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時空とは何か(朝日カルチャーセンター)

時空とは何か(朝日カルチャーセンター)
http://www.asahiculture.com/LES/detail.asp?CNO=209996&userflg=0

カリフォルニア工科大学カブリ冠教授 大栗博司(ブログ
東京大学高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構機構長 村山斉(紹介ページ
朝日新聞編集委員 高橋真理子

講座内容
時空概念の革命を人類は2度経験しました。ギリシャ以来の「調和の取れた宇宙」観を壊したのがニュートンの主著「プリンキピア」でした。「無限の空間が入れ物としてあり、時間が無限に流れていく」という無味乾燥な像が描かれました。次の革命家アインシュタインは「時空とは与えられる枠組みではなく、重力によって決定されるもの」と言いました。 そして今、第3の革命の足音が聞こえてきます。時空とは何なのでしょうか?

1)13:00-14:00 
時空入門ーニュートンからアインシュタインまで
(大栗博司・村山斉・高橋真理子)
2)14:15-14:45 宇宙のかたち・始まり・終わり (村山斉)
3)14:50-15:20 空間は幻想である (大栗博司)
4)15:30-17:30 会場からの質問を受けてディスカッション
(大栗博司・村山斉・高橋真理子)


昨日の土曜日は朝日カルチャーセンターの物理学講座を受けてきた。今回は「時空と何か」というテーマで、大栗先生、村山先生そして朝日新聞編集委員の高橋真理子さんの3人による講座だ。

前回6月22日の「超弦理論(朝日カルチャーセンター)」から地下1階の住友ホール(200名収容)で開催され、より多くの方が受講できるようになった。

30分前に住友ビルに着くと入口の前には、このような美術作品が展示されていた。たくさんの矢印が風になびいて揺れている。まるで「ベクトル場」のようで物理学講座の会場にふさわしい。もちろん偶然そういうことになったわけだけれども。

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会場に着くと通路は長蛇の列。前のほうで271828さんが手を振っているのに気がついた。5分もすると入場できるようになったが最前列は人気が高く、よほど早い時間に並ばないと席取りできない。幸いいつも講座でご一緒している271828さんとYさんが僕の席もキープしてくださっていた。僕らは二列目に横並びで着席。明日から9月だというのに真夏の暑さだった。冷房の効いた大ホールに入ってひと安心。

講座が始まる20分前には満員になっていた。今回はどうしたわけか女性の受講者が多い。これまでは1割くらいなのに今回は3割はいる。20代前半から70代までバランスもよかった。今回は朝日新聞の高橋さんがいらっしゃるので、女性がふだん目にする媒体でも宣伝がされていたのかなと思った。「(男性も含めて)全体の平均年齢は50歳くらいだな。」と271828さんはおっしゃっていた。

恥ずかしいことだが、プログラムの第1部に書かれていた「鼎談」という言葉を僕は知らなかった。271828さんが「ていだん」と読むのだよと教えてくれた。2人のときは「対談」、3人のときは「鼎談」と言うのだそうだ。「漢字検定に出題されそうだな。」とか「書き順が難しそうだ。」と思っているうちに朝日カルチャーセンターのスタッフの方の挨拶が聞こえ、村山先生、大栗先生、高橋さんが順に入っていらして舞台上の椅子に着席された。


第1部:「鼎談」

壇上の高橋さんがお二人の先生を紹介され会場から拍手がおきる。第1部は高橋さんがメインで「時空入門ーニュートンからアインシュタインまで」という題目だ。説明は「ニュートン」からではなく「古代」から始まった。よく調べていらっしゃったようで、スライドを映しながら数千年に渡る「時空概念史」のキーポイントを順に紹介された。超一流の専門家お二人を前に、まったく動じることなく説明されているのがすごかった。途中でお二人の先生に意見や質問を求めたり、「そうですよね?」と確認をされたり、そして先生方からは逆に質問されたりするので「先生はどのようなお答えをするのかな?」と聞いている私たちの興味は増していく。

高橋さんは「世界で初めての科学ジャーナリストはガリレオ・ガリレイ」であるという自説を主張された。彼の著作は岩波文庫から「星界の報告」、「天文対話〈〉〈〉」、「新科学対話〈〉〈〉」として出版された。(後の2つは現在絶版だが岩波文庫から復刊されるそうである。)

ガリレオがこれらの本を書いた17世紀、知識人はラテン語で書くのが常識だった。にもかかわらず彼は日常的に使われていたイタリア語で書いたのだ。「自分で見たものを誰にでもわかる言葉で伝える。」というのはジャーナリズムの原点だと高橋さんは説明された。これには大栗、村山両先生も納得されたようだった。

