毎年12月10日、スウェーデンのストックホルムでアルフレッド・ノーベルの命日に行われるノーベル賞の授賞式の日程にあわせて、「とね日記賞」を発表している。今年で8回目。
ノーベル賞を僕がもらう見込みはどうもなさそうだ。それならば自分で賞を作って「あげる側」になってしまえ!という思いつきだ。
「とね日記賞」はその年に僕が読んだ物理学書、数学書の中から自分のためになった本、この分野を勉強している学生や社会人にお勧めする本を物理学、数学など各分野に分けてそれぞれ1~2冊発表する。あとテレビドラマ賞や贈り物にふさわしい本としてクリスマス賞というのも設けている。
そして今年はこれまでのようにノーベル賞に対抗意識を燃やすだけでなく、ノーベル賞に対して上から目線で賞を授与してしまう「とね日記ノーベル賞」を設けることにした。
たとえ名著と言われる本であっても僕がその価値を理解できなければ受賞できない。昨年以前に読んだ本は自動的に選考対象から外されるし、どんなに良書であっても僕が読んでいなければ対象外。今のところ洋書も対象外。何より僕の学習進度や理解度や好みに影響される。
メダルも賞金も授賞式もスピーチも晩餐会も舞踏会もないから、ありがたくも何ともなく、主観だらけのアンフェアな賞だ。
今年は次の賞を発表する。
- 物理学賞
物理学の教科書、専門書から選考。
- 数学賞
数学の教科書、専門書から選考。
- 工学賞
数学の教科書、専門書から選考。
- 教養書賞
一般向け書籍から分野別に選考。
- ベストカップル賞
読み合わせると理解がより深まる2冊の本。
- 新人賞
書籍出版デビューを果たしたアマチュアが書いた本から選考。
- 文学賞
ジャンルを問わない小説、文学書から選考。
- アカデミー賞
今年観た映画の中からいちばんよかったものを選考。
- ノーベル賞
今年のノーベル賞の中から選考。素晴らしいと思った授賞に対して、とね日記から贈る賞。
- テレビドラマ賞
テレビドラマの中からいちばんよかったものを選考。
- クリスマス賞
クリスマスプレゼントにふさわしい本を選考。
この1年で読んだ本は26冊で、次のような本である。通算323冊~348冊目。(参考:「300冊の理数系書籍を読んで得られたこと」)冊数が例年より少ないのは今年1月に始めた「算盤の記事」と「将棋の記事」に時間をとられたからだ。
323/重力(下) アインシュタインの一般相対性理論入門: ジェームズ・B・ハートル
324/数学 その形式と機能: ソーンダース・マックレーン
325/図解入門最新金属の基本がわかる事典: 田中和明
326/『数学ガイダンス2017』数学セミナー増刊:日本評論社
327/宇宙に「終わり」はあるのか: 吉田伸夫
328/図解入門よくわかる最新熱処理技術の基本と仕組み[第3版]: 山方三郎
329/クラウド量子計算入門: 中山茂
330/量子コンピュータ―超並列計算のからくり: 竹内繁樹
331/量子論はなぜわかりにくいのか「粒子と波動の二重性」の謎を解く: 吉田伸夫
332/趣味で量子力学2(Kindle版、オンデマンド版): 広江克彦
333/量子力学の数学的基礎: J.v.ノイマン
334/アインシュタインの反乱と量子コンピュータ: 佐藤文隆
335/12歳の少年が書いた 量子力学の教科書: 近藤龍一
336/出題者心理から見た入試数学: 芳沢光雄
337/量子力学史(自然選書): 天野清
338/コホモロジー: 安藤哲哉
339/複素解析: 小平邦彦
340/物質のすべては光: フランク・ウィルチェック
341/量子物理学の発見: レオン・レーダーマン、クリストファー・ヒル
342/はじめて学ぶリー群: 井ノ口順一
343/素粒子標準模型入門: W.N.コッティンガム、D.A.グリーンウッド
344/An Introduction to the Standard Model of Particle Physics 2nd Edition: W.N.Cottingham, D.A.Greenwood
345/経理のExcel強化書: 平井明夫
346/楽しもう射影平面 目で見る組合せトポロジーと射影幾何学: 大田春外
347/あたらしい人工知能の教科書: 多田智史、石井一夫
348/マッハ力学―力学の批判的発展史:伏見譲訳
それでは2017年の「とね日記賞」を発表しよう。(書籍名と画像は本の購入ページにリンクさせておいた。)
* 物理学賞
今年は次の2つに授賞させていただくことにした。
「重力(上) アインシュタインの一般相対性理論入門: ジェームズ・B・ハートル」
「重力(下) アインシュタインの一般相対性理論入門: ジェームズ・B・ハートル」
