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映画『花筐/HANAGATAMI(2017)』大林宣彦監督

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先日NHKのBS1で放送された『最後の講義「映画作家 大林宣彦」』を見た。早稲田大学で若者たちを相手行なった講義で、戦前戦後のアメリカやフランス映画、日本の映画のお話、それらを撮った名監督たちや大林さん自身がどのような想いで仕事をされていたか、そしてこれからの映画を担う若者たちへのメッセージをお話になっていた。

2016年に肺がんの宣告を受けて以来、闘病しながら映画を撮り続けている。見るからに衰えてしまったお姿を拝見し、痛々しかった。胸をうつ話、はっと気付かされる話の連続で放送時間の3時間は短く感じた。大林さんのあまりの説得力に会場の若者たちの唖然としながらも真剣に耳を傾けていた姿が印象的だった。諭すように話ができる大人は今ではほとんどいない。

この番組で紹介されていた映画『花筐/HANAGATAMI(2017)』をPrime Videoで見てみた。僕は1990年代から大林監督作品のファンである。代表作の「尾道三部作」、「新・尾道三部作」は、もちろんすべて見ているし、その中では『ふたり(1991)』と『あした(1995)』がお勧め。


『花筐/HANAGATAMI(2017)』は大林監督の渾身の作、佐賀県唐津を舞台に繰り広げられる若い男女の物語だ。日中戦争に突入していく不穏な時代背景の中、どう生きるか、何をすべきかを考える若者たち。肺の病におかされた少女とその姉を中心に据え、男女の若者が繰り広げる恋と友情、葛藤、対立を描いた作品だ。

映画『花筐/HANAGATAMI(2017)』オフィシャルサイト
http://hanagatami-movie.jp/

花筐/HANAGATAMI予告編 DVD/Blu-ray2019/3/8発売



映像表現と音楽がとにかく美しい。「唐津くんち」の祭りの光景が見事に活かされ、物語の「静」と祭りの「動」が調和していた。(参考:「佐賀県唐津市で注目のお祭り5選!」)色彩と光の魔術に魅了され、時折映されるモノクロの映像にリアリズムを感じる。大林監督らしさが現代の映像技術の助けを借りてパワーアップしていた。

幻想的に映される景色の中を日本兵が行進していく。戦争そのもの、戦闘そのものは描かず、亡霊のように忍び寄る歴史の暗い影を映すことで「もう戦争は絶対にしてはならない。」というメッセージを伝えている。

物語のネタばれはしたくないので、映画公開後のインタビューと第33回高崎映画祭の受賞式の映像を紹介しておく。特に受賞式での大林監督のお話、この映画にこめた想いは全部聞いてほしい。

『花筐/HANAGATAMI』大林宣彦監督、窪塚俊介、矢作穂香、山崎紘菜、門脇麦、常盤貴子、岡本太陽インタビュー


【大林宣彦のメッセージ】余命三ヶ月・大林監督「あと30年映画を作る。それには理由がある」第33回高崎映画祭



興行的にヒットする映画ではない。しかし日本の映画史に残る名作になると思う。ぜひご覧いただきたい。ブルーレイ、DVDは3月に発売されたばかりだ。

映画『花筐/HANAGATAMI(2017)』
[Blu-ray, DVD]、[Prime Video]、[YouTubeムービー]


映画『花筐/HANAGATAMI(2017)』関連動画: YouTubeで検索
大林監督映画、動画: YouTubeで検索 Prime Videoで検索 Amazonで検索

大林監督はなぜ唐津を舞台にしたのだろうか?これについてはNHKのラジオ深夜便「シネマと歩んだ人生」でお話になっている。(録音を聴いてみる


映画では小説が3つ取り上げられている。1冊はこの映画の原作だ。作家檀一雄(1912-1976)の処女短編集である。それぞれこの物語のシーン、背景を象徴している。(檀一雄は女優の檀ふみさんのお父さんである。)








映画をご覧になり、小説も読みたくなった方は、こちらからどうぞ。

花筐:檀一雄」(Kindle版


ポールとヴィルジニー:サン・ピエール」(Kindle版
女生徒:太宰治」(Kindle版
 


大林監督は、先輩の黒澤明監督からの遺言を託されている。こちらの動画で黒澤監督からのメッセージをお聞きいただきたい。

大林宣彦監督が伝えた巨匠・黒澤明の"遺言" / Nobuhiko Obayashi conveys the great filmmaker Akira Kurosawa’s last message.



関連ページ:

大林宣彦監督「戦争体験伝えたい」映画パリ『花筐』上映で常盤貴子さんら挨拶(2019年2月28日)
https://tokuhain.arukikata.co.jp/paris/2019/02/post_546.html

末期がんの大林監督、原爆を描く新作撮影 故郷でロケ(2018年7月8日)
https://www.asahi.com/articles/ASL714QKDL71PITB00F.html

大林宣彦監督、余命3カ月宣告から2年の決意を告白
「あと30本映画を撮る」(2019年03月25日)
https://news.nifty.com/article/entame/showbizd/12268-153902/

NHK BS1『最後の講義「大林宣彦」』 3時間完全版が5月5日深夜放送
http://amass.jp/104414/

「最後の講義 大林宣彦編」80才の映画作家の情熱、かく語りき。“映像の魔術師”が若者たちに向けた、人生のラストメッセージとは?
https://www.tvguide.or.jp/column/cyokusoubin/20180310/01_cyokusoubin.html

尾道ロケ地巡り
http://gure-tinu-hitori.sakura.ne.jp/roketi_meguri_top.htm

大林宣彦映画 尾道ロケ地巡り (広島県尾道市)
http://gourmet-travelogue.doorblog.jp/archives/44109472.html

つばき、時跳び: 梶尾真治
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9c374a6866bf7270c986b07bf2fac800


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一般相対性理論入門 ブラックホール探査: テイラー、ホイーラー

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一般相対性理論入門 ブラックホール探査: テイラー、ホイーラー

内容紹介:
本書『ブラックホール探査』は一般相対論とブラックホールをかき分けて直接的に速く突き進む。たくさんのトピックスを含むが、そのすべてが唯一のゴールに向かっている。
ゴール:読者に力を!地球やブラックホール付近の曲がった時空についての質問に答えられるようになり、それらの計算ができるような手段を我々は提供する。トピックスは、微積分と特殊相対論の初歩的な知識から始められ、積極的に関われるものに限った。一般相対論で展開される手段はあなたが探求を続けようとするときに役立つ。

2004年12月15日刊行、347ページ。
(原書は2000年7月12日刊行、352ページ。原書第2版2016年11月6日刊行、400ページ)

著者について:
エドウィン・F・テイラー: June 22, 1931 -
Wikipedia
Homepage
Movie1 Movie2

ジョン・アーチボルド・ホイーラー: July 9, 1911 – April 13, 2008
ウィキペディア Wikipedia
Movie1 Movie2

訳者について:
牧野伸義
1966年生まれ。1994年、広島大学大学院理学研究科博士課程修了。現在、大分工業高等専門学校一般科理系教授。理学博士。


理数系書籍のレビュー記事は本書で410冊目。

4月10に「史上初!ブラックホールを撮影し、その存在を証明」として画像が公開されたわけだが、世間の関心は3日ともたなかった。しかし、科学ファンの関心は2週間くらい続いたと思う。

この画像はほぼ円形のドーナツだったのを見て、不思議に思ったことがある。物質はブラックホールを中心とする平面上を回転するのはわかるが、光子はどうなのだろう?平面上を回転するのか、それとも立体的に回転するのか?

どちらにしても、回転軸のちょうど真上から見た形の円が撮影されたというのが偶然なのか、必然なのかがよく理解できていなかった。しかし、この動画を見て何を見たのかを納得したのだ。

ブラックホールシャドウのメカニズム解説映像 / Photon paths around a black hole


そして黒い部分の半径(斜影半径はブラックホール本体半径(シュバルツシルト半径)のおよそ2.6倍だということもこの動画で理解した。その後「EMANの物理学」をお書きになっている広江さんが、なぜそうなるのかを「ブラックホールの見え方」のページのように計算され、より理解が深まった。天文学の最前線のことだと思っていたいたことが大学の学部レベルの数学で解けてしまうのをとても面白いと思った。「およそ2.6倍」とは「3√3/2倍」のことだったのだ。

そのような計算をされた広江さんが、今回紹介する「一般相対性理論入門 ブラックホール探査: テイラー、ホイーラー」をお買い求めになったのをツイッターで知り、つられて買ってしまったというのが本書を読むことになったきっかけである。

表紙には土星が描かれているが、その上に描かれているのは土星の手前にブラックホールがくると、土星はゆがんでこのように見えるというCGである。映画『インターステラー(2014)』で描かれたブラックホールのCGとは別物だ。


本書は次の点で、通常の一般相対性理論の教科書とはまったく違うユニークな専門書なのだ。次のような特長がある。

- テンソルを使ったリーマン幾何学はまったく解説されていない。
- それどころかアインシュタイン方程式(重力場の方程式)も書かれていない。
- 大学3年程度の数学の知識と特殊相対性理論、計量に関する知識があれば理解できる。
- 数式をふんだんに使って計算を示す専門書だが、語り口はポピュラーサイエンス本のようにくだけている。
- 解析的に解けない部分はパソコンで計算し、グラフ化、視覚化して直観的に理解できるようにしている。
- 原書が書かれた2000年頃のパソコンでグラフ化、視覚化しているので、シンプルなイメージで見ることができる。
- 章やプロジェクトがひとつのまとまったテーマで構成されている。
- アインシュタイン方程式から導出されるブラックホールの「計量」を天下りに与え、解説と計算をするスタイル。
- 各テーマは独立しているので、直前までの章を読んでいなくても学ぶことができる。
- 各テーマに関して、必要に応じてニュートン力学的視点、特殊相対論的視点、一般相対論的視点を比較しながら解説している。
- ニュートン力学的な考え方にとらわれがちな「生徒」を設定し、問答形式で議論を進めるので理解が深まる。この生徒はいささか言葉遣いが乱暴で、物覚えが悪い。
- 考察されるのは主にシュワルツシルト・ブラックホールとカー・ブラックホールである。
- カー・ブラックホールのエルゴ球やその物理について詳しく解説されている。
- ホーキング放射などブラックホールの量子力学的なことはコラム程度の記述にとどめてある。
- ブラックホールに自由落下する視点、外部の球核に留まる視点、無限遠から観測する視点の3つの視点から考察し、計算を示すので理解が深まる。
- ブラックホールの地平面の中でのことも解説と計算で示している。特にシュワルツシルト・ブラックホールの中に入るとどうなって死に至るかが詳しく書かれている。
- ブラックホール周辺の天体(降着円盤やジェット)などに関しては、ほとんど解説されていない。
- 「ブラックホールと時空の歪み: キップ・S. ソーン」の本と相性がよい。この本の記述はたびたび引用される。
- 解説とグラフや図版が豊富なので、数式がまったく理解できなくても楽しめ、それなりに理解することができる。
- カー・ブラックホールからエネルギーを取り出すしくみを理解することができる。


章立ては次のとおり。

第1章:高速の世界
プロジェクトA (GPS全地球測位システム)
第2章:曲がった世界
プロジェクトB ブラックホールの内側
第3章:落下中の世界
プロジェクトC 水星の近日点移動
第4章:軌道上の世界
プロジェクトD アインシュタインリング
第5章:見える世界
プロジェクトE 太陽付近で遅くなる光
プロジェクトF 自転するブラックホール
プロジェクトG フリードマン宇宙

個別のテーマに関して解説すると、ブログ記事にはとても書ききれないので、印象に残った図版やグラフを紹介しておこう。

シュワルツシルト・ブラックホールに飛び込む光線の軌道


白丸の観測者から見える光線がたどってきた軌道(2重にだぶることがある。)


シュワルツシルト・ブラックホールに飛び込む天体の軌道の種類。ニュートン力学のケプラー軌道とは異なる。


シュワルツシルト・ブラックホールにおいて、ニュートン力学と一般相対論のポテンシャルの違いを示したグラフ


シュワルツシルト・ブラックホールに自然落下する観測者と球核に留まる観測者から見える天球の範囲の違い


シュワルツシルト・ブラックホールに飛び込む観測者が地平面から入り、死に至るまでに経験すること
拡大


高速回転するカー・ブラックホールに自然落下させた石がたどる軌跡


シュワルツシルト・ブラックホールとカー・ブラックホールに自然落下する物体の落下速度の比較



ブラックホールの周りの時空、物体や光の運動の有り様を想像しようすると、身についてしまったニュートン力学の感覚、思考経験がものすごく邪魔になる上に、ニュートン力学を無視して考えのがとても難しいことを実感することができる。見えるままの姿のものが、そこに存在しているわけではないことを肝に銘じておきたい。

たとえば、回転するカー・ブラックホールの周りの時空は引きずられて渦を巻くのだが、周囲の光線も時空と一緒に引きずられてリングのような形になってしまう。これは先月公表されたリングの画像とは違う状況だ。カー・ブラックホールの周りを回る光線は地球には届かないからだ。また、回転するカー・ブラックホールに垂直に自由落下する石の軌跡。引きずられ渦巻いている時空の中で垂直落下しているから、石の角運動量はゼロのままである。


翻訳のもとになった原書は初版の第6冊。その後2016年に第2版が刊行され、原書のページ数は352ページから400ページと大幅に増えた。第2版は残念ながら入手困難だ。Kindle版が発売されるのを願うばかりである。

Exploring Black Holes: Introduction to General Relativity (1st Edition)
Exploring Black Holes: Introduction to General Relativity (2nd Edition)
 


参考:ブラックホールの種類

シュワルツシルト解(電荷を持たず、角運動量も持たない解):解説
ライスナー・ノルドシュトロム解(電荷を持ち、角運動量を持たない解):解説
カー解(電荷を持たず、角運動量を持つ解):解説
カー・ニューマン解(電荷を持ち、角運動量も持つ解):解説
ワイル解(球対称ではなく、軸対称の解。回転はしていない。):解説
冨松・佐藤解(ワイル解の回転バージョン。特異点が事象の地平面の外に剥き出しになるという特徴あり。T-S解、トミマツ・サトウ解とも表記される。):論文

参考:「ブラックホールの種類


関連記事:

ブラックホールと時空の歪み: キップ・S. ソーン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/76795b03e7dc89cd08dac67dc25b73ab

重力理論 Gravitation-古典力学から相対性理論まで、時空の幾何学から宇宙の構造へ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f838b8f6c2554000933187df89e08013

重力(上)(下) アインシュタインの一般相対性理論入門: ジェームズ・B・ハートル
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c195a49914a852b1c73049bb7b9743e0

一般相対性理論に挑戦しよう!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ea7ad9292ce01ad4abbbc8c98f3303d0

趣味で相対論(EMANの物理学):感想
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5fe7d774a955f3bb9d8270f6113e453f

ブラックホールと時空の方程式:15歳からの一般相対論:小林晋平
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f4401f2ce79451070b7b9c089f304315

発売情報:一般相対性理論を一歩一歩数式で理解する: 石井俊全
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1699a1c22477c269c68c02091d0ca049

史上初!ブラックホールを撮影し、その存在を証明
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a3bdd0676cf497a9731a729d3a0da5a4

巨大ブラックホールの謎 宇宙最大の「時空の穴」に迫る: 本間希樹
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c847e0b9662e20720b9e6acf5cd4f370

ゼロからわかるブラックホール: 大須賀健
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d3f08c2ddb0f6168b502dac4a70f3a7e

ホーキング、宇宙を語る:スティーヴン・W. ホーキング
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1e3dbc9b3d10d4a9b6518b6b32429e22

ホーキング、ブラックホールを語る:BBCリース講義
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6fb5c3578db1c26382c831983fd44e04

ブラックホール戦争:レオナルド・サスキンド
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c8ad22de70df7be8e51a066ca8354106


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一般相対性理論入門 ブラックホール探査: テイラー、ホイーラー


まえがき

第1章:高速の世界
1.1 特殊相対性理論
1.2 腕時計時間
1.3 固有距離3
1.4 極値的加齢の原理
1.5 特殊相対論におけるエネルギー
1.6 特殊相対論における運動量
1.7 相対論における質量
1.8 自由浮遊系は局所的である
1.9 観測者
1.10 まとめ
1.11 特殊相対論での読み物
1.12 引用文献
第1章の練習問題

第2章:曲がった世界
2.1 「距離」は幾何学を決める
2.2 基準系は二次的なもの
2.3 自由浮遊系
2.4 r 座標:換算円周
2.5 重力赤方偏移
2.6 長さの単位での質量
2.7 面内の衛星の運動
2.8 平坦時空の計量
2.9 曲がった時空のシュワルツシルト計量
2.10 シュワルツシルト計量の空間部分の描写
2.11 遠方時間
2.12 3 つの座標系
2.13 まとめ
2.14 参照文献
第2章の練習問題

プロジェクトA (GPS全地球測位システム)
A.1 GPS の動作
A.2 定常時計
A.3 時計速度
A.4 最後の計算
A.5 近似の正当化
A.6 まとめ
A.7 参照文献と謝辞

第3章:落下中の世界
3.1 極値的加齢の原理
3.2 反逆する石と従順なコンピュータ
3.3 曲がったシュワルツシルト幾何におけるエネルギー
3.4 無限遠で測ったエネルギー
3.5 無限遠で静止状態からの落下
3.6 球殻観測者が測るエネルギー
3.7 一線を越えてブラックホールに入る
3.8 まとめ
3.9 参照文献
第3章の練習問題

プロジェクトB ブラックホールの内側
B.1 飛び込み予定者へのインタビュー
B.2 雨粒系
B.3 地平線の内側では光よりも速いのか? 討論しよう
B.4 雨粒系の計量
B.5 地平線の内側への一方通行
B.6 光の半径方向の軌跡
B.7 慈悲深い終焉?
B.8 地平線の内側での粒子の軌跡
B.9 最後の眺め
B.10 追加プロジェクト
B.11 参照文献

第4章:軌道上の世界
4.1 ステップまたは軌道
4.2 極値的加齢から得られるエネルギーと角運動量
4.3 角運動量の性質
4.4 軌道の予測
4.5 「ナイフエッジ」軌道
4.6 ニュートン力学の有効ポテンシャル
4.7 シュワルツシュルト計量の有効ポテンシャル
4.8 まとめ
4.9 参照文献と謝辞
第4章の練習問題

プロジェクトC 水星の近日点移動
C.1 うれしい興奮191
C.2 線形調和振動子
C.3 水星の半径方向の調和振動:ニュートン
C.4 軌道上の水星の角速度:ニュートン
C.5 有効ポテンシャル:アインシュタイン
C.6 水星の半径方向の調和振動:アインシュタイン
C.7 軌道上の角速度:アインシュタイン
C.8 近日点移動の予言
C.9 観測との比較
C.10 内側の惑星の近日点移動
C.11 時間の標準のチェック
C.12 参照文献と謝辞

第5章:見える世界
5.1 光の運動
5.2 光の速さの意味I
5.3 軌道運動する光
5.4 光の速さの意味II
5.5 光の軌道の予想
5.6 光の有効ポテンシャル
5.7 光の運動のシュワルツシルト地図
5.8 シュワルツシルト地図vs 球殻の眺望
5.9 星を見上げると
5.10 絶えることのない疑問
5.11 落下者の見る眺め
5.12 まとめ
5.13 参照文献と資料提供
第5章の練習問題

プロジェクトD アインシュタインリング
D.1 「君は疑ってたのかい」
D.2 ニュートン的な光の湾曲
D.3 一般相対論的解析の準備
D.4 近似
D.5 一般相対論の結果
D.6 観測との比較
D.7 アインシュタインリングの計算
D.8 マイクロレンズ効果
D.9 アインシュタインドーナッツ
D.10 ダイヤモンドネックレス
D.11 参照文献と謝辞

プロジェクトE 太陽付近で遅くなる光
E.1 始めに
E.2 光路の近似
E.3 半径方向の区間
E.4 方位角軌道の区間
E.5 予測と観測の比較
E.6 参照文献と謝辞

