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NHKスペシャル 100年の難問はなぜ解けたのか 天才数学者の光と影 : 春日真人

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NHKスペシャル 100年の難問はなぜ解けたのか 天才数学者の光と影 : 春日真人」(Kindle版)(文庫版

内容紹介:
ついに「ポアンカレ予想」が解決した!ところが…。世紀の難問に挑み、敗れ去った幾多の数学者と見事に解決したにもかかわらず姿を消した天才グリゴリ・ペレリマン。数学という魔物がもたらす数奇な運命とは―。
2008年6月刊行、229ページ。

著者について:
春日真人(かすがまさひと)
1968年生まれ、東京大学理学系研究科相関理化学修了、93年NHK入局。長野放送局、番組制作局教養番組部、番組開発を経て、現在、経済・社会情報番組ディレクター。ドキュメントにっぽん「いのち再び 生命科学者・柳澤桂子」、NHKスペシャル「親を知りたい」「中絶胎児利用の衝撃」「論文捏造 夢の医療はなぜ潰えたのか」など、先端医療や生命倫理をおもなフィールドとしてドキュメンタリー番組を制作。

春日さんの著書: Amazonで検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で370冊目。

2003年に証明された「ポアンカレ予想」は2007年に放送された「ハイビジョン特集 数学者はキノコ狩りの夢を見る ~ポアンカレ予想・100年の格闘~」や「NHKスペシャル 100年の難問はなぜ解けたのか ~天才数学者 失踪(しっそう)の謎~」がきっかけとなり、ポアンカレ予想は一般の人に広く知られるようになった。

ポアンカレ予想関連の本の紹介を続けてきたが、本書を紹介してひとまずしめくくろう。番組を制作したディレクターが放送終了後に書籍化したのがこの本だ。刊行されてからちょうど10年たっている。

一般読者を対象としているだけに読みやすい。理系でない方にもお勧めできる本だ。章立ては次のとおり。

プロローグ 世紀の難問と謎の数学者
第1章 ペレリマン博士を追って
第2章 「ポアンカレ予想」の誕生
第3章 古典数学VSトポロジー
第4章 1950年代―「白鯨」に食われた数学者たち
第5章 1960年代―クラシックを捨てよ、ロックを聴こう
第6章 1980年代―天才サーストンの光と影
第7章 1990年代―開かれた解決への扉
エピローグ 終わりなき挑戦

科学教養書をもとにテレビ番組を作ると、たった10ページぶんを伝えるために1時間枠が必要になると言われている。そうだとすると本書には番組で伝えられなかったことがたくさんあるのだろうか?そのような期待をもたせてくれる。

結果から言うと違っていた。番組で伝えていた内容は本書では半分ほどを占めていた。後になって思えばこの番組の脚本のような本なのだと思う。残りの半分は番組では紹介しきれなかった内容だ。番組を見た人でも本書を読む価値はじゅうぶんある。

本のほうでは、ポアンカレ予想の意味を詳しく理解できること、ペレルマン以前にこの難問に挑んだ数学者たちの人生を知ることができる。

特にテレビ番組では誤解されがちだった「次元」に関する解説が本では正確にされているのがよい。つまり、番組ではまず「地球の形」を取り上げて、このような2つの絵を見せていた。

球面の場合(2次元の球面)


ドーナツ型(トーラス)の曲面の場合(2次元のトーラスの曲面)


この2つの例は2次元の曲面の形を取り上げているわけだが、番組では「2次元」という重要なキーワードを省略していた。

そして番組では次に「宇宙の形」を2つ例示するわけである。

3次元の曲面(3次元球面に同相)


3次元ドーナツ型の曲面(3次元トーラスの曲面)


地球の形と宇宙の形で同じような絵を使って説明しているから、視聴者は宇宙の形のほうで、ひとつ次元が上がっていることに気がきにくくなっている。地球の形のほうで赤いロープは曲面に沿って描かれているのに対し、宇宙の形では宇宙空間の中を通るように描かれている。描き方の微妙な違いに気がついた読者はほとんどいないだろう。

ポアンカレ予想はこの3次元の曲面についての予想なのである。本書では次元が上がった世界の話であることを、一般の読者に誤解を与えない表現で上手に解説している。

ポアンカレ予想とは「単連結な3次元閉多様体は3次元球面と同相と言えるか?」なのだ。




ポアンカレ予想の証明のカギとなった「サーストンの幾何化予想」の詳しいことは「低次元の幾何からポアンカレ予想へ : 市原一裕」で学ぶことができるが、理系分野にうとい読者には無理である。本書では番組で伝えきれなかった説明を一般の読者にも理解できるレベルで解説している。

サーストンの幾何化予想(基本となる3次元多様体の8つの断片)



昨年「宇宙の形、ガウスの曲面論と内在幾何(第3回)」という記事で、宇宙が平坦(曲がっていない)であることが宇宙マイクロ波背景放射の観測によって確認されたと述べた。曲がった宇宙を考えることに、もはや意味がなくなったのではないかと思った方がいるかもしれない。

でもそれは違う。平坦性が確認されたのは、たかだか半径137億光年の「狭い範囲」だけのことであり、その先の広大な宇宙の形が曲がっていたり穴が開いていたりする可能性は排除できないのだ。さらに言えば宇宙はサーストンの幾何化予想で示されている8つの形のうちのひとつかもしれない。本書ではそのことについても解説を与えている。


なぜポアンカレ予想が100年の難問だったのか?なぜペレルマンの証明がフィールズ賞を獲得したのか(そして受賞辞退されたのか)を、ドラマチックに堪能できる本である。NHKオンデマンドでもう一度番組をご覧になり、本書と比べるのもひとつの楽しみ方だ。


ポアンカレ予想を証明したペレルマンが2002年と2003年に「リッチフローの三次元多様体への応用」として掲載した論文は一般公開されている。以下のアドレスをクリックするとPDFで読むことができる。(理解しろという意味で紹介したわけではない。)
http://arxiv.org/find/all/1/au:+Perelman_Grisha/0/1/0/all/0/1

ペレルマンによる論文ではないが「リッチフローによるポアンカレ予想と幾何化予想の完全な証明」も以下のPDFファイルで読める。(こちらは328ページもある)
http://www.ims.cuhk.edu.hk/~ajm/vol10/10_2.pdf


あわせて読みたい:

一般向けの本では本書がいちばんよいと思うが、この他にもいくつか刊行されている。ここをクリックして検索してみるとよいだろう。

一般向けの本だが難解なのがこちら。理解しきれなくても難解な現代数学の世界のイメージがつかめる本だと思う。

低次元の幾何からポアンカレ予想へ : 市原一裕」(Kindle版)(紹介記事



巻頭 ポアンカレ予想に関わる図形たち
はじめに
第1章 ポアンカレ予想
第2章 多様体の幾何構造
第3章 サーストンの幾何化予想
第4章 ペレルマンの証明
付 録 非ユークリッド幾何について
読書案内
あとがき


専門書ではあるが、このような本のPDFファイルが無料で公開されている。(紹介記事

3次元多様体入門(培風館) : 森元勘治




専門書だと、あとこの2冊が良さそうだ。

3次元リッチフローと幾何学的トポロジー: 戸田正人
リッチフローと幾何化予想:小林亮一」(書評)(他の購入先

 


関連記事:

数学ガール/ポアンカレ予想 : 結城浩
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/769e2639898b351545e7ad8a8eba89d7

トポロジカル宇宙(完全版):根上生也著
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/246a5c64c600c9c12c303231173ee9e2

無料公開:3次元多様体入門(培風館): 森元勘治
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7f5737d01d69c60f6320e28c049bc0f1

低次元の幾何からポアンカレ予想へ : 市原一裕
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4213d848aac806d19dfce9ae8202ab21


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NHKスペシャル 100年の難問はなぜ解けたのか 天才数学者の光と影 : 春日真人」(Kindle版)(文庫版



プロローグ 世紀の難問と謎の数学者

第1章 ペレリマン博士を追って
- 生まれ故郷サンクトペテルブルク
- 金も地位もいらない
- 変わり果てた天才少年

第2章 「ポアンカレ予想」の誕生
- 自由な数学を愛した天才ポアンカレ
- 「形」の謎に迫るポアンカレ予想
- まずは「地球の形」から
- 宇宙の形を調べる方法

第3章 古典数学VSトポロジー
- 数学のアール・ヌーヴォー
- トポロジーの魔法
- 「ポアンカレ予想」という悪夢

第4章 1950年代―「白鯨」に食われた数学者たち
- ギリシャからやってきた修行僧
- ドイツからの若きライバル
- ライバルたちの静かな闘い
- ある老数学者の述懐

第5章 1960年代―クラシックを捨てよ、ロックを聴こう
- 時代を席捲した「数学の王者」トポロジー
- ポアンカレ予想への奇襲作戦~スティーブン・スメール
- 「高次元」への旅が始まった
- 天才少年誕生
- 天才数学者の素顔
- トポロジーは死んだ?

第6章 1980年代―天才サーストンの光と影
- マジシャン登場
- 宇宙は本当に丸いのか~リンゴと葉っぱのマジック~
- 衝撃の新予想~宇宙の形は八つ?~
- 天才サーストンの苦悩

第7章 1990年代―開かれた解決への扉
- ロシアとアメリカの出会い
- 知られざる「転機」
- 七つの未解決問題
- 100年に一度の奇跡
- 世紀の難問が解けた
- なぜ彼だったのか

エピローグ 終わりなき挑戦
あとがき

Strings 2018 (6月25日~6月29日)

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先週、6月25日~6月29日に沖縄科学技術大学院大学(OIST)のコンファレンス・センターで、Strings 2018が開催された。世界中の超弦理論研究者が参加し、研究発表や会議を行う催しだ。今年はこの理論が誕生してから50周年でもある。

Strings 2018 OIST
https://indico.oist.jp/indico/event/5/

Strings 2018国際会議(沖縄OISTにて開催)の全ての講演のPDFと動画がホームページにアップされた。
https://indico.oist.jp/indico/event/5/page/14



超弦理論
は宇宙の誕生の謎を解明するために最も有望視されている理論で、究極の統一理論(万物の理論)とも呼ばれている。1984年の第一次革命、1995年の第二次革命を経て、現在では世界中で数千人の理論物理学者と数学者が協力して活発に研究している分野だ。英語ではSuperstring TheoryやString Theory、日本語(一般用語)では超弦理論、超ひも理論、弦理論、ひも理論などと呼ばれている。

超弦理論が提唱するモデルを使えば、現在までに統一することができていない量子物理学(標準模型)と重力理論(一般相対性理論)を矛盾なく統一することができる。そしてこの理論が要求する空間は9次元となる。(縦横高さの3次元と6次元の余剰次元、超対称性を要求しない弦理論の空間は25次元)

大栗先生の超弦理論入門
超ひも理論をパパに習ってみた: 橋本幸士


この国際会議は2003年に京都で開催されたので、日本での開催は2度目だ。(Strings 2013




今年の会議は超弦理論研究の第一人者の大栗博司先生(@PlanckScale)と橋本幸士先生(@hashimotostring)が組織して開催された。




うれしいことにこの会議はネットで生中継され、沖縄科学技術大学院大学(OIST)が録画を公開してくださっている。物理学の最前線はどこまで進んでいるのかを知ることができる貴重な機会だ。英語で字幕を表示させたり、日本語に自動翻訳すれば素人でも何とかなるかもしれない。公開されている録画を時系列で載せておくので、ご覧になってみるとよいだろう。

Strings 2018 June 25 a.m.


Strings 2018 June 25 p.m.


Strings 2018 June 26 a.m.


Strings 2018 June 26 p.m Re-posting


Strings 2018 June 27 a.m.


Strings 2018 June 28 a.m.


Strings 2018 June 28 p.m.


Strings 2018 June 29 a.m.


Strings 2018 June 29 p.m.


Strings 2018 June 29 p.m. 50th Anniversary



この催しの締めくくりとして、大栗先生と橋本先生が一般人向けの講演会と質疑応答、対談を行なってくださった。この動画も公開されているから、次の記事で紹介しよう。


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講演会: 超弦理論って何だろう(大栗博司先生&橋本幸士先生)

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ひとつ前の記事で紹介した「Strings 2018」の締めくくりとして、この会議を組織された超弦理論研究の第一人者の大栗博司先生(@PlanckScale)と橋本幸士先生(@hashimotostring)が一般人向けの講演会と質疑応答、対談をしてくださった。この動画が公開されている。



動画の冒頭の数分は「待ち時間」、会場で映された日本科学未来館の「9次元からきた男」は非公開だから動画では「そのままお待ちください」の表示でずっと待たされる。各コーナーをすぐ見れるようにして、この記事に載せておくことにした。


超弦理論
は宇宙の誕生の謎を解明するために最も有望視されている理論で、究極の統一理論(万物の理論)とも呼ばれている。1984年の第一革命、1995年の第二革命を経て、現在では世界中で数千人の理論物理学者と数学者が協力して活発に研究している分野だ。英語ではSuperstring TheoryやString Theory、日本語(一般用語)では超弦理論、超ひも理論、弦理論、ひも理論などと呼ばれている。

超弦理論が提唱するモデルを使えば、現在までに統一することができていない量子物理学(標準模型)と重力理論(一般相対性理論)を矛盾なく統一することができる。そしてこの理論が要求する空間は9次元となる。(縦横高さの3次元と6次元の余剰次元、超対称性を要求しない弦理論の空間は25次元)

大栗先生の超弦理論入門
超ひも理論をパパに習ってみた: 橋本幸士

橋本先生によると、専門用語としては英語ではString Theoryが最も多く使われ、超対称性の条件を課すときはSuperstring Theoryという語が使われるという。日本語では超弦理論、超ひも理論、弦理論、ひも理論が使われるのが普通だ。日本語は一般用語だから、いくつかの呼び方があってもよいというのが橋本先生のお考えだ。科学雑誌Newtonでは「超ひも理論」で統一されている。


さて、講演会、質疑応答、対談のところを頭出しした動画はこちらだ。頭出しのリンクが効かない方は、自分で再生開始位置を調整していただきたい。)

OISTの森田氏による挨拶と先生方の紹介: YouTubeで開く(開始から8分13秒)

大栗先生の講演「9次元からきた男とは何者か」: YouTubeで開く(開始から11分1秒)

質疑応答(大栗先生): YouTubeで開く(開始から1時間9分0秒)

OISTの森田氏による挨拶と橋本先生の紹介: YouTubeで開く(開始から1時間19分18秒)

橋本先生の講演: YouTubeで開く(開始から1時間20分45秒)

質疑応答(大栗先生): YouTubeで開く(開始から1時間45分46秒)

対談(大栗先生&橋本先生): YouTubeで開く(開始から1時間51分56秒)


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お菓子でたどるフランス史、嘘だらけの日仏近現代史

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お菓子でたどるフランス史: 池上俊一
嘘だらけの日仏近現代史: 倉山満」(Kindle版


週に1度のフランス語の授業。今日は夜7時から2時間の予定だ。2人の生徒は旅行に行くと、たいていお土産を買ってきてくれるので申し訳ない。

何かお返しをと思って買ったのがこの2冊。初級とはいえフランス語を習っているのだから、フランス史は知っておいたほうがよいだろう。僕も読んでみたいので、短い時間で読めて面白そうなものをと探して見つけた本だ。自分のぶんも含めてそれぞれ3冊ずつ購入した。

お菓子でたどるフランス史: 池上俊一


内容紹介:
世界一の国になるには、素敵なお菓子が欠かせない!と考え、その甘い武器を磨いてきた国、フランス。ジャンヌ・ダルクやマリー・アントワネットが食べたのはどんなお菓子? 歴史を変えた伝説のパティシエとは? あの文豪もスイーツ男子だった? お菓子の由来も盛りだくさん! 歴史もしっかり学べる、華麗であま~いフランス史。[カラー口絵4頁]
文化立国フランスを彩る数々の宝刀の中でも、ひときわ輝きを放ち、世界の人々を甘く魅了してきた「お菓子」。それは教会や修道院で生まれ、やがて王や貴婦人たち、そしてブルジョワや文豪、パティシエたちによって、戦略的に磨かれてきた。フランスの歴史をその結晶であるお菓子によってたどり、フランスの「精髄」に迫る。大人気!!東大講義。「パスタでたどるイタリア史」につづく第2弾!
2013年11月刊行、240ページ。

著者について:
池上俊一: ウィキペディアの記事
1956年、愛知県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科教授。専門は西洋中世・ルネサンス史。
池上先生の著書: Amazonで検索

岩波ジュニア新書の1冊。ジュニア版とはいえ侮ってはいけない。フランス史もちゃんと学べる本のようだ。Amazonのレビューも良く、次のようなタイトルで感想が投稿されている。

- タイトルがお菓子だけに甘くみておりました。
- 文化の粋としてのお菓子
- フランス菓子の背景がわかりやすい!
- 楽しくしっかりとフランスの歴史・文化・社会が学べます
- 奥が深い!
- 至福の時間
- まさにフランスの美しいお菓子みたいな完成度の名著!
- 歴史や文化を身近に感じながら学べる
- フランスの精髄

目次は以下のとおり。

序章:お菓子とフランスの深い関係
1章:キリスト教信仰と中世の素朴なお菓子
2章:略取の名手フランス
3章:絶対王政の華麗なデザート
4章:革命が生んだきらぼしのごとき菓子職人
5章:ブルジョワの快楽
6章:フランスの現代とお菓子


嘘だらけの日仏近現代史: 倉山満」(Kindle版


内容紹介:
日本人の「フランス大好き」幻想を打ち砕く。

◆シリーズ累計35万部!
学ぶべきはフランス革命やナポレオンではなく、
マザラン、タレイラン、ドゴールだ!

