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番組告知:NHK数学ミステリー白熱教室(エドワード・フレンケル教授)

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今週金曜日から「NHK数学ミステリー白熱教室」が放送される!

ブログをお読みいただいている「しろうくん」から教えていただいた。より多くの方にご覧いただけるようにブログで告知させていただこう。しろうくん、ありがとうございました。


NHK数学ミステリー白熱教室(エドワード・フレンケル教授)
http://www.nhk.or.jp/hakunetsu/math/

第1回:数学を"統一"する!
2015年11月13日(金)午後11時放送 Eテレ

第2回:数学の世界に隠された美しさ~数論の対称性~
2015年11月20日(金)午後11時放送 Eテレ

第3回:"フェルマーの最終定理"への道~調和解析の対称性~
2015年11月27日(金)午後11時放送 Eテレ

第4回:数学と物理学 驚異のつながり
2015年12月4日(金)午後11時放送 Eテレ


今回のテーマは「数学の大統一」。物理学はいわゆる「万物の理論」への統一を目指して進んでいることはご存知のとおりだ。

しかし

- 数学も統一する必要があるの?
- 幾何学、代数学、解析学という現代数学の3本の柱がひとつにまとめられてしまうということ?
- 数学の大統一は物理学(自然科学の法則)と関係があるの?

のように興味は尽きない。

その鍵になるのが「ラングランズ予想」というものらしい。このように高度な数学を一般視聴者に説明できるのだろうか?

参考: 「幾何学、代数学、解析学という現代数学の3本の柱」については次の記事をお読みいただきたい。

大学で学ぶ数学とは(概要編)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/07137c47d16d95ddde8f5c4cb6f37d55


どのような解説がおこなわれるのだろうか?詳しくは番組ホームページをご覧いただきたい。各回の概要が掲載されている。

概要(番組ホームページからの引用)

数学界でこの半世紀の間に大発展をとげた重要かつミステリアスな“予想”がある。「ラングランズ予想(Langlands Program)」と呼ばれるものだ。
数論や調和解析などと呼ばれる、数学の様々な分野が実は“地続き”で、最終的には“統一”できるかもしれないという、いわば数学の大統一理論である。
もし、数学の全ての分野を互いにつなぎ合わせることが出来れば、数多くの難問が解決するかもしれないという数学者がいるほど非常に重要なものなのだ。
実際、あの「フェルマーの最終定理」もこの「ラングランズ予想」の目論見どおり、数論の問題を調和解析の言葉に翻訳することで350年ぶりに解決された。
今回、この「ラングランズ予想」へ私たちを招待してくれるのは、カリフォルニア大学バークレー校のエドワード・フレンケル教授。現在、アメリカで最も有名な数学者の1人だ。数学の魅力を誰よりも知り尽くしたフレンケル教授が、私たちの数学のイメージを一変する!


そして番組の関連本はこちら。

数学の大統一に挑む:エドワード・フレンケル」(Kindle版



原書でお読みになりたい方はこちらからどうぞ。

Love and Math: The Heart of Hidden Reality: Edward Frenkel」(Kindle版




関連記事:

番組告知:NHK-BS1「神の数式 完全版」全4回
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d763b4d8161efae445f37e05ab23f1e6

番組告知:NHK宇宙白熱教室(ローレンス・クラウス教授)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/fdcf3a5173e9f55fc37c9b8d85f4128b

番組告知:MIT白熱教室(物理学編)、これが物理学だ!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/66d25e29fc2c514f453a6b110150b811

NHKニューヨーク白熱教室(ミチオ・カク 教授)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/274adc0121aba0485a16318d343c176f


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発売情報: プリンストン 数学大全(朝倉書店)

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プリンストン 数学大全(朝倉書店)

内容:
【「読める」数学レファレンス】
「数学とは何か」「数学の起源とは」から現代数学の全体像,数学と他分野との連関までをカバーする,初学者でもアクセスしやすい総合事典。
プリンストン大学出版局刊行の大著「Princeton Companion to Mathematics」の全訳。
ティモシー・ガワーズ,テレンス・タオ,マイケル・アティヤほか多数のフィールズ賞受賞者を含む一流の数学者・数学史家がやさしく読みやすいスタイルで数学の諸相を紹介する。数学愛好家から数学系学生,研究者まで幅広く活用できる一冊。
純粋数学を俯瞰するだけでなく,数学が隣接諸科学(経済学,金融,統計学,情報工学ほか)にどのような基礎を与えているかについても詳述した,「読める」数学総合事典。「ピタゴラス」「ゲーデル」など96人の数学者の評伝付き。
2015年11月刊行、1200ページ。


朝倉書店さんから「プリンストン 数学大全」という数学大事典が発売されたので発売情報としてお知らせしておこう。(朝倉書店のホームページには11月20日発売と書かれているがAmazonではすでに購入可能になっている。)

今週末から「NHK数学ミステリー白熱教室」が始まるので現代数学に対する世間の関心は高まるだろう。数学事典を発売するにはちょうどよいタイミングだ。

とはいえ1200ページ(重量は2.15キログラム)あるから通読するのは難しそう。僕は書店で実物を見てから購入を検討したい。地元に大型書店がない人は実物を確認できないので、このような大著はサンプルページがホームページやオンライン書店から見れるとよいのにと思った。(朝倉書店さまから連絡があり、見本ページを掲載してくださるそうです。またTwitterでは見本ページを公開していただきました。ここをクリックしてください。)

僕のブログでは読み終えた本について紹介記事(感想記事)を書いているが、このページ数だときついと思う。でも座右に置いていつでも調べられるようにしておきたい本であるには違いない。目次を見ると「第 III 部 数学の概念」は翻訳前の英語の順番で項目が並んでいるようだ。

本の詳細は朝倉書店のホームページで確認してほしい。

「プリンストン 数学大全」:朝倉書店のホームページ
http://www.asakura.co.jp/books/isbn/978-4-254-11143-9/

ご購入はこちらからどうぞ。

プリンストン 数学大全(朝倉書店)



編集部から
「数学愛好者にとっての優れた道しるべとして」
森重文先生(京都大学教授、国際数学連合総裁、1990年フィールズ賞受賞)ご推薦
「数学愛好者にとっての優れた道しるべとして、プロの数学者にとっては専門外の分野の理解に、本書は頼りになる一冊である。古今東西の数学を見渡し、多岐にわたる分野を網羅して、それぞれ選りすぐりの世界的権威が分かりやすく解説している。そのような著書が、数学を知り尽くした翻訳陣のおかげで、日本語で提供されることになった。本書を拠り所として数学への親しみと理解が一層深まるに違いない。」

数学を「全体として」引き受ける
森田真生先生(独立研究者)ご推薦
「数学世界の全景を一望してみたい。数学を志したことのある人ならば、誰もが一度は心に抱く願いだろう。本書はそんな無謀な願いを、形にしたような本である。数学のすべてが描かれているわけでは無論ないが、遠近様々な視点から編まれた数学の一大パノラマだ。専門分化が著しい現代において、自分なりの数学の「眺望」を得ることは容易ではない。それでも数学を「全体として」引き受けようという稀有な情熱がこの本を貫いている。溢れる数学的思考の流れに身をまかせるように、好きな場所からページを繰ってみてほしい。「数学をもっと勉強したい」と心に火がつくこと請け合いである。」


翻訳の元になった原書はこちら。原書は重量2.7キログラムもあるそうなのでKindle版をiPadに入れて読めるのがうれしい。

The Princeton Companion to Mathematics」(Kindle版




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プリンストン 数学大全(朝倉書店)



目次
第 I 部 イントロダクション
 I.1 数学とは何か?
 I.2 数学における言語と文法
 I.3 いくつかの基本的な数学的定義
 I.4 数学研究の一般的目標

第 II 部 現代数学の起源
 II.1 数から数体系へ
 II.2 幾何学
 II.3 抽象代数学の発展
 II.4 アルゴリズム
 II.5 解析学における厳密さの発展
 II.6 証明の考え方の発展
 II.7 数学の基礎における危機

第 III 部 数学の概念
 III.1 選択公理
 III.2 決定性公理
 III.3 ベイズ解析
 III.4 組ひも群
 III.5 ビルディング
 III.6 カラビ-ヤウ多様体
 III.7 基数
 III.8 圏
 III.9 コンパクト性とコンパクト化
 III.10 計算量クラス
 III.11 可算および非可算集合
 III.12 C*環
 III.13 曲率
 III.14 デザイン
 III.15 行列式
 III.16 微分形式と積分
 III.17 次元
 III.18 超関数
 III.19 双対性
 III.20 力学系とカオス
 III.21 楕円曲線
 III.22 ユークリッド互除法と連分数
 III.23 オイラー方程式とナヴィエ-ストークス方程
 III.24 エクスパンダー
 III.25 指数関数と対数関数
 III.26 高速フーリエ変換
 III.27 フーリエ変換
 III.28 フックス群
 III.29 関数空間
 III.30 ガロア群
 III.31 ガンマ関数
 III.32 母関数
 III.33 種数
 III.34 グラフ
 III.35 ハミルトニアン
 III.36 熱方程式
 III.37 ヒルベルト空間
 III.38 ホモロジーとコホモロジー
 III.39 ホモトピー群
 III.40 イデアル類群
 III.41 無理数超越数
 III.42 イジングモデル
 III.43 ジョルダン標準形
 III.44 結び目多項式
 III.45 K理論
 III.46 リーチ格子
 III.47 L関数
 III.48 リー理論
 III.49 線形および非線形波動とソリトン
 III.50 線形作用素とその性質
 III.51 数論における局所と大域
 III.52 マンデルブロ集合
 III.53 多様体
 III.54 マトロイド
 III.55 測度
 III.56 距離空間
 III.57 集合論のモデル
 III.58 合同式の算法
 III.59 モジュラー形式
 III.60 モジュライ空間
 III.61 モンスター群
 III.62 ノルム空間とバナッハ空間
 III.63 数体
 III.64 最適化とラグランジュ未定乗数法
 III.65 軌道体
 III.66 順序数
 III.67 ペアノの公理系
 III.68 置換群
 III.69 相転移
 III.70 π
 III.71 確率分布
 III.72 射影空間
 III.73 2次形式
 III.74 量子計算
 III.75 量子群
 III.76 四元数,八元数,ノルム斜体
 III.77 表現
 III.78 リッチ流
 III.79 リーマン面
 III.80 リーマンのゼータ関数
 III.81 環,イデアル,加群
 III.82 概型(スキーム)
 III.83 シュレーディンガー方程式
 III.84 シンプレクス法
 III.85 特殊関数
 III.86 スペクトル
 III.87 球面調和関数
 III.88 シンプレクティック多様体
 III.89 テンソル積
 III.90 位相空間
 III.91 変換
 III.92 三角関数
 III.93 普遍被覆空間
 III.94 変分法
 III.95 代数多様体
 III.96 ベクトル束
 III.97 フォンノイマン環
 III.98 ウェーブレット
 III.99 ツェルメロ-フレンケルの公理系

第 IV 部 数学の諸分野
 IV.1 代数的数
 IV.2 解析的整数論
 IV.3 計算数論
 IV.4 代数幾何学
 IV.5 数論幾何学
 IV.6 代数的位相幾何学
 IV.7 微分位相幾何学
 IV.8 モジュライ空間
 IV.9 表現論
 IV.10 幾何学的組合せ群論
 IV.11 調和解析
 IV.12 偏微分方程式
 IV.13 一般相対論とアインシュタイン方程式
 IV.14 力学系理論
 IV.15 作用素環
 IV.16 ミラー対称性
 IV.17 頂点作用素代数
 IV.18 数え上げ組合せ論と代数的組合せ論
 IV.19 極値的および確率的な組合せ論
 IV.20 計算複雑さ
 IV.21 数値解析
 IV.22 集合論
 IV.23 ロジックとモデル理論
 IV.24 確率過程
 IV.25 臨界現象の確率モデル
 IV.26 高次元幾何と確率論的アナロジー

第 V 部 定理と問題
 V.1 ABC予想
 V.2 アティヤ-シンガーの指数定理
 V.3 バナッハ-タルスキの逆理
 V.4 バーチ-スウィナートン=ダイヤー予想
 V.5 カールソンの定理
 V.6 中心極限定理
 V.7 有限単純群の分類
 V.8 ディリクレの定理
 V.9 エルゴード定理
 V.10 フェルマーの最終定理
 V.11 不動点定理
 V.12 4色定理
 V.13 代数学の基本定理
 V.14 算術の基本定理
 V.15 ゲーデルの定理
 V.16 グロモフの多項式増大度定理
 V.17 ヒルベルトの零点定理
 V.18 連続体仮説の独立性
 V.19 不等式
 V.20 停止問題の非可解性
 V.21 5 次方程式の非可解性
 V.22 リューヴィルの定理とロスの定理
 V.23 モストフの強剛性定理
 V.24 P対NP問題
 V.25 ポアンカレ予想
 V.26 素数定理とリーマン予想
 V.27 加法的整数論における問題と結果
 V.28 平方剰余の相互法則から類体論へ
 V.29 曲線上の有理点とモーデル予想
 V.30 特異点解消
 V.31 リーマン-ロッホの定理
 V.32 ロバートソン-セイモアの定理
 V.33 3体問題
 V.34 一意化定理
 V.35 ヴェイユ予想

第 VI 部 数学者
 VI.1 ピタゴラス(前569頃-前494頃)
 VI.2 ユークリッド(前325頃-前265頃)
 VI.3 アルキメデス(前287頃-前212頃)
 VI.4 アポロニウス(前262頃-前190頃)
 VI.5 アル・フワーリズミー(800-847)
 VI.6 ピサのレオナルド(フィボナッチ)(1170頃-1250頃)
 VI.7 ジロラモ・カルダーノ(1501-1576)
 VI.8 ラファエル・ボンベッリ(1526-1572以降)
 VI.9 フランソワ・ヴィエート(1540-1603)
 VI.10 シモン・ステヴィン(1548-1620)
 VI.11 ルネ・デカルト(1596-1650)
 VI.12 ピエール・フェルマー(160?-1665)
 VI.13 ブレーズ・パスカル(1623-1662)
 VI.14 アイザック・ニュートン(1642-1727)
 VI.15 ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716)
 VI.16 ブルック・テイラー(1685-1731)
 VI.17 クリスティアン・ゴールドバッハ(1690-1764)
 VI.18 ベルヌーイ家の人々(18世紀頃)
 VI.19 レオンハルト・オイラー(1707-1783)
 VI.20 ジャン・ル・ロン・ダランベール(1717-1783)
 VI.21 エドワード・ウェアリング(1735頃-1798)
 VI.22 ジョゼフ・ルイ・ラグランジュ(1736-1813)
 VI.23 ピエール=シモン・ラプラス(1749-1827)
 VI.24 アドリアン=マリー・ルジャンドル(1752-1833)
 VI.25 ジャン・バプティスト・ジョゼフ・フーリエ(1768-1830)
 VI.26 カール・フリードリヒ・ガウス(1777-1855)
 VI.27 シメオン=ドニ・ポアソン(1781-1840)
 VI.28 ベルナルト・ボルツァーノ(1781-1848)
 VI.29 オギュスタン=ルイ・コーシー(1789-1857)
 VI.30 アウグスト・フェルディナント・メビウス(1790-1868)
 VI.31 ニコライ・イワノヴィッチ・ロバチェフスキー(1792-1856)
 VI.32 ジョージ・グリーン(1793-1841)
 VI.33 ニールス・ヘンリク・アーベル(1802-1829)
 VI.34 ヤーノシュ・ボヤイ(1802-1860)
 VI.35 カール・グスタフ・ヤコブ・ヤコビ(1804-1851)
 VI.36 ペーター・グスタフ・ルジューヌ・ディリクレ(1805-1859)
 VI.37 ウィリアム・ローワン・ハミルトン(1805-1865)
 VI.38 オーガスタス・ド・モルガン(1806-1871)
 VI.39 ジョゼフ・リューヴィル(1809-1882)
 VI.40 エドゥアルト・クンマー(1810-1893)
 VI.41 エヴァリスト・ガロア(1811-1832)
 VI.42 ジェームズ・ジョゼフ・シルヴェスター(1814-1897)
 VI.43 ジョージ・ブール(1815-1864)
 VI.44 カール・ワイエルシュトラス(1815-1897)
 VI.45 パフヌティ・チェビシェフ(1821-1894)
 VI.46 アーサー・ケイリー(1821-1895)
 VI.47 シャルル・エルミート(1822-1901)
 VI.48 レオポルト・クロネッカー(1823-1891)
 VI.49 ゲオルク・フリードリヒ・ベルンハルト・リーマン(1826-1866)
 VI.50 ユリウス・ヴィルヘルム・リヒャルト・デデキント(1831-1916)
 VI.51 エミール・レオナール・マシュー(1835-1890)
 VI.52 カミーユ・ジョルダン(1838-1922)
 VI.53 ソフス・リー(1842-1899)
 VI.54 ゲオルク・カントール(1845-1918)
 VI.55 ウィリアム・キングダム・クリフォード(1845-1879)
 VI.56 ゴットロープ・フレーゲ(1848-1925)
 VI.57 クリスティアン・フェリックス・クライン(1849-1925)
 VI.58 フェルディナント・ゲオルク・フロベニウス(1849-1917)
 VI.59 ソーニャ・コワレフスカヤ(1850-1891)
 VI.60 ウィリアム・バーンサイド(1852-1927)
 VI.61 ジュール=アンリ・ポアンカレ(1854-1912)
 VI.62 ジュゼッペ・ペアノ(1858-1932)
 VI.63 ダーフィト・ヒルベルト(1858-1943)
 VI.64 ヘルマン・ミンコフスキー(1864-1909)
 VI.65 ジャック・アダマール(1865-1963)
 VI.66 イヴァール・フレドホルム(1866-1927)
 VI.67 シャルル=ジャン・ド・ラ・ヴァレ・プーサン(1866-1962)
 VI.68 フェリックス・ハウスドルフ(1868-1942)
 VI.69 エリー・ジョゼフ・カルタン(1869-1951)
 VI.70 エミール・ボレル(1871-1956)
 VI.71 バートランド・ラッセル(1872-1970)
 VI.72 アンリ・ルベーグ(1875-1941)
 VI.73 ゴッドフリー・ハロルド・ハーディ(1877-1947)
 VI.74 フレデリック・リース(1880-1956)
 VI.75 ライツェン・エヒベルトゥス・ヤン・ブラウアー(1881-1966)
 VI.76 エミー・ネーター(1882-1935)
 VI.77 ヴァツワフ・シェルピンスキ(1882-1969)
 VI.78 ジョージ・バーコフ(1884-1944)
 VI.79 ジョン・エデンサー・リトルウッド(1885-1977)
 VI.80 ヘルマン・ワイル(1885-1955)
 VI.81 トアルフ・スコーレム(1887-1963)
 VI.82 シュリニヴァーサ・ラマヌジャン(1887-1920)
 VI.83 リヒャルト・クーラント(1888-1972)
 VI.84 ステファン・バナッハ(1892-1945)
 VI.85 ノーバート・ウィーナー(1894-1964)
 VI.86 エミール・アルティン(1898-1962)
 VI.87 アルフレト・タルスキ(1901-1983)
 VI.88 アンドレイ・ニコライヴィッチ・コルモゴロフ(1903-1987)
 VI.89 アロンゾ・チャーチ(1903-1995)
 VI.90 ウィリアム・ヴァランス・ダグラス・ホッジ(1903-1975)
 VI.91 ジョン・フォン・ノイマン(1903-1957)
 VI.92 クルト・ゲーデル(1906-1978)
 VI.93 アンドレ・ヴェイユ(1906-1998)
 VI.94 アラン・チューリング(1912-1954)
 VI.95 アブラハム・ロビンソン(1918-1974)
 VI.96 ニコラ・ブルバキ(1935-)

第 VII 部 数学の影響
 VII.1 数学と化学
 VII.2 数理生物学
 VII.3 ウェーブレットとその応用
 VII.4 ネットワークにおける交通の数学
 VII.5 アルゴリズム設計の数理
 VII.6 情報伝達の信頼性
 VII.7 数学と暗号学
 VII.8 数学と経済学的推論
 VII.9 金融数学
 VII.10 数理統計学
 VII.11 数学と医学統計
 VII.12 解析学と分析哲学
 VII.13 数学と音楽
 VII.14 数学と美術

 第 VIII 部 展望
 VIII.1 問題を解くこつ
 VIII.2 「なぜ数学をするのか?」と問われたら
 VIII.3 数学の普遍性
 VIII.4 ニューメラシー
 VIII.5 経験科学としての数学
 VIII.6 若き数学者への助言
 VIII.7 数学年表

索引

巷説百物語シリーズ:京極夏彦

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早いもので京極夏彦さんの「百鬼夜行シリーズ」のことを「読書の秋は京極夏彦で!」という記事で紹介してから4年がたった。今月初めに「神保町ブックフェスティバル」でご本人とすれ違ったことがきっかけで、京極夏彦熱が再燃している。折に触れて今回は「巷説百物語シリーズ」を読み進めているところだ。

これは江戸時代、明治初期を舞台にした怪異譚。全部で5冊あり、それぞれに短編が6~7編ずつ収められている。「百鬼夜行シリーズ」のような長編小説ではないから、読書慣れしていない人にとっては彼の小説に入門するのにうってつけだ。

1編だけでも読んでいただくとわかるが怪異譚とはいっても実際に怪しげな妖怪や亡霊がでてくるわけではない。怪異譚、妖怪伝説をモチーフにしたミステリー小説である。テレビドラマの「必殺仕事人」に登場するような闇の稼業を請け負う3~4人のキャラクターが設定されていて、大悪人(たいてい殺人者)を巧みにおびき寄せて罰を加えるという形式。ただし必殺仕事人のように直接手を下すのではなく、自ら死を選ぶように策を講じるわけである。そのための仕掛けに怪異譚や祟りが利用される。

各話は主に怪異譚を蒐集するため諸国を巡る戯作者志望の山岡百介という登場人物の視点から書かれている。不気味な話、現実にはとうてい起こりえない事件が進むうちに、読者はぐいぐいと引き込まれていく。わかりにくいと思うとしたら、それは読者の理解力のせいではない。話の断片を少しずつ明かしながら書かれているので事件の全容は最後まで読まないとわからないように構成しているからだ。また途中でがらりと話を変えることもしばしば。同じ事件も違う人物、異なった視点から見ると全く違う様相を帯びてくる。いったい何が本当なのか?どの視点から見ても不可解であることに変わりはない。

そして不気味さが煮詰まったところで話は急展開する。「あれあれっ!どうなってるの?」と読み進めるうちにそれまでの謎が一気に解けて、悪人とおぼしき人物が特定される。そして息をもつかせないスピードで見事に成敗されてしまうのだ。しかし、謎がすべて明かされるわけではない。締めの部分を味わいながら残りの謎の種明かしを読むことになる。話によってすがすがしい読後感だったり、人間の持つ業の深さを感じたり、この世の無常を思いつつ読み終えることになるのだ。

時代小説のスタイルをとっているとはいえ、スリリングさやスピード感あふれる展開は現代小説だと言ってよい。本に没頭して時のたつのを忘れたい方、現代社会の煩わしさを忘れたい方にはお勧めしたいシリーズである。おどろおどろしい怪異譚集なのに、ついつい戻ってみたくなる世界なのだ。


このシリーズはもともと「単行本」として発売され、その後「C・NOVELS」という新書版、そして「文庫版」が発売された。現在いちばんお求めやすいのは「文庫版」である。


単行本の表紙はとても風情がある。どうせならと思い、これを機会に中古書店を探索して全巻揃えておいた。以下は各巻の表紙で、その本に登場する妖怪などが描かれている。(写真をクリックすると拡大するようにしておいた。)












実はこの表紙の裏に「隠し絵」が仕込まれていることに今回気が付いた。本の順序に従って掲載するが、最初の2枚はかなり残虐なのでモザイク表示にしておく。それぞれ画像をクリックするとオリジナルの絵を拡大表示するようにしておいた。












文庫本やKindle版でお読みになりたい方は、こちらからどうぞ。

巷説百物語 (角川文庫)」(Kindle版
続巷説百物語 (角川文庫)」(Kindle版
後巷説百物語 (角川文庫)」(Kindle版
前巷説百物語 (角川文庫)」(Kindle版
西巷説百物語 (角川文庫)」(Kindle版

  

 

