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重力(上) アインシュタインの一般相対性理論入門: ジェームズ・B・ハートル

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重力(上) アインシュタインの一般相対性理論入門: ジェームズ・B・ハートル

内容紹介:
最小限の数学で学べる一般相対性理論の画期的教科書!
本書は「世界天文年2009日本委員会公認」書籍に選ばれました。
アインシュタインの一般相対性理論は、現代物理学に欠かせない基礎である。それは、ブラックホール、曲がった時空、重力波、宇宙論などの豊かな話題を提供し、学ぶものすべてを魅了する。しかしこの学習には、微分幾何学の知識を身に付け,アインシュタイン方程式を導入しなければならない大きな壁があった。
本書は、学部のカリキュラムに一般相対性理論を取り入れ、物理専攻の可能性を持つすべての学生がこの基礎理論を学べるようにした、画期的な教科書である。高名な相対性理論物理学者のジェームス・ハートルは、科目へのアプローチとして「まずは物理を!」をかかげ、複雑な数学は最小限ですませながら物理現象への理論適用を説明し、一般相対性理論を取り組みやすいものしている。学生にとっては、学ぼうとしている重力物理学から始められ、難しい数学でつまずくことがなく理論を身につけられる。
2016年6月刊行、上巻350ページ、下巻343ページ。

著者について:
ジェームズ・B・ハートル
カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授

訳者について:
牧野伸義
1966年生まれ。1994年、広島大学大学院理学研究科博士課程修了。現在、大分工業高等専門学校一般科理系教授。理学博士。


理数系書籍のレビュー記事は本書で321冊目。

今月26日に開催される日本物理学会2016年度公開講座 「一般相対性理論と宇宙 -重力波研究の最前線-」を受講するので、予習のつもりで読んでみた。この2週間は時間がとれず全く勉強できなかったのだが、なんとか上巻を読了。

特殊相対論の部分はさておき、一般相対論の教科書なので難しいのを覚悟して読み始めたわけだが、意外なほど易しくてとっつきやすい。図版が豊富で「新しい教科書」の雰囲気に満ちている。思わず「ファインマン物理学の第1巻、力学並みに易しい。」とツイートしてしまったくらいだ。でも易しいのは第6章あたりまでである。第7章からは適度に難しくなり、自分にはちょうどよい感じに思えてきた。

この本の最大の特徴は、一般相対性理論の要となる「アインシュタインの重力場方程式」を下巻の最後のほうにもってきたことである。その結果、上巻は特殊相対論と一般相対論が予言する物理現象の記述と計算、幾何学が主になるわけだが、できる限り難しい数学を抑えて物理現象そのものを描き出すことによって、古典力学と解析力学、線形代数と微積分、ベクトル解析をマスターしたばかりの大学2、3年生でも余裕で学習できる難易度に抑えているのだ。

多くの一般相対性理論の教科書ではまず共変微分や難解なリーマン幾何の4階テンソルの計算をして重力場の方程式を導いた後に、惑星の歳差運動や光線の湾曲、ブラックホールなどの解を求めていくわけだが、学生のほとんどは重力場の方程式にたどり着くはるか前の段階でくじけてしまう。本書では厳密な証明をかなり省略することで上に述べたような易しい解説を実現している。一般相対性理論にテーマを限定した宇宙論寄りの教科書ともいえる。

この意味で数学科の学生向けに書かれた(彼らにとっては易しく感じられる)「時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎」と好対照をなしている。また、数学についてだけ言えば「趣味で相対論(EMANの物理学)」よりもずっと易しい。

なぜそのように易しい数式だけですむのかというと、曲った時空の線素や測地線方程式、計量など数学的に比較的に易しい数式をもとにして解説と計算の導出をしているからなのだ。一般相対性理論の核となる重力場の方程式の導出をしないのは、いちばん重要で、本質的なところ、美味しいところを食べそこなう気持ちがしないでもない。しかし、苦労せずに一般相対性理論の応用例が理解できるのなら、それはそれでいいのではないかという気になってくる。

具体的には次のような事がらが解説されている。

特殊相対性理論:

- 時間の遅れと双子のパラドックス
- ローレンツブースト

一般相対性理論:

- GPS
- 測地線
- 重力赤方偏移
- ニュートン・ポテンシャルと相対論的ポテンシャルの違い
- 粒子の近日点移動
- 光線軌道(円軌道、散乱軌道、突入軌道)
- 光の曲がりと時間の遅れ
- 水星の近日点移動
- 重力レンズ効果
- コンパクト天体の周りの降着円盤
- 連星パルサー
- 重力崩壊とブラックホール
- シュワルツシルトブラックホール
- ブラックホールへの崩壊(ブックホール内部と外部の物理)
- クルスカル-スゼッケル座標
- 非球対称重力崩壊