日本人が思い描くフランスとは「優雅な美しい国」だが、それはあくまでも「ベルばら」やナポレオンを美化したフィクションの話。その実態とは何度戦争に負けても懲りず、ときにはおかしな連中が暴れまわって王様を殺す「雑な国」だ。とはいえ、近代国家の嚆矢ともいわれるフランスには戦争に負けても勝ち組にまわるしたたかさがあった……。日本人が学ぶべきは、無益な殺し合いにすぎないフランス革命や美化されたナポレオンではなく、1648年にウェストファリア条約でフランスを大国に押し上げた宰相マザランであり、1815年に敗戦国なのに講和会議を仕切った名外交官タレイランであり、1945年にフランスを滅亡から救った大政治家ドゴールである。日本人がいつの間にか抱いている“フランス大好き"が、実は幻想であったと気付かせる著者渾身の一冊。

◆主な登場人物(ヘンな人、かわいそうな人編)◆
シャルル七世(ジャンヌ・ダルクを見殺しにした王様)
フランソワ一世(異教徒と手を組んだヨーロッパの裏切り者)
ジャン・カルバン(ヨーロッパ中に宗教戦争をまき散らした元凶)
ルイ十五世(“ヤリ部屋"ならぬ“ヤリ館"を「鹿の園」と名付けたヤリチン)
ルイ十六世(アメリカ独立戦争を勝利に導いた名君なのにギロチンで死刑)
ロベスピエール(ルソーを盲信した殺人鬼)
ナポレオン(ヨーロッパの大悪党)

2017年3月刊行、277ページ。

著者について:
倉山満: 公式サイト: http://office-kurayama.co.jp/
1973年、香川県生まれ。憲政史研究者。1996年、中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程を修了。在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤研究員として、2015年まで同大学で日本国憲法を教える。2012年、希望日本研究所所長を務める。同年、コンテンツ配信サービス「倉山塾」を開講、翌年には「チャンネルくらら」を開局し、大日本帝国憲法や日本近現代史、政治外交について積極的に言論活動を展開している。
倉山さんの著書: Amazonで検索


評価が賛否両論、好き嫌いが二分される研究者による本だ。僕はこれまでに次の2冊を読んで感想記事を書いている。リンクをクリックすると紹介記事が開く。

常識から疑え! 山川日本史 近現代史編 上 「アカ」でさえない「バカ」なカリスマ教科書
常識から疑え! 山川日本史 近現代史編 下 「研究者もどき」がつくる「教科書もどき」

倉山さんの考えに賛同するかどうかは別として、いろいろな視点で物事を見るのもよいだろう。フランス史初心者向けの本ではないから、上で紹介した「お菓子でたどるフランス史: 池上俊一」をお読みになってからのほうがよい。

Amazonのレビューも賛否両論に分かれている。

良い評価をつけている方のレビュー・タイトル
- 筆者の久々のシリーズもので、最高の出来です。
- 推薦図書♪
- 優雅なフランス美しいフランスは 異常であった
- おフランスは狂気の国?!
- フランス革命の狂気が分かり易く記された一冊

悪い評価をつけている方のレビュー・タイトル
- タイトル通りの本
- ステレオタイプ化したフランスバッシング
- 良くも悪くもアメポチ倉山満が放つアメポチ保守の本

章立ては次のとおり。

第1章 フランスらしきものの胎動
第2章 宗教戦争と主権国家の誕生
第3章 世にも恐ろしいフランス革命
第4章 五大国によるウィーン体制
第5章 フランスから見た日本
第6章 ドゴールに学べ


ところで昨夜のワールドカップはフランスがウルグアイに勝利した。次の試合は準決勝で7月11日午前3時から。(日本時間)対戦相手はベルギーだ。残念ながら日本は敗退してしまったから、フランスの優勝を祈ることにしよう。


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マニマル(MANIMAL)@ 笹塚

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ひとつ前の記事で書いたように、土曜のフランス語の授業は午後7時開始の予定だったが、結局7時半開始になった。
教えたのはsortir, partir, finir, choisirなどの動詞とその活用、用例、se leverのような代名動詞、voudraisのような条件法現在形など。


授業が終わったのは9時半。そのあと3人で遅い夕食をとりに駅近くのイタリアン・バー「マニマル(MANIMAL)」に行った。

マニマル(MANIMAL)@笹塚
https://tabelog.com/tokyo/A1318/A131808/13098381/

Facebookページ
https://www.facebook.com/sasadukamanimal/


店内はこんな感じ。





いつものように、いただいた食べ物、飲み物を載せておこう。














以下は店内の写真。





トイレがユニークなのだ!



この日は店長の堀本さんはいらっしゃらなかった。次の動画の最初のほうで店内の様子と堀本さんをご覧いただける。

第61回 笹塚テレビ(渋谷のラジオ特集@笹塚MANIMAL)



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とね日記の理数系書籍の販売数ランキング: 2018年1月~6月

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このブログでは理数系書籍を紹介するとともに、Amazonアソシエイトを使って読者の皆さまに本を購入していただいているわけだが、この半年でどのような本が売れたのか、お知らせしておこう。売り上げ金額ではなく購入いただいた冊数をもとに人気ランキングを調べてみた。5冊以上売れた本を掲載しておく。紹介記事を書いていない本はAmazonへのリンクをつけておく。

高価な「世界標準MIT教科書」が何冊かエントリーしているのは、4月に「Amazon『50%OFF以上』 科学・テクノロジーKindle本フェア」が実施されたためである。

ぜひ皆さまの勉強にお役立ていただきたい。お買い上げいただいた皆さま、ありがとうございました。

18冊
「集合と位相」をなぜ学ぶのか:藤田博司(紹介記事

13冊
「宇宙のすべてを支配する数式」をパパに習ってみた: 橋本幸士(紹介記事
これが物理学だ! マサチューセッツ工科大学「感動」講義:ウォルター ルーウィン(紹介記事

12冊
高校数学でわかるシュレディンガー方程式:竹内淳(紹介記事

11冊
高校数学でわかる線形代数:竹内淳(紹介記事

10冊
素数に憑かれた人たち ~リーマン予想への挑戦~:ジョン・ダービーシャー(紹介記事
改訂版 行列とベクトルのはなし: 大村平(紹介記事

9冊
量子的世界像 101の新知識: ケネス・フォード(紹介記事

8冊
世界標準MIT教科書 ストラング:線形代数イントロダクション(Amazonを開く

7冊
大栗先生の超弦理論入門:大栗博司(紹介記事
高校数学でわかるフーリエ変換:竹内淳(紹介記事

6冊
エキゾチックな球面: 野口廣(紹介記事
量子コンピュータ―超並列計算のからくり: 竹内繁樹(紹介記事
数学ガール/ポアンカレ予想 : 結城浩(紹介記事
世界標準MIT教科書 ストラング:計算理工学(Amazonを開く
世界標準MIT教科書 Python言語によるプログラミングイントロダクション第2版(Amazonを開く

5冊
物理法則はいかにして発見されたか:R.P.ファインマン(紹介記事
光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学: R.P.ファインマン(紹介記事
解析入門 Ⅰ(基礎数学2)(Amazonを開く
重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る:大栗博司(紹介記事
代数に惹かれた数学者たち:ジョン・ダービーシャー(紹介記事
ゲームを作りながら楽しく学べるPythonプログラミング(Amazonを開く
世界標準MIT教科書 ストラング 微分方程式と線形代数(Amazonを開く


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とね日記の理数系書籍の販売数ランキング: 2017年1月~12月

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ひとつ前の記事では2018年1月からの半年でどのような本が売れたのかをランキングで紹介した。Amazonアソシエイトでは2017年1月まで遡って売り上げデータが残っているので、同じ要領で2017年の1年間についても売れた本を冊数順に載せて置こう。紹介記事を書いていない本はAmazonへのリンクをつけておく。

ぜひ皆さまの勉強にお役立ていただきたい。お買い上げいただいた皆さま、ありがとうございました。

23冊
一般相対性理論を一歩一歩数式で理解する: 石井俊全(紹介記事

22冊
12歳の少年が書いた 量子力学の教科書: 近藤龍一(紹介記事
量子コンピュータ―超並列計算のからくり: 竹内繁樹(紹介記事

15冊
高校数学でわかる線形代数:竹内淳(紹介記事

14冊
量子もつれとは何か:古澤明(紹介記事

13冊
強い力と弱い力:大栗博司(紹介記事

12冊
経理のExcel強化書: 平井明夫(紹介記事
Newton(ニュートン) 2018年 01 月号: ゼロからわかる人工知能(紹介記事

11冊
高校数学でわかるシュレディンガー方程式:竹内淳(紹介記事
量子論はなぜわかりにくいのか「粒子と波動の二重性」の謎を解く: 吉田伸夫(紹介記事

10冊
図解入門よくわかる物理数学の基本と仕組み(紹介記事)(Amazonを開く

9冊
光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学: R.P.ファインマン(紹介記事
高校数学でわかるマクスウェル方程式:竹内淳(紹介記事

8冊
趣味で量子力学2(Kindle版、オンデマンド版): 広江克彦(紹介記事
アインシュタインの反乱と量子コンピュータ: 佐藤文隆(紹介記事
物質のすべては光: フランク・ウィルチェック(紹介記事
ファインマン物理学 問題集 2(紹介記事

7冊
線型代数[改訂版]: 長谷川浩司(紹介記事
改訂版 微積分のはなし〈下〉:大村平(紹介記事

6冊
高校数学でわかるフーリエ変換:竹内淳(紹介記事
ファインマン物理学 問題集 1(紹介記事
経路積分ゼミナール―ファインマンを解く(Amazonを開く

5冊
大栗先生の超弦理論入門:大栗博司(紹介記事
新・物理入門(増補改訂版):山本義隆(紹介記事
解析入門 原書第3版(Amazonを開く
物理法則はいかにして発見されたか:R.P.ファインマン(紹介記事
高校数学でわかるボルツマンの原理:竹内淳(紹介記事
これが物理学だ! マサチューセッツ工科大学「感動」講義:ウォルター ルーウィン(紹介記事
ルベグ積分入門(新数学シリーズ23):吉田洋一(紹介記事
詳説演習微分積分学(Amazonを開く
数学ガイダンス2017 (数学セミナー増刊) (Amazonを開く
化学のレポートと論文の書き方(Amazonを開く


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人工知能はどのようにして 「名人」を超えたのか?: 山本一成

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人工知能はどのようにして 「名人」を超えたのか?: 山本一成」(Kindle版
最強の将棋AIポナンザの開発者が教える機械学習・深層学習・強化学習の本質

内容紹介:
人工知能は今、プログラマの手を離れ、既存の科学の範疇を超え、天才が残した棋譜も必要とせず、さらには人間そのものからも卒業しようとしています。その物語を、できる限りやさしく語りました。

★「情熱大陸」(TBS系列)、「NHKスペシャル」にて大反響!
★ 朝日新聞書評にて野矢茂樹氏(東京大学教授・哲学)が絶賛!
★ その他、各種メディアにて賞賛の声多数

2017年4月1日――人工知能「ポナンザ」が現役の将棋名人に公式戦で初めて勝利した日を、その生みの親である著者は次のように振り返ります。

「この日は、コンピュータ将棋の世界にとって記念すべきものになりましたが、同時に改めて、人間と人工知能の違いを認識させられた日ともなりました。
本書で紹介してきた人工知能(ポナンザ)の特徴と、世界に意味を見つけ物語を紡いで考えていく人間の思考法の限界が明確に表れたのです。」

本書の魅力は、このフレーズに象徴される「人工知能と人間の本質的な違い」
そして「知能と知性の未来」を、
◇プログラマからの卒業
◇科学からの卒業
◇天才からの卒業
◇人間からの卒業
という4つの章で見事に段階的に説明している点にあります。

そしてもう1つの読みどころは、著者が研究の最前線で遭遇した驚くべき事象や、
囲碁・将棋のプロ棋士たちの人工知能への反応を鮮やかに記述していること。

◇黒魔術化する人工知能
◇黒魔術の1つ、「怠惰な並列化」とは
◇ディープラーニングは 知能の大統一理論になれるか?
◇サイコロにも知能がある!?
◇囲碁は画像だった!
◇知能の本質も画像なのか?
◇科学が宗教になる瞬間を見た
◇研究者は「人工知能の性能が上がった理由」を説明できない
◇人類はこれから、プロ棋士と同じ経験をする

などなど、目からウロコの解説の連続で、既存のどんな人工知能の解説書よりも面白くてわかりやすい、必読の1冊となっています。

2008年6月刊行、229ページ。

著者について:
山本一成(やまもと いっせい): https://twitter.com/issei_y
1985年生まれ。プロ棋士に初めて勝利した現在最強の将棋プログラム「ポナンザ(Ponanza)」作者。主要なコンピュータ将棋大会を4連覇中。愛知学院大学特任准教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員、HEROZ(株)リードエンジニア。『人工知能はどのようにして「名人」を超えたのか?―最強の将棋AIポナンザの開発者が教える機械学習・深層学習・強化学習の本質』が初の著書となる


理数系書籍のレビュー記事は本書で371冊目。(AIは一応理系としておく。)

プロ棋士に初めて勝利した現在最強の将棋プログラム「ポナンザ(Ponanza)」作者による本。昨年11月にポナンザの引退が発表されたとき、AI将棋界には衝撃が走った。AI将棋の歴史に残されたひとつの節目になったようである。

【コラム】PONANZA引退に寄せて
https://www.fgfan7.com/entry/2017/11/13/201221

昨年7月に僕が自分のパソコンにインストールしたのは「ボナンザ(Bonanza)」のほうである。(参考記事)本書の著者の山本さんはボナンザに敬意を払ってポナンザという名前にしたそうだ。

将棋の名人ではなく、AIの研究者ではないトップに君臨し続けたAI将棋開発者の本だからこそ読みたいと思った。囲碁の世界チャンピオンを打ち負かした「アルファ碁(AlphaGo)」の解説や著者が感じていらっしゃることも書かれている。

将棋を指せなくても読める本だ。互いに駒をルールに従って動かし、王将を取るのが将棋だということがわかっているレベルであれば、
読める本である。

章立ては次のとおり。

【第1章】将棋の機械学習――プログラマからの卒業
【第2章】黒魔術とディープラーニング――科学からの卒業
【第3章】囲碁と強化学習――天才からの卒業
【第4章】倫理観と人工知能――人間からの卒業
【巻末付録】グーグルの人工知能と人間の世紀の一戦にはどんな意味があったのか?

