「入門 現代の量子力学 量子情報・量子測定を中心として:堀田 昌寛」(Kindle版予定あり)(正誤表)
内容紹介:
今世紀の標準! 次世代を担う物理学徒に向けて、量子力学を根本的に再構成した。原理から本当に理解する15章。
「量子力学は20世紀前半には場の理論を含めて完成を見た。しかしその完成に至るまでの試行錯誤では、現在では間違っていることがわかっている物質波の解釈の仕方や、正確ではなかった不確定性関係の議論もなされていた。そこで本書では、そのような歴史的順序そのままの紆余曲折のある論理を辿らないことにした。一方で、線形的な状態空間やボルン則を用いた確率解釈やシュレディンガー方程式などを天下り的に公理とするスタイルもとらない。代わりに情報理論の観点からの最小限の実験事実に基づいた論理展開で、確率解釈のボルン則や量子的重ね合わせ状態の存在などを証明する。」〈本書「まえがき」より〉
2021年7月12日刊行、304ページ
著者:
堀田 昌寛(ほった まさひろ)
プロフィール: http://www.tuhep.phys.tohoku.ac.jp/profile/hotta.html
Twitter: @hottaqu
1993年東北大学大学院理学研究科博士課程修了。博士(理学)。現在、東北大学大学院理学研究科助教。専門は相対論的量子情報物理学。特に、ブラックホールエントロピー、情報喪失問題。著書に『別冊数理科学 量子情報と時空の物理』(サイエンス社)がある。
理数系書籍のレビュー記事は本書で463冊目。
発売情報として先日記事を書かせていただいた、いま話題の教科書だ。ようやく読み終えることができた。
本書のように説明を展開すれば、これまでの教科書とはまったく違う視点で量子力学を構築することができるのだと納得することができた。
書店で立ち読みされた方は、物理の本ではなく数学の本ではないだろうかという印象を持たれたかもしれないし、最初の数章を読んでいるうちは僕も新井朝雄先生の「ヒルベルト空間と量子力学(紹介記事)」や「量子力学の数学的構造 I、II(紹介記事1,紹介記事2)」のような数理物理系、量子力学を数学的に定式化する本のように感じていた。だから、物理学科の学生がこの本を読むと数学書のように感じると思う。お馴染みのシュレディンガー方程式が登場するのはかなり後になってからである。
しかし、導入部の第1章が「シュテルン-ゲルラッハ実験(1922年)」だから本書が物理学書であるのはまぎれもない事実である。この実験から、本書では二準位系の量子力学の物理現象の理論構築が複素線形代数を道具として使いながら進められていく。
本書では電子や光子など具体的な対象を取り上げていないから、初学者は難しく感じるかもしれない。本書の数式には交換子や反交換子は使われているものの、フェルミオンやボソンという用語さえ使われていない。(巻末の索引にも含まれていない。)
物理系の専門用語、一般用語が書かれていないと、抽象的な話に思えてきて必要以上に難しく感じてしまうものだ。最初でつまずいて投げ出すのがいちばんよくない。
複素線形代数による解説が進むため、数学力が不足している方は、本書を読む前に「量子コンピュータ、量子アルゴリズムを学びたい高校生のために」という記事で紹介しているブルーバックス本で前提知識を仕入れておくとよいだろう。時間がない方は特に「量子コンピュータ―超並列計算のからくり: 竹内繁樹」だけでも読んでおくとよい。線形代数の知識が不足している学生には「線型代数[改訂版]: 長谷川浩司」もお勧めしておく。
量子力学を初めて学ぶ初学者が、1冊目の教科書として読むことができるだろうか?この問いに対する答えは「Yes」でもあり「No」だ。初学者といってもレベルはさまざまであり、数式が書かれている本はすべて難しいと感じる人たちのことは除外しておこう。少なくとも上に紹介しているブルーバックス本や、線形代数の教科書くらいは理解できている初学者を念頭に置く。
ざっくりとした言い方になるが、本書の難易度は「よくわかる量子力学:前野昌弘」や小出先生の教科書、江沢先生の教科書よりはずっと難しく、「現代の量子力学(上) (下) 第2版:J.J. サクライ, J. ナポリターノ」や「量子力学 I、II(紹介記事1、2)」を読んで理解できる人なら読むことができるレベルだと思う。難易度は主観的な尺度だから、人によって違う。
僕が量子力学の教科書として初めて読んだのは「ファインマン物理学 V 量子力学(無料の英語版)」で2006年12月のことだった。当時の自分の状態になりきるのは不可能だが、堀田先生の教科書に当時挑戦していたら、途中で挫折していたということが容易に想像できる。理解できるようになるのは、おそらく「ヒルベルト空間と量子力学:新井朝雄」を読んだ2010年頃のの知識を得るまで待たなければならなかっただろう。
堀田先生によると、これまでの教科書は
