「コロボックル物語1 だれも知らない小さな国」
内容紹介:
びっくりするほど綺麗なつばきが咲き、美しい泉が湧き出る「ぼくの小山」。ここは、コロボックルと呼ばれる小人の伝説がある山だった。ある日小川を流れる靴の中で、小指ほどしかない小さな人たちがぼくに向かって手を振った。うわあ、この山を守らなきゃ!日本初・本格的ファンタジーの傑作。
1959年初版、2010年~2012年に文庫化。
著者について:
佐藤さとる(さとう さとる): ホームページ
1928年、神奈川県生まれ。『だれも知らない小さな国』で毎日出版文化賞・国際アンデルセン賞国内賞などを、『おばあさんのひこうき』で児童福祉文化賞・野間児童文芸賞を受賞。日本ファンタジー作家の第一人者で作品も多い。
村上 勉(むらかみ つとむ): ホームページ
1943年、兵庫県生まれ。1965年、『だれも知らない小さな国』(佐藤さとる作・講談社)の挿絵でデビュー。以来、挿絵、絵本、装幀など、出版美術界と深く関わってきた。主な作品に『おばあさんのひこうき』(小学館絵画賞受賞)、『おおきなきがほしい』、『きつね三吉』、『旅猫リポート』、「コロボックル」シリーズ他多数。
3月に有川浩さんによる新作「だれもが知ってる小さな国(コロボックル物語)」を読んだことがきっかけで、佐藤さとる先生の本も40年ぶりに読みなおしてみることにした。子供のころ僕はたしかにこの本に熱中していた。冒頭の小山や三角平地のことや、そこで出会った女の子のこと、小山に小屋を建てたこと、たくさんのコロボックルとの生活。そして本の最後の「矢印の先っぽのコロボックル小国!いつまでも静かな明るい国でいてくれ」という文章に「そうだそうだ!」とうなずきながら共感したのを覚えている。
しかし、そのほかのことはさっぱり覚えていないのだ。記憶のふがいなさに少々落胆し、子供の頃なぜこの物語に感動できたのかが気になって仕方がなかった。大人になった今はどのように感じるのだろうか?
通勤電車に乗っている短い時間を使って読んだので日数がかかってしまったが、読み進むうちに記憶がよみがえってきた。忘れたと思っても頭のどこかに残っているものなのだ。
佐藤さとる先生がこの物語でデビューしたのは31歳のとき。現代でも作家デビューする人は星の数ほどいるが、児童文学でデビューする人はほとんどいない。このように夢のある物語を30代の男性が書いていたことに今の時代にはない温かみを感じた。
物語は戦前に小学三年の男の子が近所の小山を探検しながら出会う風景やおばあさん、女の子のことから始まる。ふとした偶然で女の子が小川に落とした赤い靴の中に小人が乗っているを目撃してしまう。子供のときに経験した不思議な出来事が、美しい景色と一緒に忘れられない原風景となるのだ。
その後に起きた戦争のことが少ししか書かれていないのが今の僕には印象に残った。著者はこの苦難の時代を生き抜いてきた人なのだから。青年になった少年がどのような体験をしたのかは知るべくもない。小山で見かけた女の子が戦争が激しくなったために小山の近くに引っ越して少年と出会ったことが書かれている。
ふたたび小山を訪れた青年は電気技師になっており、子供の頃のことを思い出す。そしてどうしてもこの小山を所有したいと思うようになるのだ。とはいえ山を買えるほどの貯えはない。山の所有者にお願いして「借りる」ことでスタートをきった。仕事の合間に何度も小山に通い小屋を建ててそこに寝泊まりするようになった。
その小屋で青年は小人たちと再会し、彼らが住む小山を守り続けることを決意する。青年は小人たちから「せいたかさん」と呼ばれるようになった。
電気技師として働く彼は、とある幼稚園に仕事で呼ばれたことがきっかけで、そこで働く若い女の先生と知り合う。遠いむかしに会ったことのあるような気がしたその先生は子供のころ小山で出会った女の子だった。後に「おちび先生」と呼ばれることになるのだが、彼女もむかし小山で経験した不思議な出来事が忘れられずにいた。
「せいたかさん」と「おちび先生」は小山で経験した小人たちの思い出を共有することになる。他の人間には絶対に知られてはならない秘密だ。
