「【新版】 量子力学と経路積分:R.P.ファインマン、A.R.ヒッブス」
内容紹介:
1965年の原著刊行以来、世代を超えて物理学生にインスピレーションを与え続けてきた現代の古典の新版が登場。
経路積分法は、量子のふるまいの直観的描像を捉え、取扱いの困難な諸問題にアプローチする有力な方法論として知られる。つねに直観的描像と理論の接点を意識していたファインマンの大きな遺産である。本書では経路積分の概念を用いて量子力学の諸法則が記述され、シュレーディンガー方程式表示とのつながりが提示される。そのうえで、摂動論、統計力学、量子電気力学、変分原理などの諸領域が多くの具体例とともに扱われる。そこには、さまざまな系における経路積分の可能性を探るファインマンの苦闘の痕が刻まれており、読者は非凡なセンスをもった物理学者の洞察、きらめくアイデアに触れることができる。
また、ここにはファインマンが経路積分法に託していた大きな構想も、声高にではないがはっきりと提示されている。例えば、「エネルギー準位があるのにもかかわらずエネルギー準位に触れないようにすることの唯一の弁明は,そうすることによって物理過程の深い理解が得られるのではないかという期待であり,またおそらくもっと強力な統計力学の方法の出発点となるのではないかという期待であろう」(第10章 統計力学)。ファインマンの構想は、果敢であっただけでなく、予見的でもあった。パイオニアだけが見ることのできた地平を、本書は垣間見せてくれる。初版から40年を経て、原著はスタイヤーにより校訂がほどこされた
本書は原著校訂版(2010年刊)を底本としている。
2017年3月刊行、392ページ。
[著者略歴]
Richard P. Feynman
1918‐1988。ニューヨーク市に生まれる。1939年マサチューセッツ工科大学卒業。プリンストン大学大学院に学び、1942年博士号を取得。その後、原爆開発のマンハッタン計画に参加。1945‐50年コーネル大学助教授。1950年以後はカリフォルニア工科大学教授。1965年、量子電気力学の構成の業績で、シュヴィンガー、朝永振一郎と共にノーベル物理学賞を受賞。学部学生向けの教科書「ファインマン物理学」シリーズ(岩波書店)や、『ファインマン 統計力学』(シュプリンガー・ジャパン)をはじめとする独創的で魅力溢れる物理学書は世界中で読まれている。『物理法則はいかにして発見されたか』(ダイヤモンド社、のち岩波現代文庫)、『光と物質のふしぎな理論──私の量子電磁力学』『ご冗談でしょう、ファインマンさん──ノーベル賞物理学者の自伝』(いずれも岩波書店)などの著作も多くの読者に親しまれている。
Albert R. Hibbs
1924‐2003。ファインマンの講義をまとめて本書『量子力学と経路積分』の出版に尽力。また、『ご冗談でしょう、ファインマンさん』に序文を寄せ、学生時代に接したファインマン教授の人柄を描いている。元カリフォルニア工科大学ジェット推進研究所所員。
[校訂者略歴]
Daniel Styer
理論物理学者。オバーリン大学物理学部門John and Marianne Schiffer教授。著書に、Relativity for the Questioning Mind (Johns Hopkins University Press); The Strange World of Quantum Mechanics (Cambridge University Press); Quantum Mechanics Simulations (共著,John Wiley & Sons)ほか。
[訳者略歴]
北原和夫(きたはら・かずお)
東京理科大学教授。東京工業大学・国際基督教大学名誉教授。著書に、Fluctuation Phenomena(共著、North Holland)、『統計力学』『非平衡系の科学』(全2巻)(以上、講談社)、『プリゴジンの考えてきたこと』『非平衡の統計物理学』(以上、岩波書店)ほか多数。訳書に、クライツィグ『技術者のための高等数学1 常微分方程式』(共訳、培風館)、ニコリス/プリゴジン『複雑性の探究』(共訳、みすず書房)、『ファインマン 経路積分の発見』(共訳、岩波書店)。
2010年に読んで紹介した「量子力学と経路積分:R.P.ファインマン、A.R.ヒッブス」は1965年版の英語本をもとに翻訳されていた。この英語版には誤記がたくさん含まれていて、1995年に発売された日本語版は誤記をそのまま引き継いでいた。
「Quantum Mechanics and Path Integrals (Mcgraw Hill-International Series in the Earth and Planetary Sciences) - 1965年出版」
英語版はその後、間違いがすべて訂正され、2010年夏に出版された。修正された誤記は879箇所ある。ファインマン先生の英語は平易なので読みやすい。
