=mc^2
- アインシュタインが決めた「オレ様ルール」
- 4次元時空ではベクトルの「変換性」はどうなる
- ミンコフスキー・メトリック
- 「反変ベクトル」と「共変ベクトル」
- 「逆行列」で反変と共変をチェンジ!
- 「固有時間」が常識中の常識だと?
- 4元速度から「4元運動量」を求める
- 線形代数入門パート2
- いざ中学理科の復習からE=mc^2へ

(登山の部)

第5章 一般座標変換と共変微分
- 「特殊」から「一般」へ
- 等価原理はこうしてできた
- 「潮汐力」こそが重力の本質
- アインシュタインも苦しんだ
- 出た、一般座標変換!しかし
- いよいよ「テンソル」とご対面
- スカラーとベクトルとテンソルの関係
- ベクトル場の微分がテンソルにならない
- 「共変微分」のおかげで「接続」できました

第6章 リーマン曲率テンソルとメトリック
- ユークリッド幾何学からリーマン幾何学へ
- リーマン曲率テンソルは添え字が4つ!
- グニャグニャな時空のメトリック
- 接続がクリストッフェル記号になるとき
- リッチ・テンソルと「ビアンキの恒等式」

第7章 測地線方程式とエネルギー・運動量テンソル
- この段階でまさかの「積分入門」
- 「最小作用の原理」のせいで遠回り
- 「オイラー=ラグランジュ方程式」に癒される
- 測地線方程式は3通りもある、らしい
- お次は「ポアソン方程式」だってよ
- 「発散」するのはストレスだけでいい
- 重力場のポアソン方程式と万有引力
- おそるべし、エネルギー・運動量テンソル
- 「完全流体でOK」という朗報

第8章 アインシュタイン方程式
- 頂上までの道のりを再確認する
- 左辺の係数「a」と「b」
- 右辺の係数「κ」
- これまでの成果を次々に使うのだ!
- 最終アタック

エピローグ 方程式を「読む」「解く」ということ
- 敗北感と達成感
- 「内側」から方程式を読む
- 数式の予言が当たったことの驚き
- 一般的な解法は存在しない!
- これがシュヴァルツシルト解だ!
- 天才の偉業に「あたりまえ」などない

あとがき
参考文献
さくいん

ル・モンド紙:東京五輪: 天皇陛下が日本国民を心配され、お気持ちを伝えさせた

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徳仁天皇, 2021年2月23日(東京)宮内庁 / ロイター通信提供

フランスのル・モンド紙に掲載された仏文記事の和訳を紹介する。

元記事:

JO de Tokyo : l’empereur se fait l’écho des inquiétudes des Japonais
https://www.lemonde.fr/international/article/2021/06/25/jo-de-tokyo-l-empereur-se-fait-l-echo-des-inquietudes-des-japonais_6085709_3210.html


天皇陛下が日本国民を心配され、お気持ちを伝えさせた

オリンピックの開催へ介入する形で、宮内庁長官は、パンデミックの再開のリスクについて陛下の懸念を突然表明した。日本政府はこれらのコメントの重要性を軽視している

記事:フィリップ・ポン、2021年6月25日

宮内庁長官の西村泰彦氏は、木曜日(6月24日)の記者会見で、「天皇陛下はコロナウイルス感染の現状を非常に懸念している」と述べた。「国民の懸念を受け止め、陛下は東京五輪開催によって感染が加速する可能性のリスクを懸念していると拝察している」と長官は付け加えた。

天皇になられたばかりの陛下は、東京オリンピックの名誉総裁として、1964年に祖父の昭和天皇が東京の人々のためにされたようにオリンピックの開幕を宣言しなければならないが、宮内庁長官から公表された重い言葉を含む短い会見内容から拝察される陛下のお気持ちにはかなりの重みがある。尾身茂をはじめとする医療専門家からの警告にもかかわらず、菅義偉首相は、7月23日から始まるこの大会を推し進め、新たな感染の波のリスクに当惑している。

参照記事(仏文): 日本では、公的資金によって資金提供された皇室の神の儀式はうまくいかない

加藤勝信官房長官は金曜日、首相官邸に直属の国家機関である宮内庁長官の発言を軽視し、西村氏の「個人的な印象」に過ぎないと主張した。

ひとつの解釈

最終的に西村長官は陛下の言葉を引用しなかったが、「陛下は感染の加速のリスクを懸念していると拝察している」と述べた。共同通信が引用した名古屋大学皇室専門家の河西秀哉氏によると、西村氏は陛下の完全な同意を得て陛下のお気持ちを報告した。河西氏によると、陛下は「国民が心配していることを知った上でオリンピックの開幕を宣言しなければならないという微妙な立場を国民に理解してもらう」ことを求めたのだという。

参照記事(仏文): まるで東京五輪にいたようだ:遠くから戻ってきたマラソン選手

6月20日の共同通信の世論調査によると、日本人の86%がオリンピック期間中の新たな感染の波を恐れている。日本政府と国際オリンピック委員会(IOC)は、限られた数の観客(スタジアムの収容人数の50%、最大10,000人)が大会に参加できると決定したことで、マスコミから強い批判を受けた。

感染再開の最初の兆候

天皇陛下には政治力が与えられていない。今上天皇徳仁(現天皇陛下)は、憲法第1条に基づく「国家と国民の団結の象徴」としての地位によって課せられた制限にもかかわらず、2019年に退位した父の明仁と同様、自身の役割に道徳的な存在としての意味を与えようとしている。明仁はその在位中、日本の民主主義が敗戦後に描いた道を歩むための指針をさりげなく示し、常に国民に寄り添うことを心がけていた。特に2011年3月11日の地震、津波、原発事故などの災害時には、国民に寄り添うことを心がけていた。今回のパンデミックは、これらの災害と同じような危機でもある。

参照記事(仏文): コロナウイルス流行への対処に日本では多くの批判がおきる

今上天皇徳仁(現天皇陛下)は、大多数の日本人が抱いている懸念を認識しつつ、「国民の団結の象徴」としての役割を果たしている。それでもなお、国民の懸念を当然のことと受け止め、道義的に支持している。日本国民の大部分がワクチン接種を受けていないまま大会は始まるが、田村憲久厚生労働大臣によると、感染再開の最初の兆候が現れているという。

フィリップ・ポン(東京, 特派員)


関連記事:

英文記事を集めてみた。このニュースが世界中を駆けめぐっていることがわかる。

AP通信:
Palace: Japan emperor ‘worried’ about Olympics amid pandemic
https://apnews.com/article/japan-emperor-naruhito-worried-tokyo-olympics-covid-0ae94ec8172e465d1ba85616031c706a

共同通信:
Japan emperor appears concerned Olympics could spread COVID: official
https://english.kyodonews.net/news/2021/06/2da58f110573-breaking-news-emperor-concerned-olympics-may-cause-infections-to-rise-official-believes.html

ガーディアン紙:
Japan’s emperor voices concern about Covid spread during Olympics
https://www.theguardian.com/world/2021/jun/24/japan-emperor-voices-concern-covid-spread-during-olympics

ブルームバーグ:
Japan’s Emperor May Have Concerns Olympics Could Lead to Virus Spike
https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-06-24/japan-imperial-agency-sees-emperor-having-concerns-on-olympics

フィナンシャルタイムズ紙:
Japanese emperor ‘extremely concerned’ about Olympics
https://www.ft.com/content/8dc11d51-f5bd-4274-b7b2-a1dd73e9c120

ウォール・ストリート・ジャーナル:
Japan’s Emperor Is Concerned About Coronavirus Spread at Olympics, Aide Says
https://www.wsj.com/articles/japans-emperor-is-concerned-about-coronavirus-spread-at-olympics-aide-says-11624540044

ワシントンポスト紙:
Tokyo Olympics just got an important no-confidence vote — from Japan’s emperor
https://www.washingtonpost.com/sports/olympics/2021/06/24/olympics-emperor-japan/

UPI通信:
Japan shrugs off Emperor Naruhito's concern about COVID-19, Olympics
https://www.upi.com/Top_News/World-News/2021/06/24/Japan-Emperor-Naruhito-COVID-Olympics-concern/3291624544556/

デイリー・メール:
Japan’s emperor is ‘extremely worried’ the Tokyo Olympics could cause coronavirus to spread, in latest blow to the Games
https://www.dailymail.co.uk/news/article-f9720323/Olympics-Japan-emperor-appears-concerned-COVID-19-spread-Games-Kyodo.html

チャンネル・ニュース・アジア:
Olympics: Japan emperor appears 'concerned' about COVID-19 spread through Games
https://www.channelnewsasia.com/news/sport/japan-emperor-concerned-tokyo-olympics-covid-19-15082510

アイリッシュインディペンデント紙:
Emperor Naruhito ‘concerned’ about spread of Covid at Tokyo Olympics
https://www.independent.ie/sport/emperor-naruhito-concerned-about-spread-of-covid-at-tokyo-olympics-40575078.html

ザ・スター紙:
Olympics-Emperor 'appears concerned' about COVID-19 spread by Games, says steward
https://www.thestar.com.my/sport/others/2021/06/24/olympics-japan-emperor-appears-039concerned039-about-covid-19-spread-through-games--kyodo

プレンサ・ラティーナ通信:
Japan’s emperor says he’s concerned about Covid-19 risk at Olympics
https://www.laprensalatina.com/japans-emperor-says-hes-concerned-about-covid-19-risk-at-olympics/

ABS-CBNニュース:
Olympics: Japan emperor appears 'concerned' about COVID-19 spread by Games - Kyodo
https://news.abs-cbn.com/sports/06/24/21/olympics-japan-emperor-appears-concerned-about-covid-19-spread-by-games-kyodo/?utm_campaign=sharedpost


注意: 多忙のため、いただくコメントの公開承認が遅れることがあります。また、いただくコメントの内容によっては公開承認しないことがありますので、ご了承ください。

 

 


フランス語記事全文:

JO de Tokyo : l’empereur se fait l’écho des inquiétudes des Japonais

Dans une intervention inattendue sur la tenue des Jeux olympiques, le chef de l’agence de la Maison impériale a fait part de la préoccupation du monarque quant aux risques de reprise de la pandémie. Le gouvernement minimise la portée de ces propos.

Par Philippe Pons(Tokyo, correspondant)

L’empereur Naruhito, le 23 février 2021 à Tokyo. IMPERIAL HOUSEHOLD AGENCY OF JAP / VIA REUTERS

« L’empereur est très inquiet de la situation actuelle de la contamination par le coronavirus », a déclaré le chef de l’agence de la Maison impériale, Yasuhiko Nishimura, au cours d’un point de presse jeudi 24 juin. « Compte tenu des inquiétudes de l’opinion publique, Sa Majesté semble préoccupée par le risque d’une éventuelle accélération des infections à la suite de cet évènement », a-t-il ajouté.

Venant de l’empereur, président d’honneur des Jeux olympiques (JO) et qui, à ce titre, doit les déclarer ouverts comme le fit son grand-père Hirohito pour ceux de Tokyo en 1964, ces petites phrases aux mots pesés n’en ont pas moins un poids certain. Elles embarrassent le premier ministre Yoshihide Suga, qui veut que ces Jeux aient lieu en dépit des mises en gardes des experts médicaux, à commencer par le conseiller du gouvernement, Shigeru Omi, sur les risques d’une nouvelle vague de contamination à la faveur de cet évènement qui doit commencer le 23 juillet.

Article réservé à nos abonnés Lire aussi Au Japon, le rituel divin impérial, financé par les deniers publics, passe mal

Le porte-parole du gouvernement, Katsunobu Kato, s’est employé, vendredi, à minimiser la portée des propos attribués à l’empereur par le chef de l’agence de la Maison impériale, organisme d’Etat qui dépend du bureau du premier ministre, en faisant valoir qu’il ne s’agissait que des « impressions personnelles » de M. Nishimura.

Une jauge dans les stades

Ce dernier n’a pas cité les propos du monarque, mais fait état du « sentiment que Sa Majesté est préoccupée par le risque d’une accélération des infections ». Selon l’expert de la Maison impériale de l’université de Nagoya, Hideya Kawanishi, cité par l’agence de presse Kyodo, M. Nishimura a rapporté le sentiment de l’empereur avec le plein consentement de celui-ci. Le monarque chercherait selon lui « à faire comprendre à la population la position délicate dans laquelle il se trouve de devoir proclamer l’ouverture de JO dont il sait qu’ils inquiètent l’opinion ».

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Selon un sondage de l’agence Kyodo du 20 juin, 86 % des Japonais craignent une nouvelle vague de contaminations à l’occasion des JO. Le gouvernement Suga et le Comité international olympique (CIO) viennent de susciter de vives critiques dans la presse en décidant qu’un nombre limité de spectateurs (50 % de la capacité des stades avec au maximum 10 000 personnes) pourrait assister aux épreuves.

Les premiers signes d’une reprise

L’empereur ne dispose d’aucun pouvoir politique. En dépit de la retenue que lui impose son statut de « symbole de l’Etat et de l’unité du peuple » aux termes de l’article premier de la Constitution, Naruhito entend donner à sa fonction la dimension d’une entité morale, comme l’a fait son père Akihito qui a abdiqué en 2019. Tout au long de son règne, ce dernier a discrètement posé des balises afin de maintenir la démocratie japonaise sur la voie tracée au lendemain de la défaite, et il s’est toujours voulu proche de la population, en particulier lors de catastrophes comme celle du 11 mars 2011 (séisme, tsunami meurtrier et accident nucléaire). La pandémie représente, elle aussi, une situation de crise.

Article réservé à nos abonnés Lire aussi Nombreuses critiques au Japon contre la gestion de l’épidémie de coronavirus

En se disant conscient de l’inquiétude de la majorité des Japonais, Naruhito reste dans son rôle de « symbole de l’unité du peuple » mais il n’en donne pas moins une caution morale à la légitime préoccupation de la population. Les Jeux commenceront alors qu’une bonne partie des Japonais n’aura pas encore été vaccinée et que, selon le ministre de la santé, Norihisa Tamura, pointent à Tokyo les premiers signes d’une reprise des contaminations.

