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楽しもう射影平面 目で見る組合せトポロジーと射影幾何学: 大田春外

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楽しもう射影平面 目で見る組合せトポロジーと射影幾何学: 大田春外」(Kindle版

内容紹介:
射影平面をキーワードとして、射影平面がキー・ポイントとなる「閉曲面の分類定理」と「デザルクの定理」を豊かな図とともに、ていねいに解説する。幾何学の美しさと楽しさが味わえる。
2016年7月刊行、213ページ。

著者について:
大田春外(おおたはると): 研究者情報: http://researchmap.jp/read0010844/
1950年生まれ。1973年鳥取大学教育学部を卒業。1976年大阪教育大学大学院教育学研究科修士課程修了。1979年筑波大学大学院数学研究科博士課程修了。現在、静岡大学名誉教授。理学博士。専門は集合論的トポロジー。

太田先生の著書: 書籍版を検索 Kindle版を検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で347冊目。

本書はおよそ1年前、新宿の朝日カルチャーセンターで行われた「寺川奈津美の気象講座 秋の気象と台風」を受講した帰りにコクーンタワー地下の書店で買ったものだ。

好物は後にとっておくタイプだから、面白そうな本だと思いつつ、なかなか手を出さないでいた。

章立ては次のとおり。

第I部 目で見る閉曲面の分類定理

第1章 閉曲面とその表現
第2章 いろいろな曲面と閉曲面
第3章 多面体グラフとオイラー標数
第4章 閉曲面の分類定理

第II部 射影平面とデザルクの定理

第5章 平面上のデザルクの定理
第6章 射影平面の再構成
第7章 射影変換
第8章 複比

第I部は曲面のトポロジーと展開図を図示しながら表示式と呼ばれる数学表現との対応関係を楽しく学びながら射影平面についての感覚的理解を深め、閉曲面の分類定理を導く。

第II部ではユークリッド空間で成り立つ「デザルクの定理」とその双対定理を証明を含めて学び、その後、この定理が射影平面ではどうなるかを学ぶ。

射影平面は「平面」という言葉が使われているが、第I部では曲面として学び、第II部ではこれを座標付きの平面として扱う。射影平面上で成り立つ幾何学を射影幾何学と呼ぶ。

まず第I部からピックアップして紹介しよう。

曲面として皆さんにお馴染みなのは、球面、メビウスの輪、トーラス(ドーナツの表面)だろう。そしてトポロジーを少し学んだことがある人は「クラインの壺」もご存知だと思う。

クラインの壺


この図はクラインの壺が3次元ユークリッド空間に浮かんでいるように描いてあるが、「本来のクラインの壺」は4次元以上の空間にしか存在できない。無理して3次元空間の中に描いたから細い管のところが壺の本体と交叉してしまっている。4次元空間の中のクラインの壺ではこのような交叉が生じない。

次に紹介される「クロスキャップ」も4次元以上の空間にある曲面だ。3次元空間で無理して描くとこのような図形になる。鳥のくちばしの形のところが交叉しているが、4次元空間だと交叉しない。



クロスキャップの展開図はこのようなものだ。



展開図の形をトポロジー的に変形してクロスキャップを構成する手順はこのとおり。辺と辺を貼り付けるときは同じ文字どうしを矢印の向きも含めて一致するように行う。右下の(12)の状態でfとf、gとgを貼り合わせればクロスキャップが完成する。

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クラインの壺、トーラス、メビウスの輪などについても、同じように展開図と構成方法が示される。

そして、本書のメインテーマの射影平面とはどのような形をしているのだろうか。射影平面も4次元空間に存在する曲面である。その展開図はこのとおり。



左の展開図をトポロジー的に曲げて円の形に変形させたのが右図であり、これも射影平面の展開図だ。どちらにしてもaとa、bとbを矢印の向きが一致するように貼り合わせるのは3次元空間では無理で、4次元空間でしか行うことができない。

曲面の交叉を許す形で射影平面を3次元空間に構成すると、このような形になるそうだ。これを「平面」と呼ぶのも不思議なものである。



どのように変形したら展開図からこのような形を構成できるのだろうか?そして射影平面はクラインの壺や球面と関わりをもっているそうだ。それは本書を読んでのお楽しみとしておこう。

本書ではさまざまな2次元の曲面の展開図と構成方法を視覚的に紹介しながら、それらの表示式を与えることで数学と図形の関係を解き明かしている。

第I部の締めは「閉曲面の分類定理」である。話をわかりやすくするために、本書では触れられていないが次元を1つ下げた「閉曲線の分類定理」を勝手にでっちあげて解説しよう。

1次元の形とは「線」であり一般的には曲線だ。トポロジー的に曲線が取りうる形は、次の2種類しかない。超弦理論で提唱される開弦(左)と閉弦(右)に対応している。



これは2次元以上であれば、どんなに高次元の空間であっても、この2種類しかないことはおわかりだろう。そして「閉曲線」に限れば輪ゴムの形(閉弦)の1種類しかない。だから分類するまでもないが、これが「閉曲線の分類定理」である。


同じ意味合いで2次元の曲面が取りうる形も種類が限られている。そして閉曲面に限れば、次の3種類しかないのだ。



nは「種数」と呼ばれ、曲面に空いた「穴」の数である。ちなみに円筒の側面やメビウスの輪は曲面ではあるが、縁(ふち)があるから「開曲面」と呼ばれ、この3種類には含まれない。(曲線の場合の縁は開いた弦の両端の2点である。)

(1)は射影平面の系列で4次元空間にある曲面
(2)はトーラス(ドーナツの表面)の系列で3次元空間にも埋め込み可能な曲面
(3)は球面であり、もちろん3次元空間に埋め込み可能な曲面

4次元、5次元、...と空間の次元が増えるにつれて曲面の種類が増えていくわけではない。どんなに高い次元であっても曲面はこの3種類に分類されてしまう。ひとつ次元を下げた曲線のケースを思い出していただければ理解していただけるだろう。


さらにひとつ次元を上げて「閉曲立体の分類定理」を考えることもできる。閉曲立体は8種類に分類されるのだ。どんなに高次元空間であっても、その中にある閉じた立体の形は、トポロジー的な意味で8種類しかないのである。

これは10年前に書いた「トポロジカル宇宙(完全版):根上生也著」という記事で紹介した「サーストンの幾何化予想」のことだ。

1982年にアメリカのサーストンという数学者が「サーストンの幾何化予想」というものすごいアイデアを打ち立てた。「三次元多様体は一様な幾何構造の断片に分解できるだろう」というもので、宇宙を構成する空間の断片がこの図で示されているような最大8種類の形に限られていることを示した。サーストンはこれを証明したわけではない。ともかく物理学のように実験や観察で検証したわけでもないのに、頭の中の数学だけで宇宙の形の8種類の可能な断片を導きだしたことは他の数学者にとっても大きな驚きであった。これらがその8種類の形である。(動画を見る



サーストン幾何化予想が証明されたことで2003年、グリゴリー・ペレルマンにより、およそ100年にわたり未解決だった3次元ポアンカレ予想が証明されたのは有名な話である。

余談: ブログ読者のhirotaさんからご指摘いただいたのだが、この図のうち1つは間違っている。図の一番上のH×EはH(双曲面)が底空間でE(ユークリッド計量のトーラス)がファイバーのファイバーバンドルを表わしていて細い線がファイバー、太い部分が底空間を表わしていると推察できるが、図の中央のS×Eはどう見ても底空間がS(球面)になってない。

もちろん本書のレベルをはるかに超えるので、「サーストン幾何」は、本書でごくあっさり触れられているに過ぎない。


第II部は座標平面上での射影幾何学が解説される。

無限に伸びる平行線。ユークリッド幾何学では平行線は無限の彼方まで伸びても交わらない。



しかし「平行線は無限の彼方の1点で交わる」と考えることも可能だ。そして前方の無限の彼方で交わった点と、後方の無限の彼方で平行線が交わった点を同一(同じ点)と見なすと考えるのだ。さらにそのような無限遠の点は、自分の回りの360度すべての方向にある。自分を中心とした無限大の円を考え、円周上の無限遠点と円の中心に対して反対側の無限遠点を同一と見なすことにする。通常のユークリッド平面をこのように修正したものが「射影平面」である。

射影平面上の直線は次のように描かれる。無限遠のところにある円周は射影平面上では「直線」であることに注意していただきたい。

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射影平面上の幾何の性質を探るために、ユークリッド空間で成り立っている「デザルクの定理」とその双対定理が射影平面上ではどのようになるかを本書では例として取り上げている。これは次の図のように空間内の二つの三角形の相互の関係に関する幾何の定理だ。

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不思議なことにこの定理で「点」を「線」に読み替え、「線」を「点」に読み替えると、もうひとつ別の関係が成り立っているのである。これを双対定理と呼んでいる。対応する2つの定理の関係は次のようになる。

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デザルクの定理の双対定理を図示すると、このようになる。ユークリッド幾何の世界だけでも、じゅうぶん興味深い。

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さて、これらの定理を射影平面上に移すとどのようなことになるのか?定理は相変わらず成り立っているのか?それも本書を読んでのお楽しみということにしておこう。


そして第II部の後半では斜影平面に座標を導入し、射影変換と呼ばれる幾何的な座標変換を学ぶ。これはユークリッド空間では「1次変換」そして「平行移動」として学ぶ事がらだ。ユークリッド空間では「1次変換」と「平行移動」を合成した変換のことを「アフィン変換」と呼んでいる。特殊相対性理論に使われるローレンツ変換は4次元のアフィン変換である。

本書のこの部分は通常の線形代数を学んだ人には、とても興味深い内容だ。ぜひお読みいただきたい。


この紹介記事ではかいつまんで紹介したため、論理的な整合性が損なわれている。(たとえば「第3章 多面体グラフとオイラー標数」の解説は割愛した。)実際に本書で筋道をたどりながら読み進めると、射影幾何の世界は、私たちが慣れ親しんでいるユークリッド的な世界と同じ数学的実在感をもったパラレルワールドであることを理解していただけると思う。

特に第I部でいろいろな形を変形させたり、切ったり貼ったりする様子を見るのはとても楽しい。自分にはこんな図は描けないと思いながら、あれよあれよという間に奇妙な形が出来上がっていく。そして形の変形が表示式の代数操作と対応しているのを見ると、現代数学はこのようにして誕生したのだと納得できるのだ。


本書で射影平面に対する感覚を体得した方は、「射影幾何学」というキーワードで検索し、より専門的な教科書に進むとよいだろう。

射影幾何学の本: Amazonで検索


ところで先月から竹野内豊さんが結び目理論専攻数学者を演じるNHKドラマ10『この声をきみに』という番組が放送されている。この中に「3次元多様体と結び目(瀬川篤郎編、松谷書店)」というトポロジーの教科書が映されるのだが、調べてみたところこの本は実際には存在しない架空の本であることがわかった。



このドラマで竹野内さんは家族との生活の中で数学的妄想に熱中するあまり、ミムラさんが演じる妻に極度のストレスを与え、離婚の危機に瀕してしまう。「数学者=変人」というレッテルがストーリーのベースだ。

ドラマを見ながら「そろそろこのようなステレオタイプな見方はやめてほしいものだ」と思いつつ、自信をもってそう主張できないもう一人の自分がいることに気が付かされた。


関連記事:

はじめよう位相空間:大田春外
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/98d355dcb790031607d752984929fe3d

解いてみよう位相空間:大田春外
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/008e49c402513499938c41f8e7083d7a


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楽しもう射影平面 目で見る組合せトポロジーと射影幾何学: 大田春外」(Kindle版



第I部 目で見る閉曲面の分類定理

第1章 閉曲面とその表現
- 曲面と閉曲面
- 位相同型
- 球面とトーラス
- 閉曲面の展開図と表示式

第2章 いろいろな曲面と閉曲面
- 円板・アニュラス・メビウスの帯
- 球面・トーラス・クラインの壺
- 展開図と表示式の同値関係
- クロスキャップ
- 射影平面
- 曲面の向き付け可能性

第3章 多面体グラフとオイラー標数
- 多面体グラフ
- 閉曲面のオイラー標数
- 球面S^2の正多面体グラフ
-
第4章 閉曲面の分類定理
- 閉曲面の連結和
- 基本変形
- 閉曲面の分類定理

第II部 射影平面とデザルクの定理

第5章 平面上のデザルクの定理
- デザルクの定理のいろいろな形
- 空間におけるデザルクの定理
- 双対定理と逆

第6章 射影平面の再構成
- 射影平面の再構成
- 座標の導入と直線の方程式
- 点と直線に関する基本命題
- 射影平面上のデザルクの定理

第7章 射影変換
- 1次変換とアフィン変換
- 射影変換
- デザルクの定理の別証明
- 射影平面上のアフィン変換

第8章 複比
- 点列の複比
- 線束の複比と基本命題
- ハップスの定理とデザルクの定理

A:演習問題の解答例とヒント

参考書
索引
ギリシャ文字一覧表

Square root using abacus: Theory (Half-multiplication table method)

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Square root & Cube root
[Japanese]

This is beginning of articles about how to solve Square root second season. Today is the theory of Half-multiplication table method. (Hankuku method)

Square root methods: Double-root method, Double-root alternative method, half-multiplication table method, half-multiplication table alternative method, multiplication-subtraction method, constant number method, etc.


"1st group number" is the left most numbers in the 2-digits groups of the given number for square root calculation. Number of groups is the number of digits of the Square root.

1,764 -> (17|64): 17 is the 1st group number. The root digits 2.
60,516 -> (6|05|16) : 6 is the 1st group number. The root digits is 3.

Square root of 60,516 is 246. We call 1st root=2, 2nd root=4, 3rd root=6.


Case 1) Root is 2-digits

1st root=a, 2nd root=b, then S (Square) is given by following formula.



Use next formula for the Square root calculation.





Step 1) Find the 1st root and subtract its square

Find the 1st root and subtract its square from 1st group number.



Step 2) Half-remainder

Half-remailder is the divide the remainder by 2 after subtraction of the 1st-root. It means the division by 2 from the right-most of the remainder.





Step 3) Calculate 2nd root

Calculate the 2nd root by division by the 1st root.





Step 4) Subtract Half-square

Subtract Half-square of the 2nd root. Half-square is the half of the multiplication table. If the multiplication is 5x5=25, the Half-square is 5*5=25/2. (We use "*" instead of "x" for Half-multiplication in this article.)






