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四千万歩の男(一): 井上ひさし

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四千万歩の男(一): 井上ひさし」(Kindle版

内容:
忠敬は下総佐原村の婿養子先、伊能家の財をふやし50歳で隠居。念願の天文学を学び、1800年56歳から16年、糞もよけない“二歩で一間”の歩みで日本を歩き尽し、実測の日本地図を完成させた。この間の歩数、4千万歩……。定年後なお充実した人生を生きた忠敬の愚直な一歩一歩を描く歴史大作。全5巻。(講談社文庫)
1992年刊行、664ページ。

著者について:
井上ひさし: 公式サイト: hhttp://www.inouehisashi.jp/
1934年-2010年。山形県生れ。上智大学文学部卒業。浅草フランス座で文芸部進行係を務めた後に放送作家としてスタートする。以後『道元の冒険』(岸田戯曲賞、芸術選奨新人賞)、『手鎖心中』(直木賞)、『吉里吉里人』(読売文学賞、日本SF大賞)、『東京セブンローズ』など戯曲、小説、エッセイ等に幅広く活躍している。’84年に劇団「こまつ座」を結成し、座付き作者として自作の上演活動を行う。


昨今は司馬遼太郎や松本清張のようにボリュームのある連作ものの歴史小説を書ける作家がほとんどいなくなってしまった。次の世代では井上ひさし、そしてもう少し若くなって(歴史小説ではないが)京極夏彦というところだろう。力量がなくなったわけではなく、スピードが優先され、調査や分析にあてる時間が取れなくなったからなのだと思う。

通勤電車で読む一般書としてこの本を読み始めた。伊能忠敬については説明する必要がないだろう。史実にもとづいた本はいくつもあるが、ほとんど創作に近い本書を選んだのは純粋にフィクションとして楽しみたかったからである。井上ひさしさん独特の軽妙な言い回しで、忠敬の後半生を描き出した物語である。水戸黄門漫遊記のような本だから、時代考証や学術的な記述について「事実と違う!」などと目くじらを立てるのは野暮というもの。

物語は全5巻で6冊目に「忠敬の生き方」という解説本でしめくくられている。僕はKindle版をダウンロードし、ライトノベル感覚で読み始めた。ところがするする読み進めているわりに、なかなかページが進んでいかない。「あれ、変だぞ」と思って第1巻のページ数を確認したら664ページもある。どうりで進まないわけだ。全部読むのには時間がかかりそうだから、間に他の本も入れながら読むことにしよう。

フィクションといっても次の点においては綿密に調査の上、史実にのっとって書かれている。忠敬は1800年から1816年まで10次に渡る測量を行ったが、本書の第5巻まではそのうち1801年に完了した第2次測量までである。(参考ページ

- 第1次と第2次の測量が行われた目的、日程(年月日)、ルート、宿泊地
- 測量や観測に使用した装置、それらの装置の役割、測量方法
- 経由地の様子、藩主や主だった役人の名前
- 測量を行った時代の幕藩体制、庶民の生活や文化


第1巻では江戸に住む忠敬や家族、周囲の人たちの描写、測量の旅を志す動機、準備段階の描写から始まる。器具を使っての測量とはいえ歩測するのもとても大事なことだ。当時の江戸には野良犬がたくさんいた。前方に犬の糞が落ちていても進路や歩幅を変えるわけにはいかない。しぶしぶ犬の糞を踏みつけながら律儀に測量を続ける忠敬の姿が滑稽に描かれる。

実際の忠敬は真面目な人物だったそうだ。しかし本書で描かれているのは遊び心をもち、吉原通いが好きな忠敬である。忠敬は生涯4度妻をめとったが4番目の妻の「お栄」の素性ははっきりしていない。本書ではお栄を吉原の花魁に設定し、年季が明けた彼女を忠敬が迎えて嫁にしたことになっている。

当時の幕藩体制のもとで、奇妙な測量器具を持ち歩きながら各藩を旅するのは容易なことではない。「蝦夷地の調査」という名目で幕府の許可を取り付け、やっと旅を始めるめどがたったのである。そこに至るまでにも井上ひさしながらの奇想天外な出来事、実際にはとてもあり得ない幕府重鎮との出会いと顛末が創作された。つまり忠敬は吉原のとある店の雪隠(便所)で立小便している隠居した松平定信と出くわし、うまい具合に蝦夷地の調査のお許しを勝ち取るのである。そもそも忠敬の目的は子午線の長さの測量のために北へ真っすぐ進めればよいわけで、蝦夷地の調査は方便なのだ。

旅の各所で事件に巻き込まれたり、みずから進んで事件を解決しながら息子や弟子を伴った忠敬は測量を続け、北へ北へと進んでいく。第1巻の最後は津軽藩が秘密裡に行っていた阿片栽培をめぐる座頭(盲人)の大量殺人事件を解決し、蝦夷地から箱館(函館)に渡る直前までの行動が描かれている。

物語としてじゅうぶん楽しめる。『吉里吉里人』のようにジョーク連発というわけではないが、くすっと笑いながら江戸時代後期の雰囲気を楽しめる本だ。江戸の言葉づかいはもちろん、各地の方言が再現されていて著者の力量には敬服させられるばかり。こういう方言丸出しの文章を書ける作家も、最近はほとんどいなくなってしまったなと思った。いや違う、井上ひさしだからこそできたのである。

引き続き第2巻に進もう。


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関連ページ:

【 あの人の人生を知ろう~伊能忠敬編 】
http://kajipon.sakura.ne.jp/kt/tadataka.html

伊能忠敬e資料館
https://www.inopedia.tokyo/

日本国地図の歴史的変遷?やっぱ伊能忠敬って天才だわ。凄すぎる・・・
https://matome.naver.jp/odai/2136439442534894801

伊能大図彩色図の閲覧
http://www.gsi.go.jp/MAP/KOTIZU/sisak/ino-main.html


関連記事:

吉里吉里人:井上ひさし
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7830d542844bf6f4f6b702e081aa3be7

追悼:井上ひさしさん
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