プロジェクトF 自転するブラックホール
F.1 初めに
F.2 ブラックホールの角運動量
F.3 赤道面でのカー計量
F.4 最大角運動量のカー計量
F.5 定常限界
F.6 光の半径方向と接方向の運動
F.7 大量の結果、最大極限カーブラックホール
F.8 落下:「まっすぐに螺旋運動」
F.9 リングライダー
F.10 負のエネルギー:ペンローズ過程
F.11 クエーサーパワー
F.12 「実用的な」ペンローズ過程
F.13 挑戦
F.14 自転するブラックホールの基本的な文献
F.15 さらなる参照図書と謝辞

プロジェクトG フリードマン宇宙
G.1 生涯最大の誤り
G.2 2 次元の円上の1 次元の生き物
G.3 4 次元気球上の3 次元の我々
G.4 宇宙モデルの計量
G.5 閉じたフリードマン宇宙モデルの時間発展
G.6 開いた宇宙モデルと平坦な宇宙モデル
G.7 閉じた宇宙モデルの単純化
G.8 ビッグバンを見る
G.9 参照文献と謝辞

一般相対論の読み物
記号と用語集
記号
語句
訳者あとがき
公式集

一般相対論の世界を探る―重力波と数値相対論:柴田大

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一般相対論の世界を探る―重力波と数値相対論:柴田大

内容紹介:
星の合体、ブラックホールの誕生など、一般相対論の特徴が顕著に現れるさまざまな宇宙現象。重力波を使った現象の観測や数値シュミレーションによる理論的探究など、研究の最前線を鮮やかに描く。

2007年1月1日刊行、182ページ。


著者について:
柴田大: ホームページ: http://www2.yukawa.kyoto-u.ac.jp/~masaru.shibata/indexj.html
1966年東京で生まれる。東京工業大学理学部物理学科卒業。京都大学大学院理学研究科博士課程中退。大阪大学大学院理学研究科助手。東京大学大学院総合文化研究科助教授。博士(理学)。専門、宇宙物理学。特に数値相対論と重力波を研究している。


理数系書籍のレビュー記事は本書で411冊目。

4月10日の発表以来、僕はあいかわらずブラックホールの周りをまわっている。

前回の「一般相対性理論入門 ブラックホール探査: テイラー、ホイーラー」という本の紹介では、ブラックホールのシュワルツシルト解カー解など、理想化された条件のもとでブラックホール周辺での物体や光線の軌道を微積分を使って解析的に解いたり、(原書が刊行された当時、西暦2000年頃の)パソコンでシミュレーションする方法や結果が書かれていることをお伝えした。

しかし、ブラックホールおよび周辺に分布する物質の3次元空間内の複雑な運動を、より詳しくシミュレーションをするためにはスパコンが欠かせない。今回紹介するのは、スパコンを使ってブラックホールや中性子星の合体や重力崩壊によって発生する重力波の姿を再現する方法と結果を紹介する本である。

本書で取り上げられるような強重力場では、物質が運動することで周囲の時空も影響を受け、それが物質の運動に変化をもたらしてしまう。それは一般相対論の非線形性が強く現れる物理現象で、スパコンを使った数値相対論の計算でしか解くことができない。数値相対論は「ブラックホール・膨張宇宙・重力波 一般相対性理論の100年と展開:真貝寿明」で一般向けに解説がされているが、専門的に紹介する日本語書籍はおそらくこの本しかないと思う。


刊行されたのは2007年。この時点でもし僕が本書を見つけたとしても、おそらく買っていなかっただろう。1974年に間接的に証明されていたとはいえ、ブラックホールの存在は疑っていたし、まして生きているうちに直接検証されるなどとは思っていなかった。重力波にしてもほとんど信じていなかったし、ブラックホールの合体など夢の夢。SFを超えていると思っていたからだ。

ところが両方とも現実になってしまった。。。2015年9月に連星ブラックホールの合体による重力波が観測され翌年2月に発表されたときのことは「重力波の直接観測に成功!」という記事に書き、ブラックホールの周辺の光輪も撮影され、先月公開されたばかりだ。記事としては「史上初!ブラックホールを撮影し、その存在を証明」である。

まれにしかおこらないと考えられていたブラックホールどうしの合体も、検出施設のLIGOのツイッターアカウント(@LIGO)を見るかぎりではかなり頻繁に観測されているし、中性子星どうしの合体も観測されている。(参考記事:「重力波、中性子星で観測…重い元素の誕生解明」)さらに今月初めには、ブラックホールと中性子星の合体も観測されたようだ。(参考ページ:「中性子星とブラックホール=合体による重力波、初観測か」)最初はびっくりしていたのだが、あまりにも日常的になってしまうとどうも新鮮味に欠けてくる。(研究者ならワクワクし続けるのだろうけれども。)

このような一般相対論的事象を数値的に研究されているのが本書の著者である柴田先生である。僕は日本物理学会2016年度公開講座 「一般相対性理論と宇宙 -重力波研究の最前線-」(ブログ記事)を聴講し、柴田先生や本書のことを知った。この日おこなわれた3つの講演はすべてYouTubeから公開されている。柴田先生の講演動画はこちらである。

重力波の源 柴田大


この講演の最後のほうで紹介されるシミュレーション動画は、表紙の画像も含め本書で静止画としていくつか紹介されている。

太陽質量の1.35倍と1.65倍の質量をもつ中性子星が合体してブラックホールが誕生する様子(動画



本書の目次は次のとおり。

0 一般相対論と宇宙物理学
1 一般相対論的天体とこれまでの観測
2 重力波による天文学
3 重力波の理論
4 重力波源
5 一般相対論における初期値問題の定式化
6 数値相対論
7 コンピュータで探る一般相対論の世界

一般相対論的天体の種類(中性子星、ブラックホールなど)の解説やこれまでの観測について解説した後、重力波に関する理論的な解説を行う。スパコンで解くためにはアインシュタイン方程式から偏微分方程式をたてなければならない。シミュレーションしたい現象の種類に応じてモデルをたて、初期値(現象の始まりの状態)を設定し、立式をおこなう。そしてプログラミングするための注意点や工夫が解説される。

本書のおよその難易度がわかるように見開きで3か所ほどサンプルページを載せておこう。購入されるかどうかの検討材料としてお使いいただきたい。

重力波の理論を解説しているページ
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数値計算のための工夫、一般相対論的流体力学
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それぞれ6枚の静止画として本書に掲載されているのは、表紙画像のほかに次のようなものがある。

- ともに質量が太陽の1.5倍の連星中性子星が合体してブラックホールを形成する様子
- ともに質量が太陽の1.3倍の連星中性子星が合体して中性子星を形成する様子
- 差動回転する大質量中性子星が、磁気流体効果によってブラックホールへ重力崩壊する様子
- 回転する大質量星の中心核の重力崩壊によるブラックホールの形成過程
- 回転する大質量星の中心核の重力崩壊による中性子星の形成過程
- 合体する連星ブラックホールの軌道面上におけるラプス関数の時間変化
- 合体する連星ブラックホールが放射する重力波の強度分布の時間変化
- 太陽質量の3.2倍のブラックホールと代用質量の1.3倍の中性子星が合体する様子

このほか、柴田先生のホームページから動画としてご覧いただける。

柴田先生ホームページ: http://www2.yukawa.kyoto-u.ac.jp/~masaru.shibata/indexj.html


本書で柴田先生は「重力波は2015年までには検出されるだろう。」と予想している。まさにそのとおりになった。この一文を読んだとき背筋に電気が走った。現時点で本書を読んで特に興味深いのは、まだ観測されていない事象についてだ。それはブラックホールや中性子星の誕生時に発生する重力波、重力崩壊によって発生する重力波、非対称中性子星が高速回転することで発する重力波などである。これらのシミュレーション画像に匹敵する事象は近い将来、実際に観測されることだろう。

また本書が書かれた時点でLIGOは建設中であり、VirgoKAGRAは計画段階だった。(KAGRAという命名はまだされておらず、他の名前で呼ばれていた。)複数の重力波望遠鏡が稼働することで、重力波がより高精度に観測できるだけでなく、その方向を決定することができるようになる。KAGRAの稼働が待ち遠しい。また宇宙空間上に設ける巨大な重力波望遠鏡LISAによって、より微小な重力波が観測できるようになる。(ふと気が付いたのだが、LISAのような望遠鏡は宇宙空間上に複数設置しないと、方向を検知することができないことだろう。地上の重力波望遠鏡との連携が必要になるかもしれない。)


数値相対論は1990年代に研究が始まり、2000年ころから実際のシミュレーションとして発展した。誕生したばかりの学問領域である。本書では中性子星の合体とブラックホールの合体の2つのケースで必要になる計算リソースの量が示されているが、これはあくまで2005年当時の値である。スパコンの精度向上と計算手法の研究が発展することによって、今後ますます精密なシミュレーションが可能になることであろう。そのうちパソコンの性能が向上して、このようなシミュレーションがパソコン上でできるようになるのかもしれない。

数値相対論に関しては、2016年頃に公開されている次の資料が参考になるだろう。

参考資料:

数値相対論の進展: ページを開く
数値相対論シミュレーション: ページを開く
数値的一般相対論 - KEK: ページを開く


昨年、柴田先生は次の本もお書きになっている。本書と合わせてお読みいただきたい。

重力波の源:柴田大、久徳浩太郎



関連記事:

一般相対性理論入門 ブラックホール探査: テイラー、ホイーラー
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c928268aab686a527be93385b45402c2

日本物理学会2016年度公開講座 「一般相対性理論と宇宙 -重力波研究の最前線-」
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d39ec747fb47e0c8418e7e167e2f60c4

ブラックホールと時空の歪み: キップ・S. ソーン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/76795b03e7dc89cd08dac67dc25b73ab

重力理論 Gravitation-古典力学から相対性理論まで、時空の幾何学から宇宙の構造へ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f838b8f6c2554000933187df89e08013

重力(上)(下) アインシュタインの一般相対性理論入門: ジェームズ・B・ハートル
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c195a49914a852b1c73049bb7b9743e0

一般相対性理論に挑戦しよう!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ea7ad9292ce01ad4abbbc8c98f3303d0

趣味で相対論(EMANの物理学):感想
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5fe7d774a955f3bb9d8270f6113e453f

ブラックホールと時空の方程式:15歳からの一般相対論:小林晋平
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f4401f2ce79451070b7b9c089f304315

発売情報:一般相対性理論を一歩一歩数式で理解する: 石井俊全
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1699a1c22477c269c68c02091d0ca049

史上初!ブラックホールを撮影し、その存在を証明
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a3bdd0676cf497a9731a729d3a0da5a4

巨大ブラックホールの謎 宇宙最大の「時空の穴」に迫る: 本間希樹
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c847e0b9662e20720b9e6acf5cd4f370

ゼロからわかるブラックホール: 大須賀健
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d3f08c2ddb0f6168b502dac4a70f3a7e

ホーキング、宇宙を語る:スティーヴン・W. ホーキング
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1e3dbc9b3d10d4a9b6518b6b32429e22

ホーキング、ブラックホールを語る:BBCリース講義
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6fb5c3578db1c26382c831983fd44e04

ブラックホール戦争:レオナルド・サスキンド
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c8ad22de70df7be8e51a066ca8354106


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一般相対論の世界を探る―重力波と数値相対論:柴田大


はじめに

0 一般相対論と宇宙物理学
- 一般相対論的天体の観測
- 数値相対論
- 本書の目的と構成

1 一般相対論的天体とこれまでの観測
- 一般相対論的天体の定義
- 中性子星
-- 中性子星の起源と構造
-- 中性子星の観測
- クォーク星?
- 連星中性子星
-- 連星中性子星の発見
-- 連星中性子星の質量の決定法と重力波の検証
- ブラックホール
-- その歴史と諸性質
-- 恒星サイズのブラックホール
-- 中間質量のブラックホール
-- 超巨大ブラックホール
-- ブラックホール近傍の観測
- 未発見の天体

2 重力波による天文学
- 観測的課題
- 重力波を用いる利点
- 重力波検知器

3 重力波の理論
- 波動方程式としてのアインシュタイン方程式
- 線形のアインシュタイン方程式
- 重力波の伝播
- 重力波の発生
- 連星からの重力波
- ブラックホール誕生時の重力波

4 重力波源
- 地上型重力波検出器に対する重力波源
-- コンパクト星連星の合体
-- 超新星の爆発
-- 高速回転する中性子星
- 飛翔体を用いた重力波検出器に対する重力波源
-- 銀河系内の連星
-- 超巨大ブラックホールの合体
-- 超巨大ブラックホールの形成
- マッチトフィルターデータ解析法

5 一般相対論における初期値問題の定式化
- 定式化の必要性
- 3+1形式
- 数値相対論における3+1形式の欠点と改良

6 数値相対論
- 座標条件
-- ラプス関数
-- シフトベクトル
- 一般相対論的流体力学方程式
- 重力波の抽出と必要な計算機資源の見積り
- ブラックホールを見つける
- ブラックホールを切り取る
- 収束性の確認
- テストシミュレーション
-- 線形重力波の伝搬
-- 振動する中性子星
-- 中性子星のブラックホールへの重力崩壊

7 コンピュータで探る一般相対論の世界
- 連星中性子星の合体
-- 合体の様子
-- 合体における重力波放射
-- 強磁場大質量中性子星の運命
-- 連星中性子星合体後の運命の分類
- 大質量星の重力崩壊
-- ブラックホールと中性子星の形成
-- 中性子星形成時の重力波
- 高速回転し非軸対称変形する中性子星
- 連星ブラックホールの合体
- 中性子星とブラックホールの合体:今後の課題
- 展望

参考図書
引用文献
索引

アインシュタインここに生きる: アブラハム・パイス

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アインシュタインここに生きる: アブラハム・パイス

内容紹介:
晩年最も身近にいたパイスが、新しい発掘資料やこれまでに知られていないエピソードを盛り込んで描きあげた、人間アインシュタイン像。前著『神は老獪にして…』の姉妹版。

2001年3月刊行、427ページ。(原書は1994年4月1日刊行)

著者について:
アブラハム・パイス: Wikipedia
1918‐2000。ユダヤ系オランダ人としてアムステルダムに生まれる。アムステルダム大学、ユトレヒト大学で物理学を学ぶ。1941年、博士号を取得した直後、大学からのユダヤ人追放令にともない潜伏生活に入り、ドイツ占領下の苛烈な時代を辛うじて生き抜いた。戦後ただちにデンマークのニールス・ボーア研究所に留学し、ボーアの助手を務めた。1947年渡米し、アインシュタインのいるプリンストン高等研究所所員となる。1956年、米国籍取得。1963年以降、ロックフェラー大学教授、この間、優れた素粒子論研究者として大きな業績を収めたが、1970年代には、現代物理学史に転じ、自らの研究生活と豊かな交友経験にもとづく多くの著作を書いた。

パイス博士の著書: Amazonで検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で412冊目。(アインシュタインの伝記なので理系本としておこう。)

先月はじめにアインシュタインの研究や思想に光を当てた最初の伝記「神は老獪にして…: アブラハム・パイス」を紹介した。アインシュタインの伝記本ではいちばん詳しく、信頼できる本である。

しかし、この本は博士の研究を解説するだけに数式が多いので物理学科の3年以上でないとすべてを理解することができない。この本が刊行されてからおよそ10年後、新たに発見された資料をもとに「人間アインシュタイン」にフォーカスした同じ著者による姉妹本が刊行された。「アインシュタインここに生きる: アブラハム・パイス」である。

アインシュタインの最晩年まで秘書をつとめたヘレン・ドゥーカスは博士の死後、論文や資料を整理、管理し続け1982年に亡くなった。「神は老獪にして…: アブラハム・パイス」の原書はその前年に刊行されたのである。パイスはアインシュタインの死後もヘレンと交流を続け、この姉妹編に盛り込まれた資料を参照させてもらっていた。

姉妹編は、数式がまったくないのでどなたでも読むことができる。日本語版は縦書き本である。章立ては次のとおりだ。

第1章:「アルベルト・アインシュタインの陰で」
第2章:ボーアとアインシュタインについての考察
第3章:ド・ブロイ、アインシュタイン、物質波概念の誕生
第4章:アインシュタイン、ニュートン、そして成功
第5章:素人のための相対論の短い説明
第6章:アインシュタインはいかにしてノーベル賞を獲得したか?
第7章:ヘレン・ドゥーカスの思い出
第8章:『おかしなファイル』からのいくつかの例
第9章:インドとの関係―タゴールとガンジー
第10章:宗教と哲学におけるアインシュタイン
第11章:アインシュタインと新聞


第1章は家庭人としてのアインシュタインが紹介される。夫として、そして父親としてのアインシュタインは模範的と呼べるものではまったくなかったこと、最初の妻ミレーヴァとの結婚生活は不幸だったこと、そしてリーザルという私生児が生まれてその後の消息が不明であることが紹介され、本書はスキャンダラスなゴシップ記事のような出だしで始まる。博士と長年親交のあったパイスだからこそ書くことを許される内容だ。

第4章と第6章は「神は老獪にして…: アブラハム・パイス」にも含まれ、重複している。

アインシュタインが世界的に有名になったのは1919年11月である。現代では科学に関心がない人であっても、アインシュタインの名前を知らない人を探すのは困難だ。たとえ相対性理論を知らなくても博士個人がこれほど知られているのは、1919年に始まり現在まで続いているマスコミによってつくられたイメージと宣伝効果によるものだ。そして博士自身はそれを楽しんでもいた。世間一般の間での知名度はアイザック・ニュートンとほぼ同列であろう。

著名人であるからこそ避けることができないのが、無知な大衆からのファンレター、おせっかいな手紙、迷惑メールである。現代のツイッターでいえば「クソリプ」のことだ。6歳の少女からは「博士のもじゃもじゃの髪の毛は切ったほうがいいですよ。」という手紙まで受け取ってしまった。この少女が生きていれば現在74歳だ。秘書のヘレン・ドゥーカスは、そのようにどうでもよい手紙すべてに整理番号をつけて管理していた。博士の目に触れたかどうかはわからないが、現在は論文と一緒にヘブライ大学で管理、保管されている。

本書には「クソ手紙」が年代別にこれでもかというほどたくさん紹介されている。見開きで2か所ほど紹介しておこう。(その他の手紙はこちら。)

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面白く読めたのはナチスドイツの迫害から逃れるために、海外を訪問したときのこと。訪問先によっては歓待されることもあれば、政治的な理由や人種的な理由で一部の民衆から攻撃を受けることもあった。アメリカへ移住してからのアメリカ国内旅行、海外旅行の記述も興味深く読むことができた。

日本へは1922年に46日間滞在し、次のページで紹介されているようにいくつかの大学で講義をし、各地で大歓待を受けた。

時は戦前。来日したアインシュタインを感動させた神秘の国ニッポン
https://www.mag2.com/p/news/242620

著者のパイスが日本語を読めないことがあるためか、本書には日本滞在時のことが、ごくあっさりとしか書かれていない。写真付きで詳しく知りたい方には、この2冊がお勧めである。

アインシュタイン日本で相対論を語る
アインシュタインの東京大学講義録―その時日本の物理学が動いた
 


アインシュタインは晩年になるに従い、平和主義的な発言、行動をとるようになるが、年代によってその考え方や発言内容は変化していく。特に広島と長崎に原爆が投下された後、博士はローズベルト大統領に「ナチスドイツに原爆開発の先を越されないようにアメリカの原爆開発を急ぐように進言したこと」をとても後悔し、第二次世界大戦後は平和運動へ積極的に関わっていった。

しかし「原子爆弾 1938~1950年: ジム・バゴット」に書かれているように、米ソ冷戦、核開発競争が始まり、博士が亡くなる1955年4月までに、次のような実験が行われてしまった。科学者が政治に影響を与えることの限界を感じてしまう。

- ソ連:1953年8月12日にアンドレイ・サハロフによって設計された最初の熱核兵器(水爆)を爆発させた。
- アメリカ:1954年3月1日、リチウムの同位体を用いた最初の航空機に搭載可能な小型の熱核兵器(水爆)を爆裂させた。(第五福竜丸が被害を受けた。)

アインシュタインの戦争反対の思想は、1932年にナチスドイツから国外に逃れる時点で強いものになっていた。アインシュタインのためにハリウッドで行われた『西部戦線異常なし(1930)』(DVD, Blu-ray, Prime Video)の特別上映で映画を観た後、アインシュタインはドイツで上映禁止になったことについてコメントした。(連投ツイート

