「時間とはなんだろう 最新物理学で探る「時」の正体: 松浦壮」(Kindle版)
内容紹介:
誰にでも同じように流れて、逆回しにできないもの―普段思い描く時間の姿は、実はごく限られた一面。最先端の物理学では、時間は、“空間・物質・力を含む巨大な構造の一部”と考えられはじめています。ニュートン力学、カオス、特殊相対性理論、一般相対性理論、電磁気学、場の量子論、超弦理論…物理学の歴史を辿っていくと、美しく壮大な、時間の真の姿が見えてくる!
2017年9月20日刊行、229ページ。
松浦先生の著書: 単行本を検索 Kindle版を検索
著者について:
松浦 壮: 教員紹介: http://www.fbc.keio.ac.jp/professorate/staff_list/matsuurasou/index.html
Twitter: @a02matsu
1974年生まれ。1998年、京都大学理学部卒業。2003年、京都大学大学院で博士号(理学)を取得。その後、素粒子物理学者として日本、デンマーク、ポーランドの研究機関を渡り歩き、2009年、慶應義塾大学商学部勤務、2016年から同大学教授。研究テーマは、超弦理論と数値シミュレーションによる超対称ゲージ理論の解析。研究の傍ら、自然科学を専門にしない学生を対象に物理学の講義をおこなう。趣味は、武術(合気道他)、水泳、クラシックギターなど。著書に『宇宙を動かす力は何か』(新潮新書)がある。
松浦 壮 SO MATSUURA | 現代ビジネス
https://gendai.ismedia.jp/list/author/somatsuura
理数系書籍のレビュー記事は本書で438冊目。
「時間論」と聞くと、気になって仕方がない。今回も手を出してしまった。著者は先日ツイッターをフォローさせていただいた松浦先生だ。3月21日から22日にかけて「24時間ではしりぬける物理」という連続講義をYouTubeで行なって話題になった小林晋平先生と、学生時代からの友人だそうである。
時間論そのものが気になったほか、僕が本書を読みたいと思ったことには、もうひとつ理由がある。それは、松浦先生が慶応大学で文系の学生に物理学を教えていらっしゃることだ。
このような理系ブログを書いている身としては、数式を使わず、どのように現代物理学や数学の面白さを伝えるかということに、頭を悩ませている。日常的に文系学生を相手に教鞭をとられている松浦先生は、そのノウハウをお持ちだろうと、勝手に思い込んでいた。(本書を読んで、その期待は裏切られなかった。)
章立てを見ると第1章から第5章までは、すべて学んだこと、知っていることだと想像がつく。数式でも学んでいるし、科学教養書でもガリレイ、ニュートンからアインシュタインの相対論、量子力学までは、何種類も読んでいる。
ニュートン力学、分子運動論、電磁気学、相対論、量子力学について言えば、ブルーバックスだけでもこれまで、いくつもの名著が出版されている。同じテーマで書くとしたら、棲み分けをするための工夫が求められる。だから、知識を得ることだけが目的ならば、第5章までは読まなくてもよいはずなのだ。
しかし、僕の目的は違う。文系学生にどのように伝えればよいか、自分のブログではどのように書けばよいかということへのヒントを得たいのだから、全部通しで読むのが当然である。
章立ては、次のとおりだ。
第1章 時を数えるということ
第2章 古典的時間観 ――ガリレオとニュートンが生み出したもの
第3章 時間の方向を決めるもの ――「時間の矢」の問題
第4章 光が導く新しい時間観の夜明け ―― 特殊相対性理論
第5章 揺れ動く時空と重力の正体 ―― 一般相対性理論
第6章 時空を満たす「場」の働き ―― マクスウェルの理論と量子としての光
第7章 ミクロ世界の力と物質 ―― 全ては量子場でできている
第8章 量子重力という名の大統一 ―― 時間とはなんだろう?
