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スッキリわかるJava入門 第3版 (スッキリシリーズ)

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スッキリわかるJava入門 第3版 (スッキリシリーズ) 」(Kindle版

内容紹介:
圧倒的人気No.1入門書の増補改訂版!コレクションを追加!基本文法やオブジェクト指向の「なぜ?」が必ずわかる!
シリーズ累計40万部突破!「スッキリわかるJava入門」の特徴は6つ!
「はじめの一歩」からていねいに。
仕組みまでスッキリわかる!
サクッと分かるオブジェクト指向!
中級者にステップアップ!
エラーなんて怖くない!解決のコツを伝授。
インストール不要!いつでも学習できる仮想環境。

2019年11月15日刊行、768ページ。

著者について:
●中山清喬(なかやま・きよたか)
株式会社フレアリンク代表取締役。IBM内の先進技術部隊に所属しシステム構築現場を数多く支援。退職後も研究開発・技術適用支援・教育研修・執筆講演・コンサルティング等を通じ、「技術を味方につける経営」を支援。現役プログラマ。講義スタイルは「ふんわりスパルタ」。

●国本大悟(くにもと・だいご)
文学部・史学科卒。大学では漢文を読みつつ、IT系技術を独学。会社でシステム開発やネットワーク・サーバ構築等に携わった後、フリーランスとして独立する。システムの提案、設計から開発を行う一方、プログラミングやネットワーク等のIT研修に力を入れており、大規模SIerやインフラ系企業での実績多数。


理数系書籍のレビュー記事は本書で441冊目。

プログラミング言語は、科学の数値計算にも使えるから、ざっくり理数系書籍にカウントしておくことにした。

友達がプログラマーになりたいと決断し、学校に通い始めた。学校で指定されたのがこの本である。ときどき質問を受けるので、同じ本を買って読むことにしたわけだ。

700ページ以上あるが、文字がぎっしり詰まっているわけではないし、設定した登場人物の会話で進む箇所が多いため、読みやすい本である。第3版であることから、吟味されつくされた入門書である。

僕はもともとC言語のプログラマーをしていたし、その後ずっとIT業界に身を置いてきたから、すらすらと読める。しかし初心者にとっては、何事も最初は難しく感じることだろう。その点の配慮が十分尽くされた本だと思った。Javaについては、20年ほど前に会社でオブジェクト指向を含めて1週間の研修を受けたことがある。細かいところは忘れていても、読んでいるうちに思い出してくるものだ。

本書は3つの部に分かれている。(章立ては、この記事の最後を参照)

■第Ⅰ部 ようこそJavaの世界へ
■第Ⅱ部 すっきり納得オブジェクト指向
■第Ⅲ部 もっと便利にAPI活用術

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第I部ではJavaの基本的な文法を学ぶ。単元ごとにサンプルプログラムがついているから、自分で実行して確かめることで、理解が深まる。料理人になるための修行に例えれば、料理用語や素材や調味料の名前を覚え、基本的な調理法(切る、剥く、煮る、焼く、揚げる、茹でる)を身に着ける段階だ。

初心者にとって難しいのは、メソッドへの値渡しと参照渡し。変数や配列の理解、変数の型や変換なども、難しいと感じる人がいることだろう。しかし、他の言語を学んだ人であれば、難なく読めると思う。第I部は「積み上げていくように学ぶ」ことになる。

第II部は「オブジェクト指向」をじっくり学ぶ。第I部で扱うサンプルプログラムは、それぞれ独立しているが、第II部では文字ベースのRPGゲームを想定し、登場させるキャラクター(騎士やモンスター)をクラスとして定義し、ゲームの局面でオブジェクト指向の考え方でどのように実装していくかを学ぶ。サンプルプログラムは、ゲームのストーリーに沿ってはいるが、ゲームを作り上げていくわけではない。ページ数が限られているから、作りながら学ぶようには書かれていない。

オブジェクト指向は、最初のうちは理解しにくいものだ。積み上げながら学ぶというより、行きつ戻りつ螺旋階段を上るように学ぶことになる。それを繰り返していくうちに「なんとなくわかった」から「少しわかった気がしてきた」、「たぶんプログラミングできるようになると思う」あたりまで、本書で到達することができると思う。入門書ですべてを説明していても、経験にまさるものはないからだ。

本書には章ごとに練習問題と解答が載せられているが、第II部のオブジェクト指向については、このページ数をもってしても十分学びきれないと感じる部分が残っている。かといってこれ以上分厚くして説明や練習問題を増やすわけにはいかなかったのだろう。

第III部では「API活用術」と題して、標準的なクラスの解説、文字列と日付の扱い、コレクション、例外など、第II部までには収められなかった重要項目を学ぶ。難しくはないが、初心者には覚えるのが大変である。正規表現は第III部で学ぶ。第III部はテーマが盛だくさんなので、あっさり説明している項目が多い。すべてについて例題や練習問題をつけるわけにはいかないのだ。


本書全体を通じてCUIの環境でプログラミングをすることになる。そもそも実務で使うアプリケーションは、GUIの環境での開発が要求される。実際の業務や就活に結び付けるのは、本書を読むだけでは無理である。料理人になるための修行に例えれば、本書で到達できるのは、素材の名前と調理法をひととおり覚え、本格的に料理を作る前の下ごしらえができるようになった段階である。

オブジェクト指向については、実際の仕事では使われることがあるし、使われないこともあるだろう。古いレガシーなシステムを引きずった案件での開発であれば不要だし、ウェブやスマホアプリ、特にゲームアプリであれば使われる頻度が多いと思う。

本書はインストール不要の dokojava というWebベースの実行環境で演習するように書かれている。実際は EclipseVSCode のような統合開発環境を使って演習するほうがよいと思う。特に Eclipse を使うのであれば、日本語化済みの Pleiades がお勧めだ。

Amazonのサイトではサンプルページを見ることができる。本書の難易度や雰囲気、読みやすさは、サンプルページでご確認いただきたい。


本書には続編がある。この図のような順番で学んでいけば、仕事に結び付く知識、スキルを段階的につけていくことができるだろう。

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つまり、本書の次に読むべき本は「実践編」である。

スッキリわかる Java入門 実践編 第2版 (スッキリシリーズ) 」(Kindle版) - 628ページ


さらに学ぶのであれば、次の2冊に進もう。

スッキリわかるSQL入門 第2版 ドリル222問付き!(スッキリシリーズ) 」(Kindle版) - 488ページ
スッキリわかるサーブレット&JSP入門 第2版 (スッキリシリーズ) 」(Kindle版) - 512ページ

「スッキリわかる」シリーズでは、あと2冊刊行されている。C言語のほうは752ページあるが、Pythonのほうは376ページしかないから要注意である。目次を見るとオブジェクト指向の考え方の説明がだいぶ少ないようだ。しかし、Pythonはオブジェクト指向をサポートしている言語であり、同時に全てのデータの型がオブジェクトになっている。この本を読む人は、すでにオブジェクト指向の考え方を理解していることが前提になっているのだと思われる。

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スッキリわかるC言語入門(スッキリシリーズ) 」(Kindle版) - 752ページ
スッキリわかるサーブレット&JSP入門 第2版 (スッキリシリーズ) 」(Kindle版) - 376ページ


関連記事:

YouTubeで学ぶアプリ・WEBエンジニアへの道
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9e4c6440250c6971cc30cbaa30bd7e84


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スッキリわかるJava入門 第3版 (スッキリシリーズ) 」(Kindle版


まえがき
dokojavaの使い方
sukkiri.jpについて
本書の見方

第0章 Javaをはじめよう

■第Ⅰ部 ようこそJavaの世界へ
第1章 プログラムの書き方
第2章 式と演算子
第3章 条件分岐と繰り返し
第4章 配列
第5章 メソッド
第6章 複数クラスを用いた開発

■第Ⅱ部 すっきり納得オブジェクト指向
第7章 オブジェクト指向をはじめよう
第8章 インスタンスとクラス
第9章 さまざまなクラス機構
第10章 継承
第11章 高度な継承
第12章 多態性
第13章 カプセル化

■第Ⅲ部 もっと便利にAPI活用術
第14章 Javaを支える標準クラス
第15章 文字列と日付の扱い
第16章 コレクション
第17章 例外
第18章 まだまだ広がるJavaの世界

付録A ローカル開発環境のセットアップと利用
付録B エラー解決・虎の巻
付録C クイックリファレンス

索引

神は数学者か?―ー数学の不可思議な歴史: マリオ・リヴィオ

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神は数学者か?―ー数学の不可思議な歴史: マリオ・リヴィオ」(Kindle版

内容紹介:
人間の純粋な思考の産物であるはずの数学。その数学がなぜ、宇宙構造や自然現象、遺伝の法則、株価の挙動など、現実の世界を説明するのにこれほどまでに役に立つのか?創造主は数学をもとにこの世界を創ったのか?ピタゴラスの定理から非ユークリッド幾何学、結び目理論まで数学の発展の歴史を追いながら、アインシュタインをも悩ませた「数学の不条理な有効性」の謎に迫るポピュラー・サイエンス。

2017年9月21日刊行、412ページ。(単行本の刊行は2011年10月21日)

著者について:
マリオ・リヴィオ
天体物理学者。アメリカにある宇宙望遠鏡科学研究所の科学部門長をつとめた経歴を持つ。宇宙の膨張からブラックホール近傍の物理現象、知的生命の起源など、関心は広い。著書に国際ピタゴラス賞とペアノ賞を受賞した『黄金比はすべてを美しくするか?』、『偉大なる失敗』(ともにハヤカワ・ノンフィクション文庫)など。

著者の本: 単行本を検索 Kindle版を検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で442冊目。

本書はかねてより知りたいと思っていた「数学は発見か、それとも発明か」という謎について、ひとつの解答を与えてくれる本だ。僕もこのテーマで「数学の定理は「発見」か?それとも「発明」か?」というブログ記事を書いたことがある。

大学時代に数学専攻だったこともあり、僕自身はプラトンのように「数学は発見」だと思っているのだが、それでもすべての数学がそうだとは思っていない。応用数学に分類されるものは、どう考えても、人間が作り上げた「発明」だと思えるものがいくつもあるからだ。そのようなものの例としては統計学やオペレーションズ・リサーチなどのような分野がある。

本書は、数学の歴史をたどりながら、この深淵なテーマについて数学者だけでなく、認知科学、哲学の研究者の考えを紹介する。そして著者自身、それらの考えに対して感想や意見を述べていく。数学史を学びながら、読者は自然に数学とはいったい何なのか?なぜこのような学問ができあがっていったのか、思いを深めていくことになる。

章立ては次のとおりだ。

第1章 謎
第2章 神秘主義者たち―数秘術師と哲学者(ピタゴラスとプラトン)
第3章 魔術師たち―達人と異端者(アルキメデスとガリレオ)」
第4章 魔術師たち―懐疑主義者と巨人(デカルトとニュートン)
第5章 統計学者と確率学者―不確実性の科学
第6章 幾何学者たち―未来の衝撃
第7章 論理学者たち―論理を論理する
第8章 不条理な有効性?
第9章 人間の精神、数学、宇宙について

前半で特に印象に残っているのは、第3章「魔術師たち―達人と異端者(アルキメデスとガリレオ)」で紹介されているアルキメデスである。恥ずかしながらアルキメデスの生涯や業績を僕は、詳しく知らなかった。アルキメデスは紀元前287年に生まれ紀元前212年に亡くなった古代ギリシアの数学者、物理学者、技術者、発明家、天文学者であり、古典古代における第一級の科学者という評価を得ている。

特に本書では「アルキメデス・パリンプセスト」の詳細が解説されている。パリンプセストとは羊皮紙に書かれた写本のことで、ギリシャ語で書かれたアルキメデスの著作が発見されているのである。

アルキメデス・パリンプセストは、1922年に行方不明になった。写本は70年以上にわたり隠され、価値を高めるために偽造者によりページの一部に絵が加えられた。これらの捏造された絵の下にあるテキストや以前は読むことができなかった文は、1998年から2008年にかけて行われた紫外線、赤外線、可視光線、レーキングライトおよびX線による画像の科学的・学術的な研究により明らかとなったのだ。

全ての画像とメタデータ付きの学術的な校正を経た文字起こし版は、現在Archimedes Digital Palimpsestのウェブサイトで自由に利用できるようになっており、OPennや他のウェブサイトでもクリエイティブ・コモンズ・ライセンスCC-BYのもと、利用できるように提供されている。

Archimedes Digital Palimpsest (OPenn Library)
https://openn.library.upenn.edu/Data/0014/ArchimedesPalimpsest/

Archimedes Digital Palimpsest (Internet Archive Wayback Machine)
https://web.archive.org/web/20090221151641/http://archimedespalimpsest.net/

興味のある方は、この本をご覧になるとよい。(内容: アルキメデスの著作を収めた現存する唯一の写本、C写本。本書ではそこから解読された驚くべき発見の数々と、この奇蹟の写本がどのように幾世紀も生き延びたのかが語られる。空前の歴史ミステリー。)

解読! アルキメデス写本: ウィリアム・ノエル、リヴィエル・ネッツ


また、アルキメデスの著作『方法』に関しては、次の本がでている。

アルキメデス方法: アルキメデス
アルキメデス『方法』の謎を解く: 斎藤 憲」(Kindle版
 


第3章から第5章のガリレイ、デカルト、ニュートンについては、詳しく知っている方が多いと思うので、説明は割愛していただこう。近代科学の成立過程に数学がどのような役割を果たしたかが解説されている。ガリレイは「自然という書物は、数学という言葉で書かれている」と言っていたことは有名だ。

第5章の「統計学者と確率学者―不確実性の科学」では統計学や確率論をめぐる数学史である。この分野の歴史は、詳しく知らなかったのでためになった。

第6章の「幾何学者たち―未来の衝撃」では、非ユークリッド幾何学の誕生からリーマン幾何学、そしてその物理学への応用としての一般相対性理論についてである。詳しく知ってはいたものの、数学は発見か、発明かという視点で読むと、違ったものになる。これについては後述することにしよう。

第7章の「論理学者たち―論理を論理する」は、これまで学んでこなかった論理学とブール代数、ヒルベルト計画、ゲーデルの不完全性定理、集合論、をめぐる数学史である。論理学とブール代数の歴史的な発展は、詳しく知らなかったので、興味深く読めた。

第8章の「不条理な有効性?」あたりから、ますます面白くなってくる。数学としての結び目理論が、どのように超弦理論など物理学、DNAなどの生物学との関連が生じてきたかという話。プラトン主義派である僕には、この章がいちばん興奮した。ブレイクスルーの要はジョーンズ多項式にあった。

第9章の「人間の精神、数学、宇宙について」では、第8章までの内容を総括して、数学が発見か、発明家というテーマを形而上学、数学、物理学、認知科学の研究者の何人かがどのように考えているかが紹介される。また、著者自身がそれらに対し持論を展開する。

とどのつまり、「数学の不条理な有効性」がなぜおこるのかということだ。純粋数学と思われていたものが、見事に物理現象の解明や発見に結びついていることがある。アインシュタインの重力場の方程式によって計算される時空の曲がりが極めて高い精度で、水星の近日点移動や光線の湾曲を始めとする物理現象にあてはまっていること、繰り込み理論による計算により電子およびミュー粒子の持つ磁気能率を驚異的な精度で求めることなどが、その具体例である。

物理学史上、最も精密な理論計算値 -電子の磁気能率の大きさを1.3兆分の1の精度で決定-
https://www.riken.jp/press/2012/20120910/

アインシュタインの一般相対性理論(重力場の方程式)に対し、数学が有効に働いているということについては、次号のメルマガに書く予定である。

しかし、自然科学の中であっても数学が有効に働かないこともある。たとえば、それを「生物学における数学の不条理な非有効性」として本書では紹介している。これをどのように理解すればよいのだろうか?

ユークリッドやピタゴラスの数学のように、シンプルなものに対して、僕は発明としての数学をあまり感じない。反対に複雑で高度な数学理論が物理現象の解明に役立つと、数学の神秘性を感じてしまう。しかし数学で扱う対象の単純さや複雑さとは、本来数学が発見か、発明かを判断するよりどころになるのだろうか?人間にとって単純か複雑かという違いに過ぎないからである。数学が発見か、発明かを考察する対象は、ピタゴラスやプラトンの数学から現代数学まで、すべての時代の数学の中にある。

著者が最終的にどのような結論を下すのかは、ネタバレになるので、ここでは明かさないことにしておこう。ちなみに、僕は著者の出した結論に納得し、満足することができた。

日本語版の翻訳をされた千葉敏生さんは、数学基礎論を研究された方である。巻末の「訳者あとがき」が、本書の理解にものすごく役に立った。

知的興奮にひたることができる良書だと思う。ぜひ、お読みいただきたい。


関連記事:

数学の定理は「発見」か?それとも「発明」か?
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/dde18f50bc52f61699c84ff2f875d490

数学とは何か(原書第2版):R.クーラント、H.ロビンズ、I.スチュアート
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e2b02a51b73a9716b077da16a102aaff

数学 その形式と機能: ソーンダース・マックレーン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cbfc848dce6bf8ffa525a90026d5d4c6

数学とは何か―アティヤ 科学・数学論集
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b3ce277f0624f0adea8186a0168bcf99

数学の大統一に挑む:エドワード・フレンケル
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/43ca100e56e15427613b009af55c8f7d


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神は数学者か?―ー数学の不可思議な歴史: マリオ・リヴィオ」(Kindle版


はじめに

第1章 謎
- 発見か、発明か?

第2章 神秘主義者たち―数秘術師と哲学者
- ピタゴラス
- プラトンの洞窟へ

第3章 魔術師たち―達人と異端者(アルキメデスとガリレオ)
- 我に足場を与えよ、さすれば地球を動かしてみせよう
- アルキメデスのパリンプセスト
- アルキメデスの方法
- アルキメデスの最高の弟子
- 星界の報告
- 偉大なる自然の書
- 科学と神学

第4章 魔術師たち―懐疑主義者と巨人(デカルトとニュートン)
- 夢見る人
- 現代人
- ニューヨーク市の地図に秘められた数学
- そこに光ありき
- 私は重力が月の軌道まで及ぶと考えるようになった
- 『プリンキピア』
- ニュートンとデカルトにとっての”神”という数学者

第5章 統計学者と確率学者―不確実性の科学
- 死と税金より確実なもの
- 平均的人間
- 偶然のゲーム
- データと予測

第6章 幾何学者たち―未来の衝撃
- ユークリッド幾何学の”真理”
- おかしな新世界
- 空間、数、人間について

第7章 論理学者たち―論理を論理する
- 論理学と数学
- 思考の法則
- ラッセルのパラドックス
- 非ユークリッド幾何学の危機、再来?
- 不完全な真実

第8章 不条理な有効性?
- 結び目
- 命の結び目
- ひもでできた宇宙?
- 驚くべき精度

第9章 人間の精神、数学、宇宙について
- 形而上学、物理学、認知科学
- 発明と発見
- アナタハ、スウガクを、ハナシマスカ
- ウィグナーの謎

訳者あとがき
文庫版に寄せて
図版/引用出典
参考文献
原注

時間は逆戻りするのか 宇宙から量子まで、可能性のすべて: 高水裕一

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時間は逆戻りするのか 宇宙から量子まで、可能性のすべて: 高水裕一」(Kindle版

内容紹介:
自然界の多くは対称性をもっているのに、なぜ時間は一方向にしか流れないのか?古来、物理学者たちを悩ませてきた究極の問いに、ホーキング博士の晩年に師事し薫陶をうけた著者が、理論物理学の最新知見を縦横に駆使して答える。量子レベルで観測された時間の逆戻りとは?時間が消えてしまう宇宙モデルとは?読めば時間が逆戻りしそうに思えてくる!

2020年7月16日刊行、272ページ。

著者について:
高水裕一(筑波大学計算科学研究センター研究員):
HP: https://www2.ccs.tsukuba.ac.jp/Astro/Members/takamizu/index.html
Twitter: https://twitter.com/7A4tNERoY8VmnZC
1980年生まれ。2003年、早稲田大学理工学部物理学科卒業。2007年、早稲田大学大学院博士課程修了(理工学研究科物理学及び応用物理学専攻)。理学博士。2009年、東京大学大学院理学系研究科ビッグバンセンター 特任研究員。2011年、早稲田大学理工学術院物理学科助教。2012年、京都大学基礎物理学研究所 PD特別研究員。2013年、英国ケンブリッジ大学応用数学・理論物理学科理論宇宙論センターに所属し、ホーキング博士に師事。2016年、立教大学理学部物理学科博士研究員。2016年より現職。著書に『知らなきゃよかった宇宙の話』(主婦の友社)。

著者の本: 単行本を検索 Kindle版を検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で443冊目。

このところ講談社ブルーバックスで時間論をテーマにした新刊書の刊行が続いている。どのような違いがあるのか気になるから、すべて読まないと気がすまない。これまでに次の2冊を読んで紹介してきた。

時間とはなんだろう 最新物理学で探る「時」の正体: 松浦壮」(Kindle版)(紹介記事
時間はどこから来て、なぜ流れるのか? : 吉田伸夫」(Kindle版)(紹介記事

そして今回は3冊目である。そして、ちょうどこの記事を書き始めたのが8月8日の土曜だった。その日、NHKラジオで放送された「夏休み子ども科学電話相談」という番組で、たまたま時間に関する質問が取り上げられていた。この番組は毎週日曜に放送されている「子ども科学電話相談」を毎日長時間に拡大した夏休み特集番組である。

この質問はツイッター上で、話題になった。「どうして時間は動くのですか?(流れるのですか)」という本質的で、たいていの大人が答えられない質問をしたのは、小学1年生の女の子である。

回答を担当されたのは「史上初!ブラックホールを撮影し、その存在を証明」という記事で紹介したように、昨年4月にブラックホールの画像を発表した天文学者の本間希樹先生、そして途中から回答に加わった法政大学の藤田貢祟先生(当番組の「おしえてくれる先生」を参照)である。本間先生は「巨大ブラックホールの謎 宇宙最大の「時空の穴」に迫る」というブルーバックス本の著者でもある。

さて、先生方はどのようにお答えになったのだろうか。この番組は「聴き逃しページ」からパソコンやスマホで聴くことができる。この日の番組は10月3日まで公開されているので、ぜひ聴いてみていただきたい。

手順:
聞き逃しページ」を開き、8月8日の放送の「8時台」の再生ボタンを押す。そして「残り時間 11分50秒」まで進めて再生すると、この質問の最初から聞ける。
そして、女の子からの質問に対する本間先生の回答は、スタジオの換気のため中断し、「9時台」の放送で再開される。藤田貢祟先生は、9時台の放送で回答に加わっている。


このようなわけで「時間は逆戻りするのか 宇宙から量子まで、可能性のすべて: 高水裕一」(Kindle版)を紹介するにはとてもよいタイミングになった。

まず本書に興味を持ったのは「逆戻りするのか」ということである。時間は順行するのが当たり前で、それは「時間はどこから来て、なぜ流れるのか? : 吉田伸夫」(Kindle版)(紹介記事)での解説で納得していた。今さら何を言い出すのだろう?というわけである。

本書には、時間が逆行する具体的な例、そして理論的、仮説の段階の例がいくつも紹介されている。逆行するというのは物事の因果関係が崩壊するわけであるから、それが私たちの世界でおこったら大混乱することは間違いない。原因と結果がおこる順番が逆になるということだ。「入学試験を受ける前に合格通知を受け取り」、「思いを募らせている相手に恋を告白する前に断られ」、「結婚する前に離婚し」、「生まれる前に死ぬ」のである。タイムトラベルするのよりたちが悪い。

物理学を学んだ人であれば、時間の順行と聞くと「熱力学第二法則」、つまり「エントロピー増大則」を思い浮かべるだろう。また「マックスウェルの悪魔は存在しない」というフレーズを思い浮かべる人もいることだろう。熱力学第二法則は、数ある物理法則の中で唯一、時間の流れが順方向であること、「時間の矢」を説明するのに使える法則であるからだ。

時間論についてのブルーバックス本をこれまで2冊読んできたが、本書を読んでみてどうだったかというと、結果的には「とても良かった」と言えるだろう。

本書は、科学教養書によく見られがちな「何度も相対性理論や量子力学の復習をしなければならないわずらわしさ」を感じることはほとんどなかったし、前提知識がある人でないと読めない本でもなかった。全体的に書き方が軽快で、やわらかい話題を盛り込みながら読み進められる本であるからだ。

章立ては次のとおりである。

第1章 「時間」に目覚めた人類
第2章 時間のプロフィール
第3章 相対性理論と時間
第4章 量子力学と時間
第5章 「宿敵」エントロピー
第6章 時間は本当に1次元か
第7章 量子重力理論と時間
第8章 サイクリック宇宙
第9章 始まりなき時間を求めて
第10章 生命の時間 人間の時間
第11章 誰が宇宙を見たのか


時間論は次の4つに分けられて考えることができる。本書では大半を1) 物理学における時間に割き、2)~4)も本書終わりの方でざっくりと解説している。つまり「哲学」における時間にはページを割いていない。(個人的には、これは良いところだと思う)

1) 物理学における時間
2) 認知学における時間
3) 生物学における時間
4) 心理学における時間

本書を読んで、印象に残ったところを、いくつか取り上げておこう。

物理学という学問は、自然という「神」が創り出したこの世界のルールを切り取って、人間が理解しているかたちに表現することを目的としている。そのために使われる言葉が「数学」であり、「方程式」である。そして、これまでに人間が発見してきた物理法則のすべての方程式は、時間的に発展する(流れる)ことを暗に前提としているということ。しかし、量子力学の不確定性原理によるとミクロの世界では「時間の矢」が逆転することがあり得る。

熱力学、統計力学の発展史を解説していく中で、マックスウェルの悪魔のことが解説され、そのような悪魔がいないことが確認される。しかし、本書ではこの悪魔が情報熱力学という文脈で復活をとげている。この悪魔は、時間の逆行をもたらす悪魔のことである。そして2019年(昨年だ!)、モスクは物理効果大学(MIPT)の量子情報物理学研究室での実験により「我々は、熱力学的な『時間の矢』と反対方向に進化する状況を人工的に作り出した」という発表が行われた。これがマックスウェルの悪魔の復活である。本書には実験のあらましが書かれている。

量子重力理論(超弦理論やループ量子重力理論など)から考える時間について解説されている。ループ量子重力理論では、時間はもともと存在しない。この理論によって時間は無から創り出されるのだ。それは「時間は存在しない: カルロ・ロヴェッリ」(Kindle版)(紹介記事)で、詳しく述べられており、今回のブルーバックス本で、高水先生は、この本やロヴェッリ先生の量子重力理論について解説をされている。ロヴェッリ先生によると量子力学における非可換性(ab≠ba)が「時間の矢」をもたらす「時間の芽」だということだ。そして、エントロピーが存在しているように見えるのは、私たちが世界を曖昧な形で見ていることの結果であり、ミクロなレベルでの量子状態を完全に知ることができれば、エントロピーが示す時間の矢は消失すると考えている。つまり、時間は存在しない。