Philippe Pons(Tokyo, correspondant)

オイラー入門: W.ダンハム

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オイラー入門(シュプリンガー版)」(丸善版

内容紹介:
オイラー積、オイラー線、オイラー角、オイラーの公式など、今日もその名を冠する業績を多く遺す、18世紀の代表的数学者レオンハルト・オイラー。本書は、オイラー自身が示した36個の証明を取り上げ、親切・丁寧に解説した、オイラーの数学への入門書である。本書では、オイラーが重要な貢献をしたテーマから数論、対数、無限級数、解析的数論、複素数、代数、幾何学、組合せ論に沿って8つの章を設けている。それぞれの章は3つの節からなり、まず「プロローグ」で、オイラー以前に知られていたことが論じられる。続く「オイラー登場」では、オイラーの意図が原論文にしたがって紹介され、最後の「エピローグ」でオイラー以降の数学者がどのように彼のアイディアを展開させていったかが述べられている。オイラーの業績の同時代における意義と、彼以降の数学と数学者に与えた影響が浮き彫りにされる。「略伝」では、サンクト・ペテルブルグなどで活躍した彼の生涯を俯瞰することができる。付録として、今なお未完である『全集』の既刊74巻の内容一覧が付されている。

シュプリンガー版:2004年7月1日、254ページ
丸善版:2012年1月20日、254ページ

著者:
ウィリアム・ダンハム: Wikipediaの英文記事
1947年生まれ。もともとトポロジーの訓練を受けていたが、数学の歴史に興味を持ち、レオンハルト・オイラーを専門とするアメリカの作家。このテーマに関する執筆と教育でいくつかの賞を受賞している。


理数系書籍のレビュー記事は本書で461冊目。

レオンハルト・オイラー(1708-1783)が偉大な数学者であることはもちろん知っていたが、彼の業績の全体像を把握できていなかった。本書はオイラーが開拓した数学全体を解説した格好のオイラー数学入門書である。

高校の数学IIIまできちんと学んでいれば理解できる本だ。学生時代に巡り合えていればどんなによかっただろう。といっても本書はまだ書かれていなかったから無理な話。高校生、大学生にはぜひ読んでほしい。学校で学ぶ数学を超えたところに、オイラー以降の数学の発展に結びつく数々のアイデアと発見があったこと、その広大な領域をたった一人で開拓したという驚異的な偉業を知ることができるはずだ。日本では江戸時代中期のことである。

オイラーの公式」はあまりにも有名だが、僕が次に興味を持ったのは「無限級数の和の不思議」だった。高校時代に等比数列の和を学んだとき、たいていの学生は Σ1/n の無限和や Σ1/n^2、Σ1/n^3、Σ1/n^4 などの無限和はどうなるのだろうと気になってくるものだ。僕もその一人だった。

Σ1/n^2という「バーゼル問題」を解決したのがオイラーで、1644年に出題され、解決したのは91年後の1735年のこと。簡単そうに見えるこの問題を僕が高校時代に解けなかったのは当然だ。

Σ1/n^2、Σ1/n^3、Σ1/n^4 などの無限和の研究は、nが負の数の場合に拡張され、リーマン予想にでてくるゼータ関数の研究に発展していくことになる。

章立ては次の通りだ。

略伝
第1章 オイラーと数論
第2章 オイラーと対数
第3章 オイラーと無限級数
第4章 オイラーと解析的数論
第5章 オイラーと複素数
第6章 オイラーと代数
第7章 オイラーと幾何学
第8章 オイラーと組合せ論

一見して何が書かれているか想像できそうな気がするが、予想をはるかに超える「深い数学」が開設されていた。特に「オイラーと複素数」は、すでに理解している「オイラーの公式」のことだから、大したことが書かれていないのだろうと早合点していたのだが、つまらなそうに思えたこの章がいちばん感動した。

また、幾何学には苦手意識があるため「オイラーと幾何学」は飛ばそうと思ったが、ユークリッド幾何学(特に単なる三角形の幾何がもつ性質であっても)、ユークリッドからオイラーの時代までに発見されていなかった定理があることに衝撃を受けた。

ひとつひとつの章のテーマは、高校数学で学んだ内容の先にある事柄だ。解法のパターンを覚えて解く受験数学を学ぶのに疲れたとき、オイラーが開拓した斬新なアイデア、凡人には思いつけない天才的な解法を知るとまったく新しい世界があることを知ることができる。僕が高校生や大学初年度の学生に本書を勧めたい理由はここにある。

本書には続編がある。といっても同じ著者が書いた本の訳書ではなく、ゼータ関数、リーマン予想の研究の第一人者として知られる数学者黒川信重先生がお書きになった本だ。

オイラー入門(シュプリンガー版)」(丸善版
オイラー探検(シュプリンガー版)
 

翻訳のもとに担った英語版はこちら。

Euler the Master of Us All: William Dunham」(Amazon.com


さらに学んでみたい方には、オイラー自身が書いたこちらの2冊をお勧めしたい。

オイラーの無限解析
オイラーの解析幾何
 


関連動画:

著者によるオイラーの数学の紹介動画である。

A Tribute to Euler - William Dunham


Your humble Servant, Is. Newton by William Dunham


YouTubeで著者の動画を: 検索する


 

 


オイラー入門(シュプリンガー版)」(丸善版


謝辞
序文
略伝

第1章 オイラーと数論
- プロローグ
- オイラー登場
- エピローグ

第2章 オイラーと対数
- プロローグ
- オイラー登場
- エピローグ

第3章 オイラーと無限級数
- プロローグ
- オイラー登場
- エピローグ

第4章 オイラーと解析的数論
- プロローグ
- オイラー登場
- エピローグ

第5章 オイラーと複素数
- プロローグ
- オイラー登場
- エピローグ

第6章 オイラーと代数
- プロローグ
- オイラー登場
- エピローグ

第7章 オイラーと幾何学
- プロローグ
- オイラー登場
- エピローグ

第8章 オイラーと組合せ論
- プロローグ
- オイラー登場
- エピローグ

オイラー探検:黒川信重

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オイラー探検(シュプリンガー版)」(丸善版

内容紹介:
本書ではオイラーの数学のうち、ゼータ関数周辺に焦点を絞り、素数の逆数和が無限大というオイラーの画期的業績の解説からはじめて、オイラーが発見した美しい数式を次々と紹介してゆきます。第I部「オイラーと無限大の滝」ではオイラーの行った研究を、関連する話題にも触れながら、解説しています。説明は高校生からわかるように心がけました。第II部「オイラー12峰探検」ではオイラーを直接体験するためにオイラーが書き残した式を『全集』からそのまま紹介します。当時の書き方を味わいつつ、オイラーの美しい式たちを観賞してください。

シュプリンガー版:2007年10月3日刊行、184ページ
丸善版:2012年5月1日刊行、184ページ

著者:
黒川信重(くろかわ のぶしげ): ウィキペディアの記事
1952年栃木県生まれ。栃木県立宇都宮高校出身。東京工業大学理学部数学科卒業。同大学院修士課程修了。理学博士(東京工業大学)。東京工業大学助手、東京工業大学助教授、東京大学助教授、東工大教授を経て、現在、東京工業大学名誉教授。専門は数論、特に解析的整数論、多重三角関数論、ゼータ関数論、保型形式。著書・共著多数。

黒川先生の著書: 書籍版 Kindle版


理数系書籍のレビュー記事は本書で462冊目。

オイラーの業績の全体像を把握するために、前回の記事では「オイラー入門: W.ダンハム」を読んで紹介記事を書いた。そしてさらにゼータ関数やリーマン予想を知るために読んだのが、今回の「オイラー探検(シュプリンガー版)」である。

著者の黒川先生は「高校生からわかるように心がけました」とお書きになっているが、それは第I部までのことである。第II部のほうは容赦なく打ちのめされた。自分の計算力のなさを思い知る結果となった。

とはいっても読書が無駄になったわけではない。「無限」には魔物が潜んでいることがよく理解できたし、魔物に果敢に挑んでいくつもの糸口をつかんだオイラーの奮闘ぶりを実感できた。無限乗積と無限級数が一致するという驚くべき等式や数式がオイラーの数学の大きな魅力である。それは無限に続く自然数全体と無限に続く素数全体との間に成り立つ関係式が得られたということなのだ。そしてオイラー以後、数学的に厳密な形で完成した複素関数論(動画で学ぶ)の解析接続(動画で学ぶ)によりゼータ関数がリーマン予想へ発展していく道筋を見ることができたからだ。

そしてオイラーの数学の研究は「底なし沼」だということも理解した。一生をかけて研究し尽せない数学領域なのだ。それは1911年から刊行されている『オイラー全集(Opera Omnia)』は、すでに第70巻を超え、現在もなお刊行が続いていることからもわかる。この全集は次のように構成されている。Amazonからも販売されている。(検索してみる

第一シリーズ 数学著作集 
29巻、30冊 (このシリーズは完結した)
第二シリーズ 力学と天文学
31巻、32冊 (このシリーズも完結した)
第三シリーズ 物理学、その他
12巻  (このシリーズも完結した)
第四シリーズ
この系列はさらに二つの系列に分かれる
4-A 書簡集(全10巻の予定。)
4-B オイラーのマニュスクリプト。手書きの研究ノートと日記。

参考ページ:その量は5万ページ以上! 論文をまとめきれないほどの天才数学者がいた!
https://mikata.shingaku.mynavi.jp/article/5545/

この全集を読むのは不可能だから、コンパクトにまとめられた本書が役立つのである。第I部ではゼータに関する美しく興味深い等式が幾つも紹介されている。第II部では12峰と称してオイラーが発見した美しい数式が紹介されている。数式変形まで詳しく解説されている第I部とは異なり、ここでは簡潔な『解説』が与えられているだけだ。オイラー数学の研究者を目指すのであれば、自分で計算して確かめるべきだが、ほとんどの人には無理なことで「高嶺の花」を鑑賞するしかない。本書の第II部はオイラーの数学公式集のようなものだと、無理矢理納得することにした。

「オイラー数学の沼」を垣間見たい方には、生誕300年を記念して刊行された本書をお勧めしたい。以下の2冊はペアである。重複箇所はほとんどないから、2冊ともお買い求めになるとよいだろう。

オイラー入門(シュプリンガー版)」(丸善版)(紹介記事
オイラー探検(シュプリンガー版)」(丸善版
 

「オイラー入門」の翻訳のもとに担った英語版はこちら。

Euler the Master of Us All: William Dunham」(Amazon.com


さらに学んでみたい方には、オイラー自身が書いたこちらの2冊をお勧めしたい。

オイラーの無限解析
オイラーの解析幾何
 

『オイラー全集(Opera Omnia)』: Amazonで検索

参考: The Euler Archive
http://eulerarchive.maa.org/


関連動画:

著者の黒川信重先生の講義動画、出演されている動画を紹介しておこう。最終講義のほうは一般の方でも理解できる内容である。

黒川信重教授.最終講義「絶対数学の世界を旅して」


対談「ラマヌジャンを語る」:黒川信重x小山信也


オイラー以降、ゼータの研究がリーマン予想に発展していたことがざっくりわかる動画を紹介しておこう。ヨビノリさんがとても上手に説明している。

高校生でも楽しめるリーマン予想【前編】


高校生でも楽しめるリーマン予想【後編】



関連記事:

オイラー入門: W.ダンハム
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b6a5d54f254fa7af0c2361d93995cea4


 

 


オイラー探検(シュプリンガー版)」(丸善版


第I部 オイラーと無限大の滝
- オイラーと現代数学
- オイラーとサンクト・ペテルブルグ
- 素数
- オイラーと素数
- 素数いろいろ:オイラーの足跡
- 素数の逆数の和:オイラーの着眼
- オイラーによる条件付き素数分布
- 佐藤-テイト予想への道
- 平方数の逆数の和:オイラーと円周率
- オイラーからの三角関数の発展
- 自然数全体の和:オイラー瀑布
- 平均極限からの接近
- ゼータの風景
- ゼータと波
- ゼータの一年
- オイラーの羽箒
- 文献案内

第II部 オイラー12峰探検
- 指数関数・三角関数
- 三角関数無限積表示
- ゼータ特殊値:正偶数
- ゼータ特殊値:負整数
- ゼータ関数等式
- オイラー積
- 素数逆数和
- ゼータ積分表示
- ゼータ正規和
- オイラー定積分
- 発散級数
- 五角数定理

付録A:オイラー生誕300年記念集会
付録B:オイラー作用素の行列式
付録C:ゼータと地球
あとがき
索引

発売情報:入門 現代の量子力学 量子情報・量子測定を中心として:堀田 昌寛

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入門 現代の量子力学 量子情報・量子測定を中心として:堀田 昌寛」(Kindle版予定あり)

内容紹介:
今世紀の標準! 次世代を担う物理学徒に向けて、量子力学を根本的に再構成した。原理から本当に理解する15章。
「量子力学は20世紀前半には場の理論を含めて完成を見た。しかしその完成に至るまでの試行錯誤では、現在では間違っていることがわかっている物質波の解釈の仕方や、正確ではなかった不確定性関係の議論もなされていた。そこで本書では、そのような歴史的順序そのままの紆余曲折のある論理を辿らないことにした。一方で、線形的な状態空間やボルン則を用いた確率解釈やシュレディンガー方程式などを天下り的に公理とするスタイルもとらない。代わりに情報理論の観点からの最小限の実験事実に基づいた論理展開で、確率解釈のボルン則や量子的重ね合わせ状態の存在などを証明する。」〈本書「まえがき」より〉
2021年7月12日刊行、304ページ

著者:
堀田 昌寛(ほった まさひろ)
プロフィール: http://www.tuhep.phys.tohoku.ac.jp/profile/hotta.html
Twitter: @hottaqu
1993年東北大学大学院理学研究科博士課程修了。博士(理学)。現在、東北大学大学院理学研究科助教。専門は相対論的量子情報物理学。特に、ブラックホールエントロピー、情報喪失問題。著書に『別冊数理科学 量子情報と時空の物理』(サイエンス社)がある。


待望の教科書が週明けの月曜日に刊行される。僕もさっそく地元の書店で注文した。水曜日には受け取れるようだ。専門書であるにもかかわらず、現在予約段階でAmazonではベストセラーがつき、「物理学一般関連書籍」「理論物理学」「量子物理学」の3部門で1位、そして何と総合部門で53位という人気ぶりである。


「量子力学の不思議さをことさら強調するのはそろそろやめませんか?」という言葉を初めて聞いてから10年以上たっている。量子コンピュータは実現しているし、その基礎技術としての量子テレポーテーションは20年以上前に実験が成功している。けれども、大学で使われている教科書は相変わらず古いまま、一般人に興味をもってもらうための入門書は、ことさら「不思議さ」を売り物にした本がほとんどだ。

確かに量子力学の歴史をひもとけば、現象や理論の解釈をめぐって論争が引き起こされ、決着がついていないものがあった。しかし、現代ではそのほとんどが解決している。現代の理解に基づいた教科書の必要性が唱えられていたものの、量子力学の入門的教科書でこの視点に基づいて書かれた本は皆無だったのだ。それが本書によって叶えられたのである。量子ネイティブを目指す、すべての学生、専門家、社会人に向け、堀田先生が精魂を込めて投げかけた貴重な一冊である。

この流れには僕も賛成だ。しかし、一抹の不安があった。それは次の2点についてである。

- 量子情報、量子工学を目指す方向に偏った本になってしまっているのではないだろうか?
- 量子力学に入門する初学者にとって難し過ぎる本になってしまっているのではないだろうか?つまり量子力学の2冊目の教科書の位置づけではないだろうか?