内容:
闇の江戸、跳梁跋扈する怪、そして、妖しを斬る影――傑作妖怪時代小説。
江戸時代。曲者ぞろいの悪党一味が、公に裁けぬ事件を金で請け負う。そこここに滲む闇の中に立ち上るあやかしの姿を使い、毎度仕掛ける幻術、目眩、からくりの数々……。幻惑に彩られた、巧緻な傑作妖怪時代小説。

巷説百物語
怪異譚を蒐集するため諸国を巡る戯作者志望の青年・山岡百介は、雨宿りに寄った越後の山小屋で不思議な者たちと出会う。御行姿の男、垢抜けた女、初老の商人、そして、なにやら顔色の悪い僧―。長雨の一夜を、江戸で流行りの百物語で明かすことになったのだが…。闇に葬られる事件の決着を金で請け負う御行一味。その裏世界に、百介は足を踏み入れてゆく。小豆洗い、舞首、柳女―彼らが操るあやかしの姿は、人間の深き業への裁きか、弔いか―。世の理と、人の情がやるせない、物語の奇術師が放つ、妖怪時代小説、シリーズ第一弾。

続巷説百物語
無類の不思議話好きの山岡百介は、殺しても殺しても生き返るという極悪人の噂を聞く。その男は、斬首される度に蘇り、今、三度目のお仕置きを受けたというのだ。ふとした好奇心から、男の生首が晒されている刑場へ出かけた百介は、山猫廻しのおぎんと出会う。おぎんは、生首を見つめ、「まだ生きるつもりかえ」とつぶやくのだが…。狐者異、野鉄砲、飛縁魔―闇にびっしり蔓延る愚かで哀しい人間の悪業は、奴らの妖怪からくりで裁くほかない―。小悪党・御行の又市一味の仕掛けがますます冴え渡る、奇想と哀切のあやかし絵巻、第二弾。

後巷説百物語
御行の又市、山猫廻しのおぎん、事触れの治平ら小悪党たちの暗躍を描いた人気シリーズの第3弾。幕末を舞台とした先の2作とは異なり、時代は明治へと移り変わっている。年老いた主人公、山岡百介が、数十年前に又市らによって仕組まれた事件を振り返るという趣向だ。奇怪なしきたりに縛られた孤島、死人が放つ怪火、不死の蛇、人へと変化する青鷺など、著者が得意とする妖怪を題材にした6編が収録されている。第130回直木賞受賞作。

前巷説百物語
江戸末期。双六売りの又市は損料屋「ゑんま屋」にひょんな事から流れ着く。この店は表はれっきとし物貸業、しかし「損を埋める」裏の仕事も請け負っていた……若き又市が江戸に仕掛ける、百物語はじまりの物語。理由あって上方から江戸へ流れてきた双六売りの又市は、根岸の損料屋「ゑんま屋」の手伝いをすることに。この店はれっきとした貸物業、しかし裏では、決して埋まらぬ大損を大金と引き替えに仕掛けであがなう…という稼業を営んでいた。渡世仲間らと共に、若き又市が江戸に仕掛ける妖怪からくりの数々。だがついに、とてつもない強敵が又市らの前に立ちふさがる。やるせなさが胸を打つシリーズ第4弾。

西巷説百物語
人が生きて行くには痛みが伴う。そして、人の数だけ痛みがあり、傷むところも、傷み方もそれぞれちがう……様々に生きづらさを背負う人間たちの業を、林蔵があざやかな仕掛けで解き放つ。大坂屈指の版元にして、実は上方の裏仕事の元締である一文字屋仁蔵の許には、数々の因縁話が持ち込まれる。いずれも一筋縄ではいかぬ彼らの業を、あざやかな仕掛けで解き放つのは、御行の又市の悪友、靄船の林蔵。亡者船さながらの口先三寸の嘘船で、靄に紛れ霞に乗せて、気づかぬうちに彼らを彼岸へと連れて行く。「これで終いの金比羅さんや―」。第24回柴田錬三郎賞を受賞した、京極節の真骨頂。


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数学の大統一に挑む:エドワード・フレンケル

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数学の大統一に挑む:エドワード・フレンケル」(Kindle版

内容紹介:
憧れのモスクワ大学の力学数学部の試験に全問正解したにもかかわらず父親がユダヤ人であるために不合格。それでも少年は諦めず、数学を学び続けた。「ブレイド群」「リーマン面」「ガロア群」「カッツ・ムーディー代数」「層」「圏」…、まったく違ってみえる様々な数学の領域。しかし、そこには不思議なつながりがあった。やがて少年は数学者として、異なる数学の領域に架け橋をかける「ラングランズ・プログラム」に参加。それを量子物理学にまで拡張することに挑戦する。ソ連に生まれた数学者の自伝がそのまま、数学の壮大なプロジェクトを叙述する。
1996年6月刊行、176ページ。

著者について:
エドワード・フレンケル
1968年旧ソ連のコロムナという都市で生まれる。両親の友人の数学者の手ほどきをうけ、幼い頃から数学オリンピックで金メダルをとるなど才能を発揮したが、父親がユダヤ人であるためモスクワ大学の入学を試験で高得点をあげたにもかかわらず面接で落とされる。石油経済研究所で応用数学を学び、ここで、フランスの数学者ラングランスが始めた数学と数学の間の架け橋をかける「ラングランス・プログラム」に興味を持ち、その第一人者となる。現在、カリフォルニア大学バークレー校の数学の教授である。2015年7月刊行、496ページ。
ウィキペディア(英語): https://en.wikipedia.org/wiki/Edward_Frenkel
ホームページ: http://www.edwardfrenkel.com/
Twitter: @edfrenkel

翻訳者について:
青木薫
1956年、山形県生まれ。翻訳家、理学博士。京都大学理学部卒業、同大学院修了。数学の普及への貢献により2007年度日本数学会出版賞を受賞。


理数系書籍のレビュー記事は本書で286冊目。

先日告知させていただいた「NHK数学ミステリー白熱教室(エドワード・フレンケル教授)」の放送開始に間に合った。昨夜本書を読み終えることができた。

本書の紹介と感想は翻訳を担当された青木薫さんが「訳者あとがき」としてお書きになった文章をネット上に公開されていて、紹介文として僕が書きたかったことはほぼ尽くされている。だから僕は自分の感想文として書いておくことにしよう。

「フェルマーの最終定理」は、序章にすぎない(青木薫が「数学の大統一に挑む」を読む)
http://toyokeizai.net/articles/-/75853

青木さんがお書きになっているように、本書は著者のフレンケル博士の半生の自伝で、時系列に沿って博士が取り組んできた現代数学の世界、そして量子物理学と現代数学の不思議な結びつきの探求を一般読者向けに熱く語った本である。

一般向けの科学教養書をたくさん読んでいる僕にとっては、僭越ながら本書が「粗削り」で「ムラがある」ように思えた。でもそれは否定的な意味合いではなく、一般の読者にもわかってほしいというフレンケル博士の強い熱意ゆえのことだとすぐ気が付いた。

そもそも本書の用語集に並べられている次のように高度な数学の概念を一般読者がこの1冊で理解できるはずがない。

アーベル群(可換群)、SO(3):三次元特殊直交群、U(1):円周群、カッツ-ムーディー代数、ガロア群、基本群、球面、群、ゲージ群、ゲージ理論、圏、志村-谷山-ヴェイユ予想、数体、層、双対性、素数、対称変換、多様体、超対称性、調和解析、場の量子論、非アーベル群(非可換群)、ヒッチン・モジュライ空間、群の表現、ファイブレーション、フェルマーの最終定理、ベクトル空間、保型関数、保型層、モジュラー形式、有限体、有限体上の曲線、ラングランズ双対群、ラングランズ対応、リー群、リー代数

本書の前のほうで博士は「理解してもらえるように精一杯の努力をする」のようなことをお書きになっているが、後半になると「父親から『詰め込み過ぎだ』と言われた。」とか、「全部を理解してもらえなくてもいい。」のように、少しだけ白旗を挙げている。でもその言葉の中に「理解してもらえるように精一杯頑張った。」という気持がくみ取れ、好感が持てたのだ。

白旗を挙げてはいるものの、ある程度イメージがつかめるように解説することには成功している。博士がお書きになっているように、個別の概念の理解はできなくても、全体像の中でそれぞれの概念がどのように結びついているかを知ってほしいということなのだ。

一応、僕は場の量子論(ゲージ理論)あたりまでは専門書で理解しているし、数学についてもリー群、リー代数、基本群、リーマン面、ガロア群あたりも学び終えている。しかし僕のようなレベルの読者でも、本書で紹介される理論を理解するのは無理で、この意味では一般読者とたいして変わりはない。

旧ソ連を離れるまでの自伝についても興味深く読めた。博士が人種差別を受けていた時代が僕の大学時代に重なっていたからだ。ペレルマンは若い頃から頭角をあらわし、順調に学者としての階段を上っていたことを知っていたし、ロシアはソ連の時代から数学にしても物理学にしても優れた学者を輩出している国だということも知っていたから。学問の世界で人種差別がごく近年までまかりとおっていたことに驚かされた。なんという国なんだろう。。。恵まれた学習環境にいたにもかかわらず、大学時代に落ちこぼれてしまったわが身を反省することになったわけである。

僕の世代はゴルバチョフ元大統領のペレストロイカを鮮烈に記憶している。あのとき博士はすでにアメリカにいらっしゃったのかとか、ソ連からロシアに変わったあの激変の時代に何をお感じになっていたのかを読むことで、僕が見聞きしたのとはまた別の視点で当時のロシアを知ることができたのがよかった。

そして本書の章立てはこのとおり。

はじめに 隠されたつながりを探して
第1章:人はいかにして数学者になるのか?
第2章:その数学がクォークを発見した
第3章:五番目の問題
第4章:寒さと逆境に立ち向かう研究所
第5章:ブレイド群
第6章:独裁者の流儀
第7章:大統一理論
第8章:「フェルマーの最終定理」
第9章:ロゼッタストーン
第10章:次元の影
第11章:日本の数学者の論文から着想を得る
第12章:泌尿器科の診断と数学の関係
第13章:ハーバードからの招聘
第14章:「層」という考え方
第15章:ひとつの架け橋をかける
第16章:量子物理学の双対性
第17章:物理学者は数学者の地平を再発見する
第18章:愛の数式を探して
エピローグ われわれの旅に終わりはない
謝辞
用語集
巻末注
訳者あとがき

最初のほうは旧ソ連で苦労しつつも、将来の研究に結びつく数学概念との出会いや量子物理学への目覚め、ラングランズ・プログラムなど博士にとってライフワークともなる要素が既に培われたということがわかる。博士が書いている量子物理学とは量子力学だけでなく、場の量子論だったり、素粒子物理学、超弦理論までも含んでいる。

そしてハーバード大学に招聘されてからの話が華々しいのだ。それまで制限を受けていた境遇からいっぺんに解放され、初めて経験する資本主義社会への新鮮な驚き、次々と訪れる数学者や理論との出会い。数学者としての成長は加速する一方だ。

当初数論と調和解析の結びつきとして発見されたラングランズ・プログラムは、その結びつきを拡張していく。そして数学の世界だけにとどまらず、量子物理学との結びつきもあることが発見されつつあったのだ。第16章あたりから詳しく紹介されるのは超弦理論研究の第一人者であるウィッテン博士との共同研究について。そう、フレンケル博士は物理学の分野でも最先端の研究を推し進めているわけである。数学と物理学の間の架け橋を理解するためのキーワードは「双対性」だ。ウィッテン博士の最近の研究内容を知ることができるのも、物理学徒のひとりとしてうれしかった。

フレンケル博士は日本にも10回ほどいらっしゃっていて博士は日本びいきである。三島由紀夫の映画を見たり、本を読んでいらっしゃるあたりは相当マニアックである。旧ソ連でお生まれになったとはいえ、ひとたび水を得ると興味の対象は数学や物理学だけでは飽き足らないのかもしれない。


前述させていただいたように、本書だけで数学や物理学の高度な概念を理解することは不可能である。でも「少しでもいいから一般書のレベルで理解してみたい」と思われる方に、何冊か紹介しておこう。

数論については「数学の言葉で世界を見たら: 大栗博司」あるいは「素数夜曲―女王陛下のLISP:吉田武」をお勧めする。

フェルマーの定理については「フェルマーの最終定理 (新潮文庫)」か「数学ガール/フェルマーの最終定理:結城浩」がよいだろう。

群論、ガロア群については「数学ガール/ガロア理論:結城浩」がよいだろう。でもちょっと難しいかもしれないけれど。数式をまったく無しで群論を説明するのは無理である。緻密な証明をお望みの方には「ガロア理論の頂を踏む: 石井俊全」がいちばんである。

リー群、ゲージ理論、素粒子の標準理論については「強い力と弱い力:大栗博司」、そして分厚くても構わないのなら「「標準模型」の宇宙:ブルース・シューム」をお勧めする。

超弦理論については「大栗先生の超弦理論入門:大栗博司」、分厚い本でどっぷり学んでみたい方は「エレガントな宇宙:ブライアン・グリーン」がよい。

超弦理論のトポロジーに興味がある方は「見えざる宇宙のかたち:シン=トゥン・ヤウ、スティーヴ・ネイディス」がお勧めである。

その他の高度な数学、物理学の概念については。。。残念ながら一般の方がお読みになれる本は存在しない。本書の説明やこれから始まる「NHK数学ミステリー白熱教室(エドワード・フレンケル教授)」を頼みにしていただいたい。


本書を原書でお読みになりたい方はこちらからどうぞ。

Love and Math: The Heart of Hidden Reality: Edward Frenkel」(Kindle版




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数学の大統一に挑む:エドワード・フレンケル」(Kindle版



はじめに 隠されたつながりを探して

数学の世界で過去半世紀のあいだに生まれたもっとも重要なアイデアが、ラングランズ・プログラムだ。大きくかけ離れて見える数学の各領域のあいだに、さらには量子物理学の世界にまで、胸躍る魅力的なつながりがあるという刺激的な予想だ。

第1章:人はいかにして数学者になるのか?

旧ソ連のロシアに生まれたわたしは、量子物理学者になりたかった。クォークを発見した物理学者のゲルマン。でも、ゲルマンはなぜ、それを発見できたのだろう。「そこにはきみの知らない数学がある」。両親の古い友人の数学者が言ったのだ。

第2章:その数学がクォークを発見した

その両親の友人の数学者は、クォークの発見に、対称性とは何かを記述する「群」という数学が関係していることをわたしに教えた。観察ではなく、理論によって何かの存在を予想する。それは数学にしかできない。

第3章:五番目の問題

ソ連のパスポートには五番目の欄にナショナリティーを記すことになっていた。わたしはロシア人として登録されていたが、父がユダヤ人であった。このことが、モスクワ大学の受験に問題となる。

第4章:寒さと逆境に立ち向かう研究所

モスクワ大学の試験官が問わず語りに口にした「石油ガス研究所」。わたしたち一家は、そこに一縷の望みをかける。そこは旧ソ連でユダヤ人が、応用数学を学べる研究所だった。全体の反ユダヤ政策のニッチをつき、優秀な学生を集めていたのだ。

第5章:ブレイド群

アドバイザーを得られずに失望していたわたしに、学校でもっとも尊敬される教授が声をかけてきた。「数学の問題を解いてみたいと思わないかね」。それが、「ブレイド群」と呼ばれる数学に取り組んでいるフックスとの出会いだった。

第6章:独裁者の流儀

フックスの与えた問題を、わたしは別の数学を使うことで解いた。フックスは、その証明をあるユダヤ人数学者が主宰する専門誌に投稿することを勧める。その数学者こそ、さまざまな数学間の架け橋をかけようとしたパイオニアだった。

第7章:大統一理論

それぞれの数学を「島」だと考えてみよう。大部分の数学者はその島を拡張する仕事に取り組んできた。しかし、あるとき、「島」と「島」をつなげることを考えた数学者が現れた。悲劇の数学者ガロアが死の前日に残したメモにその革新的な考えはあった。

第8章:「フェルマーの最終定理」

ラングランズ・プログラムがどういうものかを知るには、「フェルマーの最終定理」がどうやって証明されたかを知るといい。三百五十年間にわたって数学者を悩ませた難問は、まったく別の予想を証明することで解けたのだ。

第9章:ロゼッタストーン

数論と調和解析のあいだだけではない。幾何学や量子物理学にいたるまでまったく違うと思われていた体系に密接な関係があるらしいことがわかってきた。そのことの意味は、ある領域でわからない事柄も他の領域を使って解くことができるということだ。

第10章:次元の影

写真は実は時間という次元を加えた四次元の世界を二次元におとしこんでいる影と考えることができる。数学は四次元異常の高次元を、三次元、二次元の世界におとしこみ記述することで、より複雑な世界を理解する唯一のツールなのだ。

第11章:日本の数学者の論文から着想を得る

日本の数学者脇本の論文から得た着想を一般化することはできるのか?一度は失敗したその試みを、生涯の共同研究者となるひとりの数学者との出会いが突破させる。その仕事は、量子物理学の複雑な問題を解く強力なツールを提供することに。

第12章:泌尿器科の診断と数学の関係

フックスやフェイギンと純粋数学の教会を拡張する仕事に挑む一方、わたしの所属するケロシンカの応用数学部では、泌尿器科の医者たちとの共同研究をしていた。医者は、数学者の思考方法を求めていた。それは診断にも応用できるものなのだ。

第13章:ハーバードからの招聘

ゴルバチョフの登場とともに、これまで固く閉ざされていた西側への扉が開きはじめた。そんなとき、わたしはハーバードから客員教授として招聘をうけ、生まれて初めてソ連の外に出た。ボストンには数学の才能が集まり、心ときめく熱い時間があった。

第14章:「層」という考え方

新しい仲間、ドリンフェルドもまたソ連の反ユダヤ主義の犠牲者だった。後にフィールズ賞を受賞する彼は、モスクワに仕事を得ることすらできなかった。しかし、孤独の中で彼が発展させたのは、リーマン面を大統一に組み入れる「層」という考えだった。

第15章:ひとつの架け橋をかける

博士論文は、リー群Gとラングランズ双対群LGという異なる大陸に橋をかけることに関する仕事だった。それはわたしがモスクワで取り組んでいたカッツ-ムーディー代数を利用することによって可能になるのだった。ソ連の崩壊が目前に迫っていた。

第16章:量子物理学の双対性

純粋数学史上初めての巨額の研究資金が下りた。わたしはプリンストン高等研究所で、数学と量子物理学のつながりを探るためのプロジェクトを始めることにした。それは、数学が現実の世界を先取りしていることを確認する過程でもあった。

第17章:物理学者は数学者の地平を再発見する

最大の挑戦は、ラングランズ・プログラムに四つ目のコラムを打ち立てることだ。すなわち量子物理学との関係を調べることである。多次元の問題を二次元、三次元におとしこみ、その試みが始まる。物理学者は数学者の発見した空間を再発見する。

第18章:愛の数式を探して

2008年、わたしはある映画監督とともに、数学に関する映画を作り始める。三島由紀夫の『憂国』に影響をうけた映画のワンシーン。女性の体に彫った刺青は、「愛の数式」だ。それは、量子論の矛盾を解く可能性のある数式でもあった。

エピローグ われわれの旅に終わりはない

謝辞
用語集
巻末注
訳者あとがき

気象キャスター寺川奈津美 はれますように~未来はきっと変えられる

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気象キャスター寺川奈津美 はれますように~未来はきっと変えられる

内容紹介:
人気の気象キャスターが初めて語る
気象予報士の仕事、そしてプライベート
NHK 『ニュース7』の気象キャスター(平日担当)として活躍する寺川奈津美さん。 6回目の受験でようやく合格した気象予報士試験の苦労談から、気象キャスターの仕事の魅力、プライベートまでを赤裸々に語ります。
2015年11月刊行、173ページ。

著者について:
寺川奈津美(てらかわなつみ)
公式ブログ:http://www.nhk.or.jp/news7-blog/150/
Twitter: @natumikann541
気象予報士、気象キャスター。
1983年、山口県下関市生まれ。慶応義塾大学理工学部応用化学科卒業。第5回矢上祭で行われた理系美人コンテスト『ミス矢上』で初代グランプリを獲得。塾講師を経て、2008年よりNHK鳥取放送局のキャスターを務める。同年、気象予報士資格を取得。
2011年4月より『NHKニュース7』の気象情報を担当。


理数系書籍のレビュー記事は本書で287冊目。

朝日カルチャーセンター新宿教室で先日「寺川奈津美の気象講座」を受講したばかり。講師をされたNHK気象キャスターの寺川奈津美さんが初めてお書きになった本である。本が届くのを楽しみにしていた。

子供の頃の話から寺川さんが現在に至るまで、どのように生きてきたかを忌憚なくお書きになった自伝本。講座では聞けなかった話がたくさん盛り込まれているので、興味深く読ませていただいた。

読み終えてみると自伝的であることと一般向け書籍デビューということのほかに、先日紹介したばかりの「数学の大統一に挑む:エドワード・フレンケル」と共通点があることに気が付いた。

それはは「あきらめない」ということだ。現在のお仕事にたどり着くまでに紆余曲折がある。フレンケル教授は旧ソ連に人種差別によって志望する大学に行けなかったし、寺川さんは大学卒業後に銀行に就職したものの1年で退職している。ご実家に戻って気象予報士試験チャレンジする道を選ぶが6回目でようやく合格。お二人とも自分の仕事に夢と誇りを持っているから成し得たことだ。そして寄り道とも思える経験も無駄ではなく、後の仕事に活かされていることもお二人に共通していると思った。

キャリアを積む人生は一本道ではない。その意味で本書は進路に迷っている高校生、大学生そして就職活動中の学生にも読んでいただきたい。天気予報では明るくお話になる寺川さんも現在に至るまでに何度も不安にとらわれ、悔しい思いをし、涙を流した日々があったことがおわかりになるだろう。

朝日カルチャーセンターの講座のほうで質問しようと思っていたことも本書を読んで答が得られた。それは「気象庁が発表する情報を伝えるのが予報士の役目だと思うが、その意味では伝達者である。プロとしての専門性が活かされるのはどのような点においてでしょうか?」という質問だ。

本書によると気象予報士になりたての人と長年経験を積んだベテラン予報士とでは「ペーパードライバーとF1レーサーほどの違いがある」のだという。気象庁から公開されている専門的な観測データを自分で解析し「幅をもって予報を伝える」ことがプロとしての真価が問われるポイントなのだそうだ。気象災害の予知については特に注意を払う。気象データだけでなく地域の特殊性、過去におきた災害など多角的な分析能力が求められる。

朝日カルチャーセンターの講座では9月に鬼怒川流域でおきた洪水の被災地を訪れたことが紹介されたが、寺川さんは東日本大震災の被災地にもプライベートの時間を利用して訪れていたことが本書に書かれていた。地震予知やその後の火災などは気象予報士の役割ではないが、被災後の天候は救助活動や復興活動に大きな影響がある。「天気予報のお姉さん」というアイドル的なイメージとはまったくかけ離れた重要な役割を果たしていることにこの仕事の責任の重さを痛感し、真摯に取り組まれている寺川さんの姿が僕にはとても頼もしいと思えた。


気象について学んでみようとしている人や気象予報士を目指している人にとって役立つことも本書には書かれている。予報士試験のあらましや勉強する上で気をつけること、そして寺川さんがお勧めする本などが紹介されている。ぜひ本書をお買い求めになって確認してほしい。

本の最初にはカラーのグラビアが16ページ収められている。どれも魅力的で、ついスマホで撮っておきたくなるような写真ばかりである。


寺川さんは先週一週間(かなり遅い)夏休みをとられて今週から仕事に復帰された。健康に気をつけてこれからも頑張ってください!


