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QED: The Strange Theory of Light and Matter: Richard P. Feynman

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QED: The Strange Theory of Light and Matter (2006): Richard P. Feynman
(Kindle版)(2014)(1986

内容紹介:
Celebrated for his brilliantly quirky insights into the physical world, Nobel laureate Richard Feynman also possessed an extraordinary talent for explaining difficult concepts to the general public. Here Feynman provides a classic and definitive introduction to QED (namely, quantum electrodynamics), that part of quantum field theory describing the interactions of light with charged particles. Using everyday language, spatial concepts, visualizations, and his renowned "Feynman diagrams" instead of advanced mathematics, Feynman clearly and humorously communicates both the substance and spirit of QED to the layperson. A. Zee's introduction places Feynman's book and his seminal contribution to QED in historical context and further highlights Feynman's uniquely appealing and illuminating style.

2006年刊行、158ページ。初版は1986年刊行

著者について:
Richard P. Feynman (1918-1988): Wikipedia ウィキペディア
Professor of Physics at the California Institute of Technology. A. Zee is a Permanent Member of the Institute for Theoretical Physics and Professor of Theoretical Physics at the University of California, Santa Barbara. He is the author of "Fearful Symmetry: The Search for Beauty in Modern Physics" and "Quantum Field Theory in a Nutshell" (both Princeton).


理数系書籍のレビュー記事は本書で424冊目。

このタイミングで本書を読んだのは、僕の虫歯がきっかけだった。これはファインマン先生の著作の中でも人気が高い「光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学 (文庫、2007): R.P.ファインマン」の原書英語版である。

8月上旬から左下の奥歯が痛み出していたのだが、お盆休みでかかりつけの歯科医院がお休みだったので鎮痛剤でしのいでいた。お盆が明けてようやく歯科に通い出した。子供の頃からお世話になっているその医院の先生は科学好きで、科学雑誌Newtonや科学教養書をときどき読んでいる。前回の通院時には読み終えていた「素数に憑かれた人たち ~リーマン予想への挑戦~:ジョン・ダービーシャー」を先生にプレゼントしていた。

いま先生は「『超ひも理論と宇宙のすべてを支配する数式』 (ニュートン別冊)」(詳細)をお読みになっている。治療の合間にこの本をもっていらっしゃり、式のいちばん左の「S」って何?と質問された。これは「作用」というもので日常用語でいう作用とは違い、物理学固有の意味ですよと説明した。残念ながらこの本には説明が書かれていないから、わからないのは無理もない。正しく説明するためには「解析力学」を学ばないといけないし、数式を使わないで解析力学を学ぶのは無理だ。

「作用」を理解してもらうために良い本はないかと考えて思いついたのが「光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学 (文庫、2007): R.P.ファインマン」(紹介記事)だった。読み終えていた本を2回目の治療のときに持っていって、先生に差し上げた。数式を使わない科学教養書だが少々難しめの本だ。この本の中に「作用」に至る考え方が解説されている。

僕が読んで紹介記事を書いたのは9年前。大好きな本だからもう一度読んでみようと思ったわけだ。ちょうど今は、日本の英語教育の問題に関心が高まり本も2冊読んでいる。英語は繰り返しで学ぶのが良いし、とにかく文章をたくさん読むのが大事だ。ということで英語で読むことにしたわけである。


9年前に書いた日本語版の紹介記事と重複するが、本書の概要をもう少し詳しく説明しておこう。

本書は、ファインマン先生が研究を続けてきた「量子電磁力学(QED: Quantum Electrodynamics)がテーマだ。主な研究対象は光子と電子、そしてその相互作用である。先生が1965年に受賞したノーベル物理学賞も電子についての「繰り込み理論」であり、ファインマン先生が考案した「経路積分」そして「ファインマン図による計算」という手法を含めて量子電磁力学に含まれる。

重力を除けば、この世界の物質現象の99パーセントは量子電磁力学がその基礎となっている。残りの1パーセントは原子核の中でおきている原子核物理学、量子色力学と呼ばれる研究領域で、これらも含めて量子電磁力学は素粒子の標準模型という理論の一部である。(標準模型を知るための科学教養書は「強い力と弱い力:大栗博司」がお勧め。)


ファインマン先生が科学者になるまでにわかっていたこと

19世紀末までに古典電磁気学はマックスウェルの方程式として完成し、光が波動であることが確認されていた。また、トムソンの実験により電子が発見されたのも19世紀末のことである。電流は多数の電子の流れであることも受け入れられていた。

20世紀に入り、1905年に光が粒子性をもつ「光量子」であることがアインシュタインにより発見される。また電子のほうもド・ブロイによって波動としての振る舞いが提唱され、光も電子も「粒子性」と「波動性」を兼ね備えた「量子」というくくりで考えられることになった。そして1925年に誕生した量子力学は量子の物理的性質を研究する新しい学問領域として急速に進展することになる。その波動力学としての基礎となるのが「シュレーディンガー方程式」だ。また量子の粒子性をあらわすのが「ハイゼンベルクの運動方程式」と呼ばれている基礎方程式である。

この2つの基礎方程式は見かけはまったく違うが、1932年までにフォン・ノイマンによって数学的には同じであることが証明された。その証明は「量子力学の数学的基礎: J.v.ノイマン」という本として出版されている。

1905年は「奇跡の年」と呼ばれている。この年にアインシュタインが発表した特殊相対性理論は、この世界が4次元の「時空」として存在していることを示した。量子力学はもともと3次元空間と1次元の時間を舞台として記述されているため、4次元の時空を舞台とする形に書き直す必要がでてきた。

量子力学と特殊相対性理論を統合するのが「相対論的量子力学」である。これを成し遂げたのがポール・ディラックであり、1928年に「ディラック方程式」として発表した。この方程式から導かれる予言によると「電子はスピンしていて、そのために磁気モーメントをもつ」ということ、そして「プラスの電荷を帯びた電子(陽電子と名付けられた)」があるということである。そしてディラックは磁気モーメントの値をちょうど1だと計算し、陽電子のほうはアンダーソンによる実験で1932年に検出された。陽電子は電子にとっての反粒子である。(参考:「ディラックによる陽電子の予言(1928年)

ファインマン先生が科学者としてのスタートを切るまでに、ここまでのことがわかっていた。


本書の内容

ここからが相対論的量子力学の後に続く量子電磁力学の話である。章立てを日本語で書けば、このようになる。

ファインマンの挨拶
1)はじめに
2)光の粒子
3)電子とその相互作用
4)未解決の部分


1)はじめに

量子電磁力学のあらましについての解説の後、ファインマン先生は光(光子)がガラスに部分反射する現象を取り上げる。図の左側のように、左上の光源からガラスに向けて光を照射すると、4パーセントが反射して検出器Aに達し、残りの96パーセントはガラスを通過して検出器Bに達する。



ガラスにとって光は一様のはずだ。反射させる光と通過させる光を、どのようにしてより分けているのだろうか?ここで、先生はひとつの「矢印」を提案する。量子電磁力学で強力な道具となる光の波長に比例して超高速回転する矢印だ。青い単色光の矢印は赤い単色光の2倍速く回転する。光子の進みにあわせてこの矢印は回転するのだと考える。

矢印の長さはその物理事象がおきる確率に結びついている。すなわち右の図で矢印の長さを0.2としているのは、その2乗が反射する確率0.04(4パーセント)であることを意味している。そしての矢印のことを「確率振幅」または省略して「振幅」と呼ぶことにした。つまり確率振幅は長さと方向をもつ「回転するベクトル」なのである。

ところで、光はガラスの表面だけでなくガラスの中を通過し、光源から見て裏面でも反射するはずだ。もし裏面でも4パーセント反射すると、表面の4パーセントの反射と合わせて合計8パーセント反射するはずだから、おかしなことになる。では表面と裏面でそれぞれ2パーセントずつ反射しているのだろうか?合わせて4パーセントになるからつじつまが合う。

そこで、実際にどうなるか実験をしてみた。ところが不思議なことがおきたのだ。ガラスの厚さを少しずつ変えながら赤と青の単色光で部分反射の実験をしてみると、次のような結果が得られた。横軸がガラスの厚さ、縦軸が反射率である。



ガラスの厚さが増えるにしたがい、反射率は0パーセントから16パーセントまでの間を周期的に変化する。赤色と青色ではその周期が2倍異なっている。いったい何がおきているのだろうか?この章では「矢印の計算」を紹介しながら、この不思議な現象のからくりを解き明かしている。ガラスによる光の反射と透過という日常みられる現象が、私たちが理解しているのとはまったく違うものであることがこの章で明らかにされるのだ。


2)光の粒子

この章では鏡による光の反射(光子の反射)が取り上げられる。Sから放出された光子は鏡の中央で反射してPに達する。このとき鏡の中央では入射角と反射角は等しくなる。だから光子の飛ぶ経路は、この図のようになるはずだ。



入射角と反射角は等しい」ことは中学の理科で習うし、高校では幾何光学として習う。「ホイヘンスの原理」や「スネルの法則」のことである。

けれども、ここに重大な謎が潜んでいる。光子の経路がどのようにして決まったのかということだ。Sを出発した光子は鏡の中央を目指して飛んで行ったのだろうか?Sを出発したときに光子は鏡の中央を目指して飛びなさいと命令されていたのだろうか?または反射地点を知っていたのだろうか?中学と高校の理科では学んでいないはずである。

「ホイヘンスの原理」を一般化すると「フェルマーの原理(最小作用の原理)」が得られる。これは光は「目的地に最小時間で着くような経路を選ぶ」という原理だ。これで解決するだろうか?最小時間になるような経路を見つけるためには、目的地が決まっていなければならない。光子がSを出発したときに経由地(鏡の中央)や目的地Pを知っていたはずがない。

ファインマン先生も高校生のとき、この問題にとても興味を持っていた。そして先生がたどり着いたのが「光子は目的地に到達するために可能なあらゆる経路をとる」という結論だった。それはこのような図であらわされる。



この考えによればSから飛び出し、Aで反射してPに達する経路(SAP)や、同様にSBP、SCP、SDP、...、SMPの経路も「可能性として」考えられる。これらの経路を光子は「すべて」通っているのだと先生は考えた。たった1つの光子についてのことである。

そしてファインマン先生は、この現象を「矢印の足し算」として次のようにあらわした。



反射点が変わるとAからPまでの経路の長さが変わる。反射点までの経路の長さを真ん中のグラフの縦軸にとると、図のようにU字型のグラフとなる。反射点に向かって光子が進む間に「光の矢印」は回転しているから、反射点に着いたときの矢印の向きは、グラフの縦の長さによって違っている。それは、それぞれの反射点の下に書いたように向きの違った矢印であらわされる。そして最後にこれらの矢印のすべてを「ベクトルの足し算」として計算するのだ。するとその合計はいちばん下の太くて長い「最終矢印」となる。この最終矢印の長さの2乗が、この事象が起きる確率とみなされる。

さて、この最終矢印の方向を決めるにあたって貢献度が高い小さな矢印はどれだろうか?小さい矢印をひとつずつ見てみると、鏡の中央に近い矢印が最終矢印と同じような向きであることがわかる。つまり、鏡の中央で反射するという現象がおきる確率を高めているのは、これら中央の矢印(確率振幅)たちなのである。

では、中央以外の矢印を考えなくてもよいのでは?と思うかもしれない。でもそれは違うのだ。実際に鏡の端に近い部分でも光子の反射がおきていることを、ファインマン先生は次の実験で示している。(この記事には書かないでおく。)ともかく、光子は鏡のあらゆるところで反射しているのだ。そして本書には書かれていないが、このような「可能なすべての経路の矢印を足し合わせる」ことを物理学では「経路積分」と呼んでいる。

この実験で考える「可能なすべての経路」とは、このようにぐにゃぐにゃ曲がった経路も合わせて計算するのだ。



私たちは、このように現象が起きる確率を通してしか自然の姿を見ることができない。これが量子電磁力学、量子力学が私たちに教えてくれることだ。

この章では鏡による反射の例に続いて、水中やガラスの中で光が遅くなるしくみ、水面やガラスの表面で光が屈折するしくみ、平行に入射した光がレンズで屈折して一点に集まるしくみ、光の回折がおきるしくみなどが矢印の計算方法を使って解説される。これらはすべて量子電磁力学によって解明された物理現象である。


3)電子とその相互作用

前の章では光の反射の現象を、経路積分を使ったマクロな視点から解説したが、この章ではこの現象を光子と電子の相互作用という素粒子の視点、ファインマン図を紹介しなから解説する。経路積分の考え方はファインマン図に活かされているのだ。

光子とは若干方法が異なるが、電子も同じように矢印を使って計算することができる。(詳細は本書で解説される。)

実をいうとガラスによる光子の部分反射は、鏡の表面と裏面だけでなく、ガラスの中全体でおきているのだ。このような図になる。矢印の足し算をして確率振幅の合計を求めると、不思議なことに表面と裏面だけで反射するときの結果と一致するのである。



そして、次に紹介されるのは光子が壁に衝突するボールのように反射しているのではないということなのだ。ガラス中の電子が入射してきた光子を吸収し、その後で電子が光子を放出する。つまり入射した光子と反射した光子は違う光子なのである。したがって電子と光子の相互作用を考えるのが反射、屈折、吸収などの光学現象を解き明かすカギとなる。たとえば、ファインマン図を使うと入射した光子が電子に吸収される現象はこの図のようにあらわされる。1と2を結ぶ直線が電子の経路、波線が光子の経路である。



ファインマン図では空間座標を横軸に、時間座標を縦軸にとっている。つまり特殊相対論の4次元時空内にあらわした素粒子の相互作用の図なのだ。

4次元時空内で可能な経路というものを考えてみよう。これは時刻0にS(Start)の位置にある電子が、時刻7にG(Goal)の位置に達するという状況だ。可能な経路は無数あるのだが、ここには赤、青、緑の3つの経路だけ描いておいた。



ここで青の経路に注目してほしい。Sから右下に伸びている矢印は、空間座標は増えているものの、時刻は0からマイナス2に減っている。電子が時間を逆行しているのだ。特殊相対論を満たしている経路積分では時間をさかのぼる経路も「可能な経路」のうちに含めて考える。

けれども、物理法則は時間をさかのぼるタイムトラベルを禁じている。物事の因果関係が崩壊してしまうからだ。物事の原因は結果よりも必ず先に起きなければならない。因果関係が逆転すると入学試験を受ける前に合格通知が届くようなことになってしまう。

ファインマン図、量子電磁力学ではこの矛盾を、反粒子を使って解決している。理論上「時間を逆行する電子」は「時間を順行する陽電子」に同一視されるからだ。電子の反粒子は陽電子、そして光子の反粒子は光子である。

左側の図は、未来からやってきた光子が過去から来た電子とぶつかり、電子が向きを変えて未来から過去へとさかのぼっていく様子ともとらえることができる。同様に右側の図は光子から、未来へ飛んでいく電子と過去へ飛んでい電子が対生成される様子である。



この考え方に従えば、未来からやってきた光子を「未来へ飛んでいく光子」、過去へさかのぼる電子を「未来へ飛んでいく陽電子」と考え、つじつまが合って因果関係が保たれる。

次にファインマン図を使った量子電磁力学の最大の成果、つまり電子の磁気モーメントの値を極めて正確に計算できたことが解説される。理論値と実験値がとてつもなく高い精度で一致したことが、量子電磁力学の正しさを裏付けることになった。

再掲するが、ディラックが電子の磁気モーメントを1だと計算したときのファインマン図はこのようなものである。



この4次元時空で可能なあらゆる経路というのは、ファインマン図で電子のスタート地点とゴール地点が一致しているという条件だけでなく、電子の放出や吸収など可能なあらゆる事象も考慮されることになるのだ。つまり、上の図を1次の相互作用の図とすれば、2次、3次、3次...と段階的に複雑な事象を描いたファインマン図を使って近似の計算精度を上げていく。たとえば上と同じ事象であっても、次のような図であらわされることになる。



電子の場合、この段階的な近似計算は、驚くほど速く数値が収束していく。計算方法は本書で詳しく解説している。このような計算を経て電子の磁気モーメントの値が高い精度で求められていったのだ。その結果、磁気モーメントの値は1ではなく、理論値は1.00115965246、実験値は1.00115965221となった。末尾の桁には±4くらいの誤差がある。


確率振幅を意味する「矢印」は光子や電子ひとつひとつに紐づいているのではないことを強調しておこう。粒子が複数あれば、複数の粒子の状態に対して1本の矢印が紐づいている。複数の初期状態から最終状態に至る矢印の長さの2乗がその物理現象が起きる確率であると考えるのだ。

確率振幅(矢印)は向きと長さをもったベクトルである。それは複素平面上にある矢印とみなすことができる。つまり確率振幅は複素数の値をとる。電子についてのシュレディンガー方程式に含まれる波動関数も複素数の値をとり、これは確率振幅とみなされている。波動関数の2乗が電子の存在確率であるというのが「ボルンの確率解釈」だ。つまりこれまでの説明で、矢印の長さを2乗するということは、その物理現象がこの世界に実体化する確率を求めていたのである。

また、矢印の計算は可能な経路を計算するときは足し算、時間の経過に従った2つの事象を計算するときは掛け算になるということを補足しておこう。


電子はすべての物質に含まれている粒子である。電子と光子の相互作用を解き明かす量子電磁力学は、この世界のほとんどの物質現象の基礎とみなされている。原子や分子の化学結合、化学反応、絶縁体と導電体、物質が透明か不透明か、空が青い理由、なぜテーブルや机が硬いのか、物にさまざまな色があること、燃やすとなぜ炎がでるのかなどは、すべて量子電磁力学がもとになって生じている。

矢印の計算は「光子の作用」、「電子の作用」、「光子と電子の相互作用」の3種類しかない。自然が私たちに見せる多様性のほとんどが、量子電磁力学の3種類の原理がもとになっているのである。


4)未解決の部分

第4章では電子と光子の後に発見された素粒子について解説する。原子核を構成する陽子や中性子は、根源的な素粒子ではなくクォークから構成されていることがわかった。量子電磁力学の矢印の計算による手法は、原子核の中の粒子についても10パーセントという精度で成り立つことが示された。しかし、その誤差は原子核内の物理学が電子や光子の物理学と本質的に違うことを意味している。

ただしファインマン図や経路積分は原子核内の素粒子に対しても有用なツールであり、たとえばクォークを含んだ相互作用では次のような図を使って計算が行われている。経路積分の手法は「シュレーディンガー方程式」や「ハイゼンベルクの運動方程式」と数学的に同等であることがダイソンによって証明された。これは経路積分やファインマン図の手法の有効性を裏付けるものだ。そして量子力学は原子核の中でも成り立っているのである。



ファインマン図については、この動画で理解するとよいだろう。

【3分解説】ファインマン図



そしてこの章では素粒子物理学の発展史が順に解説される。この本が出版された1986年であるから、1995年に発見されたトップクォーク、そして2012年に発見されたヒッグス粒子は言及されていない。1986年の時点では電弱理論、量子色力学(強い相互作用)までである。あとニュートリノの質量もゼロだとされていた。(実際にはわずかながら質量があることがその後確認された。)繰り込み理論は軽く紹介されていた。




本書の一部だけをかいつまんで紹介させていただいた。ファインマン先生の著書、講義はどれをとってもエキサイティングだ。読む者、聴く者の心をつかみ、理路整然と続ける話の中で先入観や誤解を溶かし、まったく思いがけない世界へ私たちを導いてくれる。このようなスタイルで物理学や数学を語れるような人になりたいと、つくづく思ってしまうのだ。


英語版と日本語版について

科学英語の読解トレーニングにはうってつけの本だと思った。主題は光子と電子、その他の素粒子だけであること、計算の方法も一貫しているから、英文のパターンも限られている。読んでいくうちに慣れてくるからスピードも上がる。

日本語版は薄い文庫本だが、英語で読むと4日かかった。英語だと一字一句精読することになるから書かれていることをすべて吸収できる。僕がどれだけ熱中していたかは「この連投ツイート」をご覧になればおわかりになると思う。

英語版はファインマン先生の姿が載っている2006年版をKindle端末で読んだ。1988年に亡くなったファインマン先生が手にしたのは1986年版である。そしていちばん新しいのが2014年に刊行されている。

QED: The Strange Theory of Light and Matter (2006): Richard P. Feynman
(Kindle版)(2014)(1986
  


日本語版はこの2冊。1986年の英語版が刊行されてすぐ、ファインマン先生が大貫昌子さんを翻訳者に指名したという。大貫さんは「ご冗談でしょう、ファインマンさん」を訳して先生の信頼を得ていたからだ。先生は1987年に刊行された日本語訳(単行本)を手にしてお喜びになったに違いない。

光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学 (文庫、2007): R.P.ファインマン」(紹介記事
光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学 (単行本、1987): R.P.ファインマン
 


講義の動画、リスニングのトレーニング

この本の元になった講義は1979年と1983年に行われたようだ。1979年に行われた講義は、こちらからご覧いただける。原書を参照しながらご覧になると良い。(動画を検索

QED: Photons -- Corpuscles of Light -- Richard Feynman (1/4)


第1回 第2回 第3回 第4回

NHKにはファインマン先生をCGで蘇らせて、この4回にわたる名講義を再現した科学番組を作ってもらいたいと思うのだ。また、ニュートンプレス社には本書の内容を「別冊ニュートン」として刊行してもらいたいとも思った。テーマがテーマだけにビジュアルなイラストで魅力的な紙面が満載の本になると思う。


経路積分とファインマン図は、次の動画で学ぶとよい。英語字幕付きなのでリスニングの練習用に使ってもよいだろう。英語がわからなくても見ているだけで楽しめると思う。

Feynman's Infinite Quantum Paths | Space Time(経路積分の解説動画)


The Secrets of Feynman Diagrams | Space Time(ファインマン図の解説動画)


この2つの動画は「量子力学の再生リスト」の一部である。


フランス語版とドイツ語版

熱が入ってフランス語版を注文してしまった。届いたら通読してみたい。

Lumière et matière - Une étrange histoire: Richard P. Feynman」(Amazon.fr
QED: Die seltsame Theorie des Lichts und der Materie: Richard P. Feynman」(Kindle版
 

フランス語の内容紹介:
" Et maintenant, attachez vos ceintures. Non pas que ce soit particulièrement difficile à comprendre, mais tout simplement parce que ça va vous sembler le comble du ridicule. Jugez-en : nous dessinons des petites flèches sur une feuille de papier ! C'est tout. "

L'électrodynamique quantique, qui décrit les interactions entre lumière et matière, prototype des théories de la physique moderne, devient un jeu d'enfant quand elle est expliquée par un de ses créateurs. Richard Feynman montre que les notions les plus difficiles sont explicables sans formalisme mathématique et que leur sens profond est à la portée de tous.

Un sommet de la vulgarisation scientifique.

ドイツ語の内容紹介:
Der amerikanische Physiker Richard P. Feynman galt als einer der größten theoretischen Physiker dieses Jahrhunderts. Für seine Beiträge zur Theorie der Quantenelektrodynamik erhielt er 1965 (mit zwei Kollegen) den Nobelpreis für Physik. Mit dieser Quantenelektrodynamik – kurz QED – befasst sich dieses Buch, in dem er erklärt: "Mein Hauptanliegen ist, die seltsame Theorie des Lichts und der Materie, oder richtiger die Wechselwirkung zwischen Licht und Elektronen, so genau wie möglich zu beschreiben." Der Leser wird Feynmans lebendige und unterhaltsame Art der Darstellung genießen, wenn ihm der berühmte Physiker und begabte Lehrer eine des maßgeblichen physikalischen Theorien dieses Jahrhunderts erklärt.