Case 2) Root is 3-digits

1st root=a, 2nd root=b, 3rd root=c, then S (Square) is given by following formula.



Use next formula for the Square root calculation.



Follow same steps as root is 2 digits case until finding the 2nd root. But we use next formula for the 3rd root of Square root calculation because remainder is divided by 2.





Step 1) Calculate 3rd root

Calculate 3rd root by division by current root.





Step 2) Subtract Half-square

Subtract Half-square of the 3rd root.




Next article shows how to solve Square Root by Half-multiplication table method using "Mr. Square Root" abacus.


Related articles:

How to solve Cube root of 1729.03 using abacus? (Feynman v.s. Abacus man)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cff5d6e7ecaa07230b9cc7af10b23aed

Index: Square root and Cube root using Abacus
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f62fb31b6a3a0417ec5d33591249451b


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開平と開立(第30回): 開平の理論(半九九法)

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平方根(開平)と立方根(開立)
[English]


算盤での開法記事のセカンドシーズンの始まりだ。今回から実際にどのようにして開平を行うかを解説する。今日は半九九法の理論編。

開平(平方根):倍根法(2商法)、倍根法別法、半九九法、半九九法別法、乗減法、定数法(折衷法) 、過大数開平、省略開平など


第1群の数とは平方根を求める数を2桁ずつ区切り、いちばん大きい(いちばん左)の2桁のことである。群の数が根の桁数となる。

1,764 -> (17|64): 17が第1群の数、根の桁数は2
60,516 -> (6|05|16) : 6が第1群の数、根の桁数は3

60,516の平方根は246であるが、2を初根、4を次根、6を第3根と呼ぶ。


1)根が2桁の場合

初根をa、次根をbとすると、その平方(S)は次の式で与えられる。



開平の計算は次の式によって行う。





手順1)初根を立て、平方を減算する

第1群の数と平方九九(普通の九九)によって初根を立て、初根の平方を引く。



手順2)残数二分

残数二分とは初根の平方減の後、残数を二分することである。二分は、残数の右端から1桁ごと半分にしていくことだ。





手順3)次根立根

初根で割り、次根を得る。





手順4)半平方減

次根の半平方を引く。半平方とは九九の半分(半九九)のことである。たとえば九九の5x5=25は、半九九では5*5=25/2となる。(半九九ではxではなく*を使うことにする。)






2)根が3桁の場合

初根をa、次根をb、第3根をcとすると、その平方(S)は次の式で与えられる。



開平の計算は次の式によって行う。





次根を求めるまでの手順は根が2桁の場合と同じ。だだし、残数が二分されているため、三根を求める式は次のようになる。



手順1)第三根を立根する

既根で割り第三根を求める。





手順2)半平方減

第三根の半平方を引く。




次回は「開平はん」を使った半九九法による開平の実践編である。


関連記事:

ファインマン v.s. 算盤の達人: ファインマン先生に立方根計算の雪辱を果たそう
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/89a0b907577f03ef6132cf9664bdcddb

目次:算盤による平方根、立方根の計算(開平、開立)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bb0449f357398a2c24026f33af7f70ee


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数学の定理は「発見」か?それとも「発明」か?

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ツイッター上でのアンケート
この深遠なテーマについてアンケートをとってみたところ、現在247人もの方から回答を得ている。(アンケートにご協力いただける方はここからお願いします。回答期限は10月27日午後7時31分)

アンケートをさせてください。
数学の定理は「発見」でしょうか?それとも「発明」でしょうか?

61% - 「発見」だと思う。
10% - 「発明」だと思う。
22% - 「発見」のときもあれば「発明」のときもあると思う。
7% - わからない。

とね日記でこの問いはこれまでに1度だけ「数学とは何か(原書第2版):R.クーラント、H.ロビンズ、I.スチュアート」の中で言及したことがあった。

「数学の定理の証明とは(もともと存在しているものを)発見することなのか?それとも新たに創り出される発明なのか?」

これはギリシャ以来、現在に至るまで考え続けられている問いかけだ。これは初等数学から高度な抽象数学まで、それぞれ学んでいく過程で折に触れて頭を持ち上げてくる数学が持つ深遠な問いのひとつである。

ここでいう「発明」とはウィキペディアに記載されている「発明は「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義されている(特許法2条1項)。」という意味ではなく、「人為的に作り上げた、自然にもともと無い概念」という意味合いである。


超弦理論の研究者の大栗博司先生は著書「数学の言葉で世界を見たら」の中で、次のような意味のことをお書きになっている。

ニュートン力学における重力の概念がアインシュタインの一般相対性理論によって「修正」されたことに見られるように、物理学上の発見は後世に修正される可能性をはらんだものである。それに対し、数学の定理は一度証明されると、未来永劫くつがえされたり修正されたりすることのない「永遠の真理」である。

これはまったく正しいと思う。ピタゴラスの定理にしても覆されることはない。ユークリッド幾何学を前提とすればその証明は未来永劫正しいし、非ユークリッド幾何学を前提としても同じことである。

しかし「永遠の真理」という言葉が曲者である。まるで人間がいてもいなくても存在すること、あらかじめ宇宙の創造主が与えてくれたもののように思えてしまうからだ。そうだとすると数学はあらかじめ存在するものを人類が「発見」していることになる。プラトンの言うところの「イデア界」に人類誕生以前から存在する真理である。

また、数学は論理を積み重ねてバベルの塔のような巨大な構造物を作り上げていく人類(数学者)の営みだと言われることもある。この場合の数学は「創造」であり「発明」であると思うのだ。


とね日記について」という記事の「現代物理学と現代数学の不思議なつながり」の冒頭で、僕は次のように書いた。

「勉強を続けていくうちに、数学は物理現象を方程式にして解いたり、物理法則を学ぶための道具であるだけでなく、それ以上のものであることもわかりました。物理学とは独立した抽象的な世界で発展した20世紀以降の現代数学は現代物理学と密接に結びついていたのです。」

数学は現実の物理世界や物理法則と密接に関わりがあるものの、物理学とは独立した存在なのだろう。数学という言葉は人によってイメージするものが違うということも確かだ。「発見か発明か」という問いに対する回答も、どのような数学をイメージするか、どのような数学を学んできたかによって違ってくるのだろう。

アンケートに対する回答に「発見である」と断定的に回答している人は61パーセントいるし「発見のときもあれば発明のときもあると思う。」と回答している人も22パーセントに及んでいる。

だから個別に例をあげて考える必要がありそうだ。数学のそれぞれの事がらについて、僕が「発見」と「発明」のどちらに感じるかを以下に列挙しておこう。もしかすると互いに矛盾しているものがあるかもしれない。


自然数の存在、ペアノの公理
自然数の存在は「発見」であるが、それを構成するためのペアノの公理は「発明」だと思う

実数の連続性、デデキントの切断
実数の存在は「発見」であるが、それを証明するためのデデキントの切断は「発明」だと思う。

実数の積や和の交換法則、結合法則、分配法則
これらは「発見」だと思う。

外積代数(非可換代数)、グラスマン数
これも「発見」だと思う。

ピタゴラスの定理
「発見」だと思う。

2次方程式の解の公式
「発見」だと思う。

三角関数の正弦定理、余弦定理
「発見」だと思う。

微分・積分
「発見」だと思う。

積の微分法則(ライプニッツの法則)
「発見」だと思う。

弱微分
弱微分とは通常の意味での関数の微分(強微分)の概念を、微分可能とは限らないが積分可能である関数(ルベーグ空間に属する関数)に対して一般化したものだ。通常の微分は「発見」だと思うが、弱微分については僕はどうも「発明」だと感じてしまう。

線形代数、ベクトル、行列、テンソル
加法、積の計算法則から定義されているので「発見」だと思う。

リーマン幾何学における測地線の方程式
「発見」だと思う。

オイラーの公式、オイラーの等式
「発見」だと思う。

位相の定義、ルベーグ積分の定義
定義自体がかなり人為的に見えるので「発明」(創造)だと思う。

バナッハ空間
バナッハ空間はルベーグ p-乗可積分関数の空間で、ルベーグ積分を「発明」としたため、バナッハ空間も「発明」となりそうだ。

オイラー標数をはじめとする位相不変量
「発見」だと思う。

3次元空間にあるトーラス、メビウスの輪
「発見」だと思う。

4次元空間にあるクロスキャップ、クラインの壺、射影平面
「発見」だと思う。

層・圏・トポス
定義自体がかなり人為的に見えるので「発明」(創造)だと思う。

複素関数論(コーシーの積分定理、留数定理、解析接続など)
「発見」だと思う。

リーマン面、多価関数
「発見」だと思う。

フラクタル幾何学
「発見」だと思う。

実多様体、複素多様体
「発見」だと思う。

中学数学で学ぶX-Y平面
「発見」だと思う。(実多様体を「発見」とするならば、X-Y平面を「発明」とするわけにはいかない。)

ガウス=ボネの定理
「発見」だと思う。

アティヤ=シンガーの指数定理
ガウス=ボネの定理の一般化だから「発見」だと思う。

ホモトピー、ホモロジー、コホモロジー
「発見」だと思う。

ド・ラームの定理
「発見」だと思う。

エキゾチックな球面
「発見」だと思う。エキゾチックな球面とは、7次元の球面は相異なる28通りの微分構造を持つというもの。

ドナルドソンの定理
「発見」だと思う。ドナルドソンの定理とは、4次元空間では微分構造の数が無限個になるというものだ。

ヒルベルト空間、フォック空間
「発見」だと思う。

ソボレフ空間
ソボレフ空間とは関数からなるベクトル空間で、関数それ自身とその与えられた階数までの導関数の L^p-ノルムを組み合わせて得られるノルムを備えたものである。ここでいう微分を適当な弱い意味での微分と解釈することにより、ソボレフ空間は完備距離空間、したがってバナッハ空間を成す。
バナッハ空間を「発明」とし、弱微分が「発明」と感じたのだから、ソボレフ空間は「発明」だと思う。

群論、リー群論
「発見」だと思う。

モンスター群など散在型有限単純群
「発見」だと思う。

四色定理(四色問題)
証明にはコンピュータが使われたが、四色定理が意味する事がら自体は「発見」だと思う。

ポアンカレ予想
「発見」だと思う。

フェルマーの最終定理
「発見」だと思う。

素数、リーマン予想
「発見」だと思う。

エラトステネスの篩(素数を見つけ出すアルゴリズム)
計算手順、アルゴリズムは「発明」だと思う。

ラマヌジャンが書き残した数々の複雑な公式
「発見」と言いたいところだが、あまりにも技巧的に見えるので「発明」だと思う。

ゲーデルの不完全性定理
定理を証明するための手法は「発見」だが、その結果証明された事がらは「発見」だと思う。それは第1不完全性定理、第2不完全性定理のどちらについてもだ。

ラングランズ予想が示す異なる数学分野のミステリアスなつながり
「発見」だと思う。

確率論(ラプラスの確率論)
「発見」だと思う。

確率論(現代集合論、測度論に基づく確率論)
「発明」だと思う。

ブラック–ショールズ方程式
ブラック–ショールズ方程式は現代集合論に基づく確率論、確率過程論、伊藤の補題などの「発明」から導かれる金融数学の偏微分方程式だ。さらに前提条件をヨーロピアンオプションやアメリカンタイプのプット・オプションのように人為的に設定できるから「発明」である。

統計学(分布、平均、偏差、大数の法則)
ラプラスの確率論に基づいているから「発見」だと思う。

統計解析、回帰分析
数学手法なので「発明」だと思う。

応用数学
一般的に応用数学は「発明」だと思う。

線形計画法、オペレーションズ・リサーチ
応用数学に含まれるので「発明」だと思う。

カオス理論、複雑系
力学が見せるカオスを除外して、数学的なことだけについていえば「発見」だと思う。コンピュータを使って力学的なカオスをシミュレートすることは「発明」だと思う。

ブール代数
「発見」だと思う。

情報理論(シャノンの通信の数学的理論、古典情報理論)
「発見」が半分「発明」が半分と感じる。区別するのが難しい。

量子情報理論
古典情報理論は判断が難しいが、量子情報理論で使われる数学は複素線形代数なので「発見」だと感じる。不思議だ。

アルゴリズム(たとえばショアのアルゴリズム、ソート)
アルゴリズムは「発明」だと思う。

暗号理論(たとえばRSA暗号)
アルゴリズムと同様、暗号理論は「発明」だと思う。


それぞれについて、みなさんはどのようにお感じになるだろうか?


