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むかしの新宿、萩原健一さん、いだてん

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萩原健一さん

先日NHK BSプレミアムで放送された「“太陽にほえろ!”誕生~熱きドラマ、若者たちは走った~」で映された京王プラザホテル建設中の1972年(昭和47年)西新宿の風景。

そのときこの刑事ドラマで「マカロニ刑事殉職」という名シーンのがここの工事現場で撮影されたそうだ。(当時でも違法だとは思うが)立小便を終え、振り向いたとたに刺されるという設定だ。

動画再生


マカロニ刑事を演じたショーケンこと萩原健一さんは、惜しくも今年の3月にお亡くなりになったのだが、明日から始まるNHK大河ドラマ「いだてん ~東京オリムピック噺~」の第2部に高橋是清役で出演されるのだ。収録は生前に行われたそうである。これは見逃せない。

萩原健一がNHK大河「いだてん」出演、第25回から高橋是清役で登場
https://natalie.mu/eiga/news/325884


むかしの新宿

新宿の昔の風景ついでに、こちらの写真も紹介しておこう。新宿駅構内と東口の工事現場に公開されている。

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新宿中央公園

西新宿にある「新宿中央公園」が開園した1968年(昭和43年)からあるこれらの遊具とイスとテーブルは、現在も置かれている。たまたま近くを通ったので、撤去されないうちに写真に残しておくことにした。

子供の頃、父にクジラの口に妹と入っているところを写真に撮ってもらったことがある。

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万有引力の法則(逆2乗則)の逆問題を解説する本と動画

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ファインマン先生のオンライン講義を受けるアイザック・ニュートン

先日「ニュートンの『プリンキピア』がブルーバックスで復刊!」という記事で、アイザック・ニュートンによる歴史的な名著が42年ぶりに講談社ブルーバックスから復刊されていることを紹介した。

この著作でニュートンはケプラーの法則を数学的に証明したとされているが、注意しなければならないことがある。たしかにニュートンは惑星の楕円運動から万有引力の法則を微積分を使わずにユークリッド幾何学、つまり作図による方法で導いたのだが、その逆のことは導けていないのだ。

楕円運動から万有引力の法則を導くことを「順問題」と呼んでいる。そして「万有引力の法則(逆2乗則)の力が働いていて、軌道が閉じているとき、軌道は楕円になる」ことを導くのを「逆問題」と呼んでいる。ニュートンは逆問題のほうを解けていなかったのだ。運動から力を求めるのが順問題で、力から運動を求めるのが逆問題である。(逆問題のほうが順問題よりも難しい。)

歴史上、順問題を初めて解いたのは、もちろんニュートンであるが、微積分を使って初めて解いたのはピエール・ヴァリニョンである。

Pierre Varignon(ピエール・ヴァリニョン): 1654-1722

- 運動の法則を微分学を使って記述することへの貢献
- 力を受けて速度変化をする1次元運動の研究
- 中心力を受けて速度変化する2次元運動の研究
- 2次元調和振動の研究
- ケプラー運動と万有引力の導出

そして歴史上、逆問題を初めて解いたのはヤコブ・ヘルマンヨハン・ベルヌーイである。

Jakob Hermann(ヤコブ・ヘルマン): 1678-1733

- 逆2乗の引力に対して運動方程式の積分を初めて実行して逆問題を解いた

Johan Bernoulli(ヨハン・ベルヌーイ): 1667-1748

- 逆2乗の引力に対して運動方程式の積分を極座標の方程式により逆問題を解いた
- ケプラーの法則と万有引力の導出(極座標)
- 惑星の運動が円錐曲線(楕円、放物線、双曲線)になることを導出


今回の記事では、順問題の解き方と逆問題の解き方を知るための情報をまとめておくことにした。


順問題の解法

楕円運動から万有引力の法則を導くのが順問題である。現代的な解法は、このページに書かれている。

順問題の解法:
http://wakariyasui.sakura.ne.jp/p/mech/bannyuu/bannyuu.html

順問題の解法は『プリンキピア』に書かれているほか、ニュートンによるユークリッド幾何を用いた解法が次の本の146ページから詳しく解説されている。

プリンキピアを読む―ニュートンはいかにして「万有引力」を証明したのか? 」(Kindle版



逆問題の解法

万有引力の法則(逆2乗則)の力が働いていて、軌道が閉じているとき、軌道は楕円になることを導くのが逆問題である。現代的な解法は、このページに書かれている。

逆問題の解法(英語ページ):
http://galileo.phys.virginia.edu/classes/152.mf1i.spring02/KeplersLaws.htm

ヤコブ・ヘルマンやヨハン・ベルヌーイが逆問題を初めて解いたわけだが、彼らは微積分を使った解析的な解法だった。ニュートンが『プリンキピア』で採用したユークリッド幾何(作図)を用いた解法に、史上初めて成功したのはおそらくリチャード・ファインマンだと思われる。ニュートンが解けなかった問題を、277年後の1964年にファインマン先生が解決してくれたのだ。(参考記事:「ファインマン先生の自伝本と講演本」、「ファインマン物理学(英語版)が全巻ネット公開されました。」)


ファインマン先生は逆問題の解法テーマに1964年3月13日に特別講義を行なった。(参照:「Feynman's Lost Lecture」)この講義を書籍化したのが次の本である。この2冊の内容は同じだ。

ファインマンの特別講義―惑星運動を語る (岩波現代文庫) 」- 2017年刊行
ファインマンさん,力学を語る」- 1996年刊行
 

目次
1 コペルニクスからニュートンまで
2 ファインマン―1つの回想
3 楕円の法則のファインマンの証明
4 太陽のまわりの惑星の運動


翻訳のもとになった原書は1996年に刊行された。そしてこの本のもとになったファインマン先生の講義の音声を聞くことができる。原書を読みながら再生するとよいだろう。講義の部分は「4. "The Motion of Planets Around the Sun" (March 13, 1964) 」の章に対応している。(講義音声を再生

Feynman's Lost Lecture: The Motion of Planets Around the Sun (Hardcover)」(Paperback)(Kindle Edition)


Preface
Introduction
1. From Copernicus to Newton
2. Feynman: A Reminiscence
3. Feynman's Proof of the Law of Ellipses
4. "The Motion of Planets Around the Sun" (March 13, 1964)
Epilogue
Feynman's Lecture Notes
Bibliography
Index

ファインマン先生が教鞭をとられていたカリフォルニア工科大学のサイトで、本書の紹介がPDFファイルで公開されている。(PDFファイルを開く


また、ファインマン先生のこの講義を解説する動画がYouTubeにアップロードされている。

Feynman's Lost Lecture (ft. 3Blue1Brown) 英語字幕付き


Orbital Dynamics Part 41 -- Feynman's Lost Lecture


Feynman's Lost Lectures (8 videos):再生リスト



関連記事:

ニュートンの『プリンキピア』がブルーバックスで復刊!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a85d47fe8132a97c7180c444a816b196

日本語版「プリンキピア」が背負った不幸
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bff5ce90fca6b8b13d263d0ce6fc134e

Kindle版で復刊: 日本語版プリンキピア(自然哲学の数学的原理):アイザック・ニュートン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a5ce0252019a5d9b63c20200f019e199

[世界を変えた書物]展(上野の森美術館)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/67cec3d33c33810b91d0f7591bfbc2ee

古典力学の形成―ニュートンからラグランジュへ:山本義隆
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e808487b7e9d668967f703396e32d80a

力学の誕生―オイラーと「力」概念の革新―: 有賀暢迪
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/39015937594a6282316377ae34a6a240

ニュートン著『プリンキピア』: eBayで買った?そんなわけないだろ。
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b78b1019f73b4105359862e954496b66

英国王立協会、ニュートンが4次元時空の着想を得ていたことを発表
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5bcf405938c7ab3cfee8f06f14c2e4a1


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キロメートルは Km ではなく km である件

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ことの始まりはツイッターで見かけたこの画像である。



「たかしくんは時速4kmで2km先の公園へ向かっています」

最後の行には空欄があり「[空欄]か?」のように、欠けている言葉を埋めて笑いがとれる文を完成させるお遊びだ。

僕も面白がって、欠けている枠に次のような文を入れてツイートしていた。

「フェルマーの最終定理によって、標準模型の電荷を導出できます」(ツイートを開く
「特殊相対論に従うと出発してから何分後にたかしくんは公園に着きます」(ツイートを開く
「不確定性原理に従うと、たかしくんの公園到着時刻はどれくらいの精度で求めることができるでしょう」(ツイートを開く

他にも面白いのがないかな?と画像とにらめっこしていると、キロメートルが「km」と小文字で始まっていることに気がついた。小学生のときは「Km」と大文字で習っていたはず。

気になったので調べたところウィキペディアの「キロ」の「小文字を使う理由」のところに次のようなことが書いてある。

「日本の一般道路の標識では、昭和35年総理府建設省令第3号により、"Km"(頭文字を大文字)と標示するよう定めていたが、 2008年(平成20年)8月1日以降、"km"(頭文字を小文字)と標示するように省令が改正された。」

これはこれで、画像と一緒にツイートしておいた。

ツイートを開く



現在は「kg」が正しくて「Kg」は間違いなのだという。キログラムについても同じことで「kg」が正しく「Kg」は間違い。

いったいどれくらいの人が、このことを知っているのだろう?とアンケートをとってみた。(アンケートを開く

ちょうど100名の方から回答いただき、70パーセントの人がご存知だという。僕を含めた30%の人は「Kg」が正しいと思っていたようだ。

ネット検索すると「Kg」の表記が散見することがわかる。「EMANの物理学」の広江さんは、すでにご存知だったようだが「Kg」の表記が1箇所残っていることがわかった。(このページ




これから注意して書くことにしよう。


コンピュータの記憶容量の表記

ファイル・サイズやメモリー・サイズなどコンピュータの記憶容量について言及する場合の表記はどうなのだろう?次のように書いていたことを思い出す。

キロバイト(KB)、メガバイト(MB)、ギガバイト(GB)、テラバイト(TB)

ウィキペディアの「SI接頭辞」を見る限り

キロバイト(kB)、メガバイト(MB)、ギガバイト(GB)、テラバイト(TB)

が正しいような気がしてくる。




ところが「コンピュータにおける使用法」というページを見ると「コンピュータの記憶容量について言及する場合にキロを1024 (=2^10) の意味で使うことがあったが、2進接頭辞が公式に採用されたことを受けて、国際単位系 (SI) 第8版(2006年)において、キロやその他のSI接頭語は、決して 2 のべき乗を表すために用いてはならないと定められた。(2^10には「キビ」(kibi, 記号:Ki) が導入されている。)」とある。

2進接頭辞


つまり、正式には次のような表記が正しいということらしい。(キビバイトkiBのところはKiBではない。)メモリーやハードディスクの表記で、こういうのは見かけたことがないからややこしい。

キビバイト(kiB)、メビバイト(MiB)、ギビバイト(GiB)、テビバイト(TiB)

こちらのほうはこだわらず、周りの人の書き方に合わせていくことにした。


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iPhoneXS/Xモバイルバッテリー内蔵ケース

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3年ぶりにiPhoneのモバイル・バッテリー内蔵ケースを買った。スマホのケースは手帳型へのこだわりがあるから、選択肢が限られる。

3年前から進化したのはワイヤレス充電タイプになったこと。そしてiPhoneが電子マネーに対応したので、この機能にも対応していることだ。

Micro USBケーブルで充電することになる。気になる厚さはこのくらいだ。(倒れないようにマウスで支えている。)

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僕が買った商品はこちら。

Assist Note (アシストノート) 手帳 バッテリー付き スマホケース 2900mAh iPhoneXS/Xケース PSE認証済み (ブラック)


ブラック)(レッド)(ブラウン)(ネイビー)(シルバー)(その他の色やデザイン

- 『Assist Note』アシストノート:様々なメディアに取り上げていただきました!バッテリー搭載ワイヤレス手帳型スマホケース 『バッテリー内蔵手帳型ケース』でバッテリー切れの不安解消!災害や停電、緊急時や長時間の外出、スマホの充電が切れてしまわないか不安。ありとあらゆる場面でバッテリー不足の不安を解消し活躍します。ワイヤレス充電でシェアできる!
- 電気用品安全法(PSE)の技術基準に適合 :電気用品安全法(PSE)に基づき、日本の定める安全基準の検査に合格した電気製品に表示されています。 『Assist Note』はPSEマークの表示に必要な検査に合格しておりますので安全性は保証済みです。
- 電子マネーもご使用いただけますので、『アシストノート』ひとつに全てをまとめ、身軽に外出して頂けます。
- 製品仕様:電池容量/2900mAh、入力/Micro USB・DC5V/2A(MAX)、出力5W
- 同梱物:Assist Note本体、Micro USBケーブル、取扱説明書、180日保証書


手帳型にこだわらなければ、選択肢はたくさんある。検索用のリンクをつけておこう。

モバイルバッテリー付きケース: Amazonで検索
モバイルバッテリー付きケース(手帳型): Amazonで検索

iPhone5系用: Amazonで検索
iPhone6系用: Amazonで検索
iPhone7系用: Amazonで検索
iPhone8系用: Amazonで検索
iPhone Plus系用: Amazonで検索
iPhone X/XS系用: Amazonで検索
iPhone XR系用: Amazonで検索


関連記事:

iPhone6/6s モバイルバッテリー内蔵ケース
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/67652dfaa290f2305d64de8a972dee57


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幾何学から物理学へ: 谷村省吾

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幾何学から物理学へ: 谷村省吾」物理を圏論・微分幾何の言葉で語ろう

内容紹介:
理工系のためのトポロジー・圏論・微分幾何』(2006年、SGC-52、電子版:2013年)の姉妹編。前書では説明しきれなかった数学概念について詳しい説明を補い、かつ、もの足りなかった応用編の部分を拡充することが、本書の狙いである。月刊誌「数理科学」の同名の連載(2016年8月~2019年1月)の待望の一冊化。
2019年6月21日刊行、194ページ。

著者について:
谷村省吾(たにむら しょうご)
名古屋生まれ、名古屋育ち。関西勤めが長かった。名古屋大学工学部応用物理学科卒業。名古屋大学大学院理学研究科物理学専攻修了。その後、東京大学(学振研究員)、京都大学(助手、講師)、大阪市立大学(助教授)、京都大学(准教授)を経て、2011年に名古屋大学(教授)に着任。2017年に所属部局が情報科学研究科から情報学研究科に、兼任学部が情報文化学部から情報学部に改組された。
ホームページ: http://www.phys.cs.is.nagoya-u.ac.jp/~tanimura/
ツイッター: @tani6s

谷村先生の著書:
幾何学から物理学へ―物理を圏論・微分幾何の言葉で語ろう」数理科学SGCライブラリ150, サイエンス社 (2019)
微分幾何の基本概念、および、微分幾何の物理への応用の解説書。微分幾何を理解するための代数(テンソル代数や外積代数)の構成にかなり力を入れています。向き付けと捩テンソルの説明が独特です。微分形式のスハウテン表示をシステマティックに導入しました。圏論については、表立って書かれている量は少ないですが、底流でつねに意識しています。電磁気学とハミルトン形式の力学をすべて幾何学的に見通し良く定式化しようという目論見をもって著しました。 補足解説ウェブ別録もあります。
理工系のためのトポロジー・圏論・微分幾何 ―双対性の視点から」数理科学SGCライブラリ52, サイエンス社 (2006)
物理系の学生向けのトポロジーと微分幾何学の入門書。圏論(category theory)の解説書としては最も易しい本だろうと思います。おかげさまで冊子版は売り切れて、現在、電子版のみの販売になっています。
ゼロから学ぶ数学・物理の方程式」講談社 (2005)
代数方程式から微分方程式までを解説した、とても易しい教科書です。これを読めば数式の意味がわかるようになると思います。ミスプリントについては正誤表を公開しています。


理数系書籍のレビュー記事は本書で418冊目。

先月からツイッターで話題になっている理数系本のうちの1冊。力学系の本はいったん横に置き、人気本の誘惑に負けてしまった。数理科学系・数理物理系の本は想像力を掻き立てられてワクワクする。

本書の前著(姉妹本)は9年前に読んでいて「理工系のための トポロジー・圏論・微分幾何:谷村省吾」という記事で紹介している。当時は自分の勉強がまだ十分に進んでおらず難しい本という印象だった。今回この姉妹本もざっと読み直してみたところ、するすると頭に入ってくる。この9年の学習成果があったようだ。この姉妹本は現在、紙の本は購入できないからサイエンス社のこのページからPDFファイルのみ購入できる状況だ。

今回の本は、姉妹本では説明しきれなかった数学概念について、詳しい説明を補い、前書では物足りなかった部分を拡充したものである。理工系の学生と研究者が対象読者だ。本書へかける谷村先生の想いと意気込みは4ページにおよぶ「まえがき」と「あとがき」そして、本書に書ききれなかったことを「補足解説ウェブ別録」として無料公開されていることから伝わってくる。

姉妹本があるとはいえ、読まなくても今回の本は読むことができる。章立ては次のとおり。

第1章 集合と写像
第2章 ベクトル空間と双対空間
第3章 ベクトル空間の枠と変換則
第4章 枠・枠変換と関手・自然変換
第5章 テンソル積の普遍性
第6章 テンソル代数と物理量
第7章 外積代数
第8章 向き付けと捩テンソル
第9章 スハウテン表示と鎖体・境界
第10章 体積形式と内積とホッジ変換
第11章 ミンコフスキー計量とシンプレクティック形式
第12章 多様体
第13章 多様体上の微積分
第14章 ホモロジーとコホモロジー
第15章 幾何学的な電磁気学
第16章 カレントで表される電磁気量
第17章 物質中の電磁場
第18章 幾何学的なハミルトン力学
第19章 リー群・リー代数と力学系の対称性
第20章 力学系の簡約とゲージ対称性
付録A テンソル積と外積の規約
付録B ダルブーの定理の証明

第14章までで純粋に「幾何学」を解説している。(第11章のミンコフスキー時空は少し物理に踏み込んでいる。)第7章までは他の本ですでに学んでいたから理解しやすかった。しかし、数学書で学んでいたため、本書のように簡潔に(厳密な証明をある程度犠牲にして)説明されると話の筋道がはっきりする。第10章以降も既習の部分が多かったが、理解が十分でなかったからとても助かった。特に「捩形式カレント」という日本ではあまり使われていない数学概念の説明をしていただいているのがありがたい。(「捩形式」は「れいけいしき」と読む。)

第15章以降が物理法則への応用が書かれている部分。姉妹本に比べてこれに多くのページを割いている。ここまで幾何学が適用できてしまうのかと驚く箇所だ。「自然という書物は数学という言葉で書かれている。」というガリレイの言葉を彷彿させる。電磁気学ではいわゆる「ベクトル解析」を物理数学として学ぶが、それはどちらかというと数学を物理の道具として使っているイメージが強い。第14章までの微分幾何が描き出す電磁気の法則は、物理数学をはるかに超えた「理論化」である。こういうのが僕は好きなんだよなぁ。

マクスウェル方程式を1本にまとめたのは誰?」という記事では、「EMANの物理学」の広江さんが公開している形の数式を詳しく紹介したが、おがわけんたろうさんから教えていただいた「マックスウェルの方程式の微分形式での表現」を結果だけ書いていた。本書には微分形式を使ったマックスウェル方程式が第15章の最後に詳しく書かれている。これはうれしかった。

第18章~第20章は、僕には少し難し過ぎて未消化に終わったところがあるが、知的興奮と刺激は十分いただいた気がする。特に力学系の勉強を始めたばかりであることから、第18章の「幾何学的なハミルトン力学」はしっかり学びなおしておきたい。

圏や関手は姉妹書よりわかりやすいと感じた。また、枠や枠変換、自然変換などは、本書で初めて知った数学概念だった。

ツイッターで話題になっているだけのことはある。折に触れて取り出して復習したい本だと思った。あと「坪井俊先生の幾何学三部作」も読みなおしたいと思うようになった。僕は3冊とも自炊してしまったが、最初の2冊はすでにKindle版で発売されていることに気がついた。



注意: 1冊目の「多様体入門:坪井俊」は、まず「多様体の基礎: 松本幸夫著」をお読みになってからのほうがよいと思う。


関連記事:

理工系のための トポロジー・圏論・微分幾何:谷村省吾
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3f58e5c285fe4c45a9a551593a72940a


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幾何学から物理学へ: 谷村省吾」物理を圏論・微分幾何の言葉で語ろう


第1章 集合と写像
  1.1 数学記号の書き方・読み方
  1.2 ラッセルのパラドクス
  1.3 写像と図式

第2章 ベクトル空間と双対空間
  2.1 体と環
  2.2 ベクトル空間と線形写像
  2.3 双対空間
  2.4 引き戻しと双対作用素
  2.5 数ベクトル空間の双対空間

第3章 ベクトル空間の枠と変換則
  3.1 数ベクトル空間
  3.2 部分空間
  3.3 枠とベクトルの成分表示
  3.4 作用素の行列表示
  3.5 枠の変換
  3.6 作用素の行列表示の変換則

第4章 枠・枠変換と関手・自然変換
  4.1 ベクトル空間の枠
  4.2 圏
  4.3 関手
  4.4 自然変換
  4.5 普遍性

第5章 テンソル積の普遍性
  5.1 多重線形写像
  5.2 関数積としてのテンソル積
  5.3 テンソル積空間の普遍性
  5.4 圏論的テンソル積空間の構成
  5.5 テンソルの同等な書き換え

第6章 テンソル代数と物理量
  6.1 テンソルとしての物理量と次元解析
  6.2 高階のテンソル
  6.3 テンソル成分の変換則
  6.4 テンソルどうしのテンソル積
  6.5 縮約とトレース

第7章 外積代数
  7.1 面積と反対称性
  7.2 コベクトルの外積
  7.3 ベクトルの外積
  7.4 外積の圏論的特徴

第8章 向き付けと捩テンソル
  8.1 向きについて考える
  8.2 向き付け
  8.3 捩形式
  8.4 向き集合の双対
  8.5 高階の捩テンソル
  8.6 写像の向き
  8.7 捩テンソルの成分の変換則
  8.8 絶対値のような写像

第9章 スハウテン表示と鎖体・境界
  9.1 向き付けと捩形式
  9.2 等位面の族
  9.3 ベクトルの図示化
  9.4 コベクトルの図示化
  9.5 捩ベクトルの図示化
  9.6 捩コベクトルの図示化
  9.7 鎖体と境界

第10章 体積形式と内積とホッジ変換
  10.1 横切る図形と横切られる図形の双対性
  10.2 体積形式
  10.3 双線形形式
  10.4 ユークリッド計量
  10.5 ホッジ変換

第11章 ミンコフスキー計量とシンプレクティック形式
  11.1 ミンコフスキー空間
  11.2 ローレンツ変換
  11.3 ミンコフスキー空間の幾何と物理
  11.4 ミンコフスキー計量が誘導する体積形式とホッジ変換
  11.5 シンプレクティック形式

第12章 多様体
  12.1 多様体論は何をするのか,なぜそれをするのか
  12.2 多様体
  12.3 多様体から多様体への写像
  12.4 接ベクトルと余接ベクトル
  12.5 座標変換と接ベクトル・余接ベクトルの成分の変換
  12.6 多様体間の写像から派生する写像
  12.7 テンソル束とテンソル場

第13章 多様体上の微積分
  13.1 ベクトル場が生成するフロー
  13.2 リー微分
  13.3 多様体の境界と向き
  13.4 微分形式の積分

第14章 ホモロジーとコホモロジー
  14.1 なぜ微分形式は積分されるのか
  14.2 接的向きから横断的向きへの変更
  14.3 捩鎖体の横断的向き付け
  14.4 捩鎖体の境界
  14.5 捩微分形式の捩鎖体上の積分
  14.6 外微分とストークスの定理
  14.7 ホモロジー群とコホモロジー群
  14.8 ホモトピーとポアンカレの補題

第15章 幾何学的な電磁気学
  15.1 電荷と電流
  15.2 静電場とスカラーポテンシャル
  15.3 磁場とベクトルポテンシャル
  15.4 ファラデイの法則
  15.5 ガウスの法則
  15.6 アンペール・マクスウェルの法則
  15.7 マクスウェル方程式と構成方程式
  15.8 相対論的定式化

第16章 カレントで表される電磁気量
  16.1 ペアリング
  16.2 カレント
  16.3 カレントの微分
  16.4 局在した電磁気量

第17章 物質中の電磁場
  17.1 束縛電荷と自由電荷
  17.2 平滑化
  17.3 物質中の電磁場の方程式
  17.4 分極と磁化の幾何学的意味
  17.5 物質中の電磁場の測定方法
  17.6 電磁場のエネルギー・運動量とアブラハム・ミンコフスキー論争

第18章 幾何学的なハミルトン力学
  18.1 幾何学と力学
  18.2 シンプレクティック多様体
  18.3 シンプレクティック多様体の局所的な構造
  18.4 ハミルトンベクトル場と変分原理
  18.5 ポアソン括弧
  18.6 積分不変量

第19章 リー群・リー代数と力学系の対称性
  19.1 対称性と群
  19.2 リー群
  19.3 リー代数
  19.4 シンプレクティック変換
  19.5 対称性と保存則
  19.6 運動量写像

第20章 力学系の簡約とゲージ対称性
  20.1 ラグランジアンの循環座標と簡約
  20.2 ハミルトニアンの簡約
  20.3 マルスデン・ワインスタイン簡約
  20.4 電荷保存則による簡約

付録A テンソル積と外積の規約

付録B ダルブーの定理の証明
  B.1 反対称双線形形式の標準形
  B.2 ダルブーの定理

あとがき
参考文献
索引

ミリリットルは ml ではなく mL である件

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先日「キロメートルは Km ではなく km である件」という記事を投稿したが、単位記号の表記について昔の流儀を改めなければならないものがもうひとつあることに気がついた。小学生に算数を教える機会がある方は、注意していただきたい。

2011年以降、小中学校ではリットル、デシリットル、ミリリットルを L 、mL 、dL のように L の文字を大文字で教えている。これまでのように L を小文字の斜体(筆記体)で書いても間違いではないが、推奨されていない。

