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グラフィック・サイエンス・マガジン Newton の作り方(その1)

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11月29日は、このような催しに行ってきた。

科学コミュニケーション研究会
第40回関東支部勉強会
■ タイトル
 グラフィック・サイエンス・マガジンの作り方
■ ゲスト
 高嶋 秀行 氏(ニュートン編集人)
■ 開催日時
 2017年11月29日(水) 18:00-20:00
■ 場所
 東京大学 本郷キャンパス 伊藤国際学術研究センター 3階 中教室

詳細:
http://www.scicomsociety.jp/?page_id=25


1981年の創刊以来お世話になってきた愛読誌だけに、これは聞き逃せない。申し込みして以来、この日がくるのを楽しみにしていた。

この日はたまたま午後4時まで九段下で用事があり、少し時間があったので神保町でぶらぶらしていた。理工系書籍専門の明倫館書店の店先には、いつもは見かけない箱が置かれていた。

「あれっ!Newtonだ。。。」

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なんとまぁ奇遇なこと。よりによってNewtonの話を聞きにいく日にバックナンバーとご対面。保存状態のよい本ばかり1冊100円で売られている。刊行年月と関係なく雑然と積まれているから、読みたい号を探すのにも骨が折れる。しばらく探していると、店員さんが、また1箱運んできた。

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追加の箱の上のほうにあったのがこの2冊。つい先日、最新号を「Newton(ニュートン) 2018年 01 月号: ゼロからわかる人工知能」という記事で紹介したばかりなのに、人工知能特集は1987年8月にもやっていたわけか。。。ページをめくると、次のような項目で24ページの特集が組まれている。

「エキスパートシステム」、「問題解決のための探索」、「演繹推論」、「意味ネットワーク」、「構文解析、意味処理を使った機械翻訳」、「パターン照合による画像認識」、「LISPやPROLOGなどのプログラム言語」、「人工知能チップ、並列処理コンピュータ」、「心や感情をもつか」、「ニューロンのモデル」

2018年1月号にあった「機械学習」、「ディープラーニング」、「Python」、「自動運転車」、「ディープラーニングによる機械翻訳」、「シンギュラリティ」、「人工知能に対する攻撃」の項目はまだない。

僕が買ったこの2冊は1時間後、すぐ役に立つことになる。この2冊をたまたま選んだのも後になってみると奇遇としか言いようがない。

前置きが長くなったが本題に入ろう。


科学コミュニケーション研究会 第40回関東支部勉強会

会場は東大の本郷キャンパス伊藤国際学術研究センター3階 中教室。この建物は「なみとつぶのサーカスー宇宙の超精密実験の現在」を聴講するため、今月4日に訪れたばかりだ。

この日はNewtonの作り方だけでなく、もうひとつ東大の理系大学院生によるBuzzScienceについてのプレゼンがあった。

物理学の市民向け講座に来る層よりずっと若い大学生、大学院生が多い。あと若い女性の比率も高かった。これはBuzzScienceの関係者が多いためだとわかった。

プログラムは次のとおり。

1)グラフィック・サイエンス・マガジンの作り方 by 高嶋 秀行 氏(ニュートン編集人)
2)BuzzScience:最先端の科学をわかりやすく伝える情報ポータルの紹介
3)質疑応答


グラフィック・サイエンス・マガジンの作り方

Newtonの編集人の高嶋さんが登壇し、自己紹介された。大学院で物性物理を専攻した後、読売新聞で記者をされ、科学部に配属。このページで詳しくお読みいただけるように、その後2001年からニュートンプレス社で編集者・記者として勤務され、現在は編集部長、編集人、つまり編集責任者としてご活躍されている。初代竹内均編集長のもとで数年間勤務されていた方だ。

編集部では企画から決定、チェック、編集まですべてを行なっているそうだ。これほど知名度がある雑誌だが、社員数は人事や経理担当の人も含めてわずか40人だという。

現在月刊Newtonは紙の雑誌、iPadで読めるインターネット版、Kindle版の3種類。科学専門誌だと誤解している人がいるが、中学生以上を対象とした一般向け雑誌であることを高嶋さんは強調されていた。

さて、記事の作り方である。

イラスト作成などを外注していた頃もあったが、現在は記者による原稿の執筆、イラスト作成、DTPなどすべてを社内の編集者が行っている。そのため変更や修正が入ったとき、機敏に対応できるのだ。

まず編集者が記事とともに大まかなイラストを作成し、ページの骨組みイメージを作成する。この「編集者のラフ」をイラストレータに渡し、美しいイラストを作ってもらう。

高嶋さんが例にあげたのは、地球が太陽を公転する様子を軌道の外から見たイラストである。そして地球の周りには月が公転している。このとき読者の視線から見えるのは太陽の手前にある地球、そして地球の手前にある月だ。だから読者は月の裏側を見ていることになる。イラストレーターは、私たちがよく見る月の表側の写真をお手本にしてはならず、裏側の写真をもとにイラストを描くのだ。