科学雑誌Newtonの人工知能特集」でもAI将棋やアルファ碁は取り上げられるが、それは全体のごく一部。オセロやチェス、将棋、囲碁などはどれも対戦型ゲームだが、アルゴリズムや手法は違ってくる。オセロなら素人が少し学んだだけでプログラミング可能だが、チェスだとだいぶ難しくなる。

将棋に至って近年ようやく名人を負かすプログラムが登場し、将棋電王戦が後押しする形で将棋ブームが到来した。そしてタイミングよく藤井聡太七段(当時は四段)のようにAI将棋で学んだ新しい世代のヒーローが登場したことで、世間一般の人が将棋に注目するようになった。

日本の将棋AIは、若い世代の個人の開発者がお金をかけずに作り上げてきたという点で、チェスのディープ・ブルーやアルファ碁のように巨大IT企業が圧倒的な資本を投入して開発したAIとは全く違う。後者だと個人が挑戦する余地はまったく無く、庶民的な「文化」が生まれることはない。日本のAI将棋がプログラミング経験者、将棋ファンから愛され続けるのは個人でも参加できることが大きな理由だと思う。

将棋フリーソフト レーティング
http://www.uuunuuun.com/

電王戦
http://denou.jp/


本書を読んで次のようなことを僕は学ぶことができた。

- 電王戦でAIが名人を下したとき、どのように将棋ファンが受け止めたのか知ることができてよかった。「衝撃」の一言では言い尽くせないのだ。
- ポナンザはディープラーニングを使っているのだと勘違いしていた。実際は「ロジスティック回帰」という手法を使っている。(参考ページ:「「 ディープラーニング」で人工知能が急速に発展する」)
- 「過学習」がどのようにして起こるのか理解できた。
- チェスと将棋に対する考え方、プログラミングのアプローチが全く違うことを理解できた。
- 将棋と囲碁に対する考え方、AIのアプローチが全く違うことを理解できた。
- ポナンザをなぜ引退させることにしたのか理解できた。
- 名人が指す将棋とAIが指す将棋の違いが理解できた。
- ポナンザがどのように成長していったかを理解できた。
- ディープラーニングでおこる「黒魔術」が理解できた。
- 「還元主義的な科学からの卒業」の意味が理解できた。還元主義的なものを科学と定義するならば、AIはもはや科学ではない。
- 「強化学習」がどのようなものか具体的に理解できた。
- 序盤、中盤、終盤について将棋、囲碁でどのような違いがあるか理解できた。
- 本書でいうところの「知能」と「知性」の違いがよく理解できた。
- AI将棋が名人の将棋に与えた影響を知ることができた。これまで人類が蓄積していた将棋の経験は、ごく表層的なものに過ぎなかったことなど。
- 囲碁は画像として扱うことでディープラーニングによって計算できることが理解できた。

巻末にはアルファ碁の成長やイ・セドル名人との対戦の解説や感想が著者を含めて3人で行われた鼎談として掲載されている。囲碁のルールを知らなくても読めるし、アルファ碁の指し方の特徴がよくわかる。

将棋や囲碁という限定した領域でAIを学ぶことになるわけだが、広く一般的な形でAIを扱った本では曖昧に済まされてしまう事がらを具体的に学んだり、感じることができるのが本書の魅力である。

中学生くらいから楽しく読める本なので、ぜひお読みいただきたい。


本書以外にも気になっている本をピックアップしてみた。

1冊目はチェスや将棋の盤面を示しながら、より具体的に理解できる本のようだ。2冊目は最近刊行された本。本格的に学べそうだ。Kindle版は2つあり、そのうちひとつは「リフロー版」である。

人工知能はいかにして強くなるのか?: 小野田博一」(Kindle版
対戦型AIで学ぶ基本のしくみ
将棋AIで学ぶディープラーニング: 山岡忠夫」(Kindle版

 


アルファ碁(AlphaGo)だと、この2冊。読む前に囲碁のルールや定石を覚えたい。

アルファ碁Zeroの衝撃 ~龍虎vs最強AI~」(Kindle版
最強囲碁AI アルファ碁 解体新書 増補改訂版」(Kindle版

 


1冊目は2012年に刊行されたAI将棋の本。2冊目は2005年に刊行された本で、当時使われていたアルゴリズムがC言語で学べる。プログラミングというものは入門書で漫然と勉強していてもなかなか身につくものではない。具体的なテーマで四苦八苦しながら、勘どころをつかむのが近道だ。今となっては古い将棋アルゴリズムであっても、プログラミングを学ぶのにはよい教材だと思う。

人間に勝つコンピュータ将棋の作り方
コンピュータ将棋のアルゴリズム

 


関連記事:

将棋ソフト(Bonanza、GPS将棋、Apery)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9c39fa7ba13e6b9f06728f9d26097191

将棋ソフト(ぴよ将棋、K-Shogi)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/549314ea56401d34be4cae5653179d24

将棋ソフト(技巧2、やねうら王4.79+apery_sdt5、平成将棋合戦ぽんぽこ)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f9d48568141c23d608266f323245ce6c

Newton別冊『ゼロからわかる人工知能』 (ニュートン別冊)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/41a084475f464b685b14cf7349c2f1a7


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人工知能はどのようにして 「名人」を超えたのか?: 山本一成」(Kindle版
最強の将棋AIポナンザの開発者が教える機械学習・深層学習・強化学習の本質



はじめに

【第1章】将棋の機械学習――プログラマからの卒業
将棋の名人を倒すプログラムは、名人でなければ書けないのか?
そもそも、コンピュータとは何か?
将棋を指すプログラムは、どう作るのか?
将棋における探索と評価
評価の仕組みの作り方
人工知能の「冬の時代」
人間の思考を理解するのは諦めた
なぜ、コンピュータ将棋はコンピュータチェスに20年遅れたのか?
局面数が多いから人間に勝つのが難しいわけではない
コンピュータにとって将棋が難しい理由
コンピュータにとっての将棋とチェスの本質的な違い
コンピュータ将棋での機械学習
機械学習の弱点と工夫
ポナンザの成長
電王戦
プログラマからの卒業

【第2章】黒魔術とディープラーニング――科学からの卒業
機械学習によってもたらされた「解釈性」と「性能」のトレードオフ
黒魔術化しているポナンザ
黒魔術の1つ「怠惰な並列化」
ディープラーニングで人工知能が急速に発展する
ディープラーニングのしくみと歴史
ディープラーニングを支える黒魔術、「ドロップアウト」
今、ディープラーニングはどれくらいのことができるのか?
ディープラーニングと知能の本質は「画像」なのか?
還元主義的な科学からの卒業

【第3章】囲碁と強化学習――天才からの卒業
人工知能の成長が人間の予想を大きく超えたわけ
人間は「指数的な成長」を直感的に理解できない
人類はこれから、プロ棋士と同じ経験をする
ポナンザの「守破離」
強化学習とは何か
ポナンザ流の誕生
人類の反撃と許容
アルファ碁の登場
なぜ、コンピュータにとって囲碁だけが特別なゲームだったのか?
モンテカルロ法という救世主
サイコロにも知能がある!?
モンテカルロ囲碁の成長
アルファ碁が示したこと「囲碁は画像だった」
アルファ碁の3つの武器
アンサンブル効果
科学が宗教になる瞬間
天才からの卒業

【第4章】倫理観と人工知能――人間からの卒業
知能と知性
「中間の目的」とPDCAで戦う人間の棋士
「目的を持つ」とは意味と物語で考えるということ
人工知能はディープラーニングで知性を獲得する
ポナンザ2045
人工知能は人間の倫理観と価値観を学習する
シンギュラリティと「いい人」理論

おわりに

【巻末付録】グーグルの人工知能と人間の世紀の一戦にはどんな意味があったのか?
人間を超えたアルファ碁は、どのようにして強くなったのか
アルファ碁はたくさん手を読んでいるのではなく、猛烈に勘がいい
読んでいない手を打たれると途端に弱くなる? アルファ碁の攻略法を探る
人類に残されたのは、言葉と論理。アルファ碁が示した人工知能の可能性とは

人工知能はいかにして強くなるのか?: 小野田博一

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人工知能はいかにして強くなるのか?: 小野田博一」(Kindle版
対戦型AIで学ぶ基本のしくみ

内容紹介:
2016年3月9日、Googleの研究部門が開発した囲碁プログラムAlphaGoが、李世石との5番勝負の第1局に勝ったという一報が流れました。人工知能(AI)が、囲碁においてはまだ人間に及ばないと考えられていた中での驚くべきニュースでした。
本書では、AIが「学ぶ」とはどんなことなのか。AIが「考える」とはどんなことなのか。AIが「判断を下す」とはどんなことなのか。つまり、人工知能の思考構造はどうなっているのかを基本からわかりやすく理解することができます。「深層学習とは何か」「画像認識の原理とは」「評価関数の意味」「完全解析の思考法」など、AIの最新技術の核心を学んでいきます。
また、囲碁のAlphaGo、チェスのDEEP BLUE、チェッカーのCHINOOKなど、人間と対戦してきた対戦型AIの進化を振り返ることからも、人工知能(AI)とは何か、そして人工知能はいかにして人間を超えて強くなってきたのかを見ていきます。
ますます進化を遂げ、人間を超えていく人工知能。そのしくみを基本から学べる一冊です。

2017年1月刊行、256ページ。

著者について:
小野田 博一(おのだ ひろかず)
作家。東京大学医学部保健学科卒。同大学院博士課程単位取得。日本経済新聞社データバンク局に約6年間勤務。JPCA(日本郵便チェス協会)第21期日本チャンピオン。ICCF(国際通信チェス連盟)インターナショナル・マスター。JCCA(日本通信チェス協会、旧称JPCA)国際担当(ICCF delegate for Japan)。
主な著者に『論理パズル101(編・訳)』『論理パズル「出しっこ問題」傑作選』『超絶難問論理パズル』(以上、ブルーバックス)、『数学〈超絶〉難問』(日本実業出版社)、『論理的に話す方法』『論理的に書く方法』(以上、PHP文庫)など多数。

小野田さんの著書: Amazonで検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で372冊目。(AIは一応理系としておく。)

先週紹介した「人工知能はどのようにして 「名人」を超えたのか?: 山本一成」(Kindle版)(紹介記事)では、次の段階を経ながらAIが進化していったことを解説していた。

◇プログラマからの卒業
◇科学からの卒業
◇天才からの卒業
◇人間からの卒業

そして今回紹介する本は対戦ゲーム自体を基軸にとりながら解説している。

◇チェッカーで人類を超える
◇チェスで人類を超える
◇囲碁で人類を超える

著者はご経歴を見るとわかるようにチェスの名手である。本書はチェッカーやチェス、囲碁の盤面を具体的に示しながら、コンピュータ・プログラムがどのように進化していったか、それぞれのゲームでどのような対局をしながら世界チャンピオンを打ち負かしていったか、コンピュータのアルゴリズムや、その結果コンピュータがどのような「読み」を行うかを解説している。

歴史的に有名なのは次の3つの対戦だ。チェッカーは1990年-1995年、チェスは1996年、囲碁は2016年の段階で人類を超える能力をコンピュータ・プログラムは獲得している。そしてチェッカーについては、2007年にコンピュータによる完全解析が完了している。(ウィキペディアで「チェッカー」を開く。)

ティンスリー v.s. Chinook: 1990-1995: Chinookはオンラインでプレイできる:開く
Wikipedia動画検索


カスパロフ v.s. DEEP BLUE (IBM):(1996年2月10日 - 1997年5月11日)
ウィキペディア動画検索


李世石九段 v.s. AlphaGo (Google DeepMind):(2016年3月9日 - 3月15日)
ウィキペディア動画検索


章立てはこのとおり。

第1章 AlphaGoの大快挙
第2章 基本的なこと--対戦型AIの内部について理解しようとする前に知っておくべきこと
第3章 完全解析の仕方
第4章 チェッカーで人類を超える
第5章 チェスで人類を超える
第6章 囲碁で人類を超える

山本さんの本の紹介記事の中で、僕は「日本の将棋AIは、若い世代の個人の開発者がお金をかけずに作り上げてきたという点で、チェスのDEEP BLUEやAlphaGoのように巨大IT企業が圧倒的な資本を投入して開発したAIとは全く違う。」と書いた。

しかしこれは歴史的偉業をなしたこの2つのAIについてであり、1950年代から始まるチェッカーやチェスの世界では、プログラマが個人で開発を行い、トーナメントで競っていた時代があったことを、僕は本書を読んで知った。今となってはほとんどマニアしか知らないチェッカーやチェスのプログラム開発やそのアルゴリズム、コンピュータどうしの対戦、名人との対戦の歴史が詳細に述べられている。

機械学習のうちのひとつ、ディープラーニングに関しては第2章であっさりと解説されるだけである。これは今流行りのディープラーニングを知ろうとして本書を買った読者には期待はずれになる。

(ディープラーニングを除く)機械学習のアルゴリズムを理論として学び、歴史的対戦の盤面でどのように学習成果が表れたかを確認していく過程でAIの打つ手を「感覚的」に知ることができるのだ。

したがって本書をじゅうぶんに読み解くためには、ゲームのルールを知っておく必要がある。チェッカー、チェス、囲碁のルールは簡単に本書で紹介されているのでご心配なく。とはいえ、きっちり理解するためにはサイトや本などで学んでおいたほうがよいし、コンピュータ相手に対戦しておくとなお理解が深まるだろう。

Amazonでの評価は分かれている。ゲームの局面を見て考えたり、判断したりすることに慣れていない人は、本書を退屈だと評価しているようだ。確かに本書は最新技術やAIの未来を見据えた本ではない。歴史をたどる本であることをご承知の上、お読みになるとよい。


なお本書で紹介されているAlphaGoは初代のプログラムについてだけだ。後に開発されたAlphaGo MasterやAlphaGo Zeroに関しては触れられていない。(参照:ウィキペディア


棋譜の再生(チェス、囲碁)

本書はチェスや囲碁を具体的に盤面を見せながら解説しているが、対局全体の流れは「サイトで見てください。」ということわり書きが各所に見られる。著者が入力した棋譜のほかAlphaGoと李世石九段が5番勝負したときの棋譜が公開されているので、ゲームを再生するページに棋譜をコピー&ペーストして1手ずつ進行を見ることができる。

サイトによっては特定のブラウザでしか開けないページがあるので、うまくいかないときはMicrosoft Edge、Firefox、Google Chromeの順に試していただきたい。

PGNPLAYER.COM(チェスの棋譜を再生するページ)
http://pgnplayer.com/

チェスの棋譜(本書で解説している対局の棋譜)
http://www.geocities.jp/versusAI/chess.txt

COSUMI(囲碁の棋譜を再生するページ): Microsoft Edgeで動作
https://www.cosumi.net/sgf2replay.html

AlphaGoと李世石九段が5番勝負したときの棋譜
http://www.geocities.jp/versusAI/alpha.txt

第1局から第5局の棋譜
http://www.geocities.jp/versusAI/alpha1.sgf
http://www.geocities.jp/versusAI/alpha2.sgf
http://www.geocities.jp/versusAI/alpha3.sgf
http://www.geocities.jp/versusAI/alpha4.sgf
http://www.geocities.jp/versusAI/alpha5.sgf

Go4Go(囲碁の対局のデータと再生、ログインが必要)
http://www.go4go.net/

AlphaGoと李世石九段が5番勝負したときの棋譜
http://www.go4go.net/go/games/sgfview/53040
http://www.go4go.net/go/games/sgfview/53053
http://www.go4go.net/go/games/sgfview/53069
http://www.go4go.net/go/games/sgfview/53071
http://www.go4go.net/go/games/sgfview/53076

AlphaGoとAlphaGoを対戦させたときの棋譜とその再生
http://www.kihuu.net/index.php?type=3&key=alpha


チェッカー、チェス、囲碁を学んでコンピュータと対戦してみよう

チェッカー入門サイト(kazuaki341のチェッカー)
http://www.geocities.jp/kazuaki341/index.html

チェッカー(オンラインゲーム)
http://www.247checkers.com/
https://webdocs.cs.ualberta.ca/~chinook/

チェスの入門サイト
http://chess.plala.jp/

チェス(オンラインゲーム)
https://www.chess.com/ja/play/computer

やさしい囲碁入門講座
https://yasashiigo.com/

COSUMI(オンライン囲碁): Microsoft Edgeで動作
https://www.cosumi.net/play.html

チェスの入門書: Amazonで検索
囲碁の入門書: Amazonで検索


本書以外にも気になっている本をピックアップしてみた。

1冊目はポナンザの開発者による本だ。そして2冊目は最近刊行された本。本格的に学べそうだ。Kindle版は2つあり、そのうちひとつは「リフロー版」である。

人工知能はどのようにして 「名人」を超えたのか?: 山本一成」(Kindle版)(紹介記事
最強の将棋AIポナンザの開発者が教える機械学習・深層学習・強化学習の本質
将棋AIで学ぶディープラーニング: 山岡忠夫」(Kindle版

 


アルファ碁(AlphaGo)だと、この2冊。読む前に囲碁のルールや定石を覚えたい。特に1冊目の「~の衝撃」は囲碁の盤面をほぼ全ページに掲載して解説しているので、日頃から囲碁を打っている人でないと読むことはできないから慌てて購入しないように。

アルファ碁Zeroの衝撃 ~龍虎vs最強AI~」(Kindle版
最強囲碁AI アルファ碁 解体新書 増補改訂版」(Kindle版

 


1冊目は2012年に刊行されたAI将棋の本。2冊目は2005年に刊行された本で、当時使われていたアルゴリズムがC言語で学べる。プログラミングというものは入門書で漫然と勉強していてもなかなか身につくものではない。具体的なテーマで四苦八苦しながら、勘どころをつかむのが近道だ。今となっては古い将棋アルゴリズムであっても、プログラミングを学ぶのにはよい教材だと思う。

人間に勝つコンピュータ将棋の作り方
コンピュータ将棋のアルゴリズム

 


関連記事:

将棋ソフト(Bonanza、GPS将棋、Apery)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9c39fa7ba13e6b9f06728f9d26097191

将棋ソフト(ぴよ将棋、K-Shogi)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/549314ea56401d34be4cae5653179d24

将棋ソフト(技巧2、やねうら王4.79+apery_sdt5、平成将棋合戦ぽんぽこ)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f9d48568141c23d608266f323245ce6c

Newton別冊『ゼロからわかる人工知能』 (ニュートン別冊)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/41a084475f464b685b14cf7349c2f1a7


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人工知能はいかにして強くなるのか?: 小野田博一」(Kindle版
対戦型AIで学ぶ基本のしくみ



第1章 AlphaGoの大快挙

第2章 基本的なこと--対戦型AIの内部について理解しようとする前に知っておくべきこと
2.1 AIや機械学習とは何であるかを知ろう
2.2 回帰分析と判別分析がどんなものであるかを知ろう
2.3 主成分分析とはどんなものなのか
2.4 深層学習とは何か
2.5 画像データを識別する
2.6 レイティングについて
2.7 評価関数について

第3章 完全解析の仕方
3.1 完全解析入門
3.2 完全解析の基本とそのコツ
3.3 完全解析の歴史を少々――世界を驚嘆させた出来事
3.4 枝刈りとハッシュ表とは
3.5 ミニマックス・アルゴリズムとは
3.6 α-β枝刈りとは
3.7 行きつ戻りつ

第4章 チェッカーで人類を超える
4.1 チェッカーのゲームの仕方
4.2 チェッカープログラムの黎明期
4.3 サミュエルの方法
4.4 CHINOOK、世界チャンピオンとなる
4.5 「人対マシーン」世界選手権のゲーム

第5章 チェスで人類を超える
5.1 チェスのゲームの仕方
5.2 チェスの対戦プログラム

第6章 囲碁で人類を超える
6.1 囲碁はどんなゲーム?
6.2 AlphaGoの特色
6.3 AlphaGoの棋風とは
6.4 AlphaGo vs 李世石、5番勝負

