「かがみの孤城: 辻村深月」(Kindle版)
内容:
鏡の世界で謎を追う不登校児 大人と子どもの目が共存する救いの物語
大人である現在の自分と、子どもだったあの頃の自分の両方を、同時に、ここまで慰め、励ましてくれる小説なんてはじめてだ。辻村深月の新作『かがみの孤城』のことである。
中学一年生のこころは、ある出来事を機に学校へ行けなくなり、いつも家で過ごしている。ある日一人で家にいると、部屋の鏡が突然輝き始め、潜り抜けてみると、そこは城の中だった。集められたのはこころを含め、似た境遇にいるらしき中学生が七人。九時から十七時まで滞在が許されるその城で、彼らにはひとつの課題が出される。猶予は一年。戸惑いながらも七人は、少しずつ心を通い合わせていくのだが……。
少年少女が異世界の建物の中で謎を追う設定は、著者のデビュー作『冷たい校舎の時は止まる』と同じ。ああ、久々に初期の頃のような青春小説を書いたのだな……と思いながら読み進めた。自分も思春期にこんなふうに傷ついていたなと思い出すというより、自分があの頃傷ついたのは、こういうことだったのか、と気づかせる描写の巧さに唸る。だが途中で、それだけではないと気づいた。これは、あの頃の気持ちを失わないまま、かつ、大人としての目を持ち合わせるようになった今の著者だからこそ書ける作品なのだ。泣けるのは娘を理解しようと手探りする母親の戸惑いや怒りや喜びが、それに無自覚なこころの目を通しながらもありありと伝わってくる点。子どもが大人に望むことはもちろん、大人が子どもに対して思うことを、こんなふうに巧みに表現してのけるとは。
大人も子どもも、みんなが関係を構築していこうとしている。その部分だけでも充分読ませるが、もちろんミステリーパートも秀逸で、孤城の秘密がすべて明かされていく終盤は驚きの連続。それがまた、胸をしめつける真相だ。救いを求める側から救う側へとなった時、人は本当に救われるのだとも気づかせてくれる一冊である。
評者:瀧井 朝世
あなたを、助けたい。
学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた――
なぜこの7人が、なぜこの場所に。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。
生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。一気読み必至の著者最高傑作。
著者について:
辻村深月
1980年2月29日生まれ。千葉大学教育学部卒業。2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。『ツナグ』(新潮社)で第32回吉川英治文学新人賞を、『鍵のない夢を見る』(文藝春秋)で第147回直木三十五賞を受賞。
2017年5月刊行、554ページ。
辻村深月さんの著書: Amazonで検索
友達との関係に傷ついて中学に行けなくなった「こころ」という中学1年生の女の子を主人公にした物語。部屋に置かれた不思議な鏡に入ると、なんとそこは城の中。学校へ行けなくなった6人の中学生がそこにいた。こころを含め、7人の中学生が少しずつ交流を深めながら物語は鏡の中の世界と現実世界で進行していく。
本書を読むことにしたのは表紙の不思議な絵に興味をもったこと、そして今年の「本屋大賞」で1位になった本であること。ただそれだけだ。内容は本を買った後にAmazonの紹介で知った。
中学生の頃に何を思い、何に傷ついていたかはほとんど覚えていない。僕は田原俊彦さんや三原じゅん子さんが中学生を演じていた金八先生の第1シリーズの世代だから無理もないことだろう。いまの中学生が学校でどのようなことを感じながら生活しているかはほとんど知らない。ときどき報道されるいじめによる自殺やフリースクールに関するニュースを通じて、ほんの一面を知ることができているくらいだ。
もちろん僕が中学生だった頃にもいじめはあったし、学校に来ない「登校拒否児」はいた。でも、それはほんの一部の生徒のことだったし、本当のところは学校に行くのを拒否していたのではなく、行きたくても行けなかったのだと思う。その後「登校拒否児」という無神経な呼び方は改められ「不登校児」という呼び方が一般的になっている。
この不思議な孤城には中学生たちのほか「オオカミ様」と呼ばれる女の子がいた。この城の主のような存在。お人形のようなフリルのドレスを着て、顔にはオオカミのお面をつけている。7人の中学生が城で過ごす間は、彼らに君臨し、命令する絶対的な存在である。掟を破ると中学生たちには死が訪れるらしい。