そして、超弦理論とループ量子重力理論のどちらが正しいのかということについて高水先生はお書きになっている。実はこの2つの理論はどちらも「ブラックホールのエントロピーは表面積の大きさに比例している」ということを理論的に証明してしまうからなのだ。物理学は理論だけではだめで、実験で証明しなければならない。この問題に関して、それぞれの理論がどのようなアプローチをとって検証を行なおうとしているかが解説されている。

余談であるが、本書には「ファインマン先生は、超弦理論に反対だったこと」が紹介されている。しかし、博士は最晩年にこの考えをあらため、長年のライバルだったゲルマン博士から超弦理論の個人的なセミナーを受けるようになったことを僕は書いておきたい。この逸話は「ファインマンさん 最後の授業:レナード・ムロディナウ」という本に書かれている。

本書ではループ量子重力理論の文脈で「アキレスと亀」の議論(ゼノンのパラドックス)を復活させているのが面白い。走るのが遅い亀をアキレスが追いつくことができるかどうかは、この理論のもとで議論するのは興味深い問題である。

ミクロの物理学だけでなく、超マクロな物理学における仮説も紹介されている。高水先生のご専門の宇宙論のひとつ、2001年に提唱された「サイクリック宇宙論」である。このような宇宙論がどのようにして考えられるようになったか、宇宙誕生時のインフレーション、ブレーン宇宙、ダークマター、ダークエネルギーのキーワードで語られる。サイクリック宇宙論では、宇宙の収縮時に時間が逆行する。そして2007年に提唱されたサイクリック宇宙の次のバージョンも紹介されている。

著者の高水先生は、ホーキング博士の最後の弟子のお一人でもある。ホーキング博士が提唱した「虚時間説」は、ビッグバンの特異点問題を解決してインフレーション宇宙論への道を開いた。ホーキング博士と過ごした日々のことを紹介されながら、博士が亡くなる2年前に発表された「重力波の初観測」の発表を、博士がどのように受け止めていたかを高水先生はお書きになっている。重力波の観測は、インフレーションの証拠と考えられているのだ。

第10章の「生命の時間・人間の時間」も、興味深く読めたのは僕には意外だった。それは、生命現象もエントロピーと関連付けて説明を続けていたからだと思う。「私たちは宇宙とは真逆の「時間の矢」を持っている」のだ。生きるということは時間の矢に抗うことである。

最終章では、これまでの議論を総括している。それだけでなく、ファインマン図における未来へ遡って進む粒子の解説が紹介されている。この理論については「QED: The Strange Theory of Light and Matter: Richard P. Feynman」の解説(記事は日本語)をお読みいただきたい。この本は「光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学: R.P.ファインマン」として翻訳されている。


とても読みやすい本である。ぜひ書店でお手に取ってみていただきたい。

本書や他の2冊のブルーバックス本を読むと、時間に関するひと通りの知識を得ることができる。子どもに説明したいという気持ちがでてくることだろう。けれども、小学1年生の子どもに説明することには、まったく違うレベルの難しさがあることを強調しておきたい。冒頭で紹介したラジオ番組をお聴きになるとそれがよくわかる。


関連記事:

時間はどこから来て、なぜ流れるのか? : 吉田伸夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5bc8d145f76b637ece8d2de8eaa7e81d

時間とはなんだろう 最新物理学で探る「時」の正体: 松浦壮
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/30e586091ba9dda356e9a0d2d3a0e815

時間は存在しない: カルロ・ロヴェッリ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/55f4ffc2e5f45add46dea97086bb3aed

時:渡辺慧
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d149cf16bb9dd319f572e4228fdfe241


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時間は逆戻りするのか 宇宙から量子まで、可能性のすべて: 高水裕一」(Kindle版


はじめに

第1章 「時間」に目覚めた人類
- 二人のスター
- それは「暦」から始まった
- 「7曜日」の起源
- 「時間とは何か」を問い始めた人類
- 「時間」にもいろいろある

第2章 時間のプロフィール
- 方向: 不可逆な「時間の矢」
- 次元数: なぜ1次元なのか
- 大きさ: それは一定ではない
- 時間は気持ち悪い?
- 方程式には「時間」が隠れている
- 方程式と「時間の矢」
- 落下運動も逆向きOK!
- 宇宙のどこかに逆向きの時間が?
- 「宿敵」エントロピー増大の法則

第3章 相対性理論と時間
- 「光」を独裁者にした特殊相対性理論
- 「ヒーローの時間」はどれだけ遅れるか
- 「重力」で時空が歪む一般相対性理論
- ブラックホールに吸い込まれたら
- 相対性理論を使えば長生きできるか
- 「因果律」はどこまで未来を決めるか
- 光円錐と「時間の矢」

第4章 量子力学と時間
- 基本的な素粒子はクォークと電子
- これが元素のつくり方
- 我々はどこからきたのか
- 素粒子の「トンネル効果」
- 素粒子の「不確定性原理」
- 未来は確率でしか予言できない
- 因果律は破れるか?
- 量子力学の怪 ①エネルギーは飛び飛び!
- 量子力学の怪 ②観測者が状態を決める!
- 時間も素粒子でできている?

第5章 「宿敵」エントロピー
- 「永久機関」への挑戦
- エントロピー誕生
- ボルツマンの偉大なる功績
- マクスウェルが生みだした「悪魔」
- ミクロとマクロのあいだに
- 悪魔、ついに倒される
- 悪魔が復活した!
- 量子世界で時間は逆転する?

第6章 時間は本当に1次元か
- 「時空」を知っていた古代中国の宇宙観
- 宇宙のあらゆることがわかる方程式
- もしも時間が2次元だったら
- 空間はなぜ3時間なのか
- 次元数が多い世界は安定しない

第7章 量子重力理論と時間
- 自然界には「力」は四つしかない
- 「重力」のプロフィール
- 「量子重力理論」は物理学者の悲願
- 超弦理論のプロフィール
- ループ量子重力理論のプロフィール
- 二つの理論はどちらが正しい?
- 時間が消えた!
- 時間は「無知」から生まれる
- 「アキレスと亀」の答え合わせ

第8章 サイクリック宇宙
- 「弦」から「膜」へ
- 「ビッグバン」はブレーンの衝突か?
- インフレーション宇宙の「創成期」
- 「神」に頼るしかないのか
- サイクリック宇宙の登場
- もしも宇宙が収縮したら
- この宇宙は50回目の宇宙?
- サイクリック宇宙の危機と復活

第9章 始まりなき時間を求めて
- 宇宙は静かでなければならない
- 宇宙項ってやつは!
- 「真空エネルギー」の謎
- ファントムが復活させたサイクリック宇宙
- ホーキングの「虚時間宇宙」
- 虚時間はなぜ特異点をなくすのか
- ケンブリッジの思い出
- 「神」の答えを聞く数学者

第10章 生命の時間 人間の時間
- 「星のエントロピー」は減少するか
- 「生物のエントロピー」は減少するか
- 星は生物なのか
- 生命に宿ったもう一つの「時間の矢」
- 「認識」としての時間
- 時間の「連続性」も幻か
- 「未来の記憶」にとらわれた人たち

第11章 誰が宇宙を見たのか
- 二つのシナリオ
- ファインマン図が暗示する時間の逆戻り
- タキオンは時間を逆戻りするか
- 収縮宇宙のもう一つのシナリオ
- ブラックホールによる「どんでん返し」
- 宇宙最大級の謎「人間原理」
- 謎解きの鍵は「時間の逆戻り」にあり?

おわりに
用語一覧

iPhone XからiPhone SE(第2世代)に機種変更

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iPhone SE(左)、iPhone X(右)拡大
自分のための覚書き。

バッテリーの劣化が気になってきたので3年半ぶりにiPhoneを機種変更した。今回は小型のiPhone SE(第2世代)にした。

2017年11月に契約したiPhone Xは、大事に使って本体分割払い期間の4年間をもたせたいと思っていたが、本体が発熱したり、充電器によってはフル充電できなくなり、やむなくの機種変更である。

調べたところ、iPhoneはこれまで次の順番で購入していた。

iPhone 3G: 2008年8月
iPhone 4: 2010年11月
iPhone 5: 2012年11月
iPhone 6: 2014年10月
iPhone X: 2017年11月
iPhone SE: 2020年8月

今回は最初からダークモードで使うことにする。バッテリー劣化をどれくらい防げるか試してみることにした。


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玉音放送を英語やフランス語で学ぼう

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AIによる自動彩色

何でも語学学習の教材にしてしまおうという試みだ。これまで「日本国憲法を英語やフランス語で学ぼう」や「大日本帝国憲法を英語やフランス語で学ぼう」という記事を書いている。

8月15日は終戦の日。「玉音放送」の英訳とフランス語訳で学ぶことにした。まず、日本語で復習しておこう。


日本語で玉音放送:

1945年8月15日、当時15歳だった僕の父は玉音放送を京王線笹塚駅近くにある交番の裏にあった知り合いの家で聴いたそうだ。その日、父の姉は京王線つつじヶ丘駅近くの知り合いの家に、野菜を分けてもらいに行っていた。野菜運びを手伝うために父は姉を迎えにいったという。電車賃節約のために京王線には乗らなかったようだ。その時、立ち寄った家でラジオから流れる放送を聴いたのだという。

この地域は同年5月25日に空襲があり、8月15日といえどもあたり一帯は焼け野原である。ラジオが聴ける家は少なかっただろうし、バラックがようやく建ち始めた状況で、各家に電気がきていたとは思えない。ちなみに祖父は東京電力の社員で電柱など、工事を担当していた。

玉音放送は難解で、父は何を話しているのかまったくわからなかったそうだ。天皇陛下のお言葉に続き、NHKのアナウンサーによる解説が放送されている。次の動画では正午の時報からNHKのアナウンサーの解説や内閣告諭など、後に続く放送がすべて聴ける。その日の雰囲気を追体験してみてほしい。

終戦放送


テキストは口語訳や内閣告諭を含め、ここから読むことができる。

終戦の詔書(口語訳付き)
https://ironna.jp/article/1855

玉音放送(ウィキペディア)
https://ja.wikipedia.org/wiki/玉音放送


英語で玉音放送:

キーワードの英訳は次のとおりだ。

玉音放送(Jewel Voice Broadcast)
終戦の詔勅(Imperial Rescript on Surrender)
大東亞戰爭終結ノ詔書(Imperial Rescript on the Termination of the Greater East Asia War)

英語による玉音放送の朗読動画は2つ見つかった。リスニング用教材としてお使いいただきたい。2つめの動画のほうが音質がよい。しかし、最初の動画は音質が悪いものの1945年8月15日の玉音放送から1時間後、実際に放送された録音である。そしてこの動画には英訳文と日本語の口語訳が字幕で読めるという利点がある。さらにこの動画では玉音放送に続き、米、英、ソビエト、中国の四国に対する8月14日付帝国政府の通告、ポツダム宣言の条項受諾に関する8月10日付帝国政府の申し入れなどを聴くことができる。

Imperial Rescript on the Termination of the Greater East Asia War (大東亜戦争終結の詔書), Aug. 15, 1945, 13:04


The "Jewel voice broadcast" in English (Ending WW2).



玉音放送 全文現代語訳と英訳 Imperial Rescript on Surrender
http://live-power.cocolog-nifty.com/people/2015/08/imperial-rescri.html

英語訳全文はウィキペディアの「Jewel Voice Broadcast」やウィキソースの「Imperial Rescript on Surrender」というページに掲載されている。以下に掲載しておこう。

TO OUR GOOD AND LOYAL SUBJECTS,

After pondering deeply the general trends of the world and the actual conditions obtaining in our empire today, we have decided to effect a settlement of the present situation by resorting to an extraordinary measure.

We have ordered our government to communicate to the governments of the United States, Great Britain, China and the Soviet Union that our empire accepts the provisions of their joint declaration.

To strive for the common prosperity and happiness of all nations as well as the security and well-being of our subjects is the solemn obligation which has been handed down by our imperial ancestors and which lies close to our heart.

Indeed, we declared war on America and Britain out of our sincere desire to ensure Japan's self-preservation and the stabilization of East Asia, it being far from our thought either to infringe upon the sovereignty of other nations or to embark upon territorial aggrandizement.

But now the war has lasted for nearly four years. Despite the best that has been done by everyone – the gallant fighting of the military and naval forces, the diligence and assiduity of our servants of the state, and the devoted service of our one hundred million people – the war situation has developed not necessarily to Japan's advantage, while the general trends of the world have all turned against her interest.

Moreover, the enemy has begun to employ a new and most cruel bomb, the power of which to do damage is, indeed, incalculable, taking the toll of many innocent lives. Should we continue to fight, not only would it result in an ultimate collapse and obliteration of the Japanese nation, but also it would lead to the total extinction of human civilization.

Such being the case, how are we to save the millions of our subjects, or to atone ourselves before the hallowed spirits of our imperial ancestors? This is the reason why we have ordered the acceptance of the provisions of the joint declaration of the powers.

We cannot but express the deepest sense of regret to our allied nations of East Asia, who have consistently cooperated with the Empire towards the emancipation of East Asia.

The thought of those officers and men as well as others who have fallen in the fields of battle, those who died at their posts of duty, or those who met with untimely death and all their bereaved families, pains our heart night and day.

The welfare of the wounded and the war-sufferers, and of those who have lost their homes and livelihood, are the objects of our profound solicitude.

The hardships and sufferings to which our nation is to be subjected hereafter will be certainly great. We are keenly aware of the inmost feelings of all of you, our subjects. However, it is according to the dictates of time and fate that We have resolved to pave the way for a grand peace for all the generations to come by enduring the unendurable and suffering what is unsufferable.

Having been able to safeguard and maintain the Kokutai, We are always with you, our good and loyal subjects, relying upon your sincerity and integrity.

Beware most strictly of any outbursts of emotion which may engender needless complications, or any fraternal contention and strife which may create confusion, lead you astray and cause you to lose the confidence of the world.

Let the entire nation continue as one family from generation to generation, ever firm in its faith in the imperishability of its sacred land, and mindful of its heavy burden of responsibility, and of the long road before it.

Unite your total strength, to be devoted to construction for the future. Cultivate the ways of rectitude, foster nobility of spirit, and work with resolution – so that you may enhance the innate glory of the imperial state and keep pace with the progress of the world.

(Hirohito's signature and Privy Seal)

Tokyo, August 14, 1945


フランス語で玉音放送:

キーワードのフランス語訳は次のとおりだ。

玉音放送(Le Gyokuon-hōsō、意訳としてVoix radiodiffusée du Joyauが用いられる。)
終戦の詔勅(Rescrit impérial sur la reddition)
大東亞戰爭終結ノ詔書(Rescrit impérial sur la fin de la guerre de la Grande Asie de l'Est)

フランス語で朗読している動画は見つからなかったが、全文のフランス語訳はウィキペディアの「Gyokuon-hōsō」というページに掲載されている。以下に掲載しておこう。また、日本の降伏に至る経緯はウィキペディアの「Capitulation du Japon」というページからフランス語で読むことができる。また、フランス語訳では可読性向上のために、上記の英語訳に合わせる形で改行、段落分けをしている。

« À Nos bons et loyaux sujets,

Après avoir mûrement réfléchi aux tendances générales prévalant dans le monde et aux conditions actuelles de Notre Empire, Nous avons décidé de régler, par une mesure exceptionnelle, la situation en cours.

Nous avons ordonné à Notre Gouvernement de faire savoir aux Gouvernements des États-Unis, du Royaume-Uni, de la Chine et de l'Union soviétique, que Notre Empire accepte les termes de leur Déclaration commune.

Nous efforcer d'établir la prospérité et le bonheur de toutes les nations, ainsi que la sécurité et le bien-être de Nos sujets, telle est l'obligation qui Nous a été solennellement transmise par Nos Ancêtres Impériaux et que Nous portons dans Notre Cœur.

C'est d'ailleurs du fait de Notre sincère volonté d'assurer la sauvegarde du Japon et la stabilité du Sud-Est asiatique que Nous avons déclaré la guerre à l'Amérique et au Royaume-Uni, car la pensée d'empiéter sur la souveraineté d'autres nations ou de chercher à agrandir notre territoire était bien éloignée de Nous.

Mais voici maintenant près de quatre années que le conflit se prolonge. Bien que chacun ait fourni ses meilleurs efforts – en dépit des vaillants combats menés par Nos forces militaires et navales, de la diligence et de l'assiduité de Nos serviteurs et dévouement de Nos cent millions de sujets – la guerre a suivi son cours, mais pas nécessairement à l'avantage du Japon, tandis que les tendances générales prévalant dans le monde se sont toutes retournées contre ses intérêts.

En outre, l'ennemi a mis en œuvre une bombe nouvelle d'une extrême cruauté, dont la capacité de destruction est incalculable et décime bien des vies innocentes. Si Nous continuions à combattre, cela entraînerait non seulement l'effondrement et l'anéantissement de la nation japonaise, mais encore l'extinction complète de la civilisation humaine.

Cela étant, comment pouvons-Nous sauver les multitudes de Nos sujets ? Comment expier Nous-mêmes devant les esprits de Nos Ancêtres Impériaux ? C'est la raison pour laquelle Nous avons donné l'ordre d'accepter les termes de la Déclaration commune des Puissances.

Nous ne pouvons qu'exprimer le sentiment de notre plus profond regret à Nos Alliés du Sud-Est asiatique qui ont, sans faillir, coopéré avec Notre Empire pour obtenir l'émancipation des contrées orientales.

La pensée des officiers et soldats, ainsi que de tous les autres, tombés au champ d'honneur, de ceux qui ont péri à leur poste, de ceux qui ont trépassé avant l'heure et de toutes leurs familles endeuillées, Nous serre le cœur nuit et jour.

Le bien-être des blessés et des victimes de la guerre, et de tous ceux qui ont perdu leur foyer et leurs moyens d'existence, est l'objet de Notre plus vive sollicitude.

Les maux et les douleurs auxquels Notre nation sera soumise à l'avenir vont certainement être immenses. Nous sommes pleinement conscient des sentiments les plus profonds de vous tous, Nos sujets. Cependant, c'est en conformité avec les décrets du temps et du sort que Nous avons résolu d'ouvrir la voie à une ère de paix grandiose pour toutes les générations à venir en endurant ce qui ne saurait être enduré et en supportant l'insupportable.

Ayant pu sauvegarder et maintenir la structure de l'État impérial, Nous sommes toujours avec vous, Nos bons et loyaux sujets, Nous fiant à votre sincérité et à votre intégrité.

Gardez-vous très rigoureusement de tout éclat d'émotion susceptible d'engendrer d'inutiles complications ; de toute querelle et lutte fratricides qui pourraient créer des désordres, vous entrainer hors du droit chemin et vous faire perdre la confiance du monde.

Que la nation entière se perpétue comme une seule famille, de génération en génération, toujours ferme dans sa foi en la pérennité de son sol divin, gardant toujours présents à l'esprit le lourd fardeau de ses responsabilités et la pensée du long chemin qu'il lui reste à parcourir.

Utilisez vos forces pour les consacrer à construire l'avenir. Cultivez les chemins de la droiture ; nourrissez la noblesse d'esprit ; et travaillez avec résolution, de façon à pouvoir rehausser la gloire immanente de l'État impérial et vous maintenir à la pointe du progrès dans le monde. »


日本のいちばん長い日:

終戦の日、玉音が放送されるまでの数日間、特に24時間は日本にとって運命の分かれ目だった。将校らが放送を止めようとぎりぎりまでクーデターを試みていたからだ。その数日間、東京でおこっていたことを忠実に再現したのが、小説「日本のいちばん長い日:半藤一利」(Kindle版)であり、1967年と2015年に映画化されている。(1967年版には、先日NHK BSPで放送された『日本沈没(1973)』に田所教授役で出演された小林桂樹も出演している。)

日本のいちばん長い日(1967年版)予告編: (本編:Prime Video


映画『日本のいちばん長い日(2015年版)』特別映像<軌跡編>:(本編:Prime Video)h



関連記事:

日本国憲法を英語やフランス語で学ぼう
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/740faf3b23a33a02fb63557519a4e527

大日本帝国憲法を英語やフランス語で学ぼう
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f3145a53640f4e543ce42ad3a8fc49a0


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初級講座 ループ量子重力: R. ガムビーニ 、J. プリン

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初級講座 ループ量子重力: R. ガムビーニ、J. プリン」(原書)(原書Kindle版

内容紹介:
特殊相対性理論とMaxwell理論、一般相対性理論の最低限の知識に言及し、拘束系の力学、Yang‐Mills理論、場の量子論の要点を概説。Ashtekar変数を用いた古典重力理論の正準形式を導入し、ループ表現(スピン・ネットワーク)に基づく背景独立な重力の量子化の基本概念を論じる。ループ量子宇宙論、ブラックホール・エントロピーやスピン泡などの話題を取り上げ、ループ量子重力の現状と課題を概観する。量子重力理論の有力候補である「ループ量子重力」の基礎を学部学生向けに平易に解説した入門書。

2014年5月1日刊行、179ページ。

著者について:
Rodolfo Gambini: Wikipedia
ロドルフォ・ガムビーニ
ウルグアイのモンテビデオにあるラリパブリカ大学の物理学者、教授。ルイジアナ州立大学のホレスハーン理論物理研究所の客員教授。専門はループ量子重力。パリ6世大学で博士号を取得。

Jorge Pullin: Wikipedia
ジョージ・プリン
ルイジアナ州立大学の理論物理学のHorace Hearne議長。専門はブラックホール衝突と量子重力。

翻訳者について:
樺沢宇紀(かばさわ うき): 訳書: https://adx50150.wixsite.com/kabasawa-yakusho
1990年大阪大学大学院基礎工学研究科物理系専攻前期課程修了。(株)日立製作所中央研究所研究員。1996年(株)日立製作所電子デバイス製造システム推進本部技師。1999年(株)日立製作所計測器グループ技師。2001年(株)日立ハイテクノロジーズ技師。

樺沢先生の訳書: Amazonで検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で444冊目。

このタイミングでこの本を読むことにしたのは、NHKラジオの「子ども科学電話相談」で小学1年生の女の子が発した「どうして時間は動くのですか?」という質問がきっかけで、時間とは何かという問いを考察し続けていたのがきっかけだ。

4次元の時空はプランクスケールで泡立ち、空間と時間には慣れ親しんでいるユークリッド幾何学が成り立たなくなるという。ハイゼンベルクの不確定性原理によれば、運動量と位置についての不確定性原理は成り立つものの、エネルギーと時間についての不確定性原理が成り立つかどうかに関しては、物理学者の間で賛否が分かれているようである。

この文脈でプランクスケールのミクロの時空が不連続だという仮説が提唱されている。また、素粒子の標準模型の理論と一般相対性理論は、このスケールで同時に成り立たせることができないというのも、同じ理由によることだそうだ。そして、この矛盾を解決するための仮説として提唱されているのが量子重力理論である。「超弦理論」は量子重力理論のひとつ、そしてまた別の仮説として提唱されているのが「ループ量子重力理論」である。

量子重力理論という枠では同じものの、超弦理論とループ量子重力理論はまったく違う。超弦理論は10次元または11次元の時空を必要とし、つまり「背景場」と呼ばれる時空の存在を前提として構築されている。それに対してループ量子重力理論は背景場を前提とせず、ループから構成されるスピンネットワークから、時空が生成されるという理論だ。そしてその時空は4次元である。ただし、スピンネットワークが何からできているのかはよくわかっていない。

これまで竹内薫先生や吉田伸夫先生の本でループ量子重力理論を学んできたつもりだが、はっきりイメージできていない。ちゃんと数式で書かれた教科書を読む必要があると思い、読むことにしたのだ。本書は吉田先生による本よりも専門的である。

日本語で読める専門書は、本書が代表例である。あとはサイエンス社の「ループ量子重力理論への招待 2015年 03 月号」(サイエンス社の購入ページ)しかない。洋書だと大学院生向けの本が何冊も刊行されている。

ループ量子重力理論の洋書: 書籍版を検索 Kindle版を検索

日本語で読めること、学部学生向けに書かれているという意味で、樺沢先生が翻訳してくださったことは、とても有難い。ボリュームはちょうどよい179ページ。この厚さであれば途中で挫折しなくてすむ。



樺沢先生による解説は「このページ」で読むことができる。この中で「専門的なループ量子重力の文献に取り掛かる前の入門教科書という位置づけで考えてもらってよいわけだが、ループ量子重力に深入りするつもりのない人でも(たとえば超弦理論をやりたいという学生であっても)いまだにまともな理論が成立していない「量子重力」というものに対してどういう観点を視野に入れておくべきなのか、重要な示唆を見出すことのできる本であると思う。」という紹介をされている。樺沢先生は吉田伸夫先生の本のほか、「量子宇宙への3つの道 :L. スモーリン」を参考にしながら、本書を翻訳されている。

章立てはこのとおり。

第1章:何故、重力の量子化を試みるのか?
第2章:特殊相対性理論と電磁気学
第3章:一般相対性理論
第4章:拘束条件と正準形式による場の力学
第5章:Yang-Mills理論
第6章:量子力学と場の量子論の基礎
第7章:Ashtekar変数を用いた一般相対性理論
第8章:ループ量子重力
第9章:ループ量子重力宇宙論
第10章:発展的な話題
第11章:未解決問題と論争

僕の理解力、学習進度は大学学部4年生並みと考えていただければよいだろう。そのような僕が読んでみたところ第1章から第6章まではスラスラと読み進めることができた。特殊相対論、電磁気学、一般相対性理論、ハミルトン形式の場の力学、ヤン-ミルズ理論、量子力学や場の量子論を手短かに復習しながら進むのだが、学びなおしているというわけではない。

一見復習に見えるこれらの章は、第7章以降の「本編」を学ぶための準備を意識していて、最低限必要なことが網羅されている。第6章までの内容と第7章以降の内容は自然な形でつながっている。だから第6章までは既習だと思っても読み飛ばさないほうがよい。既存の物理学との整合性を確認するために必要な章なのだ。

章タイトルだけ見ると「第5章:Yang-Mills理論」と「第6章:量子力学と場の量子論の基礎」は逆なのではないかと思うかもしれないが、実際に読んでみるとこの順番のほうが正しいことがわかる。

第7章から急に難しくなる。それは未習の領域であるからだけでなく、完成していない領域の話になるからだ。詳しい式の導出は省かれ、結果だけ示されている箇所が多い。また、そのような箇所は大学院レベルの教科書や論文を参照せよという記述も多い。けれども論理的なつながりを損なわないように、文章で丁寧に解説をしているから、そのあたりが「学部学生から読める」ということなのだ。すべてを理解するのは無理だと割り切ることが大切である。

さて、素粒子物理学と一般相対性理論の矛盾をどのように克服していけばよいのだろうか?1980年代半ばに、Ashtekarは重力の式を変数を変更して書き直し、素粒子物理の理論と似た理論にできることを示した。このことは、素粒子物理の技法を重力の量子化へもちこめるのではないかという期待を高めた。その期待に基づいて得られた量子化へのアプローチは「ループ量子重力」と呼ばれており、これが第7章以降で解説されていることだ。これは重力の量子化をそれ自体として、他の相互作用との統合を必要としない形で理解しようとするひとつの試みである。そのための理論は次の3つの拘束条件を満たす必要がある。

- Gaussの法則
- 運動量拘束(またはベクトル拘束)
- ハミルトン拘束

そのために考案されたループ表現やスピンネットワークは、奇抜なアイデアだと思うが、本書で理解する限り、既存の物理学を満たしつつ、素粒子物理学と一般相対性理論の矛盾を解決しつつある理論であると読み取ることができる。ただし、この理論は未完成であり、問題を克服するために現在も新しいアイデアによる研究が進んでいることが紹介されている。通常の教科書と大きく異なるのはここである。未完成であることを認めながら、どの部分が解決していないかを正直に書いていることだ。「第8章:ループ量子重力」と「第9章:ループ量子重力宇宙論」が、本書の核である。

続く「第10章:発展的な話題」では、ブラックホールのホーキング放射やブラックホールのエントロピー(情報パラドックス)に対しての、ループ量子重力理論でのアプローチが紹介されている。現在までのループ量子重力理論によるブラックホール・エントロピーの計算では、ホーキング放射は完全に無視している。ホーキング放射を無視できる大きなブラックホールに対して近似計算を行っているそうだ。


このように本書は大まかな内容を把握するという目的であれば、十分に読む価値がある本だ。途中で理解できなくなっても、とりあえず読み通すという方針で取り組まれるのがよいと思う。


翻訳の元にされた原書はこちらである。Kindle版であってもそれなりに高価だから、英語で読んでも書籍代の節約にはならない。

A First Course in Loop Quantum Gravity: Rodolfo Gambini, Jorge Pullin」(Kindle版



本書より、もう少し教養書に近いレベルで学んでみたい方には、吉田先生の2冊をお勧めする。

明解量子重力理論入門:吉田伸夫」(Kindle版)(紹介記事
明解量子宇宙論入門:吉田伸夫」(Kindle版
 


数式のない教養書であれば、この本がよいだろう。日本語タイトルは原書と違う。原書のタイトルは「現実は見えるとおりではない」という意味だ。

すごい物理学講義: カルロ・ロヴェッリ」(文庫版)(文庫Kindle版
La realtà non è come ci appare: Carlo Rovelli
Reality Is Not What It Seems: Carlo Rovelli」(Kindle版
Par delà le visible La réalité du monde: Carlo Rovelli
   


次の2冊の教養書もお勧めだ。また、さらに学んでみたい方は、ロヴェッリ博士の大学院生向け教科書に挑戦してみるとよいだろう。

量子宇宙への3つの道 :L. スモーリン」(原書)(原書Kindle版
繰り返される宇宙: マーチン・ボジョワルド」(ドイツ語原書)(原書Kindle版
Covariant Loop Quantum Gravity: Carlo Rovelli, Francesca Vidotto」(Kindle版
  

ループ量子重力理論の洋書: 書籍版を検索 Kindle版を検索


樺沢先生の翻訳は正確で、安心して読むことができる。量子重力理論のもうひとつの山、超弦理論の学部学生向け教科書も翻訳されている。こちらもお読みになっておくとよいだろう。

初級講座弦理論 基礎編:B.ツヴィーバッハ」(紹介記事
初級講座弦理論 基礎編:B.ツヴィーバッハ」(紹介記事
 


関連記事:

明解量子重力理論入門:吉田伸夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e0ab2fd9fafe3568c24ed358dd4ea92c

ループ量子重力入門: 竹内薫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0718b7b3c0ea39773463be6b535bed4a


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初級講座 ループ量子重力: R. ガムビーニ、J. プリン」(原書)(原書Kindle版




第1章:何故、重力の量子化を試みるのか?