読んでみると、やはり第5章までは少々退屈だった。目新しいのは「時間」に軸を置いて解説を進めているところ。とはいっても、「時間」への考察をし続けているわけではない。科学書を読み慣れている人であれば、流し読みをしても大丈夫だと思った。
相対論や量子力学を全く知らない読者が読むとしたら、ということを念頭に読んでみた。すると、同じ文章が違ったものに見えるのだ。ああ、こういうところに気を配っているなとか、話と話のつながりを大切にしていること、読者が疑問に思うことを想定してお書きになっていることがわかる。
科学書を読み慣れている僕が、興味深いと思えてきたのは第6章に入ってからである。場の量子論、量子電磁力学、経路積分、繰り込み理論、有効理論などを、易しく紹介した科学教養書はほとんどない。このあたりを、数式をまったく使わずに解説しているのが、とても参考になった。特に、それが「時間」というものの本質に向かう道筋で繰り広げられている。
力学、電磁気学、分子運動論、相対論、量子力学それぞれ、個別の理論をわかりやすく解説することは大切だ。そして読者の興味を喚起し、つなぎとめるためには、考察を積み重ね、それぞれの関係を明らかにしていくことである。このあたりは高校物理では教えられていない。それを数式を使って実践して見せてくれたのが、小林晋平先生の「24時間ではしりぬける物理」なのだと思う。
また、ご専門が「超弦理論と数値シミュレーションによる超対称ゲージ理論の解析」である松浦先生は、弦理論についての解説が素晴らしかった。超弦理論ではなく、弦理論をいう用語を選んだことにも、玄人らしさを感じた。
とどのつまり、時間とは何であろうか?
アインシュタインの4次元時空の発見により、時間は空間と結びついていること、一般相対性理論により、4次元時空は物質や重力とも関連をもつものであることがわかる。つまり、時間は空間や物質、重力とは切り離して考えられないものである。そして、これはマクロな視点に立つ時間の理解だ。
ミクロな視点、量子論、場の量子論、そして弦理論から見た時間とはどのようなものだろうか?本書では、詳しくこの点についての考察も紹介されている。
「大栗先生の超弦理論入門」によれば、空間は幻想ということになる。そしておそらく時間もそうだということが示唆されている。ミクロの世界でおこっている「何か」によって、マクロな世界に生きる私たちが、空間や時間として感じているのである。
そのカギを握っているのが(超弦理論を含む)量子重力理論だということも、僕は知っていた。知っていても松浦先生による解説は、テンポがよく要点をつかんでいるので、とても面白く読むことができた。
本書は全体的に図版が少ない。言葉の力をとても大切にされている先生なのだと思った。「あとがき」には、本書に盛り込みたい話題が、まだまだたくさんあったと先生はお書きになっている。ページ数に限りがあるから仕方のないことなのだが、僕としても割愛されたテーマの説明を読んでみたいと思った。
それらはいずれ、別の本として刊行されるのかもしれないが、話の流れを重視しながら書いていく科学教養書として、ひとつの形にまとめるのは大変だろうなとも思った。
ブルーバックスの他の物理系書籍の中では、読みやすい本だと思う。ぜひ書店でお手にとってみていただきたい。
以下は、週刊朝日に掲載された永江朗さんによる書評である。参考にしていただきたい。
最先端の時間論
目に見えないものについて考えるのは難しい。文字にしたり図にしたりして考えてみるが、なかなかうまくいかない。それこそ雲をつかむよう。
しかし、だからこそ古代から人間はその種の問いにとりつかれてきた。松浦壮の『時間とはなんだろう』が多くの人に読まれているのも、根底に普遍的な知的欲求があるからだろう。
本書は素朴で古典的な時間観から現代の物理学の最先端までを、一気に、そして平易に解説する。ありがたいことに、難しい数式はほとんど出てこない。そのかわりにイラストが説明してくれる。
空間と重力と時間。宇宙と時間。ぼくたちの日常の感覚では、それぞれ別のもの。ところが物理学が進歩するにつれ、それらは密接にかかわっていることがわかってくる。時間観の歴史は、科学的な発見の歴史だ。
〈時間をその内に含む「時空」は、それ自体が揺れ動く動的な存在であると同時に、その各点各点に複数の内部空間として「場」を備え、私たちの目には、場の量子振動が素粒子として、そして、場の共振が素粒子間に働く力として映る〉という文章が、最終章に出てくる。
時間はぼくたちの外にあるものかと思いきや、すべての物質のなかのミクロな領域のなかにあるというのである。しかもこのミクロな領域は、光年の彼方にある星も、ぼくたちの身体も同じ。壮大すぎてイメージできない。
いきなり最終章だけ読むと「はあ?」ってな感じなのだが、第1章から順番にていねいに読んでいくと、「なるほど」と思う。腑に落ちたときの快感がたまらない。考えることの醍醐味だ。
関連書籍:
さて、今回紹介した本は、松浦先生にとって2冊目だというこを後から知った。1冊目はこの本である。目次を見る限り、こちらを先に読めばよかったと後悔した。
「宇宙を動かす力は何か 日常から観る物理の話: 松浦壮」(Kindle版)
そして、松浦先生による3冊目の本は、6月18日に刊行されるこの本である。Kindle版はまだAmazonのリンクが決まっていないため、検索用リンクとしてつけておいた。
「量子とはなんだろう 宇宙を支配する究極のしくみ: 松浦壮」(Kindle版)
松浦先生の本が刊行されたのは2017年である。そして、同じテーマの本が今年ブルーバックスから刊行された。著者は吉田伸夫先生である。この本も気になるので、読んで紹介しようと思う。優劣をつけるためではなく、どのような棲み分け、違いがあるのか気になっている。
「時間はどこから来て、なぜ流れるのか? : 吉田伸夫」(Kindle版)
関連記事:
時間は存在しない: カルロ・ロヴェッリ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/55f4ffc2e5f45add46dea97086bb3aed
時:渡辺慧
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d149cf16bb9dd319f572e4228fdfe241
深層学習と時空:橋本幸士先生 #MathPower
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bf7e7e661246866943c765bdd371248f
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「時間とはなんだろう 最新物理学で探る「時」の正体: 松浦壮」(Kindle版)
はじめに
第1章 時を数えるということ
- 今何時?
