8月の読書は戦争関連の本を読むのを心がけている。数学書を読み進めていたのだが、いったん中断して日頃ツイッターでお付き合いしていただいている小川さんから紹介いただいた2冊を読むことにした。共通するのは物理学者と原爆の開発。異なった側面から歴史が教えてくれるこの問題を考えてみたい。
両方読み終えると秋になりかねないので、今日は取り急ぎタイトルだけ紹介しておこう。どちらも物理学徒のみなさんに超おススメ。もちろん一般の方にもお読みいただける本だ。
「原子爆弾 1938~1950年―いかに物理学者たちは、世界を残虐と恐怖へ導いていったか?:ジム・バゴット」
内容紹介:
広島・長崎、原爆70年――
新資料によって、初めて明らかにされる
“歴史の真実”と“人間ドラマ”。
「後世に残る傑作」(ネイチャー誌)
1938年、ドイツで核分裂発見、
亡命ユダヤ人、独米ソの物理学者やスパイによる
国家の命運を賭けた“原爆開発戦争”が始まる。
そして……。
本書は、原爆の開発競争、広島・長崎への投下、そして戦後世界の核拡散を、焦燥と不安のなかで研究を進める物理学者たちの姿、各国の政治家の思惑と策略という人間ドラマとともに描き、初めて独・英・米・ソ連の核開発の歴史の全体像に迫ったものである。
近年公開された英国MI6やソ連の機密資料、米国ヴェノナ計画で解読されたソ連の暗号文などによって、ようやく明るみに出た、独やソ連の核開発の真相、映画さながらのスパイの暗躍……。21世紀の今日だからこそ書き得た“科学と政治をめぐる20世紀の叙事詩”である。
2015年3月刊行、631ページ。
戦後70年という節目だった昨年に刊行された本。核分裂の発見や研究から水爆実験あたりまでの10年間、戦争に翻弄されながら世界中の物理学者たちがどのように原爆の開発に巻き込まれていったのかがストーリ仕立てで語られる。写真もたくさん掲載され、近年発見された資料も紹介されている。原爆を知るための本としては「原子爆弾の誕生:リチャード・ローズ」とともにお勧めできる本である。
原爆の開発や投下まで政治的、軍事的な経緯は、NHKスペシャルをはじめとするドキュメンタリー番組で広島・長崎やアメリカを中心とした話が紹介されるが、イギリスやヨーロッパ全体、ソ連を含めた全体像を知るには1~2時間という番組枠では全く足りない。このような本を読むのがいちばんよいと思う。
本の帯に書かれているように本書は「後世に残る傑作」である。
翻訳のもとになった原書はこちら。2009年に刊行された。ちなみに原書のKindle版を購入してみたが、日本語版にたくさん掲載されている写真がまったくない。Kindle版は文字だけの本なのでご注意いただきたい。原書の書籍版について写真の有無は不明。
「Atomic: The First War of Physics and the Secret History of the Atom Bomb 1939-49: Jim Baggott」(Kindle版)
内容紹介:
Spanning ten historic years, from the discovery of nuclear fission in 1939 to ‘Joe-1’, the first Soviet atomic bomb test in August 1949, Atomic is the first fully realised popular account of the race between Nazi Germany, Britain, America and the Soviet Union to build atomic weapons.
Rich in personality, action, confrontation and deception, Jim Baggott’s book tells an epic story of science and technology at the very limits of human understanding.
「部分と全体―私の生涯の偉大な出会いと対話:W.K. ハイゼンベルク」
内容紹介:
本書は量子力学建設期の巨人、W・ハイゼンベルクによる『Der Teil und das Ganze』(1969) の邦訳である。訳はハイゼンベルクのもとで彼と共同研究を行っていた山崎和夫により、序文を湯川秀樹が寄せている。この豪華な顔ぶれが並ぶ本のページをめくってみると、まず内容のおもしろさに引き込まれる。題名からは難解な哲学書を思わせるが、本書はハイゼンベルクの自伝なのである。
圧巻は彼とボーア、アインシュタイン、ゾンマーフェルト、パウリ、ディラック、プランク等巨人たちとの対話である。そこではアインシュタインが「サイコロを振る神」の考え方を受け入れられず執拗に食い下がり同僚にいさめられたり、温厚な人柄で知られるボーアがシュレーディンガーと対決しついにシュレーディンガーが熱で倒れるも、ボーアはベッドの横にイスを持ち込んで議論を続けようとしたりと、そこからは巨人たちの姿を生身の人間として感じることができる。キリスト教の聖書は物語と対話によって神の教えがあらわされているが、本書では物語と対話によって物理学の巨人たちの教えがあらわされている。その言葉には重みがあり本書を開くたびに新たな発見がある。
みすず書房版は1999年刊行、403ページ。
量子力学の不確定性原理の提唱者、ドイツ人物理学者ハイゼンベルク自身による伝記だ。物理学ファンとしては必読書なのだが、僕はまだ手を出していなかった。量子力学史を学ぶという意味、量子力学のもつ意味を考えるための本だ。
ハイゼンベルクもヒトラー政権下に原爆開発に巻き込まれて協力をした中心人物である。上で紹介した「原子爆弾」と本書はその部分で交差している。ハイゼンベルクから見た戦争や原爆はどのようなものであったか?この2冊は読み合わせとしてベストな選択だと思う。
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