関連記事:

数学とは何か(原書第2版):R.クーラント、H.ロビンズ、I.スチュアート
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e2b02a51b73a9716b077da16a102aaff

数学 その形式と機能: ソーンダース・マックレーン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cbfc848dce6bf8ffa525a90026d5d4c6

数学とは何か―アティヤ 科学・数学論集
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b3ce277f0624f0adea8186a0168bcf99


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バイクのエンジンオイル交換

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バイクのエンジンオイル交換

前回のオイル交換から2年7ヶ月たっていたので、近所のバイク屋さんで夕方エンジンオイルの交換をしてもらってきた。今日現在で累積走行距離は38875.1Kmだ。前回のオイル交換時は37307.1Kmだったので31カ月で1568Km走ったことになる。(月平均50.5Km)




今回入れてもらったのはこのオイル。1リットルで2000円かかった。(工賃免除)

WAKOS PRO-S プロステージS (10W-40)
http://www.wako-chemical.co.jp/products/recommendation/PRO-S.html




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第58回 神田古本まつり、第27回 神保町ブックフェスティバル

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一昨日から神保町で神田古本まつりが開催されている。今日行ってきたので何を買ってきたか記録として残しておこう。

第58回 東京名物神田古本まつり 2017年10月27日(金)~11月5日(日)
http://jimbou.info/news/furuhon_fes_index.html

同じ地域で「神保町ブックフェスティバル」も開催される。出版社ごと出店の路上のワゴンセールと露店で賑うイベントだ。古本まつりと両方楽しむのだったら次の金土日に行くべきだろう。

第27回 神保町ブックフェスティバル 2017年11月3日(金、祝)、4日(土)5日(日)
http://jimbou.info/news/book_fes.html


とはいっても今日(10月28日)は生憎の雨。先週末の台風21号が去ったばかりなのに、今週末は台風22号だ。路上販売はお休みである。



明倫館書店の外の本棚もこのとおり。




でも、せっかく来たので店に入ってこの2冊を買った。南部先生の本は3000円、戸田先生の本は2000円だ。Amazonで中古価格を調べたら、まずまずの値段である。明倫館書店では先週、レア本の「xのx乗のはなし」を運よく3000円で買ったばかりだ。



素粒子論の発展: 南部陽一郎
内容:
2008年ノーベル物理学賞を受賞された南部博士の業績は、湯川秀樹、朝永振一郎、坂田昌一といった日本の物理学の伝統を受け継ぐだけでなく、さらに新しい物理学のパラダイムを提示したことでも特筆すべきものである。本書は、受賞理由となった「対称性の自発的な破れ」のほか、ヒッグス機構や弦理論などの先駆的な仕事がどのようにして生まれたのか、またそれらは素粒子物理学の歴史の中にどのように位置づけられるのか、博士自身の言葉で綴られた初の和文論集である。

楕円関数入門: 戸田盛和
内容:
本書は楕円関数の入門書であり、いわゆるヤコビの楕円関数を三角関数のようにたやすく扱えるようにする。『数学セミナー』で連載したものに、ワイエルシュトラスによる楕円関数の形式、楕円関数の一般論の要約や公式集を収録。身近な現象を取り上げて具体的な計算を通して現象と共に楕円関数を理解できるように解説する。


来週火曜は仕事で九段下に来る用事があるから、終わったら古本まつりに立ち寄ってみることにした。そして来週末も来ることにしよう。購入した本は、その都度この記事に書き足していくことにする。


関連記事:

第57回 神田古本まつり、第26回 神保町ブックフェスティバル
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c168df7016fa0a22b023894f4f6a725a

第56回 神田古本まつり
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e6f8747520c13a604be12dc5c9fdfd2c

第25回 神保町ブックフェスティバル
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2d423e662d49ff313acec5c991b6399e

第51回 神田古本まつり
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c8b3a07e28fd98a1f3f7feb852e1d2b1

とねの本棚 (蔵書目録)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2949d01bf2f786f7d788c7f191fc3daa


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あたらしい人工知能の教科書: 多田智史、石井一夫

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あたらしい人工知能の教科書 プロダクト/サービス開発に必要な基礎知識」(Kindle版

内容紹介:
さまざまな業界・業種で利用されてきている人工知能。その範囲は膨大で、必要されている理論などの知識を取捨選択するだけでもたいへんです。本書は人工知能関連のプロダクト・サービス開発を行っているエンジニアにとって、今後の開発で必要になる知識を取捨選択し、理論と技術をわかりやすくまとめた書籍です。
2016年12月刊行、352ページ。

著者について:
多田智史(ただ・さとし)
1980年生まれ、兵庫県出身。大学は生物工学を専攻し、現在バイオインフォマティクスの企業に勤務。データ解析プログラムやWebベースのデータベースシステムの開発を業務で行う。

監修者について:
石井一夫(いしい・かずお)
東京農工大学農学府農学部農学系ゲノム科学人材育成プログラム特任教授。
ゲノム研究者としての実務家の視点から、ビッグデータ活用のあるべき姿を追求するために
「ビッグデータ活用実務フォーラム」を2013年6月に設立。


理数系書籍のレビュー記事は本書で348冊目。

本書は今年の初め、カフェで前に座っていた男性が読んでいて、つい気になって買ったものだ。

名人を負かす将棋や囲碁の人工知能ソフトが脚光を浴び、機械学習・深層学習という言葉を毎日目にするようになった。人工知能とひとくくりにまとめて話題にされ、書店ではどの本を買ってよいのかわからないほどだ。

買う前の立ち読みで「数式も書いてあるし、広い範囲をカバーし、エンジニア向けだ」と思ったので購入。

本書の概要は著者と監修者へのインタビューを、まずお読みになるとよいだろう。

人工知能を利用するプロダクトを開発できるように――『あたらしい人工知能の教科書』インタビュー
https://codezine.jp/article/detail/9839

章立ては次のとおり。

CHAPTER 01 人工知能の過去と現在と未来
CHAPTER 02 ルールにルールを重ねる
CHAPTER 03 生きているかのように振舞う
CHAPTER 04 最適解と重み付け
CHAPTER 05 最適化と重み付け
CHAPTER 06 統計的機械学習
CHAPTER 07 教師なし学習と教師あり学習
CHAPTER 08 自律知能エージェント
CHAPTER 09 深層学習
CHAPTER 10 パターン認識
CHAPTER 11 テキスト・自然言語処理
CHAPTER 12 知識表現と構造
CHAPTER 13 分散コンピューティング
CHAPTER 14 大規模データ・IoTとのかかわり

詳細目次はAmazonの「なか見!検索」で公開されてるが、ここにも載せておこう。画像はクリックで拡大する。

    


人工知能技術の全体を見渡せるという意味では、本書しかないそうだ。しかし、全体を読み終え、満足できたか知的な刺激を受けたかといえば「否」である。つまり、ひとつひとつの技術の説明が短く、概要しか解説されないので仕方がないことだ。詳細目次レベルで、各技術の解説が3から5ページのパンフレットを読んでいるような印象を受けた。

以下、考えたこと、感じたことを箇条書きしておこう。

- リファレンスとしては有効だと思う。

人工知能技術の全体を見渡せるという意味で、将来の勉強の方向を決めるために情報系の学生には有用な本だと思う。また、すでにエンジニアとして働いている人でも、自分の知らない考え方、アルゴリズムを発想するうえでリファレンスとして活用することができる。

- 「人工知能」の意味に含めた技術が広すぎだと思った。

機械学習や深層学習は人工知能だと思うが、ルールベースのプログラム、探索アルゴリズム、回帰分析、ベイズ統計、データベースなど人工知能以前のソフトウェア技術も含めて人工知能として紹介しているからだ。そのために現在ホットな分野の詳しいことを知ることができない。

- 数式が書かれているが、単なる紹介に終わっている。

紹介している技術の基礎となる数式が紹介されているのは良い。線形代数や微積分、統計学を始め「物理数学」として学ぶ内容さえ習得すれば理解できるレベルだ。情報系の学生は数学が苦手な人が多いだろうから、この分野のエンジニアになりたいのならば、数学の教科書で学んでおいたほうがよい。もちろん本書のレベルであれば数学科や物理学科の学生ならば難なく数式を理解できるはずだが、それぞれの技術にどのように数式が生かされ、処理系がどのように動作するかをイメージできるまでには至っていない。つまり、自分でプログラミングして初めて理解できるということ。

- 説明は簡潔でわかりやすい。

ソフトウェア系の専門用語は多いのは当然だが、要点を絞って上手にそして簡潔に説明している。この点は評価したい。

- 説明不足を補うために、詳細は紹介するサイトを参照させている。

各技術に割り当てられているページ数が少ないので仕方がないが、「詳しくは次のサイトを読んでほしい。」とURLを5つくらい紹介して済ませている。紙媒体の本なのでいちいち長いURLを入力しなければならないのかと、少々面倒に思えてしまう。

- 深層学習は人工知能技術のほんの一部であることがわかる。

350ページあまりの本書で、深層学習について解説しているのは第9章の17ページだけである。それ以外の人工知能の技術がたくさんあるので、将来自分が取り組むべき技術の選択肢がとても多いことがわかる。深層学習はたまたま現在ホットな技術であるに過ぎないことを肝に銘じておこう。

- 深層学習の詳細は学べない。

深層学習についてはもう少し詳しく学べるかと思ったら期待外れだった。詳しく理解したいならば、他の本をあたるべきだ。

- 問題点や何が困難であるかを知ることができる。

各手法、技術によって何が実現でき、何が問題であるかを知ることができる。将来の展望を楽観視せず、正直に書いているところは評価したい。

- 誤植が多い。

残念である。正誤表は次のページで見ることができる。

あたらしい人工知能の教科書(出版社のページ)
http://www.shoeisha.co.jp/book/detail/9784798145600

- 人工知能の将来像、社会へ与える影響は書かれていない。

エンジニア向けの本だから当然である。人工知能は将来どのようになっていくのか?社会にどのような影響を与えていくか?などについては一切書かれていない。現在までに開発された技術を淡々と解説する本である。シンギュラリティに関する予測、人間と人工知能のかかわり方を考えてみたい方は他の本をあたるべきだ。


ということで、エンジニアの方には「持っていたほうがよいかも」というレベルでのお勧め本、エンジニア以外の方にはお勧めしないというのが僕の結論である。


関連記事:

脳・心・人工知能 数理で脳を解き明かす:甘利俊一
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/55335818aa47b1227eebc6b73c346960

人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの: 松尾豊
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/35dd84adaee4c749268d0b7d3283e83e


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あたらしい人工知能の教科書 プロダクト/サービス開発に必要な基礎知識」(Kindle版



CHAPTER 01 人工知能の過去と現在と未来
CHAPTER 02 ルールにルールを重ねる
CHAPTER 03 生きているかのように振舞う
CHAPTER 04 最適解と重み付け
CHAPTER 05 最適化と重み付け
CHAPTER 06 統計的機械学習
CHAPTER 07 教師なし学習と教師あり学習
CHAPTER 08 自律知能エージェント
CHAPTER 09 深層学習
CHAPTER 10 パターン認識
CHAPTER 11 テキスト・自然言語処理
CHAPTER 12 知識表現と構造
CHAPTER 13 分散コンピューティング
CHAPTER 14 大規模データ・IoTとのかかわり

なみとつぶのサーカスー宇宙の超精密実験の現在

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三連休の初日は、この講演会を聞きに東京大学に行ってきた。

第17回東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構・宇宙線研究所合同一般講演会「なみとつぶのサーカスー宇宙の超精密実験の現在」
http://www.ipmu.jp/ja/17ICRRKIPMU

プログラム

13:00-13:45 「重力波」アインシュタインの奏でる宇宙からのメロディー
川村 静児 (東京大学 ICRR教授)

2015年9月、アインシュタインの残した最後の宿題「重力波」がついに検出されました。重力波は時空のゆがみが波として伝わる現象で、アインシュタインが1917年に予言していました。アメリカのLIGOがとらえたその信号の源は、多くの研究者が予想していなかったブラックホール連星合体。これまでの望遠鏡では見ることができなかった天体現象を観測する「新しい窓」が開かれた大発見です。今後は、重力波の観測により、これまでは見えなかった宇宙の姿、たとえば宇宙のはじまりなども見えてくるかもしれません。講演会では、重力波天文学の現状と今後について詳しく解説し、宇宙からやってくる重力波のメロディーをお聞かせします。

13:55-14:40 「ニュートリノ」T2K実験で探るその性質と将来展望
マーク・ハーツ(東京大学 Kavli IPMU特任助教, TRIUMF研究所研究員)

ニュートリノは原子を構成する素粒子の1つで、軽くて動きが早く、宇宙に充満しています。検出が困難で、1930年に予見されてから初めて検出されるまで、26年かかかりました。ニュートリノの他の素粒子と異なった振る舞いは、自然法則をうかがい知るためのユニークな「窓」として機能しています。
本講演では、日本の東海岸に位置する東海村で生み出したニュートリノのビームを発射して、そこから295km離れたスーパーカミオカンデの検出器で検出する、T2K実験を紹介します。T2K実験の動機、実験の仕組み、物理学的に重要な実験成果の数々、さらに、日本におけるニュートリノ実験の将来展望、例えばハイパーカミオカンデと呼んでいる新しい実験についてもお話しします。
※英語による講演(同時通訳あり)

14:50-15:20 
対談「超精密実験の現在」 川村 静児 x マーク・ハーツ

15:20-16:00 
講師を囲んでティータイム

 
会場は赤門を入ってすぐ右の伊藤謝恩ホール。昨年11月に「日本物理学会2016年度公開講座 「一般相対性理論と宇宙 -重力波研究の最前線-」」で訪れた場所だ。



お馴染みの赤門。開始の30分前に到着したが、すでに開場が始まっていた。ホールの前5列は机付きである。4列目に席をとることができた。ひとつ前の席には、いつも物理学講座でご一緒させている「たけのやさん」がいらっしゃっていた。

時間になりKavli IPMUの広報の女性が、オープニングの挨拶と注意事項を日本語と英語でお話になった。この日の講演の第2部はハーツ先生が英語で行う。同時通訳の装置が受付で貸し出されていた。そして、日本語の講演も含めてすべて手話通訳付きである。


「重力波」アインシュタインの奏でる宇宙からのメロディー
川村 静児 (東京大学 ICRR教授)

川村先生が登壇。先月ノーベル物理学賞と連星中性子星による重力波検出の発表されたばかりなので、とてもタイミングがよい。

重力波が何なのかを理解する前に必要なのは一般相対性理論だ。省略しないで講義をすると38時間かかるという内容を、重力の本質をたった3分の講義として解説された。

先生が作成されたスライドは、アニメーションを多用している。地上に浮いているエレベーターの中に4つのリンゴが正方形を45度回転させた頂点の位置に浮かんでいる。エレベーターのロープが切れて自然落下する状況の中で、4つのリンゴの位置は縦長の菱形の頂点の位置に移動する。この変化が潮の満ち引きをおこす地球潮汐と本質的に同じだと説明された。海水面は月がある方向だけでなく、月の反対側の海水面も盛り上がることが、よくわかる。

次に先生は重力波が伝わるときの形をあらわすアニメーションを映された。斜め上から下に円筒形のような形で伝わる重力波である。その断面はぶよぶよと縦長の楕円形->円->横長の楕円形に形を変えながら進む。これが潮汐的な空間のひずみと同じであることを解説された。

ここまできて僕は「?」と思った。地球潮汐や4つのリンゴの位置の変化は、一般相対論を持ち出さなくてもニュートン力学だけで説明できるはずだ。ニュートンの著書「プリンキピア」にも月による潮の満ち引きのしくみが書かれている。いきなり空間のゆがみに結びつけることには論理の飛躍を感じた。でも3分講義なのだから目をつぶろう。

重力波はとても小さい。仮に100Kgの2つの鉄球を1メートル離した状態で毎秒1000回転させると、2KHzの重力波が発生するが、100キロメートル離れたところでの重力波の振幅は10のマイナス40乗メートルしかないそうで、どんなに技術が発展しても絶対観測できない大きさだという。重力波の観測に天体現象をが利用されるのはそのためだ。

観測可能な重力波をもたらす天体現象は、連星中性子星の合体、連星ブラックホールの合体、超新星爆発の3つである。よく使われるアニメーションのように渦巻きが平面上を広がるのではなく、実際は四方八方に広がるのだ。