(1)「前期量子論+正準量子化」
(2)いくつかの量子力学の公理からスタートして、現象を説明する。
の2つに分けられるそうだ。堀田先生の教科書は、これらとは異なり
(3)最小の実験事実から、量子力学という理論を構築する。
という新しいタイプであるという。
なるほど、前野先生や猪木・川合先生の教科書など、量子力学のほとんどの教科書は(1)のタイプである。そして数理物理系の新井先生の教科書は量子力学の公理からスタートしている(2)のタイプだ。そして後者には量子力学の公理から始める「新版 量子論の基礎:清水明」という教科書もある。
本書の章立ては次のとおりだが、まさにこの章立ての順番が本書が(3)のタイプであることを示している。(詳細目次はこの記事のいちばん最後に載せておく。)
第1章 隠れた変数の理論と量子力学
第2章 二準位系の量子力学
第3章 多準位系の量子力学
第4章 合成系の量子状態
第5章 物理量の相関と量子もつれ
第6章 量子操作および時間発展
第7章 量子測定
第8章 一次元空間の粒子の量子力学
第9章 量子調和振動子
第10章 磁場中の荷電粒子
第11章 粒子の量子的挙動
第12章 空間回転と角運動量演算子
第13章 三次元球対称ポテンシャル問題
第14章 量子情報物理学
第15章 なぜ自然は「量子力学」を選んだのだろうか
付録
第1章の「シュテルン-ゲルラッハ実験(1922年)」を出発点とし、第5章の「物理量の相関と量子もつれ」までのページを割いて量子力学の構築が行われる。これらの章はまた、量子情報理論や量子コンピュータの基礎理論の解説としての役割も果たしている。実験を出発点としつつ、数理物理的な色合いが濃い解説が続いている。
本書で「波動関数の収縮」という用語がでてくるのは第7章、「波動関数」という用語がでてくるのは第8章だ。これらの章に至って、ようやくこれらの概念の物理的意味が明らかにされる。これまでの古いタイプの教科書では波動関数の物理的意味は最後まで解説されないし、波動関数の収縮は解釈不能なまま放っておかれていた。
また「ハイゼンベルク描像」や「シュレディンガー方程式」を「導く」のが第6章である。これまでの教科書では天下りに導入されていたことが、本書では最小の実験事実から導きだされるのである。また、ボルン則を用いた確率解釈についても本書では「公理」として与えるのではなく「導く」ものとして解説している。
「量子は粒であり、波でもある」という解釈を本書は採用していない。量子力学の教科書ではたいてい最初のほうで紹介される「二重スリット実験(参考記事)」が取り上げられるのは、本書の第11章「粒子の量子的挙動」の冒頭だ。この粒子実験における干渉縞の出現は、第2章で解説した二準位スピン系の干渉効果のときと同様、区別できる量子状態の線形重ね合わせがその起源である。ここで波動関数は確率分布の集合でしかない。物理的な実在としてなんらかの波が空間を伝搬して、干渉縞を作っているわけではないことを断言している。
そして、僕にとってまったく新しい知見となったのが第7章の「量子測定」だった。2003年に提唱された「小澤の不等式(解説動画)」が物理学界で話題になったとき、僕は量子力学の教科書の「ハイゼンベルクの不確定性原理」の項目は、将来どのように書き換えられていくのだろうかと疑問に思っていた。それが実際のものとなったのがこの第7章だった。小澤の不等式を解説した科学教養書としては「ハイゼンベルクの顕微鏡~不確定性原理は超えられるか(2005) :石井茂」(紹介記事)が知られている。また、小澤先生ご本人が書いた本では2018年に刊行された「量子と情報 ―量子の実在と不確定性原理―」(Kindle版)が知られている。
測定によって不確定だった物理量は1つに決まる。そのよりどころと考えられている波動関数の収縮は物理的実在ではなく量子状態の収縮、つまり確率分布の収縮なのだ。これは古典的な確率分布でも起きるありふれた過程だ。つまり量子状態が測定によって変化するのは、古典的なさいころの確率分布の更新と本質的に同じである。(詳しい解説)
量子測定の理論的側面は、ほとんど理解できていなかったし、それは量子コンピュータの理論の基礎付けにもなっている。とても有益な学びとなった。
また、第7章を理解したことで今回、「(3)最小の実験事実から、量子力学という理論を構築する。」、「新井先生による量子力学の数学的定式化」、「量子情報理論」の3つの事がらを、自分の頭の中ですっきり結びつけることができた。僕に欠けていたのが量子測定の知識、理解だと気がついた。
第9章から第12章で、ようやくこれまでの量子力学の教科書で学ぶ事がらの解説が始まっている。具体的には「量子調和振動子」、「磁場中の荷電粒子」、「粒子の量子的挙動」、「空間回転と角運動量演算子」、「三次元球対称ポテンシャル問題」など。トンネル効果が解説されるのもこのあたりだ。量子力学を構築してから物理現象を解き明かすという順番だから、本の後半にこれらの解説が展開されているのである。