特にニュートンとライプニッツは「どちらが可哀想だったか」ということについて高橋さんと先生方の間で意見を闘わされていたのは面白かった。


第2部:「宇宙のかたち・始まり・終わり」

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第2部は村山先生の「宇宙のかたち・始まり・終わり」という30分の講義。「宇宙になぜ我々が存在するのか」や「宇宙は何でできているのか」という先生の著書を読んだことがあるが講義を受けるのは初めてだ。次のような流れでリズム感あふれる解説が進んだ。村山先生は「SuMIReプロジェクト」を率いている実験系の物理学者である。

- 伸びる時間(特殊相対性理論)
- ピサの斜塔(一般相対性理論)
- 空間の果て、宇宙の形
- 時間の始まり
- 時間の終わり?
- 空間の次元

僕にとって特に印象に残ったのは、アインシュタインの重力場に見立てた曲面の模型の上にパチンコ玉を転がしている写真だ。中心に近いほど深く窪んでいて、パチンコ玉を引っ張る引力が強くなるように見える。この方法で惑星の「楕円軌道」やケプラーの第3法則が再現できるかな?パソコンでシミュレーションできないかな?などと僕は考えを巡らせていた。

村山先生が物理学に興味を持ったのは「不思議宇宙のトムキンス:ジョージ・ガモフ」がきっかけだったそうだ。アマゾンでは次のように紹介されている。

- アインシュタインをはじめ、世界中の科学者が絶賛した不朽の名作。

- ごく普通の銀行員だった主人公トムキンスが小さな宇宙に閉じ込められたり、量子力学が支配するジャングルを探検したり、はたまた陽子となって粒子加速器の中を猛スピードで回らされたりと、刺激的なストーリーが展開される。トムキンスと一緒に摩訶不思議な世界を探検しているうちに、宇宙の運命やブラックホールの謎、反物質、クォークなど、最新の物理学が学べてしまう楽しい科学読み物だ。

先生のスライドでは特殊相対論による時空の伸縮の効果を示す挿絵が紹介されていたが、この本は量子力学や反物質、クォークまでもカバーしている。これはすごい!英語版「The New World of Mr Tompkins:George Gamow」で読むのもいいかもしれない。英語版はKindle版でも出ている。

現在販売されている「不思議宇宙のトムキンス:ジョージ・ガモフ」は村山先生がスライドで紹介した本の表紙と違うので、この本はその後改訂されたようだ。ウィキペディアによると次のように解説がされている。

========= ここから ==========
日本語版は伏見康治の訳で1943年に創元科学選書の1冊として刊行され、訳者まえがきで伏見は「これは物理学の漫画である」と述べた。そして多くの若者を誘って物理学者への道をとらせるのに力があった。現在はトムキンスを主人公とする他の3つの物語と合本されて『トムキンスの冒険』 (白揚社、1990年) として書店に並び、その第?部の前半が『不思議の国のトムキンス』である。

また、『不思議宇宙のトムキンス』 (白揚社、2001年) は、ラッセル・スタナード(英語版)が『不思議の国のトムキンス』とその続編『原子の国のトムキンス』Mr. Tompkins explores the atom (1944年) とを合わせたものに最新の知見を加えて改訂・加筆し、それに新たに書き下したいくつかの章を付け加えて1999年に出版した改訂版 The New World of Mr. Tompkins の翻訳である。
========= ここまで ==========

これまで宇宙論は僕のなかで「とりとめもないもの」という印象で、物理学の勉強から無意識にはずれていたのだが、今回村山先生のお話を聴いて「宇宙論の勉強に取り組む動機」が自分の中に芽生えたように思う。


第3部:「空間は幻想である」

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第3部は「空間は幻想である」と題した大栗先生の30分の講義だ。先生の一般向けの著書3冊「重力とは何か」、「強い力と弱い力」、「大栗先生の超弦理論入門」を総括したような内容だった。説明の流れは次のとおり。

- 時間とは何か?空間とは何か?
- 自然は真空を嫌悪する
- ニュートンの革命
- アインシュタインの革命
- 量子力学、標準理論、ヒッグス粒子
- 暗黒物質、暗黒エネルギー
- 量子力学と重力理論を統一するには
- 超弦理論
- ブラックホールの情報問題
- 重力のホログラフィー原理
- ブラックホールの防火壁問題
- 時空とは何か

