内容
大東亜戦争敗戦後・・・戦時中軍事工廠だった場所に挺身隊だった彼女たちはあつまっていた・・・。
丸尾多恵が当時書き続けていた日記を本にしたいと皆を集めたのだ。
戦時中、女子挺身隊として働いていた彼女たちは、それぞれの過去を振り返るのだが・・・。
GWはたっぷり物理の勉強をするはずだったが、今日は観劇をして過ごすことになった。
今朝は朝寝坊をたっぷり愉しんだ後、午前中はブログにコメントを下さった読者に返信を書いていた。
さてそろそろいつものカフェに出かけようかと思っていたところ、知り合いの浦野朱里さんから連絡がきた。演劇のお誘いである。教えていただいた彼女のブログを見ると昨日から東日本橋のアクアスタジオというところで「君死にたまふことなかれ」という劇に出演しているようだ。
浦野朱里さんのブログとツイッターはこちら。
あかりオフィシャルブログ(LAUGHFACE INC.)
http://ameblo.jp/hapykira/
Twitter: @akari17171
今年は戦後70年ということもあるし、憲法改正の是非や従軍慰安婦問題など、とかく戦争のことがセンシティブに取り上げられる昨今だ。今どきの若い人は戦争のことをどうとらえ、日本をこれからどうしていきたいのだろう?自分の世代の考えよりも若い世代のとらえかたのほうが気になっている。
与謝野晶子の「君死にたまふことなかれ」を題名にしているくらいだから、これはおそらく反戦系の劇なのだろうと思ったのだが、内容紹介には「大東亜戦争」と書かれていたり、フライヤーに「旭日旗」の画像が使われているなど「あれ?どっちなの?」と思わせるふしもある。政治色を打ち出した劇なのだろうか?
少しだけ解説すると、現代の日本史の教科書で使われている「太平洋戦争」や「第二次世界大戦」のことを、当時戦争を遂行していた軍部や日本政府は「大東亜戦争」と呼んでいたわけ。戦争する目的のひとつだった「大東亜共栄圏の建設」という構想の流れを汲む名称である。
どちらにしてもとりあえず見に行けばわかるのだろう。
浦野さんはおとなしそうに見えて、芯が強いタイプ。演劇をしていることを僕は知らなかったから、演じている浦野さんの姿は想像できない。
やはり見に行って確かめるしかない。
劇場は東日本橋にあるアクアスタジオ。最寄り駅は「馬喰横山」なので笹塚からだと乗り換えなしで行ける。いつものカフェでの勉強を早々に切り上げ、開場1時間前には到着。GW真っ最中のビジネス街は人通りもクルマもほとんどなく閑散としていた。おまけにアクアスタジオの入口がわかりにくい。GPSとGoobleマップがピンポイントで目的地を示してくれているのが大いに役立った。
舞台のセットは軍事工廠のひと部屋。開演前に流される音楽の中に「ハナミヅキ」が使われていたので、およその傾向が想像できた。
開演直後の真っ暗闇の後に登場したのは5人の女性。洋装の人が多いので戦後のシーンだとわかる。もともとこの軍事工廠で「女子挺身隊」として働いていた人たちが再会して戦争当時のことを話すシーンである。舞台のセットや衣装も時代考証がしっかりしているし、台詞も当時の日本語が正確に再現されていることがすぐわかった。演じているのは今時の20代前半の女の子ばかりだけど、彼らを指導している人の中は昔のことをきちんとおさえている大人がいるのだろう。そういうことは見始めてすぐわかった。
日常生活では現代の女の子らしい生活をおくっているだろう彼女たちも、服装や髪型を変えるとイメージはずいぶん変わる。僕が幼い頃目にした昔の女性たちがそこにいた。
でもひとつだけ不自然なことに僕は気がついた。彼女たちはみな白い足袋を履いていたのだ。履物が草履の人は違和感がないのだが、ヒール靴に足袋はどう見ても不自然。時代考証ミスなのか??