マチネの終わりに: 平野 啓一郎

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マチネの終わりに: 平野 啓一郎」(Kindle版

内容:
天才ギタリストの蒔野(38)と通信社記者の洋子(40)。
深く愛し合いながら一緒になることが許されない二人が、再び巡り逢う日はやってくるのか――。

出会った瞬間から強く惹かれ合った蒔野と洋子。しかし、洋子には婚約者がいた。
スランプに陥りもがく蒔野。人知れず体の不調に苦しむ洋子。
やがて、蒔野と洋子の間にすれ違いが生じ、ついに二人の関係は途絶えてしまうが……。
芥川賞作家が贈る、至高の恋愛小説。

結婚した相手は、人生最愛の人ですか?ただ愛する人と一緒にいたかった。なぜ別れなければならなかったのか。恋の仕方を忘れた大人に贈る恋愛小説。

2016年4月刊行、416ページ。

著者について:
平野 啓一郎(ひらの・けいいちろう)
1975年愛知県蒲郡市生。北九州市出身。京都大学法学部卒。1999年在学中に文芸誌「新潮」に投稿した『日蝕』により第120回芥川賞を受賞。著書は小説、『葬送』『滴り落ちる時計たちの波紋』『決壊』(芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞)『ドーン』(ドゥマゴ文学賞受賞)『かたちだけの愛』『空白を満たしなさい』、『透明な迷宮』、エッセイ・対談集に『私とは何か 「個人」から「分人」へ』『「生命力」の行方~変わりゆく世界と分人主義』等がある。 2014年、フランス芸術文化勲章シュヴァリエを受章。

平野啓一郎さんの著書: Amazonで検索


最後に恋愛感情にとらわれたのはいつだったろう?たまには切ない気持に浸ってみたいものだ。恋愛小説でも読んでみようかと、ツイッターで話題になっていたこの本を読んでみた。自分より10歳以上若い世代の作家だが、芥川賞を受賞しているようだからとKindle版をダウンロードした。

天才ギタリストの蒔野(38)と通信社記者の洋子(40)というハイソな男女が主人公。洋子はサダム・フセインの支配が終わり、新政権発足後のバグダッド勤務である。極めて不安定な情勢下で取材を続け、ときどき東京に戻ってくる生活をしている。ギタリストの蒔野との「再会」も東京でのコンサートのことだった。

平野啓一郎さんのファンであれば、のめり込めるのだろう。でも、僕には無理だった。2人の男女が繰り広げる行きつ戻りつの恋愛感情は、しょせん他人事であり、引き込まれるきっかけがなかなかつかめなかった。

若者どうしの猪突猛進の恋愛とは違い、互いの仕事や人間関係のしがらみで会える機会は少ない。相手の気持ちを推し量ったり尊重しようとするあまり、好きだという感情はなかなか結び付くことがない。じれったいには違いないのだけど、そのもどかしさは切ない気持ではなく、冗長な小説だという感情しかもてなかった。相手の感情を推し量るあたりはまるで告白するのを躊躇する中学生、高校生のようである。

中盤あたりで二人の間に邪魔が入り、互いに誤解して決別することになる。この意図的なストーリー設定を僕は受け入れられなかった。その後、別れた2人のそれぞれの生活が描かれ、結末で再び出会うことになる。

文章力はあるのだけど、そしてこの本以外の作品はよいのだろうと思うのだけど、期待して読んだだけに少々残念なことになった。ただ、根強いファンは多いようだから読者を選ぶ作家なのだろう。もう1冊くらいは読んでみようと思う。好みは人それぞれである。


マチネの終わりに: 平野 啓一郎」(Kindle版




小説のタイアップCDもでている。小説にでてくる曲のクラシック・ギターによる演奏だ。Amazon Prime Musicのほか、CD、MP3で聴くことができる。

マチネの終わりに: 福田進一



【収録曲】
第1章:出会いの長い夜
1. ロドリーゴ:アランフェス協奏曲より II. アダージョ
2. レノン&マッカートニー/武満徹編:イエスタデイ
第3章:《ヴェニスに死す》症候群
3. J.S.バッハ/福田進一編:無伴奏チェロ組曲第3番BWV1009より I. プレリュード*
第4章:再会
4. F.ソル:幻想曲 Op.54 bis より II. アレグロ**
第5章:洋子の決断
5. バリオス:大聖堂
6. ヴィラ=ロボス:ガヴォット・ショーロ*
7. アームストロング/鈴木大介編この素晴らしき世界*
8. 林そよか:幸福の硬貨*
第8章:真相
9. ピアソラ:タンゴ組曲より II. アンダンテ、10. III. アレグロ
第9章:マチネの終わりに
11. ブローウェル:黒いデカメロンより I. 戦士のハープ、12. III. 恋する乙女のバラード*
13. ブローウェル:ギター・ソナタ より III. パスキーニによるトッカータ
ボーナストラック
14. 林そよか:幸福の硬貨 ~洋子に捧ぐ*

福田進一(ギター)
飯森範親指揮 ヴュルテンベルク・フィルハーモニー管弦楽団 (1)
オスカー・ギリア(ギター)(4)
エドゥアルド・フェルナンデス(ギター)(9、10)


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ルーヴル美術館展 @ 新国立美術館

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昨年12月から続いている週末のフランス語の授業。昨日は生徒2人と遠足がてらに新国立美術館で開催されている「ルーヴル美術館展」に行ってきた。「ルーブル」ではなく「ルーヴル」である。

ルーヴル美術館展
http://www.ntv.co.jp/louvre2018/

ルーヴル美術館展“ルーヴルの顔”が集結!約110点の肖像芸術の傑作が来日


ルーヴル美術館(パリ)の公式ウェブサイト(日本語)
https://www.louvre.fr/jp

ルーヴル美術館(パリ)の公式ウェブサイト(フランス語)
https://www.louvre.fr/


ルーヴル美術館展

この日の東京は台風直撃はまぬがれたものの、午後から風雨が強くなった。美術館は空いていることを期待していた。午後1時の待ち合わせ。乃木坂駅6番出口から雨に濡れずに行くことができる。予想どおり待たずに入場できた。



入口にはこのような展示物が。向う側に回って顔をのぞかせて肖像画の一部になりきって記念撮影ができる。生徒2人がポーズをとって楽しそうにしている様子を撮影した。(ブログでは非公開)



展示されている彫刻や肖像は全部で110点あまり。その一部は上の動画で見ることができる。全部鑑賞するのに1時間半ほどかかた。僕がパリのルーブル美術館に行ったのは1986年と1987年のこと。30年以上も前に見た展示物の一部も今回見ることができた。(ナポレオンの肖像とかマラーの死など。)美術館ではあるけれど、博物館級、考古学的価値のある展示物も多い。

入口で500円払って使うことができる音声ガイド(日本語、英語、中国語など)は、とてもありがたかった。パネルに書かれている解説が老眼の僕には読みにくい。日本語音声は俳優の高橋一生さんが担当。ファンの女性は喜ぶことだろう。僕の生徒2人は「高橋さんの感想って、予想どおり浅かった。」とか言っていた。

高橋一生、音声ガイド担当も「眠くなる声」? 「ルーヴル美術館展」オフィシャルサポーター就任記者発表会


出口を出たところにショップがある。ここはチケットを買わなくても行けるエリアだから、買い忘れたグッズがあれば後日また来ればよい。オフィシャル・カタログとクリアフォルダー、ポーチを買った。

オフィシャルカタログは2500円のわりに立派なもの。展示されている110点すべての写真と解説が載せられている。これで2500円はお得だ。



2冊並べてみる。表紙と裏表紙の写真。



チケットの半券を使えば下の階のレストランで割引価格で食事ができる。でも、僕らは外で食事することにした。入ったのは「鎌倉パスタ アコルデ代々木上原店」。


遅めのランチ(代々木上原)

乃木坂から4駅目の代々木上原に移動。風雨が激しくなっていたので雨に濡れずにレストランに行くことができる。入ったのは「鎌倉パスタ アコルデ代々木上原店」。3人ともドリンク、デザート付き、パンが食べ放題のコースを選んだ。








フランス語の授業(代々木上原)

それから同じ店で2時間ほどフランス語の授業をすることになった。白ワインを1本注文。パンの食べ放題は続いている。僕は大食いなほうなのだけど、生徒2人は次々とおかわりをして食べまくっている。(彼女たちが食べた量は僕をはるかに凌いでいた。)

授業は「半過去」が中心。先週の授業は「複合過去」だったのでずいぶんペースが早い。「単純未来」や「条件法現在」もすでに終えている。

この日ウケて大笑いになった例文が2つあった。

例文1)ある日、求愛されて

Tu sais, moi je suis fou de toi. Je ne peux plus!
(あのね、ぼく、きみのことで頭いっぱい。もう我慢できない!)

Arrête! Je ne t'aime pas. Je ne t'ai jamais aime, je ne t'aimerai jamais.
(やめて!あなたのことは好きじゃないの。好きになったことなんて全然ないし、これからもないわ。)

例文2)

Il était une fois une jeune fille qui habitait avec sa mère près de la forêt.
(昔々あるところに、女の子が森の近くにお母さんと暮らしていました。)

Elle portait toujours un gilet rouge.
(彼女はいつも赤いジレ(カーディガン)を着ていました。)

Alors, on l'appelait "petit gilet rouge".
(それで、彼女は『赤ジレちゃん』と呼ばれていました。)

Elle n'avait pas beaucoupt de copains.
(彼女にはあまり友達がいませんでした。)

Mais elle avait un chien.
(でも彼女には犬がいました。)

Elle était toujours avec lui.
(彼女はいつもその犬と一緒にいました。)


カラオケ(下北沢)

授業が終わったあと、ワインを飲んでリラックスしたせいか、カラオケに行くことになった。フランス語で歌えるの曲もいくつか聴いてもらいたかったこともある。(フランス語の曲はJOYSOUNDがいちばんたくさん歌える。)

再び千代田線に乗って2駅離れた下北沢に移動。この時点で雨は本降りになっていた。南口商店街の「カラオケ館 下北沢店」に入る。歌い始めたのは午後7時、店を出たのは午後11時で、邦楽、英語曲、フランス語曲を3人順番で歌いまくった。とりあえず「課外授業」でもあるから、僕はいつもよりフランス語曲を多めに歌った。次のような曲だ。

- T'en va pas (悲しみのアダージョ): YouTube再生 紹介記事
- Sous Le Ciel de Paris(パリの空の下): YouTube再生
- La Marseillaise(フランス国歌 ラ・マルセイエーズ): YouTube再生 映画『フランス革命』 フランス優勝後のラ・マルセイエーズ
- Comment te dire adieu(さよならを教えて): YouTube再生 訳詩付き動画 歌詞と日本語訳
- Les Champs-Élysées(オー・シャンゼリゼ): YouTube再生 フランス語歌詞付き動画 あの人は今?♪オー・シャンゼリゼ ダニエル・ビダル
- Chantons L'amour♪(シャントン・ラ・ムール): YouTube再生 歌詞と日本語訳 第一興商CM


楽しい時間はあっという間に過ぎる。途中雨に濡れながら帰宅したのは深夜0時少し前のこと。その日撮った写真をLINEのアルバムにして生徒2人に送ってから心地よい眠りについた。


関連記事:

フランス語を教え始めた
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/da69b2a85fb8e10b225867d3fe2731da

フランス語の辞書はどれがいい?
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/04d001a3857a63e9ec104903ccae1a83

発売情報:カシオ電子辞書 XD-Z7200(2018年フランス語モデル)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1b49df68133da2c1093cd31091f73263

スタンダード佛和辞典・和佛辞典
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/fa9b284d2cda36dccf53c6071e057577

お菓子でたどるフランス史、嘘だらけの日仏近現代史
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/44d72a5dbd76dd9ed8ae9556e28e4f04


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Let's Eat Grandma @下北沢(@thelegofgrandma)

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左:Rosaさん 右:Jennyさん拡大

一昨日の晩のちょっとしたハプニング。記録に残しておこう。

いつものように夕食をとってからウォーキングに出かけた。この日は「まいにちフランス語(応用編)」を聞き流しながらうだるような暑さの中を下北沢に向かって歩いていた。

2回目のストリーミング再生が終わるころ西口の井の頭線の踏切にたどりつく。南口商店街まではあと一息だ。けれど暑さでもう限界。いつもは前を通りながら気になっていたバーに入って給水ならぬ「給ビール」をとることにした。「808LOUNGE」というお店。入口の扉はガラスで透けて見えるから、外から見ると混んでいるかどうかすぐわかる。

この日は奥に少しだけ客がいるのが見えた。いつも気になっていたのは、店の中のカラフルな照明である。いつか写真を撮らせてもらってブログに載せたいと思っていた。

808LOUNGEの店内(拡大


入口寄りのカウンター席について生ビールを注文。ひとつ席を挟んで僕の右側では2人の外国人の女の子が何かしゃべっている。初来店だからマスターと少し言葉を交わしながら飲んでいた。その間にマスターにも「1杯どうぞ」という大人の礼儀を忘れなかった。

ふと右を見たときにすぐ隣の女の子がニコニコと会釈したのがきっかけで、彼女たちとの会話が始まった。客は他にいなかったから話しやすい。

彼女たちは2人でバンドを組んでいて、今回が初来日とのこと。フジロック・フェスティバルのためと東京観光するのが目的だという。イギリス人観光客だ。

僕は「ルーブル美術館」はちゃんと「ルーヴル美術館」と書くけれど、フジロック・フェスティバルのことは「富士ロック・フェスティバル」と書いてしまうし、富士山のふもとで開催される音楽イベントだと思っているような人だったから彼女たちが好きそうな音楽の話題にはうとい。(フジロック・フェスティバルの開催地

要するに話題は「東京観光はどこ行ったの?」とか「(フジロック・フェスティバルに出演した)ボブディランは見れた?」とか、あとは自分がイギリス旅行したときの話、80年代にチャールズ皇太子が来日したときの話、ダイアナ妃の話、ロンドンオリンピックの開会式でのエリザベス女王の話、ザ・ビートルズの話、彼女たちがこれまでどの国を旅行したかなど。あと日本にも有名なロックバンドがあるんですよと友人がボーカルをつとめる「Queeness」を紹介した。

下北沢では民泊に滞在しているそうだ。Minpakuという言葉は浸透しておらず、外国人には「Airbnb(エアービーアンドビー)」と言えばわかるようだ。民泊の大手企業である。

しばらくすると僕の左側に日本人の男性客が来店。初来店だという彼も会話に加わった。英語がカタコトだったので僕が通訳した。25歳の彼はロックバンドのマネージャーをしているという。初めて会った彼を彼女たちに紹介し、僕は彼女たちの名前を来て彼に紹介した。僕の隣に座っていたのがJennyさん、そしてその隣がRosaさんという名前だと知った。

そのうち外国人客ばかり増えてきて、店内は英語が公用語になった。アクセントから判断するとほとんどがイギリス人。なぜそうなったのかよくわからないけれど、下北沢にいながら海外体験をしている気分である。

11時をまわり、彼女たちが先に店を出ることになった。せっかくだからと彼も含めて記念撮影を僕は提案。写真はあとで送れるようにTwitterのアカウントを交換することにした。そのときに撮ったのが記事トップの写真である。SNSやブログでの公開についてもOKだという。男性のほうは掲載しないことになったから、JennyさんとRosaさんのところだけ切り出して載せておく。

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見送った後、僕も店を出て40分ウォーキングして帰宅。写真を送ろうとしてフォローさせてもらったTwitterアカウントを見ると、彼女たちのバンド名「Let's Eat Grandma」が。。。そしてアカウントは @thelegofgrandma である。



Twitterを開いて唖然とした。

「もしかしてプロ??」

慌てて「Let's Eat Grandma」でググると、出るわ出るわ。。画像動画もたくさん出てくる。



Let's Eat Grandma
レッツ・イート・グランマ
http://hostess.co.jp/artists/letseatgrandma/
イギリス出身のロサ(Rosa Walton)とジェニー(Jenny Hollingworth)の美少女からなるポップ・デュオ。2013年に結成。BBC Radio 1などで演奏し、NMEをはじめとする有名音楽媒体に取り上げられてじわじわと話題に。2016年6月にデビュー・アルバム『アイ、ジェミニ』をリリース。2018年7月、待望のセカンド・アルバム『アイム・オール・イヤーズ』をリリース。アルバム発売直後にはフジロック・フェスティバル出演のため初来日が決定している。

だとすると「フジロック・フェスティバルのため」というのは「出演するため」だったわけか。。。 ど素人の僕でさえそれくらいの想像はつく。彼女たちがどれくらい有名なのかはわからないけれど、人気のない歌手が出演できるはずがない。そして日本語のページがあるくらいだから。

LET'S EAT GRANDMA(フジロック・フェスティバル)
http://www.fujirockfestival.com/artist/artist.asp?id=5037


そういえばJennyさんが思わせぶりな顔で僕にこう耳打ちしたのを思い出した。

「ここ(日本)では自分たちが歌手だということは言わないようにしているの。」

僕はアマチュアだから謙遜しているのだと受け取っていた。でもそれは違う。「騒がれないようにするため。」だったのだ。相変わらずの頓珍漢の抜け作だ。

せっかくだから動画や音源のプレイリストを載せておこう。(彼女たちの動画をYouTubeで検索

Let's Eat Grandma - Eat Shiitake Mushrooms (Official Music Video)