第2章:特殊相対性理論と電磁気学
- 空間と時空
- 相対論的力学
- Maxwell理論

第3章:一般相対性理論
- 緒言
- 一般座標系とベクトル
- 曲率
- Einstein方程式と、その解の実例
- 微分同相写像
- 3+1分解
- 3脚場

第4章:拘束条件と正準形式による場の力学
- 力学の正準形式
- 拘束条件
- Maxwell理論の正準形式
- 完全拘束系

第5章:Yang-Mills理論
- 運動学的な構成と力学
- ホロノミー

第6章:量子力学と場の量子論の基礎
- 量子化
- 場の量子論の基礎
- 量子場の相互作用と発散
- 繰り込み可能性

第7章:Ashtekar変数を用いた一般相対性理論
- 正準重力
- Ashtekar変数:古典論
- 物質との結合
- 量子化

第8章:ループ量子重力
- ループ変換とスピン・ネットワーク
- ホロノミー演算子と幾何的演算子
- ハミルトニアン拘束のループ表現

第9章:ループ量子重力宇宙論
- 古典論
- 伝統的なWheeler-De Witt量子化
- ループ量子宇宙論
- ハミルトニアン拘束
- 半古典的な理論

第10章:発展的な話題
- ブラックホール・エントロピー
- マスター拘束と均一離散化
- スピン泡
- 観測可能な効果?
- 時間に関する問題

第11章:未解決問題と論争

参考文献

すごい物理学講義: カルロ・ロヴェッリ

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すごい物理学講義: カルロ・ロヴェッリ」(文庫版)(文庫Kindle版

内容紹介:
だれもが興奮できる究極の世界原理!最新「ループ量子重力理論」まで!これほどわかりやすく、これほど感動的な物理本はなかった―長い物理学の歴史から導き出された最前線の宇宙観!世界的な名著、ついに邦訳刊行!「メルク・セローノ文学賞」「ガリレオ文学賞」を受賞。

単行本:2017年5月22日刊行、286ページ。
文庫版:2019年12月5日刊行、384ページ。

著者について:
カルロ・ロヴェッリ Carlo Rovelli: Twitter: @carlorovelli
1956年、イタリアのヴェローナ生まれ。ボローニャ大学で物理学を専攻、パドヴァ大学の大学院に進む。その後、ローマ大学や米国のイェール大学、イタリアのトレント大学などを経て、米国のピッツバーグ大学で教鞭をとる。現在は、フランスのエクス=マルセイユ大学の理論物理学研究室で、量子重力理論の研究チームを率いている。専門は“ループ量子重力理論”で、この分野の第一人者。理論物理学の最先端を行くと同時に、科学史や哲学にも詳しく、複雑な理論をわかりやすく解説するセンスには定評がある。

監訳者、翻訳者について:
竹内薫(監訳): Twitter: @7takeuchi7
東京生まれ。東京大学理学部物理学科、マギル大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。長年、サイエンス作家として科学の面白さを伝え続ける。NHK「サイエンスZERO」の司会などテレビでもお馴染み。

栗原俊秀(翻訳): Twitter: @kuritalia
翻訳家。1983年生まれ。京都大学総合人間学部、同大学院人間・環境学研究科修士課程を経て、イタリアに留学。カラブリア大学文学部専門課程近代文献学コース卒業。2016年、カルミネ・アバーテ『偉大なる時のモザイク』(未知谷)で第2回須賀敦子翻訳賞を受賞。訳書にC・ロヴェッリのほか、F・サルデッリ『失われた手稿譜』、C・アバーテ『帰郷の祭り』など。


理数系書籍のレビュー記事は本書で445冊目。

「一般相対性理論と量子力学は矛盾する」という現代物理学が抱えている難問を解決するために物理学者たちが研究しているのが量子重力理論だ。そのひとつは超弦理論である。そしてもうひとつの仮説として研究されているのがループ量子重力理論である。

超弦理論が10次元または11次元の時空(時間と空間)の存在を前提にしているのに対し、ループ量子重力理論は時空の存在を前提としない。それどころか時空はもともと存在せず、ループやスピンネットワークがもたらす「場」の相互作用として生成し、私たちにはあたかも時間と空間があるように見えるだけなのだという。熱が幻想であるのと同じ意味で、時間と空間も幻想なのだ。(参考:「時間は存在しない: カルロ・ロヴェッリ」)

本書はその研究者のひとり、「ループ量子重力」という言葉を提唱したイタリア人の物理学者、カルロ・ロヴェッリ博士が、一般人向けにこの理論をわかりやすく解説した科学教養書の決定版である。名著といってよいだろう。

日本語版タイトルは「すごい物理学講義」で原書の「La realtà non è come ci appare: Carlo Rovelli(現実は見えるとおりではない)」とはまったく違う。帯には「初めて理解できる最新物理の「ループ量子重力理論」まで」と小さく書かれているから、これがループ量子重力理論の入門書だということに気がつくまでは、少し時間がかかる。そして本書は量子重力理論と量子重力理論の発展史を解説する本でもある。

僕は直前に「初級講座 ループ量子重力: R. ガムビーニ 、J. プリン」という入門者向けの専門書を読んだが、ロヴェッリ博士のこの本を先に読み、あらましを知ってから専門書に取り組めばよかったと思った。

原書はイタリア語である。本書を翻訳した栗原俊秀はイタリア語の専門家で物理学の専門家ではないためなのだろう。テレビでおなじみの竹内薫さんが監訳者をつとめられている。

本書は「メルク・セローノ文学賞」「ガリレオ文学賞」をという文学賞を受賞している。これらは科学の魅力を広く一般に伝えることを目的にした賞で、文学と科学の世界を結びつける優れた著作に与えられる。

ロヴェッリ博士の本を読んだことがある方なら、おわかりだと思うが、博士は物理について語りながら、たびたび文学(または広く芸術作品)に言及している。格調高い文学作品を堪能しながら、科学の知識を得られるのである。僕は博士の本を読むのは2冊目だが、「読ませる文章とはこういうものか」と文学や芸術にも造詣が深い博士の博識ぶりと表現力に圧倒された。

章立てはこのとおりである。

第1部 起 源
 第1章 粒−−古代ギリシアの偉大な発見
 第2章 古 典−−ニュートンとファラデー
第2部 革命の始まり
 第3章 アルベルト−−曲がる時空間
 第4章 量 子−−複雑怪奇な現実の幕開け
第3部 量子的な空間と相対的な時間
 第5章 時空間は量子的である
 第6章 空間の量子
 第7章 時間は存在しない
第4部 空間と時間を越えて
 第8章 ビッグバンの先にあるもの
 第9章 実験による裏づけとは?
 第10章 ブラックホールの熱
 第11章 無限の終わり
 第12章 情 報−−熱、時間、関係の網
 第13章 神 秘−−不確かだが最良の答え

第1部と第2部までがカバーしているのは、古代の科学、哲学から一般相対性理論、量子力学、場の量子論まで、既存の物理学の発展に沿った解説がなされている。すでに学んだ方でも、それほど退屈せずに読み進めることができる。それは著者が卓越した文章力と表現力の持ち主だということに負っている。博士の技量は日本語訳で読んでも伝わってくる。ここまではスラスラと読み進めることができた。

特殊相対論にしても、量子力学にしても、これまでに読んだ本とは違うたとえ話をして理解を助けてくれるから飽きることがない。たとえば光電効果のところでは「自動車に降る雹(ひょう)」のたとえ話がわかりやすかった。雹が自動車をへこませるか否かは、降ってくる雹の総量ではなく、一粒あたりの寸法にかかっている。もし、すさまじい量の表が降ってきたとしても、そのすべてが小粒であれば、自動車に害はないだろう。同様に、もし光が強かったとしても個々の光の粒の寸法があまりにも小さければ(つまり光の振動数があまりにも低ければ)、電子が原子から飛び出してくることはない。このような説明は、初めてだった。次のような量子力学の記述も他の教養書には見られないものである。

「量子力学が記述する世界では、複数の物理的な「系」のあいだの関係を抜きにしては、現実は存在しない。事物が関係を選び取るのではなく、関係が「事物」という概念に根拠を与えている。量子力学の世界とは、対象が形づくる世界ではない。それは、極小のスケールでの基礎的な事象の世界である。この基礎的な「事象」を土台にして、事物が構築されている。

半分ほど進んだ第3部からが重要である。特に時間をかけてじっくりと読み進んだ。大きな成功を収めた量子力学と一般相対性理論が、見かけの上では矛盾を抱えている。その解決のための糸口になったのが、マトヴェイ・ブロンスタインというソビエト連邦の若き物理学者だった。彼はその矛盾を解決するために空間や時間の分割には限りがあるという仮説を用い、これが量子重力理論の先駆けとなった。

第3部では空間に最小の長さがあることを述べた後、ループ量子重力の骨子となるループやリンク、節、スピンの網、スピンの泡、そしてそれらから計算される面積や体積の解説、空間が量子的な存在であることを紹介する。相互作用する素粒子などの量子場は空間の中にあるのではない。もともと空間など存在せず、空間自体が「場の量子」の相互作用として生じているのだ。それをもたらすのがループ量子重力理論を構成するループやリンク、節、スピンの網、スピンの泡などである。

そして、同様に時間についての考察が始まり、ガリレオがピサの大聖堂に吊るされていた燭台の振れを自分の心拍で測り、振子の等時性を測定した実験が紹介される。しかし、ガリレオが測定していた時間など、もともと存在していると証明されているものではないということが明かされる。ニュートンもそれを自覚していた。「時間は私たちが考えているようには流れない」、「物理学の変数 t であらわすような時間は存在していない」、「時間は幻想で、そもそも存在していない」など、衝撃的なことがいくつもでてくるのだ。空間と同じく時間も量子的な存在であり、場の量子の相互作用によって存在するように見えるにすぎないことがわかってくる。これまで学んできた物理学の根底をくつがえされたようで頭がくらくらしてくるのだ。

そのように突飛にも思える話であっても、現代物理学とかけ離れた思いつきではない。既存の相対性理論、電磁気学、量子力学、量子電磁力学、ファインマンの経路積分を使いながら、ループ量子重力理論の構築要素を修正していくのだ。

第4部では、ループ量子重力宇宙論がテーマである。ホーキング博士の著作、またはブラックホールの情報パラドックス、ブラックホールの熱に関する科学教養書を事前に読んでおいたほうがよいと思う。ロヴェッリ博士の解説は他書とはまったく違うから、本来はどう解説されているものかということを知った上で読んだ方がよいと思うからだ。お勧めは「ホーキング、宇宙を語る:スティーヴン・W. ホーキング」や「ブラックホール戦争:レオナルド・サスキンド」である。第4部では、この問題に対するループ量子重力理論によるアプローチと成果に関して解説している。ループ量子重力理論が予測する宇宙の始まりはビッグバンではなくビッグバウンスである。


本書は、間違いなくお勧めできる名著である。お読みになれば、他人に勧めたくなっている僕の気持ちがわかっていただけると思う。とても気に入ったので、ブログトップに表示している「とね日記について」や「文系の読者にお勧めする理数系書籍リスト」という記事にリンクを追記しておいた。


週刊文春に掲載された、本書の紹介文

週刊文春に掲載された、本書の紹介文を載せておこう。

ループ量子重力理論とは? 物理学の歴史をたどる

物質の根源は何であるか。この疑問は古代ギリシャの自然哲学者たちが提起して以来、今も多くの物理学者が挑戦し続けている難問である。私たちが生きるこの宇宙そのものの起源の問題でもあるから、「私たちは何処より来たのか」という問いへの答探しとも言える。

現在の物理学では、強い重力場を記述する一般相対性理論と微視的世界の物理法則である量子論が確固として成立し、それぞれ別個に成功を収めている。ところが、物質の根源を論ずるためには、一センチの一兆分の一兆分の一〇億分の一程度のサイズであるプランク長と呼ばれる超微視的世界に分け入らねばならず、そこでは素粒子自身が作り出す重力場は非常に強く、一般相対性理論と量子論の双方が対等に寄与する運動理論を構築しなければならない。それが量子重力理論で、宇宙の誕生を記述する究極理論と目されている。

本書は、「ループ量子重力理論」を研究するロヴェッリの物理学入門の書で、物理学の歴史をたどるうちにループ理論に導かれていくという巧みな工夫がなされていてわかりやすい。

彼は、古代ギリシャのデモクリトスによる無限の空間に原子が自由運動しているという描像が物理学の出発点と説く。その後、ニュートンの絶対時間・絶対空間における粒子の運動、ファラデーとマクスウェルの場の概念の提唱、アインシュタインの特殊相対論的要請を満たす共変的な時空間への拡張、その共変場における量子論的粒子の運動、という歴史をたどる。ならば空間も時間も連続的ではなく離散(量子)的で、決定論ではなく確率的とすれば、一般相対論の時空間と量子場が合体させられるだろう。その自然な帰結として、有限のサイズの(粒のような)空間と一方向には流れない時間という量子的な時空、つまりループにたどり着くというわけだ。

日本ではあまり紹介されていないループ量子重力理論の入門編として読むことができ、興味がそそられた。

評者:池内 了

(週刊文春 2017.07.27号掲載)


原書、翻訳版

翻訳の元になった原書イタリア語版と、日本語版、英語版、フランス語版は以下のとおり。日本語タイトルは原書と違う。原書のタイトルは「現実は見えるとおりではない」という意味だ。

すごい物理学講義: カルロ・ロヴェッリ」(文庫版)(文庫Kindle版
La realtà non è come ci appare: Carlo Rovelli
Reality Is Not What It Seems: Carlo Rovelli」(Kindle版
Par delà le visible La réalité du monde: Carlo Rovelli
   


ループ量子重力関連の動画

ループ量子重力関連の動画を紹介しておこう。ただし、音声は英語で日本語字幕はない。

What is Loop Quantum Gravity - with Carlo Rovelli


Carlo Rovelli - Events and the Nature of Time


Episode 2: Carlo Rovelli on Quantum Mechanics, Spacetime, and Reality


The Story of Loop Quantum Gravity- From the Big Bounce to Black Holes


The Big Bounce, Signs in the CMB? A Loop Quantum Gravity update


Loop Quantum Gravity Explained (Playlist)



関連記事:

時間は存在しない: カルロ・ロヴェッリ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/55f4ffc2e5f45add46dea97086bb3aed

初級講座 ループ量子重力: R. ガムビーニ 、J. プリン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/50940e09a28985e4f8256de5faebe1d0

明解量子重力理論入門:吉田伸夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e0ab2fd9fafe3568c24ed358dd4ea92c

ループ量子重力入門: 竹内薫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0718b7b3c0ea39773463be6b535bed4a


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すごい物理学講義: カルロ・ロヴェッリ」(文庫版)(文庫Kindle版
 

はじめに−−海辺を歩きながら

第1部 起 源
 第1章 粒−−古代ギリシアの偉大な発見
   物はどこまで分けられるのか?
   事物の本質−−世界は原子からできている
 第2章 古 典−−ニュートンとファラデー
   アイザックと小さな月−−宇宙を支配する重力
   マイケル−−場と光−−電磁気力の発見

第2部 革命の始まり
 第3章 アルベルト−−曲がる時空間
   拡張された現在
   もっとも美しい理論−−一般相対性理論の魔法
   アインシュタインと数学の厄介な関係
   詩と科学の宇宙像
 第4章 量 子−−複雑怪奇な現実の幕開け
   ふたたび、アルベルト
   ニールス、ヴェルナー、ポール−−量子力学の養父たち
   場と粒子は同じもの
   量子1 情報は有限である
   量子2 不確定性
   量子3 現実とは関係である
   ほんとうに、納得しましたか?


第3部 量子的な空間と相対的な時間
 第5章 時空間は量子的である
   マトヴェイ−−最小の長さの発見
   ジョン−−確率の雲
   ループの最初の歩み
 第6章 空間の量子
   体積と面積のスペクトル
   空間の原子
   スピンの網−−空間の量子の状態
 第7章 時間は存在しない
   時間はわたしたちが考えているようには流れない
   脈拍と燭台−−ガリレオの時間
   時空間の握り鮨
   スピンの泡−−量子の時空間構造
   素粒子の標準模型
   世界は何からできているのか?

第4部 空間と時間を越えて
 第8章 ビッグバンの先にあるもの
   「先生」−−アインシュタインとローマ教皇の過ち
   量子宇宙論
 第9章 実験による裏づけとは?
   自然が語りかけていること
   量子重力理論につながる窓
 第10章 ブラックホールの熱
 第11章 無限の終わり
 第12章 情 報−−熱、時間、関係の網
   熱の時間
   現実と情報
 第13章 神 秘−−不確かだが最良の答え
訳者あとがき
参考文献
原注

潮騒(新潮文庫): 三島由紀夫

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潮騒(新潮文庫): 三島由紀夫

内容紹介:
文明から孤絶した、海青い南の小島――潮騒と磯の香りと明るい太陽の下に、海神の恩寵あつい若くたくましい漁夫と、美しい乙女が奏でる清純で官能的な恋の牧歌。人間生活と自然の神秘的な美との完全な一致をたもちえていた古代ギリシア的人間像に対する憧れが、著者を新たな冒険へと駆りたて、裸の肉体と肉体がぶつかり合う端整な美しさに輝く名作が生れた。(ウィキペディア
1954年6月初版刊行。

著者について:
三島 由紀夫(みしま ゆきお、本名:平岡 公威〈ひらおか きみたけ〉: ウィキペディア
1925年〈大正14年〉1月14日 - 1970年〈昭和45年〉11月25日)は、日本の小説家・劇作家・随筆家・評論家・政治活動家・皇国主義者。戦後の日本文学界を代表する作家の一人であると同時に、ノーベル文学賞候補になるなど、日本語の枠を超え、海外においても広く認められた作家である。代表作は小説に『仮面の告白』『潮騒』『金閣寺』『鏡子の家』『憂国』『豊饒の海』など、戯曲に『近代能楽集』『鹿鳴館』『サド侯爵夫人』などがある。晩年は政治的な傾向を強め、自衛隊に体験入隊し、民兵組織「楯の会」を結成。1970年(昭和45年)11月25日、楯の会隊員4名と共に自衛隊市ヶ谷駐屯地(現・防衛省本省)を訪れ東部方面総監を監禁。バルコニーでクーデターを促す演説をしたのち、割腹自殺を遂げた。この一件は社会に大きな衝撃を与え、新右翼が生まれるなど、国内の政治運動や文学界に大きな影響を与えた。(詳細は三島事件を参照)

三島由紀夫の作品(新潮文庫): Amazonで検索


なぜだかわからないし、これと言ったきっかけを思いつかないのだが、急にこの小説を無性に読みたくなった。三島由紀夫が作家デビューしてから10作目として書いたのが『潮騒』である。彼の作品の中では異色のピュアな恋愛小説だ。若い男女が一緒にいるだけで友達からは揶揄され、世間からは非難されていた時代背景、閉鎖的なムラ社会の規律が残っていた離島で繰り広げられる美しい純愛小説である。そう、恋は障害があってこそ想いがつのり、燃え上がる。面と向かえば気のないそぶりをし、ほんの些細なことで気持ちは浮き沈みをする。すっかり忘れてしまった恋心、若き日の記憶を思い起こすのにはちょうどよい。この作品を世に出した三島は当時29歳だった。

三重県鳥羽市に属する歌島(現在の神島の古名)を舞台に、若く純朴な恋人同士の漁夫と海女が、いくつもの障害や困難を乗り越え、成就するまでを描いた純愛物語。古代ギリシアの散文作品『ダフニスとクロエ』(Kindle版)に着想を得て書かれた作品である。この小説の舞台となった島は実在し、三島は1953年(昭和28年)3月と、8月から9月に、三島は取材のため鳥羽港から神島を訪れ、八代神社、神島灯台、観的哨、島民の生活、例祭神事、漁港、歴史、海女や漁船員の仕事や生活、台風などについてつぶさに観察してノートを取っている。どのような景色を三島が見ていたか、次のページでご覧いただける。

三島由紀夫の『潮騒』をたずねて~神島散策プラン~
https://www.iseshima-kanko.jp/course/1849/


三島の作品には耽美的、思索的なものが多いが、この小説はいたってシンプルで読みやすい。文才あふれる三島の名文に浸ることができる。文庫で実質180ページしかないため、読書の習慣がついていない人の「小説入門」としてうってつけだ。特に異性とはスマホで連絡をすぐ取れて、親や世間から邪魔されることがまったくない現代の若者たちに読んでもらいたい。僕が青春時代を過ごした1980年頃にはすでに恋愛は自由だったが、それでも固定電話しかなかったから、付き合っている異性と連絡をとるのは少し不自由だった。手紙を書いて想いを伝えることもあった。相手の写真は大切に手帳や定期入れに入れていた時代である。そう、不自由さと不便さは恋心をつのらせるのだ。

ほんの束の間、若き日の熱情(若き日の思い込み?)をかき立てられた時間を過ごすことができた。読後感がすがすがしい小説である。ぜひ読んでみてほしい。


『潮騒』各国語に翻訳されている。英語版とフランス語版のリンクを載せておこう。英語版は電子書籍として読むことができる。新潮文庫の三島作品はご遺族の意向により電子書籍化はされていないそうだ。日本語版の電子書籍化は著作権が切れる2041年まで待たなければならない。(参考ページ

潮騒(新潮文庫): 三島由紀夫
The Sound of Waves (英語): Yukio Mishima」(Kindle版
Tumulte Des Flots (仏語): Yukio Mishima
   


『潮騒』の初版本

1954年6月に刊行された初版本にはプレミアがついていて高値で売られている。特に帯付きで状態のよいものは高価だ。掘り出し物がでてくるかもしれないので、検索用のリンクを載せておこう。

拡大


初版本の検索: Amazon.co.jp 日本の古本屋 ヤフオク メルカリ


映画化された『潮騒』

小説のほうを僕はお勧めするが、映画で観たいという方がおられることだろう。この作品は映画化しやすいストーリーで、これまで5回映画化されている。第1作は小説が刊行された年に公開されているのだ。

潮騒 (1954年) - 谷口千吉監督、久保明・青山京子主演。(ウィキペディア
潮騒 (1964年) - 森永健次郎監督、浜田光夫・吉永小百合主演。(ウィキペディア
潮騒 (1971年) - 森谷司郎監督、朝比奈逸人・小野里みどり主演。(ウィキペディア
潮騒 (1975年) - 西河克己監督、三浦友和・山口百恵主演。(ウィキペディア
潮騒 (1985年) - 小谷承靖監督、鶴見辰吾・堀ちえみ主演。(映画情報

このうち3つはYouTubeで予告編、Prime Videoで本編をご覧いただける。

1964年版: YouTube予告編 Prime Video
1975年版: YouTube予告編 Prime Video
1985年版: YouTube予告編 Prime Video

  

以下の2作品は、YouTubeだけでなく、Prime Video、DVDでもご覧いただくことはできない。映画のポスターをようやく見つけることができた。ネットで画像検索すると、映画のシーンをいくつか見つけることができる。

1954年版: ポスター拡大 画像検索
1971年版: ポスター拡大 画像検索
 


関連記事:

三島由紀夫『豊饒の海』の初版本
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/42650d60a4009468fe9d63e89083edb4

昭和45年11月25日―三島由紀夫自決、日本が受けた衝撃: 中川右介
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/aae6dd28574e06eb3c3c0c63791e80cc


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Reality Is Not What It Seems: Carlo Rovelli(すごい物理学講義)

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Reality Is Not What It Seems: Carlo Rovelli」(Kindle版

内容紹介:
What are the elementary ingredients of the world? Do time and space exist? And what exactly is reality? In elegant and accessible prose, theoretical physicist Carlo Rovelli leads us on a wondrous journey from Democritus to Einstein, from Michael Faraday to gravitational waves, and from classical physics to his own work in quantum gravity. As he shows us how the idea of reality has evolved over time, Rovelli offers deeper explanations of the theories he introduced so concisely in Seven Brief Lessons on Physics. Rovelli invites us to imagine a marvelous world where space breaks up into tiny grains, time disappears at the smallest scales, and black holes are waiting to explode—a vast universe still largely undiscovered.