舞台は真っ暗になり40秒ほどして次のシーンが照らし出されたとき謎は解けた。その舞台は戦争中の昭和19年の同じ部屋。先ほどの女の子たちはモンペ姿になり、白い鉢巻をしている。人数も2人増えて7人になった。
たった40秒ほどで服装ががらりと変わったのに僕は驚いた。(その後、ふたたび戦後の洋装に変わる場面もあるのだが、そのときは50秒くらいで服装チェンジである。)
なるほど、足袋まで履きかえる時間はさすがにない。彼女たちが履いていたの草履と足袋だった。
出演者は挺身隊の女子のほか、男優も4人いた。購入した台本によると少尉、坂本という若者、林学科長、軍医という役どころだ。
戦時中の言葉遣いがきっちり再現されているのに僕は驚いた。挺身隊への仕事の指示は「軍令」のようなものだ。女の子たちの台詞や喋り方も気迫のある軍隊式になり、動作もしゃきっとしたものにかわる。90度近くまで素早く腰を曲げる女の子たちのお辞儀を見たのは生まれて初めてのことだった。
いや~、すごい。真面目で硬派な劇だとは予想していたけど、実によく昔の有様を再現している。
胸を打つシーンがたくさんあった。とても見応えのある芝居だった。
舞台効果で感心したのは曇りガラスごしに映される部屋の窓の外の照明だ。朝、昼、夕方の日光の色を自然に変化させて時の流れを表現する。僕のような演劇素人は、このようなところに目がいってしまうのだ。
「佐藤あき」という役を演じていた知り合いの浦野さんの演技も素晴らしかった。柔和でほんわかしたお顔立ちからとは真逆な気迫に満ちた台詞に、この世界にかける彼女の意気込みを感じた。あと、どの出演者にも公平に台詞が与えられていて、どの役者さんも完璧に演じ切っていたように思う。
「今どきの若い人は。。。」とネガティブな面ばかりとりあげられやすい昨今、僕が学生だった頃にはたくさんいた真摯な若者が今でもたくさんいることを頼もしく思った休日になった。
時代考証がしっかりしているなあと思い、脚本をお書きになった野口麻衣子さんのことを調べてみたら、1974年生まれの女優であることがわかった。戦後29年も経ってから生まれた方なので、戦時中のことをよほどよく調べられたのだろう。僕より若い世代の中にも、より若い世代の模範になる立派な方がいるのだなと思ってうれしくなった。
野口麻衣子(現在 小田切麻衣子)
http://talent.yahoo.co.jp/pf/detail/pp17328
野口麻衣子さんのブログ
http://ameblo.jp/maiko1213/
笑いをとる台詞などひとつもない。左だ右だという政治的な主張もなく、戦中戦後に交わされた会話だけで進行する演劇だ。昔おきていたことをありのまま再現して伝えよう、そしてこれから日本はどういう選択をしたらよいのかは観客ひとりひとりの判断に任せよう。そのような印象を僕は受けた。
私たちに与えられた左か右か?改憲か護憲か?の選択肢はあくまで現代からの視点で言えること。当時の国民には旭日旗をかかげた「戦争」という現実があるだけで、考える自由、「君死にたまふことなかれ」と願う自由は残されていたものの、発言する自由、行動を選択する自由は与えられていなかった。「お国のために死ぬ」ことは、他に選択肢のない状況でぶつける先のない悲しみを無理矢理押さえつけるために作られた方便である。
「君死にたまふことなかれ(アクアスタジオ)」は5月6日まで見ることができる。お近くの方は、ぜひご覧になってほしい。
前売・当日 ¥3,100(税込) ※日時指定 / 全席自由 / 要予約
予約方法など詳細は、以下のページで確認していただきたい。
「君死にたまふことなかれ(アクアスタジオ)」
http://www.airstudio.jp/aquastudio/top_150502.html
余談:
開演前にトイレに行っておこうと受付を出ると、そこにはなんと元オリンピック選手の大林素子さんが立ち話をされているではないか。僕はうかつにも「あっ!」と声を出してしまったので、「いえ、笹塚のカフェでときどきお見かけしていたものですから。。」とご挨拶ともとれない釈明をする羽目に。オリンピックの頃以来、僕はファンの一人だったので、思いがけない場所で出会うとそりゃびっくりするわけで。。。
帰宅して大林さんのツイッターを確認したら、次のような投稿があった。大林さんはどうやらこの劇の関係者のようである。
画像をクリックすると、その投稿が開く。
行きつけの笹塚のカフェには、たまに思いもよらぬ大物があらわれる。
数年前、僕が勉強している隣でカフェオレをすすっている地味な服装のご老人がいた。しばらくすると彼はおもむろに携帯電話を取り出して話しだした「もしもし、堺屋太一ですが。」
頭から背骨にかけて数万ボルトの電流が走った。「ええっ!」とは思ったものの畏れ多くて僕は隣に座っているご老人を直視することができなかった。
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地獄の日本兵―ニューギニア戦線の真相:飯田進
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ac46ac40b155a4ef430bd92074db2a5b
復刻版 チャート式 代数学、幾何学(数研出版)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/709402c3bc0ad74ebb4fe0969f9f7e42
ゴドーを待ちながら:サミュエル ベケット
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