関連記事:

寺川奈津美の気象講座(朝日カルチャーセンター)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/960f1e03a34fd2e3727b65252ea96159

知識ゼロからの異常気象入門:斉田季実治
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0294a67d1755964cb572b65f029624e4


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気象キャスター寺川奈津美 はれますように~未来はきっと変えられる



テレビでは見られない!
完全撮りおろしプライベートフォト掲載

★口 絵 撮り下ろしカラーグラビア(16P)
★第1章 「寺川はアナウンサーに向いている」
★第2章 6回目の気象予報士試験
★第3章 鳥取時代、そして再び上京
★第4章 気象キャスターとしての使命
★第5章 日々のこと

ゴムはなぜ伸びる?:伊藤眞義

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ゴムはなぜ伸びる?―500年前、コロンブスが伝えた「新」素材の衝撃:伊藤眞義

内容紹介:
携帯電話、テレビ、パソコン、冷蔵庫、洗濯機、掃除機、エアコン、住宅、ビル、自動車、鉄道、飛行機…みんなゴムが支えていた。ゴムの不思議に迫る。 2007年9月刊行、136ページ。

著者について:
伊藤眞義
ホームページ: http://www.rs.kagu.tus.ac.jp/itolabo/2005/indexj.html
東京理科大学理学部第二部化学科教授。理学博士。日本ゴム協会理事、繊維学会評議員。1944年、秋田県生まれ。1970年、東京理科大学大学院修士課程修了。1994年、繊維学会賞受賞。1995年より現職。専門は高分子材料物性。特に繊維とゴム材料の力学的特性に関する研究に従事。


理数系書籍のレビュー記事は本書で288冊目。

先日投稿した「ゴム弾性(初版復刻版):久保亮五」はゴムの弾性を定性的、そして定量的に計算をして解説する本だが、戦後間もなく書かれた本なので内容がいささか古い。そして物理学を学んでいない一般の方には理解することができない。現代的な視点からゴムについての理解を補足しておきたいと思ったので本書を読んでみた。

金属のバネが弾性をもつしくみとゴムが弾性をもつしくみは全く違う。ゴムが弾性をもつ理由の本質は熱力学的なものであり、ゴムひもに吊るす重りと伸びの関係はご覧にように比例しない。

点線は初めて引っ張ったときの伸びと張力の関係、実線は10回ほどゴムを伸ばしたり元に戻したりした後に測定した伸びと張力の関係である。




ゴムはなぜ伸びる?―500年前、コロンブスが伝えた「新」素材の衝撃:伊藤眞義」では、ゴムの弾性のからくりを一般の読者でも理解できるように定性的に説明することから始まり、戦後ゴムがどのように進化してきたか、現代の生活で活躍するさまざまな新しいタイプのゴムについて、そして現在研究中のゴム技術を紹介している。

ゴムは身の回りに当たり前のようにあり、日頃意識に上ることは少ないが自動車の燃費を向上させるタイヤや巨大なビルを支える免震ゴムなどの話を聞くと、ゴムに関連する技術も日進月歩なんだなとあらためて思うのだ。

低燃費タイヤというのがあるのを知ったとき、僕は「ゴムはゴムなんだから燃費が目に見えて向上するなんてあり得ないんじゃないか。」と懐疑的だった。それは転がり摩擦を減らすということなのだろうけどタイヤの空気圧の調整でなんとかなるのではないかと思っていたからだ。

本書によるとタイヤの性能を決めるのは弾性率、強度、耐摩耗性だそうである。そしてタイヤの役割は振動の吸収、タイヤと路面の摩擦を利用した動力伝達、進路保持機能ということだ。寒冷地でもこの役割が果たせなければならない。普通のタイヤとスタッドレスタイヤの違いも本書を読んで理解できた。

燃費を向上させるためには摩擦力を小さくすればよいわけだが、そうすると自動車の制動力も下がってしまうのでスリップがおきやすくなる。このジレンマを解消するために開発されたのがシリカ入りのタイヤである。これによって路面、特に雨などで濡れた路面でのブレーキ性能を5%向上させた上で、転がり抵抗を20%削減させたタイヤが実現できたのだそうだ。また、これは二酸化炭素排出量も17%減ることになるのだという。

「タイヤはなぜ黒いのか?」という話も面白かった。そういわれてみればそうである。自動車や自転車のタイヤはこれまでずっと黒いままだった。でもなぜなのだろう?そして最近になってようやくお洒落なカラータイヤの自転車を見かけるようになった。それではなぜ自動車のタイヤは相変わらず黒いままなのだろう?このような疑問が本書を読んで解決した。


あと面白かったのは免震ゴムの話である。今年は「東洋ゴム工業(株)の建築用免震ゴムの不正問題」がニュースになって驚かされたわけだが、そもそも建築用免震ゴムについて僕はほとんど知っていないことに気づかせられた。ビルの土台のところに巨大なゴムを設置すればよいだけなのだろうか? そのような無知も本書を読めば解消される。

建築用免震ゴムに要求される機能とは「縦方向の揺れを抑え」、「横方向の揺れはあまり抑えず」、「典型的な地震の振動周期に共振しないようビルをゆっくり揺らす」ことだそうだ。ビルのもつ固有振動の周期も考慮しなければならない。このような機能を実現するためにはゴムだけではダメで、金属板とゴムを交互に重ねたユニットを用いなければならない。

大地震はめったに起こらないから、数値シミュレーションをしたり実験装置を作るのは大変なことだろうと僕は想像した。東洋ゴム工業(株)の不正問題はどのようなものだったのか公開されている情報だけでわかるものかどうかは不明だが、どのような点に気を付けなければいけないのかだけでも知っておきたいと思った。

以下、本書から図版を3つ紹介しておく。タイヤがゴムでできているのは当然だが、このような構造に至るまで、技術者がどれだけの試行錯誤を重ねてきたかを想像すると、人間ってすごいなと思わざるを得ない。

ゴムが伸びるとき、元に戻るときの様子


自動車のタイヤの構造


建築用免震ゴムの構造



伊藤先生が本書をお書きになったのは2007年。その後、2009年に次の本をお書きになっている。僕がこの本に気が付いたときはすでに絶版状態で、中古の取引価格は1万6千円~2万5千円もしていた。今回この記事を書くにあたって価格を見てみたところ3千円台の本がいくつか購入可能になっている。定価よりは高いのだが、こちらの本のほうが分厚くて内容も豊富なので、ゴムについてさらに深く知りたくなった方は購入されるとよいだろう。

図解入門 よくわかる最新ゴムの基本と仕組み:伊藤眞義




関連ページ:

伊藤先生がお書きになったゴムについての解説記事(一部有料): 読む

ゴムとはどんな物質か-ゴム弾性とはどんな性質か-
http://www.yrc.co.jp/mb-techno/use/02.html

ゴムの話
http://hr-inoue.net/zscience/topics/gum/gum.html

高分子の物性
http://www.campus.ouj.ac.jp/~hamada/TextLib/rm/chap10/Text/Cr991001.html

ゴム弾性と粘弾性の基礎: PDFファイル

ゴム弾性: PDFファイル


関連記事:

ゴム弾性(初版復刻版):久保亮五
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c3b0c788cdcdd1087798179f3dfed0f8


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ゴムはなぜ伸びる?―500年前、コロンブスが伝えた「新」素材の衝撃:伊藤眞義



はしがき

第1章:ゴムっていったいなんだ?
- 「ゴム」と「生ゴム」
- 生ゴムとプラスチックはよく似ている
- ゴムの伸びとバネの伸び
- ゴムの中にはいくつもの「橋」がある
コラム:ゴムの木は環境にもやさしい優等生

第2章:「輪ゴム」で遊んでみよう!
- 輪ゴムを冷やすとどうなるか
- 輪ゴムを唇にあてて伸ばしてみよう
- 重りのぶら下がったゴムをあたためてみよう
- 速く元の形に戻るだけがいいゴムではない

第3章:自動車用タイヤはなぜ黒いのだろう
- タイヤは生ゴムとカーボンブラックの混合物
- カーボンブラックと生ゴム分子鎖がつくる構造
- タイヤはどんな働きをしているのか?
- カラフルなタイヤはすでにできている?

第4章:万能に思えるゴムにも弱点はある
- 熱に弱いゴムを強くしていく方法
- ゴムはアルコールに弱いのか?
- オゾンはゴムにとっても大敵だ
- 水道水がゴムにダメージを与える

第5章:驚きの性質をもつハイテク・ゴムたち
- 二酸化炭素削減に協力するタイヤ
- 「人体」をゴムでつくる技術がある
- まさに「縁の下の力もち」の免震ゴム

第6章:ゴムはまだまだ進化していく
- プラスチックのように加工しやすい「ゴム」
- 柔らかいのに機械的強度が高いスーパーゴム
- 簡単にゴム材料をつくれる「液状ゴム」
- リサイクルができるゴムへの挑戦
- 寒天から人体までみんな高分子ゲル

おわりに

ソーラー充電器のテスト

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このところソーラー充電器の種類が増え、大出力のものも発売されるようになった。競争原理が幸いして価格も安くなっている。先日Amazonのタイムセールで手ごろな20Wタイプのソーラー充電器を見つけたので、購入してテストしてみた。

こういう商品は普段は使わないが停電時やアウトドアでは活用できる。

購入したのは「Aukey 20W 折り畳み式 ソーラーチャージャー デュアル USB ポート」という商品。すでにアマゾンでは購入不可能になっている。



製品仕様
出力:5V/2.1A+5V/1Aの2ポート
パワー:20W
重量:836.4g
サイズ:500x305x5mm
折り畳み後:305x175x30mm
変換効率22%-25%


そしてテストに使ったのがこのモバイルバッテリー。小型ながら10400mAhの大容量。さらに2千円とコスパもよい。これを使えばiPhone 6だと4回強、iPad Air2だと1回強の充電ができる。(iPad Proだとちょうど1回分の充電ができる。)

Anker PowerCore 10400 (10400mAh 2ポート モバイルバッテリー)




記事トップの写真のように置いてモバイルバッテリーに接続し、3日間テストをした。

初日と2日目は晴れ、3日目は晴れのち曇り。ソーラーパネルの向きは太陽の南中方向に固定。午前9時から午後3時の6時間くらいがまともに太陽光が当たっている状況だった。季節は冬なので日照条件としては夏にくらべてよろしくない。

初日の充電で空っぽの状態からほぼ50%充電され、2日目で75%、3日目に100%充電することができた。日照量は季節や天候でだいぶ左右されるから、これくらいの粗い計測で十分だ。

大ざっぱに言えば6時間で3000mAhは確実に充電できることになる。iPhone 6ならば1.5回ぶん、iPad Air2ならば0.4回ぶんくらいの充電というところだ。

今回は冬の柔らかな日差しでの実験なので、来年夏にまた試してみよう。


ソーラー充電器やモバイルバッテリーはいろいろなメーカーから発売されている。最近は52W60Wという大出力のソーラー充電器もでてきた。検索用にリンクを設けておこう。

大出力ソーラー充電器: Amazonで検索

大容量モバイルバッテリー: Amazonで検索


USB延長ケーブルは付属していないことがほとんどなので、僕のように室内にモバイルバッテリーやスマホを置くのだったら、こちらも購入したほうがよい。

USB延長ケーブル: Amazonで検索



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感想: NHK数学ミステリー白熱教室

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4回に渡って放送された数学ミステリー教室が終わった。感想記事としてまとめておこう。

NHK数学ミステリー白熱教室(エドワード・フレンケル教授)
http://www.nhk.or.jp/hakunetsu/math/


第1回:数学を"統一"する!
2015年11月13日(金)午後11時放送 Eテレ

数学は学校で習う「ペンキ塗り」のようなイメージではなく絵画のように美しいもの、他の科学のように「修正されていくもの」ではなく、「普遍的なもの」であることを述べる。

数学はいくつものパズルからつくられる「島」のように考えられてきたが、それぞれの島がつながっていることが見つかってきたこと、それは「ラングランズ・プログラム」と呼ばれていること、それにより、ある分野の難問が他の分野の問題として解けることがあることを紹介。

整数がどのように誕生したかという例として、「個数の数え上げ」と「物体へのひもの巻き付け」の2つの例をとり、数学を考えるとき異なるアプローチで考えることによって本質が見えてくること。

そしてこの回のメインが「幾何学の対称性」だ。数学の島がつながっていることの鍵のひとつが「対称性」で、ペットボトルの回転対称性、蝶の形の対称性、ミカンの置き換えを例示。対称性変換は現実世界では「操作」としてあらわれ、操作は合成することができる。その対称性や操作を数学的に表したものが「群」である。




第2回:数学の世界に隠された美しさ~数論の対称性~
2015年11月20日(金)午後11時放送 Eテレ

第2回のテーマは「数論の対称性」。まずa+b√2型の「新しい数の体系(数体)」が加減乗除で閉じていること、a-√2と蝶の形のように対称的であることを紹介し、それを2次方程式の解と結びついていることを解説。これはガロア群という数学であらわされる。方程式の解から作られる数体の対称性によって形成される群である。

ガロアがラジカル(累乗根)を使って方程式の解の公式を見つける方法を見つけた。その後、2次方程式から4次方程式の解の公式を求めるまでの数学物語を紹介。しかし5次以上の方程式に解の公式が存在しないことをガロアは問題を読みかえて「解の対称性とは何か?」という視点からガロア群を使って証明した。ガロア群は解の入れ替えの対称性についての群である。5個以上の解の入れ替えの群(対称群)の構造を調べればよい、つまり可解性を調べる。可解のときは可換群から構成され

このように数論の対称性にも「群」があらわれる。ガロア理論のことだ。




第3回:"フェルマーの最終定理"への道~調和解析の対称性~
2015年11月27日(金)午後11時放送 Eテレ

第3回のテーマは「数論の対称性」。ラングランズがヴェイユに宛てた手紙を紹介し、それが数学者を何世代に渡って魅了するラングランズ・プログラムの起源であることを述べる。その特殊な例が「フェルマーの最終定理」だ。350年以上証明できなかったこの数論の定理は全く異なる調和解析の「志村・谷山・ヴェイユ予想」が1995年にワイルズとテイラーによって証明されることによって解決されたのだ。

次に素数を法とする条件のもとに3次方程式の解の個数を求める例を紹介する。するとその個数は調和解析から得られる数式を展開して得られる多項式の素数冪の項の係数の数列に一致することがわかる。

拡大


素数や係数は無限の個数あり、そのすべてが一致しているのだからこれは偶然ではない。これが志村・谷山・ヴェイユ予想が私たちに教えてくれることなのだ。しかしそれらの数がなぜ一致しているのかはわかっていない。

この問題には調和解析の対称性があらわれている。素数を法とする(モジュロ)数論の方程式を調和解析のモジュラー形式の関数として解けるということである。モジュラー形式の関数は三角関数のように単位円上で定義される周期的な特徴をもつ対称的な関数である。

志村・谷山・ヴェイユ予想: あらゆる3次方程式の解を数える数論の問題に対し、その答えを導く調和解析のモジュラー形式が存在する。




第4回:数学と物理学 驚異のつながり
2015年12月4日(金)午後11時放送 Eテレ

数学と量子物理学にもミステリアスなつながりがあることを紹介したのが第4回。フレンケル教授にとっての量子物理学とは素粒子物理学であり、スーパーストリング理論(超弦理論)である。

博士はまずLHCでの実験を紹介しながら素粒子物理学の発展史を説明する。1960年代に非常にたくさん検出された素粒子が実はより基本的なクォークから構成されていることを解説。その理論は1984年にゲルマンが発表し、SU(3)という群であらわされることがわかった。しかしSU(3)自体はそれ以前に数学の中から見つけられたものである。そして素粒子の標準理論を構成する電磁気力はU(1)、弱い力はSU(2)、強い力はSU(3)という群であらわされることがわかった。

次に博士が紹介したのは物理法則の「双対性」の概念だ。電磁気学の理論は電場と磁場を入れ替えても変化しない双対性という性質をもつ。そして弱い力と強い力には一般的にゲージ理論としてあらわせれるが、物理学の中には双対性理論は存在しない。しかし、双対理論は数学の中に見つかった。それがラングランズ双対群である。ラングランズ双対群を説明するのはとても時間がかかるので省略した。しかしそれを直観的にあらわす例として「コップを2回転するマジック」を紹介し、SO(3)とSU(2)が互いに双対群の関係にあることを示した。

その後、超弦理論の第一人者であるウィッテン博士との共同研究により物理学の理論は数学の中のラングランズ双対群を用いた理論と対になっていることを示す論文を2004年発表した。

ここまでの段階で数論と幾何学の対応についての解説はまだされていなかった。この番組で紹介した数論の3次方程式は幾何学の世界では2次元トーラス(ドーナツの表面)に対応しているのだという。これが示されたことで数学の中の3つの世界、そして物理学との間のつながりがすべて示されたことになる。




感想:

一般視聴者向けの数学番組としては大成功だった。第1回を見た直後は少し不満に思ったのだ。「群」についての解説が省略されていたし、対称性の例として挙げたペットボトルの回転、ミカンの置き換えなどが単純過ぎて一般視聴者にはその深い意味が理解できないのではないだろうかと思ったからだ。僕にとって「群」が果たしている役割は教科書で学んでようやく理解できたからだ。

けれども回を重ねるにつれ深みが増していった。そして不満に思った第1回の内容も意味深いものへ変化していった。個々の数学理論は理解できなくてもそのつながりや役割を知ることは数学を深く学んでいなくても可能だ。フレンケル教授は各回50分という制限を最大限活かしていたと思う。

一般視聴者向けとはいえ高校1年までで学ぶ数式は使われていた。第1回ではnの階乗、第2回は2乗根や3乗根を含んだ計算、第3回では素数を法とした方程式や多項式への展開計算などが説明に使われている。このあたりの計算すら忘れてしまった視聴者は番組をどのようにご覧になっていたのだろうか。

ツイッター上では「内容はわからなかったけど面白かった。」という感想がとても多かった。その意味ではフレンケル教授は数学の魅力を伝えることに成功したのだと思う。

数論の美しさを讃えて「数論は数学の女王である」という言い方がされる。もし数学のそれぞれの島が地続きなのだとしたら女王は孤独ではなく数学世界の全体と関わっているのだ。

いま僕は「圏論の歩き方」という数学書、圏論の入門書を読んでいるところだ。も数学の各分野に共通する一般化された数学概念であり、その概念は物理学やコンピュータ科学にも及んでいる。これはラングランズ・プログラムとはまた違う枠組みのようだが、無関係ではないことが著書やウィキペディアの「数学における統一理論」という項目を読むとわかる。

また「複素幾何学」の世界は幾何学、代数学、解析学が混然一体となった桃源郷のようだともいわれている。現代数学にはとてつもない世界が広がっている。いつかその世界を少しでも垣間見れたらどんな気持がするのだろう。

第4回の放送でようやくラングランズ・プログラムの鍵となる「ラングランズ双対群」が紹介され、物理学を含めて4つの世界のつながり方の説明が完結した。対称性は直観的に理解しやすい概念だが、双対性の概念についてもボルシチのレシピの例をあげるなど、一般視聴者にもイメージできるように説明されていたのがよかったと思う。

最終回まで見てみると、今回の番組は僕の期待をはるかに超えた中身のあるものだったと思う。今後の数学や物理学の発展も楽しみだが、このような科学教養番組もこれからどのようなものが作られていくのかについても楽しみだ。


今回の番組で取り上げられたのは「対称性」と「双対性」であり、ともに群論であらわされる性質だ。著書では番組で取り上げられていたことをより深く知ることができ、数学の統一という大目標が夢物語ではないことを実感できるだろう。放送を見逃した方にもこの本はありがたい。

数学の大統一に挑む:エドワード・フレンケル」(Kindle版)(紹介記事



原書でお読みになりたい方はこちらからどうぞ。

Love and Math: The Heart of Hidden Reality: Edward Frenkel」(Kindle版




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関連ページ:

「究極の数学」は驚くほどエレガントで力強い
青木薫が味わうNHK数学ミステリー白熱教室
http://toyokeizai.net/articles/-/92682

天才数学者が決闘死前夜に残した奇跡のメモ
青木薫が味わうNHK数学ミステリー白熱教室
http://toyokeizai.net/articles/-/93698

日本の天才数学者、谷山豊が得た奇跡の着想
「数学の大統一」に日本人が大貢献していた
http://toyokeizai.net/articles/-/94506


関連記事:

数学の大統一に挑む:エドワード・フレンケル
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/43ca100e56e15427613b009af55c8f7d

番組告知:NHK数学ミステリー白熱教室(エドワード・フレンケル教授)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/597b85827eb1b140740e0fa183d7ac15

番組告知:NHK-BS1「神の数式 完全版」全4回
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d763b4d8161efae445f37e05ab23f1e6

番組告知:NHK宇宙白熱教室(ローレンス・クラウス教授)
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番組告知:MIT白熱教室(物理学編)、これが物理学だ!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/66d25e29fc2c514f453a6b110150b811

NHKニューヨーク白熱教室(ミチオ・カク 教授)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/274adc0121aba0485a16318d343c176f


とね日記賞の発表!(2015年): 物理学賞、数学賞、他

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毎年12月10日、スウェーデンのストックホルムでアルフレッド・ノーベルの命日に行われるノーベル賞の授賞式の日程にあわせて「とね日記賞」を発表している。今年で6回目。

ノーベル賞を僕がもらう見込みはどうもなさそうだ。それならば自分で賞を作って「あげる側」になってしまえ!という思いつきだ。

「とね日記賞」はその年に僕が読んだ物理学書、数学書の中から自分のためになった本、この分野を勉強している学生や社会人にお勧めする本を物理学、数学など各分野に分けてそれぞれ1~2冊発表する。あとテレビドラマ賞や贈り物にふさわしい本としてクリスマス賞というのも設けている。

たとえ名著と言われる本であっても僕がその価値を理解できなければ受賞できない。昨年以前に読んだ本は自動的に選考対象から外されるし、どんなに良書であっても僕が読んでいなければ対象外。今のところ洋書も対象外。何より僕の学習進度や理解度や好みに影響される。

メダルも賞金も授賞式も晩餐会も舞踏会もないから、ありがたくも何ともなく、主観に満ちたアンフェアな賞である。

- とね日記物理学賞
 物理学の教科書、専門書から選考。

- とね日記数学賞
 数学の教科書、専門書から選考。

- とね日記工学賞
 工学(特に電子工学)の教科書、専門書から選考。

- とね日記教養書賞
 一般向け書籍から分野別に選考。

- とね日記文学賞
 ジャンルを問わない小説、文学書から選考。

- とね日記新人賞
 書籍出版デビューを果たしたアマチュア書いた本から選考。

- とね日記功労賞
 科学史への貢献、ライフワークを完結されたような本から選考。

- とね日記テレビドラマ賞
 テレビドラマの中からいちばんよかったものを選考。

- とね日記クリスマス賞
 クリスマスプレゼントにふさわしい本を選考。


この1年で読んだ本は昨年と同様25冊で、次の本を読んだ。通算264冊~288冊目。(参考:「200冊の理数系書籍を読んで得られたこと」)

- 電気通信物語―通信ネットワークを変えてきたもの:城水元次郎
- 現代数学への招待:多様体とは何か:志賀浩二
- 見えざる宇宙のかたち:シン=トゥン・ヤウ、スティーヴ・ネイディス
- スーパーシンメトリー ― 超対称性の世界:ゴードン・ケイン
- 基礎の固体物理学: 斯波弘行
- 東大教授が語る、東大新入生のための数学ブックガイド
- ガロア理論の頂を踏む: 石井俊全
- 数学の言葉で世界を見たら: 大栗博司
- 固体物理の基礎 全4巻: アシュクロフト、マーミン
- 超ひも理論をパパに習ってみた: 橋本幸士
- 「知」の欺瞞:アラン・ソーカル、ジャン・ブリクモン
- 二重螺旋 完全版: ジェームズ・D. ワトソン
- クォーク 第2版: 南部陽一郎
- DNA (上)―二重らせんの発見からヒトゲノム計画まで: ジェームズ・D. ワトソン
- DNA (下)―ゲノム解読から遺伝病、人類の進化まで: ジェームズ・D. ワトソン
- 原子・原子核・原子力―わたしが講義で伝えたかったこと:山本義隆
- 福島の原発事故をめぐって― いくつか学び考えたこと:山本義隆
- トポロジー入門: 松本幸夫
- 知識ゼロからの異常気象入門:斉田季実治
- ゴム弾性(初版復刻版):久保亮五
- 数学の大統一に挑む:エドワード・フレンケル
- 気象キャスター寺川奈津美 はれますように~未来はきっと変えられる
- ゴムはなぜ伸びる?:伊藤眞義


それでは2015年の「とね日記賞」を発表しよう。(書籍名と画像は本の購入ページにリンクさせておいた。)


* 物理学賞

ゴム弾性(初版復刻版):久保亮五



授賞理由: 今年は物性物理学の教科書を何冊も読んだので「固体物理の基礎 全4巻: アシュクロフト、マーミン」も候補に上がっていた。しかし僕にとっては久保先生が若き研究者だった頃にお書きになったこの本のインパクトが強く、年月を経ても価値の損なわれない名著であることから授賞させていただいた。ゴムは金属バネのようにフックの法則に従わないし弾性のしくみも全く違う。そのことを定性的に説明し熱力学、統計力学的なモデル化によって計算して解明した研究成果をまとめた本。