最初の不安は払拭することができた。量子力学は量子情報、量子工学に進む基礎としてだけではなく、場の量子論、素粒子物理、物性物理、電子工学などの領域の基礎でもある。詳細目次を見たところ、将来どの分野に進むのであっても役立つ教科書だということがわかった。

難易度については、実際に読んでみないと断定的なことは言えないが、目次を見る限り1冊j目の教科書として読めると思った。

章立ては次の通りで、斬新な教科書だということがすぐわかる。(詳細目次はこの記事のいちばん最後に載せておく。)

第1章 隠れた変数の理論と量子力学
第2章 二準位系の量子力学
第3章 多準位系の量子力学
第4章 合成系の量子状態
第5章 物理量の相関と量子もつれ
第6章 量子操作および時間発展
第7章 量子測定
第8章 一次元空間の粒子の量子力学
第9章 量子調和振動子
第10章 磁場中の荷電粒子
第11章 粒子の量子的挙動
第12章 空間回転と角運動量演算子
第13章 三次元球対称ポテンシャル問題
第14章 量子情報物理学
第15章 なぜ自然は「量子力学」を選んだのだろうか
付録

以下、堀田先生がツイートされている本書の解説を引用しておこう。

『今世紀の標準!』と帯に書いて頂きましたが、これは私の発案ではありません。しかし私の気持ちとしては、新しい量子力学への登頂ルートとして、この路線の教科書がどんどんと出てくることに期待をしております。

この教科書では、前期量子論から始めるスタイルでもなく、また要請(公理)を最初に与えるスタイルでもありません。シュテルン=ゲルラッハの実験結果からボルン則や量子状態線形重ね合わせを導出します。その意味で、JJサクライの衣鉢を継いでいる教科書という位置づけです。

解析力学の知識は、ハミルトニアンを知っているくらいでOKです。前提知識は普通の力学、電磁気学、複素数も採り入れた線形代数および多変数関数の微積分です。なお線形代数の最低限の説明とフーリエ級数とフーリエ変換とディラックのデルタ関数については付録がついてます。

実数ではなく複素数の値をとる波動関数の正体は、量子系に関する情報の集まりに過ぎないことを明らかにしながら、観測すると波動関数が光速度を越えた速さで収縮するのは理論の不備だと思ってしまう、初学者のよくある誤解も回避させていきます。

量子情報や量子測定の理論の基礎となる、量子もつれなどの様々なアイテムを網羅的に紹介し、量子技術の応用にもスムーズに繋がる知識を身に付けさせることも目標にしています。これからの人材としても重要な量子ネイティブ達を育成する教科書を目指しました。

「量子力学自体が情報理論の一種である」という視点をきちんと持てるような構成にしています。また初学者をよく悩ませる「物理量はエルミート行列」と考える話も天下り的に済ませず、なぜそのように扱うのかという、その背景も説明をしています。

またJ.S.ベルが考えた二準位系の隠れた変数の理論モデルを、より自然で簡単なモデルに仕立て上げて、付録で説明をしました。量子力学既修者のレビュアーの方には、特にこれと第15章の情報因果律の話を誉められました。その他にも、従来の学部生教科書にはなかった特徴が多々あります。

最後の章は、量子力学とは異なる理論を含む広い枠組みにおける解析を行って、多数の候補からなぜ自然が量子力学の実装を選択したのかについて考察し、それを通じて理論としての量子力学をより深く理解させることを狙っています。これからの基礎物理学の1つの方向性を示しました。

理論物理学私塾や物理教育インフルエンサーの皆さまに、この教科書に沿った量子力学のオンライン授業を常識的な授業料で行って頂ければ嬉しいです。教科書を買って著作権を守って頂ければ、開講されてもこちらは他に何も要りません。この国で民間の物理学高等教育の場が成熟することを願っております。


今後、この教科書を使って授業を行う大学が増えていくことを期待している。


関連記事:

量子情報と時空の物理 第2版: 堀田昌寛
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/12f7ead2e710ad2b70955c62a6f268fa

量子とはなんだろう 宇宙を支配する究極のしくみ: 松浦壮
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/22f04399c3fc59c9e20e95531b251935


 

 


入門 現代の量子力学 量子情報・量子測定を中心として:堀田 昌寛」(Kindle版予定あり)


まえがき
記号表

第1章 隠れた変数の理論と量子力学
1.1 はじめに
1.2 シュテルン=ゲルラッハ実験とスピン
1.3 隠れた変数の理論の実験的な否定

第2章 二準位系の量子力学
2.1 測定結果の確率分布
2.2 量子状態の行列表現
2.3 観測確率の公式
2.4 状態ベクトル
2.5 物理量としてのエルミート行列という考え方
2.6 空間回転としてのユニタリー行列
2.7 量子状態の線形重ね合わせ
2.8 確率混合

第3章 多準位系の量子力学
3.1 基準測定
3.2 物理操作としてのユニタリー行列
3.3 一般の物理量の定義
3.4 同時対角化ができるエルミート行列
3.5 量子状態を定める物理量
3.6 N準位系のブロッホ表現
3.7 基準測定におけるボルン則
3.8 一般の物理量の場合のボルン則
3.9 ρ^の非負性
3.10 縮退
3.11 純粋状態と混合状態

第4章 合成系の量子状態
4.1 テンソル積を作る気持ち
4.2 テンソル積の定義
4.3 部分トレース
4.4 状態ベクトルのテンソル積
4.5 多準位系でのテンソル積
4.6 縮約状態

第5章 物理量の相関と量子もつれ
5.1 相関と合成系量子状態
5.2 もつれていない状態
5.3 量子もつれ状態
5.4 相関二乗和の上限

第6章 量子操作および時間発展
6.1 はじめに
6.2 物理操作の数学的表現
6.3 シュタインスプリング表現
6.4 時間発展とシュレディンガー方程式
6.5 磁場中の二準位スピン系のハミルトニアン
6.6 ハイゼンベルグ描像
6.7 対称性と保存則

第7章 量子測定
7.1 はじめに
7.2 測定の設定
7.3 測定後状態
7.4 不確定性関係

第8章 一次元空間の粒子の量子力学
8.1 はじめに
8.2 状態空間次元の無限大極限
8.3 位置演算子と運動量演算子
8.4 運動量演算子の位置表示
8.5 N^の固有状態の位置表示波動関数
8.6 エルミート演算子のエルミート性
8.7 粒子系の基準測定
8.8 粒子の不確定性関係

第9章 量子調和振動子
9.1 ハミルトニアン
9.2 シュレディンガー方程式の位置表示
9.3 伝播関数

第10章 磁場中の荷電粒子
10.1 調和振動子から磁場中の荷電粒子へ
10.2 伝播関数

第11章 粒子の量子的挙動
11.1 自分自身と干渉する
11.2 電場や磁場に触れずとも感じる
11.3 トンネル効果
11.4 ポテンシャル勾配による反射
11.5 離散的束縛状態
11.6 連続準位と離散準位の共存

第12章 空間回転と角運動量演算子
12.1 はじめに
12.2 二準位スピンの角運動量演算子
12.3 角運動量演算子と固有状態
12.4 角運動量の合成
12.5 軌道角運動量

第13章 三次元球対称ポテンシャル問題
13.1 はじめに
13.2 三次元調和振動子
13.3 球対称ポテンシャルのハミルトニアン固有値問題
13.4 角運動量保存則
13.5 クーロンポテンシャルの基底状態

第14章 量子情報物理学
14.1 はじめに
14.2 複製禁止定理
14.3 量子テレポーテーション
14.4 量子計算

第15章 なぜ自然は「量子力学」を選んだのだろうか
15.1 確率分布を用いたCHSH不等式とチレルソン不等式
15.2 ポぺスク=ローリッヒ箱の理論
15.3 情報因果律
15.4 ポペスク=ローリッヒ箱の強さ

付録
A 量子力学におけるチレルソン不等式の導出
B.1 有限次元線形代数
B.2 パウリ行列
C.1 クラウス表現の証明
C.2 クラウス表現を持つΓがシュタインスプリング表現を持つ証明
D.1 フーリエ変換
D.2 デルタ関数
E 角運動量合成の例
F ラプラス演算子の座標変換
G.1 シュテルン=ゲルラッハ実験を説明する隠れた変数の理論
G.2 棒磁石モデルにおけるCHSH不等式

発売情報:湯川秀樹 量子力学序説

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湯川秀樹 量子力学序説

内容紹介:
本書は湯川秀樹『量子力学序説』改訂増補版、新装版を底本として現代表記に改め、出来る限り原著を忠実に再現しながらも湯川の加筆訂正も参考に適宜修正を加え、新たに組み直した新版である。底本は絶版となって久しく、現役の量子物理の研究者ですら見たことのない教科書であるが、その内容は現代の読者にとっても相応しいものとなっている。量子力学の概念を把握しておきたい学生におすすめする。
初版は量子力学の黎明期に若き湯川が京都帝国大学と大阪帝国大学で教鞭をとった際の経験をもとに執筆された。京都帝国大学で湯川はこの教科書にチョークでしるしをつけ、書き込みながら授業を行っていた。本書の構成は湯川が独自に考え出したものであり、改訂増補版から第8章が追加された。量子力学が出来上がってきた時代に、誰がどのように考えて新しい理論作りに挑戦していったかが、手に取るように分かるのも興味深い。
湯川は序文に、

「量子力学は今日、物理学のみならず化学においても、もっとも基礎的な地位を占める理論体系である。さらにそれは工学の諸分科や、生物学・生理学・心理学ないしは哲学にまでも重大な影響を及ぼしつつある。本書はこれらの点に鑑み、一方では物理学を専攻しようする学生に対する量子力学の入門書であるとともに、他方ではこの方面の問題に関心を有するもつ広い範囲の人達にも読んで頂くつもりで、この理論の本筋だけを平易に述べたものである」

と記している。湯川の執筆から長い年月が過ぎても、生命には解明されない謎が多数残されている。そしてその解明には量子力学の導入が力になるに違いない時代となった。AIが全ての分野で全盛期を迎えている今、確率統計的な考えを把握するためにも、量子力学を基礎から丁寧に執筆している本書を読み込むことは、時代を超えて現代に学ぶ学生の確かな知と力となるだろう。付録は比較的多く、量子力学を学ぶにあたって予備知識として必要な、古典物理学および古典量子論の概要も収録されている。
2021年7月15日刊行、422ページ

著者:
湯川秀樹(ゆかわ・ひでき)
大阪大学湯川記念室HP: https://www-yukawa.phys.sci.osaka-u.ac.jp/
理学博士。専門は理論物理学。京都大学名誉教授、大阪大学名誉教授。
1907年に地質学者小川琢治の三男として東京生まれ、その後、1歳で転居した京都市で育つ。23年に京都の第三高等学校理科甲類(16歳)、26年に京都帝国大学理学部物理学科に入学する。33年からは大阪帝国大学講師を兼任し、1934年に大阪帝国大学理学部専任講師となる(27歳)。同年に「素粒子の相互作用についてI」(中間子論)を発表。日本数学物理学会の欧文誌に投稿し掲載されている。36年に同助教授となり39年までの教育と研究のなかで38年に「素粒子の相互作用についてI」を主論文として大阪帝国大学より理学博士の学位を取得する(31歳)。1939年から京都帝国大学理学部教授となり、43年に文化勲章を受章。49年からコロンビア大学客員教授となりニューヨークに移る(42歳)。同1949年に、34年発表の業績「中間子論」により、日本人初のノーベル物理学賞を受賞。1953年京都大学基礎物理学研究所が設立され、所長となる(46歳)。1981年(74歳)没。『旅人―ある物理学者の回想』、『創造への飛躍』『物理講義』など著書多数。

湯川先生の著書: 書籍版 Kindle版

大阪大学総合学術博物館湯川記念室
湯川秀樹『量子力学序説』復刊編集委員会
土岐 博(とき・ひろし)
藤村行俊(ふじむら・ゆきとし)
橋本幸士(はしもと・こうじ)
大阪大学湯川記念室は湯川博士の大阪大学での研究を顕彰するべく、1953年に設立された。湯川博士に関する史料保存のほか、新しい学問を目指す人々に向けてさまざまな活動を行っている。


量子力学のまったく新しいタイプの教科書として刊行された本を「発売情報:入門 現代の量子力学 量子情報・量子測定を中心として:堀田 昌寛」として記事にしたが、この本を読んだ後に古いタイプの教科書も読んで比べてみようと思っていた。どの教科書にするか迷っているうちに恰好の本が刊行された。それが今回は発売情報として紹介する「湯川秀樹 量子力学序説」という復刻本だ。

この教科書の初版が刊行されたのは1947年(昭和22年)である。この本を僕はたまたま14年前の7月に入手していた。戦後わずか2年後に刊行されただけに紙質はとても悪い。写真は「量子力学序説(湯川秀樹著):昭和22年初版本」という記事でご覧いただける。

このほか古い教科書では、この他1934年(昭和9年)11月に刊行された(原著は1930年刊行)も3年前に入手している。写真は「波動力學研究序説:ルイ・ドゥ・ブロイ著、渡邊慧譯」という記事でご覧いただける。

現代までに刊行されてきた教科書は、その構成の大半がこれらのとても古い教科書の時代に骨子が出来上がっていて、その内容を踏襲している。先日刊行された「発売情報:入門 現代の量子力学 量子情報・量子測定を中心として:堀田 昌寛」は、この伝統的な常識を覆したのだ。


とはいえ、湯川先生の時代、1947年にそれを求めるのはまったく無理な話。量子情報理論はおろか古典情報理論を生み出したクロード・シャノンが「通信の数学的理論:クロード・E. シャノン、ワレン・ ウィーバー」のもとになった論文を発表したのは1948年のことであり、ベルの不等式を考案したジョン・スチュワート・ベルは、1948年にクイーンズ大学を実験物理学で卒業したばかりで、彼がその不等式を発表したのは"On the Einstein-Podolsky-Rosen Paradox(EPRパラドックスについて)"という題の論文で、1964年のことである。量子テレポーテーション技術の詳細な論文は、チャールズ・ベネットらによって湯川先生の没後10年以上たった1993年に発表された。

つまり1947年の時点で量子情報理論は「卵」として眠っていた。(卵以前の精子と卵子だったのかもしれない。)だから、波動関数の収縮や観測問題など初期の量子力学の謎は解決されておらず、この状況は現代の教科書や科学教養書に至るまでそのままになっていた。

このようなわけで、僕は堀田先生の教科書と湯川先生の教科書を両方とも読んで、古いタイプの教科書はどこがいけなかったのかを身をもって体験し、整理してみようと思っている。


『量子力学序説』は1947年(昭和22年2月5日発行)の初版のあと、1954年に改訂増補版(昭和29年6月15日発行)が刊行され、湯川はその序文で「調べてみると、まだ不満な点が幾つも残っているが、取敢えず吸う箇所の誤植を訂正し、44ページの説明の足りない所を補うことにした外、本文の最後に相対論的電子論に関する一章を付け加えた」(底本ママ)と書いている。その後1971年(昭和46年4月30日発行)に新装版が刊行されt、これは増補改訂版で補われた箇所が補われていない。本書はこれらの増補改訂版と新装版を底本とし、増補改訂版で補われた44ページの追加と第8章を再録した。

そのため、今回復刻した本の章立ては次のとおり。詳細目次は、橋本幸士先生のこのツイートで公開されている。

第1章 量子論の発達
第2章 波動力学の概観
第3章 行列力学の方法
第4章 量子力学の基礎概念
第5章 一般理論
第6章 摂動論および衝突論
第7章 多体問題および輻射論
第8章 相対論的電子論
付録I 古典力学摘要
付録II 古典電気力学摘要
付録III 古典統計力学および古典量子論摘要
付録IV 直交関数系
付録V ベクトル空間
付録VI 量子力学の参考書
付録VII 術語一覧


湯川先生のライバルの朝永先生も、1951年と1953年に量子力学の教科書のI、とIIを刊行されている。以下はその後刊行された新装版だ。もちろん堀田先生の教科書が刊行された今では「古いタイプ」の教科書である。初学者にとっては湯川先生の教科書よりも読みやすく書かれていると僕は思う。

量子力学 I:朝永振一郎」(紹介記事
量子力学 II:朝永振一郎」(紹介記事
 

角運動量とスピン―『量子力学』補巻:朝永振一郎」(紹介記事
スピンはめぐる―成熟期の量子力学 新版:朝永振一郎」(紹介記事
 


なお、堀田先生は古いタイプの教科書に書かれていがちな前期量子論について、次のようにツイートされている。

「前期量子論はまるで大河ドラマを観るような面白さがありますが、一方で、波動関数の理解が物質波から確率波、部分的に量子場へとつながって、概念の混乱が激しいのです。それを今回は思い切って整理をし、最小限の論理に必要がないものは削りました。」


関連記事:

量子力学序説(湯川秀樹著):昭和22年初版本
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bf5b874acf0b81d58d4bf8d8e66c6adf

波動力學研究序説:ルイ・ドゥ・ブロイ著、渡邊慧譯
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/189f204f732ab835fb9baf720302a39d

発売情報: ディラック 量子力学 原書第4版 改訂版
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/19193db48c2ca3c17c9422d1827de6d4

量子力学 I 第2版:朝永振一郎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7a2a6fb8e53c35ae78ee655ab68d8219

量子力学 II 第2版:朝永振一郎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/05312f75b4abbb854c1a81352abebae9


 

 


湯川秀樹 量子力学序説


目次: 橋本幸士先生のこのツイートで公開されている。


改訂増補版序
凡例

第1章 量子論の発達
- 物質と電気の素量性
- 作用量子の発見
- 光の粒子性
- 原子の構造
- 対応原理と量子代数
- 物質の波動性
- 量子力学の成立と発展

