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発売情報:カシオ電子辞書 XD-SR7200(2019年フランス語モデル)

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今年もカシオ電子辞書 XD-SR7200(2019年フランス語モデル)が発売された。ここ数年、毎年2月に新しいモデルがリリースされているが、今年は1ヶ月遅れである。

フランス語学習者はもちろん、LHCから発表されるニュース・リリースをフランス語で読んだり、将来この研究所に勤務するようなことになるのだったらコンパクトな電子辞書は持っていたほうがよい。(記事内容を無理やり物理学に関連付けてしまった。)さらに、老眼が始まった方にもお勧めだ。

2019年モデル共通で、大画面化(5.2型のカラー液晶画面を採用。従来比約2.45倍の高精細表示(横864×縦480dot))がされている。(製品紹介

また2019年の一部のモデルでは、最新の広辞苑第七版が搭載されている。(追加コンテンツでも第七版は購入できる。)

広辞苑 第七版を収録
https://casio.jp/exword/contents/kojien7/

ただし、広辞苑第七版はApp StoreGoogle Playともに発売されているので、電子辞書にこだわる必要はないだろう。

また、理工系の方は「理化学モデル」を購入するとよいだろう。(2018年モデルを検索旧モデルを検索


これまで10年間のモデルの詳細は次のリンクで確認できる。

2019年モデル
https://casio.jp/exword/products/XD-SR7200/

2018年モデル
https://casio.jp/exword/products/XD-Z7200/

2017年モデル
https://casio.jp/exword/products/XD-G7200/

2016年モデル
https://casio.jp/exword/products/XD-Y7200/

2015年モデル
https://casio.jp/exword/products/XD-K7200/

2014年モデル
https://casio.jp/exword/products/XD-U7200/

2013年モデル
https://casio.jp/exword/products/XD-N7200/

2012年モデル
https://casio.jp/exword/products/XD-D7200/

2011年モデル
https://casio.jp/exword/products/XD-B7200/

2010年モデル(「ロワイヤル仏和中辞典 第2版」、カラー液晶画面が搭載された最初のモデル)
https://casio.jp/exword/products/XD-A7200/

ほとんどの辞書アプリがスマホで利用できるようになった現在、フランス語学習者にとって分厚い「ロワイヤル仏和中辞典 第2版」が利用できことが電子辞書の最大のメリットだ。残念ながらこの辞書がスマホアプリとして販売される見込みは立っていない。


最新モデルを買うに越したことはないが、旧モデルでも安いのが見つかればそれはそれでよいと思う。フランス語にかかわる人にとってポイントになる大まかな変更点は次のようなものだ。

2010年->2011年
- フランス語コンテンツ1つ追加(文法中心ゼロから始めるフランス語、ネイティブ発音)
- オックスフォード現代英英辞典が第7版から第8版になった
- ツインカラー液晶搭載
- 新画像検索機能
- 本体メモリー容量が50MBから100MBになった
- ボディカラーがブラック+シルバーからホワイトに変更

2011年->2012年
- フランス語コンテンツ1つ追加(プチ・ロワイヤル仏和辞典 第3版、ネイティブ発音)
- スクロールパッドや縦書きのブックスタイル表示機能を搭載
- ダブルカードスロットになった(追加コンテンツ用)
- ボディカラーがホワイトからシルバー+ブラック+ホワイト(外側)に変更

2012年->2013年
- プチ・ロワイヤル仏和辞典が第4版になった
- プチ・ロワイヤル和仏辞典が第3版になった
- 1981年の発売以来定評のある角川類語新辞典が収録された他、国語系コンテンツの見直しが行われた
- ジーニアス和英辞典 第3版が収録された
- タッチパネル式の操作ができるようになった。
- アイコンタイプのメニューデザインが採用された
- 0.9mm薄くなり、約310g->約290gに軽量化

2013年->2014年(フランス語系コンテンツの変更なし)
- 0.1mm薄くなり、約290g->約280gに軽量化

2014年->2015年(フランス語系コンテンツの変更なし)
- カラー液晶(サブパネル)が無くなった。そのぶんキーが大きくなり入力しやすくなった。
- 約280g->約265gに軽量化
- しゃべって身につく 英会話スキット・トレーニング[電子増補版]が追加された。
- TOEICテスト新公式問題集 Vol. 3, 4が追加された。
- デジタル単語帳通信機能が追加された。
- 電池寿命が延びた:単3形アルカリ乾電池LR6(AM3)の場合:約130時間から約180時間になった。※(英和辞典の訳画面で連続表示時)

2015年->2016年(フランス語系コンテンツの変更なし)
- 日本大百科全書(ニッポニカ)が追加された
- ジーニアス英和辞典 第4版 -> 第5版
- オックスフォード 現代英英辞典(第8版)->(第9版)
- 日本文学1,000作品 -> 2,000作品

2016年->2017年(フランス語系辞書とコンテンツ、英語系辞書の変更なし)
- ハードウェアの仕様変更なし、デザインが少し変わった
- TOEICテストが新形式に対応した

2016年モデルのコンテンツ
TOEICテスト新公式問題集
TOEICテスト新公式問題集 Vol. 2
TOEICテスト新公式問題集 Vol. 3
TOEICテスト新公式問題集 Vol. 4
TOEICテスト ボキャブラリー730

2017年モデルのコンテンツ
TOEICテストスコアアップ 新形式問題付き
TOEICテストハイパー模試 5訂版 新形式問題対応
英語名演説・名せりふ集 Ver.4

- 2016年モデルの日経の以下のコンテンツが2017年モデルでなくなった
日経ビジネス 経済・経営用語辞典
増補版 論点解説 日経TEST ―あなたの経済知力を磨く―
日経TEST 公式練習問題集 「経済知力」を問う精選200問

- 生活・実用のコンテンツが大幅に増えた

2017年->2018年(フランス語系辞書とコンテンツ、英語系辞書の変更なし)
- 約265g->約270gに重くなった。デザインが少し変わった。
- TOEFL、TOEICのコンテンツに多少の変化があった。

2018年モデルのコンテンツ
TOEIC テスト 非公式問題集 至高の400問
TOEIC テスト 新形式問題 やり込みドリル
TOEIC LISTENING AND READING TEST 15日で500点突破! リスニング攻略
TOEIC LISTENING AND READING TEST 15日で500点突破! リーディング攻略

- 2017年モデルの以下のコンテンツが2018年モデルでなくなった
全セクション対応 TOEFL TESTはじめての徹底攻略! ―TOEFL iBT対応―
TOEFL TEST模擬試験&「レクチャー問題」リスニング徹底練習300問

2018年->2019年(フランス語系辞書とコンテンツ、英語系辞書の変更なし)
- 画面が大きくなった。(5.3型→5.7型タッチパネル)
- 大画面化により電池の持ちが短くなった。単3形アルカリ乾電池LR6(AM3)の場合:約180時間→約130時間
- 約270g->約285gに重くなった。デザインが少し変わった。
- 「口が覚えるフランス語(収録数:600例文)」が無くなり「文法中心 ゼロから始めるフランス語」になった。


どのモデルも紙辞書だと分厚い「ロワイヤル仏和中辞典 第2版」が使えるのはありがたい。また巨大な紙辞書の王様として今だに君臨している「小学館ロベール仏和大辞典」に至っては絶対に持ち運べないし、新品は3万円もするから電子辞書のほうが絶対にお買い得だ。ただし、この辞典はiPhone/iPad用のアプリが物書堂から2013年に発売された。(参考記事

2012年モデルまでに搭載されていたプチ・ロワイヤル仏和、プチ・ロワイヤル和仏はともに最新の紙辞書の版に2013年のモデルで追いついている。

これらの辞書をWindowsパソコンや電子辞書でお使いになりたい方には、CD-ROM版がお勧め。(Macでは使えない。)

カシオ 電子辞書 exword 追加コンテンツ CD-ROM版 ロワイヤル仏和中辞典 プチ・ロワイヤル仏和辞典 プチ・ロワイヤル和仏辞典 XS-OH24




これら2つの辞書は物書堂から販売されている「プチ・ロワイヤル仏和辞典(第4版)・和仏辞典(第3版)」を購入すればiPhone/iPadで使うこともできる。(iPhone/iPad版はここから、Android版はここから購入できる。)

なお、初級者向けの仏和辞典の最新版「クラウン仏和辞典 第7版(2015)」(小型版)であるが、ひとつ前の第6版(2010)のiPhone/iPad版はここから、Android版はここから購入できる。


「LE PETIT ROBERT仏仏辞典」については搭載されているのがこの8年間ずっと2008年版の辞書だ、アマゾンサイトここで買える。また書籍版は昨年5月から2019年版が発売されている。(2019年製本版


発売情報: Le Petit Robert 仏仏辞典 2019年版
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/12b352e000127a8ad8a386b65e17ac6e


また、アプリ版も何種類かでている。(日本から買えるのはこのうちの一部。)

Le Robert (Tablette et smartphone)
http://www.lerobert.com/espace-numerique/tablette-et-smartphone.html

注目!
2019年版のLe Petit Robert 仏仏辞典」のiPhone/iPad用アプリが発売された。ちょっとお高く4800円だが、こちらもお勧めだ。「Dictionnaire Le Petit Robert de la langue francaise par Diagonal」からどうぞ。見出し語30万語。2019年の書籍版をアプリにしたものだ。

また「Dictionnaire Historique de la langue francaise」もお勧めだ。「Trio Le Robert」として格安で販売されている。


版が古い辞書はいずれ「フランス語辞典追加コンテンツ」として購入できるようになるのだと考えれば許容範囲だとも言える。PETIT ROBERT仏仏辞典は2009年版が追加コンテンツとして発売されている。


完全に満足できる品揃え、買い時というのはいつまでたってもおとずれないのかもしれない。けれども今年こそ購入に踏み切ろうという方は、以下の画像をクリックしてお求めいただきたい。


カシオ電子辞書 XD-SR7200(2019年フランス語モデル)



カシオ電子辞書 XD-Z7200(2018年フランス語モデル)



カシオ電子辞書 XD-G7200(2017年フランス語モデル)



カシオ電子辞書 第二外国語モデル XD-Y7000シリーズ(2016年モデル)



カシオ電子辞書 第二外国語モデル XD-K7000シリーズ(2015年モデル)



カシオ電子辞書 XD-U7200(2014年フランス語モデル)



カシオ電子辞書 XD-N7200(2013年フランス語モデル)



カシオ電子辞書 XD-D7200(2012年フランス語モデル)



カシオ電子辞書 XD-B7200(2011年フランス語モデル)



カシオ電子辞書 XD-A7200(2010年フランス語モデル)




関連記事:

フランス語の辞書はどれがいい?
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/04d001a3857a63e9ec104903ccae1a83

ロワイヤル仏和中辞典(辞書談義)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/aed33d08239da123dcc66c5ec08f0bc7

スタンダード佛和辞典・和佛辞典
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/fa9b284d2cda36dccf53c6071e057577

無料のオンライン仏和・和仏辞典を発見!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b3cae83cd882dd93d5efb788c1ac1498

ファインマン物理学: 英語版とフランス語版
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1dbcd1e1b02616ef1363ced99a912072


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「エルマーのぼうけん」をかいた女性 ルース・S・ガネット

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「エルマーのぼうけん」をかいた女性 ルース・S・ガネット

内容紹介:
2010年の夏、87歳のルース・S・ガネットさんが来日されました。あんなに素敵な本は、どうして生まれたのだろう?ガネットさんは、どんな子どもだったのだろう?通訳をしていた前沢明枝さんは、ガネットさんにインタビューをします。そこからわかったのは…?ガネットさんが初めて書いたエルマーの手書きの原稿など、写真も一杯です。さあ、一緒に「『エルマーのぼうけん』が生まれるまで」を楽しんでください!

2015年11月20日刊行、184ページ。

著者について:
前沢明枝(まえざわ あきえ): ウィキペディアの記事
アメリカのウェスタンミシガン大学で英米児童文学、ミシガン大学院で言語学を学ぶ。帰国後は海外の絵本や児童文学の紹介・翻訳をし、絵本を題材に比較文化の研究を続ける。
翻訳絵本に『みっつのねがい』『ピンクだいすき』(以上福音館書店)、『いつか空のうえで』(小学館)など多数がある。東京都在住。

前沢さんの訳書、著書: Amazonで検索


小学生のときに熱中して読んだ児童書「エルマーのぼうけんシリーズ3冊」は昨年9月に「「エルマーのぼうけん」シリーズ: ルース・S・ガネット」という記事で紹介した。この作品は2人の妹にとってもお気に入りだった。この本が書店に相変わらず並んでいるのを見ると、親から子へ、そして孫へと読み継がれている名作だとわかる。昨年は英語版で読み直していた。

原作者のルース・S・ガネットさんは現在95歳である。昨年8月にはガネットさんを招いてイベントが行われた。

【紀伊國屋ホール】 「エルマーのぼうけん」原作者ルース・S・ガネットさん 来日記念パネルディスカッション(2018年8月4日)
https://www.kinokuniya.co.jp/c/label/20180706100000.html

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当日のレポート: ページを開く

「エルマーのぼうけん」シリーズ:福音館書店のページ
https://www.fukuinkan.co.jp/ninkimono/detail.php?id=4


子供のころ読んだときにも原作者のことは気になっていたが、昨年英語版を読んでますます気になってきた。ということで翻訳家の前沢明枝さんがお書きになった原作者ガネットさんの伝記「「エルマーのぼうけん」をかいた女性 ルース・S・ガネット」を読むことにしたわけだ。

章立ては次のとおり。

第1部 『エルマーのぼうけん』が生まれるまで

むかしむかし…ちいさなルーシー
ルーシー 学校へ行く
ルーシー ハイスクールへ行く
ルーシー 大学へ行く
エルマーの物語のたんじょう
『エルマーのぼうけん』本になる

第2部 イサカの町で―今のガネットさん


生まれて間もないころから子供時代、少女時代をへて現在に至るまでの写真、子供の頃に書いた物語、家族写真、エルマーのぼうけんの原稿など、貴重な写真が載せられている。この自伝をお書きになった前沢さんは、長時間にわたってガネットさんをインタビューし、どのような人生を送ってきたかをガネットさん自身が語るスタイルで1冊の本にまとめた。小学生でも読みやすいように、ひらがな表記を多めにしている。

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ガネットさんの両親は2人も職業につていた。1920年代に女性が仕事をするというのはアメリカであっても、とても珍しいことで、ともに雑誌記者をしていた両親のもとで恵まれた幼少期をすごされていた。

ところが両親はガネットさんが5歳のときに離婚をしてしまう。父親と母親の家を行き来する生活の中でも、彼女はすくすくと育っていった。幼少期からお話をつくるのが好きな少女だった。そして10歳のとき父親が再婚。この新しい母は当時活躍していた挿絵画家で、後に『エルマーのぼうけんシリーズ3冊』の挿絵を描くことになるルース・クリスマン・ガネットさんである。3人の親を持っていたことについて、ガネットさんは肯定的にとらえている。

愛情に恵まれ、自分で考え、みずから実践するという教育の中でガネットさんは情緒豊かに育っていった。怪我をした動物を見ると助けずにはいられず、小学校でも盗みを働いた新入りの転校生をどのようにしたら仲間になってもらえるかを、友達とたっぷり時間をかけて考えていた。そのような彼女の資質は他人への思いやり、思春期から20代前半にかけておこる第二次世界大戦中のユダヤ人差別への反感としてあらわれることになる。22歳で結婚した相手はユダヤ人男性だ。

いちばんの読みどころは、もちろん「エルマーのぼうけん」を書き始める頃のことである。この伝記本を読んでいると、エルマーの物語にでてくる地名や果物、食べ物がなぜそうなったのか、なぜりゅうやその家族を助ける話なのか、2冊目の「エルマーとりゅう」がなぜカナリヤを助ける話なのか、3冊とも最後では家に帰ってお父さん、お母さんにあたたかく迎えられる場面で終わるのかがわかるようになる。


インタビューを終え、現在のガネットさんの生活ぶりを紹介する第2部が、また面白い。著者の前沢さんは年齢不詳だが、1996年頃から翻訳書を出されていることからみてガネットさんには孫の世代だと思う。そのような前沢さんがガネットさんが運転するクルマに乗り、雪道で動けなくなったときの顛末、自宅前にゴミを不法投棄しようとした強そうな若者をガネットさんが叱りつける話など、前沢さんがじかに見て驚いたガネットさんの姿がとても頼もしかった。現代女性が身につけていない、筋を通す昔かたぎの生き方を大切にお守りになっている。

なお、ガネットさんは「理系」であることを強調しておこう。大学での専攻は化学、卒業はボストン市立病院にあるソーンダイク記念研究所の研究員として勤務された。この研究所では病気の治療方法の効き目を試験したり、予防法を確認などを行っていた。


本書は「エルマーのぼうけんシリーズ3冊」を読んでからお読みになるほうが楽しめると思う。ぜひお読みいただきたい。


ご自身の思い出の発掘、お子さんへの読み聞かせのため、大切な人への贈り物として日本語版をお買い求めになる方は、ハードカバーの本をこちらからどうぞ。

エルマーのぼうけん
エルマーとりゅう
エルマーと16ぴきのりゅう
  


3冊セットだと次のものが買える。1冊ずつ買うより少し安くなる。

エルマーのぼうけんセット


3冊セットには「愛蔵版」というのを見つけた。少し高いのでコレクター向きだ。

愛蔵版 エルマーのぼうけんセット



英語版は版型が違うものが発売されているのでご注意いただきたい。次の3冊は出版社が同じで版型を揃えることができる。ソフトカバーの本だ。僕が買ったのはこの組み合わせである。

My Father's Dragon
Elmer and the Dragon
The Dragons of Blueland
  

英語版には3冊合本版がある。こちらはハードカバー。Kindle版としても購入できるのがうれしい。

Three Tales of My Father's Dragon」(Kindle版



本の読み聞かせ動画

「エルマーのぼうけん」は最初から最後まで、「エルマーとりゅう」は第3章まで日本語と英語の読み聞かせ動画がYouTubeにアップされている。英語のほうはリスニングの練習にちょうどよい。

【読み聞かせ】エルマーのぼうけん
エルマーのぼうけん(全部)+エルマーとりゅう(第3章まで): 再生リスト



My Father Meets the Cat: 再生リスト1 再生リスト2 再生リスト3


Elmer and the Dragon By Ruth Stiles Gannett



関連記事:

「エルマーのぼうけん」シリーズ: ルース・S・ガネット
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d7e850de5b1469a8a99e88d00e177699


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「エルマーのぼうけん」をかいた女性 ルース・S・ガネット


第1部 『エルマーのぼうけん』が生まれるまで

むかしむかし…ちいさなルーシー
- インタビューのはじまり
- お母さんとルシール
- ひとりでできる!
- お話だいすき
- お父さん家を出る
- お父さんとドライブ

ルーシー 学校へ行く
- ちょっと変わった小学校
- いたずら
- 考えて考えて
- お父さんの再婚
- こびと村
- ひとりの旅、船の旅

ルーシー ハイスクールへ行く
- 初めての寮生活
- 社会のために

ルーシー 大学へ行く
- 冒険旅行
- クマを救え!
- 戦争
- お父さんたんじょう日

エルマーの物語のたんじょう
- 研究所からレストランへ
- 『エルマーの冒険』のはじまりはじまり

『エルマーのぼうけん』本になる
- エルマーの物語完成
- 家内工業
- 『エルマーのぼうけん』の受賞と七人の子ども
- ルーシーの夢

第2部 イサカの町で―今のガネットさん
- イサカの家
- しかる人
- 雪のなかのドライブ
- 寄付

おわりに

東京大学出版会の基礎数学シリーズがKindle化され始めた件

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裳華房の基礎数学選書に続き、定評の高い東京大学出版会の基礎数学シリーズもKindle化され始めた。取り急ぎ衆知しておこう。

東京大学出版会の基礎数学シリーズ(Kindle版): Amazonで検索


関連記事:

裳華房の基礎数学選書がKindle化され始めた件
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/346e91be9ae14ccdc66b76112f53138b

松坂和夫 数学入門シリーズがKindle化されていた件
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7ce742bfbbd0ab088b586ef9b4b35ef1


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松坂和夫 数学入門シリーズがKindle化されていた件

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松坂和夫 数学入門シリーズは書籍版が発売されてからひと月半後にKindle化されていたようだ。こちらはご存知の方が多いだろうが、念のために衆知しておこう。

松坂和夫 数学入門シリーズ(Kindle版): Amazonで検索

このシリーズの詳細は、岩波書店のページをご覧いただきたい。

松坂和夫 数学入門シリーズ
https://www.iwanami.co.jp/search/g13214.html


関連記事:

裳華房の基礎数学選書がKindle化され始めた件
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/346e91be9ae14ccdc66b76112f53138b

東京大学出版会の基礎数学シリーズがKindle化され始めた件
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ザイマン現代量子論の基礎(新装版):J.M.ザイマン

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ザイマン現代量子論の基礎(新装版):J.M.ザイマン

内容紹介:
J.M.ザイマンによる上級量子論入門書のロングセラー“Elements of Advanced Quantum Theory”の邦訳(新装版)。初等量子力学を習得した学生が関心を持ち始める各種の話題―第二量子化、ファインマン・ダイヤグラムとグリーン関数、多体問題、相対論的量子力学、有限群および連続群の物理への応用―を独自の構成の下で明快に解説している。現代物理の総合的な見地に基づいて素粒子論的な話題と物性論的な話題を均等にあつかい、読者を上級量子論に現れる諸概念の本質へと導くための“親身の案内”をしてくれる名著である。

2008年9月1日刊行、256ページ。

著者について:
John Michael Ziman (16 May 1925 – 2 January 2005): Wikipedia

訳者について:
樺沢宇紀(かばさわ うき): 訳書: https://adx50150.wixsite.com/kabasawa-yakusho
1990年大阪大学大学院基礎工学研究科物理系専攻前期課程修了。(株)日立製作所中央研究所研究員。1996年(株)日立製作所電子デバイス製造システム推進本部技師。1999年(株)日立製作所計測器グループ技師。2001年(株)日立ハイテクノロジーズ技師。

樺沢先生の訳書: Amazonで検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で398冊目。

日ごろから、ツイッター上でやり取りをさせていただいている樺沢先生(@adx50150)が2000年に翻訳され、2008年に新装版として出版した上級量子論の入門書である。この分野の重要なトピックを限定し、数理物理学的視点から詳しく掘り下げて解説する副読本的位置づけの本だ。

数多くの理工学書の翻訳を手掛けてきた樺沢先生にとって、本書は最初に取り組まれたもので思い入れが深いそうだ。旧版はTeXによる数式に慣れておらず、2008年の新装版で、版面の全体的な完成度(見やすさ)を改善、2019年の新装版第2刷では第1刷で見つかっていた誤りを修正している。

この新装版は長らく入手困難の状態が続いていたが、第2刷がでたことで入手しやすくなった。Amazonで売り切れになっていたら、他のネットショップを確認してほしい。

樺沢先生による本書の紹介と、刊行するまでの内輪話は次のページでお読みいただける。

《樺沢の訳書》No.1
ザイマン 現代量子論の基礎 (2000/6)
ザイマン 現代量子論の基礎〔新装版〕 (2008/9)
J. M. ザイマン (著), 樺沢 宇紀 (翻訳)
https://adx50150.wixsite.com/kabasawa-yakusho/01

このページの中で物性物理がご専門の松尾先生が、本書を次のようにお勧めしている。

松尾 衛 先生(Kavli ITS)
サクライ「現代の量子力学」を読んだら「上級量子力学」(こちらも樺沢さん訳)と並行してこのザイマン(樺沢さん訳)「現代量子論の基礎」を読むのがオススメ。物性分野での場の量子論の使用方法がよく分かり、文献読んだり人の発表を聞くのがラクになりました。等々、一連の好意的なコメントをツィートしてくださっています。

章立ては次のとおりだ。

第1章 ボーズ粒子
第2章 フェルミ粒子
第3章 摂動論
第4章 グリーン関数
第5章 多体問題
第6章 相対論的形式
第7章 対称性の数理

邦題は「現代量子論の基礎」だが、量子論を初めて学ぶための本ではない。原題は「Elements of Advanced Quantum Theory(上級量子論の要点)」である。初等的な量子力学の教科書を学び終え、上級レベルすなわち相対論的量子力学、場の量子論、量子電磁力学、凝縮系物理、固体物理、素粒子物理を学ぶ大学院生が、補助教材として使うための本だ。

