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定本 解析概論:高木貞治

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定本 解析概論:高木貞治

内容紹介:
「高木の解析概論」として知られる解析学の名著を、著者の没後50年を記念して読みやすく組み直し定本とする。刊行以来70年以上にわたって読み継がれ、その後の微分積分学入門書のお手本となった。数学を学ぶすべての人の座右の書として不動の地位をしめる。新版にあたり黒田成俊による高木函数の解説を補遺として加えた。
2010年刊行、536ページ。

著者について:
高木貞治(たかぎていじ): ウィキペディアの記事
1875年岐阜県に生れる。1897年東京帝国大学を卒業、後渡欧。1900年東京帝国大学理学部助教授。1904年同大学教授。1936年東京帝国大学を停年退官。1925年日本帝国学士院会員。1940年文化勲章受章。1960年没。

高木貞治先生の著書、関連書籍: Amazonで検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で294冊目。

本書はあまりにも有名すぎて、あえて紹介するまでもないと思えるが、「解析学入門のための教科書談義」という記事で取り上げたので、これを機会に再読してみた。

大学1年のときに「解析概論 改訂第3版」が微積分学演習という科目の副読本として指定されていた。卒業後、ほとんどの教科書は捨ててしまったのだがこの古いハードカバーの本だけは捨てることなく、今でも本棚に収まっている。

再読してみたといっても学生時代には試験に出る範囲を拾い読みしていた程度。高校数学のイメージでしか微積分を考えられない僕にとって、この本は「いつか読破してやるぞ。」と読むのを先送りしていた学術書だった。処分できなかったのは「先送り」の結果である。学生時代の僕には高木貞治先生の功績や本書の価値は全く理解できていなかった。

他の数学書はいざ知らず、解析概論はときおり無性に読みたくなるのである。同じ想いをしている方も多いようだ。僕のように「学生時代にやり残してしまった勉強への未練」が動機になることもあるだろうし、むかし挑戦して挫折感を味わった本へ再挑戦したい、名著なのに読んでいないので損をした気分になっているなど理由は人それぞれなのだろう。

本書を読みたいと思った理由がもうひとつあることに気が付いた。学生時代はすぐ答の出る微積分演習のような数学が好きで、時間と労力のかかる厳密な証明はまどろっこしく感じていた。ところが卒業して社会に出てみると、ぶち当たる問題は不確実でマニュアルどおりの解法が通用しないものや、思い通りにいかないことばかり。手間はかかるけれども厳密な手順さえ踏めば、理路整然と結果が得られる世界がいかに貴重なものだったか思い起こされるのである。不確実な現実社会に生きているからこそ、確かなものへの憧れが生じているのだと気が付いたのだ。

これらの気持ちを総じて「解析概論病」と僕は名付けることにした。

初版から定本まで、次のような本が刊行されている。

初版(1938年)岩波書店
増訂版(1943年)岩波書店
改訂第3版(1961年)岩波書店
改訂第3版 軽装版(1983年)岩波書店
定本(2010年)岩波書店 - 補遺に黒田成俊「高木函数の解説」が追加。

微分積分学の永遠の名著
あらゆる数学の教科書が手本とした書
新たに高木函数の解説を補い新版として登場!
https://www.iwanami.co.jp/moreinfo/0052090/top.html

お読みになるのなら2010年に刊行された軽装版の「定本 解析概論:高木貞治」がよいだろう。La TeXを使って美しく組み直されているにもかかわらず「関数」は「函数」のままである。実解析(実数関数の微分積分学)と複素解析(複素関数の微分積分学)の両方を含んでいる。記述に味わいのある教科書だ。章立ては次のとおり。

改訂第三版序文
改訂第二版序文
第一版緒言
定理索引
第1章:基本的な概念
第2章:微分法
第3章:積分法
第4章:無限級数、一様収束
第5章:解析函数、とくに初等函数
第6章:Fourier式展開
第7章:微分法の続き(陰伏函数)
第8章:積分法(多変数)
第9章:Lebesgue積分
附録I:無理数論
附録II:二、三の特異な曲線
補遺:いたるところ微分不可能な連続函数について(黒田成俊)


今回通読してみてまず思ったのは「古い本にもかかわらず新しいと感じた」ということだ。でもこれは僕が最近高瀬先生の「微分積分学の史的展開 ライプニッツから高木貞治まで」や「微分積分学の誕生 デカルト『幾何学』からオイラー『無限解析序説』まで」を読んで黎明期の微積分学に馴染んでしまっていたからだと思う。解析概論を新しいと感じたのはやはり錯覚である。

第4章までは学生時代にも読んでいたが通読して初めて気が付くことが多かった。「中間値の定理」がその代表例なのだが、直観的に当たり前なこの定理の証明を学生時代にはつまらない、退屈なものと決めかかっていた。この定理は後のページで微積分の別の定理の証明に用いられることが通読して初めてわかる。厳密な証明の積み重ねを楽しみ、味わうことは今回経験した最大の愉しみだった。

面白くなってきたのは第5章から。本書では「解析的延長」と表現されている複素関数の「解析接続」、多変数の積分、ルベーグ積分の箇所がよい感じ。それぞれ他の本で学んでいたので復習がてらに通読すると厳密さを保ちながら、無駄なく緻密に証明と解説が進んでいることに気が付かされる。そしてなぜだかわからないが他の数学書にはない「情」のようなものを感じるのだ。

解析学の教科書には通常あまりみられない「ルベーグ積分」があるのも本書の特徴だ。この積分は数理ファイナンスを学ぶためには必須である。金融、経済の世界では為替や株価など計算の対象値の変動が確率解析、確率過程で示されるようなジグザグの動きをするからだ。

学生時代には数理ファイナンスなど学ぶつもりがなかったからこういう積分があることは知っていても、なぜこんな不自然でとってつけたようなジグザグ関数の積分を考えるのか理解できていなかった。やはり僕にとって数学は「何かの役に立つ」ことが学ぶための動機付けに必要なのだ。


今回通読したことで僕は若き日の自分との約束を果たしたことになる。解析概論病はとりあえず治ったが、いつ再発するとも限らない。近いうちにまた本書を読みたのなるのではないかという気がしている。

今回の紹介記事は、もちろんみなさんにこの病に感染していただくために書かせていただいた。


最後に高木貞治先生の生涯を知るための本も2つ紹介しておこう。

高木貞治 近代日本数学の父 (岩波新書):高瀬正仁




高木貞治とその時代: 西欧近代の数学と日本:高瀬正仁




関連ページ:

高瀬正仁 解析概論の系譜
http://www2.tsuda.ac.jp/suukeiken/math/suugakushi/sympo19/19_15takase.pdf

高木貞治の『解析概論』の思い出
http://www.nagaokaut.ac.jp/j/nyuushi/bookguide/bg_04.pdf

高木貞治「解析概論」
http://homepage2.nifty.com/aquarian/Book/Bk7.htm

日本数学会 高木貞治50年祭記念事業
http://mathsoc.jp/meeting/takagi50/

日本数学会 高木貞治50年祭記念講演会 ビデオ
http://mathsoc.jp/videos/takagi50.html

高木貞治先生自筆ノート
http://gazo.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/takagi/takagi.html

第二次世界大戦と高木貞治
http://www2.tsuda.ac.jp/suukeiken/math/suugakushi/sympo17/17_14kimura.pdf

近現代日本人数学者列伝~高木貞治~(前編)
http://toyokeizai.net/articles/-/1809

近現代日本人数学者列伝~高木貞治~(後編)
http://toyokeizai.net/articles/-/1868


関連記事:

解析学入門のための教科書談義
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/22c325e49cfd7c721679dbc2896b86a4

大学で学ぶ数学とは(概要編)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/07137c47d16d95ddde8f5c4cb6f37d55

大学で学ぶ数学とは(実用数学編)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/975ad3faa2f6fd558b48c76513466945

線形代数学入門のための教科書談義
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9d2ac30c9f5f620ad703304d710ed90b

ちょっと気になる常微分方程式の本
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/779e59b0996c582373308c0a4facf16f

ルベグ積分入門(新数学シリーズ23):吉田洋一
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b48ebd53c2e741330526f5d3ff71586f

ルベーグ積分入門:伊藤清三
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/686a82d413fe6668cb776488820b1b39


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定本 解析概論:高木貞治



改訂第三版序文
改訂第二版序文
第一版緒言
定理索引

第1章:基本的な概念
 1. 数の概念
 2. 数の連続性
 3. 数の集合・上限・下限
 4. 数列の極限
 5. 区間縮小法
 6. 収束の条件 Cauchyの判定法
 7. 集積点
 8. 函数
 9. 連続的変数に関する極限
 10. 連続函数
 11. 連続函数の性質
 12. 区域・境界
  練習問題(1)

第2章:微分法
 13. 微分 導函数
 14. 微分の方法
 15. 合成函数の微分
 16. 逆函数の微分法
 17. 指数函数および対数函数
 18. 導函数の性質
 19. 高階微分法
 20. 凸函数
 21. 偏微分
 22. 微分可能性 全微分
 23. 微分の順序
 24. 高階の全微分
 25. Taylorの公式
 26. 極大極小
 27. 接線および曲率
  練習問題(2)

第3章:積分法
 28. 古代の求積法
 29. 微分法以後の求積法
 30. 定積分
 31. 定積分の性質
 32. 積分函数 原始函数
 33. 積分の定義の拡張(広義積分)
 34. 積分変数の変換
 35. 積の積分(部分積分または因子積分)
 36. Legendreの球函数
 37. 不定積分の計算
 38. 定積分の近似計算
 39. 有界変動の函数
 40. 曲線の長さ
 41. 線積分
  練習問題(3)

第4章:無限級数 一様収束
 42. 無限級数
 43. 絶対収束・条件収束
 44. 収束の判定法(絶対収束)
 45. 収束の判定法(条件収束)
 46. 一様収束
 47. 無限級数の微分積分
 48. 連続的変数に関する一様収束 積分記号下での微分積分
 49. 二重数列
 50. 二重級数
 51. 無限積
 52. 巾級数
 53. 指数函数および三角函数
 54. 指数函数と三角函数との関係 対数と逆三角函数
  練習問題(4)

第5章:解析函数,とくに初等函数
 55. 解析函数
 56. 積分
 57. Cauchyの積分定理
 58. Cauchyの積分公式 解析函数のTaylor展開
 59. 解析函数の孤立特異点
 60. z=∞における解析函数
 61. 整函数
 62. 定積分の計算(実変数)
 63. 解析的延長
 64. 指数函数 三角函数
 65. 対数log z 一般の巾z^a
 66. 有理函数の積分の理論
 67. 二次式の平方根に関する不定積分
 68. ガンマ函数
 69. Stirlingの公式
  練習問題(5)

第6章:Fourier式展開
 70. Fourier級数
 71. 直交函数系
 72. 任意函数系の直交化
 73. 直交函数列によるFourier式展開
 74. Fourier級数の相加平均総和法 [Fejerの定理]
 75. 滑らかな周期函数のFourier展開
 76. 不連続函数の場合
 77. Fourier級数の例
 78. Weierstrassの定理
 79. 積分法の第二平均値定理
 80. Fourier級数に関するDirichlet-Jordanの条件
 81. Fourierの積分公式
  練習問題(6)

第7章:微分法の続き(陰伏函数)
 82. 陰伏函数(陰函数)
 83. 逆函数
 84. 写像
 85. 解析函数への応用
 86. 曲線の方程式
 87. 曲面の方程式
 88. 包絡線
 89. 陰伏函数の極値
  練習問題(7)

第8章:積分法(多変数)
 90. 二次元以上の定積分
 91. 面積・体積の定義
 92. 一般区域上の積分
 93. 一次元への単純化
 94. 積分の意味の拡張(広義積分)
 95. 多変数の定積分によって表わされる函数
 96. 変数の変換
 97. 曲面積
 98. 曲線座標(体積,曲面積,弧長の変形)
 99. 直交座標
 100. 面積分
 101. ベクトル法の記号
 102. Gaussの定理
 103. Stokesの定理
 104. 完全微分の条件
  練習問題(8)

第9章:Lebesgue積分
  I. 概括論
 105. 集合算
 106. 加法的集合類(σ系)
 107. M函数
 108. 集合の測度
 109. 積分
 110. 積分の性質
 111. 加法的集合函数
 112. 絶対連続性 特異性
  II. Lebesgueの測度および積分
 113. Euclid空間 区間の体積
 114. Lebesgue測度論
 115. 零集合
 116. 開集合・閉集合
 117. Borel集合
 118. 集合の測度としての積分
 119. 累次積分
 120. Riemann積分との比較
 121. Stieltjes積分
  III. 集合函数の微分法
 122. 微分法の定義
 123. Vitaliの被覆定理
 124. 加法的集合函数の微分法
 125. 不定積分の微分法
 126. 有界変動・絶対連続の点函数

附録I 無理数論
 1. 有理数の切断
 2. 実数の大小
 3. 実数の連続性
 4. 加法
 5. 絶対値
 6. 極限
 7. 乗法
 8. 巾および巾根
 9. 実数の集合の一つの性質
 10. 複素数

附録II 二,三の特異な曲線

補遺 いたるところ微分不可能な連続函数について(黒田成俊)

年表
事項索引
人名索引

磁力と重力の発見〈1〉古代・中世:山本義隆

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磁力と重力の発見〈1〉古代・中世:山本義隆

内容紹介:
「遠隔力」の概念が、近代物理学の扉を開いた。古代ギリシャからニュートンとクーロンにいたる科学史空白の一千年余を解き明かす。西洋近代科学技術誕生の謎に真っ向からとりくんだ渾身の書き下ろし。第1巻は古代ギリシャ・ヘレニズム時代、ローマ帝国時代、中世キリスト教世界まで。
2003年刊行、324ページ。

著者について:
山本義隆(やまもとよしたか)
1941年大阪生まれ。大阪府出身。大阪市立船場中学校、大阪府立大手前高等学校卒業。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。 東京大学大学院博士課程中退。
1960年代、学生運動が盛んだったころに東大全共闘議長を務める。1969年の安田講堂事件前に警察の指名手配を受け地下に潜伏するが、同年9月の日比谷での全国全共闘連合結成大会の会場で警察当局に逮捕された。日大全共闘議長の秋田明大とともに、全共闘を象徴する存在であった。
学生時代より秀才でならし、大学では物理学科に進んで素粒子論を専攻した。大学院在学中には、京都大学の湯川秀樹研究室に国内留学しており、物理学者としての将来を嘱望されていたが、学生運動の後に大学を去り、大学での研究生活に戻ることはなかった。
その後は予備校教師に転じ、駿台予備学校では「東大物理」などのクラスに出講している。一方で科学史を研究しており、当初エルンスト・カッシーラーの優れた翻訳で知られたが、後に熱学・熱力学や力学など物理学を中心とした自然思想史の研究に従事し今日に至っている。遠隔力概念の発展史についての研究をまとめた『磁力と重力の発見』全3巻は、第1回パピルス賞、第57回毎日出版文化賞、第30回大佛次郎賞を受賞して読書界の話題となった。

山本義隆: ウィキペディアの記事 Amazonで著書を検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で295冊目。

古典力学の形成―ニュートンからラグランジュへ:山本義隆」でアイザック・ニュートン以降の古典力学史を学んだので、その次はニュートン以前の科学史である。近代科学誕生以前の話なので正確に言えば「前科学史」ということになるだろう。

磁石の性質や磁力は小中学校の理科で習うし、電磁石の磁力は高校物理でも教えられている。そして大学の電磁気学で微積分を用いたマックスウェルの方程式として電気と磁気の法則がまとめられる。

けれども近代科学が誕生する前、人々は磁石や磁力をどのように理解していたのだろうか?古典力学の前史は大栗博司先生の「重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る」をはじめ、いくつもの科学教養書で知ることができる。しかし、磁石や磁力についてはどうだろうか? この件について解説をしている本は見当たらないことに気づくのだ。

古代ギリシャの時代から、人々は天然磁石が鉄を引き付けることに気が付いていたし、琥珀で藁をこすると藁が琥珀に引き付けられることを知っていた。これは現代では磁力と静電気力(クーロン力)によると理解されている現象だ。

本書はまさにこのテーマで壮大な解説を試みた山本義隆先生の渾身の作である。数式を含まない科学教養書なので一般の方でも読むことができる。同じテーマで文章を書いてくれと言われても僕には原稿用紙1枚すらも書くことができない。知らないことばかりだからだ。それは物理学書を10年近く読み続けても埋めることができなかった人類の歴史で言えば2000年近くに渡る膨大な知識の空白である。本書を読みたいと思ったのは「その空白を埋めておきたい」という動機だった。

古代の人々でも私たちが小学校で習うことくらいは知っていたのではないかと思うかもしれない。つまり磁石にはNやSという極性があり、NとSは引き付け合い、NとNそしてSとSは反発するということ。そして磁石でこすって磁化させた鉄針は北を指し示すことなど。千年近い期間あったのだから、各時代を代表する知の巨人たちはそれくらいのことには気が付いていたに違いない。

しかしよく考えてみてほしい。古代の人々が手にしていたのはただの石ころの形をした天然磁石である。小学生が実験で使うような棒磁石でもU型磁石でもない。そして磁石は宝石と同様とても珍しい貴重品で簡単に手に入るものではなかった。2つ用意して実験したり、そのように高価なものを棒型や球形に加工してしまうなどもってのほかである。

そして古代の人々は天然磁石を「石」だと思っていた。冷蔵庫に紙をとめるための黒い磁石を目にするものだから、現代でも石だと思っている人がいるかもしれないが。でも正しくは磁石の本質は磁鉄鉱(磁化した鉄)という鉱物、つまり金属である。(注意:本書では鉱物を金属だとしているが、ウィキペディアの「鉱物」を見ていただくとわかるように岩石は鉱物または岩石切片の集合体とされる。その意味で磁石は磁鉄鉱以外の岩石切片を含んでいるので「石」といってもよいのかもしれない。)

磁力はどのように生じるのかということについてはどうだろうか?私たちが高校物理や大学の電磁気学の授業で学ぶのは「電磁石」で、銅線に電流が流れると磁力が生じることを知っている。もちろん古代の人々が電磁石を知っているはずはない。

天然磁石の磁力の発生メカニズムは量子力学を学んでからでないと理解できないのだ。物理学科の大学院の物性物理で「磁性」として学ぶ内容だからである。これを学ばないと磁石がなぜ鉄、コバルト、ニッケルなど一部の金属しか引き付けないかを理解することができない。量子力学の誕生は1925年頃である。(参考:ウィキペディアの「磁性」の項目)

つまりこのシリーズ3巻に書かれている近代科学誕生までには磁力の発生メカニズムを人類は理解していなかった。

だからこの3冊に書かれている磁力のメカニズムの「説明」は見当違い、現代風に言えば「トンデモ」なものばかりなのである。自然の理解、とりわけ磁石の理解は各時代の知の巨人をもってしても困難を極めた。(本当のところは見当違いな説明で片が付いていたので彼らにとって「困難」ではなかったのだが。)

第1巻の章立ては次のとおりである。ヨーロッパ史だと紀元前600年頃から西暦1300年頃まで。

第1章:磁気学の始まり―古代ギリシャ
第2章:ヘレニズムの時代
第3章:ローマ帝国の時代
第4章:中世キリスト教世界
第5章:中世社会の転換と磁石の指向性の発見
第6章:トマス・アクィナスの磁力理解
第7章:ロジャー・ベーコンと磁力の伝播
第8章:ペトロス・ペレグリヌスと『磁気書簡』


大いに期待しながら読み始めたのだが、いきなり壁にぶち当たった。読むのにとても時間がかかる。頭に入ってこないのだ。

日ごろ科学書を読み慣れていることが原因だった。いつも読んでいるのは正しくて役に立つ知識が書かれている教科書や科学教養書である。ところがこの本に書いてあることは磁石についての出鱈目な説明ばかりだ。はじめからそうだとわかっていても、真面目に読もうとすると役に立つとは思えない滅茶苦茶な学説のオンパレードに気が萎えてしまうのである。

ところがしばらく我慢して読んでいると慣れてきた。科学史の本ではない、文化史あるいは思想史の本だと思って読めばよいことに気付いたからだ。そのように頭を切り替えると面白くなり読むスピードが増していった。現代の知識や考え方をとりあえず忘れて読めばよいのだ。

古代ギリシャの哲学者たちにとって磁石とはどのようなものだったのだろう?彼らが目にしていたのは次のような事実である。

- 磁石とは黒かもしくは青味がかった黒色の「石」である。
- 磁石は鉄を引き寄せ、そのほかのものは引き寄せない。
- 磁石にくっついた鉄は他の鉄を引き寄せ、その鉄はさらに他の鉄を引き寄せる。
- 磁石で鉄を擦るとその鉄は磁石のようになる。

つまり、現代の小学生が知っている次のようなことには気付いていない。

- 磁石と磁石は引き寄せあったり、反発し合ったりする。
- 磁化した鉄の針を水に浮かべるとその針は北を向く。
- 磁石には2つの極がある。(N極とS極)

以下、時代に沿ってどのように上記の現象が説明されたかをかいつまんで述べておこう。


古代ギリシャ時代

タレス(B.C.624-B.C.546): 磁石は鉄を動かすゆえに霊魂をもつ。

ディオゲネス(B.C.450頃):磁石は鉄よりも粗目(空疎)で土性が強いので、そばにある空気からもっと多くの水分を吸い込んだり放出したりする。その場合、磁石は本性上親近な水分はこれを吸って自分の中に受け入れ、親近でない水分は追い出す。鉄は磁石と親近であり、それゆえ磁石は鉄からの水分を吸い込み自己の内に受容する。その水分の吸い込みゆえに、すなわち鉄の内部に含まれる水分を一挙に吸い寄せるために、鉄を(磁石は)自分に引き寄せる。

デモクリトス(B.C.460年頃-B.C.370年頃):磁石と鉄は親近であり類似している。自然本来的に、相似たものは相似たものによって動かされ、類縁的なものどうしはおたがいに向かって運動する。磁石と鉄の引き合いは類似のものの間の共感である。

アプロディシアスのアレクサンドロス(B.C.2世紀): 磁石と鉄の両方から生じる流出物と、鉄からの流出物に対応する磁石の通孔とによって、鉄が磁石のほうへ運ばれる。

ソクラテス(B.C.469年頃-B.C.399年):磁石は鉄の指輪を引くだけでなく、その指輪の中にひとつの力を注ぎこんで、その指輪がまた別の指輪を引く。その力はもともとの磁石に依存している。この力はムッサの女神の霊感に比類される。

プラトン(B.C.427年-B.C.347年):琥珀や磁石がものを引き付けるというあの不思議な現象にしても、けっして引力は存在しない。磁力は引力によるのではなく、直接接している物体の「押し」の結果である。

アリストテレス(B.C.384年-B.C.322年):「磁石は霊魂をもつ」というタレスの説に対する同意と「磁石のように、最初の動かすものは、それが動かしたところのものを、今度はそれ自身が他のものを動かすことができるようなものにする。」という現象の記述しかしていない。火、空気、水、土の4元素、および「温と乾」、「温と湿」、「冷と湿」、「冷と乾」という相対立する性質で説明されるアリストテレスの理論で磁石の説明はできなかった。

ギリシャ科学の歴史は900年におよび、それはそれぞれ300年の3つの時期に分けられ、その最初の時期がアリストテレスの死によって幕を閉じた。


ヘレニズム時代

アレクサンダー大王の東征により拡大したギリシャは、彼の死後エジプトのプトレマイオス朝、アジアのセレウコス王朝、そしてマケドニアのアンティゴノス王朝に分裂し、ヘレニズムの時代を迎える。ギリシャの都市国家はかつての力をなくし、事実上マケドニアの支配下におかれることになった。

エピクロス(B.C.341年-B.C.270年):ヘラクレイアの石(磁石)によって鉄が引き付けられるのは、磁石から流出する原子は、鉄から流出する原子と形状の上で適合性があり、したがってそれらは容易に絡み合う。実際、原子は、磁石と鉄双方の塊に衝突し、それから双方の中間へ跳ね返され、こうして相互に絡み合い、磁石が鉄を引き付ける。

アプロディシアスのアレクサンドロス(200年頃活動):磁石が鉄を引き寄せるのは、力づくではなく、鉄には存在しないが磁石が有しているものにたいする欲求によってである。


ローマ帝国の時代

B.C.146年にマケドニアがローマの軍門に下り、B.C.30年にプトレマイオス王朝がローマに敗北することによってヘレニズム諸国家は終焉を迎え、ローマ帝国が地中海世界の覇権を手にする。そしてその支配体制は200年以上続くことになる。