第2章 波動力学の概観
- Schrödingerの方法
- 中心運動の量子化
- 非周期運動の量子化
- 古典論との対応

第3章 行列力学の方法
- Heisenbergの理論
- 角運動量とスピン

第4章 量子力学の基礎概念
- 物理量の固有値と平均値
- 微視的現象の特質

第5章 一般理論
- 量子力学的状態の表示
- 物理量の表現
- 変換理論
- 力学的法則
- 観測の問題

第6章 摂動論および衝突論
- 摂動論
- 衝突の理論

第7章 多体問題および輻射論
- 多電子問題
- 対応的輻射論
- 輻射の量子化

第8章 相対論的電子論
- Diracの波動方程式
- Diracの電子の諸性質

付録I 古典力学摘要
- LagrangeおよびHamiltonの運動方程式
- 変換理論
- 多重周期運動
- 衝突現象

付録II 古典電気力学摘要
- 電子論の基本法則
- 電子と輻射の相互作用

付録III 古典統計力学および古典量子論摘要
- Bolzmann統計
- 熱輻射の理論
- 原子構造の理論

付録IV 直交関数系
- 固有値問題によって定義された直行関数系
- 固有関数の一般的性質

付録V ベクトル空間
- n次元のベクトル空間
- Hilbert空間

付録VI 量子力学の参考書

付録VII 術語一覧

索引
復刊あとがき

ル・モンド紙:2021年の東京オリンピック、不安を高める形で始まる

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2020年夏季オリンピックのオリンピックスタジアム上空でのドローンのデモンストレーション、 2021年7月23日、東京、 NATACHA PISARENKO / AP通信提供

大多数の国民の反対と心配を押し切って、東京オリンピックが開催された。今回のブログ記事ではフランスのル・モンド紙に掲載された仏文記事の和訳を紹介する。

元記事:
https://www.lemonde.fr/sport/article/2021/07/24/les-jeux-de-tokyo-2021-commencent-dans-une-atmosphere-de-malaise_6089383_3242.html

ル・モンド紙: 東京オリンピック関連の記事一覧


2021年の東京オリンピック、不安を高める形で始まる

7月23日金曜日の夜を止めた開会式は、反対派が競技会に対して「オリンピックを中止せよ」抗議し続けたことを覆い隠すことはできず、日本列島はCovid-19の症例の増加に直面しています。

記事:フィリップ・メスマール(東京、特派員)、フィリップ・ポン(東京、特派員)、2021年7月24日

7月23日(金)の東京2020オリンピックの開会式は、パンデミックの真っ只中にあり、日本人の大多数の反対を押し切って行われました。今上天皇は、68,000席の新しい国立競技場で、G7加盟国の唯一の国家元首であるエマニュエル・マクロンフランス大統領を含むわずか1,000人の公式ゲストの前で、今回のXXXIIオリンピックの大会の開催を宣言しました。そしてパンデミックの犠牲者を追悼して、1分間の黙祷が行われました。

都会の夜にドローンの群れが描いた地球の美しい映像と、人気のテニス選手大坂なおみが炎を灯して活気づいたことを除けば、地味でリズムと信念に欠ける果てしない式典となりました。その泡に閉じ込められたイベントに最初に陽気さを与えたのは各国代表団のパレードでした。夜を彩った花火の音の大きさとパチパチという音は、反対者たちが唱えつづけた「オリンピックを止めろ」を覆い隠すことはできませんでした。数は少ないが騒々しく、スタジアムのさまざまな入口に集まっていました。スタジアムへアクセスする入口に展開する、警察と自衛隊が監視する光景が印象的でした。

参考記事(仏文):祝祭無しの2021年東京オリンピック

東京の蒸し暑い日中は、今シーズンもいつものように、スマートフォンの画面には毎日のように定期的に警告が表示されていました。「熱中症の危険性があります。屋外での運動を避けましょう。」

2つのパラレルワールド

大会が始まると、2つのメッセージが日本にはいま、2つのパラレルワールドがあることを示しています。1つは、この季節の事実を無視して、NBCのようなアメリカのテレビを喜ばせた「オリンピックファミリー」のメディアドラムビートは、秋に始まるアメリカンフットボールやバスケットボールのシーズンを変えたくありませんでした。1964年のオリンピックは10月に開催されていました。 2つめは、日本列島の住民の日常の感情です。日本人の大多数は、非常事態宣言下の都市で、Covid-19パンデミックの復活の真っ只中に開催されたイベントについて心配しています。

参考記事(仏文):感染のリバウンドと経済競争の均衡、菅義偉政権の猛烈な勢い

首都東京では、毎日2,000件近くの新しい陽性者が記録されています。政府の医療専門家である尾身茂氏によると、このペースは、8月初旬に3,000人に達する可能性があり、すでに医療システムは飽和状態にあるといいます。オリンピックの主催者であり、与党自由党(保守派)の大きな影のパートナーであり、大きな影響力を持っている広告の巨人である電通は、不安を和らげるために日本のアスリートが最初に獲得したメダルを頼りにしています。

コロナウイルスパンデミックの再発の中で開催されたイベントを心配する大多数の日本人

オリンピックのスポンサーであるテレビ局は、スタジアムに観客がいないことの唯一の受益者であり、映像と「日本が世界に送る希望のメッセージ」に再び注目が集まるように取り組んでいます。東京から海外の放送局が発信する陶酔感を見ると、同じ街に住​​んでいるのではないと思うかもしれません。

世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム・ゲブレイエス事務総長は、国際オリンピック委員会(IOC)のメンバーに「私たちはお互いに敵対しているのではなく、ウイルスに対して敵対しているのです。オリンピックが終わるまでに、世界中で10万人が命を落としているでしょう。」と語りました。

中道左派の朝日新聞の世論調査によると、開幕前夜、日本人の55%が依然として反対し、68%が感染の波が悪化するリスクを心配していたそうです。

「国民のフラストレーション」

国民の23%だけがCovid-19に対してワクチン接種されており、多くの人がオリンピックを孤立させると思われる「衛生対策としてのバブル」の危うさを心配しています。IOCのトーマス・バッハ会長が約束した「健康リスクゼロのオリンピック」はもはや議題ではありません。選手村でいくつかの感染が確認されていて、関係者にも感染が及んでいることにより、「衛生対策バブルが十分ではなく、感染源がそこに発生している可能性があることは明らかです」と、7月20日にロイター通信社の渋谷健司氏は述べました。彼は公衆衛生学の専門家で英キングス・カレッジ・ロンドン元教授です。

何ヶ月もの間、国内外の医療専門家は、オリンピック村や競技会場からの日本人ボランティアによる感染のリスクに対して警告してきました。彼らは夕方に公共交通機関を使って帰宅します。

参考記事(仏文):日本では「オリンピックの変異株」への恐れがある

14万人の知識人とジャーナリスト、および元駐仏日本大使が最終的に7月19日に、オリンピックの中止を求めました。彼らの要求の影響については過度な幻想を抱くことができません。社会学者の上野千鶴子氏は、イニシアチブの背後にある「少なくとも国民のフラストレーションの感情を可視化する」と述べました。オリンピックを後援している多くの日本企業は、彼らのイメージが人気のないイベントに関連付けられるのを防ぐために距離を置いています。トヨタ自動車はトーンを変えました。

「オリンピックバブル」は、菅義偉首相(支持率が30%に落ち込んだ)の政府によるパンデミックの管理の先延ばしにますます批判的になっている日本人の気持ちにぴったりのようで、開会式直前のスキャンダルで辞任を余儀なくされたオリンピックの準備に携わった数人の日本人アーティストと同様の道をたどるように感じられます。


2021年7月23日に東京で開催された2021年オリンピックの開会式でのスタジアムの外の様子(YASUYOSHI CHIBA / AFP提供)

政治と経済の課題

これまでの非常事態宣言で当局の指示に従った日本人は、もはや従わず、普段どおりに生活しています。首都の活気あるエリア(銀座、新宿、渋谷…)はいつもの混雑を見せていて、前の週に比べて混雑は増加しています。 そして、長い週末により、多くの人が移動し、駅や空港が混雑していて、ステイホームの呼びかけを無視しています。

日本人は、以前よりも深刻な第5波を心配しており、当局の指示が何であれ、予防策を講じるのはオリンピック関係者だと国民は考え、国民の健康よりもオリンピックが優先されていることをもっと心配しています。大会は始まっており、私たちはアスリートにしか拍手を送ることができません。 日本人はアスリートたちのパフォーマンスに熱中するあらゆる理由がありますが、フラストレーションの蓄積が続く可能性があります。

参考記事(仏文):2021年東京オリンピックのライブもお読みください:サイクリングでリードしているDavid Gauduを含む11人のランナー、準決勝で柔道のLuka Mkheidze


記事:フィリップ・メスマール(東京、特派員)、フィリップ・ポン(東京、特派員)


注意: 多忙のため、いただくコメントの公開承認が遅れることがあります。また、いただくコメントの内容によっては公開承認しないことがありますので、ご了承ください。


関連動画:

JO de Tokyo : les Jeux Olympiques ont fini par s'ouvrir malgré la pandémie de Covid-19


JO de Tokyo : lancement des 29èmes JO d'été en pleine pandémie • FRANCE 24



関連記事:

ル・モンド紙:東京五輪: 天皇陛下が日本国民を心配され、お気持ちを伝えさせた
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/19c3e4f4ec5f3d6a00a17842b87a457f


 

 


フランス語記事全文:

Les Jeux de Tokyo 2021 débutent dans un climat anxiogène

Les festivités qui ont ponctué la soirée d'ouverture, vendredi 23 juillet, n'ont pas couvert les « Arrêtez les JO » scandés par les opposants au maintien des compétitions, alors que l'Archipel est confronté à une hausse des cas de Covid-19.

Par Philippe Mesmer(Tokyo, correspondance) et Philippe Pons(Tokyo, correspondant)
Publié hier à 06h04, mis à jour hier à 09h57

Démonstration de drones au-dessus du stade olympique des Jeux olympiques d'été de 2020, le 23 juillet 2021, à Tokyo, au Japon. NATACHA PISARENKO / AP

La cérémonie d'ouverture des Jeux olympiques (JO) de Tokyo 2020, vendredi 23 juillet, a été à l'image d'une édition maintenue en pleine pandémie et en opposition à la majorité de la population japonaise. Dans le nouveau stade national de 68 000 places, devant à peine un millier d'invités officiels, parmi lesquels le président français, Emmanuel Macron, seul chef d'Etat des pays membres du G7 présent, l'empereur Naruhito a annoncé que les Jeux de la XXXIIe olympiade de l'ère moderne étaient ouverts. Une minute de silence a été observée à la mémoire des victimes de la pandémie.

L'interminable cérémonie, sobre mais manquant de rythme et de conviction – si ce n'est une belle image de la Terre dessinée par un essaim de drones dans la nuit de la capitale et l'allumage de la flamme par la populaire joueuse de tennis Naomi Osaka –, n'a été égayée que par les défilés des délégations qui donnaient pour la première fois un peu de gaieté à un événement prisonnier de sa bulle. Le volume du son et du claquement des feux d'artifices, qui ont ponctué la soirée, n'a pas couvert les « Arrêtez les JO » infatigablement scandés par les opposants, peu nombreux mais bruyants, massés à différentes entrées de la zone d'accès au stade et encadrés par un impressionnant déploiement de forces policières et de soldats.

Article réservé à nos abonnés Lire aussi Les JO de Tokyo 2021, sans la fête

Au cours de la journée, chaude et humide à Tokyo, comme de coutume en cette saison, des messages d'alerte étaient régulièrement apparus, comme chaque jour, sur les écrans des téléphones portables. « Risque de coups de chaleur, évitons les activités physiques. »

Deux mondes parallèles

Ces messages, alors que commencent les Jeux, sont révélateurs des deux mondes parallèles dans lesquels vit aujourd'hui le Japon. D'un côté, le roulement de tambour médiatique de la « famille olympique », qui a ignoré ce fait saisonnier pour complaire aux télévisions américaines, comme NBC, qui ne voulait pas modifier les saisons de football américain ou de basket qui commencent à l'automne – les JO de 1964 avaient eu lieu en octobre. De l'autre, le ressenti au quotidien des habitants de l'Archipel. La majorité des Japonais sont inquiets d'un événement tenu en pleine résurgence de la pandémie de Covid-19, dans une ville placée sous état d'urgence.

Article réservé à nos abonnés Lire aussi JO de Tokyo : entre rebond de l'épidémie et maintien des compétitions, la fuite en avant du gouvernement de Yoshihide Suga

La capitale enregistre chaque jour près de 2 000 nouveaux cas de contagion. Ce bilan pourrait, selon l'expert médical auprès du gouvernement Shigeru Omi, passer à 3 000 début août, alors que le système hospitalier est déjà au bord de la saturation. Les organisateurs des JO et l'agence Dentsu – le géant de la publicité, grand partenaire de l'ombre du Parti libéral démocrate (conservateur) au pouvoir et disposant d'un pouvoir d'influence énorme – comptent sur les premières médailles obtenues par les athlètes nippons pour désamorcer l'emballement anxiogène.

La majorité des Japonais sont inquiets d'un événement tenu en pleine résurgence de la pandémie de coronavirus

Sponsors des JO, les télévisions, uniques bénéficiaires de l'absence de spectateurs dans les stades, s'emploient à recentrer l'attention sur le spectacle et « le message d'espoir que le Japon envoie au monde ». A voir les images euphorisantes transmises de Tokyo par les diffuseurs étrangers, on peut se demander, en tant que résident, si on vit dans la même ville.

Le directeur général de l'Organisation mondiale de la santé (OMS), Tedros Adhanom Ghebreyesus, a mis un bémol à l'enthousiasme forgé par les médias en rappelant, face aux membres du Comité international olympique (CIO), que « nous ne sommes pas dans une course les uns contre les autres mais contre le virus. D'ici à la fin des JO, 100 000 personnes à travers le monde auront perdu la vie ».

Selon le sondage du quotidien de centre gauche Asahi, à la veille de l'ouverture des Jeux, 55 % des Japonais s'opposaient toujours à l'événement et 68 % s'inquiétaient des risques d'aggravation de la vague de contaminations.

« Frustration de la population »

Avec seulement 23 % de la population pleinement vaccinée contre le Covid-19, beaucoup s'inquiètent de l'étanchéité de la « bulle sanitaire » censée isoler les JO. Des « JO à zéro risque sanitaire » promis par le président du CIO, Thomas Bach, ne sont plus à l'ordre du jour. Avec plusieurs cas dans le village olympique parmi les athlètes et leur encadrement, « il est évident que la bulle sanitaire n'est pas étanche et qu'un foyer de contamination peut s'y développer », a déclaré, le 20 juillet, à l'agence Reuters, Kenji Shibuya, ancien directeur de l'Institut pour la santé du King's College de Londres.

Depuis des mois, les experts médicaux nippons et étrangers mettent en garde contre les risques de transmission par les bénévoles japonais du village olympique ou des sites de compétition qui, le soir, rentrent chez eux en empruntant les transports en commun.

Article réservé à nos abonnés Lire aussi Au Japon, la crainte d'un « variant olympique »

Dans une ultime pétition, le 19 juillet, 140 000 intellectuels et journalistes ainsi qu'un ancien ambassadeur du Japon en France ont demandé l'annulation des JO. Sans se faire beaucoup d'illusions sur les effets de leur requête. « Elle donne au moins une visibilité au sentiment de frustration de la population », qui a pris conscience qu'elle n'a pas son mot à dire, estime la sociologue Chizuko Ueno, à l'origine de cette initiative. Nombre des entreprises japonaises sponsors des JO ont pris leur distance pour éviter que leur image ne soit associée à un événement impopulaire. Toyota a donné le ton.