このような上級分野の教科書はもともと研究者指向の学生に向けて書かれているものがほとんどで、数式の導出過程が省略されていたり、前提となる物理的状況や注意点の記述の親切さに欠けていたりする。本書はテーマを絞り、限られたページ数の中ででできるだけ詳しく言葉を尽くした解説を与えながら、各テーマの「肝=本質」を学ばせてくれる。個別テーマの寄せ集め本という性格上、通年の授業や講義で使うための「教科書」にはなりにくい。良書にもかかわらず知名度が低いのはそのためだ。

読んでみたところ、全体的に高度で難しいと感じた。しかし第1章から第3章まではよく理解できたし、有益だった。第4章のグリーン関数と第5章の多体問題はちょっとついていけなかった。それは今のところ未習の分野にかかわる数理の解説のためだからだと思う。第6章の相対論的形式、第7章の対称性の数理は比較的易しく感じた。

本書は著者みずからが自分自身に教育するという姿勢で書いていることも本書の特長である。物性物理を専門とする著者にとって、本書で取り上げるテーマのほとんどは専門外である。たとえばディラックの「量子力学」(この本)に記述されている手法はお馴染みのものであるが、著者はこの方法をあまり使わずに固体物理の理論研究に携わってきた。その手法を自分自身と実験・理論両分野の学生のために講義をしていく中で、より正確な形の原稿としてまとめあげ、本書におさめられることとなった。

本書の性格上、必要な章だけ読むのでも構わない。いつでも取り出せるようにしておきたい本である。

巻末や上記の樺沢先生による紹介ページには、分野別に参考文献がたくさんあげられている。しかし、本書は先生が訳出された最初の本である。僕にはこれらの文献の他に、その後先生が訳出された次のような本を「合わせて読みたい」や「さらに学びたい方のために」として推しておきたい。

合わせて読みたい:

サクライ上級量子力学〈第1巻〉輻射と粒子」(紹介記事
サクライ上級量子力学〈第2巻〉共変な摂動論」(紹介記事
 


場の量子論〈第1巻〉量子電磁力学」(紹介記事
場の量子論〈第2巻〉素粒子の相互作用」(紹介記事
 


素粒子標準模型入門: W.N.コッティンガム、D.A.グリーンウッド」(紹介記事



さらに学びたい方のために:

ザゴスキン 多体系の量子論
シュリーファー 超伝導の理論
 


翻訳のもとになった原書はこちら。

Elements of Advanced Quantum Theory:J. M. Ziman」- 1975


J. M. Zimanの著書: Amazonで検索


関連記事:

発売情報:現代の量子力学(上) (下) 第2版:J.J. サクライ, J. ナポリターノ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/798f43e65b60d75143ee875bccc1be69

待望の日本語版: サクライ上級量子力学
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/588743e4ddcaf9ce2cf0586fdb0412ec

発売情報:場の量子論:F. マンドル, G. ショー
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/de351f45f8cdce0c29d0cc4abe5455f2

素粒子標準模型入門: W.N.コッティンガム、D.A.グリーンウッド
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/522960c6eb852df961348fee76463852


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ザイマン現代量子論の基礎(新装版):J.M.ザイマン




第1章 ボーズ粒子
- 調和振動子
- 消滅演算子・生成演算子
- 相互に結合した振動子群:1次元鎖
- 3次元格子系とベクトル場
- 連続体
- 場の古典論
- 第二量子化
- クライン-ゴルドン方程式
- 場の源・場の相互作用
- 例:フォノンのレイリー散乱
- 例:湯川型相互作用
- 荷電ボーズ粒子

第2章 フェルミ粒子
- 数表示
- 消滅・生成演算子:反交換関係
- 第二量子化
- 散乱:統計力学との関係
- 粒子の相互作用:運動量の保存
- フェルミ粒子-ボーズ粒子相互作用
- 正孔(空孔)と反粒子

第3章 摂動論
- ブリルアン-ウィグナー展開
- ハイゼンベルク表示
- 相互作用表示
- 時間発展演算子の級数展開
- S行列
- S行列展開の代数的方法
- ダイヤグラムによる表現
- 運動量表示
- 物理的な真空
- ダイソン方程式と繰り込み

第4章 グリーン関数
- 密度行列
- 密度演算子の運動方程式
- 正準集団
- 久保公式
- 1粒子グリーン関数
- エネルギー-運動量表示
- グリーン関数の計算
- 2粒子グリーン関数
- グリーン関数の階層性
- 時間に依存しないグリーン関数
- グリーン関数の行列表示
- 時間に依存しないグリーン関数の空間座標表示
- ボルン級数
- T行列
- 例:金属中の不純物準位

第5章 多体問題
- 巨視的な系の量子力学的な性質
- トーマス-フェルミ近似
- ハートリーの自己無撞着な場
- ハートリー-フォックの方法
- ハートリー-フォック理論のダイヤグラムによる解釈
- ブルックナーの方法
- 誘電応答関数
- 誘電関数のスペクトル表示
- 誘電隠蔽のダイヤグラムによる解釈
- 乱雑位相近似(RPA)
- フェルミ液体のランダウ理論
- 希薄なボーズ気体
- 超伝導状態

第6章 相対論的形式
- ローレンツ不変性
- 相対論的電磁気学
- 波動方程式とゲージ不変性
- 相対論的な場の量子化
- スピノル
- ディラック方程式
- ディラック行列
- ディラック場の量子化
- 相対論的な場の相互作用
- 散乱過程の相対論的運動学
- 解析的なS行列の理論

第7章 対称性の数理
- 対称操作
- 表現
- 有限群の正則表現
- 直交定理
- 指標と類
- 直積群と表現
- 並進群
- 連続群
- 回転群
- 回転群の既約表現
- スピノル表現
- SU(2)
- SU(3)

参考文献(訳者補遺)
訳者あとがき
索引

テンソル解析:田代嘉宏

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テンソル解析:田代嘉宏」(Kindle版

内容紹介:
初歩的な教科書から一歩踏み出して、専門書を読むと、テンソル量で表される物理量が随所に現れ、ベクトル解析についての知識の類推だけでは理解することができない。
本書では、理工系の読者が応用上必要とする3次元ユークリッド空間に限り、ベクトルについての復習的な解説を加えながら、テンソルの代数と解析を述べている。
1981年2月5日刊行、250ページ。

著者について:
田代嘉宏(たしろ よしひろ):研究者情報:https://nrid.nii.ac.jp/ja/nrid/1000090032995/
1926年生まれ。長野県出身。旧制松本高等学校、東京大学理学部数学科卒業、岡山大学助手、同助教授、同教授、同教養部長(併任)、広島大学教授、広島工業大学教授を経て岡山大学および広島大学名誉教授。理学博士。主な著書『社会科学者のための基礎数学』、『線形数学』、『ラプラス変換とフーリエ解析要論』、『理工系の微分積分学』、『応用解析学』、『確立と統計要論』、『数学ハンドブック応用編』、『古典幾何学』、『Conformal Transformations in Complete Riemannian manifolds』。

田代先生の著書: Amazonで検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で399冊目。

先日紹介した「線型代数学(新装版):佐武一郎」の最終章でテンソル代数が書かれていたのでテンソルのことが気になりだした。代数理論としてのテンソルは本来この本に書かれているように一般化した形で導入するのがよいのはわかる。しかし、これでは物理や工学系の学生に理解してもらえるはずがない。もっとやさしく書かれた本があったよなと10年ほど前に買っていた「テンソル解析:田代嘉宏」(Kindle版)があったことを思い出した。


新学期を目前に控え、大学ではどのような数学を学ぶのだろう?と期待したり、不安に思っている人がいるかもしれない。大学数学には高校までの数学にはない概念がきっとあるに違いない。「テンソル」や「群・環・体」などは入学前の学生には目新しい概念なのだろう。(とはいえ今の高校数学では「行列」も教えられないのだが、ひとまず忘れることにする。)

理工系の学生が教養課程で学ぶ数学で大切なのは「線形代数」と「微積分」には違いない。この2つは大学から学ぶ「代数学」、「解析学」、「幾何学」という3つの柱のうち「代数学」、「解析学」の基礎的な内容だ。入学してからみっちり勉強することになるから、それぞれお勧めの教科書や演習書で学ぶとよい。

とりあえず目新しいことを先取りしたい学生のために、大学入学前でも読めそうな本を紹介するのが今回の記事である。(とは言っても今回の本は線形代数を前もって学んでおくことが前提になる。未習の方は「高校数学でわかる線形代数:竹内淳」や「改訂版 行列とベクトルのはなし: 大村平」をお読みになるとよい。)


大学の数学では高校までに学んだ概念や方法を拡張したり、一般化することが行われる。実数から複素数への拡張もその一例だ。(旧課程の)高校数学で教えられていた行列は実数を縦横に並べた2次元だったが、大学では3次元、4次元....n次元になり、行列の要素を複素数や複素数関数として扱うようになる。ベクトルについても同じで多次元化、複素数化が行われる。

ベクトルや行列についてはこのような一般化のほかに、この図のように2次元の行列を奥行方向に重ねた数字の組み合わせも考えることができる。



この例は奥行方向に3枚重ねた「3階の」立体行列になっていて、各要素は3つの添え字で指定することができる。これがテンソルの一例だ。図示はできないけれど4階、5階...n階のテンソルまで考えることができる。このように考えればベクトルや行列もテンソルだと言うことができる。

これが視覚的なイメージで理解できる第一歩だ。数学的にはこのような導入方法は邪道なのかもしれないが、最初の一歩としての理解ならば、このようなイメージも許されると思う。そしてこのようにして拡張して得られた数学的対象に、代数的な計算規則が成り立っていることが重要である。(テンソルは広く「代数系」というくくりで学ぶことができる。)

本書の章立ては次のとおり。

第1章:テンソル代数
第2章:直交テンソル解析
第3章:テンソル解析の応用
第4章:一般のテンソル代数
第5章:一般のテンソル解析

本書はベクトルや行列の単なる拡張としてのテンソルから始まり、章を追うごとにより一般的な意味でのテンソルへと進む。高校数学では矢印や座標軸として視覚的イメージをもっていたベクトルが、線形代数学で一般的なベクトル空間が導入されたのと同じようなスタイルだ。第1章と第2章では、行列やベクトルの拡張としてのテンソル、第3章では物理学でテンソルが使われるのを流体力学、弾性論(応力テンソル)、電磁気学、等方テンソルを例に取り上げて解説する。ここまでのテンソルは直交テンソルで、前提としているのは3次元の直交座標の空間上での話だ。「ベクトル解析」として学ぶことがらとだいぶ重なる。

第4章と第5章では斜交座標をベースに理論が展開する。反変ベクトル、共変ベクトル、反変テンソル、共変テンソル、混合テンソル、アインシュタインの縮約、計量テンソル、曲線座標、共変微分、曲率テンソルなどだ。これらは一般相対性理論を学ぶために必須の数学である。しかし、本書で取り扱うのは3次元空間までなので、4次元時空の理論は対象外。微分幾何学やリーマン幾何学の入口あたりまで学んでおしまいである。曲がった空間の測地線の方程式も対象外。

一般相対性理論を目指してテンソルを学びたいのであれば「一般相対性理論に挑戦しよう!」でガイドした順番に従うか「一般相対性理論を一歩一歩数式で理解する: 石井俊全」をお読みになるのが近道だと思う。


本書はあくまで3次元空間をベースにした、物理系、工学系寄りの数学書だ。少々物足りないところもあると感じたが、テンソルだけを取り上げてまとめた教科書が少ないこと、読みやすい本であることを考えればユニークな本であり、お勧めできる1冊だと思う。少なくとも「テンソルって何?」という疑問に答えるには十分である。

言い忘れたが線形代数が機械学習のプログラミングの基礎として必須であるのはもちろん、テンソルもこの分野では使うことがある。

なお、本書が収められている裳華房の「基礎数学選書」は続々とKindle化されている。「裳華房の基礎数学選書がKindle化され始めた件」という記事にまとめておいたので確認してほしい。


関連記事:

大学で学ぶ数学とは(概要編)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/07137c47d16d95ddde8f5c4cb6f37d55

線形代数学入門のための教科書談義
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9d2ac30c9f5f620ad703304d710ed90b

一般相対性理論に挑戦しよう!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ea7ad9292ce01ad4abbbc8c98f3303d0

発売情報:一般相対性理論を一歩一歩数式で理解する: 石井俊全
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1699a1c22477c269c68c02091d0ca049


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テンソル解析:田代嘉宏」(Kindle版


まえがき

第1章:テンソル代数
1.1 ベクトル
1.2 テンソルの定義
1.3 テンソルの和,積
1.4 対称・交代テンソル
1.5 直交基底の変換とテンソルの成分
1.6 成分によるテンソルの構成
1.7 軸性テンソル
1.8 相反系
1.9 ダイアディクについて

第2章:直交テンソル解析
2.1 テンソル関数
2.2 曲線と質点の運動
2.3 2変数のテンソル関数と曲面
2.4 テンソル場
2.5 線積分
2.6 積分公式

第3章:テンソル解析の応用
3.1 流体力学
3.2 弾性論
3.3 電磁気学
3.4 等方テンソル

第4章:一般のテンソル代数
4.1 反変ベクトル,共変ベクトル
4.2 テンソル
4.3 テンソルの和,積
4.4 成分によるテンソルの構成
4.5 基本計量テンソル
4.6 テンソル密度

第5章:一般のテンソル解析
5.1 曲線座標
5.2 自然基底
5.3 クリストッフェルの記号
5.4 共変微分
5.5 直交曲線座標系
5.6 曲率テンソル

索引

なっとくする群・環・体:野崎昭弘

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なっとくする群・環・体:野崎昭弘」(Kindle版

内容紹介:
読めばなっとく、現代代数学のエッセンス! 群・環・体ってどんなもの? わかったようでわからない代数学の基礎を、現代的応用も交えて明快な論理で解きほぐす。名著者・野崎先生が語る、新感覚の入門書!
難解だからこそ、わかりたい!
あざやかな語り口で解きほぐす、現代数学の勘どころ。
2011年2月2日刊行、202ページ。

著者について:
野崎昭弘(のざき あきひろ): ウィキペディアの記事
1936年、横浜市生まれ。東京大学理学部数学科卒業、同大学院数物系研究科修了。電電公社(現NTT)電気通信研究所、東京大学教養学部、同理学部、山梨大学工学部、国際基督教大学教養学部、大妻女子大学社会情報学部を経て、現在、サイバー大学IT総合学部教授。専門はアルゴリズム理論、多値論理学。

野崎先生の著書: Amazonで検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で400冊目。

前回は「テンソル解析:田代嘉宏」を紹介したが、テンソルが理工系の新入生にとって新しい概念であるのと同様、「群・環・体」も高校数学までにはお目にかからない新しい数学概念なのだろう。テンソルと同じくこれら3つも「代数系」に含まれる概念だ。大ざっぱな言い方をすればテンソルが行列やベクトルの拡張であるのに対し、群・環・体は二項演算を一般化した概念である。そして単なる演算にとどまらず、幾何的な変換、運動、物事の対称性、代数方程式の解の存在性など、幅広い応用に結びつく数学や物理の法則や理論に欠かせないものとなっている。学ぶ価値は計り知れない。

僕には既習の分野だが、先日知人から「環って何?」という質問を受けたのがきっかけで、手軽に読めてわかりやすい本はないものかと探して見つけたのが本書である。

わざわざ本を読まなくても「群・環・体」の違いさえわかればよいという方は、このページと挿入されている表をご覧いただければ十分であろう。10分もあれば読むことができる。

群・環・体 - 大人になってからの再学習
http://zellij.hatenablog.com/entry/20121211/p1


さて、本書の章立ては次のとおり。

第1章 集合・関数と初等整数論――すべての基礎は整数にあり
第2章 群の理論――似ているものをひっくるめる理論
第3章 環の理論――整数と多項式はおんなじだ、という理論
第4章 体の理論――代数方程式論と符号理論の土台
付録 代数方程式論とは

第2章以降が群・環・体のそれぞれに1章ずつ割り当てられていて、全体で200ページほどの本だから、詳しく解説できないのは仕方がないこと。群までは言葉を尽くして解説を行っているが、環と体はどちらかというと定義と証明が中心である。

もちろん専門の代数系の教科書よりはずっと易しいから「最初に読む本」としてはいいのかなと思った。野崎先生ご自身、この本はお料理学校で言えば「包丁を研ぐ」段階の本だと表現されている。

このシリーズの「なっとくする」という点については、「どうなのかな?」という気がした。このレベルの本を好むのは物理専攻、工学専攻の学生が多く、現実世界の何に対応し、どのような応用につながるのかという視点に欠けているからだ。本書は易しいながらも数学の世界だけで閉じている。そして取り上げている例は要素を具体的に例示しない、通常の代数系の教科書と同じスタイルであり、「教科書の要点をかいつまんだ簡略版」という感じだ。

得られる達成感としては第2章の「フロベニウスの定理」、第3章の「整域と多項式が、ユークリッド整域の理論でまとめて扱えること」、第3章と第4章で扱う「商環の理論」が複素数体の導入や有限体を作り出すのにドンピシャリと役に立つことなどである。

本書を読んで概要を理解してから、通常の教科書を読み、そして復習用として本書を再読するのが効果的であると思った。演習や問題もないので身につかない。短い時間でざっと理解するための本である。

本書を読み終えたら「群・環・体入門:新妻弘、木村哲三」と「演習 群・環・体入門:新妻弘」で、具体的にみっちり学ぶことをお勧めしたい。

やはり「学問に王道はない」というのが「なっとくする群・環・体:野崎昭弘」(Kindle版)を読んでの感想だ。


このシリーズはKindle化されている本が多い。以下から検索していただきたい。

なっとくするシリーズ(Kindle版): Amazonで検索


関連記事:

群・環・体入門:新妻弘、木村哲三
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7f58114fe89f69d8e9a306fe819a6398

演習 群・環・体入門:新妻弘
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/32bc51d4f5a1de1a095ec9c69bc371f7

群論入門(新数学シリーズ 7):稲葉栄次
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f971ae2de623dd448868ad6ecca20051

代数系入門: 松坂和夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/055c0887eb88f94bceb53b859524c952

数学ガール/ガロア理論:結城浩
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a5450818389e0220779e363617332a76

ガロア理論の頂を踏む: 石井俊全
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/be7d2e4dbc9a86966cad1356025d4525

大学で学ぶ数学とは(概要編)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/07137c47d16d95ddde8f5c4cb6f37d55


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なっとくする群・環・体:野崎昭弘」(Kindle版


まえがき

第1章 集合・関数と初等整数論――すべての基礎は整数にあり
1.1 集合
1.2 関数
1.3 初等整数論

第2章 群の理論――似ているものをひっくるめる理論
2.1 合同と変換
2.2 変換と同値関係
2.3 置換群と同値関係
2.4 一般の群
2.5 部分群と正規部分群

第3章 環の理論――整数と多項式はおんなじだ、という理論
3.1 多項式と加減乗除
3.2 環とは何か
3.3 特殊な環
3.4 イデアルと商環
3.5 環の拡大と準同型

第4章 体の理論――代数方程式論と符号理論の土台
4.1 体の基礎
4.2 新しい体の構成
4.3 有限体

付録 代数方程式論とは

あとがき
参考文献
索引

400冊の理数系書籍を読んで得られたこと

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理数系書籍のレビュー記事が400冊に達したのでまとめておこう。

僕が理数系書籍を読み始めたいきさつや200冊までの読書で得られたこと、感じたことは2012年12月に書いた「200冊の理数系書籍を読んで得られたこと」や2016年4月に書いた「300冊の理数系書籍を読んで得られたこと」という記事を読んでいただきたい。また毎年発表するお勧め本は「とね日記賞」というカテゴリーの記事でお読みいただける。

301冊目から100冊を読むのに2年11カ月かかったことになる。(1冊目から200冊目までは6年、201冊目から300冊目までは3年4ヶ月かかっていた。書名一覧)理数系以外の一般書も意識して読むようになった。僕のような会社員が仕事をしながら勉強を続けられるのは、やはり好きだからできることなのだと思う。


301冊目からの100冊の書名一覧はこの記事の最後に掲載しておいた。

200冊までの勉強は、ニュートン力学から解析力学、熱・統計力学、相対性理論、量子力学、量子テレポーテーション、相対論的量子力学、場の量子論という基礎物理学の道筋をたどり、そのために必要になる数学書も読んできた。数学専攻だったので大学時代に物理学はまったく勉強していなかったから知らないことばかり。ワクワク感、高揚感に満たされる読書を経験することができた。

201冊目からの100冊では、超弦理論を目指しつつもより幅広い分野の本を読んだ。301冊目からの100冊では、より広い分野の本を幅広く読んでいる。めぼしいものをピックアップして何を学び、どう感じたかをカテゴリー別に書いておこう。番号をクリックすると本のレビュー記事が開く。本から得たこと、感じたことをさらに詳しく読めるほか、関連する本のレビュー記事へのリンクも張ってある。さしずめ「膨大なレビュー記事の迷宮」だ。このページで感想の概要をお読みになってからお入りになるとよいだろう。


以下301冊目からの100冊のうちの一部をジャンル別に紹介しておこう。

古典力学

348: マッハ力学―力学の批判的発展史:伏見譲訳
383: 力学の誕生―オイラーと「力」概念の革新―: 有賀暢迪
384: よくわかる初等力学: 前野昌弘

古典力学の面白さに気付かされた。「力学の誕生―オイラーと「力」概念の革新―」は特にお勧めしたい。


天文学、天体力学、力学系

388: 完訳 天球回転論: ニコラウス・コペルニクス
389: 星界の報告: ガリレオ・ガリレイ
392: 数理解析のパイオニアたち: V.I.アーノルド
393: 天体力学のパイオニアたち 上: F.ディアク、R.ホームズ
394: 天体力学のパイオニアたち 下: F.ディアク、R.ホームズ
395: ポアンカレ 常微分方程式 -天体力学の新しい方法-

天文学、特に力学系やカオス現象を解明するための数理に触れたのは貴重な体験だった。引き続きこの領域も追及していきたい。


量子論、量子力学

305: 高校数学でわかるシュレディンガー方程式:竹内淳
313: 相対論的量子力学 (量子力学選書): 川村嘉春
317: 部分と全体: W.K. ハイゼンベルク
318: 量子革命―アインシュタインとボーア、偉大なる頭脳の激突:マンジット・クマール
331: 量子論はなぜわかりにくいのか「粒子と波動の二重性」の謎を解く: 吉田伸夫
332: 趣味で量子力学2(Kindle版、オンデマンド版): 広江克彦
333: 量子力学の数学的基礎: J.v.ノイマン
334: アインシュタインの反乱と量子コンピュータ: 佐藤文隆
335: 12歳の少年が書いた 量子力学の教科書: 近藤龍一
337: 量子力学史(自然選書): 天野清
357: 量子的世界像 101の新知識: ケネス・フォード
358: 量子力学の哲学―非実在性・非局所性・粒子と波の二重性: 森田 邦久
386: 量子と情報 ―量子の実在と不確定性原理―: 小澤正直
390: テレポーテーション 瞬間移動の夢: デヴィッド・ダーリング
398: ザイマン現代量子論の基礎(新装版):J.M.ザイマン

量子力学は僕の中で相変わらず根強い関心がある。特に面白かったのは「アインシュタインの反乱と量子コンピュータ」や「量子的世界像 101の新知識」、「量子と情報 ―量子の実在と不確定性原理―」だろうか。「量子力学史(自然選書): 天野清」も読んでおくべき1冊である。


重力波、相対性理論、ブラックホール

309: 重力波は歌う:アインシュタイン最後の宿題に挑んだ科学者たち:ジャンナ ・レヴィン
320: マーミン相対論―新しい発想で学ぶ: デヴィッド マーミン
321: 重力(上) アインシュタインの一般相対性理論入門: ジェームズ・B・ハートル
323: 重力(下) アインシュタインの一般相対性理論入門: ジェームズ・B・ハートル
376: ブラックホール戦争:レオナルド・サスキンド
377: ホーキング、宇宙を語る:スティーヴン・W. ホーキング
378: A Brief History of Time (2017, 2018): Stephen Hawking
381: ブラックホールと時空の方程式:15歳からの一般相対論:小林晋平

