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寺川奈津美の気象講座 秋の気象と台風(朝日カルチャーセンター立川教室)

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寺川奈津美の気象講座(朝日カルチャーセンター立川教室): 詳細

講師紹介:
寺川奈津美(てらかわなつみ)
ホームページ(個人):https://sites.google.com/site/natumikann541/
Twitter: @natumikann541
気象予報士、気象キャスター。
1983年、山口県下関市生まれ。慶応義塾大学理工学部応用化学科卒業。第5回矢上祭で行われた理系美人コンテスト『ミス矢上』で初代グランプリを獲得。塾講師を経て、2008年よりNHK鳥取放送局のキャスターを務める。同年、気象予報士資格を取得。
2011年4月より『NHKニュース7』の気象情報を担当。2016年4月よりフジテレビ「直撃LIVEグッディ!」お天気コーナー担当。
【新・お天気キャスター!】寺川奈津美さんがスタジオに初登場!ブログ班が直撃!
http://blog.fujitv.co.jp/goody/E20160404001.html
テラカワのお天気マニア
http://blog.fujitv.co.jp/goody/C4713.html




今日は年に1度の「リケジョ萌え」の日である。おまけに前日に投稿した「自然法則: 量子力学による古典物理学の謎の解明」という記事のアクセス数が予想外に多いので、朝から気分は絶好調だ。

9月9日の土曜は朝日カルチャーセンター立川教室で、寺川先生の気象講座を受講してきた。昨年9月以来、3度目である。もちろん超人気講座なので早い段階で満席になっていた。

講座の開始は午後1時。早めに行って昼食をすませてから列に並ぼうと思って1時間半前に会場に着いたのだが、ちょうど整列開始というタイミングだったのでそのまま僕も列の後ろに着くことに。昼食は講座が終わってからとることになった。

台風や大雨、大雪、異常なほど高温が続くように気象災害への警戒が予想されるときは寺川先生のお天気コーナーで通常の気象情報の枠以外で詳しく解説するので録画して見るようにしている。

気象に関する知識は中学生の頃、天体観測に熱中していたころに集中的に学んでいたくらいだから、NHKの気象情報でも解説しないくらい詳しい寺川先生の解説はとてもためになる。

気象キャスターの中での人気はおそらくダントツで1位だと思う。アイドルには関心がない僕でも惹きつけられているのは、おそらくリケジョ萌えだ。

1年ぶりで爽やかで溌剌とした寺川先生の講座を受けられる。毎年の恒例行事になりつつあるのはうれしい限りだ。

時間になり寺川先生と朝日カルチャーセンターの担当スタッフが登壇。昨年までの新宿教室で行われた講座は70人教室だったが、今回は小ぶりの30人教室。講座が始まるまでに壁際にも椅子が置かれたので、受講者はおよそ40人くらいになった。

登壇された寺川先生は、ベージュ色のワンピース。スクリーンに映し出されたスライドを確認して講座が始まった。

まず、著書の宣伝。本を書くに至ったいきさつをお話しされた。これまでの講座に受講されたか、本をすでに読んだか、「直撃LIVEグッディ!」を見たことがあるか、など受講者がどれくらいの知識を持っているかを確認。朝日カルチャーセンター以外にも講演をしているので、余裕綽々とした感じだ。


NHKでの仕事とフジテレビでの仕事の違い

寺川さんは5年間『NHKニュース7』の気象担当を務めて、昨年4月からフジテレビの「直撃LIVEグッディ!」でご活躍されている。硬派なスタイルからくだけたスタイルへと大きな変化があったわけだが、2つの職場の違いや「激動の1年」をとても楽しそうにお話された。以下箇条書きで紹介しよう。

- 体調を崩したとしてもNHKには気象キャスターを他の人に代わってもらえる。
- 直撃LIVEグッディ!ではアドリブのスキルがとても重要。安藤さんは何を質問してくるか予想がつかないので、適切な返事を返すように努力している。
- 『NHKニュース7』での掛け合いは台本があり、そのとおり進めなければならない。自然に見せるのが大変。
- 直撃LIVEグッディ!では夏休みは台風シーズンが終わる11月からとる。
- 直撃LIVEグッディ!では番組の雰囲気や流れの中に気象コーナーがあるということを心がけて仕事をしている。
- 直撃LIVEグッディ!では月に一度、出演者でご飯を食べに行く(つまり飲み会)。安藤さんか高橋(克実)さんが連れて行ってくださる。この時間はとても大切。
- 直撃LIVEグッディ!では安藤さんが素の私(寺川さんらしさ)を引き出してくれる。
- 予報が外れたとき、NHKでは釈明する機会がなく、釈明するくらいなら次の予報をしっかりやれと言われる。
- 予報が外れたとき、直撃LIVEグッディ!では「寺川さん、雪になるって言ってなかった?」と突っ込まれるので、釈明すべきかすべきでないか非常に悩む。気象予報士としてのプライドと自分の印象を保つというジレンマ。上手にかわせるようになりたい。
- フジテレビへは「とくダネ!」が始まる頃に出社し、『NHKニュース7』を見てから退社している。
- NHKでは放送開始前にブリーフィングを行ない、当日の気象についてNHKの見解として他の気象予報士と伝える内容をまとめる。(フジテレビではブリーフィングはしない。)
- NHKでは尺(話す時間)が厳密。秒単位での調整が求められる。
- そのおかげで現在は残り時間が5秒、10秒あるとき何を話せばよいか考えて話すことができるようになった。
- NHKでの伝え方は教科書のように分かりやすくを心がける。
- 直撃LIVEグッディ!での伝え方では、「絵の見せ方へのこだわり」がある。
- 上司は厳しくて怖いが、とても自分のためになっている。
- 直撃LIVEグッディ!での伝え方では「自分自身がちゃんと生きること」が重要。つまり運動会や季節のイベントなど視聴者が日ごろの生活でどのように気象情報を必要としているかを考えて伝える。そのためには自分が「普通の生活をちゃんとしていること」が大切だと考えている。
- 目の前で指を丸めてする「ズームポーズ」は、実をいうと恥ずかいと今でも思ってしている。


秋の雲の話

寺川先生のツイッターをご覧になっている方はご存知だと思うが、ご自身で撮られた美しい夕焼けや雲の写真をたびたび投稿されている。フジテレビがあるお台場からの景色は最高で、NHK勤務とは大きく違う。スライドで雲の写真を順番に映されて「この雲の名前は何というでしょう?」と受講者に質問を投げかけていらっしゃた。受講者の多くは他にも気象講座を受講していたり勉強していたりするものだから、たいてい間違えることはない。次のような雲と気象との関係を説明された。

- 積乱雲
- かなとこ雲(圏界面の説明)→ 寺川先生はいちばん好きな雲なのだそうだ。
- うろこ雲、いわし雲(巻積雲)、ひつじ雲(ひつじ雲のほうが塊が大きい、親指の範囲より大きい塊)
- 波状雲
- V字型に映った飛行機雲の写真

この後、台風5号が通過した後の美しい夕焼け雲の写真を映された。夕焼けの色彩が変化するのは空気中の塵の影響によるもの。放送終了後に外に出て写真をとる夕暮れ時の時間が寺川先生にとって至福のときだという。特に彩雲はぜひ直接自分の目で見てほしいとおっしゃっていた。

家族旅行では、雲の写真を撮るのに熱中していたため、旅行のスケジュールが遅れて母親からおこられたという話もされた。


日本列島の気象を左右する4つの高気圧の話

日本の気象を左右する4つの気圧との話をされた。

- シベリア高気圧(大陸性、乾)
- 移動性高気圧(大陸性、乾)
- オホーツク海高気圧(海洋性、湿)
- 太平洋高気圧(海洋性、湿)

今週の予報が外れまくったのは秋雨前線の位置が予想より南にずれてしまったため。


台風の話

台風: 熱帯の海上で発生する低気圧を「熱帯低気圧」と呼びますが、このうち北西太平洋(赤道より北で東経180度より西の領域)または南シナ海に存在し、なおかつ低気圧域内の最大風速(10分間平均)がおよそ17m/s(34ノット、風力8)以上のものを「台風」と呼びます。

発生地域の違いで「サイクロン」、「台風」、「ハリケーン」と呼ぶ。

予報円: 70パーセントの確率で進むと予想されるエリアを示す円。(円が台風の大きさと誤解しないように注意。)

講座で紹介されたものではないが、これは僕が生まれた頃に使われていた台風の進路予想図。今とは比較にならないほど粗い。



台風はそれ自身ではほとんど移動しない。まわりの風に左右されて動く。(偏西風、太平洋高気圧)


2016年の台風10号の話: 初めて東北に上陸した台風。老人ホームが被災した。

「楽ん楽ん」9人犠牲 高齢者施設、どう防災 綿密に避難計画策定/立地場所のリスク確認
https://mainichi.jp/articles/20160925/ddm/016/040/008000c

雨量が増える予報はあったが、想定外の雨量になってしまった。夕方になって役所は電話応対に追われて避難指示が出せなかった。

気象予報士として、そしてニュースキャスターも避難指示を適切に出せなかったことを後悔している。

避難した人もいて、その方は昔の水害の経験を生かし、安全と思われた家に避難していた。


2011年の台風12号の話: 寺川先生が気象キャスターになった年

紀伊半島で山の斜面が深層崩壊を起こした台風として知られている。予報では30ミリの雨がじわじわと降るとされていた。しかし実際は1000ミリの豪雨により深層崩壊がおきてしまった。

2011年台風12号により,紀伊半島において発生した深層崩壊
http://www.slope.dpri.kyoto-u.ac.jp/gallery/top_flash/dsl.html

寺川先生は自分の言葉で「いますぐ逃げてください!」と言えたのではないかと思っている、どのくらい自分が危険度を感じていたかによって伝わり方が違う、助かった人がいたかもしれないと反省しているとおっしゃっていた。

僕の感想: 深層崩壊という言葉がこの台風によって知られるようになったことから、この災害は本当に「想定外」なのだと思う。東日本大震災を経験した後のこととはいえ、NHKが災害避難呼び掛け放送を「命令口調」へ変更したのは翌年3月、そしてそれは津波を想定したものだった。2011年8月の台風12号に際して強く避難指示をするのはかなり無理なことだと僕は思うのだ。とても悔しいことだが、この災害の原因は予報の精度にあったと思う。


大曲の花火の話:

前日に大雨が降ったが、翌日には花火を見れた。1か月前にも大雨があったが状況が違っていた。(住宅地の被害が大きかった。)

寺川先生は2つの大雨の違いを把握しておくべきだった、河川についての知識を増やしておくべきだったと反省されていた。

九州北部の豪雨: 中小河川の災害
鬼怒川の豪雨: 大河川の災害

気象以外にも河川の知識を増やしたい。今後、気象予報士に求められる能力は気象以外についての知識が求められる。どのような知識が必要なのか、これから探っていきたい。気象予報士として求められる人材にも、その点が重要である。


講座はこのようにして締めくくられた。

質問コーナーは設けられなかったが、もしあったとしたら次のようなことを聞いてみたかった。

- 「直撃LIVEグッディ!」で仕事を始める前には進行方法や仕事の進め方など、準備に相当の時間が必要だと思うが、直前までNHKでお仕事をされていたと思う。どのようにこなしていらっしゃったのか?
- 雲や月の写真を撮影するときの機材はどのようなものを使っているか?
- 年々、気象災害の激しさは増しているが、それに伴って気象予報士試験や教本の内容も変化しているのか?
- フジテレビでも他の番組で気象予報を担当している人がいると思うが、情報交換などをする機会はあるのか?
- NHK勤務の頃は代々木公園でランニングをされていたが、いまはどうなのか?


著書の販売、サイン会

講座の後は著書の販売とサイン会である。2冊目の購入となった。自分の順番がきたとき、名前を言って本に書いてもらうのだが、僕がもじもじしているうちに寺川先生が「とねさんですね。」とおっしゃってくださったので「あ、覚えてくれていたんだ!」と嬉しくなった。そのようになったのもこのブログを書いていたおかげだと思う。昨年のサインは「とねさん」だったが、今年は「とね様」に昇格。w




今年の講座もとても楽しく過ごせました。予想外のこと、判断に迷うことはこれからもたくさんでてくると思いますが「なっちゃん」の持ち味を生かして切り抜けていくことを願っています。寺川先生ありがとうございました!


寺川先生の著書はこちら。

気象キャスター寺川奈津美 はれますように~未来はきっと変えられる」(感想記事


内容紹介
人気の気象キャスターが初めて語る
気象予報士の仕事、そしてプライベート

NHK 『ニュース7』の気象キャスター(平日担当)として活躍する寺川奈津美さん。 6回目の受験でようやく合格した気象予報士試験の苦労談から、気象キャスターの仕事の魅力、プライベートまでを赤裸々に語ります。
寺川奈津美さんは慶応大学理工学部卒の、いわゆる“リケジョ"。卒業後、いったんは一般企業に就職しますが、仕事になじめず1年で退社。その後、故郷・山口県下関市に戻り、アルバイトをしながら気象予報士の試験勉強に専念するが…。
これから「気象予報士」を目指す人はもちろん、目標や夢を諦めずに追いかける人たちにエールを贈るエッセイ集です。
「自分には認めてもらえるものが何もない」

ダメダメな自分に終止符を打つべく
気象予報士試験に6度チャレンジ。

『とにかく自分に自信がほしかったのです。
難関といわれる資格を取れば、
「頑張った証」をもらえる気がしました。
ダメダメな自分に終止符を打ちたかった』


会場を後にして

講座が終わり、ようやく昼食にありつけた。1つ下の階でチキンカツカレーを食べてから地元の笹塚のカフェに移動してこの記事を書き始めたわけである。




この日の夜9時から、タイミングよく気象に関する番組が放送されたので、気象ずくめの一日を過ごすことになった。

NHKスペシャル MEGA CRISIS 巨大危機Ⅱ 第2集「異常気象」
https://www.nhk.or.jp/docudocu/program/46/2586957/index.html


関連記事:

気象キャスター寺川奈津美 はれますように~未来はきっと変えられる
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bd5b4615a4468919445a010183866934

寺川奈津美の気象講座 秋の気象と台風(朝日カルチャーセンター)- 2016年9月
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/eb9ab40025ffeb53d6b5f9b9fc91e94e

寺川奈津美の気象講座(朝日カルチャーセンター)- 2015年10月
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/960f1e03a34fd2e3727b65252ea96159

知識ゼロからの異常気象入門:斉田季実治
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0294a67d1755964cb572b65f029624e4


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発売情報: フォック空間と量子場[上][下] 増補改訂版: 新井朝雄

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フォック空間と量子場 [上] 増補改訂版 : 新井朝雄
フォック空間と量子場 [下] 増補改訂版 : 新井朝雄

内容:
有限自由度の量子力学の数学的基礎を学んだ人を対象に、無限自由度系である場の量子論の構成的方法を解説する。場の量子論の公理論的方法に関する入門書は優れたものがすでにいくつか出版されている。だが、構成的方法については、有限自由度の(非相対論的)量子力学の数学理論の標準的な部分を学んだ人が、それほど難なく、引き続いて読むことができ、かつ現在進行中の研究へ入ってゆくことが可能であるように組織だてて書かれた入門書はまだないように見える。本書はそのような書物のひとつたらんことを目指すものである。上巻では、数学的に重要なフォック空間の理論を述べる。この巻だけでも、数学的な解説として完結している。第5章に新たな節を追加し説明を補った。

下巻では、上巻の理論の応用編としての量子場の理論を叙述する。公理論的方法の短い叙述である7章を除いて、量子場の個々のモデルを構成し、その基本的性質を論じる。8章から11章にわたって、自由場のクラスに属する量子場を全部で4種類構成する。自由場は相互作用をする素粒子を記述するものではない。相互作用を記述するモデルの論述は12章、13章でなされる。12章では、van Hoveモデルとよばれるモデルを扱う。これは、相互作用をもつ量子場の雛形として、多くの研究者によって、すでによく解析されているモデルである。しかし、本書では、このモデルを抽象的な形で論じ、モデルの普遍的構造を明るみに出した。さらに、質量0の素粒子に関わる赤外発散の問題を詳しく論じた。13章は、複数の非相対論的量子的粒子と量子場が相互作用をする系のモデルの構成と解析に関するものである。ここでは、この分野の最新の研究に直結する内容が論じられている。

著者について:
新井朝雄(あらいあさお): ウィキペディアの記事
1954年埼玉県に生まれる。1976年千葉大学理学部物理学科卒業。1980年東京大学大学院理学系研究科博士課程中退。現在、北海道大学名誉教授、特任教授。理学博士。専門は数理物理学、数学。

新井先生の著書: Amazonで検索
初版も含めて本書を: Amazonで検索


初版が出版されてから16年経った本書は増補改訂版として全面改訂された。この16年間の研究の進展の反映、および説明や証明の不十分な箇所を書き改め、誤植の訂正も行なわれている。

本書の「増補改訂版にあたって」には主な改訂部分と追加部分が12項目に分けて説明されている。

1) 序章を初版よりやや詳しく書き直した。

2) テンソル積ヒルベルト空間の元とベクトルとの縮約の概念を導入した(定理1-5)。これを使うとボソンフォック空間およびフェルミオンフォック空間における消滅作用素の一般的作用を簡潔に表示できる。

3) 2つの稠密に定義された可閉作用素に関する相対的有界性の不等式は、そのまま、それらのテンソル積拡大に対しても成立する、という事実を定理として追加し、証明をあたえた(2-2節)。この定理は、テンソル積ヒルベルト空間上の作用素論を展開する上で基礎となる定理の1つである。

4) 第4章における正準交換関係(CCR)の表現論を書き改め、節の立て方も変更した。初版では扱わなかった新しい例として、量子場のスケール変換を取り上げ、これがCCRのフォック表現と非同値になることの証明をあたえた(4-13節)。これはCCRの非同値表現と物理との関連を示す重要な例の1つである。CCRの非同値表現は特徴的な物理と関連している場合があり、このような関連を探求することは、包括的な自然哲学の観点からも重要である。

5) フェルミオンフォック空間上の第2量子化作用素のスペクトルに関する節を新しく設けた(5-5節)。

6) 正準反交換関係(CAR)の表現に関する節を追加した(5-6節)。CARの表現はCCRの表現と対をなすものであり、CCRの表現の場合と同様、CARの非同値表現と物理との照応を探求することは重要である。

7) ミンコフスキー空間とLorentz変換について、補足的な説明を加えた(7-4-1節)。

8) 第7章への補足として、量子場に関する散乱の一般論(7-7節)を追加した。この理論は、純数学的には、第2量子化作用素の摂動として定義される自己共役作用素のスペクトル解析に応用されうる。

9) 8-4節と8-5節を書き換えた。特に、凝縮系物理学(物性物理学)への応用を念頭において、有界空間上での量子de Broglie場の理論を新たに書き下ろした。