上巻の章立てはこのとおり。

第I部 ニュートン物理学と特殊相対論における空間と時間

第1章 重力物理学
第2章 物理としての幾何学
第3章 ニュートン物理学の空間と時間,重力
第4章 特殊相対性理論の原理
第5章 特殊相対論的力学

第II部 一般相対性理論の曲がった時空

第6章 幾何学としての重力
第7章 曲がった時空の表し方
第8章 測地線
第9章 球対称星外部の幾何学
第10章 一般相対性理論の太陽系実験
第11章 実際の相対論的重力
第12章 重力崩壊とブラックホール
付録A 単位

これだけ多くの現象、応用例が学べるのが素晴らしいと思う。「苦労せずに一般相対性理論の応用例が理解できるのなら、それはそれでいいのではないか。」という気持ちになる理由はここにある。

上巻で取り上げられるのは「静的な時空」に限定される。ブラックホールも回転していない。シュワルツシルトブラックホールは球対称で回転していないので質量Mによってのみで特徴づけられるブラックホールだ。単純な設定に少々物足りなさを感じたが、基礎を学ぶという意味では大切である。理解しているからと読み飛ばさないほうがよいと思うのだ。

下巻では重力波や回転するブラックホールなど、動的な時空、近年ホットな話題が取り上げられるので、上巻を読んでいる間でも期待感やモチベーションは否応なしに高まってくる。発表されてから100年がたつ一般相対性理論だが、コラムでは1970年以降に行われた理論の検証方法や結果などが紹介され、今もなお研究が進められているのだということが実感できる教科書である。

趣味で相対論」も入門書としておススメだが、まったく違う雰囲気をもち他書との重複が少ない本書もいいものだなと思った。

さて下巻に取り掛かることにしよう。


翻訳のもとになった原書は2002年に発売された革新的な教科書である。Kindle版は固定レイアウトなのでご注意いただきたい。

Gravity: An Introduction to Einstein's General Relativity: James B. Hartle」(Kindle版




特設ページ:

本書英語版の正誤表や補足事項、Mathematicaのプログラムは著者による次の特設ページで公開されている。

GRAVITY: An Introduction to Einstein's General Relativity James B. Hartle
http://web.physics.ucsb.edu/~gravitybook/


ちなみにシュッツの「A First Course in General Relativity」の初版は1985年、第2版は2009年刊行である。日本語版はこちらで購入できる。


関連講座:

日本物理学会2016年度公開講座 「一般相対性理論と宇宙 -重力波研究の最前線-」
http://www.jps.or.jp/public/koukai/koukai-2016-11-26.php

内容: 1916年にアインシュタインが発表した重力波の理論から今年でちょうど100年。その間の目覚ましい科学技術の進展により、去る2月、アメリカのLIGOグループがアインシュタインですら困難と考えていた重力波の直接検出に成功し、大きな話題となりました。新たな重力波の世紀が幕を開けたいま、第一線で活躍されている研究者による「重力波研究の歴史」「重力波の理論とシミュレーション」「重力波の観測」などのお話で、はるか彼方、宇宙の出来事を奏でる波に思いを馳せてみませんか?

期日: 2016年11月26日(土)13:00~16:45
会場: 東京大学本郷キャンパス 伊藤謝恩ホール(赤門の右隣)
参加費: 無料(要事前申込。)
定員: 350名(申込先着順で定員になり次第締め切らせていただきます。)-> 定員に達しました。


関連記事:

発売情報: 重力(上)(下) アインシュタインの一般相対性理論入門: ジェームズ・B・ハートル
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c195a49914a852b1c73049bb7b9743e0

重力波の直接観測に成功!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a8439e8e4d81d7873422737d7bd1640d

一般相対性理論に挑戦しよう!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ea7ad9292ce01ad4abbbc8c98f3303d0

趣味で相対論(EMANの物理学)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/90aa60383b600ff4e4fd7bea6589deaa

重力理論 Gravitation-古典力学から相対性理論まで、時空の幾何学から宇宙の構造へ
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f838b8f6c2554000933187df89e08013

アインシュタイン選集(2): 一般相対性理論および統一場理論
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d3d0869ab3911e84845b5b121bd1aa3e

時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ffc643a688ce45dec7460d107fe1392e

マーミン相対論―新しい発想で学ぶ: デヴィッド マーミン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6e47253b0622e867f57fb15b88d18149


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重力(上) アインシュタインの一般相対性理論入門: ジェームズ・B・ハートル
重力(下) アインシュタインの一般相対性理論入門: ジェームズ・B・ハートル

 

上巻

第I部 ニュートン物理学と特殊相対論における空間と時間

第1章 重力物理学

第2章 物理としての幾何学
2.1 重力は幾何学だ
2.2 幾何学の実験
2.3 いろいろな幾何学
2.4 幾何学を決める
2.5 座標と線素
2.6 座標と不変性

