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グラフィック・サイエンス・マガジン Newton の作り方(その2)

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前回の記事の続きである。


まず、魅せるイラスト作りについてだ。高嶋さんが小学生のときに見た超伝導のイラストが印象に残ったから、大学での専攻決定に影響したことを前回紹介した。「魅せる」とはそういうことである。

そしてNewtonのイラストに求められるものは、それだけではない。まず、パッと見て何についてのイラストであるかがわかること、そして説明のために複数描かれるイラストは読者が見る順番がわかりやすいように配置することが求められる。

そしてイラストにも要素を詰め込み過ぎないのが大切だ。絵としての美しさを兼ね備えていることが大切なのである。読者の心に残るものに仕上げるのだ。

また、描かれる対象の「質感」にもこだわりをもっている。高嶋さんが例にあげたのは、素粒子のイラストだ。厳密にいえば素粒子は「点」なので大きさをもたないが、説明のためには「球体」として描かなければならない。

このとき素粒子と反粒子の濃淡を変えたり、他の素粒子と区別するために表面に光沢をもたせたり、ザラザラに見えるように工夫をしている。また素粒子が運動するスピード感を出すために「ビューン」と伸ばす直線にも、納得がいくまでイラストレーターに注文をつけているそうだ。大切なのは科学的事実を正確にイメージとして読者に伝えることへの「こだわり」である。

会場の笑いをとったのが円周率のイラストだ。空間に描かれた3.141592...で始まる長い曲線は紙面の奥に向かって伸びている。永遠に連なるその数列は球体の北極につながり、糸巻のように球体の上から下にぐるぐると巻き付いていく。表面に見える文字は小さいのと、ごちゃごちゃしていて数字だとやっと判別できるレベル。南極に達した曲線はふたたび奥のほうへ伸びていき、はるか彼方へ消えていく。

どうせ数字だとわからないのだから、手を抜いてそれらしく描けばよいのだと思う。けれどもここにもNewtonのこだわりがあった。描かれた数字はすべて本物の円周率表からとっており、曲線に沿って配置するようにイラストレータにお願いして作成したのである。細部まで手を抜かない徹底ぶりが見事である。

最近はイラストに「遊び心」を加えるのようになったそうだ。たくさんの細胞を描くかわりにテトリス調の図柄で代用したのもその一例だ。

そして特に重要なのが表紙である。最近の例ではオイラーの公式を紹介した号がそれにあたる。敬遠されがちな数式を、いかに美しく印象付けるかがポイントだ。まるで氷の結晶のようにキラキラ輝く素材をイメージさせて、世界一美しいといわれるこの公式を中央に配置した。そしてその両側にも氷の結晶を置いたのはこの絵を描いたイラストレータの機転だそうだ。


次に高嶋さんがお話されたのはNewtonの文章についてである。常に心掛けているのは、次の3つ。

- 正確さ
- わかりやすさ(中学生以上を対象)
- 面白さ(Interestingの意味で)

そのため編集者が書いた記事は、必ず専門家の校閲を受けることを徹底している。その際にときどき起こってしまうのは、専門家による修正により文章が難しくなってしまうことである。その場合は編集者が文章を易しく書き直し、対案として専門家に再度校閲を依頼することになる。

そして記事を書く際に心がけていることの、もうひとつは「文章は書き手のモノではなく、読み手のモノであること」だ。読者を思い描きながら書くということである。

初出のときは専門用語を使わず、どうしても使わなければならないときはカッコ書きで言い換えたり、硬い印象の漢語はなるべく使わないなど、言葉ひとつひとつに注意を払う。

易しく書くことと分かりやすいことは一致しない。易しく書いたとしても、読み手にその文章を「読む動機」を上手に伝えないと、読み手はなぜいまこの文章を読んでいるのかわからなくなってしまうのだ。

記事を書くことを繰り返し、どんなに慣れてきたと思っても、自分の思い込みやクセが紛れ込んでしまう。これを防ぐためには編集部内での記事の回し読みが不可欠になる。他人に読んでもらうことで、個人では解決できない文章のクセや難解さを解消することができる。Newtonではこのような回し読みも必ず行うようにしているそうだ。

文章を視覚的にイメージできるように配置することも大切だ。誌面上で目立つ部分は、特に熟考して文章を書くように気を付けている。たとえば、タイトルやサブタイトル、リード文などがこれにあたる。

科学ブロガーとして、高嶋さんが文章についてお話になった内容は、とても参考になった。特に「易しく書くことと分かりやすいことは一致しない。」という部分。今後のブログ記事に活かしたいと思う。


高嶋さんが次にお話されたのは、他の科学雑誌との差別化についてである。すぐ思いつくのは「日経サイエンス」だ。

科学という共通の土俵に共存しているので、取り上げるテーマは似通ってしまう。けれども対象読者が違うので、Newtonと日経サイエンスが競合するとは考えていないという。日経サイエンスはNewtonより難易度が高く、理系学生、研究者向けの雑誌だからだ。

日経サイエンスはライバルではなく「同志」なのである。科学をわかりやすく社会に伝える使命を帯びた仲間である。全国の書店の科学史に割り当てられる本棚は、Newtonだけでは維持することができない。日経サイエンスをはじめ、多数の科学雑誌、科学書籍があることで、本棚のスペースを確保することができるのだ。この考え方は面白いと思った。


次に高嶋さんが話された内容について、質疑応答の時間が少しだけ設けられた。僕も2つ質問させていただいた。他の方の質問と高嶋さんの回答はすべてをメモしたわけではないので忘れてしまったものがある。覚えていることだけ紹介すると不公平になるから、自分がした質問と回答だけ書いておくことにしよう。

質問1: イラストを担当する美術系の人はふつう自己表現や自由な表現をしたいという気持ちが強いと思うのですが、科学的なイラストには表現についての制限がかかります。イラストレータと記事担当者の間で対立がおきたり、イラストレータに不満が生じたりはしませんでしょうか?

高嶋さんの回答: その点は大丈夫です。喧嘩になったりしたことはありませんよ。(と言って会場の笑いをとっていらっしゃいました。)

質問2: 編集者はそれぞれ得意分野と不得意分野があると思います。得意分野だと詳しく知っているため、一般の人が何が理解できないか逆にわからないこともあると思います。執筆を依頼するときは、そのあたりをどのようにしていますでしょうか?

回答: 後ろのほうの席にいらっしゃったNewton編集者の板倉龍さんがお答えくださいました。板倉さんは自分の得意分野の記事よりも、不得意な分野の記事を書くようにしていらっしゃるそうです。


この後、高嶋さんは次のセッション、つまりBuzzScienceの方から依頼を受けた科学記事に対するダメ出しをされたのだが、ここに書くにはBuzzScienceの説明をしなくてはならない。

これはまた次回の記事で、ということにさせていただこう。


関連記事:

グラフィック・サイエンス・マガジン Newton の作り方(その1)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ec7f96712045560b6cf3d7b1e851e49e

Newton(ニュートン)の0号と創刊号の思い出
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0bff55e11fe0fa8fd8f23e431724c678

Newton(ニュートン) 2018年 01 月号: ゼロからわかる人工知能
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/daf3a744f940e92c0277e9e5e576604b

橋本幸士×板倉龍「Newton超ひもナイト」@ 下北沢
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/567088304d1f2dca5349826c561adb3e


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