ルクレティウス(B.C.99年頃-B.C.55年):磁石から出た原子が空気を打撃してそこに空虚を作ると、その空虚に鉄から出た原子がただちに流れ込み、原子のその流れに鉄自体が続いていく。これが鉄が磁石に引き寄せられる原因である。また鉄と磁石が接して固着する理由に対しては、「眼に見えない留め金」によると説明している。

プルタルコス(46年頃-127年頃):磁石は重さを持った気体状の流出物を放出しており、この流出物によって近接する空気が押し戻されると、その空気は自分の先にある空気を押す。すると押された空気は(次々に押しながら)ぐるりと一巡してきて、ふたたび空いたままの場所に収まるが、そのちきに鉄を、力づくで自分といっしょに引きずっていくのである。

ディオスコリデス(40年頃-90年):磁石は容易に鉄を引き寄せるものが最上品である。それは厚みがあるが、それほど重くはない。水割り蜂蜜酒とともに3オボロス(約2.1グラム)与えると、濃い体液を抽き出す薬効がある。また磁石は貞節な婦人と姦通した婦人を見分けるのに役立つとも言われている。これを床の中に潜ませておくと、貞節で夫を愛している婦人ならば、磁石のもつある種の自然の効力により、眠り込んだときでも手を伸ばして夫にしっかりしがみつくが、姦通している婦人ならば、汚れた密事の夢に悩まされて床から転げ落ちてしまう。また2人の男がこれを持てば、その2人のあいだに争い事が起こることはない。磁石は調和をもたらし、胸にあてれば人々の心をなごませる。

プリニウス(22または23年-79年):鉄は磁石に感染し、それを長時間保持し他の鉄を捕らえることのできる唯一の部室である。すべての磁石は、その各種類が正しい分量でもちいられるならば、眼病の膏薬を作るのにもちいられるし、とくに激しく涙が流れるのを止めるのに効力がある。またそれを焼いて粉末にしたものは火傷の薬になる。またダイヤモンドは磁石と反発しあい、ダイヤモンドは鉄にたいする磁石の引力を妨げ、ヤギの血はダイヤモンドを破壊する。

アイリアノス(175年頃-235年頃):鷹の脛骨が金のかたわらに置かれたならば、それはエジプト人の言うところでは、あたかもヘラクレスの石(磁石)がどのようにかして鉄を魔法にかけるのと同じように、不可解な力によって金をおのれの方に引き寄せる。

こうして、ローマ社会において、その後の中世キリスト教世界における磁石と磁力にたいする姿勢、ひいては自然力一般の理解の原型が形成された。その第1は磁石の働きを生物になぞらえて見る視点、第2は磁石には物理的な作用があるだけでなく生理的作用、さらには超自然的(魔力)な能力が備わっているという想念、第3は「共感」と「反感」の組み合わせ、網の目によって自然の働きが成り立っているという自然観の形成である。


中世キリスト教世界

ローマではキリスト教は、当初は下層の民衆のあいだで支持を広げていたが、権力からの迫害を耐え抜き、ローマ帝国の弱体化とともに社会の上層部にも支持者を獲得してゆき、313年、コンスタンティヌス帝の時代に公認され、380年、テオドシウス亭の時代に軍事国家ローマの国教となった。中世キリスト教社会はその後1000年近くにわたってヨーロッパ人の精神に影響を及ぼし続けることになる。この時代、自然現象だけでなく生理学、医学においても迷信や魔術、呪術が信じられ、その実践にキリスト教の衣がまとわされたのである。

アウグスティヌス(354年-430年):鉄による磁力の伝搬の不思議、銀の皿によって磁力が妨げられることなないという不思議について言及。しかしこのような自然の不思議や奇蹟は神の啓示、神の偉大さの顕現であり、有限で脆弱な人間精神のなすべきことは、その理由を解き明かすことではない。人間には、自然に示される神の救済の意志を読み取ることだけが許されるのである。

マルボドゥス(1035-1123):磁石は水腫をおさえ、火傷の痛みを散らすという薬効がある。妻の不貞を見破る能力の他に、争う者どうしを宥め、新婚の夫婦に愛を授け、弁舌に説得力を与える。また泥棒は家に忍び込むときに磁石の粉末を焼べ、出てくる煙をその家に家れる。そうすると住人の魂が家の外に出てしまうので、泥棒は屋内で自由に物色できるようになる。

ヒルデガルト(1098年-1179年):磁石は鉄を産出する土地で培われた毒によって凝固し、そのため鉄色をしていて自然に鉄を引き付けるのである。正気を失ったり幻影に悩まされたりしているなら、磁石に唾液を塗り、その石を頭頂部と前額部にこすりつけて次のように唱えなさい。「おお汝、猛威をふるう悪邪よ、天国から堕ちた悪魔の力を転化して人間を善くしたもう神の徳を認めよ。」そうすると正気に戻るであろう。

アルベルトゥス・マグヌス(1193年頃-1280年):ニンニクを塗り付けると磁石は鉄を引き寄せなくなる。またダイヤモンドが磁石の上に置かれたならば、その磁石は鉄を引き寄せなくなる。磁石は呪文や魔術とともに使用されたならば、驚くべき幻影をもたらす。蜂蜜に磁石を混ぜると水腫に効く。磁石は婦人が不貞かどうかを見分ける。

魔術的とも呪術的ともいうべき色彩のまつわりついていた中世ヨーロッパ人に磁力についての理解は13世紀に大きな転換を迎える。それはドミニコ会修道僧のトマス・アクィナス、最初の実験物理学の論文ともいうべき『磁気書簡』を著したペトロス・ペレグリヌス、「経験学」の創始者と称されるイギリス人フランチェスコ会修道僧ロジャー・ベーコンの3人によってもたらされた。この時代には磁石の指向性が発見され航海用のコンパス(磁気羅針盤)が使われるようになった。

またこの時代にヨーロッパは東方世界と接触し始めていた。古代ギリシャの科学と哲学は東方のイスラームおよびビザンツ世界に伝えられ、長い期間研究されていた。ヨーロッパでは失われていたこれらの学問、とりわけアリストテレスの諸著作がヨーロッパで再発見され、各地の僧院でギリシャ語やアラビア語からラテン語への翻訳が行われたのである。それだけでなくイスラーム世界で発展した高水準の天文学や数学も中世のキリスト教世界にもたらされた。そして神学に従属する学問とされていた哲学が1255年、トマス・アクィナスの時代にパリ大学がアリストテレスのほとんどの著作を講義に取り入れることを公式に決定し、神学とは独立に哲学の真理を語ることができるようになった。これはキリスト教世界の知が分裂し始めたことを意味している。

マイケル・スコット(1175年頃-1235年):磁石はその力でもって鉄をおのれのもとへ引き寄せる。北の山の彼方の地を指す磁石や南の山の彼方の地を指す磁石もある。磁石を用いれば、針で北極星がどこにあるかがわかる。(磁石の指向性についての言及)

トマス・アクィナス(1225年頃-1274年):アリストテレス哲学を引き継ぎ、それを発展させた。磁石の作用をもアリストテレスの枠組みで捉えたにとどまらず、磁石の特異な作用をもたらす原理は磁石の自然本性であり、形相である。そして磁石が鉄を引き寄せるのはある種の天界の力を分かち持つからである。(注釈:もちろん彼の理解は間違っているが、重要な点は神の啓示とは独立に磁力の起源を主張していることである。また魔術的な要素が排除されていることも重要である。)

ロジャー・ベーコン(1214年-1294年):「経験学」の創始者である。物事を理解するために経験や実験、数学を重視した。磁力については近接作用として空気を媒質として伝搬することを主張している。またすべての磁石には東西南北に区別される部分がある。(磁石の指向性)磁石が北を向くのは北極星によるものではなく、東西南北という天球の「場所」によるものである。(注釈:この時代はまだ天動説で、地球の周りを巨大な天球が回転していると考えられていた。)

ペトロス・ペレグリヌス(13世紀フランスの科学者。1269年に磁気の性質についての著書『磁気書簡』を著した。):彼が発見したことは以下のとおりである。

1)天然磁石を球形に整形すると「北極」と「南極」が現れる。この2つの極は球の反対側に位置している。これは天球に類似している。(磁石の極性の発見)

2)鉄の針や細長い鉄辺に磁石をこすりつけて磁化させる。その鉄は指北性、指南性を示す。また天然磁石そのものも指北性、指南性を示す。(磁石の指向性の確認)

3)天然磁石は切断しても南北の極を切り離すことはできない。2つに分割された磁石はそれぞれ北極と南極をもつ。

4)天然磁石の北極と北極、南極と南極は反発し合い、北極と南極は引き合う。

ペレグリヌスが実験でこれらのことを確認したことは明らかである。このように中世キリスト教世界の最後になって、はじめて人類は磁石について現代の小学生程度の知識を獲得することができたのだ。


300ページを超える第1巻のうち、磁石に関しての記述のうち一部だけを取り出して紹介したが、本書ではそれぞれの人物がそのように考えるようになった背景、その他の自然現象についての理解、ヨーロッパが政治的、宗教的にどのように変遷していったかなどが解説されている。

現代からみれば眉唾な理論、役に立たないことばかりであるが読み応えは十分にある。ぜひお読みいただきたい。

磁力と重力の発見〈1〉古代・中世:山本義隆
磁力と重力の発見〈2〉ルネサンス:山本義隆
磁力と重力の発見〈3〉近代の始まり:山本義隆

  


読み合わせに最適な小説:

磁力と重力の発見〈1〉古代・中世:山本義隆」と読み合わせるのに格好な小説がある。中世キリスト教世界の章に至って、僕はむかし映画で見たウンベルト・エーコの「薔薇の名前」を思い出した。修道僧の連続怪死事件の舞台となる中世イタリアの僧院や修道僧の生活、その背景にあるローマ教皇と神聖ローマ帝国皇帝との関係、キリスト教各派の教義の違い、当時の社会構造など「磁力と重力の発見」の第1巻で解説されている事柄や人物が描かれている。

実際、この小説の中の僧院には巨大で秘密めいた文書館があり、また「写字室」ではあり40人ほどの修道僧が、イスラーム世界から再輸入されたアリストテレスの著作のラテン語への翻訳や写本を行っているシーンが描かれているし、アルベルトゥス・マグヌスやロジャー・ベーコンについて登場人物が言及している箇所もある。

もちろん小説はフィクションだが、併読することで中世キリスト教世界にどっぷり浸ることができ、双方の本がシンクロしてリアリティが増すのだ。フィクションが歴史小説に変わり、魔術的な磁力の効力が現実味を帯びてくる。

小説のほうもぜひお読みになるとよいだろう。

薔薇の名前〈上〉:ウンベルト・エーコ
薔薇の名前〈下〉:ウンベルト・エーコ

 

この本や映画の概要はウィキペディアの「薔薇の名前」でお読みになっていただきたい。また1986年にショーン・コネリー主演で公開された映画の予告編の動画は「このリンク」からご覧いただける。

また映画は2/9(火)深夜1:00からWOWOWで放送されるようだ。

薔薇の名前
http://www.wowow.co.jp/pg_info/detail/002551/#intro

番組紹介/解説
難解ともいわれるU・エーコの傑作小説を映画化したミステリー。中世ヨーロッパを舞台に、修道士とその見習いの青年が、修道士たちが連続して殺された怪事件の謎を追う。
キリスト教史や神学論の知識、そしてちりばめられた暗喩の読解力を要し、難解とも評されるエーコの同名小説を「愛人 ラマン」「スターリングラード」のJ=J・アノー監督が映画化したゴシックミステリー。宗教裁判が激化する中世ヨーロッパを舞台に、身近で起きる連続殺人の真相を追う修道士とその見習いの奔走を描く。暗黒と形容されることもある中世という時代を、入念な時代考証によって再現した美術が見もの。主人公の修道士役を演じる名優S・コネリー、見習い修道士役のC・スレイターの熱演も光る。


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磁力と重力の発見〈1〉古代・中世:山本義隆



序文

第1章:磁気学の始まり―古代ギリシャ
- 磁力のはじめての「説明」
- プラトンと『ティマイオス』
- プラトンとプルタルコスによる磁力の「説明」
- アリストテレスの自然学
- テオプラストスとその後のアリストテレス主義

第2章:ヘレニズムの時代
- エピクロスと原子論
- ルクレティウスと原子論
- ルクレティウスによる磁力の「説明」
- ガレノスと「自然の諸機能」
- 磁力の原因をめぐる論争
- アプロディシアスのアレクサンドロス

第3章:ローマ帝国の時代
- アイリアノスとローマの科学
- ディオスコリデスの『薬物史』
- プリニウスの『博物誌』
- 磁力の生物態的理解
- 自然界の「共感」と「反感」
- クラウディアヌスとアイリアノス

第4章:中世キリスト教世界
- アウグスティヌスと『神の国』
- 自然物にそなわる「力」
- キリスト教における医学理論の不在
- マルボドゥスの『石について』
- ビンゲンのヒルデガルト
- 大アルベルトゥスの『鉱物の書』

第5章:中世社会の転換と磁石の指向性の発見
- 中世社会の転換
- 古代哲学の発見と翻訳
- 航海用コンパスの使用とはじまり
- 磁石の指向性の発見
- マイケル・スコットとフリードリヒ2世

第6章:トマス・アクィナスの磁力理解
- キリスト教社会における知の構造
- アリストテレスと自然の発見
- 聖トマス・アクィナス
- アリストテレスの因果性の図式
- トマス・アクィナスと磁力
- 磁石にたいする天の影響

第7章:ロジャー・ベーコンと磁力の伝播
- ロジャー・ベーコンの基本的スタンス
- ベーコンにおける数学と経験
- ロバート・グロステスト
- ベーコンにおける「形象の増殖」
- 近接作用としての磁力の伝搬

第8章:ペトロス・ペレグリヌスと『磁気書簡』
- 磁石の極性の発見
- 磁力をめぐる考察
- ペレグリヌスの方法と目的
- 『磁気書簡』登場の社会的背景
- サンタマンのジャン




第2巻

第2巻では、従来の力学史・電磁気学史でほとんど無視されてきたといっていいルネサンス期を探る。本書は技術者たちの技術にたいする実験的・合理的アプローチと、俗語による科学書執筆の意味を重視しつつ、思想の枠組としての魔術がはたした役割に最大の注目を払う。脱神秘化する魔術と理論化される技術。清新の気にみちた時代に、やがてふたつの流れは合流し、後期ルネサンスの魔術思想の変質―実験魔術―をへて、新しい科学の思想と方法を産み出すのである。

第9章:ニコラウス・クザーヌスと磁力の量化
第10章:古代の発見と前期ルネサンスの魔術
第11章:大航海時代と偏角の発見
第12章:ロバート・ノーマンと『新しい引力』
第13章:鉱業の発展と磁力の特異性
第14章:パラケルススと磁気治療
第15章:後期ルネサンスの魔術思想とその変貌
第16章:デッラ・ポルタの磁力研究

第3巻

第3巻でようやく近代科学の誕生に立ち会う。霊魂論・物活論の色彩を色濃く帯びたケプラーや、錬金術に耽っていたニュートン。重力理論を作りあげていったのは彼らであり、近代以降に生き残ったのはケプラー、ニュートン、クーロンの法則である。魔術的な遠隔力は数学的法則に捉えられ、合理化された。壮大な前科学史の終幕である。

第17章:ウィリアム・ギルバートの『磁石論』
第18章:磁気哲学とヨハネス・ケプラー
第19章:一七世紀機械論哲学と力
第20章:ロバート・ボイルとイギリスにおける機械論の変質
第21章:磁力と重力―フックとニュートン
第22章:エピローグ―磁力法則の測定と確定

夜のウォーキング、その後6(累積5000Km)

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2013年4月7日から一昨日までに歩いた累積距離

2013年3月8日に始めた夜のウォーキング。ナイキのランニングアプリで歩いた距離を記録始めたのは300Km歩いた1か月後からだった。一昨日、累積メーターが5000Kmを超えたので記事として記録しておこう。

累積メータが4000Kmに到達したのは昨年5月末なので1000Km歩くのに8カ月かかっている。月あたり125Kmのペース。

最近は脂肪燃焼というより、むしろ健康維持のためという目的に切り替えている。もちろんサボる日もたくさんあるが、継続するのが何より大事だ。


関連記事:

1日人間ドック(2010年)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/78d08050074f97baefb45084b0e936e2

ウォーキングと夜桜(2013年3月)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/055b88c503e142d7b9559e5965de5550

夜のウォーキング、三軒茶屋へ
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cfd8a6fb66f8d236da95531fd108d8cf

夜のウォーキングのその後
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/65eb0d670f88ee2225670772ad03793e

夜のウォーキング、その後2
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a64b260d065375c77a79c2839dc414be

夜のウォーキング、その後3
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7da6bbf0006e187662cf2cf1822b82fe

夜のウォーキング、その後4(累積3000Km)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6e55742ebae984371eed25cc70de75bb

夜のウォーキング、その後6(累積5000Km)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/31b8bd0070d5d2853a7515efc7ac0e2e

1日人間ドックとウォーキング
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/630184969180751eecfdfcfeb6ff54c0


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薔薇の名前: ウンベルト・エーコ

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薔薇の名前〈上〉:ウンベルト・エーコ
薔薇の名前〈下〉:ウンベルト・エーコ

内容紹介: :(ウィキペディアの記事
迷宮構造をもつ文書館を備えた、中世北イタリアの僧院で「ヨハネの黙示録」に従った連続殺人事件が。バスカヴィルのウィリアム修道士が事件の陰には一冊の書物の存在があることを探り出したが…。精緻な推理小説の中に碩学エーコがしかけた知のたくらみ。中世、異端、「ヨハネの黙示録」、暗号、アリストテレース、博物誌、記号論、ミステリ…そして何より、読書のあらゆる楽しみが、ここにはある。全世界を熱狂させた、文学史上の事件ともいうべき問題の書。伊・ストレーガ賞、仏・メディシス賞受賞。
1990年刊行、413ページ(上巻)、426ページ(下巻)。

著者について:
ウンベルト・エーコ: ウィキペディアの記事
1932年、北イタリアのアレッサンドリアに生まれる。世界的な記号論学者にしてヨーロッパを代表する知識人。評論・創作に幅広く活躍する。
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磁力と重力の発見〈1〉古代・中世:山本義隆」をよりリアルに理解したいと思い、背景となっている中世キリスト教世界にどっぷり浸かってみようと本書を読んでみたところ、その毒気にすっかりあてられてしまった。映画より本のほうがはるかに濃密かつスリリングである。

映画のほうは1990年代にレンタルビデオで見ていた。あらすじや犯人、そして殺人事件の手口も覚えているので本は楽しく読めるかなと思っていたが杞憂だった。映画はたかだか2時間あまり。本のほうには映画にはなかったシーンや解説がたくさんあった。しかし主役のウィリアム修道士を演じたショーン・コネリーがあまりにもかっこよかったので、見習い修道士アドソ役のクリスチャン・スレーター、そしてその他の登場人物の顔がしばしば思い浮かんでくる。映画のキャスティングは本のイメージにぴったり一致していた。

ミステリー小説なので紹介記事でネタバレはしたくない。「磁力と重力の発見〈1〉古代・中世:山本義隆」と読み合わせる上で重要な点だけを紹介していくことにしよう。

舞台はローマ教皇ヨハネス22世が南仏のアヴィニョン教皇庁に捕囚されていた時代、1327年のことである。ローマ教皇は神聖ローマ帝国皇帝でドイツを治めていたルドーヴィヒ4世と対立していた。そして二重選挙により選出されていたもうひとりのドイツ国王フリードリヒ3世(フリードリヒ美王)の特使としてバスカヴィルのウィリアム修道士が北イタリアの某所にあるベネディクト会修道院を訪れる。ウィリアムはかつて異端審問官としてそのバランスのとれた判断が高く評価されていた。物語の語り手である見習修道士メルクのアドソは、見聞を広めてほしいという父親メルク男爵の意向によってこのウィリアムと共に旅をしている。

ウィリアムの本来の目的は、当時「清貧論争」と呼ばれた、フランシスコ会とアヴィニョン教皇庁のあいだの論争に決着を付ける会談を調停し、手配することにあった。ところがその修道院において、両者の代表の到着を待たずに奇怪な事件が次々と起こる。二人は文書館に秘密が隠されていることを察知し、これを探ろうとするがさまざまな妨害が行われる。修道院内で死者が相次ぎ、老修道士がこれは黙示録の成就であると指摘すると、修道士たちは終末の予感におののく。

やがてフランシスコ会の代表と教皇側使節一行が到着するが、論争の決着は付かず決裂する。教皇使節と共に会談に訪れていた苛烈な異端審問官ベルナール・ギーが、修道院で起こっている殺人事件は、異端者の仕業であるとして、異端審問を要求した為、事態は、まったく異なる方向へと進行して行く。ウィリアムはそれでも、事件の秘密解明に全力を注ぐことを決意する。(ここまではウィキペディアからの引用)


この物語の鍵になるのが巨大な建物の中にある文書館で、そこは修道僧たちの立ち入りが禁じられている場所だった。蔵書の一部は閲覧可能だが目録のみ公開されていて、修道僧からの申し出に応じて文書館長が貸し出すという方式をとっていた。ヨーロッパ全土の他、北アフリカや東方のイスラーム世界で集められた世界中の書物、古代ギリシャの哲学書や数学書、天文学書、医学書、魔術書など。そして異教であるイスラム教や奇書、怪書もあった。これら大量の本が僧院に持ち込まれ、「写字室」と呼ばれる部屋で修道僧たちが手書きで本を複製、ラテン語に翻訳したり、挿絵を描いたりしていた。文書館はキリスト教圏最大の図書館、知の宝庫だった。

しかしこの文書館の目的は膨大な知識を広めることでも共有することでもなく、ただ「保存」することだった。貴重な史料を持つことで教会の権威や権力を維持するためである。歴代の文書館長と副文書館長のみが立ち入りを許されていた。また文書館は複数階に渡る巨大な迷宮になっていた。一度入ると出るのは容易ではない。暗号を解読してはじめて目的の部屋に移動したり、外に出れるように作られていたのだ。




連続殺人事件の鍵がこの文書館にあり、とりわけある1冊の書物にあることに修道士ウィリアムは気が付くことになる。下巻の後半で明らかにされるのだが、この書物の中に1000年前に古代ギリシャの哲学者アリストテレスが書き失われたと云われる『詩編』第2部が含まれていた。ここにはアリストテレスが喜劇や笑いを肯定する記述があり、キリスト教の維持にとってこれが大問題になるのだという。そもそもアリストテレスはの著書『自然学』の中で宇宙の始まりを物質どうしの作用だと主張していたから、神が宇宙を創造したというキリスト教の教えとは相いれないものがあった。

本書の中でも「キリストは笑ったかどうか」ということについて大論争が繰り広げられる。また「聖職者は清貧であるべきかどうか、キリストは私有物を持っていたかどうか。」という「清貧論争」も繰り広げられる。私有財と公共財の違いについてだ。教会が保有する財は貧しい人に施すための公共財であるからという主張もされている。しかし実状は金銀財宝などをため込み、私欲と権力欲にまみれた世界だった。キリストが笑ったかどうかがなぜ重大問題なのかは伏せておこう。この物語の舞台となる僧院でも笑うことや(必要以外の)会話は禁止されている。


本書の盛り上がりは下巻の冒頭から始まる。それまでに起きていたいくつかの殺人事件の容疑者の修行僧と僧院近くに住む美しい農民の娘が異端審問官によってにわか仕立ての裁判にかけられるシーン。もちろん修行僧のほうは濡れ衣である。過去にたまたま所属していた宗派の異端を告げ口され、一方的に断罪されてしまう。また農民の娘は貧困のあまりわずかばかりの施し(具体的には料理で使われなかった牛の心臓)を得るために厨房係の修行僧に体を任せていたという姦通罪もしくは淫行罪である。女人禁制のこの僧院への侵入を手引きしていたのが殺人事件の容疑者でもあった。恐怖におののきながら受ける審問である。そしてラテン語で行われるため、「俗語」しか話せない農民の娘の叫びはいっさい聞き入れられない。2人に火刑が下されることは初めから決まっていた。

この農民の娘(映画で演じたのはヴァレンティナ・ヴァルガス 画像検索)であるが、物語の中ではウィリアム修道士が連れていた見習い修道士アドソがたまたま居合わせ彼女と関係をもってしまう。この映画のセックスシーン(画像検索)は当時としては過激で話題になっていたので印象に残っている。その後、アドソは後悔と娘への甘美な想いに悩まされ続けることになる。(娘が話すのが俗語だったのでアドソとの件は異端審問で暴かれずにすんだ。)当時のキリスト教で女性は(聖女を除き)男を惑わす邪悪なものとみなされていたからだ。外見が美しいほど中身は邪悪なのである。そのような教義と彼女を助けたいという気持の揺らぎ、彼女に課せられるであろう残酷な結末にアドソの心は引き裂かれていた。