アンケートをとったところ、なんと1002名もの方から回答をいただいた。ご存知だった方は34パーセント、ご存知なかった方は66パーセントだった。(アンケート結果を開く


教科書における単位記号の表記について(大日本図書、2011年6月1日)
https://www.dainippon-tosho.co.jp/news/2011/0601_m_and_l.html

今年度より小学校で使用されている弊社の新課程教科書では,メートルやリットルなどの単位記号の表記を,すべて立体(斜体ではないもの)に統一しております。また,来年度から使用開始となる中学校の新課程教科書においても,同様に統一して参ります。



このようになりましたのは,日本の単位表記を国際基準(SI単位と呼ばれます)に即したものに変更する流れを受けてのことです。国際基準では,単位を表記する場合,その書体は"立体"で表記するように決められています。実際,大学入試センター試験や高等学校理科の教科書のリットル表記が,「L」となっています。このことから,弊社では,小学校や中学校の教科書でも国際基準の表記とするのが妥当と判断し,そのように教科書に記載することといたしました。

文部科学省におきましても,義務教育諸学校教科書図書検定基準の計量単位の項(1)に,「当該計量単位の中に国際単位系(SI)の単位またはSIと併用される単位がある場合には,原則としてこれによること」と今回から改訂されております。

この単位表記法によれば,リットルは「L」でも「l(小文字)」でも構いません。小文字の場合は,数字の1(いち)と見間違えやすいので大文字を使用いたしました。

また,中学校数学,中学校理科では,速さの表記についても変更を行います。従来「m/秒」「km/時」のように表記していたものは「m/s」「km/h」としていきます。

なお,小学校算数では,リットルを筆記体で学習してきた子どもたちにとっては戸惑うこともあると考え,各学年の教科書の初出の箇所(例:4年上巻p.7)に,注意書きなどを入れております。

教科書の表記などの規準となる「義務教育諸学校教科書図書検定基準」の改訂については,文科省のホームページに示されています(同ページの最後の「計量単位」のところに記載されています)。SI単位については,産業技術総合研究所などが参考になります。(このリンクを参照


本当にそうなのかと、調べたところ確かに次のページでは L を大文字で表記している。

かさ「L・dL・mL」プリント | ぷりんときっず
https://print-kids.net/print/sansuu/kasa-l-dl-ml/


この件についてはウィキペディアの「リットル」の中の「記号のゆれ」に詳しく書かれている。しかし、そもそも「リットル」の言葉の由来は何なのだろうか?ウィキペディアを読んでも明らかにはなっていない。


関連記事:

キロメートルは Km ではなく km である件
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3275c4ec332d6aa68a5913ec0d410ff9


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『ディープラーニングと物理学』の参考書籍

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ディープラーニングと物理学 原理がわかる、応用ができる:田中章詞、富谷昭夫、橋本幸士」(Kindle版


この本の巻末にはたくさんの参考書籍が紹介されている。そのうち和書を中心として特に気になっているものをピックアップしてみた。「ディープラーニングと物理学 原理がわかる、応用ができる」(Kindle版)は専門書だから、参考書籍のほうも難しい。

本書の読者は物理学や数学を学んでいない純粋にコンピュータサイエンス系、プログラミング系の人もいるだろうし、逆にプログラミングはさっぱりで物理学しか学んでいない人もいると思われる。だから専門的な参考書籍だけでなく、入門者レベルの本もピックアップして紹介することにした。

機械学習、深層学習を学ぶには微積分はもちろん数学として線形代数、統計学(確率論を含む)が必須である。また本書では物理学の知識も必要だから統計力学、超弦理論、一般相対性理論、素粒子物理を中心に本書の流れに従って紹介しておこう。


【第I部 物理から見るディープラーニングの原理】

専門書レベルの本

情報理論、機械学習に関する本は次のようなものが本書で勧められている。

情報理論 (ちくま学芸文庫) 」(Kindle版)(紹介記事
情報の物理学 (物理のたねあかし)
代数幾何と学習理論 (知能情報科学シリーズ)
  


パターン認識と機械学習 上」(シュプリンガー版
パターン認識と機械学習 下」(シュプリンガー版
 


深層学習 (機械学習プロフェッショナルシリーズ) 」(Kindle版
深層学習 (日本人工知能学会監修) 」(Kindle版
これからの強化学習
  


統計力学、イジング模型はもちろん田崎先生の本がよいだろう。熱力学も学んでおくとよい。(参考: 田崎先生のホームページ数学:物理を学び楽しむために

統計力学〈1〉 (新物理学シリーズ)」(紹介記事
統計力学〈2〉 (新物理学シリーズ)」(紹介記事
熱力学―現代的な視点から (新物理学シリーズ)」(紹介記事
  


本書で線形代数の本は紹介されていなかったが、僕のお勧めはこの本である。

線型代数[改訂版]」(紹介記事)(線形代数学入門のための教科書



統計学、ベイズ統計は、このあたりの本でよいのではないだろうか。

完全独習 統計学入門」(Kindle版
完全独習 ベイズ統計学入門」(Kindle版
 

物理の世界 物理と情報〈3〉ベイズ統計と統計物理



入門者レベルの本

次の2冊は「「AI(人工知能)と物理学」:1日目」で橋本幸士先生がお勧めになっていた本だ。

これならわかる深層学習入門 」(Kindle版
機械学習入門 ボルツマン機械学習から深層学習まで」(Kindle版
 

次の本もお勧めしておきたい。ライブラリを使わずゼロからプログラミングすることにこだわった本、必要な数学の解説もしている本である。

機械学習のエッセンス -実装しながら学ぶPython,数学,アルゴリズム-」(Kindle版



入門者向けの線形代数、統計学の本はこれがよいと思う。

高校数学でわかる線形代数―行列の基礎から固有値まで」(Kindle版)(紹介記事
高校数学でわかる統計学―本格的に理解するために」(Kindle版)(紹介記事
 


入門者向けの統計力学、熱力学は芦田先生の「~を学ぶ人のために」か「ゼロから学ぶ~」シリーズがよいと思う。ただしイジング模型は含まれない。

統計力学を学ぶ人のために」(紹介記事
熱力学を学ぶ人のために」(紹介記事
 


ゼロから学ぶ統計力学」(Kindle版
ゼロから学ぶ熱力学」(Kindle版
 



【第II部 物理学への応用と展開】

専門書レベルの本

逆問題については、この本が勧められていた。

物理の世界 制御する〈2〉逆問題入門



最初の本は特殊相対論と一般相対論、2冊目のは一般相対論の本。どちらも内山龍雄先生による名著だ。

相対性理論 (物理テキストシリーズ 8)
一般相対性理論 (物理学選書 15)
 


相転移、イジング模型は、この3冊が定番のようである。

相転移・臨界現象の統計物理学 新物理学シリーズ
相転移・臨界現象とくりこみ群
相転移と臨界現象の数理
  


ハミルトン形式の力学系カオスは、この本がお勧め。

Hirsch・Smale・Devaney 力学系入門 ―微分方程式からカオスまで― 第3版」(第2版)(初版



スピングラスについて書かれた本は、これしか見つからなかった。

スピングラス理論と情報統計力学」(中古書



多体系、多粒子系の量子論は、このあたりだろうか。

ザゴスキン 多体系の量子論 新装版
多粒子系の量子論 (量子力学選書)
ボルツマンマシン (シリーズ 情報科学における確率モデル 2)
  


超弦理論は、橋本幸士の著書を含めてこの3冊がよいだろう。初級講座弦理論の発展編のほうにAdS/CFTの解説がある。

Dブレーン―超弦理論の高次元物体が描く世界像」(紹介記事
初級講座弦理論 基礎編」(紹介記事
初級講座弦理論 発展編」(紹介記事
  


洋書になってしまうが、AdS/CFT、ホログラフィー原理はこの2冊がよいと思われる。

Introduction to the AdS/CFT Correspondence」(Kindle版
Holographic Entanglement Entropy」(Kindle版
 


QCD(クォークの量子色力学)、格子QCDはこの3冊をお勧めする。

素粒子標準模型入門 」(紹介記事
格子上の場の理論
格子QCDによるハドロン物理 ―クォークからの理解―
  


ブラックホール表面の量子情報、時空の物理については、この本がよいと思う。

量子情報と時空の物理 第2版」(サイエンス社のページ



入門者レベルの本

逆問題についてはブルーバックス本が出ている。

逆問題の考え方 結果から原因を探る数学」(Kindle版



特殊相対論、一般相対論だとこの3冊がよい。

趣味で相対論」(Kindle版)(紹介記事)(著者のサイト
ブラックホールと時空の方程式:15歳からの一般相対論」(紹介記事
一般相対性理論を一歩一歩数式で理解する」(Kindle版)(紹介記事
  


ハミルトン系の解析力学を学んでいない方は、この本がお勧め。ただしカオス理論のことは書かれていない。

よくわかる解析力学」(紹介記事



超弦理論の入門書の定番、そしてカラビ-ヤウ多様体に関する科学教養書はこの2冊が詳しい。

エレガントな宇宙―超ひも理論がすべてを解明する」(紹介記事
見えざる宇宙のかたち――ひも理論に秘められた次元の幾何学」(紹介記事
 


超弦理論を手短かに知りたい方には、この2冊をお勧めする。

超ひも理論をパパに習ってみた」(Kindle版)(紹介記事
大栗先生の超弦理論入門」(Kindle版)(紹介記事
 


素粒子の標準模型、QCD(クォークの量子色力学)を手短かに知りたい方には、この2冊をお勧めする。

「宇宙のすべてを支配する数式」をパパに習ってみた」(Kindle版)(紹介記事
強い力と弱い力 ヒッグス粒子が宇宙にかけた魔法を解く」(Kindle版)(紹介記事
 


この2冊は科学教養書である。それぞれ素粒子の標準模型と格子QCDを詳しく解説した本である。

「標準模型」の宇宙 現代物理の金字塔を楽しむ」(紹介記事
物質のすべては光―現代物理学が明かす、力と質量の起源」(文庫版)(紹介記事
 


ブラックホール表面の量子情報理論について知りたい方は、この2冊をお読みになるとよいだろう。

ブラックホール戦争」(Kindle版)(紹介記事
ホーキング、ブラックホールを語る:BBCリース講義」(Kindle版)(紹介記事
 


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ディープラーニングと物理学 原理がわかる、応用ができる:田中章詞、富谷昭夫、橋本幸士」(Kindle版


第1章 はじめに:機械学習と物理学
・1.1 情報理論ことはじめ
・1.2 物理学と情報理論
・1.3 機械学習と情報理論
・1.4 機械学習と物理学

【第I部 物理から見るディープラーニングの原理】

第2章 機械学習の一般論
・2.1 機械学習の目的
・2.2 機械学習とオッカムの剃刀
・2.3 確率的勾配降下法
・コラム:確率論と情報理論

第3章 ニューラルネットワークの基礎
・3.1 誤差関数とその統計力学的理解
・3.2 ブラケット記法による誤差逆伝播法の導出
・3.3 ニューラルネットワークの万能近似定理
・コラム:統計力学と量子力学

第4章 発展的なニューラルネットワーク
・4.1 畳み込みニューラルネットワーク
・4.2 再帰的ニューラルネットワークと誤差逆伝播 
・4.3 LSTM
・コラム:カオスの縁と計算可能性の創発

第5章 サンプリングの必要性と原理
・5.1 中心極限定理と機械学習における役割
・5.2 様々なサンプリング法
・5.3 詳細釣り合いを満たすサンプリング法
・コラム:イジング模型からホップフィールド模型へ

第6章 教師なし深層学習
・6.1 教師なし学習
・6.2 ボルツマンマシン
・6.3 敵対的生成ネットワーク
・6.4 生成モデルの汎化について
・コラム:自己学習モンテカルロ法

【第II部 物理学への応用と展開】

第7章 物理学における逆問題
・7.1 逆問題と学習
・7.2 逆問題における正則化
・7.3 逆問題と物理学的機械学習
・コラム:スパースモデリング

第8章 相転移をディープラーニングで見いだせるか
・8.1 相転移とは
・8.2 ニューラルネットワークを使った相転移検出
・8.3 ニューラルネットワークは何を見ているのか

第9章 力学系とニューラルネットワーク
・9.1 微分方程式とニューラルネットワーク
・9.2 ハミルトン力学系の表示

第10章 スピングラスとニューラルネットワーク
・10.1 ホップフィールド模型とスピングラス
・10.2 記憶とアトラクター
・10.3 同期と階層化

第11章 量子多体系、テンソルネットワークとニューラルネットワーク
・11.1 波動関数をニューラルネットで
・11.2 テンソルネットワークとニューラルネットワーク

第12章 超弦理論への応用
・12.1 超弦理論における逆問題
・12.2 曲がった時空はニューラルネットワーク
・12.3 ニューラルネットで創発する時空
・12.4 QCDから創発する時空
・コラム:ブラックホールと情報

第13章 おわりに

ディープラーニングと物理学 原理がわかる、応用ができる:田中章詞、富谷昭夫、橋本幸士

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ディープラーニングと物理学 原理がわかる、応用ができる:田中章詞、富谷昭夫、橋本幸士」(Kindle版)(参考書籍

内容紹介:
人工知能技術の中枢をなす深層学習と物理学との繋がりを俯瞰する。物理学者ならではの視点で原理から応用までを説く、空前の入門書。物理は機械学習に役立つ!機械学習は物理に役立つ!
2019年6月22日刊行、286ページ。

著者について:
田中章詞: 研究者情報arXiv.org論文
博士(理学)。2014年大阪大学大学院理学研究科物理学専攻博士後期課程修了。現在、理化学研究所特別研究員(革新知能統合研究センター/数理創造プログラム)

富谷昭夫: ホームページ、Twitter: @TomiyaAkioarXiv.org論文
博士(理学)。2014年大阪大学大学院理学研究科物理学専攻博士後期課程修了。現在、理化学研究所基礎科学特別研究員(理研BNL研究センター計算物理研究グループ)

橋本幸士: ホームページ、Twitter: @hashimotostringarXiv.org論文
理学博士。1973年生まれ、大阪育ち。1995年京都大学理学部卒業、2000年京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。サンタバーバラ理論物理学研究所、東京大学、理化学研究所などを経て、2012年より、大阪大学大学院理学研究科教授。専門は理論物理学、弦理論。


理数系書籍のレビュー記事は本書で419冊目。

6月22日の発売以来、爆発的に売れている理系本である。ツイッターから「ディープラーニングと物理学で検索」してみると人気のほどがおわかりだと思う。発売からひと月もたたないのに第4刷の重版出来を達成した。僕はKindle版で読んだ。

物理学の研究に機械学習、特にディープラーニングが使われていることを初めて耳にしたとき、にわかに信じられなかった。将棋AIがそうだなのだが、この技術は過去のデータを学習して結果を得るものだ。物理学のように新しい発見を生み出すような技術ではないと思っていたからだ。(参考記事:「人工知能はどのようにして 「名人」を超えたのか?: 山本一成」)

コンピュータが物理学の研究に利用されていたことはもちろん知っている。しかし、それはアインシュタインの重力方程式をシミュレーションとして解いたり、流体力学の方程式を解いたり、モンテカルロ法のように統計的な処理をしたり、素粒子の衝突実験のデータ解析に使われたりするなどの例だ。どれも人間の限られた計算能力を補うだけで、新しい法則を発見する類いのものではない。

けれども、この研究の旗振り役はあの橋本幸士先生だ。自分の勝手な先入観で解釈すべきではない。とりあえず話を聞いてみようとでかけたのが、昨年8月に行われた「AI(人工知能)と物理学:1日目2日目」だった。そして10月にはMathPowerという数学イベントの中で行われた「深層学習と時空」という橋本先生の講演も聴講させていただいた。講演で先生はディープラーニングの手法を使って「時空が創発される」様子を紹介されていた。時空の創発とは、何もない状態から時間と空間が生まれる宇宙の始まりのことである。この講演は動画で公開されているので、記事のリンクからたどってご覧になってみるとよい。

2つの講演を聴いて「なんだかすごいことが始まっている。」というのがよくわかった。機械学習、特にニューラルネットワークと物理学はとても似ているらしい。講演を聴く限り確かにそう思う。でも、たまたま構造が似ていて、概念の対応関係があるから物理の問題解決につながると言ってよいのだろうか?期待をかけすぎではないかという気持が僕にはあった。そして「時空の創発」だなんて、研究が始まったばかりなのにハードルが高過ぎる。

この研究は世界中で盛んにおこなわれているそうだ。日本では橋本先生のチームだけでなく、昨年8月の講演会で聴講して知ったように、日本の他の研究者も機械学習を物理の研究に取り入れている。何かすごいことが始まっている事実は否定できない。

講演時間は限られている。詳しく知りたいというフラストレーションが昨年から続いていたのだ。もやもやが本書を読むことで解消される。売れ行きが好調なのも、同じ気持の方が多いからだと思う。


読み始めて思ったこと

ニューラルネットワークは統計力学の問題を解くのに向いていることがすぐわかった。そして、物理学の「逆問題」を解くことになるのだという。逆問題は、つい先日講談社ブルーバックスから復刊している『プリンシピア』の流れでアイザック・ニュートンが解けなかった逆問題のことを「万有引力の法則(逆2乗則)の逆問題を解説する本と動画」という記事に書いたばかりである。

問題を解く通常の方法に対し、アプローチが逆になっているものを、一般に「逆問題」と呼んでいる。逆問題のもつ一般的な性質として、次のようなものがある。

- 直接的に測ることができない対象を知ること
- 結果から原因を推定すること
- データから物理法則や支配方程式を決定すること
- 物理定数を決定すること

そして昨年秋の「第59回 神田古本まつり」で、たまたま買った「天体力学のパイオニアたち 」がきっかけで「ポアンカレ 常微分方程式 -天体力学の新しい方法-」や「力学系カオス: 松葉育雄」を読むことになり、力学系を理解し始めたところだった。ところが本書によれば力学系もニューラルネットワークで扱う対象だという。(第9章:力学系とニューラルネットワーク)

このように僕の知識のネットワークの中で、たまたま自然につながった本だとわかり、読書のモチベーションが高まった。


本書の構成、内容

章立てはこのとおりである。

第1章 はじめに:機械学習と物理学

【第I部 物理から見るディープラーニングの原理】
第2章 機械学習の一般論
第3章 ニューラルネットワークの基礎
第4章 発展的なニューラルネットワーク
第5章 サンプリングの必要性と原理
第6章 教師なし深層学習

【第II部 物理学への応用と展開】
第7章 物理学における逆問題
第8章 相転移をディープラーニングで見いだせるか
第9章 力学系とニューラルネットワーク
第10章 スピングラスとニューラルネットワーク
第11章 量子多体系、テンソルネットワークとニューラルネットワーク
第12章 超弦理論への応用
第13章 おわりに

序文が熱い。次のように強烈なことが書かれている。

じつは、機械学習の礎は物理的な概念に起因していると考えることができます。物理系を特徴づけるハミルトニアンが、様々な機械学習の構造を特徴づけています。また、ハミルトニアンによる統計物理が、ニューラルネットワークによる学習を決めているのです。さらに、学習と汎化により逆問題を解くという行為そのものが物理学の進展に本質的に関係しているという言い方もできます。こういった理由から、近年の機械学習と物理の横断領域の研究が飛躍的に進展しているのです。

ハミルトニアンというのは、問題にしている物理系全体のエネルギーをあらわす関数のことで解析力学の概念であり、解析力学は古典力学から量子物理、素粒子物理でも成り立つ普遍な力学、汎用性が高い力学体系だ。ということは機械学習が物理のあらゆる領域で使えると言っているようなものである。これには驚かされた。

第I部では、機械学習のいくつかの手法に入門しながら、物理学とどのようにかかわっているかを解説する。なんとかついていけるが、数式の箇所は導出手順や意味を確認するだけで、なかなか実感がわかない。こういうものは自分で数式からプログラムに落とす作業をしないと理解し、ものにすることができない。実践系の本で試すことが必要だ。ただし、物理とどのように関わるのかは、よくわかるように書かれているから、読み進むにつれて興味が増していく。

特に興味深かったのは、人間の記憶というものがニューラルネットワークの中で生じる力学系のアトラクターではないだろうかというアイデアだ。力学系の教科書でアトラクターは学んでいたから、説明が理解しやすかった。

第II部は、期待をはるかに超えた面白さだった。物理の逆問題について理解した後、相転移という統計力学の問題、ハミルトン力学系の問題、スピングラスの問題、量子多体系の問題、超弦理論の問題への応用と実行結果が紹介される。機械学習、ニューラルネットワークであっても、適用する問題ごとにアプローチや手法が改善されていく。これまでに参加した講演会で紹介されていなかったのは、ハミルトン系の問題、スピングラスの問題である。

特にためになったのは超弦理論への応用だ。ニューラルネットの手法を学ぶだけでなく、超弦理論で解決できていない2つの逆問題、つまりコンパクト化の問題とホログラフィー原理(そのひとつがAdS/CFT対応)の問題、の意味を理解できたので、これまで読んだ本には書かれていない知識を得ることができた。

最終章の「おわりに」では、執筆された3人の先生方が、それぞれの想いを吐露されている。どのような方が書いたのかを知って、本書への愛着がさらに増した。


読後の感想、参考文献

機械学習の勉強が浅いため、第I部は難しく第II部のほうが読みやすかった。本書を買う人は物理学系、数理物理系の人が大半だと思うが、物理学や数学が苦手なコンピュータサイエンス系、プログラマ系の人もいると思う。そのような人は第I部のほうを易しく感じるのだろうか?

機械学習と本書で扱っている物理学の両方を知っていないと、読み解くのはなかなか難しいはずだ。こんなにたくさん売れていて、理解不能になって困っている方もいるのではないだろうか?

せっかく買ったのに、さっぱりわからないのではもったいない。復刊している『プリンシピア』のように、持っているだけで喜びに満たされ、机の上に置いて映える本ではないのだ。(参考:『プリンシピア』の難易度に関するアンケート)買ったものの予備知識不足に気がついた人がいるにちがいない。自分のことを棚にあげ、他人の心配を優先する性格である。

自分がこれまでに読んで紹介した本のうち、本書を理解するのに役立つものを参考書籍として紹介してみよう。本書には巻末にたくさんの参考文献があげられているから、そこからも自分が読んでみたい和書を含めてまとめておこう。こうして書いてみたのが「『ディープラーニングと物理学』の参考書籍」という記事である。

本書は専門書だから参考文献も難しい本が多い。僕は本書のレベルに合った専門的なものと、入門者向けのやさしいレベルのものを分け、それぞれ流れに沿った形で一覧にしておいた。本書をお買い求めになった方は、参考にしていただきたい。


解析解派、数値解派、そして機械学習派?