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

ゴム弾性(初版復刻版):久保亮五
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c3b0c788cdcdd1087798179f3dfed0f8


* 数学賞

トポロジー入門:松本幸夫」(オンデマンド版



授賞理由: トポロジー(特にホモトピー理論)に入門するための本格的な教科書である。これまで厳密な教科書は読んでいなかったので僕にとってとてもよい経験になった。朝日カルチャーセンターで著者の松本先生の講義を聞くことができたのも今年のハイライトのひとつである。大いに刺激を受けた。(参考記事:「多様体」超入門:現代幾何学が解き明かす「曲がった空間」(朝日カルチャーセンター)

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

トポロジー入門: 松本幸夫
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bce517a89b400cb9c52f459f41ff195d


* 教養書賞(物理学部門)

見えざる宇宙のかたち―ひも理論に秘められた次元の幾何学:シン=トゥン・ヤウ、スティーヴ・ネイディス




授賞理由: 厳密にいえばこれはカラビ-ヤウ多様体という数学的対象についての本だが、これはカラビ-ヤウ空間として考えれば超弦理論の基礎をなす物理的な実在である。物理学賞として授賞させていただいたのはこのような理由による。超弦理論についての科学教養書でもカラビ-ヤウ空間は取り上げられるが詳しいことは省略されている。この理論を発表した数学者ご自身による著作、それも科学教養書として読めるのはこの本だけである。一般の方から研究者まであらゆる学習レベルの読者にとって示唆に富み、複素多様体の勉強や研究の道しるべとなるに違いない。原書のタイトルは「The Shape of Inner Space(内部空間の形)」。邦題はSpaceを「宇宙」と訳しているが、本書はいわゆる「天文・宇宙」の本ではないのでご注意。

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

見えざる宇宙のかたち:シン=トゥン・ヤウ、スティーヴ・ネイディス
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/943c5a3cf09a78c3b4e8e933ce379879


* 教養書賞(数学部門)

数学の大統一に挑む:エドワード・フレンケル」(Kindle版



授賞理由: 今年の数学書ではこの本がダントツだった。本書の概要は「NHK数学ミステリー白熱教室」として放送されたので私たちにとってフレンケル教授は「今年の顔」である。数学の深淵な世界を魅力的かつ効果的に伝えるだけでなく現代数学と現代物理学のミステリアスなつながりを多くの視聴者に印象づけた功績は大きいと思う。フレンケル教授は数学嫌いの人をも取り込んでしまう個性と表現力の持ち主だ。

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

数学の大統一に挑む:エドワード・フレンケル
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/43ca100e56e15427613b009af55c8f7d


* 教養書賞(工学部門)

電気通信物語―通信ネットワークを変えてきたもの:城水元次郎



授賞賞理由: スマートフォンやパソコンを当たり前のように使っている現在、その有難みはつい忘れがちだ。そもそも人類は「電気」を使ってどのように情報を伝えていたのだろうか?ペリー提督が浦賀に黒船で来航したとき、彼は有線のモールス電信機と蒸気機関車の模型を持ってきていたことをみなさんはご存知だろうか?彼が行なった有線電信のデモンストレーションに江戸幕府どのような反応を示していたのだろうか? 本書はこのような電気通信の始まりからインターネット時代に至るまでの歴史を技術的側面からだけでなく、社会や生活に与えた影響、商用利用や国家戦略の視点から解説した壮大な技術革新の物語である。本書はこの分野の技術者、経営者として生涯を捧げた著者による渾身の作。今ではすたれて使われなくなった技術も発明された当時は先端技術だ。繰り返される発明と問題解決は読む者に驚きを与えてくれる。ビクトリア王朝期に始まった海底ケーブル敷設の歴史、電話交換手の労働問題、固定電話の電話線敷設や自動交換機の発展史が特に面白かった。ぜひお読みになっていただきたい。

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

電気通信物語―通信ネットワークを変えてきたもの:城水元次郎
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/00d0368b539939404dfbe2a03eae3114


* 新人賞

気象キャスター寺川奈津美 はれますように~未来はきっと変えられる



授賞理由: 今年の候補にはフレンケル教授と寺川奈津美さんの2名があげられるが、フレンケル教授には数学賞を授賞させていただいたので新人賞は寺川さんに授賞させていただいた。朝日カルチャーセンターで彼女の気象講座も受講させていただいたので僕にとっては本書と合わせてワンセットである。(参考記事:「寺川奈津美の気象講座(朝日カルチャーセンター)」)ひきつづき第2作も期待しているところだ。

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

気象キャスター寺川奈津美 はれますように~未来はきっと変えられる
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bd5b4615a4468919445a010183866934


* 功労賞

プリンストン 数学大全(朝倉書店)



授賞理由: 1200ページの大著を翻訳、編集するのは並々ならぬ労力が必要であるだけでなく、企画、翻訳や執筆の調整、校正作業など綿密な打ち合わせと調整が必要だ。監修および翻訳に携わった諸先生方、朝倉書店の関係者の皆様のおかげでこのように素晴らしい本を日本語で読めるようにしていただいたことに感謝したい。

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

発売情報: プリンストン 数学大全(朝倉書店)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6a6493fc734b8d5aeebb0f057227bd07


* 文学賞

トムは真夜中の庭で : フィリパ・ピアス



授賞理由: 2つの異なる時代を隔ててひとつの空間を共有しながら進む幻想的な世界。児童文学でありながら大人も魅了する名作だと思う。いわゆるSF作品ではない。書店ではほとんど見かけない本なので、ぜひ知っておいてほしいと思い授賞させていただいた。

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

トムは真夜中の庭で : フィリパ・ピアス
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a8f1223f0242059f6d3a9abe61c26e85


* テレビドラマ賞

この1年は素晴らしいドラマが目白押しだった。大豊作なので選ぶのが大変で授賞候補はこんなにたくさんある。「流星ワゴン」、「問題のあるレストラン」、「デート~恋とはどんなものかしら~」、「ヤメゴク~ヤクザやめて頂きます~」、「戦う!書店ガール」、「天皇の料理番」、 「マザーゲーム 彼女たちの階級」 、「心がポキッとね」、「あさが来た」、「Dr.倫太郎」、「アルジャーノンに花束を」、「表参道高校合唱部!」 、「ナポレオンの村」 、「花咲舞が黙ってない」、「釣りバカ日誌~新入社員 浜崎伝助~」、「無痛~診える眼」、「コウノドリ!」など。

どれに授賞してもおかしくないのだが、次の2つに決めさせていただいた。

あさが来た



授賞理由: 視聴率27パーセント超えの朝ドラ。家族全員楽しませていただいている。NHKの朝ドラは新人女優の登竜門で、ヒロインに抜擢されるには健康的で明るいという条件が求められる。ヒロインあさ役の波留さんは新人ではないけれども、夏目雅子の再来とも言われているだけに今後のご活躍が楽しみだ。朝ドラは半年続くので「健康的」という条件は大切だ。波留さん、そして出演している俳優の方々には無事乗り切ってほしい。

ヒロインのモデルとなった広岡浅子の関連本はたくさん出ている。検索しやすいようにしておこう。

紙の書籍: Amazonで検索する

Kindle書籍: Amazonで検索する


この番組にあやかって「びっくりぽんそろばん(35000円)」と「パチパチはんそろばん(2400円)」が株式会社ダイイチから販売されている。

びっくりぽんそろばん(天2地5の7玉タイプ)


パチパチはんそろばん(天1地4の5玉タイプ)



そして2つめはこのドラマだ。

釣りバカ日誌~新入社員 浜崎伝助~



授賞理由: ドラマはとにかく楽しいのがいちばん。三國連太郎さんがお亡くなりになり、もうこのドラマを見ることはできないのかと寂しく思っていたのは僕だけではないだろう。西田敏行さんはスーさん役を引き受けるにあたって相当悩まれたそうだ。いざ新作が始まってみると前作の雰囲気を踏襲しつつ新鮮な感じで、ハマちゃん役の濱田岳さんをはじめ、キャスティングはほぼ完ぺきだと思う。でもスーさんの奥さん役に浅田美代子さんか石田えりさんを起用したら。。。いや、そうしてしまうと旧作のイメージが強過ぎてしまうかもしれない。ということで市毛良枝さんの起用に僕も賛成だ。


* クリスマス賞

アリスとキャロルのパズルランド 不思議の国の謎解きブック

 

授賞理由: クリスマスプレゼントに本を贈りたいのであればこれがいちばん。価格が手ごろなわりに高級感たっぷり。アマゾンのギフトラッピングを使うとよいだろう。

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

アリスとキャロルのパズルランド 不思議の国の謎解きブック
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/69d049330b9e82752d583a32d737a3a1



最後になりましたが、今日ノーベル物理学賞を受賞される梶田隆章先生、医学生理学賞を受賞される大村智先生に心からお祝いを申し上げます。

2015年 ノーベル物理学賞は梶田隆章先生、アーサー・マクドナルド先生に決定!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/8c8286906a9397277af1f47e7260efe7

先生方の著書、関連書籍を紹介して今年の「とね日記賞」を締めくくることにいたします。

ニュートリノで探る宇宙と素粒子:梶田隆章
大村智ものがたり~苦しい道こそ楽しい人生

 


関連記事:

とね日記賞の発表!(2010年): 物理学賞、数学賞、他
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ddc344204dec2ebd35c47a8699eb1389

とね日記賞の発表!(2011年): 物理学賞、数学賞、他
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/27bc2b5eafa9334dae11d92e90c69b0d

とね日記賞の発表!(2012年): 物理学賞、数学賞、他
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b4ce3d8c7d90d5b95bf6ab826cc7d93f

とね日記賞の発表!(2013年): 物理学賞、数学賞、他
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/35a258d08776ca6964cc70764cc1f5a8

とね日記賞の発表!(2014年): 物理学賞、数学賞、他
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/03d734929be66990cd8d25d7131a523a


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圏論の歩き方(日本評論社)

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圏論の歩き方(日本評論社)

内容紹介:
数学のみならず、物理学や計算機科学等、周辺分野との共通言語として注目が集まる「圏論」。その基礎と応用事例を紹介する。
2015年9月刊行、295ページ

編者について:
圏論の歩き方委員会
新井迅(北海道大学大学院理学研究員)
一宮尚志(岐阜大学医学部)
浦本武雄(京都大学数理解析研究所)
西郷甲矢人(長浜バイオ大学)
蓮尾一郎(東京大学大学院情報理工学系研究科)
Piet Hut(プリンストン高等研究所学際研究プログラム)
春名太一(神戸大学大学院理学研究科)
平岡裕章(東北大学原子分子材料科学高等研究機構)


理数系書籍のレビュー記事は本書で289冊目。

詳細を気にせず全体を俯瞰するという理解のしかたがある。本書はまさにそのような本だ。これは入門書の入口に立つための本で、圏論を理解できるのだと思って読むとあてが外れる。

現代数学は集合論をベースに構築されているが、圏論は数学的構造とその間の関係を抽象的に扱う数学理論のひとつで、集合論に置き換えられ、補完するものと考えられている。数学としての抽象度はとても高い。

先日書いた「数学の大統一に挑む:エドワード・フレンケル」の記事では数学の異なる分野、そして量子物理学の間のつながりがラングランズ双対群で示されているという予想を紹介した。圏や層、関手などもウィキペディアの「ラングランズ・プログラム」という項目を読むとわかるように関連を持っているようだが「圏論の歩き方(日本評論社)」を読んでわかるのは圏が数学、物理学、計算機科学そしてもっと広い分野に共通して存在する概念、言葉であるということだ。

本書を読んで圏論は1960年代に登場して発展して、そして流行っていった「構造主義」と似たような流行り方だと思った。広義の意味での構造主義は数学、言語学、生物学、精神分析学、文化人類学、社会学などの学問分野のみならず、文芸批評にも及んでいる。現代思想に端を発しているから(ブルバキ流の)数学の基盤となってはいるが全体的には「方法論」であり、曖昧なものだ。それに対し圏論の出自は数学だからもともと厳密に定義された概念である。


圏論の入門書の入口に立つための本とはいえ笑ってしまうほどよくわからなかった。以下に目次や章のあらましを記載しておくが、僕が理解できたのは第1章から第5章まで。そして第6章は途中からちんぷんかんぷんになった。

第7章から第11章はページを開いたとたんに「あ、こりゃだめだ。」とあきらめてしまう始末。第12章で少し持ち直したかなと思ったら第13章の最後のほうで挫折。第14章から第16章は「なんとなく」読むことができた。そしていちばんためになったのは第17章の「圏論のつまづき方」。なぜこの本がこれほど僕の理解を超えていたのかがよくわかったし、これからどのように学べばよいかのヒントを与えてくれた。

これほど難しい本でありながら最後まで読み通せたのは「座談会」の章があること、そして解説の章の最後には「Q&A」が設けられていることだ。これらを読むとその章がどれだけ難しいことを言っているのか、理解できなくても仕方がないのだなと自分の頭の悪さを責め、さらに難解な章に入って苦しむという悪循環から解放してもらえるからだ。

いくつかの章は理解できたので「まぁ、今回はこれでよし。」ということにしておこう。


そのようなわけで目次レベル、概要レベルでもここに書いておくことはこの本を読んでみようかと思っている方に対して少なからず意味があると思う。

圏論の歩き方(日本評論社)



第1章:[座談会]圏論と異分野協働

- Adventures of Categoriesプロジェクト
- 「暗黙の知」を伝える
- 「暗黙の知」を伝えるための戦術論
- 圏論と「暗黙の知」
- 圏とは何か?
- なぜ圏なのか?--「使える共通言語」として
- (思ったよりも)ローコスト、(経験的に)ハイリターン
- 本書について--異文化協働、やってみよう

第2章:圏の定義(矢印でいろいろ書いてみる)

蓮尾一郎(東京大学大学院情報理工学系研究科)

圏論を「使う」うえで必要になる暗黙の知識を、教科書的でなく、ざっくばらんに伝えようというのが本書の目的です。とはいってもやはり数学ですから、最初は定義からはじめます。できるだけ気持が伝わるようがんばりますが、やっぱりむずかしいので、わからなくても気にせずに後の章に進んでください。

第3章:タングルの圏

鈴木咲衣(京都大学数理解析研究所/白眉センター)
葉廣和夫(京都大学数理解析研究所)

トポロジーとよばれる数学の分野での、圏論の使い方のはなしです。第2章に出てきた例とはまったく違って、「ひもがくるくるもつれている」のが射で、「もつれたひもを連結する」のが射の合成ですね。圏論で重要な関手の概念も初登場です。

第4章:プログラム意味論と圏論(計算の「不変量」を圏論で捉える)

長谷川真人(京都大学数理解析研究所)

情報科学、特にプログラミング言語の研究における圏論の使い方のはなしです。関数型プログラミングを通して圏論に興味を持った読者の方も多いかもしれませんね。なんとびっくりすることに、話の構造が第3章の「もつれたひも」の話とおなじになるのです。圏論の抽象力って、すごいですね。

第5章:モナドと計算効果

勝股審也(京都大学数理解析研究所)

第4章から引き続いてプログラムの話です。プログラムって関数のようでいて、しかし関数でない側面(計算効果)を持っているんですね。これを表現するのが圏論のモナドという概念です。圏論の主役の一人である自然変換も初登場します。プログラミング経験がなくても(たぶん)大丈夫!

第6章:モナドのクライスリ圏(圏論による一般化とは?)

蓮尾一郎(東京大学大学院情報理工学系研究科)

本章は第5章と同じモナドという概念を使いながら、また別の現象(状態推移系の分岐)を数学的にモデルします。いろいろな種類の分岐が統一的に扱えることや、第5章の計算効果との共通点など、圏論の「旨味」が伝わるといいのですが。

第7章:表現をする話(ミクロ・マクロ双対性(1))

小嶋泉(元・京都大学数理解析研究所)
西郷甲矢人(長崎バイオ大学)

警告:この章はむずかしいです!作用素環論を基礎にした数理物理学(とくに量子力学)の話なのですが、これまでの章に出てこなかった概念がバシバシ出てきます。読者におかれましては次のことのご留意ください。
(1)全然わからなくても気に病む必要はありません。
(2)逆にわからないからこそ頭に残って、数年後、数十年後に何かの役に立つかもしれません。
(3)咀嚼に長い時間かかるものに触れることって、すばらしいことだと思いませんか。

第8章:[座談会]歩き方の使い方

第7章のあまりの飛ばしっぷりは『数セミ』編集部を戦慄させ、急遽第1章のゆかいな仲間たちが再度招集されることになったのだった…!

- なんだか全然わからないじゃないか
- 文献の「取扱説明書」
- 数学における「理解」とは?
- 圏論の気持ち・代数学の気持ち
- 圏論のできること・できないこと
- 『圏論の歩き方』の使い方

第9章:ガロア理論と物理学(ミクロ・マクロ双対性(2))

小嶋泉(元・京都大学数理解析研究所)
西郷甲矢人(長崎バイオ大学)

第7章と第8章をご覧になった人なら、この章をどのように読めばいいのか、もうお分かりですよね。ガロア理論と物理学、一見なかなか関連しなさそうなこの二つがどのような共通点を持つのか?そこで圏論の果たす役割とは?これから数十年噛み続けてもまだまだ味のするような思考の糧、はじまりはじまり!

第10章:圏論的双対性の「論理」(圏論における抽象と捨象、あるいは不条理)

丸山善宏(オックスフォード大学数理・物理・生命科学部門)

第7、9章とよく似た数学的構造が、この章では論理学の文脈で「実体」と「性質」の双対性として現れます。たとえば、「えー理想の彼氏?身体がタフで~、運動が得意で~、マメに家に来てくれて~、キッチンにも立ってくれる人がいいな」というふうに性質を列挙することで、「ゴキブリ」という実体が特定されるわけです。(ツイッターで見かけたネタです。)

第11章:圏論的論理学:トポス理論を越えて

丸山善宏(オックスフォード大学数理・物理・生命科学部門)

第7、9、10章と続いてきた「ちょっとヘビーな章シリーズ」の最後がこの章です。(量子力学や計算機科学もやるけど)哲学者でもある丸山さんは、最終的に「論理とは何か?」という問いに行き着いています。その文章の真剣さと迫力ゆえに、Q&Aで二条さんが少し腰が引けてしまっているところも見どころです。実際に話してみると、丸山さんは全然真剣じゃなかったりするのですが。

第12章:すべての人に矢印を(圏論と教育をめぐる冒険)

西郷甲矢人(長崎バイオ大学)

この本の目的の一つは「圏論が使われる現場の実況中継」ですが、著者の多くが大学の教員だという事情で、教育もそのような「現場」の重要な一風景です。学部1年生の講義内容に圏論的考え方が潜んでいることを知るのは、講義する教員の側にもいろいろなことを考えさせてくれます。まさに「教うるは学ぶの半ば」ですね。

第13章:ホモロジー代数からアーベル圏、三角圏へ

阿部弘樹(東京経済大学コミュニケーション学部)
中岡宏行(鹿児島大学学術研究院理工学域理学系)

これまでの章とはうってかわって、この章はホモロジー代数と位相幾何学という「純粋数学」的な話です。そもそも圏論が生まれる母体になった分野ですね。位相幾何学におけるホモロジー群を最初のとっかかりにして"ホモロジー"を合言葉にアーベル圏、三角圏、導来圏が構成される様子をご覧ください。

第14章:表現論と圏論化

土岡俊介(東京大学大学院数理科学研究科)

第13章に続き「純粋数学」における圏論の話ですね。「量子化」「圏論化」という近年注目のキーワードが、少ない字数の中で説明されています。また、Q&Aあたりからは代数学における「インフォーマルな気持ち」が伝わってくるように思います。こういう気持ち、特に代数学の外にいると、なかなかわからないんですよね。

第15章:圏論と生物のネットワーク

春名太一(神戸大学大学院理学研究科)

この章ではまた応用数学に戻ります。しかもその対象はなんとシステム生物学です。大腸菌の遺伝子networkの解析に圏論が応用できるなんて、圏論のイメージが少し変わって来ませんか。

第16章:[座談会]「数学本流」にはなりたくない

- あやしいプロジェクトに巻き込みやがって
- やっぱりわからなかった
- (執筆後に判明した)この本の取り扱い説明書
- 数学の舞台裏
- 使えない圏論
- 圏の定義のAha!的でないありがたさ
- プログラミング言語」としての圏論
- 「数学本流」にはなりたくない

第17章:圏論のつまづき方

この本の最後に、連載時にはなかったボーナストラックをお届けしますね。この本を読んで圏論に興味をもって「よし一つ本気で勉強してみるか!」という読者のために、圏論のテクニカルな詳細を追うにあたっての落とし穴をいくつか説明しておきます。二条さんのモデルになった一宮さんが実際にはまった落とし穴です(あはは)。

- 可換図式の「筆順」
- 圏としてのモノイド
- 自然変換:いろいろなレベルの「射」
- 図式を省略せずに書こう
- 「便利な道具」としての自然変換


圏論が影響をもつ分野は多岐に渡っているから入門するのなら自分の得意な分野から入るのがよいと思う。日本語で読める本とコメントを書いておくので参考にしてほしい。

圏論の基礎:S.マックレーン」(英語版)(英語Kindle版



コメント: 「基礎」と銘打っているものの原書のタイトルが示すとおり「数学者向け」の入門書である。少なくとも数学基礎論、代数学(群論)、トポロジーを専門書で学んでから挑戦するべきだ。本書には「サポートページ」がある。


圏論 原著第2版:スティーブ・アウディ」(英語版



コメント: これも専門家向けの入門書である。アマゾンのレビューを読むと日本語訳に難があるようなので原書で読んだほうがよいのかもしれない。本書には「解説ページ」で「正誤表」が公開されている。


理工系のためのトポロジー・圏論・微分幾何:谷村省吾」(電子版



コメント: 日本語で読むのだとしたら今のところこの本がいちばん易しい本のようだ。紙の本はすでに絶版で高値でしか買えないから、サイエンス社からでているPDFの「電子版」をお買い求めなるとよいだろう。上の「電子版」というリンクをクリックすると目次やサンプルページを読むことができる。


圏論の技法:中岡宏行



コメント: 「圏論の歩き方(日本評論社)」の「第13章:ホモロジー代数からアーベル圏、三角圏へ」を執筆された中岡先生がお書きになった入門書で、今月発売されたばかりである。内容説明には「数学諸分野で基本的な道具・言語として用いられる 圏論・ホモロジー代数、待望の現代的入門書。関手、普遍性、双対性をはじめとする基本的な概念から、森田の定理など重要な結果、導来圏の基礎までを、徹底してやさしく解説します。」とある。これを信じてよいのかどうかはまだわからないが、チャレンジできそうな気がしている。目次は「解説ページ」をご覧いただきたい。


すごいHaskellたのしく学ぼう!」(Kindle版



コメント: プログラミングに習熟している方はHaskellという関数型言語を通じて圏論を具体的に学ぶのもよいかもしれない。Haskellの入門書はここをクリックしていただくとわかるように何種類か出ているが、この本で入門するのがいちばんよいと思う。ネット上には感想記事がいくつか投稿されているのでここをクリックしてお読みいただけるようにしておいた。


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Newニンテンドー3DS LL ハイラル エディションとゼルダの伝説3D

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今日は自分のための覚書のような記事。

ゼルダの伝説にちなんだ「ハイラル エディション」のNewニンテンドー3DS LLが来月21日に発売されるそうだ。

現在予約受付中。

Newニンテンドー3DS LL ハイラル エディション



発売中の3DS LL: Amazonで検索


Nintendo 64の時代からなぜかこの2つのゲームだけお気に入り。

ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D
ゼルダの伝説 ムジュラの仮面 3D

 

でもプレイしている時間はないので、僕はもっぱら実況プレイ動画を見て満足してしまうわけであるが。

気に入った方は購入してみてはいかが?