10) 荷電スカラー量子場に関する記述(9-9節)を改訂した。

11) 量子場の相互作用モデルの数学的研究について、本書の初版が出版された2000年以降の進展に関する概観を叙述した(第13章のノートに追加)。

12) 参考文献を上巻と下巻のそれぞれに分けて付した。


以下、目次レベルで初版から改訂された箇所を青字で示すが、黒字の箇所についても多くの改訂が行われているのでご注意いただきたい。

上巻:

数理物理シリーズの刊行にあたって
まえがき
増補改訂版にあたって
記号表

第0章 序:量子場とはどういうものか---スケッチ
- はじめに
- 正準量子化の方法---ハミルトン形式
- 汎関数積分の方法---Feynmanの経路積分法
- 汎関数微分方程式による解法---Schwinger方程式
- ノート
- 演習問題

第1章 ヒルベルト空間のテンソル積
- 共役双線形形式とテンソル積
- L^2空間のテンソル積
- ヒルベルト空間値のL^2関数の空間とテンソル積
- 置換作用素、対称テンソル積、反対称テンソル積
- ノート
- 演習問題

第2章 線形作用素のテンソル積
- 基本的な定義と性質
- 相対的有界性
- スペクトルと自己共役作用素---復習
- 強可換な自己共役作用素の解析
- 自己共役作用素のテンソル積の本質的自己共役性とスペクトル
- 指数型作用素
- ノート
- 演習問題

第3章 全フォック空間と第2量子化作用素
- 無限直和ヒルベルト空間上の線形作用素
- 全フォック空間
- 第2量子化作用素
- 第2量子化作用素の交換特性
- ノート
- 演習問題

第4章 ボソンフォック空間
- はじめに---物理的背景
- ボソンフォック空間
- 消滅作用素と生成作用素
- 線型作用素の簡約
- ボソン的第2量子化作用素
- 生成・消滅作用素と第2量子化作用素との関係
- Segal場
- 直和ヒルベルト空間上のボソンフォック空間
- CCRの表現
- CCRの表現に同伴する第2量子化作用素
- ボゴリューボフ変換
- Heisenberg型CCRの表現
- 場のスケール変換とHeisenberg型CCRの非同値表現
- CCRの表現とHeisenberg型CCRの表現との関係
- CCRのWeyl表現
- ノート
- 演習問題

第5章 フェルミオンフォック空間
- 定義と基本的性質
- 消滅作用素と生成作用素
- 第2量子化作用素
- 第2量子化作用素と生成・消滅作用素の関係
- 第2量子化作用素のスペクトル
- CARの表現
- ノート
- 演習問題

第6章 ボソン-フェルミオンフォック空間と無限次元Dirac型作用素
- ボソン-フェルミオンフォック空間の基本的構造
- 双対境界作用素と境界作用素
- Laplace-Beltrami作用素
- コホモロジー群
- 作用素ΔS,pの核とコホモロジー群H~p_sの次元
- 無限次元Dirac作用素
- 抽象的Dirac作用素
- Dirac作用素Q_sのフレドホルム性と指数
- ノート
- 演習問題

付録A ベクトル列の弱収束と有界作用素列の強収束

付録B 自己共役作用素に関するいくつかの基本的事実
- よく使われる不等式
- 絶対連続スペクトルと特異スペクトル
- 強レゾルヴェント収束

付録C 直和ヒルベルト空間上の作用素

付録D 緩増加超関数
- 急減少関数の空間と緩増加超関数
- 緩増加超関数の位相
- シュワルツの核定理
- 緩増加超関数の微分
- 関数と緩増加超関数の積
- フーリエ変換
- 合成積

参考文献
索引


下巻:

まえがき

第7章 量子場の一般論
- はじめに
- 数学的準備---作用素値超関数
- 量子場の一般概念
- 相対論的量子場
- ユークリッド的量子場
- 抽象的な量子場の概念
- 散乱理論とスペクトル解析
- ノート
- 演習問題

第8章 de Broglie場の量子論
- de Broglie場の形式論
- ボソンフォック空間上での構成---ボソン的量子de Broglie場
- 消滅作用素の作用素値超関数核
- ψ(x)から定まる準双線形形式
- 量子de Broglie場の自己相互作用を定義する際の困難
- フェルミオンフォック空間de Broglie場
- 有界空間上の量子場
- ノート
- 演習問題

第9章 自由なKlein-Gordon場の量子論
- はじめに---基本的アイディア
- 自由な量子KG場
- 作用素値汎関数φ(f)の基本的性質
- フォック空間の巡回性
- ハミルトニアンと運動量作用素
- エネルギー・運動量スペクトル
- Poincare共変性
- 場の交換関係とLorentz不変な超関数
- 真空期待値
- 正準共役場と鋭時刻場
- 運動量切断の入った点様の場
- 量子荷電スカラー場
- ノート
- 演習問題

第10章 電磁場の量子論
- 電磁場の古典論
- 量子輻射場
- 鋭時刻場
- ハミルトニアンと運動量作用素
- 運動量切断をもつ点様の量子輻射場
- 同値な表現---自然な同型対応
- ノート
- 演習問題

第11章 自由なDirac場の量子論
- 自由なDirac場の古典論
- 自由なDirac場の平面波展開
- 量子Dirac場の構成
- 量子場のハミルトニアン、運動量作用素、全電荷作用素
- 量子Dirac場のPoincare共変性
- ノート
- 演習問題

第12章 van Hoveモデル
- はじめに
- 抽象的van Hoveモデルの基本的性質
- スペクトル特性(I)---g ∈ D(T^(-1))の場合
- スペクトル特性(II)---g not∈ D(T^(-1))の場合
- 基底状態の非存在の物理的対応---赤外カタストローフ
- 一般的van Hove-宮武現象
- van Hove-宮武現象とCCRの非同値表現
- ハイゼンベルク場と物理的真空期待値
- フォック表現と異なる、CCRの表現を用いる構成法
- 散乱理論
- 具象的van Hoveモデルへの応用
- ノート
- 演習問題

第13章 粒子と量子場の相互作用モデル
- はじめに
- 準備---定ファイバー直積分
- ある一般的なクラスのハミルトニアンの自己共役性とスペクトル
- Nelsonモデル
- 非相対論的量子電磁力学---Pauli-Fierzモデル
- 一般化されたスピン-ボソンモデル
- ノート
- 演習問題

付録E ヒルベルト空間値関数の積分

参考文献
索引


フォック空間と量子場 [上] 増補改訂版 : 新井朝雄
フォック空間と量子場 [下] 増補改訂版 : 新井朝雄

 


関連記事:

量子力学の数学的基礎: J.v.ノイマン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/09b65f36119894f5b852bbf38421af45

ヒルベルト空間と量子力学:新井朝雄
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/fa4d9da634afbdb8a9dfc1ac162f7afe

発売情報: ヒルベルト空間と量子力学 改訂増補版:新井朝雄
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/84313bfed4331fe0c1343a55a531809a

量子力学の数学的構造 I:新井朝雄、江沢洋
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/196b59dc50fca361ba523036e7eeb908

量子力学の数学的構造 II:新井朝雄、江沢洋
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a4ef01e94a8c0384cec353ebe4d542e4

量子現象の数理:新井朝雄
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/37fca42e04d118e5cb5c129b0edf2d93

発売情報:量子プログラミングの基礎: イン・ミンシェン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/27e4d9a10982d4d69c0029fc4c801708


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ラッシュライフ (新潮文庫): 伊坂 幸太郎

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ラッシュライフ (新潮文庫): 伊坂 幸太郎」(Kindle版

内容紹介:
泥棒を生業とする男は新たなカモを物色する。父に自殺された青年は神に憧れる。女性カウンセラーは不倫相手との再婚を企む。職を失い家族に見捨てられた男は野良犬を拾う。幕間には歩くバラバラ死体登場――。並走する四つの物語、交錯する十以上の人生、その果てに待つ意外な未来。不思議な人物、機知に富む会話、先の読めない展開。巧緻な騙し絵のごとき現代の寓話の幕が、今あがる。
単行本は2002年刊行、文庫版は2005年刊行、469ページ。

著者について:
伊坂幸太郎(いさかこうたろう): HP: http://isakakotaro.corkagency.com/
1971(昭和46)年千葉県生れ。’95(平成7)年東北大学法学部卒業。2000年『オーデュボンの祈り』で、新潮ミステリー倶楽部賞を受賞し、デビュー。’02年刊行の『ラッシュライフ』が各紙誌で絶賛され、好評を博す。’03年に発表した『重力ピエロ』は、ミステリファン以外の読者からも喝采をもって迎えられ、一気に読者層を広げた。また『重力ピエロ』で、七〇年代生れとしては、初の直木賞の候補となる。’04年に『チルドレン』、’05年には『グラスホッパー』が直木賞候補に。’04年『アヒルと鴨のコインロッカー』で吉川英治文学新人賞受賞。洒脱なユーモアと緻密な構成で読む者を唸らせ、近年希にみる資質の持ち主として注目を浴びている。


自分より若い世代の作家の小説も読んでみようと、通勤電車での読書に選んだのが本書である。人気作家らしいので期待して読み始めた。文庫で470ページほどある。

ところが50ページほど進んだところで「あ、こりゃだめだ。」と気が付いた。内容がとても薄っぺらい。ミステリー性がないし、ぐいぐい惹き付けられることもない。「群像劇」と呼ぶそうだが複数のストーリーが並行して進み、特定の主人公を設けず登場人物がすべて主人公というスタイル。最後のほうでストーリーのうちいくつかが交差するのだが、何のために交差させているのかわからない。リストラされた中年男が拳銃を持っていたり、マンションで泥棒と泥棒が鉢合わせし、その2人が同級生だったとか、無理して作り上げた「偶然」や「予想外の出来事」がわざとらしく感じられてしまう。

あと、人物に対する見方や描写が通り一遍で、浅過ぎる。リストラ男は文字通りイメージどおりだし、サッカー選手は予想を裏切らず馬鹿で単細胞な男として描かれている。著者は日ごろから周囲の人や他人を表面的にしか見ていないのだと思えてしまう。

そして作品を書くための取材や調査、参考文献の読み込みがほとんど行われていないことがよくわかる。絵画といえば「エッシャーの絵」だけだし、駅の階段はそのまま「駅の階段」である。事前に調査をしないから物事に対するディテールがほとんど書かれていないのだ。頭の中だけでこねくり回して作り上げた「お手軽小説」、「即席ラーメン小説」だと思った。

本書は著者が31歳のときに書いた作品だ。ファンも多いようだが、僕が高校時代に読んだ小説にくらべてはるかに見劣りがした。たまたま読んだ現代作家の1冊で全体を判断してはいけないと思うが、昭和や平成の前半に活躍した小説家やミステリー作家のほうが、(同年代に書かれた作品であっても)技量と気迫、準備にかけるエネルギーにおいて比較にならないほど優れているし、読み応えがあるという感を強く持った。

著者の人生経験の浅さと視野の狭さを露呈してしまった小説である。


この作品を気に入っている方が多いので、個人的な感想として紹介させていただいた。

なお、本書は映画化され「ラッシュライフ [DVD]」として見ることができるが、本書のファンさえも駄作だと言い切るほど残念な作品に仕上がってしまったようだ。

若いといっても著者は現在46歳。最近の本の評判はどうだろう?とアマゾンのレビューを読んでみたが、どれもイマイチである。


ラッシュライフ (新潮文庫): 伊坂 幸太郎」(Kindle版




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はじめて学ぶリー群: 井ノ口順一

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はじめて学ぶリー群: 井ノ口順一

内容紹介:
線型代数とリー群のギャップを克服!本格的にリー群・リー環について学ぶための線型代数の本。
数学や理論物理学を学ぶ上でリー群(Lie 群)の知識が必要になることがしばしばある。大学の授業では学ぶ機会がなかなかないにも関わらず大学院生になると「当然知ってるよね」と言われがちな知識でもある。
この本ではリー群のなかでも微分幾何学や理論物理学で使われることの多い線型リー群について初歩(の初歩)を解説する。
線型代数、微分積分、初歩の群論を学べばリー群論・リー環論の初等理論は手の届く位置にある。とは言うものの独学でリー群・リー環について学ぶとき線型代数とのギャップで戸惑う読者も少なくない。この本は、それらの入門書と「初歩の線型代数」の間のギャップを埋めることを目的としている。やさしめに書かれた線型代数の教科書では学びにくい双対空間、対称双線型形式などが(単純)リー環を扱う上で活用される。このような学びにくい(あるいは学び損ねた)線型代数の知識についてページを割いて丁寧に解説していることがこの本の特徴である。
2017年7月21日刊行、272ページ。

著者について:
井ノ口順一(いのぐちじゅんいち):教員情報
千葉県銚子市生まれ。東京都立大学大学院理学研究科博士課程数学専攻単位取得退学。福岡大学理学部、宇都宮大学教育学部、山形大学理学部を経て、筑波大学数理物質系教授。教育学修士(数学教育)、博士(理学)。専門は可積分幾何・差分幾何。算数・数学教育の研究、数学の啓蒙活動も行っている。日本カウンセリング・アカデミー本科修了、星空案内人(準案内人)、日本野鳥の会会員。

井ノ口先生の著書: Amazonで検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で343冊目。

7月に「発売情報: はじめて学ぶリー群: 井ノ口順一」として紹介した本書を読んでみた。

リー群とリー環は素粒子物理や場の量子論を学ぶためには必須項目なのだが、数学科以外の学生には敷居が高い。また数学科の学生には何のために学ぶのか分かりにくくモチベーションが保てない。なぜ敷居が高いのかというと、通常は一般的な群論を学んだ後でないとリー群は始められないからだ。本書は本格的なリー群の教科書を読み始める前に読むための「準備本」である。

やさしめに書かれた線型代数の教科書ではあまり扱われない双対空間や対称双線型形式などが(単純)リー環を扱う上で活用される。このような独学では学びにくいところをていねいに解説したのが本書である。だから「本格的にリー群、リー環について学ぶための線型代数の本」とも言うことができる。

行列のつくるリー群(線型リー群)の基本事項が解説され、線型リー群から「リー環」とよばれる対象がどのように定められるかが詳しく解説される。

本書では将来、本格的にリー群、リー環について学ぼうと考えている読者に役立つように工夫されている。具体例を豊富に用意し、とくに幾何学においてリー群がどう活躍しているかを最後の2つの章で紹介している。表現論を学ぼうという読者もこの2つの章が役に立つ。

リー環、とくに複素単純リー環やルート系については、(今後発売される)姉妹書「はじめて学ぶリー環」で解説されるそうだ。

章立てはこちら。

第I部:リー群とリー環の芽生え
第1章:平面の回転群
第2章:平面の合同変換群
第3章:曲線の合同定理

第II部:線型リー群
第4章:一般線型群と特殊線型群
第5章:リー群論のための線型代数
第6章:直交群とローレンツ群
第7章:ユニタリ群
第8章:シンプレクティック群
第9章:行列の指数函数
第10章:リー群からリー環へ

第III部:3次元リー群の幾何
第11章:群とその作用
第12章:3次元幾何学

附録A:同値関係
附録B:線型代数続論
附録D:リー群の連結性
附録E:演習問題の略


ここからが読後の感想である。本書を読もうか迷っている人がまず思うのは「物理で必要なリー群を学ぶのに、ここまで詳しく学ぶ必要があるのか?」ということだろう。結果として言うならば「必要はないと思う。」というのが僕の結論だ。本書を読まずに「連続群論入門 (新数学シリーズ18):山内恭彦、杉浦光夫」や「群と表現:吉川圭二」で学んでおけば十分だと思う。

そして次に「本書は易しいか?」という点についていえば「そこそこ難しい。」というのが僕がもった感触だ。

さらに「では、本書で何が得られるのか?」、「本書で学ぶ意義は?」については「リー群やリー環の線形代数(複素数、四元数の行列表現も含む)との関係が明確になる。」、「リー群、リー環の幾何的イメージがつかめる。」、「群の作用の概念を具体例を通じて学べる。」ということだろう。


第1部は特に易しい。現行の教育課程では教えられなくなった高校数学Cの「行列」のレベルだと言ってよい。ここで平面の回転群、合同変換群、曲線の合同定理を行列や行列式を使った形式で学ぶ。


第2部が本書のメインだ。大学教養課程の行列を軽くおさらいしてから、一般線型群と特殊線型群を紹介、群と群の距離などその後の解説に必要な基本事項の定義を述べる。

さらにリー群論を展開するために必要な線形代数の解説が続く。線型空間の公理、基底と次元、線形写像と表現行列、線型部分空間、双対空間、スカラー積、鏡映、直交直和分解など。

次の直交群とローレンツ群ではO(n)とSO(n)の解説、SO(3)におけるオイラーの角の表現、変換群としてポアンカレ変換、ローレンツ変換、アフィン変換を学ぶ。ここまでは実空間の話。

次の第7章から複素数空間としてユニタリ群が導入される。2x2の実行列としての表示、n次元化、実斜交群(実シンプレクティック群)、行列のノルムなど。

第8章では四元数が導入され、これが複素表示や実表示できることを学ぶ。つまりこの章で学ぶのは四元数特殊線型群やユニタリー・シンプレクティック群、四元数鏡映行列、四元数の円周群、随伴表現、オイラー角などである。さらに四元数を実表示(つまり4x4の実行列)した行列が満たす性質を確認する。

ここまでは平面における変換や幾何的イメージを、3次元空間、複素空間、四元数空間に拡張していく流れになっている。

第9章で行列の指数関数を定義し、そのノルムや指数法則など基本的なことがらを確認する。そして円周群を例にとってその接ベクトル空間を導き、リー環とのつながりを紹介する。

第10章では第9章までに解説したリー群からリー環を計算する方法を具体的に紹介する。


第3部は「3次元リー群の幾何」である。まず第11章で群の作用が紹介され、具体的にはアフィン変換群を使ってその性質が解説される。次にこれまでに学んできた4つの幾何が「クライン幾何」であることが述べられる。つまり次の4つの幾何のことだ。

- ユークリッド幾何
- 等積アフィン幾何
- 相似幾何
- アフィン幾何

またミンコフスキー空間にポアンカレ群を作用させて定まるクライン幾何学はミンコフスキー幾何となる。

次に「球面幾何」と「双曲幾何」、「メビウス幾何」、「ミンコフスキー幾何」が紹介される。

ここまで理解できれば本書で学んだ価値が実感できることだろう。第8章以降は少し難しいなという感触だった。

第12章では「3次元幾何学」と題して「ユニ・モデュラー・リー群」、「冪零幾何」、「可解幾何」、「3次元球面幾何」、「3次元双曲幾何」、「HxR幾何」が解説される。だいぶ難しく感じるようになったが、ぎりぎりついていけたという感触。