ところで一昨日、ツイッター上で「解析解派(厳密解派)」と「数値解派」がどちらが望ましいのかと活発に議論していた。(議論を見てみる



発端は物理系の方だったと思う。理論の構築を目指す人、数理物理系の人ならば解析解派が多いような気がした。物性物理系や素粒子物理系の人は数値解派が多いのだと思う。機械学習系や工学系だとさらに数値解派が増えるように感じた。数学系だとおそらく解析解派が多いのではないだろうか?とかく人は自分が身を置いている領域、理想を描いていることに沿って考えを決めているように思えた。

しかし物理学はしょせん近似であることがほとんどだ。テイラー展開も、摂動論もそうである。自然の問題、社会の問題はたいてい近似として解ければよいではないか。一昨日の段階では、このような着地点で議論が収束した。

物理の問題をディープラーニングで解き始めたことで、3つ目の「宗派?」が生まれたのだと思う。それはこれまでのように「数値」や「誤差」の違いではなく、解き方や得られる結果の「質」の違いであり、計算のトレーサビリティの難しさという新たな要素が加わったからだ。

いずれにせよ、人間では計算不可能なことをコンピュータにさせるのは正しいと思う。10の500乗ものバリエーションがある超弦理論のカラビ-ヤウ多様体を調べるのは手計算では不可能な問題だ。本書で示されたように「逆問題」がそのケースにあたるのだということが、よく理解できた。ちなみに今年の4月10日に公表された「ブラックホールをとらえた史上初の画像」も複数の電波望遠鏡から得たデータをスパースモデリングという機械学習で計算した「逆問題」としての解だという。

ツイッター上の議論には、次のようなオチを僕はツイートしておいた。

アイザック・ニュートンはどちらの宗派に属していたのだろう。www
#解析解 #数値解 #厳密解
拡大: ニュートンによる手計算



機械学習+物理学という切り口の本では日本初である。今後の発展を楽しみにしつつ、一読者としてこのスタートラインを共有できたことが、何よりうれしかった。


本書に関連するarXiv.orgの論文:

Deep Learning and AdS/CFT
https://arxiv.org/abs/1802.08313

AdS/CFT as a deep Boltzmann machine
https://arxiv.org/abs/1903.04951

Deep Learning and Holographic QCD
https://arxiv.org/abs/1809.10536


関連記事:

『ディープラーニングと物理学』の参考書籍
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/da7337791b63e739bd77c8fe6d9bda41

「AI(人工知能)と物理学」:1日目
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c8bc23afafd9e9b3d7eff92b781d1f8b

「AI(人工知能)と物理学」:2日目
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e8c08583785cfd8237966389e92c362e

深層学習と時空:橋本幸士先生 #MathPower
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bf7e7e661246866943c765bdd371248f


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ディープラーニングと物理学 原理がわかる、応用ができる:田中章詞、富谷昭夫、橋本幸士」(Kindle版)(参考書籍


序文

第1章 はじめに:機械学習と物理学
・1.1 情報理論ことはじめ
・1.2 物理学と情報理論
・1.3 機械学習と情報理論
・1.4 機械学習と物理学

【第I部 物理から見るディープラーニングの原理】

第2章 機械学習の一般論
・2.1 機械学習の目的
・2.2 機械学習とオッカムの剃刀
・2.3 確率的勾配降下法
・コラム:確率論と情報理論

第3章 ニューラルネットワークの基礎
・3.1 誤差関数とその統計力学的理解
・3.2 ブラケット記法による誤差逆伝播法の導出
・3.3 ニューラルネットワークの万能近似定理
・コラム:統計力学と量子力学

第4章 発展的なニューラルネットワーク
・4.1 畳み込みニューラルネットワーク
・4.2 再帰的ニューラルネットワークと誤差逆伝播 
・4.3 LSTM
・コラム:カオスの縁と計算可能性の創発

第5章 サンプリングの必要性と原理
・5.1 中心極限定理と機械学習における役割
・5.2 様々なサンプリング法
・5.3 詳細釣り合いを満たすサンプリング法
・コラム:イジング模型からホップフィールド模型へ

第6章 教師なし深層学習
・6.1 教師なし学習
・6.2 ボルツマンマシン
・6.3 敵対的生成ネットワーク
・6.4 生成モデルの汎化について
・コラム:自己学習モンテカルロ法

【第II部 物理学への応用と展開】

第7章 物理学における逆問題
・7.1 逆問題と学習
・7.2 逆問題における正則化
・7.3 逆問題と物理学的機械学習
・コラム:スパースモデリング

第8章 相転移をディープラーニングで見いだせるか
・8.1 相転移とは
・8.2 ニューラルネットワークを使った相転移検出
・8.3 ニューラルネットワークは何を見ているのか

第9章 力学系とニューラルネットワーク
・9.1 微分方程式とニューラルネットワーク
・9.2 ハミルトン力学系の表示

第10章 スピングラスとニューラルネットワーク
・10.1 ホップフィールド模型とスピングラス
・10.2 記憶とアトラクター
・10.3 同期と階層化

第11章 量子多体系、テンソルネットワークとニューラルネットワーク
・11.1 波動関数をニューラルネットで
・11.2 テンソルネットワークとニューラルネットワーク

第12章 超弦理論への応用
・12.1 超弦理論における逆問題
・12.2 曲がった時空はニューラルネットワーク
・12.3 ニューラルネットで創発する時空
・12.4 QCDから創発する時空
・コラム:ブラックホールと情報

第13章 おわりに

謝辞
参考文献

フランス語で日本の文化や生活を紹介するための本

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新宿駅西口地下で道に迷っていた外国人観光客の道案内をした。

フランス人の女性2人。河口湖行きのバス乗り場を探しているという。予約はしていないそうで、行き当たりばったりということだ。時間があったので「バスタ新宿」まで案内してチケットを買うのを手伝ってから、少しの間おしゃべりして過ごした。

東京で彼女たちが驚いたのは、カフェに一人で来ている客が多いこと、そしてマスクをしている人が多いことだそうである。フランスのカフェを思い出してみるとたしかに一人客はほとんどいない。

マスクについては「そんなに空気が汚れているの?」と聞かれたので、「パリと同じくらいだと思いますよ。汚染されているのは、むしろマスクを着けている本人の精神状態でしょうねぇ。w」とフランスっぽい毒舌、皮肉を含めて答えておいた。

フランス人観光客にうってつけな本があったことを思い出し、帰りにこの2冊を買って帰った。自分で読んでもよいし、仲良しになったフランス人へのプレゼントとしても使える。文庫本サイズだから持ち運びに便利だ。

今回は日本の文化や生活をフランス人に紹介するために使える本を紹介しよう。


日本人/フランス人向け

1980年代半ばに刊行された文庫本。英語のシリーズの中に2冊だけフランス語のものがある。生活編だけ1999年に改訂された。さすがに80年代のでは内容が古くなったためだと思われる。

仏文 日本絵とき事典(11) ILLUSTRE REGARD SUR LE JAPON (文化・風俗編)
仏文 日本絵とき事典(12) ILLUSTRE VIE AU JAPON (生活編)
 

日本絵とき事典シリーズ: Amazonで検索


あと、フランス人に限らず外国人観光客に教えて喜ばれるのは次の2か国語サイトだ。一緒に食事をする機会があったらお使いになってみるとよい。

訪日外国人向け日本の料理紹介サイト(スマホ対応)

日本語
http://www.oksfood.com/index_jp.html

English (Japanese Food Guide)
http://www.oksfood.com/index.html


日本人向け

もっと踏み込んだ本としては、次のようなものがよいだろう。仏検の2次試験(会話)対策用としても使えるかもしれない。

フランス語 日本紹介事典 JAPAPEDIA(ジャパペディア)【MP3 CD付 】
30秒でできる! ニッポン紹介 おもてなしのフランス語会話【MP3 CD付】
 


フランス人が日本人によく聞く100の質問 全面改訂版
フランス語で話す 自分のこと 日本のこと《CD付》
 


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QUEEN -HEAVEN- : コニカミノルタ プラネタリアTOKYO

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大のQUEEN好き、映画好きの友達と、プラネタリウムに映像を映しながらQUEENの音楽を聴く「QUEEN -HEAVEN-」に行ってきた。場所は「有楽町マリオン」の9階にある「コニカミノルタ プラネタリアTOKYO」だ。(余談:有楽町マリオンのスペルは「MULLION」なのですね。この35年間ずっと「MARION」だと思っていました。)

Queen Heaven - Trailer (360° Video): PCだとこの動画は360°上下左右にクルクル回せます!スマホのときはYouTubeアプリから再生すると回せます。


迫力の全天周映像で“QUEEN”を体感
昨年日本でも大ヒットを記録した映画「ボヘミアン・ラプソディ」でも記憶に新しい、イギリスの伝説的ロックバンド“QUEEN”。
7月20日よりプラネタリア TOKYOで上映される「QUEEN -HEAVEN-」は、フレディ・マーキュリーの没後、2001年にQUEENのギタリストで天文学者でもあるブライアン・メイ監修のもとドイツで制作された全天周映像作品です。
その後、映像に合わせたレーザー演出なども追加され、上映から18年経った今でも世界各国でロングラン上映されています。

ライティングによる演出で楽しむ「QUEEN -HEAVEN-」
プラネタリア TOKYOの上映では映像に合わせたライティング演出を用いた“フルドーム・ミュージックショー”として上映します。
フレディ最後の歌声といわれる「マザー・ラヴ」から「ボヘミアン・ラプソディ」へと遡る19曲。ブライアン・メイを案内役に、本人たちの姿や当時の空気そのままに伝える映像と光が躍動します。360度サラウンドで響くQUEENの名曲を、今までにない映像体験と共にお楽しみください。
また、本作が上映されるデジタルドームシアター(DOME1)では飲食も可能です。グラスを片手にライブ感覚で上映をお楽しみください。

Trailer Queen HD: ドームの半球全体を映した動画



午後7時に待ち合わせて軽く食事。ちょうどよいタイミングでプラネタリウムに到着。

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メンバー4人がお出迎えしてくれる。

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客のほとんどが女性だった。ドームに入ると水玉模様がぐるぐる回っている。

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真ん中の席だと寝転がって観れる。その他の席はリクライニングシートだ。

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本編はもちろん撮影不可だ。オープニングに何曲かかかった後、ボヘミアン・ラプソディの4人の顔が映される。そしてブライアンによるウェルカム・メッセージ。

全体で80分あまり。前半はCGがメインだ。初めて見る映像と動きが次々と映され、頭がくらくらしてくる。知らない曲ばかり流れてくる。後で友達に聞いたところQueenのラスト・アルバムに収録された曲が多かったそうだ。

ドーム全体に映されるCGはどれも斬新だ。宇宙の星々や月面が大写しになり、CGと合成され独特の世界観を作っている。動き回る物体は、なんとなく落ち着かない。フレディやQueenのメンバーのライブ映像が、そこかしこに映され始める。宇宙にいながら時空を超えたはるか彼方の地球から届くライブを観ている感覚である。

物理法則を無視した物体の映像ばかり見ていると、異世界に迷い込んだようで、軽い乗り物酔いのようになった。そして、ときどき、地球の山の間をドローンに乗って飛行するような映像が映されたり、森の中を浮遊する視点の映像に切り替わったりすると、ほっと息をつくことができる。

後半はQueenのライブの映像をたっぷり堪能できる。サウンドが特にすごい。友達は「ボヘラのオーバーダブがこんなに細かく聞こえたのは初めてです。ドルビーアトモスを体験していないので比較できませんが。」とLINEに書いていた。

後で知ったのだが、この映像作品が作られたのは2001年。CG映像の中にいくつか手書きのものがあったり、古めかしいかな?と感じたものがあったので納得した。そういえばウェルカム・メッセージを話していたブライアンも今のような白髪ではなく、ずっと若い頃の映像だったことに気がついた。

ドームの端には、ペプシコーラの紙コップが3つ置かれていた。ファンであれば、何を意味しているかおわかりだろう。

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日常からかけ離れた異世界への小旅行のようだった。映画を観るのとは全く違う体験だ。

外に出て一休み。数寄屋橋交差点のソニービルはなくなっていて、エルメスのビルが建っていた。ここも僕が知っている交差点ではなく、異世界になっていた。

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Queenのファンには、ぜひご覧になっていただきたい。


関連記事:

映画『ボヘミアン・ラプソディ(2018)』
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/54a5151284ed94b5b6e9f878ed780fd5


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『相対論とゲージ場の古典論を噛み砕く』の参考書籍

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相対論とゲージ場の古典論を噛み砕く: 松尾衛」ゲージ場の量子論を学ぶ準備として
紹介記事

この本で引用されている本、参考文献の一覧に対してAmazonへのリンク、とね日記内の紹介記事のリンクを追加しておいた。


本書で頻繁に引用されている本

相対論的量子力学: 川村嘉春」(サポートページ)(紹介記事
場の量子論: 不変性と自由場を中心にして: 坂本眞人」(サポートページ
 


量子力学を学ぶための解析力学入門 増補第2版: 高橋康」(紹介記事
量子場を学ぶための場の解析力学入門 増補第2版: 高橋康」(紹介記事
 


一般相対論入門: 須藤靖
解析力学・量子論 第2版: 須藤靖
 


線型代数 [改訂版]: 長谷川浩司」(紹介記事
具体例から学ぶ 多様体: 藤岡敦」(Kindle版
 


曲線と曲面の微分幾何: 小林昭七」(Kindle版)(紹介記事
接続の微分幾何とゲージ理論: 小林昭七」(Kindle版
 


復刊 微分幾何学とゲージ理論: 茂木勇・伊藤光弘」(旧版
一般ゲージ場論序説: 内山龍雄」(旧版
 


追加ぶんの参考書籍

「幾何学から物理学へ」は刊行時期が重なったため、参考文献一覧にはない。この2冊は本書の参考書籍としてお読みいただきたい。

理工系のための トポロジー・圏論・微分幾何:谷村省吾
幾何学から物理学へ: 谷村省吾
 


巻末の参考文献

1. 川村嘉春「相対論的量子力学」(裳華房)(Amazon)(サポートページ)(紹介記事
2. 坂本眞人「場の量子論:不変性と自由場を中心にして」(裳華房)(Amazon)(サポートページ
3. ワインバーグ「場の量子論」(吉岡書店)(Amazon)(紹介記事
4. 九後汰一郎「ゲージ場の量子論」(培風館)(Amazon
5. W. N. コッティンガム・D. A. グリーンウッド「素粒子標準模型入門」(シュプリンガー・ジャパン)(Amazon)(紹介記事
6. 梁成吉「キーポイント 行列と変換群」(岩波書店)(Amazon
7. 高橋康「物理数学ノート I」(講談社サイエンティフィク)(Amazon
8. 高橋康「物理数学ノート II」(講談社サイエンティフィク)(Amazon
9. 長谷川浩司「線型代数 [改訂版]」(日本評論社)(Amazon)(紹介記事
10. 横田一郎「初めて学ぶ人のための群論入門」(現代数学社)(Amazon
11. 横田一郎「群と表現」(裳華房)(Amazon)(Kindle版
12. A. Zee, “Group Theory in a Nutshell for Physicists” (Princeton University Press)(Amazon)(Kindle版
13. J. J. サクライ「現代の量子力学 (上) 第2版」(吉岡書店)(Amazon)(紹介記事
14. 米谷達也「パラメータを視る変数と図形表現」(現代数学社)(Amazon
15. 藤岡敦「手を動かしてまなぶ線形代数」(裳華房)(Amazon
16. 佐武一郎「線型代数学 新装版」(裳華房)(Amazon)(紹介記事
17. J. J. キャラハン「時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎」(シュプシンガーフェアラーク東京)(Amazon)(紹介記事
18. 藤岡敦「具体例から学ぶ多様体」(裳華房)(Amazon)(Kindle版
19. 小林昭七「曲線と曲面の微分幾何」(裳華房)(Amazon)(Kindle版)(紹介記事
20. 野水克己「現代微分幾何入門」(裳華房)(Amazon)(Kindle版
21. 須藤靖「一般相対論入門」(日本評論社)(Amazon
22. 内山龍雄「相対性理論」(岩波書店)(Amazon
23. 須藤靖「解析力学・量子論 第2版」(東京大学出版会)(Amazon
24. 高橋康「量子力学を学ぶための解析力学入門 増補第2版」(講談社サイエンティフィク)(Amazon)(紹介記事
25. 高橋康「量子場を学ぶための場の解析力学入門 増補第2版」(講談社サイエンティフィク)(Amazon)(紹介記事
26. ランダウ・リフシッツ物理学小教程「力学・場の理論」(ちくま学芸文庫)(Amazon
27. レオン・レーダーマン,クリストファー・ヒル「対称性」(白揚社)(Amazon
28. 内山龍雄「一般ゲージ場論序説」(岩波書店)(Amazon)(旧版
29. 深谷賢治「解析力学と微分形式」(岩波書店)(Amazon
30. 今井功「応用超関数論 I・II」(サイエンス社)(Amazon
31. 和達三樹「微分・位相幾何」(岩波書店)(Amazon)(紹介記事
32. シュッツ「物理学における幾何学的方法」(吉岡書店)(Amazon
33. 茂木勇・伊藤光弘「復刊 微分幾何学とゲージ理論」(共立出版)(Amazon)(旧版
34. 田代嘉宏「テンソル解析」(裳華房)(Amazon)(Kindle版)(紹介記事
35. 志賀浩二「ベクトル解析 30 講」(朝倉書店)(Amazon
36. 須藤靖「一般相対論入門」(東京大学出版会)(Amazon
37. C. W. Misner, K. S. Thone, J. A. Wheeler, ”Gravitation”(Princeton University Press)(Amazon)(Kindle版)(紹介記事
38. 太田浩一「マクスウェル理論の基礎」(東京大学出版会)(Amazon
39. シュッツ「相対論入門」(丸善)(Amazon
40. 坪井俊「幾何学 III 微分形式」(東京大学出版会)(Amazon)(紹介記事
41. 小沢哲也「曲線・曲面と接続の幾何」(培風館)(Amazon
42. 小沢哲也「平面図系の位相幾何」(培風館)(Amazon
43. 須藤靖「もうひとつの一般相対論入門」(東京大学出版会)(Amazon
44. 小林昭七「接続と微分幾何とゲージ理論」(裳華房)(Amazon)(Kindle版
45. F.W. Hehl et al., “General relativity with spin and torsion: Foundations and prospects”, Rev. Mod. Phys. 48, 393 (1976)(PDF
46. 藤井保憲「超重力理論入門」(産業図書)(Amazon
47. ディラック「一般相対性理論」(ちくま学芸文庫)(Amazon
48. 内山龍雄「一般ゲージ場論序説」(岩波書店)(Amazon
49. 清水明「新版・量子論の基礎」(サイエンス社)(Amazon)(紹介記事
50. 朝永振一郎「スピンはめぐる」(みすず書房)(Amazon)(紹介記事
51. 松原隆彦「宇宙論の物理・上」(東京大学出版会)(Amazon
52. S. Weinberg, “Gravitation and cosmology” (Wiley)(Amazon
53. 中原幹夫「理論物理学のための幾何学とトポロジー」(日本評論社)(Amazon)(紹介記事1)(紹介記事2
54. T. Eguchi, P. B. Gilkey, and A. J. Hanson, “ Gravitation, gauge theories and differential geometry”(North-Holland Publishing Company) (Physics Reports 66, No. 6 (1980) p.213?393)(PDF
55. ランダウ・リフシッツ「力学」(東京図書)(Amazon
56. S. Maekawa, S. Valenzuela, E. Saitoh, and T. Kimura, (eds.),“Spin current 2nd edition”, Oxford Univ. Press(Amazon
57. M. Matsuo, E. Saitoh, and S. Maekawa, “Spin-Mechatronics”, J. Phys. Soc. Jpn. 86, 011011 (2017)(Journal page
58. 松尾衛・齊藤英治・前川禎通「非慣性系のスピントロニクス」(日本物理学会誌 2017 年 9 月号)(PDF


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相対論とゲージ場の古典論を噛み砕く: 松尾衛」ゲージ場の量子論を学ぶ準備として
紹介記事


第1章 ガイドブックのガイド
1.1 「局所ゲージ対称性」を思い描くために
1.2 本書の想定読者と構成

第2章 「ちゃんとした」理論とローレンツ群
2.1 「ちゃんとした」理論
2.2 2つの仮定とローレンツ変換
2.3 この宇宙に存在しうる「粒子」
2.4 群の表現の入り口

第3章 時空概念の変革
3.1 ローレンツ変換
3.2 ニュートン力学における相対性と絶対時間
3.3 速度の合成則とラピディティ
3.4 ミンコフスキー時空
3.5 線型変換で大切な 2 つの視点
3.6 ミンコフスキー時空からローレンツ多様体へ

第4章 質点運動のレシピ
4.1 荷電粒子の運動と電磁場の方程式
4.2 解析力学による抽象化の必要性について
4.3 作用積分と変分原理
4.4 解析力学の立場からニュートン力学を見直す
4.5 オイラー・ラグランジュ方程式の利点
4.6 連続対称性と保存則
4.7 ハミルトン形式の解析力学
4.8 特殊相対論的粒子の作用とラグランジアン
4.9 特殊相対論的粒子のハミルトニアン
4.10 質点から場への拡張
4.11 古典論から量子論への拡張

第5章 質点運動から場の運動へ
5.1 話の流れ
5.2 調和振動子の解析力学
5.3 1 次元連成振動子の固有振動
5.4 固有モードへの分解と実対称行列の対角化
5.5 1 次元連成振動子のハミルトニアン
5.6 質点系の連続極限
5.7 1 次元波動方程式の固有振動とフーリエ変換
5.8 場のハミルトニアン
5.9 相対論的場へ

第6章 多重線型写像と添え字の上げ下げ
6.1 電磁場のラグランジアン密度
6.2 双対ベクトル空間の成分表示
6.3 2 変数関数から 2 階テンソルへ
6.4 1 次変換としての 2 階テンソル
6.5 ユークリッド計量
6.6 いわゆる「添え字の上げ下げ」
6.7 4 元ベクトルとミンコフスキー計量
6.8 ローレンツ変換によるテンソルの変換性と縮約
6.9 共変形式のマクスウェル方程式

第7章 「ギョッとする」記法 -微小要素と線型写像の二面性-
7.1 2 次元ユークリッド空間上の接空間とベクトル場
7.2 2 次元ユークリッド空間の余接空間と微分 1 形式
7.3 3 次元ユークリッド空間上の微分形式の外積とホッジ双対
7.4 外積とホッジ双対の使用例
7.5 微分形式の外微分
7.6 微分形式の積分
7.7 外微分が変数変換に対して不変であるワケ
7.8 ポアンカレの補題

第8章 ミンコフスキー時空上の微分形
8.1 4 次元ミンコフスキー時空上の微分形式
8.2 微分形式を用いたマクスウェル方程式
8.3 電磁場のゲージ対称性

第9章 特殊から一般へ
9.1 一般相対論への接し方の一例
9.2 一般相対論の指導原理と数学表現
9.3 特殊相対論から一般相対論への道
9.4 一般相対論の数学的表現
9.5 ベクトル・基底・一般座標変換
9.6 平行移動・接続・曲率
9.7 質点の運動方程式
9.8 測地線方程式のニュートン極限
9.9 アインシュタイン・ヒルベルト作用
9.10 共変微分の非可換性とゲージ理論

第10章 スピノル場の方程式
10.1 いわゆるディラックのアクロバットと慣性系のスピノル場
10.2 重力場中のスピノル場
10.3 重力場と電磁場とスピノル場

第11章 局所ゲージ対称性と非可換ゲージ場
11.1 U(1) ゲージ理論
11.2 U(1) から SU(2) へ
11.3 Yang-Mills 場の作用積分

第12章 動き回る物質の中の電子スピンたち

第13章 ゲージ場の量子論へのはるかなる道のり
13.1 全体のまとめ
13.2 ゲージ場の量子論への道
13.3 高度な本の序章をチラ見
13.4 微分形式を駆使する解析力学
13.5 参考文献リスト

索引

相対論とゲージ場の古典論を噛み砕く: 松尾衛

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相対論とゲージ場の古典論を噛み砕く: 松尾衛」ゲージ場の量子論を学ぶ準備として
サポートページ)(参考書籍

内容紹介:
相対論とゲージ場の古典論を題材に、「ゲージ場の量子論を学ぶ心の準備」が整うように配慮したガイドブック。
本書では、古典力学や電磁気学や量子力学、線型代数やベクトル解析を聞きかじったことのある読者を対象に、現代物理学における相対論とゲージ理論の考え方の基本を、微分形式やリー代数の初歩といった数学を交えながら紹介します。特殊相対論とローレンツ群の表現、変分原理と解析力学、ゲージ対称性、多脚場とスピン接続といったトピックについて、その本格的な扱いや詳細に立ち入ることなく、ざっくりとその気持ちが伝わるような、軽めの解説をしました。これらを一通り目を通して頂くことで、現代物理学の標準言語である「ゲージ場の量子論」を学ぶための心の準備ができることを目指しています。

2019年5月24日刊行、174ページ。

著者について:
松尾衛(まつお まもる)
ホームページ: http://mmatsuo.com/
Twitter: @mamorumatsuo
2008年、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻卒業。博士(理学)。現在、中国科学院大学カブリ理論科学研究所准教授。主にスピン角運動量を媒介とする非平衡現象の理論研究を行っている。


理数系書籍のレビュー記事は本書で420冊目。

通称「ねこ本」である。5月くらいからツイッターで話題になっていた。今年に入ってから志賀浩二先生の「ベクトル解析30講」や「微分形式」という用語をタイムラインで頻繁に見かけていたが、この本の刊行と関係があるのかなと思っていた。

著者はツイッターで相互フォローをしていただいている松尾先生だ。日頃のツイートから本書にかける熱い想いが伝わっていた。

松尾先生のホームページには本書のサポートページがある。本書の「まえがき」の他、あとがきに相当する「第13章(最終章)」の一部をお読みいただける。また、本書の正誤表もサポートページの下のほうにある。初版の第1刷をお買いになった方は、ここを見て修正されるとよい。(すでに誤植が修正された第2刷が発売されている。)

ねこ本(相対論とゲージ場の古典論を噛み砕く)
http://mmatsuo.com/ねこ本(相対論とゲージ場の古典論を噛み砕く)/

先日紹介した「幾何学から物理学へ: 谷村省吾」とも相性がよい。こちらは微分幾何学、微分形式から物理学へという流れ。そして松尾先生の本は物理学から微分幾何学、微分形式、解析力学という流れで進む。

また、本書の第9章あたりまでは既に学んでいるものが多く、本書の参考文献を確認したところ「やはりそうか!」と思った。一覧にあげられている本の何冊かをすでに読んでいたからだ。その中でも重要な本のうち読んでいないのは 須藤靖先生の本と内山龍雄先生の本だ。今年のうちに1、2冊は読んでみたい。

章立てはこのとおりである。

第1章 ガイドブックのガイド
第2章 「ちゃんとした」理論とローレンツ群
第3章 時空概念の変革
第4章 質点運動のレシピ
第5章 質点運動から場の運動へ
第6章 多重線型写像と添え字の上げ下げ
第7章 「ギョッとする」記法 -微小要素と線型写像の二面性-
第8章 ミンコフスキー時空上の微分形
第9章 特殊から一般へ
第10章 スピノル場の方程式
第11章 局所ゲージ対称性と非可換ゲージ場
第12章 動き回る物質の中の電子スピンたち
第13章 ゲージ場の量子論へのはるかなる道のり

表紙や挿絵に描かれた猫が親しみやすい印象を与えるが、れっきとした数理物理学書だ。高校生にはもちろん読めない。古典力学や電磁気学や量子力学、線型代数やベクトル解析を聞きかじったことのある読者を対象に、現代物理学における相対論とゲージ理論の考え方の基本を、微分形式やリー代数の初歩といった数学を交えながら紹介する本だ。前提条件を満たす読者にとっては、とても読みやすい本である。

本書が読みやすい理由は、次の3つにまとめられる。

- 松尾先生ご自身が、本を買い漁っては解読に挫折、紆余曲折し、迷走に迷走を重ねた結果から得られたエッセンスをまとめた本、過去の自分に伝えたい情報をまとめた本であること。

- 取り上げているトピックについて、その本格的な扱いや詳細に立ち入ることなく、ざっくりとその気持ちが伝わるような、軽めの解説にとどめていること。

- ゲージ場の量子論に至るまでのガイドブックとなることを目指し、内容の本格的な取り扱いは、すべて参考文献に丸投げしていること。

特に僕好みだったのは、物理と幾何学の関係を重視しながら、解析力学的考察を深め、意味や論理的なつながりがわかるように書かれていることだ。そして初等的な電磁気学の教科書で学ぶ div、grad、rot、ラプラシアンなどの古典的なベクトル解析から微分形式へと自然に移行していることだ。

微分形式は、20世紀初頭にフランスの数学者のエリ・カルタン(多変数複素関数論、ホモロジー代数で業績を残したアンリ・カルタンの父親)が編み出した「究極の微積分法」である。この極限にまで簡略化された記法を使うことで、マクスウェル方程式やヤン-ミルズ方程式がシンプルに表現でき、それらのゲージ対称性を身近に感じられるようになる。マクスウェル方程式での例は「マクスウェル方程式を1本にまとめたのは誰?」という記事で紹介したことがある。