「この映画に対する弾圧は、世界全体が注目する中で、われわれの政府が敗北をみたことを示す。その検閲によってわれわれの政府は町の暴徒の声に屈服していることを証明し、政策を転換することがどうしても必要とされねばならないほどの大きな弱点を示す。」

これは第3回米国アカデミー賞最優秀作品賞、および最優秀監督賞を受賞した作品で、第一次世界大戦時のドイツ軍を描いたアメリカの反戦映画である。1930年はドイツでヒトラーが率いるナチ党が勢力を18パーセントまで拡大していた時期だ。

西部戦線異状なし(All Quiet on The Western Front、日本語字幕付き) - Part 1 Part 2



西部戦線異状なし (字幕版)



第二次世界大戦前後にアインシュタインが行なった世界平和のための行動も本書には詳しく書かれている。このスピーチもそのひとつであるが、アインシュタインの肉声が聞ける動画は非常に珍しい。

Albert Einstein Talking


翻訳のもとになった原書はこちらである。1994年に刊行された。

Einstein Lived Here: Abraham Pais



アインシュタインの研究や思想に光を当てた最初の伝記はこちら。

神は老獪にして…: アブラハム・パイス」アインシュタインの人と学問(紹介記事

翻訳の元にされた原書は1982年に刊行されたこの本だ。

Subtle Is the Lord: The Science and the Life of Albert Einstein: Abraham Pais」(ハードカバー


原書には2005年に刊行された新版「Subtle Is the Lord: The Science and the Life of Albert Einstein: Abraham Pais」(Kindle版)がある。


数式はまったく読めないが、アインシュタインの人生や業績を知りたいという方には、こちらがお勧め。ただし2016年2月に発表された「重力波の直接初観測」以前に刊行された本であることにご注意。

アインシュタイン 相対論の100年 (ニュートンムック Newton別冊)」(詳細



関連記事:

神は老獪にして…: アブラハム・パイス
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d9258ed7a2d52173116ccd6e61ba0881

アインシュタイン選集 1 ―特殊相対性理論・量子論・ブラウン運動―
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/26d6fc929bf7b9f0fc1e2a210882f559

アインシュタイン選集 2 ―一般相対性理論および統一場理論―
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d3d0869ab3911e84845b5b121bd1aa3e

だれが原子をみたか(岩波現代文庫):江沢洋
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0f1e91e296d8d83ff2759c2de190be57

ブラックホールと時空の歪み: キップ・S. ソーン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/76795b03e7dc89cd08dac67dc25b73ab

アインシュタインの反乱と量子コンピュータ: 佐藤文隆
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9fa38724ad6881636cdff2903ee14a5b


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アインシュタインここに生きる: アブラハム・パイス


読者へ

第1章:「アルベルト・アインシュタインの陰で」
- 序論
- いくつかの背景
- ミレーヴァとアルベルト、最初の出会いからリーザルの誕生まで
- リーザル
- 結婚、ハンス・アルベルト、リーザルはどうなった?
- アルベルト、ミレーヴァそして相対論について
- 別居、離婚、アインシュタインは再婚する
- テーテ
- 結論

第2章:ボーアとアインシュタインについての考察
第3章:ド・ブロイ、アインシュタイン、物質波概念の誕生
第4章:アインシュタイン、ニュートン、そして成功
第5章:素人のための相対論の短い説明
第6章:アインシュタインはいかにしてノーベル賞を獲得したか?
第7章:ヘレン・ドゥーカスの思い出
第8章:『おかしなファイル』からのいくつかの例
- 前書き
- 封筒
- ベルリン時代の手紙
- プリンストン時代の手紙

第9章:インドとの関係―タゴールとガンジー
- タゴールとガンジーの紹介
- アインシュタインとタゴール
- アインシュタインとガンジー

第10章:宗教と哲学におけるアインシュタイン
- 屋根の上のヴァイオリン弾き
- 養育時代
- アインシュタインの初期の経歴におけるユダヤ教
- 「特殊な宗教的感情」
- 科学と宗教
- アインシュタインは哲学者だったのか
- 哲学的著作との付き合い
- 物理学と哲学---相対性理論
- 物理学と哲学---量子論
- 結び---アインシュタインの哲学

第11章:アインシュタインと新聞
- 序論
- 1902-19年
- 1919年11月 アインシュタイン世界的人物となる
- 1920年代初め
- アメリカやイギリスへの最初の旅行
- フランスへの旅行
- 東洋訪問
- 聖地訪問
- 南アメリカ旅行
- 政治的かかわり---ドイツでの年月
- 様々なこと 1928年-32年
- アインシュタイン、最終的かつ永遠にヨーロッパを去る
- アメリカ到着
- 1933年から1939年:世間の注目での中でのアインシュタインの最初のアメリカでの日々
- 核分裂と核兵器について
- 最後の10年。アインシュタインと原子力時代
- 最後の10年。市民の自由についてのアインシュタイン
- アインシュタインとユダヤ人 アインシュタインの死
- おわりに
- そしてショーは続く

訳者あとがき
事項索引
人名索引

蔵 : 宮尾登美子

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拡大:
蔵〈上〉 (角川文庫) : 宮尾登美子」(単行本)(Kindle版
蔵〈下〉 (角川文庫) : 宮尾登美子」(単行本)(Kindle版

内容紹介:
新潟の旧家、蔵元の田乃内家に生まれようやく育った娘、烈。家族の愛と希望を一身にうけて成長していくが、小学校入学を前に、失明にいたる目の病を患っていることを知る。過酷な運命を背負う烈と祖母、父母、叔母たちが織りなす愛と悲しみの旅が始まった。
美しい全盲のひとり娘烈。巡礼の途中で病死する母賀穂。相つぐ不幸を打ち消すがごとく若い嫁をもらう父意造。烈を育て上げ一途に意造を慕う叔母佐穂。蔵元田乃内家をおそう数々の悲運にもめげず、気丈に成長した烈はやがて恋を知り、女ながら蔵元を継ごうと決意する。(ウィキペディア
単行本は1993年刊行、357ページ、329ページ。文庫本は1998年刊行、410ページ、395ページ。

著者について:
宮尾登美子: ウィキペディア
1926(大正15)年、高知市生れ。
17歳で結婚、夫と共に満州へ渡り、敗戦。九死に一生の辛苦を経て1946(昭和21)年帰郷。県社会福祉協議会に勤めながら執筆した1962年の「連」で女流新人賞。上京後、九年余を費し1972年に上梓した「櫂」が太宰治賞、1978年の『一絃の琴』により直木賞受賞。2009(平成21)年文化功労者となる。他の作品に『序の舞』(吉川英治文学賞)『春燈』『朱夏』『寒椿』『宮尾本平家物語』『錦』など。2014年12月30日没。

宮尾登美子の著書: 書籍版 Kindle版


ウォーキングの途中で立ち寄った古書店の100円均一ワゴンセール。表紙に惹かれて購入していた。宮尾登美子さんの作品を読むのは初めて。購入した単行本は状態がよかったので、きれいなままとっておこうと結局Kindle版で読んだ。

越後の古い蔵元を舞台にした小説。1990年代初めに毎日新聞の連載小説として書かれたものだ。表紙の帯を読んで「おしん」のような話、視覚障碍という逆境にめげず蔵元を継いで懸命に生きていく女性を描いた作品だと勘違いしていた。

物語の詳細はウィキペディアの解説をお読みいただければわかることなので、あらためて書く必要はないだろう。本に書かれているのは主人公の「烈」が14歳になり蔵を継ぐ決心を父に打ち明けて、恋する男性と結婚するまでの話。そして最後の数ページでその後の烈や夫、息子の人生を手短かにまとめている。大正8年に生まれた烈は昭和40年代まで生きたという設定。

予想していたのとは違うストーリーだったが、どっぷり浸かることができた。芯の強い烈のひたむきさ、生涯に渡って烈の世話をすることになる叔母の佐穂、そして娘の烈を不憫に思い、なんとか幸せな人生を送ってほしいと願う父の意造。人間味にあふれた小説である。

しきたりや世間体、伝統を守ることが大事だったこの時代、家長として厳しくあらねばならぬ意造ではあるが、娘の将来を案じ、何をしてあげらればよいかと心を尽くして悩む姿は美しくもあり、滑稽でもあった。烈は小学校にあがる前に夜盲症であることがわかり、14歳になるまでに完全に失明する。

成長するにつれて、自分の考えや意見を父にしっかり伝えるようになり、そのたびに意造を驚かせ、意造自身も変わっていく。特に読み応えがあるのは14歳になって蔵を継ぎたいと烈が言い出したときのことだ。全盲の少女に何ができるのか?女人禁制の伝統は守り通さなければならない。頭ごなしに烈の意見を否定する意造であったが、烈は烈で引き下がらない。その後のことは読んでのお楽しみということにしておこう。

蔵元のモデルとなったのは小説の舞台となった新潟県新発田市にある日本酒の蔵元「市島酒造」だという。小説はまったくの創作らしいから、烈は架空の人物である。

新聞連載だからなのか、最後のほうの展開が早すぎる気がした。連載回数が前もって知らされていないとどうしてもそうなってしまう。本の最後で「その後の話」が手短かに付け加えられた感じになっているのは、そのためかもしれないと思った。


本は1998年に文庫化され、現在では文庫、単行本(中古)、Kindle版で読むことができる。

蔵〈上〉 (角川文庫) : 宮尾登美子」(単行本)(Kindle版
蔵〈下〉 (角川文庫) : 宮尾登美子」(単行本)(Kindle版
 

本やDVDを検索: ヤフオク メルカリ

1995年には烈を一色紗英さん、佐穂を浅野ゆう子さんが演じる映画『藏(1995)』が制作されたほか、同じ年には佐穂を檀ふみさん、烈を松たか子さんが演じるNHKのドラマが制作された。YouTubeではNHKで放送されたドラマがアップロードされているようだ。


動画検索: YouTube ニコニコ動画 NHKアーカイブス(無料) DVD検索

子供時代は井上真央さんが演じていて、ニコニコ動画NHKアーカイブスで子役時代の彼女を見ることができる。今となっては貴重な映像だ。番組紹介としてはNHKアーカイブスの動画がいちばんわかりやすい。


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高度になっていくNewton別冊、Newtonライトの数学

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発売されたばかりの「Newton別冊『数学の世界 現代編』」(詳細)を見て驚いた。これまでにないほど高度な数式がためらいなく使われている。月刊誌に比べてNewton別冊の数学レベルは近年ますます上がっている。

しかしこの本の良いところは、数式であらわされている数学が実生活、実社会とどのようなつながりを持っているのかをわかりやすいイラストと文章で解説しているところ。大学で数学や物理学を学び終えた社会人でも、買ってしまうのは、その点に尽きると思う。

目ぼしいものをピックアップしておこう。


この3冊までは高校数学の範囲だ。とはいっても『微分と積分 新装版』には「非整数階の微分(分数階の微分)」などという大学の学部レベルでも学ばない内容が含まれている。

Newton別冊『三角関数』」(詳細
Newton別冊『微分と積分 新装版』」(詳細
Newton別冊『虚数がよくわかる』」(詳細
  


難易度がぐっと上がるのがここからだ。高校数学を超えて大学数学へ踏み込んでいる。知的好奇心が高まるテーマばかりだ。

Newton別冊『数学の世界 図形編』」(詳細
Newton別冊『数学の世界 数の神秘編』」(詳細
Newton別冊『数学の世界 現代編』」(詳細
  


この余波を受けて、Newtonライトでも同じパターンで難度化が始まった。

Newtonライト『三角関数のきほん』」(詳細
Newtonライト『微積のきほん』」(詳細
Newtonライト『虚数のきほん』」(詳細
  


このパターンに従えば、次に刊行されるのは「Newtonライト『数学の世界 現代編』」ということになるだろう。

Newtonライト『数学のせかい 図形編』」(詳細
Newtonライト『数学のせかい 数の神秘編』 」(詳細
 


関連記事:

高校の勉強に役立つNewton別冊
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f532e332f4823dae34a5df9d060ad96a

中学生から読めるNewtonライト
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/da6ec00cc7ef8c12a6b4a6a7cbfc14e4

グラフィック・サイエンス・マガジン Newton の作り方(その1)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ec7f96712045560b6cf3d7b1e851e49e

グラフィック・サイエンス・マガジン Newton の作り方(その2)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/06a11387485b7835d8147229d541497b

Newton(ニュートン)の0号と創刊号の思い出
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0bff55e11fe0fa8fd8f23e431724c678


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難しい数式はまったくわかりませんが、微分積分を教えてください!: たくみ

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難しい数式はまったくわかりませんが、微分積分を教えてください!: たくみ」(Kindle版)(試し読み

内容紹介:
話題の教育YouTuberが教える微分積分入門
AbemaTVの東大合格プロジェクト番組「ドラゴン堀江」で話題沸騰!
堀江貴文氏も、著者の授業を大絶賛!

開設からわずか1年半で登録者が13万人を越え、累計再生回数1100万回を突破した
YouTubeチャンネル「ヨビノリ」のたくみ先生が教えるこれまでにない、まったく新しい微分積分入門!

どんなに数学が苦手な人でも微分積分がたった1時間で感動的に理解できてしまうスゴイ授業を初公開!
微分積分が理解できるだけでなく、数学そのものの面白さにハマる事間違いなし。大学受験生から学び直しの社会人まで、必読の一冊!

2019年5月18刊行、176ページ。

著者について:
ヨビノリたくみ: HP: https://yobinori.jp/index.html、Twitter: @Yobinori
教育系YouTuber。東京大学大学院卒。大学院の博士課程進学とともに6年続けた予備校講師をやめ、科学の普及活動の一環としてYouTubeチャンネル『予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理」(通称:ヨビノリ)』創設を決意。チャンネル開設からわずか1年半でチャンネル登録者13万人突破。複数の大学が、授業の参考資料として授業動画を学生に紹介している。学生時代は理論物理学を専攻し、学部では「物理化学」、大学院では「生物物理」を研究していた。
2018年秋から始まったAbemaTVの東大合格プロジェクト番組『ドラゴン堀江』で「数学の魔術師」という異名を持つ数学講師として出演し、話題となる。
現在、教育系YouTuberとして活動する傍ら、バラエティを含む各種イベント・企画にも多数出演中。

ヨビノリさんの著書: 書籍版を検索 Kindle版を検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で413冊目。

昨日僕はこのようなツイートをしていた。(そのツイートを開く



そして思ったのは、このレベルの高校生や社会人が世の中にはたくさんいるのではないかということだ。落ちこぼれてしまったものの何とか数学を理解できるようになりたいと思っている人が相当な数いるのではないかということ。また、それぞれ個別の事情で高校数学をきちんと学ぶ機会がなかった方もいると思う。

理解できないと数学の授業は苦痛でしかない。また基礎知識がないために科学雑誌のNewtonはおろか、Newtonライトでさえ難しく感じる人も世の中にはいるのだ。重力波やブラックホール、リーマン予想やポアンカレ予想、オイラーの公式はすごいと思うけど、今の自分には無縁なもの。とりあえず教科書に書かれていることだけ理解したい。そのような人は少なからずいるのだ。そして、そのような人に「とね日記」のほとんどの記事は難し過ぎて役に立つとは思えない。

このような人が書店の理数系コーナーや参考書コーナーに行っても、ずらっと並んだ本の中から自分に合う本を見つけるのは難しい。「やさしく書かれている」、「超簡単」、「これならわかる」などと背表紙に書かれていても分厚かったり、文章がぎっしりだったり、値段が高かったり。。。理由はさまざまだが選びきれずに立ち去るか、1冊選んで読み始めても歯が立たない。これを繰り返すと積読本ではなく「挫折本」がたまっていくのである。


物理・数学分野で有名なYouTuberのヨビノリたくみさんが、この本をお書きになったことは、昨日たまたま知った。ちまたには、超初心者向けに書かれた「微積分の入門書」や「やり直し系数学」の本はすでにたくさんあるからレッド・オーシャンだ。たくみさんがこの赤い海に飛び込んでいたことに驚かされた。すでにある本と同じような本を出すのではあまり意味がない。どのように差別化をとったのだろうか?気になったのでKindle版で読んでみた。

たくみさんのことをご存知ない方のために彼を紹介しておこう。YouTubeチャンネルは「こちら」である。そして、本書執筆のきっかけとなった講義がこちら。ぜひご覧いただきたい。

中学数学からはじめる微分積分(再生時間:1時間46分)



ちなみに本書は現在ベストセラーである。ニーズがこれほどあることをまず知ってほしい。たくみさんの本を取ってレジに行くだけだから、書棚の前で迷うこともない。




章立てはこのとおりだ。(試し読み

(ホームルーム1) じつは、微分積分は小学生でも理解できる!?
(ホームルーム2) 数学は、イメージが9割!
(ホームルーム3) 微分積分はさまざまなところで使われている
(ホームルーム4) 微分積分がわかると、なぜ世の中がわかるようになるのか?
序章 微分積分が60分で感動的にわかる4つのステップ
第1章 微分とは何か?
第2章 積分とは何か?

さて、ほかの本とどう違うのか?この本が特殊なことについて、次のようなことがわかった。

著者のたくみさんが若い人気YouTuberであること

本に興味をもつためには、著者への関心がとても大事。僕のようなオジサンが同じ本を書いても、売り上げはたくみさんの1割にも届かないだろう。若い高校生は、閉塞感のある現在の教育体制に対して、これまでにはないタレントのようなルックスとキャラで科学教育に挑んでいるたくみさんに興味深々だと思う。知名度と人気はとても大事だ。

本のタイトルが斬新なこと、対象読者が明確なこと

「超入門~」、「これならわかる~」だとどこまでやさしく書かれているのかが判別しにくいのだ。「難しい数式はまったくわかりませんが、」というタイトルがとてもよい。この本を必要としている人は「あ、これは自分向けだ!」とすぐわかるのである。

行間が広い、本編はド文系女子との対話だけで進む

勉強だけでなく、読書をしない若者が増えている。しかし対話形式ならば読みやすい。それに行間をこのように広くとっているから、文章の量に圧倒されずにすむ。すでに売られている「簡単に学べる数学」系の本は、対話ではなく文章で書かれているものがほとんど。その程度の文章でさえ読むのをおっくうに思う人はいるのだ。

行間の広さはこれを見ればわかるだろう。(Kindle Paperwhiteで表示したもの)



「関数」や「グラフ」からはじめている

本書を必要とする人には、微積分がわからないのではなく、中学生のアルファベットを使った文字式の段階でつまづいている人がいる。そのような人でも理解できるように「関数」や「グラフ」の説明から始めている。

三角関数、指数・対数関数の微分積分は対象外

三角関数、指数・対数関数の微分積分は対象外として、Xのn乗の単項式だけの微分積分だけを解説している。部分積分や置換積分も対象外。本書は微分と積分の考え方、記号の意味の解説だけに限定して解説するから「60分で読める」本に仕上がっている。つまり微分積分を学んでいくための導入、助走をするための本だ。本書の最終章で円の面積や球の体積の公式が積分を使って導けることを理解できるようにしている。

だから本の帯に書かれている「高校3年間の微積がたった60分で感動的にわかる。」は言い過ぎであるからご注意!本書の「おわりに」で、たくみさんは「100を話して10しか伝わらない人よりも、50を話して30を伝えられる人になりたい。」とお書きになっている。すでに売られている「簡単に学べる数学」系の本は、三角関数、指数・対数関数の微分積分を含めているものがほとんどだから、それらの本より対象読者を(失礼な言い方だととらえないでいただきたいが)低めに設定している。

すでに三角関数、指数・対数関数を学び、数学IIIレベルの受験数学を学びたい方は、次の動画から始まる「今週の積分」シリーズで学ばれるとよいだろう。

【高校数学】今週の積分#1【難易度★★】: プレイリスト


今どきの高校生の気持がわかり、彼らに伝わりやすい語りで書いている

たくみさんの存在自体が高校生に受け入れられているのは、その語り口と、ときおり見せる自虐的なツッコミ、テンポの良さだ。この数年、数学教育界にはタレント性を発揮する若者が増えてきた。たくみさんは、その中でも特に際立っている。大学院を卒業されたとはいえ予備校講師をされていた方だ。今どきの高校生の気質、話し方を知っていて、どのように話したら受けいれられるかのツボを心得ている。これも本書が他の本と大きく違うところだ。