関連記事:

光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学: R.P.ファインマン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4b34cd4e7d077d037022e62734d1ee76

ファインマンの経路積分に入門しよう!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0f47de5854daf4eb38339a73791544a8

ファインマン先生の自伝本と講演本
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9bf47cf51085c74caf34a11068a17285

万有引力の法則(逆2乗則)の逆問題を解説する本と動画(ファインマンによる解法)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2cd381bca4546d23968b31cfad4a9be9

開平と開立(第5回): ファインマン先生に立方根計算の雪辱を果たそう
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/89a0b907577f03ef6132cf9664bdcddb

#Feynman100: ファインマン先生、生誕100周年セレモニー&シンポジウム
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/11dd9238ebcbc37915920a2dab553c82

強い力と弱い力:大栗博司(標準模型について学べる科学教養書)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/06c3fdc3ed4e0908c75e3d7f20dd7177


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龍雄先生の冒険 回想の内山龍雄:一般ゲージ場理論の創始者

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龍雄先生の冒険 回想の内山龍雄:一般ゲージ場理論の創始者

内容紹介:
本書は、一般ゲージ場理論完成の役割を担った物理学者 内山龍雄について、16人の関係者と4篇の本人による文章を通して、その全貌を掘り出していきます。

口絵に挿まれた本人のポートレートと持ち物(茶碗や置物)の写真、スケッチのほか、カバー・表紙の風景画や自筆原稿などを通して、内山龍雄の人間像をより身近に理解できるだけでなく、日本の物理学史の一断面をたどることもできる貴重な記録になっています。

内山龍雄の絶筆エッセイ「迷想記」や一般ゲージ場理論完成までの道のりを綴った「痛恨の記」も収録。

2019年8月30日刊行、220ページ。

内山先生について:
内山龍雄(うちやま りょうゆう): ウィキペディア
1916‐1990年。理論物理学者。静岡県静岡市生まれ。1940年(昭和15)に大阪帝国大学理学部物理学科を卒業後、同大の助手、講師、助教授を経て、1955年(昭和30)に教授。1954年にプリンストン高等研究所の研究員として渡米した。1978年から1980年まで大阪大学理学部長を務め、1980年退官後、大阪大学名誉教授。1980年に帝塚山大学教授、1982年より1988年まで帝塚山大学学長を務めた。1954年ごろには一般ゲージ理論を完成させていたが、論文発表が1954年に定式化された楊振寧(ようしんねい)とミルズRobert L. Mills(1927―1999)によるヤン‐ミルズ理論(非可換ゲージ理論)よりも遅れたため、ノーベル賞を逃した。一般ゲージ理論は、電弱統一理論やクォーク理論に応用され、素粒子での標準的な理論となっている。一般ゲージ理論を通じて、一般相対性理論や場の理論を広めるのに寄与した。

内山先生の著書を検索: 書籍版 Kindle版


理数系書籍のレビュー記事は本書で425冊目。(主に理工系の人が読む本だから理数系書籍としておく。)

内山先生を存じ上げないにもかかわらず、懐かしく、温かい気持ちになる読書体験になった。地元の書店で本書を手にしたのは奇しくも先生の命日(8月28日)だった。

本書の刊行を知ったきっかけは7月に「相対論とゲージ場の古典論を噛み砕く: 松尾衛」を読んでいたときのこと。関連項目を検索していると目に飛び込んできたのが「龍雄先生の冒険」だ。内山龍雄先生のことだとすぐ気がついたが、ネット上に先生に関する情報は少ない。先生の訳書「アインシュタイン選集2」を2008年に読み、恥ずかしながら一般相対論の研究をされた一流の研究者だという印象しか持っていなかった。そして「一般相対性理論 (物理学選書 15) : 内山龍雄」と「一般ゲージ場論序説 (岩波オンデマンドブックス): 内山龍雄」(単行本)を購入し、積読状態が現在に至るまで続いている。そして先生が訳されたワイルの「空間・時間・物質 (ちくま学芸文庫)」は上巻の中ほどで挫折したまま、パウリの「相対性理論(ちくま学芸文庫)」は積読状態だ。

本を読むときには人物像を気にするものだから、たいてい画像検索をしている。(内山先生を画像検索)現在では最初に表示されるプロフィール写真が一枚だけで、残りの写真はすべて他の方のものばかりである。この写真はこのページを見るとわかるように、2010年以降に掲載されたものだ。2008年頃に検索したときは先生のお顔を見ることができなかった。僕にとって内山先生の人物像は謎だったのである。

本書の紹介

本書の巻頭には1964年に先生が「Gravity Research Foundation賞」を受賞された頃の白黒写真が1枚、そして帝塚山大学で学長をされていた1982年頃のカラー写真が2枚掲載されている。厳しさと優しさ、そしてちょっと意地悪そうというのが第一印象である。本書は関係者の回想録、思い出話を集めたものだから、僕の印象は合っているのだろうか?そのような気持ちで読み始めた。読み終えたところ「熱血漢」、「情熱的」、「豪放磊落」、「寂しがり屋」、「繊細な気遣いとサービス精神を発揮する方」という印象が付け加えられ、「意地悪そう」は「いたずら好き」に変わった。ひとことで言うと「天才のジャイアン」である。「内山」という内気そうな姓とは真逆で、「龍雄」というお名前がぴったりだ。

先生がお生まれになったのは1916年、一般相対性理論が発表されたのが1915年から1916年にかけてである。1906年生まれの朝永振一郎先生より10歳年下、1918年生まれのファインマン先生とほぼ同世代の物理学者だ。もしご存命であれば、今年103歳をお迎えになっていたはずだ。

本書に寄稿されているのは、主に先生の教え子、そして長年秘書をされていた方などだ。教え子といっても、すでに定年退官された方がほとんどで、お名前から「大御所」の先生方、錚々たる顔ぶれだとわかる。そのような先生方がお若い頃、内山先生から怒鳴られたり、叱られたりしながら学生生活、研究生活をされていたのだ。寄稿されているのは、謝恩会で話されるようなことである。

本書は窮理舎から刊行された。この出版社の本を購入するのは初めてだった。ホームページとツイッターアカウントとは次のとおりだ。「窮理(きゅうり)」とは、物事の道理・法則をきわめるという意味の用語、自然科学、物理学のことである。

窮理舎
ホームページ: https://kyuurisha.com/
ツイッター: @kyuurisha

本書の構成は次のとおり。

まえがき
内山龍雄先生の略歴
先生と犬印の缶づめ

第1話~第80話

耳に残る先生の怒鳴り声

さらば、お嬢さま学校
大学教育管見
痛恨の記
迷想記--統一場理論に誘われて--

さようなら内山先生

著作論文一覧
略年譜
執筆者紹介

読後の感想

80話の逸話集の前半には「笑える話」が多い。僕の笑いのツボを直撃したのは、次の話だった。

第18話:熱血派教授
第20話:車は運転したし、されど車は大事にて使いたくなし
第26話:仰げば尊し
第38話:美人秘書
第39話:ぼくらの宇宙探検

あと、全体的に先生が「家内には内緒なのだが」とおっしゃり、奥様に内緒にしていることを教え子や同僚に口止めする逸話がいくつかあったのが可笑しかった。恐妻家ということではなく、「奥様への気遣い」と「知られたくない」というお気持ちの中間だったのだろうと僕は想像しながら読んだ。

「第57話:先生の書かれた教科書の序文から」には理系の学生向けの相対論の教科書「相対性理論(岩波書店)」(「岩波新書の相対性理論入門」のほうではない)の序文に「もし本書を読んでも、これが理解できないようなら、もはや相対性理論を学ぶことはあきらめるべきであろう。」という有名な一節が書かれている。この逸話の中で先生は「最近の学生が自分い合わせて本を選ぶお手軽な勉強法はだめで、難しくても本物の本を何度も何度も読んで最後まで読み進め。」とおっしゃっている。「学生に寄り添って書かれたわかりやすい本」ばかりブログで紹介している僕には耳が痛い逸話だった。

学生紛争は僕の小学低学年の頃のことで、うっすらとした記憶しかないが、当時の雰囲気がよく伝わってきたし、教室に立てこもる学生たちに体当たりしていく内山先生のお姿が目に浮かぶようだった。

僕が懐かしいと感じたのは、先生が帝塚山大学の学長をされていた頃のことで、それは僕が東京理科大生だった時期と重なるからだ。当時の学生気質、大学のレベルは実感として知っていたこと、それ以前の時代の国立大学に比べると質的にも軟弱化していたこと、当時の女子大、俗にお嬢さま学校と呼ばれる大学の女子学生がどのようだったかを知っているだけに、内山先生のお気持ちがよく理解できたからだ。「ぶりっ子」という言葉が当時からあったのだということも(元祖ぶりっ子の松田聖子さんを思い出しながら)、30年以上前の学友たちの姿を思い出していた。女子大の授業での私語の多さ、教室に異性がいると女子学生は襟を正すという先生のお考えは、当時でも今でも僕にはよく理解できる。

また、ユリ・ゲラー、サッチャー首相、土井たか子さんが逸話に登場するのを通じて、僕は内山先生と同じ時代の空気を共有することができた。

僕が在学していた東京理科大学にも、授業中にチョークを投げつける先生はいた。その先生は履いていたスリッパを学生に投げつけたり、嫌気がさして退出する学生を走って追いかけたこともあった。あれが熱血漢だったとは思えないが、内山先生がチョークを投げつけた話を読んで、その先生のことを思い出した。教授と学生が体を張って向き合えていたのは昔のこと。古き良き時代の話である。いまの大学でそんなことをする先生がいたら、SNSで炎上するのは間違いない。このあたりは僕の胸が熱くなるツボだ。本書にはこのように「ほろっとする話」が満載である。

担当教官の伏見康治先生(1909年-2008年)から与えられた課題を「くだらないテーマ」とお考えになったり、ついに超えることができなかったディラックに対して「啖呵を切ってやりたかった」と最期のお気持ちをお話しになるなど、お若い頃から晩年まで本業の世界でチャレンジ精神を持ちづけていらっしゃったことに、心を打たれた。そのお気持ちは本書最後のほうに先生による「痛恨の記」、「迷想記」など4編の文章としてもお読みいただける。

本書は内山先生のお人柄、教え子や先生を知る方々による貴重な記録である。高校生、大学生にも読んでいただきたい。

本書の評判: ツイッターで検索してみる


著書と訳書

先生の著書・訳書はたくさんあるが、ここには代表的な教科書を載せておこう。僕もいずれ読破してみたい。

相対性理論 (物理テキストシリーズ 8):内山龍雄
一般相対性理論 (物理学選書 15) : 内山龍雄
一般ゲージ場論序説 (岩波オンデマンドブックス): 内山龍雄」(単行本
  

内山先生の著書を検索: 書籍版 Kindle版


関連記事:

アインシュタイン選集(2):読みはじめた
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d3d0869ab3911e84845b5b121bd1aa3e


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龍雄先生の冒険 回想の内山龍雄:一般ゲージ場理論の創始者


まえがき
内山龍雄先生の略歴
先生と犬印の缶づめ

第1話:周りはバカばかり
第2話:無礼者
第3話:再々試験
第4話:内山先生の精神年齢
第5話:一日貸本屋
第6話:大将の隣は二等兵
第7話:食後の食事
第8話:お饅頭
第9話:オーイ、うまくやっとるか
第10話:大雨の日の遠足
第11話:雷をよぶ男
第12話:犬印の缶づめ
第13話:犬印の缶づめ
第14話:ちょっとこっちが少ないかな?
第15話:ダイヤモンド
第16話:カメラ
第17話:鍵穴覗き
第18話:熱血漢教授
第19話:N極が見えるぞ
第20話:車は運転したし、されど車は大事にて使いたくなし
第21話:授業風景
第22話:よい研究をするには、まず肉を食え
第23話:コロキウム風景
第24話:推薦状?反推薦状?
第25話:電話で誰かが喧嘩していますよ
第26話:仰げば尊し
第27話:声の大きさ
第28話:陶芸
第29話:銀行振込
第30話:馬が消えた
第31話:君この問題をすぐ解きたまえ
第32話:武士に二言なし
第33話:ユリ・ゲラー
第34話:お好きな食べ物
第35話:先生が翻訳された本の序文から
第36話:先生、やっと目が覚めました
第37話:女を諦めるか
第38話:美人秘書
第39話:ぼくらの宇宙探検
第40話:女子大の先生
第41話:量子力学と一般相対性理論とでは、どちらがお好き?
第42話:対偶は真?
第43話:ぶりっこになれ
第44話:物理屋には、岩波新書の『相対性理論入門』は難しい?
第45話:Going my way
第46話:超空間
第47話:目には目を歯には歯を
第48話:カメラ
第49話:運転免許講習
第50話:刑務所
第51話:無礼者2
第52話:内山先生の大声
第53話:先生の特技
第54話:忘年会
第55話:車のこと
第56話:バーベキューのこと
第57話:先生の書かれた教科書の序文から
第58話:大学紛争のころ
第59話:講義風景
第60話:四年生ゼミ
第61話:拾円硬貨収集のこと
第62話:コロキウム風景2
第63話:論争の果て
第64話:論文投稿を遅らせた後悔
第65話:一般相対論の基礎
第66話:叱られて成長する
第67話:お礼
第68話:グッドランナー
第69話:遅いぞ早く上がってこい
第70話:内山先生って愛されているんだねえ
第71話:重力のゲージ理論
第72話:内山先生の人となり
第73話:可笑しな詫び方
第74話:先生と大鵬と力道山
第75話:先生と豚まん
第76話:談話室
第77話:松江の内山先生
第78話:≪龍雄先生復活す!!≫
第79話:心残りな事
第80話:最後に望まれた絵画 モネの睡蓮

耳に残る先生の怒鳴り声

さらば、お嬢さま学校
大学教育管見
痛恨の記
迷想記--統一場理論に誘われて--

さようなら内山先生

著作論文一覧
略年譜
執筆者紹介

時間は存在しない: カルロ・ロヴェッリ

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時間は存在しない: カルロ・ロヴェッリ」(Kindle版

内容紹介:
◎イタリアで18万部発行、35か国で刊行決定の世界的ベストセラー
◎タイム誌の「ベスト10ノンフィクション」
◎HONZで紹介! (2019年9月5日): 開く

時間はいつでもどこでも同じように経過するわけではなく、過去から未来へと流れるわけでもない。
“ホーキングの再来"と評される天才物理学者が、本書の前半で「物理学的に時間は存在しない」という驚くべき考察を展開する。後半では、それにもかかわらず私たちはなぜ時間が存在するように感じるのかを、哲学や脳科学などの知見を援用して論じる。
詩情あふれる筆致で時間の本質を明らかにする、独創的かつエレガントな科学エッセイ。

【レビュー】
●きわめて独創的。現代物理学が時間に関する私たちの理解を壊滅させていく様を紹介している。――「ニューヨーク・タイムズ」紙
●わかりやすく目を見開かせてくれるとともに、われわれの時間・空間・現実の見方を覆すような読書体験をもたらす。――「タイム」誌
●時間の本質へと向かう、実に面白くて深い探求。この作品を読む人すべての想像力をとらえて離さない詩情と魅力がある。――「フィナンシャル・タイムズ」紙
●スティーヴン・ホーキングの『ホーキング、宇宙を語る』以来、これほどみごとに物理学と哲学とを融合した著作はない。――「ガーディアン」紙

2019年8月29日刊行、240ページ。原書イタリア語版刊行は2017年4月。

著者について:
カルロ・ロヴェッリ Carlo Rovelli
ホームページ: http://www.cpt.univ-mrs.fr/~rovelli/
Twitter: @carlorovelli
理論物理学者。1956年、イタリアのヴェローナ生まれ。ボローニャ大学卒業後、パドヴァ大学大学院で博士号取得。イタリアやアメリカの大学勤務を経て、現在はフランスのエクス=マルセイユ大学の理論物理学研究室で、量子重力理論の研究チームを率いる。「ループ量子重力理論」の提唱者の一人。『すごい物理学講義』(河出書房新社)で「メルク・セローノ文学賞」「ガリレオ文学賞」を受賞。『世の中ががらりと変わって見える物理の本』(同)は世界で100万部超を売り上げ、大反響を呼んだ。『時間は存在しない』はイタリアで18万部発行、35か国で刊行決定の世界的ベストセラー。タイム誌の「ベスト10ノンフィクション(2018年)」にも選ばれている。

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理数系書籍のレビュー記事は本書で426冊目。

読む前の印象

「時間は存在しない」だなんて、何て大げさな邦題をつけたものだというのが第一印象だった。原題を調べるとイタリア語で「L'ordine del tempo」、英語だと「The Order of Time」つまり「時間の秩序」とか「時間の順序」という意味だ。本書を読んでみると「順序」という意味でタイトルをつけたことがわかる。せめて「時間は幻想だ」くらいの邦題にしておけばよかったのにと思った。

はたして時間は本当に存在するのだろうか?それとも存在しないのか?あるいは幻想として存在するのだろうか?そしてその答は、この3択のうちの1つなのだろうか?

もし時間が存在しないというのならば、物理法則にあらわれる時間変数の「t」 とは、いったい何なのだろうか?つい先日紹介したばかりの「光と物質のふしぎな理論:リチャードP.ファインマン」で語られていることは、時間なしには成り立たない。

理論物理学者の大栗先生は著書「大栗先生の超弦理論入門:大栗博司」の最後のほうで「空間は幻想だ」とお書きになっているが、時間が幻想かどうかはまだ解明されていないと慎重な立場を表明されている。また、理論物理学者の橋本幸士先生は「時空の創発」を研究されているから時間と空間は(幻想かどうかは別として)存在するとお考えになっているようだ。(参考記事:「深層学習と時空:橋本幸士先生 #MathPower」)

時間論をテーマにした本は当たりはずれが極端だ。そのことは「時:渡辺慧」という記事にも書いた。相対性理論によれば時の流れは重力や物体の運動によって遅くなる。しかし、人間の生理的な感覚で感じる時間の流れは、それとは別だとも考えれる。人間がいなくなれば時間は存在しなくなるのか?いや、そんなはずはあるまい。物理現象と生理現象、心理現象的側面が絡み合っていて、本質がなかなかつかめないのが「時間」である。本書は当たりなのだろうか?はずれなのだろうか?

著者のロヴェッリ博士はループ量子重力理論の研究者だ。この難解な理論をもとにして時間の謎を解き明かしたというのだろうか?そうだとしたら、本書は相当難しい物理学の教養書となるはずだ。

そのような気持ちで、本書に臨んでみた。


本書の構成と紹介

読み始めてすぐ、本書は「大当たり」だと気がついた。数ページ読むうちにぐいぐいと引き込まれていく。そしてペースが速い。僕が思索に浸りながら読書をした経過はこの連投ツイートをご覧になるとわかる。

構成と章立ては、次のとおりだ。

第1部 時間の崩壊

第1章:所変われば時間も変わる
第2章:時間には方向がない
第3章:「現在」の終わり
第4章:時間と事物は切り離せない
第5章:時間の最小単位

第2部 時間のない世界

第6章:この世界は、物ではなく出来事でできている
第7章:語法がうまく合っていない
第8章:関係としての力学

第3部 時間の源へ

第9章:時とは無知なり
第10章:視点
第11章:特殊性から生じるもの
第12章:マドレーヌの香り
第13章:時の起源


「第1部 時間の崩壊」では、ニュートンの絶対時間からアインシュタインの重力による遅延する時間の話、つまり場所が違うと時間の流れが違うから、この世界で「同時」という概念は意味をなさないことが解説される。そしてあらゆる物理法則の中で、時間の流れ(時間の矢)を説明するのは「熱力学第二法則(エントロピー増大則)」だけであること。エントロピーとは「乱雑さ」を測る尺度で、宇宙は誕生したときのエントロピーが低い状態だったから、それが増大し続けることで、やがて「熱死」という状態で終焉を迎えるという話。これはずいぶん昔に本で読んでいたことだ。

けれども、エントロピーというのは私たちがこの世界を粗視化された視点で、すなわち「ぼやけた」視点でとらえているというものであり、時間の流れはそのために生じているように見えているのだと本書は主張している。つまり、ミクロな視点で見れば、熱力学・統計力学・量子力学も含めて、あらゆる物理法則には、時間の非対称性(過去と未来の区別)は存在しないという。

それは時間が現在を中心とした対称性をもっているのだから、ミクロな世界には過去と未来に区別はないということだ。過去の事象の記憶や痕跡がありそれがひと通りであることは、未来についても同様であるはずだ。しかし、マクロな世界に生きる私たちは未来の記憶や痕跡を持っていない。

また現代物理学には、あらゆる物理法則は因果律を保つという鉄則がある。物事は原因があって後に結果が生じるということである。しかし、そもそも原因と結果とというものは、マクロな視点でとらえる概念だ。ミクロの世界で因果関係は意味を失う。力学的な運動、生命現象、化学反応はすべてマクロな世界の現象だ。

また、量子力学によるとミクロな時空は泡立っており、時間は粒状になっているかもしれないと考える科学者がいる。そして時間自体も量子的に重ね合わせの状態になっているのかもしれない。

ここまではすでに知っていたことだが、少し飛ばし過ぎではないかと感じた。他に何か説明することがあるのだろうか?

この段階で、直観的な意味での時間は壊滅する。


「第2部 時間のない世界」では、第1部での結論、予想をさらに発展させて考察が進む。量子力学が私たちにもたらしたのは「モノからコトへ」、あるいは「物から出来事へ」という大変革だった。数式上は位置や運動量、時間などの物理量がそれぞれ位置演算子、運動量演算子、時間演算子など「演算子(数学としては作用素)」に置き換えられることに象徴されている。

ニュートンの力学やマクスウェルの方程式や量子力学などが私たちに教えてくれるのは、物の状態ではなく出来事の起き方なのだ。

量子力学を学んでいない方は、2や3などの数字を物理量、そして+、-、×、÷、微分する、交換するなどの計算操作のことを「演算子(数学としては作用素)」だと考えると、その違いがおわかりになると思う。:参考ページ

これはマクロな古典的世界観での「実在性」が喪失したと考えることもできる。そもそも「実在する」とか「存在する」とはどういうことだろうか?実は定義されていないのである。

ここで博士はご自身の研究テーマであるループ量子重力理論を紹介する。物理学で「場」は、素粒子、光子、重力量子のように粒のような形であらわれる。これらの粒子の量子事象としての相互作用のネットワークから世界が構成されるという理論だ。この理論には時間変数 t は用いられず、この理論によって時間が生まれることを示せるのだという。

このようなタイプの理論で存在するのは、出来事と関係だけだ。本書のこの段階で時間は消滅してしまう。邦題の「時間は存在しない」は、大げさとは言えない。


「第3部 時間の源へ」では時間の根源に迫る。本来存在しないはずなのに、なぜ私たちは時間の流れを感じているのだろうか?数学と物理学、そして哲学を行き来しながら博士独自の見解が語られる。本書は物理学書にはめずらしく、全体的に詩情豊かであるが、それがもっとも強く出ているのが第3部だ。

第3部の冒頭で、ミクロな視点で見た粒子には時間がないものの、包括的にマクロな視点から見るぼやけた世界には「時間の流れ」が認識されることを解説する。博士はマクロな状態によって定められた時間を「熱時間」と呼んだ。しかし、この熱時間はマクロな状態によって定まる「ぼやけ」、つまり記述の不完全さによって定まるものだから、普遍的な時間ではない。時間はぼやけによる近似として見えているだけなのだ。


量子世界を特徴づけるのは粒子と粒子の相互作用による粒子の位置や速度などの状態変化だ。しかし、位置の状態変化が先に起こり、速度の状態変化が後におこる場合と、その逆の順番でおこる場合とでは違う状態になる。これを量子変数の「非可換性」という。

フランスの数学者アラン・コンヌは、粒子どうしの相互作用の結果がその順序に左右されるという事実こそが、この世界における時間の順序のひとつの根っこだと着想した。そしてこれを優美な数学、「非可換フォンノイマン環」という数学的構造として提示した。この数学によりある種の時間的な流れが定義できるのである。(参照:「アラン・コンヌ博士の非可換幾何学とは?」)

驚くべきなのは、コンヌ博士が定義した量子系に付随する流れと、ロヴェッリ博士が論じている熱時間には、極めて密接な関係があるということだ。コンヌ博士が示したのは、ある量子系において異なるマクロ状態によって定まる熱流が、いくつかの内部対称性の自由度を別にして等価であり、まさしくコンヌ・フローを形成するという事実だった。簡単に言えば、マクロな状態によって定められる時間と、量子の非可換性によって定められる時間は、同じ現象の別の側面だったのだ。

時間の核には、2つのぼやけの起源、「物理系がおびただしい数の粒子からなっているという事実」と、「量子的な不確定性」がある。時間の存在性は、ぼやけと深く結びついている。そしてそのようなぼやけが生じるのは、私たちがこの世界のミクロな詳細を知らないからなのだ。物理学における「時間」は結局のところ、私たちがこの世界について無知であることの表れなのである。


次に博士は「過去と未来の差」について解説を始める。熱時間は熱力学、つまり熱と関係があるが、それでもまだ、私たちが経験する時間とは似ていない。なぜなら過去と未来は区別されず、方向もなく、私たちが時の流れと呼んでいるものもないからだ。

ここでは時間の流れを決定づけるエントロピーが取り上げられ、熱力学第二法則の再発見とでもいうべき博士のアイデアが紹介される。

天動説がコペルニクスによって覆され、地動説が提唱された理由を思い起こしてほしい。それは視点の転換だった。天空が回るという視点から、地球の外に出て宇宙から地球を見るという視点への転換だった。同じことがこれまで私たちが行ってきた実験、観測に基づいて得られた物理現象の認識についてもあてはまるというのだ。

私たちは、これまでに発見した物理パラメータだけを使って粒子どうしの相互作用を実験や観測して認識いるに過ぎない。宇宙全体には未知の物理パラメータが数多くあるはずだ。エントロピーが増大しているように見えるのは、たまたま私たちの捉え方が、無数にある物理パラメータの組み合わせのうち特殊なものであるからだろうと博士は考えている。別の言い方をすれば、「内側から」見ているだけでは本当の姿は見えない、すべてのパラメータを使って「外側から」見ることで、全体像が見えるという着想である。

ハッブル望遠鏡を使って私たちが130億光年先の宇宙を見ていたとしても、その場所で他の物理パラメータによって規定される物理法則では、エントロピー減少、すなわち時間の逆行があるのかもしれない。博士は私たちの宇宙の始まりが、たまたまエントロピーが少ない状態だったから、私たちには増大していると見えているだけなのだと主張する。文字どおり「コペルニクス的転回」である。

この箇所を読んだとき、僕はニュートンとはまったく違う視点からニュートン力学を批判した「マッハの力学」的な発想だと思った。(参照:「マッハ力学―力学の批判的発展史:伏見譲訳」)


未来と過去の違いについていえば、なぜ過去の痕跡はあるのに未来の痕跡は存在しないのだろうか?という問題がある。過去の痕跡が豊富だからこそ、「過去は定まっている」というお馴染みの感覚が生じる。未来に関しては、そのような痕跡がいっさいないので、「未来は定まっていない」と感じる。この事実から、自分たちはこの世界で自由に動ける、たとえ過去には働きかけられなくても、さまざまな未来のどれかを選ぶことができる、という印象が生まれるのだ。過去と未来の非対称性がここで解説される。

本書は、古代ギリシアを始めとする哲学者たちが考えていた時間に対する考察が、折に触れて紹介され考察を深めてくれる。現代を生きる私たちは、実験や数理の裏付けがなく思索だけを頼りに進められる哲学的な論証を軽んじがちだ。しかし、本書ではそのような態度が浅はかだということを気がつかせてくれる。また、文学性に富み、詩情豊かに引用される古代の文献は、神秘的で豊饒な本書の魅力を高めていると感じた。マハーバーラタやブッタ、シェイクスピア、『オイディプス王』など、神話から宗教、古典文学まで幅広いトピックをたとえ話として織り込みながら時間の物理学が展開される。物理や科学の専門性はさることながら、歴史や人文学に及ぶ博士の教養の高さに驚かされる。


かいつまんで紹介させていただいた。ここまで書いても実はネタバレはしていない。というのもこの紹介記事では物理学的側面だけをいくつか取り上げて紹介しただけだからである。本書ではこのような物理学に加えて、人間の脳の働きや哲学的考察を加えることで納得のいく説明が行われている。

このように本書は、時間論についてのさまざまな説を並列して紹介するものではなく、1冊まるごとひとつの説を系統立てて解説していく本である。一般の読者にとっても、物理学を学んだ専門家にとっても魅力的な内容だ。ぜひお読みいただきたい。

また、日本語版には原書や英語版にはない特典がある。「明解量子重力理論入門:吉田伸夫」や数々の中級者向け物理学教養書をお書きになった吉田伸夫さんによる「日本語版解説」と、本書を訳された冨永星さんによる「訳者あとがき」のことだ。お二人とも物理学を専門的に学ばれた方なので、本書の理解を助けてくれる内容だ。翻訳は素晴らしく、文学的、詩的な文章も見事に訳された技量の高さには感服せざるを得ない。


時間について博士が語る動画

ロヴェッリ博士のインタビューや講演の動画は、YouTubeにたくさん見つかる。このうち「時間について英語でお話しになっている動画」をピックアップした。ただし字幕はない。リスニングの練習用としてご覧になってもよいだろう。(ロヴェッリ博士の動画: YouTubeで検索

Carlo Rovelli on The Order of Time


The Physics and Philosophy of Time - with Carlo Rovelli


Q&A The Physics and Philosophy of Time - with Carlo Rovelli



著書と訳書(科学教養書)

本書の原書はイタリア語で書かれている。原書のほか英語版とフランス語版を載せておく。

時間は存在しない: カルロ・ロヴェッリ」(Kindle版
L'ordine del tempo: Carlo Rovelli
The Order of Time: Carlo Rovelli」(Kindle版
L'ordre du temps: Carlo Rovelli
   