第14章の「量子情報物理学」は、量子コンピュータや量子テレポーテーションの理論の解説だ。量子コンピュータには2つのタイプがあることが紹介されていて量子論理ゲートの解説がされている。しかし量子アルゴリズムや量子プログラミングまでには踏み込んでいない。この分野は他の本で学んでいたのですっきり理解でき、よい復習ができたと思う。(参考記事:「クラウド量子計算入門: 中山茂:(4) 全体の感想」)近年、数多くの専門書が刊行されている。量子ネイティブ、量子人材を目指すのであれば、他の本を精力的に読む必要があると思う。
第15章の「なぜ自然は「量子力学」を選んだのだろうか」が、いちばん予想外な内容だった。この章は自然哲学的な考察がされていると僕は勝手に想像していたからだ。また(量子情報理論を含む)情報理論は、もともと純粋に数学理論だったわけだが、近年はブラックホールの謎の解明に不可欠な最先端の物理学としての側面がでてきている。超弦理論の「ホログラフィー原理(解説ページ)」でも量子情報が本質的な役割を果たしている。
しかし、第15章で解説されているのはこのような話ではなく、数学的な可能性の話だった。量子力学は、隠れた変数の理論よりも強い相関を持っている。ところが隠れた変数の理論よりも強い相関をもつ数学的な理論は量子力学以外にも無数存在しているという。その無数の可能性の中から、なぜ自然界は量子力学という特別な物理法則を採用したのかということがこの章で解説されていることだ。この謎は現代物理学では解明されていない。この章ではこの問題を扱うのに有用だと考えられている定式化を紹介している。解明の鍵となるのは「情報因果律」という概念が原理となるかどうかということのようだ。
本書は僕にとってとても目新しく、知的刺激に満ちた教科書だった。しかし、これまでの教科書で得た知識は、先入観として頭の中に定着しているから、すっきり頭を切り替えて初学者のように読み進めることができなかったのも事実だ。それは本書を読むうえでの障害であり、同時にこれまでの本とどう違うかを区別して理解するための利点でもある。
今後、本書のような新しいタイプの教科書だけで学び始める量子ネイティブな学生は、どのように理解し量子力学を吸収していくのだろうか?そのような新しい人たちが、研究者になってどのような教科書や教養書を書くようになるのか、気になり始めたところである。
「これまでの教科書」と「新しい教科書」の違いについて、堀田先生は次のようにツイートされている。
「プランク定数ℏは前期量子論のほうが分かりやすかったという意見もあり得ます。20世紀初頭から構築された量子力学ですが、完成した現代的な量子力学の観点から言うと、人類は量子力学の急峻な崖に面した「裏口」から入門してしまっていたという感じなのです。」
「前期量子論で扱っていた面白い物理的現象の勉強は非常に重要ですが、ちゃんとした現代的な量子力学の正面玄関入口から入って、「量子力学とは何か」ということをきちんと理解した後にやるべきことです。その応用的位置づけの中で、前期量子論で出てきた物理現象でのℏの意味も、より深く理解できます。」
裏口から入門する教科書であっても、そのすべてを否定しているのではないということは、巻末の「参考図書リスト」の説明を読んでわかった。参考図書の説明に「他の視点から量子力学を整理し理解することも、より深い理解に繋がると期待される。現在多数の量子力学の優れた教科書が出版されており、その全てを紹介することはできないが、その中から本書の参考にもなったいくつかの教科書を挙げておく。」とお書きになっているからだ。
参考図書リストに挙げているのは10冊であるが、そのうち量子力学の教科書としては次の4冊を挙げ、特長をお書きになっている。(書名をクリックすると紹介記事が開くようにしておいた。)
1)「現代の量子力学(上) (下) 第2版:J.J. サクライ, J. ナポリターノ」
1985年の初版刊行以来、世界中で読まれてきた名著。
2)「新版 量子論の基礎:清水明」
サポートページ:https://as2.c.u-tokyo.ac.jp/lecture_note/qmbook.html
最初に量子力学の原理(公理)を与えて様々な結果を導くすっきりした論理で、定評のある名著。
3)「よくわかる量子力学:前野昌弘」
サポートページ:http://irobutsu.a.la9.jp/mybook/ykwkrQM/ サポート掲示板2
イメージをしやすいように図やグラフを多用しながら、量子力学を修得させる良書。本書や2)のスタイルの教科書では分かった気になれなかった初学者にも推薦する。
4)「量子力学 I、II 猪木・川合(紹介記事1、2)」
質の良い演習問題が多数含まれる良書。