重力波の初観測の発表やこれに関連するノーベル物理学賞の発表など、一般相対論への関心が高まった期間と重なった。またブラックホールの研究で業績を残したホーキング博士の逝去もこの期間である。その結果、この分野の本を集中して読むことになったのは自然の成り行きだと思う。特殊相対性理論の異色な本として「マーミン相対論―新しい発想で学ぶ」を読めたのも有益だった。


素粒子物理

340: 物質のすべては光: フランク・ウィルチェック
341: 量子物理学の発見: レオン・レーダーマン、クリストファー・ヒル
343: 素粒子標準模型入門: W.N.コッティンガム、D.A.グリーンウッド
344: An Introduction to the Standard Model of Particle Physics 2nd Edition: W.N.Cottingham, D.A.Greenwood
359: 基礎物理から理解するゲージ理論: 川村嘉春
362: 「宇宙のすべてを支配する数式」をパパに習ってみた: 橋本幸士
363: 素粒子論のランドスケープ2:大栗博司
380: クォークとレプトン―現代素粒子物理学入門:F.ハルツェン、A.D.マーチン

よい本ばかり選んで読んでいるなと、つくづく思う。この中からしいてお勧め本を選ぶと教養書では「物質のすべては光」と「量子物理学の発見」、「「宇宙のすべてを支配する数式」をパパに習ってみた」、専門書では「素粒子標準模型入門」と「クォークとレプトン―現代素粒子物理学入門」になるだろう。


金属工学

325: 図解入門最新金属の基本がわかる事典: 田中和明
328: 図解入門よくわかる最新熱処理技術の基本と仕組み[第3版]: 山方三郎

物性物理で金属のことを学んでも、現実の金属のほんの一部のことしかわからない。工学系の本で学んでみようと思って選んだ入門書がこの2冊。物理学科では学べないことが満載である。


素数・ゼータ関数、リーマン予想

308: リーマン--人と業績: D.ラウグヴィッツ
310: 現代思想 2016年3月臨時増刊号 総特集◎リーマン -リーマン予想のすべて-
354: 素数に憑かれた人たち ~リーマン予想への挑戦~:ジョン・ダービーシャー

素数の神秘、リーマン予想に入門したのもこの期間だ。読みたい本はまだまだたくさんあるが、とりあえず読めたのがこの3冊。特に「素数に憑かれた人たち」はお勧め。


代数学、代数系

316: 数学する精神―正しさの創造、美しさの発見: 加藤文元
319: 線型代数[改訂版]: 長谷川浩司
349: 改訂版 行列とベクトルのはなし: 大村平
350: 高校数学でわかる線形代数:竹内淳
342: はじめて学ぶリー群: 井ノ口順一
355: 代数に惹かれた数学者たち:ジョン・ダービーシャー
360: 天に向かって続く数: 加藤文元、中井保行
382: はじめて学ぶリー環: 井ノ口順一
397: 線型代数学(新装版):佐武一郎
399: テンソル解析:田代嘉宏
400: なっとくする群・環・体:野崎昭弘

数学も手を抜かなかった。苦手意識をもっていた代数学もやさしい本から難しい本までまんべんなく読んだ。特にお勧めなのは「天に向かって続く数」である。


解析学、幾何学

339: 複素解析: 小平邦彦
346: 楽しもう射影平面 目で見る組合せトポロジーと射影幾何学: 大田春外
364: 「集合と位相」をなぜ学ぶのか:藤田博司
368: 数学ガール: ポアンカレ予想 : 結城浩
369: 低次元の幾何からポアンカレ予想へ : 市原一裕
370: NHKスペシャル 100年の難問はなぜ解けたのか 天才数学者の光と影 : 春日真人
374: 岡潔/多変数関数論の建設:大沢健夫
375: 多変数関数論 (数学のかんどころ 21):若林功
385: 高校生からわかる複素解析: 涌井良幸
391: 楕円関数入門: 戸田盛和

解析学、幾何学の本もたくさん読んだ。特に新入生にお勧めなのは解析学やトポロジーの基礎づけとなる「「集合と位相」をなぜ学ぶのか」である。またこの期間はドラマ「天才を育てた女房」を見たことで多変数関数論にも手をだした。難しい本だが「多変数関数論 (数学のかんどころ 21)」が面白い。また「低次元の幾何からポアンカレ予想へ」もユニークで(難解だが)知的好奇心をくすぐられる本である。


量子コンピュータ

329: クラウド量子計算入門: 中山茂
330: 量子コンピュータ―超並列計算のからくり: 竹内繁樹

量子コンピュータに入門したのもこの3年間の出来事だった。今後ますます脚光を浴びていく領域だけに、より深く学んでいきたい。


AI、人工知能、機械学習

311: 人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの: 松尾豊
314: 脳・心・人工知能 数理で脳を解き明かす:甘利俊一
347: あたらしい人工知能の教科書: 多田智史、石井一夫
353: AI 人工知能の軌跡と未来 (別冊日経サイエンス)
365: Newton別冊『ゼロからわかる人工知能』 (ニュートン別冊)
371: 人工知能はどのようにして 「名人」を超えたのか?: 山本一成
372: 人工知能はいかにして強くなるのか?: 小野田博一

この分野はやさしめの本をなぞったに過ぎない。次々と新しい本がでるからどれを読んでよいのか決めるのに苦労する。もっと深く学んでいきたいだけに、今後はテーマを絞って選んでいこうと思う。今回のAIブームはいつまで続くのだろうかという気もする。


電子工学

361: 半導体デバイスの基礎 (上) 半導体物性
367: 半導体デバイスの基礎 (中) ダイオードと電界効果トランジスタ
373: 半導体デバイスの基礎 (下) バイポーラ・トランジスタと光デバイス

3冊しか読めなかったが有益な読書となった。この3冊は物理学専攻の人に向いている電子工学書である。今後は電子工作っぽい本も読んでいきたい。


原爆、核兵器

315: 原子爆弾 1938~1950年: ジム・バゴット
396: 核兵器: 多田将

こういうとんでもない兵器が再び頭上で炸裂しないことを願うばかりだ。科学技術がもたらした負の側面をしっかり学ぶこと、それがどのような兵器であることをしっかり学んでおこうと思って読んだ2冊である。どちらも分厚い本だが高校生以上なら読むことができるのでお勧めだ。


関連記事:

200冊の理数系書籍を読んで得られたこと
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1b92c958e54960246be16b564c6b8c8e

最初に読んだ理数系書籍200冊の書名一覧
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/102c6e8f855ec80cfefa900b5b3f6a14

300冊の理数系書籍を読んで得られたこと
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/8d57c3e2ee6d39fe7a1b083af03a3d41

超弦理論に至る100冊の物理学、数学書籍
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d37fe65a84df23cca2af7ecebb83cfc6

祝: とね日記はおかげさまで10周年!(2015年2月に投稿した記事)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b6227a305e06bc794b4cd9dd2dcc87f8


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301冊目から400冊目までの書名一覧

シリーズ物が連続するように実際に読んだのとは順番を少し変えている。記事本文で取り上げていない本はGoogleから「書名 とね日記」というキーワードで検索すれば、レビュー記事を見つけることができる。

301: マンガでわかる超ひも理論:荒舩良孝著、大栗博司監修
302: 超対称性理論とは何か:小林富雄
303: 『数学ガイダンス2016』数学セミナー増刊:日本評論社
304: 高校数学でわかるマクスウェル方程式:竹内淳
305: 高校数学でわかるシュレディンガー方程式:竹内淳
306: 高校数学でわかるボルツマンの原理:竹内淳
307: 科学の発見: スティーブン・ワインバーグ
308: リーマン--人と業績: D.ラウグヴィッツ
309: 重力波は歌う:アインシュタイン最後の宿題に挑んだ科学者たち:ジャンナ ・レヴィン
310: 現代思想 2016年3月臨時増刊号 総特集◎リーマン -リーマン予想のすべて-
311: 人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの: 松尾豊
312: 死ぬまでに学びたい5つの物理学: 山口栄一
313: 相対論的量子力学 (量子力学選書): 川村嘉春
314: 脳・心・人工知能 数理で脳を解き明かす:甘利俊一
315: 原子爆弾 1938~1950年: ジム・バゴット
316: 数学する精神―正しさの創造、美しさの発見: 加藤文元
317: 部分と全体: W.K. ハイゼンベルク
318: 量子革命―アインシュタインとボーア、偉大なる頭脳の激突:マンジット・クマール
319: 線型代数[改訂版]: 長谷川浩司
320: マーミン相対論―新しい発想で学ぶ: デヴィッド マーミン
321: 重力(上) アインシュタインの一般相対性理論入門: ジェームズ・B・ハートル
322: 真理の探究 仏教と宇宙物理学の対話: 佐々木閑、大栗博司
323: 重力(下) アインシュタインの一般相対性理論入門: ジェームズ・B・ハートル
324: 数学 その形式と機能: ソーンダース・マックレーン
325: 図解入門最新金属の基本がわかる事典: 田中和明
326: 『数学ガイダンス2017』数学セミナー増刊:日本評論社
327: 宇宙に「終わり」はあるのか: 吉田伸夫
328: 図解入門よくわかる最新熱処理技術の基本と仕組み[第3版]: 山方三郎
329: クラウド量子計算入門: 中山茂
330: 量子コンピュータ―超並列計算のからくり: 竹内繁樹
331: 量子論はなぜわかりにくいのか「粒子と波動の二重性」の謎を解く: 吉田伸夫
332: 趣味で量子力学2(Kindle版、オンデマンド版): 広江克彦
333: 量子力学の数学的基礎: J.v.ノイマン
334: アインシュタインの反乱と量子コンピュータ: 佐藤文隆
335: 12歳の少年が書いた 量子力学の教科書: 近藤龍一
336: 出題者心理から見た入試数学: 芳沢光雄
337: 量子力学史(自然選書): 天野清
338: コホモロジー: 安藤哲哉
339: 複素解析: 小平邦彦
340: 物質のすべては光: フランク・ウィルチェック
341: 量子物理学の発見: レオン・レーダーマン、クリストファー・ヒル
342: はじめて学ぶリー群: 井ノ口順一
343: 素粒子標準模型入門: W.N.コッティンガム、D.A.グリーンウッド
344: An Introduction to the Standard Model of Particle Physics 2nd Edition: W.N.Cottingham, D.A.Greenwood
345: 経理のExcel強化書: 平井明夫
346: 楽しもう射影平面 目で見る組合せトポロジーと射影幾何学: 大田春外
347: あたらしい人工知能の教科書: 多田智史、石井一夫
348: マッハ力学―力学の批判的発展史:伏見譲訳
349: 改訂版 行列とベクトルのはなし: 大村平
350: 高校数学でわかる線形代数:竹内淳
351: くすりの科学知識 (ニュートン別冊)
352: ボクが逆さに生きる理由: 中島宏章
353: AI 人工知能の軌跡と未来 (別冊日経サイエンス)
354: 素数に憑かれた人たち ~リーマン予想への挑戦~:ジョン・ダービーシャー
355: 代数に惹かれた数学者たち:ジョン・ダービーシャー
356: マーミン量子のミステリー:デヴィッド マーミン
357: 量子的世界像 101の新知識: ケネス・フォード
358: 量子力学の哲学―非実在性・非局所性・粒子と波の二重性: 森田 邦久
359: 基礎物理から理解するゲージ理論: 川村嘉春
360: 天に向かって続く数: 加藤文元、中井保行
361: 半導体デバイスの基礎 (上) 半導体物性
362: 「宇宙のすべてを支配する数式」をパパに習ってみた: 橋本幸士
363: 素粒子論のランドスケープ2:大栗博司
364: 「集合と位相」をなぜ学ぶのか:藤田博司
365: Newton別冊『ゼロからわかる人工知能』 (ニュートン別冊)
366: ファインマンさん 最後の授業:レナード・ムロディナウ
367: 半導体デバイスの基礎 (中) ダイオードと電界効果トランジスタ
368: 数学ガール: ポアンカレ予想 : 結城浩
369: 低次元の幾何からポアンカレ予想へ : 市原一裕
370: NHKスペシャル 100年の難問はなぜ解けたのか 天才数学者の光と影 : 春日真人
371: 人工知能はどのようにして 「名人」を超えたのか?: 山本一成
372: 人工知能はいかにして強くなるのか?: 小野田博一
373: 半導体デバイスの基礎 (下) バイポーラ・トランジスタと光デバイス
374: 岡潔/多変数関数論の建設:大沢健夫
375: 多変数関数論 (数学のかんどころ 21):若林功
376: ブラックホール戦争:レオナルド・サスキンド
377: ホーキング、宇宙を語る:スティーヴン・W. ホーキング
378: A Brief History of Time (2017, 2018): Stephen Hawking
379: 美内すずえ対談集 見えない力
380: クォークとレプトン―現代素粒子物理学入門:F.ハルツェン、A.D.マーチン
381: ブラックホールと時空の方程式:15歳からの一般相対論:小林晋平
382: はじめて学ぶリー環: 井ノ口順一
383: 力学の誕生―オイラーと「力」概念の革新―: 有賀暢迪
384: よくわかる初等力学: 前野昌弘
385: 高校生からわかる複素解析: 涌井良幸
386: 量子と情報 ―量子の実在と不確定性原理―: 小澤正直
387: 科学者はなぜ神を信じるのか コペルニクスからホーキングまで : 三田一郎
388: 完訳 天球回転論: ニコラウス・コペルニクス
389: 星界の報告: ガリレオ・ガリレイ
390: テレポーテーション 瞬間移動の夢: デヴィッド・ダーリング
391: 楕円関数入門: 戸田盛和
392: 数理解析のパイオニアたち: V.I.アーノルド
393: 天体力学のパイオニアたち 上: F.ディアク、R.ホームズ
394: 天体力学のパイオニアたち 下: F.ディアク、R.ホームズ
395: ポアンカレ 常微分方程式 -天体力学の新しい方法-
396: 核兵器: 多田将
397: 線型代数学(新装版):佐武一郎
398: ザイマン現代量子論の基礎(新装版):J.M.ザイマン
399: テンソル解析:田代嘉宏
400: なっとくする群・環・体:野崎昭弘

ブラックホールと時空の歪み: キップ・S. ソーン

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ブラックホールと時空の歪み: キップ・S. ソーン」―アインシュタインのとんでもない遺産

内容紹介:
2017年ノーベル物理学賞受賞! 
キップ・ソーンを一躍有名にした全米ベストセラー!
ブラックホールの内部はどうなっているのか? 特異点とは何か? 時間旅行は可能なのか?
宇宙物理学の最高権威が15年をかけて書き上げ、スティーヴン・ホーキングも絶賛した現代宇宙論の決定版。
映画『インターステラー(2014)』原案。

何も抜け出せないのに蒸発していくブラックホール、時間が消滅し空間が泡になる特異点、謎に満ちたワームホール―歴史・理論・逸話が奇跡のように融合したスリリングな物語。
著者は、カリフォルニア工科大学(カルテク)の理論物理学教授。1960年代初めから、プリンストンのホイーラーのもとで天体物理学の研究を始めた。ホイーラー、マイスナーと共に著した大著『重力理論(Gravitation)』(1973年刊)は、一般相対性理論と宇宙論の教科書として名高い。
本書は重力理論、特にブラックホールと宇宙論の本流を歩んできた学者による一般向けの読み物だが、内容に妥協はない。1970年代以降のほぼすべてのエピソードと真実が盛り込まれている。原題は『Black Holes & Time Warps: Einstein’s Outrageous Legacy』。邦訳は「時空の歪み」となっているが、もとは「Time Warps(タイムマシン)」の話である。
歴史はアインシュタインから始まる。彼がブラックホール(当時はまだその名はなく、後にホイーラーが命名)を終生認めなかったのはよく知られているが、命名者ホイーラー自身も当初は懐疑的であったのはおもしろい。ホイーラーに対峙していたのはオッペンハイマーで、彼らはいずれも大戦当時、原爆・水爆開発を主導した物理学者である。戦後、2人は大挙して重力理論と星の研究にやってきて、今にいたる刮目(かつもく)すべき宇宙論の展開を生んだ。
本書は、教科書『重力理論(Gravitation)』を「陽」とすれば、「陰」の位置にある。ソーンが個人的に知り得た歴史が綿々と織りなされている。ランダウ、ゼリドヴィッチ、サイアマのほか、おなじみペンローズやホーキングなども登場し、重力理論の英雄列伝でもある(もっとも日本人は2名しか出てこない。両佐藤巨匠はどうしたのか)。部分的には『重力理論(Gravitation)』より詳しく、過激な内容、未解決の問題にも踏み込んでいる。物理を学ぶ者は両者を併せ読むとおもしろいだろう。ブラックホールの蒸発、タイムワープなど高度な内容を第一人者がわかりやすく解説しているのはありがたい。

1997年7月1日刊行、552ページ。

著者について:
キップ・ステファン・ソーン(Kip Stephen Thorne、1940年6月1日-): ウィキペディアの記事
アメリカ合衆国の理論物理学者。ジョン・ホイーラーの弟子で重力の理論や、相対論的宇宙論の分野に貢献した。重力理論、ブラックホール、宇宙論の歴史と理論を解説した一般向けの著書『ブラックホールと時空の歪み アインシュタインのとんでもない遺産』(原題:Black Holes and Time Warps: Einstein's Outrageous Legacy)によって有名になった。2017年ノーベル物理学賞受賞。映画『インターステラー(2014)』を科学的立場から監修した。

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理数系書籍のレビュー記事は本書で401冊目。

これほど話題になった本なのに、本書のことを知ったのは先日「量子と情報 ―量子の実在と不確定性原理―: 小澤正直」を読んでのことだった。2015年9月に「初めて重力波を直接観測」した巨大な重力波検出器LIGOにレーザー光線の干渉による方式が採用されるきっかけとなったのが量子力学の不確定性原理による測定限界だったという話が書かれており、その元ネタが「ブラックホールと時空の歪み: キップ・S. ソーン」で解説されていたという話。

重力波はアインシュタインが1916年に発表した重力場の方程式から導きだされる現象で、一般相対性理論という宇宙や天体など大きな世界を記述する数式だ。超ミクロな世界を記述する量子力学、不確定性原理と関連をもっていることに驚き、本書を読んでみることにしたわけだ。

著者は生涯を一般相対性理論、ブラックホールの研究に捧げてきた2017年ノーベル物理学賞を受賞した超有名なキップ・ソーン博士である。LIGOの建設への貢献をしただけでなく、ブラックホールの最新研究成果を活かして映画『インターステラー(2014)』を科学的立場から監修されている。

2015年9月に直接観測されたの重力波は、2つのブラックホールの合体によって生じたもので、この結果はブラックホールの存在を直接観測したということでもある。アインシュタイン方程式からブラックホールの存在を初めて理論的に導出したのは「シュバルツシルト解(1916)」によるものであった。その後「ライスナー・ノルドシュトロム解(1916、1918)」、「カー解(1963)」、「カー・ニューマン解(1965)の順に発見されていった。

シュバルツシルト解(電荷を持たず、角運動量も持たない解)
ライスナー・ノルドシュトロム解(電荷を持ち、角運動量を持たない解)
カー解(電荷を持たず、角運動量を持つ解)
カー・ニューマン解(電荷を持ち、角運動量も持つ解)
参考:「ブラックホールの種類

1965年までに発見されたのは「数式上」であることにご注意いただきたい。この分野のパイオニアのひとりホイーラー博士がブラックホールという名称を考え出したのは1967年のことであり、ブラックホールの存在が白鳥座X-1の観測により間接的に検証されたのが1971年のことだ。2015年になるまでブラックホールの存在は確定的ではなかった。だから1916年から1971年までブラックホールはSF的な存在だったのである。

そもそもアインシュタイン方程式を発表したアインシュタイン博士自身は、ブラックホールのような存在を否定し、1916年以降、量子力学も受け入れず、一般相対性理論と電磁気学の統一(統一場理論)の研究に生涯を捧げた。

このように存在に確信が持てない対象を研究対象に選ぶのは、科学者にとって身を立てられない危険をはらんだものだったことを忘れてはならない。一般相対性理論がGPS衛星に必須となり、軍事的、経済的な利益をもたらしたのは1993年、本書の原書が書かれていた頃のことである。

ブルーバックスを始め、手軽に読める科学教養書にもブラックホールについて書かれたものがたくさんある。しかし、本書のように分厚い本がもたらす感動は比べ物にならない。その道の第一人者が数式を使わず、ブラックホールのありのままの姿をリアルに解説する本は、ほかには存在しないだろう。

冒頭のプロローグでは質量がまったく異なる3種類のブラックホールに接近していくとどう見えるか、SF仕立てで科学的解説を交えながら読者の心を一気につかんでいく。そして2015年に直接観測された2つのブラックホールが合体するような現場に突入するとどのように観測されるかが解説されている。しかも、2つのブラックホールの質量まで実際に観測されたのとほぼ同じ状況なのだ。原書は1994年に刊行されていたのである。

章立ては次のとおりだ。

プロローグ:ホール巡りの旅
第1章:空間と時間の相対性
第2章:空間と時間のワープ
第3章:ブラックホールの発見と否認
第4章:白色矮星の謎
第5章:避けられない爆縮
第6章:爆縮の果てに何が?
第7章:黄金時代
第8章:探索
第9章:掘り出し物
第10章:時空湾曲のさざ波
第11章:時空は本当に湾曲しているのか平坦か?
第12章:ブラックホールの蒸発
第13章:ブラックホールの内部
第14章:ワームホールとタイムマシン
エピローグ:アインシュタインの遺産、その過去と未来の概観と、何人かの主人公の後日談。


数式上の存在、空想上の存在だったブラックホールの現実の天体とのつながりがおぼろげながらわかってきたのは、恒星の終焉に関する研究が進んできたからだ。これも最初は数式上の研究である。質量が大きな恒星ほど、その生涯を閉じるときに小さく密度が大きい状態になり、質量を支えきれずに限界まで小さくなっていく。白色矮星、中性子星などはその研究過程で理論的に予測され、その後発見されていった。

しかし、もっと質量が大きいときはどうなるのか?その後おきた第二次世界大戦と戦後に研究・開発された原爆、特に水爆で使われる「爆縮」という現象がカギを握っていた。超巨大質量を持つ恒星は最期に爆縮をおこし、ブラックホールとなるのである。理論上求められていたブラックホールが現実の物理現象と結びついたのが1960年代で、終戦をきっかけにブラックホール研究の黄金時代が訪れた。著者のソーン博士が大学院生になったのが1960年代半ばである。

1950年頃までは、白色矮星や中性子星、ブラックホールの研究はアインシュタイン方程式から解析的、つまり紙と鉛筆そして手回し計算機を使って行われていた。方程式が非線形連立微分方程式であるから、とてつもない計算量である。1950年以降、ようやくコンピュータが利用できるようになり、1960年代の黄金時代に数多くの(理論的)発見がもたらされた。

ブラックホール探索は少しずつ始まっていたが、科学者のほとんどはまったく気にもかけていない時期が長く続いた。その最初の転換となったのが、わずか直径9メートルほどの電波望遠鏡で観測した銀河系の電波強度分布である。その2か所からとてつもないエネルギーの電磁波が放出されていることが観測された。これが後に太陽質量の数百万倍という超巨大ブラックホールによるものであることがわかるのである。光学望遠鏡だけでなく電波望遠鏡、X線望遠鏡の精度が向上するにつれて、遠方宇宙で常識外れの天体現象がおきていることわかってきた。

ブラックホール研究に長い時間がかかったのは、この分野がとても幅広い領域で専門知識が必要だったことによる。一般相対性理論の計算を専門にする科学者、天体物理学者、観測天文学者、原子核物理学者、観測装置に携わる電子工学者など、それぞれの分野の交流が行われ始めたのは黄金時代以降のことである。そして何より障害となったのは、数式が予測するブラックホールのあり様が、とてつもなく現実離れし、その時々で受け入れられていた物理法則を破るものであったことだ。計算は真実を示しているのに、無意識にそれを排除したり、他の研究者の発見を否定することがたびたび起こっていた。本書で描かれている人間ドラマは白色矮星の質量限界を予測したチャンドラセカール博士の話から、1980年代のホーキング博士のことまで、ソーン博士が実際に見聞きしたことを織り交ぜてとてもリアルに紹介されている。