博士はこのほかにも何冊か一般向けの教養書をお書きになっている。現時点で日本語に翻訳されているものを外国語版とともに載せておこう。日本語版のタイトルは原書とまったく違うが、対応関係はこれで正しいことを確認した。

すごい物理学講義: カルロ・ロヴェッリ」(Kindle版
La realtà non è come ci appare: Carlo Rovelli
Reality Is Not What It Seems: Carlo Rovelli」(Kindle版
Par delà le visible La réalité du monde: Carlo Rovelli
   


世の中ががらりと変わって見える物理の本: カルロ・ロヴェッリ」(Kindle版
Sette brevi lezioni di fisica: Carlo Rovelli
Seven Brief Lessons on Physics: Carlo Rovelli」(Kindle版
Sept brèves leçons de physique: Carlo Rovelli
   


ループ量子重力の本

博士のご専門は量子重力理論のうちのひとつ、ループ量子重力理論だ。博士による入門者向け専門書(英語)、他の著者による教養書と入門者向け専門書を紹介しておこう。

Covariant Loop Quantum Gravity: Carlo Rovelli, Francesca Vidotto」(Kindle版
繰り返される宇宙: マーチン・ボジョワルド」(ドイツ語原書)(原書Kindle版
初級講座 ループ量子重力: R. ガムビーニ、J. プリン」(原書)(原書Kindle版
  


関連記事:

時:渡辺慧
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d149cf16bb9dd319f572e4228fdfe241

アラン・コンヌ博士の非可換幾何学とは?
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5f5fc6fd565dbd789d1129c23986c849

深層学習と時空:橋本幸士先生 #MathPower
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bf7e7e661246866943c765bdd371248f

ディープラーニングと物理学 原理がわかる、応用ができる:田中章詞、富谷昭夫、橋本幸士
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5edea35c359ead77cf30915e9dd28bce

明解量子重力理論入門:吉田伸夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e0ab2fd9fafe3568c24ed358dd4ea92c

量子重力には対称性はない ― 大栗機構長らが証明
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f3873800958a91cedc050075c14d303c


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時間は存在しない: カルロ・ロヴェッリ」(Kindle版


もっとも大きな謎、それはおそらく時間

第1部 時間の崩壊

第1章:所変われば時間も変わる
- 時間の減速
- 1万の踊るシヴァ神

第2章:時間には方向がない
- この永遠の流れはどこから来ているのか
- 熱の正体
- エントロピーとぼやけ

第3章:「現在」の終わり
- 速度も時間の流れを遅らせる
- 「今」には何の意味もない
- 「現在」がない時間の構造

第4章:時間と事物は切り離せない
- 何も起こらないときに、何が起きるのか
- 何もないところに、何があるのか
- 三人の巨人によるダンス

第5章:時間の最小単位
- 粒状の時間
- 時間の量子的な重ね合わせ
- 現実は関係によって定まる

第2部 時間のない世界

第6章:この世界は、物ではなく出来事でできている
第7章:語法がうまく合っていない
第8章:関係としての力学
- 基本的な量子事象とスピンのネットワーク

第3部 時間の源へ

第9章:時とは無知なり
- 非可換だから生まれる時間

第10章:視点
- 回っているのはわたしたちのほうだ!
- 記述には視点がついてまわる

第11章:特殊性から生じるもの
- エネルギーではなくエントロピーがこの世界を動かす
- 痕跡と原因

第12章:マドレーヌの香り
第13章:時の起源

眠りの姉

日本語版解説(吉田伸夫)
- ループ量子重力理論
- 現代物理学が時間の概念を覆した
- 量子論で重力を扱う難しさ
- 時間のない世界をいかに記述するか
- 時間のない世界に生まれる時間意識

訳者あとがき(冨永星)
原注

量子情報と時空の物理 第2版: 堀田昌寛

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量子情報と時空の物理 第2版: 堀田昌寛」(サイエンス社のページ

内容紹介:
初版:
量子情報物理学の入門的実用書。本書は、基礎物理学の諸分野において、近年そのニーズに高まりを見せている量子情報物理学の入門的実用書である。多くの具体例をはさみながら、前半では量子情報理論の入門的解説を行い、後半ではブラックホールや量子多体系への応用を、量子情報の時空的観点から論じている。また、量子エネルギーテレポーテーションに関する新しい知見も紹介している。

第2版:
刊行されてから5年を経た今回の改訂では、第4章に「基底状態のエンタングルメントと局所強受動性」、第7章に「場の理論におけるパートナー公式」の2節を新たに加え、より充実した内容となっている。

2019年5月25日刊行、208ページ。

著者について:
堀田昌寛(ほった まさひろ)
研究者情報: https://nrid.nii.ac.jp/ja/nrid/1000060261541/
ブログ: http://mhotta.hatenablog.com/
ツイッター: @hottaqu


理数系書籍のレビュー記事は本書で427冊目。

自然法則の原理に迫るような研究は、専門家でない一般の物理学徒にとっても強く惹かれるものだ。量子情報、そして時空の物理学はともに現代物理学のキラーワードである。自分の実力に合っているかどうかに関わらず本を買ってしまう。僕もその一人だった。購入したのは2014年に刊行された初版のほうである。

初版は発売からしばらくして絶版になり、高値での中古書も買えない状態が続いていた。買い求めた本を見たところ、どうも僕には難し過ぎる。憧れの本はいずれ読むことにしようと積読状態になり、いつでも読めるようにと自炊してiPadに入れておいた。

そのタイミングで刊行されたのが第2版である。どうせ読むのなら新しいほうが良いに決まっている。発売されてすぐ購入し、少しずつ読み進めていた。


前提知識

著者の堀田先生は量子力学、量子情報物理学の専門家である。初版が刊行された頃に、先生がご自身のブログで一般の物理学徒向けにいくつも解説記事を書かれていたので読ませていただいていた。特に次の記事が僕には衝撃的だった。

波動関数の収縮はパラドクスではない。
http://mhotta.hatenablog.com/entry/2014/04/05/094917

先生による理論の基本となる考え方は、量子現象の実在論的解釈(ontological intepretation)ではなく、認識論的解釈(epistemological interpretation)というものである。

量子力学の根本に関わる問題についてのブログ記事は、2014年の投稿に集中しているのだが、特に重要なのは次の記事である。これらを読むだけでも、ちまたに溢れている「量子力学の通俗書」が初学者に印象づけてしまう固定観念を取り払うことができる。量子情報理論や量子コンピュータの教科書だけでなく、この枠組みに沿った新しい量子力学の教科書と通俗書が必要だと僕は思うのだ。本書をお読みになる前に理解しておくとよいだろう。

摂動論と、"時間とエネルギーの不確定性関係"という名の幻。
http://mhotta.hatenablog.com/entry/2014/03/11/155744

測定時間とエネルギーの測定誤差の間に不確定性関係はない。
http://mhotta.hatenablog.com/entry/2014/04/26/061840

鉛筆とインフレーション宇宙とスクィーズド状態
http://mhotta.hatenablog.com/entry/2014/04/11/192142

デコヒーレンスは多世界解釈の観測問題を解決しているわけではない。
http://mhotta.hatenablog.com/entry/2015/02/04/074443

量子論で、自分の脳を自分で観測するということ。
http://mhotta.hatenablog.com/entry/2016/02/28/140736

認識論的な量子力学についてのコメント
https://togetter.com/li/758266

量子力学における「実在性」について
https://togetter.com/li/953738

この世界の中の「存在」は観測者や測定機に依存した概念だった
https://togetter.com/li/1401553


また量子テレポーテーションやブラックホールの防火壁仮説に関しては、次の記事をお書きになっている。

量子テレポーテーションは、本当はテレポーテーションではないのか。
http://mhotta.hatenablog.com/entry/2014/05/24/060626

量子テレポーテーションでアリスとボブの間のどこを量子情報は飛んでいくのか。
http://mhotta.hatenablog.com/entry/2016/02/08/143133

ブラックホール防火壁仮説I:プロローグ
http://mhotta.hatenablog.com/entry/2014/03/13/115916

ブラックホール防火壁仮説Ⅱ:量子情報理論的なブラックホールの年齢 (ペイジ時間の考え方)
http://mhotta.hatenablog.com/entry/2014/03/15/112849


本書の内容

量子情報物理学の入門的実用書とはいうものの、本書はやはり僕にとって難し過ぎた。理解度が3割を切る場合、読むのをあきらめることにしているのだが、本書は例外である。最先端の領域で、どのようなことが、どのような手法で研究されているかを知りたかったからだ。通俗書やブログ記事では満たすことができない好奇心を放置することなく、たとえ一歩であっても理解を深めたかったからだ。

章立てはこのようになっている。本書の「まえがき」はPDFファイルとして公開されている。

第1章 量子情報と量子状態
第2章 量子測定
第3章 量子操作
第4章 量子エンタングルメント
第5章 連続測定と量子ゼノン効果
第6章 ウンルー効果と量子情報
第7章 ホーキング輻射と量子情報
第8章 量子エンタングルメントと負エネルギー
第9章 量子エネルギーテレポーテーション
付録A 連続系の状態トモグラフィ
付録B シュミット分解
付録C フォンノイマンエントロピーの凹性の証明
付録D トレースノルムが行列凸関数である証明
付録E ガウス状態のネガティビティの公式の導出

以下、「まえがき」からの引用を含めて、概要を紹介しておこう。

第1章 量子情報と量子状態

「量子情報とは何か」というテーマを様々な具体例を挙げながら深める。情報理論的視点を強調した「現代的コペンハーゲン解釈」の立場から、量子情報の本質を概観する。量子ビットと量子情報、量子状態トモグラフィ、混合状態の純粋化、量子情報のアイデンティティ、量子複製禁止定理など。

第2章 量子測定

量子測定理論の基礎を解説した。ここでは理想測定ではない一般的な測定の定式化が紹介される。また量子状態は情報的概念であり、持っている系の知識量に応じて測定者毎に異なってもいいことも強調される。量子状態にそのような測定者依存性があっても、各量子状態から予言される測定結果に関しては全く矛盾を出さない巧妙な理論構造を量子力学が保持していることも見る。現代的コペンハーゲン解釈における量子測定の本質的な特徴を見るためにポインター基底測定が紹介される。まず理想化された測定を解説し、次に実際の量子系で誤差を伴う場合など理想測定とは異なる一般測定を解説する。キーワードはPOVM(positive operator valued measure, 正演算子値測度)だ。

第3章 量子操作

量子物理学、量子情報理論で重要な一般的量子操作の数学的側面の解説。量子縺れを定義するのに必要な局所的操作と古典通信 (LOCC) の概念が導入される。また最も一般的な物理過程は量子通信路理論で使われる完全正値性写像という数学的概念で統一的に扱えることも述べる。キーワードはTPCP写像(trace-preserving completely-positive map、トレース保存完全正値写像)、LOCC(local operation and classical communication、局所的操作と古典通信)である。

第4章 量子エンタングルメント

量子縺れの操作論的定義から始まり、種々の量子縺れ指標が紹介される。局所性の定義の重要性、量子縺れエントロピー、2体系の状態変化と量子縺れ、確率的LOCCによる状態変化と量子縺れ、混合状態に対する量子縺れ測度の一般論、ネガティビティと対数ネガティビティ、ガウス量子状態に対するネガティビティ、基底状態の量子縺れと局所強受動性、量子テレポーテーション。

第5章 連続測定と量子ゼノン効果

測定による反作用が注目系の時間発展に影響を与える量子ゼノン効果について述べられる。短時間の間に何回も連続して系を理想測定すると系の運動が止まってしまうのが量子ゼノン効果である。またシュレーディンガーの猫の思考実験と量子ゼノン効果を組み合わせて出てくるパラドクスを解決しながら、日常における普通の観測行為が対象の量子系のダイナミクスに影響を与えない理由が解説される。

第6章 ウンルー効果と量子情報

量子場の真空状態において一様加速度運動をする測定者が熱浴を観測するウンルー効果を紹介し、その量子縺れの解析を行う。一様加速度運動をする測定者と等価原理、慣性系での量子場、一様加速度系での量子場、ウンルー効果と量子縺れエントロピー、真空状態のネガティビティ、ウンルー効果とブラックホールなど。

参考:「ブラックホールと時空の歪み: キップ・S. ソーン」の紹介記事の中で、次のように書いた。「仮想粒子をブラックホールの地平に向かって自由落下する加速系から見ると、実際の粒子として観測されることが本書の第11章で解説されている。同じ事象が見る立場(異なる系)で「無」になったり「有」になったりすることに、特に興味を持った。(専門的には「ウンルー効果」と呼ばれている。)」

第7章 ホーキング輻射と量子情報

ブラックホールから放出されるホーキング輻射を情報理論的切り口から解析を行う。またブラックホール蒸発に関する情報喪失問題の最近の進展にも触れる。ブラックホール形成と(空間1次元の)動的鏡モデル、2次元動的鏡モデル、歩キング輻射の量子縺れ、量子縺れのモノガミー(一夫一婦制)とホーキング輻射、ブラックホールの情報喪失問題、場の理論におけるパートナー公式など。

参考記事:「ブラックホール戦争:レオナルド・サスキンド

第8章 量子エンタングルメントと負エネルギー

多体量子系の基底状態の量子縺れが負エネルギー領域を持つ量子状態を作り出すことが示される。また量子場における負エネルギーの性質とブラックホール蒸発における負エネルギー流も解説される。基底状態の量子エンタングルメントが生み出す負エネルギー密度、量子場の負エネルギー密度、ブラックホール時空での負エネルギー密度流など。

第9章 量子エネルギーテレポーテーション

多体系基底状態の量子縺れを用いるとLOCC によって操作論的な意味でのエネルギー転送が可能となる量子エネルギーテレポーテーション (quantum energy teleportation,QET) という量子プロトコルが解説される。情報量とエネルギーの非自明な関係とともに、ブラックホール蒸発過程に対して QET が導く新たな知見が紹介される。基底状態の量子縺れ破壊と局所冷却問題、ミニマルQETモデル、一般スピン鎖系におけるQET、QETにおけるエネルギーと情報量の関係性、量子場を用いたQET、ブラックホールとQETなど。


堀田先生には申し訳なかったが、今回は未消化に終わってしまった。巻末の参考文献をたよりに学び続けるつもりである。時期を見て、また再読してみたいと思う。

第2版も絶版になる可能性があるため、いずれ読みたいと思っている方は、今のうちに購入しておくことをお勧めする。本書は一般相対論や場の量子論の初等レベルの知識を前提にしている。


関連する連投ツイート:

ブログ記事のほか、堀田先生は量子情報物理学に関してとても示唆に富むツイートをされている。特に興味を引いたものをピックアップしておく。タイトルは僕のほうで勝手につけさせていただいた。

陽電子、時間を遡る粒子(新入生へ)
https://twitter.com/hottaqu/status/1113209661958762496

量子情報物理学の立場での時間(過去と未来)
https://twitter.com/hottaqu/status/1114644781223649285

物理学において存在とは
https://twitter.com/hottaqu/status/1114635953941831680

基礎方程式における時間の反転対称性
https://twitter.com/hottaqu/status/1127146412926328833

量子もつれと時間の反転対称性
https://twitter.com/hottaqu/status/1127283390300823553

人工意識、クオリア、波動関数
https://twitter.com/hottaqu/status/1158911039729065984

2次元空間でのアインシュタイン方程式
https://twitter.com/hottaqu/status/1162576442040864768

物理学者の“数式で見る世界”
https://twitter.com/hottaqu/status/1161929480601915392

Reeh–Schlieder定理
https://twitter.com/hottaqu/status/1168475167242240000

現代物理学における実在性とは、量子テレポーテーション
https://twitter.com/hottaqu/status/1170405426971779072


関連記事:

新版 量子論の基礎:清水明
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c7ebf325a27e9ac9114d0a7dc609ca94

ヒルベルト空間と量子力学 改訂増補版:新井朝雄
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/84313bfed4331fe0c1343a55a531809a

量子力学の数学的構造 I:新井朝雄、江沢洋
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/196b59dc50fca361ba523036e7eeb908

量子力学の数学的構造 II:新井朝雄、江沢洋
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a4ef01e94a8c0384cec353ebe4d542e4

量子力学の数学的基礎: J.v.ノイマン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/09b65f36119894f5b852bbf38421af45


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量子情報と時空の物理 第2版: 堀田昌寛」(サイエンス社のページ


第1章 量子情報と量子状態
  1.1 量子ビットと量子情報
  1.2 量子状態が導く頻度主義的確率と単発測定における客観情報
  1.3 量子状態トモグラフィ
  1.4 混合状態の純粋化
  1.5 量子情報のアイデンティティ

第2章 量子測定
  2.1 ポインター基底測定
  2.2 量子測定における現代的コペンハーゲン解釈のいくつかの本質的側面
  2.3 一般化された量子測定

第3章 量子操作
  3.1 一般的量子操作としてのTPCP写像
  3.2 LOCC:局所的操作と古典通信
  3.3 連鎖する測定過程としてのLOCC
  3.4 LOCCのユニタリー化
  3.5 TPCP写像と量子状態の間の双対性

第4章 量子エンタングルメント
  4.1 量子エンタングルメントの操作論的定義
  4.2 量子エンタングルメント解析における局所性の定義の重要性
  4.3 エンタングルメントエントロピー
  4.4 2体系の状態変化と量子エンタングルメント
  4.5 確率的LOCCによる状態変化と多体系の量子エンタングルメント
  4.6 混合状態に対するエンタングルメント測度の一般論
  4.7 ネガティビティと対数ネガティビティ
  4.8 ガウス量子状態に対するネガティビティ
  4.9 基底状態のエンタングルメントと局所強受動性
  4.10 量子テレポーテーション

第5章 連続測定と量子ゼノン効果
  5.1 直接測定によるゼノン効果
  5.2 間接測定での量子ゼノン効果の実現不可能性
  5.3 一方向性量子ダイナミクスと崩壊時刻の確率分布
  5.4 一方向性条件を厳密に満たすモデル

第6章 ウンルー効果と量子情報
  6.1 一様加速度運動をする測定者と等価原理
  6.2 慣性系での量子場
  6.3 一様加速度系での量子場
  6.4 ウンルー効果とエンタングルメントエントロピー
  6.5 真空状態のネガティビティ
  6.6 ウンルー効果とブラックホール

第7章 ホーキング輻射と量子情報
  7.1 ブラックホール形成と動的鏡モデル
  7.2 2次元動的鏡モデル
  7.3 ホーキング輻射の量子縺れ
  7.4 量子縺れのモノガミーとホーキング輻射
  7.5 ブラックホールの情報喪失問題
  7.6 場の理論におけるパートナー公式

第8章 量子エンタングルメントと負エネルギー
  8.1 基底状態の量子エンタングルメントが生み出す負エネルギー密度
  8.2 量子場の負エネルギー密度
  8.3 ブラックホール時空での負エネルギー密度流

第9章 量子エネルギーテレポーテーション
  9.1 基底状態の量子エンタングルメント破壊と局所冷却問題
  9.2 ミニマルQETモデル
  9.3 一般スピン鎖系におけるQET
  9.4 QETにおけるエネルギーと情報量の関係性
  9.5 量子場を用いたQET
  9.6 ブラックホールとQET

付録A 連続系の状態トモグラフィ

付録B シュミット分解

付録C フォンノイマンエントロピーの凹性の証明

付録D トレースノルムが行列凸関数である証明

付録E ガウス状態のネガティビティの公式の導出

参考文献
索引

The Order of Time: Carlo Rovelli(時間は存在しない)

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The Order of Time: Carlo Rovelli」(Kindle版)(日本語版

内容紹介:
“Highly original. . . . Chapter by chapter, Rovelli shows how modern physics has annihilated common understandings of time. . . . the many other excellent explanations of science, the heart and humanity of the book, its poetry and its gentle tone raise it to the level and style of such great scientist-writers as Lewis Thomas and Rachel Carson.” —Alan Lightman, New York Times Book Review

“ An elegant grapple with one of physics’ deepest mysteries. . . .A masterly writer. . . . In this little gem of a book, Mr. Rovelli first demolishes our common-sense notion of time. . . .an ambitious book that illuminates a thorny question, that succeeds in being a pleasurable read.” —Wall Street Journal

“No one writes about the cosmos like theoretical physicist Carlo Rovelli. . . Rovelli’s new story of time is elegant and lucidly told, whether he is revealing facts or indulging in romantic-philosophic speculation about the nature of time.” —The Washington Post

Nature: https://www.nature.com/articles/d41586-018-04558-7
physicsworld: https://physicsworld.com/a/carlo-rovelli-the-author-of-the-order-of-time-discusses-perhaps-the-greatest-mystery/

2018年5月8日刊行、256ページ。原書イタリア語版刊行は2017年4月。

著者について:
カルロ・ロヴェッリ Carlo Rovelli
ホームページ: http://www.cpt.univ-mrs.fr/~rovelli/
Twitter: @carlorovelli
Carlo Rovelli was born in Italy, is a US citizen and lives in France. His main activity is in theoretical physics, where he is known as one of the founders of loop quantum gravity. He has also interests in the history and philosophy of science. He has written "Quantum Gravity", a treatise on loop quantum gravity and, for the large public, "The First Scientist: Anaximander and his Legacy", which is primarily a reflection on the nature of science. The book is translated in five languages and has been awarded by the "Prix du Livre Haute Maurienne".
Rovelli has worked in various Universities in Italy, the US and France. He is currently head of the quantum gravity group at the Center For Theoretical Physics of the Aix-Marseille University. He is Honorary Professor of the Normal University of Beijing, and member of the International Academy for the Philosophy of Science.

ロヴェッリ博士の日本語著書を検索: 書籍版 Kindle版
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理数系書籍のレビュー記事は本書で428冊目。


英語で読んだ理由

英語教育の危機 (ちくま新書):鳥飼玖美子」を読んで以来、個人的に外国語学習ブームが続いている。外国語を身に付けるには、とにかく反復練習、多読が大切だ。

本の電子書籍化が進み、昔と違って洋書の選択肢はとてつもなく増えたことに加え簡単に買うことができる。また翻訳書に比べて安価なのもありがたい。

翻訳された科学教養書、専門書を読むとき、たいてい原書をKindleで買ってしまう。読まないともったいないのだ。このような本は小説に比べて表現や語彙が限られているから、とても読み易い。おそらく英検2級レベルの語学力があれば読むことができる。

というわけで先日読んだばかりの「時間は存在しない: カルロ・ロヴェッリ」を英語で読んでみた。(原書はイタリア語)本書の詳しい解説は「日本語版の紹介記事」のほうに書いておいたので、そちらを参考にしていただきたい。今回は本書の内容を復習するためと、英語学習のために読んでみた。家で読むときは音読、外で読むときは黙読した。

本書は英文読解用としては中級レベルだ。原著者がそうなのか英訳した方がそうなのかはわからないが、これまでお目にかかったことがない(おそらく英検1級レベル以上の)英単語がときどきでてくる。また詩的、文学的な表現が多い章は日本語版で確認する必要がある。

とはいえ、物理学や数学にかかわる箇所は平易な英語で書かれているから、日本語版に立ち戻らなくても楽に読めるはずだ。外国語の読書は最初のうちなかなか進まないものだが、読み進むにつれてペースが上がっていく。同じような表現や語彙が繰り返しでてくるから「単語帳」を作らなくても記憶に残る。

ぜひ、この記事に含めた英語の紹介記事を読んで理解できるようならば、英語版をお読みになることをお勧めしたい。また、リスニングのトレーニング用には記事の後半に埋め込んだ動画をご覧になるとよいだろう。イタリア語訛りだから英語は聞きやすいはずだ。


本書の構成と紹介

構成と章立ては、次のとおりだ。

Perhaps Time Is the Greatest Mystery

Part I: THE CRUMBLING OF TIME

Chapter 1: Loss of Unity
Chapter 2: Loss of Direction
Chapter 3: The End of the Present
Chapter 4: Independence
Chapter 5: Quanta of Time

Part II: THE WORLD WITHOUT TIME

Chapter 6: The World Is Made of Events, Not Things
Chapter 7: The Inadequacy of Grammar
Chapter 8: Dynamics as Relation

Part III: THE SOURCE OF TIME

Chapter 9: Time Is Ignorance
Chapter 10: Perspective
Chapter 11: What Emerges from a Particularity
Chapter 12: The Scent of the Madeleine
Chapter 13: The Source of Time

The Sister of Sleep


Introduction: Perhaps Time is the Greatest Mystery

I stop and do nothing. Nothing Happens. I am thinking about nothing. I listen to the passing of time.

This is time, familiar and intimate. We are taken by it. The rush of seconds, hours, years that hurls us toward life then drags us toward nothingness.... We inhabit time as fish live in water. Our being is being in time. Its solemn music nurtures us, opens the world to us, trou­bles us, frightens and lulls us. The universe unfolds into the future, dragged by time, and exists according to the order of time.

In Hindu mythology, the river of the cosmos is portrayed with the sacred image of Shiva dancing: his dance supports the coursing of the universe; it is itself the f lowing of time. What could be more universal and obvious than this flowing?

And yet things are somewhat more complicated than this. Reality is often very different from what it seems. The Earth appears to be flat but is in fact spherical. The sun seems to revolve in the sky when it is really we who are spinning. Neither is the structure of time what it seems to be: it is different from this uniform, universal flowing. I discovered this, to my utter astonishment, in the physics books I read as a university student: time works quite differently from the way it seems to.

In those same books I also discovered that we still don’t know how time actually works. The nature of time is perhaps the greatest remaining mystery. Curious threads connect it to those other great open mysteries: the nature of mind, the origin of the universe, the fate of black holes, the very functioning of life on Earth. Something essential continues to draw us back to the nature of time.

Wonder is the source of our desire for knowledge, and the discovery that time is not what we thought it was opens up a thousand questions. The nature of time has been at the center of my life’s work in theoretical physics. In the following pages, I give an account of what we have understood about time and the paths that are being followed in our search to understand it better, as well as an account of what we have yet to understand and what it seems to me that we are just beginning to glimpse.

Why do we remember the past and not the future? Do we exist in time, or does time exist in us? What does it really mean to say that time “passes”? What ties time to our nature as persons, to our subjectivity?

What am I listening to when I listen to the passing of time?

This book is divided into three unequal parts. In the first, I summarize what modern physics has understood about time. It is like holding a snowflake in your hands: gradually, as you study it, it melts between your fingers and vanishes. We conventionally think of time as something simple and fundamental that f lows uniformly, independently from everything else, from the past to the future, measured by clocks and watches. In the course of time, the events of the universe succeed each other in an orderly way: pasts, presents, futures. The past is fixed, the future open. . . . And yet all of this has turned out to be false.

