Quantcast
Channel: とね日記
Viewing all articles
Browse latest Browse all 978

重力(下) アインシュタインの一般相対性理論入門: ジェームズ・B・ハートル

$
0
0

重力(下) アインシュタインの一般相対性理論入門: ジェームズ・B・ハートル

内容紹介:
最小限の数学で学べる一般相対性理論の画期的教科書!
本書は「世界天文年2009日本委員会公認」書籍に選ばれました。
アインシュタインの一般相対性理論は、現代物理学に欠かせない基礎である。それは、ブラックホール、曲がった時空、重力波、宇宙論などの豊かな話題を提供し、学ぶものすべてを魅了する。しかしこの学習には、微分幾何学の知識を身に付け,アインシュタイン方程式を導入しなければならない大きな壁があった。
本書は、学部のカリキュラムに一般相対性理論を取り入れ、物理専攻の可能性を持つすべての学生がこの基礎理論を学べるようにした、画期的な教科書である。高名な相対性理論物理学者のジェームス・ハートルは、科目へのアプローチとして「まずは物理を!」をかかげ、複雑な数学は最小限ですませながら物理現象への理論適用を説明し、一般相対性理論を取り組みやすいものしている。学生にとっては、学ぼうとしている重力物理学から始められ、難しい数学でつまずくことがなく理論を身につけられる。
2016年6月刊行、上巻350ページ、下巻343ページ。

著者について:
ジェームズ・B・ハートル
カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授

訳者について:
牧野伸義
1966年生まれ。1994年、広島大学大学院理学研究科博士課程修了。現在、大分工業高等専門学校一般科理系教授。理学博士。


理数系書籍のレビュー記事は本書で323冊目。

上巻の紹介記事では「『時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎』と好対照をなしている。また、数学についてだけ言えば「趣味で相対論(EMANの物理学)」よりもずっと易しい」と書いたが下巻になるとそうも言っていられなくなった。手応えはじゅうぶんあり、読んだ甲斐があった。

下巻の章立ては次のとおりである。

第13章 宇宙物理学的ブラックホール
第14章 少しの回転
第15章 回転するブラックホール
第16章 重力波
第17章 観測された宇宙
第18章 宇宙モデル
第19章 どの宇宙、そして、なぜ?

第III部 アインシュタイン方程式

第20章 少しだけ数学
第21章 曲率とアインシュタイン方程式
第22章 曲率の発生源
第23章 重力波放射
第24章 相対論星
付録B
付録C
付録D

第13章で3つのタイプのブラックホールの解説が行われる。すなわち観測で明らかになってきた「X線連星のブラックホール」、「銀河中心のブラックホール」、そして宇宙背景放射から予想されている「原初ブラックホール」である。古典的一般相対論だけでなくホーキング放射(量子的蒸発)についても解説してあり、ブラックホールの寿命が見積もられる。

第14章と第15章では「物体の回転」が引き起こす時空の引きずり効果の計算が紹介される。

水を入れたバケツにゴムボールを浮かべ、そのゴムボールを回転させると周囲の水が引きずられて渦を巻く。それはゴムボール表面と水の間に働く摩擦力や水がもつ粘性のためにおこる現象だ。これが空間に浮かんだ物体でも起こるのだそうだ。つまりボールを回転させると周囲の「時空」が引きずられて渦を巻くというのだ。初めてこれを聞いたときは信じられなかった。空間は真空なので物体との間に摩擦力はないはずだ。

本書で紹介されるのは回転が遅い場合と回転が速い場合の2つである。回転が遅い場合の例として地球の自転による時空の引きずり効果が導出される。この現象は2011年に「NASAの人工衛星が時空のゆがみを観測、アインシュタインの理論を実証する」として予想が正しいことが確認されている。この不思議な現象のしくみを定性的に理解できたのと、引きずりの量を計算によって確認できたのがうれしかった。

2つ目の回転が速い例として紹介されるのが「カー・ブラックホール」という高速で回転するブラックホールによる時空の引きずり効果である。引きずられた時空はブラックホールの周囲を運動する物体(テスト粒子)や光線の軌道を計算することで示される。つまり静止したシュワルツシルト・ブラックホールのときと測地線の方程式は違ってくる。運動がブラックホールの回転と同じ方向と逆の方向の場合で状況は異なり、安定な円軌道を描いたり不安定な円軌道を描いたりすることが導かれる。