ハードカバー:2017年1月24日刊行、288ページ。
ペーパーバック:2018年1月23日刊行、288ページ。

著者について:
カルロ・ロヴェッリ Carlo Rovelli
ホームページ: http://www.cpt.univ-mrs.fr/~rovelli/
Twitter: @carlorovelli
Carlo Rovelli was born in Italy, is a US citizen and lives in France. His main activity is in theoretical physics, where he is known as one of the founders of loop quantum gravity. He has also interests in the history and philosophy of science. He has written "Quantum Gravity", a treatise on loop quantum gravity and, for the large public, "The First Scientist: Anaximander and his Legacy", which is primarily a reflection on the nature of science. The book is translated in five languages and has been awarded by the "Prix du Livre Haute Maurienne".
Rovelli has worked in various Universities in Italy, the US and France. He is currently head of the quantum gravity group at the Center For Theoretical Physics of the Aix-Marseille University. He is Honorary Professor of the Normal University of Beijing, and member of the International Academy for the Philosophy of Science.

ロヴェッリ博士の日本語著書を検索: 書籍版 Kindle版
ロヴェッリ博士の外国語著書を検索: 書籍版 Kindle版


理数系書籍のレビュー記事は本書で446冊目。

先日読んで「すごい物理学講義: カルロ・ロヴェッリ」として紹介した本の英語版である。物理学を楽しく語れるようになりたいという気持ちで読んでみた。50代になると記憶力が落ちるのである。日本語版を読んだ後でも、細かいところはすぐ忘れてしまうのだ。再読するなら英語版のほうがよいと思ったのである。

本書の英語は高校卒業レベル。辞書を引かなくても難なく読めるのがよい。そして第2部までで、古代ギリシャ科学から、ガリレイやニュートン、アインシュタインを経て素粒子物理学までをカバーしているから、物理学の各分野の解説の英語表現をすべてカバーすることができる。丸暗記してしまえば、外国人に英語でこの本を紹介したり、解説できるようになるのだ。そして自然科学の魅力を知的な文章で伝えるロヴェッリ博士の文章が、そのまま英語に移し替えられていることを確認できた。


「一般相対性理論と量子力学は矛盾する」という現代物理学が抱えている難問を解決するために物理学者たちが研究しているのが量子重力理論だ。そのひとつは超弦理論である。そしてもうひとつの仮説として研究されているのがループ量子重力理論である。

超弦理論が10次元または11次元の時空(時間と空間)の存在を前提にしているのに対し、ループ量子重力理論は時空の存在を前提としない。それどころか時空はもともと存在せず、ループやスピンネットワークがもたらす「場」の相互作用として生成し、私たちにはあたかも時間と空間があるように見えるだけなのだという。熱が幻想であるのと同じ意味で、時間と空間も幻想なのだ。(参考:「時間は存在しない: カルロ・ロヴェッリ」)

本書は「メルク・セローノ文学賞」「ガリレオ文学賞」をという文学賞を受賞している。これらは科学の魅力を広く一般に伝えることを目的にした賞で、文学と科学の世界を結びつける優れた著作に与えられる。

章立てはこのとおりだ。

PART ONE Roots
 1 Grains
 2 The Classics
PART TWO Beginning of the Revolution
 3 Albert
 4 Quanta
PART THREE Quantum Space and Relational Time
 5 Spacetime is Quantum
 6 Quanta of Space
 7 Time Does Not Exist
PART FOUR Beyond Space and Time
 8 Beyond the Big Bang
 9 Empirical Confirmations?
 10 Quantum Black Holes
 11 The End of Infinity
 12 Information
 13 Mystery


原書、翻訳版

翻訳の元になった原書イタリア語版(2014年刊行)と、日本語版、英語版、フランス語版は以下のとおり。日本語タイトルは原書と違う。原書のタイトルは「現実は見えるとおりではない」という意味だ。英語版は平易で、高校卒業レベルの英語力で読めると思う。

すごい物理学講義: カルロ・ロヴェッリ」(文庫版)(文庫Kindle版
La realtà non è come ci appare: Carlo Rovelli
Reality Is Not What It Seems: Carlo Rovelli」(Kindle版
Par delà le visible La réalité du monde: Carlo Rovelli
   


音声や講義による本書の紹介動画

本書を音声で紹介する動画が2つYouTubeにアップされている。ぜひお聴きいただきたい。

Reality is Not What it Seems by Carlo Rovelli | Summary | Free Audiobook(再生時間 15分28秒)
https://www.youtube.com/watch?v=98qYpuhvxb4

Reality Is Not What It Seems: The Journey to Quantum Gravity By Carlo Rovelli(再生時間 1時間11分)
https://www.youtube.com/watch?v=tVcE9L5lhM0

本書の内容を紹介する講演の動画も見つかった。これはわかりやすい。

Carlo Rovelli - The Journey to Quantum Gravity(再生時間 53分17秒): YouTubeで再生



ループ量子重力関連の動画

本書の著者のロヴェッリ博士が出演しているものを中心に、ループ量子重力関連の動画を紹介しておこう。ただし、音声は英語で日本語字幕はない。英語字幕をオンにしてお聴きになるとよい。

What is Loop Quantum Gravity - with Carlo Rovelli
ループ量子重力とは何か(再生時間2分12秒)


Carlo Rovelli - Events and the Nature of Time
事象と時間の本質(再生時間9分30秒)


Episode 2: Carlo Rovelli on Quantum Mechanics, Spacetime, and Reality
量子力学、時空、そして現実世界(再生時間1時間12分)


The Story of Loop Quantum Gravity- From the Big Bounce to Black Holes
ループ量子重力 - ビッグバウンスからブラックホールへ(再生時間1時間15分)


The Big Bounce, Signs in the CMB? A Loop Quantum Gravity update
ビッグバウンス、宇宙背景放射にその証拠が? ループ量子重力の最新情報(再生時間33分21秒)


Loop Quantum Gravity Explained (Playlist)
ループ量子重力の解説(再生時間17分33秒)



関連記事:

記事一覧(洋書:英語書籍、フランス語書籍)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/060a4ee26951c001cbd1d46360b72172

The Order of Time: Carlo Rovelli(時間は存在しない)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/67d5428dfaf17413f603edd4a1124815

すごい物理学講義: カルロ・ロヴェッリ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/93767d1f796efe646e13b54905a445cf

初級講座 ループ量子重力: R. ガムビーニ 、J. プリン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/50940e09a28985e4f8256de5faebe1d0

明解量子重力理論入門:吉田伸夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e0ab2fd9fafe3568c24ed358dd4ea92c

ループ量子重力入門: 竹内薫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0718b7b3c0ea39773463be6b535bed4a


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Reality Is Not What It Seems: Carlo Rovelli」(Kindle版


Preface: Walking along the Shore

PART ONE Roots
 1 Grains
   Is there a limit to divisibility?
   The nature of things
 2 The Classics
   Isaac and the little moon
   Michael: fields and light
PART TWO Beginning of the Revolution
 3 Albert
   The extended present
   The most beautiful of theories
   Mathematics or physics?
   The cosmos
 4 Quanta
   Albert again
   Niels, Werner and Paul
   Fields and particles are the same thing
   Quanta 1: Information is finite
   Quanta 2: Indeterminacy
   Quanta 3: Reality is relational
   But do we really understand?
PART THREE Quantum Space and Relational Time
 5 Spacetime is Quantum
   Matvei
   John
   The first steps of the loops
 6 Quanta of Space
   Spectra of volume and area
   Atoms of space
   Spin networks
 7 Time Does Not Exist
   Time is not what we think it is
   The candle chandelier and the pulse
   Spacetime sushi
   Spinfoam
   What is the world made of?
PART FOUR Beyond Space and Time
 8 Beyond the Big Bang
   The master
   Quantum cosmology
 9 Empirical Confirmations?
   Signals from nature
   A window on to quantum gravity
 10 Quantum Black Holes
 11 The End of Infinity
 12 Information
   Thermal time
   Reality and information
 13 Mystery
 
Notes
Annotated Bibliography

カルロ・ロヴェッリ博士がフランス語で解説する動画(量子重力、時間、空間)

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カルロ・ロヴェッリ博士はイタリア人だが、英語はもちろんフランス語も流暢にお話しになることに気がついた。イタリア語訛りはほとんど感じられず、とても自然な発音である。リスニングの教材用として、自分のために記事にまとめておくことにした。

YouTubeには、著書の「すごい物理学講義」や「時間は存在しない」に関連するフランス語で話されている動画がある。フランスで行われたロヴェッリ博士の講演や討論を録画したものだ。どれもテーマは量子重力、時間、空間である。


「すごい物理学講義」の内容に沿った動画

YouTubeで再生:Conférence Carlo Rovelli « TEMPS, ESPACE, MATIÈRE ...NE SONT PLUS CE QU'ILS ÉTAIENT! »(再生時間 1時間40分)
カルロ・ロヴェッリ講演: 時間、空間、物質は私たちが思っているようなものではなかった

Conférence Carlo Rovelli « TEMPS, ESPACE, MATIÈRE ...NE SONT PLUS CE QU'ILS ÉTAIENT! »


Conférence-débat suivie d'une dédicace sur le thème «Temps, espace, matière... ne sont plus ce qu’ils étaient !» s'est tenu mardi 7 avril 2015 . Aujourd'hui la science invite au rêve : comment alors distinguer science fiable et science rêveuse? Face à ces représentations du monde, de moins en moins communes, faut-il faire confiance à la science ?

会議の討論に続いて、「時間、空間、物質は私たちが思っているようなものではなかった」というテーマの講演が 2015年4月7日火曜日に開催されました。今日の科学は夢を誘います。信頼できる科学と夢のような科学をどのようにして区別するのでしょうか。これらの新たな世界観に直面し、ますます一般的ではなくなっていますが、科学を信頼しつづけることができるのでしょうか?

すごい物理学講義: カルロ・ロヴェッリ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/93767d1f796efe646e13b54905a445cf

すごい物理学講義: カルロ・ロヴェッリ」(文庫版)(文庫Kindle版)(紹介記事
La realtà non è come ci appare: Carlo Rovelli
Reality Is Not What It Seems: Carlo Rovelli」(Kindle版)(紹介記事
Par delà le visible La réalité du monde: Carlo Rovelli
   


「時間は存在しない」の内容に沿った動画

YouTubeで再生:(再生時間 1時間27分)
量子重力:物理学者たちは時間を抹殺しようとしている

Gravité quantique : des physiciens tuent le temps


La relativité d'Einstein et la mécanique quantique sont deux théories physiques pour le moment incompatibles. Une des voies de recherche pour les réconcilier consiste à abandonner la notion de temps, au moins telle que nous la connaissons. Il devient alors possible de décrire le monde sans le temps.

Rencontre avec Carlo Rovelli, astrophysicien au centre de physique théorique de Luminy, professeur à l'Université de la Méditerranée, membre de l'Institut de France, co-inventeur avec Lee Smolin de la théorie de la gravité à boucles quantiques.

アインシュタインの相対性理論と量子力学は、現在互換性のない2つの物理理論です。それらを調整するための研究の道の1つは、少なくとも私たちが知っているように、時間の概念を放棄することです。そうすれば、時間のない世界を記述することが可能になります。

ルミニー理論物理学センターの天体物理学者、地中海大学教授、カルロ・ロヴェリ氏の会見。フランスループ研究所のメンバーであり、量子ループを用いた重力理論のリー・スモーリンとの共同発見者です。


Faut-il tuer le temps ? - 時間は抹殺しなければならないのか?
YouTubeで再生: 第1部 - プレゼンテーション(再生時間 34分59秒)
YouTubeで再生: 第2部 - 討論(再生時間 30分45秒)
YouTubeで再生: 第3部 - 質疑応答(再生時間 24分33秒)

Faut-il tuer le temps ?– 1ère partie : les exposés


Faut-il tuer le temps ? - 2e partie : le débat


Faut-il tuer le temps ?- 3e partie : les questions avec le public1


Débat (en trois parties) entre Carlo Rovelli et Patrick Peter, modéré par Michel Blay
mardi 7 octobre à 19h au Palais de la découverte, Paris.

https://www.dunod.com/sciences-techniques/et-si-temps-n-existait-pas

Faut-il tuer le temps ?
Le Temps est la variable « reine » de la physique, qui dicte sa danse dans les équations.
Le temps constitue-t-il une notion qui se transforme selon les besoins de la physique ou une notion indépendante ? Faut-il encore la transformer pour résoudre les impasses de la physique actuelle ou peut-on juste s’en débarrasser sans dégât ?

Carlo Rovelli est un physicien italien, Professeur à l'Université de la Méditerranée, directeur de recherche au Centre de physique théorique de Luminy à Marseille et membre de l'Institut universitaire de France. Il est l'auteur de plusieurs ouvrages de vulgarisation scientifique dont Et si le temps n'existait pas? (nouvelle édition 2014) et Anaximandre de Milet ou la naissance de la pensée scientifique (2009), parus aux éditions Dunod.

Patrick Peter est directeur de recherches à l’Institut d’Astrophysique de Paris. Il travaille dans le domaine de la cosmologie primordiale depuis plus de 20 ans, en particulier le lien avec la physique des particules. Il a publié deux ouvrages Cosmologie primordiale (2e ed. 2012) aux éditions Belin et Des défauts dans l’Univers (2003) chez CNRS Editions.

Cette conférence-débat sera modérée par Michel Blay, philosophe et historien des sciences, directeur de recherche émérite de classe exceptionnelle au CNRS, Président du Comité pour l’Histoire du CNRS, auteur de nombreux ouvrages dont L’existence au risque de l’innovation (2014).

Cette conférence s'inscrit dans un workshop de l'Observatoire de Paris (le lieu du temps en France avec l’heure légale diffusée par le SYRTE) qui réunit des spécialistes internationaux physiciens, philosophes, historiens sur la question de la précision dans la mesure du temps.

En 2014, le théoricien de la physique américain Lee Smolin a publié La renaissance du temps, alors que Carlo Rovelli proposait une nouvelle édition de son livre Et si le temps n'existait pas?, tous deux aux éditions DUNOD. Aujourd’hui, la physique nous amène à questionner l’existence du temps, en particulier dans le cadre de la gravité quantique. Lee Smolin a exposé dans son livre les raisons pour lesquelles il pense que nous avons de meilleures chances de comprendre le monde si nous conservons au temps son statut…Le débat est ouvert !

ミシェル・ブレイの司会、カルロ・ロヴェリとパトリック・ピーターの間の討論(3部構成)
10月7日火曜日午後7時、パリのパレドゥラデクベール。

https://www.dunod.com/sciences-techniques/et-si-temps-n-existait-pas

時間を抹殺するのですか?
時間は、物理学の「女王」変数であり、方程式における変化を決定します。
時間は、物理学のニーズまたは独立した概念に従って変化する概念を構成しているのでしょうか?現在の物理学の行き止まりを解決するために、まだ書き換える必要があるのでしょうかそれとも損傷させることなく問題を取り除くことができるのでしょうか?
カルロ・ロヴェッリはイタリアの物理学者、地中海大学教授、マルセイユのルミニー理論物理学センターの研究責任者、フランス国立研究所のメンバーです。彼は「時間は存在しない」(新版2014)をはじめ、いくつかの人気の科学の本の著者ですかとミレトスのアナクシマンドロスまたは科学思想の誕生(2009)、Dunodエディションが刊行されています。。

パトリック・ピーターは、パリの天体物理学研究所の研究ディレクターです。彼は原始宇宙論の分野で20年以上、特に素粒子物理学との関連で働いてきました。彼は2冊の本 『Primordial Cosmology 2nd ed with CNRS Editions』(2つの異なる版がある)を出版しています。

この会議の討論は、科学の哲学者で歴史学者であり、CNRSの例外クラスの名誉研究ディレクター、CNRSの歴史委員会の会長、イノベーションのリスクを含む多数の作品の著者であるミシェル・ブレイによって司会が行われます。

この会議は、物理学者、哲学者、歴史学者の国際的専門家が集まり、時間の測定の精度の問題について議論する、パリ天文台(SYRTEが合法的に時報を放送するフランス時間の拠点)のワークショップの一部です。

2014年、アメリカの物理学者リー・スモーリンは「時間のルネサンス」を出版し、カルロ・ロヴェッリは彼の著書「時間は存在しない」の新版を書きました。どちらもDUNODが発行しました。今日、物理学は、特に量子重力のコンテキストにおいて、時間の存在に疑問を投げかけています。 リー・スモーリンは自身の著書で、自分がポストを長期間維持することで世界を理解できるようになる可能性が高いと考える理由を著書で説明しています…さて、討論が始まります!

時間は存在しない: カルロ・ロヴェッリ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/55f4ffc2e5f45add46dea97086bb3aed

時間は存在しない: カルロ・ロヴェッリ」(Kindle版)(紹介記事
L'ordine del tempo: Carlo Rovelli
The Order of Time: Carlo Rovelli」(Kindle版)(紹介記事
L'ordre du temps: Carlo Rovelli」(廉価版
   

注意:

なお、「時間が存在しない」のフランス語版「L'ordre du temps」が刊行されたのは2018年2月のことだ。そして上記の討論が行われたのは2014年10月である。だから、討論で話題にされているのは、この本の前著「Et si le temps n'existait pas ? (そしてもし時間が存在していなかったら?)」のほうだ。この本に対応するイタリア語版、英語版は見つからないので、もしかすると原書はフランス語の本ということになるのかもしれない。

Et si le temps n'existait pas ? : Carlo Rovelli


Et si le temps n'existait pas ? - Nouvelle édition actualisée et enrichie
https://www.dunod.com/sciences-techniques/et-si-temps-n-existait-pas



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映画『TENET テネット(2020)』

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オフィシャルサイト

注意:この記事はほとんどネタバレはさせていません。

映画『TENET テネット』オフィシャルサイト
https://wwws.warnerbros.co.jp/tenetmovie/index.html

GACKT&LiLiCo登場!『TENET テネット』公開記念LIVE配信イベント【アーカイブ配信】: プレイリスト



映画公開の2日目の9月19日(土)に、いま話題の映画を観てきた。クリストファー・ノーラン監督作品の『インセプション(2010)』と『インターステラー(2014)』はAmazon Prime Videoで観たが、今回は映画通の友達と池袋の「グランドシネマサンシャイン池袋IMAXレーザーGTグランドシート」の環境でこの映画を堪能した。座席が広く、リクライニングがついている。前の人の頭が見えることもなく視界がスクリーンのみ。音が4DX並みに響くので爆音好きにもオススメだ。このような視聴環境は国内に2か所しかないそうだ。

『インセプション』は夢の世界と現実がかかわりを持っていたら、というテーマで進行する映画だ。空間が曲がったり時間の進みが変わる相対性理論を思い出させるし、夢と現実はパラレルワールド、そして夢の中の場所が切り替わるのはテレポーテーションを思い起こさせる。

『インターステラー』はワームホールを経由してブラックホール行くという映画。これはもろに一般相対性理論(重力理論)を主題とし、この分野の第一人者のキップ・ソーン博士(2017年、ノーベル物理学賞を受賞)が科学的な視点から監修をしている。

そして今回の『TENET テネット』では、時間の逆行が映画で重要な役割を果たす。熱力学の「エントロピー」や素粒子物理学の「反粒子」が映画のセリフで使われていることを事前に聞いていた。これら2つは時間の順行と逆行を理解するのに必要な物理概念なのである。

もちろん僕は理解しているが、科学映画ライターのJoshuaさんが書いてくださった「【ネタバレなし予習】『TENET テネット』の背景にある物理学的概念を解説 ─ クリストファー・ノーランの科学〈完結編〉」を読んだり、YouTubeで行なってくださった「『TENET テネット』鑑賞前のネタバレなし予習講座」を観ておいた。(現在も録画で視聴できる。)そして昨年9月、「時間は存在しない: カルロ・ロヴェッリ」を読んで以来、時間に関する本を何冊も読んで紹介したり、メルマガにも書いているので、僕にとって時間はホットなテーマなのだ。

物理学的な結論から言うと、時間の逆行は素粒子などミクロの世界の限られた領域に注目したときに起きることが確認されている現象で、私たちが生活しているマクロの世界、物事に因果関係がある世界では決しておきない現象だ。もし、マクロの世界で時間の逆行がおきたら、映画を逆再生したような世界を見ることになる。

だから今回のは、時間が逆行する様子を楽しむ映画なのだなと勝手に思い込んでいた。映画の紹介記事も物理学の説明を中心に書こうと思っていたのだ。ところが、まったく違っていた。。。

映画に誘ってくれた友達と池袋で待ち合わせたのは15時だ。上映開始の18時15分まではたっぷり時間があるからエントロピーと反粒子の説明しようと思っていた。けれども、こちらも当てが外れてしまった。彼女はネタバレしそうなことは一切シャットアウトしていて、前々日あたりから「ツイッター断ち」をし、この映画に関する情報は絶対に目にしないと固く決めていたのだ。だから、ネタバレしない物理学の話も頑として聞いてくれない。最初はまっさらな頭と心で映画を観るのが彼女の流儀なのだ。

映画の予告編を見てうすうす感じていたことだが、ものすごく奇妙な映像に圧倒される。映画の逆再生どころではない。通常の時間の流れ、つまり順再生した映像と時間逆行の逆再生した映像が、同じシーンで映される。スクリーン全体は未来に向かって進んでいるのだろうか?それとも過去に向かって進んでいるのだろうか?目に映るいろいろな物や人が、それぞれ順方向、逆方向の時間に従って動いている。それらが離れているのならまだわかる。しかし、時間を逆に進んでいる2人が取っ組み合いをする光景が目にできるとは思わなかった。まったく意味がわからなくなる。振り子やヘリコプターの羽根の回転などは、順行しているのか逆行しているのかわからないから混乱はさらに深まる。

嫌な予感は的中した。映画はロシアにある満員のオペラ劇場を、テロリストが襲撃するシーンから始まる。そして、それを制圧する別の集団が劇場に突入して戦闘が始まる。このシーンは果たしてこの物語の「始まり」なのだろうか?映画の始まりであることは明らかだが、もしかするとこれはストーリーの「途中」ではないだろうか。ふつうに順方向の時間が進む、このシーンで感じた嫌な予感は、映画がかなり進んでから的中した。

タイムトラベルではない。時間を逆行して未来から現在に進みながら攻めてくる敵との闘いは、想像を絶する。そして、自分たちもまた時間を逆行し、過去のシーンに戻りながら、時間を順行している敵との闘いに挑むのだ。そのような状況で過去から未来へ進む世界と未来から過去へ進む世界は、ひとつの世界の中で整合性を保っている。(らしい。。。)

物事には因果関係がある。原因があって、その後に結果がもたらされる。この映画のように、時間をさかのぼりながら場面が切り替わる状況で、何の次に何が起きているのか、次に起きることは、もしかしたら「前」に起きたことなのではないか?時間を逆行していくと、そこにはもう一人の自分がいる。もう一人の自分と接触するのはご法度だ。粒子と反粒子が衝突すると対消滅してしまうからだ。というより、どちらがどの自分なのかわからなくなってしまうことのほうが僕には問題だった。

話の展開は急ピッチで、何が何だかわからない。これはエントロピーや反粒子を理解していることとは、まったく別の問題。ストーリーを理解しようとする間に映画は次々と進み、未消化のままエンドロールを迎えることになる。

ああ、これは何だったのか。世界滅亡は避けられたようだから、おそらくハッピーエンドなのだろう。それだけはわかったが、それにしたって確信できているわけではない。主演男優はほっとした顔をしているからハッピーなのがわかるという情けない理解だ。ハッピーエンドなのか、ハッピービギニングなのか自信が持てない。

物理学の視点からツッコミを入れようと思えば、いくらでもできる。時間が逆行している状況では物は見えないはずだし、会話は理解できなくなる。そもそも音は聞こえないはずだ。しかし、この映画でそのようなツッコミを入れるのは野暮である。これは奇妙な世界でのアクションと音響を楽しむ映画、複雑に入り組んだストーリーを解き明かすチャレンジをするための映画なのだ。だから、紹介記事でエントロピーや反粒子を始め、時間の謎について長々と解説するのはやめておくことにした。

旅客機がゆっくりと建物に突っ込むシーンを含め、CGは使っていないという。いったいどうやって撮影したのだろうか?脚本はどのように書かれているのだろうか?取っ組み合いのシーンを役者はどのように演じたのだろうか?(まさか、逆再生のように演じた?)など、映画を理解できるようになったとしても、知りたいことがたくさんでてくるのだろう。

パンフレットには詳しく解説されているらしい。映画を観た日には混んでいて買えなかったので、翌日映画館のもう一度行った友達に買っておいてもらった。パンフレット無しには、絶対に理解できない。10回観ないとわからないと書いてあるサイトもあった。

この映画のノベライズは、ほぼ不可能である。もしノベライズを可能にしてくれる作家は誰かと聞かれれば、僕は20世紀の奇書の最高峰『フィネガンズ・ウェイク』を書いたジェイムズ・ジョイス、そしてこれを和訳した翻訳の天才、柳瀬尚紀くらいしか思い浮かばない。しかし、2人とも故人である。

近いうちに、この映画はもう一度チャレンジすることにしよう。


以下は、当日撮った写真の一部。ぜひ「グランドシネマサンシャイン池袋IMAXレーザーGTグランドシート」でご覧いただきたい。

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関連ページ(一般):

【ネタバレなし】『TENET テネット』解説 ─ 鑑賞前に知っておきたいポイント、キャラクター&キャスト紹介
https://theriver.jp/tenet-guide/

難解すぎる!?「TENET テネット」を読み解くための7つのポイント
https://note.com/federico71/n/n5011128ab06e

町山智浩『TENET テネット』を語る
https://www.monkey1119.com/entry/tenet-movie

映画「テネット/TENET」感想ネタバレあり解説 言葉の意味と謎がいよいよ明らかに!
https://www.monkey1119.com/entry/tenet-movie

【ネタバレ】ノーラン新作『TENET テネット』の全貌を解説!逆行する世界で何が起きていた?
https://ciatr.jp/topics/311708

[図解]映画TENETの中核原理を予想してみた - マクスウェルの悪魔とシーン描写の4パターン
https://note.com/federico71/n/n5011128ab06e


関連ページ(物理学解説):

【ネタバレなし予習】『TENET テネット』の背景にある物理学的概念を解説 ─ クリストファー・ノーランの科学〈完結編〉
https://fansvoice.jp/2020/09/17/nolan-tenet-science/

『TENET テネット』鑑賞前のネタバレなし予習講座|Fan's Voice Live: YouTubeで開く


そもそも時間には、この映画で描かれる「時間の矢」や「逆行」のほか、いくつもの謎がある。物理学が発展していくにつれて、その不思議な性質が明らかになってきた。現象の不可逆性や因果関係と時間との関係の理解、そして相対性理論では時間は遅くなることがわかり、量子力学によって時間はもしかすると不連続である可能性がでてきた。またそもそも時間は幻想にすぎない、時間は存在していないのかもしれないという仮説もある。『TENET テネット』の範囲を超えて、時間について深く知りたいという方は、以下の「関連記事(時間に関する物理学教養書):」で紹介した一般の人でも読める科学教養書や、「週刊とね日記マガジン」の第60号以降をお読みいただきたい。また、反粒子の時間の逆行については「ディラックによる陽電子の予言(1928年)」や「QED: The Strange Theory of Light and Matter: Richard P. Feynman」をお読みいただきたい。洋書の紹介記事だが、記事は日本語で書いておいた。


関連記事(映画):

映画『インセプション(2010)』
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0206700ad5e4731e0eb6a29cf3eb9c94

映画『インターステラー(2014)』
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/58711fc5335ca00f51a5d22df3f6cc58


関連記事(時間に関する物理学教養書):

時間は存在しない: カルロ・ロヴェッリ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/55f4ffc2e5f45add46dea97086bb3aed

時間とはなんだろう 最新物理学で探る「時」の正体: 松浦壮
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/30e586091ba9dda356e9a0d2d3a0e815

時間はどこから来て、なぜ流れるのか? : 吉田伸夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5bc8d145f76b637ece8d2de8eaa7e81d

時間は逆戻りするのか 宇宙から量子まで、可能性のすべて: 高水裕一
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c14a3269ad7ef2f8f11702ef584e7d3c

時:渡辺慧
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d149cf16bb9dd319f572e4228fdfe241


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The Sound of Waves(潮騒): Yukio Mishima

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The Sound of Waves (英語): Yukio Mishima」(Kindle版

内容紹介(Contents):
Set in a remote fishing village in Japan, The Sound of Waves is a timeless story of first love. It tells of Shinji, a young fisherman and Hatsue, the beautiful daughter of the wealthiest man in the village. Shinji is entranced at the sight of Hatsue in the twilight on the beach and they fall in love. When the villagers' gossip threatens to divide them, Shinki must risk his life to prove his worth. (Wikipediaウィキペディア)
日本語版版:1954年6月初版刊行。

著者について(Author):
Yukio Mishima (三島 由紀夫 Mishima Yukio) : Wikipedia ウィキペディア
is the pen name of Kimitake Hiraoka (平岡 公威 Hiraoka Kimitake, January 14, 1925 – November 25, 1970), a Japanese author, poet, playwright, actor, and film director. Mishima is considered one of the most important Japanese authors of the 20th century. He was considered for the Nobel Prize in Literature in 1968 but the award went to his fellow countryman Yasunari Kawabata. His works include the novels Confessions of a Mask and The Temple of the Golden Pavilion, and the autobiographical essay Sun and Steel. His avant-garde work displayed a blending of modern and traditional aesthetics that broke cultural boundaries, with a focus on sexuality, death, and political change. Mishima was active as a nationalist and founded his own right-wing militia. He is remembered for his ritual suicide by seppuku after a failed coup d'état attempt, known as the "Mishima Incident".