One after another, the characteristic features of time have proved to be approximations, mistakes determined by our perspective, just like the flatness of the Earth or the revolving of the sun. The growth of our knowledge has led to a slow disintegration of our notion of time. What we call “time” is a complex collection of structures, of layers. Under increasing scrutiny, in ever greater depth, time has lost layers one after another, piece by piece. The first part of this book gives an account of this crumbling of time.

The second part describes what we have been left with: an empty, windswept landscape almost devoid of all trace of temporality. A strange, alien world that is nevertheless still the one to which we belong. It is like arriving in the high mountains, where there is nothing but snow, rocks, and sky. Or like it must have been for Armstrong and Aldrin when venturing onto the motionless sand of the moon. A world stripped to its essence, glittering with an arid and troubling beauty. The physics on which I work—quantum gravity—is an attempt to understand and lend coherent meaning to this extreme and beautiful landscape. To the world without time.

The third part of the book is the most difficult, but also the most vital and the one that most closely involves us. In a world without time, there must still be something that gives rise to the time that we are accustomed to, with its order, with its past that is different from the future, with its smooth f lowing. Somehow, our time must emerge around us, at least for us and at our scale.

This is the return journey, back toward the time lost in the first part of the book when pursuing the elementary grammar of the world. As in a crime novel, we are now going in search of a guilty party: the culprit who has created time. One by one, we discover the constituent parts of the time that is familiar to us—not, now, as elementary structures of reality, but rather as useful approximations for the clumsy and bungling mortal creatures we are: aspects of our perspective, and aspects, too, perhaps, that are decisive in determining what we are. Because the mystery of time is ultimately, perhaps, more about ourselves than about the cosmos. Perhaps, as in the first and greatest of all detective novels, Sophocles’ Oedipus Rex, the culprit turns out to be the detective.

Here, the book becomes a fiery magma of ideas, sometimes illuminating, sometimes confusing. If you decide to follow me, I will take you to where I believe our knowledge of time has reached: up to the brink of that vast nocturnal and star-studded ocean of all that we still don't know.


時間について博士が語る動画

ロヴェッリ博士のインタビューや講演の動画は、YouTubeにたくさん見つかる。このうち「時間について英語でお話しになっている動画」をピックアップした。ただし字幕はない。リスニングの練習用としてご覧になってもよいだろう。(ロヴェッリ博士の動画: YouTubeで検索

Carlo Rovelli on The Order of Time


The Physics and Philosophy of Time - with Carlo Rovelli


Q&A The Physics and Philosophy of Time - with Carlo Rovelli



著書と訳書(科学教養書)

本書の原書はイタリア語で書かれている。原書のほか英語版とフランス語版を載せておく。

時間は存在しない: カルロ・ロヴェッリ」(Kindle版)(紹介記事
L'ordine del tempo: Carlo Rovelli
The Order of Time: Carlo Rovelli」(Kindle版
L'ordre du temps: Carlo Rovelli
   


博士はこのほかにも何冊か一般向けの教養書をお書きになっている。現時点で日本語に翻訳されているものを外国語版とともに載せておこう。日本語版のタイトルは原書とまったく違うが、対応関係はこれで正しいことを確認した。

すごい物理学講義: カルロ・ロヴェッリ」(Kindle版
La realtà non è come ci appare: Carlo Rovelli
Reality Is Not What It Seems: Carlo Rovelli」(Kindle版
Par delà le visible La réalité du monde: Carlo Rovelli
   


世の中ががらりと変わって見える物理の本: カルロ・ロヴェッリ」(Kindle版
Sette brevi lezioni di fisica: Carlo Rovelli
Seven Brief Lessons on Physics: Carlo Rovelli」(Kindle版
Sept brèves leçons de physique: Carlo Rovelli
   


ループ量子重力の本

博士のご専門は量子重力理論のうちのひとつ、ループ量子重力理論だ。博士による入門者向け専門書(英語)、他の著者による教養書と入門者向け専門書を紹介しておこう。

Covariant Loop Quantum Gravity: Carlo Rovelli, Francesca Vidotto」(Kindle版
繰り返される宇宙: マーチン・ボジョワルド」(ドイツ語原書)(原書Kindle版
初級講座 ループ量子重力: R. ガムビーニ、J. プリン」(原書)(原書Kindle版
  


関連記事:

時間は存在しない: カルロ・ロヴェッリ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/55f4ffc2e5f45add46dea97086bb3aed

時:渡辺慧
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d149cf16bb9dd319f572e4228fdfe241

アラン・コンヌ博士の非可換幾何学とは?
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5f5fc6fd565dbd789d1129c23986c849

深層学習と時空:橋本幸士先生 #MathPower
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bf7e7e661246866943c765bdd371248f

ディープラーニングと物理学 原理がわかる、応用ができる:田中章詞、富谷昭夫、橋本幸士
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5edea35c359ead77cf30915e9dd28bce

明解量子重力理論入門:吉田伸夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e0ab2fd9fafe3568c24ed358dd4ea92c

量子重力には対称性はない ― 大栗機構長らが証明
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f3873800958a91cedc050075c14d303c


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The Order of Time: Carlo Rovelli」(Kindle版)(日本語版


Perhaps Time Is the Greatest Mystery

Part I: THE CRUMBLING OF TIME

Chapter 1: Loss of Unity
- The Slowing Down of Time
- Ten Thousand Dancing Shivas

Chapter 2: Loss of Direction
- Where Does the Eternal Current Come from?
- Heat
- Blur

Chapter 3: The End of the Present
- Speed Also Slows Down Time
- "Now" Means Nothing
- Temporal Structure Without the Present

Chapter 4: Independence
- What Happens when Nothing Happens?
- What is There, Where There is Nothing?
- The Dance of the Three Giants

Chapter 5: Quanta of Time
- Granuality
- Quantum Superpositions of Times
- Relations

Part II: THE WORLD WITHOUT TIME

Chapter 6: The World Is Made of Events, Not Things
Chapter 7: The Inadequacy of Grammar
Chapter 8: Dynamics as Relation
- Elementary Quantum Events and Spin Networks

Part III: THE SOURCE OF TIME

Chapter 9: Time Is Ignorance
- Thermal Time
- Quantum Time

Chapter 10: Perspective
- We are the Ones Turning
- Indexicality

Chapter 11: What Emerges from a Particularity
- It is Enthropy, not Energy, that Drives the World
- Trances and Causes

Chapter 12: The Scent of the Madeleine
Chapter 13: The Source of Time

The Sister of Sleep

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記事一覧(洋書:英語書籍、フランス語書籍)

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洋書の紹介記事がたまってきたので、検索しやすいように「記事一覧(洋書:英語書籍、フランス語書籍)」としてまとめてみた。この記事事自体を「記事一覧(分野別)」というトップカテゴリーにしておけば簡単にこのブログの目次を引っ張り出すことができるので使いやすい。物理学書、数学書だけでなく一般書籍も含めることにする。

外国語を身に付けるには、とにかく反復練習、多読が大切だ。(参考記事:「英語教育の危機 (ちくま新書):鳥飼玖美子」)


洋書の記事分類

[英語書籍:理学書]

The Feynman Lectures on Physics: The New Millennium Edition
Exercises for the Feynman Lectures on Physics
ファインマン物理学(英語版)が全巻ネット公開されました。
英語版「ランダウ=リフシッツの理論物理学教程」がオンラインで無料公開された
Kindle版のメシアの「量子力学(英語版)」
An Introduction to the Standard Model of Particle Physics 2nd Edition: W.N.Cottingham, D.A.Greenwood
A Brief History of Time (2017, 2018): Stephen Hawking
QED: The Strange Theory of Light and Matter: Richard P. Feynman
The Order of Time: Carlo Rovelli

[英語書籍:一般書]

「エルマーのぼうけん」シリーズ: ルース・S・ガネット


[フランス語書籍:理学書]

フランス語版「ファインマン物理学」の新版
Lumière et matière - Une étrange histoire: Richard P. Feynman

[フランス語書籍:一般書]

悲しみよこんにちは: フランソワーズ・サガン

Lumière et matière - Une étrange histoire: Richard P. Feynman(光と物質のふしぎな理論)

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Lumière et matière - Une étrange histoire: Richard P. Feynman」(Amazon.fr

内容紹介:
" Et maintenant, attachez vos ceintures. Non pas que ce soit particulièrement difficile à comprendre, mais tout simplement parce que ça va vous sembler le comble du ridicule. Jugez-en : nous dessinons des petites flèches sur une feuille de papier ! C'est tout. "

L'électrodynamique quantique, qui décrit les interactions entre lumière et matière, prototype des théories de la physique moderne, devient un jeu d'enfant quand elle est expliquée par un de ses créateurs. Richard Feynman montre que les notions les plus difficiles sont explicables sans formalisme mathématique et que leur sens profond est à la portée de tous.

Un sommet de la vulgarisation scientifique.

1992年刊行、206ページ。

著者について:
Richard P. Feynman (1918-1988): Wikipedia ウィキペディア
Richard Feynman fut un scientifique hors normes. Non seulement il contribua en profondeur à la grande aventure de la physique des particules élémentaires, depuis la fabrication de la bombe atomique pendant la guerre, alors qu'il n'a pas 25 ans, jusqu'à ses diagrammes qui permettent d'y voir un peu plus clair dans les processus physiques de base. Non seulement il fut un professeur génial, n'hésitant pas à faire le clown pour garder l'attention de ses étudiants et à simplifier pour aller à l'essentiel. Mais il mena aussi une vie excentrique collectionneur, bouffon, impertinent, joueur de bongos, amateur de strip-tease, séducteur impénitent, déchiffreur de codes secrets et de textes mayas, explorateur en Asie centrale , qu'il raconte ici avec l'humour du gamin des rues de New York qu'il n'a jamais cessé d'être. Richard Feynman est né à Brooklyn, en 1918, et a passé son doctorat à Princeton, en 1942. Il a enseigné à Cornell et au Caltech. Il a reçu le prix Nobel de physique, en 1965, pour ses travaux en électrodynamique quantique.


理数系書籍のレビュー記事は本書で429冊目。

英語教育の危機 (ちくま新書):鳥飼玖美子」を読んで以来、個人的に外国語学習ブームが続いている。今回はフランス語の科学教養書の紹介だ。


なぜフランス語版を読んで紹介するのか?

すでに日本語版英語版を読んで紹介記事を書いているので、フランス語版を読んだのは純粋に語学学習のためだった。英語だけでなくフランス語でも楽しく物理学を語れるようになりたいという欲求を満たすためである。語学の勉強は好きな本を読むに限る。何度も反復練習すること、できるだけたくさんの本を読みまくるのが大切なのは、外国語すべてに通じることだ。

とね日記はブログランキングサイトの「フランス語」のカテゴリーにも登録している。物理学の面白さをより多くの文系読者、特にフランス語を学んでいる方にも伝え、ファインマン先生や本書で解説される「不思議な物理学」に興味をもってもらえればうれしい。

とりわけ本書のフランス語は易しい。取り上げられているのが光子や電子、素粒子だけで、それらに関連する表現がごく限られているからだ。同じような表現を何度も読むことになるから、通読するだけで覚えてしまう。家では音読を、外では黙読していた。意味がくみ取れない箇所は英語版を参照していた。

物理学の専門用語を除けば、フランス語表現の難易度は仏検2級程度である。「Le Petit Prince (星の王子さま)」と同程度か、それより易しいと思った。日本語版ではたかだか220ページの文庫本だが、フランス語版を読むのには7日間かかった。(英語版は4日で読むことができた。)

届いたフランス語版を通読中の様子はこの連投ツイートをぜひご覧いただきたい。ツイートには本書の要点がわかるように、フランス語版のページもいくつかピックアップしている。


以下、フランス語学習者(理数系でない方)のために、本書の概要と導入部分を紹介しておこう。

とね日記について」というこのブログの紹介記事の中で次の質問をしている。本書は光(光子)と電子が振る舞う不思議な物理学を解説しながら、この3つの質問に対する回答を与えてくれるのだ。数式はほとんど使わないで「量子電磁力学(QED: Quantum Electrodynamics、フランス語ではÉlectrodynamique quantique)を解説する科学教養書である。

- ガラスのコップはなぜ透明に見えるのでしょうか?
- 光をガラスにあてると部分反射します。ガラスは透過させる光と反射させる光をどのようにして選り分けているのでしょうか?
- 光線は最短時間で到達する道筋をたどって進むことが知られています。けれども最終到達地点をあらかじめ知らなければその道筋は決まりません。出発したときに光は到達地点を知らないのに、なぜその道筋を進むことができるのでしょうか?

小学校、中学校、高校では「光線が鏡に当たるとき、入射角と反射角は等しい」ということを学ぶ。けれどもなぜそうなるのか、根本的な理由は習っていない。この問題を本書ではまず取り上げ、予想もしないことが実際には起きていることが紹介される。前半は光(光子)がもたらす現象について、後半は光子と電子がもたらす現象についての法則-専門的には「量子電磁力学」の話である。この本の原書は、1979年と1983年にファインマン先生が一般人向けに行なった講義を元にして1986年に英語版として書籍化したものだ。

詳しい解説は「英語版の紹介記事」をお読みいただきたい。

アマゾンでの内容紹介は次のとおりだ。

「ねえ、リチャード、あなたは何を研究しているの?」友達の奥さんがそう尋ねてきた。はてさて、どうする、ファインマンさん。物理が全然わからない人に、自分の研究を理解してもらえるか。それも、超難解で鳴る量子電磁力学を。光と電子が綾なす不思議な世界へ誘う好著。物理学者リチャード・ファインマン、面目躍如の語りが冴える。
この本は4日間にわたる一般向け講演の記録に基づいて書かれたものです。1日目は「部分反射」の話からはじまります。ガラスの表面に光が当たるとき、光の一部が表面を通過し一部が反射する現象です。かのニュートンは光の粒子説を唱えましたが、波動説が競合していました。そしてマクスウェルの理論によって波動説が最終的に勝利したかに見えました。ところが20世紀に入って量子論が誕生し、ある意味で粒子説が復活しました。光は光子という「粒」の集まりだと言うのです。すると部分反射について、既にニュートンが悩まされていた問題に再び悩まされることになります。個々の「粒」は、ガラスの中に入ってゆくのかそれとも反射するのかを、どうやって「決心」するのか。。。本書では「粒」をめぐる様々な現象が「演算を持つ矢印」によって魔法のように見事に説明されていきます。複素数を知っているほうが分かりやすいとは思いますが、知らなくても十分理解できます。知的冒険の旅へ、装備なしの手ぶらで出発できます。


フランス語版は日本とフランスののアマゾンサイトのどちらからでも購入できる。

Lumière et matière - Une étrange histoire: Richard P. Feynman」(Amazon.fr


章立てを日本語で書けば、このようになる。

ファインマンの挨拶
1)はじめに
2)光の粒子
3)電子とその相互作用
4)未解決の部分

なお、フランス語版の155ページには以下の誤植がある。

Une erreur: page 155, ce n'est pas P(1 à 3) * P(2 à 3) et P(2 à 3) * P(2 à 3), mais bien P(1 à 3) * P(2 à 3) + P(1 à 3) * P(2 à 3). C'est anecdotique, car il réécrit deux fois et il ne fait qu'une seule fois l'erreur. Mais cela peut permettre tout de même d'éviter de tourner en rond.


物理学科の大学生向きの、解説資料(PDF)はこちらである。

Lumière et Matière.
Une adaptation libre d'après :
The strange theory of light and matter (Richard Feynman).
https://www.physinfo.org/Feynmania/lumierematiere.pdf


本書の内容のフランス語による解説動画

本書の内容に対応するフランス語音声の動画を紹介する。それぞれ本書の前半と後半に対応し、CGでの視覚化による解説が素晴らしい。フランス語がわからない方もご覧になってみるとよいだろう。フランス語字幕を表示させることができるので、リスニングのトレーニングにも使うことができる。

Feynman et la lumière - Passe-science #15


Feynman et la QED - Passe-science #22


Pass-Science: YouTubeチャンネル

ファインマン先生の自伝「ご冗談でしょう、ファインマンさん」を紹介する動画と「ファインマン流」の学び方、考え方について解説する動画を紹介しておこう。

Vous voulez rire, Monsieur Feynman ? de Richard Feynman


Comment apprendre plus rapidement avec la technique FEYNMAN : exemple



英語版と日本語版について

科学英語の読解トレーニングにはうってつけの本だと思った。主題は光子と電子、その他の素粒子だけであること、計算の方法も一貫しているから、英文のパターンも限られている。読んでいくうちに慣れてくるからスピードも上がる。

日本語版は薄い文庫本だが、英語で読むと4日かかった。英語だと一字一句精読することになるから書かれていることをすべて吸収できる。僕がどれだけ熱中していたかは「この連投ツイート」をご覧になればおわかりになると思う。

英語版はファインマン先生の姿が載っている2006年版をKindle端末で読んだ。1988年に亡くなったファインマン先生が手にしたのは1986年版である。そしていちばん新しいのが2014年に刊行されている。

QED: The Strange Theory of Light and Matter (2006): Richard P. Feynman
(Kindle版)(2014)(1986
  


日本語版はこの2冊。1986年の英語版が刊行されてすぐ、ファインマン先生が大貫昌子さんを翻訳者に指名したという。大貫さんは「ご冗談でしょう、ファインマンさん」を訳して先生の信頼を得ていたからだ。先生は1987年に刊行された日本語訳(単行本)を手にしてお喜びになったに違いない。

光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学 (文庫、2007): R.P.ファインマン」(紹介記事
光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学 (単行本、1987): R.P.ファインマン
 


講義の動画、リスニングのトレーニング(英語)

この本の元になった講義は1979年と1983年に行われたようだ。1979年に行われた講義は、こちらからご覧いただける。本を読んでからだと講義がわかりやすい。(動画を検索

QED: Photons -- Corpuscles of Light -- Richard Feynman (1/4)


第1回 第2回 第3回 第4回 The Vega Science Trustの公開動画

各回の講義の後に行われた質疑応答が素晴らしい。本には書かれていないことについて、興味深い話を先生はたくさんお話しになっている。

1983年に行われた講義もYoTubeでご覧いただける。こちらのほうが画質がよい。本書の内容は第2回から始まる。

Richard Feynman: Quantum Mechanical View of Reality 1


第1回 第2回 第3回 第4回


NHKにはファインマン先生をCGで蘇らせて、この4回にわたる名講義を再現した科学番組を作ってもらいたいと思うのだ。また、ニュートンプレス社には本書の内容を「別冊ニュートン」として刊行してもらいたいとも思った。テーマがテーマだけにビジュアルなイラストで魅力的な紙面が満載の本になると思う。


経路積分とファインマン図は、次の動画で学ぶとよい。英語字幕付きなのでリスニングの練習用に使ってもよいだろう。英語がわからなくても見ているだけで楽しめると思う。

Feynman's Infinite Quantum Paths | Space Time(経路積分の解説動画)


The Secrets of Feynman Diagrams | Space Time(ファインマン図の解説動画)


この2つの動画は「量子力学の再生リスト」の一部である。


ファインマン先生による量子電磁力学の教科書

ファインマン先生は量子電磁力学の教科書をお書きになっている。アマゾンから販売されているほか、著作権切れであるため無料で読むこともできる。

Quantum Electrodynamics: Richard P. Feynman」(Kindle版


無料版:

Quantum Electrodynamics - R.P. Feynman (PDF)
https://archive.org/details/QuantumElectrodynamics/page/n49


関連記事:

光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学: R.P.ファインマン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4b34cd4e7d077d037022e62734d1ee76

QED: The Strange Theory of Light and Matter: Richard P. Feynman
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1860569fe58727fce5256356863001f9

ファインマンの経路積分に入門しよう!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0f47de5854daf4eb38339a73791544a8

ファインマン先生の自伝本と講演本
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9bf47cf51085c74caf34a11068a17285

ファインマン物理学(英語版)が全巻ネット公開されました。
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e94dd49d7d8cc395e29d37927e30173d

万有引力の法則(逆2乗則)の逆問題を解説する本と動画(ファインマンによる解法)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2cd381bca4546d23968b31cfad4a9be9

開平と開立(第5回): ファインマン先生に立方根計算の雪辱を果たそう
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/89a0b907577f03ef6132cf9664bdcddb

#Feynman100: ファインマン先生、生誕100周年セレモニー&シンポジウム
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/11dd9238ebcbc37915920a2dab553c82

強い力と弱い力:大栗博司(標準模型について学べる科学教養書)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/06c3fdc3ed4e0908c75e3d7f20dd7177


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2019年 ノーベル物理学賞はピーブルズ博士、マイヨール博士、ケロー博士に決定!

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スウェーデンの王立科学アカデミーは8日、2019年のノーベル物理学賞を、宇宙理論や太陽系外惑星発見を通じ、壮大な宇宙についての人類の理解を大きく前進させた、米国、スイス、英国の大学の3氏の研究者に授与する、と発表した。

3氏は米国・プリンストン大学のジェームズ・ピーブルズ氏、スイス・ジュネーブ大学のミシェル・マイヨール氏、ジュネーブ大学と英国・ケンブリッジ大学のディディエ・ケロー氏。

授賞式は12月10日にストックホルムで開かれる。賞金900万スウェーデン・クローナ(約9700万円)の半分はピーブルズ氏に、残り半分がマイヨール氏とケロー氏に贈られる。

ピーブルズ氏は、宇宙の背景放射と呼ばれる天体現象などの理論研究を通じ、宇宙がその始まりである「ビッグバン」の直後から膨張を続け、現在の姿になるまでの進化を理論的に解明した。

マイヨール氏とケロー氏は、南フランスの観測施設を使って、1995年に地球から約50光年離れたペガスス座の方向の宇宙に太陽系外惑星が存在することを初めて確認した。この惑星は木星のようなガスでできた惑星だった。

ケロー氏らの画期的な宇宙観測の前は、惑星は太陽系にしかないと考えられていた。同氏らの業績の後、現在までに4000以上の太陽系外惑星が確認されている。この中には地球に似た惑星も含まれ、生命存在への期待も高まっている。

The Nobel Prize in Physics 2019
https://www.nobelprize.org/prizes/physics/2019/summary/

Announcement of the Nobel Prize in Physics 2019(再生開始から21分30秒後)



今年は「宇宙」の分野で受賞が決まった。発表では次のようなスライドが映されている。



コーヒー(ダーク・エネルギー)にクリーム(ダーク・マター)と砂糖(物質)を入れて宇宙の構成を説明


宇宙背景放射(解説記事


初めて観測された系外惑星の位置(ペガスス座51番星b


太陽型恒星のドップラー効果により系外惑星の存在が確認された



発表のタイミングで公開されたプレスリリースを和訳したものを載せておこう。

プレスリリース(英語):
https://www.nobelprize.org/uploads/2019/10/press-physics2019.pdf

日本語訳:

2019年ノーベル物理学賞

“物理宇宙論についてのいくつかの理論的発見に対して”

ジェームズ・ピーブルズ
米国・プリンストン大学

“太陽型恒星を周回する系外惑星の発見に対して”

ミシェル・マイヨール
スイス・ジュネーブ大学

ディディエ・ケロー
ジュネーブ大学と英国・ケンブリッジ大学


宇宙における我々の新しい眺望に対しての授賞

今年のノーベル物理学賞は宇宙の構造と歴史に対して新しい理解をもたらしたこと、そして太陽系外の太陽型の恒星の周りを公転する惑星の最初の発見に対して授賞する。

ジェームズ・ピーブルズ博士の物理宇宙論についての洞察は、科学への思索的見地から過去50年にわたる宇宙論の変遷の基礎に広がるあらゆる領域の研究を豊かなものにした。1960年代半ばから開発された博士の理論的な枠組みは、私たちの宇宙に対する現在の理解の基礎となっている。

140億年近く前の宇宙のまさに最初の瞬間を説明するビッグ・バン・モデルは、その瞬間が極めて熱く濃密であったことを示している。その時以来、宇宙は膨張し続け、より広く冷たくなっている。ビッグ・バンからおよそ40万年後、宇宙は透明になり、光線は宇宙のあらゆる場所に行き渡ることになった。現在もなお、この太古の放射は私たちの周囲にあり、その中には宇宙の多くの謎が暗号のように隠されている。博士の理論的なツールと計算によって宇宙の子供時代の痕跡が解釈できるようになり、いくつもの新しい物理プロセスが発見できるようになった。

その結果、恒星、惑星や木、そして私たち自身など見えているすべてのものは、宇宙を構成するもののうちたった5パーセントにすぎないことがわかった。そして残りの95パーセントは未知のダーク・マターとダーク・エネルギーである。これは神秘であり、現代物理学の挑戦となる。

1995年10月、ミシェル・マイヨール博士とディディエ・ケロー博士は、私たちの太陽系の外にある惑星を初めて発見したことを発表した。それは私たちが属している銀河系、天の川にある太陽型の恒星を公転する惑星で、南フランスのオート=プロヴァンス天文台で特注した複数の機材を使って発見された。これらの機材により太陽系で最大の気体惑星である木星に比類するペガスス座51番星b(という太陽系外惑星)を見ることができた。

この発見は天文学における革命の始まりであり、その後銀河系内で4000個を超える系外惑星が発見された。不思議な新しい世界の発見はそれ以来続いており、信じがたいさまざまなサイズ、形、軌道のものが見つかっている。これらの系外惑星は惑星系についての先入観への挑戦となり、科学者たちは惑星の起源に潜む物理プロセスの理論を書き換えることが必要になった。系外惑星を探索する数々のプロジェクトが計画され、もしかすると私たちはこれまで抱き続けてきた(系外惑星に)地球外生命の存在するのか?という問いへの答えを、突然得ることになるかもしれない。

今年の受賞者たちは、宇宙についての私たちの認識を変えた。ジェームズ・ピーブルズ博士の理論的な数々の発見は、ビッグ・バン以後の宇宙の進化についての私たちの理解に貢献し、ミシェル・マイヨール博士とディディエ・ケロー博士は、未知の惑星を捜索することで私たちの宇宙の隣人の探査に貢献した。彼らの発見はこれまで私たちが抱いていた世界の概念を永遠に変えることになった。


ピーブルズ博士、マイヨール博士、ケロー博士、物理学賞受賞おめでとうございます。


関連書籍:

宇宙に「終わり」はあるのか: 吉田伸夫(ピーブルズ博士の業績が書かれている)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c9ad8a76d2a1725b731238eeb4699694

宇宙が始まる前には何があったのか?: ローレンス・クラウス
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b6f36e8eedba5ee63a4f919d30a2cb20

宇宙創世はじめの3分間 (ちくま学芸文庫):S. ワインバーグ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cd00222f81ac344af10061b48e4d289d

ワインバーグの宇宙論(上)ビッグバン宇宙の進化
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bd3d49fe1e13bcdd97116b33e8c736bb

ワインバーグの宇宙論(下): ゆらぎの形成と進化
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/13c2b81456935c281b4c57a014cd9d60

系外惑星の本: 書籍版を検索 Kindle版を検索


ノーベル物理学賞の注目度

ノーベル物理学賞が世間でどれだけの関心を引いているのか、Google Trendsで調べてみた。一時的なことであるが、「消費税」への関心を超えていた。(「年金」への関心には少しおよばなかった。)



Google Trends: 現時点で調べてみる


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英語原文:

The Nobel Prize in Physics 2019

“for theoretical discoveries in physical cosmology”

James Peebles, born 1935 in Winnipeg, Canada. Ph.D. 1962 from Princeton University, USA. Albert Einstein Professor of Science at Princeton University, USA.