ゲージ対称性、ゲージ場の理論を本格的に学ぶには、九後汰一郎「ゲージ場の量子論 I・II」(培風館)やS.ワインバーグ「場の量子論」(吉岡書店)など本格的な教科書をお読みになるのがよい。けれども、このふたつはとても手強いことで知られている。いつかこれらの本にチャレンジするために、他の本で準備をしておきたい。その足掛かり、ガイド役となるのが本書なのである。

僕にとっては第10章からが目新しく、新鮮な気持ちで学ぶことができた。特に「重力場中のスピノル場」、「重力場と電磁場とスピノル場」はまったく初めてだった。そして「微分形式を駆使する解析力学」や内山龍雄による「一般ゲージ場」にも興味を持った。(来月『龍雄先生の冒険 回想の内山龍雄:一般ゲージ場理論の創始者』という本が出るそうだ。)

そして、本書には「共変解析力学」を使う本を中嶋慧さん(@subarusatosi)との共著『一般ゲージ理論と共変解析力学』(仮)(現代数学社)として準備中ということだ。共変解析力学というのは「微分形式の微分形式による微分」を駆使して定式化された解析力学という説明がある。この本で内山龍雄先生の『一般ゲージ場論序説』で扱われている内容を共変解析力学の立場から詳述してくださるそうだ。


このようなわけで、本書は参考文献一覧がとても充実している。この一覧は「『相対論とゲージ場の古典論を噛み砕く』の参考書籍」という記事にリンク付きでまとめておいたので、ご覧になっていただきたい。

「ねこ本」は、物理の原理的な部分をたどりながら、基礎物理学の背後にあるゲージ理論の拡がりを実感できる本である。ぜひお読みいただきたい。


関連記事:

『相対論とゲージ場の古典論を噛み砕く』の参考書籍
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/84e2122f4587cde561c3c5f3ed74f9a7

理工系のための トポロジー・圏論・微分幾何:谷村省吾
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3f58e5c285fe4c45a9a551593a72940a

幾何学から物理学へ: 谷村省吾
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7e5a3ea4d9f7c96514ffab0b8efcd973

マクスウェル方程式を1本にまとめたのは誰?
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/226568b2c27822fb9fdfdb088e7018d3


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相対論とゲージ場の古典論を噛み砕く: 松尾衛」ゲージ場の量子論を学ぶ準備として
サポートページ)(参考書籍


第1章 ガイドブックのガイド
1.1 「局所ゲージ対称性」を思い描くために
1.2 本書の想定読者と構成

第2章 「ちゃんとした」理論とローレンツ群
2.1 「ちゃんとした」理論
2.2 2つの仮定とローレンツ変換
2.3 この宇宙に存在しうる「粒子」
2.4 群の表現の入り口

第3章 時空概念の変革
3.1 ローレンツ変換
3.2 ニュートン力学における相対性と絶対時間
3.3 速度の合成則とラピディティ
3.4 ミンコフスキー時空
3.5 線型変換で大切な 2 つの視点
3.6 ミンコフスキー時空からローレンツ多様体へ

第4章 質点運動のレシピ
4.1 荷電粒子の運動と電磁場の方程式
4.2 解析力学による抽象化の必要性について
4.3 作用積分と変分原理
4.4 解析力学の立場からニュートン力学を見直す
4.5 オイラー・ラグランジュ方程式の利点
4.6 連続対称性と保存則
4.7 ハミルトン形式の解析力学
4.8 特殊相対論的粒子の作用とラグランジアン
4.9 特殊相対論的粒子のハミルトニアン
4.10 質点から場への拡張
4.11 古典論から量子論への拡張

第5章 質点運動から場の運動へ
5.1 話の流れ
5.2 調和振動子の解析力学
5.3 1 次元連成振動子の固有振動
5.4 固有モードへの分解と実対称行列の対角化
5.5 1 次元連成振動子のハミルトニアン
5.6 質点系の連続極限
5.7 1 次元波動方程式の固有振動とフーリエ変換
5.8 場のハミルトニアン
5.9 相対論的場へ

第6章 多重線型写像と添え字の上げ下げ
6.1 電磁場のラグランジアン密度
6.2 双対ベクトル空間の成分表示
6.3 2 変数関数から 2 階テンソルへ
6.4 1 次変換としての 2 階テンソル
6.5 ユークリッド計量
6.6 いわゆる「添え字の上げ下げ」
6.7 4 元ベクトルとミンコフスキー計量
6.8 ローレンツ変換によるテンソルの変換性と縮約
6.9 共変形式のマクスウェル方程式

第7章 「ギョッとする」記法 -微小要素と線型写像の二面性-
7.1 2 次元ユークリッド空間上の接空間とベクトル場
7.2 2 次元ユークリッド空間の余接空間と微分 1 形式
7.3 3 次元ユークリッド空間上の微分形式の外積とホッジ双対
7.4 外積とホッジ双対の使用例
7.5 微分形式の外微分
7.6 微分形式の積分
7.7 外微分が変数変換に対して不変であるワケ
7.8 ポアンカレの補題

第8章 ミンコフスキー時空上の微分形
8.1 4 次元ミンコフスキー時空上の微分形式
8.2 微分形式を用いたマクスウェル方程式
8.3 電磁場のゲージ対称性

第9章 特殊から一般へ
9.1 一般相対論への接し方の一例
9.2 一般相対論の指導原理と数学表現
9.3 特殊相対論から一般相対論への道
9.4 一般相対論の数学的表現
9.5 ベクトル・基底・一般座標変換
9.6 平行移動・接続・曲率
9.7 質点の運動方程式
9.8 測地線方程式のニュートン極限
9.9 アインシュタイン・ヒルベルト作用
9.10 共変微分の非可換性とゲージ理論

第10章 スピノル場の方程式
10.1 いわゆるディラックのアクロバットと慣性系のスピノル場
10.2 重力場中のスピノル場
10.3 重力場と電磁場とスピノル場

第11章 局所ゲージ対称性と非可換ゲージ場
11.1 U(1) ゲージ理論
11.2 U(1) から SU(2) へ
11.3 Yang-Mills 場の作用積分

第12章 動き回る物質の中の電子スピンたち

第13章 ゲージ場の量子論へのはるかなる道のり
13.1 全体のまとめ
13.2 ゲージ場の量子論への道
13.3 高度な本の序章をチラ見
13.4 微分形式を駆使する解析力学
13.5 参考文献リスト

索引

まなの本棚: 芦田愛菜

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まなの本棚: 芦田愛菜

内容紹介:
運命の1冊に出逢うためのヒントに!
「本の出逢いは人との出逢いと同じ」
年間100冊以上も読み、本について語り出したら止まらない芦田愛菜が
本当は教えたくない“秘密の約100冊"をご紹介。
世代を超えて全ての人が手に取ってみたくなる
考える力をつけたい親御さんと子供たちにも必読の書です。

Q 本の魅力にとりつかれた初めての1冊は?
Q 一体、いつ読んでいるの?
Q どんなジャンルの本を読むの?
Q 本を好きになるにはどうしたらいい?
Q 好きな登場人物は?

スペシャル対談
・山中伸弥さん(京都大学iPS細胞研究所所長 教授)
・辻村深月さん(作家)
も収録!

2019年7月18日刊行、240ページ。

著者について:
芦田愛菜(あしだ・まな): ウィキペディアの記事
2004年6月23日生まれ。兵庫県出身。3歳のとき、ジョビイキッズに入所。
2010年日本テレビ系ドラマ『Mother』の道木怜南役で人気急上昇。映画『ゴースト もういちど抱きしめたい』『犬とあなたの物語 いぬのえいが』『うさぎドロップ』『のぼうの城』、2011年NHK大河ドラマ『江~姫たちの戦国~』の出演。2013年映画『パシフィック・リム』でハリウッドデビュー。2014年1月期ドラマ『明日、ママがいない』で連続ドラマ初の単独主演を果たす。また、同年6月公開の映画『円卓 こっこ、ひと夏のイマジン』で映画初の単独主演を務めあげる。
2017年2月、前年の夏から受験勉強に専念した結果として東京都内の難関私立中学校に複数合格し、その合格先から芸能活動に理解のある慶應義塾中等部を選択して同年4月に入学した。2018年NHK連続テレビ小説『まんぷく』で史上最年少で朝ドラのナレーションを務める。

芦田愛菜関連書籍: Amazonで検索
芦田愛菜関連DVD: Amazonで検索 Prime Videoで検索
芦田愛菜関連動画: YouTubeで検索


光陰矢の如し。いつの間にか僕が知っている愛菜ちゃんではなくなっていた。年を数えれば当たり前のことなのだけど、今はもう15歳の中学3年生だという。僕が知っているのは『マルモのおきて(2011)』や『明日、ママがいない(2014)』を演じていた彼女だ。

そのように成長した彼女の初めての本のことは、僕のツイッターのタイムラインに表示されるはずもなく、先日一緒に行った「QUEEN -HEAVEN- : コニカミノルタ プラネタリアTOKYO」で友達に「かがみの孤城: 辻村深月」を勧めたのがきっかけだった。芦田愛菜さんも辻村深月さんの大ファンで、たまたま友達が見ていたテレビ番組に愛菜さんが出演され「かがみの孤城」の話をしていて僕に知らせてくれたのだ。今回紹介する「まなの本棚: 芦田愛菜」には辻村さんとの対談も収録されている。

「王様のブランチ」に出演された愛菜さんは、辻村さん作の2冊をお勧めしていた。

ふちなしのかがみ: 辻村深月」(Kindle版
きのうの影踏み: 辻村深月」(Kindle版
 


芦田愛菜さんが「本の虫」だということは知らなかった。それにしても物凄い読書量だ。女優デビューしたのは3歳のときで、その頃からご両親が絵本を読み聞かせていたのだという。やはり幼少期に本を読み聞かせるのは大事なのだと思う。

子役の頃の彼女を見て、その才能に驚いていた。バラエティ番組に出演されたときも、まったく臆することなく、そしてよどみなく喋る姿に尋常ではないものを感じていた。(参考動画)その謎がやっと解けたのだ。親の読み聞かせと読書の賜物である。

本書の章立てはこのとおりだ。

プロローグ 宝探しみたいに本の世界へ入っていきます
第1章 語り出したら止まらない! 芦田愛菜の読書愛
第2章 本好きへの扉を開いた6冊
第3章 まなの本棚から84冊リスト
 対談 山中伸弥先生×芦田愛菜 科学はどこまで進歩していいのでしょうか
 対談 辻村美月さん×芦田愛菜 「小説は一人では成り立たない」ってそういうことなんですね!
エピローグ 本がつないでくれるコミュニケーションや出逢い

山中伸弥先生(著書を検索)、辻村美月さん(著書を検索)との対談は第3章の中に書かれている。

拡大



とね日記も書評ブログ、本の紹介ブログだから愛菜さんの本を取り上げておこう。今の中学生がどのような本を読んできたのか、どのような感想を持ったのかを知ることができて、とても楽しかった。ハリーポッターシリーズくらいまでは彼女より40歳も年上の僕でも知っているが、最近刊行された本は書店で平積みになっているもの以外はほとんど知らない。

本書で紹介されている本の数は膨大である。次から次へと愛菜さんが紹介文を書いている。文章のスタイルは口語体というより会話体で、彼女が話したものをそのままテープからICレコーダーから起こしたような文章だ。

書籍出版デビューということで、本によって紹介が長かったり短かったりバラバラである。すごく気に入っている本であってもさらっとしか紹介していないものがいくつもあった。執筆という面では、まだまだ素人だと感じたが、それがまた初々しく好感を持った。

宇宙に関する本にも興味があるようだ。年齢からいって物理や数学などの科学より宇宙に関心が向くのはもっともなことだと思う。小中学生のうちは、分野にこだわらずあらゆるジャンルの本を読むのがよいと思うし、愛菜さんはそれを実践されている。

あと思ったのは子供の成長はとても早いということ。NHKで「神の数式」という素晴らしい科学番組が放送されたのは2013年(そして昨年も再放送された)のことだ。大人にとっては、少し前のことだが2013年だと愛菜さんは9歳である。当時この番組を見たとしても、ほとんど理解できなかったことだろう。

子供はどんどん成長し、科学に興味を持ち始める年齢の子供は次々と入れ替わるのだから、このよに良質な科学番組は数年おきに繰り返し地上波で再放送してほしいと思うのだ。

愛菜さんのお勧め本リストには、大人向けの本もたくさん紹介されている。愛菜さん自身「年を隔てて読み直すと、また違う印象をもつ。」と本書にお書きになっている。

僕のブログでは「小説、文学、一般書」というカテゴリーで、科学書以外の本を紹介しているが、愛菜さんお勧めの本の中からも選んで紹介記事を増やしてみようと思った。

とりあえず、僕は辻村美月さんの本を数冊、あとまだ読んだことがない『高瀬舟』、『赤毛のアン』、『図書館戦争』、『一人っ子同盟』、『怪人二十面相』あたりを読んでみたいと思った。(参考記事:「江戸川乱歩の少年探偵団シリーズ」)

いま話題になっている本だ。ぜひ書店でお手にとってみていただきたい。


芦田愛菜『まなの本棚』インタビュー


芦田愛菜『まなの本棚』CM動画



僕の記憶に定着している愛菜ちゃんは、こんな感じだ。関連本として載せておこう。

愛菜学(まなまな) 芦田愛菜ちゃんに学ぶ「なんで?」の魔法



関連記事:

かがみの孤城: 辻村深月
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/676c42aeb00ed9220d650f3d5be6153c

江戸川乱歩の少年探偵団シリーズ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7012872ce4ca3af2f948421743271042

不思議の国のアリス、鏡の国のアリス
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3201f911d2f060ad956148609139a6a4

宮沢賢治童話集(岩波書店、1963年)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c194c863cb8b8c84dd76ab3298679a54

吾輩は猫である: 夏目漱石
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0e2467c66a83b90bfd97a04ab164e102

だれも知らない小さな国: 佐藤さとる、村上勉
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9297ca496ec1f4069614e2452b28a8ef

だれもが知ってる小さな国(コロボックル物語):有川浩、村上勉
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ca8ad5b02a398bbafad942587907bc92

トムは真夜中の庭で : フィリパ・ピアス
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a8f1223f0242059f6d3a9abe61c26e85

たんぽぽのお酒: レイ・ブラッドベリ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c0d012aafe9597bc0fbc4e549a23d04d

さよなら僕の夏: レイ・ブラッドベリ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/414f086a3d15a64da387d28c5ff0d9b9

「エルマーのぼうけん」シリーズ: ルース・S・ガネット
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d7e850de5b1469a8a99e88d00e177699

「エルマーのぼうけん」をかいた女性 ルース・S・ガネット
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d56fcd12712435bf63fe7bbc29e94ba0

吉里吉里人:井上ひさし
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7830d542844bf6f4f6b702e081aa3be7

豆腐小僧双六道中ふりだし:京極夏彦
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/70389ac65573ffa188825a4ec3826754


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まなの本棚: 芦田愛菜


プロローグ 宝探しみたいに本の世界へ入っていきます

第1章 語り出したら止まらない! 芦田愛菜の読書愛
 いちばん最初の読書の記憶
 村上春樹さんに私、ハマってしまったみたい!
 読書はお風呂や歯磨きと同じ生活の一部
 3~4冊を同時並行で読むことも
 背表紙がキラリと光って見えるんです
 本の感想に“正解”はなくていいのかも
 紙の本の手触りが好き
 4コマまんが ちょっとの間にも読んでいます・読むのをがまんしてる時は

第2章 本好きへの扉を開いた6冊
 『おしいれのぼうけん』
 『不思議の国のアリス』
 『都会のトム&ソーヤ』
 『ツナグ』
 『言えないコトバ』
 『高瀬舟』

第3章 まなの本棚から84冊リスト
 ここからスタート!の絵本 『もこ もこもこ』 『ぐりとぐら』
 小学生で夢中になった児童書 『天と地の方程式』 『若おかみは小学生!』 『魔女の宅急便』 『怪盗クイーン』 『怪人二十面相』

 次々と読破したシリーズもの 『落語絵本』シリーズ 『ストーリーで楽しむ日本の古典』シリーズ 『小学館版 学習まんが人物館』シリーズ

 世界を広げた海外児童文学 『赤毛のアン』 『あしながおじさん』 『ハリー・ポッター』シリーズ
 興味がつきない体の不思議 『学習まんが ドラえもん からだシリーズ』
 気になったらすぐに開く図鑑 『花火の図鑑』 小学館の図鑑NEO『星と星座』『宇宙』『岩石・鉱物・化石』
 ゾワッとするSF小説 『ボッコちゃん』 『声の網』

 対談 山中伸弥先生×芦田愛菜 科学はどこまで進歩していいのでしょうか

歴史がもっと知りたくなる 『平安女子の楽しい!生活』 『空色勾玉』 『白狐魔記』
 熱い友情や“スポ根”大好き 『夜のピクニック』 『バッテリー』 『よろこびの歌』 『風が強く吹いている』 『リズム』

 限界へ!自分との闘い 『DIVE!!』
 嫉妬やコンプレックス 『反撃』 『ふたり』
 きょうだいや家族への思い 『一人っ子同盟』 『西の魔女が死んだ』 『本を読む女』
 日本語って奥深い! 『舟を編む』 『ふしぎ日本語ゼミナール』
 言葉や伝えるということ 『きよしこ』 『ぼくのメジャースプーン』

 辻村ワールドにハマるきっかけに 『かがみの孤城』

 対談 辻村美月さん×芦田愛菜 「小説は一人では成り立たない」ってそういうことなんですね!

 止まらなくなる!海外ミステリー 『シャーロック・ホームス』シリーズ 『モルグ街の殺人』 『Xの悲劇』 『そして誰もいなくなった』

 日本文学〈~平安時代〉神話や貴族の生活 『古事記』 『日本書紀』 『風土記』 『源氏物語』
 日本文学〈江戸時代〉エンタメ充実!  『曽根崎心中』 『雨月物語』 『南総里見八犬伝』 『東海道中膝栗毛』
 日本文学〈明治時代~〉人生や恋に悩んだり  『福翁自伝』 『舞姫』 『吾輩は猫である』 『坊っちゃん』 『こころ』 『小僧の神様』 『たけくらべ』 『友情』 『伊豆の踊子』 『雪国』 『細雪』 『智恵子抄』 『一握の砂』 『雨ニモマケズ』 『高野聖』 『破戒』 『夜明け前』

 太宰治より私は芥川龍之介派! 『蜘蛛の糸』
 戦争について考えるきっかけに 『ガラスのうさぎ』 『永遠の0』

 海外文学 答えは一つじゃないはず 『賢者の贈り物』 『変身』 『レ・ミゼラブル』 そしてこれからも 『海辺のカフカ』

コラム 好きな登場人物
 男性編 湯川学『探偵ガリレオ』 内藤内人『都会のトム&ソーヤ』 片山義太郎『三毛猫ホームズの推理』 玄之介『あかんべえ』 堂上篤『図書館戦争』 松本朔太郎『世界の中心で、愛をさけぶ』
 女性編 有科香屋子『ハケンアニメ!』 スカーレット・オハラ『風と共に去りぬ』 ジョー・マーチ『若草物語』 赤羽環『スロウハイツの神様』 林香具矢『舟を編む』

エピローグ 本がつないでくれるコミュニケーションや出逢い

発売情報: 関数電卓 CASIO fx-290A、fx-375ES A

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CASIO fx-290A、fx-375ES A(拡大

カシオ計算機から関数電卓の新モデルが2機種発表された。8月2日発売である。それぞれfx-290fx-375ESの後継機種。洗練されたデザインに統一された。

カシオ計算機:スタンダード関数電卓
https://casio.jp/dentaku/scientific/fn_standard/


小学生からプログラミング教育が行われようとしているが、関数電卓を1台ずつ与えたほうが、科学教育にはずっと効果的だと思った。√, sin, cos, tan, log など、未知のキーに興味を示す子供がでてくると思う。

iPhoneやiPadでは標準機能として関数電卓が使えるし、Androidスマホでも無料の関数電卓アプリが使えるわけだが、電卓の実物を持つことで関数キーを常に意識することになる。

意味がわからない関数キーは、そのまま子供の脳裏に残る。数年後、高校生になって三角関数や対数関数を見たとき「ああ!あの時のやつらじゃん!!」と気がついて学習意欲に結びつくのだ。科学の種はいつ芽が出るかわからない。早いうちに仕込んでおこう。

もちろん三角関数や対数関数を授業で教える必要はまったくなく、謎のままにしておくほうがよい。興味をもった子供が職員室に聞きに来たときだけ教えてあげればよいのだ。

大半の子供は関数キーを使いこなせないが、加減乗除用の電卓として使えば無駄にならない。安いほうのfx-290Aは2000円以内で買えるうえに高級感たっぷりだ。もちろん電池交換不要のソーラータイプ。

カシオ スタンダード関数電卓 10桁199関数 FX-290A-N」(詳細
カシオ 関数電卓 10桁微分積分・統計計算・数学自然表示 関数機能394 FX-375ESA-N」(詳細

 

2機種の違いはfx-375ES Aのほうが数学自然表示、微分積分計算、統計計算ができること。関数の数は2倍多いが、実用上はどちらの機種であってもまったく問題ない。

関数キー部分を拡大した写真はこちら。

fx-290A


fx-375ES A



もっと小ぶりのものが好みであれば、fx-260 SOLAR IIがよいだろう。「CASIO fx-260 SOLAR Ⅱ」という記事で紹介している。

CASIO(カシオ) 関数電卓 fx-260 SOLAR Ⅱ(ブラック)
CASIO カシオ 関数電卓 fx-260 SOLAR Ⅱ(ピンク)

 


そして関数電卓ととても相性がよいのが、この本だ。夏休みの自由研究向きかもしれない。合わせてどうぞ!

『数学でわかる宇宙』 (ニュートン別冊) 」高校数学だけで宇宙を計算しつくそう!(詳細




関連記事:

算数チャチャチャ(NHKみんなのうた)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5f45451ee92873728f3046ed36cdce71

思い出の関数電卓(CASIO fx-2200、SHARP EL-586)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3566f9cd9f6159a85fdecab25b8b10ba

CASIO fx-260 SOLAR Ⅱ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2f6f1e08b441224c5f106dec41b5fea2

最新のグラフ電卓 CASIO fx-CG50 (2017)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/931887855b489997d262031d02ae0ac5

開平と開立(第29回): ルート無し電卓でのN乗根の計算方法
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9555431eaccd3ae75bd52b074749c868


三角関数、指数関数、対数関数とは:

sin・cos・tanとは?図で一目でわかる!超重要な公式も紹介!
https://juken-mikata.net/how-to/mathematics/sin-cos-tan.html

三角比の定義【超わかる!高校数学Ⅰ・A】~授業~三角比
https://www.youtube.com/watch?v=TyJN1VYEbUc&list=PLd3yb0oVJ_W2d3q5U_EYtM-8o68yP7iKu

【三角関数が超わかる!】
https://www.youtube.com/watch?v=S70cGa-n9HY&list=PLDaIUKhKMpbh6kWK9Gryo9oT7tb8AZGa-

【指数関数・対数関数】
https://www.youtube.com/watch?v=bZ8RBXTm1M8&list=PLDaIUKhKMpbh0EvBxzfuIkhzCNjenQjO9


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ベクトル解析30講:志賀浩二

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ベクトル解析30講:志賀浩二

内容紹介:
現代の視点に立てば、ベクトル解析の主題は一般の座標変換で不変であるような解析学が展開できる数学的形式の確立とその応用にあろう。本書は微分形式を取り上げ、読者がそれによって立つ場所を一望できる地点に近づけるよう明快に解説。

1989年5月1日刊行、234ページ。

著者について:
志賀浩二(しがこうじ): ウィキペディアの記事
1930年、新潟県生まれ。東京大学大学院数物系数学科修士課程修了。東京工業大学名誉教授。理学博士。一般向けの数学啓蒙書を多数執筆しており、第1回日本数学会出版賞を受賞。(近況

志賀先生の著書: Amazonで検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で421冊目。

今年の2月あたりから本書はツイッターで話題になっていた。(確認してみる)すごく気になったので早く読まなければと思いつつ、寄り道ばかりしてしまいやっと読むことができた。

なぜ気になったかというと、タイトルが「ベクトル解析」なのに中身はまったく違うというツイートが多かったからだ。(確認してみる)ツイートから判断するとテンソル解析、微分形式、多様体の内容が書かれているらしい。これらはふつうベクトル解析とは別物として扱われることがらだ。

ベクトル解析という言葉で一般的に連想するのは div, grad, rot, ナブラ, ラプラシアンなど、電磁気学で現れる物理法則や演算子を表記するときに使われる数式で、次のような本で学ぶことがらだ。3冊ともお勧め本である。

ベクトル解析:戸田盛和
ゼロから学ぶベクトル解析:西野友年」(Kindle版
高校生からわかるベクトル解析:涌井良幸 」(Kindle版
  

つまり、気になったのは「ベクトル解析30講:志賀浩二」が、どこまでタイトルからイメージされる内容を裏切っているかということだ。いずれにせよ中味を見ないで買う入門者はあてが外れることになる。

そして本書は先日紹介した「相対論とゲージ場の古典論を噛み砕く: 松尾衛」の「参考文献」の35番目にあげられている。読むのにちょうどよいタイミングだった。

章立ては次のとおり。

第1講: ベクトルとは
第2講: ベクトル空間
第3講: 双対ベクトル空間
第4講: ベクトル空間の双対性
第5講: 双線形関数
第6講: 多重線形関数とテンソル空間
第7講: テンソル代数
第8講: イデヤル
第9講: 外積代数
第10講: 外積代数の構造
第11講: 計量をもつベクトル空間
第12講: 正規直交基底
第13講: 内積と基底
第14講: 基底の変換
第15講: R^3のベクトルの外積
第16講: グリーンの公式
第17講: 微分形式の導入
第18講: グリーンの公式と微分形式
第19講: 外微分の不変性
第20講: グリーンの公式の不変性
第21講: R^3上の微分形式
第22講: ガウスの定理
第23講: 微分形式の引き戻し
第24講: ストークスの定理
第25講: 曲面上の局所座標
第26講: 曲面上の微分形式
第27講: 多様体の定義
第28講: 余接空間と微分形式
第29講: 接空間
第30講: リーマン計量