Mishima's books (Englsh): Paper Books Kindle Books

翻訳者について(Translator):
Oscar Meredith Weatherby (1915 - 1997): Wikipedia ウィキペディア
was an American publisher who was the founder of Weatherhill Publications. He spent a large part of his life in Japan and is known in particular for his English translations of the literary works by Yukio Mishima. He was also a long-term patron and romantic partner of the photographer Tamotsu Yato. He also appeared in an acting role in the 1970 war movie Tora! Tora! Tora! in which he played the part of US Ambassador to Japan Joseph Grew.



三島由紀夫の『潮騒』を英語で読んでみた。すでに日本語で読み、紹介記事を「潮騒(新潮文庫): 三島由紀夫」として書いてある。

ビジネス英語は、まったく問題ないし理系書籍であってもストレスなく読める。しかし文学書となると話は別だ。できれば英文慣れしたいし、語彙や表現も豊かにしたい。かといって英文学に挑戦するのは大変だ。しかし、日本語で読んでからであれば、情景はすぐ思い出せるし、知らない単語や表現であってもおよその見当がつく。

おまけにKindleで読めば、知らない単語がでてきても、指でなぞるだけで辞書引きしてくれる。これは大いに助かった。

もちろん英訳は三島の名文の良さを、可能な限り損ねないように配慮した文学的に書かれた英文なのだから申し分ない。英語ネイティブの人でも、なかなか到達できない文章なのだと思う。

実際に読んでみると、風景の描写、海での漁の様子や船の説明、家の中の家具や調度品の描写の記述は読解するのが難しい。しかし、登場人物の会話や行動の記述はわかりやすいし、ストーリーをしっているからすらすら読める。

最初の4分の1は、少々難儀したが、それ以降はどんどんペースがあがってきて「読み味わう」感じがつかめてきた。家で読むときは音読することをお勧めする。文庫で実質180ページほどだが、英語で読むとそれなりに時間がかかるから達成感がある。

日本語の作品を読んでから、英訳本を読むのはとても効率的な英語学習法だ。ぜひお試しいただきたい。


本書の英語がどれくらいの難易度なのかを紹介しておこう。以下に引用した部分は、主人公の若者(新治)が、お世話になっている岬の上の灯台守のご夫婦のところへ虎魚(おこぜ)を持っていく前のシーンである。本書の中では、比較的難しい英文なのだが、そのような箇所はたいてい物語の筋には影響を与えないから、理解できなくても読み進められる。

日本語原文、本書での英訳を載せておく。英語の難易度を知るための参考にしていただきたい。

原文: 文庫版の第6章、46ページ中ほど
 若者は彼をとりまくこの豊饒な自然と、彼自身との無上の調和を感じた。彼の深く吸う息は、自然をつくりなす目に見えぬものの一部が、若者の体の深みにまで滲み入るように思われ、彼の聴く潮騒は、海の巨きな潮の流れが、彼の体内の若々しい血潮の流れと調べを合わせているように思われた。新治は日々の生活に、別に音楽を必要としなかったが、自然がそのまま音楽の必要を充たしていたからに相違ない。
 新治は虎魚を目の高さに吊り上げて、その棘の生えた醜悪な顔にむかって、舌を出してみせた。魚は明らかに生きていたが、身動きもしなかった。そこで新治は魚の顎をつついて、一疋を空中に躍らせた。
 こうして若者は、幸福な逢瀬があまりに早く来すぎることを惜しんで、愚図々々していた。

英訳: 本書から引用
 The boy felt a consummate accord between himself and this opulence of nature that surrounded him. He inhaled deeply, and it was as though a part of the unseen something that constitutes nature had permeated the core of his being. He heard the sound of the waves striking the shore, and it was as though the surging of his young blood was keeping time with the movement of the sea's great tides. It was doubtless because nature itself satisfied his need that Shinji felt no particular lack of music in everyday life.
 Shinji lifted the scorpion-fish to the level of his eyes and stuck out his tongue at their ugly, thorny faces. The fish were definitely alive, but they made not the slightest movement. So Shinji poked one in the jaw and watched it flop about in the air. 
 Thus the boy was loitering along the way, loath to have the happy meeting take place too quickly.


機械翻訳の実力

ところで、この英文を3つの機械翻訳サービスで日本語訳してみた。おおまかな意味はとれるものの、文学を翻訳できるようになるまでには、機械翻訳まだまだ時間がかかりそうだ。以下に訳出されたそのままの日本語を載せておく。

主人公の名前 Shinji をGoogle翻訳は「シンジ」とカタカナで訳しているが、DeepL翻訳とみらい翻訳では「真司」、「真治」、「シンジ」、「真司」、「慎司」のように、勝手に漢字を当てるだけでなく、漢字表記の統一もされていない。

Google翻訳: https://translate.google.co.jp/?hl=ja
 少年は、彼と彼を取り巻くこの豊かな自然との間の完全な一致を感じた。 彼は深く吸い込み、まるで自然を構成する目に見えない何かの一部が彼の存在の核心に浸透したかのようでした。 彼は波が岸を打つ音を聞いた、そしてそれはまるで彼の若い血の急増が海の大潮の動きに遅れをとっていなかったかのようだった。 自然そのものが彼の必要性を満たしたので、シンジが日常生活の中で特に音楽の不足を感じなかったのは疑いのないことでした。
 シンジはカサゴを目の高さまで持ち上げ、醜い、とげのある顔で舌を突き出した。 魚は確かに生きていたが、少しも動きがなかった。 それでシンジは顎を一つ突いて、それが宙を舞うのを見ました。
 したがって、少年は途中でうろつき、幸せな会議があまりにも早く行われるのを嫌がっていました。
 
DeepL翻訳: https://www.deepl.com/translator
 少年は、自分と自分を取り囲むこの豊かな自然との間に完全な調和を感じた。彼は深く息を吸い込むと、自然を構成する目に見えない何かが彼の存在の核心に浸透しているかのようだった。海岸に打ち寄せる波の音が聞こえ、若い血の波動が海の大潮の動きに合わせているように思えた。自然が彼の欲求を満たしてくれているからか、日常生活の中で特に音楽が不足していると感じることはなかった。
 真司はカサゴを目の高さまで持ち上げて、その醜くとげのある顔に舌を出した。魚は確かに生きていたが、微動だにしなかった。そこで真治は一匹のカサゴの顎を突いて、宙を舞うのを見ていた。 
 こうして少年は、幸せな出会いがすぐに訪れるのを嫌って、道中をうろうろしていた。
 
みらい翻訳: https://miraitranslate.com/trial
 少年は、彼をとりまくこの豊かな自然との間に、完全な調和を感じた。彼は深く息を吸い込み、自然を構成する目に見えないものの一部が彼の存在の核心に浸透したかのようだった。彼は岸に打ち寄せる波の音を聞いたが、それはまるで自分の若い血のうねりが、海の大潮の動きに時間を合わせているかのようだった。シンジが日常生活で音楽不足を特に感じていなかったのは、自然がシンジの欲求を満たしていたからでしょう。
 真司はカサゴを目の高さまで持ち上げ、その醜いトゲだらけの顔に舌を突き出した。その魚は確かに生きていたが、ほんの少しの動きもしなかった。そこで慎司はあごに1本突き刺し、宙にバタンと落ちるのを見た。
 そんなわけで、男の子は道中ぶらぶらしていましたが、幸せな出会いがあまりにも早く起こるのがいやでした。


『潮騒』の日本語版、英語版、フランス語版

『潮騒』各国語に翻訳されている。英語版とフランス語版のリンクを載せておこう。英語版は電子書籍として読むことができる。新潮文庫の三島作品はご遺族の意向により電子書籍化はされていないそうだ。日本語版の電子書籍化は著作権が切れる2041年まで待たなければならない。(参考ページ

潮騒(新潮文庫): 三島由紀夫」(紹介記事
The Sound of Waves (英語): Yukio Mishima」(Kindle版
Tumulte Des Flots (仏語): Yukio Mishima
   


映画化された『潮騒』

小説のほうを僕はお勧めするが、映画で観たいという方がおられることだろう。この作品は映画化しやすいストーリーで、これまで5回映画化されている。第1作は小説が刊行された年に公開されているのだ。

潮騒 (1954年) - 谷口千吉監督、久保明・青山京子主演。(ウィキペディア
潮騒 (1964年) - 森永健次郎監督、浜田光夫・吉永小百合主演。(ウィキペディア
潮騒 (1971年) - 森谷司郎監督、朝比奈逸人・小野里みどり主演。(ウィキペディア
潮騒 (1975年) - 西河克己監督、三浦友和・山口百恵主演。(ウィキペディア
潮騒 (1985年) - 小谷承靖監督、鶴見辰吾・堀ちえみ主演。(映画情報

このうち3つはYouTubeで予告編、Prime Videoで本編をご覧いただける。

1964年版: YouTube予告編 Prime Video
1975年版: YouTube予告編 Prime Video
1985年版: YouTube予告編 Prime Video

  

以下の2作品は、YouTubeだけでなく、Prime Video、DVDでもご覧いただくことはできない。映画のポスターをようやく見つけることができた。ネットで画像検索すると、映画のシーンをいくつか見つけることができる。

1954年版: ポスター拡大 画像検索
1971年版: ポスター拡大 画像検索
 


関連記事:

潮騒(新潮文庫): 三島由紀夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b669465d590800dce4558ba7fa1aeb04

三島由紀夫『豊饒の海』の初版本
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/42650d60a4009468fe9d63e89083edb4

昭和45年11月25日―三島由紀夫自決、日本が受けた衝撃: 中川右介
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/aae6dd28574e06eb3c3c0c63791e80cc

記事一覧(洋書:英語書籍、フランス語書籍)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/060a4ee26951c001cbd1d46360b72172


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解読! アルキメデス写本: リヴィエル・ネッツ、ウィリアム・ノエル

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解読! アルキメデス写本: リヴィエル・ネッツ、ウィリアム・ノエル
「日本の古本屋」で検索

内容紹介:
アルキメデスの著作を収めた現存する唯一の写本、C写本。本書ではそこから解読された数学史における驚くべき発見の数々と、この奇蹟の写本がどのように幾世紀もの歳月を生き延びたのかが語られる。空前の歴史ミステリー。
2008年5月23日刊行、456ページ。
原書:2007年10月23日刊行、352ページ。

著者について:
リヴィエル・ネッツ(Wikipedia, 紹介ページ
スタンフォード大学教授で専門は古代科学。アルキメデスに関する第一人者であり、アルキメデスのパリンプセストの解読編集作業を担当している。

ウィリアム・ノエル(Twitter: @willnoel , 紹介ページ
ウォルターズ美術館で写本・稀覯本を扱う学芸員。アルキメデスのパリンプセスト・プロジェクトのディレクターを務める。

翻訳者について:
吉田 晋治(紹介ページ
翻訳家。1972年生まれ。東京大学理科一類中退。現在は翻訳学校フェロー・アカデミーで講師を務める。(訳書を検索: 単行本 Kindle版


理数系書籍のレビュー記事は本書で447冊目。

この本は2008年に刊行されているので、ご存知の方は多いと思う。(僕は今回初めて知った。)読んでみたところ超お勧め本だとわかったので、紹介記事を書く手にも力が入る。ひとことで言えば古代ギリシャ数学の凄さへの覚醒だ。

古代ギリシャの数学者アルキメデス(紀元前287年? - 紀元前212年)の偉業やアルキメデス・パリンプセストと呼ばれる写本の存在に僕が気づいたのは「神は数学者か?―ー数学の不可思議な歴史: マリオ・リヴィオ」という本で紹介されていたからだ。早く読みたいと思いつつ3か月もたってしまった。


アルキメデスについて

物理学や天文学、数学の教養書では、ユークリッド、プラトン、ピタゴラス、アリストテレス、プトレマイオスを引用することは多いものの、アルキメデスはそれほど引用されることがない。もちろん誰でも知っている古代ギリシャの数学者なのだが、僕はほとんど関心をもっていなかった。

というのは、アルキメデスを知ったのは小学生のときのことで、彼の業績は自分でも考えつきそうなことだと誤解していたからだ。それはたとえば、黄金の冠の金の純度を知る方法のことである。湯舟に浸かったアルキメデスは浴槽から溢れるお湯を見て「エウレカ!(発見した!)」と叫んだという逸話。お湯があふれるほど小さな浴槽がこの時代にあったのか?浴槽が小さくてもお湯を沸かすのは手間がかかりそうだけど?などと子供ながらに思って、きっとこれは作り話なのだろうと思っていた。

また、天秤や梃の原理も小学校で習う。また三角形の重心は中学で学ぶし、高校では数学Aの単元で証明方法を学ぶ。そんなことは自分でも思いつけるから、僕も古代ギリシャに生まれていたらアルキメデスになれたのだろうと思っていた。古代ギリシャの数学はその程度なのかと高をくくっていた。

しかし本書を読み、それは大きな間違いだとわかったのである。アルキメデスの著作は、活版印刷された本を17世紀のガリレイやニュートン、ライプニッツが読み、彼らに大きな影響を与えた。特にニュートン、ライプニッツによる微分・積分の発明はアルキメデスの著作を読まなければ不可能だったはずだ。ニュートンがケプラーの3法則を証明し、万有引力の法則を提示した『プリンキピア(自然哲学の数学的諸原理)』も書かれることはなかったと思われる。

古代ギリシャ数学は幾何学を使った証明で成り立っている。ユークリッドを基礎数学に例えれば、アルキメデスの幾何学は応用数学と言ってよい。そして、平面図形や立体図形の体積や重心を求める問題には、図形の「重さ」を考えに入れて証明をするというアプローチをとっている。物理の問題を数学的に解くという「数理物理学」の先駆けという意義付けができるのだ。

アルキメデスの時代、論文や長い手紙は巻き物の形態のパピルスに手書きしていた。それが現代の「本」に相当しているわけだが、手書きだから原本は1巻しかない。もちろんそれはとっくの昔に失われている。それなのに、現代の私たちが彼の著作を読めるのはなぜなのだろう?ピタゴラス学派の研究は、断片的に知られているが、それは他の書物の中に引用されていたおかげだ。

だから古代ギリシャ時代の著作物が丸ごと現代に伝えられているのは奇跡と言ってよいのである。16世紀に活版印刷が発明され、本として多数印刷されるようになるまで、ほとんどの手書きの巻物や冊子が散逸、紛失してしまっていた。


アルキメデス・パリンプセストについて

だから、本書で紹介されているのはアルキメデスが書いたオリジナルではなく「写本」なのだ。そしてその写本が作られたのは西暦975年だということがわかっており、さらにあろうことか、西暦1200年頃にアルキメデスの写本は分解されたうえに記述が消され、他の7冊の写本と合わせて冊子に製本されてから、別の本 - キリスト教の祈祷書にされてしまったのである。そして20世紀になって発見されたのだ。そこまでの経緯と本書の内容を要約した動画があるので、まずこれをご覧いただきたい。本書の著者による15分の講演動画だ。

ウィリアム・ノエル:失われたアルキメデスの写本の解読(日本語字幕あり)



特に本書では「アルキメデス・パリンプセスト」の詳細が解説されている。パリンプセストとは羊皮紙に書かれた写本のことで、古代ギリシャ語で書かれたアルキメデスの著作がこの祈祷書の中に発見されたのだ。アルキメデスの論文は祈祷書の下に隠れているから解読はほとんど不可能と思われた。


アルキメデスの著作ついて

本書によると、アルキメデスの写本はもともとA写本、B写本、C写本があり、重複はあるものの異なる論文が書かれている。このうちA写本は1564年に、B写本は1311年に行方不明になっており、現存する唯一の写本がC写本なのだ。本書ではそこから解読された驚くべき発見の数々と、この奇蹟の写本がどのように幾世紀も生き延びたのかが語られる。空前の歴史ミステリーである。

アルキメデスの論文には以下のものがあるが、後に古代ギリシャ語で写字生が冊子に書き写した3つの写本には次のように収められていた。複数の写本に収められている論文は、全部が揃うことでほぼ完全なものになる。

『砂粒を数える者』(A写本)
『平面の釣り合いについて』(A写本、B写本、C写本)
『放物線の求積について』(A写本、B写本)
『球と円柱について』(A写本、C写本)
『円柱の計測』(A写本、C写本)
『螺旋について』(A写本、C写本)
『円錐状体と球状体について』(A写本)
『浮体について』(B写本、C写本)
『方法』(C写本)
『ストマキオン』 (C写本)

A写本とB写本は、写字生により複製が行われた後に失われてしまった。現在私たちがそれらの内容を知ることができるのは、その後さらに複製されたり、ラテン語や英語に翻訳されたものが16世紀以降に数多く印刷、製本化されたおかげだ。いちばん重要なC写本は、その存在は知られていたものの発見されずに1906年まで数百年間、眠っていたのである。特にC写本に書かれている『方法』が重要なのだ。

C写本が隠れているアルキメデス・パリンプセストは、1906年に発見され1922年に行方不明になった。写本は70年以上にわたり行方不明のままで、その後再び発見された。その間に価値を高めるために偽造者によりページの一部に絵が加えらている。これらの捏造された絵の下にあるテキストや以前は読むことができなかった文は、1998年から2008年にかけて行われた紫外線、赤外線、可視光線、レーキングライトおよびX線による画像の科学的・学術的な研究により明らかとなったのである。

全ての画像とメタデータ付きの学術的な校正を経た文字起こし版は、現在Archimedes Digital Palimpsestのウェブサイトで自由に利用できるようになっており、OPennや他のウェブサイトでもクリエイティブ・コモンズ・ライセンスCC-BYのもと、利用できるように提供されている。

The Archimedes Palimpsest (official web site)
https://www.archimedespalimpsest.net/

Archimedes Digital Palimpsest (OPenn Library)
https://openn.library.upenn.edu/Data/0014/ArchimedesPalimpsest/

Archimedes Digital Palimpsest (Internet Archive Wayback Machine)
https://web.archive.org/web/20090221151641/http://archimedespalimpsest.net/


本書について

本書の章立ては次の通り。(詳細目次は、本記事のいちばん下に記載)

はじめに
第1章:アメリカのアルキメデス
第2章:シラクサのアルキメデス
第3章:大レースに挑む 第1部 破壊から生き残れるか
第4章:視覚の科学
第5章:大レースに挑む 第2部 写本がたどった数奇な運命
第6章:1999年に解読された『方法』―科学の素材
第7章:プロジェクト最大の危機
第8章:2001年に解き明かされた『方法』―ベールを脱いだ無限
第9章:デジタル化されたパリンプセスト
第10章:遊ぶアルキメデス―2003年の『ストマキオン』
第11章:古きものに新しき光を
エピローグ:広大な宇宙の本

本書は2人の著者が交互に1章ずつ担当するという構成をとっている。奇数章の著者、ウィリアム・ノエル氏はウォルターズ美術館の学芸員で、アルキメデスの写本を預かり、古典学者から画像処理技術者まで、あらゆる分野の専門家を動員して写本解読プロジェクトを進行させている。彼は主にこの本の来歴と、プロジェクトの状況を語る。

偶数章を担当しているのは、現在もっとも注目されているギリシャ数学の若手研究者、スタンフォード大学のリヴィエル・ネッツ氏であり、この写本の解読、数学的分析を行なっている。本書ではアルキメデスの数学の解説と、写本解読の成果を解説する。この偶数章がノエル氏の奇数章に劣らず魅力的だ。


入手に至る2300年間の経緯

アルキメデスが論文を書いてから現在に至るまでの経緯は複雑で、このページに書かれている。日本語に訳したものを載せておこう。

1998年10月、羊皮紙の葉のボロボロの原稿がオークションで匿名の入札者に200万ドルで売られた。千年前の写本には、古代の最も偉大な数学者と見なされているギリシャの数学者、アルキメデスによる最も初期の著作が含まれていた。コンスタンティノープルでの作成からニューヨークのクリスティーズでのオークション・ブロックまでの174ページのボリュームの旅の物語は長く複雑だ。

紀元前287〜212年頃
紀元前212年にシラキューズで亡くなる前に、アルキメデスは彼の最も重要な論文や方程式のいくつかをギリシャ語のパピルスの巻物のコレクションに書き留めていた。これらには、機械的定理の方法、浮体について、円柱の計測、球と円柱について、螺旋について、および平面の釣り合いについてが含まれる。

紀元前212年-西暦1000年
元のアルキメデスの巻物は失われたが、幸いなことに、未知の人物が少なくとも1回は事前に他のパピルスの巻物に複写した。

1000年頃(975年)
コンスタンティノープルで働く写字生は、付随する図や計算を含むアルキメデスの論文のコピーを羊皮紙に手書きし、それを本にまとめた。

1200年頃
クリスチャンの僧侶がアルキメデスのテキストにギリシャ語で祈祷文を手書きし、古い数学のテキストを新しい祈祷書に変えた。この本は現在のパリンプセストであり、以前に削り取られた、または洗い流されたアルキメデスのテキストの上に祈祷文のテキストの層が書かれた原稿だ。

1200-1906年頃
何世紀にもわたって、僧侶の祈祷書は宗教学で使用されていたが、最終的にはコンスタンティノープルのマルサバ修道院に保管された。そこで保管されていた本は、1204年の第4回十字軍でコンスタンティノープルが陥落したことを含め蔵書の多くが燃やされ、その後も何度かの災厄に見舞われた。

1906年
デンマークの言語学者ヨハン・ルズヴィグ・ハイベアは、イスタンブールの聖墳墓教会の図書館で失われた原稿を発見し、テキストの基礎となる層をアルキメデスの作品として特定し、すべてのページを写真に収めた。ハイベアは、ルーペを唯一の助けとして使用して、パリンプセストの影のある最下層から書き写した。彼は、付随する画像とともに彼の転写を1915年に公開した。(公開ページ

注意:従って今回の写本の解読結果が出るまでに刊行されたC写本について書かれた数学書は、上記の公開ページを翻訳したものである。抜けや間違い、図版の不足があるのだ。

1907-1930年
パリンプセストは行方不明になり、盗まれたと考えられていた。この期間のある時点で、おそらく1929年以降、偽造者は、おそらくその価値を高めようとして、おそらくその下のアルキメデスのテキストに気づかずに、金箔で中世の福音主義の肖像画のコピーを本の4ページに描いた。

1930年頃
骨董品のアマチュアコレクターであるフランス人家族の一員がイスタンブールに旅行し、地元のディーラーからアルキメデス・パリンプセストを購入した。外の世界には知られていないが、それは次の70年間、家族のパリの家に保管されていた。

1971年
オックスフォードの古典教授であるナイジェル・ウィルソンは、ケンブリッジ大学の図書館に保管されている古い原稿のページを調べた。彼はそれを、ハイベアが65年前に写真を撮り、転写した、行方不明のアルキメデス・パリンプセストのページとして特定していた。ウィルソンは、1846年にギリシャの修道院図書館で見たパリンプセストについて説明したドイツの学者コンスタンティン・ティシェンドルフが、さらなる調査のためにページを引き裂いたと推測していた。

1991年
アルキメデス・パリンプセストのフランス人所有者は、パリのクリスティーズの専門家に内密にアプローチして評価を求めた。鑑定士は、原稿が失われたアルキメデス・パリンプストであることを発見した後(一部はハイベアの写真と比較することにより)、80万ドルから120万ドルの間で評価した。

1998年-現在
1998年の秋に査定額の約2倍の200万ドルで販売されて間もなく、原稿の匿名の億万長者の所有者は、メリーランド州ボルチモアのウォルターズ美術館に貸し出した。ここで、ついにアルキメデス・パリンプストは修復者と学者のチームによって清掃、画像化、翻訳が行われた。


最新の解析で発見されたこと

写本Cの『方法』と『ストマキオン』が新たに解読されたことにより、次のことが発見された。これらの3つは、本書で詳しく解説されている。

1)無限の概念

ギリシャ数学は「無限」を慎重に扱っていた。アルキメデスは従来の「可能無限」を使い曲線で囲まれた図形や立体図形の面積や体積を求めていたと考えられていた。ところが最新の解読により、本当の「実無限」を使って証明、求積をしていたことが判明した。無限が数学で正しく扱われ積分法が厳密になったのは19世紀にコーシーによる証明が行われるようになってからである。また、20世紀になってカントールが導入した無限集合に匹敵する概念にまで到達していたことがわかった。

