カール・フリードリヒ・ガウス(1777-1855)
ドイツの大数学者ガウスは、徳川第11代将軍家斉や第12代将軍家慶と同時代を生きた人です。とても頭がよさそうに見えますね。
ガウスの業績をあげればきりがありませんが、そのうちのひとつに「曲面についての研究」があります。高校の数学でも球面や放物面、円錐や円筒の側面などを学びますし、そのうちのいくつかについては数式での表現も学びます。「曲面についての研究」とだけ聞くと、それほど難しいことをやっていたようには思えません。でもそんなはずはありませんよね。彼が業績として遺した曲面の理論については、後で説明することにいたします。
さて、ここでガウスさんに登場してもらいましょう。2次元空間に住んでいる「平面ガウスさん」です。平面にガウスの肖像画を貼り付けて、方眼紙のように縦横に座標を描いてみました。
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このガウスさんは平面の世界に縛られているので、縦と横の方向しか認識できません。あなたを見つめているように見えますが、あなたのいる方向はガウスさんが認識できない3つめの方向なので、ガウスさんにあなたは見えていないのです。
1905年に発表されたアインシュタインの特殊相対論によると、物体が等速で運動すると運動する方向に空間が縮むそうです。ですのでガウスさんに横方向に運動してもらいました。私たちから見るとガウスさんの横幅が縮んだことがわかります。この画像です。
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でも、ガウスさんは自分の横幅が縮んだことを認識しているでしょうか?空間が縮むのと一緒にガウスさんも縮んだのですから、彼には周囲の空間に変化がおきたとは感じられないのです。ですから彼は自分が縮んでいるとは感じていません。そして彼の周囲にある三角形や円、四角形も形が変わているようには見えません。
けれども(肖像画には描きませんでしたが)私たちから見るとガウスさんや彼の周囲にある三角形や円、四角形は横方向に縮んで見えるはずです。想像できますよね?
つまり、私たちの住む3次元世界とガウスさんが住む2次元世界の幾何学(面や3次元空間の座標)は別物なのです。私たちとガウスさんは長さの尺度が違う別の世界に生きているのです。
私たちの住む世界の幾何学を「外在幾何」、ガウスさんが住む世界の幾何学を「内在幾何」と呼ぶことにします。ガウスさんがいる2次元の世界の中の線と角度だけであらわされるから「内在」だというわけです。外在幾何と内在幾何の違いは大切ですので、しっかり覚えてください。
次にとてつもなく大きな重力波がやってきて、空間が波打つ状況を描いてみましょう。次の画像のようにガウスさんの姿は私たちから見ると波打って見えます。
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平面が「正の方向に曲がる」と平面は凸レンズのような曲面になります。私たちからはガウスさんの姿がこのように右の眉毛のところが盛り上がったように見えます。
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平面が「負の方向に曲がる」と平面は馬の鞍に貼り付けたように曲がります。私たちからはガウスさんの姿がこのように眉や目、口などが鼻のほうに寄って見えます。
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さらに続けましょう。空間が渦を巻き始めました。ガウスさんの顔は鼻を中心に渦を巻き、醜く変形してしまいます。
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球や円筒の側面にガウスさんの2次元世界を貼り付けることもできます。私たちからはそれぞれ次のようなガウスさんを見ることになります。
球面の世界にいるガウスさん
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円筒の側面の世界にいるガウスさん
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このようにガウスさんのいる空間が変形することで、私たちにはガウスさんの姿がそれぞれ違った形に見えるわけです。
けれどもガウスさんはどのように感じているでしょうか?空間といっしょに自分の形もひきずられて変化するので、ガウスさんは相変わらず自分が真っすぐな空間に住んでいると信じています。彼からは周囲の物体の形にまったく変化は見られません。ここが不思議で面白いところです。
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ガウスさんのいる世界を宇宙だと考えれば、たとえ宇宙が曲がっていてもその内部にいる限り周囲の空間はいつも真っすぐに見えるので、宇宙の形はわからないのだと思えます。でも、はたして本当にそうでしょうか?