毒気が増すのがこの異端審問のあたり。教会の権威を高めるためには対極としての異端が必要であり、そのおかけで恐怖による支配が可能になる。悪魔や魔術も同じ意味で当時のキリスト教には必要な要素なのだろうと思った。

数々の魔女裁判、ガリレオ・ガリレイに対して行われた異端審問のことを思い出した。火刑が行われる手順も極めて残忍である。倫理的な意味で映画にはとても表現できない状況が本には書かれていた。

修道士ウィリアムはギリシャ語とラテン語、そしてイタリア語を理解する知性の人、理性を重んじる人物である。神やキリストの啓示や奇蹟を説明するために知識や理性を働かせるのを善しとしていた教会や組織の中では異端とされかねない。

犯人探しという役目と理性に照らし合わせれば捜査しなければならない文書館やアリストテレスの禁書との間のジレンマ、そして事件の核心に近づきつつも次々と起こる新たな殺人事件がもたらす切迫感。これが本書をスリリングな作品にしている最大の要素だ。


本書と「磁力と重力の発見〈1〉古代・中世:山本義隆」で共通して取り上げられた人物はアリストテレスのほか、トマス・アクィナスロジャー・ベーコンプリニウスヒルデガルトなど。そして薬草学やウィリアム修道士が使っていた眼鏡のレンズ(老眼鏡)も本書では重要な要素であり、磁石の不思議や東方世界で発明された羅針盤や渾天儀など当時の最先端技術の解説もされている。読み合わせるにはぴったりだと思うのだ。

このように正しい思考方法と知識が与えられず、秘蹟や迷信の世界に身を置いていると、物は地球の中心(すなわち宇宙の中心)に向かう傾向がある、磁針は北極星に引かれるから北を指し示す、磁石は婦人の不貞を見分けるというようなおかしな理論もまっとうなものに思えてくることがよくわかる。この小説の時代よりも2~300年先のことになるが、ケプラーが惑星どうしにはたらく引力が磁力によるものと考えていたことやニュートンが錬金術やオカルトの研究をしていたことを納得できるようになるための下地が整った。

ふとわが身を振り返ったとき、私たちの生活は日ごろの考えや行動にも迷信や科学的根拠のないことに影響を受けていることに気が付く。1月1日には初詣に行き願い事をするし、お守りを買う。また2月3日には家から鬼を追い出し、福を招くために豆まきをしたばかりだ。科学的に効果が確認されていないのに磁気ネックレスや(商品名は出さないが)磁気治療器も相変わらず販売されている。そしてパワーストーンやパワースポット。例をあげればきりがない。


映画を先に見ても楽しめるし、本を読んでから映画を見ても「ああ、なるほど。よく描けている」と感心することだろう。映画での結末部分の展開は小説と少し違っている。

映画は明後日WOWOWで放送されるので、紹介記事としてはとてもよいタイミングになった。


薔薇の名前〈上〉:ウンベルト・エーコ
薔薇の名前〈下〉:ウンベルト・エーコ
イタリア語版)(英語版)(フランス語版

 

関連ページ:

薔薇の名前 ウンベルト・エーコ(松岡正剛の千夜千冊)
http://1000ya.isis.ne.jp/0241.html

薔薇の名前(上・下) [著]ウンベルト・エーコ(書評)
http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2011072806864.html

『薔薇の名前』(上・下) ウンベルト・エーコ 東京創元社 1990年(書評)
http://www.geocities.jp/nymuse1984/baranonamae.html

薔薇の名前(書評サイト)
http://saiten.dip.jp/mystery/main/list_review/4648


映画の概要はウィキペディアの「薔薇の名前」でお読みになっていただきたい。また1986年にショーン・コネリー主演で公開された映画の予告編の動画は「このリンク」からご覧いただける。(動画検索

映画は今月2/9(火)深夜1:00からWOWOWで放送される。

薔薇の名前
http://www.wowow.co.jp/pg_info/detail/002551/#intro

番組紹介/解説
難解ともいわれるU・エーコの傑作小説を映画化したミステリー。中世ヨーロッパを舞台に、修道士とその見習いの青年が、修道士たちが連続して殺された怪事件の謎を追う。 キリスト教史や神学論の知識、そしてちりばめられた暗喩の読解力を要し、難解とも評されるエーコの同名小説を「愛人 ラマン」「スターリングラード」のJ=J・アノー監督が映画化したゴシックミステリー。宗教裁判が激化する中世ヨーロッパを舞台に、身近で起きる連続殺人の真相を追う修道士とその見習いの奔走を描く。暗黒と形容されることもある中世という時代を、入念な時代考証によって再現した美術が見もの。主人公の修道士役を演じる名優S・コネリー、見習い修道士役のC・スレイターの熱演も光る。


保存用にお買い求めになる方は、こちらからどうぞ。

薔薇の名前 特別版 [DVD]
薔薇の名前 The Name of the Rose [Blu-ray]

 


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発売情報:カシオ電子辞書 XD-Y7200(2016年フランス語モデル)

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今年もカシオ電子辞書 XD-Y7200(2016年フランス語モデル)が発表された。(2月19日に発売される予定。)ここ数年、毎年2月に新しいモデルがリリースされている。

フランス語学習者はもちろん、LHCから発表されるニュース・リリースをフランス語で読んだり、将来この研究所に勤務するようなことになるのだったらコンパクトな電子辞書は持っていたほうがよい。(記事内容を無理やり物理学に関連付けてしまった。)さらに、老眼が始まった方にもお勧めだ。


これまで7年間のモデルの詳細は次のリンクで確認できる。

2016年モデル
http://casio.jp/exword/products/XD-Y7200/

2015年モデル
http://casio.jp/exword/products/XD-K7200/

2014年モデル
http://casio.jp/exword/products/XD-U7200/

2013年モデル
http://casio.jp/exword/products/XD-N7200/

2012年モデル
http://casio.jp/exword/products/XD-D7200/

2011年モデル
http://casio.jp/exword/products/XD-B7200/

2010年モデル(「ロワイヤル仏和中辞典 第2版」、カラー液晶画面が搭載された最初のモデル)
http://casio.jp/exword/products/XD-A7200/


最新モデルを買うに越したことはないが、旧モデルでも安いのが見つかればそれはそれでよいと思う。フランス語にかかわる人にとってポイントになる大まかな変更点は次のようなものだ。

2010年->2011年
- フランス語コンテンツ1つ追加(文法中心ゼロから始めるフランス語、ネイティブ発音)
- オックスフォード現代英英辞典が第7版から第8版になった
- ツインカラー液晶搭載
- 新画像検索機能
- 本体メモリー容量が50MBから100MBになった
- ボディカラーがブラック+シルバーからホワイトに変更

2011年->2012年
- フランス語コンテンツ1つ追加(プチ・ロワイヤル仏和辞典 第3版、ネイティブ発音)
- スクロールパッドや縦書きのブックスタイル表示機能を搭載
- ダブルカードスロットになった(追加コンテンツ用)
- ボディカラーがホワイトからシルバー+ブラック+ホワイト(外側)に変更

2012年->2013年
- プチ・ロワイヤル仏和辞典が第4版になった
- プチ・ロワイヤル和仏辞典が第3版になった
- 1981年の発売以来定評のある角川類語新辞典が収録された他、国語系コンテンツの見直しが行われた
- ジーニアス和英辞典 第3版が収録された
- タッチパネル式の操作ができるようになった。
- アイコンタイプのメニューデザインが採用された
- 0.9mm薄くなり、約310g->約290gに軽量化

2013年->2014年(フランス語系コンテンツの変更なし)
- 0.1mm薄くなり、約290g->約280gに軽量化

2014年->2015年(フランス語系コンテンツの変更なし)
- カラー液晶(サブパネル)が無くなった。そのぶんキーが大きくなり入力しやすくなった。
- 約280g->約265gに軽量化
- しゃべって身につく 英会話スキット・トレーニング[電子増補版]が追加された。
- TOEICテスト新公式問題集 Vol. 3, 4が追加された。
- デジタル単語帳通信機能が追加された。
- 電池寿命が延びた:単3形アルカリ乾電池LR6(AM3)の場合:約130時間から約180時間になった。※(英和辞典の訳画面で連続表示時)

2015年->2016年(フランス語系コンテンツの変更なし)
- 日本大百科全書(ニッポニカ)が追加された
- ジーニアス英和辞典 第4版 -> 第5版
- オックスフォード 現代英英辞典(第8版)->(第9版)
- 日本文学1,000作品 -> 2,000作品


どのモデルも紙辞書だと分厚い「ロワイヤル仏和中辞典 第2版」が使えるのはありがたい。また巨大な紙辞書の王様として今だに君臨している「小学館ロベール仏和大辞典」に至っては絶対に持ち運べないし、新品は3万円もするから電子辞書のほうが絶対にお買い得だ。ただし、この辞典はiPhone/iPad用のアプリが物書堂から2013年に発売された。(参考記事

2012年モデルまでに搭載されていたプチ・ロワイヤル仏和、プチ・ロワイヤル和仏はともに最新の紙辞書の版に2013年のモデルで追いついている。

これら2つの辞書は物書堂から販売されている「プチ・ロワイヤル仏和辞典(第4版)・和仏辞典(第3版)」を購入すればiPhone/iPadで使うこともできる。


「LE PETIT ROBERT仏仏辞典」については搭載されているのがこの7年間ずっと2008年版の辞書だ。フランスのアマゾンサイトAmazon.frでは昨年5月から2016年版が発売されている。(2016年製本版

日本のAmazon.co.jpで「Le Petit Robert仏仏辞典」を: 検索する


また、アプリ版も何種類かでている。(日本から買えるのはこのうちの一部。)

Le Robert (Tablette et smartphone)
http://www.lerobert.com/espace-numerique/tablette-et-smartphone.html

版が古い辞書はいずれ「フランス語辞典追加コンテンツ」として購入できるようになるのだと考えれば許容範囲だとも言える。PETIT ROBERT仏仏辞典は2009年版が追加コンテンツとして発売されている。


完全に満足できる品揃え、買い時というのはいつまでたってもおとずれないのかもしれない。けれども今年こそ購入に踏み切ろうという方は、以下の画像をクリックしてお求めいただきたい。

カシオ電子辞書 第二外国語モデル XD-Y7000シリーズ(2016年モデル)



カシオ電子辞書 第二外国語モデル XD-K7000シリーズ(2015年モデル)



カシオ電子辞書 XD-U7200(2014年フランス語モデル)



カシオ電子辞書 XD-N7200(2013年フランス語モデル)



カシオ電子辞書 XD-D7200(2012年フランス語モデル)
お安いほうのをどうぞ。

 

カシオ電子辞書 XD-B7200(2011年フランス語モデル)



カシオ電子辞書 XD-A7200(2010年フランス語モデル)




関連記事:

ロワイヤル仏和中辞典(辞書談義)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/aed33d08239da123dcc66c5ec08f0bc7

無料のオンライン仏和・和仏辞典を発見!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b3cae83cd882dd93d5efb788c1ac1498

ファインマン物理学: 英語版とフランス語版
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1dbcd1e1b02616ef1363ced99a912072


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重力波の直接観測に成功!

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昨夜のライブキャストは予想をはるかに超えたものだった。こういう興奮はそうたびたび経験できるものではない。貴重な体験だった。こんなすごいことになるのだったら、本を読んだり情報収集したりして(ブログ記事のための)準備をしておけばよかったと発表を見ながら思っていた。

新聞各紙では(さぬきうどん県の四国新聞を除いて)トップ扱いだったが、世間は広いのでこのニュースをご存じない方もいるにちがいない。そのような方はまずこの1分間のニュースを見ていただきたい。この100年で最大級の科学ニュースである。

アインシュタイン予言の「重力波」世界初観測(16/02/12):(もうひとつの動画



今日の記事は僕のブログをこれまで知らなかった人もアクセスすると思うので、いつもより易しめに書いておこう。

そしてこの件の解説については、すでに大栗博司先生はじめ、専門の先生方が素晴らしい記事を書いていらっしゃるので、まず先生方の記事を読んでいただきたい。僕は先生方の記事やニュース記事と重複しないように補足事項や書籍紹介を書くことにした。

重力波、世紀の発見をもたらした壮大な物語
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/021200053/

重力波の直接観測(大栗博司のブログ)
http://planck.exblog.jp/25286110/

129. 重力波検出の意義と今後の進展(2016/2/12): 牧野淳一郎先生の記事
http://jun-makino.sakura.ne.jp/articles/future_sc/note131.html


重力波の理論というのはアインシュタインが1916年に発表した一般相対性理論で予言される事柄のうちのひとつだ。難解な物理学理論であるにもかかわらず、一般相対性理論は素粒子物理学や量子力学とは違って素人にもイメージしやすい。それは絵や図に描いて説明できるからであること、そして時間や空間、エネルギーなど日常生活で慣れ親しんでいる事柄を扱う理論だからでもある。

重力が「伝わるもの」であることは日常の経験から明らかに思えるかもしれないが、よく考えてみてほしい。「伝わるものだ」ということは単にそう教えられたから知っているに過ぎず、どういう仕組みで伝わるのかということをあなたは知らないはずだ。高校までの理科や物理では教えられていない。

さかのぼって考えてみれば、ニュートンは万有引力の法則を導いたことを私たちは知っている。それは質量のある物体どうしに働く引力のことだ。リンゴが地面に落ちるのも同じ種類の力によるものだ。しかしなぜ質量があると引力が働くのかをニュートンは理解できていなかった。そして引力は遠くのものに直接作用して働くのか、それとも空間を少しずつ移動しながら伝わるのかは明らかになっていなかった。(遠隔作用なのか近接作用なのかということ。)

だから重力波が遠方から地球まで移動して感想されたという事実は、重力が空間を次々に移動して伝るからだ(近接作用が連続しておきていること)と理解できるようになるのだ。

引力の原因となる物質の質量はなぜ生じるのかについては、アインシュタインの1905年の特殊相対性理論の論文、その中のE=mc^2という式でそのほとんどの部分が、そして残りの部分は2012年に検出されたヒッグス粒子の発見によって理論的にも実験的にも証明することができていた。

特殊相対性理論はもうひとつのことも予言する。運動する物体の周囲の空間はその速度に応じて縮み、周囲の時間は遅れるというものだ。空間や時間の尺度が変化しても、その中いる人は同じ影響を受けるから気が付かない。観測したとしても変化は記録されない。遠くからその人を観測するもう一人の視点から見るとその影響が観測できる。

つまり「空間が縮む」、「時間の進みが遅くなる」という常識では考えられないことが起こっていることをアインシュタインは予言し、他の科学者が行った実験で検証されてきたのだ。

そして特殊相対性理論の最大の意義は、時間と空間は別々の2つのものとして存在しているのではなく「時空」と呼ばれる4次元の世界にある何らかのひとつのものとして存在していると主張したことだ。4次元時空を構成する3次元の部分は縦・横・高さの空間であり、残りの1次元は時間である。そのために物体が速度をもつと4次元全体、つまり時間と空間の両方に影響が及ぼされ、空間は縮み、時間の進みは遅くなるのだ。重力波のさざ波も時間と空間の両方で観測される。

さらに1916年の一般相対性理論では、時間と空間の尺度は物体の質量によっても影響を受けることを予言した。私たちには引力として観測される現象は物体の質量による空間の歪みによってもたらされるものであることを発見したのだ。空間が歪むためには空間が「縮む」という性質をもつことが必要であり、縮んだ空間の部分が次々と移動して重力波が形成される。そして重力波を伝えるもの(媒質)は何かの物質ではなく「空間それ自身」である。

歪んだ空間の中を「空間に沿って真っすぐに進む光線」は遠くから離れてみると曲がって進んでいるように見える。これが重力による光線の湾曲である。今回観測されたように細かく振動した重力波を受けると歪んだまま空間はさざ波のように揺らぐことになる。湾曲した光線は遠くから見ると陽炎(かげろう)のように揺らいで見えることだろう。

ここでもし仮に宇宙から太陽が一瞬にして消滅してしまったとしよう。太陽からおよそ1.5億キロメートル離れた位置を公転している地球では、8分19秒後に太陽が消えたことがわかる。光が地球まで届くのにそれだけの時間が必要だからである。そして太陽が地球を引っ張る引力が消滅するのも8分19秒後だ。宇宙空間での重力波の速度と光の速度が等しいからだ。

LIGOで観測された重力波が細かく振動する波なのは、合体する前の2つのブラックホールがお互いの回りを高速回転していたからである。このような重力波は海面のさざ波に例えられる。しかし太陽から地球に届く重力波はむしろ「大波」だ。海面にたとえれば広い範囲でおきる「潮位の変化」に例えられる。さざ波にせよ潮位の変化にせよ次々と変化が伝わっていく近接作用であり、それが重力波であれば光速で空間を伝わっていくのだ。

一般相対性理論で予言される具体的な現象は次のようなことである。

1) 光線の湾曲、重力レンズ効果
2) ブラックホールの存在
3) 水星の軌道の近日点が移動していくこと
4) 重力波

このうち1)から3)までは近年までにさまざまな実験や観測でその正しさが検証されていた。空間が曲がる状況はイメージしにくいかもしれないが、網の目のように張り巡らされた空間の糸の各部分が縮むことで全体を変形させること、たとえて言えば毛糸のセーターの糸が縮むとセーター全体が変形することを想像するとイメージしやすくなるだろう。

4)の重力波だけこれまで直接の観測で検証されていなかった。「アインシュタインの最後の宿題」なのである。1)から3)までは曲がった空間といってもある時点で固定された「静かな(静的な)」空間での現象である。しかし4)は空間に動きのある(動的な)現象である。重力波の存在は1974年に間接的な形では検証されていた。

であるから今回の実験の意義を語るとき、「初めての観測」であること、そして「直接の観測であること」を伝え忘れないようにすることが大切だ。過去100年で最大級の科学的業績であるのというのはこの点である。

この他、今回の成功が偉業であることの理由には次のようなことがあげられる。凄いことや感動したことがあると人は友達にも伝えたくなるものだ。ぜひ、これらのことも忘れずに伝えてほしい。

- 実験設備に要求される精度が極めて高いこと
- 実験結果が素人にも明らかな形で示され、結果が正しいことが確実なこと
- 中型ブラックホールの衝突という予想外の現象の観測であったこと
- 幸運に恵まれたこと
- 重力波による宇宙観測という新たな分野が切り開かれたこと
- ちょうど100年目であること、ノーベル賞級の功績であると


ひとつずつ解説しよう。

実験設備に要求される精度が極めて高いこと

観測したい空間の縮みは長さ4キロメートルの装置をレーザー光線の干渉という現象を使って測定する。今回の実験で測定された空間の縮みの変動は原子核のサイズ程度の長さだった。そして重力波は極めて弱いため、地上の重力や宇宙空間の天体による重力のノイズによってかき消されやすい。観測がこれまで困難だったのはこの2つの理由による。


実験結果が素人にも明らかな形で示され、結果が正しいことが確実なこと

今回の観測に使われたLIGOの巨大な装置はアメリカの2か所に同じようなものが作られ、同時に重力波の現象をとらえた。そして2か所での観測結果と物理理論に基づいたスパコンでの計算結果がこのように素人でもわかる形で提示された。もちろん統計学的な検証も行われている。

このグラフで1段目の左右はワシントンとルイジアナで行われた重力波の観測結果、2段目はそれぞれの場所における現象をコンピュータを使って予測した結果、いちばん下の段はそれぞれを声紋の画像のように変換して表示した結果である。これが波のグラフであることは一目瞭然で、2つの地点での波の振動パターンは同じだとわかる。




中型ブラックホールの衝突と合体という予想外の現象の観測であったこと

質量が太陽の29倍と36倍のブラックホールが13億年前に合体した時に、太陽3個分の質量がエネルギーとなった重力波が発生し、地球に届いたとみられる。ブラックホールが合体する瞬間を捉えたのも、世界初の快挙となった。光や電波では見れないブラックホールの研究が始められるようになったのだ。




幸運に恵まれたこと

観測精度を向上させるため2008年から7年かけてこの観測装置には大幅な改造が行われていた。改造前は重力波をとらえられるとしても10年に1回程度という精度だった。改造後は1年に10回とらえられる精度に向上していた。今回の重力波が観測されたのは改造が終わって観測再開してからわずか2日後のことである。幸運としか言いようがない。


重力波による宇宙観測という新たな分野が切り開かれたこと

これまでの宇宙観測では可視光線のほか、赤外線、電磁波(マイクロ波、X線、ガンマ線など)が利用されてきた。重力波が観測に利用できるようになったことで、これまでには見ることができなかったビッグバンから38年後の「宇宙の晴れ上がり」より古い宇宙の観測が可能になった。宇宙の始まりの解明にさらなる拍車がかかる。またアメリカのLIGOと同様の観測装置(重力波望遠鏡)はヨーロッパにAdvanced Virgoが完成し、日本でもKAGRAがまもなく本格稼働する。多点観測することで新たな発見がもたらされることが期待されている。


ちょうど100年目であったこと、ノーベル賞級の功績であること

今回の成果は間違いなくノーベル賞級である。そしてアインシュタインが重力波を予言してからちょうど100年目であることからニュースとしてのインパクトが大きい。1916年に発表したときの論文は今回の成果を受けてヘブライ大学が公開した。(ニュース記事)ただしこの論文は日本語には翻訳されていない。



1916年は第一次世界大戦の真っただ中。日本は大正5年である。アインシュタインは大正天皇と同い年で37歳、連ドラの「あさが来た」のモデルとなった広岡浅子は67歳、「花子とアン」のモデルとなった村岡花子は23歳、夏目漱石は49歳でこの年の末に逝去する。そのような時代に書かれた論文なのだ。

アインシュタインはこのほか1918年と1937年に重力波についての論文を書いている。これらは日本語に訳されていて「アインシュタイン選集(2)」に収められている。僕は2008年の夏にこの論文集を読み、あらすじを記事に書いているので興味のある方はお読みいただきたい。アインシュタインがどのように考えていたのかがわかると思う。1918年の論文では重力波の速度が光速に等しいことが導かれている。

[A8] 重力波について(1918年)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7f70d0291e823674435342acba782017

[A9] 重力波について(1937年)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/52cc9130211d52e55eb1d2ea9f4a9465

また、理数系の大学生以上の方で一般相対性理論や重力波について学びたい方は次の記事を参考にしていただきたい。最短で学べるようなヒントを書いている。

一般相対性理論に挑戦しよう!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ea7ad9292ce01ad4abbbc8c98f3303d0


書籍紹介

もう少し知りたくなった方のために本をいくつか紹介しておこう。

中学生、高校生向け

中古でしか入手できないのだが、この本がよいだろう。

アインシュタイン 相対論の100年 (ニュートンムック Newton別冊)



また月刊誌のNewton 2016年4月号(2月26日発売)では重力波とは何か?天文学や物理学にもたらすインパクトとは?という解説記事が掲載されるそうだ。


高校生、一般の社会人向け

いちばんよいと思ったのは次の本。アインシュタインの生涯と一般相対性理論を中心にブラックホール、重力波、重力波観測装置など今回の発表を理解するための解説が網羅されているコンパクトな新書だ。著者は一般相対性理論に25年間取り組んできた専門家である。これを読んでから大栗博司先生の「重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る (幻冬舎新書)」をお読みになるとよい。

ブラックホール・膨張宇宙・重力波 一般相対性理論の100年と展開 (光文社新書)」(Kindle版




理数系の大学生向け

一般相対性理論の教科書はいろいろでているので甲乙つけがたいし、広江克彦さんの「趣味で相対論」もおすすめだ。

ただし重力波についていちばん詳しいのがこちら。「電話帳」という異名がつけられている1300ページの大型本である。(最近の若い人は「電話帳」といってもピンとこない人がいるかもしれないと思った。)この本には重力波についてだけで110ページあまりが割かれている。今回の発表に登場されたキップ・ソーン博士も著者のひとりだ。

重力理論  Gravitation-古典力学から相対性理論まで、時空の幾何学から宇宙の構造へ



パートVIII 重力波
 35章 重力波の伝播
 36章 重力波の生成
 37章 重力波の探知


余談:アインシュタインの肉声はこのページで聞くことができる。

正座してアインシュタインの声を聞いてみよう
http://www.gizmodo.jp/2013/11/post_13507.html


関連ブログ:

科学ブログ仲間の「にわとりおかんさん」も、さっそく楽しい記事を投稿されている。こちらも合わせてお読みください。

物理学の悲願! 重力波の観測!!
http://niwatoriokan.blog97.fc2.com/blog-entry-3144.html


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日時計を購入!