ご覧になってわかるように、ベクトル空間、双対ベクトル空間、テンソル代数、外積代数、ベクトル空間の計量や内積、外積代数、微分形式、外微分、多様体、リーマン計量とてんこ盛りである。章を重ねるにつれて幾何学的概念の抽象度を上げていく。

本書では電磁気学で使われるベクトル解析は「古典的な色合いをもつベクトル解析」と表現し、本書で解説するのは「現代の視点に立つベクトル解析」だということ。それは微分・積分の延長上にある微分形式、そして微分形式が構成する外積代数、テンソル代数などのことだ。著者の志賀先生は、これらもベクトル解析の一部だというお考えのもとに本書を執筆したのである。従来のベクトル解析は第24講の(Tea Time)で軽く触れられているにすぎない。

したがって、本書は微分形式や外微分の初等的な入門書である。そして微分形式の導入についても古典的なグリーンの公式やガウスの定理の中に、すでに微分形式へと移行する萌芽があったことを示している点でユニークな本なのだ。

あと、本書で素晴らしいと思ったのは座標変換による不変性の証明にこだわって解説していることだ。微分形式で表現したグリーンの公式、外微分、ガウスの定理などの座標系によらない不変性の証明、ストークスの定理の証明が、イラストを交えながらとても丁寧に解説されている。

そして、総仕上げに曲面上の微分形式から多様体、リーマン計量、リーマン幾何学の入口へと読者を導いているのである。

物理学科の学生が電磁気学を理解するために学ぶ従来の古典的な色合いをもつベクトル解析は、数学科ではほんのさわり程度しか学ばない。(もちろん数学科では電磁気学を学ばないからだ。)そのかわりに数学科の学生は本書の主題となる微分形式、微分幾何学、多様体を純粋に幾何学として学ぶことなる。

そして数学科の学生はあずかり知らないことだが、これらの現代幾何学は先日紹介した「幾何学から物理学へ: 谷村省吾」や「相対論とゲージ場の古典論を噛み砕く: 松尾衛」で書いたように、現代物理学において数理科学的な意味で重要な役割を果たしているのだ。ここでいう現代物理学とは特殊および一般相対論、量子力学、場の量子論におけるゲージ理論、超弦理論などである。


本書は志賀先生がお書きになった「数学30講シリーズ」のうちの1冊だ。

朝倉書店|【数学】数学30講シリーズ
http://www.asakura.co.jp/nl/series0101.html

このシリーズは「大学の授業についていけない学生向きに、やさしくポイントを解説」しているのだという印象を持っていたが、本書はシリーズ10冊の中でも難しめだと思う。

数学30講シリーズを検索


ご覧になってわかるように、第5巻以降はページ数が多い。とはいえ234ページの本書で、これだけの項目を丁寧に解説しきっていることを思うと、素晴らしいの一言に尽きる。

「ベクトル解析30講」というタイトルに惑わされず、テンソル代数、微分形式、微分幾何学、多様体の優れた入門書と割り切ってお読みになっていただきたい。


関連記事:

集合への30講:志賀浩二
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f738f8a10968ffb2d2f0ebb6192966ef

位相への30講:志賀浩二
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c474251f13ab5f1cb6468c18f809fd07

群論への30講:志賀浩二
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4d07e42584724f4b72433be8f2738653

線型代数[改訂版]: 長谷川浩司
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2ef742e3bfe4561bea2b6994bc16909c

線型代数学(新装版):佐武一郎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/68045ac328ae84567ee61c91f03bb99e

幾何学〈3〉微分形式:坪井俊
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c9cd27d66fb448bfb519a2ab0c5e99f7

テンソル解析:田代嘉宏
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2c836967d34de2d35737292d95ad426b

現代数学への招待:多様体とは何か:志賀浩二
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7aade4e043ef0b93de491bf674c734f3

多様体の基礎: 松本幸夫著
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a372a9ed92d55474cdbbb707922dc353

幾何学〈1〉多様体入門:坪井俊
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b3e1ce8cb8a308649bdf0db23a75e29b

『相対論とゲージ場の古典論を噛み砕く』の参考書籍
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理工系のための トポロジー・圏論・微分幾何:谷村省吾
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幾何学から物理学へ:谷村省吾
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ベクトル解析30講:志賀浩二


はしがき

第1講: ベクトルとは
- 風向きを表わす矢印
- 高速道路の自動車の流れを示す矢印
- 磁石の働きを示す矢印
- 力学とベクトル
- ベクトル和とスカラー積
- 抽象数学の中でのベクトル--加法とスカラー積の演算だけに注目
- 線形代数とベクトル解析
- (Tea Time)

第2講: ベクトル空間
- これからのプラン
- ベクトル空間の定義
- 1次独立と1次従属
- 有限次元のベクトル空間
- (Tea Time) 同型なベクトル空間

第3講: 双対ベクトル空間
- 線形関数
- 線形関数の和とスカラー積
- 双対ベクトル空間 V*
- V* の構造--'座標成分'を対応させる線形関数
- 双対基底
- (Tea Time)

第4講: ベクトル空間の双対性
- 視点を変えてみる--V の元は V* 上の線形関数
- V から (V*)* への1対1対応
- (V*)* における双対基底
- 同型対応 Φ: V → (V*)*
- 双対性
- ベクトルの新しい見方
- 1変数関数から多変数関数への拡張
- (Tea Time) 双対原理

第5講: 双線形関数
- 双線形関数
- 双線形関数のつくる空間
- V のテンソル積 V⊗V
- V の元のテンソル積 x⊗y
- V⊗V の元の表示
- V⊗V の構造:基底は {e_i⊗e_j: i,j=1,2,...,n} で与えられる
- (Tea Time)

第6講: 多重線形関数とテンソル空間
- k重線形関数、多重線形関数
- k-テンソル空間
- テンソル積を V の元の'かけ算'と考える
- 'かけ算'の規則
- 多項式のかけ算
- k次の単項式のつくる1次元ベクトル空間 Pk
- 多項式全体のつくる空間 P~: P~=P0⊕P1⊕...⊕Pk⊕...
- (Tea Time) algebraという単語について

第7講: テンソル代数
- V 上のテンソル代数
- テンソル代数における演算の定義
- テンソル代数の構造
- テンソル代数の元の次数
- テンソル代数と多項式代数の違い--乗法の非可換性と可換性
- ベクトル空間 V からテンソル代数 T(V) へ
- (Tea Time)

第8講: イデヤル
- 代数 A のイデヤルの一般的な定義
- イデヤル I による類別--同値類
- 商集合 A/I
- 商集合 A/I は、代数の構造をもつ
- 商代数
- 多項式代数における1つの例
- (Tea Time) イデヤルについて

第9講: 外積代数
- 目標:T(V) の適当なイデヤル I をとって、有限次元代数 T(V)/I をつくる
- x⊗x (x∈V) から生成されるイデヤル
- 外積 ω⋀ω'
- E(V) の部分空間 ⋀~k V
- E(V) の乗法の基本規則: x⋀x=0, x⋀y=-y⋀x
- (Tea Time) 誰が外積代数など考え出したのか

第10講: 外積代数の構造
- V の基底による ⋀~2 V の元の表現
- V の基底による ⋀~k V (k≧3)の元の表現
- k > dim V ならば ⋀~k V = {0}
- E(V) の基底
- (Tea Time)

第11講: 計量をもつベクトル空間
- 内積の導入、計量をもつベクトル空間
- 内積の性質、シュワルツの不等式
- 角の定義
- 直交性
- R^3 の場合
- (Tea Time)

第12講: 正規直交基底
- 正規直交基底
- 正規直交基底の存在--ヒルベルト-シュミットの直交法
- ヒルベルト-シュミットの直交法の幾何学的説明
- 正規直交基底と内積
- (Tea Time) 任意のベクトル空間に内積は導入できる

第13講: 内積と基底
- 基底と内積: g_ij=(e_i,e_j)
- 内積を与えると、V と V* の間の標準的な同型対応が決まる
- 標準的な同型対応を詳しく調べる
- テンソル記号、アインシュタインの規約
- 指標の上げ下げ
- (Tea Time) テンソルの記号について

第14講: 基底の変換
- 基底変換、基底変換の行列
- 成分の変換
- 互いに反変的な変換
- 双対基底の基底変換
- テンソル積の基底変換
- 外積の基底変換
- 変換則の行列式
- (Tea Time)

第15講: R^3のベクトルの外積
- x×y の定義と基本性質
- x と y が1次独立のことと x×y≠0 は同値
- 基底ベクトル相互の外積
- x×y の幾何学的性質
- 一般に結合則は成り立たない
- (Tea Time)

第16講: グリーンの公式
- 微分・積分の基本公式
- グリーンの公式
- グリーンの公式の左辺--面積分
- グリーンの公式の右辺--線積分、周の向き
- グリーンの公式の証明
- (Tea Time) 面積を線積分で表わすこと

第17講: 微分形式の導入
- グリーンの公式の新しい定式化へ向けて
- ベクトル空間に値をとる関数
- 連続なベクトル値関数
- C~∞-級のベクトル値関数
- dx, dy を基底とするベクトル空間
- 1次、2次の微分形式
- 外微分 d
- (Tea Time) dx, dy という記号について

第18講: グリーンの公式と微分形式
- 微分形式の積分
- グリーンの公式を微分形式を用いて表わす
- 座標変換による不変性
- 線形な座標変換
- 線形な座標変換による不変性
- C~∞-級の座標変換
- (Tea Time)

第19講: 外微分の不変性
- 座標変換と関数の変数変換
- 全微分の復習
- ベクトル空間 V_2 の基底の変換則
- V_2 の成分の変換則
- 外微分の座標変換による不変性
- (Tea Time)

第20講: グリーンの公式の不変性
- 向きを保つ座標変換
- グリーンの公式は、向きを保つ座標変換によってある不変性をもつ
- この証明は、外微分の座標変換による不変性と、重積分の変数変換の公式による
- 微分形式について
- 各点に付随するベクトル空間 V_2 --余接空間
- (Tea Time) 表現の意味するもの

第21講: R^3上の微分形式
- ベクトル空間 V_3
- R^3 上の1次の微分形式
- R^3 上の2次、3次の微分形式
- 微分形式のつくる空間
- 外微分
- 外微分の性質
- (Tea Time)

第22講: ガウスの定理
- 外微分の不変性
- ガウスの定理
- C~∞-級の曲面
- 曲面 S の向き
- 面積分
- ガウスの定理の証明
- ガウスの定理の不変性
- (Tea Time)

第23講: 微分形式の引き戻し
- 問題の提起
- 問題の答が肯定的--ストークスの定理
- パラメーター表示できる曲面
- 微分形式の引き戻し
- 引き戻しによる外微分の不変性
- (Tea Time) 穴のあいた領域と穴のあいた曲面

第24講: ストークスの定理
- ストークスの定理
- 曲面の向き
- ストークスの定理の証明の筋道--引き戻しによってグリーンの公式に帰着させる
- ストークスの定理の証明
- 結論
- (Tea Time) ベクトル解析における慣用の記号(div, rot, grad)

第25講: 曲面上の局所座標
- パラメーターで表わされない曲面
- 曲面--紙を貼り合わせるというイメージ
- R^3 の曲面の定義
- 局所座標
- 局所座標の変換
- C~∞-級の曲面
- (Tea Time) 曲面の形

第26講: 曲面上の微分形式
- 曲面上の C~∞-級関数
- 余接空間
- 曲面上の1次の微分形式
- 曲面上の2次の微分形式
- 外微分
- ストークスの定理
- (Tea Time) クラインの壺

第27講: 多様体の定義
- 再び抽象的設定へ
- 位相多様体
- 局所座標
- C~∞-級の多様体(滑らかな多様体)
- 多様体上の C~∞-級関数
- (Tea Time) 多様体の例

第28講: 余接空間と微分形式
- 余接空間
- 1次の微分形式
- k次の微分形式
- k次の微分形式のつくる空間 Ω^k(M)
- 外微分:Ω^k(M)→Ω^(k+1)(M)
- 余接バンドルの考え
- (Tea Time)

第29講: 接空間
- 接空間の定義:余接空間の双対空間
- 接ベクトル
- 接空間における基底の変換則
- 接ベクトルの成分の変換則
- 曲線の定義する接ベクトル
- ベクトル場
- (Tea Time) ベクトル場は微分作用素にもなっている

第30講: リーマン計量
- 接空間への内積の導入の問題点
- 内積についての復習
- リーマン計量
- 曲線の長さ
- リーマン計量の存在
- リーマン計量の表わし方 g_ij dx^i dx^j
- テンソル計算
- (Tea Time)

索引

具体例から学ぶ 多様体:藤岡敦

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具体例から学ぶ 多様体:藤岡敦 」(Kindle版)(サポートページ

内容紹介:
具体例を通じて多様体の基礎を理解できるようにした入門書。前半の第 I 部では、ユークリッド空間内の多様体となる図形を例に挙げながら、多様体の定義にいたるまでの背景を丁寧に述べた。後半の第 II 部では、多様体論に関する標準的な内容を一通り扱うとともに、やや発展的な内容である複素多様体・リーマン多様体・リー群・シンプレクティック多様体・ケーラー多様体・リー環についても、具体例を中心にあまり難しくならない程度に述べた。
◆本書の特徴◆
・全体のあらすじを見渡せるよう、冒頭に「本書に登場する多様体の具体例」と「全体の地図」を設けた。
・多様体を考える上で、微分積分・線形代数・集合と位相がどのように使われるのか丁寧に示した。また、群論・複素関数論に関する必要事項を本書の中で改めて述べた。
・ユークリッド空間内の曲線・曲面と一般の多様体との中間的な位置付けとなる径数付き部分多様体を解説し、一般的な多様体の定義にいたるまでのイメージをつかみやすくした。
・具体例を扱った例題や問題を解きながら読み進められるようにした。本文中の例題や章末の問題のすべてに詳細な解答を付けた。
・数学の専門書でしばしば登場するドイツ文字について「ドイツ文字の一覧」(フラクトゥーア体と筆記体)を見返しに掲載した。

2017年3月28日刊行、269ページ。

著者について:
藤岡敦(ふじおか あつし):
ホームページ: http://www2.itc.kansai-u.ac.jp/~afujioka/
Twitter: @atsushifujioka
関西大学教授、博士(数理科学)。1967年 愛知県生まれ。東京大学理学部卒業、東京大学大学院数理科学研究科博士課程修了。金沢大学助手・講師、一橋大学大学院経済学研究科助教授・准教授を経て現職。専門は微分幾何学。主な著書に『手を動かしてまなぶ線形代数』『具体例から学ぶ 多様体』(以上 裳華房)、『Primary大学ノートよくわかる基礎数学』『Primary大学ノート よくわかる微分積分』『Primay大学ノートよくわかる線形代数』(以上 共著、実教出版)などがある。

藤岡先生の著書: Amazonで検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で422冊目。

本書は発売当初から気になっていたのだが、なかなか読み始めることができなかった本だ。先日紹介した「相対論とゲージ場の古典論を噛み砕く: 松尾衛」の「参考文献」の18番目に取り上げられていたのと、Kindle版が刊行されていることで購入意欲がかきたてられ「読むなら今でしょ!」ということになったわけである。

僕はKindle Paperwhiteで読んだが、小さく印刷された添え字はもちろん「添え字の添え字」も十分判読可能だった。(連投ツイートでサンプルを確認する

微分幾何学、微分形式、多様体など幾何学系の読書が続いているから慣れもあり、通常の3割増しのペースで読めた。

多様体と銘打った本としては珍しく、第I部にユークリッド空間内の代表的な図形を解説している。これらの図形は多様体の例となっているわけだが、多様体の本論が始まるのは第II部からなのだ。

これまでの学習経験から僕には第I部は読む必要がないわけだが、念のために目を通しておいた。この部分では大学初年度で学ぶ微分積分・線形代数・集合と位相などがどのように役立つかを知ることができる。

これらの分野の学習を終えた学生の中には「学び終えたものの何に役立つのかわからない」状態になっていることがある。微分積分、線形代数はともかく、特に「集合と位相」は学んだ意味を自覚できるのは、だいぶ後になってからだと思うからだ。第I部では多様体の定義にいたるまでの背景を学ぶことになる。

数学の勉強はとかく「木を見て森を見ず」という状況に陥りやすい。本書はそのようにならないために、冒頭に「本書に登場する多様体の具体例」と「全体の地図」を設けている。

サポート情報
ドイツ文字の一覧 (pdfファイル)  ◎ 正誤表 (pdfファイル)
はじめに  ◎ 本書に登場する多様体の具体例  ◎ 全体の地図  ◎ 索引 (以上 pdfファイル)


全体の章立ては、次のとおりだ。

第 I 部 ユークリッド空間内の図形
 1.数直線 R
 2.複素数平面 C
 3.単位円 S1
 4.楕円 E
 5.双曲線 H
 6.単位球面 S2
 7.固有2次曲面
第 II 部 多様体論の基礎
 8.実射影空間 RPn
 9.実一般線形群 GL(n,R)
 10.トーラス T2
 11.余接束 T∗M
 12.複素射影空間 CPn


本書の特長である「具体例から学ぶ」であるが、立ち読みもしないで購入したものだから、僕は少し誤解していた。表紙にトーラスが描かれていたため多様体の具体例を豊富な図で示しながら解説する本だと思っていたからだ。入手してざっと眺めたところ、図は期待していたよりは少なく、図の豊富さという点では「幾何学〈1〉多様体入門:坪井俊」のほうが勝っている。

つまり本書でいうところの「具体例から学ぶ」というのは第I部で学ぶ、ユークリッド空間内の代表的な図形、そして第II部では代表的な多様体をとりあげ、解答つきの演習を交えて学んでいくという意味だ。

第II部からの難易度は先日紹介した「幾何学から物理学へ: 谷村省吾」の前半の幾何学の範囲(第13章あたりまで)とほぼ同じだと感じた。

多様体の入門書では「現代数学への招待:多様体とは何か:志賀浩二」や「多様体の基礎: 松本幸夫著」が有名だが、この2冊は多様体の学習の導入部分を、これでもかというくらい丁寧に解説した本である。特に前者は特に易しく、多様体を登山に例えればふもとの山小屋から1合目あたりまで、後者は3合目あたりまでといったところだろう。

それに対して今回紹介させていただいた藤岡先生の本は、同じく入門書に分類されるとはいえ「全体を俯瞰しつつ、必要なことを学ぶ」ための本である。それは第II部の最後に複素多様体まで解説していることからもわかる。僕にとっては思いがけず、初めて複素多様体の一端を学ぶことができて有益だった。複素多様体デビューである。


最終的には「多様体入門(新装版)」を読めるようになりたいものだ。しかし、この本にチャレンジするのは、まだ無理な気がする。そのように感じている方は多いことだろう。

「理解できる本を読んで自信をつける。」のは学ぼうとする気力を保ち、モチベーションを高めるためには大切だ。本書はそのようなニーズに応えることのできる1冊だと思う。


本書を執筆された藤岡先生は次の本もお書きになっている。大学1年生だけでなく、院試対策用に良さそうだ。(僕には耳が痛いが)手を動かして計算するのはとても大切である。微分積分のほうは、今月24日に発売される。

手を動かしてまなぶ 線形代数:藤岡敦
手を動かしてまなぶ 微分積分:藤岡敦
 


参考書籍:

巻末には「読者のためのブックガイド」として微分積分、線形代数、集合論・位相空間論、微分方程式論、複素関数論、群論、曲線論・曲面論、多様体論、位相幾何学、その後の幾何学に関して参考書籍が紹介されている。ここでは曲線論・曲面論、多様体論、位相幾何学に限定して藤岡先生が紹介している本を載せておこう。

[1]「曲線と曲面(改訂版) -微分幾何的アプローチ」(Kindle版
[2]「曲線と曲面の微分幾何(改訂版) :小林昭七」(Kindle版)(紹介記事

曲線論、曲面論に関する良書は多く存在するが、その中でも[1]はとてもよく書かれた教科書である。[2]は著者の語りかけるかのような文章が特徴的で、幾何的、物理的な直観も交えた説明がとても読み易い。多様体論を学習する前に、是非これらの本で曲線論、曲面論を学んでほしい。

[3]「幾何学〈1〉多様体入門:坪井俊」(Kindle版)(紹介記事
[4]「幾何学〈2〉ホモロジー入門:坪井俊」(Kindle版
[5]「幾何学〈3〉微分形式:坪井俊」(紹介記事

[3]は多様体の入門書であるが、微分形式については[5]で補うとよい。[4]は位相幾何学の教科書だ。これら3冊で数学系の学科の3年次まで学ぶべき標準的内容は十分カバーできるであろう。

[6]「多様体 (岩波全書):服部晶夫
[7]「多様体入門(新装版):松島与三
[8]「多様体の基礎:松本幸夫」(Kindle版)(紹介記事
[9]「多様体:村上信吾

[6]は接束や余接束の一般化といえるベクトル束とよばれるものに重点を置いているのが特徴的である。[7]は多様体論に関する本格的な教科書で、リー群についても詳しい。[8]はその他の文献と比較すれば、多様体論の教科書としては易しめである。[9]は微分形式についても詳しいが、複素多様体についても多くの紙数を割いている。

あと、本書刊行後に書かれた本であるが複素多様体に関しては次の本をお勧めしたい。アマゾンでは残念ながら1つだけ酷評が入力されてしまっているが、僕は良書だと思う。

物理系のための複素幾何入門:秦泉寺雅夫」(サイエンス社のページ


関連記事:

テンソル解析:田代嘉宏
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2c836967d34de2d35737292d95ad426b

現代数学への招待:多様体とは何か:志賀浩二
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7aade4e043ef0b93de491bf674c734f3

多様体の基礎: 松本幸夫著
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a372a9ed92d55474cdbbb707922dc353

幾何学〈1〉多様体入門:坪井俊
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b3e1ce8cb8a308649bdf0db23a75e29b

幾何学〈3〉微分形式:坪井俊
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c9cd27d66fb448bfb519a2ab0c5e99f7

『相対論とゲージ場の古典論を噛み砕く』の参考書籍
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/84e2122f4587cde561c3c5f3ed74f9a7

理工系のための トポロジー・圏論・微分幾何:谷村省吾
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3f58e5c285fe4c45a9a551593a72940a

幾何学から物理学へ:谷村省吾
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7e5a3ea4d9f7c96514ffab0b8efcd973


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はじめに (pdfファイル)
本書に登場する多様体の具体例 (pdfファイル)
全体の地図 (pdfファイル)

第 I 部 ユークリッド空間内の図形

 1.数直線 R
  1.1 実数
  1.2 連続の公理
  1.3 距離空間
  1.4 位相空間
  1.5 区間
  1.6 相対位相
  1.7 連結性
  演習問題

 2.複素数平面 C
  2.1 複素数
  2.2 二項関係
  2.3 絶対値
  2.4 ユークリッド平面
  2.5 内積空間
  2.6 ノルム
  2.7 ユークリッド空間
  演習問題

 3.単位円 S1
  3.1 立体射影(その1)
  3.2 濃度
  3.3 連続写像
  3.4 コンパクト性
  3.5 極値問題
  3.6 微分可能性
  演習問題

 4.楕円 E
  4.1 同相写像
  4.2 群
  4.3 アファイン変換
  4.4 等長写像
  4.5 直交群
  4.6 陰関数表示
  演習問題

 5.双曲線 H
  5.1 位相的性質
  5.2 双曲線関数
  5.3 径数表示(その1)
  5.4 正則曲線
  5.5 曲線の長さ
  5.6 レムニスケート
  演習問題

 6.単位球面 S2
  6.1 立体射影(その2)
  6.2 座標変換
  6.3 一般次元の場合
  6.4 微分同相写像
  6.5 群の作用
  6.6 3次の直交行列
  演習問題

 7.固有2次曲面
  7.1 固有2次曲面の分類
  7.2 2次超曲面
  7.3 径数表示(その2)
  7.4 ベクトル場(その1)
  7.5 径数付き部分多様体
  7.6 陰関数定理
  演習問題

第 II 部 多様体論の基礎

 8.実射影空間 RPn
  8.1 商位相
  8.2 多様体
  8.3 逆写像定理
  8.4 複素内積空間
  8.5 正則関数
  8.6 複素多様体
  演習問題

 9.実一般線形群 GL(n,R)
  9.1 開部分多様対
  9.2 部分多様体
  9.3 多様体上の関数
  9.4 多様体の間の写像
  9.5 接ベクトルと接空間
  9.6 写像の微分
  演習問題

 10.トーラス T2
  10.1 積多様体
  10.2 ベクトル場(その2)
  10.3 接束
  10.4 ベクトル場の演算
  10.5 リーマン多様体
  10.6 リー群
  演習問題

 11.余接束 T∗M
  11.1 微分形式(その1)
  11.2 多重線形形式
  11.3 微分形式(その2)
  11.4 外微分
  11.5 シンプレクティック形式
  11.6 シンプレクティック多様体
  演習問題

 12.複素射影空間 CPn
  12.1 複素化と複素構造
  12.2 フビニ-スタディ計量
  12.3 ケーラー多様体
  12.4 リー環
  12.5 微分形式の積分
  12.6 多様体上の積分
  演習問題

おわりに
読者のためのブックガイド
演習問題解答
記号一覧
索引 (pdfファイル)

番組告知: 映画「ひろしま(1953)」

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昨夜11時にEテレで放送された「ETV特集「忘れられた“ひろしま”~8万8千人が演じた“あの日”~」」を見て衝撃を受けた。

終戦後わずか8年後に撮影されたにもかかわらず、その後「忘れられてしまった映画」を紹介する番組である。映画の本編は8月17日午前0時(16日深夜)にEテレで放送されるそうだ。ぜひご覧いただきたい。



僕が昨夜見たETV特集は8月15日午前0時(14日深夜)に再放送される。

ETV特集「忘れられた“ひろしま”~8万8千人が演じた“あの日”~」
https://www4.nhk.or.jp/etv21c/x/2019-08-10/31/32791/2259675/