ところで、私たちが住んでいる3次元の空間の幾何学はX、Y、Zの3方向に伸びる空間の中であらわされます。これが外在幾何の座標システムで、その中にあるすべての場所は(x, y, z)の座標で示すことができます。この座標システムでガウスさんのいる曲面を方程式にして書くと、それぞれx,y,zを使った複雑な数式で表現できます。(もちろん難し過ぎるからここでは紹介しません。)
ガウスさんが住んでいる2次元の曲面の幾何学はU、Vの2方向に伸びる空間の中であらわされます。これが内在幾何の座標システムで、その中にあるすべての場所は(u, v)の座標で示すことができます。ガウスさんはこの(u, v)座標であらわされる世界を、このように真っすぐな方眼紙の世界のようにとらえています。横方向を u、縦方向が v としておきましょう。
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そして私たちの3次元世界からガウスさんの(u, v)の座標であらわされる世界を見ると、たとえば球に貼り付けた方眼紙のように次のように曲がった座標システムに見えるのです。
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ここからがガウスさんのすごいところです。それは2次元の世界にいながら「もしかしたら私のいる2次元世界は曲がっているのではないか?」と気が付いたことです。そして気が付いただけでなく、その曲面の形を数式であらわすことに成功したのです。考えてみてください。ガウスさんが使える座標は u と v の2つだけですよ。
彼がたどり着いた曲面をあらわす数式は次の2つでした。
第一基本形式
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第二基本形式
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x, y, zではなく u, v だけであらわされていることがおわかりになると思います。より正確に言えば u, v ではなく du, dv となっていますが、これは u と v の方向に伸びている無限小の長さの線素(線分)の意味で、微分形式といいます。無限小の線素が u, v の2方向に無数つながり編目のようになることで曲面が作られていきます。そして du, dv のような微分形式であらわされた幾何学のことを微分幾何学と呼んでいます。
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意味はともかく、そのことだけわかれば十分です。詳しい説明はウィキペディアの「驚異の定理」に書いてあります。名前が示すとおり、これはすごい発見だったのです。
なぜすごいかというと、この2つの数式はどのような形の曲面もあらわせることです。ふつう私たちが球面や放物面を3次元の x, y, z を使って数式にすると面の形が違うのだから数式も違ってきますよね? でもガウスさんが導いたこの数式は、どのように曲がった曲面でもあらわすことができる「曲面の数式の一般形」、万能な数式なのです。
2つの数式は文字の違いを除けばまったく同じ形をしています。けれども2つの数式の意味は違うのです。
詳しい説明はウィキペディアの「驚異の定理」に書かれていますが、第一基本形式の中のE, F, Gは曲面の中にある長さや角度だけを使って計算される値です。
そして第二基本形式の中のL, M, Nは曲面に内在する幾何学が曲面の外に在る(外在する)幾何学(空間)にどのように埋め込まれているかをあらわしている値です。つまり第一基本形式だけ(内在幾何学)だけで曲面の曲がり方を完全に決められるということが重要なのです。
言い換えれば第一基本形式はガウスさんが住んでいる2次元世界の幾何学、第二基本形式はガウスさんが住んでいる2次元世界の幾何学と私たちが住んでいる3次元の幾何学との結びつき方を示したものということになります。
また第一基本形式は du, dv だけであらわされるわけですから周囲の3次元の空間がなくても2次元の曲面は存在できるということを主張しているのです。ここが2つめにすごいところです。内在幾何の威力ですね。
1つめの驚異:第一基本形式と第二基本形式は、ともにあらゆる曲面を表現している。
2つめの驚異:第一基本形式であらわされる曲面は、その周囲の3次元空間がなくても存在できる。
ということです。曲面を取り囲む3次元空間はあってもなくても構わないのです。
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でも考えてみてください。机の上に置いた下敷きの端を持ち上げて反らせると曲面ができますよね。たとえ机の上に3次元の空間がなくても下敷きを反らすことができるのだというのが2つめの脅威が意味していることです。これはすごいことですよ。
そうです。内在幾何を使うだけで外から見なくても宇宙の形がわかるのです。ガウスさんは曲面の性質を研究しているうちにそのことに気が付き、数式で証明したのです。
大数学者ガウスの曲面の研究とは、このように高校数学のレベルをはるかに超えたものであることがおわかりになるでしょう。
