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図説 世界を変えた書物 科学知の系譜:竺 覚暁

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図説 世界を変えた書物 科学知の系譜:竺 覚暁

内容紹介:
人類の科学の歴史を大きく変革してきた数々の書物、その貴重な初版本100冊以上を解説と共に掲載。ユークリッドら古代の知識から、ガリレオ、ニュートン、マクスウェル、アインシュタインからシュレディンガーまで。
これ以外では絶対に見られない、人類の歴史を刻み、変えてきた貴重な稀覯本(すべて初版本)の外観・内面を大きなビジュアルと共に掲載。その書物が何をなし、世界をどう変えたのかの解説も入ります。
2017年11月刊行、192ページ。

著者について:
竺 覚暁(ちく かくぎょう): ウィキペディアの記事
金沢工業大学教授、金沢工業大学ライブラリーセンター館長、金沢工業大学建築アーカイヴス研究所長。工学博士。


来月、9月8日から24日まで上野の森美術館で開催される『[世界を変えた書物]展』のオフィシャルブックである。この企画展のことは僕のブログをお読みになる方なら、すでにご存知だと思うが、衆知を徹底しておくに越したことはない。

[世界を変えた書物]展
http://www.kanazawa-it.ac.jp/shomotu/

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金沢工業大学がいったいどのようにして、これだけの書物を集められたのかはよくわからないが、物理学ファン、科学ファンには胸が熱くなる企画だ。およそ130冊の貴重な書物が展示されるそうだ。

とはいえ美術展やこのような企画展では通常写真撮影は禁止。生で見れる感動で心臓はドキドキ、心はざわざわするはずだ。おそらく一生に一度の機会なのだから。(2015年に大阪で開催された同企画展では、写真撮影ができたそうだ。)

せっかく見ることができても記憶にとどめておくのは難しい。つまりオフィシャル本が売れるのはそのためである。「ルーヴル美術館展」でもそうだった。

それにオフィシャル本を前もって読み込んでおけば、企画展で解説を読む時間が節約でき、展示されている貴重書を鑑賞する時間がたっぷりとれる。

図説 世界を変えた書物 科学知の系譜:竺 覚暁


思わず閲覧用と保管用の2冊買いたくなる高級感たっぷりの装丁だ。表紙と中身(全ページ)のデザインは、先日「AI(人工知能)と物理学」という講演会で知り合いになったアダチさん(@adc_design_labo)が担当された。(なんだかすごいご縁、タイミングで僕は知り合いになったなぁ。)

アダチ・デザイン研究室
https://www.adachi-design-lab.com/

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本の色の選択やデザインがこのように決まったのは、アダチさんとのツイートによると次のようなわけである。

ツイート1: 金沢工業大学さんの貴重資料室の壁がゴールドとシルバーで、入った瞬間に「わぁ!」と思ったんです。この本を手に取られた方にも同じように感じていただけれたらなーって😤

ツイート2: 例えば図書館でカバーを取ってしまった時に表紙にも金沢の金箔のイメージとして特色のゴールドを残したかったので、編集さんにお願いしたんですー✨


もちろん大切なのは中身だ。目次を見ると次のような本が収められていることがわかる。

拡大:目次左ページ 目次右ページ


物理学徒にとっての目玉はアイザック・ニュートンの『プリンキピア(自然哲学の数学的原理)』の初版(1687年)だ。この実物を拝むためだけでも行く甲斐はじゅうぶんにあると思う。

僕のブログでも「プリンキピア」をネタに、いくつか記事を書かせていただいた。

- 日本語版「プリンキピア」が背負った不幸
- Kindle版で復刊: 日本語版プリンキピア(自然哲学の数学的原理):アイザック・ニュートン
- Googleで「プリンキピア」や「Principia」を検索すると...
- 英国王立協会、ニュートンが4次元時空の着想を得ていたことを発表
- 例の画像で遊んでみた。


この他、本書に掲載されている書物や企画展で展示される書物の日本語版について、僕がこれまでに記事にしたのは次のものだ。

- 天体の回転について:コペルニクス著、矢島祐利訳
- 宇宙の神秘 新装版:ヨハネス・ケプラー
- 新天文学:ヨハネス・ケプラー
- 全5巻完結!:ラプラスの天体力学論(日本語版)
- 無料で読めるラプラスの『天体力学』のフランス語版と英語版
- 熱の解析的理論:ジョゼフ・フーリエ著、ガストン・ダルブー編纂
- 運動物体の電気力学について(アインシュタイン選集1)
- 一般相対性理論の基礎(アインシュタイン選集2)


今回の企画展に呼応して、いま発売中の月刊誌Newtonや日経サイエンスでは特集記事が組まれている。こちらもお読みになるとよい。

Newton(ニュートン)2018年10月号」(詳細
日経サイエンス2018年10月号」(詳細
 


今日紹介した「図説 世界を変えた書物 科学知の系譜:竺 覚暁」を読みながら、来月の企画展を楽しみに待つことにしよう。

図説 世界を変えた書物 科学知の系譜:竺 覚暁



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人間の建設:小林秀雄、岡潔

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人間の建設:小林秀雄、岡潔」(Kindle版

内容紹介:
有り体にいえば雑談である。しかし並の雑談ではない。文系的頭脳の歴史的天才と理系的頭脳の歴史的天才による雑談である。学問、芸術、酒、現代数学、アインシュタイン、俳句、素読、本居宣長、ドストエフスキー、ゴッホ、非ユークリッド幾何学、三角関数、プラトン、理性……主題は激しく転回する。そして、その全ての言葉は示唆と普遍性に富む。日本史上最も知的な雑談といえるだろう。
2010年2月刊行、183ページ。(単行本の初版は1965年、新装版は1968年刊行)

対談者について:
小林秀雄: ウィキペディアの記事
1902‐1983。東京生れ。東京帝大仏文科卒。1929(昭和4)年、「様々なる意匠」が「改造」誌の懸賞評論二席入選。戦中は「無常という事」以下、古典に関する随想を手がけ、終戦の翌年「モオツァルト」を発表。’67年、文化勲章受章。連載11年に及ぶ晩年の大作『本居宣長』(’77年刊)で日本文学大賞受賞。
小林秀雄の著書: Amazonで検索

岡潔: ウィキペディアの記事
1901‐1978。大阪生れ。日本数学史上最大の数学者。1925(大正14)年、京都帝大卒業と同時に講師に就任、以降、広島文理科大、北大、奈良女子大で教鞭をとる。多変数解析函数論において世界中の数学者が挫折した「三つの大問題」を一人ですべて解決した。’60(昭和35)年、文化勲章受章。
岡潔の著書: Amazonで検索


多変数関数論の建設」の次は「人間の建設」だ。数学者としてだけでなく、文化人、ひとりの人間としての岡潔先生を知っておきたい。

批評家として名高い小林秀雄先生との対談本である。小林先生の著作は大学生のときに「モオツァルト・無常という事」(Kindle版)を読んで以来だ。

この本のもとになった対談は終戦後20年経った1965年に行われ、この年に単行本が刊行されている。僕が読んだのは1968年に刊行された新装版、「多変数関数論の建設」を読んでいた僕を見た知人がくださった本である。僕のブログのプロフィール写真は幼稚園児の頃のものだが、その当時に印刷された本をおよそ50年経って読んだことになる。



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専門領域がまったく違う知の巨人のお二人が忌憚なく語り合うというお膳立ては、読む前から好奇心がかきたてられる。相手を尊重するあまり、遠慮をすればつまらない対談になってしまうし、逆に相手の考えを否定して自説のみ主張すれば不快な物別れに終わりかねない。今になって思うとずいぶん野心的な企画だったとわかる。

数学にせよ音楽や文学の話にせよ、馴染みのない読者には難解になりがちな話題で繰り広げられたにもかかわらず、すらすらと読めてしまうのが意外だった。そして知的なお二人であるがゆえに、対話は自然に本としての構成を次のように紡ぎ出す。

学問をたのしむ心
無明(むみょう)ということ
国を象徴する酒
数学も個性を失う
科学的知性の限界
人間と人生への無知
破壊だけの自然科学
アインシュタインという人間
美的感動について
人間の生き方
無明の達人
「一」という概念
数学と詩の相似
はじめに言葉
近代数学と情緒
記憶がよみがえる
批評の極意
素読教育の必要


小林先生は1902年4月に、岡先生は1901年4月にお生まれになっている。そしてアインシュタイン博士が来日したのが1922年のことだ。(参考記事)博士の来日に合わせて科学教養書が数多く出版され、20代前半だった小林先生も相対性理論を教養書でお読みになっていた。岡先生は数学者だから特殊相対性理論を数式で理解するのはたやすかったはずだし、一般相対性理論の数学的基礎となったリーマン幾何学は理解されていたはず。ただし、アインシュタインの論文はドイツ語で書かれていたので、フランス語が堪能な岡先生が一般相対性理論を当時得られる論文や書籍で理解したかどうかは定かではない。

お二人の話は相対性理論での時間論、それに対して誤った解釈を与えてしまった哲学者アンリ・ベルクソンの話へと自然に展開していく。(参考記事:「時:渡辺慧」)

相対性理論は理学の範疇とはいえ岡先生には専門外である。先生が自然科学をどの程度まで理解していたか、自然科学に対してどのような認識をお持ちだったかを知ることができたのが収穫だった。数学や自然科学に関する岡先生のご発言のところだけ、かいつまんで紹介しよう。

- われわれの自然科学ですが、人は素朴な心に自然はほんとうにあると思っていますが、ほんとうに自然があるかどうかはわからない。自然があるということを証明するのは、現在理性の世界といわれている範疇ではできないのです。自然があるということでなく、数というものがあるということを、知性の世界だけでは証明できないのです。数学は知性の世界だけに存在しうると考えてきたのですが、そうでないということが、ごく近ごろわかったのですけれども、そういう意味にみながとっているかどうか。数学は知性の世界だけに存在しえないということが四千年も数学をしてきて、人ははじめてわかったのです。数学は知性の世界だけに存在しうるものではない、何を入れなければ成り立たぬかというと、感情を入れなければ成り立たぬ、ところが感情を入れたら、学問の独立はありえませんから、少なくとも数学だけは成立するといえたらと思いますが、それも言えないのです。

感想: 知性により明らかにされる数学の世界に対して、人間の感情による裁定を持ち込むかどうかは数学者といえども千差万別だと思う。僕自身は感情を持ち込むべきではないという立場だが、岡先生の多変数関数論は先生の感情や情緒に従って建設されたことを思うと、感情による裁定を一概には否定できないと思った。

- アインシュタインのしたことについて一番問題になりますのは、それまで直線的に無限大の速さで進む光というものがあると物理で思っていたのを否定したのです。(中略)アインシュタインは、在来の光というものを否定した。そうすると、仮定している物理の公理体系が残っても、実験的にはたしかめることのできないものに変わってしまったのです。物理的な公理体系ではなくなったのです。これは何と言いますか、観念的な公理体系、哲学的公理体系というものに変わってしまいます。

感想: 岡先生はまったく誤解していると思った。光が有限の速度で進むことはアインシュタインよりはるか以前、17世紀にはわかっていたことだからだ。ニュートンでさえ木星の衛星の動きを観測することで光の速度を計算している。ニュートン力学だけでなく、アインシュタインの時空の理論は一貫して物理的な公理体系であり、岡先生が言うような観念的、哲学的公理体系ではないと思う。強いて言えばアインシュタインの時空の理論は、われわれのユークリッド幾何的な空間、時間の概念に反しているだけである。対談が行われた1965年であっても特殊相対性理論や一般相対性理論は実験や観測で確かめられていたし、アインシュタイン最後の宿題と呼ばれた重力波も2015年9月に初観測されている。(参考記事: 「重力波の直接観測に成功!」)

- いまの理論物理学のようなものが実在するということを信じさせる最大のものは、原子爆弾とか水素爆弾をつくれたということでしょうが、あれは破壊なんです。(中略)もし建設が一つでもできるというなら認めてもよいのですが、建設は何もしていない。しているのは破壊と機械的操作だけなんです。

感想: 理論物理学や自然科学の破壊的な側面しか取り上げていない。1965年にはすでに半導体技術を活かしたラジオやテレビ、大型計算機、通信手段などの利便性があったはず。科学がもたらす恩恵を夢見ていた高度経済成長の時代に岡先生は取り残されていたに違いないと思った。

- 自然科学、自然科学と、日本ではこのごろ特にやかましくいうのですね。釈尊は諸法無我と言いました。科学は無我である、我をもっているものではないということを教え込ませないといかんわけです。自然科学の弊害は多いです。

感想: 岡先生の自然科学嫌いが顕著にあらわれている部分。相対性理論にしても、量子力学にしても、人間の感情、感覚に沿わないものを受け入れることに嫌悪をお持ちのようだ。

- (数学には)かりにリアリティというものはあるのですけれども、見えてはいないのです。それで探しているわけですね。リアリティというものは、霧に隠れている山の姿だとしますと、それまで霧しかなかったところに山の姿の一部が出てきたら、喜んでいるわけですね。だから唯一のリアリティというものがあって、それをどう解釈するかというふうなことはしていないのです。リアリティにはいろいろな解釈があって、どれをとるかが問題になったという実例はないと思います。リアリティの解釈が問題になるということは、数学では一度も出会ったことがないでしょう。

感想: 数学の定理は「発見」か?それとも「発明」か?という問いにかかわる部分。このご発言だけ読むと数学の定理は「発見」だとおっしゃっているように思える。

- 物理学者の場合、リアリティというものは、人があると考えている自然というものの本質ということになりますね。それに相当するものは数学にはありません。だから見えない山の姿を少しずつ探していくということですね。ある意味では自然をクリエイトするものの立場に立っているわけです。クリエイトされた自然を解釈する立場には立っていないのです。

感想: ここも数学の定理は「発見」か?それとも「発明」か?という問いにかかわる部分。「山の姿を少しずつ発見しながら自然をクリエイトする」という言葉に岡先生はひとつの回答を与えている。

- (数学は詩に)似ているのですよ。情緒のなかにあるから出てくるのには違いないが、まだ形には現れていなかったものを形にするのを発見として認めているわけです。だから森羅万象は数学者にとってつくられているといっているのです。詩に近いでしょう。言葉が五十音に基づいてあるとすれば、それに相当するものが数ですね。それからつくられたものが言葉ですね。数というものがあるから、数学の言葉というものがつくれるわけですね。

感想: ここも数学の定理は「発見」か?それとも「発明」か?という問いにかかわる部分。数学の定理の発見と発明(建設、構築)の側面をより具体的にご説明なさっている。「数学の定理はもともとあるのではなく、定理があるべき姿はもともと決まっているが、数学者
はそのとおりに建設、構築している。」という意味だと僕は解釈した。

- 数学史を見ますと、数学は絶えず進んでいくというふうにはなっていません。いま数学でやっていることは、だいたい十九世紀にわかって始められたことがまだ続いているという状態です。証明さえあれば、人は満足すると信じて疑わない。だから数学は知的に独立したものであり得ると信じて疑わなかった。ところが、知には情を説得する力がない。満足というものは情がするものであるという例に出会った。そこを考えなおさなければならない時期にきている。それによって人がどう考えなおすかは、まだこれからの有様を見ないとわからない。数学がいままで成り立ってこたのは、体系のなかに矛盾がないということが証明されているためではなくて、その体系を各々の数学者の感情が満足していたということがもっと深くにあったのです。初めてそれがわかったのです。人がようやく感情の権威に気づいたといってもよろしい。人智の進歩としては早いほうかもしれない。人は実例に出会わなければ決してわからない。

感想: 岡先生のお考えが色濃くでている部分。数学に対して僕が感じている印象とは異なるものだ。1960年代に「ラングランズ予想」が提唱され、数学の異なる分野に不思議なつながりがあることが明らかにされつつあり、数学者の感情が満足するしないにかかわらず数学は発展してきたように僕は思う。(参考記事:「NHK数学ミステリー白熱教室」、「数学の大統一に挑む:エドワード・フレンケル」)この部分の後、岡先生は十九世紀以降の数学史を理工系の大学1、2年生で学ぶ「1変数複素関数論」のあたりまでざっくりと解説されるのだが、小林先生には理解できなかったと思う。

自然科学や数学に関しての岡先生のご発言は、このようなものである。


この他、岡先生は日本の非行少年の割合が3割という比率であることに心を痛め、せめて3パーセントぐらいに下がってほしい、それに役立ちそうなことがあったら、よろこんでしている。昔の国家主義や軍国主義は、それ自体は間違っていても、教育としては自我を抑止していました。だから今の個人主義は間違っていると述べている。

先日NHKで見た「“駅の子”の闘い ~語り始めた戦争孤児~」を思い出した。

https://www.nhk.or.jp/archives/shogenarchives/postwar/sengozeronen/syonen/

対談は終戦後20年たって行われたのだが、戦争がもたらした傷跡は、この頃でもまだ癒えていなかったのだと思った。プロレス漫画の「タイガーマスク」の中の「ちびっこハウス」と呼ばれた児童養護施設の起源は、戦災孤児のための施設だったのだろうと想像した。

その後、児童養護施設の役割は貧困家庭の子供の保護に加えて、DVやいじめを受けている子供、不登校児の精神的な支えをする施設などへと変わっていったわけである。


東京帝大仏文科を卒業された小林先生がフランス語に堪能であることはもちろんであるが、岡先生もフランス語が堪能である。しかし、いったいいつ頃、先生はフランス語を身につけたのだろう?学生時代に御茶ノ水の『アテネフランセ』に通っていた僕には不思議としか思えない。天才には外国語の習得などたやすいということなのだろうか?