授賞理由: 最小限の数学で学べる一般相対性理論の画期的教科書である。今年のノーベル物理学賞の授賞理由になった重力波の導出も学べる。最大の特徴は、一般相対性理論の要となる「アインシュタインの重力場方程式」を下巻の最後のほうにもってきたことである。その結果、上巻は特殊相対論と一般相対論が予言する物理現象の記述と計算、幾何学が主になるわけだが、できる限り難しい数学を抑えて物理現象そのものを描き出すことによって、古典力学と解析力学、線形代数と微積分、ベクトル解析をマスターしたばかりの大学2、3年生でも余裕で学習できる難易度に抑えているのだ。取り上げている内容の新しさ、わかりやすさに感銘を受けたので授賞させていただいた。
紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。
重力(上) アインシュタインの一般相対性理論入門: ジェームズ・B・ハートル
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d45a93d43478a133c6a514c980572632
重力(下) アインシュタインの一般相対性理論入門: ジェームズ・B・ハートル
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ae6e91eec0ecb404b3b77d46ca04b49b
以下は12月8日に配信されたばかりの動画。今年の物理学賞(重力波の初観測)の記念講演で、ワイス博士、バリッシュ博士、ソーン博士の順で講演を聞くことができる。
「素粒子標準模型入門: W.N.コッティンガム、D.A.グリーンウッド」
授賞理由: 日ごろから、ツイッター上でやり取りをさせていただいている樺沢先生(@adx50150)が2005年に翻訳された素粒子物理学の入門書である。解析をマスターしたばかりの大学2、3年生でも余裕で学習できる難易度に抑えているのだ。読者の水準に充分に配慮しをして、過度に専門的な内容に深入りすることを避けながら、大局的に要点を抑えた的確な構成と記述によって、標準模型の理論構造を明快に提示してある。また模型の正当性を支持する主要な実験結果も、よく整理した形で紹介されている。素粒子論の基礎を習得しようと考える理工系学生のみならず、おそらくこの分野に関心を持つ関連分野の研究者・技術者にとっても有用な、正統的で完成度の高い、優れた素粒子論の入門書である。難解な素粒子物理学は自分には無理かなと二の足を踏んでいたところで本書と出会った。僕にとって次のステップへの突破口になったといえよう。 これが授賞理由である。
紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。
素粒子標準模型入門: W.N.コッティンガム、D.A.グリーンウッド
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/522960c6eb852df961348fee76463852
* 数学賞
今年は次の2つに授賞させていただくことにした。
「数学 その形式と機能: ソーンダース・マックレーン」
授賞理由: 数多くの名著の著者として著名なマックレーン教授が、現代数学の各部門にわたってその基礎概念を縦横に論じたもの。数学の構造、性格、および各部門の関係を数学と哲学の両面から論じ、数学の起原から現代数学までを概観しながら、それぞれの問題の本質を明らかにした。現代数学全般に精通した原著者のライフワーク。数学という壮大な知の構造物を堪能させていただき、学ぶ意欲をかきたてられたのが授賞理由だ。「数学の定理は「発見」か?それとも「発明」か?」という記事と合わせてお読みいただきたい。
紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。
数学 その形式と機能: ソーンダース・マックレーン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cbfc848dce6bf8ffa525a90026d5d4c6
「量子力学の数学的基礎: J.v.ノイマン」