そして続く「SL幾何」、「岩澤分解」、「サーストン幾何のリスト」、「ビアンキの分類」はまったくお手上げだった。

「サーストン幾何」とは10年前に書いた「トポロジカル宇宙(完全版):根上生也著」という記事で紹介した「サーストンの幾何化予想」のことである。

1982年にアメリカのサーストンという数学者が「サーストンの幾何化予想」というものすごいアイデアを打ち立てた。「三次元多様体は一様な幾何構造の断片に分解できるだろう」というもので、宇宙を構成する空間の断片がこの図で示されているような最大8種類の形に限られていることを示した。サーストンはこれを証明したわけではない。ともかく物理学のように実験や観察で検証したわけでもないのに、頭の中の数学だけで宇宙の形の8種類の可能な断片を導きだしたことは他の数学者にとっても大きな驚きであった。これらがその8種類の形である。



サーストン幾何化予想が証明されたことで2003年、グリゴリー・ペレルマンにより、およそ100年にわたり未解決だった3次元ポアンカレ予想が証明されたのは有名な話である。

このうように第12章は現代数学の最先端とリー群のつながりを紹介したものだ。著者も読者がすべてを理解することは期待していないのだと僕は思った。


関連記事: 下にいくに従い専門性が高くなるように並べた。

線形代数と群の表現 I :平井武
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3e510783ca6272470f4c9b04f239c425

線形代数と群の表現 II:平井武
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1711924db691840bf740aa39dc1d37d1

連続群論入門 (新数学シリーズ18):山内恭彦、杉浦光夫
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/71f347a51bbd16f3c72bb9116d23f597

群と表現:吉川圭二
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/35c16a71ff26b71d6ffc8c2c4730439f

リー群と表現論:小林俊行、大島利雄
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6f89fddb08dc3141e6753249891523b9


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はじめて学ぶリー群: 井ノ口順一



第I部:リー群とリー環の芽生え

第1章:平面の回転群
- 直交座標
- 図形を動かす
- 平行移動
- 回転
- 行列
- 変換
- 線対称変換
- 群
- 群の同型
- 直交行列

第2章:平面の合同変換群
- 2次直交行列の分類
- 合同変換群
- 三角形の合同
- 合同定理
- 生成元とは

第3章:曲線の合同定理
- 曲線
- 行列値函数
- フレネの公式
- 合同定理
- 回転群のリー環

第II部:線型リー群

第4章:一般線型群と特殊線型群
- 行列とベクトル
- 部分群
- 閉部分群
- 行列間の距離

第5章:リー群論のための線型代数
- 線型空間
- 双対空間
- スカラー積
- 鏡映
- 直交直和分解
- 正規直交基底

第6章:直交群とローレンツ群
- 擬直交群
- 回転群
- オイラー角
- 合同変換群・再考

第7章:ユニタリ群
- 複素数空間
- ユニタリ群
- 複素構造
- 高次元化
- 斜交群
- 複素行列のノルム
- 低次の場合

第8章:シンプレクティック群
- 四元数
- 複素表示
- ユニタリー・シンプレクティック群
- 複素シンプレクティック群
- 四元数の円周群
- 随伴表現
- オイラーの角、再訪
- 四元数の実表示

第9章:行列の指数函数
- 複素数の極表示
- ノルム収束
- 微分方程式
- 指数法則と1径数群
- 円周群から見えてくること

第10章:リー群からリー環へ
- 線型リー群のリー環
- 抽象的な定義
- リー環の計算

第III部:3次元リー群の幾何

第11章:群とその作用
- 群作用
- 球面幾何
- 双曲幾何
- メビウス幾何

第12章:3次元幾何学
- 線型リー群の左不変リーマン計量
- ユニモデュラー・リー群
- 冪零幾何
- 可解幾何
- 平面運動群
- 3次元球面幾何
- 3次元双曲幾何
- HxR幾何
- SL幾何
- 岩澤分解
- サーストン幾何のリスト
- ビアンキの分類

附録A:同値関係

附録B:線型代数続論
- 直交直和分解
- シルベスターの慣性法則
- 斜交線型代数

附録C:多様体

附録D:リー群の連結性

附録E:演習問題の略

参考文献
索引

木版画家「三木淳史遺作展 mikihands」のご案内

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僕の従兄の三木淳史(みきあつひと)は木版画家をしておりましたが、2014年10月に57歳で急逝いたしました。来月、遺作展をすることになりましたのでご案内させていただきます。

三木淳史遺作展 mikihands
https://www.facebook.com/mikihandsart/

ギャラリーなつか(三木淳史遺作展)
http://gnatsuka.com/miki-atsuhito-2017/

2014年惜しまれながら57歳で急逝した木版画家・三木淳史(みきあつひと)の回顧展。繊細で緻密な表現から大胆なデフォルメと色彩の表現、モノクロームの中に様々な彫りと刷りのテクニックを駆使したものまで、作者の持つ美意識と技術を堪能できる木版画展です。

日時:2017年10月9日(月、祝日)-14日(土)
   11:00-18:30(最終日17:00まで)
場所:ギャラリーなつか
   〒104-0031
   東京都中央区京橋3-4-2 フォーチュンビル1F(地図
   PHONE: 03-6265-1889


略歴:

三木淳史 MIKI Atsuhito

1957 千葉県生まれ
1980 日本大学芸術学部美術学科版画コース卒業
1981 板橋区立美術館、木版画講座助手
    品川区成人学校、木版画講座助手
    池袋コミュニティ・カレッジ木版画講座、小山松隆先生助手となる
1983 日本大学芸術学部美術学科、非常勤講師、NHK学園、木版画講座テキスト執筆
1985 品川区上大崎敬老会館、木版画講座講師
1986 練馬区立美術館、木版画講座、吉田穂高先生助手(同好会担当)となる
1990 日本大学芸術学部、非常勤講師
1991 版画工房「HAND WORKS」主催
1995 文房堂アートスクール木版画講座、講師就任(以後没年まで)
2014 都内病院において重傷急性膵炎のため10月24日急逝
2015 開隆堂出版 美術教科書に版画作品掲載
その他 公民館・区民センターで年賀状講習会、多数


展示予定の作品のうち、すでにネット上に公開されているものを貼り付けておきます。(クリックで拡大)






遺作展の詳細、地図はこちらをご覧ください。(クリックで拡大)




昨日、三連休の中日は朝から遺作展の準備のお手伝いをしてきました。美術にはうとい僕ですからパネルを拭いたり、運んだり単純作業をして汗を流しました。日頃、画材など目にすることがありませんから取り扱いに戸惑い、見よう見真似の作業です。

従兄の三木淳史は葛飾北斎を尊敬していて、生前は「亜北斎(アホくさい)」というトボけたニックネームで自称していました。僕は子供の頃とても可愛がってもらい、そのことは従兄が亡くなる4カ月前、「頭の体操: 多湖輝」という記事に書いていました。

今夜7時半、NHK総合テレビで葛飾北斎の娘が主人公のドラマが放送されます。「#木版画」や「#北斎」とタグをつけて遺作展を宣伝するのにはよいタイミングとなりました。

眩(くらら)~北斎の娘~ | NHK 特集ドラマ
http://www.nhk.or.jp/dsp/kurara/


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発売情報: 惑星探査機の軌道計算入門: 半揚稔雄

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惑星探査機の軌道計算入門: 半揚稔雄

内容紹介:
数値計算をしながら宇宙飛行の楽しさを味わう!人工衛星や惑星探査機における軌道計算と軌道決定のカラクリを、高校数学、物理の知識をもとに分かりやすく紹介!
2017年9月20日刊行、132ページ。

著者について:
半揚稔雄(はんよう としお)
1947年、九州生まれ。北海道札幌育ち。東京大学大学院工学系研究科航空学専門課程博士課程修了、工学博士。防衛大学校および東京大学宇宙航空研究所などで宇宙飛翔力学を研究。現在、明治大学兼任講師、成蹊大学および神奈川大学非常勤講師。

半揚先生の著書: Amazonで検索


軌道計算萌えの本が発売された。それも高校数学や物理の知識があれば学べるというから嬉しい。高校時代に関数電卓(CASIO fx-2200)やプログラム関数電卓(TI-59)を使って天文計算に熱中していた僕にとっては、青春時代のワクワク感が蘇ってくる。高校生だった僕は電卓の小さな黄色い窓の中に宇宙を見ていたのだ。1970年代から2000年頃までは天文計算、天体の軌道計算の仕方を解説する本がいくつも出版されていた。

天文計算の本: Amazonで検索
軌道計算の本: Amazonで検索

また、映画『ドリーム』の公開も9月28日に控えている。これはアメリカ南東部のラングレー研究所で計算手として3人の黒人女性が偏見や差別と戦いながら、いかにして科学史に残る偉業であるマーキュリー計画の達成に貢献したかを描いた作品だ。また、1997年に打ち上げられた土星探査機「カッシーニ」は、つい先日20年におよぶミッションを終えたばかり。世間はちょっとした軌道計算ブームなのだ。(と僕は勝手に思っている。)


132ページという比較的薄い本である。理論の解説の部分は高校数学レベルの数式や説明のための図が豊富に載っている。そして、解説した数式に具体的な数値を入れて計算手順を示しているのがよいところ。これなら勘違いせずに計算を進めることができる。

章立ては次のとおり。

序  宇宙飛翔力学とは
第1章 円錐曲線の幾何学
第2章 ケプラー運動
第3章 軌道遷移
第4章 軌道決定
第5章 ロケットの性能
第6章 惑星間飛行


本書を読みながら自分で計算すれば、NASAJAXAの計算担当になった気分が味わえる。電卓を使ってもよいし、Excelで計算するのもよいだろう。

これを機会としてブログに「天文、宇宙」というカテゴリーを新設しておいた。


本書の「はしがき」には次のように書かれている。

宇宙飛行の醍醐味は、何といっても惑星等の探査を目的とする惑星間飛行であろう。世界初の惑星探査は、1962年8月27日にアメリカが打ち上げた金星探査機マリナー2号によるものである。そして、その後の惑星探査で最も成果を挙げたのは、何と言ってもボイジャー1号、2号による木星、土星、天王星、海王星の外惑星を次々と巡る一連の探査であろう。これら2機の探査機は打ち上げから40年を経た2017年現在、太陽系から離脱しつつあるとともに、今なお観測データを送り続けている。ただ一つ残された冥王星探査は、マリナー2号の打ち上げから53年を経た2015年7月14日、探査機ニューホライズンズの接近で遂に達成されるに至った。これにより、以前に計画された太陽系における九つの惑星探査が完結したのである。(冥王星は2006年8月まで太陽系第9惑星の座にあった。)この間に、新たに水星から土星までの惑星探査と、彗星や小惑星、準惑星といった天体へ次々と探査機を送り込み、太陽系誕生の謎をとき明かそうという人類の挑戦が続いている。

マリナー2号が打ち上げられた当時、筆者は中学3年生で、宇宙飛行に関する知識を得ることも困難な時代にこれに興味を覚え、今に至っている。今日では、宇宙工学に関する邦書も多数出版されて、容易に専門的なレベルまで学べる環境が整ったと言ってよかろう。

本書では、宇宙飛翔力学の入門的な内容として「円錐曲線」、「ケプラー運動」、「軌道遷移」、そして「ロケットの性能」といった5章からなる項目を取り上げ、それぞれ数値計算を通して学ぶことから、地球近傍や太陽系規模で見たときの宇宙における距離や速度、さらに飛行時間などの物理量を肌感覚で理解できるようになることを目指している。そして、最後の総仕上げの第6章では、つい先頃行なわれた冥王星探査の立役者、探査機ニューホライズンズの惑星間遷移軌道を計算してみる。このことを通して、読者諸賢の宇宙科学技術に対する理解がさらに一層深められたならば、筆者の意図は尽くされたと言ってよい。


関連書籍:

半揚先生による、より専門性の高い本も2014年に発売されている。「惑星探査機の軌道計算入門: 半揚稔雄」で飽き足らない方は、こちらもどうぞ。

ミッション解析と軌道設計の基礎: 半揚稔雄




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惑星探査機の軌道計算入門: 半揚稔雄



序  宇宙飛翔力学とは

第1章 円錐曲線の幾何学
 1.1 放物線
 1.2 楕円
 1.3 双曲線
 1.4 円錐曲線の極方程式

第2章 ケプラー運動
 2.1 速度と加速度の極座標表示
 2.2 軌道の極方程式
 2.3 楕円軌道
 2.4 円軌道
 2.5 放物線軌道
 2.6 双曲線軌道
 2.7 飛行時間
 2.8 ケプラー方程式
 2.9 経路角

第3章 軌道遷移
 3.1 軌道面内の円軌道間の遷移
 3.2 軌道面内の楕円軌道間の遷移
 3.3 軌道面の異なる円軌道間の遷移

第4章 軌道決定
 4.1 座標系と軌道要素
 4.2 宇宙機や天体の位置決定
 4.3 初期値からの軌道決定
 4.4 弾道ミサイルの軌道決定
 4.5 境界値からの軌道決定

第5章 ロケットの性能
 5.1 ロケットの運動方程式
 5.2 推力と比推力
 5.3 ツィオルコフスキーの式
 5.4 多段ロケット
 5.5 ペイロード能力の簡易評価法

第6章 惑星間飛行
 6.1 惑星間遷移軌道の一般的特性
 6.2 スウィングバイ
 6.3 冥王星探査機ニューホライズンズ
 6.4 追憶:惑星探査機ボイジャーの航跡

●付録
付録A 球体の万有引力
付録B 諸定数
付録C ロケットの性能諸元
付録D ユリウス日
付録E ケプラー方程式の数値解法
付録F ランベルト問題の数値解法

昭和45年11月25日―三島由紀夫自決、日本が受けた衝撃: 中川右介

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昭和45年11月25日―三島由紀夫自決、日本が受けた衝撃: 中川右介」(Kindle版

内容紹介:
昭和45年11月25日、三島由紀夫、自衛隊市ヶ谷駐屯地で割腹、介錯される―。一人の作家がクーデターに失敗し自決したにすぎないあの日、何故あれほど日本全体が動揺し、以後多くの人が事件を饒舌に語り記したか。そして今なお真相と意味が静かに問われている。文壇、演劇・映画界、政界、マスコミの百数十人の事件当日の記録を丹念に拾い、時系列で再構築し、日本人の無意識なる変化をあぶり出した新しいノンフィクション。
2010年9月刊行、284ページ。

著者について:
中川右介(なかがわ ゆうすけ): ウィキペディアの記事 Twitter: @NakagawaYusuke
1960年生まれ。編集者、文筆家。早稲田大学第二文学部卒業後、クラシック音楽・歌舞伎を中心に、膨大な資料を収集し、比較対照作業から見逃されていた事実を再構築する独自のスタイルで精力的に執筆。「クラシックジャーナル」編集長、出版社「アルファベータ」代表取締役編集長でもある。


ノーベル文学賞候補にもあがっていた流行作家が、防衛庁で総監を人質に立てこもり、数百人の自衛隊員の前で演説をし、憲法改正のための決起を呼びかけた後に割腹自殺したという前代未聞の事件がおきたのが、昭和45年11月25日の昼頃のことである。この三島事件はテレビで生中継され、日本中に大きな衝撃を与えた。三島由紀夫は45歳である。

昨今は本を全く読まない若者が増えているので、三島由紀夫やこの事件のことを知らない人は、まずこの動画をご覧になってほしい。




この時点で日本は戦後25年経っていて、経済成長の真っただ中。朝ドラの「ひよっこ」の最終回は1968年が舞台なのでその2年後のこと、大阪万博が開かれた年である。三島のとった行動は時代錯誤も甚だしい。しかし、これほど優秀な人物が、なぜこのような行動をとってしまったか、さまざまな解釈や憶測がとんだのである。

あらかじめお断りしておくが、僕は三島由紀夫の小説は好きだが、彼の信奉者ではない。憲法改正論議や来たる衆院選に結び付けようという気もまったくない。たまたま手にした本書が面白かったから紹介するだけである。


この事件がおきた日、僕は小学2年生で、この日は水曜日だったから学校で授業を受けていたはずである。「まぼろしの掃除当番表」という記事で紹介したように、木造校舎で若い女性教師が担任だった。

小学2年生が三島由紀夫を知っているとしたら、それは彼の文学作品ではなく、床屋で見る週刊誌やテレビで見かける男気のある文化人としての姿だったろう。僕が三島由紀夫の小説を読むのは高校1年生になってからだ。

午前の授業を終え、担任の先生はいったん職員室に戻るかもしれないが、給食は受け持ちのクラスの児童と食べるから、職員室で事件を知ったとしても詳しいことはわからなかったはずだ。

おそらく僕が事件のことを知ったのは帰宅後、夕刊を見てのことだったのだろう。幸い我が家は読売新聞だった。(朝日新聞の夕刊の都市配布分、早刷版には切断後の三島の頭部が掲載されてしまった。)その晩か次の日の晩、切腹する男の夢を見てうなされて目を覚ました記憶は残っている。


1970年=昭和45年は、昭和のオールスターが揃っていた年だ。昭和天皇はまだまだ元気だったし、内閣総理大臣は佐藤栄作(当時69歳)、自民党幹事長は田中角栄(当時52歳)、防衛庁長官は中曽根康弘(当時52歳)、警察庁長官は後藤田正晴(当時56歳)である。

文学界も芸能界も、老壮青それぞれの世代にスターがいた。さらにその下にやがて芽を出す無名の青少年たちもいた。

そのなかで、最前線にして最高位にある人が、突然、死んだのである。


著者は事件があったこの日、10歳だったそうだ。記録から文壇、演劇・映画界、政界、マスコミの百数十人の事件当日の記録を丹念に拾い、時系列で再構築して紹介したのが本書である。

当時の各界をまたがる著名人らの関係が浮き彫りになるだけでなく、現在では大成したり、現役を退いた人たちが、この時代には社会に出たてだった頃の様子、三島事件をどのように知り、どのような反応、行動をとったかが詳しく語られる。昭和45年にタイムスリップして「この日」を疑似体験できる本なのだ。


たとえば、シンガーソングライターの松任谷由実は、当時はまだ16歳の少女である。(当時の名前は荒井由実)この日はたまたま将来ご主人になる松任谷正隆の事務所に遊びに行くために市ヶ谷を訪れていて、三島事件に遭遇したという。

また、事件によって市ヶ谷界隈の道路は大渋滞となっていた。それに巻き込まれ、自衛隊の前で動けなくなったタクシーの中に、作曲家の武満徹(当時40歳)がいた。タクシーのラジオでは事件の実況中継をしていた。この日、武満は当時自衛隊市ヶ谷駐屯地のすぐ近くのフジテレビの講堂で行われていた指揮者、小澤征爾(当時35歳)の父の葬儀に参列するために市ヶ谷に来ていたのである。小澤征爾も三島と交流があった。