ひとりでも多くの方が本書で学び、新しいタイプの研究者、技術者として育っていくことを僕は期待している。
関連記事:
発売情報:入門 現代の量子力学 量子情報・量子測定を中心として:堀田 昌寛
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/042976ed2104fa539520ca45adbc2b91
量子情報と時空の物理 第2版: 堀田昌寛
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/12f7ead2e710ad2b70955c62a6f268fa
量子とはなんだろう 宇宙を支配する究極のしくみ: 松浦壮
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/22f04399c3fc59c9e20e95531b251935
「入門 現代の量子力学 量子情報・量子測定を中心として:堀田 昌寛」(Kindle版予定あり)(正誤表)
まえがき
記号表
第1章 隠れた変数の理論と量子力学
1.1 はじめに
1.2 シュテルン=ゲルラッハ実験とスピン
1.3 隠れた変数の理論の実験的な否定
第2章 二準位系の量子力学
2.1 測定結果の確率分布
2.2 量子状態の行列表現
2.3 観測確率の公式
2.4 状態ベクトル
2.5 物理量としてのエルミート行列という考え方
2.6 空間回転としてのユニタリー行列
2.7 量子状態の線形重ね合わせ
2.8 確率混合
第3章 多準位系の量子力学
3.1 基準測定
3.2 物理操作としてのユニタリー行列
3.3 一般の物理量の定義
3.4 同時対角化ができるエルミート行列
3.5 量子状態を定める物理量
3.6 N準位系のブロッホ表現
3.7 基準測定におけるボルン則
3.8 一般の物理量の場合のボルン則
3.9 ρ^の非負性
3.10 縮退
3.11 純粋状態と混合状態
第4章 合成系の量子状態
4.1 テンソル積を作る気持ち
4.2 テンソル積の定義
4.3 部分トレース
4.4 状態ベクトルのテンソル積
4.5 多準位系でのテンソル積
4.6 縮約状態
第5章 物理量の相関と量子もつれ
5.1 相関と合成系量子状態
5.2 もつれていない状態
5.3 量子もつれ状態
5.4 相関二乗和の上限
第6章 量子操作および時間発展
6.1 はじめに
6.2 物理操作の数学的表現
6.3 シュタインスプリング表現
6.4 時間発展とシュレディンガー方程式
6.5 磁場中の二準位スピン系のハミルトニアン
6.6 ハイゼンベルグ描像
6.7 対称性と保存則
第7章 量子測定
7.1 はじめに
7.2 測定の設定
7.3 測定後状態
7.4 不確定性関係
第8章 一次元空間の粒子の量子力学
8.1 はじめに
8.2 状態空間次元の無限大極限
8.3 位置演算子と運動量演算子
8.4 運動量演算子の位置表示
8.5 N^の固有状態の位置表示波動関数
8.6 エルミート演算子のエルミート性
8.7 粒子系の基準測定
8.8 粒子の不確定性関係
第9章 量子調和振動子
9.1 ハミルトニアン
9.2 シュレディンガー方程式の位置表示
9.3 伝播関数
第10章 磁場中の荷電粒子
10.1 調和振動子から磁場中の荷電粒子へ
10.2 伝播関数
第11章 粒子の量子的挙動
11.1 自分自身と干渉する
11.2 電場や磁場に触れずとも感じる
11.3 トンネル効果
11.4 ポテンシャル勾配による反射
11.5 離散的束縛状態
11.6 連続準位と離散準位の共存
第12章 空間回転と角運動量演算子
12.1 はじめに
12.2 二準位スピンの角運動量演算子
12.3 角運動量演算子と固有状態
12.4 角運動量の合成
12.5 軌道角運動量
第13章 三次元球対称ポテンシャル問題
13.1 はじめに
13.2 三次元調和振動子
13.3 球対称ポテンシャルのハミルトニアン固有値問題
13.4 角運動量保存則
13.5 クーロンポテンシャルの基底状態
第14章 量子情報物理学
14.1 はじめに
14.2 複製禁止定理
14.3 量子テレポーテーション
14.4 量子計算
第15章 なぜ自然は「量子力学」を選んだのだろうか
15.1 確率分布を用いたCHSH不等式とチレルソン不等式
15.2 ポぺスク=ローリッヒ箱の理論
15.3 情報因果律
15.4 ポペスク=ローリッヒ箱の強さ
付録
A 量子力学におけるチレルソン不等式の導出
B.1 有限次元線形代数
B.2 パウリ行列
C.1 クラウス表現の証明
C.2 クラウス表現を持つΓがシュタインスプリング表現を持つ証明
D.1 フーリエ変換
D.2 デルタ関数
E 角運動量合成の例
F ラプラス演算子の座標変換
G.1 シュテルン=ゲルラッハ実験を説明する隠れた変数の理論