【被爆者たちが出演】上映中止にされた超大作映画『ひろしま』とは【ETV特集×NHK1.5ch】
YouTubeで紹介を見てみる


日本映画史上、最大級の規模で撮影された映画「ひろしま」。被爆者を含む8万8千人が参加。原爆投下直後の街の様子を徹底的に再現している。時代に翻弄された映画の物語。

番組内容:
原爆投下から8年後。広島で空前絶後の映画が製作された。タイトルは「ひろしま」。撮影に参加した人の数は8万8千人。日本映画史上、最大級のスケールを誇る。原爆投下直後の広島で何があったのか?被爆者たちが自ら演じて再現している。この映画は、ベルリン映画祭で入賞。国際的な評価を受けた。しかし今、この映画の存在はほとんど知られていない。いったいなぜか?そこには、時代に翻弄された映画の知られざる事情があった。

忘れられた映画「ひろしま」の知られざる事情に迫るドキュメンタリー放送、本編も
https://natalie.mu/eiga/news/342581


映画本編の予告編はYouTubeにアップされている。本編は1時間47分ある。

映画「ひろしま」予告編_修正版(ムシカ)


晩年のアインシュタイン博士と過ごし、アインシュタインの伝記「神は老獪にして…」を書いたパイス博士、そして若き日にマンハッタン計画に参加したファインマン博士らがこの映画を観て述べた感想が、この予告編の中で紹介されている。


関連動画として、こちらも見ておきたい。

被爆前の街並み鮮明に 広島原爆資料館が動画公開


原爆投下|10秒の衝撃(科学的な検証番組)


原爆ドーム等 被ばく直後の広島


ヒロシマ 世界を変えたあの日 前編


ヒロシマ 世界を変えたあの日 後編



映画「ひろしま」は広島で被爆した子供たちの体験記を集めた「原爆の子(1951)」をきっかけに、映画化して後世に伝えようという願いから全国に支援を募って制作された映画だという。

原爆の子―広島の少年少女のうったえ (1951年)



原爆の子―広島の少年少女のうったえ〈上〉 (岩波文庫)
原爆の子―広島の少年少女のうったえ〈下〉 (岩波文庫)
 

映画「ひろしま」は、関川秀雄が原爆体験者の手記「原爆の子」をもとに監督した作品。原爆投下から8年後の広島で製作され、8万人を超える市民が撮影に参加した。実際の映像も使用されており、原子爆弾の恐怖や広島の惨状、市民の苦しみが、原爆症に苦しむ高校生みち子の姿を通して描かれている。「原爆投下直後の広島で何があったか」を被爆者たちが自ら演じて再現し、ベルリン国際映画祭で長編劇映画賞を獲得するなど国際的にも高い評価を受けた。出演したのは岡田英次、月丘夢路、神田隆、山田五十鈴、加藤嘉、利根はる恵ら。


オバマ大統領が広島を訪問したのは2016年5月のことだ。歴史的な名演説を振り返ってみたい。

Full Speech Obama in Hiroshima(英語、日本語入り字幕)


オバマ大統領の広島スピーチ全文 「核保有国は、恐怖の論理から逃れるべきだ」
https://www.huffingtonpost.jp/2016/05/27/obama-begins-visit-to-hiroshima_n_10160172.html


関連ドラマ、映画:

なだそうそうプロジェクト:広島 昭和20年8月6日(2005)


一番電車が走った(黒島結菜主演)


HD | 黒い雨 (映画) (今村昌平 1989) - Kuroi Ame (Shohei Imamura, 1989) - 720p



関連記事:

原子爆弾 1938~1950年: ジム・バゴット
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核兵器: 多田将
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地獄の日本兵―ニューギニア戦線の真相:飯田進
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ac46ac40b155a4ef430bd92074db2a5b

映画『花筐/HANAGATAMI(2017)』大林宣彦監督
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/27b0f30d3c8eace1f73a348a18be447c


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Hirsch・Smale・Devaney 力学系入門 ―微分方程式からカオスまで― 第3版

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Hirsch・Smale・Devaney 力学系入門 ―微分方程式からカオスまで― 第3版」(第2版)(初版

内容紹介:
Hirsch と Smale の記した Differential Equations、Dynamical Systems & Linear Algebra(邦訳『力学系入門』(岩波書店刊))は1974年に発刊され、力学系の入門書として現在でも非常に評価の高い本である。その改訂版にあたる Differential Equations、Dynamical Systems & An Introduction to Chaos では、著者として新たに Devaney を迎え、初版発行時に比べて非常に研究・理解の進んだカオスに関する記述が、大幅に加筆された。そしてさらに、その改訂版である 3rd edition が最新の版となる。
本書はその最新の改訂版の翻訳である。力学系に関する非常に多くのテーマに関して、たくさんの具体例を交えながら、やさしく解説している。定評のあった部分に、最近の話題まで取り込んだ、力学系の入門書として好適な、非常に価値のある書となっている。

2017年1月25日刊行、448ページ。

著者について:
Morris Hirsch: Wikipedia
Stephen Smale: Wikipedia ウィキペディア
Robert L. Devaney: Wikipedia Homepage

翻訳者について:

桐木 紳: 研究者紹介
1995年東京電機大学大学院理工学研究科博士課程修了。京都教育大学教授などを歴任し現在、東海大学理学部数学科教授。博士(理学)。専攻は力学系理論

三波 篤郎: 研究者情報
1982年北海道大学大学院理学研究科博士課程退学。現在、北見工業大学情報システム工学科教授。理学博士。専攻は力学系理論

谷川 清隆: 研究者情報
1974年東京大学大学院理学系研究科博士課程満期退学。現在、国立天文台特別客員研究員。理学博士。専攻は歴史天文学、三体問題、カオス

辻井 正人: 研究者情報 ホームページ
1991年京都大学大学院理学研究科博士課程修了。現在、九州大学大学院数理学研究院教授。博士(理学)。専攻は力学系理論


理数系書籍のレビュー記事は本書で423冊目。

本書を初めて目にしたのは4年ほど前、いつも勉強に使っている地元のカフェでのことだった。隣の席にいた男性が持っていた緑色の本の表紙に「力学系」と書かれていたから目に留まったのだ。カオスやフラクタルは知っていたが「力学系」がそれらの分野を含むことに気が付いていない時期である。なぜ「力学」ではなく「力学系」なの?と僕は気になっていた。

その男性が読んでいたのは本書の原書第2版の翻訳書である。その後、2017年に原書第3版がでていることを最近知り、この分野にも興味がでてきて、直近では読み「力学系カオス: 松葉育雄」を読んで紹介させていただいた。そもそも興味の発端は、量子力学ではなく古典力学、ニュートン力学なのに、未来が予測できなくなってしまうのはなぜか?という疑問だった。カオスは3次元以上で初めておきるということも興味をそそられる。

やはり買う前に立ち読みしておくのは大事だと思った。読んでみたところ本書は松葉先生の本よりも初学者向きであることにすぐ気が付いた。読む順番を間違えてしまったようである。構成が素晴らしいし、初版から版を重ねているだけに、初学者への配慮に満ちた本である。

僕はカオス現象に興味があるわけだが、本書でカオスが始まるのは第14章からである。第13章までは、カオス理論を理解するために必要な事項、すなわち微分方程式の解の安定性に関して具体例をあげながら解析的な手法、手書きの図版による解説をていねいに積み重ねているからだ。行間や図版のレイアウトに余裕をとってあるから読み易い。翻訳の品質も全体を通じてとてもよいと思った。


章立てと内容は次のとおりである。

第1章 1階微分方程式

初等的な1階微分方程式の例を用いて常微分方程式の理論のいくつかの基本的な概念を説明する。最初の2つの例はよく知られたもので、続くいくつかの例は分岐、周期解、ポアンカレ写像などの項目を説明するために用意した。

第2章 2次元線形系

2次元線形系の微分方程式の解説と基本的な解法を説明する。

第3章 2次元線形微分方程式の相図

一般の2次元線形微分方程式の一般解を与え、解の振る舞いを調べる。後の章で述べる高次元の線形微分方程式系の解の振る舞いは、ほとんどの場合は本質的に2次元の場合に現れるものの組み合せである。

第4章 2次元線形微分方程式の分類

前章までの議論をもとに2次元の線形微分方程式をその解の定性的な振る舞いで分類する。これは2次元の線形微分方程式の解の振る舞いについて「辞書をつくる」という作業である。最初の節では係数行列の跡(トレース)と行列式に注目した分類、後の節では共役という概念を用いた分類について述べる。

第5章 多次元の線形代数

多次元の線形代数について簡単に復習しておく。多次元の場合には2次元の場合より多くの種類の標準形が現れる。しかし標準形にするための座標変換の概念は基本的には2次元の場合と同じである。

第6章 高次元の線形系

前章で線形代数を少し学んだので、本来の目的である微分方程式、特に定数係数の高次元線形系を解くというテーマに戻る。

第7章 非線形系

非線形系微分方程式について学ぶ。(定数係数の)線形系の任意の初期値問題はいつも陽に解くことができる。しかしながら非線形系ではそれは稀なことである。実際、解の存在性や一意性といった基本的性質は線形系では明らかなことだが、非線形系ではそうでもない。どのような初期条件に対しても解が存在する。また解を見つけることができた場合であっても全ての時刻でその解が定義されているとは限らない。例えば解によっては有限時間内に無限大に発散するようなことがある。つまり微分方程式の非線形系に対する理論は線形系よりかなり複雑なのである。

第8章 非線形系の平衡点

微分方程式の非線形系の解は、明確に式として書き表すことができないことがしばしばある。ただ平衡解を持つ場合は例外的に解けることがある。それに対応した代数方程式が解けるならば、その平衡点を正確に式で書き表すことができるからだ。特定の非線形系ではこの方法で求められた解が最重要になることがよくある。さらに重要なこととして、非線形系を線形系の拡張として考えるならば、平衡点の近くでの解の挙動を決定するための線形化といった手法を使うことができる。

第9章 非線形系の大域的解析方法

非線形微分方程式の解の挙動を調べるため、幾つかの定性的方法を紹介する。次章以降には微分方程式で重要な応用が多数含まれているのだが、ここで紹介する方法はあらゆる非線形系に対して有効とは限らない。その大部分は特殊な状況においてのみ有効な方法であることを注意すべきである。

第10章 閉軌道と極限集合

本章に先立つ数章では、微分方程式の平衡解を集中して考察した。これが最も重要な解であることは疑いもない。けれども、他にも同じように重要な解がある。本章では、もう1つ重要な解を調べる。それは周期解、つまり閉軌道である。平面の場合、いくつかの例外的なケースはあるものの、解の極限的な振る舞いは本質的に平衡点という閉軌道に限られる。本章では、この現象を、ポアンカレ・ベンディクソンの定理という重要な定理の形で調べる。後で、次元が2より大きい場合には解の振る舞いがもっと複雑であることがわかる。

第11章 生物学への応用

本章では、今までの数章で発展させた技術を使って非線形系をいくつか調べる。調べる対象は、いろいろな生物系の数学モデルとして使われてきたものである。11.1節では、ヌルクラインや線形化に関係する今までの結果を使って、伝染病の蔓延に関する生物学モデルをいくつか説明する。11.2節では、捕食者・被捕食者生態系のモデルとなる方程式のうち、一番簡単なものを調べる。11.3節では、もっと洗練された手法を使って、競合する2つの種の個体数を調べる。これらの微分方程式の具体的な形にはこだわらず、定性的な形についてのみ仮定を行なう。その上で、これらの仮定を基にして、系の解の振る舞いに関する幾何学的情報を導く。

第12章 回路理論への応用

本章では、まず単純ではあるが基本的な電気回路の例を示し、次にこの回路を支配する微分方程式を導く。この方程式である種の特別な場合を、第8章、第9章および第10章で展開した技術を使って、以下の2つの節で解析する。これらは、古典的なリエナール(Lienard)方程式とファンデルポル(van der Pol)方程式である。特にファンデルポル方程式は、非線形常微分方程式の基本的な例と見なせるであろう。これには周期的アトラクターとなっている振動、つまり周期解がある。非自明な解は、どれもこの周期解に向かう。線形系でこの性質を持つものはない。漸近安定平衡点は、ときに系の死を意味し、吸引振動子は生を意味する。12.4節で、片方からもう一方へ状況が連続的に移行する例を紹介する。

第13章 力学への応用

本章では、草創期の重要な微分方程式であって、微積分の起源にもかかわる例に注目する。この方程式はニュートンがケプラーの3法則を導きかつ統一するのに使ったものである。本章では、ケプラーの法則のうち2つを手短かに導き、その後で力学のもっと一般的な問題を議論する。

第14章 ローレンツ系

本章ではある方程式を詳しく調べる。それは、あらゆるカオス的微分方程式の中で疑いようもなく最も名高い方程式、すなわち、気象学から出たローレンツ方程式である。極度に単純化された大気対流のモデルとして、1963年にE.N.ローレンツ(E.N.Lorenz)によって最初に定式化されたこの系は、後に「ストレンジ・アトラクター」として知られるようになるものを持つ。ローレンツ・モデルが大ニュースとなり始める以前は、微分方程式で知られていた安定なアトラクターのタイプは平衡点と閉軌道だけだった。ローレンツ系は、科学と工学のあらゆる領域において、真に新たな地平を切り開いた。なぜなら、ローレンツ系の中に現れる多くの現象が、これまでに本書で調べた全ての分野(生物学、電気回路理論、力学など)において、後に見出されることになるからである。

第15章 離散力学系

本章の目的は、離散力学系研究の扉を開くことである。微分方程式の流れの研究は、ポアンカレ写像の反復合成の研究に還元させることがしばしば可能である。この還元には「可視化をより容易にする」や「解を見つけるために積分する必要がない」という単純化に関する重要な点がある。この2つの単純化により、微分方程式でしばしば現れる複雑なカオス的挙動を理解することが、はるかに容易になる。この章では1次元におけるカオス的挙動の理解を助けてくれる程度の内容に制限し、次章以降では高次元に拡張する。

第16章 ホモクリニック現象

本章では、カオス的挙動を示す他のいくつかの3次元微分方程式を詳しく調べる。これらの系としては、シルニコフ系やダブルスクロール・アトラクターなどが含まれる。ローレンツ系と同様に、これらの系を研究するための主要な手段は、まずそれらをより低い次元の離散力学系に還元し、その後、記号力学系を呼び出す、というものである。この場合の離散系とは、馬蹄写像と呼ばれる平面上の写像である。これは、完全に解析されることになるカオス系の1つだった。

第17章 存在と一意性 再訪

本章では、第7章で紹介した題材に立ち戻るのだが、今回は前に省いてしまった証明や技術的な細部の全てを埋めていく。そのため、本章は他の章に比べてより難しい。しかしながらこれは、常微分方程式の厳密な学習においては主要な部分である。本章の証明を完全に理解しようと思ったら、読者は、実解析における、一様連続性、関数の一様収束やコンパクト集合などの概念に慣れている必要があるだろう。


あと、「まえがき」と「訳者まえがき」は本書の特徴をとてもわかりやすく説明しているので掲載しておこう


まえがき

本書の原書第1版が出版されて30年、力学系という数学の一分野には多くの変化があった。1970年代初頭、高速に演算やグラフィックのできるコンピュータなどは我々には縁遠いものであったし、カオスという用語も数学的に用いられていなかった。そもそも微分方程式や力学系の理論に興味をいだく者の大多数は、数学者の、それもごく小さなグループに限られたものだったのだ。

しかし、この30年で我々をとりまく環境は激変した。コンピュータはどこにでもあるし、微分方程式の近似解を求め、その結果を容易に視覚化できるようなソフトウェアが普及している。そのおかげで、微分方程式によって定められる非線形力学系の解析は、かつてより身近なものになった。さらに、馬蹄写像、ホモクリニックなもつれ、ローレンツ系といった複雑な例の発見と、それらの解析は、平衡点や周期解といった単純で安定な動きの解が、もはや微分方程式の研究の最重要事項ではないと科学たちに確信させたのだ。また、これらカオス現象の持つ美しさと、比較的それらにアクセスしやすくなったことが動機となって、科学や工学の様々な分野で、それぞれ重要な微分方程式がより注意深く見直され、カオス的な性質が発見された。例えば、化学におけるベルーゾフ・ジャボチンスキー振動、電気工学のチュアのカオス的回路、天体力学の複雑な動き、それに生態系で起こる分岐現象など、今では科学のほとんどの分野において、力学系的現象を見ることができると言ってよいであろう。

その結果、微分方程式と力学系に関するテキストの読者層は、1970年代にくらべてかなり増え、その分野も多岐にわたるようになった。本書もそれに応じて、HirschとSmaleの原書から、次に列挙するような大きな変更をするようになった。

1. 線形代数の説明は減らし、抽象的なベクトル空間やノルム空間などの概念、 n x n 行列の標準形の帰納的な証明などは全て省略した。どちらかといえば 3 x 3以下の行列を主に扱う。

2. 新たにローレンツ系、シルニコフ系、ダブルスクロール・アトラクターなどのカオス的な性質について詳しい説明を行った。

3. 従来から載っていた応用例を更新し、新しいものも多くつけ加えた。

4. 力学系を C~∞級 で考えたので、定理の主張の多くから煩雑さが軽減した。

本書は3つの主要な部分から成っている。最初に、線形微分方程式系と1階の非線形微分方程式系を扱う。次に、このテキストの核ともいうべき話題として、2次元の非線形系に焦点を合わせ、様々な分野への応用も取り扱う。そして最後に、高次元の力学系を扱うが、ここでは平面の力学系では起こりえないタイプのカオス的性質に焦点をあてる。また、それらを調べるのに有効な手段である離散力学系への簡約化も説明する。

バックグラウンドの全く異なる様々な読者に対して、本を書くということは意味のある試みである。まず、本書は、少し進んだ微分方程式の講義のテキストとして使えるであろう。また、数学者のみならず、科学者、工学者で、それぞれの分野に現れる微分方程式を分析するために充分な数学的なテクニックを探している場合にも役に立つであろう。線型代数や実解析のしっかりしたバックグラウンドを持っている者や、そうでない者も本書を手にとるであろう。このような両者に本書を読んでもらうために、極めてわかりやすい低い次元の微分方程式系から話は始める。この話題のほとんどは、微分方程式をすでに知っている読者には復習となるだろうし、彼らのために最初から最新の話題もちりばめられている。

具体的には、最初の1階微分方程式を扱うところでは、おなじみに線形微分方程式と生物の個体数に関するロジスティックモデルの話題から始まる。さらに、生物間の補食・被捕食関係から導き出されるロジスティックモデルにおいて、その定常状態や周期的状態も扱う。これによって早い段階から分岐という概念を導入でき、さらにポアンカレ写像や周期解なども説明している。これらの話題は、微分方程式の初学者には聞き慣れない話だろうが、多変数の微積分の知識がある者なら誰でもわかる内容である。もちろん、まずはそのような特別な話題を飛ばして、もっと基本的な内容を理解しながら読むのでも構わないであろう。

第2章から第6章までは、微分方程式による力学系を扱う。急がずに、第2、3章では2次元の線形代数と線形微分方程式系のみを扱う。第5、6章で高次元の線形微分方程式系を扱う。ここでも一般的な n次元の場合ではなく3または4次元だけを扱うのだが、これらのテクニックは簡単に高次元に拡張できることを強調しておく。

本書で最も大切なことは、非線形力学系の話題である。線形力学系の場合と違い、非線形力学系には理論的な難しさがある。例えば、その解の存在と一意性や、初期条件やパラメータに関する解の依存性などに関することがそれである。第7章では、これらの難しい問題にのめり込むのはやめて、重要な定理のみを述べる。さらに、その定理が何を述べていないかも含め、例を使って説明する。これら定理の証明は全て最終章に載せてある。

非線形を扱った最初のいくつかの章で、平衡点の近傍での線形化、ヌルクライン解析、安定性定理、極限集合、分岐理論などの重要なテクニックを紹介する。また、後半でこれらのアイデアを生物学、電気工学、力学などへ応用していく。

各章末に「探求」という節が設けられているが、そこには特別な話題や、より進んだ応用に関わる数値実験などを載せた。それら全てにわかりやすい導入がなされ、さらに進んで学べるよう参考文献も付けた。しかし、それらの利用の仕方は全て読者に任せる。手がつけられるように並べられた問題は、それらを詳しく分析していけば、いずれ本格的な研究になるよう、どのように扱えばよいかヒントを与えるようにした。だからよくテキストの末尾に付いている「答え」は本書には載っていない。これらの探究に対する完璧な答えは、それを探求する読者のみが知りうることで、誰かが知っていることではないのだ。

最終章ではカオス的性質としてよく知られる、高次元力学系の非線形特有の複雑な性質を扱う。まず、有名なローレンツの微分方程式系を通してカオスの概念を紹介する。3次元以上の力学系を扱うときの手法として、その微分方程式が有する複雑性の本質を損なうことなく、よく知られた離散力学系とか反復写像に簡約化することがある。そのために離散力学系を学び、記号力学がカオス的な力学系をどのように完璧に記述するのかを知ることもできる。このテクニックをホモクリニック軌道の存在などに関するカオス的力学系に応用するため、さらに非線形微分方程式で定義された力学系を扱う。

本書に関する情報、例えば、訂正箇所や本書を使って講義やゼミを行う方々に有益な話題など、全て http://math.bu.edu/hsd/ にて提供している。また本書に関するご意見などもこのサイトで受け付けている。

第3版で新しくなったことは、数多くの探究が追加された証明が簡略化かつ修正されたことである。新しく追加された探求の中には、数値実験が時として失敗に終わる理由に焦点を当て考察するところがある。すなわち本書では早いうちに探求でカオス的な挙動に触れることができる。また別の新しい探求では、ゾンビという感染した個体群をこれまでの感染症のSIRモデルに加味し考察している。さらに3つ目の新しい探求では、グライダーの運動の説明をしている。


訳者あとがき

本書は2012年に刊行された原書第3版、力学系の入門書の翻訳である。これはHirsch、Smaleによって1974年に著された原書第1版を、第3の著者であるDevaneyがローレンツ系やホモクリニック現象などの章を増補し、全体的にわたって大幅に改稿したものである。ちなみに原書第1版は田村一郎、水谷忠良、新井紀久子によって「力学系入門(1976)」として翻訳出版された。

注意していただきたいのは、今回の翻訳を行った原書が第3版であることである。原書第2版は2004年に出版されており、その翻訳は2007年に第2版として刊行している。(翻訳者は本書の翻訳者と同じ)

実はこの第2版の翻訳に満足できず、改訂を行う機会があればと考えていた矢先に原書の第3版が出版されたのは良い機会であtった。しかし原書に施されているであろう修正が膨大であることを知り、手をこまねいていたのが現実であった。というのは原書の第2版と第3版を比較し、修正箇所を特定したのち翻訳し直す作業は、新しい本を最初から翻訳するのとは全く違い、多大な時間と労力が取られるのは明らかだったからである。そのような困った事態を前に、共立出版の大越隆道氏がこれらを並べ一言一句比較し、変更箇所を全て特定するという非常に骨の折れる作業を買ってでてくれた。その数はほぼ全ページに渡り、優に4000箇所を超えていた。これに加え大幅に加筆があった箇所は次の通りである。

- 7.6節を追加
- 8.3節の安定曲線定理の証明
- 8.4節に定理を追加
- 11.6節を追加
- 13.10節を追加

大越氏のおかげで各々(第1~5章を辻井、第6~9章を桐木、第10~13章を谷川、第14~17章を三波)が改訳と修正を行い、最後は全体を通して確認し、ここに原書第3版の翻訳の完成に至ったわけである。

また原書第2版に含まれていた数学的過ちの多くは、原書第3版でも放置されたままであった。ゼミで直しながら読むという著者の教育的配慮を台無しにしてしまうことになるかもしれないが、この翻訳では気づいた数学的過ちは全て修正を施した。またそれら修正箇所を全て訳注として残すことは、数学においてあまり価値を見出せることではないので必要最小限に留めた。


今回紹介した本の翻訳のもとになった英語版はこちらの第3版である。Kindle版でもお読みいただける。

Differential Equations, Dynamical Systems, and an Introduction to Chaos, Third Edition 3rd Ed」(Kindle Ed)(2nd Ed



専門書の紹介

カオス現象はいくつも種類があるが、スメール博士によって考え出された「馬蹄(ばてい)」のアイデアにより「カントール集合」と呼ばれる離散的な無限集合を含んでいることが発見された。馬蹄とは馬の足につけるU字型をした蹄鉄のことである。そしてカオスを「無限小数」に記号化して表現、計算することが可能になり、研究に進展をもたらした。「カントール集合」が比較的シンプルな微分方程式の解に、そして現実の物理現象にあらわれるとは、僕には驚きだった。しかし、現実の物理現象は不確定性原理にも支配されているから、カントール集合であらわされる無限小の力学的ポテンシャルには限界があるはずだと僕は予想している。カオス理論は力学系を研究する数学なのだ。少しだけ読んだところ、この本はなかなか手ごわい。

馬蹄への道: 2次元写像力学系入門: 山口喜博、谷川清隆


あと、読んでみたいのが次の本。出版社による内容紹介は次の通り。

理解困難な力学系理論をその歴史から展開して学部学生にも理解できるよう構成したユニークな書。『力学系とエントロピー』として1985年に初版発行以来、長年にわたり多数の読者にご愛読いただいてまいりました。この度、多くの読者からの要望を受け発行するものです。

復刊 力学系とエントロピー(2013、304ページ)」(復刊前の版(1985)、288ページ



カオスを含め、この分野は「力学系」として分類される。以前紹介した松葉先生による本はこちら。今回紹介した本よりも扱っている例が多く、高度である。

力学系カオス: 松葉育雄」(紹介記事


力学系の本: Amazonで検索
カオスの本: Amazonで検索


教養書の紹介

カオスや力学系全般を数式なしで解説した教養書は、まだ読んでいないが、次のような本がよさそうである。ほかにお勧めの本をご存知の方は紹介していただきたい。

カオス的世界像―非定形の理論から複雑系の科学へ: イアン スチュアート
カオスとフラクタル (ちくま学芸文庫): 山口昌哉
 

一風変わったところでは、この本が面白いかもしれない。

カオスの紡ぐ夢の中で: 金子邦彦



関連記事:

力学系カオス: 松葉育雄
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/12392ac282d10deed28914d8182c2286

ポアンカレ 常微分方程式 -天体力学の新しい方法-
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/8dc81ef7e48c812b56befcc2345d59d4

天体力学のパイオニアたち 上: F.ディアク、R.ホームズ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5c51d50e2141c8ae58c9323ad49b65a1

天体力学のパイオニアたち 下: F.ディアク、R.ホームズ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/88846fbb12ed1f8b11a49f0659b93c75

数理解析のパイオニアたち: V.I.アーノルド
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/165c894d023b1174fd519522935cdeeb


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Hirsch・Smale・Devaney 力学系入門 ―微分方程式からカオスまで― 第3版」(第2版)(初版


第3版 まえがき
まえがき

第1章 1階微分方程式
1.1 最も単純な例
1.2 ロジスティック方程式
1.3 分岐現象
1.4 周期点
1.5 ポアンカレ写像
1.6 探求:2パラメータ族

第2章 2次元線形系
2.1 2階微分方程式
2.2 2次元の系
2.3 線形代数からの準備
2.4 平面上の線形系
2.5 固有値と固有ベクトル
2.6 線形微分方程式系の解法
2.7 重ね合わせの原理

第3章 2次元線形微分方程式の相図
3.1 相異なる2つの実固有値の場合
3.2 複素固有値
3.3 重複した固有値
3.4 座標変換

第4章 2次元線形微分方程式の分類
4.1 跡と行列式
4.2 共役による分類
4.3 探求:3次元パラメータ空間

第5章 多次元の線形代数
5.1 線形代数からの準備
5.2 固有値と固有ベクトル
5.3 複素固有値
5.4 基底と部分空間
5.5 重複した固有値
5.6 通有性

第6章 高次元の線形系
6.1 相異なる固有値
6.2 調和振動
6.3 重複した固有値
6.4 行列の指数関数
6.5 非自励線形系

第7章 非線形系
7.1 力学系
7.2 存在と一意性定理
7.3 解の初期条件に関する連続性
7.4 変分方程式
7.5 探求:数値実験の方法
7.6 探求:数値実験とカオス

第8章 非線形系の平衡点
8.1 いくつかの具体例
8.2 非線形系の沈点と源点
8.3 鞍点
8.4 安定性
8.5 分岐
8.6 探求:複素ベクトル場

第9章 非線形系の大域的解析方法
9.1 ヌルクライン
9.2 平衡点の安定性
9.3 勾配系
9.4 ハミルトン系
9.5 探求:強制振り子

第10章 閉軌道と極限集合
10.1 極限集合
10.2 局所切断面と流れ箱
10.3 ポアンカレ写像
10.4 平面力学系の単調点列
10.5 ポアンカレ・ベンディクソンの定理
10.6 ポアンカレ・ベンディクソンの定理の応用
10.7 探求:振動する化学反応

第11章 生物学への応用
11.1 伝染病
11.2 捕食者・被食者系
11.3 競合種
11.4 探求:競合と移出入
11.5 探求:SIRモデルにゾンビを加える

第12章 回路理論への応用
12.1 RLC回路
12.2 リエナール方程式
12.3 ファンデルポル方程式
12.4 ホップ分岐
12.5 探求:神経力学

第13章 力学への応用
13.1 ニュートンの第2法則
13.2 保存系
13.3 中心力の場
13.4 ニュートン中心力系
13.5 ケプラーの第1法則
13.6 2体問題
13.7 特異点のブローアップ
13.8 探求:他の中心力問題
13.9 探求:量子力学系の古典極限
13.10 探求:グライダーの運動

第14章 ローレンツ系
14.1 イントロダクション
14.2 ローレンツ系の基本的性質
14.3 ローレンツ・アトラクター
14.4 ローレンツ・アトラクターの1つのモデル
14.5 カオス的アトラクター
14.6 探求:レスラー・アトラクター

第15章 離散力学系
15.1 イントロダクション
15.2 分岐
15.3 離散ロジスティック・モデル
15.4 カオス
15.5 記号力学系
15.6 シフト写像
15.7 カントールの中央1/3集合
15.8 探求:3次カオス
15.9 探求:軌道ダイアグラム

第16章 ホモクリニック現象
16.1 シルニコフ系
16.2 馬蹄写像
16.3 ダブルスクロール・アトラクター
16.4 ホモクリニック分岐
16.5 探求:チュア回路

第17章 存在と一意性 再訪
17.1 存在と一意性定理
17.2 存在と一意性の証明
17.3 初期条件に関する連続性
17.4 解の延長
17.5 非自励系
17.6 流れの微分可能性

参考文献(洋書のみ)
訳者あとがき
索引

英語教育の危機 (ちくま新書):鳥飼玖美子

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英語教育の危機 (ちくま新書):鳥飼玖美子」(Kindle版

内容紹介:
センター試験廃止で「民間試験」導入、小学校英語、グローバル人材育成戦略……
2020年、この国の英語教育はどうなる?
子供たちの未来を左右する2020年施行の新学習指導要領からは、この国の英語教育改悪の深刻さが見てとれる。たとえば、中学校・高校では「英語は英語で教えなければならない」という無茶なルールを作り、小学校で「英語」は教科としてスタートするのに、きちんとした教師のあてはない。また学習指導要領以外にも、2020年度からは現在の「センター試験」は廃止されて、どれも入試として問題含みの「民間試験」を導入するという。どうして、ここまで理不尽なことばかりなのか?第一人者が問題点を検証し、英語教育を問いなおす。

2018年1月10日刊行、220ページ。

著者について:
鳥飼玖美子(とりがい くみこ): ウィキペディアの記事
東京都生まれ。立教大学名誉教授。上智大学外国語学部卒業、コロンビア大学大学院修士課程修了、サウサンプトン大学大学院博士課程修了(Ph. D.)。NHK「ニュースで英会話」監修およびテレビ講師。著書に『英語教育論争から考える』『戦後史の中の英語と私』『通訳者と戦後日米外交』(みすず書房)、『危うし! 小学校英語』(文春新書)、『歴史をかえた誤訳』(新潮文庫)、『国際共通語としての英語』『本物の英語力』『話すための英語力』(講談社現代新書)などがある。

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鳥飼先生の講演: 動画を検索


10年ほど前に「英語の授業は英語で - 新学習指導要領案」という記事を書いたことがある。このとき発表された新学習指導要領では、小学校5、6年生から英語を教えるだけでなく、中学と高校では英語だけを使う英会話の授業を始めるということだった。「そんな無茶な!」という気持で書いたのがこの記事だった。すでにこの方針で授業が行われ始めてずいぶん経つわけである。その後どうなったのだろうと気になっていた。

また、今年になってから気になっているのは2020年から行われる大学入試制度が問題だらけだということ。数学に関しては「次期学習指導要領(高等学校、数学、情報)について思うこと」という記事を書いたことがある。特にいまニュースやSNSで話題になっているのは大学入学共通テストの英語の試験についてだ。センター試験が廃止され、この新しい試験制度が来年から施行されようとしている。

本書はこの大学入学共通テストの英語に関して、そして日本の英語教育の現状に非常な危機意識をもっている鳥飼玖美子先生が昨年初めにお書きになった本だ。鳥飼先生は英語教育の第一人者として知られているが、もともとは有名な同時通訳者である。僕は受験生の頃から大学時代にかけて文化放送の「百万人の英語」というラジオ番組で先生の授業を聞いていた。他にはこの番組で鳥飼先生のほか、國弘正雄先生とJ・B・ハリス先生の授業を聞いていた。(「百万人の英語」の録音を検索


「まえがき」と章立て

本書の「まえがき」で鳥飼先生は次のようにお書きになっている。少し長いが引用しておこう。

「英語教育改革がここまで来てしまったら、どうしようもない。もう英語教育について書くのはやめよう、と本気で思った。それなのに書いたのがこの本である。

英語教育についての書を何冊も刊行し、あちこちの講演で語ってきて、もうやめよう、と思うようになったのは、英語についての思い込みの岩盤は突き崩せないと悟り、諦めの境地に達したからである。

どんなに頑張って書いても話しても、人々の思い込みは強固である。曰く「グローバル時代だから英語を使えなければ」「でも日本人は、英語の読み書きは出来ても話せない」「文法訳読ばかりやっている学校が悪い」「だから、英語教育は会話中心に変えなければ」という信条を多くの人たちが共有している。

そうではない、英語をコミュニケーションに使うというのは、会話ができれば良いというものではない、しかも今の学校は文法訳読でなく会話重視で、だからこそ読み書きの力が衰えて英語力が下がっている、といくら説明しても、岩盤のような思い込みは揺るがない。政界、財界、マスコミ、そして一般世論は、ビクともしない。

結果として的外れの英語教育改革が繰り返され、行きついた先は、教える人材の確保も不十分なまま見切り発車する小学校での英語教育であり、大学入試改革と称する民間英語試験の導入である。ここまで来てしまったら打つ手はない。英語教育について書いたり話したりは無駄な努力だと考えざるをえなかった。

それでも、何とか気力を奮い立たせて本書を書いた。この危機的状況にあって、言うべきことは言っておこうと考え直したからである。英語教育における改革は不断に必要だが、それには英語教育の実態や改革の成果などを十分に検証した上で議論を尽くすべきであろう。皆さんにも英語教育の課題を知っていただき考えていただくほかはないと考えるに至り、現状分析と批判を提示し私なりの代案も示した。

一般読者にはなじみがない新学習指導要領をあえて取り上げたのは、学校の先生たちは、このような指針に沿って英語を教えることになるのだ、と知っていただきたいからである。英語教育の専門家であっても、これほどの英語を教えるにはどうしたら良いだろうと悩むような内容が記載されている。英語教員の心中を察して余りある。

学習指導要領では「批判的思考」の育成を掲げているが、学校現場では、文科省や教育委員会には逆らえないと感じている教員が多いし、学習指導要領を批判することに否定的な感情を抱く英語教員もいて、疑問や不安の声はなかなか表に出ない。しかし、肝心の教師が批判を避けていると現場の声が伝わらず、教育は良くならない。

被害を受けるのは生徒たちである。特に可哀想なのが小学生である。何も分からない子供たちが、あまり自信のない先生から中学レベルの英語を習う。嫌いにならなければ誠に幸いであるが、中学に進む頃には英語嫌いになっている児童が今より増える懸念がある。ゆとり教育のように、始まった途端から軌道修正を余技なくされることになるかもしれないが、一人の子供にとっては間に合わあない。その子が受ける英語教育は、たった一回きりなのである。救いようのない気持ちにならざるをえない。何とかしなければ、と本書を書きながら思い続けた。

英語教育の問題は、実は日本の将来に関わることであり、未来を担う世代をどう育てるかの問題である。先が見通せない不確実な時代、これまでにもまして多様性に満ちた世界に生きることになる世代を、どのように育てるのか、皆で考えていただきたい、というのが本書に託した私の願いである。」

そして章立てはこのとおり。

序章 英語教育は今、どうなっているのか?
第1章 英語教育「改革」史
第2章 2020年からの英語教育―新学習指導要領を検証する
第3章 大学入試はどうなるのか?―民間試験導入の問題点
第4章 「コミュニケーションに使える英語」を目指して


感想と解説

僕が中学で英語を学び始めたのは1975年。世代的には「読み書きと文法しか習わなかった」ことになるが、幸い中学2年のときに出会った同級生のおかげで、英語好きになりラジオ講座に集中して、高校生の頃には日常英会話は自由にできるようになった。つまり英語は独学でマスターし、その後も仕事を通じて学び続けたからビジネス英語は問題なしというレベルになった。僕の勉強法はとにかく教科書や教材の丸暗記、オウムのように喋ること、そしてディクテーションである。それを繰り返しているうちに喋れるようになった。またNHKで放送されている外国語学習の放送も継続的に活用していた。(英語学習のためのページを開く


しかし、たいていの大人は僕と同様「読み書きと文法だけの授業」を受けた世代だから、日本の英語教育では英語は話せない、会話重視にすべきだと信じ込んでいるのだと思う。

そして、実際に会話重視の授業が行われてきた結果が惨憺たるものであることを知らない。会話力は身に付かず、逆に読み書きの能力が低下してしまったのだ。基礎的な英語力が身についておらず、英文科、英語学科なのに原書を読めない学生が入学してくるため、中学レベルの英語から教えなおす授業を行っている大学すらあるという。

問題の本質は根深いことが本書を読んで理解できた。学習指導要領はおよそ10年ごとに改正されるのだが、過去10年の結果に関する検証や行われておらず、十分な議論もなされないまま、新たな方針が思いつきのように打ち出され施行されていく。これを何度も繰り返しているのだという。これが「序章 英語教育は今、どうなっているのか?」と「第1章 英語教育「改革」史」に書かれていることだ。そして省庁間や省内での定期的な人事異動によって、せっか議論をしたとしても引き継がれないという状況がある。

今回の改正では現在小学校高学年に児童に対して行われている授業を中学年で行い、中学レベルの英語を高学年で教えることになるという。学習指導要領には1980年代から一貫して「読み、書き、リスニング、会話」の4技能による総合的コミュニケーションの育成が重要だと書かれているが、実際には会話重視に偏重しているという。

また、文部科学省は「コミュニケーションを行う目的・場面・状況などに応じて理解したり伝え合ったりする能力を育成する」という目標を掲げて会話の授業をするよう指導している。その方針に従い中学校で会話の授業は日本人の先生によって行われている。熱心でやる気のある先生もいれば、上手にできなくて苦心惨憺の先生もいる。

しかし、その内容は小学生の「買い物ごっこ」を英語でやっているだけだ。中学3年生の教室内で繰り広げられているのは「魚屋さん」「八百屋さん」「花屋さん」などの店を設定して行うやり取りだ。そこでは「ハウマッチ?」「ワオー!」「チープ、チープ、プリーズ」などのブロークン英語が行き交い、文部科学省が目標に掲げる「英語文化で規範となる話し方の規則を学び、適切に英語を使いコミュニケーションを図る能力」とは程遠い。

僕個人の考えを言えば、文法や単語の知識なしに英会話や英語学習はあり得ないと思う。日本語と英語の文法が大きくかけ離れているわけだから文法の学習は重要だ。生活に必要な単語数はどうしたって暗記に頼らざるを得ない。学校の授業時間数では全く足りない。英語の学習はどのようなものであれ、家で毎日自習することが必要だ。学校の授業は自習をする動機付け、モチベーションアップにつながるようなものであるのがベストだと思うのだ。せっかくの時間を子供のお遊びのような会話の授業で浪費するのは、まったく無駄である。

政府が掲げる「グローバル人材育成戦略」に沿って大学の授業も変わることになる。英語以外の授業も英語で講義を行うようにするようになっているそうだ。ところが、実際に行われているのは海外である程度の経験を積んだ日本人の教師による英語での講義なのだという。著者はこれを「和製グローバル人材育成」だと批判している。こうなってしまったのは、予算を削減した結果の英語ネイティブ教員不足のためだ。その結果、掲げた大きな目標とはかけ離れた表面的な改革にどどまっているそうだ。

第3章から「大学入学共通テスト」の問題が指摘される。まず、最大の問題がセンター試験を廃止した後に行われる「民間試験」の導入だ。試験業者は複数あるが、どれをとってみても高校までの授業内容に沿って作られた英語試験ではない。TOEFLは留学生向けの試験であるし、TOEICはビジネス英語の能力を測るための試験だ。その他の試験も大学入試のために作られた試験ではない。

また、検定料は自己負担。親への経済的負担がかかる。そして民間の試験業者により年間の実施回数がまちまち、試験会場が少ない業者があるため、受験生が住んでいる地域から遠すぎるケースがでてくる。つまり受験生にとって極めて不公平、不公正な状況が生じるのだ。


本書刊行後の話

本書が刊行されて以降、今日までに次のようなニュースがあった。

- 記述式問題を含め答案の採点を民間業者が採用する大学生アルバイトが行うことがわかった。(まとめページ
- 東大と京大が民間英語試験を使わないことを表明した。(ニュース記事
- TOEICが英語民間試験から撤退することを発表した。(解説記事
- 英語民間試験にはケンブリッジ英検、英検CBTとS-CBT(新型英検)、GTEC、IELTS 、TEAP 、TEAP CBT、TOEFL iBTの7つが使われることになる。(ニュース記事
- 全国高校長協会が英語民間検定試験の不安解消求め要望書を提出した。(ニュース記事
- 民間英語試験の利用は中止すべき…大学教授ら請願。(ニュース記事

最大の被害者は高校生、受験生である。SNS上でも英語民間試験に反対する人のツイートが目立っている。これに対する柴山文部科学大臣(@shiba_masa)は8月16日に「サイレントマジョリティは賛成です。」というツイートをされた。(ツイートを開く)これはつまり「物言わぬ大多数の人は英語民間試験に賛成である。」という意味で、批判にはまったく耳を貸すつもりはないということだ。

来年から実施されるにもかかわらず詳細はまだ決まっていないため、高校や受験生、現場の教師たちは大混乱している。英語民間試験が行われるようになると、高校の授業もそれを意識して授業内容が大きく歪められることになる。

ちなみに英検で受験する場合、予約開始は来月だ。見切り発車であることは明らかだ。同種の試験を2回受けても、1回ずつ違う試験を受けてもよいのだという。どのようにしたら公平性を保てるのか、さっぱりわからない。






最新の情報は、以下のタグでツイート検索していただきたい。またKIT Speakee Project(@KITspeakee)によるツイートは、情報が整理されていて読みやすい。

ツイッター検索: #英語民間試験 #民間英語試験 #英語民間試験いらない #大学入試共通テスト #大学入学共通テスト


おわりに

この国の英語の入学試験と英語教育が破壊されようとしている。小中高のお子さんや受験生をもつ方や教育関係者でないと教育問題には関心をもたないのかもしれない。そして教育関係者だとしても英語以外を担当している先生には関心がない問題なのかもしれない。けれども、教育は将来の日本の社会、方向を決めるとても大切な問題だ。ぜひ関心をもってほしい。


本書の「第4章 「コミュニケーションに使える英語」を目指して」で鳥飼先生は、英語教育はどうあるべきかというご自身のお考えを専門家らしい知見で紹介している。ここでは伏せておくので、気になる方は本書をお読みいただきたい。しかし、差し当たりは現在直面している問題の解決に全力を尽くすべきだと僕は思った。


本書に書かれているのは1970年代以降の英語教育史である。その根っこはどうなっているのか、時代を遡って英語教育の歴史を知りたくなった。8月ということもあり戦争関係の番組を見聞きすることが多い。これは英語教育、英語以外の外国語教育の視点から、幕末以降の日本の近代史・現代史を紹介する本だ。次はこれを読むことにした。

英語と日本軍 知られざる外国語教育史:江利川春雄 」(Kindle版



関連記事:

英語の授業は英語で - 新学習指導要領案
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f40af01f96de42d43000248e8b310478

次期学習指導要領(高等学校、数学、情報)について思うこと
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/89d69b96a16b12ec3901564f09785874


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英語教育の危機 (ちくま新書):鳥飼玖美子」(Kindle版


まえがき

序章 英語教育は今、どうなっているのか?
- 「コミュニケーションに使える」英語教育への大変身
- 「英語は英語で」教えよう
- 「英語で授業」のDVD
- 大学入学者の英語力低下
- 小学校英語の導入
- 民間英語試験の導入

第1章 英語教育「改革」史
- 見果てぬ夢を追って
 文科省は慢性改革病
 英語教育改革の内なる蹉跌
- 英語教育改革の歩み
 平泉・渡部論争
 「平泉・渡部論争」の社会的意義
 臨時教育審議会
 1989年学習指導要領改訂
 「「英語が使える日本人」育成のための行動計画」
- 「グローバル人材育成戦略」
 「グローバル人材育成」のための英語教育
 国をあげての危機感
 文科省「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」(2013)
 「スーパーグローバル大学創成支援事業」
 和製グローバル人材育成
 表面的な改革
 「専門の講義を英語で」という陥穽

第2章 2020年からの英語教育―新学習指導要領を検証する
- 新学習指導要領とはどんな内容か?
 「学習指導要領」とは何?
 2020年からの新学習指導要領--全体の方針
 「思考力・判断力・表現力」
 「学びに向かう力」
 「これからの時代に求められる資質・能力」
- 新学習指導要領に見る英語教育
 小学校での英語教育
 「目標」
 何を育成するのか
 高度な小学校英語
- 新学習指導要領の課題
 実施にあたっての課題
 「英語の授業は英語で」の是非
 「英語で授業」の何が問題か
 「英語で英語を教える」のは時代遅れ
 「音声指導をどうするのか」
 教員養成と教員研修のあり方
 習得語彙の大幅な増加
 複言語主義の理念なくCEFRを部分的に導入
 理念なきCEFR導入の問題点
 「やり取り」(interaction)という技能の追加
- その他の事柄
 国語教育との連携
 文法はコミュニケーションを支える
 発音記号
 筆記体
 新学習指導要領から、その後へ

第3章 大学入試はどうなるのか?―民間試験導入の問題点
- 変わるセンター試験
 「大学入学共通テスト」に民間試験!?
 現実を把握せず論評するメディア報道
- なぜ民間試験は問題か
 民間検定試験は目的が違う
 目的基準テストと集団基準テストの違い
 検定料の負担がかかる
 高校英語教育は検定試験を目的とする受験勉強になる
 大学での現状は数値で測定できない

第4章 「コミュニケーションに使える英語」を目指して
- コミュニケーションとは何か
 「コミュニケーションに使える英語」
 学習指導要領に見る「コミュニケーション」
 文化とコミュニケーション
- コミュニケーション能力と異文化能力
 「コミュニケーション能力」の四要素
 「コミュニケーション能力」と「異文化能力」
 ベネットとディアドーフのモデル
 「異なる文化を理解する」は可能か
 グローバル都市ロンドンと寛容性
- 異文化コミュニケーションと協同学習
 異文化コミュニケーションと国際共通語としての英語
 これからの英語教育への試案
 「内容中心の指導法」
 「内容と言語統合学習」
 4つのC
 自律性と共同学習
 共同学習と能力別クラス
 今後の課題

あとがき
参考文献

英語と日本軍 知られざる外国語教育史:江利川春雄

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英語と日本軍 知られざる外国語教育史:江利川春雄」(Kindle版

内容紹介:
軍のエリートはいかに「敵国語」を学んだのか?
陸海軍の学校では敗戦後まで英語教育が行なわれていた。目的はなんだったのか。幕末に本格化した外国語教育は近代陸海軍創設に礎となり、皮肉にも日本の帝国主義の道のりを下支えしてきた。一方、その終焉をもたらした一因も外国語教育にあった。陸海軍の制度的問題と教育戦略の欠如が結びつき、現地での軍事行動に支障をきたすまでに至った。はたして軍エリートの養成学校でいかなる教育が行われていたのか。当時の教科書や参考書、残された手記の分析、生存者への取材から、知られざる教育の実態に迫るとともに、それらが戦後に遺したもの、戦後日本への連続性を明らかにする。

2016年3月28日刊行、288ページ。

著者について:
江利川春雄: ウィキペディア
Twitter: @gibsonerich
ブログ: https://gibsonerich.hatenablog.com/
1956年、埼玉県生まれ。和歌山大学教育学部教授。博士(教育学)。専攻は英語教育学、英語教育史。神戸大学大学院教育学研究科修了。現在、日本英語教育史学会会長。著書に、『近代日本の英語科教育史』(東信堂、日本英学史学会豊田實賞受賞)など。

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8月は戦争や原爆関連のテレビ番組を見ることが多いため、暗い戦争の時代を自然に意識するようになる。また、今年は大学入学共通テストや英語民間試験の問題が取り沙汰されているため、「英語教育の危機 (ちくま新書):鳥飼玖美子」という本を読んで紹介したばかりだ。

英語教育の問題をもう少しさかのぼって知りたくなったのと、太平洋戦争に至る歴史をもっと知りたいという欲求があり、そのどちらの好奇心も満たしてくれるのが本書だった。太平洋戦争期だけでなく、幕末から昭和の終戦後の占領期に至るまでをカバーしている。その期間に日本の軍隊で行われていた外国語教育の詳細を、時系列で解説している。あと、ほんの少しではあるが、一般の学校で行われていた英語教育についても軍隊での英語教育との対比という形で紹介している。

いま取り沙汰されている現在の英語教育や入試制度の英語の問題と、本書がどのようにつながるのかと思う方がいらっしゃるかもしれない。現在の問題は、「グローバル人材育成」という財界からの要望を政府が受け、文部科学省が具体的な施策として行なおうとしているものだから、昔の日本軍の英語教育と関係ないと思ってしまうのは無理もない。いま求められている「グローバル人材」とは海外とのビジネスで通用する英語が使える人材という意味であり、軍事行動や軍事技術で活かすための英語力ではないのだから。

けれども、国が抱える英語教育と入試制度を考える上で、過ちを含めて過去の事例と正面から向き合い、何が正しく、何を間違えていたのかを知るのがとても大切だということを、本書を読んでみてよく理解できた。読むのにちょうどよいタイミングだったのである。


読んでみたところ、ほとんど知らなかったことばかりで面白かった。他の人も同じだろうが、僕を含めて一般常識として言われているのは次のようなことだ。「スタンダード佛和辞典・和佛辞典」という記事の中で「徳川幕府軍ではフランス語の号令が使われている。」と紹介したこともある。

- 明治新政府軍は軍事技術をフランス語や英語で学んでいた。
- 太平洋戦争中、英語は適性語であるから使用が禁止されていた。カタカナの野球用語も日本語に置き換えられた。

これはこれで正しい。けれども本書によると明治新政府軍どころか、ペリーが浦賀に来航して以来、海防の必要性から江戸幕府軍は軍艦を操縦するのに必要な技術だけでなく、大砲など軍事技術を扱うために必要なあらゆること、兵法や軍事教練だけでなく、物理学や化学、天文学、機械学、数学などを早急に吸収しなければならず、教える人もテキストもなかったため、フランス人やイギリス人の軍人が先生となりフランス語や英語のテキストを使って行われたという。