Let's Eat Grandma - Full Performance (Live on KEXP)


Let’s Eat Grandma I’m All Ears(Music Playlist


Amazon.co.jpでもCDや音声ファイルが購入できるようだ。(検索する


ビールを1杯という軽い気持ちが、思いもよらぬ結果をもたらした真夏の夜の夢さながらの体験である。


後日談(というか翌日談):

翌朝、新宿から中央線に乗った僕の横には大きなリュックサックを背負った外国人女性が2人立っていた。聞こえてくる会話からイギリス英語だとわかる。「また、イギリス人?」そう思いながら昨夜の出来事を思い出していた。

電車が揺れたはずみでリュックサックがぶつかり僕は少しよろけた。「すみません。」という会釈をされたので、「いえいえ、大丈夫ですよ。でも、遠くまで行くのですか?」と話しかけた。

2人は30代のイギリス人。オックスフォード在住だという。そして彼女たちが向かう先は御殿場である。富士登山をするためだ。大きなリュックサックは登山用で、夜のうちに富士山頂を目指し、ご来光を拝むのだと教えてくれた。またもやイギリス人女性2人、そして「富士ロック」という痛い勘違いを思い出した。ひとりは高校で数学を教えているという。

彼女たちとは下車するまでの短い間だったが、2日続けてイギリス人女性2人と巡り合うことになった。因果関係はないはずだだけれど、火星の大接近のことが頭をよぎった。


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半導体デバイスの基礎 (下) バイポーラ・トランジスタと光デバイス

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半導体デバイスの基礎 (下) バイポーラ・トランジスタと光デバイス

内容紹介:
本書は半導体デバイスの動作原理と特性を学ぶための実用的・総合的な教科書である。一般の理工系学生を読者として想定し,特別な予備知識を前提とせずに,徹底的に平易なデバイス物理の解説を行う。下巻ではまずFETと並んで代表的な3端子素子である接合型バイポーラ・トランジスタ(BJT)の基本動作原理を論じた上で,等価回路モデルを用いた解析手法の解説を与える。続いてフォト・ダイオードと太陽電池,発光ダイオード(LED),半導体レーザーなどの光デバイスに関する解説を行い,イメージ・センサーについても簡単に紹介する。末尾の付録ではウエハ(半導体基板)製造からチップのパッケージまで,通常は半導体デバイス物理の成書において解説されることの少ない製造工程の概説や,状態密度や有効質量の数式的な扱い方に関する補遺的解説も収める。
2012年4月刊行、318ページ。(シュプリンガー版は2008年5月刊行)

著者について:
Betty Lise Anderson, Richard L. Anderson
http://www2.ece.ohio-state.edu/~anderson/

訳者について:
樺沢宇紀(かばさわ うき): 訳書: https://adx50150.wixsite.com/kabasawa-yakusho
1990年大阪大学大学院基礎工学研究科物理系専攻前期課程修了。(株)日立製作所中央研究所研究員。1996年(株)日立製作所電子デバイス製造システム推進本部技師。1999年(株)日立製作所計測器グループ技師。2001年(株)日立ハイテクノロジーズ技師。

樺沢先生の訳書: Amazonで検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で373冊目。

上巻中巻に続き下巻をやっと読み終えることができた。僕は電子工学の専門家になるわけではないし、このブログはたくさんの理工系書籍を紹介したいから、おのづと朝読みになってしまう。でも、素粒子物理からマクロな世界の物理や工学がどのように具現されているかを知りたいし、要素還元主義の方針は崩したくない。丁寧に翻訳してくださった樺沢先生には申し訳ないが、ざっと理解できればそれでよいという方針で読ませていただいた。

上巻で半導体の物性を物理的な視点で理解した後、中巻では現実の半導体デバイス、ダイオードと電界効果トランジスタ(FET)の内部でどのようなことがおきているかを、定性的議論(理論)と定量的議論(解析的計算)の2つの側面で学ぶことができる。さらにこの下巻では、より実用的なバイポーラ・トランジスタ(BJT)のほかフォト・ダイオード、太陽電池、発光ダイオード、半導体レーザーなどの光デバイスについて学ぶことができる。

おまけに半導体の製造工程も詳しく解説している。これは「史上最強図解これならわかる!電子回路:菊地正典」で学んでいたので復習になったが、本書のほうがずっと詳しく専門的である。

SPICEの部分については具体的な操作方法は示されないものの、設定するパラメータの値が載せられているので、このソフトの使い方を学べば自分でも試すことができると思う。2016年に次の本が刊行されているので、本で学ぶのならばこれをお読みになるとよいだろう。

回路シミュレータLTspiceで学ぶ電子回路 第2版: 渋谷道雄」(Kindle版)(Googleブックスで閲覧




ネット上の資料で学ぶのであれば、以下のサイトで学ぶとよい。

LTspice(提供元)
http://www.analog.com/jp/design-center/design-tools-and-calculators/ltspice-simulator.html

LTspice
http://easylabo.com/ltspice/

初心者のためのLTspice入門の入門(1)(Ver.3)
http://www.denshi.club/ltspice/2015/03/ltspice1.html

LTspice入門
http://www.geocities.jp/side2949be/LTspice.html

LTspice入門に役立つサイト集
https://matome.naver.jp/odai/2144215117802740101


さて、本書の中身についてである。

上中下「全巻の構成」はリンクを開いていただくとわかる。下巻の章立てはこのようなものだ。

第IV部 バイポーラ・トランジスタ(BJT)

第9章 バイポーラ・トランジスタの静的特性
第10章 BJTの時間依存特性の解析
補遺4 バイポーラ・デバイス

第V部 光デバイス

第11章 光エレクトロニクスデバイス
付録A 半導体デバイスの製造
付録B 状態密度と有効質量
付録C 定数・単位・元素表
付録D 記号一覧・ギリシャ文字
付録E 積分公式
付録F 有用な式
付録G 参考文献リスト


第IV部 バイポーラ・トランジスタ(BJT)

電界効果トランジスタ(FET)」がゲート電極に電圧をかけることでチャネル領域に生じる電界によって電子または正孔の濃度を制御し、ソース・ドレイン電極間の電流を制御するユニポーラ・トランジスタであるのに対し、下巻の「バイポーラ・トランジスタ(BJT)」はN型とP型の半導体がP-N-PまたはN-P-Nの接合構造を持つ3端子の半導体で、電流増幅・スイッチング機能を持つ。電界効果トランジスタなどのユニポーラ・トランジスタと異なり、正・負両極のキャリアをもつためバイポーラと呼ばれる。一般にトランジスタと言えばバイポーラ・トランジスタを指すことが多い。NHKの朝ドラ『ひよっこ』で、みね子たちが向島電機工場で組み立てていたトランジスタラジオ(アポロン AR-64リンク2)に使われていたのもバイポーラ・トランジスタである。

『ひよっこ』ラジオ工場は’60年代の本物の機器を使用「本当にラジオが作れます」
http://www.jprime.jp/articles/-/9747

今日の「ひよっこ」 / 向島電機工場最後の日
https://blogs.yahoo.co.jp/river_office_view/36916904.html

第9章「バイポーラ・トランジスタの静的特性」ではバイポーラ・トランジスタの動作原理を解説する。BJTではエミッタからベースにキャリアが注入される。注入されるキャリアの量はエミッタ-ベース接合におけるポテンシャル障壁の高さに大きく依存するので、ベース電圧に小さな変化を与えるだけで、大きなトランジスタ電流の変化が生じる。

ベース-コレクタ接合の遷移領域がベース側にも拡がりを持つことによって、実際のベース幅(W_B)は冶金的接合位置の間隔によって定義されるベース幅(W_BM)よりも狭くなる。コレクタ電圧を上げるとW_Bが狭くなって電流利得βが高くなる。(Early効果)

パワー・トランジスタなどを高水準注入条件で用いる場合には、大電流に伴う電荷によって実効的なベース幅が拡がる。コレクタ電流が一定の下で、電流を多く流すと電流利得βが低下する。(Kirk効果)

多くの場合において、アナログ回路では高周波動作が、デジタル回路では切り替え(スイッチ)速度が極めて重要になる。第10章「BJTの時間依存特性の解析」では、まずアナログ回路における小信号交流モデルを検討し、次にデジタル回路における切り替え(スイッチ)動作の過渡的特性を調べる。さらにMOSFETと比べた場合のBJTの長所と短所を検証して、同じチップ上で両方のタイプのトランジスタを用いるBiMOSを紹介する。

直前の2つの章ではホモ接合BJTを解説したが、補遺4の「バイポーラ・デバイス」ではヘテロ接合BJTやサイリスタを解説している。ホモ接合BJTと比べて、ヘテロ接合BJTでは注入効率が高いため電流利得βが高く、高周波動作に適している。またホモ接合BJTと同様、ベースの不純物濃度を傾斜させることで動作速度を向上させることができる。ベースに組成勾配を与え、バンドギャップがエミッタ側の端からの距離に依存して狭くなるようにすると、さらに性能が上がる。

npnp型の「サイリスタ」や3端子素子も解説されている。4層ダイオードは一方向には逆方向のバイアス下のダイオードのように働くが、もう一方の方向では途中で自発的に不連続な変化が起こり、低電流・高電圧の状態から大電流・低電圧の状態に遷移する。さらに有用なシリコン制御整流器(SCR)では、外部から与える信号により、信号そのものの増幅ではなく、状態の切り替えを制御できる。またトライアックによって、負荷の電力消費の制御が可能になる。

SPICEによるBJTの動作解析も紹介されている。BJTを扱う水準は2つある。ひとつはEbers-Mollモデルで、電流利得は定数となり、E-B接合電流だけが考慮される。Ebers-MollモデルとGummel-Poonモデルの比較した例が示されている。

バイポーラ・トランジスタのモデリング
http://jaco.ec.t.kanazawa-u.ac.jp/edu/vlsi/spidev/bjt.html

SPICEモデルとライブラリ
http://ednjapan.com/edn/articles/1403/24/news010_2.html


第V部 光デバイス

インターネットが身近に利用できるようになったことは、光通信技術に負うところが大きい。第V部の第11章では光技術における半導体の役割を解説する。光検出器(フォト・ダイオード)、太陽電池、発光ダイオード、半導体レーザー、画像素子など、一般に広く普及している光デバイスが取り上げられている。

付録Aの「半導体デバイスの製造」では、現在の半導体デバイスの製造における結晶成長から、素子製造、パッケージ工程までの概説を写真付きで提示している。半導体結晶の成長、不純物添加、エピタキシャル成長、光リソグラフィを用いたパターン形成などだ。IC上の導電体としては金属もしくは高濃度不純物を含む縮退シリコンが用いられ、二酸化珪素は有用で便利な絶縁体となる。半導体デバイス製造には電気工学者だけでなく、物理学者、結晶学者、化学者、材料科学者、機械およびパッケージ技術者、その他多くの専門家が必要とされている。

付録Bの「状態密度と有効質量」では、半導体の伝導体や価電子帯にある電子の状態密度を導出する。それからGaAsやSiのような半導体の状態密度有効質量を決定する。まず1次元自由電子の状態密度関数を得る。そこから2次元および3次元の場合へ議論を展開する。


「訳者あとがき」で樺沢先生は次のようにお書きになっている。

本書の特長は著者が波動対抗学者の視点から捉えたデバイス物理の基礎を、初学者向けに臆することなく徹底的に論じているという。既存の類書は、特に基礎的な部分の記述に関して、入念に読んでも十全なイメージが得られずに不満が残るものが多い。その点、本書は著者の知的な正直さ(著者自身の理解の水準を誤魔化さないこと)と論述の技量と誠意を兼ね備えている。類書とは異なり、本書は著者の見地が明確に提示され、かつリーダブルで、少なくとも国内で従来にないタイプの教科書である。


樺沢先生、上巻、中巻に比べてさらに難しいと感じましたが、教育的な本を翻訳していただき、ありがとうございました。

半導体デバイスの基礎 (上) 半導体物性」(紹介記事
半導体デバイスの基礎 (中) ダイオードと電界効果トランジスタ」(紹介記事
半導体デバイスの基礎 (下) バイポーラ・トランジスタと光デバイス

  

シュプリンガー版も含めて: Amazonでまとめて検索


翻訳の元になった原書はこちら。2004年に刊行された。

Fundamentals of Semiconductor Devices




その後、原書のほうは昨年改訂されたばかり。いま買える最新のものは第2版である。

Fundamentals of Semiconductor Devices 2nd Edition




関連記事:

半導体デバイスの基礎 (上) 半導体物性
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ef603af1cd207a1b80be4110b91066b3

半導体デバイスの基礎 (中) ダイオードと電界効果トランジスタ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c5a743de58e41a9ae2bd7e9b7357649e


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半導体デバイスの基礎 (下) バイポーラ・トランジスタと光デバイス



第IV部 バイポーラ・トランジスタ(BJT)

第9章 バイポーラ・トランジスタの静的特性
- はじめに
- 出力特性(定性的議論)
- 電流利得
- 理想的なBJTのモデル
- BJTにおける不純物濃度の勾配
- 基本的なEbers-Moll直流モデル
- BJTにおける電流集中とベース抵抗
- ベース幅の変調(Early効果)
- なだれ破壊
- 高水準注入
- ベース押し出し(Kirk効果)
- エミッタ-ベース接合における再結合
- まとめ
- 付録の参考文献リストについて
- 第9章の参考文献
- 復習のポイント
- 練習問題

第10章 BJTの時間依存特性の解析
- はじめに
- Ebers-Moll交流モデル
- 小信号等価回路
- BJTにおける蓄積電荷容量
- 周波数応答
- 高周波トランジスタ
- BJTのスイッチ動作
- BJTとMOSFETとBiMOS
- まとめ
- 付録の参考文献リストについて
- 第10章の参考文献
- 復習のポイント
- 練習問題

補遺4 バイポーラ・デバイス
- はじめに
- ヘテロ接合バイポーラ・トランジスタ(HBT)
- Si-BJTとSiGeベース、GaAsベースHBT
- サイリスタ(npnp型スイッチ)
- シリコン制御整流器
- CMOS回路における寄生npnpスイッチ
- BJTへのSPICEの適用
- SPICEのBJTへの応用例
- まとめ
- 補遺4の参考文献
- 復習のポイント
- 練習問題

第V部 光デバイス

第11章 光エレクトロニクスデバイス
- はじめに
- 光検出器(フォト・ダイオード)
- 発光ダイオード(LED)
- レーザー・ダイオード
- 撮像素子(イメージ・センサー)
- まとめ
- 付録の参考文献リストについて
- 第11章の参考文献
- 復習のポイント
- 練習問題

付録A 半導体デバイスの製造
- はじめに
- 基板の製造
- 不純物添加
- リソグラフィ
- 導電体と絶縁体
- クリーン・ルーム
- パッケージ

付録B 状態密度と有効質量
- はじめに
- 1次元自由電子
- 2次元自由電子
- 3次元自由電子
- 周期的な結晶場における擬似自由電子
- 状態密度有効質量
- 伝導有効質量
- 有効質量まとめ

付録C 定数・単位・元素表

付録D 記号一覧・ギリシャ文字

付録E 積分公式

付録F 有用な式

付録G 参考文献リスト

訳者あとがき
索引

「AI(人工知能)と物理学」:1日目

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「AI(人工知能)と物理学」2018年度日本物理学会科学セミナー
日時:2018年8月11日(土・祝)、12日(日)
場所:東京大学駒場キャンパス 数理科学研究科棟 大講義室
https://www.jps.or.jp/public/seminar/scisemi2018.php

1日目
はじめに:川村 光(日本物理学会会長)
情報処理技術としてのAI:中島 秀之(札幌市立大学 学長)
思考力を競うゲームの人工知能技術発展の歴史と現状:保木 邦仁(電気通信大学大学院情報理工学研究科 准教授)
広域宇宙撮像データを用いたビッグデータ宇宙論:吉田 直紀(東京大学大学院理学系研究科 教授)
量子コンピュータが人工知能を加速する:大関 真之(東北大学大学院情報科学研究科 准教授)
深層学習と時空:橋本 幸士 (大阪大学大学院理学研究科 教授)

2日目
深層学習とは何か、そしてどんなことが出来るようになっているのか:瀧 雅人(理化学研究所数理創造プログラム(iTHEMS) 上級研究員)
多層畳み込みニューラルネットワークで求めた量子相転移の相図:大槻 東巳(上智大学理工学部機能創造理工学科 教授)
人工知能と脳科学:甘利 俊一(理化学研究所脳神経科学研究センター 特別顧問)
量子力学の問題をニューラルネットワークで解く:斎藤 弘樹(電気通信大学大学院情報理工学研究科 教授)
AI は物理において何の役に立つか?:寺倉 清之(物質・材料研究機構 名誉フェロー・エグゼクティブアドバイザー)
おわりに:迫田 和彰(日本物理学会科学セミナー担当理事)


この間の土日は東大駒場キャンパスで開催された「AI(人工知能)と物理学」という講演会を聴講してきた。2018年度日本物理学会科学セミナーとして行われた催しだ。申し込みしたときからとても楽しみにしていた。朝から夕方まで興味のあるテーマが2日間たっぷり聞くことができ、非常に濃い時間を過ごすことになった。