今後、重力波を精密に観測できるようになると、宇宙の誕生の瞬間にかなり近いところまで観測することになるのだという。

- 光(電磁波)で観測できるのは宇宙の誕生から38万年後(宇宙の晴れ上がり)以降
- ニュートリノで観測できるのは宙の誕生から1秒後(陽子、中性子の誕生)以降
- 重力波で観測できるのは宇宙の誕生からプランク時間(10^(-43)秒)以降

また超弦理論が予測する余剰次元に重力が漏れ出している可能性もあり、それを検出するための実験も行われている。(余剰次元から3次元空間にしみ込んでくる重力もあるのかな?と思った。)

川村先生の講義のいちばんの聞き所は、まさに重力波の音を聴くことだった。重力波の周波数はちょうど人間の聴力がカバーしている周波数に含まれているため、音として直接聞くことができるのだ。

とはいえ、直接聴くにはあまりにも小さい。たとえば宇宙空間が空気で満たされ、シリウスを公転する惑星上に人間が発する音声は、地球に届くころには10のマイナス40乗メートルの空間のゆがみとして観測されるそうだ。鼓膜を振動させるには全く足りない。

実際に聴かせていただいたのは次の4つ。

- 太陽質量の1.4倍の連星中性子星: 小鳥のさえずりのような音程が長く続く
- 太陽質量の0.1倍の連星ブラックホール: 小鳥のさえずりのような音程が短く続く
- 太陽質量の10倍の連星ブラックホール: ブーンという低い音程が短く続く
- 超新星爆発: ボコッという低い音程が短く続く
- 上記4つの現象が連続的におきる場合: 宇宙から聞こえるメロディのシミュレーション

ということは「重力波は歌う:アインシュタイン最後の宿題に挑んだ科学者たち:ジャンナ ・レヴィン」という記事で紹介した動画は、LIGOで検出された連星ブラックホールの音なのに小鳥のさえずりのような音だったから、これは周波数を調整したのだなと思った。

その後は、重力波観測装置のしくみの解説とKAGRAの予定(2019年完成、翌年には重力波を検出できるのでは?)を解説された。

さらに、宇宙空間に観測装置を設置するDECIGO計画も進んでいるそうだ。これを使えば宇宙誕生から10のマイナス35乗秒後、インフレーションによって発生した重力波を捉えられるのだという。

最後に川村先生の著書を紹介しておこう。Kindle版は固定レイアウトなので、ご注意いただきたい。

重力波とは何か アインシュタインが奏でる宇宙からのメロディー」(Kindle版




「ニュートリノ」T2K実験で探るその性質と将来展望
マーク・ハーツ(東京大学 Kavli IPMU特任助教, TRIUMF研究所研究員)

10分間の休憩を挟んでハーツ先生が登壇された。素粒子物理学である。

ニュートリノの物理学は「An Introduction to the Standard Model of Particle Physics 2nd Edition: W.N.Cottingham, D.A.Greenwood」で少し学んだ程度の僕にとって、とても有益な講義となった。

ニュートリノは中性子が陽子と電子に崩壊する過程で、1930年にパウリがエネルギーを運ぶ粒子として予言したものだ。1987年にカミオカンデで検出され、1998年にスーパーカミオカンデで大気から降り注ぐニュートリノを観測することによって、ニュートリノ振動が実証された。その結果、ニュートリノに質量があることが実証されたわけである。

ニュートリノには3タイプのフレーバー(電子、ミューオン、タウ粒子のいずれか)があり、3つのレベルの質量がある。その対応関係は1対1ではない。

ニュートリノの発生源は自然に観測されるものと、人工的なものとに分けられる。自然に観測されるものは次のようなものだ。

- 超新星爆発による
- 太陽から放射される(うち3パーセントのエネルギーがニュートリノによるもの)
- 宇宙線としてのもの
- 地球からの放射線(原子炉からの放射線にも含まれる)

ニュートリノは他の物質とほとんど相互作用しないため、検出が極めて困難。スーパーカミオカンデでは40m x 40mのタンクに50万トンの水を入れて相互作用させ、チェレンコフ光を観測することによって検出した。

T2K実験はJ-Parkで生成した強いニュートリノのパルスを295Km離れたスーパーカミオカンデで観測する。人工的なニュートリノは強度やタイミングを始め、制御しやすいので自然発生のニュートリノよりも有効である。

J-Parkではニュートリノと反ニュートリノの両方を発射できる。この実験を行うことで、ビッグバンによってなぜ通常物質が残ったか、つまり物質と反物質の非対称性の物理を検証できる。2013年までの観測によって仮説検定5パーセントの精度で、この非対称性が確認できた。今後、仮説検定の精度を1パーセントまで高めたいという。

そしてとてもワクワクさせられたのが、次に計画されている「ハイパーカミオカンデ」である。これが実現すると、観測精度はハイパーカミオカンデの8倍になり、陽子崩壊の発見やニュートリノのCP対称性の破れ(ニュートリノ・反ニュートリノの性質の違い)の発見、超新星爆発ニュートリノの観測などを通して、素粒子の統一理論や宇宙の進化史の解明を目指すそうだ。

質問も活発に行われた。印象に残っているのはニュートリノと相互作用させる物質として、なぜ水を使うのかというもの。その理由は1)水は透明であること、2)安価で大量に入手できること、3)環境汚染しないこと、だそうである。


対談「超精密実験の現在」 川村 静児 x マーク・ハーツ

再び10分間の休憩を挟んで、両先生による対談が行われた。司会の女性の方が進行役となり、受講申し込みした人から事前にメールで募集していた質問を両先生に投げかける。

まず、お互いの講義について両先生がどのような感想をもったかが語られた。研究分野が違うと、交流はほとんど行われていないことがわかった。

そしてKAGRA、T2K実験それぞれについて、実験のアイデアが誰がどのように考え着いたのか、自分が関わることになったときのことなどを、それぞれお話になった。

KAGRA、T2K実験のどちらにも共通しているのが「超高精度実験」であるということだ。KAGRAでは雑音を取り除くために、いかに苦労しているか、そしてT2K実験のほうは統計的な精度をどのように上げるかが課題であるということだ。アプローチとしては全く違う。

そしてプロジェクトに関わるスタッフについての話も興味深かった。KAGRAには研究者と技術者の2つのタイプの人財が参加しているのだが、研究者であっても電子回路技術に通じていて、技術者としても働いているという。


講師を囲んでティータイム

講演が終わり、会場外に設けられたスペースでお二人の先生を囲んでのティータイムが始まった。とはいっても人数が多すぎる。まるで2つの連星のように離れた場所に先生がお立ちになり、その周りには受講者が取り囲んで質問したり、お話を聞くことになる。

先生の姿が見えないほど混雑していたので、僕はあきらめて会場を見回した。するといつも物理学講座に参加している、I君とM君がいたので少しの間、おしゃべりをして過ごした。

その後、僕は神保町でこの日から開催されている「神田ブックフェスティバル」に向かうことにした。この日、どんな本を買ったかは「第58回 神田古本まつり、第27回 神保町ブックフェスティバル」という記事をお読みいただきたい。


最後になりましたが川村先生、ハーツ先生、とてもためになる講演をしていただき、ありがとうございました!


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発売情報: ディラック 量子力学 原書第4版 改訂版

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ディラック 量子力学 原書第4版 改訂版

内容:
量子力学の創設者であるディラックが著した世界的に著名な教科書。訳者らもまた朝永をはじめ一線の研究者たちである。本書は、原書第4版の刊行後になされた改訂部分を新たに訳し、かつ旧漢字を新漢字に改めるなど全面的に組み直した新版。原書にはない日本語旧版に含まれる「付録」、および定評ある「訳者の注」も収録した。
2017年11月8日刊行、400ページ。

著者:
ディラック,P.A.M.: ウィキペディアの記事
1902‐1984年。イギリス、ブリストル生れ。理論物理学者。1928年に量子力学と相対性原理とを結合した“ディラック方程式”を発表し、1933年にはE.シュレーディンガーとともにノーベル物理学賞受賞。1932年よりケンブリッジ大学数学科教授となり「多時間理論」を展開、晩年はフロリダ州立大学で過ごした 。

ポール・ディラックの著書、関連書籍: Amazonで検索


あの名著の日本語訳が装い新たに蘇ることになった。旧版「ディラック 量子力学 原書第4版」は2009年4月に紹介したが、すでに絶版になっている。

今回の改訂版では「原書第4版の刊行後になされた改訂部分を新たに訳し、かつ旧漢字を新漢字に改めるなど全面的に組み直した新版。原書にはない日本語旧版に含まれる「付録」、および定評ある「訳者の注」も収録した。」

ポール・ディラックは、20世紀初頭から量子力学に多大な貢献をしたイギリスの物理学者。相対論的量子力学の創始者であり、この理論により1928年に陽電子を予言し、その後、反物質の発見へと結びついた。素粒子物理学に見られる対称性のさきがけ、ゲージ理論のさきがけとなった理論だ。



ちなみに本書は量子力学の入門者用ではなく、中級レベル、2冊目以降に読むレベルの本である。陽電子の理論、負のエネルギーなど相対論的量子力学の内容も含んでいる。

改訂版をまだ入手していないので、この記事の最後に載せておいたのは旧版の目次であるから、ご注意いただきたい。

旧版:

量子力学 原書第4版」(紹介記事




原書のほうもすでに読んでいる。この洋書はデザインがカッコいいのでお気に入りだ。

The Principles of QUANTUM MECHANICS: P.A.M Dirac




晩年のディラック先生が登場する有名な動画を紹介しておこう。もしご存命だとしたら、現在115歳である。






関連記事:

ディラック 量子力学 原書第4版
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/717e864f937963ea7c8328f80ee34894

ディラックによる陽電子の予言(1928年)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0764eaa33a765ffff27bccee3e35b4f3


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ディラック 量子力学 原書第4版 改訂版



旧版の目次

I 重ね合わせの原理
量子論の必要
光子のかたより
光子の干渉
重ね合わせと不確定の性質
重ね合わせの原理の数学的な定式化
ブラ・ベクトルとケット・ベクトル

II 力学変数とオブザーバブル
1次演算子
共役の関係
固有値と固有ベクトル
オブザーバブル
オブザーバブルの関数
一般の物理的な解釈

III 表示
基礎ベクトル
δ関数
基礎ベクトルのいろいろな性質
1次演算子の表示
確率振幅
オブザーバブルの関数についての定理
記号の拡張

IV 量子条件
ポアッソンの括弧
シュレーディンガーの表示
運動量による表示
ハイゼンベルクの不確定性の原理
ずれの演算子
ユニタリー変換

V 運動方程式
シュレーディンガーの形の運動方程式
ハイゼンベルクの形の運動方程式
定常状態
自由な粒子
波束の運動
ギッブスの集合

VI やさしい応用
調和振動子
角運動量
角運動量の性質
電子のスピン
中心力の場の中の運動
水素原子のエネルギー準位
選択の規則
水素原子のゼーマン効果

VII 摂動論
一般的な注意
摂動によって生じたエネルギー準位の変化
転移の原因と考えた摂動
輻射への応用
時間に無関係な摂動による転移
異常ゼーマン効果

VIII 衝突の問題
一般の注意
散乱の係数
運動量による表示を用いた解
分散散乱
放出と吸収

IX 同じ種類の粒子をいくつか含む体系
対称な状態と反対称な状態
力学変数としての置換
運動の定数としての置換
エネルギー準位の決定
電子への応用

X 輻射の理論
ボソンの集まり
ボソンと振動子とを結びつける関係
ボソンの放出と吸収
光子への応用
光子と原子との間の相互作用のエネルギー
輻射の放出、吸収、および散乱
フェルミオンの集まり

XI 電子の相対論的な理論
1個の粒子の相対論的な取り扱い
電子に対する波動方程式
ローレンツ変換の際の不変性
1個の自由な電子の運動
スピンの存在
極座標に移ること
水素のエネルギー準位の微細構造
陽電子の理論

XII 量子電気力学
物質が存在しない場合の電磁場
量子条件の相対論的な形
シュレーディンガー力学変数
付加条件
電子および陽電子自身について
相互作用
物理的変数
理論の困難

付録 近似的な解き方
一般論
ハートリーの方法
フォックの方法
密度行列の方法

iPhone 6からiPhone Xに機種変更

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三連休の中日、11月4日にiPhone Xへ機種変更した。3年使ったiPhone 6のバッテリー劣化が限界に近づき「モバイルバッテリーケース」なしには使えなくなり、一日に何度も電源が落ちる状態になっていた。

毎晩しているウォーキングで使っているNikeのアプリのバッテリー消費が激しいのが劣化の主な原因である。

さて、iPhone Xのレビュー記事を詳しく書こうと思ったが、すでに十分なほど情報が公開されている。

iPhoneのモデルを比較する
https://www.apple.com/jp/iphone/compare/

iPhone XとApple iPhone 6の性能の違い
https://www.laplascale.com/sp/5610000000345/iPhone_X-vs-iPhone_6,or-review,4268341413662439/

iPhone Xのメリット・デメリットは?性能評価レビュー
https://www.laplascale.com/sp/561/iPhone_X,page-review2,5815749625545436/


僕にとっていちばん大切なのはLINEのトーク履歴の移行だ。他家に嫁いだ妹は、2015年にようやくスマホデビューを果たしていたのだが昨年11月に亡くなってしまった。およそ1年半の間、妹と交わしたトークは大切な思い出として絶対に残しておきたい。できればトークの間にアップした写真とかも含めて。

新しいiPhoneへ「LINE」を移行。トークも含めて引き継ぐにはこちらをチェック
https://www.gizmodo.jp/2017/11/iphone-line-app.html

しかし、残念なことにトークの中の写真はLINEには戻せないようなので、Googleドライブに写真だけあらかじめバックアップしておいた。そしてトークのスクリーンショットもすべて撮っておいた。

機種変更後、このような画面でトークを復元する。しかし初期状態のiOSだとエラーが出てしまった。



そこで、iOSを最新版にアップデートする。



トークの復元を再度試みる。しかし一度失敗すると「トーク履歴をバックアップから復元」のリンクは表示されなくなってしまうのだ。

こういう状況に陥ってしまったときは、LINEアプリを一度アンインストールしてから、再度インストールすればよい。すると「トーク履歴をバックアップから復元」は表示されるようになり、LINEの復元が完了した。