ブラックホール研究の第一人者、ホーキング博士が活動し始めたのは1970年以降である。博士の「ホーキング、宇宙を語る」は昨年秋に読んだが、ソーン博士の本ではホーキング博士の業績をより詳しく解説し、さらにホーキング博士のご病状の変化を公私に渡る交流を通じて感じた体験としてお書きになっている。あらゆるモノが外に抜け出すことができないとされていたブラックホールから電磁波の放射が行われるというホーキング放射も、後に観測によって確認されることになった。

特にこの放射と関連するのが、量子力学と一般相対性理論の融合である。本当の真空というものはあり得ず、ミクロな時空の揺らぎの中で仮想粒子が対生成・対消滅しているというのが現代物理学(場の量子論)から得られた実際の姿であり、これは現在発売中の「Newton(ニュートン) 2019年 05 月号」(詳細)の特集記事「無とは何か」や「ニュートン別冊 無(ゼロ)の科学」(詳細)で解説されている。仮想粒子は存在しないので「無」である。

しかし、この仮想粒子をブラックホールの地平に向かって自由落下する加速系から見ると、実際の粒子として観測されることが本書の第11章で解説されている。同じ事象が見る立場(異なる系)で「無」になったり「有」になったりすることに、特に興味を持った。(専門的には「ウンルー効果」と呼ばれている。)

まだほとんどわかっていないブラックホールの内部について、詳しく書かれているのも本書の特長だ。量子物理学と一般相対性理論が予測する、大きな湾曲によって生じる時空の泡やブラックホール中心に存在するかもしれない特異点の姿を描き出す。そして内部に入った我々が見るであろう世界が第13章で語られる。

第14章はワームホールとタイムマシンである。ソーン博士ご自身もこのタイトルで論文を発表して痛い目にあったことがあるそうだ。同僚からは白い目で見られ、マスコミからは「タイムマシンを信じる科学者」として大袈裟に書かれたために恥ずかしい想いをされた。その後、この話題で論文を書くとき、マスコミ関係者には理解できない専門的な表現を使うようにされているそうである。現在はまだSF(そして博士が監修された映画『インターステラー』のメインテーマであるわけだが)でしか取り上げられていないワームホールとタイムマシンであるが、この2つは一般相対性理論から導出される、それぞれの解であることを強調しておこう。


2016年2月に発表された重力波初観測のニュースは記憶に新しい。当時の興奮はすさまじいものだった。アインシュタイン最後の宿題が解決されたと新聞が書きたて、ニュース番組ではCGを使った解説が何度も放送された。科学教養書もたくさん出版された。しかし、そのほとんどでアインシュタイン以降100年のことが抜けてしまっている。

その100年の間に恒星や銀河の天文学、ブラックホール研究の分野で何がおきていたのかを詳しく知ることで、重力波観測のニュースがいかに素晴らしい成果であったのかを再認識することができる。LIGO関係者だけでなく、ソーン博士を初めとする一般相対性理論の数理的な研究に携わってきた科学者には、想像もできないほど大きな感動、達成感を与えたことだろう。

本書にはLIGO以外に、すでに欧州で稼働しているVirgoのこと、そしてまだ名前がつけられていない日本の観測施設(KAGRA)のことも紹介し、今後発見されるブラックホールの位置の精度が向上することを述べている。

本書は登場する科学者の数が多く、年代も何度か前後する。巻末の「登場人物/年表」は全体を読み通した後に読むと知識が整理されるので、とても助かる。

アインシュタインが残した遺産は、このようにとてつもなく大きなものだった。今後、一般相対性理論の研究はますます重要になり、ブラックホールの研究は一般相対性理論、量子物理学、量子情報理論を統合すべく物理学者、数学者、天文学者の緊密な連携が必須となっていく。

本書は重力波初観測を思い出しつつ、その価値を再認識するために最もふさわしい本である。一度読んだだけでは吸収し尽くせないので、折に触れて何度も読み直してみたい。


ちょうどタイミングよく、次のニュースが今月飛び込んできた。ブラックホールはますます当たり前のものになりつつあるようだ。

愛媛大、約130億光年離れた宇宙に83個の「巨大ブラックホール」を発見
https://gunosy.com/articles/aHIWe


翻訳の元にされた原書は1994年に刊行された。本書の記述で「最新」とされるのは1993年時点である。

Black Holes and Time Warps: Einstein's Outrageous Legacy: Kip S. Thorne 」(ハードカバー)(Kindle版



関連記事:

重力理論 Gravitation-古典力学から相対性理論まで、時空の幾何学から宇宙の構造へ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f838b8f6c2554000933187df89e08013

映画『インターステラー(2014)』
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/58711fc5335ca00f51a5d22df3f6cc58

2017年 ノーベル物理学賞はワイス博士、バリッシュ博士、ソーン博士に決定!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4f6e5823d5cf2358aff0aee5f855e9cf

重力波の直接観測に成功!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a8439e8e4d81d7873422737d7bd1640d

2回目の重力波観測の発表で公開されたスライド
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/088e0cb4e3661cdb4555015be7b6df22

重力波は歌う:アインシュタイン最後の宿題に挑んだ科学者たち:ジャンナ ・レヴィン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1cb9b432d55f420797c4f00d02246b6e

ホーキング、宇宙を語る:スティーヴン・W. ホーキング
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1e3dbc9b3d10d4a9b6518b6b32429e22

ブラックホール戦争:レオナルド・サスキンド
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c8ad22de70df7be8e51a066ca8354106

量子と情報 ―量子の実在と不確定性原理―: 小澤正直
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/85535b676ced7641d936c60d265105bc

重力(上)(下) アインシュタインの一般相対性理論入門: ジェームズ・B・ハートル
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c195a49914a852b1c73049bb7b9743e0

ブラックホールと時空の方程式:15歳からの一般相対論:小林晋平
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f4401f2ce79451070b7b9c089f304315


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ブラックホールと時空の歪み: キップ・S. ソーン」―アインシュタインのとんでもない遺産


序文:宇宙でもっとも神秘的な対象ブラックホールをめぐる魅力あふれる物語:S・ホーキング
緒言:一般相対性理論の未確認の予測を信じる勇気を:F・ザイツ
まえがき:この本には何が書いてあり、どう読んでほしいのか

プロローグ:ホール巡りの旅
ここで読者が出会うのはSFのブラックホールとあらゆる不思議だ。それも1990年代半ばの最新の。
- 冥府
- サギッタリオ
- ガルガンチュア
- 故郷

第1章:空間と時間の相対性
アインシュタインの理論は空間と時間は絶対的というニュートンの考えを壊す。
- ニュートンと絶対空間と時間、およびエーテル
- アインシュタインの相対論的空間と絶対的な光速
- 物理法則の本性

第2章:空間と時間のワープ
空間と時間をミンコフスキーは統合し、アインシュタインはワープする。
- ミンコフスキーの絶対時空
- ニュートンの重力の法則と、それを相対論と娶らせようとするアインシュタインの第一歩
- 潮汐重力と時空の湾曲

第3章:ブラックホールの発見と否認
アインシュタインの時空ワープの法則はブラックホールを予測した。なのに、彼自身は否認した。

第4章:白色矮星の謎
重い星の死をめぐるエディントンとチャンドラセカールの師弟の争い。死ぬときには星は収縮してブラックホールを作るのか?:量子力学がそれを救うのか?
- 量子力学と白色矮星の中身
- 最大質量
- 戦い

第5章:避けられない爆縮
力の中でもっとも強いあの核力でさえ、重力の押しの強さに潰される。
- ツヴィッキー
- ランダウ
- オッペンハイマー
- ホイーラー

第6章:爆縮の果てに何が?
理論物理学のあらゆる武器を用いても、爆縮がブラックホールを作るという結論は避けられない。
- ブラックホールの誕生=最初の一瞥
- 核の間奏曲
- ブラックホールの誕生=より深い理解

第7章:黄金時代
ブラックホールがスピンして脈動していることがわかり、エネルギーを蓄え、放出し、頭髪のないことも判明した。
- 指導教授=ホイーラー、ゼリドヴィッチ、サイアマ
- ブラックホールにはヘアがない
- ブラックホールはスピンし脈動する

第8章:探索
この大空に漆黒の穴を見つけ出す方法を提案し追求し、(たぶん)成功に導いてみせる。
- 方法
- 探索

第9章:掘り出し物
思いがけない掘り出し物のおかげで、天文学者は突然、銀河の中心に太陽の100万倍の重さのブラックホールが(たぶん)あると結論することを強いられた。
- 電波銀河
- クェーサー
- 巨大ブラックホール

第10章:時空湾曲のさざ波
重力波はその中にブラックホール衝突の交響曲を暗号化して地球に運び、そして物理学者は波を検出する装置を工夫してこの交響曲を解読する。
- 交響曲
- バー
- LIGO

第11章:時空は本当に湾曲しているのか平坦か?
時空は日曜には湾曲し月曜には平坦であり、地平は日曜には真空であり月曜には電荷でできているが、日曜にも月曜にも実際は細部まで完全に一致する。

第12章:ブラックホールの蒸発
ブラックホールの地平は放射と熱い粒子の大気に覆われ、それがゆっくり蒸発してホールは縮み、やがて爆発する。
- ブラックホールは成長する
- エントロピー
- ブラックホールは放射する
- ブラックホールは収縮し爆発する

第13章:ブラックホールの内部
物理学者はアインシュタイン方程式と取り組みブラックホールの中の秘密を探ろうとする。もう一つの宇宙に通じる通路か?:無限大の潮汐重力を秘めた特異点か?:時空が終焉し量子の泡が誕生する場所か?
- 特異点と他の宇宙
- ペンローズ革命
- 最良の推測

第14章:ワームホールとタイムマシン
著者はつぎのように尋ね、物理法則への洞察を求める。高度文明は星間旅行のために超空間を通り抜けるワームホール、時間を遡るタイムマシンが作れるか?
- ワームホールとエキゾチックな物質
- タイムマシン
- 母親殺しのパラドックス
- クロノロジー保護?

エピローグ:アインシュタインの遺産、その過去と未来の概観と、何人かの主人公の後日談。

謝辞/登場人物/年表/用語解説/訳者あとがき/補註/参考文献/事項索引/人名索引

官房長官 新元号は「宇宙」と発表

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森羅万象とは関係ございません

4月1日午前11時半に始まった記者会見で、菅 内閣官房長官は5月1日に改元される元号を「宇宙」と発表した。新元号に対して総理大臣が談話をおこなうのは極めて異例のことである。

「宇宙元年」はたしかに見栄えがよい。しかし。。。。記者の間にどよめきが起こった。同日正午にこの元号に関しての安倍内閣総理大臣による談話が予定されている。

新元号には、このほかにも次のような候補があったことが明らかにされた。ネット上に記者の反応のテンプレートがあったので、各元号候補について作文してみた。


物理用語の元号

「新元号は超弦です」
官房長官がそう口にした瞬間記者たちに衝撃が走った。
「10次元なんて有り得ない」「使いにくい」「『ストリング』か『ひも』かはっきりしろ」などと思う記者は自分たちがこの理論を理解できていることに気付かない。

「新元号は時空です」
官房長官がそう口にした瞬間記者たちに衝撃が走った。「時空元年なんて有り得ない」「ゼロ年から始めろ」「翌年が『+1年』か『+1メートル』かはっきりしろ」などと思う記者は自分たちが(時間と空間が混ざり合う)ローレンツ変換となっていることに気付かない。


数学用語の元号

「新元号は素数です」
官房長官がそう口にした瞬間記者たちに衝撃が走った。
「素数元年なんて有り得ない」「2年から始めろ」「『ζ(-1)=∞』か『ζ(-1)=-1/12』かはっきりしろ」などと思う記者は自分たちがゼータ関数となっていることに気付かない。

「新元号は虚数です」
官房長官がそう口にした瞬間記者たちに衝撃が走った。「虚数元年なんて有り得ない」「i年から始めろ」「『2i年』か『i+1年』かはっきりしろ」などと思う記者は自分たちが複素数となっていることに気付かない。

「新元号は負数です」
官房長官がそう口にした瞬間記者たちに衝撃が走った。「負数元年なんて有り得ない」「-1年から始めろ」「翌年は『+1年』か『-1年』かはっきりしろ」などと思う記者は自分たちの預貯金が危機にさらされていることに気付かない。

「新元号は連続です」
官房長官がそう口にした瞬間記者たちに衝撃が走った。「連続元年なんて有り得ない」「ε-δから始めろ」「『デデキント』か『コーシー』かはっきりしろ」などと思う記者は自分たちが解析概論となっていることに気付かない。

「新元号は証明です」
官房長官がそう口にした瞬間記者たちに衝撃が走った。「証明元年なんて有り得ない」「公理から始めろ」「『定理』か『定義』かはっきりしろ」などと思う記者は自分たちが循環論法となっていることに気付かない。

「新元号は行列です」
官房長官がそう口にした瞬間記者たちに衝撃が走った。「行列元年なんて有り得ない」「単位行列から始めろ」「翌年は行列の『和』か『積』かはっきりしろ」などと思う記者は自分たちが数学Cで行列を履修していなかったことに気付かない。

「新元号は統計です」
官房長官がそう口にした瞬間文科省に衝撃が走った。「統計元年なんて有り得ない」「プログラミングから始めろ」「『ビッグデータ』か『ディープラーニング』かはっきりしろ」などと思う文科省の役人たちは自分たちが行列を履修していなかったことに気付かない。

「新元号は統計です」
官房長官がそう口にした瞬間厚労省に衝撃が走った。「統計元年なんて有り得ない」「問題になるかどうかの調査から始めろ」「『上からの指示だった』のか『忖度だった』のかはっきりしろ」などと思う厚労省の役人たちは自分たちが不正による違いを統計誤差にすり替えさせらていることに気付かない。


参考記事:

「超弦」、「素数」に関しては次の記事をお読みいただきたい。

大栗先生の超弦理論入門:大栗博司
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/75dfba6307d01a5d522d174ea3e13863

超ひも理論をパパに習ってみた: 橋本幸士
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/05d22e7299a4b30b24efb05cf01176a2

素数に憑かれた人たち ~リーマン予想への挑戦~:ジョン・ダービーシャー
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b15d8fa5e7f3e3e5b86cf1bc8a3c3f00

「時空」に関しては次の記事をお読みいただきたい。

英国王立協会、ニュートンが4次元時空の着想を得ていたことを発表
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5bcf405938c7ab3cfee8f06f14c2e4a1

「虚数」に関しては次の記事をお読みいただきたい。

虚数や複素数に大小がないのはなぜ?
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/398b0d7e84eb491dea9c38a15e994256

複素数 a+bi のプラス記号は「足す」という意味?
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e29c7f0e787464693ff26ab287b34ddd

「連続」に関しては次の記事をお読みいただきたい。

解析学入門のための教科書談義
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/22c325e49cfd7c721679dbc2896b86a4

「行列」、「統計」に関しては次の記事をお読みいただきたい。

次期学習指導要領(高等学校、数学、情報)について思うこと
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/89d69b96a16b12ec3901564f09785874


関連記事:

英国王立協会、ニュートンが4次元時空の着想を得ていたことを発表
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5bcf405938c7ab3cfee8f06f14c2e4a1

例の画像で遊んでみた。
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/07ecc1d77b373a76cd5007a02405204a


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井の頭公園の桜(平成31年4月)

神は老獪にして…: アブラハム・パイス

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神は老獪にして…: アブラハム・パイス」アインシュタインの人と学問

内容紹介:
本書は表題通り、人間アインシュタインばかりでなく、むしろその研究や思想に光を当てた最初の伝記である。
著者パイスはプリンストン時代にアインシュタイン の若い同僚だったこともあり、1983年アメリカン・ブック賞その他を得ているように、従来のアインシュタインの伝記書の水準を超える力作である。

1987年2月1日刊行、741ページ。(原書は1982年9月23日刊行)

著者について:
アブラハム・パイス: Wikipedia
1918‐2000。ユダヤ系オランダ人としてアムステルダムに生まれる。アムステルダム大学、ユトレヒト大学で物理学を学ぶ。1941年、博士号を取得した直後、大学からのユダヤ人追放令にともない潜伏生活に入り、ドイツ占領下の苛烈な時代を辛うじて生き抜いた。戦後ただちにデンマークのニールス・ボーア研究所に留学し、ボーアの助手を務めた。1947年渡米し、アインシュタインのいるプリンストン高等研究所所員となる。1956年、米国籍取得。1963年以降、ロックフェラー大学教授、この間、優れた素粒子論研究者として大きな業績を収めたが、1970年代には、現代物理学史に転じ、自らの研究生活と豊かな交友経験にもとづく多くの著作を書いた。

パイス博士の著書: Amazonで検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で402冊目。

ブラックホールと時空の歪み: キップ・S. ソーン」を読み、ブラックホール研究や重力波検出の歴史を知り、それらを予言した一般相対性理論やアインシュタインの人生を振り返ってみたくなった。

神は老獪にして…: アブラハム・パイス」がアインシュタインの伝記のなかで、いちばん詳しく正確だということを聞いたことがあったので迷わず購入。741ページをなんとか読み切った。

本書は伝記ではあるのだけれども、8割は科学者アインシュタインの研究過程や成果を数式を引用しながら解説する「半専門書」だ。残りの2割が通常の意味での伝記である。だからこの本を読めるのは、大学の物理学科で電磁気学、熱力学・統計力学、特殊相対論と一般相対論、量子力学を学び終えた大学生以上ということになる。敷居が高い。

著者はアブラハム・パイスという理論物理学者で、晩年のアインシュタインとプリンストン高等研究所で共同研究した経歴をもつ。アインシュタイン本人もこの伝記に協力している。「いちばん詳しく正確」なのはそのためだ。

本書はアインシュタインの研究過程や成果を数式を引用しながら解説しているだけに、彼の論文をまとめた「アインシュタイン選集」を読むための、最良のガイドブックとしても使うことができる。2008年に僕は論文が収録された第1巻と第2巻を読んで紹介記事を書いている。

アインシュタイン選集 1 ―特殊相対性理論・量子論・ブラウン運動―」(紹介記事
アインシュタイン選集 2 ―一般相対性理論および統一場理論―」(紹介記事
アインシュタイン選集 3 ―アインシュタインとその思想―
  


神は老獪にして…: アブラハム・パイス」の章立ては次のとおり。

I:序論
第1章:本書の目的と構成
第2章:相対論と量子論
第3章:若き物理学者の肖像

II: 統計物理学
第4章:エントロピーと確率
第5章:分子の実在性

III: 特殊相対性理論
第6章:神は老獪にして
第7章:新しい運動学
第8章:歴史の縁

IV:一般相対性理論
第9章:わが生涯で最も素晴らしい考え
第10章:ヘル・プロフェッソール・アインシュタイン
第11章:プラハの論文
第12章:アインシュタイン―グロスマンの共同研究
第13章:重力の場の理論:初めの50年
第14章:重力の場の方程式
第15章:新しい動力学

V:その後の旅路
第16章:「突然有名になったアインシュタイン博士」
第17章:統一場理論
第18章:序論

VI:量子力学
第19章:光量子
第20章:アインシュタインと比熱
第21章:光子
第22章:間奏曲:BKS提案
第23章:アイデンティテイの喪失―量子統計の誕生
第24章:過渡期の人、アインシュタイン―波動力学の誕生
第25章:新しい力学に対するアインシュタインの反応
第26章:アインシュタインの考え方

VII:旅路の終り
第27章:最後の10年
第28章:結び
第29章:テンソル、補聴器、その他:アインシュタインの共同研究者
第30章:アインシュタインは如何にしてノーベル賞を手にしたか
第31章:アインシュタインはノーベル賞に誰を推薦したか
第32章:アインシュタイン年譜


深い感動を味わえる本である。私たちはすでに物質が原子や分子からできていること、特殊・一般相対性理論や量子論・量子力学を知っている。しかし19世紀末の物理学の状況はどうであっただろうか?原子や分子の存在すらも確定しておらず、証明と検証が必要とされていた。熱力学・統計力学、電磁気学、そしてニュートン力学でこの世界の現象をすべて説明しようとしていた時代だ。

アインシュタインが成し遂げたブラウン運動の理論、特殊・一般相対性理論、光量子仮説と光子の理論は、発表するまでにそれぞれ10年以上の考察を必要とし、観測や実験によって検証されるまでさらに10年ほどの年月を必要とした。そして世界の科学者たちに受け入れられるまでには、さらに年月を要したのだ。

「奇跡の年」として記憶される1905年に発表された5つの論文についても同様である。1905年の特殊相対性理論の段階ではアインシュタインはまだまだ無名で、世界的に知られるようになったのは1916年の一般相対性理論から予言される光線の湾曲が、1919年にエディントンにより観測された後、1921年頃なのだ。新しいことが受け入れられるまで時間がかかるのは昔も今も同じである。偉業は一朝一夕でなされるものではない。


物理学はそれまでに発見された理論の上に構築されていくものだ。アインシュタインが何を前提とし、どのような考察をしたか、どのように新しい発想をして具体的な計算を行なったかを解説する中で、彼がよりどころとした他の科学者の理論や実験が紹介される。特殊相対論を発表する前に彼がローレンツ収縮を知っていたかどうか?ポアンカレの論文を読んでいたか?などは重要なポイントである。特殊相対性理論はアインシュタインが一人だけで構築できたわけではなかった。

また一般相対性理論に関しては、スカラー場からテンソル場への拡張が必要であり、リーマン幾何学という新しい微分幾何学を習得することが必要だったことも知られている。これを学ぶために長年の友人の数学者グロスマンの協力が必要であり、彼の協力をもってしても最終ゴールにたどり着くことができなった。数学者ヒルベルトの協力も必要とした。有名な「重力場の方程式」を得るためには「ビアンキの恒等式」が必要であり、これをアインシュタインもヒルベルトも気が付いていなかったことは本書で知ることとなった。

光量子仮説、そして光子の発見はもちろん読み応えのある章だ。エネルギーの量子性は1900年にプランクが発見したものだが、彼は実験データの内挿公式の結果から ε = hν としたわけではない。電磁気学の段階、熱力学的段階、統計力学的段階という3つの段階を経てこの式が導かれた。これが量子論が生まれた経緯である。(連投ツイートを参照)また1905年にアインシュタインが光量子仮説を提唱し、ε = hν の式と並べて p = hν / c の式を書き下ろすまで12年を要した。この運動量量子をエネルギー量子に結びつける偉大な洞察によって光量子は光子になった。(このツイートを参照)そして、1922年の「コンプトン散乱」の実験によって光子の実在性は最終決着をみたのである。

量子力学は1955年に亡くなるまで受け入れることができなかったとされる点に関しても注意が必要だ。アインシュタインが受け入れなかったのは、量子力学が示す確率的な振る舞いとEPRパラドックスに関してである。 粒子像と波動像の融合すると考えていたし、プランクだけでなく、ボーアやハイゼンベルク、シュレーディンガー、パウリなどの業績を高く評価し、アインシュタインは後年、彼ら量子力学創成期の物理学者たちをノーベル物理学賞の候補者として推薦している。そして、なぜだかわからないがディラックの業績は評価していなかった。

本書でいちばん興奮したのは、アインシュタインの洞察の深さと大胆な発想だけでなく、彼の理論を理解できなかったり反対する物理学者たちの理論や言い分が詳しく書かれていることだ。彼らが間違っていることを知っているだけに「天才」と「天才の中の天才」の違いが浮き彫りになる。そこから読み取れるのは普通の人間の限界であり、それを一歩も二歩も超えたアインシュタインの天才ぶりである。読んでいてスカッとした後に深い感動がもたらされる。新理論はすぐには受け入れられないし、100パーセントの確証があるわけではない。アインシュタインは慎重に裏付けをとっていく。

物理学史を舞台とするこのような人間ドラマを、鮮やかに描く著者パイスの文才にも驚かされる。各章の「つかみ」は素晴らしく、ぐいぐいとアインシュタイン物語に読者を引きずりこんでいく。専門的な記述がほとんどの本だけに集中して読むと疲れがちであるが、絶妙なタイミングでほっと息をつけるように「人間アインシュタイン」のエピソードが挿入されている。

ブラックホール(シュヴァルツシルト解)や重力波の話は少なかったが、それは一般相対性理論から予測はできても現実の宇宙には存在しないとアインシュタインが考えていたからだろう。それでも、本書と出会うことができて本当によかったと思う。ぜひ読んでいただきたい。今日ちょうどこのようなニュースが飛び込んできた。来週の発表が楽しみだ。