授賞理由: 今年集中して取り組んだのが「量子力学とは何だろうか?」というテーマである。広江克彦さんの「趣味で量子力学2」や吉田伸夫先生の「量子論はなぜわかりにくいのか「粒子と波動の二重性」の謎を解く」を読み、「粒や波のような実体は存在せず状態のみが存在する」 、「そういう認識をそろそろ世間一般にも広めていい頃ではないだろうか」、「量子論の奇妙さ、不思議さばかりを強調する科学教養書は、そろそろ卒業しましょうよ。」という言葉に触発されたからだ。解釈問題とはいったい何だったのだろうか?本書は量子力学の創成期に、その数学的定式化を行なった天才数学者ノイマンによる名著である。難解なので理解したと胸を張って言うことはできないが、ぜひチャレンジしてほしい。
紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。
量子力学の数学的基礎: J.v.ノイマン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/09b65f36119894f5b852bbf38421af45
* 工学賞
「クラウド量子計算入門: 中山茂」
授賞理由: 本書も今年集中して取り組んだ「量子力学とは何だろうか?」というテーマに沿った本だ。量子力学の奇妙さをそのまま受け入れ、現代の工学技術で量子力学が持つ性質を活用する。素人でも量子コンピュータの実験ができるようになったことを紹介する画期的な本だ。残念ながら執筆当時と今では無料で公開されているIBMの量子コンピュータの仕様が変わってしまったため、本のとおりの出力ができないが、それでも量子コンピュータを学び、自分で試すことから得られる感動は大きい。ブログを始めて12年。現実の世界、ニューヨークに置かれた量子コンピュータを使って僕はようやく自分で量子テレポーテーションの実験を行なったことになる。
紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。
クラウド量子計算入門: 中山茂:(4) 全体の感想
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ad7dfbad69e1e196848be123e3f4ea3f
* 教養書賞(物理学部門)
今年は次の2つに授賞させていただくことにした。
「アインシュタインの反乱と量子コンピュータ: 佐藤文隆」
授賞理由: 本書も今年集中して取り組んだ「量子力学とは何だろうか?」というテーマに沿った本だ。量子論の生みの親のひとりでありながら、量子力学の奇妙さを受け入れず、亡くなるまで量子力学を否定し続けたと一般に理解されているアインシュタインだが、果たして本当にそうだったのだろうか?量子力学の創業者たちを当惑させた「理論」が、21世紀の先端技術を目指す量子情報研究で「何の疑いもせずに」使われている。真理と制度をめぐり“科学とは何か”で揺れる現代科学の転換期を、「物理学の世紀」で消されたマッハにまで遡り、“物理帝国の埋蔵金”を理論物理学の泰斗がスリリングに描く。量子力学に対する定説を再考することで、アインシュタインの知見が現代の量子情報技術を予見していたことを理解できた。
紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。
アインシュタインの反乱と量子コンピュータ: 佐藤文隆
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9fa38724ad6881636cdff2903ee14a5b
「量子力学史(自然選書): 天野清」
授賞理由: 本書も今年集中して取り組んだ「量子力学とは何だろうか?」というテーマに沿った本だ。量子力学の形成・発展を明晰に叙述しえた先駆的な偉業として、今日なお揺るぎない達成と評価される「幻の名著」。著者の天野清先生は東京大空襲による怪我がもとで38歳という若さで早世されている。量子力学が生まれて間もない時期、まったく新しい当時最先端の物理理論を学部生に過ぎなかった著者がドイツ語や英語で書かれた論文を入手し、研究していたということになるのだ。非凡な才能に驚かされると同時に、若くして命を落とされたという無慈悲な現実に僕は心を揺さぶられた。量子力学の数々の「奇妙さ」は場の量子論による解決に持ち越されるという記述もある。おまけにニュートリノの質量がゼロでない可能性があるという記述さえあるのだ。教養書としてはかなり難しいが、ぜひお読みいただきたい。ネット上には無料のPDFも公開されている。
紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。
量子力学史(自然選書): 天野清
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a742e5490485206851f5c76290d9a058