トークの間に見えていた写真はサムネイルさえも表示されず、ただのボックスとして表示されることになる。まぁ、仕方がない。

ロック画面の壁紙は、いつもの印籠だ。左右がはみだしてしまったから、時間を見つけてパソコンでサイズ調整しよう。(この画像は「印籠」で画像検索するとすぐ見つかる。でもこの画像のほうがよかったかも。)




さて、端末のお値段だが256GBのモデルだとおよそ15万円。そして端末代金は48ヶ月分割払いだそうだ。僕が契約しているSoftBankでは2年後に機種変更すれば、残りの2年の端末代金は支払わなくてもよくなるそうだ。そして3年後に機種変更の場合は、残りの1年分の端末代金を支払わなくてよいという。そうやって顧客をつなぎとめようとするわけだ。


顔認証もすばやく、CPUが高速になったぶんiPhone 6のときに感じたモサモサ感はまったくなくなった。そしてホームボタンが無くなり、全体が画面になったのがとてもよい。新しい操作にもはすぐ慣れた。ちなみにスクリーンショットを撮るには音量アップボタンと電源ボタンを同時に押せばよい。

バッテリーの使用量が激しいNikeのアプリはもう使わないことにした。毎晩同じルートをウォーキングしているのだから、距離を自分で毎日足し算して記録しておけばよいだけである。

使わなくなったiPhone 6だが、機種変更した翌日からまったく起動しなくなってしまった。ぎりぎりセーフのタイミングでの機種変更となったわけである。


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FORTRAN入門、COBOL入門

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酒の肴

懐かしい本をAmazonで見つけた。ページをパラパラめくり、学生時代を思い出しながら酒を飲むのにちょうどよい。僕にとっては酒の肴本である。

大学時代の計算機実習はFORTRAN。左の黄色い表紙の教科書を授業で使っていた。その後、培風館のこの本は改訂され、「FORTRAN77入門」となった。ページ数も318ページから424ページに増えている。

クリックで拡大


ページをめくると、学生時代の記憶が蘇ってくる。(COBOLはやっていなかったので蘇ってこない。)

FORTRAN入門(クリックで拡大)


COBOL入門(クリックで拡大)



僕のように学生時代に思いをはせたいという方はこちらからどうぞ。

FORTRAN入門: 浦 昭二
FORTRAN77入門: 浦 昭二
COBOL入門: 大駒 誠一


学生時代の実習環境

計算機実習の授業で使われていたのは、日立製の大型計算機。年代を考えると「HITAC Mシリーズ」のうちのどれかだったのだろう。最上位のM-180でさえ、主記憶容量(メモリーサイズ)は1〜16MBだというから、隔世の感がある。

FORTRANはこの時代(僕が入学したのは1983年)にはFORTRAN77になっていたが「FORTRAN77入門」のほうはまだ刊行していなかった。このようなパンチカードで課題のプログラムを入力する。プログラム1行がカード1枚だ。(もしやと思いAmazonとヤフオクで検索してみたが、パンチカードはさすがに販売、出品されていなかった。)

クリックで拡大


パンチカードは専用の穿孔機があり、4台くらいあるのを学生が順番に使う。ちょうど僕が使っていたのと同じ穿孔機が見つかった。IBM製だったことを今になって知ることになった。



穴を開けたパンチカードを束ねて輪ゴムでとめて、計算機センターの受付の人に渡すのだ。実行結果は翌日、プリンター用紙に出力されたものを受け取ることになる。間違えていたらやり直しだ。


FORTRAN、COBOLの歴史

>FORTRANは1954年にIBMのジョン・バッカスによって考案された。コンピューターにおいて広く使われた世界最初の高級言語である。主に数値計算用、科学計算用として使われた。また、>COBOLは1959年に事務処理用に開発されたプログラミング言語である。

世界初のコンピュータは第二次世界大戦中に弾道計算用として開発された真空管式のENIACであり、これは配線をつなぎかえることでプログラムをする必要があった。配線のつなぎかえが不要な汎用型で世界初のコンピュータは1949年に開発された真空管式のEDSACである。(参考記事:「真空管式コンピュータへのノスタルジア(EDSAC, 1949年)

つまり民間の技術者が簡単にプログラミングできるようになったのは、FORTRANからであり、FORTRANが初めて使えるようになったのは1954年に開発されたメインフレーム・コンピュータIBM 704からである。これも真空管式だ。

クリックで拡大


このコンピュータを紹介する貴重な動画がある。




COBOLはIBMが1959年に発表した科学技術計算用第二世代トランジスタ版メインフレーム・コンピュータ、IBM 7090上で動作した。(その他、FORTRAN、SORT/MERGE、MAPアセンブラなども使えた。)

この写真はNASAのマーキュリー計画で使われたデュアル構成のIBM 7090である。IBM 704からたった5年で、コンピュータはものすごい進化を遂げていることがおわかりになるだろう。

クリックで拡大


その様子を紹介した動画がこちらだ。



IBM 7090メインフレーム・コンピュータは、現在公開中の映画「ドリーム」に登場する。(上映は11月16日まで。)




FORTRANは現役だ!

昔話、酒の肴としてFORTRANやCOBOLを紹介してきたが、数値計算向きのFORTRANはバリバリの現役で、スーパーコンピュータで科学計算をするために現在でも使われているのだ。このように進化している。なんと来年7月にはFORTRAN 2015がリリースされるのだ。(参考:「現在までのFORTRANの歴史」)

Fortran 66: 世界で初めてのプログラミング言語標準
Fortran 77: 固定形式、その後広く使われる
Fortran 90 - メジャーバージョンアップ: 自由形式、モジュールなど構造化言語へ
Fortran 95 - マイナーバージョンアップ: Fortran 90 の不具合修正、FORALL, PURE, ELEMENTAL 手続など
Fortran 2003 - メジャーバージョンアップ: オブジェクト指向、C 相互利用など
Fortran 2008 - モデレートバージョンアップ: 並列処理の標準化、BLOCK 構文、数学関数の増強など
Fortran 2015 (2018年7月) - モデレートバージョンアップ: IEEE 算術への準拠、並列機能の強化、C 相互利用の強化など

この言語を知るためには、こちらのサイトがよいと思う。

Fortran入門
http://www.nag-j.co.jp/fortran/index.html

(酒の肴としてではなく)じっくり数値計算を学びたいのであれば、この2冊がお勧めだ。

数値計算のためのFortran90/95プログラミング入門
Fortran90入門-基礎から再帰手続きまで-

 


FORTRANを実行するには

無料のFORTRANを実際に動かしてみたい方は、次のページを参考にするとよいだろう。

64bit の Windows 7 上でフリーの fortran コンパイラを導入して、簡単なプログラムを作成する
http://d.hatena.ne.jp/arakik10/20120214/1329167074

64bit の Windows10 上でフリーの fortran コンパイラを導入して、簡単なプログラムを作成する
http://d.hatena.ne.jp/arakik10/20160101/p1


関連ページ:

Fortran オセロプログラム
http://fortranothello.web.fc2.com/

Fortranでシミュレーションをしよう
http://www.ile.osaka-u.ac.jp/research/cmp/download/forte90-text-v1.pdf

Fortran90/95入門 前半
http://www.research.kobe-u.ac.jp/csi-viz/members/kageyama/lectures/H22_FY2010_former/ComputationalScience/2_1_f95a.html

Fortran90/95入門 後半
http://www.research.kobe-u.ac.jp/csi-viz/members/kageyama/lectures/H22_FY2010_former/ComputationalScience/2_2_f95b.html


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Square root 4,096 using abacus (Half-multiplication table method 1)

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[Set 4,096 on Mr. Square root]Zoom

[Japanese]

From this article, I begin to explain actual solutions how to calculate Square root using abacus. Today's example is simple - basic Half-multiplication table method, root is 2-digits case. Please check the Theory page for your reference.

Square root methods: Double-root method, Double-root alternative method, half-multiplication table method, half-multiplication table alternative method, multiplication-subtraction method, constant number method, etc.


Abacus steps to solve Square root of 4,096 (Answer is 64)

"1st group number" is the left most numbers in the 2-digits groups of the given number for square root calculation. Number of groups is the number of digits of the Square root.

4,096 -> (40|96) : 40 is the 1st group number. The root digits is 2.


Step 1: Place 4096 on CDEF.


Step 2: The 1st group is 40.


Step 3: Square number ≦ 40 is 36=6^2. Place 6 on B as the 1st root.


Step 4: Subtract 6^2 from the 1st group 40. 40-36=4


Step 5: Focus on 496 on DEF.


Step 6: Divide 496 by 2. Place 248 on DEF.


Step 7: Divide 24 on DE by the current root 6.


Step 8: 24/6=4 remainder 0. Place 4 on C as 2nd root.


Step 9: Place remainder 00 on DE.


Step 10: Focus on 8 in the 2nd group.


Step 11: Subtract half of the square of the 2nd root from 8. Place 8-4^2/2=0 on F.


Step 12: Square root of 4096 is 64.


Final state: Answer 64

Abacus state transition. (Click to Zoom)


It is interesting to compare with the Double-root method.

Next article is also about Double-root method, more difficult example.


Related articles:

How to solve Cube root of 1729.03 using abacus? (Feynman v.s. Abacus man)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cff5d6e7ecaa07230b9cc7af10b23aed

Index: Square root and Cube root using Abacus
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f62fb31b6a3a0417ec5d33591249451b

Square root 4,096 using abacus (Double-root method 1)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/fb902e129868386dd3162b9ff37af9a8


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開平と開立(第31回):4,096の算盤による開平(半九九法1)

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開平はん」に4,096を置いたところ拡大

[English]

前回の理論編に続き、今回から算盤での開平の手順を解説する。今回は半九九法で、根が2桁になる場合のうち基礎的な例である。

開平(平方根):倍根法(2商法)、倍根法別法、半九九法、半九九法別法、乗減法、定数法(折衷法) 、過大数開平、省略開平など


算盤による4,096の2乗根の解法(答は64)

第1群の数とは平方根を求める数を2桁ずつ区切り、いちばん大きい(いちばん左)の2桁のことである。群の数が根の桁数となる。

4,096 -> (40|96) : 40が第1群の数、根の桁数は2


手順1: 4096をCDEFに置く。


手順2: 第1群は40。


手順3: 40以下の平方数は36=6x6。6を初根としてBに立てる。


手順4: 40-6^2=04をCDに置く。


手順5: DEFの496に注目する。


手順6: 496を二分する。すなわち496/2=248をDEFに置く。


手順7: DEの24を既根6で割る。


手順8: 24/6=4余り0。商4をCに置き、次根とする。


手順9: 余り00をDEに置く。


手順10: 第2群の8に注目する。


手順11: 8から次根の平方の半分を引く。8-4^2/2=0をFに置く。


手順12: 平方根は64と求まる。


最終状態: 答 64

珠の状態推移を表にすると次のようになる。(クリックで拡大)


同じ問題の倍根法での解法と比べてみてほしい。


次回も半九九法による開平だが、もう少し難しい例をとりあげる。


関連記事:

ファインマン v.s. 算盤の達人: ファインマン先生に立方根計算の雪辱を果たそう
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/89a0b907577f03ef6132cf9664bdcddb

目次:算盤による平方根、立方根の計算(開平、開立)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bb0449f357398a2c24026f33af7f70ee

開平と開立(第7回):4,096の算盤による開平(倍根法1)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4999e8b2c8490bea43bb530b42dc166d


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Square root 729 using abacus (Half-multiplication table method 2)

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[Set 729 on Mr. Square root]Zoom

[Japanese]

We will continue from where we ended in the last article, the actual solutions to calculate Square root using abacus. Today's example is Half-multiplication table method (Hankuku method), root is 2-digits case. We require root reduction in the steps. Please check the Theory page for your reference.

Square root methods: Double-root method, Double-root alternative method, half-multiplication table method, half-multiplication table alternative method, multiplication-subtraction method, constant number method, etc.


Abacus steps to solve Square root of 729 (Answer is 27)

"1st group number" is the left most numbers in the 2-digits groups of the given number for square root calculation. Number of groups is the number of digits of the Square root.

729 -> (07|29) : 07 is the 1st group number. The root digits is 2.


Step 1: Place 729 on DEF.


Step 2: The 1st group is 7.


Step 3: Square number ≦ 7 is 4=2^2. Place 2 on B as the 1st root.


Step 4: Subtract 2^2 from the 1st group 7. Place 7-2^2=3 on D.


Step 5: Focus on 329 on DEF.


Step 6: Divide 329 by 2. Place 1645 on DEFG.


Step 7: Divide 16 on DE by the current root 2.


Step 8: 16/2=8 remainder 0. Place 2 on C as 2nd root.


Step 9: Place remainder 00 on DE.


Step 10: Subtract half of the square of the 2nd root from 8. But 8-4^2/2 is minus. The 2nd root 8 is excessive root.


Step 11: Subtract 1 from the excessive root 8. Place 7 as 2nd root. Return 1x current root 2 on E.


Step 12: Focus on 245 on EFG.


Step 13: Subtract 2nd root^2/2 from 245 on EFG. Place 000 on EFG.


Step 14: Square root of 729 is 27.


Final state: Answer 27

Abacus state transition. (Click to Zoom)


It is interesting to compare with the Double-root method.

Next article is also about Half-multiplication table method, more difficult example.