各先生方の講演内容と感想をまとめて書いておこう。録音、録画、写真撮影は禁止。配布された講演のスライドだけが記憶再生の手がかりだ。過去の例を見る限り(時間はかかるかもしれないが)動画として公開されると思う。


1日目

情報処理技術としてのAI:中島 秀之(札幌市立大学 学長)

「情報は物質、エネルギーに並ぶ世界観」という切り口で、農耕社会から工業社会、情報社会へと至る技術史を紹介。そしてその先鋒にAIがある。人工知能の歴史を振り返り、ニューラルネットワークや深層学習へと話を展開された。特に印象的だったのは「環境との相互作用を重視する知能観」という考え方だ。AIを含む情報処理はそれだけで閉じてはいないという考え方のこと。視覚的な例として先生の著書「知能の物語」という本のタイトルが薄墨で書かれているスライドを提示された。

次の切り口は「視点の違い」である。科学と工学の視点の違い、学と術(日本語と英語)の違いを例示され、科学の仮説検証ループの手法と環境との相互作用を加味した「Future Noema Synthesisダイヤグラム」を紹介された。

そして「まとめ」ではシンギュラリティ、機械学習の問題点を述べた後、今後私たちは「未来を構成的に作り出すことのできる知能」を実現するためにトップダウン、ボトムアップ、環境との相互作用(思考、概念操作)の3つをループしながら進めることが必要だとお考えを述べられた。The best way to predict the future is to DESIGN it. - 未来は予測するものではなくデザインするものだ、情報処理は想像力の勝負であるということだ。

感想:目先のことにとらわれたり、実現した新技術やでてきた問題点に一喜一憂するのではなく、「知能観」を深くとらえ工学的にデザインするという、僕が気がつかなかった視点を知ることができた。「何をどうしたいのか」ということだけでなく「どのように未来を創っていくか」という意図が認識をガイドしていくのだ。これは科学より工学に顕著にあてはまると思った。

知能の物語:中島秀之


中島先生の著書: Amazonで検索


思考力を競うゲームの人工知能技術発展の歴史と現状:保木 邦仁(電気通信大学大学院情報理工学研究科 准教授)

Bonanzaの開発者のお話を聞くということだけでワクワクした。僕もこの将棋ソフトを使わせていただいている。(参考記事:「将棋ソフト(Bonanza、GPS将棋、Apery)」)

囲碁、将棋を中心にゲーム人工知能の歴史とアルゴリズムを解説された。最適戦略の求め方、将棋の人工知能、囲碁の人工知能の順である。そしてバックギャモンやオセロでの例も解説された。

アルゴリズムや局面評価は本で学ぶより話として聞いたほうがずっとわかりやすい。「人工知能はどのようにして 「名人」を超えたのか?: 山本一成」や「人工知能はいかにして強くなるのか?: 小野田博一」を読んでいたので、よい復習になった。

感想:僕の人工知能研究は対戦型ゲームを中心に進めていくつもりなので、保木先生のお話を聞くことでモチベーションを大いに高めることができた。

ボナンザVS勝負脳―最強将棋ソフトは人間を超えるか:保木邦仁、渡辺明」(Kindle版
人間に勝つコンピュータ将棋の作り方:保木邦仁ほか
 


広域宇宙撮像データを用いたビッグデータ宇宙論:吉田 直紀(東京大学大学院理学系研究科 教授)

宇宙物理学の最前線でAIがきわめて有効に活用されている例が紹介された。現代では天体撮影技術が自動化され、厖大なデータが日々蓄積されている。そこに写っている画像を目視で検出、分析するのはもはや不可能だ。そこで利用されるのがAIを利用した画像認識技術である。

具体例としては機械学習による超新星検出、Ia型超新星の自動分類だ。Ia型超新星は明るさがほぼ同じ「標準光源」であるから、宇宙の加速膨張をより精密に観測できることが期待されている。そして宇宙観測の将来計画として次のものが紹介された。

- Large Synoptic Survey Telescope
- 欧州宇宙機関ESAのユークリッド
- NASAのWFIRST宇宙望遠鏡計画

感想:ビッグデータ宇宙サイエンスはすでに始まっていることを知って唖然とした。AIなくしてこの分野はもはや成り立たなくなっている。素晴らしいことであり、今後新たな発見が次々ともたらされることだと思うが、アマチュア天文家が活躍できる時代は終わってしまったのかなと少し寂しくなった。

ムラムラする宇宙:吉田直紀」(Kindle版


吉田先生の著書: Amazonで検索


量子コンピュータが人工知能を加速する:大関 真之(東北大学大学院情報科学研究科 准教授)

講演タイトルと同じ書名の本をお書きになった大関先生による講演だ。量子アニーリングについて僕はほとんど学んでいなかったのでよい機会となった。現時点で量子コンピュータをいちばん早く実用化することが期待される技術である。実現されつつある量子ビット数はIBMの50 qubits、Intel 49 qubits、Google Bristlecone 72 qubitsと増えつつある。

量子アニーリングの計算手法を解説され、これが「組み合わせ最適化問題」に対する「汎用的解法」であることを解説された。これを可能とするD-Waveは世界初の商用量子コンピュータであり、2048 qubitsの量子ビットで動作する。今後5640 qubitsのPegasus P16が開発される予定だ。具体例としては交通量最適化問題を紹介された。

そして今後の研究のために組織されたT-QARD (Tohoku University Quantum Annealing Research and Development)とその目的を紹介された。

感想: 量子コンピュータの威力を私たちが最初に目にし、恩恵を感じるのは、おそらく量子アニーリングの手法を使った最適化問題においてである。世の中には最適化問題で解決することが、いったいどのくらいあるのだろうと想像を巡らせるだけで楽しくなる。メリハリの効いた語り口で、とても説得力がある講演だと思った。人工知能とどのように関わるのかは、僕にはわかりにくかった。

量子コンピュータが人工知能を加速する」(Kindle版
量子アニーリングの基礎
 

大関先生の著書: Amazonで検索


深層学習と時空:橋本 幸士 (大阪大学大学院理学研究科 教授)

日本物理学会主催のセミナーとはいえ、会場にはAIにだけ関心を持っている受講者がたくさん来ている。橋本先生の講演はそのような方にもわかりやすいものだった。次のようにお話が展開される。最初の2つは物理学ファンにはお馴染みの内容。

- 基礎物理学の宿題:量子+重力
- 解決提案:超ひも理論とホログラフィー
- 進行形:深層学習と時空創発

橋本先生は人工知能を学び始めてから1年2か月しか経っていないとおっしゃっていた。3つめの深層学習と時空創発は時間が足りず、ごくあっさりした解説になったが、資料にある説明スライドを見る限り、次のようなものらしい。

技術的な動機は「逆問題を解くことによる空間創発」である。そして物理学的動機はホログラフィーを解明するために時空がどう創発するか、多層ネットワークがどのように空間をなすかということだ。ホログラフィーと深層学習の中の概念を対応付け、時空が深層学習から創発するグラフを最後に掲載されている。

僕はひとつ質問させていただいた。量子重力の歴史の中で2017年にアインシュタイン方程式(非線形)の導出がされたわけだが、これと1974年に米谷、ScherkとSchwarzにより弦理論が重力を含むことを発見したこととの違いについて。2013年に放送されたNHKの「>神の数式」では超弦理論の数式がアインシュタイン方程式を含むことが解説されていたからだ。橋本先生のお答は「2017年の導出は弦理論とは関係ない量子重力理論によるもの」というものだった。

感想:時空の創発のところはよくわからなかったけれど、とても面白い発想、試みだと思った。この部分だけ別の機会に講演してほしいところだが、もしかするとまだ発展途上でもう少し時間がかかるのかもしれない。

AIの勉強のために橋本先生は次の2冊を紹介されていた。

これならわかる深層学習入門:瀧雅人」(Kindle版
機械学習入門:大関真之」(Kindle版
 

橋本先生の著書2冊。

超ひも理論をパパに習ってみた:橋本幸士」(Kindle版)(紹介記事
「宇宙のすべてを支配する数式」をパパに習ってみた:橋本幸士」(Kindle版)(紹介記事
 

橋本先生の著書: Amazonで検索


1日目はここまでである。


その他

1日目、僕の席の両隣は女性だった。

おひとりはいつもツイッターで交流している科学技術ジャーナリストのの山田さん(@kumiyamada)である。

そしてもうひとりはこの日知り合ったアダチさん(@adc_design_labo)である。アダチさんはデザインのお仕事をされていて、来月開催される「世界を変えた書物展」で展示される書物を書籍化した「図説 世界を変えた書物 科学知の系譜」の表紙をデザインされた。宣伝しておこう。

図説 世界を変えた書物 科学知の系譜



アダチ・デザイン研究室
https://www.adachi-design-lab.com/


2日目の講演内容は次回の記事で紹介しよう。


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「AI(人工知能)と物理学」:2日目

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「AI(人工知能)と物理学」2018年度日本物理学会科学セミナー
日時:2018年8月11日(土・祝)、12日(日)
場所:東京大学駒場キャンパス 数理科学研究科棟 大講義室
https://www.jps.or.jp/public/seminar/scisemi2018.php

1日目
はじめに:川村 光(日本物理学会会長)
情報処理技術としてのAI:中島 秀之(札幌市立大学 学長)
思考力を競うゲームの人工知能技術発展の歴史と現状:保木 邦仁(電気通信大学大学院情報理工学研究科 准教授)
広域宇宙撮像データを用いたビッグデータ宇宙論:吉田 直紀(東京大学大学院理学系研究科 教授)
量子コンピュータが人工知能を加速する:大関 真之(東北大学大学院情報科学研究科 准教授)
深層学習と時空:橋本 幸士 (大阪大学大学院理学研究科 教授)

2日目
深層学習とは何か、そしてどんなことが出来るようになっているのか:瀧 雅人(理化学研究所数理創造プログラム(iTHEMS) 上級研究員)
多層畳み込みニューラルネットワークで求めた量子相転移の相図:大槻 東巳(上智大学理工学部機能創造理工学科 教授)
人工知能と脳科学:甘利 俊一(理化学研究所脳神経科学研究センター 特別顧問)
量子力学の問題をニューラルネットワークで解く:斎藤 弘樹(電気通信大学大学院情報理工学研究科 教授)
AI は物理において何の役に立つか?:寺倉 清之(物質・材料研究機構 名誉フェロー・エグゼクティブアドバイザー)
おわりに:迫田 和彰(日本物理学会科学セミナー担当理事)


1日目の講演に続き、2日目は次のような講演が行われた。


2日目

深層学習とは何か、そしてどんなことが出来るようになっているのか:瀧 雅人(理化学研究所数理創造プログラム(iTHEMS) 上級研究員)

瀧先生は深層学習が機械学習の一例であることを述べ、機械学習に共通する考え方、そしていちばん単純な回帰マシンがデータを使ってどのように学習するかを解説された。次に深層学習のしくみをニューラルネットワーク、人工ニューロンの例を具体的に数式で示しながら紹介。1965年に甘利俊一先生がニューラルネットの学習法を初めて提唱して以来、長い歴史があった。歴史を示しながら2012年に大発展するまでのことを紹介された。

次に深層学習の性能がどのように改善していったかを、画像認識の分野を例にとり紹介。次に画像からキャプションを生成する例、白黒画像のカラー化やターナーの絵画をゴッホ風に変換するなど画像翻訳をする例を紹介された。

最後に深層学習がまだ完全でないことを敵対的事例を見せることで示してくださった。具体的にはパンダが写っている写真に敵対的画像を貼り付けるとパンダだと認識できなくなるという事例である。また、データによる学習だけだとバイアスがかかったものを学習することになり、画像を誤認識する原因になるということも解説された。

感想:画像認識技術を直接見せていただいたことで、問題点をよく理解することができた。深層学習は素晴らしい技術だが、まだまだ満足のいくものではない。ブラックボックス化したニューラルネットワークであるため、問題を解決する方法を見つけるのも至難の業なのだとわかった。

これならわかる深層学習入門:瀧雅人」(Kindle版



多層畳み込みニューラルネットワークで求めた量子相転移の相図:大槻 東巳(上智大学理工学部機能創造理工学科 教授)

「AIと物理学」というテーマに沿った講演内容だった。物性物理学の研究に深層学習を使うのだ。たとえば金属と絶縁体では波動関数が異なっている。金属相と絶縁体相それぞれにつき数千の固有関数を用意して、多層ニューラルネットワークに教師あり学習をさせるのである。つまり、理論的に計算される数千の値によって「金属」と「絶縁体」の違いを学習させるのだ。そして半金属についても同じことを行なう。この計算によって得られるのは「相図」であり、波動関数の3次元的な分布である。

学習(訓練)した結果を量子パーコレーションに適用する。アンダーソン・モデルで訓練した多層ニューラル・ネットワークを量子パーコレーションの波動関数に適用して相図を描き、金属か絶縁体かを判定させることができるのだ。また、同じ手法を3次元のトポロジカル絶縁体にも適用して相図を描く例も紹介された。

今のところ、この手法はよくわかっている問題に適用され、有効性が確認できたという研究が多いが、今後は未知の結果を出さないと一過性のブームで終わってしまうということを懸念されているという。

感想: 科学教養書がほとんどない専門分野の研究だけに、理解するのが難しかった。しかし金属と絶縁体の違いが、電子の波動関数の局在化と関係していることは、直観的に理解できるものだから、相図や3Dの分布を図示していただいたことで、深層学習がどのように利用されているのががわかった。

大学生のための基礎物理学:大槻東巳
現代物理最前線2(不規則電子系の金属-絶縁体転移)
 


人工知能と脳科学:甘利 俊一(理化学研究所脳神経科学研究センター 特別顧問)

人工知能研究の第一人者、ニューラル・ネットワークの発案者、大御所の登場である。甘利先生は1日目、2日目を通じて僕の席の左側前方5メートルあたりの関係者席で講演を聞いていらっしゃった。先生の著書はこれまで「情報理論:甘利俊一」や「脳・心・人工知能 数理で脳を解き明かす:甘利俊一」という記事で紹介している。

甘利先生のお話は時をはるかに遡って138億年前のビッグバンから始まった。悠久の時の流れの後、地球誕生、生命の誕生を経て、5億年前にようやく脳や神経系が発生する。そして人類の誕生は700万年前だ。この大きな時の流れは、物質の法則から生命の法則、さらに文明の法則への過程でもある。このようにして私たちの脳には心や情報が備わっていった。

次に先生は人工知能と脳のモデルを比較しながらそ歴史を説明された。1956年に始まった第一次ブーム、1970年に始まった第二次ブームを経て、2010年の第三次ブームに至って現在さかんに研究されている深層学習や確率推論が行われるようになったのである。

ここから解説は数式を使った専門的なものになった。ニューロンの数理モデルの発展を紹介し、そのフェーズごとにしくみや長所を説明していく。言葉による説明は理解できるものの、会場にいた多くの受講者には数式は理解できないものだったのではないかと思われる。僕は数学専攻だったので、どうにかついていくことができたが、モデルが実際どのように学習を実現していくのかは想像できなかった。たとえて言えば漸化式を見て、数列のひとつひとつを思い浮かべることが困難なのと似ている。

最後の3分の1ほどから数式なしの説明に戻り、講演は会場の大多数が理解できるものになった。数理脳科学の目的、人工知能は何をどう実現するか、意識や自由意志の話、人工知能が脳に学ぶべきこと、心を持ったロボットがつくれるか、人工知能と倫理、社会への影響、シンギュラリティ、日本のAIの進むべき道、人工知能と未来社会の設計などについてである。

感想:「人工知能が暴走するのではなく、人間が人工知能を暴走させるのだ。」とおっしゃっていたのが印象的だった。商売や経済優先、欲に目が眩んでそうしてしまうことへの警鐘としておっしゃっていた。

脳・心・人工知能 数理で脳を解き明かす:甘利俊一」(Kindle版)(紹介記事


甘利先生の著書: Amazonで検索


量子力学の問題をニューラルネットワークで解く:斎藤 弘樹(電気通信大学大学院情報理工学研究科 教授)

斎藤先生の講演も「AIと物理学」というテーマに沿ったものだった。量子力学の波動関数をニューラルネットワークで近似するというものだ。

先生はまず量子力学の初歩、1次元のシュレディンガー方程式や基底状態、調和振動子を解説し、ニューラルネットワークで関数近似を行なう方法を紹介する。

次の多変数関数に方法を一般化して説明された。多粒子系の波動関数がニューラルネットワークで表現できるのだ。ニューラルネットワークを多層化し、隠れユニットの数を増やせばどのような関数も表現できるのだが、意外と少数の隠れユニットで実現できることが確認された。

この方法によって何ができるのかが重要である。まず1次元の量子多体問題、スピン系の基底状態の計算のシミュレーションを紹介された。次に格子系への応用を紹介。

この方法のメリットは汎用性が非常に高いことである。さまざまな波動関数が同種のネットワークで表現できるからだ。ネットワークを訓練することで粒子数が違う場合の入力データも扱えることになる。これが汎化性能である。

今後の課題としては、時間発展や励起状態を計算できるようにすること、他のさまざまな量子多体系に応用することがあるそうだ。

感想:数式が比較的やさしいものだったので、容易に理解することができた。しかし、この手法が使われて新しい何かがわかるようになったのかが僕にはよくわからなかったので、次のような質問をさせていただいた。