さて、似たような本はたくさんあるのだが、たくみさんの本の対象読者が買ってしまいそうな本、今話題になっている本を2つ紹介しよう。説明を読めば、たくみさんの本と違うことがわかるはずだ。

眠れなくなるほど面白い 図解 微分積分: 大上丈彦」(Kindle版


この本は三角関数の微積分まで含んでいること、対話ではなく文章で書かれている点でたくみさんの本と違う。すでに理解している人にはわかりやすい本のように見えるが、ページ数をおさえているためだと思うが、まったくの初学者にとっては説明不足な点がちらほらあるようである。ただし、値段は安い。


東大の先生! 文系の私に超わかりやすく数学を教えてください!: 西成活裕」(Kindle版


この本はすごく良いのだが、中学数学をやり直すための本である。高校数学の範囲では最終章に20ページほど微分積分の解説が割り当てられているだけ。著者は「渋滞学 (新潮選書) 」で知られている西成活裕先生だ。


たくみさんの本の紹介記事だから、他の本を紹介するのは失礼かもしれない。けれども本書はあくまで微分積分の導入、助走部分をしっかり理解するためだということを考えれば、次に読むべき本を紹介しておくことには意味があるだろう。

科学雑誌Newtonな方

たくみさんの本では紹介しきれなかった、三角関数、指数・対数関数の微分積分をはじめ、微分積分の歴史や、社会や科学でどのように役立っているかを学ぶには最良の本だ。

Newtonライト『微積のきほん』」(詳細
Newton別冊『微分と積分 新装版』」(詳細
 


数学ガールな方

著者の結城浩さんも高校数学を重視した「数学ガール秘密のノート」シリーズをお書きになっている。たくみさんの本よりは少し難しいが、女生徒たちとの恵まれた環境に身を置いて数学を学んでいくスタイルが好きな読者は多い。微分と積分編は次の2冊だ。

数学ガールの秘密ノート/微分を追いかけて:結城浩』」(Kindle版
数学ガールの秘密ノート/積分を見つめて:結城浩」(Kindle版
 

「数学ガール秘密のノート」シリーズ: 書籍版 Kindle版


南みや子先生の本

高校で数学の教鞭をとられた南先生が、長い教師生活で感じたことを定年退職後につづった「数学の教科書が言ったこと、言わなかったこと:南みや子」という本を紹介したことがある。なぜ生徒は落ちこぼれてしまうのか?そのことを真剣に問い直して、ご自身の答を見つけ出した南先生である。微分積分を含め、高校数学を学びなおしてみたい方にお勧めできるのが次の2冊だ。上で紹介した科学雑誌Newtonや数学ガール秘密のノートよりも教科書寄りである。

「なぜ? どうして?」をとことん考える高校数学:南みや子』」(Kindle版
高校数学の計算問題が、誰でもスラスラ解けるようになる:南みや子
 


大村平先生の微積分の本

1970年代から50年近くにわたって読み継がれてきた名著である。2007年に改訂版が刊行され、内容が新しくなり旧版の絶版状態が解消された。素晴らしい本である。それぞれ紹介記事をお読みいただきたい。1930年生まれの大村先生はご健在で、今年の2月には「今日から使える統計解析 普及版 理論の基礎と実用の”勘どころ” (ブルーバックス) 」(Kindle版)をお書きになっている。

改訂版 微積分のはなし〈上〉:大村平」(紹介記事
改訂版 微積分のはなし〈下〉:大村平」(紹介記事
 

大村平先生の本: Amazonで検索


今回の記事は、たくみさんの本の紹介記事だ。今後、彼のようにタレント性のある教育者がたくさんでてきて、数学を含め科学の教育の世界に革命がおきること、それが学校教育にも良い影響を与えるようになることを期待したい。

教育の世界に新しい風が吹いている。革命は始まったばかりだ。


そして、たくみさんの2作目、大学数学であるが次の本の刊行が6月10日に予定されている。こちらも楽しみだ。「物理数学の直観的方法〈普及版〉 (ブルーバックス):長沼伸一郎」との差別化が気になっている。

予備校のノリで学ぶ大学数学 ~ツマるポイントを徹底解説 : ヨビノリたくみ



関連記事:

改訂版 微積分のはなし〈上〉:大村平
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/61b91ea9f2a66c66a33c507aa2c2d0c0

改訂版 微積分のはなし〈下〉:大村平
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a42023dc1423f9bdf406723d76f81766

数学の教科書が言ったこと、言わなかったこと:南みや子
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/125e2f2de08d677d2ac77cb3aab3d567

学習参考書が電子書籍化され始めている件
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cdbd82914186c4b8dda69ab77e6efa07

復刻版 チャート式 代数学、幾何学(数研出版)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/709402c3bc0ad74ebb4fe0969f9f7e42

寺田文行先生の「数学の鉄則」シリーズ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/412539f939c8058c9b57368f98abce16

増補改訂版 語りかける中学数学: 高橋一雄
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d2cd4449fdf1c34ccc8690e32a89eb2f

中学生から読めるNewtonライト
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/da6ec00cc7ef8c12a6b4a6a7cbfc14e4

高校の勉強に役立つNewton別冊
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f532e332f4823dae34a5df9d060ad96a


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難しい数式はまったくわかりませんが、微分積分を教えてください!: たくみ」(Kindle版)(試し読み


はじめに

(ホームルーム1) じつは、微分積分は小学生でも理解できる!?
(ホームルーム2) 数学は、イメージが9割!
(ホームルーム3) 微分積分はさまざまなところで使われている
(ホームルーム4) 微分積分がわかると、なぜ世の中がわかるようになるのか?

序章 微分積分が60分で感動的にわかる4つのステップ
- Lesson 1: 微分積分は4つのステップで学べ!
- Lesson 2: 新たに登場する記号は2つだけ
- Lesson 3: 「関数」とは何か?
- Lesson 4: 「変換装置」を使って計算してみよう
- Lesson 5: 「グラフ」とは何か?
- Lesson 6: 実際にグラフを描いてみよう
- Lesson 7: 放物線のグラフを描いてみよう
- Lesson 8: 「傾き」とは何か?
- Lesson 9: 「面積」とは何か?
- Lesson 10:「等速でない」ときこそ、微分積分の出番!

第1章 微分とは何か?
- Lesson 1: 微分とは、めちゃくちゃ小さな変化を見ること
- Lesson 2: 「平均の速度」を記号で表してみる
- Lesson 3: 「瞬間の速度」は「接線」でわかる
 ◎微分の練習問題(1~3)
- Lesson 4: 世界で微分がどのように使われている?

第2章 積分とは何か?
- Lesson 1: 速度が一定でないとき積分が役に立つ
- Lesson 2: 求めたい面積の中に「短冊」を描いてみる
- Lesson 3: 長方形のスキマ問題を考える
- Lesson 4: 長方形の面積の求め方
- Lesson 5: 曲線部分の面積の求め方
- Lesson 6: 積分はこうして生まれた
 ◎積分の練習問題(1~3)
- Lesson 7: 微分積分は、小学校の算数にも隠れている

おわりに

はじめて学ぶ物理学 上、下 学問としての高校物理: 吉田弘幸

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はじめて学ぶ物理学 上 学問としての高校物理: 吉田弘幸」(誤植情報
はじめて学ぶ物理学 下 学問としての高校物理: 吉田弘幸

内容紹介:
はじめて本格的に物理学を学びたい人にその魅力を伝えたい。
高校生から大人までを対象に予備校の名教師が書き下ろした入門書。

-------------(「はじめに」より抜粋)---------------------------------------
物理学の入門書です。はじめて物理学を本格的に学ぶ方に、物理学の魅力をお伝えすることが本書の目的です。具体的には、高校物理の内容を精密な理論として紹介することを通して、物理学の考え方、論理の進め方をお見せしていきます。

考え方をお見せする、と言ってもマニュアル本ではありません。記述の形態は、高校物理で採り上げられている内容に関する、物理学の理論の講義です。その講義を読み進めることにより、直接的には高校物理の内容を習得できますが、結果として物理学の基本的な考え方~論理展開の形式~に慣れることができます。

物理学では、論理を稠密に繋げるために言語として数学を活用します。高等学校で使われている教科書は、数学の学習進度を考慮して数学的な記述が敬遠されています。そのため、物理法則 の結論を公式として暗記するような学習に終始しがちです。このテキストでは必要に応じて数学 的な手法を躊躇なく使っていきます。それが本来の物理学の手法に他ならないからです。高校で 物理を履修された方にとっても、沢山の新しい発見を経験していただけると思っています。数学的な手法を用いると言っても、読者に要求する数学の知識は高等学校で学ぶ内容のみです。一部、高等学校の数学の範囲を超える部分もありますが、それは、このテキストの中で説明を示してあります。

読者としては、高校生、大学受験生(理系の受験生には限りません)から、物理に興味のある 大人の方も想定しています。高校の頃に物理を履修しなかった大人の方でも数学の内容を覚えて いれは゛読み進めることが可能です。高校生の頃に物理に挫折した方でも大丈夫です。物理に関しては高校で学ぶ内容も前提にはしていません。

上巻:2019年4月23日刊行、292ページ。
下巻:2019年5月22日刊行、280ページ。

著者について:
吉田弘幸(よしだ ひろゆき): Twitter: @y__hiroyuki
科学的教育グループSEG講師。高校生と大学受験生に物理を河合塾、SEGなどで教鞭をとられている。数年前まで駿台で数学も教えていた。大磯小・中・高の出身。最終学歴は慶應義塾大学法科大学院。


理数系書籍のレビュー記事は本書で414冊、415冊目。

日頃からツイッターでやり取りをさせていただいている吉田先生が本をお出しになった。物理の参考書など、ちまたにあふれているわけで、いったいどのような本をお書きになったのだろう。副題には「学問としての高校物理」とある。このフレーズが特に気になった。アマゾンの内容紹介だけをたよりに地元の書店で注文して購入。


第一印象や高校物理のこと

ぱっと見たところ微分積分やベクトルが多用されている。「微分積分で高校物理」系の本はこれまで何種類か目にしたことがあるが、それほど多くはない。どちらかというとブルー・オーシャンの領域だ。もちろんこれには理由がある。昔から高校の教育課程では、物理を履修するタイミングに間に合うカリキュラムで数学の授業の微分積分が教えられていないからだ。物理は高校2年の4月から始まるが、数学で微分を学び始めるのは高校2年の冬あたりからである。その結果、高校の学習過程だけでなく大学入試の物理でも微分積分は使われていない。

したがってこの教育課程で学ぶ高校生や受験生は、論理の整合性を少なからず犠牲にした形で学ぶことになってしまう。極論すれば公式を暗記し、試験問題の解法パターンを身に着けてトレーニングする勉強方法だ。それでよいのだと言ってしまえばそれまでなのだが、それは「物理学の本質=自然法則を論理的に理解すること」に目をつぶってしまうことになりかねない。

高校で学ぶのは「物理」と呼んでいて、大学以上のは「物理学」と呼んでいることもあるが、高校のは天下りに与えられた公式や法則をまるごと覚えながら物理現象を理解するから「学問」とはいえない。学問になると公式や法則を数式使って導出したり、論理的に隙のない説明や解釈が求められてくる。

高校時代の自分がどうだったかと思い返してみた。教科書や授業で学んでいくうちに、次々と疑問が湧いてくる。物理の先生はどちらかというと黒板に数式をものすごい速さで書きなぐっていくタイプで、ほとんど予備校の授業と同じスタイルで進める方だった。(それはそれで受験を控えている生徒にはありがたい。)生徒は一心不乱にノートに書き写していく。質問とかをする余裕はほとんどない。

物理を学び始めた最初の頃、力学を学んでいたころは、自然法則の本質、自然の原理にかかわる疑問をいくつも思いついていた。「力とは何か?」、「質量って結局何なのだろう?」、「エネルギーや運動量をそのように定義したのはなぜ?」のような疑問だ。けれども、それらは結局わからずじまい。参考書を見ても解決しなかった。当時使っていた参考書はとても分厚く、ネットで画像を見つけることができた。(物理I、IIはそれぞれ400ページほどあったと思う。)



授業が進むにつれて、つまり電磁気学に入るころには、ノートを書き写すだけの授業パターンにすっかり慣れ切ってしまい、疑問を持つことすらなくなっていた。物理学の面白さに僕が気付いたのは、時間がかなり経ってから、2006年頃から「ファインマン物理学(全5巻)」を読み始めてからだった。

あと高校物理の電磁気学で扱われる「磁力」や「磁界」、「磁場」は必ず「電流」との関わり、たとえば「電磁石」として登場する。けれども天然の磁石や小学校の理科で学ぶ棒磁石とU型磁石は高校物理には登場しない。それはなぜなのだろう?これも僕が高校時代に不思議に思っていたことだ。その謎も「ファインマン物理学」の第4巻「電磁波と物性」そして第5巻「量子力学」を読んでわかった。これらの磁石は「量子力学」の中で「電子のスピン」や「磁性」を学ばないと理解できないことだった。高校物理のレベルをはるかに超えている。磁石で鉄の釘をこすると釘が磁化することも、そのあたりのことを学んで理解できるようになる。


本書の特長、感想

吉田先生の本を通読して、この2冊が「微分積分で高校物理」系の本以上で一線を画していることがすぐわかった。微分積分を使うと高校物理は見通しよく、論理的に進めることができる。特に力学と電磁気学においてはそうだ。吉田先生の本ではそれに加えてベクトルも使っていること。微分積分は力学、電磁気学だけでなく熱学でも多用され、光学の回折では積分を使って理解を助けてくれている。

そして物理現象をもたらす対象自体や現象そのものを、言葉をできるかぎり尽くした文章で説明していることだ。「学問として学ぶ」には論理的ギャップがあってはならない。

例えば、高校時代に僕が抱いた「力とは何か」の中に接触力についての謎があった。僕は中学の頃から天文が好きで、天体間に働く万有引力の勉強のほうが先行していたから、物体と物体が接触した状況で押し合っている力のほうが不思議に思えた。そして物体を押す手が物体の中にめり込まないで反発力を受けるのは、表面にある電子の反発力であることもファインマン物理学で初めて知った。

吉田先生の本の上巻には「重力以外の力」として、次のような記述がある。これこそ僕が高校時代に知りたかったことなのだ。

「電気的に中性な物体の運動を考えるときには、重力以外の力としては、その物体に直接的に接触する外界(別の物体)からの力の作用のみを考慮すればよい。その力はクーロン力の重ね合わせの結果である。
すべての物体は原子でできている。原子は原子核のまわりを電子が周回している系として理解できる。物体と物体が距離を隔てているときは、それらを構成する原子の原子核と電子は相手からは重なって見え、クーロン力は現われない。物体と物体が接触すると、電子と電子が接近することになるので、静電気的な反発力が働く。その合力として、物体どうしも、お互いに押し合う向きに力を及ぼし合う。しかし、その力をクーロンの法則に遡って理論的に求めるのは現実的には不可能である。(電子の配置が不明であるし、その組み合わせも厖大にある。)
つまり、物体と物体が接触すると物体間に力の作用が現れることは分かるが、その大きさや向きを具体的に知ることはできない。したがって、それを未知量として設定し、運動方程式の結論として求めることになる。」

あと下巻の「光波の干渉」には次のような記述がある。教科書や参考書では、ここまで詳しく書かれていない。

「音波などの力学的に発生できる波の場合には、異なる波源からの波であっても位相差の一定性を保つことができるが、光の場あいには異なる光源から位相を揃えて、あるいは、位相差を一定に保って発光させることは不可能である。これは発光のメカニズムに基因する。発光のメカニズムは第VI部で少し学ぶ。
光の干渉を観測するためには、同じ点光源(原子)から発せられた光を、わずかに異なる径路を走らせた後に合成して観測する必要がある。同じ光源から発せられた光も、位相が連続するのは波長の十数倍から数十倍の短い距離である。そのため、径路差が大きすぎると干渉しなくなる(ただし、現代ではレーザー光源を用いることにより、これは解決できる。」

これらはほんの一部で、本書にはこのように論理の間隙を埋めてくれる親切な解説が各所に挿入されている。その結果、全体的に読み応えがあり、とても濃い内容となっている。

あと「スネルの法則」と「ホイヘンスの原理」だけでなく「フェルマーの原理」も本書に書かれているが「フェルマーの原理」は本来高校物理の範囲外であることに気が付いた。僕はこれも高校物理で学んだと思っていたのだ。けれども大学入試ではときどき「フェルマーの原理」も出題されるそうだ。

ホイヘンスの原理からスネルの法則が導かれる
http://www.wakariyasui.sakura.ne.jp/p/wave/housoku/kussetu.html
https://physnotes.jp/wave/snell/

フェルマーの原理からスネルの法則が導かれる
https://physnotes.jp/wave/fermat-principle/

フェルマーの原理からラグランジュの方程式(解析力学)
https://nekodamashi-math.blog.so-net.ne.jp/2018-08-29-2
http://www.ne.jp/asahi/mammamia/mammamia/sub2/kaiseki/kaiseki.html
https://eman-physics.net/analytic/action.html

「フェルマーの原理」は「解析力学」や「ファインマンの径路積分」のアイデアの原点でもあるから、とても重要である。20世紀以降の現代物理学で成長することになる「種」が高校物理の中で芽生えているのだ。


本書の構成、学び方

また、高校時代は各単元を学んでいるとき、その領域だけのことしか気にしていなかった。力学の勉強では電磁気や波動のことは未習だから仕方がないが、電磁気を学ぶ段階で力学のことは全く考えていない。けれども高校物理がカバーしている19世紀末までの物理学では「エネルギー」というキーワードで力学、熱学、電磁気学、光学の各領域の関係が明らかになっていた。通読することで、本書ではそれらの領域のつながりがとても鮮やかに理解することができるのだ。それを象徴的にあらわしているのが、上下巻それぞれの表紙裏に印刷された科学者たちの名前である。高校物理の範囲の物理学に貢献したのは、このような学者たちだ。

 

上下巻の構成は、このようなものである。

上巻
第I部 力学
第II部 熱学
第III部 弾性波動

下巻
第IV部 電磁気学
第V部 光波
第IV部 ミクロな世界の物理

第IV部の「ミクロな世界の物理」の冒頭には、なんとアインシュタインの特殊相対性理論まで解説されている。微分積分どころか、中学数学の√さえ理解できれば数式で導出される理論だから、本に含めておくのは素晴らしいと思った。高校生が読めば空間が縮み、時間が伸びることの不思議を数式から実感できることだろう。E=mc^2 の式の解説もあるから、原子核の結合エネルギーの説明とも論理的につながっていく。

また、原子核の構造や素粒子物理の前に、プランクから始まる前期量子論(1900年から1925年まで)の解説が、教科書や参考書と比較にならないほど詳しい数式で解説されている。学ぶことに意欲的な高校生にとって、この章はとてもワクワクするのではないだろうか?学問は「枠にとらわれない」ことが大切で、それを見事に実践されていると思った。社会人の方、大学物理を既習の方であっても「はじめて学ぶ」気持ちでお読みになると、新しい発見があると思う。

意欲的な高校生は、ぜひお読みになっていただきたい。1冊3000円は高いと感じるかもしれないが、それ以上の価値がある。本書で実際に計算をしながら勉強しても高校物理は学べるし、あとは実際の入試問題でトレーニングすれば十分だ。トータルで考えれば高い出費ではない。

特に大学の物理学科に進もうとしているのなら、入学前に通読することをお勧めしたい。というのも、大学の教科書は、より専門的で本書のように論理的なつながりや物理現象の本質を言葉で解説している本が少ないからである。

書店の方には本書を科学・理学書コーナーだけでなく、ぜひ高校の学習参考書コーナーにも置いていただきたい。


他の本との違い

さて、本書刊行と同じ時期に次の本が刊行され、書店に並んでいる。高校物理の参考書「秘伝の物理」シリーズをお書きになっている青山先生による本だ。

秘伝の微積物理: 青山均」- 2019年4月刊行、210ページ


この本がカバーしているのは力学と電磁気学だけである。また、微分積分を使った解法と微分積分を使わない解法の両方を載せて解法の違いを比較することに重点を置いている。210ページしかないので、微積で高校物理をざっと学びたい人向きだ。