Related articles:

How to solve Cube root of 1729.03 using abacus? (Feynman v.s. Abacus man)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cff5d6e7ecaa07230b9cc7af10b23aed

Index: Square root and Cube root using Abacus
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f62fb31b6a3a0417ec5d33591249451b

Square root 729 using abacus (Double-root method 3)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d11c31bd52c957a4e1cdb7f502af8b76


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開平と開立(第32回):729の算盤による開平(半九九法2)

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開平はん」に729を置いたところ拡大

[English]

前回に続き、今回から算盤での開平の手順を解説する。今回は半九九法で、根が2桁になる場合で過大根が生じ途中で根を還元するケース。理論編も参考にしていただきたい。

開平(平方根):倍根法(2商法)、倍根法別法、半九九法、半九九法別法、乗減法、定数法(折衷法) 、過大数開平、省略開平など


算盤による729の2乗根の解法(答は27)

第1群の数とは平方根を求める数を2桁ずつ区切り、いちばん大きい(いちばん左)の2桁のことである。群の数が根の桁数となる。

729 -> (07|29) : 07が第1群の数、根の桁数は2


手順1: 729をDEFに置く。


手順2: 第1群は7。


手順3: 7以下の平方数は4=2x2。2を初根としてBに立てる。


手順4: 7-2^2=3をDに置く。


手順5: DEFの329に注目する。


手順6: 329を二分する。すなわち329/2=164.5をDEFGに置く。


手順7: DEの16を既根2で割る。


手順8: 16/2=8余り0。商8をCに置き、次根とする。


手順9: 余り00をDEに置く。


手順10: 第2群の04から次根の平方の半分を引きたいが、4-8^2/2はマイナスなので次根8は過大根。


手順11: 次根8を1つ減らし7を次根とする。既根2の1倍を還元する。すなわちEに2を置く。


手順12: EFGの245に注目する。


手順13: EFGの245から次根^2/2を引く。245-7^2/2=000をEFGに置く。


手順14: 平方根は27と求まる。


最終状態: 答 27

珠の状態推移を表にすると次のようになる。(クリックで拡大)


同じ問題の倍根法での解法と比べてみてほしい。


次回も半九九法による開平だが、もう少し難しい例をとりあげる。


関連記事:

ファインマン v.s. 算盤の達人: ファインマン先生に立方根計算の雪辱を果たそう
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/89a0b907577f03ef6132cf9664bdcddb

目次:算盤による平方根、立方根の計算(開平、開立)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bb0449f357398a2c24026f33af7f70ee

開平と開立(第9回):729の算盤による開平(倍根法3)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/21d983a8f56fc67614224b79e49e092d


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不思議の国のアリス、鏡の国のアリス

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不思議の国のアリス (角川文庫)」(Kindle版
鏡の国のアリス (角川文庫)」(Kindle版

内容:
不思議の国のアリス:
ある昼下がり、アリスが土手で遊んでいるとチョッキを着た白ウサギが時計を取り出しながら、急ぎ足に通り過ぎ、生き垣の下の穴にぴょんと飛び込みました。アリスも続いて飛び込むと、そこは…。チェシャーネコ、三月ウサギ、帽子屋、ハートの女王など、一癖もふたくせもあるキャラクターたちが繰り広げる夢と幻想の国。ユーモア溢れる世界児童文学の傑作を、原文の言葉あそびの楽しさそのままに翻訳した、画期的新訳決定版。

鏡の国のアリス:
「不思議の国」から半年後の雪の日。子ネコのキティとおしゃべりを楽しんでいたアリスは、暖炉の上の鏡をくぐり抜けてしまいます。なんとそこは、赤白のキングやクイーン、ナイトらの住むチェスの世界。さらには、おしゃべりする花々や卵のハンプティ・ダンプティも集い…おのずとチェスゲームに参加したアリスは、女王を目指すのですが…。ジョン・テニエルの美しいオリジナル挿絵を全点収録、永遠の名作童話の決定版。

著者:
ルイス・キャロル: ウィキペディアの記事
1832‐1898。イングランド北西部チェシャー州出身。本名:チャールズ・ラトウィッジ・ドッドソン。数学者であり、作家。オックスフォード大学を卒業、同大学の数学および論理学の教授に。独特のユーモア感覚と幻想的イメージに溢れた童話『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』は、イギリスはもちろん、世界中で支持されている。母校オックスフォード大学で数学講師を務めていた際、学寮長リドルの次女アリスのために書き下ろした物語が、『不思議の国のアリス』(1865年)の原型となる 。


「なぜ、この本を読んだの?」という声が聞こえてきそうだが、理由は3つある。

1)有名な本であるにもかかわらず、原作を通しで読んでいなかったこと。
2)「謎解き「アリス物語」(PHP新書)」(Kindle版)を読みたかったので、まず原作を読んでおいたほうがよいだろうと思ったから。
3)3つめの理由は伏せておこう。来月中旬までにおわかりになるはずだ。


とりあえず英語版の2冊を先に読み、続いて日本語版をそれぞれ読んでみた。フランス語版も購入したが、今回は読んでいない。

次のことにこだわって日、英、フランス語版を揃えた。(僕が買ったのはKindle版だけだ。)

1)文庫版(ペーパーバック版)とKindle版の両方とも揃えられること。
2)挿絵付きで、挿絵はジョン・テニエルによるものであること。
3)Kindle版では文字と挿絵がKindle Paperwhite、Kindleアプリの両方で良好な状態で表示されること。(フランス語版には型崩れして表示されるものがいくつかある。)

2冊を通読してみたところ、予想通り(子供が楽しむように)無邪気に楽しめる本ではなかった。「不思議の国のアリス」のほうはあらすじは知っていたが、ルイス・キャロルが物語に「謎解き」をどのように潜ませたのかが気になる。だから英語版、日本語版ともに「読み解くこと」に集中していた。

言葉遊びや論理学的な言い回しがされていることは、すぐわかるし、日本語版では駄洒落を工夫して上手く訳したものだなと感心させられる。けれども、僕が気が付かない「謎解き」はまだまだたくさんあるような気がした。

登場するキャラクターが奇妙なだけでなく、会話そのものが論理のすり替えや、意味の取り違えによって不思議な展開を創り出す。


子供向けの絵本だけでなく、映画化やアニメ化するにはうってつけの作品であることには違いなく、原作以外の関連作品がこれまでヒットし続けたこともうなづける。

「不思議の国のアリス」はトランプゲームを、「鏡の国のアリス」はチェスを題材にして、それぞれキングとクイーンが登場する。物語の進行に従って、ゲームは進行するそうなのだが、僕にはさっぱりわからなかった。巻末の解説を読んでも物語の進行と結びついているようには思えないのだ。

このようなわけで「謎解き」ができるまでには至らなかった。この作品の深さは、もう少し深く読み込んで分析しないと理解できないのだろう。


今回は、とりあえず通読して物語がどのように進むのか、登場するキャラクターとアリスがどのような会話をしたのかを知ったということで、よしとしておこう。


新潮文庫からもこの2作品が刊行されているが、こちらは挿絵がジョン・テニエルではないこと、Kindle版がでていないことをおことわりしておく。

僕がお勧めするのは、次の3組だ。

日本語版:角川文庫版

不思議の国のアリス (角川文庫)」(Kindle版
鏡の国のアリス (角川文庫)」(Kindle版

 


英語版:

Alice's Adventures in Wonderland (Illustrated) 」(Kindle版
Through the Looking-glass (Illustrated) 」(Kindle版

 


フランス語版:

Alice au pays des merveilles (Illustré) 」(Kindle版
De L'autre Côté Du Miroir (Illustré) 」(Kindle版

 


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映画『ドリーム(2016)』

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左からメアリー、キャサリン、ドロシー

楽しみにしていた映画をようやく観ることができた。アメリカの初期の宇宙開発を「計算手」として支えた、黒人女性数学者たちの伝記作品である。原題は「Hidden Figures」、陰で支えた人たちという意味合いだ。

映画『ドリーム』オフィシャルサイト - 20世紀フォックス
http://www.foxmovies-jp.com/dreammovie/


映画を待ちきれずに、原作本「ドリーム NASAを支えた名もなき計算手たち」(Kindle版)を読み終えてしまっていたので、どのような映画かは知っていた。文庫本で460ページもある内容を、どのようにして2時間の映画にまとめたのか気になっていた。原作本の感想は後日、別記事として書くことにしよう。


待ち合わせ

映画マニアの友達と日比谷で待ち合わせる。午後3時半からの回にちょうどよいタイミングで間に合った。






上映開始

スクリーンを前にして後方左側に着席。CMや注意事項の映像をしばらく見てから本編が始まった。

冒頭のシーンは1926年。メガネをかけた黒人の女の子が教室で数学の問題を解いて解説している。彼女が解いてみせたのは高校1年レベルの代数方程式だ。その後、彼女はあまりにも優秀なので飛び級をすることが紹介された。

そして舞台はいきなり1961年に切り替わる。30代以上の黒人女性3人が勤務先のNASAのラングレー研究所に車で出勤中、エンストを起こして困っている。

ああ、そうなのか。映画では原作本の前半が丸ごとカットされている。ドロシー、キャサリン、メアリーの3人が計算手として最初に勤務したのはNASAの前身のNACA(アメリカ航空諮問委員会)だったからだ。

職場で彼女たちが受けた黒人差別、女性差別の多くは、原作本ではNACA勤務の頃のこととして書かれており、それをNASA勤務になってからのこととして描いていた。もちろんNASAになってからもそのような差別は続いていたが、NACAの頃よりは改善していたのだ。

黒人であり女性でもある彼女たちが、このような国家プロジェクトに参加できたのは、数学の知識のおかげである。宇宙開発プロジェクトを進めるためには、先日「惑星探査機の軌道計算入門: 半揚稔雄」で紹介したような軌道計算だけでなく、空気流体力学など幅広い物理理論の知識と、問題を解くための数学力、とりわけ映画では解析幾何学として紹介される微積分、微分方程式の知識が必要になるからだ。

さらに、彼女たちに要求されたのはこのような高度な方程式を実際の数値として得るための計算力である。計算は電気モーターで駆動する機械式計算機を数多くの計算手が分担して行っていた。彼女たちが計算手として大きな役割を果たしていたのはNACA勤務の頃なのである。

映画では機械式計算機も映されていた。FRIEDEN社製の計算機である。僕が持っているような手回し式の「タイガー計算機」ではない。



数学が苦手な方のためにおことわりしておくが、物理学の方程式はどんなに高度なものでも、最終的には数字を加減乗除して計算すれば答を求めることができるのだ。ただし、計算量は気が遠くなるほど膨大なものになる。

そして、ソ連が有人宇宙飛行をアメリカに先んじて成功させてしまう。東西冷戦はピークに達していて、米ソが互いに核による攻撃を警戒していた時代だ。宇宙開発のための技術は軍事技術に直結している。NASAは大きなプレッシャーを受けながら開発を急ぐことを余儀なくされる。

研究所の外の社会では、黒人差別がまかり通っている。けれどもNASAの内部では、彼女たちの才能と実力が徐々に認められ、白人のスタッフと一緒に働くことができるようになっていった。その背景にはプロジェクトを急いで進めるために、優秀な者なら人種や性別を問わず起用しなければならないという事情があったのだ。

無人宇宙飛行を成功させ、有人宇宙飛行を目指す段階になって、NASAには強力な道具が導入される。IBMのメインフレーム・コンピュータだ。映画で紹介されたのはIBM 7090。1秒間に2万4千回の掛け算ができるコンピュータとして紹介された。トランジスタ回路により構成されたマシンである。



ドロシーはこのコンピュータを使うために、図書館から持ち出したFORTRANの教科書を独学していた。

しかし、原作本にはこのプロジェクトのためにNASAに最初に導入されたのは、IBM 704という真空管式、5年前のコンピュータだと書かれている。実際にドロシーがFORTRANを使い始めたのは旧型のコンピュータだったのだ。映画を2時間に圧縮するためにIBM 704は省略されてしまった。

FORTRANやIBM 704、IBM 7090については、先日「FORTRAN入門、COBOL入門」という記事で実際のコンピュータの動画を含めて解説したので、ぜひお読みになっていただきたい。また次のページも参考になる。

NASAの宇宙計画とIBM〜映画『ドリーム』
https://www.ibm.com/blogs/systems/jp-ja/nasa_ibm/


技術の発展は新しい道具を生み、その道具を使いこなすために新しいスキルを身に着ける必要がある。それは現代でも同じことだ。

初の有人宇宙飛行、マーキュリー計画に導入されたIBMのコンピュータを使いこなすためには、FORTRANでプログラミングできるようなることが求められた。数学者、計算手として採用された多くの黒人女性たちがNASAで勤務し続けるには、プログラマーになることが必須条件になったのだ。適応できない者は退職させられることになる。

プログラマー以外にも生き残れるキャリアがあった。それは技術者になることだ。数学者からエンジニアへの転身である。これを成し遂げたのがメアリーだった。そのために彼女は上級の学校で授業を受けるという黒人女性では前例のない試練を乗り越えていた。

極端までに合理的なアメリカ流の労働環境を垣間見ることになった。物であれ人であれ、不要になったものは次々と新しい物や人に置き換えていく。映画や原作本には描かれていないが、ドロップアウトした黒人女性、そして白人の職員は数多くいたことだろう。勝ち残った人たちだけに与えられるから「ドリーム」なのだ。


原作本と映画の違い

原作本と映画でいちばん違うところは2つある。ひとつは映画に要求される娯楽性、もうひとつは「会話と報告」の違いである。

原作本には登場人物が交わす会話はまったく書かれていない。著者が実在の登場人物にインタビューして、それを報告、解説として紹介するスタイルをとっている。だから読者はハラハラしたり、ドキドキしたりすることがない。

これをそのまま映像にしたのでは、娯楽性が全くないドキュメンタリー映画になってしまう。映画にはナレーションによる解説はなく、すべて登場人物たちの演技と会話で成り立っている。そして、原作本にはない滑稽なシーン、ハラハラさせられるシーン、じんわりと感動するシーンなどを付け足していた。実際、僕の友達の隣の席で見ていた中年女性は、何度も鼻をズルズルすすって泣いていたそうだ。物理や数学がわからない人でも、ヒューマンドラマとして楽しめる要素がふんだんに盛り込まれている。

原作本には感動して泣くような箇所はひとつもないのだ。しかし、マーキュリー計画でロケットが打ち上げられてからの記述はかなりワクワクするので、本にはまた違う喜びがある。

設置したばかりのIBM 7090が起動せず、IBMの技術者が頭をひねっている間抜けなシーンも映画にだけ描かれていたことだ。研究所の責任者から「コンピュータが動かなければ、君たちは無給だ。」と叱責をくらう。彼らが出払ったあとドロシーが一人でコンピュータ室に入り、配線を1か所つなぎ変えてコンピュータは動き出した。実際にそんなことはなかっただろうから、映画を楽しく見れるように創作した逸話なのだと思う。


もうひとつの「Hidden Figures」

映画を見終わってから、もうひとつの「Hidden Figures」があっただろうなと僕は思った。それはソビエト連邦にいたはずの計算手たちのことである。

スプートニク計画」で有人宇宙飛行を成し遂げるためにも、膨大な計算が行われていたはずだし、コンピュータだって使われていたはずだ。実際にどのような人たちが関わっていたか、どのようなコンピュータが使われていたかは、僕を含めほとんどの人が知らないと思う。

検索してみたところ、次のようなページが見つかった

BESM:1950年代から60年代に作られたソビエト連邦のメインフレーム・コンピュータの名称
https://ja.wikipedia.org/wiki/BESM