“for the discovery of an exoplanet orbiting a solar-type star”

Michel Mayor, born 1942 in Lausanne, Switzerland. Ph.D. 1971 from University of Geneva, Switzerland. Professor at University of Geneva, Switzerland.

Didier Queloz, born 1966. Ph.D. 1995 from University of Geneva, Switzerland. Professor at University of Geneva, Switzerland and University of Cambridge, UK.


New perspectives on our place in the universe

This year's Nobel Prize in Physics rewards new understanding of the universe's structure and history, and the first discovery of a planet orbiting a solar-type star outside our solar system.

James Peebles' insights into physical cosmology have enriched the entire field of research and laid a foundation for the transformation of cosmology over the last fifty years, from speculation to science. His theoretical framework, developed since the mid-1960s, is the basis of our contemporary ideas about the universe.

The Big Bang model describes the universe from its very first moments, almost 14 billion years ago, when it was extremely hot and dense. Since then, the universe has been expanding, becoming larger and colder. Barely 400,000 years after the Big Bang, the universe became transparent and light rays were able to travel through space. Even today, this ancient radiation is all around us and, coded into it, many of the universe's secrets are hiding. Using his theoretical tools and calculations, James Peebles was able to interpret these traces from the infancy of the universe and discover new physical processes.

The results showed us a universe in which just five per cent of its content is known, the matter which constitutes stars, planets, trees – and us. The rest, 95 per cent, is unknown dark matter and dark energy. This is a mystery and a challenge to modern physics.

In October 1995, Michel Mayor and Didier Queloz announced the first discovery of a planet outside our solar system, an exoplanet, orbiting a solar-type star in our home galaxy, the Milky Way. At the Haute-Provence Observatory in southern France, using custom-made instruments, they were able to see planet 51 Pegasi b, a gaseous ball comparable with the solar system's biggest gas giant, Jupiter.

This discovery started a revolution in astronomy and over 4,000 exoplanets have since been found in the Milky Way. Strange new worlds are still being discovered, with an incredible wealth of sizes, forms and orbits. They challenge our preconceived ideas about planetary systems and are forcing scientists to revise their theories of the physical processes behind the origins of planets. With numerous projects planned to start searching for exoplanets, we may eventually find an answer to the eternal question of whether other life is out there.

This year's Laureates have transformed our ideas about the cosmos. While James Peebles' theoretical discoveries contributed to our understanding of how the universe evolved after the Big Bang, Michel Mayor and Didier Queloz explored our cosmic neighbourhoods on the hunt for unknown planets. Their discoveries have forever changed our conceptions of the world.

2019年 ノーベル化学賞はグッドイナフ博士、ウィッティンガム博士、吉野博士に決定!

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スウェーデンの王立科学アカデミーは9日、リチウムイオン電池の開発に寄与した3人にノーベル化学賞を贈ると発表した。リチウムイオン電池が「モバイルの世界を可能にした」と評価している。

米テキサス大学オースティン校のジョン・B・グッドイナフ教授(97)、ニューヨーク州立大学ビンガムトン校のM・スタンリー・ウィッティンガム教授(77)、そして日本の旭化成名誉フェローで名城大学教授の吉野彰氏(71)の3人。900万スウェーデンクローナ(約9700万円)の賞金は3人で分け合う。

グッドイナフ氏は、ノーベル賞受賞時の年齢としては史上最高齢。

リチウムイオン電池は軽く、再充電が可能な電池で、携帯電話やラップトップ、電気自動車(EV)などに利用されている。また、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーの蓄電にも活用されている。

The Nobel Prize in Chemistry 2019
https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/2019/summary/

Announcement of the Nobel Prize in Chemistry 2019



授賞のテーマが少し物理に近いこと、私たちの生活にあまりにも密着していること、中学生や高校生の関心も引くことから、今年は物理学賞だけでなく化学賞についてもブログ記事を書くことにした。

以下が発表と授賞の解説で映されたスライドである。















発表のタイミングで公開されたプレスリリースを和訳したものを載せておこう。

プレスリリース(英語):
https://www.nobelprize.org/uploads/2019/10/press-chemistry-2019-2.pdf

日本語訳:

2019年ノーベル化学賞

ジョン・B・グッドイナフ
米テキサス大学オースティン校

M・スタンリー・ウィッティンガム
米ニューヨーク州立大学ビンガムトン校

吉野彰
旭化成名誉フェロー、日本
名城大学、名古屋、日本

“リチウムイオン電池の開発に対して授賞”


彼らは繰り返し充電可能な世界を創造した

2019年のノーベル化学賞はリチウムイオン電池の開発に対して授賞する。この軽量で、繰り返し充電可能で強力な電池はスマートフォンからノートPC、自動車まであらゆるものに使われている。またこの電池は太陽光や風力から得られるとてつもなく大きなエネルギーを蓄えることができるようになり、脱化石燃料社会の実現を可能にした。

リチウムイオン電池は、私たちの連絡、仕事、学習、音楽視聴、知識の検索などの手段となる携帯型電子機器のために全世界で使われている。リチウムイオン電池はまた、長距離走行可能な電気自動車および太陽光発電や風力発電など再生可能なエネルギーの蓄電を可能にした。

リチウムイオン電池の基礎は、1970年代の石油危機に始まった。スタンリー・ウィッティンガム博士は、脱化石燃料技術に結びつく手法の開発に尽力した。博士は超伝導体の研究を始め、革新的なリチウムイオン電池の陽極を作成するために使用される極めて高いエネルギーをもつ物質を発見した。これは分子レベルでリチウムイオンを挿入(インターカレート)する領域をもつチタン・ジスフィルドという物質だ。

このバッテリーの陰極には部分的に金属リチウムが含まれ、これによって電子を強力に放出することができる。その結果、2ボルトを超える文字通り素晴らしいポテンシャルをバッテリーにもたらした。しかしながら、金属リチウムは反応性に富んでいることから、使用する前に爆発しやすいという問題もある。

ジョン・グッドイナフ博士は、金属ジスフィルドのかわりに金属酸化物を使うことで陽極に、より大きなポテンシャルを持たせられることを予想した。組織的に探索した結果、1980年に博士は酸化コバルトを挿入したリチウムイオンが4ボルト(の電圧)を生み出すことを示した。これはより強力な電池に結びつく重要なブレイクスルーとなった。

吉野彰博士は、グッドイナフ博士の陽極を基礎として1985年に商用的に実現可能なリチウムイオン電池を作成した。陰極に反応性に富むリチウムを使わないもので、博士は陽極に酸化コバルトを挿入するのではなく、炭素材料の石油コークスを使用してリチウムイオンに挿入した。

その結果、軽量で耐久性があり、性能が低下するまで数百回も繰り返し充電可能なリチウムイオン電池が実現した。リチウムイオン電池の利点は、陰極と陽極をリチウムイオンが行き来するだけであり、両電極を破壊する化学反応ではないことだ。

リチウムイオン電池は1991年に商用化されて以来、私たちの生活に革命をもたらしてきた。それは無線の社会、脱化石燃料社会の基礎として拡がり、人類にとてつもない利益をもたらすものである。


グッドイナフ博士、ウィッティンガム博士、吉野博士、化学賞受賞おめでとうございます。


吉野彰博士の記者会見

ノーベル化学賞の旭化成・吉野彰氏、満面の笑顔で受賞会見(2019年10月9日)


ノーベル化学賞の旭化成・吉野彰氏が夫妻で会見 発表から一夜明け(2019年10月10日)


2つめの記者会見で吉野博士は「もし自分が旭化成ではなく電池メーカーで働いたとしたら、ノーベル化学賞に結びつく素材からの開発はできなかっただろう。」とおっしゃっている。


関連書籍:

吉野彰博士の著書: 書籍を検索

リチウムイオン電池: 書籍を検索 Kindle書籍を検索


吉野博士が科学(化学?)に興味をもったのは、小学生のとき読んだマイケル・ファラデーの「ロウソクの科学」がきっかけだった。2016年のノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典博士が大きな影響を受けた本としても知られている。

ロウソクの科学 (角川文庫):マイケル・ファラデー」(Kindle版
ロウソクの科学 (岩波文庫):マイケル・ファラデー」(Kindle版
 


次はファラデーの講演を紙上に再現。今までの国内翻訳書にはない、再現可能な実験の写真や図解を掲載し、完訳ではなく抄訳によって、話の流れをわかりやすくした本だ。

「「ロウソクの科学」が教えてくれること 炎の輝きから科学の真髄に迫る、名講演と実験を図説で(サイエンス・アイ新書)」(Kindle版



原書はこちら。Kindle版には「無料の本」を含め「さまざまな本」がある。

The Chemical History of a Candle: Michael Faraday」(Kindle版



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英語原文:

The Nobel Prize in Physics 2019

John B. Goodenough
The University of Texas at Austin, USA

M. Stanley Whittingham
B
inghamton University, State University of New York, USA

Akira Yoshino
Asahi Kasei Corporation, Tokyo, Japan
Meijo University, Nagoya, Japan

“for the development of lithium-ion batteries”


They created a rechargeable world

The Nobel Prize in Chemistry 2019 rewards the development of the lithium-ion battery. This lightweight, rechargeable and powerful battery is now used in everything from mobile phones to laptops and electric vehicles. It can also store significant amounts of energy from solar and wind power, making possible a fossil fuel-free society.

Lithium-ion batteries are used globally to power the portable electronics that we use to communicate, work, study, listen to music and search for knowledge. Lithiumion batteries have also enabled the development of long-range electric cars and the storage of energy from renewable sources, such as solar and wind power.

The foundation of the lithium-ion battery was laid during the oil crisis in the 1970s. Stanley Whittingham worked on developing methods that could lead to fossil fuel-free energy technologies. He started to research superconductors and discovered an extremely energy-rich material, which he used to create an innovative cathode in a lithium battery. This was made from titanium disulphide which, at a molecular level, has spaces that can house – intercalate – lithium ions.

The battery's anode was partially made from metallic lithium, which has a strong drive to release electrons. This resulted in a battery that literally had great potential, just over two volts. However, metallic lithium is reactive and the battery was too explosive to be viable.

John Goodenough predicted that the cathode would have even greater potential if it was made using a metal oxide instead of a metal sulphide. After a systematic search, in 1980 he demonstrated that cobalt oxide with intercalated lithium ions can produce as much as four volts. This was an important breakthrough and would lead to much more powerful batteries.

With Goodenough's cathode as a basis, Akira Yoshino created the first commercially viable lithium-ion battery in 1985. Rather than using reactive lithium in the anode, he used petroleum coke, a carbon material that, like the cathode's cobalt oxide, can intercalate lithium ions.

The result was a lightweight, hardwearing battery that could be charged hundreds of times before its performance deteriorated. The advantage of lithium-ion batteries is that they are not based upon chemical reactions that break down the electrodes, but upon lithium ions flowing back and forth between the anode and cathode.

Lithium-ion batteries have revolutionised our lives since they first entered the market in 1991. They have laid the foundation of a wireless, fossil fuel-free society, and are of the greatest benefit to humankind.

Surely You're Joking, Mr. Feynman!(ご冗談でしょう、ファインマンさん)

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Surely You're Joking, Mr. Feynman!」(Kindle版

内容紹介:
With his characteristic eyebrow-raising behavior, Richard P. Feynman once provoked the wife of a Princeton dean to remark, "Surely you're joking, Mr. Feynman!" But the many scientific and personal achievements of this Nobel Prize-winning physicist are no laughing matter. In addition to solving the mystery of liquid helium, Feynman has been commissioned to paint a naked female toreador and asked to crack the uncrackable safes guarding the atomic bomb's most critical secrets. He has traded ideas with Einstein and Bohr, discussed gambling odds with Nick the Greek, and accompanied a ballet on the bongo drums. Here, woven with his scintillating views on modern science, Feynman relates the defining moments of his accomplished life.

2018年2月6日刊行、397ページ。初版は1985年1月刊行。

著者について:
Richard P. Feynman (1918-1988): Wikipedia ウィキペディア
Winner of the Nobel Prize in physics, thrived on outrageous adventures. In this lively work that can shatter the stereotype of the stuffy scientist (Detroit Free Press), Feynman recounts his experiences trading ideas on atomic physics with Einstein and cracking the uncrackable safes guarding the most deeply held nuclear secrets and much more of an eyebrow-raising nature. In his stories, Feynman's life shines through in all its eccentric glory a combustible mixture of high intelligence, unlimited curiosity, and raging chutzpah. Included for this edition is a new introduction by Bill Gates.


理数系書籍のレビュー記事は本書で430冊目。(物理学者による自伝だから理系本としておく。)


英語で読んだ理由

英語教育の危機 (ちくま新書):鳥飼玖美子」を読んで以来、個人的に外国語学習ブームが続いている。外国語を身に付けるには、とにかく反復練習、多読が大切だ。

本の電子書籍化が進み、昔と違って洋書の選択肢はとてつもなく増えたことに加え簡単に買うことができる。また翻訳書に比べて安価なのもありがたい。

400ページ近くあるから、さすがに時間がかかった。各エピソードを英語で読み、次に日本語版を読んで英語の理解度を確認。そしてもう一度英語に戻って読み直した。そのためひとつ前の本の紹介記事投稿から20日もかかっている。洋書にこれだけ没頭することはなかったから、とてもよい学習になった。後半になるにつれて読むスピードも上がっていた。(読書経過はこの連投ツイートを参照)


ビル・ゲイツによる紹介文

1985年に初版が刊行されて以来、英語版はたびたび違う表紙のものが刊行されている。今回読んだのは2018年2月に発売された本で、これにはビル・ゲイツによる紹介文が載せられている。彼はファインマン博士の大ファンなのだ。僕の和訳とともに紹介文を載せておこう。この紹介文は米国アマゾンのKindle版のページの「Look inside」(開く)やGoogleブックス(開く)から公開されている。

Introduction

I remember the exact moment I fell for Richard Feynman.

I was on vacation in Santa Barbara with a friend. Learning is one of my favorite ways to relax, so we'd gone to the local university library and checked out a bunch of films reels (this was the mid-1980's), including Feynman's famous Cornell lectures.

During the day, we'd go to the beach. At night, we'd turn on the projector and watch Feynman. I was mesmerized. I've always been a science geek, but he made physics fun and accessible in a way I'd never seen before. He explained complex subjects like the law of gravitation using simple language that everyone understands, and he kept his students engaged with compelling stories. His lectures made such an impression that I eventually worked with Microsoft to get them posted online so everyone could enjoy them for free.

But Feynman was more than just an incredible scientist and amazing teacher. He was one of the most interesting characters of his era. It's easy to see why when you watch Cornell's provost introduce him at the beginning of his first lecture. The provost quickly dispenses with the usual biographical information and instead talks about what made Feynman special: his high regard among his colleagues, his skill at safecracking, and his talent on the bongo drums.

When Feynman finally gets up to speak, he cracks a joke about how odd it is that whenever he's invited to perform on the bongos, "the introducer never seems to find it necessary to mention that I also do theoretical physics."

That comment is Feynman in a nutshell. His sense of humor and knack for generating myths about himself are huge reasons why "Surely You're Joking, Mr. Feynman!" remains a classic more than three decades after it was first published.

The stories in this book are so charming that you'll want to share them with friends and family. My favorite is about his first visit to Oak Ridge National Laboratory while he was working on the Manhattan Project. A group of military guys asked him to identify weak spots from a blueprint of the lab, but Feynman didn't know how to read blueprints. He pointed at a box with an X in it and asked what would happen if a valve gets stuck, hoping that someone would correct him and reveal what the symbol realy meant.

Feynman was as lucky as he was brilliant, because not only did that symbol represent a valve but it was also a problem area that needed fixing. His colleagues marveled at his genius and asked how he did it. His answer was, as always, honest and straight to the point: " You try to find out whether it's a valve or not."

The nuclear physicist Hans Bethe once described Dr. Feynman as a "magician." He's right. It takes a certain amount of magic to make science as fun, compelling, and simple as Feynman did. Whether this is your first or fifth time reading "Surely You're Joking, Mr. Feynman!" I hope you enjoy it as much as I do.

Bill Gates


日本語訳:

紹介文

リチャード・ファインマンを好きになった瞬間を私はよく覚えています。

友人とサンタバーバラで休暇をとっていたときのことです。私にとって学ぶことはリラックスする手段のひとつですから、友人と一緒に地域にある大学の図書館に行き、たくさんの(1980年代の)フィルム映像をチェックしていました。その中にはコーネル大学で行われたファインマン先生の有名な講義も含まれていました。

昼間はビーチに行き、夜はプロジェクターでファインマン先生の講義を見ます。魅了されました。私はこれまでずっと科学オタクだったのですが、物理学をこれほど楽しく身近かなものにしてしまう先生の手腕は、それまで見たことがありませんでした。重力の法則のように複雑なテーマを、先生は誰でもわかるようにやさしい言葉を使って説明し、生徒たちを説得力のある話へと導き続けます。ファインマン先生の講義に触発されてほどなく、私はマイクロソフト社と協力して、この講義を誰でも無料で楽しめるようにオンライン公開しました。

ファインマン先生は、とてつもなく偉大な科学者であるだけでなく、素晴らしい教育者でもあります。先生の生きた時代でいちばん面白い性格の人物のうちのお一人でもあったからです。それは最初の講義の冒頭で、コーネル大学の学長が先生のことを紹介したシーンをご覧いただければわかります。学長はファインマン先生の経歴をごくあっさりと述べるにとどめ、その代わりになぜ先生が特別なのか、つまり同僚たちが先生をとても高く評価していることや金庫破りが得意なこと、ボンゴ・ドラムが上手なことを学長が紹介しているからです。

そしてファインマン先生が登壇します。いつも招待されるときは、ボンゴの演奏を求められるのですが(今日は)おかしいですね。「紹介してくださる方は、私が理論物理学もしていることに触れる必要が全くないようなのです。」と、いきなりジョークを飛ばします。

ファインマン先生のコメントは、いつも簡潔明瞭です。先生のユーモアのセンスと手腕は、彼自身について数々の神話を生み出し、これが『ご冗談でしょう、ファインマンさん』がはじめて刊行されてから30年以上も読み続けられている大きな理由です。

本書に書かれている話はどれも魅力的で、友達や家族に伝えたくなるに違いありません。私がいちばん好きなのは、先生がマンハッタン計画で働いていたとき、オークリッジ国立研究所に初めて行ったときの話です。軍の関係者のグループが(建設しようとしているウラン精製工場の)青写真の中のどの部分が弱点かを先生に質問しましたが、ファインマン先生は青写真の読み方を知りませんでした。先生はXがついている四角を指さして、そのバルブが詰まったらどうなるかと尋ねました。その記号が本当にバルブを意味するかどうかを、もしかすると誰かが正してくれることをひそかに期待し、そのように聞いてみたわけです。

幸運にもファインマン先生は見事に解決することができました。というのもその記号はバルブを意味しているだけでなく、問題を解決するために修理が必要な箇所だったからです。先生の同僚はその天才ぶりに驚き、先生になぜそのような質問をしたのかと聞きました。先生の答えは、「君もあの記号がバルブかどうかを確かめてみれば、すぐわかるよ。」という、いつものように誠実でストレートに要点を突いたものでした。

原子核物理学者のハンス・ベーテは、ファインマン博士は「マジシャン」だと言ったことがあります。それは的を得ています。ファインマン先生は科学を楽しく、説得力があり、シンプルにするマジックをいくつも見せてくれます。『ご冗談でしょう、ファインマンさん』を初めて読む方も、5回目の方も、私のように楽しくお読みいただけることを願っています。

ビル・ゲイツ

補足:紹介文中、ビル・ゲイツが公開したファインマン先生の講義動画は「物理法則はいかにして発見されたか:R.P.ファインマン」という記事で紹介している。


本書の知名度

僕はKindle版で読んだのだが、途中で実物が欲しくなりペーパーバック版を取り寄せた。書店の店員がレジで「これはファインマンさんの本ですね。」と言っていたくらいだから、それほど有名な本である。(購入したペーパーバック版

ツイッターでアンケートを取ってみた。僕のフォロワーは理系人に偏っているとはいえ、88人の方のうち95パーセントがこの本を知っており、48人のうち63パーセントの方が日本語版をお読みになっている。(アンケートのツイートをここから確認する)






本書の構成

日本語版を読んだのは10年以上前のことだ。読み始めてすぐ気がついたのだが、ほとんど忘れてしまっていることに愕然とした。これはまずい。。。人間の記憶ってそんなものだろうか?

以下に日本語版の目次を載せておくので、すでにお読みになった方は、話のタイトルだけ見て中身をどれくらい思い出せるかチェックしてみてほしい。

日本語版(上巻)

 まえがき
   はじめに
   僕の略歴

 1 ふるさとファー・ロッカウェイからMITまで
  考えるだけでラジオを直す少年
  いんげん豆
  ドア泥棒は誰だ?
  ラテン語? イタリア語?
  逃げの名人
  メタプラスト社化学研究主任

 2 プリンストン時代
   「ファインマンさん、ご冗談でしょう!」
  僕、僕、僕にやらせてくれ!
  ネコの地図?
  モンスター・マインド
  ペンキを混ぜる
  毛色の違った道具
  読心術師
  アマチュア・サイエンティスト

 3 ファインマンと原爆と軍隊
  消えてしまう信管
  猟犬になりすます
  下から見たロスアラモス
  2人の金庫破り
  国家は君を必要とせず!

 4 コーネルからキャルテクへ ブラジルの香りをこめて
  お偉いプロフェッサー
  エニ・クウェスチョンズ?
  1ドルよこせ
  ただ聞くだけ?

日本語版(下巻)

 4 コーネルからキャルテクへ ブラジルの香りをこめて(続)
  ラッキー・ナンバー
  オー、アメリカヌ、オウトラ、ヴェズ
  言葉の神様
  親分、かしこまりました!
  断わらざるを得ない招聘

 5 ある物理学者の世界
   「ディラック方程式を解いていただきたいのですが」
  誤差は七パーセント
  13回目のサイン
  唐人の寝言
  それでも芸術か?
  電気は火ですか?
  本の表紙で中味を読む
  ノーベルのもう一つの間違い
  物理学者の教養講座
  パリではがれた化けの皮
  変えられた精神状態
  カーゴ・カルト・サイエンス
   訳者あとがき
   文庫版訳者あとがき
   解説 とらわれない発想


日本語版には英語版にはない特典が2つある。1つは訳者の大貫昌子さんによるあとがきがあることだ。大貫さんが本書を訳すことになったのは、ファインマン先生の娘さんと大貫さんのお子さんの保育園が一緒で、その保育園の親の集いで知り合ったのがきっかけだという。

2つめの特典は物理学者の江沢洋先生による「とらわれない発想」という解説が読めることだ。1948年3月30日から4月1日まで物理学者たちがペンシルヴァニアのボコノ山の山荘に集まったときのことだ。波動性と粒子性が定説とされていた時代に、30歳のファインマン先生が「電子の軌道」という新しい発想を、物理学者の大御所たちに説明したものだから、大目玉をくらった話である。その後、この考えは「経路積分」や「ファインマン・ダイヤグラム」として受け入れられていくのだが、そのデビューは先生には冷や汗ものだった。

この話も大好きだが、僕がいちばん好きな話は「国家は君を必要とせず!」である。


ファインマン先生が高校生のときに読んだ数学書

プリンストン時代の「毛色の違った道具」という話の中で紹介されている2冊の数学書だが、どちらも優れた数学書で、無料で公開されている。

ファインマン先生が高校生のときに読んでいた『Calculus for the Practical Man (1931)』(実用のための微積分)はこちらだ。

Calculus for the Practical Man (1931)
https://archive.org/details/calulusforthepra000526mbp/page/n5

ファインマン先生が高校時代、物理のベーダー先生から「君は授業中やかましいから、後ろの席でこの本を自分で勉強しなさい。」と渡されたWoodsの『Advanced Calculus (1934)』(高等微積分)は、こちらである。

Advanced Calculus (1934)
https://www.academia.edu/22499234/Advanced_Calculus_Woods


この2冊のPDFファイルを簡単にダウンロードできるようにしておいた。

Calculus for the Practical Man (1931): PDFダウンロード
Advanced Calculus (1934): PDFダウンロード


気がついたこと

物理学書と違って日常生活を書いたくだけた英文だから、先月紹介した「QED: The Strange Theory of Light and Matter: Richard P. Feynman」よりは難しい。単語は知っていても意味がくみ取れない文章もあった。

ロスアラモスでファインマン先生が修理係として扱っていた「Marchant calculator」は、このあたりの機種だと思われる。原爆の開発に使われた計算機だ。



The Marchant Calculating Machine Company
http://www.johnwolff.id.au/calculators/Marchant/Marchant.htm

第4部「コーネルからキャルテクへ」の中の「ラッキーナンバー」という話の関連記事として「開平と開立(第5回): ファインマン先生に立方根計算の雪辱を果たそう」という記事を書いている。

ファインマン先生は1953年と54年、そして85年に来日されている。第5部「ある物理学者の世界」の中の「ディラック方程式を解いていただきたいのですが」という話の中に、「神は老獪にして…」を書いた同僚のアブラハム・パイスと、東京の「都ホテル」の同じ部屋に宿泊したことが書かれている。

ファインマン先生とパイス先生はおそらくこのときの来日で、1953年8月15日の終戦記念日に初上映された「映画「ひろしま(1953)」」をご覧になったのだと気がついた。お二人の感想が、この映画の予告編の字幕で紹介されている。(再生開始から4分30秒あたり)字幕では「プリンストン高設研究所」、「カリフォルニア大学」と誤訳されている。正しくは「プリンストン高等研究所」、「カリフォルニア工科大学」だ。


本書に関連する動画

特にご覧いただきたい動画を3つ紹介する。リスニングの練習用としてご覧になってもよいだろう。

本書の範囲を超えるが、いちばんお勧めの動画はこちら。

The Fantastic Mr. Feynman [2013] | BBC Documentary


本書の紹介動画。2人が本書の内容について語り合っている。
#10: Surely You’re Joking, Mr. Feynman! by Richard Feynman


本書の「下から見たロスアラモス」という話についての講演動画。

Richard Feynman Lecture -- "Los Alamos From Below"



ファインマン先生の動画: YouTubeで検索


英語版と日本語版

本書には続きがある。続編とともに原書と日本語版を載せておこう。2018年のペーパーバック版のページからKindle版にナビゲートするとビル・ゲイツの序文がない古い版が表示されるので、最新の版のKindle版はこのページのリンクから開くよう注意していただきたい。また続編の「What Do You Care What Other People Think? (2018)」のKindle版は、まだなく最新のものは2011年版である。

Surely You're Joking, Mr. Feynman! (2018)」(Kindle版
What Do You Care What Other People Think? (2018)」(Kindle版
 


日本語版は2000年に文庫化された。

ご冗談でしょう、ファインマンさん〈上〉 (岩波現代文庫)」(Kindle版
ご冗談でしょう、ファインマンさん〈下〉 (岩波現代文庫)」(Kindle版
困ります、ファインマンさん (岩波現代文庫)
  


1986年に刊行された単行本にこだわる方は、こちらからどうぞ。

ご冗談でしょう、ファインマンさん―ノーベル賞物理学者の自伝〈1〉
ご冗談でしょう、ファインマンさん―ノーベル賞物理学者の自伝〈2〉
困ります、ファインマンさん
  

ファインマン先生の日本語著書を検索: 書籍版 Kindle版
ファインマン先生の英語著書を検索: 書籍版 Kindle版


関連記事:

ファインマン先生の自伝本と講演本
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9bf47cf51085c74caf34a11068a17285

#Feynman100: ファインマン先生、生誕100周年セレモニー&シンポジウム
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/11dd9238ebcbc37915920a2dab553c82

物理法則はいかにして発見されたか:R.P.ファインマン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ab31086d3d97f72d800893033189592d

ファインマン物理学(英語版)が全巻ネット公開されました。
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e94dd49d7d8cc395e29d37927e30173d

発売情報: フランス語版「ファインマン物理学」の新版
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/daf630deb00e6c315897d6f47ba3dd5a

開平と開立(第5回): ファインマン先生に立方根計算の雪辱を果たそう
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/89a0b907577f03ef6132cf9664bdcddb

光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学: R.P.ファインマン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4b34cd4e7d077d037022e62734d1ee76

QED: The Strange Theory of Light and Matter: Richard P. Feynman
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1860569fe58727fce5256356863001f9

ファインマンの経路積分に入門しよう!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0f47de5854daf4eb38339a73791544a8

万有引力の法則(逆2乗則)の逆問題を解説する本と動画(ファインマンによる解法)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2cd381bca4546d23968b31cfad4a9be9


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Surely You're Joking, Mr. Feynman!」(Kindle版


Introduction by Bill Gates
Introductio to the Previous Edition
Vitals

Part I. From Far Rockaway to MIT.