G.2 棒磁石モデルにおけるCHSH不等式
内容紹介:
今世紀の標準! 次世代を担う物理学徒に向けて、量子力学を根本的に再構成した。原理から本当に理解する15章。
「量子力学は20世紀前半には場の理論を含めて完成を見た。しかしその完成に至るまでの試行錯誤では、現在では間違っていることがわかっている物質波の解釈の仕方や、正確ではなかった不確定性関係の議論もなされていた。そこで本書では、そのような歴史的順序そのままの紆余曲折のある論理を辿らないことにした。一方で、線形的な状態空間やボルン則を用いた確率解釈やシュレディンガー方程式などを天下り的に公理とするスタイルもとらない。代わりに情報理論の観点からの最小限の実験事実に基づいた論理展開で、確率解釈のボルン則や量子的重ね合わせ状態の存在などを証明する。」〈本書「まえがき」より〉
2021年7月12日刊行、304ページ
著者:
堀田 昌寛(ほった まさひろ)
プロフィール: http://www.tuhep.phys.tohoku.ac.jp/profile/hotta.html
Twitter: @hottaqu
1993年東北大学大学院理学研究科博士課程修了。博士(理学)。現在、東北大学大学院理学研究科助教。専門は相対論的量子情報物理学。特に、ブラックホールエントロピー、情報喪失問題。著書に『別冊数理科学 量子情報と時空の物理』(サイエンス社)がある。
理数系書籍のレビュー記事は本書で463冊目。
発売情報として先日記事を書かせていただいた、いま話題の教科書だ。ようやく読み終えることができた。
本書のように説明を展開すれば、これまでの教科書とはまったく違う視点で量子力学を構築することができるのだと納得することができた。
書店で立ち読みされた方は、物理の本ではなく数学の本ではないだろうかという印象を持たれたかもしれないし、最初の数章を読んでいるうちは僕も新井朝雄先生の「ヒルベルト空間と量子力学(紹介記事)」や「量子力学の数学的構造 I、II(紹介記事1,紹介記事2)」のような数理物理系、量子力学を数学的に定式化する本のように感じていた。だから、物理学科の学生がこの本を読むと数学書のように感じると思う。お馴染みのシュレディンガー方程式が登場するのはかなり後になってからである。
しかし、導入部の第1章が「シュテルン-ゲルラッハ実験(1922年)」だから本書が物理学書であるのはまぎれもない事実である。この実験から、本書では二準位系の量子力学の物理現象の理論構築が複素線形代数を道具として使いながら進められていく。
本書では電子や光子など具体的な対象を取り上げていないから、初学者は難しく感じるかもしれない。本書の数式には交換子や反交換子は使われているものの、フェルミオンやボソンという用語さえ使われていない。(巻末の索引にも含まれていない。)
物理系の専門用語、一般用語が書かれていないと、抽象的な話に思えてきて必要以上に難しく感じてしまうものだ。最初でつまずいて投げ出すのがいちばんよくない。
複素線形代数による解説が進むため、数学力が不足している方は、本書を読む前に「量子コンピュータ、量子アルゴリズムを学びたい高校生のために」という記事で紹介しているブルーバックス本で前提知識を仕入れておくとよいだろう。時間がない方は特に「量子コンピュータ―超並列計算のからくり: 竹内繁樹」だけでも読んでおくとよい。線形代数の知識が不足している学生には「線型代数[改訂版]: 長谷川浩司」もお勧めしておく。
量子力学を初めて学ぶ初学者が、1冊目の教科書として読むことができるだろうか?この問いに対する答えは「Yes」でもあり「No」だ。初学者といってもレベルはさまざまであり、数式が書かれている本はすべて難しいと感じる人たちのことは除外しておこう。少なくとも上に紹介しているブルーバックス本や、線形代数の教科書くらいは理解できている初学者を念頭に置く。
ざっくりとした言い方になるが、本書の難易度は「よくわかる量子力学:前野昌弘」や小出先生の教科書、江沢先生の教科書よりはずっと難しく、「現代の量子力学(上) (下) 第2版:J.J. サクライ, J. ナポリターノ」や「量子力学 I、II(紹介記事1、2)」を読んで理解できる人なら読むことができるレベルだと思う。難易度は主観的な尺度だから、人によって違う。
僕が量子力学の教科書として初めて読んだのは「ファインマン物理学 V 量子力学(無料の英語版)」で2006年12月のことだった。当時の自分の状態になりきるのは不可能だが、堀田先生の教科書に当時挑戦していたら、途中で挫折していたということが容易に想像できる。理解できるようになるのは、おそらく「ヒルベルト空間と量子力学:新井朝雄」を読んだ2010年頃のの知識を得るまで待たなければならなかっただろう。
堀田先生によると、これまでの教科書は
(1)「前期量子論+正準量子化」