* 教養書賞(数学部門)
該当なし。(数学の教養書は読んでいないことに、この記事を書き始めて気がついた。。)
* ベストカップル賞
素粒子物理学の標準模型に入門するためによい本の2冊に授賞させていただく。どちらも実験系の物理学者が書いた本だ。理論系の物理学者の著作で入門するのであれば「強い力と弱い力:大栗博司」や「「標準模型」の宇宙:ブルース・シューム」をお勧めする。
「物質のすべては光: フランク・ウィルチェック」(文庫版)
授賞理由: 標準模型はいくつかの理論の寄せ集めで成り立っているわけだが、本書はそのうち原子核の中を舞台にした「量子色力学(QCD)」である。著者はクォークの「漸近的自由性」を発見し、2004年度のノーベル物理学賞をはじめとしてさまざまな賞に輝く物理学者だ。イメージしにくい原子核の中の世界を量子力学的な条件、特殊相対論的な条件、クォークがもっている色価とフレーバーという性質、グルーオンがもっている色価という性質を組合せることで矛盾のない形で理解できるようになる。また「量子電磁力学(QED)」との違いを浮き彫りにしながら理解が深まるように工夫されている良書だ。
紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。
物質のすべては光: フランク・ウィルチェック
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d592b55383ccecae76959446c0292d7b
「量子物理学の発見: レオン・レーダーマン、クリストファー・ヒル」(Kindle版)
授賞理由: 本書も標準模型を学ぶ上でお勧めしたい本だ。「物質のすべては光: フランク・ウィルチェック」のほうが強い力、量子色力学を基軸とした陽子や中性子などの質量獲得を解説していたのに対し、本書は弱い力、ヒッグス機構による質量獲得の解説が中心。パリティ対称性、カイラル対称性の説明は詳しいし、質量を獲得させるためのヒッグス機構についてはこれまでに見聞きしていた説明のどれとも違う。いちばんわかりやすい説明だと思う。アメリカのフェルミ研究所で加速器を使い、極小の世界を追い求めたノーベル賞物理学者が、この新しい物理学の誕生から現在そして未来を綴る。著者は実験物理学者。ミューニュートリノの発見でレプトンの二重構造を実証し、1988年ノーベル物理学賞。1979年から1989年までフェルミ国立加速器研究所の所長を務め、半世紀にわたり、加速器実験によるアメリカの素粒子物理学を主導してきた。本書では今後行われる加速器実験がどのようなものかについても紹介している。
紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。
量子物理学の発見: レオン・レーダーマン、クリストファー・ヒル
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0be01aa80fe038ae361fdd259b3532f2
* 新人賞
「12歳の少年が書いた 量子力学の教科書: 近藤龍一」
授賞理由: 今年の新人賞は間違いなくこの本である。紹介記事を投稿して以降、Amazonには厳しいレビューがいくつか投稿されているが、これらの方々がお書きになっている酷評もある程度うなづける。よく仕上がった「中間書」ではあるが、初学者が学ぶためのベストな選択とはいえない。初学者は専門家が書いた定番の教科書で学ぶべきだろう。けれども12歳の少年が書いたこと、現在も勉強を続けていることを思えば上出来である。今後の執筆、ご活躍を願って授賞させていただいた。
紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。
12歳の少年が書いた 量子力学の教科書: 近藤龍一
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/08ee32d90f112a381d650dfe1751bb62
* 文学賞
「四千万歩の男: 井上ひさし」(Kindle版)
授賞理由: 忠敬は下総佐原村の婿養子先、伊能家の財をふやし50歳で隠居。念願の天文学を学び、1800年56歳から16年、糞もよけない“二歩で一間”の歩みで日本を歩き尽し、実測の日本地図を完成させた。この間の歩数、4千万歩……。定年後なお充実した人生を生きた忠敬の愚直な一歩一歩を描く歴史大作。全5巻。忠敬が残した資料を読み込み完成させた痛快なパロディ小説。大いに楽しませてもらった。この作品がなぜNHKの大河ドラマにならなかったのか?その理由を最終巻「四千万歩の男 忠敬の生き方」で知ったとき、笑わずにはいられなかった。
紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。
「四千万歩の男: 井上ひさし(一)(二)(三)(四)(五)」
「四千万歩の男 忠敬の生き方」
* アカデミー賞
映画『ドリーム(2016)』に授賞することにした。
授賞理由: アメリカの初期の宇宙開発を「計算手」として支えた、黒人女性数学者たちの伝記作品である。原題は「Hidden Figures」、陰で支えた人たちという意味合いだ。もともと天文計算マニアだったこと、現在は計算機マニアの僕のハートをこの映画はジャストミートした。もう一度見たいので、AmazonビデオやDVD, Blu-ray化されるのを楽しみにしているところだ。
紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。
映画『ドリーム(2016)』
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/54307adde353ad3fba64f33914f660a1
* ノーベル賞
物理学徒のひとりとして、重力波の初観測への貢献に対して与えられたノーベル物理学賞にとね日記賞を授賞したいところだが、あえて僕は平和賞と文学賞に対して授賞することにした。
北朝鮮の脅威が増す中で、核兵器の使用は今年いっそう現実味を帯びてきた。米朝トップの過激な人格と発言も世界の平和を脅かす大きな要因である。
重大危機に対応が求められるのは当然である。経済制裁や外交努力だけでなく、アメリカの核兵器保持による抑止力も現実的には必要なのかもしれない。とはいっても、それは核兵器廃絶の望みを捨ててよいということではないはずだ。現実的な解決方法を模索しつつ、私たちは核兵器廃絶を希求し続けなければならない。この大原則を無視し、核兵器禁止条約にアメリカと日本が参加しなかったことは、極めて遺憾である。
核保有国からの反発や圧力が予想される中、ノーベル財団がICAN(International Campaign to Abolish Nuclear Weapons: 核兵器廃絶国際キャンペーン)に平和賞を、カズオ・イシグロ氏に文学賞を授賞したことを、僕は高く評価したい。昨年、コロンビアのサントス大統領に平和賞を授賞したことに加え、平和への思いを「風に吹かれて」で歌ったボブ・ディラン氏に文学賞を授賞したことも、同じくノーベル財団からの「平和を希求せよ。」というメッセージだと僕は理解した。
「ノーベル財団による文学賞の政治利用だ。」という批判が一部にあるが、そもそもノーベル賞はノーベル財団が決めるものである。そしてカズオ・イシグロ氏の小説に流れる思想は世界平和の希求に沿ったものであり、核廃絶運動に平和賞が与えられたことにも氏は賛同している。
核廃絶に平和賞「喜び」 ノーベル文学賞カズオ・イシグロ氏、ストックホルムで会見
http://www.sankei.com/photo/story/news/171206/sty1712060025-n1.html
今年の平和賞と文学賞はダイナマイトの発明者、アルフレッド・ノーベルが平和への願いをこめて創設したノーベル賞の趣旨に沿った授賞だ。ノーベル財団は世界を牛耳る勢力の動機を見抜いている。この2つの授賞は「過去の戦争の記憶を忘却してはならない。カネよりも生命を重んじよ。」と財団が世界に向けて発信した強いメッセージである。(参考記事:「原子爆弾 1938~1950年: ジム・バゴット」)
「ノーベル財団やるじゃん!」ということで、とね日記賞を授賞させていただいた。
2017年ノーベル平和賞の発表
カズオ・イシグロ氏のノーベル賞記念講演はこちら。
* テレビドラマ賞
今年は忙しくて例年とくらべてちゃんと見れたドラマが少なかった。けれどもドラマニアの精神は忘れていない。NHKの「ひよっこ」もよかったし、フジテレビ系列の「嘘の戦争」が特に素晴らしかった。こんなこと現実にはあり得ないと知りつつもテレビ朝日の「ドクターX」はのめり込んで見てしまう。また、BS-TBSでは武田鉄矢さんが黄門様を演じる「水戸黄門」が始まり、この番組が好きだった亡き祖父を偲びながら、じんわりと優しい時間を過ごすことができた。
いくつか印象に残るドラマの中で、今年のテレビドラマ賞を授賞させていただくのは、日本テレビの「東京タラレバ娘」である。