第16章と第23章では重力波、重力波放射を計算によって導出する。第16章の段階ではまだアインシュタイン方程式は解説されていないので、線形近似による波動方程式としての取り扱いだ。重力波の偏極の計算、LIGOの重力波検出器の紹介と解説、そして本書(日本語版のみ)では訳者注としてLIGOで初観測された重力波の波形が掲載されている。kこの新しい話題を3ページの解説として出版ぎりぎりに盛り込むことができたのが素晴らしい。(参照:「重力波の直接観測に成功!」)

第23章の重力波放射のほうは発生源のある重力波について、アインシュタイン方程式を使った解説と計算が示される。連星パルサーから放射される弱い重力波やその四重極公式、放射によるエネルギーの現象など。最後に「強い波源への期待」という節でブラックホールの合体やそのエネルギーの評価が示されているが、これはすでに私たちが今年のニュースとして驚いた事がらなので、とても興味深く読むことができた。

第17章から第19章はいわゆる宇宙論の解説にあてられている。宇宙の構成物、膨張宇宙、宇宙の地図、宇宙モデル、一様,等方時空、宇宙論的赤方偏移、物質と放射,真空、平坦FRW モデルの進化、ビッグバンと宇宙の年齢と大きさ、空間的に曲がったロバートソン--ウォーカー計量、宇宙の力学などのキーワードで概要がおわかりになるだろう。「宇宙が始まる前には何があったのか?: ローレンス・クラウス」や「ワインバーグの宇宙論(上)(下)」のエッセンスをまとめた感じである。

第III部からお待ちかねのアインシュタイン方程式が導出される。数式アレルギーがない人であってもこの方程式の導出が第1章にあると挫折しかねない。苦手なものは後回しにしようという本書の流儀に従った章の配置である。

第20章でベクトルと双対ベクトル、テンソルと基底の変換、共変微分、曲3次元空間での勾配、発散、回転など基礎的な数学を学んで準備完了。

第21章から第23章でアインシュタイン方程式の導出が行われる。一般相対論のほとんどの教科書では計算ばかり続くのが普通であるが、本書では物理現象とのつながりを強く意識している。導出のそれぞれの過程で具体的な例を引き合いにして計算を進めているのだ。つまり地球潮汐、測地線偏差、ニュートン重力との比較、電磁気の場合と一般相対論の線形重力の場の比較、エネルギー-運動量密度やその保存などである。読者は知らず知らずのうち、アインシュタイン方程式にたどり着くという印象を持つだろう。

テンソル計算を厳密に進めながら学びたいという読者には不満が残るかもしれない。導出過程の一部は省略されているし、長い計算が必要なところは本書の特設ページで公開されているMathematicaのプログラムに任せているからだ。プログラムの解説や実行方法は本書の付録で紹介されている。

GRAVITY: An Introduction to Einstein's General Relativity James B. Hartle
http://web.physics.ucsb.edu/~gravitybook/

Mathematicaを持っていない僕としては、少々不満が残った。このプログラムのためだけに購入するのもコスパが悪いし、この例の他に用途があるとも思えない。無料のMaximaで代用できないかと思うわけである。検索すると次のようなページが見つかった。時間が取れたら調べてみよう。

The Maxima computer algebra system
https://www.vttoth.com/CMS/projects/61-the-maxima-computer-algebra-system

General Relativity in Maxima and Mathematica
http://dau.itep.ru/sn/node/116

Tensor manipulation in GPL Maxima
https://arxiv.org/pdf/cs/0503073.pdf

Maxima 5.39.0 Manual: 26. ctensor
http://maxima.sourceforge.net/docs/manual/maxima_26.html
http://eagle.cs.kent.edu/MAXIMA/maxima_30.html

アインシュタイン方程式の導出をできるだけ省略のない手順で学びたい方もいるだろう。僕がこれまでに読んだ本では「時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎」と「趣味で相対論(EMANの物理学)」がお勧めだ。

第24章のタイトルは「相対論星」。この言葉は知らなかった。この章は「ブラックホール・膨張宇宙・重力波 一般相対性理論の100年と展開:真貝寿明」の第4章の前半で紹介される白色矮星や中性子星の発見に至る理論的裏付けとなっている。

ほとんどの星は重力の崩壊力に対して高温ガスの圧力で星自身を支えている。定常状態において放射によるエネルギーの損失は、原子核が結合してエネルギーを解放する熱核反応によって供給されている。そのエネルギーを使い果たすと星は2つの末路をたどることになる。