難しくなってきたので、ついてこれなくなった方がいると思います。次回の記事では、もっと具体的に、そしてやさしく解説しますのでご安心ください。ガウスの曲面論を使って第1回の記事で提起した「宇宙の形は宇宙の外に出なくてもわかるのか?」を解き明かすことにいたしましょう。
第3回の記事に続きます。
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ドイツの大数学者ガウスは、徳川第11代将軍家斉や第12代将軍家慶と同時代を生きた人です。とても頭がよさそうに見えますね。
ガウスの業績をあげればきりがありませんが、そのうちのひとつに「曲面についての研究」があります。高校の数学でも球面や放物面、円錐や円筒の側面などを学びますし、そのうちのいくつかについては数式での表現も学びます。「曲面についての研究」とだけ聞くと、それほど難しいことをやっていたようには思えません。でもそんなはずはありませんよね。彼が業績として遺した曲面の理論については、後で説明することにいたします。
さて、ここでガウスさんに登場してもらいましょう。2次元空間に住んでいる「平面ガウスさん」です。平面にガウスの肖像画を貼り付けて、方眼紙のように縦横に座標を描いてみました。
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このガウスさんは平面の世界に縛られているので、縦と横の方向しか認識できません。あなたを見つめているように見えますが、あなたのいる方向はガウスさんが認識できない3つめの方向なので、ガウスさんにあなたは見えていないのです。
1905年に発表されたアインシュタインの特殊相対論によると、物体が等速で運動すると運動する方向に空間が縮むそうです。ですのでガウスさんに横方向に運動してもらいました。私たちから見るとガウスさんの横幅が縮んだことがわかります。この画像です。
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でも、ガウスさんは自分の横幅が縮んだことを認識しているでしょうか?空間が縮むのと一緒にガウスさんも縮んだのですから、彼には周囲の空間に変化がおきたとは感じられないのです。ですから彼は自分が縮んでいるとは感じていません。そして彼の周囲にある三角形や円、四角形も形が変わているようには見えません。
けれども(肖像画には描きませんでしたが)私たちから見るとガウスさんや彼の周囲にある三角形や円、四角形は横方向に縮んで見えるはずです。想像できますよね?
つまり、私たちの住む3次元世界とガウスさんが住む2次元世界の幾何学(面や3次元空間の座標)は別物なのです。私たちとガウスさんは長さの尺度が違う別の世界に生きているのです。
私たちの住む世界の幾何学を「外在幾何」、ガウスさんが住む世界の幾何学を「内在幾何」と呼ぶことにします。ガウスさんがいる2次元の世界の中の線と角度だけであらわされるから「内在」だというわけです。外在幾何と内在幾何の違いは大切ですので、しっかり覚えてください。
次にとてつもなく大きな重力波がやってきて、空間が波打つ状況を描いてみましょう。次の画像のようにガウスさんの姿は私たちから見ると波打って見えます。
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平面が「正の方向に曲がる」と平面は凸レンズのような曲面になります。私たちからはガウスさんの姿がこのように右の眉毛のところが盛り上がったように見えます。
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平面が「負の方向に曲がる」と平面は馬の鞍に貼り付けたように曲がります。私たちからはガウスさんの姿がこのように眉や目、口などが鼻のほうに寄って見えます。
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さらに続けましょう。空間が渦を巻き始めました。ガウスさんの顔は鼻を中心に渦を巻き、醜く変形してしまいます。
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球や円筒の側面にガウスさんの2次元世界を貼り付けることもできます。私たちからはそれぞれ次のようなガウスさんを見ることになります。
球面の世界にいるガウスさん
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円筒の側面の世界にいるガウスさん
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このようにガウスさんのいる空間が変形することで、私たちにはガウスさんの姿がそれぞれ違った形に見えるわけです。
けれどもガウスさんはどのように感じているでしょうか?空間といっしょに自分の形もひきずられて変化するので、ガウスさんは相変わらず自分が真っすぐな空間に住んでいると信じています。彼からは周囲の物体の形にまったく変化は見られません。ここが不思議で面白いところです。
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ガウスさんのいる世界を宇宙だと考えれば、たとえ宇宙が曲がっていてもその内部にいる限り周囲の空間はいつも真っすぐに見えるので、宇宙の形はわからないのだと思えます。でも、はたして本当にそうでしょうか?