もちろん日本語の使用は認められない。授業に使用されるフランス語や英語の授業もその言語で行われていた。そして、わずか1年の学習と訓練で軍艦を操船できるだけの成果が得られたのは驚異的なことだった。

また、太平洋戦争中に英語の使用が禁止されていたことについては、日常の生活ではそのとおりであるが、一般人が通う高等小学校、旧制中学、そしてエリートが進む旧制高校、帝大などでは敗戦まで英語の授業が行われていたそうだ。しかし英語は必須教科ではない。英語が教えられていたのは全国の高等小学校のうち1割程度だった。しかし、戦況が悪化し敗戦間際になるにつれて生徒は防空壕堀りや軍需工場などで勤労奉仕をするため、実際の授業時間はどんどん削られていった。

そして敗戦後まで英語が教えられていたことが戦後、米軍占領下での政策をスムーズに行うための大きな役割として英語教育が利用された。(参考:「https://ja.wikipedia.org/wiki/日本における英語」)海軍で学んだ軍人らの英語力は、日本の再軍備の過程で利用され、その後彼らは国家機関や大学などの公職に就くのである。占領軍は彼らの英語力を利用するため、彼らの戦争犯罪を無いものとして処理していた。

1945年(昭和20年)9月15日発売の『日米会話手帳』は、年末までに360万部の売上を超えた。1946年(昭和21年) - 1951年(昭和26年)には、平川唯一アナ(英語ブームの元祖火付け役ともいわれる)によるラジオ講座『英語会話』が人気を呼んだ。軍国主義から解放され、アメリカの豊かな生活にあこがれる中で戦後の英語ブームがおこったのである。これは占領政策を行なうアメリカにとって好都合なことだった。逆に、心の中で戦争を引きずり英語を毛嫌いする人たちがいたことも事実である。

本書の章立てと大項目は次のとおりである。

序章 英語教育の敗戦
第1章 近代陸海軍の創設と外国語
 幕末の軍制改革と西洋列強
 明治政府による日本軍の近代化
第2章 日本軍の外国語教育はどう変遷したか
 日清・日露戦争から第一次世界大戦へ
 軍縮期からアジア・太平洋戦争まで
第3章 アジア・太平洋戦争期の英語教育
 昭和陸軍の英語教育
 昭和海軍の英語教育
第4章 戦後日本の再建と英語
 英語教育の振興策と親米国民の育成
 旧日本軍の語学的遺産
 戦前と戦後の連続性


陸軍と海軍では外国語教育の状況が大きく異なるし、士官学校の予科と本科、陸軍幼年学校が異なると状況は違う。時代や戦況の変遷によってどの重視する外国語は変わっていくし授業時間数も変わる。そして日本を取り巻く国々の覇権の変化の影響も受ける。またときには実用的な音声学習が行われたこともある。本書にはこれらが詳しく書かれているわけだが、ここで大ざっぱに解説することには無理がある。

印象に残ったことだけ、ピックアップして紹介しておこう。

- 幕末には欧米列強の植民地化の脅威により海防の必要性が増し、軍事技術や科学を習得するためにフランス語や英語の習得が急がれたこと。授業は原語で行われていたこと。

- 薩摩藩と長州藩では、それぞれ別に外国語教育が行われ、軍事力を強化していたこと。

- 幕末から太平洋戦争まで言えることだが、日ごろ外国人を目にしない生活をしているし、音声教材もない時代のことである。小袖や袴を身に着けた武士や軍服を着て外国語を必死に学ぶ姿を想像するのは楽しい。彼らはそれぞれ時代の超エリートたちだったわけだが、外国語で科学や技術、軍事を学ぶ苦労は並大抵のものではなかったと思う。理数系が弱い人もいたはずだし、落ちこぼれた人もいたはずだ。

- 戦争をするためには、諜報活動だけでなく、相手国の文化や技術レベル全般、文化や国民性を知るためにその国の言語習得が重要だったこと。つまり仮想敵国、敵国の言語習得は極めて重要。

- 明治初期には近代化を推進し、学術の遅れを取り戻すため、軍だけでなく産業、学会などあらゆる領域で西欧語の習得が重要だったこと。

- 日清・日露戦争時には朝鮮語、ロシア語、中国語の習得が重要だったこと。しかし朝鮮語習得は軽んじられていた。

- 海軍(の兵学校)では早い段階から英語重視の外国語教育が行われ、太平洋戦争敗戦時まで続いていたこと。

- 陸軍の出世コースは幼年学校出身者である。幼年学校ではドイツ語が熱心に教えられ、東条英機もドイツ語を学んだ。英語が軽視されていたため、米軍の戦力や戦況の判断の過小評価につながった。太平洋戦争敗因のひとつである。



- 陸軍幼年学校で後の軍中枢部の軍人たちが、その幼年期にドイツ語を学んだことは、ドイツへのあこがれ、ドイツ信仰となり後の日独伊三国同盟へつながったという見方をしている。言語の選択は軍の内部に学閥のような言語別グループを形成する。

- 陸軍へは旧制中学で英語を学んだ者も入隊したが、彼らは出世コースからは外れており、彼らのもつ英語力が戦況判断や戦略決定に影響を与えることはなかった。

- 僕は中野区民であることから、陸軍中野学校に関する解説が興味深かった。英語教育を軽視した誤りに気付いた陸軍は、スパイ養成所として設立した陸軍中野学校で英語教育に力を入れる。しかし、それは1943年のことであり手遅れだった。設立1年目には英語の授業が行われたが、戦況悪化のため2年目からはゲリラ戦をするための教育に切り替えられた。2年目に入学したのが第二次世界大戦終結から29年の時を経て、フィリピン・ルバング島から日本へ帰還を果たした若き日の小野田寛郎さんである。

- 満州事変以後、一般の学校で使われていた教科書は軍事色が濃い内容になったが、海軍系、陸軍系の士官学校で使われていた教科書は実用英語が重視され、文学的色彩の強いもの、教養的な内容が多いという逆転現象が生じていた。

- 軍需工場で働く少年工員たちにも英語が教育されていた。技術を学ぶためには工業英語が必要だった。

- 大東亜共栄圏という構想を実現するために、南方諸国に侵攻した日本軍は、言語別に簡単な会話集を作って使用していた。そこに書かれている例文は「抵抗すると撃つぞ。」、「食糧を持ってこい。」、「米兵を見かけたら報告せよ。」、「俺が恐いか?」、「そこに穴を掘れ!」など「実用的」なものだった。

- ポツダム宣言の受諾時に重大な翻訳ミスがあった。日本はポツダム宣言を「黙殺する」と書いたが、「拒否する」という意味の英語に誤訳されてしまった。そのために連合国は徹底的に日本を叩くという決定をし、広島と長崎への原爆投下に至った。誤訳がなければ原爆投下はなかったかもしれないと本書が参考にしている本には書かれている。(僕は、どちらにせよ原爆は投下されたと思っているが。)


印象に残ったのはこれらのことである。いまクローズアップされている英語教育の問題、英語民間試験の問題は、もともと財界の要請を政府が受け、文部科学省が計画、実施しようとしていることである。財界の要請とは「使える英語」、「世界に通用するグローバル人材」ということであり、リスニングに加えて小学校3年生以降に英会話を学ばせるというものだ。しかし、これを満足に教えられる教師は不足しており、実施する段階でさまざまな問題が生じている。

現在の児童や生徒の状況、学校や教師の状況に対して、財界や文部科学省の新学習指導要領が設定した条件が高度過ぎるためだと僕は考えている。そして複数の民間業者を使うことによる不公平・不公正、あまりにも拙速な導入スケジュールにも大きな問題をはらんでいる。被害をこうむるのは子どもたち、受験生であり、中期・長期的には国の経済活動にも被害が生じるのだと思う。

実用英語、使える英語を習得するという大枠は正しい、けれどもそれを実施する段階で、さまざまな無理を強いることが行われてきており、さらにそのペースが加速している。


本書では英語だけでなく外国語教育全般の歴史を解説している。ビジネスや科学、技術推進のために使えるようにするのが目標ならば実用に耐える英語力をつけるための教育に力を入れるのは当然だろう。しかし、それをすべての児童と生徒に学ばせるべきかという点では、議論の余地があると思う。

また、国の安全保障という観点で考えるのであれば英語だけでなく他の外国語も重視すべきであろう。現在の防衛大学校では英語、ドイツ語、フランス語、ロシア語、中国語、朝鮮語、アラビア語、ポルトガル語の8カ国語を開講しているが、必修は英語だけで、英語以外は1年生が選択必修、2年生が選択に過ぎない。3学年以降は専門教育に則した専門英語、安全保障や防衛学に関わる軍事英語などの発展的な科目を学ぶとしている。また海外からの訪問学生のエスコート、海外士官学校への覇権、国際士官候補生会議などの機会で実践的な英語運用力が試されることもある。実際、日米合同軍事演習などの使用言語も英語であり、意思疎通にはアメリカ軍の軍事用語の理解が不可欠である。

そしてもし、平和を希求する国際人としてのグローバル人材を求めるのであれば、英語一辺倒の外国語教育は間違っている。EU諸国では「複言語主義」がとられている。これは本書の最後にも紹介されているが、EU加盟国には学校で2つ以上の外国語の学習機会を与えることを義務づけている。このことは前回紹介した「英語教育の危機 (ちくま新書):鳥飼玖美子」の最終章でも著者の鳥飼先生が強調されており、真の国際人を目指すための要件として提案されている。日本にとってアジア諸国の言語習得は非常に大切である。

英語教育さえ満足にできないのに、2つ以上の外国語の習得なんて夢のまた夢というのが、大方の日本人の感覚だろう。幸い僕は英語とフランス語は会話も含めて習得したが、この年齢になって、あと1言語増やすのは並大抵の努力では実現しない。次に学ぶのなら、ロシア語か中国語、ドイツ語のうちから選ぶと思う。ロシア語と中国語は少しだけかじったことがある。(参考:フランス語関連の記事を検索

国の行く末を左右する小学校から大学での外国語教育は、歴史を通じて学習した事例、そして目標をどの範囲に設定するか、そして何より重要なのは、どのようにすれば現実的に実現可能なのかを、じゅうぶん時間をかけて考えるべき問題だと思うのだ。


最後に、本書の「はじめに」と「最後のまとめ」を記載しておこう。著者のお考え、本書執筆の動機がよくわかるはずだ。

はじめに

明治以降の約150年に及ぶ日本の歴史は、1945(昭和20)年の敗戦を境に、強大な陸海軍力で戦争に明け暮れていた前半期と、日本国憲法の歯止めによって平和を謳歌できた後半期に区分できる。しかし近年、戦後日本の枠組みを大きく変えうる集団的自衛権の行使容認や改憲論などの動きが強まっている。

そうした事情を背景に、本書では、これまであまり論じられてこなかった日本軍における英語教育の知られざる実態を明らかにしたい。なぜ、日本軍の英語教育なのか。そこに、近代日本の外国語教育が抱えてきた問題が端的に表れているからである。

明治政府は欧米の先進的な技術や文化を摂取することで急速な資本主義化、近代化を成し遂げたが、それらはすべて外国語を介して行われた。そのため、初期の大学・高等教育機関は外国語(特に英語)で授業が行われ、旧制高校ではカリキュラムの3分の1以上の時間が外国語教育に充てられていた。

中央集権的な近代軍隊の創設においても、オランダ、フランス、イギリス、アメリカ、ドイツなどの兵書を翻訳し、軍事顧問を招くなどして最先端の軍制や軍事理論を取り入れた。そこからわずか30~40年ほどで日清・日露戦争に勝利するまでになったのは、西洋の軍事学や軍事技術の摂取に成功し、欧米列強と軍事的・外交的に連携できたことが大きい。この一連の過程でも外国語は必要不可欠だった。

人間が外国語を学ぶ究極の目的は、言語も文化も異なる他者との意思疎通を図り、平和的に共存するためであろう。だが、歴史を振り返るならば外国語教育は軍の近代化と一体のものとなり、日本の帝国主義への道のりを下支えしたことも事実である。

一方で、その終焉をもたらした一因もまた外国語教育にあったのではないか。アジア・太平洋戦争期に、東条英機ら幼年学校出身の陸軍中枢部は英語をほとんど学んでおらず、アメリカやイギリスの実力や作戦を正しく認識しないまま無謀な戦争指導を行なった。敵を知るために日本語教育を徹底したアメリカ軍とは対極的に、日本陸海軍の士官養成学校では英語教育を大幅に縮減し、語学将兵の育成機関も創設しなかった。こうして、相手をリアルに認識できないまま、敗戦に至った。

その結果、日本人の犠牲者は民間人を含めて310万人、うち軍人軍属は230万人という悲惨な事態を招き、交戦国や周辺アジア諸国の人々にも膨大な犠牲を強いることになった。

なぜ的確な対外認識や情勢判断が行われなかったかについては、インテリジェンス(情報活動)や組織論などの観点から、すでに多くの優れた先行研究があり、いまも研究が続けられている。しかしながら、米英軽視につながった根底にある日本軍の英語教育についての研究は、ほとんどないと言わざるをえない。

いったい軍内部でどのような外国語教育が行われてきたのか、そこにいかなる問題があったのか、また軍の指導者らの英語能力と対外認識はどの程度だったのかといった個別の話となると、ほとんどが闇の中である。

さらに、第二次世界大戦末期にはアメリカ軍および日本海軍の中に、すでに戦後の復興を見越した英語教育の方針が芽生えていた。そうした戦前と戦後の連続性にも目を向ける必要があろう。

しかしながら、実態を詳らかにするには、軍関係の資料の破棄や散逸が甚だしい状況を乗り越えなければならず、また外国語教育史研究のノウハウが欠かせない。そこで本書では、筆者が30年以上研究してきた英語教育史の視点から、英語を中心とする日本陸海軍の外国語教育について、教育課程、教授法、教材、人物誌などの分析を交えながら考察を試みる。

執筆にあたっては、先行研究はもとより、筆者が収集してきた資料、防衛研究所、靖国偕行文庫、昭和館、海上自衛隊の術科学学校などに所蔵されている一次資料、学校沿革史資料、教科書、同窓会資料などを活用し、さらには当時の教官・生徒だった約50名に直接取材することで、史実を正確に再現することに努めた。

なお、戦争と英語教育の関係をトータルに明らかにするためには、次の3つの領域の研究が必要になる。

(1) 英語教育関係者が、戦争と英語教育との関わりについてどんな言動をとったか。
(2) 一般の学校教育の現場で、英語教育が若者をどう戦争に駆り立てたか。
(3) 陸海軍での英語教育の実態、目的、効果はどうだったのか。

このうち(1)については、川澄哲夫が太平洋戦争期における英語教育関係者などの発言を『資料日本英学史2 英語教育論争史』(大修館書店、1978)に収録し、宮崎芳三も『太平洋戦争と英文学者』(研究社出版、1999)で検証している。(2)については、筆者が本書の姉妹編である『英語教科書は<戦争>をどう教えてきたか』(研究社2015)を刊行した。本書は残された(3)の課題に取り組んだものである。

本書は、まず序章で日本軍の外国語教育の問題点をアメリカ軍の日本語教育との対比において考察し、英語教育の不備が敗戦に与えた影響について問題提起する。

第1章では、幕末・明治初期の近代陸海軍の創設課程での西洋列強との関わりと、そこでの外国語教育の役割を見ていく。

第2章では、日清・日露戦争からアジア・太平洋戦争の敗戦に至るまでの日本軍の外国語教育の変遷を通史的に概観しながら、その特徴と問題点を考察する。

第3章では、アジア・太平洋戦争期の陸海軍諸学校における英語教育に焦点を絞り、その実態と欠陥について考える。

第4章では、敗戦占領期における英語教育の戦略的な位置づけの変化を日米双方の視点から論じ、旧日本軍の語学的遺産および再軍備を含む戦前と戦後との連続性について考察し、最後に現代への教訓を提示する。

未来を誤らないためには、過去との真剣な対話が必要である。悲惨な戦争を繰り返さないためには、近代日本が抱えてきた問題としっかり向きあわなければならない。そのためにも本書では戦前の日本軍がいかなる外国語教育を行い、世界と関わってきたか、そこにいかなる問題があったのかを「英語」という切り口で明らかにしたい。


本書最後のまとめ

最後に、日本軍の外国語教育の歴史から、いま私たちが何を学ぶべきなのかを考えてみたい。

平成の今日、日本の政府や経済界は「世界と戦える」グローバル人材育成という旗印のもとに「スーパーグローバルハイスクール」や「スーパーグローバル大学」に補助金を交付し、英語が使えるエリート作りに特化した英語教育政策を進めている。

しかし、日本のような英語を日常的に使わない環境では、一般の学校教育で英語のエキスパートを育成することは至難の業である。すでに見たように、戦前の超エリート集団だった陸軍士官学校や海軍兵学校でさえ、通常の授業によって実用的な英語を使いこなせる将校を育成することは困難だった。そこでの外国語教育には、実用的な意義だけでなく、教養的な意義づけをされていたのである。

他方、アメリカ軍は陸軍士官学校や海軍兵学校とは別組織の日本語学校を設立し、語学的才能に恵まれた人材を集めて、少人数による集中訓練で、軍事目的に特化した語学教育を行なった。実用的・合理的なプラグマティズムを背景にしたアメリカらしいやり方である。

そうした歴史から学ぶならば、高度な英語力を持つグローバル企業戦士の育成を一般の学校に求めるべきではない。限られたエリートへの重点投資は全員に学びを保証すべき「国民教育」としての戦後教育システムとは相容れず、多くの子どもたちのニーズともあわないからである。企業が求める人材育成は、本来的には企業の責務である。

外国語を英語に限定する目下の政策も危険である。政府は、大学の授業を英語で行えば補助金を出すといった自己植民地化のような政策を続けるなど、小学校から大学まで、世界で例のないほどの英語一辺倒主義を推進している。

2015(平成27)年度大学入試センター試験の外国語科目の受験者52万4201人の内訳は次のようなものであった。

英語  52万3354人(99.8%)
中国語 427人(0.081%)
韓国語 143人(0.027%)
フランス語 142人(0.027%)
ドイツ語 135人(0.026%)

本書で見てきたように、外国語学習は対外観や世界観にまで影響を与える。言語はその背景にある文化と切り離しがたく結びついており、外国語を学ぶことは相手国の文化への興味や共感を促進することと密接につながっている。英語だけを学び続ければニューヨークやカリフォルニアがどこにあるかを地図で示すことはできても、隣国である韓国の大邱(テグ)や光州(クワンジュ)の場所を知らないままになる可能性がある。これで本当に「グローバル人材」を育成できるのだろうか。

軍隊の場合はなおさら変化に富んだ世界情勢に機敏に対応した戦略が求められ、外国語教育もそれに対応して変化を迫られる。ところが、日本の陸軍は太平洋戦争でアメリカやイギリスと直接対峙するようになってもなお、最大の比重をロシア語に、次いでドイツ語に置いていた。軍の戦略に外国語教育が対応していなかったのである。一方、海軍はいわば英語一辺倒だった。それは逆に言えば、ほかの外国語に関心が薄かったということでもある。とりわけ中国語などのアジア系言語への備えは陸海軍ともの不十分だった。

今日の日本政府の英語一辺倒主義的な外国語教育政策は、あたかも戦前の陸海軍の外国語教育が固定化されすぎた結果、情勢の転換に対応できなかった事態を思い起こされる。また、周辺のアジア諸言語への関心の薄さも陸海軍時代と変らない。

英語は決して「世界共通語」などではない。世界で約72億人の人口のうち、約60億人は英語を使えない。世界には6000を超す言語と、それらを話す多様な民族が共生している。そうした多様性に対応した外国語教育の機会を保障することこそが、世界を正しく認識し、世界の人々と平和的に共存するための条件ではないだろうか。

アメリカは2001年の9.11同時多発テロの一因がイスラム圏などの言語や文化への無理解であったことを反省し、2006年に「国家安全保障言語構想」(National Security Language Initiative)を策定した。そこでは、学校での外国語教育を強化し、それまで手薄だったアラビア語、中国語、ロシア語、ヒンディー語、ペルシャ語などを重点言語に指定している。

二度と戦争を起こさないという誓いのもとに発足したヨーロッパ連合(EU)では、28カ国が加盟し、24の言葉が公用語となっている(2015年3月現在)欧州評議会の言語政策は複言語主義で、加盟国には学校で2つ以上の外国語の学習機会を与えることを義務づけている。これは母語だけの閉ざされた世界を脱却し、異なる言語と文化を知ることで世界観を広げ、異質な他者に対する寛容的で友好的な地球市民を育成するためである。偏狭なナショナリズムを脱却し、相互理解を深めることこそが、真の安全保障だという考え方なのである。

日本においても、英語のみならず、多様な言語と文化を学ぶ機会を充実させる必要がある。世界の諸民族、とりわけ近隣諸国との友好・親善関係を保ち、戦争を起こさないことこそが、戦前の歴史から学ぶべき最大の教訓なのである。

日本は無条件降伏と東西冷戦体制化で、アメリカに従属する体制となった。本書で見てきたように、そこにはアメリカの軍事戦略とともに、文化工作としてのソフト・パワー戦略があった。英語教育振興政策もその一環であり、日本人を親米国民へと育てるために貢献した。

英語一辺倒主義に加えて、日本はインテリジェンスの面でもまたアメリカに大きく依存している。例えば、ブッシュ政権の対イラク戦争(2003)では、戦争の口実だった大量破壊兵器など存在しなかったにもかかわらず、日本政府(小泉政権)はアメリカ情報を信じてイラク攻撃に賛同し、自衛隊をイラクに派遣した。

「大本営発表」も過去のものではない。2011年3月11日の東京電力福島第一原子力発電所での炉心溶融事故の際、日本の政府、マスコミ、原子力ムラの御用学者らは「大本営発表」を流し続けた。真実を伝えず楽観的な情報を流した結果、子どもたちを含む多くの住民が放射能に被曝させられた。

このとき、真実を知る唯一の手段は海外のメディアにアクセスすることだった。日本では隠されている真実が、海外では報じられていたからである。例えばドイツ気象局は日本列島付近での放射性物質の拡散予測をインターネットで流し続けていた。。外国語の必要性を痛感させる事例である。

このように戦前の70余年に及ぶ日本陸海軍の外国語教育は、戦後の私たち自身を見つめ直し、未来のあり方を考える上で、苦くも貴重な教訓を提供している。そこから謙虚に学びたい。


関連記事:

英語教育の危機 (ちくま新書):鳥飼玖美子
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英語の授業は英語で - 新学習指導要領案
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次期学習指導要領(高等学校、数学、情報)について思うこと
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序章 英語教育の敗戦

- 軍隊と外国語教育
- 帝国国防方針と仮想敵国
- 外国語教育の問題点
- 日本語要因要請計画
- アメリカ海軍の日本語教育
- 日系二世と陸軍情報部語学学校
- 海賊版の作成と兵士向け日本語教材
- 日本語教育とインテリジェンスの結合
- 露呈した英語教育の欠陥
- 近代日本の縮図としての日本軍

第1章 近代陸海軍の創設と外国語

幕末の軍制改革と西洋列強
- 海防と外国語
- オランダ海軍による伝習風景
- 外国語教育の拡大
- 明治政府に先んじていた紀州藩
- 幕末の軍近代化と外国語

明治政府による日本軍の近代化
- 近代陸海軍の創設
- 士官養成制度の整備
- 陸軍兵学寮のフランス式教育
- ドイツ学の振興
- 英学本位制をとった文部省
- 海軍士官教育と横須賀学舎
- 海軍兵学寮の教師たち
- 独自教材でも教えた海軍兵学寮
- 西洋モデルの異色から自立へ

第2章 日本軍の外国語教育はどう変遷したか

日清・日露戦争から第一次世界大戦へ
- 日清戦争と朝鮮語
- 見下された中国語
- 陸軍士官学校で英語教育開始
- 義和団事件と外国語学奨励規則
- 情報戦と英語
- 幼年学校の矛盾した主張
- 幼年学校の恵まれた学習環境
- 語学と出世
- 海軍予備校の英語力
- 「受験英語」化する日本軍の語学
- 海軍における英語教育の目的と内容
- 堀英四郎の英語指導
- 「英学」の時代から「英語教育」の時代へ

軍縮期からアジア・太平洋戦争まで
- 海軍教官としての芥川龍之介
- 軍縮時代の外国語教育
- 陸軍士官学校予科の新設
- 英語教授法の転機
- 三国同盟と外国語教育
- 南方侵攻と大東亜語学
- 大東亜共栄圏の英語

第3章 アジア・太平洋戦争期の英語教育

昭和陸軍の英語教育
- 幼年学校の復活と英語
- 幼年学校の優れた英語教官
- 独自の英語教科書を作成
- 生徒たちの回想
- 日中戦争後に急拡大した士官養成
- 士官学校予科の入試問題
- 段々と薄くなる英語教科書
- 陸軍中野学校の外国語教育
- 少年工員への英語教育
- 旧制高校のような授業
- 江本茂夫とオーラル・メソッド
- 英語の達人を冷遇した陸軍
- 陸軍大学校の軍事英語と対米認識
- 幼年学校の外国語教育への批判
- 東京裁判での断罪

昭和海軍の英語教育
- 英語に特化した海軍兵学校
- 文学色が強い英語教材
- イングロットの功績
- 予科練でも英語を教えた
- 予科練用の英語の教科書
- 英語重視を守った海軍兵学校
- 戦時の英語教育

第4章 戦後日本の再建と英語

英語教育の振興策と親米国民の育成
- 「黙殺」の英訳で歴史が変わった
- 対日占領政策と英語教育の振興
- 英語ブームとアメリカへのあこがれ
- 親米日本人の育成とアメリカのソフト・パワー

旧日本軍の語学的遺産
- 「温存」されたエリートたち
- 体操の号令まで英語の海軍兵学校予科
- 兵学校予科の授業風景
- 焼却をまぬがれた教科書と試験用紙
- 海軍兵学校本科の英語授業
- 幼年学校で英語教育を継続

戦前と戦後の連続性
- 戦後復興を支えたエリート集団
- 再軍備と旧軍人たち
- 歴史から何を学ぶか

主要参考文献
おわりに
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