史上初のブラックホール画像、来週公開か 国際プロジェクト「EHT」
https://www.afpbb.com/articles/-/3219585

史上初!中国科学アカデミーのニュースで、世界の天文学者から成る宇宙観測チームは4月10日21時に世界初のブラックホールの写真を発表する世界的記者会見を開く事を決定した。
EHTによって史上初のブラックホールの写真の撮影に成功しました。

今年最も重要な発見となるでしょう

The Wait is Almost Over. We’ll Finally See a Picture of a Black Hole’s Event Horizon on April 10th
https://www.universetoday.com/141903/the-wait-is-almost-over-well-finally-see-a-picture-of-a-black-holes-event-horizon-on-april-10th/

Astronomers may release first-ever image of a black hole on April 10
https://www.theweek.in/news/sci-tech/2019/04/03/Astronomers-release-first-ever-image-of-black-hole-eht-eso-on-April-10.html


翻訳の元にされた原書は1982年に刊行されたこの本だ。

Subtle Is the Lord: The Science and the Life of Albert Einstein: Abraham Pais」(ハードカバー


原書には2005年に刊行された新版「Subtle Is the Lord: The Science and the Life of Albert Einstein: Abraham Pais」(Kindle版)がある。


本書にはパイス博士による続編がある。

アインシュタインここに生きる: アブラハム・パイス
Einstein Lived Here: Abraham Pais
 


こんな分厚い本は無理、ましてアインシュタイン選集なんて論外という方は、「奇跡の年」と呼ばれる1905年の5つの論文と解説を収めたこの文庫本がお勧め。青木薫さんの翻訳なので安心して読むことができる。

アインシュタイン論文選: 「奇跡の年」の5論文



アインシュタイン博士ご本人がお書きになった本も、岩波文庫で読める。

相対性理論(岩波文庫): A.アインシュタイン」(Kindle版
相対論の意味(岩波文庫): A.アインシュタイン
 


数式はまったく読めないが、アインシュタインの人生や業績を知りたいという方には、こちらがお勧め。ただし2016年2月に発表された「重力波の直接初観測」以前に刊行された本であることにご注意。

アインシュタイン 相対論の100年 (ニュートンムック Newton別冊)」(詳細



関連記事:

アインシュタイン選集 1 ―特殊相対性理論・量子論・ブラウン運動―
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/26d6fc929bf7b9f0fc1e2a210882f559

アインシュタイン選集 2 ―一般相対性理論および統一場理論―
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d3d0869ab3911e84845b5b121bd1aa3e

だれが原子をみたか(岩波現代文庫):江沢洋
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0f1e91e296d8d83ff2759c2de190be57

ブラックホールと時空の歪み: キップ・S. ソーン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/76795b03e7dc89cd08dac67dc25b73ab

アインシュタインの反乱と量子コンピュータ: 佐藤文隆
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9fa38724ad6881636cdff2903ee14a5b


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神は老獪にして…: アブラハム・パイス」アインシュタインの人と学問


監訳者の序
日本語版への序
読者へ

I:序論

第1章:本書の目的と構成

第2章:相対論と量子論
- 秩序ある変化と革命の時期
- タイム・カプセル

第3章:若き物理学者の肖像
- アインシュタインの伝記についての追記

II: 統計物理学

第4章:エントロピーと確率
- アインシュタインの寄与の概観
- マクスウェルとボルツマン
- 1905年への前奏曲
- アインシュタインとボルツマンの原理

第5章:分子の実在性
- 19世紀について、簡単に
1)化学、2)気体分子運動論、3)非可分性の終焉、4)非可視性の終焉
- ベッファーの瓶とファント・ホッフの法則
- 博士論文
- 11日後:ブラウン運動
1)19世紀の歴史のもう一コマ、2)Nの重複決定、3)ブラウン運動についてのアインシュタインの第1論文、4)マルコフ過程としての拡散、5)その後の論文

III: 特殊相対性理論

第6章:神は老獪にして
- マイケルソン-モーリ―の実験
- 先駆者たち
1)アインシュタインの知っていたこと、2)フォークト、3)フィッツジェラルド、4)ローレンツ、5)ラーモア、6)ポアンカレ
- 1905年のポアンカレ
- 1905年以前のアインシュタイン
1)パヴィアの小論、2)アーラウでの疑問、3)ETHの学生、4)ヴィンターツールの手紙、5)ベルンの講演、6)京都講演、7)まとめ

第7章:新しい運動学
- 1905年6月:特殊相対性が定義され、ローレンツ変換が導かれる
1)相対論の審美的起源、2)二つの基本原理、3)基本原理からローレンツ変換へ、4)応用、5)相対論と量子論、6)「私は、そのことをもっと簡単に言えたはずだ。」
- 1905年9月:E=mc^2について
- 初期の反応
- 1905年以降のアインシュタインと特殊理論
- 電磁質量:最初の1世紀

第8章:歴史の縁
- 新しい思考方法
- アインシュタインと文献
- ローレンツとエーテル
- ポアンカレと第3の仮説
- ホイテッカーと相対論の歴史
- ローレンツとポアンカレ
- ローレンツとアインシュタイン
- ポアンカレとアインシュタイン
- コーダ(終曲)
- マイケルソン-モーリ―の実験

IV: 一般相対性理論

第9章:わが生涯で最も素晴らしい考え

第10章:ヘル・プロフェッソール・アインシュタイン
- ベルンからチューリッヒへ
- 3年半の沈黙

第11章:プラハの論文
- チューリッヒからプラハへ
- 1911年、光の湾曲は検出できる
- 1912年、無人の領域にいるアインシュタイン

第12章:アインシュタイン―グロスマンの共同研究
- プラハからチューリッヒへ
- スカラーからテンソルへ
- 共同研究
- 障害
- 余波

第13章:重力の場の理論:初めの50年
- ウィーンのアインシュタイン
- アインシュタイン-フォッカーの論文

第14章:重力の場の方程式
- チューリッヒからベルリンへ
- 幕合いの出来事:磁化による回転
- 最後の歩み
1)危機、2)11月4日、3)11月11日、4)11月18日、5)11月25日
- アインシュタインとヒルベルト

第15章:新しい動力学
- 1915年から1980年
- 三つの成功
- エネルギーと運動量の保存:ビアンキの恒等式
- 重力波
- 宇宙論
- 特異点;運動の問題
- GR9で他に何が新しかったか

V: その後の旅路

第16章:「突然有名になったアインシュタイン博士」
- 病気;再婚;母の死
- アインシュタイン列聖に叙せられる
- 伝説の誕生
- アインシュタインとドイツ
- その後の著作
1)文化人として、2)科学者として

第17章:統一場理論
- 1920年頃の粒子と場
- もう10年の懐胎期間
- 第5の次元
1)カルーツァとオスカー・クライン、2)アインシュタインとカルーツァ-クライン理論、3)補遺、4)二つの自由選択
- 相対論とポスト-リーマン微分幾何学
- その後の旅路:科学年代記
- 統一についてのあと書き、量子論への序

VI: 量子力学

第18章:序論
- アインシュタインの貢献の概略
- 素粒子物理学:最初の50年間
- 量子論:影響の相関図

第19章:光量子
- キルヒホッフからプランクへ
- プランクに基づいたアインシュタイン:1905年、レイリー-アインシュタイン-ジーンズの法則
- 光量子仮説と発見法的原理
- プランクに基づいたアインシュタイン:1906年
- 光電効果:hの2度目の登場
1)1887年:ヘルツ、2)1888年:ハルヴァックス、3)1899年:J.J.トムソン、4)1902年:レナルト、5)アインシュタイン、6)1915年:ミリカン;デュアヌ-ハント極限
- 光量子仮説に対する反応
1)アインシュタインの慎重さ、2)電磁気学:自由場と相互作用、3)実験の衝撃

第20章:アインシュタインと比熱
- 19世紀における比熱
- アインシュタイン
- ネルンスト:ソルヴェイI

第21章:光子
- 粒子像と波動像の融合:アインシュタインの運命
- 自発および誘導輻射遷移
- 粒子像の完成
1)光量子と光子、2)運動量のゆらぎ:1909年、3)運動量のゆらぎ:1916年
- 偶然性についての最初の不快感
- わき道:変数分離不能な古典運動に対する量子条件
- コンプトン効果

第22章:間奏曲:BKS提案

第23章:アイデンティテイの喪失―量子統計の誕生
- ボルツマンからディラックへ
- ボース
- アインシュタイン
- ボース-アインシュタイン凝縮への補遺

第24章:過渡期の人、アインシュタイン―波動力学の誕生
- アインシュタインからドゥ・ブロイへ
- ドゥ・ブロイからアインシュタインへ
- ドゥ・ブロイ、アインシュタインからシュレーディンガーへ

第25章:新しい力学に対するアインシュタインの反応
- 1925年-31年:論争の始まり
- プリンストンでのアインシュタイン
- 客観的実在とアインシュタイン

第26章:アインシュタインの考え方
- アインシュタイン、ニュートンと成功
- 相対論と量子論
- 超因果律

VII: 旅路の終り

第27章:最後の10年

第28章:結び

第29章:テンソル、補聴器、その他:アインシュタインの共同研究者

第30章:アインシュタインは如何にしてノーベル賞を手にしたか

第31章:アインシュタインはノーベル賞に誰を推薦したか

第32章:アインシュタイン年譜

本書解題に代えて
人名索引
事項索引

ホーキング、ブラックホールを語る:BBCリース講義

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ホーキング、ブラックホールを語る:BBCリース講義」(Kindle版

内容紹介:
重力波検出に伴って初めて「発見」されて注目の天体、ブラックホール。その謎のエッセンスをホーキング博士が一般向け30分のレクチャーに圧縮した、垂涎のBBCリース講義を完全書籍化。パラドックスの理解を助けるイラスト満載で贈るコンパクトな科学解説。

2017年6月25日刊行、63ページ。(BBCでの放送は2016年1月26日と2月2日)

著者について:
スティーヴン・W・ホーキング(Stephen W. Hawking)
1942年、イギリスのオックスフォード生まれ。アインシュタイン以来の最も優秀な理論物理学者の一人と言われる。1963年、ケンブリッジ大学の大学院生だった21歳のときに、運動ニューロン疾患を発症し、余命2年と告げられる。しかし、その宣告を覆して優秀な研究者となり、かのアイザック・ニュートンも就任したルーカス教授職を30年にわたり務めた。王立協会フェロー、全米科学アカデミー会員であったほか十数個の名誉学位を持ち、1989年には名誉勲位を授けられた。ケンブリッジ大学理論宇宙論センターに研究責任者として在籍中の2018年3月に死去。著作に『ホーキング、宇宙を語る』『ホーキング、未来を語る』『ホーキング、宇宙と人間を語る』など。

ホーキング博士の著書: 日本語版 英語版


理数系書籍のレビュー記事は本書で403冊目。

今週水曜日、4月10日の発表が待ち遠しい。ブラックホールがトレンドになると思うので、急きょ「ホーキング、ブラックホールを語る:BBCリース講義」(Kindle版)を読んでみた。

史上初のブラックホール画像、来週公開か 国際プロジェクト「EHT」
https://www.afpbb.com/articles/-/3219585

史上初!世界の天文学者から成る宇宙観測チームは4月10日21時に世界初のブラックホールの写真を発表する世界的記者会見を開く事を決定した。EHTによって史上初のブラックホールの写真の撮影に成功しました。
今年最も重要な発見となるでしょう。


昨年3月14日に逝去されたホーキング博士。昨夜は博士の人生を描いた映画『博士と彼女のセオリー(2014)』(Prime Video)を観て過ごした。あと1年ちょっと長く生きてくださったら、今回の発表をご覧いただけたはずなのにと思うと残念でならない。




本書はBBCリース講義というラジオ番組でホーキング博士がブラックホールに関してお話になった内容を翻訳し、書籍化したものだ。放送は2016年1月26日と2月2日の2回にわたって行われている。つまり、史上初の「重力波の直接観測の発表」が行われ、同時にブラックホールの存在が直接検証が発表された2016年2月12日の直前のことだ。日本語版は2017年6月に刊行されたから、重力波検出の話題を含んでいる。

専門知識をもたない一般人向けに行われた講義なので、とてもわかりやすい。ブラックホール研究の歴史やその事象の地平面でおきている現象を専門用語を使わず日常的な言い回しで解説している。解説に含まれているのはニュートン力学、一般相対性理論、熱力学、量子力学、情報理論。

初期の「ホーキング放射」からブラックホールの「無毛定理」、「蒸発理論」、「情報パラドックス」そして発表したばかりの「柔毛仮説(arXivの論文)」までを解説。

2回にわたって行われた放送は次のとおりだ。

1.ブラックホールには毛がないのか(2016年1月26日放送)
2.ブラックホールはそれほど真っ黒ではない(2016年2月2日放送)

本書の購入をお考えの方は、こちらからアマゾンの読者ビューをご確認いただきたい。

ホーキング、ブラックホールを語る:BBCリース講義」(Kindle版



英語でOKの方のために:

BBCのラジオで放送されたこの講演は、BBCのサイトで無料公開されている。(そしてYouTubeにもアップされている。)トランスクリプト(写し)もPDFファイルでダウンロードできる。日本語版はこのトランスクリプトを元にして翻訳と編集をして作られた。

英語で問題のない方は、こちらからお聞きになるとよいだろう。

Stephen Hawking on Black Holes, The Reith Lectures 2016

1. Do black holes have no hair? (Top page, Audio, Transcript)



説明イラスト付き



2. Black holes ain't as black as they are painted (Top page, Audio, Transcript)



説明イラスト付きはこちら


新刊案内:

ホーキング博士がお書きになった最新刊(最後の本)の日本語版が先月刊行されたので原書とともに紹介しておこう。ブラックホールについてのQ&Aも書かれている。

ビッグ・クエスチョン―〈人類の難問〉に答えよう:スティーヴン・ホーキング」(Kindle版
Brief Answers to the Big Questions: the final book from Stephen Hawking」(Kindle版
 

この本では以下の難問に対してホーキング博士は回答している。

1. 神は存在するのか?
2. 宇宙はどのように始まったのか?
3. 宇宙には人間のほかにも知的生命体は存在するのか?
4. 未来を予言することはできるのか?
5. ブラックホールの内部には何があるのか?
6. タイムトラベルは可能なのか?
7. 人間は地球で生きていくべきなのか?
8. 宇宙には植民地を建設すべきなのか?
9. 人工知能は人間より賢くなるのか?
10.より良い未来のために何ができるのか?


関連記事:

ホーキング、宇宙を語る:スティーヴン・W. ホーキング
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1e3dbc9b3d10d4a9b6518b6b32429e22

ブラックホールと時空の歪み: キップ・S. ソーン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/76795b03e7dc89cd08dac67dc25b73ab

ブラックホール戦争:レオナルド・サスキンド
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c8ad22de70df7be8e51a066ca8354106

ブラックホールと時空の方程式:15歳からの一般相対論:小林晋平
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f4401f2ce79451070b7b9c089f304315

ホーキング博士の訃報に接し (Stephen Hawking passed away)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/63860b8ac08b47f1fc9c5cbac3f9ca8f

神は老獪にして…: アブラハム・パイス:アインシュタインの人と学問
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d9258ed7a2d52173116ccd6e61ba0881


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史上初!ブラックホールを撮影し、その存在を証明

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人類が初めて目にしたブラックホールの姿

日本時間4月10日22時、世界6か所から同時発表のライブ配信で史上初のブラックホール画像が公開された。専門のページで詳しい解説がされているので、記録として手短かにブログ記事として残しておこう。今回は日本語で発表が見れたのがよかった。

記者会見:イベント・ホライズン・テレスコープによる研究成果


本間先生の解説開始: 4分30秒後
ブラックホールの画像公開: 9分28秒後
質疑応答開始: 38分16秒後


ブラックホールが丸い形で観測される様子を説明する動画=国際研究チーム提供


黒い部分がブラックホールではない。ブラックホールの事象の地平面(ブラックホールの表面)は黒い部分の40%の直径ほど。(40%はだいたい1/2.6)、この動画を見ると意味がよくわかる。

How to Understand the Image of a Black Hole



今回撮影されたブラックホール(正確にはブラックホールの影)の質量は太陽の65億倍だという。2015年9月に重力波初検出をもたらしたブラックホール連星の質量は、それぞれ太陽質量の30倍程度であることから、いかに巨大なブラックホールであることがおわかりだろう。またこのブラックホールは5500万光年離れたM87銀河の中心部にあるので、宇宙全体からみるとかなり近い場所にある。(重力波初検出のときのブラックホールは13億光年離れている。)

会見が行われる前にしていたツイート: 連投ツイート
会見中にしていたツイート: 連投ツイート


会見で映された主なスライドを載せておこう。


















テレビ朝日の報道ステーションでも取り上げられた。








ブラックホールは1915年に発表された、アインシュタインの一般相対性理論によるアインシュタイン方程式(重力場の方程式)から理論的に導かれる。これは質量のある物体が存在すると、その周囲の空間の長さが縮み(結果として空間が曲がる)、時間が遅れることを示す数式だ。しかし、アインシュタイン自身はブラックホールのようなものは現実の宇宙には存在しないとし、否定的な論文も書いたそうだ。空間が曲がることの意味がわからない人は「宇宙の形、ガウスの曲面論と内在幾何(第1回)」から始まる連作記事をお読みいただきたい。

アインシュタイン方程式(重力場の方程式): 解説動画


意味はこのようなものである。


この式からカール・シュヴァルツシルトが1916年に導いたのがシュヴァルツシルト解というブラックホールをあらわす最初の解である。(球対称で回転していないブラックホール)



学んでみたい方は「ブラックホールと時空の方程式:15歳からの一般相対論:小林晋平」や「一般相対性理論に挑戦しよう!」をお読みになるとよい。

その後「ライスナー・ノルドシュトロム解(1916、1918)」、「カー解(1963)」、「カー・ニューマン解(1965)の順に発見されていった。

シュバルツシルト解(電荷を持たず、角運動量も持たない解)
ライスナー・ノルドシュトロム解(電荷を持ち、角運動量を持たない解)
カー解(電荷を持たず、角運動量を持つ解)
カー・ニューマン解(電荷を持ち、角運動量も持つ解)
参考:「ブラックホールの種類

1965年までに発見されたのは「数式上」であることにご注意いただきたい。この分野のパイオニアのひとりホイーラー博士がブラックホールという名称を考え出したのは1967年のことであり、ブラックホールの存在が白鳥座X-1の観測により間接的に検証されたのが1971年のことだ。2015年になるまでブラックホールの存在は確定的ではなかった。だから1916年から1971年までブラックホールは理論上の存在だったのである。


イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)・プロジェクトによる今回の成果は、ブラックホール天文学の幕開けであり、ノーベル物理学賞級であることは間違いない。ただ、国際チームであること、協力者の人数が多いことから、受賞者を選考するのは相当困難だと想像している。

ともあれ、このようなライブ配信を見ると毎回感動させられる。この10年の間にヒッグス粒子の発見重力波の直接初観測重力波を中性子星で観測、ブラックホールの直接撮影という人類史に残る発見を目の当たりにできる僕たちは、本当に恵まれているとじみじみ思うのだ。


4月11日午後10時00分~ 午後11時00分にコズミック フロント☆NEXT「史上初!ブラックホール直接観測」が放送される。お見逃しなく!



内容:強烈な重力を持つ魔の天体・ブラックホール。アインシュタインが予言した謎の天体だ。このブラックホールを直接観測しようという、史上初のプロジェクトが進められている。世界各地の望遠鏡をネットワークで結んで、仮想的に地球サイズの巨大望遠鏡を作ったのだ。しかし、10年に及ぶ準備期間をへて始まった観測では、次々とトラブルが発生。研究者たちに難題が襲いかかった。果たしてその結果は?最新の研究成果を密着報告!


アメリカやヨーロッパで行なわれた記者会見は、こちらの動画でご覧いただける。

Scientists From The NSF Hold Conference On Results From The Event Horizon Telescope | TIME


Breakthrough discovery in astronomy: First Black Hole image



関連記事:

ホーキング、ブラックホールを語る:BBCリース講義
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6fb5c3578db1c26382c831983fd44e04

ホーキング、宇宙を語る:スティーヴン・W. ホーキング
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1e3dbc9b3d10d4a9b6518b6b32429e22

ブラックホールと時空の歪み: キップ・S. ソーン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/76795b03e7dc89cd08dac67dc25b73ab

ブラックホール戦争:レオナルド・サスキンド
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c8ad22de70df7be8e51a066ca8354106

ブラックホールと時空の方程式:15歳からの一般相対論:小林晋平
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f4401f2ce79451070b7b9c089f304315

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神は老獪にして…: アブラハム・パイス:アインシュタインの人と学問
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映画『インターステラー(2014)』
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巨大ブラックホールの謎 宇宙最大の「時空の穴」に迫る: 本間希樹

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巨大ブラックホールの謎 宇宙最大の「時空の穴」に迫る: 本間希樹」(Kindle版

内容紹介:
太陽の100億倍もの質量を持つ巨大ブラックホールは、強力な重力で光さえ飲み込む一方で宇宙でいちばん明るく輝き、光速にちかい速さの「ジェット」を放出しています。200年以上前に予言されながら、まだ誰も見たことのなかったブラックホールの姿が、最先端の天文学によって明らかになりつつあります。
強力な重力で周囲の物質や光を引きつけ飲みこむ一方で、飲みこんだら最後、それらを二度と外に出さない。ブラックホールは、そんな一方通行の弁のような性質を持った、大変不思議な天体です。
SFの世界ではおなじみの天体ですが、こんなものが本当に存在するのでしょうか?
じつは、最近の観測から宇宙にはこのような天体が多数存在することがわかってきています。
ブラックホールを科学的な形で初めて提唱したのは、イギリスのジョン・ミッチェルという科学者で1784年のことでした。さらに、20世紀になると、アインシュタインによる一般相対性理論が、ブラックホールに論理的な裏付けを与えます。そして現在、人類はようやくブラックホールの姿を「見る」ことができる力を手に入れました。
それは、電波干渉計という超高性能の電波望遠鏡です。この望遠鏡の視力は人間でいうと300万にも達します。これは、地球から月面上のテニスボールが見えるくらいの視力に相当します。
本書では、この最高の望遠鏡を使って今まさに観測が進められている、巨大ブラックホール直接撮像の挑戦に迫ります。

2017年4月19日刊行、272ページ。

著者について:
本間希樹(ほんま まれき)
ホームページ: https://www.miz.nao.ac.jp/staffs/MarekiHonma/index.htm
1971年アメリカ合衆国テキサス州生まれ。東京大学大学院理学系研究科天文学専攻博士課程を修了し、博士(理学)の学位を取得。現在、国立天文台水沢VLBI観測所教授。専門は、超高分解能電波観測による銀河系天文学。特に、銀河系の構造研究と、巨大ブラックホールの研究。現在、巨大ブラックホールを事象の地平線スケールまで分解する、EHT(Event Horizon Telescope)プロジェクトに日本側責任者として参加し、銀河の中心部にあるとされる巨大ブラックホールの存在の確認に挑んでいる。


理数系書籍のレビュー記事は本書で404冊目。

昨夜NHK BSプレミアム で放送された『「コズミックフロント☆NEXT」 史上初!ブラックホール直接観測』をみなさんはご覧になっただろうか?再放送は4月17日(水)午後11時45分からあるので、ぜひご覧になってほしい。

本書はこの番組に出演された本間先生がお書きになったもの。一昨日発表された史上初のブラックホールの画像をEHTプロジェクトの日本チームのリーダーとして発表をされた方である。記者会見で本間先生が登壇されたのは、記者会見動画開始から4分30秒後だ。



史上初!ブラックホールを撮影し、その存在を証明
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a3bdd0676cf497a9731a729d3a0da5a4


いま読むなら、この本しかない!ブラックホールブームに乗せられて、予定を変更して本書を読んでみた。先月末からブラックホールを解説した読書が続いているのだが、これはたまたまのことである。これまで読んでいたのは理論物理学者がお書きになった本ばかり。本間先生は電波天文学がご専門の「観測天文学者」である。同じ一般相対性理論を起源としているのに、理論物理学者と観測天文学者の研究内容がまったく違うと思ったのが本書を読んでいちばん思ったことだ。そして両者の研究に現在も共通するのが一般相対性理論アインシュタイン方程式である。