La « bulle olympique » semble étanche à ce que ressentent les Japonais, de plus en plus critiques des atermoiements de la gestion de la pandémie par le gouvernement du premier ministre, Yoshihide Suga (dont la popularité est tombée à 30 %), comme des scandales de dernière minute qui ont forcé à la démission plusieurs artistes nippons engagés dans les préparatifs des JO.

À l'extérieur du stage lors de la cérémonie d'ouverture des Jeux olympiques 2021 à Tokyo, le 23 juillet 2021. YASUYOSHI CHIBA / AFP

Enjeux politiques et financiers

Les Japonais, qui avaient observé les directives des autorités lors des précédents états d'urgence, ne s'y plient plus et vivent leur vie comme d'ordinaire. Les quartiers animés de la capitale (Ginza, Shinjuku, Shibuya…) connaissent leurs affluences habituelles – souvent en augmentation par rapport aux semaines précédentes. Et, à la faveur d'un week-end prolongé, beaucoup se déplacent, encombrant les gares et les aéroports, au mépris des appels à rester à la maison.

Les Japonais, inquiets de la cinquième vague de contaminations, plus grave que les précédentes, pensent que c'est à eux de prendre des précautions, quelles que soient les directives des autorités, plus préoccupées, leur semble-t-il, par les JO que par la santé de la population. Les Jeux commencent et l'on ne peut qu'applaudir les athlètes. Les Japonais auront tout lieu de s'enthousiasmer de leurs performances, mais le mécontentement accumulé risque de persister.

Lire aussi JO de Tokyo 2021 en direct : onze coureurs, dont David Gaudu, en tête au cyclisme, le judoka Luka Mkheidze en demi-finale

Philippe Mesmer(Tokyo, correspondance) et Philippe Pons(Tokyo, correspondant)

入門 現代の量子力学 量子情報・量子測定を中心として:堀田 昌寛

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入門 現代の量子力学 量子情報・量子測定を中心として:堀田 昌寛」(Kindle版予定あり)(正誤表

内容紹介:
今世紀の標準! 次世代を担う物理学徒に向けて、量子力学を根本的に再構成した。原理から本当に理解する15章。
「量子力学は20世紀前半には場の理論を含めて完成を見た。しかしその完成に至るまでの試行錯誤では、現在では間違っていることがわかっている物質波の解釈の仕方や、正確ではなかった不確定性関係の議論もなされていた。そこで本書では、そのような歴史的順序そのままの紆余曲折のある論理を辿らないことにした。一方で、線形的な状態空間やボルン則を用いた確率解釈やシュレディンガー方程式などを天下り的に公理とするスタイルもとらない。代わりに情報理論の観点からの最小限の実験事実に基づいた論理展開で、確率解釈のボルン則や量子的重ね合わせ状態の存在などを証明する。」〈本書「まえがき」より〉
2021年7月12日刊行、304ページ

著者:
堀田 昌寛(ほった まさひろ)
プロフィール: http://www.tuhep.phys.tohoku.ac.jp/profile/hotta.html
Twitter: @hottaqu
1993年東北大学大学院理学研究科博士課程修了。博士(理学)。現在、東北大学大学院理学研究科助教。専門は相対論的量子情報物理学。特に、ブラックホールエントロピー、情報喪失問題。著書に『別冊数理科学 量子情報と時空の物理』(サイエンス社)がある。


理数系書籍のレビュー記事は本書で463冊目。

発売情報として先日記事を書かせていただいた、いま話題の教科書だ。ようやく読み終えることができた。

本書のように説明を展開すれば、これまでの教科書とはまったく違う視点で量子力学を構築することができるのだと納得することができた。

書店で立ち読みされた方は、物理の本ではなく数学の本ではないだろうかという印象を持たれたかもしれないし、最初の数章を読んでいるうちは僕も新井朝雄先生の「ヒルベルト空間と量子力学(紹介記事)」や「量子力学の数学的構造 I、II(紹介記事1紹介記事2)」のような数理物理系、量子力学を数学的に定式化する本のように感じていた。だから、物理学科の学生がこの本を読むと数学書のように感じると思う。お馴染みのシュレディンガー方程式が登場するのはかなり後になってからである。

しかし、導入部の第1章が「シュテルン-ゲルラッハ実験(1922年)」だから本書が物理学書であるのはまぎれもない事実である。この実験から、本書では二準位系の量子力学の物理現象の理論構築が複素線形代数を道具として使いながら進められていく。

本書では電子や光子など具体的な対象を取り上げていないから、初学者は難しく感じるかもしれない。本書の数式には交換子や反交換子は使われているものの、フェルミオンやボソンという用語さえ使われていない。(巻末の索引にも含まれていない。)

物理系の専門用語、一般用語が書かれていないと、抽象的な話に思えてきて必要以上に難しく感じてしまうものだ。最初でつまずいて投げ出すのがいちばんよくない。

複素線形代数による解説が進むため、数学力が不足している方は、本書を読む前に「量子コンピュータ、量子アルゴリズムを学びたい高校生のために」という記事で紹介しているブルーバックス本で前提知識を仕入れておくとよいだろう。時間がない方は特に「量子コンピュータ―超並列計算のからくり: 竹内繁樹」だけでも読んでおくとよい。線形代数の知識が不足している学生には「線型代数[改訂版]: 長谷川浩司」もお勧めしておく。


量子力学を初めて学ぶ初学者が、1冊目の教科書として読むことができるだろうか?この問いに対する答えは「Yes」でもあり「No」だ。初学者といってもレベルはさまざまであり、数式が書かれている本はすべて難しいと感じる人たちのことは除外しておこう。少なくとも上に紹介しているブルーバックス本や、線形代数の教科書くらいは理解できている初学者を念頭に置く。

ざっくりとした言い方になるが、本書の難易度は「よくわかる量子力学:前野昌弘」や小出先生の教科書、江沢先生の教科書よりはずっと難しく、「現代の量子力学(上) (下) 第2版:J.J. サクライ, J. ナポリターノ」や「量子力学 I、II(紹介記事1)」を読んで理解できる人なら読むことができるレベルだと思う。難易度は主観的な尺度だから、人によって違う。

僕が量子力学の教科書として初めて読んだのは「ファインマン物理学 V 量子力学無料の英語版)」で2006年12月のことだった。当時の自分の状態になりきるのは不可能だが、堀田先生の教科書に当時挑戦していたら、途中で挫折していたということが容易に想像できる。理解できるようになるのは、おそらく「ヒルベルト空間と量子力学:新井朝雄」を読んだ2010年頃のの知識を得るまで待たなければならなかっただろう。


堀田先生によると、これまでの教科書は

(1)「前期量子論+正準量子化」

(2)いくつかの量子力学の公理からスタートして、現象を説明する。

の2つに分けられるそうだ。堀田先生の教科書は、これらとは異なり

(3)最小の実験事実から、量子力学という理論を構築する。

という新しいタイプであるという。

なるほど、前野先生や猪木・川合先生の教科書など、量子力学のほとんどの教科書は(1)のタイプである。そして数理物理系の新井先生の教科書は量子力学の公理からスタートしている(2)のタイプだ。そして後者には量子力学の公理から始める「新版 量子論の基礎:清水明」という教科書もある。


本書の章立ては次のとおりだが、まさにこの章立ての順番が本書が(3)のタイプであることを示している。(詳細目次はこの記事のいちばん最後に載せておく。)

第1章 隠れた変数の理論と量子力学
第2章 二準位系の量子力学
第3章 多準位系の量子力学
第4章 合成系の量子状態
第5章 物理量の相関と量子もつれ
第6章 量子操作および時間発展
第7章 量子測定
第8章 一次元空間の粒子の量子力学
第9章 量子調和振動子
第10章 磁場中の荷電粒子
第11章 粒子の量子的挙動
第12章 空間回転と角運動量演算子
第13章 三次元球対称ポテンシャル問題
第14章 量子情報物理学
第15章 なぜ自然は「量子力学」を選んだのだろうか
付録

第1章の「シュテルン-ゲルラッハ実験(1922年)」を出発点とし、第5章の「物理量の相関と量子もつれ」までのページを割いて量子力学の構築が行われる。これらの章はまた、量子情報理論や量子コンピュータの基礎理論の解説としての役割も果たしている。実験を出発点としつつ、数理物理的な色合いが濃い解説が続いている。

本書で「波動関数の収縮」という用語がでてくるのは第7章、「波動関数」という用語がでてくるのは第8章だ。これらの章に至って、ようやくこれらの概念の物理的意味が明らかにされる。これまでの古いタイプの教科書では波動関数の物理的意味は最後まで解説されないし、波動関数の収縮は解釈不能なまま放っておかれていた。

また「ハイゼンベルク描像」や「シュレディンガー方程式」を「導く」のが第6章である。これまでの教科書では天下りに導入されていたことが、本書では最小の実験事実から導きだされるのである。また、ボルン則を用いた確率解釈についても本書では「公理」として与えるのではなく「導く」ものとして解説している。

「量子は粒であり、波でもある」という解釈を本書は採用していない。量子力学の教科書ではたいてい最初のほうで紹介される「二重スリット実験(参考記事)」が取り上げられるのは、本書の第11章「粒子の量子的挙動」の冒頭だ。この粒子実験における干渉縞の出現は、第2章で解説した二準位スピン系の干渉効果のときと同様、区別できる量子状態の線形重ね合わせがその起源である。ここで波動関数は確率分布の集合でしかない。物理的な実在としてなんらかの波が空間を伝搬して、干渉縞を作っているわけではないことを断言している。

そして、僕にとってまったく新しい知見となったのが第7章の「量子測定」だった。2003年に提唱された「小澤の不等式解説動画)」が物理学界で話題になったとき、僕は量子力学の教科書の「ハイゼンベルクの不確定性原理」の項目は、将来どのように書き換えられていくのだろうかと疑問に思っていた。それが実際のものとなったのがこの第7章だった。小澤の不等式を解説した科学教養書としては「ハイゼンベルクの顕微鏡~不確定性原理は超えられるか(2005) :石井茂」(紹介記事)が知られている。また、小澤先生ご本人が書いた本では2018年に刊行された「量子と情報 ―量子の実在と不確定性原理―」(Kindle版)が知られている。

測定によって不確定だった物理量は1つに決まる。そのよりどころと考えられている波動関数の収縮は物理的実在ではなく量子状態の収縮、つまり確率分布の収縮なのだ。これは古典的な確率分布でも起きるありふれた過程だ。つまり量子状態が測定によって変化するのは、古典的なさいころの確率分布の更新と本質的に同じである。(詳しい解説

量子測定の理論的側面は、ほとんど理解できていなかったし、それは量子コンピュータの理論の基礎付けにもなっている。とても有益な学びとなった。

また、第7章を理解したことで今回、「(3)最小の実験事実から、量子力学という理論を構築する。」、「新井先生による量子力学の数学的定式化」、「量子情報理論」の3つの事がらを、自分の頭の中ですっきり結びつけることができた。僕に欠けていたのが量子測定の知識、理解だと気がついた。

第9章から第12章で、ようやくこれまでの量子力学の教科書で学ぶ事がらの解説が始まっている。具体的には「量子調和振動子」、「磁場中の荷電粒子」、「粒子の量子的挙動」、「空間回転と角運動量演算子」、「三次元球対称ポテンシャル問題」など。トンネル効果が解説されるのもこのあたりだ。量子力学を構築してから物理現象を解き明かすという順番だから、本の後半にこれらの解説が展開されているのである。

第14章の「量子情報物理学」は、量子コンピュータや量子テレポーテーションの理論の解説だ。量子コンピュータには2つのタイプがあることが紹介されていて量子論理ゲートの解説がされている。しかし量子アルゴリズムや量子プログラミングまでには踏み込んでいない。この分野は他の本で学んでいたのですっきり理解でき、よい復習ができたと思う。(参考記事:「クラウド量子計算入門: 中山茂:(4) 全体の感想」)近年、数多くの専門書が刊行されている。量子ネイティブ、量子人材を目指すのであれば、他の本を精力的に読む必要があると思う。

第15章の「なぜ自然は「量子力学」を選んだのだろうか」が、いちばん予想外な内容だった。この章は自然哲学的な考察がされていると僕は勝手に想像していたからだ。また(量子情報理論を含む)情報理論は、もともと純粋に数学理論だったわけだが、近年はブラックホールの謎の解明に不可欠な最先端の物理学としての側面がでてきている。超弦理論の「ホログラフィー原理(解説ページ)」でも量子情報が本質的な役割を果たしている。

しかし、第15章で解説されているのはこのような話ではなく、数学的な可能性の話だった。量子力学は、隠れた変数の理論よりも強い相関を持っている。ところが隠れた変数の理論よりも強い相関をもつ数学的な理論は量子力学以外にも無数存在しているという。その無数の可能性の中から、なぜ自然界は量子力学という特別な物理法則を採用したのかということがこの章で解説されていることだ。この謎は現代物理学では解明されていない。この章ではこの問題を扱うのに有用だと考えられている定式化を紹介している。解明の鍵となるのは「情報因果律」という概念が原理となるかどうかということのようだ。


本書は僕にとってとても目新しく、知的刺激に満ちた教科書だった。しかし、これまでの教科書で得た知識は、先入観として頭の中に定着しているから、すっきり頭を切り替えて初学者のように読み進めることができなかったのも事実だ。それは本書を読むうえでの障害であり、同時にこれまでの本とどう違うかを区別して理解するための利点でもある。

今後、本書のような新しいタイプの教科書だけで学び始める量子ネイティブな学生は、どのように理解し量子力学を吸収していくのだろうか?そのような新しい人たちが、研究者になってどのような教科書や教養書を書くようになるのか、気になり始めたところである。

「これまでの教科書」と「新しい教科書」の違いについて、堀田先生は次のようにツイートされている。

「プランク定数ℏは前期量子論のほうが分かりやすかったという意見もあり得ます。20世紀初頭から構築された量子力学ですが、完成した現代的な量子力学の観点から言うと、人類は量子力学の急峻な崖に面した「裏口」から入門してしまっていたという感じなのです。」

「前期量子論で扱っていた面白い物理的現象の勉強は非常に重要ですが、ちゃんとした現代的な量子力学の正面玄関入口から入って、「量子力学とは何か」ということをきちんと理解した後にやるべきことです。その応用的位置づけの中で、前期量子論で出てきた物理現象でのℏの意味も、より深く理解できます。」

裏口から入門する教科書であっても、そのすべてを否定しているのではないということは、巻末の「参考図書リスト」の説明を読んでわかった。参考図書の説明に「他の視点から量子力学を整理し理解することも、より深い理解に繋がると期待される。現在多数の量子力学の優れた教科書が出版されており、その全てを紹介することはできないが、その中から本書の参考にもなったいくつかの教科書を挙げておく。」とお書きになっているからだ。

参考図書リストに挙げているのは10冊であるが、そのうち量子力学の教科書としては次の4冊を挙げ、特長をお書きになっている。(書名をクリックすると紹介記事が開くようにしておいた。)

1)「現代の量子力学(上) (下) 第2版:J.J. サクライ, J. ナポリターノ

1985年の初版刊行以来、世界中で読まれてきた名著。

2)「新版 量子論の基礎:清水明

サポートページ:https://as2.c.u-tokyo.ac.jp/lecture_note/qmbook.html
最初に量子力学の原理(公理)を与えて様々な結果を導くすっきりした論理で、定評のある名著。

3)「よくわかる量子力学:前野昌弘

サポートページ:http://irobutsu.a.la9.jp/mybook/ykwkrQM/ サポート掲示板2
イメージをしやすいように図やグラフを多用しながら、量子力学を修得させる良書。本書や2)のスタイルの教科書では分かった気になれなかった初学者にも推薦する。

4)「量子力学 I、II 猪木・川合(紹介記事1)」

質の良い演習問題が多数含まれる良書。


ひとりでも多くの方が本書で学び、新しいタイプの研究者、技術者として育っていくことを僕は期待している。


関連記事:

発売情報:入門 現代の量子力学 量子情報・量子測定を中心として:堀田 昌寛
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/042976ed2104fa539520ca45adbc2b91

量子情報と時空の物理 第2版: 堀田昌寛
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/12f7ead2e710ad2b70955c62a6f268fa

量子とはなんだろう 宇宙を支配する究極のしくみ: 松浦壮
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/22f04399c3fc59c9e20e95531b251935


 

 


入門 現代の量子力学 量子情報・量子測定を中心として:堀田 昌寛」(Kindle版予定あり)(正誤表


まえがき
記号表

第1章 隠れた変数の理論と量子力学
1.1 はじめに
1.2 シュテルン=ゲルラッハ実験とスピン
1.3 隠れた変数の理論の実験的な否定

第2章 二準位系の量子力学
2.1 測定結果の確率分布
2.2 量子状態の行列表現
2.3 観測確率の公式
2.4 状態ベクトル
2.5 物理量としてのエルミート行列という考え方
2.6 空間回転としてのユニタリー行列
2.7 量子状態の線形重ね合わせ
2.8 確率混合

第3章 多準位系の量子力学
3.1 基準測定
3.2 物理操作としてのユニタリー行列
3.3 一般の物理量の定義
3.4 同時対角化ができるエルミート行列
3.5 量子状態を定める物理量
3.6 N準位系のブロッホ表現
3.7 基準測定におけるボルン則
3.8 一般の物理量の場合のボルン則
3.9 ρ^の非負性
3.10 縮退
3.11 純粋状態と混合状態

第4章 合成系の量子状態
4.1 テンソル積を作る気持ち
4.2 テンソル積の定義
4.3 部分トレース
4.4 状態ベクトルのテンソル積
4.5 多準位系でのテンソル積
4.6 縮約状態

第5章 物理量の相関と量子もつれ
5.1 相関と合成系量子状態
5.2 もつれていない状態
5.3 量子もつれ状態
5.4 相関二乗和の上限

第6章 量子操作および時間発展
6.1 はじめに
6.2 物理操作の数学的表現
6.3 シュタインスプリング表現
6.4 時間発展とシュレディンガー方程式
6.5 磁場中の二準位スピン系のハミルトニアン
6.6 ハイゼンベルグ描像
6.7 対称性と保存則

第7章 量子測定
7.1 はじめに
7.2 測定の設定
7.3 測定後状態
7.4 不確定性関係

第8章 一次元空間の粒子の量子力学
8.1 はじめに
8.2 状態空間次元の無限大極限
8.3 位置演算子と運動量演算子
8.4 運動量演算子の位置表示
8.5 N^の固有状態の位置表示波動関数
8.6 エルミート演算子のエルミート性
8.7 粒子系の基準測定
8.8 粒子の不確定性関係

第9章 量子調和振動子
9.1 ハミルトニアン
9.2 シュレディンガー方程式の位置表示
9.3 伝播関数

第10章 磁場中の荷電粒子
10.1 調和振動子から磁場中の荷電粒子へ
10.2 伝播関数

第11章 粒子の量子的挙動
11.1 自分自身と干渉する
11.2 電場や磁場に触れずとも感じる
11.3 トンネル効果
11.4 ポテンシャル勾配による反射
11.5 離散的束縛状態
11.6 連続準位と離散準位の共存

第12章 空間回転と角運動量演算子
12.1 はじめに
12.2 二準位スピンの角運動量演算子
12.3 角運動量演算子と固有状態
12.4 角運動量の合成
12.5 軌道角運動量

第13章 三次元球対称ポテンシャル問題
13.1 はじめに
13.2 三次元調和振動子
13.3 球対称ポテンシャルのハミルトニアン固有値問題
13.4 角運動量保存則
13.5 クーロンポテンシャルの基底状態

第14章 量子情報物理学
14.1 はじめに
14.2 複製禁止定理
14.3 量子テレポーテーション
14.4 量子計算

第15章 なぜ自然は「量子力学」を選んだのだろうか
15.1 確率分布を用いたCHSH不等式とチレルソン不等式
15.2 ポぺスク=ローリッヒ箱の理論
15.3 情報因果律
15.4 ポペスク=ローリッヒ箱の強さ

付録
A 量子力学におけるチレルソン不等式の導出
B.1 有限次元線形代数
B.2 パウリ行列
C.1 クラウス表現の証明
C.2 クラウス表現を持つΓがシュタインスプリング表現を持つ証明
D.1 フーリエ変換
D.2 デルタ関数
E 角運動量合成の例
F ラプラス演算子の座標変換
G.1 シュテルン=ゲルラッハ実験を説明する隠れた変数の理論
G.2 棒磁石モデルにおけるCHSH不等式

祝: 累計700万アクセス達成!

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2005年2月に始めたこのブログの累計訪問者数が昨日700万人(IP)に達した。



600万人をクリアしたのが2020年2月2日。「ダイヤモンド・プリンセス号が横浜港に入港して検疫が始まった」頃である。今日まで557日が経過しているので、この期間は1日あたり平均1797人の方にアクセスしていただいたことになる。600万人達成のときに予想していた「700万人に達するのは439日後、つまり2021年4月16日前後になると思われる。」よりだいぶ遅れてしまった。期間としては27パーセント、日数としては118日余計にかかったわけである。

ページ閲覧数累計のほうも2016年10月17日(たまたま僕の誕生日)に1000万PVをクリアしている。(PVはPage Viewの略) 昨日の段階で1947万PVを超えている。


「アクセス」の欄の閲覧 2,626PV、訪問者 1,331IPは昨日1日のぶんである。また日別、週別のランキング170位と210位はgooブログ全体(昨日の段階で3,040,075ブログ)の中での順位である。304万ブログあるといっても、更新されていないブログがたくさんあることに注意したい。

これまでのアクセス数とページ閲覧数の日平均は次のように推移していた。

累計0~40万アクセスの期間(2005年~2010年):日平均191アクセス、ページ閲覧数504page
累計40万~50万アクセスの期間(2010年~2011年):日平均800アクセス、ページ閲覧数2013page
累計50万~100万アクセスの期間(2011年~2012年):日平均973アクセス、ページ閲覧数3107page
累計100万~200万アクセスの期間(2012年~2014年):日平均1525アクセス、ページ閲覧数4266page
累計200万~300万アクセスの期間(2014年~2016年):日平均1502アクセス、ページ閲覧数5012page
累計300万~335万アクセスの期間(2016年~2016年):日平均1774アクセス、ページ閲覧数4825page
累計335万~400万アクセスの期間(2016年~2017年):日平均1781アクセス、ページ閲覧数5341page
累計400万~500万アクセスの期間(2017年~2018年):日平均2504アクセス、ページ閲覧数7032page
累計500万~600万アクセスの期間(2018年~2020年):日平均2276アクセス、ページ閲覧数5596page
累計600万~700万アクセスの期間(2020年~昨日):日平均1797アクセス、ページ閲覧数4079page



訪問者数やページ閲覧数が減ったのは、次のような外的要因の相乗効果によるものと考えている。

- Google検索のアルゴリズム変更により、ブログの表示順位が上位に入りにくくなった。
- 科学系、教育系YouTuberに多くの読者が流れた。
- 生活環境の変化により、週末しか趣味の活動に時間を割けなくなった。
- 国の理科・数学教育方針の悪化、大学への研究費支援の削減により、物理学や数学に興味をもつ人が減ってしまった。


ブログの知名度を押し上げた「事件」は過去2回あったことが「TopHatenarの分析のページ」でわかる。「200冊の理数系書籍を読んで得られたこと」、「NHKスペシャル「神の数式」の感想」を多くの方に読んでいただいたことで知名度が上がった。(昨年TopHatenarのサイトは閉鎖された。この画像は数年前のものである。)

画像クリックで拡大



今のペースを維持できれば次の目標の800万人に達するのは557日後、つまり2023年2月20日前後、ページ閲覧数が2000万ページに達するのは128日後の2021年12月18日前後になると思われる。

日本人がノーベル物理学賞をとったり、重力波検出のような大成果があっても世の中の人の関心はせいぜい1~2週間ほどしか続かないことがこの10年の動きを見て感じたことだ。(それは一般の事件のニュースでも同じこと。)

アクセス数を伸ばすのを第一に考えのではなく、自分が楽しめて読者の方にも参考になる記事を書くというのがブログの目的だ。だから今のペースを維持するというのが自然である。その結果、運よくアクセス数がアップするというのならば嬉しいことだ。


ペットの話題や料理の話題、芸能人ネタなど、より一般的な事柄を記事にすれば、アクセス数は格段にアップする。反対に物理学や数学の記事で、数式を使った専門的な記事であればあるほど、理解できる読者は少なくなりアクセス数は減る。

物理ブログ、科学ブログとしての価値はアクセス数やランキングでは測れないものだと僕は思っている。これからも記事に対する一般の方の関心事と内容の専門性のバランス感覚を大切にしていきたい。


これからも当ブログをよろしくお願いいたします。


参考リンク:

こよみの計算 > 日にち・曜日(CASIO高精度計算サイト)
http://keisan.casio.jp/has10/Menu.cgi?path=01200000%2e%82%b1%82%e6%82%dd%82%cc%8cv%8eZ%2f02000000%2e%93%fa%82%c9%82%bf%81E%97j%93%fa



 

 

映画『パンケーキを毒見する』

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いま話題の映画だ。昨日、映画好きの友達と、新宿ピカデリーでこの映画を観てきた。予告編をご覧になってわかるように今後上映禁止になる可能性がある。興味がある方ははお早目に映画館へ足をお運びいただきたい。

公式ホームページ:
https://www.pancake-movie.com/

『パンケーキを毒見する』は笑えないけど笑える恐ろしい映画
https://www.excite.co.jp/news/article/E1628151781493/

現役首相の素顔に迫る!映画『パンケーキを毒見する』予告編


菅首相が掲げる「自助、共助、公助」に自身が冷や汗/映画『パンケーキを毒見する』特別映像



新宿ピカデリーで映画を観たのは昨年1月、山田洋二監督の『男はつらいよ お帰り 寅さん』以来だ。

映画好きの友達にチケットの予約をしてもらい、直接映画館で待ち合わせ。これまで何度も一緒に映画を観てきたが、邦画を観るのは初めてだ。

政治色が濃い映画だということ、新型コロナがますます拡大している中で、観客は見込めるのかと思っていたが僕たちが観る回はすでに満席と表示されていた。

政権を批判する映画だが、予告編の映像でわかるように笑える作品に仕上がっている。日ごろ政権批判ツイートをしている僕でも、ネガティブな悪口ばかりでは一般大衆、そして政治に無関心な人たちの興味を惹きつけられないことくらいはわかっている。

とはいえ映画は予想どおりの内容で、菅総理の危うさと異常さがとても上手にまとめられていて、かつ笑いのツボを心得た作品になっていた。予想通りの内容とはいえ、観る価値はじゅうぶんにあったと思う。

僕や僕より上の世代は、20年前、30年前の政治を知っているから、第二次安倍政権以降の国政が極めて異常な状態に陥っていることがとてもよくわかる。日本は本当に大丈夫なのか?この人に総理を任せていると、これからどうなってしまうのだろう?という不安しかない。

映画でいちばん印象的だったのは、予告編映像にもでてくる羊たちのシーンだった。1頭ずつ倒れていく羊に、貧困で亡くなる方、コロナに感染して自宅で亡くなる方の姿がダブって見えた。それでも、羊たちは沈黙を守っている。まさに今の日本人の姿そのものなのだ。

映画が終わり、友達を見ると目に涙を浮かべていた。「あれ?泣くような映画だったっけ?」と思って理由を聞いたところ、「今の若者は、こんなに大変な時代に生まれて、未来に夢がもてていない」と思って涙がでてきたという。映画の最後のほうにはivoteという団体に加わっている大学生が、政治や選挙、生活していて思うことなど一人ずつ答えているシーンがあった。友達は彼らが話していたことをストレートに受けてしまっていたわけだ。

今の日本は実質的に独裁制になってしまっていると言ってよい。映画ではメディアや行政が政権の言いなりになっていることを描いていたが、司法も同じことだ。たった半年で制作したためか、司法も政権に牛耳られていることは描かれていなかった。

上映が終わり、僕がトイレに行っている間に、友達は通路で高齢のご婦人3人と立ち話をしていた。おそらく70代後半くらい。ご婦人方は「こういう映画が上映できているうちは、まだ大丈夫なのよ!」というものだった。友達はこの話をされて目から鱗が落ちたという。本当そうなのだ。もしかすると、今後上映禁止になるかもしれない。それはこの映画の監督自身がトークショーで言っている。

「テレビや新聞では宣伝していないのに、あの3人のご婦人方はこの映画をどのようにして知ったのだろう?」友達は不思議がっていた。たしかにそうだ。友達や僕は、この映画をSNSで知ったからだ。


「令和おじさん」、「パンケーキおじさん」、「叩き上げの苦労人」というソフトで堅実なイメージで、就任直後は60%もの支持率があった菅総理なのだ。若年層が支持率を押し上げていたわけだが、さすがに今では印象が悪くなり支持率は30%を切っている。この支持率低下ももしかすると表面的な「印象」や「ムード」に流されているだけなのかもしれないと僕は思った。

日ごろ政治に無関心な人には、ぜひこの映画をご覧になり、安倍政権、菅政権がどれだけ日本を私物化し、破壊しているかを知っていただきたい。

以下の動画はネタバレをしているが、この動画を見た後でも映画はじゅうぶん楽しむことができる。今、もしあなたが生活に不満をもっていたり、生活に困窮しているとしたら、この映画を観てその責任のすべてが自分にあるわけではないことを知ってほしい。そして、今度の選挙は棄権せずに、ご自分の意志をしっかり投票行動として示してほしい。多くの人が選挙に行けば、日本は変えられるのである。


2021.7.30 映画『パンケーキを毒見する』公開記念スペシャルトークショー


映画『パンケーキを毒見する』公開記念 真夏の大激論スペシャル 共感シアター特別番組


映画『パンケーキを毒見する』監督と語り合う”菅政権”論/とことん共産党



映画の後は、友達とパンケーキを食べに行った。店はルミネ7階の「オリジナルパンケーキハウス 新宿店」である。

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関連書籍:

この映画のコラボ本だ。著者は映画に出演させている古賀茂明さんだ。この本も販売禁止になる可能性があるので、お早めにお買い求めいただきたい。

官邸の暴走 (角川新書):古賀 茂明」(Kindle版



 

 

『ファインマン物理学』の名講義のオーディオが公開されている

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1961~1963年に行われた名講義:拡大

リチャード・ファインマン、ファインマン物理学

20世紀でいちばん有名な物理学者は誰か?と聞かれれば、それはもちろんアインシュタインだ。しかし、20世紀でいちばん人気のあった物理学者は誰か?と聞かれれば、たいていの物理学徒は「リチャード・ファインマン!」と答えるだろう。ファインマン先生を知らない方は、ウィキペディアの紹介記事を読んでほしい。

ファインマン先生が1961年から1963年にカリフォルニア工科大学の1、2年生に対して行った2年間の名講義をもとに編纂された『ファインマン物理学』は、とてもユニークな教科書として知られ、日本語だけでなく各国語に翻訳されているそして2013年暮れには英語版のニュー・ミレニアム・エディションがオンラインで無料公開された。(参考記事:「ファインマン物理学(英語版)が全巻ネット公開されました。


ファインマン先生の教え子たちの同窓会

今回、僕がこの記事を書くことになったきっかけは、この動画だった。ファインマン先生の名講義を聴講した当時の学生たち(1965年の卒業生)が集い、講義やファインマン先生の思い出を語り合おうという2015年5月に行われた集いを録画したおよそ1時間半の動画だ。