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アンティーク風で台付きの日時計がヤフオクに出品されていたので、迷った挙句に入札期限ぎりぎりで購入した。

僕にとっては宝物なのだが、理数系マインドを全く持っていない家族(特に母親)にとってはガラクタ同然の邪魔物なのだ。迷っていたのはそのようなわけである。

高さ80cm、円盤の直径は37cm。こういう青銅色のが前から欲しかったので、たびたびネットオークションで検索していた。青銅色ではあるがアルミ製である。実用になるかどうかよりも、家のベランダに置くインテリア(屋外なのでエクステリアか)としてぴったりだ。

幸い僕のほかに入札した人はいなかった。世の中広いし、こういうのが大好きな人っていそうなものだけど。。。

届いた日時計を組み立てて設置したのが記事トップの写真。2002年に実家を新築するとき、天体観測したりバーベキューしたりするようになるかもしれないから、ベランダの半分は広くして、屋根をつけていなかった。

文字盤に刻まれた時刻の配置も本物っぽい。いちばん外側の細かい目盛は15分刻みだ。インチキ製品だと時刻目盛が等間隔にふられてしまっている品もある。(写真はクリックで拡大するようにしておいた。)




ノモス(三角板)の角度をiPhoneで見つけた角度測定アプリで計ってみると35度。東京の緯度に一致していることを確認。ノモスの先がちょうど天の北極を指すように日時計を設置する。




円盤上には月の名前と数字が書かれている。これは読み取った時刻に対して分の単位で補正をするためのもの。つまり「均時差」の補正だ。時刻の数字はせっかくローマ数字で書かれているのに月の名前は英語表記。ラテン語表記だったらカッコいいのにと少しだけ思った。



たとえばFEB(2月)の欄のDAYSには「3 14 27」、MINSには「10 10 6」、その下には「ADD MINUTES」と書いてある。ノモスを真北に向けて日時計を設置し、2月14日のときはノモスの影が指す時刻に10分を足すと正しい時刻が求められることになる。

この補正は「均時差(Equation of time)」というもので、年間を通じてこのグラフの黄緑色の曲線のように最大±15分の範囲で変化する。(CASIO計算サイトで均時差を計算



正しい時刻(平均太陽時)は次の計算式で求められる。

平均太陽時 = 視太陽時(真太陽時)- 均時差


均時差は次の2つの理由で生じる。この2つの影響を足すと均時差のグラフが得られる。

1)地軸が約23.45度傾いているため。(この影響は上のグラフの青線で表示。)
2)地球の公転速度が一定でないため。(この影響は上のグラフの赤線で表示。)


1)地軸が約23.45度傾いているため。(この影響は上のグラフの青線で表示。)

太陽をまわる地球の公転面に対する地球の自転軸(地軸)の傾きが垂直でなく、公転面の法線に対して約23.45度傾いている。



地球の赤道を天球に投影したものを「天の赤道」と呼び、地球から見た太陽の位置を天球上に投影し、その軌跡のことを「黄道」と呼ぶ。地軸が約23.45度傾いているので、天の赤道と黄道は同じ角度だけ傾いている。(黄道傾斜角)



そのために時計の進みに利用する「平均太陽」と実際の太陽の進み、つまり「真太陽」の天球上の位置は1年を通じてこのようにずれる。横方向(経度方向)のずれが時刻のずれとしてあらわれてくる。




2)地球の公転速度が一定でないため。(この影響は上のグラフの赤線で表示。)

地球はケプラーの法則に従う楕円形の公転運動をしている。



そして一定時間に地球と太陽を結ぶ直線が動いてできる領域の面積は等しい。(ケプラーの第2法則)



つまり太陽に近いところでは角速度が大きく、太陽から遠いところでは角速度が小さくなる。また地球の自転の角速度はいつも一定だ。



公転と自転の両方の効果が足されることで地球から見た太陽の動きは年間を通じて変化する。平均速度に対して遅くなったり速くなったりするのだ。


本来楕円を描いている地球の軌道だが、私たちが時計に使っている平均太陽時を地球の円軌道であらわし、均時差を使って地球の軌道を大げさに描くと次のようになる。上に掲載した直交座標で描いた均時差のグラフを極座標表示にしたものともいえる。これが平均太陽時と真太陽寺の違いをあらわし、均時差が0の日が1年に4回あることがわかる。(点線と実線が交わる4つの点)




ところで小学校の理科で学ぶように、地上から見た太陽の日周運動は季節によってこのように違っている。



1日の太陽の高度の変化も季節によってこんなに違う。




太陽は毎日正午に南中するわけではない。それは均時差の2つの要因によって、見かけの太陽の進行に進みや遅れがでてくるからだ。(CASIO計算サイトで南中時刻を計算

そのために毎日同じ時刻に太陽の位置を記録すると、その軌跡は大きな「8の字」を描く。この8の字曲線は「アナレンマ」と呼ばれている。これを見ると均時差で時刻の補正が必要なことが一目瞭然だ。




均時差の補正計算(つまりアナレンマ)だけでなく大気差まで補正し秒単位の精度を誇る前代未聞の超高精度多機能大型日時計がある。上原秀夫氏が開発したもので「天文精密日時計」として知られている。

多摩六都科学館(東京都西東京市)に設置された天文精密日時計(写真クリックで拡大)



目盛り盤はこのようになっている。



そしてこの日時計のミニチュア版は「組立 精密日時計」として市販されているのだ。


そして次は3Dプリンターで作ったデジタル日時計だ。日時計ではないが、先日は「書き時計」が話題になったがこのデジタル日時計もすごいと思う。詳細は以下のホームページでわかるが、自分で作ってみたい人のために3Dプリンター用の「デザイン・ファイル」がダウンロードできるようになっている。

3D-Printed Sundial Engineered to Display Time like a Digital Clock
http://www.mymodernmet.com/profiles/blogs/mojoptix-digital-sundial






さて、せっかく手に入れた日時計なので実際に使って正しい時刻が得られるか調べてみた。写真はクリックで拡大する。

僕の日時計は自由に回せるのだから、わざわざ向きを真北に合わせて時刻を読み取った後で均時差補正しなくても、最初から時計に合わせて日時計をおけばよいだろう。均時差のことをこれだけ詳しく解説してきたのに、安直に済ませてしまうところが僕らしい。


午前10時: 実験開始。台を回して10時ぴったりに位置を合わせた。


午前11時: よしよし!影はぴったり11時を指している。


正午: 12時だ。電波ソーラーの腕時計を置いてみた。ついでに充電もできる。どちらもソーラー時計なのがミソ。



日時計の影を読み取るタイミングを腕時計で確認し、日時計の影が指している時刻を腕時計で確認する。1時間ごとこれを繰り返しているうちに自分が何をしているのか混乱してきた。なんだかソロカルのようなことになっている。

ソロカルは電卓とそろばんを組み合わせた清貧のことで、電卓が大衆化し、そろばんに代替する中、そろばんに慣れていた人は足し算はそろばんで、かけ算を電卓で計算したりした。また、電卓が正しい計算をしているか自信がないため、そろばんで確かめたりもした。ソロカルは、 こうしたそろばんから電卓への変わり目に生まれた電卓である。元気だった頃のシャープ(株)の製品だけに「目のつけどころがシャープな製品」のうちのひとつだ。


午後1時: 曇ってしまった。「心の眼」で見ると影が見えてくる。


午後2時: 天気が回復した。正しく2時を指している。


午後3時: 太陽が少し雲の中に入りつつある。ぎりぎり撮影できた。影も3時を指している。



この後は完全に曇ってしまったのだが、もし晴れていたとしても今回の設置場所だと3時半以降は日時計が日影に入ってしまうので撮影はどのみちできなかった。

とりあえず、まっとうに使える日時計であることが確認できたのがよかった。


購入を考えはじめた方のためにリンクを作っておこう。据え置きタイプだけでなく腕時計タイプの物もある。

日時計: Amazonで検索する ヤフオクで検索する

腕時計タイプ: Amazonで検索する ヤフオクで検索する


関連ページ:

日時計(英語版ウィキペディアの翻訳)
http://asait.world.coocan.jp/kuiper_belt/sundial/sundial.htm

日時計(CITIZENのサイト)
http://citizen.jp/pr/hidokei.html

小原式日時計
http://www17.plala.or.jp/hidokei-ohara/

カルテクの日時計:人が立つと自分の影で時刻が分かるようになっている。(卒業生の寄贈)
http://web.gps.caltech.edu/~asimow/AlumniAssociationSundial.htm


関連記事:

「太陽光線ネタ」の記事は、これまでに2つ書いている。

東の窓から西日が。。。
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f97ca7040ce6512eed1cc6d3896eaa6c

ソーラー充電器のテスト
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0e5fbaf30b6a9505887a87d185e52211

また「時刻の測定ネタ」の記事も書いている。

江戸で物理学を説く: ニュートン力学 (其之弐)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c3ce5ada2f0d2b520c3bb488ddee2c09


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番組告知:サイエンスZERO 世紀の観測!重力波?~アインシュタイン最後の宿題~

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先週金曜の大ニュースを受けて、NHKサイエンスZEROで番組が急遽収録された。放送は明日の夜。

多くの方にご覧いただきたいので、ツイートだけでなくブログでも告知しておこう。お見逃しなく!

サイエンスZERO
世紀の観測!重力波?~アインシュタイン最後の宿題~
2016年2月21日 放送
http://www.nhk.or.jp/zero/contents/dsp535.html

2月21日(日) [Eテレ] 夜11時30分~
再放送2月27日(土) [Eテレ] 昼0時30分~


関連記事:

重力波の直接観測に成功!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a8439e8e4d81d7873422737d7bd1640d


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ブラックホール・膨張宇宙・重力波 一般相対性理論の100年と展開:真貝寿明

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ブラックホール・膨張宇宙・重力波 一般相対性理論の100年と展開:真貝寿明(光文社新書)」(Kindle版

内容紹介:



【今日の3つの主流研究テーマを通して、現代物理学の最先端に触れる】

2015年は、アルベルト・アインシュタインが一般相対性理論を創りあげてから、ちょうど100年にあたる。
一般相対性理論は20世紀の物理学を一変させたが、この理論が描く世界は、アインシュタイン自身の想像を超えるほど奇妙なものだった。本書では、誕生から今日までの100年の間に、一般相対性理論がどのように理解されてきたのかを俯瞰すると同時に、〈ブラックホール〉〈膨張宇宙〉〈重力波〉という、アインシュタイン自身が一度は拒否反応を示したものの、現在では研究の主流となっている3つのトピックを概観。現代物理学の知見は私たちに何をもたらすのか。最新の研究成果を交えて探る。
2015年9月刊行、340ページ

著者について:
真貝寿明(しんかいひさあき): ウィキペディアの記事
1966年東京都生まれ。大阪工業大学情報科学部教授。早稲田大学理工学部物理学科卒業。同大学院博士課程修了。博士(理学)。早稲田大学助手、ワシントン大学(米国セントルイス)博士研究員、ペンシルバニア州立大学客員研究員(日本学術振興会海外特別研究員)、理化学研究所基礎科学特別研究員などを経て現職。
著書に『徹底攻略 微分積分』『徹底攻略 常微分方程式』『徹底攻略 確率統計』(以上、共立出版)、『図解雑学 タイムマシンと時空の科学』(ナツメ社)、『日常の「なぜ」に答える物理学』(森北出版)などがある。

真貝先生の著書: Amazonで検索
真貝先生のHP: http://www.oit.ac.jp/is/~shinkai/


理数系書籍のレビュー記事は本書で296冊目。

重力波の直接観測に成功!」という記事でおススメ本として紹介した高校生・一般向けの科学教養書。お勧めしたのだから読んで紹介記事を書いておかねば、というわけだ。

著者の真貝先生は天体物理学者。特に一般相対性理論の描く時空のダイナミクスの研究、その数値シミュレーションを研究されている。ブラックホールの合体によって生じた重力波のコンピュータ・シミュレーションによる波形が先週の発表でも公開されたが、まさにこの研究に取り組んでいらっしゃる先生なのだ。

2つのブラックホール(球形の部分)が合体し、重力波が発生する様子のイメージをコンピュータ・シミュレーションで再現したもの。(NASA提供)



通読したところ、先週発表された事柄の背景を知るにはまさにうってつけの本であることを確認できた。本書はアインシュタインと相対性理論、特に一般相対性理論を主軸に置いて解説を進めている。章立てはこのとおり。

第1章:アインシュタインとその時代
第2章:特殊相対性理論―光速に近づくときの物理法則
第3章:一般相対性理論――強い重力がはたらく世界の物理法則
第4章:ブラックホールで見る100年
第5章:宇宙論で見る100年
第6章:重力波で見る100年
あとがき


天文学や物理学の科学教養書はさんざん読んでいるので、同じような解説をまた読むことになるのかもしれないと思いつつ読み進めた。第1章ではアインシュタインの伝記であり、第2章で奇蹟の年と呼ばれている1905年に発表された3つの事柄、すなわち光量子説、分子運動論、特殊相対論までが急ぎ足で解説され、ここまでが本文330ページのうち66ページまで。

そして第3章から重力波の予言をもたらした一般相対性理論の解説が始まり、102ページまでおよそ40ページがこれに充てられている。

ここまでの内容はどこかで読んだことのある話ばかりだ。解説は無駄なく手際よくという印象。相対性理論が初めてという方にとっては基礎知識を得るという意味でちょうどよい。深すぎず、浅すぎず、重要な点が歴史の流れに沿って展開されるのだ。

第4章以降は「~で見る100年」というタイトルで、一般相対性理論が深くかかわっているブラックホール、宇宙論、重力波の研究を歴史をたどりながら紹介する。僕にとっては第4章のブラックホール、第6章の重力波がいちばん面白く有益だった。今回の重力波初観測は2つのブラックホールの合体によるものであるから、この2つの章が重要なのはもちろんである。

第4章のブラックホールだけで110ページほどが充てられている。この章がなぜ面白いかというと一般的な科学教養書で紹介される以上のことが載っているからだ。

1つは科学者がブラックホールという着想を得るまでに、星の一生を量子力学を駆使して研究する中で白色矮星、中性子星、クェーサーの予言や観測をたどったということ、そしてアインシュタイン方程式によるブラックホールの厳密解の研究について。量子力学の発展史も必要最小限のことがらが解説される。

そして2つめはごく初期に提唱された「シュヴァルツシルト解」だけでなく、その後、定常的に回転する軸対称なブラックホールを表現している「カー解」まで紹介さていることだ。一般向けの本でここまで詳しいものは初めてだと思う。

あとブラックホールの特異点、事象の地平面、情報問題(パラドックス)、ホログラフィック原理など興味の尽きない話題がもりだくさん。大栗博司先生の「重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る」にもこれらの話題はあるが、本書でまた別の角度から学べるのがうれしいところだ。

第5章の「宇宙論で見る100年」はおよそ見当がつくように、アインシュタインの宇宙項の導入、膨張する宇宙の解、宇宙膨張の発見、宇宙の構造形成、インフレーション宇宙モデル、加速膨張する宇宙など「宇宙が始まる前には何があったのか?: ローレンス・クラウス」を圧縮したような内容だ。すでに知っていることばかりなので僕にとっては復習のようなものだったが、初めての人には興味の尽きない話題だと思う。

第6章は第4章と同様に重要だ。重力波の実在性、その弱さについての解説からこの章は始まる。一般相対性理論は、あまりに現実を超越していたために、提出されてから50年ほどはほとんど研究対象とはならなかった。物理学の研究対象として復活したのは1960年代になってからなのだ。1957年に行われたチャペルヒルでの国際会議が重力波の研究再開の出発点となる。

重力波を作り出すのに必要なエネルギーがあまりにも大きいので、検出可能な重力波を人工的に発生させることは不可能だ。だから連星中性子星やブラックホールの衝突など巨大なエネルギーを放出する天体現象を観測するしか手段がない。重力波検出装置のしくみや開発の歴史が紹介される。もちろんLIGOについても詳しく解説されている。

また検出した重力波が本物であるかどうかを判断するよりどころとして重要なのが理論から予想される重力波の波形との比較作業だ。その波形はコンピュータ・シミュレーションでアインシュタイン方程式を解くことによって求められる。これがいかに困難なことであったか、どのような困難をどのように解決していったかが詳細に語られるのだ。シミュレーションは合体するブラックホールの周辺、LIGOの観測装置が置かれた2地点について行う。ここは著者の真貝先生のご専門だけあって、専門家としての強みが発揮されている箇所だ。

白色矮星、中性子星、クェーサー、ブラックホールなどの重力をアインシュタイン方程式で解くことは、もはや計算機なしには行うことができない。数値シミュレーション計算は重力波についてだけでなく、1930~40年代の機械式計算機の時代から現在に至るまで、本書では宇宙物理学でどのように活用されてきたか紹介されている。

「重力波から何がわかるか」という節がとても興味深かった。ブラックホールの合体前、合体前の波形や重力波の統計を詳しく分析することで、こんなことがわかるのか!と納得させられた。


本書の「あとがき」が書かれたのは2015年8月で、出版されたのは9月20日である。先週発表された重力波初観測の事象が観測されたのが2015年9月14日であることを考えると、すごいタイミングでできた本なのだなと驚いてしまうのだ。


さて、次は先週の発表を受けて大急ぎで収録された科学番組。ぜひご覧いただきたい。30分の番組で紹介できることは限られているので「ブラックホール・膨張宇宙・重力波 一般相対性理論の100年と展開:真貝寿明(光文社新書)」(Kindle版)もお買い求めになっておくとよいだろう。


番組告知:

サイエンスZERO
世紀の観測!重力波?~アインシュタイン最後の宿題~
2月21日(日) [Eテレ] 夜11時30分~
再放送2月27日(土) [Eテレ] 昼0時30分~
http://www.nhk.or.jp/zero/contents/dsp535.html


関連記事:

重力波の直接観測に成功!
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ブラックホール・膨張宇宙・重力波 一般相対性理論の100年と展開:真貝寿明 (光文社新書)」(Kindle版



まえがき

第1章:アインシュタインとその時代
- 特許局で働いていたアインシュタイン
- 物理学小史
- 1905年のアインシュタインの業績

第2章:特殊相対性理論―光速に近づくときの物理法則
- 鏡を持って光速で動くと、鏡に顔は映るのだろうか
- 光速が有限であることはどのようにしてわかったか
- 光速の由来をめぐる混乱
- マイケルソンとモーリーの実験「失敗」
- 彗星のごとく登場したアインシュタイン
- 特殊相対性理論から導かれること
- E=mc^2: 最も有名な物理公式
- 核融合と核分裂

第3章:一般相対性理論―強い重力がはたらく世界の物理法則
- 重力加速度の正体
- アインシュタイン方程式
- アインシュタインとヒルベルト
- 皆既日食による重力レンズ効果の確認
- アインシュタイン伝説の始まり
- ノーベル賞の贈賞理由は相対性理論ではなかった

第4章:ブラックホールで見る100年
- ブラックホール解の発見
- 量子論の誕生まで
- 星の大きさは何で決まるか
- 白色矮星の謎
- チャンドラセカールの闘い
- 中性子の発見と中性子星のアイデア
- ブラックホールへの拒否反応
- 「ブラックホール」の命名
- ブラックホール候補天体の発見
- 回転しているブラックホール解の発見
- ブラックホール研究の黄金時代
- 裸の特異点
- ブラックホール熱力学・蒸発理論の衝撃
- ホログラフィック原理の登場
- 高次元ブラックホール
- ブラックホールを直接見ることはできるか

第5章:宇宙論で見る100年
- 一般相対性理論誕生前の宇宙論
- 宇宙原理
- 宇宙項の導入―宇宙は未来永劫不変なもの
- 膨張する宇宙の解
- 宇宙膨張の発見
- 宇宙の構造形成
- インフレーション宇宙モデル
- 加速膨張する宇宙

第6章:重力波で見る100年
- 重力波
- 重力波は物理的な実在か
- 重力波の弱さ
- チャペルヒルでの国際会議
- 重力波検出装置の開発
- パルサーの発見
- 連星中性子星の発見
- レーザー干渉計計画
- 各国のレーザー干渉計計画
- 重力波の予想される波形
- コンピュータシミュレーションの難しさ
- 重力波から何がわかるか
- 第一世代の重力波干渉計の成果
- 重力波観測の将来計画

あとがき
参考文献
主な登場人物索引

超弦理論への最短ルート: 40冊の物理学、数学書籍

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背表紙の配色パターンから、これが物理・数学書の本棚だとわかる人はマニアだ

2012年の暮れに書いた「超弦理論に至る100冊の物理学、数学書籍」は、今でも僕のブログでアクセス数を維持している記事のひとつだ。読者はこのような「まとめ系」の記事を望んでいるのだなと(ブログ内の)人気記事ランキングを見るたびに思う。




でも「超弦理論に至る100冊の物理学、数学書籍」では、物理や数学の世界をじっくりゆっくりと味わい、モチベーションを維持するためのワクワク感を大切にする方針で本を選んでいる。

本の一覧を見て「これでは時間がかかり過ぎる。もっと効率的にできないいの?」、「人生は短いから、そんな悠長なことは言ってられないよね。」と思っている方がいるのも事実。今回はそのような読者のために駆け足で学べる最短ルートを紹介することにした。

この観点で本を選ぶといきおい中身は濃くなってしまう。登山に例えれば急な上り坂の連続だ。物理学専攻のみなさんにはお馴染みの名著ばかり。とね日記流の理論ミニマムというわけだ。

この厳しい山道、絶壁を登っていけるのはごく一部の優秀な人に限られる。高校時代の物理、数学のテストはいつも満点、有名国公立大学の理工系学部にトップクラスで入学するような学生のレベルだ。(残念ながら僕はそのレベルの学生ではなかったし、今でもこの要件を満たせているか自信がない。)

本を選ぶにあたっては、日本語の本であること、手に入りやすい本(つまりなるべく絶版になっていないこと)の2点を心がけた。だから「ランダウ=リフシッツ理論物理学教程」は最初の2巻だけである。


1) 物理学書籍

古典力学(解析力学)
1:「力学 (増訂第3版) ランダウ=リフシッツ理論物理学教程

オプション:ランダウ=リフシッツ理論物理学教程が難し過ぎる方は、次の2冊で代用しよう。
古典力学〈上〉ゴールドスタイン
古典力学〈下〉ゴールドスタイン

特殊相対論、電磁気学、一般相対論
2:「場の古典論―電気力学,特殊および一般相対性理論 (ランダウ=リフシッツ理論物理学教程)

オプション:ランダウ=リフシッツ理論物理学教程が難し過ぎる方は、次の3冊で代用しよう。
理論電磁気学:砂川重信
第2版 シュッツ相対論入門Ⅰ 特殊相対論
第2版 シュッツ相対論入門Ⅱ 一般相対論

熱力学・統計力学
3:「大学演習 熱学・統計力学:久保亮五

オプション:久保先生の本が重すぎるという方は、田崎先生の3冊で学ぶという手段もある。
熱力学―現代的な視点から(田崎 晴明著)」(紹介記事
統計力学〈1〉(田崎 晴明著)」(紹介記事
統計力学〈2〉(田崎 晴明著)」(紹介記事

量子力学:入門レベルと中級レベルの教科書をお読みになるとよい。
4:「量子力学(I):小出昭一郎」(紹介記事
5:「量子力学(II):小出昭一郎」(紹介記事
6:「現代の量子力学(上) 第2版:J.J. サクライ, J. ナポリターノ」(紹介記事
7:「現代の量子力学(下) 第2版:J.J. サクライ, J. ナポリターノ」(紹介記事

場の量子論(相対論的量子力学、経路積分、くりこみ理論、量子電磁力学、素粒子の標準理論、対称性の自発的破れ):できれば英語版をお読みになったほうがよい。
8:「ワインバーグ場の量子論(1巻):素粒子と量子場」(紹介記事
9:「ワインバーグ場の量子論(2巻):量子場の理論形式」(紹介記事
10:「ワインバーグ場の量子論(3巻):非可換ゲージ理論」(紹介記事
11:「ワインバーグ場の量子論(4巻):量子論の現代的諸相」(紹介記事

オプション:ワインバーグ博士の本が重すぎる方には、次のような選択肢もある。
場の量子論〈第1巻〉量子電磁力学:F.マンドル、G.ショー」(紹介記事
場の量子論〈第2巻〉素粒子の相互作用:F.マンドル、G.ショー」(紹介記事
ゲージ場の量子論〈1〉:九後汰一郎
ゲージ場の量子論〈2〉:九後汰一郎