- 時計とは何だろう?
- 時の流れを感じるということ
- 時の流れを記録するということ
- 正直な感想
- 時の数え方
- それ、本当に大丈夫?
- 時間という仮説
第2章 古典的時間観 ――ガリレオとニュートンが生み出したもの
- 実験の精神
- 絶対的に止まっている
- 運動の舞台
- 経験から原理へ
- 慣性 ~相対性原理の顕れ~
- 力と質量と加速度と
- 力とは、ものの間の相互作用
- 抽象化の威力
- 運動法則が語る時間像
第3章 時間の方向を決めるもの ――「時間の矢」の問題
- 時間と運動の狭間に
- 時間は巻き戻せる?
- 「可能性」の数え上げ
- まだ分かっていないこと
- 何かが足りない
- 混沌であるが故に
- 時間は可能性の方向に
- 私たちが感じる「時間」の本質は?
第4章 光が導く新しい時間観の夜明け ―― 特殊相対性理論
- 光は速いというけれど
- 光は波?粒子?
- 光の正体
- マイケルソンとモーレーの憂鬱
- 世紀末のジレンマ
- アインシュタインの一点突破
- 葛藤と決断
- 絶対時間から相対時間へ
- 机上の空論を超えて
- 「時間方向」という視点
- 時空と距離
- 時間の遅れが示すこと ~時間と空間の一体性~
第5章 揺れ動く時空と重力の正体 ―― 一般相対性理論
- 一般化された相対性原理
- それは絵に描いた餅?
- 慣性力
- 何かに似ている...
- どちらが本当の慣性系?
- それは光の挙動から
- 重力による時間の遅れ
- 等価原理を時空で見ると...時空は曲がっている!
- 一般相対性原理、ここに復活!
- 時間の別名、重力
- 一般相対性理論が語る時間の正体
- 道半ば
第6章 時空を満たす「場」の働き ―― マクスウェルの理論と量子としての光
- 「力」をよくよく見てみると
- 局所性のアイディア
- 局所性の実現 ~「場」というアイディア~
- 磁石は電荷の流れから
- 発電の仕組み
- マクスウェルの一撃
- 静電気の正体
- 電場と磁場の波
- アインシュタインの見た夢
- もうひとつのジレンマ
- ジレンマの解決
- 波と粒子の二重性
- 光は量子である
第7章 ミクロ世界の力と物質 ―― 全ては量子場でできている
- 原子のミステリー
- 原子が出す光
- 光はエネルギーの運び役
- 「飛び飛び」が意味すること
- ボーアの量子条件
- 粒子は量子のハーモニー
- 量子の真骨頂
- 電子もお前もか! ~電子もまた量子である~
- 「存在しやすさ」の波
- 量子は波?粒子?
- 量子の波は何の波?
- 力も量子のハーモニー
- 量子場が織りなす物質世界
第8章 量子重力という名の大統一 ―― 時間とはなんだろう?
- 旅路を振り返って
- 古典の時空に量子の場
- 繰り込みと有効理論
- 一般相対性理論は有効理論
- 「宇宙とは何だろう?」
- 時間でも空間でもない「何か」
- 弦理論というアプローチ
- 弦理論は発展途上
- 時空と場は行列でできている?