ところで、私たちが住んでいる3次元の空間の幾何学はX、Y、Zの3方向に伸びる空間の中であらわされます。これが外在幾何の座標システムで、その中にあるすべての場所は(x, y, z)の座標で示すことができます。この座標システムでガウスさんのいる曲面を方程式にして書くと、それぞれx,y,zを使った複雑な数式で表現できます。(もちろん難し過ぎるからここでは紹介しません。)
ガウスさんが住んでいる2次元の曲面の幾何学はU、Vの2方向に伸びる空間の中であらわされます。これが内在幾何の座標システムで、その中にあるすべての場所は(u, v)の座標で示すことができます。ガウスさんはこの(u, v)座標であらわされる世界を、このように真っすぐな方眼紙の世界のようにとらえています。横方向を u、縦方向が v としておきましょう。
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そして私たちの3次元世界からガウスさんの(u, v)の座標であらわされる世界を見ると、たとえば球に貼り付けた方眼紙のように次のように曲がった座標システムに見えるのです。
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ここからがガウスさんのすごいところです。それは2次元の世界にいながら「もしかしたら私のいる2次元世界は曲がっているのではないか?」と気が付いたことです。そして気が付いただけでなく、その曲面の形を数式であらわすことに成功したのです。考えてみてください。ガウスさんが使える座標は u と v の2つだけですよ。
彼がたどり着いた曲面をあらわす数式は次の2つでした。
第一基本形式
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第二基本形式
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x, y, zではなく u, v だけであらわされていることがおわかりになると思います。より正確に言えば u, v ではなく du, dv となっていますが、これは u と v の方向に伸びている無限小の長さの線素(線分)の意味で、微分形式といいます。無限小の線素が u, v の2方向に無数つながり編目のようになることで曲面が作られていきます。そして du, dv のような微分形式であらわされた幾何学のことを微分幾何学と呼んでいます。
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意味はともかく、そのことだけわかれば十分です。詳しい説明はウィキペディアの「驚異の定理」に書いてあります。名前が示すとおり、これはすごい発見だったのです。
なぜすごいかというと、この2つの数式はどのような形の曲面もあらわせることです。ふつう私たちが球面や放物面を3次元の x, y, z を使って数式にすると面の形が違うのだから数式も違ってきますよね? でもガウスさんが導いたこの数式は、どのように曲がった曲面でもあらわすことができる「曲面の数式の一般形」、万能な数式なのです。
2つの数式は文字の違いを除けばまったく同じ形をしています。けれども2つの数式の意味は違うのです。
詳しい説明はウィキペディアの「驚異の定理」に書かれていますが、第一基本形式の中のE, F, Gは曲面の中にある長さや角度だけを使って計算される値です。
そして第二基本形式の中のL, M, Nは曲面に内在する幾何学が曲面の外に在る(外在する)幾何学(空間)にどのように埋め込まれているかをあらわしている値です。つまり第一基本形式だけ(内在幾何学)だけで曲面の曲がり方を完全に決められるということが重要なのです。
言い換えれば第一基本形式はガウスさんが住んでいる2次元世界の幾何学、第二基本形式はガウスさんが住んでいる2次元世界の幾何学と私たちが住んでいる3次元の幾何学との結びつき方を示したものということになります。
また第一基本形式は du, dv だけであらわされるわけですから周囲の3次元の空間がなくても2次元の曲面は存在できるということを主張しているのです。ここが2つめにすごいところです。内在幾何の威力ですね。
1つめの驚異:第一基本形式と第二基本形式は、ともにあらゆる曲面を表現している。
2つめの驚異:第一基本形式であらわされる曲面は、その周囲の3次元空間がなくても存在できる。
ということです。曲面を取り囲む3次元空間はあってもなくても構わないのです。
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でも考えてみてください。机の上に置いた下敷きの端を持ち上げて反らせると曲面ができますよね。たとえ机の上に3次元の空間がなくても下敷きを反らすことができるのだというのが2つめの脅威が意味していることです。これはすごいことですよ。
そうです。内在幾何を使うだけで外から見なくても宇宙の形がわかるのです。ガウスさんは曲面の性質を研究しているうちにそのことに気が付き、数式で証明したのです。
大数学者ガウスの曲面の研究とは、このように高校数学のレベルをはるかに超えたものであることがおわかりになるでしょう。
難しくなってきたので、ついてこれなくなった方がいると思います。次回の記事では、もっと具体的に、そしてやさしく解説しますのでご安心ください。ガウスの曲面論を使って第1回の記事で提起した「宇宙の形は宇宙の外に出なくてもわかるのか?」を解き明かすことにいたしましょう。
第3回の記事に続きます。
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(不正クリックブログの見分け方)
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