関連記事:

天才を育てた女房(読売テレビ)、数学者 岡潔
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d30aa855f68847fddb48b6078402f1f3

岡潔/多変数関数論の建設:大沢健夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e059394599194c8763006c8195df95a0


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人間の建設:小林秀雄、岡潔」(Kindle版



学問をたのしむ心
無明(むみょう)ということ
国を象徴する酒
数学も個性を失う
科学的知性の限界
人間と人生への無知
破壊だけの自然科学
アインシュタインという人間
美的感動について
人間の生き方
無明の達人
「一」という概念
数学と詩の相似
はじめに言葉
近代数学と情緒
記憶がよみがえる
批評の極意
素読教育の必要

「エルマーのぼうけん」シリーズ: ルース・S・ガネット

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ウォーキングの途中でときどき立ち寄るDORAMA下北沢PART5店は中古本がとても充実している。8月中旬に見つけたのは子供のころ好きだった「エルマーのぼうけん」の3部作。ひらがなばかりの本だから、おそらく小学2、3年で読んだのだろう。格安だったから思わず買ってしまった。2人の妹もこの本が大好きだったことを思い出した。

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ストーリーはすっかり忘れている。たしか動物が住む島で竜の子供をエルマーが助ける話だった。竜とともだちになったエルマーは3冊目でその家族全員を助けるのだったな。あとはどうなることやらとハラハラしたり、竜とエルマーの友情に胸が熱くなったこと。覚えているのはそれくらい。

ネットで調べたところ、今年は「エルマーのぼうけん」の英語の原作「My Father's Dragon」が1948年に出版されてから70年、福音館書店から1963年に渡辺茂男による日本語版が出版されて55年の記念の年だという。

新宿の紀伊國屋ホールでは8月4日、つまり僕が本を買う10日前に原作者のルース・S・ガネットさん(95)を招いてイベントが開かれていたことを知った。挿絵は彼女の義理の母親のルース・C・ガネットさんがお描きになっている。

【紀伊國屋ホール】 「エルマーのぼうけん」原作者ルース・S・ガネットさん 来日記念パネルディスカッション(2018年8月4日)
https://www.kinokuniya.co.jp/c/label/20180706100000.html

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当日のレポート: ページを開く

「エルマーのぼうけん」シリーズ:福音館書店のページ
https://www.fukuinkan.co.jp/ninkimono/detail.php?id=4

原題は 「お父さんの竜」(My Father's Dragon)で、語り手の父親(my father)が 9歳の少年だった時の話として書かれている。会話などで直接的に名前を使う時を除いて、ほとんどすべてが、主人公を「エルマー」ではなく 「my father」 と表現して語られていくが、日本語訳では「my father」 のほとんどは「エルマー」に置き換えられた。 2巻目である『エルマーとりゅう』からは原著でも「エルマー」を主語に用いている。

このような本も発売された。

「エルマーのぼうけん」を書いた女性 ルース・S・ガネット



それならば45年ぶりに読み直してみようか。せっかくだから原作で読んでみようと、ソフトカバーの英語版を取り寄せた。日本語版よりだいぶ薄い。

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子供向けの本だけれども高校1、2年のリーダーの英語レベル。ふだん目にしない語彙や表現がときどき出てくるから、TOEIC 800点の僕でも易しすぎるということはない。サンプルページを載せておくので、自分の英語力で読めそうか確認してみるとよい。

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通して読んでみたところ1冊目はだいたい覚えていた。おばあさんの野良猫を助けたことがきっかけで、エルマーは動物たちが住む島に渡り、捕らわれの身となっていた竜の子供を助けるまでの話。

2冊目と3冊目は、かなり忘れていた。読み進めながらも先が見通せない。あれほど感動した本なのに、いったいどうしたわけだろう。思い出せなかったのは英語で読んでいたせいかもしれないが。ところどころで「ああ、そうだった!」と思い出すという有様だった。

あらすじを知りたい方は、ネタバレ覚悟でウィキペディアの「エルマーのぼうけん」という記事をお読みになるとよい。

エルマーのぼうけん:
年とったのらねこからどうぶつ島に囚われているりゅうの子どもの話を聞いたエルマーは、りゅうの子どもを助ける冒険の旅に出発します。どうぶつ島ではライオン、トラ、サイなど恐ろしい動物たちが待ちうけていました。エルマーは、知恵と勇気で出発前にリュックにつめた輪ゴムやチューインガム、歯ブラシをつかって、次々と動物たちをやりこめていきます。エルマーはりゅうの子どもを助け出すことができるのでしょうか?

エルマーとりゅう:
「エルマーのぼうけん」の続編。ぶじ動物島を脱出したエルマーとりゅうが、「知りたがり病」という病気をめぐって大活躍。一度読みはじめたらやめられない抜群のおもしろさです。

エルマーと16ぴきのりゅう:
エルマーのお話の完結編。やっと家に帰りついたりゅうを捕えようと、人間どもがやってきます! エルマーは、りゅうの家族を救おうと、りゅうの家にやってきます。心躍る結末です。


ご自身の思い出の発掘、お子さんへの読み聞かせのために日本語版をお買い求めになる方は、ハードカバーの本(単行本)をこちらからどうぞ。

エルマーのぼうけん
エルマーとりゅう
エルマーと16ぴきのりゅう
  

3冊セットでも次のものが買える。

エルマーのぼうけんセット


愛蔵版 エルマーのぼうけんセット



英語版は版型が違うものが発売されているのでご注意いただきたい。次の3冊は出版社が同じで版型を揃えることができる。ソフトカバーの本だ。僕が買ったのはこの組み合わせである。

My Father's Dragon
Elmer and the Dragon
The Dragons of Blueland
  

英語版には3冊合本版がある。こちらはハードカバー。Kindle版としても購入できるのがうれしい。

Three Tales of My Father's Dragon」(Kindle版



本の読み聞かせ動画

「エルマーのぼうけん」は最初から最後まで、「エルマーとりゅう」は第3章まで英語と日本語の読み聞かせ動画がYouTubeにアップされている。リスニングの練習にちょうどよい。

My Father Meets the Cat: 再生リスト1 再生リスト2 再生リスト3


Elmer and the Dragon By Ruth Stiles Gannett


【読み聞かせ】エルマーのぼうけん #1


エルマーのぼうけん(全部)+エルマーとりゅう(第3章まで): 再生リスト


マニアックな話

注意深い方はすでにお気づきかもしれないが、日本語のタイトルロゴにはいくつか種類がある。コレクターの中には細部にこだわる人がいるから、お伝えしておこう。また、日本語タイトルと英語タイトルが併記されている本もある。






















また、2冊目の表紙は裏焼き(左右逆)のものがあるようだ。僕が買った3冊セットは2冊目が英語版の絵と左右が逆だ。

 


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[世界を変えた書物]展(上野の森美術館)

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2018年9月8日午後2時5分、僕はついにあの偉大な書物と対面することができた。アイザック・ニュートンの『プリンキピア(自然哲学の数学的原理)』の初版(1687年)である。

9月8日から24日まで上野の森美術館で開催されている[世界を変えた書物]展に行ってきた。

[世界を変えた書物]展: 入場無料
http://www.kanazawa-it.ac.jp/shomotu/

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科学史に偉大な足跡を残した書物ばかりが、同じ場所に集められているのは極めて異例のことだ。これを見逃したら一生後悔する。ドキドキしながら上野に向かった。

なんと会場はフラッシュを焚かない限り写真撮影が許可されている。そして受付で確認したのだが、他の来場者が写っていないように注意するのであれば、撮った写真をSNSにアップしてもよいという。どんどん宣伝してほしいということだった。

初日だから混雑してるかと覚悟していたが、このとおり。ちょうどよい混み具合である。(写真はぼかしておく。)




以下、僕が特に見たかった本の写真を載せておく。展示されていた書物のうちのごく一部だ。中身も見たいだろうからオンライン・アーカイブへのリンクを「閲覧」として貼っておく。



本棚の本は全部本物だ。



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: アインシュタインの手書き原稿


拡大: 『アルマゲスト(1496年初版)』

閲覧 ウィキペディア 解説 日本語版

拡大: コペルニクス『天球の回転について(1543年初版)』

閲覧 ウィキペディア 解説 日本語版 日本語完訳版

拡大: ガリレイ『星界の報告(1610年初版)』

閲覧 ウィキペディア 日本語版

拡大: ケプラー『新天文学(1609年初版)』

閲覧 ウィキペディア 日本語版

拡大: ケプラー『世界の調和(1619年初版)』

閲覧 ウィキペディア 日本語版

拡大: ニュートン『自然哲学の数学的原理(プリンキピア、1687年初版)』

閲覧 ウィキペディア 解説 日本語版

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拡大: オイラー『無限解析入門(1748年初版)』

閲覧 解説 日本語版

拡大: デカルト『方法序説(1637年初版)』

閲覧 ウィキペディア 解説 日本語版


書物はガラスケースに収められているし、ラテン語やギリシャ語は読めないから、書物を鑑賞しに行ったようなものだ。感動したというより、むしろ圧倒された。ひとりの人間が成せることの大きさに畏怖さえ感じた。ヨハネス・グーテンベルクが活版印刷術を発明したのは1445年頃だから、一部の書物は手書きである。それぞれの書物にどれだけの知力と心血が注がれたことだろう。このように貴重な書物の価値が理解できるようになれて、本当によかったと思う。

今夜は余韻にひたりながら、先日紹介した「図説 世界を変えた書物 科学知の系譜:竺 覚暁」を楽しむことにしよう。

図説 世界を変えた書物 科学知の系譜:竺 覚暁



アイザック・ニュートンの『プリンキピア(自然哲学の数学的原理)』の初版(1687年)をネタに、これまでに書いた記事は次のとおりである。

- 日本語版「プリンキピア」が背負った不幸
- Kindle版で復刊: 日本語版プリンキピア(自然哲学の数学的原理):アイザック・ニュートン
- Googleで「プリンキピア」や「Principia」を検索すると...
- 英国王立協会、ニュートンが4次元時空の着想を得ていたことを発表
- 例の画像で遊んでみた。
- ニュートン著『プリンキピア』: eBayで買った?そんなわけないだろ。


また、次のような書物についても、これまで記事を書いている。

- 天体の回転について:コペルニクス著、矢島祐利訳
- 宇宙の神秘 新装版:ヨハネス・ケプラー
- 新天文学:ヨハネス・ケプラー
- 全5巻完結!:ラプラスの天体力学論(日本語版)
- 無料で読めるラプラスの『天体力学』のフランス語版と英語版
- 熱の解析的理論:ジョゼフ・フーリエ著、ガストン・ダルブー編纂
- 運動物体の電気力学について(アインシュタイン選集1)
- 一般相対性理論の基礎(アインシュタイン選集2)


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つばき、時跳び: 梶尾真治

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つばき、時跳び(徳間文庫): 梶尾真治 」(Kindle版
つばき、時跳び(単行本): 梶尾真治 」(Kindle版

内容:
椿が咲き乱れる「百椿庵」と呼ばれる古屋敷には、若い女性の幽霊が出るとの噂があった。
その家で独り暮らすことになった青年は、ある日、突然出現した着物姿の美少女に魅せられる。
「つばき」と名のる娘は、江戸時代から来たらしい…。
百五十年という時間を超えて、惹かれあう二人の未来は?
梶尾真治が熊本を舞台に描く究極のタイムトラベル・ラブロマンス。
映画化を映像作家・大林宣彦氏が決心!

文庫版は2018年1月刊行、397ページ。単行本は2010年6月刊行、352ページ。

著者について:
梶尾 真治(かじお しんじ)
1947年、熊本県生まれ。1971年「美亜へ贈る真珠」で作家デビュー。代表作は『地球はブレイン・ヨーグルト』『怨讐星城』(星雲賞受賞)、『未踏惑星キー・ラーゴ』(熊日文学賞受賞)、『サラマンダー殱滅』(日本SF大賞受賞)など。

梶尾 真治さんの著書: Amazonで検索


たまには恋愛小説でもと「マチネの終わりに: 平野 啓一郎」を読んだが、つまらなかったので、次こそは外さないぞと読んでみたのがこの小説。

昨年NHK FMの青春アドベンチャーのラジオドラマとして放送されたときハマっていた。この本なら絶対に外すことはない。主演のつばき役の声は女優の美山加恋さんが担当していた。

つばき、時跳び(全10回)
熊本の古屋敷に咲く美しい花一輪、彼女の名は、つばき。
https://www.nhk.or.jp/audio/html_se/se2017005.html




2010年には福田沙紀さん主演の舞台も制作されていたようだ。

舞台「つばき、時跳び」制作発表



やはりタイムトラベル・ロマンスがいい!ラジオドラマでストーリーを知っていても、原作本は大いに楽しめた。話の前半はつばきが現代に迷い込み、駆け出し小説家の井納惇と出会って過ごす日々の出来事、中盤は惇が江戸時代にタイムトラベルをし、つばきに世話を受けながら愛情を深めていく。そこで2人は切ない別れが。。。タイムトラベルのしかけを作ったのは「りょじん」と呼ばれる人物だ。物語の最後で惇とつばきは「りょじん」の手助けで再会することになるのだが。。。

小説では惇が江戸時代の「百椿庵(ひゃくちんあん)」で過ごす日々のことが、ラジオドラマより詳しく書かれていた。ほぼドラマと同じストーリー進行である。結末も同じだった。

昔の日本人女性が、男性に本当に従順だったかどうかは疑問が残るが、つばきのように愛らしく、従順な女性は空想上のあこがれだ。現代では絶滅種と言っていいほど理想的な伴侶である。せめて小説の中では身勝手な妄想を膨らませていたい。果たしてこの小説はいまどきの若い女性にも受け入れられるのだろうか? そんなことを考えながら読み終えた。


この本を読んだ方が2007年にAmazonのレビューに次のようなメッセージを残しているのを見つけた。ウィキペディアの「つばき、時跳び」を読むとわかるが、この小説は平凡社のPR誌『月刊百科』に、2004年9月号から2006年9月号まで「つばきは百椿庵に」のタイトルで連載されていた。

『時をかける少女』『転校生』『さびしんぼう』の大林宣彦監督が映画化してくれたらいいなと、そんな気持ちに駆られた一冊。

なんと、これが実現するのである。絶対に見なければ!大林宣彦監督と言えば「尾道三部作(『時をかける少女』『転校生』『さびしんぼう』)」、「新尾道三部作(『ふたり』『あした』『あの、夏の日』)」が懐かしい。



ロケはおそらく熊本だ。熊本城は修復中だからどうするのだろう?