Remembering Richard P. Feynman - Reunion Weekend - 5/14/2015


この催しはこのような流れに従って進む。



ファインマン先生の名講義を再現して教科書にまとめたおひとりのロバート・レイトン教授のご子息、ファインマン先生の友人でもあるラルフ・レイトン氏が登壇している。またファインマン先生の友人で2017年にノーベル物理学賞を受賞(参考記事)し、映画『インターステラー(2014)』を理論物理学の面から監修したキップ・ソーン博士も登壇している。(再生開始から1時間19分26秒)そして前列にはファインマン先生の娘のミシェル・ファインマンさん(参考動画)がいらっしゃるのがわかる。とても貴重な動画だ。

この動画の中のれレイトン氏のコーナーで、彼が紹介していたのがファインマン先生の講義の音声だ。何か新しい取り組みをしているように見える。50年前に行われた講義の音声を何らかの形で発表するに違いない。レイトン氏はまた、ファインマン先生の講義をアニメで表現するこことにも取り組まれているようだ。


公開された講義のオーディオ

レイトン氏の取り組みが実現したのが今回紹介するファインマン先生の講義のオーディオ公開である。『ファインマン物理学』の公開ページにその入口が設けられた。

The Feynman Lectures on Physics (カリフォルニア工科大学のサイト)
http://www.feynmanlectures.caltech.edu/

オーディオの入口: Lecture Recordings 1961-64

PCからでもスマホからでも再生できる。スクロールバーを下げていくと、117回の講義が収録されていることがわかる。



『ファインマン物理学』の各巻とオーディオの大まかな対応関係は次のようになる。

The Feynman Lectures on Physics Volume I : #1~#26、#27~#52(日本語版のIII
The Feynman Lectures on Physics Volume II : #S1~#S21、#S22~#S42(日本語版のIIIIV
The Feynman Lectures on Physics Volume III: #S42~#S64(日本語版のV

聴きたい講義を選択して再生中に下のほうの「Take me to the FLP chapter」をクリックすると、対応する章のテキストが開くしくみである。

残念なことに最初の「#1 Atoms in motion」だけは、テープがダメージを受けて録音状態が悪い。しかし、どうにか聴きとれる音質だ。「#2 Basic physics」以降はクリアに聞こえるから問題ない。

このオーディオが公開されるまで、ファインマン先生の講義音声はカセットテープやCDで販売されていた。全部揃えるとそこそこの値段になるので、無料公開されて本当によかったと思う。

黒板の板書を見たければ、公開ページの「Lecture Photos 1961-62」や「Lecture Photos 1962-64」から簡単に探せるので、まるでその場にいたかのようにファインマン先生の講義を受けることができる。またハンズアウトは「Original Course Handouts 1961-63」で公開されている。

1962年2月20日に行われた講義「#30 干渉」(「#30 Interference」)は、歴史的に興味深いものになった。ファインマン先生は、その日の朝早くに宇宙飛行士のジョン・グレンが地球を周回する最初のアメリカ人(そしてユーリ・ガガーリンに続く2番目の男)になったため、6分遅れて講義を開始した。ジョン・グレンの着水のために録音では「講義前の議論」が長引いていることがわかる。録音にはグレンの帰還を心配する生徒たちの興奮したどよめきが聞こえている。ファインマン先生は、「グレン氏は軌道に乗っており、おそらくこの講義中に降りてくるでしょう。そこから何かニュースが得られるかどうかを確認します。」と講義を開始した。

できれば、音声を書き起こしたテキストや和訳したテキストがあればよいのだが、それは今後に期待しよう。現代のAI技術を使ってファインマン先生の声による『ファインマン物理学』の日本語による朗読、公開された講義オーディオの日本語版が作成される日もくるかもしれない。日本語版『ファインマン物理学』の版権をもつ岩波書店には、ぜひお願いしたい。


公開された講演のビデオ

これまでYouTubeに非公式にアップロードされていたファインマン先生の講演ビデオも公式サイトの「Feynman's Messenger Lectures」というページから正式に公開された。これは1964年、コーネル大学で一般市民向けに行われた以下の7つの講義である。ありがたいことに音声を文字に書き起こしたテキストを見ながら聴講できるようになっている。そしてファインマン先生が話している箇所が黄色でハイライトされる。テキストは自動的にスクロールするので、まったく手を離した状態で最後まで見ることができる。

PCでの再生画面



スマートフォンだと、このような画面で再生できる。



The Law of Gravitation: an example of physical law(重力の法則 - 物理法則の一例として)
The Relation of Mathematics and Physics(数学の物理学に対する関係)
The Great Conservation Principles(保存という名の大法則)
Symmetry in Physical Law(物理法則のもつ対称性)
The Distinction of Past and Future(過去と未来の区別)
Probability and Uncertainty: the quantum mechanical view of nature(確率と不確定性 - 量子力学的の自然観)
Seeking New Laws(新しい法則を求めて)

この7つの講義はすでに和訳されていて「物理法則はいかにして発見されたか:R.P.ファインマン」という文庫本で読むことができる。ファインマン先生の自伝「Surely You're Joking, Mr. Feynman!(ご冗談でしょう、ファインマンさん)」を読んで、物理学に興味を持った人が読むのにふさわしい本だ。


『ファインマン物理学』の日本語版

『ファインマン物理学』の日本語版の単行本は手頃な価格で入手可能だ。これらの翻訳に使われた英語版は1965年版である。購入される方は、こちらからどうぞ。

ファインマン物理学 I 力学」(1986)(紹介記事
ファインマン物理学 II 光・熱・波動」(1986)(紹介記事
ファインマン物理学 III 電磁気学」(1986)(紹介記事
ファインマン物理学 IV 電磁波と物性〔増補版〕」(2002)(紹介記事
ファインマン物理学 V 量子力学」(1986)(紹介記事





発売情報: ファインマン物理学 問題集 1、2
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/39bf04d9f360ce6359561126a4d7c01a

発売情報:ファインマン流 物理がわかるコツ 増補版:リチャード・P.ファインマン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/83a568c20b540ef2a55bed0d7929dcc2


AIファインマン

最近の話題として「AIファインマン」という論文が紹介された。これは機械学習を利用して物理法則を発見することができるかという試みだ。ファインマン先生が亡くなった日、彼の教室の黒板にはこう書かれていたという。

「わたしは自分につくれないものは、理解できない」

同様に

「AIがつくり出せないものは、AIは理解できない」

と言うことができるのだろうか?

もしAIが世界をこと細かくリアルに描き、リアルな画像やリアルな音をイメージする方法を学ぶことができれば、AIがこの現実世界の構造を学習できるようになる。つまり、AIが認識した画像や聞いた音を、『理解』できるようになるのだ。

「AIファインマン」と名付けたことには、多少の抵抗感があるが、要点は「AIは物理学者になり得るか?」ということである。この話題について、以下の2つのページを紹介しておこう。

物理法則を”発見”できる機械学習モデルAI Feynman
https://akichan-f.medium.com/物理法則を”発見”できる機械学習モデルai-feynman-f57112e7e87d

AI-Feynman: A physics-inspired method for symbolic regression(日本語訳)
https://k-ptl.hatenablog.com/entry/ai-feynman-theory


関連記事:

#Feynman100: ファインマン先生、生誕100周年セレモニー&シンポジウム
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/11dd9238ebcbc37915920a2dab553c82

ファインマン先生の自伝本と講演本(お勧め記事)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9bf47cf51085c74caf34a11068a17285

光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学: R.P.ファインマン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4b34cd4e7d077d037022e62734d1ee76

The Feynman Lectures on Physics: The New Millennium Edition
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cb58141ade509fb63952d49ef57c70c7

ファインマン物理学(英語版)が全巻ネット公開されました。
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e94dd49d7d8cc395e29d37927e30173d

発売情報:ファインマン流 物理がわかるコツ 増補版:リチャード・P.ファインマン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/83a568c20b540ef2a55bed0d7929dcc2

発売情報: ファインマン物理学 問題集 1、2
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/39bf04d9f360ce6359561126a4d7c01a

ファインマン物理学: 英語版とフランス語版
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1dbcd1e1b02616ef1363ced99a912072

ファインマンの経路積分に入門しよう!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0f47de5854daf4eb38339a73791544a8

発売情報:【新版】 量子力学と経路積分:R.P.ファインマン、A.R.ヒッブス
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/300a29769f773a609ea3560e86952e60

ファインマン計算機科学:ファインマン, A.ヘイ, R.アレン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4f7f453019fd463ed2bfdeaa7b288d79

開平と開立(第5回): ファインマン先生に立方根計算の雪辱を果たそう
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/89a0b907577f03ef6132cf9664bdcddb


 

 

発売情報:理論物理学のための幾何学とトポロジー I、II [原著第2版]:中原幹夫

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理論物理学のための幾何学とトポロジー I [原著第2版]
理論物理学のための幾何学とトポロジー II [原著第2版]

内容紹介:
本書は1986年冬期にSussex大学数理物理科学教室で行った講義をもとに、その内容を大幅に進展させたものである。その際の聴衆は大学院生及び素粒子論、物性物理学あるいは一般相対論を専門とする当教室のメンバーであった。講義はインフォーマルな雰囲気の中で行われたが、本書においても出来うる限りこの点を守るように心がけた。定理の証明はそれが教育的であるものに限って与え、極端にテクニカルなものは省略した。省略した場合は定理の内容が確証できるようにいくつかの例を与えることにした。また、図を出来るだけ多く挿入することで、内容に関する具体的なイメージが把握できるように読者の便宜をはかった。
IIの第9章から第12章ではトポロジーと幾何学を統一的に扱い、第13章と第14章は現在盛んに研究されている物理学の分野におけるトポロジーと幾何学の最も魅力ある応用となっている。
理論物理学を学ぶ際に必須な現代数学のエッセンス。物理学に広く応用されるトポロジーと幾何学を解説。経路積分の説明を補い、内容を再編成した。数学的な補足も充実。
I: 2018年11月27日刊行、400ページ
II: 2021年9月18日刊行、264ページ

著者:
中原幹夫
1981年京都大学大学院理学研究科博士課程修了。1983年イギリスロンドン大学数学Diploma課程修了。1981-82年南カリフォルニア大学物理学科研究員。1983-85年カナダアルバータ大学物理学科研究員。1985-86年イギリスサセックス大学数学物理教室研究員。1986-93年静岡大学教養部助教授。1993-99年近畿大学理工学部数学物理学科助教授。現在、近畿大学理工学部数学物理学科教授、理学博士。


通称「中原トポ」として知られる名著である。I巻が発売されたままII巻の発売を長い間待っていた。待望のII巻がようやく発売されたので発売情報記事を書いておこう。

勉強をする時間がなかなかとれないうちに、次々と良書、名著が刊行されていく。本書の旧版は2014年に読み、詳しい紹介記事を書いているので、新版との差分が気になるところだ。旧版の紹介記事は、下のほうの「関連記事:」からたどっていただきたい。

旧版は長らく絶版状態が続き、一時期転売屋が異様な高値で販売していた。このように不健全な状態が解消できたという意味でも、今回の新版刊行は物理学徒にとって喜ばしい限りである。

すでに発売されているI巻と合わせて購入される方は、このリンクを開いてほしい。

理論物理学のための幾何学とトポロジー I [原著第2版]
理論物理学のための幾何学とトポロジー II [原著第2版]




旧版との差分を目次レベルで比較してみた。左が旧版、右が新版の目次である。第9章からがII巻である。新版では各章に「補足」が追加されているから旧版をお読みの方でも新版はじゅうぶん買う価値があると思う。







今回発売された原書第2版は、もともと英語版が先に書かれている。英語版はKindle書籍でもお買い求めいただける。

Geometry, Topology and Physics 2nd Edition (Paperback): Mikio Nakahara」(Hardcover)(Kindle版



関連記事:

理論物理学のための幾何学とトポロジー I:中原幹夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ef0b2fcb7c87aabfcd68bbe2a567840e

理論物理学のための幾何学とトポロジー II:中原幹夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9fd93716929786316ee234a66ec4d32b

ゲージ理論とトポロジーの年表
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1050f5ac88c40f83f566ba52c142c565


 

 

アンネの日記 増補新訂版:アンネ・フランク

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アンネの日記 増補新訂版:アンネ・フランク」(Kindle版

内容紹介:
自分用に書いた日記と、公表を期して清書した日記―「アンネの日記」が2種類存在したことはあまりにも有名だ。その2つを編集した“完全版”に、さらに新たに発見された日記を加えた“増補新訂版”が誕生した。ナチ占領下の異常な環境の中で13歳から15歳という思春期を過ごした少女の夢と悩みが、より瑞々しくよみがえる。

2003年4月10日刊行、597ページ

著者:
アンネ・フランク(ウィキペディアの記事
1929年6月12日、ドイツのフランクフルトで裕福なドイツ系ユダヤ人家庭の二女に生まれる。1933年、迫害を逃れ一家はオランダのアムステルダムに移住し、1942年7月、姉マルゴーの召喚を機に一家は隠れ家生活に入る。ついに1944年8月4日、密告により連行されたアンネはアウシュヴィッツ、ついでベルゲン=ベルゼンに送られ、そこでチフスのため15年の生涯をおえた。1945年2月末から3月なかばと推定される。1942年6月12日から44年8月1日まで書きつづけられた日記は、永遠の青春の記録として、半世紀を経たいまも世界中の人びとの胸をうってやまない。


一生のうちに読んでおきたい本というのが何冊かある。ヴィクトール・E・フランクルの「夜と霧」はその代表だが、「アンネの日記」もそのうちの1冊だ。2014年に「アンネの日記を読もう」という記事を書いてから7年も経ってしまった。今回ようやく読み終えることができた。

アンネ・フランクの短い生涯 | Anne Frank House
https://www.annefrank.org/en/anne-frank/who-was-anne-frank/japanese/


この本は13歳から15歳にかけてアンネが書いた日記をそのまま日本語訳したものだ。子ども向けのアンネの伝記やその漫画本は、何種類も見つかるが日記それ自体を子ども向けに書いた本がないことを、これまで不思議に思っていた。今回その疑問をようやく解くことができた。

それは、アンネが年齢のわりに早熟で、かつ極めて文才に恵まれていたこと。そして日記をすべて本にすると文庫本で600ページにもおよぶからなのである。中学生以上でないと読み切って深く理解することはできないだろう。大人向けの本だと言って差し支えない。内容は想像していたものと半分くらい違っていた。

日記は1943年6月、アンネの13歳の誕生日から始まり、ナチスドイツの迫害から逃れるため、一家はほどなく「隠れ家」へ引っ越すことになる。赤と白のチェック柄の日記帳は誕生日プレゼントだった。そして15歳になってほどなく、アンネと家族を含む隠れ家に住んでいた7人は突然逮捕され、日記はその数日前に終わっている。






13歳から15歳の女の子が書く日記だからと僕は甘く見ていた。文章を書く能力は、おそらく現在の僕より高いと思う。日記は架空の親友「キティ」へ向けた手紙として書かれている。そのため、本を開くたびに彼女からの報告を受けるように読むことができる。それはアンネが意図したものかどうかはわからないが、読み手は飽きることなく読み進められるのだ。後にアンネは、自分の日記は後に他の人の目に触れることを想定して書いているということを日記に書いている。まさか全世界で読み継がれる貴重な記録になるとは思っていなかったのだろうけれど。

2年間におよぶ隠れ家生活では、さまざまな事件がおこる。飽きずに読み進められるのも、それらの事件の「おかげ」であるし、アンネの説明力、描写力が優れているからだ。

文章力に長けているというのは、日ごろから読書を欠かさず、深い思考ができるということの証だ。隠れ家に住んでいるのは、アンネの両親、姉のほか、もうひと家族、独り者の他人もいる。もうひと家族のほうのおばさんは、それほど物事を考えない人だったし、アンネの母親も子供のしつけにばかり気にかけていて、早熟なアンネにとっては面倒極まりない相手だった。