「この方法が導入される前には、どのような方法がとられていたのでしょうか?」という質問だ。先生は「これまではモンテカルロ法を使って計算していた。」と教えてくださった。なるほどとは思ったが、考えてみるとモンテカルロ胞では「訓練」や「学習」はすることができない。今回紹介されたニューラルネットワークの方法とモンテカルロ法では一長一短があるのだなと僕は思った。


AI は物理において何の役に立つか?:寺倉 清之(物質・材料研究機構 名誉フェロー・エグゼクティブアドバイザー)

寺倉先生の講演も「AIと物理学」というテーマに沿った内容だった。先生のご専門は物性物理学、特に新物質や新材料の研究である。

先生はまず物理研究の方法を歴史をたどる形で解説された。科学の発展の初期においては帰納的方法(+仮説的推論)がとられ、原理や法則が確立してくると演繹的方法の時代を迎える。そして現代は情報技術、自動化技術の発展により新帰納的方法の時代を迎えている。現代の科学研究の4本柱は「実験」、「理論」、「計算科学」、「データ科学」であるという。

このことを踏まえ、次に新奇物質探索の話が始まる。1957年にBCS理論が発表された後、物性物理の終焉説がおこったそうだ。ところが1972年、P.W.アンダーソンの「More is different.」という言葉に象徴されるように、物性物理は悲観論から回復し、その後カーボンナノチューブやフラレン、銅酸化超伝導体、鉄系超伝導体、トポロジカル絶縁体など次々と新物質が発見されていく。つまり物質を設計する時代になった。

物質・材料から因果関係を演繹し、その物性や機能を導くことを順問題とすると物質・材料設計は「逆問題」である。つまり求められる物性や機能を設定し、相関関係を使うことで帰納的に原因が解明され、どのような物質や材料になるかが求められる。これをするために用いられるのが機械学習であり、深層学習なのだ。

具体的には、次のような体系で分類される方法で行う。





そして実際に行わている次の方法が詳しく解説された。

- 回帰解析を利用した物質設計
- モンテカルロ木探索+RNNによる分子設計
- AI(クラスター解析による周期表の再現)

AIによってわかるのは相関関係である。因果関係ではない。チコ・ブラーエは膨大な観測結果(ビッグデータ)をケプラーに遺した。ケプラーが得たのは観測データの相関関係である。それにもかかわらずケプラーが惑星の3法則を導き、これがニュートンの万有引力の法則や力学3法則に結びついたわけだが、AIはケプラーやニュートンが成し遂げたように因果関係を明らかにしたブレイクスルーを可能にしてくれるわけではない。この話がとても印象的だった。

そして、先生は次のように総括された。

AIを使っても全く新奇な物質の発見や因果律の根本の発見という物理の根幹のところへの処方箋は相変わらず見えない。今のAIは問題解決のための専用人工知能である。人間の知能のような、意味もわかり問題設定もできるのは汎用人工知能である。

とすると、汎用人工知能が開発されない限り上の2つの物理の根幹の問題がAIで解決されることはないのだが、それでもAIは役立つ。大きな革新は、小さい成果の積み重ねの上に実現するとしたら、AIはそれらの積み重ねに貢献することによって、人間の知能による革新に役立つことは考えられる。

感想: 最先端の研究へAIが応用されているという意味で、とても説得力がある内容だった。そのぶん難しく、そして2日目の最後の講演ということで疲れて集中するのが大変だった。新物質の設計ということ自体が僕には目新しいし、同じ手法が新薬の設計や有機化学にも使えるのかなと思ったりした。もし僕が研究できる立場になることができるとしたら、2日間の講演内容の中で、これがいちばんやりたいことだと思う。

物質の電子状態 上
物質の電子状態 下
 

固体‐構造と物性 (現代物理学叢書)
物質科学の発展〈3〉破壊・フラクチャの物理

 


2日目の講演はこのようなものだった。

GPUマシンでないふつうのパソコンでも、人工知能を試す実験がたくさんあることがわかったので、僕の興味は倍増した。とりあえず将棋AIを研究していこう。画像認識も面白そうだ。

各講演の最後の10分間は質疑応答にあてられていた。活発に質問が飛んでいたが、質問する多くの方が決められたように「素朴な質問ですが。。。」と前置きして質問していたのが可笑しかった。素朴な質問って素人の質問ということなのだろうけれど、素朴でない質問というのはどういうものだろう?とか考えてしまう。辞書をひくと「深く検討されていない単純な質問、常識的な物事に対する疑問の投げかけなどを指す表現。」ということのようだ。

知的刺激に満ちた2日間を過ごすことができました。講演をしてくださった先生方、日本物理学会の担当者、会場でのスタッフのみなさま、ありがとうございました。


その他

東大駒場キャンパスの敷地には古風な建物がいくつかある。昭和の初めに建てられたものであることが「東京大学の建造物(駒場Iキャンパス)」というページを見るとわかる。この記事を書いている今日は終戦記念日だ。これらの建物は東京大空襲で被災をまぬがれたことを思うと貴重であり、後世に遺してもらいたいと思った。このように恵まれた環境で学べる東大生は幸せである。

1日目の講演会の前に撮影した写真を載せておこう。

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関連記事:

「AI(人工知能)と物理学」:1日目
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c8bc23afafd9e9b3d7eff92b781d1f8b


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岡潔/多変数関数論の建設:大沢健夫

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岡潔/多変数関数論の建設:大沢健夫

内容紹介:
岡潔は1936年から1953年にかけての9本の論文で多変数関数論の主要な問題を解決して、この分野の基礎を築きましたが、始めから明確な研究目標があったわけではなく、当時の解析学の大要を書いたグルサの本で多変数関数論の章を読んだときの印象を「霧ながら大きな町に出りけり」であったと回想しています。その地点から多変数関数論の建設を行うには、荒れ地の岩を穿つような腕力を要したことが想像されます。
岡潔の数学は、一口にいえば多変数の解析関数というものの本性を明らかにするものです。その神秘のヴェールを一つ一つ剥ぎ取っていった岡の理論の中で最も有名なのが不定域イデアルの理論であり、解析関数の世界をユークリッドの互除法に相当する命題(岡の連接性定理)で統制するものです。岡の名を不滅にしたこの理論は、第一論文で示された「上空移行原理(拡張定理)」を一般化し、深める過程で発見されたものでした。また、この一連の研究には「ハルト―クスの逆問題の解決」という究極の目標がありました。それはリーマンやハルト―クスからさらに進んで存在域の概念をさらに拡張・洗練することにより、多変数関数の母なる大地としてのリーマン面の一般化を完全な形で確立することでした。岡は結局これを最終的な形で解くことはできませんでしたが、そのために積み上げた理論は今日の数学に大きな影響を与えています。本書の解説が、このように素晴らしい岡理論への入門となれば幸いです。興味を持たれた読者は、足りないところぜひ専門書や岡のオリジナル論文で補ってください。(本書「はじめに」より抜粋)
2014年10月刊行、227ページ。

著者について:
大沢健夫
1951年富山県で生まれる。1978年京都大学理学研究科博士課程前期修了。1981年理学博士。1978年より1991年まで京都大学数理解析研究所助手、講師、助教授をへて1991年より1996年まで名古屋大学理学部教授。1996年からは名古屋大学多元数理科学研究科教授。専門分野は多変数複素解析。

岡潔: ウィキペディアの記事
岡潔文庫(奈良女子大学): 開く
岡潔関連の本: Amazonで検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で374冊目。

多変数関数論への興味の発端は今年の2月に放送された読売テレビ開局60年スペシャルドラマ 「天才を育てた女房」(ブログ記事)である。

岡潔自身による本や人物像を綴った一般読者向けに書かれた本も読んでみたいが、まずは彼が切り拓いた世界がどのようなものか、論文は無理だとしても数学として業績を知っておきたい。そのような気持ちで買ってみた多変数関数論の入門書である。岡潔の人生の物語と彼がたどった数学を交互につづりながら進んでいく本だ。

多変数関数論の三大未解決問題とは「レビの問題」、「クザンの問題」、「近似の問題」のことで、すべて解決したのが岡潔である。(「ハルト―クスの逆問題」というのは「擬凸状の領域は正則領域だろうか」という問題で、レビの問題とは別の問題である。)

本書の「あとがき」に著者は次のように書いている。

本書を手に取られた方の多くがおそらくご存知のように、「数学者岡潔」については既にすぐれた著作があり、それらのどれに増してオリジナルの「春宵十話」や「人間の建設」が岡先生の人物像を如実に伝えています。しかしながら、高校卒業程度の数学の素養を持つ読者のために「岡潔の数学」を主題として語った本はまだないということで、多変数関数論を専攻する筆者に白羽の矢が立ったというわけでした。

それなら僕でも読めると思い購入。すらすらと楽しく読み始めた。章立ては次のとおりである。

第1章 岡理論の遠景
第2章 岡の連接性定理
第3章 上空移行の原理
第4章 岡の原理とその展開
第5章 難問解決は突然に
第6章 イデアルの絆
第7章 峠の先の歩み

第1章の終わりまでで1変数の複素関数論の解説が終わる。理工系の学部で学ぶ教科書1冊の範囲が終わるのが35ページ目なのだ。もちろん僕はすでに学んでいることだから、復習としてちょうどよかったのだけど「高校卒業程度の読者」と書いてあったのを思い出した。

おそらく「旧制高校卒業程度の読者」をイメージしているのだろうか?だとしたら現代の大学1、2年生のことだから、高校卒業程度といってもあながち嘘にはならない。でも著者の大沢先生は1951年生まれだから66歳のはず。旧制高校の世代ではない。

おかしいぞと思いつつ読み進める。第2章「岡の連接性定理」のあたりからすでに怪しくなってきた。話の筋はわかるのだけど、証明が簡潔すぎて厳密に追うことができない。

概念の定義や定理を数式で紹介するだけで、岡潔がどのような道筋をたどって進んだかを紹介する本なのだなと思えてきた。数学の部分の記述は学部1、2年の位相空間論や解析概論レベルを超えている。すらすらと読めるのは岡潔の研究とその時代の数学史を文章で述べた箇所だけ。全体の5分の3くらいに相当する。


第2章はいわゆる「岡の連接性定理」の解説。岡の第7論文で確立された定理で、1950年代に大きく展開した「層コホモロジー論」の要になる定理だ。連接性定理は層の概念と切り離して説明できるので、いちばん最初に取り上げられている。

拡大:岡の連接性定理


この章のキーワード: アーベル関数、ワイアシュトラスの予備定理、ヤコービのテータ級数、ヤコービの逆問題、ワイアシュトラスの割算定理、ラスカーの定理、連接性定理、岡の連接性定理、不定域イデアル


第3章は第1論文に立ち戻る。この論文で岡は独創的な視点を多変数関数論に持ち込んだ。この段階で発見された命題がひとつの核となって岡理論が成長し、第7論文で結実する。そして最終的に第9論文で結実するのだ。この「上空移行原理」とは「多変数を多々変数に帰着させる」という一見突飛な考え方、問題を高い次元の空間に持ち込んで単純化しようというアイデアである。第3章の終わりで本書は半分くらい。

この章での解説の中で紹介されている「ワイヤシュトラスの乗積定理」と「ミッタク・レフラーの定理」は次のようなもの。

拡大:ワイヤシュトラスの乗積定理


拡大:ミッタク・レフラーの定理


この章のキーワード: 上空移行の原理、ワイヤシュトラスの乗積定理、ミッタク・レフラーの定理、存在域、正則領域、多重領域(リーマン領域)、凸、H擬凸、擬凸、正則凸、ルンゲの定理、有理凸性、多項式凸、岡・ヴェイユの定理、ポアンカレの問題、乗法的なクザンの問題、加法的なクザンの問題


第4章「岡の原理とその展開」は、トポロジーの歴史や初歩的な解説から始まる。岡の第3論文は「乗法的なクザンの問題」を扱ったものだが、その内容は複素解析とトポロジーの接点に位置している。具体的には正則関数を作る問題と連続関数を創る問題が、条件次第では同等であることが示されている。例えていえば、ひとつの領域が関数たちにとって住み良いところかを、連続関数と解析関数それぞれの立場に立って比較した結果を論じたものだ。これは「連続解があれば解析解もある。」という「岡の原理」のことだ。

この章のキーワード: ホモトピー、距離、曲率、測度、群、距離空間、位相空間、ベッチ数、基本群、オイラー数、モデル圏、岡の判定法、掃清可能、解析集合、複素多様体、局所座標(チャート)、局所座標系(アトラス)、開複素多様体、コンパクトな複素多様体、シュタイン多様体、層係数コホモロジー論、調和関数、ラプラス方程式、直交射影の方法、アティヤ・シンガーの指数定理、岡・グラウエルトの原理、階数、正則ベクトル束、局所自明化、自明束、束写像、束同型、正則直線束


第5章「難問解決は突然に」では「レビ問題」の解説が始まる。第6論文では「擬凸ならば正則凸(ただし2次元)」が得られていたのだが、岡潔が成した荒技は「擬凸ならば正則凸」を「レビ擬凸ならば正則凸」に帰着させたことである。これは擬凸領域を内部から滑らかなレビ凸領域で近似する問題だ。第6論文では2次元であるが、第9論文では2次元以上に一般化された。

この章のキーワード: レビ問題、レビの条件、強擬凸、レビ擬凸、ハルト―クスの逆問題、皆既擬凸関数、岡の融合補題


第6章「イデアルの絆」では、まず1977年に日本数学会の創立100周年を祝う記念行事として行われた「幾何と物理」という講演会のことが紹介される。リーマンとポアンカレが基礎を築いたトポロジー(位相幾何学)は解析学(複素関数論と微分方程式論)からの要請によった。自然の成り行きとして解析的問題における大域的位相の果たす役割に研究に関心が集まり、解析学とトポロジーを結合するというプログラムは1930-60年のひとつのテーマであった。この時期のもうひとつの方向は小平、岡、カルタンに始まった多変数の複素解析学である。これは1940-50年代に非常に活発に研究され、そのひとつの大きな帰結は層コホモロジーという新しい手法の確立である。層コホモロジーはホモロジーやサイクルなどトポロジーの概念と複素関数論との結合による混合の理論である。

「層コホモロジー」の中心はクザンの問題の「解けなさ加減」を一般的に定式化した概念である「解析的連接層を係数とする複素多様体のコホモロジー群」だ。そしてこの理論の原型は岡の「不定域イデアルの理論」である。ひとくちに言えば整数の素因数分解の理論を関数の世界に拡げたものだ。

岡が第1論文を書くにあたり、カルタンの仕事に多くを負っていたが、第6論文以後クザンの問題の一般化を考察するにあたってもカルタンの影響があった。岡はカルタンの1940年の論文「複素n変数の行列値正則関数について」を参考に研究を進め、不定域イデアルの理論の芽を育てていった。この第6章には1999年、カルタンに対して行われたインタビューの一部が掲載されている。

この章のキーワード: 岡・カルタンの理論、不定域イデアル、幾何学的イデアル、連接層、シュタイン多様体の基本定理、前層、定数層、層断面、構造層、R準同型、解析的連接層


第7章「峠の先の歩み」では奈良女子大学に教授の職を得た1949年以降のことが紹介される。岡潔は1960年に文化勲章を受賞し、1978年に没するのだが、その間、1955年にセールとヴェイユが、1961年にヴェイユとグラウエルトが、1963年にカルタンが岡を訪問している。この期間に岡の理論は数学のさまざまな分野に浸透していった。その中でも代数幾何学、偏微分方程式論、微分幾何学は多変数関数論と接点を持ったおかげで大きく進展した分野だ。

岡が渡った岸の先には何本もの道が開けているのが現代数学の風景だ。例えば不定域イデアルの理論はカルタンやセール、グロータンディークにより代数的理論へと姿を変え、さらに抽象化して導来圏の理論など代数学を先導している。また、レビ問題は1960年代にはL^2評価式の方法が多変数関数論に持ち込まれ、岡やグラウエルトの理論が精密化された。レビ問題の解からは1980年代に「L^2拡張定理」が派生している。また第7章では岡の研究に影響を与えた「ベルグマン核」のほか、2003年の「ヘルマンダーの定理」、「ヴェイユの積分公式」とその後に導かれた定理、岡の第7論文を参考に得れらたスコダによる「L^2割算定理」、著者の大沢先生が示した「L^2拡張定理」が紹介されている。

この章のキーワード: ベルグマン核、ヘルマンダーの定理、ヴェイユの積分公式、L^2割算定理、L^2拡張定理、乗数イデアル層、ベルクマン・シッファーの公式、対数容量


拡大: ベルグマン核


拡大: 積分公式、L^2割算定理



このように岡潔が成し遂げたことは、まさに「建設」と呼ぶにふさわしいものだ。直観的に理解可能な実関数であらわされる世界から飛翔し、複素領域、特に多次元複素領域へ及ぶ未知の世界の問題を解決しながら、その風景のほとんどを創り上げていった。

昨年10月に書いた「数学の定理は「発見」か?それとも「発明」か?」とも関わる問題である。「建設」とは発見ではなく、むしろ発明に近い。この深淵な問いは引き続き考察していこう。


関連書籍:

著者の大沢先生による多変数複素関数論の教科書。6月に増補版として刊行されたばかり。立ち読みした限りでは、僕には歯が立たないとすぐわかった。こういう教科書が理解できる人がうらやましい。