つばき役は誰になるのだろう? 著者はオードリー・ヘップバーンをイメージしているようだが、僕のイメージではラジオドラマでつばきを担当していた美山加恋さんである。

誰が演じるのかを含め、映画が公開されるのを楽しみに待とう。


本をお買い求めの方は、こちらからどうぞ。文庫版が今年でたばかり。Kindle版は文庫版と単行本では違うようである。

つばき、時跳び(徳間文庫): 梶尾真治 」(Kindle版




つばき、時跳び(単行本): 梶尾真治 」(Kindle版




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復活した笹塚の洋食屋さん『ロビン』で夕食

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フランス語の授業

今日は週末のフランス語の授業。生徒のうち1人は海外旅行に出かけてしまったので、残る1人にこれまで学んできたことの復習をした。主に次の3つ。

- 数字の基数(~番目)という言い方
- 複合過去
- オー・シャンゼリゼのフランス語歌詞の意味と発音。(1番のみ)


洋食屋『ロビン』で夕食

その後、先日復活したばかりの洋食屋さん「ロビン」(笹塚では超人気店)で夕食をとるために16時40分から並んだ。夕方は17時から営業で、タイミングよく僕らは1番乗りである。(実をいうと僕は復活後2回目である。先日の台風の日に行っていた。)

この店は現在ある場所から50メートルほど離れた21ショッピングセンターで1987年に開店し、今年の3月20日に惜しまれつつも閉店していた。地元での再開に常連客はほっと胸をなでおろしている。連日、長蛇の列で大賑わいだ。

食べログにも復活後のロビンのページがようやくできた。予約はできないのでご注意を!

ロビン (洋食屋)
03-6407-0224
東京都渋谷区笹塚1-29-7 Fファーストビル 2F
https://tabelog.com/tokyo/A1318/A131808/13225578/

ロビンに関するツイート: 検索する


生徒はオムライス・ドリア、僕はハンバーグ・ナポリタンの大盛。そしてコンソメスープを2つ。2人ぶん合わせて、たった2130円である。

店で撮った写真を載せておこう。客が少なく見えるのは入店してすぐ撮ったからである。









オムライス・ドリア


ハンバーグ・ナポリタン(大盛)


先日ひとりで行って食べたときのハンバーグ・ピラフ(大盛)


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夕食を共にした生徒のほうも水曜から海外へ向けて出発。2人は旅先で合流するそうだ。彼女たちが帰国するのは9月27日の予定。次の授業は9月29(土)以降ということになる。2人とも日本からいなくなってしまい、僕は少し寂しい。


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多変数関数論 (数学のかんどころ 21):若林功

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多変数関数論 (数学のかんどころ 21):若林功

内容紹介:
本書は、多変数関数論の基礎知識を学びたいと思う人々に向けた入門書である。20世紀には種々の分野において多変数化が行われ、多変数関数論が重要な役割を果たすようになった。多変数関数論が専門でない人々にとっても、数学を学ぶ上でこの基礎知識は有用である。本書では、どの分野の人にも知っておいてほしい多変数関数の知識を厳選し、解説した。
2013年12月刊行、171ページ。

著者について:
若林功(わかばやし いさお): HP: http://math-seikei.sakura.ne.jp/wakabayashi/
1965年東京大学理学部数学科卒業、1967年東京大学理学研究科数学、1994年-2002年成蹊大学工学部教授、専門は代数学、基礎解析学。


理数系書籍のレビュー記事は本書で375冊目。

解析学(微積分学)は17世紀にニュートンやライプニッツによって創始され、その後高校で学ぶ1変数の実変数の微積分学から理工系の大学1、2年で学ぶ1変数の複素変数の微積分学に150年をかけて発展した。そこまでの経緯を知るには高瀬先生の「微分積分学の史的展開 ライプニッツから高木貞治まで」や「微分積分学の誕生 デカルト『幾何学』からオイラー『無限解析序説』まで」をお読みになるとよい。その後、20世紀になってから岡潔によって目覚ましい発展を遂げたのが多変数(n変数)の複素領域(C^n)での関数の微積分学(多変数関数論=n変数の関数論)である。

今年2月に放送された「天才を育てた女房(読売テレビ)、数学者 岡潔」に触発され、岡先生が切り拓いた多変数複素関数の世界を少しでもわかりたいと「岡潔/多変数関数論の建設:大沢健夫」を読んだがあえなく挫折。

番組解説記事


あきらめがつかなかったので、今回は「多変数関数論 (数学のかんどころ 21):若林功」を読んでみた。僕が知る限り、この分野ではいちばんやさしい教科書、副読本である。結果から言うと読んで大正解だった。理解度は7割にとどまったが、多次元複素領域の様子がだいぶイメージできるようになったと思う。共立出版の「数学のかんどころ」シリーズには、よい本が揃っていそうだ。

本書の「はじめに」と「正誤表」は共立出版の本書紹介のページで読むことができる。

多変数関数論 (数学のかんどころ 21):共立出版のHP
http://www.kyoritsu-pub.co.jp/bookdetail/9784320019997


本書の要約

本書は次のように要約される。

第1章 多変数正則関数の基本性質

多変数の正則関数の定義を述べ、1変数正則関数について成り立つ基本性質とほぼ類似の性質について、1変数関数論を復習しながら学ぶ。一致の定理、多変数正則関数の実部である多重調和関数は1変数の場合と異なった状況が生じる。

キーワード:ハルト―クスの正則性定理、コーシーの積分公式、コーシーの評価式、リューヴィルの定理、一致の定理、多重円板、多重調和関数、コーシー・リーマンの関係式

第2章 正則関数の接続

ある領域の正則関数が、より広い領域の正則関数に接続されることがある。1変数の正則関数に対する除去可能特異点と同様なことは、多変数正則関数についても成り立つ。ところが、多変数正則関数の現象として、ある領域のすべての正則関数が一斉により広い一定の領域まで接続されることがある。その最初の一、二の例とハルト―クスの接続定理について述べる。正則関数がより広い領域まで接続される現象は、代数幾何学などでも利用される。

キーワード:除去可能特異点、除去可能定理、ハルト―クスの接続定理、超球、ハルト―クス・オスグッドの定理、正則領域、ワイエルシュトラスの定理

第3章 ワイエルシュトラスの予備定理

多変数関数については、関数の大域的な性質のみならず、局所的な性質、すなわち1点の近傍における性質も重要である。局所的な性質も、1変数の場合と比べて多変数の場合はかなり複雑な様子になっている。局所的な性質を理解するのに有用なワイエルシュトラスの予備定理を述べる。これを用いて、局所正則関数環が素元分解環であることを示す。また、割り算定理を述べて、これより、局所正則関数環がネーター環であることを示す。

キーワード:局所正則関数環、関数芽、正則関数芽、ワイエルシュトラスの予備定理、素元分解環(一意分解整域)、ネーター環、割り算定理、ヒルベルトの基底定理、偏角の原理

第4章 解析的集合

正則関数の共通零点集合である解析集合について、局所的な扱いと大域的な扱いとがあるが、局所的にもかなり複雑であるので、局所的性質を中心に考える。局所的に、解析的集合芽と局所整数環のイデアルとの対応、解析的集合芽の既約性、次元、特異点などの一般的事項を初めに学ぶ。その後、1つの正則関数の零点集合である主解析的集合について、その幾何学的性質をワイエルシュトラスの予備定理によって調べる。
解析的集合の特異点の詳しい性質などは、特異点論の分野の研究に発展していくものであるし、代数幾何学でも必要になっている。また、複素多様体を拡張した解析空間と呼ばれる空間、すなわち解析的集合を張り合わせた空間の研究にも繋がっていく。

キーワード:解析的集合。集合芽、解析的集合芽、主解析的集合芽、可約、既約、イデアル、素イデアル、ネーター環、共通零点集合、局所次元、局所余次元、特異点、通常点、連結性、終結式、判別式

第5章 有理型関数,ローラン展開

有理型関数の定義を述べ、その極、および多変数のときに初めて現れる不確定点の様子を見る。次に1変数関数の場合のローラン展開を、そのままの形で多変数に拡張する。

キーワード:有理型関数、極、極集合、特殊擬多項式、ローラン展開、多重円環

第6章 正則領域

C^nの領域が正則領域であることと正則凸領域であることは同値である。これは正則領域を特徴付ける重要な性質で、カルタン・トゥレンの基本定理と呼ばれている。
正則領域は、多変数関数論を展開する上で最も重要な領域であり、様々な良い性質をもっている。例えば、正則領域においては、局所的に与えられた極をもつ領域全体での有理型関数が常に存在する。また、正則領域がある種の幾何学的条件を満たせば、局所的に与えられた零点をもつ領域全体での正則関数が存在する。これらは岡潔による深い研究から得られた結果であり、本書では結果の紹介だけしかできない。

キーワード:正則凸性、多重円板、正則凸包、正則凸領域、幾何学的凸、幾何学的凸包、解析的多面体、カルタン・トゥレンの基本定理、ミッタグ・レフラーの定理、ワイエルシュトラスの因数分解定理、極の分布、零の分布、クザンの加法的問題、クザンの乗法的問題、上空移行の原理、ポアンカレの問題

第7章 微分形式と積分

微分形式は微分可能実多様体の上で定義され、微分可能部分多様体の上でそれを積分することが考えられているが、それを C^n の領域において正則な、あるいは有理型の微分形式について考える。微分形式とは積分されるもののことである。C^n の領域の場合も、積分する図形は区分的に滑らかな実の部分多様体である。超曲面に高々1位の極を持つ有理型微分形式に対して留形式を定義し、積分と留形式との関係を見る。

キーワード:正則微分形式、p次正則微分形式、C^n上の正則微分形式、外積、微分形式の積分、外微分、微分形式の引き戻し、微分形式の制限、ストークスの定理、コーシーの積分定理の一拡張、留形式(留数の一般化)、超曲面、定義関数、留形式定理、管近傍、δ対応、正規交差、合成留形式、閉正則微分形式、合成留形式の積分、合成留形式定理


まとめと感想

「第6章 正則領域」と「第7章 微分形式と積分」が重要なのは言うまでもない。最初はわかりにくくても、読んでいくうちにイメージが作られてくるのが本書の特長だ。途中であきらめないで読み進めることをお勧めする。1変数での微分形式や留数が多変数だとどのようになるかが理解できたとき、かなりうれしかった。

ただし、過度な期待をしてはいけない。あくまでこれは「入門のための入門書」。岡潔の業績を最高峰のチョモランマに例えれば、本書でたどり着けるのはベースキャンプではなく、登山のために開催されるガイダンス、あるいは説明会のレベルだと僕は感じた。「チョモランマを制覇するのは、こんなに大変なのですよ。でも、この山に登るとこのような景色が待ち受けているのです。」のような段階の本である。

工夫された図版

本書の理解を大いに助けてくれるのが図版である。多次元複素空間(C^n)の図形を上手に工夫して実2次元の紙面に落とし込み、視覚化している。いくつか紹介しておこう。本書の記述の雰囲気と合わせて参考にしていただきたい。

拡大:正則関数の拡張


拡大:ハルト―クスの接続定理


拡大:A*の連結性


拡大:幾何学的凸領域


拡大:上空移行の原理


拡大:留形式定理


拡大:管近傍の局所直積表示


しかし、このレベルの数学を図版無しの教科書で学ぶというのは、このような図版のイメージを自分で想像できなければならないことに気付くと、先に続く道は相当険しいのだと思い知るわけだ。


本書で紹介されている参考図書

巻末では参考図書をいくつか紹介し、特長が書かれている。本書を学び終えたら次はこのような本に取り組むとよい。

多変数関数論:酒井栄一」(1966年)

多変数関数論の基礎が初学者にも学びやすいように述べられている。本書で触れられなかった内容も含まれていて、またより詳しく述べられてもいるので、本書の補いとして学ぶには良い本である。

多変数函数論:西野利雄」(1996年)

20世紀の半ばまでに確立された多変数関数論を解説し、岡潔によって創造された世界を可能な限り元の姿のままで紹介することを目指したものである。著者の深い研究と数学観に基づいて書かれていて、高度な内容の専門書である。岡潔によって解かれたレヴィ問題、すなわち完備な強擬凸状関数をもつ解析空間はスタイン空間であること、その特別な場合として、C^n の擬凸領域は正則領域であることの証明を最終目標としている。

多変数解析関数論 ─学部生へおくる岡の連接定理:野口潤次郎」(2013年)

多変数関数論全般にわたって解説していて、層の理論やスタイン多様体の理論など現代的な取り扱いをしている。岡の連接定理を基本にして多変数関数論を組み立て、多変数関数論における主要な成果を証明を付けて証明している。多変数関数論を本格的に学ぼうとする学生にとって良い本である。

多変数解析函数論:一松信」(1960年)

多変数関数論の初歩から、全般にわたる当時の最新の内容まで含んだ素晴らしい本である。多変数関数論を本格的に学ぼうとする人にとって、この本は現在でも最も良い本の1つである。高度な内容まで述べられているが、具体的、実質的であり、頑張れば理解できるであろう。多変数関数論の発展の歴史も詳しく述べられていて興味深く読むことができる。本書の執筆に際して、多くの部分についてこの本を参考にさせて頂いた。

複素函数:山口博史」(2003年)

1変数函数論の初歩からコーシーの積分公式、留数定理までを学び、その後、多変数関数論に入り、上空移行の原理を解説し、岡潔の画期的なアイデアの素晴らしさが読者に伝わることを願って書かれた本である。丁寧にわかりやすく書かれている。


関連書籍:

多変数複素関数論の教科書。6月に増補版として刊行されたばかり。立ち読みした限りでは、僕には歯が立たないとすぐわかった。こういう教科書が理解できる人がうらやましい。

多変数複素解析 増補版:大沢健夫



もう少し易しい教科書は次の2冊。これらも立ち読みしたところ、手ごわそうだった。それぞれAmazonで目次をご覧いただきたい。野口先生の本は今回紹介した若林先生の「多変数関数論 (数学のかんどころ 21)」でも参考図書として取り上げられている。

多変数解析関数論 ─学部生へおくる岡の連接定理:野口潤次郎
多変数複素関数論を学ぶ:倉田令二朗
 


岡潔のライバル、親友であり続けたフランスの数学者アンリ・カルタンによる複素関数論の初等的教科書。フランス語版の原題は「解析関数の初等的理論:1または多複素変数」である。第IV章で20ページに渡って多変数複素関数論が解説されている。カルタンがパリ大学理学部で行なった講義をもとに1963年に出版された大学1、2年生から読める易しい教科書だ。日本語版、英語版、フランス語版を載せておこう。

複素函数論:H.カルタン
Elementary Theory of Analytic Functions of One or Several Complex Variables」(Kindle版
Theorie elementaire des fonctions analytiques. D'une ou plusieurs variables complexes - Deuxieme cycle
  


1変数の複素関数論:

そもそも1変数の複素関数論がわかっていないと多変数複素関数論は学べない。1変数についてはよい教科書がたくさんでているので「解析学入門のための教科書談義」という記事を参考にしていただきたいが、今月、次のようなとても易しい副読本が刊行された。大学の授業についていけない人はお読みになるとよいだろう。若林先生の「多変数関数論 (数学のかんどころ 21)」と同様、図版がとても豊富である。1変数複素関数論の本だと「ヴィジュアル複素解析: T.ニーダム」もそうだが、これら3冊はさしずめ複素関数論書籍では「ビジュアル系」といったところだ。

高校生からわかる複素解析: 涌井良幸」(図版のサンプル



参考資料:

数学者 岡潔文庫(奈良女子大学)
http://www.lib.nara-wu.ac.jp/oka/

岡潔の「多変数複素関数論」の概要に,独学で入門するPDF資料まとめ。解析接続や正則性の概念を多様体上で一般化
http://study-guide.hatenablog.jp/entry/2015/12/24/岡潔の「多変数複素関数論」の概要に、独学で入

不定域イデアルの理論と多変数代数関数論への路
評伝「岡潔」のための数学ノートI(未定稿):高瀬正仁
http://www2.tsuda.ac.jp/suukeiken/math/suugakushi/sympo08/08takase.pdf

複素解析学特論(多変数)PDF文書 - 東京大学
http://www.ms.u-tokyo.ac.jp/web/htdocs/publication/documents/saito-lectures


関連記事:

天才を育てた女房(読売テレビ)、数学者 岡潔
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d30aa855f68847fddb48b6078402f1f3

岡潔/多変数関数論の建設:大沢健夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e059394599194c8763006c8195df95a0

解析学入門のための教科書談義
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/22c325e49cfd7c721679dbc2896b86a4

ヴィジュアル複素解析
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2f47e7b748d4ca7022dc53305388a00b

なっとくする複素関数:小野寺嘉孝
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/de4d9ea37c56d434505002d35e0132bf


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多変数関数論 (数学のかんどころ 21):若林功



第1章 多変数正則関数の基本性質
- 1変数正則関数の定義
- 多変数正則関数の定義
- コーシーの積分公式
- 正則関数の整級数表示
- 一致の定理
- 多重調和関数
- 第1章補 極限と微分積分の交換

第2章 正則関数の接続
- 除去可能特異点
- より広い領域への拡張
- 正則領域

第3章 ワイエルシュトラスの予備定理
- 局所正則関数環の定義
- ワイエルシュトラスの予備定理
- 局所正則関数環における整除
- ネーター環
- 第3章補 偏角の原理とその拡張

第4章 解析的集合
- 解析的集合の定義と基本性質
- 主解析的集合
- 第4章補 終形式、判別式

第5章 有理型関数,ローラン展開
- 有理関数の定義
- ローラン展開

第6章 正則領域
- 正則凸性
- 正則領域の例
- 局所データをもつ関数

第7章 微分形式と積分
- 正則微分形式
- 微分形式の積分
- 外微分
- 留形式
- 留形式と積分
- 正規交差における合成留形式
- 合成留形式における積分

問題略解
参考図書
索引

Udemy: みんなのAI講座 ゼロからPythonで学ぶ人工知能と機械学習

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先月95パーセントOFFのキャンペーン価格で購入したオンライン講座。ようやく受講を始めた。PCだけでなくタブレット端末やスマホでも学ぶことができる。

好きな時に学ぶ
¥1,400から登録できる数千のコース!自分のペースで好きなテーマを学べる!