続けたいところだが、ネタバレ過ぎるのでやめておこう。その後、このコロボックル国には危機が訪れるのだが青年と小人たちは協力して差し迫る困難に立ち向かうことになる。
物語すべてがよみがえってきて心地よかった。(認知症予防になると思った。)小人たちもそれぞれ個性豊かで生き生きと描かれている。子供の心をつかむ要素に満ちている。
小学生だった僕は家の中や庭に「秘密基地」を作るのが大好きな少年だった。物語の少年が自分だけの世界として見ていた小山や小屋は僕の思い描いていた基地そのものだったのだろう。小山を買って「所有する」ことも子供にはワクワクするような夢なのだ。そして僕は電気技師という職業にもあこがれた。
時を経て女の子と再会し、秘密を共有するような特別な関係になること。初恋とはまた違うやわらかな感情が小人たちと過ごす個人的な時間に広がりと安心感を与えている。いちばん大切な秘密を共有できる相手がいるという安心感だ。
読んだとき子供だったとはいえ、小人がいるなんて信じていなかったし、この本を読んで信じるようになったわけでもない。そのような僕でさえ熱中してしまったのは、このような感情にとらわれてしまったからなのだろう。
大人になって読んでみると、さすがにワクワク感は感じず懐かしさのほうが印象に残った。そして佐藤先生が戦後間もない時期にこのようにあたたか味のある物語をお書きになったことに想いを馳せると、現代の生活では忘れられてしまった大切なもの、それは子供たちに経験してほしい野山のことだったり、安心や信頼というような感情であったり、そういうものがたくさんあることを思い出させてくれるのだ。
その後3世代に渡って読み継がれている本をくださったことに感謝し、次の世代に引き継いで行きたいと思った。
佐藤さとる版は僕が小学生の頃までに4巻まで、大学生の頃に第5巻と第6巻が単行本として刊行されていた。だから僕は第5巻と第6巻は読んでいない。
1959年:コロボックル物語1『だれも知らない小さな国』刊行
1962年:コロボックル物語2『豆つぶほどの小さないぬ』刊行
1965年:コロボックル物語3『星からおちた小さな人』刊行
1971年:コロボックル物語4『ふしぎな目をした男の子』刊行
1983年:コロボックル物語5『小さな国のつづきの話』刊行
1987年:コロボックル物語6『コロボックルむかしむかし』刊行
コロボックル物語特設ページ(講談社)
http://kodanshabunko.com/colobockle.html
講談社文庫版:佐藤さとる、村上勉:2010年から2012年に刊行
「コロボックル物語1 だれも知らない小さな国」
「コロボックル物語2 豆つぶほどの小さないぬ」
「コロボックル物語3 星からおちた小さな人」
「コロボックル物語4 ふしぎな目をした男の子」
「コロボックル物語5 小さな国のつづきの話」
「コロボックル物語6 コロボックルむかしむかし」
青い鳥文庫版は1980年から2005年に刊行された。
講談社青い鳥文庫版: Amazonで検索
単行本も新品で買うことができる。購入される方はここまたはここをクリックしていただきたい。
新イラスト版:佐藤さとる、村上勉:2015年に刊行
新イラスト版は第3巻までしかでていない。今後、続きが出るのかもしれないが。新イラスト版の判型は有川版と同じだ。
「コロボックル物語1 だれも知らない小さな国」
「コロボックル物語2 豆つぶほどの小さないぬ」
「コロボックル物語3 星からおちた小さな人」
新イラスト版: Amazonで検索
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「コロボックル物語1 だれも知らない小さな国」
第1章:いずみ
第2章:小さな黒いかげ
第3章:矢じるしの先っぽ
第4章:わるいゆめ
第5章:新しい味方
あとがき(その1~その4)
解説:梨木香歩
以下は文庫版(佐藤さとる作)の帯に書かれたコロボックル物語ファンのメッセージ
有川版についている帯