三島は内閣総理大臣佐藤栄作夫妻とも親しく交際していた。三島の母、平岡倭文江と佐藤栄作の妻佐藤寛子は親友の関係にあり、二人が知り合ったのは、昭和22年、佐藤栄作が政界入りする前で運輸省の役人だった頃である。であるから、現職の総理である佐藤栄作にとっては三島の「政府に対する反乱」に対して、どのよう仕方でお悔やみを伝えればよいかはとても難しいことになった。

前年1月の東大の安田講堂事件のときは警備第一課長だった警視庁の佐々淳行(三島事件当時39歳)は、この年の9月に警務部参事官になっており、佐々は三島と家族ぐるみの付き合いをしていた。彼は三島の弟と東京大学の同期であり、佐々の姉は三島の妹と聖心女子大学の同級生であり、さらに若き日の三島のガールフレンドでもあった。そのように親しい間柄だったため、上司は佐々を三島の説得のために市ヶ谷へ向かわせた。

ザ・ドリフターズはこの日、水戸にいた。松竹映画『誰かさんと誰かさんが全員集合!!』のロケだったのだ。「8時だョ!全員集合」が始まったのは前年の10月からである。この日は偶然にも「軍服を着たいかりや長介が、ポンコツ車の上に仁王立ちになって門前に到着する」シーンのリハーサルを繰り返していた。監督の渡辺祐介(43歳)が「笑顔を見せるな、愛国者は愛国者らしく、もっとシマった顔で乗りつけろ。」と39歳のいかりやへ指示していたところに、制作主任がこっそりと三島事件を知らせた。渡辺は、「へぇ」と言ったきり絶句した。自分の演技があまりにも下手なので監督が黙り込んでしまったのではないかと思ったのか、いかりやが心配そうに、渡辺のほうにやってきた。渡辺には偶然の一致とはいえ、長介氏の軍服姿がひどく不気味だったそうだ。

ノーベル賞作家の川端康成は当時71歳。三島夫妻の仲人をつとめた人物だ。(参考動画:「川端康成氏を囲んで 三島由紀夫 伊藤整」)この日、川端は青山斎場で行われた細川護立の葬儀に参列していた。後の内閣総理大臣細川護熙の祖父にあたる。葬儀が終わり斎場の玄関に出てきたところで、川端は市ヶ谷での出来事を知らされた。喪服姿のまま市ヶ谷に直行することになる。その後、川端は自衛隊の裏門から出て、南馬込にある三島邸に向かう。

スーパーのダイエーの創業者、中内功は当時48歳。この日からカラーテレビを、当時としては破格の五万円台で売り出すことにしていた、ダイエー赤羽店には朝から客が押し寄せていた。この店にこの日割り当てられたのは20台しかなく、そこに350人が押し寄せたので抽選方式になる。店頭に並ぶテレビに、午後になったら何が映し出されるかは店員たちも、中内も何もしらなかった。

後に航空幕僚長になり、政府見解と異なる内容の論文を書いたために更迭され、一躍有名になる田母神俊雄は、この日はまだ防衛大学校の4年生で22歳。フィールドホッケーにのめり込んでいた体育会系で、午後の訓練を終えて学生舎に戻った時、事件を知る。そして後年、田母神は三島を次のように批判する。「実際、あの事件では、彼らを排除しようとした自衛隊員が、日本刀などで切りつけられ8人も重軽傷を負っている。自衛隊は被害者であり、同じ自衛官として、三島氏の行動に共感も同情も湧かないのは当然である。」


ごく一部の人物について断片だけを紹介させていただいた。本書ではこの他、防衛庁をはじめ警視庁、国会、総理大臣公邸、各出版社や新聞社、放送局、両親のいる三島邸で誰がどのように動いていたかが時系列に沿って書かれている。コンパクトな新書とはいえ調査の上に調査を重ねて出来上がった本である。


三島の遺作となった『豊穣の海』は最終巻「天人五衰」を月刊誌「新潮」に連載中だった。編集部の小島喜久枝は、三島事件当日の午前3時半頃、三島からの電話を受け、その日の午前10時半に最終稿を受け取ることになる。この遺作は次の4巻からなる。

春の雪 (新潮文庫―豊饒の海)」(英語Kindle版
奔馬 (新潮文庫―豊饒の海)」(英語Kindle版
暁の寺 (新潮文庫―豊饒の海)」(英語Kindle版
天人五衰 (新潮文庫―豊饒の海)」(英語Kindle版

   


三島由紀夫の作品、関連本: Amazonで検索

三島由紀夫の動画: YouTubeで検索


昨年、下北沢で酒を飲み、深夜タクシーに乗って帰宅したことがあった。運転手は高齢者だった。「下北沢って演劇関係の若者が多いですけど、最近の若者は本を読まなくなりましたねぇ。」という話をすると「お客さんは、どのような本を読むのですか?」と運転手は聞いてきた。「最近は理数系本から小説まであらゆる本を読んでますが、高校時代は三島由紀夫にハマっていましたね。」と僕は答えた。

すると運転手はしばらく沈黙したあと、「実はですね。私は昔、楯の会のメンバーだったのですよ。とはいってもいちばん下っ端でしたから、あの日、市ヶ谷には行きませんでしたけれどね。」

酔いは一気に冷めた。楯の会とはもちろん三島由紀夫が組織した隊員数100人ほどの私設軍隊のことである。


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昭和45年11月25日―三島由紀夫自決、日本が受けた衝撃: 中川右介」(Kindle版



はじめに
プロローグ 前日の予兆
第1章 静かなる勃発
第2章 真昼の衝撃
第3章 午後の波紋
第4章 続く余韻
エピローグ「説明競争」
あとがき

登場人物及び参考文献一覧
要求書/演説/檄

欧州望遠鏡でも重力波観測(発生場所、より正確に)#LIGO #Virgo

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【ワシントン共同】米国の重力波望遠鏡「LIGO(ライゴ)」と、欧州の重力波望遠鏡「VIRGO(バーゴ)」のチームは共同で、時空が揺れる重力波を検出したと27日、発表した。欧州の望遠鏡での重力波観測は初めて。重力波の検出は通算では4度目。

 米南部ルイジアナ州と西部ワシントン州にあるLIGOの2台の望遠鏡に加え、イタリア・ピサ近郊で今年稼働したVIRGOの望遠鏡が8月14日に重力波の信号を検出した。3台で観測することで、重力波の発生場所がより正確に分かるようになり、今回はLIGOの2台だけの場合に比べ、発生領域を10分の1ほどに絞り込めたという。


昨夜の発表は、重力波天文学が現実のものになりつつあること、そのためには国際協力が必要であることを、まざまざと感じさせた。ノーベル物理学賞の発表を来週火曜日に控え、すばらしいプレゼントである。記録として記事に残しておこう。

まずは、昨夜の発表をご覧いただきたい。

Update on Gravitational Wave Science from the LIGO-Virgo Scientific Collaborations


Gravitational waves from a binary black hole merger observed by LIGO and Virgo
https://www.ligo.caltech.edu/news/ligo20170927

論文はこちら:
https://tds.virgo-gw.eu/GW170814
https://journals.aps.org/prl/accepted/69074Y64W381ce5618c199a889597e6e32e431e9e


Advanced Virgo


今回の観測では、LIGOだけによる観測にVirgoの観測が加わったことで、発生領域が10分の1ほどに狭まったことがわかる。画像はクリックで拡大。




今回は4例目の重力波観測となるが、3回までのLIGOだけの観測では発生領域が絞り込まれていないことがわかる。帯状に広がっている領域のどこかが発生領域なのだ。




重力波の関連では我妻一博先生(@Agachuma)のツイートがとても詳しい。ぜひお読みになっていただきたい。昨夜の発表に対しては次のように投稿されている。

(1) 2017年8月14日にLIGO(2台)とVirgoが同時観測
(2) 雑音の偶然一致確率(FAR: BH合体モデル)は約2.7万年に1回
(3) SNRは全体で18(各々はL_H:7.3, L_L:13.7, V:4.4)
(4) 31太陽質量と25太陽質量のBHが合体して53太陽質量のBHが生成、差分の3太陽質量分が重力波に
(5) 合体イベントの距離は540Mpc(z=0.11):18億光年
(6) FAR(モデル無し)はLIGOだけで300年に一回、Virgoが加わり5700年に一回に改善
(7) Virgoで不明雑音(1分間に2回程度ある)が検出の50ms後をかすめたが幸い影響なし
(8) 重力波の飛来方向同定範囲はLIGOだけで1160 deg^2、Virgoが加わることで60 deg^2に大幅改善
(9) 重力波源までの距離決定精度もVirgoが加り改善
(10) 解析された重力波の偏波は、一般相対論から予想されるテンソルに一致(純粋なベクトルやスカラーである可能性は低い)


関連記事:

重力波の直接観測に成功!(2016年2月)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a8439e8e4d81d7873422737d7bd1640d

2回目の重力波観測の発表で公開されたスライド(2016年6月)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/088e0cb4e3661cdb4555015be7b6df22

中性子星の合体による重力波観測か?(LIGOとVirgo)(2017年8月)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/82784e11bf2c22d96e8ad27ad0b0393a


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素粒子標準模型入門: W.N.コッティンガム、D.A.グリーンウッド

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素粒子標準模型入門: W.N.コッティンガム、D.A.グリーンウッド」(シュプリンガー版

内容紹介:
本書は理工系の学部上級から大学院初年の学生を対象として、素粒子物理学における標準理論(最小の標準模型)の概要を本格的に解説した教科書である。読者の水準に充分に配慮しをして、過度に専門的な内容に深入りすることを避けながら、大局的に要点を抑えた的確な構成と記述によって、標準模型の理論構造を明快に提示してある。また模型の正当性を支持する主要な実験結果も、よく整理した形で紹介されている。素粒子論の基礎を習得しようと考える理工系学生のみならず、おそらくこの分野に関心を持つ関連分野の研究者・技術者にとっても有用な、正統的で完成度の高い、優れた素粒子論の入門書である。
2005年10月刊行、316ページ。

著者について:
Noel Cottingham and Derek Greenwood are theoreticians working in the H. H. Wills Physics Laboratory at the University of Bristol.

訳者について:
樺沢宇紀(かばさわ うき): 訳書: https://adx50150.wixsite.com/kabasawa-yakusho
1990年大阪大学大学院基礎工学研究科物理系専攻前期課程修了。(株)日立製作所中央研究所研究員。1996年(株)日立製作所電子デバイス製造システム推進本部技師。1999年(株)日立製作所計測器グループ技師。2001年(株)日立ハイテクノロジーズ技師。

樺沢先生の訳書: Amazonで検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で344冊目。

日ごろから、ツイッター上でやり取りをさせていただいている樺沢先生(@adx50150)が2005年に翻訳された素粒子物理学の入門書である。

物理学を学び始めて10年以上になる。量子力学までは2007年から2010年にかけて比較的スムーズに進み、2012年くらいまでに相対論的量子力学を何冊かの教科書で学ぶに至っていた。ところが場の量子論に入ってワインバーグ博士による大著に手を出したために、あえなく撃沈。

その後、坂井典佑先生や柏太郎先生の本で難しさを痛感して「ああ、僕には無理かも。」とトラウマになりそうになった。その後、最もやさしいとされるF. マンドル, G. ショーの教科書(これも樺沢先生の訳書)で救われた感がある。しかし、ちゃんと理解できたかと言われると自信がない。当時の記事を読むと「理解度は7~8割」と書いてある。

素粒子物理学系の教科書についても、これまで何冊も買って積読状態になっている。いつか読めるようになるのではという甘い期待でときどき本を開くが、とても読めそうにない。

そのような状況の中で本書を読み終えたことは、僕にとって次のステップへの突破口になったといえよう。なんと学部上級レベルから読める素粒子物理学、特に標準模型に焦点をしぼった入門書である。

通読したところ、場の量子論がおぼつかない僕でも8~9割くらい理解できた。「素粒子物理学ってそんなにたやすく学べるの?」と疑問を持つ方もいらっしゃるだろう。もちろん「学問に王道なし。」のはずである。

つまり僕のような初学者がギブアップしないで読み通せるような本になっているのには、次のような理由があるのだ。

- 事前に「強い力と弱い力:大栗博司」や「「標準模型」の宇宙:ブルース・シューム」を読み、教養書レベルで標準模型を理解していたこと。

- 事前に「場の量子論〈第1巻〉量子電磁力学:F.マンドル、G.ショー」と「場の量子論〈第2巻〉素粒子の相互作用:F.マンドル、G.ショー」で学び、理論として標準模型に含まれる項目と、どのような計算が行われるのかを知っていたこと。

- 高度なテクニックが要求される、経路積分や繰り込みなど具体的な計算の方法を本書では思い切って省略したこと。これによって、標準模型の全体像がつかみやすくなるような分量に抑えていること。

- まず、具体的に粒子の名前を示して衝突や崩壊などを例示し、そのうえで理論を解説、さらに実験結果を示して理論が正しいことの裏付けをとっている。量子電磁気学から量子色力学に至るそれぞれの章で、このスタイルが徹底されているから、安心して読むことができる。また、このスタイルによって物理現象と抽象的な数理を関連付けて理解することができる。つまり、記憶に残りやすい。

- より発展的で難解な理論に言及せず、初学者が理解可能な事柄だけを解説している。

- 読者が息切れしないように、各章を適度なページ数に抑えていること。

- 数式の導出過程はほとんど省略してあるが、文脈を理解するために必要なレベルでの数式はふんだんに記述している。数式の導出を身につけたい読者のためには、練習問題も設けている。

- 数式を参照するために他のページを見なければならないことがあるが、すぐ近くの数式を参照させたり、参照の回数を減らすなど、読者に思考の中断をなるべくさせないような配慮がされている。

本書は読みやすいのは、このような理由による。


全体の流れは、次のとおりだ。第1章ではまず本書の主役となる素粒子を紹介した後、実験で得られるエネルギー準位ダイヤグラムから、クォークが確かに存在することが示される。そして第2章から第4章まででローレンツ変換、ラグランジュ形式、古典電磁気学など基礎的な事項を解説する。次に原子から原子核へ、そして原子核内部へとまるで「Powers of Ten」の後半のようにスケールアップしながら、だんだんと小さな世界での物理現象と理論の解説が進んでいく。

第1章:素粒子物理の概観
第2章:Lorentz変換
第3章:Lagrange形式
第4章:古典電磁気学
第5章:Dirac方程式とDirac場
第6章:自由空間におけるDirac方程式の解
第7章:荷電粒子場の電磁力学
第8章:場の量子化:量子電磁力学
第9章:弱い相互作用:低エネルギー現象論
第10章:自発的な対称性の破れ
第11章:電弱ゲージ場
第12章:レプトンのWeinberg-Salam理論
第13章:Weinberg-Salam理論の検証
第14章:クォークの電弱相互作用
第15章:ウィークボゾンの強粒子崩壊
第16章:強い相互作用の理論:量子色力学
第17章:量子色力学の計算
第18章:小林-益川行列
第19章:量子異常
付録A:線形代数の復習
付録B:標準模型で扱う群
付録C:消滅演算子・生成演算子
付録D:部分子模型

本書については樺沢先生が「訳者あとがき」で、きわめて的確かつユーモラスに紹介文をお書きになっているので、僕としてはこの記事をとても書きにくい。樺沢先生がお書きになった、以下の紹介ページをお読みになるがよいと思う。

《樺沢の訳書》No.7『素粒子標準模型入門』
https://adx50150.wixsite.com/kabasawa-yakusho/07


以下、ざっくばらんに僕の理解度と感想を述べておこう。

「第2章:Lorentz変換」から「第8章:場の量子化:量子電磁力学」までは、きわめて順調に読み進めることができた。もともと理解していた内容だったからだ。場の量子化をすることでDiracの海を持ち出す必要がなくなることも理解できた。摂動論や繰り込み理論の解説は簡潔だが、計算手順は示さないまでも計算結果と実験結果の比較について解説しているので、理論の意義はじゅうぶん伝わるから、いつか自分で計算してみようという意欲が芽生えた。

「第9章:弱い相互作用:低エネルギー現象論」から「第13章:Weinberg-Salam理論の検証」までは、いわゆる弱い相互作用、電弱相互作用の理論である。本書ではニュートリノの質量はゼロとして扱われている。ヒッグス場の理論もこの中で解説される。「質量の獲得」は僕がいちばん萌えるところ。少し難しくなったが、まだまだ大丈夫。F.マンドル、G.ショーの場の量子論で学んだときよりも、知識がずっと明瞭になった。

「第14章:クォークの電弱相互作用」と「第15章:ウィークボゾンの強粒子崩壊」に至って、あれ?クォークが登場するのが早いことに気が付いた。あ、そうか。クォークには電荷も弱荷もあるから、電弱相互作用もするのだなと思い出して読み進めた。小林-益川行列の導入も第14章で行われる。(そして第18章でより具体的に解説される。)この2つの章は少し難しく感じた。

「第16章:強い相互作用の理論:量子色力学」から「第18章:小林-益川行列」は、本書の中ではいちばん難しい部分。特に第16章と第18章を慎重に読み進めた。大まかなところは理解できたが、じゅうぶん満足とは言えない。全体の理解度が8~9割となったのは、この部分の理解がおぼつかなかったからだ。特に格子QCDの箇所はちんぷんかんぷん。これは他書で学んだほうがよいのだろうと思った。

「第19章:量子異常」は特に興味深かった。標準模型にはいくつかの量子異常が残っている。紹介されるのは「カイラル量子異常」、「電弱カレントの量子異常」、「レプトン数と重粒子数の量子異常」である。これら量子異常の存在は標準模型が究極の理論ではないことを示している。(標準模型が重力理論を含んでいないという意味ではなく。)その先は、おそらくより深いレベルでの理解を必要とする理論の発見によって可能になるのだろう。標準模型をもってしてもたどり着けない自然の有り様の神秘を感じた。

あと数式上での問題としてあらわれているわけではないが、標準模型では解明されていない謎が残っている。素粒子がなぜ3世代あるか、世代の違いにより質量がなぜこれほど大きく異なるのかなどだ。また理論に含まれるパラメータの数が18個もあり、それぞれが独立なのか疑問である。そしてニュートリノに質量があることがわかったために、パラメータの数は25個にもなってしまった。これは理論が未完成なことを意味している。

付録のAからCは線形代数、群論、消滅演算子・生成演算子など基礎的な事がらなので、最初にお読みになるとよい。付録Dは「部分子(いわゆるパートン)」の解説。クォーク理論を受け入れなかったファインマンが作り上げた理論だ。しかし、この付録を読むと部分子とクォークの関係がよくわかるようになる。本編の章を読み終えてから、この付録をお読みになるとよい。