Udemy
https://www.udemy.com/


今回は5.5時間で Python とAIの基礎を学ぶ。

みんなのAI講座 ゼロからPythonで学ぶ人工知能と機械学習
https://www.udemy.com/learning-ai/learn/v4/overview

ときどきキャンペーンをしているようだ。いま見たところあと6時間(9月23日早朝まで)90パーセントOFFの1400円で購入できる。PythonやAIを全く知らなくても大丈夫だ。効率よく学べるので、お勧めである。

この講座は2016年に作成されたもの。内容は次のとおり。

- AIの歴史や概要の説明
- Pythonや統合開発環境 PyCharmAnacondaのインストールや初期設定
- Pythonの基礎的な文法解説と実行
- 機械学習で使う数学とプログラム例
- 緯度と経度データを与え、機械学習をさせ、テストデータを分類するプログラムの開発
- 機械学習ライブラリ scikit-learn のインストールと初期設定
- scikit-learnを使った画像分類プログラムの開発(アヤメの花の品種分類)
- scikit-learnを使った文字認識プログラムの開発
- scikit-learnを使った株価分析プログラムの開発
- 有名な機械学習ライブラリの紹介と特徴の説明(TensorFlowChainerCaffescikit-learn
- Python 3のインストール方法の説明
- 人工知能の未来

受講中に撮った画面をいくつか載せておこう。プログラミングの解説は段階的にコードを追加/修正する形で行ない、その都度実行して見せてくれるので、とても効率がよくわかりやすい。

拡大: シグモイド関数とその微分のグラフ表示


拡大: ニューラルネットワークのプログラミング


拡大: ニューラルネットワークのバックプロパゲーション


拡大: 教師あり学習の実行例


拡大: 機械学習によるアヤメの品種分類


拡大: scikit-learnによる文字認識(教師データの1例)


拡大: scikit-learnによる文字認識(訓練後のテスト)


拡大: scikit-learnによる株価分析


拡大: 機械学習のライブラリ



この他にも7コース購入済みなので、受講したらまた紹介しよう。


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絶賛発売中?:ライプニッツ『極大と極小に関する新しい方法(1684年初版)』

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9月8日から上野の森美術館で開催されている[世界を変えた書物]展も今日が最終日。見落としていた書物があったので、もう一度足を運んでみた。

[世界を変えた書物]展: 入場無料
http://www.kanazawa-it.ac.jp/shomotu/

拡大


今日撮影した写真と解説は初日に行ったときに書いた記事「[世界を変えた書物]展(上野の森美術館)」に追記しておいた。

記事を書いている最中に、僕はとんでもないものを見つけて一瞬目を疑った。先ほど見たばかりのこの本が売られていたのだ。(買われてしまったようだが。)ライプニッツ(1646-1716)はニュートンと同様、微積分学を創始した人物である。



拡大: ライプニッツ『極大と極小に関する新しい方法(1684年初版)』

サンプルページ 解説 原本発売中?

ライプニッツの業績は、このページが詳しい。

Mathematical Treasure: Leibniz's Papers on Calculus
https://www.maa.org/book/export/html/641727


3月に「ニュートン著『プリンキピア』: eBayで買った?そんなわけないだろ。」という記事で紹介したのは、原書ではなく英訳本のこと。それでも数十万円する。




今回見つけたのは、本物の原書だ。25,000 US$、日本円だと2800万円ほど。実物はこのような状態である。

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Nova Methodus pro Maximis et Minimis. [in:] Acta Eruditorum. vol III, 1684
https://www.abebooks.com/Nova-Methodus-pro-Maximis-Minimis-Acta/21943070220/bd

ただし、すでに購入されてしまったようである。

We're sorry; this specific copy is no longer available. Here are our closest matches for Nova Methodus pro Maximis et Minimis. [in:] Acta Eruditorum. vol III, 1684 by LEIBNIZ, Gottfried Wilhelm.

「Acta Eruditorum (ライプチッヒ哲学論叢)」の中の第3分冊。ライプチッヒ哲学論叢というのはこういうものである。ウィキペディアのこのページでも解説されている。

第3分冊と第4分冊を合わせた本も存在しているようだ。こちらの本のほうが厚い。

Acta Eruditorum, Vol. III (1684), bound with Vol. IV (1685) of the same journal.
https://www.sophiararebooks.com/pages/books/2368/gottfried-wilhelm-leibniz/nova-methodus-pro-maximis-et-minimis-itemque-tangentibus-quae-nec-fractas-nec-irrationales/?soldItem=true


食卓の上にプリンキピアがある絵の非日常感は相当なものだ。しかし、人類の歴史に偉大な足跡を残した科学書を食卓やお茶の間に置くのは、やろうと思えばできることのようである。

記事を開く



関連記事:

[世界を変えた書物]展(上野の森美術館)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/67cec3d33c33810b91d0f7591bfbc2ee

ニュートン著『プリンキピア』: eBayで買った?そんなわけないだろ。
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b78b1019f73b4105359862e954496b66


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ついにリーマン予想が証明された!?

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ひとつ前の記事を書いている最中に、とてつもないニュースが飛び込んできた。あの「リーマン予想」が証明されたというのだ。ドキドキして気もそぞろである。これは今から160年前(日本は幕末)にドイツの数学者「ベルンハルト・リーマン」により提唱された予想で、「ミレニアム懸賞問題」という難問のうちのひとつである。リーマン予想は素数の謎を解明するために必要になる重要なステップと考えられている。そして素数は「ゼータ関数」と深いつながりをもち、宇宙や自然の有り様を決定づける秘密とも結びついているという。

リーマン予想のことは「素数に憑かれた人たち ~リーマン予想への挑戦~:ジョン・ダービーシャー」という本の紹介記事に書いておいたので、よくわかっていない方は、まずこの記事をお読みいただきたい。NHKで放送された番組の画面をお借りすれば、このようなものだ。






この予想を証明したというのが「マイケル・アティヤ」という89歳のイギリスの老数学者である。現代最高の数学者の一人とみなされているし、「アティヤ=シンガーの指数定理」や「ゲージ理論」という素粒子物理の根幹をなす研究をし、大きな業績を残しているから、数学だけでなく物理学の世界でも第一人者なのだ。この大先生が証明したというのだから、大騒ぎになっているわけである。僕も以前、「数学とは何か―アティヤ 科学・数学論集」という記事でアティヤ先生の著書を紹介している。

さらに騒ぎに拍車がかかっているのは、次の2つのことが明らかになったからだ。(アティヤ先生による講演も生中継されていた。)

1) 証明の論文はたった5ページであること。
2) 証明は微細構造定数を導出するという物理学上の研究から、副次的に得られたこと。


証明の論文はたった5ページであること

論文はここに公開されている。

THE RIEMANN HYPOTHESIS (MICHAEL ATIYAH): リーマン予想
https://www.dropbox.com/s/pydoj0a8hguebc6/2018-The_Riemann_Hypothesis.pdf?dl=0

もちろんこの中でアティヤ先生はリーマン予想の証明をされているが、注目すべきはこの論文の最後のほうに書かれている次のことだ。

There are also logical issues that will emerge. To be explicit, the proof of RH in this paper is by contradiction and this is not accepted as valid in ZF, it does require choice. I fully expect that the most general version of the Riemann Hypothesis will be an undecidable problem in the Gödel sense.

日本語訳: いくつかの論理的な問題も現れた。はっきり言えば、この論文におけるリーマン予想の証明は背理法によるものだが、矛盾を導くためには「ツェルメロ=フレンケル(ZF)の公理系」では不十分で「選択公理」を必要とする。そして最も一般的なバージョンのリーマン予想はゲーデルの意味において「非決定的」であることを強く期待している。

補足説明: 選択公理は、それ自身もまたその否定もほかの公理からは証明できないものであること、すなわち独立であることが示されたが、これは「公理的集合論」における大きな成果であろう。なお、ZF(ツェルメロ=フレンケルの公理系)に「一般連続体仮説」を加えると選択公理を証明できる。従って、一般連続体仮説と選択公理は何れもZFとは独立だが、前者の方がより強い主張であると言える。ZFに選択公理を加えた公理系をZFCと呼ぶ。


証明は微細構造定数を導出するという物理学上の研究から、副次的に得られたこと

その論文は17ページあり、ここに公開されている。

THE FINE STRUCTURE CONSTANT (MICHAEL ATIYAH): 微細構造定数
https://drive.google.com/file/d/1WPsVhtBQmdgQl25_evlGQ1mmTQE0Ww4a/view

この論文では素粒子物理を基礎づける「微細構造定数」をトッド関数を使って数学的に導き出している。

トッド関数は関・ベルヌーイ数の母関数としてあらわれるだけでなく、黒体輻射に関するプランクの公式やリーマン・ロッホ問題の位相幾何公式にもその姿を現す。そしてトッド関数を通常のコホモロジー理論と K 理論とにおけるオイラー類の比と理解し直すことで、アティヤ=シンガー指数定理の公式にも結びついていく。(参考資料:「調和級数から指数定理へ - 日本数学会」)


ここで驚くべきことが2つある。1つは微細構造定数を数学的に導出する過程で、オマケのようにリーマン予想の証明が得られたことだ。アティヤ先生の講演で映されたスライドがこれである。



上から翻訳すると、次のことが書かれている。

これがなぜリーマン予想に関係しているのか?

・リーマン予想の証明には新しく強力な方法が要求される
・トッド関数によって微細構造定数αが決まる:
  1/α = Ж = 137.035999...
・リーマン予想はボーナス(副次的な成果)である

そしてもう1つは、むしろこちらのほうが衝撃的なのであるが、微細構造定数(そしてその逆数である「結合定数」)は、電磁相互作用の強さを表す物理定数であることだ。自然界と独立した純粋に数学の世界の数(たとえば円周率πやネイピア数eなど)が、自然法則を決定する元になっていることを意味しているからである。

微細構造定数は「物理定数」のひとつであり、物理定数とは値が変化しない物理量のことである。プランク定数や万有引力定数、アボガドロ定数などは非常に有名だ。例えば、光速はこの世で最も速いスカラー量としてのスピードで、ボーア半径は水素の電子の(第一)軌道半径である。これらの値によって自然界の物理的な有り様が決まる。そしてこれらの定数がなぜその値になるかは、まだ解明されておらず、実験や観測によって決定されてきた。

中嶋慧さんのこのツイートによると円周率πが「くりこまれて」微細構造定数の逆数(=結合定数)になるのだそうだ。また微細構造定数は純粋に数学的な「円周率π」や「オイラー定数γ」とも結びついている。(自然界の定数が数学的に決めてられいるということ。これは神秘である。)

T(π)=1/α=137.035999...
で、(1.1)式は
T(γ)/γ = T(π)/π .
γはオイラー定数

また奥村晴彦先生はこのツイートで、「Wylerという人が群論(!)で微細構造定数を求めたというので話題になったことがある」とおっしゃっている。

Wylerによる微細構造の右辺は純粋に数学的な数だけから計算されていることがおわかりだろう。



実験で得られている値とは少し違うが、それでも微細構造定数の逆数である結合定数は有効数字6桁の精度で一致している。



この成果は「NHK数学ミステリー白熱教室」という記事で紹介した「ラングランズ予想」を思い起こさせる。数理物理学の意味深さを思わずにはいられない。


そしてアティヤ先生は、このリーマン予想の論文の最後で、次のことをお書きになっている。

I now pass to the second level. Following the example of α, and the more difficult case of the Gravitational constant G (see 2.6 in THE FINE STRUCTURE CONSTANT (MICHAEL ATIYAH)), I expect that mathematical physics will face issues where logical undecidability will get entangled with the notion of randomness.

私はいま、次のレベルに進んでいる。つまり微細構造定数αに続き、次はより難しい重力定数Gのケース(微細構造定数の論文の2.6を参照)のことだ。私は数理物理学がランダム性の概念と絡み合う論理的な非決定性の問題に直面することを期待している。

なんとも意味深長であり、次は「重力定数G(万有引力定数)」の導出なのだそうだ。


いずれにせよ、日本時間の明日の早朝(9月25日の早朝)に発表があるらしい。証明に疑問を呈する専門家もちらほら見かける。事の成り行きを見守っていくために、この話題のツイートを検索しやすくしておこう。

Twitterで検索する:
リーマン予想 アティヤ ゼータ関数
Atiyah Riemann hypothesis Zeta function


関連記事:

素数に憑かれた人たち ~リーマン予想への挑戦~:ジョン・ダービーシャー
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b15d8fa5e7f3e3e5b86cf1bc8a3c3f00

素数の魔力に囚われた人々 ~リーマン予想・天才たちの150年の闘い~
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c855d3c8628459df7371c2c53789c794

数学とは何か―アティヤ 科学・数学論集
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b3ce277f0624f0adea8186a0168bcf99

ゲージ理論とトポロジーの年表
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1050f5ac88c40f83f566ba52c142c565

数学の定理は「発見」か?それとも「発明」か?
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/dde18f50bc52f61699c84ff2f875d490

感想: NHK数学ミステリー白熱教室
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b0d53d030bf82e8016a1071fadb16063

数学の大統一に挑む:エドワード・フレンケル
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/43ca100e56e15427613b009af55c8f7d


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ゲージ理論とトポロジーの年表

注意:*付きのものは関係論文の出版年に基づいており、発見されてから数年遅く、順番が逆転している場合もある。

1918年*:ワイル(Weyl): ゲージ変換の発見
192?年:カルタン(Cartan): 接続の概念
1931年*:ド・ラーム(De Rham): ド・ラームの定理
1934年*:モース(Morse): モース理論
1935年*:ホッジ(Hodge): 調和積分論
1946年*:チャーン(Chern): チャーン・ヴェイユ理論
1946年*:ヴェイユ(Weil): ド・ラーム理論に基づく特性類の理論
1952年*:ロホリン(Rochlin): ロホリンの定理
195?年*:トム(Thom)、スメイル(Smale)、ミルナー(Milnor): 微分位相幾何学始まる
1958年*:小平: 複素構造の変形理論
1958年*:スペンサー(Spencer): 現代的なモジュライ理論の創始
1963年*:アティヤ(Atiyah): 楕円型作用素の指数定理
1974年:ヤウ(Yau): カラビ(Calabi)予想解ける(非線形偏微分方程式に基づく微分幾何学の最大の成果)
1978年*:アティヤ、ヒッチン、シンガー: ゲージ理論の数学が本格的に始まる
1978年*:アティヤ、ドリンフェルト(Drinfeld)、ヒッチン、マニン(Mannin): S^4上の自己共役接続を決定
1981年:フリードマン(Freedman): 4次元ポアンカレ予想解ける
1982年*:ウーレンベック(Uhlenbeck): ヤン-ミルズ方程式の除去可能特異点定理
1982年*:タウベス: 多くの4次元多様体上でヤン-ミルズ方程式の解が存在することの証明
1982年:ドナルドソン(Donaldson): ゲージ理論の4次元位相幾何学への最初の応用
1985年:ドナルドソン: ドナルドソン多項式
1985年:キャッソン(Casson): キャッソン不変量
1987年*:ジョーンズ(Jones): 結び目の新しい不変量を作用素環を用いて導入
1987年*:ドナルドソン: 4次元h同境定理の反例
1988年*:ウィッテン(Witten): 位相的場の理論
1989年*:ウィッテン: ジョーンズ不変量をチャーン-サイモンズゲージ理論で解釈
1990年*:タウベス: キャッソン不変量をゲージ理論で解釈
1990年:クロンハイマー(Kronheimer): トム予想とゲージ理論の関係
1993年:クロンハイマー、ミュロフカ(Mrowka): ドナルドソン多項式の構造定理
1994年:サイバーグ(Seiberg): モノポール方程式(サイバーグ-ウィッテン方程式)がヤン-ミルズ方程式と等価であると予言
1995年:タウベス: サイバーグ-ウィッテン不変量と量子コホモロジーの一種(グロモフ-ウィッテン不変量)の等価性を証明