- 時間・空間・物質・力のDNAを求めて
おわりに
参考文献
内容紹介:
誰にでも同じように流れて、逆回しにできないもの―普段思い描く時間の姿は、実はごく限られた一面。最先端の物理学では、時間は、“空間・物質・力を含む巨大な構造の一部”と考えられはじめています。ニュートン力学、カオス、特殊相対性理論、一般相対性理論、電磁気学、場の量子論、超弦理論…物理学の歴史を辿っていくと、美しく壮大な、時間の真の姿が見えてくる!
2017年9月20日刊行、229ページ。
松浦先生の著書: 単行本を検索 Kindle版を検索
著者について:
松浦 壮: 教員紹介: http://www.fbc.keio.ac.jp/professorate/staff_list/matsuurasou/index.html
Twitter: @a02matsu
1974年生まれ。1998年、京都大学理学部卒業。2003年、京都大学大学院で博士号(理学)を取得。その後、素粒子物理学者として日本、デンマーク、ポーランドの研究機関を渡り歩き、2009年、慶應義塾大学商学部勤務、2016年から同大学教授。研究テーマは、超弦理論と数値シミュレーションによる超対称ゲージ理論の解析。研究の傍ら、自然科学を専門にしない学生を対象に物理学の講義をおこなう。趣味は、武術(合気道他)、水泳、クラシックギターなど。著書に『宇宙を動かす力は何か』(新潮新書)がある。
松浦 壮 SO MATSUURA | 現代ビジネス
https://gendai.ismedia.jp/list/author/somatsuura
理数系書籍のレビュー記事は本書で438冊目。
「時間論」と聞くと、気になって仕方がない。今回も手を出してしまった。著者は先日ツイッターをフォローさせていただいた松浦先生だ。3月21日から22日にかけて「24時間ではしりぬける物理」という連続講義をYouTubeで行なって話題になった小林晋平先生と、学生時代からの友人だそうである。
時間論そのものが気になったほか、僕が本書を読みたいと思ったことには、もうひとつ理由がある。それは、松浦先生が慶応大学で文系の学生に物理学を教えていらっしゃることだ。
このような理系ブログを書いている身としては、数式を使わず、どのように現代物理学や数学の面白さを伝えるかということに、頭を悩ませている。日常的に文系学生を相手に教鞭をとられている松浦先生は、そのノウハウをお持ちだろうと、勝手に思い込んでいた。(本書を読んで、その期待は裏切られなかった。)
章立てを見ると第1章から第5章までは、すべて学んだこと、知っていることだと想像がつく。数式でも学んでいるし、科学教養書でもガリレイ、ニュートンからアインシュタインの相対論、量子力学までは、何種類も読んでいる。
ニュートン力学、分子運動論、電磁気学、相対論、量子力学について言えば、ブルーバックスだけでもこれまで、いくつもの名著が出版されている。同じテーマで書くとしたら、棲み分けをするための工夫が求められる。だから、知識を得ることだけが目的ならば、第5章までは読まなくてもよいはずなのだ。
しかし、僕の目的は違う。文系学生にどのように伝えればよいか、自分のブログではどのように書けばよいかということへのヒントを得たいのだから、全部通しで読むのが当然である。
章立ては、次のとおりだ。
第1章 時を数えるということ
第2章 古典的時間観 ――ガリレオとニュートンが生み出したもの
第3章 時間の方向を決めるもの ――「時間の矢」の問題
第4章 光が導く新しい時間観の夜明け ―― 特殊相対性理論
第5章 揺れ動く時空と重力の正体 ―― 一般相対性理論
第6章 時空を満たす「場」の働き ―― マクスウェルの理論と量子としての光
第7章 ミクロ世界の力と物質 ―― 全ては量子場でできている
第8章 量子重力という名の大統一 ―― 時間とはなんだろう?