1)ブラックホールに至る重力崩壊
2)非熱的圧縮源によって重力を支える星(白色矮星や中性子星)

これらを理解するためには一般相対論だけでなく物理学のほとんどすべての知識が必要になる。本書でそのすべてを解説するのは不可能なので、非熱的圧縮源の例として「パウリの排他原理」に基づいた量子統計力学的計算を取り上げている。また重力の圧縮力とそれに抗する圧力にある相対論星の性質を決める構造方程式を求める。そして星の内部にもシュワルツシルト計量を適用し、計量と星の内部の物質についてアインシュタイン方程式を解くのである。その結果、白色矮星や中性子星の進化の過程、密度の変化、安定性、中性子星の最大質量の限界値などが求められる。


このように一般相対論の入門用教科書としては、とても現代的でかつユニークな本だという印象を持った。必読書のひとつと言ってよいだろう。


翻訳のもとになった原書は2002年に発売された革新的な教科書である。Kindle版は固定レイアウトなのでご注意いただきたい。

Gravity: An Introduction to Einstein's General Relativity: James B. Hartle」(Kindle版




特設ページ:

本書英語版の正誤表や補足事項、Mathematicaのプログラムは著者による次の特設ページで公開されている。

GRAVITY: An Introduction to Einstein's General Relativity James B. Hartle
http://web.physics.ucsb.edu/~gravitybook/


ちなみにシュッツの「A First Course in General Relativity」の初版は1985年、第2版は2009年刊行である。日本語版はこちらで購入できる。



関連記事:

発売情報: 重力(上)(下) アインシュタインの一般相対性理論入門: ジェームズ・B・ハートル
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c195a49914a852b1c73049bb7b9743e0

重力(上) アインシュタインの一般相対性理論入門: ジェームズ・B・ハートル
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d45a93d43478a133c6a514c980572632

重力波の直接観測に成功!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a8439e8e4d81d7873422737d7bd1640d

一般相対性理論に挑戦しよう!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ea7ad9292ce01ad4abbbc8c98f3303d0

趣味で相対論(EMANの物理学)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/90aa60383b600ff4e4fd7bea6589deaa

重力理論 Gravitation-古典力学から相対性理論まで、時空の幾何学から宇宙の構造へ
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f838b8f6c2554000933187df89e08013

アインシュタイン選集(2): 一般相対性理論および統一場理論
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d3d0869ab3911e84845b5b121bd1aa3e

時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ffc643a688ce45dec7460d107fe1392e

マーミン相対論―新しい発想で学ぶ: デヴィッド マーミン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6e47253b0622e867f57fb15b88d18149


ブログ執筆のはげみになりますので、1つずつ応援クリックをお願いします。
にほんブログ村 科学ブログ 物理学へ 人気ブログランキングへ 


とね日記は長年放置されている科学ブログランキングの不正クリックに対し、次のランキングサイトには適切な運営を期待します。
FC2自然科学ブログランキング」:不正の例1 例2(クリックしてからTwitterアプリで開くと画像は鮮明に見れます。)
不正クリックブログの見分け方


  

 


重力(上) アインシュタインの一般相対性理論入門: ジェームズ・B・ハートル
重力(下) アインシュタインの一般相対性理論入門: ジェームズ・B・ハートル

 

上巻

第I部 ニュートン物理学と特殊相対論における空間と時間

第1章 重力物理学

第2章 物理としての幾何学
2.1 重力は幾何学だ
2.2 幾何学の実験
2.3 いろいろな幾何学
2.4 幾何学を決める
2.5 座標と線素
2.6 座標と不変性

第3章 ニュートン物理学の空間と時間,重力
3.1 慣性系
3.2 相対性原理
3.3 ニュートン重力
3.4 重力と慣性質量
3.5 ニュートン力学の変分原理

第4章 特殊相対性理論の原理
4.1 速度の加法則とマイケルソン-モーレーの実験
4.2 アインシュタインの革命とその成果
4.3 時空
4.4 時間の遅れと双子のパラドックス
4.5 ローレンツブースト
4.6 単位系

第5章 特殊相対論的力学
5.1 4 元ベクトル
5.2 特殊相対論的運動学
5.3 特殊相対論的力学
5.4 自由粒子の運動の変分原理
5.5 光線
5.6 観測者と観測