超対称性理論:できれば英語版をお読みになったほうがよい。
12:「ワインバーグ場の量子論(5巻)超対称性:構成と超対称標準模型
13:「ワインバーグ場の量子論(6巻)超対称性:非摂動論的効果と拡張

超弦理論:
14:「超弦理論・ブレイン・M理論
15:「ストリング理論 第1巻:ジョセフ・ポルチンスキー
16:「ストリング理論 第2巻:ジョセフ・ポルチンスキー


2) 数学書籍

関数解析までの数学は「スミルノフ高等数学教程」で学ぶ。物理学を学ぶための数学書という意味ではこのシリーズがよいだろう。全12巻セットを最近買ったので、近いうちに紹介記事を書くつもりだ。

函数関係と極限の理論 導函数の概念とその応用 積分の概念とその応用
17:「スミルノフ高等数学教程 1―I巻[第一分冊]―

級数およびその近似計算への応用 多変数の函数 複素数 高等代数学の初歩と函数の積分
18:「スミルノフ高等数学教程 2―I巻[第二分冊]―

常微分方程式 線型微分方程式と微分方程式論補遺 重積分と線積分、広義の積分とパラメーターを含む積分
19:「スミルノフ高等数学教程 3―II巻[第一分冊]―

ベクトル解析と場の理論 微分幾何学の基礎 フーリエ級数 数理物理学の偏微分方程式
20:「スミルノフ高等数学教程4 2巻

行列式と方程式系の解法 線型変換と二次形式 群論の基礎と群の線型表現 (付録)行列の標準形への簡約
21:「スミルノフ高等数学教程 5―III巻一部―

函数論の基礎 等角写像と二次元の場 留数の理論の応用 整函数と有理型函数
22:「スミルノフ高等数学教程 6―III巻二部[第一分冊]―

多変数の函数と行列の函数 線型微分方程式 数理物理学における特殊函数
23:「スミルノフ高等数学教程 7―III巻二部[第二分冊]―

積分方程式 変分法
24:「スミルノフ高等数学教程 8―IV巻[第一分冊]―

偏微分方程式の一般的理論
25:「スミルノフ高等数学教程 9―IV巻[第二分冊]―

境界値問題
26:「スミルノフ高等数学教程 10―IV巻[第三分冊]―

スティルチェス積分 集合函数とルベーグ積分 集合函数 絶対連続性 一般の積分の概念
27:「スミルノフ高等数学教程 11―V巻[第一分冊]―

距離空間とノルム空間 ヒルベルト空間
28:「スミルノフ高等数学教程 12―V巻[第二分冊]―

スミルノフ高等数学教程でカバーできていない分野は以下のような本で学ぶ。

多様体:
29:「多様体入門: 松島与三著

リー群論:
30:「連続群論入門 (新数学シリーズ18):山内恭彦、杉浦光夫」(紹介記事

群の表現論:
31:「群と表現:吉川圭二」(紹介記事
32:「物理学におけるリー代数―アイソスピンから統一理論へ:ジョージァイ

トポロジー、微分幾何、複素幾何:
33:「幾何学II ホモロジー入門:坪井俊
34:「幾何学III 微分形式:坪井俊」(紹介記事
35:「接続の微分幾何とゲージ理論:小林昭七
36:「ゲージ理論とトポロジー:深谷賢治」(シュプリンガー版
37:「理論物理学のための幾何学とトポロジー〈1〉:中原幹夫」(紹介記事
38:「理論物理学のための幾何学とトポロジー〈2〉:中原幹夫」(紹介記事
39:「共形場理論:江口徹,菅原祐二
40:「複素幾何:小林昭七


関連記事:

超弦理論に至る100冊の物理学、数学書籍
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d37fe65a84df23cca2af7ecebb83cfc6

高校生にお勧めする30冊の物理学、数学書籍
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f79ac08392742c60193081800ea718e7

大学で学ぶ数学とは(概要編)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/07137c47d16d95ddde8f5c4cb6f37d55 target="_blank"

大学で学ぶ数学とは(実用数学編)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/975ad3faa2f6fd558b48c76513466945

200冊の理数系書籍を読んで得られたこと
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1b92c958e54960246be16b564c6b8c8e


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磁力と重力の発見〈2〉ルネサンス:山本義隆

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磁力と重力の発見〈2〉ルネサンス:山本義隆

内容紹介:
第2巻では、従来の力学史・電磁気学史でほとんど無視されてきたといっていいルネサンス期を探る。本書は技術者たちの技術にたいする実験的・合理的アプローチと、俗語による科学書執筆の意味を重視しつつ、思想の枠組としての魔術がはたした役割に最大の注目を払う。脱神秘化する魔術と理論化される技術。清新の気にみちた時代に、やがてふたつの流れは合流し、後期ルネサンスの魔術思想の変質―実験魔術―をへて、新しい科学の思想と方法を産み出すのである。
2003年刊行、328ページ。

著者について:
山本義隆(やまもとよしたか)
1941年大阪生まれ。大阪府出身。大阪市立船場中学校、大阪府立大手前高等学校卒業。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。 東京大学大学院博士課程中退。
1960年代、学生運動が盛んだったころに東大全共闘議長を務める。1969年の安田講堂事件前に警察の指名手配を受け地下に潜伏するが、同年9月の日比谷での全国全共闘連合結成大会の会場で警察当局に逮捕された。日大全共闘議長の秋田明大とともに、全共闘を象徴する存在であった。
学生時代より秀才でならし、大学では物理学科に進んで素粒子論を専攻した。大学院在学中には、京都大学の湯川秀樹研究室に国内留学しており、物理学者としての将来を嘱望されていたが、学生運動の後に大学を去り、大学での研究生活に戻ることはなかった。
その後は予備校教師に転じ、駿台予備学校では「東大物理」などのクラスに出講している。一方で科学史を研究しており、当初エルンスト・カッシーラーの優れた翻訳で知られたが、後に熱学・熱力学や力学など物理学を中心とした自然思想史の研究に従事し今日に至っている。遠隔力概念の発展史についての研究をまとめた『磁力と重力の発見』全3巻は、第1回パピルス賞、第57回毎日出版文化賞、第30回大佛次郎賞を受賞して読書界の話題となった。

山本義隆: ウィキペディアの記事 Amazonで著書を検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で297冊目。

第1巻を読み終えてからひと月以上かかっていることからおわかりのように、第2巻を読むのはとても難儀だった。近代科学の夜明けはまだまだという感じで、じれったい思いを重ねながら読み進めるのがルネサンス期の前科学史である。

章立ては次のとおりである。ヨーロッパ史だと西暦1300年頃から西暦1500年代半ばまで。

第9章:ニコラウス・クザーヌスと磁力の量化
第10章:古代の発見と前期ルネサンスの魔術
第11章:大航海時代と偏角の発見
第12章:ロバート・ノーマンと『新しい引力』
第13章:鉱業の発展と磁力の特異性
第14章:パラケルススと磁気治療
第15章:後期ルネサンスの魔術思想とその変貌
第16章:デッラ・ポルタの磁力研究


初期ルネサンス(1300年代、1400年代)は古代の発見、自然魔術の復活の時代である。魔術は呪術や悪魔祓いなどのような魔術と、自然現象を神の御業が隠れた力としてあらわれるのだと理解する「自然魔術」に分けられていた。

神学、哲学、占星術、錬金術、魔術についての古代文書の意義が再発見され、1470年頃にギリシャ語の写本からラテン語に訳され出版された。(参考:マルシリオ・フィチーノ(1433年-1499)による『ヘルメス文書』の翻訳)それは中世後期からルネサンスにかけてヨーロッパではギリシャ・ローマの古典古代は自分の時代より優れていて、さらにさかのぼって大洪水以前の預言者たちは神により近いいっそう優れた人間だと信じられていたのである。であるからそれらの文書にいかに奇妙なことが書かれていてもそれは「言葉のベールに包まれた神秘秘儀が隠されたものだから」として信じられていた。

古代人たちが書いたものが必ずしも正しくないことにヨーロッパ人が気が付きはじめたのは、ヴァスコ・ダ・ガマやコロンブス以降、1500年代の大航海時代になってからである。1543年に『天球の回転について』を書きのこして世を去ったコペルニクスにしても、青年時代にパドヴァやフェラーラで学んだルネサンス人のひとりとして、地動説を新しい理論としてではなく、古代フィロラオス説のリバイバルとして語ったのだ。コペルニクスであっても、真理とは再発見されるべきものであった。この一例からも当時の思想風土がうかがいしれるだろう。

1400年代の魔術は中世の妖術のようなものとは異なり、それなりに学問的に洗練されたものに変貌していった。中世的で土俗的な「民間の魔術」とピコやフィチーノによって復活させられた「知的魔術」=「自然魔術」に分かれていったのだ。

1460年以降、イタリアで書籍印刷・出版業が急速に発展したことが一連の翻訳・著述活動の後押しをした。そしてそれを購読する都市市民の存在こそが、1400年代後半以降のイタリアにおける魔術思想普及の物質的・社会的基盤となったのである。1500年代には印刷技術・製紙技術が向上し、ヨーロッパ全土で俗語(自国語)での出版物が劇的に増えたのでこの科学・技術の知識が広まっていった。

1400年代の魔術と1500年代の魔術は質的にまたは段階的に異なっている。1400年代の魔術は新プラトン主義とヘルメス主義の影響を強く受けている、すなわち古代思想の復活である。それは宗教的で思弁的であった。しかし1500年代の魔術はロジャー・ベーコンの影響から発し、アリストテレスの影響も大きく受けている。それは経験的で数学的、かつ実践的な性格を有し、さらに職人たちによって担われてきた技術と結びつく傾向を示している。そしてここから実験的方法と数学的推論にもとづく、技術的応用を目的とした近代科学が生まれる土壌となっていった。


ヨーロッパでは1200年頃までには磁化した鉄針が北を指すことが知られていたが、1400年代半ばから1600年代半ばまで続いた「大航海時代」には羅針儀が重要な道具として使われた。航海士や船舶関連の技術者に向けた技術書、数学書も出版されるようになり、磁針が真北を指さないこと、すなわち偏角や磁針が水平ではなく上下に傾くこと、すなわち伏角が経験的事実として知られるようになった。(参考:地磁気(偏角、伏角)

そして偏角や伏角の発見は磁針が北を指す原因が、北極星や天の北極から引かれるからではなく、地球自身にその原因があることが理解されるきっかけとなったのである。ただし、当時の人は地球の北極圏に「磁石の山」があって磁針を引き付けているのだと考えていたわけであるが。1500年代には海洋を航海しながら地球上のあらゆる位置で偏角を測定し、磁極がどこにあるか(磁石の山がどこにあるか)を特定する試みが行われていた。

経験や観測を重視することがそれだけで近代科学に直結したわけではない。それは以下年代順に挙げた人物の業績を読むとおわかりになるだろう。


ニコラウス・クザーヌス(1401-1464年):ドイツの哲学者・神学者・数学者・枢機卿であり、中世の博学者

後世のライプニッツの微積分学にも影響を与えたのがクザーヌスである。そのことは「微分積分学の史的展開 ライプニッツから高木貞治まで:高瀬正仁」でも解説されていた。クザーヌスは著書『知ある無知(1440)』の中で次の2つのことを述べている。

- 無限なものの有限なものに対する比は存在しない。それゆえ有限の思考過程の積み重ねによってしか物事を知りえない私たち人間の知性は、無限なる神・絶対的な真理には到達しえない。真理の厳密性はわれわれの無知の闇のなかに、把握されえない仕方で光っている。

- 地球を宇宙の固定した不動の中心とすることは不可能である。それゆえ、中心でありえない地球が、どんな運動にも欠けているということはありえない。地球が世界の中心ではないように諸恒星の球は世界の周ではない。これらのことから、地球が運動することは明白である。

- 事物の認識における「数の重要性」の主張:数がなくなると事物の区別、秩序、比、調和、さらに存在するものどもの多性自体がなくなってしまう。神は物を数と重さと尺度にしたがって創造した。悪魔のなす悪しき業は重さによっても尺度によっても数によっても秩序づけられない。

また著書『計量実験(1450)』においても事物の認識における「数の重要性」を主張している。

- 物事の不思議はその重さに相違によって正しく解決され、多くの事柄はより正確な解釈によって確かめられるであろうと考える。

- 磁力の定量的な測定方法の提案:天秤の一方に鉄を、もう一方に磁石を置いて釣り合わせてから行う磁力の測定を提案している。

コペルニクスやガリレイより100年も昔にこれらの主張、提案をしたクザーヌスであっても、それは思念的、思弁的なものであったから近代物理学の先駆者として見ることはできない。彼をもってしてもダイヤモンドが磁力を破壊するという古代以来の伝承を無批判に受け入れている。また鉄が磁石に引き付けられる理由についても「それは鉄固有の本性の力である」と述べているにすぎない。


ピコ・デラ・ミランドラ(1463-1494):イタリア・ルネサンス期の哲学者

著作『人間の尊厳について(1486)』のなかで魔術を全自然の認識を獲得するための「自然魔術」と悪魔の業と権威にもとづいている呪われるべき「邪悪な魔術」に分類したうえで、自然魔術について次のように語っている。

自然魔術はギリシャ人がより的確に「共感」と言っている「宇宙の共感」をその内部に深く入って探求し、もろもろの自然の相互認識を洞察して所有し、おのおのの事物に備わっている生来の呪力、神の秘密の蔵に隠れているもろもろの奇蹟をあたかもみずからが工匠であるかのように公衆に示すものである。


マルシリオ・フィチーノ(1433年-1499):イタリア・ルネサンス期の人文主義者、哲学者、神学者。メディチ家の保護を受け、プラトンなどギリシア語文献の著作をラテン語に翻訳した。プラトン・アカデミーの中心人物。

ヘルメス文書』の翻訳を1463年に完成し、1471年に出版。その後『プラトン著作集』、『プラトン神学』、『生について』を出版。そして次のように書いている。

魔術には二種類あり、一方は特殊な宗教的祭儀によってみずからをダイモン(悪魔)と一体化させ、ダイモンの助けにより怪異を企むものである。もう一方の魔術は自然的事物を驚くべき仕方で形成されるように、頃合いを見計らって自然的な原因に服させる自然魔術である。自然魔術には占星術も含まれていた。磁石が鉄を引き付けるのも自然魔術によるものであると考えた。


アグリッパ・フォン・ネッテスハイム(1486年-1535):ドイツの魔術師、人文主義者、神学者、法律家、軍人、医師

1400年代後半に復活した魔術思想を1500年以降になって集大成したのがアグリッパである。キリスト教圏第一の魔術師として1510年に書き上げたのが『オカルト哲学』の3部作でその冒頭で次のように書いている。

三層の世界--元素的世界、天界的世界、叡智的世界--が存在し、すべて下位の世界は上位の世界によって支配され、上位のものの影響を受けている。その始源にある万物の創造主は、天使、天空、星辰、元素、動物、植物、金属、石塊を介して、その全能の力をわれわれのもとへと伝える。すべての物質的物体の元素として4元素(火・土・水・空気)が存在し、第5元素としての「宇宙の精気」を提唱した。


ロバート・ノーマン:16世紀のイギリスの航海士、羅針盤の製作者

「地磁気の伏角」はロバート・ノーマンにより発見され、著書『新しい引力(1581)』で発表された。ノーマンは地球磁場が磁針におよぼす力は一方向への引力ではなく、その合力がゼロになる「偶力」によるものに過ぎないと指摘した。これは磁針(磁気双極子)がほぼ均一な磁場の中で受ける力の性質についての正しい理解を最初に与えたものである。またノーマンは磁石のまわりに広がる「力の作用圏」が球形であることを提唱した。これは力についての近代的な見方の萌芽といえよう。


ロバート・レコード(1512–1558):イギリス人(ウェールズ人)の物理学者、数学者

イギリスで最初にコペルニクス仮説に言及した人物。技術者や職人向けに『技芸の基礎』という英語の初等数学教本を書き、1542年から1699年までに何版も重ねた。数学の等号(=)記号の発明者でもある。


ジョン・ディー(1527-1608 or 1609):イギリス・ロンドン生まれの錬金術師、占星術師、数学者

エリザベス女王のブレーンとしてイギリスの帝国主義政策の熱烈な推進論者。航海術の改良に貢献し、航海関係者や植民地主義者のアドバイザー、科学啓蒙家として活躍した。

また彼は著書『箴言による入門(1558)』によって占星術を数学的に基礎づけ、宇宙とその内部の作用を厳密に数学的にとらえようとした。天体がそれぞれの時刻に地上の人間や物体に及ぼす影響が定量的に計算できると考えていた。これがディーの自然魔術である。


ビリングッチョ(1480-1539):イタリアの冶金技術者。

シエナに生まれ、ローマで没した鉱物学者である。ドイツを旅行した時に採鉱冶金の知識を得て、1538年に教皇パウロ3世の命を受け、大砲の鋳造と火薬の製造に従事した。彼は錬金術のそれまでの誤った見解を否定し、実験の結果に基づいて考察した最初の真の化学者の一人といわれている。著書『ピロテクニア(1540)』は、16世紀イタリアにおける火工術ハンドブックであり、冶金学の最も初期の古典で当時の知識と技術を包括している。こうした本書は当時のヨーロッパに於いて、フランス語や英語に翻訳されて広く利用されていた。

『ピロテクニア(1540)』には鉄だけが磁石に引き寄せられるのではなく、磁石も鉄に引き寄せされることを観測したことが書かれている。これによってアリストテレスが磁石に与えた「みずからは動くことなく最初の動かすもの」という地位が初めてはく奪されることになった。しかしこの本には山羊の乳やニンニクの汁は磁力を消すということも書かれている。


ゲオルギウス・アグリコラ(1494-1555):ドイツの鉱山学者、鉱物学者、人文学者、医者。「鉱山学の父」として知られる。

『デ・レ・メタリカ(1556)』という全12巻におよぶ鉱山学・冶金学(やきんがく)の本を著した。その後ドイツ語版も出版された。この本は神秘的・魔術的なものはほとんどなく、物質を扱いながら錬金術とは無縁であり、記述はすべて実学的なものだった。しかしこの本の鉱物の分類の基準は感性的感覚、とくに視覚・触覚・味覚・嗅覚に基づいたもので、化学的な性質は考慮されていなかった。

アグリコラもまた磁石に関しては「ニンニクの汁を塗った磁石は鉄を引き寄せない。」と述べるなど、はなはだ無批判に風説や伝聞を受け入れていた。


パラケルスス(1493-1541):スイスのアインジーデルン出身の医師、化学者、錬金術師、神秘思想家。

医学を不毛で因習的な机上の学問から実践的で実証的な臨床の学問に転換させることに貢献した人物。死後に評価が高まる。著書『大外科科学(1536)』。鉱山や精錬所における劣悪な労働環境による肺疾患に注目し、初めて職業病の存在を認めた。医学を支える4つの柱として哲学、天文学(占星術)、錬金術、徳」を挙げている。

磁石については「磁石の中にある鉄のスピリトスがマルス(火星)の物体をおのれの方に引き寄せる。」と述べ、彼の関心はむしろ医療にとって磁石はどのような効能をもつかという実用性に向いていた。ある種の病気に対して磁石が作用すると述べている。彼が言う「ある種の病気」とは女性のおりもの全般、粘液や血液などの分泌物をともなう下痢全般ということなのだそうだ。


ピエトロ・ポンポナッツィ(1462-1524):イタリアの哲学者

ポンポナッツィの基本姿勢は二重真理説、すなわち一方でカトリック信仰の超越的な世界を信じているが、他方哲学においては教会の教義を意に介さず、学問にとっては神学的根拠は不必要だというものだった。そしてすべての魔術は自然的原因に還元されうるとし、魔術と奇蹟にたいする超越的な説明を拒否した。彼のいうところの「自然的原因」は熱・冷・乾・湿のような「あからさまな性質」と薬草の効用のような「隠れた力」に分かれていた。後者の「隠れた力」の代表例が磁力であり、その作用として「ダイヤモンドは磁石の力を妨げ、塗り付けられたニンニクもおなじ働きをする。」があると書いている。


レジナルド・スコット(1538–1599):

『妖術の暴露(1584)』を発表し、理性と常識の立場からダイモン魔術を断固として否定し、悪魔と契約した魔女がおこなった妖術なるものが愚かな迷信であることを説き、教会権力による罪無き人々に対する魔女狩りを厳しく糾弾した。しかしスコットも「野生の牛が無花果(いちじく)の木につながれたらおとなしくなる。」とか「レモラとかエケネスと呼ばれる小魚が罪にと船備を満載して帆をはらんでいる大きな船の前を通過すると船が動けなくなる。」というような「自然魔術」を認めていた。

レジナルド・スコットと「魔女術の暴露」
http://www5e.biglobe.ne.jp/~occultyo/danats/scot.htm


ジェロラモ・カルダーノ(1501-1576):イタリア人。一般に数学者として知られている。本業は医者、占星術師、賭博師、哲学者でもあった。

三次方程式の解の公式の提唱者として知られる数学者である。自然界における厳密な因果的法則を信じる一方、占星術や夢占い、守護霊といったものも信じていた。彼にとっての自然魔術は第一質量、形相、霊魂、一、運動の5原理で説明されるものだった。

磁力が選択的なことと遮蔽的でないこと、また琥珀の静電気力は選択的でないことと遮蔽されることを指摘し、この2つの点で磁力と静電気力が質的に別物であるという考えを述べた。静電気力については熱や摩擦によっておきるという近接作用モデルを提唱した。(説明:「磁力が選択的」とは磁石が鉄をはじめとする一部の金属しか引き付けないことをさす。「磁力が遮蔽的でない」とは磁石と鉄の間に物体を置いても磁力は妨げられないことをさす。)



ジョルダーノ・ブルーノ
(1548-1600):イタリア出身の哲学者、ドミニコ会の修道士

主著『無限・宇宙と諸世界について』でコペルニクスの地動説にたいする支持を表明するだけでなく、コペルニクスを超えて宇宙は無限であり、世界は複数あるという新しい宇宙論を主張した。

磁力については著書『魔術について(1590年頃)』の中で自然魔術の代表例としてとりあげた。そして磁力を原子論と近接作用によって説明した。しかしブルーノにおいて、磁力や琥珀の力は生命的で能動的なエーテルないし精気の働きによる近接作用である。思弁が先行し、観察や実験の重視あるいは魔術の技術的適用という方向性は見られない。


デッラ・ポルタ(1538-1615):イタリア、ナポリの博学者、医師である。中世の魔術師・錬金術師と近代の科学者との間の存在

魔術研究の一環として磁石と磁力を広く実験的に研究し『自然魔術(1558)』として発表した。この本は近代科学の揺籃期である1500年代後半から1600年代前半にかけて驚くほど広く読まれた書物だ。5つ以上のラテン語版のほか、イタリア語版、フランス語版、オランダ語版、スペイン語やアラビア語にも訳された。1580年には全20巻に増補された。ケプラーやフランシス・ベーコンも読んでいたし、ニュートンの蔵書にも含まれていた。磁力の研究は記述のうちの一部で、全体的には当時の「生活百科事典」のような書物である。この中には近代科学が生まれるもととなる「実験魔術」についての記載が多く含まれていた。

磁石については第7巻「磁石の不思議」で第1章から第56章まで詳しく考察されている。現代の知識からみても正しい内容も多く記述されている反面、「驚くべきいくつかの実験について」の章で「婦人が貞節であるかを(磁石を使って)証明する方法」や「船乗りがニンニクやタマネギを食べて羅針盤に向かうと、羅針は狂う。」のような記述もある。しかしその後、彼はみずから実験をしてこれらの迷信を否定し、第2版で正しい事実を記述している。

彼の功績で大切なことは「力の作用圏」という概念の創始者であることだ。磁石の磁化作用(磁気誘導)が遠隔作用であうることを明示的に表明したのだ。これはロバート・ノーマンが「磁力は磁石のまわりに球形をなして広がると言ったことをさらに精密化したものになっている。磁力の強さが距離とともに減衰すると彼は書き留めている。また磁化能力も遠隔作用であること、距離とともに減少することを彼は指摘している。


近代科学の夜明けはなかなかおとずれないが、そのぶん読み応えは十分にある。ぜひお読みいただきたい。

磁力と重力の発見〈1〉古代・中世:山本義隆
磁力と重力の発見〈2〉ルネサンス:山本義隆
磁力と重力の発見〈3〉近代の始まり:山本義隆

  


関連記事:

磁力と重力の発見〈1〉古代・中世:山本義隆
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/75ef1fc1216c255471fdbf65cc3a0c49


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磁力と重力の発見〈2〉ルネサンス:山本義隆



第9章:ニコラウス・クザーヌスと磁力の量化
- ニコラウス・クザーヌスと『知のある無知』
- クザーヌスの宇宙論
- 自然認識における数の重要性
- クザーヌスの磁力観

第10章:古代の発見と前期ルネサンスの魔術
- ルネサンスにおける魔術の復活
- 魔術思想普及の背景
- ピコとフィチーノの魔術思想
- 魔力としての磁力
- アグリッパの魔術--象徴としての自然

第11章:大航海時代と偏角の発見
- 「磁石の山」をめぐって
- 磁気羅針儀と世界の発見
- 偏角の発見とコロンブスをめぐって
- 偏角の定量的測定
- 地球上の磁極という概念の形成

第12章:ロバート・ノーマンと『新しい引力』
- 伏角の発見
- 磁力をめぐる考察
- 科学の新しい担い手
- ロバート・レコードとジョン・ディー

第13章:鉱業の発展と磁力の特異性
- 16世紀文化革命
- ビリングッチョの『ピロテクニア』
- ゲオルギウス・アグリコラ
- 錬金術に対する態度
- ビリングッチョとアグリコラの磁力認識

第14章:パラケルススと磁気治療
- パラケルスス
- パラケルススの医学と魔術
- パラケルススの磁力観
- 死後の影響--武器軟膏をめぐって

第15章:後期ルネサンスの魔術思想とその変貌
- 魔術思想の脱神秘化
- ピエトロ・ポンボナッツィとレジナルド・スコット
- 魔術と実験的方法
- ジョン・ディーと魔術の数学化・技術化
- カルダーノの魔術と電磁気学的研究
- ジョルダノ・ブルーノにおける電磁力の理解

第16章:デッラ・ポルタの磁力研究
- デッラ・ポルタの『自然魔術』とその背景
- 文献魔術から実験魔術へ
- 『自然魔術』と実験魔術
- 『自然魔術』における磁力研究の概要
- デッラ・ポルタによる磁石の実験
- デッラ・ポルタの理論的発見
- 魔術と科学




第1巻

「遠隔力」の概念が、近代物理学の扉を開いた。古代ギリシャからニュートンとクーロンにいたる科学史空白の一千年余を解き明かす。西洋近代科学技術誕生の謎に真っ向からとりくんだ渾身の書き下ろし。第1巻は古代ギリシャ・ヘレニズム時代、ローマ帝国時代、中世キリスト教世界まで。

第1章:磁気学の始まり―古代ギリシャ
第2章:ヘレニズムの時代
第3章:ローマ帝国の時代
第4章:中世キリスト教世界
第5章:中世社会の転換と磁石の指向性の発見
第6章:トマス・アクィナスの磁力理解
第7章:ロジャー・ベーコンと磁力の伝播
第8章:ペトロス・ペレグリヌスと『磁気書簡』

第3巻

第3巻でようやく近代科学の誕生に立ち会う。霊魂論・物活論の色彩を色濃く帯びたケプラーや、錬金術に耽っていたニュートン。重力理論を作りあげていったのは彼らであり、近代以降に生き残ったのはケプラー、ニュートン、クーロンの法則である。魔術的な遠隔力は数学的法則に捉えられ、合理化された。壮大な前科学史の終幕である。

第17章:ウィリアム・ギルバートの『磁石論』
第18章:磁気哲学とヨハネス・ケプラー
第19章:一七世紀機械論哲学と力
第20章:ロバート・ボイルとイギリスにおける機械論の変質
第21章:磁力と重力―フックとニュートン
第22章:エピローグ―磁力法則の測定と確定

なっとくする複素関数:小野寺嘉孝

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なっとくする複素関数:小野寺嘉孝

内容紹介:
「ジャングルに迷いこんだような」とされる複素関数論を徹底的に平易明快にする。高校生にもわかる複素関数論の「筋道」とその「目的」。

複素関数論──複素変数zの関数f(z)の理論──は、ひとつの大きな流れを持っている。うねりと言ってもよいかも知れない。この流れをつかまないと、その真の姿は見えてこない。教科書の「定義・定理・証明」という構造の中に埋もれて、とかく見失いがちなこの流れを、応用のために学ぶという立場に立って、なるべく捉えやすい形で示すことにより、複素関数論を納得しようというのが、本書の目的である。
2000年刊行、160ページ。

著者について:
小野寺嘉孝(おのでらよしたか)
1964年、東京大学工学部物理工学科卒業、1969年、東京大学大学院博士課程修了、理学博士。専門は物性物理学理論。明治大学理工学部教授。(経歴のページ

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理数系書籍のレビュー記事は本書で298冊目。

今回は4月から大学2、3年に進級して複素関数論を履修する学生を意識した記事である。物理学を学ぶためにはもちろん必要になるし、理学部、工学部の学生のほとんどが履修することになる「ほぼ必修科目」と言ってよいだろう。

僕は大学生の頃に学んでいたから、あらためて学ぶ必要はないのだが、本書のアマゾンの読者レビュー評価がすこぶるよいので「そんなにこの本はいいの?」と気になっていた。いわゆる「意味を理解させるための本」、「計算できるようになるための本」という位置付けなので、授業でどのようなことを学ぶのかを知っておけば落ちこぼれることもないし、難しく考えすぎて時間を浪費するこもない。安心して授業を受けられる。

数学専攻の学生をはじめ、厳密な証明を重ねてきっちり学びたいのならば「複素解析:小平邦彦」や「定本 解析概論:高木貞治」などを読むべきなのだが、これらの本格的な教科書へ入門するための助走として本書を利用するのがよいだろう。けれども「意味を理解して計算できるようになればよい。」というのなら本書でじゅうぶんだ。


複素関数論は複素解析と呼ばれたり、関数論と省略して呼ばれたりもする。複素数を変数とする関数やその微分、積分に成り立つ法則を学ぶ。高校数学までの実数関数やその微積分には見られない強力な定理、一見不思議で美しい法則が花開いているのが複素関数論の世界だ。特に留数一致の定理解析接続リーマン面などは実数関数の世界には存在しない概念である。

留数定理(EMANの物理数学)
http://eman-physics.net/math/imaginary11.html

一致の定理、解析接続(EMANの物理数学)
http://eman-physics.net/math/imaginary07.html


余談:複素関数論は主にコーシーの業績であるが、彼がこの研究をしていたのは24歳だった1825年頃のことである。そして留数の定義は1826年に発表された。(参考ページ

1980年代半ば「大学の数学を学んでいるんだなぁ。」と僕が初めて実感したのも複素関数論だった。複素関数の特異点にしても、ブラックホールの特異点のイメージと重なるから初めて学ぶ人にとってはワクワクする概念なのだろう。


本書の章立ては次のとおり。

第1章:複素関数──何のために学ぶか
第2章:複素数の世界
第3章:正則な関数の世界
第4章:ベキ級数、テイラー展開
第5章:特異点、留数
第6章:応用、定積分の計算
第7章:主値積分
第8章:分岐点をもつ関数
第9章:解析接続へ
第10章:リーマン面


大栗先生の超弦理論入門:大栗博司」には弦理論の空間の次元数が25であることを導くために

1+2+3+ …… = ー1/12

という不思議な無限和が紹介され、高校数学を使った(少し厳密性を欠いた)証明がされている。そして厳密な証明は「解析接続」を理解しないとできないと書かれている。これを読んだとき悔しい思いをした人もいることだろう。そのような方はぜひ本書を読んで解析接続を学んでほしい。たかだか160ページの本なので高校数学を理解している人ならば読み通せるはずだ。

ゼータ関数と解析接続
http://www.geocities.jp/ikuro_kotaro/koramu/346_zeta.htm

1+2+3+・・・・ = -1/12!?
ゼータ関数の解析接続による演算簡易解説
http://samidare.halfmoon.jp/mathematics/ZetaAnalyticContinuation/

「1+2+3+4+…=-1/12」をわかったつもりになる
http://nakaken88.com/2014/12/08/080818

リーマンのゼータ関数で遊び倒そう (Ruby編)
http://tsujimotter.hatenablog.com/entry/riemann-zeta-function


そもそも複素関数で微分したり積分したりするってどういうこと?直観的に理解したいのだけど。。。という方には「物理数学の直観的方法〈普及版〉 (ブルーバックス):長沼伸一郎」の第8章「複素関数、複素積分」をお勧めする。今回紹介した「なっとくする複素関数:小野寺嘉孝」と合わせてお読みになるとよいだろう。


今回この本を読んでみて、よくできているなと感心させられた。物理学に複素関数論はどのように役立っているかという説明を冒頭に置き、本編では読者の好奇心が持続するように教師と生徒の対話形式で話が進む。わかりにくい箇所は生徒からの質問として取り上げられ、教師が丁寧に説明してくれる形式だ。専門的な教科書では行間に隠れてしまう、このような「よくある質問」の部分は初学者にはとてもありがたい。

大学生のときにこういう本があったら、その後の勉強が効率的になっただろうに。。。よい本にめぐり会うたびにこのような「後の祭り」が繰り返されるのが社会人になってからの勉強で多くの人が経験することなのだ。


余談:今回の記事を書くにあたって調べていたところ、複素関数論のとてもユニークで革新的な名著「ヴィジュアル複素解析」の英語の原書のPDFが公開されていることに気が付いた。日本語版は絶版でとても手に入れにくい状況が続いている。この本は500点あまりにもおよぶ図版を見ているだけで楽しくなる。

Visual Complex Analysis:
http://umv.science.upjs.sk/hutnik/NeedhamVCA.pdf

英語版の紹介ページ:
http://usf.usfca.edu/vca/


関連記事:

物理数学の直観的方法〈普及版〉 (ブルーバックス):長沼伸一郎
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ab9396e295687179ac3a71553b8165a1

複素関数論:保江邦夫
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/eb84b112bbabf05be98f2207ab9867c5

ヴィジュアル複素解析
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2f47e7b748d4ca7022dc53305388a00b

基礎数学のおさらい:複素関数
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/de895908dc5ec348ed677346fa37e840

定本 解析概論:高木貞治
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cf579e91cb873cda1126e70a6bd3def2

大学で学ぶ数学とは(概要編)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/07137c47d16d95ddde8f5c4cb6f37d55

大学で学ぶ数学とは(実用数学編)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/975ad3faa2f6fd558b48c76513466945

なっとくする偏微分方程式:斎藤恭一
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/16d054ebc14ad1c4336f2b9f997eb00c


関連ページ:

複素関数論門(横田壽)
http://next1.msi.sk.shibaura-it.ac.jp/MULTIMEDIA/complex/complex.html

複素関数論(ときわ台学)
http://www.f-denshi.com/000TokiwaJPN/12cmplx/000cmplx.html

複素関数の基礎のキソ
http://www.math.titech.ac.jp/~kawahira/courses/kansuron.pdf


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なっとくする複素関数:小野寺嘉孝



まえがき
本書の構成

第1章:複素関数──何のために学ぶか
- 何のために
- 物理では、どんなときに複素数を使うか
- 定積分の計算
- 解析接続
- 玲瓏なる境地
- 割り込みチャイム

第2章:複素数の世界
- 複素平面
- 共役複素数
- 初等関数
- 指数関数
- 三角関数
-- 指数関数の計算間違い
- オイラーの公式
- オイラーの公式の美しさ
- アインシュタインの相対性理論の美しさ
- 複素数を使って強制振動の微分方程
- cosの代わりに sin の場合式を解く
- 特解を求める
- 一般解と特解
- 斉次方程式の解を求める
- 一般解を求める
- 特解の物理的な意味
- 「定常」とは
- 複素数を極形式で表す
- 偏角の範囲
- 偏角は変な角?
- 1のn乗根を求める
- 偏角という言葉の意味
- 偏角とコンピュータ
- 無限遠点 ∞、+∞、-∞
- 線形と1次は同じ?
- 線形な微分方程式

第3章:正則な関数の世界
- 微分可能──実関数の場合
- 「微分可能」を言い換える
- 微分可能──複素関数の場合
- 小さな違いが大きな違い
- ここでも「微分可能」を言い換える
- コーシー・リーマン方程式
- コーシー・リーマン方程式を導く
- 正則な関数
- 特異点
- 正則な関数はノッペラボー
- 複素積分
- 混線に注意
- コーシーの積分定理
- 積分路を変形する
- 流れ図
- 経路に依存する複素積分の例
- 偏角にご用心
- 複素積分と不定積分
- 思い違い

第4章:ベキ級数、テイラー展開
- ベキ級数
- テイラー展開
- 実関数のテイラー展開とどう違う
- テイラー展開は面倒くさい

第5章:特異点、留数
- 特異点
- 孤立特異点の分類
- ローラン展開
- 留数定理
- 留数定理の感想
- 留数を求める

第6章:応用、定積分の計算
- 三角関数を含む定積分
- 有理関数の定積分
- 積分路の選択
- フーリエ変換型の定積分
- ひとまず卒業

第7章:主値積分
- 主値積分
- 主値積分を求める

第8章:分岐点をもつ関数
- 分岐点
- 多価関数への対処法
- 切断
- 分岐点をもつ関数の定積分
- 多価関数
- 指数関数の定義は
- ベキ乗関数の定義は

第9章:解析接続へ
- 流れ図
- ふたたび始まる物語
- et tu, Brute!
- コーシーの積分公式
- グルサの公式
- テイラー展開
- 一致の定理
- 一致の定理が意味すること
- 「一致」とは
- 解析接続の補助定理
- 解析接続
- いくつかの例
- 解析接続は「開け、胡麻!」
- ガンマ関数
- ガンマ関数は階乗の解析接続?

第10章:リーマン面
- 切り紙細工
- ふたたび分岐点
- z^(1/2) を1価関数に
- 切り紙細工をもういちど
- z^(1/2) を含む関数の積分
- どっちがどっち?
- またまた切り紙細工
- リーマン面と偏角
- どっちのシートを取るべきか
- 振動数が複素数とは
- これでおしまい

演習問題解答
あとがき
索引

だれもが知ってる小さな国(コロボックル物語):有川浩、村上勉

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だれもが知ってる小さな国:有川浩、村上勉

内容紹介:
「有川さん、書いてみたら?」その一言で、奇跡は起きた。佐藤さとるが生み出し、300万人に愛された日本のファンタジーを、有川浩が書き継ぐ。
ヒコは「はち屋」の子供。みつ蜂を養ってはちみつをとり、そのはちみつを売って暮らしている。お父さん、お母さん、そしてみつばちたちと一緒に、全国を転々とする小学生だ。あるとき採蜜を終えたヒコは、巣箱の置いてある草地から、車をとめた道へと向かっていた。
「トマレ!」
鋭い声がヒコの耳を打ち、反射的に足をとめたヒコの前に、大きなマムシが現れた――
村上勉の書き下ろし挿画がふんだんに入った、豪華2色印刷。
2015年10月刊行、288ページ。

著者について:
有川 浩(ありかわ ひろ): ウィキペディアの記事
高知県生まれ。2004年10月、第10回電撃小説大賞を『塩の街』で受賞しデビュー。同作と『空の中』『海の底』を含めた「自衛隊三部作」、アニメ化・映画化された「図書館戦争」シリーズをはじめ、『阪急電車』『植物図鑑』『三匹のおっさん』『ヒア・カムズ・ザサン』『空飛ぶ広報室』『旅猫リポート』『県庁おもてなし課』『明日の子供たち』など、著作多数。最新刊は原案・原作を手がけた演劇集団キャラメルボックスの2012年クリスマスツアーの原作『キャロリング』。また自ら結成した演劇ユニットの舞台化を自ら手がけるなど、活躍の幅を拡げている。

村上 勉(むらかみ つとむ): ホームページ
1943年、兵庫県生まれ。1965年、『だれも知らない小さな国』(佐藤さとる作・講談社)の挿絵でデビュー。以来、挿絵、絵本、装幀など、出版美術界と深く関わってきた。主な作品に『おばあさんのひこうき』(小学館絵画賞受賞)、『おおきなきがほしい』、『きつね三吉』、『旅猫リポート』、「コロボックル」シリーズ他多数。

佐藤さとる(さとう さとる): ホームページ
1928年、神奈川県生まれ。『だれも知らない小さな国』で毎日出版文化賞・国際アンデルセン賞国内賞などを、『おばあさんのひこうき』で児童福祉文化賞・野間児童文芸賞を受賞。日本ファンタジー作家の第一人者で作品も多い。


小学生のときに読んで気に入っていた佐藤さとるさんの児童小説「だれも知らない小さな国」シリーズの続編が昨年10月に刊行されていた。書いたのは佐藤さとるさんではなく有川浩(ありかわひろ)という女性。「図書館戦争」シリーズを書いた売れっ子作家である。

タイトルをはじめて見たとき、パロディ本ではないことはわかっていたけれども「二番煎じじゃないの?」とか「元の作品を台無しにしているのでは?」と思ったりして素直に受け入れることができなかった。

元の作品は「だれも知らない~」なのに「だれでも知ってる~」だなんていったいどういうつもりなのだろう。「だれも知らない国」だから大切にしたい世界なんだけど。。。


でもこの本は佐藤さとるさんのお墨付きをもらっているし、佐藤さとる版と同じ村上勉さんが挿絵を描いている。有川さんが続編を書くことになったいきさつは次のページを見ていただくとわかる。

コロボックル物語特設ページ(講談社)
http://kodanshabunko.com/colobockle.html

続編に対する佐藤さとるさんの感想やアマゾンの読者レビューの評価もよい。「これは安心して読めそうだ。僕もコロボックル物語のファンだから読んで感想記事を書いてみたい。」と思って旧作(佐藤さとる版)と一緒に購入した。

クリックで拡大


文庫版の帯には有川さんも含め「コロボックル物語ファン」から旧作に寄せる想いが書かれている。重松清さんも夢中になって読んでいたそうだ。


続編を読んで感想を書くつもりだったのだが、いざ書きだすとはたと困ってしまった。小説はみなそうなのだが、特にこの本はネタバレせずに感想を書くのが難しい。これから読む人の楽しみを損ないたくないから、ぎりぎり許されるところで踏みとどまりながら少しだけ紹介することにした。

主人公は小学3年生の男の子。そして同じ年齢の女の子もでてくる。これは佐藤さとる版と同じ。コロボックルもはやい段階で登場する。時代がたっているので旧作とは別のコロボックルだ。

そして読後感。しみじみと心地よかった。大人が読む物語としても楽しめるし佐藤さとる版を真似するのではなく、とても大切にしていることに読み始めてすぐ気が付いた。

旧作が小学生向けで「ひらがな」が多いのにくらべると、大人が使う表現や漢字が多く、やけに物知りで口達者な小学生だなという感じがした。

物語の時代設定は佐藤さとる版が「戦前」であるのに対し、有川版は1990年代前半と思われる。

それは話の中で男の子が「ゲームボーイでテトリスに夢中になっていた。」とか「友だちの間では桃太郎電鉄が人気だった。」、「携帯電話はあまり広まっていなかった。」と書かれているからだ。初代ゲームボーイが発売されたのは1989年、ゲームボーイ版の桃太郎電鉄が発売されたのは1991年である。

ストーリーも自然で、すっと受け止められた。かといって展開を予想するのはちょっと無理だ。だからどんどん読みたくなる。読者の気持をつなぎとめる要素、旧作を思い起こしながら味わう要素がたっぷり盛り込まれている。

「事件」がおきてコロボックルたちの国が危機に陥るので「どうなるのだろう?」というハラハラ感も味わえる。もちろん危機は回避される。危機はなかなか凝ったやり方で解決され、それがこの物語を有川さんがお書きになった意図に結びついていくのだ。(このあたりの説明は読まないとわからないと思う。)

新作を先に読むべきか、旧作を読んでから新作を読むべきか迷っている人もいるだろう。実のところ「どちらでもよい。」というのが僕の考えだ。そのわけは本のタイトルを「だれでも知っている小さな国」とした理由につながっている。

新作を読んだことで旧作を読みたいと思うようになる人もいるし、旧作はすでに読んでいるから新作を読みたい人もいる。どちらでも楽しめ、この本と出会ってよかったなぁと思えるような本。それが有川版の位置づけなのだ。


物語を楽しんだあと、タイトルをなぜ「だれでも知ってる~」にしたかを考えてみてほしい。理由がわかったとき僕はうれしくなった。「新作と旧作のどちらを先に読んでもよい。」と書いた理由と有川さんがこの本に与えた「役割」がタイトルに込められていることがおわかりになるだろう。

有川版は佐藤さとる版を損なうどころか大いに引き立てているのだ。さすがである。


佐藤さとる版について

佐藤さとる版は僕が小学生の頃までに4巻まで、大学生の頃に第5巻と第6巻が単行本として刊行されていた。だから僕は第5巻と第6巻は読んでいない。

1959年:コロボックル物語1『だれも知らない小さな国』刊行
1962年:コロボックル物語2『豆つぶほどの小さないぬ』刊行
1965年:コロボックル物語3『星からおちた小さな人』刊行
1971年:コロボックル物語4『ふしぎな目をした男の子』刊行
1983年:コロボックル物語5『小さな国のつづきの話』刊行
1987年:コロボックル物語6『コロボックルむかしむかし』刊行

「二十年近い前のことだから、もう昔といっていいかもしれない。ぼくはまだ小学校の三年生だった。」で始まるこの物語は少年だった僕の心をわしづかみにした。そして主人公の少年がふとしたことから崖と杉林とで囲まれた宝石のような場所である 「小山」と「三角形の平地」を見つけ、そこは少年だけの聖域になった。

本の冒頭にあるこの地図はその場所を示していて、読む者にとってそこは自分ためだけにある特別な場所になってしまうのだ。




この物語に熱中したことで僕は読書の楽しみを知ったことを思い出した。そして目に見えないものを大切にする気持、空想する喜びが培われていったのだと思う。

子供のころの感性とは違う大人の目から見たとき、佐藤さとる版はどのように映るのだろうか?旧作のほうも、もう一度読んでみることにした。

自分が読んでいた本は姪にあげてしまったので手元にはない。この写真は友達が所有しているものだ。

クリックで拡大


そういえば外箱があったなと思い出し、検索したところ見つかった。懐かしい絵柄だ。

第1巻の外箱


第2~4巻の外箱



1959年に第1巻が刊行されたときは、このような外箱と表紙だったそうだ。(左が外箱)

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この他にも、いろいろな表紙の本が出ていたようだ。次のページで見ることができる。

水無月の本・壱:「だれも知らない小さな国」
http://satoru-web.kids-book.info/daremo4.htm


その後、単行本は絶版になり「青い鳥文庫版」として読み継がれていった。(失礼!昔の単行本は絶版にはなっていませんでした。購入される方はここまたはここをクリックしてください。)

そして2010年に文庫版が加わり、今回の有川版が出たことで旧作が青い鳥文庫から飛び立つような形でたくさんの人の目に止まるようになったのだ。

これを機に、ご自身でお読みになったりお子さんに勧めてみてはいかがだろうか?