アティヤ博士によるリーマン予想の証明騒動の続報

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2日前に「ついにリーマン予想が証明された!?」というセンセーショナルな記事を投稿したが、その後、どうも雲行きが怪しくなってきた。専門家の多くがアティヤ博士の今回の発表に対して、懐疑的、否定的な発言をするようになり、がっかりしたムードが漂っている。

9月24日にアティヤ博士のプレゼンが行われた。その一部はこのリンクから、全体はこのリンクからYouTube動画として見ることができる。

その後「Science」というウェブサイトでは、次のような記事が投稿されている。

Skepticism surrounds renowned mathematician’s attempted proof of 160-year-old hypothesis
https://www.sciencemag.org/news/2018/09/skepticism-surrounds-renowned-mathematician-s-attempted-proof-160-year-old-hypothesis?utm_source=newsfromscience&utm_medium=twitter&utm_campaign=160proofmath-21624

英語を読めない読者のために、つたない翻訳ではあるが日本語に訳してみた。不正確な箇所、誤訳などを見つけた方は、遠慮なくコメントしていただきたい。今後はどのような形で収束するのか、あるいは自然消滅するのかわからないが、引き続き見守っていくことにしたい。

日本語訳:


9月24日のハイデルベルグ受賞者フォーラムでリーマン予想の証明を発表する数学者のマイケル・アティヤ

高名な数学者による160年前の予想の証明に対し懐疑論が広がる
Frankie Schembri Sep. 24, 2018 , 5:15 PM

今日、有名な数学者がリーマン予想を証明したと発表した。これはおよそ160年間解決されなかった素数の分布に関する問題である。9月24日にドイツのハイデルベルグ受賞者フォーラムで行われた45分のプレゼンで、エジンバラ大学名誉教授(数学)のマイケル・アティヤは、およそ関連性がないと思われる物理学の手法を用いて、彼の表現に従えば、「簡潔な証明」として紹介したのだという。しかし、専門家の多くはその妥当性に疑いを持った。特にアティヤは89歳であり、ここ数年いくつかの間違いをおかしていたからだ。

「プレゼンで彼が示したものは、私たちが知っているリーマン予想とはとても似つかわしくないものだ。」 とトロンハイムのノルウェー科学技術大学で以前リーマン予想を学んだ経済学者のJorgen Veisdalは語った。「その証明はとても曖昧で不特定なもの」で、最終的な判定をするためには書かれた証明を検証する必要があると補足した。

リーマン予想は、これまで解決されていない最大かつ最後の数学の問題で、1859年にドイツの数学者ベルンハルト・リーマンによって初めて提唱された。これは2、3、5、7、11のように1かその数自身でしか割り切れない素数についての仮説である。素数は大きくなるにつれて数直線上では「まばら」になり、素数どうしの間隔は広くなっていく。リーマンは素数の分布を理解する鍵が、他の数の集合の中にあるということを発見した。それは実数と虚数の入力をもつリーマンゼータ関数のゼロ点の集合である。そして彼はゼータ関数のゼロ点に基づいて、特定の数までにいくつの素数があるか計算する公式や、素数どうしの間隔がどれくらいかを計算する公式を発見した。

しかし、リーマンの公式は、ゼータ関数のこれらのゼロ点の実数部分がすべて1/2に等しいと仮定した場合にのみ成り立つ。彼は最初のいくつかの素数についてこの性質を証明し、これまで100年間、たくさんの大きい素数でもこれが正しいことが計算で示されてきたのだが、無限に同じことがあてはまることは正式かつ明白な形で証明されてこなかった。その証明は、クレイ数学研究所が2000年に設立した7つのミレニアム問題の1つとして解決して得られる100万ドルの賞金を獲得するためだけでなく 暗号化に重要な役割を果たす素数を予測するアプリケーションのためにも必要なのだ。

アティヤは巨人であり、幾何学、トポロジー、そして理論物理学に対してこれまで大きな貢献をしてきた。数学では最高の賞であるフィールズ賞を1966年に、アーベル賞を2004年に受賞している。しかし長年に渡る豊富な経歴にもかかわらず、リーマンの主張の証明は失敗続きだった。

2017年、アティヤは、群論という抽象的な分野で1963年に初めて証明されたFeit-Thompsonの定理(奇数位数の有限群は可解であるという定理)を大幅に単純化して12ページの証明にしたとロンドンのタイムズ紙に語ったことがある。彼はその証明をその分野の専門家15人に送ったが、彼らは疑念を示すか無言のままで、その証明はついに雑誌に掲載されることはなかった。その前年には、ArXivというプレプリントのリポジトリ・サイトにアティヤは微分幾何学の有名な問題を解いたとして投稿したのだが、同僚たちは彼のアプローチが不正確であるとすぐ指摘し、その証明が正式に公表されることはなかった。

Science誌(この記事が掲載されているサイト名)は、アティヤの同僚の何人かに連絡した。すると全員が口をそろえて、アティヤが引退から返り咲きたいために不確かな連想に基づく証明をすることを心配していると語っていた。そして公に批判し、良き指導者または同僚である彼との関係を壊すようなことをしたいとは誰も望んでいなかった。リバーサイドにあるカリフォルニア大学の数理物理学者のJohn Baezは、アティヤの発表に対して批判的なコメントをしたいと思っている数少ない人物だ。「(アティヤの)証明は論証や実証とはまったく関係なく、印象的な主張の単なる積み重ねに過ぎなかった。」と彼は言う。

(プレゼンの)順番がきたときアティヤは動じなかった。「聴衆は物怖じしない若者と物知りな高齢者たちだ。私はライオンの群れに身を投げていたようなもので、無傷であることを願いたい。」とアティヤはプレゼンの前にメールで書いていた。アティヤによれば、証明と論文のコピーは、プレゼンの同意を得るために事前にオンラインで回覧されていたという。批判を受けながらもインタビューの中で、彼は自分の仕事がリーマン予想を証明するためだけでなく、まだ証明されていない他の数学の問題を証明するための具体的な基礎になるものだと断言した。そしてアティヤは「人々が不平や不満を言うのは、老人が全く新しい方法を見つけることが許せないのかもしれない。」とも言った。プレゼンで彼の証明のために使われたスライドはわずかで、ほとんどの時間はジョン・フォン・ノイマンやフリードリッヒ・ヒルツブルクなどが20世紀の数学にいかに貢献したか、そしてアティヤの証明が彼ら(の理論)に基づいていることを話した。

アティヤによる証明の要点は、電荷をもつ素粒子の間の電磁相互作用の強さと性質をあらわす微細構造定数と呼ばれる物理量に基づいているということだ。この定数と比較的曖昧な関係をもつトッド関数を使うことで、アティヤはリーマン予想が背理法で証明できると主張したのだ。

証明は5ページに書き上げられ、理論の多くの部分は彼自身による証明で実証され、論文は王立協会議事録Aにすでに送られたそうだ。その論文はまだ公表されていない。


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英語原文:

Skepticism surrounds renowned mathematician’s attempted proof of 160-year-old hypothesis
Frankie Schembri Sep. 24, 2018 , 5:15 PM

A famous mathematician today claimed he has solved the Riemann hypothesis, a problem relating to the distribution of prime numbers that has stood unsolved for nearly 160 years. In a 45-minute talk on 24 September at the Heidelberg Laureate Forum in Germany, Michael Atiyah, a mathematician emeritus at The University of Edinburgh, presented what he describes as a “simple proof” that relies on a tool from a seemingly unrelated problem in physics. But many experts doubt its validity, especially because Atiyah, 89, has been making mistakes in recent years.

“What he showed in the presentation is very unlikely to be anything like a proof of the Riemann hypothesis as we know it,” says Jorgen Veisdal, an economist at the Norwegian University of Science and Technology in Trondheim who has previously studied the Riemann hypothesis. “It is simply too vague and unspecific.” Veisdal added that he would need to examine the written proof more closely to make a definitive judgement.

The Riemann hypothesis, one of the last great unsolved problems in math, was first proposed in 1859 by German mathematician Bernhard Riemann. It is a supposition about prime numbers, such as two, three, five, seven, and 11, which can only be divided by one or themselves. They become less frequent, separated by ever-more-distant gaps on the number line. Riemann found that the key to understanding their distribution lay within another set of numbers, the zeroes of a function called the Riemann zeta function that has both real and imaginary inputs. And he invented a formula for calculating how many primes there are, up to a cutoff, and at what intervals these primes occur, based on the zeroes of the zeta function.

However, Riemann’s formula only holds if one assumes that the real parts of these zeta function zeroes are all equal to one-half. Reimann proved this property for the first few primes, and over the past century it has been computationally shown to work for many large numbers of primes, but it remains to be formally and indisputably proved out to infinity. A proof would not only win the $1 million reward that comes for solving one of the seven Millennium Prize Problems established by the Clay Mathematics Institute in 2000, but it could also have applications in predicting prime numbers, important in cryptography.

A giant in his field, Atiyah has made major contributions to geometry, topology, and theoretical physics. He has received both of math’s top awards, the Fields Medal in 1966 and the Abel Prize in 2004. But despite a long and prolific career, the Riemann claim follows on the heels of more recent, failed proofs.

In 2017, Atiyah told The Times of London that he had converted the 255-page Feit-Thompson theorem, an abstract theory dealing with groups of numbers first proved in 1963, into a vastly simplified 12-page proof. He sent his proof to 15 experts in the field and was met with skepticism or silence, and the proof was never printed in a journal. A year earlier, Atiyah claimed to have solved a famous problem in differential geometry in a paper he posted on the preprint repository ArXiv, but peers soon pointed out inaccuracies in his approach and the proof was never formally published.

Science contacted several of Atiyah’s colleagues. They all expressed concern about his desire to come out of retirement to present proofs based on shaky associations and said it was unlikely that his proof of the Riemann hypothesis would be successful. But none wanted to publicly criticize their mentor or colleague for fear of jeopardizing the relationship. John Baez, a mathematical physicist at the University of California, Riverside, was one of the few willing to put his name to critical remarks about Atiyah’s claim. “The proof just stacks one impressive claim on top of another without any connecting argument or real substantiation,” he says.

For his part, Atiyah seems unfazed. “The audience there has fearlessly bright youngsters and well-informed golden oldies,” Atiyah wrote in an email before his presentation. “I am throwing myself to the lions. I hope to emerge unscathed.” According to Atiyah, word of his proof and copies of his papers circulated online, prompting him to agree to the presentation. He says in an interview that despite criticism, his work lays down a concrete basis for proving not only the Riemann hypothesis, but other unproven problems in mathematics. “People will complain and grumble,” Atiyah says, “but that’s because they’re resistant to the idea that an old man might have come up with an entirely new method.” In his presentation, Atiyah devoted only a handful of slides to his proof, spending the majority of his time discussing the contributions of two 20th century mathematicians, John von Neumann and Friedrich Hirzebruch, on which he said his proof was based.

The crux of Atiyah’s proof depends on a quantity in physics called the fine structure constant, which describes the strength and nature of electromagnetic interaction between charged particles. By describing this constant using a relatively obscure relationship known as the Todd function, Atiyah claimed to be able to prove the Riemann hypothesis by contradiction.

In the five-page write-up of the proof, Atiyah attributes much of the theoretical work that underpins the proof to a paper of his own that has been submitted to the Proceedings of the Royal Society A. That paper has yet to be published.

運転免許更新、バイクのエンジンオイル交換、自賠責保険更新

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自分のための備忘録。今日は公的な事務手続き、運転免許更新、バイクのエンジンオイル交換、自賠責保険更新の順番で用事を済ませて1日が終わった。

運転免許更新

昼前に都庁にある新宿運転免許更新センターで5年ぶりの運転免許更新をした。優良運転者講習だったから、1時間ほどですべて終わった。かかった費用は3,000円


バイクのエンジンオイル交換、自賠責保険の更新

前回のオイル交換からちょうど9ヶ月たっていたので、近所のバイク屋さんで夕方エンジンオイルの交換をしてもらってきた。今日現在で累積走行距離は39048.5Kmだ。前回のオイル交換時は38875.1Kmだったので9ヶ月で173.4Km走ったことになる。(月平均19.3Km、つまりバイクにはほとんど乗っていない。)




今回入れてもらったのはこのオイル。1リットルで2100円かかった。(工賃込み)

WAKOS PRO-S プロステージS (10W-40)
http://www.wako-chemical.co.jp/products/recommendation/PRO-S.html




前輪のブレーキ用のディスクが薄くなっているそうなので、近いうちに交換しなければならないことがわかった。こちらはブレーキパッドと同じタイミングで交換したほうがよいのだそうだ。

記録を調べると、前回ブレーキパッドを交換したのは2015年8月28日で累積走行距離は37814.9Kmのときだから、それから1233.6Km走っている。

また前回ディスクブレードを交換したのは2013年3月4日で累積走行距離は34840.1Kmのときだから、それから4208.4Km走っている。

調べてみるとブレーキパッド交換は7,000円くらい、ディスク交換は3,000円くらいのようだ。作業は半日かかるそうだから、工賃もそれなりにかかる。

あと、自賠責保険の更新時期が重なった。こちらは5年分で22,510円だ。


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発売情報: Le Petit Robert 仏仏辞典 2019年版

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今日はフランス語上級者に向けた記事。2019年版のLe Petit Robert 仏仏辞典が発売された。収録語数は30万語。デスクトップ版は7月に発売されていたが、大判も今月発売されたので、まとめて掲載しておこう。(註: 2018年版は50周年記念版として、表紙のデザインがまったく違っていたが、今年はいつものデザインに戻った。)

この辞書は毎年改訂され、この時期に発売されるフランス人にとっての「広辞苑」である。(日本のアマゾンサイトではデスクサイズのものだけ注文できる。)

Dictionnaire Le Robert(オフィシャルサイト)
http://www.lerobert.com/


デスクトップ(標準サイズ):
Dictionnaire Le Petit Robert 2019
6.9 x 17.3 x 24.9 cm
3015ページ


グランドフォーマット(大判):
Dictionnaire Le Petit Robert - Grand Format - 2019
7 x 20.6 x 29 cm
2900ページ


固有名詞事典(標準サイズ):
Le Petit Robert Des Noms Propres Relie - 2019
7.7 x 16.5 x 24 cm
2665ページ



Le Petit Robert仏仏辞典には固有名詞辞典をはじめ、いくつかの種類がある。これらは欧明社からお買い求めなるとよいだろう。

欧明社(フランス語書籍専門)
http://www.omeisha.com/


アプリ版:

iPad/iPhone版については2019年版のLe Petit Robert仏仏辞典がアプリとして3日前に購入できるようになった。iPad版は図版有り。: iPad/iPhone版

見出し語30万語。2018年以前のバージョンをインストールしている人は無料で最新版にアップデートすることができる。

また「Dictionnaire Historique de la langue francaise」もお勧めだ。「Trio Le Robert」として格安で販売されている。


注目!
iPhone/iPad向けに「Dictionnaire Le Robert Mobile : 4 en 1」という辞書も発売されている。 Android版


関連記事:

発売情報: Le Petit Robert 仏仏辞典 2018年版
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/af95cd2913db7377993a2f32e2a74118

発売情報: Le Petit Robert 仏仏辞典 2017年版
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3e26912b99683e9158557cccfab8c177

発売情報: Le Petit Robert 仏仏辞典 2016年版
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/8fdf56d04194935a37c69e7a13782781