第3章 ニュートン物理学の空間と時間,重力
3.1 慣性系
3.2 相対性原理
3.3 ニュートン重力
3.4 重力と慣性質量
3.5 ニュートン力学の変分原理

第4章 特殊相対性理論の原理
4.1 速度の加法則とマイケルソン-モーレーの実験
4.2 アインシュタインの革命とその成果
4.3 時空
4.4 時間の遅れと双子のパラドックス
4.5 ローレンツブースト
4.6 単位系

第5章 特殊相対論的力学
5.1 4 元ベクトル
5.2 特殊相対論的運動学
5.3 特殊相対論的力学
5.4 自由粒子の運動の変分原理
5.5 光線
5.6 観測者と観測

第II部 一般相対性理論の曲がった時空

第6章 幾何学としての重力
6.1 重力質量と慣性質量の等価のテスト
6.2 等価原理
6.3 重力場中の時計
6.4 GPS
6.5 時空は曲がっている
6.6 時空のことばで表したニュートン重力

第7章 曲がった時空の表し方
7.1 座標系
7.2 計量
7.3 総和規約
7.4 局所慣性系
7.5 光円錐と世界線
7.6 対角計量のときの長さと面積,体積,4元次体積
7.7 埋め込み図とワームホール
7.8 曲がった時空中のベクトル
7.9 4次元時空中の3次元曲面

第8章 測地線
8.1 測地線方程式
8.2 対称性と保存則による測地線方程式の解法
8.3 ヌル測地線
8.4 局所慣性系と自由落下系

第9章 球対称星外部の幾何学
9.1 シュワルツシルト幾何学
9.2 重力赤方偏移
9.3 粒子軌道-近日点移動
9.4 光線軌道-光の曲がりと時間の遅れ

第10章 一般相対性理論の太陽系実験
10.1 重力赤方偏移
10.2 PPN パラメータ
10.3 PNN パラメータγの測定
10.4 PPN パラメータβの測定-水星の近日点移動

第11章 実際の相対論的重力
11.1 重力レンズ効果
11.2 コンパクト天体の周りの降着円盤
11.3 連星パルサー

第12章 重力崩壊とブラックホール
12.1 シュワルツシルトブラックホール
12.2 ブラックホールへの崩壊
12.3 クルスカル-スゼッケル座標
12.4 非球対称重力崩壊

付録A 単位
A.1 単位の一般論
A.2 本書で使われる単位


下巻

第13章 宇宙物理学的ブラックホール
13.1 X 線連星のブラックホール
13.2 銀河中心のブラックホール
13.3 ブラックホールの量子的蒸発--ホーキング放射

第14章 少しの回転
14.1 慣性系の回転的引きずり
14.2 曲がった時空のジャイロスコープ
14.3 測地的歳差
14.4 ゆっくり回転する球対称物体外部の時空
14.5 ゆっくり回転する物体の時空中のジャイロスコープ
14.6 ジャイロと自由落下系

第15章 回転するブラックホール
15.1 宇宙検閲官
15.2 カーブラックホール
15.3 回転ブラックホールの地平
15.4 赤道面における軌道
15.5 エルゴ球

第16章 重力波
16.1 線形重力波
16.2 重力波の検出
16.3 重力波の偏極
16.4 重力波干渉計
16.5 重力波のエネルギー

第17章 観測された宇宙
17.1 宇宙の構成物
17.2 膨張宇宙
17.3 宇宙の地図

第18章 宇宙モデル
18.1 一様,等方時空
18.2 宇宙論的赤方偏移
18.3 物質と放射,真空
18.4 平坦FRW モデルの進化
18.5 ビッグバンと宇宙の年齢と大きさ
18.6 空間的に曲がったロバートソン--ウォーカー計量
18.7 宇宙の力学

第19章 どの宇宙、そして、なぜ?
19.1 宇宙の探査
19.2 宇宙の説明

第III部 アインシュタイン方程式

第20章 少しだけ数学
20.1 ベクトル
20.2 双対ベクトル
20.3 テンソル
20.4 共変微分
20.5 再び自由落下系

第21章 曲率とアインシュタイン方程式
21.1 潮汐重力
21.2 測地線偏差の式
21.3 リーマン曲率
21.4 真空のアインシュタイン方程式
21.5 線形重力

第22章 曲率の発生源
22.1 密度
22.2 エネルギー運動量の保存
22.3 アインシュタイン方程式
22.4 ニュートン極限

第23章 重力波放射
23.1 発生源のある線形アインシュタイン方程式
23.2 発生源のある波動方程式の解法
23.3 線形重力の一般解
23.4 弱い重力波の発生
23.5 連星からの重力波
23.6 重力波によるエネルギー損失の四重極公式
23.7 連星パルサーで検出された重力波の効果
23.8 強い波源への期待

第24章 相対論星
24.1 パウリ原理の威力
24.2 相対論的静水圧平衡
24.3 星のモデル
24.4 基底状態の物質
24.5 安定性
24.6 中性子星の最大質量の限界

付録B
付録C
付録D

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