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究極理論への道: 力・時空・物質の起源を求めて:米谷 民明

究極理論への道: 力・時空・物質の起源を求めて:米谷 民明

内容紹介:
一般相対性理論と量子論を統合する量子重力理論を目指し、宇宙の根源の解明に迫る〈超弦理論〉。一次元の広がりをもつ「弦」の描像は、現代物理学・素粒子論からいかに生まれたのか? 閉じた弦と重力の関係を明らかにした著者が理論の誕生、困難、復活と発展の歴史を、自らの経験やエピソードを交えて描き出す。

■推薦のことば――橋本幸士
感動を覚えた。弦理論(超ひも理論)が重力を自動的に記述することを世界で初めて発見した米谷さんの功績により、その理論は宇宙の全てを支配する統一理論の候補となり世界中の研究者を魅了している。なぜ米谷さんにその大発見が可能だったのか。本書は米谷さんの思考体系を微細に入って辿らせてくれ、その深い思考が大発見につながる様子を追体験させてくれる。量子重力理論の研究を目指すすべての人にバイブルとして薦めたい。

2021年10月18日刊行、302ページ

著者:
米谷 民明(よねや たみあき): ウィキペディア
1947年生まれ。北海道大学理学部卒。東京大学大学院総合文化研究科(広域科学専攻)教授を経て、放送大学教授。東京大学名誉教授。素粒子論研究、とくに弦理論の分野の一線で世界的に活躍する。

米谷先生の著書: Amazonで検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で469冊目。

本書が刊行されたことを知ったとき、かなり驚いた。著者の米谷先生が世界で初めて重力が超弦理論の閉弦に対応していることは「大栗先生の超弦理論入門:大栗博司」で読んで知っていたからだ。米谷先生が大学院生のときだと書かれていた。ただ、大栗先生の本のようにページ数を抑えた科学教養書だとその詳細、米谷先生がどのような経緯を経てそれを発見したかがわからない。

入門者向けにだいぶ詳しく書かれた「エレガントな宇宙:ブライアン・グリーン」にも、超弦理論が重力を含む理論であることが195ページに書かれているが、本文ではシェルクとシュワルツによる発見だと書かれていて、543ページに脚注として「米谷民明も、またコルクト・ブラダッキとマーチン・ハルパーンも、別々に同様な示唆を行っている。」と書かれている。そして発見の詳細については書かれていない。ウィキペディアにの米谷民明の項目には「1970年代にジョエル・シェルク、ジョン・シュワルツとは独立にひも理論がアインシュタインの一般相対性理論から導かれる重力子と一致する性質の粒子の存在を含むことを示した。」と書かれている。

だから、弦理論の創成期から現在に至るまで、第一線で研究されている米谷先生のような方が数式を控えめにし、日本語だけで解説する本はとてもありがたいのである。ご自身の研究や発見だけでなく、1970年代以降の超弦理論の発展史をカバーしている本なのだ。「初級講座弦理論 基礎編発展編:B.ツヴィーバッハ」や「ストリング理論:J.ポルチンスキー」には発展史のようなことは書かれていない。だから本書は貴重でありがたいのである。ちなみに本書では超弦理論のことを超ひも理論、または弦理論と表現している。

文章で解説したとはいえ、「エレガントな宇宙:ブライアン・グリーン」を読むような中級レベルの一般読者、そして物理学科で学ぶ学部生が読むことができるようなレベルなのだろうか?それが気がかりだった。

1 門出:素粒子論の道
2 弦理論への道
3 統一量子重力理論への道
4 その後の発展,未来への道

第1章「素粒子論の道」では特殊相対性理論以降、20世紀の現代物理学の概要が解説される。量子力学、ディラックの相対論的量子力学、ゲージ原理、質量生成機構など。このあたりは専門書で既習だったため、難なく読むことができた。おそらく一般の方でもついていけるレベルだと思う。