He fixes radios by thinking!
String beans
Who stole the door?
Latin or Italian?
Always trying to escape
The chief research chemist of the Metaplast Corporation

Part II. The Princeton years.

"Surely you're joking, Mr. Feynman!"
Meeeeeeeeeee!
A map of the cat?
Monster minds
Mixing paints
A different box of tools
Mindreaders
The amateur scientist

Part III. Feynman, the bomb, and the military.

Fizzled fuses
Testing bloodhounds
Los Alamos from below
Safecracker meets safecracker
Uncle Sam doesn't need you!

Part IV. From Cornell to Caltech, with a touch of Brazil.

The dignified professor
Any questions?
I want my dollar!
You just ask them?
Lucky numbers
O Americano, outra vez!
Man of a thousand tongues
Certainly, Mr. Big!
An offer you must refuse

Part V. The world of one physicist.

Would you solve the Dirac equation?
The 7 percent solution
Thirteen times
It sounds Greek to me!
But is it art?
Is electricity fire?
Judging books by their covers
Alfred Nobel's other mistake
Bringing culture to the physicists
Found out in Paris
Altered states
Cargo cult science.

Index
Other Works by Richard Feynman
Praise

ニュートン別冊(ニュートンムック)とNewtonライトがKindle化され始めた件

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ニュートン別冊(ニュートンムック)がKindle化され始めたようだ。取り急ぎお知らせしておこう。

すでにKindle化されたニュートン別冊を出版年月が新しい順に並ぶように検索用のリンクを設けておく: 
Amazonで検索する

と思ったらNewtonライトもKindle化され始めている。こちらも出版年月が新しい順に並ぶように検索用のリンクを設けておく:
Amazonで検索する

上記の検索用リンクを開くと、途中からKindle化されていない本が表示されるが、2ページ目以降にもKindle化されている本があるので、ページを順に送って確認するとよい。


Kindle版によるメリットは、「保管にかさばらない」ことのほか、「売り切れにならない」ことである。古い本までどこまでさかのぼってKindle化されるのかはわからないが、今後の成り行きに期待しよう。

ニュートン別冊やNewtonライトは、読み終えると友達にあげてしまうことが多い。これまで買ったことがある本も、紙の本より安く価格設定されているからKindle版で買ってしまいたくなる。散財し過ぎないよう、みなさんも気をつけていただきたい。


関連記事:

グラフィック・サイエンス・マガジン Newton の作り方(その1)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ec7f96712045560b6cf3d7b1e851e49e

グラフィック・サイエンス・マガジン Newton の作り方(その2)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/06a11387485b7835d8147229d541497b

高校の勉強に役立つNewton別冊
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f532e332f4823dae34a5df9d060ad96a

中学生から読めるNewtonライト
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/da6ec00cc7ef8c12a6b4a6a7cbfc14e4

Newton(ニュートン)の0号と創刊号の思い出
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0bff55e11fe0fa8fd8f23e431724c678


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Multilingual Experience 外国人戦略のためのWEB多言語化: 上森久之

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Multilingual Experience 外国人戦略のためのWEB多言語化: 上森久之」(Kindle版

内容紹介:
10兆円市場を見逃すな!!日本の成長のカギは外国人戦略にあった!インバウンド(訪日外国人)、在留外国人、グローバル対応…日本の未来を創る多言語化SaaSとは?
インターネット上で使われる日本語の割合は約3%、それ以外の外国語は97%だと言われています。日本語だけの情報発信では世界の97%の方々に情報を届けられません。情報伝達は、紙の時代から、膨大な情報を取り扱うインターネットの時代となりました。これまでとは次元の違う「量とスピード」で多言語化が求められています。
現在、インバウンドと在留外国人を合わせて10兆円規模の市場があります。この大きな市場の存在とともに、外国人対応は日本が抱える社会課題でもあります。
本書ではインバウンドと在留外国人向けWEB多言語化の実態と重要性、具体的な事例と導入方法について解説します。

2019年10月1日刊行、232ページ。

著者について:
上森 久之(うえもり ひさゆき): Twitter: @hisayuki_uemori
Wovn Technologies株式会社取締役副社長・COO。公認会計士。2007年より、大手監査法人にて米国大手物流企業や欧州大手小売メーカーの会計監査、J‐SOX監査などを担当。その後、大手コンサルティングファームにて新規事業/オープンイノベーションのコンサルティング、M&A関連業務などに従事。海外企業の日本ローカライズ支援や海外展開支援アドバイザリーを実施。海外外務省主催テクノロジーアワードや、経済産業省によるグローバル展開支援事業の審査員などを歴任。また、米国スタートアップ企業で日本代表を務め、日本・アジアでのサービス展開・ブランディングを実施。Wovn Technologies株式会社では、様々な業種・業界にて300社以上のクライアントに対し、WEB多言語化を支援。

Wovn Technologies株式会社
https://wovn.io/ja/


本業にかかわることは、ブログには書かない方針でこれまで進めてきた。IT系の翻訳プロジェクト管理は僕の本業である。とはいえ、本書はプライベートでも関心がある「語学系」であること、「英語教育の危機 (ちくま新書):鳥飼玖美子」を読んでから続いている「日本社会と外国語、外国人への関心」というマイブームの流れから、ぜひ紹介したいと思ったので読ませていただいた。著者の上森さんは僕の友人でもあるし、彼の会社で少しだけ仕事のお手伝いをしたことがある。


視点が変わると課題が変わる

本書を読んで、まず感じたのは「視点が変わると課題が変わる」ということだった。

鳥飼先生の「英語教育の危機 (ちくま新書)」では、日本政府が押し進めている「グローバル人材育成戦略」に基づいた英語教育が財界からの要請に基づくもので、その実情は大学教育においては「和製グローバル人材育成」でしかなく、なおかつ小中高では「英会話力」だけを重視した結果、教育現場で混乱と歪みをもたらし、英語力のいちじるしい低下をもたらしていると批判している。

また、財界や政府が掲げる「グローバル人材育成」とは英語一辺倒であるため、鳥飼先生はこれからの日本に必要とされるのは英語だけでなく、ヨーロッパ評議会で提唱されている「複言語主義」であるべきだと第4章でお考えを述べている。複言語主義とは個人の中で複数の言語を共在させ関連づけることで、豊かなコミュニケーション力を培うこと。母語以外に2つ以上の言語を学び、相互の豊かさと理解へ転換するというものだ。これには多大な教育的な努力が必要である。

複言語主義の必要性は、鳥飼先生の本の次に読んだ「英語と日本軍 知られざる外国語教育史:江利川春雄」でも、著者の江利川先生が強調されていた。そして先生は「企業が求める人材育成は、本来的には企業の責務である。」とお考えになっている。

僕はたまたま英語とフランス語を使いこなせるようになったが、これはほとんど自力での勉強によるものであって、会話や実用という意味で学校教育での恩恵はほとんど受けていない。外国語教育の問題は一朝一夕には解決せず、時間をかけて取り組むべき課題だ。


ここまでは教育に視点を置いた外国語学習の話である。ところが視点を日本社会、日本経済に移してみると取り組むべき課題が一変する。

日本は少子化が進み、人口が減少しつつある。これまでと同じやり方を企業が続けている限り日本経済は衰退の一途をたどることだろう。人口減少、労働力減少を食い止めるために、日本政府は規制を緩和して外国人労働者を積極的に受け入れる政策をとり始めた。

また、中国人旅行者による「爆買い」のブームは終わってしまった。そのため外国人観光客(インバウンド)に日本国内でより多くの買い物や消費行動をしてもらうことで、新たな需要の創出が求められるようになった。また、海外からの投資も増やす必要がある。

このような時代の変化によって求められてくるのが外国人に対するビジネス戦略、これまでのグローバル戦略とは違った「多言語化戦略」なのである。これが本書がノウハウを提案している主要テーマだ。

日本経済を衰退させてはならない。危機を乗り越えて、むしろ経済発展させようではないか。日本社会、経済活動という視点に切り替えると、外国語教育からの視点とはまったく異なる、新たな課題とチャレンジが私たちに突き付けられてくるのだ。


「まだ結婚できない男」に映し出される日本の姿

僕は今月から始まった阿部寛さん主演のテレビドラマ「まだ結婚できない男」を毎週楽しく見ている。イケメンでリッチな建築士-桑野信介(阿部寛)が主役のこのドラマは2006年に放送された「結婚できない男」の続編だ。旧作の放送から13年経っている。

主役の桑野は相変わらず独身で、少子化問題の象徴そのものだ。(その原因は桑野自身のひねくれた性格によるものだから社会問題とは関係ない。)そして今回の新作では2006年の放送にはなかったスマートスピーカーに話しかける桑野の姿が映され、哀愁をかもしだしている。その背景にあるのは、音楽や映像コンテンツのネット配信を楽しむ生活、13年前とは異なるGAFA(アメリカ合衆国に本拠を置く、Google、Amazon.com、Facebook、Apple Inc. の4つの主要IT企業)の日本社会への浸透である。旧作で映されたレンタルビデオ店に桑野はもう行っていない。(ちなみに2006年の放送でロケ地となったレンタルビデオ店は、僕の家の近くの丸ノ内線方南町駅の交差点にあった。現実の世界でもすでに店はなくなり、方南駅に新設された出入口になっている。参考:旧作のロケ地)これは日本企業の衰退の一例だ。

桑野が利用するコンビニのレジにも変化がおきていた。旧作で映っていたレジにいたのは、フリーターらしき若い男性店員やギャルっぽい女の子である。ところが新作の第1回でレジにいたのは手際よく仕事をこなす外国人の女の子(おそらくフィリピン人)だった。そして第2回でレジにいたのは頭の禿げた高齢者の日本人男性である。おそらく会社をリストラされたのだろう。レジの操作がわからず、もたもたして桑野をいら立たせてしまった。他の店員に助けを求めると、でてきたのは第1回で登場した外国人の女の子だ。「これ、前にも説明しましたよね!」と男は外国人の女の子からきつく叱責されてしまうのである。このシーンは日本経済の衰退によるリストラ、外国人労働者の増加という現代の日本社会を象徴している。たった13年の変化なのだ。旧作で働いていた若い男性店員やギャルっぽい女の子はどこへ行ってしまったのだろうという疑問を新作では持ち出さないが、これも気にとめておくべき社会問題だと思った。

少子化による人口減少(GDPの減少)、経済活動の衰退、高齢者の雇用問題は、政府や行政だけでなく、国民あげて取り組むべき重要な課題である。その解決策として重要になるのが「外国人労働者の採用」、「在留外国人の消費拡大」、「訪日外国人(インバウンド)の消費拡大」、「海外投資家の投資拡大」である。その鍵を握るのは「WEBシステムの多言語化」なのだ。


本書について

前置きが長くなったが、本書について解説しよう。著者はWovn Technologies株式会社で取締役副社長・COOを務める上森さんだ。この会社は企業のホームページやECサイトを始めとするあらゆるWEBシステムを効率的に多言語化するシステムを開発し、顧客企業のビジネスを多言語化する支援を事業としている。多言語化といっても「ただ翻訳するだけ」ではない。その言語や国特有の事情を考慮し、その国の人に使いやすいWEBシステムを実現するという点で、既存の「グローバル化」や「WEBページの翻訳」を超えている。

僕は上森さんと直接面識があるのだが、彼はこの事業に大きな期待と夢をお持ちで超多忙な日々を送られている。そしてものすごい勉強家なのだ。ビジネス書を中心に本を読み漁っている。本書の出版を知ったとき「よくもまあ、本を書く時間をとれたものだなぁ。」と驚いた。一読して、これまでの読書経験が活かされ、「伝えたい、共感してもらいたい」という気持ちがよく伝わってきた。もちろん僕は本書が勧めている「WEB多言語化」という企業戦略に大賛成である。


出版元の日経BP社の紹介ページはこちらだ。

Multilingual Experience 外国人戦略のためのWEB多言語化(日経BPブックナビ)
https://www.nikkeibp.co.jp/atclpubmkt/book/19/274120/

そして、章立てはこのとおりである。

2000文字ダイジェスト: 母国語でインターネットを
第1章: 10兆円「外国人市場」戦略のすすめ
第2章: 多言語体験(MX)が新市場攻略のカギ
第3章: 訪日客3000万人、拡大続くインバウンド
第4章: 在留外国人は約5兆円の市場を生んでいる
第5章: 9割の日本企業にグローバル展開が必須になる
第6章: インターネット多言語対応の難しさ
第7章: 多言語対応の最適解はSaaS
おわりに: 社会課題としての多言語時代対応はチャンス


上森さんはもともと公認会計士であり、僕とは違うジャンルの背景をもっている人だ。そのために僕とはまったく違う視点で同じ課題を見ていることが新鮮だった。(COOなのだから当然ではあるが)つまり、上森さんは数字に強いし、分類して分析するのが得意ということだ。刊行されたばかりの本だから統計データも新しい。「外国人労働者や観光客をよく見るようになったな。」とか「ああ、この会社はこんなにリストラしたのか。」、「中国はなぜこんなに発展しているのだろう。」と日頃感じていることが、具体的かつ鮮明に浮かび上がり、なぜそのように推移していったのかがよくわかるのだ。数値化することで問題点はクリアになり、問題点をチャンスに変えるための課題と戦略、行動が見えてくる。

海外展開をしている日本企業が抱える問題を上森さんは熟知している。本書には書かれていないことだが、大手外資系企業の日本法人についても同じ問題を抱えていることに僕は気がついた。海外展開に必要なのは「翻訳」であるが、やみくもに翻訳すればよいというものではない。同じ会社であっても事業部や部門ごとに必要な翻訳をしているのが現状である。横のつながりがないため同じような翻訳を重複して外注することになり、無駄な翻訳コストが生じてしまっているのである。日本企業での状況は想像しやすいが、グローバル化が進んでいる外資系企業でもそれは同じなのだ。

外資系企業についていえば、海外支社(たとえば日本)の事業部は本社の事業部の直轄に置かれることが多く、総じて本社のガバナンスが強いものだ。本社の事業部で使っている資料やWEBページをそのまま事業部ごとに翻訳して国内でのビジネスに利用している。もし、日本支社全体の翻訳対象をひとつの部門に集約することができれば、翻訳に必要なテクノロジーを共通に利用でき、翻訳にかかるコスト、時間を大幅に減らすことができる。しかし、日本企業と同様、外資系企業でもこれが行われていないのが現状である。外資系企業が「グローバル化」の名のもとに行っているのは極論すれば「本社の流儀を全世界の支社に適用すること。」に過ぎない。

英語ではなく日本語を元の言語として、その会社のビジネスに必要な言語をどのように選択するか、そして翻訳すべき言語が複数あるとき、どのようにすればコストと手間をかけずにWEBシステムを多言語化することができるのか。これが本書で解説されていることである。


上森さんが日本語をとても大切にされていることも本書を読んで気がついた。専門用語を使うときは初出のときに説明を加えていること、なるべく日常的に使われている用語を使って執筆されている。カタカナ用語が使われがちなIT業界のビジネス書に慣れていない読者でもわかるように配慮しているのだ。IT系の人には説明不要な「SIer」という用語にも「システム・インテグレーター」ではなく「システム開発者」という説明を付けているほどの親切さである。このあたりの言語感覚は、日頃の読書だけでなく、さまざまな企業のトップへのコンサルティング、バラエティに富んだ背景をもつ社内の社員との打ち合わせを経験された中で身に付けられたのだろうと思った。(上森さんの会社の社員の多数は外国人である。)

本書が提案しているWEBシステムの多言語化は、企業のホームページ(社内向けと社外向け)やECサイトだけにとどまらない。国や地方自治体、そして「組織」と名の付くあらゆる団体のホームページに対して適用されるべきものだ。労働だけでなく衣・食・住を含めて外国人労働者が日本で快適に過ごすことができるようにすることが長い目で日本社会の将来を見据えたときに大切なことなのだ。在留外国人・訪日外国人は主にモバイルサイトを利用するから、PCサイトだけでなくモバイルサイトを使いやすくすることも重要だ。そして、WEBシステムの多言語化は、そのために支払わなければならないコストではなく、莫大な利益と企業の成長をもたらす投資なのだと視点を切り替えるべきである。

ところで、頻繁に更新されるWEBシステムに対して、多言語化したWEBシステムはどのように対応すべきかという点もも本書で解説されている。要求されるスピードと量に対応するためには、ニューラルネットワークにより進化した(Google翻訳を代表とする)機械翻訳の利用が欠かせない。とはいえ、上森さんは現在の機械翻訳の品質を手放しで楽観しているわけではない。機械翻訳の問題点を熟知され、MTPE(Machine Translation Post-Editing)、すなわち機械翻訳+翻訳後の編集が必要であることを述べている。MTPEは業界、業種、翻訳対象の特質に大きく依存するため個別に分類して戦略を立てる必要がでてくる。

また、WEBシステムの多言語化は翻訳だけの課題にとどまらない。多言語化することによるレイアウトの崩れ、言語ごと、国ごとに異なる対応が必要なケースがでてくる。本書ではこのあたりのノウハウを国内企業での成功例を紹介しながら、解説をしている。僕の印象に残ったのは、外食チェーンの「ガスト」、外国人に大人気の天然とんこつラーメン専門店の「一蘭(いちらん)」、「セブン銀行」での成功例である。セブン銀行の取り組みは特に素晴らしく、本書の第4章に書かれている「利益率30%、多文化・多言語の先進企業、セブン銀行」や「1週間かかった海外送金を5分で実現」をお読みいただきたい。日本で働く外国人労働者の本国への送金が5分でできるようにしたという実績の詳細を読むことができる。

これらの会社のサイトはすでに多言語化されている。

ガスト(すかいらーくグループ):日本語、英語、簡体中国語、繁体中国語、韓国語
https://www.skylark.co.jp/gusto/

一蘭(天然とんこつラーメン専門店):日本語、英語、簡体中国語、繁体中国語、韓国語
https://ichiran.com/

セブン銀行:日本語、英語
https://www.sevenbank.co.jp/



Wovn Technologies株式会社や上森さんが目指すのはビジネスや社会の多文化共生だ。外国語教育における複言語主義の実践は、まだまだ先の話になるが、多文化共生と複言語主義の2つがもたらす将来の日本の姿がおぼろげながら見えてきた気がした。

日本はまだまだ行けるじゃん!と元気になれる一冊だ。企業の経営者だけでなく、グローバル化、グローバル人材という言葉が気になる方、職場で外国人従業員を見かけるようになった方、翻訳会社や翻訳者の方、日本の行く末が気になっている方は、ぜひお読みになっていただきたい。



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Multilingual Experience 外国人戦略のためのWEB多言語化: 上森久之」(Kindle版


2000文字ダイジェスト: 母国語でインターネットを

第1章: 10兆円「外国人市場」戦略のすすめ
- 10年分の成長に相当する、10兆円「外国人市場」戦略のすすめ

第2章: 多言語体験(MX)が新市場攻略のカギ
- 10兆円市場攻略のカギは多言語体験(MX)
- インバウンド消費は「単価UP×人数UP」、在留外国人消費は「単価×人数UP」
- 外国人向けビジネスのカギを握る多言語体験(MX)とは
- イントラネットとJ-SOX統制環境
- おもいやりに欠ける外国人に対するサービス
- 「住民票」は「JUMINHYO」?投資対象として注目
- 多言語体験(MX)の必要性
- MXは多言語化を3フェーズに整理
- 何でも翻訳すればいいわけじゃない
- 情報を読む人と発信する人

第3章: 訪日客3000万人、拡大続くインバウンド
- 人口・GDP減少時代の成長施策「外国人戦略」
- モノからコト、工業製品からサービス産業へ
- インバウンド消費額は個人消費増加額の4年分
- 45年ぶりにインバウンドがアウトバウンドを上回る
- 世界の海外旅行が倍増、人口の2割が海外旅行を経験
- 観光サービスは次世代の基幹産業と政府は期待
- 1年で結果を出すために3年先の数字を掲げる
- コスパのいい日本の自動車
- 安さからプレミアムへ---エクスクルーシブに商機
- 四季豊かな地域のブランド力を活かす
- 「モノ」ではなく「コト」を買う外国人観光客
- 言語ごとにデザインを最適化し体験を演出する
- ECサイトの多言語化で店舗接客にも対応
- ROIを最大化するWEB多言語化システムでメリハリをつけた運用を
コラム:SaaSの金融効果

第4章: 在留外国人は約5兆円の市場を生んでいる
- 外国人労働者の受け入れで労働人口を確保する
- 過去の制作の失敗を活かして在留外国人に対応する
- 外国人労働者銘柄が投資対象として注目
- 経済成長の鍵は労働人口
- 過去最高を更新し増え続ける在留外国人。ベトナム・ネパールが中心
- 改正入管法で約35万人の在留外国人が増加
- 外国人が多い先進地域の情報収集はWEBが中心
- 銀行口座の開設をスムーズにする「WEB×多言語化」
- 利益率30%、多文化・多言語の先進企業、セブン銀行
- 1週間かかった海外送金を5分で実現
- 多言語メンバーが一元管理
- 外国人対応の施策は多言語メンバーの高いモチベーションから
- SDGs/CSRとしての多文化共生

第5章: 9割の日本企業にグローバル展開が必須になる
- 9割の日本企業に海外展開が必須
- グローバル化と国際化
- 日本は越境ECの成長余地が4倍ある
- 越境ECの留意点、モバイル対応
- 越境ECの留意点、法規制
- 国際間取引・越境取引はアービトラージ
- 機能が大切な「文明商品」と雰囲気が大切な「文化商品」
- 自国では手に入らない商品・サービスの購入
- ブランドやメーカーはBtoBからDTCへ(代理店から直販へ)
- 多文化と法務の慣習
- 多文化と公用語
- 日本はアジアの翻訳大国、アジア平均の20倍!
- 海外子会社の必要性
- グローバルな戦いで政府は頼れない
- 求められる海外機関投資家への対応
- マニュアルで現地の人材を徹底教育
- 日本のグローバル化に必要なブランド戦略
- ブランド戦略には徹底したマーケティングを

第6章: インターネット多言語対応の難しさ
- 情報伝達のほとんどはインターネット
- 大昔から機械翻訳の開発に取り組んできた
- ニューラルネットワークが機械翻訳を変えた
- ファッションの「ワンピース」が漫画の「海賊王」に
- 機械翻訳の限界を人が補う「MTPE」
- WEB多言語化では、テキスト翻訳はごく一部分
- テキストの翻訳でWEBサイトのデザインが崩壊
- 革新的技術の導入は大手企業から始まる
- いよいよ大企業の多言語対応への投資が始まった

第7章: 多言語対応の最適解はSaaS
- 世界的に拡大する翻訳市場
- WEBサイトの翻訳には手間がかかる
- 言語を増やすたびにまた最初から開発?
- エンジニアじゃなくても、多言語サイトのデザインができる
- 「動的ページ」の多言語化は難易度が高い
- フロント制御でデータベースの再構築が不要
- SIer(システム開発会社)はイチから作る演繹的アプローチ
- スタートアップだからできる帰納的アプローチ
- どんなWEBサイトでもOK、高い柔軟性
- 枯れた技術で信頼性と安定性を確保
コラム:コーパスは資産になる

おわりに: 社会課題としての多言語時代対応はチャンス
- 制約は創造を生む---世界初の課題はチャンスだ!
- 多言語化を先んじた企業が世界で生き残る
- パラダイムシフトを起こす地図を作る

参考文献

第60回 神田古本まつり、第29回 神保町ブックフェスティバル

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昨日から神保町で神田古本まつりが開催されている。さっそく行ってきたので何を買ってきたか記録として残しておこう。(初日は大雨で行く人はほとんどいなかった。2日目から天気が回復したので賑わっていた。)


第60回 東京名物神田古本まつり 2019年10月25日(金)~11月4日(月・祝)
http://jimbou.info/news/furuhon_fes_index.html

同じ地域で「神保町ブックフェスティバル」も開催される。出版社ごと出店の路上のワゴンセールと露店で賑うイベントだ。古本まつりと両方楽しむのだったらこの土日に行くべきだろう。