毎号「Newton Special」と呼ぶ見開きでメインの特集記事があるのだが、文字を少なくして圧迫感のない紙面になるよう心掛けているそうだ。

次に記事の中見出しを決めながらページ構成を行なう。中見出しはぱっと見るだけで、内容をつかめるように文や用語を工夫する。「つかみ」が大切なのだと僕は思った。

特集記事は長くなることがある。その場合、全体の流れが明確になるように、ページ・イメージを縮小表示した「サムネイル」を作成する。これは紙芝居のようなものだ。

イラストや写真が少ない「読み物系」の記事の場合は、適度に改行を入れたり、中見出しを入れて読みやすくする。

美しい写真を載せるときは、大きく紙面をめいっぱい使う。写真の中の美しい箇所が隠されないように、文字の位置にも気を配っているそうだ。

さて、記事の内容である。読者のニーズを満たすことは雑誌の使命だ。そのために500名の読者モニターから毎月フィードバックをもらうようにしているそうだ。つまり記事ごとに人気投票を行うことになる。よい評価をもらえれば、その記事内容が読者の求めていることだとわかるだけでなく、記事を担当した社員はうれしいし、モチベーションアップにもつながる。

この他、2005年から2015年には毎年「特別モニター会議」というのを行なったそうだ。これは参加したい読者を募って、Newtonに対する希望や不満を生の声として伝えてもらい、とことん議論するという催し。ドラフト段階の記事に対してダメ出しをしてもらうことを何度か繰り返し、よりよい記事に仕上げていくのだ。

会議に参加する読者は「なるべく若い人を」、「その分野に詳しい人、専門家ではなく素人を」という基準で選んでいたそうだ。実をいうと僕は昔、一度だけ応募したことがあり、選んでもらえなかったことがあったのだが、その理由がこの日ようやくわかってスッキリできた。どちらの条件も僕は満たしていない。

僕が明倫館書店でこの日に買った「量子論」の号も、この会議から生まれたもので、「とねさんが買ったこの号は、実は私が担当したものなのですよ。」と高嶋さんはおっしゃっていた。なんという偶然だろう。。。僕はまるで高嶋さんのプレゼンのために買い物したようなものである。

また、最新号の「人工知能特集」であるが、高嶋さんは僕が買ってきた1987年8月号も手にとり、「この時代に人工知能特集が組まれていたのは知らなかった。」とおっしゃっていた。僕にとっては社会人1年目だが、1975年生まれの高嶋さんは12歳だから、お父様からNewtonを初めて買ってもらった頃のことだ。ご存知ないのは無理もない。高嶋さんは小学生のときに見たNewtonの超伝導のイラストが強く印象に残っているそうで、大学院での専攻も超伝導だったそうだ。Newtonのイラストから受けた印象が専攻の決定に(すべての理由ではないとしても)影響したことをお話になっていた。

ともあれ、特別モニター会議から生まれた号は、このほか「相対性理論」、「光とは何か」、「ニュートン力学」、「時空」、「素粒子」、「大宇宙」、「電力とエネルギー」、「生命とは何か」、「太陽系と進化」、「地球と生命」などがあるそうだ。

このように、これまでたくさんの特集号があったわけだが、忘れてならないのが2011年4月26日発売の「大震災特集号」である。予定していた記事を先送りにして、全力投球して作成された。そしてこの号は日本のすべてのジャンルの雑誌から選ばれる「雑誌大賞」で準グランプリをいただいたのである。これはすごいと思った。

さらに同年6月には「福島原発、超巨大地震」を110ページの特集として発売した。原発の是非は社会的に賛否が二分するデリケートな問題である。Newtonは科学的な立場から、原発のしくみや、起きたことを科学的な立場から、ありのままに伝えるという方針で、この号を作成したそうだ。初代編集長の竹内均先生は生前から「中立性」を重視されていたので、これを踏まえてそうしたわけである。

この号は僕も当時買って読んでいた。震災のつらい記憶や原発への恐怖にとらわれていた時期、賛否渦巻くインターネット上の情報で混乱していた時期だったので、自分の考えや気持ちを整理するうえで、とてもありがたかったことを覚えている。


さて、一段落ついたので続きは次回の記事でということにさせていただこう。次回は「魅せるイラストづくり」から始まる。


関連記事:

Newton(ニュートン)の0号と創刊号の思い出
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0bff55e11fe0fa8fd8f23e431724c678

Newton(ニュートン) 2018年 01 月号: ゼロからわかる人工知能
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/daf3a744f940e92c0277e9e5e576604b

橋本幸士×板倉龍「Newton超ひもナイト」@ 下北沢
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/567088304d1f2dca5349826c561adb3e


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