第2章は「弦理論への道」である。いわゆる弦理論前史から始まる。重力の繰り込みが不可能であること、ゲージ理論の対称性を拡張した超対称性重力理論でも一般相対論と素粒子のゲージ理論の矛盾が解決しなかったことが解説される。そして弦理論誕生への道筋を開いたのがハイゼンベルクのS行列理論だ。ヴェネツィアノ公式の発見、南部、サスキンド、ニールセンによる弦の発見、超対称化によるR弦とNS弦と進み、超弦理論が誕生する。この章では弦理論の時空の次元数(専門的には臨界次元という)が26、超弦理論の時空の次元数が10となることが計算式で示されている。ここまでが1974年頃までの発展史だ。この章もなんとか理解できる範囲だった。

第3章の「統一量子重力理論への道」は、米谷先生が北大の大学院に入学した頃の話から始まる。この章では1970年代前半の進展を振り返り、どのような可能性、予想ができるかをまず論じている。そして米谷先生が1973年から弦から重力が導けることについて研究を始めたことが述べられ、どのように進めたか、その後の反響、シャークとシュワルツによる同様研究についての解説が160ページから179ページにわたって解説されている。そしてこの章の終わりまでは解決されていない問題の解説にあてられている。かなり難しい内容なのと、実際の数式で理解しないと何とも言えないため、未消化だったが筋書は追うことができた。この章を読み、本書は一般の人には理解できるはずがない本だと気がついた。いくら丁寧に文章で解説しているとはいえ、専門的な概念の理解なしには歯が立たないのは当然のことである。

第4章「その後の発展,未来への道」ではその後の発展史が解説される。主なものはD-ブレーン、Dp-ブレーン、T双対変換とS双対変換、5タイプの超弦理論、M理論、ブラックホールのエントロピー、AdS/CFTなどである。この章はとても難しく、おおまかに筋書を追えたにすぎなかった。


このように時系列に沿って読むことで、超弦理論を構成する概念や実体がどのような順序で発見されてきたかがわかるようになる。教科書は現代の視点から理解しやすいように、時系列から切り離して解説するからどのように研究が進んだかは見えにくい。

あと個人的には「ヴィジュアル複素解析:T.ニーダム」で詳しく解説されていた複素平面上の「メビウス変換」が超弦理論でも役割を果たしていることを知ったのが意外だった。このような変換が現実の物理に使われることはないと思っていたからだ。

また本書は、超弦理論を無批判に信奉し、研究成果を紹介するだけでなく、検証可能性(反証可能性)やランドスケープ問題など、超弦理論に対する批判についても詳しく解説している。このてんはとても好感がもてた。本文の要所要所に宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」をはじめ、和洋さまざまな作品、小説家、科学者、哲学者の言葉が引用され、本書を味わい深いものにしている。そして全体を通して米谷先生の暖かいお人柄と、研究に対する情熱が伝わってくるのだ。

本書を読み、僕は「エレガントな宇宙:ブライアン・グリーン」を読み直してみたくなった。2回目なので今度は英語版で読んでみたい。

橋本幸士先生が推薦のことばに「本書は米谷さんの思考体系を微細に入って辿らせてくれ、その深い思考が大発見につながる様子を追体験させてくれる。量子重力理論の研究を目指すすべての人にバイブルとして薦めたい。」とお書きになっているように、将来研究者になる方にとっての本なのかもしれない。しかし、全体の流れは僕のような物理学に興味を持つアマチュアでも理解でき感動を与えてくれる。「エレガントな宇宙」を読み終えた一般の方、「初級講座弦理論」で学ぼうとしている方は、ぜひお読みになってほしい。


関連記事:

大栗先生の超弦理論入門:大栗博司
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/75dfba6307d01a5d522d174ea3e13863

超ひも理論をパパに習ってみた: 橋本幸士
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/05d22e7299a4b30b24efb05cf01176a2

エレガントな宇宙:ブライアン・グリーン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/404c24b68f57609900bc3d7a030333d5

初級講座弦理論 基礎編:B.ツヴィーバッハ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6da996449afaf50f8cf0f4f84881da0e

初級講座弦理論 発展編:B.ツヴィーバッハ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ff65ac32a5a9b397d8833a7ca155cb68

販売状況:日本語の超弦理論・M理論の教科書
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/61e4dd2232d54cf4a5f3da1aeb83975a