(2)いくつかの量子力学の公理からスタートして、現象を説明する。
の2つに分けられるそうだ。堀田先生の教科書は、これらとは異なり
(3)最小の実験事実から、量子力学という理論を構築する。
という新しいタイプであるという。
なるほど、前野先生や猪木・川合先生の教科書など、量子力学のほとんどの教科書は(1)のタイプである。そして数理物理系の新井先生の教科書は量子力学の公理からスタートしている(2)のタイプだ。そして後者には量子力学の公理から始める「新版 量子論の基礎:清水明」という教科書もある。
本書の章立ては次のとおりだが、まさにこの章立ての順番が本書が(3)のタイプであることを示している。(詳細目次はこの記事のいちばん最後に載せておく。)
第1章 隠れた変数の理論と量子力学
第2章 二準位系の量子力学
第3章 多準位系の量子力学
第4章 合成系の量子状態
第5章 物理量の相関と量子もつれ
第6章 量子操作および時間発展
第7章 量子測定
第8章 一次元空間の粒子の量子力学
第9章 量子調和振動子
第10章 磁場中の荷電粒子
第11章 粒子の量子的挙動
第12章 空間回転と角運動量演算子
第13章 三次元球対称ポテンシャル問題
第14章 量子情報物理学
第15章 なぜ自然は「量子力学」を選んだのだろうか
付録
第1章の「シュテルン-ゲルラッハ実験(1922年)」を出発点とし、第5章の「物理量の相関と量子もつれ」までのページを割いて量子力学の構築が行われる。これらの章はまた、量子情報理論や量子コンピュータの基礎理論の解説としての役割も果たしている。実験を出発点としつつ、数理物理的な色合いが濃い解説が続いている。
本書で「波動関数の収縮」という用語がでてくるのは第7章、「波動関数」という用語がでてくるのは第8章だ。これらの章に至って、ようやくこれらの概念の物理的意味が明らかにされる。これまでの古いタイプの教科書では波動関数の物理的意味は最後まで解説されないし、波動関数の収縮は解釈不能なまま放っておかれていた。
また「ハイゼンベルク描像」や「シュレディンガー方程式」を「導く」のが第6章である。これまでの教科書では天下りに導入されていたことが、本書では最小の実験事実から導きだされるのである。また、ボルン則を用いた確率解釈についても本書では「公理」として与えるのではなく「導く」ものとして解説している。
「量子は粒であり、波でもある」という解釈を本書は採用していない。量子力学の教科書ではたいてい最初のほうで紹介される「二重スリット実験(参考記事)」が取り上げられるのは、本書の第11章「粒子の量子的挙動」の冒頭だ。この粒子実験における干渉縞の出現は、第2章で解説した二準位スピン系の干渉効果のときと同様、区別できる量子状態の線形重ね合わせがその起源である。ここで波動関数は確率分布の集合でしかない。物理的な実在としてなんらかの波が空間を伝搬して、干渉縞を作っているわけではないことを断言している。
そして、僕にとってまったく新しい知見となったのが第7章の「量子測定」だった。2003年に提唱された「小澤の不等式(解説動画)」が物理学界で話題になったとき、僕は量子力学の教科書の「ハイゼンベルクの不確定性原理」の項目は、将来どのように書き換えられていくのだろうかと疑問に思っていた。それが実際のものとなったのがこの第7章だった。小澤の不等式を解説した科学教養書としては「ハイゼンベルクの顕微鏡~不確定性原理は超えられるか(2005) :石井茂」(紹介記事)が知られている。また、小澤先生ご本人が書いた本では2018年に刊行された「量子と情報 ―量子の実在と不確定性原理―」(Kindle版)が知られている。
測定によって不確定だった物理量は1つに決まる。そのよりどころと考えられている波動関数の収縮は物理的実在ではなく量子状態の収縮、つまり確率分布の収縮なのだ。これは古典的な確率分布でも起きるありふれた過程だ。つまり量子状態が測定によって変化するのは、古典的なさいころの確率分布の更新と本質的に同じである。(詳しい解説)
量子測定の理論的側面は、ほとんど理解できていなかったし、それは量子コンピュータの理論の基礎付けにもなっている。とても有益な学びとなった。
また、第7章を理解したことで今回、「(3)最小の実験事実から、量子力学という理論を構築する。」、「新井先生による量子力学の数学的定式化」、「量子情報理論」の3つの事がらを、自分の頭の中ですっきり結びつけることができた。僕に欠けていたのが量子測定の知識、理解だと気がついた。
第9章から第12章で、ようやくこれまでの量子力学の教科書で学ぶ事がらの解説が始まっている。具体的には「量子調和振動子」、「磁場中の荷電粒子」、「粒子の量子的挙動」、「空間回転と角運動量演算子」、「三次元球対称ポテンシャル問題」など。トンネル効果が解説されるのもこのあたりだ。量子力学を構築してから物理現象を解き明かすという順番だから、本の後半にこれらの解説が展開されているのである。
