「量子コンピュータ―超並列計算のからくり:竹内繁樹」(Kindle版)
内容紹介:
「量子ビット」を使うと、なぜ「超並列計算」ができる? 莫大な計算結果の重ね合わせ状態から、答えを1つに確定できるのはなぜ? まったく新しいしくみによって、現在のスーパーコンピュータをはるかに凌ぐ力を発揮する量子コンピュータ。研究の最先端にいる著者が、従来のコンピュータのしくみと対比させながらその基礎と、実現にむけた試みを平易に解説。
2005年2月刊行、272ページ。
著者について:
竹内繁樹
北海道大学電子科学研究所助教授。理学博士。1968年大阪府生まれ。1993年、京都大学大学院理学研究科修士課程修了。三菱電機先端技術総合研究所(尼崎市)を経て、1999年より現職。1995年より科学技術振興機構さきがけ研究「場と反応」、「光と制御」研究者を兼務。1997年より一年間、スタンフォード大学客員研究員。専門は量子光学、量子情報の実験。1998年に、光子を用いた量子コンピュータのデモ実験に成功している。
理数系書籍のレビュー記事は本書で330冊目。
「量子コンピュータ、量子アルゴリズムを学びたい高校生のために」という記事で本書を紹介したので読んで紹介することにした。
2005年に刊行されており、アマゾンのレビューでも好評だ。コンパクトながら必要なことはすべて語られている。章立ては次のとおり。
第1章:量子計算でできること
第2章:「量子」とはなにか
第3章:量子の不思議
第4章:「量子」を使った計算機
第5章:量子アルゴリズム
第6章:実現にむけた挑戦
第7章:量子コンピュータの周辺に広がる世界と量子暗号
なぜ量子コンピュータが必要なのか?これまでのコンピュータとどこが違うのかが第1章で解説される。何のためにこの本を読んでいるのかわかるので、はじめて量子コンピュータを学ぶ人にとってこの章は大切だ。
第2章と第3章は量子力学入門である。量子力学がどのように生まれたか、それまでの古典物理学と何が違うのか、光子と電子に話題を限定すること、そして重ね合わせの原理、確率波、不確定性など量子コンピュータの理解に必要な事がらに絞って解説を行っている。量子力学を学ぶという意味では物足りないが、ページ数の制限があるから仕方がない。
第4章から量子コンピュータの詳しい解説が始まる。いつ頃、誰によって考案されたか、古典コンピュータの論理回路の解説、量子コンピュータの論理回路の解説、量子ビットの考え方、行列とケットベクトルを使った計算方法、量子ビットを3D表示したブロッホ球の見かたなどが詳しく解説される。各量子ゲートの解説はよく書かれていて、とてもわかりやすいと思った。仕上げとして「量子足し算回路」が紹介されている。
第5章では量子アルゴリズムを解説している。冒頭で「量子コンピュータ用のプログラム言語はまだない」ことを述べている。入門者に対するこのような配慮はありがたい。パソコンのイメージをもっている入門者は誤解しがちなところだから。現在の段階の量子コンピュータが論理ゲートの組合せでアルゴリズムを実現していることを知ったうえで読み進めれば誤解を増幅させなくてすむ。また量子コンピュータの原理とアルゴリズムをそれぞれ第4章と第5章に分けているのもよいと思った。たとえば「クラウド量子計算入門: 中山茂」では、この2つが同時進行して解説されている。入門者には原理の解説なのかアルゴリズムの解説なのかがわからなくなることもあるだろう。本書では以下の量子アルゴリズムが解説されている。アルゴリズムの解説については本書のほうが「クラウド量子計算入門: 中山茂」よりもずっとわかりやすかった。
- ドイチュ-ジョサのアルゴリズム
- データベース検索のアルゴリズム
- グローバーのアルゴリズム
- ショアのアルゴリズム
- フーリエ変換
第6章は量子コンピュータのハードウェアの話。2005年の段階とはいえ、僕にとっては初めて知ることばかりなのでとても興味深く読めた。光子を使う方法にも何種類かあるようだし、分子中の核スピンを使う方法、シリコンを使う方法、超伝導量子ビットも考案されている。制御NOTゲートをどのようにして実現できるかという箇所がいちばん有益だった。また何が量子コンピュータの障害になっているのか、どのように解決していくのかということも解説している。量子コンピュータを実用化するにはとにかく固体・集積化を進めるのが大切だ。