読んでみると、やはり第5章までは少々退屈だった。目新しいのは「時間」に軸を置いて解説を進めているところ。とはいっても、「時間」への考察をし続けているわけではない。科学書を読み慣れている人であれば、流し読みをしても大丈夫だと思った。
相対論や量子力学を全く知らない読者が読むとしたら、ということを念頭に読んでみた。すると、同じ文章が違ったものに見えるのだ。ああ、こういうところに気を配っているなとか、話と話のつながりを大切にしていること、読者が疑問に思うことを想定してお書きになっていることがわかる。
科学書を読み慣れている僕が、興味深いと思えてきたのは第6章に入ってからである。場の量子論、量子電磁力学、経路積分、繰り込み理論、有効理論などを、易しく紹介した科学教養書はほとんどない。このあたりを、数式をまったく使わずに解説しているのが、とても参考になった。特に、それが「時間」というものの本質に向かう道筋で繰り広げられている。
力学、電磁気学、分子運動論、相対論、量子力学それぞれ、個別の理論をわかりやすく解説することは大切だ。そして読者の興味を喚起し、つなぎとめるためには、考察を積み重ね、それぞれの関係を明らかにしていくことである。このあたりは高校物理では教えられていない。それを数式を使って実践して見せてくれたのが、小林晋平先生の「24時間ではしりぬける物理」なのだと思う。
また、ご専門が「超弦理論と数値シミュレーションによる超対称ゲージ理論の解析」である松浦先生は、弦理論についての解説が素晴らしかった。超弦理論ではなく、弦理論をいう用語を選んだことにも、玄人らしさを感じた。
とどのつまり、時間とは何であろうか?
アインシュタインの4次元時空の発見により、時間は空間と結びついていること、一般相対性理論により、4次元時空は物質や重力とも関連をもつものであることがわかる。つまり、時間は空間や物質、重力とは切り離して考えられないものである。そして、これはマクロな視点に立つ時間の理解だ。
ミクロな視点、量子論、場の量子論、そして弦理論から見た時間とはどのようなものだろうか?本書では、詳しくこの点についての考察も紹介されている。
「大栗先生の超弦理論入門」によれば、空間は幻想ということになる。そしておそらく時間もそうだということが示唆されている。ミクロの世界でおこっている「何か」によって、マクロな世界に生きる私たちが、空間や時間として感じているのである。
そのカギを握っているのが(超弦理論を含む)量子重力理論だということも、僕は知っていた。知っていても松浦先生による解説は、テンポがよく要点をつかんでいるので、とても面白く読むことができた。
本書は全体的に図版が少ない。言葉の力をとても大切にされている先生なのだと思った。「あとがき」には、本書に盛り込みたい話題が、まだまだたくさんあったと先生はお書きになっている。ページ数に限りがあるから仕方のないことなのだが、僕としても割愛されたテーマの説明を読んでみたいと思った。
それらはいずれ、別の本として刊行されるのかもしれないが、話の流れを重視しながら書いていく科学教養書として、ひとつの形にまとめるのは大変だろうなとも思った。
ブルーバックスの他の物理系書籍の中では、読みやすい本だと思う。ぜひ書店でお手にとってみていただきたい。
以下は、週刊朝日に掲載された永江朗さんによる書評である。参考にしていただきたい。
最先端の時間論
目に見えないものについて考えるのは難しい。文字にしたり図にしたりして考えてみるが、なかなかうまくいかない。それこそ雲をつかむよう。
しかし、だからこそ古代から人間はその種の問いにとりつかれてきた。松浦壮の『時間とはなんだろう』が多くの人に読まれているのも、根底に普遍的な知的欲求があるからだろう。
本書は素朴で古典的な時間観から現代の物理学の最先端までを、一気に、そして平易に解説する。ありがたいことに、難しい数式はほとんど出てこない。そのかわりにイラストが説明してくれる。
空間と重力と時間。宇宙と時間。ぼくたちの日常の感覚では、それぞれ別のもの。ところが物理学が進歩するにつれ、それらは密接にかかわっていることがわかってくる。時間観の歴史は、科学的な発見の歴史だ。
〈時間をその内に含む「時空」は、それ自体が揺れ動く動的な存在であると同時に、その各点各点に複数の内部空間として「場」を備え、私たちの目には、場の量子振動が素粒子として、そして、場の共振が素粒子間に働く力として映る〉という文章が、最終章に出てくる。
時間はぼくたちの外にあるものかと思いきや、すべての物質のなかのミクロな領域のなかにあるというのである。しかもこのミクロな領域は、光年の彼方にある星も、ぼくたちの身体も同じ。壮大すぎてイメージできない。
いきなり最終章だけ読むと「はあ?」ってな感じなのだが、第1章から順番にていねいに読んでいくと、「なるほど」と思う。腑に落ちたときの快感がたまらない。考えることの醍醐味だ。
関連書籍:
さて、今回紹介した本は、松浦先生にとって2冊目だというこを後から知った。1冊目はこの本である。目次を見る限り、こちらを先に読めばよかったと後悔した。
「宇宙を動かす力は何か 日常から観る物理の話: 松浦壮」(Kindle版)
そして、松浦先生による3冊目の本は、6月18日に刊行されるこの本である。Kindle版はまだAmazonのリンクが決まっていないため、検索用リンクとしてつけておいた。
「量子とはなんだろう 宇宙を支配する究極のしくみ: 松浦壮」(Kindle版)
松浦先生の本が刊行されたのは2017年である。そして、同じテーマの本が今年ブルーバックスから刊行された。著者は吉田伸夫先生である。この本も気になるので、読んで紹介しようと思う。優劣をつけるためではなく、どのような棲み分け、違いがあるのか気になっている。
「時間はどこから来て、なぜ流れるのか? : 吉田伸夫」(Kindle版)
関連記事:
時間は存在しない: カルロ・ロヴェッリ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/55f4ffc2e5f45add46dea97086bb3aed
時:渡辺慧
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d149cf16bb9dd319f572e4228fdfe241
深層学習と時空:橋本幸士先生 #MathPower
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bf7e7e661246866943c765bdd371248f
メルマガを書いています。(目次一覧)
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「時間とはなんだろう 最新物理学で探る「時」の正体: 松浦壮」(Kindle版)
はじめに
第1章 時を数えるということ
- 今何時?