発売情報:カシオ電子辞書 XD-Y7200(2016年フランス語モデル)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c669bb0fc557fcc81017d3323ecbb5e8

小学館ロベール仏和大辞典(iPhone / iPad アプリ)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/02af8bb1e929b8f415f7efc32a92bd56

ロワイヤル仏和中辞典(辞書談義)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/aed33d08239da123dcc66c5ec08f0bc7

無料のオンライン仏和・和仏辞典を発見!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b3cae83cd882dd93d5efb788c1ac1498

ファインマン物理学: 英語版とフランス語版
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1dbcd1e1b02616ef1363ced99a912072

発売情報: フランス語版「ファインマン物理学」の新版
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/daf630deb00e6c315897d6f47ba3dd5a


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ブラックホール戦争:レオナルド・サスキンド

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ブラックホール戦争:レオナルド・サスキンド」(Kindle版
スティーヴン・ホーキングとの20年越しの闘い

内容紹介:
「情報のパラドックス」という問題をめぐって、理論物理学者のレオナルド・サスキンドはスティーヴン・ホーキングと20年以上にわたって論争を続けた。本書はその理論的対決の物語だ。

「情報のパラドックス」とは、ブラックホールに落ち込む粒子の情報は永遠に失われるのかという問題である。ホーキングは一般相対論の立場からその情報は永遠に失われると論じた。それがサスキンドのいう「ブラックホール戦争」の始まりだった。

サスキンドによれば「情報の保存」は「物理法則の時間的な可逆性」という形で物理学に深く刻み込まれていて、ホーキングの主張は物理学の土台に爆弾を投下することに等しかった。サスキンドはホーキングの主張に抵抗し、ゲラルド・トフーフトとともに情報が失われることはないという論陣を張った。
この論争が重要であるのは、量子論と一般相対論をいかにして調和させるのかという問題に結びついていたからである。量子論と一般相対論は物理学のもっとも根本的な理論でありながら、互いに両立できないままだ。ブラックホール戦争は、ふたつの理論を調和させることを目指した新しい物理学の基本的な枠組みをめぐる、熾烈な格闘だった。

20年以上に及ぶ論争から「ブラックホールの相補性」や「ホログラフィック原理」といった新しいアイデアが生まれ、それらは今では世界中で盛んに研究されるにいたっている。ブラックホール戦争によって、物理学にパラダイム・シフトが起こったとサスキンドは断じている。
サスキンドは理論的な対決の物語を遊び心たっぷりの読み物に仕上げた。読者を楽しませるための仕掛けが本書にはたくさんちりばめられている。サスキンドは「エネルギーとは何か」「物理学でいう情報とは何か」「情報の保存とは何か」「エントロピーとは何か」といったもっとも基本的なことからていねいに説明しているので、本書を読むのに特別な知識はまったく必要ない。本書の隠れた主題は、物理の面白さを伝えることにある。本書は物理学への賛歌であり、物理の考え方の本当の面白さを心ゆくまで堪能できる一冊だ。
2009年10月刊行、560ページ。

著者について:
レオナルド・サスキンド: ウィキペディアの記事
スタンフォード大学理論物理学教授。1969年、南部陽一郎と同じ時期にひも理論を提唱した。ブラックホールに吸い込まれた量子の情報は失われると主張するスティーヴン・ホーキングに対抗して、ゲラルド・トフーフトとともに情報は失われないとする論陣を張った。それは物理学の原理をめぐる論争だった。サスキンドは量子論と重力の理論を調和させようとして20年以上苦闘した。論争の末にサスキンドたちが到達したのは空間と時間についてのまったく新しい考え方だった。

サスキンド博士の著書: 日本語版 英語版


理数系書籍のレビュー記事は本書で376冊目。

本書が刊行されたのは2009年10月のこと。英語版の刊行からわずか3ヶ月である。9年前の本ではあるが、ブラックホールの情報問題やホログラフィック原理は日本の物理学ファンにとってはホットな話題である。特に今年はこの分野に大きな貢献をしたポルチンスキー博士が2月に、そして3月にはホーキング博士が相次いで逝去されたので、お二人の先生のことを振り返ってみたいと思って読んでみたのだ。内容紹介には「本書を読むのに特別な知識はまったく必要ない。」と書かれているが、科学教養書としては中級者向けの本である。

2013年にNHKで放送された「神の数式」では、ホーキング博士が提示したブラックホールから発する謎の熱(ホーキング放射)の問題が、最終的にポルチンスキー博士のDブレーンのアイデアを使うことでバファ博士と彼の同僚により解明されたことが紹介されていた。

Dブレーンによってブラックホールから熱が発生する説明の図(解説記事


ホーキング放射は2016年に初観測されている。

7年かけて作った「人工ブラックホール」でホーキング放射を初観測。
https://japanese.engadget.com/2016/08/17/7/

ホーキング放射」(ブラックホールの蒸発)が提唱されたのは1974年、そして超弦理論(本書では「ひも理論」として表記)の「Dブレーン」によってその謎が解明されたのは20年後である。この20年の歴史をくわしく解説したのが本書だと言ってよい。相対性理論(特殊と一般)、熱力学(エントロピー)、量子物理学、情報理論のすべてが矛盾なく成り立たせるため、どのような試みが行われてきたかが、その真っ只中で研究されてきたサスキンド博士の口から、豊富なたとえ話を盛り込みながら熱く語られている。

D-ブレーンとブラックホールの関係
http://sonokininatte55.blog.fc2.com/blog-entry-128.html


科学教養書をたくさん読んでいる僕でも、本書は得るところが多かった。特に次のようなことだ。

ホーキング放射やその矛盾としての情報問題をとてもわかりやすく解説している

本書を読むいちばんの目的はまさにこれである。どのように解決されたかを理解する前に、まず何が問題になっているかを理解しなければならない。本書はこの点に多くのページを割いている。

ブラックホールに蓄えられる情報量はその体積ではなく面積に比例することがわかる

これは大栗先生の科学教養書や科学雑誌Newtonでも紹介されていた。ヤコブ・ベッケンシュタイン (Jacob Bekenstein) は、事象の地平面の面積をプランク面積で割った値にブラックホールのエントロピーは比例するであろうと予想した(ウィキペディアの記事)というのが元になっているわけだが、本書では簡単な数式を使いながら、わかりやすく解説している。

ホーキング放射がDブレーンの物理学でどのように説明できるかがわかる

9次元空間中のD5ブレーンを使うことでホーキング放射が計算できるのだ。(参考:ウィキペディアの記事)定性的な説明にとどまるが、このことが詳しく説明されているのは本書だけかもしれない。(ただし、それはわれわれの宇宙で観測されるシュヴァルツシルドブラックホールのような場合に直接適用する事はできない。)

AdS/CFTやホログラフィック原理について詳しく解説している

これまで読んだ科学教養書の中で、AdS/CFTやホログラフィック原理をこれほど詳しく解説しているものはなかった。AdS/CFTとは反ド・ジッター空間(AdS)と共形場(CFT)との間の対応関係のことで、マルダセナ双対やゲージ/重力双対とも呼ばれる。ホログラフィ原理とは「4次元の量子色力学=5次元の量子重力理論」の等価性のことである。

超弦理論の検証を実験で示せることが理解できる

超弦理論は超ミクロプランクスケールの物理学であり、数学的にはモデル化されつつあるものの、現代の実験装置ではというてい検証できないはずだ。(実験するためには銀河系全体の質量に匹敵するエネルギーが必要である。)

しかし「大栗先生の超弦理論入門」の第9章「空間は幻想である」の「検証された予言」で紹介されているように「クォーク・グルーオン・プラズマ」の物理学(QCD:量子色力学)と超弦理論が関係していることがホログラフィー原理によって明らかになった。具体的には「重イオン衝突実験」として行われる原子核内部を探る実験により超弦理論が検証されることになる。

原子核がいかに小さいとはいえ、プランクスケールと比べればはるかに大きい。なぜ、このようにスケールの違う世界で物理法則に類似する法則があるのか、本書ではとても詳しく解説されている。

本書ではプランクスケールの(超)弦理論と原子核(QCD)レベルの弦理論を区別しているので注意が必要だ。著者のサスキンド博士は原子核(QCD)レベルの弦理論の創始者のひとりである。なお、本書では弦理論ではなく「ひも理論」という表記が使われている。スケールの違う2つのひも理論はきちんと区別できるように書かれているのでご安心いただきたい。

「空間は幻想である。」が理解できる

「重力のホログラフィー原理」により「空間が幻想である」ことが導かれる。これについても本書で詳しく理解することができる。そのためにはブラックホールと情報(エントロピー)の問題解決が不可欠であるわけだ。

先月開催された「AI(人工知能)と物理学」」という講演会で大阪大学の橋本幸士先生は「深層学習と時空」という講演をされていたし、これを受けて「Newton(ニュートン)2018年10月号」(詳細)では「空間は幻なのか!?「ホログラフィー原理」が示す新しい宇宙観」という記事でホログラフィー原理や時空の創発が特集されたばかりだ。

阪大・橋本幸士教授、超弦理論を語る。 – 世界を記述する数式はなぜ美しいのか
https://academist-cf.com/journal/?p=6005

橋本先生の論文(共著)もArXivに『深層学習とホログラフィックQCD』として昨日投稿されたばかりである。

Deep Learning and Holographic QCD
https://arxiv.org/abs/1809.10536


ノーベル物理学賞の発表は来週火曜日の夕方だ。昨年は「重力波の初観測」に対して贈られたが、これはブラックホールの存在が公に認められたことでもある。来週の発表を心待ちにしながら、「量子重力」や「ホログラフィック原理」、「超弦理論」などに対して物理学賞が贈られるのは何年先になるかなと思うわけだ。案外、それは近い将来のことなのかもしれない。


翻訳の元になった英語版はこちら。2009年7月に刊行された。Kindle版はとても安く買える。

The Black Hole War: Leonard Susskind」(Kindle版
My Battle with Stephen Hawking to Make the World Safe for Quantum Mechanics




関連記事:

ホーキング博士の訃報に接し (Stephen Hawking passed away)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/63860b8ac08b47f1fc9c5cbac3f9ca8f

ポルチンスキー博士の訃報に接し (Joseph Polchinski passed away)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c2337d131b18a50f4bfd17e77b7d20dd


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ブラックホール戦争:レオナルド・サスキンド」(Kindle版
スティーヴン・ホーキングとの20年越しの闘い



はじめに

第1部 たれこめる暗雲
第1章 最初の一撃
第2章 暗黒星
第3章 古い時代の幾何学ではなく
第4章 「アインシュタイン、神に何をすべきか命じてはならない」
第5章 プランク、より良い尺度を思いつく
第6章 ブロードウェイのバーにて
第7章 エネルギーとエントロピー
第8章 ホイラーの教え子たち ― ブラックホールの中にどれだけの情報を詰め込めるか
第9章 黒い光

第2部 奇襲攻撃
第10章 スティーヴンはビットを見失い、見つけられなくなった
第11章 オランダ人の抵抗
第12章 それが何の役に立つ?
第13章 手詰まり
第14章 アスペンでの小競り合い

第3部 反撃
第15章 サンタバーバラの戦い
第16章 待て! 配線を逆にしろ
第17章 ケンブリッジのエイハブ
第18章 ホログラムとしての世界

第4部 戦争の終わり
第19章 大量推論兵器
第20章 アリスの飛行機、または目に見える最後のプロペラ
第21章 ブラックホールを数える
第22章 南アメリカの勝利
第23章 核物理学ですって? ご冗談でしょう!
第24章 謙虚さ

エピローグ

訳者あとがき
用語集
索引

リーマン予想騒動によるアクセス数、ランキングの推移

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アクセス数(IP)と閲覧数(PV)の推移
リーマン予想を証明したという発表が飛び込んできたのが、およそ1週間前。9月24日のことだ。その日のうちに記事を投稿したところ、非常にたくさんの方からのアクセスをいただいた。

2012年12月に「200冊の理数系書籍を読んで得られたこと」という記事で大ブレイクしたことがあるが、このときの記録値は1日の「ページ閲覧数 25,982 PV、訪問者数 12,396 IP」だった。今回はこれをはるかにしのぎ「ページ閲覧数 80,654 PV、訪問者数 53,724 IP」となった。瞬間アクセス数の記録更新だ。

今回は、話題が世間の多くの人の関心をひいたこと、そして「ついにリーマン予想が証明された!?」という記事のリンクのツイートを、あの茂木健一郎さんが「ううむ。」というコメント付きでツイートしてくださったおかげである。茂木さんのツイッターのフォロワーは143万人いるから宣伝効果絶大である。

ブログ活動の記録として記事として残しておこう。

閲覧数と訪問者数の推移


アクセスがピークの日の記事別閲覧数



以下はランキングサイトの記録。各ランキングサイトはSSL化してから、ポイントがつかなくなる問題がおきているし、不正な手段での応援クリックが横行しているから、ほとんどあてにならない。記事の内容をご自身で確認するのが大切だ。ランキングはあくまで参考程度にするのがよい。

にほんブログ村での各ポイント獲得数、ランキングの推移(9月30日昼の時点)


にほんブログ村での科学ブログ人気ランキング - INポイント順(9月30日昼の時点)


にほんブログ村での科学ブログ人気ランキング - PVアクセス順(9月30日昼の時点)


人気ブログランキングの「科学」カテゴリー - INポイント順(9月30日昼の時点)



おかげでアクセス数がピークの日には、gooブログの総合ランキングで2位を獲得することができた。gooブログは今日現在、休眠中のものを含めて2,841,592ブログある。



1週間のgooブログの総合ランキングではこのように推移している。



ピークを迎えた日の累積閲覧数、訪問者数はこちらである。累積訪問者数500万人に達するのは暮れか正月あたりになりそうだ。




関連記事:

ついにリーマン予想が証明された!?
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7213521ebacdecfa839616ce756ec8ab

アティヤ博士によるリーマン予想の証明騒動の続報
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0a06e093aa22eebdfae10e8b94457578

祝: 累計400万アクセス達成!(2017年10月16日)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d158b87317d6ce8838e6258663f28c0c

祝: トータル閲覧数1000万ページ達成(2016年10月17日)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4ff26999742c350c0c6f0bb1858377bc


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2018年 ノーベル物理学賞はアシュキン博士、ムル博士、ストリックランド博士に決定!