第7章は量子暗号についての解説。量子コンピュータの応用でいちばん重要なのがこの分野である。入門者向けの本でありながら、この解説にまるまる1章を充てているのが本書の特徴だ。私たちの将来の生活の安心、安全をどのように守っていくか。その鍵のひとつが量子コンピュータなのだということがよくわかる。
コンパクトな本ながら、伝えたいという意欲に満ち、内容は盛りだくさんである。量子コンピュータ入門用の1冊目として、バランスのとれた良書だ。そして、できれば最新の情報を盛り込む形で続編もしくは第2版が刊行されればよいのになと思った。
本書を読んだ後、2冊目以降は以下のリンクからお探しになるとよいだろう。
量子コンピュータ関連の本: Amazonで検索
関連記事:
量子コンピュータ、量子アルゴリズムを学びたい高校生のために
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1b2940b648bda682aa27192eb8261972
発売情報: クラウド量子計算入門: 中山茂
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d360b69100fbe723c5b9410dbf3f5f4d
クラウド量子計算入門: 中山茂:(4) 全体の感想
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ad7dfbad69e1e196848be123e3f4ea3f
量子コンピュータ入門:宮野健次郎、古澤明
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ef75709187cf4b35a12f2d9fdf73a320
ファインマン計算機科学:ファインマン, A.ヘイ, R.アレン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4f7f453019fd463ed2bfdeaa7b288d79
発売情報:量子プログラミングの基礎: イン・ミンシェン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/27e4d9a10982d4d69c0029fc4c801708
関連動画:
量子論、量子テレポーテーション、量子コンピュータ
量子の制御とコンピュータ(量子コンピュータの原理の概要説明)
量子コンピュータ授業 #1(15回の講義。本書で解説される量子ゲート、量子アルゴリズムのほとんどを学ぶことができる。)
15回の講義内容
ブログ執筆のはげみになりますので、1つずつ応援クリックをお願いします。
「量子コンピュータ―超並列計算のからくり:竹内繁樹」(Kindle版)
第1章:量子計算でできること
- コンピュータに解ける問題、解けない問題
- スーパーコンピュータにも解けない因数分解
- 量子の力で超高速計算
第2章:「量子」とはなにか
- 量子計算はなぜ「量子」計算?
- 光は粒?それとも波?
- アインシュタインの光量子
- 結局、光とは?
- 波の性質を持つ粒子
第3章:量子の不思議
- 量子力学は難しい?
- 不確定な関係
- 光と干渉
- 光子・確率波・重ね合わせ状態
第4章:「量子」を使った計算機
- 量子コンピュータの誕生
- 現在のコンピュータのしくみ:ビットと論理回路
- 量子ビットと量子コンピュータ
- 量子ゲートと量子論理回路
第5章:量子アルゴリズム
- アルゴリズムと量子コンピュータ
- ドイチュ・ジョサのアルゴリズム
- データベース検索のアルゴリズム
- ショアのアルゴリズム
- 量子アルゴリズムと今後の展開
第6章:実現にむけた挑戦
- 量子コンピュータを作るには?