ファンタジーと感傷、不気味さの入り混じった設定は、読むものをぐいぐい引き付ける。今の中学生や高校生の生活や気持ちがよくわかる人なら、最初から没頭できる本なのだと思う。つまり僕は没頭できなかった。
7人の中学生が抱えるそれぞれの悩みは頭では理解できる。でも、社会に出るともっと厳しい現実と何度も向き合うことになるのだから、そのくらいのことでで傷ついていてどうするの?と思い、共感できないのだ。「星の王子さま」ではないけれど、僕も子供の感情が理解できない大人になってしまったのだなぁと思った。子供相手のカウンセラーなどできそうもない。
謎解きの要素をもったこの本を紹介するのは難しい。僕は紹介記事を書くことでブログの読者に本を読んでもらいたいわけだから、ネタバレは厳禁なのだ。Amazonのレビューを読むと、本書の半分くらいのところで謎が解けたと書いている人を見かけるが、僕はには無理だった。3分の2くらい進んだところで「あ、もしかしたら!」と謎が少し解けた程度だ。
多感な中学生の気持がわかる人には最初から最後まで癒しを得ることができる本、僕のように鈍感な大人になってしまった人には、最後の4分の3ほど読み進んだあたりから癒しと感動が得られる本である。
SFっぽい物語の設定は少しずつ明かされていく。そして最後の4分の1でドラマチックに物語は展開し、謎と謎が整合して中学生がなぜこの城で出会うことになったのか、彼らが何を見つけ、現実の世界でどう行動すべきかが明かされていく。そして最後に「オオカミ様」が何者なのかがわかったとき「ああ、この本を読んでよかった。」と(鈍感な僕でも)感動してしまうのだ。
Amazonの紹介にある「救いを求める側から救う側へとなった時、人は本当に救われるのだとも気づかせてくれる一冊」という言葉が、本書から得られる感動を凝縮している。
理数系の読者の方にもお伝えしておくが、この不思議な物語の設定には理数系的要素も使われている。ぜひお読みいただきたい。
「かがみの孤城: 辻村深月」(Kindle版)
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内容:
鏡の世界で謎を追う不登校児 大人と子どもの目が共存する救いの物語
大人である現在の自分と、子どもだったあの頃の自分の両方を、同時に、ここまで慰め、励ましてくれる小説なんてはじめてだ。辻村深月の新作『かがみの孤城』のことである。
中学一年生のこころは、ある出来事を機に学校へ行けなくなり、いつも家で過ごしている。ある日一人で家にいると、部屋の鏡が突然輝き始め、潜り抜けてみると、そこは城の中だった。集められたのはこころを含め、似た境遇にいるらしき中学生が七人。九時から十七時まで滞在が許されるその城で、彼らにはひとつの課題が出される。猶予は一年。戸惑いながらも七人は、少しずつ心を通い合わせていくのだが……。
少年少女が異世界の建物の中で謎を追う設定は、著者のデビュー作『冷たい校舎の時は止まる』と同じ。ああ、久々に初期の頃のような青春小説を書いたのだな……と思いながら読み進めた。自分も思春期にこんなふうに傷ついていたなと思い出すというより、自分があの頃傷ついたのは、こういうことだったのか、と気づかせる描写の巧さに唸る。だが途中で、それだけではないと気づいた。これは、あの頃の気持ちを失わないまま、かつ、大人としての目を持ち合わせるようになった今の著者だからこそ書ける作品なのだ。泣けるのは娘を理解しようと手探りする母親の戸惑いや怒りや喜びが、それに無自覚なこころの目を通しながらもありありと伝わってくる点。子どもが大人に望むことはもちろん、大人が子どもに対して思うことを、こんなふうに巧みに表現してのけるとは。
大人も子どもも、みんなが関係を構築していこうとしている。その部分だけでも充分読ませるが、もちろんミステリーパートも秀逸で、孤城の秘密がすべて明かされていく終盤は驚きの連続。それがまた、胸をしめつける真相だ。救いを求める側から救う側へとなった時、人は本当に救われるのだとも気づかせてくれる一冊である。
評者:瀧井 朝世
あなたを、助けたい。
学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた――
なぜこの7人が、なぜこの場所に。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。