そして、書店ではあまり見かけなくなったが「微分積分で高校物理」系の本では、次のようなものが刊行されている。3冊ともKindle版で読むことができる。

図解入門微積で楽しく高校物理がわかる本: 細川貴英」(Kindle版)- 2006年刊行、350ページ
微積で解いて得する物理―力学/電磁気学がスラスラ解ける: 田原真人」(Kindle版)- 2009年刊行、272ページ
微分積分で読み解く高校物理: 中野喜允」(Kindle版)- 2015年刊行、351ページ
  

これら3冊は微分積分を使った解法だけに特化している。しかし、カバーしているのは力学と電磁気学だけであることに変わりはない。なお「微積で解いて得する物理―力学/電磁気学がスラスラ解ける」のKindle版は、書籍版にはある問題演習がカットされた特別編集版である。(安く買えるのはそのためだ。)

そして、吉田先生の本にいちばん似ているのが有名なこの本だ。

新・物理入門 (駿台受験シリーズ): 山本義隆」- 2004年刊行、342ページ
新・物理入門問題演習 (駿台受験シリーズ): 山本義隆」- 2005年刊行、248ページ
 

これは1987年に刊行された「物理入門 (駿台受験叢書): 山本義隆」が、学習指導要領の改訂にしたがって書き直された改訂版で、2004年に刊行された本とその演習書である。力学と電磁気学だけでなく、高校物理の全領域をカバーしている。2019年の今となっては少し古い感があるが、物理の教育内容はそれほど変わっていない。

吉田先生の本との違いをあげると次のようになる。

- 山本先生の本のほうがコンパクトにまとめられている。
- 山本先生の本を高校物理を学んでいない人が独学するのは難しい。(吉田先生の本だと可能だ。)
- 山本先生の本は高校物理を学んだ人が、微分積分を使った形で復習するのに向いている。(吉田先生の本もその点は同じである。)
- 吉田先生の本のほうがページ数が多く、言葉を尽くした解説がたくさん読める。


高校物理は既習だから読まなくてもいいかなと思う方も、そうでない方も、吉田先生の本をぜひ書店でご覧になってみていただきたい。高校物理と大学物理の間にありつつ、大学物理を見据えた「新しいジャンル」の本である。山本先生の「新・物理入門」と同様、長く読み継がれていくことになるだろう。


関連記事:

新・物理入門(増補改訂版):山本義隆
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/8ea0ef12c20ef703b81afe2752b4c3a2

寺田文行先生の「数学の鉄則」シリーズ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/412539f939c8058c9b57368f98abce16

復刻版 チャート式 代数学、幾何学(数研出版)
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大学への数学(研文書院)
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学習参考書が電子書籍化され始めている件
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出題者心理から見た入試数学: 芳沢光雄
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高校生にお勧めする30冊の物理学、数学書籍
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力学の誕生―オイラーと「力」概念の革新―: 有賀暢迪
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/39015937594a6282316377ae34a6a240

古典力学の形成―ニュートンからラグランジュへ:山本義隆
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e808487b7e9d668967f703396e32d80a

次期学習指導要領(高等学校、数学、情報)について思うこと
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はじめて学ぶ物理学 上 学問としての高校物理: 吉田弘幸」(誤植情報
はじめて学ぶ物理学 下 学問としての高校物理: 吉田弘幸
 

上巻

序章 物理学を学ぶ心構え

第I部 力学
第1章 運動学
第2章 運動の法則
第3章 力の扱い方
第4章 運動量
第5章 エネルギー
第6章 円運動
第7章 単振動
第8章 保存則と運動
第9章 2体系の運動
第10章 万有引力による運動
第11章 剛体の力学

第II部 熱学
第1章 熱学序論
第2章 理想気体
第3章 エネルギー保存則
第4章 熱力学
第5章 熱力学第2法則

第III部 弾性波動
第1章 連続体の振動〈やや発展〉
第2章 波の伝播
第3章 合成波の観測
第4章 固有振動
第5章 ドップラー効果

付録A ギリシャ文字
物理学と数学---上巻のあとがきに代えて

下巻

第IV部 電磁気学
第1章 相互作用と場
第2章 ガウスの法則
第3章 コンデンサー
第4章 静電エネルギー
第5章 直流回路
第6章 ローレンツ力
第7章 定常電流の作る磁場
第8章 電磁誘導
第9章 自己誘導・相互誘導
第10章 交流回路
第11章 マクスウェルの理論と電磁場〈発展〉

第V部 光波
第1章 空間に広がる波
第2章 幾何光学
第3章 光波の干渉

第IV部 ミクロな世界の物理
第1章 相対性理論〈参考〉
第2章 粒子と波動の二重性
第3章 原子
第4章 原子核
第5章 素粒子論

付録A ギリシャ文字
付録B 物理定数
付録C 単位
付録D さらに学びたい方へ

あとがき

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中学ばらシリーズ 中1数学(昭和48年)

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懐かしい参考書をヤフオクで見つけたので買ってみた。旺文社の中学ばらシリーズ 中1数学(昭和48年、1973年)である。定価は460円。監修されたのは「解析入門 (岩波全書 325)」や「イプシロン-デルタ (数学ワンポイント双書 20)」をお書きになった田島一郎先生だ。(著書検索)田島先生が60歳の頃の仕事である。

「算数」ではなく「数学」を学ぶことになるのだ。気になったので入学前に買ってながめていたのだ。中学に進学したのは1975年(昭和50年)だったから、僕が使ったのとは学習内容が少し違う。

僕が学んだ教育課程に「計算尺」は含まれていなかったが、この参考書にはこれが残っている。

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そして、当時は機械式計算機(手回し式計算機)から電卓に移っていた時期である。電卓はとても高価だった。当時の計算機が紹介されている。

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チラシがはさまっていた。カセットテープで学ぶ教材の広告だ。9,800円は高い。1973年の大卒初任給は62,300円である。英語はともかく、数学に音声教材は必要かな?とは思う。

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音声サンプルは「ソノシート」で聞けるようになっていた。僕の世代だと、こういうのも懐かしい。童謡や昔話などの音源は、このような媒体で販売されていた。

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同じシリーズの問題集は黄色いバラである。

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全シリーズはこちら。僕が使ったのは中1数学と中学地理だけである。当時「技術・家庭」の教科は男女別に行われていた。男女一緒に学ぶようになったのは中学が1993年から、高校が1994年である。

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中学ばらシリーズは「ミドリ色の屋根 - ルネ (1974)」という記事で紹介したルネ・シマール君が「中一時代」という雑誌のイメージ・キャラクターに起用され、CMで広告していた。画像は「ミドリ色の屋根は永遠に~Rene Simardに首ったけ~」というブログをお書きになっているshimazaki_reneさんから、「中学ばらシリーズと中学ばらの問題集」という記事で使用されている画像の転用許可をいただいた。ありがとうございます!画像は「中一時代」昭和50年4月号掲載されていたものだそうである。




僕が使った参考書は昭和50年のもので、表紙は少し変化して白の背景に書名が印刷されている。定価は500円に値上がりした。

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昭和53年になると、表紙はまた変わっている。妹が使ったのはこの表紙の参考書だ。

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特定班出動!

さて、計算器具マニアの僕としては、この参考書に掲載されていた手回し式計算機と卓上電卓がとても気になる。製品を特定しなければ。。。画像が粗いから特定しにくい。

手回し式計算機は、自分で特定することができた。国内シェア1位の「タイガー計算機」でなく、「東芝製の13-TB」という手動計算機だった。

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卓上電卓のほうは「集合知ツイッタランドの皆さま」の手をお借りすることにした。(ツイートを開く)その結果、「SHARP Compet 223 (1971)」だと特定できた。教えてくださった方には感謝である。iPhone で画像を一旦保存して Google のブラウザにある Google Lens に読み込ませて検索して特定できたそうである。

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関連記事:

増補改訂版 語りかける中学数学: 高橋一雄
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d2cd4449fdf1c34ccc8690e32a89eb2f

計算尺ノスタルジア (コンサイス計算尺、ヘンミ計算尺)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b91ae7814c1830a9aaf7da77aadf88a8

機械式計算機ノスタルジア(タイガー計算器)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/226dd92e17d66ac624b7279776aa77f6

ミドリ色の屋根 - ルネ (1974)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/8530bfb4f3aeff78166664f46f7bfb8f


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発売情報: Le Petit Robert 仏仏辞典 2020年版

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今日はフランス語上級者に向けた記事。2020年版のLe Petit Robert 仏仏辞典が6月15日に発売される。収録語数は30万語。2020年というきりがよい年なので、書籍版を購入しておくのがよいかもしれない。

この辞書は毎年改訂され、この時期に発売されるフランス人にとっての「広辞苑」だ。(日本のアマゾンサイトではデスクサイズのものだけ注文できる。)

Dictionnaire Le Robert(オフィシャルサイト)
http://www.lerobert.com/


デスクトップ(標準サイズ): マルチメディア辞書へのオンライン・アクセス・キー付き
Dictionnaire Le Petit Robert De La Langue Francaise 2020 Et Sa Cle D'acces Au Dictionnaire Numerique Ouvrage Bimedia
7.0 x 17.5 x 25.0 cm
2880ページ



2020年版の固有名詞事典はまだ先のようだ。これは2019年版。発売されたら2020年版に差し替えよう。

固有名詞事典(標準サイズ):
Le Petit Robert Des Noms Propres Relie - 2019
7.7 x 16.5 x 24 cm
2665ページ



Le Petit Robert仏仏辞典には固有名詞辞典をはじめ、いくつかの種類がある。これらは欧明社からお買い求めなるとよいだろう。

欧明社(フランス語書籍専門)
http://www.omeisha.com/


アプリ版:

iPad/iPhone版については2019年版のLe Petit Robert仏仏辞典がアプリとして昨年発売された。iPad版は図版有り。: iPad/iPhone版

見出し語30万語。古いバージョンをインストールしている人は無料で最新版にアップデートすることができる。今日現在は2019年版だが、そのうち2020年版にアップデートされる。

また「Dictionnaire Historique de la langue francaise」もお勧めだ。「Trio Le Robert」として格安で販売されている。


注目!
iPhone/iPad向けに「Dictionnaire Le Robert Mobile」という辞書も発売されている。 Android版


関連記事:

発売情報: Le Petit Robert 仏仏辞典 2019年版
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/12b352e000127a8ad8a386b65e17ac6e

発売情報:カシオ電子辞書 XD-SR7200(2019年フランス語モデル)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/56416ea1950a3c5f25660607e807013f

小学館ロベール仏和大辞典(iPhone / iPad アプリ)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/02af8bb1e929b8f415f7efc32a92bd56

フランス語の辞書はどれがいい?
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/04d001a3857a63e9ec104903ccae1a83

ロワイヤル仏和中辞典(辞書談義)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/aed33d08239da123dcc66c5ec08f0bc7

無料のオンライン仏和・和仏辞典を発見!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b3cae83cd882dd93d5efb788c1ac1498

ファインマン物理学: 英語版とフランス語版
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1dbcd1e1b02616ef1363ced99a912072

発売情報: フランス語版「ファインマン物理学」の新版
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/daf630deb00e6c315897d6f47ba3dd5a


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ニュートンの『プリンキピア』がブルーバックスで復刊!

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プリンシピア 自然哲学の数学的原理 第1編 物体の運動」(Kindle版
プリンシピア 自然哲学の数学的原理 第2編 抵抗を及ぼす媒質内での物体の運動


内容紹介:
近代科学はここからはじまった! 運動の法則、万有引力の法則、天体の運行、……古典力学の基礎を築いた歴史的名著を新書化!
今日の物理学の原点ともいうべき「ニュートン力学」の根幹をなすもので、多くの物理学者、数学者、天文学者を魅了した真に独創的な著作とされる。第1、第2編では、諸物体の運動の形態が詳細に論じられ、第3編では、前2編で述べられた理論の応用例が議論されている。第3版の英訳をもとに原書を可能な限り正確かつ、今日の用語に置き換えて訳出。現代人が読んでもその発想の素晴らしさと、ニュートンの天才ぶりに改めて驚嘆させられる。今だからこそ読んでほしい古典の中の古典。1977年に出版された『プリンシピア 自然哲学の数学的原理』をブルーバックスから“復刊”。

第1編:2019年6月20日刊行、448ページ。
第2編:2019年7月18日刊行、384ページ。

著者について:
アイザック・ニュートン(1642-1727): ウィキペディア
ホームページ: Newton Papers
イングランドの自然哲学者、数学者、物理学者、天文学者、神学者。
主な業績としてニュートン力学の確立や微積分法の発見がある。1717年に造幣局長としてニュートン比価および兌換率を定めた。ナポレオン戦争による兌換停止を経て、1821年5月イングランド銀行はニュートン兌換率により兌換を再開した。


アイザック・ニュートンの『プリンキピア(自然哲学の数学的原理)』の日本語版が42年ぶりに、講談社ブルーバックスから復刊することになった。

10年前に書いた「日本語版「プリンキピア」が背負った不幸」という記事の中で、僕は次のような淡い期待を書いたことがある。

(日本語版プリンキピアを)ぜひ講談社には復刊してほしいところだ。(ラテン語の原書と)同じ体裁で復刊すると物価の違いから9千円くらいになりそうだから、できれば文庫本3冊くらいに分けてこの歴史の遺産を復活させてほしい。もちろん横書きで。表紙のデザインを本物に似せて出版し、新聞広告でも出せばきっと収益もでることだろう。読者数を見込める本ではないが、この本を常に現在のものとして入手可能にしておくことは「知的財産継承」という時代の持つ責任のひとつだと僕は思うのだ。

講談社がこの文章を読み、僕の願いをかなえてくれたのだろうか?もしそうならば、とても嬉しい。記事を書いた甲斐があったというものだ。

プリンシピア 自然哲学の数学的原理 第1編 物体の運動」(Kindle版
プリンシピア 自然哲学の数学的原理 第2編 抵抗を及ぼす媒質内での物体の運動


全巻: 書籍版を検索 Kindle版を検索

すでに絶版になっている「1977年刊行の日本語版」(Kindle版)から42年が経っている。原書は全3巻だ。ブルーバックスも全3巻に合わせるのだろうか?表紙は原書の重厚感をかもしだしている。


表紙の色合いは、この写真の左側のラテン語版原書に合わせたのだと思われる。枠取りが白なのと背表紙もおそらく白だと思うから、原書に似せた革の特製カバーも発売してほしい。

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原書の実物とは昨年「[世界を変えた書物]展(上野の森美術館)」と「印刷博物館、企画展「天文学と印刷」(凸版印刷株式会社)」で対面している。

拡大: ニュートン『自然哲学の数学的原理(プリンキピア、1687年初版)』

原書ラテン語版閲覧 ウィキペディア 解説 日本語版 英語版閲覧


原書は何冊くらい印刷されたのだろう?そして現在、世の中には出回っているのだろうか?気になったので調べたところ、原書ラテン語版の第2版(1714年)のうちの1冊とおぼしき本をネットオークションで見つけた。これは本物だろうか?(ツイートを開く

1714 Principia Mathematica ISAAC NEWTON
https://www.sekaimon.com/itemdetail/392300019106?country=US
 


今月発売されるのは第1編だけだ。第2編は7月18日に発売。第3編の発売予定日は、まだ発表されていない。ブルーバックスとしては異例の分厚さだ。そのまま立つからプリンキピアのミニチュア版は机の上に飾っておこう。

1977年刊行の中野猿人先生の翻訳が使われているから、第1編と第2編の章立ては次のようになると思われる。

ニュートン略伝
原著者の序文

定義
公理、あるいは運動の法則

第I編:物体の運動

第I章:以下の諸命題の証明に補助として用いられる諸量の最初と最後の比の方法
第II章:求心力の決定
第III章:離心円錐曲線上の物体の運動
第IV章:与えられた焦点から楕円軌道、放物線軌道および双曲線軌道を見出すこと
第V章:いずれの焦点も与えられないときに、どのようにして軌道を見いだしたらよいか
第VI章:与えられた軌道において、運動をどのようにして見いだしたらよいか
第VII章:物体の直線的上昇および下降
第VIII章:任意の種類の求心力に働かれつつ回転する物体の軌道の決定
第IX章:動く軌道上における物体の運動;および長軸端の運動
第X章:与えられた面での上での物体の運動;および物体の振動
第XI章:求心力をもって互いに作用し合う物体の運動
第XII章:球形物体の引力
第XIII章:球形でない物体の引力
第XIV章:ある極めて大きな物体の各部分へと向かう求心力の作用を受けるときの極めて微小な物体の運動

第II編:抵抗を及ぼす媒質内での物体の運動

第I章:速度に比例して抵抗を受ける物体の運動
第II章:速度の自乗に比例して抵抗を受ける物体の運動
第III章:一部分は速度の比で、また一部分はその自乗の比で抵抗を受ける物体の運動
第IV章:抵抗媒質内における物体の円運動
第V章:抵抗媒質内における圧縮;流体静力学
第VI章:振子の運動および抵抗
第VII章:流体の運動、および投射体に働く抵抗
第VIII章:流体中を伝わる運動
第IX章:流体の円運動


日本語訳とはいえ、この本を読める人は滅多にいない。たくさん売れると思うが(僕も含めて)大方の人はコレクターだ。同じブルーバックスから刊行されているこちらの本で、ニュートンが『プリンキピア』でどのように取り組んだのかを知ることができる。プリンキピアのガイドブックである。合わせてお買い求めになるとよいだろう。

プリンキピアを読む―ニュートンはいかにして「万有引力」を証明したのか? 」(Kindle版



ところで、次の講座が今月開催される。申し込み締め切りは6月14日(金)だ。

2019年6月22日(土)
第11回「ニュートンは何を考え、何を語ったのか」
~運動の三法則をプリンキピア原典初版本から学ぶ~
(開催地:東京会場)
https://www.kanazawa-it.ac.jp/challengelab/books/20190622.html


関連記事:

日本語版「プリンキピア」が背負った不幸
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bff5ce90fca6b8b13d263d0ce6fc134e

Kindle版で復刊: 日本語版プリンキピア(自然哲学の数学的原理):アイザック・ニュートン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a5ce0252019a5d9b63c20200f019e199

[世界を変えた書物]展(上野の森美術館)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/67cec3d33c33810b91d0f7591bfbc2ee

古典力学の形成―ニュートンからラグランジュへ:山本義隆
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e808487b7e9d668967f703396e32d80a

力学の誕生―オイラーと「力」概念の革新―: 有賀暢迪
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/39015937594a6282316377ae34a6a240

ニュートン著『プリンキピア』: eBayで買った?そんなわけないだろ。
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b78b1019f73b4105359862e954496b66

英国王立協会、ニュートンが4次元時空の着想を得ていたことを発表
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5bcf405938c7ab3cfee8f06f14c2e4a1


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プリンシピア 自然哲学の数学的原理 第1編 物体の運動」(Kindle版
プリンシピア 自然哲学の数学的原理 第2編 抵抗を及ぼす媒質内での物体の運動



第1版への著者の序文

古代の人びとは(パップスがいうように)自然の事物の研究において力学(機械学)を最も重要視した。また近代の人びとは、実体的形相と超自然性とを排して、自然現象を数学の諸法則に従わせようと努めてきた。それで私はこの論述において、哲学に関係のある範囲内で数学を発展させてきたのである。古代の人びとは力学を二つの方面において考察した。すなわち、証明によって厳密に進める合理的方面と実用的方面である。すべての手工芸は実用的力学に属し、そこから機械学という名前が出てきた。ところが、職人たちは完全な正確さをもって仕事をするわけではないから、力学は幾何学と区別されるようになり、完全に正確なものは幾何学的といわれ、それほど正確でないものは機械的といわれるようになった。けれども、落度は技術にあるのではなくて、技術者にあるのだ。正確に仕事をやれない人は不完全な技術者であるし、完全な正確さをもって仕事をできる人ならば、その人は完璧な技術者といわれるべきである。なぜならば、幾何学の土台をなしている直線や円を描くことは機械学(力学)の領分に属するからである。

幾何学はわれわれにこれらの線の引きかたを教えるものではなくて、それらの線がすでに引かれていることを要求するものである。すなわち、学習者は幾何学に入る前に、まずそれらの線を正確に描くことを習得する必要があり、そうした上で、幾何学はこれらの運用によって問題がどのように解かれるかを示すものである。直線や円を描くことは問題ではあるが、幾何学的問題ではない。これらの問題を解くことは機械学から要求されることで、幾何学ではそれらが解かれたときに、それらの用法が示されるのである。そして、外部からもたらされたそれら少数の原理から、これほど多くのことがらをうみ出しうるということは、幾何学の誇りである。