第14章の「量子情報物理学」は、量子コンピュータや量子テレポーテーションの理論の解説だ。量子コンピュータには2つのタイプがあることが紹介されていて量子論理ゲートの解説がされている。しかし量子アルゴリズムや量子プログラミングまでには踏み込んでいない。この分野は他の本で学んでいたのですっきり理解でき、よい復習ができたと思う。(参考記事:「クラウド量子計算入門: 中山茂:(4) 全体の感想」)近年、数多くの専門書が刊行されている。量子ネイティブ、量子人材を目指すのであれば、他の本を精力的に読む必要があると思う。
第15章の「なぜ自然は「量子力学」を選んだのだろうか」が、いちばん予想外な内容だった。この章は自然哲学的な考察がされていると僕は勝手に想像していたからだ。また(量子情報理論を含む)情報理論は、もともと純粋に数学理論だったわけだが、近年はブラックホールの謎の解明に不可欠な最先端の物理学としての側面がでてきている。超弦理論の「ホログラフィー原理(解説ページ)」でも量子情報が本質的な役割を果たしている。
しかし、第15章で解説されているのはこのような話ではなく、数学的な可能性の話だった。量子力学は、隠れた変数の理論よりも強い相関を持っている。ところが隠れた変数の理論よりも強い相関をもつ数学的な理論は量子力学以外にも無数存在しているという。その無数の可能性の中から、なぜ自然界は量子力学という特別な物理法則を採用したのかということがこの章で解説されていることだ。この謎は現代物理学では解明されていない。この章ではこの問題を扱うのに有用だと考えられている定式化を紹介している。解明の鍵となるのは「情報因果律」という概念が原理となるかどうかということのようだ。
本書は僕にとってとても目新しく、知的刺激に満ちた教科書だった。しかし、これまでの教科書で得た知識は、先入観として頭の中に定着しているから、すっきり頭を切り替えて初学者のように読み進めることができなかったのも事実だ。それは本書を読むうえでの障害であり、同時にこれまでの本とどう違うかを区別して理解するための利点でもある。
今後、本書のような新しいタイプの教科書だけで学び始める量子ネイティブな学生は、どのように理解し量子力学を吸収していくのだろうか?そのような新しい人たちが、研究者になってどのような教科書や教養書を書くようになるのか、気になり始めたところである。
「これまでの教科書」と「新しい教科書」の違いについて、堀田先生は次のようにツイートされている。
「プランク定数ℏは前期量子論のほうが分かりやすかったという意見もあり得ます。20世紀初頭から構築された量子力学ですが、完成した現代的な量子力学の観点から言うと、人類は量子力学の急峻な崖に面した「裏口」から入門してしまっていたという感じなのです。」
「前期量子論で扱っていた面白い物理的現象の勉強は非常に重要ですが、ちゃんとした現代的な量子力学の正面玄関入口から入って、「量子力学とは何か」ということをきちんと理解した後にやるべきことです。その応用的位置づけの中で、前期量子論で出てきた物理現象でのℏの意味も、より深く理解できます。」
裏口から入門する教科書であっても、そのすべてを否定しているのではないということは、巻末の「参考図書リスト」の説明を読んでわかった。参考図書の説明に「他の視点から量子力学を整理し理解することも、より深い理解に繋がると期待される。現在多数の量子力学の優れた教科書が出版されており、その全てを紹介することはできないが、その中から本書の参考にもなったいくつかの教科書を挙げておく。」とお書きになっているからだ。
参考図書リストに挙げているのは10冊であるが、そのうち量子力学の教科書としては次の4冊を挙げ、特長をお書きになっている。(書名をクリックすると紹介記事が開くようにしておいた。)
1)「現代の量子力学(上) (下) 第2版:J.J. サクライ, J. ナポリターノ」
1985年の初版刊行以来、世界中で読まれてきた名著。
2)「新版 量子論の基礎:清水明」
サポートページ:https://as2.c.u-tokyo.ac.jp/lecture_note/qmbook.html
最初に量子力学の原理(公理)を与えて様々な結果を導くすっきりした論理で、定評のある名著。
3)「よくわかる量子力学:前野昌弘」
サポートページ:http://irobutsu.a.la9.jp/mybook/ykwkrQM/ サポート掲示板2
イメージをしやすいように図やグラフを多用しながら、量子力学を修得させる良書。本書や2)のスタイルの教科書では分かった気になれなかった初学者にも推薦する。
4)「量子力学 I、II 猪木・川合(紹介記事1、2)」
質の良い演習問題が多数含まれる良書。
ひとりでも多くの方が本書で学び、新しいタイプの研究者、技術者として育っていくことを僕は期待している。