2)組み合せ論の創始

アルキメデスの著作には『ストマキオン』というパズルがある。このパズル自体はアルキメデスが考案したものではないが、彼はこのパズルを研究していたことがわかっていた。しかし、何を研究したかはわかっていなかった。今回の解読で、彼はパズルを並べて正方形を作る組み合せが何通りあるのかを研究していたことが判明した。そして彼は正しい答え「17152通り」を得ていた。これは後に組み合せ論という数学の分野となる内容だ。

3)図形の描き方についての工夫

アルキメデスの図形の描き方に特徴があることが今回の解読で判明した。私たちは、証明問題を解くとき正確な図形を描くのが普通だ。けれども、アルキメデスはあえて不正確な図を描いて証明のための説明に使っている。これは特定の(正確な図形)を描くと、問題に対する思考が限定されてしまうことを防ごうとするためで、あえて不正確な図を提示することで概念を一般化して考えさせるためのものであることがわかったのだ。私たちにとって図形は証明の補助だが、アルキメデスにとっての図形は証明そのものなのである。


関連動画

上記の15分の動画のほか、以下の解説動画をご覧になることをお勧めする。

The Archimedes Palimpsest(再生時間1時間4分)
https://www.youtube.com/watch?v=Xe9uQVGkz9k

William Noel on The Archimedes Codex(再生時間42分48秒)
https://www.youtube.com/watch?v=BCcRF-MYFmM

Abigail Quandt Takes Apart the Archimedes Palimpsest(再生時間3分15秒)
https://www.youtube.com/watch?v=Du3l32MWWbE

Archimedes Palimpsest Challenge: Modern Adhesive(再生時間1分22秒)
https://www.youtube.com/watch?v=fGM5geQNfEs

Restoring The Archimedes Palimpsest by Will Noel, Ep25(再生時間6分28秒)
https://www.youtube.com/watch?v=t3IP_FmGams

Archimedes Palimpsest Damage Compared Against Heiberg Photos(再生時間25秒)
https://www.youtube.com/watch?v=CqvWLAxD8zM

Archimedes Palimpsest(プレイリスト)
https://www.youtube.com/watch?v=20ClC8zg9Nk&list=PL4F2552AE4B0891AD


原書、翻訳版

日本語版のほか、翻訳のもとになった英語版、そしてフランス語版を紹介しておこう。どれも古文書を彷彿させる装丁で気分が盛り上がる。英語版のKindle版はたったの369円だ。日本語版は絶版のため、以下のAmazonのリンクのほか、日本の古本屋のサイトのリンクを載せておく。(「日本の古本屋」で検索

解読! アルキメデス写本: リヴィエル・ネッツ、ウィリアム・ノエル
The Archimedes Codex:: Reviel Netz, William Noel」(ペーパーバック)(Kindle版
Le codex d'Archimède: Reviel Netz, William Noel
  


関連書籍

本書ではある程度、アルキメデスの数学を学ぶことができるが、もっと深く学びたい方のために数学の割合を多くした本を2冊紹介しておく。この2冊は、アルキメデス・パリンプセストの解読と公開が終わった後に刊行されたものだ。そして、どちらの本も本書の著者ウィリアム・ノエル氏に協力し、本書にも記載がある数学者の斎藤憲先生の著書である。「アルキメデス『方法』の謎を解く」のほうが気軽に読める。「天秤の魔術師 アルキメデスの数学」のほうがより専門的で数学の解説の分量が多い。

アルキメデス『方法』の謎を解く: 斎藤 憲」(Kindle版
天秤の魔術師 アルキメデスの数学: 林 栄治、斎藤 憲
 


リヴィエル・ネッツ氏によるアルキメデスの数学の解説書。英語で書かれているので、お読みになれるのならこの2冊がいちばん詳しい。

The Works of Archimedes: Volume 1: Archimedes, Reviel Netz」(ペーパーバック)(Kindle版
The Works of Archimedes: Volume 2: Archimedes, Reviel Netz」(Kindle版
 


以下の2冊は、とても高価だ。Amazonには「英語」と書かれているが、肝心の数学の解説は、今回のプロジェクトで読み取ったアルキメデス本人が書いた古代ギリシャ語で書かれている。米国Amazonのレビューを読むと、英語で書かれていると勘違いして買ってしまったアメリカ人のコメントが投稿されているようだ。

The Archimedes Palimpsest Volume 1: Reviel Netz, William Noel, Nigel Wilson, Natalie Tchernetska
The Archimedes Palimpsest Volume 2: Reviel Netz, William Noel, Nigel Wilson, Natalie Tchernetska
 
(2 Volume Set)


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解読! アルキメデス写本: リヴィエル・ネッツ、ウィリアム・ノエル
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はじめに

第1章:アメリカのアルキメデス
- 競売にかけられたアルキメデス
- アルキメデスを救う

第2章:シラクサのアルキメデス
- アルキメデスとは何者か
- 科学以前の科学
- 円を正方形にする
- 限りなく続く仮想の対話
- 放物線を正方形にする
- 可能無限を超えて
- 証明と物理学―数学と物理学の統合
- パズルと数―史上初の「組み合わせ論」
- 死とその後

第3章:大レースに挑む 第1部 破壊から生き残れるか
- 友人へ送った1通の手紙
- 図書館のなかに保管される
- 媒体の移行―巻き物から冊子本へ
- 嵐の予兆
- 方舟にたどり着く
- ビザンチン・ルネサンス
- A、B、Cの3つの写本
- C写本はどのように作られたか

第4章:視覚の科学
- 数式以前の科学
- ギリシャ数学は視覚の科学
- シラクサの砂
- 古代ギリシャの図の論理
- 数学は美しい
- 中世を起源とする数学記号
- 数学は経験の問題である

第5章:大レースに挑む 第2部 写本がたどった数奇な運命
- 災厄が降りかかる
- イタリアへ流れ着いたアルキメデス
- ダ・ヴィンチが知らなかった本
- 消された文字
- 砂漠に埋もれた写本
- 復活の兆し
- 死からよみがえる
- パリに消える

第6章:1999年に解読された『方法』―科学の素材
- 重心の発明
- 天秤の法則
- 放物線の奇妙な法則

第7章:プロジェクト最大の危機
- 経路が行き詰まる
- ハイベアの写真
- 偽造された細密画
- 歴史を書き換えたウィロビーの手紙
- 新たな歴史
- ≪カサブランカ≫的仮説
- 読者へのお願い
- フォリオに施された集中治療
- ハイベアも気づかなかった発見
- アルキメデスを救った神への愛

第8章:2001年に解き明かされた『方法』―ベールを脱いだ無限
- 円柱の切片の体積
- 2001年3月に読み取れた『方法』
- 数学、物理学、無限―そして、その先

第9章:デジタル化されたパリンプセスト
- 光で浮き上がったテキスト
- デジタルの元になる数字
- 写本をデジタルで“調理”する
- 失敗だったレシピ
- 最初のことば
- 疑似カラー画像
- 頭脳を収める新しい箱
- パリンプセストからの新たな声
- パレンティが見つけた双子の写本とは?

第10章:遊ぶアルキメデス―2003年の『ストマキオン』
- マラスコ氏から届いた小包
- 『ストマキオン』を解釈する
- 意外な組み合わせ
- 古代の組み合わせ論?
- ピースを組み合わせる

第11章:古きものに新しき光を
- 頭脳が集結する
- 新たなアプローチ
- ビームタイム
- 2006年3月によみがえる
- だれの贈り物なのか

エピローグ:広大な宇宙の本
- アルキメデスのための夜なべ
- 幸運をもたらしたパトロン
- 文献学者という探検家
- 道具の開発者
- アルキメデスが示した科学の青写真
- 「広大な本」

謝辞
解説
監訳者あとがき
参考図書
索引

2020年 ノーベル物理学賞はペンローズ博士、ゲンツェル博士、ゲズ博士に決定!

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スウェーデンの王立科学アカデミーは6日、2020年のノーベル物理学賞を、ブラックホールの研究で成果を上げた英オックスフォード大のロジャー・ペンローズ氏(89)ら欧米の3人に授与すると発表した。

3氏はオックスフォード大学のロジャー・ペンローズ氏、ドイツのマックスプランク研究所のラインハルト・ゲンツェル氏、カリフォルニア大学のアンドレア・ゲズ氏。

ペンローズ氏はアインシュタインの一般相対性理論を基にブラックホールが形成されることを理論的に証明。ゲンツェル氏とゲズ氏は銀河系の中心に、非常に小さいにもかかわらず質量の大きな物体が存在すると発見した。その正体がブラックホールであると考えられている。

授賞式は新型コロナウイルスの流行を考慮し、オンラインで(とね日記賞の発表と同じ)12月10日に開かれる。賞金900万スウェーデン・クローナ(約9700万円)の半分はペンローズ氏に、残り半分がゲンツェル氏とゲズ氏に贈られる。

The Nobel Prize in Physics 2020
https://www.nobelprize.org/prizes/physics/2020/summary/

Announcement of the Nobel Prize in Physics 2020(頭出し済の動画



今年はも昨年の物理学賞と同様「宇宙」の分野で受賞が決まった。また、2017年の物理学賞も一般相対性理論、ブラックホールの分野に授賞されている。発表では次のようなスライドが映された。





ブラックホールの外と内で空間と時間の役割が入れ替わる。外の空間では、自由に空間を行き来できるが、時間を操ることが出来ない。事象の地平面内では、空間を行き来が出来ないが、時間を制御できる。








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発表のタイミングで公開されたプレスリリースを和訳したものを載せておこう。

プレスリリース(英語):
https://www.nobelprize.org/uploads/2020/10/press-physicsprize2020.pdf

日本語訳:

2020年ノーベル物理学賞

今年のノーベル物理学賞は、宇宙で最もエキゾチックな現象の1つであるブラックホールについての発見に対して授賞します。 ロジャーペンローズは、一般相対性理論がブラックホールの形成につながることを示しました。 ラインハルト・ゲンツェルとアンドレア・ゲズは、目に見えない非常に重い物体が私たちの銀河の中心にある星の軌道を支配していることを発見しました。 超大質量ブラックホールは、現在説明できる唯一の可能性です

ロジャー・ペンローズ ブラックホールがアルバート・アインシュタインの一般相対性理論の直接の結果であるという証明に独創的な数学的方法を使用しました。 アインシュタイン自身は、ブラックホールが実際に存在することを信じていません。これらの超重量級のモンスターは、そこに入るすべてのものを捕らえ、 光さえも逃げることはできません。

アインシュタインの死から10年後の1965年1月、ロジャー・ペンローズは、ブラックホールが実際に形成される可能性があることを証明し、それらを詳細に説明しました。 ブラックホールは、その中心にあらゆる既知の自然法則を停止してしまう特異点を隠しています。 彼の画期的な論文は、アインシュタイン以降、最も重要な一般相対性理論への貢献と見なされています。

ラインハルト・ゲンツェル と アンドレア・ゲズ の2人は、1990年代初頭以来、私たちの銀河の中心にあるいて座A *と呼ばれる領域にフォーカスしてきた天文学者のグループをそれぞれ率いています。 銀河系の中心に最も近く最も明るい星の軌道は、より正確にマッピングされています。これらの2つのグループの測定値は一致しており、どちらも星の寄せ集めを引っ張る非常に重く、目に見えない物体を見つけ、目まぐるしい速度で駆け回らせています。 私たちの太陽系より小さいその領域には、太陽の約400万個ぶんの質量が集まっています。

ゲンツェルとゲズは、世界最大の望遠鏡を使用して、星間ガスと塵の巨大な雲を通して銀河系の中心まで見る方法を開発しました。彼らは技術の限界を広げ、地球の大気によって引き起こされる歪みを補正するために新しい技術を洗練、独自の機器を構築し、長期的な研究に取り組んでいます。 彼らの先駆的な研究は、銀河系の中心にある超大質量ブラックホールのこれまでで最も説得力のある証拠を私たちに与えてくれました。

「今年の受賞者による発見は、コンパクトで超大質量の物体の研究において新たな境地を開きました。けれども、これらのエキゾチックな物体は、将来の研究を動機付ける多くの謎をもたらしています。それらの内部構造についての謎だけでなく、ブラックホールのすぐ近くの極端な条件下で重力の理論をテストする方法についての謎もあります」とノーベル物理学委員会の議長のデヴィッド・ハヴィランドは述べました。


イラスト

以下のイラストは非商用目的である限り無料で使用できます。著作権はスウェーデン王立科学アカデミー、Johan Jamestadに帰属します。

イラスト: Cross section of a black hole (pdf)
イラスト: The Milky Way (pdf)
イラスト: Stars closest to the centre of the Milky Way (pdf)


今年の賞の関連文献

ポピュラー・サイエンス: Black holes and the Milky Way’s darkest secret (pdf)
サイエンス: Theoretical foundation for black holes and the supermassive compact object at the galactic centre (pdf)


ペンローズ博士、ゲンツェル博士、ゲズ博士、物理学賞受賞おめでとうございます。


感想、コメント:

今年の物理学賞を当てることができた方は、まずいないだろう。受賞者が数学者だったからだ。とはいってもペンローズ博士の受賞理由はブラックホールだから納得がいく。そしてホーキング博士が存命でいらっしゃったら、きっと共同受賞されていたことだろう。


関連動画:

今回受賞された3人の先生方の動画を紹介しておこう。ゲズ博士の動画は日本語字幕付きだ。

Roger Penrose | Full Interview | Gravity, Hawking Points and Twistor Theory

ペンローズ博士の動画: YouTubeで検索

Reinhard Genzel - Testing General Relativity with Infrared Interferometry

ゲンツェル博士博士の動画: YouTubeで検索

アンドレア・ゲッズ:超大質量ブラックホールを探す

ゲズ博士の動画: YouTubeで検索


関連書籍:

一般相対性理論からブラックホールの存在を世界で初めて予言したのは、ペンローズ博士ではなくシュワルツシルトで1915年のことだ。主ワルツシルトの業績は、ブラックホールの周囲の事象の地平面(事象の地平線)の発見にあり、今回の受賞につながったペンローズ博士の業績はむしろホーキング博士との共同研究で得られたブラックホールの中心の特異点の発見である。(参考:ウィキペディア「特異点定理」)

ブラックホールの特異点を解説した本を紹介しておこう。最初の2冊はペンローズ博士の著書と、博士の理論の紹介本だ。どちらも一般の方がお読みになれる難易度である。

宇宙の始まりと終わりはなぜ同じなのか: ロジャー ペンローズ」(原書)(原書Kindle版
ペンローズのねじれた四次元〈増補新版〉:竹内薫」(Kindle版
 

2018年3月にお亡くなりになったホーキング博士がご存命であれば、ペンローズ博士と共同受賞したことであろう。そのかわりにゲンツェル博士、ゲズ博士のどちらかは受賞できなくなる。(参考記事:「>ホーキング博士の訃報に接し (Stephen Hawking passed away)」

ペンローズ博士の受賞には、ホーキング博士の貢献もあると思う。あらためて追悼させていただくとともに、功績を称えて博士の著書とペンローズ博士との共著を紹介しておく。(ただし、共著のほうは数式が多く含まれているので、理系の大学生以上でないとお読みいただけない。)

ホーキング、宇宙を語る:スティーヴン・W. ホーキング」(紹介記事)(原書
ホーキングとペンローズが語る 時空の本質―ブラックホールから量子宇宙論へ」(紹介記事
 


関連記事:

史上初!ブラックホールを撮影し、その存在を証明
>https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a3bdd0676cf497a9731a729d3a0da5a4

巨大ブラックホールの謎 宇宙最大の「時空の穴」に迫る: 本間希樹
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c847e0b9662e20720b9e6acf5cd4f370

ゼロからわかるブラックホール: 大須賀健
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d3f08c2ddb0f6168b502dac4a70f3a7e

ホーキング、ブラックホールを語る:BBCリース講義
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6fb5c3578db1c26382c831983fd44e04

ホーキング、宇宙を語る:スティーヴン・W. ホーキング
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1e3dbc9b3d10d4a9b6518b6b32429e22

ホーキングとペンローズが語る 時空の本質―ブラックホールから量子宇宙論へ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/619ab76ac18fd5c0416ff82e4cad85f4

ブラックホールと時空の歪み: キップ・S. ソーン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/76795b03e7dc89cd08dac67dc25b73ab

ブラックホール戦争:レオナルド・サスキンド
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c8ad22de70df7be8e51a066ca8354106

ブラックホールと時空の方程式:15歳からの一般相対論:小林晋平
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f4401f2ce79451070b7b9c089f304315

一般相対性理論入門 ブラックホール探査: テイラー、ホイーラー
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c928268aab686a527be93385b45402c2

一般相対論の世界を探る―重力波と数値相対論:柴田大
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/50d12fda1c0e59132d6f5f2e73d9e302

ホーキング博士の訃報に接し (Stephen Hawking passed away)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/63860b8ac08b47f1fc9c5cbac3f9ca8f

神は老獪にして…: アブラハム・パイス:アインシュタインの人と学問
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d9258ed7a2d52173116ccd6e61ba0881

映画『インターステラー(2014)』
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/58711fc5335ca00f51a5d22df3f6cc58


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英語原文:

The Nobel Prize in Physics 2020

“for the discovery that black hole formation is a robust prediction of the general theory of relativity”

Roger Penrose, born 1931 in Colchester, UK. Ph.D. 1957 from University of Cambridge, UK. Professor at University of Oxford, UK.


“for the discovery of a supermassive compact object at the centre of our galaxy”

Reinhard Genzel, born 1952 in Bad Homburg vor der Höhe, Germany. Ph.D. 1978 from University of Bonn, Germany. Director at Max Planck Institute for Extraterrestrial Physics, Garching, Germany and Professor at University of California, Berkeley, USA.

Andrea Ghez, born 1965 in City of New York, USA. Ph.D. 1992 from California Institute of Technology, Pasadena, USA. Professor at University of California, Los Angeles, USA.


Black holes and the Milky Way’s darkest secret

Three Laureates share this year’s Nobel Prize in Physics for their discoveries about one of the most exotic phenomena in the universe, the black hole. Roger Penrose showed that the general theory of relativity leads to the formation of black holes. Reinhard Genzel and Andrea Ghez discovered that an invisible and extremely heavy object governs the orbits of stars at the centre of our galaxy. A supermassive black hole is the only currently known explanation.

Roger Penrose used ingenious mathematical methods in his proof that black holes are a direct consequence of Albert Einstein’s general theory of relativity. Einstein did not himself believe that black holes really exist, these super-heavyweight monsters that capture everything that enters them. Nothing can escape, not even light.

In January 1965, ten years after Einstein’s death, Roger Penrose proved that black holes really can form and described them in detail; at their heart, black holes hide a singularity in which all the known laws of nature cease. His groundbreaking article is still regarded as the most important contribution to the general theory of relativity since Einstein.

Reinhard Genzel and Andrea Ghez each lead a group of astronomers that, since the early 1990s, has focused on a region called Sagittarius A* at the centre of our galaxy. The orbits of the brightest stars closest to the middle of the Milky Way have been mapped with increasing precision. The measurements of these two groups agree, with both finding an extremely heavy, invisible object that pulls on the jumble of stars, causing them to rush around at dizzying speeds. Around four million solar masses are packed together in a region no larger than our solar system.

Using the world’s largest telescopes, Genzel and Ghez developed methods to see through the huge clouds of interstellar gas and dust to the centre of the Milky Way. Stretching the limits of technology, they refined new techniques to compensate for distortions caused by the Earth’s atmosphere, building unique instruments and committing themselves to long-term research. Their pioneering work has given us the most convincing evidence yet of a supermassive black hole at the centre of the Milky Way.

“The discoveries of this year’s Laureates have broken new ground in the study of compact and supermassive objects. But these exotic objects still pose many questions that beg for answers and motivate future research. Not only questions about their inner structure, but also questions about how to test our theory of gravity under the extreme conditions in the immediate vicinity of a black hole”, says David Haviland, chair of the Nobel Committee for Physics.


Illustrations

The illustrations are free to use for non-commercial purposes. Attribute ”© Johan Jarnestad/The Royal Swedish Academy of Sciences”.

Illustration: Cross section of a black hole (pdf)
Illustration: The Milky Way (pdf)
Illustration: Stars closest to the centre of the Milky Way (pdf)


Read more about this year’s prize

Popular Science Background: Black holes and the Milky Way’s darkest secret (pdf)
Scientific Background: Theoretical foundation for black holes and the supermassive compact object at the galactic centre (pdf)

2020年 ノーベル化学賞はシャルパンティエ博士、ダウドナ博士に決定!

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スウェーデンの王立科学アカデミーは7日、2020年のノーベル化学賞を、「ゲノム編集」の手法開発で成果を上げたマックス・プランク研究所のエマニュエル・シャルパンティエ氏とカリフォルニア大バークリー校のジェニファー・ダウドら仏米の2人に授与すると発表した。

遺伝子を改変するゲノム編集技術「CRISPR(クリスパー)/Cas9(キャスナイン)」。2人は細菌がウイルスから身を守る仕組みを解明し、ゲノム編集技術として応用できることを示した。

授賞式は新型コロナウイルスの流行を考慮し、オンラインで(とね日記賞の発表と同じ)12月10日に開かれる。賞金は1千万スウェーデンクローナ(約1億2千万円)で、受賞者で分ける。

The Nobel Prize in Chemistry 2020
https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/2020/summary/

Announcement of the Nobel Prize in Chemistry 2020



今年の化学賞は生化学分野で受賞が決まった。予想できた人はほとんどいなかったと思う。発表では次のようなスライドが映された。



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発表のタイミングで公開されたプレスリリースを和訳したものを載せておこう。

プレスリリース(英語):
https://www.nobelprize.org/uploads/2020/10/press-chemistryprize2020.pdf

日本語訳:

2020年ノーベル物理学賞

“ゲノム編集方法の開発に対して”

エマニュエル・シャルパンティエ, born 1968 in Juvisy-sur-Orge, France. Ph.D. 1995 from Institut Pasteur, Paris, France. Director of the Max Planck Unit for the Science of Pathogens, Berlin, Germany. Max Planck Unit for the Science of Pathogens, Berlin, Germany.

ジェニファー・ダウドナ, born 1964 in Washington, D.C, USA. Ph.D. 1989 from Harvard Medical School, Boston, USA. Professor at the University of California, Berkeley, USA and Investigator, Howard Hughes Medical Institute.


遺伝子ハサミ:生命のコードを書き直すためのツール.

エマニュエル・シャルパンティエとジェニファー・ダウドナは、遺伝子技術の最も鋭いツールの1つであるCRISPR / Cas9遺伝子ハサミを発見しました。これらを利用して、研究者は動物、植物、微生物のDNAを非常に高い精度で変更することができます。この技術はライフサイエンスに革命的な影響を与え、新しい癌治療に貢献しており、遺伝性疾患を治療するという夢を実現する可能性をもっています。

研究者は、生命の内部の働きを知るために、細胞内の遺伝子を改変する必要があります。これは時間がかかり、困難で、時には不可能な作業でした。CRISPR/Cas9遺伝子ハサミを使用して、数週間の間に生命のコードを変更することが可能になりました。

「この遺伝子ツールには非常に大きな力があり、それが私たち全員に影響を及ぼします。それは基礎科学に革命をもたらしただけでなく、革新的な収穫をもたらし、画期的な新しい医療につながるでしょう」とノーベル化学委員会の議長であるクラース・グスタフソンは述べています。

科学ではよくあることですが、これらの遺伝子ハサミの発見は予想外でした。エマニュエル・シャルパンティエが人類に最も害を及ぼす細菌の1つである化膿レンサ球菌を研究しているときに、彼女はこれまで知られていなかった分子であるtracrRNAを発見しました。彼女の研究は、tracrRNAが細菌の古代の免疫システムであるCRISPR / Casの一部であり、DNAを切断することによってウイルスを武装解除することを示しました。

シャルパンティエは2011年に彼女の発見を発表しました。同じ年、彼女はRNAの幅広い知識を持つ経験豊富な生化学者であるジェニファー・ダウドナとの共同研究を開始しました。一緒になって、彼らは試験管内でバクテリアの遺伝子ハサミを再現し、ハサミの分子成分を単純化して使いやすくすることに成功しました。

画期的な実験で、彼らは遺伝子ハサミを再プログラムしました。ハサミは自然な形でウイルスからのDNAを認識しますが、シャルパンティエとダウドナは、所定の部位で任意のDNA分子を切断できるように制御できることを証明しました。DNAが切断された場所では、生命のコードを簡単に書き直すことができます。

シャルパンティエとダウドナが2012年にCRISPR/Cas9遺伝子ハサミを発見して以来、その使用は爆発的に増加しました。このツールは、基礎研究における多くの重要な発見に貢献しており、植物研究者は、カビ、害虫、干ばつに耐える作物を開発することができました。医学では、新しいがん治療法の臨床試験が進行中であり、遺伝性疾患を治療できるという夢が実現しようとしています。これらの遺伝子ハサミは、生命科学を新しい時代に導き、多くの点で人類に最大の利益をもたらしています。


イラスト

以下のイラストは非商用目的である限り無料で使用できます。著作権はスウェーデン王立科学アカデミー、Johan Jamestadに帰属します。

イラスト: Using the genetic scissors (pdf)
イラスト: Streptococcus’ natural immune system against viruses:CRISPR/Cas9 pdf)
イラスト: CRISPR/Cas9 genetic scissors (pdf)


今年の賞の関連文献

関連情報: Genetic scissors: a tool for rewriting the code of life (pdf)
科学的背景: A tool for genome editing (pdf)


シャルパンティエ博士、ダウドナ博士、化学賞受賞おめでとうございます。

受賞後の電話インタビュー再生: シャルパンティエ博士


感想、コメント:

今年は昨日発表された物理学賞だけでなく、化学賞も予想外の授賞となった。対象が化学というより生化学、分子生物学の研究になったからだ。どちらかというと医学・生理学賞として授賞するのがこれまでの慣例だと思う。

そして受賞したのがこれまでの受賞者とくらべ、比較的若い女性研究者であることも注目に値する。年齢や性別で差別をしないのが世界の常識ではあるが、長年にわたって研究を続け、ノーベル賞に値する業績を積むという必要性を考えれば、高齢の男性研究者が受賞しやすくなるというのが一般的な認識だと思うからだ。

数年前にDNAについての本を3冊読んだだけで、僕はほとんど詳しくない領域だ。ゲノム編集は将来、私たちの生活にかかわってくる技術であるだけに、ひととおりの知識を得ておきたいと思った。


関連動画:

今回受賞された2人の先生方の動画を紹介しておこう。

3rd Kyoto Prize Symposium [Biotechnology and Medical Technology] Emmanuelle Charpentier

シャルパンティエ博士の動画: YouTubeで検索

Re-writing the Code of Life: CRISPR Systems and Applications of Gene Editing

ダウドナ博士の動画: YouTubeで検索

シャルパンティエ博士とダウドナ博士による講演動画

2017 Japan Prize Commemorative Lecture: Prof. Emmanuelle Charpentier & Dr. Jennifer A. Doudna



関連書籍:

「CRISPR 究極の遺伝子編集技術の発見」は、今回受賞したダウドナ博士の著書なので、超お勧めだ。あと、講談社ブルーバックスの本も紹介しておこう。

CRISPR 究極の遺伝子編集技術の発見: ジェニファー・ダウドナ」(Kindle版)(原書)(原書Kindle版
ゲノム編集とはなにか 「DNAのハサミ」クリスパーで生命科学はどう変わるのか」(Kindle版
 

より専門的に学びたい方は、次の2冊をチェックしてほしい。

ゲノム編集の基本原理と応用: ZFN,TALEN,CRISPR-Cas9」(Kindle版
完全版 ゲノム編集実験スタンダード〜CRISPR-Cas9の設計・作製と各生物種でのプロトコールを徹底解説 」(Kindle版
 


関連記事:

二重螺旋 完全版: ジェームズ・D. ワトソン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cdba27cd80ae2ec99652d25e7fccdf26

DNA (上)―二重らせんの発見からヒトゲノム計画まで: ジェームズ・D. ワトソン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2ce183a88058ccd08d6cb1265a835405

DNA (下)―ゲノム解読から遺伝病、人類の進化まで: ジェームズ・D. ワトソン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f010fe8bb444188c8229eb25876d543f


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英語原文:

“for the development of a method for genome editing”

The Nobel Prize in Chemistry 2020

Emmanuelle Charpentier, born 1968 in Juvisy-sur-Orge, France. Ph.D. 1995 from Institut Pasteur, Paris, France. Director of the Max Planck Unit for the Science of Pathogens, Berlin, Germany. Max Planck Unit for the Science of Pathogens, Berlin, Germany

Jennifer A. Doudna, born 1964 in Washington, D.C, USA. Ph.D. 1989 from Harvard Medical School, Boston, USA. Professor at the University of California, Berkeley, USA and Investigator, Howard Hughes Medical Institute.