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はじめに

1 門出:素粒子論の道
 1. 1 ニュートンの言葉:「未知なる真理の大海」
 1. 2 特殊相対性理論の時間空間とエネルギー運動量
 1. 3 静止エネルギーが何故あるのか
 1. 4 量子論:光の量子仮説=波でもあり粒子でもある
 1. 5 電子も粒子であり波でもある
 1. 6 物理量を無限に大きい碁盤を使って表す
 1. 7 ハイゼンベルクとアインシュタイン
 1. 8 量子論のまとめ
 1. 9 素粒子論とゲージ場:額縁に絵をどう描くか
 1. 10 重力と素粒子論:ミクロとマクロの究極的な結びつき
 1. 11 ディラック方程式:クォークや電子はどう記述するのか
 1. 12 電荷の保存:時空間反転:反粒子
 1. 13 ボース粒子とフェルミ粒子
 1. 14 ゲージ原理とはどんなものか:ワイルのアイデア
 1. 15 量子力学によるゲージ原理の復活
 1. 16 質量生成機構:ヒッグス機構vs.カラーの閉じ込め
 1. 17 一般相対性理論で電磁ポテンシャルに相当するのは何か

2 弦理論への道
 2. 1 紫外破綻の困難と繰り込み理論
 2. 2 一般相対性理論と繰り込み不可能性
 2. 3 量子的紫外問題と対称性
 2. 4 「大理石と木」:アインシュタインの挫折
 2. 5 超重力理論:超対称性は紫外発散の解消に十分ではない
 2. 6 改めて対称性とは何か
 2. 7 広がった素粒子像の困難さと先駆者たち
 2. 8 1953 年理論物理学国際会議:湯川,パイス,坂田,ファインマン
 2. 9 弦理論の祖父:ディラックの予感
 2. 10 ハイゼンベルクとS行列理論の発展
 2. 11 レッジェ極理論
 2. 12 弦理論の源流:チャンネル双対性とハドロンデモクラシー
 2. 13 ヴェネツィアノ公式の発見
 2. 14 弦へ:南部,サスキンド,ニールセン
 2. 15 弦の世界膜を支配する対称性原理は何か
 2. 16 共形対称性:弦の世界を見るための顕微鏡
 2. 17 共形対称性から何が帰結するか
 2. 18 世界膜の超対称化:R弦とNS弦
 2. 19 残る問題:タキオンと臨界次元
 2. 20 補足:臨界次元の起源は何か
 2. 21 予感:双対弦理論にはさらに深い何かが隠れている

3 統一量子重力理論への道
 3. 1 双対弦理論との出会い
 3. 2 私の研究の出発点
 3. 3 30 年後の初対面,そして2人の数学者の期せずした〈共鳴〉
 3. 4 新たな問題意識:弦理論と場の理論の関係,問題(H)
 3. 5 予感I,問題(A):ゲージ理論の拡張としての開いた弦
 3. 6 予感II:問題(B)と1つの挫折
 3. 7 予感III:弦から重力だってー!
 3. 8 恐れ:1つの二律背反,新たな双対性なのか
 3. 9 続くいくつかの仕事,そして反響(国内)
 3. 10 海の向こうから
 3. 11 シャークシュワルツ
 3. 12 時空超対称性とタキオン問題の解決
 3. 13 間暇:非摂動的QCDとカラー電気力線の弦
 3. 14 問題(H)と電磁双対性
 3. 15 閉じ込め証明の悪夢,そしてCERNへ
 3. 16 復活へ:共形異常,カイラル異常と弦理論

4 その後の発展,未来への道
 4. 1 共形対称性の深化:究極的ブートストラップ
 4. 2 弦の場の理論の進展と背景独立性
 4. 3 共形対称性の時空的意味についての考察
 4. 4 D-ブレーンとは何か
 4. 5 T 双対変換とS双対変換
 4. 6 93 年サンタバーバラワークショップとブラックホール
 4. 7 S 双対性とM理論
 4. 8 ブラックホールのエントロピーとD-ブレーン
 4. 9 新しい行列模型と問題(H),そして時空不確定性
 4. 10 AdS/CFT I :98年サンタバーバラ
 4. 11 AdS/CFT II :応用とさらなる発展と意義
 4. 12 弦理論の〈風景〉:新たなコペルニクス的転回
 4. 13 非摂動的弦理論の問題と未来への夢

おわりに
参考文献
索 引

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