ゼルダの伝説 時のオカリナ3D 攻略
http://i-njoy.net/zd5_top.html
http://ds-can.com/zelda3ds/
http://zelda-10gok.com/to3d/

ゼルダの伝説 ムジュラの仮面3D 攻略
http://i-njoy.net/zd6_top.html
http://hrs-game.main.jp/zelda-mm-3d/
http://zelda-10gok.com/mk/


紹介映像:

ニンテンドー3DS ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D 紹介映像



ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D 紹介映像【裏ゼルダ】


ゼルダの伝説 ムジュラの仮面 3D 紹介映像



実況プレイ:

3DSのゲームの実況プレイ動画は「3DSの画面を録画・配信する方法」や「3DSゲーム実況やり方講座」というページのようにして録画するそうだ。それにしてもプレイしながら上手にナレーションしているなぁ。

ゼルダの伝説 時のオカリナ3D【女性実況1】 YouTubeで自動再生


ゼルダの伝説 時のオカリナ3D【女性実況2】 再生リスト



ゼルダの伝説 ムジュラの仮面 3D- 女性実況プレイ YouTubeで自動再生


ゼルダの伝説 ムジュラの仮面 3D- 実況プレイ 再生リスト



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古典力学の形成―ニュートンからラグランジュへ:山本義隆

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古典力学の形成―ニュートンからラグランジュへ:山本義隆

内容紹介:
「ニュートン力学」と称される古典力学は、ニュートン以後のヨーロッパの数学者たちによる協同作業で形成されていったものであった。最新の科学史学を踏まえた、近代自然科学理論生成の物語。1997年刊行、372ページ。

著者について:
山本義隆(やまもとよしたか)
1941年大阪生まれ。大阪府出身。大阪市立船場中学校、大阪府立大手前高等学校卒業。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。 東京大学大学院博士課程中退。
1960年代、学生運動が盛んだったころに東大全共闘議長を務める。1969年の安田講堂事件前に警察の指名手配を受け地下に潜伏するが、同年9月の日比谷での全国全共闘連合結成大会の会場で警察当局に逮捕された。日大全共闘議長の秋田明大とともに、全共闘を象徴する存在であった。
学生時代より秀才でならし、大学では物理学科に進んで素粒子論を専攻した。大学院在学中には、京都大学の湯川秀樹研究室に国内留学しており、物理学者としての将来を嘱望されていたが、学生運動の後に大学を去り、大学での研究生活に戻ることはなかった。
その後は予備校教師に転じ、駿台予備学校では「東大物理」などのクラスに出講している。一方で科学史を研究しており、当初エルンスト・カッシーラーの優れた翻訳で知られたが、後に熱学・熱力学や力学など物理学を中心とした自然思想史の研究に従事し今日に至っている。遠隔力概念の発展史についての研究をまとめた『磁力と重力の発見』全3巻は、第1回パピルス賞、第57回毎日出版文化賞、第30回大佛次郎賞を受賞して読書界の話題となった。

山本義隆: ウィキペディアの記事 Amazonで著書を検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で290冊目。

3年前に書いた「200冊の理数系書籍を読んで得られたこと」という記事や6年前に書いた「日本語版「プリンキピア」が背負った不幸」という記事でNewton(ニュートン)の業績の偉大さや彼が残した著書『プリンキピア(自然哲学の数学的原理)』の凄さを讃えたことがある。それは現代の私たちが「Newton力学」と呼んでいるもののすべてを彼が発見し、数学的に証明し、発表した人類史上の偉業だ。『プリンキピア』の日本語訳は昨年電子書籍として復刊された。(参考:Kindle版で復刊: 日本語版プリンキピア(自然哲学の数学的原理):アイザック・ニュートン

けれども今回本書を読んでそのような僕の理解は大きな修正を余儀なくされた。Newtonの業績と思っていたいくつかの事柄は、実際には彼は第一発見者ではなかったり、結果を述べるだけで証明には成功していなかったというのだ。彼の業績と私たちが信じ込んでいるもののいくつかに「ほころび」があることが書かれている。読み始めてすぐ目から鱗が落ちるような思いがした。

また彼と同時代を生きたLeibniz(ライプニッツ)は微積分をどちらが先に発明したかNewtonと争ったことで知られているが、それはどのような形で決着したのか。


本書について

本書はNewtonが『プリンキピア』を著し、その後100年に渡って古典力学がどのように発展していったかを著者の山本先生が科学者や科学史家の著作を読み解きながら解説したものだ。

地動説を発表したCopernicus(コペルニクス)からGalilei(ガリレイ)、Kepler(ケプラー)そしてNewtonに至る100年間を解説した科学書籍はたくさん出版されている。彼らの功績はあまりにも大きく、科学史の本だけでなく高校の世界史の教科書にも書かれているほどだ。

それに対して本書のようにNewton以降100年間の古典力学史を解説した本はほとんどない。この100年間にLeibniz(ライプニッツ)、Varignon(ヴァリニョン)、Hermann(ヘルマン)Johan Bernoulli(ヨハン・ベルヌーイ), Jacob Bernoulli(ヤコブ・ベルヌーイ), Daniel Bernoulli(ダニエル・ベルヌーイ)、Euler(オイラー)、D'Alenbert(ダランベール)、Maupertuis(モーペルテュイ)、Lagrange(ラグランジュ)ら、ヨーロッパ大陸の数学者たちが創り出していった新しい微積分の手法によって力学の問題は洗練された「解析力学」という形に結実し、「汎用化」、「簡易化」した。これは「力学の解析化」-力学の問題を代数方程式や幾何学を使って解く方法から微積分や微分方程式などの解析学を使って解く方法への移行-のプロセスである。そもそもLeibnizの時代には座標の概念や曲線が代数方程式であらわされることは知られていたものの、「関数」の概念はなかったのである。

一般の方への注意:「解析学」とは数学の分野のひとつで微積分や微分方程式のことである。いっぽう「解析力学」は高校物理で学ぶ力学を微積分を駆使して一般化、汎用化させたもので物理学の分野のひとつである。Lagrangeによって完成した解析力学はその後、古典力学だけでなく電磁気学、相対性理論、量子力学、素粒子物理学などあらゆる物理現象に適用できる普遍的な理論であることが実証される。解析学と解析力学は名前が似ているので補足させていただいた。

Newtonが著した『プリンキピア』の初版が出版されたのは1687年、第2版は1713年、第3版は1726年に出版された。日本史で言えば綱吉(5代将軍)から吉宗(8代将軍)の時代に相当する。第2版、第3版が出版された頃にははるかに時代遅れになっていたのである。

Newton以降の100年間に主に上記の数学者たちによってエネルギー原理、仮想速度の原理、最小作用の原理など力学の新しい原理の探求が続けられた。最終的に総括したのはEulerの『力学の新しい原理の発見(1750)』とLagrangeの『解析力学(1788)』である。これで現在「Newton力学」と呼ばれる古典力学が出来上がった。

Keplerによる天体運動の法則化とGalileiによる運動理論を総合したのは『プリンキピア』であり「Newtonの力学」である。そして通常「Newton力学」と呼ばれている古典力学はNewtonによる総合を批判的に継承し発展させたヨーロッパの知的エリート、とりわけ大陸の数学者たちのネットワークのほぼ1世紀にわたる連続した協同作業により形成されていったのだ。

著者の山本先生がNewtonを始め上記の数学者たちの論文、1960年以降に書かれた科学史家たちの著作をみずから読み解き、当時の数式手法が難し過ぎるときは理数系の大学生でも読めるように現代の数式表示に書き改めてくださっている。

これは壮大な科学史、歴史ロマンだ。この時代は中世ではなく近世なのだが、まるでウンベルト・エーコの知的歴史ミステリー小説さながら古文書を読み解いて分析し、解説する。この時代の数学者たちの息づかいが聞こえてくるような本なのだ。

第1部ではKepler問題をめぐる力学理論の整備と洗練の過程、第2部では力学原理の形成と発展を追跡、解説する。その過程は力学を問題毎に特殊で難解な技法を必要とし、極めて限られた特別の人間にだけ伝授可能、習得可能な秘伝から、あるレベル以上の能力の持ち主には誰にでも教育可能、使用可能な道具に作り変えていく過程でもあった。その結果、力学はフランス革命以降、科学者と技術者の集団の存在が職業として社会的に要請され、組織的に要請される時代の科学理論へと変貌していったのだ。

章立てはこのとおり。

序:「Newtonの力学」と「Newton力学」

●●●第1部:Kepler問題

1.『プリンキピア』の問題設定と論理構成
2.「順Newton問題」の解法と重力の導出
3.「逆Newton問題」の解法と『プリンキピア』の限界
4.『プリンキピア』第2篇の解読
5.Leibnizと微分方程式の導入
6.Leibnizと『プリンキピア』
7.Varignonと「順Newton問題」
8.「逆Newton問題」の初めての解析解
9.Kepler問題の完成

●●●第2部:力学原理をめぐって

10.Eulerによる力学原理の整備
11.新しい問題--拘束運動とその解法
12.Daniel Bernoulliと非剛体的拘束運動
13.D'Alembertの原理
14.最小作用の原理とその周辺
15.Lagrangeと変分法
16.『解析力学』第1部・静力学
17.『解析力学』第2部・動力学


全容をここに紹介するのは無理なので、本書冒頭のNewtonとLeibnizにフォーカスして概要を述べておこう。


Newtonに対する私たちの認識

まず一般にNetwonの業績と私たちがみなしているのは次のような事柄である。

1)万有引力の法則を導き、古典力学(Newton力学)を創始。これによって天体の運動を解明した。その前提として絶対空間、絶対時間の考え方を提唱した。

2)ケプラーの惑星運動3法則を力学的に証明し、万有引力によって天体の軌道が条件によって楕円、双曲線、放物線などの円錐曲線に分かれることを示した。

3)運動の3法則を提唱。これを前提として惑星や月など天体の運動法則と地上の力学(当時は機械学と呼ばれていた)の法則を統一した。

4)空気など「媒質」の抵抗を受けながら落下する物体の運動を計算して求めた。物体の速度に比例する抵抗を受ける場合と速度の2乗に比例する抵抗を受ける場合について。

5)流体力学を考察し、月の引力によって生じる潮汐、海洋の物理学の問題を解いた。

4)数学分野においては微分積分法の発見が特に重要な業績である。彼はこれを「流率法」と呼んだ。


本書の冒頭部分

本書ではまず「Newton力学」と「Newtonの力学」を区別する。前者は上記のように現代の私たちが認識している力学の内容であり、後者は実際にNewtonが導けた範囲、Newton自身が認識していた力学の内容のことである。

そして次に区別するのは「Newtonの順問題」と「Newtonの逆問題」である。順問題とは楕円軌道から逆2乗の万有引力を導くプロセス、逆問題とは逆2乗の万有引力から楕円軌道(そして他の円錐曲線)を導くプロセスのことだ。

本書ではNewtonは順問題は『プリンキピア』の中で幾何学を使って証明できていたが、逆問題については解の天下りな記述はあるものの証明できていなかったことが述べられている。これが最初に僕が受けた衝撃だ。

そして空気など「媒質」の抵抗を受けながら落下する物体の運動を求める問題は、抵抗が速度に比例する場合と速度の2乗に比例する場合についての計算プロセスと結果を書いているが、どちらのケースでも証明に至っていないことが解説されている。この2つは現代では微分方程式を解いて求める問題である。Newtonが証明に用いた幾何学的手法の限界がここにある。

Leibnizはみずから考案した微積分の記法を使ってNewtonが『プリンキピア』に載せた問題をひとつずつ解いていった。そしてNewtonが幾何学を使って解いた順問題、Newtonが解けなかった物体が媒質の抵抗を受けて落下する問題(速度に比例する場合と速度の2乗に比例する場合)の解を導くことに成功したのだ。ちなみに逆問題を初めて解いたのはVarignon(ヴァリニョン)である。(参照:ケプラーの3法則

ただ、Leibnizは惑星に作用する力の原因が太陽による「中心力」ではなく、惑星を軌道の外側から(つまり惑星を太陽の方向に向かって)押している力だと考えていたのだという。計算結果は同じになるが物理法則の理解という点ではNewtonのほうが正しい。

現代の私たちは完成した微積分の手法、公式を使って問題を解く。3つ以上の天体の運動の場合は解析的に解けないことがわかっているが、与えられる問題はたいてい解けることが保証されていものばかりだ。Leibnizは微積分の表記を創りながら、それを代数的に解いていったのだと思うと驚嘆せずにはいられない。


キリスト教徒としてのNewton

絶対的時間や絶対的空間の概念を打ち立てたNewtonではあるが、彼自身はそれらがキリスト教の教義と矛盾するとは考えておらず、『プリンキピア』一般注にて宇宙の体系を生み出した至知至能の「唯一者」に触れ、それは万物の主だと述べていた。

Newtonはキリスト教徒であり神を必要とした。惑星の初速度は「神の一撃」でありその後は運動法則にしたがって惑星は運動を続けるので神の存在は不要なのだと僕は思っていた。キリスト教信者としての立場と彼の学説が矛盾していると思っていたのだ。しかし、そうではないことを本書を読んで知った。

太陽系全体をみたときに同一平面上を楕円軌道を描いて調和的に設定していること、すべての運動は摩擦や粘性による減衰があること、彗星は惑星による摂動の影響を受けるし、不規則性は累積していくとNewtonは考えていた。だから太陽系の調和が保たれるためは常に神の監視が必要だとNewtonは考えていたそうなのだ。惑星の運動が未来永劫続くためには全能の神の意図が前提とされていた。

Newtonは我が強く気難しくて偏屈な一面もあり、議論において意見の合わぬ者は反論の余地すら与えず叩き潰すまで論破した。パワハラである。講義があまりに高度で難解なためにお手上げになった学生から順に退散、誰も居なくなった教室で一人講義を続けていた。生涯で一度だけ笑ったことがあるが、それは論敵がボロを出した嘲りの笑いだったという逸話が残っている。


『プリンキピア』について

『プリンキピア』はすべて円や直線、曲線による「幾何学」を使って解説されている。当時の数学者にとっても難解極まりない著作である。本書ではNewtonが意図的にそうしたのであり、それは自身の理論に対する批判回避のためであったことが述べられている。長い間出版を渋っていたのも批判を恐れたためだという。その難解さは秘術・秘伝と言ってよいレベル。Newtonは錬金術にも没頭したことは意外に思われているが、秘術・秘伝という意味で整合性が取れる。(参考:「アイザック・ニュートンのオカルト研究」)

その結果『プリンキピア』はごく一部の数学者を除いて、解読不能なものとなった。ヨーロッパ大陸の多くの科学者、科学史家にとって(そして現代の私たちにとってもそうであるが)Newtonは万有引力の発見者としてのイメージが強すぎて、運動の3法則を力学の基礎に置いたという重要な点は忘れ去られることが多かったのである。運動の3法則はNewton以前のGalileiが落体の法則を考える段階ですでに知っていた経験的事実であり、Newtonが発見したものではなかったという理由もある。(参照:運動の3法則


微積分の発明者は誰?

微積分の発明者は誰?という論争にも本書は詳しい解説を行っている。Newtonは『プリンキピア』執筆以前に微積分(流率法)を考案して惑星の問題を解いていたと主張しているし、Leibnizは『プリンキピア』刊行より前に微積分を発明したと主張している。しかしどちらにも証拠がない。

注意: 「無限をつかむ: イアン・スチュアートの数学物語」の130ページにはNewtonについて次のような記述がある。『プリンキピア』に結実する研究を続けていた時期に書かれていた未公表のノートや草稿を含む「ポーツマス文書(Portsmouth Papers)」などの調査研究から、このころすでにニュートンが微積分法の基本的概念を得ていたことがわかっている。

この論争に後世の科学史家が決着をつけた。決定的だったのはLeibnizによる書き込みがされた『プリンキピア』が発見されたことである。本書の表紙に掲げたのは『プリンキピア』の一部であるがこのページの問題に対して図の右側に手書きされているのがLeibnizによって書かれた部分。同じ問題を微積分を使って解いている。また次のページについても同様である。

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物証を優先するという立場をとればNewtonに軍配が上がることは明らかだろう。しかしNewtonの『プリンキピア』の幾何学的手法、難解な記述が反面教師的に作用したおかげでLeibniz以降Lagrangeまで力学の洗練化、物理学的な理解の進展が推し進められることになった。


対象読者、関連書籍

本書には幾何学による説明、微積分の数式を使った説明が多く記述されているので、すべて理解するためには高校物理の力学、大学の微積分、常微分方程式、解析力学の知識が必要である。数式を全く理解できない人でもかろうじて流れはつかめると思う。

力学の発展に微積分学、解析学が果たした寄与は大きいことはさきにも述べたが、本書は力学という物理学的側面から書かれた本である。数学者たちが使った微積分がどのような背景をもって進展したかという数学的側面は省略されている。

本書のこの不足部分を補う恰好の本が今年の初めに刊行されていることに僕は気が付いた。微分積分学の発展の歴史を解説した本である。この本で取り上げられている数学者(あるいは哲学者、自然科学者)はデカルト、ニュートン、フェルマー、ライプニッツ、ヤコブ・ベルヌーイ、ヨハン・ベルヌーイ、オイラー、ラグランジュ、高木貞治、コーシー、フーリエなど。今日紹介した「古典力学の形成―ニュートンからラグランジュへ:山本義隆」に登場する人物たちとかなりの部分が重なっている。食べ合わせならぬ「読み合わせ」するのにちょうどよい。

次回の記事ではこの本を紹介する予定だ。

微分積分学の史的展開 ライプニッツから高木貞治まで:高瀬正仁」(Kindle版



あと上の本の姉妹編(下の白い表紙のほうが妹)として今年の7月に刊行されたのがこちらの本。内容は似ているが姉妹で補い合う関係にあるというので両方読んでも大丈夫だと著者の高瀬先生はお書きになっている。

微分積分学の誕生 デカルト『幾何学』からオイラー『無限解析序説』まで:高瀬正仁」(Kindle版




関連記事: これまでに紹介した山本義隆先生の本

新・物理入門(増補改訂版):山本義隆
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/8ea0ef12c20ef703b81afe2752b4c3a2

熱学思想の史的展開〈1〉:山本義隆
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d1b18caf10c0e9a10baff20434eb9ffc

熱学思想の史的展開〈2〉:山本義隆
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f852e9510c040c23ae18c4da6df2dcbf

熱学思想の史的展開〈3〉:山本義隆
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c4f5c84e9854ddd2e60a1300044c9efc

福島の原発事故をめぐって― いくつか学び考えたこと:山本義隆
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7940dcbcf9929b45269dc9efae303848

原子・原子核・原子力―わたしが講義で伝えたかったこと:山本義隆
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/605f519af238e6b41871e81829f46e43


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古典力学の形成―ニュートンからラグランジュへ:山本義隆



序:「Newtonの力学」と「Newton力学」

●●●第1部:Kepler問題

1.『プリンキピア』の問題設定と論理構成
- 発端
- 『プリンキピア』の問題設定
- 『プリンキピア』の運動法則
- 運動法則の吟味

2.「順Newton問題」の解法と重力の導出
- 面積定理の証明
- 中心力を求める基本方程式
- 一つの例:2次元調和振動
- Kepler運動の場合
- 順Newton問題の別解
- Keplerの第3法則
- 議論の再検討

3.「逆Newton問題」の解法と『プリンキピア』の限界
- 『プリンキピア』をめぐる神話
- Newtonは「逆問題」を解いたか
- 『プリンキピア』の「命題17」
- 微分法と『プリンキピア』
- 一直線上の降下
- 任意の曲線上の運動
- 若干の書き直し

4.『プリンキピア』第2篇の解読
- 『プリンキピア』第2篇の歴史的意義
- 第2篇の今日的意義
- 速度に比例する抵抗のもとでの運動--極限移行の問題
- 速度に比例する抵抗--Newtonの限界性
- 一定の駆動力のあるとき
- 速度の2乗に比例する抵抗のあるとき
- 『プリンキピア』という書物

5.Leibnizと微分方程式の導入
- Leibnizの『試論(1689)』をめぐって
- Leibnizの前提と方法--「調和回転」
- 遠心力の公式の導出
- 動径方向の運動方程式
- 楕円軌道と万有引力--順Newton問題

6.Leibnizと『プリンキピア』
- Leibnizの手になる書き込みの発見
- 速度に比例する抵抗中の落下
- 『プリンキピア』の微分法に関する補題
- 速度の2乗に比例する抵抗中の落下--I
- 速度の2乗に比例する抵抗中の落下--II
- Leibnizによる解

7.Varignonと「順Newton問題」
- Varignonの評価について
- 1次元運動とエネルギー積分
- 中心力の新しい表式
- 例--2次元調和
- Kepler運動と万有引力の導出
- 「逆Newton問題」の必要性

8.「逆Newton問題」の初めての解析解
- 問題の設定--方程式の導出
- 方程式の積分--Hermannの解
- Riccatiによる補注と若干のコメント
- Bernoulliの別解--極座標の方程式
- Kepler問題の解

9.Kepler問題の完成
- 楕円軌道の極座標表示
- Kepler運動の運動学
- 極座標による運動方程式の表現
- 運動方程式の第1積分
- 万有引力のもとでの運動
- D.Bernoulliとエネルギー積分の導入

●●●第2部:力学原理をめぐって

10.Eulerによる力学原理の整備
- 1740年前後の状況:Newtonと力学原理
- Eulerの出発点
- 力学原理としての運動方程式
- 慣性原理について
- 力の尺度をめぐる議論
- 見掛けの運動と見掛けの力
- 仕事関数の導入

11.新しい問題--拘束運動とその解法
- はじめに--新しい問題
- Jacob Bernoulliによる問題設定
- 梃子の釣り合いの条件
- 問題の解

12.Daniel Bernoulliと非剛体的拘束運動
- 一般的な問題設定と方針
- 一つの例--動く斜面上の落下
- 二重振子にたいする問題設定
- mにたいする拘束の効果
- 固有振動と相当単子

13.D'Alembertの原理
- D'Alembertとその力学
- 力学の原理
- 力概念への翻訳
- いくつかの具体例
- 二重振子
- D'Alembertの時代的制約

14.最小作用の原理とその周辺
- Maupertuis
- 最小作用の原理
- Eulerによる定式化
- Eulerによる見解
- 静力学と動力学の統一

15.Lagrangeと変分法
- Lagrangeの出発点
- 最小作用の原理
- 複数個の物体系
- D'Alembert-Lagrangeの原理

16.『解析力学』第1部・静力学
- 『解析力学』の出現前後
- 『解析力学』の特徴と意図
- 静力学と仮想速度の原理
- 拘束系と未定乗数法

17.『解析力学』第2部・動力学
- D'Alembertの原理をめぐって
- 動力学の基本方程式の導出:『解析力学(初版)』より
- 動力学の基本方程式の導出:『解析力学(第2版)』
- 諸「原理」の導出
- Lagrange方程式
- 『解析力学』の切り開いたもの
- 力学のマニュアル化


あとがきにかえて
人名索引
事項索引

微分積分学の史的展開 ライプニッツから高木貞治まで:高瀬正仁

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微分積分学の史的展開 ライプニッツから高木貞治まで:高瀬正仁」(Kindle版

内容紹介:
微分積分学の長い歴史は、西欧近代の数学史と軌を一にする。そこでは、微分と積分が「曲線」を媒介項としてつながってきた。曲線の性質を解明したいと願った古代の数学者の情熱は、ライプニッツらの着想を得て一時代を切り拓く。やがて微分積分学は、知の巨人たちによる「無限」概念の精緻化を経て、コーシーと高木貞治という頭脳を得ることで現代数学の基礎を築くこととなる。天才数学者たちの情熱が現代数学に結実する物語を、本書は精緻に描く。
2015年1月刊行、288ページ。

著者について:
高瀬正仁(たかせまさひと):ウィキペディアの記事
1951年、群馬県に生まれる。現在、九州大学基幹研究院教授。博士(理学)。専門は近代数学史、多変数関数論、ヤコビ関数、虚数乗法論。数学の古典的著作の翻訳などの執筆活動により、2009年度日本数学会出版賞受賞。著書に『dxとdyの解析学』(日本評論社)、『岡潔 数学の詩人』(岩波書店)、『高木貞治とその時代 西欧近代の数学と日本』(東京大学出版会)、『無限解析のはじまり わたしのオイラー』(筑摩書房)など、訳書に『ガウス 整数論』、『アーベル/ガロア 楕円関数論』(いずれも朝倉書店)、『オイラーの無限解析』、『数の理論』(いずれも海鳴社)、『ガウス 数論論文集』 (筑摩書房)、『ヤコビ 楕円関数原論』(講談社)などがある。

高瀬先生の著書、訳書: Amazonで検索



理数系書籍のレビュー記事は本書で291冊目。

ニュートンからラグランジュに至る100年の古典力学史を支えてきたのが微分積分学の発展だ。本書はその発展史を解説した本。「古典力学の形成―ニュートンからラグランジュへ:山本義隆」と読み合わせることで理解を一層深めることができる。

