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早大、“波動関数の顕微鏡”を実現 アト秒レーザーで位相区別、電子波動関数の直接可視化に成功

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今週、以下の記事が話題になっている。量子力学の波動関数の可視化に成功したのだという。

早大、“波動関数の顕微鏡”を実現 アト秒レーザーで位相区別、電子波動関数の直接可視化に成功(日刊工業新聞電子版)
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00432172

早稲田大学理工学術院の新倉弘倫(ひろみち)教授は、カナダの国立研究機構、ドイツのマックス・ボルン研究所と共同で、アト秒レーザー(高次高調波、アトは100京分の1)で位相を分けた、電子の波動関数(粒子の状態を記述する関数)を直接可視化(イメージング)することに成功した。電子波動関数とその変化の画像を元にした新たな「アト秒テクノロジー」の発展が期待される。16日の米科学誌サイエンスに掲載される。


可視化に成功したというのは観測できたということ?
つまり波動関数はこの世界(とりあえず3次元空間)に存在するものなの?
そして観測できたというのは波動関数に物理量が存在すること?

のように思ってしまい、心がざわついてくる。波動関数は複素数の値をとるから実在するとは考えにくい。

広江克彦さんの「趣味で量子力学」の第6章には次のよう解釈できることが書かれている。

波動関数は現実の波ではなさそうだ。1粒子系だと複素数の波動関数は3次元空間の場に紐づいているように思えてしまうが、2粒子系だと6次元空間、N粒子系だと3N次元空間になるわけだから、現実の3次元空間にあるのではなく純粋に数学的な空間だ。

「存在すること」を問うとき、どこまでを世界と考えるのかという問題もある。10次元時空を前提とする超弦理論での余剰次元(6次元)に存在する弦は私たちの3次元空間からは点に見えるだけだから観測にはかからない。「世界」を10次元時空まで含めて考えれば弦は物理的に存在すると言っていいのだろうけど。しかし弦が3次元空間の実在物ではないことについては異論はないだろう。

記事トップの画像で示したものは可視化された波動関数そのものであり、波動関数の絶対値の2乗で計算される存在確率密度を可視化したものではない。波動関数には振幅成分と位相成分が含まれている。位相成分は観測可能ではなかったはずなのになぜ可視化できているのだろう?記事には「これまで波動関数の2乗しか観測できなかったが、位相を分けた波動関数イメージを初めて測定した」と書かれている。



ちょうどいま僕はノイマンの「量子力学の数学的基礎」を読んでおり、この本の内容とも深い関わりをもつ事がらなので、このニュース記事を取り上げさせていただいた。


といっても僕にはこれ以上考察を深めることができない。僕より詳しい方々のこの件に関するツイートを集めて「まとめ記事」として整理しておこう。


広江さん(@eman1972)のツイート

- 波動関数は実在ではなかったのではないのかと心配しておられる方がいるようだが、解説を読む限り、1個の原子の挙動を連続的に追跡するのではなく、多数の原子から弾き出した電子の運動量の分布を調べることでイメージ化しているのであろう。

- 波動関数の巧妙な重ね合わせで位相情報も得ることができ、そこが今回のキモであろう。正確に把握できていないが、干渉パターンを読むのに似たイメージだろうと想像している。


樺沢先生(@adx50150)のツイート

- ネオン原子の光イオン化過程で生成した、ほぼ純粋な「f―軌道電子」波動関数宇の振幅と位相それぞれのイメージを直接測定した、ということのようです。

- 「イオン化した電子波束が、どのような位相と振幅を持つ波動関数から成るかを同定する方法を開発した」という表現が微妙です。間接的にしろ、位相が(あるいは相対的な位相分布とか位相構造が)"観測"されたのだろうか?

- 特定の時刻(瞬間)における波動関数そのものは「観測」不可能だろうけれども、有限時間(アト秒)で"なました"波動関数の疑似情報は「観測」できる、ということでしょうかねぇ?

- 日刊工業新聞の記事にあった波動関数イメージングの解説(早大)。光電子を用いた手の込んだ測定だが、結局、どういうからくりで何を抽出しているのか、簡単ではなさそうだ。

- "位相を分けた"波動関数イメージングの話。つまり①赤外光とアト秒パルスをNeに照射することで、外殻2p電子からf成分とs成分を持つ光電子(波動関数)を生成。②赤外波に対するアト秒パルスのタイミング制御により、s成分に対するf成分の相対位相の制御が可能、ということらしい。違うかな?

- つまり、f状態自体の中の「位相を調べている」というのではなく、実質的にs+exp(iθ)fという同じ波動関数を同時に多数用意して、それらに対する測定結果の分布像を画像化している、というわけか。

- 最初にイメージング画像を見たとき、原子内電子雲のイメージかと勘違いしてしまったけれども、そうではなく、放出された光電子の運動量分布の"イメージ"ですね。


堀田先生(@hottaqu)のツイート

- 量子力学を学んだ古い世代の方々の中には、波動関数自体は測れないと思ってる人がいたりする。しかし実際は量子状態トモグラフィという手法で実験で観測できる。ではこれは波動関数が普通と同じ物理量であることを意味するのかというと、もちろん違う。

- 波動関数(もしくは量子状態)は、これこれの物理量を測ったらこのような値がこのような確率分布で見つかりますという「情報」の束である。ある時刻に誰にとって確定しているような物理量とは全く異なる概念の量。最近では量子力学自体が情報理論の一種であると見なすことが本質的になってきている。


これらのツイートから前掲の質問には、次のように答えられるのだろう。

可視化に成功したというのは観測できたということ?
→ はい、そうです。

つまり波動関数はこの世界(とりあえず3次元空間)に存在するものなの?
→ この世界に物理的に存在するものではありません。

そして観測できたというのは波動関数に物理量が存在すること?
→ 通常の物理量が存在するわけではありません。ある物理量を測定すると確率分布として見つかるという「情報」の束として考えます。


より詳しい解説はこのページで読むことができる。

アト秒レーザーで位相を分けた電子波動関数の直接イメージングに成功(早稲田大学)
https://www.waseda.jp/top/news/51913


関連記事:

量子論はなぜわかりにくいのか「粒子と波動の二重性」の謎を解く: 吉田伸夫
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e1e94804c62fc8cf2212ca37d805b9da


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