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スウェーデンの王立科学アカデミーは2日、今年のノーベル物理学賞を、米ベル研究所のアーサー・アシュキン氏と仏エコールポリテクニークのジェラール・ムル氏、カナダ・ウォータールー大学のドナ・ストリックランド氏の3人に贈ると発表した。レーザー物理学分野での貢献が評価された。女性研究者の物理学賞の受賞は、マリー・キュリー氏らに次ぎ3人目。

The Nobel Prize in Physics 2018
https://www.nobelprize.org/prizes/physics/2018/summary/

Announcement of the Nobel Prize in Physics 2018



今年はレーザー物理学の分野で受賞が決まった。発表では次のようなスライドが映されている。

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この分野はまったく僕の守備範囲外なので、解説や意味がある記事をほとんど書けない。わかりやすい解説は日本科学未来館や科学雑誌Newton、そしていずれ刊行されるブルーバックス本に期待することにしたい。

2018年ノーベル物理学賞:レーザー光を用いた光ピンセットと,高強度・超短パルスレーザー生成手法を開発した3人に(日経サイエンス)
http://www.nikkei-science.com/?p=57318

光(電磁波または光子)は質量がゼロなのに圧力をもたらすのは不思議だと思うかもしれないが、説明は次のページに書かれている。

光の圧力[輻射圧、放射圧](FNの高校物理)
http://fnorio.com/0118light_pressure0/light_pressure0.html

光の放射圧(ウィキペディアの記事)は1871年にジェームズ・クラーク・マクスウェルによって理論的に導かれ、1900年にピョートル・ニコラエヴィッチ・レベデフによって、また1901年にエルンスト・フォックス・ニコルスとゴードン・フェリー・ハルによって実験的に証明された。


僕ができるのは、発表のタイミングで公開されたプレスリリースを和訳することくらいである。

プレスリリース(英語):
https://www.nobelprize.org/uploads/2018/10/press-physics2018.pdf

日本語訳:

2018年ノーベル物理学賞

"レーザー物理学の分野での画期的な発明に対して”

アーサー・アシュキン
ベル研究所(米国)

"光学的ピンセットおよびその生物学的システムへの応用に対して"

ジェラール・ムル
エコール・ポリテクニック(フランス)
ミシガン大学(米国)

ドナ・ストリックランド
ウォータールー大学(カナダ)

"高密度、超短光学パルスの手法に対して"


光でできたツール

今年の名誉は革命的なレーザー物理学の分野における発明である。とてつもなく小さいオブジェクトと驚異的なスピードのプロセスが新しい光において見ることができるようになった。高精度の装置が、研究や数多くの産業と医療への応用について、未開拓な領域への扉を開いた。

アーサー・アシュキンは光ピンセットを発明し、そのレーザー・ビームの指で粒子や原子、ウィルス、そして生きたままの細胞をつかむことを可能にした。この新しいツールはアシュキンに光の放射圧によって物体を動かすという昔のSFの夢を思い起こさせたのだろうか - 彼はレーザー光線で小さな粒子をビームの中心まで押して、固定することに成功した。光ピンセットが発明されたのだ。大きなブレイクスルーが訪れたのは1987年、アシュキンが生きた状態のバクテリアを壊さずに光ピンセットで捕獲したときのことだ。彼はすぐ生物学的システムの研究を開始し、光ピンセットは今では生命の機械的な側面(machinery of life)の調査に広く使われるようになっている。

ジェラール・ムルとドナ・ストリックランドは、これまで人類が生成したことがないほど最も短く最も高密度のレーザー・パルスへ至るための道を舗装した。彼らの革命的な論文は1985年に公表され、ストリックランドの博士論文の基礎となった。巧妙なアプローチを使うことで、彼らは超短高密度レーザー・パルスを増幅材料を破壊することなく生成することに成功した。彼らはまずピーク出力を抑えるためにレーザー・パルスを時間的に伸ばしてから増幅し、そして最後に圧縮した。もしパルスが時間的に圧縮されて短くなれば、より多くの光が同じ小さな領域に一緒にまとめられ、パルスの密度は劇的に増えることになる。ストリックランドとムルはチャープ・パルス増幅(CPA)という新しい手法を発明し、ほどなくそれは高密度レーザーのスタンダードになった。それは最もシャープなレーザー・ビームを用いるもので、毎年数百万回も行われる外科手術による視力の矯正(レーシックのこと)に使われる。応用できる全く未開の領域の数は計り知れない。けれども、世に知られたこれらの発明の数々は、人類のための最大の恩恵というアルフレッド・ノーベルの最高の精神の中で、現在もなおミクロの世界での探索を可能にしてくれているのだ。


アーサー・アシュキン, 1922年米国ニューヨーク生まれ, Ph.D. 1952(コーネル大学)
https://history.aip.org/phn/11409018.html

ジェラール・ムル, 1944年フランス、アルベールビル生まれ, Ph.D. 1973
http://www.polytechnique.edu/annuaire/en/users/gerard.mourou

ドナ・ストリックランド, 1959年カナダ、ゲルフ生まれ, Ph.D. 1989(ロチェスター大学)
https://uwaterloo.ca/physics-astronomy/people-profiles/donna-strickland


アシュキン博士、ムル博士、ストリックランド博士、物理学賞受賞おめでとうございます。


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英語原文:

The Nobel Prize in Physics 2018

"for groundbreaking inventions in the field of laser physics”

Arthur Ashkin
Bell Laboratories, Holmdel, USA

"for the optical tweezers and their application to biological systems"

Gerard Mourou
Ecole Polytechnique, Palaiseau, France
University of Michigan, Ann Arbor, USA

Donna Strickland
University of Waterloo, Canada

"for their method of generating high-intensity, ultra-short optical pulses"

Tools made of light

The inventions being honoured this year have revolutionised laser physics. Extremely small objects and incredibly rapid processes are now being seen in a new light. Advanced precision instruments are opening up unexplored areas of research and a multitude of industrial and medical applications.

Arthur Ashkin invented optical tweezers that grab particles, atoms, viruses and other living cells with their laser beam fingers. This new tool allowed Ashkin to realise an old dream of science fiction - using the radiation pressure of light to move physical objects. He succeeded in getting laser light to push small particles towards the centre of the beam and to hold them there. Optical tweezers had been invented. A major breakthrough came in 1987, when Ashkin used the tweezers to capture living bacteria without harming them. He immediately began studying biological systems and optical tweezers are now widely used to investigate the machinery of life.

Gerard Mourou and Donna Strickland paved the way towards the shortest and most intense laser pulses ever created by mankind. Their revolutionary article was published in 1985 and was the foundation of Strickland’s doctoral thesis. Using an ingenious approach, they succeeded in creating ultrashort high-intensity laser pulses without destroying the amplifying material. First they stretched the laser pulses in time to reduce their peak power, then amplified them, and finally compressed them. If a pulse is compressed in time and becomes shorter, then more light is packed together in the same tiny space - the intensity of the pulse increases dramatically. Strickland and Mourou’s newly invented technique, called chirped pulse amplification, CPA, soon became standard for subsequent high-intensity lasers. Its uses include the millions of corrective eye surgeries that are conducted every year using the sharpest of laser beams. The innumerable areas of application have not yet been completely explored. However, even now these celebrated inventions allow us to rummage around in the microworld in the best spirit of Alfred Nobel ? for the greatest benefit to humankind.

Arthur Ashkin, born 1922 in New York, USA. Ph.D. 1952 from Cornell University, Ithaca, USA.
https://history.aip.org/phn/11409018.htmll

Gerard Mourou, born 1944 in Albertville, France. Ph.D. 1973.
target="_blank">http://www.polytechnique.edu/annuaire/en/users/gerard.mourou

Donna Strickland, born 1959 in Guelph, Canada. Ph.D. 1989 from
University of Rochester, USA.
https://uwaterloo.ca/physics-astronomy/people-profiles/donna-strickland

ツイッターのフォロワー数が2000に到達

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2010年3月に始めたツイッターだが、フォロワー数が2000になっていることに、さきほど気がついた。アカウントは @ktonegaw である。記録として記事に残しておこう。

フォローしていただいている皆様、ありがとうございます!


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深層学習と時空:橋本幸士先生 #MathPower

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三連休の中日の日曜は、午前中にフランス語の授業を済ませ、午後から橋本先生の1時間の講演を聞きに六本木ニコファーレに行ってきた。この講演はMATH POWER 2018という土日の2日間ぶっ通しで行われる数学イベントの一部である。

MATH POWER 2018(Twitterで #MathPower を検索する
https://mathpower.sugakubunka.com/



10月7日(日)15:00~16:00
深層学習と時空(講演) #Mathpower
橋本幸士(大阪大学大学院理学研究科教授)


宇宙の始まりの話。そもそも何もないところから時空がどのように生まれるのか?(創発するのか?)これを説明するために使われるのが超弦理論から導かれる「ホログラフィー原理」と「AdS/CFT対応」である。理論物理としてはこれで十分なのだが、実際に解くのが難しい。そこで利用するのがコンピュータ、特にAIの分野でブームとなっている深層学習なのである。

8月に「「AI(人工知能)と物理学」:1日目」という催しで、橋本先生は同じ講演をされていたが、このときは時間が押していたために十分詳しく理解することができなかった。今回の講演は期待を裏切らなかった。ニコ生でも生中継されていたが、直接足を運んでよかったと思う。(先生にもご挨拶できたし。)

専門的な論文はArXivに『深層学習とホログラフィックQCD』として先日投稿されたばかりである。

Deep Learning and Holographic QCD
https://arxiv.org/abs/1809.10536

また、このテーマは先日紹介した「ブラックホール戦争:レオナルド・サスキンド」での「空間は幻想である。」の具体的な解説でもある。

理解のカギとなるのが「AdS/CFT対応(ウィキペディア)」。反ド・ジッター空間(AdS)と共形場(CFT)との間の対応関係のことで、マルダセナ双対やゲージ/重力双対とも呼ばれる。ホログラフィ原理とは「4次元の量子色力学=5次元の量子重力理論」の等価性のことだ。つまり異なる次元で異なる物理法則に対応関係があること。詳しくは次のPDF資料でお読みいただける。

非専門家のためのAdS/CFT対応入門(京都大学大学院理学研究科 中村真)
http://quattro.phys.sci.kobe-u.ac.jp/dmrg/Kyoto2011/Proc/Nakamura.pdf


会場となった六本木ニコファーレは近未来空間といってよい。数学のイベントがこのような場所で行われるうようになったのは50代の僕には隔世の感がある。聴講している人も若い人がほとんどで女性も目立っている。「だってこれは数学イベントでしょ?何これ?」と、ジェネレーションギャップなのか、カルチャーギャップなのかわからないまま、そこにあるすべてを受け入れた。おそらくインテリジェンスギャップもあったかもしれない。

橋本先生が登壇。いつもと勝手が違うのが聴講者が「数学の人たち」であることだ。同じγでも物理では光子、数学ではオイラー数、Q.E.D.は物理では量子電磁気学、数学では「証明終了」である。物理でCFTは共形場だが数学では類体論。言葉の違いは文化の違い。先生は「今日はみなさんに親近感を持ってもらいたいから大阪弁でやります。」とおっしゃり、大阪弁と標準語のバイリンガルであることを何度か強調されて笑いをとっていた。

今回の講演内容は「数学的にスピンネットワークという物理模型と深層学習のニューラルネットワークが等価の(似ている)ことがある」というアイデアによるものであることをまず説明された。

講演内容は3つのパートに区切って行われた。

1)基礎物理学の宿題:量子+重力
2)解決提案:超ひも理論とホログラフィー
3)進行中:深層学習と時空創発

1)基礎物理学の宿題:量子+重力

まず「時空とは?」という切り口で、アインシュタインの一般相対性理論100年目に検出された重力波(参考記事)のことを取り上げた。一般相対性理論(=重力理論)は「物理法則は座標系によらない」という要請から導かれた美しい理論である。人がこれを美しいと感じるのは外界の認識が、そもそも座標不変であるからだ。

「宿題」というのは量子力学とアインシュタインの重力理論が矛盾していること。そのためには統一量子重力理論が必要である。量子重力理論の歴史は次のとおり。

1970年:ハドロンの弦理論(南部、サスキンド、ニールセン)
1974年:弦理論が重力の理論を含む(米谷、シャーク、シュワルツ)
1976年:ホーキングの情報喪失(情報パラドックス)
1988年:ループ量子重力
1997年:AdS/CFT対応、ホログラフィック原理による量子重力理論の定義(マルダセナ)
2002年:ホログラフィックQCD
2006年:エンタングルメント公式(笠-高柳公式
2008年:ホログラフィック超伝導
2009年:量子重力創発条件
2015年:量子エラー訂正符号による空間創発
2017年:創発空間のアインシュタイン方程式の導出

Newton(ニュートン)2018年10月号」(詳細)では「空間は幻なのか!?「ホログラフィー原理」が示す新しい宇宙観」という記事でホログラフィー原理や時空の創発が特集されたばかりだ。つまり、近年になって「空間は幻想である」ということが示唆されるようになったのだ。

次は論文にも掲載されている図版。ホログラフィック原理による時空の創発をあらわしている。五角形は量子重力的な理由からくるもので、いちばん小さい〇どうしのつながりは量子エンタングルメントだという説明。グラフを見ると空間分割が創発空間のように見えるのだという。つまりグラフが創発空間であるということが、深層学習における(多層)ニューラルネットワークと似ているというアイデアが生まれる。



量子系の実験結果をグラフにして深層学習させて計算した結果がこれ。右のグラフが計算前はギザギザだったのが滑らかになったということで、時空が創発したとみなされるという。




2)解決提案:超ひも理論とホログラフィー

素粒子はひも?という話から始まった。17種類の素粒子の表を紹介し、ゲージ粒子のひとつとしてγであらわされるのが光子であることを解説。

1970年に提唱されたひも理論(南部、サスキンド、ニールセン)によって光子の方程式からマクスウェルの方程式が導出されることを解説。次に重力子(縦横に偏光)が超ひもから得られることを解説。

次にファインマン図を示しながら電子が繰り込み可能であること(量子電磁気学)、重力は繰り込み不可能であることを解説。なぜなら重力はE=mc^2に従うとエネルギーがプロセスごとに異なるから。しかし、超ひもを使えば発散しない。光や重力が超ひも理論から導出できる。超ひも理論は量子重力理論のうちのひとつだ。

ホログラフィー原理の解説に進む。マルダセナによるAdS/CFT対応のことだ。この理論によって偏光素粒子が創発重力であることを導くことができる。(つまり「4次元の量子色力学=5次元の量子重力理論」であることが示される。)

ここで著書2冊を紹介された。

- 「超ひも理論をパパに習ってみた」(紹介記事
- 「マンガ 超ひも理論をパパに習ってみた


3)進行中:深層学習と時空創発

ホログラフィック原理と深層学習の対応関係は次のとおり。



量子系の実験結果から創発時空を得る。創発された時空と深層学習のニューラルネットワークの類似性を使う。

ホログラフィー原理には次の問題がある。

a) 証明がない。
b) 実験データからどうやって時空を創発するか?

これらについて深層学習には、次のように対応するメリットがある。

A) 技術革新がある。
B) 逆問題を解くのに適している。


大ざっぱには、このような流れだった。よく伝わらない部分があると思うので、すでに無料公開される動画で、橋本先生の講演をご覧いただきたい。

橋本先生、ようやく僕は(大まかに)理解することができました。楽しくてためになる講演をしていただき、ありがとうございました!


橋本先生の講演の動画

なんと動画はこちらから無料で視聴できる。(2日間全部で32時間31分!橋本先生の講演は27時間20分12秒から始まる。27:20:12を画面の左下隅に直接入力して再生するとよい。

数学の祭典 MATH POWER 2018
http://live.nicovideo.jp/gate/lv314662902




関連記事:

超ひも理論をパパに習ってみた: 橋本幸士
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/05d22e7299a4b30b24efb05cf01176a2

「宇宙のすべてを支配する数式」をパパに習ってみた: 橋本幸士
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f63919605c4e5556fb0d12171ce458e8

橋本幸士×板倉龍「Newton超ひもナイト」@ 下北沢
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/567088304d1f2dca5349826c561adb3e

Dブレーン―超弦理論の高次元物体が描く世界像:橋本幸士
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e18ed1e00f1c877cf3e7926a564f01ae


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ホーキング、宇宙を語る:スティーヴン・W. ホーキング

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ホーキング、宇宙を語る(文庫版):スティーヴン・W. ホーキング

内容紹介:
この宇宙はどうやって生まれ、どんな構造をもっているのか。この人類の根源的な問いに正面から挑んだのが「アインシュタインの再来」ホーキングである。難病と闘い、不自由な生活を送りながら遙かな時空へと思念をはせる、現代神話の語り部としての「車椅子の天才」。限りない宇宙の神秘と、それさえ解き明かす人間理性の営為に全世界の読者が驚嘆した本書は、今や宇宙について語る人間すべてにとって必読の一冊である。
単行本:1989年6月刊行、246ページ。
文庫版:1995年4月刊行、268ページ。

著者について:
スティーヴン・W・ホーキング(Stephen W. Hawking)
1942年、イギリスのオックスフォード生まれ。アインシュタイン以来の最も優秀な理論物理学者の一人と言われる。1963年、ケンブリッジ大学の大学院生だった21歳のときに、運動ニューロン疾患を発症し、余命2年と告げられる。しかし、その宣告を覆して優秀な研究者となり、かのアイザック・ニュートンも就任したルーカス教授職を30年にわたり務めた。王立協会フェロー、全米科学アカデミー会員であったほか十数個の名誉学位を持ち、1989年には名誉勲位を授けられた。ケンブリッジ大学理論宇宙論センターに研究責任者として在籍中の2018年3月に死去。著作に『ホーキング、宇宙を語る』『ホーキング、未来を語る』『ホーキング、宇宙と人間を語る』など。

ホーキング博士の著書: 日本語版 英語版


理数系書籍のレビュー記事は本書で377冊目。

今年3月に亡くなったホーキング博士の代表作。うかつにも未読だった。そして読むのなら今がいちばんだと思った。

日本語版が刊行されたのは英語原書が1988年に刊行された1年後の1989年。世界的なベストセラーになり、もちろん僕もそれを知っていた。(日本語文庫版が刊行されたのは、地下鉄サリン事件の翌月、1995年4月である。)