- 時計とは何だろう?
- 時の流れを感じるということ
- 時の流れを記録するということ
- 正直な感想
- 時の数え方
- それ、本当に大丈夫?
- 時間という仮説
第2章 古典的時間観 ――ガリレオとニュートンが生み出したもの
- 実験の精神
- 絶対的に止まっている
- 運動の舞台
- 経験から原理へ
- 慣性 ~相対性原理の顕れ~
- 力と質量と加速度と
- 力とは、ものの間の相互作用
- 抽象化の威力
- 運動法則が語る時間像
第3章 時間の方向を決めるもの ――「時間の矢」の問題
- 時間と運動の狭間に
- 時間は巻き戻せる?
- 「可能性」の数え上げ
- まだ分かっていないこと
- 何かが足りない
- 混沌であるが故に
- 時間は可能性の方向に
- 私たちが感じる「時間」の本質は?
第4章 光が導く新しい時間観の夜明け ―― 特殊相対性理論
- 光は速いというけれど
- 光は波?粒子?
- 光の正体
- マイケルソンとモーレーの憂鬱
- 世紀末のジレンマ
- アインシュタインの一点突破
- 葛藤と決断
- 絶対時間から相対時間へ
- 机上の空論を超えて
- 「時間方向」という視点
- 時空と距離
- 時間の遅れが示すこと ~時間と空間の一体性~
第5章 揺れ動く時空と重力の正体 ―― 一般相対性理論
- 一般化された相対性原理
- それは絵に描いた餅?
- 慣性力
- 何かに似ている...
- どちらが本当の慣性系?
- それは光の挙動から
- 重力による時間の遅れ
- 等価原理を時空で見ると...時空は曲がっている!
- 一般相対性原理、ここに復活!
- 時間の別名、重力
- 一般相対性理論が語る時間の正体
- 道半ば
第6章 時空を満たす「場」の働き ―― マクスウェルの理論と量子としての光
- 「力」をよくよく見てみると
- 局所性のアイディア
- 局所性の実現 ~「場」というアイディア~
- 磁石は電荷の流れから
- 発電の仕組み
- マクスウェルの一撃
- 静電気の正体
- 電場と磁場の波
- アインシュタインの見た夢
- もうひとつのジレンマ
- ジレンマの解決
- 波と粒子の二重性
- 光は量子である
第7章 ミクロ世界の力と物質 ―― 全ては量子場でできている
- 原子のミステリー
- 原子が出す光
- 光はエネルギーの運び役
- 「飛び飛び」が意味すること
- ボーアの量子条件
- 粒子は量子のハーモニー
- 量子の真骨頂
- 電子もお前もか! ~電子もまた量子である~
- 「存在しやすさ」の波
- 量子は波?粒子?
- 量子の波は何の波?
- 力も量子のハーモニー
- 量子場が織りなす物質世界
第8章 量子重力という名の大統一 ―― 時間とはなんだろう?
- 旅路を振り返って
- 古典の時空に量子の場
- 繰り込みと有効理論
- 一般相対性理論は有効理論
- 「宇宙とは何だろう?」
- 時間でも空間でもない「何か」
- 弦理論というアプローチ
- 弦理論は発展途上
- 時空と場は行列でできている?
- 時間・空間・物質・力のDNAを求めて
おわりに
参考文献