ソ連の宇宙開発で使われていたプログラミング言語は?
https://tech.a-listers.jp/2012/06/07/what-software-programming-languages-were-used-by-the-soviet-unions-space-program/

ソ連のコンピュータと裏切りの歴史
https://jp.rbth.com/science/2014/10/03/50475


映画館を後にして

映画館を出て、友達と僕は喫茶店に行った。映画マニアの彼女の感想は「きれいにまとめ過ぎている。」、「何度も見る映画ではないが、1度は見るべき映画だ。」というもので、その点は僕も同じだった。黒人差別、女性差別の実態はもっと過酷で嫌悪感や憎悪をかき立てるものだったはず。でもこの映画では差別を受けるシーンはあるものの、黒人女性用のトイレがないためにトイレの場所まで800メートル走る滑稽なシーンを何度も見せたり、白人職員からの嫌味は控えめに描かれていた。

確かに「きれいにまとめ過ぎていた」と思うが、帰宅してから、それはアメリカで上映されるからだと気がついた。現代でもアメリカには人種差別が根強く残っている。人種差別に対しては日本人よりアメリカ人のほうが過敏に反応するのだろう。実際におきていた差別の過激さを映像として見せて観客を刺激するのを避けたからに違いないと僕は思うのだ。

あと友達は、出演した俳優について僕に説明してくれた。僕のほうは、この記事に書いたことの一部を話したのと、映画に出てきた数学、物理学に関連する箇所を手短かに説明させていただいた。そして、少しでも数学に興味を持ってもらえたらと思って、発売されたばかりの「Newtonライト『微積のきほん』」と「数学の世界 増補第2版」をプレゼントした。

彼女がお気に入りの批評家による紹介記事は、このページで読めるそうだ。

町山智浩『ヒドゥン・フィギュアズ(邦題:ドリーム)』を語る
http://miyearnzzlabo.com/archives/42884

この映画の雰囲気はYouTubeでご確認いただきたい。(動画を検索


とても楽しく、リラックスして過ごすことができた。今後、別の理数系がらみの映画が上映されることになったら、またご一緒させていただきたいと思った。

原作本の紹介、感想記事は、もっと掘り下げた形で近いうちに書かせていただこう。


関連記事:

FORTRAN入門、COBOL入門
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d4eefc13ed6f252102b8a9ee6ebdcea9

発売情報: 惑星探査機の軌道計算入門: 半揚稔雄
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a3aba0b87bff8a8ae54fb37ad1b04504


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『ドリーム』、『Hidden Figures』

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ドリーム NASAを支えた名もなき計算手たち」(Kindle版

内容:
1943年、人種隔離政策下のアメリカ。数学教師ドロシー・ヴォーンは、“黒人女性計算手”としてNASAの前身組織に採用される。コンピューターの誕生前夜、複雑な計算は人の手に委ねられ、彼らは“計算手(コンピューター)”と呼ばれていた。やがて彼らは宇宙開発の礎となり、アポロ計画の扉を開く―!差別を乗り越え道を切り拓いた人々の姿を描く、感動の実話。映画『ドリーム』原作。
2017年8月刊行、464ページ。

著者:
マーゴット・リー シェタリー
バージニア州ハンプトンで生まれ育ち、アルフレッド・P・スローン財団の研究員でもあり、女性計算手の歴史の研究に対してバージニア州財団より人文科学の助成金を得ている。バージニア州シャーロッツビル在住。


一昨日紹介した映画「ドリーム(2016)」の原作本。日本語版、英語版ともに9月中旬には入手していて、章単位で英語、日本語の順に読んだ。アメリカの初期の宇宙開発を「計算手」として支えた、黒人女性数学者たちの伝記作品である。原題は「Hidden Figures」、陰で支えた人たちという意味合いだ。

映画はNASAが発足した1961年あたりから始まるのだが、本は登場人物たちが過ごす子供時代、NASAの前身であるNACA(アメリカ航空諮問委員会)の発足、黒人女性としてNACAに計算手として数学教師ドロシー・ヴォーンが初めて採用されるに至った経緯から書かれている。

本書は著者がアメリカの航空機開発、宇宙開発に貢献した関係者たちにインタビューをし、彼らが語ったことを著者が時系列に従って語るスタイルをとった本だ。登場人物が会話をしながら進行する小説ではない。460ページ、文字はびっしり詰まっている。


飛行機の生みの親、ライト兄弟は1903年に世界初の有人動力飛行に成功し、1914年から1918年にかけて行われた第一次世界大戦から、航空機は初めて戦争に使われるようになった。NACAは戦争のさなかの1915年に航空工学の研究の請負、推進、制度化等を行うために発足した。わかりやすく言えば軍事力増強を目的とした国家機関である。

人種隔離政策下のアメリカで、ドロシー・ヴォーンがNACAのラングレー研究所に黒人女性計算手として採用されたのは第二次世界大戦中の1943年のことである。戦時下のアメリカでは技術者、科学者が不足していて、黒人女性であっても能力がある者は起用しなければならない状況にあったのだ。公民権運動が受け入れらたからでも、白人たちの人種差別反対への意識が高まったからではない。

映画では少ししか描かれていなかった、黒人女性の日常生活も本では詳しく書かれている。子供を育てるために、低賃金の洗濯婦として働かざるを得なかったこと、当時の黒人たちがどのような人種差別を受けていたかが淡々と語られる。娯楽性が第一の映画では控えめに描かれていたアメリカの暗部が生々しく語られる。

戦闘機に求められるものは、第一に飛行速度、第二に飛行高度、第三に飛行性能である。

第二次世界大戦の影響もあり、1930年代から1940年代にかけてレシプロエンジンは急激に進化し、それに伴い航空機の速度も右肩上がりに増加していった。航空機の速度が700km/hを超えるあたりになるとプロペラの先端や翼上面の空気流が音速(マッハ 1)に近づき、衝撃波が発生して空気の性質が激しく変化するようになる。抗力が急増すると共に、機体が異常な振動(バフェッティング)を起こし、場合によっては操縦不能、空中分解ということもあった。これがいわゆる音速の壁である。

レシプロエンジンの場合これがスピードの限界であり、音速飛行は夢の話であった。しかし1940年代になると、各国でジェットエンジンが開発されたことにより、音速飛行は現実味を帯びてきた。

人類が初めて超音速飛行を実現したのは1947年10月14日、イェーガーが搭乗する有人実験機 XS-1 によるもので、マッハ 1.06 を記録した。音速を突破すると、基本目標は音速飛行から最高高度27,430 m、マッハ2へと切り替えられた。現在世界最速の飛行機は X-43 でマッハ9.8で飛べるそうだ。

つまり、ドロシーら黒人女性計算手に求められたのは、航空機を設計、開発するために必要になる風洞実験の計算能力だった。空気流体力学、伝熱工学の方程式を解くことで、最適な航空機の形状と材質を決定することだ。厖大な計算は大勢の計算手たちが分担し、当時利用可能だった電動モーターで駆動する機械式計算機を使って行っていた。本ではFRIEDEN社製とMONROE社製の計算機が紹介されている。ちなみに僕が持っている機械式計算機はこちら。電動式ではなく手回し式だ。

次の動画で乗算や除算の計算をぜひご覧になっていただきたい。電動式は手回し式よりも格段に早く計算できることがおわかりになるはずだ。



次の動画では平方根の計算手順を紹介している。平方根を算盤や四則電卓で計算する手順を知りたい方は「目次:算盤による平方根、立方根の計算(開平、開立)」をご覧いただきたい。




第二次世界大戦が終わっても、世界に平和がもたらされたわけではないことは、皆さんがご存知のとおりである。核の開発競争、東西冷戦の時代が始まった。宇宙開発技術は、仮想敵国に優位に立つために必要な軍事技術である。1957年に人類初の人工衛星を打ち上げたソビエト連邦に対抗するために、NACAの役割を拡大する形で1958年に設立されたのがNASA(アメリカ航空宇宙局)である。

NASAでドロシーら黒人女性計算手たちの地位が向上していった背景も主には「外圧」である。アフリカ系アメリカ人公民権運動もその背景にあった。しかし、有人宇宙飛行にもソ連に先をこされ、国内で行われている黒人差別に対する国際社会からの批判をかわし、国の面目を保つ必要がでてきた。これがNASAが黒人女性起用の決定をすることへの圧力となったのである。もちろん優秀な黒人女性たちの能力が必要だったということが、いちばんの理由だったことは言うまでもないだろう。

この時期にNASAにIBM社製の大型メインフレーム・コンピュータが導入され、有人宇宙飛行計画を達成するマーキュリー計画に必要な計算がFORTRANでプログラミングされることになった。空気流体力学や伝熱工学だけでなく、ロケットの軌道計算、ロケットをリアルタイムで追跡するための計算、帰還時の再突入の軌道計算など、高度な解析幾何学を使い、コンピュータで解かせることが必要になった。

黒人女性たちが電動計算機で行なっていた仕事は不要になり、プログラマーへの職種転換、エンジニアへの職種転換が求められることになった。このあたりの経緯は映画「ドリーム(2016)」や「FORTRAN入門、COBOL入門」という記事で紹介したので、お読みいただきたい。


映画に比べて本のほうは登場人物が非常に多い。日々の通勤電車で少しずつ読み進めていたので「これって誰のことだっけ?」と思うことがしばしばあった。

事実を淡々と語るスタイルの本書ではあるが、マーキュリー計画が始まるあたりから熱を帯びてくる。最後までワクワクしながら切れる本なので、映画をご覧になった後でもじゅうぶん楽しむことができる。映画と本のどちらを先に読んでも、楽しめるので字幕版のDVDやブルーレイ・ディスク、ネット配信が開始されるまでは、本でお楽しみになるとよいだろう。


日本語版と英語版は、こちらからどうぞ。

ドリーム NASAを支えた名もなき計算手たち」(Kindle版
Hidden Figures: The Untold Story of the African American Women Who Helped Win the Space Race」(Kindle版

 


フランス語版はフランスのAmazonサイトで購入できる。送料はかかるが日本への発送もしてくれる。ただしKindle版も購入できるが、日本語版のKindleには配信されないこと、フランス語版のKindle端末は日本へ発送してくれないので、ご注意いただきたい。

Les figures de l'ombre: Le livre qui a inspiré le film




関連記事:

映画『ドリーム(2016)』
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/54307adde353ad3fba64f33914f660a1

FORTRAN入門、COBOL入門
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d4eefc13ed6f252102b8a9ee6ebdcea9

発売情報: 惑星探査機の軌道計算入門: 半揚稔雄
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a3aba0b87bff8a8ae54fb37ad1b04504

伝熱工学(東京大学機械工学):庄司正弘
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cdbbfe5c89a57b812d43448297966fcc


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量子コンピュータの発展史(リンク集)

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2008年に「テレポーテーションは実現している。(リンク集)」を書き、量子テレポーテーション技術関連のニュースが報道されるたびにリンクを追記してきた。

量子テレポーテーションは量子コンピュータの基礎技術でもあるわけだが、近年量子コンピュータの発展が目覚ましいのでリンク集として独立させることにした。

今後、量子コンピュータに関して新しい技術が発表されるたびに、解説ページ、ニュース、書籍の分類で年代ごとに追記していく。


解説ページ

量子コンピュータって何? その1
>http://www.itmedia.co.jp/anchordesk/articles/0807/04/news072.html

世界が注目する商用量子コンピュータメーカー「D-Wave」とは?
https://innovation.mufg.jp/detail/id=119

量子アニーリング
http://www.stat.phys.titech.ac.jp/~nishimori/QA/q-annealing.html

NASA、Googleが注目する「D-Wave」は、本当に量子コンピューターなのか?
https://wired.jp/2015/01/03/dwave-vol14/

IBM Quantum Computing で計算してみよう
https://www.ibm.com/developerworks/jp/cloud/library/cl-quantum-computing/index.html

量子ニュース(2015 September, No.16)
http://www.jst.go.jp/impact/hp_yamamoto/outreach/news/pdf/newsletter_no16.pdf

ImPACTニューズレター(2017 January, Vol.8)
http://www.jst.go.jp/impact/download/data/ImPACT_Newsletter_Vol8.pdf

古澤・吉川研究室
http://www.alice.t.u-tokyo.ac.jp/


ニュース

2013年

D-Wave社の量子コンピュータは「本物」~米研究者グループが「量子効果を確認」とネイチャーに発表
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20130701_605845.html

2017年

IBMがクラウドを通じて量子コンピューターにアクセスできる商業サービス「IBM Q」を発表
https://gigazine.net/news/20170307-ibm-launch-quantum-computer-business/

D-Wave、2000量子ビットのコンピューターを発表
https://www.technologyreview.jp/s/23001/can-a-powerful-new-quantum-computer-convince-the-skeptics/

マイクロソフト、量子コンピュータ向けプログラミング言語を発表
https://japan.zdnet.com/article/35107801/

量子コンピューター時代が幕開けへ、20量子ビット商用マシンを年内クラウド提供
https://newswitch.jp/p/11002

マイクロソフト、量子コンピューターの一般的な実用化にむけて Azure にも搭載
https://blogs.technet.microsoft.com/jpai/2017/09/27/new-microsoft-breakthroughs-general-purpose-quantum-computing-moves-closer-reality/

Microsoftが実現を目指す汎用型量子コンピューター
http://news.mynavi.jp/articles/2017/10/16/microsoft/

50qubitの試作も稼働に成功:IBM、量子コンピュータを本格的に商用化へ
http://eetimes.jp/ee/articles/1711/17/news069.html

量子ニューラルネットワークをクラウドで体験(詳細PDF)- これが量子コンピュータなのか、そうでないかは専門家の間で意見が分かれている。
https://research-er.jp/articles/view/65179


書籍紹介

2012年

量子コンピュータ入門:宮野健次郎、古澤明
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ef75709187cf4b35a12f2d9fdf73a320

2016年

発売情報: クラウド量子計算入門: 中山茂
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d360b69100fbe723c5b9410dbf3f5f4d

2017年

クラウド量子計算入門: 中山茂:(4) 全体の感想
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ad7dfbad69e1e196848be123e3f4ea3f

発売情報:量子プログラミングの基礎: イン・ミンシェン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/27e4d9a10982d4d69c0029fc4c801708

量子コンピュータ―超並列計算のからくり: 竹内繁樹
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3134f481301d0f6e7ed8b80c9fd99260

量子コンピュータ、量子アルゴリズムを学びたい高校生のために
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1b2940b648bda682aa27192eb8261972