Genetic scissors: a tool for rewriting the code of life

mmanuelle Charpentier and Jennifer A. Doudna have discovered one of gene technology’s sharpest tools: the CRISPR/Cas9 genetic scissors. Using these, researchers can change the DNA of animals, plants and microorganisms with extremely high precision. This technology has had a revolutionary impact on the life sciences, is contributing to new cancer therapies and may make the dream of curing inherited diseases come true.

Researchers need to modify genes in cells if they are to find out about life’s inner workings. This used to be time-consuming, difficult and sometimes impossible work. Using the CRISPR/Cas9 genetic scissors, it is now possible to change the code of life over the course of a few weeks.

“There is enormous power in this genetic tool, which affects us all. It has not only revolutionised basic science, but also resulted in innovative crops and will lead to ground-breaking new medical treatments,” says Claes Gustafsson, chair of the Nobel Committee for Chemistry.

As so often in science, the discovery of these genetic scissors was unexpected. During Emmanuelle Charpentier’s studies of Streptococcus pyogenes, one of the bacteria that cause the most harm to humanity, she discovered a previously unknown molecule, tracrRNA. Her work showed that tracrRNA is part of bacteria’s ancient immune system, CRISPR/Cas, that disarms viruses by cleaving their DNA.

Charpentier published her discovery in 2011. The same year, she initiated a collaboration with Jennifer Doudna, an experienced biochemist with vast knowledge of RNA. Together, they succeeded in recreating the bacteria’s genetic scissors in a test tube and simplifying the scissors’ molecular components so they were easier to use.

In an epoch-making experiment, they then reprogrammed the genetic scissors. In their natural form, the scissors recognise DNA from viruses, but Charpentier and Doudna proved that they could be controlled so that they can cut any DNA molecule at a predetermined site. Where the DNA is cut it is then easy to rewrite the code of life.

Since Charpentier and Doudna discovered the CRISPR/Cas9 genetic scissors in 2012 their use has exploded. This tool has contributed to many important discoveries in basic research, and plant researchers have been able to develop crops that withstand mould, pests and drought. In medicine, clinical trials of new cancer therapies are underway, and the dream of being able to cure inherited diseases is about to come true. These genetic scissors have taken the life sciences into a new epoch and, in many ways, are bringing the greatest benefit to humankind.


Illustrations

The illustrations are free to use for non-commercial purposes. Attribute ”© Johan Jarnestad/The Royal Swedish Academy of Sciences”.

Illustration: Using the genetic scissors (pdf)
Illustration: Streptococcus’ natural immune system against viruses:CRISPR/Cas9 pdf)
Illustration: CRISPR/Cas9 genetic scissors (pdf)


Read more about this year’s prize

Popular information: Genetic scissors: a tool for rewriting the code of life (pdf)
Scientific Background: A tool for genome editing (pdf)

サイエンス誌:日本の新首相、日本学術会議(SCJ)との戦いを選択

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日本学術会議の会長、ノーベル賞受賞者の梶田隆章氏は、
6人の候補者を任命しないという首相の決定に反対している。
画像:AP通信経由共同通信から

菅総理による日本学術会議の会員任命拒否をめぐって、国内だけでなく海外からも反応が出始め、科学専門誌のサイエンス誌およびネイチャー誌が記事を掲載した。今回のブログ記事ではサイエンス誌に掲載された英文記事の和訳を紹介する。

元記事:
https://www.sciencemag.org/news/2020/10/japan-s-new-prime-minister-picks-fight-science-council

サイエンス誌:日本の新首相、日本学術会議(SCJ)との戦いを選択
By Dennis Normile Oct. 5, 2020 , 11:45 AM

日本の新首相の菅義偉氏は、国の主要な学術社会の統治機関に科学者を奉仕させるために行う任命プロセスを混乱させました。研究者たちは、日本学術会議(SCJ: Science Council of Japan)に対する(菅氏の)この動きを学問の自由への脅威と見なしています。

日本学術会議は、政策提言を行い、科学リテラシーと国際協力を促進し、事実上すべての学問分野における80万人を超える学者の利益を代表しています。現在の会長は、2015年にノーベル物理学賞を受賞したばかりの梶田隆章氏です。

総会と呼ばれる日本学術会議の統治機関は、先週から始まった6年の任期をずらして務める210人のメンバーで構成されています。日本学術会議は名目上首相の管轄下にありますが、その総会のメンバーは伝統的に、SCJ選考委員会によって推薦された後、首相によって形式的に任命されます。しかし今年、菅氏は社会科学、法学、人文科学で働く105人のリストから6人の学者たちの任命を差し控えました。

菅氏は拒否権の理由を明らかにしませんでしたが、それは承認されたメンバーのリストが10月1日に公開されたときに明らかになったのです。内閣官房長官ははメディアに、首相は推薦された人々を任命する義務はないと述べました。しかし、6人の学者全員が、菅が内閣官房長官を務めていた前政権によって採択された法律を批判していたのです。

次に何が起こるかはわかりません。日本学術会議は菅氏に任命拒否についての説明、および承認されなかった6名のすみやかな任命についての要望書(PDF)を送りました。日本科学者会議事務局長の井原聰氏は、首相の決定は、日本学術会議の特別な地位を規定する法律の下で「違法」であると述べました。

参考:
2020.10.2 【事務局長談話】学問の自由を侵害する日本学術会議への政府の介入に強く抗議する(日本科学者会議事務局長 井原 聰): PDF
2020.10.7 【声明】日本学術会議人事への政府による学問の自由を侵害する介入に強く抗議する(日本科学者会議幹事会): PDF

全国紙の毎日新聞は、菅氏の動きを「この国の学問の自由を脅かす可能性のある深刻な政治的介入事件」としました。10月3日、抗議者の小集団が首相官邸の前を行進しました。


関連記事:

ネイチャー誌:これまで以上にネイチャー誌が政治をカバーしなければならない理由
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4be5323228aade9b232fea3b4b796a94


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英語記事全文:

The president of the Science Council of Japan, Nobel laureate Takaaki Kajita, speaks out against the prime minister's decision not to appoint six nominees. KYODO VIA AP IMAGES

Japan's new prime minister picks fight with Science Council
By Dennis Normile Oct. 5, 2020 , 11:45 AM

Japan's new prime minister, Yoshihide Suga, has disrupted the process by which scientists are appointed to serve on the governing body of the country's leading academic society. Researchers see the move against the Science Council of Japan (SCJ) as a threat to academic freedom.

SCJ makes policy recommendations, promotes scientific literacy and international cooperation, and represents the interests of more than 800,000 scholars in virtually all academic disciplines. Its current president is Takaaki Kajita, a 2015 Nobel Prize winner in physics who just assumed his post.

The council's governing body, called the General Assembly, is made up of 210 members serving staggered 6-year terms that began last week. Although the council is nominally under the jurisdiction of the prime minister, its general assembly members are traditionally appointed in a pro forma step by the prime minister after being recommended by an SCJ selection committee. But this year, Suga withheld his blessing from six academics, from a list of 105 put forward, who work in the social sciences, law, and the humanities.

Suga did not give a reason for his veto, which became apparent when the list of approved members became public on 1 October. A spokesperson for his office told local media the prime minister is not obligated to appoint the recommended people. But all six of the scholars had criticized legislation adopted by the previous administration, during which Suga was chief cabinet secretary.

It's not clear what will happen next. SCJ wants Suga to explain his decision and has asked him to promptly appoint the six who were not approved. Satoshi Ihara, secretary general of the Japan Scientists' Association, called the prime minister's decision “illegal” under the law governing SCJ's special status.

The Mainichi Shimbun, a national daily newspaper, called Suga's move “a serious case of political intervention that could threaten academic freedom in this country.” A small band of protesters marched in front of the prime minister's official residence on 3 October.

ネイチャー誌:これまで以上にネイチャー誌が政治をカバーしなければならない理由

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インドネシアの2019年選挙に向けた投票箱の準備
クレジット:Willy Kurniawan / Reuters

菅総理による日本学術会議の会員任命拒否をめぐって、国内だけでなく海外からも反応が出始め、科学専門誌のサイエンス誌およびネイチャー誌が記事を掲載した。今回のブログ記事ではネイチャー誌に掲載された英文記事の和訳を紹介する。科学を守ろうとする強い意志が感じられる記事だ。

元記事:
https://www.nature.com/articles/d41586-020-02797-1

ネイチャー誌:これまで以上にネイチャー誌が政治をカバーしなければならない理由
2020年10月6日

科学と政治は切り離せません — ネーチャー誌では、今後数週間、数ヶ月でより多くの政治ニュース、コメント、一次調査を発表することになります。

ネーチャー誌では創刊号以来、私たちは科学と政治に関するニュース、解説、一次調査を発表してきました。 しかし、なぜ科学ジャーナルは政治をカバーする必要があるのでしょうか? 読者からしばしば受ける重要な質問です。

今週、ネイチャー誌のレポーターは、ジョー・バイデン氏が11月3日の米国大統領選挙に勝利した場合の科学への影響について概説し、ドナルド・トランプ大統領の問題を抱えた科学の遺産を記録します。 私たちは、世界中からもたらされる政治報道を増やし、政治科学および関連分野で一次調査をより一層発表する予定です。

科学と政治は常に互いに依存してきました。 政治家の決定と行動は、研究資金と研究政策の優先順位に影響を与えます。 同時に、科学と研究は、環境保護からデータ倫理まで、さまざまな公共政策に情報を提供し、形成します。 政治家の行動は高等教育環境にも影響を及ぼします。 彼らは学問の自由が支持されることを保証し、公平性、多様性、包括性を保護し、これまで疎外されていたコミュニティからの声により多くの場を与えるために、教育機関がより一層働くことを約束できるようになります。 しかし、政治家は、それに逆行する法律を可決する権力も持っています。


関連記事:トランプが科学にどのように損害を与えたか—そしてなぜ回復するのに何十年もかかる可能性があるのか(英文)

これまでに100万人以上の命を奪ったコロナウイルスのパンデミックは、これまでにないほど科学と政治の関係を公の場に押し上げ、いくつかの深刻な問題を浮き彫りにしました。 コロナ関連の研究は、感染症としては前例のない速度で行われており、当然のことながら、政治指導者が科学を使用して意思決定を導く方法や、科学を誤解、誤用、抑制している方法に世界的に強い関心が寄せられています。 そして、政治家と政府が相談、雇用する科学者との間で変化する関係に多くの関心が寄せられています。

脅威にさらされている学問の自治

おそらくさらに厄介なのは、政治家が学問の自由や学問の自由を保護するという原則に反対している兆候があることです。 以前の文明を含め、何世紀にもわたって存在してきたこの原則は、現代科学の中心に位置しています。

今日、この原則は、研究のために公的資金を利用する研究者が、科学の実施または最終的な結論において、政治家からの干渉を期待できない、または非常に限られていることを意味すると解釈されます。 そして、政治家や役人が研究者に助言や情報を求めるとき、彼らが回答を述べることができないことを理解しているということです。 これは、科学と政治の間の今日の契約の基礎であり、研究、教育、公共政策、規制のさまざまな分野に適用されます。


関連記事:ジョー・バイデンの大統領選挙は、5つの重要な科学問題にとって何を意味するか(英文)

これは決して完璧なシステムではありません。 一部の研究分野は他の分野よりも自律的であり、自律性が金額未記入の小切手になることは決してありません。研究者は彼らの行動に責任を負わなければならず、品質と完全性の基準を守る必要があります。 しかし、自律性の保護は長年の基準であり、専門家や政策立案者が目指す基準です。 研究者と政治家の間には、それぞれが約束を守るというある程度の信頼が必要です。 そして、この信頼が衰え始めると、システムも脆弱に見え始めてきます。

その信頼は、今や世界中でかなりの圧力を受けています。 気候変動の分野では何年にもわたって亀裂が明らかになっており、多くの政治家は、人間が原因であることを示す反駁できない証拠を無視したり、弱体化させようとしています。 しかし、この信頼の欠如は、効果的な政策立案のために検証可能な知識と研究が必要とされる他の公共領域でも見られるようになりました。

昨年、ブラジルのジャイール・ボルソナロ大統領は、在任中にアマゾンの森林破壊が加速したという国立宇宙研究所の報告を受け入れることを拒否し、同研究所の所長を解任しました。 同じ年に、100人以上の経済学者がインドの首相であるナレンドラ・モディに手紙を送り、国の公式統計、特に経済データに対する政治的影響力行使の中止を求めました。


関連記事:科学者たちは政治を超えて立ち上がらなければなりません—そして社会に対する彼らの価値を再度主張しなければなりません(英文)

そして先週、日本では菅義偉首相が、これまで政府の科学政策に批判的だった6人の学者の日本学術会議への任命を拒否しましした。 これは、日本の科学者の声を代表することを目的とした独立した組織です。 首相が2004年に任命を承認し始めて以来、これが起こったのは初めてです。

パンデミックもまた、科学への政治的干渉の例を示しています。 英国では6月、統計規制当局が政府に手紙を送り、COVID-19検査データで繰り返されている不正確さを強調しました。規制当局は、「可能な限り多くの検査」を示すことを主張しているようです。

公衆衛生と感染症の研究の分野では、パンデミックの影響とその抑制方法について多くのことが明らかになっています。 今年、COVID-19に関する非常に多くの研究により、ウイルスと病気の両方の挙動が明らかになりました。 研究はまた、予想どおり私たちの知識の不確実性、隔たり、間違いを明らかにしました。 しかしそれは、世界中の政治家に見られる行動を許しません。トランプの悪名高い行動に例示される、つまり彼の混沌とした、しばしば情報不足の反応によって科学者が攻撃され、弱体化されることになったのです。

国家が学術的独立を尊重するという原則は、現代の研究を支える基盤のひとつであり、それに対する侵食は、研究と政策立案における質と完全性の基準に重大なリスクをもたらします。政治家がその約束を破ると、人々の健康、環境、社会を危険にさらします。

これが、ネイチャー誌のニュース特派員が世界中の政治と研究で何が起こっているかを監視し、報告するための努力を倍増する理由です。それが、私たちの専門家による解説の執筆者がその進展を評価、批評し続ける理由です。そして、なぜこの科学雑誌が政治科学のより主要な研究を出版ていくことの理由です。

そして、これらの社説のページでは、政治家に学習と協力の精神を受け入れていただくこと、さまざまな視点を尊重していただくこと、科学的および学術的自治へのコミットメントを尊重いただけるよう引き続き促していきます。

科学と政治の関係を導いてきた慣習は脅威にさらされており、私たちネイチャー誌としては、黙認することができないのです。


関連記事:

サイエンス誌:日本の新首相、日本学術会議(SCJ)との戦いを選択
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/8892ba9db7f928d7e0124073350caeab


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英語記事全文:

An official prepares ballot boxes for Indonesia’s 2019 election.Credit: Willy Kurniawan/Reuters

Why Nature needs to cover politics now more than ever
06 OCTOBER 2020

Science and politics are inseparable — and Nature will be publishing more politics news, comment and primary research in the coming weeks and months.

Since Nature’s earliest issues, we have been publishing news, commentary and primary research on science and politics. But why does a journal of science need to cover politics? It’s an important question that readers often ask.

This week, Nature reporters outline what the impact on science might be if Joe Biden wins the US presidential election on 3 November, and chronicle President Donald Trump’s troubled legacy for science. We plan to increase politics coverage from around the world, and to publish more primary research in political science and related fields.

Science and politics have always depended on each other. The decisions and actions of politicians affect research funding and research-policy priorities. At the same time, science and research inform and shape a spectrum of public policies, from environmental protection to data ethics. The actions of politicians affect the higher-education environment, too. They can ensure that academic freedom is upheld, and commit institutions to work harder to protect equality, diversity and inclusion, and to give more space to voices from previously marginalized communities. However, politicians also have the power to pass laws that do the opposite.


Related article: How Trump damaged science — and why it could take decades to recover

The coronavirus pandemic, which has taken more than one million lives so far, has propelled the science–politics relationship into the public arena as never before, and highlighted some serious problems. COVID-related research is being produced at a rate unprecedented for an infectious disease, and there is, rightly, intense worldwide interest in how political leaders are using science to guide their decisions — and how some are misunderstanding, misusing or suppressing it. And there is much interest in the fluctuating relationship between politicians and the scientists who governments consult or employ.

Scholarly autonomy under threat

Perhaps even more troubling are signs that politicians are pushing back against the principle of protecting scholarly autonomy, or academic freedom. This principle, which has existed for centuries — including in previous civilizations — sits at the heart of modern science.

Today, this principle is taken to mean that researchers who access public funding for their work can expect no — or very limited — interference from politicians in the conduct of their science, or in the eventual conclusions at which they arrive. And that, when politicians and officials seek advice or information from researchers, it is on the understanding that they do not get to dictate the answers. This is the basis for today’s covenant between science and politics, and it applies across a range of research, education, public-policy and regulatory domains.


Related article: What a Joe Biden presidency would mean for five key science issues

It is not a perfect system by any means. Some research areas are more autonomous than others, and autonomy can never be a blank cheque: researchers must also be held accountable for their actions, and standards of quality and integrity must be upheld. But protection for autonomy is a long-standing benchmark, the standard to which experts and policymakers aspire. It requires a degree of trust between researcher and politician that each will keep to their word. And when this trust starts to ebb away, the system, too, begins to look vulnerable.

That trust is now under considerable pressure around the world. Cracks have been evident for years in the field of climate change, with a number of politicians ignoring or seeking to undermine the irrefutable evidence showing that humans are the cause. But this lack of trust can now also be seen in other public domains in which verifiable knowledge and research are needed for effective policy-making.

Last year, Brazil’s President Jair Bolsonaro sacked the head of the country’s National Institute for Space Research because the president refused to accept the agency’s reports that deforestation in the Amazon has accelerated during his tenure. In the same year, more than 100 economists wrote to India’s prime minister, Narendra Modi, urging an end to political influence over official statistics — especially economic data — in the country.


Related article: Scientists must rise above politics — and restate their value to society

And just last week, in Japan, incoming Prime Minister Yoshihide Suga rejected the nomination of six academics, who have previously been critical of government science policy, to the Science Council of Japan. This is an independent organization meant to represent the voice of Japanese scientists. It is the first time that this has happened since prime ministers started approving nominations in 2004.

The pandemic, too, is uncovering examples of political interference in science. In June in the United Kingdom, the statistics regulator wrote to the government, highlighting repeated inaccuracies in its COVID-19 testing data, which the regulator says seem to be aimed at showing “the largest possible number of tests”.

The fields of public-health and infectious-disease research have revealed much about the effects of pandemics and how to curb them. This year, a large volume of work on COVID-19 has illuminated the behaviour of both the virus and the disease. Research has also revealed uncertainties, gaps and errors in our knowledge, as would be expected. But that doesn’t excuse the behaviour we are seeing from politicians around the world, exemplified by Trump’s notorious actions: a chaotic, often ill-informed response, with scientists being attacked and undermined.

The principle that the state will respect scholarly independence is one of the foundations underpinning modern research, and its erosion carries grave risks for standards of quality and integrity in research and policymaking. When politicians break that covenant, they endanger the health of people, the environment and societies.

This is why Nature’s news correspondents will redouble their efforts to watch and report on what is happening in politics and research worldwide. It is why authors of our expert commentaries will continue to assess and critique developments; and why the journal is looking to publish more primary research in political science.

And, in these editorial pages, we will continue to urge politicians to embrace the spirit of learning and collaboration, to value different perspectives, and to honour their commitment to scientific and scholarly autonomy.

The conventions that have guided the relationship between science and politics are under threat, and Nature cannot stand by in silence.

ロゼッタ・ストーン外国語学習法

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とね日記では15年近く、科学系の本を読んで紹介しているが、日ごろから頭を悩ませていることがある。物理学や数学の読書に時間を割きたいし、一般の本も読みたい。英語やフランス語の力もつけておきたい。それぞれ時間がかかるから、科学の本を読んでいると「小説も読みたい」とか「語学学習にも時間を割きたい」という欲求がムクムクと頭をもたげてきて、常にストレスを抱えながら先を急ぐことになる。

洋書を読み、紹介し始めたのは日本語で「素粒子標準模型入門: W.N.コッティンガム、D.A.グリーンウッド」を読んだのがきっかけだった。樺沢先生がたまたま和訳したのが原書の初版で、その後刊行されていた原書第2版を読んでおきたいと思ったのである。そして書いたのが「An Introduction to the Standard Model of Particle Physics 2nd Edition: W.N.Cottingham, D.A.Greenwood」という記事だった。

その後、2018年3月にホーキング博士がお亡くなりになり、いちばん有名な「ホーキング、宇宙を語る」の日本語版英語版を読んで紹介した。これも日本語版は原書初版にとどまっていて、その後改訂された原書を読んでおきたいと思ったからである。

ところが科学書を日本語で読んでから英語で読むと、上で書いたようなストレスが無くなったのである。2冊目として再読する英語版では日本語版を読んだときに取りこぼしたことや忘れてしまったことのおさらいができるし、何より日本語版で読んでいるから英語も理解しやすくなる。科学への好奇心を満たしつつ、語学学習をすることができるから一石二鳥だ。科学を楽しく語って人に伝えられるようになりたい。それが外国語でもできるようになりたい。これは面白そうだと思った。

同じことはフランス語についても言える。フランス文学を読むより、好きな科学本を読むほうがはるかに楽しい。日本語で読み、次に英語で読んでから、さらにフランス語で読めば、一石三鳥。フランス語でも科学をを(理系の)フランス人の友達に楽しく語れるようになる。意味がわからない箇所がでてきたら、英語版か日本語版を開いて確認すれば辞書を引くより効率的に学べる。(辞書を引くのはもちろん大事だ。)同じ本を3回読むことになるから、さすがに記憶に定着する。

日本語で読むよりも英語のほうが精読することになるから、記憶に残りやすい。そしてフランス語になるとさらに精読することになる。読み進めるうちに慣れてきて、文法を意識せず意味が入ってくるようになるのだ。学生時代にしていた英文解釈、仏文解釈のような読み方は自然に消えていく。

そうして初めて3カ国語で読んだのが昨年9月で、いちばん好きな本「光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学: R.P.ファインマン」だった。紹介記事は日本語版英語版フランス語版のリンクとしてお読みいただける。

この段階で僕の外国語学習法は出来上がった。名付けて「ロゼッタ・ストーン外国語学習法」だ。厳密に言うとロゼッタ・ストーンに書かれているのは3カ国語ではなく、2カ国語(古代エジプト語のヒエログリフ(神聖文字)とデモティック(民衆文字)の2種類の表記法、そして古代ギリシャ語)なので、ロゼッタ・ストーンを持ち出すのは間違いだが、細かいことは気にしないことにした。

一般の小説についても、この方法で学べばよいことにも気がついた。英語やフランス語で一般書(特に文学)を読むのはビジネスレベルの語学力があったとしても語彙力、表現力不足になりがちで苦労するものだ。でも、日本語で読んでおけば、すらすらと読めるようになる。完璧に読もうとして、いちいち辞書を引いていたら時間がかかり過ぎて読むのが苦痛になってくる。楽しく読むのが長続きさせるコツだ。

英語やフランス語の本の紹介記事は、外国語が苦手な読者でも参考にしていただけるよう、日本語で書くことにしている。英語やフランス語の作文学習は、僕にとって次の段階の課題とする。


ところでネット検索するとわかるのだが、「ロゼッタストーン(Rosetta Stone) - 言語学習プログラム」というのが見つかる。24言語を同じメソッドで学べるユニークな語学プログラムである。これは、僕の「ロゼッタ・ストーン外国語学習法」とはまったく関係ない。

今後、僕のロゼッタ・ストーン外国語学習の進捗は「記事一覧(洋書:英語書籍、フランス語書籍)」という記事で更新していく。


ロゼッタ・ストーンについて

せっかくだからロゼッタ・ストーンのことも書いておこう。詳細は「ウィキペディアの記事」を読んでいただきたい。この石が作られたのは紀元前196年。プトレマイオス5世によってメンフィスで出された勅令が刻まれた石碑の一部だ。縦114.4cm、横72.3cm、厚さ27.9cm、重量760kg。

1986年にパリで短期留学した際、ロンドンに遊びに行って大英博物館に展示されているロゼッタ・ストーンを見たことがある。当時と今では展示のしかたがまったく違うことを、今回調べて気がついた。次の2枚の写真は1985年と2019年に撮影されたものだ。

1985年:拡大


2019年:拡大


この石には「プトレマイオス」(天文学者ではなく古代エジプト国王のプトレマイオス5世)の名前が書かれているのを知っていたから、身を乗り出して探したら5分くらいで見つけることができた。僕は「クレオパトラ」の名前も書かれているのだと勘違いしていたから、その後もずっと探していたのだが、30分くらいこの石を凝視していたところ、近くにいたガードマンに注意されて探すのをやめたことを思い出した。ヒエログリフだと、それぞれこのように表記するそうだ。



「プトレマイオス」は3か所、それぞれこのような文字で書かれている。

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「プトレマイオス」のヒエログリフと古代ギリシャ語の位置はここに示されている。「クレオパトラ」の文字ははロゼッタ・ストーンではなく、右側の「オベリスク」に書かれていたそうだ。(詳細はウィキペディアの「ロゼッタ・ストーン」に書かれている。)「プトレマイオス」と「クレオパトラ」に共通の文字があることが、ヒエログリフ解読の糸口になった。

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大英博物館はオンラインで展示物を公開している。ロゼッタ・ストーンの写真は以下の「開く」のリンクで何種類も見ることができる。拡大して「プトレマイオス」を探してみてはいかがだろうか。

開く


次のページのほうがコントラストが強いので、探しやすいかもしれない。画像をクリックするとその部分を拡大することができる。

開く



さて、ロゼッタ・ストーンには何が書かれているのだろうか?ギリシャ語をもとに日本語に翻訳した全文は、以下のページから読むことができる。ひと言でいうと「紀元前196年、内乱と外国の侵入で揺れ動くエジプトの国王に即位したプトレマイオス5世は、税金の恩赦を布告した。」となる。

ロゼッタストーン/日本語訳とその解説
http://www.moonover.jp/bekkan/hiero/index.htm


ロゼッタ・ストーンやこれを解読したシャンポリオンについて詳しく知りたい方には、この本をお勧めしたい。

ロゼッタストーン解読 (新潮文庫)


英語のKindle書籍であれば、解説書が何種類も見つかる。(Amazonで検索


ロゼッタ・ストーンのレプリカは、次のような商品が購入できる。

ロゼッタストーン レプリカ 壁掛け: Amazonで開く
ロゼッタ・ストーン 壁彫刻: Amazonで開く
Rosettaストーン、Plaque: Amazonで開く
エジプトのロゼッタストーン像の装飾: Amazonで開く


関連記事:

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L'ordre du temps: Carlo Rovelli(時間は存在しない)

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L'ordre du temps: Carlo Rovelli」(通常版

内容紹介:
Dans ses Sept brèves leçons de physique, Carlo Rovelli confiait qu'une question avait guidé sa vie de chercheur : la nature du temps. Se hissant sur les épaules d'Isaac Newton, d'Albert Einstein, de Stephen Hawking et de bien d'autres, il nous livre enfin ses découvertes dans ce livre majeur. Le temps est au cour d'un étrange mystère. Tel un flocon de neige qui fond lorsqu'on s'en saisit, il s'est progressivement délité sous les assauts de la science : on sait dorénavant que le temps s'écoule plus lentement en plaine qu'en altitude ; qu'à l'échelle des étoiles et des planètes, il varie d'un point à l'autre, tandis qu'il ne « passe » pas au niveau microscopique.
Que reste-t-il de tangible dans ces décombres ? Et comment construire une théorie du temps qui colle à notre perception, mais aussi à l'analyse des philosophes et aux fulgurances des poètes ? Voilà le défi brillamment relevé par Carlo Rovelli au fil des pages. Émerge alors un paysage d'une beauté inouïe où, pour la première fois, le temps retrouvé surgit de façon naturelle.