講談社文庫版:佐藤さとる、村上勉:2010年から2012年に刊行

コロボックル物語1 だれも知らない小さな国
コロボックル物語2 豆つぶほどの小さないぬ
コロボックル物語3 星からおちた小さな人
コロボックル物語4 ふしぎな目をした男の子
コロボックル物語5 小さな国のつづきの話
コロボックル物語6 コロボックルむかしむかし

  

  

青い鳥文庫版は1980年から2005年に刊行された。

講談社青い鳥文庫版: Amazonで検索


新イラスト版:佐藤さとる、村上勉:2015年に刊行

新イラスト版は第3巻までしかでていない。今後、続きが出るのかもしれないが。新イラスト版の判型は有川版と同じだ。

コロボックル物語1 だれも知らない小さな国
コロボックル物語2 豆つぶほどの小さないぬ
コロボックル物語3 星からおちた小さな人

  

新イラスト版: Amazonで検索


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だれもが知ってる小さな国:有川 浩、村上 勉



第1章 はち渡り
第2章 シナノキの夏
第3章 新しい友だち
第4章 騒がしい夏
第5章 ありがとう

有川浩さんへの手紙―佐藤さとる


有川版についている帯




以下は文庫版(佐藤さとる作)の帯に書かれたコロボックル物語ファンのメッセージ











メッセージをお送りいただいたaiko様への返信

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パソコン表示で左フレームに表示されている「メッセージを送る」からさきほどメールをいただいたのですが、返信用のメールアドレスが入力されておりませんでしたので、ブログ記事として返信させていただきます。


・件名
はじめまして
・本文
こんばんは。
最近数学に興味が湧き、高校卒業ぶりに勉強し直しております。
aikoと申します。
『数学の言葉で世界を見たら』を読み始めたところなのですが、【ギャンブルで負けない方法】の確率式についてお尋ねしたいのです。
この式はどのように求めるのかご存知でしょうか。
補遺では式の証明はされていましたが求め方は載っておらず、こちらのサイトで本が紹介されていたのでもしやと思いメッセージを送らせていただきました。
お忙しいところ恐れ入りますがご存知でしたらご教授下さい。


・返信
aiko様
はじめまして。メッセージをお送りいただき、ありがとうございました。
「補遺では式の証明はされていましたが求め方は載っておらず」とのことですが、大栗先生がウェブページで公開されているのは、最初に与えた式が条件を満たしていることの確認ですね。その意味でaiko様は「証明」だとお書きになっているのだと理解しました。

『数学の言葉で世界を見たら』 付録
『数学の言葉で世界を見たら 父から娘に贈る数学』 のウェブサイトです。
https://ooguri.caltech.edu/japanese/mathematics

該当の記述がある部分。
https://ooguri.caltech.edu/japanese/mathematics/chapterone#one


式の導出ということでしたら、別の方が2通りの方法で式の求め方をブログ記事として公開されています。こちらの説明を参考になさってください。

ギャンブルの勝率:式の導出(数学の言葉で世界を見たら)
http://rindalog.blogspot.jp/2015/05/blog-post_38.html


メッセージをいただいた土曜日は奇しくも大栗先生が監修された「9次元からきた男」ブロガー特別試写会に行ってきました。講演会ではこの本も紹介されていました。不思議なご縁を感じます。


これからも「とね日記」をよろしくお願いいたします。数学の勉強、楽しんでくださいね。


関連記事:

数学の言葉で世界を見たら: 大栗博司
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/8ffea17402dcf34e5991b154acef39d9


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「9次元からきた男」ブロガー特別試写会の感想

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昨日の土曜日は大栗先生ブログで告知されていた『「9次元からきた男」ブロガー特別試写会』に行ってきた。

3Dドーム映像作品『9次元からきた男』 | 日本科学未来館
http://www.miraikan.jst.go.jp/sp/9dimensions/

再生できないときはここから再生してください。



試写会の感想

試写会はこれまでも行われていたようだが、今回は大栗先生の講演会付きだというので見逃すわけにはいかない。会場となった日本科学未来館にも行ったことがないので、この日が来るのを楽しみにしていた。試写会は最上階(6階)のドームシアターで行われる。プラネタリウムのドームを45度に傾けて設置したスクリーンなのでプラネタリウムと映画の両方を楽しめる施設だ。

ドームシアターの収容人数に限りがあるため、試写会は大栗先生の講演会を挟んで2回行なわれた。

試写会1回目:18:15-18:45
講演会:19:00-20:00
試写会2回目:20:15-20:45

朝日カルチャーセンターで大栗先生の物理学講座をご一緒している「朝カル仲間」も4人参加している。たけのやさんと僕は1回目、271828さん、Tさん、Mさんは2回目の上映を見ることになった。

映画はT.o.E.(トーエ)というおかしな名前の男が主人公。記事冒頭のような帽子をかぶり、マフラーを口の回りに巻いたアヤシイ男である。T.o.E.はTheory of Everything(万物の理論)というわけで、その究極理論の候補と考えられている超弦理論の9次元空間を自由に移動できる男だ。そして副主人公を3次元空間に住む科学者が演じ、T.o.E.をなんとか捕まえて万物の理論の秘密を知りたいと願っているという物語の設定。科学者を演じた俳優はテレビで見たことのある方だった。(ヨシダ朝さんである。)

映画『呪怨』の監督として知られている清水崇さんが監督、CGを作ったのが山本信一さん、そして監修をされたのが大栗先生である。制作には1年ほどかかったという力作なのだ。

とにかくすごい体感映画だった。生まれて初めて経験した非日常体験、異世界体験と言ってよい。この日の僕の非日常感覚は科学未来館に入って、最上階までぶちぬかれた巨大な吹き抜けの空間を目の当りにしたときにすでに始まっていたのだけど、試写会でそれがピークに達したことになる。

僕がこれまでに見た3D映像は、高島屋東京IMAXシアター(1996-2002)が開業して間もないころに見た短編の試験映像のような作品と、同じ頃に見た東京ディズニーランドのキャプテンEOだけだ。そのどちらでも気分が悪くなり吐き気をもよおしていた。今回も気持ち悪くなるのかと覚悟して臨んだのだが、まったくそのようなことはなかった。なぜだかわからないが3D映像技術は確実に進歩していることが実感できた。試写会ではこのようなメガネをつけて見る。



3D映像が飛び出して見えるのは当たり前だが、これまでに見た作品と決定的に違うのはスクリーンが半球形のドームであることだ。つまり映像が飛び出すだけでなく、自分の周囲全体を包み込むような形で見える。リクライニングシートに寝そべった状態の頭上から、そして視界の左右のぼやけて見える場所に突如現れる奇妙な物体や人物に驚いたり、段階的にスケールが変わっていく宇宙空間に放り出されたときに見るであろう世界が自分を包み込み、心は驚異と好奇心が交錯するおかしな状態になる。そこにはあるはずがないのに見えている無数の素粒子に取り囲まれたときに感じる奇妙な感覚。それは「迫力」という言葉を超える深い存在感だった。

おかしな気分を少しやわらげてくれたのは、渋い声のナレーションで語られる物理学の説明だった。ミクロの世界で泡立つ時空と不確定性原理、余剰次元の話、カラビ-ヤウ空間、膨張する宇宙などこれまで学び、親しんできた解説は目の前に広がる非現実世界を自分の脳内の知識と結び付けてくれる。全体としては体感映画なので、解説は最小限に抑えられていた。息を飲んだのはぐにゃりと曲がって倒れてきた2本の高層ビルが消えて赤い鳥居の列が現れるという現実世界では絶対におこらない映像だった。夢の中ではそういう体験をするかもしれないがとても奇妙な光景だ。3D CG作品ならではの表現である。

大栗先生が監修されたことによって映像は科学的に正確なものに仕上がっている。それは講演会で明らかにされたことなのだが、映像にでてくる光子や電子、ヒッグス粒子、クォークの表現はその実態を映したものになっている。ナレーションでは語られないので注意が必要だ。僕自身、空中を浮遊しながら形を変えるカラビ-ヤウ空間の動きは不確定性原理による量子的な揺らぎをあらわしているのだと思ったり、襟巻で顔を隠しているT.o.E.の姿は万物の理論がまだ明らかになっていないことを意味しているのだと思ったりしていた。

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講演会の感想

会場を移して大栗先生の講演会が始まった。最初の15分は科学未来館の外国人スタッフによる挨拶と映画についての説明、次の45分は大栗先生の講演会と質疑応答に割り当てられた。



講演会のために先生は54枚のスライドを用意されていた。僕は2012年以来、朝日カルチャーセンターで先生の物理学講座を受講させていただいているのだが、毎回その講演、講座に合わせて先生がスライドを作り直されているのに感心させられている。講演はこれまで受講した物理学講座のダイジェスト版のような感じだった。試写会から続いていたふわふわした非現実感覚からようやく日常の世界に戻ることができた。

講演はガリレオ以来400年にわたる物理学の歴史を一般相対性理論、素粒子物理学、宇宙論の3側面から解説し、超弦理論にまで話を進められていた。その中で先生の著書4冊も紹介された。一般の方が理論物理学の世界に入門するために最適な組み合わせだ。

重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る:大栗博司
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f63cdcd45ec542fa62d535b4cc715d69

強い力と弱い力:大栗博司
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/06c3fdc3ed4e0908c75e3d7f20dd7177

大栗先生の超弦理論入門:大栗博司
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/75dfba6307d01a5d522d174ea3e13863

数学の言葉で世界を見たら: 大栗博司http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/8ffea17402dcf34e5991b154acef39d9

数学は自然科学を記述するのに最適な言葉である。そして不思議なことに9次元の超弦理論の世界と最先端の数学理論は密接なつながりを持ち、互いに影響を与えながら発展しているのだ。(参考書籍:「見えざる宇宙のかたち:シン=トゥン・ヤウ、スティーヴ・ネイディス」、「数学の大統一に挑む:エドワード・フレンケル」)


講演ではさらに『9次元からきた男』が完成するまでのいきさつ、映画の見どころ、物理学の内容が映像にどのように反映されているかを解説された。2回目の試写会を見たほうがよかったかもしれないと思った。帰りのゆりかもめでも朝日カルチャーの仲間は口々に「講演会は動画で一般公開したほうがいいよね。」と言っていたし。(講演の内容は特設ウェブページに掲載される予定だそうです。)

講演会の最後に清水崇監督と山本信一さんも登壇され、ひとことずつ制作時の話は感想を述べられていた。お二人の思わぬ登場に会場は大いに沸き立った。

左から山本さん、清水さん、大栗先生



『9次元からきた男』は4月20日の科学未来館のリニューアルオープンに合わせて一般公開される。異世界体験してみたい方、最先端物理学の世界を体感したい方はぜひ足をお運びいただきたい。


大栗先生と奥様のこと

試写会には大栗先生だけでなく奥様や(おそらく)大栗先生ご夫妻のご友人の方々もいらっしゃっていた。映画と講演会の前後には先生とお話できたし、映画の後には奥様が「たけのやさん」や僕がいる席までいらっしゃったのでご挨拶することができた。お会いするのは初めてである。

奥様もブログをお書きになっており、僕はときおり読ませていただきアメリカでの生活の様子を愉しませていただいていたのだが、なんと奥様も僕のブログをお読みになっていたという。これはうれしかったと同時に驚き、恐れ入ってしまった。ブログに迂闊なことは書けないぞ。。。

ということで奥様のブログもここに紹介しておこう。米国在住20年である。

ローズ家の台所
http://crowncity.exblog.jp/

そして大栗先生のブログはもちろんこちらだ。

大栗博司のブログ
http://planck.exblog.jp/


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以下、日本科学未来館で撮った写真を貼っておく。


















番組告知: パーティクル・フィーバー(Particle Fever):BSプレミアム

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ヒッグス粒子発見までのいきさつをドキュメンタリーにした映画「パーティクル・フィーバー」が明日BSプレミアムで放送される。

僕もついさっき知ったばかりなので、告知が直前になってしまい申し訳ない。お見逃しなく。

放送予定:
BSプレミアム
2016年3月31日(木): 14:30-16:09

Particle Fever (Official Page)
http://particlefever.com/


数物連携宇宙研究機構の機構長の村山斉先生はFacebookに次のように投稿されている。

ヒッグス粒子発見にまつわる科学者たちの葛藤のドキュメンタリー映画、パーティクル・フィーバー が日本語字幕付きで放映されます。

3/31 14:30-16:09 BSプレミアム

字幕はBerkeleyの同僚、Kavli IPMU併任の野村泰紀氏(自身も映画に登場)の監修による名訳。Kavli IPMUでの試写会では泣いている人もいました。

ぜひ録画して、最初は主音声で映画を鑑賞、2度目は副音声で私とNHKプロデューサー井手真也(東大物理同期)の解説(というよりは、ほとんどプロレス実況中継。注意:ネタバレ多数なので1度目はオススメしません!)を聞いてください。

私にとっては友人が多数「出演」する楽しい映画です。プロデューサーのDavid E. Kaplanとは共同研究者、メーンキャラクターの一人Fabiola Gianottiは古くからの知り合いで現CERN所長。5年間取材を続けた監督のMark A. LevinsonはBerkeley物理出身。(ちなみに、私自身は出ていませんので、利益相反なしに映画の質は保証できます!)


番組予告動画: 他の動画も検索する




関連記事:

祝!:ヒッグス粒子発見
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f88350541542f732fec74af583a29e50

速報:2013年ノーベル物理学賞はヒッグス博士とアングレール博士に決定!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e4c4d6d15d52e86a94caccd6da8edb5e

ヒッグス粒子の発見:イアン・サンプル
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/46c46f676c631634b83fb9616161ec4d


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祝: 累計300万アクセス達成!

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2005年2月に始めたこのブログの累計訪問者数が昨日300万人(IP)に達した。



200万人をクリアしたのが2014年6月3日。「NHK宇宙白熱教室」の放送が開始された頃だ。今日まで666日が経過しているので、この期間は1日あたり平均1502人の方にアクセスしていただいたことになる。200万人達成のときに予想していた「300万人達成は656日後の2016年3月21日前後」よりは少し遅れた。ページ閲覧数累計のほうも先日900万PVをクリアしている。(PVはPage Viewの略)

200万人をクリアしたときとくらべてアクセス数の増加が1.5倍であるのに対し、ページ閲覧数は1.8倍になったというのが特にうれしい。

「アクセス」の欄の閲覧 4351 PV、訪問者 1752 IPは昨日1日のぶんである。また週別、日別のランキング137位と167位はgooブログ全体(昨日の段階で2,450,468ブログ)の中での順位である。245万ブログあるといっても、更新されていないブログがたくさんあることに注意したい。

これまでのアクセス数とページ閲覧数の日平均は次のように推移していた。

累計0~40万アクセスの期間(2005年~2010年):日平均191アクセス、ページ閲覧数504page
累計40万~50万アクセスの期間(2010年~2011年):日平均800アクセス、ページ閲覧数2013page
累計50万~100万アクセスの期間(2011年~2012年):日平均973アクセス、ページ閲覧数3107page
累計100万~200万アクセスの期間(2012年~2014年):日平均1525アクセス、ページ閲覧数4266page
累計200万~300万アクセスの期間(2014年~2016年):日平均1502アクセス、ページ閲覧数5012page




ブログの知名度を押し上げた「事件」は過去2回あったことが「TopHatenarの分析のページ」でわかる。「200冊の理数系書籍を読んで得られたこと」、「NHKスペシャル「神の数式」の感想」を多くの方に読んでいただいたことだ。それ以来、購読者数、ブックマーク数はほとんど増えていない。

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浅草の「花やしき」の来園者数は年間50万人だというから日平均は1369人、「上野動物園」の来園者数は年間380万人だそうで日平均は1万人くらい。だからこのブログの1日のアクセス数1500人とは、「花やしきより少し多く、上野動物園には遠く及ばない。」というところなのだ。

ちなみに先日行った日本科学未来館の来館者数は次のように推移している: 来館者数の推移


今のペースを維持できれば次の目標の400万人に達するのは666日後、つまり2018年1月25日前後になると思われる。過去4年間のアクセス数は毎日1500前後に落ち着いているので、よほど世の中の人が理数系好きにならない限り現在のペースが続くと予想している。

日本人がノーベル物理学賞をとったり、重力波検出のような大成果があっても世の中の人の関心はせいぜい1~2週間ほどしか続かないことがこの10年の動きを見て感じたことだ。(それは一般の事件のニュースでも同じこと。)

僕はアクセス数を伸ばすのを第一に考えているのではなく、自分が楽しめて読者の方にも参考になる記事を書くというのがブログの目的だ。だから今のペースを維持するというのが自然である。その結果、運よくアクセス数がアップするというのならば嬉しいことだ。


平均アクセス数やページ閲覧数は主に過去記事によって支えられている。たとえば昨日の記事別アクセス数ランキングは次のとおりだ。昔書いた記事も読まれていることがわかる。僕としてはトップページへのアクセスがいちばん多いのが嬉しい。なぜなら「とね日記」というキーワードで検索し、ブログを開いていただいているわけだから。



100万アクセスを達成した2012年頃とくらべて、全体的にページ閲覧数が増えていることや、読んでいただいている記事が変化していることがわかる。

ペットの話題や料理の話題、芸能人ネタなど、より一般的な事柄を記事にすれば、アクセス数は格段にアップする。反対に物理学や数学の記事で、数式を使った専門的な記事であればあるほど、理解できる読者は少なくなりアクセス数は減る。

物理ブログ、科学ブログとしての価値はアクセス数やランキングでは測れないものだと僕は思っている。これからも記事に対する一般の方の関心事と内容の専門性のバランス感覚を大切にしていきたい。


これからも当ブログをよろしくお願いいたします。


参考リンク:

こよみの計算 > 日にち・曜日(CASIO高精度計算サイト)
http://keisan.casio.jp/has10/Menu.cgi?path=01200000%2e%82%b1%82%e6%82%dd%82%cc%8cv%8eZ%2f02000000%2e%93%fa%82%c9%82%bf%81E%97j%93%fa


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目次情報: スミルノフ高等数学教程 全12冊

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超弦理論への最短ルート: 40冊の物理学、数学書籍」という記事で紹介した「スミルノフ高等数学教程」は物理数学を学ぶための決定版。気になっている方もいることだろう。全巻の目次情報を掲載しておくので購入するかどうかの判断材料としてお使いいただきたい。


函数関係と極限の理論 導函数の概念とその応用 積分の概念とその応用
スミルノフ高等数学教程 1―I巻[第一分冊]―

級数およびその近似計算への応用 多変数の函数 複素数 高等代数学の初歩と函数の積分
スミルノフ高等数学教程 2―I巻[第二分冊]―

I巻 目次1 目次2 目次3 目次4 目次5 目次6

常微分方程式 線型微分方程式と微分方程式論補遺 重積分と線積分、広義の積分とパラメーターを含む積分
スミルノフ高等数学教程 3―II巻[第一分冊]―

ベクトル解析と場の理論 微分幾何学の基礎 フーリエ級数 数理物理学の偏微分方程式
スミルノフ高等数学教程 4―II巻[第二分冊]

II巻 目次1 目次2 目次3 目次4 目次5 目次6 目次7

行列式と方程式系の解法 線型変換と二次形式 群論の基礎と群の線型表現 (付録)行列の標準形への簡約
スミルノフ高等数学教程 5―III巻一部―

III巻一部 目次1 目次2 目次3 

函数論の基礎 等角写像と二次元の場 留数の理論の応用 整函数と有理型函数
スミルノフ高等数学教程 6―III巻二部[第一分冊]―

多変数の函数と行列の函数 線型微分方程式 数理物理学における特殊函数
スミルノフ高等数学教程 7―III巻二部[第二分冊]―

III巻二部 目次1 目次2 目次3 目次4 目次5 

積分方程式 変分法
スミルノフ高等数学教程 8―IV巻[第一分冊]―

偏微分方程式の一般的理論
スミルノフ高等数学教程 9―IV巻[第二分冊]―

境界値問題
スミルノフ高等数学教程 10―IV巻[第三分冊]―

IV巻 目次1 目次2 目次3 目次4 目次5 目次6 

スティルチェス積分 集合函数とルベーグ積分 集合函数 絶対連続性 一般の積分の概念
スミルノフ高等数学教程 11―V巻[第一分冊]―

距離空間とノルム空間 ヒルベルト空間
スミルノフ高等数学教程 12―V巻[第二分冊]―

V巻 目次1 目次2 目次3 目次4 目次5
  

購入される方はこちらからどうぞ。

スミルノフ高等数学教程(とね書店)
http://astore.amazon.co.jp/tonejiten-22?_encoding=UTF8&node=66

各巻の章構成からも明らかなように、物理数学の色彩の強い教程である。これは本書が、スミルノフ教授のレニングラード大学(当時、現サンクトペテルブルク大学)の物理学科学生に対する多年の講義に基づいて書かれているためである。スミルノフ高等数学教程 1―I巻[第一分冊] の 訳者序文より引用する。

わが国の大学教養課程の程度の微分・積分法よりはじまり、線形代数・群論・作用素論なども含めて、函数論・微分方程式論など解析学の諸部門およびそれらと物理学との関連にいたるまでを懇切に解説したものである。  その目的とするところは、これらの諸理論を単に説き来り説き去るというのではなく、物理学や科学技術の領域に必須な事柄を豊富に取り扱いつつ、数学的諸方法を十分に理解せしめ、自らこれらを駆使し得る段階にまで読者を導こうとすることにある。したがってその説明はいたるところ懇切丁寧であって、しかも全体を一貫した方針でつらぬいている。  わが国においても数学やその応用に関する幾多のすぐれた著作が出版されているが、このような特徴をもった書物はその類を見ない。この書の邦訳が、わが国の多数の理工科系の学生諸君および研究者諸氏に役立つことを、訳者一同心より願う次第である。


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解析学入門のための教科書談義
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ちょっと気になる常微分方程式の本
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磁力と重力の発見〈3〉近代の始まり:山本義隆

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磁力と重力の発見〈3〉近代の始まり:山本義隆

内容紹介:
第3巻でようやく近代科学の誕生に立ち会う。霊魂論・物活論の色彩を色濃く帯びたケプラーや、錬金術に耽っていたニュートン。重力理論を作りあげていったのは彼らであり、近代以降に生き残ったのはケプラー、ニュートン、クーロンの法則である。魔術的な遠隔力は数学的法則に捉えられ、合理化された。壮大な前科学史の終幕である。
2003年刊行、432ページ。

著者について:
山本義隆(やまもとよしたか)
1941年大阪生まれ。大阪府出身。大阪市立船場中学校、大阪府立大手前高等学校卒業。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。 東京大学大学院博士課程中退。
1960年代、学生運動が盛んだったころに東大全共闘議長を務める。1969年の安田講堂事件前に警察の指名手配を受け地下に潜伏するが、同年9月の日比谷での全国全共闘連合結成大会の会場で警察当局に逮捕された。日大全共闘議長の秋田明大とともに、全共闘を象徴する存在であった。
学生時代より秀才でならし、大学では物理学科に進んで素粒子論を専攻した。大学院在学中には、京都大学の湯川秀樹研究室に国内留学しており、物理学者としての将来を嘱望されていたが、学生運動の後に大学を去り、大学での研究生活に戻ることはなかった。
その後は予備校教師に転じ、駿台予備学校では「東大物理」などのクラスに出講している。一方で科学史を研究しており、当初エルンスト・カッシーラーの優れた翻訳で知られたが、後に熱学・熱力学や力学など物理学を中心とした自然思想史の研究に従事し今日に至っている。遠隔力概念の発展史についての研究をまとめた『磁力と重力の発見』全3巻は、第1回パピルス賞、第57回毎日出版文化賞、第30回大佛次郎賞を受賞して読書界の話題となった。

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理数系書籍のレビュー記事は本書で299冊目。

僕がこの本を読みたいと思ったきっかけは惑星の公転の原因が磁力だとケプラーが考えていたのを知ったことだった。チコ・ブラーエの20年におよぶ惑星の位置観測の記録から火星の公転が楕円軌道であることを導き、ケプラーの3法則を打ち立てた数学者ケプラーがなぜ磁力に公転運動の理由を求めたのか?太陽や惑星が磁石でできているとでも思っていたのだろうか?