関連記事:
発売情報:入門 現代の量子力学 量子情報・量子測定を中心として:堀田 昌寛
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/042976ed2104fa539520ca45adbc2b91
量子情報と時空の物理 第2版: 堀田昌寛
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/12f7ead2e710ad2b70955c62a6f268fa
量子とはなんだろう 宇宙を支配する究極のしくみ: 松浦壮
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/22f04399c3fc59c9e20e95531b251935
「入門 現代の量子力学 量子情報・量子測定を中心として:堀田 昌寛」(Kindle版予定あり)(正誤表)
まえがき
記号表
第1章 隠れた変数の理論と量子力学
1.1 はじめに
1.2 シュテルン=ゲルラッハ実験とスピン
1.3 隠れた変数の理論の実験的な否定
第2章 二準位系の量子力学
2.1 測定結果の確率分布
2.2 量子状態の行列表現
2.3 観測確率の公式
2.4 状態ベクトル
2.5 物理量としてのエルミート行列という考え方
2.6 空間回転としてのユニタリー行列
2.7 量子状態の線形重ね合わせ
2.8 確率混合
第3章 多準位系の量子力学
3.1 基準測定
3.2 物理操作としてのユニタリー行列
3.3 一般の物理量の定義
3.4 同時対角化ができるエルミート行列
3.5 量子状態を定める物理量
3.6 N準位系のブロッホ表現
3.7 基準測定におけるボルン則
3.8 一般の物理量の場合のボルン則
3.9 ρ^の非負性
3.10 縮退
3.11 純粋状態と混合状態
第4章 合成系の量子状態
4.1 テンソル積を作る気持ち
4.2 テンソル積の定義
4.3 部分トレース
4.4 状態ベクトルのテンソル積
4.5 多準位系でのテンソル積
4.6 縮約状態
第5章 物理量の相関と量子もつれ
5.1 相関と合成系量子状態
5.2 もつれていない状態
5.3 量子もつれ状態
5.4 相関二乗和の上限
第6章 量子操作および時間発展
6.1 はじめに
6.2 物理操作の数学的表現
6.3 シュタインスプリング表現
6.4 時間発展とシュレディンガー方程式
6.5 磁場中の二準位スピン系のハミルトニアン
6.6 ハイゼンベルグ描像
6.7 対称性と保存則
第7章 量子測定
7.1 はじめに
7.2 測定の設定
7.3 測定後状態
7.4 不確定性関係
第8章 一次元空間の粒子の量子力学
8.1 はじめに
8.2 状態空間次元の無限大極限
8.3 位置演算子と運動量演算子
8.4 運動量演算子の位置表示
8.5 N^の固有状態の位置表示波動関数
8.6 エルミート演算子のエルミート性
8.7 粒子系の基準測定
8.8 粒子の不確定性関係
第9章 量子調和振動子
9.1 ハミルトニアン
9.2 シュレディンガー方程式の位置表示
9.3 伝播関数
第10章 磁場中の荷電粒子
10.1 調和振動子から磁場中の荷電粒子へ
10.2 伝播関数
第11章 粒子の量子的挙動
11.1 自分自身と干渉する
11.2 電場や磁場に触れずとも感じる
11.3 トンネル効果
11.4 ポテンシャル勾配による反射
11.5 離散的束縛状態
11.6 連続準位と離散準位の共存
第12章 空間回転と角運動量演算子
12.1 はじめに
12.2 二準位スピンの角運動量演算子
12.3 角運動量演算子と固有状態
12.4 角運動量の合成
12.5 軌道角運動量
第13章 三次元球対称ポテンシャル問題
13.1 はじめに
13.2 三次元調和振動子
13.3 球対称ポテンシャルのハミルトニアン固有値問題
13.4 角運動量保存則
13.5 クーロンポテンシャルの基底状態
第14章 量子情報物理学
14.1 はじめに
14.2 複製禁止定理
14.3 量子テレポーテーション
14.4 量子計算
第15章 なぜ自然は「量子力学」を選んだのだろうか
15.1 確率分布を用いたCHSH不等式とチレルソン不等式
15.2 ポぺスク=ローリッヒ箱の理論
15.3 情報因果律
15.4 ポペスク=ローリッヒ箱の強さ
付録
A 量子力学におけるチレルソン不等式の導出
B.1 有限次元線形代数
B.2 パウリ行列
C.1 クラウス表現の証明
C.2 クラウス表現を持つΓがシュタインスプリング表現を持つ証明
D.1 フーリエ変換
D.2 デルタ関数
E 角運動量合成の例
F ラプラス演算子の座標変換
G.1 シュテルン=ゲルラッハ実験を説明する隠れた変数の理論
G.2 棒磁石モデルにおけるCHSH不等式