多変数複素解析 増補版:大沢健夫



もう少し易しい教科書は次の2冊。これらも立ち読みしたところ、手ごわそうだった。それぞれAmazonで目次をご覧いただきたい。

多変数解析関数論 ─学部生へおくる岡の連接定理:野口潤次郎
多変数複素関数論を学ぶ:倉田令二朗
 


もっと易しいのがこの教科書。僕にはこの本がちょうどよさそうだ。目次を見るとわかるが、多変数複素関数論の導入部分(正則領域、微分形式あたりまで)だけ易しく解説している。

多変数関数論 (数学のかんどころ 21) :若林功



参考資料:

数学者 岡潔文庫(奈良女子大学)
http://www.lib.nara-wu.ac.jp/oka/

岡潔の「多変数複素関数論」の概要に,独学で入門するPDF資料まとめ。解析接続や正則性の概念を多様体上で一般化
http://study-guide.hatenablog.jp/entry/2015/12/24/岡潔の「多変数複素関数論」の概要に、独学で入

複素解析学特論(多変数)PDF文書 - 東京大学
http://www.ms.u-tokyo.ac.jp/web/htdocs/publication/documents/saito-lectures


関連記事:

天才を育てた女房(読売テレビ)、数学者 岡潔
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d30aa855f68847fddb48b6078402f1f3


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岡潔/多変数関数論の建設:大沢健夫




第1章 岡理論の遠景
- 峠からの便り
- 玲瓏なる境地
- 複素平面と指数関数
- 解析関数の概念
- 解析関数と正則関数
- コーシーの積分定理とその周辺

第2章 岡の連接性定理
- 楕円函数からアーベル関数へ
- ワイアシュトラスの予備定理と割算定理
- 連接性定理
 付録

第3章 上空移行の原理
- 第一論文と上空移行
- 古典論と問題I
- 多変数関数論への準備
- 全体像を読む
- 領域の問題
- ルンゲの定理
- ポアンカレの問題とクザンの問題

第4章 岡の原理とその展開
- トポロジーと岡の原理
- ホモトピー
- 岡の判定法
- 多様体上の関数論とトポロジー

第5章 難問解決は突然に
- 発見の心理
- レビ問題
- 皆既擬凸関数
- 関数の融合

第6章 イデアルの絆
- 関数論から時空モデルへ
- 源流を訪ねて
- 上空移行と正則関数のイデアル
- 連接層とコホモロジー

第7章 峠の先の歩み
- ロープと橋の譬え
- 岡とベルグマン核
- ヘルマンダーの定理
- 積分公式とL^2割算定理
- L^2拡張定理

参考文献
あとがき
索引

自動採色サービスで遊んでみた(#AI #人工知能)

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拡大
AIを使った自動採色サービスを提供しているサイトを2つ見つけたので遊んでみた。無料だしパソコン、スマホのどちらからでも使える。皆さんも遊んでみてほしい。

ディープネットワークを用いた白黒写真の自動色付け
http://hi.cs.waseda.ac.jp:8082/

PaintsChainer:あなたの絵をAIが自動で着色します!
https://paintschainer.preferred.tech/index_ja.html

説明は不要だと思うから、元の白黒写真とカラー化した後の写真を順に載せておく。


ディープネットワークを用いた白黒写真の自動色付け

古いアルバムからピックアップした思い出の写真。














雨月物語(1953)














ローマの休日(1953)










ゴジラ(1954)










PaintsChainer:あなたの絵をAIが自動で着色します!

雨月物語










姑獲鳥(うぶめ): 参考記事





次の画像は原画をディープネットワークを用いて自動色付けしたものだ。




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発売情報: Cirq量子計算入門 : 中山茂

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Cirq量子計算入門 : 中山茂」(Kindle版

Python量子プログラミング入門: 中山茂」が出たのは今年の6月末だった。この分野が日進月歩なのはわかるが、中山先生の執筆ペースの速さには脱帽である。今回は2018年7月18日に公開されたGoogleの量子コンピュータNISQを使うためのPythonによるCirq量子プログラミングを解説した本である。

量子コンピュータの発展史(リンク集)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/91fa592173ea1b2a6e53ae0c84323751

Cirq量子計算入門 : 中山茂」(Kindle版



2018年8月15日刊行、210ページ

【目的】
2018年7月18日に公開されたGoogleの量子コンピュータNISQを使うためのPythonによるCirq量子プログラミングについて解説しています。 公開されてまだ3週間も経ちませんが、Python言語を使って無料でGoogleの量子シミュレータが使えるCirq量子計算入門書です。

Googleが量子コンピュータNISQ向けオープンソースフレームワーク「Cirq」パブリックアルファ版を発表
https://gigazine.net/news/20180719-google-cirq/

【概要】
Googleの量子コンピュータNISQは、間もなく登場する72ビットの量子プロセッサーBristleconeの量子コンピュータ実機への実装に向けた布石で、量子ゲート方式の量子シミュレータとして登場しました。 そこで、Cirq量子計算を行うPythonプログラムについて解説した動作確認済みの実践的な入門書です。 Googleは、量子ゲート方式に使われている量子プロセッサには、今後50~100程度の量子 ビットが使われる中規模の量子コンピュータが普及すると想定していると思われる。 一般 に、量子ゲート方式の問題点は、ビット反転雑音や位相反転雑音などの量子ノイズを避ける ことが出来ず、今後、量子ノイズのある中規模の量子コンピュータが実用的に使われること が予想される。このような量子ノイズが避けられない中規模の量子コンピュータの普及機 として、NISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum)を構築しようとしている。 このNISQ を、今回量子シミュレータとして公開し、将来的には 中規模の量子コンピュータ の普及実機で動作させよう としている思われる。 量子コンピュータがビジネスで使える時代になってきており、それに備えた斬新な解説入門書です。テキストでは、95例のCirqコードで分かりやすく丁寧に解説しています。 拙著「Pythonクラウド量子計算QISKitバイブル」「Python量子プログラミング入門」で解説した、定番の量子ゲートから量子アルゴリズム、量子通信プロトコル、グローバー探索アルゴリズム、量子フーリエ変換、ショアの因数分解アルゴリズム、関数傾斜推定アルゴリズム、さらに、イジングモデルでの断熱量子計算、組み合わせ最適化問題をCirq量子計算コードで解説しています。 これらのCirqコードを約209頁で丁寧に解説した本格的な入門書です。このテキストで十分にCirqコードによる量子計算の基礎と応用が習得できます。     

【特徴】
組み合わせ最適化問題では、論理演算の真理値表を求めるイジングモデルでの断熱量子計算や、Number Partition問題におけるイジングモデル、MaxCut問題におけるイジングモデル、ドイチ問題のイジングハミルトニアンについて解説し、実際にCirq量子計算コードを作成して、これらの組み合わせ最適化問題の探索解を求めています。
  
【著者】
中山 茂 (なかやま しげる)  京都生まれ。 京都大学大学院工学研究科博士課程修了後、上智大学、英国Reading大学、京都工芸繊維大学、兵庫教育大学、英国Oxford大学、鹿児島大学を経て、2014年に定年退職。

【目次】

◾️第1章 Google NISQ とPython開発環境
 1-1 Pythonのインストールと開発環境
 1-2 AnacondaとJupyter notebook
 1-3 Cirqの設定
 1-4 Cirqドキュメント

◾️第2章 量子コンピュータNISQのためのCirq
 2-1 CirqによるPythonプログラミング
 2-2 Cirqによる量子計算入門

◾️第3章 量子ゲートの基礎
 3-1 量子回路でのCirq量子ゲートの基礎
 3-2 2量子ビット以上のCirq量子計算
 3-3 Cirqの基本ゲートでのX, Y, Z測定
 3-4 Cirqコードの制御NOTゲート
 3-5 ユニタリ回転ゲート
 3-6 多重制御Uゲート

◾️第4章 量子アルゴリズム
 4-1 ドイチアルゴリズム
 4-2 ドイチ・ジョサアルゴリズム
 4-3 ベルンシュタインヴァジラニアルゴリズム
 4-4 サイモンアルゴリズムのCirqコード

◾️第5章 量子通信プロトコル
 5-1 量子テレポーテーション実験
 5-2 量子高密度符号実験

◾️第6章 グローバー探索アルゴリズム
 6-1 グローバーの探索アルゴリズム
 6-2 データベースN=8でのグローバー探索アルゴリズム

◾️第7章 量子フーリエ変換
 7-1 量子フーリエ変換の定義
 7-2 N=2nの量子フーリエ変換
 7-3 逆量子フーリエ変換ゲート

◾️第8章 ショアの因数分解アルゴリズム
 8-1 古典的因数分解アルゴリズム
 8-2 量子関数の作り方
 8-3 量子オラクルの作り方
 8-4 関数傾斜推定アルゴリズム

◾️第9章 イジングモデルでの断熱量子計算
 9-1 イジングモデルとは
 9-2 イジングモデルの断熱量子計算
 9-3 イジングモデルのハミルトニアンの量子ゲート実装
 9-4 イジングモデルでの断熱量子計算の基本

◾️第10章 組み合わせ最適化問題
 10-1 論理演算のイジングモデルでの断熱量子計算
 10-2 Number Partition問題におけるイジングモデル
 10-3 MaxCut問題におけるイジングモデル
 10-4 ドイチ問題のイジングハミルトニアン
 10-5 イジングハミルトニアンのエネルギー準位

【著者】
中山 茂 (なかやま しげる)  京都生まれ。 京都大学大学院工学研究科博士課程修了後、上智大学、英国Reading大学、京都工芸繊維大学、兵庫教育大学、英国Oxford大学、鹿児島大学を経て、2014年に定年退職。


実行環境、ガイド:

これらの本を頼りにして量子計算を試してみたい方は以下のページも参考にしていただきたい。

Google、量子コンピュータにおけるNISQ向けオープンソースPythonフレームワーク「Cirq」パブリックアルファを発表
https://shiropen.com/seamless/google-ai-quantum-cirq

Googleが量子コンピュータNISQ向けオープンソースフレームワーク「Cirq」を発表
https://qiita.com/YuichiroMinato/items/20ccfe9da8ad8a176093

Google Cirq:量子計算のためのPythonオープンソースライブラリ
https://www.infoq.com/jp/news/2018/08/google-cirq-quantum-library


関連記事:

発売情報: クラウド量子計算入門: 中山茂
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d360b69100fbe723c5b9410dbf3f5f4d

クラウド量子計算入門: 中山茂:(4) 全体の感想
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ad7dfbad69e1e196848be123e3f4ea3f

発売情報: クラウド量子計算 量子アセンブラ入門:中山茂
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5c9a7f62bf27a2ca214911448bbf9847

発売情報: Python量子プログラミング入門: 中山茂
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f7eb93f56f7f48bb05eaf8604848bbfa

発売情報:量子プログラミングの基礎: イン・ミンシェン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/27e4d9a10982d4d69c0029fc4c801708

量子コンピュータ、量子アルゴリズムを学びたい高校生のために
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1b2940b648bda682aa27192eb8261972

量子コンピュータの発展史(リンク集)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/91fa592173ea1b2a6e53ae0c84323751


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Cube root 12,812,904 using abacus (1/3-multiplication table method 5)

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[Set 12,812,904 on Mr. Cube root]Zoom

[Japanese]

Following the last time, today's example is about actual solution of Cube root using abacus.

Today's example is simple - basic 1/3-multiplication table method, root is 3-digits case. You can check the Index page of all articles.

Cube root methods: Triple-root method, constant number method, 3a^2 method, 1/3-division method, 1/3-multiplication table method, 1/3-multiplication table alternative method, Multiplication-Subtraction method, 3-root^2 method, Mixing method, Exceed number method, Omission Method, etc.


Abacus steps to solve Cube root of 12,812,904
(Answer is 234)

"1st group number" is the left most numbers in the 3-digits groups of the given number for cube root calculation. Number of groups is the number of digits of the Cube root.

12,812,904 -> (12|812|904): 12 is the 1st group number. The root digits is 3.


Step 1: Place 12812904 on HIJKLMNO.


Step 2: The 1st group is 12.


Step 3: Cube number ≦ 12 is 8=2^3. Place 2 on C as the 1st root.


Step 4: Subtract 2^3 from the 1st group 12. Place 12-2^3=04 on HI.


Step 5: Focus on 4812904 on IJKLMNO.


Step 6: Divide 4812904 by 3. Place 4812904/3=16043013 on IJKLMNOP.


Step 7: Focus on 16 on HI.


Step 8: Repeat division by current root 2 until 4th digits next to 1st root. 16/2=8 remainder 0. Place 8 on F.


Step 9: Place remainder 00 on IJ.


Step 10: Divide 8 on F by current root 2. 8/2=3 remainder 2


Step 11: Place 3 on D as 2nd root.


Step 12: Place 2 on F.


Step 13: Subtract 2nd root^2 from 20 on EF. 20-3^2=11


Step 14: Place 11 on FG.


Step 15: Add 1st root x remainder 11 to 00 on JK. 11X2+0=22


Step 16: Place 00 on JK.


Step 17: Subtract 2nd root/3 from 224 on JKL. 224-3^3=215


Step 18: Place 215 on JKL.


Step 19: Clear 11 on FG. Place 00 on FG.


Step 20: Divide by current root 23 from NOP.


Step 21: 215/23=9 remainder 8. Place 9 on G.


Step 22: Place 008 on JKL.


Step 23: 83/23=3 remainder 14. Place 3 on H.


Step 24: Place 14 on LM.


Step 25: 140/23=6 remainder 2. Place 6 on I.


Step 26: Place 002 on LMN.


Step 27: Divide 93 on GH by crrent root 23. 93/23=4 remainder 1


Step 28: Place 4 on E as 3rd root.


Step 29: Place 01 on GH.


Step 30: Subtract 3rd root^2 from 16 on HI. 16-4^2=0


Step 31: Place 00 on HI.


Step 32: Subract 3rd root/3 from 21.3 on NOP. 21.3-4^3/3=0


Step 33: Place 000 on NOP.


Step 34: Cube root of 12812904 is 234.


Final state: Answer 234

Abacus state transition. (Click to Zoom)




Next article is also 1/3-multiplication table method.


Related articles:

How to solve Cube root of 1729.03 using abacus? (Feynman v.s. Abacus man)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cff5d6e7ecaa07230b9cc7af10b23aed

Index: Square root and Cube root using Abacus
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f62fb31b6a3a0417ec5d33591249451b


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開平と開立(第43回):12,812,904の算盤による開立(三分九九法5)

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開立はん」に12,812,904を置いたところ拡大

[English]

前回に続き、今回も算盤での開立の手順を解説する。三分九九法で根が3桁の場合だ。全体の目次はこのページを開くと見ることができる。

開立(立方根):3根法(3倍根法、3商法)、定数法、3a^2法、三除九九、三分九九法、三分九九法別法、乗減法(変商法)、3根^2法、折衷法、過大数開立、省略開立など


算盤による12,812,904の3乗根の解法(答は234)

第1群の数とは立方根を求める数を3桁ずつ区切り、いちばん大きい(いちばん左)の3桁のことである。群の数が根の桁数となる。

12,812,904 -> (12|812|904): 12が第1群の数、根の桁数は3。


手順1: 12812904をHIJKLMNOに置く。


手順2: 第1群は12。


手順3: 12以下の立方数は8=2^3。2を初根としてCに立てる。


手順4: 12-8=04をHIに置く


手順5: IJKLMNOの4812904に注目する。


手順6: 4812904を三分する。すなわち4812904/3=16043013をIJKLMNOPに置く。


手順7: HIの16に注目する。


手順8: 初根の次4桁まで既根2で割る。16/2=8余り0。商8をFに置く。


手順9: 余り00をIJに置く。


手順10: Fの8を既根2で割る。8/2=3余り2。


手順11: 商3をDに置き次根とする。


手順12: 余り2をFに置く。


手順13: EFの20から次根^2を引く。20-3^2=11


手順14: 11をFGに置く。


手順15: 平方減の余り11に初根2をかけ、JKの00に足す。11x2+0=22


手順16: 22をJKに置く。


手順17: JKLの224から次根^3/3を引く。224-3^3/3=215


手順18: 215をJKLに置く。


手順19: FGの11をクリアする。00を置く。


手順20: NOPから既根23で定位置まで割る。


手順21: 215/23=9余り8。商9をGに置く。


手順22: 余り008をJKLに置く。


手順23: 83/23=3余り14。商3をHに置く。


手順24: 余り14をLMに置く。


手順25: 140/23=6余り2。商6をIに置く。


手順26: 余り002をLMNに置く。


手順27: GHの93を既根23で割る。93/23=4余り1。


手順28: 商4を第3根としてEに置く。


手順29: 余り01をGHに置く。


手順30: HIの16から第3根^2を引く。16-4^2=0


手順31: 00をHIに置く。


手順32: NOPの21.3から第3根^3/3を引く。21.3-4^3/3=0


手順33: 000をNOPに置く。


手順34: 立方根は234と求まる。


最終状態: 答 234


珠の状態推移を表にすると次のようになる。(クリックで拡大)




次回も三分九九法の計算手順を取り上げる。


関連記事:

ファインマン v.s. 算盤の達人: ファインマン先生に立方根計算の雪辱を果たそう
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/89a0b907577f03ef6132cf9664bdcddb

目次:算盤による平方根、立方根の計算(開平、開立)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bb0449f357398a2c24026f33af7f70ee


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