まず本書で紹介される数学者と著書を年表で提示しておこう。

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まず気が付くのはライプニッツのことだ。

1684年:ライプニッツの微積分の第1論文「分数量にも無理量にもさまたげられることのない極大・極小ならびに接線を求めるための新しい方法。およびそれらのための特異な計算方法」(接線法)公表

1686年:ライプニッツの微積分の第2論文「深い場所に秘められた幾何学および不可分量と無限の解析について」(逆接線法)公表

接線法というのは曲線に接線を引くための方法、逆接線法というのは求積法つまり積分につながる考え方のことである。微分と積分についての記号を発明しつつライプニッツはこの時点で微分と積分を発明していたことになる。

そしてニュートンの『プリンキピア』の初版が刊行されたのが1687年なので本書に従えば微分積分はライプニッツのほうが先に発明していたことになる。しかし「古典力学の形成―ニュートンからラグランジュへ:山本義隆」ではニュートンのほうが先に発見したと書かれていた。その根拠はライプニッツによる微分積分の記述が『試論(1689)』に書かれていること、そして『プリンキピア』に書かれたライプニッツの手書きメモにあるとしていた。山本先生の本には上記のライプニッツの第1論文と第2論文についての言及はない。

いったいどちらが先なのだろうとウィキペディアの「微分積分学」という項目を見てみると次のように書かれてあった。

「ライプニッツとニュートンの論文を慎重に精査したところ、ライプニッツは積分から論を構築し、ニュートンは微分から論を構築していることから、それぞれ独自に結論に到達していることが判明した。」

であるから、これ以上追求するのはやめておこう。


微分積分は高校や大学初年度の数学の授業で学ぶわけだが、それはすでに完成した理論であり現代の視点から私たちは知識やイメージとして持っている。現在の形になるまでにどのような経緯をたどってきたかを本書で読むと、今の私たちにとって簡単なこと当たり前のことが全くそうではなかったことに気が付くのである。

その発展史は数学者の年代別に年表形式であらわせるように単純なものではない。古代ギリシアの作図問題に源をもつ幾何学が千年以上の時を経てデカルトの『方法序説』によって座標や代数方程式と結びつき、その後の発展の礎となる。その後、おおまかには次のような変遷をたどって発展していく。

第1期(黎明期):デカルト、フェルマ、ニュートン、ライプニッツ、ベルヌーイ兄弟、ロピタル

曲線に接線を引くための「接線法」、接線から曲線を構成するための「逆接線法」の研究がメインの時代。ライプニッツはdx、dy、ddx、などの記号を発明したがこれは無限小量という認識であり、dx/dyのような変化率ではなかった。そもそもdxのような無限小量があるかどうかは証明されていたわけではなく存在すると信じた上でのこと。dxやdyなどの無限小量の間に方程式で示される関係があること、それを代数的に解くことが研究された。
また、曲線の長さや囲まれる面積、体積を求めるのは求積問題として微分とは別に考えられていたが、求積問題が積分と関連していること、微分と積分が逆の手法であることは認識されていた。ライプニッツにより d(x+y)=dx+dy、d(xy)=ydx+xdy が導かれた。(ライプニッツの公式)

第2期(発展期):オイラー、ラグランジュ

関数の概念の誕生。オイラーにより関数は第1、第2、第3の段階を経て誕生した。(オイラーの無限解析-微分と積分、微分方程式の解法)オイラー積分(ルジャンドルによるベータ関数、ガンマ関数)。またオイラーにより変分法も発明された。しかしこの段階でもdxは相変わらず「無限小量」、「変化量」である。ラグランジュは原始関数や導関数という言葉を用いていたが、現在の概念とは違っていた。

第3期(完成期):コーシー、テイラー、フーリエ

不定積分、定積分、原始関数、導関数などの誕生。テイラー展開、フーリエ展開。無限小の「量」から無限小の「数」への移行。そして「極限」の概念の導入により実在性が証明できない「無限小」の概念から脱却することができた。コーシーは複素解析を創始。解析学の厳密化の時代。


記述は数式が含まれているが簡単なものばかりだ。文章が中心の解説なので微積分を学んだ高校生にも読めるレベルである。微積分の諸概念がいつ頃、誰によって発案されたかを知ると、私たちがいかに効率よく学んでいるかがわかるであろう。大学生にとっては証明が厳密過ぎてまどろっこしいと思える解析学の授業も味わいの深いものに変わっていくかもしれない。

ひとつだけ難点をつけるとすれば、同じ内容の記述が何度も重複していることがあげられる。そのため読んでいるうちに螺旋階段をぐるぐる回りながら登っているように感じる。「この話は前の章にもあったよな。」という気持に何度もさせられるので、読み通すのに辛抱が求められる。

この点について高瀬先生は次のようにご説明されている。少し長くなるが引用しておこう。

「微積分の巨大な歴史を叙述するにはどのようにしたらよいのであろうか。時系列に沿ってひとりひとりの数学者を取り上げて解説し、叙述を積み重ねていくのは有力な方法だが、なぜかそのようにする気持ちになれなかった。微積分は大小無数の謎が散りばめられていて、しかもそれらは理論創造に携わった人びとのそれぞれに独自の思想に依拠している。デカルトにはデカルトの、フェルマにはフェルマの、ライプニッツにはライプニッツ固有の謎があり、読む者に向かって個別の解明を求めているのである。微積分の形成史を組織的に叙述するのはかえって不可能であり、むしろ全体を一つのテキストと見て、小林秀雄の文芸論集のように、微積分の謎をひとつひとつ取り上げて自由な施策を重ねていくほうがよいのではないか。ある日、そのような考えに思い当り、それからようやく筆が進むようになった。」


あと上の本の姉妹編(下の白い表紙のほうが妹)として今年の7月に刊行されたのがこちらの本。内容は似ているが姉妹で補い合う関係にあるというので両方読んでも大丈夫だと著者の高瀬先生はお書きになっている。こちらの本のほうが具体的に計算を示しながら解説しているようだ。

微分積分学の誕生 デカルト『幾何学』からオイラー『無限解析序説』まで:高瀬正仁」(Kindle版




本書に紹介されているオイラーやコーシーによる数学史上の名著を高瀬先生は翻訳されている。挑戦される方はどうぞ。

オイラーの無限解析:レオンハルト・オイラー
オイラーの解析幾何:レオンハルト・オイラー

 

オイラーの無限解析の入門書はこちら。上の名著をお読みになる前にどうぞ。

無限解析のはじまり―わたしのオイラー:高瀬正仁



コーシーの解析教程は1821年に出版された。

コーシー解析教程:コーシー





そして本書にも微分積分学の集大成として何度か引用されているのが高木貞治先生の「解析概論」だ。今年のはじめにはアニメにも登場した永遠の名著である。(参考リンク:「(祝)解析概論アニメ出演」、「あるアニメの中の解析概論」、アニメに登場したのは「解析概論 軽装版」)

定本 解析概論:高木貞治



年末になるとこの本を無性に読みたくなる「解析概論病」という病気が流行るらしい。その感染力はふつうの解析学の教科書の100倍以上あるそうだ。主に30歳以上の男性がかかり年齢が上がるほど重症になる。いまのところ有効な治療法がないので、もし運悪く感染してしまったら、この本を最後まで読むしか治す方法がない。理解できないと完全には治癒しないので要注意である。


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微分積分学の史的展開 ライプニッツから高木貞治まで:高瀬正仁」(Kindle版



序―本書の読み方
第1章 曲線の理論のはじまり―デカルトの解析幾何学
デカルトの『方法序説』に始まる/いろいろな曲線/デカルトの葉(その1)/デカルトの葉(その2)/デカルトの『幾何学』より/パップスの問題(その1)―曲線の作図/3線問題と4線問題/「線」のいろいろ/パップスの問題(その2)―線分の作図/平面的な線/立体的な線と超立体的な線/曲線的な線を区分けすること/幾何学的な線と機械的な線/ギリシアの幾何学を批判する/幾何学的な曲線とは何か/方程式とは何か/次数による分類/「幾何学的な線」の世界の創造に向かう/接線法を語る/微積分の可能性―法線と面積/楕円と放物線の法線/コンコイドの法線/曲線の理論と光学/発見を定義にする/ニコメデスのコンコイド/数学の本質は問題の造形にあり

第2章 曲線論と極大極小問題―フェルマのアイデア
デカルトとフェルマ/フェルマにおける極大極小問題/極大極小問題と曲線の理論/極大極小問題のいろいろ/極大極小問題のもう一つの例―フェルマの解法/パップスの解法/フェルマの接線法/サイクロイド(その1)/サイクロイド(その2)/古代ギリシアの接線/ギリシア数学の印象/求積法/接線の認識をめぐって/極大極小問題と接線法

第3章 万能の接線法―ライプニッツの発見
「ライプニッツ1684」/切除線と向軸線/差分と微分/接線法の公理系/加減乗除の微分計算/接線の観察から微分計算の規則を抽出する/ライプニッツの微分には「変化するもの」が存在しない/接線を引くのに無限小量は要請されない/クザーヌスの影響を語る/先入観を排除すれば/曲線の形/万能の接線法/計算例など/フェルマの原理からスネルの法則を導く/逆接線法の例/微分計算は独立する/「ライプニッツ1686」/求積と微分方程式/積分のあれこれ/微分計算とガロア理論/無限小と微分と積分計算/曲線から出て曲線に向かう/一般化された逆接線法と求積法

第4章 ヨハン・ベルヌーイの無限解析とロピタルの無限小解析
ヨハン・ベルヌーイを読むまで/ヨハン・ベルヌーイの『微分計算講義』の発見/ヨハン・ベルヌーイの『積分計算講義』の脚註より/ロピタルの『無限小解析』の諸言より/微分計算の公理/曲線の変曲点/「関数」の概念について/極大と極小/視点の転換―曲線から関数へ/逆接線法/ベルヌーイからオイラーへ/関数概念の発見をうながしたもの

第5章 関数とその微分可能性をめぐって
高木貞治の著作『新式算術講義』から『解析概論』へ/コーシーの解析教程/高木貞治の『解析概論』と『シュヴァルツ解析学』/『シュヴァルツ解析学』第2巻「微分法」を読んだころ/微分可能性の概念規定/微分可能性のいろいろな表現/変数のない関数/変数のある関数/「変数」という言葉について/コーシーの関数概念

第6章 フーリエの関数概念
積分計算の泉―「微分積分学の基本定理」とは何か/定積分について―若干の補足/連続関数と不連続関数/「まったく任意の関数」をめぐって(その1)―曲線から関数へ/「まったく任意の関数」をめぐって(その2)―要請される理由/「まったく任意の関数」のフーリエ級数展開/ディリクレの関数概念/曲線と関数/無限解析と近代解析

第7章 コーシーの解析学と微分積分学の基本定理
数学の抽象性について/コーシーの『要論』/テイラー級数/原始関数と不定積分/コーシーの積分論/ルベーグ積分/コーシーの不定積分/不定積分と定積分/原始関数について/原始関数とテイラー展開/微分積分学の基本定理

第8章 無限解析の創造
微分計算と積分計算/曲線とは何か/曲線の媒介変数表示/ライプニッツの接線法/有限の世界と無限小の世界/逆接線法と積分計算と微分方程式/再び微分積分学の基本定理/求積法とコーシーの定積分/コーシーの和と面積の算出/コーシーの定積分とコーシー以前の定積分/曲線の弧長/円の周長/ラグランジュの言葉/不易と流行/無限小の仮説と運動の仮説/ニュートンの流率法/ラグランジュの所見/ラグランジュのアイデア/ラグランジュからコーシーへ

第9章 コーシーから高木貞治へ
高木貞治『近世数学史談』より/虚式と虚数/仮象の虚表示式/透明な理論と意味の消失/コーシー以前の無限小とコーシー以降の無限小/厳密化の代償/量と数/正の量と負の量/平均値の定理とロールの定理/ミシェル・ロール/オイラーの世界とコーシーの世界/無限の階層と関数の階層

第10章 関数概念の発生と無限解析の変容
若干の回想/創造者と源泉/無限解析と無限小解析/曲線の解明に寄せる情熱/曲線を理解するということ/曲線の諒解様式と接線法/ニコラウス・クザーヌス/接線法と微分計算/曲線の極大点と極小点/微分計算と積分計算/微分積分学の基本定理について/仮象の曲線を見る/逆接線法と求積法/ベータ関数とガンマ関数/オイラー積分/変分計算―もう一つの曲線論/変分法のはじまり/曲線の理論を超えて/力学と変分計算/オイラーの三部作(その1)―曲線の解析的源泉/オイラーの三部作(その2)―微分計算/オイラーの三部作(その3)―積分計算/微分方程式/変分計算と関数/オイラーの方程式/最短降下線/第二変分/曲線から関数へ/クザーヌスの思想と関数概念

終章 西欧近代の数学の礎
マルキ・ド・ロピタルの著作『曲線の理解のための無限小解析』/揺籃期へのあこがれ/ベルヌーイ兄弟(ヤコブとヨハン)/逆接線法と積分/『解析概論』の系譜/ライプニッツとベルヌーイ兄弟の往復書簡集/接線を引きたいと思う心/接線法の探求/史的展開の構想に寄せて

あとがき
小林秀雄の文芸論集のように/「微分積分学の基本定理」をめぐって/書き残したこと

解析学入門のための教科書談義

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今年アニメに初出演した「解析概論 改訂第3版 軽装版


このところ解析学に萌えている。今日は雑談がてらに代表的な教科書をいくつか紹介することにした。これは大学受験を控えた学生を意識した記事でもある。

高校数学しか知らなかった学生が大学の数学で最初に面食らうのが解析学なのだと思う。いきなり「数についての基礎」や「実数の連続性」から始まるのだから。当たり前じゃんと思っていたことをいちいち証明しなければならないまどろっこしさに戸惑った人もいたことだろう。

こういう厳密な証明を凄いと思うか、馬鹿馬鹿しいと思うかがその後の学習を大きく左右する。馬鹿馬鹿しいと思いながら続けていくとある日、急に面白くなったりするのだから。関数の連続性の証明に使われる「ε-δ論法」もそのような分岐点のひとつだと思う。

どの教科書がいちばんよいかを決めるのは難しいもので、先生や友達に聞いてもお勧め本は人それぞれ。学生のときに読んでいた教科書に愛着を持っているのが普通だから、どうしてもバイアスがかかる。

かくいう僕もぎりぎり高木貞治先生の「解析概論 改訂第3版」で勉強した世代だ。名著とはいえこの古い本を教科書に指定している大学は今ではおそらくないのだろうけれど。

初版(1938年)岩波書店
増訂版(1943年)岩波書店
改訂第3版(1961年)岩波書店
改訂第3版 軽装版(1983年)岩波書店
定本(2010年)岩波書店 - 補遺に黒田成俊「高木函数の解説」が追加。

改訂第3版 軽装版」は今年アニメに登場してネット民たちを沸かせたことで知られている。

参考リンク:「(祝)解析概論アニメ出演」、「あるアニメの中の解析概論

今でも十分通用する教科書なのだけれども「古い」と言う人もいる。それが「関数」を「函数」と表記していることだけでないのはわかっているが、具体的にどのようなことを指して言っているのだろう。そのことは今後ゆっくり調べてみるとして、差し当たり世代に分けて紹介してみよう。


大魔神、ジャイアントロボ世代

 

大魔神の映画が公開されたのが1966年、ジャイアントロボがテレビ放送されたのが1967年~1968年である。「微分積分学の史的展開 ライプニッツから高木貞治まで」をお書きになった高瀬正仁先生は1951年生まれだから先生は15歳から17歳だ。大魔神やジャイアントロボをご覧になっていたかどうかはわからないがこの世代の方である。僕は大魔神は見ていなかったがジャイアントロボの頃は6歳なのでよく覚えている。(大魔神やジャイアントロボをご覧になりたい方のためにコメント欄にYouTube動画を紹介しておいた。)

この世代が大学に入学した頃の教科書はもちろん「解析概論 改訂第3版」のハードカバー版。ぎりぎり僕の世代までということになるが、永遠の名著といわれるこの教科書に愛着を持つのは無理もないことだ。

この写真の左の本は第2版


今お求めになるのなら2010年に刊行された軽装版の「定本 解析概論:高木貞治」がよい。La TeXを使って美しく組み直されているにもかかわらず「関数」は「函数」のままである。実解析(実数関数の微分積分学)と複素解析(複素関数の微分積分学)の両方を含んでいる。記述に味わいのある教科書だ。章立ては次のとおり。

改訂第三版序文
改訂第二版序文
第一版緒言
定理索引
第1章:基本的な概念
第2章:微分法
第3章:積分法
第4章:無限級数、一様収束
第5章:解析函数、とくに初等函数
第6章:Fourier式展開
第7章:微分法の続き(陰伏函数)
第8章:積分法(多変数)
第9章:Lebesgue積分
附録I:無理数論
附録II:二、三の特異な曲線
補遺:いたるところ微分不可能な連続函数について(黒田成俊)


マジンガーZ、グレートマジンガー世代

 

マジンガーZのテレビ放送は1972年~1974年、グレートマジンガーは1974年~1975年である。僕はマジンガーZは見ていたがグレートマジンガーは記憶にない。

この世代が大学生になったのは1980年代の初め。この頃出版された教科書で有名なのは杉浦光夫先生の1980年刊行の「解析入門 I」と1985年刊行の「解析入門 II」だ。(演習書も1989年に「解析演習」として刊行されている。)



この2冊は今回紹介する中ではいちばん難しい。記述に無駄がなく証明も厳密で「必要なことがぎっしり詰まっている」という印象。「解析概論」とは趣が全く違って「固い」感じ。特に「解析入門 II」には多様体の入門やベクトル解析に多くのページが割かれている。そのぶん他の項目の記述の密度が増しているわけだ。

僕はマジンガーZ世代なので大学時代にこの本を見かけたことはあるが、当時出版されたばかりなので教科書としては採用されていない。教科書として定着するためには少なくとも数年はかかる。

以下はこの2冊の章立てだが、多様体は2冊目の第1章「陰函数」に含められている。

解析入門 I

第1章:実数と連続
第2章:微分法
第3章:初等関数
第4章:積分法
第5章:級数
附録1:集合
附録2:論理記号

解析演習

第1章:陰函数
第2章:積分法(続き)
第3章:ベクトル解析
第4章:複素解析


ガンダム世代

  

機動戦士ガンダムのテレビ放送は初代ガンダムが1979年~1980年で、その後、初代のも含めて2009年までに13作品が放送された。そして2009年の機動戦士ガンダム00シリーズを小学生のときに見ていた子供たちが今年あたりから大学に入学してくるのである。(現在もガンダムのシリーズは「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」としてテレビ放送が続いている。)

ガンダム世代の学生たちが目にした教科書でいちばん好評なのが小平邦彦先生の著書2冊である。「解析入門」と「複素解析」で、どちらも1991年に刊行された。実解析と複素解析が1冊ずつの構成だ。その後「解析入門」のほうは2003年に「軽装版 解析入門 I」と「軽装版 解析入門 II」のカラフルな表紙の2分冊として刊行されている。



小平先生によるこの教科書2冊は直観的な理解を助ける記述や図版、そして証明も厳密に書かれているのでとてもバランスがよい。高校数学の気分が抜けきらない学生にも抵抗なく受け入れられるように配慮されている。また「解析概論」を参考にして書かれているので新旧の本のよいところを兼ね備えている。新しいだけに研究され尽くされている教科書なのだ。2冊目の「複素解析」では「等角写像」や「解析接続」を詳しく解説し、特に「リーマン面」について非常に多くのページを割いているのがよいところだ。「函数」はようやく「関数」と表記されるようになった。

章立てはこのとおり。

解析入門

第1章:実数
第2章:関数
第3章:微分法
第4章:積分法
第5章:無限級数
第6章:多変数の関数
第7章:積分法(多変数)
第8章:積分法(つづき)
第9章:曲線と曲面

複素解析

第1章:正則関数
第2章:Cauchyの定理
第3章:等角写像
第4章:解析接続
第5章:Riemannの写像定理
第6章:Riemann面
第7章:Riemann面の構造
第8章:閉Riemann面上の解析関数


その他の名著



「ラングの解析入門」の日本語版が刊行されたのは1978年と1981年なので初代ガンダム世代ということになるのだろう。この教科書はあまりにも有名なので触れておくべきだろう。S.ラングによる「解析入門 (原書第3版)」と「続 解析入門 (原書第2版)」のことである。



この教科書はこれまでに紹介した純日本産の教科書とまったく違い、軽妙な語り口で書かれている。1冊目はレベルも高校生に合わせているので数学IIIの復習から始まっている。最初のうちは数学専攻の学生には易しすぎるだろう。

翻訳のもとになっているのはそれぞれ「A First Course in Calculus 3rd Edition」と「Calculus of Several Variables 2nd Edition」である。1冊目は1変数の微積分、2冊目は偏微分、重積分、ベクトル解析、線形代数が中心で物理学への応用を意識している。詳しい目次はAmazon英語版のページから見れるので参考にしてほしい。(上記の英語版のリンクはそれぞれ最新版が開くようにしておいた。)

複素解析の英語版は「Complex Analysis 4th Edition」として出ているので、日本語版の2冊は実解析だけの教科書であり、複素解析は含まれていない。

余談: 驚くべきことに最近 Springer から2004年までに刊行された膨大な数外国語書籍がPDFで無料公開された。英語PDFについて分野別にリンクを設けておこう。

無料PDFのダウンロード: 数学 物理学 工学 コンピュータ科学 すべての分野


ここまでに紹介してきたのは解析学の理論の教科書だ。厳密に証明を重ねていくことで微分積分が構成されていくさまを学ぶための本である。

微分積分を使いこなすのはまた別の話。試験に出たり、実際に役に立つのは微分積分を解くための技術だ。そのために理学部、工学部の学生すべてが演習書でトレーニングすることになる。そして線形代数学も同様だ。どちらも大学数学の基本中の基本である。

演習書は数多く出ているのでどれがよいか決めるのほとんど不可能。大学で指定された本や自分の好みやレベルに合わせて買うのがいちばんよいと思う。

僕が大学生の頃に使っていたのは1979年刊行の「詳説演習微分積分学」と1981年刊行の「詳説演習線形代数学」だ。先日格安のものを見つけたので懐かしさが手伝って購入しておいた。どちらも古い本だが、現在でもじゅうぶん通用するので最後に紹介しておいた。






今日の記事はここまでとしよう。


関連記事:

大学で学ぶ数学とは(概要編)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/07137c47d16d95ddde8f5c4cb6f37d55

大学で学ぶ数学とは(実用数学編)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/975ad3faa2f6fd558b48c76513466945

ちょっと気になる常微分方程式の本
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/779e59b0996c582373308c0a4facf16f


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新年おめでとうございます。

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2016 元旦
読者のみなさまへ

新年おめでとうございます。昨年は当ブログをお読みいただきありがとうございました。

数えてみたところ昨年は111本の記事を投稿していました。2014年は96本、2013年は100本の記事を投稿していましたから、年間100本ペースです。そして昨年はこのブログは10周年を迎えることができました。

祝: とね日記はおかげさまで10周年!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b6227a305e06bc794b4cd9dd2dcc87f8


趣味として続けている理数系の読書ですから目標や計画を設定してしまうと仕事のように義務感がでてきてしまいます。時間は限られているので本をリストアップしてもすべて読めるはずがありませんし、減点法で自分を採点する悪循環に陥ってしまうのですね。本来楽しくあるべき趣味が本末転倒です。ですから目標や計画は立てません。


昨年はアシュクロフト&マーミンの教科書で物性物理の世界に本格的に入門できたのがよかったです。金属の物性だけでなく、ゴムの物性にも興味をもって2冊ほど読みました。ゴムの弾性は熱力学、高分子統計力学によって理解できる世界です。予定になかった分野として分子生物学、DNAの世界にも少しだけ足を踏み入れました。

今年も興味のおもむくままに本を選びますが、ブログの名前の下に「量子テレポーテーションや超弦理論の理解を目指して勉強を続けています!」と書いてあるように、この2つの
分野への関心も相変わらず強いですから、基礎物理学の本もなるべく取り入れていきたいです。

超弦理論に至る100冊の物理学、数学書籍
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d37fe65a84df23cca2af7ecebb83cfc6


昨年の元日に「今年はこんな本を読んでみたい。」と書いた文面を今年用に書き換えてみました。これは計画でも目標でもなく、あくまで僕の「今年の関心ごと」というわけなのです。


* 物理学

- 物性物理学

昨年は「アシュクロフト&マーミンの固体物理学」、久保亮五先生の「ゴム弾性」の本を読みました。今年はキッテル固体物理学、そして工学系の金属物性、金属加工の本を読んでみたいですね。