第29回 神保町ブックフェスティバル 2019年10月26日(土)、27日(日)
http://jimbou.info/news/book_fes.html


特価販売されているのは道路側の棚と店の前のワゴンだ。店内は通常価格での販売である。最新情報は明倫館書店さんのブログに掲載されている写真でご確認いただきたい。

理工系古書専門店 明倫館書店ブログ
http://blog.livedoor.jp/meirinkanshoten/

今日のところはこのような感じで売られている。(連投ツイート

道路側の棚:

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店の前のワゴン:

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消費税増税前から本の買い控えをしていた。読みたい本は「積読候補リスト」なるテキスト・ファイルに入力している。読む時間がないのに本を買うことを昨今は「徳を積む」と言うそうだ。しかし、古本まつりは別である。レア本、絶版本の格安販売を見逃すわけにはいかない。

今日はとりあえず、次の4冊を購入。



熱力学―平衡状態と不可逆過程の熱物理学入門 (上) : キャレン
熱力学―平衡状態と不可逆過程の熱物理学入門 (下) : キャレン

上巻は道路側の棚で800円、下巻は店の前のワゴンで1200円だった。本書刊行後に「熱力学および統計物理入門〈上〉〈下〉」が出ているのを知っていたが、それを承知で購入。

内容:
従来の教科書は熱力学の歴史的発展にとらわれすぎ、かえって熱力学を煩雑なものにしていた。本書はその欠点を除き熱力学を使いこなし易い形に定式化した最初の教科書である。そのため熱力学の本質に直ちにふれることができるとともに、実際にもすぐ応用でき、知識を整理するうえでも最も適した本である。その明快にして完結な論理構成は他に類をみない。また、微積分学の基礎的な知識のみで十分理解できるので、初めて熱力学を学ぶ人にとっても格好の教科書である。下巻前半では、上巻で明快に定式化された熱力学の一般原理を駆使して、化学反応、弾性固体、電磁性体の熱力学が述べられる。後半では、ゆらぎや不可逆過程の熱力学が定式化され、熱電気効果、熱磁気効果が考察される。いずれの説明も、簡潔で極めてわかり易く、平衡状態、不可逆過程の熱力学を習得し、応用を志す初学者から専門家まですべての人にとって最適の書である。また、巻末付録の気体、液体、固体の性質やサイクルなどの丁寧な解説は、本書を充実したものにしている。(原書検索




量子統計力学(1967年): 伏見康治」(復刊本
カオス的世界像―非定形の理論から複雑系の科学へ: イアン・スチュアート」(原書検索

「量子統計力学(1967年)」は店内で1500の箱付きのものを買った。道路側の棚には800円で箱なし、書き込みありのが売られていた。「カオス的世界像」は道路側の棚から1000円で買った。

内容:
量子統計力学(1967年): 伏見康治
全編を5章にわけ量子力学を基礎にした統計力学いわゆる量子統計力学について詳述した好解説書。『量子統計力学』として1967年に初版発行後,以来,長年にわたり多数の読者にご愛読いただいてまいりました。(復刊本の目次と詳細

内容:
カオス的世界像―非定形の理論から複雑系の科学へ: イアン・スチュアート
神はサイコロ遊びをするか?現代科学が抱える難問の核心にあるカオスの正体に迫る。近年広い分野で興味を持たれているカオスに関連した自然現象を、ほとんど数式を用いずにわかりやすく説明し、豊富な例え話とともに複雑な理論へ導いていく。1992年刊のものに新たに4章を加えた増補新版。原書は2020年6月に新版が刊行されるようだ。(原書検索


関連記事:

第59回 神田古本まつり、第28回 神保町ブックフェスティバル
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/be97758d6c84b8e16ff2d3efd883f025

第58回 神田古本まつり、第27回 神保町ブックフェスティバル
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4be923929c44b1928997b42eebd41c47

第57回 神田古本まつり、第26回 神保町ブックフェスティバル
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c168df7016fa0a22b023894f4f6a725a

第56回 神田古本まつり
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e6f8747520c13a604be12dc5c9fdfd2c

第25回 神保町ブックフェスティバル
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2d423e662d49ff313acec5c991b6399e

第51回 神田古本まつり
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c8b3a07e28fd98a1f3f7feb852e1d2b1


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ベーシッククラウン仏和・和仏辞典

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ベーシッククラウン仏和・和仏辞典」(出版社紹介ページ
ベーシッククラウン仏和・和仏辞典 小型版」(出版社紹介ページ

内容紹介:
これ一冊でフランス語の基本が身につく!

初学者に必要なことをコンパクトな一冊に。
持ち運びやすい大きさで、授業にぴったり。
発信のための新しい工夫が満載。

フランス語初心者でもつまずかない。
見やすくわかりやすい初級フランス語辞典。

仏和・2万―名詞は冠詞といっしょに表示。カナ発音つき。覚えてすぐ使える、日常的な例文。活用形&変化形から引ける。ていねいなコラム解説。和仏・6千―便利な類語使い分けコラム。読みやすい文法解説。動詞活用表。初学者に必要なこと「だけ」。フランス語の基本が無理なく身につく。

2018年3月、4月刊行、736ページ。


毎週末、2人の生徒にフランス語を教えている。10月と11月は生徒がそれぞれ誕生日をむかえるため、今年はこの辞書を1冊ずつプレゼントした。小型版のほうだ。

プレゼントは仏和辞書と前から決めていたのだが、見出し語数9万語で上級者まで使える「ロワイヤル仏和中辞典 第2版」にするか、こちらにするか迷っていた。結局、持ち運びのしやすさ、発音がカタカナで表記されていること、和仏辞典がついているなど、総合的に判断してこちらにしたのだ。

また、この辞書を卒業した後、中級者向けにどの辞書を選ぶにしても内容やレベルが重複しない。今後のことも見据えたうえでの選択だった。

入門者、初学者向けとしては、現時点で最良の辞書だと思っている。仏検3級あたりの方まで利用できる。

上級者であれば見出し語数2万語というのは「暗記用」として使うのがよいだろう。座右に置いて、ページを眺めるというのも小型版ならではの使い方だと思う。僕もつられて1冊購入しておいた。


小型版と標準版のサイズの違い




サンプルページ:

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購入される方はこちらからどうぞ。

ベーシッククラウン仏和・和仏辞典」19.2 x 13.2 x 2.3 cm
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【仏和】
・初学者に必要十分な約2万項目を収録
・カナ発音つき、最重要語には発音記号も併記
・名詞は定冠詞つきで表示
→冠詞と名詞をセットで記憶。名詞の性数を自然に覚えられる! 類書にない新工夫! !
・「無音のh」は薄く表示
→hの濃淡から、有音/無音がひと目でわかる! 類書にない新工夫! !
・活用形&変化形から引ける
・ていねいなコラム解説

【和仏】
・日常生活で必要な基本語約6千収録
・発信に役立つ類語使い分けコラム

【付録】
・初級文法をわかりやすくまとめた「文法解説」
・動詞活用表
・接尾辞表・動詞語尾表

【WEBサービス】: WEBサービスを開く
・発音解説などが聞ける、学べる!
・はじめてフランス語辞典を引く人のための「引き方ワーク」

【監修者プロフィール】
村松定史(むらまつ さだふみ)
1947年、山梨県に生まれる。学習院大学文学部フランス文学科卒業、同修士課程修了、同博士課程満期退学。パリ第4大学 DEA(博士課程研究免状)取得。元名城大学教授。
主な著書に、『人と思想 モーパッサン』(清水書院、1996)、『文庫三昧』(弘学社、 2009)、『旅と文学』(沖積舎、2011)、『ジョルジュ・ローデンバック研究』(弘学社、2014)ほか。
主な訳書に、ペヨ『スマーフ物語』(セーラー出版、1986)、ルルー『オペラ座の怪人』(集英社、2011)、ローデンバック『白い青春』(森開社、2016)、同『ヴェール』(森開社、2017)ほか。
監修を担当した三省堂の辞典に、『コンサイス外来語辞典』(1987)、『デイリー日仏英・仏日英辞典』(2002)、『デイリー日仏英3か国語会話辞典』(2005)、『身につく仏和・和仏辞典』(2007)ほか。

【監修者から】
語学辞典も時代とともに成長する。机の上で「調べる」辞書から、持ち歩きながら「学ぶ」辞書へと進化した。まさにスマホ時代の辞典の到来である。小型版は、ぴったりタブレットサイズだ。
さらに、「学ぶ」から「伝達」への有用性をそなえている。内外の仏語辞典とコーパスを精査し、約2万の実用語句を厳選。最重要語は2行見出しで色刷り。文字の大きさや色彩は、視覚効果で習得を楽しく容易にする。
徹底した実用主義が「使える」辞典を生み出した。用例・例文は、生きた日常会話そのままだ。訳語・訳文は平明でこなれた日本語。コミュニケーションのツールとしての、あらたなコンセプトの辞典がここに実現した。

【編集担当者から】
「見やすい」は「わかりやすい」!
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関連記事:

フランス語を教え始めた
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フランス語の辞書はどれがいい?
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ロワイヤル仏和中辞典(辞書談義)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/aed33d08239da123dcc66c5ec08f0bc7

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https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1dbcd1e1b02616ef1363ced99a912072

発売情報: フランス語版「ファインマン物理学」の新版
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/daf630deb00e6c315897d6f47ba3dd5a


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数学的な宇宙 究極の実在の姿を求めて: マックス・テグマーク

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数学的な宇宙 究極の実在の姿を求めて: マックス・テグマーク」(Kindle版

内容紹介:
いまいちばんオリジナルな物理学者、マックス・テグマークが導く過去・現在・未来をたどる驚異の旅!物理学、天文学、数学をもとに、著者は大胆な仮説「数学的宇宙仮説」――私たちの生きる物理的な現実世界は、数学的な構造をしている――そして、究極の多宇宙理論を展開します。人間とは何か?あなたは時間のどこにいるのか?人間は、取るに足りない存在なのか?多くの科学者、数学者から称賛を集めたまったく新しい万物の理論!

2016年9月21日刊行、491ページ。

著者について:
マックス・テグマーク: ウィキペディア
宇宙論研究者。スウェーデン王立工科大学を卒業後、カリフォルニア大学バークレー校で博士号取得。現在、マサチューセッツ工科大学(MIT)物理学教授。これまでに200を超える論文を発表し、そのうち14は被引用回数が500回を超え、うち5つは1000回を超える。特に、情報理論を用いた高度なデータ解析で知られ、全天の広い範囲を対象に銀河分布を調べる大規模プロジェクト、スローン・デジタル・スカイサーベイ(SDSS)での功績は最も有名。この仕事はサイエンス誌の「ブレイクスルー・オブ・ザ・イヤー2003」でも言及された。このほか、量子力学の基本問題への貢献でも知られ、現在では宇宙の未開拓領域を探索するプロジェクトにも関わっている。


理数系書籍のレビュー記事は本書で431冊目。

結論から書いておこう。本書は僕にとって稀に見るハズレ本だった。内容が高度過ぎて理解できなかったからではない。多宇宙理論が信じられないからでもない。また翻訳が悪いからでもない。(翻訳は素晴らしかった。)

ハズレである理由は、一般人が読むためのポピュラーサイエンス書、科学教養書として、文章や解説すること自体がスバ抜けて下手だと感じたからだ。これまで科学書を400冊以上読み、それぞれの本について紹介記事を書いた僕の感想である。

テグマーク博士は専門領域では天才なのかもしれない。けれども科学教養書の読みやすさに点数をつければ100点満点中5点から10点である。今のところ日本語版として刊行されている博士の本は本書だけである。

だから博士が考えている多宇宙理論が難しいかどうかということ以前に、読者の意欲を削いでしまうほど読みにくいということなのだ。(個人的な感想である。)第I部まではなんとか読めるのだが、第II部あたりから最後までは読むのにとても難儀した。


どのような意味で読みにくいかを箇条書きすると、次のようになる。

- 思いつくことを、そのまま書き進めている。そして話が脇道にそれる箇所があり、戻ってくるまで時間がかかる。読者はその都度振り回される。

- 話題の出し方が唐突で、論理的つながりがあるように感じられない。書いているうちに思い出したことを、そのまま書くというスタイル。つまり、記述している内容が全体として整理されていない。

- 物理的に実在する多宇宙の仮説はレベルI~IIIと設定しているが、その根拠としての理論的土台をシュレーディンガー方程式の波動関数やヒルベルト空間、相対性理論とし、何度もこのように基本的な物理理論の解説に立ち戻って解説している。波動関数やヒルベルト空間を持ち出すだけで、それが解説しているテーマとどうつながるのかがほとんど省略されている。場の量子論も紹介されるが、すぐヒルベルト空間の話に戻ってしまうのだ。そしてヒルベルト空間については解説していない。大学レベルの物理学を学んだ者としてはバカバカしく思えてしまう。

- 物理や数学のテーマとは関係ない自分の恋人の話、離婚の話が何度かでてくる。その逸話を書くことで何を言いたいのか不明なのだ。(唐突にプライベートの話が入る。)

- 量子論発展史、コペンハーゲン解釈、相対性理論の説明が粗雑で下手。そして長い。説明のために持ち出すたとえ話が回りくどくてわかりにくい。

- 論理的整合性を埋めるための根拠が内容的に説明するのが難しいときは、自身のプレプリント(Archive.org)を参照してもらうようにURLを紹介している箇所がいくつもある。アメリカ人の読者であっても専門的な論文を読めるはずがない。

- 素人の僕が言うのは僭越かもしれないが、博士はおそらく現代数学を深く理解していないと思う。(Amazon.comで星1つの評価をつけている人の中にも、「he doesn't know mathematics」と書いている人がいる。)

- レベルIV多宇宙というのは、純粋に数学的な多宇宙のことだ。この宇宙の数は無限だという。その根拠は極論すれば「自然数が無限だから」というようなもの。少し制限を設けてはいるが数学理論であればなんでもありという理論。大方の人が受け入れることはできないだろう。

- 数学的な宇宙には量子論がない古典的宇宙や量子的宇宙があるという。これも確率論を含んだ数学と含まない数学によって規定される。それは数学であって「宇宙」とは呼ばないのが一般的な解釈だ。テグマーク博士はイデア界を信じる完全なプラトニストと言ってよい。数理物理が好きな僕もその傾向が強いのだが、博士の主張はあまりにもこじつけが強いと感じた。


このような感想なのだが、章立てを書くと次のようになる。

第1章 実在とは何か

第I部 宇宙を俯瞰する
第2章 空間での私たちの位置
第3章 時間軸上の私たちの位置
第4章 数値で見た私たちの宇宙
第5章 私たちの宇宙の起源
第6章 多宇宙の世界へようこそ

第II部 ミクロの世界を拡大する
第7章 宇宙を構成するレゴブロック
第8章 レベルIII多宇宙

第III部 一歩下がって見る
第9章 内的実在、外的実在、合意的実在
第10章 物理的実在と数学的実在
第11章 時間は幻想か
第12章 レベルIV多宇宙
第13章 生命、宇宙、すべて

そして本書で紹介される多宇宙は次のように4つのレベルに分けて考えられている。レベルIVは数学的宇宙で、実在するレベル1~3の物理的多宇宙すべてを含んでいる。(レベル1~3の宇宙はすべて数学で定式化されるから、数学的宇宙の一部となるのは当然の話だ。)

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本書で、まともに読めるのは第I部までである。ここまでで現在私たちがほぼ受け入れているインフレーション宇宙論、宇宙背景放射、ダークマター、ダークエネルギーなどが解説される。精密科学になったばかりの宇宙の理解である。

このあたりまでのことは「宇宙が始まる前には何があったのか?: ローレンス・クラウス」をお読みになるほうがわかりやすいのだが、テグマーク博士の本のほうがすぐれている点もある。

それは博士自身が宇宙背景放射の画像を得るためのプログラムを書いていたという事情があるからだ。関与していた科学者がどのようにして138億光年先の宇宙の画像を得るに至ったか、その苦労の歴史を知ることができる。本書でお勧めの部分はここである。

しかし本書の他の部分は、多宇宙というほとんど何も分かっていない領域では数学を駆使すれば何でも言えるということを実践している一人の学者の、著者曰く"個人的な探求"を書いているだけだった。

テグマーク博士は「エヴェレットの多世界解釈」が正しいと信じている。この理論を信じている科学者は少ないのだが、博士は「ほとんどの科学者はエヴェレットの論文を読まずに彼の理論を批判している。この論文をすべて読むと、これが正しいものだとわかるので読んでみるべきだ。」と主張している。

エヴェレットの博士論文(多世界解釈を提唱した1957年に発表した論文)は、この139ページのPDFファイルがフルバージョンとして公開されている。興味がある方は、お読みになってみるとよいだろう。

The Many-Worlds Interpretation of Quantum Mechanics (1957)
https://www-tc.pbs.org/wgbh/nova/manyworlds/pdf/dissertation.pdf


多宇宙について知りたい方にはブライアン・グリーンの「隠れていた宇宙()()」をお読みになったほうがよいと思う。


本書の評価

参考までに日本語版と英語版のAmazonサイトでの評価を載せておこう。邦訳された科学書の場合、日本のアマゾンの読者コメントより米国アマゾンの読者コメントのほうが、知識と見識のある方がしっかりと書いていることが多く、とても参考になる。★1つや2つなど低い評価のコメントであっても、日本人の書評より外国人の書評の方が具体的ではるかにわかりやすい。

 

Amazon.co.jpでの評価: 見てみる
Amazon.comでの評価: 見てみる

レビューを読むと日本語版を読んでいる方は、評価が低い人から高い人まで、ほとんどの人が本書を理解できていないことがわかる。

英語版を読んだ日本人の方で、本書に関して高い評価をつけたうえで説明を(日本語で)書いている人がいらっしゃるので、お読みになるとよい。本書の特徴を詳しくお書きになっている。

強力な「多世界」説、そのルーツは何処に?(レビューを開く


英語版

翻訳のもとになった原書はこちらである。2014年に刊行された。

Our Mathematical Universe: My Quest for the Ultimate Nature of Reality: Max Tegmark」(Kindle版


この他、博士は「Life 3.0: Being Human in the Age of Artificial Intelligence」(Kindle版)という本をお書きになっている。この本はまだ邦訳されていない。日本人による評価は良いようだが、外国人による評価は「数学的な宇宙」と同様だ。(英語版の評価を見てみる。


今回は酷評することになってしまったが、高い評価をしている人がいることも事実である。あくまでも僕の個人的な感想として参考にしていただきたい。


関連記事:

宇宙が始まる前には何があったのか?: ローレンス・クラウス
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b6f36e8eedba5ee63a4f919d30a2cb20

隠れていた宇宙(上):ブライアン・グリーン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4a1abbca21c0188f43d7d72af39287f2

隠れていた宇宙(下):ブライアン・グリーン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6e8b34dc9e4a3d21e82de47960f2a07d


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数学的な宇宙 究極の実在の姿を求めて: マックス・テグマーク」(Kindle版


はじめに

第1章 実在とは何か
- 思った通りとは...
- 究極の問いとは何か?
- 旅の始まり

第I部 宇宙を俯瞰する

第2章 空間での私たちの位置
- 宇宙に関する疑問
- 空間はどこまで広がっているか
- 地球の大きさ
- 月までの距離
- 太陽と太陽系の惑星までの距離
- 恒星までの距離
- 銀河までの距離
- 空間とは何か?

第3章 時間軸上の私たちの位置
- 太陽系の起源
- 銀河はいつどのように生まれたのか
- 謎のマイクロ波はどこから来たのか
- 原子はどこから来たのか

第4章 数値で見た私たちの宇宙
- 求む、精密宇宙論
- 宇宙背景放射ゆらぎの精密測定
- 銀河分布の精密測定
- 究極の宇宙地図
- ビッグバンはどう始まったのか

第5章 私たちの宇宙の起源
- ビッグバンの問題点
- インフレーションの仕組み
- 何度もうれしい贈り物
- 永久インフレーション

第6章 多宇宙の世界へようこそ
- レベルI多宇宙
- レベルII多宇宙
- 多宇宙についての中間総括

第II部 ミクロの世界を拡大する

第7章 宇宙を構成するレゴブロック
- 原子というレゴブロック
- 原子核というレゴブロック
- 素粒子物理学のレゴブロック
- 数学的なレゴブロック
- 光子というレゴブロック
- 微視的世界では物理法則が破綻する?
- 量子と虹
- ド・ブロイからシュレーディンガーへ
- 量子力学の奇妙さ
- 意見の不一致が始まる
- 微視的世界に閉じ込められていない量子力学の「奇妙さ」
- 量子力学の混乱

第8章 レベルIII多宇宙
- レベルIII多宇宙
- 錯覚としての量子力学の偶然性
- 量子検閲
- 再発見の喜び
- あなたの脳が量子コンピューターでない理由
- 主体、対象、環境、そして熱力学第二法則
- 量子自殺
- 量子不死?
- 多宇宙の統一
- 物理学者の見解の変化ーーー多世界か多言か

第III部 一歩下がって見る

第9章 内的実在、外的実在、合意的実在
- 外的実在と内的実在
- 真実、すべての真実、そして真実のみ
- 合意的実在
- 外的実在と合意的実在を結びつける物理学

第10章 物理的実在と数学的実在
- 至るところにある数学
- 数学的宇宙仮説
- 数学的構造とは何か

第11章 時間は幻想か
- 物理的実在が数学的たりえる理由
- 人間とは何か
- あなたは空間のどこにいるか(そして何を認識するか)
- あなたは時間のどこにいるか

第12章 レベルIV多宇宙
- レベルIV多宇宙を信じる理由
- レベルIV多宇宙とはどのようなものか
- レベルIVが意味すること
- 私たちはシミュレーション宇宙に住んでいるか
- 他の仮説との関係
- レベルIV多宇宙を検証する

第13章 生命、宇宙、すべて
- 物理的実在の大きさ
- 物理学の未来
- 宇宙の未来ーーー私たちの宇宙はどう終わるか
- 生命の未来
- あなたの未来ーーー人間は取るに足りない存在か

謝辞
参考図書
訳者あとがき

購入:DELL New XPS 13 プレミアム(シルバー)

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2014年から使っていたDELLのノートPCが故障したので、事務作業用に同じ機種の後継機を購入した。壊れたのは電源回路だと思う。電源ボタンを押しても全く反応しなくなってしまった。

今回、購入にあたっては次の点に気を付けた。

1)電源ケーブルがUSB-Cであること。

これまでのPCは電源差込口の中にピンが入っているタイプだったため、何度か折れたり曲がったりしていた。

2)CPUはCore i5にした。

同じ機種でCore i7のモデルがあるが、用途は事務作業とブログを書くためだから高性能である必要はない。バッテリーの消費が少し抑えられるかもしれないと思ってCore i5にしておいた。

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仕様: 詳細

プロセッサー: 第10世代 インテル® Core™ i5-10210U プロセッサー (6MB キャッシュ, 最大 4.2 GHzまで可能)

メモリー:8GB LPDDR3 2133MHz オンボード

ハードドライブ:256GB M.2 PCIe NVMe SSD


10月28日に注文して、11月12日に配送された。(配送予定日は11月20日だった。)

配送を待っている間は、7インチ画面の小型PC「GPD Pocket 2」でしのいでいた。外付けキーボードを使えば入力は楽だが、画面が小さいため長時間の作業はとても疲れる。これはあくまでサブPC、スペアPCとして使っていこう。

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新しいPCはサクサク動いて、実に快適だ。PCを新調していちばんよかったのは、モニター画面の光沢がなくなって動画が見やすくなったことだ。


関連記事:

DELL XPS 13 Ultrabookでモバイルバッテリーを使う方法(XPS 11とXPS 12も同様)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0ee968e408b23b74646046b866ab23fc

GPD Pocket 2を購入
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d42d5a23035b60c4554bf49c565eed1e


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物理学者,機械学習を使う ー機械学習・深層学習の物理学への応用ー

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物理学者,機械学習を使う ー機械学習・深層学習の物理学への応用ー

内容紹介:
フルカラーで解説。機械学習を使って物理学で何ができるのか。物性、統計物理、量子情報、素粒子・宇宙の4部構成。機械学習、深層学習が物理に何を起こそうとしているか/波動関数の解析/量子アニーリング/中性子星と核物質/超弦理論/他。対象読者:物理学専攻の学部生・院生・研究者。

2019年10月11日刊行、212ページ。

編集者、著者について:
■編集者
橋本幸士
ホームページ、Twitter: @hashimotostringarXiv.org論文
理学博士。1973年生まれ、大阪育ち。1995年京都大学理学部卒業、2000年京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。サンタバーバラ理論物理学研究所、東京大学、理化学研究所などを経て、2012年より、大阪大学大学院理学研究科教授。専門は理論物理学、弦理論。

■著者(執筆順)※所属は執筆当時
橋本幸士(大阪大学)、大槻東巳(上智大学)、真野智裕(上智大学)、斎藤弘樹(電気通信大学)、藤田浩之(東京大学)、安藤康(産業技術総合研究所)、永井佑紀(日本原子力研究開発機構)、青木健一(金沢大学)、藤田達大(金沢大学)、小林玉青(米子工業高等専門学校)、大関真之(東北大学)、久良尚任(東京大学)、福嶋健二(東京大学)、村瀬功一(北京大学)、船井正太郎(沖縄科学技術大学院大学)、柏浩司(福岡工業大学)、富谷昭夫(理化学研究所)


理数系書籍のレビュー記事は本書で432冊目。

6月に刊行された「ディープラーニングと物理学 原理がわかる、応用ができる:田中章詞、富谷昭夫、橋本幸士」の姉妹本が先月刊行されたので読んでみた。今回紹介する本と表紙の色合いは違うが、デザインが似ているため同じ出版社から刊行されたのだと勘違いしていたため、Kindle版が出るのを待とうと思ったのだが、よく見てみると6月に刊行された本は講談社、今回刊行された姉妹本は朝倉書店からである。しかもフルカラーだというから、おそらく電子書籍にはならない。単行本は品薄だったため地元の書店に注文してから入手するまでしばらく時間がかかった。

6月に刊行された本は3名の著者で、【第I部 物理から見るディープラーニングの原理】 、【第II部 物理学への応用と展開】のように前半が機械学習と深層学習の原理の解説、後半は物理学への応用が7つの分類で8例紹介解説されていた。この本を読んでいたから、今回の本の難易度はおよそ予想ができていた。6月に刊行された本と重複はあるものの、今回の本は物理学への応用が4つの分類で13例紹介、解説されている。応用例を紹介する本だから、機械学習や物理学の基礎は知っていることが前提である。