既刊の3冊を読んだり、朝日カルチャーセンターで行われてきた講座を聴いていたので、僕はとてもよく理解することができた。

先生はいつもと変わらず、そのまま本の文章になると思えるほど明快な話し方で説明をされていた。大栗、村山両先生はプレゼン能力が抜群である。

アリストテレスの「自然は真空を嫌悪する」の意味は「時間や空間はその中の物質とは独立に存在しない。」ということであり、これがニュートンやアインシュタインの理論では「物質とは関係なく存在する時間と空間」となった。しかし研究が進み超弦理論で「弦の振動によって空間さえも2次的に生成される」ことになる。これはアリストテレスの考え方に近い。これが「空間は幻想である」という主張なのだ。

他の方にとっても同じだと思うが、僕にとって目新しかったのは「ブラックホールの防火壁問題」だった。この問題について大栗先生は昨年の12月にブログで記事をお書きになっている。先生の著書3冊では触れられていない。

ブラックホールの防火壁(大栗博司のブログ)
http://planck.exblog.jp/19026474/

この問題(パラドックス)は昨年提起されたばかりでまだ解決していず、真剣に答を探している最中なのだという。素人が解決できるような問題ではないが、何が問題になっているかは専門家でなくても理解できる内容だ。ひとつの謎が解けると新たな謎が生まれるのだなという好例だと思った。そのような最新の話題を一般の人が知ることができるのも、先生がブログをお書きになっているおかげだ。

今回先生が用意したスライドは80枚で最後に映されたのが筆ペン書体で書かれたこの1枚。

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「また先生は講座を開いてくださるのだ。」と次回に期待をつなぐことができ、僕はうれしかった。

先生が受講者の「糖分補給」のために今回ご用意されたのは、前回と同じくマーブルチョコレートだ。今回は先生が描かれたアインシュタインとアリストテレスの似顔絵バージョンである。

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第4部:会場からの質問を受けてディスカッション

第4部は受講者からの質問に先生方が回答する形で説明が展開された。村山先生、大栗先生、高橋さんが登壇され、受講者が挙手して質問をする。2時間たっぷりあったのでいろいろなお話を聞くことができた。

最初から多くの手が挙がった。本質的な内容を突く質問が多く、先生方も回答するだけでなく補足説明などで話を膨らませてくださっていたので、質問者以外の受講者への配慮もされているのだと僕は思った。

僕も1つ質問させていただいた。ブラックホールの防火壁問題の説明図として大栗先生は上と下が漏斗(ろうと)状になっている絵を引用されていたのだが、末広がりになっている下の部分は「ホワイトホール」ですか?「ホワイトホールは物理学で扱っている対象なのですか?」という質問だ。

先生からは「図で下の部分はホワイトホールですが、引用した図がミスリードでした。」という説明をいただいた。要するにホワイトホールのことを考えない形で、ブラックホールの防火壁問題は解決すべきだとおっしゃっているのだろうと僕は理解した。

「で、結局エネルギーというのは何なのでしょうか?」というとても本質的な質問をした男性がいたことや、女性の受講者も数名の方が積極的に質問されていたことが特に印象に残った。

「時間の矢」についての解説も興味深く聴かせていただいた。宇宙のはじまりでエントロピーが小さいことが検証されれば、それはエントロピー増大則の検証になる。この法則は熱力学第2法則のことであり、量子力学や超弦理論の世界で時間は対称性を保っているが、近似としてマクロな世界で熱力学第2法則が成立しているというご説明だった。「時間」についてはまだわかっていないことが多く、それを超弦理論の枠組みでどのように取り扱うかが課題として残っているそうだ。


講座の後はいつものように先生方の著書販売とサイン会が開かれた。毎回長蛇の列である。

先生方の著書は、検索用のリンクから紹介させていただこう。

アマゾンで村山先生の著書を:検索する
アマゾンで大栗先生の著書を:検索する

村山先生、大栗先生、そして朝日新聞の高橋さん、楽しい講義や進行をしていただきありがとうございました。


オフ会

オフ会は科学ブログ仲間のいつものメンバー。今回は271828さん、Nさん、Yさんと僕の4人が参加。趣味が同じ仲間で過ごす酒席は実に楽しいものだ。

写真は271828さんからいただいたお手製のジャム。毎回いただいているのだが今回は「ルバーブ」で作られたという。271828さん、ありがとうございました。

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ルバーブ(rhubarbe)
http://www1.cablenet.ne.jp/fumiffy/material/rhubarbe/rhubarbeindex.html


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