- 量子力学

さしあたり新年最初の感想記事は広江克彦さんの「趣味で量子力学」になります。いま3分の2くらいのところを読み進んでいます。

- 場の量子論、素粒子物理学

昨年は「九後先生のゲージ場の量子論の教科書」、「クォークとレプトン」や「大学院素粒子物理学1、2」を読みたいと書きましたが、その後「量子力学選書」のシリーズが発売されました。今はどちらかというとこのシリーズを順番に読んでいきたいです。

- 量子化学

この分野は昨年まったく手つかずでした。ですので「分子軌道法」の教科書を読んで、物理学と化学の境界の世界を探求してみたい気持ちがそのまま続いています。

- 一般相対性理論

一般相対性理論に対しては少しモチベーションが下がってきました。何か大きなニュースがあったり、NHK白熱教室のような科学教養番組で取り上げられたら読むかもしれません。

- 超弦理論、M理論

ミチ・カク先生やポルチンスキー先生の教科書を読み始められればいいと思うのですが、今年も実現できるかどうかはまだわからないというところ。

販売状況:日本語の超弦理論・M理論の教科書
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/61e4dd2232d54cf4a5f3da1aeb83975a

- 解析力学、一般力学

ゴールドスタインの「新版 古典力学(上)(下)」、朝倉物理学体系の「解析力学 I、II」あたりが未読状態。特にゴールドスタインは読んでおきたいです。

- 山本義隆先生の本

昨年は「古典力学の形成―ニュートンからラグランジュへ:山本義隆」を読みました。「磁力と重力の発見(全3巻)」や「世界の見方の転換(全3巻)」はまだ読んでいません。ぜひ今年はどちらかでも読みたいですね。


* 数学

プリンストン数学大全」はいつも手元に置いて活用したいですね。

- 群論、代数学系

昨年は「ガロア理論の頂を踏む: 石井俊全」を読みました。今年は昨年と同様モンスター群に至る経緯を解説している科学教養書を読みたいと思っています。また名著ファン・デル・ヴェルデンの「現代代数学(全3巻)」など代数学の教科書も読みたいです。

勢い余って「圏論の技法:中岡宏行」を買ってしまいました。僕が理解できるレベルの本かどうかは今のところわかりません。

- トポロジー、多様体など幾何学系

昨年は「トポロジー入門: 松本幸夫」を読みました。今年は実多様体の教科書を読みたいと思います。

また昨年「多次元空間へのお誘い」という連作記事を書いたことがきっかけで高次元結び目理論に興味がでてきました。「曲面結び目理論:鎌田聖一」という本を買い置きしてあるので読んでみたいです。

- 解析学系

昨年の正月には「特殊関数や偏微分方程式の教科書を2冊ほど読めればと思うのです。」と書きましたが、今年はむしろもっと基礎的な解析学入門書を読みたいという気持が強くなってきました。高木貞治先生の「解析概論」や小平邦彦先生の教科書など。(参考:「解析学入門のための教科書談義」)

- 統計学

昨年はまったく手つかずの分野です。買い置きしてある本が数冊あるので今年こそ読み始めたいと思います。苦手意識を取り除きたいです。


* 電子工学

電子工学系はモチベーションが少し下がっています。昨年は次のような関心ごとを書きましたが、今年取り組むかどうかは不明です。

- Verilog HDL、FPGA、Verilog HDLによる四則電卓回路、電卓技術教科書、アナログ電子回路の本を読めればよいなと思っています。

エレクトロニクス技術としてはレトロですが、自分の幼少期から大学生頃まで日本の経済発展を担なってきた技術を電卓回路という切り口で知っておきたいという思いが強いのです。

参考記事:

電卓を作りたいという妄想
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/01cf6bc6669bf0956a792bce292f97f1

加減乗除と小数の計算手順を理解したい。
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/44687dc879c9a6642b59c49a0c7cc3b3

電卓技術教科書〈基礎編〉〈研究編〉:ラジオ技術社
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e639b30787954422bdcce0c6b17db2f0


* 天文学

モチベーションは依然強いのですが、なかなか取り組めていないのが天文学です。

人類にとっての科学遺産「ラプラスの天体力学(全5巻)」は相変わらず手付かずのまま。80年代に刊行された「天体の位置計算」や近年刊行された「日食計算の基礎」、「軌道決定の原理」も未読なのでなんとかしたいところです。

また、荒木俊馬先生が渾身を込めて書かれた「天体力学」には天王星の軌道のぶれ(摂動)から海王星の位置を計算する方法が載っているので理解したいのです。僕はこのようにクラシックな天文学が好きなわけです。

「天体力学」 荒木俊馬著の書評
http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/~sofue/papers/sofue_herald/19811112_shohyo_gal.pdf

海王星はどこか?
http://www.sci-museum.kita.osaka.jp/~kato/6astron/uranus2002.pdf

『現代天文学事典』誕生秘話 13/13
http://www.domenavi.com/ippin/2014/08_13.html



このように新年早々、大風呂敷を広げています。

楽しい正月をお過ごしください。みなさまの健康とご活躍を心より願っております。


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趣味で量子力学:広江克彦

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趣味で量子力学:広江克彦

内容紹介:
「波?粒子? いや、どちらでもない それは100年も前の説明だ」
「自然界は複素数の論理を使って動いている」
読者のレベルとしては、勉強が退屈になった高校生あたりを狙ってます。
容赦なく複素数やテイラー展開が出てきますが、全部説明しています。
きっと最後まで読めます。
理解できなくても、少しくらい読み飛ばしても楽しいはずです!

著者について:
広江克彦(ひろえかつひこ)
1972年生まれ。岐阜県出身。静岡大学理学部物理学科卒。同大学院修士課程修了。’00年より、物理学を解説するウェブサイト「EMANの物理学」の運営を開始。その内容が徐々に評価され、現在は農業に片足を置きつつ、執筆に励む。
2015年12月刊行、227ページ。


理数系書籍のレビュー記事は本書で292冊目。

EMANの物理学」というサイトでおなじみの広江克彦さんが3冊目の著書を昨年12月にお出しになったので、さっそく購入。年末からじっくり読ませていただいた。

趣味で物理学」と「趣味で相対論」が刊行されたのがそれぞれ2007年と2008年なので、かなり間が開いている。2冊刊行された後、次は量子力学になるのだろうと読者のひとりとして思いながら、サイトが更新されていくのを楽しみにしていた。

案の定、最初のうちは量子力学の記述が増えていった。けれどもその後、熱力学や統計力学のページの更新に広江さんのエネルギーが注がれるようになったのを見て「あれ?」と思ったのだ。量子力学のページはなかなか増えない。そうこうするうちに今度は物理数学のページができていた。「3冊目はどうするのだろう?」と疑問が頭をよぎる。そしてしばらくするうちにまた量子力学のページが増えていった。


本書を読むと広江さんが相当悩まれていたことが明らかにされている。僕自身サイトの更新状況や広江さんのツイートや掲示板を読んでいてそれを感じていた。普通に仕事を持っている大人にとって物理学の本を書くのは莫大なエネルギーを必要とするものだし、そのエネルギーを持続しなければならない。最初の2冊にしたってよく書き上げたものだと尊敬している。まして量子力学の入門書となるとものすごい覚悟がいる。

量子力学は入門書であれ教科書であれ、そして一般向けの教養書であれ種々様々な本が満ちあふれている。専門家の書いたものがほとんどであるし、科学史上の名著も容易に手に入る時代。すでに入門レベルから専門書まで優れた本であふれている状況なのだ。

そのような状況でどう差別化していくかということがいちばん難しい。そして次に難しいのが「ボリューム」である。伝える側に立ってみると「全部書きたい」という欲求が強くなるからだ。サイトの量子力学のページは相当なボリュームになっていたし、そこからどのように取捨選択すればよいのか。論理的な整合性をとりながらサイトを要約したり再構成したりするのはとても手間のかかる作業になってしまう。

最終的に仕上がったのは最初の2冊とほぼ同じページ数で220ページほどになった。序文に書かれているのだが原稿は一時期300ページを超えていたという。そのまま出すと値段も高くなり読者も半減してしまう。なるべく多くの人に読んでもらいたいという気持から、泣く泣く削って現在のページ数におさめたということなのだそうだ。

また本書はサイトの内容の一部をそのまま本にしたものではなく、はじめから書き直したものであることを強調しておこう。読者にとって何をどのように伝えれば効果的か、そして広江さん自身が読者に何を理解してもらいたいのか、この2つの観点で本書は完全なものに仕上がっている。そして割愛せざるを得なかった内容は「続編」に書いてみたいというお気持をもっていらっしゃるそうだ。

本書の序文を書かれたのが2013年11月、あとがきを書かれたのが2015年2月、そして刊行されたのが2015年12月であったことは、本書がいかに熟慮を重ねたうえに完成した作品であることを示している。他書との「差別化」という目標も見事にクリアしていると僕は感じた。

このような経緯で出来上がった本の章立ては次のとおりである。

第1章:ミクロの世界の謎
第2章:複素数の性質
第3章:理解を助ける計算例
第4章:確率解釈
第5章:フーリエ解析
第6章:多粒子系
第7章:解釈論争
付録

全体を通じて流れている姿勢があることに僕は気が付いた。それは「何がこの世の実在なのか?」そして「どのようなしくみでこの世界は構成されいるように見えるのか?」という2つの疑問と、それに対するあくなき追及の姿勢である。

高校物理までで学ぶ物理は力学と電磁気学で、それらは古典物理学と呼ばれているマクロな世界の理論であり法則だ。その世界では物質や力、電場や磁場、原子などはすべて有るか無いかがはっきりしているし、運動の軌跡も直線や曲線としてひととおりにあらわされる。電場や磁場もきちんとひととおりの答に帰着される。

ところがミクロの世界では物理法則の様相は全く違う。量子力学として知られているミクロの世界の物理法則では、電子をはじめ素粒子は粒子のように振る舞うこともあれば波のように振る舞うこともある。原子核のまわりの電子は位置を確率的にしか求めることができない。古典物理的世界の枠組みでしかとらえられない私たちの感覚と思考では不思議極まりない世界なのである。

だとしたらそのような不思議な世界からどのように私たちの不思議でない世界が構成されているのか?ピンポイントで実在を主張できない粒子や波動がなぜ実在する粒子や運動、エネルギーとして観測できるのか。

このような量子力学が解き明かす不思議の数々を広江さんは読者に投げかけ、読者と一緒に解き明かす。そのために数式が重要な役割を果たすのがEMANの物理学である。数式は無理と言ってあきらめてはいけない。高校卒業程度の数学を理解している意欲的な高校生ならばついていけるレベルで、広江さんは法則の数式による導出やそのために必要な数学を教えてくれている。

読者に対する疑問の投げかけ、読者と一緒に進むスタイルは広江さんの物理学の特長だ。一般向けに書かれた量子力学の科学教養書ではページ数の制限により、不思議な事例を天下りに紹介しているケースが目立つ。読者は「不思議だな。」と思う反面、思考はそこで止まってしまい、なぜ不思議なのかという空想を膨らますことができなくなってしまうのだ。

また教科書だと不思議をあまり強調すると「この本は大丈夫かしら?」とあらぬ疑いをかけられかねないので、大方の先生は無難な記述に抑えてしまう。勉強しながらワクワクしたい学生はモチベーションが下がる。(本来、教科書の目的にワクワクは含まれていないのだけど。)

そのように読者に親切なスタイルで広江さんが本を書けるのも、広江さんご自身が教科書を読んで疑問に思ったり、理解できなかったりした経験をたくさんされたからである。広江さんが教科書の行間で感じたこと、考えたこと、そしてご自身で解決されたことの数々を本書の記述に含めることで読者の視点に立った本が出来上がったのだ。その意味で入門者だけでなく、僕のようにひととおり専門書で学んだ者にもたくさんの「気付き」や「深い考察」を与えてくれる本である。


本書の中で際立って素晴らしいと感じた箇所をピックアップしてみよう。

- 複素数やフーリエ解析、エルミート演算子、行列の計算など初歩的な物理数学が含まれているので「冗長かな」とか「不要では」と最初は思ったのだが、その後の物理的な説明と考察に見事に活かされている。このように展開したことで単なる道具としての物理数学ではなくなり、物理現象や法則の根底を支えるのが数学であるということを入門者にも印象づけることに成功している。特にフェルミオン、ボソンの性質と行列の計算との密接な関連性をわかりやすく紹介していて素晴らしいと思った。

- 第4章の4.7「不確定性原理」、4.8「観測についての誤解」の箇所の説明が素晴らしい。ぜひ本書で読んでほしい。

- 第5章で何もない宇宙に粒子を1つ構成できるかどうかを挑戦するくだりがある。これは入門者の興味を掻き立て、うまくいくいかないに関わらずまるで自分が宇宙の創造者になったかのようにワクワクしながら読み進められる。そのために直前にフーリエ解析を詳しく解説したのが後になってみると冗長どころか、実に効果的だと思えた。

- 第6章「波動関数は現実の波ではなさそうだ。」に僕はハッとさせられた。1粒子系だと複素数の波動関数は3次元空間の場に紐づいているように思えてしまうが、2粒子系だと6次元空間、N粒子系だと3N次元空間になるわけだから、現実の3次元空間ではなく純粋に数学的な空間だと入門者にもよくわかると思う。


やはり「広江さんの本はいいよなー。」とご苦労をそっちのけで楽しませていただいた。新年早々、刺激のある本をご提供いただき、ありがとうございました。

みなさんもぜひ本書をお読みいただきたい。


これまでに出版されている2冊はこちら。まだお読みになっていない方はこちらからどうぞ。紹介記事はまだ書き慣れていない頃の投稿なので今よりも未熟で恥ずかしいが、それぞれリンクさせておく。

趣味で物理学:広江克彦」(紹介記事
趣味で相対論:広江克彦」(紹介記事

 


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趣味で量子力学:広江克彦



第1章:ミクロの世界の謎
- 知っていてほしい大事なこと
- 光は波なのに粒々だった!?
- ド・ブロイ波
- シュレーディンガー方程式
- 変数分離法
- 重ね合わせの原理
- 3次元への拡張
- 原子の構造
- ボーア半径
- 電子は粒々なのに波でいいのか

第2章:複素数の性質
- 虚数は存在しない数か
- 加減乗除
- 複素平面
- 積の図形的意味
- 複素共役
- テイラー展開
- オイラーの公式
- 複素数の極形式表示
- 波動関数の位相の変化

第3章:理解を助ける計算例
- なぜ単純な問題を解くのか
- 井戸型ポテンシャル
- 無限に深い井戸型ポテンシャル
- 壁に向かう粒子
- トンネル効果
- 調和振動子

第4章:確率解釈
- 波動関数の規格化
- 3次元での存在確率
- 波の干渉
- 期待値
- エーレンフェストの定理
- エルミート演算子
- 不確定性原理
- 観測についての誤解
- 確率流密度

第5章:フーリエ解析
- 実フーリエ級数
- 周期を変えてみる
- 波で粒子を作る
- 複素フーリエ級数
- フーリエ変換
- 不確定性原理、再び
- 運動量の期待値の意味
- 偶関数と奇関数
- 波束の崩壊

第6章:多粒子系
- 波動関数は現実の波ではなさそうだ
- もう少し正確な原子の計算
- ボソンとフェルミオン
- 統計性とスピン
- エニオン

第7章:解釈論争
- 粒子性の正体
- シュレーディンガーの猫
- 創作小話
- ウィグナーの友人
- 多世界解釈

付録
A:位相速度と群速度
B:偏微分の座標変換
C:ガウス積分
D:ガウス分布のフーリエ変換

あとがき
参考図書
索引

微分積分学の誕生 デカルト『幾何学』からオイラー『無限解析序説』まで:高瀬正仁

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微分積分学の誕生 デカルト『幾何学』からオイラー『無限解析序説』まで:高瀬正仁」(Kindle版

内容紹介:
デカルトからフェルマ、ライプニッツ、ベルヌーイ兄弟、そして、オイラーまで。微分積分学が生まれ育つまでの数学者たちの思索の森へ読者を誘い、新しい数学が創られていく過程を鮮やかに描き出す、著者入魂の一冊。
「古典に直接学ばなければ、数学の正体はつかめない」と地道に研究を続けてきた著者は、今回も、デカルト『幾何学』やライプニッツの1684年論文、1686年論文などの原典に直接あたり、彼らが思考し、心に描いていた「数学の正体」とはどういうものだったのかに迫ります。
原典からの貴重な図版も多く掲載しており、格調高い文体と合わせて数学や歴史に関心のある読者の目を十分に楽しませてくれることでしょう。
2015年7月刊行、256ページ。

著者について:
高瀬正仁(たかせまさひと):ウィキペディアの記事
1951年、群馬県に生まれる。現在、九州大学基幹研究院教授。博士(理学)。専門は近代数学史、多変数関数論、ヤコビ関数、虚数乗法論。数学の古典的著作の翻訳などの執筆活動により、2009年度日本数学会出版賞受賞。著書に『dxとdyの解析学』(日本評論社)、『岡潔 数学の詩人』(岩波書店)、『高木貞治とその時代 西欧近代の数学と日本』(東京大学出版会)、『無限解析のはじまり わたしのオイラー』(筑摩書房)など、訳書に『ガウス 整数論』、『アーベル/ガロア 楕円関数論』(いずれも朝倉書店)、『オイラーの無限解析』、『数の理論』(いずれも海鳴社)、『ガウス 数論論文集』 (筑摩書房)、『ヤコビ 楕円関数原論』(講談社)などがある。

高瀬先生の著書、訳書: Amazonで検索



理数系書籍のレビュー記事は本書で293冊目。

古典力学の形成―ニュートンからラグランジュへ:山本義隆」を読んでニュートン力学の100年におよぶ形成史を知り、その裏に微積分の発展史があることがわかり「微分積分学の史的展開 ライプニッツから高木貞治まで:高瀬正仁」を読んだ。今回紹介するのはその姉妹本である。昨年1月に「姉」のほうを出版してから半年後の6月に同じテーマで出版した「妹」だ。

立て続けになぜ高瀬先生は同じような本をお書きになったのだろう?
この2冊はどう違うのか?

気になったので両方とも読んでみたわけだ。まず「姉」と本書の違いについて述べておこう。

微積分発展史だけを知りたいのなら本書のほうがよい

古典力学の形成―ニュートンからラグランジュへ:山本義隆」の背景としての微積分発展史ということならば「微分積分学の史的展開 ライプニッツから高木貞治まで:高瀬正仁」を読んだほうがよいが、山本先生の古典力学発展史の本との読み合わせにこだわらず、微積分学の誕生までのことを集中的に知りたいのならば本書をお勧めする。

本書の記述は重複が少ない

「姉」には同じような記述が重複しているのだが、本書にはそれがほとんどない。

学者別に説明がまとまっている

本書のほうが数学者別に説明がまとまっていて、記述も整理されていて読みやすい。数学者の生涯年表も各章の冒頭に記載されていて著作物が書かれた年を確認しやすい。

図やグラフ、解き方が具体的に示されている

それぞれの学者が取り組んだ問題の解法が示されているが、「姉」の本よりも図やグラフが多く、具体的な数式が本書のほうが多い。そのためよりわかりやすい。「姉」のほうはページ数が本書と同じ程度にもかかわらず、解説している数学者が多いため図やグラフをじゅうぶんに掲載できなかったのと僕は想像している。

コーシーやラグランジュやの記述がない

本書は副題に「デカルト『幾何学』からオイラー『無限解析序説』まで」とあることからもわかるように、微積分学を最終的に精密化したコーシーや解析力学を完成させたラグランジュの記述は含まれていない。コーシーやラグランジュの業績を知りたいのならば「姉」のほうを読む必要がある。

価格が手ごろ

ページ数にはそれほど違いがない「姉」のほうが4,860円であるのに対し本書は2,160円。出版社が違うことで価格設定に違いがでたのだと僕は思っている


本書で紹介される数学者と著書を年表で提示しておこう。

拡大


本書を読むと微積分学の発明者はライプニッツであることがはっきりとわかる。けれども微積分のアイデアの種はライプニッツ以前のデカルトやフェルマにもみられる。本書でとりあげられている学者たちがそれぞれ何を考え、どのレベルに至っていたか。大まかに書き出してみよう。

デカルト

デカルトの関心ごとは古代ギリシアの幾何学で扱われた曲線に集中していた。彼の功績はそこに座標の概念を持ち込み、曲線を代数方程式であらわし、その次数によって曲線の分類を試みたことである。座標といっても直交座標だけでなく、現在斜交座標と呼ばれているものも含まれている。古代ギリシアの幾何学はコンパスと定規だけを使って描ける曲線を主に扱うわけだが、そこには代数方程式であらわせる曲線とサイクロイド曲線のように代数方程式であらわせない曲線がある。そのうちデカルトが解けたのは代数曲線についてだけである。

彼は著書『方法序説(1637)』において定規とコンパスによる作図を論じ、代数方程式を解くことで曲線の法線を求めた。法線は接線と直交するので接線を求めたことに等しい。

デカルトが生きた時代までには「タルタリア・カルダノの公式」で3次方程式の一般解が、カルダノの弟子のルドヴィコ・フェラーリによって4次方程式の一般解が求められていた。

一次方程式・二次方程式・三次方程式・四次方程式の解の公式
http://www.akamon-kai.co.jp/yomimono/kai/kai.html

5次以上の代数方程式の一般解が解けないことはデカルトの時代からおよそ200年後のことである。したがってデカルトは5次以上の代数曲線については解を求めることに成功していない。またサイクロイド、正弦曲線や余弦曲線、対数曲線など代数方程式であらわすことができない「超越曲線」もデカルトの考察の対象からはずされている。(注意:この時代には関数の概念はまだ生まれていない。)

1545年 ジェロラモ・カルダーノが『アルス・マグナ』を出版。三次、四次方程式の解法が公表される。
1770年 ラグランジュが代数方程式の解法と根の置換について考察し、代数方程式が解けるための条件を初めて見いだす。
1799年 ルフィニが最初の不可能性の論文を発表。同年ガウスが代数学の基本定理を証明した学位論文中で五次方程式の不可能性について予言。
1824年 最初の論文によりアーベルによってルフィニの欠陥が解決される。定理の成立。
1826年 2番目の論文が出版される。
1829年 アーベル没。ガロアが代数方程式の可解性について最初の論文を書く。
1832年 ガロア没。
1846年 リウヴィルによりガロアの仕事が世に出る。

フェルマ

数論の研究で知られているフェルマは微積分の分野でも独自の接線法と求積法を論文「極大および極小を探求するための方法、および曲線の接線についての方法(1629)」で提案した。法線法を考案したデカルトと共通した視点もあるが、フェルマは極大極小問題も考察している点で進んでいる。

またフェルマには求積法でも際立った探求があり、曲線で囲まれた面積を求めたり、曲線の弧長を算出したりしている。

デカルトとフェルマの方法には共通点がある。それは既知量と未知量に名前をつけて、代数の計算に持ち込むところだ。デカルトの方法が代数曲線に限定しているのに対し、フェルマの方法はサイクロイドのような超越曲線にも適用できる点でデカルトの方法を凌駕している。

ライプニッツ

次の2冊の発表が決定的である。どちらもニュートンの『プリンキピア(1687)』より前に発表されている。

1684年:微分法すなわち接線法の完成を告げる論文「分数量にも無理量にもさまたげられることのない極大・極小ならびに接線を求めるために新しい方法」を発表。代数曲線、超越曲線の両方に適用できる「万能の接線法」の確立である。

1686年:積分法、すなわち逆接線法と求積法のアイデアを告げる論文「深い場所に秘められた幾何学、および不可分量と無限の解析について」を発表。その後、ベルヌーイ兄弟(兄のヤコブと弟のヨハン)と文通をつづけた。

ライプニッツはdx、dy、dx/dy、ddy、∫などの記号を考案しただけでなく、現在高校数学で学ぶ微積分の公式(和積、商)や三角関数や指数・対数関数の微積分の公式、置換積分、部分積分の方法、定積分、不定積分の方法まで求めている。(注意:関数の概念はまだ発案されていないので、dx=sin(y)dy のような無限小量の間の関係としてあらわしていた。)また2階微分が曲線の「変曲」をあらわしていることも発見した。