授賞理由: 初回から最終回までゲラゲラ笑い続けた痛快ドラマ。僕が吉高由里子ファンだということも、授賞に影響を与えている。「あの時彼がもう少しセンスが良かったらプロポーズを受けていたのに、バンドマンの彼がもう少し芽が出る可能性があったら。こうしていたら……、ああすれば……、高い理想を掲げて根拠もなく仮定の話を積み上げるうちに、気が付けば33歳・独身になっていた。」と自分の落ち度を他人や周囲のせいにして女子会を繰り返す3人のタラレバ娘たち。世間のアラサー未婚女に衝撃を与えただけでなく、若い女子に将来こうなりたくはないと実感させた。(ここまでウィキペディアからの引用。僕がそう思っているということではありません。)
とりわけ、吉高由里子が演じるタラレバ娘に恐怖のダメ出しをするタラとレバーが可笑しかった。
* クリスマス賞
今年は次の2つに授賞させていただく。
「不思議の国のアリス、鏡の国のアリス」
授賞理由: 不思議の国のアリス関連本は、これまでのクリスマス賞でも「地下の国のアリス」や「アリスとキャロルのパズルランド 不思議の国の謎解きブック」に授賞させていただいている。今年は角川文庫版の2冊に授賞することにした。でも、不思議の国のアリスとクリスマスは本来関係ないはずだ。僕はなぜクリスマスにアリス関連本をプレゼントしたがるのだろうか?著者のルイス・キャロルが数学者だから理数系ブログにふさわしいということもあるかもしれないが、しばらく考えてみたら、本当の理由は他のところにあった。とてもくだらない理由である。つまり、「クリスマス」→「クリスマス・キャロル」→「ルイス・キャロル」→「不思議の国のアリス」と連想していただけのこと。いやはや何とも。。。
紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。
不思議の国のアリス、鏡の国のアリス
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3201f911d2f060ad956148609139a6a4
そしてクリスマス・プレゼント候補の2つめはこれである。笑って楽しく過ごしてくださいという気配りだ。
「もし文豪たちが カップ焼きそばの作り方を書いたら」
「もし文豪たちがカップ焼きそばの 作り方を書いたら 青のりMAX」
授賞理由: 「もし文豪たちが カップ焼きそばの作り方を書いたら」が発売され、紹介したのは今年の6月のこと。そして続編の「青のりMAX」は今月7日に発売されたばかりである。もしも村上春樹がカップ焼きそばの容器にある「作り方」を書いたら――ツイッターで発信され、ネット上で大拡散されたあのネタが、太宰治、三島由紀夫、夏目漱石といった文豪から、星野源、小沢健二らミュージシャンまで、100パターンの文体にパワーアップして書籍化された。読めば爆笑必至の文体模倣100連発。「青のりMAX」のほうは帯に書かれている『博士の愛したソース式』という文がどうも気になる。そしてカズオ・イシグロの『かやくを離さないで』も収録されている。買おうかどうか迷っていると、この本をプレゼントされる家族や友達の笑顔が目に浮かんでくるのだ。
紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。
発売情報: もし文豪たちが カップ焼きそばの作り方を書いたら
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c8a2bed74acd0d5f3d545c6b359906a7
関連記事:
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とね日記賞の発表!(2014年): 物理学賞、数学賞、他
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http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d1c27e18d9b072311f715394439d0d9d
とね日記賞の発表!(2016年): 物理学賞、数学賞、他
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/dd3542a15d2232513c872bd678372644
最後になりますが、本日ストックホルムでのノーベル賞授賞式に望まれるワイス博士、バリッシュ博士、ソーン博士、カズオ・イシグロ先生、ICANの皆様、おめでとうございます!
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