生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。一気読み必至の著者最高傑作。
著者について:
辻村深月
1980年2月29日生まれ。千葉大学教育学部卒業。2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。『ツナグ』(新潮社)で第32回吉川英治文学新人賞を、『鍵のない夢を見る』(文藝春秋)で第147回直木三十五賞を受賞。
2017年5月刊行、554ページ。
辻村深月さんの著書: Amazonで検索
友達との関係に傷ついて中学に行けなくなった「こころ」という中学1年生の女の子を主人公にした物語。部屋に置かれた不思議な鏡に入ると、なんとそこは城の中。学校へ行けなくなった6人の中学生がそこにいた。こころを含め、7人の中学生が少しずつ交流を深めながら物語は鏡の中の世界と現実世界で進行していく。
本書を読むことにしたのは表紙の不思議な絵に興味をもったこと、そして今年の「本屋大賞」で1位になった本であること。ただそれだけだ。内容は本を買った後にAmazonの紹介で知った。
中学生の頃に何を思い、何に傷ついていたかはほとんど覚えていない。僕は田原俊彦さんや三原じゅん子さんが中学生を演じていた金八先生の第1シリーズの世代だから無理もないことだろう。いまの中学生が学校でどのようなことを感じながら生活しているかはほとんど知らない。ときどき報道されるいじめによる自殺やフリースクールに関するニュースを通じて、ほんの一面を知ることができているくらいだ。
もちろん僕が中学生だった頃にもいじめはあったし、学校に来ない「登校拒否児」はいた。でも、それはほんの一部の生徒のことだったし、本当のところは学校に行くのを拒否していたのではなく、行きたくても行けなかったのだと思う。その後「登校拒否児」という無神経な呼び方は改められ「不登校児」という呼び方が一般的になっている。
この不思議な孤城には中学生たちのほか「オオカミ様」と呼ばれる女の子がいた。この城の主のような存在。お人形のようなフリルのドレスを着て、顔にはオオカミのお面をつけている。7人の中学生が城で過ごす間は、彼らに君臨し、命令する絶対的な存在である。掟を破ると中学生たちには死が訪れるらしい。
ファンタジーと感傷、不気味さの入り混じった設定は、読むものをぐいぐい引き付ける。今の中学生や高校生の生活や気持ちがよくわかる人なら、最初から没頭できる本なのだと思う。つまり僕は没頭できなかった。
7人の中学生が抱えるそれぞれの悩みは頭では理解できる。でも、社会に出るともっと厳しい現実と何度も向き合うことになるのだから、そのくらいのことでで傷ついていてどうするの?と思い、共感できないのだ。「星の王子さま」ではないけれど、僕も子供の感情が理解できない大人になってしまったのだなぁと思った。子供相手のカウンセラーなどできそうもない。
謎解きの要素をもったこの本を紹介するのは難しい。僕は紹介記事を書くことでブログの読者に本を読んでもらいたいわけだから、ネタバレは厳禁なのだ。Amazonのレビューを読むと、本書の半分くらいのところで謎が解けたと書いている人を見かけるが、僕はには無理だった。3分の2くらい進んだところで「あ、もしかしたら!」と謎が少し解けた程度だ。
多感な中学生の気持がわかる人には最初から最後まで癒しを得ることができる本、僕のように鈍感な大人になってしまった人には、最後の4分の3ほど読み進んだあたりから癒しと感動が得られる本である。
SFっぽい物語の設定は少しずつ明かされていく。そして最後の4分の1でドラマチックに物語は展開し、謎と謎が整合して中学生がなぜこの城で出会うことになったのか、彼らが何を見つけ、現実の世界でどう行動すべきかが明かされていく。そして最後に「オオカミ様」が何者なのかがわかったとき「ああ、この本を読んでよかった。」と(鈍感な僕でも)感動してしまうのだ。
Amazonの紹介にある「救いを求める側から救う側へとなった時、人は本当に救われるのだとも気づかせてくれる一冊」という言葉が、本書から得られる感動を凝縮している。
理数系の読者の方にもお伝えしておくが、この不思議な物語の設定には理数系的要素も使われている。ぜひお読みいただきたい。
「かがみの孤城: 辻村深月」(Kindle版)
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