それゆえ、幾何学は機械的実地技術に基礎をおくものであり、精確な測定技術を提供し証明する一般力学の一部分にほかならないのである。けれども、手工業的技術はおもに物体を動かす場合に使われるから、幾何学は通常それら物体の大きさに関するものであり、力学はそれら物体の運動に関するものだということになったのである。この意味において、合理的な力学は、たとえどのような力にせよ、それから生ずる運動の学問であり、またどのような運動にせよ、およそ精確に提示され証明される運動を生ずるに必要な力の学問だということになる。力学のこの部分は、手工技術に関連する五つの力の範囲内では、古代の人びとによって開発されたが、かれらは重力(それは手先の力ではない)を、それらの力によって重いものを動くかす場合のほかは考えなかった。

しかし、私は技芸よりもむしろ哲学を考え、また手先の力ではなくて自然の力について書き、また重さ、軽さ、弾力、流体の抵抗、その他同類の力、すなわち引っぱる力でも押す力でもよいが、そういうすべての力に関係することがらをおもに考えるのである。それゆえ私はこの著作を哲学の数学的原理として提出する。というのは、哲学のむずかしさはすべて次の点にあると思われるからである。すなわち、いろいろな運動の現象から自然界のいろいろな力を研究し、つぎにそれらの力から他の諸現象を論証することである。

第I編および第II編における一般的な諸命題はこの目的のために述べられたものである。第III編ではそれの実例が、世界体系の解明ということにおいて与えられている。すなわち、前2編で数学的に証明された諸命題により、第III編ではいろいろな天体現象から、物体が太陽から各惑星へと向かわされる重力というものが導きだされている。つぎにそれらの力から、同じく数学的な他の諸命題により、惑星、彗星、月および海の運動が導きだされている。

私は他の自然現象も力学の諸原理から同種類の推論によって導きだされるのではないかという希望をもっている。というのは、私は多くの理由から、それらの現象もすべて、ある種の力に依存するものではないのか、その力によって物体の各微小部分は、まだ知られていない原因により、あるいはたがいに相手方へと押しやられて規則正しい形に凝集したり、あるいは反発して遠ざかったりするのではないかと想像させられるからである。これらの力がまだ知られていないために、哲学者たちはこれまで自然の研究を企てたが、失敗に終わったのである。しかし私は、ここに述べられた諸原理が、手具学のこの方法あるいはより正しい他の方法に対してなんらかの光明を与えるであろうことを望むものである。

この著作の公刊にあたっては、最も明敏かつ博識なエドマンド・ハレー氏が、印刷の校正や図表の作製で私を助けられたばかりでなく、もともと本書が公刊されるに至ったのは、同士の懇請によるものである。すなわち、同氏は私から天体の軌道の形についての私の証明を聞かれたときに、それを王立協会に送るようにしきりに求められ、後にこの協会のかたがたの懇篤な励ましと要請とによって、私は公刊しようという気になったのである。ところが、私はすでに月の運動の不等について考察し始めていたし、また重力、その他の力の法則とその量とに関する他のいくつかのことがらや、与えられた法則に従って引かれる物体が描く図形とか、数個の物体のそれら相互間における運動とか、抵抗媒質内における諸物体の運動とか、媒質の力、密度、および運動とか、彗星の運動などといったようないくつかのことがらに立ち入っていたので、これらのことがらについての研究をすまし、全体をまとめて公表しうるまでその出版を延期したのであった。

月の運動に関することがらは(不完全であるが)命題66の系に全部ひとまとめにされている。それは、そこに含まれているいくつかのことがらを、主題が必要とするより以上に冗長な仕方で提出したり、別々に証明したりして、他の命題の系列を中断することを避けるためである。また後になって思い出されたいくつかのことがらは、命題の番号や引用文を変えるよりも、あまり適当と思われない場所へでもそれを挿入するというゆきかたをとった。ここに述べられたことがらすべて寛容をもって読まれるよう、またこの困難な主題における私の労苦が、それらの欠陥を責めるというものではなく、むしろそれらを救うという見かたで検討されることを心から願うものである。

1686年5月8日 ケンブリッジ、トリニティー・カレッジにて
アイザック・ニュートン


第2版への著者の序文

この『プリンキピア』第2版では多数の校訂といくつかの追加とがなされた。第I編、第II章では、物体を与えられた軌道に沿って回転させる力を見いだすことが具体的に示され、かつ拡張がなされた。第II編、第VI章では流体の抵抗の理論がさらにくわしく調べられ、新しい実験によって確かめられた。第III編では月の理論と分点の歳差運動とがその原理からさらに完全に導きだされた。また彗星の理論は、より高い精度で計算されたより多くの彗星軌道の実例によって確かめられた。

1713年3月28日 ロンドンにて
アイザック・ニュートン


第3版への著者の序文

この第3版はこれらのことがらにきわめて熟達されたヘンリー・ペンバートン医学博士のお世話でできたものであるが、この版では第II編の媒質の抵抗についてのいくつかのことがらが前よりもいくぶん包括的に取り扱われ、空気中を落下する重い物体の抵抗に関する新しい実験がつけ加えられた。第III編では、月が重力によってその軌道上に保たれることを証明する議論がさらに完全に述べられた。また木星の両直径の相互の比に関するパウンド氏の新しい観測がつけ加えられた。

また1680年に現れた彗星についてのいくつかの観測もつけ加えられている。これはカーク氏により11月ドイツでなされたもので、最近私の手に入ったものである。これらの助けにより、彗星の運動がきわめて放物線に近い軌道を示すことが知られた。この彗星の軌道は、ハレー博士の計算により前よりもいくぶん精密に決定されたが、その結果それは一つの楕円ということになった。そしてこの楕円軌道上を彗星は九つの天宮を通る進路をとって進むことが、ちょうど惑星が天文学で与えられた楕円軌道上を運行するのと同じ程度の精度をもって示された。1723年に現れた彗星の軌道もつけ加えられている。これはオックスフォードの天文学教授ブラッドレー氏の計算になるものである。

1726年1月12日 ロンドンにて
アイザック・ニュートン

「週刊とね日記マガジン」の目次一覧

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今月からまぐまぐ!でメルマガを始めましたが、配信したメルマガの目次をここに書き足してきます。

2019年6月:

創刊号:
■メルマガ創刊にあたって
■趣味で自然科学を学ぶことの面白さ
■ブログとメルマガの切り分けについて
■高校物理のこと
■個別のことが面白い(大気圧の計算の話)

第2号:
■自殺志願の大学生のはなし(とね日記こぼれ話)
■力学なんてつまらない?
■摩擦係数のはなし
■円錐と円錐曲線のはなし
■先月と今月新刊で話題の本


週刊とね日記マガジン

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とね日記の裏話、こぼれ話をはじめ、物理学や数学を学んでみたい、楽しんでみたい方へのヒントや参考情報をお届けします。

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ベティ・ブルー(1986)原題: 37°2 le matin、英題: Betty Blue

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これは大学卒業直前の1987年3月、南仏のニースで観た映画。

1986年の2月から3月、そして1987年の2月から3月にパリでホームステイをしながら語学学校(ユーロセンターのパリ校)に通っていた。この映画は語学学校の期間が終わってから国内を一人旅。南仏のニースにも立ち寄った。

ニースの駅を降りて宿泊先のホテル「トロカデロ」に着くと、顔見知りの女の子2人と出くわした。数日前まで過ごしていたパリの語学学校で一緒だったIさんとAさんだ。

女子大生二人の旅だから少し心配だったらしい。「とねさんがいるから安心して泊まれるわね。」と彼女たちは勝手に僕をボディガードにしてしまった。(頼りないボディガードだが)

翌日Aさんのほうは一人で行きたい場所があるというので、僕はIさんと街を散歩することになった。AさんもIさんも学校では僕と違うクラスだったから、それほど親しいわけではない。

『ベティ・ブルー』はフランスではその前の年に公開されていて、年が明けたこの時期まで上映されていた。Iさんは評判を耳にしていたらしく、彼女から誘われるまま映画館に入ることになった。

フランスでのタイトルは「37°2 le matin」だ。何のことかわからない。「le matinは「朝」だけど37.2度は朝の気温にしては高すぎるわね。」とIさんは言った。後日帰国してからわかったのだが、原題の「37度2分・朝」は女性の基礎体温のことだった。なぜ基礎体温なのかは映画を観ればわかる。

音声はフランス語、英語の字幕付きである。僕は問題ないが、Iさんは英語がそれほどできるわけではないから苦労していた。

というより問題は別のところにあった。映画が始まってすぐ、2分間ほど濃厚なセックスシーンが続く。一人ならともかく、恋人でもない異性が隣にいるのだ。二人とも固まってしまった。

ニースの青い空を彷彿させる鮮やかで開放的な映像が美しい。主役のゾーグとベティの会話が粋だし、特に音楽が印象的だ。

けれども、終わりに近づくにつれて悲劇が始まる。アンハッピー・エンドの映画だ。映画館を後にしたIさんと僕は、しばらく無言で歩いていた。


帰国してから、日本語字幕付きのVHSビデオでもう一度見てみた。台詞を全部理解して、なかなか良い映画だったと思ったものである。日本では1987年12月に公開され、そこそこヒットしたようだ。副題の「愛と激情の日々」は、似つかわしくなくダサいと思った。邦画だとありがちなことである。

映画を観て「こんな風に開放的で自由で自堕落な生活を一度はしてみたいものだ。」と思ったが、愛も激情もどうやら自分には無縁である。妄想だけにとどめておくことにした。

日本語や英語のタイトルの「ベティ・ブルー」は良いと思う。主演のベアトリス・ダルはこの作品でデビューした。彼女はベティを演じ、ブルーは作品のテーマ色の青(または青空)、そしてベティの憂鬱な気持を意味している。


あらすじはウィキペディアの「ベティ・ブルー」をお読みいただきたい。監督はジャン=ジャック・ベネックス。1981年、長編作品『ディーバ(1981)』を監督してデビューした。『ベティ・ブルー(1986)』は彼の3作目の映画だ。女優ベアトリス・ダルのデビュー作であり代表作に数えられる。本能のままに愛し合う男女の姿を赤裸々に描写した、その衝撃的な内容と鮮烈なビジュアルで公開当時はパリを始め、世界的なロングランヒットとなった。

原作は1985年に刊行されたフィリップ・ディジャン(Philippe Djian)の同名小説である。(名前の綴りはDjianなので「ジャン」と発音されるが、日本では「ディジャン」と表記されている。)


ぜひご覧いただきたい。フランス語を学んでいる方には、特にお勧めしたい。若者の粋でくだけた会話が盛りだくさんだ。丸暗記することで日常会話の表現力が大幅にアップすることだろう。

ベティ・ブルー/愛と激情の日々 デジタル・リマスター版 劇場予告編



僕がニースの映画館や、後にVHSビデオで見た映画は121分のショートバージョンだが、英語の字幕付きのフルバージョン(184分)をYouTubeで見ることができる。ショートバージョンでは不自然に感じた箇所(特に後半)を自然な流れで観ることができる。

Betty Blue (França 1986) Subtitle: pt-br /eng /esp /swe)



以下は映画で印象的なシーン。










Blu-ray、DVD

日本語字幕が必要な方は、Blu-ray、DVDでどうぞ。Prime Videoなどのネット配信では見つからなかった。

「ベティ・ブルー インテグラル リニューアル完全版」は185分、「ベティ・ブルー インテグラル 完全版」は178分、「ベティ・ブルー HDリマスター版]は121分」など種類が多い。再生時間が異なるバージョン、ブルーレイとDVDの別、日本語字幕付き/無し、値段もまちまちなど、違いがある。購入の際は注意していただきたい。

ベティ・ブルー/愛と激情の日々: ジャン=ジャック・ベネックス


ウィキペディアによると複数のバージョンがあるのは次の経緯による。1992年に60分弱の未公開シーンを付け加えた「インテグラル」が公開された。2002年には公開当時、猥褻シーンとみなされ修正された10シーンの内の9シーンが無修正で収録された「ノーカット完全版」のDVDが日本で発売された。日本公開時、「『ベティ・ブルー』を低俗なポルノ映画の次元に引きおろさせてはならない」という強い信念の元、監督自らが来日して映倫管理委員会に抗議したが、監督の望みは叶わず、全てのシーンにおいて修正が付け加えられ公開された。DVD発売元である20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパンは監督の意思を尊重し、「完全無修正版」の発売を試みたが、税関において1シーンのみが猥褻なものとみなされ、修正を余儀なくされた。


原作本

原作本をお読みになりたい方は、こちらからどうぞ。日英仏のどれも日本のECサイトでのKinde化、電子書籍化はされていない。

37°2 le matin: Philippe Djian」(French, 1985)
Betty Blue: The Story Of Passion: Philippe Djian」(English, 1988)
ベティ・ブルー―愛と激情の日々: フィリップ・ディジャン」(Japanese, 1987)
  


関連記事:

「ディーバ <製作30周年記念 HDリマスター・エディション>」
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/291cfe4636f7f7adf10aa394257cc824


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予備校のノリで学ぶ大学数学: ヨビノリ たくみ

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予備校のノリで学ぶ大学数学: ヨビノリたくみ

内容紹介:
学問のハードルは高く、大学の勉強は非常に難しい。それが理由で毎年多くの理系大学生が挫折していく。
「この現状を変えたい」
そういった思いから、予備校講師の経験がある著者のたくみ氏はYouTubeに授業動画を投稿しはじめた。そのクオリティの高さはたちまち評判を生み、今では大学教員の多くが学生に視聴を勧めている。
本書では、その中から学部1,2年生がつまずく数学の単元を厳選し、その動画にある「ゆるい口調」や「ファボゼロのボケ」を含む独特の空気感を完全に再現した。
大学生だけでなく、意欲ある高校生、あるいは理系社会人にもお勧めの一冊

2019年6月10日刊行、240ページ。

著者について:
ヨビノリたくみ: Twitter: @Yobinori Youtubeチャンネル
東京大学大学院修了。専門は理論物理。博士課程進学時に始めたYouTubeチャンネル『予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理」』(通称:ヨビノリ)は、開設から約1年半で登録者14万人を突破。多くの大学が授業の参考資料として授業動画を学生に紹介している。現在、教育系YouTuberとして活動する傍ら、バラエティ番組を含む各種イベント・企画にも多数出演中。


理数系書籍のレビュー記事は本書で416冊目。

先日「難しい数式はまったくわかりませんが、微分積分を教えてください!: たくみ」を紹介したばかりだが、時期を同じくしてヨビノリたくみさんは大学の物理数学のキモを学べる本を刊行された。

物理数学というのは物理学を学ぶために必要な数学のことで、すでに何種類も刊行されているわけだが、大学の講義や一般の教科書にはほとんど触れられていない直観的な意味合い」を解き明かしてくれる伝説の書「物理数学の直観的方法〈普及版〉 (ブルーバックス):長沼伸一郎」が有名だ。この本は1987年の初版刊行以来、落ちこぼれてしまった数多くの物理学徒に救いの手を差し伸べてきた。現在でもその価値はまったく損なわれていない。

しかし、著者の長沼先生が本をお書きになった頃は動画配信はおろか、インターネットさえない時代である。現代にふさわしい教え方、配信方法の利点をじゅうぶん活かして作られたのが、ヨビノリたくみさんの「予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理」」というYouTubeチャンネルである。彼の独特なキャラクター、教え方のおかげで今日現在のチャネル登録者数は16万人を超えている。

長沼先生の本とどこが違うのだろう?これが本書を読もうと思った理由だ。物理数学の範囲で共通する項目は次のとおり。

- テイラー展開
- フーリエ変換
- ε‐δ論法
- div(発散)、grad(勾配)、rot(回転)

長沼先生の本だけに取り上げられているのは次の項目だ。ただし、ヨビノリさんの講義動画はとてもたくさんあるので、解説されている項目はヨビノリさんの講義動画のほうが圧倒的に多い。

- 線積分、面積分、全微分
- 行列式と固有値
- e^iπ=-1の直観的イメージ
- 複素関数・複素積分

ヨビノリさんの本のほうが総ページ数に対して、講義項目数が多いので1章あたりの解説が短い。すべて講義動画をもとにして書いているから、各章のページ数のばらつきが少ない。また、最低限必要なこと、各項目について導入的な部分、キモとされる部分だけ解説しているのが特長だ。

落ちこぼれてしまった学生は、大いに助かることだろう。この本や講義動画を見てから通常の教科書で学ぶと敷居がぐっと低くなっていることに気が付くはずだ。

長沼先生の本は「意味を直観的に伝える」ことに重点を置いている。つまり数式よりも視覚的なイメージを大切にしている本だ。ヨビノリさんの本とのいちばんの違いはここにある。

ヨビノリさんご自身は、本書を動画でこのように紹介されている。

ヨビノリの授業が本になって登場!



章立ては、このようになる。各章に対応する講義動画を見れる形で載せておこう。本と動画の両方を活用されることをお勧めする。

紹介動画: 00 まえがき
講義動画: 01 テイラー展開の気持ち
講義動画: 02 フーリエ変換の気持ち
講義動画: 03 δ関数とは何か
講義動画: 04 逆三角関数とは何か
講義動画: 05 双曲線関数とは何か
講義動画: 06 群がどうしても分からない君へ
講義動画: 07 ガウス積分の証明
講義動画: 08 ベクトル空間1~定義を理解する
講義動画: 09 ベクトル空間2~やさしい例
講義動画: 10 ベクトル空間3~難しい例
講義動画: 11 単射・全射・全単射
講義動画: 12 ε・δ論法~関数の連続性
講義動画: 13 最小二乗法とは何か
講義動画: 14 中心極限定理の気持ち
講義動画: 15 3次元極座標―球座標
講義動画: 16 立体角
講義動画: 17 div(発散)の意味
講義動画: 18 grad(勾配)の意味
講義動画: 19 rot(回転)の意味


関連記事:

難しい数式はまったくわかりませんが、微分積分を教えてください!: たくみ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/723fd427ba66bef520d49fed85870e0a

物理数学の直観的方法〈普及版〉 (ブルーバックス):長沼伸一郎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ab9396e295687179ac3a71553b8165a1

物理数学の直観的方法 第2版
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3f0691787cd4b47a715f3d0e2c409f76


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予備校のノリで学ぶ大学数学: ヨビノリたくみ


00 まえがき
01 テイラー展開の気持ち
02 フーリエ変換の気持ち
03 δ関数とは何か
04 逆三角関数とは何か
05 双曲線関数とは何か
06 群がどうしても分からない君へ
07 ガウス積分の証明
08 ベクトル空間1~定義を理解する
09 ベクトル空間2~やさしい例
10 ベクトル空間3~難しい例
11 単射・全射・全単射
12 ε・δ論法~関数の連続性
13 最小二乗法とは何か
14 中心極限定理の気持ち
15 3次元極座標―球座標
16 立体角
17 div(発散)の意味
18 grad(勾配)の意味
19 rot(回転)の意味

夜のウォーキング、その後13(累積12000Km)

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2013年4月7日から今日までに歩いた累積距離

2013年3月8日に始めた夜のウォーキング。ナイキのランニングアプリで歩いた距離を記録始めたのは300Km歩いた1か月後からだった。昨日、累積距離が12000Kmに達したので記事として記録しておこう。地球1周は4万Kmだから、その4分の1を歩いたことになる。

累積8500Kmを超えたところでNikeのアプリでの距離計測はやめている。アプリを毎晩使っていたためiPhone6のバッテリー劣化がいちじるしかったからだ。そのため昨年11月初めに機種変更を余儀なくされた。(参考記事:「iPhone 6からiPhone Xに機種変更」)

歩くルートはいつも同じだから、いちいち計測する必要はない。歩くたびに距離を足し算していけばよいだけである。

というわけなので、この記事トップのスクリーンショット画像は加工(偽造)して作ったものだ。


累積メータが11000Kmに到達したのは昨年の12月21日なので1000Km歩くのに197日(6.5ヶ月)かかっている。月あたり152Kmのペース。

これまでの記録はこうなる。

累積5000Km達成: 2016年2月1日
累積6000Km達成: 2016年7月15日
累積7000Km達成: 2017年2月3日
累積8000Km達成: 2017年7月16日
累積9000Km達成: 2018年1月4日
累積10000Km達成: 2018年6月29日
累積11000Km達成: 2018年12月2日
累積12000Km達成: 2019年6月16日