磁力について正しい理解に達していなかった近代以前、磁力は「隠された力」であり「自然魔術」のひとつだった。一方で数学の手法を用い、もう一方で合理的な説明を放棄したとも見える磁力説を提唱していたことに違和感をもっていたのだ。

しかし「宇宙の神秘(1596)」、「新天文学(1609)」「宇宙の調和(1619)」というケプラー3部作の中で、彼は太陽系の惑星軌道半径が互いに内接する正多面体によって説明できるとか、惑星の公転運動によって奏でられる「メロディ」の研究を紹介している。それらにくらべれば磁力説はまだ許容できるものなのかもしれない。

著者の山本先生が本書を執筆を思い立ったのもまさに同じ理由だと「あとがき」にお書きになっている。近代に入ってもなお魔術思想は影響を残していた。しかし魔術思想は近代科学の誕生の足を引っ張っていたわけではなく、むしろ後押ししていたという意外な事実が本書を読むとわかる。

ケプラーに多大な影響を与えたウィリアム・ギルバートは著書『磁石論(1600)』によって地球が巨大な磁石であることを明確に示した。またコペルニクス、ケプラー、デカルト、ガリレイ、フック、ニュートンに至る過程でどのような発想の転換がおきていたか。イギリスの王立協会が設立される過程、原子仮説に基づく機械論による自然理解は17世紀にロバート・ボイルらによってどのように変化していったか。そしてその後クーロンらによって電気力と磁気力の測定されて両者がともに逆二乗法則に従って減衰していることが導かれ、近代の電磁気学が誕生するまでの経緯が詳細に解説されている。

本シリーズのタイトルは「磁力と重力の発見」であるが、重力はようやく第3巻で詳しく取り上げられる。アリストテレス哲学では宇宙の中心である地球の中心に戻ろうとする自然な運動として考えられていた重力は、どのような変遷をへて遠隔力としての重力に移行していったのか、そして早い段階で遠隔力であることが経験的に知られていた磁力は、原子仮説に基づく機械論の全盛期にどのように考えられていたのか。このあたりも本書を読んで得られる醍醐味のひとつである。

また天文学と物理学の区別が現代のスタイルに分かれていったのもこの時代である。ケプラー以前の天文学はコペルニクスの地動説の太陽系モデルも含めて「幾何学」だったからだ。天文学は日食や月食の予測、占星術、暦の作成をおこなえれば十分であり、天体間に働く力や運動はむしろ定性的な理解や哲学の範疇に属する「自然哲学」だった。ケプラー以降、天体間に働く力を関数であらわし数学を使って計算するようになり、力や運動という動力学の考え方が天文学の概念を近代的なものに変化させていった。天文学が単なる幾何学から物理学へ変化し始めたのである。

第2巻までは読むのが大変だったが、第3巻は行きつ戻りつはあるものの近代科学へ向かって比較的順調に進んでいくので好奇心が途切れずに読み通すことができた。ケプラーの洞察力の凄さに感動し、ガリレイやデカルト、ニュートンに対するイメージも若干修正された。そしてこれまでは「フックの法則」によってしか知らなかったロバート・フックがニュートンに与えた影響を知ったのも僕には初めてのことだった。

章立ては次のとおりだ。ヨーロッパ史だと西暦1600年頃から1800年頃まで。

第17章:ウィリアム・ギルバートの『磁石論』
第18章:磁気哲学とヨハネス・ケプラー
第19章:一七世紀機械論哲学と力
第20章:ロバート・ボイルとイギリスにおける機械論の変質
第21章:磁力と重力―フックとニュートン
第22章:エピローグ―磁力法則の測定と確定


第3巻の登場人物はとても多いので、主だった人物についてのみ年代順に、そして磁力と重力についての業績についてだけ紹介しておく。


ウィリアム・ギルバート(1544-1603)

著書『磁石論(1600)』によって次のことを述べた。

- 地球が巨大な磁石であることを提唱。
- 地球のレプリカとして球形磁石「テレラ(小地球)」を用いた磁力の実験を行った。
- 磁気哲学を提唱した。
- 検電器を発明し、琥珀現象(静電引力)の実験を行い、静電気研究の出発点を築いた。
- 彼の行った琥珀の実験は定性的なものにとどまっていた。
- 電気力は電気発散気と呼んだ物質による近接作用と考えた。
- 磁石にはその磁力がおよぶ「作用圏」があると考えた。
- 磁気の作用圏は実在的なものではなく、磁力は遠隔作用だと考えていた。
- 電気的な運動はおもに質料(materia)によって、磁気的な運動はおもに形相(forma)によって実現されると考えていた。
- 電気力の原因の質料は電気発散気という物質であり、磁力の原因の形相は非物質だと考えた。
- 地球が持つ磁力は地球自身の自転軸の方向を決め、さらに自転運動を引き起こすと考えた。その意味で彼はコペルニクスの地動説をいち早く取り入れていた。
- このように主張しつつも、地球を含むあらゆる天体は球であり、すべての球は創造主によって与えられた霊魂によって支配されて運動が決定づけられ、磁石さえも霊魂を持つと考えていた。

つまり地球は霊魂を有していることと磁性によりみずから回転し、みずからを方向づけるということは切り離して考えることができない。その2つをもってギルバートは地動説を受け入れることができたのである。

コルチェスターのウィリアム・ギルバートの著作、『磁石論』出版400周年を記念して
http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/stern-j/demagint_j.htm

『磁石論』の英語版はここに公開されている。邦訳されている「磁石(および電気)論 新版」は150ページしかないので部分訳だ。
https://archive.org/details/williamgilbertc00wriggoog


ヨハネス・ケプラー(1571-1630)

宇宙の神秘(1596)」、「新天文学(1609)」「宇宙の調和(1619)」というケプラー3部作によりケプラー3法則を提唱した。ケプラーはギルバートの『磁石論(1600)』を読んで多大な影響を受けていた。

コペルニクスの地動説の太陽系モデルでは惑星の軌道は真円である。コペルニクスにとって地球の公転軌道の中心はいわば「平均太陽」の位置である。軌道が楕円であることを確信していたケプラーは、楕円の中心(2つの焦点の中点)という何もない場所に「影響力」の中心があるはずがないことに気が付いていた。

ケプラーは惑星の公転運動の原因を当初は「運動霊」であるとしていたが、後に原因を磁力に求めた。それはギルバートの『磁石論(1600)』による影響である。ケプラーは太陽、惑星、月などの天体はすべて磁石であると考えていた。しかし磁力は引力として働くのではない。惑星に及んでいる太陽の磁力の作用圏は太陽が自転することによって回転し、地球を軌道の接線方向に引きずって公転運動を引き起こすと考えていた。また磁力が太陽から離れるに従って減衰することはギルバートの理論から知っていたが、作用圏を地球の公転面だけに限って考えたために逆一乗則に従って磁力が減衰するという理論だった。実際、彼は惑星の公転速度をもとに太陽の自転速度を3日だと割り出したが、もちろん見当はずれな値だ。

ケプラーの業績で見逃してはならないことは、磁力を起源とした誤った前提のもとに打ち立てられていたとはいえ幾何学に過ぎなかった惑星の運動の理論を動力学へ移行させたことにある。そして太陽が6個の惑星に及ぼす力、地球が月に及ぼす力、木星が4個の衛星に及ぼす力が同種類のものであることをもケプラーの法則は示唆していた。また静止した状態に限定されていたが「慣性(inertia)」という言葉を創ったのもケプラーである。これらのことが後にニュートンの万有引力発見へと結びついていく。

高校物理でケプラーの3法則は1~2ページで解説され、「ケプラーの法則の発見が物理学の根幹となる万有引力の法則の発見へとつなっていきます。」と簡潔に記述されている背後に、これほど壮大な想像力と深い洞察、精緻で厖大な計算があったことに僕は感動した。

邦訳された「宇宙の神秘(1596)」は376ページなのでなんとか読み切ったのだが、ケプラーの第1法則、第2法則を発表した「新天文学(1609)目次情報)」と第3法則を発表した「宇宙の調和(1619)」はどちらも650ページ前後の大著で微積分誕生以前の数学手法、とりわけ三角比を複雑に組み合わせて用いる古代ギリシャのユークリッド幾何学で書かれた本である。僕はこの3冊を持っているが未読の2冊を読み解く自信はまったくない。

新天文学(ラテン語版)
https://www.kyoto-su.ac.jp/lib/kichosyo/kepler/pages/jk_001.html

宇宙の調和(英語版)
http://sacred-texts.com/astro/how/index.htm


ガリレオ・ガリレイ(1564-1642)

ガリレイはみずから制作した望遠鏡を使って惑星の衛星の発見、太陽黒点や月面の観察をしたことにより、自然の見方や観測方法に根底的な変革をもたらした。

望遠鏡による太陽黒点や月面の凹凸は地上で観測される大地の起伏と同様に不規則で、天体を構成する物質も地上にある物質と同種のものであるというインスピレーションをもたらしたのだ。もともと神が創造した天体は天界という別世界にある完全な球であり、太陽黒点のようなしみや月面に凹凸などあるはずがないと考えられていたからだ。天体も物質であるのなら質量を持つのだろうという意味において、ニュートンの万有引力の発見に結びつくヒントになったといえよう。

ガリレイは地上の物体の運動法則、落体の法則を実験により導き、近代的な意味で世界最初の科学者と呼ばれている。そして彼の自然観は物質が無性質、不活性で受動的であるという機械論である。

しかしガリレイはケプラーの楕円軌道の意義を認めることができず、万有引力の発見を取り逃がした。遠隔力としての重力も受け入れることができなかった。ガリレイにとって太陽系は本質的に物理学の問題ではなかったのである。

またガリレイには力の概念が完全に欠落していて、その意味で彼の力学は動力学に到達せず数学的な運動学にとどまっていた。望遠鏡で惑星を観測していたものの、惑星の運動についての理論らしきものを何ひとつ作り出していない。天体力学という観念をとらえるのに完全に失敗していたのである。地動説という新しい宇宙像のために闘った殉教者のように言われているが、惑星運動のダイナミズムについては全く無知であったのだ。

本書で強調されているガリレイの業績とは、物体は「なぜ」落下するのかというそれまでの自然学の設問自体を退け、物体は「どのように」落下するのかという問題に守備範囲を限定し、事物や現象の数学的法則性を読み解く手法を創始したことである。そして仮説・論証・実験という近代科学の方法を編み出した。


ルネ・デカルト(1596-1650)

デカルトの自然観も機械論であるが、ガリレイの機械論とかなり異なっていた。彼は「感覚は認識を妨げかねない」ので実験的検証に頼らず演繹的論証のみを重視して自然を理解しようとした。彼は運動の第一原因として「神は宇宙の中につねに同量の運動を保存している」という命題を置き、そこから自然学の基本法則として次の3つの力学原理を導き出している。

第1法則:あらゆるものはできるだけ同じ状態を保とうとする。したがって一度動かされると、いつまでも動き続ける。

第2法則:すべての運動は、それ自身として直線的である。したがって円運動するものはその描く円の中心からつねに遠ざかろうとする。

第3法則:物体はより強力な他の物体と衝突するときには、自分の運動をなんら失わないが、より弱い物体と衝突するときにはその弱い物体に移しただけの運動を失う。

つまりデカルトは「慣性の法則」を初めて定式化し、「運動量の保存則」の萌芽形態を提唱したことで初期の力学理論の発展に大きな功績を残した。

しかし彼の力学は力の概念が欠如した衝突の理論に過ぎない。見かけの遠隔作用は空間に感覚ではとらえられない物質が存在するとし、惑星の運動についても太陽の回りを渦になって回転する微細物質が惑星を押しているからだと説明した。デカルトの「渦動仮説」である。この説の致命的な欠陥は、精密な観測に裏打ちされたケプラーの3法則を同じレベルの精密さで説明できないことにあった。

磁力については磁石や鉄には磁気粒子が通る通孔があり、磁気粒子の運動の結果生じるというあくまで機械論こだわった定性的な理解に留まっていた。

デカルトはコペルニクスの地動説を支持していたとはいえ、あくまで哲学者であり、数学者であったのだ。


ロバート・ボイル(1627-1691)

科学の世界でボイルを有名にしたのは、フックの協力で作り上げた真空ポンプをもちいた一連の大気と真空の実験と、現在「ボイルの法則」と呼ばれている事実の発表だった。彼の物質観は「粒子哲学」である。ボイルは引力を認めず、遠隔力としての引力は直接的接触による衝撃または圧力の結果であるとみなしていた。それゆえ遠隔力の典型である磁力も近接作用として説明されることになる。

ボイルにとって磁化とは純粋に機械的な作用であり、地球の磁力による磁気発散気が通孔をもつ鉄が影響を与えるというものだった。電気力についても電気物質による発散気に起源があるとした。


ロバート・フック(1635-1703)

フックの法則」で有名なロバート・フックは、重力の原因が磁力であるかどうかを見極めるために、その減衰を数学関数であらわそうとしその関数形が等しければ両者は同じ原因によるものと考えた。彼はそのために重力と磁力が距離によりどのように減衰するかの実験を行った。実験はうまくいかなかったことは容易に想像できるが、魔術的な色彩に彩られていた磁力についての知が近代科学のものに大きく一歩近づいたのである。

またフックは惑星の運動は慣性による軌道接線方向への直線運動に中心物体からの引力による中心方向への加速(屈曲)が重ね合わされたものと考え、惑星運動を正しく解析する道を開いた。この点についてフックはニュートンに意見を求めたことがニュートンの惑星運動理論に大きな寄与をすることになった。

そしてフックは「世界の体系」が3つの仮説によて解明されると主張した。

1)太陽系のすべての天体の運動が距離をへだてて働く相互的な引力(中心力)に支配されていること。
2)すべての曲線運動が慣性運動からの逸れの結果であり、それをもたらす力が上記1)の引力であること。
3)その引力は距離とともに減少すること。そしてその力は逆二乗則に従って減少する。

これらはほとんどニュートンが導いた結論に等しいが、数学的に証明する手腕をフックは欠いていたのである。

フックがそのような境地に達していたことも、ニュートンと同時代を生きた人だということも僕は知らなかったのでまさに目から鱗が落ちる思いがした。


アイザック・ニュートン(1642-1727)

そのようなわけでフックが構想した「世界の体系」を込み入った円錐曲線の諸定理とデリケートな極限操作を駆使し、緻密で早大な数学的体系に仕上げたのがフックより7歳年下のニュートンである。ニュートンはケプラーの3法則から太陽と惑星のあいだに距離の二乗に反比例する引力が働いていることを導き出し、その引力が万有であると仮定し、惑星・衛星の運動ばかりか地球の形状から潮汐までその著書「プリンキピア(1687, 1713, 1726)」で説明してみせた。これは17世紀の素朴な機械論の制約を打ち破って、数理科学としての近代物理学を創始したという偉大な業績である。

以前僕は「万有引力(重力)の原因についてニュートンは理解していなかった。」と否定的な意味合いで紹介したことがあるが、本書を読んでむしろそれは見当違いであることがわかった。つまり、ニュートンは純粋に数学的な手法により万有引力のありようを示すことが自然哲学(物理学)の目的であり、万有引力の「原因」や「本質」、「存在理由」を問うことは目的ではなかったからだ。それらを意図的に排除していたのである。このように、かつてガリレイが運動学にたいしておこなっていた数学的現象主義の立場を、ニュートンは動力学まで押し広めたのである。

ニュートンが導いたのはケプラーの3法則から万有引力という「順問題」であり、万有引力からケプラーの3法則を導くという「逆問題」の導出には成功していなかったことは「古典力学の形成―ニュートンからラグランジュへ:山本義隆」という本に書かれている。「磁力と重力の発見」ではこのことについてふれられていなかった。

順問題の解法:
http://wakariyasui.sakura.ne.jp/p/mech/bannyuu/bannyuu.html

逆問題の解法(英語ページ):
http://galileo.phys.virginia.edu/classes/152.mf1i.spring02/KeplersLaws.htm


ニュートンが生涯に書き残したもののなかには、磁石や磁力について触れている箇所は散見されるが、主題として真正面から論じたものは見当たらない。


シャルル・ド・クーロン(1736-1806)

磁力の減衰がどのような法則に従っているかは、ミュッセンブルークとヘルシャム、カランドリーニ、ジョン・ミッシェル、トビアス・マイヤーなどによって測定、研究されてきたが、逆二乗則に従うことを最終的に導いたのはクーロンの測定によるものだった。クーロンは電気力の減衰が逆二乗則に従うことも測定で求めたことで有名だが、磁力の減衰の法則も彼の業績である。ともに「クーロンの法則」として知られている。磁力の減衰の測定が困難だったのは、磁石が単極でないこと、磁石が広がりをもった物体であることが理由である。測定の詳細は次のページをお読みになっていただきたい。

1777年~1787年:クーロンの法則
http://www.neomag.jp/mag_navi/history/history_08.php


このようにして瞬時に伝わる遠隔力として磁力と電気力、重力が理解されていったのだが、それらが光速で伝わる近接力であることがわかったのは、磁力と電気力については電磁気学と量子力学の完成、重力については一般相対性理論の完成を待たなければならなかった。しかし18世紀からみてそれははるか先の未来の理論である。


この「磁力と重力の発見」3部作をお書きになった後、山本先生は続編として「十六世紀文化革命」2部作、さらに「世界の見方の転換」3部作をお書きになり、「磁力と重力の発見」で語り尽くせなかったことを補っている。これらの本もいずれ読んでみたい。


ブログ記事で紹介できたのは本書のほんのハイライト部分に過ぎず、論理的につながらない箇所や抜けがたくさんでてくるのはやむをえない。記事では紹介できなかった社会的、思想的背景を含めてご理解いただくために、ぜひこの3部作に挑戦していただきたい。そして学校でケプラーの法則やニュートンの万有引力の法則を学ぶ高校生には「磁力と重力の発見」は難しすぎるので、せめて今回のブログ記事だけでも読んでほしいと僕は思うのだ。

磁力と重力の発見〈1〉古代・中世:山本義隆
磁力と重力の発見〈2〉ルネサンス:山本義隆
磁力と重力の発見〈3〉近代の始まり:山本義隆

  


関連ページ:

永久磁石の歴史と磁気科学の発展
http://www.neomag.jp/mag_navi/history/history_top.php


関連記事:

磁力と重力の発見〈1〉古代・中世:山本義隆
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/75ef1fc1216c255471fdbf65cc3a0c49

磁力と重力の発見〈2〉ルネサンス:山本義隆
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/16b61843d410a867f942f3f8aef13865


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磁力と重力の発見〈3〉近代の始まり:山本義隆



第17章:ウィリアム・ギルバートの『磁石論』
- ギルバートとその時代
- 『磁石論』の位置と概要
- ギルバートと電気学の創設
- 電気力の「説明」
- 鉄と磁石と地球
- 磁気運動をめぐって
- 磁力の本質と球の形相
- 地球の運動と磁気哲学
- 磁石としての地球と霊魂

第18章:磁気哲学とヨハネス・ケプラー
- ケプラーの出発点
- ケプラーによる天文学の改革
- 天体の動力学と運動霊
- ギルバートの重力理論
- ギルバートのケプラーへの影響
- ケプラーの動力学
- 磁石としての天体
- ケプラーの重力理論

第19章:一七世紀機械論哲学と力
- 機械論の品質証明
- ガリレイと重力
- デカルトの力学と重力
- デカルトの機械論と磁力
- ワルター・チャールトン

第20章:ロバート・ボイルとイギリスにおける機械論の変質
- フランシス・ベーコン
- トマス・ブラウン
- ヘンリー・パワーと「実験哲学」
- ロバート・ボイルの「粒子哲学」
- 機械論と「磁気発散気」
- 特殊的作用能力の容認

第21章:磁力と重力―フックとニュートン
- ジョン・ウィルキンズと磁気哲学
- ロバート・フックと機械論
- フックと重力--機械論からの離反
- 重力と磁力の測定
- フックと「世界の体系」
- ニュートンと重力
- 魔術の神聖化
- ニュートンと磁力

第22章:エピローグ―磁力法則の測定と確定
- ミュッセンブルークとヘルシャムの測定
- カランドリーニの測定
- ジョン・ミッシェルと逆二乗法則
- トビアス・マイヤーと渦動仮説の終焉
- マイヤーの磁気研究の方法
- マイヤーの論理--仮説・演繹過程
- クーロンによる逆二乗法則の確定

あとがき

文献
索引


第1巻

「遠隔力」の概念が、近代物理学の扉を開いた。古代ギリシャからニュートンとクーロンにいたる科学史空白の一千年余を解き明かす。西洋近代科学技術誕生の謎に真っ向からとりくんだ渾身の書き下ろし。第1巻は古代ギリシャ・ヘレニズム時代、ローマ帝国時代、中世キリスト教世界まで。

第1章:磁気学の始まり―古代ギリシャ
第2章:ヘレニズムの時代
第3章:ローマ帝国の時代
第4章:中世キリスト教世界
第5章:中世社会の転換と磁石の指向性の発見
第6章:トマス・アクィナスの磁力理解
第7章:ロジャー・ベーコンと磁力の伝播
第8章:ペトロス・ペレグリヌスと『磁気書簡』

第2巻

第2巻では、従来の力学史・電磁気学史でほとんど無視されてきたといっていいルネサンス期を探る。本書は技術者たちの技術にたいする実験的・合理的アプローチと、俗語による科学書執筆の意味を重視しつつ、思想の枠組としての魔術がはたした役割に最大の注目を払う。脱神秘化する魔術と理論化される技術。清新の気にみちた時代に、やがてふたつの流れは合流し、後期ルネサンスの魔術思想の変質―実験魔術―をへて、新しい科学の思想と方法を産み出すのである。

第9章:ニコラウス・クザーヌスと磁力の量化
第10章:古代の発見と前期ルネサンスの魔術
第11章:大航海時代と偏角の発見
第12章:ロバート・ノーマンと『新しい引力』
第13章:鉱業の発展と磁力の特異性
第14章:パラケルススと磁気治療
第15章:後期ルネサンスの魔術思想とその変貌
第16章:デッラ・ポルタの磁力研究

NHK将棋講座

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しなくてはならないこと、したいことはたくさんあるのだが、週に1~2時間を将棋の勉強のために使うことにした。

僕は小学3年生から4年生にかけて将棋クラブに入っていたことがあるだけで、あとはNintendo 64の「最強羽生将棋」で少し遊んだ程度。

対戦経験がほとんどないから自分のレベルがわからない。たぶん7級くらいなのだろう。今日は3手詰の詰将棋で慣らしていた。これくらいが僕にはちょうどよい。

将棋への興味は電王戦が始まったあたりから少しできてていたので2冊だけ本を買っていた。囲碁ソフトも名人を打ち負かす時代になってきたし、人工知能の話題も増えている。このあたりにもアンテナを張っておこう。


とりあえず日曜午前中に30分放送されるNHK将棋講座を見ることにした。

NHK囲碁と将棋
http://cgi2.nhk.or.jp/goshogi/shogifocus/


今日は書店で4月号のテキストと羽生さん監修の入門書を購入。あとiPhoneとiPadに将棋アプリや詰将棋アプリをインストール。

NHK将棋講座」(Kindle版




羽生善治のこれから始める人の将棋~強くなるための覚え方と練習問題



内容:
初級者から1級レベルまで。勝ちの形を身につける実戦トレーニング。早く実戦力を身につけるために終盤から覚える!駒の動かし方・基本ルール→終盤→中終盤→中盤→序盤の流れ。駒の動かし方や駒の利きがパッとわかり、覚えやすい「矢印付き図面」。覚えたことを、すぐに復習できる練習問題100問を収録。


すでに買い置きしていた電王戦関連の本はこの2冊。

将棋電王戦の軌跡 ~コンピューターが新たな定跡を生み出す日~(Kindle書籍)



内容:
伝統文化である将棋が、ニコ生で60万PVも稼ぐコンテンツにまでになった将棋電王戦。プロ棋士対コンピューターという戦いは、将棋ファンのみならず、さまざまな人を魅了している。2014年3月~4月に行なわれた第3回は、プロ棋士側の1勝4敗。コンピューターソフトの棋力はトッププロのレベルにまできている。そんな将棋電王戦の戦いを週アスPLUS上に掲載した観戦記を元に再編。さらに、電王戦の仕掛け人であり、今はなき米長邦雄永世棋聖へのインタビューや羽生善治三冠の対コンピューターへの思い、コンピューター将棋ソフトのしくみなど読み応えのある一冊となっている。

人間に勝つコンピュータ将棋の作り方



内容:
「人間対コンピュータ」どちらが能力が上なのか? 創造性の点においてコンピュータは人間より劣るもの,と思われるが将棋ではどうなのか。清水女流王将とあから2010との対局はさまざまな反響を呼び起こした。本書は,単に人間に勝つ,というよりも「人間に勝てるコンピュータ」を人間がどのように開発していったのか,その過程を開発者自らが書き下ろした。「激指」「GPS将棋」「Bonanza」「YSS」などの強豪プログラムの設計思想から導かれる戦いの歴史。


趣味として続くかどうかもわからないし、ブログ記事もどう書いてよいのかわからない。今日のところは「とりあえず見切り発車」のような記事である。


関連ページ:

日本将棋連盟:
http://www.shogi.or.jp/

電王戦:
http://denou.jp/

将棋リンク集:
https://www.shogitown.com/info/link/link.html

「厳選」将棋リンク集 - 将棋タウン
https://www.shogitown.com/info/link/link-select.html

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PCのウェブブラウザ上で遊べる将棋ソフト:

将棋ゲーム 将皇(FLASH版)
http://www14.big.or.jp/~ken1/application/shogi.html

将棋ウォーズ
http://shogiwars.heroz.jp/s/

将棋ウォーズをPCでやるための方法と手順を簡単に。
http://bokuranotameno.com/post-3065/

ブラウザ上で出来るコンピュータ将棋集
http://matome.naver.jp/odai/2139320039584305601


PCのウェブブラウザ上で遊べる詰将棋:

詰将棋入門
http://www.geocities.jp/ookami_shogi/tumenyumon/top.html

将棋幼稚園
http://www.shogitown.com/beginner/top-b.html

詰め将棋ゲーム
https://www.jti.co.jp/knowledge/shogi/game/index.html

詰将棋(よかとき)
http://www1.kiy.jp/~yoka/gameland/TumeShougi/TumeShougi_swf.cgi

詰将棋おもちゃ箱
http://www.ne.jp/asahi/tetsu/toybox/

詰将棋リンク集
http://www.ne.jp/asahi/tetsu/toybox/shogi.htm


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