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マッハ力学―力学の批判的発展史:伏見譲訳

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マッハ力学―力学の批判的発展史:伏見譲訳」(リンク2

内容紹介:
古典力学はどこまで科学的か?ニュートン力学における絶対時間・絶対空間は認められるものか?マッハの根源的検証は、疑いようもないと見なされていたニュートン力学の批判であると同時に、感覚の分析を通して考察された反形而上学的認識論でもあった。物理学と心理・生理学を往き来しながら、マッハの思想は大きなうねりとなり、アインシュタインの相対論に道を拓き、ヴィトゲンシュタイン、ゲーデルなど後世の哲学者に影響を及ぼした。
1969年10月刊行、485ページ。

著者について:
エルンスト・マッハ: ウィキペディアの記事 著書検索
1938‐1916。オーストリアのモラビア(現チェコ領)生まれ。ウィーン大学卒業後、プラハ大学で高速流体の実験研究や心理学で業績をあげ、その間、『感覚の分析』などを著した。物理学のほかに科学論・哲学にも広がる大きな影響を及ぼした。

訳者について:
伏見譲(ふしみ・ゆずる): ウィキペディアの記事 著書・訳書検索
1943年2月21日生まれ。日本の物理学者、生物物理学者、進化分子工学者。埼玉大学名誉教授/埼玉大学特任教授。


理数系書籍のレビュー記事は本書で349冊目。

本書はレビュー記事を書きにくい部類の本だと思う。実際に読んでみて、自分で何を感じ、何を考えたかをお伝えするのが、お読みになる方にとってはいちばんよいのだろう。


本書を知ったときのこと

この本のことを知ったのは2006年頃、神田神保町の明倫館書店でのこと。天文学や数学は中学生のころから好きだったが、遅まきながら物理学に興味をもち、このブログに理系書籍のレビュー記事を書き始めたころのことだ。

書店の本棚から取り出し、ニュートン力学批判の本であることに驚いた。それもニュートンが亡くなってから150年以上も経ってからこの本の原著は初版を出したようだ。(今回僕が読んだのは1933年に刊行された第9版の日本語訳である。)マッハは音速の単位だと知っていたけれども、マッハ力学なんて聞いたことがない。

高校物理の教科書でも名前は見たことないし、僕が知らないくらいなのだから有名ではなく、これはきっとボツになった力学理論なのだろう。著者のエルンスト・マッハという人は「回転しているのはバケツではなく宇宙のほうだ。」などと屁理屈を言っているそうだから、きっとトンデモ系の学者に違いない。どんなトンデモ理論が書いてあるのだろう。面白そうだからいつか読んでやろう。

本書との出会いはこのようなものだった。無知とは恥ずかしいこと、恐ろしいことである。


勘違いをさらに修正

その後、ウィキペディアや本書のレビューをネットで読み、大きな勘違いをしていたことに気が付いた。そして今年の古本まつりで格安で販売されているのを見つけて購入した。

とは言っても僕の勘違いはまったく解消していたわけではない。ニュートン力学批判を延々と繰り返しながら、新しい力学を全編にわたって展開し、20世紀の物理学に影響を与えた本だと思っていたからだ。僕の早とちりはなかなか治らない。

読み始めてすぐ、大きな誤解だと気がついた。ニュートン力学だけでなく、ギリシア哲学者アルキメデスのテコの原理からガリレイ、ニュートンを経て、オイラー、ラグランジュによって結実する解析力学まで、古典力学史全体をカバーしている。

全体的に、特に第3章までは文章で解説している割合がとても多く、数式は大学初年度で学ぶレベルに抑えられていて読みやすい。数式が増えてくるのは第3章だが、同じく古典力学史を解説する難解な「古典力学の形成―ニュートンからラグランジュへ:山本義隆」(続き)よりもずっと読みやすい。


本書の流れ

全体の章立ては次のとおりだ。あらすじは「マッハ「力学の発展の歴史」の要約」というページでお読みいただける。

第1章 静力学の原理の発達
第2章 動力学の原理の発達
第3章 力学の原理の応用と演繹的発展
第4章 力学の形式的発展
第5章 力学の他の知識領域への関係

まず、テコの原理、滑車の原理、力の合成則など小中学校の理科で学ぶ事がらが取り上げられているのに唖然とした。そういえば、これらのことがなぜそうなるのか、いまでも僕は子供たちがわかるように説明できないし、子供のころは天下りに計算方法を覚えただけである。力については平行四辺形を使って分解できるのだが、なぜそうなるのだろう?

マッハはアルキメデスが解説したテコの原理の説明に、経験によって自明な事がらが紛れ込んでいるため完全な説明になっていないと指摘する。

アルキメデスはテコの原理を、ステヒンは斜面の原理をペルヌーイは平行四辺形の原理を、ラグランジェは仮想仕事の原理を証明した。これら本能的認識できる事がらも、やはり経験的認識なのである。新しい経験領域が突然現れる場合、本能的認識は全く不十分で役に立たない。全ての原理は多かれ少なかれ、それぞれ同じ事実の異なる側面を捉えているのだ。

ただし、これら静力学の原理は小学生から高校までで学んだことであり、退屈に感じたのも事実である。しかし、学校で学んだことが、誰によってどのように実験され、原理として提唱されていったか知ることができたのは有益だった。教科書で天下りに学んだことに、これほどの手間と深い考察が必要だったことは、高校で力学を学んだ後でないと理解できないことだと思う。この点は第2章の動力学の原理で、ガリレイやホイヘンスの業績の解説の部分でも同じことだ。相変わらず初等力学の復習が続くので、このあたりまでは辛抱して読んだ。

中学、高校では斜面に球を転がせて加速度運動の実験をしたり、2つの球をぶつけて運動量の変化をする。この時代の科学者はどのようにして実験したかも挿絵付きで説明している。今ならストロボを使ったり、ビデオで撮影したりして簡単にすむことも、短い時間を測る時計がなかった時代には工夫しなければ実験できなかった。


ニュートン批判開始

ニュートン力学批判が始まるのは第2章のホイヘンスの次、170ページ目あたりからだ。力学3法則は高校物理で、万有引力の法則は高校地学で学んでいたわけだが、授業を受けていたときにいくつか疑問に思っていたことを思い出した。

そのひとつは「質点」のことであり、大きさのある天体にその質量をたった1点に集中させてよいのだろうかと思っていたことだ。これについては2008年に「物体の質点は一般に存在しない - 重心と質点の話」や「地球を8000万個に分割してみた - 重心と質点の話」、「ニュートンの質点定理の証明 (ファインマン物理学 I, 191pより)」で解決している。

マッハが問題にしたのは力学3法則のほうで、ニュートンによる「質量」、「絶対空間」、「絶対時間」に対してのことだ。質量についてはニュートンの説明は循環論法のようであり、絶対空間・絶対時間は無批判に仮定してしまっている。

確かにニュートンの時代に質量を厳密に定義するのは無理であり、質量の起源は20世紀以降、それもつい最近になってヒッグス粒子が発見されるに至って完全に理解できるようになった。そして絶対空間や絶対時間が存在しないことも、アインシュタインの相対性理論によって明らかになったことである。

ガリレイのように地上の力学、相対性原理を論じている間は事実上問題にならない絶対空間と絶対時間も、宇宙全体にまで適用してよいかどうかは誰にも断言できないはずだ。

マッハは力や加速度、作用反作用の法則、力や運動、運動量に関してもニュートンの考え方に鋭いメスを入れ、その矛盾を浮き彫りにする。マッハの主張は相対的なものと絶対的なものとを区別する必要は無いというものだ。力学の基本法則はすべて物体の相対位置と相対運動に関するものであり、これらの法則が今日成立すると見なされる範囲で容認出来るのは、正に検証されてきたからに過ぎない。

ニュートンは回転するバケツの水が凹むことで、絶対空間に対する運動を検出できるとしたが、果たしてバケツに対して全恒星(恒星天)が回転するとき、バケツの水が凹まないとどうして言えるのだろうか?とマッハは反論している。これは屁理屈ではなく、よくよく考えるとまっとうな主張なのだ。この考えは、後に一般相対性理論につながる発想だった。

とはいえ、マッハはニュートンの業績全体や後世に果たした役割は、非常に肯定的にとらえている。批判に終始しているのではない。(ニュートン力学の全否定などできるはずがない。)


再び力学史を詳しく解説

第2章までニュートン力学の不備を指摘した後、第3章 力学の原理の応用と演繹的発展でニュートン以降、解析力学に至るまでの初等力学史を、数式や図版を増やしたスタイルで解説を行なう。流体力学や光学にまでおよぶその内容は教科書的な解説にとどまらず、それぞれの成果が力学史の中でどのような意義をもっているのかを説明しているところが、読者にとって有益なところだ。

ヤコブ・ベルヌーイ、ヨハン・ベルヌーイ、モーペルテュイ、オイラー、ダランベール、ラグランジュなどの研究により、古典力学が完成するまでおよそ200年の年月が必要だった。

この部分には批判らしきものはほとんどなく、力学の中級以上のレベルの問題ばかりなので、よいトレーニングになった。(つまり退屈しなかった。)


マッハの主張と意義、後世への影響

第4章 力学の形式的発展では、解析力学をふたたび取り上げ、掘り下げる。科学にとって解析力学は何なのか?この点についてマッハは次のように述べている。

力学現象の本質についての新しい原理的解明を期待してはならない。解析力学の目的は問題を最も簡単に実用的に解く事にある。解析力学は解析学の持つ普遍性という長所と幾何学の直観性という長所が統一されている。また計算方法の進歩が同時に概念の進歩の表現になっている。

読み始めたころは「この本のどこが凄いのかしら?」と思う局面が何度もあったが、第4章にさしかかった頃になってようやくこの著作の価値がじわじわとわかってきた。ニュートン力学批判は重要な点だが、本書のひとつの側面であるに過ぎない。

自然科学を研究するとはどういうことか?神学が生活や思考の規範であったこの時代、神学と切り離して自然を考察することは、並大抵のことではない。かのオイラーでさえ神学的立場を保持していた。解析力学を完成させたラグランジュに至って、科学はようやく神学の縛りを解くことができたのだ。

「科学とは何か?科学を進める上で、注意すべきことは何か?」

第4章から第5章にかけてマッハは非常に深く、本質を突いた主張をしている。批判したり歴史を紹介するだけでは何も生み出さない。本書の価値はは、まさにこの部分にあると思った。

マッハの影響を多大に受け、相対性理論を打ち立てたアインシュタインは、マッハを次のように評価している。

「理論物理学者が使う方法について何かを探り出したいのなら、彼のいうことばに惑わされてはならない。彼が何をしたかに注意すればよいのだ。しかし、マッハの場合、彼は批判者なのだからこの文句を少し変える必要があるかもしれない。マッハについてあれこれ言われていることに気をとられる必要はない。マッハ当人が本当に言おうとしていることを理解しなければならない。」


「関連ページ:」として、他の方のレビュー記事や解説ページを最後に紹介しておいたが、本書を読み終えて、そこに書かれていることの意味がようやく僕には理解できた。要約だけでは伝わらないことがたくさんある本だ。

古典物理学や科学史から学べることは、とてもたくさんある。高校で物理を学んだ方、物理学科の大学生は、ぜひお読みになっていただきたい。


岩野先生による訳書

本書は岩野秀明先生による訳書も2006年に刊行されている。下巻には訳者による相対性理論とマッハの関係の考察が書かれているそうだ。

岩野秀明(いわの・ひであき): 研究者情報 著書・訳書を検索
1940年生まれ。東京大学文学部でギリシア哲学・認識論を学び研究し、卒業後哲学・論理学等を講義。専攻、哲学。東京情報大学名誉教授。

マッハ力学史〈上〉―古典力学の発展と批判 (ちくま学芸文庫)
マッハ力学史〈下〉―古典力学の発展と批判 (ちくま学芸文庫)

 


関連ページ:

マッハ「力学の発展の歴史」の要約
http://island.geocities.jp/gendaibuturikyousitu/issu/Machhisdyna.htm

157夜『マッハ力学』エルンスト・マッハ|松岡正剛の千夜千冊
http://1000ya.isis.ne.jp/0157.html

マッハ力学 力学の批判的発展史
http://xylapone.d.dooo.jp/log2/philos/mach1.html
http://xylapone.d.dooo.jp/log2/philos/mach2.html
http://xylapone.d.dooo.jp/log2/philos/mach3.html


関連記事:

日本語版「プリンキピア」が背負った不幸
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bff5ce90fca6b8b13d263d0ce6fc134e

古典力学の形成―ニュートンからラグランジュへ:山本義隆
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b5904a574fd4c4e276da496bd2c1821b

古典力学の形成: 山本義隆―続きの話
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b5904a574fd4c4e276da496bd2c1821b

科学の発見: スティーブン・ワインバーグ
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/70612f539adade398a14a27e87b70d92


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マッハ力学―力学の批判的発展史:伏見譲訳」(リンク2



著者の序文

初版から第9版への序文

第1章 静力学の原理の発達
- テコの原理
- 斜面の原理
- 力の合成則
- 仮想仕事の原理
- 静力学の発達の回顧
- 静力学の原理の液体への応用
- 静力学の原理の気体への応用

第2章 動力学の原理の発達
- ガリレイの業績
- ホイヘンスの業績
- ニュートンの業績
- 作用反作用の法則の詳論と具体例
- 作用反作用の法則と質量概念の批判
- ニュートンの時間・空間・運動
- ニュートンの力学の包括的批判
- 動力学の発展への回顧
- ヘルツの力学
- 本章の思想に対する種々の意見について

第3章 力学の原理の応用と演繹的発展
- ニュートン的諸法則の適用範囲
- 力学の量と単位
- 運動量保存法則・重心の定理・面積の定理
- 衝突の法則
- ダランベールの原理
- 力学的エネルギー保存の法則
- 最小拘束の原理
- 最小作用の原理
- ハミルトンの原理
- 力学の原理の流体力学への応用

第4章 力学の形式的発展
- 等周問題
- 力学における神学的、アニミズム的、神秘主義的観点について
- 解析力学
- 科学の経済

第5章 力学の他の知識領域への関係
- 力学の物理学への関係
- 力学の生理学への関係
- おわりに

マッハと現代物理学 伏見康治
訳者注
マッハ略年譜その他
付記
年表(秀でた科学者とその力学の基礎に関する重要な論文)
人名索引
事項索引
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