場の量子論は標準模型を学ぶ上で必要不可欠だが、場の量子論は標準模型のためだけのものではない。また、本書を読んだからといって、これまでに難儀しながら読んだり、挫折して途中で投げ出した場の量子論の教科書が易しくなるわけでもない。詳しく学んだ人のアドバイスやアマゾンのレビューを参考にして、いろいろな本でチャレンジしていくのがよいと思う。そして高度な技巧が必要な計算も、一度くらいは経験してみるのがよいのだろう。


しかし、本書は初学者に達成感、充実感をもたらしてくれる。それは次のステップへ進もうとする意欲を生み出してくれるのだから、とても意味のあることだ。お勧めな教科書である。このような良書を翻訳してくださった樺沢先生に感謝したい。

これまで買い置きしていた素粒子物理の教科書も、もしかしたら読めるようになるかもという気分になってきた。大きな勘違いかもしれないけれど、前進しようという度胸がついたのは確かである。


本書の訳のもとになった原書は青い表紙の初版でペーパーバックである。1998年に刊行された。いつもながら、樺沢先生の翻訳はとても正確で読みやすいが、原書が気になる方のために紹介しておく。

An Introduction to the Standard Model of Particle Physics: W.N.Cottingham, D.A.Greenwood



その後、第2版が2007年に刊行されている。Kindle版もでているので、お買い求めになるのならこちらがよいだろう。第2版では強い相互作用に関する説明の追加と、初版ではゼロとされていたニュートリノの質量が存在するという実験結果を受けて内容を改訂したそうだ。

An Introduction to the Standard Model of Particle Physics 2nd Ed: W.N.Cottingham, D.A.Greenwood」(Kindle Edition)




関連記事:

強い力と弱い力:大栗博司
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/06c3fdc3ed4e0908c75e3d7f20dd7177

「標準模型」の宇宙:ブルース・シューム
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/25297abb5d996b0c1e90b623a475d1aa

量子物理学の発見: レオン・レーダーマン、クリストファー・ヒル
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0be01aa80fe038ae361fdd259b3532f2

物質のすべては光: フランク・ウィルチェック
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d592b55383ccecae76959446c0292d7b

場の量子論〈第1巻〉量子電磁力学:F.マンドル、G.ショー
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/08726ab931904f76d9c26ff56d219e53

場の量子論〈第2巻〉素粒子の相互作用:F.マンドル、G.ショー
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/95d908cd752af642964cbff7ea7f0301

大著に挑む (ワインバーグの「場の量子論」)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/95ac4b64aa4eaf70608088006813cbf5


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素粒子標準模型入門: W.N.コッティンガム、D.A.グリーンウッド」(シュプリンガー版




本書の表記について

第1章:素粒子物理の概観
- はじめに
- 標準模型の構築
- レプトン
- クォークとクォーク系
- 軽いクォーク系のスペクトル
- その他のクォーク
- クォークの色
- 核子による電子の散乱
- 素粒子の加速器
- 単位系

第2章:Lorentz変換
- 回転・等速推進・固有Lorentz変換
- スカラーと反変・共変4元ベクトル
- 相対論的な場
- Levi-Civitaテンソル
- 時間反転と空間反転
- 練習問題

第3章:Lagrange形式
- Hamiltonの原理
- エネルギーの保存
- 連続系
- Lorentz共変な場の理論
- Klein-Gordon方程式
- エネルギー・運動量テンソル
- 複素スカラー場
- 練習問題

第4章:古典電磁気学
- Maxwell方程式
- 電磁場のラグランジアン密度
- ゲージ変換
- Maxwell方程式の解
- 空間反転
- 荷電共役変換
- 光子のスピン
- 電磁場のエネルギー密度
- 質量を持つベクトル場
- 練習問題

第5章:Dirac方程式とDirac場
- Dirac方程式
- Lorentz変換とLorentz不変性
- パリティ変換
- スピノル
- γ行列
- ラグランジアン密度の実数化
- 練習問題

第6章:自由空間におけるDirac方程式の解
- 静止をしているDirac粒子
- Dirac粒子のスピン
- 平面波とヘリシティ
- 負エネルギーの解
- Dirac場のエネルギーと運動量
- m=0の場合:ニュートリノ
- 練習問題

第7章:荷電粒子場の電磁力学
- 確率密度と確率の流れ
- 電磁場を伴うDirac方程式
- ゲージ変換と対称性
- 荷電共役変換
- ニュートリノと荷電共役変換
- 荷電スカラー場の電磁力学
- 低エネルギーの粒子とDiracの磁気能率
- 練習問題

第8章:場の量子化:量子電磁力学
- ボゾン場とフェルミオン場の量子化
- 時間依存
- 摂動論
- 繰り込みと繰り込み可能性
- 電子の磁気能率
- 標準模型の量子化
- 練習問題

第9章:弱い相互作用:低エネルギー現象論
- 原子核のβ崩壊
- π中間子の崩壊
- レプトン数の保存
- ミュー粒子の崩壊
- ミュー・ニュートリノと電子の相互作用
- 練習問題

第10章:自発的な対称性の破れ
- 大域的な対称性の破れとGoldstoneボゾン
- 局所的な対称性の破れとHiggsボゾン
- 練習問題

第11章:電弱ゲージ場
- SU(2)対称性
- ゲージ場
- SU(2)対称性の破れ
- 場の物理的な同定
- 練習問題

第12章:レプトンのWeinberg-Salam理論
- レプトン2重項とWeinberg-Salam理論
- レプトンのW^±への結合
- レプトンのZへの結合
- レプトン数の保存と電荷保存
- CP対称性
- Lの質量項の一般化
- 練習問題

第13章:Weinberg-Salam理論の検証
- ウィークボゾンの探索
- W^±ボゾンのレプトン化崩壊
- Zボゾンのレプトン化崩壊
- レプトンの世代数
- 部分幅の測定
- Zボゾン生成の左右非対称とレプトン化崩壊の前後非対称
- 練習問題

第14章:クォークの電弱相互作用
- ラグランジアン密度の構築
- クォークの質量と小林-益川混合行列
- KM行列のパラメーター表示
- CP対称性とKM行列
- 低エネルギー極限における弱い相互作用
- 練習問題

第15章:ウィークボゾンの強粒子崩壊
- Zボゾンの強粒子化崩壊
- クォーク生成の非対称性
- W^±ボゾンの強粒子化崩壊
- 練習問題

第16章:強い相互作用の理論:量子色力学
- 局所的SU(3)ゲージ理論
- 重粒子と中間子の色ゲージ変換
- 閉じ込めと漸近的自由性
- 短距離のクォーク-反クォーク相互作用
- クォーク数の保存
- アイソスピン対称性
- カイラル対称性
- 練習問題

第17章:量子色力学の計算
- 格子QCDと閉じ込め
- チャーモニウムとボトモニウム
- 摂動的QCDと深非弾性散乱
- 摂動的e^+ e^-衝突の物理

第18章:小林-益川行列
- 弱い相互作用によるクォークの半レプトン化崩壊
- Vcbと|Vub|
- Vudと原子核のβ崩壊
- 中性K中間子の崩壊におけるCP対称性の破れ
- B中間子の崩壊におけるCP対称性の破れ
- CPT定理
- 訳者補遺:KM行列の数値
- 練習問題

第19章:量子異常
- Adler-Bell-Jackiw量子異常
- 電弱カレントにおける量子以上の相殺
- レプトン数と重粒子数の量子異常
- ゲージ変換の位相数
- 物質の不安定性と物質の起源

付録A:線形代数の復習
- 定義と表記
- n x n行列の性質
- Hermite行列とユニタリー行列

付録B:標準模型で扱う群
- 群の定義
- 座標軸の回転とSO(3)
- SU(2)
- SL(2,C)と固有Lorentz群
- Pauli行列の変換
- スピノル
- SU(3)
- 練習問題

付録C:消滅演算子・生成演算子
- 調和振動子
- ボゾン系
- フェルミオン系
- 練習問題

付録D:部分子模型
- 核子を標的とした電子の弾性散乱
- 核子を標的とした電子の非弾性散乱
- 強粒子状態
- 練習問題

参考文献
練習問題のヒント
訳者あとがき

橋本幸士×板倉龍「Newton超ひもナイト」@ 下北沢

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月曜の夜は下北沢のB&Bという書店で開催された『橋本幸士×板倉龍「Newton超ひもナイト」』を聴講してきた。廉価版の「Newtonライト」の刊行記念のイベントである。




毎晩のウォーキングで通る下北沢だが、目的が違うといつもの景色も違って見える。面白いものだ。お話をされるのは大阪大学教授の橋本幸士先生(@hashimotostring)と株式会社ニュートンプレス編集部の板倉龍さん(@itakuraryu)のお二人。申し込み以来、とても楽しみにしていたイベントだ。ノーベル物理学賞の発表を翌日に控え、前夜祭のようである。

会場となった書店は2階にあり、中に入るのは初めてだ。なんだか倉庫のような場所で壁いっぱいに本棚が並んでいる。少し眺めてみると普通の書店とは趣きが違い、マニアックな本(サブカル系ではなく文化的でという意味)が多い。いつか時間をとってゆっくり眺めてみたいと思った。演壇の前には丸いパイプ椅子が所狭しに並んでいる。椅子席+立見席で50人くらい。前から2番目の端に席をとって待っていると、ふだんツイッターでやり取りさせていただいている科学ジャーナリストの山田さん(@kumiyamada)がいらっしゃったので、並んで橋本先生と板倉さんの話を聞くことにした。

席の前には大きなスクリーン、そして向かって左側に橋本先生、右側に板倉さんがそれぞれPCを前に着席される。2時間のトークの始まりである。次の4つのテーマで進められた。録音もしていないし、今回はメモもとっていないので、覚えている範囲で書かせていただく。

1)物理学者のお仕事とは?
2)超ひも理論とは?
3)高次元空間のはなし
4)今年のノーベル物理学賞のこと


1)物理学者のお仕事とは?

関西弁でなんともくだけた感じで橋本先生のお話が始まった。先生が着ている黒のTシャツに描かれていたのはこの数式。これまでの物理学で人類が解明できた素粒子に成り立つ物理法則をあらわした数式である。この理論全体を標準模型という。(標準模型は先日「素粒子標準模型入門: W.N.コッティンガム、D.A.グリーンウッド」という記事で紹介したばかりだ。NHKスペシャルの「神の数式」という番組で紹介されたから覚えていらっしゃる方も多いだろう。)



標準模型が表しているのはこれらの素粒子である。目でみえるように大きく書いてあるが、実際は「点」であり、色もない。



この後、先生は大きな黒板に数式を書いているご自身の姿を動画で見せてくださった。短パンで黒いTシャツ姿である。一般の人がイメージする物理学者(白衣を着て、実験をしているような姿)とは全く違う。たいていの理論物理学者はラフな格好で仕事をしているそうだ。

その後、先生が作詞された超ひも理論の歌を紹介された。同じ動画が見つからなかったので、こちらの動画を紹介しておく。歌詞はこの動画と同じだったと思う



あと、「超ひも理論をパパに習ってみた」を書いたときの娘さんの反応、高校時代に科学雑誌のNewtonに出会ったときの感想、ご結婚された奥様も先生と同じ別冊ニュートン(ニュートンムック)を持っていたという「赤い糸」ならぬ「Newtonのご縁」のお話をされた。

橋本先生お一人がしゃべりっぱなしということではない。板倉さんがその都度、話を投げて橋本先生が返事をかえすというスタイルで進んだ。これまで長年Newtonで原稿をお書きになっている板倉さんが、かなり初歩的な質問や反応をされるので、僕は「あれ?」と思ったが、わざと初心者のふりをしていのではないかという気がした。


2)超ひも理論とは?

橋本先生は会場の聴講者に質問をされた。「この中で理系の人はいらっしゃいますか?」すると数人が手を上げた。「じゃ、文系の人は?」こちらも数人である。つまり「この世界はいったい何でできているか?」という問いを発するとき、「この世界」という言葉で文系の人がイメージするのは、たとえば「渋谷のスクランブル交差点を行き交う人々の光景」なのだが、理系の人は「太陽の周りをまわる惑星」をイメージしてしまう。それほど文系と理系の発想が違うということ。そしてこれから始める「超ひも理論講座」は、大阪大学の事務方の職員に対して先生が行ったものをベースにしているという前置きをされた。以下、箇条書きで流れを紹介しておく。

- アインシュタインの重力理論と量子力学はともに正しいが、数学的に矛盾していること
- その矛盾を解決するために南部先生が発案したのが「ひも理論(弦理論)」であること
- では「ひも理論」は4次元時空(3次元空間)ではなく25次元空間、「超ひも理論」は9次元空間になってしまうこと
- 標準理論では光子はなくても成り立つが、超ひも理論では光子は自然に導かれること
- 超ひも理論では重力も導かれること
- マルダセナ博士の話
- 「光=重力?」というマルダセナ博士が提唱した内容。異次元の重力子が他の次元では光子に見えるというアイデアをファインマン図を使って説明(ホログラフィー原理)

特に「光=重力?」の説明は興味深かった。これについては、今後のNewtonでぜひ取り上げてもらいたいと、橋本先生から板倉さんに要望された。


3)高次元空間のはなし

このセクションも面白かった。なんと「高次元視覚化プロジェクト」が進んでいるという。これまでにCGで作られた動画をひとつずつ見せてもらえた。

私たちは3次元の物体を見ることができるが、4次元以上の物体だとその「断面」しか見ることができない。高次元のものを私たちが認識するためには「射影」と「切断」という2つの方法をとる。今回見せていただいたのは「切断」によって描かれるCGだ。例として次のような物体を見せてもらった。動画でも見れるし、静止画マウスでぐりぐりと動かし、違う視点から見ることも可能。

3次元空間に浮かぶ2次元トーラスを2次元の平面で切断してみた図。切断する方向によって見え方が違う。
4次元空間に浮かぶ3次元トーラスを3次元の空間で切断してみた図。切断する方向は3種類以上ある。
5次元空間に浮かぶ4次元トーラスを3次元の空間で切断してみた図。
6次元空間に浮かぶ5次元トーラスを3次元の空間で切断してみた図。
7次元空間に浮かぶ6次元トーラスを3次元の空間で切断してみた図。

私たちがよく知っているのは2次元トーラス、つまりドーナツ型の表面(曲面)だ。私たちにとってその穴は1つである。ところが4次元以上のトーラスでの「穴」とは私たちが知っている「穴」とは違う概念になるそうだ。言葉では理解できるが、さっぱりイメージできない。

ともかく、見せていただいたCGはおそらく世界初のものである。貴重な経験をさせていただいた。


4)今年のノーベル物理学賞のこと

時間が押していたので、このセクションは短かった。橋本先生も今年のノーベル物理学賞は「重力波」だとおっしゃっていた。では誰が?ということだがキップ・ソーン(Kip S. Thorne)博士/レイナー・ワイス(Rainer Weiss)博士の2名になるだろうとのこと。お二人については、このページで紹介されている。

2017年「物理学賞」は誰の手に? 日本科学未来館がノーベル賞予想
https://thepage.jp/detail/20170930-00000001-wordleaf

重力波の検出は昨年2月に発表されたわけだが、長年Newtonで重力波についての記事をお書きになったり目にしていた板倉さんも、橋本先生も、10年前にはこれほど早いタイミングで検出されるとは思っていなかったという。

板倉さんが「橋本先生はノーベル物理学賞を受賞したいと思っていらっしゃいますか?」とドキリとする質問を投げかけた。これに対し橋本先生は次のようにおっしゃった。

(実験で検証可能な)素粒子物理の世界は、いわば「修羅の世界」です。理論物理学者たちが毎年、数千もの「模型(=仮説)」を提案していて、ある実験で何かの事実が検証されると、正しい理論以外は、あっという間にすべて捨て去られる恐ろしい世界なのです。僕は(まだ実験で検証されていない)夢のある超ひも理論で研究を続けたいと思うわけです。

その後、超ひも理論も間接的な形で実験による検証が行われる可能性があることについても言及されていた。


質問コーナーが最後に設けられたので「ひも理論では25次元、超ひも理論では9次元とおっしゃっていたが、実際の物理空間としてはどちらなのか?」という質問をさせていただいた。橋本先生からわかりやすく説明いただいたので、うれしかった。


橋本先生、板倉さん、楽しく刺激的な時間をありがとうございました!

なお、11月23日(木曜日、祝日)には『Newton超ひもナイト in大阪』が開催されるそうだ。

『Newton超ひもナイト in大阪』
http://eplus.jp/sys/T1U14P002240150P0050001


5)関連書籍

今夜のイベントに関連する本を紹介して、この記事をしめくくろう。

まず、橋本幸士先生の本。僕がこれまでに紹介記事を書いたのは2冊。

超ひも理論をパパに習ってみた」(Kindle版)(紹介記事
マンガ 超ひも理論をパパに習ってみた

 

Dブレーン―超弦理論の高次元物体が描く世界像」(紹介記事




そして、株式会社ニュートンプレスの本

Newton 別冊 Newtonライト『超ひも理論』 (ニュートン別冊)
Newton(ニュートン) 2017年 11 月号

 


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2017年 ノーベル物理学賞はワイス博士、バリッシュ博士、ソーン博士に決定!

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スウェーデン王立科学アカデミーは3日、2017年のノーベル物理学賞を、時空のさざ波「重力波」の初観測に貢献した米国の研究者3氏に贈ると発表した。

重力波は、物理学者アインシュタインが約100年前に存在を予言したもので、米国チームが初観測したと昨年2月に発表した。2年足らずで決まる異例のスピード授賞となった。

授賞が決まったのは、マサチューセッツ工科大のレイナー・ワイス(85)、カリフォルニア工科大のバリー・バリッシュ(81)、キップ・ソーン(77)の3名誉教授。授賞理由は、「LIGO検出器と重力波観測への決定的な貢献」。

The Nobel Prize in Physics 2017
https://www.nobelprize.org/nobel_prizes/physics/laureates/2017/

重力波、世紀の発見をもたらした壮大な物語(ナショナルジオグラフィック)
ノーベル賞級発見の手法と意義、天文学の新たな広がりを詳しく解説
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/021200053/


今年は予想どおりとはいえ、物理学賞のライブキャストで発表を待つ時間は毎年ドキドキする。重力波検出での授賞が決まったときは、ほっと胸をなでおろした。もう一度見てみよう。




昨年2月に行われた驚きの発表から1年半以上たっている。その間、4度も観測されて4度目の重力波はイタリア郊外のAdvanced Virgoでも同時観測された。

重力波は一般の人にもわかりやすいのがよい。科学への興味を引き出すのにちょうどよい。ネット上には、わかりやすい解説ページがじゅうぶん過ぎるほどあるから、僕がここで説明する必要はない。

これまでに投稿した記事、本の紹介記事を載せておくことにしよう。


関連解説記事:

重力波の直接観測に成功!(とね日記では、この記事がいちばん詳しい。)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a8439e8e4d81d7873422737d7bd1640d

アインシュタイン選集(2): [A8] 重力波について(1918年)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7f70d0291e823674435342acba782017

欧州望遠鏡でも重力波観測(発生場所、より正確に)#LIGO #Virgo
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/dbc609477e38672166890301aeca5bdb

日本物理学会2016年度公開講座 「一般相対性理論と宇宙 -重力波研究の最前線-」
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d39ec747fb47e0c8418e7e167e2f60c4

サイエンスZERO 世紀の観測!重力波?~アインシュタイン最後の宿題~
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/45923abf57b1200837afb79bb35127e3


関連書籍の紹介記事:

ブラックホール・膨張宇宙・重力波 一般相対性理論の100年と展開:真貝寿明
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/88bf1600687ece47464c862fefe53103

重力波は歌う:アインシュタイン最後の宿題に挑んだ科学者たち:ジャンナ ・レヴィン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1cb9b432d55f420797c4f00d02246b6e

発売情報:一般相対性理論を一歩一歩数式で理解する: 石井俊全
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1699a1c22477c269c68c02091d0ca049


その他の書籍はAmazonで検索してみよう。: 重力波で検索


最後になりましたが、ワイス博士、バリッシュ博士、ソーン博士、受賞おめでとうございます!