2018年2月28日刊行、276ページ。原書イタリア語版刊行は2017年4月。

著者について:
カルロ・ロヴェッリ Carlo Rovelli
ホームページ: http://www.cpt.univ-mrs.fr/~rovelli/
Twitter: @carlorovelli
Carlo Rovelli est physicien théoricien à l'université de Marseille. Ses Sept brèves leçons de physique (O. Jacob, 2015) ont connu un succès mondial, avant L'Ordre du temps (Flammarion, 2018, Champs 2019).

ロヴェッリ博士の日本語著書を検索: 書籍版 Kindle版
ロヴェッリ博士の外国語著書を検索: 書籍版 Kindle版


理数系書籍のレビュー記事は本書で448冊目。

ロゼッタ・ストーン外国語学習法」の実践としてフランス語で読んだのが本書である。すでに日本語版英語版を読んで紹介しているので、内容については主に日本語版の紹介記事を参照していただければよいと思う。

フランス語版は標準価格版と廉価版がある。どちらもペーパーバックなので廉価版のほうを購入した。黒と明るい青の二色刷り、本の中央にはカラーの図版がある。日本のアマゾンから注文してもフランスから発送されるから届くのに3週間くらいかかった。フランスのAmazon.frからはKindle版がでているのだが、日本からは購入できない。フランス語書籍でAmazon.co.jpからKindle版を購入できる本は「ハリーポッター・シリーズ」や「アンネの日記」を含め、有名なものに限られている。(検索してみる


本書の構成と紹介

構成と章立ては、次のとおりだ。

Le Plus Grand Mystère Est Peut-Etre Celui Du Temps

Première Partie: L'EFFITEMEMT DU TEMPS

Chapitre 1: La Perte de L'unicité
Chapitre 2: La Perte de Direction
Chapitre 3: La Fin du Présent
Chapitre 4: La Perte de L'indépendence
Chapitre 5: Quanta de Temps

Deuxième Partie: LE MONDE SANS TEMPS

Chapitre 6: Le Monde Est Fait D'événements, Pas de Choses
Chapitre 7: L'inadéquation de la Grammaire
Chapitre 8: La Dynamique Comme Relation

Troisième Partie: LES SOURCE DU TEMPS

Chapitre 9: Le Temps Est Ignorance
Chapitre 10: Perspective
Chapitre 11: Ce Qui Émerge D'une Particularité
Chapitre 12: Le Parfum de la Madeleine
Chapitre 13: Les Sources du Temps

La Sœur du Sommeil


上記「内容:」の日本語訳

『物理学の7つの短いレッスン(日本語版は「世の中ががらりと変わって見える物理の本」(Kindle版)(改変された文庫版))』で、カルロ・ロヴェッリは、研究者としての彼の人生を導いた1つの疑問、つまり時間の性質について打ち明けました。アイザック・ニュートン、アルバート・アインシュタイン、スティーブン・ホーキング、その他多くの人々の肩に乗って、彼はついにこの素晴らしい本で彼の発見を私たちに届けています。時間は奇妙な謎の中心にあります。捕えると溶けてしまう雪の結晶のように、科学からの猛攻撃の下で徐々に崩壊してきました。現在では、低い場所では高い場所よりも時間がゆっくりと経過していることがわかっています。また星や惑星のスケールでは、時間ははある地点と別の地点での進み方が違います、微視的なレベルになると時間は「経過する」こともなくなってしまいます。
そのような時間の残骸の中には、いったい何が残っているのでしょうか?そして、私たちの認識だけでなく、哲学者や詩人による鋭い分析にもこだわると、時間の理論をどのように構築することができるのでしょうか?これらのことについて、カルロ・ロヴェッリが本書の中で見事に展開、解説を行なっています。時間が自然に現れるということが初めて再発見され、そこには前代未聞の美しさの風景が現れてきたのです。


本書の紹介記事(フランス語)

Carlo Rovelli. L'ordre du temps. Mis à jour au 06/04/2018
Carlo Rovelli est physicien, auteur avec Lee Smolin de la théorie de la gravité quantique à boucles. Il est directeur de recherche au CNRS à Marseille.
https://blogs.mediapart.fr/jean-paul-baquiast/blog/040418/carlo-rovelli-lordre-du-temps-mis-jour-au-06042018


「時間は存在しない」の内容に沿った動画

講演会:

YouTubeで再生:(再生時間 1時間27分)
量子重力:物理学者たちは時間を抹殺しようとしている

Gravité quantique : des physiciens tuent le temps


La relativité d'Einstein et la mécanique quantique sont deux théories physiques pour le moment incompatibles. Une des voies de recherche pour les réconcilier consiste à abandonner la notion de temps, au moins telle que nous la connaissons. Il devient alors possible de décrire le monde sans le temps.

Rencontre avec Carlo Rovelli, astrophysicien au centre de physique théorique de Luminy, professeur à l'Université de la Méditerranée, membre de l'Institut de France, co-inventeur avec Lee Smolin de la théorie de la gravité à boucles quantiques.

アインシュタインの相対性理論と量子力学は、現在互換性のない2つの物理理論です。それらを調整するための研究の道の1つは、少なくとも私たちが知っているように、時間の概念を放棄することです。そうすれば、時間のない世界を記述することが可能になります。

ルミニー理論物理学センターの天体物理学者、地中海大学教授、カルロ・ロヴェリ氏の会見。フランスループ研究所のメンバーであり、量子ループを用いた重力理論のリー・スモーリンとの共同発見者です。


討論会:

Faut-il tuer le temps ? - 時間は抹殺しなければならないのか?
YouTubeで再生: 第1部 - プレゼンテーション(再生時間 34分59秒)
YouTubeで再生: 第2部 - 討論(再生時間 30分45秒)
YouTubeで再生: 第3部 - 質疑応答(再生時間 24分33秒)

Faut-il tuer le temps ?– 1ère partie : les exposés


Faut-il tuer le temps ? - 2e partie : le débat


Faut-il tuer le temps ?- 3e partie : les questions avec le public1


Débat (en trois parties) entre Carlo Rovelli et Patrick Peter, modéré par Michel Blay
mardi 7 octobre à 19h au Palais de la découverte, Paris.

https://www.dunod.com/sciences-techniques/et-si-temps-n-existait-pas

Faut-il tuer le temps ?
Le Temps est la variable « reine » de la physique, qui dicte sa danse dans les équations.
Le temps constitue-t-il une notion qui se transforme selon les besoins de la physique ou une notion indépendante ? Faut-il encore la transformer pour résoudre les impasses de la physique actuelle ou peut-on juste s’en débarrasser sans dégât ?

Carlo Rovelli est un physicien italien, Professeur à l'Université de la Méditerranée, directeur de recherche au Centre de physique théorique de Luminy à Marseille et membre de l'Institut universitaire de France. Il est l'auteur de plusieurs ouvrages de vulgarisation scientifique dont Et si le temps n'existait pas? (nouvelle édition 2014) et Anaximandre de Milet ou la naissance de la pensée scientifique (2009), parus aux éditions Dunod.

Patrick Peter est directeur de recherches à l’Institut d’Astrophysique de Paris. Il travaille dans le domaine de la cosmologie primordiale depuis plus de 20 ans, en particulier le lien avec la physique des particules. Il a publié deux ouvrages Cosmologie primordiale (2e ed. 2012) aux éditions Belin et Des défauts dans l’Univers (2003) chez CNRS Editions.

Cette conférence-débat sera modérée par Michel Blay, philosophe et historien des sciences, directeur de recherche émérite de classe exceptionnelle au CNRS, Président du Comité pour l’Histoire du CNRS, auteur de nombreux ouvrages dont L’existence au risque de l’innovation (2014).

Cette conférence s'inscrit dans un workshop de l'Observatoire de Paris (le lieu du temps en France avec l’heure légale diffusée par le SYRTE) qui réunit des spécialistes internationaux physiciens, philosophes, historiens sur la question de la précision dans la mesure du temps.

En 2014, le théoricien de la physique américain Lee Smolin a publié La renaissance du temps, alors que Carlo Rovelli proposait une nouvelle édition de son livre Et si le temps n'existait pas?, tous deux aux éditions DUNOD. Aujourd’hui, la physique nous amène à questionner l’existence du temps, en particulier dans le cadre de la gravité quantique. Lee Smolin a exposé dans son livre les raisons pour lesquelles il pense que nous avons de meilleures chances de comprendre le monde si nous conservons au temps son statut…Le débat est ouvert !

ミシェル・ブレイの司会、カルロ・ロヴェリとパトリック・ピーターの間の討論(3部構成)
10月7日火曜日午後7時、パリのパレドゥラデクベール。

https://www.dunod.com/sciences-techniques/et-si-temps-n-existait-pas

時間を抹殺するのですか?
時間は、物理学の「女王」変数であり、方程式における変化を決定します。
時間は、物理学のニーズまたは独立した概念に従って変化する概念を構成しているのでしょうか?現在の物理学の行き止まりを解決するために、まだ書き換える必要があるのでしょうかそれとも損傷させることなく問題を取り除くことができるのでしょうか?
カルロ・ロヴェッリはイタリアの物理学者、地中海大学教授、マルセイユのルミニー理論物理学センターの研究責任者、フランス国立研究所のメンバーです。彼は「そしてもし時間が存在していなかったら?」(新版2014)をはじめ、いくつかの人気の科学の本の著者ですかとミレトスのアナクシマンドロスまたは科学思想の誕生(2009)、Dunodエディションが刊行されています。。

パトリック・ピーターは、パリの天体物理学研究所の研究ディレクターです。彼は原始宇宙論の分野で20年以上、特に素粒子物理学との関連で働いてきました。彼は2冊の本 『Primordial Cosmology 2nd ed with CNRS Editions』(2つの異なる版がある)を出版しています。

この会議の討論は、科学の哲学者で歴史学者であり、CNRSの例外クラスの名誉研究ディレクター、CNRSの歴史委員会の会長、イノベーションのリスクを含む多数の作品の著者であるミシェル・ブレイによって司会が行われます。

この会議は、物理学者、哲学者、歴史学者の国際的専門家が集まり、時間の測定の精度の問題について議論する、パリ天文台(SYRTEが合法的に時報を放送するフランス時間の拠点)のワークショップの一部です。

2014年、アメリカの物理学者リー・スモーリンは「時間のルネサンス」を出版し、カルロ・ロヴェッリは彼の著書「時間は存在しない」の新版を書きました。どちらもDUNODが発行しました。今日、物理学は、特に量子重力のコンテキストにおいて、時間の存在に疑問を投げかけています。 リー・スモーリンは自身の著書で、自分がポストを長期間維持することで世界を理解できるようになる可能性が高いと考える理由を著書で説明しています…さて、討論が始まります!


科学はどのようにして誕生したか?最初の科学はアナクシマンドロスから

Conférence donnée à l'IAP le 1er février 2011, par Carlo Rovelli, Professeur à l'Université de la Méditerranée (Centre de physique théorique de Luminy, Marseille).

Comment est née la science ? Anaximandre, premier scientifique(再生時間1時間37分)



著書と訳書(科学教養書)

本書の原書はイタリア語で書かれている。原書のほか英語版とフランス語版を載せておく。

時間は存在しない: カルロ・ロヴェッリ」(Kindle版)(紹介記事
L'ordine del tempo: Carlo Rovelli
The Order of Time: Carlo Rovelli」(Kindle版)(紹介記事
L'ordre du temps: Carlo Rovelli」(廉価版
   


博士はこのほかにも何冊か一般向けの教養書をお書きになっている。現時点で日本語に翻訳されているものを外国語版とともに載せておこう。日本語版のタイトルは原書とまったく違うが、対応関係はこれで正しいことを確認した。

すごい物理学講義: カルロ・ロヴェッリ」(文庫版)(文庫Kindle版)(紹介記事
La realtà non è come ci appare: Carlo Rovelli
Reality Is Not What It Seems: Carlo Rovelli」(Kindle版)(紹介記事
Par delà le visible La réalité du monde: Carlo Rovelli
   


世の中ががらりと変わって見える物理の本: カルロ・ロヴェッリ」(Kindle版)(改変された文庫版
Sette brevi lezioni di fisica: Carlo Rovelli
Seven Brief Lessons on Physics: Carlo Rovelli」(Kindle版
Sept brèves leçons de physique: Carlo Rovelli
   


ループ量子重力の本

博士のご専門は量子重力理論のうちのひとつ、ループ量子重力理論だ。博士による入門者向け専門書(英語)、他の著者による教養書と入門者向け専門書を紹介しておこう。

Covariant Loop Quantum Gravity: Carlo Rovelli, Francesca Vidotto」(Kindle版
繰り返される宇宙: マーチン・ボジョワルド」(ドイツ語原書)(原書Kindle版
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L'ordre du temps: Carlo Rovelli」(標準版


Le Plus Grand Mystère Est Peut-Etre Celui Du Temps

Première Partie: L'EFFITEMEMT DU TEMPS

Chapitre 1: La Perte de L'unicité
- Le ralentissement du temps
- Dix mille Shiva dansants

Chapitre 2: La Perte de Direction
- D'où vient le courant éternel?
- Chaleur
- Flou

Chapitre 3: La Fin du Présent
- Laa vitesse ralentit aussi le temps
- "Maintenant" ne veut rien dire
- La structure temporelle sans présent

Chapitre 4: La Perte de L'indépendence
- Que se passe-t-il lorsqu'il ne se passe rien?
- Qu'y a-t-il là où il n'y a rien?
- La danse de trois géants

Chapitre 5: Quanta de Temps
- Grannualité
- Superpositions quantiques de temps
- Relations

Deuxième Partie: LE MONDE SANS TEMPS

Chapitre 6: Le Monde Est Fait D'événements, Pas de Choses
Chapitre 7: L'inadéquation de la Grammaire
Chapitre 8: La Dynamique Comme Relation
- Événements quantiques élémentaires et réseaux de spin

Troisième Partie: LES SOURCE DU TEMPS

Chapitre 9: Le Temps Est Ignorance
- Temps thermique
- Temps quantique

Chapitre 10: Perspective
- C'est nous qui tournons!
- Indexicalité

Chapitre 11: Ce Qui Émerge D'une Particularité
- C'est l'entropie, et non l'énergie, qui entraîne le monde
- Trances and Causes

Chapitre 12: Le Parfum de la Madeleine
Chapitre 13: Les Sources du Temps

La Sœur du Sommeil

Notes
Crédits
Index
Table

映画『この空の花 -長岡花火物語(2011)』大林宣彦監督

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昨年、映画『花筐/HANAGATAMI(2017)』を観たときに、大林宣彦監督の「戦争3部作」と呼ばれるこの『この空の花 -長岡花火物語(2011)』も、いつか観ようと思っていた。幸い、Amazon Prime Videoで観れるようになった。今年4月10日に逝去された大林監督の追悼をしないまま年を越すわけにはいかないのだ。映画を観て想いを受け止めるとともに、映画を紹介することで、監督が人生を通して学び取ったこと、若者たちに伝えようとしていたメッセージを広めることが僕にとっての追悼である。

戦争3部作:
『この空の花 -長岡花火物語(2011)』
『花筐/HANAGATAMI(2017)』:紹介記事 予告編
『海辺の映画館-キネマの玉手箱(2020)』:予告編 舞台挨拶

また、『海辺の映画館-キネマの玉手箱(2020)』が製作されるまでは、『この空の花 -長岡花火物語(2011)』の姉妹作品『野のなななのか(2013)』(予告編&Prime Video監督インタビュー舞台挨拶)を3作目としていた。結局、戦争4部作になったと考えてよいのだと思う。

映画『この空の花 -長岡花火物語(2011)』ストーリー:
新潟県長岡市を訪れた、女性新聞記者・遠藤玲子はさまざまな人と出会い不思議な体験をする。2004年の新潟県中越地震を乗り越え復興した長岡市は、2011年の東日本大震災のときはいち早く被災地を援助した。その地を取材するため、また、元恋人から届いた手紙に引き寄せられ、玲子は長岡市を訪れた。『まだ戦争には間に合う』という舞台を書いた女子学生・元木花を中心に、長岡空襲からはじまる長岡市の記憶が鮮やかに蘇る。

映画『この空の花 -長岡花火物語(2011)』予告編
[Blu-ray, DVD]、[Prime Video]、[YouTubeムービー]

ウィキペディア:「この空の花 長岡花火物語

この空の花「長岡映画」制作委員会
https://www.locanavi.jp/konosora/

映画『この空の花 長岡花火物語(2011)』公式サイト(インターネット・アーカイブ)
http://www.konosoranohana.jp/

大林監督の著書: 単行本 Kindle版


東日本大震災の衝撃があまりにも大きかったため、僕は2004年10月の「新潟県中越地震」を忘れかけていた。(そしてその2か月後には30万人の死者を出した「スマトラ島沖地震」も起きていた。)どちらかというと震度6強にみまわれた「山古志村」という名前で記憶に残っている。この村は2005年に長岡市に編入合併されている。

長岡は花火大会のイメージしかもっていなかった。この映画を観て、中越地震、東日本大震災、そして太平洋戦争末期の長岡空襲が僕の中でひとつにつながった。その起点は戊辰戦争からの復興にある。僕はこの映画によって、長岡花火は戦禍や自然災害による犠牲者を悼み、悲しみを乗り越えて生きようとする市民の祈り、復興への願いの象徴なのだと教えてもらった。「慰霊と復興、平和への祈り」である。

この映画が製作された2011年7月には、新潟・福島豪雨がおきてしまい、花火大会の開催は無理だと思われたが奇跡的に開催することができたのだ。当時のことは、この映画で描かれているほか、この空の花「長岡映画」制作委員会のこのページで読むことができる。(2011年の長岡花火大会の動画を確認する

非常に多くの方が大林監督と映画を愛しているのがよくわかる。大林ファミリーの俳優の方々も、継続して監督の作品に出演している。この作品では尾美としのりさん、村田雄浩さん、根岸季衣さんが、特に古いメンバーだ。戦争3部作からメンバーに加わりその後の作品にも出演されている方々もいる。役者にとって大林映画に起用されるのは名誉なことだと思う。

今年は新型コロナウィルスにより長岡花火大会が中止を余儀なくされた。それが発表されたのは4月10日で、まさに監督がお亡くなりになった日なのだ。(参考:「2020年 長岡まつり大花火大会開催中止のお知らせ」)2つの知らせを同じ日に知って愕然とした。せめて、花火大会中止のニュースを知らないまま旅立っていてくださっていればよいと僕は祈っていた。

その後、市長の会見を目にしたが、大林監督の逝去の知らせを受け、大変申し訳なく思うとおっしゃっていた。緊急事態宣言が東京を含む7都道府県に出されたのは4月7日、それが全国に拡大されたのが4月16日である。監督は新型コロナウィルスの拡大をご存知だったかもしれないが、長岡花火大会は開催してほしいと願いつつ旅立たれたのだと僕は思いたい。

広島と長崎に落とされた原爆が、あまりにも正確に投下されていたことを僕はこれまで不思議に思っていた。しかし、この映画で謎は解けた。アメリカは原爆と同じ形で中に通常火薬を詰めた「模擬原爆」を作り、7月中に日本全土の50ヶ所以上で投下訓練を行っていたことをこの映画で知ったからだ。史上初の原爆実験(トリニティ実験)が行われていた頃である。そのうちの1つが長岡市にも投下され、畑の中に直径20メートルの大穴を作った。死者と負傷者もでている。

映画が製作されたのは2011年。それから9年が経ち、今では平和の大切さを主張したり、戦争反対の気持ちをツイートすると反日呼ばわりされるようになってしまった。監督は、戦前の軍国主義的な雰囲気が忍び寄っていることを2010年以前から敏感に感じとられていた。それが、最後の仕事となる「戦争3部作」制作の動機となったのである。

来年は、新型コロナウィルスがおさまり、長岡花火大会をはじめ、全国で花火大会や祭りが開催できるようになってほしい。(ただし、東京オリンピックは除く。)

監督によるインタビュー動画、関連動画をいくつかピックアップしておこう。最初のインタビュー動画には心を打たれた。若者に対してこのように語れる大人はほとんどいなくなってしまったと思う。まだ1537回しか再生されていないようなので、ぜひご覧いただきたい。

映画「この空の花 -長岡花火物語」大林宣彦監督インタビュー(YouTubeで再生


長岡開府400年記念メッセージ 大林宣彦さん:2018年7月(YouTubeで再生


2020【長岡】大林監督追悼の花火:2020年9月(YouTubeで再生


2012長岡花火 この空の花 「うつくしすぎる・・・」(YouTubeで再生


2019長岡花火  マルゴー「この空の花」すげぇ~良かった!!(YouTubeで再生


[4K] 長岡花火 2020 慰霊の白菊3発+コロナ終息祈願花火1発(YouTubeで再生


長岡花火大会の動画: YouTubeで検索


映画をご覧になりたい方は、こちらからどうぞ。

映画『この空の花 -長岡花火物語(2011)』
[Blu-ray, DVD]、[Prime Video]、[YouTubeムービー]


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大林宣彦氏からの手紙(このページから引用)

「戦争を憎み、人を赦し合うことでしか、平和は生まれない」
-- ある米国傷痍軍人の友の言葉から --

 2009年夏、縁有って僕は長岡の花火を見学しました。折からの群青色の不思議な明るい空に純白の雲が浮び、この空に巨大な花火が咲く。名立たるイヴェント花火かと思っていたが、然にのみ非ず。ここには何だか深い物語が秘められた、人の思いの気配を感じて、僕は思わず、温く、涙した。そしてこの花火は「戦禍を忘れぬ」追悼の花火であると知った。人集めのイヴェントならば土・日に開催されるべき大会を毎年同じ日に行う誠実さに、長岡の人の魂を学んだ。「映像の背後にどれほどの人の願い、思いが言葉となって秘められているか」を問う「映画」の思いと、この「長岡花火」の願いが僕の中でひとつに結びついた。——「世界中の爆弾を全て、花火に替えたい!」。これは映画の骨格を成す、良き人の言葉である。更にまた、この空の花火に怯える老女の話など、戦争の痛ましさを忘れ得ぬ人間の、純なる心ではあるまいか。そしてこの悲しみを忘れぬ強い願いこそが、全世界の人びとに語りかけていく「物語」の力と美しさではないだろうか。

  2010年になって「長岡花火」を映画にしようという企画が持ち上がった。その際、来年の12月、「長岡市はハワイの真珠湾で追悼の花火を打ち上げようとしている」という話を聞いた。それはかつての日本の「敗戦少年」である僕の魂を激しく揺さぶる「物語」でありました。

  ―1945年以降の日本には「終戦」は有るが「敗戦」(の体験)がない。その「戦争を忘れよう」という姿勢によって、戦後日本の半世紀を超える「平和」が、どこか不安定で真実の姿を見せ得ないという不安要素となっている(どこか実質に欠ける、まるで「イヴェントのような平和」なんですね)。1960年代、「敗戦」の痛みを忘れ、一気に「平和日本」を迎えた日本の青年であった僕など、そのままアメリカに渡り、訪ねる先先で「ゲラウト・ヒア(出てけ)・ジャップ! 俺の倅は真珠湾でお前ら日本野郎に殺されたんだ!」と罵声を浴び、ホテルを追い出された。しかし又アメリカ人の親友も出来、「悪いのは戦争だ。戦争を憎み、人を赦し合うことでしか、平和は生まれない」と語る、片脚をパールハーバーで失った老人とも親しくなりました。「原爆」や「東京大空襲」などと共に「真珠湾を忘れない」ことこそが、この日本の平和を、更には日米両国の友情を築くことだと信じる僕など日本の「敗戦少年」は、故にこの長岡市が願う「真珠湾追悼花火」の実現に、「平和の世」を導くための、一つの「日本の奇蹟」を見る思いなのであります。8月1日の「長岡追悼花火」をプロロオグにして、「真珠湾の追悼花火」をこそエピロオグに、そして「この空」に咲く「花」の祈りの物語を主題に、この映画は「長岡古里映画」、一本の願いのファンタジー、健気な「夢」として完成されるべきでしょう。

  映画を創るには「旬」があります。今こそこの「長岡花火物語」の映画の花をスクリーンたる「この空」に、大きく深く美しく咲かせるべき時ではないか。映画は小説や絵画のような「個人芸術」ではなく、ビル一棟、船一艘建設するが如き大事業であります。この「長岡花火」一本が実現するために、私たち映画製作スタッフも深い情熱を一歩一歩未来へ向かって進めて参ろうと決意して居りますので、古里のみなさま、何卒宜しくお願い申し上げます。

2010年 夏の初め。
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