アインシュタイン方程式(重力場の方程式): 解説動画


理論物理学者は事象の地平面やホーキング放射、情報パラドックス、特異点問題など素粒子物理学や量子情報理論、量子重力理論など目に見えないことがらに関心がある。それに対し観測天文学者の関心は、文字通り観測できる対象、事象の地平面の外側にある物質の種類や構造、運動だ。ブラックホールという同じ対象を研究しながら、一部が重なるにせよ本書には知らないことが(特に後半で)多く、大いに刺激を受けた。

章立てはこのようになる。

第1章 ブラックホールとは何か?
第2章 銀河の中心に潜む巨大な穴
第3章 200年前の驚くべき予言
第4章 巨大ブラックホール発見前夜
第5章 新しい目で宇宙を見る――電波天文学の誕生
第6章 ブラックホールの三種の神器
第7章 宇宙は巨大ブラックホールの動物園
第8章 巨大ブラックホールを探せ!
第9章 進む理解と深まる謎
第10 章 いよいよ見える巨大ブラックホール

第1章から第3章までは理論物理学を(教養書であっても)かじったことがある人ならば既知の内容だ。特にブラックホールの提唱者のジョン・ミッチェルとピエール=シモン・ラプラスが想定したブラックホールの違いについて書かれていたのが、僕にとっては初めて得た知識だった。

第4章から天文学固有の解説になる。しかし宇宙膨張の発見など理論物理学の本との共通点も多い。光学望遠鏡による天文学史である。

第5章と第6章で電波天文学、X線天文学(そして赤外線天文学)の時代の解説がされる。中学生のとき「電波でみた宇宙―電波天文学入門 (1972年) (ブルーバックス) 」や「暗黒星雲を探る―赤外線天文学の世界 (1976年) (ブルーバックス) 」を読んでいたことを思い出した。

第7章から第9章が巨大ブラックホールの話。活動銀河中心核やその分類が複雑化していること、ブラックホール周辺の降着円盤やジェットの構造、運動など、初めて知ったことがほとんどだった。第9章「進む理解と深まる謎」で、巨大ブラックホールに関して、何がわかっていないかが提示される。

そして最終章の第10章で(本書執筆時点での)今後の取り組み、すなわちEHTプロジェクトによるブラックホールシャドウの撮影について紹介がされる。その成果が一昨日発表されたわけだ。昨夜放送された『「コズミックフロント☆NEXT」 史上初!ブラックホール直接観測』を見て、世界6か所の電波望遠鏡を使って行われた観測のリハーサルと本番では、アクシデントがおこりプロジェクト・リーダーとメンバーはとてつもないプレッシャーにさらされていたことがわかった。それだけに予想どおりの画像が得られたとき(2018年6月)の感動と達成感は想像できないほど大きいものだったろう。

人類が初めて目にしたブラックホールの姿



もう1冊ブルーバックス本を紹介

なお、ブルーバックスでは次の本もお勧めだ。本間先生が観測天文学者であるのに対し、大須先生は理論天文学者である。降着円盤の構造や運動について本間先生の本では省略されているので、大須先生の本をお勧めになっている。第3章までは理論面、観測面で一般相対性理論やシュヴァルツシルト解、チャンドラセカールの白色矮星から中性子星、クェーサーの発見などブラックホール史が解説される。ブラックホール周囲の降着円盤やジェットに関して詳しく知りたい方は、こちらもお読みになるとよい。本間先生の本と重複するところがあるだろうが、第6章以降は大須先生のご専門の領域の話として新鮮に楽しめると思う。なお大須先生の本のKindle版は固定レイアウトである。刊行されたのは2011年、「連星ブラックホールの合体による重力波が初観測」された2015年より前であることにご注意いただきたい。

ゼロからわかるブラックホール: 大須賀健」―空を歪める暗黒天体が吸い込み、輝き、噴出するメカニズム(Kindle版


内容紹介:
アインシュタインの一般相対性理論が予言したおそるべき暗黒天体ブラックホールは、激しい論争の末にその実在が明らかになり、いまもなお人類に多くの難問を突きつけている。超巨大ブラックホールの形成、光り輝くガス円盤、噴出するジェットのすさまじいパワー、ホーキング放射による蒸発などを世界に先駆けシミュレーションで追究する著者が「絶対に誰にでもわかるように」と宣言して書いたブラックホール入門書の決定版!

最新テーマまで驚くほどわかる!
暗黒なのに宇宙一明るい! いずれ地球も吸い込まれる? ジェットの超絶パワーの理由! ホーキング放射とは?

ゼロから最先端まで一気読み!
アインシュタインの一般相対性理論が予言したおそるべき暗黒天体ブラックホールは、激しい論争の末にその実在が明らかになり、いまもなお人類に多くの難問を突きつけている。
超巨大ブラックホールの形成、光り輝くガス円盤、噴出するジェットのすさまじいパワー、ホーキング放射による蒸発などを世界に先駆けシミュレーションで追究する著者が「絶対に誰にでもわかるように」と宣言して書いたブラックホール入門書の決定版!

まずざっくりと……次にくわしく
大須賀流の解説とシミュレーションでブラックホールが頭の中にできあがる!

2011年6月21日刊行、272ページ。

第1章 ニュートン力学のブラックホール
第2章 一般相対論のブラックホール
第3章 大論争! ブラックホールは実在するか?
第4章 超巨大ブラックホールの発見
第5章 超巨大ブラックホールの謎
第6章 ガス円盤1 3種のガス円盤
第7章 ガス円盤2 磁場の役割
第8章 ブラックホール・ジェット
第9章 ホーキング放射とブラックホールの蒸発
第10章 ブラックホールを見る

ブラックホールに関する本: Amazonで検索


関連記事:

史上初!ブラックホールを撮影し、その存在を証明
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ホーキング、ブラックホールを語る:BBCリース講義
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ホーキング、宇宙を語る:スティーヴン・W. ホーキング
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1e3dbc9b3d10d4a9b6518b6b32429e22

ブラックホールと時空の歪み: キップ・S. ソーン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/76795b03e7dc89cd08dac67dc25b73ab

ブラックホール戦争:レオナルド・サスキンド
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c8ad22de70df7be8e51a066ca8354106

ブラックホールと時空の方程式:15歳からの一般相対論:小林晋平
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f4401f2ce79451070b7b9c089f304315

ホーキング博士の訃報に接し (Stephen Hawking passed away)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/63860b8ac08b47f1fc9c5cbac3f9ca8f

神は老獪にして…: アブラハム・パイス:アインシュタインの人と学問
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d9258ed7a2d52173116ccd6e61ba0881

映画『インターステラー(2014)』
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/58711fc5335ca00f51a5d22df3f6cc58


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巨大ブラックホールの謎 宇宙最大の「時空の穴」に迫る: 本間希樹」(Kindle版


まえがき

第1章 ブラックホールとは何か?
あらゆるものを吸い込む時空の穴。それは、宇宙に存在するもののなかで、最も奇妙で謎に満ちた天体です。ブラックホールは、物理学ではどのように考えられているのか、まずは概要を解説します。
- ブラックホールとは?
- 光も重力も身近な存在
- 重力とニュートン力学
- 脱出速度
- ブラックホールの半径
- とんでもなくコンパクト!
- 恒星の進化とブラックホール
- 白色矮星--燃え尽きた太陽
- 中性子星--ブラックホールの一歩手前の天体
- 歴史にも残る超新星爆発
- 星の最後としてのブラックホール
コラム:脱出速度の導出

第2章 銀河の中心に潜む巨大な穴
本書の主役はただのブラックホールではありません。「巨大」ブラックホールです。太陽の100億倍もの重さを持ち、宇宙で一番明るく輝く常識はずれの天体の、まさに桁違いのスケールを実感してください。
- 銀河の中心に鎮座するブラックホール
- 突出した巨人
- じつは小さい巨大ブラックホール
- 巨大ブラックホールはとんでもなく明るい!?
- ブラックホールは重力エネルギーで輝く
- 驚異のエネルギー解放効率
- 身の回りのエネルギー:燃焼反応の場合
- 原子力発電所の場合
- 核融合--未来のエネルギー源?
- 夢のブラックホール発電所
- 巨大ブラックホールの現在の描像
- 謎だらけの巨大ブラックホール

第3章 200年前の驚くべき予言
巨大ブラックホールが科学の歴史に登場したのは、今から200年以上前の、1748年のことです。銀河という概念さえ持たなかった当時の科学者は、どのようにブラックホールを予言したのでしょうか。
- ブラックホールの提唱者:ジョン・ミッチェル
- 18世紀の天文学事情
- 19世紀はブラックホールの暗黒時代
- 光をめぐる論争
- 光は粒子であり波である
- 相対性理論の誕生
- 光の折れ曲がりの観測
- シュバルツシルト解の発見
- 一般相対性理論のさらなる予言
- 重力波--時空のさざ波
コラム:日常生活にも欠かせない相対性理論

第4章 巨大ブラックホール発見前夜
宇宙がたくさんの銀河の集まりであることを認識するようになった人類は、そのなかでひときわ明るく輝く「活動銀河中心核」の存在に気がつきます。じつは、これが巨大ブラックホールの輝きだったのです。
- 大望遠鏡による星雲観測時代の到来
- スペクトルの観測
- 活動銀河中心核の発見
- 熱く輝く活動銀河中心核
- 銀河の運動速度
- 宇宙ジェットの発見
- 星雲とは何か
- 銀河宇宙の確立
- 宇宙は膨張している!
- 活動銀河中心核とセイファート銀河

第5章 新しい目で宇宙を見る――電波天文学の誕生
それは、今から80年前、ある電波技師の偶然の発見から始まりました。その後、電波天文学は急速な発展を遂げ、巨大ブラックホールの存在を解き明かすための重要な手段となっていきます。
- ジャンスキーによる宇宙電波の発見
- 電波強度の単位ジャンスキー(Jy)
- 電波天文学を興したリーバー
- ピンボケ写真から始まった電波天文学
- 電波干渉計の登場
- 干渉計はとっつきにくい!?
- 干渉計で天体の方向を決める
- アンテナ1台の干渉計
- 現代の干渉計の生みの親
- クェーサーの発見
- 巨大ブラックホール説の登場
コラム:日本が誇る発明品「八木・宇田アンテナ」

第6章 ブラックホールの三種の神器
電波やX線による新たな観測はブラックホールの理解を一気に飛躍させました。見えてきたのは、「黒い穴」のまわりで宇宙一明るく輝く「降着円盤」、そして、光速に匹敵する速度で放出される「宇宙ジェット」の存在です。
- クェーサーのエネルギー源
- エネルギー論を再び
- 巨大ブラックホールの食欲
- 重いブラックホールの方が大食い
- X線とブラックホール
- X線天文学の誕生
- X線天文学黎明期の日本人の活躍
- はくちょう座X-1
- 地球規模の巨大望遠鏡VLBI
- きわめて小さいクェーサーの中心部
- ジェットの超光速運動
- ブラックホール研究の三種の神器
- 降着円盤

第7章 宇宙は巨大ブラックホールの動物園
巨大ブラックホールの観測が進むにつれ、宇宙にはさまざまな性質を持つ巨大ブラックホールがあることがわかってきました。穴に物が落ちるだけの単純な天体が、なぜこのような多様性を示すのでしょうか。
- 活動銀河中心核の分類
- 複雑化する種族
- 宇宙は活動銀河中心核の「動物園」
- 統一モデル
- 活動性の大小を決める降着率
- 他力本願な活動銀河中心核たち
- ブラックホール自身の性質
- 隠れたブラックホールはあるか?

第8章 巨大ブラックホールを探せ!
あらゆる銀河の中心にブラックホールがあるならば、私たちの住む天の川銀河の中心にも、巨大ブラックホールが存在するのでしょうか?世界中の天文学者が銀河の中心部に注目しています。
- 銀河中心の質量決定
- まだまだ弱いブラックホールの証拠
- アンドロメダ銀河のブラックホール
- より良い証拠を求めて
- NGC4258の高速回転円盤
- 銀河系中心のブラックホールいて座Aスター

第9章 進む理解と深まる謎
巨大ブラックホールの研究が進み、その理解が深まっていくとともに、新たな謎も多く生まれました。現在も残された、巨大ブラックホールに関する大きな謎と、その解決の可能性について紹介します。
- 巨大ブラックホールの起源
- 中間質量ブラックホール
- 重力波を放出する連星ブラックホール合体
- 謎に包まれた現在の巨大ブラックホールの姿
- 円盤の粘性のもとは何?
- 非標準円盤
- 消えゆくエネルギー
- ブラックホールジェットの加速の謎
- 見え始めたジェットの加速構造
- ブラックホールそのものに残された謎
コラム:巨大ブラックホール研究でも活躍するスパコン「アテルイ」

第10 章 いよいよ見える巨大ブラックホール
巨大ブラックホールは本当に存在するのでしょうか?その究極の証明は、宇宙に浮かんだ「穴」を写真に撮ることです。そして、人類が、初めて巨大ブラックホールの姿を目にする瞬間がいよいよ近づいています。
- 見えそうなブラックホールはどれ?
- ブラックホールの「影」を狙え!
- 目指せ、視力300万
- EHTプロジェクト
- いて座Aスターのミリ波観測実験
- M87のジェットの根元
- いて座Aスター周囲の磁力線
- ミリ波VLBIに革命をもたらすALMA
- ALMAのVLBI観測を支える先端技術
- 「解けない方程式」を解く
- スパースモデリングで視力アップ
- 目前にせまった巨大ブラックホールの直接撮像

あとがき

ゼロからわかるブラックホール: 大須賀健

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ゼロからわかるブラックホール: 大須賀健」―空を歪める暗黒天体が吸い込み、輝き、噴出するメカニズム(Kindle版

内容紹介:
アインシュタインの一般相対性理論が予言したおそるべき暗黒天体ブラックホールは、激しい論争の末にその実在が明らかになり、いまもなお人類に多くの難問を突きつけている。超巨大ブラックホールの形成、光り輝くガス円盤、噴出するジェットのすさまじいパワー、ホーキング放射による蒸発などを世界に先駆けシミュレーションで追究する著者が「絶対に誰にでもわかるように」と宣言して書いたブラックホール入門書の決定版!

最新テーマまで驚くほどわかる!
暗黒なのに宇宙一明るい! いずれ地球も吸い込まれる? ジェットの超絶パワーの理由! ホーキング放射とは?

ゼロから最先端まで一気読み!
アインシュタインの一般相対性理論が予言したおそるべき暗黒天体ブラックホールは、激しい論争の末にその実在が明らかになり、いまもなお人類に多くの難問を突きつけている。
超巨大ブラックホールの形成、光り輝くガス円盤、噴出するジェットのすさまじいパワー、ホーキング放射による蒸発などを世界に先駆けシミュレーションで追究する著者が「絶対に誰にでもわかるように」と宣言して書いたブラックホール入門書の決定版!

まずざっくりと……次にくわしく
大須賀流の解説とシミュレーションでブラックホールが頭の中にできあがる!

2011年6月21日刊行、272ページ。

ブラックホールに関する本: Amazonで検索

著者について:
大須賀健(おおすが けん)
研究者紹介ページ: https://www2.ccs.tsukuba.ac.jp/people/ohsuga/index.html
1973年秋田県生まれ。北海道大学工学部卒業。筑波大学大学院物理学研究科修了。理学博士。日本学術振興会特別研究員(京都大学)、立教大学理学部助手、理化学研究所基礎科学特別研究員を経て現在、筑波大学 計算科学研究センター 教授、国立天文台理論研究部・天文シミュレーションプロジェクト助教。専門は理論およびコンピュータ・シミュレーションを駆使したブラックホール宇宙物理学、超巨大ブラックホール形成論。初の著書『ゼロからわかるブラックホール』講談社ブルーバックスで、第28回(平成24年)講談社科学出版賞を受賞。


理数系書籍のレビュー記事は本書で405冊目。

NHK BSプレミアム で放送された『「コズミックフロント☆NEXT」 史上初!ブラックホール直接観測』をみなさんはご覧になっただろうか?再放送は4月17日(水)午後11時45分からあるので、ぜひご覧になってほしい。

記者会見でEHTプロジェクト日本チームリーダーの本間先生が登壇されたのは、記者会見動画開始から4分30秒後だ。



史上初!ブラックホールを撮影し、その存在を証明
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a3bdd0676cf497a9731a729d3a0da5a4


巨大ブラックホールの謎 宇宙最大の「時空の穴」に迫る: 本間希樹」を紹介したばかりだが「ゼロからわかるブラックホール: 大須賀健」―空を歪める暗黒天体が吸い込み、輝き、噴出するメカニズム(Kindle版)も読んでみた。本書は講談社ブルーバックスで、第28回(平成24年)講談社科学出版賞を受賞している。

著者の大須賀先生は先日の史上初のブラックホール画像公開のタイミングでAbemaTVに出演され、解説を行っている。無料なのでぜひご覧いただきたい。

人類史上初!これがブラックホールの姿だ ”穴”の大きさは米粒ほど? (19/04/10)
https://abema.tv/video/episode/89-66_s99_p1021



また4月14日(日)早朝(つまり明日だ)には日本テレビの「シューイチ」という番組に出演される。僕が急いで紹介記事を書いたのはこの放送に間に合わせるためだ。


本間先生が観測天文学者であるのに対し、大須賀先生は理論天文学者である。降着円盤の構造や運動について本間先生の本では省略されているので、大須先生の本をお勧めになっている。第3章までは理論面、観測面で一般相対性理論やシュヴァルツシルト解、チャンドラセカールの白色矮星から中性子星、クェーサーの発見などブラックホール史が解説される。ブラックホール周囲の降着円盤やジェットに関して詳しく知りたい方は、こちらもお読みになるとよい。本間先生の本と重複するところがあるだろうが、第6章以降は大須先生のご専門の領域の話として新鮮に楽しめると思う。なお大須先生の本のKindle版は固定レイアウトである。刊行されたのは2011年、「連星ブラックホールの合体による重力波が初観測」が発表された2016年より前であることにご注意いただきたい。

第1章 ニュートン力学のブラックホール
第2章 一般相対論のブラックホール
第3章 大論争! ブラックホールは実在するか?
第4章 超巨大ブラックホールの発見
第5章 超巨大ブラックホールの謎
第6章 ガス円盤1 3種のガス円盤
第7章 ガス円盤2 磁場の役割
第8章 ブラックホール・ジェット
第9章 ホーキング放射とブラックホールの蒸発
第10章 ブラックホールを見る

ブラックホール本は初めてという方には第1章からお楽しみいただける。本間先生の本をすでにお読みの方には、第3章までは重複している。第4章「超巨大ブラックホールの発見」も本間先生の本と重複しているが、話の展開のしかたが違うので新鮮な気持ちでお楽しみいただけるだろう。

第5章「超巨大ブラックホールの謎」は同じ意味の章が本間先生の本にもあるが、それほど重複は見られない。つまり超巨大ブラックホールは謎だらけなのだ。そしてこの章の中には「2つのブラックホールが合体するようなことはあるのだろうか?」という疑問が投げかけられているが、本書執筆時にはこの事象が実際に観測された2016年に発表された「重力波の直接観測に成功!」より前だったことを考えるともっともな話である。しかし2つのブラックホールがなぜ合体するのか、どれくらいの頻度でおこるのかはまだわかっていない。

本書の醍醐味は第6章から第8章で解説されるブラックホール周辺のガス円盤(降着円盤)とブラックホール・ジェットの構造やその物理的な振る舞いについてだ。これらの形成過程はまだわかっていないことが多いのだが、スパコンを使ったコンピュータ・シミュレーションを行なって、その姿をダイナミックな再現CGとして紹介している。白黒画像ではあるもののこれを見て解説を読むだけでも本書を読む価値はある。コンピュータ・シミュレーションにはもちろん一般相対性理論アインシュタイン方程式が使われている。

アインシュタイン方程式(重力場の方程式): 解説動画


ガス円盤はその物理的条件により3種類存在すると予想され、ブラックホール周囲の磁場により影響を受けて複雑な回転運動をする。ブラックホール・ジェットは磁気圧駆動型のものと放射圧駆動型のもの、そしてそれらが合成されたハイブリッド型のものが予想され、それぞれCGとして再現されている。

第9章の「ホーキング放射とブラックホールの蒸発」も読む価値がある。ホーキング博士がお書きになった本よりも、各物理量(温度、面積、質量、エントロピー)の間の関係式が解説とともにたくさん紹介されている。

第10章の「ブラックホールを見る」だが、2011年刊行の本だけにさすがに「EHTプロジェクト」には触れられていない。そのかわりに電波干渉計でブラックホールの影を見れる可能性があること、X線望遠鏡によるブラックホール近傍の観測、赤外線望遠鏡でブラックホールの成長過程を見れる可能性があること、重力波検出器でブラックホール誕生時の姿を観測できる可能性があることなどが述べられている。

つまり第6章以降は本間先生の「巨大ブラックホールの謎 宇宙最大の「時空の穴」に迫る」とまったく被っていないので、安心してお買い求めいただきたい。理論物理学者がお書きになるブラックホール本と大須賀先生のような理論天文学者がお書きになるブラックホール本は、また違うものだなというのが印象に残った。

人類が初めて目にしたブラックホールの姿



大須賀先生は本書を刊行後、2017年に次の本をお書きになっている。合わせてお読みいただきたい。Kindle版は格安である。

ブラックホールをのぞいてみたら: 大須賀健」(Kindle版


内容紹介:
本当にあるの? 吸い込まれたらどうなる? 不思議に満ちた天体を大解剖!
光さえも吸い込み、真に黒いブラックホール。そもそもなぜできるの? 宇宙を吸い込みつくしたら? この不思議な天体を多くのイラストを使いながらやさしく紹介。しかも数式はゼロ! 宇宙の魅力に酔いしれよう。
猛烈な勢いであらゆるものを吸い込みつづけるブラックホール。一度のみ込まれたら、抜け出すことは決してできないというSFのような天体はアインシュタインによって予言され、2015年、重力波の検出で存在が証明されました。でも、そもそも、なんで、どうやって吸い込んでいるの?吸い込むものがなくなったときの宇宙の姿は?やさしい文章とたくさんのイラストで不思議な天体の魅力とメカニズムを紹介。

2017年7月28日刊行、256ページ。

第1章 ブラックホールってなんだろう
ブラックホールに地面はない
ブラックホールが黒いわけ
ブラックホールの黒は本当の黒
事象の地平面は一方通行
事象の地平面の外も危険
特異点の謎
ブラックホールの作り方
まとめ
事象の地平面をもっと理解しよう
ブラックホールで時間が止まる
宇宙船が事象の地平面で止まる?
ブラックホールとタイムマシン

第2章 アインシュタインは何をしたの?
アインシュタインの功績
一般相対性理論の予言する空間のゆがみ
空間のゆがみと重力の関係
正しいのはどっち?
一般相対性理論とブラックホール
色のズレと時間の遅れ
重力波ってなに?
アインシュタインの間違い

第3章 ブラックホールは本当にあるの?
ブラックホールは山ほど見つかっている!
ブラックホールの予言
チャンドラセカールの大活躍
理論物理学がブラックホールを認める
ブラックホールの発見
今世紀のブラックホール天文学

第4章 光り輝くブラックホール?
ブラックホールを取り巻くガス円盤
ガスに吸い込まれるには摩擦が必要
ガス円盤が輝く秘密
ガス円盤はどれほど明るいのか?
ブラックホールはいつでも明るいわけではない
謎の天体クェーサー
クェーサーの正体
ブラックホールを見る

第5章 大質量ブラックホールはどうやってきたの?
大質量ブラックホールの急速成長問題
エディントン限界
エディントン限界とブラックホールの成長の関係
エディントン限界を突破して
ブラックホールの合体と超大質量星の崩壊
大質量ブラックホールと銀河の美しすぎる関係
ブラックホールによる星形成への影響
ブラックホール ジェット
大質量ブラックホールの謎に挑む

第6章 宇宙の未来はブラックホールだらけ?
ブラックホールだらけの宇宙
ホーキング放射とブラックホールの消滅
宇宙の死


関連記事:

史上初!ブラックホールを撮影し、その存在を証明
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a3bdd0676cf497a9731a729d3a0da5a4

巨大ブラックホールの謎 宇宙最大の「時空の穴」に迫る: 本間希樹
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c847e0b9662e20720b9e6acf5cd4f370

ホーキング、ブラックホールを語る:BBCリース講義
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6fb5c3578db1c26382c831983fd44e04