ライプニッツの方法はまだ「曲線」に焦点があてられていたが、同時に「無限小の量」の間の関係の研究に移り始めたことも重要である。

ライプニッツは微積分の研究についてベルヌーイ兄弟(兄のヤコブと弟のヨハン)と文通をつづけた。後にヨハン・ベルヌーイはオイラーの数学の師匠になり、微積分学を受け継ぐだけでなく発展させていくことになる。

オイラー

微積分学についてのオイラーの著作は次の3種類ある。

『無限解析序説(1748)』全2巻
『微分計算教程(1755)』全1巻
『積分計算教程(1768-70)』全3巻

『力学(1736)』全2巻
『極大または極小の性質を備えた曲線を見つける方法、あるいはもっとも広い意味合いで諒解された等周問題の解法(1744)』

オイラーが微積分学に持ち込んだ新たな概念は「関数」、「変分法」などである。代数関数、超越関数だけでなく不連続な関数、多変数の関数などにもおよび、微分方程式や複素関数の微積分学へつながる道筋をつくった。変分法はいわば汎関数(関数の関数)を考えて、関数そのものが解になるような方程式を解く方法である。そして『力学』、『極大極小曲線を見つける方法』という著作で力学の進展にも貢献した。

オイラーの関心はもはや曲線ではなく関数であり、関数がどのようなグラフとしてあらわされるかということが研究された。超越関数の中にはもはや曲線とは言い難い不思議な図形が出現することもある。この謎めいた形を解明する鍵を握っていたのが虚数だった。複素解析への道を開いたのもオイラーである。


このように姉妹本は同じテーマを扱いながら、姉は「コーシーやラグランジュまでを含めた史的展開」に力点を置き、妹のほうは「誕生までの歴史」に特化している。両方の長所を合わせて1冊にできればよいのだろうが、コーシーやラグランジュを含めたり、図版やグラフを入れることでページ数はかさみ400~500ページになってしまうのではないかと想像される。そのぶん値段も高くなり、読者は減ってしまうだろう。このような意味では現在のように2冊別々に刊行されているのがベストな状態なのかと思われる。2冊とも読む人は少ないと思うが、より理解が深まるので、まず妹のほうを、そしてさらに深く知りたくなったら姉のほうを次にお読みになるとよいだろう。


本書の姉妹編(黄色い表紙のほうが姉)として今年の1月に刊行されているのがこちらの本。内容は似ているが姉妹で補い合う関係にあるというので両方読んでも大丈夫だと著者の高瀬先生はお書きになっている。黄色い表紙の本のほうにはベルヌーイ兄弟、ラグランジュやコーシーに関する記述も含まれている。ラグランジュとコーシーはオイラー以降の学者である。

微分積分学の史的展開 ライプニッツから高木貞治まで:高瀬正仁」(Kindle版)(紹介記事




オイラーやコーシーによる数学史上の名著を高瀬先生は翻訳されている。挑戦される方はどうぞ。

オイラーの無限解析:レオンハルト・オイラー
オイラーの解析幾何:レオンハルト・オイラー

 

オイラーの無限解析の入門書はこちら。上の名著をお読みになる前にどうぞ。

無限解析のはじまり―わたしのオイラー:高瀬正仁



コーシーの解析教程は1821年に出版された。

コーシー解析教程:コーシー




そして本書にも微分積分学の集大成として何度か引用されているのが高木貞治先生の「解析概論」だ。今年のはじめにはアニメにも登場した永遠の名著である。(参考リンク:「(祝)解析概論アニメ出演」、「あるアニメの中の解析概論」、アニメに登場したのは「解析概論 軽装版」)

定本 解析概論:高木貞治




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微分積分学の誕生 デカルト『幾何学』からオイラー『無限解析序説』まで:高瀬正仁」(Kindle版



はじめに

第0章:学び始めのころ--≪あこがれ≫と≪とまどい≫
◆『微分積分学の誕生』略年譜
1. 『解析概論』を振り返って
関数の微分可能性の定義をめぐって/接線の方程式/微分商と微分係数/微分と無限小量/関数と接線
2. 曲線の理論と微分積分学
関数概念がまだなかった時代の微積分の姿/曲線に接線を引くこと/極大極小問題/「万能の接線法/フェルマの極大極小問題の例/放物線の求積法/逆接線法と求積線

第1章:デカルトの幾何学的曲線論
◆ルネ・デカルト年表
1. 作図問題と方程式
デカルトの『幾何学』と注意事項/代数的演算とは/代数的演算に対応する幾何学の操作/作図問題を代数の計算に還元すること/表記法をめぐって/代数の演算に自由性を与える/等式と方程式/平面的な問題/3線・4線の軌跡問題/2線の軌跡問題と「アポロニウスの円」/デカルトの幾何学的曲線論の出発点/作図問題と代数に見る具象と抽象/n線の軌跡問題/パップスの問題/16世紀イタリアの代数学/正多角形の作図とガウスの円周等分方程式論
2. 曲線のいろいろ
アルキメデスの螺旋とヒッピアスの円積線/古代ギリシアの三大図形問題(1)円の方形化問題/古代ギリシアの三大図形問題(2)角の3等分問題/古代ギリシアの三大図形問題(3)立方体の倍積問題/ニコメデスのコンコイド/ディオクレスのシソイド/古代ギリシアの曲線の世界/機械的な曲線とは何か/幾何学的曲線とは何か(その1)/幾何学的曲線とは何か(その2)/幾何学的曲線と代数方程式

第2章:フェルマの接線法と極値問題
◆ピエール・ド・フェルマ年表
1. 曲線を表す方程式
法線と接線/幾何学的曲線とは何か(その3)/真根と偽根/デカルトの代数方程式論/デカルトの曲線論の回想/曲線を表す方程式
2. デカルトの法線法とフェルマの接線法
楕円の法線--デカルトの方法/フェルマの接線法/
楕円の接線--フェルマの方法/アポロニウスの接線法/ライプニッツの方法/フェルマの極大極小問題/極大極小問題と接線法/デカルトの法線法とフェルマの接線法

第3章:ライプニッツの無限解析
◆ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ年表
1. クザーヌスの言葉
ライプニッツの「万能の接線法」/ニコラウス・クザーヌス/不思議な言葉の数々/サイクロイドをめぐって/曲線の接線とクザーヌス
2. 微分計算の規則
フェルマとライプニッツ/ヤコブ・ベルヌーイとヨハン・ベルヌーイ/往復書簡/マルキ・ド・ロピタル(ロピタル公爵)/縦線と向軸線/「差」と「差分」/微分の計算規則(その1)定量の微分/微分の計算規則(その2)和と差と積の微分/微分計算の公理系/微分計算のアルゴリズム/高校数学の微分公式/代数的でない曲線に対する「万能の接線法」
3. 曲線の形
無限小の代数学/接線の変化と曲線の形状/2階微分と曲線の変曲/ライプニッツの計算例(1)スネルの法則/ライプニッツの計算例(2)/接線と軸の交点の決定/関数と曲線/接線法再考
4. 逆接線法と超越曲線
「ライプニッツ1686」/「超越的な曲線」の由来/ドゥボーヌの問題/逆接線法と積分計算/逆接線法と求積線/超越曲線への関心/デカルトの求積法/非代数的な表示式について/求積法と求積線/「積分されるべき微分」/オイラーの関数概念/「曲線の世界」から「変化量と微分の世界」へ

第4章:オイラーの解析幾何学
◆レオンハルト・オイラー年表
1. オイラーの曲線論
『無限解析序説』/オイラーの語る「定量」と「変化量」/代数関数と超越関数/代数方程式と代数関数/超越関数の世界/関数と曲線/曲線の解析的源泉/超越曲線のいろいろ
2. 逆接線法から微分方程式へ
レムニスケートに由来する微分方程式/最短降下線と最速降下線/サイクロイド/オイラーの力学/関数概念の導入/オイラーの第2の関数/代数関数と代数曲線/オイラーの第3の関数/関数と変分法/変化するものは何か/オイラー方程式の解について

コラム
- 3線・4線の軌跡問題の具体例と解析幾何学による解法
- 代数方程式の代数的解法とは
- ロピタルの原理

おわりに
参考文献
索引

線形代数学入門のための教科書談義

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先日の「解析学入門のための教科書談義」に続き、今回も4月から大学に通い始める新入生を意識した記事である。理工系学部の必修科目の線形代数学だ。

現在では「線形代数」と表記するのが一般的だが、これは岩波の数学事典での表記の影響などにより統一されていったそうだ。昔の教科書や昔の表記にこだわりをもっている人は今でも「線型代数」という表記を使っている。

学問としての線形代数学はとても古く連立方程式の解法との関連で1750年頃までに行列式が発見されていたが、行列が意識され始めたのは1850年以降だ。

1916年の一般相対性理論ではアインシュタインが行列を拡張したテンソルを使って計算を進めていたし、量子力学ではハイゼンベルクが行列力学を発表したのが1925年であることからもわかるように20世紀初頭に線型代数は物理学でも使われるようになっていた。

しかし微積分学(解析学)とは異なり、線形代数が日本の大学教育に持ち込まれたのは戦後のことである。以下のPDF史料からわかるように、戦前の旧制高校(現在の大学教養課程)のカリキュラムで線形代数は教えられていない。日本語の教科書もなかったので線形代数を学びたい学生は洋書で学ぶしか手段がなかったことになる。(翌日追記:記事をお読みいただいた「ふくちゃん」からコメント欄を通じて教えていただいたのだが藤原松三郎『代数学(全二巻)』内田老鶴圃という名前の教科書があり、線型代数に通じる内容が含まれていたそうだ。ふくちゃん、ありがとうございました。)

旧制高校について:「近代数学」 と学校数学 (その 2 )旧制高等学校の数学
http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kyodo/kokyuroku/contents/pdf/1130-16.pdf

それではいつ頃から線形代数が大学で教えられるようになったのだろう?

ネットで調べたり、大先輩の先生方にお話をうかがったところ、次の2つのことがわかった。

- 1960年に山口大学理学部数学科には線形代数の授業がなかった。
- 1963年に東京大学理学部数学科には線形代数の授業があった。

また1965年くらいから日本語の教科書が次々と発売されていることがわかった。おそらく1960年代の前半から大学で教えられるようになったとみるべきだろう。


今回の記事でも世代別にその時代の定番とされている教科書を紹介しよう。線型代数の教科書は理論を重視した難しめのものと、具体的な計算練習を重視した易しめのものに大別されるが、この記事で紹介するのは前者に分類される教科書である。

線形代数を学ぶのは大学教養課程の学生がほとんどだ。その時期に青春時代を過ごす学生が見ていたであろう吉永小百合さん主演の映画を時間軸にとって教科書を紹介することにした。


美しき抵抗(1960)、キューポラのある街(1962)世代

 

この時代に刊行された日本語の教科書はほとんど見つからなかった。かろうじて見つけることができたのがこの2つである。

行列と行列式:佐武一郎」- 1958



佐武先生の教科書は現在に至るまで、ずっと読み継がれている名著だ。そのさきがけとなった教科書は1958年に刊行された。実物は見たことがないのだが、アマゾンのレビュー記事によると紙数の都合によりテンソルの解説を含めることができなかったそうである。


線型代数学 2分冊 :ア・イ・マリツェフ」- 1960, 1961

古典力学の形成: 山本義隆―続きの話

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古典力学の形成―ニュートンからラグランジュへ:山本義隆

内容紹介:
「ニュートン力学」と称される古典力学は、ニュートン以後のヨーロッパの数学者たちによる協同作業で形成されていったものであった。最新の科学史学を踏まえた、近代自然科学理論生成の物語。1997年刊行、372ページ。

著者について:
山本義隆(やまもとよしたか)
1941年大阪生まれ。大阪府出身。大阪市立船場中学校、大阪府立大手前高等学校卒業。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。 東京大学大学院博士課程中退。
1960年代、学生運動が盛んだったころに東大全共闘議長を務める。1969年の安田講堂事件前に警察の指名手配を受け地下に潜伏するが、同年9月の日比谷での全国全共闘連合結成大会の会場で警察当局に逮捕された。日大全共闘議長の秋田明大とともに、全共闘を象徴する存在であった。
学生時代より秀才でならし、大学では物理学科に進んで素粒子論を専攻した。大学院在学中には、京都大学の湯川秀樹研究室に国内留学しており、物理学者としての将来を嘱望されていたが、学生運動の後に大学を去り、大学での研究生活に戻ることはなかった。
その後は予備校教師に転じ、駿台予備学校では「東大物理」などのクラスに出講している。一方で科学史を研究しており、当初エルンスト・カッシーラーの優れた翻訳で知られたが、後に熱学・熱力学や力学など物理学を中心とした自然思想史の研究に従事し今日に至っている。遠隔力概念の発展史についての研究をまとめた『磁力と重力の発見』全3巻は、第1回パピルス賞、第57回毎日出版文化賞、第30回大佛次郎賞を受賞して読書界の話題となった。

山本義隆: ウィキペディアの記事 Amazonで著書を検索

古典力学の形成―ニュートンからラグランジュへ:山本義隆」という記事では主にNewtonとLeibnizの業績を紹介した。その後100年の古典力学の発展を支えてきたのが微分積分学である。高瀬先生の「微分積分学の史的展開 ライプニッツから高木貞治まで」や「微分積分学の誕生 デカルト『幾何学』からオイラー『無限解析序説』まで」を読んで微分積分学の発展史をおさえたので、LeibnizからLagrangeまでの数学者、科学者がどのように古典力学の形成に貢献してきたのか箇条書でまとめておくことにした。

その際にまず知っておくべきことは「Newtonの順問題」と「Newtonの逆問題」である。順問題とは楕円軌道から逆2乗の万有引力を導くプロセス、逆問題とは逆2乗の万有引力から楕円軌道(そして他の円錐曲線)を導くプロセスのことだ。Newtonは順問題は解くことができていたものの、逆問題は解けていなかった。

また高校や大学で学ぶ力学の内容を思い出していただくとわかるように、古典力学で扱う問題は惑星の運動の問題と振子や斜面を転がる物体、回転する物体、物体の投射などの地上の問題、拘束系と非拘束系の問題、動力学と静力学の問題のように分類され、それぞれ数学者や科学者が解法を研究してきた。その最終到達点が解析力学である。


Leibniz(ライプニッツ): 1646-1716

- 微分積分学の創始、微分積分に使う数学記号の考案、微分積分学の定理の導出
- Newtonの順問題、逆問題を証明
- 遠心力の公式を導出した
- 落下速度に比例する抵抗を受ける物体の運動を解いた
- 落下速度の2乗に比例する抵抗を受ける物体の運動を解いた

Varignon(ヴァリニョン): 1654-1722

- 運動の法則を微分学を使って記述することへの貢献
- 力を受けて速度変化をする1次元運動の研究
- 中心力を受けて速度変化する2次元運動の研究
- 2次元調和振動の研究
- Kepler運動と万有引力の導出

Jacob Bernoulli(ヤコブ・ベルヌーイ): 1654-1705

- 拘束問題の設定(斜面を転がる物体、複合振り子)
- 剛体の運動の研究(内力、外力、回転)

Johan Bernoulli(ヨハン・ベルヌーイ): 1667-1748

- 逆2乗の引力に対して運動方程式の積分を極座標の方程式により逆Newton問題を解いた
- Kepler運動と万有引力の導出(極座標)
- 惑星の運動が円錐曲線(楕円、放物線、双曲線)になることを導出

Hermann(ヘルマン): 1678-1733

- 逆2乗の引力に対して運動方程式の積分を初めて実行して逆Newton問題を解いた

Maupertuis(モーペルテュイ): 1698-1759

- Fermatの最小作用の原理を研究し、運動量や運動エネルギーが保存することから最小作用の原理が導かれることを確認した
- 静力学における仮想速度(変位)の原理を提唱、釣り合いの力学
- 「作用」という力学概念を作り出した

Daniel Bernoulli(ダニエル・ベルヌーイ): 1700-1782

- Kepler問題に対して積極的にエネルギー積分を導入して解を求めた
- 拘束問題の設定(斜面を転がる物体、複合振り子)
- 剛体の運動の研究(内力、外力、回転)
- 二重振り子の運動の研究

Euler(オイラー): 1707-1783

- Keplerの法則に代数学的表現を与えたこと。(楕円軌道の極座標表示)
- 極座標による運動方程式の立式と積分による解法によってKeplerの法則、万有引力を証明
- 力学原理をめぐる概念の整備と論理を明確化し、力学問題の汎用化、解析化への道を開いた
- 仕事関数の導入
- Maupertuisと同時期に力学における最小作用の原理を定式化し、連続的に変化する運動に適用できるように一般化した
- 変分法の提唱(Euler-Lagrange方程式)、静力学と動力学の統一

D'Alembert(ダランベール): 1717-1783

- D'Alembertの原理(運動の問題を力のつり合い(平衡)の問題に帰着させる原理)
- この原理により動力学の問題を静力学の問題に還元したこと

Lagrange(ラグランジュ): 1736-1813

- 変分法においてEulerの幾何学的な方法を代数的な方法に改良した(演算子としてのdやδの導入)
- 解析力学により力学問題に対する万能な方法を編み出したこと
- Lagrange方程式
- 複数個の物体の系の力学問題の解法を解析力学で示したこと
- D'Alembert-Lagrangeの原理によりD'Alembertの原理に新しい表現を与えた、つまりD'Alembert原理における「釣り合い」を仮想速度の原理であらわしたこと
- 拘束系に対して未定定数法を考案したこと
- 仮想仕事の原理
- 力学のマニュアル化により古典力学を一般の技術者にも学習、教育可能なレベルにまで引き下げたこと


このようにまとめてしまうとあっけないが、問題や解法をたどりながら本書を読むとどれだけ大変なことだったか実感できるのだ。

私たちが大学程度の学力で古典力学、解析力学を学べるようになったのも、100年におよぶ数学者、科学者の努力の賜物であることがわかる。古典力学の教科書が300ページ近くあるからといって嘆いてばかりはいられない。これだけ長い間の研究で得られた成果をいっぺんに学べるのだからありがたいことだと僕は思ってしまうわけである。


関連記事: これまでに紹介した山本義隆先生の本

古典力学の形成―ニュートンからラグランジュへ:山本義隆
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e808487b7e9d668967f703396e32d80a

新・物理入門(増補改訂版):山本義隆
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/8ea0ef12c20ef703b81afe2752b4c3a2

熱学思想の史的展開〈1〉:山本義隆
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d1b18caf10c0e9a10baff20434eb9ffc

熱学思想の史的展開〈2〉:山本義隆
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f852e9510c040c23ae18c4da6df2dcbf

熱学思想の史的展開〈3〉:山本義隆
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c4f5c84e9854ddd2e60a1300044c9efc

福島の原発事故をめぐって― いくつか学び考えたこと:山本義隆
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7940dcbcf9929b45269dc9efae303848

原子・原子核・原子力―わたしが講義で伝えたかったこと:山本義隆
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/605f519af238e6b41871e81829f46e43


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古典力学の形成―ニュートンからラグランジュへ:山本義隆



序:「Newtonの力学」と「Newton力学」

●●●第1部:Kepler問題

1.『プリンキピア』の問題設定と論理構成
- 発端
- 『プリンキピア』の問題設定
- 『プリンキピア』の運動法則
- 運動法則の吟味

2.「順Newton問題」の解法と重力の導出
- 面積定理の証明
- 中心力を求める基本方程式
- 一つの例:2次元調和振動
- Kepler運動の場合
- 順Newton問題の別解
- Keplerの第3法則
- 議論の再検討

3.「逆Newton問題」の解法と『プリンキピア』の限界
- 『プリンキピア』をめぐる神話
- Newtonは「逆問題」を解いたか
- 『プリンキピア』の「命題17」
- 微分法と『プリンキピア』
- 一直線上の降下
- 任意の曲線上の運動
- 若干の書き直し

4.『プリンキピア』第2篇の解読
- 『プリンキピア』第2篇の歴史的意義
- 第2篇の今日的意義
- 速度に比例する抵抗のもとでの運動--極限移行の問題
- 速度に比例する抵抗--Newtonの限界性
- 一定の駆動力のあるとき
- 速度の2乗に比例する抵抗のあるとき
- 『プリンキピア』という書物

5.Leibnizと微分方程式の導入
- Leibnizの『試論(1689)』をめぐって
- Leibnizの前提と方法--「調和回転」
- 遠心力の公式の導出
- 動径方向の運動方程式
- 楕円軌道と万有引力--順Newton問題

6.Leibnizと『プリンキピア』
- Leibnizの手になる書き込みの発見
- 速度に比例する抵抗中の落下
- 『プリンキピア』の微分法に関する補題
- 速度の2乗に比例する抵抗中の落下--I
- 速度の2乗に比例する抵抗中の落下--II
- Leibnizによる解

7.Varignonと「順Newton問題」
- Varignonの評価について
- 1次元運動とエネルギー積分
- 中心力の新しい表式
- 例--2次元調和
- Kepler運動と万有引力の導出
- 「逆Newton問題」の必要性

8.「逆Newton問題」の初めての解析解
- 問題の設定--方程式の導出
- 方程式の積分--Hermannの解
- Riccatiによる補注と若干のコメント
- Bernoulliの別解--極座標の方程式
- Kepler問題の解

9.Kepler問題の完成
- 楕円軌道の極座標表示
- Kepler運動の運動学
- 極座標による運動方程式の表現
- 運動方程式の第1積分
- 万有引力のもとでの運動
- D.Bernoulliとエネルギー積分の導入

●●●第2部:力学原理をめぐって

10.Eulerによる力学原理の整備
- 1740年前後の状況:Newtonと力学原理
- Eulerの出発点
- 力学原理としての運動方程式
- 慣性原理について
- 力の尺度をめぐる議論
- 見掛けの運動と見掛けの力
- 仕事関数の導入

11.新しい問題--拘束運動とその解法
- はじめに--新しい問題
- Jacob Bernoulliによる問題設定
- 梃子の釣り合いの条件
- 問題の解

12.Daniel Bernoulliと非剛体的拘束運動
- 一般的な問題設定と方針
- 一つの例--動く斜面上の落下
- 二重振子にたいする問題設定
- mにたいする拘束の効果
- 固有振動と相当単子

13.D'Alembertの原理
- D'Alembertとその力学
- 力学の原理
- 力概念への翻訳
- いくつかの具体例
- 二重振子
- D'Alembertの時代的制約

14.最小作用の原理とその周辺
- Maupertuis
- 最小作用の原理
- Eulerによる定式化
- Eulerによる見解
- 静力学と動力学の統一

15.Lagrangeと変分法
- Lagrangeの出発点
- 最小作用の原理
- 複数個の物体系
- D'Alembert-Lagrangeの原理

16.『解析力学』第1部・静力学
- 『解析力学』の出現前後
- 『解析力学』の特徴と意図
- 静力学と仮想速度の原理
- 拘束系と未定乗数法

17.『解析力学』第2部・動力学
- D'Alembertの原理をめぐって
- 動力学の基本方程式の導出:『解析力学(初版)』より
- 動力学の基本方程式の導出:『解析力学(第2版)』
- 諸「原理」の導出
- Lagrange方程式
- 『解析力学』の切り開いたもの
- 力学のマニュアル化


あとがきにかえて
人名索引
事項索引

昨日の降雪と母の転倒

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昨日は都内でも雪が降り交通が大混乱したわけだが、我が家にも災難をもたらした。

同居している母が凍結した路面で転倒し、今朝になったら歩けなくなってしまっていた。

高齢の母は日ごろから足腰の衰えを進行させまいと、毎晩30分ほどウォーキングをしているのだが、よりによって昨夜もウォーキングに出てしまい、雪かきのされていない場所で転倒してしまった。両ひざを地面に打ちつけたそうだ。

タイミングが悪いことに母が出かけるとき、家族はみな不在だったり寝てしまっていたので誰も止めることができなかった状況。

結局、明け方から膝が痛み出し、朝になるころには歩けなくなっていそうだ。救急車で新宿の大きな病院に連れて行き、昼頃までに診察を受けた。

右膝の「皿」にヒビが入っていることがわかり、手術が必要かどうかは来週水曜の再検査によって判断するそうだ。そのまま入院したほうが母も安心できるのだが、手術が決まっていない患者は入院できないという。痛み止めをもらってそのまま自宅に戻った。

右脚は太ももから足首まで固定されてしまっている状態。これから1週間、母は歩けないまま家で安静にして過ごすわけだ。筋肉の衰えが進んでしまうと大変なので、早く治ってほしいと願うばかり。


ということでしばらく僕の家事や介助の負担が増える予定だ。みなさんからいただくブログのコメントの返信も遅れてしまうことがあるのでご容赦いただきたい。


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