同じ系統の本の2冊目とあって、ワクワク感は少なくなったが、機械学習、物理学ともに興味がある分野だから、じっくり腰を据えて読むことになった。


6月刊行の本もそうであるが、本書も対象読者は物理学専攻の学部生・院生・研究者である。機械学習しか学んでいない人には読み解けないはずだ。そのような方は「『ディープラーニングと物理学』の参考書籍」という記事で紹介した、物理学と数学の本をあらかじめ学んでおく必要がある。今日現在、Amazonのレビューにコメントが投稿されていないのは、本書の対象読者が限定されているためだと思われる。

カラフルな図版やグラフが使われているため一見やさしそうな印象があった。しかし読み通してみるとかなり難しかった。章によっては図版とグラフがまったくない解説もある。実際にプログラムを動かして、結果を図版とグラフで図示している章のほうがやさしく感じた。

カラーのサンプルページはこちらである。

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また、全体は「物性」、「統計」、「量子情報」、「素粒子・宇宙」の4部に分けられている。それぞれの領域に対する僕の好き嫌い、モチベーションが違う。これも理解のしやすさに影響していた。つまり、僕が勉強不足で苦手意識をもっている「物性」の例は難しく感じ、興味がある「統計」と「素粒子・宇宙」の例は面白いから理解が進み、関心がとても強いのに勉強が追いついていない「量子情報」は難しく感じた。量子コンピュータ、量子アニーリングは6月刊行の本では取り上げられていなかったテーマだ。


全体の章立てとともに、僕が感じた関心度1~3、理解度を1~3(1が関心度、理解度がいちばん高い)で示しておこう。理解度が1といっても、難しいことには変わりなく、易しいという意味ではない。理解度が低いものは解説のしかたが悪いということではなく、僕の学習進度や理解力が追いついていないためである。すなわち関心度と理解度は相対的、主観的な指標だ。

0. 機械学習,深層学習が物理に何を起こそうとしているか [橋本幸士]:関心度1、理解度1

第1部 物 性
1. 深層学習による波動関数の解析 [大槻東巳・真野智裕]:関心度2、理解度2
2. 量子多体系とニューラルネットワーク [斎藤弘樹]:関心度2、理解度2
3. 機械学習でハミルトニアンを推定する [藤田浩之]:関心度2、理解度3
4. 深層学習とポテンシャルフィッティング [安藤康伸]:関心度3、理解度3

第2部 統 計
5. 自己学習モンテカルロ法 [永井佑紀]:関心度1、理解度3
6. 深層学習は統計系の配位から何をどう学ぶのか [青木健一・藤田達大・小林玉青]:関心度1、理解度1

第3部 量子情報
7. 量子アニーリングが拓く機械学習の新時代 [大関真之]:関心度1、理解度3
8. 量子計測と量子的な機械学習 [久良尚任]:関心度1、理解度2

第4部 素粒子・宇宙
9. 深層学習による中性子星と核物質 [福嶋健二・村瀬功一]:関心度1、理解度1
10. 機械学習と繰り込み群 [船井正太郎]:関心度1、理解度2
11. 量子色力学の符号問題への機械学習的アプローチ [柏浩司]:関心度1、理解度1
12. 格子場の理論と機械学習 [富谷昭夫]:関心度1、理解度2
13. 深層学習と超弦理論 [橋本幸士]:関心度1、理解度2

ちなみにもともと天文学が好きな僕の心を大きく揺さぶったのは「9. 深層学習による中性子星と核物質」の章だった。中性子星の質量限界を0.7太陽質量と計算したオッペンハイマー博士とヴォルコフ博士、トルマン博士がもしご存命ならば、教えてあげたくなる内容だ。そして中性子性の質量限界はその後、中性子間に働く強い相互作用による斥力が考慮に入れられたことでより大きい値が得られ、現在ではおよそ1.5から3.0太陽質量とされている。(参考:トルマン・オッペンハイマー・ヴォルコフ限界


学生や研究者はともかく、一般の読者は高性能の計算環境をもっていない。そのため機械学習は自分には手が届かないものだと思っている人がいるはずだ。けれども本書には各事例について計算に使用したハードウェアやソフトウェア(AIのライブラリやプログラミング言語)など、実行環境が紹介されている。もちろん一般人には利用不可能な環境もあるが、試しにやってみたいと思える環境での事例がいくつかあった。実行環境を紹介することで、読者のモチベーションアップに役立っていると感じた。

また、本書は対象読者が物理学専攻の学部生・院生・研究者ということがあるから、各章末には参考文献として、とてもたくさんの論文が紹介されている。僕には読むことができないが、研究者の方には大いに役立つことだろう。

本書は解説書というよりも、日本語でやさしく書かれた論文集という印象の本だった。興味のある方は、書店で立ち読みしてからお買い求めになるとよい。


関連書籍は、もちろん6月に刊行されたこの本である。機械学習に不慣れな方は、今日紹介した本をお読みになる前に目を通しておくことをお勧めする。

ディープラーニングと物理学 原理がわかる、応用ができる:田中章詞、富谷昭夫、橋本幸士」(Kindle版)(参考書籍)(紹介記事



関連記事:

ディープラーニングと物理学 原理がわかる、応用ができる:田中章詞、富谷昭夫、橋本幸士
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5edea35c359ead77cf30915e9dd28bce

『ディープラーニングと物理学』の参考書籍
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/da7337791b63e739bd77c8fe6d9bda41

「AI(人工知能)と物理学」:1日目
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c8bc23afafd9e9b3d7eff92b781d1f8b

「AI(人工知能)と物理学」:2日目
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e8c08583785cfd8237966389e92c362e

深層学習と時空:橋本幸士先生 #MathPower
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bf7e7e661246866943c765bdd371248f


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物理学者,機械学習を使う ー機械学習・深層学習の物理学への応用ー


0. 機械学習,深層学習が物理に何を起こそうとしているか [橋本幸士]
- 機械学習とは
- 深層学習のフレームワーク
- 機械学習と物理
- 学習は物理に何を起こそうとしているか

第1部 物 性
1. 深層学習による波動関数の解析 [大槻東巳・真野智裕]
- はじめに
- モデル
- 手法
- ニューラルネットワークが示した相図(2次元系、3次元系)
- ランダムなトポロジカル絶縁体
- この章を終えるに当たって

2. 量子多体系とニューラルネットワーク [斎藤弘樹]
- 量子多体問題の難しさ
- ニューラルネットワークをどう使うか
- ニューラルネットワークで基底状態を求める
- 具体的な応用

3. 機械学習でハミルトニアンを推定する [藤田浩之]
- イントロダクション
- 有効模型の構成
- 応用
- おわりに

4. 深層学習とポテンシャルフィッティング [安藤康伸]
- 物質・材料をシミュレーションする
- 代表的なポテンシャルとその背景
- フィッティングによるパラメータ決定
- ベーラー・パリネロの方法
- ニューラルネットワークポテンシャルを応用する際の課題
- アモルファス物質シミュレーション

第2部 統 計
5. 自己学習モンテカルロ法 [永井佑紀]
- はじめに:機械学習を用いたシミュレーションの高速化
- マルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC法)
- 自己学習モンテカルロ法(SLMC法)
- SLMC法の有効模型の例
- 今後の展望とまとめ

6. 深層学習は統計系の配位から何をどう学ぶのか [青木健一・藤田達大・小林玉青]
- 統計系を深層学習する
- 正答率競争の行方と正答率の理論的上限
- 最適化された機械はエネルギー分析器となる
- 最適化された機械パラメータの解
- 機械は自由エネルギーを確かに記憶した
- エピローグ:南京玉すだれ

第3部 量子情報
7. 量子アニーリングが拓く機械学習の新時代 [大関真之]
- 機械学習のブレークスルーの裏側
- 量子アニーリングの概要
- ボルツマン機械学習
- 量子アニーリングマシンの使い方

8. 量子計測と量子的な機械学習 [久良尚任]
- 量子計測
- 量子計算における量子計測
- 機械学習における量子計測

第4部 素粒子・宇宙
9. 深層学習による中性子星と核物質 [福嶋健二・村瀬功一]
- 超高密度物質の研究は現代物理学の未解決問題
- 観測される物理量と理論計算をつなぐ
- 仮定をせずにどこまで遡れるのか?
- 機械学習なら簡単です
- まとめ

10. 機械学習と繰り込み群 [船井正太郎]
- 特徴の抽出
- イジング模型
- 機械学習とその結果
- 繰り込み群との関係

11. 量子色力学の符号問題への機械学習的アプローチ [柏浩司]
- 量子色力学とは何だろうか?
- 符号問題とは何だろうか?
- 積分経路の複素化による符号問題へのアプローチ
- 経路最適化法での機械学習による“よい”積分経路の探索
- まとめと展望

12. 格子場の理論と機械学習 [富谷昭夫]
- 格子場の理論と格子QCD、モンテカルロ
- 制限ボルツマンマシン
- ボルツマンHMC法
- まとめ

13. 深層学習と超弦理論 [橋本幸士]
- 逆問題と超弦理論のホログラフィー原理
- ニューラルネットワークを時空と考えられるか
- 学習によって創発する時空

索引

Kindle半額セール(科学、IT編):12/9まで

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「本は読まなければただの紙」
「電子書籍は読まなければただの電子状態」
「目の毒だ」
「天使の誘惑、悪魔のささやき」
「優先順位を決めよう」
「買うのと買わないのでは、どちらが後悔するか」
「アリとキリギリス」
「理性が決めるのか、心が決めるのか」
「買っておいても邪魔にはならないしな」
「どうせいつか買うことになるのだから」
「今でしょ!」
「そのうちまたセールあるのかな」
「少年老い易く学成り難し」
「チャンスを逃すな」
「知識は一生の宝」
「本を買って後悔したことはあるか」
「鉄は熱いうちに打て」
「本はあなたを待っている」
「自己投資に金を惜しむべきではない」...


今年もこのような声が頭の中をめぐっている。

始まったばかりのKindle本半額セール。Amazonの中に特設ページがないため、どの本が半額なのかわかりにくい。さしあたり科学系とIT系に分けて、目ぼしいものをピックアップしてみた。買うなら今である。

セール期間終了まで追記していく予定なので、このページをときどきチェックしてみてほしい。また、この他にも見つけた方は、コメント欄に書き込んでいただきたい。

ツイートされる方は「#Kindle半額セール科学 #Kindle半額セール理系 #Kindle半額セールIT」などのタグをつけていただけるとありがたい。


科学系:

世界でもっとも美しい10の科学実験
世界でもっとも美しい量子物理の物語
世界でもっとも美しい10の物理方程式
難しい数式はまったくわかりませんが、微分積分を教えてください!
ロウソクの科学 (角川文庫)
世界でもっとも強力な9のアルゴリズム
スタンフォード物理学再入門 力学
スタンフォード物理学再入門 量子力学
美しき免疫の力 動的システムを解き明かす
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無料で読めるラグランジュの『解析力学』の原書、英訳本

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ラグランジュの『解析力学 第2版(1811, 1815)』拡大

オイラーと並んで18世紀最大の数学者といわれるフランスの数学者、天文学者「ジョゼフ=ルイ・ラグランジュ(Joseph-Louis Lagrange, 1736年1月25日 - 1813年4月10日)」である。




彼の初期の業績は、微分積分学の物理学、特に力学への応用である。その後さらに力学を一般化して、最小作用の原理に基づく、解析力学(ラグランジュ力学)をつくり出した。ラグランジュの『解析力学』はラプラスの『天体力学』と共に18世紀末の古典的著作となった。

ラグランジュの歴史的偉業として有名な著作『解析力学』のフランス語原書と英訳本が無料で公開されている。

解析力学は17世紀のニュートン力学を一般化、汎用化した古典力学の集大成である。それが適用範囲は極めて広く、一般相対性理論を含む天体の運動から、地上の物体の運動、流体力学、電磁気学、量子力学、場の量子論、そして原子核の中の物理現象にまで及ぶ。

NHKの「神の数式」という番組で素粒子の数式として紹介された式の左辺の「L」はラグランジアンのこと。「H」であらわされるハミルトニアンと並ぶ、解析力学における基本的な物理量である。



解析力学を日本語で学びたい方は「EMANの解析力学」や「よくわかる解析力学:前野昌弘」をお読みになるとよい。


フランス語版原書:

初版は1788年に2分冊として刊行、第2版は1811年に第1分冊が刊行、ラグランジュは第2分冊を完成して1813年に亡くなった。そして死後2年たった1815年に刊行された。

1853年に印刷された第1巻、1855年に印刷された第2巻は、それぞれこちらから閲覧、PDFのダウンロードができる。第2版のフランス語版ということになる。画像クリックでページが開くようにしておいた。

Mécanique analytique (tome premier), 1853
PDFファイル
https://archive.org/details/mcaniqueanalyti03lagrgoog/page/n10



Mécanique analytique (tome seconde), 1855
PDFファイル
https://archive.org/details/mcaniqueanalyti02lagrgoog/page/n6


このサイトには、他のエントリーとしても同書が閲覧できる。: 検索する


英訳本:

英語版はフランス語版原書の第2版を翻訳したものだ。2分冊が1冊にまとめられている。

Analytical Mechanics: Translated from the Mécanique analytique, novelle édition of 1811
PDFファイル
https://archive.org/details/springer_10.1007-978-94-015-8903-1/page/n3




関連記事:

力学の誕生―オイラーと「力」概念の革新―: 有賀暢迪
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/39015937594a6282316377ae34a6a240

古典力学の形成―ニュートンからラグランジュへ:山本義隆
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e808487b7e9d668967f703396e32d80a

古典力学の形成: 山本義隆―続きの話
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b5904a574fd4c4e276da496bd2c1821b

微分積分学の史的展開 ライプニッツから高木貞治まで:高瀬正仁
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/33cc90c177cd44601d92cc256acc2de2

よくわかる解析力学:前野昌弘
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bd9d328483de3bc3f9a3ad14ec6fe078

解析力学(久保謙一著、裳華房)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e9d5d44cd35a7a2489379c9151816a0a

量子力学を学ぶための解析力学入門: 高橋康著
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6518fc0926e35a657c148b9291ad7bf8

量子場を学ぶための場の解析力学入門: 高橋康著
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e5ebbd29d17ffac8ce95d0ca8cc5e099


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高次元空間を見る方法: 小笠英志

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高次元空間を見る方法: 小笠英志」(Kindle版
次元が増えるとどんな不思議が起こるのか (ブルーバックス)

内容紹介:
現代科学を理解するために不可欠な「高次元」を感覚的に捉える超入門書!
科学の入門書やニュースだけでなく、SF小説や映画、アニメなどで目や耳にする高次元や4次元の世界。世界中で研究されている摩訶不思議な世界の入り口を、我々にとって身近な1次元、2次元、3次元から1つずつ次元を増やして解説していきます。
我々の暮らしている3次元空間の中では絶対にほどけない「結び目」が、4次元を使えば「ほどけてしまう」という数学的手品も、本書で実演します。また、4次元の中ではほどけないものがあるという具体例もお見せします。想像力をフル稼働させて、「4次元」や「高次元」を具体的に見て感じて、さらに、「高次元の図形」を作って動かしていきます。

2019年9月19日刊行、240ページ。

著者について:
小笠 英志(おがさ えいじ):
ホームページ: http://ndimension.g1.xrea.com/
Twitter: @E43051281
数学者、作家、大学教員。東京大学大学院数理科学研究科博士課程修了。博士(数理科学)。元Brandeis大学visiting scholar(客員研究員)。研究テーマは、高次元結び目、1次元結び目およびその周辺。著作は『異次元への扉』(日本評論社)、『4次元以上の空間が見える』『相対性理論の式を導いてみよう、そして、人に話そう』(いずれもべレ出版)など。高次元の図形を見る、作る、動かすことがライフワーク。

小笠先生の著書: 単行本検索 Kindle版検索
小笠先生の論文: arXiv.orgで新着順に検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で433冊目。

9月に発売され、ブルーバックス本ではいきなり人気1位になっていたのでずっと気になっていた。タイトルのインパクトが強かったためだろう。あと、表紙を紺色にして目立たせたのも正しい判断だと思った。

今日現在のランキングを見てみると、書籍版が2位、Kindle版が7位である。ランキングは書籍版とKindle版の売り上げ数が同じ土俵で集計される。

拡大今の時点でのランキングを見てみる



読む前に気になっていたのは、大学レベル以上の理数系本を読みこんでいる僕でも楽しめる本なのか、ワクワクできる本なのかということだった。高い次元の数学は、これまでいくつか学んできたし、一般向けに書かれた本で満足できるのかというのがひっかかっていた。

結果から書いてしまうと、読んで大正解だった。前半は中学生でもわかる初歩的なことばかりで、ざっと眺めるだけで何が書いてあるかすぐわかるのだが、理系大学生が読むと面白くなるのは後半の「Part 5 4次元で結ばれる」あたりからだと思う。

本書の全体構成はこのようになる。「Part X」というのが「第X章」のようなものだ。

Part 1 高次元空間とは
・高次元空間という言葉を、数学的にきちんと説明しておきましょう

Part 2 高次元の出てくる例
・日常レベルのことを調べることから、経済や自然観測まで、かなり多くのところで、高次元空間は基本事項である

Part 3 宇宙について
・我々の存在している宇宙について、少しばかり

Part 4 結び目がほどける?
・高次元空間を見るとはどのような精神状態か、体験させてさしあげましょう

Part 5 4次元で結ばれる
・4次元空間の中でも、やはり、結ばれるものはある。4次元空間を直感力で念想しよう

Part 6 高次元で結ばれる
・高次元空間の中でも、やはり、結ばれるものはある。高次元空間を気合いで直覚する

Part 7 次元を1つ上げる
・次元を1個上げれば、右手系、左手系は区別できない。次元を1個上げることを想像して直観する

Part 8 高次元空間で操作する
・高次元空間の中の図形を、局所の操作だけで変形するようすを観照する

Part 9 3次元だけでも高次元が必要
・3次元空間R^3の中だけ考えていても高次元の、しかも、複雑な図形が出現する


本書はトポロジーという数学分野の中のひとつ「結び目理論」、「高次元結び目理論」をテーマにした本だ。もちろん専門的に学ぶわけではなく、その世界の入り口まで読者をいざない、少しだけ覗いてみようという本だった。「少しだけ」と言いつつ、頭脳駆使してイメージすることが要求されるから、理系大学生でも楽しめる本である。素人には「少しだけ」がちょうどよい。

6年ほど前に「多次元空間へのお誘い」というタイトルで18回にわたる連載記事を書いたことがあるが、僕は結び目理論を学んでいないし、この連載記事は「ヒモが絡まりやすいのは3次元空間特有の現象である。」をテーマにして書いたものだ。厳密に言うとヒモが絡まるのと結ばれるのは違う。だから高次元をあつかう点では共通しているが、本書は僕の書いた記事と重なるところがあるものの、テーマや方向性が違う。

また、9年前に書いた「エキゾチックな球面: 野口廣」という本の紹介記事は、7次元球面の不思議な世界をテーマにしたもので、数学分野としては微分位相幾何学、微分トポロジーの領域である。結び目理論とは関係ない。


本書を読むのに必要な前提知識は中学や高校の数学で学ぶ2次元、3次元空間(ユークリッド空間)を座標であらわす方法、円や球面の方程式の意味を理解していることくらいだ。一か所「雑記」としてオイラーの公式や数学IIIレベルの積分が解説されているが本論とは関係ない。

「Part 4 結び目がほどける?」は、中学生や高校生が授業で学んだことを復習しながら本書の解説の流儀に慣れておくのにちょうどよいだろう。

本書はとにかく図版や2次元、3次元のグラフが多い。人間が知覚、認識できるのは3次元空間までであり、4次元空間は(著者の小笠先生を含めて)知覚できないことはわかりきっているから、先生がどのような工夫をして4次元以上の空間や図形を表現しているかが、本書の最大の価値であり、見所である。通常、予想できる高次元のイメージのさせかたとは違うので、楽しみにしていただきたい。

であるから「Part 5 4次元で結ばれる」や「Part 6 高次元で結ばれる」から面白くなる。4次元で結ばれるヒモ、5次元以上で結ばれるヒモの状況をあなたはイメージできるようになるだろうか?ここでいう「イメージ」するということは、そのものの姿を思い浮かべることではなく、低い次元の図形の組み合わせや移動をつかって高い次元での状況を想像することである。

「Part 7 次元を1つ上げる」では、右手系と左手系の話。3次元空間では目の前に手の甲を向けてかざした両手をそのままスライドさせても、右手と左手の5本の指は重ならない。また、フレミングの右手の法則の形と左手の法則のときの手の形は、どのように手を移動させても重ねることができない。けれども4次元空間だとこれが重なるようにできるのだ。この事実は知っていたが、どのように説明すればよいのかということが、僕には参考になった。

「Part 8 高次元空間で操作する」は、僕が予想していない内容だった。高次元空間の中の図形を局所の操作だけで変形する様子が紹介される。もちろん3次元空間の例から順を追って解説されるからいきなり難しくなるわけではない。また、この章は結び目理論で使われる専門用語や数学表記が多くなってくる。局所操作でいちばん大切なのは「交叉入れ替え」であり、このほかには「スパン結び目」、「リボン操作」、「k-ツイストスパン結び目」などの用語を使った解説がされる。この章から理解が追いていかない人がでてくるかもしれない。ゆっくり時間をかけて読むべきである。

「Part 9 3次元だけでも高次元が必要」が、いちばん萌える章だ。3次元空間内の結び目やヒモの現象を数学的に証明するために、高次元空間が自然に必要になる例が紹介される。高校までの数学では、そのような例はひとつもなかったから、すごく不思議なことに思えてくるのである。

この章になると専門用語は増えるし、専門家が研究するレベルの話になるのでさすがに解説は一般向けの概要にとどまり「詳しくはXXの論文に書かれています。」という記述にとどめている。もちろん一般読者は論文を読めないわけだが、はぐらかされた気持ちにはならない。それ以前の解説が十分難しくて、頭の体操になるからだ。


本書では現代物理学で使われる高次元空間に関して、超弦理論の10次元や11次元の話、そして生物学や経済学の理論でも高次元空間の数学が使われていることを紹介しているが、詳しくは踏み込まず、ごくあっさりと紹介するにとどめている。あくまでも数学書、結び目理論の本なのだ。

読んで当たりの本である。ぜひお読みいただきたい。


以下は本書の宣伝動画ということなのだが、本書の内容はこれを見てもまったくわからない。ともかく読めば驚くのだということを遊び心をこめて強調しているのである。

A girl is surprised at my book   拙著「高次元空間を見る方法」小笠英志 関連動画



以下は小笠先生のその他の著書である。

4次元以上の空間が見える: 小笠英志」(Kindle版
異次元への扉―はさみと紙から始めてトポロジーの達人に: 小笠英志
相対性理論の式を導いてみよう、そして、人に話そう: 小笠英志」(Kindle版

  

まず気になるのは2006年に刊行された「4次元以上の空間が見える: 小笠英志」である。今回紹介したブルーバックスの本と内容がほとんどかぶりそうなタイトルであるが、購入して内容を見たところ重複しているところはほとんどないことがわかった。ブルーバックスの本よりも高度で、高校卒業程度か理系大学生以上が対象読者である。

そして「異次元への扉―はさみと紙から始めてトポロジーの達人に: 小笠英志」であるが、この本には「ボーイサーフェス」と「クラインの壺」が解説される。これらについて小笠先生は次のような動画をお作りになっている。

Make your Boy surface


ボーイサーフェスのそのほかの動画: YouTubeで検索する

Klein bottle can be made quickly


Klein bottle=2×Möbius band


小笠先生がアップロードした動画: YouTubeチャンネル


また先生は、ボーイサーフェスについて次の論文をお書きになっている。

Make your Boy surface
https://arxiv.org/abs/1303.6448


関連記事:

多次元空間へのお誘い(1):はじめに
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3c2bacd624695dcad7dd2fa9feadd5bd

高次元空間の隙間の大きさ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4d65a6811aa35998e6246bb57025a974

エキゾチックな球面: 野口廣
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b3f1abb0ae2b139d53580261b22b9c87


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高次元空間を見る方法: 小笠英志」(Kindle版
次元が増えるとどんな不思議が起こるのか (ブルーバックス)


はじめに

Part 1 高次元空間とは
・高次元空間という言葉を、数学的にきちんと説明しておきましょう
- 直線、平面、空間
- 板チョコ、羊羹
- 0次元空間R^0、1次元空間R^1、2次元空間R^2、3次元空間R^3、4次元空間R^4、...、n次元空間R^n
- 高次元が見たいですよね

Part 2 高次元の出てくる例
・日常レベルのことを調べることから、経済や自然観測まで、かなり多くのところで、高次元空間は基本事項である
- 地球上でいつでも無風状態地点が1個はあるという話を聞いた人もいることでしょう
- 複素関数
- 経済
- 物理
- 高次元が自然な発想なのはわかった。高次元が「見える」のもわかった。しかし、では、高次元に「行ける」のか?

Part 3 宇宙について
・我々の存在している宇宙について、少しばかり
- 幕間:時間について
- 我々の住む宇宙の形
- 幕間:標準理論
- 我々の世界が実は高次元だ:超弦理論

Part 4 結び目がほどける?
・高次元空間を見るとはどのような精神状態か、体験させてさしあげましょう
- 3次元空間R^3の中の円周
- 3次元空間R^3の中では結ばれていた円周が、4次元空間R^4の中では必ずほどける

Part 5 4次元で結ばれる
・4次元空間の中でも、やはり、結ばれるものはある。4次元空間を直感力で念想しよう
- 4次元空間R^4の中の球面S^2
- 球面S^2は4次元空間R^4の中で結ばれる

Part 6 高次元で結ばれる
・高次元空間の中でも、やはり、結ばれるものはある。高次元空間を気合いで直覚する
- 3次元球面S^3、n次元球面(nは4以上の整数)
- (n+2)次元空間R^(n+2)の中でn次元球面S^nは結ばれる(nは3以上の自然数)

Part 7 次元を1つ上げる
・次元を1個上げれば、右手系、左手系は区別できない。次元を1個上げることを想像して直観する
- 右手系、左手系
- 次元を1つ上げれば、右手系、左手系は区別できない
- 雑記:オイラーの公式を、高校数学で納得する一方法

Part 8 高次元空間で操作する
・高次元空間の中の図形を、局所の操作だけで変形するようすを観照する
- 1次元結び目に施す局所操作:交叉入れ替え
- 2次元結び目に施す局所操作
- n次元結び目に施す局所操作(nは3以上の自然数)

Part 9 3次元だけでも高次元が必要
・3次元空間R^3の中だけ考えていても高次元の、しかも、複雑な図形が出現する
- 高次元の図形いろいろ
- 3次元を調べるために高次元が必要になる数学の例:3次元空間R^3の中の各結び目に対応するコバノフ(・リプシッツ・サーカー)・ステイブル・ホモトピー・タイプという高次元の図形

参考文献について
参考文献
動画の紹介と謝辞
さくいん
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