ホーキング、宇宙を語る:スティーヴン・W. ホーキング
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1e3dbc9b3d10d4a9b6518b6b32429e22

ブラックホールと時空の歪み: キップ・S. ソーン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/76795b03e7dc89cd08dac67dc25b73ab

ブラックホール戦争:レオナルド・サスキンド
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c8ad22de70df7be8e51a066ca8354106

ブラックホールと時空の方程式:15歳からの一般相対論:小林晋平
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f4401f2ce79451070b7b9c089f304315

ホーキング博士の訃報に接し (Stephen Hawking passed away)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/63860b8ac08b47f1fc9c5cbac3f9ca8f

神は老獪にして…: アブラハム・パイス:アインシュタインの人と学問
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d9258ed7a2d52173116ccd6e61ba0881

映画『インターステラー(2014)』
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/58711fc5335ca00f51a5d22df3f6cc58


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ゼロからわかるブラックホール: 大須賀健」―空を歪める暗黒天体が吸い込み、輝き、噴出するメカニズム(Kindle版


はじめに

第1章 ニュートン力学のブラックホール
- 脱出速度から考えるブラックホール
- 地球をブラックホールにするには?
- サイズを決めるシュヴァルツシルト半径
- 現実のブラックホールのサイズ
- この章のまとめ

第2章 一般相対論のブラックホール
- ミッチェルとラプラスの方法の問題点
- ニュートン重力と一般相対論の違い
- ニュートン重力の弱点
- 光は曲がるか?
- 一般相対論の完全勝利
- 一般相対論が予言するブラックホール
- 重力赤方変位と時間の遅れ
- この章のまとめ
 
第3章 大論争! ブラックホールは実在するか?
- ガスの圧力で支えられる恒星
- 電子の縮退圧で支えられる白色矮星
- 恒星の最期は白色矮星
- チャンドラセカールとエディントンの師弟対決
- ホイーラーとオッペンハイマーの論争
- ブラックホール候補天体の発見
- 光り輝くガス円盤
- ガス円盤は宇宙最高性能のエネルギー変換施設
- この章のまとめ

第4章 超巨大ブラックホールの発見
- 謎の電波源
- 電波銀河とクェーサー
- 世紀の大発見「クェーサーの正体は超巨大ブラックホール」
- 超巨大ブラックホールと活動銀河中心核
- この章のまとめ

第5章 超巨大ブラックホールの謎
- 超巨大ブラックホール形成のタイムリミット
- 超巨大ブラックホール形成仮説
- 光の力がガスの吸い込みを妨げる?
- エディントン限界とブラックホールの成長
- エディントン限界を超えて
- ブラックホールの急速成長
- 超巨大ブラックホールと銀河の共進化問題
- この章のまとめ

第6章 ガス円盤1 3種のガス円盤
- ガス円盤理論の鍵:標準円盤
- 暗くても高エネルギー放射:ライアフ
- エディントン限界を超えた円盤:スリム円盤
- コンピュータ・シミュレーションで再現した3種のガス円盤
- この章のまとめ

第7章 ガス円盤2 磁場の役割
- ガスを吸い込むのは簡単か?
- 磁力線に引っかかってガスが落下
- 乱雑な磁場の形成メカニズムその1:垂直成分から水平成分へ
- 乱雑な磁場の形成メカニズムその2:水平成分から垂直成分へ
- この章のまとめ

第8章 ブラックホール・ジェット
- すさまじいジェットのパワー
- 磁気圧駆動型ジェットの加速メカニズム
- 磁気圧駆動型ジェットの収束メカニズム
- 磁気圧駆動型ジェットを生み出す円盤
- 放射圧駆動型ジェットの加速メカニズム
- ハイブリッド・ジェットの発見
- 銀河系最強のジェット
- まだ残されている謎
- クェーサーの円盤風
- この章のまとめ

第9章 ホーキング放射とブラックホールの蒸発
- ホーキング放射の大まかな説明
- ホーキング放射とブラックホール質量の関係
- ブラックホールが蒸発するまでの時間
- ミニブラックホールの蒸発
- この章のまとめ

第10章 ブラックホールを見る
- ブラックホールはどう見えるか
- 電波干渉計でブラックホールの影を見る
- X線望遠鏡でブラックホールの近傍を見る
- 重力波検出器でブラックホール誕生の瞬間を見る
- この章のまとめ

あとがき

ビッグ・クエスチョン―〈人類の難問〉に答えよう:スティーヴン・ホーキング

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ビッグ・クエスチョン―〈人類の難問〉に答えよう:スティーヴン・ホーキング」(Kindle版

内容紹介:
ホーキング、最後の書き下ろし
NHK「クローズアップ現代+」"ホーキングの遺言"(2019年3月6日放送)で話題!
天才物理学者が生涯をかけて紡いだ希望のメッセージとは?

なぜビッグ・クエスチョンを問うべきなのか
私は、本書に取り上げたビッグ・クエスチョンを考えると胸が躍るし、それらを探究することに情熱を傾けている。
その興奮と情熱を、みなさんに伝えたい。私たちが向かう未来を、誰もが行きたいと思うような未来にするために、力を合わせようではないか。スティーヴン・ホーキング

「世界でもっともすぐれた科学者」と名高いホーキング博士が生涯をかけて挑んだのは、誰も解き明かしていない究極の問いだった。「宇宙の始まりとは?」「人類は地球に住み続けるべきか?」「AIは人間を超えるか?」など10の難問に、ウイットを交えながら明快に答える。地球温暖化が進み、核の脅威が増し、人工知能が人間を脅かす時代に、私たちはどのように考え、未来を形作っていけばよいのか――。今を生きる私たちへのメッセージが詰まった、博士からの最良の贈り物。

2019年3月14日刊行、256ページ。(原書は2018年10月16日刊行)

著者について:
スティーヴン・W・ホーキング(Stephen W. Hawking)
1942年、イギリスのオックスフォード生まれ。アインシュタイン以来の最も優秀な理論物理学者の一人と言われる。1963年、ケンブリッジ大学の大学院生だった21歳のときに、運動ニューロン疾患を発症し、余命2年と告げられる。しかし、その宣告を覆して優秀な研究者となり、かのアイザック・ニュートンも就任したルーカス教授職を30年にわたり務めた。王立協会フェロー、全米科学アカデミー会員であったほか十数個の名誉学位を持ち、1989年には名誉勲位を授けられた。ケンブリッジ大学理論宇宙論センターに研究責任者として在籍中の2018年3月に死去。著作に『ホーキング、宇宙を語る』『ホーキング、未来を語る』『ホーキング、宇宙と人間を語る』など。

ホーキング博士の著書: 日本語版 英語版


理数系書籍のレビュー記事は本書で406冊目。

4月10日に公表された史上初のブラックホールの画像を、ホーキング博士に見てもらいたかったと思ったのは僕だけではなかっただろう。そしてこの画像についてお考えをうかかいたかった。あと1年と少し長生きしていただければよかったのにと。

史上初!ブラックホールを撮影し、その存在を証明
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a3bdd0676cf497a9731a729d3a0da5a4

本書は先週のうちに読み終えていた。原書と日本語訳を1章ずつ交互に読んだ。博士のお書きになる科学教養書は易しい英語で書かれているから、読解練習、英語慣れをするのにちょうどよい。Kindle Paperwhiteを使うようになってから洋書をたくさん読むようになっている。

昨年3月14日に逝去されたホーキング博士。本書の原書は博士の没後7ヶ月経ってから刊行された。博士から読者への最後のメッセージ、遺作である。亡くなるまでに書き終えていなかったのだが、娘さんのルーシー・ホーキングさんと協力者によって完成し、出版にこぎつけたのだ。



そして日本語版を翻訳されたのが、数々の科学書の翻訳を手がけている青木薫さんだ。いつもながらの名訳で安心して読むことができる。日本語版の刊行日は博士の命日、お亡くなりになってからちょうど1年たった3月14日である。


博士の人生を描いた映画『博士と彼女のセオリー(2014)』(Prime Video)をご覧になった方も多いだろう。



この映画でホーキング博士訳を演じた俳優エディ・レッドメインさんが、本書の「はじめに」をお書きになっている。次のようなビッグ・クエスチョンに対して博士がお考えをお書きになっている。ブラックホールに関するクエスチョンにも1章をあてている。

なぜビッグ・クエスチョンを問うべきなのか?
1. 神は存在するのか?
2. 宇宙はどのように始まったのか?
3. 宇宙には人間のほかにも知的生命体は存在するのか?
4. 未来を予言することはできるのか?
5. ブラックホールの内部には何があるのか?
6. タイムトラベルは可能なのか?
7. 人間は地球で生きていくべきなのか?
8. 宇宙には植民地を建設すべきなのか?
9. 人工知能は人間より賢くなるのか?
10.より良い未来のために何ができるのか?

そして巻末には、公私に渡ってホーキング博士と長年お付き合いされた理論物理学者のキップ・S・ソーン博士が「解説---スティーブン・ホーキングの思い出とともに」という文章を寄稿されている。(原書では巻末ではなく巻頭に挿入されている。)

ビッグ・クエスチョンに対して博士がどのように回答されたかは、ここで明かさないほうがよいだろう。博士からのメッセージをお一人ずつが直接受け取ってほしいと思うからだ。


翻訳のもとになった原書は、こちらである。

Brief Answers to the Big Questions: the final book from Stephen Hawking」(Kindle版


表紙を横にしてみると、今回公表されたブラックホール画像に少し似ていると思った。表紙の考案に博士が関わったのかどうかはわからないが、ホーキング博士にはブラックホールの姿が見えていたのかもしれない。



ツイッターでアンケートをとってみることにした。
https://twitter.com/ktonegaw/status/1117302900990959616

アンケートをさせてください。4月10日に公開されたブラックホールの画像は、画像解析の結果、生成されたものです。あなたはこの画像がブラックホールの存在を証明していると思いますか?

- 証明していると思う。
- 証明していないと思う。
- わからない。


なお、次の本が出版されている。「最後の本はこちらじゃないの?」という方がいらっしゃるかもしれないが、ちょっと違う。刊行されたのは2018年7月。これはホーキング博士の最終論文:『永久インフレーションからの滑らかな離脱?』を翻訳し、解説をつけた日本語版独自の本である。これに対応する英語の書籍は存在しない。専門家向けの論文なので、一般の方が読んで理解できるかは疑問である。アマゾンの読者レビューを参考にしていただきたい。

ホーキング、最後に語る:多宇宙をめぐる博士のメッセージ」(Kindle版


1 はじめに
- 永久インフレーションの描く宇宙?
- インフレーションと一般相対性理論
- ブラックホールとホーキング
- 宇宙とホーキング
- ホーキングの選択
- ブラックホールからホログラフィーへ

2 宇宙の波動関数と無境界仮説
- 宇宙の始まりと量子宇宙論
- 量子論
- 径路積分法
- 無境界波動関数

3 インフレーション
- インフレーションの提唱
- 宇宙の地平線問題
- モノポール問題
- スローロール
- 宇宙の大規模構造
- 永久インフレーション

- 4 超ひも理論の発展ーーブレーンとホログラフィー
- 量子重力と超ひも理論
- ブラックホールエントロピー試験
- ホログラフィー
- ベッケンシュタイン=ホーキング公式から笠=高柳公式へ

5 無境界波動関数とホログラフィーとインフレーション
- M理論
- 準古典近似の破綻
- ホログラフィーの援用
- 宇宙の形の分布
- 多宇宙
- 残された課題

6 さいごに


翻訳と解説の元になった論文はこちらである。2017年7月24日に投稿された。

A Smooth Exit from Eternal Inflation?
https://arxiv.org/abs/1707.07702

なお、ホーキング博士は共著として2017年10月3日にこの論文を投稿している。本当の最後の論文はこちらということになるのだろう。

Black Hole Entropy and Soft Hair
https://arxiv.org/abs/1810.01847


今週のコズミック フロント☆NEXTはホーキング博士

たまたまであるが、今秋放送されるコズミック フロント☆NEXTはホーキング博士の特集だ。しかも本書の内容に沿っている。お見逃しなく!

コズミック フロント☆NEXT 宇宙の"冒険者" ~ホーキング博士ラストメッセージ~
NHKBSプレミアム 4月18日(木)午後10時00分~午後11時00分(再放送は4月24日(水)午後11時45分~)

番組ホームページ:
https://www4.nhk.or.jp/cosmic/x/2019-04-18/10/12340/2120246/



内容: 2018年、76才で亡くなった宇宙物理学者スティーブン・ホーキング博士。宇宙の始まり、ブラックホール蒸発、タイムトラベル…。常識外れの理論を次々と打ち出し究極の謎に挑んできた。NHKは、晩年の博士を密着取材。難病ALSを患いながら、なぜ危険も顧みずに世界中を旅したのか?なぜ最後の著書で、環境問題やAIの脅威など「人類の未来」に警告を発したのか?友人たちの証言をまじえ、人間・ホーキングの素顔に迫る。


関連記事:

ホーキング、宇宙を語る:スティーヴン・W. ホーキング
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1e3dbc9b3d10d4a9b6518b6b32429e22

ホーキング、ブラックホールを語る:BBCリース講義
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6fb5c3578db1c26382c831983fd44e04

ブラックホールと時空の歪み: キップ・S. ソーン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/76795b03e7dc89cd08dac67dc25b73ab

ブラックホール戦争:レオナルド・サスキンド
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c8ad22de70df7be8e51a066ca8354106

ブラックホールと時空の方程式:15歳からの一般相対論:小林晋平
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f4401f2ce79451070b7b9c089f304315

ホーキング博士の訃報に接し (Stephen Hawking passed away)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/63860b8ac08b47f1fc9c5cbac3f9ca8f

史上初!ブラックホールを撮影し、その存在を証明
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a3bdd0676cf497a9731a729d3a0da5a4

巨大ブラックホールの謎 宇宙最大の「時空の穴」に迫る: 本間希樹
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c847e0b9662e20720b9e6acf5cd4f370

ゼロからわかるブラックホール: 大須賀健
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d3f08c2ddb0f6168b502dac4a70f3a7e


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ビッグ・クエスチョン―〈人類の難問〉に答えよう:スティーヴン・ホーキング」(Kindle版


刊行にあたって
はじめに(俳優 エディ・レッドメイン)

なぜビッグ・クエスチョンを問うべきなのか?
- ビッグ・クエスチョンに駆り立てられて
- ブラックホール研究の黄金時代
- 本を通して伝えたいこと

1. 神は存在するのか?
- 自然法則と神の役割
- 宇宙を創る三つの要素
- 宇宙はただで手に入る
- ビッグバンとともに時間が始まった

2. 宇宙はどのように始まったのか?
- 宇宙に始まりがあることの証明
- 量子ゆらぎが私たちの宇宙を作った
- 別の宇宙は存在するのか?

3. 宇宙には人間のほかにも知的生命体は存在するのか?
- 宇宙はなぜ生命誕生に適していたのか?
- 生命誕生は起こりにくいできごとなのか?
- 人類は進化の新しい段階に入った
- 宇宙に広まるのは機械的生命なのか?
- なぜ知的生命はいまだ訪れないのか?

4. 未来を予言することはできるのか?
- 量子的なふるまいはなぜ重要なのか?
- 量子力学が告げる未来の予測不可能性

5. ブラックホールの内部には何があるのか?
- 星の重力崩壊
- ブラックホールに落ちると何が起きるか?
- ブラックホールは外からわからない多くの情報を持つ
- ミニブラックホールは発電可能か?
- ブラックホールには毛は何本?

6. タイムトラベルは可能なのか?
- 光よりも早い宇宙船があれば・・・
- 時空を大きく歪めることはできるか?
- タイムトラベルを防ぐ時間順序保護仮説とは?

7. 人間は地球で生きていくべきなのか?
- 危機に直面する地球
- 今こそ宇宙に乗り出すとき
- 「スター・トレック」の未来は来ない
- 次の千年間に何が起きるのか?
- 人間が心と身体を改良する時代へ

8. 宇宙には植民地を建設すべきなのか?
- 宇宙旅行の興奮と驚きを伝えたい
- 植民の可能性---火星から太陽系外まで
- 新しい宇宙時代のための三つのミッション

9. 人工知能は人間より賢くなるのか?
- AIがもたらすほんとうの危険
- AI時代の人間の役割

10.より良い未来のために何ができるのか?
- 「科学に興味なし」ではすまされない

あとがき(ルーシー・ホーキング)
謝辞
解説---スティーブン・ホーキングの思い出とともに(キップ・S・ソーン)
訳者あとがき

ホーキングとペンローズが語る 時空の本質―ブラックホールから量子宇宙論へ

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ホーキングとペンローズが語る 時空の本質」―ブラックホールから量子宇宙論へ

内容紹介:
本書は、1994年にケンブリッジ大学アイザック・ニュートン数理科学研究所で行なわれたスティーヴン・ホーキングとロジャー・ペンローズによる宇宙論歴史的な連続講義の記録である。時空の本質の解明のため、一般相対性理論と量子力学を統一した「量子重力論」の構築をめざし、お互いが3回ずつ交互に講義し、最後に2人が討論するという形式で展開された。宇宙は科学でどこまで解明できるのか―この気の遠くなるような問いに敢然と挑み続ける天才2人が、大域的トポロジー、ツイスター理論など、独創的理論を縦横に駆使しながら、時に互いの見解の相違にまで踏み込んで宇宙の本質に肉迫する、待望の、そして最も新しい宇宙論。

1997年4月1日刊行、189ページ。(原書は1996年1月8日刊行)

著者について:
スティーヴン・W・ホーキング(Stephen W. Hawking)
1942年、イギリスのオックスフォード生まれ。アインシュタイン以来の最も優秀な理論物理学者の一人と言われる。1963年、ケンブリッジ大学の大学院生だった21歳のときに、運動ニューロン疾患を発症し、余命2年と告げられる。しかし、その宣告を覆して優秀な研究者となり、かのアイザック・ニュートンも就任したルーカス教授職を30年にわたり務めた。王立協会フェロー、全米科学アカデミー会員であったほか十数個の名誉学位を持ち、1989年には名誉勲位を授けられた。ケンブリッジ大学理論宇宙論センターに研究責任者として在籍中の2018年3月に死去。著作に『ホーキング、宇宙を語る』『ホーキング、未来を語る』『ホーキング、宇宙と人間を語る』など。

ホーキング博士の著書: 日本語版 英語版

ロジャー・ペンローズ(Roger Penrose)
1931年、イギリス、サセックス州コルチェスター生まれ。数学者、数理物理学者。1964年、S.ホーキングとブラックホールの特異点定理を証明、1972年、王立協会会員に選出、1973年、オックスフォード大学ラウズ・ボール教授職に就任、1994年にはナイトに。宇宙の構造モデルとして量子重力理論とツイスター理論を提唱、ペンローズタイルやペンローズの三角形を考案。1989年に発表した『皇帝の新しい心』で意識の解明に宇宙論や量子力学が深く関わるというアイデアを提出、賛否両論の論争を巻き起こした。

ペンローズ博士の著書: 日本語版 英語版


理数系書籍のレビュー記事は本書で407冊目。

ブラックホールに入ってしまうとなかなか抜け出せない。ちょうどよい機会だとあきらめて、今回もブラックホール、ホーキング博士関連書籍を紹介しよう。NHKBSプレミアムのコズミック フロント☆NEXT 宇宙の"冒険者" ~ホーキング博士ラストメッセージ~を見たばかりだし、今度の木曜夜に再放送される。

本書はホーキング博士と数学者&数理物理学者のペンローズ博士が、1994年にケンブリッジ大学アイザック・ニュートン数理科学研究所で一般市民向けに行なった連続講義を書籍化したものだ。ホーキング博士の著作としては『ホーキング、宇宙を語る』に続く2作目である。これはそのときの様子を写したものだが、両先生ともにお若いことが見て取れる。ペンローズ博士はホーキング博士の博士論文を審査されていたし、11歳年上だ。

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日本語訳をされたのは林一(はやしはじめ)先生。『ホーキング、宇宙を語る』や『ゲーデル、エッシャー、バッハ―あるいは不思議の環』の翻訳者として知られている。

一般向け講義を元としているのだが、本書はホーキング博士、ペンローズ博士のほかの著作と比べると難しめである。内容がその当時先生方が研究されていた最先端の理論を解説していること、そして数学や物理の専門用語や若干の数式を遠慮なく使って解説を行っているからだ。一般向け科学教養書から本格的論文に一歩か二歩踏み出したレベルである。しかし、図版がふんだんに挿入されているので、数式が苦手な読者でも話の筋道を追うことができると思う。

両先生が交互に講義を行った。次の章立てのように進行する。

第1章:古典理論 S・W・ホーキング
第2章:時空特異点の構造 R・ペンローズ
第3章:量子ブラックホール S・W・ホーキング
第4章:量子論と時空 R・ペンローズ
第5章:量子宇宙論 S・W・ホーキング
第6章:ツイスターで見る時空 R・ペンローズ
第7章:討論 S・W・ホーキング、R・ペンローズ

以下は各章の概要だ。

第1章:古典理論 S・W・ホーキング

宇宙論、大域的な時空の構造に関する解説である。ビッグバンから始まる宇宙がどのように終わりを迎えるか。重力が時空の始まり、そしておそらく終わりも引き起こすという予想のもとに、ミンコフスキー時空を使った解説が展開される。その過程で時空の特異点の存在が導かれること(特異点定理)、ブラックホールの特異点と比類されることが提唱される。1965年から1970年にかけてペンローズ博士とホーキング博士が証明した特異点定理は、エネルギー条件の違いによって3つあることが紹介される。さらにこの章では「宇宙検閲官仮説」、「ブラックホールの熱力学(第0法則、第1法則、第2法則)」が解説される。

第2章:時空特異点の構造 R・ペンローズ

時空特異点の構造に関して、宇宙検閲官仮説を時空の過去と未来が取りうる因果関係をいくつかのクラスに分けて解説を行う。その過程で裸の特異点を導入する議論もなされる。さらに熱力学の第2法則、COBEによる宇宙マイクロ波背景放射の一様性、ブラックホールの存在、ワイル・テンソルを導入した宇宙モデルを提唱する。

第3章:量子ブラックホール S・W・ホーキング

一般相対性理論だけを前提としたブラックホールの古典理論が、量子力学の不確定性によりどのような影響を受けるかが解説される。ホーキング博士が提唱した「ノーヘア定理(ブラックホールには毛がない)」はヤン-ミルズ場については証明されていない。この定理が証明したのは物体が崩壊してブラックホールを作るときは、大量の情報が失われるということだ。量子論を導入することで「ホーキング放射」が発見されたのと同時に「情報喪失パラドックス」が生じる。この章ではブラックホールの熱放射(ホーキング放射)の数式を紹介し、さらに「虚時間」を導入することで、ローレンツ時空の特異点がユークリッド的な時空となり、シュヴァルツシルト・ブラックホールをユークリッド化した「ユークリッド・シュヴァルツシルト計量」では特異点を解消できることが示されている。また虚時間の導入による時空のユークリッド化がブラックホールのエネルギーや熱力学、熱放射の理論と整合していることが解説される。(注意:情報喪失パラドックスは2004年にホーキング博士がキップ・ソーン博士との賭けで負けを認めたことにより、情報喪失は起きないことが知られている。本書は1994年時点での理論だ。)

第4章:量子論と時空 R・ペンローズ

時空に量子論を適用するのがこの章のテーマ。一般相対性理論では特異点の問題、場の量子論では(重力の)無限大発散の問題、量子論では観測問題があることを紹介して解説を進める。ブラックホールの情報喪失に関してはペンローズ博士も賛成しているが、ホーキング博士が考えるように量子論の不確定性に対してつけ加えられた、物理学における新たな不確定性だと見なしているのに対し、ペンローズ博士は「相補的な」不確定性だとお考えになっている。そして時空のカーター・ダイヤグラムを構成することで情報の喪失、ホーキング放射がどのように起こるかを紹介する。その後、この議論は量子力学の位相空間上での解説、ヒルベルト空間上での量子的時間発展(ユニタリ的発展)の解説、観測問題、状態の重ね合わせ(シュレーディンガーの猫)の話へと発展する。(感想:ちょっと理解に苦しむ章だった。)