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映画『インターステラー(2014)』

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今週の火曜日に発表されたノーベル物理学賞の受賞者のおひとり、キップ・ソーン博士が、科学者の視点から指揮をして制作されたSF映画『インターステラー』をAmazonビデオで見たので、感想を書いておこう。

2017年 ノーベル物理学賞はワイス博士、バリッシュ博士、ソーン博士に決定!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4f6e5823d5cf2358aff0aee5f855e9cf


ある程度ネタバレしないと書けないので、まだ見ていない人には申し訳ないが、ご容赦いただきたい。ネタバレを気にしない人、すでに見た方でもストーリーを思い出したい方は、このページであらすじを読むことができる。

「インターステラー」あらすじ・ネタバレ
http://1wordworld.blog26.fc2.com/blog-entry-685.html

登場人物:

クーパー(マシュー・マコノヒー):元NASAのテストパイロット。
トム(ケイシー・アフレック):クーパーの息子。
マーフ(ジェシカ・チャステイン):クーパーの娘。
ブランド教授(マイケル・ケイン):NASAの軍事施設で働き、クーパーに人類の移住先を探す計画への参加を依頼。
アメリア・ブランド(アン・ハサウェイ):クーパーとともに宇宙へ旅立つ船員。ブランド教授の娘。

映画のタイムライン



宇宙モノのSF映画、特にアメリカ映画は(スターウォーズを除けば)それほど好きではないので、ソーン博士が関わっていなかったら、きっと見ることはなかったと思う。人類滅亡の危機や解決が約束されたストーリー仕立ては、安っぽく思えてしまうからだ。「アルマゲドン(1998)」もそうだし、「ゼログラビティ(2013)」も同じこと。息をのむような映像以外に僕は楽しみを見いだせない。反面、こんなことは現実には絶対おきるはずはないので安心して見ていられるのも事実。

そのようなわけで、この映画にもそれほど期待していなかった。映像とソーン博士が関わった科学的な部分を楽しめれば十分だと思って見始めたのである。あと、映画マニアの友達が「この作品はとてもいいよ。」と教えてくれたのが後押しをしてくれた。


ところがである。この3時間の大作を見終えると、言いようもない暖かさと切なさに包まれた。SF作品でありながら、ヒューマンドラマとしてじわじわ引き込まれ、感情移入してしまう。

つまり、この作品の良さは「リアリティ」なのだ。物語の舞台は近未来の地球である。そこは環境破壊によって大規模な食糧難にみまわれ、地球はもはや人類が生存できない星になりつつあった。

しかし、近未来として映されるのはノスタルジックなアメリカの田舎の風景、古ぼけた家、そして現在私たちが使っているのと同じ家具や調度類。そして登場人物たちが乗っているのは現代と同じタイプのガソリン車なのだ。私たちがイメージする近未来とはかけ離れている。

だからそこは発展を止めてしまった世界なのだとわかるのである。環境破壊は私たちが日ごろ耳にしているから、もしかすると本当にそうなってしまうのかなぁと思わざるを得ないのだ。この寂しい未来の風景が映画を見る者にリアリティを突きつけ、その後の展開を自然な延長にしてしまう。


人類滅亡の危機を解決するため、他の惑星への移住計画のための調査が開始される。ロケットに乗って、他の銀河系というとてつもない彼方への旅が行われるのだ。そのために設定されたのがワームホールである。土星の近くにあらわれたワームホールを近道として使い、現実的にはあり得ない旅が行われる。

しかし、惑星探査は現実のものになっており、スペースXという民間企業が火星への移住計画を先月発表したばかりだ。SFはリアリティとなって、現実のものになりつつある。

米スペースX、壮大な火星移住計画を発表
2020年代に有人飛行、2060年代には100万人移住も
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/c/092900011/


ワームホールは宇宙空間にあいた巨大な通り道、近道であり、物理学上の仮説としてよく知られた存在だ。空間に「曲がる」という性質があるから成り立つ仮説である。(もちろん、現実にはまだ存在は確認されていない。)




そしてこの作品の科学的部分を理解する鍵になるのが、一般相対性理論(重力理論)である。1916年にアインシュタイン博士が発表した、次の方程式であらわされる理論だ。ソーン博士のご専門も一般相対性理論とブラックホールである。(ノーベル物理学賞の理由も、この理論が予言する重力波だ。)



物質が存在すると、その質量によって周囲の空間は縮む。空間が縮むと私たちはそれは重力として感じることになる。さらに空間が縮んだぶんはどこへ消えてしまったかというと、時間に移行してしまうのだ。つまり重力の強い場所では時間の進み方が遅くなるのである。

この方程式が意味するのは物質が空間と時間に与えるこのような現象である。ただし、その場所にいる人間には空間の縮みと時間の遅れは感じ取ることができない。


不運なことに、ワームホールの出口の近くには巨大ブラックホールがあった。ブラックホールの惑星系は大きな重力を受けている。到着した宇宙飛行士たちの時間は地球に残された人類より、はるかに遅く時間が進むのだ。

地球に残した子供たちが先に成長し、宇宙飛行士の父親に送ったビデオメッセージで、大人になった我が子を見て父親が涙するシーンが成り立つのはこのためである。そのまま地球に帰還すると浦島太郎のように娘のほうがお婆さんになっていることになる。実際、この現象は物理学で「ウラシマ効果」と呼ばれている。



相対性理論も含め、あらゆる物理法則は時間をさかのぼることを禁じている。娘や息子がいったん成長してしまったら、父親は地球に戻ったとしても、再び幼い我が子に会うことは不可能なのだ。過去へのタイムトラベルが不可能なことは、本作品でも守られている。しかし、切ないことには違いない。


惑星系に到着した後、ある事実がわかるのだが、これはネタバレになるので書かないでおくことにしよう。しかし、その事実により宇宙飛行士のパイロットは、地球に帰還しようと決意することになる。

そして帰還するためにブラックホールへ突入する。そこはなんと5次元の世界。意識を取り戻した宇宙飛行士は、多層に広がる本棚が周囲を囲んでいることに気が付く。それも地球にある自宅の本棚だ。(そのあたりが、少しわざとらしいと感じたが。)

本棚の隙間に見えたのが、地球に残した娘の姿である。時間が戻ったのだろうか?それとも幻想なのだろうか?しかし、娘は娘で誰かが本棚の向こう側にいることを感じている。タイムトラベルは禁止されているはずなのに、これはいったいどうなっているのだろうか?

つまり、宇宙飛行士はそもそも出発すべきではなかった。彼はそれを娘に伝えようと必死に考える。5次元空間に含まれる3次元空間にメッセージをどうやって伝えればよいのか?そのために使うのが「重力」なのである。重力を使って本棚の本をモールス信号のパターンで落としたり、時計の秒針をモールス信号のパターンで振動させるのだ。

ここで4次元空間ではなく5次元空間を設定したのがミソである。3次元空間は時間の次元を考えれば4次元となる。つまり、金太郎飴のように時間の経過とあわせて4次元は幾何学的な物体のようなものになる。

金太郎飴の場合、世界は顔がある切断面の2次元だ。そして飴が伸びている方向が時間の次元。これをひとつ次元が高い3次元から見ればどの時間の断面も切断すれば見ることができる。父親が子供時代の娘や成長した娘を5次元空間から同じタイミングで見れるのは、そのようなわけである。



さて、宇宙に出発しようとしている日の娘に対して、父親は重力を使ってメッセージを送ることができるだろうか?


現在の物理学では、重力が他の力(電磁気力や強い力、弱い力)に比べてとてつもなく小さい理由は、重力が高次元空間に漏れているからかもしれないと考えられている。スイスにあるCERNの素粒子加速器、LHCでもその現象を突き止めようと実験が行われている。これも作品に盛り込まれた「リアリティ」だ。

発売中の科学雑誌『Newton(ニュートン) 11月号』では「高次元を見つけ出せ」で、この現象や検出のための実験のことが解説されている。

Newton(ニュートン) 2017年 11 月号



このように重力がもつ、いくつもの物理現象を映画のストーリーに活かして、この作品の多面的な魅力を引き立たせている。「ゼログラビティ」をはるかに凌駕する「フルグラビティ」だ。


この作品に描かれている映像で、特に見逃してはならないのがCGで描いたブラックホールである。




ブラックホールに光が落ち込んでゆく際の重力レンズ効果やホール周辺を塵やガスなどが光速で飛行することで形成される「降着円盤(accretion disk)」の形状を一般相対性理論に基づいて計算した結果、これまでとは異なるブラックホールの形が求められ、作品に盛り込まれた。そしてさらにこの結果は、科学論文として公開されたのである。

映画『インターステラー』から生まれた最初の科学論文
https://wired.jp/2015/03/01/interstellar-real/

これまで考えられていたブラックホールのイメージはこのようなものだ。




さて結末は。。。さすがにこれは書かないでおこう。ぜひご自身でご覧いただきたい。雰囲気だけでもという方は、予告編をどうぞ。













ビデオはこちらからお買い求めください。

インターステラー(DVD, Blu-ray)」(Amazonビデオ




関連書籍:

映画のノベライズ本はこちら。

インターステラー (竹書房文庫)
Interstellar: The Official Movie Novelization」(Kindle版

 

「ムービースクリプト&ストーリーボード」の本はこちら。

Interstellar: The Complete Screenplay With Selected Storyboards」(Kindle版



キップ・ソーン博士が書いた「インターステラーに使われた科学理論」を解説した本も刊行されている。

The Science of Interstellar: Kip Thorne, Christopher Nolan」(Kindle版




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An Introduction to the Standard Model of Particle Physics 2nd Edition: W.N.Cottingham, D.A.Greenwood

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An Introduction to the Standard Model of Particle Physics 2nd Edition: W.N.Cottingham, D.A.Greenwood」(Kindle Edition)

内容紹介:
The second edition of this introductory graduate textbook provides a concise but accessible introduction to the Standard Model. It has been updated to account for the successes of the theory of strong interactions, and the observations on matter-antimatter asymmetry. It has become clear that neutrinos are not mass-less, and this book gives a coherent presentation of the phenomena and the theory that describes them. It includes an account of progress in the theory of strong interactions and of advances in neutrino physics. The book clearly develops the theoretical concepts from the electromagnetic and weak interactions of leptons and quarks to the strong interactions of quarks. Each chapter ends with problems, and hints to selected problems are provided at the end of the book. The mathematical treatments are suitable for graduates in physics, and more sophisticated mathematical ideas are developed in the text and appendices.
2007年2月刊行、294ページ。(初版は1998年11月刊行、256ページ)

著者について:
Noel Cottingham and Derek Greenwood are theoreticians working in the H. H. Wills Physics Laboratory at the University of Bristol.


理数系書籍のレビュー記事は本書で345冊目。

先日紹介した「素粒子標準模型入門: W.N.コッティンガム、D.A.グリーンウッド」は原書初版の日本語訳である。原書は改訂され、2007年に第2版がでていることを読んでいる最中に知った。

この教科書はとても気に入っていたし、改訂内容も気になったのでKindle版で原書第2版を購入して読んでみた。初版の日本語版は樺沢先生が訳出されたが、訳文が気に入らなかったわけではない。原書と対比しながら読み進めていくと、樺沢先生はとても精確かつ緻密に翻訳され、訳文も自然な日本語かつ表現を工夫されていることがわかる。

僕が原書を読んだのは次のような理由だ。

- 本書をとても気に入ったこと。
- 日本語版で得た知識を記憶にしっかりと定着させたかったこと。
- 改訂箇所が気になっていたこと。
- 英語での読書力アップに役立たせたかったこと。

英語での読書は日本語にくらべて時間がかかる。そのぶんじっくり取り組むことになり、日本語版での読書で見落としていたことに気づいたり、勘違いを正すことができる。しかし、読み進むうちに慣れてきてペースが上がってきた。物理学書は小説に比べてはるかに読みやすいのだ。


第2版の章立ては次のとおり。初版から追加された章を青字にしておく。

1. The particle physicist's view of nature
2. Lorentz transformations
3. The Lagrangian formulation of mechanics
4. Classical electromagnetism
5. The Dirac equation and the Dirac field
6. Free space solutions of the Dirac equation
7. Electrodynamics
8. Quantising fields: QED
9. The weak interaction: low energy phenomenology
10. Symmetry breaking in model theories
11. Massive gauge fields
12. The Weinberg-Salam electroweak theory for leptons
13. Experimental tests of the Weinberg-Salam theory
14. The electromagnetic and weak interactions of quarks
15. The hadronic decays of the Z and W bosons
16. The theory of strong interactions: quantum chromodynamics
17. Quantum chromodynamics: calculations
18. The Kobayashi-Maskawa matrix
19. Neutrino masses and mixing
20. Neutrino masses and mixing: experimental results
21. Majorana neutrinos
22. Anomalies
Epilogue
Appendix A. An aide-memoire on matrices
Appendix B. The groups of the Standard Model
Appendix C. Annihilation and creation operators
Appendix D. The parton model
Appendix E. Mass matrices and mixing


原書の初版は256ページで、第2版は294ページなので38ページ増えた。判型が同じだから全体で約15パーセント増である。初版のときからある章は第6章を除いて、ほとんど内容に変更は加えられていない。だから日本語版を読んでから第2版の青字の部分だけをお読みになるのがよい。なお、第2版が刊行されて以降にヒッグス粒子が検出されたので、ヒッグス粒子やヒッグス場に関わる記述は初版の内容と同じである。

改訂箇所を詳しく述べておこう。


第6章は最後の2つの節だけ変更されている。マヨラナ場の解説が増えた。

6. Free space solutions of the Dirac equation
- A Dirac particle at rest
- The intrinsic spin of a Dirac particle
- Plane waves and helicity
- Negative energy solutions
- The energy and momentum of the Dirac field
- Dirac and Majorana fields
- The E >> m limit, neutrinos


第19章から第21章は追加された内容だ。第19章でニュートリノの質量、ニュートリノ振動、標準模型との関係、レプトン数の保存などが解説される。第20章ではスーパーカミオカンデを始め、世界各地の実験施設で行われたニュートリノの観測結果が紹介される。第21章でマヨラナ粒子の理論が詳しく解説される。

19. Neutrino masses and mixing
- Neutrino masses
- The weak currents
- Neutrino oscillations
- The MSW effect
- Newtrino masses and the Standard Model
- Parameterisation of U
- Lepton number conservation
- Sterile neutrinos

20. Neutrino masses and mixing: experimental results
- Introduction
- K2K
- Chooz
- KamLAND
- Atmospheric neutrinos
- Solar neutrinos
- Solar MSW effects
- Future prospects

21. Majorana neutrinos
- Majorana neutrino fields
- Majorana Lagrangian density
- Majorana field equations
- Majorana neutrinos: mixing and oscillations
- Parameterisation of U
- Majorana neutrinos in the Standard Model
- The seesaw mechanism
- Are neutrinos Dirac or Majorana?