- 光の粒で量子計算
- 分子中の核スピンを用いた量子計算
- 固体・集積化への路
- デコヒーレンス
- デコヒーレンスに立ち向かう:量子誤り訂正符号
第7章:量子コンピュータの周辺に広がる世界と量子暗号
- 情報化社会と秘密通信
- 量子暗号と量子鍵配布
- 全知全能?の盗聴者 vs. 量子暗号
- 量子情報科学の今後
エピローグ
参考図書
さくいん
内容紹介:
「量子ビット」を使うと、なぜ「超並列計算」ができる? 莫大な計算結果の重ね合わせ状態から、答えを1つに確定できるのはなぜ? まったく新しいしくみによって、現在のスーパーコンピュータをはるかに凌ぐ力を発揮する量子コンピュータ。研究の最先端にいる著者が、従来のコンピュータのしくみと対比させながらその基礎と、実現にむけた試みを平易に解説。
2005年2月刊行、272ページ。
著者について:
竹内繁樹
北海道大学電子科学研究所助教授。理学博士。1968年大阪府生まれ。1993年、京都大学大学院理学研究科修士課程修了。三菱電機先端技術総合研究所(尼崎市)を経て、1999年より現職。1995年より科学技術振興機構さきがけ研究「場と反応」、「光と制御」研究者を兼務。1997年より一年間、スタンフォード大学客員研究員。専門は量子光学、量子情報の実験。1998年に、光子を用いた量子コンピュータのデモ実験に成功している。
理数系書籍のレビュー記事は本書で330冊目。
「量子コンピュータ、量子アルゴリズムを学びたい高校生のために」という記事で本書を紹介したので読んで紹介することにした。
2005年に刊行されており、アマゾンのレビューでも好評だ。コンパクトながら必要なことはすべて語られている。章立ては次のとおり。
第1章:量子計算でできること
第2章:「量子」とはなにか
第3章:量子の不思議
第4章:「量子」を使った計算機
第5章:量子アルゴリズム
第6章:実現にむけた挑戦
第7章:量子コンピュータの周辺に広がる世界と量子暗号
なぜ量子コンピュータが必要なのか?これまでのコンピュータとどこが違うのかが第1章で解説される。何のためにこの本を読んでいるのかわかるので、はじめて量子コンピュータを学ぶ人にとってこの章は大切だ。
第2章と第3章は量子力学入門である。量子力学がどのように生まれたか、それまでの古典物理学と何が違うのか、光子と電子に話題を限定すること、そして重ね合わせの原理、確率波、不確定性など量子コンピュータの理解に必要な事がらに絞って解説を行っている。量子力学を学ぶという意味では物足りないが、ページ数の制限があるから仕方がない。
第4章から量子コンピュータの詳しい解説が始まる。いつ頃、誰によって考案されたか、古典コンピュータの論理回路の解説、量子コンピュータの論理回路の解説、量子ビットの考え方、行列とケットベクトルを使った計算方法、量子ビットを3D表示したブロッホ球の見かたなどが詳しく解説される。各量子ゲートの解説はよく書かれていて、とてもわかりやすいと思った。仕上げとして「量子足し算回路」が紹介されている。
第5章では量子アルゴリズムを解説している。冒頭で「量子コンピュータ用のプログラム言語はまだない」ことを述べている。入門者に対するこのような配慮はありがたい。パソコンのイメージをもっている入門者は誤解しがちなところだから。現在の段階の量子コンピュータが論理ゲートの組合せでアルゴリズムを実現していることを知ったうえで読み進めれば誤解を増幅させなくてすむ。また量子コンピュータの原理とアルゴリズムをそれぞれ第4章と第5章に分けているのもよいと思った。たとえば「クラウド量子計算入門: 中山茂」では、この2つが同時進行して解説されている。入門者には原理の解説なのかアルゴリズムの解説なのかがわからなくなることもあるだろう。本書では以下の量子アルゴリズムが解説されている。アルゴリズムの解説については本書のほうが「クラウド量子計算入門: 中山茂」よりもずっとわかりやすかった。
- ドイチュ-ジョサのアルゴリズム
- データベース検索のアルゴリズム
- グローバーのアルゴリズム
- ショアのアルゴリズム
- フーリエ変換
第6章は量子コンピュータのハードウェアの話。2005年の段階とはいえ、僕にとっては初めて知ることばかりなのでとても興味深く読めた。光子を使う方法にも何種類かあるようだし、分子中の核スピンを使う方法、シリコンを使う方法、超伝導量子ビットも考案されている。制御NOTゲートをどのようにして実現できるかという箇所がいちばん有益だった。また何が量子コンピュータの障害になっているのか、どのように解決していくのかということも解説している。量子コンピュータを実用化するにはとにかく固体・集積化を進めるのが大切だ。