累積8000Kmまでは2000Km/年のペース(月に154Km)で歩いていた。9000Kmを越えてからペースがあがっている。今回はペースが元に戻った。

ウォーキングしながら聴いているのは「まいにちフランス語(応用編)」。そしてradikoのタイムフリーでは「土曜の朝のサラ・オレイン」や「壇蜜の耳蜜」も歩きながら聴いている。壇蜜さんのファンのことは「ミツラー」ではなく「ミツシタン」と呼ぶのだそうだ。ファンであることを隠しておくのが無難という意味か。w


この数年は脂肪燃焼というより、むしろ健康維持のためという目的に切り替えている。サボる日が多くなってきたが、継続が何より大事だ。


関連記事:

1日人間ドック(2010年)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/78d08050074f97baefb45084b0e936e2

ウォーキングと夜桜(2013年3月):
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/055b88c503e142d7b9559e5965de5550

夜のウォーキング、三軒茶屋へ(2013年3月27日)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cfd8a6fb66f8d236da95531fd108d8cf

夜のウォーキングのその後(2013年6月6日)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/65eb0d670f88ee2225670772ad03793e

夜のウォーキング、その後2(2013年7月1日)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a64b260d065375c77a79c2839dc414be

夜のウォーキング、その後3(2013年8月27日)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7da6bbf0006e187662cf2cf1822b82fe

1日人間ドックとウォーキング(2014年4月2日)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/630184969180751eecfdfcfeb6ff54c0

夜のウォーキング、その後4(累積3000Km): 2014年11月15日
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6e55742ebae984371eed25cc70de75bb

夜のウォーキング、その後5(累積4000Km): 2015年5月27日
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/31b8bd0070d5d2853a7515efc7ac0e2e

夜のウォーキング、その後6(累積5000Km): 2016年2月1日
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/20cde6adec555ae73da5ab19156ae257

夜のウォーキング、その後7(累積6000Km): 2016年7月15日
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1c78ee3fbdf5077b17b69596746ebe63

夜のウォーキング、その後8(累積7000Km): 2017年2月3日
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1b73972a971a66c79eac24535750f931

夜のウォーキング、その後9(累積8000Km): 2017年7月16日
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b7de5cb526634b0f4ab88eed68c78d06

夜のウォーキング、その後10(累積9000Km): 2018年1月4日
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/8fbe0804e4cc5bec0fdab8e1bdc6a27d

夜のウォーキング、その後11(累積10000Km): 2018年6月30日
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1e39b9158dc3bd094ff6e54aa3ebeb35

夜のウォーキング、その後12(累積11000Km): 2018年12月2日
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/250010f1f99530ca50fd3802e4bc95be


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力学系カオス: 松葉育雄

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力学系カオス: 松葉育雄

内容紹介:
カオスという不規則な変動は、物理学、化学、生物学、応用力学、医学、経済学などの幅広い分野で観察され、利用されている。本書はそのようなカオスの理論について、基本から丁寧に解説。カオスを理解し、使いこなすために必要な、分岐現象、多様体の幾何学構造、記号力学など力学的な見方に重きをおいた。応用することを前提に、そしてイメージがしやすいように、理論と実例との対応をなるべく示した。とくに、理解に役立つよう、数値解析やグラフィックスをふんだんに用いたため、理論そのものだけでなく、理論と実現象とのつながりがよくわかる。また、演習問題や研究課題も掲載。カオス理論をこれから学ぶ理工系の方や、さらに本格的に知りたい方、利用したい方に適した1冊である。

2011年6月17日刊行、520ページ。

著者について:
松葉育雄(まつば いくお): 研究者ページ: https://nrid.nii.ac.jp/ja/nrid/1000030251177/
1952年大阪府に生まれる。1980年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。1980年株式会社日立製作所入社。1993年千葉大学工学部教授。2007年千葉大学大学院融合科学研究科情報科学専攻教授。理学博士。専門は複雑系、ニューラルネットワーク、時系列解析。


理数系書籍のレビュー記事は本書で417冊目。

将来の予測が不可能なカオスという現象が存在することに科学史上初めて気が付いたのは、フランスの数学者アンリ・ポアンカレ(1854-1912)だった。彼は天体の3体問題を解くため、微分方程式の研究を進める中で、万有引力の法則に従う天体の軌道が不規則かつ無限の数に分岐することを発見し、ホモクリニック軌道とヘテロクリニック軌道という名前をつけた。彼は1890年ごろから天体力学の研究を展開していたが、その成果は1892年、1893年、1899年に『天体力学の新しい方法(原書閲覧:第1巻第2巻第3巻)』として出版された。カオス軌道のことが書かれている第3巻の日本語訳が2月に紹介した「ポアンカレ 常微分方程式 -天体力学の新しい方法-」である。

科学がどんなに進歩しても量子力学の「不確定性原理」は、物体の運動の未来が不確定で予測不能であることを理論的に示している。(参考記事:「鉛筆はどれくらいの時間立っていられるか?」)しかし、ポアンカレは1912年に亡くなっているから前期量子論をぎりぎり知り得る状況にあったが、量子力学が誕生して間もない1927年に発表された不確定性原理のことは知り得ない。ボルンの「確率解釈(1926年)」や「神はサイコロを振らない(1926年)」というアインシュタインの言葉も聞くことはなかった。

もちろん将来が予測できないことははるか昔から、つまりコイン投げやサイコロ投げで賭け事を始めたころには知られており、確率論は16世紀から17世紀にかけてカルダーノ、パスカル、フェルマー、ホイヘンス等によって数学の一分野としての端緒が開かれていた。フランスの数学者・天文学者ピエール=シモン・ラプラス(1749-1827)は1814年に『確率の哲学的試論(原書閲覧)』(日本語訳:「確率論 -確率の解析的理論-」)を書いている。

つまり、ポアンカレの時代には確率的な現象が知られていたが、それは人間の技術や測定の限界からおきるのであって、もしサイコロの形が正確にわかり、投げるときの持ち方、投げる方向、スピード、サイコロが転がる面の形状が決まっていれば予測できるのだと信じられていた。ニュートン力学に従う古典力学の問題である。

古典力学はニュートンの運動方程式 F=ma で示されるように未来を完全に予測し、決定論が正しいことを示している。小学校の算数で習う「距離=速さx時間」は x=vt のことだから、これは私たちが人生で最初に出会う決定論の公式だ。

このように天体の3体問題は純粋に古典力学で解くべき問題、連続力学系を微分方程式で解く問題である。カオスを発見したポアンカレの驚きは、とてつもないものだったことだろう。それは著書の中の「3体問題がいかに複雑なものか、またこの問題を解くためには、われわれの既知の知識とは異なった超越的な知識がいかに必要であるかもわかってくる。」や「その複雑さは驚くべきもので、私自身もこの図形を引いてみせようとは思わない。」という文章に現れている。

しかし、彼の人生は短すぎた。さぞ悔しかったことだろう。カオスの深い謎の探究は、次の世代の数学者たちに委ねられた。その後の研究・発展の歴史は「天体力学のパイオニアたち : F.ディアク、R.ホームズ(上巻下巻)」という本の紹介記事として書いている。

物理学や数学は「なぜ人間は生きているのか?」と同じ意味合いで「なぜ未来は決まっていないのか?」という問いには答えてくれない。けれども「未来が決定しないことが生じるのは、どのような仕組みによるものか?」という問いには答えることができる。量子力学の不確定性原理に加え、カオスは未来を予測不能にしている原因のひとつなのである。


前置きが長くなってしまったが、本書「力学系カオス: 松葉育雄」を読んだのは、カオスのその後の研究成果を数式を使った形で詳しく知りたくなったからである。

読み始めたのはゴールデンウィークが明けてすぐだったが、大判の本で520ページもあるから難儀した。先日ようやく読み終えることができた。具体例が豊富で、数式だけでなく図版やコンピュータによるシミュレーション結果がその都度示されているから、初めて読む専門書としては最適だと思う。


章立てと、各章の内容は次のとおりだ。

第1章 微分方程式と力学系

カオスを理解するためには、微分方程式と力学系に関する基礎を理解していなければならない。力学系とは、状態が時間の経過とともに変化するシステムのことである。力学系は微分方程式で表される連続力学系と、差分方程式で表される離散力学系に分けられるが、ほとんどの場合、両者を区別することなくカオス理論を展開できる。自然現象を対象にする場合は、おもに微分方程式を扱うので、連続力学系に関する基本的な概念から先に述べ、その後で離散力学系に進む。

本章で扱ういくつかの例はカオスではないが、力学系の基礎概念を把握するために適切と思われるシステムを選んだ。また、カオスの例としてファンデルポール方程式と呼ばれる非線形微分方程式をとりあげるが、これを用いてカオスの中核をなす部分にまで踏み込んで説明する。カオス理論を説明する前に、本書の最初の章でカオスの具体例をとりあげる理由は、「こういうふうに調べていけば、なぜカオスという不規則な変動が生まれるかが理解できるようになる」という雰囲気を味わってほしいからである。ただし、その背景になる力学構造などは気にしないで、読み進めてほしい。ここで力学構造とは、力学系の挙動を決定する方程式の幾何学的な構造の総称で、詳しくは第2章で説明する。

本章と続く第2章は、力学系を語るためのいろいろな言葉を導入する役割も果たしているが、力学系を一通り勉強した読者もぜひ目を通してもらいたい。

キーワード: 連続力学系、微分方程式、初期値鋭敏性、相空間と軌道、相図、ダッフィング方程式、セパラトリックス、自律系と非自律系、離散力学系、線形写像、エノン写像、ポアンカレ写像、ポアンカレ断面、平衡点、周期軌道、クモの巣図、ファンデルポール方程式、強制ファンデルポール方程式、極限閉軌道、アトラクター、引き伸ばしと折り畳み、抽象化写像による記号化、記号力学系、鞍点、渦状点、渦心点、双曲型、ロトカ・ボルテラ方程式

第2章 力学構造

本章では、力学系の概念をさらに押し進め、数学的に正確な言葉を用いて力学構造を調べるための基礎知識を述べる。どれも重要な概念ばかりであり、それらの意味は十分理解してほしい。とくに、位相共役性を基礎にした力学系の等価性に関する概念は、カオスを理解するためにはどうしても必要になる。たとえば、第1章で述べたように、平衡点近傍での挙動を考えると、平衡点が双曲的ならば線形化近似によってもとの力学系の特徴をとらえることができる。このことを、力学的に等価、あるいは位相的に等価であると表現する。このような等価性は任意のシステムに拡張することができ、これにより構造安定性という重要な概念が導かれる。

キーワード: 位相共役性、位相的等価性、多様体、微分多様体、力学構造、トーラス、微分同相写像、位相共役写像、線形システム、双曲性、不変多様体と局所不変多様体、安定多様体、不安定多様体、中心多様体、ヘテロクリニック軌道、ホモクリニック軌道、サドル接続、線形安定性と非線形安定性、ダッフィング方程式、極限集合、漸近挙動、非遊走集合、ポアンカレ・ベンディクソンの定理、吸引集合、アトラクター、構造安定性

第3章 カオスの例と特徴

本章では、カオス的な不規則変動の特徴をシステムが示す異なる側面から探り、カオスとはいったい何か、またカオスがどのような特徴をもっているか、といった疑問に対して、実例を用いて答えたい。とくに重要な概念である初期値鋭敏性、分岐、記号化、多様体などについて数値的に調べる。カオスの力学構造を理解するための厳密な理論は次章以降で述べるが、ここではまずは現象としてカオスを把握してほしい。本章でとりあげる例は力学、電気回路など、いずれも学部学生にも馴染みのあるものばかりである。モデルの導出のみならず、シミュレーションも実行してほしい。

キーワード: 初期値鋭敏性、2重振り子、ラグランジュの方程式、概周期軌道、リャプノフ指数、一般化ベーカー写像、ロジスティック写像、磁石振り子、フラクタル吸引領域、フラクタル次元、マンデルブロ集合、ジュリア集合、分岐、チュア回路、局所的分岐、大域的分岐、周期倍分岐、分岐図、リターンマップ、ホモクリニック軌道、ホジキン・ハクスレイ方程式、ホップ分岐、極限閉軌道、ヒステリシス、ポアンカレ写像、記号化、古典的散乱、軌道の記号化と位相的推移性、旅程、カントール集合、馬蹄、ストレンジアトラクター、制限3体問題、遅延微分方程式

第4章 局所的分岐

分岐とは、システムのパラメータを変化させるとその力学構造が大きく変わるような現象である。古くはTomによりカタストロフ理論として体系化され、工学、物理学、生態学、心理学などさまざまな分野で応用されてきた。カオスという不規則な挙動を生むメカニズムを理解するためには、非線形システムの大域的な分岐を理解することが必要であるが、そのためにはまず、従来からよく知られている局所的分岐からはじめなければならない。局所的分岐は第1章で述べた線形解析ではとらえきれない非線形な挙動をとりこむという意味において、大域的な解析の第一歩である。非線形システムの平衡点近傍での挙動は、双曲型であれば、その周りで線型化したシステムによってその大まかな挙動はとらえることができた。しかし、非双曲型ならば線形化では不十分で、非線形項まで考慮しなければならない。このときに有効な方法に中心多様体理論がある。局所的分岐はおもにピッチフォーク分岐、サドルノード分岐、安定性交替型分岐、ホップ分岐に分類できる。本章では、実例をとりいれながら、これらの分岐について説明する。

キーワード: 局所的分岐、大域的分岐、ヒステリシス、ピッチフォーク分岐、ポテンシャル関数、リャプノフ関数、安定と漸近安定、リャプノフ指数、サドルノード分岐、超臨界サドルノード分岐、亜臨界サドルノード分岐、安定性交替型分岐、超臨界ピッチフォーク分岐、亜臨界ピッチフォーク分岐、周期倍分岐、中心多様体定理、高次元システムの分岐、ホップ分岐、超臨界ホップ分岐、亜臨界ホップ分岐、ナイマルク・サッカー分岐、ローレンツモデル、Zeemanの機械、ギャロッピング

第5章 大域的分岐

第4章の局所的分岐では、平衡点近傍に限った局所的な解析で十分で、せいぜい中心多様体を決めることが必要になったくらいである。しかし、大域的分岐では平衡点近傍に限らず、大域的な挙動の解析が必要になる。とくにカオスを出現させる基本的な分岐として、同一の平衡点を結ぶホモクリニック軌道の分岐、異なる平衡点を結ぶヘテロクリニック軌道の分岐が重要で、本章ではこれらの分岐をまとめて大域的分岐とよんでいる。両軌道をまとめて、サドル接続という。大域的分岐はカオスを導く過程であり、それゆえカオスがどのような機構を通じて発生するのかも明らかになる。この機構を記述する力学系が記号力学系で、第6章で述べる。本章ではおもに2次元および3次元システムを対象として、分岐点を計算するためのメルニコフの方法についても述べる。

キーワード: サドル接続、ホモクリニック軌道、ハミルトン系、ハミルトン関数、リャプノフの渦心定理、ヘテロクリニック軌道、2次元サドル分岐、ホモクリニック分岐、チュア回路のホモクリニック軌道、振動系のヘテロクリニック分岐、3次元ホモクリニック分岐、3次元サドル分岐、シルニコフの定理、サドル・フォーカスホモクリニック分岐、離散力学系の分岐、非強制ダッフィング振動子の解析解、楕円関数、減衰強制ダッフィング振動子、ファイゲンバウムの普遍定数、ポアンカレ写像の構成、リューヴィルの定理、前乱流、カントール集合、馬蹄、馬蹄形写像、不変集合、メルニコフの方法、メルニコフ関数、シャルコフスキーの定理

第6章 記号力学系

サドル分岐を研究することにより、カオス的な不規則な変動を生じるメカニズムが明らかになった。それは、分岐後に現れるカントール集合からなる双曲型不変集合、つまり馬蹄であった。力学系がカオスであるための条件を考えると、実際の軌道がそれらの条件を満たしているかどうかを直接確認できることはまれである。ここで重要になるのは、位相共役写像による力学系の等価性、つまり、直接力学系を調べるのではなく、その力学系に等価な別の力学系を考えることである。等価な力学系の性質があらかじめわかっていれば、カオスかどうかの判断を容易に下すことができる。そのような目的で利用される力学系が記号力学系で、それが定義される記号列空間は双曲型不変集合と同じ役割をもつ。

キーワード: 錯綜、ホモクリニック錯綜、ヘテロクリニック錯綜、ラムダの補題、不動点、引き伸ばしと折り畳み、馬蹄の形成、スメールの馬蹄形写像、双曲型不変集合、カントール集合の記号化、二進展開、三進展開、三進集合、稠密性、馬蹄の記号化、両側無限列、片側無限列、記号列空間と記号力学系、距離空間、コンパクト、集積点、連続、シフト写像、二倍写像、パイこね変換、旅程、馬蹄と記号列空間の位相共役性、非周期軌道、位相推移的、初期値鋭敏性、ホモクリニック軌道、安定集合と不安定集合

第7章 カオス

第3章では、実例を通じてカオスの全体像を明らかにした。とくに初期値鋭敏性は数値的に容易に確認できる点で有用であるが、これだけではカオスかどうかの判断はできない。これまでの章では、「カオスとは何か」という問いに対する数学的な回答を回避しながら、カオスの実像をいろいろな角度から観察してきた。あえてそうしてきたのは、専門家によってカオスの定義が微妙に異なること、また、定義の違いによってこれまで知られているカオスがカオスでなかったというような例はないこと、そして何より、数学的な定義を実システムに当てはめることの困難さによる。

しかし、第6章の馬蹄形写像一般論は、抽象化されているがゆえにそこから得られたカオスの定義は受け入れやすい。馬蹄形写像は双曲型不変集合をもち、それは記号列空間に写像でき、記号力学系を導く、記号力学系のもつ性質をカオスの定義とするのである。そこで、本章では「カオスとは何か」という問いに対して、これまで述べてきたことを整理し、カオスが満たすべき条件を詳細に検討する。

キーワード: 2重振り子、チュア回路、古典的散乱、減衰強制ダッフィング振動子、エノン写像、ロジスティック写像、双曲型トーラス自己同型写像、二倍写像、Devaneyの定義、位相的推移性、稠密性、初期値鋭敏性、テント写像、ストレンジアトラクター、双曲型不変集合、アーノルドの猫写像、層葉、マルコフ分割、構造安定性、ファンデルポール方程式の相図、横断性、セクターバンドル、安定セクターバンドル、不安定セクターバンドル、不動点、分岐図、アトラクター、馬蹄、モース・スメール微分同相写像、シュワルツ微分、標準写像


本書に掲載されている図版、コンピュータによるシミュレーション図をいくつか紹介しておこう。

ポアンカレ断面の構成


非線形システムの多様体、ヘテロクリニック軌道


ホモクリニック軌道


減衰ダッフィング方程式の吸引領域


磁石振り子、平衡点のフラクタル的な吸引領域


馬蹄、安定集合と不安定集合


ロジスティック写像の分岐図



「磁石振り子」によって現れるカオス軌道とフラクタル図形

本書で取り上げられている例は、どれも興味深いものだが、ひとつだけ紹介しておこう。「磁石振り子」によって現れるカオス軌道とフラクタル図形である。

まず、このような装置を用意する。N極を上にした3つの磁石(赤、青、黄)を平面に固定し、上に鉄球(白)を振り子として吊るす。3つの磁石はどれも鉄球を引っ張っている状態だ。



磁石が1つしかないときは、磁場は(力が逆2乗の法則に従う)ニュートンの万有引力の法則のように円形になるはずだが、磁石が3つあるとそれぞれが反発しあうから、磁場すなわち磁力が等しい線(緑)と磁力線(赤)はこのような形になっているはずだ。(前野先生によるこのページをお借りして3つの正電荷の場合を想定して図を作成した。)



白球(鉄球)を横に引っ張って静止させ、手を離す。磁石がなければ通常の振り子の運動をするわけだが、磁石があるから白球は複雑な軌道で振れて、最後は3つの磁石のうちの1つに吸引されて止まる。