なぜ読んでいなかったのかは、それなりの理由があったことを思い出した。もともと天文は中学から高校にかけて好きで、天文学や天文計算の本は読み漁っていたのと、ブルーバックス本で相対性理論も教養書レベルのことは理解していた。特に高校時代には小平桂一先生が訳された「現代天文学:A.ウンゼルト」という専門書を熟読していたから宇宙や天文学史の知識は十分あり、物理学系では量子力学や素粒子の知識だけ欠如していた。

また「ホーキング博士=ブラックホール研究の権威」であり、当時の僕にとってブラックホールなど、ほぼSFように思えてしまい、詳しく解説した本を読むことに意味があるとは思えなかった。そして、大学を卒業してから仕事が忙しかったのと、科学への関心が薄れてNewtonも毎月立ち読みでながめる程度の生活が、2006年あたりまでずっと続いていたのだ。

未読だったことの言い訳は、これくらいにしておこう。


本書の影響を受けて、物理学者や天文学者になった先生は相当数いることと思う。そればかりでなく、これに続くホーキング博士の著作は科学に関心がない一般の読者の心を惹きつけたことだろう。

昨日聴講した「深層学習と時空:橋本幸士先生」でも、ホーキング博士が1976年に発見したブラックホールの情報喪失(情報パラドックス)が取り上げられていたことからわかるように、博士がその後の物理学、天文学へ果たした役割は計り知れない。ブラックホールの研究は、基礎物理学の宿題である「量子物理と重力理論の統一」や「宇宙誕生の謎の解明」に直接結びついている。経緯についても「ブラックホール戦争:レオナルド・サスキンド」という記事で紹介したばかりだ。

カール・セーガン博士の『コスモス』など、ポピュラーサイエンス、科学教養書が1970年代、80年代にはすでに刊行、映像化されていた中で、ホーキング博士が一石を投じ、爆発的ヒットとなったのが本書である。

章立てはこのとおり。

第1章:私たちの宇宙像
第2章:空間と時間
第3章:膨張する宇宙
第4章:不確定性原理
第5章:素粒子と自然界の力
第6章:ブラックホール
第7章:ブラックホールはそれほど黒くない
第8章:宇宙の起源と運命
第9章:時間の矢
第10章:物理学の統合
第11章:結論―人間の理性の勝利

第1章から第5章までは、天文学史、相対性理論、量子力学、素粒子物理まで無駄なく速習してので、初学者にはきついかもしれない。科学雑誌Newtonなどで予備知識をつけてからお読みなったほうがよいだろう。

面白くなるのが第6章のブラックホールから第8章の宇宙の起源と運命あたりから。ホーキング放射やブラックホールの情報喪失だ。本書刊行時には宇宙膨張は確認されていたものの、宇宙の加速的膨張は未確認だ。だから本書ではダークマターについては触れられているがダークエネルギーについては書かれていない。また、ビッグバンの特異点の解消のために提案された虚時間説や無境界仮説についても解説されている。この4つがホーキング博士独自の学説だ。宇宙背景放射やインフレーション宇宙論は当時すでに確認、提唱され、その解説もされている。

本書刊行後、インフレーション宇宙論の発展、宇宙背景放射の精密観測、量子物理学、超弦理論などの進展により、ビッグバンの際の特異点は取り除く必要がなくなり、虚時間説は主張の根拠を失った。(参考記事:「宇宙が始まる前には何があったのか?: ローレンス・クラウス」)また、ホーキング放射は確認されたものの、ブラックホールの情報喪失に関しても、情報損失はないという決着がついている。

英語原書は1988年に刊行され、その後1998年と2011年に改訂されている。日本語訳は残念ながら1988年版の原書のままだ。翻訳を担当された林一先生は現在85歳になられている。

ホーキング、宇宙を語る(文庫版):スティーヴン・W. ホーキング」(1995年刊行)
ホーキング、宇宙を語る(単行本):スティーヴン・W. ホーキング」(1989年刊行)
 


英語版のその後の改訂が気になっている方も多いことだろう。日本のアマゾンから購入できる本を、ペーパーバックを優先して列挙しておこう。同じ版でもハードカバーとペーパーバックでは表紙が違うものがあるし、アマゾンのリンクからだと同じページで「ハードカバー」、「ペーパーバック」、「Kindle」をクリックしても、違う版が表示されてしまうので、僕が調べて整理した以下のリンクから購入されるとよい。

英語原書(ペーパーバック、ハードカバー)

英語版ウィキペディア(ページを開く)には各版の説明があるが、大きな違いがあるようには見えない。

1988年:初版

A Brief History Of Time (1988): Stephen Hawking」(ペーパーバック)


1998年:第2版:Chapter Ten Wormholes and Time Travel (第10章「ワームホールとタイムトラベル」が追加された)

A Brief History Of Time (1998): Stephen Hawking」(ハードカバー)


2011年:第3版:This new edition includes recent updates from Stephen Hawking with his latest thoughts about the No Boundary Proposal and offers new information about dark energy, the information paradox, eternal inflation, the microwave background radiation observations, and the discovery of gravitational waves. (無境界仮説、ダークエネルギーの新情報、情報パラドックス、永久インフレーション(Eternal Inflation)、宇宙背景放射の観測、重力波の発見 - ただし重力波が直接検出されたのは2015年9月だ。(参考記事))

A Brief History Of Time (2011): Stephen Hawking」(ペーパーバック)


そして今月、10月16日には新しい版の本が発売される。「無削除版」とあるがアマゾンの「なか見る!検索」をクリックしても他の版が開くので詳細はわからない。原書のどのタイミングの版を元にした無削除版なのかは、詳細が明らかになってから追記することにしよう。そして表紙は1988年版のものを使っているようだ。ただし、これも実際に届いてみないとわからない。

2018年:第?版(unabridged version 無削除版)

A Brief History Of Time (2018): Stephen Hawking」(ペーパーバック)



英語原書(Kindle版)

どの版のリンクから「Kindle版」をクリックしても、購入できるのは2017年版だけである。本文の内容は2011年版で、「はじめに」に相当する箇所だけ2017年版としての記述になっているようだ。

A Brief History Of Time (2017): Stephen Hawking」(Kindle版)



ホーキング博士の本は、日本語タイトルは原書とだいぶ違うので、対応関係を書いておく。

ホーキング、宇宙を語る(A Brief History of Time, 1988)
ホーキングとペンローズが語る 時空の本質(The Nature of Space and Time, 1996)
ホーキング、未来を語る(The Universe in a Nutshell, 2001)
ホーキング、宇宙の始まりと終わり(The Theory of Everything, 2002)
ホーキング、宇宙のすべてを語る(A Briefer History of Time, 2005)
宇宙への秘密の鍵(George's Secret Key to the Universe, 2007)
ホーキング、宇宙と人間を語る(The Grand Design, 2010)
ホーキング、自らを語る(My brief History, 2013)
ホーキング、ブラックホールを語る(Black Holes, 2016)


関連記事:

ホーキング博士の訃報に接し (Stephen Hawking passed away)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/63860b8ac08b47f1fc9c5cbac3f9ca8f

ブラックホール戦争:レオナルド・サスキンド
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c8ad22de70df7be8e51a066ca8354106


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ホーキング、宇宙を語る(文庫版):スティーヴン・W. ホーキング


第1章:私たちの宇宙像
第2章:空間と時間
第3章:膨張する宇宙
第4章:不確定性原理
第5章:素粒子と自然界の力
第6章:ブラックホール
第7章:ブラックホールはそれほど黒くない
第8章:宇宙の起源と運命
第9章:時間の矢
第10章:物理学の統合
第11章:結論―人間の理性の勝利

現代天文学 第2版(1978年): A.ウンゼルト著、小平桂一訳

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現代天文学 第2版(1978年): A.ウンゼルト著、小平桂一訳

内容紹介:
現代でも読み継がれている天文学、宇宙論の教科書。第1部:古典天文学、第2部:太陽と恒星(個々の恒星の天体物理学)、第3部:恒星系(銀河系とギャラクシー、宇宙論と宇宙生成論)

初版:1968年8月刊行、381ページ。(原著刊行は1966年)
第2版:1978年10月刊行、494ページ。(原著刊行は1974年)

著者について:
アルブレヒト・オットー・ヨハネス・ウンゼルト(Albrecht Otto Johannes Unsöld):ウィキペディア
1905年4月20日- 1995年9月23日
ドイツの天体物理学者。恒星大気の研究や、『恒星大気の物理学』『現代天文学』の著者。バーデン=ヴュルテンベルク州のボルハイム (Bolheim) に生まれた。テュービンゲン大学、後にミュンヘン大学でアルノルト・ゾンマーフェルトなどに物理学を学んだ。1932年にキール大学の教授となり1973年までその職にあった。恒星大気のスペクトル線のプロファイルから、恒星大気の運動等を求める方法を提案し、1939年にB0型の恒星のスペクトル線についての研究を発表。これは太陽以外の恒星の大気についての最初の研究であった。

訳者について:
小平桂一(総合研究大学院大学学長、前国立天文台長) :ウィキペディア
専門は銀河物理学。理学博士。東京大学理学部物理学科卒業後、キール大学に留学。カリフォルニア工科大学、東京大学、ハイデルベルク大学での研究・教育職を経て、1982年に東京天文台(現・国立天文台)教授。銀河での定量分類の研究を進めると同時に、大型望遠鏡「すばる」計画を統括する。1994年から2000年まで、国立天文台長としてその建設推進や環境整備に力を尽くす。2001年から現職。著・訳書に『現代天文学』(A.ウンゼルト著)『現代天文学入門』『宇宙の果てまで』『大望遠鏡「すばる」誕生物語』などがある。2017年4月、瑞宝重光章受章。

小平桂一先生の著書: Amazonで検索


僕が高校生活を送っていたのは1979年から1981年にかけてのこと。本書は高校時代に夢中になって読んでいた天文学書のうちの1冊。すばる望遠鏡の生みの親、小平桂一先生が翻訳された天文学の教科書である。

すばる望遠鏡
https://subarutelescope.org/j_index.html


25年ほど前の日曜の昼間に、僕は小平先生のご自宅にお邪魔して先生とドイツ人の奥様から直接お話を聞いたことがある。うちから徒歩20分のところに先生のお宅があった。1990年代の一時期、僕はたまたま先生の娘さんと職場が一緒で、高校時代に天文が好きだったことを話したところ、ご自宅に招待してくださったのだ。すばる望遠鏡の建設のための準備を始めていらっしゃった次期だと思う。

本書を読んでいたことを先生に伝えると、この本がドイツで研究されていたころの師匠だったウンゼルト博士や奥様との思い出がたくさん詰まった本であることをお話しくださった。以下のPDF文書にウンゼルト博士や本書のこと、奥様のことが詳しく書かれている。

科学者の夢は共有してこそ:小平桂一
(銀河の本質を求め、人類の目「すばる望遠鏡」をつくる)
https://www.soken.ac.jp/file/disclosure/pr/publicity/journal/no01/pdf/08.pdf

その後、すばる望遠鏡の建設に尽力され、昨年瑞宝重光章を受章されていたことを最近になって知って、とてもうれしかった。

2017/05/18
小平桂一名誉教授が平成29年春の叙勲 瑞宝重光章を受章
http://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/info/5393/


第2版は1978年刊行と相当古いわけだが、現代でも読み継がれている教科書である。もちろん1978年以降、あらたな発見がたくさんあるから、本書だけでは不十分なわけだが、本書で学ぶ価値はじゅうぶんにある。次のページでは「宇宙物理学全般(学部生向き)」として勧められている。

宇宙物理学の教科書・参考書
http://www-kn.sp.u-tokai.ac.jp/~kyoshi/edu/books_ap.html

また、1994年に書かれた次のPDF文書でも「大学・大学院向けテキスト」として使われていたことがわかる。

天文学ミニマム(宇宙物理学教程)の理想と現実
http://www.asj.or.jp/geppou/archive_open/1994/pdf/19941103c.pdf


この時代、天文学はどこまで進んでいたのだろうか? 

僕が中学2年だった1976年7月と9月にはNASAが打ち上げたバイキング1号2号が相次いで火星表面に着陸し、鮮明なカラー写真を地球に送ってきていた。今から40年以上前のことだが、惑星科学はそこまで進歩していた。

人類が初めて目にした火星表面のカラー写真
(写真クリックでこの翌日に撮られた写真を表示?)


本書の原書の第2版が刊行されたのは1974年だから、火星表面のこの写真は間に合わなかった。掲載されているのはマリナー9号(1971年)による火星と衛星のフォボスの白黒写真である。以下、画像クリックで拡大表示するようにしておいた。

 


また、先日紹介した「ホーキング、宇宙を語る:スティーヴン・W. ホーキング」に書かれているブラックホールから発する熱(ホーキング放射)が提唱されたのも、本書の原書第2版が刊行されたのと同じ1974年のことである。そして2015年9月には連星ブラックホールの合体による重力波が直接観測され、ブラックホールと重力波の存在が初めて確認された。(参考記事:「重力波の直接観測に成功!」)本書ではブラックホールや重力波に関して、次のように書かれている。

 

そしてビッグバンや宇宙マイクロ波背景放射についてはこのような記述だ。

 


このような時代の本なのだ。物理学を本格的に学んでいたわけではないから、僕には理解できないことがたくさんあったはずだ。それでもワクワクしながら熟読していたことを思い出す。

本書のウンゼルト博士による「序文」や小平先生による「訳者あとがき」を読むと、当時の天文学の研究内容や本書が書かれた背景がわかる。

第1版への序(1966年)、日本語版への序(1968年)、第2版への序(1974年)
  

訳者あとがき(1968年)、第2版訳者あとがき(1978年)

  


小平先生がウンゼルト博士の弟子であったことは、次のページを見るとわかる。中学、高校時代にむさぼり読んだ天文学書の著者の先生方のお名前が見つかるとうれしい。

日本の天文学者の系図
http://quasar.cc.osaka-kyoiku.ac.jp/~fukue/keizu96.htm


小平先生の著書では、次の2冊がお勧めである。

宇宙の果てまで―すばる大望遠鏡プロジェクト20年の軌跡
大望遠鏡「すばる」誕生物語―星空にかけた夢
 


関連記事:

ホーキング、宇宙を語る:スティーヴン・W. ホーキング
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1e3dbc9b3d10d4a9b6518b6b32429e22

ブラックホール戦争:レオナルド・サスキンド
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c8ad22de70df7be8e51a066ca8354106

宇宙が始まる前には何があったのか?: ローレンス・クラウス
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b6f36e8eedba5ee63a4f919d30a2cb20


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現代天文学 第2版(1978年): A.ウンゼルト著、小平桂一訳


日本語版への序
第1版への序(1966年4月)
第2版への序(1974年8月)

第1部:古典天文学
1 星と人間--観察と思索(古典天文学の歩み)
2 天球、天文座標、地理的経緯度
3 地球の運動--四季と獣帯--時刻、日、年と暦
4 月、日食と月食
5 惑星系
6 力学と万有引力の法則
7 惑星と衛星の物理的性質
8 彗星、流星と隕石、惑星間塵;その構造と組成
 第1部から第2部に進むにあたって
9 天文学および天体物理学の器械

第2部:太陽と恒星(個々の恒星の天体物理学)
10 天文学+物理学=天体物理学(天体物理学の歩み)
11 輻射の理論
12 太陽
13 星の見かけ等級と色指数
14 恒星の距離、絶対光度、半径
15 恒星スペクトルの分類、Hertzsprung-Russel図と色・等級図
16 二重星と星の質量
17 スペクトルと原子;熱励起と熱電離
18 恒星大気、星の連続スペクトル
19 Fraunhofer線の理論;恒星大気の化学組成
20 太陽大気中の流れと磁場;太陽活動の周期性
21 変光星--恒星における流れと磁場

第3部:恒星系(銀河系とギャラクシー、宇宙論と宇宙生成論)
22 宇宙への進展(20世紀天文学の歩み)
23 銀河系の構造と力学
24 星間物質
25 恒星の内部構造とエネルギー生成
26 銀河星団と球状星団の色、等級図;恒星の進化
27 ギャラクシー
28 ギャラクシーの電波輻射、ギャラクシーの中心核、宇宙線と高エネルギー天文学
29 ギャラクシーの進化
30 宇宙論
31 惑星系の誕生、地球および生物の進化

自然定数と諸数値
文献
挿図引用

訳者あとがき
第2版訳者あとがき

索引
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