「Quantum Mechanics and Path Integrals: Emended Edition (Dover Books on Physics) - 2010年出版」(今回発売された日本語版)
今回発売された新版は2010年の英語版をもとにしている。初めて読もうとする方は新版をお買い求めいただきたい。
あと合わせて読みたいのがこちら。同じ北原先生(、そして田中先生)による翻訳である。
「ファインマン 経路積分の発見:ローリー・ブラウン」
内容紹介
ファインマンの経路積分の方法は、シュレーディンガー方程式よりも導出しやすく、しかも適用範囲が広いため、いまや理論物理学の必須の方法となっている。その原点ともいえるファインマンの学位論文を軸に、編者による発見の経緯や意義をまとめた解説のほか、アイデアのヒントとなったディラック論文などをまとめた貴重な一冊。
2016年3月刊行、144ページ。
著者
ローリー・ブラウン
ノースウェスタン大学名誉教授。1951年コーネル大学でPh.D.取得。ファインマンの指導を受ける。専門は素粒子論。
翻訳の元になった英語版は2005年に刊行されたこの本である。
「Feynman's Thesis: A New Approach to Quantum Theory」
「【新版】 量子力学と経路積分:R.P.ファインマン、A.R.ヒッブス」には演習問題の解答が書かれていない。解答と解説は「経路積分ゼミナール―ファインマンを解く」として出ているのだが、ご覧のように古い組版なので僕としてはLa TeXで組みなおして新版を発売してほしい。
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数式が苦手な一般の方が経路積分の考え方を知りたいのだったら、ファインマン先生ご自身がお書きになった次の本をお読みになるとよい。難しいけれども目から鱗が落ちる名著だ。
「光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学 (岩波現代文庫)」(紹介記事)
関連記事:
量子力学と経路積分:R.P.ファインマン、A.R.ヒッブス
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2b9d934a542cf04be54cbede8b16ecde
ファインマン経路積分:L.S.シュルマン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/649888d5255c3065dfb61c8f66692c33
光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学: R.P.ファインマン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4b34cd4e7d077d037022e62734d1ee76
ファインマン先生の自伝本と講演本
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9bf47cf51085c74caf34a11068a17285
ファインマン物理学(英語版)が全巻ネット公開されました。
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e94dd49d7d8cc395e29d37927e30173d
発売情報: フランス語版「ファインマン物理学」の新版
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/daf630deb00e6c315897d6f47ba3dd5a
開平と開立(第5回): ファインマン先生に立方根計算の雪辱を果たそう
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/89a0b907577f03ef6132cf9664bdcddb
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「【新版】 量子力学と経路積分:R.P.ファインマン、A.R.ヒッブス」
序文
校訂版への前書き
第1章 量子力学の基本概念
第2章 量子力学の運動法則
第3章 特別な例によって概念を展開する
第4章 量子力学のSchrödinger表示
第5章 観測と演算子
第6章 量子力学における摂動論
第7章 遷移要素
第8章 調和振動子
第9章 量子電気力学
第10章 統計力学
第11章 変分法
第12章 確率論における諸問題
付録A 役に立つ積分
付録B 校訂者による注
訳者あとがき
新版へのあとがき
2017年版へのあとがき
索引