第II部 一般相対性理論の曲がった時空

第6章 幾何学としての重力
6.1 重力質量と慣性質量の等価のテスト
6.2 等価原理
6.3 重力場中の時計
6.4 GPS
6.5 時空は曲がっている
6.6 時空のことばで表したニュートン重力

第7章 曲がった時空の表し方
7.1 座標系
7.2 計量
7.3 総和規約
7.4 局所慣性系
7.5 光円錐と世界線
7.6 対角計量のときの長さと面積,体積,4元次体積
7.7 埋め込み図とワームホール
7.8 曲がった時空中のベクトル
7.9 4次元時空中の3次元曲面

第8章 測地線
8.1 測地線方程式
8.2 対称性と保存則による測地線方程式の解法
8.3 ヌル測地線
8.4 局所慣性系と自由落下系

第9章 球対称星外部の幾何学
9.1 シュワルツシルト幾何学
9.2 重力赤方偏移
9.3 粒子軌道-近日点移動
9.4 光線軌道-光の曲がりと時間の遅れ

第10章 一般相対性理論の太陽系実験
10.1 重力赤方偏移
10.2 PPN パラメータ
10.3 PNN パラメータγの測定
10.4 PPN パラメータβの測定-水星の近日点移動

第11章 実際の相対論的重力
11.1 重力レンズ効果
11.2 コンパクト天体の周りの降着円盤
11.3 連星パルサー

第12章 重力崩壊とブラックホール
12.1 シュワルツシルトブラックホール
12.2 ブラックホールへの崩壊
12.3 クルスカル-スゼッケル座標
12.4 非球対称重力崩壊

付録A 単位
A.1 単位の一般論
A.2 本書で使われる単位


下巻

第13章 宇宙物理学的ブラックホール
13.1 X 線連星のブラックホール
13.2 銀河中心のブラックホール
13.3 ブラックホールの量子的蒸発--ホーキング放射

第14章 少しの回転
14.1 慣性系の回転的引きずり
14.2 曲がった時空のジャイロスコープ
14.3 測地的歳差
14.4 ゆっくり回転する球対称物体外部の時空
14.5 ゆっくり回転する物体の時空中のジャイロスコープ
14.6 ジャイロと自由落下系

第15章 回転するブラックホール
15.1 宇宙検閲官
15.2 カーブラックホール
15.3 回転ブラックホールの地平
15.4 赤道面における軌道
15.5 エルゴ球

第16章 重力波
16.1 線形重力波
16.2 重力波の検出
16.3 重力波の偏極
16.4 重力波干渉計
16.5 重力波のエネルギー

第17章 観測された宇宙
17.1 宇宙の構成物
17.2 膨張宇宙
17.3 宇宙の地図

第18章 宇宙モデル
18.1 一様,等方時空
18.2 宇宙論的赤方偏移
18.3 物質と放射,真空
18.4 平坦FRW モデルの進化
18.5 ビッグバンと宇宙の年齢と大きさ
18.6 空間的に曲がったロバートソン--ウォーカー計量
18.7 宇宙の力学

第19章 どの宇宙、そして、なぜ?
19.1 宇宙の探査
19.2 宇宙の説明

第III部 アインシュタイン方程式

第20章 少しだけ数学
20.1 ベクトル
20.2 双対ベクトル
20.3 テンソル
20.4 共変微分
20.5 再び自由落下系

第21章 曲率とアインシュタイン方程式
21.1 潮汐重力
21.2 測地線偏差の式
21.3 リーマン曲率
21.4 真空のアインシュタイン方程式
21.5 線形重力

第22章 曲率の発生源
22.1 密度
22.2 エネルギー運動量の保存
22.3 アインシュタイン方程式
22.4 ニュートン極限

第23章 重力波放射
23.1 発生源のある線形アインシュタイン方程式
23.2 発生源のある波動方程式の解法
23.3 線形重力の一般解
23.4 弱い重力波の発生
23.5 連星からの重力波
23.6 重力波によるエネルギー損失の四重極公式
23.7 連星パルサーで検出された重力波の効果
23.8 強い波源への期待

第24章 相対論星
24.1 パウリ原理の威力
24.2 相対論的静水圧平衡
24.3 星のモデル
24.4 基底状態の物質
24.5 安定性
24.6 中性子星の最大質量の限界

付録B
付録C
付録D

Viewing all articles
Browse latest Browse all 978

Trending Articles