利発な思春期の子供にはよく見られることだが、アンネは自分には至らないところがあるのを認めつつ、日ごろから人間として向上しようと努めていた。理詰めで考えることが多く、自分に対する厳しさは、彼女をしつけようとする大人たちにも向けられる。大人たちから見るといわゆる「理屈っぽく、煩くて、生意気な子供」だったのだ。

子供向けのアンネ・フランクの伝記を2冊ほど確認してみた。1冊は本で、もう1冊は漫画である。そのどちらもアンネは模範的な女の子として描かれていて、姉をひいきしアンネに対してだけしつけに煩い母親のことが大嫌いで何度か母親を泣かせていたこと、仲裁に入った父親にも不満を持っていたことは書かれていない。

また、恋に落ちてキスをするまでにいたる2歳年上のペーター(もうひと家族の息子さん)についても「まだまだ男として未熟だ」と書いている。それはキスをするまで夢中になってからしばらくたってからのことだ。この年頃だと女の子のほうが早熟であるし、深く物事を考え、将来を予測できるアンネのような女の子ならばなおさらである。恋に熱中しているあたりの日記は、恋する乙女そのものの文章になってしまっているのが微笑ましかった。

「ペーターはいったい女性のことをどれくらいわかっているのかしら?」とアンネは自問する。そして話は予想外のほうへ進む。増補新訂版で追加された性に関する記述だ。アンネが書いたのは漠然とした性ではなく女性の性器についての具体的かつ詳細な解説だった。「あれまー、そこまで書いてしまうか!」と呆気にとられながら僕は読むことになった。このあたりは、さすがに子供向けのアンネの伝記には書けるはずがない。

才能に恵まれたアンネだったから、亡くならずにすんでいたら、おそらく作家か知的な職業に就いて活躍していたことだろう。隠れ家生活の間にも、アンネは童話を何篇か書いていて、日本語でも文庫化されている。文学と歴史が得意で知識が豊富、数学の代数は苦手で嫌いな女の子だった。

アンネと同じ1929年に生まれた著名人にはオードリー・ヘプバーン、草間彌生、前田武彦、高野悦子、イメルダ・マルコス、中坊公平、磯村尚徳、早坂暁、若山富三郎、ミヒャエル・エンデ、向田邦子、奈良岡朋子らがいる。もしアンネが存命であれば現在92歳だ。

隠れ家生活に入った1943年にはアウシュビッツ絶滅収容所は完成していて、そこでユダヤ人の虐殺が行われていることは噂レベルでアンネの家族は知っていた。隠れ家にいた7人は毎日英国のBBCのラジオ放送に耳を傾け一喜一憂していたし、連合国軍が上陸しナチスドイツを滅ぼすことを願っていた。しかし、ぎりぎりのところで間に合わずに7人は逮捕されてしまったのだ。アンネと姉が亡くなった収容所が連合国軍に解放されたのは死からわずか2カ月後のことである。

アンネの一家は最初アウシュビッツに送られ、そこで母が亡くなる。アンネと姉は別の収容所に移送された。そこは(積極的に収容者を殺す)絶滅収容所ではなかったが、十分な食料が与えられず病気を蔓延させたままにしているベルゲン・ベルゼン強制収容所だった。チフスで姉が亡くなり、それまで必死に看病していたアンネの気力が折れたものと思われるが、姉の死から2、3日後にアンネもチフスで亡くなっている。2人の遺体は他の犠牲者とともに埋められたため、見つかっていない。

隠れ家生活をしていた7人のうち父のオットー・フランクだけがアウシュビッツから生還することができた。隠れ家に戻り、大事に保管されていた娘の貴重な日記を世に送り出すことができたのは、彼が生還できたからである。

元気な頃のアンネを偲ぶことができる動画がひとつだけ残されている。窓から乗り出し、結婚式へ向かう隣人を眺めているのが隠れ家に行く1年前、12歳の頃のアンネである。

Anne Frank, seen from window


高解像度に変換した動画も、YouTubeで公開されている。
【HD】アンネ・フランク 実際の映像 - Anne Frank real footage(YouTubeで再生


日記はオランダ語で書かれているため、日本語版のほか英語版、フランス語版のKindle版を紹介しておこう。Amazon.co.jpから読めるKindle版のフランス語書籍は少ないから、フランス語学習者には貴重な本である。

アンネの日記 増補新訂版:アンネ・フランク」(Kindle版
The Diary of a Young Girl (English Edition)
Le Journal d'Anne Frank (French Edition)
  


関連本として、次の2冊をお勧めする。「アンネ・フランクの記憶」は、小川洋子さんが生前のアンネと関わりをもった人へのインタビューをして、記録として残した本である。他人からみたアンネがどのような女の子だったかを知ることができる。そして、もう1冊はアンネ自身が書いた童話集。幸い日本語に翻訳されている。

アンネ・フランクの記憶:小川 洋子」(Kindle版
アンネの童話:アンネ・フランク」(Kindle版
 


関連記事:

夜と霧: ヴィクトール・E・フランクル
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c249c3d7021a338c73a074de78a30147


 

 

現代量子力学入門:井田 大輔

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現代量子力学入門:井田 大輔

内容紹介:
シュレーディンガー方程式を解かない量子力学の教科書。量子力学とは何かについて、落ち着いて考えてみたい人のための書。グリーソンの定理、超選択則、スピン統計定理など、少しふみこんだ話題について詳しく解説。

2021年7月1日刊行、216ページ

著者:
井田大輔(いだ だいすけ)
ホームページ: https://www.gakushuin.ac.jp/univ/sci/phys/ida/index.html
1972年鳥取県に生まれる。2001年京都大学大学院理学研究科博士課程修了。現在、学習院大学理学部教授。博士(理学)。


理数系書籍のレビュー記事は本書で464冊目。

今後の量子物理学、量子技術の分野で活躍する若者が学ぶべき量子力学の教科書はどのようなものであるべきか。昨年以来気になっているテーマである。7月初めに発売されたまったく新しいタイプの教科書を前回紹介した。(参考記事:「入門 現代の量子力学 量子情報・量子測定を中心として:堀田 昌寛」)

ところが、堀田先生のこの教科書とほぼ同じ時期に発売されたのが今回紹介する教科書だ。章立てや内容説明を見ると「新しいタイプの教科書」のように見える。これは読んでおかないと。。

このような章立てである。

1. 複素ユークリッド・ベクトル空間
2. オブザーバブルの測定
3. ヒルベルト空間
4. 状態決定
5. エンタングルメント
6. 混合状態
7. スピン
8. 対称性
9. グリーソンの定理
10. スピン・統計定理
11. 隠れた変数理論
12. 多世界解釈
13. 量子コンピューター


堀田先生の教科書は300ページほどあるが、本書はだいぶ薄く216ページしかない。入門書とはいえ、量子力学の基礎を網羅するには十分ではないと思った。ただ、初めて入門する人にとっては薄い本のほうが取り掛かりやすいというメリットはあるだろう。

最初の3章は、量子力学の本質を理解するうえで欠かせない数学の基礎、つまり複素線形代数(お勧めの教科書)とオブザーバブル、ヒルベルト空間を解説する。ここまででエルミート作用素、射影作用素、ボルン則、 純粋状態と混合状態、状態の収縮、自己共役作用素、固有状態、スペクトル分解など基本的な数学と量子力学の基礎概念とのつながりが理解できるようになる。初学者が勘違いしやすいことを取り上げ、丁寧に解説しているため、堀田先生の教科書と比べて数学が苦手な人でも読み進められる内容だ。

次いで第4章から第8章は、量子情報理論に欠かせない概念と計算の解説が行われる。状態決定、エンタングルメント、混合状態、スピン、対称性などだ。スピンや対称性の理解にはリー環やその表現の知識が欠かせない。他の本で学ばなくてもついていけるように初学者向けの解説がされている。これらの章の難易度は初学者向けといっても「量子コンピュータ、量子アルゴリズムを学びたい高校生のために」という記事で紹介したブルーバックス本よりは難しいと感じた。

堀田先生の本では、量子力学の基礎的な方程式を詳しく導出しているが、本書はページ数が少ないだけに数式の導出はかなり割愛されていると感じた。全体的な流れを理解するのであれば、本書のような省略した書き方のほうが初学者には優しいのかもしれない。好みは人それぞれだから、どちらがよいか僕には判断できなかった。

第9章以降で発展的なテーマを紹介している。グリーソンの定理、スピン・統計定理、隠れた変数理論、多世界解釈、量子コンピュータなどである。ここからは僕にとっても詳しく学べていなかったことが多いため、興味深く読むことができた。そのぶん内容も高度である。隠れた変数理論は堀田先生の教科書でも取り上げられていたが、これまでの量子力学の教科書には書かれていないものがほとんどだ。

本書はこのように量子情報理論、量子コンピュータの理解を目指している点で、堀田先生の教科書と共通している。つまり量子力学の正門から入って進む「新しいタイプの教科書」である。(補足:堀田先生はこれまでの科学史の順番に沿った教科書は「裏口から入って進んでいる」と表現されている。)

堀田先生の教科書と違う点は「量子力学の奇妙さ」、つまりコペンハーゲン解釈、波動関数の収縮、多世界解釈、観測問題などを明確に否定していない点だ。多世界解釈やコペンハーゲン解釈については、第12章の末尾で次のように締めくくっている。少し長くなるが引用しておこう。

「多世界解釈でのボルン則は、こうした特殊な例をいくつか枚挙できるくらいのことで、一般的な形で説明されているわけではないです。波束の収縮、つまり測定によって状態ベクトルが射影されるというルールも、簡単なモデルを作って、説明することはできますが、やはり一般的な状況で説明されているわけではありません。また、多世界解釈にしたがったところで、何か新しいことがいえるわけでもないです。

多世界解釈での世界観は、ある意味当然に思えます。しかし、多世界解釈での決定論的な世界観から、コペンハーゲン解釈におけるボルン則や波束の収縮が導き出される仕組みはほとんどわかっていないです。こういう考え方もあることくらいは知っておいたほうがよいかも、くらいの話だと思います。私は、測定を行わないものに対して、またアンサンブルではなくて系の1つのコピーに対して波動関数を考えること自体、意味がないと思います。それをコペンハーゲン解釈というのかもしれません。」

この部分を読んで僕は、正門から入った新しいタイプの教科書であるにも関わらず「古い間違った考えを捨てきれずに引きずられているのかな?」と思った。

著者による本書の宣伝文句は次のようなものだ。特に最初のほうのヒルベルト空間までの説明は、有限次元と無限次元(ヒルベルト空間)ではどのように違ってくるのかを解説するなど、初学者向けとしてとても優れていると感じた。

はじめにルールをしっかりと説明
無限次元のヒルベルト空間のエッセンスがわかる
なぜスピンがあるのか?なぜ電子はフェルミオンでなければならないか?という素朴な疑問に答える
量子コンピュータで素因数分解


量子力学の入門書には何を書くべきか?

「量子力学の脱魔術化」を目指した堀田先生の教科書と本書はどちらも量子力学の新しいタイプの入門書である。堀田先生の教科書は、可能な限り少ない実験事実から数学を道具として使いながら量子力学のを構築し、基礎的な方程式(註)を導出しており、本書はページ数の制限から構築までは至らないながら「解説にとどめている」と感じた。そしてどちらも新井朝雄先生の「ヒルベルト空間と量子力学」のような数理物理学寄りの教科書だと思った。

註:堀田先生は、このツイートで量子力学には古典力学の F=ma に対応するような基礎方程式は存在しないとおっしゃっている。


僕を含めて大方の物理学徒、物理学ファンは古いタイプの教科書を使って量子力学を学んでいる。自分が学んできたものを否定するのは容易なことではない。そして、これら新しいタイプの2冊の教科書には書かれていない事柄がいくつもあることを知っている。

つまり、これら2冊には解説されていない光電効果、電子の二重スリット実験、コンプトン効果、シュレーディンガー方程式の解を求める計算、散乱や散乱断面積の計算、摂動論、水素原子の極座標による電子雲の解法、井戸型ポテンシャルやトンネル効果の計算などは学ばなくてよいのだろうか?これらは量子情報理論、量子コンピュータを理解するうえでは不要だが、半導体などのエレクトロニクス技術、理論系の場の量子論や実験系の素粒子物理学を学ぶ上では必要になる。

さらに本書の特徴のひとつは「シュレーディンガー方程式を解かない」ことだそうだ。これが宣伝(長所)になるのかどうかは怪しいと僕は思う。

新しいものをなかなか受け入れることができないのがオジサン、オバサンである。そして新しいものを受け入れたら、何かを犠牲にしなくてはならないのが世の常だ。今後の科学、技術を担う量子ネイティブには何が必要なのだろうか?彼らが進む分野、領域によって入門書といえども必要な事柄は違ってくるのではないだろうか?

その意味で、古いタイプの教科書で扱うテーマ、解説の流れをもう一度チェックしたくなった。ほとんどのテーマを網羅しているという「メシアの量子力学(目次を紹介した記事の入口)」が参考になる。何を捨て、何を残すか、どのような順番で書くべきかを考えるにはちょうどよいと思う。

「量子ネイティブ」をひとくくりに考えてはいけないのだろうというのが、堀田先生の教科書と本書を読み終わって生じた気持ちである。国や企業が求める「量子人材」というくくりで考えると、今後はそのような人材のほうが増えていくだろうし、新しいタイプの教科書で学ぶほうがよさそうに思える。

しかし、世間の固定観念はそう簡単に変わるものではない。古いタイプの教科書にも取り上げられないシュレーディンガーの猫の亡霊は、今後もしばらく生き残るのだろうとも思った。


本書は「現代解析力学入門」の続編である。目次を確認したところ、解析力学入門のほうは、前半は初学者向けの良書、後半は一般的な解析力学の教科書ではあまり取り上げられないトピックが多く取り入れられている。

現代量子力学入門:井田 大輔
現代解析力学入門:井田 大輔
 


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現代量子力学入門:井田 大輔


まえがき

1. 複素ユークリッド・ベクトル空間
- 複素ユークリッド・ベクトル空間
- 線形作用素
- エルミート作用素
- 射影作用素

2. オブザーバブルの測定
- オブザーバブル
- アンサンブル
- ボルン則
- 純粋状態と混合状態
- ユニタリーの時間発展
- 状態の収縮
- 量子力学のルール

3. ヒルベルト空間
- 無限次元ベクトル空間
- 可積分関数
- 関数空間の内積
- 自己共役作用素
- 固有状態
- スペクトル分解
- 測定
- シュレーディンガー表現
- ハイゼンベルク/シュレーディンガー描像
- エルミート v.s. 自己共役

4. 状態決定
- 密度作用素の空間
- 同時測定
- 測定の基底
- 不確定性関係
- 不偏な基底
- 素数次元
- スピン状態

5. エンタングルメント
- 合成系
- エンタングルした状態
- 部分系の状態

6. 混合状態
- アンサンブル定理
- エントロピー

7. スピン
- 回転群
- リー環
- リー環の表現
- SO3の表現
- スピン 1/2

8. 対称性
- 対称性
- 対称変換群
- 超選択則

9. グリーソンの定理
- フレーム関数
- R3のフレーム関数の連続性
- R3のフレーム関数の正則性
- 高次元のフレーム関数

10. スピン・統計定理
- ローレンツ変換
- 制限ローレンツ群の射影表現
- スピノール
- スピノールの既約分解
- ディラック・スピノール
- ディラック方程式の解
- フェルミオン
- スピン・統計定理

11. 隠れた変数理論
- 隠れた変数
- オブザーバブルの所有値
- ベル不等式
- コッヘン・シュペッカーのパラドックス

12. 多世界解釈
- 多世界解釈
- 量子力学における確率

13. 量子コンピューター
- 古典的な論理回路
- ショーアのアルゴリズム

文献
索引
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