付録Eもあらたに追加された章だ。

Appendix E. Mass matrices and mixing
- K^0 and anti-K^0
- B^0 and anti-B^0


初版の日本語版はこちらからお買い求めいただきたい。(紹介記事

素粒子標準模型入門: W.N.コッティンガム、D.A.グリーンウッド」(シュプリンガー版




関連記事:

素粒子標準模型入門: W.N.コッティンガム、D.A.グリーンウッド
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/522960c6eb852df961348fee76463852

強い力と弱い力:大栗博司
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/06c3fdc3ed4e0908c75e3d7f20dd7177

「標準模型」の宇宙:ブルース・シューム
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/25297abb5d996b0c1e90b623a475d1aa

量子物理学の発見: レオン・レーダーマン、クリストファー・ヒル
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0be01aa80fe038ae361fdd259b3532f2

物質のすべては光: フランク・ウィルチェック
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d592b55383ccecae76959446c0292d7b

場の量子論〈第1巻〉量子電磁力学:F.マンドル、G.ショー
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/08726ab931904f76d9c26ff56d219e53

場の量子論〈第2巻〉素粒子の相互作用:F.マンドル、G.ショー
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大著に挑む (ワインバーグの「場の量子論」)
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An Introduction to the Standard Model of Particle Physics 2nd Edition: W.N.Cottingham, D.A.Greenwood」(Kindle Edition)



青字は初版と比較して変更、追加があった箇所

Preface to the second edition
Preface to the first edition
Notation

1. The particle physicist's view of nature
- Introduction
- The construction of Standard Model
- Leptons
- Quarks and systems of quarks
- More quarks
- Quark colour
- Electron scattering from nucleons
- Particle Accelerators
- Units

2. Lorentz transformations
- Rotations, boosts and proper Lorentz transformations
- Scalars, contravariant and covariant four-vectors
- Fields
- The Levi-Civita tensor
- Time reversal and space inversion

3. The Lagrangian formulation of mechanics
- Hamilton's principle
- Conservation of energy
- Continuous systems
- A Lorentz covariant field theory
- The Klein-Gordon equation
- The energy-momentum tensor
- Complex scalar fields

4. Classical electromagnetism
- Maxwell's equations
- A Lagrangian density for electromagnetism
- Gauge transformations
- Solutions of Maxwell's equations
- Space inversion
- Charge conjugation
- Intrinsic angular momentum of the photon
- The energy density of the electromagnetic field
- Massive vector fields

5. The Dirac equation and the Dirac field
- The Dirac equation
- Lorentz transformations and Lorentz invariance
- The parity transformation
- Spinors
- The matrices γ μ
- Making the Lagrangian density real

6. Free space solutions of the Dirac equation
- A Dirac particle at rest
- The intrinsic spin of a Dirac particle
- Plane waves and helicity
- Negative energy solutions
- The energy and momentum of the Dirac field
- Dirac and Majorana fields
- The E >> m limit, neutrinos

7. Electrodynamics
- Probability density and probability current
- The Dirac equation with an electromagnetic field
- Gauge transformations and symmetry
- Charge conjugation
- The electrodynamics of a charged scalar field
- Particles at low energies and the Dirac magnetic moment

8. Quantising fields: QED
- Boson and fermion field quantization
- Time dependence
- Pertubation theory
- Renormalization and renormalisable field theories
- The magnetic moment of the electron
- Quantisation in the standard model

9. The weak interaction: low energy phenomenology
- Nuclear beta decay
- Pion decay
- Conservation of leption number
- Muon decay
- The interactions of muon neutrinos with electrons

10. Symmetry breaking in model theories
- Global symmetry breaking and goldstone bosons
- Local symmetry breaking and the Higgs boson

11. Massive gauge fields
- SU(2) symmetry
- The gauge fields
- Breaking the SU(2) symmetry
- Identification of the fields

12. The Weinberg-Salam electroweak theory for leptons
- Lepton doublets and the Weinberg-Salam theory
- Lepton coupling to the W^±
- Leption coupling to the Z
- Conservatio of leption number and conservation of charge
- CP symmetry
- Mass terms in L: an attemped generalization

13. Experimental tests of the Weinberg-Salam theory
- The search for the gauge bosons
- The W^± bosons
- The Z boson
- The number of leption families
- The measurement of partial widths
- Left-right production cross-section asymmetry and lepton decay asymmetry of the Z boson

14. The electromagnetic and weak interactions of quarks
- Construction of the Lagrangian density
- Quark masses and the Kobayashi-Maskawa mixing matrix
- The parameterisation of the KM matrix
- CP symmetry and the KM matrix
- The weak interaction in the low energy limit

15. The hadronic decays of the Z and W bosons
- Hadronic decays of the Z
- Asymmetry in quark production
- Hadronic decays of the W^±

16. The theory of strong interactions: quantum chromodynamics
- A local SU(3) gauge theory
- Colour gauge transformations on baryons and mesons
- Lattice QCD and asymptotic freedom
- The quark-antiquark interaction at short distances
- The conservation of quarks
- Isospin symmetry
- Chiral symmetry

17. Quantum chromodynamics: calculations
- Lattice QCD and confinement
- Lattice QCD and hadrons
- Pertubative QCD and deep inelastic scattering
- Pertubative QCD and e^+e^- collider physics

18. The Kobayashi-Maskawa matrix
- Leptonic weak decays of hadrons
- |Vud| and nuclear β decay
- More leptonic decays
- CP symmetry violation in neutral kaon decays
- B meson decays and B^0, anti-B^0 mixing
- The CPT theorem

19. Neutrino masses and mixing
- Neutrino masses
- The weak currents
- Neutrino oscillations
- The MSW effect
- Newtrino masses and the Standard Model
- Parameterisation of U
- Lepton number conservation
- Sterile neutrinos

20. Neutrino masses and mixing: experimental results
- Introduction
- K2K
- Chooz
- KamLAND
- Atmospheric neutrinos
- Solar neutrinos
- Solar MSW effects
- Future prospects

21. Majorana neutrinos
- Majorana neutrino fields
- Majorana Lagrangian density
- Majorana field equations
- Majorana neutrinos: mixing and oscillations
- Parameterisation of U
- Majorana neutrinos in the Standard Model
- The seesaw mechanism
- Are neutrinos Dirac or Majorana?

22. Anomalies
- The Adler-Bell-Jackiw anomaly
- Cancellation of anomalies in eletctoweak currents
- Lepton and baryon anomalies
- Gauge transformations and the topological number
- The instability of matter, and matter genesis

Epilogue

Appendix A. An aide-memoire on matrices
- Definitions and notation
- Properties of n x n matrices
- Hermitian and unitary matrices
- Fierz transformation

Appendix B. The groups of the Standard Model
- Definition of a group
- Rotations of the coordinate axes, and the group SO(3)
- The group SU(2)
- The group SL(2,C) and the proper lorentz group
- Transformations of the Pauli matrices
- Spinors
- The group SU(3)

Appendix C. Annihilation and creation operators
- The simple harmonic oscillator
- An assembly of bosons
- An assembly of fermions

Appendix D. The parton model
- Elastic electron scattering from nucleons
- Inelastic electron scattering from nucleons: the parton model
- Hadronic states

Appendix E. Mass matrices and mixing
- K^0 and anti-K^0
- B^0 and anti-B^0

References
Hints to selected problems
Index.

フィネガンズ・ウェイク: ジェイムズ・ジョイス、柳瀬尚紀 訳

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フィネガンズ・ウェイク: ジェイムズ・ジョイス、柳瀬尚紀 訳

内容紹介:
数千年の人類の全歴史を酒場の家族の一夜の夢に圧縮した抱腹絶倒、複雑怪奇な傑作の幕開き。今世紀最大の文学的事件、現代文学の偉大なる祖、ヴェールにつつまれた幻の大傑作、ジョイスの死後50年を経て、ついに日本語に!!(ウィキペディアの記事

単行本:1991年、1993年に刊行、2冊あわせて687ページ。
文庫本:2003年から2004年にかけて刊行、3分冊、各403,410,480ページ。

著者略歴:
ジェイムズ・ジョイス:ウィキペディアの記事
1882.2.2‐1941.1.13。アイルランドのダブリン郊外で出生。20世紀を代表する作家であると同時に世界文学史上の巨星。幼児からカトリック系の教育を受け、ユニヴァーシティ・コレッジ・ダブリンを卒業。1904年秋、ノーラ・バーナクルを伴って、ヨーロッパへ。以後、貧困のうちにトリエステ、パリなど各地を漂泊し、チューリヒに死す。

訳者略歴:
柳瀬尚紀(やなせなおき): 著書、訳書検索
1943年根室市生まれ。早稲田大学大学院修了。英米文学翻訳家。2016年7月30日没。


小説のなかには翻訳者泣かせのものがいくつかある。まず思いつくのは「アルジャーノンに花束を:ダニエル・キイス」(原書)だ。精神的に発達が遅れた主人公が書く「けえかほおこく」という幼児が書くような間違いだらけの文章から始まり、新薬の投与によって精神年齢が高まり天才になっていく過程で書かれる「経過報告」を、原書に合わせて段階的に訳出していく難しさがある。この本を読んだとき、内容だけでなく傑出した翻訳力に驚かされた。

次に思いつくのはルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」(原書)と「鏡の国のアリス」(原書)だ。原書には言葉に二重の意味が込められていたり、詩や言葉遊びが挿入されているからだ。意味がわからない数遊びがあるかと思えば、それは数学パズルだったりする。「謎解き「アリス物語」 不思議の国と鏡の国へ」(Kindle版)のような本をたよりにすれば、理数系の大人でも楽しめる本なのだ。この作品も訳すのにはよほどの工夫と技量が求められる。

しかし、ここまでは英語を母国語とする大人が読めば、原書をちゃんと理解できる作品である。(ルイス・キャロルの数学パズルが解けるかどうかは別として。)

ところが、今日紹介する20世紀を代表する作家、ジェイムズ・ジョイスの遺作となった「フィネガンズ・ウェイク」は、英語圏の読者でも理解不能な超難解小説である。死後50年を経て、単独で日本語訳を完成させたのが、昨年7月にお亡くなりになった天才翻訳家の柳瀬尚紀氏だ。1991年と1993年に単行本が刊行されたときは、出版界、翻訳者の間で大きな話題になった。

理数系の人にとって、柳瀬尚紀氏は「ゲーデル、エッシャー、バッハ―あるいは不思議の環」の翻訳者のおひとりとして記憶にあることだろう。

柳瀬尚紀氏は大のジョイス好きで、翻訳者泣かせの本書を泣く泣く翻訳したわけではなく、自らの愉しみとして全訳したのだ。小説家、文芸評論家の丸山才一氏は「一般に道楽は、このくらゐにならなくては本式とは言へない。立派である。」と賛辞を送っている。

原書でさえ理解不能な小説を、さらに技巧を駆使して日本語にするという離れ業は、本書の難解さをさらに高みに押し上げることであり、話題性に負けじと購入した読者に対して絶壁への挑戦を強制する。売上げが見込めない、このような奇書を単行本として刊行し、そして文庫化までした「河出書房新社」の懐の深さには、頭が下がる。また、1990年代初めは出版業界も余裕があったことがわかる。

最初の1ページをお読みいただければ、本書がどれくらい奇書なのかおわかりいただけるだろう。途中には詩も挿入されているし、この調子が最後まで続くわけである。画像は英日それぞれクリックで拡大するので、ご自身で翻訳にチャレンジしてみてはいかがだろうか?

 

また、この本は1963年にモデルの提唱者の一人であるマレー・ゲルマン博士が想定される新しい素粒子にクォーク(quark)という名前をつけたときに本書の中の一節 "Three quarks for Muster Mark"から引用したことでも知られている。先日「素粒子標準模型入門: W.N.コッティンガム、D.A.グリーンウッド」を読み、やっとクォークの物理(量子色力学)に馴染んできたので、このタイミングで本書を紹介させていただいたわけだ。

本書でのクォークは鳥の鳴き声で、第4章の冒頭に書かれている。

 


このように難解で意味不明の小説だが、もちろん物語はある。作品のタイトルとあらすじは、このようなものだそうだ。詳しくは「ウィキペディアの記事」でお読みいただきたい。

表題とその意味
アイルランドに「フィネガンの通夜(Finnegan's Wake)」という民謡がある。梯子から落ちて死んだはずのティム・フィネガンがウィスキーを浴びて息を吹き返すという陽気な伝承バラッドである。このバラッドにジョイス自身の基本的主題「通夜と目覚め(Wake)」、すなわち「死と再生」のバリエーションを見たジョイスは、そのタイトルからアポストロフィーをはずし、最後の大作の表題とした。

作品の内容と登場人物について
ダブリンの西郊外チャペリゾットに一軒の居酒屋があり、その主人イアウィッカーと妻アナとの間には三人の子供がいる。双生児の兄弟シェムとショーン、そして妹イシー。現実の層、歴史の層、神話の層などの多層構造を備え、しかも角層が相互に浸透融合する夢の世界『ウェイク』において、現実層の中核をなすのは二十世紀初頭、と推定されるある夜から明け方にかけてのこの居酒屋での出来事である。この主人公は講演で出会った二人の少女をめぐっておぞましい噂をたてられている。それは三人の少年あるいは兵士に目撃され、四人の老人によって論じられ、酒場の常連十二人のゴシップ種となってひろまってゆくが、反復して語られていくうちに歪められ、原罪の発端をなすアダム以来のすべての男を巻きこむにいたるけれども、事件の真相は不明のままである。なにしろこれは「One thousand and one stories, all told, of the same」であるから、絶対的に確実なのは同一対象は視点の移動によって変容するという絶対的不確実性のみなのだ。『ウェイク』は実体概念が後景に退き、関係概念が前景を占める不確定性の回り舞台なのであって、民謡のティム・フィネガンが伝説の巨人フィンに変貌するように、現実次元の出来事はさまざまなアナロジーや連関するモチーフ群を契機として膨張と収縮を繰り返し、柔軟な運動の軌跡を描き出すのである。


単行本は絶版で、お求めになりたい方は「日本の古本屋」で購入できる。(検索してみる

クリックで拡大



文庫本はこちらからどうぞ。

フィネガンズ・ウェイク 1 (河出文庫)
フィネガンズ・ウェイク 2 (河出文庫)
フィネガンズ・ウェイク 3・4 (河出文庫)

  


柳瀬尚紀氏がお書きになったガイドブックも刊行されている。

フィネガン辛航紀―『フィネガンズ・ウェイク』を読むための本




原著でチャレンジする方は、こちらからどうぞ。

Finnegans Wake: James Joyce 」(Kindle版




そして驚くことに、この奇書はフランス語やドイツ語にも翻訳されていることをお伝えして、記事をしめくくろう。

フランス語版: Amazon.frで開く
ドイツ語版: Amazon.deで開く


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経理のExcel強化書: 平井明夫

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経理のExcel強化書: 平井明夫

内容紹介:
経理・経営企画部門のExcel力を強化! 明日の会議ですぐに使えるデータ分析が満載。具体的に実例でハウツーを説明するから「文系」の人も無理なくスキルアップが可能。
たった1日でデータ分析をマスター!
2015年12月刊行、186ページ。

著者について:
平井明夫(ひらい あきお)
株式会社エムキューブ・プラスハート取締役。大阪大学基礎工学部卒。ソフトウェアベンダーのマーケティング担当として事業企画に携わった後、コンサルティング会社役員として自ら中小企業経営を経験する。現在は、この経験を活かして、IT業界を中心に、中堅・中小企業の新規事業立ち上げ、事業再編の支援を行っている。並行して、ライフワークとしてデータ分析に関する講演・執筆活動を行っており、多数の著書・共著書がある。自ら講師を務める翔泳社主催『1日でわかる企業データ分析講座』は多くの卒業生を送り出している。

平井さんの著書: Amazonで検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で346冊目。

とね日記でビジネス書を紹介するのは初めてのことだ。数値を扱って分析するという意味で、ギリギリ「理数系書籍」ということにさせていただこう。

実をいうと僕は大のExcel好きである。本業の業務では自分なりの使い方を編み出したり、裏技を身に着けたりして、いつもお世話になっている。もともとプログラマだからスクリプトを書いて、ちょっとした作業をこなすこともできるが、プログラミングしなくて済むのなら、それに越したことはない。

自分の仕事では本書に紹介されているデータ分析は、しなくても済むのだが、以前から興味をもっていたということもある。だが本を探してみるとやたらと分厚かったり、専門的過ぎて読むのに手間がかかり過ぎる本が多い。もやもやしながら探しているうちに見つけたのがページ数が手ごろな本書だった。そして、そして偶然、著者の平井明夫さんは元同僚だった。これは買うしかない。平井さんには連絡せず、僕はこっそり買い置きしていたのである。


あと、本書を読んだのにはもうひとつ理由がある。

いつも勉強に利用させていただいているカフェの店員さんたちは、ほとんどが非理数系の大学生だ。もう何年も利用させていただいているので、年度が替わるたびに彼らは1年ずつ進級する。就活の様子を聞いたりすることもあり、内定が決まった学生には「お祝い」に本をプレゼントしているのだ。今年の3年生、特に数字に関わりそうな職種に内定が決まった学生には、次の本を贈っていた。タイトルにインパクトがあるのでウケもよい。

テキパキこなす! ゼッタイ定時に帰る エクセルの時短テク 121」(Kindle版



この本は僕も使っていて、良さはじゅうぶん承知している。この手の本はいろいろ出ているけれど、分厚いものを買っても覚えきれるものではない。128ページに抑えた手ごろなTipsを覚えるだけで、仕事はとてもはかどるのだ。先輩社会人から「ひよっこ社会人」へのプレゼントに最適である。少なくともExcel操作に手こずって残業することからは解放される。


さて、その次の段階がデータ分析だ。Excel操作の基本をマスターした後は、「経理のExcel強化書: 平井明夫」で、Excelの活用例を実際のビジネス・データを使って学ぶことができれば申し分ない。

とはいっても、会社の売り上げデータは平社員に公開されるわけがない。本書のサンプル・データで学び、個人レベルで蓄積するデータを使って自分なりのデータ分析をするのがよいだろう。小規模な会社へ就職したり、自営業として社会人の一歩を踏み出すのであれば、直接役立てることができる。

また、まめにデータをとって家計簿の分析や日々の健康データの分析、食生活の分析に使うのもよいだろう。そのためには何ができるのかを、まず知る必要がある。

本書は文系の大学生でも理解可能なレベルに抑えてあるので、内定が決まった学生に紹介することにした。気に入るようだったら、こちらの本は自分で買ってもらうことにしよう。


理数系の人は統計学や統計解析を学んでいることが多いから、あえてビジネス系のデータ分析を学ぶ必要はないのではないか、自己流でデータをグラフにすればなんとかなるのではないか、と思っている人がいるかもしれない。(少なくとも僕はそうだった。)

けれども、少し調べるだけでそれは大間違いであることに気が付くはずだ。統計解析と重複するのは相関係数や回帰分析くらいで、あとはデータ分析固有の手法である。本書では次の章立てに従ってデータ分析の手法が10種類も解説される。

第1章 ピボット分析~セグメント別損益分析で不調の原因を見つける
第2章 パレート図~コントロールすべき経費科目を洗い出す
第3章 ファンチャート~増減の大きい経費科目を見つける
第4章 ヒストグラム~店舗来客数の現状を知る
第5章 CAGR~事業の成長性を分析する
第6章 What-If分析~損益分岐点売上をシミュレーションする
第7章 散布図~偏った在庫を見つける
第8章 相関係数~最適な商品を見つける
第9章 単回帰分析~価格弾力性を調べる
第10章 重回帰分析~人件費と広告宣伝費から売上を予測する

週末の1日(1章約1時間×10テーマ)を使えば読める分量だ。平日の夜なら2~3日かかると思われる。でも、たったそれだけで、これだけの知識が得られるのなら願ったり叶ったりである。

僕が良いと思ったことを箇条書きしておこう。

- 全体の分量が186ページに抑えてある。
- その結果、1章ぶんのページ数が少ないから、長い時間をいちどに割けなくてもOK。
- 代表的な手法を10種類も学べる。
- 具体的なデータを示し、データから何を知りたいか、手法の目的がわかるように書かれている。
- 分析手法をExcelの表を使いながら具体的に解説している。
- 最後にExcelを使いながら、操作方法を示している。操作手順も少ない。

最低限必要なことを手短かに、わかりやすく解説しているのが、忙しい僕にはとても受け入れやすかった。

もちろん生データを見たり、それをグラフ化するだけで見えてくることもたくさんある。しかし、本書で紹介されている手法でデータを加工し視覚化することで、よりいっそう豊かな視点からデータを分析できることが、はっきりと印象付けられることだろう。

僕がいちばん気に入ったのは「第4章 ヒストグラム~店舗来客数の現状を知る」である。ヒストグラムは手法として、とても易しく取るに足らないものだと思っていたが、「ああ、こういうときに威力を発揮するのだなぁ。」と、本書は自分の盲点を明らかにしてくれた。

本書のタイトルには「経理の」とあるが、データ分析はすべてのビジネスマンに役立つ手法であり、一般教養として身につけておいて損はない。


10年以上前からBI (ビジネス・インテリジェンス)が経営判断に活用され始め、東日本大震災以降、ビジネスの世界ではビッグデータがトレンドとなった。そして今年のトレンドワードはAI(人工知能)である。

将来、データ分析もAIに置き換えられていくのかもしれないが、それは大企業から始まることだ。最終的にビジネス判断をすべてAIに任せることになったとき、人が働く価値はどこに求めればよいのだろうか?