第5章:量子宇宙論 S・W・ホーキング

この章がいちばん読み応えがあった。「宇宙論はこれまで疑似科学とされ、若いころには有益な研究をしたかもしれないが、耄碌(もうろく)して神秘家になった物理学者の領分と考えられてきました。」と笑いをとる前置きをされている。この章で繰り広げられる量子宇宙論で中心的な役割を果たすのは「ファインマンの経路積分」である。この手法では時間を虚時間に移す「ウィック回転」が使われる。ローレンツ時空のユークリッド化である。そして自然な選択として「計量は漸近的にユークリッド的」、「計量は境界がなくコンパクト」であるという条件をつける。そのような前提のもとにハートル博士とホーキング博士が提唱した「無境界仮説」が解説され、COBEが観測した宇宙マイクロ波背景放射の結果と矛盾しないことが主張される。その他「ホイーラー・デウィットの方程式」、「ローレンツ・ド・ジッター計量」が紹介され、この条件の時空での温度やエントロピー、事象の地平線の面積が求められ、ビッグバン・モデルとの整合性、と矛盾が検証される。さらにインフレーションとCOBEによる宇宙マイクロ波背景放射の観測結果をもとに、重力波摂動、エネルギー密度摂動、初期宇宙の固有の重力温度の見積もり、インフレーション期がユークリッド的(虚時間)としたときの理論との整合性、CPT不変性、ワイル・テンソル仮説の問題点が議論される。

第6章:ツイスターで見る時空 R・ペンローズ

ペンローズ博士が提唱している「ツイスター理論」、ツイスター時空の解説である。第5章のホーキング博士の講義に対して意見を付け加えることから始まった。はっきり言ってこの章はよく理解できなかった。他の本をお読みになったほうがよいだろう。専門書だと「ツイスターの世界―時空・ツイスター空間・可積分系」、科学教養書だと「ペンローズのねじれた四次元〈増補新版〉 時空はいかにして生まれたのか」(Kindle版)あたりになるのだろうか。

第7章:討論 S・W・ホーキング、R・ペンローズ

第6章までの講義を踏まえ、まずホーキング博士が「ロジャーと私の違いがはっきり現れました。彼はプラトン主義者で、私は実証主義者です。」とペンローズ博士との相違点に関して話し始めた。ペンローズ博士がシュレーディンガーの猫の議論にこだわるのに対し、量子重力論ではその議論は不要だと主張する。その結果、マイクロ波背景放射のゆらぎがたとえ非常に正確に観測できたとしても、それは古典統計的な分布をもつように見えるだろう、異なったモードのゆらぎの間に、干渉あるいは相関のような量子状態の性質が検出されることはなくなる。全宇宙について語っているときにシュレーディンガーの猫は不要という主張である。またホーキング博士がユークリッド的方法(虚時間)を使っていることにペンローズ博士が疑問を発していることに関しても7ページに渡って反論と解説を行う。

次にペンローズ博士が反論と解説を行う。シュレーディンガーの猫の問題になぜこだわるのか、ホーキング博士が用いているウィック回転(虚時間、ユークリッド的方法)が通常の場の量子論におけるウィック回転と異なるレベルのものであるという説明だ。またブラックホールの情報喪失に関しては意見が一致しているものの、ブラックホールにおける位相空間の消失に関しては意見が異なっていることを解説している。

さらにホーキング博士が、「ロジャーはシュレーディンガーのかわいそうな猫について心配しています。このような思考実験は今日では政治的に正しくないでしょう。」と前置きして反論、解説を行なった後、量子重力理論、ブラックホールとホワイトホールについて解説をする。

そしてペンローズ博士がシュレーディンガーの猫の問題に関し、さらに補足説明をし、ホーキング博士のブラックホールとホワイトホールの説明に異を唱えた。ホーキング博士がペンローズ博士のことをプラトン主義者だと言ったことに対し、自分は実在主義者だとおっしゃった。そしてボーアとアインシュタインの有名な討論になぞらえれば、ホーキング博士はボーアの役割を、ペンローズ博士はアインシュタインの役割を演じているそうだ。

その後、会場の聴講者に対する質疑応答がなされ、5つの質問に対する先生方の回答が本書に書かれている。


本書の雰囲気を知っていただくために、2か所だけサンプルページを載せておこう。

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ホーキング博士の発想は宇宙全体の話、とてつもないスケールでの話が多いので科学教養書を読んでも、にわかに信じられないことがある。本書のように理路整然と論文に近い形で具体的に説明を読むことで、素人物理学ファンの僕でも納得した気分になってくる。本書はそのような教養書と専門書をつなぐ位置付けの本だ。


翻訳の元になった原書はこちら。ハードカバー、ペーパーバック、Kindle版があるがそれぞれ表紙が違う。これは1996年に刊行されたハードカバー版の表紙だ。

The Nature of Space and Time」(ハードカバー)(ペーパーバック)(Kindle版



(再放送)コズミック フロント☆NEXTはホーキング博士

たまたまであるが、今週再放送されるコズミック フロント☆NEXTはホーキング博士の特集だ。

コズミック フロント☆NEXT 宇宙の"冒険者" ~ホーキング博士ラストメッセージ~
NHKBSプレミアム 4月18日(木)午後10時00分~午後11時00分(再放送は4月24日(水)午後11時45分~)

番組ホームページ:
https://www4.nhk.or.jp/cosmic/x/2019-04-18/10/12340/2120246/



内容: 2018年、76才で亡くなった宇宙物理学者スティーブン・ホーキング博士。宇宙の始まり、ブラックホール蒸発、タイムトラベル…。常識外れの理論を次々と打ち出し究極の謎に挑んできた。NHKは、晩年の博士を密着取材。難病ALSを患いながら、なぜ危険も顧みずに世界中を旅したのか?なぜ最後の著書で、環境問題やAIの脅威など「人類の未来」に警告を発したのか?友人たちの証言をまじえ、人間・ホーキングの素顔に迫る。


関連ページ:

ホーキング vs. ペンローズ 時空の本質―ブラックホールから量子宇宙論へ
(日経サイエンス、1996年)
http://www.nikkei-science.com/page/magazine/9609/hawk-pen.html


関連記事:

ホーキング、宇宙を語る:スティーヴン・W. ホーキング
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1e3dbc9b3d10d4a9b6518b6b32429e22

ホーキング、ブラックホールを語る:BBCリース講義
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6fb5c3578db1c26382c831983fd44e04

ビッグ・クエスチョン―〈人類の難問〉に答えよう:スティーヴン・ホーキング
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f45aa5bd48c74a64ca3aafaa0083b8a8

ブラックホールと時空の歪み: キップ・S. ソーン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/76795b03e7dc89cd08dac67dc25b73ab

ブラックホール戦争:レオナルド・サスキンド
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c8ad22de70df7be8e51a066ca8354106

ブラックホールと時空の方程式:15歳からの一般相対論:小林晋平
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f4401f2ce79451070b7b9c089f304315

ホーキング博士の訃報に接し (Stephen Hawking passed away)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/63860b8ac08b47f1fc9c5cbac3f9ca8f

史上初!ブラックホールを撮影し、その存在を証明
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a3bdd0676cf497a9731a729d3a0da5a4

巨大ブラックホールの謎 宇宙最大の「時空の穴」に迫る: 本間希樹
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c847e0b9662e20720b9e6acf5cd4f370

ゼロからわかるブラックホール: 大須賀健
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d3f08c2ddb0f6168b502dac4a70f3a7e


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ホーキングとペンローズが語る 時空の本質」―ブラックホールから量子宇宙論へ



まえがき
謝辞

第1章:古典理論 S・W・ホーキング
第2章:時空特異点の構造 R・ペンローズ
第3章:量子ブラックホール S・W・ホーキング
第4章:量子論と時空 R・ペンローズ
第5章:量子宇宙論 S・W・ホーキング
第6章:ツイスターで見る時空 R・ペンローズ
第7章:討論 S・W・ホーキング、R・ペンローズ

訳者あとがき
出典一覧

宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃: 加藤文元

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宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃: 加藤文元」(Kindle版

内容紹介:
人類に残された最後の超難問、ABC予想に挑む!
人類に残された超難問、ABC予想の解決をも含むとするIUT(宇宙際タイヒミュラー)理論。
京都大学の望月新一教授によって構築された論文は、「未来から来た論文」と称されるなど、数学界のみならず、世界に衝撃をもたらした。
この論文は、世界で理解できるのは多く見積もっても数人、といわれるほどの難解さであり、論文の発表から6年以上たった現在もなおアクセプトに至っていないが、望月教授と、議論と親交を重ねてきた著者は、IUT理論は数学者ではない一般の人たちにもわかってもらえるような自然な考え方に根ざしていると考える。本書では、理論のエッセンスを一般の読者に向けてわかりやすく紹介。その斬新さと独創性を体感できる。理論の提者である望月新一教授の特別寄稿も収録!

2019年4月25日刊行、304ページ。

著者について:
加藤 文元: HP: http://www.math.titech.ac.jp/~bungen/index-j.html
1968年、宮城県生まれ。東京工業大学理学院数学系教授。97年、京都大学大学院理学研究科数学数理解析専攻博士後期課程修了。九州大学大学院助手、京都大学大学院准教授などを経て、2016年より現職。著書『ガロア 天才数学者の生涯』『物語 数学の歴史 正しさへの挑戦』『数学する精神 正しさの創造、美しさの発見』(以上、中公新書)『数学の想像力 正しさの深層に何があるのか』(筑摩選書)、『天に向かって続く数』(共著日本評論社)など。

加藤先生の著書: 書籍版 Kindle版


理数系書籍のレビュー記事は本書で408冊目。平成最後の紹介記事だ。

今年は「官房長官 新元号は「宇宙」と発表」というエイプリルフール記事を投稿していた。

「宇宙」という言葉は使い方や文脈によっては、「うさん臭さ」や「トンデモ」な印象を与えてしまうことがある。

提唱者の望月新一先生のホームページ(URL)内にある「IUT(宇宙際タイヒミュラー)理論」のページがあることは、数年前に気が付いていた。

宇宙際タイヒミューラー理論の拡がり
http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~motizuki/project-2020-japanese.html


京大の先生がお書きになったページであるにも関わらず、僕は「うさん臭い」と誤解して詳しく読んでいなかったのだ。ページトップで切り替わる画像を見る限り、自分が理解できるシロモノではないことがすぐわかる。そして「日本人がABC予想を証明した」というニュースは知っていたものの、その日本人が望月先生だということに気が付いていなかったのだ。相変わらずの迂闊者である。

今回紹介する「宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃: 加藤文元」(Kindle版)を知り、やっとIUT理論の価値に気が付かされた。

著者の加藤先生がお書きになった本は、これまで2冊紹介させていただいてとても好感を持っている。加藤先生がお書きになったのだから面白いに決まっている。案の定、本書は発売開始前からツイッター上で話題になっていて、発売開始まもなくアマゾンでは一般向け数学書の販売ランキング1位という好評ぶりだ。

加藤先生は望月先生の友人であり、2005年から2011年にかけて京大にあった加藤先生の研究室で、望月先生の新理論について議論していらっしゃったそうだ。IUT理論の誕生と成長過程を間近で見ていらっしゃったのが加藤先生なのだ。

本書は2017年に開催された「数学の祭典 MATH POWER 2017」というイベントの一部として加藤先生が行なったABC予想や宇宙際タイヒミュラー(IUT)理論の基本についての1時間25分の講演「ABC予想と新しい数学」に肉付けして書籍化したものだ。この講演動画と同じものは、その後英語字幕が付けられて、YouTubeからも見ることができる。

Inter-universal Teichmüller theory via Fumiharu Kato w/English subtitles [PROPER]


未来からきた論文、異世界の論文と呼ばれ、世界で理解している数学者はたった数名という超難解な理論であるにもかかわらず、動画をご覧になっていただくとわかるように、中学生でも理解できそうな講演だ。


数学という体系全体を私たちはひとつのものと見なしている。その世界は大まかに「数論(代数学)」、「幾何学」、「調和解析(解析学)」という3つの島に分かれ、それらの間にミステリアスなつながりがあることが、2015年に放送された「NHK数学ミステリー白熱教室」というテレビ番組や「数学の大統一に挑む:エドワード・フレンケル」という本で紹介された。

数学者の仕事は定理や予想を証明することである。それはジグソーパズルを解くように、ピースをひとつひとつ組み合わせて全体を完成させていく作業にたとえることができる。このように数学とは人類が数を数え始めて以来、数万年に渡って築き上げてきた「1つの巨大な体系」である。

難問の「ABC予想」を証明するためにも、既存の数学体系が使えるのかもしれない。しかし、望月先生はまったく違う考え方をした。これまでの数学体系は「たし算」と「かけ算」がとても複雑に絡み合っているため、ABC予想の証明を阻んでいるのだとお考えになった。証明するためにはまた別の数学体系が必要だというのだ。IUT理論や本書のタイトルで使われている「宇宙」がひとつの数学体系を意味し、本書ではこの宇宙を「数学一式」や「数学の舞台」と言い換えられている。

そして「国際」という言葉が「国と国の間の関係」を意味しているのと同じような意味で、複数の数学の舞台どうしの関係を「宇宙際(うちゅうさい)」と呼ぶことにしたわけだ。そして複素数の世界での「タイヒミュラー理論」を数論幾何学に適用したのが「IUT(宇宙際タイヒミュラー)理論」である。この新理論を応用することで、望月先生はABC予想を証明されたという。

2012年にその証明が発表されたわけだが、現在も査読中で世界中の数学者に受け入れられるまでには至っていない。その理由は主に次の3つである。

- これまでの数学ではない、新しく望月先生が創造した数学理論、数学手法が多用されているため、他の数学者ははじめから学びなおさなければならないから。
- 論文自体が難解なうえ、500ページにもおよぶから。
- この論文を理解する上で前提となる数学を理解している数学者の数が限られているから。

これまでの流れを要約すると、次のようになる。

2012年8月 IUT理論でABC予想が証明されたという論文が発表され、世界的ニュースになった。

2013年12月 論文を理解した研究者が2名あらわれた。
山下剛(京大講師)、モハメッド・サイディ(英エクセター大教授)

2014年12月 論文を理解した研究者が3名になった。
- 星裕一郎(京大講師)
- 星先生は論文の検証は数学的には終了したので、今後は理解者育成に移ると発表。検証終了宣言は2010年代後半を想定していると発言。
- 星先生によるIUT理論へ入門するための日本語の試料(PDFファイル)
http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~yuichiro/intro_iut.pdf

2015年12月 英国で論文の研究集会が開催された。
- フェルマーの最終定理を解いたアンドリューワイルズや師匠のゲルトファルティングス他多数の著名な研究者含む約60名参加。
- 結果:準備論文の理解に重要な進展があったが、本体論文の検証は思うように進まなかった。

2016年7月 京大で論文の研究集会が開催。
- 主催者によると、理解者が10名以上になった。
- キランケドラヤ、ジェフリーラガリアスらが肯定的に検証継続を表明した。若手が独自の勉強会を開き、望月新一氏のもとに集い始めるなど普及が本格化している。


このように難解な数学理論を、一般人にもわかるように説明するというのが、本書のすごいところ。対象読者も中学生以上だ。

章立ては次のとおり。

第1章 IUTショック
第2章 数学者の仕事
第3章 宇宙際幾何学者
第4章 たし算とかけ算
第5章 パズルのピース
第6章 対称性通信
第7章 「行為」の計算
第8章 伝達・復元・ひずみ

第1章の「IUTショック」から僕は衝撃を受けた。難問として知られる「ABC予想」を解くために、望月先生はこれまでとはまったく違う数学を創り出したという話。この章から第3章までは講演動画には含まれていない内容だ。IUT理論がどのように誕生したか、数学の論文はどのようにして書かれ、アクセプトされていくかという話、望月先生の紹介と、これまでなされてきた加藤先生との交流が書かれている。

ここまで読むとIUT理論本体の説明がされていないにもかかわらず、これがとてつもない理論だということがわかる。加藤先生が強調なさればなさるほど、読者はやきもきしてきて「早く教えてよ!」という気分が高まっていくのだ。

理論本体の解説が始まるのは、本書を読み始めて半分くらいのところから始まる第4章「たし算とかけ算」からである。既存の数学体系では、この2つが複雑にからみあっているという話、どのようにこの2つを分離すればよいかという話である。一度目に読んだときは「2つを分離する方法」が説明されていることに気が付かなかった。後で講演動画を見て、次のようなことであると理解できた。






異なる2つの数学世界では、何らかの関係性をもつ必要がある。実世界の物理では2つのパラレルワールドの間で物のやり取りはできないのだが、数学のパラレルワールドでも「モノ」のやり取りはできない。しかし「コト」をやり取り(通信)はできるのだ。それが「群」として取り扱われる「対称性」という性質である。本書で解説されるのは、この3つの群だ。

- 位数4の巡回群
- 4次の二面体群
- 4次の対称群

中学生にもわかってもらうようにするため、本書では群論の説明に第6章と第7章で50ページをあてている。群論を学んでいる人は読まなくてもよいかもしれない。とりあえず読んでみたが、難しい専門用語や概念を持ち出さず、日常的な事例を使ってとても上手かつ効率的な解説がされていた。群論や創始者のガロアのことを、もっと知りたくなったら、加藤先生のこの本をお読みになるとよいだろう。

ガロア―天才数学者の生涯 (中公新書): 加藤文元」(Kindle版



最終章、第8章「伝達・復元・ひずみ」が本書でいちばん難しい。異なる2つの数学世界(舞台)でパズルのピースを合わせると「ひずみ」ができるのだ。「対称性」が舞台間で伝えられるのは部分的な情報である。この章ではどのように対称性を伝えるか、伝えられた情報からどのように復元するか、そして生じたひずみをどのように計算するかが解説される。内容が難解なだけに、比喩を使って説明するのには限界がどうしてもでてくる。それにも関わらず、大ざっぱなイメージはじゅうぶんつかむことができた。

そもそもIUT理論は本書の最後で紹介されるこの動画で視覚化されているように、常人にはとても理解できるものではないのだから。

Eteinne Farcot - The Multiradial Represenation of IUT



講演動画の最後で、加藤先生は「IUT理論は他の数学の問題に対しても使うことができると思う。」とおっしゃっている。また加藤先生が主催された「数学愛好家の集い」に参加して、直接お聞きしたのだが「今回の本は中学生以上を対象にして書いたが、理系大学生向けにもっと深く説明することもできる。」ということだそうだ。今後、IUT理論を解説した本が増えていくことを期待したい。

本書は期待をはるかに超えた本だった。一般社会のみならず数学界についてもIUT理論に対して抱かれがちな「トンデモ」なイメージを払拭し、よい意味で「とんでもない理論」、「とてつもない理論」であることを広めていくために大きな役割を果たすことだろう。

なお、理論の提者である望月新一教授の特別寄稿はKindle版のページから無料サンプルとして読むことができる。

加藤先生、興奮とスリルに満ちた本をお書きくださり、ありがとうございました。


関連記事:

数学する精神―正しさの創造、美しさの発見: 加藤文元
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https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b0d53d030bf82e8016a1071fadb16063

数学の大統一に挑む:エドワード・フレンケル
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宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃: 加藤文元」(Kindle版


はじめに
刊行によせて(望月新一:IUT理論提唱者、京都大学教授)

第1章 IUTショック
- 「イエス、グーグル!」
- 国際、銀河際、宇宙際
- 未来からやってきた論文
- 数学界の反応
- 共通の言語
- コミュニケーションパラダイム
- たし算とかけ算を分離する
- 「いざない」
- 最良のコミュニケーション
- IUT語

第2章 数学者の仕事
- 数学で新しいことができるのはなぜか?
- 数学が進歩するとは、どういうことなのか?
- 数学とは異種格闘技である!
- 論文の価値はなにで決まるのか?
- 数学は体力を使う学問である
- 「興味深い」ということ
- 理論はいかにして世界へ発信されるのか?
- 数学はお金がかかる学問である
- 数学のジャーナル
- 論文がアクセプトされるとはどういうことなのか?
- 紳士のゲーム
- そもそも人はなぜ数学するのか?
- 純粋と応用
- 楕円曲線とICカード
- ありふれたサクセスストーリー
- 数学の限りない可能性

第3章 宇宙際幾何学者
- 数学の変革
- 32歳で京大教授
- 焼肉とドラマ
- ディオファントス方程式
- 実効版モーデル予想
- タイヒミュラー理論
- 遠アーベル幾何学
- ホッジ・アラケロフ理論
- 自然であること
- アナロジー

第4章 たし算とかけ算
- 素数と素因数分解
- 根基
- ABCトリプル
- 例外的ABCトリプルとABC予想
- 強いABC予想
- その波及効果
- そもそも予想とはなにか?
- 予想はなぜ可能なのか?
- 気まぐれな素因数
- たし算的側面とかけ算的側面
- 素数が現れるタイミング
- たし算とかけ算の絡み合い

第5章 パズルのピース
- IUT理論の新しさ
- 数学の舞台
- ジグソーパズル
- 学校で教わる数学
- IUTパズル
- たし算とかけ算による正則構造
- 新しい柔軟性
- 入れ子宇宙
- 異なる舞台のピースをはめる
- テータリンク

第6章 対称性通信
- 複数の舞台で考える
- 舞台間の通信はどうするのか?
- 対称性
- 回転と鏡映
- 対称性による復元
- 復元ゲーム
- 対称性通信
- ひずみ

第7章 「行為」の計算
- 右向け右!
- 行為の合成
- 「動き」を計算する
- 「閉じている」ということ
- 記号の計算
- 記号化のご利益
- 対称性の群
- アーベル、非アーベル、遠アーベル
- 文字の置き換えゲーム
- 対称群
- 抽象的な群
- 対称性は壁を越える
- ガロア理論と「復元」

第8章 伝達・復元・ひずみ
- IUT理論がやろうとしていること
- 目指す不等式
- 異なる数学んお「舞台」のパズルのピース
- 対称性通信と計算
- テータ関数
- ひずみの計測
- 局所と大域
- 精密な同期
- まとめ

おわりにかえて 川上量生(株式会社ドワンゴ顧問)

ガロア―天才数学者の生涯 (中公新書): 加藤文元

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ガロア―天才数学者の生涯 (中公新書): 加藤文元」(Kindle版

内容紹介:
天才という呼称すら陳腐なものとする人物が歴史上には存在する。十九世紀、十代にして数学の歴史を書き替えたガロアは、まぎれもなくその一人だ。享年二十。現代数学への道を切り拓く新たな構想を抱えたまま、決闘による謎の死で生涯を閉じる。不滅の業績、過激な政治活動、不遇への焦りと苛立ち、実らなかった恋―革命後の騒乱続くパリを駆け抜けた、年若き数学者が見ていた世界とは。幻の著作の序文を全文掲載。

2010年12月1日刊行、293ページ。

著者について:
加藤 文元: HP: http://www.math.titech.ac.jp/~bungen/index-j.html
1968年、宮城県生まれ。東京工業大学理学院数学系教授。97年、京都大学大学院理学研究科数学数理解析専攻博士後期課程修了。九州大学大学院助手、京都大学大学院准教授などを経て、2016年より現職。著書『ガロア 天才数学者の生涯』『物語 数学の歴史 正しさへの挑戦』『数学する精神 正しさの創造、美しさの発見』(以上、中公新書)『数学の想像力 正しさの深層に何があるのか』(筑摩選書)、『天に向かって続く数』(共著日本評論社)など。

加藤先生の著書: 書籍版 Kindle版


理数系書籍のレビュー記事は本書で409冊目。令和最初の紹介記事だ。

第1章 少年時代
第2章 数学との出会い
第3章 数学史的背景
第4章 デビューと挫折
第5章 一八三〇年
第6章 一八三一年
第7章 一八三二年


ガロア―天才数学者の生涯 (中公新書): 加藤文元」(Kindle版



関連記事:

宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃: 加藤文元
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f77f5bd8e1b3c96acd62fba729dc9b4e

数学する精神―正しさの創造、美しさの発見: 加藤文元
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4d706bf3aeba7eb5fe876b55b8a8496c

天に向かって続く数: 加藤文元、中井保行
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3d059b0a114b4bd712291a7fb81269e5

ガロア理論の頂を踏む: 石井俊全
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/be7d2e4dbc9a86966cad1356025d4525

数学ガール/ガロア理論:結城浩
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a5450818389e0220779e363617332a76

代数系入門: 松坂和夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/055c0887eb88f94bceb53b859524c952


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ガロア―天才数学者の生涯 (中公新書): 加藤文元」(Kindle版


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