上の図は右下の赤い四角の位置で白球から手を離したときの図だ。複雑な軌道を描いてから、白球は赤い磁石で止まることを意味している。赤い磁石で止まったから、白球の初期位置を赤い四角に塗ったわけである。

同じことを白球の初期位置を変えて何度も行う。平面上は赤、青、黄の四角で塗りつぶされることになる。動画でご覧いただきたい。(再生時間7分)

カオス、フラクタルという数学と物理学の関係


初期位置をわずかに変化させるだけで、軌道や最終位置が大きく変化することがおわかりになるだろう。これはカオス現象に必要な条件のひとつ「初期値鋭敏性」をあらわしている実験だ。最終的にこのような赤青黄が入り組んだ複雑な「フラクタル図形」が得られる。有名な「バタフライ効果」も初期値鋭敏性を示すカオス現象だ。

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次のページではホームページに組み込まれたプログラムを使って、自分で実験することができる。初期位置にマウスポインタを置くと、白球が描く軌道がリアルタイムに描かれるので試していただきたい。(スマホではダメ。PCでのみ試せることを確認した。)

試してみる



この磁石振り子(magnet pendulum)はカオス現象の一例であり、(百円ショップで買える道具を使って)実際に実験できるだけでなく微分方程式をコンピュータで解いて得られる古典力学の問題であることを強調しておきたい。


専門書の紹介

カオス現象はいくつも種類があるが、スメール博士によって考え出された「馬蹄(ばてい)」のアイデアにより「カントール集合」と呼ばれる離散的な無限集合を含んでいることが発見された。馬蹄とは馬の足につけるU字型をした蹄鉄のことである。そしてカオスを「無限小数」に記号化して表現、計算することが可能になり、研究に進展をもたらした。「カントール集合」が比較的シンプルな微分方程式の解に、そして現実の物理現象にあらわれるとは、僕には驚きだった。しかし、現実の物理現象は不確定性原理にも支配されているから、カントール集合であらわされる無限小の力学的ポテンシャルには限界があるはずだと僕は予想している。カオス理論は力学系を研究する数学なのだ。

馬蹄への道: 2次元写像力学系入門: 山口喜博、谷川清隆



カオスを含め、この分野は「力学系」として分類される。馬蹄の発案者であるスメール博士がお書きになった、定番の教科書はこちら。最新の第3版の日本語版は2017年に刊行されたばかりだ。

Hirsch・Smale・Devaney 力学系入門 ―微分方程式からカオスまで― 第3版」(第2版)(初版


同書の英語版はこちらである。

Differential Equations, Dynamical Systems, and an Introduction to Chaos, Third Edition 3rd Ed」(Kindle Ed)(2nd Ed)(1st Ed


力学系の本: Amazonで検索
カオスの本: Amazonで検索


教養書の紹介

カオスや力学系全般を数式なしで解説した教養書は、まだ読んでいないが、次のような本がよさそうである。ほかにお勧めの本をご存知の方は紹介していただきたい。

カオス的世界像―非定形の理論から複雑系の科学へ: イアン スチュアート
カオスとフラクタル (ちくま学芸文庫): 山口昌哉
 

一風変わったところでは、この本が面白いかもしれない。

カオスの紡ぐ夢の中で: 金子邦彦



関連記事:

ポアンカレ 常微分方程式 -天体力学の新しい方法-
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/88846fbb12ed1f8b11a49f0659b93c75

天体力学のパイオニアたち 上: F.ディアク、R.ホームズ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5c51d50e2141c8ae58c9323ad49b65a1

天体力学のパイオニアたち 下: F.ディアク、R.ホームズ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/88846fbb12ed1f8b11a49f0659b93c75

数理解析のパイオニアたち: V.I.アーノルド
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/165c894d023b1174fd519522935cdeeb


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力学系カオス: 松葉育雄


まえがき

第1章 微分方程式と力学系
 1.1 連続力学系
 1.2 離散力学系
 1.3 強制ファンデルポール方程式への応用
 1.4 線形解析
 1.5 パターン形成への応用
 研究課題

第2章 力学構造
 2.1 位相共役性
 2.2 双曲性
 2.3 多様体
 2.4 極限集合
 2.5 位相的等価性と構造安定性
 研究課題

第3章 カオスの例と特徴
 3.1 初期値鋭敏性
 3.2 分岐
 3.3 記号化
 3.4 多様体と馬蹄
 3.5 カオスを理解するための力学概念
 研究課題

第4章 局所的分岐
 4.1 分岐とは
 4.2 1次元システムの分岐
 4.3 中心多様体
 4.4 高次元システムの分岐
 4.5 ローレンツモデルへの応用
 4.6 分岐の実例
 研究課題

第5章 大域的分岐
 5.1 サドル接続
 5.2 2次元サドル分岐
 5.3 3次元ホモクリニック分岐
 5.4 興味深いいくつかの分岐
 5.5 減衰強制ダッフィング振動子
 5.6 ホモクリニック分岐の一般論
 5.7 メルニコフの方法
 研究課題

第6章 記号力学系
 6.1 ヘテロクリニック分岐の特徴
 6.2 スメールの馬蹄形写 像
 6.3 記号列空間と記号力学系
 6.4 双曲型不変集合上の記号力学系
 研究課題

第7章 カオス
 7.1 カオスとは
 7.2 双曲型不変集合
 7.3 構造安定性
 7.4 セクターバンドル
 7.5 エノン写像
 研究課題

参考文献
索引

量子重力には対称性はない ― 大栗機構長らが証明

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図1. 「量子重力理論は対称性を持たない」ことを背理法で証明する図。もし対称性があるとすると、それは図の灰色で塗られた部分にしか作用せず、中心の黒い点のまわりの状態には変化を起こさない。円周を細かく分けていくと、灰色の部分をいくらでも小さくできるので、対称性には、どこにも作用しないことになる。これは矛盾である。(Credit:Harlow and Ooguri)


理論物理学の領域で大きなニュースが飛び込んできた。大栗博司先生(@PlankScale)とダニエル・ハーロウ先生(ホームページ)の快挙である。


量子重力には対称性はない ― 大栗機構長らが証明
https://www.ipmu.jp/ja/20190619-symmetry

発表概要:
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU) の大栗博司 (おおぐりひろし) 機構長は、マサチューセッツ工科大学物理学教室の Daniel Harlow 助教と共同で、重力と量子力学を統一する理論では、素粒子論の重要な原理であった対称性がすべて破れてしまうことを、ホログラフィー原理を用いて証明しました。この証明にあたっては、量子コンピューターで失われた情報を回復する鍵とされる「量子誤り訂正符号」とホログラフィー原理との間に近年発見された関係性を用いるという新たな手法が用いられました。本研究成果は、素粒子の究極の統一理論の構築に大きく貢献するものであるとともに、近年注目される量子コンピューターの発展にも寄与すると期待され、アメリカ物理学会の発行するフィジカル・レビュー・レター誌 (Physical Review Letters) に2019年5月17日付で掲載され、成果の重要性から注目論文(Editors’ Suggestion)に選ばれました。

DOI: https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.122.191601 (2019年5月17日掲載)
論文のアブストラクト(Physical Review Letters のページ)
プレプリント (arXiv.orgのウェブページ)


2013年暮れにNHKで放送された「神の数式」で強調されていた「物理法則の対称性」が量子重力理論では「ない」ことが証明されたというのだ。対称性が「破れる」のではなく、「ない」のである。

そして「背理法」を使って証明したそうだ。高校生に背理法の威力を教えるには格好の材料だと思う。

掲載画像にはR1~R8という領域(R: Region)が描かれている。なぜ8までなのか僕にはよくわからないが、ホログラフィー原理におけるD8ブレインのことなのかと思ったり、もしかすると先日他界したマレー・ゲルマン博士の「八道説」なのかなと思ったりしている。

超弦理論によるハドロンの記述
http://www2.yukawa.kyoto-u.ac.jp/~kimurasho.oj/kimurasho/file/sugimoto.pdf

Hadrons in holographic QCD(D8ブレイン上の開弦理論)
http://www2.yukawa.kyoto-u.ac.jp/~masaki.murata/Masterthesis.pdf

でもプレプリントにはこの数が「任意(arbitrary)」だと書いてあるし、図の説明には「円周を細かく分けていくと」と書かれているから、たまたま8個の領域を図に採用したのだと思うようになった。


また、複数の候補があがっている「超対称性理論」や「超重力理論」、「重力子」との関係はどうなるのだろうか?これらが否定されたということなのだろうか?


発表の詳細は上記のKavli IPMUのページがいちばんわかりやすい。同じ文面をここに繰り返すのは能がない。僕にできることは論文のアブストラクトを日本語訳することくらいだ。以下に訳文を載せておく。誤訳があったらその都度直すので、ご指摘いただきたい。

発表された論文の日本語訳(翻訳 by とね)

ホログラフィーから得られる対称性に対する制約
Daniel Harlow and Hirosi Ooguri
Phys. Rev. Lett. 122, 191601 - Published 17 May 2019

この論文ではAdS/CFT対応の理論における量子重力において、従来から考えられている一連の推測(が正しいこと)を示す。推測されているのは、大域的な対称性(グローバル対称性)は成り立たないこと、内部ゲージ対称性はすべての既約表現から変換される動的な対象から導かれなければならないこと、そして内部ゲージ群はコンパクトでなければならないことである。これらの推測の真実性に関して大方の見通しでは明らかではなく、AdS/CFT対応の非摂動的な一貫性から得られる結果からは自明ではない。この議論に関しての背景と詳細は、付随する論文で紹介する。

対称性については、従来から [1-3]で示される一連の推測的な制約が考えられている。(i) 量子重力は大域的な対称性を許していない。(ii) 量子重力では、いかなる内部ゲージ対称性もすべての既約表現から変換される動的な対象から導かれなければならない。(iii) 量子重力では、いかなる内部ゲージ対称性群もコンパクトでなければならない。

これらの推測のどれも古典的なラグランジアンによって正しいとは証明されていない。例えば、アインシュタインの重力に結合する自由零質量スカラー場では推測(i)と(iii)が満たされない。そしてアインシュタインの重力に結合する純粋なマックスウェル理論のゲージ不変性は推測(ii)を満たしていない。それはこれらの推測のどれもが、非摂動的な量子重力の特性に依存しているからである。これらの推測の「古典的な」議論はブラックホールの物理学に基礎を置いている。しかし、ここにはいくつもの抜け穴がある。例えば、(i)に関してこれまで議論されてこなかったことのひとつに、λφ^4 理論における φ'= -φ 対称性のような離散的大域対称性を排除するということがあげられる。そして推測の(ii)では、ある種の短距離での物理学の仮定が必要になる。(この議論の詳細は[4]を参照)

この論文のゴールはAdS/CFT対応の力を使って、少なくともこの対応の範囲内で、量子重力理論の最良の理解を得ることであり、これらの推測(が正しいこと)を確立することである。そして、その過程で理論物理学で最も基礎的な概念である大域的な対称性とゲージ対称性が本当は何を意味しているのかを明らかにすることである。この論文では[4]で紹介されている詳細を大きく省いている。また、簡潔にするために、時空座標でありふれた動きをする内部対称性のみを取り上げた。これは高い形式での対称性と同様、[4]で再び議論されている時空対称性についても言える。

リファレンス:

[1] W. Misner and J.A. Wheeler, Classical physics as geometry: Gravitation, electromagnetism, unquantized charge, and mass as properties of curved empty space, Ann. Phys. (N.Y.) 2, 525 (1957).

[2] J. Polchinski, Monopoles, duality, and string theory, Int. J. Mod. Phys. A 19, 145 (2004).

[3] T. Banks and N. Seiberg, Symmetries and strings in field theory and gravity, Phys. Rev. D 83, 084019 (2011).

[4] D. Harlow and H. Ooguri, Symmetries in Quantum Field Theory and Quantum Gravity, Symmetries in quantum field theory and quantum gravity arXiv:1810.05338


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三島由紀夫『豊饒の海』の初版本

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来年は三島由紀夫没後50年である。存命していれば94歳だ。令和が始まり、昭和はますます遠のいていく。三島のように教養に溢れ、格調高い名文を書く作家は今ではほとんどいなくなってしまった。

そもそも本を読まない人が増えているから、もしかすると三島由紀夫三島事件を知らない人もいるかもしれない。(滅多にいないと信じたいが。)そのような方は、まず「昭和45年11月25日―三島由紀夫自決、日本が受けた衝撃: 中川右介」という記事をお読みいただきたい。


母が入院しているリハビリテーション病院の通路の端にある談話コーナーの本棚に、三島由紀夫の遺作となった『豊饒の海(ほうじょうのうみ)』のうちの第1巻『春の雪』の初版本があった。実物を見るのは初めてである。これがきっかけで、初版本全4巻を購入した。三島が自決した頃に刊行されたものだ。Amazonではプレミア価格がついているが、ヤフオクとメルカリでは安く買うことができる。

『豊饒の海』を検索: Amazon.co.jp ヤフオク メルカリ 日本の古本屋


比較的状態のよい本を適正な価格で買うことができた。どのような本か紹介しておこう。三島の妻・瑤子さん画像検索)の描いた表紙が美しい。

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第3巻までは三島の生前に、最終巻は没後に刊行されている。三島の遺作となった『豊穣の海』は最終巻「天人五衰」を月刊誌「新潮」に連載中だった。岩波書店編集部の小島喜久枝は、三島事件当日の午前3時半頃、三島からの電話を受け、その日の午前10時半に最終稿を受け取っていた。

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『春の雪』の冒頭部分。意図的な旧字体と旧かなづかいは、大正時代の華族の生活の優雅な風情を感じさせてくれる。

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最終巻『天人五衰』の最終ページ。まさにこの日に書き上げ、三島は市ヶ谷へ向かったことがわかる。

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残念ながら三島由紀夫の作品は1冊も電子書籍化されていない。初版本はきれいにとっておきたいので、読むのは持ち運びしやすい文庫本がよいだろう。

春の雪 (新潮文庫―豊饒の海)」(英語Kindle版
奔馬 (新潮文庫―豊饒の海)」(英語Kindle版
暁の寺 (新潮文庫―豊饒の海)」(英語Kindle版
天人五衰 (新潮文庫―豊饒の海)」(英語Kindle版

   


今夜の特集番組

たまたま今夜、この番組が放送される。詳細は番組ホームページをご覧いただきたい。

BS1スペシャル「三島由紀夫×川端康成 運命の物語」
https://www4.nhk.or.jp/bs1sp/x/2019-06-23/11/30223/3115650/



初:2019年6月23日(日) 午後10時00分(50分)
再:2019年6月24日(月) 午後1時00分(50分)
再:2019年6月29日(土) 午前10時00分(50分)

三島由紀夫と川端康成。自衛隊駐屯地で割腹自殺した三島と、その二年後にガス自殺した川端は、師弟関係にあった。ところが今回見えてきたのは、2人の作家の知られざる運命の物語だ。2人の間の複雑な関係、そして自死に至るまでの作家としての葛藤と秘密とは?今年がんと診断された演出家・宮本亜門さんが、日本を代表する2人の作家の生と死に迫る。瀬戸内寂聴さん、岸惠子さんたち豪華証言者でたどる。

出演者
【出演】宮本亜門,瀬戸内寂聴,岸惠子,【語り】美村里江

平野啓一郎が語る、三島由紀夫とその文学
https://www.nhk.or.jp/d-navi/sci_cul/2019/06/story/story_190621/

三島由紀夫×川端康成 ノーベル賞の光と影(2019年2月4日(月)放送)
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4241/index.html


川端康成氏を囲んて゛ 三島由紀夫 伊藤整 1/3


続き: 2/3 3/3


関連記事:

昭和45年11月25日―三島由紀夫自決、日本が受けた衝撃: 中川右介
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/aae6dd28574e06eb3c3c0c63791e80cc


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「磁石振り子」によって現れるカオス軌道とフラクタル図形

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この実験のことは先日「力学系カオス: 松葉育雄」という本の紹介記事の最後で紹介したのだが、この本が専門書であるため、あまり読まれていない。

とても面白く、興味深い実験なので、できるだけ多くの人の目にとまるよう独立した記事として投稿させていただくことにした。

なお、カオス現象ではないが、磁石を使った実験では8年前に次の記事を書いている。

自由研究に「ガウス加速器」はいかが?
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6e9fe745f603c3ab42af3c21f1ef2ccb

また、磁石や磁力の発見の歴史に興味がある方は、次の本の紹介記事をお読みいただきたい。

磁力と重力の発見〈1〉古代・中世:山本義隆
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/75ef1fc1216c255471fdbf65cc3a0c49

磁力と重力の発見〈2〉ルネサンス:山本義隆
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/16b61843d410a867f942f3f8aef13865

磁力と重力の発見〈3〉近代の始まり:山本義隆
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/196ce202408dd250728dad303dac89f3


「磁石振り子」によって現れるカオス軌道とフラクタル図形

本書で取り上げられている例は、どれも興味深いものだが、ひとつだけ紹介しておこう。「磁石振り子」によって現れるカオス軌道とフラクタル図形である。

まず、記事トップの画像のような装置を用意する。N極を上にした3つの磁石(赤、青、黄)を平面に固定し、上に鉄球(白)を振り子として吊るす。3つの磁石はどれも鉄球を引っ張っている状態だ。



磁石が1つしかないときは、磁場は(力が逆2乗の法則に従う)ニュートンの万有引力の法則のように円形になるはずだが、磁石が3つあるとそれぞれが反発しあうから、磁場すなわち磁力が等しい線(緑)と磁力線(赤)はこのような形になっているはずだ。(前野先生によるこのページをお借りして3つの正電荷の場合を想定して図を作成した。)



白球(鉄球)を横に引っ張って静止させ、手を離す。磁石がなければ通常の振り子の運動をするわけだが、磁石があるから白球は複雑な軌道で振れて、最後は3つの磁石のうちの1つに吸引されて止まる。



上の図は右下の赤い四角の位置で白球から手を離したときの図だ。複雑な軌道を描いてから、白球は赤い磁石で止まることを意味している。赤い磁石で止まったから、白球の初期位置を赤い四角に塗ったわけである。

同じことを白球の初期位置を変えて何度も行う。平面上は赤、青、黄の四角で塗りつぶされることになる。動画でご覧いただきたい。(再生時間7分)

カオス、フラクタルという数学と物理学の関係


初期位置をわずかに変化させるだけで、軌道や最終位置が大きく変化することがおわかりになるだろう。これはカオス現象に必要な条件のひとつ「初期値鋭敏性」をあらわしている実験だ。最終的にこのような赤青黄が入り組んだ複雑な「フラクタル図形」が得られる。有名な「バタフライ効果」も初期値鋭敏性を示すカオス現象だ。

拡大


次のページではホームページに組み込まれたプログラムを使って、自分で実験することができる。初期位置にマウスポインタを置くと、白球が描く軌道がリアルタイムに描かれるので試していただきたい。(スマホではダメ。PCでのみ試せることを確認した。)

試してみる



この磁石振り子(magnet pendulum)はカオス現象の一例であり、(百円ショップで買える道具を使って)実際に実験できるだけでなく微分方程式をコンピュータで解いて得られる古典力学の問題であることを強調しておきたい。


教養書の紹介

カオスや力学系全般を数式なしで解説した教養書は、まだ読んでいないが、次のような本がよさそうである。ほかにお勧めの本をご存知の方は紹介していただきたい。

カオス的世界像―非定形の理論から複雑系の科学へ: イアン スチュアート
カオスとフラクタル (ちくま学芸文庫): 山口昌哉
 

一風変わったところでは、この本が面白いかもしれない。

カオスの紡ぐ夢の中で: 金子邦彦



関連記事:

力学系カオス: 松葉育雄
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ポアンカレ 常微分方程式 -天体力学の新しい方法-
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/88846fbb12ed1f8b11a49f0659b93c75

天体力学のパイオニアたち 上: F.ディアク、R.ホームズ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5c51d50e2141c8ae58c9323ad49b65a1

天体力学のパイオニアたち 下: F.ディアク、R.ホームズ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/88846fbb12ed1f8b11a49f0659b93c75

数理解析のパイオニアたち: V.I.アーノルド
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/165c894d023b1174fd519522935cdeeb


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