少なくとも今のうちに自分でデータ分析の経験を積み、自分なりのセンスを磨いておくことが、AIには実現することができない領域で、自らの価値を高めていくことにつながるのではないかという気がしている。


なお、本書で使われているExcelファイルのサンプル・データは、出版社の以下のページからダウンロードすることができる。

経理のExcel強化書―データ分析入門(中央経済社): ページを開く


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経理のExcel強化書: 平井明夫



第1章 ピボット分析~セグメント別損益分析で不調の原因を見つける
第2章 パレート図~コントロールすべき経費科目を洗い出す
第3章 ファンチャート~増減の大きい経費科目を見つける
第4章 ヒストグラム~店舗来客数の現状を知る
第5章 CAGR~事業の成長性を分析する
第6章 What-If分析~損益分岐点売上をシミュレーションする
第7章 散布図~偏った在庫を見つける
第8章 相関係数~最適な商品を見つける
第9章 単回帰分析~価格弾力性を調べる
第10章 重回帰分析~人件費と広告宣伝費から売上を予測する

10月16日に重力波に関する大きな発表が行なわれる

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MIT LIGOチームのメンバー
Bryce Vickmark/MIT
ノーベル物理学賞の発表を聞いたばかりのタイミングで、またすごいニュースを聞かされることになりそうだ。昼休みを使ってニュース記事をさっそく和訳してみた。

元記事:
A Major Gravitational-Wave Announcement Is Expected on Oct. 16: 元記事を開く


日本語訳 by とね

10月16日に重力波に関する大きな発表が行なわれる
BY CALLA COFIELD, SPACE.COM OCTOBER 9, 2017 11:36 AM EDT

先週MITの記者会見で、2017年のノーベル物理学賞を受賞したレイナー・ワイス博士は、博士と協力者が心踊る発表を近々することを述べた。

内部の関係者は詳細をまったく明らかにしていないが、今月下旬に重力波に関する大きな発表があるのだという。何が明らかにされるのか、私たちは推測してみることにした。

10月3日、3人の物理学者とLIGO (Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory)の協力者たちは、ブラックホールの合体によって空間自身にもたらされるさざ波を史上初めて検出したことにより、ノーベル物理学賞の受賞が決まった。マサチューセッツ工科大学で、昨日行なわれた記者会見によると、共に受賞したレイナー・ワイス博士は、協力者がまた別の心躍る発表を10月16日に行なうと述べた。しかし、それが何であるかについては言及しなかった。

重力波は興味深く、直接検出できるという事実が重要だ。しかし、本当の結果は将来に起きるはずで、いくつかの観点からそれはもう始まっている。そして、さらなることが10月16日に起こるだろう。ワイス博士がこのように述べた。それが何であるかは言うことができない。しかし、これが「これまで以上のこと」で、もうひとつの「キター!」となることには違いない。強く惹きつけられているので、私自身この発表にはとても行ってみたい。しかし、それ以上のことは言えないと博士は語った。[重力波が起きるしくみ(Infographc)]

レポーターが後にワイス博士に、コメントの続きを聞こうとしたところ、博士はそれ以上を語ることを拒否した。

これまで話した以上のことを話すことはできない。なぜなら、このためにすべてを準備した方々に失礼になるからだ。私はサーカス・ショウの前に立ち、観衆の興味を煽るティーザーのようなものだとワイス博士は言う。

この件について私たちが連絡をとったLIGOのスポークスマンも、詳細を明らかにしてくれなかった。

しかし、私たちは単なる楽しみとして10月16日の発表が何であるかを考えてみよう。

4つの可能性?

LIGOの2つの検出器(ワシントン州ハンフォードとルイジアナ州リビングストン)で2015年9月に史上初の重力波の検出が行なわれ、その発表は2016年2月に行なわれた。100年以上前、アルバート・アインシュタインは、空間は宇宙に固定された背景ではないという一般相対性理論の中で重力波の存在を予言した。アインシュタイン博士によると空間は時間の流れと密接に結びついた織物のようで(この概念は「時空」と呼ばれている)、質量のある物体によって曲がったり歪んだりするのだという。ブラックホールや星はゴムシートの上のボーリングのボウルのように時空を曲げるのだ。動く物体が2つあれば時空に重力波を作り出すことになる。

これまでにLIGOは重力波の信号を4つ検出している。4つともすべて、2つのブラックホールが回転しながら合体したことで発生したものだ。

考えられるのは今度の発表は、次の4つの可能性のうちのひとつであると思われる。

1. LIGOが再びブラックホールの合体を検出した。(少なくともワイス博士のコメントに基づく。)

2. LIGOがブラックホール以外から来る重力波を検出した。(いちばん考えられるのは連星中性子星だ。)

3. これまでに検出されてきたブラックホール合体の発生源を、科学者が光あるいは電磁波を使ってピンポイントで特定することができた。

4. LIGOが合体しようとする2つの中性子星を発見し、その位置を特定した。


発表は米国時間で10月16日である。日本時間だと10月17日深夜以降になりそうだ。楽しみに発表を待つことにしよう。


関連解説記事:

重力波の直接観測に成功!(とね日記では、この記事がいちばん詳しい。)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a8439e8e4d81d7873422737d7bd1640d

2017年 ノーベル物理学賞はワイス博士、バリッシュ博士、ソーン博士に決定!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4f6e5823d5cf2358aff0aee5f855e9cf

アインシュタインが重力波について書いた論文の解説記事。アインシュタインの思考過程がわかるように書いた。1918年の論文では重力波の速度が光速に等しいこと、エネルギーを伝搬することが導かれている。1937年の論文では回転する天体から放射される重力波の形を求めている。

アインシュタイン選集(2): [A8] 重力波について(1918年)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7f70d0291e823674435342acba782017

アインシュタイン選集(2): [A9] 重力波について(1937年)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/52cc9130211d52e55eb1d2ea9f4a9465

欧州望遠鏡でも重力波観測(発生場所、より正確に)#LIGO #Virgo
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/dbc609477e38672166890301aeca5bdb


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「とね書店」閉店のお知らせ

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2007年1月に開設した「とね書店」は、残念ながら10月27日に閉店することになりました。これはAmazonのアソシエイト(アフィリエイト)の「インスタントストア」という機能を使った簡易ホームページで、商品を簡単な手順でWeb上に掲載して販売するためのものです。

Amazonがこのサービスを終了するため、「とね書店」も閉店せざるを得なくなりました。これまでの流れは以下のようになります。

- 2017年7月14日より、新規または複製してのインスタントストアの新設を終了。既存のものは変更・削除をすることが可能。
- 2017年08月11日、既存のインスタントストアの変更を終了となるが削除は可能。インスタントストアの一覧ページも閲覧可能。
- 2017年10月27日 - インスタントストアの一覧ページの表示及び、インスタントストアに関するサポートを終了。また全てのインスタントストアのページは Amazonにリダイレクトされる。


ブログには「とね書店」へのリンクを貼った記事がたくさんあります。Amazonの商品ページへリンクするようにそれぞれ書き換えたいところですが、数えてみたところ5,800箇所ありました。正しい商品ページが開くようにリンクを自動的に書き換える方法を見つけることができなかったので、このまま放置させていただきます。

「とね書店」はお勧め本をカテゴリー別に紹介するため、そして僕自身も購入予定の本を検索しやすくために利用していました。個人的には作成済みのインスタントストアは、追加や編集はできなくなっても、そのまま維持してほしいと思っていました。


終了するのは「インスタントストア」だけです、Amazonのアソシエイト・サービスはこれまでどおり継続いたします。

10月28日以降、「とね書店」のリンクをクリックするとAmazonのトップページが開くようになります。お手数ですが各ブログ記事の下部に表示したAmazonのロゴをクリックしなおして、書名(あるいは商品名)で検索して、ご利用いただけば幸いです。

皆さまには、ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いいたします。

これまで「とね書店」をご利用いただき、ありがとうございました。


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祝: 累計400万アクセス達成!

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2005年2月に始めたこのブログの累計訪問者数が昨日400万人(IP)に達した。



300万人をクリアしたのが2016年3月31日。「「9次元からきた男」ブロガー特別試写会の感想」の記事を書いた頃だ。今日まで563日が経過しているので、この期間は1日あたり平均1778人の方にアクセスしていただいたことになる。300万人達成のときに予想していた「400万人達成は666日後の2018年1月25日前後」よりだいぶ前倒しできた。期間としては18パーセント短縮し、日数としては103日前倒しできたことになる。

ページ閲覧数累計のほうも2016年10月17日(たまたま僕の誕生日)に1000万PVをクリアしている。(PVはPage Viewの略)今回は1日前倒しの誕生日祝いとなった。


「アクセス」の欄の閲覧 4704 PV、訪問者 1896 IPは昨日1日のぶんである。また日別、週別のランキング104位と80位はgooブログ全体(昨日の段階で2,774,388ブログ)の中での順位である。277万ブログあるといっても、更新されていないブログがたくさんあることに注意したい。

これまでのアクセス数とページ閲覧数の日平均は次のように推移していた。

累計0~40万アクセスの期間(2005年~2010年):日平均191アクセス、ページ閲覧数504page
累計40万~50万アクセスの期間(2010年~2011年):日平均800アクセス、ページ閲覧数2013page
累計50万~100万アクセスの期間(2011年~2012年):日平均973アクセス、ページ閲覧数3107page
累計100万~200万アクセスの期間(2012年~2014年):日平均1525アクセス、ページ閲覧数4266page
累計200万~300万アクセスの期間(2014年~2016年):日平均1502アクセス、ページ閲覧数5012page
累計300万~335万アクセスの期間(2016年~2016年):日平均1774アクセス、ページ閲覧数4825page
累計335万~400万アクセスの期間(2016年~昨日):日平均1781アクセス、ページ閲覧数5341page




ブログの知名度を押し上げた「事件」は過去2回あったことが「TopHatenarの分析のページ」でわかる。「200冊の理数系書籍を読んで得られたこと」、「NHKスペシャル「神の数式」の感想」を多くの方に読んでいただいたことで知名度が上がった。

画像クリックで拡大



浅草の「花やしき」の来園者数は年間50万人だというから日平均は1369人、「上野動物園」の来園者数は年間397万人だそうで日平均は1万人くらい。だからこのブログの1日のアクセス数1781人とは、「花やしきの1.3倍くらいで、上野動物園には遠く及ばない。」というところなのだ。

ちなみに昨年行った日本科学未来館の来館者数は次のように推移している: 来館者数の推移


今のペースを維持できれば次の目標の500万人に達するのは563日後、つまり2019年5月1日前後になると思われる。過去5年間のアクセス数は毎日1500~1800に落ち着いているので、よほど世の中の人が理数系好きにならない限り現在のペースが続くと予想している。

日本人がノーベル物理学賞をとったり、重力波検出のような大成果があっても世の中の人の関心はせいぜい1~2週間ほどしか続かないことがこの10年の動きを見て感じたことだ。(それは一般の事件のニュースでも同じこと。)

僕はアクセス数を伸ばすのを第一に考えているのではなく、自分が楽しめて読者の方にも参考になる記事を書くというのがブログの目的だ。だから今のペースを維持するというのが自然である。その結果、運よくアクセス数がアップするというのならば嬉しいことだ。


平均アクセス数やページ閲覧数は主に過去記事によって支えられている。たとえば昨日の記事別アクセス数ランキングは次のとおりだ。昔書いた記事も読まれていることがわかる。僕としてはトップページへのアクセスがいちばん多いのが嬉しい。なぜなら「とね日記」というキーワードで検索し、ブログを開いていただいているわけだから。



100万アクセスを達成した2012年頃とくらべて、全体的にページ閲覧数が増えていることや、読んでいただいている記事が変化していることがわかる。

ペットの話題や料理の話題、芸能人ネタなど、より一般的な事柄を記事にすれば、アクセス数は格段にアップする。反対に物理学や数学の記事で、数式を使った専門的な記事であればあるほど、理解できる読者は少なくなりアクセス数は減る。

物理ブログ、科学ブログとしての価値はアクセス数やランキングでは測れないものだと僕は思っている。これからも記事に対する一般の方の関心事と内容の専門性のバランス感覚を大切にしていきたい。


これからも当ブログをよろしくお願いいたします。


参考リンク:

こよみの計算 > 日にち・曜日(CASIO高精度計算サイト)
http://keisan.casio.jp/has10/Menu.cgi?path=01200000%2e%82%b1%82%e6%82%dd%82%cc%8cv%8eZ%2f02000000%2e%93%fa%82%c9%82%bf%81E%97j%93%fa


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重力波、中性子星で観測…重い元素の誕生解明

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左:中性子星合体による重力波、右:ブラックホール合体による重力波

まさかここまでの発表が行われるとは思っていなかった。これがその動画である。




日本時間午後11時に始まったライブキャスト。中性子星の合体による重力波をLIGO-Virgoで観測したという発表だろうという噂は飛び交っていたので、あとは詳しく解説を聞けばよいだけだと思っていた。ブログの記事もその方針で準備していた。

しかし、予想をはるかに超えた発表に最初にきた「ヤッター!」という感動は、次第に「なんてことだ!」という驚愕の感情に移り変わっていった。


世界中で70もの天文台が共同観測したのだという、発表は次々と順番に行われている。こんなライブキャストは初めてだ。

次々と新情報が増えつつあるので、この記事はいま書けるところまで書いて、あとは数日をかけて書き足していくことにしよう。だからときどきチェックしてほしい。


今回発表されたことで確認できたことを箇条書きにしておこう。

- LIGO-Virgoで中性子星の合体によっておきた重力波を初めて検出できたこと。
- 世界中の天文台でこのイベントを可視光、ガンマ線、X線で16日間に渡り追跡観測したこと。
- その結果、重力波と光(および電波)の速度が同じだということが初めて確認できたこと。(一般相対論の予言の検証ができた。)
- 中性子星で鉄や金など重い元素が生成されたことを初めて確認できたこと。
- 中性子星の合体で生じると予想されていた巨新星(キロノヴァ)も光学望遠鏡の追観測で初めて観測されたこと。
- イベントを起こした中性子星は地球から1億3000万光年離れたところにあること。

論文はこちらから読める:
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.119.161101


ブラックホールによる重力波が観測され、ノーベル物理学賞が決まったばかりなのに、これほどたくさんのノーベル賞級の発表が次々と発表される。あまりの情報の多さに頭の整理がつかなくなった。

この先生方が順番に発表するのだ。




10月17日の午前10時に東京大学と国立天文台による発表が予定されているが、この観測に参加した結果の発表のようだ。仕事時間に重なるので昼休みに記事を書き足すことにしよう。



重力波、中性子星で観測…重い元素の誕生解明(読売新聞)

【ワシントン=三井誠】宇宙で重い天体が運動した時に出る波「重力波」を観測する米国などの国際研究チームは16日、二つの中性子星が合体して放出された重力波を今年8月に初めて捉えたと発表した。

 この合体で金など重い元素が生まれたことも、世界約70の天文台が参加した光(電磁波)の観測で判明した。一つの天体現象で重力波と光を同時観測したのは初めてで、鉄より重い元素が誕生した起源の解明につながる成果だ。関連論文は英科学誌ネイチャー(電子版)などに掲載された。

 発表した米カリフォルニア工科大などの研究チームによると、合体は地球から1億3000万光年離れた宇宙で起きた。二つの中性子星が互いの重力で引き寄せられ、合体する際にガンマ線やX線などの電磁波を出すため、研究チームが世界90以上の天文台などに追跡観測を呼びかけ、日本のすばる望遠鏡(米ハワイ州)などが参加した。

 重力波は2年前、ブラックホールの衝突で初観測された。装置の開発に貢献した研究者3人は今年のノーベル物理学賞に選ばれている。

 【中性子星】=巨大で重い恒星が寿命を迎えて爆発し、小さく縮んだ時にできる天体の一つ。原子核を構成する陽子と中性子のうち中性子が密集し、半径約10キロ・メートルでも太陽の1~2倍の質量がある。さらに重い恒星が寿命を迎えるとブラックホールになる。



関連解説記事:

重力波の直接観測に成功!(とね日記では、この記事がいちばん詳しい。)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a8439e8e4d81d7873422737d7bd1640d

2017年 ノーベル物理学賞はワイス博士、バリッシュ博士、ソーン博士に決定!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4f6e5823d5cf2358aff0aee5f855e9cf

中性子星の合体による重力波観測か?(LIGOとVirgo)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/82784e11bf2c22d96e8ad27ad0b0393a

アインシュタインが重力波について書いた論文の解説記事。アインシュタインの思考過程がわかるように書いた。1918年の論文では重力波の速度が光速に等しいこと、エネルギーを伝搬することが導かれている。1937年の論文では回転する天体から放射される重力波の形を求めている。

アインシュタイン選集(2): [A8] 重力波について(1918年)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7f70d0291e823674435342acba782017

アインシュタイン選集(2): [A9] 重力波について(1937年)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/52cc9130211d52e55eb1d2ea9f4a9465

欧州望遠鏡でも重力波観測(発生場所、より正確に)#LIGO #Virgo
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/dbc609477e38672166890301aeca5bdb

10月16日に重力波に関する大きな発表が行なわれる
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b99c5b1ab7390194bb2e080952b05fa0


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標準模型への回想: スティーブン・ワインバーグ博士

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昨日「Reminiscences of the Standard Model(標準模型への回想)」というタイトルでライブキャストが配信された。

この理論を提唱し、1979年にノーベル物理学賞を受賞したスティーブン・ワインバーグ博士が語る動画である。先月「素粒子標準模型入門: W.N.コッティンガム、D.A.グリーンウッド」を読んだばかりなので、見るのにはよいタイミングだ。

多くの方に見ていただきたいので、ブログ記事として投稿しておこう。

Special Colloquium by Steven Weinberg on "Reminiscences of the Standard Model"
http://indico.ictp.it/event/8413/overview


再生開始から8分後に始まる。

"Reminiscences of the Standard Model" - Special Colloquium by Steven Weinberg



また、博士がお書きになった「科学の発見: スティーブン・ワインバーグ」の動画も公開されている。こちらも合わせてどうぞ。

Steven Weinberg: To Explain the World



関連記事: 下にいくほど易しくなる。

大著に挑む (ワインバーグの「場の量子論」)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/95ac4b64aa4eaf70608088006813cbf5

素粒子標準模型入門: W.N.コッティンガム、D.A.グリーンウッド
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/522960c6eb852df961348fee76463852

「標準模型」の宇宙:ブルース・シューム
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/25297abb5d996b0c1e90b623a475d1aa

強い力と弱い力:大栗博司
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/06c3fdc3ed4e0908c75e3d7f20dd7177

科学の発見: スティーブン・ワインバーグ
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/70612f539adade398a14a27e87b70d92


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