第7章は量子暗号についての解説。量子コンピュータの応用でいちばん重要なのがこの分野である。入門者向けの本でありながら、この解説にまるまる1章を充てているのが本書の特徴だ。私たちの将来の生活の安心、安全をどのように守っていくか。その鍵のひとつが量子コンピュータなのだということがよくわかる。
コンパクトな本ながら、伝えたいという意欲に満ち、内容は盛りだくさんである。量子コンピュータ入門用の1冊目として、バランスのとれた良書だ。そして、できれば最新の情報を盛り込む形で続編もしくは第2版が刊行されればよいのになと思った。
本書を読んだ後、2冊目以降は以下のリンクからお探しになるとよいだろう。
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量子コンピュータ、量子アルゴリズムを学びたい高校生のために
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1b2940b648bda682aa27192eb8261972
発売情報: クラウド量子計算入門: 中山茂
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d360b69100fbe723c5b9410dbf3f5f4d
クラウド量子計算入門: 中山茂:(4) 全体の感想
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量子コンピュータ入門:宮野健次郎、古澤明
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ef75709187cf4b35a12f2d9fdf73a320
ファインマン計算機科学:ファインマン, A.ヘイ, R.アレン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4f7f453019fd463ed2bfdeaa7b288d79
発売情報:量子プログラミングの基礎: イン・ミンシェン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/27e4d9a10982d4d69c0029fc4c801708
関連動画:
量子論、量子テレポーテーション、量子コンピュータ
量子の制御とコンピュータ(量子コンピュータの原理の概要説明)
量子コンピュータ授業 #1(15回の講義。本書で解説される量子ゲート、量子アルゴリズムのほとんどを学ぶことができる。)
15回の講義内容
ブログ執筆のはげみになりますので、1つずつ応援クリックをお願いします。
「量子コンピュータ―超並列計算のからくり:竹内繁樹」(Kindle版)
第1章:量子計算でできること
- コンピュータに解ける問題、解けない問題
- スーパーコンピュータにも解けない因数分解
- 量子の力で超高速計算
第2章:「量子」とはなにか
- 量子計算はなぜ「量子」計算?
- 光は粒?それとも波?
- アインシュタインの光量子
- 結局、光とは?
- 波の性質を持つ粒子
第3章:量子の不思議
- 量子力学は難しい?
- 不確定な関係
- 光と干渉
- 光子・確率波・重ね合わせ状態
第4章:「量子」を使った計算機
- 量子コンピュータの誕生
- 現在のコンピュータのしくみ:ビットと論理回路
- 量子ビットと量子コンピュータ
- 量子ゲートと量子論理回路
第5章:量子アルゴリズム
- アルゴリズムと量子コンピュータ
- ドイチュ・ジョサのアルゴリズム
- データベース検索のアルゴリズム
- ショアのアルゴリズム
- 量子アルゴリズムと今後の展開
第6章:実現にむけた挑戦
- 量子コンピュータを作るには?
- 光の粒で量子計算
- 分子中の核スピンを用いた量子計算
- 固体・集積化への路
- デコヒーレンス
- デコヒーレンスに立ち向かう:量子誤り訂正符号
第7章:量子コンピュータの周辺に広がる世界と量子暗号
- 情報化社会と秘密通信
- 量子暗号と量子鍵配布
- 全知全能?の盗聴者 vs. 量子暗号
- 量子情報科学の今後
エピローグ
参考図書
さくいん